◆−祝福−雫石彼方 (2001/10/6 22:20:03) No.7449
 ┣父心ってやつ?−ザズルア (2001/10/7 13:44:21) No.7454
 ┃┗おやぢのきもち。−雫石彼方 (2001/10/10 12:59:06) No.7468
 ┗フィルさん、いいですねぇ。−たつき (2001/10/11 10:20:10) No.7481
  ┗ああ、よかった・・・・(^^)−雫石彼方 (2001/10/12 12:50:38) No.7486


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7449祝福雫石彼方 E-mail 2001/10/6 22:20:03


かなりお久しぶりになってしまいました、雫石です。
そして久しぶりだというのに、雫石さん早速やっちまいました。壊れてます。
いや、内容は至極真面目に書いたんですが、じゃあ何が壊れてるかって、なんとフィルさん小説なのです!!いえい!!(><)フィルさん小説・・・・・一体誰が読むんだ、という気もしないでもないですが(汗)、読んでいただければ幸いです;

++++++++++++++++++++++++++++++++


 朝。何とはなしに目が覚めた。
 枕元の時計に目をやれば、目覚ましをセットした時刻の10分前。それだけで自分の緊張の程が手に取るように分かってしまい、男は苦笑を浮かべた。

 男の名を、フィリオネル=エル=ディ=セイルーンという。
 世界有数の財閥として名高いセイルーン財閥の社長である彼は、圧倒的な行動力と何事にも動じない屈強な精神の持ち主であった。
 しかし。
 この日ばかりは、そんな豪胆な性格も影を潜めてしまうようだ。
 そう、この日だけは――――――――




**祝福**




「父さん、おはよう」
「ああ、おはよう」
 ダイニングに行くと、娘のアメリアもちょうど部屋から下りてきたところだった。ドアの手前で交わしたそんな何気ない挨拶にすら、感慨深いものを感じてしまう。
 お互い照れ臭いような、寂しいような、何とも言えない微妙な空気が二人を包んだ。
「準備の方はもういいのか?」
「はい、昨日までで大体済ませちゃいましたし。でも、ちょっと早めに行っていろいろ回ろうかなーって。だから、ご飯食べたらすぐに出ますね」
「―――そうか」
 他愛もない会話をしながら、既に食事の並べられた食卓につく。
 二人っきりの食卓。
 大勢お客を呼んでも大丈夫なようにと、わざわざ外国から取り寄せたそれはかなり大きなものだったけれど、それを広く感じたことは今まで一度もなかった。
 けれど、明日からは―――――
 ともすれば湧き上がる衝動を、必死に押さえ込む。
 今は、この瞬間を大事にしたい。例えそれが、もうすぐ終わりを迎えようとしているのだとしても・・・・・・

 フィリオネルは、キラキラと顔を輝かせて自分に話し掛けてくる娘の話に耳を傾けた。




「それじゃ、行ってきます。父さんも、遅れないで来てくださいね!」
 そう言いながら途中まで開けたドアを一旦止めて、アメリアが振り返りざまにっこりと笑う。“ああ、わかっとる“と言葉少なに笑い返すと、アメリアはもう一度笑い返して出て行った。
 外は快晴。
 一瞬、眩しい光の中にアメリアが溶け込んでいったような気がして、言葉を失う。思わず後を追うように玄関のドアを開けると、跳ねるように歩いて行く娘の後ろ姿が目に入って、フィリオネルはやれやれと溜息をついた。
「今からこれでは、先が思いやられるわい」
 彼の呟きは、そっと吹いた風に掻き消された。








 赤煉瓦の、洒落た創りの建物へと足を踏み入れる。
 今まで何度も来たことのある場所だった。――――ただし、いつも自分は招待客として。
 まさか、親としてここに来ることになろうとは思ってもみなかった。
 頭ではいつか来ることだとわかっていたのに、今ここにいることを不思議に思う自分がいることも否定しようのない現実で。
 重い足取りのまま、フィリオネルは娘の待つ控え室へと向かった。



『アメリア=ウィル=テスラ=セイルーン様』

 ドアの脇に、そこが娘の控え室であることを示す札が貼られている。
“アメリア=ウィル=テスラ=セイルーン”。
 もうこの先、彼女がそう呼ばれることはなくなるであろうその名前。
 胸に苦いものを感じながら、彼はドアを叩いた。
「はーい」
「アメリア、準備はどうじゃ?」
「父さん!どうぞ!!」
 ドアを開く。
 目の前に、若い頃の妻がいた。
「――――セリ・・・シ・・ア・・・・?」
「え・・・・?」
 きょとん、と自分を見るアメリアに、我に返る。
「――――ああいや、母さんにも見せてやりたいと思ってな・・・・・・本当に綺麗じゃよ」
 そう言って目を細めるフィリオネルに、アメリアが嬉しそうに頬を染める。
 本当に、綺麗だった。
 純白のウェディングドレスに映える、結い上げた漆黒の髪も。
 深い海の底を切り取ったような、蒼い瞳も。
 雪のように白い肌も。
 薄く紅を引く唇も。
 すべてが美しく、すべてが幸せ色に彩られていて、思わずフィリオネルは声を詰まらせた。
「やだ父さん、泣くにはまだ早すぎますよ」
 困ったように笑うアメリアに、“そうじゃな”と返して。けれどやはり、込み上げるものは抑えられそうもなかった。
 しかし、それも無理のないことなのかもしれない。
 早くに妻を病気で亡くし、男手一つで二人の娘を育て上げた。大事に大事に育ててきたけれど、絵の勉強をすると言って海外へ留学に行ったきり、上の娘が帰ってこなくなったのは9年前。今では、年に一度、亡き母親の誕生日に送られてくる手作りの絵葉書のみが彼女の無事を知らせる唯一の手段となった。しかしそれも、差出人の住所が書かれていない為、彼女を探し出す手掛かりにはなり得ない。
 フィリオネルにとって、アメリアがすべてだったのだ。
 彼がアメリアをずっと手元に置いておきたいと願ったとしても、一体誰がそれを咎めることができるだろうか。
「――――父さん・・・・?」
 しかし心配そうに覗き込んでくるアメリアに、フィリオネルは“これではいかん”と気が付いた。
(親がこれから結婚する娘を心配させてどうする。)
「おまえがあんまり綺麗だから、感動してしまってな。もう大丈夫じゃ」
 そう言って、いつもの快活な笑顔を浮かべる。それに安心して、アメリアもほっとした笑顔を見せた。

 コンコン

 ふいにドアがノックされた。
「アメリアー!入っていい?」
「あ、リナさん!!いいですよ!」
 ドアの隙間から顔を覗かせたのは、アメリアの1つ先輩であるリナ=インバース。中学時代からの腐れ縁であり、アメリアの良き理解者でもあった。
 その後ろにはリナの自称保護者であるガウリイの姿も見える。
 彼女らは新郎とも顔見知りであり、その親交も深い。アメリア達がこうして結婚に至るまでの経緯も良く知っており、一番喜んでくれたのもこの二人だった。
「うわぁアメリア、似合ってんじゃない!!すっごく綺麗よ!!」
「ほんとだな。花婿もびっくりして腰抜かすんじゃないか?」
「えへ〜、ありがとうございますぅ♪」
 手放しで誉められ、照れながらも嬉しそうに笑うアメリア。その和やかな空気になんだかこの場にいるのが居たたまれなくなって、フィリオネルは“先に行っとる”とだけ告げて部屋を出た。
「なんだかフィルさん、いつもと違うな」
「そりゃあれだけ溺愛してた娘の結婚式だもん、フィルさんと言えどもナーバスになるでしょ」
 そんなやり取りが後を追うように聞こえてきて、ずばり図星をつかれたことにフィリオネルは苦笑いを浮かべた。
 沈む気持ちを振り払うように足早に歩き出す。
 穏やかな光が差し込む廊下をどこか虚ろな気持ちで進んでいくと、ふと、揺れる白いカーテンが目に入った。吸い寄せられるように近づいていくと、一つだけ空いていた窓から少し冷たい風が吹き込んでいた。
 窓を閉めようと、手を伸ばして。
 赤く色付き始めた木々がざわざわと音を立てて風に揺れる様に、なんとなく手を止めた。

 ザワザワ、ザワザワ。

 木々が揺れる。

 ザワザワ、ザワザワ。

 心も揺れる。

 そして、なぜかふいに。
 気付いてしまった。
 本当は、認めたくないのだと。
 自覚してしまった。
 そうして感じる、罪悪感。
「娘の結婚を心から喜べないとは・・・・・。わしは、駄目な父親じゃろうか・・・・・のぅ、セリシア・・・・・・」
 見上げた空には、白い雲がゆっくりと流れていくばかり。
 ――――と、突然真っ白な鳥が近くの梢に舞い降りた。
 一瞬目が合って、その鳥はすぐに飛び立ってしまったけれど、なんだか“バカね”と妻に笑われたような気がして、フィリオネルもまた、笑った。
 窓を閉める。
 少しだけ軽い気持ちになって、これから息子となる男に発破でも掛けに行くか、と新郎の控え室に向けて歩き出した。







 明日から始まる新しい日々。
 一抹の寂しさは拭えないけれど、願わくば。
 娘達の未来が幸せに包まれているように――――――

 そっと心で祈る、秋の日の午後に。


END


++++++++++++++++++++++++++++++++

フィルさんが怖いくらいに偽物です(汗)
でもでも、あれだけ溺愛して可愛がってるアメリアの結婚式ともなれば、フィルさんがおセンチ〜な気分になったとしても不思議はないと思うのですよ;
せんちめんたるふぃるさん(大笑い)
まあ、たまにはいいんじゃない?ってことで、笑って許してください(^^;)

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7454父心ってやつ?ザズルア 2001/10/7 13:44:21
記事番号7449へのコメント

こんにちは!ザズルアです。
フィルさんの話ですか〜。いや、いいですねぇ〜。
嫁入りする娘を見送るフィルさん・・・。ちょっと位なら息子さん(あたし的にはゼルガディスを希望・・・って他は滅多にないんですけど・・・。)いぢめても許したくなりますね。

では、かなりしけたレスデすが、これで。

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7468おやぢのきもち。雫石彼方 E-mail 2001/10/10 12:59:06
記事番号7454へのコメント


はじめまして!
レス、どうもありがとうございます。

>フィルさんの話ですか〜。いや、いいですねぇ〜。
>嫁入りする娘を見送るフィルさん・・・。ちょっと位なら息子さん(あたし的にはゼルガディスを希望・・・って他は滅多にないんですけど・・・。)いぢめても許したくなりますね。

フィルさんの為にも今回アメリアのお相手の名前は伏せてみましたが、ご推察の通りお相手はゼルガディスです(^^)
なんか私が書くといつもフィルさんが異様に物わかりのいい親になってしまうので、たまにはこういうのもいいかな〜と思って書いてみました。
可愛い可愛いアメリアを嫁に出すんですもの、ちょっとくらいのいぢめはゼルも覚悟しなきゃですよね!(笑)

それでは、どうもありがとうございました!!

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7481フィルさん、いいですねぇ。たつき 2001/10/11 10:20:10
記事番号7449へのコメント

 お久しぶりです。彼方さんの作品があって、飛びついてしまいました!

フィルさん、いいですねぇ(ほのぼの)やっぱり、そうですよ。おセンチになりますって!だってフィルさんだもん。
 普通の父親でも、おセンチになるのだから、フィルさんだと尚更そうだと思います。
 なんだかすがすがしい作品で、読んでて思わず笑みがこぼれました。

 これからもがんばってください。応援してま〜す。

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7486ああ、よかった・・・・(^^)雫石彼方 E-mail URL2001/10/12 12:50:38
記事番号7481へのコメント

お久しぶりでーす。
ちょっと投稿する間が空いたかなーと思ってましたが、前回投稿した日を確認してみたら3ヶ月も前でちょっと
びっくり。な、雫石です。

>フィルさん、いいですねぇ(ほのぼの)やっぱり、そうですよ。おセンチになりますって!だってフィルさんだもん。
> 普通の父親でも、おセンチになるのだから、フィルさんだと尚更そうだと思います。
> なんだかすがすがしい作品で、読んでて思わず笑みがこぼれました。

そう言っていただけるとほっとします(^^;)フィルさんがちょっと大人しすぎるかなー、と思ってたもので。
でも、アメリアの結婚式だし。こういうのもアリですよね!!

> これからもがんばってください。応援してま〜す。

ありがとうございます!!これからも細々と書いていこうと思ってるので、宜しくお願いします(^^)

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