◆−Gandhara 1−水晶さな(4/10-15:53)No.6316
 ┣Gandhara 2−水晶さな(4/11-19:56)No.6324
 ┃┗彼は関東○会の回し者ですか?(笑)−雫石彼方(4/13-12:48)No.6330
 ┃ ┗その通りでございます(爆)−水晶さな(4/13-23:58)No.6334
 ┣Gandhara 3−水晶さな(4/14-00:16)No.6335
 ┃┗そこに行けばどんな夢も叶うという−あごん(4/16-20:27)No.6348
 ┃ ┗愛の国 ガンダーラ(笑)−水晶さな(4/16-22:36)No.6350
 ┣Gandhara 4−水晶さな(4/16-21:28)No.6349
 ┣Gandhara 5−水晶さな(4/19-22:07)No.6362
 ┃┗おもしろいですね。−アッキー(4/22-19:59)No.6372
 ┃ ┗ありがとうございます(^^)−水晶さな(4/24-23:27)No.6383
 ┣Gandhara 6−水晶さな(4/25-22:33)No.6392
 ┃┣推理してみました(笑)−あごん(4/29-00:25)No.6408
 ┃┃┗げふげふごふ(汗)−水晶さな(4/29-22:45)No.6411
 ┃┗Gandhara 7−水晶さな(4/29-22:54)No.6412
 ┃ ┗最後が肝心−アッキー(4/30-17:08)No.6422
 ┃  ┗・・・なんですよね(汗)。−水晶さな(4/30-21:41)No.6424
 ┃   ┗夏目雅子 !−アッキー(5/6-21:17)No.6444
 ┃    ┗Re:夏目雅子 !−水晶さな(5/13-01:03)No.6461
 ┗Gandhara 8−水晶さな(5/13-00:59)No.6460
  ┗初めまして−たつき(5/15-11:28)NEWNo.6467
   ┗ありがとうございます(^^ゞ−水晶さな(5/16-00:32)NEWNo.6468


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6316Gandhara 1水晶さな E-mail 4/10-15:53



 「ガンダーラ」はパキスタンの北西部から、アフガニスタン東部にかけての地域を指す古い地名で、パキスタン側のタクシラからペシャワール、そしてカイバル峠を越え、アフガニスタン側のジャララバード、カブールまでがガンダーラに入る。

 ・・・らしいですが(調べてきたのがバレバレ←爆)、今回のガンダーラは街の名前として借りただけで歴史的事項とは関係がございません(苦笑)。


==================================

 -Gandhara-

==================================


  ああ彼の地は赤き太陽に愛されし楽園  
  果実は熟(う)れい 獣達は悦(よろこ)びに吠(ほ)える  
  人々が崇(あが)めるは 金の鱗(うろこ)と鳥の双翼を持ちし神  
  天より見守りし蛇神様 ケツァルコアトル
  今日もまた御導きにて 果実は熟れい人は栄える 
  蛇神様の恩恵の賜物(たまもの)
  其処は楽園 ガンダーラ

    【トゥルバドール(吟遊詩人)の語り唄】

 
 **********************************

「山一つ隔(へだ)てただけで、すごい気温の差ですねぇ」
 タオルで汗を拭(ぬぐ)いながら、暑さにあまり強くないアメリアが呟(つぶや)いた。
 黒髪が濡れて頬に貼り付き、余計に不快感を煽(あお)る。
「・・・・・・・・・」
 いつもより無言になっているゼルガディスが、ふと手の平をアメリアの首元に押し付けた。
 じゅうぅ。
「ああああああつううううううういっっっ!!!!」
 アメリアが飛び跳ねる。
 表情筋を最大限に使用して(彼の体のどこが筋肉なのかは不明だが)渋面を作り出しているゼルガディスが、やっとのことで一言漏らす。
「・・・石は直射日光で熱されると・・・そのまま温度が上がる・・・」
「わかっわかりましたからゼルガディスさん!!! ヤケになって私にそれを伝えなくていいです!!!! 何で両腕広げるんですかっ!!!! 何ですかその不気味な笑いは!!!! 何で今日に限ってそんなに積極的なんですかっ!!!!! いやあああ熱い熱い熱いいいいぃっっっ!!!!!」
 街がようやく遠くに見える場所まで来て、ゼルガディスの頭の回線が一本切れたらしい。
 アメリアが必死の抵抗を続けていると、ふと妙な震動を足元に感じた。
 砂漠に近い砂の大地が、震動に合わせて凹凸を変えていく。靴の先が砂をかぶった。
 ゼルガディスも震動に気付いたのか、周囲を見渡している。
「地震・・・?」
「違うな・・・これは・・・近付いてくる・・・?」
 何か嫌な予感を感じたのか、ゼルガディスがアメリアの前に出て、地面に手を叩き付けた。
「ダグ・ハウト!」
 地面がほぼ砂なので、あまり魔力干渉ができなかったらしい―大地が隆起せず、砂が噴出した。
 形成された砂の壁に、真正面から突っ込んでくる衝撃―
 ぼごぉと音をたてて盛り上がった形に、アメリアが悲鳴を上げた。
「―さかなぁっ!?」
 アメリアが素っ頓狂な声を上げるのも無理は無い―
 砂の壁を突き破った頭部は、歪(いびつ)ながらも全長2mはある巨大な魚の頭だったのだ。
 更に分析するなら、アマゾン河に生息するピラニアによく似た顔。
「―チッ!」
 ゼルガディスが舌打ちしながら剣を抜き、膝の屈伸を利用して魚の頭を真正面から打ち据(す)える。
 腕が痺(しび)れた。ダグ・ハウトを突き抜けただけはある硬度だ。
「水にたゆとう精霊達よ、盟約の言葉により、我に従い力となれ・・・デモナ・クリスタル!」
 アメリアがゼルガディスの脇から腕を伸ばした。
 下から突き上げた氷状の衝撃波に、巨大魚が悲鳴を上げるように身をよじった。
 砂の壁を突き崩し、再び地面に潜り込む。
「―!?」
 逃げるかと思っていたら、アメリアの足元がごぼりと持ち上がった。
「下か!!」
 ゼルガディスが腕を向けると、魔法が発動するよりも早くアメリアが宙を舞った。
「うひゃあああっ!!!!」
 巨大魚にはじかれるように投げ出され、アメリアが反動で両手を広げる。
 魚が真下から牙のある口を開けて―
「アメリアっ!!」
 魔法が間に合わないと一瞬で判断し、顔をしかめながらも体当たりで巨大魚の軌道を変えようと身構える。
 ―が、
「ううううううううういやああああああっっ!!!!」
 どことなく間の抜けた雄叫(おたけ)びの声は、街の方から聞こえた―ような気がした。
 ―どずうっ!
 次の瞬間、ゼルガディスは本気で自分の目を疑いたくなった。
 土煙を巻き起こしながら巨大魚に突進したのは―これも負けじと巨大な、灰色の猪(イノシシ)。
 その四本の足には金の輪っかが付けられていた。
「―あいよっ!」
 その猪の背に仁王立ちしていた人間―だと思う―の男が、今だ目を丸くしたままのアメリアを空中でキャッチした。
 巨大魚をなぎ倒した猪が見事に地面に着地する。背に乗ったままの男も、乗り慣れているのか微動だにしない。
「おら帰れ帰れバケモンがっ! ここはお前の来てええ所やないで!!」
 体制を立て直そうとしていた魚に一喝。
 負け犬の遠吠えならぬ負け魚の遠吠えをあげると、地中に潜り込んでやがて遠ざかっていった。
「・・・・・・・・・」
 放心しているゼルガディスの前に、男が猪ごとくるりとこちらを向く。
「怪我なかったか、あんさん」
 その異様な光景に思わずぎょっとしたが、とりあえず踏みとどまる。
 全体的に見て、痩せ型で背がひょろ長い。くすんだ銀髪は首元で一本にたばね、動物の尻尾のように先が揺れている。
 地方独特のベージュの麻布で出来た民族衣装に、耳から下がるのは大きな金の輪のピアス。
 赤い瞳は猫のように細く、人なつっこい印象を与える。
「・・・あの」
 先に口を開いたのは、ゼルガディスではなくアメリアの方だった。
「・・・下ろして、くれませんか?」
 いまだ男に抱(かか)えられたままのアメリアが、ぽつりと言う。
「あれ、忘れてましたわ。すんまへん」
 ぽす、と荷物を下ろすかのように軽々とアメリアを下ろす。
 ついでなのか、男が猪から下りた。
 やはり背丈が高い―ガウリイよりも高いのではないだろうか。
「・・・空中に飛ばされたより、猪の方にビックリしました」
 思わず本音が出るアメリア。今更恐怖がぶり返したのかゼルガディスの隣に走って袖をつかんだ。
(アメリアを助けてくれたのはいいがその抱き方は許せん・・・ああ、違う違う)
 ゼルガディスがしばし言葉に迷ってから、口を開いた。
「・・・アメリアを助けてくれた事は感謝するが・・・何なんだその・・・猪?」
 言葉に自信が持てないのか、言葉尻が上がって疑問調になる。
「こいつか? こいつは『韋駄天(いだてん)』やで」
 名前を聞いている訳ではなかったのだが、誤解されてしまったらしい。
 ぽす、と手を頭に置かれた灰色の猪がフゴッと鳴き声をあげた。
「ところであんさんら、これから街に?」
 男がくい、と親指で街の方を指差したので、アメリアがうなずいた。
「ええ・・・一応」
「おう、それなら街まで護衛させてもろてよろしいか? 今ちょっと物騒でな、あんなバケモンよう出はるんやわ」
 ゼルガディスが渋い顔をする。「うわ、予想通り」と言わんばかりに。
「・・・いくら欲しいんだ?」
「は?」
 男がきょとんとしてゼルガディスを見つめた。
「・・・護衛代、言っとくが俺達はそんなに裕福じゃないんだ。それにさっきのバケモンは、油断してただけで普通なら撃退できる」
「あんさん・・・こすいなぁ」
 大仰な溜息をついて、男が腰に手を当てた。
「お嬢はん、この人いつもこんなひねくれてますん?」
 アメリアがすまなそうに頭を下げた。
「・・・・・・更生中です」
「まともに答えるなアメリア!!」
 アメリアにも正論とされ、ゼルガディスが声を荒げる。
「金取るわけあらへんやろ。これでもわい神官やで」
『ええええええええええええっ!!!?』
 同じタイミング、同じポーズ、同じ声量で驚かれれば思わず拍手を贈りたくなる。
「・・・さすがとゆーか何とゆーか、コンビネーション合ってますなぁ・・・」
 別の事に感心している。
 気を取り直してか、男が再び猪に乗った。こんどは立たずに、馬に乗るようにまたがる。
「いつまでもこんな所おったら熱射病になってまうわ。行きまひょ。あんさんらも乾物になりとうないやろ?」
 猪に歩くよう促(うなが)して―それから思い出したように振り返る。
「そうそう、忘れてましたわ。わいの名はジャッカル。ジャッカル=ラカンパタヤいいます」
 陽炎(かげろう)の彼方に揺らめく街を指(さ)して―笑みを浮かべる。
「ようこそお客人。砂の楽園―ガンダーラへ」


 *******************************

  ※)吟遊詩人の語り唄は創作です(笑)。

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6324Gandhara 2水晶さな E-mail 4/11-19:56
記事番号6316へのコメント


「うわぁ・・・」
 アメリアが興味津々といった様子で街並みを見回した。
 乾燥地帯の為、風や直射日光に強い煉瓦(レンガ)を用いた四角い家々。
 ぽっかりと空いた穴には、扉の替わりに厚い布を垂らしている。
「あまりキョロキョロするんじゃない」
 恥ずかしいのかゼルガディスが宥(なだ)めるように言う。
「・・・えー・・・でも・・・」
 好奇心が抑えきれないのか、アメリアが目線だけをさまよわせる。
 露天商の上には必ずテント布が日除けの代わりに張られていた。
 気持ち良いくらい日焼けした老人が、人なつっこい笑みで珍品が並ぶ売り物を指してみせる。
「立ち止まらん方がええでーアメリアはん。旅のもんはよーけここらの押し売りに捕まりよる」
「・・・・・・」
 すれ違う街の人々が、何をしている途中でも中断してジャッカルに手を合わせる。
(神官ってのは嘘じゃないみたいだな・・・)
 胡散(うさん)臭さは抜けないが、街人達から信頼されているのに間違いはないだろう。
「・・・・・・?」
 ふと、自分に対して手を合わせた老婆にいぶかり、ゼルガディスが後ろからジャッカルに声をかけた。
「・・・おい、何で俺まで拝(おが)まれてるんだ?」
「あー、ここでは人間離れした容姿は『神の使い』とか呼ばれてありがたがるんや。魚とか馬に似た顔の持ち主なんか生まれ変わりとか騒がれるぐらいにな」
「・・・・・・」
 『俺は魚似や馬似の奴等と同じなのか』と言いたいのを何とかこらえる。
「うひゃっ!」
 突然アメリアが跳び上がって、ゼルガディスの反対側に逃げ込んだ。
 見ると足元を黒い鶏が我が物顔で歩き回っている。足を突つかれて驚いたらしい。
「どこぞの家畜やな。肉は鶏肉が主流やからどこの家も飼ってるんや」
「猪の後ろをついて歩け、アメリア」
「韋駄天(いだてん)言うてくれますかなぁ、一応名前あるんやで」
 突つかれたのが結構痛かったのか、アメリアが素直に韋駄天の後ろについた。
 街までの護衛という話だったのだが、宿があいにく改装中で使えなかった為ジャッカルの住む神殿に泊まらせてもらうことになったのだ。
「宿代はいらんで、そこのあんさん金気にしとるよーだから言うとくけど」
「・・・悪かったな。こっちは生活かかってるんだ」
 ゼルガディスがむすっとした顔で答えると、まあまあとアメリアが宥(なだ)めた。
 先程と立場が逆転している。
「神殿、あの丘の上に見える建物がそうですか?」
 話題を転換しようとアメリアが指すと、ジャッカルがうなずいた。
「ガンダーラ神殿や。決まり事やねんけど、神殿に入る前に身体を清めてもらえまっか?」
「洗礼ですか? 誓いの言葉とか・・・」
 ジャッカルが手を横に振った。
「ちゃうちゃう。もっと簡単、沐浴(もくよく)や」


「・・・すみませーん」
 神殿の正面に立ち、アメリアは一人で呼びかけた。
 ジャッカルはゼルガディスを連れて沐浴の場へ行ってしまった。
 神殿には女性神官がいるので、女性の沐浴場へ連れて行ってもらうよう言われている。
 湖―というほどまでは大きくない泉の真中に、浮かぶように立っている小さな神殿。
 アメリアの隣に立つ韋駄天が、一声鳴き声をあげた。
「イーダ、帰ったのか?」
 アメリアの呼びかけより響いた声に、返事が返ってきて―
「・・・?」
 声はすれども姿は見えず。
 視線を下げたアメリアは、神殿から出てきた当人が自分より背が低い事に驚いた。
 背だけではなく、年齢も下なのではないだろうか。
 14〜5歳くらいに見える女性神官は、それでも大人びた雰囲気を持っていた。
 吊り目気味な赤い瞳に固く結んだ唇。髪は2つにした三つ編みの先を最初に結った所に止めていた。三つ編みの輪が両側にできている。
 つややかな黒髪は、自分の髪の色とよく似ていた。
 ローブを着くずしたような衣服が、歩むたびにさらさらと衣(きぬ)擦れの音をたてる。
「貴女(あなた)は? 巡礼者の方ですか?」
「あ―アメリアといいます。ジャッカルさんにお世話になりまして、今晩こちらで泊めて頂ける事になったんですけれど・・・」
 一瞬―女性神官が確かに眉をしかめた。
「・・・それで、あの、連れが一人いるんですけど、そちらはジャッカルさんに沐浴の場へ連れて行ってもらっていて、私は女性の方に案内をしてもらってくれと・・・」
 説明がうまく頭の中でまとまらなく、しどろもどろな口調になってしまった。
「・・・わかりました。私はこの神殿の神官長を務めるイシュカと申します。沐浴の場までご案内させて頂きます」
 すっと頭を下げると、案内の為に先に立って歩き始める。
 韋駄天が彼女の横に並んだ。
「あの・・・さっきこのコの事をイーダって・・・韋駄天じゃないんですか?」
 ふと思い出して尋ねると、イシュカが額に手を当てた。
「・・・異国かぶれのあのエセ神官が、勝手に名前を付けただけの事。ええ本当に勝手に!!」
「・・・・・・」
「・・・失礼」
 アメリアが思わず身を竦(すく)めたのを、雰囲気で感じ取ったらしくイシュカが前を向いたまま謝罪した。


「・・・俺は確か『沐浴』と聞いたが・・・『荒行』とは聞いてないぞ」
「言ってまへんそんな事」
 しらっとジャッカルが言う。
 ゼルガディスとジャッカルの二人は、神殿の裏側の―ちょっとした崖の上に立っていた。
 沐浴の基本である衣装―下着一丁で。
 長い布を下着変わりに巻き付けた―つまりはフンドシ―格好のジャッカルが崖の下を指し示した。
「見えますやろ、下の泉。あれ沐浴の場やで」
「だからって何で崖の上にこなきゃいけないんだ!」
「そんなん決まってますやん」
 にまーっと意地の悪い笑みを浮かべて、ジャッカルが肩を叩いてくる。
「男は度胸やで」
「関係あるかー!!」
 激昂したが全く聞いていない様子。
 嫌がるゼルガディスの手を掴み、ジャッカルが両腕を上げて天を仰いだ。
「男達が裸で腕をつなぐ時、男達の背中には答えという夢の虹がかかるうぅ!!!!」
「ちょっと待てそれは何か違うだろ!!」
 がつっと、ジャッカルの足が地を蹴った。
「アンサー!!!!!!!」
「のわあああああああああああぁぁぁ・・・・・・・・・!!!!!!!」
 ゼルガディスの抗議も虚(むな)しく、二人仲良く落下していった。


「・・・ぷはぁ・・・気持ちいい・・・」
 アメリアが濡れた手で顔をぬぐった。
 砂地を歩いたせいで、体中砂をかぶって気分が悪かったのだ。
 泉の水も、思ったより澄んでいた。
 ちなみにアメリアは、イシュカから湯着(ゆぎ)という沐浴用の衣服を貸してもらっていた。
 着物に似た形状の薄い生地からできた服で、透けることはないし水を吸っても大して重くならない。
「・・・♪・・・・・・♪♪・・・んっ!?」
 鼻歌を歌っていた途中、背中にどんと大きな物がぶつかる感触がした。
 慌てて振り返ると、真後ろに猪の顔。
「のひゃあああっ!」
 驚いて後ずさると、水面から顔だけを出した猪がフゴ、と鳴いた。
「び、びっくりした・・・イーダちゃんも沐浴ですか?」
 思わず尋ねると、イーダはざぶざぶと水をかきわけ、岸に上がり―
 こちらを向いて一声鳴いた。
「?」
 呼ばれたような気がして、一緒に岸にあがる。
 イーダの足元には馬にでも使うような大きなブラシがあった。
 鼻先でブラシをアメリアの方に押しやってくる。
「ああ、洗って欲しいんですね」
 妙に人間臭いこの猪に思わず笑みがこぼれ、アメリアがブラシを手に取った。
 一緒に並べてあった石鹸で泡立てると、たちまち灰色の猪がシャボンに包まれる。
 心地良いのか猪が目を細めた。
「・・・・・・・・・?」
 ブラシでこすると、泡が黒く染まって流れていく。
 もしや、とアメリアが桶に水を汲んで上からかけてみた。
 ぺたりと肌に貼り付いた毛並みは―白。
 猪がぶるるっと身を震わせて水を払った。
「イーダちゃん・・・汚れてたんですね・・・」
 ややひきつったような声で、アメリアがつぶやく。
 遠くの方から、やけにやかましい水音が2つ響いた。

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6330彼は関東○会の回し者ですか?(笑)雫石彼方 E-mail 4/13-12:48
記事番号6324へのコメント


こんにちは〜。
昨日に引き続き、昼休みに会社のパソコンから書き殴りを読む女。
何やってんだ雫石さん・・・・・(汗)

それにしてもジャッカルくん、いいですねぇ♪
関西弁キャラは私のツボな上、崖から飛び降りるところではもう大爆笑でした(笑)
ゼル、ご愁傷様(笑)
ジャッカルくんは、登場シーンもかっこよかったですね。
『おっきな動物に乗ってる人間』ってなんかすごいかっこいいなーって前から思ってたんです。
で、アメリアをおっきな銀色の狼に乗せてみたいなーとは思っていたのですが、さなさんの猪には度肝を抜かれました(^^)
しかも白い色が灰色になるくらい汚れていたなんて・・・・。
その汚れた状態のイーダちゃんと沐浴してしまったアメリアは、さぞ複雑な気持ちだったでしょうね(^^)
―――っていうか、私なら嫌だ(笑)

ではでは、続き楽しみにしてます。





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6334その通りでございます(爆)水晶さな E-mail 4/13-23:58
記事番号6330へのコメント


 こんばんは〜真夜中にしかパソの前に座れない水晶さなです。
 朝起きれないのは低血圧だけではないと思い始めている今日この頃です(爆)。


>それにしてもジャッカルくん、いいですねぇ♪
>関西弁キャラは私のツボな上、崖から飛び降りるところではもう大爆笑でした(笑)
>ゼル、ご愁傷様(笑)

 昔関西に住んでいた頃があるので、関西弁には自信アリです(笑)。
 ああでも飛び込みのシーンは元ネタがわかっていないと意味不明に終わってしまう場面だったので、彼方サンが知っていて良かったです(汗)。
 ・・・でも書いてて一番楽しかった事実は否めない(笑)。


>ジャッカルくんは、登場シーンもかっこよかったですね。
>『おっきな動物に乗ってる人間』ってなんかすごいかっこいいなーって前から思ってたんです。

 格好良いと見せかけてマヌケぶりを発揮しようと思ったんですが・・・(笑)。
 勢い良過ぎて書くのに困るキャラです、ジャッカル(苦笑)。


>で、アメリアをおっきな銀色の狼に乗せてみたいなーとは思っていたのですが、さなさんの猪には度肝を抜かれました(^^)

 意表を突くのはどういう動物かなーと頭を悩ませた結果(笑)。
 白い猪で良ければ姫も乗れます(爆笑)。
 イーダ(韋駄天)にはまだまだ裏があるのでもう少しお待ちを・・・!(早く書け)


>しかも白い色が灰色になるくらい汚れていたなんて・・・・。
>その汚れた状態のイーダちゃんと沐浴してしまったアメリアは、さぞ複雑な気持ちだったでしょうね(^^)
>―――っていうか、私なら嫌だ(笑)

 周囲をよく見ると水が濁っていたかも・・・あああ(涙)。
 逃げない所がアメリアだと思います(笑)。
 

>ではでは、続き楽しみにしてます。

 最後をまだ考えていない作者ですが(てへv←爆)、お付き合い頂けると嬉しいです。ご期待に添えられるよう頑張りますね〜(^^ゞ
 レスありがとうございましたvv

 水晶さな.

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6335Gandhara 3水晶さな E-mail 4/14-00:16
記事番号6316へのコメント


「さっぱりしましたー、ありがとうございます」
 アメリアが頭を下げると、イシュカがわずかに微笑んだ。
 見た目はきつそうに見えるが、真面目さが表に出過ぎてしまっているだけらしい。
「それは良かった」
 見事に白くなったイーダの背を撫(な)ぜながら、イシュカが神殿の中を先に立って歩いた。
 衣服の方もイシュカの法衣を借りている。着ていた服は砂にまみれていたので洗ってしまった。
 それにこの地方を歩くのに今の服では気候上ふさわしくない。
 明日街で服を買おうかと考えていると、イシュカが口を開いた。
「食事の方はご用意できております。お口に合うとよろしいのですが」
「お構いなく・・・泊まらせて頂けるだけで有り難いのですから」
 アメリアが恐縮して言うと、イシュカが振り返った。
「我が神は来訪神。外界(がいかい)より来たれり客は喜ばしき祝い事。気にしないで下さい」
「神様・・・そういえばこの神殿には蛇のレリーフが多いですね。神聖な動物なんですか?」
「我らが崇(あが)めるはケツァルコアトル―双翼(そうよく)を持ちし蛇神(へびがみ)様、蛇そのものが我らの神です」
 アメリアが目をしばたたかせた。
「動物神は初めて聞きました・・・じゃあこの街は、その蛇神様に護(まも)られているんですね」
「・・・護られて、いた―そう言っても良いのかもしれない・・・」
「・・・え?」
「いえ、失礼。独り言です」
 イシュカの呟きが、何故か耳に残って離れなかった。


「お先、頂いてまっせぇ」
 食事処の代わりになる部屋に一歩足を踏み入れると、ひょうひょうとした声が響いた。
 イシュカの表情がひきりとこわばる。
 床にゴザのような物を敷いて、その上に直に皿を並べる食事様式。
 赤く染めたゴザの上には、ジャッカルの服を借りたのだろう、麻布の簡素な服を着たゼルガディスとジャッカルが座っていた。
「ゼルガディスさん、早かったんですね」
 横向きのゼルガディスに声をかけたが、聞こえていない様子。
「・・・・・・?」
 聞こえなかったのかと、アメリアがゼルガディスを正面からのぞきこんだ。
「・・・・・・・・・うわ」
 アメリアの呟きは、感情を端的に表していた。
 赤を通り越して紫になった顔の色。まどろんだような瞳は、どこを見つめるともなくさまよっている。
「・・・・・・・・・」
 肩を震わせてたイシュカが、きっと顔を上げた。
「ジャッカル! 地酒を外来の客に出すなと何度言ったらわかる!!?」
 のほほんと酒を飲み続けているジャッカルに詰め寄り、襟首をつかんで揺さぶった。
「客に酒振る舞うのは礼儀やないかぁ〜無礼講や〜やめてイシュカちゃ〜ん」
 顔の色は変わってないくせに、呂律(ろれつ)は見事に回っていない。
 手から陶器のコップを転がしたゼルガディスが、ぽてりと倒れた。
「ゼッゼッゼルガディスさん!!? 大丈夫ですかあぁ!!!!」
「水! 水を早く飲ませて!!」
 イシュカに水差しを渡され、アメリアが慌てて仰向けにしたゼルガディスの口に水を流し込む。
 濡らしたタオルを額に置き、体は冷えないように薄い布をかける。
「あの・・・一体どの位飲んだんですか?」
 ゼルガディスの頭を膝に乗せたアメリアが、恐る恐るジャッカルに尋ねた。
「コップ一杯やで」
「たった一杯!!?」
 彼はそんなに酒に弱かったかと首をひねるアメリアに、頭痛をこらえるように額を押さえたイシュカがうめいた。
「『大蛇酒(おろちざけ)』・・・アルコール分70%の強度酒だ・・・」
「・・・・・・・・・・・・」
 アメリアが機械的な動きでジャッカルへと首の向きを変える。
 ジャッカルの周囲には、酒瓶と思われる瓶が5・6本は軽く転がっていた。
「この・・・酒バカが!!」
 イシュカの蹴りがジャッカルに炸裂した。


「よい・・・しょっと」
 すっかり泥酔してしまったゼルガディスを、イシュカに協力してもらい敷き布団の上までやっと運んだ。
 気温が高いので、体が痛まないよう敷き布団だけで良いのである。
 ただゼルガディスの場合泥酔しているので、急激な体温低下に備える為薄い布をかけられていた。
「イシュカさんありがとうございます」
 ふうと息をついてアメリアが言うと、イシュカが疲れたのか肩をこきこきと鳴らした。
「いえ・・・貴女の部屋はお隣ですので、お早めにお休み下さい。日の出が早いのでそう長くは寝られないでしょう」
 日が昇ると急激に気温が上がる。確かに悠々と寝てはいられないだろう。
「そうします。ゼルガディスさんの濡れタオル、替えてからにしますね」
 イシュカがジャッカルの愚痴をまだ呟きながらも部屋を出ていった。
 アメリアがゼルガディスの額に乗せたタオルを取り、濡らそうと外に出る。
 昼間沐浴をした泉まで来ると、タオルを水に浸す為にかがんだ。
 ぱしゃりと冷たい感覚が手を伝う。
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・?」
 アメリアが手を止めて振り返った。
「・・・気のせいかな・・・今・・・誰か見ていたような・・・」

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6348そこに行けばどんな夢も叶うというあごん E-mail 4/16-20:27
記事番号6335へのコメント

誰もみな行きたがるが余りにも遠い事で有名な(笑)ガンダーラ!!
と、ゆーわけでスッポンのあごんです(笑)。

すっかりレスが遅くなってしまいました。ひやひや。
これが予告されていまいしたインド宗教編ですね!
あうあうあうあうあうあうあうあうあう。
相変わらずの神秘さにうっとりこですぅv

と、ゆーか。
一話に一場面は笑いドコロが出てきて感動です(笑)。
一話なんて、最初から吹き出しましたもの(本気で)。
ゼルが壊れてアメリアに襲いかかるシーンですけど(笑)。
今回もゼルの顔色に吹き出しました。
う〜〜ん、ゼル。
すっかりペースを乱されてますな〜(笑)。

ではでは、短いですがこの辺で。
あごんでした!
続きを楽しみにしておりますvv

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6350愛の国 ガンダーラ(笑)水晶さな E-mail 4/16-22:36
記事番号6348へのコメント


 ガンダーラの地域範囲を調べる為に検索したら、見事にゴダ●ゴのヒットソングが出てきて困った水晶さなです(笑)。あごんサンいらっしゃいませv


>すっかりレスが遅くなってしまいました。ひやひや。
>これが予告されていまいしたインド宗教編ですね!
>あうあうあうあうあうあうあうあうあう。
>相変わらずの神秘さにうっとりこですぅv

 予告通り話が続いて自分でもビックリというか何と言うか(爆)。
 ガンダーラにケツァルコアトルは何の関係もないやん!というツッコミはとりあえず置いといて下さい(核爆)。
 何だか雰囲気的にくっつけたかっただけなんですv(爆)


>と、ゆーか。
>一話に一場面は笑いドコロが出てきて感動です(笑)。
>一話なんて、最初から吹き出しましたもの(本気で)。
>ゼルが壊れてアメリアに襲いかかるシーンですけど(笑)。
>今回もゼルの顔色に吹き出しました。
>う〜〜ん、ゼル。
>すっかりペースを乱されてますな〜(笑)。

 前回のシリアス話の反動が見事に出まくってます(笑)。
 壊れたゼルガディスをアメリアが悲鳴を上げながらも説明するのが大好きでして(爆笑)。
 今回(も?)魔剣士さん災難続きです(苦笑)。


>ではでは、短いですがこの辺で。
>あごんでした!
>続きを楽しみにしておりますvv

 コメントありがとうございますvv
 これを励みに頑張ります〜ではでは!

 水晶さな.

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6349Gandhara 4水晶さな E-mail 4/16-21:28
記事番号6316へのコメント


 二日酔いの悪い所というのは、深酒に後悔したところで症状が軽くはならないということ。
「・・・別に責めませんよ。知らないで飲んじゃった訳だし・・・」
 青い顔を更に青くして、一人自己嫌悪に陥(おちい)っているゼルガディスを見てはそれ以上咎(とが)められる筈がない。
 仕方がないので二日酔いに効く薬を買い出しに、アメリアは一人で街を歩いていた。
 イシュカが行くと言ったが、色々と世話になった彼女にこれ以上面倒はかけられない。
 出かける前にジャッカルに忠告されたのは、『何が何でも半額になるまで値切れ』という事。
(値引き交渉はリナさんがいたらなぁ・・・)
 いない人物の事をあてにしても仕方が無いのだが、それでも愚痴は出てきてしまう。
 道端から引っ切り無しに声をかけてくる骨董屋の老人達を振り切りつつ、とにかく薬屋を探す。
 ようやく商店街の一角で見付けた薬屋の主人は、これでも薬師(くすし)かというぐらいでっぷりと太っていた。
「あのー・・・二日酔いに効くお薬って・・・」
 恐る恐る切り出すと、アメリアでも明らかにわかる相場の二倍以上のお値段。
「そこを何とか・・・路銀があまりないんですよホント」
 政治・国事の交渉ならば慣れたものだが、値切り交渉にはイマイチ強気に出られない。
 渋々4分の3まで下がった値段で手を打とうとすると、カウンターの前に立つアメリアの隣に、小さい衝撃がした。
「・・・えっ!!?」
 また黒鶏が来たのかと、アメリアが反射的に身を離す。
 そこにいたのは鶏ではなく、小さな子供だった。
 5歳児くらいの、やんちゃざかりといった男の子だ。
 髪は銀髪で―短くしている為か真上に立ち上がっている。
 大きなつぶらな瞳は赤で、まっすぐにアメリアを見つめている。
 麻布の肩で縛る衣服に、黒のズボンはふっくらとしていて股が浅く、幼稚さと可愛らしさを醸(かも)し出していた。
 アメリアの膝上までしか背丈のないその子供が―何故か片足にしっかりとしがみついている。
「・・・・・・・・・」
 妙な既視感を覚え、アメリアが子供に視線を落とした。
「・・・昨日、視線を感じたのは・・・あなた?」
「お嬢ちゃん、買うのかね? 買わないのかね?」
 カウンターより背の低い子供が見えない為、店主が痺れを切らしたように言う。
 自分からどうやっても離れないその子供を、アメリアが仕方なく抱き上げた時―
「お、おお・・・何だ、それなら早く言ってくれれば・・・」
 店主の態度が一変した。
 二日酔いの薬だけにとどまらず、これは吐き気に効くだの荒れた胃に効くだの栄養剤だのまとめて半額以下の値段で提示してきた。
 少々戸惑いながらもこの機を逃(のが)すまいと、アメリアがさっさと金を払い店から出る。
「何だか知らないけれど、助かっちゃいました。ありがとう坊や」
 アメリアが礼を言いながら下ろすと、子供はしっかりとアメリアのマントの裾を握りしめる。
「・・・あの・・・お母さんはどこ・・・?」
 困ったように笑みを浮かべるアメリアに、子供がきょとんと首をかしげる。
「いむー、あー」
 片言の言葉ぐらいしゃべれてもいい年頃に見えるが、意味不明の言葉をつぶやくばかり。
 アメリアが子供の前にかがんだ。
「お名前は? 自分のお名前わかんないですか?」
「いー、いーいー」
「・・・・・・」
 ちょっと頭が重くなったアメリアが、言う言葉を変更した。
「私、アメリアです。アーメーリーアー」
「・・・・・・・・・めー」
「・・・そこまで名前を略されたのは初めてです・・・」
 かくっと頭を落としたアメリアが、仕方ないので再び立ち上がる。
「しょうがないですねー、お母さんとはぐれたのなら大声で呼び回ってるだろうし・・・」
 駆け回って探してもいいのだが、今はとにかくゼルガディスに薬を届けたい。
「イシュカさんに聞けば、街の子供ならすぐにわかりますよね」
 買ったばかりの薬を腰のベルトに下げ、アメリアが子供を再び抱き上げた。
 子供の歩みはとっても遅いので、合わせて歩いていたら日が暮れてしまう。
 抱き上げた子供は、人見知りする事もなくアメリアにぴったりとしがみついてきた。
「・・・ミルクの匂いがしますね」
 子供特有の柔らかい肌が母性本能をくすぐったのか、アメリアの表情に笑みがこぼれる。
「さてっと、急ぎますからねー。お母さんはちゃんと探しますから待ってて下さいね」
 走り出しながら、ふとアメリアが薬屋の店主の言葉を思い出す。
「『それなら』・・・? まさか私が母親に思われてたりなんてしませんよねー・・・」
 アメリアに抱えられた子供は、時折「うにー」だの「にょろーん」だのとつぶやいていた。


 子供を抱(かか)えたまま神殿に戻ると、何故かイシュカもジャッカルも不在だった。
「何でしょう・・・お仕事?」
 とりあえず、ゼルガディスがまだ寝ている部屋へ向かう。
 朝よりは気分が良くなったのか、ゼルガディスは仰向けに静かに寝ていた。
 子供を下ろして、薬の用意を始める。
「ええっとこれが粉薬で、これが・・・薬草? この錠剤は飲むには大き過ぎますね・・・」
 自分の知っている範囲外の薬学に、アメリアが途方に暮れた。
 ―と、横から小さな手がにょっと伸びて、アメリアの手から薬を奪い取った。
「だっ、ダメですよそれは食べ物じゃ・・・!」
 慌てて止めようとしたアメリアは、予想外の光景にぴたりとその手を止めた。
「・・・・・・・・・え?」
 どこから見つけてきたのか、小さなすり鉢とすりこぎが子供の手に握られていた。
 アメリアから取った薬草と錠剤を放り込むと、もたつきながらもごりごりと薬をすり始める。
 薬草から汁が滲(にじ)み出てくるのを確認すると、最後に粉末の薬を入れて溶かした。
「・・・よく、知ってますね・・・」
 ふと子供の手に視線を落とすと、どこかで見たような金の腕輪がはめられていた。
 ズボンの裾に隠れて見えなかったが、よく見ると足にも。
「・・・・・・・・・・・・」
 しばらく記憶を掘り起こして―更に今度はその名を告げていいのか迷って―散々一人で悩んだあげくにやっと一言。
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・イーダちゃん?」
 くるりと子供が顔だけをこちらへ向けた。
 口だけで笑顔になって、答える。
「いー」
(・・・・・・正解みたい・・・)
 アメリアがそれでもまだ信じられずに呆然と見ていると、子供(多分イーダ)が片手をゼルガディスの顎(あご)にかけた。
 なかば無理矢理こじ開けるようにして、もう片方の手で口の中に今できたばかりの混合薬を流し込む。
 緑色のドロドロした物体が流れ込んだ。
「・・・・・・・・・苦そう・・・」
 思わずアメリアが呟く。
 かこん、と顎を閉じさせると、喉ぼとけが確かに上下した。
 ごっくん。
「・・・・・・・・・・・・・・・」
「・・・・・・・・・・・・・・・」
「―●▽☆**>*(゜□゜)★☆○□!!!!!!!!」
 全くもって意味不明な叫びを上げ―身を起こしたり足を地に着けたりといった予備動作をする事なく立ち上がるといった芸当を見せたゼルガディスが、泉の方へ全力疾走した。
 ざばざばとやたら急(せ)いて水を飲む音と、げへがはと涙混じりに思い切り咳(せき)をする音。
 あまりの素早さについていけなかったアメリアだが、はたと我に返ると慌ててゼルガディスの後を追った。
 泉の前で膝をついて、涙目で咳き込んでいるゼルガディスの姿を見付けた。
 アメリアが少しビクつきながらもゼルガディスの背中をさする。
「・・・お薬、苦かったですか?」
「苦いどころで済むかあぁ!! このまま昇天するかと思ったぞマジで!!!!」
「・・・・・・・・・」
 『やっぱり』と思いつつアメリアが少し身を引くと、後ろからのてのてとイーダが歩いてきた。
 膝をついたままのゼルガディスの、額を手の平でぺちんと叩く。
「るー」
「・・・・・・・・・・・・何だ、このガキは・・・・・・」
 その手をつかんで押し戻しながら、ゼルガディスが半眼でうめく。
「イーダちゃんです」
 ゼルガディスが首をこちらへ向けた。
「・・・は?」
「猪の・・・韋駄天(いだてん)ちゃんです」
「はあ!?」
 アメリアの言葉を脳が認めてくれないのか、ゼルガディスがイーダを捕まえてまじまじと見つめた。
「こいつが!?」
「・・・・・・・・・・・・めぇー!!!!!」
 間近で大声で叫ばれた為に、鼓膜が麻痺して思わずゼルガディスが手を放した。
「めー!!」
 ヒスを起こしたようにゼルガディスから逃げ、イーダがアメリアの腕の中に飛び込む。
「ああ、だっ大丈夫ですよイーダちゃん。泣かないで下さい」
 アメリアが抱き上げてあやすと、イーダがしっかりとアメリアの服を握り締めた。
 しばらくは放してくれなさそうな気配だ。
「駄目ですよゼルガディスさん、子供をいじめちゃ」
「・・・俺のせいか」
「ですよ。イーダちゃんが薬作ってくれたんですから。顔色全然良くなってるじゃないですか」
「・・・・・・・・・」
 はたと気がつくと、薬を飲んだ直後はその苦さに死ぬかと思ったが、喉元過ぎれば何とやら。
 倦怠(けんたい)感もひいているし、吐き気も頭痛も、熱もない。
「・・・悪かったな」
 謝るのが得意ではないゼルガディスが、ぶすっとした顔でイーダの頭をくしゃりと撫でた。
「むー」
 振り返ったイーダが、同じ事をしようとしたのかゼルガディスの頭に手を伸ばし―
 ちくりと針金の髪が指に刺さった。
「・・・・・・・・・あああああぁ〜」
「俺か!? 俺が悪いってのか!!!?」
 びーびー泣き出すイーダに、ゼルガディスが逆ギレした。


「・・・ところで、イシュカさんとジャッカルさんは?」
 リカバリィをかけて何とかイーダを泣き止ませたアメリアが、思い出したようにゼルガディスに問う。
「・・・いないのか? 俺はずっと寝てたから気付かなかったが・・・」
「めー」
 きょとんとしていたイーダが、突然アメリアの服を引っ張った。
「あ、ダメですよイーダちゃん。そんなに引っ張ったら服が破れちゃいます」
 頭を撫でてなだめると、イーダが今度は別方向を指差し始めた。
「むー、あー」
「何だかどこかに行きたいみたいだな。下ろしてやった方が早いんじゃないか?」
「イーダちゃん歩くスピードがゆっくりなんですよ。急ぎの用なら抱いていった方が早いです」
「うー、むーむー」
 イーダが無表情ながらどことなく勝ち誇ったような声をあげる。
「・・・・・・」
 ゼルガディスが何かまだ言いたげな様子でイーダを見つめていたが、諦めて再び前方を向いた。
(こいつは絶対好きになれん・・・)
「こっちですか?」
 アメリアがイーダの指す方向に進路を変える。
 すると―祭壇に似たテーブルと、それを囲む四脚の背もたれの無い椅子だけの部屋に出た。
 何か急がなければならない理由でもあったのだろうか、椅子が二脚引かれたままになっている。
「・・・・・・・・・」
 アメリアが、テーブルの上に置いてあった紙をのぞきこんだ。
「この辺りの地図だな」
 同じようにゼルガディスがのぞきこみ、地形から判断して言う。
「何でしょう、この×印」
 地図上に点々と書き込まれた赤いインクの×印を指差す。
 それはガンダーラの街から離れた、山岳に集中していた。
「・・・・・・・・・」
 ゼルガディスが口元に手を当てた。何かを考えているような仕草だ。
「・・・確か、あの魚の化物が来た方角って、この×印が密集している所からだったな」
「え? よく覚えてますね」
 言われてからアメリアが、じっと地図を見つめる。
「・・・・・・・・・もしかしてこれ、あの巨大魚の出現地点ですか?」
「そのようだな。本拠地を探り出して潰そうとでもしてるのか?」
「・・・」
 イーダがアメリアの髪を掴んだ。
「めー」
 じっと瞳をのぞき込んでくる。
 言葉はないが、意思がそのまま流れ込んでくるようだ。
「・・・お手伝い、しに行きましょう」
 イーダを抱(かか)え直し、アメリアがすっくと姿勢を正した。
「おい、本当にそうかはわからないんだぞ。ただの買い物だったりしたらどうするんだ」
「だったらイーダちゃんを連れて行くはずでしょう? イーダちゃん私を街まで探しに来たんです。何かあったんですよ」
「しかしなぁ・・・」
 渋るゼルガディスに、アメリアがびしっと人差し指を突きつけた。
「一宿一飯の御恩を忘れたんですかゼルガディスさん!!」
「・・・あー、わかったわかった」
 やはりどの街もすんなり通過する事はできないのかと、ゼルガディスが呪いとも思える毎回毎回のアクシデントに溜息をついた。

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6362Gandhara 5水晶さな E-mail 4/19-22:07
記事番号6316へのコメント


「なぁ・・・この格好何とかならんのか・・・」
 ゼルガディスがかなり泣きそうな顔で呟いた。
 彼の背中にはイーダがおんぶ紐で縛り付けられていた。
 傍目(はため)から見ると情けない事この上ない。
 自分の姿が容易に想像できるから更に泣きたくなってくる。
 先ほどまではアメリアが抱えていたのだが、普段慣れない事をした為にすっかり腕が痺(しび)れてしまったのだ。
 おまけに一応急ぎたいという事もあって、力のあるゼルガディスに頼み―しかも両手が自由に使えるように―となると、結局これしかなかった。
「将来の為の予行練習と割り切って下さい」
 先頭を走りながら、アメリアが後ろも見ずに言い放つ。
「割り切れるか!! てゆーかそういう事をあっさりと言うな!!!」
 さらりと言われた爆弾発言に、ゼルガディスの方があわてふためいた。
 大体最初見た時の猪の姿になってくれれば楽なのだが―恐らくイーダ自身が自由意思で変身するのだろうが―そんな事などつゆ知らずゼルガディスの背中ですっかり寝こけていた。
「―!」
 アメリアが走りながら両手を真上に上げた。
「ファイアー・ボール!」
 正面に手の位置を変え、渦巻く火炎を解(と)き放つ。
 地中から飛び出した巨大魚の、鼻に真正面から直撃した。
 燃やし尽くす事を期待した訳ではない―火炎球の勢いで向こう側に吹き飛ばしたかっただけなのだ。
 勢いに負け、巨大魚が地面に落ちる。
「はっ!!」
 加速し、巨大魚の2・3m手前で両足を揃(そろ)えて踏み込む。
 ―だむっ。
 膝の屈伸をバネにして跳び上がり、綺麗に空中で一回転した。
「舞柳(まいやなぎ)流メルテナ師範直伝奥義―『宵鶴(よいづる)』!!」
 膝を伸ばして、威力を弱める事なくそのまま巨大魚の上に『着地』する。
 以前失踪(しっそう)したアイドルの代役として出演した時に、舞踏武術所『舞柳』という所に稽古(けいこ)をつけてもらった結果―
 元々格闘技を得手とするアメリアの実力が段違いにレベルアップ・・・してしまった。
 鶴が着地する様子を真似た技だが―優雅さと裏腹に全体重と重力をかけた一撃は途方もなく威力が高い。
 ―べごおっ!!
 地面が砂地な事もあり、巨大魚がゼルガディスの位置から見えなくなるほど地下に沈んだ。
 今の一撃を忘れるほど優雅に飛び降りると、アメリアが再び駆け出す。
「・・・・・・」
 ゼルガディスが冷汗をかきながらも剣を抜いた。
「アストラル・ヴァイン!」
 柄(つか)から切っ先にかけて赤い光が走る。
 走り込みながらスピードを落とす事なく、ゼルガディスが腕を最小限の動きで振った。
 そのまま巨大魚の上を走り抜けて―
 地に埋まった巨大魚の背に亀裂が走り、見事三枚に『おろされた』。
 ゼルガディスと背中合わせにおんぶ紐でくくりつけられたイーダが、夢と現(うつつ)の境でむにゃむにゃと呟いていた。


 山の中腹には、大きな洞窟がぽっかりと口を開けていた。
「自然洞窟にしては整然とし過ぎてるな」
「作られたものだって言うんですか?」
「見解を一つ述べただけだ・・・ぐぉ」
 イーダが足をバタつかせた為に紐が絞(し)まり、ゼルガディスが顔をしかめた。
「お目覚めですかイーダちゃん。ダメですよぅあんまり暴れちゃパパが困りますよー」
 背中側に回ったアメリアが、イーダの手を握ってあやすように笑いかけた。
「誰がパパだ!!」
「めー、いー」
「あっ、笑ったv」
「・・・場がなごんでどうする」
 肩を落としたゼルガディスが呟いた時―
 山を揺るがすほどの地震が突如(とつじょ)として起こった。
「まっ、また巨大魚ですか!?」
「違う・・・でかすぎるぞこれは」
 イーダがじたばたと暴れ出した。
「んまー!!」
「呼んでる・・・?」
 アメリアが洞窟の中をのぞき込んだ。
「中にいる筈です。イシュカさんもジャッカルさんも!」
 だっとアメリアが駆け出した。
「暴れるなお前は・・・あっ!」
 イーダがやたら暴れたせいで、紐が解けてしまった。
 べちっと地面に落ちる図が頭に浮かび、ゼルガディスが青くなって手を伸ばした。
 空中で一回転したイーダの、目が光って―
「うおあっ!?」
 我に返ると、疾走する白猪の背に逆向きに乗っていた。
 イーダが変化しながらゼルガディスの股下をくぐり抜けた為に、背に乗る格好になってしまったらしい。
「・・・アメリア! ぶつかるぞ!!」
「・・・へ?」
 くるりと首だけ後ろを向いたアメリアを、後ろからイーダが突き上げた。
「のわはっ!!」
 鼻先で持ち上げられ、宙に浮いたアメリアをゼルガディスが姫抱きで捕まえる。
 逆向きに座ってしまった為、ゼルガディスが半身をひねりながら前方を確認した。
「音が聞こえるな」
「音?」
「戦いの音だ」
 ゼルガディスの言葉の意味を汲(く)み取ったのか―イーダが走るスピードを上げた。
 喧騒の音は近付いてくる。


 砂塵(さじん)が巻き起こる。
 狭い空洞を、巨大魚がそこかしこと泳ぎ回っていた。
 地滑りと落盤が既に何度起こったかわからない。
「ぷふー」
 頬に滲(にじ)む血を適当に手でぬぐって、ジャッカルが魚の背の上で一息ついた。
「イーダ、ちゃんとお二方連れてこれるんかいのー」
 両手に握った直径30cmほどの金属の輪を人差し指だけで一回転させ、足元の魚にたたきつける。
 二本の線が魚の背に走り、そのまますっぱりと切断された。
 外側にぐるりと鋭利な刃がついており、特殊な戦闘方法を用いなければ扱えない難度の高い武器―チャクラム。
 彼から少し離れた所では、大きな虎が魚相手に奮闘していた。
 しかも―体格の大きいベンガルトラ。
 一匹を始末したところで、ジャッカルに向かって『さぼるな』とでも言いたげに一声吠(ほ)える。
「そんな怒らんでもえーやん。わいかて頑張ってんねんでー」
 ぶちぶちと愚痴を言う口がよく動きながら、手もよく動いている。
「大体なー魔元鏡(まげんきょう)が割れるからいかんのや。あれ代わり探すなんて不可能やで」
 止まらない愚痴にいい加減腹が立ったのか、虎がジャッカルの背中に体当たりを食らわせた。
 既に周囲に動く巨大魚はいなくなっていたのだが。
「やめてーな! 暴力反対!!」
 おどけた調子で言い、ジャッカルがひらりと飛びのいた。
 ところへ―思い切り横から猪が突進してきた。
 猪突猛進とはこの事を言うのだろうか。
「おうわああああああぁぁぁ・・・・・・」
 吹っ飛んで行くジャッカルを、虎が「おすわり」の体制で呆然と見ていた。


 猪が止まった事でやっとアメリアとゼルガディスが地面に下りる。
 背の重みが消えた途端、イーダが元の子供の姿に変化した。
「まーあー!」
 両手を広げて虎の方に駆け寄っていく。
「イーダちゃん!!」
 アメリアが青い顔をして手を伸ばした。
 しかしその手をするりと抜けて、イーダが座った体制のままの虎に飛び込む。
 虎の伸ばした前足は、女性の腕に変わった。
「イーダ、よく連れてきてくれたね」
 いとおしげにイーダを抱き締めるその姿は―間違いなく女性神官長。
「・・・イシュカさん!」
「ああ・・・申し訳ないお客人、こんな呼びつけ方をしてしまって」
 イーダを慣れた手付きで抱き上げて、イシュカが法衣の裾を払った。
「実は―」
「イシュカさん・・・イーダちゃんてもしかしてイシュカさんのお子さん・・・?」
 アメリアの質問がイシュカの言葉をさえぎる。
「・・・・・・」
 無言ながらもイシュカがうなずいて肯定を示した。
 しかし『不本意』だとでも言いたげに眉根にシワが寄っているが。
「あああああっ!! なんとなーく予感がしたんです予感がっ!!」
 ショックのせいか泣きながらアメリアがゼルガディスの服の端を握ってきた。
「何でお前が泣くんだ」
 疲れたようにゼルガディスが肩を落とした。
「だってえぇ」
 見た目では自分よりも年下にすら見える彼女が、子持ちだという事実はアメリアには大き過ぎたようだ。
「・・・幼く見えますけど、私は今年で215歳です・・・」
「えっ!?」
 振り返ると、イシュカが恥ずかしそうに頬をかいていた。
「・・・とすると、父親はあっちで砂に埋まってる・・・」
 ちらりとゼルガディスが視線を向けた先には、砂から足だけが突き出ているジャッカルの姿があった。

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6372おもしろいですね。アッキー E-mail 4/22-19:59
記事番号6362へのコメント

おもしろいですね。久々にきたのですが読ませるお話でよかったです。

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6383ありがとうございます(^^)水晶さな E-mail 4/24-23:27
記事番号6372へのコメント


 ええと・・・初めまして、ですよね?
 久々って事は、前のお話等読んで頂いた事があるんでしょうか。

 楽しんで頂けているみたいで何よりです(^^)
 宜しければ最後までお付き合い下さいv 


 水晶さな拝

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6392Gandhara 6水晶さな E-mail 4/25-22:33
記事番号6316へのコメント


「ぶうえっ。ぐえへっ」
 ジャッカルが大仰な仕草で砂を吐き出す。
「死ぬかと思ったわー」
「馬鹿は死なねば治らないと聞くしな。一度死んだ方がいいかもしれんぞ」
「・・・後生やわイシュカ」
「ふん」
 イーダを抱いたまま顔をそらすイシュカ。
「・・・・・・夫婦ってこういうものなんですか?」
「真似するな見習うなてゆーかもう見るな」
 くき、とゼルガディスに首の向きを変えられた。
「なんか今すごい失礼なこと言われた気がすんねんけど」
「お前は黙っていろ。話が全然進まん」
 ばす、と寝こけたイーダを押し付けられ、ジャッカルが渋々とイーダを抱え直した。
 イシュカが咳ばらいを一つ挟んでから話題を転換する。
「ええと・・・まず、ここの説明をしておこうか・・・」
「ここ?」
 アメリアが今更のように回りを見回した。
 山を穿(うが)ったような洞窟。しかし自然のものにしては地面が平ら過ぎる気がしないでもない。
「元々ガンダーラ神殿はここにあったんや」
 肩の上にイーダを乗せ、頭をわしわしと撫でながらジャッカルが言う。
「山の頂点に。ケツァルコアトルは天に住むと考えられていたから、できるだけ天の近くに神殿を建てたと聞く」
「それが今は、街の外れに?」
 ゼルガディスが問うと、イシュカが神妙な面持ちでうなずいた。
「・・・色々あった結果。いや、話はいま『ここ』の事だ。あの巨大な魚は貴方達も目撃したはず」
「イヤというほどな」
「・・・・・・」
 ゼルガディスの痛切な一言を、イシュカは聞かなかった事にした。
「化物の根源はこの地下だ。『魔元鏡』の力であいつらを封印していた」
 イシュカが地面を指した。
「『いた』って事は・・・それが解かれたんですね?」
「死火山かと思ってたんやけどな、この山。休火山やったらしいわ」
 ゼルガディスの顔がさっと青ざめた。
「ちょっと待て・・・じゃあ山に来る前に感じた地震は・・・」
「そのうちいきはるで。ぼーんとな」
「のんびり言ってる場合か!! 噴火したら街まで危ないだろうが!!」
 ゼルガディスに詰め寄られ、ジャッカルが一歩退いた。
「前兆の地震で魔元鏡が割れよってな。今その欠片の力だけで何とか抑えとんねん。前兆の内に何とかせな」
「抑えてるって・・・あの巨大魚がまだこれ以上出てくるんですか?」
 下りようとするイーダを器用に片手であしらい、ジャッカルがもう片方の手を振った。
「抑えてる隙間から出てきとんねん。完全に封印解けたらエライ事になんでー」
「笑顔で言わないでくださあいぃ!!」
「・・・今の内なら魔元鏡も修復出来る筈だ。だから急を要した。貴女に来てもらったのも協力して欲しかったから」
 ジャッカルを押しのけて、イシュカがアメリアに告げた。
「協力・・・?」
「それは・・・説明するよりも見た方が早いかと」
 イシュカが言葉を濁したので、アメリアもそれ以上は無理に聞く気がしなかった。
「街に被害を出す訳にはいかんのや。お礼も何とか用意するさかい、協力してくれまへんか?」
 ジャッカルが片手を上げて頼んでくる。
「・・・・・・」
 ゼルガディスが悩んでいる所で、アメリアがばしっと胸を叩いた。
「一宿一飯のお返しにっ、お手伝いさせて頂きますっ!」
「おい、アメ・・・」
「お世話になった人にお返しするのは当然の摂理ですよねっ!?」
 『先手を打たれた』
 最近自分の扱いが嫌な意味で上手くなってきているアメリアに、ゼルガディスは頭痛を覚えざるをえなかった。


「魚達って元々ここにいたモンスターなんですか?」
 先陣を切るジャッカルとゼルガディス、その後ろにイシュカとアメリア。
「確かに昔からここにいた・・・しかしたいした魔物ではなかった。それが体格の巨大化と共に害を及ぼすようになった」
 ジャッカルの背中には紐でくくられたイーダがおぶさっていた。似合うから妙におかしい。
「原因は水の枯渇(こかつ)だ。昔はこの地方も今よりは水に恵まれていた。あいつらは水の中に住む魔物だったが、干上がる土地に体が適応してしまったんだ」
 走る速度はゆるめずに、イシュカが前を向いたまま続ける。
「往来する魔物に人々は怯えた。そんなあいつらをもう千年以上昔、蛇神様が山の奥深くに封印した・・・その命と引き換えに」
「!?」
 アメリアが口元を押さえた。
 護られて『いた』―昨日イシュカがつぶやいた意味は、こういう事だったのだ。
「だからこそ・・・私達の代で平穏を壊す訳にはいかない」
 前を見つめたままのイシュカが、唇を噛んだ。
 戦いを知っている協力者が二人もいるなど、この上無い好機。
 利用するような真似をしたのはさすがに良心が痛んだが、背に腹は変えられない。
「・・・『私達の代』って・・・?」
 アメリアのつぶやきは、イシュカには聞こえなかった。


「完全にあのバケモノを始末できると思ってるのか?」
「打算は必要やけどな。大方OKな筈やで」
 ジャッカルがのんびりと答える。
「打算ってな・・・おい、子供がのけぞってるぞ」
 おぶられたイーダが空を仰ぐように両手をぶらぶらとさせていた。
 眠いのか目が半分閉じている。
「だあぁ、あかんで韋駄天。お父ちゃんに掴まっとれ」
 多少慌てたようで、ジャッカルがイーダの姿勢を直させる。
「・・・・・・・・・・・・」
 ゼルガディスがちらりとイシュカの方を振り返った。
 先ほど年齢の話をしていたが―見た目の年はどう見てもアメリアと同じか、それ以下。
「あんさん人の事ロリコンやと思ってますやろ。お互い様でっせ」
「お前に言われたかないっっ!!」
 ゼルガディスが悲鳴に近い声で叫んだ。


 洞窟はゆるやかな傾斜で下へ下へと向かっていた。
「・・・暑いですねぇ・・・」
 アメリアが頬をぬぐった。
 むっとくるような熱が下から沸き上がってくるような。
「魔元鏡は熱も抑えてくれてるんや。普通やったら蒸し焼きにされてますで」
「子供、帰さなくていいのか?」
 汗をかきながらも、イーダはジャッカルの背中で眠り続けている。
「わいの子やで。わいの後継いでこの街護ってもらわなあかん子や。甘く見たらあきまへんで」
 ジャッカルがいたずらっぽく片目を閉じた。
 心配の欠片もない笑顔。自信がなければ決して口にはできない言葉。
 ひょうきんを装った中の真の強さを、ゼルガディスは垣間見た気がした。
「―ジャッカル!」
 イシュカが後方から叫んだ。
 前方の地面が唐突に盛り上がり、先ほど見た二倍の大きさの巨大魚が顔を出した。
 大元に近付いてきている証拠だろう。
「イシュカ! アメリアはん!! 先行きぃ!!」
 ジャッカルが耳のピアスを外してかち合わせた。
 澄んだ金属音の後に、輪が直径を増しチャクラムへと姿を変える。
「ゼルガディスはん援護頼むで!! ここから先は巫女にしか頼めんさかい!!」
 そのまま走ろうとしていたゼルガディスが、慌てて足を止めた。
「エルメキア・フレイム!」
 両腕を伸ばして、ゼルガディスが魔法を衝撃波を解き放つ。
 光に打たれて巨大魚が進行方向を変えた。
「せいやっ!!」
 ジャッカルが渾身(こんしん)の力を込めてチャクラムを叩きつける。
 巨大魚が衝撃で吹っ飛んで壁に激突した。
「今の内に!」
 イシュカが速度を速める。
「―っ!」
 アメリアが新たな気配を察知して身を竦(すく)めた。
 (止めても間に合わない―なら!)
「レイ・ウイング!」
 後ろから激突するスピードでイシュカを抱き留め、そのまま前方に飛び抜けた。
「っ!!?」
 イシュカが目を見開いたが、一瞬後に巨大魚の顎(あぎと)が今さっき居た場所に食らいつくのを見て更に驚く。
「方向だけ教えて下さい! 突っ切ります!!」
 しばし呆然としていたイシュカが、突然自らの頬を叩いた。
「分かれ道は全て右! 頼む!!」
 毅然(きぜん)とした普段の様子に戻り、イシュカが声を張り上げた。


「仲間の危機には敏感やからな。血の臭い嗅ぎ付けたら即行集まってきはんで」
 チャクラムに付着した魔物の血を振り払い、ジャッカルが汗をぬぐった。
「敵をこっちに引き付けるってワケか。アメリア達には何を任せたんだ?」
 魔力を込めた剣を鞘から抜き、ゼルガディスがゆっくりと構える。
「重要な方や。こいつらをもう1回封印せなあかん。魔元鏡を修復せなあかんのや」
「割れたんじゃなかったのか?」
「ただの鏡ちゃいまっせ。巫女一人が全身全霊込めて作り上げた鏡―言い替えれば巫女そのものが変化した生鏡(いきかがみ)」
「巫女そのものが変化!?」
「・・・そうや―」
 ジャッカルが紐をゆるめて、目の覚めたイーダを地面に下ろした。
「わいの母親は・・・今でも頑張ってくれてはんねや」

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6408推理してみました(笑)あごん E-mail 4/29-00:25
記事番号6392へのコメント

こんばんわ、あごんです。
イシュカとジャッカルが結婚してて、しかもその愛の結晶(笑)がイーダなことに度肝を抜かれたあごんですv
うう〜〜ん。いっつも思いますけど、水晶様って奇抜な発想の持ち主さんですよね。
裏をかかれるドコロの騒ぎではありません(笑)。

それにしても。
イシュカ=虎
イーダ=猪
ってことは・・・・。
ジャッカルはなんですか?
気になりますぅぅぅ。

はっ!!
わかりましたよ!
今まさに神託が下りました!!
敵はケツァルコアトル=蛇ですよね!
ここから推理される答はひとつですね!!
ジャッカルは!!
猿ですね!!

ふふふ、簡単な問題だよ、明智くん(誰っ!?)
これはずばり、干支ですね!
二つ飛ばしなんですね!きっと!
子丑寅卯竜巳午未申酉戌亥っとゆーことですね!
  ↑  ↑  ↑  ↑ どーですか!?

当たって・・・ませんよね(笑)。

ではでは!ラストのジャッカルの科白が気になるあごんでした!
イシュカの運命やいかにっっ!!  

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6411げふげふごふ(汗)水晶さな E-mail 4/29-22:45
記事番号6408へのコメント


 いつもありがとうございます、あごんサンいらっしゃいませ〜vv


>イシュカとジャッカルが結婚してて、しかもその愛の結晶(笑)がイーダなことに度肝を抜かれたあごんですv
>うう〜〜ん。いっつも思いますけど、水晶様って奇抜な発想の持ち主さんですよね。
>裏をかかれるドコロの騒ぎではありません(笑)。

 己の欲望の赴くままに小説書いてる奴なので・・・(笑)。
 妙〜なカップリングを作るのは確かに大好きです(爆笑)。


 あごん神(←!?)の神託を裏切ってかなーり申し訳ないんですが(汗)、変身能力に裏はないんです・・・考えてなかったというか(爆)。
 あごんサンの発想に「それも面白いかも・・・v」などと不謹慎に思ったというか(核爆)。ああぁスミマセン。
 
 今回考え考え書いてるんでちょっといつもよりペースが遅くて申し訳ないです〜(汗)。
 もーちょっとで終わる筈なので宜しければ最後までお付き合い下さいv
 
 ではでは、さなでした〜。

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6412Gandhara 7水晶さな E-mail 4/29-22:54
記事番号6392へのコメント


「山の上には―確かに蛇神様が居た。街を護ってくれていたんだ」
 アメリアに抱えられながら、イシュカがぽつりと呟いた。
「けれど―もういない・・・魔物の封印の為に命を落とされた・・・そして奥方はその身を鏡に変じて封印を完成させた・・・」
「奥方・・・? 蛇神様に奥さんがいたんですか?」
 方向と早さの微調整に気を使いながら、アメリアが尋ねる。
「はるか昔・・・飢饉(ききん)の後に供物(くもつ)のつもりで巫女が一人捧(ささ)げられた・・・戻ってこなかった彼女を、皆は蛇神様の力の一部になったと信じていた。けれど違う、蛇神様は哀れなその生贄(いけにえ)を妻として迎え入れた」
 悲痛な表情を浮かべて、イシュカが続ける。
「私は・・・2回目の贄(にえ)だった。その時3年も連続で流行り病が猛威をふるった為・・・」
 アメリアが息を飲む音が聞こえた。
「山に入った私が見たのは、一人の人間の男だった。蛇神様も奥方も、既にこの世に存在していなかった・・・」


 洞穴の中は薄暗く、古びたゴザの上には人間らしき男が一人寝転がっていた。
『・・・誰だ、お前は』
『わいか? わい、ここで街護ってんのや』
『どうして伏せってるんだ?』
『どうしてって・・・気分が悪いからやないか。あんまり近付くんやないで、伝染るさかいな』
 諦めを悟って、山に入ったというのに、居たのは神ではなくお調子者の男だけ。
 泣きたいやら嬉しいやら怒りたいやら、それでものこのこと街に帰る訳にはいかない。
 食物は山で何とか取れるし、神殿の禁欲的な暮らしに慣れた自分には生きていけない事もない。
 しかし―日がな一日ゴロゴロしているニセ神にはいい加減腹が立った。
『お前は知らないだろうが、街の者達はここに神がおわすと信じているんだ! 情けない真似をするな!』
 つい勢いで取り上げてしまった、布団代わりの麻の布。
『・・・・・・・・・!!?』
 男の体には、青紫色の斑点が無数に浮かんでいた。
 3年も続いた流行り病。斑点が2つ3つ浮かべばそれは発症の印。
 それが―全身をくまなく覆い尽くしているのだ。死んでもおかしくない状態である。
『どうしてこんな状態なのに言わなかったんだ!!』
 呼吸がうまくできないのだろう―男が胸元を押さえながら、それでも弱々しい笑みを浮かべた。
『3年も・・・すまんかったな。わい全部引き受けたつもりやってんけど・・・駄目みたいやった・・・』
 馬鹿というか何というか―とにかく、この男は街を確かに護っていた。
 流行り病の悪素を、全て自らの体に吸収していたのだ。
 徐々にではあるが感染者が少なくなっていたのは―彼の献身的な行いの成果だったのだ。
『・・・・・・・・・』
 布団を握り締めたまま呆然としていたイシュカは、我に返ると慌てて水を汲みに行った。


 1週間―ほとんど睡眠も取らずに看病した。
 彼の善行に気付かなかった恥じる思いと、彼を死なせたくないという思いと。
 彼が神などとは未だに信じられないが、それでも彼は街を護っていた。
 きっと彼を死なせたら、街は終わる―そんな気もした。
『イシュカ・・・伝染るさかい、やめぇや・・・わいそんな簡単にはくたばらんて』
『こんな時まで強がりを言うな! お前の死は街の死だ!』
 聞く耳持たないと、額に乗せた布を取り替える。
 まだ何か言いかけようとした口に、すりおろした果物を流し込む。
『ぐべぼ』
『気管に入るのが嫌なら喋るのをやめろ』
 こんなやりとりを、数十回も繰り返した。


 やがて―
 洞窟の外から射し込んだ薄日に、イシュカは目を覚ました。
「・・・ああ、寝てしまった・・・?」
 ロクに睡眠も取らずに看病を続けていたのだ。体力の限界がきたのだろう。
 まだ思いまぶたをこすりながら、それでもゆっくりと身を起こす。
 布団代わりの麻布がぱさりと落ちた。
「・・・・・・?」
 自分の肩にかけられていたその布をつまんで、イシュカがいぶかしげに首をひねる。
 これは確か、あの男にかけていた布・・・。
 はたと我に返ると、男の姿がどこにもなかった。
 背中を冷たい汗が伝ったような気がして、慌てて洞窟内を探しまわる。
「病人が! どこへ行った!!」
 気丈に呼びかけるものの、内心不安でたまらない。
 もしかしたら治らない身に、嫌気がさして―
「―!!」
 悪寒が走った。
 洞窟の奥、壷やら箱やらが並んでいる棚の前、あぐらをかいてこちらに背中を向けているのは間違いなく彼。
 短いナイフがあてられた左手首からは、鈍い赤の雫がしたたって―
「―やめてええぇ!!!」
 ほとんど悲鳴のような声をあげて―イシュカは彼の背中にとびついていた。
 手からナイフをもぎとると、勢いのまま放り投げる。
 壁に当たってはねかえったナイフが、音をたてて転がった。
「・・・・・・・・・」
「・・・・・・・・・」
 先に我に返ったのは、彼の方だった。
「うわた! 勿体ないがな!!」
 手の位置がずれた為に、下に置いた小瓶ではなく地面に血が染み込んでいる。
「・・・は?」
 ―小瓶に血液をためている?
「いかんそろそろ頭おかしなってきたわ。やめよ」
 そう言って片手で器用に傷口に布を巻き付けた。
 血を抜いたせいだろう、あまり血色の良くない顔で振り向き、それでも笑みを浮かべる。
 体中に浮かんだ斑点は消えかけていた。
 それから―まだ呆然としたままのイシュカの手に、先ほどの小瓶を乗せる。
「ほい、これで足りなかったら又おいで」
「・・・・・・・・・・・・は?」
 イシュカが口を開いたまま首を傾げたので、彼が思わず吹き出した。
「薬や薬。これで街の皆病気治るで。勿論イシュカも飲んどきや」
 子供をからかうように頭を乱暴に撫でてくる。
 まだ放心していたイシュカは、それに逆らう気力もなかった。
「・・・神様に貰った言うとき、それから、捧げ物はもう必要ないって・・・」
 彼はそう言って―又微笑んだ。
 自分の血液は特殊だから―抗体が出来さえすれば万病の薬にもなると。
 病状が改善方向に向かうまでイシュカに甘えてしまったと、彼はすまなそうな笑みを浮かべて謝罪した。
「ゴメンなイシュカ、こんな所で暮らすのしんどかったやろ?」
「・・・・・・・・・・・・・・・」
 反応の無い自分を見つめていた彼は、ぎょっとしたように身をすくめ―それから目に見えておたおたし始めた。
 形容のしようのない胸を埋め尽くす感情に、イシュカの頬にいつからか流れなくなっていた雫が伝った。
「イシュカ? なぁイシュカ、わい何か困らせるよーな事言ったか? どっか痛いんか? それともやっぱ病気うつってもうたか? イシュ・・・」
 胸にすがりついて子供のように泣き始めたイシュカに、彼はただうろたえるばかりだった。
 彼の名が「ジャッカル」だと知ったのは、それから少し後の事。

 人の優しさなどろくに知らなかった娘と、
 人に優しくする事しか知らなかった神と。

 彼らがお互いを必要と感じ始めるのに、そう長い時間はかからなかった。

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6422最後が肝心アッキー E-mail 4/30-17:08
記事番号6412へのコメント

 いよいよ物語りもラストですね。どんな話でも最後が肝心なのでがんばってくださいね。

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6424・・・なんですよね(汗)。水晶さな E-mail 4/30-21:41
記事番号6422へのコメント


 ラストまではもーちょっとかかりますが、アッキーさんのご期待を裏切らないように頑張ります(汗)。
 ・・・最後がまだよく決まってないだなんて言えない(爆)。

 水晶さな拝

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6444夏目雅子 !アッキー E-mail 5/6-21:17
記事番号6424へのコメント

がんばってくださいね。
 それにしても昔の西遊記を思い出します。三蔵法師に扮した夏目さんが懐かしい。

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6461Re:夏目雅子 !水晶さな E-mail 5/13-01:03
記事番号6444へのコメント


 はう、頑張ります・・・。昔の「西遊記」はちょっと見た覚えがないのでコメント返せなくて申し訳ないです(汗)。

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6460Gandhara 8水晶さな E-mail 5/13-00:59
記事番号6316へのコメント


 アメリアの頬に絶え間無く汗が伝った。
 冷や汗ではない―気温が急激に上昇した為だ。
 少しでも気を抜くと精神集中が乱れて、高度が下がりそうになる。
「アメ―」
「だい・・・じょうぶ・・・ですっ!」
 歯を食いしばるようにアメリアが声を振り絞る。
「気を付けて、この先に見える白い光―あそこには床がないから・・・」
 イシュカの言葉が終わる前に二人は火口の真上に飛び出していた。
「―っ!!」
 アメリアが慌てて魔法に制御をかける。
 イシュカの言葉がなければ驚いて二人共落下していただろう。
 下方に見える赤い火は、恐らく煮えたぎった溶岩。
 その色が朧気に見えるのは、霧のような光が辺りに散っている為。
「これは魔元鏡の光・・・砕けてなお魔物達を退(しりぞ)ける眩(まばゆ)き力」
 イシュカがそっとアメリアの手を掴んで、自分の体から離した。
 レイ・ウイングの浮力を借りずに、イシュカは火口の真中に静止する。
「生鏡(いきかがみ)と呼ばれる魔元鏡・・・生きている鏡、この意味が貴女にわかるのなら」
 すっと両の手首を合わせ、手の平を下へ向ける。
「鏡を再生させる術(すべ)がわかるはず・・・力を貸して!」
 アメリアが恐る恐るレイ・ウイングを解除した。
 落下する事はなかった。魔元鏡の光が自分を包み込む。床があるような安定感。
「―お手伝いさせて頂きます!」
 イシュカの言葉の意味を理解したアメリアが、両手を目の前に上げ、祈るように組み合わせた。
『・・・聖なる癒(いや)しのその御手よ、母なる大地のその息吹・・・』
 向かい合った二人の巫女の言霊(ことだま)が重なる。
『・・・我等が前に横たわる傷つき倒れしかの者に、我等全ての力もて・・・』
 祈りの光が、二人の間を埋め尽くすように広がる。
『・・・再び力を与えん事を―リザレクション!』


「―!」
 唐突(とうとつ)な息苦しさを覚え、ゼルガディスが思わず喉に手を当てた。
「・・・気温が上がった・・・?」
 不快感と共に吹き出した汗をぬぐい、剣の柄(つか)を持ち直した。
 ともすると手の平の汗で滑(すべ)り落ちそうになる。
「魔元鏡の再生が始まりよったな」
「再生?」
「そうや、魂こもってる鏡ならではの治療法や。巫女二人がかりの治癒魔法なら再生可能な筈」
 足元で白猪がそこかしこと走り回っては巨大魚をなぎ倒して行く。見ていて爽快ですらある。
「・・・・・・・・・」
 ふと無言になったゼルガディスに気付いたのか、ジャッカルが前屈(かが)みの戦闘体制から身を起こした。
 目の覚めたイーダが奮闘してくれたおかげで、会話をする余裕がある。
「不思議やろ? 実の母親に対してそんな『モノ扱い』するような態度とれる息子が・・・」
「・・・あ、いや・・・」
 口には出さなかったものの表情に出てしまったかと、ゼルガディスが慌てて口を押さえる。
「わい・・・母親の記憶がないねん。物心ついた時はもう一人やった。両親ともバケモノの封印に命落としよった」
 いつもふざけたように浮かべていた笑みが、少しだけ歪(ゆが)む。
「血筋やからな・・・生命力だけはタフで、生きてく事には問題はなかった。自分が為すべき事もわかってたし・・・」
 表情から笑みの消えた彼の顔は―悲哀に満ちていた。
 いつも笑みを浮かべていたのは、そんな心を押し隠す為。
「しょうがないやんか・・・今更悲しんだ所で、もう帰ってはきぃへん。自分が今出来る事をするしかないって・・・そう思うまでにも大分かかったけどな」
 くるりと振り返ったジャッカルはいつもの笑みで、ゼルガディスが驚いて思わずあとずさる。
「なーんてな」
「・・・・・・は」
「感傷にふけってる場合ちゃいまっせ。韋駄天だけ疲れさせたらイシュカに怒られてまうわ」
 おどけたようにチャクラムを振り回し始めたジャッカルに、ゼルガディスが呆(あき)れて肩を落とし―
 足元に立ち止まっていたイーダと目が合った。
「・・・・・・」
 口で言葉は語らずとも、その目が何を言っているのかは伝わってくる。
「・・・ああ、わかってるよ。あいつの言った言葉は茶化してるが嘘じゃない」
 頭の上に軽く手を置いて撫でてやると、イーダがゼルガディスの足に鼻先をすりつけてから再び走り去っていく。
 この場が一段落ついたので、少し奥へ移動するらしい。ジャッカルの後を追っていく。
「・・・・・・俺もつくづく、お人好しになったもんだ」
 苦笑を浮かべつつゼルガディスが二人の後を追いかけた。



===================================

 私事が忙しくて更新が遅くなってしまいました(汗)。
 とりあえず、あと2話で終わる予定です・・・。

 水晶さな.

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6467初めましてたつき 5/15-11:28
記事番号6460へのコメント

 
 初めまして。たつきといいます。いつも、楽しく読ませてもらっています。
アメリア達に振り回されるぜルガディスが、面白っくって私は好きです。

 オリキャラも皆個性的で大好きです。

 これからもがんばってください。続きを楽しみにしてま〜す。

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6468ありがとうございます(^^ゞ水晶さな E-mail URL5/16-00:32
記事番号6467へのコメント


 初めまして水晶さなです。いつも読んで頂いてたんですね〜有り難うございますv
 
 私の書くゼルガディスは押しが弱いのかいつも振り回されっぱなしなんですが、気に入って頂けて嬉しいです(笑)。
 完結まで上に一気に載せてしまいましたが、宜しければ読んでやって頂けると嬉しいですv

 ではではコメントありがとうございました〜vv

 水晶さな.

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