◆−白の奇跡 5−ねんねこ(12/25-14:29)No.5286
 ┣白の奇跡 6−ねんねこ(12/25-14:31)No.5287
 ┃┣どーなっとんじゃゼロスーーーっ!!−雫石彼方(12/25-20:50)No.5289
 ┃┃┗ゼロぽん今世紀最大の悪事(笑)−ねんねこ(12/26-15:53)No.5294
 ┃┗な、なにゆえに。ゼロス〜?−桐生あきや(12/26-00:50)No.5293
 ┃ ┗ぜ、ゼロスの立場って……(笑)−ねんねこ(12/26-15:59)No.5295
 ┣白の奇跡 7−ねんねこ(12/28-15:40)No.5304
 ┃┣iモードから(笑)−桐生あきや(12/28-17:15)No.5306
 ┃┃┗素敵過ぎだなおい(笑)−ねんねこ(12/30-11:06)No.5319
 ┃┣付録;クーちゃんの解説「これぞ、対ゼルちゃん用大作戦」−桜華 葉月(12/29-04:13)No.5310
 ┃┃┗これぞクーちゃんが身体を張った汗と涙の結晶さ(笑)−ねんねこ(12/30-11:11)No.5320
 ┃┗???−雫石彼方(12/31-04:04)No.5322
 ┃ ┗!!!−ねんねこ(12/31-16:57)No.5327
 ┣白の奇跡 8−ねんねこ(12/31-16:48)No.5324
 ┗白の奇跡 9−ねんねこ(12/31-16:49)No.5325
  ┣短いですが感想を……−ゆっちぃ(12/31-20:45)No.5329
  ┃┗ありがとうございます。−ねんねこ(1/3-13:33)NEWNo.5342
  ┣復活(仮)−桐生あきや(1/1-02:15)NEWNo.5330
  ┃┗……………!!(爆笑)−ねんねこ(1/3-13:41)NEWNo.5343
  ┗お疲れ!!−雫石彼方(1/1-05:20)NEWNo.5334
   ┗さんきゅー!!−ねんねこ(1/3-16:57)NEWNo.5344


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5286白の奇跡 5ねんねこ E-mail URL12/25-14:29


ねんねこです。
気がつけばツリーが落ちそうです。受験控えた分際で落ちる言うな自分。
というわけで新しくツリー作成。
しかも困ったことにまだ続く(死)クリスマス終わってもクリスマスネタ有効にして下さい。ではどうぞ♪


**************************

「いいか、指輪はだめだぞ指輪は」
 ショーウィンドウに飾られる指輪を興味津々に眺めるクラヴィスにゼルガディスは釘をさした。訝しげな顔をしてクラヴィスが見てくる。
 ゼルガディスは嘆息した。
「前に誕生日プレゼントとしてあげたことがあるんだ」
「……その後、本物を買ってやるとかほざいてたじゃん」
「う……いやまあそういう事も言ったかもしれんが……」
 反撃されてつまりながらゼルガディスは咳払いをして誤魔化した。
「でもそう毎回貴金属やってもしょうがないだろ。旅の途中でなくしたら大変だとか言って、全部大切に荷物の中にしまってるんだぞ、アメリア。
 と、いうわけで、今回の別のものにする……ってなにしてんだ?」
 両手を後ろに回し、首から下げている鎖の止め具を外しているクラヴィスを見て怪訝な顔をする。
 ゼルガディスの問いには答えずに、クラヴィスはそのまま鎖から自分の結婚指輪を取り出すと、そのままゼルガディスの左手の付け根を掴んで薬指にはめてみる。
「……なんなんだ?」
「いや、別に。さすがにもやしっ子は指の細さももやしだなと」
 至極真面目な顔で答えてくるクラヴィスの顔面に蹴りを入れながら、ゼルガディスはそのまま店を出ていった。
 ひとり店に取り残されて、ゼルガディスに蹴られたせいで倒れたクラヴィスはむくりと身を起こすと何とか回収した指輪を見つめた。



    +++ 白の奇跡 5 +++



「……まったく、久々に人間界に行っても良いというから何かと思えば……獣王様も酷いですよね。
 ……まあ、寄り道してる身ですから、なんの文句も言えないですけれど」
 いつものごとく全ての行動が唐突な獣神官ゼロスは、やはりいつもの通り唐突に出現した。
 ゼルガディスやクラヴィスの居場所はともかく、アメリアの居場所は先の事件で関わった彼女の母親の形見の魔力波動を探ればすぐにわかる。
 それを頼りにゼロスは一軒の宿屋に辿り着き、入口の扉を開けようとして――宿屋の中から微かな怒りの感情を汲み取って細く目を開けた。



「この宿を取る必要はないんじゃありませんか? あなたが半年前まで自分の家とした孤児院はここから数キロと離れていないんですから」
 アメリアの言葉にアレンは無言で上りかけた階段をゆっくりと降りてきた。
「セシルの奴から聞いたんですか? 私があの子の兄だと……」
「『アレンお兄ちゃんに会いたい』―――あの子が最後にポツリと漏らした言葉です。
 どうして帰ってあげないんですか? どうして会ってあげないんですか? こんなに近くにいるのに!」
 睨みつけてくるアメリアをアレンは冷たく見つめた。そっけなく言い放つ。
「私があの子に会う会わないなんて、あなたには関係のないことだ」
「関係なくないっ!!」
 激しく頭を振りながら彼女は即座に否定した。
 ―――落ち着いて!
 頭でそう言い聞かしても、心はそれを拒んだ。後から後から言葉がわいてくる。
 なんで?
 どうして?
 帰って来てくれないの?
 戻ってきてくれないの?
 ―――どうでもいいの? わたしのことなんて……?
 暴走する自分の思い。
 寂しいの。あなたがいなくて。
 不安なの。あなたに会えなくて。
 恐いの。もう二度と会えないんじゃないかって。
 寂しいのは嫌。不安なのも嫌。恐い思いなんてしたくない。
 アメリアは俯いた。
 小さく呟く。
「……関係、なくない……」
 彼女の様子にアレンは見下すように鼻を鳴らした。
 目の前のこの少女は。
 この大国セイルーンのお姫さまは。
 生まれた時からなに不自由なく暮らしてきただろう。
 欲しいものは全て手に入れて。
 両親から惜しみのない愛情をもらって。
 裕福な生活をしてきただろう。
 なんの権力も持たず、明日を生きる為の金さえ苦労した自分とは違う人間。
 ―――そんな人間に自分の気持ちなど分かるはずがない。
 アレンは思わず口に出した。
「あなたに何がわかる? 裕福な家庭に生まれて、幸せに育ってきたあなたに、私やセシルの気持ちがわかるはずないだろう?
 下手に同情して、他人(ひと)の家庭を踏みにじるのはやめてくれっ!」
「――っ!」
 俯いていたアメリアがアレンの顔を睨みつけたその瞬間。
 ぱんっ!
 部屋に乾いた音が響き渡った。



「まあ、考えてみれば」
 ひとり街を歩きながらゼルガディスがぽつりと呟いた。
「男の俺が女の欲しがるものなんてわかるはずなし。結局何をあげれば良いのやら。
 思い切って『プレゼントは俺さ♪』とか言ってあいつを困らせてみるか、てンなこと出来るわけないってんだよこんちくしょう」
 かなり切羽詰まっているのか、周りの人間の不審な目も気にならない。ぶつぶつといろんなことを呟きながら道を歩く。
「……やっぱりクーを連れてくるべきだったな。異性関係のことに関しちゃああいつの右に出る奴はいないし」
 嘆息する。
 道の真ん中で立ち止まってふと横に視線を向ければ、端に並んでいるたくさんの露店が目に入った。その中の一つ。
「……ほう」
 思わず小さな感嘆の声をあげながら、ゼルガディスはその露店に近づいた。
 他の露店と違って棚も何もないただ敷物が敷いてあるだけの簡易露店。
 その黒い敷物の上には、様々な髪飾りが商品として並べられていた。そのほとんどが銀細工で、その小さな髪飾りには、細かな装飾が施されていた。
 まるで、小さいながらも自分自身を精一杯に表現するような鮮やかな装飾。
 それはゼルガディスが思わず感嘆の声をあげるほど。さぞや彼女の綺麗な黒髪を引き立ててくれるだろう。
 どれが彼女に似合うか、しばらく悩んだ後、ゼルガディスは可愛らしい天使の羽根が彫られた髪飾りを買って満足そうに頷いた。
 と。
「ああなんか幸せモード全開って感じでヤな感じですねぇ……」
「のひょうっ!?」
 突然真後ろからかかったぼそりとした声にゼルガディスは背筋を震わせながら飛び退いた。驚いてフル回転中の心臓を右手で押さえながら非難の目を相手に向ける。
「ゼ、ゼロスっ! またお前は性懲りもなく突然わいて出てきやがって!」
「またそんな人を幽霊とかボウフラとかそーいう目で見て……」
「何を言うか。そんなこと言ったら幽霊やボウフラがかわいそうだろう。それ以下だ。以下」
 きっぱりと断言してくるゼルガディスにゼロスは無言で恨みがましく彼を見つめたが、そんな視線でどうにかなるような相手ではない。すぐに諦めて、嘆息する。
「とりあえず、大変なことが起きたんですよ」
「大変なこと?」
 怪訝な顔をしながらおうむ返しに問う。
 だが、答えたのはゼロスではなかった。
「アメリアちゃんがさぁ、アレンのこと殴ったらしいんだよな。ゼロスの話によると」
 先程までゼルガディスが立っていた場所にいつの間にやらしゃがみこんで、髪飾りを眺めていたクラヴィスがぽつりと言う。
「……殴った? さっきの飛び蹴りじゃなくて?」
「飛び蹴り……? そんなことしたんですか?
 僕が見たのは、アメリアさんがダサい服着た人間の顔にそれはもう素敵なくらいストレートに張り手を飛ばした所ですけど」
 その言葉にゼルガディスはこめかみを押さえた。
「まったく何をしてんだか……」
「ゼロスの話を聞いたんだが」
 よっこらしょ、と言いながら立ち上がって、腰を何度か軽く叩きながらクラヴィスが言ってくる。
「こいつが聞いた話が正しかったら、アレンの奴、アメリアちゃんが会いに行ったとかいうあの少年の実の兄貴らしいんだが」
「ああまためんどくさいことに……」
 痛む頭を抱え込みながらゼルガディスはうめいた。



 その日の夕食にアメリアの姿はなかった。ちょっとすることがあるからと自室で夕食を取る、と言い出したのだ。
 その言葉を聞いたゼルガディスもクラヴィスも少しばかり顔を見合わせるだけで何も言いはしなかった。
 彼女の『することがある』と言うのは嘘なのだろう。ただ、同じ場所で夕食を取るであろうアレンと顔を合わせたくないのだ、と2人は解釈していた。
 結局イヴの前日だと言うのに男2人顔を突き合わして食事などと言う果てしなく悲しい夕食を取った後、そのまま一杯やっている時、ゼルガディスが席を外した所でクラヴィスは隅っこでちびりと酒を飲んでいたアレンに近づいた。
「よお、アレンくん。お酒はいける方なのかい?」
「……出会い頭にその台詞か?」
 自分の姿を一瞥しただけですぐに正面に向き直ったアレンの台詞にクラヴィスは軽く笑みを浮かべながら隣に腰掛けた。
「さっきから見てたけど、それまだ一杯目だろ。にも関わらず顔が真っ赤だからちょっと不思議に思っただけさ。
 なんだかオレにはそれがやけ酒のように見えてね」
「余計なお世話だ」
「……言うと思ったが。まあ、その余計なお世話のついでに昼間の話でも聞かせてくれよ―――思いっきりひっぱたかれたんだって? あ、マスター。ダブル1つ」
 その言葉にアレンは近くを通ったマスターに注文をしているクラヴィスを睨みつけた。
「……見てたのか?」
「聞いただけだよ。で?」
 興味津々という顔で見てくる彼にアレンは一気に残りの酒をあおると、乱暴にグラスをテーブルに戻した。
「あんたには関係ない」
 そう言い残して、酒代をテーブルにおくと、少しばかりふらふらとしながら2階の階段に向かって歩いていった。
「おや、フラれちまったのかい?」
「んー、まぁな」
 頼んだ酒を持ってきたマスターの言葉に苦笑いをしながらグラスを受け取る。足を組んで、テーブルにひじを突いてほおづえしながらクラヴィスはグラスを傾けた。
「関係ない、か……」
 横目でちらりと階段の方を一瞥した。アレンの姿はなかったが。
「……もう関わってることにそーいうコト言われると、腹立つんだよな。オレさまとしては」
 ぽつりと呟いて、グラスをテーブルに置く。中の氷が音をたてた。
 あごに手を当て、何かを考え込むようなしぐさをしながら、目を細める。
「まずはセシル少年の方から当たってみるか」



「と、いうわけで♪」
 どこか楽しげなその口調にゼルガディスはあからさまに嫌な顔をした。
 嬉しそうな顔でメジャーを持つクラヴィスを見る。
「……お前まだ諦めてなかったのか……」
「無論だ。ゼルガディス=トナカイ=グレイワーズの誕生のためにはどーしても一度は通らなくてはならない道だ。観念して計らせろ」
「人の名前を勝手に変えるなっ! 何度も言うようだがトナカイはい・や・だ。というか着ぐるみとか仮装とか全部却下。以上。諦めろ」
「そんなっ!」
 かなり大げさに手を横に広げながらクラヴィスが嘆くように言ってくる。
「昨日のうちにサンタの衣装はもう完璧に作り終わったのに! サンタひとりだけはマズイだろ!? やっぱりサンタとトナカイは一心同体だっ!
 酒につまみがないと寂しいよーに、サンタにもトナカイがいないと寂しーもんなんだぞっ!?」
「サンタがいなけりゃ寂しい気持ちになんぞならんだろ。
 もうさっさと夜更かししないで寝ろ。こっちはお前に付き合ったせいで明日二日酔い確実なんだから」
「むう。軟弱な。たかがボトル一本開けた程度だろ? なんでそんなんで酔うんだよ?」
「……ウワバミにはわかるまい……」
 げんなりとした口調で言う。もうこの話は終わり、という風に手をぱたぱたと横に振って、クラヴィスに背を向けて、寝る支度をし始める。
 寝巻に着替えて、枕をぽんぽんと叩く。
 その様子を頬を膨らましながら見ていたクラヴィスが何かを思いついてにんまりと笑みを浮かべる。
 兄のそんな様子に気づかず、そのまま布団の中に潜り込もうとした時だった。
「ていっ! 強硬手段っ!」
 だきぃっ!
「のぉうわぎぃえぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇっ!?」
 突然後ろから腰に抱きついてきたクラヴィスにゼルガディスは断絶魔のような悲鳴をあげた。



 大きなベッド。ピンク色の天蓋がついて、ふかふかの枕と掛け布団で。
 いつも寝る時には隣にお姉ちゃんがいてくれた。
『おやすみ。また明日ね』って声をかけてくれた。
 いつも朝起きた時には隣にお姉ちゃんがいた。
『おはよう』って声をかけてくれた。
 それが当然だと思っていた。
 それがいつしか当然ではなくなった。
 寝る時も起きた時も誰もいない。
 誰も。
 当然でなくなった最初の日の朝、城には姉の姿はなかった。



 わたしはおいてかれたの?
 もう会えないの?
 ―――お母さんみたいに?



 ほとんど真夜中と言っても良い時間。
 宿屋に響いた奇怪な悲鳴にアメリアは慌てて身を起こした。
「……ゼルガディスさん?」
 異様な叫び声だったが、その声は確かにゼルガディスの声だった。それは間違いない。
ソファーから離れて、廊下に向かおうと扉に近づく。
 と、小さくノックする音が聞こえて、彼女はそのまま扉を開けた。
 そこにいたのは予想通りの人間。
 もともと青い顔をさらに真っ青にして、身震いするゼルガディス。毛布と枕を片手に、彼は言ってきた。
「すまん。床で良いから避難させてくれ」
「それは構いませんけれど……どうしたんですか?」
「聞くな。言いたくもない」
 自分の問いに対して即答してくるゼルガディスにアメリアは無言でこくこく頷いた。よっぽど嫌なことでも起こったのだろう。ここに来る、と言うことは間違いなく原因はクラヴィスである。
(クラヴィスさん……死んでなきゃ良いですけれど……)
 なんとなくそう思いながらゼルガディスを部屋に招き入れた。
 実際のところ。
 とりあえずクラヴィスは死んではいなかった。ゼルガディスに2階の窓から蹴り落とされて、下で目を回しているだけで。見た目よりも頑丈なその身体が幸いして、ちょっとばかし変な方向に曲がった首以外はまったくの無傷だった。
 それはともかく。
 彼女に部屋に入ることを許され、部屋に足を踏み入れたゼルガディスは訝しげな顔をした。
「アメリア?」
 とりあえず彼女の名を呼ぶ。
「なんですか?」
「あー、いや……もしかしてお前ソファーで寝てたのか?」
 彼の問いに彼女は小さく苦笑いした。
 部屋に入ってまず感じた違和感は、ベッドにあるべき物がなかったことに始まった。
 どんなに最低な宿にも必ずある掛け布団と枕。
 それがなかったのだ。
 視線を這わせ、それを見つけたのは2人がけ用のソファーの上。
「ちょっと、あんまりよく眠れなくて……」
「ベッドでか? ソファーの方が寝づらいと思うぞ? 硬いし狭いし。
 それに今夜は冷えるからちゃんとベッドで寝た方が良い」
 言いながらソファーに近づき、彼女の枕と毛布を抱え、あいたソファーの上に自分のものを乗せてからベッドの上の定位置にそれらを置く。
 癖なのか、枕をぽんぽん叩きながらアメリアを見た。
「ほら、さっさと寝ろ」
 ゼルガディスの言葉にアメリアは少し不満顔をした。
「……ベッドで寝たくありません」
「は?」
 あまりにも素っ頓狂な彼女の言葉に思わず間の抜けた声をあげる。
 髪をぐしゃぐしゃ掻きながら困ったような顔をする――実際困っているのだが。
「何をそんなわがまま言って……だいたいなんでベッドで寝たくないんだ? もしかしていつもソファーで寝てるってわけじゃないだろう?」
「違いますけど……今日は寝たくないんです」
(……なんじゃそら……)
 彼女の変な行動は日常茶飯事に起きて慣れていたつもりだったが、さすがにこう来るとは思わなかった。
 とは言っても、このまま寝る寝ないの論議をしていてもらちがあかない。ゼルガディスは頭を振りながら彼女に近づいた。そのまま彼女の手をひき、ベッドわきまで連れてくる。彼が何をしようとしているのか理解して、アメリアは激しく抵抗した。
「嫌っ! ベッドで寝るのは嫌なのっ!」
 振り解こうとする彼女の手の首に少し力を入れて掴み直し、ゼルガディスは叱咤した。
「アメリア、いい加減にしろ! 子供じゃあないんだ、駄々をこねるなっ!」
 その言葉に彼女は動きを止めた。俯いた彼女の様子に小さくため息を吐いてゼルガディスは手を離してやる。彼女がぽつりと呟いた。
「……嫌いになった?」
 その問いにゼルガディスは一瞬怪訝な顔をしたが、嘆息しながら答える。
「ンなわけないだろが」
「……嘘」
「嘘?」
「みんな嘘。寝る前にベッドの前でかわされる会話はみんな嘘。
 『また明日』? いなかったじゃない、どこにも」
「アメリア?」
 何を言っているのかわからなくて、彼女の名前を呼ぶことしか出来なかった。ただ戸惑うばかりのゼルガディスの服を両手でしっかり握りしめて、彼女は彼の胸に頭を埋めた。
 彼女から香る微かなアルコールの匂いにゼルガディスは顔をしかめた。
 そんな彼の表情など気にも留めず、ただ言葉を紡ぐ。
「嘘は嫌い。嘘をつく人も嫌い。嫌い嫌い嫌い。みんなきら――――っ!?」
 彼女の目の前に広がったのは、彼の顔だった。
 アメリアはゆっくりと目を閉じた。
 しばしの沈黙の後、捕らえた彼女の唇を解放したゼルガディスがぽつりと尋ねてくる。
「……お前は俺が嫌いか?」
 その問いにアメリアはすごい勢いで首を横に振った。
「嫌いなんかじゃないっ!」
「でもベッドの前で交わされる話は嘘なんだろう? じゃあ、お前は俺が嫌いなわけだ」
「ちが……!」
 泣きそうな顔で真っ直ぐ見つめてきたアメリアを彼は力いっぱい抱きしめた。耳元で囁く。
「知ってるよ、お前に嫌われていないことなんか。
 ―――わかっただろ? 俺もお前を嫌いじゃない」
「……ごめんなさい……」
 少しだけ身体を離して、俯く彼女をじっと見つめる。その視線が何を意味しているのか理解して、アメリアはぽつりぽつりと呟くように言う。
「恐いの。ベッドでひとりで寝るのが恐いの。
 いつも寝る時に隣に姉さんがいてね、『おやすみ、また明日ね』って言ってくれてたの。でもある日突然いなくなった。『また明日ね』って言ってたのに……」
「……」
「わたしずっと待ってた。ずっとずっと。だけど姉さん戻ってこなかった。
 ランディオーネおじさまが旅の途中で亡くなられた時も従兄のアルが死んだ時でさえ、戻ってきてくれなかった!
 ……恐いの。ベッドで寝るのが恐いの。朝起きても誰もいないの。わたしは1人おいていかれて、いつもいつも待ちぼうけ。
 待っているのはわたしだけ? 姉さんはわたしのことなんてどうでも良いの?」
「……アメリア」
「アレンさんに言われたの。『裕福な家庭で幸せに育った奴には自分たちの気持ちはわからない』って。でもねわかるの。突然おいていかれたセシルの気持ちがよくわかるの。それを言ってやりたかった。どんなに辛いか教えたかった。
 でも言えなかった。わたしにはアレンさんの気持ちがわからないから」
「もう……いい」
 片手を彼女の背中に回して、もう片方の手で頭を優しく撫でてやる。
 微かに震えている彼女の身体。
 アレンの言葉で、セシルの話で過去に封じ込めたはずの心の闇が出てきてしまったのだろう。
 忘れたくて酒を飲んで。
 でも忘れることなど出来なくて。
 心には不安と恐れだけが残った。
「……すまない」
 気づいてやれなかった。
 彼女の心の悲鳴が聞こえなかった。
 そんな自分が悔しかった。
 小さく唇を噛んだ。
 今自分に出来ること。
 しばし考え、答えを見つける。
 彼女の心を癒すこと。
 昔、傷ついていた自分を彼女が癒してくれていたように。
「……もう寝よう」
「……でもベッドは……」
「一緒に寝てやるよ。ずっと一緒にいれば、おいていけないだろう?」
 ゼルガディスの言葉にアメリアはこくんと頷いた。

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5287白の奇跡 6ねんねこ E-mail URL12/25-14:31
記事番号5286へのコメント


 すずめの鳴く声が聞こえてきて、アメリアはゆっくりと目を開けた。
 少しばかり頭が痛い。昨日、果実酒を飲んだせいだろう。王族たるもの外交と言う名目でパーティーをすることをあるので、酒には強くなければならないのだが、どうも好きになれない。
 一時の気分の高揚だけで、後に残るは吐き気と頭痛だけ。
 少しくらいなら平気なのだが、さすがに昨日は飲みすぎたらしい。あまり記憶も残っていない。ベッドで寝るのは嫌だったので、ソファーで寝ようと思った所までは確かに覚えているのだが……
 と、なんとなくベッドが狭く感じて、寝返りを打つ。とその瞬間。
 がばっ!
(ななななななななな)
 とりあえず頭に思い浮かぶのはその一文字。
(何でゼルガディスさんがこんなところにいるんですかぁぁぁぁぁぁぁっ!?)
 声には出せない悲鳴。
 自分の横にはゼルガディスが寝息を立てていた。どうやら爆睡しているらしく、顔を覗き込んでも起きる気配すらない。
 しばらく彼の顔を見ていた彼女は、はたと気づいてばたばたと衣服のチェックをする。何もされていないとわかると安堵の息を吐く。
 さっぱりと記憶がない以上、自分がゼルガディスに何を言ったのか何をしたのかどういう経過があって1つのベッドで寝るということをしていたのかさっぱりわからない。
 いろんな意味で痛む頭を押さえて、ぽつりと呟く。
「……わたしいったい何したの?」



 自分はタイミングの悪い人間だという自覚はあったがこれほどまでに悪いとは思っていなかった。
 ―――嫌な奴に会ってしまった。
 爆睡しているゼルガディスのことをそっとしといて、一階に降りてきたアメリアの感想はただその一言に尽きた。
 カウンターに座って朝食を食べていたアレンを認めて。
 彼もこちらの存在に気づいたのか、ちらりと一瞥し、そのまますぐに視線を外す。苦虫を噛み潰したような彼のその顔から向こうも自分と似たようなことを思っているらしい。
 そのまま挨拶もせずにアメリアはアレンの後ろを通りすぎると、窓際の席に腰をかける。この位置からだと、宿屋に近づいてきた人が窓から見える。
 少し離れた大通りには人が歩いていた。早朝ということもあるので、まばらだったが。
 モーニングセットと温かい香茶を頼んで、窓を眺める。
 ゼルガディスはもちろん、いつもさりげなく早く起きているクラヴィスも今朝は姿が見えない。アレンと2人っきりというかなり気まずい空間の中、彼女はひたすら誰かが部屋に来るのを待った。
 と、その相手はまたひたすら面倒くさい相手だった。
 窓から目を離して、部屋を見回してからまた窓に視線を戻すほんの数秒の間。
 そのほんの数秒の間に一気にアメリアは忙しくなった。
 窓から見える小さな少年。
 少年の視線の先には、自分が見ている窓とは別の窓。その窓の先には――カウンター席に座るアレンの姿。
 少年が大きく目を見開いた。一歩、二歩、と後ろに下がる。
 なんでこんなところにいるのか?
 なんでこんなに近くにいるのに戻ってきてくれなかったのか?
 なんで……―――
 少年の表情からはそんな思いが伝わってきた。
 アメリアは思わず叫ぶ。
「セシル!」
 その名前に反応して、アレンがこちらを振り向く。その視線を無視して、彼女はすごい勢いで扉を開けた。セシルの姿は―――ない。
「あの子……!」
 小さく舌打ちすると、アメリアはクリスマス・イブの朝の街を駆け出した。



    +++ 白の奇跡 6 +++



「どこにもいないなんて……セシルったらどこに行っちゃったの?」
 自分が考えうる場所は全て探した。
 孤児院。その隣の教会。自分が彼と一番初めに出会った公園。この数日間セシルと話した中でよく出てきたお気に入りである場所。
 どこを探しても少年の姿はなかった。
 足を止めてため息をつく。
 セシルの気持ちはよくわかった。
 あんなに側にいるのに、すぐにでも会える場所にいるのに、自分に会いに来てくれない。その行動が、セシルには自分が拒絶されていると思えたのだろう。
 側にいて欲しい人間のその裏切りに近い行動を知った時、自分の心の中に駆け巡るいくつのも感情。それは悲しさだったり、怒りだったり。
 いくつもの感情が通り過ぎていった後、最後に残るのはただひとつ―――相手にとって自分はどうでもいい存在なのだという絶望のみ。
『あのね……ボクが欲しいのは……』
 昨日のセシルの言葉が脳裏に焼き付いたまま離れない。
(……なにもできないの? わたしには何もすることができないの……?)
 唇を噛みしめて、目を閉じる。
 自分が悔しかった。
 何も出来ない自分が悔しかった。
 嘘が嫌いで、真実だけが知りたくて。
 虚偽のない、ただ真実のみが存在する『正義』を掲げてきた。
 なのに。
 真実が見えない、ただ虚偽ばかりの兄弟の前に自分は何も出来ない。
 何も……何も……何も……?
 全然何にもできないの?
(違う)
 ただ見ていることしか出来ないの?
(全てを解決しようと思うから上手くいかないだけ。ほんの少しでも真実の光を照らし出せば、虚偽という闇を照らすことは出来る!)
 目を開け、アメリアは前を見つめた。
「諦めませんっ!」
 何かに誓うように断言すると、再び彼女は駆け出した。



「―――で? 大好きな女の子と健全な朝を迎えたゼルガディスくんは睡眠不足と二日酔いでちょっとばかし死んでるわけだ?」
「……朝っぱらから耳元で騒ぐな。頭に響く」
 テーブルに顔を埋めて言ってくるゼルガディスにクラヴィスは呆れた顔をした。
「何を言ってるんだか。もう昼間だぜ? ひ・る・ま! ほれ、薬」
「悪ぃ」
 差し出されたコップと粉薬を受け取って、それを口に含む。
「もうちょっと考えて酒飲めよな」
「……てめぇとはもう二度と酒なんか飲まねぇよ……」
 不味いことこの上ない薬を水で喉に流しこんでゼルガディスがうめく。その様子に呆れて肩をすくめながらクラヴィスはゼルガディスが座っている隣のテーブルの席に――ちょうど背中合わせになるような形で座る。
「……出かけてたみたいだな?」
「まあね。いろいろ調べてきてみた」
「で? どうだったんだ?」
 訊ねるゼルガディスにクラヴィスは振り返らずに小さな紙切れを彼に差し出す。怪訝な顔をしながらその紙を受け取り、開く。
「街で出会った女の子が“偶然”先日アメリアちゃんに声をかけられた子でさぁ。何を尋ねられたのか訊いたら、そんな感じの写真を見せられたって言ってた」
「……“偶然”ねぇ……」
 呆れたような声でゼルガディスは呟く。
 どうせクラヴィスのことだ。アメリアがランダムに選んだ人間の中で女性のみはちゃんと顔をチェックして覚えていたのだろう。嘆息しながら視線を紙に落とす。
 紙に描かれていたのは―――
「……そういうことか……」
 ぽつりと呟いて、その紙をくしゃりと握り潰す。
「あともう一つ」
「……なんだ?」
「ゼロスの奴の姿が見えない」
「……いつものことだろ?」
 ゼルガディスの言葉にクラヴィスは呆れた顔した。
「まだ頭おねんね中か? 考えてもみろ。あいつが無意味にオレたちの前に姿を現したことあったか?」
 その言葉にゼルガディスがクラヴィスの方に目を向けた。
「……なんかの目的があるってぇのか? 考え過ぎだろ。
 んなことよりアメリアは? なにが『ベッドで寝るのが恐い』なんだか、おやすみ3秒で寝やがって……ずっと起きてたこっちの身にもなってみろってんだ」
「……目の前にいたのに手を出さなかったお前にゃ感服するよ。
 ……で、アメリアちゃんの姿も見えない。まあ、おおかたいつもの少年の所だろうが。
 ついでに言えば、アレンの奴、昨夜お前の寝首掻きに来たぞ。どうやらまだセイルーン仕官の道は諦めていないらしい」
 その言葉にゼルガディスはいろんな意味で痛む頭を押さえた。
「……で? その馬鹿はどこに行った?」
「言ってもいいのか?」
「……? ああ」
 神妙なクラヴィスの顔に怪訝な顔をしながら尋ねる。するとクラヴィスは真っ直ぐこちらを指差してきた。
「お前のすぐ後ろ」
 あまりにもあっけらかんとしたクラヴィスの言葉のすぐ後、ゼルガディスには風の薙ぐ音が聞こえた気がした。



「おやおやアメリアさんじゃないですか。そんなに慌てて何かをお探しですか?」
 突然かけられた声にアメリアは立ち止まってその声の主を見た。
「ゼロスさん! また相も変わらずとーとつな出現ですね!
 すみませんが、今日はあなたに構っていられるほど暇じゃあないんです!」
 アメリアの言葉にゼロスは目を細めた。
「おや奇遇ですね。実は僕も今回はアメリアさんに構っていただくほど暇ではないのですよ。それにちょっとばかり面白いものも見つけましたし―――」
 言って、少しだけ視線をずらす。その行動につられるようにアメリアもまた視線をそちらに向けて――目を見開く。
 街の外れ。少し小高い丘になっているその場所に膝を抱え込んでいるセシル少年の姿を認めて。
「セシル……!」
「先程から実においしい感情を生み出して下さっていまして……あの少年が例のセシルくんですか?」
 尋ねてくるゼロスにアメリアは訝しげに問う。
「なぜセシルのことを?」
「アメリアさんとアレンさんという方のお話を偶然聞きましてね。その話をゼルガディスさんたちにしたらいろいろ教えて下さいまして。
 ゼルガディスさんの方も大変そうじゃないですか。セイルーン仕官推薦状のネタにされて」
 その言葉にアメリアはゼロスの胸倉をがしぃっと掴む。睨みつけるように見ながら尋ねる。
「なんですか? そんな話、わたし知りません」
「おや、聞いてないんですか? ゼルガディスさんから」
 少しばかり驚いた表情で言ってくる。
「あのセシルくんのお兄さん――アレンさんでしたっけね。彼、セイルーンに仕官したいと言ったらフィル殿下から『ゼルガディスさんを連れてきたら推薦状を出してやる』とおっしゃったそうですよ―――って聞いてます?」
 途中から呆然とした顔をしたアメリアにゼロスは首を傾げた。
「……そういうことですか……だからアレンさん……」
「何かおわかりになられたんですか?」
 ゼロスの言葉にアメリアはこくんと頷いた。
「ゼロスさんのおかげで。ありがとうございます」
 ぺこりと一礼して、セシルに近づこうとしたアメリアの手をゼロスが掴んだ。疑問符を浮かべる彼女にゼロスはいつもの笑みを浮かべて言ってきた。
「僕の邪魔、しないでいただきたいんですけれど」



 ごすっ!
 何かが床にめり込む音。
「ちっ、はずしたか……」
 どこから調達してきたのか、巨大ハンマーを振り下ろしたアレンが額に浮かんだ汗をぬぐってうめく。振り下ろされたハンマーは、アレンの目の前――つまり、ほんの数秒前までゼルガディスが座っていた椅子があった場所の床をものの見事に破壊して、めり込んでいた。
 その威力に見事なまでの反射神経のおかげで、かろうじて難を逃れたゼルガディスが顔を強張らせて言ってくる。
「な、なにしやがる!?」
「決まっているだろう? セイルーン仕官のためにお前を仕留めようとしているのだ。
 ……あまりのんびりとしてもいられない状況になったのでな」
 言いながら今朝のことを思い出す。
 あの暴走爆裂小娘――無論アメリアのことだが――の声に振り返ったほんの一瞬。その一瞬、偶然、弟と目が合ってしまったこと。
 泣きそうな目だった。いや、実際泣き出すところだったのか。
 そしてその顔にはいろいろな感情が入り交じっていたような気がする。
 驚き。怒り。悲しみ。
『どうして帰ってあげないんですか? どうして会ってあげないんですか? こんなに近くにいるのに!』
 頭からついて離れない彼女の言葉。
 セシルが自分に会いたがっている?
 どうして帰ってあげない?
 どうして会ってあげない?
 そんなことわかっている。セシルのことは自分がよくわかっている。
 帰ってあげないんじゃなくて帰れないんだ。
 会ってあげないんじゃなくて会えないんだ。
 セシルにもっと幸せな生活をさせてやろうとセイルーンに仕官に行ったのに、未だに候補生にも兵士にもなれず、次期国王の命令で1人の人間を追いかけてきた自分。
 そんな自分が惨めで情けなくて。
 どんな顔して帰ればいいというのだ?
 どんな顔してあいつに会えばいいのだ?
 この生まれ育った街に入る直前まで悩んでいたこと。
 答えはもう出ている。
 どんな顔で帰ればいいのかわからないのなら。
 どんな顔でセシルに会えばいいのかわからないなら。
 帰らなければいい。会わなければいい。
 どんな顔で帰ればいいのかわかるまで。
 どんな顔でセシルに会えばいいのかわかるまで。
「―――と、いうわけで、だ」
 かなりの重さがある巨大ハンマーを両手で持って、アレンは静かに呟いた。
「推薦状のため、ゼルガディス=グレイワーズ、覚悟っ!」
 ばだんっ!
「アレンっ!」
 蹴破るような音をたてて開く扉と絶叫するような呼びかけに、アレンはハンマーを振り上げたままの格好で止まった。背にした扉の方に振り向く。
「……アレン。本当に帰ってきていただなんて……」
「……シスター・サティア? なぜこんなところに?」
 呆然と呟くアレンにサティアは近づいて、一通の手紙を差し出した。
「さっき、黒い神官服を来た人がここにあなたがいると教えてくれたの。この手紙を持ってきてね」
 手紙を受け取り、とりあえずハンマーを手近なところにおいて、その内容を読む。
「黒い神官服……?」
 アレンが手紙を読んでいる間、サティアの言葉にゼルガディスは眉をひそめた。彼女はゼルガディスの方を見て、頷いてみせた。
「ええ。おかっぱの髪型で……背丈はあなたくらいかしら……」
 その言葉にクラヴィスが横目でゼルガディスを見ながらぽつりと呟く。
「……ゼロスの奴だな」
「ああ。アレン、いったい何が書いてあったん―――」
 ゼルガディスの言葉が終わらないうちにアレンは無言で手紙を差し出した。身体を震わせるアレンに怪訝な顔をしながら受け取って、その文面に目を通す。
 そのゼルガディスの顔に怒りの感情が表れるのにそう時間はかからなかった。
『セシル少年とアメリア王女はお預かりいたしました。
 非常にありきたりな台詞で申し訳ないのですが、返して欲しくば、街外れの古き塔に来られたし』
 ―――それは間違いなく獣神官ゼロスの筆跡だった。

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5289どーなっとんじゃゼロスーーーっ!!雫石彼方 E-mail 12/25-20:50
記事番号5287へのコメント

予告通り続き出ただすね!

ゼロスのお仕事って一体何なんだろう?ねんジーのゼロスは結構アメリアの為に動いてくれるのに、今回のはちょっと敵ちっくでこ憎たらしいだすな(笑)

アメリアがベッドで寝たくないってごねるくだりのところがめっちゃ良かったVvアメリアって置いていかれることが多いもんねぇ。「寝る前にベッドで交わされる会話は嘘だ」っていう辺りでもう涙だーって感じだったよ(^^)んでアメリアを慰めるゼルに改めて惚れ直しましたわvでもあれだけいい雰囲気になっておきながら、アメリア全く覚えてないなんて・・・・可哀想なゼル(笑)

いろいろこじれてきて、続きが非常に気になるだす!楽しみにしてるねん♪

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5294ゼロぽん今世紀最大の悪事(笑)ねんねこ E-mail URL12/26-15:53
記事番号5289へのコメント


>予告通り続き出ただすね!

出ただすよ。睡眠時間30分ほど削って(笑)
いや、夜更かししようとしても、時間が来ると自動的におねんねモードに突入するので夜更かしが出来ないっ!(ショック。)

>ゼロスのお仕事って一体何なんだろう?ねんジーのゼロスは結構アメリアの為に動いてくれるのに、今回のはちょっと敵ちっくでこ憎たらしいだすな(笑)

に、憎たらしいのっ!?
ていうかこっちが本当のゼロぽんじゃないのっ!?
いやまあねんジーのゼロぽん、このごろ便利なアイテム(アメリア専用)に成り下がってたからなぁ。まあ、そのあたりの真意は次回と言うことで。

>アメリアがベッドで寝たくないってごねるくだりのところがめっちゃ良かったVvアメリアって置いていかれることが多いもんねぇ。「寝る前にベッドで交わされる会話は嘘だ」っていう辺りでもう涙だーって感じだったよ(^^)んでアメリアを慰めるゼルに改めて惚れ直しましたわvでもあれだけいい雰囲気になっておきながら、アメリア全く覚えてないなんて・・・・可哀想なゼル(笑)

どこかでも言ったような気がするが、
『おいしいもの』と『大好きなもの』はやはり最後までとっておくべし(笑)
……どうぞ好きなように取ってください(笑)

>いろいろこじれてきて、続きが非常に気になるだす!楽しみにしてるねん♪

うみゅ。今年中には出すつもりだす。
……今年中……?(苦笑)

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5293な、なにゆえに。ゼロス〜?桐生あきや 12/26-00:50
記事番号5287へのコメント

 こんばんわ。桐生です。
 まだ、かろうじて東京にいるよ(^^;
 明日の同じ時間は多分沖縄だろうけど。
 クリスマス過ぎたって全然問題なし!
 キリストの誕生日って、ホントは25日じゃないらしいし。
 だから大丈夫でしょう(意味不明)。

 ゼロス〜? 君は一体何やってるの〜??
 いつもは騒ぎを助長させこそすれ(笑)、敵(っぽいもの)にはなっていなかったのに。
 アメリアとゼルの会話がすごくいい感じ。
 ゼルアメにしろガウリナにしろ、パロだからこそ書いてる人独自のキャラ像ってあるよね。ねこちゃんが書くゼルとアメリアは、当然ねこちゃんにしか書けないモノで、私はそれが大好きっす。ああもうメロメロ……。
 全然よくわからない伝え方だけど、ようするにあのシーン最高ということです(^^;

 それでは、実家帰ってきます(笑)。

 桐生あきや  

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5295ぜ、ゼロスの立場って……(笑)ねんねこ E-mail URL12/26-15:59
記事番号5293へのコメント


> こんばんわ。桐生です。
> まだ、かろうじて東京にいるよ(^^;
> 明日の同じ時間は多分沖縄だろうけど。

と言うことは今日出発ってことか?
行ってらっしゃい!
お土産よろしくね、って何のお土産だよ(笑)

> クリスマス過ぎたって全然問題なし!
> キリストの誕生日って、ホントは25日じゃないらしいし。
> だから大丈夫でしょう(意味不明)。

実は、生まれた年も違うんだってね。
紀元前4年にはもう生まれていた(らしい)。
世界史の先生がそんなことを言ってたような……
なにぶん、文系の授業はほとんどボケっとしてたから(笑)

> ゼロス〜? 君は一体何やってるの〜??
> いつもは騒ぎを助長させこそすれ(笑)、敵(っぽいもの)にはなっていなかったのに。
> アメリアとゼルの会話がすごくいい感じ。
> ゼルアメにしろガウリナにしろ、パロだからこそ書いてる人独自のキャラ像ってあるよね。ねこちゃんが書くゼルとアメリアは、当然ねこちゃんにしか書けないモノで、私はそれが大好きっす。ああもうメロメロ……。
> 全然よくわからない伝え方だけど、ようするにあのシーン最高ということです(^^;

その言葉が嬉しいです。
うちのアメリアはさりげなく大人っぽいとか、ゼルお前ガキだろとか自分ひとりで突っ込みいれながら書いて、自分では楽しいけど、他の人から見たらどうなんだろう……とちょっと不安に思っていたから。
いやいやあのシーンね……らぶらぶ突入っ!?とか思ったら、ゼル意外に(笑)堅いし、アメリア次の日には忘れてるしでちょっぴりショック(なにが?)
さあ次に進展しそうな雰囲気になるのは何十年後だろふ……(笑)

> それでは、実家帰ってきます(笑)。

いってらっしゃい。風邪には気をつけてね(笑)
と言うかぶっ倒れないようにネ(^^;)
ではっ!  

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5304白の奇跡 7ねんねこ E-mail URL12/28-15:40
記事番号5286へのコメント

ねんねこです。もう中途半端な所で切れますが続きです。
続きできれば明日出したいなぁ……(汗)
***********************************

「……大丈夫? セシル……」
 アメリアの問いにセシルは背中を向けながらもこくんと頷いてきた。
「……ごめんね。こんなことになっちゃって」
 今度は首を横に振る。
「……セシルのお兄ちゃん……セシルに会わなかったのにはちゃんとした理由があるのよ」
「……アレンお兄ちゃんなんか嫌いだ……」
 アメリアはため息を吐いた。近くの窓から見える風景をぼんやりと眺める。
 兄弟とは言えど、結局は別の人間。
 一心同体なんてありえない。
 だから相手の気持ちがわからない。
 互いに相手のことを思って、互いに傷ついて。
(わかりあえて初めて人は絆を持つ)
 自分の好きな言葉で表すならば、今の彼らは試練の時を迎えているのかもしれない。
 アメリアは静かに目を閉じた。
(……助けに来てくれるわよね)



   +++ 白の奇跡 7 +++



 ゼルガディス=グレイワーズに対してやってはいけないこと。
 その一(危険度・小)。とりあえず無意味に張り倒す。これは、はっ倒した後、死にもの狂いで逃げれば何とかやり過ごすことができる。
 その二(危険度・中)。起床してから30分以内に彼の機嫌を損ねるような発言、または行為をする。たいてい寝惚けて頭もはっきりしていない状態なので魔法はあまり使用せず、手近にある物を投げつけてくるので、からかう前に危険物を取り除けば危険度はゼロにまで下げることが可能である。
 その三(危険度・大)。『キメラ野郎』もしくは『泣き虫ゼルやん☆(←☆は必須)』と呼ぶ。はっきり言って自殺行為。ありとあらゆる攻撃呪文をお見舞いされる。ちなみに半径5メートル以内に正義娘がいた時に『キメラ野郎』などと言った場合、危険度は数倍に跳ね上がる―――と言うか、その場合、むしろ正義娘に気をつけるべきである。
 そして。
「……その四(危険度・無限大)。正義娘に関わることすべて。この場合、暴走モードに突入するため、回避は不可能。正義娘が『やめろ』と行動中止命令を出さない限り、世界の果てまで暴走する危険性あり。
 ちなみにこの暴走モード中はその一からその三の行動も危険度無限大になるので要注意……」
 そこまで言って、クラヴィスはため息を吐いた。
「……暴走してるし」
 どがぁぁぁぁぁんっ!
 遠くから派手な爆発音が聞こえてくる。クラヴィスは再びため息を吐いた。
 先程の手紙を読んでからあの調子である。
 とにかく自分の障害物になるようなものには魔術をしかけて退かせる。それが木だろうと、何だろうとお構いなし。
『少しだけ横にずれれば回避できるだろう』と至極もっともな意見を言ったところで無駄だろう。先程から『あんた、これから丸太小屋でも作るんですか?』と尋ねたくなるほどの量の木を根元から呪文で倒していたりする。
 まあ、いくら大切な自然だとはいえ、たかが木の一本や二本や三本や四本で自分の人生を終わらせる気など毛頭ない。何もせず一定距離おいてから――無論、とばっちりを受けるのを避けるためである――ただ後ろを追っていくのみ。
 それに加えてアレンもアレンで暴走モードに突入していた――まあ、こちらは無二の肉親が関わっているのだから当然と言えば当然だが。
「アレンっ! その塔というのはどのあたりなんだっ!?」
 ゼルガディスの問いに並んで走るアレンがまっすぐ指を差した。
「この森を真っ直ぐ抜けたところだ。もう少しで見えてくるはず―――」
 言いながらも、足は止めない。やがて周りの木の数が少しずつ減っていき、ようやく視界に光が見え始める。
 と、同時に見えてくるツタの絡まった塔。
「あそこかっ!」
 叫びながら塔の構造を確認する。
 五階ほどの塔。人があまり来ないと言う場所からも考えて、昔は何かの研究をここでしていたのだろう。こういう塔はよくある。いろんなところでいろんな研究をしているのは良いのだが、たいていそういう奴に限って自分が死んだ後にその研究を引き継いでくれる人間がいないのだ。結果、研究は塔と共に過去の遺物とされ、周りの人間からも恐怖の対象になってそのまま放置されることになる。
「どうするんだ? こういう場合は遺跡荒らしの得意なあんたの方が詳しいだろう!?」
「誰が遺跡荒らしだっ! 誰がっ!」
 アレンの言葉にさすがのゼルガディスも反論する。とは行ってもここで深く話し込むわけにもいかない。塔を見上げて即座に判断する。
「こういう場合、人質がいるのはたいてい最上階! ならばさっさと一気に最上階まで行くのみ!」
「―――そういうわけにもいかないみたいだぜ? ゼル」
 後ろからするクラヴィスの声。その台詞の意味はすぐにわかった。即座に唱えていた呪文をレビテーションから別の呪文へと切り替える。
「ラ・ティルト!」
 生み出された青白い光が空間のある一点を焼き尽くす。ゆらりとその部分が歪み、黒い円錐が姿を現した。円錐の姿は掻き消え、同時に黒い神官服を身にまとった青年の姿が形作られた。
 獣神官ゼロスは呆れたような顔をゼルガディスに向けた。
「……まったくあなたって言う人は毎度毎度いきなり不意打ちを仕掛けてきて……もう少し、礼儀というものをわきまえた方が良いんじゃありませんか?」
「やかましいっ!」
 ゼロスの言葉をたった一言で返し、ゼルガディスはいつもと同じ態度の魔族を睨みつけた。
「いまさらアメリアに何の用だっ!?」
「おや? 僕、手紙に『アメリアさんが目的』だなんて書きましたっけ?」
 いつものひょうひょうとした態度で問い返してくる。そんなゼロスに、ふん、と鼻を鳴らして面白くなさそうに台詞を吐き捨てる。
「お前がただの子供1人に興味があるとは思えんからな。おおかた、アメリアの反撃を防ぐために子供を盾にした、てところなんじゃあないか?」
「さすがゼルガディスさん―――と言いたい所ですが、別に今回はアメリアさんに用事はありませんよ。あの少年にも用事はありませんが」
「どういうことだっ!?」
 怪訝な顔で叫んでくるアレンに目をむけて、ゼロスは答える。
 腰に手を当て、もう片方の人差し指を口元に当てる、いつものポーズで。
「それは秘密です」
「話す気はない、と言うことか……ならば!」
 すらり、とアレンが腰に差してあった長剣を引き抜く。さすが一国の城に仕官したいと言うだけあって剣術の基本は学んでいるらしい。隙なく構えながら、ゼロスを睨みつけた。
「言いたくなるようにさせるまでっ! 覚悟っ!」
 などと叫びながらそのまま微笑む黒い神官に向かって突っ込んでいく。なんの策もなく、ただ闇雲に。
 その行動にはさすがのゼルガディスもクラヴィスも慌てた。
「くそ! 魔族じゃ普通の武器は効かないってのを知らんのか、あの馬鹿っ!」
 ゼルガディスもまた剣を引き抜く。こちらは無論、呪文で剣に魔力を乗せる。その間に別の呪文を唱えていたクラヴィスが術を解き放つ。
「ボム・ディ・ウィンっ!」
 ぶぉぅわっ!
 圧縮された空気が一気に解き放たれる。解放された空気は強い風となってゼロスとアレンに向かって吹き進む。
「なっ!?」
 その行動に驚いたのはアレンだった。避けようとしたのか慌てて飛び退くが、風など見えるはずがない。そのまま数メートル吹き飛ばされて、背中から地面に落ちる。
 その横をゼロスの放った魔力球が通り過ぎ、地面を灼く。こげた地面を見て腰を抜かしたのか、アレンはなかなか立ち上がろうとはしなかった。もし、この魔力球が自分に当たっていたら―――
 術を放った後すぐに彼の元に走り出したクラヴィスがようやく彼の元に辿り着いて、倒れた彼の首根っこを掴んで問答無用に立ち上がらせる。
「さっきは邪魔しやがって――なにするんだ!?」
 非難の目を向けてくるアレンにクラヴィスは一瞥しただけでゼロスの方を油断なく見た。呆れた口調で言ってくる。
「あんたののーみそ、沸騰してんじゃねぇのか?
 あいつが突然虚空から現れたのを見ただろ。あいつぁ、あれでもれっきとした魔族だ。そんな魔力剣でもないへっぽこで傷なんかつけられるわけ―――!?」
 言い終わらないうちにクラヴィスは辺りを見回した。視界の中にいたはずの黒い影が突然消えたのだ。精神世界面(アストラル・サイド)を利用した空間転移は、次に相手がどこに出現するかなど予測できない。
 ゼルガディスが叫んだ。
「クラヴィス! 後ろだっ!」
「―――っ!」
 瞬時に言葉を理解してアレンの首根っこを掴んだままその場を飛び退く。そのすぐ後に虚空から黒い錐が出現する。
 クラヴィスが呟く。
「……わかったろ。人は見かけによらないもんだぜ」
「本当ですね。人は見かけによりません」
 錐は再びゼロスの形を取り、彼はぱんぱんと拍手するように両手を叩いた。
「さすがはかの有名な赤法師レゾさんに手ほどきを受けたクラヴィスさん。単なる優男だと思ってましたがなかなか」
 出会ってから数ヶ月。考えてみれば、戦いになる時は別行動をしていたため、お互いの能力がどの程度のものかよく把握していなかった。そのため、外見で力量を判断していたわけだが――
 ゼロスの言葉にクラヴィスも挑発的な笑みを浮かべる。
「お褒めにいただき恐悦至極。
 あんたもなかなかやるじゃないか? いつもはアメリアちゃんの便利アイテムくんな割にはよっ!」
 言うだけ言って、アレンをそのまま突き飛ばして自分は横に跳ぶ。突然の行動にゼロスが怪訝な顔をした直後。
 後ろから声が響いた。
「ラ・ティルト!」
「ほう!?」
 再び、ゼルガディスが精霊魔術最大の呪文を放つ。
 感嘆の声をあげて、手にした杖を振るゼロス。杖は、いともあっさりと青白い炎をかき消した。思わずゼルガディスが舌打ちする。
「ちっ、腐っても高位魔族か」
「……腐っても、という言葉が気にはなりますが……」
 人間がアストラル・サイドに干渉できる最大の魔術をほんの少しとはいえ食らったにも関わらず、平然とした態度でゼロスは笑みを浮かべた。
「二度も不意打ちだなんて芸がありませんね? ゼルガディスさん」
「そうでもしないとお前にゃ勝てんだろうがっ!」
 吠えて、赤く輝く剣を振り下ろす。それを杖で受け止め、流す。ゼルガディスも諦めるつもりがないらしく、さらに剣を突き出す。
 ぎんっ!
 剣と杖がぶつかり合って音を鳴らす。こうなってはもう、己の力技のみの勝負である。
 極力力を入れ込みながらゼルガディスが出来る限り小声で尋ねる。
「どういうつもりだ? 本当の所は?」
「どういう意味ですか?」
「とぼけんな。さっきからアレンばっかり狙いやがって。ねちっこいお前にしちゃあ露骨過ぎるんだよ!」
「おや、気づいていらっしゃいましたか」
 あっけらかんと言って剣をすごい勢いではじく。
 少しバランスを崩して、たたらを踏むゼルガディス。その態勢では不利だと思ったのか、そのまま後ろに下がって間合いを取る。
「ゼルガディスさんの鋭い洞察力に敬意を表して、1つだけ教えて差し上げましょう」
「なにを?」
「アレンさんばかりを狙う理由です」
「ほう」
 ゼルガディスが頷く。口の堅いこの魔族のことだ。あまり期待はしていないが。
 ゼロスは目を開けて、口元を吊り上げる。嘲笑うような紫の瞳が何とも憎たらしい。
「僕は魔族なんですよ? 魔族が好むのは人間たちの負の感情―――特に死を意識した時の恐怖の味は格別なんです。
 ゼルガディスさんやクラヴィスさんではそう簡単には『死』の恐怖なんて抱いてくれないでしょう?」
「……それで? 結局、本当の目的は?」
「もちろん秘密です。自分の仕事の内容を全てバラす人なんていないでしょう?
 ―――まあ、あなたがたに僕からなにかを聞き出そうとすることが出来ないということがおわかりになられたでしょう。特に何も出来なかったアレンさん?」
 細く目を開けて、アレンを見る。
 まるで純魔族の強さに圧倒されて戦慄く自分を嘲笑われているように思えて、アレンはそっぽを向いた。
 その様子にゼロスはいつもの笑みを浮かべた。どうやらありったけの負の感情をいただけて満足らしい。塔を見上げて、言ってくる。
「あなたの弟さんたちはご想像通り塔の最上階にいますよ。少しばかり手強い方がいらっしゃいますが、仕官しようと考えるほど力に自信があるのなら助けに行ってあげてはいかがですか?」
 明らかに挑発の言葉。だが、アレンはそのままその言葉を無視した。無駄に腹を立てても、この陰険魔族を喜ばせることくらいにしかならない。
 そのままゆっくりと立ち上がり、塔の入口に向かって歩いていく。
 ゼルガディスとクラヴィスが顔を見合わせた。一瞬アレンを無視してレビテーションを使って行ってしまおうかとも考えたが、それは顔を見合わせた時点で却下された。しかたなく、アレンの後をついていくことにした。



 ゼロス程度で食い止められると思ったのか――いや結果的に入れただけで、実際食い止められてしまったわけだが――それとも最上階に全勢力を固めているのか、塔の内部にはなんの気配もなかった。一行――ゼルガディスたち3人と何故か共にくっついてくるゼロスはただひたすら螺旋階段を登り、最上階へと向かった。
 やがて辿り着いた最上階は至ってシンプルな構造だった。
 目の前に広がるだだっ広い広間。天井を支えるためにある何本もの柱。
 最初にその部屋を見たゼルガディスが辺りを見回す。無論探すのはあの命よりも大切な少女。
「……アメリアは……?」
 ぽつりと呟く。
 彼女の姿は見えない。『どう言うことだ?』とでもいいたげな表情で一番後ろに控えたゼロスを見る。
 ゼロスは肩をすくめただけだった。
 そんな無言の会話が進む横で、アレンの目に入ったのは、広間の一番奥に佇んでいる弟の姿だった。
「セシル!」
 大声で名前を呼ぶ。が、セシルは俯いて兄の呼び掛けを無視した。
 アレンの行動によって生み出されたセシルの心の傷は深い。だが、そんな弟の心がわからないアレンは、なんの反応も示さない弟に訝しげな顔をするだけだった。
「……セシル?」
 もう一度名前を呼びながら弟に近づいていく。と、少し先の柱に人影があることに気づいて、彼は立ち止まった。
 かつん。
 人影が鳴らしたブーツの音が静かな広間に響き渡った。
「『どうして帰ってきてくれなかったの?』」
 その声にゼルガディスとクラヴィスは目を見開いた。
 かつん。
 そして、足音。
「『国に仕官するまでは帰らないと決めたから』」
「……どういうことだ?」
 アレンも呆然と呟く。
 かつん。
「『どうして兵士さんになんかにならなくちゃいけないの?』」
「どういうことだと聞いている!」
「『セシルに幸せな生活をさせてやりたいから』」
 かつん。
 セシルとアレン。2人の間に割り入るような位置に立った所で足音がやむ。
「『どういうこと』? そんなの、決まっているじゃありませんか」
 閉じていた目をゆっくりと開けて、驚いた顔をする目の前の男をしっかりと見据えた。
「あなたをここに呼び出すよう、ゼロスさんに頼んだのはわたしなんですから」
 静かに、だがはっきりともう1人の人質のはずの少女は言いきった。


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5306iモードから(笑)桐生あきや 12/28-17:15
記事番号5304へのコメント

ども。携帯からようやるよ私(笑)。 圏外かと思ったけど、なんとかだいじょうぶだった。 でもね、1キロバイト分しか見れないの(笑)。クー君がアレンの首ひっつかんだところで次回に続くっ(泣笑)。 それでもゼルの暴走っぷりに笑わせていただきました(^-^) アメリアってば、ゼルが助けに来ないわけないじゃないの(笑)。 くそう、何とかして続きを・・・・。 ではでは、またー。

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5319素敵過ぎだなおい(笑)ねんねこ E-mail URL12/30-11:06
記事番号5306へのコメント

ねんねこだす。
……ってiモードからご苦労様です(^^)
にしても1KBしか見れないのかぁ……こうなったら近くのインターネットできる漫画喫茶に……って、なかったらショック(笑)
いやいや帰ってからゆっくり読んでいただければそれで嬉しいっすよ。
にしても今最大の不安は年内に終わるか、ということだ(笑)
まあ、祈っててください。大晦日に全部出す(予定)なので。
ではでは!

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5310付録;クーちゃんの解説「これぞ、対ゼルちゃん用大作戦」桜華 葉月 12/29-04:13
記事番号5304へのコメント

ちゃお〜!!!待ってました。白の奇跡のつ・づ・き(壁に向かって含み笑い)
ちゅうわけで、レスいってみよ〜!!!

>
中略
>
>   +++ 白の奇跡 7 +++
>
>
>
> ゼルガディス=グレイワーズに対してやってはいけないこと。
> その一(危険度・小)。とりあえず無意味に張り倒す。これは、はっ倒した後、死にもの狂いで逃げれば何とかやり過ごすことができる。
死にものぐるいって・・・。(汗)クーチャンほどの男でも死にものぐるいなら一般人は・・・。(滝汗)
> その二(危険度・中)。起床してから30分以内に彼の機嫌を損ねるような発言、または行為をする。たいてい寝惚けて頭もはっきりしていない状態なので魔法はあまり使用せず、手近にある物を投げつけてくるので、からかう前に危険物を取り除けば危険度はゼロにまで下げることが可能である。
ふむふむ。勉強になります。(笑)人をおちょくるときは多大なる努力が必要っと。
> その三(危険度・大)。『キメラ野郎』もしくは『泣き虫ゼルやん☆(←☆は必須)』と呼ぶ。はっきり言って自殺行為。ありとあらゆる攻撃呪文をお見舞いされる。ちなみに半径5メートル以内に正義娘がいた時に『キメラ野郎』などと言った場合、危険度は数倍に跳ね上がる―――と言うか、その場合、むしろ正義娘に気をつけるべきである。
☆必須かい!!!何かつのだ☆ひろみたいやな。
確かにアメリアにとって、愛しのラヴラヴゼルガディスさんを傷つける者はすなわち悪。の世界だしなぁ。正義なのに私情は入りまくり。(笑)
> そして。
>「……その四(危険度・無限大)。正義娘に関わることすべて。この場合、暴走モードに突入するため、回避は不可能。正義娘が『やめろ』と行動中止命令を出さない限り、世界の果てまで暴走する危険性あり。
> ちなみにこの暴走モード中はその一からその三の行動も危険度無限大になるので要注意……」
ここら辺サイコ〜!!!(喜)
いつもながらすばらしい、クーチャンの解説に感動の雨あられ。(笑)
> そこまで言って、クラヴィスはため息を吐いた。
ため息遅いって。はっ!!!現実逃避か?
>「……暴走してるし」
> どがぁぁぁぁぁんっ!
> 遠くから派手な爆発音が聞こえてくる。クラヴィスは再びため息を吐いた。
> 先程の手紙を読んでからあの調子である。
> とにかく自分の障害物になるようなものには魔術をしかけて退かせる。それが木だろうと、何だろうとお構いなし。
>『少しだけ横にずれれば回避できるだろう』と至極もっともな意見を言ったところで無駄だろう。先程から『あんた、これから丸太小屋でも作るんですか?』と尋ねたくなるほどの量の木を根元から呪文で倒していたりする。
危険度レベルマックス!!!(滝汗)がんばれクーチャン。(は〜と)
> まあ、いくら大切な自然だとはいえ、たかが木の一本や二本や三本や四本で自分の人生を終わらせる気など毛頭ない。何もせず一定距離おいてから――無論、とばっちりを受けるのを避けるためである――ただ後ろを追っていくのみ。
> それに加えてアレンもアレンで暴走モードに突入していた――まあ、こちらは無二の肉親が関わっているのだから当然と言えば当然だが。
アレンは巻き添えくわんのかい。(謎)
>「アレンっ! その塔というのはどのあたりなんだっ!?」
中略
>「―――そういうわけにもいかないみたいだぜ? ゼル」
> 後ろからするクラヴィスの声。その台詞の意味はすぐにわかった。即座に唱えていた呪文をレビテーションから別の呪文へと切り替える。
>「ラ・ティルト!」
> 生み出された青白い光が空間のある一点を焼き尽くす。ゆらりとその部分が歪み、黒い円錐が姿を現した。円錐の姿は掻き消え、同時に黒い神官服を身にまとった青年の姿が形作られた。
> 獣神官ゼロスは呆れたような顔をゼルガディスに向けた。
お〜、珍しくゼロスとのマジ勝負。がんばれクーちゃん。ここぞとばかりに大活躍だ。
>「……まったくあなたって言う人は毎度毎度いきなり不意打ちを仕掛けてきて……もう少し、礼儀というものをわきまえた方が良いんじゃありませんか?」
>「やかましいっ!」
魔族に礼儀を言われるようじゃあ、おしまいです。(涙)
> ゼロスの言葉をたった一言で返し、ゼルガディスはいつもと同じ態度の魔族を睨みつけた。
>「いまさらアメリアに何の用だっ!?」
>「おや? 僕、手紙に『アメリアさんが目的』だなんて書きましたっけ?」
おお、そういえば書いてないような。さすが物事をわかりにくく話す天才。(ほめ言葉)
中略
 >「……わかったろ。人は見かけによらないもんだぜ」
>「本当ですね。人は見かけによりません」
実はほんとに強かったんだ。(驚)
> 錐は再びゼロスの形を取り、彼はぱんぱんと拍手するように両手を叩いた。
>「さすがはかの有名な赤法師レゾさんに手ほどきを受けたクラヴィスさん。単なる優男だと思ってましたがなかなか」
> 出会ってから数ヶ月。考えてみれば、戦いになる時は別行動をしていたため、お互いの能力がどの程度のものかよく把握していなかった。そのため、外見で力量を判断していたわけだが――
きゃ〜、クーちゃんすてき〜(は〜と)
> ゼロスの言葉にクラヴィスも挑発的な笑みを浮かべる。
>「お褒めにいただき恐悦至極。
> あんたもなかなかやるじゃないか? いつもはアメリアちゃんの便利アイテムくんな割にはよっ!」
べ、便利アイテム。リナちゃん2号になる日も近い。(笑)
> 言うだけ言って、アレンをそのまま突き飛ばして自分は横に跳ぶ。突然の行動にゼロスが怪訝な顔をした直後。
> 後ろから声が響いた。
>「ラ・ティルト!」
>「ほう!?」
> 再び、ゼルガディスが精霊魔術最大の呪文を放つ。
> 感嘆の声をあげて、手にした杖を振るゼロス。杖は、いともあっさりと青白い炎をかき消した。思わずゼルガディスが舌打ちする。
>「ちっ、腐っても高位魔族か」
>「……腐っても、という言葉が気にはなりますが……」
十分腐ってるって。(笑)
> 人間がアストラル・サイドに干渉できる最大の魔術をほんの少しとはいえ食らったにも関わらず、平然とした態度でゼロスは笑みを浮かべた。
>「二度も不意打ちだなんて芸がありませんね? ゼルガディスさん」
>「そうでもしないとお前にゃ勝てんだろうがっ!」
そうだ、どうやって一般人が、ぽこぽこあちこちから出てくるゴキブリ(力100万倍迷惑度1億倍)に勝てと。
> 吠えて、赤く輝く剣を振り下ろす。それを杖で受け止め、流す。ゼルガディスも諦めるつもりがないらしく、さらに剣を突き出す。
> ぎんっ!
> 剣と杖がぶつかり合って音を鳴らす。こうなってはもう、己の力技のみの勝負である。
> 極力力を入れ込みながらゼルガディスが出来る限り小声で尋ねる。
>「どういうつもりだ? 本当の所は?」
>「どういう意味ですか?」
>「とぼけんな。さっきからアレンばっかり狙いやがって。ねちっこいお前にしちゃあ露骨過ぎるんだよ!」
???
>「おや、気づいていらっしゃいましたか」
中略
>「あなたをここに呼び出すよう、ゼロスさんに頼んだのはわたしなんですから」
> 静かに、だがはっきりともう1人の人質のはずの少女は言いきった。
やっぱゼロスって、便利アイテム。(笑)獣王様のつかいっぱ君だし。哀れよのう(笑)
相変わらず楽しいし、あれっと思う急展開。とにかく面白いです。次回も楽しみにしてます。では。


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5320これぞクーちゃんが身体を張った汗と涙の結晶さ(笑)ねんねこ E-mail URL12/30-11:11
記事番号5310へのコメント

ねんねこだす。
れすありがとう!でも時間がないのでゆっくり返事が出来ないっ!(泣)
返事は今度ゆっくりメールにておくらさせていただきますな♪

にしても冬ですな。(意味不明)
クーちゃんの誕生日を迎える頃にはねんねこ受験終わってます。
お互い頑張ろうな。
・・…ちなみにクーちゃんの誕生日、すごく安易な付け方しているのですぐにわかります(笑)
なんたってバレンタインデー・……(笑)
ではっ!

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5322???雫石彼方 E-mail 12/31-04:04
記事番号5304へのコメント


レスが遅くなっただす。ごめんちょv

ゼルに対してやってはいけないこと四ヶ条がめっちゃお気に入りvアメリア愛されてるのね〜vやっぱゼルはこうでなくっちゃね!!(^^)
あと、ゼロスが敵っぽいーとか思ってたら大どんでん返し(古い?)、アメリアが頼んだ!?もうわけわからんっすよ。どーなってるの!?

今日から実家に帰るぜ!結構雪とか降ってるらしい。さすが雪国。
そりでは、来年もよろしく〜v



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5327!!!ねんねこ E-mail URL12/31-16:57
記事番号5322へのコメント


>レスが遅くなっただす。ごめんちょv

いやんっ、そんなことで謝らんといて♪(←誰?)
というか冬コミお疲れ様でした。昨日ちょっとした用事でビックサイトの近く通ったんだけど、混み混みだったね(笑)
……冬コミってビックサイトだよね(爆)

>ゼルに対してやってはいけないこと四ヶ条がめっちゃお気に入りvアメリア愛されてるのね〜vやっぱゼルはこうでなくっちゃね!!(^^)

アメリアのためなら変な暴走の仕方でもおっけーでっか……?(笑)
いやまあ、まともな切れ方した覚えないけど、ゼルが。

>あと、ゼロスが敵っぽいーとか思ってたら大どんでん返し(古い?)、アメリアが頼んだ!?もうわけわからんっすよ。どーなってるの!?

読んでみればわかる通り、今回はびみょーにゼロスの位置関係が違うのよ(笑)
結局アメリアには弱いがな(爆)

>今日から実家に帰るぜ!結構雪とか降ってるらしい。さすが雪国。
>そりでは、来年もよろしく〜v

をを!そうか、寂しくなるなぁ。て、ネットはできるんだよね。
うーみゅ。雪かぁ……うちの母親がないて喜びそーだ(笑)
それでは風邪には気をつけてね。
来年といわずこれからもよろしくね!
では、ねんねこでした!

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5324白の奇跡 8ねんねこ E-mail URL12/31-16:48
記事番号5286へのコメント



「僕の邪魔、しないでいただきたいんですけれど」
 自分の腕を掴んでにっこりと笑って言ってきたゼロスにアメリアは怪訝な顔をした。
「『僕の邪魔』?」
「ええ」
 ゼロスは頷いて、視線をセシルの方に向けた。
「信頼していた人間から裏切られた時の人間の負の感情ってすごくおいしいんですよね。
 アメリアさん、あの子を慰めに行こうとか考えていらっしゃるんでしょう?
 なら、もう少しだけ、それを待っていただきたいなぁ、と」
「……セシルのこと、餌にしてるんですね」
 半眼で睨みつけてくるアメリアにゼロスは肩をすくめた。
「ひどいなぁ。僕はただあの子の負の感情をいただいてるだけじゃあないですか。
 別にあの子にあの感情を出させるように仕向けたわけでもなし。僕のせいではありませんよ」
 確かにゼロスのせいではない。その言葉にアメリアは彼から視線を外した。
「どうして人の気持ちってすれ違いやすいんでしょうね?」
「え?」
 ぽつりと呟いたアメリアにゼロスが怪訝な顔をした。小さく嘆息してアメリアは目を閉じた。
「セシルもアレンさんもきっとお互いのことをすごく大切に思ってるのに、互いの気持ちが空回りして、傷ついて。
 どうして相手の気持ちがわからないんでしょう、人って」
「……暴走しているからじゃないですか? 自分の気持ちに」
「暴走?」
「自分が相手を大切に思っている、という気持ちだけが暴走して、相手のことを考えていない、ということですよ。
 どういう経過が起こったかは僕にはわかりませんけれど……あなたが接した中で、彼らが一度でもいいから自分自身のことではなく、相手のことを考えていたことがありましたか?」
 淡々としたゼロスの言葉にアメリアは呆然と彼を見つめた。
 自分のために仕官を志した兄の気持ちもわからずに、ただひたすらアレンに会いたがっていたセシル。
 ただ、側にいてくれるだけで良いという弟の気持ちもわからずに、ただひたすらセシルにいい生活をさせてやろうと努力していた(らしい)アレン。
 どちらもただの自己満足の域を出ない思い。
「……その顔じゃあなかったみたいですね」
「……どうすれば良いんでしょうか?」
 アメリアの問いにゼロスは肩をすくめた。
「それはあなたが考えるべき問題でしょう。人の心はしょせん人にしか理解することは出来ません。魔族の僕がとやかく言うことではないはずです」
「…………」
「まあ、できる限りのお手伝いはしますが」
 黙り込んだアメリアにゼロスが一言付け加える。ちらり、と彼女はゼロスを見る。
「……なにが目的ですか?」
「むろん、あの少年の負の感情です。
 どんなことをしてあなたがすれ違った気持ちを修復させるかは知りませんが、なんにしたって関係修復に失敗すれば、お互いの気持ちの溝は深まるだけなんですよ。
 溝が深まればその間に生まれるのは不安、怒り、憎悪。
 ―――つまり、賭けですね。アメリアさんが見事に関係を修復すればアメリアさんの勝ち、関係修復ができずにさらに事態が悪化すれば僕の勝ち、という。
 それがお手伝いの代償です」
 しばし黙り込んでアメリアは考えた。
 セシルの願いとアレンの願い。どちらもおざなりにしてはいけない。
 セイルーン仕官の道を問答無用で閉ざさずにセシルが常にアレンと共にいられる状況――
(……賭け……勝負?)
「ゼロスさん」
「なんですか?」
「今からわたしの言う通りにしてもらいたいんですけれど」



   +++ 白の奇跡 8 +++



「……アメリア、お前なんでここに……?」
 混乱して痛む頭を押さえながらゼルガディスが尋ねる。が、アメリアはその問いを無視して、まっすぐと自分を睨みつけているアレンに視線を向けた。
 驚いていたアレンだったが鼻で笑って彼女を指差す。
「なるほど? 全ての黒幕は実は身近な人物だったというわけか」
「……なんだかそういう言い方されると私が悪みたいじゃないですか……」
 思わず沈痛な面持ちでアメリアがうめく。が、すぐに真顔に戻ると、静かに言ってくる。それは、その場にいる人間に彼女が王族の人間であるということを再認識させるような表情と口調だった。
「アレン=グロスターシャ。
 現時点をもって我が父フィリオネル=エル=ディ=セイルーンが貴殿に出した仕官推薦の条件をこのアメリア=ウィル=テスラ=セイルーンが棄却します。
 その代わり、わたしと勝負して勝ったらあなたにセイルーンの仕官推薦状を出しましょう。王族の推薦は国の推薦と同値―――あなたには上層部に近い地位が与えられるはずです」
「どういうつもりだ!? ゼルガディスを狙うのが気に食わないというわけか?」
 アレンの問いにアメリアは首を横に振った。
「話はまだ終わってませんよ。もし、わたしとの勝負に負けた場合―――」
 アメリアはアレンを真っ直ぐ見つめた。澄んだ蒼い瞳に戸惑いを隠せないアレンの姿が映る。
「その場合、あなたに仕官する能力がないとみなして、あなたの名前を仕官候補の名簿から抹消します。
 本来守るべき相手より弱い兵など、こちらは要求していませんからね」
「その為に私を呼び出したというわけか? 魔族まで利用して」
 吐き捨てるようにアレンは言う。彼女は嘆息して、彼の後ろにいるゼロスを見た。目が合って微笑まれたが、それをあっさり無視して、言った。
「今回は利用、というより取り引きです」
 方法は問わない。どんな手を使っても良いからアレンをこの塔まで“無傷で”――ゼロスの場合、ここの部分を強調しないと平気で瀕死の状態で連れてくる恐れがあるのだ――連れてくること。
 その報酬は、失敗した場合のアレンとセシルの負の感情―――
「どうしますか? 私と勝負するか、このまま無条件に仕官への道を諦めるか」
 二つの選択を示してくるアメリアにアレンは頭を振った。
「勝手極まりないな。なぜ私の人生を君に制限されねばならない?」
「『アレンお兄ちゃんが欲しい』」
「……?」
 その言葉にアレンは怪訝な顔をした。アメリアは後ろにいる俯いたままのセシルを見た。
「……セシルがサンタクロースに頼んだものです。
 まだこんな子供が、年一回のプレゼントにおもちゃでもケーキでもなくて、“あなた”を選んだんですよ?
 あなた、セシルがさっき返事をしなかったことに疑問を感じていましたね。何であの子の気持ちをわかってあげられないんですか!? セシル、あなたがこの街に帰ってきていたのに自分に会いに来てくれないことにすごく傷ついたんですよ!?
 人は大切な人間に自分がどう思われているかどうかほど不安に思うことはないのに……どうしてセシルのこと考えてあげないんですか!?」
 彼女の言葉に静かに事の成り行きを見守っていたゼルガディスは昨晩の彼女の言葉を思い出す。
『……恐いの。ベッドで寝るのが恐いの。朝起きても誰もいないの。わたしは1人おいていかれて、いつもいつも待ちぼうけ。
 待っているのはわたしだけ? 姉さんはわたしのことなんてどうでも良いの?』
「……あいつ……」
 アメリアは間違いなくこのふたりの兄弟に自分の姿を重ねあわしている。
 兄においていかれたセシルと姉においていかれた自分と。
 アメリアの訴えにアレンは頭を振った。
「つくづく勝手な人だな、あなたという人は。
 ただの自己満足で私たち(ひと)の家庭事情に足を突っ込まれるのは迷惑なんだよ!」
「……ただの自己満足で行動しているのはお互い様でしょう?
 あなた、一度で良いからセシルの気持ちを考えたことがあった?」
「ああ、あるさ! セシルはたった一人の肉親だからな! 2、3日話した程度のあなたよりずっとあいつのことを理解している!」
「そう思いこんでいたからセシルが傷ついたんじゃないっ!」
 アレンの言葉を一喝して、アメリアは一歩足を踏み出した。
「たった一人の肉親? 血を分けた家族? しょせんはただの赤の他人じゃないですか。 頭の中で意識が繋がっているわけでもない。常に一つのことに対して同じ感情を持つわけではない。結局家族とは言っても別の人間なのよ!?
『家族だからなんでもわかる』? 違うわ! 家族だからこそ、自分が一番近い他人だからこそ、自分の気持ちを伝えやすいんでしょ!? 相手の気持ちも理解しやすいんでしょ!?」
「…………」
 なにも返す言葉が見つからずにアレンは視線を彼女から外した。
「……あなた、逃げてるだけなのよ。今もそうやって現実から逃げようとしてる。
 セシルもそう。事実を認めたくなくて『あなたを嫌う』ということで自分の気持ちから逃げようとしてる。でも、それじゃあ何にも解決しない。その場を逃げて上手くかわしても、結局は諸刃の剣。いつかすぐにまた崩れる時は来る」
「―――めぇ……」
 後ろから聞こえてきた声にアメリアは肩越しに振り返った。自分のマントをくいくい、と引っ張りながらこちらを見上げてくるセシルの瞳からは大粒の涙が零れ落ちていた。
 セシルはこちらを睨みつけるように見ながら首を横に振った。
「だめぇ、お兄ちゃんいじめちゃだめぇぇぇ」
「……セシル……」
「お兄ちゃん、悪くないんだ。ただ、ボクがわがままずっと言ってるだけなんだ。
 だからお願い、お兄ちゃんをいじめないで……」
 その言葉にアメリアは目を閉じた。自分の気持ちを押し込めてまで兄をかばう少年が痛々しく見えて。
 静まり返った広間に今まで沈黙を保っていたクラヴィスの嘆息が響き渡る。
「……お互い言いたいことはそれだけかい?」
 その問いにアメリアは真っ直ぐ彼を見た。ゆっくりと頷く。
 自分の言うべき事は全て言った。
 後はアレンがその言葉をどう受け止め、理解するかだ。今、理解できなくて、勝負にのったとしてもそれはそれで良い。どちらにしろ、セシルとアレンが共に暮らせるように手配をするつもりだから。後々になって言葉の意味をわかってもらえれば、それで良い。
 彼女の答えにクラヴィスは満足そうに頷いた。そのまま視線をアレンの方に向ける。
「お前は? 言われっぱなしで言葉もないか?」
「……くも……」
「?」
 一同が怪訝な顔をした。アレンはきっとアメリアを睨みつけて、今度ははっきりと言ってくる。
「よくも人の気も知らないでいろんなこと言ってくれたな。
 『セシルの気持ちをわかってやれ』? たった数日一緒にいただけであんたにセシルの気持ちがわかったって言うのか!?
 人づてに他人の過去を聞いただけのあんたににわかってたまるか! 余計なお世話な―――」
「―――っ! お兄ちゃん!」
 セシルの悲鳴が響く。
 彼の反論は中途半端なところで途切れた。
 突然、床に転がると咳き込みながらのたうち回った。セシルは兄の近くまで駆け寄ると、何度もアレンの名を呼んだ。
 その様子を見下ろしながら、アレンの腹を容赦なく蹴りつけたゼルガディスは冷たく言い放つ。
「『人づてに他人の過去を聞いただけのあんたににわかってたまるか』? その言葉、そっくりそのままてめぇに返してやるよ。
 お前にアメリアの何がわかる?
 『人の気も知らないで』? ふざけんなよ。どうしてお前の気持ちがわからないと知っているんだ? もしかしたら、彼女がお前らと同じ状況に立ったことがあると少しでも考えなかったのか?
 図星をずかずか突かれたくらいで逆ギレしやがって。書いてもすぐ消すことができるのと違って、『言う』ってぇのは口に出しちまったらなにをやっても取り消すことなんかできないんだよ。てめぇのその怒りに任せた捨て台詞のせいであいつが傷ついたことなんて知りもしないだろ? 自分の身内の気持ちもロクに察してやれないお前に赤の他人の気持ちなんぞわかるわけないからな」
「……ゼルガディスさん……」
 ぽつり、とアメリアが名前を呼んでくる。そちらを一瞥してゼルガディスは視線を外した。自分を睨みつけてくるセシルに目を向けた。
「お前も男だったら正直に自分の気持ちを言えよ。本当は寂しかったんだろ?
 いつも心の中は独りぼっちで。いつも兄貴を探してた」
 自分がまだセシルほどの年齢だった頃。
 あの頃はまだ全ての真実を知らなかったけれど。
 周りに人がいても、いつもずっと寂しくて、唯一の友達の姿を探していた。
 ゼルガディスは嘆息して、苦笑いした。
「俺と一緒だ」
「なぁぁんか目が似てるんだよな。いっつもおどおどしててさ。オレが何も言わずにいなくなるといっつもぴーぴー泣いて屋敷の中駆けづりまわってたよな、お前」
「……そーいう余計なことは言わなくていいから」
 近づいて、からかうように笑いながら言ってくるクラヴィスを睨みつけながらゼルガディスが言う。
 ゼルガディスに言われて、セシルは未だ蹴られたダメージから回復していないアレンの顔を見た。
「……お兄ちゃん……ボク……」
 セシルは俯いた。
「お兄ちゃんがいるだけでいいんだ。お家も自分のお部屋もいらない。お兄ちゃんが側にいてくれればそれで幸せなんだ」
「……セシル……」
 弟の名前をぽつりと呼んで、アレンは息を吐いた。擦り寄ってくるセシルの頭を撫でて、自嘲気味に呟く。
「……なんにもわかってなかったのは、おれか……」
 その言葉にクラヴィスは苦笑した。しゃがみこみながら言う。
「ま、人間知らないことがたくさんあるし……ぶち当たった時に理解できりゃされで良いんでないの?」
 そのまま回復呪文をかけようとして、どんな状態なのか確認をするためにぺろり、と服をめくって―――
 そのまま視線をゼルガディスに向ける。
「……なんだよ」
 怪訝な顔をしてくるゼルガディスにクラヴィスは半眼で睨みつける。
「……やっぱお前、最近足癖悪すぎ」
「そうか?」
 まったくさらさら自覚症状がない発言をしてくるゼルガディスに重く息を吐いて呪文を唱え始める――リカバリイではなく、リザレクションの方を。
 その様子を見ながら、アメリアは少し視線を話して、ゼロスの方を見た。
 相当気分が悪いのだろう。真っ青な顔して、身震いしていた。そのまま姿を消す彼を見届けて、彼女は満足そうな笑みを浮かべた。
 ―――と。
「……で、アメリア?」
 いつのまにか近づいてきたゼルガディスに、アメリアはびくんと身体を震わせた。
 無言のまま、半眼で見つめてくるゼルガディスにしゅん、と俯いて反省しているという態度をしてみせる。
「まったくお前はいつもいつも俺になんの相談も無しに勝手に……」
「……ごめんなさい……」
 謝ってくるアメリアにゼルガディスは嘆息した。
「―――この際だ。お前に一つ聞きたいことがある」
「なんですか?」
「お前、何のために旅をしている?」
「え?」
 突拍子もない問いにアメリアがきょとん、とした顔をする。
 それは数日前かわしたのと同じ質問。
 彼女はその時と同じ答えを返した。
「それは……ゼルガディスさんの身体を元に戻すための……」
「……本当にそう思ってるのか?」
「? ええ」
 頷いてくるアメリアにゼルガディスはため息を吐いた。彼女の瞳を真っ直ぐ見つめて、言う。
「本当にそう思って旅してんだったら、今すぐセイルーンの城に戻れ」
「―――っ!?」
 その突き放した言葉にアメリアは目を見開いた。彼の服を掴むと、訴えるような目で見つめた。
「どうしてそんなこと言うんですかっ!?」
「……お前、セシルやアレンになんて言った? 『一度で良いから相手の気持ちを考えたことがあるか?』って言ってたな。じゃあ、お前は俺の気持ちを考えたことがあるか?」
「え――――?」
 呆然と見つめてくるアメリアの手を振り払って、ゼルガディスは肩をすくめた。
「……迷惑なんだ。『俺のために』なんて理由でついてこられるのが。なんかお前を束縛しているようでな。そんな理由で一緒に旅しているんだったら、今すぐセイルーンに帰ってくれ」
「で、でもクラヴィスさんは!? クラヴィスさんだってゼルガディスさんの身体を元に戻すために一緒に旅しているでしょう!?」
 アメリアはクラヴィスを見た。アレンの傷を完治させたクラヴィスがゼルガディスの顔と彼女の顔を交互に見て、小さく肩をすくめた。
「……あのくそ親父のせいで、問答無用に跡取りにされてな、世界を見るために旅してる」
「―――だ、そうだ」
 言いながらゼルガディスはアメリアを見た。彼女は、俯いて、小さく尋ねてくる。
「……もしかして、わたし邪魔……ですか?」
「…………」
「邪魔だから、そんなこと言うんですね」
「……もう一度聞く。お前、何のために旅してるんだ?」
 その問いにアメリアはきっと睨みつけてきた。瞳が涙ぐんで見えるのは自分の気のせいではなかったはずだ。
「何度も言わせないでくださいっ! ゼルガディスさんの身体を元に戻すためじゃあないですか!」
「嘘をつくなっ! それだけじゃあないくせにっ!」
 思わず怒鳴り返す。アメリアの身体が震えて、はっと我に返り、ゼルガディスは自分の口を押さえた。ばつが悪そうに彼女から視線を外す。
「……お前、リナと旅してた頃から毎日かかさずやってたことがあるな」
 アメリアはゆっくりとゼルガディスを見上げた。視線を外したまま、ゼルガディスは続ける。
「ずっと前から気づいてはいたんだが、何をしているのかさっぱりわからなかった。
 尋ねようと思ってもどうも隠しているようで尋ねられなかった。
 だけど、やっとわかったよ」
 ズボンのポケットから一度くしゃくしゃに丸めたような紙を取り出した。広げて彼女に見せる。
 そこに描かれてあったのは、一人の女だった。これを書いたた人間は、あまり細かいところまで覚えていなかったのだろう。適当に輪郭を書いただけのものであったが、それが誰を差しているのか彼女の事情をとりあえず知っているゼルガディスには容易に想像がついた。
「……ずっと探してたんだろ? 自分の姉貴のこと」
 彼の問いにアメリアは、懐から写真を取り出した。映っているのは、彼女に良く似た女性。長い黒髪に整った顔立ち。やはり、あの父親からどうしてこんなのが生まれるんだ、などと疑問に思わざるを得ないような美人。
 それを見つめながらアメリアはぽつりと言った。
「……どうしても聞きたかったんです……どうしてわたしをおいていったのか。
 わたしも彼らと同じ。自分のことしか頭になくって、姉さんの気持ちが全然わからなかったから……
 でも、ゼルガディスさんの身体を元に戻す旅を一緒にしたいというのも本当なんです」
 アメリアの訴えるような眼差しにゼルガディスは微笑んで、彼女の頭に手を乗せた。
「わかってるよ。だけど、さっきも言ったろ? そんな理由でお前をつれまわしていたんじゃあ、なんだか束縛しているようで俺が嫌なんだ。
 ―――俺は俺の体を戻す、お前はお前の姉貴を探し出して一発殴り倒す。旅の理由はそれで十分だ。何もわざわざ他人の荷物まで背負うこたぁない」
「……もしかしてわざわざそんなこと言うために突き放したんですか……?」
「悔しかったんだよ。なぁぁぁんにも話そうとしないから実はあんまり信用されてないんじゃないかってな」
 嫌味をたっぷり込めて言ってやる。アメリアはぷぅ、と頬を膨らませた。
「ゼルガディスさんのいぢわるっ!」
 言って、彼のすねを思いっきり蹴飛ばした。

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5325白の奇跡 9ねんねこ E-mail URL12/31-16:49
記事番号5286へのコメント



「……まあ、何だ。いろいろ世話になったな」
 あさっての方向を向いたままアレンはぽつりと呟いた。
 塔から戻ってきて、街の入口。ここから右に行けばアメリアたちが滞在している宿屋。真っ直ぐ直進すれば、アレンたちの家である孤児院である。
 照れたように言ってくるアレンにアメリアが苦笑した。視線をセシルに向ける。
「良かったね、セシル」
「うん!」
 アレンとしっかり手を握ったセシルが満面の笑顔で頷いた。それを微笑みながら見つめて、アレンはゼルガディスを見た。
「あんたにも迷惑かけたな」
「ああ、かけまくりだったが。全然まったくこれっぽっちも気にしてないから安心しろ」
「……そりゃあ、肋骨折れば気が済んだろよ……」
 ぼそり、と疲れた口調でクラヴィスが言ってくる。それを無視して、ゼルガディスは彼の足を思い切り踏んづけた。声にならない悲鳴をあげるクラヴィスをやはり無視する。
「そう言えば……」
 なにかを思い出したようにアメリアが尋ねる。
「どうして最初に会った時、わたしのマント、掴んでたの?」
 その問いにセシルはきょとんとした顔をした。しばし、あちこちに視線をやる。どうやら答えに迷っているらしい。
 やがて、首を傾げて言ってくる。
「よくわからないんだけど……おねいちゃん、ボクと同じって思ったから」
 その答えにアメリアは目を瞬いた。後ろから足を踏みつけられたままゼルガディスの首を絞めにかかっているクラヴィスが言ってくる。
「要するに、自分と同じ境遇の奴等は一発でわかる、ってわけだ」
「……相手の気持ちが理解しやすいんですね」
「そゆこと」
 言いながらクラヴィスがゼルガディスを解放した。ゼルガディスも彼の足から自分の足を外した。
 そんな攻防を尻目に、今度はセシルがアメリアに尋ねてくる。
「おねいちゃんたち、あとどれぐらいいるの?」
 その問いにアメリアはゼルガディスと顔を見合わせた。お互い寂しそうな顔をしたものの彼女は視線をセシルに戻して、答える。
「明日の朝、一番に出て行くつもりなの。だから今日でお別れ」
「……そっか」
 残念そうにセシルが言った。
「元気でね、おねいちゃん。あと、おじちゃんたち」
『お・に・い・ち・ゃ・ん』
 あさっての方を向いて笑いを堪えるアレンとアメリアをよそに、ゼルガディスとクラヴィスは青筋を立てて訂正した。



「ううう、寒いですねぇ……」
「ああああああああ、もー寒いのだけはやなんだよね、オレ」
「……お前、夏には『暑いのだけはやなんだよな』とか言ってなかったか……?」
 あのお騒がせ兄弟と別れて宿屋に向かう途中。
 それぞれ騒ぐ三人に、空から白き妖精が舞い降りてきた。
「あー、雪! 雪ですよっ、ゼルガディスさん!」
 めざとく気がついて、アメリアが騒ぎ出す。ゼルガディスも空を見上げながら、言う。
「どーりで寒いわけだ」
「……今夜はホワイトクリスマス・イブってか? 独りものには辛いやね」
「雪ですよっ! クラヴィスさん、雪っ! 積もらないかな? 明日とか雪だるま作って遊びたいですよね!」
「……いやだからあのな、明日出発……」
「まーいーでないの」
 ぽこぽこゼルガディスの肩を叩きながらクラヴィスが言ってくる。にっこりと笑いながら、肩に乗せた手に力を入れる。
「雪が積もるほど降れば、どうせ足止めくらうんだし。第一、出発する前に作っちまえばいいだろ? せっかく良い土台もあることだし」
「……土台?」
「岩肌なら基礎体温、元から低いから雪ん中にいても全然平気だろ?」
「俺かぁぁぁぁぁぁぁぁっ!?」
 あっけらかんと言ってくるクラヴィスにゼルガディスが絶叫した。



「ただいま! シスター・サティア!」
「セシル! 無事だったのね!」
 孤児院の扉を勢いよく開けたセシルが見たのは、心配そうな顔をした司祭やシスター、そして共に暮らす仲間たちだった。
「……セシル、大丈夫だったか?」
 尋ねてくる同い年の少年にセシルは笑ってみせた。
「あのね、サンタさんは本当にいたよ!」
「え?」
 少年が怪訝な顔をする。その少年は数日前、セシルに『サンタなどいやしない』と言った張本人なのだ。
「どんなのだったんだよ! 見たのか?」
 やはりサンタを信じない他の子供たちがブーイングのような質問を浴びせかけた。いつもはその場で泣いて出て行くセシルも後ろにいた兄の顔を見て、にっこりと笑った。
 彼の答えを待っている子供たちにはっきりと言い放った。
「サンタさん、白い服着たかわいいおねいちゃんだったんだよ!」



「ま、気分的に一応おいておかないとね」
 苦笑いを張りつかせながらアメリアがぽつりと呟いた。自分のベッドに赤と緑のストライプの少し大きな靴下をかける。
 夜になって、雪は止んでしまった。まあ、あまり多くは降っていなかったのですぐにやんでしまうと言うことは薄々わかっていたことだったが。
 自分で城からもってきたお気に入りのパジャマに着替えて、唇にリップクリームをつける。今日の昼間、ゼロスからクリスマスプレゼントだといってもらったものだ。何でリップクリームなのか、などと疑問に思ったのだが、『女の子は唇を大切にしていないとだめですからね』との言葉に納得した。別につけてもなんの二次作用もないようだし、せっかくの好意なので使っているのだ。
 ベッドの上に座って、枕をぽんぽんと叩く。
 布団に入りこもうとして、彼女は自分の髪が風になびいたことに気づいた。
 窓は開けていないはずなのに。
 背中にある窓の方を振り返る。
 そして瞬間、きょとんとした顔をする。
「……サンタ、さん……?」
 窓枠に座っていた一人の男。
 白い綿のついた真っ赤な帽子と真っ赤な服に身を包んで、微笑を浮かべながらこちらを見つめていた。その男は決して老人などではない。どころか、人間の肌さえもってはいなかった。
「……ゼルガディスさん。まだサンタさんの時間には少し早いですよ?」
 サンタさんは25日の鐘が鳴ってからくるもんです、と言ってくるアメリアにサンタ姿のゼルガディスは苦笑した。
「寝ている間に忍び込んだら、『夜這いかけた』って言われかねないからな」
 立ち上がって、アメリアに近づく。ベッドにすとん、と腰をかけると、アメリアを見た。彼女は、彼の着ている服を興味津々に眺めて言ってくる。
「サンタさんなんですね。てっきりわたし、トナカイさんだと思ってました」
「……まあな」
 曖昧な返事を返す。サンタの衣装はちょうどゼルガディスのサイズぴったりだった。
 不審に思ったゼルガディスがクラヴィスを白状させたら、何のことはない―――
『馬鹿だなー、サイズなんてお前の服で簡単に調べられるわ。天下のクラヴィスさまを甘く見るんじゃねぇ』
 との答えが返ってきた。
 どうやら最初から自分にサンタをやらせる気だったらしい。あれだけうるさく採寸させろ、と言ってたのもどうやらただ人が慌てるのを面白がっていたらしい。とりあえず殴り倒しておいてやったが。
 ゼルガディスは彼女の頭に手を伸ばすと、頭を撫でた。闇に溶けそうな黒い髪を梳く。
「いろいろ悩んだんだがな」
 言いながら懐から彼女のために買った銀細工の髪飾りを取り出した。それを彼女の髪に留めてやる。
 あごに手をやり、満足そうに頷いた。
 その様子にアメリアが身体を左右に揺らす。
「どう? どう? 似合ってますか!?」
「似合ってる似合ってる」
 ゼルガディスの答えに嬉しそうにアメリアは飛び跳ねた。どんなものか見ようと髪飾りを外す。かわいい細工が気に入ったらしい。さらにベッドの上でびょんびょこ飛び上がり―――
 どす。
「……何してるんだ……」
「お、落ちちゃいました……」
 ベッドの下でうめくアメリアにゼルガディスが呆れた声をあげた。彼女の手を引っ張り起こす。そのままベッドに座らせて、呆れたというように嘆息する。
「まったく……もう子供じゃないんだ……」
「たはは……」
 アメリアがぺろり、と舌を出しててれ笑いをした。
 それからふと何かに気づき、ぽん、と手を打ってゼルガディスに尋ねる。
「そう言えば……わたし、昨日ゼルガディスさんに変なコト言いました?」
「何が?」
 訝しげな顔をしてくるゼルガディスにアメリアは視線を天井に向けて言ってくる。
「昨日の晩のこと全然覚えていないんですよね。
 今朝起きたらゼルガディスさんが隣で寝ててすごくびっくりしちゃったんですよ。
 一体何が起こったのかさっぱりで……てゼルガディスさんこんなところで寝ないで下さいよ」
 脱力しきって半分魂が抜けてるゼルガディスを揺さぶる。
(結局この程度か……!? 人が一晩苦労したのにこの娘にとっちゃあこの程度なのかおいっ!)
「……ゼルガディスさん?」
 アメリアの問いにゼルガディスは静かに彼女に目を向ける。とあることを閃いて、顔には出さず内心にやりとした笑みを浮かべながら言う。
「昨日どんなことをしたのか教えてもらいたいか?」
「……ええ、まあ」
 怪訝な顔をしながら言ってくるアメリアの肩をぺん、と軽く押す。不意打ちに食らってそのままこてんとベッドに仰向けになるアメリアの頭のすぐ横に手を置いて、ゼルガディスは意地悪そうな笑みを浮かべた。
「こーいうことをしたのさ」
 嘘は言ってないから大丈夫。とりあえず。
 などと自分に言い訳しながら、彼は彼女の唇を捕らえた。



「雪、やんじゃいましたね」
 声をかけられて、クラヴィスは現れた人物を一瞥して笑みを浮かべた。
「世界中の熱い恋人たちのおかげで雪も溶けちまったんじゃねぇか?」
「――かもしれませんね。僕は逆に寒気がしますが」
 苦笑しながらゼロスが言う。立ったままのゼロスにクラヴィスが自分の隣を指差す。何も言ってはこないが、座れ、ということなのだろう。ゼロスはそれに従った。
 座ったゼロスにクラヴィスがグラスとシャンパンのボトルを差し出した。
「飲む?」
 尋ねられて、ゼロスは首を横に振った。
「いえ、これから獣王様のところに戻らなくてはなりませんから」
「……いつもの定期報告か?」
「単なるクリスマス会ですよ」
 ゼロスの言葉にクラヴィスが思わず笑った。
「魔族がクリスマス会とはな」
「存在しているうちはせいぜいその時間を楽しもう、というのが獣王様の口癖ですから」
「……存在しているうちは、か……」
 どこか寂しそうな笑みを浮かべて、クラヴィスはグラスに残ったシャンパンを一気に呷った。
「確かにそうかもしれないな」
 クラヴィスの言葉を聞きながら、ゼロスは空を見上げた。雪が止んだとはいえ、どんよりとした雲はそのままだった。
「クラヴィスさんは――」
「ん?」
「クラヴィスさんはこんなところで1人酒、ですか?」
「んー……はは、そうだな……」
 少し上気した頬を掻いてクラヴィスは困ったような顔をした。
 彼らがいるのは、宿屋の屋根の上。あまり高い建物がない街なので、3階建てのこの宿屋はこの街で最も高い建物だった。晴れているとはいってもやはり真冬の夜中の吹く風は冷たい。極度の寒がりの彼がこんなところで1人酒を飲んでいるというのはゼロスの目には不可思議な光景に映った。
 何も言わず黙っていると、クラヴィスが気まずそうに言ってくる。
「死んだ嫁さんの名前な、ノエルって言うんだ」
「“クリスマス(ノエル)”ですか」
「クリスマスの日に生まれたから“ノエル”て名前つけられたらしい」
「じゃあクリスマスと誕生日、両方お祝いしてたんですね」
 ゼロスの台詞にクラヴィスが俯いた。笑みを浮かべたが、それはとても嬉しそうには見えなかった。むしろ色濃く映るのは悲しみの色。
「……一度も彼女とクリスマス過ごしてないんだ――その前に死んじまったから。
 ま、だからこーして天国に一番近い場所で飲んでるわけだが」
「……すみません」
 聞いてはいけないことを聞いてしまって、ゼロスは頭を下げた。さして気にした様子もなくクラヴィスが首を横に振る。
「いーよ。まあ、下の熱いお2人さんの邪魔も出来ないしな」
「……多分ゼルガディスさんの方は今頃爆睡中だと思います」
 自分がアメリアに渡したリップを彼女がつけておいたのなら。
 ゼロぽん印の強力な睡眠薬を込めたリップクリームである。さすがのゼルガディスもすぐに効くだろう。
「?」
 怪訝な顔をするクラヴィスのグラスにゼロスは静かにシャンパンを注いだ。
「で? 結局今回は何しに来たんだ? 無目的にってわけじゃあないんだろ?」
「ええ、まあそのことなんですけれど……クラヴィスさんに預かりものがあるんです」
「あん?」
 言われて、突然差し出されたラッピングされた紙袋を戸惑いながら受け取る。
 恐る恐る中を確かめるとそこに入っていたのは、三色の手袋。添えられているカードを見つけ、それだけ取り出して目を通す。
『メリー・クリスマス! これからどんどん寒くなるけれど体を崩さないようにね。
 どうか君たちに神の御加護がありますように――――――ウィルフレッドパパより』
「…………なに? お前、荷物の配達のバイトでも始めたのか?」
「いえ、そーいうわけではないんですけれど……ちょっと用事があってセイルーンに行った時に偶然ばったり会っちゃいまして。
 直接お会いしたことないのに、僕が黒い神官服着ているだけで『ゼロスくんだぁぁぁぁぁっ!』とか言って詰め寄られた時はさすがの僕もちょっとビビりましたよ」
「……まあ、普通、常識として神官服を黒で統一する奴なんてあんまりいねぇしな……ま、悪かったな。手間取らせて」
「いえ、久しぶりに面白いことにもつきあえましたし、いいですよ」
 嘆息しながら言ってくるクラヴィスにゼロスは笑みを浮かべ――日付の変更を告げる鐘の音におやおやと困った顔をしてみせた。
「もうこんな時間ですか……早く行かないと獣王様に何言われるかわかりませんね。
 そういうわけでクラヴィスさん。僕はこのくらいでおいとまさせていただきます」
「そーか」
 ゼロスの言葉に頷いてみせる。それを見て、彼は屋根を指差した。
「ゼルガディスさんはどうでもいいですけれど、アメリアさんにはよろしく伝えておいて下さいね」
「わぁってるって」
 手をぱたぱたと縦に振る。さっさと行け、というように。
 その様子にゼロスは嘆息しながら虚空に消えた。
 1人になって、空を見上げる。
 彼の鼻先に小さな水の雫が落ちてきた。
「あー……雨……」
 呟く。声と共に出た息は白い。
「……雪になりそうだな、数年ぶりのホワイトクリスマスってわけだ? なぁ、ノエル?」


   雨は夜更け過ぎに
   雪へと変わるだろう
   Silent night,Holy night


   きっと君は来ない
   ひとりきりのクリスマス・イヴ
   Silent night,Holy night


「さて、本格的に寒くなってきたことだし、そろそろ寝るかな」
 重い腰を上げる。
 空を見上げた。
「メリー・クリスマス。そして誕生日おめでとう。今年のプレゼントは……」
 微笑む。
「どうせ物じゃ使えねぇしな。オレの一生分の愛情を君に捧げよう。
 ―――愛してるよ、ノエル」


   心深く 秘めた想い
   叶えられそうもない


   必ず今夜なら
   言えそうな気がした
   Silent night,Holy night


   まだ消え残る 君への想い
   夜へと降り続く


   街角にはクリスマス・トゥリー
   銀色のきらめき
   Silent night,Holy night



 自分の部屋へもとる際にアメリアの部屋の前を通り過ぎようとして、クラヴィスは怪訝な顔で立ち止まった。
 今ごろ二人よろしくやっているのだろうか、などと一瞬考えもしたが、それにしては静かすぎる。
『……ゼルガディスさんなら今頃爆睡中だと思います』
 ゼロスの言葉を思い出して、顔を引きつらせる。
(……本気で寝てんじゃねぇだろうな……)
 人がせっかく気を利かせて二人っきりにさせてやったのに。
 ゆっくりとドアノブに手をかけ、少しだけ開いて何の様子をうかがう。
 明かりは消えていた。
 ベッドに二人の姿もある。
 それはいい。それは良いのだが……
「…………なにゆえ安らかな寝息が聞こえてくるのかなおい……」
 呆れて呟く。
 そのまま静かに部屋に入りこみ、小さく明かりの呪文を唱えて二人を見やる。
 身体を少し『く』の字に曲げて寝ているアメリアとその彼女を抱きしめて本気で眠り込んでいるゼルガディス。
(……なんちう馬鹿……こーいう機会を逃すからいつまで経っても手ぇ出せないんじゃねぇか……)
 心の中で弟を罵り、嘆息する。
 そのまま部屋を立ち去ろうとして、彼らに一端は背を向けたがふと立ち止まって、どうやっても起きそうにない二人を見る。微笑みながら息を吐いて、ポケットに手を突っ込む。取り出した小箱をそっとサイドテーブルに置くと、毛布を掛け直して呟く。
「おやすみ。良い夢を」
 それだけ言うと、そのまま踵を返して彼は部屋を後にした。



「ペアリング?」
「そう、ペアリングなのよっ!」
 力強く頷いてきたノエルに、クラヴィスはぼんやりと彼女の顔を眺めた後、そのまま読んでいた雑誌に視線を戻した。
 その態度が気に入らなかったのか、ノエルは目くじらを立てて怒り出す。
「なんなのよっ! その態度はっ!」
「……別に。またおねだりなのかなぁ、って……」
「そんなに頻繁におねだりなんかしてないでしょっ!?」
「2週間にいっぺんおねだりすりゃぁ十分だろよ……」
「昔は3日に1回だったんだからっ!」
「……そりゃー、親御さんはきっと大変だった……」
 気のない返事にノエルはぶう、と頬を膨らませた。
「とにかくペアリングが欲しいぃぃぃぃぃぃっ!」
 年甲斐もなくわがまま言う自分の身元保証人兼恋人である彼女に、クラヴィスは読んでいた雑誌をパタン、と閉じた。
「あのなぁ、ノエル」
「なによ」
「うちの経済、どんなに苦しいかわかって言ってるか?」
 ちらり、と彼女の顔を一瞥する。が、彼女は負けじとぐっと拳を握りしめた。
「あんたがその身体張って稼いでくれば安いのくらいは買えるはずっ!」
「家事全般やらせておいてそこまで言うかぁぁぁぁぁっ! お前、オレに死ねとか言ってるわけだな!? 死んで欲しいわけだな、そーだな!?」
 ちょっぴり瞳に涙を浮かべながら絶叫する。その様子にさすがのノエルも額に一筋の汗を流して、作り笑いを浮かべた―――それはかなり引きつっていたが。
「や、やぁね。冗談よ、じょーだん。でもね、ペアリングが欲しいの」
「なんで? はやってるから、とか言ったら即座に却下するからな」
「だって……」
 左手の人差し指を突き立てて言ってくる。
「なんだか寂しいじゃない。この薬指も泣いてるわよ、大好きな人から指輪ももらえないって……」
 その言葉にクラヴィスは言葉に詰まる。
 なにしろ貯金ゼロの状態で彼女の元に転がり込んだのだ。とりあえず、彼女に内緒でせこせことバイトしては溜めてはいるのだが。
「婚約指輪とか結婚指輪とかじゃなくていいの。ただ、何か一緒のものを身につけてるだけで、お互い繋がっているようにも思えるでしょ?」
「わぁったよ」
 観念したように軽く両手を挙げる。彼女に背中を向けながら言う。
「考えといてやるよ」
 ―――結局ペアリングはそのまま結婚指輪に変化してしまったが。



「わぁい♪ ウィルフレッドさんのくれた手袋、温かくてぬくぬくぅぅぅぅぅVv」
「まあ、あのくそ親父にしては上出来かもな。もうちょっとこのぽんぽんがこうふわふわって感じだったら良かったんだが……」
 端の方に少しだけ残った雪。結局、深夜降り続いた雪は朝になってやんでしまった。その上、太陽まで出てきてしまったので、積もった雪もその温かい日差しに溶け出してしまっていた。
 ゼフィーリアに向かう街道をのんびりと歩きながら、至極真面目に父親手作りの手袋を評価するクラヴィスの横で半眼を向けながらゼルガディスが口を開いた。
「おい、クー」
「なんだ?」
 きょとん、とした顔で尋ね返してくるクラヴィスにゼルガディスは少し顔を赤くして、小声で言ってくる。
「……お前だろ? あんなペアリングなんぞよこしたのはっ!?」
 今更ながら貴金属店に行ったときの彼の不審な行動が理解できた。
 『もやし』だの何だの変なヘリクツこいていたが、実のところ、単に自分の指輪のサイズを調べたかっただけなのだ、この男は。
 が、クラヴィスはあっさりと言葉を返した。
「さあ? なんのことだかさぁぁぁっぱり。
 きっと今年一年良い子にしていたゼルガディスくんとアメリアちゃんにサンタさんがプレゼント持ってきてくれたんじゃないのかな?
 ンなことよりちゃんとつけてるのか? あ、指輪つけてるのが人に知られたら恥かしいからガラにもなく親父が送りつけた手袋もはめてるのか」
 図星を突かれ、一瞬ひるんだゼルガディスだが、すぐに復活すると、鼻歌交じりのクラヴィスに詰め寄った。
「ご・ま・か・す・な。第一、サンタなんぞいないって言ったのお前だろ!?」
「いやまあそれはそーだけど……お前、サンタクロースの由来、知ってるか?」
「……いや?」
 あまりそういう伝説には興味がないので知ろうともしなかった。ゼルガディスが首を横に振ると、クラヴィスはやっぱりな、という顔をした。
「サンタクロースってぇのはさ、むかしどっかで司教やってたセント=ニコラウスってじーさんが赤い服着てガキどもにプレゼント配っていたのが始まりだったんだ。
 サンタクロースってのは、そのじーさんの名前がなまった呼び方。
 で、世界にその物好きなじーさんの噂が広まって、もともとクリスマスにプレゼントをやるって言う習慣と重なって、今のサンタクロースの話が生まれたらしい。
 ようするに、あれだよな。サンタクロースは実在したわけだ。
 噂じゃあセント=ニコラウスと言う名前は実は偽名だったと言われているが」
「……そうなのか」
「オレは数年前まで本当に実在したと思ってるが」
「どういうことだ?」
 問うゼルガディスにクラヴィスは指を突きたてた。
「考えてもみろよ。好き好んで全身真っ赤な服着る司教がいるか? そんな奴世界に一人しかいねぇだろ」
「……なにが言いたい」
 なんとなく彼の言いたいことがわかって、ゼルガディスはうめくように呟く。クラヴィスは肩をすくめた。
「あくまでオレの推測だよ。お前が今頭の中で想像してるくそじじいは少なくとも100年以上はへーきな顔して生きていた。
 その間にサンタクロースの伝説が広まったんなら、まあ……推測は確信に変わるね」
「“あいつ”がサンタクロースの由来だってぇのか?」
「だからあくまで推測だって言ってるだろ」
 僅かに顔をしかめて釘をさす。
「ま、なんにしてもだ。サンタクロース―――いや、セント=ニコラウスは自分の子供のようにかわいがっていたガキだけにプレゼントをやっていた。
 それが、サンタクロースの原型なら自分の身近な人にプレゼントを持ってくる人間はみんなサンタと呼べるんではないか、などと密かに真面目こいて考えたわけよ。ちょっぴり大人のクラヴィスくんとしては。まあ、その方が夢があっていいだろ?」
 にっこりと笑ってくるクラヴィスにゼルガディスはため息交じりに微笑んだ。
「ま、そーかもな」
 そのふたりの目の前に先を歩いていたはずのアメリアがずずいっと詰め寄ってきた。
「んもうっ! なに二人で話し込んじゃってるんですかっ!? 早く進まないと、新年を街で過ごせませんよっ!」
「あーはいはいそーだな」
 彼女の頭をぽぺんぽぺんと叩きながらゼルガディスは答えた。
 先を進むアメリアとゼルガディスの二人をまぶしそうに眺めて、クラヴィスは小さく微笑んだ。



 新しい年の始まりがようやく見えてくる年の瀬。来年を迎える前にいろいろなイベントが人々を待ち構えているのだが、ゼルガディス=グレイワーズ少年が最も楽しみにしていたイベントといえば――やはりクリスマスだった。
 街から離れた『迷いの森』の奥の屋敷にこもっていたゼルガディス少年にとって、イブの夜にいつのまにかやってくるサンタクロースはまさに神様。数週間前にサンタに宛てて書いた欲しいものが、必ずクリスマス当日の朝にちゃんと置いてあった。喜びはしゃぐ少年に彼の祖父、赤法師レゾはにっこりと微笑んでいつも言う。
『よい子には必ずサンタさんが来てくれますからね。ちゃんと来年もいい子にしているんですよ』と。
 その後彼が15歳になるまで――彼の祖父が魔王に心を乗っ取られるまで――赤い服を着たサンタクロースは毎年彼にプレゼントを持ってきた。
 自分の大切な孫のために。


                      ≪終わり≫


******************************
 ……クリスマスまでに終わらせる、とか言っておきながら気がつけばもう大晦日。ああ、そろそろ除夜の鐘も響いてくるよ、というわけでねんねこです。一時期文章が書けないというスランプに陥りましたが、小話とかを抜きにして考えれば、実はこの話でちょうど20作目となります。たった半年の間によくそれだけ書いたな自分。などと半分呆れつつ、今回の言い訳を少々。
作中にある歌は言わずと知れた山下達郎氏の『Christmas Eve』です。クーちゃんのイメージにぴったりだったので使わせていただきました。
『きっと君は来ない』ってそりゃあ死んでちゃ来ないだろ、というツッコミは無しです。
 そして、サンタうんぬんの話はまったく嘘です。セント=ニコラウスという人物がサンタクロースの原型になったことは事実ですが。彼のことがアメリカに渡ったオランダ人の新教徒によって伝わり、クリスマスに贈り物をする習慣と結合して、全世界に広まった、というのが通説です。詳しいことは知りませんが。
今回はねんねこにしては珍しくアメリアが主人公です。
 昔から彼女が『正義』にこだわっているのには、父親の影響ではないなにかが関係している、と思っていたのでついついこういう話を書いてしまいました。嘘をつかれるのが恐いから嘘つく人は嫌い。嘘つかない人は悪人ではない。悪人でないのなら『正義』だ、と思い込んで、固執した、と考えました。まあ、彼女から『正義』という言葉を取ってしまえば何が残る、と言われればそれまでなのですが、彼女が『正義』という言葉にとらわれずに生きていく時が、彼女が大人になった時、と言えるのではないか、などと勝手に解釈。それに基づいて話を書いてみました。賛否両論、分かれるところですね。ただ、彼女が『正義』に固執“し過ぎている”ということを考えると、小さい頃のトラウマが彼女にそうさせているのではないか、などとノータリンな頭なりに解釈しまして……うちのアメリアがあまり正義という言葉を連呼しないのはそのせいです(−−;)
 結局なにをぐだぐだ書いているのかというと、ゼルの性格だけじゃなくてアメリアの性格まで変えちゃってごめん。てへ☆(死)ということです。何をいまさらというかもしれませんが、とりあえず小心者のねんねことしては謝っておこうかな、と……(汗)
 まあ、くだらない言い訳はこれまでとして……本年はいろいろお世話になりました。
皆さんご存知の通り、ねんねこは受験生のため、これからしばらくの間、顔を出すことはほとんど(ROMりには来る)なくなると思います。それでもいろいろ書きたいことは山ほどあるので、3月頃になったら復活します。その時はまたくだらない文章しか書けませんが、よろしくお願いいたします。それでは、ねんねこでした。

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5329短いですが感想を……ゆっちぃ E-mail URL12/31-20:45
記事番号5325へのコメント


ねんねこさんお久しゅう御座います、ゆっちぃです。
ついに完結しましたね、『白の奇跡』。
切羽詰った状況下ゆえ、満足な感想レスはできないのですが
短いながらもちょこっとレス、したいと思います。

クリスマス話とゆー事でらぶらぶの熱々を予想していたのですが、ゆっちぃのそんな馬鹿丸出しな期待(汗)を遥かに超える
素晴らしいお話でした。アメリア、ゼル、そしてクラヴィス。それぞれの抱えているものが浮き彫りになったと言うか何と言うか。
兎にも角にも素晴らしい御作でした。
所々にあるぜるあめ的場面もよかったですし、ラスト部分のクラヴィスも切なくて胸にじーんとくるような、そんな感じでした。
相変わらず涙腺弱い私なのでちょっと大変でしたですよ。涙止まんなかったです(汗)

祝!20作目突破♪っちゅー事で、これからも頑張って下さいねー。
受検終了後、3月以降の貴女の活躍に胸躍らせつつ、この辺でおいとまさせて頂きます。

それではでは〜

PS:勉強のほう、根詰め過ぎないように頑張って下さいね(どっちやねん自分ι)

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5342ありがとうございます。ねんねこ E-mail URL1/3-13:33
記事番号5329へのコメント


ねんねこです。明けましておめでとうございます。今年もよろしくね……ていうのはもう言ったか。

>クリスマス話とゆー事でらぶらぶの熱々を予想していたのですが、ゆっちぃのそんな馬鹿丸出しな期待(汗)を遥かに超える
>素晴らしいお話でした。アメリア、ゼル、そしてクラヴィス。それぞれの抱えているものが浮き彫りになったと言うか何と言うか。
>兎にも角にも素晴らしい御作でした。
>所々にあるぜるあめ的場面もよかったですし、ラスト部分のクラヴィスも切なくて胸にじーんとくるような、そんな感じでした。
>相変わらず涙腺弱い私なのでちょっと大変でしたですよ。涙止まんなかったです(汗)

あああ、こんなちんちくりんな話で泣かないでぇぇぇぇぇ(汗)
ゼルアメでないかもという予想通り、あまあまな部分はあまりなかったですが、楽しんでいただけて嬉しいです。

>祝!20作目突破♪っちゅー事で、これからも頑張って下さいねー。
>受検終了後、3月以降の貴女の活躍に胸躍らせつつ、この辺でおいとまさせて頂きます。

ははは、20作……数え方によっては、それ以上になるという困り者(死)
とりあえず、3月に即行復活するので、その時は『ああ、また出てきたよ』と思ってやってください。
ではでは!


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5330復活(仮)桐生あきや 1/1-02:15
記事番号5325へのコメント


 あけましておめでとうございます!
 復活(暫定)したです。桐生です。

 実家に着くなりパソ引っぱり出してネットに繋げるか試した私……やりすぎだってば(^^;
 でも、なまじ半端に読めるだけに、続きが気になって気になって……。

 ねこちゃん、完結おめでとう。ご苦労様。
 無理してない? だいじょうぶ?
 2世紀に渡る小説ってのもなかなかカッコイイと私は本気で思ってたんだけど(←馬鹿)。
 まあ、そんなことはどうでもいいや。桐生は、ねこちゃんの結構したたかなアメリア大好きっす。
 ゼルやクー君はもうすでに、スポットを当てて書かれていて、ねこちゃんのキャラが出ているけど、アメリアはまだだったから、楽しく読みました。
 実際アメリアが成長するときは、こうなるんじゃないかなと思えるし。
 ねこちゃんの話は構成がホントに上手いというか、細部まで綺麗に書き込まれているよね。ちっちゃなエピソードの一つ一つが全部生きているというか、何というか。
 それにしても、半年で20作ってすごいね……。私まだ2つだし(笑)。見習おう。

 3月に、ねこちゃんの小説を読めるのを楽しみにして待ってます。がんばって。あ、でも無理しないで。
 今世紀(今世紀から?)もよろしくお願いします。
 それでは、桐生でした。またね。
 

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5343……………!!(爆笑)ねんねこ E-mail URL1/3-13:41
記事番号5330へのコメント


> あけましておめでとうございます!
> 復活(暫定)したです。桐生です。

明けましておめでとうございます。ねんねこだす。

> 実家に着くなりパソ引っぱり出してネットに繋げるか試した私……やりすぎだってば(^^;
> でも、なまじ半端に読めるだけに、続きが気になって気になって……。

さすがっ! さすがあっきーだわっ!
どーいう風に繋げてるのかすごく気になるところだけどっ!

> ねこちゃん、完結おめでとう。ご苦労様。
> 無理してない? だいじょうぶ?
> 2世紀に渡る小説ってのもなかなかカッコイイと私は本気で思ってたんだけど(←馬鹿)。
> まあ、そんなことはどうでもいいや。桐生は、ねこちゃんの結構したたかなアメリア大好きっす。
> ゼルやクー君はもうすでに、スポットを当てて書かれていて、ねこちゃんのキャラが出ているけど、アメリアはまだだったから、楽しく読みました。
> 実際アメリアが成長するときは、こうなるんじゃないかなと思えるし。
> ねこちゃんの話は構成がホントに上手いというか、細部まで綺麗に書き込まれているよね。ちっちゃなエピソードの一つ一つが全部生きているというか、何というか。

いやん、そー言うねんねこが図に乗るよーなこといわないでっ!
無理してないよ。徹夜しよーにも、困ったことに夜中の2時ごろになると自然におねんねモードにはいるから大丈夫なのだ☆
アメリアのことがすごく気になってたんだけど、そう言ってもらえて嬉しいさ。

> それにしても、半年で20作ってすごいね……。私まだ2つだし(笑)。見習おう。
> 3月に、ねこちゃんの小説を読めるのを楽しみにして待ってます。がんばって。あ、でも無理しないで。

なにをトチ狂ったのか、って感じだよねー(汗)
あー、でも完全的に質より量って感じだから……
あっきーも新作でてるし、頑張ってね!レスつけろ、てな感じですが、そのあたりはまあ許してぷりーず。
HPの更新はちょろちょろっとやる(予定、あくまで予定よ)ので、思い出したときにひょろっとのぞいてくれるといと嬉。

> 今世紀(今世紀から?)もよろしくお願いします。
> それでは、桐生でした。またね。

ではではねんねこでした。

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5334お疲れ!!雫石彼方 1/1-05:20
記事番号5325へのコメント

前世紀中の完結(笑)、おめでとう&お疲れ様。

ねんジーの設定の綿密さには相変わらず脱帽だす。深いなぁ・・・。おいらもこういうのが書いてみたい・・・・。
くーちゃんの宿屋の屋根の上のシーン、とってもいい感じv軽いフリして実は一途で情熱的な男だね、彼はvクラヴィスのお相手してたゼロスも何気にいい奴ちっくだし。ちょっと前に「なにやっとんじゃゼロスーっ!!」と絶叫してたのがまるで嘘のよう(笑)でもしっかりゼルとアメリアの邪魔はするのね(^^;)ま、そんなに簡単に進展したんじゃつまんないし。(したらしたで全然嬉しいんだけどね;)ゼルよ、思う存分苦労するがいい(非道)
アメリアはまた一歩心の成長を遂げたって感じで.やっぱねんジーの書くアメリアは大人だすな.

ねんジーはこれから受験勉強に専念みたいだね.頑張ってーんv(←ノリ軽すぎ)陰ながら応援させていただきます.んでもって君の復活を心待ちにしてますわv
ではでは、『来年(もう今年だけど)だけと言わず』とのことなので、これからもずーーっと!!よろしくv

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5344さんきゅー!!ねんねこ E-mail URL1/3-16:57
記事番号5334へのコメント


>前世紀中の完結(笑)、おめでとう&お疲れ様。

いや頑張ってみたよ。というわけで文章めちゃくちゃ。いえいっ!

>ねんジーの設定の綿密さには相変わらず脱帽だす。深いなぁ・・・。おいらもこういうのが書いてみたい・・・・。
>くーちゃんの宿屋の屋根の上のシーン、とってもいい感じv軽いフリして実は一途で情熱的な男だね、彼はvクラヴィスのお相手してたゼロスも何気にいい奴ちっくだし。ちょっと前に「なにやっとんじゃゼロスーっ!!」と絶叫してたのがまるで嘘のよう(笑)でもしっかりゼルとアメリアの邪魔はするのね(^^;)ま、そんなに簡単に進展したんじゃつまんないし。(したらしたで全然嬉しいんだけどね;)ゼルよ、思う存分苦労するがいい(非道)
>アメリアはまた一歩心の成長を遂げたって感じで.やっぱねんジーの書くアメリアは大人だすな.

め、綿密か……?
ま、まあそのあたりのコメントはあえて避けるとして・……アメリア……
小説版ほどトライでないし、アニメ版ほど子供ではない……もろにねんねこ版が突っ走り中って感じですね。あはは(汗)
でも、何故ゼルアメ好きの人は口をそろえて『簡単に進展したらつまらん』とかいうんだろな(笑)いやまあ、ねんねこもそう思うがな。
ゼルにはもうちょいがんばっていただかないと(なにを?・爆)

>ねんジーはこれから受験勉強に専念みたいだね.頑張ってーんv(←ノリ軽すぎ)陰ながら応援させていただきます.んでもって君の復活を心待ちにしてますわv
>ではでは、『来年(もう今年だけど)だけと言わず』とのことなので、これからもずーーっと!!よろしくv

ははは、とりあえず一応専念することに……HPものらりくらりとやっていくつもりっす。なにせ親がいると更新できないっ!
どっかに出かけろっ! 親っ!!(泣)

ううう、何はともあれこれからもずっとよろしくね♪
ではでは!

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