◆−時の旋律(北欧神話スレイヤーズ) 第10章―予言―−桐生あきや(11/26-09:53)No.5009
 ┣初めまして!−あごん(11/26-17:49)No.5015
 ┃┗こちらこそ初めましてです−桐生あきや(11/26-23:42)No.5022
 ┣時の旋律 第11章―再会―−桐生あきや(11/26-23:51)No.5023
 ┃┗Re:はじめまして−星月夜 葛葉(11/27-20:24)No.5027
 ┃ ┗はじめましてです。−桐生あきや(11/28-00:22)No.5033
 ┣時の旋律 第12章―暗転―−桐生あきや(11/28-00:29)No.5034
 ┃┗複雑です・・・。−雫石彼方(11/28-03:48)No.5039
 ┃ ┗どうなるんでしょう(笑)−桐生あきや(11/29-06:21)No.5051
 ┣時の旋律 第13章―同じ想い―−桐生あきや(11/28-17:42)No.5043
 ┣時の旋律 第14章―涙―−桐生あきや(11/30-03:37)No.5053
 ┃┣ああ、ついに・・・!?−雫石彼方(11/30-20:16)No.5056
 ┃┃┗ああ、しまったどうしよう・・・−桐生あきや(11/30-21:30)No.5057
 ┃┗切ない・・・(T_T)−水晶さな(11/30-22:46)No.5059
 ┃ ┗姫イジメすぎですね(笑)−桐生あきや(11/30-23:28)No.5061
 ┣時の旋律 第15章―強さ―−桐生あきや(11/30-23:20)No.5060
 ┣時の旋律  第16章―奔流―−桐生あきや(12/2-01:16)No.5066
 ┣時の旋律 第17章―崩壊―−桐生あきや(12/2-01:29)No.5067
 ┃┣ああ、アメリアが〜;−雫石彼方(12/2-05:39)No.5074
 ┃┃┗ゼロスは今回も悪役です(笑)−桐生あきや(12/4-02:28)No.5083
 ┃┗うろろ〜ん−ゆえ(12/3-00:47)No.5077
 ┃ ┗おろろ〜ん(悪ノリ)−桐生あきや(12/4-03:02)No.5084
 ┣時の旋律 過去篇・第1章―ゼルガディス―−桐生あきや(12/3-22:05)No.5082
 ┣時の旋律 過去篇・第2章―ラベンダー―−桐生あきや(12/5-04:17)No.5088
 ┃┗あぁぁぁぁ(///)−雫石彼方(12/5-06:30)No.5089
 ┃ ┗きゃあぁぁぁぁ(///)−桐生あきや(12/5-08:19)No.5092
 ┣時の旋律 過去篇・第3章―闇―−桐生あきや(12/6-01:43)No.5094
 ┗時の旋律 過去篇・第4章―封印―−桐生あきや(12/6-02:08)No.5095
  ┣号泣(T‐T)−雫石彼方(12/6-03:40)No.5097
  ┃┗な、泣かないで(慌)−桐生あきや(12/7-16:16)NEWNo.5106
  ┗・・・・っ!←声にならない声らしいです。−あごん(12/6-19:26)No.5098
   ┗初めまして、ですよね?(汗)−桐生あきや(12/7-16:27)NEWNo.5107


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5009時の旋律(北欧神話スレイヤーズ) 第10章―予言―桐生あきや 11/26-09:53



 落ちる前に蹴落としてしまえ、ということでこっから新ツリーです。
 前のツリーは沈みしだい、著者別リストへ載せたいと思ってます。
 なおこの前の断章でアリアとミリーナが登場いたしました。急に名前が出てきても驚かないでくださいね(笑)。

=======================================


「ルナさん……」
 静かに扉を開けて入ってきた人物を見て、ルナは無言で眉を動かした。
 読んでいた本を閉じて、立ちあがる。
「スクルドね。どうしたの」
 ひっそりと部屋に入ってきたのは、滅多に表には出てこない未来を司るフィリア・スクルドだった。
 あまりにローテンションなので、会話を交わさなくてもすぐにスクルドだとわかる。
「お話したいことがあって………」
 そう告げたフィリアの腕の間に一瞬だけ、回る糸車のイメージが浮かび上がり、消える。
 糸は紡がれ、螺旋(らせん)を描き、人の運命を綾なしていく。
 スクルドだけが行える技。彼女が司る未だ訪れていない時の流れのなかから、真実を拾い上げ、それを現在まで降ろしてくる。
 時の託宣。これから起こりうる、未来。
 彼女は運命の巫女でもあるのだ。
 ルナの顔も真顔になる。
「聞かせて。フィリア・ノルン=スクルド」
 スクルドの告げた予言は、ルナの表情をくもらせるには充分なものだった。
 未来を司る女神は告げたのだ。

 ―――死の運命を。



「じゃ、また行って来ますね!」
 アメリアの背中に、純白の羽根がひろがる。太陽が落とす六角形の結晶光を、幾重にも集めたような、光の翼。
 見送りにきたアリアがうっとりとそれを見つめる。
「キレイですね」
「リナさんったら、これをつかんで引っ張るんですよ〜」
「あんたが、人の話を聞かないからでしょ」
「えへ」
 同じく見送りに来ていたリナがそう突っこむと、アメリアはぺろりと舌をだした。
「アリアとベルさんとミリーナはちゃんと面倒みとくから、安心して行ってきなさい」
「ミリーナさんは、毎日ルークさんに熱烈なアタックをかけられて辟易しているみたいですけどね」
「いじめがいのあるネタができたわ」
「あはははは………」
 リナがニヤリと笑い、アメリアは乾いた笑いを発するしかなかった。
 下界と神界をつなぐ虹の橋ビフレストが、七つの色彩とともに三人の目の前にはひろがっている。
 下界では一ヶ月が過ぎているはずだった。
「それじゃ、また行って来ます」
 リナとアリアにそう言って、アメリアはビフレストを降りようとした。
 だが、その虹色の道に足を踏み入れようとした瞬間、後ろでなにやらリナの慌てた声がしてアメリアはふり返る。
 そこには、自分の方へと歩いてくるフィリアの姿があった。
「フィリアさん?」
 リナが少しうわずった声でアメリアに答える。
「それ、スクルドよ!」
「えええええっ!?」
 アメリアが唖然としているうちに、フィリアはアメリアの前まで来て、立ち止まる。
「おひさしぶりです、アメリアさん………」
「お、おひさしぶりです」
 その青い瞳をかげらせて、フィリアは少し笑った。
 はっきり言ってテンションの低いフィリアは幽鬼のようで、めちゃくちゃコワイ。夜、木の影にでも立っていたら、子供は絶対泣くだろう。
 未来はもっと明るく希望に溢れていなければ、とアメリアは個人的に思うのだが。
「あ、あの………?」
「見送りに来ました。それと、忠告を」
 フィリアはアメリアの耳元に唇を寄せた。
 見守るリナとアリアには、何を言っているのかはわからない。
 しかし、アメリアの表情が徐々にこわばり、恐れが混じった瞳で黙ってうなずいたところを見ると、あまりいいことを言われたわけではないらしい。
 フィリアから逃げるように、アメリアはビフレストの光のなかへと消えていった。
「ちょっと、フィリア! あんたアメリアに何を言ったの!?」
 ゆっくりとフィリアがリナをふり返る。
「何も。ただ、あなたは戦乙女であると、それを忘れないように、と」
「どういうことよ?」
 フィリアはリナとアリアの傍らを通り過ぎて、神界宮殿のほうへと戻っていく。
「そのままの意味です………」
「ちょ、フィリア………!」
 リナとアリアは呆然と立ちつくした。
「何だっていうの。何が起こるっていうのよ………」
 栗色の髪が、風にもてあそばれるままに、ぽつりとリナが呟いた。


=======================================

 フィリアに関しては開き直ることにしました!(笑)。
 もう彼女は名前が同じのオリキャラ同然(^^;
 これからどんどん壊れていくでしょう(−−;


 雫石彼方さま

 レスありがとうございます〜! しかもそんな朝早くに(笑)。
 私の場合、ネットする間もなく寝てしまって、いま朝が来ているのですが。
 シグルドの名前変更は………どうしよう(笑)。
 変更しないとまずい気も少しします。ゼルアメとしては(笑)。
 アリアは原作があまりにも不幸だったのと、適当な採魂キャラがいなかったのとでご登場していただきました。
 断章は番外編に近い話なのでとくに活躍の予定はありません(ひでぇ)。
 結局幸せになってほしかっただけですね。わりかしアリア好きなので。

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5015初めまして!あごん E-mail 11/26-17:49
記事番号5009へのコメント

初めまして、あごんという者です。
桐生様の御小説の素敵に無敵な文章や構成にメロメロです。

断章を読み終えた時に、
「こりはゼヒとも感想を書かねば!」
とか思ったんですが。
今にもツリーが落ちそうだったので(笑)、新しいツリーが出来てからにしようと思い、今日こうして筆(?)を取りました。

それにしても本当にスゴイです。
実は私は、投稿小説1しか目を通さない人だったのです。
別に深い意味はありませんが、なぜか2には来ませんでした。
ううっ。我ながらアホですねぇと思いつつ。

そんなワケで実は昨夜、初めて桐生様の御小説を読みました。
もう、最初の一行から目が釘付けになりました!
どんどんと引き込まれてしまいます、この世界観に。
ああっ!かなりヤられてます、私。
 
なんだかメチャな感想になてしまいましたが。
続きをとても楽しみにしております。
ではではお目苦しい文で申し訳ありませんでした。

ぴー・えす。
 ルクミリをもっと書いて下さい(無茶言うな)。

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5022こちらこそ初めましてです桐生あきや 11/26-23:42
記事番号5015へのコメント


 初めまして。この度は桐生の小説を読んで頂いてホントに感謝感激です。
 ありがとうございます〜!。

>桐生様の御小説の素敵に無敵な文章や構成にメロメロです。
 そんな……あまり誉めないでください。木に登るどころではなく空まで行ってしまいます(笑)。私なんかまだまだです。

>今にもツリーが落ちそうだったので(笑)、新しいツリーが出来てからにしようと思い、今日こうして筆(?)を取りました。
 さっそく落ちてましたね(苦笑)。朝にはあったのに、夜来てみたら落ちてました。

>そんなワケで実は昨夜、初めて桐生様の御小説を読みました。
>もう、最初の一行から目が釘付けになりました!
>どんどんと引き込まれてしまいます、この世界観に。
>ああっ!かなりヤられてます、私。
 うあああ(赤面)。溶けそうです、私。本当にありがとうございます〜!
 
>なんだかメチャな感想になてしまいましたが。
>続きをとても楽しみにしております。
>ではではお目苦しい文で申し訳ありませんでした。
 いえいえ、そんなことないです。レスありがとうございました、がんばります。

>ぴー・えす。
> ルクミリをもっと書いて下さい(無茶言うな)。
 ルクミリ……は私のなかでは新ジャンルですね。挑戦してみます。

 それでは。

 桐生あきや 拝

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5023時の旋律 第11章―再会―桐生あきや 11/26-23:51
記事番号5009へのコメント


 サブタイトルが何のひねりも無いことに気づき、サブタイトルの存在意義を疑っている桐生です。なくてもいいんじゃないかしらと今更ながら思ってみたり(笑)

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 アメリアは下界の空を翔んでいた。
 別れ際のフィリア・スクルドの言葉が耳から離れない。
 未来を告げる運命の女神が、わざわざ忠告をしに現れたということ。
 『戦乙女であることを忘れるな』と。
 これから一体何が起きるというのだろう。
 不安だけがふくれあがっていく。
 下界の風に兜の白い羽根がばさばさと音を起てて、自分が戦装束を元に戻し忘れていたことに気づく。
 アメリアは空中で立ち止まると、両手で羽根兜を脱いだ。
 その途端に、風に髪がさらわれて、弾けるように溢れ出す。
 脱いだ兜をアメリアは目の前に掲げた。
 艶を消した金色に、くすんだ真鍮(しんちゅう)色のラインで描かれる精緻(せいち)な模様。その両脇には純白の羽根飾り。
「私の鎧………本当に前からこの色だったのかな」 
 違うような気が、した。
 そのアメリアの手の中で、羽根兜は溶けるように消え去っていく。
 下界では陽が落ちようとしていた。
 日没間際の朱金の陽光。風にのって散る西日は、大地を染め上げ、アメリアをも包みこんで、さらっていく。
 不安を追い払うように、アメリアは首をふった。
「セイルーンにつくころはちょうど夜ですね」
 シグルドに逢える。
 そのことだけが、純粋に嬉しかった。



 空からセイルーンに直接降り立ったアメリアは、どこかの建物の影で神気を解こうと、姿を消したまま歩き出した。
 街では薄闇があたりをおおい、あちこちで灯をともす人々の姿が見られた。もうすぐ最後の残光も消え去り、濃密な夜の大気でセイルーンはおおわれるだろう。
 アメリアが細い路地裏で神気を解いたときだった。
 路地からわずかに見える大通りの光景の中を、フッと人影が横切った。
 慌てて、アメリアは路地を飛び出す。
「シグルドさん!」
 驚いた表情で、シグルドがふり返る。
 離れていた間、忘れようとしても片時も忘れることができなかった人。
 その氷蒼の瞳。
 とくん、と胸が高鳴った。
 ダメだ。
 アメリアはそう思った。
 この瞳からは逃れられない。離れられない。
 気持ちを整理なんかできない。
 この瞳の前では、女神になんかなれない。
「シグルドさん!」
「アメリア………」
 呆然と呟くシグルドに駆け寄ろうとして、アメリアは立ちすくんだ。
 ふわりと漂ってきた、熟れて腐る寸前の果実のような、甘く華やかな香り。
 風に散らされることなく立ちのぼり、アメリアにだけ伝わるその芳香は。

 ―――死の予兆。

 立ちすくむアメリアに、少し気まずそうな表情でシグルドが近づいてくる。むせ返るような甘い甘い匂いが、さらに強くなった。
「その………ひさしぶりだな」
「はい………」
 うなずきながらも、アメリアはシグルドから視線をそらすことができなかった。
 戦乙女には、死を感知する能力が授けられている。そうして死んだ魂を見つけ、神界へといざなう―――。
 それが自分。
 自分がどこにいるのかわからなかった。何をしゃべっているのかわからなかった。
 声が、言葉が、世界が、全てが遠い。
 死ぬ? だれが死ぬというのだろう。
 シグルドが?
 ようやくそこまで思考がたどりついて、アメリアはまばたきをした。
 目の前で、ばつが悪そうに笑っているシグルドが、死ぬ?
 そう、死ぬのだ。この甘い香りは死の香り。戦乙女にだけ告げられる死の前兆。
 突きつけられる現実が、徐々にアメリアの心に浸透していった。
 自分自身にアメリアは問いかける。
(死んだら、どうするの………?)
 ―――決まってるじゃない。採魂するのよ。そして神界へ連れていく。シグルドさんは強いもの。ぜひ連れていくべきよ。
(私が………?)
 ―――他にだれがいるというの。私以外に採魂できる存在はこの世界にいないのに。
(この人が死んで魂になるまで、黙って傍で見ているの? 冷たくなって息をしなくなる、その瞬間まで?)
 ―――そうよ。人の生死にかかわる権限なんかだれにもない。定めの糸車が狂ってしまうから。
 アメリアの暗い心が囁きかけた。
 ―――英雄化してしまえばシグルドさんとずっと一緒にいられる。神だの人間だの、気にしなくてもよくなる。神界で、ずっと一緒に………。
 アメリアはかぶりをふった。
(ダメ………! 神界に連れにきた私を、きっとシグルドさんは許してくれない。騙されたって怒るわ。ずっと嘘をついていたんだもの………!)
 激しく動揺するアメリアの脳裏を、フィリア・スクルドの言葉がよぎった。

 ―――戦乙女であることを、忘れないで………。

 あれはこういうことだったのか。
 思わず、両手で耳を塞いでいた。フィリアの言葉が聞こえないように。
(イヤよ!!)
 全身全霊で、そう思った。
(シグルドさんが死ぬところなんか、絶対見たくない!! 採魂なんか、したくない!!)
 アメリアは知らないうちにうつむいていた顔をあげた。
 いつの間にか薄闇すらなくなり、あたりは暗く、灯火だけが明るく通りを照らしている。
「アメリア? どうした、具合でも………」
 困ったような表情のシグルドに、アメリアは首をふる。
 吐息ような声で、シグルドに囁いた。
「今日からまた、お家へ行ってもいいですか?」
 きっと泣きそうな顔をしているんだろうと、自分でも思った。
 けれど、決意だけは揺らがなかった。
(この人は、死なせない)


 その、翌日のことだった。
 王宮へ向かう途中のシグルドに、黒い刃が狙いをつける寸前、いるはずのない少女の声がした。
「シグルドさん、後ろ―――!!」


 夜、アメリアの頬にかかる黒髪をすくいあげながら、シグルドが囁いた。
「お前の声が教えてくれたような気がしたんだ。どうしてだろうな」
 アメリアは黙って目を伏せた。
 シグルドの腕が、そっとアメリアを抱き寄せた。
「死なないで、ください………」
 とぎれがちなアメリアの声が、そう告げた。

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5027Re:はじめまして星月夜 葛葉 E-mail URL11/27-20:24
記事番号5023へのコメント

 はじめまして、星月夜 葛葉と言います。
今日、初めて桐生あきや様の小説を読ませていただきました。
今まではタイトルは目にしていたんですけど、読んではいませんでしたので…。(すみません)

 第一章を読み始めてからすぐにストーリーに引き込まれ、あっと言う間に第十一章まで一気に読みました。設定、構成など、全てがすごくて尊敬です。続きがすっごく気になります。一体、アメリアの過去に何があったんでしょうか?

 桐生あきや様のお上手な小説を読んで、ゼルアメが好きになりそうです。今まではそんなにゼルアメ小説は読んでいなかったので…。続きを楽しみにしてます。がんばって下さい。短い感想で申し訳ありませんが、これで失礼します。それでは、星月夜 葛葉でした。

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5033はじめましてです。桐生あきや 11/28-00:22
記事番号5027へのコメント


 どうも初めまして。桐生あきやと言います。
 私の小説読んでくださってありがとうございます。
 すっごく嬉しいです。
 
> 第一章を読み始めてからすぐにストーリーに引き込まれ、あっと言う間に第十一章まで一気に読みました。設定、構成など、全てがすごくて尊敬です。続きがすっごく気になります。一体、アメリアの過去に何があったんでしょうか?
 ただ長いだけの私の小説を一気に読んでくださるなんて………。あううう、ありがとうです〜。あんまり誉めると溶けてしまいますから、ほどほどにしてやってください(笑)。でもホントにありがとうございます。

> 桐生あきや様のお上手な小説を読んで、ゼルアメが好きになりそうです。今まではそんなにゼルアメ小説は読んでいなかったので…。続きを楽しみにしてます。がんばって下さい。
 私は水晶さな様の小説を読んでゼルアメにハマりました。以前はガウリナよりだったのですが、いまでは同じくらいゼルアメも愛してます(爆)。
 がんばってアップしたいと思います。
 それでは。

 桐生あきや 拝

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5034時の旋律 第12章―暗転―桐生あきや 11/28-00:29
記事番号5009へのコメント



「きゃああああああああああああぁぁっ!!」
 夜明け間近の神界宮殿に響き渡った悲鳴に、リナは叩き起こされた。
 たまたま寝台の端の方に寝ていたため、慌てて起きあがろうとしてそのまま床に墜落する。
「〜〜〜〜〜〜っ!」
 ぶつけた腰を押さえていると、サイドテーブルから寝る前に外したブリーシングのタリスマンが落ちてきて、リナの眉間を直撃した。一個、二個、三個。
 四個目は横に転がってよけたと思ったら、後頭部を直撃した。
「〜〜〜〜〜〜っ! ゼロスの呪い? もしかして持ち主に災厄をもたらすってこれなの!?」
 このタリスマンをまきあげたヴァン神族の名前を呟いて、リナは涙目で立ち上がった。
「何なのよ?」
 自室から回廊に出ると、同じく近くに部屋があるシルフィールと出逢う。
「リナさんも聞きましたか?」
「あれフィリアの声よ。しかもヒステリー寸前の」
 そう言ってリナは顔をしかめた。
 ヒステリーを起こすと、フィリアはヴェルダンディからウルドに、いともあっさり人格が交代してしまうのだ。何が原因で悲鳴をあげたのかは知らないが、現場は今頃ウルドの絶叫でけたたましいのではないだろうか。
 そう思うと駆けつけたくはなかったが、そうもいかない。
「とにかく行きましょ」
 シルフィールにそう言って、リナは足早に歩き出す。シルフィールも追いついてきて、すぐに隣りに並んだ。
 フィリアの声がしたのは、おそらく定めの糸車から紡ぎ出された糸が運命を形作っている〈綾(あや)の間〉だろう。
 案の定、そちらに向かう途中でリナとシルフィールは、ガウリイとルークに出逢った。
 アリアやミリーナなどは、神界宮殿から少し離れたところにある〈死者の館〉(ヴァルハラ)に住まっているので、いまの悲鳴は聞こえてはいないだろう。
 四人揃って〈綾の間〉まで来ると、扉の前のルナが四人をふり返った。
「来たの」
「そりゃ来るわよ、姉ちゃん。あんなでかい悲鳴だされちゃ」
「いったい何が起こったってんだ?」
 ルークの問いに、ルナは首をふる。
「私だっていま来たばかりよ。これから扉を開けるところ」
 極細の銀線が幾重にも絡まり重なり、板状になっている扉の前で、リナは声をはりあげた。
「フィリアーっ! フィリア! どうしたのよ!?」
 返事はない。
 焦れたリナが扉に手をかけたとき、外開きのその扉が動いて蒼白な顔のフィリアが顔を出した。
「みなさん………」
 どうやらかろうじてヴェルダンディのままらしい。
「フィリアさん、いったいどうされたんですか? あんなに大きな悲鳴をあげたりして」
 シルフィールの問いに、フィリアは顔を手でおおった。
「ああもう、わたしほんとにどうしていいか………」
「フィリア?」
「いつものように、見回りに来てみたら………」
「来てみたら?」
 オウム返しにガウリイが繰り返す。
 フィリアは落ち着こうと必死になって、深呼吸を繰り返した。ほとんど呼吸困難を起こしているかのようだ。
 もしここで誰かが風船でもふくらませて割ったなら、パニック再発はまず間違いない。
 やった者には、ルナのお仕置きが待っているだろうが。
 しばらくして、ようやくフィリアが告げた。
「とりあえず、ルナさんだけ入ってください」
「ここで待っててちょうだい」
 ルナはそう言って、フィリアが開けた細い隙間から体を部屋の中へとすべりこませた。
 両開きの扉が閉まるまでの間、部屋の様子がちらりと見える。
 白い白い、霧に包まれたような部屋。
「何だってんだよ?」
 ルークが黒に染めた短髪を、がしがしとかいた。
 しばらく経ってから、ルナが銀線細工の扉を開け、なかに入るように四人をうながした。
 入った四人は立ちすくむ。
 ここは紡がれた糸が、運命の導くままに張り巡らされる場所。
 部屋は無限の広さを保っており、扉と床以外の場所すべてに、白い糸がびっしりと張り巡らされていた。
 無限の奥行きを持ち、その全てに糸が巡っているので、まるで霧の中にいるような錯覚を覚える。
 その糸、一本一本がひとりの人間の運命で、それらは互いに絡まりあい繊細な編み目を空間にひろげていた。
 他の糸に触れた箇所。交差している箇所。複数の糸がよりあっている場所。
 それは全て、誰かと誰かの人生が互いに何らかの接点を持っているということ。敵同士であったり、友人であったり、兄弟であったり、親子であったり………。
 この〈綾の間〉には、普段はフィリアしか立ち入ることができない。
「姉ちゃん、いったい何が………」
 リナの言葉に、ルナはある一点を指差した。
「なんだ、ありゃ………」
 ルークが絶句する。
「なんかの繭(まゆ)か? なかにガとか虫とかがいたりする………」
「違いますううううっ!」
 ガウリイの身も蓋もない言葉に、フィリアが思わず声をあげた。
 だが、ガウリイが繭と表現したのも無理はなかった。ルナの指差すそこは糸が絡まりあい、もつれあって、不格好な糸玉を形成していたのだ。
「本当なら、この部屋の糸全てレースのようにきれいに綾なされていなければならないんです」
 フィリアが説明する。
「誰かの運命が狂ってしまったんです。そのため、その人にかかわる全ての存在の運命の糸も、もつれてしまっている………」
「でも、そんなに簡単に狂うもんじゃないんでしょ、運命って。魔族に殺されたとしても、それは糸が切れてしまうだけなんでしょ? そう聞いてるわよ?」
 リナの問いには、ルナが答えた。
 顔に手を当てて、深々と嘆息する。
「原因はわかってるわ。やってくれたわね………」
「ルナさん?」
「フィリア、誰の運命がどう狂ったのか読み解いて。三女神の本来の務めよ」
「わかってます」
 フィリアは部屋の中央に歩み寄った。そこには背の高い台座に置かれた透明なオーブがひとつある。
「フィリア、それ何?」
 好奇心からリナが尋ねると、オーブに手を当てながらフィリアは答えた。
「運命の糸の全ての情報を収めてあるオーブです。これまで生まれて死んでいった人間たちの情報すべてが記録されてるんです。さすがに私も運命の糸全部を一人では管理しきれませんから」
 低い唸りとともにフィリアの手の下でオーブが起動し、めまぐるしく明滅しはじめる。
 しばらくしてから、フィリアはオーブから手を離した。光が放たれ、そこに一人の青年の姿が浮かび上がる。
 黒髪に氷蒼の瞳の、端正な顔の青年。
 ガウリイとルークが目を見張った。フィリアも思わず両手で口元をおおう。
 無理もない、この三人は彼を見るのは初めてだ。
 ルナはやっぱりと溜め息をついた。リナとシルフィールはただ、絶句するしかなかった。
 ルークが、リナとシルフィールの方に向き直る。
「こいつなのか? ゼルガディスが転生した人間ってのは」
「見りゃわかるでしょ。どこをどう見たら、こいつがゼル以外の誰に見えるってのよ。ゼルそのものでしょーが」
 リナが憮然とした表情で答えた。
 髪の色と肌の質感こそ違えど、その容貌は千年前、リナたちとともに時を過ごした仲間のものに他ならない。
「ゼルが転生したこいつが、この糸玉の原因なのか?」
 ガウリイの問いに、フィリアはうなずいた。
「オーブはそう言っています」
 リナが姉神の後を追うように、深々と溜め息をついた。
「ここまで来れば、もう原因がはっきりしたようなもんね………」
「どういうことだ?」
 相変わらず呑みこみの悪いガウリイに、リナは青年―――シグルドを指差した。
「アメリアよ。あの子がこのシグルドの運命に介入したんだわ」
「他に理由が考えられないわね。人間には変えることが難しい運命でも、死の気配を感じ取るあの子が介入すれば、たやすくそれは変えられる」
 ルナの言葉に、シルフィールが顔をこわばらせた。
「それはつまり、ゼルガディスさんの転生であるこのシグルドさんは、下界で死ぬ定めにあるということなんですか!?」
「そうよ」
 ルナがうなずいた。そして、重い口調で続ける。
「私も、最近スクルドから予言を受けて知ったのよ………。ただ、どうにも介入しようがなかったの。運命に手を加えるのは禁忌だし、彼が死んだら、アメリアが再び英雄化して神界へ連れてくるだろうと思っていたから………。
 ―――そうすれば、すべて丸く収まると思ったのよ」
 ルナは滅多に見せない困った表情で、何度目かの溜め息をついた。
 フィリアがオーブに矢継ぎ早に指示を下しながら、言った。
「早くしないと手遅れになります。現在が歪み、続く未来が崩壊してしまいます」
 全員の視線が、宙に浮かぶ糸玉に集中した。
 不格好なそれは、わずかずつではあるものの大きさを増していた。
 運命が狂ったまま『現在』という時が流れているからだ。
 このままだと時間の経過とともに糸玉は肥大し、歪みは修復不可能なものとなるだろう。
「運命には修復作用が備わっています。ちょっとぐらいのミスなら自力で元に戻してしまいますけど、でもこれは………」
 フィリアがもつれあった糸に目をやった。
「曲げられた運命は、死という最も巨大で避けられないものです。手遅れにならないうちに彼を定めの通り、死なせないと………」
「冗談じゃないわよ!」
 フィリアの言葉に、間髪を入れずにリナが叫んだ。
「アメリアに何て言うのよ! 死ぬのを黙って見てろって!? たしかに下界での死は本当の終わりの死ではないけど、あの子の前でゼルを死なせるの!? それじゃ、戻る記憶も戻んない!」
「リナ!!」
 ルナが叫ぶ。リナはびくりと身をすくませた。
「………これはアメリアの方が悪いのよ。やってはならないことを、あの子はしてしまった。運命のまま死なせて、神界へ連れてくるのがいちばんいい方法なのよ。わかっているでしょう?」
 感情を消し去った声音でそう言うと、ルナはリナたち五人に、順々に視線を移した。
「………リナ」
「イヤよ………」
 リナは子供のように首をふった。
 だが、ルナの声は止まらない。
「女神リナ・フレイ。貴女に命じます。戦乙女アメリア・ヴァルキリーを、至急神界へ呼び戻しなさい」


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5039複雑です・・・。雫石彼方 E-mail 11/28-03:48
記事番号5034へのコメント

どうも、相変わらず妙な時間に出現する雫石です(笑)

何だかどんどん大変なことになってますね;アメリアがちょっと刺客が居ることを教えてあげただけで、あんなに大変なことになっちゃうんですねー。うぅ、ゼルとアメリアの幸せな道は前途多難だ・・・・。
でもほんと、自分の好きな人から死の香りを感じてしまったら、それほど恐ろしいことは無いでしょうね・・・。死んでも神界へ連れて行けばずっと一緒ではっぴーvだけど、その前に好きな人が死ぬ瞬間を傍で見るのは辛いだろうし。複雑ですよね・・・・。
どうなるんだ二人は〜!?

というわけで、これからも楽しみにしてますv
では。

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5051どうなるんでしょう(笑)桐生あきや 11/29-06:21
記事番号5039へのコメント


 レスありがとうございます。
 ゆえあってレスを返す前に、続きをアップしてしまいました。
 すいません。

>どうも、相変わらず妙な時間に出現する雫石です(笑)
 このレスもかなり妙な時間です。

>何だかどんどん大変なことになってますね;アメリアがちょっと刺客が居ることを教えてあげただけで、あんなに大変なことになっちゃうんですねー。うぅ、ゼルとアメリアの幸せな道は前途多難だ・・・・。
>でもほんと、自分の好きな人から死の香りを感じてしまったら、それほど恐ろしいことは無いでしょうね・・・。死んでも神界へ連れて行けばずっと一緒ではっぴーvだけど、その前に好きな人が死ぬ瞬間を傍で見るのは辛いだろうし。複雑ですよね・・・・。
>どうなるんだ二人は〜!?
 どうなるんでしょう(他人事)。
 ……いえ、他人事ではなく、ちゃんと続きを書いていますが(笑)。

>というわけで、これからも楽しみにしてますv
 嬉しいです。がんばります。

 それでは。

 桐生あきや 拝

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5043時の旋律 第13章―同じ想い―桐生あきや 11/28-17:42
記事番号5009へのコメント


 あと10分もすれば出かけなければならないというのに、何やってるんだろう(笑)。
 いまさならがら六紡星の〈ぼう〉を〈芒〉にしていることに気がつきました。
 スレでは〈紡〉なのに……。しょうがないので、この話では〈芒〉に統一します。トホホ………。

=======================================


 今日は風が強い、とアメリアは思った。
 兜の羽根飾りがその風にあおられて、ばたばたと音をたてる。神気でできたそれが壊れるはずもないのに、風にさらわれそうな気がしてアメリアは武具を神気に戻した。
 眼下にはセイルーン。
 その白い六芒星の街に一瞬だけ目を落として、アメリアは視線を正面へと向けた。
 さっきまでは何もなかったその空間に、いまは栗色の髪がひるがえっている。
「リナさん」
 リナは黙ったままだった。
 その真紅の瞳に、怒りはなかった。
 ただ、どうしようもない哀しみとやるせなさだけがその赤い色を濁らせている。
 この人に、こんな表情は似合わない。
 そうアメリアは思ったが、リナにこんな顔をさせてしまっているのは自分なのだ。
「姉ちゃんが、あんたを呼んでいるわ」
 それだけをリナは言って、アメリアに手を差し出した。
 アメリアは、黙ってその手に自分の手を重ねた。



 連れてこられたのは、目覚めたときと同じ〈主神の間〉だった。
 玉座の傍らにルナが立ち、アメリアを連れてきたリナが黙ってその隣りに立った。
 以前と違うのは、そのそばにフィリアもいるということ。その表情からは、三人の女神うちの誰なのかはわからない。
「アメリア」
 静かなルナの声が、アメリアを呼んだ。
「運命に干渉することは、誰にも許されないことよ」
 アメリアは床に視線を落としたまま答えない。
 ルナがフィリアをふり返った。
「見せてあげて」
 フィリアがアメリアの前まで進み出た。その表情も、どうしようもなく哀しそうだった。
「アメリアさん、見て下さい。運命の糸がある〈綾の間〉です」
 その両手の間に、白い白い部屋の映像が浮かび上がる。
 アメリアはわずかに息を呑んだ。
 ひと抱えはありそうな不格好な糸玉が、繊細に糸が巡らされている部屋の調和を乱している。
「あなたがやったことの結果です」
「アメリア」
 ルナの声がまた、アメリアを呼んだ。
 誰も怒ってなどいなかった。それだけにアメリアは辛くなる。
 やってはいけないと知っていて、それでもやったことなのだから、もっと怒って、なじってくれてもいいのに。
「このままだと多くの人々の運命が、あなたが歪めた彼の運命に引きずられて歪んでしまうわ。それはさらに、もっと多くの運命を歪めて、やがて未来ではすべての運命が狂ってしまう………。手遅れにならないうちに、歪みを修復する必要があるの」
 そう言って、ルナはリナを見た。リナがルナを睨む。
「言いにくいことは、あたしに言わせようっての………?」
「じゃあ、わたしが言えば、あんたはそれでいいの?」
 ルナの切りこむようなセリフにリナは言葉に詰まり、大きく息をついた。
 それから泣くのをこらえるように、その肩がふるえる。
「………アメリア。シグルドを死なせなて」
「イヤです!」
 間髪をいれずアメリアが叫んだ。
「アメリア!」
「イヤですっ!!」
 子供のようにアメリアが激しく首をふる。
 カッとなったリナが叫んだ。
「ワガママ言わないでよ! 運命のままシグルドを死なせなさい。その後で英雄化して神界へ迎えればいいでしょう!?」
 決して本心からではないリナの言葉に、アメリアはより激しくかぶりをふった。
「英雄化すればいいなんて、傲慢ですっ。死ぬのなら、そのまま輪廻へ還ってゆけばいいんです。私はシグルドさんが死ぬのを見たくないだけです!」
「それがワガママだっていうのよ! シグルドを英雄化しなさいっ。それで全部うまくいくんだから!」
 アメリアが顔をあげてリナを睨んだ。
「何が………何がうまくいくって言うんです!? 私たちと人間と、何が違うって言うんです!? 英雄化なんて偉そうなこと言って、私たちが人間に頼っているだけじゃないですかっ」
 つかつかとリナが歩み寄って、フィリアを押しのけてアメリアの正面に立った。
「いまは神族と人間の差なんかどうだっていいのよ。大事なのは、定めの糸車が狂いはじめて、それを元に戻さなくちゃいけないくて、あんたには英雄化ができるってことよ」
 アメリアが嘲(あざけ)るように笑った。誰に向けられたわけでもない、歪んだ笑み。
 嘲っているのはきっと自分自身だ。
「だからシグルドさんを殺して、歪みを正して、私を満足させるために神界へ迎えろって言うんですね!?」
 ぱんっ、とアメリアの頬が鳴った。
「リナさん!」
 フィリアが咎めるようにリナの名を呼ぶ。
「自虐するんじゃないの。いい加減にしてよ、アメリア。とれる最善の方法がそれしかないのよ」
 頬を抑えたアメリアが、キッとリナを見返した。
 ぱんっ、と再び乾いた音がした。
 リナを叩いた手を押さえて、アメリアが叫ぶ。
「一度ぐらい死んでもだいじょうぶだから、殺せって言うんですか!? 一度でも二度でも、死は死なのに!!」
「アメリアっ」
 リナの手がアメリアの胸ぐらをつかんで揺さぶった。
 感情を殺そうとして失敗した、嗚咽混じりのその声。
「お願いだから、ワガママ言わないで。あんた、あたしが言いたくてこんなこと言ってると思ってんの………!?」
 アメリアの目から涙が溢れ出した。
 思っていない。リナは、いつだって優しい。こんなこと言ったりなんかしない。
 リナをここまで傷つけたのは、言いたくないことを言わせているのは、自分だ。
 アメリアはリナの手をふりほどいた。
 一歩後ろに下がると、大鎌を手に出現させて、ためらうことなくそれを水晶の床に投げ捨てる。
 澄んだ音をたてて転がるそれは、採魂の象徴。
「英雄化なんかしたくありません」
「アメリアさん。このままでは世界がめちゃくちゃになります!」
 その濃紺の瞳に涙をいっぱいに溜めたアメリアが、フィリアをふりかえって叫んだ。
「未来も世界もどうだっていい! シグルドさんを死なせたくない!!」
 アメリアは〈主神の間〉から飛び出した。



 リナはアメリアが消えていった扉を見つめた。
 まだ痛む頬を押さえて、アメリアが投げ捨てていった採魂の大鎌へと視線を移す。
 くもりひとつないその刃は、ただ無機質に広間の光と色を反射するだけだった。
『世界も未来もどうだっていい!』
 アメリアの叫びが頭の中でこだまして、その真紅の瞳に徐々に輝きが戻る。
 涙がひとしずくだけ、頬を伝った。
(ごめんね、アメリア)
 自分に、アメリアを責める資格も、止める資格もない。
 それは、わかっていたのだ。
 誰にも聞こえないような小さな声で、リナは呟いた。
「そうよ………。あたしもあのとき、そう思ったんだから………」
 リナは静かにルナをふり返った。
 強い光を秘めた妹神その視線を、まっすぐルナは受け止める。
「ごめん、姉ちゃん。あたしも、やっぱりシグルドを死なせるのはイヤよ」
「リナさん!」
 フィリアの悲鳴にも似た声に、リナは静かに首をふった。
「だって、あたしはとっくの昔に………千年前に、アメリアと同じことを思ったんだもの」
 世界も未来も、自分自身すらも、たったひとりには変えられない、と。
 ルナは黙って妹神を見つめている。その苛烈な視線を怯むことなく受け止めて、リナは告げた。
「だから、姉ちゃんの補佐は、この瞬間かぎりでやめる。あたしもシグルドを死なせたりしない。あたしだって、運命だからってすべてを割り切る事なんてできない!」
 リナはそう言って、ルナとフィリアに背を向けた。
 扉を出ていく瞬間、ルナから声がかかった。
「あんたの好きにしなさい」
「………………ありがとう」
 短くそう言って、リナは部屋を後にした。



 妹神を見送って、ルナは細く溜め息をついた。
 しかたがない。あれでこそ、あの子たちなのだから。
 説得で折れてしまうような弱い意志を持つ妹神たちを、ルナは愛してなどいなかった。
 納得できない運命にせいいっぱい抗う、その魂の輝きをこそ、愛おしく思っているのだから。
 しかし、だからといって、世界が歪んでいくのを放っておくわけにもいかない。
「これは………最初に考えていたことで、どうにかするしかないわね………」
 卒倒寸前のフィリア・ヴェルダンディをちらっと見て、わざとらしく溜め息をつく。
「すごいわね。千年の恋が、ここまで事態を大きくしてしまったわ。愛って偉大よね♪」
「ルナさあああああああああああああんっ!!」
「あら、ウルドに変わったようね。ちょうどいいわ、〈三女神の間〉へ行きましょう。あなたたち全員と話がしたいわ」
 フィリア・ウルドの顔に驚愕がはしる。
 〈三女神の間〉。
 ひとつの器を共有する彼女たちが、肉体に捕らわれずに一堂に会することができる、過去も現在も未来も存在しない部屋。
「ルナ、さん………?」
 ルナはにっこりと笑った。この笑みを見たヴァン神族が顔を青ざめさせて逃げ出したという、伝説の微笑みにフィリアの顔が引きつる。
 ルナは笑顔で続けた。
「あの子たちに嫌われるのはお互いにイヤだしね。このさい荒療治も必要よねえ? もともと私って純粋なアース神族じゃないしー、禁忌なんかカワイイ妹たちにくらべればどってことないわ。
 そういうわけでフィリア、私に提案があるんだけど………?」
 ルナが頬に手をあてて、首を傾げる。
 断ったら承知しないという、無言の圧力に満ちていた。


========================================

 やっと話が動き始めました。ああ、長い。
 いえ、こっからも長いのですが、どうかおつきあいくださいませ。

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5053時の旋律 第14章―涙―桐生あきや 11/30-03:37
記事番号5009へのコメント



 ジジ………と嫌な音をたてて炎が揺らめき、油が残り少ないことをシグルドに知らせる。
 家の外では風が唸り、窓に激しく叩きつける雨の音が聞こえた。
 昼頃から風は強かったのだが、夜には雨が降り出してまるで嵐のような天気になった。
 こんな天気だから、さすがにアメリアが家を尋ねることもなく、シグルドは自室で明日行われる調停会議の書類に目を通していた。
 首謀者はクリストファではなく、その息子のアルフレッドだった。
 そのことを知ったクリストファがアルフレッドを説得にかかり、それに応じたアルフレッドがゼロスを解雇するという形で、事態は好転に向かっている。
 もうすぐ何の問題もなくなるだろう。
 腰掛けていたベッドから立ち上がり、シグルドは窓の傍に歩み寄った。
 雨と風の具合を確認してから、もう寝ようと思った。
 サイドテーブルのランプの明かりが邪魔で、思うように外が見えない。通りをはさんだ向かいの家は、もうすべての灯火を消して眠りについていた。
 窓ガラスが鏡のように、シグルドの姿を映し出す。
『目の色、キレイですね』
 いつだったかアメリアにそう言われたことを思い出して、シグルドはふと目を細めた。
 自分の容姿に特にこれといったこだわりもないが、彼女がそう言ってくれるのなら、いまの自分でよかったと思えてくる。
 あの夜空が映りこんだような濃紺の瞳を前にすると、不思議と心が穏やかになっていく。
 自分に嘘がつけなくなる。
 この腕のなかから離したくない。
 守りたい。
「………?」
 窓ガラスを前にしたシグルドの表情が、怪訝なものになる。
 シグルドは黙って窓から体を離すと、クロゼットの中からありったけのタオルをつかみだした。部屋を出て階段をおりて、居間のドアを開いて、最後に玄関のドアを勢い良く引き開ける。
 弾かれたように顔をあげる少女を見た瞬間、思わず叫んでいた。
「何をやっているんだ!?」
 ずぶぬれのアメリアにタオルを頭からかぶせて、家の中へ入れてドアを閉める。
 乱暴にその黒い髪を拭いてやると、すぐにタオルは水を吸ってしまった。それを放りだして、新しいタオルをかぶせる。
 人形のように突っ立っているその小柄な体は、こわばって冷たい。
「いつからいたんだ?」
 アメリアは小さく首をふって、かすかな声で呟いた。
「いま、来ました………」
「こんな天気のときには来なくていい」
 アメリアが首をふる。
「違うんです………」
 暗がりのなか声がふるえ、泣いていることがわかった。
「どうして泣いている?」
 びくりとその体がふるえた。
「泣いてません」
「無理をするな」
 頬にやったシグルドの指が、あたたかく濡れる。アメリアが狼狽して身じろいだ。
 シグルドは再び尋ねた。
「どうして、泣いている」
「言えません………」
 アメリアが消えそうな声でそう言った。
 シグルドはひとつ溜め息をついて、まだ濡れているその髪をくしゃりと撫でた。
「風邪をひく。中に入れ。火を入れるから、服と体を乾かすといい」
 放り出したタオルを拾い上げて、シグルドは居間へと続くドアを開けた。


 台所の炉に火が入る。
「乾いたら二階に上がってこい。雨もひどいから今日は泊まっていけ」
 そう言って、シグルドは二階に上がっていった。一階にひとり取り残されて、アメリアはぼんやりと揺れる炎を見つめた。
 拭きとりきれなかった滴が、髪からポタリとしたたった。
 冷えた体に、痺れのように炎の熱が伝わってくる。
 濡れた服なんか問題じゃない。いちど神気に戻してから、また服にすれば余分な水などどっかに行ってしまう。濡れた体は拭けばいい。
 ただ、雨に打たれていたかった。
「みっともない………」
 ぽつん、と洩らされた呟き。
 ここに来るなんて、みっともない甘えだ。
 めちゃくちゃに泣いて、濡れて、ここに来て。おまけにその理由は言えないだなんて。
 これではシグルドをバカにしているようなものだ。
 リナの傷ついた表情が、目に灼きついて離れない。
「ひっぱたいちゃった………」
 新しい涙が頬を伝った。
 もう神界には帰れない。
 自分は、自分を愛おしんでくれた人すべてを裏切ったのだから。
 何があっても、シグルドを英雄化して神界へ連れて行くなどイヤだった。アメリア自身にもわからない、心の何かがそうさせた。
 生きていてほしかった。
 体が冷たくなり、その器が朽ちていく様など見たくなかった。
「もう採魂はできない。ミリーナさんが最後か………」
 自嘲気味にそう呟いて、ふとアメリアは目を見張った。
 ベルとアリアと、ミリーナ。
 目覚めてから採魂したのはこの三人だけだ。
 でも。
 でも、その前は………?
 目覚めたからには眠っていたはず。眠る前、自分はどんな人を英雄化して神界へ迎えたのだろう。
「え………?」
 アメリアは我知らず、両腕で自分の体を抱きしめていた。
 そもそも。

 ―――どうして私は眠っていたの………?

「!?」
 記憶の欠落に、気づいたのは唐突だった。
 薪の爆ぜる音が遠ざかり、消える。炎の熱で暖かいはずなのに、どこまでも寒く感じられる、肌。
 いつから眠っていた?
 眠る前に何があった?
 誰がいた?
 何をしていた?
「あう………っ」
 例の頭痛がアメリアに襲いかかった。ただ割れるようにガンガンと痛い。
 動けない。痛い。
 記憶をたどるのを邪魔するように痛みはひどくなり、耐え難くなる。
「私は、何なの………?」
 ラベンダーの香にからみつく想い。
 ふわりと現れて揺れる、幻の声と光景。
 シグルドの瞳を自分は知っている。
 ぐらりと視界が揺れた。痛みはひどい。ひどすぎて、もはや痛いのか何なのか考えることすらできない。
 踏みとどまろうと、のばされた手は椅子の背をつかみそこねた。椅子が床に転がって音を起てた。その音がさらに頭に響いて痛みを増す。
 椅子と一緒にアメリアも床にうずくまった。
 きつく閉じた瞳から、涙がにじみだした。
「イヤ、よ………。邪魔しないで………っ」
 自分の記憶をたどらなければ。
(私は、誰なの?)
 アメリアの脳裏に、弾けるようにひとつの光景が浮かんだ。

 暴れる自分をガウリイとルークが押さえつける。
 泣くのを無理にこらえた表情で、シルフィールが傷を癒す。自分の体を見てみると、血まみれだった。
 そして、溢れる涙が頬を伝うのを拭いもせずに、呪を唱えるリナの指先がそっと額に触れた。
 意識が遠ざかる。暗くなっていく視界の中で、リナがうなずく。それを受けたフィリアが手をかざし、眠りのルーンが虚空に浮かび上がるのが見えた。
 ただ、記憶に残るのは、涙。

「アメリア!?」
 ああ、彼の声がする。
 ずっと待ってた。ずっと焦がれてた。
 やわらかなひくいこえ。やさしいてのひら。
 そのこおりのいろのひとみ。うすくつめたいきれいないろ。
 でも、そのおくはあたたかくて、やさしい。
 なみだのいろって、きっとこんないろだとおもうんです。

 わたし、あなたをずっとまっていたんです…………。


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5056ああ、ついに・・・!?雫石彼方 E-mail 11/30-20:16
記事番号5053へのコメント

今日はまともな時間にやってきました(^^)

前回は、ルナさんがよかったですvなんだかんだ言ってもリナ達が可愛くてしょうがないんですねぇ(^^)手のかかる子ほど・・・ってやつでしょうか。

そして今回、ついについに、アメリアがゼルを思い出したんですね!?シグルドもそのうちゼルとしての記憶を取り戻すんでしょうか?もう続きが気になって気になってしょうがないです。どーなっちゃうんでしょう(><)相変わらず桐生さんってば上手すぎですよ!

では、この辺で〜。


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5057ああ、しまったどうしよう・・・桐生あきや 11/30-21:30
記事番号5056へのコメント


 レスありがとうございます〜!

>前回は、ルナさんがよかったですvなんだかんだ言ってもリナ達が可愛くてしょうがないんですねぇ(^^)手のかかる子ほど・・・ってやつでしょうか。
 今回は、みんなこんな調子です。
 で、いちばん愛されているのがアメリア、という(笑)。
 
>そして今回、ついについに、アメリアがゼルを思い出したんですね!?シグルドもそのうちゼルとしての記憶を取り戻すんでしょうか?もう続きが気になって気になってしょうがないです。どーなっちゃうんでしょう(><)相変わらず桐生さんってば上手すぎですよ!
 あ、ああしまった。勘違いさせるような文章をかいてしまった私が悪いのでしょうが・・・。すいません、ぢつはまだなんです(滝汗)。
 あと、もう少しなのは間違いないんですけど。
 取り戻したときにはちゃんと名前を呼ばせるつもりでおります(^^;
 ご、ごめんなさい。
 それでは

 桐生あきや 拝

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5059切ない・・・(T_T)水晶さな E-mail 11/30-22:46
記事番号5053へのコメント


 こんばんわさなです。又お邪魔しに来ました。

 私の方ではレイシェルが大変ですが、こっちではアメリアが大変な事に・・・(混ぜるな混ぜるな)。
 苦しむアメリアがすごく切ないです。失った記憶を取り戻すのって、想像できないぐらいの痛みを伴うんでしょうね。「LITTEL MERMAID」で多少記憶が削られたアメリアは書いたけれど、ここまで深くはなかったし・・・。何にしろ姫には頑張って欲しいです。
 最後のアメリアの台詞がひらがなになった所がもう・・・何だか私ひらがなに弱いらしくて(何だそりゃ)。小説の中とかにふと挟まれるひらがなってすごく突き刺さるような印象受けるんですが・・・悲しい時だと特に。私だけかしら(汗)。
 
 ああ何だか支離滅裂な感想になっていしまいましたが、続き楽しみにしてますので頑張って下さい(^^ゞ では〜。

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5061姫イジメすぎですね(笑)桐生あきや 11/30-23:28
記事番号5059へのコメント


> こんばんわさなです。又お邪魔しに来ました。
 また来て下さってありがとうございます〜!
 すっごく嬉しいです。

> 私の方ではレイシェルが大変ですが、こっちではアメリアが大変な事に・・・(混ぜるな混ぜるな)。
 シェイクシェイク(するな)。

> 苦しむアメリアがすごく切ないです。失った記憶を取り戻すのって、想像できないぐらいの痛みを伴うんでしょうね。「LITTEL MERMAID」で多少記憶が削られたアメリアは書いたけれど、ここまで深くはなかったし・・・。何にしろ姫には頑張って欲しいです。
 「LITTLE MERMAID」では、何も覚えていなかったのはどっちかというとゼルのほうでしたしね。
 これからラストに向けてちょっぴしハードなんで、ホントに姫にはがんばってほしいです。
 というか、私イジメすぎだ(笑)。

> 最後のアメリアの台詞がひらがなになった所がもう・・・何だか私ひらがなに弱いらしくて(何だそりゃ)。小説の中とかにふと挟まれるひらがなってすごく突き刺さるような印象受けるんですが・・・悲しい時だと特に。私だけかしら(汗)。
 私もすごくします。
 ひらがなって柔らかい感じがするんですよね。
 カタカナは逆に無機的なイメージがありますし。
 ひらがな、カタカナ、漢字の使い分けって、日本語小説の醍醐味だと個人的に思ってます。
 
> ああ何だか支離滅裂な感想になっていしまいましたが、続き楽しみにしてますので頑張って下さい(^^ゞ では〜。
 とんでもないです。ありがとうございます、がんばります〜。
 それでは

 桐生あきや 拝

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5060時の旋律 第15章―強さ―桐生あきや 11/30-23:20
記事番号5009へのコメント


 いつまでアメリアは彼のことを忘れたまんまなんでしょうね?
 早くしないとルナに「それほど価値がなかった」などと言われても文句は言えなくなっちゃうわ(^^;
 いいかげん引っ張りすぎだ桐生(笑)。
 そういうわけで、あともうしばらくおまちください(汗)。

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 やわらかな寝具のなかでアメリアは目を覚ました。
 まばたきを繰り返すと、夜が明ける寸前のかすかな光が目の奥に飛びこんできた。
「あれ………?」
 呟いて身を起こす。
 以前にも一度使ったことのあるシグルドの家の空き部屋だ。
 自分がどうしてこんなところにいるのかがわからない。
 濡れて、泣いて。
 シグルドの優しさに甘えて。
 でも、どうしてここにいるのだろう。ベッドに入った記憶がない。
「どうして………」
 森の時と同じように、急に頭痛がしたのだ。
 でも、今度は何を考えていたのだろう。
 気が遠くなる痛みのなかで、大切な何かを見たような気がするのに。
 大切な何かを、聞いたような気がするのに。
 誰かの名前を。
 アメリアは思考を放棄した。いくら考えても思い出せない。無理をするときっとまた頭が痛み出す。
 ベッドの上でアメリアは子供のように膝を抱えた。
 ただ痛みだけを自分の内側に押しこめて、涙を止める優しい腕が欲しくて。誰でもいいから抱きしめてほしいと思うけれど、やっぱり誰でもいいわけじゃない。
 彼でなければ。
 それはただのワガママだ。
「私のバカ………」
 ぽつんと呟くと、不意にドアが開いた。
 弾かれたようにそちらをふり向くと、ランプを片手に――――。
 黒髪に白い肌のその姿に、一瞬だけ、青銀の髪に青黒い肌の青年の姿が重なって消えた。
 その瞳は、どちらも氷蒼。
(いまのは………何………?)
「目が覚めたようだな」
 少し低めのやわらかな声。優しく、響く。

 とくん。

 鼓動が、はねる。
 泣きそうになる。溢れる想いが止められなくて、胸が苦しい。
「シグルドさん………?」
「油をついできただけだ」
 確かに、ランプの明かりがいつもよりも激しい。
 サイドテーブルに置かれたその光の強さに、アメリアはわずかに目を細める。
「ずっと………、いてくれたんですか………?」
「あ、ああ………」
 無表情にシグルドはうなずいた。それが照れ隠しだと気づくのに、そう時間はかからなかった。
 ベッドの端に腰掛けたシグルドの手が、アメリアの頬に添えられる。
 氷蒼の瞳がもの問いたげにアメリアの顔を覗きこんできた。
「何が、バカなんだって?」
 アメリアは目を見張った。次いで頬が熱くなるのがわかる。
 手が、ベッドのシーツをぎゅっと握りしめた。
 視線をそらした。炎に揺らめく影だけが、視界の全てになるように。
「ごめんなさい。迷惑ばかりかけて………」
「それだけか………?」
 その声は優しい。だけどその声は甘えをゆるさない。
 嘘がつけなくなる。隠していられなくなる。
「だから、私がバカなんです」
「どうしてだ?」
「だって………」
 言おうとしたら、また涙が溢れてきた。シグルドから顔を背けようとする前に、手がのびてきて肩をさらって、頭をその腕の中に抱き込まれる。
 シグルドの腕が作りだす影のなか。ランプの明かりもここまでは届かない。
 涙はただ、溢れてこぼれる。
「だって………私、私のことをすごく大事にしてくれる人のことを、傷つけちゃったんです。ホントは、私が悪いってわかってたのに………」
 そっと胸に頬を寄せる。静かな鼓動が伝わってきて、アメリアの心を落ち着かせていく。
「全部私のせいなのに、勝手に傷ついて、甘えて………………いまも、シグルドさんに」
 声がアメリアの耳に落ちてきた。
 胸に寄せた頬と耳との両方に直接響く、その声。
「アメリアも、その人のことが大事なんだろう? なら、お前が傷つくのも当たり前だ。何とも思っていないなら、平気な顔でいるはずだからな」
 髪に指が差しこまれて、静かにすいていく。
 シグルドがわずかに身じろぎした。すぐにそれは耳元で囁かれる声へと変わる。
 吐息と、熱が。
「お前はそんな人間じゃないだろう? だから、いいんだ。それに、頼りにされないより、甘えてくれているほうがいい」
 闇の中、アメリアはわずかに目を見開いて、すぐにぎゅっと閉じる。
 どうしてだか、また泣いてしまいそうだった。
「オレなんかでいいのなら、いつでもこうしてやるから」

 ―――だから泣くな。

 囁かれる言葉に、アメリアは首をふった。
「あなたじゃなきゃ、イヤです」
 この人は優しい。
 甘やかして、だけど大事なところでは甘やかさない。
 正しくて、強い言葉。
 この人の腕の中にいる自分なら、信じられる。
 強くなれる。強くなりたい。
 涙をこぼしてばかりいるのはイヤだった。
 抱きしめられてだけいるのもイヤだった。
 この人といたい。
 この人を強く抱きしめ返せるようになりたい。
 雨はとうに降り止んで、わずかな風が窓を揺らして微かな音をたてる。
 空は白んで、闇を払拭(ふっしょく)しつつある。
 窓から差しこむ、明けてゆく空の灰色がかった白光。
 ランプの明かりが、部屋に差しこむその光に、大輪の花のような朱金の彩りを添えた。
 触れる唇。体温。鼓動。
 融けあう、ひとつの呼吸。


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5066時の旋律 第16章―奔流―桐生あきや 12/2-01:16
記事番号5009へのコメント


 16と17は、間が空くとなんだか間抜けなので、いっきに二つアップすることにしました。
 ああ、やっとここまで来たわ〜♪

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 ―――ああっと、ガウリイさん。あの子がどこにいるか知らない?
 ―――え、下界? 困った子ねぇ。ま、いいわ。フィリア、あの子を呼んできて。ガウリイさんは私と一緒に来てちょうだい。ああ、ルークはいいわ。どうせまたミリーナさんを口説きに行ったんでしょ? シルフィールは………そうね、一応来るか来ないか訊いてみて。何も全員参加する必要はないのよ、これからする話は………。



 翌朝、例によって朝食をシグルドに出した後、アメリアは外に出た。
 シグルドは今日こそ王位継承問題に決着がつくと言って登城してしまい、アメリアはいま一人きりだった。
 もはや、いられるところはここしかない。
 ヴァン神族がセイルーンの王位継承問題にかかわっているのか、結局真実は確かめられなかった。シグルドは、ちゃんと公私の区別をわきまえていて、アメリアに少しも話そうとしなかったのだ。
 シグルドの無事が少し気にかかったが、今日中に解決させると言うくらいだから事態は明るい方向に向かっているのだろう。ヴァン神族がかかわっているのは、ここではなかったのかもしれない。
 それに、神界宮殿を飛び出したいま、もう戦乙女として生きる気はなかった。
 空は薄曇りで昨日の嵐が嘘のように、風はそよとも吹かなかった。
(変な天気………)
 ぼんやりと暈(かさ)がかかる太陽を見上げて、視線を正面に戻すと、そこにはたたずむリナとアリアの姿があった。
 以前にも見たことのある魔道士の姿。アリアの方は、黒い帽子にマントという出で立ちだった。
「!?」
 アメリアの表情がこわばる。
 だが、アメリアが何らかの行動を起こす前にリナが口を開いた。
「安心して、あんたを連れ戻しにきたんじゃないの」
「リナ………さん………?」
 その真紅の瞳が、ふっと泣きそうな顔で笑った。
「情けない顔してんじゃないの。あんたの元気はどこ行ったのよ」
「あの………、私、事情はよくわからないんですけど、アメリアさんが出ていったって聞いて、これだけは言いたくて連れてきてもらったんです」
 アリアが、その隣りでおずおずと口を開いた。
「私と姉さん、アメリアさんにとても感謝してるんです」
 アメリアの目が驚きに見張られる。
 アリアの言葉は続く。
「だって、アメリアさんが死の先があることを私たちに示してくれなければ、私はずっと死んだときの気持ちを引きずったままで、姉さんだって救われなかった。
 私たちに居場所をつくってくれたのは、アメリアさんです。姉さんのあんなふうに穏やかに笑う顔なんて、生きている間は私あんまり見たことなかった………。
 アメリアさんが私たちを採魂してくれなければ、いまみたいに幸せに笑うことなんかできなかったはずなんです。だから、だから………」
 アリアとアメリアを見つめるリナの顔は、満足そうな優しい表情をしている。
「採魂は神さまの傲慢(ごうまん)なんかじゃありません。あなたが、私たちを救ってくれたんです。だから、そんなに哀しい顔しないでください………」
「アリアさん………」
 駆け寄ってきたリナがふわりとアメリアを抱きしめた。
「あんたはいっつもそうなのよ。あんたが採魂して連れてくるヤツは、みんなあんたに救われているのよ」
 栗色の髪がアメリアの視界一杯にひろがる。肩にかかる重みが、どうしようもなく嬉しくて、温かい。
 耳元でリナが小さく囁いた。
「あたしもね、シグルド殺すのイヤだから、姉ちゃんに反抗してきちゃった」
「リナさん!?」
 慌ててアメリアはリナの顔を見ようともがくが、リナはアメリアを抱きしめてはなさない。
「だって、あたしもあんたと同じこと思ったことあるんだもん。言えるわけないじゃん、好きな人を殺せって」
「リナさん………」
 アメリアはリナの肩に顔を埋(うず)めた。小さくて、細い肩。
 でも自分なんかよりもっと、力に溢れた、強い肩。
「ごめんなさい。ひっぱたいちゃって………」
「バカね。あたしが先に叩いたのよ。そこんとこ忘れたの?」
 体を離してアメリアの頬を両手ではさみこんで、リナは笑った。
 そのリナが何かを言いかけて、急に厳しい表情でふり返った。
 真紅の瞳が空の一点を見つめる。
「フィリアに見つかったわ。もう戻る。アメリア、今度こそ死なせちゃダメよ」
「え………? リナさん!」
 アメリアが呼ぶが、そこにもうリナとアリアの姿はない。ただ、灰色の空と石畳。
 よどんだ大気が、わずかに揺らめいたような気がした。
 不満そうにアメリアは呟く。
「ありがとうって、まだ言ってないじゃないですか」
 まだ、自分はアリアにもリナにも何も言いたいことを言ってないのに。
 昨夜の雨に打たれたときの気持ちが嘘のようだった。現金だなとは思ったが、嬉しいことに変わりはない。
 ふっと微笑んで、アメリアは大通りに出ようとした。
 革のブーツが石畳に踏み出されたその瞬間――――。
 勢いよくアメリアはふり向いた。
 視線を向ける先は、セイルーンの中心。
 突然の悪寒に、ぞわりと肌が粟だった。
 ちりちりとした焦燥が指先を焦がす。鳴り響く鼓動に胸が押しつぶされそうで苦しい。
 呼吸が止まる。
「………!?」
 思わず両手で肩を抱いていた。
 嫌な感覚だけはどんどんと強くなっていく。
 不意に溢れ出すように、甘い香りが立ちこめた。枝から落ちる寸前の熟れた果実のような、むせ返るほどの甘い芳香。
 アメリアにどんどんからみついていく、死の予兆。
「何、これ………。シグルドさん………!?」
 おかしい。シグルドはこの場にいないのに。
 定めを狂わせてしまったいま、彼の死など読めなくなっているというのに。
 アメリアは迷わなかった。
 王宮に行かなくては。
 いつだったかのリナの言葉を思い出す。
(アメリア。あんたも下界でなら、羽根を出しさえすれば空間を渡ったりできるわ。でも気をつけなさい。空間を渡ろうとすると、神気をまとえなくなるから、翼を出したあんたの姿が丸見えになるわよ。渡る前も、渡った後も)

 ―――そんなことはどうだっていい!!

 華奢な背中をおおい隠すように、光の翼が現れる。
 空間を渡る瞬間、アメリアには、見えた。
 想いが爆発して溢れ出す。
(いやよ今度こそ死なせない!)

「だめえええええええええええええぇぇッ!!」



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5067時の旋律 第17章―崩壊―桐生あきや 12/2-01:29
記事番号5009へのコメント



 シグルドは剣をかまえて、正面に立つゼロスを睨みつけた。
 にこやかな笑顔でたたずむゼロスの周囲には、彼に向かっていって打ち倒された衛兵たちの死体が累々(るいるい)と横たわっている。
 今この場に満ちている破壊の空気は、突然だった。
 もうけられた和解の話し合いの場に、何もない空間からゼロスが出現したかと思うと、不可視の力を使って衛兵達を薙ぎ払ったのだ。
 それは本当にわずかな時間の出来事。
 少し離れたところには、呆然とした表情のクリストファとアルフレッドが立っている。
 シグルドの背後にはフィリオネルがいるはずだ。
「困るんですよ。こんな調停の場なんかもうけられては」
 ゼロスが軽い口調で言った。
 まるで、子供にお遣いを頼んで違うものを買ってこられた母親のような、かならずしも本気で困ってはいない表情だった。
 その薄い紫の瞳がアルフレッドをとらえる。
「あなたもあなたです。クリストファさんの説得に簡単に応じて、僕を解雇なさろうとするなんて、あまり誉められたものではないですねぇ」
「僕は、自分の過ちに気がついただけだっ」
「ぜひ間違ったままでいてほしかったですよ」
 ゼロスは小さく肩をすくめた。
「貴様、何が狙いだ!?」
 フィリオネルの叫びに、ゼロスは困ったように頭をかいた。手に持った錫杖がとんとんと、石の床を叩く。
「いや、最近あなたたち人間の世は平和で、ちっとも死者がこっちにこないもんですから、うちの女王さまの機嫌が悪いんですよ。それで僕が、ミッドガルドに混乱を引き起こすよう命令されたわけなんですが………」
 フィリオネル以下、部屋にいる全員の表情が引きつった。
「おぬし、冥府の女王ゼラスの手の者か………」
 ゼロスはにこやかに笑った。
「それでとりあえず、大国セイルーンで争いを引き起こせば、近隣諸国にも飛び火するだろうと思いまして」
「ふざけるな!!」
 シグルドの怒号に、ゼロスが薄く微笑んだ。
「なるべくスマートに力技なしでと思っていたんですが、もう無理のようですね。ま、この場にいるあなた方全員を殺せば、同じ結果にはなるでしょう」
 シグルドは唇を噛んだ。
 自分が仕える王子は、逃げろと言われて逃げるような人物ではない。逃げたところでこのゼロスが追いかけていくだろう。現れたときと同じように、空間を渡って。
 ゼロスは人間ではない。
 剣を構えるシグルドを、ゼロスは無造作に錫杖で指した。
「とりあえず、部外者のあなたからいきましょうか。邪魔ですし。どうやって以前放ったデーモンから逃れたのかは知りませんけれど、今度はそうはいきませんよ」
 ゼロスがそう言って、手にした錫杖をふるった。
 白い輝きが生まれ、解き放たれる。
「シグルド!」
 フィリオネルが叫ぶ。シグルドはゼロスに向かって床を蹴った。
 剣の鋼(はがね)が、向かい来る光を受けてきらめいた。
 眼前に迫る、白くまばゆい死の力。
 シグルドは不思議と落ち着いた心で、その光をきれいだなと思った。
 剣の柄を逆手に持ちかえる。
 力に灼かれる前にそれを投げつけようとシグルドが渾身の力をこめたときだった。
 剣が手から解き放たれる、寸前。

 ―――いるはずのない少女の叫び。

 時が凍りついたかのようだった。
 あたたかい光と無数のその破片が、部屋を満たした。
 舞い散る羽根のように、シグルドは思えた。
 ゼロスの放った力とシグルドとの間の、何もない空間にひとつの影が滲(にじ)み出る。
 その背中の光を連(つら)ねたような翼が、部屋一杯にひろがった。
 シグルドの視界をつややかな漆黒と鮮やかな濃紺がよぎった。それが何なのか確かめる間もなく、次の瞬間。
 ゼロスが放った白い光にその翼と背を灼かれて、少女が背をのけぞらせた。黒髪が宙を泳ぎ、華奢な腕がシグルドを抱きしめる。
 そして翼はなくなり、光も消える。
 残されるのは一人の少女。
 抱きしめていた腕がほどけて、落ちる。とっさに抱きとめたシグルドの唇から、囁きがこぼれた。
 声もなく。
 唇の動きだけで呼ばれる、腕の中の少女の名前。


 衝撃は一瞬だけだった。
 灼けつくような痛みに死を覚える。
 立ちこめる甘い死の香りのなか、呆然と見開かれるその瞳と真っ向からぶつかった。
 海と夜空の両方を思わせる深く澄んだ濃紺と、熱を奥に秘めた冷めた氷蒼。
 驚愕がその瞳のなかに宿っているのは、どちらも同じ。
 死なせない、傍にいたいと、強く願ったその人の、瞳が宿す魂の色が見えた―――瞬間。
 アメリアの奥で、何かが瓦解した。


  ―――闇のなか、濁る――色彩―――
  ―――血が――柘榴のように―――
  融けて流れる――ふりかかる――あたたかい
  ―――耳元に残る声
  届かない―――唸る風にさらわれて―――
  ―――お願いだから、目を………開けて………


「!!」 
 頭の奥。
 隠されていた壁が暴かれ、亀裂がはしる。
 またたく間にそれは崩壊し、すべては怒濤となってアメリアの意識に押し寄せた。
 溢れ出るそれに翻弄(ほんろう)されながら、アメリアは目の前の氷蒼の瞳を凝視した。

 ―――………誰?

 膨大な情報はなかなか答えにたどりつかない。
 それでも、宿る魂が答えをくれた。
(見つけた!)
 探しあてた、たどりついた、離さない、抱きしめる――――

「ゼルガディスさん………!」

 その名を、その存在を思い出した途端、崩れて溢れ出した記憶が瞬時に組みあがった。
 薄いベールを剥(は)ぐように、思い出していく風景がある。
 千年前―――。

 それは、一面のラベンダー。


=======================================

 ここまで来るのに17章。ああ長かった(笑)。
 次からしばらくの間は過去篇に飛ぶことになります。
 すいません、ちょっぴし暗いというか痛いかも……(千年前に救いようがなかったことを千年後に救おうという話を書いている以上、過去が暗いのは仕方ないんですけどね)
 どうでもいいことですが、このゼロスの「うちの女王さま」ってセリフ、自分で言わせておきながらかなり笑えました。
 そっかー「うちの女王さま」なのね。やっぱりゼラスを冥府の女王にして正解だったかも(笑)。

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5074ああ、アメリアが〜;雫石彼方 E-mail 12/2-05:39
記事番号5067へのコメント


14章では早とちりしちゃいましたね;でも今回こそ、アメリア、ゼルのこと思い出したんですよね?でも、ゼロスの攻撃くらってアメリアが〜〜〜;

次から過去編なんですね。ついに明らかになる、千年前の悲劇!!悲しい出来事でも、今幸せになってくれるならそれでいいです(^^)目指せ明るい未来!!ってことで、続きを楽しみにしてますv



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5083ゼロスは今回も悪役です(笑)桐生あきや 12/4-02:28
記事番号5074へのコメント


 毎回レスありがとうございます。すごく嬉しいです。
 わたしって幸せものですね♪

>14章では早とちりしちゃいましたね;
 いえいえ、わかりにくい書き方したこちらこそごめんなさい。
 後で読み返して、たしかにそう思えると思いました(−−;

>でも今回こそ、アメリア、ゼルのこと思い出したんですよね?でも、ゼロスの攻撃くらってアメリアが〜〜〜;
 今回こそ思い出しました! 長かったです。
 ゼロスは桐生の小説のなかでは、魔族な感じが強く出るみたいです。
 いつだっていじめっ子だなぁ(笑)。

>次から過去編なんですね。ついに明らかになる、千年前の悲劇!!悲しい出来事でも、今幸せになってくれるならそれでいいです(^^)目指せ明るい未来!!ってことで、続きを楽しみにしてますv
 目指します、明るい未来(⌒▽⌒)/
 というわけで、がんばります。
 それでは。

 桐生あきや 拝


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5077うろろ〜んゆえ 12/3-00:47
記事番号5067へのコメント

こんにちは、ゆえです〜〜。

話も架橋に入り、毎回目が離せませんっ。

アメリアがびしばし不幸です〜。ハンカチ無くしては読めませんっ(−∧)
私が最近お気に入りなのは3重人格(笑)のフィリア。
いや〜スクルドの時とウルドの時のギャップがたまりません。
私的にはスクルド・フィリアが好きです♪

次回から過去編ですね。
いや〜気になっていたので、楽しみです。

毎回、話の完成度の高さに、自分の文が恥ずかしい限りで。

あきやさんは話を作られるとき、最初に設定とか、話の流れとかを決めてから書かれてますか?

私は無論、行き当たりばったりです(自滅型)

続き楽しみにしてます。

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5084おろろ〜ん(悪ノリ)桐生あきや 12/4-03:02
記事番号5077へのコメント


 桐生です。レスどうもありがとうございます〜〜。

>アメリアがびしばし不幸です〜。ハンカチ無くしては読めませんっ(−∧)
 不幸にし過ぎという話もあります(笑)。
 過去篇がそのピークになるかと………。

>私が最近お気に入りなのは3重人格(笑)のフィリア。
>いや〜スクルドの時とウルドの時のギャップがたまりません。
>私的にはスクルド・フィリアが好きです♪
 気に入っていただけて嬉しいですっ。
 書いているときは気づかなかったのですが、アップしはじめてから半オリキャラ化していることに気がつき、冷や汗ものでした。
 これからも多分オリキャラへの道を歩みます(汗)。

>毎回、話の完成度の高さに、自分の文が恥ずかしい限りで。
 そんなことないですよ! ゆえさんの文大好きです。
 お話にもメロメロです(死語)。
 私は簡単な事をわかりにくく書くのが大得意で、いつも苦労しています。どうやったらこんな得体のしれない文章になるんだっ、とか思いつつ……。

>あきやさんは話を作られるとき、最初に設定とか、話の流れとかを決めてから書かれてますか?
 うーん、基本的に全部の話はハッピーエンドで終わろうと決めているのですが、そこに至るまでの過程は……途中までしか考えてません(爆)。設定も、一応考えるのですが、書いている途中でバシバシ変わります(オイ)。
 それで書き出すのですが、呆れたことに桐生は書きたい場面から書き出します。
 この話では珍しく最初からキチンと書いているのですが、著者別リストの方の『楔』は魔力が暴走するシーンを一番始めに書きました。
 そして、詰まってからようやく大まかなあらすじを書き出します(笑)。が、この通りに行くこともあまりありません(^^;
 なにせ最初に考えていた設定では、アメリアが戦乙女とセイルーン王宮(こっちは偽物)に二人いたんです(爆)。どんな話になったんだろうなあ……。
 設定をバシバシ変えると当然のごとく、いままで書いてきた部分から修正箇所がでてくるので、迂闊にアップできません(笑)。おまけに書いた端からアップしていくと、きちんと続きが載せられる自信がカケラもないので、完結のメドが立つまでここにアップはしないことにしています(笑)。
 余談ですがこの話の第一話をアップしたときには、ちょうど17章まで書き上がっていました。
 かなりロクでもない書き方をしていますが、参考になったでしょうか……?

>続き楽しみにしてます。
 ありがとうございます、がんばります。
 ゆえさんも天空歌集がんばってくださいね。

 桐生あきや 拝

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5082時の旋律 過去篇・第1章―ゼルガディス―桐生あきや 12/3-22:05
記事番号5009へのコメント


 レポートを書き始める前にアップしておこうと思いまして……(汗)。
 誤字脱字を見つけてもゆるしてやってください。レスのほうも少し遅れます。
 すいません。 
 おまけに過去篇になった途端、急に長くなりました。ごめんなさい。がんばって読んで下さい(汗)

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 神界と下界をつなぐ虹の橋ビフレストを見おろすバルコニーで、戦乙女たちが囁いた。

 ―――見て見て、アメリアが帰ってきたわ。誰か連れてる。新しい戦士みたい。
 ―――あら、強そう。うふふふふ、腕試しのしがいがあるわ………。そろそろ何か斬りたくて斬りたくて………。
 ―――連れてきた戦士さんと剣の斬り合いをやるの、やめましょうよぉ。
 ―――あの人こそ、私のゾンビ嫌いを治してくれたりしないでしょうか………。
 ―――そんな奇特なヤツは現れないと思うわ、この先ずっと………

 戦乙女たちは口々に好き勝手なことを言い合った。
 こうして女性が八人もいると、姦(かしま)しいの意味がよくわかる。

 ―――見て! あの人髪が銀色です。そして岩の肌をしてる!
 ―――嘘っ。じゃ、またアメリアさんってば拾ってきたのね。
 ―――アメリアさんは優しいですから………。
 ―――わざわざ、輪廻の環から外れて戻れない人ばっかり採魂してくるのよねぇ。でもいいの。おかげで私はダーリンと出会えたんだから(はぁと)。
 ―――たかが卑しい剣士風情がどうかしまして? その点わたくしのガー………。

 好き放題言い合っている戦乙女たちの背後で、硝子戸の開く音がした。
 八人が一斉にふり向くと、呆れた顔のリナが立っている。
「あんたたちねー、あんまり騒ぐと下のアメリアにまで聞こえるわよ。あんたたちもさっさと採魂しに行ってきなさい。どういうわけか、ヴァン神族がやらた元気がいいもんだから、ぜんっぜん戦力足んないの」
 そう言ってリナは戦乙女たちを追い払うと、リナ自身がバルコニーからビフレストを見下ろした。
 そして苦笑ぎみに呟く。
「前回のザングルスもだったけど、また今回もクセが強そうなの連れてきたわね、あの子………」
 リナに気がついて手をふるアメリアに、リナも大きく手をふり返した。



 ゼルガディスは神界宮殿の回廊を歩いていた。中庭にはキレイな花が咲き乱れ、何もかもが繊細で美しい。
 ゼルガディスは落ち着かなげに、剣の柄に手をやった。
 自分で望んでこんなところへ来たわけではない。
 もはやその顔すら覚えていないが、敵に胸を貫かれたときに、ようやっと死ねると思ったのだ。狂った魔道士の手によって、妖精(アールヴ)と土妖精(ドゥエルガル)を合成されてからというもの、ロクな人生ではなかったし、生きているのはただ苦痛なだけだった。
 そうしたら、戦乙女が呼びもしないのに現れて、神界へ連れていきたいと言うのだ。
 変な戦乙女だった。
 もう生きるのはイヤだから、ほっておいてくれと言うと、泣きそうな顔で―――いや、数分後に実際泣き出した―――こんなところであなたが生きるのを終わらせるわけにはいきません、と説得にかかってきた。お節介にもほどがある。
 そうして泣かれて、どうしたらいいか扱いに困り、気がついたら神界へ行くことを承諾してしまっている自分がいた。
 怒ろうかとも思ったのだが「行く」と告げたときの、戦乙女の晴れやかな笑顔を見てしまうと、何だかそんな気も失せてしまった。
 あたたかな陽光のような笑顔だった。
 アメリアとその戦乙女は名乗った。
 望んできたわけではない神界だが、確かにおもしろくはあった。
 自分がいままで生きてきた過去も何もかも、気にしなくてもいいのは嬉しかった。
 アメリアが第二の生をと言ったのも、あながち間違いではない。過去を気にすることなく、すべてをゼロから始められる。
 ゼルガディスが回廊の角を曲がると、前方から栗色の髪の少女が歩いてくるのが見えた。
 名前はたしかリナと言ったはずだ。
 かなり神格の高い女神だと聞いているが、性格にかなり問題があるということも同時に聞いている。
「あ、ゼル」
「………かってに名前を略すな」
「いいじゃない、呼びづらいんだから」
 あっけらかんとリナは言った。
「何してるの?」
「いや、特に何も」
 ヴァン神族との戦闘はここ数日、小康状態で、多分もう二、三ヶ月はその状態が続くだろう。
 ゼルガディスが呆れたことに、アース神族とヴァン神族は驚くほど気の長い戦争をやっているのだ。
 そのせいか、ちょっと戦闘になると、しばらく休みが間にはさまれる。
 無限の寿命を持っていると、自然とこうなるものなのだろうか。
「あんたは何をしているんだ?」
「リナ、よ。あんたじゃないわ」
 そう言って、リナは中庭へと足を踏み入れた。
 手すりなどがあるわけではないので、敷き詰められた大理石のタイルさえ踏み越えてしまえば、すぐに緑の中庭へと入ることができる。
「何をしてるかっていうと、あんたと話がしたくって」
「は?」
「ゼルとは、まだあまり話をしてないしね」
 そう言ってリナはゼルガディスの方をふり返った。
 光を浴びるその栗色の髪が、濃い緑の芝の上でふわりと舞い上がる。
「ふふ、それにね。ゼルをここに連れて来た、誰かさんがえらく気に病んでるのよね」
「アメリアが?」  怪訝な表情のゼルガディスに、リナはイタズラっぽく笑いかけた。
「ゼル、あんた英雄化を最初はずいぶんイヤがったそうじゃない。だからね、ムリヤリこっちに連れてきたんじゃないかって、アメリアが気にしてるのよ」
 ゼルガディスは唖然とした顔でリナを見た。
 その表情に、思わずリナが吹き出す。
「なんて顔してんのよ、ゼル。あの子はそんなに無神経な子じゃないわよ」
 ま、今回は特別みたいだけど、とリナは心の中で呟いた。
「いや、その………」
 ゼルガディスは困ったようにひとつ咳払いをすると、回廊から緑の芝の上に踏みこんだ。
 光にさらされるその容貌は、美しい異形の姿。
「オレも尋ねてみたいことがある。いいか?」
「なに?」
「どうしてあんたたちは、ヴァン神族と戦(いくさ)をしているんだ? 和解とかはしないのか?」
 リナの顔が困ったようにしかめられた。
「んーんん、それは難しい質問ね。前はどうだったか知らないけど、あたしの戦う理由は、アイツらが、下界で関係ない人たちを遊びで殺すから、ね」
「それは偽善だな」
 即座にそう吐き捨てるゼルガディスの言葉に、リナの目元がぴくりと動く。
「どうしてそんなことが言えるわけ?」
「お前たちは人間じゃなくて、神だろう? 何で特に関わりのない人間たちをそこまでして気にかけることができる?」
「神じゃないわよ」
 あっさりとリナが否定した。
 リナが怒り出すと思ったゼルガディスは、拍子抜けして彼女の顔を見つめる。
 陽光のなか、リナは栗色の髪をかきあげた。
「神ではないだと………?」
「あたしも元は人間よ。ガウリイも、ルークも、姉ちゃんも、そしてアメリアも、この神界宮殿にいるほぼ全員がね」
「………?」
 その真紅の瞳は少し哀しげだった。
「フィリア見たことある?」
 唐突に尋ねられて、ゼルガディスはとまどいながらうなずいた。
「運命の女神だろう? やたらけたたましい」
「それウルドね、きっと」
 くすくすとリナが笑って、指で自分の片耳をつまんでみせる。
「彼女の耳、長いでしょ? あれが本当のアース神族。あたしたちは新・神族よ」
 リナが元は人間だと言うのなら、さっきの戦う理由もそれなりに説得力を持ってくる。
 ゼルガディスは眉をひそめて、口を開いた。
「なら、どうして本当のアース神族はフィリアしか見かけないんだ。どうしてあんたたちは人間から神になった?」
「フィリアしかいないわけじゃないわ。神格が低いけど、神界宮殿の外の都にも何人かいるこたいるわよ」
 そうゼルガディスに答えると、リナは芝の上に置かれた、伏した獣の石像の背中に座った。
「そいで、ゼルの質問だけど、答えるには長ーい話になるわ」
 リナはそう言って、軽く伸びをした。
「いまから千年前に、アース神族とヴァン神族との間で神界戦争が始まったらしいわ。そして、そのいちばん最初の戦い〈神々の黄昏〉(ラグナロク)で、こっちの主神スィーフィードとあっちの主神シャブラニグドゥがあっさり同士討ちしちゃったの。
 シャブラニグドゥは七つのカケラに封印されて、こっちの主神は四体の分神を残して死んでしまった。それが水竜王と、地竜王と、空竜王と、火竜王」
「それで?」
「主神を失っても、ヴァン神族もアース神族も互いに戦いを止めようとしなかったのよ。四人の分神が神界軍を立て直して、ヴァン神族側もシャブラニグドゥに仕えていた五人の腹心の手によって再編されて、えんえん四百年ぐらい争ってたの。そしたら、どうなるかわかる?」
 リナの問いに、ゼルガディスは即答した。
「資源の枯渇。無限の神気があるあんたたちの場合は、人的資源の枯渇だな」
 リナはちょっと目を見張って、すぐに笑った。
「やっぱあんた頭いいわね。アメリアがめいっぱい力説するだけあるわ」
「…………」
 沈黙したままのゼルガディスを見て、少し肩をすくめながらリナは話を再開する。
「ちょうどタイミング良く、スィーフィードの知識と力が人間に受け継がれていることが発覚したときでね―――それがうちの姉ちゃんなんだけど―――姉ちゃんを神界に迎えるとき、たまたまあたしが傍にいて………あたし、人間にしてはケタ外れの力持ってたからさ、それ見て誰かが思いついたのね。足りない人材は下界で調達すればいいって」
「………最低だな」
 ゼルガディスの呟きを、リナは静かに肯定する。
「その通りよ。水竜王は反対したらしいんだけれど、ちょうどそのとき勃発(ぼっぱつ)した〈降魔の戦い〉で水竜王は戦死してしまって、暴走に歯止めがきかなくなったの」
「〈降魔の戦い〉?」
「シャブラニグドゥの七つのカケラのうちひとつが復活してね、勢いづいたヴァン神族が責めてきたの。その時の戦いを〈降魔の戦い〉って呼んでるの。
 ―――で、その戦で穏健派だった水竜王が死んじゃって、残った三人の暴走を止める者がいなくなったの。そして彼らは、下界で少しでも力が目立っている人間がいると、例え死ぬ運命になくてもムリヤリ殺して連れてきたのよ。それがあたしたち」
 淡々と語られるリナの言葉はひどく重い。
「アメリアもなのか………?」
「そうよ。でもあの子の場合は無理に殺されたんじゃなくて、どっかの国の王女で政変に巻きこまれて死んでしまったのを、神界に連れてきたらしいわ」
 アメリアの陽光のような笑顔を思い出して、ゼルガディスは少し胸が痛んだ。
「あんたたちが神になった経緯はよくわかった。でも、どうして旧・神族はいま姿が見えない? クーデターでも起こしたのか?」
 リナが、クスリと笑う。
 力に溢れた笑みだった。
「そんなもんよ。勝手に神にしたあげく、純粋な神族ではないからと〈劣神〉(れっしん)呼ばわりして、あたしたちが活躍するようになった途端、今度はその力を怖れて自分たちで潰そうとしたのよ。潰されないように抵抗したら、それが自然とクーデターになったってわけ。それが、いまから百年くらい前の話ね」
 リナの話を聞いて、ゼルガディスは首を傾げた。
「どうしてフィリアは残っているんだ?」
 尋ねられたリナはちょっとだけ哀しそうに笑った。
「彼女は運命の女神だったから、旧・神族のなかでも別格でね。運命の糸を無視して、旧・神族たちが人間を殺して神兵にすることに反対していたの。
 それにね、あたしたちが神になる前の話なんだけど、彼女がその………好きだった神がいて、けっこうアース神族のなかでは力を持っていた一族だったんだけど、旧・神族たちはその一族の力を怖れて、滅ぼして追放したらしいの。その彼は結局ヴァン神族側についちゃって………」
 ―――だから、フィリアはあたしたちに味方したの。
 リナはそう続ける。
「だから、あの子は運命の糸を読みとってもクーデターが起きる未来を旧・神族に告げたりしなかった。ずっと黙ってた。フィリアはそうして、いまここにいるのよ。長い話、お終い」
 リナは立ち上がって、衣についた草を手で払った。
 風が吹いて、白い衣と栗色の髪が流される。
 流される髪を手で押さえて、リナはゼルガディスに向かって笑いかけた。
「だから、あたしたちは元は人間同士なの。ヴァン神族との戦いも、旧・神族から適当に受け継いで適当に続けているわけじゃないわ。あたしは自分が人間だったことを忘れていたくないし、存在意義がないってくよくよ悩むのもイヤだもの。神になってしまったものはしょうがないから、有意義に過ごしたいと思ってる」
 リナは挑戦的にゼルガディスを見つめて、手を差し出した。
「それがあたしたちアース神族よ。ゼル、あんたも最近そうなったわ。どうする? アメリアには怒られるかもしんないけど、あんたがイヤならあたしが英雄化を解いてあげてもいいわ」
 ゼルガディスはリナの手を見つめて、ふっと目を細めて苦笑した。
「しばらくはやめておこう。あんたたちといるもの面白そうだ」
 リナが笑った。軽くその手をゼルガディスと打ち合わせる。
「オッケー。ようこそ神界へ」
 光溢れる中庭から、影の落ちる回廊へと歩きながら、リナはゼルガディスをふり返った。
「それなら、英雄化を気に病んでた、どこかの誰かさんの所へ行ってきて「違う」って言ってあげなさいね」
「おい、リナ―――!」
「だーめよ、こーいうことは自分で言わなきゃね」
 明るい笑いが、空へと弾けた。


=======================================

 ………裏設定の嵐のような章です(^^;)。
 千年前が舞台の話の中で、さらにその千年前に戦争が始まったとリナが言う………ややこしいってば、私。
 しかし冒頭の戦乙女の会話。何人か思い当たるキャラがいることでしょう(笑)。
 あーいうのを神界に連れてきてしまうあたり、旧・神族の滅亡は決定されていたような気が………(−−;)。
 当てても何も差し上げられませんが、少なくとも四人ははっきりとわかるように書いたつもりです(笑)。さて、誰でしょう?


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5088時の旋律 過去篇・第2章―ラベンダー―桐生あきや 12/5-04:17
記事番号5009へのコメント



 強い風に押されて、無数の雲がたくさんの浮島の間を流れ、過ぎ去っていく。
 その中には神界宮殿の華やかな尖塔にからみついて、散り散りになっていく雲もあった。
 アメリアを取り囲むラベンダーが、風にあわせて、ザワ………と音をたてて揺らめいた。そのたびに清々しい芳香があたりに立ちのぼる。
 常春の神界アースガルズでは、花は季節に関係なく、たえず咲き誇り、散ってゆく。
 この一面にラベンダーが咲き乱れる丘は、神界宮殿からそう遠くない場所にある浮島のひとつだった。
 神界宮殿を中心とした群島はひとまずここで終わっていて、アメリアの目の前には、流れゆく雲と遙か遠くにある浮島の影しか存在しない。
 吹きすぎていく風に、ラベンダーと共に服の裾をはためかせながら、アメリアは黙ってたたずんでいた。



 ゼルガディスが神界に来てから、数年ほど月日は流れていた。
 回廊ですれ違おうとしたフィリアを、ゼルガディスは呼び止めた。
「アメリアを見なかったか?」
「アメリアさん、ですか?」
 運命の女神は軽く眉をひそめた。
「自室では? それか鍛錬場。でなければ他の戦乙女の方々とお茶」
「どれもダメだったが………」
「あら、そうですか。珍しいですね」
 流れるような金髪をさらりと揺らしながら、フィリアは首を傾げた。
 ゼルガディスは無意識のうちに顔をしかめていた。
 現在、リナやルナなどの主立った神々は激化した戦闘の最前線に出かけてしまい、天界宮殿にはフィリアや戦乙女たち、ゼルガディスなどの英雄化された魂など、合わせてもわずか二十人ほどしかいない。
 あまり不用意に出歩かれては困るのだ。
 首を傾げたフィリアがぽん、と手を打った。
「ああ、群島のはずれの丘には行きました?」
「いや、どこなんだそこは」
 ゼルガディスはそんな場所があることさえ知らなかった。
「神界宮殿を出て、西に向かって一つ浮島を渡ったところにある、ラベンダーがいっぱい咲いている場所です。アメリアさんは時々あそこにいることがありますから、行ってみたらどうです?」
「わかった。ありがとう」
 ゼルガディスは軽く手をあげて礼を言った。
 もうすぐ、陽が落ちようとしていた。



  ざああぁぁ……ぁ……ぁ………ん

 ラベンダーが揺れる葉擦れの音が、その丘全体を支配していた。
 はるか遠くに見える浮島を黒い染みのように浮かび上がらせている夕陽が、濃い橙色の帳(とばり)であたりをおおっている。
 葉に落ちる濃い影と、朱に染まった穂のような花。
 それらの強いコントラストのなか、朱金の陽光を受けて、蜜色のつやを帯びて輝く漆黒の髪。
 思わず足を止めてしまうほど、印象的な光景だった。
 声をかけてはいけないような錯覚にとらわれて立ちつくすゼルガディスの気配に気づいて、アメリアがふり返った。
 少し小首を傾げて微笑む。
「………ゼルガディスさん?」
 これから神界に訪れる夜の、銀砂をぶちまけたような星空を思わせる、深い紺の瞳。
 その瞳に捕らわれて、動けなくなるのがわかった。
「どうしたんです?」
 足首はおろか腰あたりまでラベンダーに埋めながら、アメリアが近づいてくる。
「いや………、姿が見えなかったから、どこに行ったのかと思って………」
「探してくれたんですか? すいません」
 ゼルガディスのすぐ傍まで来ると、アメリアはゼルガディスに背を向けて、一面のラベンダーとその向こうに見える薔薇色の空に目をやった。

  ざああぁぁ……ぁ……ぁ……ん

 ラベンダーが風に一斉に揺れる。
 熔け落ちる寸前の、美しい陽光の破片。
「………キレイだと思いませんか?」
「ああ」
 素直にゼルガディスはうなずいた。
「ここ、好きな場所なんです」
「何をしていたんだ?」
 ゼルガディスをふり返って、アメリアは笑った。
「リナさんたちが全員無事で帰ってくるように、お祈りしていたんです」
「お祈り? 何にだ?」
 ゼルガディスはアメリアの隣りまでやってくると、一緒に空を見上げた。
 日が沈むのは早く、もうすでに半分以上を隠していた。このすべてが空に包まれた神界で、太陽と月が一体どうやって巡っているのか、ゼルガディスは知らない。
 アメリアが蜜色にふちどられた黒髪を揺らして、首をかしげた。
「何にでしょうね。神様は私たち自身ですもんね。運命かな………?」
「フィリアにか?」
「フィリアさんは番人であって、運命そのものではないですよ。フィリアさんにだって、先のことはわからないんですから」
「それは初耳だ」
「そうなんです。スクルドのフィリアさんって、よっぽどの事がないと滅多に表に出てこないんですよ。おまけに、何をしたのかウルドやヴェルダンディのフィリアさんにはわからないそうなんです」
 ゼルガディスは苦笑した。
「過去と現在に、未来のことはわからない、か―――本当にそのものだな。オレも祈っておくか」
 アメリアがゼルガディスを見上げた。
 ふっ………と太陽が完全にその姿をどこかに隠した。
「何を、何に祈るんですか?」
 ゼルガディスの指がアメリアの頬に触れて、優しく髪を払いのけた。
「リナたちの無事と、ここで留守番しているオレたちの無事を、お前に―――――」
 アメリアの頬にカッと朱が散った。
 陽は沈み、空は刻々とその色彩を違え、暗い青の世界のなかを風が吹き過ぎる。青く沈みゆく世界のなかで、風に揺れるゼルガディスの銀色の髪がほの白い光をまとう。
 消えそうな声で、アメリアは問う。
「どうして、私に………?」
 薄い闇の中、ゼルガディスはわずかに苦笑した。
「お前以外に思いつかないな。祈る相手は」
 頬にあてられた手のひらは、穏やかなぬくもりを伝えてくる。
 アメリアはそっと目を伏せた。
 ラベンダーが風に揺れて音をたてる。
「ありがとう………」
 その音の中、ゼルガディスが、辛うじて聞き取れるくらいの声で囁いた。
 伏せていた目をあげると、唇がもう一度同じ言葉を繰り返した。
「お前といて、ようやくオレは自分が生きていてよかったと思えるようになったんだ………」
 驚いたアメリアの表情が、すぐに泣き出しそうな顔に変わる。
「採魂してもらって、よかったと思っている」
 やさしいてのひら。
 涙がひとしずくだけ頬を伝い落ちて、ゼルガディスの指を濡らした。
 アメリアは目を閉じた。
 風に揺れる葉擦れの音も、立ちこめる香りも。夜の大気も。
 吹きつける風も。
 みんなみんな邪魔で、なくしてしまいたい。
 自分とこの人の間に、何もなければいいのに。
 この触れているてのひらを伝って、ひとつに融けてしまえればいいのに。
 溢れ出す想いに突き動かされて、アメリアはそっと囁いた。

「あなたが好きです………」

 風に散って、すぐに消えてしまったその呟き。
 返事はすぐに返ってきた。

 ふれるくちびるで。


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5089あぁぁぁぁ(///)雫石彼方 E-mail 12/5-06:30
記事番号5088へのコメント


もうもうもう!あきやさんってば最高ですよぅ!!(><)
ラベンダーの丘の描写とか、自分がほんとにそこにいるみたいにリアルに浮かんできて凄く上手ですし、そして何より!!「お前に祈る」って、「ありがとう」って、「あなたが好きです」って、そんでもって速攻返ってくるキスVvあぁぁぁ、す〜て〜き〜〜〜vv(ごめんなさい、かなり興奮してます;)もうかなりメロメロです(笑)ほんと、文章が綺麗で羨ましいです。私もこんな風に書きたい・・・・(--;)

ああ、何か物凄く支離滅裂な感想で申し訳ないです(汗)
これから二人が引き裂かれてしまうのが悲しいですが、その先のハッピーを思って夢見させていただきます!!(笑)

ではでは。


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5092きゃあぁぁぁぁ(///)桐生あきや 12/5-08:19
記事番号5089へのコメント


 著者別リストの方をさまよっていて、帰ってきてみたらレスが来ていてびっくり(笑)。嬉しいです♪ 

>もうもうもう!あきやさんってば最高ですよぅ!!(><)
 そんなに誉めないでくださいいぃぃ(融けます)。
 雫石さんもとっても素敵なんですから。

>ラベンダーの丘の描写とか、自分がほんとにそこにいるみたいにリアルに浮かんできて凄く上手ですし、そして何より!!「お前に祈る」って、「ありがとう」って、「あなたが好きです」って、そんでもって速攻返ってくるキスVvあぁぁぁ、す〜て〜き〜〜〜vv(ごめんなさい、かなり興奮してます;)もうかなりメロメロです(笑)
 この章は絶対書きたかった章です。この話を考えた時点で、この場面を書くことは決まってました。そこに至るまでの途中経過は未定でしたが(^^;
 実際この話の中で一番書いてて楽しかった章がこれで、文章もいちばんまともな出来ではないかと思ってます。この章がなければ千年後はないわけですから、この話の白眉になりますね。
 ゼルのキスは………(赤面)。
 桐生は根っこの部分がかなり乙女チック(爆)なので、こういうところは暴走しますね………キザだわ、ゼル。

>ああ、何か物凄く支離滅裂な感想で申し訳ないです(汗)
 いえ、全然だいじょうぶです。
 私もときどき興奮して(特に読んだ直後)かなり変な感想をつけます(^^;
 感想、ほんとにどうもありがとうございます。いつも嬉しいです。

 桐生あきや 拝



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5094時の旋律 過去篇・第3章―闇―桐生あきや 12/6-01:43
記事番号5009へのコメント

 無数の糸が巡る〈綾の間〉で、フィリアが不意に顔をあげて叫んだ。
「いけない―――! その未来は、だ・め―――!」
 銀線細工の扉を押し開けて、スクルド(未来)は通信のオーブが置いてある部屋に向かって駆けだした。
 すべては遅すぎるかもしれないが、せめてルナたちに――――。



「そろそろ戻ろう。ザングルスたちが心配しているといけないからな」
 ゼルガディスがそう言って、二人はラベンダーをかきわけ歩き出した。
 空はすっかり暗くなり、闇の中でいくつもの星がまたたいている。
「結界があるとはいえ、油断は禁物だからな。アメリアもあまり一人で出歩かない方がいい」
「そんなに心配しなくても―――」
 こころもち顔を赤くしながら、アメリアが反論しようとしたときだった。
「!!」
 二人の表情が同時に変わった。
 具現化させた鎧がまたたく間にアメリアの体をおおっていく。
 羽根兜から鉄靴まで全てが、つややかな銀色。
 ゼルガディスが剣を抜きはなった。
「誰だ!?」

 ざあぁ……あぁ……ぁ……ん

 ラベンダーが風に大きく揺れた。
「そこっ!」
 叫んで、アメリアは採魂の鎌を大きくふり抜いた。地を奔る衝撃波がラベンダーを舞い散らせ、一直線に丘の端へと向かう――――!
 パァン、と乾いた音がして、薄紫の小花が一斉に弾け飛んだ。
 そしてそこから音もなく、白い子供の手が空へと突き出される。
 アメリアの顔が青ざめた。
「誰!?」
 わだかまる闇の中から、少年の声が響き渡った。
「おや、もう僕のことなんか忘れちゃったのかい? 僕はキミたちアース神族のことを、片時も忘れたことなんかなかったのに――――」
 するりと現れ出たのは、黒髪の無邪気そうな少年だった。
 アメリアは絶句する。
「フィブリゾ・ロキ………!」
 その呟きに、ゼルガディスの表情も厳しくなった。
 神界に来てから数年も経てばいいかげん、知ることも増えていく。
 リナたちが神にされる以前、虚偽(きょぎ)と欺瞞(ぎまん)を司り、アース神族の陣営に何食わぬ顔で加わっていたことがあるという、シャブラニグドゥに仕えるヴァン神族。
「どうして、結界に――――!」
「忘れたの? それとも君たち新・神族は知らないのかな? 僕はアース神族とヴァン神族の混血だよ。この結界、あまり役に立たないんだよね」
 あっけらかんとそう言うと、フィブリゾは神界宮殿に視線を向けて楽しそうに笑った。
「ホントに誰もいないみたいだ。あの旧・神族のザコが言ったことは正しかったみたいだね。ルナとかいるとちょっとマズかったんだけど、いまなら簡単に制圧できそうだ」
 アメリアとゼルガディスはその言葉に思わず身じろぎした。
「どういうこと!? まさか………」
「そのまさかさ。やっぱり新顔のキミたちにのさばられちゃ、面白くない人の一人や二人はいるよね。よくクーデターから百年も待っていたものだよ」
「そいつはどうした?」
 ゼルガディスの短い問いに、フィブリゾは会心の笑みを浮かべた。
「んー、いまごろゼラスとゼロスに冥界でもてあそばれているんじゃないかな」
 ギリ………とアメリアが採魂の鎌を強く握りしめた。
「あなたという人は………っ」
 かたわらのゼルガディスが静かな声でアメリアを制した。
「アメリア、合図だ」
 うなずいて、アメリアは夜空に明かりの魔法を放つ。まばゆい光が大きく三度明滅して非常事態の発生を告げる。
 すぐにざわりとした雰囲気が神界宮殿のほうから湧き起こった。
 フィブリゾが首を傾げる。
「人を集める気? まあ、僕としてはいちいち探して叩きつぶす手間がないから助かるけどね。せっかくだから揃うまで待っててあげるよ」
「たいした余裕だな」
 ゼルガディスの言葉に、フィブリゾは退屈そうに言った。
「ルナさえいなければ、後は僕に勝てるやつなんていないもの。だいたい結界を通れるっていう理由だけで、こともあろうに指揮官本人が奇襲役を押しつけられただけなんだから」
 ルナもリナもガウリイも、負傷を癒すシルフィールさえも、いまは前線に出ていってここにはいない。
 完全にヴァン神族の罠に引っかかったようだった。
 さっきの合図で通信のオーブが発動されて、ルナたちに連絡が行くだろうが、いまから戻って来ても間に合わない。
 ここにいる者だけで何とかしなければ。
「負けられません」
 アメリアが言った。
「私は、リナさんたちが帰ってくる場所を守らなければいけないんです」
 背後から、二人を呼ぶザングルスたちの声が聞こえてきた。
「揃ったみたいだね」
 フィブリゾがゆっくりとした口調で告げた。
「じゃ、始めるよ」



 自らが言うとおり、フィブリゾは強かった。
 たった一人にもかかわらず、アメリアたちは傷を負わされ、なかには立ち上がることさえできない者も出た。
 戦乙女の中でも戦闘能力を持たない者数人が、怪我した者を戦闘から引き離し、治療呪文を唱える。
 いくつもの方向から同時に放たれる魔法や剣戟(けんげき)を避けようとすらせずに、フィブリゾが告げた。
「ああ、そうだ。僕がここに来たら、するべきことが一つだけあったんだ。そろそろ退屈だし、ついでにもう終わりにしようか」
 その言葉の裏に潜む気配に、打ちかかろうとしたゼルガディスは反射的に後ろに飛び退いていた。
 フィブリゾの笑みを含んだ視線が、アメリアやゼルガディスたちとは離れたところで怪我を癒している戦乙女たちに向けられる。
「キミたちがいるおかげで、倒しても倒してもアース神族の数が減らないんだよね。今回、僕がやってきた最大の目的は―――」
 フィブリゾの背後で、闇が大きく蠢いた。
「戦乙女の殲滅(せんめつ)さ」

 闇が唸り、ゼルガディスたちに襲いかかった。

 濁った闇に触れたラベンダーがまたたく間に腐り果てて、どす黒く変化する。星明かりさえ消えて、視界が真っ黒に塗りつぶされた。
 逃げることすらできなかった。
 ただ、すぐそばの存在を庇うことしか。
 抱きしめた。
 何を囁いたのかは覚えていない。

 次の瞬間、意識は途切れた。

圧倒的な質量の闇が、ラベンダーの丘はおろか神界宮殿さえも包みこんで、負をまき散らした。
 そのなかで一人たたずむフィブリゾが両手の間に力を生みだす。
「仕上げだよ」
 衝撃波が、フィブリゾを中心に闇の中へとひろがっていった。その耳に、神界宮殿が崩壊する音が聞こえる。
「終わった終わった。じゃ、帰ろ。つまんない仕事だった」
 現れた時と同じく、わだかまる闇にその姿を溶けこませる。その姿が消えると同時に闇は晴れて、星が再び夜空にまたたきはじめた。
 動く影は一人として見つからず、やがて、ラベンダーの香を血臭と腐臭が圧倒しはじめた。



 アメリアが目を開けると、東の空から夜が明けようとしていた。
 体はひどく重く、痛い。左の腕を持ち上げようとするが、どうしてもあがらなかった。
 風はなく、ひどい匂いがしていた。鉄臭く、生臭い匂い。
 顔をしかめて起きあがろうとして、激痛がはしる
 苦痛に声をあげようとして、その声が出せないことに気がついた。かろうじて持ち上がった右の指で喉を撫でると、ざらりとした感触がした。見れば、固まった血が粉になって指についている。
 フィブリゾがまき散らした闇と衝撃波で、声帯が傷ついたようだった。
 ムリヤリ体を起こす。激痛に顔が歪んだが、声は出せなかった。
 明けていく空以外を初めて目にしたアメリアの動きが凍りついた。
 半壊している神界宮殿。
 大部分が腐り落ちたラベンダーの丘の上、あちこちに倒れ伏して動かない仲間たち。
 誰も、起きあがろうとしない。
 闇のなか、抱きしめられた記憶だけが鮮やかに残っていた。
 銀色の鎧は血にまみれていて、その血に守られていたのだと悟る。
 やっとの思いで持ち上げた左手で、すぐそばに眠るその頬に触れた。
 唇がその名前を呼ぼうとして果たせない。
(ああ、喉が傷ついているんだっけ)
 ぼんやりとそう思った。
 肩に触れて揺すった。そっと弱く。次に強く。
 トン―――。
 力いっぱい叩いたはずの拳は、軽い音をたててその赤い胸の上に落ちた。
「……………ッ!」
 何もかもが、声にはならない。
 嫌々をする子供のように首をふる。
 また唇が動く。けれど、空気をふるわすだけ。名を呼べない。
 呼びかけることができない。
 激しくその体を揺さぶった。いま出せるだけの力を全部使って。
 目を覚ます気配はない。
「………、………ッ………!」
 名前を呼ぶことができたら、起きてくれるだろうか。
 声にできれば、「起きてください」って言うことさえできたなら。
 目を開けて、少し困ったような表情で微笑ってくれるだろうか。
 だって、昨日まで笑っていた。言葉をくれた。
 そのやわらかな声で。
 頬に触れてきたてのひらは、あたたかかった。
 やっと言葉にできたのに。
 やっと言うことができたのに。
 くちづけしてくれたのに。
 ほんの、昨日のこと。
 この明けようとする夜が訪れたときに。

 その囁きを、聞いたのに。

 リフレイン。
(お前といて、ようやくオレは自分が生きていてよかったと思えるようになったんだ………)

 アメリアは耳を塞いだ。
「―――――――――――――――――――ッッ!!」
 声にならない絶叫が、生きるもののいない丘の大気をふるわせた。


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5095時の旋律 過去篇・第4章―封印―桐生あきや 12/6-02:08
記事番号5009へのコメント



 リナたちが来たときには、全てが遅すぎた。


 アメリアの部屋を出て、リナは真っ直ぐ自分の部屋へと駆けこんだ。
 ドアと閉めると同時に、こらえきれなくなった涙が頬を伝い落ちる。
「………っ」
 嗚咽が喉をついてでる。吐き出す息がどうしようもなくふるえた。
 やり場のない感情が、拳を壁に叩きつけさせた。
 何度も叩きつける。
 この胸の罪悪感が消えてなくなるまで。
「………ナ、リナ!」
 腕をつかまれて、名を呼ばれた。顔をあげるといつの間に部屋に入って来たのか、固い表情のガウリイがいた。
「やめろ」
 ふりほどこうとしたリナの腕から、力が抜ける。
 そのままガウリイの胸に顔を押しつけた。
「アメリア………ッ」
 そっとその肩を抱きながら、ガウリイ自身の手もかすかなふるえを帯びていることを自覚する。
 狂ったようなフィリアの―――それもこともあろうにスクルドからの通信に、ルナとルークだけを前線に残して、リナたちは急げるだけ急いで帰ってきた。
 それでも、すべては遅すぎて。
 何の悪意もゆるさないほど澄み渡った青空の下、大半が腐り落ちたラベンダーの丘。
 折り重なる幾つもの骸(むくろ)。
 そして、声をかけるのをためらうほどの静寂の中、ひとり座りこむ小さな影。
 その時すでにその瞳は、映し出すものすべてを拒むようになっていた。
「もっと早く、帰ってこれたら………っ」
 リナがふるえる声で呟いた。
「過去は変わらないぞ」
「でも、でも………たった一人、みんなの遺体に囲まれていったいどんな………! もっと早く、帰って来れたら。フィブリゾの罠に、はまらなければ………」
「みんなそう思ってるんだ………。みんな自分を責めてる。俺だってそうだ」
 辛抱強くガウリイは言い聞かせる。リナにも、そして自分にも。
「だから、泣いてもいいけど、一人で背負いこむんじゃない。頼むから………」
 ガウリイの言葉に、こくんと小さくリナがうなずいた。
 そのとき。
 絶叫が響いた。
 陶器が砕け散る音が、かすかだけれど二人の耳に届く。
 続いて、シルフィールの悲鳴も。
 リナとガウリイは部屋を飛び出した。
 同じ回廊に並ぶアメリアの部屋から、シルフィールの叫び声が聞こえてくる。
 やがてシルフィールが部屋から出てくると、ガウリイの姿を見て、叫んだ。
「ガウリイさま、アメリアさんを止めて下さい! 抑えてつけて!」
「アメリア!」
 シルフィールの制止も聞かず、リナが部屋の中に飛びこんでいく。
 部屋の中はメチャクチャだった。
 陶器の水差しが床に砕け散り、石モザイクの床一面に水が飛び散っている。椅子は転がり、寝台の上もぐちゃぐちゃだった。
 その散乱する物に囲まれるようにして床に座りこんだアメリアが、リナを見た。
 見ているようで何も見ていない。
 まるでリナの頭のすぐ後ろに灰色の壁が存在していて、その壁を凝視しているような目だった。
 リナの背筋に悪寒がはしる。
 これは誰?
 こんな目をした少女は知らない。自分の知っている少女ではない。
「アメリア………」
 ふっとアメリアの視線がそらされた。その手が、床に落ちた陶器の破片をにぎりしめる。
「――――――!!」
 止める間もなく、その切っ先が、勢い良くアメリアの頬を切り裂いていた。
 鮮血が飛び散る。
 それでもアメリアは止まらず、腕や肩、足を次々に切っていく。
「やめて! アメリア、手を離して!」
 リナがアメリアを抱きしめて、押さえこもうとする。抗うアメリアの手のなかの破片が、リナの肌を傷つけた。
 ガウリイがリナとアメリアを引き離して、押さえこんだ。
 手のなかの破片をリナが奪い取る。リナの手のひらを破片が鋭く切り裂いた。
「アメリア………!」
「や………っ、いやあああああぁっ!」
 何も映し出さないその瞳の奥で、不意に光がまたたいた。
 ガウリイの一瞬の隙をついてその手をふりほどくと、神気で生み出した短剣がアメリアの手に現れる。
 初めてその濃紺の光のなかから、涙が溢れ出した。
「私です! 私が………っ!!」
「そんなことありません。そんなことない……っ!」
 シルフィールの言葉は届かない。
 涙と光が満ちる瞳は、外の世界を拒み続ける。

 ―――もう言葉はとどかない。ぬくもりも伝わらない。あの瞳は自分を見ない。あの声は聞こえない。すべてが足りない。満たされない。

 それならば、すべて―――
「―――いらない! 私なんかいらない!!」
「アメリア!!」
 リナが悲痛な声をあげた。
 刃が喉を突く寸前、ガウリイの腕がそこに割りこんだ。短剣はガウリイの腕へと食いこむ。
 シルフィールの眠りの魔法がアメリアにかかり、短剣は虚空へ溶け消えた。
 破片の上へ倒れこもうとするその体をリナが抱きとめ、抱きしめる。
「アメリア、ごめん………ごめんね………」
 リナが、そっと囁いた。



 それから数日が過ぎて、リナとシルフィール、フィリアはひとつの部屋に集まっていた。隣りはアメリアの部屋で、ガウリイが彼女を看ているはずだった。
 テーブルの上では、フィリアが淹(い)れてくれた香茶が、誰の手もつけられないままにすっかり冷たくなっている。
 リナたちがいる扉を開けて、前線から戻ってきたばかりのルークとルナが入ってきた。
 部屋にいる三人を一目見て、ルナが無言で片眉をはねあげる。
「リナ、シルフィール。あんたたち、ちゃんと寝てるの?」
 顔を見合わせて沈黙する二人に、ルナは溜め息をついて何も言わなかった。
 視線で問うルークに、シルフィールが首をふる。
「だめです。いくら傷を癒しても、すぐに新しい傷を作ってしまうんです。割れるものとかを遠ざけて、神気を封じていても、自分の爪で………。ゼルガディスさんが死んだことを、自分のせいにしてしまってて………」
「でも、あれはどうしようもなかったじゃないですかっ。丘をおおう闇なんて!」
 フィリアが悲壮な顔で反論する。通信のオーブの部屋が、たまたま丘とは反対の東側に位置していため、彼女はかろうじて助かった。
 ただ瓦礫に足をはさまれて、アメリアのところに行けなかった。それだけが、フィリアの悔いていること。
 もっと早く、あの丘に駆けつけることができたなら。彼女にあの絶望を味わわせずにすんだなら。
「フィリア、違うのよ。逆なのよ。どうしようもないから、自分のせいにすることしかできない………」
 リナが淡々とフィリアに応える。
 シルフィールがこらえきれなくなって、両手で顔をおおった。
「私の力では、体は癒せても心は癒せないんです。自傷をしないときは、ただ人形のようで、言葉も話してくれないんです………。
 ―――もう見てられません………! あんなに元気な人だったのに!」
「そんなにひどいのかよ………」
 ルークがうめいた。
 肩をふるわせるシルフィールの背中を、そっとさすってリナは静かに姉神を呼んだ。
「姉ちゃん」
 リナの声に、ルナは顔をあげる。
「何?」
「眠りの神聖文字(ルーン)、貸してくれない? それ以上は迷惑かけないから」
 リナの考えをなかば予測しながらも、ルナは尋ねてみた。
「いいけど、どうするつもり?」
「アメリアの記憶を封じて、眠らせる」
「リナさん?」
 リナは大きく息を吐き出して、片手で顔をおさえた。
「もう、それしか思いつかないの………。合成獣にされた時点でゼルは輪廻の環から外れてしまってる。あの子は、もう二度とゼルに逢うことができないのよ………」
 かすれた囁きは部屋の空気をかすかにふるわせて、溶けていく。
「間違ってるって、わかってる。何の解決にもならないって知ってる………だけどお願い、みんな。協力して………」
 聞いている方の胸まで痛くなるようなリナの囁きに、部屋の全員が黙って、うなずいた。



 暴れるアメリアの体を、ガウリイとルークが押さえつけた。
 涙をこらえて、シルフィールがアメリアの体の傷を癒した。いつか再び目覚めることがあったら、そのときに傷があってはいけないから。
 そう、目覚めることがあったなら。
 リナは、泣くのをやめようとは思わなかった。ただ静かに溢れ出す涙が、頬を伝い落ちていく。
 拭う気もなかった。
 静かに呪を唱えると、アメリアの額にそっと指先を触れさせた。
 暴れていたアメリアの体から、力が抜けていく。
 リナはふり返ってうなずいた。
 それを受けて、フィリアが手をかざす。
 虚空に、ルナから借り受けた眠りの神聖文字(ルーン)が浮かび上がった。
 アメリアの瞳が閉ざされる。
 すぐにその体は淡い光に包まれ、神気へと還っていった。
 しょせん自分たちはそういう存在だ。
 眠りについたアメリアには、実体を持つことが許されない。
 死ぬと神気に還ることなく、そのまま朽ちていくのにもかかわらず。
 なんて皮肉。
「ごめんね、アメリア」
 リナがまた、囁いた。


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5097号泣(T‐T)雫石彼方 E-mail 12/6-03:40
記事番号5095へのコメント


ええ、もう。タイトル通り、号泣させていただきました(^^;)

どうしようもないから、自分を責めて、自分の体を傷付けるアメリアが痛々しくて・・・;「私なんかいらない」っていうセリフに、アメリアの心の痛みが全部表れてたなー、と思います。アメリアだけじゃなくて、間に合わなかった人たちも物凄く辛かったでしょうね;リナがアメリアにあんなに過保護になったのも、必然って気がします。あぁぁ、切ない・・・・。

アメリアが眠りについてしまったから、過去篇はこれで終わりでしょうか?それともまだリナ達の話があるのかな?どっちにしろ、楽しみにしてます。それでは。



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5106な、泣かないで(慌)桐生あきや 12/7-16:16
記事番号5097へのコメント


 昨日、帰宅した途端爆睡してしまい、アップとレス返しができませんでした。あう。

>ええ、もう。タイトル通り、号泣させていただきました(^^;)
 ああ、そんな……。

>どうしようもないから、自分を責めて、自分の体を傷付けるアメリアが痛々しくて・・・;「私なんかいらない」っていうセリフに、アメリアの心の痛みが全部表れてたなー、と思います。アメリアだけじゃなくて、間に合わなかった人たちも物凄く辛かったでしょうね;リナがアメリアにあんなに過保護になったのも、必然って気がします。あぁぁ、切ない・・・・。
 次辺りから、過保護炸裂って感じです(笑)

>アメリアが眠りについてしまったから、過去篇はこれで終わりでしょうか?それともまだリナ達の話があるのかな?どっちにしろ、楽しみにしてます。それでは。
 一応、アメリア視点の話のはずなので、お終いです。もう少し書いてもいいかなと思うんですけど、メインは現代なので(笑)
 次からやっと現代篇にもどります。
 がんばります。

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5098・・・・っ!←声にならない声らしいです。あごん E-mail 12/6-19:26
記事番号5095へのコメント

こんばんは、あごんとゆー者です。

もーどう言えばこの心を的確に表せるのかわかりません。
他の戦乙女達が死ぬのも、ゼルが死ぬのもわかっていたのに。
過去には絶望という名の嵐があることは知っていたのに。

それでも尚、新鮮(と云うのもおかしいですが)な驚愕を感じました。
アメリアが・・・・。

あうあうあうあうあうあうあう!!
↑言葉で表現出来ない為、このよーな表現になってしまいます(泣笑)。

フザケてませんよっ!?
マジでっ!うまく表現出来ないんですぅぅぅっ!

ああ。次回が混沌・・・いや、とことん気になります!
ジグルドをかばったアメリアが心配です。
リナの言う通り、今度こそは救われますように。
ジグルド(ゼルガディス)もアメリアも。

ではでは、日本語下手なあごんでした!
次回を楽しみにしております!
祈りと感謝と尊敬を込めて。

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5107初めまして、ですよね?(汗)桐生あきや 12/7-16:27
記事番号5098へのコメント


 こんにちわ〜。なんだかとんでもない時間です(笑)。
 いままで寝てました(涙)。
 はじめまして、ですよね?(汗)
 個人的に著者別リストの方で出逢っているので、記憶が混乱ぎみです(オイ)。

>もーどう言えばこの心を的確に表せるのかわかりません。
>他の戦乙女達が死ぬのも、ゼルが死ぬのもわかっていたのに。
>過去には絶望という名の嵐があることは知っていたのに。
 それを承知でラベンダーの章を書いた私は、かなり極悪非道な輩です(^^;

>ああ。次回が混沌・・・いや、とことん気になります!
>ジグルドをかばったアメリアが心配です。
>リナの言う通り、今度こそは救われますように。
>ジグルド(ゼルガディス)もアメリアも。
 いいかげん姫をいじめすぎなので、そろそろ幸せにしてあげないといけないですね(苦笑)。

>ではでは、日本語下手なあごんでした!
>次回を楽しみにしております!
>祈りと感謝と尊敬を込めて。
 ありがとうございますっ!
 そんなにたくさん込められると……あうう(感涙)。
 がんばります。

 桐生あきや 拝


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