◆−男たちの受難≪前編≫−ねんねこ(2/23-14:51)No.5788
 ┣男たちの受難≪後編≫−ねんねこ(2/23-14:54)No.5789
 ┣THE DAY OF JUDGEMENT 9−ねんねこ(2/26-01:39)No.5805
 ┃┗咳き込んでる魔剣士殿が心配−桐生あきや(2/26-20:39)No.5809
 ┃ ┗話が続くかという方が心配(爆)−ねんねこ(2/27-10:28)No.5814
 ┣THE DAY OF JUDGMENT 10−ねんねこ(3/1-02:15)No.5825
 ┃┗口笛はなぜ〜♪−桐生あきや(3/1-03:59)No.5826
 ┃ ┗遠くまで聞こえるの♪(間違ってる可能性大・爆)−ねんねこ(3/2-02:43)No.5836
 ┣THE DAY OF JUDGMENT 11−ねんねこ(3/2-02:45)No.5837
 ┃┗「にょ」−あごん(3/3-00:26)No.5851
 ┃ ┗「にょにょ」−ねんねこ(3/3-02:11)No.5854
 ┗THE DAY OF JUDGMENT 12−ねんねこ(3/8-02:09)NEWNo.5912
  ┗浦島太郎な気分。−雫石彼方(3/8-03:16)NEWNo.5913


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5788男たちの受難≪前編≫ねんねこ E-mail URL2/23-14:51



ちょっと死にかけねんねこです。誰か下のツリー、けり落とすのに協力してください(笑)
実は、THE DAY OF JUDGMENTの話の都合上、どうしても外せない過去の話がありまして。
でもその話というのが、自分のHPでしか公開されてない物で読んでいらっしゃらない方がたくさんいらっしゃるのではないかと。
読んでないと話が通じないことに気づいたので、ここに投稿させていただきます。
ではどうぞ。

===================================

「クラヴィスさん」
 アメリアが真剣な面持ちでクラヴィスに声をかけてきたのは、夕食も済んで、酒をちびちびやっていた時だった。
「んー、どーしたの?」
 ゼルガディスとゼロスの恨みがましい視線を浴びながら、クラヴィスは応えた。
 面倒見の良さからか、クラヴィスはアメリアから好かれていた。無論、人間として、という意味だが。
 ゼロスはともかく、ゼルガディスにとって、それは喜ばしいことではあった。折り合いが悪く、旅の間中ずっとケンカされていてはこちらとしてもたまったものではないからだ。仲が悪いより、仲が良い方が良いに決まっている。
 ――とはいえ。自分の想い人が何時になく真剣な眼差しで、自分以外の男を見ているのは面白くなかった。
 苦虫を噛み潰したような顔つきでゼルガディスとゼロスは二人の会話を見守った。
 クラヴィスの言葉にアメリアは彼の顔をしっかりと見つめ、きっぱりと言ってきた。
「クラヴィスさんっ! わたしと結婚してくださいっ!」
 ぶふっ!
 ゼルガディスとゼロス、そして言われた当人のクラヴィスがほぼ同時に口に含んでいた酒を吹き出しそうになり、むせた。


  男たちの受難≪前編≫


「なななななななななななななななな」
 とりあえず、プロポーズ(と言うべきなのだろう)をされて、クラヴィスはしきりに『な』を連呼しながらアメリアを指差した。
「ななな、なに言ってんだよ!? アメリアちゃんっ!」
「クラヴィスさんっ、結婚してくださいっ! わたし、あなたじゃないと駄目なんですっ!」
 真剣な表情で、訴えてくるアメリアにクラヴィスはうめく。
「いやまあ、そりゃゼルよかなんぼかいい男だとは自分でも思うけどさ……んなこと急に言われたって……」
 困る。
 そう言いかけて、クラヴィスは慌てて座っていた場所から飛び退いた。一瞬遅れて、つい先程まで彼が座っていた椅子が粉々に砕け散る。
 誰がやったのかはすぐにわかった。
 クラヴィスは慌てて、右手に魔力球を溜めているゼロスと手にハリセンを握り締めているゼルガディスに両手を横に振った。
「ご、誤解だっ! なんもしてないぞっ、オレはっ!」
「……まだ何にも言ってないじゃないか? なんでそんな言い訳するんだ? クラヴィス」
 優しいとさえ思える微笑みでゼルガディスは言った。が、その声は、背筋が凍るほど冷たい。隣でゼロスも言ってくる。
「後ろめたいことがあるからそういう言い訳するんですね、クラヴィスさん」
「ちっがぁぁぁぁぁぁぁっ!」
 目に涙さえ浮かべて、クラヴィスが絶叫する。
 はっきり言って、アメリア関係で、ゼルガディスとゼロスを同時に怒らせることはほぼ――というか確実に死を意味した。何とかここで、『アメリアに何もしていない』という自らの潔白を証明しないと、先に遠い空の向こうへ旅立った自分の妻と感動的な再会を迎えることになる。
「アメリアちゃんっ! なんとか言ってくれよっ!」
 言われてアメリアはにっこりと笑った。
「わたし、ゼルガディスさんもゼロスさんも好きですけど、クラヴィスさんのことが一番好きなんです」
 その言葉にゼルガディスとゼロスがさらにクラヴィスに詰め寄った。
 真っ青になって、クラヴィスが後退る。
「な、何はともあれこれは絶対何かの間違いだっ! 何かのいんぼーだぞ!? おいっ! お前らっ! どーしてそんな不気味な笑顔で近寄って来るんだっ!?
 あ、ゼルっ、てめぇハリセンにアストラル・ヴァインかけやがったな!? なんで真っ赤に光ってんだよ、おいっ!」
 クラヴィスの悲鳴のような叫びにゼルガディスは笑った。不気味な笑顔ではなく、無表情で。
「ははははは。なかなか面白いこというじゃないか、クー。誰の陰謀なんだ? 自分のした事を他人のせいにするなって俺に教えたのは確かお前だったよなー」
「じゃあ、自分のやった事の償いをしなくちゃ駄目ですねぇ、クラヴィスさん」
「だぁぁぁぁぁぁっ! オレは無実ぅぅぅぅぅぅぅっ!」
 日頃の行いのせいか、こと女関係になると、クラヴィスの信用度は格段に下がる。というか、ほぼ無きに等しい。さらにぐたぐたと弁解するクラヴィスに構わず、ゼルガディスは魔力を込めたハリセンを振り被った。
 が、クラヴィスは近くで傍観していたアメリアの腕を引っ張って、自分の方へ引き寄せると、素早く彼女を盾にする。思わず動きを止めたゼルガディスにクラヴィスは頬に一筋の汗を流しながら言った。
「ははんっ、さしものお前もアメリアちゃんには手を出せないだろっ!」
 女の子を盾にするなんて自分の主義に合わなかったが、生きるか死ぬかの瀬戸際で、そんな甘っちょろいことを言ってられない。勝ち誇った様子のクラヴィスにゼルガディスはうめいた。
「うくっ!」
 ゼルガディスは今度はきょとん、として自分の前に立つアメリアに詰め寄った。
「ア、アメリアっ! お前もお前だっ! いったい何てこと言い出すんだっ!? やっぱり、馬鹿クーに脅されてるのかっ!?」
「をい」
 アメリアの後ろでクラヴィスが半眼になってゼルガディスを睨みつけた。が、ゼルガディスはあっさりとそれを無視して、アメリアをまっすぐ見つめて――微妙に顔をしかめた。
「……どうしたんですか? ゼルガディスさん?」
 不思議そうに尋ねてくるアメリア。とりあえず、彼女の言葉を無視して、ゼルガディスはアメリアの顔を覗き込む。顔というより、彼女の蒼い瞳を。
「ちょっとゼルガディスさんっ! なぁにどさくさに紛れてアメリアさんに近づいているんですかっ!?」
 後ろから怒鳴ってくるゼロスに手招きして、ゼルガディスはアメリアを指差した。
「……なんか変じゃないか?」
「え?」
 ゼルガディスに言われて、ゼロスもアメリアの瞳を覗き込む。クラヴィスも興味を引かれて、ゼルガディスとゼロスの間から彼女を見た。
 相変わらず綺麗な蒼い瞳。だが、いつもは透き通った蒼が、今日に限って微かにくぐもって見える。
 疑問符を浮かべるアメリアをよそにゼロスがぽつりと呟いた。
「……なんかの術が掛かっているみたい、ですねぇ」
『術?』
 声をハモらせて尋ねてくるゼルガディスとクラヴィスにゼロスはこくんと頷いた。
「そんな魔族の呪いとかそういう大したものじゃないんですけど……なんていうか催眠術の一種ですかね」
「催眠術……」
「ええ。多分アメリアさんがいきなりクラヴィスさんにプロポーズだなんて絶対全くありえない不可解な行動したのもきっとそのせいなんでしょう。もっとも、クラヴィスさんがアメリアさんに後ろめたい事をしていなければ、の話ですが」
 まだ疑っているのか、冷ややかな視線をクラヴィスに送りながらゼロスは言った。
 そんなゼロスに引きつった笑みを返しつつ、クラヴィスは言う。
「ンなことしてたらすぐにお前らにバレるだろーが。
 で? どうすればこの催眠術解けるんだ?」
「んー、難しいんですよねー」
 ゼロスが困ったような顔をした。
「催眠術って言うのは、素人が使ったり、無理に術を解いたりすると、かけられた人が精神崩壊を起こす可能性があるんですよ。
 ですから、どうやって掛けられたのか、何をするようにインプットされたのか、どんな合図で、その行動が起こるのか、どうすれば、術を解くことができるのか、全て理解していないと安全に解くことは出来ないんですよ」
 ゼロスの説明にゼルガディスは苦い顔をした。怪訝な顔をするアメリアを見て、うめく。
「つまり――術を掛けた奴を探さなければ、アメリアはこのまんま、ってぇわけか……」
 ゼルガディスの言葉にゼロスも沈痛な面持ちで頷いた。


 やっと内輪揉めが納まって、安堵の息を吐きながら再び酒を楽しむ店の客たちに紛れて、黒い服を着た男が始終彼らを見ていたことに、今はまだ誰も気付いていなかった――



「とは言うものの――」
 ゼルガディスがため息をついた。
「全くって言っていいほど手がかりが無いんだよな……」
「まあ、まずは情報収集から始めてみようぜ。もしかしたら、アメリアちゃんのこと、覚えている人がいるかもしれないし」
 クラヴィスが言った。
 あの騒ぎから一夜明けて――
 もしかしたら、治っているんじゃないか、という3人の期待を裏切って、アメリアに掛かった術はまだそのままだった。とりあえず、街に出よう、ということでアメリアを含めて、外に出たのだが――アメリアは相変わらず、クラヴィスにぺったりと引っ付いていた。いつもその役をしているゼルガディスは物欲しげな視線をクラヴィスに送っていた。
「だぁぁぁっ! もーさくさく解決すればちゃんとアメリアちゃん元に戻るから!」
 うっとうしい、と言ってくるクラヴィスにゼルガディスはため息をついて、街の大通りを見回した。
 いくつもの国が集まって一つの大きな国を形成している沿岸諸国連合。その中のうちの一つに、戦争を好まず、平和主義を唱える国があった。
 それがここ、彼らがいる“平和な国<ピースランド>”と名づけられた国である。数年前、とある国から独立した小さな国とはいえ、一国の王がすむ城の城下町とあって、街は賑わっていた。
 昨日、ここに来てからのことを思い返してみる。
 昼頃、ここについて、まずはじめに宿屋へ向かった。
 宿の手配も整ったところで、いつものように各自自由行動にしたわけだが――
「アメリア、昨日はどこをどー行ったんだ?」
 催眠術を掛けられた記憶は無いが、とりあえず、昨日の記憶はちゃんとあるというアメリアにゼルガディスが尋ねた。彼女は昨日、自由行動の際、一人で街に出かけていた。
 んー、と少し考え込んでアメリアが中央広場のほうを指差す。
「あっちの方行きました」
 アメリアの答えにゼロスが頷いて、言った。
「じゃあ、まずそこに行ってみましょうか?」
 言いながら、アメリアに近寄っていくゼロスをゼルガディスが手で制した。ゼロスがむっ、とした顔でゼルガディスを見た。
「何するんですか」
 その言葉にゼルガディスは半眼でゼロスを見る。
「よくもまあいけしゃあしゃあとそういう事が言えるな。昨日の今日でなにやらかすかわかったもんじゃないからな、お前の場合」
 引きつった顔でゼルガディスが言った。
 何を言われているのか理解して、ゼロスはああ、という風にポン、と手を打った。
「ちょっとしたお茶目じゃないですか」
「お茶目で済ますなっ!」
 青筋を立てて、ゼルガディスはゼロスの後頭部を取り出したハリセンではたいた。
 昨日の夜中――
 急に響いたアメリアの悲鳴にゼルガディスとクラヴィスが駆けつけてみれば、アメリアの枕もとにクラヴィスの姿をしたゼロスが立っていたのだ。ゼロスは単にもしかしたらアメリアの催眠が解けるきっかけになるかもしれないから試してみただけだ、などと自分の身の潔白を主張したが、絶対にあれは良からぬことを考えていた、とゼルガディスもクラヴィスも確信していた。
 別に痛くも痒くもなかったのだが、なんとなく殴られたところを摩りながら歩くゼロスを筆頭に4人は中央公園に向かって歩いていく。
 その様子を近くの建物の影から見ていた昨日の黒服の男は、それを見届けるとさっと身を翻して消えていった。
 それにただ1人アメリアは気付いて――微かに顔をしかめた。
 彼女のその表情に、彼女と共に歩く三人の男達は気付いていなかった。

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5789男たちの受難≪後編≫ねんねこ E-mail URL2/23-14:54
記事番号5788へのコメント


「ごめんなさい。わたし、あなたと結婚できません」
 彼女にだけは一番言われたくなかった言葉。
「あなたのこと、幼なじみとしか思えないんです」
 でも僕はずっと君のことを……
 僕は無理に微笑んだ。
 彼女を困らせちゃいけない。
「良いんだよ、アメリア」
 僕の言葉にアメリアが瞳に涙を浮かべた。
 僕の気持ちに応えることの出来ない自分を責めているんだろう。彼女は優しい娘だから。
 白い頬をつたう涙を指でぬぐって、彼女を優しく抱きしめた。
「良いんだ。泣かないで」
「でも……」
「僕は君が幸せでいてくれたらそれでいいんだ」
 嘘だ。
 今この場から彼女をさらっていきたいと思っているのに。
 僕の口は僕の気持ちに反した言葉がどんどん出てくる。
「幸せになってね、アメリア」
 違う。違うんだ。
 彼女を幸せにするのは――彼女を幸せにしたいのは僕なんだ。
 気付いてよ、アメリア。
 だけど、アメリアは僕の心の叫びも気付かず、うわべの言葉に微笑んだ。
「ありがとう」
 違う……
 僕は泣きそうになるのを必死に堪えて、やっとの思いで言葉を吐き出した。
「……ねえ、もし君に好きな人ができたら僕に紹介してよ」
 きょとんとした彼女の顔。
 不思議そうに僕を見つめていたが、やがてにっこりと笑った。
「わかったわ。幼なじみですものね」
 彼女の言葉に、もう僕の気持ちが彼女に永遠に届かないことを僕に教えた。
 そう……僕はもうただの『幼なじみ』なんだ。
 だから、僕が選んでやる。
 彼女が連れてきた男が彼女にふさわしいか、僕が試してやる。


  男たちの受難≪後編≫


 ピースランドの城は、少し切り立った崖の上に立っている。
 城の一室――ピースランド第一王子の執務室で、1人の青年が窓から城下町を眺めていた。
 年の頃から18、9。金髪碧眼の美青年である。その青年――ピースランド第一王子は口元に笑みを浮かべた。
「今頃、彼女は何をしているんだろうでしょうかね?」
 昨日、城を抜け出したときに偶然会った幼なじみの少女のことを思い出す。口元に浮かべた笑みを苦笑に変える。
「全く、久しぶりに会ったと思ったら、すぐ男の話なんかしちゃってさ。ひどいよな」
 嬉しそうに連れの事を話していた幼なじみを思い出す。
「……ま、彼女がベタ惚れな青年クンたちは一体どこまで奮闘してくれるんだか」
 呟く。
 すると、ドアがノックされた。王子は慌てて、執務机とにらめっこして、インクのついていないペンを握る。極力平静を保ちつつ、返事をする。
「入って良いですよ、鍵は開いてます」
 彼の言葉に従って、扉は開いた。入ってきたのは黒服の男。昨日の晩から、ゼルガディスたちを見ていた男だった。
 黒服の男の姿を見て、王子は安堵の笑みを浮かべた。ペンを放り出し、頭の後ろで手を組んで、椅子に深くもたれかかり、足を組んだ。
「どーだった? リオン」
 王子の言葉に黒服の男――リオンは淡々と答えてきた。
「今のところは進展なし、と言ったところです。どうやらアメリア様に術が掛かっている、というところまでは掴めたようですが。現在、術をかけた人間を街で探しているようです」
 リオンの報告に王子を感嘆の声をあげた。
「ふぅむ……一日経たずしてそこまでわかるとは……結構上手くかけたと思ったんだけど……相手は結構手強そうだな」
 それと、術にも改良の検討が必要だな、と呟く王子にリオンはやはり淡々と告げてくる。
「アリータ様」
「なんだ?」
 名前を呼ばれて、王子――アリータ=ラル=エスト=ピースランドは、リオンに顔を向けた。リオンはきっぱりと言ってくる。
「他人を巻き込んで遊ぶのは構いませんが、仕事ちゃんとやってください。あの件だって、まだ解決されていらっしゃらないでしょう?」
 言われてアリータはあう、とうめいた。執務机に置かれた書類にちらりと視線を走らせる。
「あの件ってこれだろう? 街の近くに住んでいる変なじーさんが夜な夜な変な実験してると言う……だいたいなんでこれが僕のところに回って来るんだ? こういうのって役人の仕事だろう?」
「役人じゃ手に余るからあなたのところに回ってきたんじゃないですか」
「……僕は元来平和主義でねぇぇぇぇ」
「それはあなたのお父上でしょう。人を操る術を片っ端から学んで、あわよくばそれを使って城から逃げ出そうと常日頃考えているあなたが何を言ってるんですか」
「ううう、あんまり変なのと関わりたくないんだよねー」
「あなたにお仕えして早5年。下手にこちらが優しくするとあなたは調子に乗りますから駄目です。ただでさえ、『優柔不断は嫌いだ』言われて、アメリア様に婚約破棄までされたんですからさっさと決心つけて退治しに行ってください」
「あああ言わないで思い出すだけで泣けてくるから。ひどいよひどいよアメリア。僕を捨てて他の男といちゃいちゃするんだから……」
(……あなたが『男が出来たら紹介してね』って言ったんでしょうが……)
 すぐに愚痴をたれるアリータの癖がまた出て、それを見ながらリオンは小さく嘆息した。だが、何も言わずにそのまま黙っている。彼はすぐに愚痴をたれるが、すぐに復活すると知っているからだ。
 案の定、愚痴がぴたりと止まる。同時にアリータがにんまりと笑った。
「なあ、頼み事があるんだ、リオン」
「出来ることなら何なりと」
 リオンの言葉にアリータは机の上の書類の山から一枚ぴらりと掲げる。
「アメリアの連れの青年クンたちに魔道士退治させる、ていうのはどう?」
「……………後でバレた時にアメリア様になにを言われても知りませんからね」
 無茶苦茶な提案をしてくるアリータにしばしリオンはアリータに冷たい視線を送った。


「昨日この辺りに、この子がいたのを見ませんでしたか? お嬢さん」
 時を同じくして城下町の中央広場。
 腕に引っ付くアメリアを何とか引き離し、クラヴィスは無意味にウインクしながら、広場にいる女性のみを片っ端から尋ね歩いていた。
 もともとの顔の良さと、口の上手さのおかげで、彼に尋ねられた女性達は嫌な顔一つせずに――むしろ、声をかけて舞い上がっている様子で答えてくる。あまり――というか全く役に立たない情報ばかりだったが。
 それを遠巻きに眺めて、ゼルガディスは呆然と呟いた。
「……きっとあー言うのが将来結婚詐欺師とかにになるんだろうなー……」
 うめいて、思わずそれを想像して、慌てて頭を振る。近くの空いているベンチを見つけて、そこに腰をかける。
 少し視線をずらせば、ゼロスがやはり聞き込みを行っている。相手は、クラヴィスが見向きもしない男どもだったが。
 ゼルガディスは荷物の中から、精神学の書物を取り出した。彼はキメラと言うその身体ゆえ、深くフードを被っているので、フレンドリーに話し掛けられず、聞き込みなど出来ないのだ。
 取り出した書物をぺらぺらとめくって、該当する内容のところを探す。
 ――ゼロスの話では。
 アメリアに掛けられたのはただの催眠術じゃないらしい。使い慣れた人間が、巧妙に掛けたと言うのだ。
 簡単な催眠術ならゼルガディスも使うことが出来る。まだ幼かったころ、催眠術の基礎を屋敷に一緒に住んでいたその道のプロに習ったのだ。が、基礎を習い終わって、いざ実際に使えるように応用――というところで、
『もーやめろ。いーからやめろ。とにかくやめろ。さっさとやめろ。やめろったらやめんかいっ! このくそガキっ!』
 などとクラヴィスに問答無用にやめさせられたのだ。どうやら、ちゃんと使えるかどうかの実験台にされたのがお気に召さなかったらしい。
 ただ単に『レゾに名前を呼ばれたら、思い切り殴れ』と刷り込んだだけだったのに。ゼルガディスの催眠が成功して、しこたまレゾに殴り返されて、ぼろぺろに泣きながら帰ってきたクラヴィスのあの姿は今でも思い出すだけで笑える。
 閑話休題。
 とにかく、彼女にかけられた術について、少しでも多くのことを知っていた方が良い。見ているだけで眠くなりそうな精神学の専門用語とにらめっこしながら、ゼルガディスはため息をついた。
 と。
 隣にアメリアが寄って来て、座った。ゼルガディスに困ったような顔を向けて、言ってくる。
「……諦めますか? 手がかりないし……」
「まさか」
 冗談、という風にゼルガディスは肩をすくめた。彼女の頭をわしゃわしゃ撫でる。
「ンなことするか。ちゃんと俺が解いてやるから」
 ゼルガディスの言葉にアメリアがにゃぱ、と笑った。
 その様子にゼルガディスが微笑んだ。
「――良い雰囲気のところ申し訳ございませんが――」
 突然乱入した声にゼルガディスとアメリアが驚いてそちらを見やった。立っていたのは、黒い服の青年だった。彼を見て、アメリアが僅かに顔をしかめる。
「…………?」
 彼女の表情の変化にゼルガディスが気付き、怪訝な顔をする。が、アメリアはそれに気付かず、男を見た。男は、礼儀正しく一礼した。
「私、リオン=エクシードと申します。実は、昨日そちらのお嬢さんが不審な老人にからまれている所を見まして……」
「なにっ!?」
 ゼルガディスがベンチから立ち上がった。リオンは淡々と続けてくる。
「その老人、今、この街の人間たちから恐れられているものでして……夜な夜な人体実験をしてる、という……」
 人体実験、というその言葉にゼルガディスは息を呑んでアメリアを横目で見た。
「無論、噂でしかありませんが、そのお嬢さんを見る限り……噂は本当だったようですね」
 リオンは落胆するように頭を振った。
「その魔道士はどこにいる?」
 ゼルガディスの言葉にリオンはじっと彼を見た。澄んだ藍青色の瞳。その瞳はただ一つのことを考えているように思えた。
 ――『彼女を元に戻したい』。ただそれだけを。
 リオンは嘆息した。
「魔道士が住んでいるのは、街の郊外にある屋敷です。ここから行くと、ちょうど北東の方角です」
「わかった。情報、どうも」
 頷いて、アメリアの手を引いて連れのところに向かおうとするゼルガディスをリオンは呼び止めた。怪訝な顔をして振り返るゼルガディスにリオンは言った。
「……退治したら、城へ来てください。彼女もいることですし、私の名を言えば入れてくださるでしょう」
「……なんでそんな必要があるんだ?」
 尋ねてくるゼルガディスにリオンはちらり、とアメリアに視線を走らせた。意味ありげに。
「来て下さればわかります。あなたもきっと言いたいことがたくさんおありでしょうから」
「?」
 言うだけ言って、立ち去っていくリオンを見送って、ゼルガディスはさらに怪訝な顔をしたが、ふと先程のアメリアの表情を思い出して、アメリアを見る。
「……アメリア、あいつを知っているのか?」
 その問いにアメリアはゼルガディスを見上げた。
「…………もしわたしに何かあったらゼルガディスさんどうしますか?」
「アメリア?」
 ゼルガディスに名前を呼ばれて、アメリアが曖昧に微笑んだ。
「ちょっとね、不安になっちゃっただけです。ちゃんと解いてくださいね」
「え、あ、ああ。もちろん……」
 不審なアメリアの行動に眉をひそめながらもゼルガディスが言ってくる。その返事を聞き流しながら、アメリアはあごに手をやった。
(……なんか話が違う気がするわ……)
「ところでアメリア」
「え、あ、はい?」
 呼ばれてアメリアはゼルガディスの方を見上げた。その顔をゼルガディスが両手で押さえつけて、顔を近づけてくる。
(にょへぇぇぇぇぇぇぇっ!?)
 突然のことでアメリアが真っ赤になる。が、ゼルガディスは落胆したような顔をした。
「……お前、いつもの通りに戻ってるから術解けてるのかと思ったんだが……違ったみたいだな……」
「あえ?」
 間の抜けた声をアメリアがあげると、ゼルガディスはアメリアの顔から手を離した。
「まあ、その人体実験する魔道士とやらにお前の術を解いてもらえばいいだけのことだ。行くぞ、アメリア」
 言ってすたすたと聞き込みを行っている――クラヴィスはほとんどナンパに近い状態ではあったが――2人の元に報告しに行くゼルガディスの背中を眺めながら、アメリアは、ほてった頬を両手で押さえた。
(……キスされるかと思っちゃったじゃないですか……)
 アメリアは嘆息して頭を振ると、ゼルガディスの後をとことこと追いかけていった。


「――で、ここ?」
 相変わらずアメリアを腕にくっつけて、クラヴィスは空いている方の手で屋敷を指差した。
 ゼルガディスがこくんと頷く。
「多分な、あのリオンって言うやつの話が正しいなら」
「いかにも、って感じですね」
 ゼロスが呆れたようにぽつりと呟く。
 目の前にある屋敷は廃墟のように寂れていた。入口の門と柵には、何年もほったらかしにしたようにツタが巻きついて、まるで入る者を拒んでいるようにも見える。
「とりあえずここで突っ立っててもしょうがないし、アメリアちゃんも早く元に戻さないと、オレの命も危ういし……入ってみようぜ」
 アメリアがクラヴィスにくっつく度ゼルガディスとゼロスが険悪な目つきで彼をにらみつけてくるのだ。クラヴィスがいなくなればいいのでは、などと考え出し、2人がクラヴィス抹殺を図るのも時間の問題だろう。
 クラヴィスの提案に、3人は同時に頷いた。
 門に手をかければ、何度も出入りしているためだろう。ツタは引きちぎられていて、すんなりと開いた。そのまま中庭を抜け、屋敷の扉に手をかけた瞬間。
「なにしておる!? 不法侵入者がっ!」
 背後から声が響いて、一同は何の緊張感もなく振り返った。
 視線の先にいたのは、園芸用のはさみを持った魔道士風の老人。あまりこれといって特徴はないが、目つきだけはひたすら悪い。
 ゼルガディスが眉をひそめた。
「……あんたがここの屋敷の主か?」
 尋ねると老人はうむ、と頷いた。
「いかにも。なんじゃ貴様らは?」
「いえ……ここの人が、夜な夜な人体実験を繰り返しているから何とかしてほしい、と頼まれてきたんですが……」
 ゼロスが困惑したように言ってくる。
 なんというか――目の前にいる老人が、人体実験までする人間には見えなかったのだ。さらに言うなら、アメリアに高度な催眠術をかけたようにも。
 魔道士風、といっても着ている服が魔道士ルックなだけで、老人そのものは魔道士、というよりもただの頑固じじいと言う感じだった。
 ゼロスの言葉に老人がさすがに眉をひそめた。
「何かの間違いじゃないのか? わしゃ人体実験なんぞしておらんぞ? ただの実験はしてるが」
「何の実験なんですか?」
 アメリアの問いに老人は目を輝かせた。
「おお、聞きたいか!? いや実はな、この歳まで1人でいるとやはり夜など寂しくてのぅ。話し相手が欲しかったんじゃが、息子夫婦はわしを引き取るのを拒んどるし、この屋敷の外観のせいか、近所のゲートボールにも入れてもらえんでな。
 人間が相手にしてくれないのなら、動物とでも思たんだが、猫を飼っても犬を飼ってもすぐにどこかに逃げてしまう始末。
 だからわしは植物に目をつけてな――」
「……まだ続くのか?」
「続くんだろ、きっと……」
 老人の話の間にクラヴィスとゼルガディスがうんざりしたような顔で呟きあう。が、耳が遠いせいで老人には聞こえなかったらしい。そのまま話を続けていく。
「――いろいろな研究に研究を重ねて、ついにわしは喋る植物を開発したのじゃっ!」
『……喋る植物……?』
 呆れた顔をして、4人は声を唱和させる。老人は久方ぶりに自分の話を聞いてくれる人間が現れたせいか嬉しそうに頷いた。
「うむ。見た目はヒマワリのような感じなのだがな、花の部分に口があり話しかけると笑ってくれるのじゃ。
 だがひとつ問題があってのう。たくさん作ったはいいがなんでか夜中になるといきなりいっせいに笑いだすらしくてのぅ。何度か役人に切るよう言われたんだが……やっぱり親心と言うかなんと言うかで切れないんじゃよ」
 心底困ったような顔で言ってくる老人に思わず一同は脱力した。
 ゼルガディスが呟く。
「そーかだから城に来い言ったのか、あの男は?」
「どーすんだ? このままほっておくか?」
 クラヴィスの問いにゼルガディスはうめいた。
「……切り取っちまえ。そんな花」


「リオン=エクシードに今すぐ会わせろ」
 かなり険悪な眼差しで城の入口に立つ兵士を睨みつけながらゼルガディスは言った。兵士は眉をひそめたが呼び出した相手がさして重要人物でもないただの世話役なせいか、少し待つように言ってきた。それからまもなく通された部屋でリオンは直立不動で立っていた。
 彼はポーカーフェイスでいけしゃあしゃあと言ってくる。
「ついさっき報告がありましたよ。老人が育てていた花を全部焼き払ってくださったそうですね。ありがとうございます」
「そうじゃないだろ!? 話が違いすぎるっ!」
 リオンの胸倉を掴んでゼルガディスが声をあげた。が、リオンは全く動じずにゼルガディスの手を振り払った。
「私は『彼が人体実験してる』などと断言はしていないでしょう? 『人体実験しているという噂はある』と言っただけで。勘違いしたのはあなたの方でしょう」
「うくっ!」
 確かに断言はしていなかったかもしれない。ゼルガディスがうめくとリオンはゼルガディスから視線をはずし後ろの3人の方に目をやった。
「……アリータ様のご面会の許可はとってあります。お会いになってはいかがですか?」
「アリータ様?」
 ゼロスが怪訝な顔をした。その隣からクラヴィスが答えてくる。
「この国の第一王子の名前だよ。アリータ=ラル=エスト=ピースランド」
 もともと情報集めの得意なクラヴィスにとっては王位継承者くらいはほとんど把握していた。大国はそれに加えて人間関係などもとりあえず把握してはいたがピースランドのような小国まで人間関係を把握できるほどの根性はない。
 アリータの名前程度しかクラヴィスは知らなかった。
 それに付け加えるようにしてアメリアが言ってきた。
「……そしてわたしの幼なじみの1人でもあるんですよ」
 アメリアの言葉に一瞬の沈黙があり、三人の男は同時につぶやく。
『……へ?』


「とりあえず御礼を言わなくちゃいけないね。ありがとう老人の件は」
「んなこたぁどーでもいいっ!」
「のうわっ!?」
 いきなりずかずかと歩いてきて、胸倉を掴んでくるゼルガディスにアリータは声をあげた。が、ゼルガディスはそれを無視して、アリータを睨みつけた。
「どういうつもりだ? 聞いたぞ、リオンから! あんたがアメリアに催眠術かけたと!」
「ああ、そのことね」
 アリータは素っ気無く言ってくる。
「試したかったんだよ、単に」
「実験台にしたのか!? アメリアを!
 だいたい人間を実験台にすること自体人間として最低なことだぞ!?」
「お前が言うなよお前が」
 ゼルガディスの言葉にクラヴィスが半眼になって突っ込んだ。自分に不利なツッコミのため、ゼルガディスはあえて無視したが。
 アリータは嘆息して、ぽつりと言う。
「ゼルガディス=グレイワーズ。頼りになるけど、アメリアのことが関わると早とちりが多くなる――なるほど、確かに彼女の言う通りだな」
 胸倉を掴むゼルガディスの手を振り払って、アリータは肩をすくめた。
「――試したかったのは、術じゃなくて、君の方。アメリアにもし何かあったとき、どれだけ彼女を守れるか、知りたかったんだ」
「じゃあ何であんな紛らわしい術なんかかけたんだ!? クラヴィスなんかにべたべたくっつきやがって」
「……『なんか』?」
 クラヴィスがぼそりと言ってくる。やはりそれを無視してゼルガディスは怪訝な顔をしてくるアリータを見た。
「……なんか勘違いしてる気がするんだけど……僕がかけたのは、君がアメリアを助けることを放棄した場合、彼女が城に来るようにかけただけだけど?」
『へ?』
 その言葉にゼルガディスとゼロス、そしてクラヴィスは間の抜けた声をあげた。そのまま、視線をクラヴィスの腕にしがみついているアメリアに向ける。
 アメリアは、クラヴィスの腕から身を離すと、頭の後ろに片手を回して、舌をぺろり、と出した。
「実は演技だったりして(はぁと)」
 一瞬の沈黙の後。
『な・にぃぃぃぃぃぃぃぃぃっ!?』
 とりあえず、再び3人は絶叫した。
「どどどどどーいうことですかっ!? アメリアさんっ!」
 ゼロスがアメリアを指差しながら尋ねる。彼女はあっけらかんと答えてくる。
「実はですね……昨日――アリータとあった時に皆さんの話になりまして。いろいろ話した後にアリータが賭けをしようって言うから」
「賭け?」
 ゼルガディスの問いに答えたのは、隣にいたアリータだった。
「あんまりアメリアが君たちのことを『便利だー便利だー』言うからどのくらい便利なのか知りたかっただけだよ」
「……便利……?」
 なんとなく――というかかなり腑に落ちない言葉だったが、あえてツッコミを入れずゼルガディスは先を促した。アリータが続ける。
「僕がさっき言ったような術をアメリアにかけておいて、アメリアがなんか問題を起こす。それで、3日以内に君たちが僕のところまでたどり着けたらアメリアの勝ち。3日経っても僕のところに来なかった、あるいはさっさと根をあげてアメリアがここに来た時点で僕の勝ち、ってなもんを昨日アメリアとあった時にかわしてね」
「なんか問題って言っても、大した問題じゃないと、ゼルガディスさん『いつものこと』で済ましちゃうから、別の人を好きになったフリしたんです。
 で、わたしにとってはあまり実害がないクラヴィスさんでいいや、と」
「……オレは実害ありまくりなんだけど……」
「だから『わたしにとって』なんですよ。さすがにクラヴィスさんの姿したゼロスさんが来た時はビビリましたけど」
 うめくクラヴィスににっこり笑ってアメリアが答える。その会話を聞いてゼルガディスが疲れたように言った。
「もうちょっとまともな問題の起こし方出来ないのかおのれは……
 で? 結局一体何を賭けてたんだ? お前らは」
 言われてアリータとアメリアは顔を見合わせた。
 お互いに笑みを浮かべて、同時に言う。
『内緒♪』


「やっぱりゼルガディスさんの腕の方がなんとなく落ち着きますね♪」
 城から城下町に戻る途中で、ゼルガディスの腕にしがみついたアメリアが満面の笑みを浮かべて言った。
「結局、僕はどーでもいいんですね……アメリアさんは」
 ぶちぶち言って後ろからついてくるゼロスを隣にいたクラヴィスが可笑しそうに笑った。
「信用ないんじゃないか? だいたいオレの姿に変わって夜這いかけようなんてことするから悪いんだよ」
「う……よ、夜這いじゃありませんよっ!」
「ほーじゃあなんだったんだ?」
 からかうように言ってくるクラヴィスにゼロスは返す言葉が見つからず、そっぽを向いた。
 ちなみに、アリータはアメリアが『仕事をサボった』と彼の父親――つまり、ピースランド国王に報告し、今頃説教食らって、倍の仕事を押し付けられている。その隣で、リオンが『自業自得です』などといっているのをゼルガディスは容易に想像できた。
 ゼルガディスは嘆息して、アメリアを見る。
「結局なんだったんだ? 賭けの内容」
「だから秘密ですってば」
 自分の知らないところで、自分以外の男と隠し事をする彼女を半眼で睨みつける。その視線にアメリアはただ微笑むだけだった。


『賭け?』
『そう。僕が勝ったら、もう一度、僕との結婚を考え直す。アメリアが勝った時には――』
『そうね……わたしが勝ったら――あ、こんなのどう?』
『なに?』
『わたしの結婚相手にゼルガディスさんを認めてくれること』

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5805THE DAY OF JUDGEMENT 9ねんねこ E-mail URL2/26-01:39
記事番号5788へのコメント


「あんまり飲み過ぎるなよ」
 一気に酒をあおっていた自分を見つけた時のゼルガディスの台詞は意外にもそんな台詞だった。その言葉に少々戸惑う。カウンターでこうやって酒をあおっているのがクラヴィスだったならば、その言葉は別になんの不自然も無かったのだが。
 少しだけ驚いた顔でアメリアはゼルガディスの顔を凝視した。
 いつもはこうるさい小姑のごとく、『子供なんだから酒は飲むなっ!』などといいながら酒を取り上げてくる彼が今回ばかりはそんな軽い忠告だけだったのだ。
「……俺の顔になんかついてんのか?」
 怪訝そうに尋ねてくるゼルガディスにアメリアは慌てて首を横に振った。
「あ、いえ。なんでもないです」
 そう答えて、アメリアはその場を取り繕うように持っていたグラスに口をつけた。そんな彼女にゼルガディスは彼女の隣の席を指差して尋ねてくる。
「隣、良いか?」
「どうぞ」
 アメリアが答えると、彼は椅子に腰掛けた。
「クラヴィスさんは?」
「さっきまでガキみたいに泣いてたんだけどいつのまにか爆睡してた」
「……そうですか」
 近くを通ったバーテンダーに水割りを注文して、彼は小さくため息を吐く。
「で? 忘れられたのか?」
「……は?」
 突然尋ねられて、その意味がわからずにアメリアは間の抜けた声をあげた。ゼルガディスも自分の台詞に主語をつけていなかったことに気がついて、訂正してきた。
「飲み慣れてない酒を飲んで子猿娘どものことを忘れようとしてたんだろ?」
「あ……はい」
 曖昧な答えをしてアメリアは俯いた。
「……やっぱり駄目、みたいです。
 姉さんが昔、嫌なことを忘れるためによくやけ酒してたんですけれどね。やっぱり忘れられなかったってよくぼやいてたんですけど……わたしにも無理みたいです」
「酒を飲んで忘れられるのは一時の記憶だけさ。忘れたいことってのはなかなか忘れられるもんじゃない」
 小さく肩をすくめてみせる。頼んでいた水割りが来て、それを一口含む。
「……ずいぶんとあっさりしてるんですね……ゼルガディスさん」
「まあな」
「何とも感じなかったんですか? あの二人が亡くなって」
「……ずいぶんと辛辣なこと言うな。お前」
「……だって、ゼルガディスさんいつもと同じなんだもん……」
 そう呟いたアメリアの瞳から大粒の涙が零れた。それをごしごし手でこする。
「だって……っく……ゼル……さん……カストルさんが亡くな……」
「あんだけ泣いたのにまだ泣けるのかよお前は……」
「だって水分取ったからぁぁぁぁぁぁぁ」
(……水分取るとまた出てくるようになるのか? おい)
 アメリアの意味不明な答えに心中でツッコミを入れながらゼルガディスはアメリアの頭を撫でた。
 彼女の目の前にあったグラスの中で氷が鳴る。
 結局泣き出すアメリアにゼルガディスが嘆息して言ってくる。
「人間、死んだ方が幸せって時だってあるさ」
 ゼルガディスの言葉にアメリアが答える。
「何でですか!? 人間生きてるからこそ幸せが―――」
「孤独な生活。独りでいればいるほど昔のことを思い出して、でももう二度とその場所には戻れなくて。残された人間に取っちゃあ、生き地獄なんだよ」
「カストルさんは死んだ方が幸せだったってことですか?」
「あくまで個人的意見だがな。そう思ってる」
 ゼルガディスの言葉にアメリアは黙り込んだ。しばしの後、ぽつりと呟く。
「わたし……カストルさんに『もしゼルガディスさんたちが死んじゃったら』てきかれて答えられなかった」
「そういう状況にならないと普通は答えられないさ。気にするこたぁない」
「……ゼルガディスさんは?」
 アメリアは真っ直ぐとゼルガディスの顔を見た。アメリアの問いの意味がよく分からなかったのだろう。ぽかんとした顔で見てくる彼に彼女は問い返した。
「もしわたしやクラヴィスさんが死んじゃったら、ゼルガディスさんはどうしますか?」
「あー……それって殺されたらって意味か?」
「はい」
 アメリアの言葉にゼルガディスは困ったような顔をした。
「クーの奴はともかく……お前が殺された時、もう俺も死んでると思うんだが」
「……は?」
「前に言っただろ。『お前のことはちゃんと俺が守る』って。だから多分お前が殺されてんだったら俺も殺されてる」
 その言葉を聞きながらアメリアは顔を赤くして俯いた。
 心の中でぽつりと呟く。
(……凄く嬉しいけど……それって結局最後の判断下すのはわたしってことじゃないですか……)


   THE DAY OF JUDGEMENT   SENTENCE 9


 1日寝てしまえば忘れてしまえる自分が少し悲しかったりもする。
 だが、忘れてしまうのは仕方の無いことだ。そういう生活を過ごしてきたから。裏の世界じゃあほんの数瞬前まで共に笑っていた人間が死ぬことなど日常茶飯事のことだ。彼らとの思い出に一晩だけ泣く。疲れて寝てしまえばもう悲しみなど残っていなかった。
(癖ってなかなか抜けないもんだな。足洗ってから6年も経つのに)
 クラヴィスは寝惚け眼でむくりと起き上がった。頭を掻きながらとなりのベッドを見る。小さな寝息を立ててゼルガディスが眠っていた。途中で何度か無意識に咳き込んでいたが。
 中途半端な時間に寝たため、外は未だに暗い。だが、今から再び寝るのは無理そうだった。まだ寝惚けてはいるが、眠くはない。そのうち目もさえて、二度寝なんて出来る状態じゃ無くなるだろう。
 窓を見て月の位置を確認する。月の満ち欠けと南中する時刻を知っていれば、月の位置である程度の時刻を調べることは可能だ。
 だいたい11時ごろ。
(……酒でも飲むか……)
 この時間だったら、かろうじて店は開いているだろう。飛び込んで入ってしまえば、こちらが酒を飲み終わるまで店は閉められない。
 ゆっくりと立ち上がって、足音を立てないように歩く。途中腐っていたのか床が微かに軋んだ音を立てて、かなり慌てたのだが、ゼルガディスは目覚めなかった。小さく安堵の息を吐いて、クラヴィスは部屋を出た。



 予想通り、店はかろうじて開いていた。
 扉を開くと、店主がちらりとこちらに視線を向けるが、すぐにグラスに戻して、小さく言ってくる。
「―――いらっしゃい」
 クラヴィスはとりあえず適当に酒を注文してカウンターに腰をかけた。店内にさりげなく視線を巡らせば、先客が一人、奥に座って一杯やっているのが見えた。
(……あちらさんも閉店まで粘る気か)
 道理で店主の機嫌が悪いわけである。粘られれば粘られるほど閉店の時間は遅くなり、自分の睡眠時間も減るのだ。店主としてはさっさと店を閉めて、寝たいというところなのだろう。
(かわいそーに)
 少しばかり同情しながら、自分の前に置かれたグラスの中の琥珀色の液体を口に含む。
 一人で酒を飲むのは嫌いではない―――むしろ好きな方だ。みんなで楽しく、も好きだが。一番楽しいのは、相手につぶれるまで酒を飲ませて、からかって遊ぶことか―――その相手が誰なのか、敢えて言わないが。
 静かな店内で、ふと椅子が引きずられる音が響いた。
 おそらく先客が帰るのだろう。クラヴィスがそう思った時だった。
「あんたさん、ひとり?」
 そう声をかけられて、クラヴィスは一瞬言葉を失ったが、そのままこくこくと頷いた。
 銀髪の青年だった。年は―――自分より少しだけ上か。5歳以上離れてはいないだろう、おそらく。青年は笑うと断りもせずにクラヴィスの隣に腰をかけた。持ってきたグラスに口をつける。
「おれも一人なんよ」
「……そ、そう」
 とりあえずクラヴィスには曖昧な返事を返すことくらいしか思いつかなかった。困った顔をして、なんとか返事を返すと、銀髪の青年は手を差し出してきた。
「おれ、シモン=クローデル。あんたは?」
「……いっておくが、オレは男だぞ」
 よくいるのだ。髪が長くて、少しだけ女顔のせいか、なにか勘違いして擦り寄ってくる変な男というのが―――無論、有無を言わさず殴り倒してさっさと逃げているのだが。
 クラヴィスの言葉にシモンは手をぱたぱた振った。
「わかってるさ」
 にっこり笑って言ってくる。
「美形だったら女でも男でも関係ないのよ。おれってば(はぁと)」
「マスター、いくらかな?」
 即座に席を立って支払いを済ませようとするクラヴィスの肩に手を置いて、席に座るよう合図する。警戒心むき出しで見てくるクラヴィスにシモンはケタケタと笑った。
「冗談だよ、じょーだん。楽しいなぁ、あんた。で? 名前は?」
 どうやら諦めるつもりは毛頭ないらしい。このまま張り倒してとんずらこく、という手も考えなかったわけではないが、閉店時間を延ばしている手前、これ以上迷惑をかけることをするのもなんだか気が引けた。素直に名乗る。
「―――クラヴィス。クラヴィス=ヴァレンタイン」
 その言葉にシモンが一瞬絶句したのに気づいた。何か言おうとして、口を何度かぱくぱくと動かし、動揺しているのだろう、少し目を白黒させているのがすぐにわかった。
(……コリャまた珍しい反応の仕方だな)
 ヴァレンタイン家といえば、セイルーンのみならず世界に結構名の知れた神官貴族である。彼の家名を聞いた人間はとりあえず、彼が言っていることを嘘と判断して鼻で笑うか、そのまま神でも見るような目つきでなにを勘違いしているのか、ひたすら頭を下げてくるのどちらか。シモンのようにびっくりしてそのまま目を白黒させるというのも珍しい。
 なんだか面白いので何も言わずにそのまま傍観していると、突然びくんと身体を揺らして―――おそらく飛んでいた意識が戻って来て我に返ったのだろう―――その様子を眺めていたクラヴィスに真正面から抱きついた。
「うにょわりょひょうっ!?」
 驚いたのはクラヴィスの方である。いきなり他人に――それも男に――抱きつかれて驚かない人間などいない。全身に鳥肌が立つのを自覚しながらクラヴィスは結局シモンを自分から引っぺがして張り倒した。
「な、なにしやがるいきなり!」
 荒い息をつきながらクラヴィスが言ってくる。
「オレは何があろうと女の子オンリーなんだよっ! そーいうのを相手にしたいんだったらいくべき所に行ったらちゃんとそーいうのがいるからっ! オレじゃなくてそっちに抱きつけっ!」
「……なかなか痛いぞ。今のは」
 床に這いつくばっていたシモンがむくりと起き上がりながら言ってくる。クラヴィスは怒鳴った。
「当たり前だっ! 他人(オレ)にいきなり抱きついておいてそれで済んだだけ感謝しろ! もーなんの前触れなしに抱きついてくるのはくそ親父だけでじゅーぶんだっ!」
「そうか。もう君には先約がいるのか」
「なんなんだよその先約ってのは……」
 半眼でうめいてくるクラヴィスにシモンが慌てて付け加えた。どうやらクラヴィスの殺意をひしひしと感じ取ったらしい。
「いやだから冗談だよ。おれも女の子オンリー。綺麗な男も好きだけどな。敢えて自分から抱こうとは思わん」
(腐ってる……会話が腐ってるよ……)
 至極真面目に答えてくるシモンにクラヴィスはペースを崩されて思わず涙した。今までどんなことがあっても相手を自分のペースに巻き込んでからかっていた自分が。
 なんとなく敗北を感じながら―――こんなことで敗北を感じていてもしょうがないのだが―――シモンを見た。
「じゃあどーしていきなり抱きついてくるなんて真似したんだよ」
「シモン=クローデル」
「は? いやあんたの名前は聞いたし、もう聞きたくないから」
「シモン=クローデル!」
「だ・か・ら! なんであんなくそたわけた真似したかって言ってんだよ!」
「シ・モ・ン・ク・ロ・−・デ・ル!」
 更にしつこく名前を名乗ってくるシモンにクラヴィスは険悪な表情を向けた。
「てめぇ、あんまり調子に乗ってるとそのまま息もできないようにしてやるぞ……」
 クラヴィスの言葉にシモンは顔をしかめた。訝しげに尋ねてくる。
「……『クローデル』の名前に聞き覚えないのか?」
「は?」
 その問いにクラヴィスは視線を天井に向けた。記憶の糸をたどって必死に『クローデル』という単語を検索してみる。元とは言え『情報』を相手に仕事をしていた彼にとって、記憶の底に眠っている情報量は馬鹿にならない。知れたら国の存亡に関わるような重大な国家機密から別段忘れても誰も困らないというしょーもない記憶――例えば一週間に何回ゼルガディスが泣いたか、など……ちなみに最高で20回、最低で4回である。さらに言うならその泣かした回数の6割が自分のせいで4割がレゾのせいなのだが……今から思えば泣き過ぎである――まで、その種類は様々である。
 ―――が、どんなに頭を捻っても『クローデル』なんて言う名前など出てこない。クラヴィスは首を捻った。
「いや、知んないけど……」
「まったく、ひどいなぁ。はるか昔に共に戦った仲間だというのに」
「……はい?」
「呆れた。親からなぁぁぁぁんも聞いてないわけ? 聖石の話も全部?」
 ため息を吐きながら言ってくるシモンの台詞の中に聞き逃してはならない単語を耳にして、クラヴィスは慌ててシモンの肩を掴んだ。
「その話……詳しく聞かせてくれ」
「え? あ、ああ、いいけど?」
 真剣なクラヴィスに少しばかり驚いた顔をして、シモンはこくんと首を縦に振った。


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5809咳き込んでる魔剣士殿が心配桐生あきや 2/26-20:39
記事番号5805へのコメント

 
 どもども、桐生だす。
 来てみたら一気に二つもっ。ねこちゃん頑張ってるねえ。
 ひそかに咳き込んで調子の悪そうなゼルが心配。いきなりぶっ倒れたりしないだろうな、彼………(^^;
 相変わらずねこちゃんの小説は、会話がテンポよくて読んでて気持ちいいっす。
 新しい迷宮案内のほうでは魔剣士殿のかっこよさに何だか痺れ気味(笑)
 最初のあたりを読んで一瞬「怪盗物なのか!?」などと勘違いしまくったバカのことはほっといてやって(^^;

 ではでは、桐生でした。

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5814話が続くかという方が心配(爆)ねんねこ E-mail URL2/27-10:28
記事番号5809へのコメント


「……風邪、ひいたんだ。アメリア」
「だから言わんこっちゃないでしょう。自分の身体を過信するからこういうことになるんですよっ!
 ほらほら、ちゃんとベッドで寝ててくださいっ!」
「……アメリア。頼みがあるんだが」
「なんですか?」
「ずっと看病しててくれないか?」
「………………」
「昔、風邪をひいても誰も来てくれなくてな。一人で部屋に閉じこもって寂しかったんだ(遠い目)」
「……ゼルガディスさん……(涙目)」
「(よしよしかかってきた……)ダメかな?」
「ううううう誰にもお見舞いに来てもらえなかったなんてゼルさん可哀想ですぅ。
 だからこんなに無愛想で人のことも考えない無神経な大人になっちゃったんですね」
「…………いやまあ、今の台詞でお前が俺のことをどー思ってるかがよーくわかった気がするぞ」
「大丈夫ですっ! ゼルガディスさんの風邪が治るまでわたしがずっとそばにいてあげます!」
「(にやり)そうか。それは嬉しいなあ」
「実はね、クラヴィスさんとも相談してたんです。ゼルガディスさんってばすぐに抜け出してどっかフラフラ出歩くから、二人でしっかり見張っておいた方がいいですよね、って」
「…………はい?」
「(悪魔の微笑み)つーわけだから、オレも一緒にいるな(はぁと)」
「……………………………たまにはアメリアと二人っきりにさせてくれ」

 ――――つーわけで、咳き込んで風邪ひいて寝込んでもこの程度です。
 それにしても何を考えてこんなくだらん事を即興で書いてんだか(笑)


> どもども、桐生だす。
> 来てみたら一気に二つもっ。ねこちゃん頑張ってるねえ。

一日20KBの生活。
こー書くとなんかやだなぁ……(汗)
とりあえず今だけ頑張ってます(笑)

> ひそかに咳き込んで調子の悪そうなゼルが心配。いきなりぶっ倒れたりしないだろうな、彼………(^^;

ぶっ倒れてもゼルなら↑の程度(笑)

> 相変わらずねこちゃんの小説は、会話がテンポよくて読んでて気持ちいいっす。

そう言って貰えるとすごく嬉しいよぅ(><)
というか、会話だけで成り立っているようなねんねこの話(爆)

> 新しい迷宮案内のほうでは魔剣士殿のかっこよさに何だか痺気味(笑)
> 最初のあたりを読んで一瞬「怪盗物なのか!?」などと勘違いしまくったバカのことはほっといてやって(^^;

雫ちゃんかにょ?(笑)←わかる人間にはわかるネタ(爆)
「迷宮案内」珍しくゼルがゼルらしいし。でも、きっとその分こっちで暴走するんだろうなぁ(笑)


とりあえず、メールの例の質問は、メールで送りますのん〜♪
ではでは!

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5825THE DAY OF JUDGMENT 10ねんねこ E-mail URL3/1-02:15
記事番号5788へのコメント


 げふげふげふげふごほ。
 前よりも酷くなった気がする咳と胸の痛みにゼルガディスは目を開けた。
「……風邪……?」
 上半身をベッドから起こして、熱を確かめるように自分の額に手をやる。微熱程度なのか、いつもより少し熱いが、それでも気にするほどのものでもない。
(まったく……これじゃあアメリアになに言われても文句は言えんな)
 小さく嘆息しつつ、ふと隣のベッドに視線をやり―――
「……クー?」
 そこにいたはずのクラヴィスの姿はなかった。
 掛け布団が無造作にめくれ上がったまま、いない主人の帰りを待っている。ゼルガディスは怪訝な顔で窓の外、空高くにある月を見上げた。


  THE DAY OF JUDGMENT   SENTENCE 10


「もう今から500年くらい前になるか。まだ、世界にレティディウス公国なんて国が存在してた頃の話さ」
 ちびりと酒を口に含みながらシモンは言ってきた。
 ―――過去の資料や伝承にはいろいろな魔物の存在が伝わっている。誰もが知っている有名な所で例えるならばサイラーグを壊滅状態にしたという魔獣ザナッファーか。
 その他にも人々にはあまり知られてはいないが、だが過去に存在したという魔獣などは多くいる。
「その中の一つに『悪魔メフィストフェレス』つー奴がいるんだわ」
「……『悪魔』……?」
 クラヴィスの怪訝な声にシモンは小さく頷いた。
「ああ、悪魔の定義はいろいろ魔道士協会で議論されてるらしいが、まあ魔族ではない得体の知れない存在さ」
 シモンのその言葉にクラヴィスは酒に手を伸ばしながら考え込んだ。
 そう言えば、つい最近も『悪魔』という言葉を耳にした覚えがある―――確か、ゼルガディスがあの妙な剣を拾ってきたというあの遺跡にも『悪魔』崇拝の形跡があったなどといっていたか。
「ま、ここからは非常にありきたりな話さ」
 シモンはつまらないという表情で肩をすくめた。
「十二人の人間がこの聖石の力を使って、その悪魔メフィストフェレスを倒したんだ。
 で、その十二人はそれぞれ自分の持っていた聖石を家宝にして代々その話を子孫に語り継いでいこうということになったわけ。それが―――」
「―――最後の審判の日(ザ・デイ・オブ・ジャッジメント)―――」
『―――!』
 まるでシモンの言葉を見透かしたように突然響いた少女の声にシモンとクラヴィスは慌てて声がした方を見た。
 店の入口、扉によりかかって立っていたのはクラヴィスがよく知る人物だった。
「ア、アメリアちゃん?」
「もう、クラヴィスさん。探しちゃいましたよ」
 ぷう、と頬を膨らませていってくるアメリアの横からひょいとゼルガディスが顔を出す。呆れた顔をクラヴィスとついでにシモンに向けて口を開いた。
「なにやってんだこんな時間まで―――」
「あ、いやその……」
 寝た時間が早すぎてもう目が覚めたなどとは恥ずかしくて言えない。必死に言いつくろうとするクラヴィスに、大体の理由は察していたのだろう、ゼルガディスは嘆息して親指で外を指差した。
「とりあえず宿に戻ろう。そこのあんたもだ―――いつまでも閉店時間伸ばしてたらマスターがかわいそうだ」
『あ』
 話しこんでいてすっかり閉店時間を大幅に過ぎてしまったことに今更ながらに気がついて、クラヴィスとシモンは同時に声をあげた。



 聖石のことについてシモンはよく知っている。
 クラヴィスの発言で、シモンからさらに詳しく話を聞くためにとりあえずシモンを含めた4人は宿のゼルガディスとクラヴィスの部屋に向かった。
 それぞれ椅子なりベッドなりに座って落ち着いたところで、最初に声をあげたのは、ゼルガディスでもクラヴィスでもなく、シモンだった。
「―――で?」
 シモンは真っ直ぐアメリアを見ながら尋ねてきた。
「あんた、なんで最後の審判の日(ザ・デイ・オブ・ジャッジメント)を知ってる?」
 その問いにアメリアは肩をすくめてみせた。
「わたしも一応、王族の端くれですから」
「なるほど」
 その返事だけでシモンは納得したようだった。が、ただでさえ頭に疑問符が飛んでいたのに、その返事のせいでその数がさらに倍増したのはゼルガディスとクラヴィスの方である。
 状況をまとめようと試みてるのかゼルガディスは額に手を当てながらゆっくりと尋ねてくる。
「―――ずっと昔にメフィストフェレスっつー悪魔がいたことは真偽の方はともかくわかった。それを十二人の人間が聖石を使って倒したことも理解した。ついでにその出来事が最後の審判の日と呼ばれていることもな。
 わからないのはそれからだ。なんで『王族だから』と言う理由でこの話を知っていてもおかしくないって事になるんだ?」
 沈痛な面持ちのゼルガディスから視線をクラヴィスに移せば、彼もまた訝しげな顔で首を縦に振っていた。どうやらゼルガディスと同じ質問をしたかったらしい。
 アメリアはなんて言えば彼らをこれ以上混乱させずに、かつ一発で理解してもらえるか少々考え込み―――やがて口を開いた。
「……500年ほど前にこの辺りに国があったのはご存知ですね」
「レティディウス公国―――だね?」
 確かめるように言ってくるクラヴィスにアメリアは小さく頷いた。
「そう。そのレティディウスが滅ぶ2年ほど前―――国の内外に一つのおふれが出されました。みなさんご存知の通り―――不死の研究です」
 アメリアの言葉にゼルガディスが黙って頷いた。その無言が先を促しているのだと判断し、彼女は言葉を続ける。
「不死の方法を探していたのは、なにも魔道士だけではありませんでした―――先人たちが残した遺跡や伝承に不死の方法を求めて多くの傭兵、トレジャー・ハンターたちが世界中を駆けずり回ったと言われています」
 そこでいったん話を切って、アメリアは小さく息を吐いた。
「そんなある日、レティディウスの領地のどこかにある遺跡からとんでもないものが見つかったらしいんです。それがなんなのかはわたしも知りません。
 ただ、見つけ出した“それ”は自分の願い事を叶えてくれると言うものでした」
「……願い事を……叶えてくれる……?」
 ゼルガディスが怪訝な顔をする。その台詞(フレーズ)を最近どこかで聞いた覚えがある。記憶の糸を手繰り寄せ、そして一つの記憶の糸を掴む。
「……あの地図!」
 小さく呟くと、ゼルガディスは横においていた自分の荷物を引っかきまわす。荷物の奥の方に小さくたたんでしまいこまれていたどこかの遺跡で偶然拾った地図を取り出して、ついでに普通で街に売られている現在の地図も取り出す。
 二つの地図を床に広げて見比べる。ゼルガディスのその行動を見ていた三人も近づいて、地図を覗き込む。
 だいたいの位置関係を照らし合わせてみる。
 5日ほど前にゼルガディスが一人で訪れたあの悪魔崇拝の遺跡は―――間違いなくレティディウスの領地内だった。
「……つー事は、あそこにその得体の知れない“何か”があったって事か?」
「だろうな、多分」
「……何の話だ?」
 今までのいきさつをまったく知らないシモンが怪訝な顔で尋ねてくる。このまま無視してしつこく尋ねられてくるのも、いと面倒なのでクラヴィスが簡単に説明する。
「実はとある所で古い地図を拾ってな。その地図に『願いを叶える』うんぬんかんぬんかかれてあって、それ目当てに行ったらあったのは悪魔崇拝していた形跡と使う人間選ぶくそ生意気な長剣一本しかなかったんだよ」
「……行くか? 普通……」
「……行っちまったんだよ……」
 呆れたようにそんな言葉を返してくるシモンにゼルガディスがうめいた。その場を誤魔化すようにアメリアに目を向けて先を促す。
「アメリア、続きを」
 しばらくジト目でゼルガディスを睨みつけていたアメリアだったが、小さく嘆息して先を続けた。
「遺跡から外に運び出された“それ”はすぐにレティディウス公王の元に運ばれました。
 ―――だけど、“それ”の願い事を叶えると言うのは―――1種の魔族の契約のようなものだったんです。
 公王を不死にする代わりに“それ”は施された封印を解くように願いました。世界中に多額の賞金をつけてふれを出すほどまで不死に執着していた公王は深く考えもせず、その契約を交わしてしまったんです」
「後は復活した“それ”って言う悪魔メフィストフェレスを十二人の人間が―――に繋がるわけ」
 続けて言ってきたシモンに同意するようにアメリアは頷いた。
「わたしはその聖石の話は知らないんですけれど。
 とにかく、十二人の人間が悪魔を滅ぼしました。悪魔を滅ぼすまでの力を持ったその十二人の人間たちは当時、人々から『世界を審判する十二人の陪審員』と呼ばれました。
 現在、裁判で事実の有無を評決する陪審員が十二人いるのもここから来たと言われています―――とまあこれは余談ですけれど。
 問題はその後です。悪魔が復活したせいで世界は後に暗黒時代と呼ばれるまで酷い状況に陥りました。虐殺が平然と行われて世界に悪が満ち溢れていたんです。
 レティディウス国内だけならまだしも世界中でそんな状態が続いている状態に立ち上がったのは、レティディウス周辺の国王たちだったんです」
 不意にアメリアは自嘲気味に笑った。
「セイルーンを含めて国王たちは一国の主たる公王が悪魔を復活させたなんて事が世界中に知れ渡ることを恐れました。世界を恐怖のどん底に叩き落としたのが公王だとわかれば、世界中の人々が公王を責め立てるでしょう。それはもしかしたらやがて『国の王』という者全てに不信感を抱くきっかけになるかもしれないと王族たちは危惧したんです。
 民が不信感を募らせれば必ずどこかで反乱が起きる。自らの保身のため―――王族たちは全ての真相を闇に葬りました。
 レティディウス公王は『不死のふれを出した』と言う罪で断首。悪魔はどこかの誰かが復活させてしまった、というシナリオで小さな歴史書に小さく書かれました。
 魔獣ザナッファーよりも被害が大きかったのにも関わらず、その名前が知られていないのはそのせいです。全ては王族たちが自分たちの地位のためにひた隠しにしたんです。それは唯一王族の子孫に語り継がれました。だから『王族だから知っている』んです」
 アメリアは苦笑しながらぱたぱた手を振った。
「見つけた地図を見た時点で思い出せれば良かったんですけどね、彼の話を偶然聞くまで全然まったく思い出しもしませんでした」
 指を差してくるアメリアにシモンはまだ自己紹介もしていないことに気付いた。にっこり笑って言う。
「おれ、シモン=クローデル」
「アメリア=ウィル=テスラ=セイルーンです。よろしく!」
 にっこり微笑み返してアメリア。シモンはゼルガディスの方を見て促す。
 ゼルガディスはため息を吐いて言った。
「ゼルガディス。ゼルガディス=グレイワーズだ」
「うーみゅ。なかなかべっぴんさんだなぁ」
 にこにこ微笑んでくるシモンにゼルガディスは憮然とした顔をした。ゼルガディスは自分のすぐ後ろ―――窓際に腰を掛けているアメリアを見る。シモンの視界にはちょうど彼女の姿が入っているはずだ。
「うんうんやっぱりおれ好み(はぁと)」
 椅子から立ち上がって近づいてくるシモンにゼルガディスはすかさずアメリアの前に立ち塞がる。警戒の眼差しでシモンを睨みつけ。
 ぎゅ。
「んぎょうにょうわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!?」
 どげしっ!
 いきなり真正面から自分を抱きしめてきたシモンに奇怪な悲鳴をあげながらゼルガディスは思わず彼を張り倒した。息を荒らげながら涙目で床に転がるシモンにびしっと指を突きつける。
「い、いきなりなんなんだよっ! あんたはっ!
 あんまりふざけたことすると問答無用で張り倒すからなっ!?」
「……もう張り倒してるじゃないですか……」
「やかましいっ!」
 他人事のように呆れた口調で言ってくるアメリアを一言で一蹴して、ゼルガディスはついでにベッドの隅っこでうずくまりながら肩を震わせるクラヴィスに怒鳴りつける。
「クーっ! お前も笑わないっ!」
「だって……抱きつかれた瞬間のお前の顔と言ったら……冗談でやったに決まってんだろ」
 先程同じ事をされた時のクラヴィスの表情もゼルガディスと大して変わっていなかったのだが―――自分のことは棚に上げて言ってくるクラヴィスにシモンも床に這いつくばりながら器用に頷いた。
「うむ。クララの言う通りだぞ」
「……クララ?」
 怪訝な顔で尋ねてくるアメリアにやはり器用に頷きながらシモン。
「うむ。『クラヴィス』の上2文字『クラ』から連想される言葉を考えたら『クララ』しか思いつかんかったのだ」
「また古いところから持ってきたね」
 苦笑するクラヴィスにシモンが三度頷く。
「うむ。やぎと一緒に暮らしたいとか思ったもんだ。干し草のベッドもやぎの乳のチーズもかなり捨て難かったが」
「……それはハイジの方だろ」
「そうだったか?」
「クララは確か足が悪かった方だと―――」
「ちょっと待ってってば!」
 勝手に話を進めていくクラヴィスとシモンにアメリアが声を上げる。
「いったいなんの話をしてるんですか!?」
「なんだ。アメリアちゃん知らないのか? どっかの国で昔人気だった話だよ。アルプスって高い山に住んでる女の子とじーさまの話」
「知らないですよ、そんな話」
 顔をしかめていってくるアメリアにゼルガディスが付け加えた。
「世代の断絶(ジェネレーション・ギャップ)てやつだな」
 その言葉にクラヴィスが頬を膨らませる。遠まわしに年寄り扱いされて少しばかり腹を立てながら聞き返す。
「お前はどうなんだよ、ゼル?」
 問われて一瞬、石化したように見えたゼルガディスだったが、何度か咳払いをしてぽつりと言ってきた。
「ノ……ノーコメントだ」
(……知ってるんだ)
 顔を真っ赤にして言ってきたゼルガディスにクラヴィスとシモンは同時に心中でそう呟いた。



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5826口笛はなぜ〜♪桐生あきや 3/1-03:59
記事番号5825へのコメント


 どもども、図書館から借りてきた小説五巻を九時から読破し終えて、只今何やら頭が飛んでる桐生です。(するなンなこと)
 読むと止まらないのが私の悪癖。読み終わった勢いでここにやってきたら、新しいのがアップされてて、ますますハッピー(^^)
 ほんと視力なくして生きていけないと思う今日この頃。
 ああ、いやそんなことはどうでもいいのだわ。感想を書かないと。

 クーちゃんについに新しい名前がっ。しかもクララとはまた風情のあるお名前で(ほんとか?・笑)
 とうとうタイトルの意味が明かされたね。実は五話あたりまで題名が読めなかった私………(滝汗)。ほんとうに英語力がやばいことになってます。
 十二石全部登場させるって言ってたけれど、だとしたら十二人出て来なきゃいけないよね。アリータ君が二つ持ってるけど。だとしたら書くの大変そうだなあ。

 HPのほうもアップされてて、これがラピスの話なのね、とひとり小躍り。
 本当に一日20KBの生活してるのね、ねこちゃん……。ちゃんと寝てますかー?
 ではでは。ほどほどにがんばってくださいな。

 桐生あきや

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5836遠くまで聞こえるの♪(間違ってる可能性大・爆)ねんねこ E-mail URL3/2-02:43
記事番号5826へのコメント


> どもども、図書館から借りてきた小説五巻を九時から読破し終えて、只今何やら頭が飛んでる桐生です。(するなンなこと)

素敵なことしてるのね〜♪
というわけでねんねこだす。やっぱり夜中に親の目盗んで投稿中。ばれないように祈っててください。

> 読むと止まらないのが私の悪癖。読み終わった勢いでここにやってきたら、新しいのがアップされてて、ますますハッピー(^^)
> ほんと視力なくして生きていけないと思う今日この頃。
> ああ、いやそんなことはどうでもいいのだわ。感想を書かないと。

確かに視力なくして生きていけないな。うん。
一時期0.7まで下げた視力も今は何故か2.0にまで回復。

> クーちゃんについに新しい名前がっ。しかもクララとはまた風情のあるお名前で(ほんとか?・笑)

アルプスの少女ハ○ジっすね。同い年の友達がこれを知らなくて驚いた。
「オバサンね」とか言われた時思わず殴った(笑)

> とうとうタイトルの意味が明かされたね。実は五話あたりまで題名が読めなかった私………(滝汗)。ほんとうに英語力がやばいことになってます。
> 十二石全部登場させるって言ってたけれど、だとしたら十二人出て来なきゃいけないよね。アリータ君が二つ持ってるけど。だとしたら書くの大変そうだなあ。

うん。適当にひょろひょろっと。頑張って出します。

> HPのほうもアップされてて、これがラピスの話なのね、とひとり小躍り。
> 本当に一日20KBの生活してるのね、ねこちゃん……。ちゃんと寝てますかー?
> ではでは。ほどほどにがんばってくださいな。

寝てるよー睡眠時間4時間(笑)
慣れちゃったので別に眠くないです。慣れるのはいやだけどねー(笑)

うーみゅ。親が起きそう。というわけで酷いレス返しでゴメンね(><)
ねんねこでした。


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5837THE DAY OF JUDGMENT 11ねんねこ E-mail URL3/2-02:45
記事番号5788へのコメント


「―――聖石にはいろいろな『意味』があるんだ」
「意味、ですか?」
 ピースランドからディルスに向かう街道沿いを歩きながら『最後の審判の日(ザ・デイ・オブ・ジャッジメント)』と『聖石』について、説明しだしたアリータの言葉にリオンは怪訝な顔をした。
 アリータは小さく頷くと、自分の聖石と城を襲撃してきた男の聖石を懐から取り出す。
「なんで意味があるのかは知らないけどね。例えばこの≪天蠍宮(スコーピオ)≫」
 言いながら男から奪った方の聖石を掲げる。
「この≪スコーピオ≫には『拷問・苦難・危害』なんて意味がある。
 これと同じようにそれぞれの石にはそれぞれの意味があるんだ。≪磨羯(まかつ)宮(カプリコーン)≫は『愚か』、≪獅子宮(レオ)≫は『勇敢・残忍』て感じにね」
「アリータ様の石は―――≪白羊宮(アリエス)≫にはどういう意味が?」
 ぴし。
 問われて、一瞬アリータの顔が強張った。誤魔化すように聖石を懐にしまい、手をぱたぱたさせる。
「あーいや、うん。まあそれなりにあるんだよ」
「……教えてくださらないんですか?」
「うく」
 いつになくしつこく尋ねてくる自分の世話係にアリータは小さくうめき、やがて観念したようにため息を吐いて小さく呟いた。
「ボクの聖石の意味は……………『単純・復活』」
 一瞬沈黙してリオンはふむと頷いた。
「なるほど。アリータ様をそのまま表してますね。特に『単純』」
「……だから言うのヤだったんだ……」
 めそめそと鳴き声を上げながらアリータは呟いた。


  THE DAY OF JUDGMENT   SENTENCE 11


「まあ『意味』もあるけど、聖石にはいろいろな付加価値というか能力がある」
 シモンは荷物の中から山吹色の聖石を取り出す。≪巨蟹宮(キャンサー)≫の紋章が刻まれたその聖石を見せながら説明する。
「聖石は一つだけ願い事を叶えると言われている」
「……以前、≪双子宮(ジェミニ)≫を持っていた女の子から聞きました」
 先程まで明るかったのに突然小さく言ってくるアメリアに一瞬シモンは怪訝な顔をしたが、憂いを帯びたその表情に敢えて何も言わずにそのまま後を続けた。
「まあ、その代わり誰が持ち主かということを石に刻まにゃならない―――まあ、一言で言っちまえば『契約』だな」
「……『悪魔』と一緒じゃないか」
 呆れたように言ってくるゼルガディスにシモンは笑った。
「聖石はあくまで『魔力がこもっている石』さ。悪魔と違って自我はないし。
 契約するのは、ただ単に持ち主を知るためらしい。だから、聖石の持ち主は一個につき一人しかいない。
 契約が切れるのは、正しい順序を踏んで、次の持ち主に聖石を委ねる時か、持ち主が死んだ時のみだといわれてる」
 だからカストルとポルックスは聖石を狙われただけでなく命を狙われたのだ。聖石を命より大切にしていた彼女たちが素直に次の持ち主とやらに聖石を委ねるはずがない。前の持ち主と契約を切り、また新たなる契約を交わすための手っ取り早い方法として彼女たちを殺すことを選んだのだろう。
「それで―――その契約とやらを結ぶとどうなるんだ?」
「聖石の力を引き出すことが可能だ。聖石を持つ仲間の位置を知ったりとかいろいろ。悪魔を倒しただけあってその威力はすごいものがあるけど―――まあ、聖石なんてあんまり使わないのが実情だ。
 別にいまさら聖石を持った人間とお友達になりましょうなんて思わないし」
 クラヴィスの問いに肩をすくめて答える。さらに横からゼルガディスが尋ねてきた。
「じゃあ≪ジェミニ≫がどこにあるか、なんていうのわかるか?」
「≪ジェミニ≫?
 ……そう言えばつい昨日か一昨日にいきなり反応が消えたみたいだよな。それからさっぱり。今契約されている聖石はとりあえず≪ジェミニ≫と≪処女宮(ヴァルゴ)≫以外全部のはずだ」
「……≪ヴァルゴ≫ならわたし持ってます」
「は?」
 アメリアの言葉にシモンは間の抜けた声を上げる。
「……冗談?」
「いえ、本当ですよ」
 アメリアは答えてうさぎのリュックサックから≪ヴァルゴ≫を取り出す。その聖石を見た途端、シモンは軽い目眩に襲われた。
「……冗談だろ……なんでこんな所に≪ヴァルゴ≫があるんだ!?」
「露店で買いました。金貨一枚で」
「……………………………」
 アメリアの言葉についにシモンは絶句した。そのまま頭を抱えて必死に現実逃避を試みているらしい。が、やはりそれは失敗に終わったらしく、苦々しい顔をした。アメリアと聖石を交互に見る。
「……まあ、この際、こいつの入手方法は横において置こう。そんなことはともかく、聖石を持ってるなら契約すべきだ」
「どうすればいいんですか?」
「契約の言葉を紡ぐんだよ」
「契約の言葉?」
 アメリアは怪訝な顔をしながら首を傾げた。シモンは小さく頷いた。
「『汝、全霊を捧げ、我の求むるままに』ていう言葉を混沌の言葉(カオス・ワーズ)で紡げばいいんだ。カオス・ワーズはわかるだろ?」
「はい」
 アメリアは頷いて聖石を見つめた。しばしの沈黙の後、うし、と小さく呟いて彼女は≪ヴァルゴ≫を掲げて静かに目を閉じた。
 ゆっくりと開かれた口からまるで詩の詠唱のような綺麗な声音が響き渡る。
 彼女が契約の言葉を紡ぎ終わると同時に聖石は一瞬だけ眩き光を放つ。そのまま光は消えていき、アメリアはゆっくりと目を開いた。
 何度か目を瞬かせてアメリアは聖石を見つめた。別に聖石に変化はなく、自分にも何かが変わったようには感じられなかった。
「? うに? うにに?」
「どうかしたのか?」
 視線をいろんな所に向けるアメリアに怪訝な顔でゼルガディスが尋ねた。彼女は困ったような顔をしながら言ってくる。
「別に何も変わったこととかないんですけど……失敗したんですか?」
「そんないきなり変わるなんてこたぁないってば」
 苦笑しながらシモンがぱたぱた手を振ってくる。
「ただ、もうその石はあんたの石だから、なくしたり落としたり金貨一枚で誰かに売り飛ばしたりとかしちゃ駄目だからな」
「……しませんよそんなこと……」
 少しばかり憮然とした顔でアメリアはうめいた。


「あ、シモン」
 とりあえず夜も遅いということでお開きになったところで部屋を追い出される形で出ていこうとするシモンを呼び止めたのはゼルガディスだった。
 彼は目を輝かせる。
「なに? 一晩泊めてくれるの?」
 夜遅くこの街に入ったらしいシモンは今日寝る場所がなかった。どさくさに紛れてゼルガディスとクラヴィスの部屋のソファでも借りようと企んでいたのだが、先程の抱きつきのせいで『襲われたら嫌だ』と言う兄弟の意見の一致により、問答無用で外に放り出されることになったのだ。
 シモンの言葉にゼルガディスが鼻で笑った。
「はっ! なんでてめえなんざ泊めなきゃなんねーんだよ」
「ううう、せっかく聖石のこととか一杯話したのに……」
 泣き真似をしてくるシモンをあっさり無視してゼルガディスは用件をきりだす。
「これからどうするんだ? あんた」
 ゼルガディスの問いにシモンは自分を指差した。
「おれ? おれは気ままな旅がらす♪ 優雅にマイペースで一人旅だ―――と言いたいところだが」
「ついてくるとか言うなよ」
 話に加わって、あらかじめ釘をさしてくるクラヴィスにシモンはぱたぱたと手を振った。
「んなことしないさ、クララ。
 ただな、さっき≪ジェミニ≫うんぬんの話をしていた時に気づいたんだが―――」
「なんだよ?」
 尋ねてくるゼルガディスに一瞬躊躇しながらもシモンは小さく答えてきた。
「……聖石が集まってる」
「は?」
 怪訝に顔を歪めるクラヴィスにシモンは少しばかり言い直した。
「……つまり。聖石を持った人間たちが何故か集まっているんだ。この辺りに。
 今までこんなこと一度たりともなかったはずなんだ。『最後の審判の日』以来、世界にこれと言った脅威はなくなった―――無論魔族は除いてだが。それに伴ってレティディウス内にいた聖石を持つ人間はほとんど国を離れたんだよ。クララのところみたいにな。それがなんで今になって集まって来てるのか。ただの偶然には思えない」
「なんかが起きるって言うのか?」
 ゼルガディスの言葉にシモンは小さく首を横に振った。
「確信はないけど、そういう推測はできる。もし何かが起きるって言うんだったら聖石持ってるおれは他人事じゃないからな、ちょっとばかり調べてみるさ」
『………………』
 シモンの言葉にゼルガディスとクラヴィスはぽかんとした顔で彼を見つめた。怪訝な顔をしてシモンが尋ねてくる。
「どうしたんだ? そんなきつねにつままれたよーな顔して」
「あーいや……」
「……なんでもないです……」
 それぞれ言ってくるゼルガディスとクラヴィスはさりげなく彼から視線を外した。
 一瞬だけ―――本当に一瞬だけ―――真剣な顔をしたシモンの顔に少々驚いたのだ。
(真面目な顔もちゃんとできるんじゃないか……)
 彼と出会ってからふざけている顔か笑っている顔しか見ていなかった二人はほぼ同時にそんなことを思った。



「≪ジェミニ≫の『依り代』はもう決めたのかい? 旦那」
 自らの聖石≪天秤宮(リーブラ)≫と奪った聖石≪ジェミニ≫を片手で弄んで、物思いにふけっていた所を邪魔されて、彼は少しばかり憮然とした面持ちで答えた。
「……いや、まだだ」
「そうかい―――ああ、あと≪ヴァルゴ≫が契約を結んだらしいな。旦那の苦労は水の泡ってわけだ」
 くつくつとのどの奥を震わせる男に彼は静かに言ってきた。
「アスクス。無駄口を叩いてないで他の聖石を探しに行ったらどうだ? まだ他にも手に入れるべき聖石は九つもある」
 アスクスと呼ばれた男は軽く手を上げて踵を返した。
 背中越しに言ってくる。
「じゃあまず最初は旦那が死にもの狂いで探していた≪ヴァルゴ≫から行こうとするかな」
 ついで嘲るような笑い声。それが完全に消えるまで待って、彼は鼻で笑った。
「何も知らぬ愚か者めが」
 聖石を近くの机において、彼は椅子に深く腰をかけ、足を組みながらゆっくりと目を閉じた。
 そしてたった一言だけ、呟く。なにか大切なものでも扱うかのように。
「―――リリス―――」



「――――て、本当にシモンの奴いなくなってたな」
 いったい何度目になるのか―――行ったり来たりしているゼフィーリアへと続く街道を歩きながらクラヴィスがぽつりと呟いた。
 昨晩シモンはどうやら一階の食堂で寝たらしく、今朝起きて朝食をとりにいけば、宿屋の主人がぶつくさと文句を言っていたのを聞こえた。どうやら自分たちが起きる少し前に主人に叩き起こされて、そのまま追い出されたらしい。
「シモンさん、どこにいっちゃったんでしょうね?」
 昨晩の話を聞いていないアメリアが怪訝な顔をして尋ねてきた。ゼルガディスは小さく肩をすくめて答えてきた。
「どこかは知らんがそう遠くには行かないだろう。もしかしたらまた会っちまうかもしれない―――あんまり会いたくはないがな」
 もしシモンの推測が現実となれば、聖石を持っているアメリアと共にいる限りまた再び会うことになるだろう。
「……ま、シモンの推測もあながち間違っちゃいないようだから、会う確率は高いんじゃないかな」
 クラヴィスの呑気な声に三人は同時に立ち止まった。
 三人の少し前、道のど真ん中でまるで誰かを待っているかのように立ち止まっている男を認めて。
 まるで自分たちの通り道を邪魔するように立っている男にゼルガディスは目を細めた。
「……あんたの待ち人は俺たちってところか?」
「正確には≪ヴァルゴ≫を持っている人間、と言った方が正しいがな―――」
 にやりと笑って、男はポケットに突っ込んであった血のように赤い聖石≪磨羯(まかつ)宮(カプリコーン)≫を見せる。
「おれの名はアスクス。まあ短い間だがよろしく頼むわ」
「本当に短い付き合いにしたいもんだね!」
 一番はじめに動いたのはクラヴィスだった。アスクスの自己紹介の間に唱えていた呪文を解き放つ。
「ファイアー・ボール!」
 真っ直ぐ自分に向かってくる炎の塊に、だが、アスクスは鼻で笑うだけだった。
「甘いわぁぁぁぁぁっ!」
 吠えるアスクスにクラヴィスはにやりと笑った。自分の真正面に魔術防御壁を生み出すアスクスにそのまま突き出した右手の人差し指で放った炎を指差し、そのまま指を曲げる。
 ぎゅいんっ!
 風を切る音と共に炎はクラヴィスの指の動きと同じように動いた。さすがにそこまでは予想していなかったらしく、アスクスは目を見開いていた。
 普通にファイアー・ボールを生み出す呪文に少しばかり手を加えて自由にコントロールできるようにしたオリジナルの呪文である。ちょっとばかし応用力がいるが、呪文の意味を正しく理解している人間だったらアドリブでできる。
「甘いのはどっちだよ!」
 先程の言葉を言い返してクラヴィスはがら空きの背後に炎を移動させる。そのままぱちんと指を鳴らした。
「ブレイク!」
 物凄い音を立てて、炎の塊は内部爆発を起こし、四散する。小さいがいくつもの炎の球にアスクスの姿は埋め尽くされて―――
 立ち上った土煙が晴れて、クラヴィスと傍観していたゼルガディスとアメリアは小さく息を呑んだ。
「……冗談」
 クラヴィスが呆然と呟くのが聞こえる。
 そこにいたのは、間違いなく意表を突かれて炎の中に飲み込まれたはずのアスクスだった。その姿は傷一つない。
 クラヴィスの呟きが風にながれて聞こえてきたのか、アスクスは笑みを浮かべた。
「『悪魔』を倒した聖石の力。見くびってもらっては困る」
 手の上にのせた聖石が輝く。
「今度はこちらの番だな―――」
 言って小さく何かを唱える。輝いた聖石から光が四散し、三人を取り囲むようにして移動すると、その光は何かを形どっていく。
 完全に具現化したものを見つめて、ゼルガディスが怪訝な声を上げた。
「……人形?」
 人形と言っても、よく小さな女の子が遊ぶようなかわいらしいものではなかった。細っこい人の形をしているだけで、顔もない。その数ざっと十数体。
「こいつはおれの言うことを何でも聞く利口な人形でな」
「傀儡人形(ブロック・ヘッズ)ってやつか」
「ほお、よく知ってるじゃないか」
 アスクスの言葉にクラヴィスは鼻で笑った。
「ふっ! 当たり前だろっ! だてに5年も性悪魔道士のところで働いていたわけじゃねぇっ! そんな“でくのぼう”なんざウハウハ言いながら作ってたのを見たわっ! ちなみにこいつはその血ぃ引いた孫だがなっ!」
「お前もだろが……」
 びし、と自分を指差してくるクラヴィスにゼルガディスがうめく。が、それを無視して彼はさらに続けた。
「つーわけでこいつを怒らせると危険だぞっ! どのくらい危険かって? そりゃあもうどっかの河原にピクニックに行って、川の向こう岸で死んだはずの知り合いがにこやかに手招きしてると言う素敵な臨死体験が味わえるくらいだっ! 行ってみたいか? 今なら川の向こう岸に渡るための船の無料招待券付きだ、どんと来やがれ!」
 どう聞いてもケンカ売っている―――相手は複数名いそうな気がするが―――クラヴィスの言葉にアスクスは嘲り笑いを浮かべて宣言した。
「じゃあまず貴様らを無料招待してやるわ! 人形よ、聖石を奪い、殺せ!」
 アスクスの言葉に反応して、十数体の人形はいっせいに三人に詰め寄った。その場を器用に飛び退いて、三人は思う方向にそれぞれ移動した。


 ゼルガディスは例の長剣を抜いて、近くの一体を切りつけた。が、剣はいつもの力を発揮せず、人形の表面を浅く斬っただけに過ぎなかった。
「ああくそ役立たずっ!」
 やけくそ気味に叫んで、鞘にしまって自分の愛用の剣を抜く。いくらなんでも得体の知れない剣に魔力をのせようなどとは思わない。使い慣れた剣に唱え慣れた呪文を乗せて、赤く輝く剣を再び人形に振りかぶった。


 一番多く人形が近寄ってきたのはアメリアのところだった。ほとんどの人形が彼女に近づいていくのを見て、アスクスがにやりと笑った。
「なるほど。嬢ちゃんが≪ヴァルゴ≫を持っているわけだな」
 聖石の力で生み出した傀儡人形(ブロック・ヘッズ)。同じ聖石の力にひかれるのは当然のことである。
「くっ!」
 あまりに多すぎて避けるのが精一杯のアメリアが小さくうめく。避けながら呪文の精神統一などという器用な真似はできそうもなかった。
 ならば彼女得意の体術を使うのみである。素早く身体の態勢を低くして、一体の人形の懐に入りこむ。短い呪文で両手に魔力を込めて、思いきりそれを人形の腹部に叩きこむ。そのまま人形が吹っ飛ばされて地面に転がった―――が、大して効き目がないのはすぐにわかった。転がった人形はすぐに立ち上がり、何事もなかったように再び近づいてくる。
(なんですとぉぉぉぉぉぉっ!?)
 なかなかタフらしい人形にアメリアが心の中で悲鳴を上げる。その一瞬の隙を突いて、別の人形が彼女を軽く突き飛ばした―――少なくとも、偶然その瞬間を見たゼルガディスにはそう見えた。
 見えたのだが。
 どがっ!
 勢いよく吹っ飛んだアメリアが近くの木に背中から激突する。一瞬目を見開いて、そのままずるずると座り込んで動かなくなる。
「アメリア!」
 魔力を込めた剣でも長剣と似たような結果で途方に暮れていたゼルガディスが叫ぶ。が、彼女はぴくりとも動かなかった。すさまじい力だったのか、それとも打ち所が悪かったのか。
(あの鋼鉄娘に『打ち所が悪い』なんて言葉があるもんか!)
 彼は即座に判断した。
「クラヴィス! こいつら見た目より手強いぞ! 接近戦は仕掛けない方がいい!」
 その言葉を聞いて、人形たちが繰り出す殴りを器用に避けながらクラヴィスが叫んでくる。
「じゃあどうすりゃいいってんだよ! 接近戦も駄目、魔術も効かないんじゃあ打つ手無しだぞ!」
 二人の会話にアスクスが笑い声を上げた。
「おいおいもうお手上げか? 大したことねぇじゃないか。もっと楽しませてくれよ―――」
「じゃあとりあえずこの勝負は延期といかないかい?」
「―――!?」
 突然響いた場違いの明るい声にアスクスが目を見開く。何かに気づいて慌てて人形に命令する。
「女から聖石を奪え! 早く!」
 命令に反応して人形が木にもたれかかったまま動かないアメリアに近づく。その間に風に乗って何かの詠唱が響いてくる。
『我は≪パイシーズ≫と契りを結ぶ者なり。我が意思に従い、我が腕に抱かれよ≪ヴァルゴ≫!』
 一瞬、アメリアが―――いや、彼女が持っていた聖石が眩き光を放つ。目を灼くほどの純白の光に思わず一同が目をつぶる。光が収まり、一番初めに目を開いたゼルガディスが木を見た時アメリアはもうそこにはいなかった。
「んぎょにょわぁぁぁぁぁぁぁっ!」
 同時に少し離れたところにいたクラヴィスがこの世は終わりというような悲鳴を上げるのが聞こえてくる。その理由はすぐにわかった。
 先程アメリアが倒れていたところから少し離れたところで、クラヴィスによく似た男を認める。その男―――ウィルフレッド=ヴァレンタインはアメリアを抱きかかえたままにっこりと微笑んでいた。
 そしてのんびりと言ってくる。
「クラヴィスくん、ゼルガディスくん。会いたかったよぅ」
 ―――その言葉に状況もわきまえずクラヴィスは静かに泣き崩れた。



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5851「にょ」あごん E-mail 3/3-00:26
記事番号5837へのコメント

こんばんは!あごんです!お邪魔させて頂いてます!え!?邪魔ですか?・・・そーですか(ちと背中が淋しそう)。では、お邪魔いたしました(ペコリ)。

って帰るなぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!
のあごんです(どーも最近一人芝居が多いんですけど)。

パパリンとーとー登場ですねっ!
しかもまるで謀っているかのよーな、ぐったいみっ!!
はてさてこれで事態は急展開を見せることになるのでしょうか?それとも更に混迷にはまることになるのでしょーか?パパリンが出てきたせいで(笑)。

最初はてっきりシモンかなーとか思ってましたが。
その辺はさすがのねんねこさん!
私ごときに先を読ませるような方ではありませんねっ!

でも最後のパパリンのセリフは「会いたかったにょぅ」にして欲しかったです(笑)。
聖石自体にも色々謎が多そうですし、なんだかとっても気になります!
ではでは!天秤座のあごんでした!

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5854「にょにょ」ねんねこ E-mail URL3/3-02:11
記事番号5851へのコメント

ず、ずいぶん手抜きなタイトル……すみませぬ。
意表を突いて『にゅ』とかやろうかとも思ったんですが。(意表を突くな)

>こんばんは!あごんです!お邪魔させて頂いてます!え!?邪魔ですか?・・・そーですか(ちと背中が淋しそう)。では、お邪魔いたしました(ペコリ)。

邪魔だなんてっ!全然そんなことないですよぅ。
ねんねこさんは手招きして待っておりました(笑)

>って帰るなぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!
>のあごんです(どーも最近一人芝居が多いんですけど)。

一人芝居はねんねこの得意技です。
というか、一人芝居で状況を考えないとはなしが書けないという困りよう。

>パパリンとーとー登場ですねっ!
>しかもまるで謀っているかのよーな、ぐったいみっ!!
>はてさてこれで事態は急展開を見せることになるのでしょうか?それとも更に混迷にはまることになるのでしょーか?パパリンが出てきたせいで(笑)。

多分というか間違いなく後者でしょう(爆)
パパりん出てきたせいでクラヴィスくん再起不能状態(笑)

>最初はてっきりシモンかなーとか思ってましたが。
>その辺はさすがのねんねこさん!
>私ごときに先を読ませるような方ではありませんねっ!

さすがにパパりんの姿が薄くなりかけてましたからねぇ。ここいらで一発ギャグかましてくださいな、ということで。
先を読ませないというか、単にねんねこの文章が支離滅裂なだけのような気が……(大汗)

>でも最後のパパリンのセリフは「会いたかったにょぅ」にして欲しかったです(笑)。

はい。じゃあHPではそうしましょう(><)
というか、今日3月3日。勝手に考えたパパりんの誕生日ですよ!
……小話書きたかったけど時間がなさそう……

>聖石自体にも色々謎が多そうですし、なんだかとっても気になります!
>ではでは!天秤座のあごんでした!

これから急展開になる(予定)ですので期待せずに待っててください(爆)
ちいうわけで『愚か者』という意味がある山羊座のねんねこでした☆

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5912THE DAY OF JUDGMENT 12ねんねこ E-mail URL3/8-02:09
記事番号5788へのコメント


「―――と、言うわけで。アメリアちゃんも回収したことだから」
 にっこり笑ってウィルフレッドはすちゃっ、と手を額の辺りに掲げて人形に周りを取り囲まれているゼルガディスとクラヴィスに言う。
「後はよろしくね(はぁと)」
「助けるつもりなっしんぐ!?」
「うん♪ 息子とは言えど、男の子助けるのはまっぴらゴメン♪
 じゃあ、死なない程度にがんばってにょ♪」
 言うだけ言って、そのまますさまじい勢いで走り去っていくウィルフレッドに残された二人が呆然と見送る。
「逃げ足はやっ!?」
「ンなこと言ってる場合かっ! どーすんだよ、これ!」
 悲鳴のように声をあげるゼルガディスにクラヴィスは即答した。
「決まってんだろ。逃げるんだよっ!」
 言って、そのままアスクスに指を突きつける。
「いいか、今からこっちは名誉ある撤退をするが、いつか必ずてめぇを三途の川にご招待して閻魔大王さまに会わせてやっからな!
 それまで≪磨羯(まかつ)宮≫なてめぇはヤギらしく『めぇぇぇ』とか鳴いて紙でも食ってろ! ヤギはヤギらしい生活しろってんだ、このヤギ野郎っ!」
 まるで捨て台詞のような言葉―――と言うか完璧な捨て台詞なのだが―――を吐いてクラヴィスは呪文を唱える。
 逃げると言うのに口だけは達者な兄に呆然としていたゼルガディスも慌てて同じ呪文を唱え。
『レイ・ウイング!』
 風の結界で近寄っていた人形を跳ね飛ばし、高速に空に飛び上がる。同時に術を発動させて、上空からアスクスと人形たちを見た。
 なにも攻撃してこないところを見ると、あくまで目的は聖石だったらしい。広範囲に渡る大技一発使って人形たちを焼き払えるかどうか試そうとしても、あいにく術の制御で手一杯である。ゼルガディスとクラヴィスは顔を見合わせるとそのまま裏切り者の父親の後を追った。


 さしたる用事もない男二人を見送って、アスクスは目標を失って困ったようにわさわさと動いている人形を腕を一降りするだけで全て消し去った。
 先程のことを思い出す。
 乱入してきたあの男。確かに聖石を持っていた。
 聖石≪ヴァルゴ≫と聖石≪パイシーズ≫―――一気に二つの聖石の持ち主を発見して彼はにやりと笑みを浮かべた。



   THE DAY OF JUDGMENT   SENTENCE 12



「……結局逃げ帰ってきちゃったんですか!?」
 さっさと逃げたウィルフレッドと彼に連れ去られたアメリアに追いついたゼルガディスとクラヴィスにすでに意識が戻っていたアメリアの容赦ない言葉が突き刺さった。
「あのなあ……」
 ゼルガディスは脱力しながら言ってくる。
「一番初めにノックアウト食らったお前が何を言う」
「うく!?」
 一番触れてはならないことを言われて、思わずアメリアがうめく。わさわさと手を動かしながら、必死に言い訳を考えてそれを口に出す。
「えっとだからそれは……わたしも女の子なわけだし……」
「言い訳としてはありきたりだな。5点」
「せめて10点にしてください……」
 なんとも低レベルな言葉を交わしていると、傍観していたクラヴィスの背中から何かがぺったりと張りついてくる。なぜか血まみれになった“それ”が言ってくる。
「クラヴィスくんひどいにょぉう」
 二人―――というかクラヴィスが父親に追いついて一番はじめにしたことが親父抹殺だった。死んでもおかしくない程度に殴る蹴るしてみたのだが―――あちこちから血が出ているものの死ぬ気配はなかった。
 そのことにクラヴィスは少し感心したりしたのだが。
 ウィルフレッド―――というか血だるま―――の言葉にクラヴィスは別に怒るわけでも笑うわけでもなく、ほとんど表情を変えずに言ってくる。
「どっちがひどいんだ? 自分の息子を命かけて守るのが親の仕事だろうが。そのために命落としても泣いてやらんが」
 ごす。
 クラヴィスが無造作にその血だるま―――というかウィルフレッド―――の鳩尾にひじを叩き込む。うめいて、ずるずると地面に倒れる父親ににべもなく言い放つ。
「近づくな。血がつく」
「……ひどいにょ……」
「ひどくて結構」
「うううううううううううう」
 泣きながらウィルフレッドはクラヴィスの背中に顔をすりよせた。上下左右に動かして―――顔にくっついた血をクラヴィスの服でぬぐってるわけだが。
 その行動にはさすがにクラヴィスも叫ばざるを得なかった。
「うを!? なにしやがるくそ親父っ!?」
「血をね、拭いてるにょ」
「にゅああああっ! やめんかっ! 服が汚れるっ!」
 立ち上がって自分に張りついたまま離れようとしない父親を引っぺがそうとするが、どうやらウィルフレッドの方も離すつもりはないらしい。足をぶらぶらさせながら必死にクラヴィスの腰に巻きついていた。
「ああ、もう!」
 父親を背中にくっつけたまま、未だ言い訳の点数について論議している―――ちなみに今は、8点にまで追い上げている―――ゼルガディスの前に来ると、クラヴィスはマントを束ねてあるブローチを外す。
「なにすんだよ?」
 顔をしかめてくるゼルガディスにブローチを渡し、マントを取り上げ、父親に渡す。
「ほら、これで思う存分拭いたれ」
「うみゅ」
「拭くなっ!」
「ううみゅ」
 今度は標的をクラヴィスからゼルガディスのマントにかえたのか、ゼルガディスがマントを引っ張りあげると、マントと一緒にウィルフレッドがくっついてくる。
「拭き拭き拭き拭き」
「だぁぁぁぁぁぁら、拭くなぁぁぁぁぁぁ!」
 一生懸命、顔の血を拭うウィルフレッドに青筋を立てながらゼルガディスが絶叫した。
「おい、クラヴィス! そっちから引っぺがせ!」
「らじゃっ! ……て引っぺがした後どうするんだ?」
「お前の親だ。俺は戸籍上赤の他人」
「そーくるわけかぁぁぁぁぁっ!?」
 結局面倒を押しつけられて、クラヴィスが絶叫する。どちらが父親の面倒を見るかでしょうもない押し問答を繰り返す兄弟の間でなぜか満足そうに微笑んでいるウィルフレッドを遠巻きに―――巻き込まれるのは死んでもごめんである―――見ながらアメリアは心中で呟く。
(……かまって欲しかったのね……きっと……)
 まるで一匹の猫に手を焼く二人の子供のような光景を作る親子に彼女は小さく苦笑した。



「それで? 結局いったいなにしに来たんだ?」
 とりあえず、いろいろな意味で感動的だった数ヶ月ぶりの親子の再会も済んだ後。
 近くの街の食事処でお茶をすすりつつ、その切り出したのはクラヴィスだった。
 息子の言葉にウィルフレッドは思い出したように小さく声をあげる。
「最近、聖石の力がやけに活発でね。妙だなーって思って確かめに来たんだ」
 まったく棒読みのその台詞に一同が半眼になる。代表してクラヴィスが尋ねてきた。
「……本当のところは?」
「暇で暇でつまんないし、クラヴィスくんは『うにょろーん』としか手紙に書いてくれないし、ゼルガディスくんなんか音沙汰ないし……」
「失敬な。『うにょろーん』は古代エルフ語で『元気やってます』って意味なんだぞ」
「とってつけたように言わないでにょっ!」
 いけしゃあしゃあと言ってくるクラヴィスに珍しくウィルフレッドが即座に突っ込む。むう、とうめくクラヴィスにうううと彼は泣き濡れた。
「ひどいにょひどいにょ。みんなひどいんだにょ。
 昔は継承者争いに勝つためにハージェスもエドも構ってくれたのに今じゃ全然ちっとも構ってくれないにょぅぅぅ。
 その上自分の子供に半殺しにさせられるわーどっちが面倒みるかでたらい回しにさせられるわー……きっと僕、寂しい老後を過ごして人知れず人生終わらせていくんだにょぉぉぉう」
「……あんたに老いってあるのか……?」
「あるに決まってるでしょ!」
 ぼそりと言ったゼルガディスの呟きが聞こえたのか、ウィルフレッドが珍しく青筋を立ててゼルガディスに詰め寄る。
「僕をあのくそジジイと一緒にしないでよっ! あれは異常だよっ!」
 ウィルフレッドが言う『あのくそジジイ』が誰を意味するのかはすぐにわかった。一時の叶わぬ恋人―――不倫関係といった方が正しいのだが―――とはいえ、目に入れても痛くないというほど可愛がっていたたった一人の愛娘に手を出したのだ。
 一時期、直接手ほどきを受けたと以前ちらりとクラヴィスから聞いたが―――きっとその時に半殺しなどという言葉では済まされないメに多々あったのだろう。ゼルガディスとクラヴィスに言わせれば、殺意がわかなかったのならまだマシらしいが。
 とにかく昔のことを思い出したのか、すごい形相で詰め寄ってくるウィルフレッドにゼルガディスが思わず仰け反る。降参、と言うように軽く手をあげながら声をあげる。
「あ、いや、あの……すみません。はい」
 珍しく丁寧な言葉遣いで言ってくるゼルガディスにアメリアが笑いながらウィルフレッドに目をむける。
「ウィルフレッドさんはなんの聖石なんですか?」
 さすがクラヴィスの原型と言うべきか、物事の優先順位は女の子の方が上らしい。さっきの形相もどこへやら、にっこり笑って言ってくる。
「僕のはね、≪双魚宮(パイシーズ)≫だよ。お魚さん♪」
「そういえば―――さっき使った力も聖石の力なのか? 空間転移なんて魔族でないと使えんだろ?」
 ゼルガディスが先程のアメリアを助けた術について尋ねる。
 ウィルフレッドの声が響いて光が辺りを覆ってから収まるまでその時間はほんの数十秒である。その間になにやっても倒せない人形の攻撃を潜り抜けてアメリアを回収した後、木から5メートルは離れているところにひょうひょうとした顔で佇むことは理論上不可能である―――無論、このウィルフレッドなら平気でやってのけそうなどといった意見を全て却下すればの話だが。
「うん。もともと聖石は一つだったものが十二個に分かれただけだから、お互いの干渉力が強いんだよ。だから、少し意識すれば、他の聖石がどこにあるか分かるし、一つに戻ろうとする聖石の力を利用して、聖石を持つ人間ごと呼び寄せることも出来る―――まあ、聖石同士にも相性ていうものがあるからそう簡単に上手くはいかないんだけどね」
 ウィルフレッドは言いながら肩をすくめた。
「聖石については―――この石を代々引き継いできた者たちにさえ知らされていない事実が隠されているんだ。だから実際はこの聖石がどうやって出来たのか、どうしてこんな石ころで悪魔を倒すことが出来たのか―――全て謎のままなんだよ。
 ただ、聖石一つでもものすごい力を持っているのは確かだね。ゼルガディスくんたちが苦戦して結局逃げ帰ってきた―――」
 言いかけて、二人の息子に半眼で睨まれていることに気づき、さりげなく訂正する。
「―――もとい。名誉ある撤退をせざるを得なくなるまで追い詰められたあの人形も聖石の力の一部だしね。普通の魔術も効きやしない」
 ウィルフレッドの言葉にゼルガディスは壁に立てかけておいた長剣を手に取り、まじまじと見つめる。
「こいつも役に立たんかったしな」
「しょせんはその程度の剣だったってことじゃないですか?」
 アメリアの言葉にゼルガディスは嘆息しながらうめく。
「使い勝手は良かったんだけどな……」
 ゼルガディスの声に合わせて、頭の中で息を呑む声が聞こえる。
『……混沌の剣(カオス・ブレイド)だと……!?』
 頭の中で響く≪パイシーズ≫の驚愕の声。一度だけ耳にしたことのあるその剣の名前にウィルフレッドは目を見開いて声をあげる。
「なんだって!?」
『……へ?』
 突然いきなり声をあげたウィルフレッドに三人が同時に間の抜けた声をあげる。怪訝な顔をしておずおずとゼルガディスが言ってくる。
「……いや、使い勝手は良かったんだけどなー……って」
 ゼルガディスの言葉を聞いて、ウィルフレッドは今更ながらにはたと気づく。
 聖石≪パイシーズ≫の声は持ち主たるウィルフレッドにしか聞こえないのだ。三人からしてみれば、ゼルガディスの言葉を聞いていきなり声をあげたと思ったのだろう。
「あ、いや……なんでもないにょ。そうか、使い勝手良かったのに残念だったにょ」
 適当に誤魔化しながらウィルフレッドはため息を吐く。
 アメリアの持つ≪ヴァルゴ≫には―――と言うより、≪パイシーズ≫以外の聖石がぺらぺらと喋ることは決してないだろうから、≪パイシーズ≫が言葉を話すなんて気づきもしないだろう。
 しばらく訝しげな顔でこちらを見ていた三人だったが、いつもののへらとした笑みで誤魔化したため、そのままそれぞれ話を続ける。その話を適当に聞き流しながらウィルフレッドはじっとゼルガディスが手にしていた長剣を見つめた。
(……本当にあれが混沌の剣(カオス・ブレイド)なわけ? ≪パイシーズ≫)
 心の中で問いかけると≪パイシーズ≫は答えてくる。
『断言は出来んが……あまりにも似過ぎている。あれは封印されたはずだぞ』
(……引っこ抜いてきちゃったってことでしょ……)
 心中でうめいて、ウィルフレッドは息を吐いた。
 ふと、会話の間で咳き込むゼルガディスにウィルフレッドが首を傾げた。
「ゼルガディスくん、風邪なの?」
「ああ、まあ」
 更に咳き込むゼルガディスにアメリアも心配そうな顔をする。それに気づいて、彼は手をぱたぱた振った。
「大丈夫だよ。心配するな」
「……そんなこと言ってて突然ぶっ倒れても看病しませんからね……」
 心配そうな表情で言ってくるアメリアにゼルガディスが苦笑した。
『……確かめる必要がありそうだな』
 苦虫を噛み潰したような声が聞こえてくる。その言葉にいつになく真剣な面持ちでウィルフレッドはゼルガディスを見つめた。



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……真っ暗闇を歩いていたら、今日届いたグレープフルーツのダンボール箱にケンカ売られました。良い度胸してるじゃないか(怒)
……てまじ痛いっす(泣)擦りむいてる……ダンボール箱に負けた女なんて……い
や……(泣)

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5913浦島太郎な気分。雫石彼方 3/8-03:16
記事番号5912へのコメント


ここに来るのも久しぶり☆な雫石でっす!

やっぱりと言うか何と言うか・・・・しばらく来ない間にめちゃめちゃ話が進んでてすっかり浦島太郎ですよ。もくもく。(←煙の音らしい)

つーか双子ちゃん死んでるしっ!?あぁぁなんてこったい。
パパりんまで合流してるし。ゼルが引っこ抜いてきた剣、やっぱりやばいものっぽいし。ごほごほ言ってるし。たーいへーんだー!

・・・・ごめん。妙な感想で(汗)最近ぐっすり寝てないからちょっとおかしいみたいです、雫石さん。

とりあえず、続き楽しみにしてますv

P。S とりあえず免許は取れたんだけども、もうちょっと実家で過ごすつもりなので、メール復帰は早くて日曜日になりそうでし。遅くても月曜日にはっ・・・・!!


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