◆−深淵に眠る罪の欠片 6−水晶さな(3/24-12:05)No.6158
 ┣うにょみにょんっ☆−ゆっちぃ(3/25-00:53)No.6164
 ┃┗もみょみょん★(爆)−水晶さな(3/26-01:57)No.6180
 ┣深淵に眠る罪の欠片 7−水晶さな(3/26-02:00)No.6181
 ┃┗実は1つ違いだったり。−ゆっちぃ(3/26-13:27)No.6185
 ┃ ┗ああ・・・惜しい(T_T)−水晶さな(3/27-01:43)No.6189
 ┣深淵に眠る罪の欠片 8−水晶さな(3/28-01:13)No.6196
 ┃┗ゼル、あんた今度”は“何したの!?−ねんねこ(3/28-22:19)No.6203
 ┃ ┗ええと・・・色々と・・・(爆)。−水晶さな(3/29-01:12)No.6207
 ┣深淵に眠る罪の欠片 9−水晶さな(3/28-23:57)No.6205
 ┗深淵に眠る罪の欠片 10−水晶さな(3/29-00:08)No.6206
  ┣お疲れ様でした!−雫石彼方(3/31-03:19)No.6218
  ┃┗ありがとうございますv−水晶さな(4/1-01:13)No.6226
  ┗あああ、完全にタイミングがっ!−あごん(4/2-04:14)No.6247
   ┗ひょっと下まで見て良かったああぁ!!!(汗)−水晶さな(4/2-23:34)No.6256


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6158深淵に眠る罪の欠片 6水晶さな E-mail 3/24-12:05



 書いては直し、書いては直しを繰り返していた為に遅々として話が進みません(泣)。

===================================

 夢の中で、これは夢だと気付く事は度々ある。
 たとえば世界が自分を除いてセピア一色に染まっていたりしたら。
(疲れてるんですねー・・・やっぱり・・・)
 夢の中なので実感はないのだが、無意識に肩をもみながらアメリアが歩いた。
 きれいに刈り込まれた芝生の上。
 昼間歩いた中庭とよく似ている。
 勿論実際に歩いた中庭は雑草が伸び放題で、芝生と呼べるものではなかったのだが。
(星が綺麗・・・本当の夜空も綺麗だったのかな・・・見ておけば良かった)
 発音する言葉が音にならない為、胸中でアメリアが思う。
 鼓膜ではなく、脳に響くような音にアメリアが首の向きを変えた。
 いつの間にか樹木の下に立っている。
 凝魔樹マナ・ディーパの枝が、風に静かに揺れていた。
 葉を枝一杯に茂(しげ)らせた巨木。
(・・・こぶ、が、ない)
 フィルターをかけたように視界がおぼろげな為、アメリアがよく見ようと目を細めた。
(昔のマナ・ディーパ・・・でも、何だか生気がないような・・・)
『ヴィオ様・・・マナの樹、もう魔力を集める力もないんですね・・・』
(・・・!)
 どこからともなく聞こえた声に、アメリアがはっと振り返った。
 昼間は偽の墓石があった所―木製の簡素なベンチがあった。
 そこに寄り添って座っている恋人達の、娘の方―
(フェルベチカ・・・さん?)
 オフホワイトの裾(すそ)が広がったワンピース。
 髪は柔らかなエメラルド・グリーン。瞳は宝石をそのままはめ込んだような紅玉石(ルビー)色。
 ただしその肌は―白く滑(すべ)らかな人間の肌。
 そして彼女の肩を抱いているのは、長身の貴族風の男。
 薄い金髪に、深い蒼の双眸(そうぼう)。
 体格から見て、昔は騎士でも務(つと)めていたのだろう。
(だとすると・・・この人がヴィオグニールさん?)
『先祖が遠方の地で苗を見付けて、庭に移したものだ・・・だが今はここの土も痩(や)せてきた、神聖なマナが弱るのも運命かもしれない』
『戦争など・・・早く終わればいいのに』
 フェルベチカがヴィオグニールの肩に顔を伏せる。
『もうじきだ・・・もうじきレグナス共和国の勝利が決定する・・・そうすれば今の荒廃した世俗も、元通りになる筈だ・・・』
『・・・・・・・・・はい』
『さあもうお帰り、ベツィ。ここにいつまでもいては危険だ。森にいれば精霊達が身を隠してくれる』
『はい・・・』
『近くまで送ろう』
 ヴィオグニールが娘の手を取り、立ち上がらせた。
 アメリアの目の前で、その二人の姿が白く淡く溶けていった。
 視界に光が差し込む。
 夢の終わりを告げていた。


『いのちは物とあたわず・・・』
 深淵(しんえん)の闇から響く、男とも女とも判別のつかない声。
『いのちを汚(けが)す事無かれ。汝(なんじ)の罪は消えず・・・』
 自らの体の感覚は無い。闇の中に溶け込んだ意識に、ただ言葉だけが流れ込む。
『罪は贖(あがな)うものにあらず、償(つぐな)うものなり・・・』
 一瞬で、闇がはじけた。
「・・・・・・・・・」
 2・3度まばたきをして、視界が現実のものであることを確認する。
「俺に教えを説かれてもな・・・」
 夢に愚痴を言いながら、低血圧ゆえに鈍く残る頭痛を堪(こら)えながら身を起こす。
 いつものマントを纏(まと)い、部屋の扉に手をかけた辺りでふと動きを止める。
「いのちは・・・物とあたわず・・・?」
 寝起きの頭を無理やり活動させ、過去の知識を引っ張り出す。
「それは・・・ガイア教の教えじゃなかったか・・・?」


「おはよう、ございます、アメリア」
 目をこすりながら食堂に現れたアメリアは、フェルベチカの姿を認めた途端硬直した。
「どうし、ました? 具合、悪いですか?」
 くらりとした頭を押さえつけ、アメリアが震える声で言葉を吐き出した。
「・・・フェルベチカさん・・・そのエプロンは・・・どこから・・・?」
 きょとんとしたフェルベチカが、首を傾(かし)げた後にぽんと手を打った。
「お部屋の、タンスに、ありました。お手伝いさんの、お部屋です」
 にこにことフリルの付いたエプロンをつまんでフェルベチカが答える。
「いえ・・・言いたい事はそうじゃなくって・・・」
 アメリアが棚の上にきれいに折り畳まれた白のワンピースを発見すると、すぐさま走り寄ってそれをつかんだ。
「エプロンは服の上からつけるものなんですっ!」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
 ぱちぱりと目をしばたたかせていたフェルベチカが、やがて納得したように押し付けられたワンピースを受け取る。
「あ、そうでした、っけ?」
「早く着て下さいっ! ゼルガディスさんが起きてきちゃいます!!」
 たとえば美術品として飾られている裸体の女神像に誰も服を着せようとは思わないが、
 それがエプロン一枚を身に付けて(以下略)。
 幸運にも、エプロンの後ろのリボンをアメリアが結んだところでゼルガディスが姿を現した。
「・・・何をやっとるんだ?」
 ゼルガディスが眉をひそめて呟(つぶや)いた。
 慌てて結んだので縦結びになってしまっているリボンを直すアメリアと、
 別に腕を上げる必要はないのに両腕を真上に上げているフェルベチカ。
「あ、いえ、エプロン・・・の、着替えを手伝ってただけですっ!」
 どもった為に口調がフェルベチカのものと似てしまった。
「・・・・・・」
 ゼルガディスもそれ以上は気にとめなかったらしい。
「・・・まぁいい。メシの後ちょっと確かめたい事がある。もう一度書斎に行くぞ」


「確かこのシンボルは、クリスチ教のものだったよな?」
 書斎に入って扉を閉め、内側に立ちゼルガディスが扉を見つめたままアメリアに尋(たず)ねる。
「ええ・・・記憶が正しければ」
「・・・・・・・・・・・・ふむ」
 何やら考え深げな表情をした後、ゼルガディスがシンボルに手をかけた。
 縦と横の長さが同じの、白塗り十字架。
 かこん、という軽い音がして、十字架の縦の棒がすっぽ抜けた。
「・・・・・・・・・あああああっ!!!!!!!!?」
 2・3秒してから事態を把握(はあく)したアメリアが、絶叫しながらゼルガディスの手を掴(つか)む。
「ししししし宗教のシンボルになんてことするんですかあああぁ!!!!!!!!」
 が、ゼルガディスは落ち付いた様子でアメリアの手を反対の手で掴(つか)むと、縦棒の抜けたシンボルにあてさせた。
「・・・・・・・・・・・・え?」
 アメリアが壁をぺたぺたとさわる。
 今ゼルガディスが取った縦棒は、壁に浅い穴を開けてあって、そこに押し込めるようにして収まっていた。
 しかし横棒の方は壁に直接着色料を塗っているだけ。平面なのである。
「な、何ですかこれ・・・本当にこの人、クリスチ教だったんですか・・・?」
 ゼルガディスが本棚の前に置いた踏み台に足を掛け、昨日も手に取った黒背表紙の辞書を一冊抜いた。
 ハードカバーのその本の表紙には、白く円が描かれている。
 その円の中のくり抜かれた穴に、今しがた扉から抜いた縦棒を押し込む。
 予想通りとはいえ、ぴったりと収まったので少々驚いた。
「・・・これが何のシンボルだかわかるか?」
 ゼルガディスが本の表紙をアメリアに向けた。
 円の中に、貫(つらぬ)く縦棒が一本。
「・・・え? これって・・・」
 アメリアが悩む様子を見せたので、ゼルガディスが答えを言おうとして口を開いた。
 が、ばすっとアメリアの手の平で塞(ふさ)がれた。
「え〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜っとぉ、そうそう、ガイア教です!」
 にぱっと満面の笑顔を浮かべながら、アメリア。
 手の平を押し付けられたタイミングが悪かったのか、舌を噛んでしまったゼルガディスが苦痛の表情でうめいていた。

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6164うにょみにょんっ☆ゆっちぃ E-mail URL3/25-00:53
記事番号6158へのコメント

さなさんお久し振りです、ゆっちぃです〜♪
のっけから意味不明な言語を発してしまってすみませんι自分でもわけわからん語です(爆)
一体何が言いたかったんだ自分……?

それにしても。いつみても素敵なタイトルですよねぇ……『深淵に眠る罪の欠片』。
視界に入るたびうっとりしちゃいますです(///)
お話のほうも、なんと言うかゼルとの絡みのようなものが覗かれてきて……気になりますですぅぅっ…………
フェルベチカさんも、早く記憶戻らないかなぁ。でないとまたもやエプロンのような困った事態が発生してしまいます(笑)
取り合えずゼルには見られなくて良かったです。もぅホントに。(姫以外は絶対ダメですっ。(←をいをいι))

続き、無理せずさなさんのペースで執筆なさってくださいねv

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6180もみょみょん★(爆)水晶さな E-mail 3/26-01:57
記事番号6164へのコメント


 同じ位のインパクトで返そうと思ったら見事に失敗しました。ボケ水晶です(笑)。


>それにしても。いつみても素敵なタイトルですよねぇ……『深淵に眠る罪の欠片』。
>視界に入るたびうっとりしちゃいますです(///)

 今回少しダークテイストなので漢字に頼りました(汗)。
 いつもは英語でタイトルをつけるんですが・・・久々に日本語にすると難しいですねぇ。
 でもいつも思うんですが、内容がタイトルに負け・・・(げふがふごふ)。


>お話のほうも、なんと言うかゼルとの絡みのようなものが覗かれてきて……気になりますですぅぅっ…………
>フェルベチカさんも、早く記憶戻らないかなぁ。でないとまたもやエプロンのような困った事態が発生してしまいます(笑)
>取り合えずゼルには見られなくて良かったです。もぅホントに。(姫以外は絶対ダメですっ。(←をいをいι))

 お人形がエプロン付けてるよーな見映えですが、気持ちの問題ということで・・・。本当はここまでフェルベチカをボケキャラにするつもりはなかったんだけどなぁ・・・(汗)。
 話がシリアス傾向になると拒否反応が出るみたいですv(爆)
 タネあかしというか、ネタバレをどうやってわかりやすく織り交ぜていくかに非常に悩みまして・・・(汗)。テーマが難しかったみたいです、てへv(爆)。
 姫様のエプロンはお一人様限定です。ええ(爆)。


>続き、無理せずさなさんのペースで執筆なさってくださいねv

 はうぅありがとうございます(涙)。
 ヤマを越えたらすぐに又楽に書けるようになると思いますので、最後までお付き合いお願い致します(^_^;)
 ではではv

 水晶さな

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6181深淵に眠る罪の欠片 7水晶さな E-mail 3/26-02:00
記事番号6158へのコメント


「ヴィオグニールさん少数派の宗教だったんですか・・・だからクリスチ教の手法で埋葬されたくなかったんですね・・・」
 一般に信仰されているクリスチ教の中で、少数派のガイア教は確かに異質な存在。
 何しろ崇(あが)めるものが全く正反対なのである。
 辞書の表紙に埋め込まれたシンボルに指先で触れながら、アメリア。
「戦禍(せんか)に異教徒なんかいたら、何もしてなくともとばっちりはくるからな」
 長き戦争がもたらすのは貧困と飢餓(きが)、殺戮(さつりく)と闘争、暴動。
 市民階級の者達に、利益になる事など一つもない。
 ヴィオグニールの生前の日記から時代を推測し、それが歴史の片隅に残る戦争の時代だった事を突き止めた。
 巨大帝国からの支配を脱出しようと、隣接の国々が共同戦線を張って戦争を起こした。
 長き戦いに疲れ、国は衰(おとろ)え、大地は乾いてゆく。
 荒(すさ)んでいく人々の心。そして憤(いきどお)りは異質な者達へと向けられる。
 そんな状況を逃(のが)れる為には、表だけでもクリスチ教を信仰しているように見せかけるしかなかった。
「ガイア教徒は大地神ガイアを崇(あが)める・・・だからこんな山奥に屋敷なんか建てたんだな」
「我らが神 我らを産み育(はぐく)みし母神(ははがみ)は 偉大なる土の化身・・・」
 アメリアが書斎の椅子に腰掛け、ガイア教の聖典を膝の上に乗せた。
「全てのいのちは土より生まれ 土へと還(かえ)る
 それ即(すなわ)ち 土神(つちがみ)ガイア様の魂の一部なりや
 崇(あが)めよ土を 称(たた)えよ大地を 火吹く時 地割れる時は 母神の怒りし時
 己(おのれ)れが罪を恥じよ 己(おのれ)が責(せき)を償(つぐな)え
 母神の怒りに触(ふ)れる事無きや 全てのいのちは土の御子(みこ)
 いのち汚(けが)す時あれば 母神は必ずや天罰を下す」
「ほう、よく読めるな」
 長い年月の為に、かすれた神聖文字ではあったが、アメリアには読めたらしい。
「いのちを汚(けが)す事無かれ。汝(なんじ)の罪は消えず・・・」
「!?」
 夢の中の言葉と重なり、ゼルガディスが反射的にアメリアの方を振り向いた。
 アメリアは聖典を読んでなどいなかった。
 こちらをじっと見つめている。まるで今までずっとそうしていたように。
 その表情はアメリアのものであり、アメリアのものでなかった。
「罪人(つみびと)よ、いのちの尊(とうと)さを知らぬ者」
 アメリアの唇だけが機械的に動き、淡々と言葉を発する。
「汝(なんじ)が罪の為に、いのちが土に還(かえ)らぬ・・・」
「・・・何にしても、アメリアは関係ないだろう。その娘をさっさと解放しろ」
 踏み台に腰掛けた体制のまま、腕の向きだけを変える。いつでも魔法が唱えられる腕の構え。
「ルワ・アトナ・・・思い出すがいい・・・」
 ふっと、アメリアの姿が一瞬だけ揺らいだ。
 がくんと一度だけ頭が前に倒れ、次の瞬間ぱっと起き上がる。
「あ、れ? あれっ!?」
 ゼルガディスが妙に自分を凝視しているのに気付き、アメリアがぱちぱちと目をしばたたかせた。
 アメリアがぱちぱちと自分の頬を叩いた。
「ごっごめんなさいしっかり寝たつもりだったのにっ・・・居眠りしちゃったみたいです」
「・・・・・・無事か、ならいい」
 ふうと息をついた後、ふと額に手を当てる。
(ルワ・アトナ・・・)
 それから辞書に手を伸ばす。
「アメリア、ルワ・アトナって知ってるか?」
 聞いた事がなかったのか、アメリアが眉間にシワを寄せた。
「・・・何ですかそれ? 人名? 地名? それとも魔法?」
「種族名」
「・・・種族?」
「あった、これだ」
 ゼルガディスの膝の上で広げた辞書に、アメリアが身をのりだしてくる。
「【眼(まなこ)の民】・・・?」
「ルワ・アトナ。別名【眼の民】。種族名はあるがほとんど人間とは変わらない。というか人間の中にそう呼ばれる者がいるんだ」
「違うところってどこなんですか?」
 ゼルガディスが自分の顔の一部分を指差した。
「・・・目?」
「普通魔法を使う者は、全身に魔力を蓄積(ちくせき)するよな。ルワ・アトナは違う、全魔力が目に集中するんだ。」
「それってキャパシティは大きいんですか?」
 ゼルガディスが首を横に振った。
「一般人と変わらんさ。単に体に魔力が蓄積できないだけなんだ」
「ふーん・・・そういう人達もいるんですね・・・」
 曖昧(あいまい)に頷(うなず)いてから、アメリアが思い出したように告げる。
「・・・で、それって今調べてる事と関係あるんですか?」
「・・・・・・・・・いや、ふと思い出しただけだ・・・」
 言葉の前の微妙な沈黙に、アメリアは違和感を感じたが口には出さなかった。
 彼が、何かに怯えているような表情をしていたから。


 いまだ埃の臭いが抜けきらないベッドに仰向けに横たわり、ゼルガディスが過去に見た辞書の記述を思い出した。
『ルワ・アトナ。別名【眼(まなこ)の民】、現在ではその存在は確認されておらず、絶滅したと言われている』
 現在使われている辞書には、確かにそうあった。
 昼間見た書斎の辞書は、主人が存命していた頃のものだから、相当古いのだろう。
(ルワ・アトナ―目に魔力が集中する為、他の身体構造が極めて脆(もろ)い・・・)
 アメリアには告げていない。彼らが悲惨な運命を辿(たど)った事を。
(故に炎に巻かれれば、眼球だけを残して体は骨までも焼失する・・・)
『何が起こったか、わかりますか?』
 問いかけてきたのは、多分祖父だったと思う。
『ルワ・アトナの目は、下手なマジックアイテムよりも優れた魔力を秘めているんです』
 人間丸々一人分の魔力を秘めた眼石―
 額から突き刺すような痛みが走った。
 手で押さえても、鈍(にぶ)く響く痛みは静まらない。
『長き戦争に疲れた人々は、あらゆる手段を用いて勝利を得ようとした・・・その一つが【人間狩り】』
 森の中に隠れ住んでいたルワ・アトナを森ごと焼き尽くして、眼球を集めた。
 疲弊(ひへい)していた数々の王国もこれを黙認した。
 後の辞書や歴史録に彼らの絶滅原因が書かれていないのは、その事実を闇に葬(ほうむ)り去る為。
「・・・・・・」
 頭痛が痛くて目を閉じると、暗闇の中に一人の娘の面影が浮かんできた。
 とぼけたような笑みで、妙にペースが遅くこちらが疲れてしまう娘。
 フェルベチカの、紅玉石(ルビー)のような瞳―
「・・・・・・!!」
 頭痛も振り切って、ゼルガディスが跳(は)ね起きた。
 おかげで痛みは倍増したが。
「あいつは・・・フェルベチカはルワ・アトナか!!」

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6185実は1つ違いだったり。ゆっちぃ E-mail URL3/26-13:27
記事番号6181へのコメント

10000HIT突破おめでとうございます!!
ゆっちぃが踏んだのは10001でした。ちょっとヤな感じv(泣)
実は結構狙ってたりしたんですけどねぇι

って、話それまくりですね。こんにちわです、どうも最近脱線傾向にあるようなゆっちぃです(蹴)

今回のお話読んでて、何故だか世界史思い出しちゃいました。キリスト教とかイスラム教のシーア派とか、めちゃ少数派でしたからねぇ。虐待とかきっとあったんだろうな………と柄にもなくしんみりしていたりして(−−;)
ヴィオグニ−ルさん、実はガイア教だったんですね。でも実をゆうとゆっちぃ、そんな感じしてました。野生の感ってヤツですかね(笑)
フェルベチカさんの事もいろいろわかってきて、ドキドキの展開です!
絶滅したと言われる幻の民、ルワ・アトナですかー………いいなぁ、そう言うのゆっちぃ好きですv

続き、指折り数えて待ってますね♪(←プレッシャーですか?(笑))

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6189ああ・・・惜しい(T_T)水晶さな E-mail 3/27-01:43
記事番号6185へのコメント


 気付かない内にカウンタ君が1万HITいっておりました(笑)。水晶さなです。


>今回のお話読んでて、何故だか世界史思い出しちゃいました。キリスト教とかイスラム教のシーア派とか、めちゃ少数派でしたからねぇ。虐待とかきっとあったんだろうな………と柄にもなくしんみりしていたりして(−−;)
>ヴィオグニ−ルさん、実はガイア教だったんですね。でも実をゆうとゆっちぃ、そんな感じしてました。野生の感ってヤツですかね(笑)


 バレてしまいましたか、てへ←(爆) 
 実在の宗教がモチーフではないので好き放題書いてますが(汗)、軽くなってしまわないよう気を使ってます。テーマがテーマですからね(^_^;)


>フェルベチカさんの事もいろいろわかってきて、ドキドキの展開です!
>絶滅したと言われる幻の民、ルワ・アトナですかー………いいなぁ、そう言うのゆっちぃ好きですv

 核心に迫るごとに段々ダークになっていく・・・ああっ拒否反応がぁ!(爆)
 多分これの次の話は反動で思い切りギャグになりそうな予感です。
 って先に話終わらせてから言えっつーの(バゴ)。


>続き、指折り数えて待ってますね♪(←プレッシャーですか?(笑))

 ああゆっちぃ嬢の声援が右肩に左肩に(爆)。
 嘘です(汗)。もう少ーしで終わる筈なので頑張りマスね(^^)
 コメントありがとうですvv

 水晶さな拝

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6196深淵に眠る罪の欠片 8水晶さな E-mail 3/28-01:13
記事番号6158へのコメント


 話がラストに近付いたせいか本人が一番パニクってます(爆)。
 ぐあああまとまらない。まとまらないったらまとまらない(じたばた)。

====================================


「フェルベチカが元は人間・・・?」
「はい、昼間つい言うのを忘れてたんですけど」
 アメリアがぽりぽりと頭をかいた。
 月夜の中庭を歩きながら、アメリアが今朝見た不思議な夢の話を告げた。
 二人共眠れなくてたまたま庭に出たら出くわしたのだが。
「夢の中で、ここを歩いたんです。墓石の場所にはベンチがありました」
 指差す方向を変えながら、アメリア。
「そしてマナ・ディーパにはこぶがなかった・・・けれど今にも枯れそうな様子でした」
「・・・・・・・・・」
(この疼(うず)くような不安は何だ・・・?)
 ゼルガディスが衣服の胸元を握り締めた。
 何かを思い出すたび、アメリアが何かに気付くたび、
 フェルベチカが何か言葉を発するたびに、
 見えない闇が広がっていく。
 見えてはいけないものが見えてくる。
「・・・ゼルガディス、さん?」
 返事がないのを不思議に思ったのか、アメリアが下から覗(のぞ)き込んできた。
「ああ・・・何でもない」
 あの不思議な輝きを持つ瞳のフェルベチカは、間違いなくルワ・アトナ―眼(まなこ)の民。
 アメリアの夢の通り元は人間だったのなら、彼女は何らかの事情によりドリアードに変化したことになる。
「ヴィオグニールは・・・どうしたんだろうな?」
「はい?」
「戦争が終わるのを待って・・・フェルベチカを妻に迎え入れるつもりだったのか?」
「・・・・・・ええっと」
 記憶をまさぐろうとするのか、アメリアが眉間にシワを寄せた。
「仲睦(むつ)まじいお二人でしたけど・・・さすがにそこまではわからないです・・・」
 クリスチ教ではなく、ガイア教を信仰していたヴィオグニール。
 戦争の終わる前に死を悟り、クリスチ教の手法で埋葬される事を拒否した為にこのような事をしたのか・・・。
 日記が途切れた三日前、使用人達は全て里に帰されていた。
 戦争の被害がこの地方にまで伸びてきたから。
「・・・・・・・・・」
 ふいにアメリアも黙ったので、今度はゼルガディスが眉をひそめた。
「今、何か聞こえませんでしたか?」
 館の方向を見つめながら、アメリア。
「・・・いや?」
「何か・・・聞こえたような気がするんですけど」
 呼ばれるようにふらりと、足を踏み出す。
「おい、アメリア・・・」
「呼んでる・・・」
 なかばうわ言のように呟いた彼女に、ゼルガディスも静止の手を止めた。
 正面玄関の黒塗りの扉を押し開け、ホールを見たアメリアが目を見開いた。
 二階まで吹き抜けになっているホールに月光が天井窓から差し込み、床に巨大なシンボルを映し出していた。
 二人共部屋を出た時は窓から出てきたので、気付かなかったのだ。
「ガイア教のシンボル・・・」
 ゼルガディスがつぶやいた。
 特殊な細工を施(ほどこ)したガラスに光が当たると、影が床にシンボルを描き出す仕組みになっているらしい。
「ここ・・・床から・・・」
 アメリアが光の当たる床に手の平を押し付けた。
「呼んでる・・・」
「・・・ん? この床板、外れるんじゃないか?」
 白と黒のタイルが敷き詰められた床は、色の境目に指を当てるとわずかに高低差を感じた。
 部屋から持ってきた剣の切っ先を当てると、床板がタタミ一畳分ほど持ち上がった。
「ライティング」
 光球を投げ入れてみる、なかなか深いようだ。
 壁に沿って設置されている縄バシゴは老朽化していて危なそうだったので、二人ともレビテーションの術で降りた。
「あ、ロウソクありますよ、壁に」
 アメリアが通路に並ぶロウソクを照らし出した。
「よく使われてたってことか・・・?」
 土がむき出しの通路は、ガイア教徒ならではというところか。
 ひんやりとした空気の中、しばらく通路が続いた。
「横穴多いですね、今歩いている本筋が太いから見分けはつくけど・・・」
 さすがにこんな所で迷いたくはないので、本筋だけをまず歩いてみることにした。
「・・・この先、まさか」
 通路の突き当たった大きな部屋―
 簡素な祭壇と、壁に彫られた女神の絵と、伝説と、祈りの言葉。
 地面に均等間隔に置かれた四角い石碑には、ガイア教徒によって弔(とむら)われた人の名が彫(ほ)られている。
「カタコンベ(地下墓地)だ・・・」
 ゼルガディスがなかば呆然と呟いた。
「いっぱいあった横穴って・・・町中のガイア教徒がここにきて、隠れて祈りを捧げる為・・・?」
 アメリアが震える指先で、木製の祭壇に触れた。
 何百人もが同じ場所に触れたのだろう、磨耗(まもう)して表面が擦(す)り減っていた。
 ―ああ・・・― 
「・・・・・・・・・悲しみが・・・」
 祭壇に額(ひたい)をつけて、アメリアが悲痛な表情を浮かべた。
「悲しみが溢れてる・・・」
 ただ御土(おんつち)に触れて生きる、それだけでいいのに。
 何故人々から疎(うと)まれるのか、虐(しいた)げられなければいけないのか。
 この礼拝堂は、悲しみから作られたアジール(避難所)。
「・・・・・・」
 ゼルガディスが奥の方に目をやり、いぶかしげに眉をひそめた。
「まだ奥に部屋があるな」
 ぱっと見ではわからないが、土壁の向こうにわずかに空間が見えた。
 足を踏み入れて―ゼルガディスが思わず後ろから来るアメリアを手で制した。
「・・・いたぞ、ヴィオグニールが」
「・・・え?」
 恐る恐るゼルガディスの腕に隠れながら覗(のぞ)いたアメリアが、息を飲んだ。
 朽(く)ち果てた骸(むくろ)が、土壁に寄りかかるようにして座っていた。
 色の褪(あ)せた衣装は、それでも貴族を思わせる凝(こ)ったデザイン。
 男性だと思われるその骸には、左足の膝から下がなかった。
「死期を悟って・・・自らここに来たか」
「・・・あ、壁に・・・」
 アメリアがいまだ震える指で、骸の後方の壁を指差した。
 尖った石ででも書いたのだろう、歪(ゆが)んだメッセージが残っていた。
『君を迎えに行く事が出来なかった。すまない、ベツィ』
 力の無い文字で、それでも最後の気力を振り絞(しぼ)って、
『すまない・・・愛している』
「・・・・・・・・・!!」
 アメリアが口元を押さえた。
 少しためらいがちに、ゼルガディスの袖(そで)を引っ張る。
「・・・フェルベチカさん、呼んできます・・・」
「・・・ああ、そうしてくれ・・・」
 小走りに駆けて行くアメリアを見送って、ゼルガディスが骸の傍(かたわ)らに片膝をついた。
「・・・ようやく、思い出した・・・」
 噛(か)み締めるように呟いてから、首を振る。
「いや、とっくに思い出していたんだ・・・でも俺じゃないと否定していた・・・」
 乾いた骸は、何も語ろうとはしない。
 それでもゼルガディスは、独白を続けた。
『汝(なんじ)の罪は消えず』
 ―消えるわけがない・・・
「あの日・・・」
 苦痛の表情でうめく。
「あの日フェルベチカを殺したのは・・・・・・俺だ・・・・・・」
 ざり、と土を踏む音。
 アメリアとフェルベチカがすぐ真後ろまで来ていた事に、ゼルガディスは気付いていなかった。


=================================

 次かその次あたりでラスト・・・までいくといいですね(遠い目)。

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6203ゼル、あんた今度”は“何したの!?ねんねこ E-mail URL3/28-22:19
記事番号6196へのコメント

すみません。タイトルから壊れてて……最近人様の話にろくにレスつけなかった大馬鹿者のねんねこです。
ごめんなさい。ちゃんとレスつけますね、とか言ってたくせに全然つけてなくって……(大汗)

それはともかく。
ゼル!? あなた、今度はいったい何したわけ!?
……て思ってしまうあたり、ゼルの過去に良いいめぇじを持っていないらしいです、自分。
でも、フェルベチカを殺してしまっただなんて……またなんちうことを……(汗)
しかも、きっと間近にいたアメリアと当の本人(というべきか)は、彼の言葉をしっかりきっぱり聞いていたでしょうし……
うーん……続きが怖いです。冒頭からゼルが死体になっていないことを願うばかりです。て、こんな出だしで始まるのはおそらくわたしの話くらいなもんでしょうが。

ついにクライマックス突入で、ますます目が離せませんね!
本当にゼルがどうなってしまうのか。彼の言葉を聞いたアメリア嬢がどういう行動に出るのか。さらに自分を殺した人間を目の前にしてフェルベチカはどうするのか。
続き、楽しみにしております。なにやら大変そうですが、頑張ってくださいねVv
それでは♪


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6207ええと・・・色々と・・・(爆)。水晶さな E-mail 3/29-01:12
記事番号6203へのコメント


 最終話までのっけてからコメント返しにきました(爆)。どうも水晶です。


>すみません。タイトルから壊れてて……最近人様の話にろくにレスつけなかった大馬鹿者のねんねこです。

 大丈夫です。私も自分の話でかなりいっぱいいっぱいですから(爆)。


>それはともかく。
>ゼル!? あなた、今度はいったい何したわけ!?
>……て思ってしまうあたり、ゼルの過去に良いいめぇじを持っていないらしいです、自分。

 私もいいイメージは持ってません(爆)。
 昔はさぞや色んな悪行やらかしたんだろーなーと思ってます(笑←いや笑い事じゃないって)。


>でも、フェルベチカを殺してしまっただなんて……またなんちうことを……(汗)
>しかも、きっと間近にいたアメリアと当の本人(というべきか)は、彼の言葉をしっかりきっぱり聞いていたでしょうし……
>うーん……続きが怖いです。冒頭からゼルが死体になっていないことを願うばかりです。て、こんな出だしで始まるのはおそらくわたしの話くらいなもんでしょうが。

 何とか死体にはならずに済みました(苦笑)。
 ゼルガディスと過去のゼルガディスの対決にはいちいち書き分けるのが面倒で「うがー!」と何度も叫びそうになりましたが(汗)。
 アメリアも一応、ラストでは事実を受け入れてます。


>ついにクライマックス突入で、ますます目が離せませんね!
>本当にゼルがどうなってしまうのか。彼の言葉を聞いたアメリア嬢がどういう行動に出るのか。さらに自分を殺した人間を目の前にしてフェルベチカはどうするのか。
>続き、楽しみにしております。なにやら大変そうですが、頑張ってくださいねVv
>それでは♪

 クライマックスになったかどうかはわかりませんが(汗)。とりあえずラストまでのっけてしまいました。
 フェルベチカがドリアードになった経緯を本当は喋らせたかったんですが、うまくいかず説明文になってしまいました。ちょっとくどい(げんなり)。
 色々書き足りない事もありますが(いつもだけど)、とりあえず完結させる事が出来ましたv ねんねこ嬢のご期待にそえられたかどーかはわかりませんが(汗)、コメントありがとうございましたっv

 水晶さな.

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6205深淵に眠る罪の欠片 9水晶さな E-mail 3/28-23:57
記事番号6158へのコメント


「今・・・何て言ったんですか・・・」
 アメリアの、震えた声。
 悟ったような瞳のゼルガディスに、アメリアが感情を押さえ切れずに叫ぶ。
「何て言ったんですか! 答えて下さいゼルガディスさん!!」
「・・・真実は、何度言っても同じだ・・・」
 ゼルガディスが、理解ができないのか呆然と突っ立っているフェルベチカの腕を掴み、ヴィオグニールの骸(むくろ)に近付けた。
「・・・・・・ヴィオ様・・・」
 目の前の人物の方に気が向いている為か、フェルベチカは先程のゼルガディスの言葉が耳に入っていないようだった。
 朽(く)ちた骸を前にして怯える様子もなく、フェルベチカがヴィオグニールの傍(かたわ)らに屈(かが)んだ。
「やっと・・・」
 衣服を、わずかに残った毛髪を、頬の骨格を、確かめるように凝視して。
「会いた、かった・・・」
 震える指でわずかに触れて。
「―ヴィオさまあああぁ!!」
 今まで決して言葉を荒げなかった彼女が―
 たった一言。彼の名を全力を込めて叫び、
 その瞬間生まれ出た爆発的な光に包まれ、意識が白濁した。


『汝の罪は・・・』
 色のない光の中で、意識に直接流れ込んでくる言葉。
「もういい・・・」
 音にならない声で、彼はどこへともなく告げた。
「好きに裁くがいい・・・」
 薄々は感じていた。
 不完全なドリアードのフェルベチカに、自分を空間に閉じ込める芸当が出来るわけがない。
 そんな事ができるのは・・・
「地母神ガイア・・・」
『変えるか、変えぬかは汝が決断を下すこと・・・いのちはものとあたわず、罪人(つみびと)のいのちもまた・・・』
 光が、空間の一点を中心にして一瞬で吸い込まれた。


 闇を舐(な)める炎。
 轟音と、火花の爆(は)ぜる音。劈(つんざ)くような悲鳴。
 戦争の被害は、確実に広がっていた。
 地上に響く喧騒(けんそう)の音をどこか他人事のように聞きながら、土壁に背を預けて座る男が一人。
 彼の左足は、膝から下がなかった。
 さほど広くない礼拝堂には、戦火を逃(のが)れたガイア教徒達でひしめき合っていた。
「移動しよう。一番長い通路を使って、街の裏通りへ出よう。南下するんだ」
「遅れれば敵国の兵士か夜盗の餌食(えじき)になるだけだ。今すぐに出発した方がいい」
 司教達の会議がまとまったのか、人々がざわめきながらも数少ない荷物をまとめ始める。
「ヴィオグニールさん・・・あなたは力のある人に背負ってもらいますから・・・」
 どこか遠くをぼんやりと見ていたヴィオグニールは、司教に肩を揺さぶられてやっと気が付いたように振り返った。
「ああ・・・すみません。私の事はいいですから・・・出発して下さい」
「何を言っているのです。足の出血もひどいのに。一人で大丈夫なわけがないでしょう」
 弱々しく、けれどはっきりと彼は首を横に振った。
「・・・待っている人がいるのです・・・彼女を置いて私だけ逃げても、助かった事にはならない・・・」


 乾いた大地は、徐々に赤黒く染まっていった。
「・・・この辺りにルワ・アトナ達が隠れ住んでいるという情報は、当たっていたようですね・・・」
 指先で紫色の宝石をもてあそびながら、赤法師が呟(つぶや)いた。
「けれど、足りませんよこのぐらいの魔力では。ゼルガディス、その辺りにまだ逃げ回っているのがいる筈です。探してきなさい」
 朱(あけ)に染まった目をした合成獣は、機械的にゆっくりと頷(うなず)いただけでその場を後にした。


 爆発音が耳元で聞こえる。
 顔が熱い。体中が暑い。走り過ぎて裸足の足の裏はヒリヒリする。
 走る事に全神経を注いでいる為、涙も出る暇がない。
 裾の広がったワンピースはずたぼろ。何度も転んだせいで泥だらけ。
 腰まであるエメラルド・グリーンの髪は、炎の熱にやられてちぢれていた。
 息が切れ始めた。
 もうすぐだ。あと少し走れば彼の屋敷に。
 彼が待っている館に逃げ込める。
 きっと彼が待って・・・
 もつれる足を叱りつけて、走る彼女の後ろ姿に照準を合わせるよう向けられる人差し指。
「フレア・アロー」
 足元で炸裂した火花に、フェルベチカがバランスを保てずに前に突っ伏した。
「あああっ!!」
 地面を滑り、フェルベチカが苦痛に声を漏らす。
 後方に立った人物は、躊躇(ちゅうちょ)することなく再び手の平を彼女に向けた。
「ファイアー・ボール」
 渦巻く火炎が彼女を狙い―
「ダグ・ハウト!!」
 フェルベチカを庇(かば)うように隆起した土が、火炎球を消滅させた。
 一瞬何が起こったのかわからないフェルベチカが、呆然と崩れていく土を見つめる。
「・・・ガイア、様?」
 ざり、と自分の横に土を踏み締めて姿を現した人物は、少し離れた位置に立っている人物と全く同じ姿だった。
「・・・え?」
 思わず二人を見比べるフェルベチカ。
「早く行け、ヴィオグニールは地下室でお前を待っている!」
 自分の近くにいる方の人物に急(せ)き立てるように怒鳴られ、フェルベチカがよろめきながらも走り出した。
 遠ざかって行く足音を聞きながら―ゼルガディスは嘆息して過去の自分を睨み付けた。
 赤い目をした昔の自分は―これでもかという程血に飢えた表情をしている。
「・・・誰だ、お前は」
 獲物を逃がしたせいで苛(いら)立った声を放つ、過去の自分。
「ほう、一応言葉は知っているのか」
 ゼルガディスがつまらなそうに指先を向けた。
「俺はお前だよ―ゼルガディス!」
 魔力が膨れ上がり―はじける。
「エルメキア・ランス!」
 光の軌跡を残し、矢が過去のゼルガディスに突き進んだ。
 不意を突かれた為に、紙一重で矢をかわす。
 相手の実力が本物だと悟り、舌打ちしながら過去のゼルガディスが両腕を突き出す。
「ブラム・・・」
「遅い!」
 魔法を放つと当時に走り込んでいたゼルガディスが、勢いを殺さずそのまま腹部に膝蹴りを打ち込む。
「・・・っ!」
 かはっ、と息を吐き出す音が聞こえて―過去のゼルガディスが吹っ飛んだ。
「ディル・ブランド!」
 体が地面に着くよりも早く、ゼルガディスの魔法が発動する。
 地面から吹き出した衝撃波が、過去のゼルガディスの体を容赦無く打った。
「終わりだ・・・!」
 抜いた剣と共に、走り出すゼルガディス。
「アストラル・ヴァイン!」
 柄(つか)から剣の切っ先に、赤い光が走る。
「あああああ!!」
 強く剣を振りかぶって―
「駄目ええええええぇっ!!!」
 腰に、後ろから強く引っ張られる感覚。
 バランスを崩して、剣を真上に振りかぶった体制のままゼルガディスが両膝をついた。
 後ろから抱き締めた格好で―一緒に膝をついたアメリアが、彼の背に顔をうずめた。
「駄目です・・・やめて下さい・・・」
 背中に感じる、冷たく湿(しめ)る感触。
 ゼルガディスは、力が抜けたようにゆっくりと腕を下ろした。
「どうして・・・止めるんだ・・・」
「フェルベチカさんは館に入りました・・・もう・・・もういいんです。帰りましょう・・・ね?」
 宥(なだ)めるように、あやすようにアメリアが言葉を紡(つむ)ぐ。
 ゼルガディスが向こうに倒れた自分を見つめる。
 あれしきの攻撃で絶命する筈がない。大方ディル・ブランドの衝撃で、気を失ったのだろう。
 深い息を吐き出したゼルガディスが、消え入るような声で答えた。
「・・・ああ」
 呟いた言葉と同時に、始まりと同じように、視界が再び白濁していった。


「早く・・・行って下さい。皆さんが逃げ遅れては元も子もない」
 粘(ねば)り強く説得を続けていた司教も、頭上に響いた破壊音に眉をひそめた。
「司教様! 早く!」
 既に荷物をまとめ、準備を終わらせた教徒達が出発を促す。
「ヴィオグニールさん・・・」
「大丈夫です」
 死が目前に迫っている状況で、ヴィオグニールは穏やかな笑みを浮かべた。
「私にはガイア様がおられる・・・」
「・・・・・・」
 司教が、今にも泣き出しそうな顔で十字を切った。
「主よ・・・」
 通路の先に、歩き出す人々の列。
「救いの手を差し伸べたもう・・・」
「さぁ・・・行って下さい」
 一度足を退(ひ)いた司教が、そのまま静止したのでヴィオグニールがいぶかしげに眉をひそめた。
「おお・・・」
 神の奇跡を見たかのように、司教が感動とも畏(おそ)れともつかない声をあげる。
 ヴィオグニールが、司教の視線の先を振り返った。
 泥だらけの素足が、地面を踏み締めて、一歩ずつ。
 煤(すす)けた笑顔は、それでも美しかった。
「・・・ヴィオ様・・・」
 傍(かたわ)らに膝をついたフェルベチカを、両腕でヴィオグニールが抱き締める。
「待っていたよ、ベツィ」

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6206深淵に眠る罪の欠片 10水晶さな E-mail 3/29-00:08
記事番号6158へのコメント


 次に視界が鮮明になった時、広がっていたのは青空だった。
 乾いた地面の上に、仰向けに寝転がっていた自分を自覚するのには、しばらく時間がかかった。
 つきりと響いた痛みに、右腕を目の上に持ってくる。
 まくった袖の下には、古傷のような火傷の痕(あと)が残っていた。
 焼けた地面の上に倒れていたのだ、怪我をしない方がおかしいだろう。
 ―命拾いしやがったな、俺―
 自嘲めいた笑みを浮かべて、ゼルガディスは音にならない声で呟いた。


「・・・なんて言うか・・・全部夢だった気がしないでもないですね・・・」
 原っぱにぺたんと座り込んだ体制で、アメリアがぽつりと言った。
 目が覚めた時、洋館は消えていた。
 森の中に、ぽっかりと空いた草原(くさはら)。
 そして―
「マナ・ディーパも・・・これじゃあもう・・・」
 アメリアの視線の先には、幹が折れて枯れ果てた大木があった。
「再生しなくていい・・・元々こんな人目に触れる場所にあるべき木じゃないんだ・・・」
 あっても悪用されるだけ、と心の中で付け足して。
 あの日、本当はフェルベチカはファイアー・ボールの炎の中で消滅した。
 その時後方立っていたマナ・ディーパに火炎球がぶち当たり、その幹を抉(えぐ)ったのだ。
 生気をなくしていたマナは、ルワ・アトナであるフェルベチカの眼に宿る魔力を吸収し、急激に成長した。
 その成長が凄まじかった為か、えぐれた傷を修復するどころかこぶになるまで膨れ上がり―
 魔力が満ちた樹木は、精霊ドリアードを生み出した。
 フェルベチカの意識を残した、中途半端なドリアードを・・・


=====================================


  癒(いや)されぬ 傷を抱(かか)えて
  強いふりした 儚(はかな)き者よ
  喧騒(けんそう)の波に 呑(の)まれて
  今日もまた 彷徨(さまよ)い続けてる

  止まることない 時間の中で
  この目に見るモノ 聴こえてくる声
  いつも 受け止めてゆこう

  Graceful World 出逢いも別れもすべては僕らのためにある
  この青い星のもとに 生まれたことを喜びあおう
  Fulfill my Dreams 過ぎ去りし日々が輝くあの太陽みたく
  いつまでも誇れるように 胸に抱きしめまた歩き出そう


====================================


「ね、ゼルガディスさん。ガイア様はきっと、ゼルガディスさんを罰したかったんじゃないんですよ」
 立ち上がりながら、アメリアがゼルガディスに手を差し出した。
「自分の手で、変えさせようとしたんです。きっとそうです!」
「・・・そうだといいな」
 アメリアの手を借り、同じように立ち上がって、ゼルガディスがマナ・ディーパを見つめた。


====================================


  こうしてる今も どこかで
  泣いている人達がいるでしょう
  さまざまな 思い詰まった
  その涙 無駄にはしたくない

  決して自分を 諦めないで
  小さなことでも 出来ることがある
  とても 大切なこと

  Graceful World こうして僕らの心は今勇者になった
  この広い空の下で 迷いながらも共に生きよう
  Fulfill my Dreams この先にどんな試練が待ち受けていようとも
  目を背(そむ)けずにいて欲しい 幸せはほら目の前にある


====================================


 フェルベチカとヴィオグニールがその後どうなったかなど、誰もわからない。
 ただ確信できるのは、フェルベチカは間違いなくヴィオグニールに会えただろうという事だけ。
 ガイア神の恩恵で歴史が変わったとしても、
 あの時フェルベチカを自分の手で殺(あや)めたという事実は消えない。
 それがレゾの言いなりになっていた頃の自分だったとしても―
 腕に残る傷と共に、一生背負わなければならない記憶。
 それが彼女らに、全てに対する償(つぐな)い。
 腕の傷を服の上からさすると、かすかに熱を感じたような気がした。 
 

====================================


  Graceful World 出逢いも別れもすべては僕らのためにある
  この青い星のもとに 生まれたことを喜びあおう

  Graceful World こうして僕らの心は今勇者になった
  この広い空の下で 迷いながらも共に生きよう
 

====================================


 地下への入り口は、慰霊碑で塞がれていた。
 もう二度とここを使わなくていいように。
『過(あやま)ちを繰り返さない為に』
 慰霊碑に書かれた言葉を、ゼルガディスは胸に刻み込んだ。


 草原を去った二人の後、周囲の木々の隙間では、人の目には見えない精霊達が何言か囁(ささや)き合って―
 やがて風景に溶け込むようにして、消えていった。



************************************

 「Graceful World」 songed by Every Little Thing

 ・・・お疲れ様でした。
 事実から目を背けないのがゼルガディスの強さなんじゃないかなーと思い、書いたらこうなりました。
 いつもはアメリア寄りな話ばっかり書いているので、ゼルガディス視点が多い話は少々苦労しました(汗)。
 次は反動でギャグがきそうな予感がします(笑)。
 ともあれ、お付き合い有り難うございました。

 水晶さな拝

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6218お疲れ様でした!雫石彼方 3/31-03:19
記事番号6206へのコメント


レスするの遅くなっちゃいましたが、連載終了お疲れ様でした☆

さなさんの書かれるお話はいつも深くて素敵ですよねーv
特にガイア教とか、設定が素晴らしいです(><)最初、ほんとにそういう宗教があるのかと思っちゃいましたもん。
ルワ・アトナとかも神秘的で素敵vでも、眼に魔力が集中してるってのを読んだ時に、思わず「目からレーザービームとかを発射するんだろうか・・・・?」とか本気で考えてしまったおバカさんです、私・・・・(--;)

何はともあれ、フェルベチカさんもヴィオグニールさんも幸せになれてよかったです!!

ではでは、この辺で。

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6226ありがとうございますv水晶さな E-mail 4/1-01:13
記事番号6218へのコメント


>レスするの遅くなっちゃいましたが、連載終了お疲れ様でした☆

 いえいえありがとうございます〜(^^)


>さなさんの書かれるお話はいつも深くて素敵ですよねーv
>特にガイア教とか、設定が素晴らしいです(><)最初、ほんとにそういう宗教があるのかと思っちゃいましたもん。

 設定に凝り過ぎて内容たまに忘れます(爆)。ああでも設定考えるのが好きなので嬉しいかもv
 ガイア神は神話の女神様だけど、実在しててもおかしくはないなーと思いつつ書きました。本人無宗教のくせに宗教関係の話を書きたがる奴(爆)。


>ルワ・アトナとかも神秘的で素敵vでも、眼に魔力が集中してるってのを読んだ時に、思わず「目からレーザービームとかを発射するんだろうか・・・・?」とか本気で考えてしまったおバカさんです、私・・・・(--;)

 宝石のような目とか書きましたが、実際そこまで輝いた目持ってるとコワイですよね(笑)。レーザー・・・出るかもしれない・・・(←爆)。


>何はともあれ、フェルベチカさんもヴィオグニールさんも幸せになれてよかったです!!
>ではでは、この辺で。

 ゼルが頑張ったおかげです(^^)
 コメントありがとうございました〜vv

 水晶さな.

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6247あああ、完全にタイミングがっ!あごん E-mail 4/2-04:14
記事番号6206へのコメント

こんばんは、あごんです!!
ちょっと仕事に忙殺されてる間に、最終回を迎えられたのですね・・・。
今更のレスもないだろー、とか思いながらも、レスさせて頂きます。

ゼルvsゼルという大変面白い対決で、非常に新鮮でした。
全ての伏線が見事に消化され、ひたすら感服です。
フェルベチカもヴィオと無事会えたことでしょう。
現在のゼルが過去のゼルを。きちんとクリアしたのですから。
マナ・ディーバのこぶもちゃんとした意味があったのですねぇ。
もーさすが。さすが。さすがの水晶様ですvv

フェルベチカ後援会会長としては少し寂しい気もしますが。
彼女の幸福に代えられるものなんてありません!

素敵な物語をありがとうございました!!
あごんでした!

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6256ひょっと下まで見て良かったああぁ!!!(汗)水晶さな E-mail 4/2-23:34
記事番号6247へのコメント


 こんばんわ水晶ですっ! 今ちょっと下まで見てマジで良かったとまだドキドキしてます!!(爆)
 レスありがとうございます〜vv 今話は人によって好き嫌いが分かれそうだな〜と不安だったので(汗)。


>ゼルvsゼルという大変面白い対決で、非常に新鮮でした。
>全ての伏線が見事に消化され、ひたすら感服です。
>フェルベチカもヴィオと無事会えたことでしょう。
>現在のゼルが過去のゼルを。きちんとクリアしたのですから。
>マナ・ディーバのこぶもちゃんとした意味があったのですねぇ。
>もーさすが。さすが。さすがの水晶様ですvv

 ゼルガディスVS過去のゼルガディスで、書き分けするのが面倒な上に名前を表記するだけでも長ったらしいとかなり作者マジ泣きが入りました(爆)。
 わかりにくい伏線も何とか消化されたみたいで、それだけで作者感涙です(核爆)。
 それと、あんまり誉められると溶けます(どろり←うわ)。


>フェルベチカ後援会会長としては少し寂しい気もしますが。
>彼女の幸福に代えられるものなんてありません!

 はうあ! そこまでフェル気に入って頂けたんですか!! ちょっとマジ泣きしますよ!?(爆)


>素敵な物語をありがとうございました!!
>あごんでした!

 あごんサンに喜んで頂けただけでかなり作者も舞い上がってます(笑)。
 嬉しいレスを有り難うございます! 
 次はインドチックな宗教関係(又か)のネタ思い付いてたり・・・。

 水晶さな.

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