◆−欲望の行き着く先 6−龍崎星海 (2002/3/22 23:32:00) No.8220


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8220欲望の行き着く先 6龍崎星海 2002/3/22 23:32:00


『あたし、リナ=インバース。
3人で、再び山へと向かったあたし達の前に、またもや立ちふさがったゼル。
すわ、戦い開始か!と思った時。
いきなり出て来た魔族によって、レミールが殺されてしまった。
ゼルの説明によると、今度の事件は町長と魔族が一緒になって起こしたらしい。
おにょれ!見てらっしゃいよ〜!
2人(?)が密会する、っていう山小屋へ行って、密会現場に踏み込んでやるっ!!』

〜欲望の行き着く先〜
第6話 決着、そして‥‥‥

 翌日、あたし達は、3たび山へと向かった。
「で、ゼル。その山小屋は遠いの?」
「いや。そんなに遠くない。2時間も山道を歩けば、着く」

 ‥‥いや、山道、って‥‥‥
 今、歩いてるの、どー見ても獣道なんですけど。
 ‥まあ、それはともかく。

「ねえゼル、あの魔族について、何か分かってる事ってあるの?」
 昔の人も言ってたしね、『敵を知り、己を知れば百戦危うからず』って。でも。
「いや。何しろ、直接会ったのは、昨日が初めてだったからな。
分かってるのは、ヤツの名前‥ザッファルトという、やつの名前だけだ」

 そっか‥んじゃ、今現在で分かってるのは、ヤツの名前と、外見(魔族の場合、自在に変えられるのでアテになんないけど)と、見かけによらず強いらしい、と言う事だけか。
 これじゃ、対策の立てようがないわね。

 と。よっぽどあたしが浮かない顔をしていたらしく、
「大丈夫ですっ!!正義の4人組が揃ったんです。
何が出て来たって、負けるはずがありませんっ!!」
 アメリアがあたしを元気づけようとでも思ったのか、そんな事を言い出した。

「そーだぞ。この剣だって、結構使えるしな!」
 ガウリイも、そう言って腰にぶら下げた剣を叩く。
「や、やーねー。それじゃまるであたしが落ち込んでるみたいじゃない。
ちょっと考え込んでただけなんだから。そんなに大げさにしないでよ!」
 パタパタと手を振るあたし。

 さらに暫く山道を歩いていると。
「そー言えばガウリイ。
お前、光の剣なくしたハズだが‥今使ってる剣は、なんなんだ。
結構いい魔法剣みたいだったが」
 ゼルがガウリイに話しかける。

 そー言えば。まだ、その事、ゼルに言ってなかったっけ。
「へー、ガウリイさん、新しい剣を手に入れたんですか? よかったですね!」
 アメリアも話に入って来た。

 ‥あ。そー言えば、アメリアにもまだ言ってなかったっけ。
 2人に話しかけられたガウリイは、ニコッと笑うと、こう言った。
「おう、これか? これは、何とか、って町の、何とか、ってヤツんとこで見つけたんだ。
結構いい剣なんだぜ」

 ‥‥‥‥あのね、ガウリイ。それじゃ説明になってないって。
 ホラ、アメリアもゼルも呆れてんじゃないの。しょーがないわねえ。

「あのね、それ、ひょんな事で手に入れたんだけど、強度もあるし、結構いい剣なんだけどやっぱ、光の剣と比べると、見劣りすんのよねー。
で、今、もっといい剣、探してんだけどさ。
ゼル、アメリア、あんたら、何かそーゆー噂、聞いた事、ない?」
 一気にしゃべって、ゼルとアメリアの方を見ると。

「‥‥何ボーッとしてんのよっ!」
「い、いや、よくしゃべるなあと‥いや、そーゆー噂は聞いた事ないな。
アメリアはどうだ」
「え?あ、すみません、私も聞いた事ないです!」
 ‥‥ちっ‥役に立たないやつら‥

「それはそうと、ゼル、まだ着かないの?」
「ああ、もうすぐだ」
 なんて会話を交わしていると。

「あれ?‥ひょっとして、あれか?リナ」
 いきなりガウリイが、行く手を指さした。
「え?どこどこ!」
「ホラ、あそこの木の陰。見えるだろ?」
 ガウリイの指さす方を見てみるけど‥何も見えないじゃないの。
 でもま、ガウリイが見える、ってんだから確かだろーけど。

 それから少し歩くと‥ホントに山小屋が見えてきた。
 あれが、あの位置から見えるとは‥ガウリイのヤツ、相変わらず人間離れしな眼力を持ってるわねー。

「ゼル、あの小屋で間違いない?」
「ああ、そうだ」
 よっしゃ、それじゃ、乗り込みますか!
 そう思って、小屋の扉に手を掛けると。
「‥リナ、気をつけろ。中に魔族がいるぞ‥」
 ガウリイがあたしに小声で話しかけて来た。

 そっか、あいつ、もう来てんのね。
 それじゃま‥
「行くわよ、みんな!」
 後ろにいる、ゼルやアメリアにも声を掛けると。
 バタンッ!!
 勢い良く、扉を開ける。
 その途端‥強い血臭が鼻をついた。
「な! ‥なにこれ!?」
戸惑うあたし。と。
「リナさんっ! あれっ!!」
 アメリアがそう叫んで指さす方を見ると‥そこには町長が血塗れになって、横たわっていた。

 そのすぐ足下に立っているのは‥魔族ザッファルト!
「まさか‥‥これ、アンタがやったの?‥‥」
 油断なく、身構えながらザッファルトにそう聞くと。
『クックックッ‥‥そうだ。我がやった』
 やっぱり‥‥でも。
「なぜだっ!キサマは、町長と契約を結んでいたんじゃなかったのか!」
 ザッファルトに食ってかかるゼル。

『クックックッ‥‥契約か。確かに交わしていたな。
我に旅人を提供する、その代わりに、我はあの町長にオリハルコンを渡す、という‥‥』
「ならなぜっ!!」
 アメリアもまた、ザッファルトに食ってかかった。
『クックックッ‥‥確かに契約はした。
旅人や町の人間が放つ負の気は、実に美味だった‥‥が、飽きた。
この人間ときたら、どんどん要求が多くなる。
そろそろ頃合いだ。だから殺した。
契約には『町の人間には手を出さない』というのはあったが、『町長には手を出さない』と言うのはなかったからな』
 こ‥‥こいつっ!!
 ギリギリと歯ぎしりするあたし達。

『クックックッ‥‥キサマらの負の気はまた格別だな。
『娘を殺した』と言ってやった時のあの町長の負の気も、なかなかだったが‥‥それ以上だ』
 なっ!
「‥‥あんた‥‥まさか、そのために‥‥‥」

『当然だろう。人間なんて、我らにとってはただの餌。
だったら効率よく負の気を採取した方がいいからな』
 顔がないから、表情は分からないが‥声の調子からすると、こいつ‥笑ってるわね。
「あんた‥‥サイッテーね‥‥」
「許せませんっ!
人間がただの餌ではない事、思い知らせてくれますっ!!」
「‥‥‥俺も同感だな‥‥」
 構える、あたし、アメリア、ゼル。
 ガウリイも、無言で剣を構えている。

『クックックッ‥‥いいとも。掛かって来るがよい。
負の気をたっぶりしぼり取ってから、殺してくれよう』
「そう上手く行くかしら? みんな、行くわよ!」
「おうっ!!」

 まず最初に仕掛けたのは、ガウリイだった。
 素早く走り寄ると‥剣で斬り掛かる!
 ザシュッ!
 いとも容易く、真っ二つになるザッファルト!‥‥と。
 グニョ‥‥‥‥
 2つに分かれたザッファルトが、それぞれに動き出した!
「な! 何よ、これっ!」

 次に仕掛けたのは、アメリアだった。
 いつもの如く、自分の拳にヴィスファランクを掛けると、2つに分かれたうちの1つに、殴りかかる!
「とうっ!」
 ボスッ!
 アメリアの拳の勢いに押されたのか、ザッファルトの身体が2つに千切れ、吹き飛ぶ!が。
 グニョ‥‥‥‥
 またもや、2つに分かれたザッファルトは、おのおのが動き始めるのだった。

「ま、また‥‥どうなってんのよっ!」
「‥‥‥おい、リナ。これはひょっとすると‥‥‥」
「なによゼル。何か知ってんの!?
これ、どーなってんのよっ!!」
 ゼルの胸ぐらを掴んで、ガクガク揺するあたし。

「お、落ち着けリナ! そんなに揺するなっ!!
話せないだろーがっ!!」
 ちっ!‥仕方ないから、離してやると。
 ゼルは、1つ大きな息を吐くと、話始めたのだった。

「フウ‥いいか、以前レゾに聞いた事がある。
攻撃を受けると、増殖するヤツがいる、と。
多分、あいつがそうなんだ」
「ちょっと‥ウソでしょ!
攻撃するたびに、増えるんじゃ、やっつけようがないじゃないのっ!!」
 そう言いつつ、ひょい、と見ると。
 のあああ〜〜っ!!
 ヤツが増えてるぅ〜〜っ!!

「こらあ〜っ! アメリア! ガウリイ!
勝手に攻撃するんじゃなあ〜いっ!!」
 どうやら、あたしがゼルと話してる最中にも、2人は攻撃を続けていたらしく。
 今や、小屋の中にはザッファルトが‥ひー、ふー、みー‥
 ああっ!動いたら、数えらんないでしょーがっ!!
 とにかく、何匹もいんのよ!

 なんて言ってる間にも。
 ザシュッ!
 ガウリイが後ろから襲いかかって来たザッファルトにを、一刀の元に切り捨てた!
 グニョ‥‥‥
 またまた、そいつは2匹に分裂する。

 うにゃああああ‥‥‥キリがなぁあ〜いっ!
 おまけに。今や、小屋の中は増殖しまくったザッファルトとあたし達とで、動く事もままならない有様だ。
「と‥‥とにかく! 表に出るわよっ!
こんな狭い所じゃ、不利よっ!」
 そう言いつつ、小屋から外に飛び出す。
 後には、ゼルとアメリアが、そして最後にガウリイが飛び出して来た。

 フウ‥‥‥‥‥‥
 どうやら、全員無事みたいね。
「で、ゼル。あーいう増殖する敵は、どーやって倒せばいーのよ。
レゾは、何て言ってたのよ」
 ゼルに聞いてみると。
 ゼルは、いかにも済まなさそーな顔をした。
「‥‥いや、スマン。そこまで聞いてない。
ただ、『やっかいなので、そーいった敵と出会ったら、手は出すな』とは言ってたが‥‥」

 ンなの、もう遅いっつーの!
 んにゃあ〜っ!!どーすんのよ〜〜っ!!
 あたしが頭を掻きむしっていると。

「来るぞっ!!」
 ガウリイの叫びと同時に、小屋の壁が黒く染まった。
 ‥‥いや。あの黒いのは、みんなザッファルトだ。
 小屋の壁を抜けて来てるんだ!

 ‥‥‥ちょっち、気持ち悪いかもしんない‥‥‥
 な〜んて、呑気な事、言ってる場合じゃなかったあーっ!
 今や、全身を現したザッファルト達は、一斉にあたし達に襲いかかってきた!
 うにょわあ〜〜っ!
 慌てて逃げるあたし。
 ザシュッ!
 ザンッ!
 ボスッ!
 それぞれに、剣やら拳やらで攻撃するガウリイ、ゼル、アメリア。

「こら〜〜っ! 勝手に攻撃すんなって言ってんでしょ!
ゼルもっ! 攻撃したら分裂すんの分かってる相手を、斬るヤツがあるかぁ〜〜っ!!」
 そう言うあたしの目の前で、攻撃された3匹は、それぞれに分裂し‥‥‥6匹に増えた。‥‥‥‥‥‥あう。
「す、すまん‥‥つい」
「リナさん‥‥ごめんなさ〜〜い」
「え?こいつら、分裂すんのか?」

 ‥‥‥ちょっと待てい。
 ゼルとアメリアはまだいい。
 攻撃を憂ければ、つい反射的に反撃しちゃうのは、ある程度仕方のない事だから。
 でも‥ガウリイ〜〜っ!!

「あんたね〜‥‥こんだけ戦ってて、気づかんかったんかいっ!」
「いやあ、斬るたびに2つに分かれてくなー、とは思ってたけど、その、ぶ‥なんとかだとは気づかんかった」
「‥‥‥‥‥それを分裂してる、って言うのよーっ!!」
 ‥‥‥‥‥‥ポン。
 手を叩くガウリイ。
「なるほど。そーだったんか」
 こ・い・つ・は〜〜‥‥いや、やめとこう。
 まともにガウリイを相手にしてても、疲れるだけだ。

「と、とにかく‥‥今言った通りだから、うかつに攻撃するんじゃ‥って、こらガウリイッ!
言ってるそばから、攻撃するんじゃないっ!!」
 横から攻撃して来たザッファルトに斬りつけるガウリイ。
 またも、2匹に分裂するザッファルト。

 ‥‥‥‥あ〜あ。
 今ので10匹越したじゃないの‥‥‥どーしてくれんのよ、ガウリイッ!!
「ガウリイ〜〜ッ!!
攻撃すんな、っつーてるでしょーがっ!!」
 そう怒鳴りつけてやると。
「リナ。どうやらこいつ、少しずつ弱くなってるみたいだぞ!」
 ガウリイが答えた。

 え?‥‥‥そう言えば‥今、ガウリイが分裂させたやつら‥‥なんか、小さい気が‥‥
 ひょっとして‥‥‥
「ブラスト・アッシュ!」
 ボシュッ!!
 ガウリイが分裂させたうちの1匹を、黒い霧が包み込む!
 その霧が消え去った時、そこにはザッファルトの姿はなかった。
 ‥‥‥‥‥‥やっぱり。

「みんなっ!こいつ、ある程度分裂させれば、1撃で倒せるようになるわっ!!」
「わかったっ!!」
「なるほど‥‥‥そう言う事か」
「了解しましたっ!!」
 3人3様の返事が返ってきて‥‥‥戦闘が再開されたのだった。

「ブラスト・アッシュ!」
 あたしの呪文と共に、ザッファルトが1匹、姿を消した。
 ハア‥‥‥ハア‥‥‥ハア‥‥‥
「こ‥‥‥こんなヤツに、こんなに苦戦するなんてね‥‥」

 今や、みんな体中傷だらけである。
 ゼルでさえ、あちこちから血を流しているのだから、他の者の様子は‥‥‥もって知るべし、であろう。
「何言ってるんですっ! リナさんのせいじゃないですかっ!!」
 ボスッ!!キシャァァァァァ‥‥‥
 アメリアの1撃で、もう1匹、ザッファルトが倒された。

「そーだぞ!お前さんが『もーいや。チマチマとなんか、やってらんないわ!』とか言ってドラグスレイブなんか使うから、一気に倍に増えたんじゃないかっ!」
 文句を言いながらも、ザッファルトを切り裂くガウリイ。
 そいつらは、まだ倒せる処まで分裂してなかったらしく、斬られた途端に2匹に分裂したのだが。
 ザシュッ!
 分裂したうちの1匹をすかさずゼルが切り捨てた。
 キシャァァァァァ‥‥‥
 消滅していくザッファルト。

「おまけに、ご丁寧にもドラグスレイブを連発して、さらに倍増させたんだよな」
 ジロリ、とあたしを睨み付けるゼル。

 う‥‥そりゃまあ‥‥ちーっとも減らないザッファルトに、あたしがキレて、つ〜いドラグスレイブ唱えたのはいーんだけど‥‥
 これが、数が減るどころか、倍に増えちゃって。
 で、パニックに陥ったあたしが、さらにドラスレ唱えて‥‥‥‥
 さらに倍に増えちゃって‥‥1時期、50匹越えてたもんね〜〜‥‥

「で! でもっ! おかげで、殆どが1撃でやっつけられるよーになったんだから、いーじゃないのっ!!」
 そう、こいつらは、分裂はしても受けたダメージはキチンと残ってるらしく。
 ドラスレ2発で、殆どが分裂出来なくなったのだ。
 結果オーライよっ!!

「‥‥よくそんなコト、言えるな〜〜‥‥」
 ザシュッ!キシャァァァァァ‥‥‥
 ガウリイがザッファルトを1匹、切り捨てた。

「そーですよっ!こんなに傷だらけになったの、ザッファルトが増えまくったせいじゃないですかっ!!」
 ボスッ!キシャァァァァァ‥‥‥
 アメリアの1撃で塵と化すザッファルト。

 うう‥‥そんな、みんなして責めなくたっていーじゃないのっ!!
「文句なら、後で聞くわよ!
ちゃっちゃと、やっつけちゃいなさいよっ!」
 今、あたし達の前に居るザッファルトの数は、20匹を切っている。
「もう少しなんだからねっ!」
「ここまで減らすの、どんだけ苦労したと思ってんですかっ!!」
「うっさいよ! アメリア!
文句言うヒマがあったら、さっさとやっつけなさいっ!!」
「‥‥‥‥ちぇっ‥‥ちょっと自分に都合が悪くなると、すぐにこれなんだから‥‥」
「‥‥ガウリイ。今、何か言った?」
「‥‥いえ。何でもないです‥‥‥‥」

「ブラスト・アッシュ!」
 ボシュッ!
 あたしの呪文を受けて、悲鳴も上げずに消えるザッファルト。

 ‥‥え?さっきっからバカの1つ覚えみたいに、同じ呪文、使ってる、って?
 仕方ないでしょっ!
 いーかげん、疲れてんのよ!
『同じ魔法しか使わない』んじゃなくって、『同じ魔法しか使えない』のよっ!!

 う‥‥ま、マズイ‥‥目眩がしてきた‥‥
 どーやら、魔力を使い果たしたみたい‥‥‥‥

 後、残ってるザッファルトは‥‥たったの1匹。でも。
 あたしは‥‥魔力を使い果たして、地面にへたり込んでいるし。
 アメリアも‥‥同じように座り込んでいる。
 ゼルとガウリイは、何とか立ってはいるものの‥‥剣を杖代わりにして、やっと立ってる状態だし。
 う‥‥あ、後1匹‥‥後1匹なのに‥‥

『ククククク‥‥どうやら、動けないようだな。
だったら‥‥死ぬがいいっ!』
 ザッファルトが、あたしに攻撃を仕掛けて来る。
 目の前に迫り来る、槍状の物体。

 うっ!よ‥‥よけられないっ!!
 もう‥‥ダメだっ!
 そう思った瞬間。
 ザシュッ!!
「な‥‥なに!?」
 ガウリイが、ザッファルトを一刀両断にした!
 ムニョ‥‥‥‥
 その途端、2つに分裂するザッファルト!
 まだ分裂する余力があったの!?
 でも、次の瞬間。
 ズザシュッ!!
 ガウリイは、剣を横に一閃し、2匹のザッファルトをまとめて切り捨てたのだった。
 キシャァァァァァァ‥‥
 悲鳴を上げつつ、塵と化すザッファルト。

 ‥‥終わった‥‥の?
「はあ〜っ‥‥疲れたーっ!!」
 そう言うなり、地面に大の字になって寝ころぶガウリイ。
 ガウリイが緊張を解いた、って事は‥‥どうやら、本当に終わったらしい。
 そう思った途端、全身から力が抜けて、あたしもまた、地面に四肢を投げ出したのだった。

「みんな〜‥‥大丈夫ぅ〜〜?‥‥」
 声を掛けると。
「なんとか‥‥大丈夫ですぅ〜〜‥‥‥‥」
「ああ、何とか生きてるぞ」
 アメリアとゼルから返事が返って来た。
 ‥‥あれ?ガウリイは?
「ガウリイ‥‥ちょっと、ガウリイ! 返事しなさいよっ!!」
「リナさあ〜ん‥‥ガウリイさん、寝ちゃってるみたいですぅ〜‥‥」

 へ?‥‥寝てるの?‥‥やれやれ。
 しょーがないやつだ。
 ま、気持ちは分からんでもないから、少し寝かせてやるか。
 ‥‥‥‥ダメだ。あたしも起きてらんない。
「‥‥あたしも寝るわ。ゼル、見張りよろしくね」
「私も、そうさせてもらいます〜〜‥‥‥‥」
「あ、こらっ! 勝手に決めるなっ!!」
 ゼルの怒鳴り声を、あたしは夢現で聞いたのだった。

「んーっ! よく寝たっ!」
 1時間ほど寝て。
 あたし達が起きた時には、もう日が傾いて、夕方になろうとしていた。

「全く‥‥人に見張りさせといて、自分達だけ寝やがって‥‥
俺だって疲れてるのに‥‥ブツブツブツ」
「ハハ、ごめんごめん、ゼル。
それよか、町へ戻ろうか。
町長さんの墓は、町の人にでも作ってもらえばいーからさ」
「そうですね。どうせ町の人に事情は説明しないといけませんし」
 事情説明‥‥か。
 気が乗らないんだけど、そーも言ってらんないだろーしね。

「とにかく、早いトコ戻りましょ。もう、お腹ペコペコ!」
「賛成っ!!」
 あたしの提案に、すぐに乗ってくるガウリイ。
 あたし達は、すぐに山を降りて、町へと向かったのだった。

 町へと戻り。町の人に事情を説明し(殆ど、アメリアが引き受けてくれた)た後。
 あたし達は、やっと宿屋へと落ち着く事が出来たのだった。
「あー‥‥お腹いっぱい。もー食べらんない」
「オレもー‥‥」
「全く、お前らときたら‥‥相変わらずみたいだな」
「ホントに‥‥お2人の食べてる姿を見てるだけで、お腹がふくれちゃいそうですよ」
 呆れる、ゼルとアメリア。
 うっさいよ!2人共!

「それより、あんた達はこれからどーすんのよ」
 あたしの質問に、まず答えたのはゼルだった。
「俺は今まで通りの1人旅に戻る」
「私は、お城へ戻ります!
隣町に残して来たみなさんの事も気になりますし!」
「あ、アメリアはダメよ。まだこの町を離れちゃ」
「えーっ!! どーしてですかっ!
どーしてゼルガディスさんは良くって、私はダメなんですか!
納得いきません! 説明してくださいっ!!」
 食ってかかるアメリア。
「だ〜って。まだやる事が残ってんでしょーが。
町長さんが殺された後の後始末、まだ終わってないんでしょ?」

 町長さんが殺された。それも、あんた形で。
 となると、色々とメンドーな事が起こるのだ。
 こーゆーのは、あたしがやるより、王族のアメリアがやった方がスムーズに行くかんね。
 ‥‥言っとくけど、やっかい事を押しつけてんじゃないからね!
 そこんトコ、間違えないよーに!

「えーっ!! ‥‥ブツブツ‥‥仕方ない‥‥
もう少し、ここに残りますー‥‥」
 そうそう、素直でよろしい。
「ま、隣町へは、あたし達が行って来てあげるわよ。
『もう大丈夫、街道は安全だ』ってのを知らせついでに、ね」

「さて、話し合いがついた処で、俺は先に失礼させてもらうぞ。
明日の朝も、勝手に出て行くから、見送りとかはしなくていいからな」
 ゼルはそう言い残すと、さっさと自分の部屋へと戻ってしまった。
 ‥‥ったく。あいつも、相変わらずねー。
「そうですね。それじゃ私も‥‥あ、リナさん、後金の1000枚は受け取らないんですか?」
 アメリアが行きかけて、思い出したらしく、そう聞いて来た。
「‥‥あのねー。あんな事があったのよ。
貰える訳ないでしょーがっ!
‥‥まあ、前金の1000枚だけで我慢しとくわ」

 町長が殺され、娘のレミールが殺され。
 これで、ノコノコ貰いに行ける‥‥訳がない。
「そっか‥‥ま、よかったじゃないか。
少なくとも、タダ働きじゃないんだからさ」
 そう言いつつ、ガウリイがあたしの頭を撫でる。
 なぐさめてるつもり、なんだろーけど‥‥なぐさめになって、ないっつーの!!
「ああ、もう、だから、そーゆーコトすんじゃないってばっ!! もう寝るわよ!
疲れてんだからね!
あんたも、早いトコ、寝なさいよっ!!」
 立ち上がって、ガウリイにそう声を掛けると。
「ああ、分かってる。1杯だけ飲んだら、すぐ寝るよ」

 ガウリイ1人を残して、あたしとアメリアは自分の部屋へと戻るのだった。
 部屋へ戻る道すがら、アメリアが急に話しかけてきた。
「‥‥ねえ、リナさん。今度の事件‥‥
一体、何だったんでしょうね‥‥」

 いつも元気なアメリアにしては珍しく、声に元気がない。
 ‥‥ま、無理はないけどね。
「さあ‥‥ね。人間の欲にはキリがないからね‥‥
でも、たとえどんな結果が待っていても、あたしは後悔だけはしたくないの。
だって、後悔したって、何かが変わる訳じゃないもんね」
 そう言ってやると。
 アメリアは、少し驚いたような顔をしていたが、すぐにあたしの言おうとした事が分かったらしい。
 ニッコリと、明るい笑顔を浮かべると、こう答えた。
「そうですね‥後悔したって、何も変わりませんものね。
私は、私に出来る、精一杯の事をするまでです!」
 そうよ。後悔なんてね、死ぬ前にでもすれば、それで十分よ!
「じゃね、おやすみ、アメリア」
「はい、おやすみなさい、リナさん!」

 翌日。あたし達は、アメリアの見送りを受けて、町を旅だった。
 ‥ゼルのやつ、本当に1人で先に旅立ってやんの。
 すこしは、あたし達を本気で攻撃した事を気にしてたのかな。
 そんなの、気にしなくったって、いーのに。

「なあ、リナ、次はどこに行くんだ?」
「そうね。まずは隣町へ行って、もう街道が安全だって教えてあげないとね。
それに、隣町に置いてけぼりになってる、アメリアのお供の人達に、アメリアの居場所も教えてあげないといけないし。
その後の事は、考えてないわ。
ま、てきとーに歩いてれば、またいい情報が手に入るわよ!」

 そう、道はいつでもあたしの前にある。
 後悔なんて、しない。
 だって、そうでしょ?
 いくら後悔したって、時間は戻らない。やり直しは効かない。
 だったら、後悔なんて、するだけムダだ。
 そんなヒマがあるんなら、その失敗を2度としない為には、どーすればいいのか。
 失敗を取り戻す為には、どーすればいいのか。
 それを考えた方が、よっぽどタメになるってもんよ!

「さあ、ガウリイ、行くわよ!次の町へ向かって、ゴー!」
「おうっ!!」
                         END

*************************

はい、どうもお疲れ様でした。
最後までお読みいただき、ありがとうございました。
やれやれ、どうやら最初の「週1連載」の約束は果たせたようですね。

さて、今回出て来た、ザッファルト。
RPGをやった事のある方はご存じだと思いますけど、ゲームに時々、出てくるんですよね。
攻撃を受けると、分裂する敵が。
これがまた、ヤな敵で。
うっかり全体魔法なんか使った日には、エライ目に会います。
なにしろ、分裂するごとに体力は減るんですけど、攻撃力は変わらないんですから‥
もう、ボッコボコになったりします。
って事で、今回、出てもらいました。
このザッファルト、実は中級魔族だったりします。
でも、姿を変える力はありません。
その代わりに、「分裂する」と言う特殊能力があるわけですね。

さて。最後のリナのモノローグ。
あれは私からみなさんへのメッセージです。
エラソーな事を言う、とお思いかもしれませんが。
あ、誤解のない様に言いますと、反省は必要だと思うんですよね。
でも、後悔は必要ないと思います。
後悔したって、何も変わらないから。だから。
リナの言うように、生きたいと思っています。
なかなかに難しいですけどね。

それでは、本当に読んでいただき、ありがとうございました。
また、次回作でお会いしましょう。‥いつになるか、分かりませんけど。
それでは、龍崎でした。

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