◆−夢飾り(ツイン・ラピス) 0−桐生あきや(7/9-22:14)No.6864
 ┣夢飾り(ツイン・ラピス) 1−桐生あきや(7/9-22:20)No.6865
 ┃┣始めまして−風見霊(7/10-11:27)No.6868
 ┃┃┗はじめまして。−桐生あきや(7/12-13:25)No.6877
 ┃┗はやっ!?−雫石彼方(7/10-22:01)No.6870
 ┃ ┗ははははは(実は必死)−桐生あきや(7/12-13:36)No.6878
 ┣にょにょんがにょんぱにょんぱぱぱっ♪−ゆえ(7/9-22:29)No.6866
 ┃┗――召喚っ♪(待て・笑)−桐生あきや(7/12-13:05)No.6876
 ┣夢飾り(ツイン・ラピス) 2−桐生あきや(7/12-13:40)No.6879
 ┃┗ねこの森には帰れない♪ここでいい人見付けたから♪−ゆえ(7/12-22:23)No.6883
 ┃ ┗ねこの森には帰れない♪帰る道だって覚えてない♪−桐生あきや(7/15-17:14)No.6901
 ┣夢飾り(ツイン・ラピス) 3−桐生あきや(7/15-17:07)No.6900
 ┣夢飾り(ツイン・ラピス) 4−桐生あきや(7/19-21:54)No.6923
 ┃┗あぁぁぁっ!!(><)−雫石彼方(7/21-15:15)No.6938
 ┃ ┗ををををっ(対抗すな)−桐生あきや(7/25-05:21)NEWNo.6952
 ┣夢飾り(ツイン・ラピス) 5−桐生あきや(7/25-05:55)NEWNo.6953
 ┗夢飾り(ハッピー・ラヴァーズ) 終−桐生あきや(7/25-06:05)NEWNo.6954
  ┣ああああああああああああああああっ(感涙)−ゆえ(7/25-09:22)NEWNo.6955
  ┣すごーいっ−みてい(7/25-12:23)NEWNo.6956
  ┣ああああああああvvvおめでとうございますっ!!!−あんでぃ(7/25-13:23)NEWNo.6958
  ┣終章、おめでとうございます&ご苦労さまでした。−龍崎星海(7/25-20:54)NEWNo.6960
  ┗おめでとうございます−こずえ(7/26-01:57)NEWNo.6965


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6864夢飾り(ツイン・ラピス) 0桐生あきや URL7/9-22:14



 というわけで、それほど間をおかずにこんにちわ、の桐生です(笑)
 大口叩いたからには、目指します。20日までの完結。
 レポートと課題とテストの存在を忘れていたとは言えません、ははははは(汗)
 ではでは、「光の扉」からの続き物のお話、「夢飾り」です。

****************************************


 *** 夢飾り(ツイン・ラピス)第0話***


 冬は終わり、春に移り変わろうとする季節だった。


 聖王国の第二王女―――このまま姉姫が帰ってこなければ、おそらく次の次の統治者となるだろう女性は、固く強張った表情で言った。
「それは、命令ですか?」
 相手はしばし沈黙してから答えた。
「命令だ」
「わかりました。私が行かず後家(ごけ)になるのがそんなに心配ですか」
 毒舌に相手は完全に沈黙した。
「いったいそんな言葉遣いをどこで―――」
「外で覚えてきたんじゃないことはたしかです。では、下がらせてもらいますね。安心してください。行かず後家なんかにはなりませんから、絶対に」
 宮廷大臣は白っぽい顔色で沈黙したまま、出ていく王女を見送った。


 アメリアは独り、両手で顔を覆った。
「できることなら、やらずにすませたかったのに………!」

 しかし、すでに肚(はら)は決まっていた。



「クローラー=イフェル=シオンっ!」
 名前を叫びながら研究室のドアをぶち開けたリナを、落ち着き払ってクローラーが出迎えた。
「及第点だな」
「そりゃあどーも」
 『クローラー』の発音の評価にぞんざいに礼を述べてから、リナは単刀直入に切り込んだ。
「急げるだけ急いで、どれくらいかかる?」
 クローラーとその相棒が無言で眉を動かした。
 リナが返答を急かした。
「時間がなくなったの」
「十回」
 端的にクローラーが答えた。
「組成を完全に取り出して入れ替えるまで、最低でも十回以上だ。しかもそれは一度にはできない」
「一度にやったら?」
「リナ=インバース。君は自分の友人を殺す気か?」
 冷ややかにクローラーが片眼鏡を直した。
「一度にやって、もし仮に成功したとして、旅に耐えられるようになるまで最低でも、ひと月」
「成功確立を含めて余裕をもったら?」
「それこそ無期限だ」
 ユリシスが両手を広げた。
「いくらあの赤法師レゾのノウハウと、私たちの研究成果を合わせて行っているといっても、時間がいる。現に邪妖精と髪の組成(そせい)を入れ替えるのにいったい何ヶ月―――」
「時間がないのよ」
 リナがユリシスの言葉をさえぎった。
 真紅の瞳には激しい焦燥の色が浮かんでいる。
「どうかしたのか、リナ?」
「どうもしないわ。単に―――」
 クローラーの問いに、リナは難しい表情で答えた。その手には、開封された封筒と便箋が握られている。
「王手(チェックメイト)がかかっただけ―――」





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6865夢飾り(ツイン・ラピス) 1桐生あきや URL7/9-22:20
記事番号6864へのコメント



 その話が聞こえてきたとき、イルニーフェは持って帰って勉強するべき本と棚に置いて帰るべき本を分けて整理している最中だった。
 どの本も、世代を越えて使用していくべきものだから、保存がきくように中身は羊皮紙、外は金属補強の箔押し皮装丁でめちゃくちゃ重い。たいていは学院が生徒に在学している間だけ貸し出している。
 イルニーフェもそうだった。
 本来なら買うことなど造作もなかったが、どうせ短期間しかいない。在学期間は短ければ短いほどよかった。
 急がないといけないのだ。時間がない。
 行儀作法と礼節、話術の本を真っ先に棚に戻して、法律を持って帰るべきか、経済を持って帰るべきか悩んでいたときだった。
「―――乗り気なんですって」
 講義室の入り口近くに溜まって話をしている少女たちの方からこぼれてきた声だった。
 もちろん最年少はイルニーフェだから、全員が彼女より年上の少女たちである。
 聞くともなしに聞いていたイルニーフェだったが、さすがに手を止めてそっちのほうをふり返った。
「わざわざ仕立て師にデザインの注文をつけたんですって」
「もちろん、色は白なんでしょう?」
「当たり前じゃないの。細部のデザインや細かい飾りについてだわ、きっと」
「いいわね。見てみたい」
 イルニーフェは結局法律の本をカバンに入れて経済を棚に押しこむと、入り口のほうへと歩いていった。
 少女たちが口をつぐんでイルニーフェを見やる。
 飛び級しまくって全課程の半分を終了させている少女は良くも悪くも有名人だ。
 イルニーフェは立ち止まって首を傾げて見せた。
「いまの会話は、アメリア王女のことかしら?」
「そ、そうよ」
「そう。ありがとう。いいことを聞いたわ」
 イルニーフェはにっこり笑ってから講義室を出ていった。
 呆気にとられたような顔で、少女たちがイルニーフェを見送った。
 帰る途中で、イルニーフェがシルフィールの家によって彼女をたずねると、運良く在宅中だった。
「何か、言ってきた?」
「まだです」
 手紙を出した相手との距離をおもんぱかってシルフィールの顔が曇る。
「まあ、距離が離れているもの。しかたないわね」
 軽く溜め息をついて、イルニーフェは辞去の挨拶を告げた。
「どうかしましたか?」
「ちょっとね。不思議な話を聞いたものだから、それを問いただしに行くのよ」
 シルフィールが怪訝な顔をしたが、イルニーフェは答えずさっさと馬車に乗りこんだ。
 馬車の振動を体に感じながら、イルニーフェは何ヶ月か前の会話を思い出していた―――


 *** 夢飾り(ツイン・ラピス)第1話***


 窓の外では、粉雪がちらついていた午後だった。
 王立学院は休みで、イルニーフェはアメリアの私室で控えながら学院から持ってきた本を読んでいた。
 こまごまとした用事をこなしていたアメリアが、一息ついてお茶を飲もうと言ってきたため、イルニーフェは本を閉じてその準備を始めた。
 ユズハが椅子の上から足をぶらぶらさせてお茶菓子を待っているのには頭痛を覚えたが、とにかくお茶を用意する。
「お疲れさまです。ありがとう」
「何を言っているの。これはあたしの仕事なのよ?」
 イルニーフェが呆れたような顔をした。
 彼女はいま王立学院生とアメリア付きの女官という二つの肩書きを持っている。
 朝起きてアメリアの身支度を手伝ってから学院に通い、帰ってきてまた女官の仕事に戻るというめちゃくちゃな日々である。試験や何かの行事があるときだけは、シルフィールの家のほうに泊まり込む。
 それを心配したアメリアが女官の仕事はやらなくてもいいと言うと、逆に怒られる始末である。
 ここにいるための方便でも仕事は仕事であり、ちゃんとやらずにどうするのかというのだ。
 しかもこれで学院を入学したその時から飛び級をしまくって、いま現在も飛び級試験を受けている最中なのだから何ともはや頭が下がる思いである。
 しかし、これでは友人が持てない。
 アメリアがお茶をしながらそのことを口に出すと、イルニーフェはいったい何を言い出すのかという表情で自分の被保護者を見た。
「あなたはいったいなに見当違いのことを心配しているの。私は学院で友人を作る気なんか最初っからないわよ?」
「どうしてそんなことを言うんです?」
 イルニーフェはますます渋面になった。
「じゃあ、逆に聞くけど、あたしが王立学院で同年―――は無理ね、飛び級してるもの。えっと、とにかく友人を作ったとするわよ。あたしはいったいその友達に、自分のことをどう説明すればいいの? 王宮の女官をやってて、アメリア王女の好意で国費で王立学院に通わせてもらってるなんて言えるわけないでしょう? 例えそれを話したとしても、そうなったいきさつを問われたらそれこそ絶対に答えられないわ。国家機密ですもの。まあ、陛下を人質にとって国璽(こくじ)を盗み出して継承権の譲渡を迫ったおかげなんて言っても信じてくれないでしょうけど。あたしなら信じないし」
「…………」
「それはともかく。言えないことがあるなんて対等じゃないわ。あたしはお互いに対等じゃない人を友人だとは認めない」
 漆黒の瞳が苛烈な光を放つ。
「それに、あたしを理解してくれる人は必ずしも歳の近い友人である必要はないわ。幸いなことにあたしには、あなたがいてくれるし、アセルス公女もいてくれる」
「リーデは?」
「入れてもいいけど、時々子ども扱いと女性扱いするから却下。変な茶々入れないでちょうだい」
 にべもなくイルニーフェは言い切った。
「だから別にあたしは学院内に友人がいないことに、それほど痛痒(つうよう)を感じてないの。わかってくれたかしら?」
 アメリアにとっては決して賛同しかねる意見だったが、これ以上はないほど筋の通った(イルニーフェなりに)信念のある意見だったので、彼女は嘆息するにとどめておいた。
 そういうのなら、そうさせるしかない。
 軽く息を吐くとアメリアは首を傾げて、それから話し始めた。
「………私は、私と歳の近い友人が欲しくて欲しくてたまりませんでした」
 イルニーフェが突然自分のことを話し始めたアメリアを驚いた顔で見た。
 驚いてはいるものの何も言わずに、彼女は視線で先を促した。
 それを受けてアメリアは続ける。
「私には姉さんもいましたし、父さんもいましたけれど、父さんは執務で忙しかったし、姉さんは母さんが殺されてからここを出ていってしまったので、結局私には話し相手がいなかったんです」
 窓の外では風が枝ばかりの木々を揺らして、積もった雪をはらはらと落としていく。
 アメリアはテーブルの上でそっと指を組み合わせた。
「たしかに女官たちはみんな私のことを好いてくれて、優しくしてくれましたし、巫女頭をしながら知り合った気のいい人たちはいましたけど、みんな私より年上で、私より身分が低かった。私は身分なんか気にしないのに。向こうが気にしていました」
 本が好きだった。
 丁寧に丁寧に彩色された挿し絵。その横に連ねられた、ここではない、ここにはない物語。
「本の中の英雄たちに、いつも憧れていました。彼らのかたわらには、必ず彼らの冒険を助け、一緒に困難に立ち向かい、彼らと剣の誓いを交わし、信頼し合って何でも話し合える友人たちがいて、私はそれにものすごく憧れてたんです」
「…………」
 過去のこととして語られる静かな語りに、イルニーフェは珍しく困ったような、ほっとしたような表情で指摘した。
「いまは、いるじゃないの」
「はい」
 本当に嬉しそうにアメリアはうなずいた。


 剣の誓いなんてものは交わしてない。
 助けられるばかりだったなどと、嘘は言わない。
 自分だって助けたし、そして助けられもした。
 信じていた。信じてくれた。
 時として死にそうなほどの窮地に立たされても、ずっと一緒だった。
 仲間たち。

 そうしていつのまにか、ただの仲間や友人ではくくれない人ができていた。


「私、とっても幸せ者なんです」
 そうアメリアが言うと、イルニーフェは呆れたように鼻を鳴らした。
「何を言っているのかしら。もっと幸せになる気でいるくせに」
「願い事や目標ってのは、満願成就させなきゃ意味がないんですよ?」
 傲慢とも言えるアメリアの言葉に、イルニーフェは年相応の顔でおかしそうに笑ってみせた。
「まったくもって、その通りね」



 そう聞いたのは、去年の冬の半ばだった。
 そうしていまは春。
 王宮に帰り着いたイルニーフェはさっさとお仕着せに着替えると、勢い良く目的の扉を開け放った。
「無礼な! ノックくらいなさい!」
 部屋の中にいた女官長が目くじらをたてて叱りとばしてきた。
 イルニーフェはわずらわしいのをおくびにも出さず、無言で一礼したあとでアメリアを見た。
 ちょっと困ったような表情でイルニーフェを見ている。
 どうやらイルニーフェがここに来た理由がとっくにわかっているらしい。
 イルニーフェは軽く吐息をはくと、本来の用事とは全然別のことを、別の口調で口にした。
「お綺麗です」
 女官長と仮縫い師、その他のお針子たちがそうでしょうともと、一斉にうなずいた。
 花嫁衣装姿のアメリアはさらに困ったような表情でたたずんでいる。
 予定されている季節は夏だから、それに合わせてドレスは肩を出したデザインになっていた。いまの季節には、少し寒そうだ。
 いちばん下に着る基本となるドレスは純白の絹繻子(しゅす)で、裾のほうに氷色と濃紺色の絹糸で複雑な紋様の刺繍がほどこされていた。そして、その上からは青みを帯びて見える、これまた白の透ける薄い布を幾重にも重ね、余りを右の腰のあたりでまとめ、そのまま床まで優雅に垂らしてあった
 この衣装に、同色同紋の刺繍をした肘までの白い手袋と、銀に青い七宝細工のネックレスとティアラを身につけ、ティアラからはもちろん床を流れて余る長さのベールを垂らしている。
 文句なしに美しい花嫁だった。
 霞みのようなベールと肩口で切りそろえられた黒髪の奥に、ネックレスと揃いで作られた銀と七宝のティアドロップ型のイヤリングがのぞいて、イルニーフェはわずかに顔をしかめた。
 アメリアの頭からティアラを取り外した女官長が言った。
「少し脇のところがゆるうございますね。袖の形ももう少しお直しましょう―――よろしいですか?」
 最後の問いは、アメリアではなく仮縫い師に向けてのものだ。
 仮縫い師がうなずき、アメリアは婚礼衣装を脱ぎ始めた。もちろんイルニーフェも場にいる以上、それを手伝う。
 全部脱いで、ようやく普通のドレスに着替え終わったアメリアは、私室に戻ってお茶を運ばせてからようやくイルニーフェと二人きりで向かい合った。
「はい。それで?」
 じりじりとこの瞬間を待っていたイルニーフェは、思いっきりテーブルを叩いた。いつのまにか、仮縫いにはいなかったユズハがちゃっかりお茶に同席していたりするが、これはいつものことなので黙殺する。
「どういうつもりなの!?」
「どうって、何がです?」
 イルニーフェは噛みつきそうな表情で、アメリアを睨んだ。
「あなた、本気で『リーデット公子』と結婚するつもりなのって聞いてるの!!」
 アメリアはきょとん、とした顔で自分付きの女官の少女の顔を見返した。
「どうして、私がリーデと結婚するんです?」
「…………!?」
 イルニーフェは頭を抱えて黙りこんだ。
 香茶をひとくち飲んで、それから聞き直す。
「………あの衣装は、あなたの婚礼衣装なんでしょう?」
「婚礼衣装を結婚式以外で着る人っていませんよ」
「その相手はリーデット公子じゃないの?」
「だれがリーデと結婚するって言いました?」
「………じゃ、どうするの。あなた国の最高権力者の命令を無視する気なの?」
「当たり前じゃないですか」
「………………………」
 あっさり答えられて、イルニーフェは脱力した余り椅子からずり落ちそうになった。
 アメリアが困ったように笑った。
「もしかしなくても、私がリーデと結婚すると思ったんですね?」
「普通はそう思うわよ。問いただしにきてみれば、仮縫いなんかさせてるし」
「あれは私がさせてるんじゃありませんよ。勝手に向こうがやってるんです」
 めちゃくちゃな言われようである。
「あなた、ドレスのデザインにも口を出したって聞いたわよ?」
 それを聞いたから、すっ飛んで帰ってきたというのに。
 アメリアはケーキをフォークで切り取りながらうなずいた。
「ええ。どうせ作ってもらえるなら、使えるのを作ってもらったほうが得じゃないですか。だいたい青系統の衣装を着た花嫁なんて、赤茶の髪のリーデの隣りに似合うわけありません」
「……………………そうね」
 これは、リーデットの髪の色に関してではなく、その前の方の得うんぬんの意見に対しての限りなく消極的な賛同である。
「イルニーフェ」
「何?」
 投げやりにイルニーフェがたずねると、アメリアはごく軽い調子で答えた。
「あなた、マラードに行ってください」
 イルニーフェは眉をひそめた。問うまでもなく、マラードはアセルスやリーデットたちの生国だ。
「…………それは、どういうこと?」
「そのまんまです。約束を破るようで申し訳ないんですけれど、もうここには置いておけなくなりそうですから」
 イルニーフェは軽く目を見開くと、幾度目かの溜め息をついた。
「あたしに対する責任を果たしてもらいたいわね」
「無理です」
 即答だった。
「わかってるわよ」
 淡々とイルニーフェは答えた。
「もう、決めたのね」
「最初っから決めてはいたんです。あなたにも言ったことがあるでしょう?」


 ―――出ていくときが来たら自分で出ていきますから、心配には及びません。


「あの人が帰ってきてくれる場所と言ってくれたのは、ここに私がいて初めて成り立つことなんです。ここで待てないのなら、仕方ありません。これまでやってきたことが無駄になるのが、残念ですけれど」
「迷わないのね」
 アメリアは微笑した。
「迷いましたよ、とても。私はどうあがいても王族で、どうがんばっても意識の根本からその認識は消えてくれません。でも、待っている間に考える時間はいっぱいあって、うんうん唸って考えてそう決めましたから」
「あたし、とーっても非難したいんだけど、非難できないわ」
 どっちの選択を取ってもこの王女は傷を残すだろうことが、これまでのつきあいから容易に想像できてしまう。
 アメリアは困ったように首を傾げた。
「ごめんなさい」
「謝らないでくれるかしら、何だかあたし、自分にとっても腹が立ってくるの」
「どうしてイルニーフェが自分に腹を立てるんです?」
「結局何も手伝えなかったからに決まってるでしょう!?」
 アメリアはまばたきしてイルニーフェを見つめたあと、透けるような微笑を浮かべた。
「あ、じゃあやっぱり、ごめんなさいですよ」
 もはやイルニーフェは何も答えず香茶を飲んだ。
「………ぎりぎりまでいるんでしょう?」
 アメリアが苦笑してうなずく。
「それまでは一応まじめに仕事しておいてあげようと思ってます。婚礼衣装の持ち逃げ代ぐらいにはなるかと」
「………手伝うわ」
「ありがとうございます」
 ユズハが表情のない朱橙の瞳で、アメリアを見て、そしてイルニーフェを見た。

 エルドラン王がアメリア王女の結婚を『決定』したのは、ほんの一ヶ月前のことだった。




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6868始めまして風見霊 7/10-11:27
記事番号6865へのコメント

始めましてm(_ _)m
風見と申します
今回はこの作品を…
かたっ苦しいのでやめます^^;
たまたまタイトルが気に入って
たまたま中身を全部読んでしまい
たまたまこれが続編だと気づく…
今からこの前の作品を探して読破に移ります
作品,読んでて嬉しくなりました。
前の作品を読んでないので詳しく書けませんが

何時までも待ちましょう
貴方が帰ってくるといったから
約束は守ってもらいますよ
ここで待ちつづけるのです
それくらいの覚悟はしてください
貴方が帰ってくる事を祈り続けましょう
貴方が約束を破る人でないことを
待ちつづけましょう
2度と帰らぬ旅に出ようとも
帰ってきてくださったら
共に旅に出ましょう
今度こそ,貴方と一緒に
             〜待ち人の憂鬱より〜
それでは失礼します
道化師(ピエロ)でした
(いいかげん駄文を書くことをやめないと怒られる^^;)

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6877はじめまして。桐生あきや URL7/12-13:25
記事番号6868へのコメント


>始めましてm(_ _)m
>風見と申します
>今回はこの作品を…
>かたっ苦しいのでやめます^^;
 こちらこそはじめまして、桐生ともうします。
 このたびは、私の話を……というのもやめて(笑)
 読んでくださってありがとうございますっ。

>たまたまタイトルが気に入って
>たまたま中身を全部読んでしまい
>たまたまこれが続編だと気づく…
>今からこの前の作品を探して読破に移ります
 あああっ……け、けっこうありますが(汗)
 ありがとうございますっ。著者別リストに転がってる日本語+(カタカナ)タイトル、全部そうだったりします………(汗)

>作品,読んでて嬉しくなりました。
>前の作品を読んでないので詳しく書けませんが
 ああああああああ(←溶けた)
 ありがとうございます〜!
 すてきです(><) まさに約束を守ろうとゼル必死です(笑)
 実はこのあとの話でアメリアのお祈りシーンがあったりします(笑)

>それでは失礼します
>道化師(ピエロ)でした
>(いいかげん駄文を書くことをやめないと怒られる^^;)
 そんなっ、だれも怒ったりしませんよ。もっと書いてください(あつかましすぎ私)
 これから続きを投稿しますので、よろしければ読んでやってくださいませ。
 ではでは。

 桐生あきや 拝


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6870はやっ!?雫石彼方 E-mail 7/10-22:01
記事番号6865へのコメント

桐ちゃん、お久しぶり〜v
元気っすか?(^^)

ゼルサイドのお話が完結して、よし、レスするぞ〜とか思ってたらもう新たなお話が!!あなた早過ぎですよ!!びつくりするですわ!!(驚きの為混乱中/笑)
迷った末、こっちの方にレスつけてみました。

で、長かったこのシリーズも、ついに完結するんだね〜。そういえばユズハシリーズの一番最初の話が始まる前、「『時旋』の最終話が気付いたらアップされててが〜ん!!」ってなレスしたら、「お詫びに雫石さんに次の話を捧げますー』って言ってくれたんだよね。覚えてる?―――あ、決して「くれ!!」と催促してるわけではないのでご心配なく(^^)こんなにすごいの恐れ多くてもらえませんて;
にしても、「知らないうちにアップされててショック受けさせたそのお詫びに」って、今思えばどういう理由だ、とツッコミを入れたいです(笑)

ゼル、ついに戻るかー。相変わらず設定がきっちりしてて全然無理なくそういう展開に持っていっててほんとすごいです。前に私が書いた『ゼル、元に戻る話』は無茶苦茶だったからな〜・・・・恥ずかしい(汗)
ゼルが元に戻るってことは、すれ違いまくって最近全く会えなかった二人もついについに再会するんだね!!ああ嬉しいv
桐ちゃん、二人を世界一幸せな二人にしてあげてねv

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6878ははははは(実は必死)桐生あきや URL7/12-13:36
記事番号6870へのコメント


>桐ちゃん、お久しぶり〜v
>元気っすか?(^^)
 こちらこそお久しぶり〜vv
 元気ですよン♪ 彼方ちゃんのほうこそお元気ですか?

>ゼルサイドのお話が完結して、よし、レスするぞ〜とか思ってたらもう新たなお話が!!あなた早過ぎですよ!!びつくりするですわ!!(驚きの為混乱中/笑)
>迷った末、こっちの方にレスつけてみました。
 はははは、ごめん(汗)
 実は夏休み入る前に完結させたかったのよ。テストと課題のこと忘れていたからそれもいま無理そうで、じつは必死で速いフリしてたりする………(笑)
 ごめんねー、迷わせちゃって。

>で、長かったこのシリーズも、ついに完結するんだね〜。そういえばユズハシリーズの一番最初の話が始まる前、「『時旋』の最終話が気付いたらアップされててが〜ん!!」ってなレスしたら、「お詫びに雫石さんに次の話を捧げますー』って言ってくれたんだよね。覚えてる?―――あ、決して「くれ!!」と催促してるわけではないのでご心配なく(^^)こんなにすごいの恐れ多くてもらえませんて;
>にしても、「知らないうちにアップされててショック受けさせたそのお詫びに」って、今思えばどういう理由だ、とツッコミを入れたいです(笑)
 (笑) おぼえてますとも。あれが最初だもの(笑) あのときはまさかこんな大きな話になるとは思いもしなかったし。あれから実は半年経ってるしっ(このことがいちばん信じられない)。現実は半年で、話のなかでは5年……アメリア、すまん(汗)
 理由は、まあいいじゃないですか(なにがだ・笑)

>ゼル、ついに戻るかー。相変わらず設定がきっちりしてて全然無理なくそういう展開に持っていっててほんとすごいです。前に私が書いた『ゼル、元に戻る話』は無茶苦茶だったからな〜・・・・恥ずかしい(汗)
 よくよく考えると無理だらけなのよ(笑)
 彼方ちゃんのヤトロファおじいちゃん大好きなの〜♪ アスターも〜v
 私はあれでぼろぼろ泣いたんだからっ。恥ずかしいなんて言っちゃヤですっ。

>ゼルが元に戻るってことは、すれ違いまくって最近全く会えなかった二人もついについに再会するんだね!!ああ嬉しいv
>桐ちゃん、二人を世界一幸せな二人にしてあげてねv
 がんばります(笑)
 砂吐けるようにはなれるかなぁ(笑)
 ではでは、またvv


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6866にょにょんがにょんぱにょんぱぱぱっ♪ゆえ E-mail URL7/9-22:29
記事番号6864へのコメント

あああっ、続きが出ているっ!!
そして、私は印字機を起動するっと。
どもです。印字機と56億のうさぎと共に、ご挨拶のゆえです♪

ああああああああああああああああああああっ、早いですっ!!
続きですよ、続きっっ!!
あれからどうなるのか生殺しのように、気になっていたので(笑)
あの二人さんも登場ですし。

うふふふふふふふふふふふふふふ。たのしみでし。
それでは、私は続きに印字に取りかかりますです。

そして。実は地下で作戦参謀と定置網オンラインで張っていたりするのでした(笑)

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6876――召喚っ♪(待て・笑)桐生あきや URL7/12-13:05
記事番号6866へのコメント


>あああっ、続きが出ているっ!!
>そして、私は印字機を起動するっと。
>どもです。印字機と56億のうさぎと共に、ご挨拶のゆえです♪
 そしてその56億匹のうさぎが豆乳を配達にくるんですよね、コーヒー豆乳もそのうち混じることでしょう(笑)
 というわけで、こんにちわ、の桐生です。

>ああああああああああああああああああああっ、早いですっ!!
>続きですよ、続きっっ!!
>あれからどうなるのか生殺しのように、気になっていたので(笑)
>あの二人さんも登場ですし。
 言ったからには実現させねばなりません。20日完結。しかしテストは20日まであるんですよね………(笑)
 あのお二人、今回は出張ってます。おかしいなぁ。ほんとオリキャラだらけだ。
 もちろん、前々回からでばりまくりのあの姉弟も登場いたします(笑)

>そして。実は地下で作戦参謀と定置網オンラインで張っていたりするのでした(笑)
 二カ所で歌われたら召喚されないわけにはいきません(笑)
 というわけで、今日もまたお世話になっている桐生でした♪
 これから補講に行ってきます(爆)

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6879夢飾り(ツイン・ラピス) 2桐生あきや URL7/12-13:40
記事番号6864へのコメント




「さて、ゼル。悪い知らせとさらに最悪な知らせ、どっちから聞きたい?」
「同時に言え」
「言えるかあああああっ。あたしは頭の後ろにも口があるわけ!?」
「ならどっちでもいいからさっさと答えろ。どうせ両方とも関係してるんだろう?」
「………まあね。じゃあ、さっさと言うわよ。一、アメリアが結婚する。二、それでもイフェルが納得してくんない。さあ、どうしようか?」
「………お前は、どっちの方を最悪に定義づけてるんだ?」
 ゼルガディスの薄い水色の目が光った。
「俺にはどっちも悪い冗談のようにしか聞こえん」
「ようするに、どっちも最悪ってわけね」
「どっちにしろ、何とかするんだろ?」
 割って入ったガウリイの声に、リナとゼルガディスは声を揃えて答えた。
「当たり前だ(でしょ)」


 *** 夢飾り(ツイン・ラピス)第2話***


「ねー、りあ」
 寝る前に、ユズハが突然アメリアに呼びかけた。
 枕を叩いて整えていたアメリアは、きょとんとしてふり返る。
「はい?」
「りあ、どこ行くの?」
「…………」
 枕を叩く手が止まった。
 アメリアは少しだけ泣きそうな顔になって、ユズハの両頬を手で包みこむ。
「さあ。どこに行くんでしょうね?」
「ゆずは、一緒?」
「一緒に来てくれますか?」
 ユズハがぷうとふくれた。
「行クの。行クったら、行くの。ヒドイ」
 アメリアは笑った。
「ごめんなさい。そうでしたね」
「でね―――」
 ユズハの小さな手が、眠っている白ネコの尾を引っ張って引きずり寄せた。
「おるはも、一緒?」
「………ユズハ、可哀想ですから寝かせてあげなさい」
「ン」
 こんちくしょう、と言いたげな目でユズハを見ていた白ネコは、解放されると長椅子のところまで避難して、そこで丸まった。
「オルハは………どうなんでしょう。野(や)に帰しますか?」
 もともと野良猫か、どこかの家から出てきた家出猫だろう。
 ユズハが首をふった。
「ダメ」
「ユズハ?」
「ねこの森には帰れナイ、の」
 アメリアは目をしばたたいた。
「それって―――」
「あっタ。書庫に」
「ですよね」
 それはアメリアが幼い頃、母親に寝る前に読んでもらった絵本の名前だった。
 絵本の内容とユズハがいま言いたいことは多少ずれているが、それでも何となく言いたいことはわかる。
 一度飼ってしまったからには、もうどこにも行かせられない。
 オルハは、すでにユズハとアメリアを自分の同棲人だと認めてしまっている。
「オルハにまかせましょう」
 どこか行こうとするならそれもよし。ダメなら――ユズハ曰く、ねこの森には帰れないのなら、イルニーフェと一緒にマラードへ預けるか、シルフィールに。リナたちにでもいい。
「ン」
 おとなしくユズハはうなずいて、それからどこからともなくその問題の絵本を取り出した。
「読んデ」
 アメリアは苦笑して、ユズハと一緒にベッドの上に寝そべった。
 柔らかなライティングの光が、白いシーツに影絵を描き出す。
「………ある日、街にすんでいる猫に、ふるさとのねこの森から手紙が届きました―――」
 ユズハは枕の上に顎をのせて、ジッとアメリアの声を聞いている。

(大好きなあかいきのこや、なつかしい森の景色。思い出したら、ねこは泣きたくなりました)
(だけど仕方のないことなのです。ねこの森には帰れません。なくした夢はもう戻らないのです)

「なくしたの?」
 ユズハがその朱橙の瞳でアメリアを見た。
 射抜くような目だ。意図せずして罪人を罰する目。罪の所在を明らかにする、澄んだ目だ。
「どうでしょう」
 アメリアはひっそりと笑って本を閉じた。
「ねこの森にいたときの夢を、ねこはなくしてしまったんです。その代わり、出てきた街で別の夢を見つけたんですよ。だから、森には帰れないんです」
「二つは、ダメだったの?」
「ダメだったんでしょうね」
 アメリアは寝転がって仰向けになり、顔の上で本を開いた。ページをめくるたびに、古い紙の匂いがした。
「………二つ、かなえたかったんですけどね」
 祖父が恨めしかったが、責める気にはなれなかった。
 民間人だったアメリアの母親を政変に巻きこんで死なせてしまったことを、父親のフィリオネル以上に気に病んでいた人である。
 同じ轍(てつ)を踏ませたくないという、孫を思うその気持ちはよーくわかるのだが。
 また、知らない相手よりは知ってる相手のほうがいいだろうという、できる範囲での心配りをしたうえでの結婚相手の選択もよーくわかるのだが。
「………勘弁してください。お祖父さま」
 もう少し、その孫本人の気持ちも察してほしいものである。
 息子以上に、孫娘が頑固であることを知るべきだ。
「ねえ、ユズハ」
「なに?」
「家出って、あまりたのしくありませんね」
「よくわからんぞよ」
「………また、変な言葉を」
「ぞよーん」
「…………………………寝なさい」
 アメリアはユズハに頭から夏掛けをひきかぶせた。
 もぞもぞと動きながら、ユズハがひょこっと顔を出す。
「ゆずは、りあとずっといっしょー」
 妙に間延びした声でユズハが断言した。クスッとアメリアは笑う。
「ありがとうございます」
「でね。りあはね、ぜると一緒なの。違ウ?」
「…………」
 唇が、自然と笑みを浮かべていた。
「違いません―――」
「ン。満足。寝ル」
 ユズハは再び夏掛けのなかに潜行していってしまった。
「いったい何が満足なんです」
 呆れたようにアメリアは呟いて、自分も枕に頭を乗せ直した。



 リナはクローラーを睨みつけていた。
 対するクローラーの方は表情こそ変わらないものの、一歩も退く気がないことが態度と超然としたその紫の目からわかる。
 二人から離れた部屋の隅ではユリシスが二人の口論の行方を見守っていた。すでに昨日も行われた言い争いで、これで二度目だ。
 魔法装置と資料に埋め尽くされた部屋は窓もないため非常に暗い。〈生命の水〉の満たされた筒状クリスタルだけが、かけられたライティングの光によって淡く照らし出されていた。
 見慣れた光景だったが、何度見てもあまり快いものではない。
 リナがどうしてわからないのと言いたげな表情でクローラーを見た。
「わかる? ここでやらなかったら何の意味もないことなのよ」
 ユリシスから見ても、リナの言い分は正しかった。
「わかっている。しかしダメだ。私には私の魔道士としての自負と責任がある。悪いが君の案は聞けない。それにだ、これは君が私に言うべきことではない」
 クローラーが頑固に首をふる。
 この間からずっとこの調子なのだ。
 互いの意見は平行線をたどり、いっこうに解決案が見えてこない。
 彼女のほうのこだわりも、同じ研究者としてユリシスにはわかる。一度手をつけた仕事は完璧に仕上げなければならないという、強迫観念にも近い自負は理解できる。
 結果として傍観の姿勢をとっているのは、どっちの言い分に味方をするべきかがわからず、また、彼なりの哲学として女性同士の争いに首を突っ込むのは自殺志願者だけであるというものがあるからだ。
 リナは大きく息をはいて、お手上げとばかりに両手を肩の上にあげた。
「だそうよ、ゼル」
 二人の会話を見守っていたユリシスが盛大に顔をしかめた。
「いるならいるというべきだ。インバース」
「残念ながら、たったいま気がついたのよ。いつ来たの」
「さっきだ」
 開けはなされた研究室のドアに体を預けたゼルガディスが鋭い視線でクローラーを見ていた。
「やってもらいたい。本人がいいと言っている」
「ダメだ。却下する。私は賭事は嫌いだ」
「好き嫌いの問題じゃないだろう。あんたの魔道士としてのプライドは評価するが、それはこの際どうでもいいんだ」
 ゼルガディスの方はリナよりも容赦がなかった。だがクローラーは一歩も退かず、傲然と言い放った。
「私はリナから、あなたの体に合成されている邪妖精と石人形の組成の分離を引き受けた。引き受けた時点で私が最高決定者だ。引き受けたからには確実に成功させる。確立の低い操作を行ってすべてをダメにするのは愚の骨頂だ」
 彼女はリナやゼルガディスとは違って、純粋に研究だけを行っている魔道士だ。気迫や肉体能力面では一般人と変わらない。問答に焦れたゼルガディスがわざとぶつけている殺気に何ら怯む様子を見せないのは驚嘆に値した。静観していたユリシスの方がじっとりと汗をかいている。
「ならば言うが、そこまでされても、いまやらなければ意味がない。あんたは結局そうやって俺を殺すことになる」
 自分の黒髪を一房つまみとって、ゼルガディスは続けた。
「中途半端なのは、合成獣だったときより最悪だ。髪の色や顔だけ元に戻されるのはぞっとしない。いまここで返事を出せ」
「否と言ったら?」
「あんたたちに預けたオーブとあんたたちの研究成果を奪ってよそに行く。容赦はしない」
「ずいぶん乱暴だな」
「答えろ」
 一触即発の空気が研究室に流れた。
 クローラーが不快げに眉をひそめて答えようとした、その瞬間。
「アクアクリエイト」
 派手な水音と共にゼルガディスが頭から水をかぶる。
「頭冷やしなさい、ゼル。一般人に殺気ぶつけてんじゃないわよ!」
 ゼルガディスが抗議の声をあげる前に、リナは彼の背中を押しやって研究室から閉め出した。
 リナ自身が出ていく前に、クローラーをふり返る。
「イフェル、お願いだから今回だけは譲歩して。ひと二人の人生がかかってんのよ。あと大きな声では言えないけどセイルーンの王位継承問題もね」
「見当しよう」
 そう言ったのはユリシスだった。
 リナは軽く眉をあげると、何も言わずに研究室を出ていった。
 クローラーが嘆息して首をふる。
 その彼女の肩をユリシスは叩いた。
「君も頭を冷やしたほうがいい」
「失礼だな。私はこのうえもなく冷静だ」
「とてもそうは見えない。クローラー、君はいまかなり怒っている。同時に、かなり迷っているだろう?」
 クローラーは無表情にまばたきして研究のパートナーを見つめ返した。
「ユーリス。君のその冷静で的確な考察は得難い能力だが、時としてそれはかなり不必要な代物だと私は思うぞ?」
 訳するなら、突っ込んだこと聞いてくるなこの無神経、である。
 ユリシスはわずかに顔を歪めただけで何も言い返さなかった。
「………私は間違っているのか?」
 しばらくしてから淡々とクローラーが訊ねた。
「確実に、何があっても彼を人間に戻したい。そう思うのは間違っているのか?」
「間違ってはいない」
 ユリシスは短く肯定した。
「しかし『何があっても』というのはどうかと思う。彼が人に戻る意味をなくしても、君は彼を人間に戻すのか?」
「よく、わからない」
 いままで慎重に避けてきた部分にユリシスは入り込んだ。
「彼は君の子犬ではない。彼なりの元に戻りたい事情を考慮するべきだ。君のエゴだけで元に戻されても嬉しくはないだろう」
 弾かれたようにクローラーが顔を上げてユリシスをみつめた。
「非常に不愉快だ。撤回したまえ」
「非礼は詫びよう。しかしクローラー、君は意地をはっているだけだ」
 紫の目が危険な光を帯びた。
「ユーリス、君はいつから私のカウンセリングになった?」
「落ち着け、クローラー。だいたい、私と君が揃っているんだ。ついでに赤法師のオーブもだ。これで成功しないほど君の腕は落ちたのか?」
「…………ユーリス」
 クローラーは片眼鏡をはずすと、目を細めてユリシスを見た。
「当分、私が君を好意的に解釈することは難しいと思いたまえ」
「承知している」
 ユリシスから視線をそらすと、クローラーは部屋の奥の〈生命の水〉の満たされた筒状クリスタルを凝視した。
「父に………」
「…………」
「父に飼っていた子犬を鳥と合成させられたときほど、哀しかったことはない」
「…………」
「非常に不本意だとだけ伝えておいてくれ。私は組成の解析にかかる」
「………わかった」
 ほんの少しだけ、ユリシスは苦笑した。
「伝えてきてから私も手伝おう、クローラー」
 クローラーは思い出したようにふり返った。
「ときに、ユーリス。私のフルネームを覚えているか?」
「………? クローラー=イフェル=シオンだろう。それがどうした?」
「やはりな」
 クローラーはきまじめにうなずいた。
「私の名前を『クロウラー』(這いずる虫)と呼び損なわないのは非常に嬉しく思っている。だが、シオンの発音が間違っているな」
「SIONNEじゃないのか?」
「違うな。CIONだ」
「それはすまない。直そう」
「そうしてくれ」
 彼女なりの和解の合図だということがわかるくらいには、彼は彼女の不器用さ加減を知っていた。



 仮縫いから三日ほど経ってから、シルフィールがリナからの伝言を伝えてきた。
 さすがにリナと直にウィジョンでやりとりできるような環境では、お互いにない。宮廷大臣はリナたちを結婚式の最大の障害だと思っているらしく、それはもう迂闊にヴィジョンに近づけないのである。
 まさか結婚式の招待状もださせないつもりだろうかとアメリアは呆れたが、まあとりあえず黙っておいた。
 今回のものは、シルフィール経由で出した手紙の返事がシルフィールにヴィジョンで伝えられ、それをいまアメリアが聞く形になっている。
「ヴィジョンが繋げるようでしたら、ゼフィーリア王都の魔道士協会のヴィジョンに。もし無理でしたら、わたくしが口頭でお伝えするように頼まれています」
 心配そうな表情で、シルフィールがそう告げた。
「口頭で、お願いします」
 シルフィールがアメリアを見据えた。
 アメリアは黙ってうなずきかえす。
 やがて、ふっと吐息をつくとシルフィールは口を開いた。
「なら、お伝えします。“三ヶ月。あたしを信じて”です」
「…………」
 アメリアの手を握ったユズハが、その手の主を見上げた。
 不意にその手が離れて、耳元で瑠璃の飾りに触れる。
「―――信じます」
 シルフィールは微笑んでうなずくと、王宮から退出していった。









*************************************


 クローラー=イフェル。分解すると、元々の語源がでてきます。クロー(爪)とライフル(銃)………待て自分(核爆)。シオンはあとから付け足しです。語源はひととなりとは違ってかなりハードボイルドです(待て)。
 実はけっこうどころかかなりくだらないことから名前を付けていたりするんですね(笑)。ちなみに、リナは一回『クロウラー』と発音してしまい、鉄拳制裁をくらっております。だから呼び名が「イフェル」なんですが(笑)
 「ねこの森には帰れない」は本当は絵本ではなく、谷山浩子さんの歌です♪
 さて、補講に行こう(爆)


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6883ねこの森には帰れない♪ここでいい人見付けたから♪ゆえ E-mail URL7/12-22:23
記事番号6879へのコメント

今日話が投稿されました♪ 【書き殴り】のツリーから♪←唄うな。しかも苦しいし。

あああああああああああああああああっねこ森だわっっvvv(←そこに行くのかお前は)
じゃなくって、どもですのゆえです♪

すみません。話を音読していて、そのまま熱唱していたヤツが(汗)
ユズハとアメリアの会話はやはり好きです(笑)
そしてリナとゼルの会話も♪
クローラーとユリシスの会話もまたvv←全部かい(笑)

ゼル。けっこう切羽詰まってますよね。なんか殺気だってたし。
まあ、姫の結婚話なんか聞かされたら仕方がないんでしょうけどね(^^;

アメリアも王手がかかってますし。
あああっ、めっさめらめら気になるですぅぅぅぅぅぅっ。

それではもだえつつ、唄いながら私は去ります(^^;


地下の生活はやめられない♪地下でうさぎに見つかったから♪←だから唄うなって

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6901ねこの森には帰れない♪帰る道だって覚えてない♪桐生あきや URL7/15-17:14
記事番号6883へのコメント


>今日話が投稿されました♪ 【書き殴り】のツリーから♪←唄うな。しかも苦しいし。
 あああっ、20日間に合わないよ多分っ。と絶叫中の桐生です。もう歌って祈って踊ります!(意味不明)

>あああああああああああああああああっねこ森だわっっvvv(←そこに行くのかお前は)
>じゃなくって、どもですのゆえです♪
 ねこ森。ほんとはユズハとオルハの短編に使う予定だったんですが、筆がすべってこっちにやってきました。ああ、短編の新しい歌を考えないと………「around the secret」でいいかなぁ(笑)

>すみません。話を音読していて、そのまま熱唱していたヤツが(汗)
>ユズハとアメリアの会話はやはり好きです(笑)
>そしてリナとゼルの会話も♪
>クローラーとユリシスの会話もまたvv←全部かい(笑)
 光の扉とこのお話はかなり会話に重点をおいてます。他の描写もちゃんとしろよって感じですが(笑)
 歌はじゃんじゃん歌いましょう♪ 私はWHATEVERを歌っています。あと「市場に行こう」(笑)

>ゼル。けっこう切羽詰まってますよね。なんか殺気だってたし。
>まあ、姫の結婚話なんか聞かされたら仕方がないんでしょうけどね(^^;
 次の話ではアメリアも殺気立ってることが判明します。あああっ、この遠恋カップルはっ(汗)

>地下の生活はやめられない♪地下でうさぎに見つかったから♪←だから唄うなって
 地下の生活はやめられない♪定置の網に引っかかったから♪←定置網のせいにしてはいけません(笑)
 ではではv

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6900夢飾り(ツイン・ラピス) 3桐生あきや URL7/15-17:07
記事番号6864へのコメント




 部屋に入ってきた良く知った気配に、彼は顔を上げもせずに声を放った。
「ああ、姉さん。僕はいま運命とは何かについてかなり真剣に考えてたんだけれど」
「土壇場で父さんに似ないでくれるかな? 気が弱い男の人なんて身内に一人で充分だからね」
 アセルス公女は容赦がなかった。
 駆け落ちしてマラードを出ていったアセルスだったが、実際に駆け落ちされて白目を剥いたのと見せられた孫の可愛さに負けたらしい父親の公主の泣きつきで、いまはマラード城下に住んでいる。こうして、ときどき城にもあがってくる。
 マラード公国の自室で、一ヶ月前以来頭を抱え込みっぱなしの六つ下の弟の頭をアセルスはかなり容赦なくはたいた。
「いいから背筋をのばしなさい。でないと、私が勝手にのばさせるけれど、いい?」
「そうは言うけど! 姉さん、いったいこの事態をどうしろと!?」
 珍しくリーデットが大声をあげた。
「僕だってアメリアと結婚したくないよ!!」
 事情を知らない他の人が聞いたら何事かと思うようなセリフだったが、掛け値なしにリーデットの本音だった。
「そのアメリアからヴィジョン」
「………って、へ?」
「だから、その結婚相手から、ヴィジョン。だいじょうぶだよ。ヴィジョンじゃアメリアがリーデを骨折させたくてもできないから。さっさと行きなさい」
 恐ろしいセリフを吐いて、アセルスはリーデットの背中を押した。
「ちょ、ちょっと姉さん!?」
「くどい」
 アセルスは琥珀の目がきらりと光った。
「さっさと行ってくれる? 私は協力を惜しまないと伝えてほしいな」
「………了解」
 観念したリーデットはおとなしく出かける用意をし始めた。


 *** 夢飾り(ツイン・ラピス)第3話 ***


「おひさしぶりですね、リーデ」
「うん。そうだね………元気?」
「ええ。『おかげさまで』
 ヴィジョンの向こうのアメリアは、めいっぱい嫌みをこめて強調してくれた。
 隔幻話室の外にいる魔道士たちは、まさかこんな冷え切った会話をしているとは思っていないだろう。
「………僕のせいじゃないよ」
「わかってます。これ、八つ当たりですから」
「…………………………やめて」
 げっそりとした表情でリーデットはそう言った。
「ほとんど命令のような代物だから断れないし。断ったら属国じゃなくなるだろうし。そうしたら沿岸諸国連合にまた入れてくださいって頭下げなきゃいけないし。それは死んでも嫌だし。だれかに助けてほしいよ、まったくもう………」
 愚痴に近づいてきているのはわかっていたが、とりあえずぶちぶちと言ってみた。
 アメリアはとりあえず一通りそれを聞いたあとで、
「お祖父様が迷惑かけてごめんなさい」
「君も困ってるんだろう?」
「ええ。ちょっとそのことで手伝ってほしいんですけど」
 リーデットはヴィジョンの向こうにいるアメリアを見た。
 恐ろしく真剣な表情をしている。
 リーデットは軽くうなずいた。
 自分の周りにいる彼女たちのこんな表情を見ていると、背筋に一本芯が通ったような気分になる。
 悪くない。
「いいよ。あと、姉さんから伝言。“協力は惜しまない”ってさ」
 アメリアの顔が笑顔になった。
「それは嬉しいです。なら、がんばって延ばすの手伝ってください」
「…………何を?」
「式の日にち」
「………念のために聞いてもいいかい?」
「何です?」
「悪あがきじゃないだろうね?」
「………いますぐセイルーンに来てください。ぜひとも技を決めたいですから。骨折してもうちの魔法医は優秀で式延期の理由にならないのが、とても残念ですけど」
「………アメリア、もう少し落ち着いて」
「私はとっても落ち着いてます」
「…………」
 リーデットはなだめるのを観念した。
 アメリアは少しいらだたしげに髪を耳にかけた。
 その動きに合わせて、片方だけの瑠璃の飾りがかすかに揺れる。
「えっと、本題に入りますね。リナさんから連絡が来ました。三ヶ月待ってくれとのことです。ですから、協力してください」
 簡潔すぎる言葉だったが、それで充分だった。
「三ヶ月………過ぎたら?」
「ここを出ます」
 あまりにあっさりした言葉に、リーデットは眉間にしわを寄せた。
「本気?」
「もちろん。あなたと結婚して王宮に留まれと言うんですか?」
「いや、そんな気は毛頭ないけれど………」
 リーデットは困ったように頭をかいた。
「姉さんと同じ選択をするんだなと思って」
「…………」
 アメリアは返答に困ったようだった。
「あなたに言ったことは嘘になっちゃいましたね」
「君は嘘をついてないよ。あのときこうも言ったはずだ。
“もしいつか、放り出す日が来たとしても、いまはまだそのときじゃない―――”」
 ヴィジョンが一瞬揺らいだ。アメリアの濃紺の瞳も、それにあわせて揺らぐ。
「いまが、そのときかい?」
「………みたいです」
 少しだけ泣き笑いの顔でうなずくと、アメリアはリーデットとアセルスにセイルーンへ来てくれるよう求めた。
「来て、とにかく私を助けてください。式の日取りが一日でも延びるんでしたら、もう何してくれてもいいですから。ああ。セイルーンに来る途中で、盗賊に襲われて行方不明ってのどうですか?」
「………姉さんが姫将軍呼ばわりされてるの承知で言ってるの、それ………。どう考えたってそれじゃ狂言だってわかるよ」
「ならアセルス姉さん抜きで。それならリーデ、盗賊に勝てないでしょう?」
「何だかもうめちゃくちゃ言われてるよ、僕………。僕や姉さんはいいとして、そのとき一緒なはずの御者や従者はどうするんだい? 説得は無理だよ。完璧にこの縁談に舞い上がっているから」
 アメリアは舌打ちしそうな表情になった。
「似合わないよ、その顔」
「……………………ありがとう。リーデ、私、あなたのことが嫌いです」
「うん。考慮しておく。とにかくそっちに行くよ。姉さんも連れてきたほうがいいよね」
 アメリアは軽く首を横にふった。
「違います。アセルス姉さんが来てくれればいいんです」
「…………………ならそう言っておく」
 殺気立っている女の人を相手にするのはやめておこう、とリーデットはいまさらながらに誓った。



 イルニーフェは溜め息をついて、王宮の廊下から外を眺めた。
 陽射しはだんだんと強く暑くなる。
 それにともなってだんだんと期限が迫ってくる。
「ねえ、ユズハ」
「何、いる」
「アメリア王女の好きな人ってどんな人?」
「んと、ぜる」
「………それは名前でしょう? あたしはどんな人間なのかと聞いているのよ? 外見とかひととなりをね」
「わからん」
 簡潔な答えをどうもありがとう、である。
「………いいわよ。あなたに聞いたあたしが馬鹿だったんだわ。今度シルフィールにでも聞くから」
「あ、あのね」
 ユズハが何か思いだしたように首を傾げた。
「黒い髪と、蒼い目なんだっテ。でもね、銀色でかたいの」
 さっぱりわからない。
「………あ、そう」
 疲れたようにイルニーフェは生返事をした。
 そのとき、廊下の角を曲がってアセルスが姿を現した。十日ほど前から彼女はセイルーン王宮に来ていた。リーデットは一緒ではない。彼が王宮に来ると、下手をすると日取りが早まりかねないからだ。いまごろマラードで奮闘している頃ではないだろうか。
 いったいどういう理由をつけてアメリアがアセルスを呼び寄せたのかは謎だが、割と自由に行動していて、アメリアとの会話を制限されてないところを見ると、話し相手として呼んだのだろう。しかし、同じ話し相手でも人々の想像とはまったく逆のことでアセルスが呼ばれたのを、イルニーフェは知っている。
「ここにいたんだね」
「どうしたの?」
 近寄ってきたアセルスは困ったように首を傾げた。
「アメリアとこれから手合わせするんだけど、見ていく?」
「…………は?」
 イルニーフェは激しくまばたきしたあと、慎重にたずねた。
「どっちが言い出したの」
 その意図をくみ取ったアセルスは苦笑して答えた。
「イルニーフェの想像通りだよ」
 ならばアメリアだ。
 最近はそばにいると胃が痛くなるほどぴりぴりした空気が伝わってくる。
 女官の少女は深々と溜め息をついた。
「気持ちはわかるけれど、一度決めたことなんだから焦らないでほしいわ」
「あまり無茶を言わない」
 笑いながらアセルスは歩き出した。
 イルニーフェとユズハもその後に続く。
「焦らない方がおかしいんだよ。あとひと月なんだから」
 陽光のまぶしい、濃い緑の芝の上でアメリアがアセルスを待っていた。
「おまたせ」
 アセルスは微かに笑うと、距離を置いてアメリアと向き合った。
 彼女は半袖の裾の長い服を着ていた。ウエストに合わせて身ごろを絞ってあって、両脇のそこからスリットが一気に下まで入っていっさいの動きを阻害しないようになっている。幅広のズボンと薄い布靴。
 女性にしては背が高いほうだから、すらりとした印象がますます強くなる。
 対するアメリアは、以前来ていた巫女服とよく似たデザインの白い上下を来ていた。
「ダメだよ」
 アセルスが言った。
「私を宮廷大臣か魔族とでも思いなさい。私は手加減しないよ」
 わずかに右足が後ろに下がり、爪先に力がこもっている。
 アメリアは恐ろしいほど真剣な表情でアセルスの言葉にうなずくと、いったん目を閉じて、そして開いた。
 強い光の欠片が目を灼いた。
 風がふわりと髪を乱す。
「お願いします」
「なら、始めようか」
 アセルスが笑って、トン、と地面を軽く蹴った。
 一気に距離をつめられるようにアメリアが身構える。
 アセルスが首を傾げた。
「こないの? なら、こっちから行くよ?」
 そう言ったときには、すでに彼女は動いていた。
 蹴られた芝がえぐれて下の黒土を巻き上げる。
 一瞬の間に距離をつめて接敵すると、その左拳が風を切って襲いかかった。
 反射的にアメリアがかわすと、間髪入れずに右が飛んでくる。わずかにのけぞるようにして避けると、そこを狙って今度は左の爪先が唸りをあげてやってきた。
 濃赤の上着の裾が動きに合わせて激しくひらめいている。
 アメリアも負けてはいなかった。
 立て続けの攻撃をやり過ごし、アセルスが足を引くのに合わせて思いっきり踏みこんだ。
 空いた腹めがけて低く左の拳を繰り出す。
 アセルスがその繰り出されて伸びた腕を横から叩き、拳を外へと流した。そうして叩いた手でそのまま腕をつかむと、力の流れに乗るようにして外側へとねじる。同時に足払いをかけて、アメリアの体勢を崩そうとした。
 右手もとらえて、アメリアがアセルスに背中を向けるような形になれば、芝に背中から叩きつけて技の完成だった。
 しかし、アメリアの方も足払いを避けると、自分から背中を見せて腕のねじりを解消する。逆にそうしながら、とらえられた左腕を強く引いた。
 アセルスの上体がわずかに前方に泳ぐ。
 そこに充分に体をひねった左足の蹴りが襲いかかった。
 アセルスの琥珀の目が笑った。
 アメリアの爪先が届く前に、思いっきり引っ張られたのを利用してさらにアメリアの方に踏みこんだ。
 アメリアの片足が蹴りのために宙にあるのをいいことに、右のかかとをアメリアの軸足のかかとにひっかけてとっぱらうとそのまま押し倒す。
「っきゃ!」
 二人はもつれあって倒れこんだ。
「はい。アメリアの負け」
 アセルスがアメリアの上からどくと、そのすぐ横に両手をついて座りこんだ。
 アメリアは寝転がったまま空を見ている。
「………アセルス姉さん」
「ん?」
「最後……あれ、お腹に肘が入るとこだったんでしょう? 体浮かせて寸止めしましたね?」
「わかった?」
「わかりました」
 二人とも、いまごろになって一気に汗が噴き出していた。
 勝負自体はほんのわずかの時間だったが、緊張と集中はその比ではない。
「手加減しないって言ったじゃないですか」
「勝負が決まったあとはするに決まってるよ」
「う〜」
 アメリアが悔しげに唸った。アセルスが笑いながら、自分の前髪をかきあげる。
 風に吹かれたまま動こうとしない二人に、さくさくと芝を踏んで観戦者たちが近づいてきた。
「あなたたち、やっぱりおかしな王族よ」
 イルニーフェが呆れたように二人を見てそう言った。
「あす、強い」
 ユズハの言葉に、アセルスは笑いながらその頭を撫でた。
「それはどうもありがとう。でも、アメリアも強いよ」
「ン、知ってル」
 アセルスがアメリアの顔を覗き込んだ。
「落ち着いた?」
「………はい」
 アセルスはゆっくりと立ち上がって苦笑した。
「年だね、さすがに。疲れてる」
「何言ってるんですか。まだだいじょうぶですよ」
 アセルスは軽く服についた葉っぱや埃を払い落とす。
「ここにいる間は何度でも相手するから、けばだったら言いにくるといいよ」
 『毛羽立ったら』とは、また恐ろしく独特の言葉遣いだが、その意味はつきあいの浅いイルニーフェにも何となくわかった。
 アメリアが苦笑して謝った。
「ごめんなさい」
「それくらいしかできないからね」
 まだ芝に座りこんでいるアメリアを置いて、アセルスは近くの噴水までやってくると、知り合いしかいないのをいいことに、そこに手を浸して指で髪をくしけずった。
「冗談ばっかり」
 アセルスに着いてきたイルニーフェが呆れたようにそう言った。
 視界の端では、アメリアとユズハが何やら会話している。
「それくらいしかできないって、昔のコネつかってるのはいったい誰なのかしら」
 皆まで言わせずに、アセルスの濡れた指がイルニーフェの額を弾いた。
「そういうことを、こういうとこで言わない。アメリアに聞こえるよ」
「…………弾かなくても、あたしには聞こえるわよ」
 イルニーフェが小さい声でそう言った。
「それに何もしてないよ、私は。ただ、『また』のされたくなかったらお願い聞いてほしいって言っただけだよ。だいたい、のされてもまだ盗賊やってるんだから懲りてないよね」
「………あなた、結婚する前は何をやっていたの?」
「マラードの悪党退治」
「……………………」
 何のことはない、アセルスが昔退治したことのある盗賊たちを脅しつけて、各地の領主たちに発送した式の招待状やら、婚礼に関係する出入りの使者を『なるたけ優しく』襲わせているのである。これはセイルーンとアセルスのどっちが怖いかということなのだが、実行は一回だけで一度奪えばあとは国外へと逃走するだけでいいのなら、聖王国よりどこまでも追ってくる姫将軍のほうが怖い。
 あまりにとんでもない手段なので、これはアメリアには伏せてある。いくらなんでも彼女が賛成するはずがない。
 だからこれは、アセルスのお節介だ。
 のんびりとマラード公国の公女は告げた。
「ま、それもそろそろ潮時だね。護衛が増えてきたし。でも、わりと引き延ばせたんじゃないかな」
「このうえもなく姑息だわ…………」
 イルニーフェが嘆息した。
 その頃、少し離れた芝の上では、ユズハが首を傾げていた。
「燃やせば、のびナイ?」
「のびるって、何が?」
「日付」
「………何を燃やすんです」
「衣装」
「それはダメです。あなたが王宮から追い出されるのはいただけません」
「むぅ」
「だいじょうぶだよ」
 戻ってきたアセルスが笑いながらユズハを抱き上げた。
「ぴったり三ヶ月後はまだ式の日じゃないからね。『どういうわけか』、式までにやっておかなきゃいけないことの処理が遅れているみたいだから、リナ=インバースとの約束の期日までには間に合うよ。
 ―――アメリア、ここを出ていったあとで、出逢えたら連絡をくれるかな。君の待ち人の顔が見たいんだ。ぜひとも一発殴りたい」
「………は?」
「ぜひ殴らせてくれるかな。私なら五年も待てないからね」
「………………………………………」
「もっとも」
 ユズハの白金の髪をいじりながらアセルスは笑っていった。
「三ヶ月に間に合ったら、殴らないでおくよ」







*************************************


 ほとんど蛇足なエピソードかもしれない二人の手合わせ。どういうわけか書いてみたかったのです。物理的におかしいですから、深くは読まないでください(汗)。
 しかし、本当に結婚させられそうなリーデットには作者としても同情します………単発キャラで終わらなかったと思ったら、まさか本気でこういうハメになるとは………。ゼルに殴られないことを祈りましょう(笑)



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6923夢飾り(ツイン・ラピス) 4桐生あきや URL7/19-21:54
記事番号6864へのコメント




 リナは魔道士協会のすぐ近くに借りた家に帰ってくると、中には入らず庭を回って裏手に出た。リナの名前で借りた家だが、リナのものではない。
 花も散りかけた、春の季節の終わりである。
 いまはまだ過ごしやすい春らしい気候だが、あとひと月もたてば夏になるだろう。
 裏庭からはリアの声が聞こえてくる。
 一人前に木の枝を構えて斬りかかる五歳児の相手をしているのは、地面に座りこんだ黒髪の青年だった。
 どうやらすっかり懐かれてしまったようである。
「あ、かーさん!」
 リナを見て目を輝かせたリアの金色の頭に軽く木の枝が命中した。
「いたい。ゼルさん」
「よそ見をするな。ガウリイが教えてくれないから俺に教えてくれといったのはお前だろうが」
「なるほど、そういう理由なわけね」
 笑いながらリナは家の壁によっかかった。
「めずらしいものを見たと思ったら」
「体を慣らすのにちょうどいいからな」
「それよ。どう調子は? いきなり肉体崩壊とか起こしてない?」
「起こしていたらいまここにいられるか?」
 仏頂面でゼルガディスがリナを睨んだ。
 肌はほぼ白磁の色に近くなっている。髪も柔らかく風になびいていた。髪が黒いと童顔に見えると言われて、恐ろしく複雑な表情で黙り込んでしまったのはだいぶ前の事である。
「ただ、自分の体じゃないみたいだな。気持ちが悪い」
 苦笑したゼルガディスがひょいと木の枝を持ち上げて、横からきたリアの枝を受けた。
「不意打ちか?」
「ちがうもんんんん〜」
 ふくれっ面でリアがそう言った。
「リア。あんたなんでゼルから剣なんか習ってるの」
「だって、とーさんおしえてくれないんだもん。あぶないって〜」
 語尾に妙に力が入っているのは、一生懸命ゼルガディスの木の枝を押しているからである。
「たしかにガウリイの言いそうなことだわ………って、ちょっとゼル。なに五歳児に押されてんのよ?」
「だから、加減がわからないんだ。少し力を入れてみろ」
 木の枝が二つとも折れた。リアがはね飛ばされて尻餅をつく。
 きょとんとしたその顔は何が起きたかわかってない証拠だ。
「ほらな」
「なるほどね」
 リナは苦笑して、リアを立たせてやった。
「明日、最後の入れ替えをやるからね」
「頼む」
「あんたほんとに殊勝ね、気味が悪いわ」
 ゼルガディスが憮然とした表情でリナを見上げた。立てば見下ろせるのだが、どうやら面倒くさいらしい。
「悪いか? もともとそうするしかないんだ。合成獣になったのだって、俺はレゾにうなずいたが俺自身が何かしたわけじゃない。元に戻ることだって、方法を見つけるところまでは一人でできるが、実段階ではそうはいかないことぐらい最初っから承知している。その点、あんたと知り合えたのはかなりの幸運だと思ってるんだがな。リナ=インバース」
「あたしも、あたしの同期にイフェルがいたのは、かなりの幸運だと思ってるわね。あんたとあたしだけじゃ、こんなに短期間でここまでいくことはなかったはずよ」
 レゾのオーブには合成の課程しか記されていなかった。当たり前といえば当たり前である。戻す気などなかったのだろう。
 その記されていた合成方法と、自分たちの研究成果とノウハウを照らし合わせて分離の方法を組み立てたのはイフェルとユリシスだった。
 この分野に関しては門外漢のリナだけではこう簡単にはいかなかっただろう。
「まだちょっと信じられん」
「へえ、何が?」
 軽く眉をあげたリナに向かって、ゼルガディスが軽く手をかざした。
「………全てがだ」
「まだよ」
 かざした手が軽く握りしめられた。
「わかってる。ところでガウリイはどうした」
「うちの実家。たぶん手伝わされてるんじゃないの?」
 ゼルガディスは恐ろしげな表情を浮かべてしみじみと口にした。
「この親にしてこの子ありという言葉を、あのときほど思い出したことはないぞ」
「………それ、チクるわよ」
「すまん。俺が悪かった」
 リナの足下でお腹が空いたとリアがごねている。
「ごめん、リア。夕飯は姉ちゃんたちのところで食べてね」
「さいきんはー、かーさんのほうがとーさんよりあそんでくんないぃぃ」
 リアがふくれっ面で母親を見上げた。
「ごめんね。イフェルたちと最終的な打ち合わせがあるのよ。帰れるかわかんない。ガウリイがいるでしょ?」
「かーさんもいなくちゃやだ」
 完全に拗ねモードに入っている。
「もう少ししたらセイルーンに連れていってあげるから」
「ほんと?」
「ほんとほんと。ゼルが死ななきゃね」
「おい………」
 じとりとゼルガディスがリナを睨んだ。
 リナは娘を抱き上げた。
「だから、祈っててくれる? 神も魔もアテならないから、リアが信じる『何か』にうまくいくように祈ってて。あたしとゼルがイフェルたちのところに行ってるあいだは、そうしててくれる?」
 幼い子どもに理解できるような言い回しではない。
 それでもリアは何かを感じ取ったのか、きょとんとした顔で母親を見たあとでうなずいた。
「じゃあね、とーさんにお祈りしてるー」
「それは、ちょっと………」
「ある意味すっごい不安なんだけど………」
 リナとゼルガディスはおそろしく複雑な表情で呟いた。



「呪法?」
 リナは眉をひそめて呟いた。
 ライティングの明かりに照らされたクローラーの表情はいつもと違って固かった。
 窓のないこの研究室にいると時間の感覚が消失してしまいそうになるが、いまは夜だ。
 リアをガウリイに預け、その足で魔道士協会に来たリナを迎えた二人の第一声がそれだった。
 先に来ていたゼルガディスは黙って壁にもたれている。
 ユリシスがけわしい表情で答えた。
「こういう言い方はどうかと思ったんだが………あえて言い表すならそういうことだ」
「呪に関しては私たちより君のほうが専門だ、リナ=インバース」
「どういうことなの。説明して。どうしていままで黙ってたの」
 リナが声を荒げた。
 実現不可能だと思えたことが現実と重なるまで、もうあとわずかなのに。
 リナの言葉をクローラーが訂正する。
「その言葉は正しくない。いままで気づかなかったんだ、それに仮説だ。あるかもしれない、という話だ」
「なぜ、いまごろ気づいたの?」
「分離させたあとの邪妖精の組織と石人形の組織の一部分が再融合していた。見るか?」
「あんた捨ててなかったの?」
 リナが思いっきり顔をしかめた。
「いい。あの物体Xは一度見れば充分よ。それより詳しく説明して」
 説明を聞いて、リナは我知らず唸っていた。
「合成獣としての安定化をはかるためにそういうものがほどこされている可能性があるというわけね? ゼルが合成獣じゃなくなったらそれが発動すると?」
「合成獣じゃなくなったらというのは正しくない。合成された組織の安定が崩れて肉体の維持ができない判断したときに発動すると思われる、一種の安定装置だ。」
「いらないわよ、ンな安定装置」
 リナは悪態をついて、髪をかきあげた。
 まさしく呪いだ。
 ゼルガディスに合成獣化を施したのがレゾであることは言ってあるが、そのレゾが赤眼の魔王だったなどとは二人にはもちろん言ってない。
 その何も知らない二人が呪法と表現したのは、ある意味真実を突いていた。
「そういうものがあるとしたら、どうしていままで反応しなかったの? もうゼルの体のほとんどは人間なのよ?」
「それだ。仮定だが、この呪は三つの要素のうちどれか一つでも損なわれたときに発動するのではないだろうか。すなわち、彼本来の人としての組成と、邪妖精と石人形の組成。現時点ではどの要素も欠けてはいない」
「前に君にもいっただろう? 邪妖精のほうは完全に分離させることは無理だと」
「聞いたわよ。そんな言い聞かせるような口調で言わなくてもわかってるわ、ユリシス」
 リナに皮肉っぽく言われて、ユリシスが不機嫌に黙り込んだ。
 魔力の増大を目的として主に精神面の方に合成された邪妖精を完全に分離させるのはいまの技術では無理だった。それはもはやゼルガディスの精神と分離不可能なほどに融和してしまっていた。
 ゼルガディスと話し合った結果、邪妖精の組成は分離できるものを除いてほとんど残してある。
 この耳は消えて魔力は残る。結局俺は得をしてるのか? と皮肉っぽくゼルガディスは言ったものだ。
「これまでは、比率がどうかわろうと三つの要素が残っていたからおとなしくしていたんだ。しかし明日、完全に石人形の部分を取り除く」
「すると呪が発動するってわけね」
「仮定通りなら、恐らく」
「発動するとどうなる?」
 それまで黙っていたゼルガディスが口を開いた。
 淡々とクローラーがそれに応ずる。
「恐らく、これまで分離させたものが一気に戻ってくる」
「ちょっと待ちなさいよ! 分離させたものは大部分処分したでしょうが! ないものがどうやって戻るのよ。おかしいわよその発動条件! 嫌がらせとしか思えないわ!」
「そこが謎だ。もしかしたら私の仮定が間違っているかもしれないが、何らかのことが起きるのは間違いない」
 リナが断りもなく傍らにあった椅子にどさりと腰を降ろした。
「ねえ、あんたの勘違いってことはないでしょうね? 仮定だらけの話を聞かされても困るわよ」
「仮定だらけだから困っている。もし事実なら明日分離はできない。それこそ確率二分の一の大博打だ」
「さらに仮定するわよ。呪ってのは術者の生死に準ずるのよ。レゾは死んでる。よってこの術は発動しない」
「それにさらに仮定する。もしこれが合成獣を作る際の術に組み込まれていたなら、リナ=インバース、君の仮定は成り立たない」
「でもそんな呪文や理論はオーブに書き込まれてなかったでしょ?」
「………不毛だ」
 溜め息混じりにゼルガディスが言い捨てた。
「ゼル」
 リナが立ち上がった。
「一日でいいわ。分離を待って。あそこに行って来る。全部のオーブを洗い出してくるわ」
「リナ」
「あんたは行けないでしょ。ここで待ってて」
 扉に向かったリナがふりかえってゼルガディスに笑いかけた。
「もしなかったら、そのときはのるかそるかの大博打ね」
「ああ」
「反論は聞かないわよ、イフェル、ユリシス」
「一度承諾した。もはやあきらめている」
「右に同じく」
 リナは苦笑した。
「ありがと。やれやれ、何がないっていちばん時間がないのよねー。んじゃ、行って来るわ」
「リナ」
 ゼルガディスがリナを呼び止めた。
「お前、どうしてそこまでする?」
「タダじゃないわよ。いまはあたしがあんたを全力で助けてあげられる。だからそうしてるだけ。あたしはあんたのこともアメリアのことも好きだしね。あとで代価はいただくわ」
 リナがひらひらと手をふって消えた。
 閉まった扉をしばらく眺めた後で、ゼルガディスがぼそりと呟いた。
「腹が立つ」
「何にだ?」
「イカレた赤法師と、自分にだ」



 予言。託宣。神託。もっと低俗にいうなら虫の知らせや第六感、そんな気がする、ですませられる類の感覚。
 巫女として長い経験のあるアメリアだったが、幸か不幸かいままでそんなものが『降臨』してきたことはなかった。
 シルフィールに聞いてみると、それは本当に何の脈絡もなく脳裏に閃くのだという。
 実際に託宣を経験し、高位の存在を間近に感じたことのあるシルフィールは、本当に敬虔な祈りを捧げる女性だ。自分はあれほどまじめに真摯に神に祈ったことはない。
 アメリアはスィーフィードに仕えている巫女だったが、王宮にいたときから神が本当にいるのかどうか疑っていた。
 リナたちと旅に出て世界の真実に触れてからは、神はいるが、本当はいないという結論に達していた。
 魔王や神と呼ばれる存在はいるが、そう呼ばれているだけで、自分たち人間が崇めて望んでいるような唯一神は存在しない。だいたい自分のことだけで手一杯の神だ。人間なんかどうでもいいのである。託宣を降ろしてくるのも自分勝手な都合からだろう。
 祈る、という行為を意識してしなくなってから随分な時間がたった。第一、祈りを捧げる相手がいない。
 祈る、というのは『斎(い)を告(の)る』という言葉が語源だという。斎(いつき)の者―――神聖なもの、より高位の存在に告げる言葉など、アメリアは持っていなかった。
 彼らだって自分のことで一生懸命で、アメリアを助けてくれる余裕も理由もないことぐらいわかっていた。
 けれど、いつだって自分は何かに、誰かに、祈っていたような気がする。
 母親が死んだときも。従兄が死んだときも。
 リナが金色をまとったときも。呑まれそうな闇のなか、異界の魔王に対峙したときも。
 そのときに応じて内容は違ったが、いつだって何かに願いをこめて、思いをこめて、祈っていた。
 きっと、自分自身に。
(魔力ってのはある意味精神力だからね。強い願いは、それだけで力なのよ)
 いつだったか、そう言ったリナに「知ってます」と答えるとそれは変な顔をして「あ、そう」と言った。
 知っている。リナ自身は知らなくても、彼女に教えてもらったのだ。実際にそれを目の前で見せつけられたのだから。輝かしい金色と共に。
 願いが一人歩きを初めて、魔力になり魔法になり、魔族になり神になる。
 そして、ヒトにも。
(どうか)
 アメリアは独り夜空を見上げた。
(どうか………)
 何て祈ればいいのだろう。
 言葉を探せずに、彼女はそっと目を閉じた。


「あった………」
 ほとんど泣きそうな表情で、びしょ濡れのリナがオーブをひとつ、宝物か何かのように取りあげた。


 その、朝。
 リナが、まだ疲れの残る顔色でゼルガディスに問いかけた。
「準備はいい?」
 窓から差し込む朝日がリナの栗色の髪を照らして、色を薄く見せていた。
 煙がかった飴色に見える。
 ゼルガディスはわずかに目を細めた。
 ガウリイの髪―――野郎の髪を眺める趣味はないが、それは見事な金髪だったから、光に淡く透けていたのだけは印象に残っている。
 自分の髪はよく見えるほどの長さでもなかったが、見てくれた相手が何度も同じことを言ったので覚えている。綺麗に光を弾くらしい。―――もう、その色ではなくなってしまったが。
 そう言ってくれた相手の髪もそうだった。綺麗に黒光りする髪だった。手に絡めたときの感触はまだ薄れていない。
 無性に会いたかった。
 リナがひらひらとゼルガディスの目の前で手をふった。
「何よ。呆けた顔して。お祈りでもしてたの?」
「そんなところだ」
 リナが目を丸くした。
「珍しい。あんたでもそんなことするのね。何に祈ってたのよ」
「こういうときは惚れた相手に祈るもんだ」
 リナが絶句して、恐ろしい者を見るような目つきでゼルガディスを見つめた。
「………あんた、体調悪くないわよね」
「つくづく失礼なやつだな、お前は」
 髪を見て色んなことを思い出していたとはあまり言いたくなかった。
「お前にはないのか。あれほどめちゃくちゃな目に遭ってるくせに」
 虚を突かれたような表情でリナがゼルガディスを見て、まばたきした。
「………あるわ」
 思い出し笑いをしながら、リナが首を傾げた。
「おかしなもんよね。助けるはずの相手に祈ったんだもの。あのとき」
「そんなもんだろう」
 ゼルガディスは立ち上がった。
 自分の黒い髪が視界の端に入る。
「あんたもいまそんな心境なのかしら?」
「さあな」
 ゼルガディスははぐらかして、そうして外に出た。
「ねえ、多分あんたは知らないだろうから言ってあげるわ」
「何だ?」
「あんたのその髪、アメリアにそっくりなのよ」
 言われて、ゼルガディスは驚いた顔をしたあとで、微かに笑った。





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6938あぁぁぁっ!!(><)雫石彼方 E-mail 7/21-15:15
記事番号6923へのコメント


ああもう桐ちゃんっ!!
素敵!!素敵すぎよう!!!(><)
すべてが素敵ですVv

リア、かわいいね〜v『リアが信じる『何か』に祈ってて』って言われて、「とーさん』って答えるとことか、子供らしくってかわいくってグー!!(><)
「そーかそーか、父さんのことが大好きなんだね(^^)」と微笑みながら、頭をなでなでしてあげたくなります。
相手してあげてるゼルも何かいい感じ〜vほんと、柔らかくなったね、ゼル。
あと、桐ちゃんの書くリナとゼルの会話がすごく好きなのです。さすが、ガウリナ、ゼルアメでのリナ&ゼルが好き、と公言するだけありますv

>「珍しい。あんたでもそんなことするのね。何に祈ってたのよ」
>「こういうときは惚れた相手に祈るもんだ」
> リナが絶句して、恐ろしい者を見るような目つきでゼルガディスを見つめた。
>「………あんた、体調悪くないわよね」
>「つくづく失礼なやつだな、お前は」
> 髪を見て色んなことを思い出していたとはあまり言いたくなかった。
>「お前にはないのか。あれほどめちゃくちゃな目に遭ってるくせに」
> 虚を突かれたような表情でリナがゼルガディスを見て、まばたきした。
>「………あるわ」
> 思い出し笑いをしながら、リナが首を傾げた。
>「おかしなもんよね。助けるはずの相手に祈ったんだもの。あのとき」
>「そんなもんだろう」

ここらへんがもう!!ジャストミーーーーーート!!!(><)って感じですよ(笑)
っつーか、ゼルの『こういうときは惚れた相手に祈るもんだ』に撃沈されましたv
ぜぇぇぇるぅぅぅぅぅぅ!!(大絶叫)
あぁぁぁぁ、素敵・・・・・v

なんだかゼルを元に戻すのも問題山積みでそう簡単にはいかないみたいだけど、是非是非愛の力で乗り越えていただきたいものです。
ではでは、続きを心待ちにしてるわ〜v



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6952ををををっ(対抗すな)桐生あきや URL7/25-05:21
記事番号6938へのコメント


 お返事遅すぎです私(爆)

>ああもう桐ちゃんっ!!
>素敵!!素敵すぎよう!!!(><)
>すべてが素敵ですVv
 彼方ちゃんの「一陣の風」もとっても素敵でしたvv
 レスしようしようと思いながらここまでずるずる引っ張っている私に制裁を加えてください(−−;

>リア、かわいいね〜v『リアが信じる『何か』に祈ってて』って言われて、「とーさん』って答えるとことか、子供らしくってかわいくってグー!!(><)
>「そーかそーか、父さんのことが大好きなんだね(^^)」と微笑みながら、頭をなでなでしてあげたくなります。
 リア、かなりお父さん大好きです。ちなみに、このあと弟君が生まれたりなんかします(笑)

>相手してあげてるゼルも何かいい感じ〜vほんと、柔らかくなったね、ゼル。
 うちのゼルは人格が丸すぎという話も泣きにしもあらず(爆)
 これでユズハと再会したらまたおちょくられたりするんだろうなぁといまから予想がつきます(笑) ああ、でもこんどはオルハという同じ境遇の存在がいるか(待て)

>あと、桐ちゃんの書くリナとゼルの会話がすごく好きなのです。さすが、ガウリナ、ゼルアメでのリナ&ゼルが好き、と公言するだけありますv
 あああっ、そう言ってもらえるとめちゃ嬉しいっ(><)。ありがとうっ。この二人について語らせると桐生止まりません、長いです(核爆)

>ここらへんがもう!!ジャストミーーーーーート!!!(><)って感じですよ(笑)
>っつーか、ゼルの『こういうときは惚れた相手に祈るもんだ』に撃沈されましたv
>ぜぇぇぇるぅぅぅぅぅぅ!!(大絶叫)
>あぁぁぁぁ、素敵・・・・・v
 何と言いますか……書いていると私が考えつかないうちにすらっと言ってました。ゼル、ほんとかオイ(笑)
 ジャストミートしたのなら、ああ、ほんとに嬉しいです。幸せ♪♪

>なんだかゼルを元に戻すのも問題山積みでそう簡単にはいかないみたいだけど、是非是非愛の力で乗り越えていただきたいものです。
>ではでは、続きを心待ちにしてるわ〜v
 問題山積みというか、実はわりとあっさりしていたり(爆) もうすでにここまでで山積んでた問題の大半は解決してるかなぁと。
 戻る方法見つけたら、あとは早いだろうなと思うのです。分離中で殺気立った現場の様子とか書いてもあまり意味があるとは思えないし(笑)
 戻る課程が大事かなと思いまして(^^ゞ
 なんだかとても偉そうなこと書いてるけどあまり本気にしないでね。書けなかったという隠れた真実がなにきしもあらずなので(死)
 にゅ。ではでは、またです♪

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6953夢飾り(ツイン・ラピス) 5桐生あきや URL7/25-05:55
記事番号6864へのコメント


 二十日には完結させると大言壮語と吐いた私にどうか鉄拳制裁をくらえてください。ごごめんなさい、桐生はうそつきでした。ゆるしてくださいっ(滝汗)

 えっと………あとは、まったく余計なお世話ですが。
 推奨BGMを。『WHATEVER』(浜崎あゆみ)です。作中で使おうかとも思ったんですが、どうしても入れられなかったので。



*************************************




 目の下に青いくまを作ったリナが、似たような顔色のクローラーに抱きついた。
「ありがとう。感謝してる」
「当然だ。もっとしてもらっても罰はあたらない」
「………あんたのそういうところが大好きよ」
「光栄だ」
 片眼鏡を外すと、クローラーは滅多に見せない表情で笑った。
「私も感謝している。貴重なデータをとらせてもらった」
「………それがあんたなりの感謝と喜びの表現だって知っちゃあいるけどね」
 リナはクローラーから視線を外して、背中を向けた。
「ハッピーバースデー?」
「………馬鹿野郎」
 柔らかなアルトの声が、苦笑混じりにそう答えた。


(あたしたちは、何も知らないからね?)
(あんたとアメリアから連絡がきて、初めてそっちに行くんだから)
(だからさっさとその連絡をとりにセイルーンまで行きなさい)


 *** 夢飾り(ツイン・ラピス)第5話 ***


 鏡の前にアメリアは立っていた。
 姿見にうつるその姿と、現実の立ち姿を交互に眺めながら、イルニーフェがわずかに顔をしかめた。
「ねえ、アメリア王女。あなた痩せたんじゃないかしら」
「そうですか? 夏痩せですかね」
 笑いながらアメリアは、萌黄に朽ち葉色の刺繍の入ったドレスの裾をさばいてイルニーフェのほうに向き直った。
 いつものごとく、女官に付けてもらった瑪瑙の耳飾りをひょいひょいっと外して鏡台の上に投げ出すのを見て、イルニーフェは溜め息をついた。
 何に対しての溜め息かは、自分にもわからない。
 まだ式までは十日ほど残っている。
 父親の公主の体調が優れないからとか、何のかんのと理由をつけてセイルーンへの参内(さんだい)を渋っていたリーデットがとうとうこっちへ来たのが昨日。
 今日は、その顔見せと言うべきか、打ち合わせと言うべきか、アメリアや父親のフィリオネル、その他セイルーンの重臣たちがリーデットと顔を合わせる予定が設けられている。
 王女付きの女官として頭に入れておくべき、アメリアの今日の予定はこれぐらいだ。
 表向きは。
「お願いしますね、準備」
「………わかったわ」
 言われて、イルニーフェは固い表情でうなずいた。
「すでにまとめてベッドの下にありますから」
「シルフィールに渡せばいいんでしょう? わかってる」
 扉に向かうアメリアの耳元で、銀と瑠璃の耳飾りが揺れた。
 片時も肌から離さない装飾品ほど曇らない、という話はいったいどこから聞いたものだったか。
 今日が約束の三ヶ月の、最後の日だった。



 アメリアを見送ってから部屋を出たイルニーフェは、まずはユズハを捕まえた。ユズハに遊ばれていた白ネコが救い主を見つけたとばかりにイルニーフェに寄ってきたが、夏場にネコにすり寄られても暑苦しいだけである。
「いた。やっと見つけたわ。あなたはもう準備はできているのかしら?」
「何の?」
 のほほんと訊ねられて、イルニーフェの額に青筋がたった。
「ここから出ていく準備よ」
「何もナイから、何もする必要、ナイ」
「そう。なら一緒に来なさい。アメリア王女の部屋にあるものをシルフィールに渡しておかないといけないわ」
 おとなしくイルニーフェの言葉に従いかけたユズハが、突然顔を横に向けた。
 初夏の風に、色の抜けた金髪が一筋、二筋、舞った。
「あ………」
 その唇が声を洩らした。
 ここは二階だ。回廊の向こうには、中庭をはさんだ同じ回廊の続きが見える。
 しかし、ユズハの朱橙の瞳はその方向を向いていたが、視界に映るもののどれをもとらえてはいなかった。
 突き抜けるようなその視線。
「ユズハ?」
 ユズハは突然走り出した。止める暇もない。
「ちょっと!? どこに行くのよ!」
「りあのとこ」
 アメリアはこれから父親とともに顔合わせを行う離宮のひとつに行く予定だ。ユズハが会えるはずがない。
「ちょっと―――!」
 叫びかけたイルニーフェの目の前で、ユズハの襟首がひょいとネコよろしくつまみ上げられた。
「はいユズハ。ダメだよ」
「りーで、離ス!」
 じたばた暴れるユズハにリーデットが何やら耳打ちした。
 途端にユズハがおとなしくなって、すとん、と床に降り立つとリーデットの足下にまとわりついた。
「リーデット。あなたなんでここに―――」
 アメリアと共に、顔合わせの中心人物のはずである。それなのに正装もしていない。丈の短い上着にズボン。この恰好はむしろ―――
 天啓がひらめいて、イルニーフェは愕然と目の前の青年を見上げた。
「まさか、『あなたたち』………」
「イルニーフェはほんと鋭いね」
 リーデットは笑うと、イルニーフェを促した。
「とりあえずイルニーフェは正門にいってくれるかい?」
「は?」
 赤褐色の髪を夏の風に揺らしながら、マラードの公子はさらに面白そうに笑ってみせた。
「シルフィールさんが来ている。迎えに行ってくれるかな。どうやら押し問答しているみたいなんだ。見つけたのはいいけど、他国の僕たちが通せって口を出すわけにはいかないし。あとからユズハと来るから、とりあえず君は先に行ってて」
「押し問答? シルフィールが?」
 シルフィールは無条件で城門を通れる人物のはずである。
「知らない人物が一緒だから」
 また、リーデットが笑った。
 双子のように似通った姉弟は、そっくり同じ顔で笑う。もはやどっちがどっちだか区別がつけがたい。
「ぎりぎり三ヶ月には間に合ったみたいだね」
 イルニーフェは絶句した後、何も言わずに身をひるがえした。
 それを見送って、リーデットは空を見上げた。
 青く、鮮烈に光る夏の始めの空。気の早い入道雲がはるか彼方で銀灰と純白の濃い陰影をつくってきらめく。
 緑の若葉が揺れて、光を弾いた。
 最高の天気だ。
「気持ちがいいね」
 ユズハが首を傾げた。
「こういう日は、普通のときでも何かを記念して特別な日にしたくなるよ」
 リーデットは笑いながら、ユズハを見下ろした。
「僕たちもさっさと行こうか」



 アメリアは父親と共に離宮に入り、階段をあがると、今日の会合に使用される部屋の扉を開けた。
 視線がアメリアに集中する。
 クリストファ叔父。宮廷大臣。執政大臣。筆頭宮廷魔道士。神官長………いまここに火炎球のひとつでも打ち込まれれば、まず間違いなくこの聖王国は瓦解する。
 少しどころでなく物騒な考えだ。
 入ってすぐにリーデットの赤褐色の頭があった。入り口に近いここは下座だ。アメリアとフィリオネルは部屋の奥、バルコニーに背を向ける形で席に着く。
 今日、ここで行われることは重臣たちへのリーデットの正式な紹介。そしてその逆、リーデットへの各官の紹介。それが終われば、宮廷大臣と神官長を残して他は退出し、代わりに宮廷大臣の下で働くの式部官が入室して、式の細かな打ち合わせへと入る。
 開け放された後ろの窓から、涼しい風が吹き込んできた。
 そこでアメリアはようやく伏せていた視線を持ちあげて、正面―――やたら遠く離れた正面だが――にいる幼なじみの顔を見て、危うく叫びそうになった。
 琥珀の目が片方だけ軽くつぶられた。
 誰にも――そばにいるマラードの侍従にもばれていないというのがまた恐ろしい。
 しかし、ただのイタズラでこんな手のこんだことをするような姉弟ではない。
 いったい。
 何を。
 今日、ここから家出することは伝えてあるはずなのに。
 リーデットとその生国マラードの紹介が始まった。
 アメリアの内心の疑問など、どこ吹く風で。



「ですから! この方の身分はわたくしが保証致しますと、さっきから―――」
 長い黒髪を後ろで編んだシルフィールが、珍しく怒りをあらわにしながら通行を差し止めている衛兵にくってかかっていた。
 イルニーフェを連れていたときは簡単に通れたものだから、まさかこんなところで足止めを食うとは思ってもみなかった。
 シルフィールの背後の人物は特に声を荒げるでもなく黙っているが、逆にそれがシルフィールには申し訳なく思えるのだ。
 運が悪かったとも言える。王女の結婚式をひかえて王宮内は浮き足だっており、あちこちで人員が入れ替わっている。
 ハルバードを構えた衛兵はシルフィールの知った顔ではなかった。
 とりつくしまもないとはこのことだ。
「あなたさまをご自由にお通しせよとの命令は下っております」
「わたくしだけ通ってどうなると言うんですっ」
「ですから、あなたさまが先に行って通行の許可をいただいてきてください。それからならお通しいたします」
 四角四面の物言いだった。
 あまりのことにシルフィールが顔を真っ赤にした、そのとき。
「珍しい。あなたが怒っているところなんて初めて見たわ」
 ハルバードに遮られた王宮側の門から、軽やかな声がした。
 衛兵二人が後ろをふり返る。
「この方たちの到着を、アメリア様、殿下共にお待ちかねです。早くその重たげな邪魔者をどけてくださらない?」
「許可は―――」
「そう。とっくに出ているの。不備があったみたいね。職務熱心なのは認めるわ。告げ口はしないでおいてあげるから、早くして」
 衛兵に早口でたたみかけると、イルニーフェはにっこりと笑った。
「早く、どけて。呆けてないで」
 呆気にとられながら衛兵が交差させていたハルバードを持ちあげた。
 二人がついてくるのを確認したイルニーフェは、衛兵たちに声が届かないところまで来ると、ふりかえってじろじろとシルフィールの隣りの人物を観察した。
「あなたがアメリア王女の待ち人?」
 シルフィールが慌てたようにイルニーフェの言葉を遮った。
「イルニーフェさん。どういうことです? 助かりましたけど、わたくしたちはアメリアさんには何も―――」
「言わないから衛兵なんかに捕まって門止まりになるのよ。リーデットが気づかなかったら門前払いで仕切直しを余儀なくされたでしょうね」
「じゃあ、さっきのあなたの言ったことはやっぱり」
「口からでまかせに決まってるでしょう? でも嘘でもないわよね」
「リーデット殿下がもうこちらに?」
「昨日来たわ。ほんといいタイミングで来たわね、あなたたち。今日を逃したらすれ違うところだったわよ」
「だから必死だったんです。あなたが持ってくる荷物の預かり先はだれの家だと思ってるんですか」
「………シルフィール。頼むから話を進める前に俺にも事情を飲み込ませてくれないか」
 うんざりした声が、会話を中断させる。
 その声音がイルニーフェの記憶に引っかかった。
 改めて観察する。
 黒い艶やかな髪に、涼しげな氷色の目をした青年だ。強い陽射しのせいか、いささか頬が青白く見えたが、それでも十二分に端正な容貌だった。
 しかし、見覚えのある顔ではない。
 しかし、声が何かにひっかかる。
 イルニーフェの視線に気づいた青年が、ふっといぶかしげに目を細めた。
「何だ」
「………あなた、どこかで会ったことないかしら」
「名前がわからんやつは会っても覚えていない」
 イルニーフェの表情が挑みかかるようなものになる。
「あたしはイルニーフェ。あなたは?」
「ゼルガディス」
 驚くほどの短い時間で、イルニーフェは全ての事情を呑み込んだ。
「………なるほど。そういうことなわけね」
 イルニーフェの言葉はなかば独り言に近かった。
「それで、五年も待たせるわけになったのね。あのときの銀色の髪をしたあなたは人ではなかったのね?」
 返答はなかったが、イルニーフェは特に必要としていなかった。
 ひとり蚊帳の外のシルフィールに向かって笑ってみせる。
「あとで話すわ。どうやらあたしたち、知り合いみたい」
「知り合いって、イルニーフェさん―――」
「呼び捨てにもしていいかしら?」
「かまわん」
 くすくすとイルニーフェは笑った。
「なら、ゼルガディス。あのときあたしと一緒にいたリーデットが、アメリア王女の花婿予定よ。でも彼自身は味方だから、殴るなら顔が腫れない程度にしてあげてちょうだい。ああ、いま来るわね―――」
 二人が何か言う前に、イルニーフェは晴れやかに笑った。。
「よかった。あたし、学院を辞めずにすむわ」
 鋼色の髪を編んでまとめた女官の少女は、服の裾をつまむと、膝を折って非の打ち所のない礼をとった。
「では、ご案内いたします―――」




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6954夢飾り(ハッピー・ラヴァーズ) 終桐生あきや URL7/25-06:05
記事番号6864へのコメント



 その瞬間、世界は溶けて崩れて意味をなさなくなった。
 気が狂いそうなほど待っていた。
 このときを。


 *** 夢飾り(ハッピー・ラヴァーズ)最終話 ***


 議事が進行していく最中、アメリアは一言も口を開かなかった。『リーデット公子』もそれは同じで、ときおり会釈をするだけであとは侍従が喋るのにまかせきりにしている。
 そうこうしているうちに『リーデット公子』への各官の紹介も終わり、諸官の退出を、進行役を務める宮廷大臣が促そうとしたときだった。
「みんな聞いてください」
 アメリアが初めて口を開いた。
「アメリア?」
 フィリオネルが怪訝な顔で隣りに座った愛娘を見やる。
 耳元の瑠璃の飾りに手をやりながら、アメリアは椅子から立ち上がった。
 いま言わなかったら、きっと二度と言えないだろう。
 だって自分はここから出ていくのだから。
 どうしても言っておきたいことがある。
 アメリア=ウィル=テスラ=セイルーンという人間について。
「私はセイルーンの第二王女のアメリア=ウィル=テスラ=セイルーンです。私はあなたたちと同じくらいセイルーンを愛しているつもりですし、王族としての自覚に欠けている気は毛頭ありません。けれど―――」
 その濃紺の瞳が宮廷大臣を見据える。
「それは私の一部でしかありません。私という人間を構成する一部でしかない。言っていることがわかりますか? 王女の私も、アメリア=ウィル=テスラ=セイルーンという人間を構成する上での必要不可欠な要素ですが、それだけです。全てではないんです」
 アメリアの視線が、この場のひとりひとりをとらえながらゆっくりと移動していった。
 最後にその視線が『リーデット公子』に止まる。
 琥珀の目が柔らかく細められていた。
 泣きたくなるほどあたたかい勇気をくれる目だ。
 アメリアは再び口を開いた。
「意に染まぬ結婚をするのは私という人間を殺すことと一緒です。セイルーンの王女というパーツひとつだけでは生きていけない」


 ――色々な欠片が組み合わさって、

「あなたたちがそれを無視するようなら」

 ――寄せ木細工のように私を形作る。

「ここは」

 ――どれが欠けても形を成さない。

「私の」

 ――どれかだけでも意味をもたない。

「居場所じゃないんです―――」


 アメリアの持つ雰囲気と口調に気圧されたかのように、粛(しゅく)としてだれも声を発しない。
 そのとき、これまで一言も口をきかなかったリーデット公子が、微笑しながら立ち上がった。
「おめでとう。アメリア」
 低めではあるが、まぎれもなく女性の声。
 その声を聞いたアメリア以外の人間が愕然とする。
「アセルス、姉さん」
 弟公子に扮したアセルスは、周囲の驚愕の視線をあっさりと無視してアメリアに近寄った。
 その人差し指と中指に挟まれているのは、硬貨ほどの大きさの薄片(チップ)。声を届ける魔法の道具。
 指先がアメリアの肩口をさして、その向こう側へと突き抜けた。
「後ろだよ。バルコニーから下を覗いてごらん。アメリア、王宮機構との五年越しの勝負はきみの勝ちだ。出ていく必要はなくなった」
 これ以上はないほど、大きく瞳が見開いた。

「り・あ!!」

 開け放された背後の窓から、聞き慣れた幼い声がアメリアを呼んだ。
 弾かれたようにアメリアは窓の外に飛び出して、手すりから身を乗り出した。

 その瞬間、世界は溶けて崩れて意味をなさなくなった。


 気が狂いそうなほど待っていた。
 このときを。


 髪は、自分とよく似た艶のある黒だった。
「ゼルガディスさん―――」
 肌は象牙に近い自然な色。見慣れた色彩はどこにもない。
 たったひとつ、別れたときから何ら変わっていないのは、その氷の蒼の瞳。
 アメリアは手すりを強く握りしめると、おもむろにそこから飛び降りた。
 落下の浮遊感にぎゅっと目を閉じると、慌ててのべられただろう手に受け止められるのがわかった。
「ゼルガディスさん」
 相手が何か言い出す前にアメリアは地面に降り立つと、相手の服の両袖をそれぞれの手でつかまえて顔を伏せた。
「長かったですね」
「………ああ」
「待たされましたね」
「…………そうだな」
 顔をあげないままアメリアは、ここからは私の話です、と前置きして口を開いた。
 陽光で、影が自分の上に落ちてくる。
 五年間。この影すらそばにいなかった。
「五年は、短いですね。でも、離れているには長いと思いませんか?」
「…………」
「ずっとあなたを待ちながら、正直自分でも頭がおかしいんじゃないかと思うときがありました。記憶も約束も時の風化をさけられない。なのに、たったひとつの約束とその証拠だけを私はずっと信じ続けてた」
 それは欠けた瑠璃の飾り。
 彼を待ってる自分に王宮の者は口を揃えていった。
 そんなものは口約束。たとえそのとき本気だったとしても、手紙が届くとしても、それから何年過ぎているのですか。彼も約束を守りはしないでしょう。忘れておしまいなさい。
 いったいいつまで待ちつづけているのです。このまま二十年、三十年経っても、彼がここに帰ってくるとは限らないのに。
 彼らの言うことは当然のことだった。
「あなたは、どこか私の知らないところで死ぬかもしれなかった。心変わりをするのかもしれなかった。あきらめているのかもしれなかった。私には、遠くにいるゼルガディスさんのことまではわかりませんから」
 だけど、とアメリアは続けた。
「ユズハを見るたびに思い直すんです。どこか私の知らないところで生きている。頑張っている。投げ出したりなんかしてないこともあるんだって」
 ユズハは自分の感情に忠実だ。見返りを求めたりはしない。自分が好きならあくまでも好きなのだ。嫌いなら嫌い。ゆだねると判断したらゆだねきる。そこにその相手の意志が入り込む余地はない。
 だから夢を飾り続けた。
「私が信じていることと、ゼルガディスさんが私を信じていることは、二つともとても大事だけれど、互いが互いに影響される必要はないんです。私は、あなたを信じたくて信じていた」
 柔らかなアルトが、それに続いた。
「俺も、お前を信じたくて信じていた」
 アメリアはようやく顔をあげた。
「そして、私たちは自分自身に勝ったんです」
 袖をつかんだ手を離すと、アメリアは両手で彼の頬を包みこんでいた。
 濃紺の瞳が揺らめいた。すぐにそこから光が溢れだして頬を伝っていく。
「おかえりなさい」
 光は連なって、次々とこぼれ落ちる。


「ずっとあなたを、待ってた」



 バルコニーに頬杖をつきながら、アセルスは眼下にいるユズハに手をふった。
 気がついたユズハが、ふわっと浮いて手すりのすぐ横までやってくる。
「おいてけぼりだね」
「ンむ」
 こくん、とうなずいて、ユズハは手すりに腰掛けた。それをひょいと抱き上げると、アセルスはバルコニーから室内へと戻った。
「フィルおじさま、十日後の婚礼を弟と一緒に楽しみにしていますので」
 言われたフィリオネルが苦笑混じりにうなずいた。
 部屋をそのまま出ていこうとするアセルスに、宮廷大臣が食ってかかった。
「アセルス殿下! なにゆえあなたがここにおられるのです! 悪ふざけも大概になさってください!」
 いまのこの状況ではかなり焦点のずれた追求だった。
 ユズハを抱いたままふり返ると、アセルスはあっさり言った。
「ああ。間違われたんだ。今ごろはリーデットも私に間違われているんじゃないかな」
「ま………」
 これほど堂々とすっとぼけられると突っ込む気も起きない。
「そんなことよりも、予定通り式の打ち合わせに入らなくてもいいの? せっかくアメリアの相手が現れたのに」
 それとも、とアセルスが首を傾げた。
「もしかしてあなたは、血の存続だけなく、相手の身分も取りざたするつもりだったのかな? だとしたら、アメリアは永久にここから出ていくよ。私のようにね」
 宮廷大臣は顔を真っ赤にして胸を張った。
「失礼もほどほどにしていただこう! 不肖ながらこのわしは、お仕えする王家の血が安泰ならば、アメリアさまが心より望んだ人をお迎えするのにやぶさかではないですぞ!!」
「何気に失礼なことを言っているような気もするけれど………まあ、いいか。私の可愛い妹分はそれなりにあなたたちに期待しているんだ。自分の選んだ人をあなたたちセイルーンの王宮が受け入れてくれる度量を持っているとね」
 笑みを含んだ視線になでられた諸官が緊張で表情を固くする。
 ユズハを下ろすと、アセルスは優雅に扉の前で一礼した。
「マラードとして、主国の慶事、心よりお祝いさせていただきます。それでは」
 扉から廊下に出てきたアセルスとユズハを、待っている者たちがいた。
「やあ。姉さん」
「………その気色悪い冗談やめないと怒るよ、僕」
「やめるよ」
 アセルスが笑いながら首から礼装のカラーを引き抜いた。
「それで、どうだった? リーデは殴られたの?」
「………どうして話の焦点がそこに行くの、姉さん」
「いや。何となく」
「だいじょうぶよ。見ての通り顔は腫れてないでしょう? それより、何で入れかわったりしたのか聞かせてほしいわね。まさか今日ゼルガディスが来るって予知していたわけじゃないでしょう? しかも姉弟間でレグルス盤まで持って」
 ゼルガディスをここまで案内してきたイルニーフェが呆れたように腕を組んでそう言った。
「それは単に間違われたんだけ」
「はっ!?」
「いや、本当に。それにレグルス盤持ってるのは習慣だから。いつもはマラードでの城と私の家との連絡用に使ってる」
「間違われたことに関しては意図的に黙っていたけどね。姉さんも僕も」
「アメリアが暴走したらリーデじゃ止められないからね。これ幸いと知らないふりをしていたよ」
 互い違いにそう告げられて、シルフィールとイルニーフェは頭痛を覚えて黙り込んでしまった。
「なんにせよ、シルフィールもご苦労様」
 シルフィールは穏やかに笑って首をふった。
「いいえ。これでわたくしも何の気兼ねもなくサイラーグへ行けますわ」
 神官の資格はもうすぐ手に入る。
 シルフィールは編んだ髪を揺らして一礼した。
「わたくし、リナさんに連絡をとりに城下へ戻ります」
 シルフィールを見送ってから、イルニーフェもアセルスとリーデットをふり返った。
「あたしも戻るわ。きっとこれから眩暈がするほど忙しくなるでしょうね」
 ユズハはきょとんとした顔で、それを見てから、首を傾げた。
「おるは、どこ?」
「あのネコかい? 探すの?」
「ン、けしかけるの」
「………いったいアメリアはきみに何を教えているの」
「アメリアのせいかなぁ。どうだろう」
 ユズハも廊下の角を曲がって消えてしまった。
 二人になってからアセルスは弟をふり返った。
「結婚できなくておめでとう」
 少し、意地悪く笑う。
「それとも、残念?」
「まさか」
 苦笑してリーデットが六つ年上の姉に答える。
「たしかに、結婚しなくちゃいけないならアメリアがいちばんいいけどね。まだ僕は結婚しなくても平気だろう?」
 アセルスが呆れたように嘆息した。
「そうやって消去法で選んでいるうちは、絶対リーデは結婚できない」
「まあ、当分僕はそれでいいよ。いまはアメリアにおめでとうを言わないとね」
「とりあえず服を着替えるべきだと思うけれどね」
「それは同感」
 連れだって二人は歩き始めた。



 二十日後。
 リナがアメリアを訪ねると、非常に珍しい光景がそこでは繰り広げられていた。
「………何の騒ぎよ?」
「あっ、リナさん!」
 純白のドレス姿のまま、アメリアがリナに抱きついた。
 当初の予定より十日ほど式を遅らせたのは、突然の変更に対応が間に合わなかったせいもあるが、ゼフィーリアからリナたちの到着を待つためでもあった。
「ありがとうございます! 大好きです!」
「それはあとで聞くとして………あれ、何?」
 ユズハとイルニーフェが睨みあっている。
 ユズハは滅多に物事に固執しないし、イルニーフェはユズハに対して声を荒げることがプライドに障るらしく、まともに応対しないはずなのだが、二人とも一時的にその信条をくつがえしているようだった。
「リナ=インバース!」
 こちらに気が付いたイルニーフェが、ここぞとばかりにユズハを指さした。
「あなたからもこの半精霊に言ってやってちょうだい! ベール持ちなんかしたらベールとドレスの裾踏んづけてアメリア王女ごとすっ転ぶのは目に見えているって!」
「よくわかんないけど、やるのッ。」
「ベール持ちの意味がわからないならおとなしくしてなさい!」
「ヤ!」
 二人はここぞとばかりに睨み合った。
「………なるほどね」
「最初はイルニーフェだったんですけど、ベール持ちが何かイイものだと理解したらしくって」
「たしかに裾踏んづけてすっ転ぶかも………」
「ええ………」
 ふと思い直したように、アメリアはリナを見た。
「ガウリイさんと、リアちゃんは?」
「ゼルの方に会いに行ったわ。リア、すっかりゼルに懐いちゃっててね」
 アメリアがぷうと頬をふくらませた。
「ずるいですぅ。私、まだリアちゃんの顔一度も見てないのに」
「後で連れてくるわ。ああ、そうだ。喧嘩両成敗ってのはどうかしら?」
 リナの提案にアメリアは、イルニーフェとユズハを見て、それからうなずいた。
「気の毒だけどそうします」
「ならいまから連れてくるわね」
 出て行きかけたリナに、アメリアは声をかけた。
「リナさん」
「ん?」
「リナって呼んでも、いいですか?」
 一瞬軽く目を見張って、リナは笑った。
「もちろんよ」
 アメリアは息を吸って吐いて、それから口にした。
「リナ。あなたがいないと、きっと私はこの衣裳を着られませんでした。ありがとう。必ず、御礼をさせてください」
 リナがくすりと笑った。
「楽しみにしてるわ」



 人で埋め尽くされた神殿前に、王宮から花嫁を乗せた馬車が到着するとすさまじい歓声が湧き起こった。
 雲ひとつない碧空から、白金の陽光が飾りのように降り注ぐ。
 若葉色の木々の葉も純白の神殿も、全てが色鮮やかに浮きあがって鮮明な絵画のようだった。
 馬車から降りたアメリアは、神殿の入り口前で待っているフィリオネルに手を預けると、泣き笑いの顔で謝った。
「わがままでごめんなさい」
「わしもわがままでお前の母さんと一緒になったからの」
 神殿の扉が開かれていく。
 アメリアは父親の頬にキスをした。



 祭壇のところで待っている花婿に、花嫁の手が渡される。ベール持ちをしていた金髪の少女が両親のところに戻っていって、父親の腕に抱き上げられた。
 内にも外にも、溢れんばかりの人。
 天蓋から降り注ぐ夏の光。
 透けるベールの奥で、銀と瑠璃の飾りが光を弾いた。
 祝福の祈りを捧げる神官長の方を向きながら、ゼルガディスがこっそり囁いた。
「スィーフィードなんか、どうでもいい」
「はい」
 アメリアは小さく笑った。
 祈りを捧げる相手は自分自身と傍らの存在に。
 誓う相手も、神ではなく、魔でもなく。互いに。
 誓いの口づけをうながす神官長に、ふたりは互いに向き合った。
 そこで二人とも式進行にはなかったことをした。
 花婿が、ベールをあげた花嫁の耳元に、常に欠けていた瑠璃の飾りのもう片方をつけてやる。
 ようやくそろった一対の瑠璃飾り。
 心底嬉しそうにアメリアが笑った。
「いまここであなたに誓います。スィーフィードなんかアテになりません」

 誓って、そうして、ずっと隣りにいたい。
 あなたがいなかった間の出来事を、話したい。
 自分がいなかったあなたの時間を、知りたい。

 ゼルガディスがフッと目を細めて、アメリアを見た。
「俺もお前に誓うよ」
「はい」
 誓いの口づけに、瑠璃の飾りがきらきらと揺れた。


(すべてをのみこんで、のりこえて。胸にとどめて、だきしめて)
(私たちは未来へと歩き出す)





                                Fin




 *** えっと………後書きです(多分) ***


 ………終わりました。二十日には完結という大言壮語はやはり大言壮語でした。遅刻に遅刻を重ねました………ゆるしてください(滝汗)
 それからえっと……かなり余計なお世話ですが、投稿欄のHPリンクのところをクリックすると、アメリアのウェディングドレス姿を見られます。へぼへぼです。お目汚しですいません、というかこれはウェディングドレスに見えるのか?(汗) ドレスの元ネタはとあるCDジャケットからです。フォトシンセンス……だったっけかな(鳥頭・汗)
 それはともかく。

 ここまで読んでくださって本当にありがとうございました!!!
 みなさんからのレスに励まされて、どうにか柚葉シリーズ、ひと区切りつけることができました。本当にみなさんが面白いですとか、ユズハ好きですと言ってくださったおかげでいまここにこの話が書けてます(何せユズハは最初、『夢飾り』の最後で消滅する予定でした。本当に予定は未定です・笑)。
 最後のほうあまりユズハが登場してませんが、柚葉シリーズという名前でもこれはアメリアがゼルを待ってる話だと思って書いてますので(笑) そのうちユズハに焦点をあてた話も書いてみたいです。

 書いている間に私の中でアメリアはどんどん原作ともアニメとも違うアメリアに変わっていってしまいました。それを端的に表しているのが今回のリナの呼び捨てになります。お互い年も取ってますし(爆)このシリーズの中だけでなら呼び捨てでもいいんじゃなかぁと思いまして。現在私の中ではリナを呼び捨てながらですます口調というめちゃくちゃな状態で喋ってます(笑)

 裏ネタとしては、ゼル、フィルさんに五年もうちの娘をまたせおってと通過儀礼を受けてます。岩ではないので手加減していただいたようです(笑) あとは、『薔薇の姫君』でアメリアが言った通りに、リーデットの女装を決行しようとしたとか、投げられたウェディングブーケをひょっこり受け取ったのはイルニーフェだったとか、ゼルとオルハは対ユズハの同盟を組んだとか組まなかったとか、ユズハのゼルに対する五年ぶりの第一声が「フジツボ、ないノ?」だったとか、色々です(爆) これだけ長いのに書いてないことが多いな、私(汗)

 この展開でいいのか悩んだりもしましたが、とりあえず完結させることができました。
 本当にありがとうございます。もしこの話を気に入ってくださったのなら、桐生は泣くほど嬉しいです。
 それでは。いつかまたお会いしましょう♪


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6955ああああああああああああああああっ(感涙)ゆえ E-mail URL7/25-09:22
記事番号6954へのコメント

> その瞬間、世界は溶けて崩れて意味をなさなくなった。
> 気が狂いそうなほど待っていた。
> このときを。

私も待っていましたよぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉっ(泣)
『夢飾り』完結おめでとうございますっ!!
そしてっ、アメリアvゼルっおめでとぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉっ(号泣)

5年。長いようで、でも出会った瞬間に全ての時間は凝縮されてくるんでしょうね。


ユズハとイルニーフェのベールの取り合いを微笑ましく思ったり(笑)
でも本番でベール持ちやったのって、リアちゃん何ですねぇ(笑)ああ、ケンカ両成敗。その時の3人のベール持ち攻防戦がちょっと見て見たかったり♪

ああっ、もう感激で何がいいたいのやらっ(TT)
ラストの結婚式のバックには、勝手にユーミンのアニバーサリーが聞こえてくる私なのですが(汗)(BGMを差し替えるな)
ありふれた朝ですが、今日の日は記念日ですっっ(意味不明)

ともかくっっ、ハッピーエンド♪ありがとうございますぅ♪♪


以上、涙を吹き吹き読みました、ゆえでございました。

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6956すごーいっみてい 7/25-12:23
記事番号6954へのコメント

【書き殴り】にはものすっごく出没久し振りのみていです。

まずは完結、お疲れ様でした。
もぉ桐生さん、この一言に尽きますっ!

鮮やかっ!!

見事です。すごーいっ。
なんか文章の支離滅裂に輪がかかっちゃってますけど、感激しております。
わたしもガウリイとリナの結婚式書きたくなりました。
…はっ、でもその前に「ゆかいな○○さん」のとこの話書かにゃいと…(滝汗)

ステキなお話、ありがとうございましたv
ではではみていでございました。多謝☆

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6958ああああああああvvvおめでとうございますっ!!!あんでぃ E-mail 7/25-13:23
記事番号6954へのコメント


こんにちはっ!!あんでぃでございます!!レス自粛解禁っしてしまいました(笑)

ああああああああああ柚葉シリーズ完結おめでとうございます!!!さすが王です(笑)!!
私から祝いの祝砲をば・・・・vv♪(ノ−_−)ノ......*〜● ←ねこさん勝手に使って申し訳ありません(汗)

ああああああ♪裏ネタにありましたゼルとユズハ嬢の会話を読みたいっ(笑)などと思う私はダメダメなのでしょうか(^ ^;)
気が向いたら・・・・待ってます♪←おい

そしてそしてリンクのところにあるアメりんのウェディングドレス姿vvvv
あああああもう悩殺ですっ(笑)フォトシンセンスのCDジャケットのドレスを元にしたんですよね♪以前描いてらっしゃっると言う話、聞いてましたがここで見れるなんてっ!!もう感動の嵐です♪


もう文章も順序もめちゃくちゃですが(汗)ひたすら感動している事が伝われば嬉しいです(> <)
それでは、あんでぃでした!!
また某所でお会いしましょう!!


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6960終章、おめでとうございます&ご苦労さまでした。龍崎星海 7/25-20:54
記事番号6954へのコメント

どうも、龍崎です。レスが遅れて、もうしわけありません。

> ………終わりました。二十日には完結という大言壮語はやはり大言壮語でした。遅刻に遅刻を重ねました………ゆるしてください(滝汗)

いえいえ。何か、私が催促したみたいで、申し訳有りませんでした。
待つのも、楽しいものですよ。待っただけの事はありましたし。

> 裏ネタとしては、ゼル、フィルさんに五年もうちの娘をまたせおってと通過儀礼を受けてます。岩ではないので手加減していただいたようです(笑)

「平和主義者クラーッシュ!」を喰らったんですか?
♪分かった娘はくれてやる そのかわり1度でいい 奪っていく君を 君を殴らせろ Byさだまさし
ですねえ。‥って、分からなかったら、済みません(^_^;)

> この展開でいいのか悩んだりもしましたが、とりあえず完結させることができました。

とても面白かったですよ。

では、短いレスですが、これにて。

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6965おめでとうございますこずえ 7/26-01:57
記事番号6954へのコメント

終了、おめでとうございます。
ほう・・・感動ですね。
少し前まで、私の中では、”早く、2人の再会をみたい”と、いう 気持ちと ”再会しちゃうと、もう、柚葉シリーズ、読めないことあるのかな・・それは・・嫌・・かも・・うむむ・・”と、いう 気持ちで、揺れてましたが、
今回、2人が再会できて良かった 事に加え、後書きで、”又、書いてみたい”みたいな事をおっしゃってて、喜び倍増です。
あの、アメリアの後ついて回って、舌足らず(と いうのかな、あれは)で、無表情な、ユズハ、ぜひ 又 会いたいです〜。
今回、『夢飾り』の感想、”雑多”なんですが・・・
・リナちゃん、素敵!言動が、すてきです。いろんなとこで。
ただ、私はすぐ、”笑い”のところに 目が 行くので、一番良かったのは、”4”のリアちゃんが 拗ねるところ。
リナの話は、リナらしくて、グーだったのに、リアちゃんのサイコーな お返事で、くずれるのが。
・リーデット君、やっぱり、損な役回りだなぁ。キャラ的には魅力的だと思うのに・・・。
・クローラーさん、”5”冒頭のリナとの会話、よかったです。やっぱり個人的に、この人の性格、いいです。
・「「ン。満足。寝ル」」(”2”より)。ああ・・・やっぱりユズハ、可愛いですね〜。
・そして、やっぱり ”お二人、おめでとう!”
でした。あと、絵、見ました。スッゴク 綺麗!かったです。では、この辺で・・

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