◆−時の旋律(北欧神話スレイヤーズ)―連載開始にあたって―−桐生あきや(11/16-02:30)No.4905
 ┣楽しみにしてますv−雫石彼方(11/16-03:44)No.4908
 ┣全然おっけーっす。がんがん書いてください。−ねんねこ(11/16-15:23)No.4911
 ┣とってもおもしろそうです〜!!−緑原実華(11/16-16:50)No.4917
 ┣はじめまして・・・だったっけ・・・(不安)−稀虹 戯空(11/16-16:58)No.4919
 ┣凄いです!−水晶さな(11/16-23:22)No.4924
 ┣たのしみですっっっ−ゆえ(11/17-00:12)No.4927
 ┗Re:時の旋律 序章―こぼれおちた風景―−桐生あきや(11/17-01:00)No.4928
  ┣時の旋律 第1章―目覚め―−桐生あきや(11/17-01:09)No.4929
  ┣時の旋律 第2章―戦乙女―−桐生あきや(11/18-01:16)No.4934
  ┃┣まっておりました♪−ゆえ(11/18-01:31)No.4935
  ┃┗白いミニワンピは良いですな・・・(^^)−雫石彼方(11/18-05:17)No.4936
  ┣時の旋律 第3章―下界―−桐生あきや(11/19-00:29)No.4949
  ┣時の旋律 第4章―遭遇―−桐生あきや(11/19-01:11)No.4950
  ┣時の旋律 第5章―出逢い―−桐生あきや(11/20-00:17)No.4955
  ┣時の旋律 第6章―騎士と王宮―−桐生あきや(11/21-01:23)No.4960
  ┃┣いい雰囲気ですねv−雫石彼方(11/21-04:55)No.4961
  ┃┗こりは・・−桜井  ゆかり(11/21-23:44)No.4966
  ┃ ┗あのゲームです(笑)−桐生あきや(11/22-00:28)No.4967
  ┣時の旋律 第7章―抱擁―−桐生あきや(11/22-00:36)No.4968
  ┃┗楽しみにしてます♪−ゆえ(11/22-23:38)No.4976
  ┣時の旋律 第8章―神界―−桐生あきや(11/23-02:18)No.4978
  ┃┣ゼルーーv−雫石彼方(11/23-09:58)No.4981
  ┃┗自分で蹴ってますから大丈夫です(笑)。−水晶さな(11/23-23:43)NEWNo.4987
  ┗時の旋律 第9章―別れ―−桐生あきや(11/24-06:13)NEWNo.4991
   ┣時の旋律 断章―贖罪―−桐生あきや(11/25-02:48)NEWNo.4999
   ┗時の旋律 断章―死の先に続く道―−桐生あきや(11/25-02:55)NEWNo.5000
    ┗かっこいいですv−雫石彼方(11/26-07:42)NEWNo.5007


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4905時の旋律(北欧神話スレイヤーズ)―連載開始にあたって―桐生あきや 11/16-02:30



 おひさしぶりです。いや、ひさしぶりの人より、初めましての人が多いかもしれません。桐生あきやと言います。まだ新参者です(笑)。

 ………何やらとんでもないものを、ここにアップする気です。今日は、その予告に現れました(滝汗)。
 スレパロの範囲に入るのかわからず、またかなり長いので、アップしていいのか結構悩みました。が、結局欲求に負けました(爆死)。
 しかし、前回「楔」よりも遙かに長くなりそうです………。おまけに北欧神話だなんて、何てマイナーな………。
 好き嫌いがばっきり分かれるような気もいたしますが、心の広いかた、すさまじくメチャな設定を笑って許してくれる方、根気よくつきあってくれる気の長い方は、どうか読んでみてください。
 余談ですが、実は下の方のツリーのねんねこ様の小説の予告編を、いまごろ桐生は読みました(本編読み終わった後に著者別リストに行って読んだという………なんて失礼な)。そこに〈戦乙女〉とあって、ネタがかぶっていないか、いまかなり冷や汗ものです。あう。
 ここでいうのもおこがましいですが、ねんねこ様の小説はとてもすばらしいです。

 ちなみに〈戦乙女〉=いくさおとめ、と読みます。北欧神話に出てくる準女神たちのことで、神界に死せる戦士(エインヘルヤル)を連れてくる役目を負っています。ヴァルキリー(ヴァルキュリア)、ワルキューレ(ワルキュリア)など、呼び方は色々あって一定しません。
 本来の北欧神話ではかなりチョイ役ですが、桐生はこいつら大好きです(笑)。
 それでは、一応話の設定なんかを………(汗)。


【設定】(スレキャラの名前+北欧神話の神の名前、になっています)
○アース神族サイド
 主神スィーフィード・オーディン(とっくの昔に死亡。生きてられると話が進みません)
 女神ルナ・フレイ(スィーフィードナイト。現・主神代行。本当のフレイ神は男です)
 女神リナ・フレイア(フレイア神は、なんと愛と美の女神。おいおい、いいのかリナで)
 雷神ガウリイ・トール(文字通り、雷の神)
 戦神ルーク・チュール(軍神っす。なんとなくルーク)
 戦乙女アメリア・ヴァルキリー(この子を戦乙女にしたいがための、この話です)
 女神シルフィール・エイル(いやもう、癒しの女神は彼女しかいません)
 運命の三女神フィリア・ノルン=ヴェルダンディ(時にスクルド、ウルド)

 邪神フィブリゾ・ロキ(とっくの昔に死亡。ちなみにロキは虚偽と欺瞞、奸計の神です)

○ヴァン神族サイド
 主神シャブラニグドゥ・グルヴェイク(とっくの昔にスィーフィードが封印。そりゃね)
 冥府ニヴルヘイムの女王ゼラス・ヘル(フィブリゾの方がよかったかな?)
 その配下ゼロス(これは当然。当てはまる神は特にいません)
 魔狼ガーヴ・フェンリル(とっくの昔に死亡。なんとなくフェンリルのイメージ)
 その配下ヴァルガーヴ(元アース神族。離反してガーヴの元に。今はどこにいるのやら)
 大蛇ダルフィン・ヨルムンガンド(海の底にいるからという理由で、ダルフィン)
 巨人の国ヨツンヘイムの王ダイナスト・ウートガルザ(余ったので、なんとなく)
 その配下シェーラ・エッリ(ウートガルザの元にいる、老いという名の老婆……ごめん)

【注意】
 この話のなかでは魔族側=ヴァン神族として扱い、低級魔族以下のデーモンのことを別に魔族と呼んでいます。また、北欧神話でアース神族とラグナロクで戦うのはヴァン神族ではなく、巨人族ですが、ここでは巨人族はヴァン神族の配下です(なぜかこともあろうにダイナスト)。ヘルとかフェンリル自体もともとヴァン神族じゃないですし。
 ちなみに、ヴァン神族側。これだけ設定したにもかかわらず、この話ではゼロスしか出てきません(おいおい)。あしからず、ご了承ください(笑)。
 かーなーりいい加減だわこの設定(笑)。

【さらに注意】
 戦乙女のアメリアを書きたいがためだけに、北欧神話の神々の名前を借りただけなので、設定の歪め具合においては某戦乙女ゲームとタメがはれます(でも桐生はあのゲーム大好きです)。
 ので、間違ってもここでの北欧神話の設定を信じないでください(だれも信じないか………)。おまけにその某ゲームの影響がビシバシ見え隠れしています(どうか見逃して………)。

 追伸です:………ところで、設定読んだ時点ですでに皆さんお気づきだと思います。でも、口には出さないで(笑)。桐生もそれを承知でわざとここに書いていないのです。だいじょうぶです、ちゃんと、いますから(笑)。

 それでは、桐生あきやでした。  

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4908楽しみにしてますv雫石彼方 E-mail 11/16-03:44
記事番号4905へのコメント

どうも、雫石彼方です。
例のゼルアメ小説ですね!?凄く楽しみですv
北欧神話とか、外国の神話ってよくわかんないんですけど、こういう設定って結構好きです。戦乙女なアメリア!あぁ、なんか神秘的でよいです〜〜〜vv
私はほんとに全然知らないので、こういう設定の話を書けるのって羨ましいです。ゼミでは古事記とかやってる奴だし(汗)天照大神とかだったらよくわかるんですけどねぇ・・・・(←バカ)


では、楽しみにしてますので頑張ってくださいね〜♪

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4911全然おっけーっす。がんがん書いてください。ねんねこ E-mail URL11/16-15:23
記事番号4905へのコメント

ねんねこです。
文章中にねんねこの名前がチラッと出ててちょっとびっくりしました。
そぉぉんなことで悩まないで下さい。こんなに小説を書いてらっしゃる方がいるのだからネタの1つや2つ重なってしまうのは当然です。今回は偶然『戦乙女』が重なってしまっただけではありませんか。こちらは全然気にしないので、もうがんがん書きまくっちゃってください(笑)
それと、ねんねこのお話、読んでくださっただけで嬉しいです。

北欧神話……実は一度ハマっていろいろ調べてたんですよね(笑)
とあるゲームに北欧神話に関連する言葉がちらほら出てきて、『をを、かっこいいかも!?』などとはしゃぎ、その場のノリで……肝心の神話の内容は全く知らないのですが(死)しかも結局使うところがなくて、そのまま放りっぱなし、と(笑)

なんだか設定も凄い立派でしっかりしているので、楽しみに待ってます(はぁと)
ではでは、ねんねこでした。




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4917とってもおもしろそうです〜!!緑原実華 E-mail 11/16-16:50
記事番号4905へのコメント

こんにちは!!緑原実華です。
設定をよましていただいたのですが、とってもおもしろそうです!!
とっても興味持ちました〜!!
是非是非書いていただきたいです!

私の場合アメリアがよければそれでよし!!な人間なので・・・(笑)

それでは短いですが、この辺で!!
楽しみにしてますね!!

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4919はじめまして・・・だったっけ・・・(不安)稀虹 戯空 11/16-16:58
記事番号4905へのコメント


 初めまして・・・ですっけ? えーっと・・・(不安不安^^;)
 稀虹と申します。基本的に活動範囲は小説1、過去こっちにゼルアメ投稿したことありです。前のHNで。
 北欧神話、と聞いて飛びつきました。
 好きだー北欧神話ー!(笑)
 長い話大歓迎。アメリアがヴァルキリーですか。うみゅうみゅ。あ、ロキが死んでる・・・(笑)
 某戦乙女ゲームは持ってませんが(買ってる雑誌に漫画載ってるけど)私も次回作はちょっと北欧神話よりにしようと思っていて、なんとなく他人事に思えずレス付けまーす。
 応援してます。読ませて貰います。以後よろしくです(^^)
 では。
 (ところで、桐生さんが好きなカップリングって? ゼルアメですか?)

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4924凄いです!水晶さな E-mail 11/16-23:22
記事番号4905へのコメント


 あきやさんお久しぶりです、水晶さなです。
 凄いですね、近い日に新連載が固まって・・・読み応えのある日々が続きそうです(笑)。
 北欧神話いいじゃないですかー、私も好きなんですよ。ただ私の取った西洋古典の授業だとギリシャ神話中心だったので、あまり北欧神話が学べませんでした(泣)。
 設定も細かくて凄いです。ユグドラシルの木やミドガルズオルムも出てくるんでしょうか?(これしか知らない←爆)
 私の「Be Alive」も巨人族は一応北欧神話から取ったので、かなり設定に嘘つきまくりです(笑)。
 それはおいといて(苦笑)、続き楽しみにしてますので頑張って下さいv

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4927たのしみですっっっゆえ 11/17-00:12
記事番号4905へのコメント

こんにちは、ゆえです。

北欧神話の話ときき、設定を読んだだけでわくわくしました。
私ももともと神話が好きで、あるRPGに北欧神話が使われていたので、資料なんかを図書館でよみまくりました。

アメリアの戦乙女・・・いいですねぇ(うっとり)
早く読みたい一心です。
楽しみにしています。




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4928Re:時の旋律 序章―こぼれおちた風景―桐生あきや 11/17-01:00
記事番号4905へのコメント

 
 皆さまから、あたたかいレスを頂いて感激している桐生です。ほんと嬉しいです。
 水晶さな様のレスにもあったんですが、複数の連載が一気に始まっています。上の方にある桐生のツリーが大きくなって下を圧迫するのが怖いので、レス返しはここでさせてもらおうかな、と思っています。アップした瞬間にツリー落ちっていうのはかなり恐怖の出来事ですし(笑)。
 何はともあれ、序章です。短いです(笑)。

=========================================


 耳元で唸る風。
 体をおおう粘質の闇。
 融け崩れていく身体。のばした指先が弾かれて、砕ける。
「………っ!」
 意識に亀裂がはしる。
 腐臭がした。
 耐えきれなくなる寸前、力強い腕に抱きしめられた。
 ぽつりと耳元で囁かれた言葉は、風の唸りで届かない。
 温かい液体が体を満たして、流れていく。
 暗くなってゆく視界の中、最後に見たのは蒼い瞳。

 踏み荒らされる。
 壊されていく。
 その叫びはだれにも届かない。
 目の前で、光は閉ざされ、深く暗く押し込められる。
 蒼い瞳がどろりと融け崩れて、すべてを閉ざした。



 ―――右手をつないで 優しくつないで 真っ直ぐ前を見て
    どんな困難だって たいしたことないって言えるように
    ゆっくりゆっくり 時間をかけて
    また違う 幸せなキスをするのがあなたであるように


   (幸せなキスをするのが、あなたであるように)



========================================

 短っ。
 それでは、レス返しです。

 雫石彼方様
 例のゼルアメです(笑)。
 アメリアを戦乙女にしたいがために全ては始まったという………(^^;
 レスありがとうございます。がんばります〜!

 ねんねこ様
 驚かせてしまってごめんなさいです。
 そう言っていただけるとほんとに嬉しいです。
 ねんねこ様のお話読んでて、素敵な文章にノックアウトされてクラクラです。ファンになってもいいでしょうか(笑)?

 緑原様
 興味を持っていただけて嬉しいです! がんばってアメリアを書きたいと思います。

 稀虹 戯空様
 だいじょうぶです、ちゃんとはじめましてです(笑)。実はレスも書いていないのですが、パラレルをずっと読ませていただいてます。「葉」や「波」とかの設定にかなりクラクラ来ています。がんばってくださいね。
 私は基本のカップル(ガウリナ、ゼルアメ)が一番好きです。時々変則的にゼロリナだったり、ヴァルフィリだったりゼロフィリだったりします(節操無し……)

 水晶さな様
 こちらこそお久しぶりです。西洋古典の授業を取っているなんて羨ましいです。国文科の私は森鴎外たちに囲まれる日々を過ごしています(笑)
 「Be Alive」も読ませて頂きました! さなさんのゼルアメ大好きなんですよー! 二人がほんとにラブラブで………(爆死)。続き楽しみにしています(こんなところで感想を述べるな桐生)

 ゆえ様
 RPGに北欧神話って良く出てくるんですよね。私の興味も全てそこから始まりました。1のほうの天空歌集も楽しみにしています。

 それでは、桐生あきやでした。

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4929時の旋律 第1章―目覚め―桐生あきや 11/17-01:09
記事番号4928へのコメント


 荘厳な神界宮殿の廊下をリナは足早に歩いていた。磨き抜かれた白い大理石の床に、小柄な影が映りこむ。
 その途中の中庭に面した回廊で、リナは癒しの女神のシルフィール・エイルと、運命の三女神のフィリア・ノルン=ヴェルダンディの二人とすれ違った。
「どうしたんです、リナさん。そんなに急いで」
 長い金髪を揺らして、フィリアが声をかけてくる。運命の三女神であるフィリアは、ひとつの体を過去、現在、未来の三つの人格が共有していて、たまたま今は主人格のヴェルダンディ(現在)が表に出ていた。
 リナがフィリアをふり返る。
「姉ちゃんが呼んでいるの。遅刻したら殺されるわ。またね」
 ほとんど走り出しそうな勢いで、リナは別の回廊へとつながっている門をくぐって姿を消した。栗色の髪と衣のすそが、鮮やかに風にひるがえる。
 フィリアとシルフィールは顔を見合わせた。
「ルナさんが?」
「何が起きたんでしょう? 滅多なことでは、わたくしたちを呼んだりしませんのに」
 千年前の神界戦争で、アース神族は主神スィーフィード・オーディンを失い、現在ではその力と記憶を受け継いだ女神、ルナ・フレイがスィーフィードに代わって主神代行をつとめていた。
 すっ飛んでいった女神リナ・フレイアはルナの妹神にあたり、神々の中でも高い神格を誇る女神である。
 そのリナは、あれから幾つもの回廊とそれをつなぐ門を通り抜けて、ようやく目的の場所までたどりついていた。
 石と鋼(はがね)と水晶細工で造られた扉が開かれていく。
 壮麗な広間の床はなめらかに磨かれた水晶で、足元を見やれば、まるで鏡のように自分自身の姿が見つめかえしてくる。
 その水晶の床から、輝く無数の宝石の結晶柱が壁にそってのびていた。天井は、遙か高く遠くにあって、いまさら見あげてその果てを確かめる気も起きない。
 ここは神界宮殿でもっとも神聖な〈主神の間〉。
 だが、ここにいるべき主神はすでにもうこの世にはない。
 部屋の中央に位置するその玉座は空のままで、その脇に赤茶の髪を肩口で切りそろえた、リナによく似た女性が腕を組んで立っていた。
 主神スィーフィードがいないいま、アース神族のなかで最も高い神格と力を誇る、女神ルナ・フレイである。
「ちょっと遅刻よ、リナ」
 顔をひきつらせながら、リナはひたすら謝った。
「ごごごごごめんなさい、姉ちゃん」
「あんたはあたしの補佐なんだから、もっとしっかりしなくちゃダメでしょう」
 壊れた人形のようにリナがガクガクうなずくのを確認してから、ルナは小さく肩をすくめた。
「まあ、いいわ。今回あんたを呼んだのは別の用件があるからよ」
 ルナはすっとその表情を厳しくした。
「ヴァン神族に不穏な気配があるわ」
 リナの表情も厳しくなる。
 恐らく、ルナだけが覗く資格を持っている水鏡に何か映ったのだろう。
 千年前に神界戦争が終結して以来、アース神族とヴァン神族の間には、小競り合いはあるものの大きな争いは起きていない。
 初戦でアース神族の主神スィーフィード・オーディンが、ヴァン神族の主神シャブラニグドゥ・グルヴェイクを七つに分けて封印してもなお、千年間もえんえん続いたこの神界戦争に、双方ともに痛手が大きすぎて次の千年間は睨みあいを続けるしかなかったのだ。
「どういうこと? またシャブラニグドゥのカケラが復活するの?」
 七つのうち、三つは所在がわかっていた。ひとつは古代の魔道士で、すでにヴァン神族の手中に渡ってしまっている。二つ目はこの間、リナがじきじきに手を下して滅ぼした。
 そしてこれはリナとルナだけの秘密なのだが、三つ目はリナ自身で、さらにもうひとつ、知っているのはルナだけなのだが、四つ目は戦神ルーク・チュールだった。
 リナの言葉に、ルナは首をふった。
「いまのところカケラを持つ人間が生まれてきた様子はないわ。ただ、下界で何かしてるの。たいしたことなさそうなんだけど、いったい何のつもりかしら」
「話が、よく………わからないんだけど」
「多分ね、また暇つぶしをしてるんじゃないかと思うの。下界で」
 ヴァン神族が、たわむれに下界に介入し、混乱をもたらすことはよくあった。
「あまり下界に混乱を招かれても困るのよね。そうさせないために私たちがいるんだし」
「それで、どうすんの?」
 軽い口調でルナは答える。
「リナ、アメリアを呼んでちょうだい」
 リナの表情が固くなる。小さく首をふって、姉神の命令を断ろうとする。
「姉ちゃん、アメリアはまだダメよ………」
「あの子でなければだめなのよ。そろそろ人の補充も行う必要があるし。魂の英雄化を行えるのは、あの子だけなんだから」
 反論を許さぬ口調で、ルナは告げた。
「女神リナ・フレイア。あなたに命じます。戦乙女アメリア・ヴァルキリーを目覚めさせなさい」



 目を開けると、無数の紫色の花がアメリアを取りまいていた。
「いい匂い………」
 うっとりとそう呟くと、サクリと黒土を踏みしだき、生い茂るラベンダーに包まれながら、アメリアは神界宮殿を目指して歩き出した。
 美しき神界アースガルズ。いくつもの浮島が浮かび、その上に建つ無数の建造物に、流れ行く白い雲がからみつき、風に押されて名残惜しげに去っていく。壮麗なる神界宮殿を中心にアース神族が都を築き、その勢力を誇っている楽園。
 ゆっくりと歩いて神界宮殿の浮島に続く橋にたどりつくと、そこで小柄な少女がアメリアを待っていた。
 栗色の髪、鮮やかな赤い瞳。
 胸元と両の手首、そして腰には、神界戦争時にヴァン神族からまきあげたという呪符ブリーシングが輝いている。災厄の魔血玉として名高いタリスマンなのだが、この少女にとっては手頃なオモチャでしかないようで、普段から身につけていた。
 少女がにっこりと笑った。
「ひさしぶりね、アメリア」
 アメリアは駆けよって、その細い首に抱きついた。
「おひさしぶりです、リナさん! お元気でしたか?」
 それを受け止めて、リナは苦笑する。
「あったりまえでしょ。相変わらずね、あんたも。あんま元気すぎるとすぐ疲れるわよ?」
 それに言葉を返そうするより早く、別の声がアメリアとリナの頭上から降ってきた。
「そうだぞ、リナみたいになったらどうするんだ?」
「ガウリイさん!」
 アメリアが声をあげる。
 二人の背後には、雷神ガウリイ・トールが立っていた。戦の腕なら文句なしに神界最強なのだが、いかんせん物忘れがはげしくて、よくリナに叱りとばされている。
「それはどういう意味よ?」
 こめかみをひきつらせながらのリナの問いに、ガウリイはのんびりと答えた。
「いや、別に。それよりアメリア、ルナさんが待ってるぞ」
「あ、いけない!」
「あ、私も後から行くから」
「わかりました!」
 ぱたぱたとアメリアは走り出した。リナとガウリイをふり返って、手をふる。
「それじゃ、また後で!」
 橋を渡り、扉の向こうへと消えるアメリアを見送って、リナはふっとその瞳をかげらせた。
「なんだって、いまごろアメリアを………」
「そりゃ、アメリアが戦乙女のただ一人の生き残りだからだろ?」
「はいはい、それは憶えてたのね。っていうかよくアメリアのこと忘れてなかったわね。千年ぶりだっていうのに。あたしはそっちのほうが驚きよ」
 何も考えてなさそうなガウリイの言葉に、リナはいらだちながら適当に返事をする。
 たしかに先の神界戦争でアメリア以外の戦乙女は全員が戦死してしまい、アメリア自身も、もう少しで死ぬところだった。
 あの凄惨な光景を、千年たったいまでもリナは忘れることができない。
「もう、あんな思いをさせたくないのよ………。できればずっと、眠らせてあげたかったのに………」
 うつむいたリナの肩をそっとガウリイが引き寄せた。
「わかってる。ルナさんだって、ちゃんとわかってるはずさ」
「うん………」
 リナは小さくうなずいた。



「おひさしぶり、アメリア。元気そうで何よりだわ」
 ルナの言葉に、アメリアはうなずいた。
「どうもありがとうございます。ところで、どうして私を呼んだんですか?」
 アメリアの後ろで扉が開き、リナが〈主神の間〉に入ってくる。
「それはあたしから言うわ、アメリア」
「リナさん」
 姉の元まで歩いていくと、リナはアメリアに向き直った。こうして並ぶと姉妹だけあって、二人はやはりよく似ている。
 リナが告げる。
「ヴァン神族が下界で不審な動きをしているの」
「ヴァン神族が………!」
 アメリアの瞳に怒りの炎が燃えあがった。
「わかりましたっ、ヴァン神族の悪事を叩きつぶしてくればいいんですね!」
「あんた、相変わらずねえ………」
 リナが呆れたように呟いた。
「で、アメリアー? 聞いてるー?」
「―――っはい?」
背後に正義の炎を揺らめかせているアメリアに、リナが困ったように首をかしげた。
「それでね、それもあるんだけど、あんたにはもうひとつ、やってもらいたいことがあるのよ」
「勇敢な人間の魂を英雄化して神界に連れてきてちょうだい。そろそろ補充が必要なの。あなたにしかできないことよ、戦乙女アメリア」
 リナの言葉を継いで、ルナが口を開いた。
 長命のアース神族は、結婚して子を産むということをあまり行わないので、死んだ人間の魂を神の列に加えなければ神界軍を維持できない。
 そして、死んだ人間の魂を選定して神界へ運ぶことのできる採魂(さいこん)能力者は、現在ではアメリアただ一人だけだった。そのため、アメリアが眠っていた間、神界軍の総数は神界戦争で減ったときのまま、増えてはいない。
 人間の魂は、運命の三女神であるフィリアの手によって転生を繰り返す。
 その輪廻の鎖を一時的に断ち切って、人の魂を神々の列に加え、神界へ迎えることを、〈魂の英雄化〉と呼んだ。
 神々のなかでも、それを行えるのは戦乙女しかいない。
「はい、わかりました。正義の戦士を集めてくればいいんですねっ」
 無邪気なアメリアに、リナの表情がくもる。
 そんなリナの様子には気づかず、アメリアはひさしぶりに下界に降りることが嬉しいらしく、そわそわとしていた。
 ふわっとその背に、羽根がひろがる。
「じゃ、さっそく行ってきます!」
「だぁっ、ちょっとは落ち着きなさい、アメリア! 話はまだよ!」
 リナが慌てて走り寄ってきて、アメリアの背中の羽根をつかんで引きずりおろした。水晶の薄片のような淡い光でできたこの翼は、実際に背中から生えているものではない。つかんで引きずりおろすようなメチャクチャな芸当ができるのは、リナぐらいのものだ。
 べちゃっとアメリアが水晶の床に激突する。
「リナさん………痛いですぅ………」
「あんたねぇ、起きぬけでまだ何の装備もしていないでしょっ。向こうに色々あるから一緒に来るの! それからっ、定期的に報告に帰ってくること! それと、下界まではあたしが送ってあげるから。いいわね!?」
「はいいいぃ〜〜〜」
 ずりずり引きずられながら、アメリアは返事をした。
 それをニコニコと手をふって見送ってから、ルナは苦笑する。
 妹神よりもやや色の明るい髪をかきあげながら、誰に聞かせるでもなく呟いた。
「リナに怒られるかしらね………」

   

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4934時の旋律 第2章―戦乙女―桐生あきや 11/18-01:16
記事番号4928へのコメント


 最初っからタイトルを打ち間違えて、出だしからつまずいてしまいました(−−;
 入院している一坪様に修正していただくのもなんですし、下にツリーをつけてしまったので、このままで行きます。そのうち忘れたい過去の1ページになるでしょう(笑)。
 それでは第2章です。

=========================================


  リナの後について、アメリアはひさしぶりの神界宮殿を歩いていた。石と宝石と美しい草花で埋めつくされている宮殿は、陽の光を受けてまぶしくきらきらと輝いている。
 リナに連れられたアメリアを、シルフィールとフィリアが出迎えた。
 黒髪をさらりと揺らして、シルフィールが微笑む。
「おひさしぶりです、アメリアさん」
「はい、シルフィールさんも!」
 フィリアがシルフィールを押しのけて、がしっとアメリアの手をとった。
「ヴァン神族を叩きのめしに行くんですよねっ!? がんばってください! あんな生ゴミ神族に負けてはなりませんわっ」
「………………ウルドさんの方ですね」
 三人のなかで最もテンションが高い(別名ヒステリックともいう)のがウルド(過去)で、最もまっとうで常識的でお茶好きなのがヴェルダンディ(現在)、最もテンションが低くて骨董品――特に壺が――好きなのがスクルド(未来)だ。
 このテンションの高さは、どう考えてもウルドだった。
 フィリアの手をリナがふりほどく。
「はいはい、アメリアには用事があるのよ。またねフィリア、シルフィール」
 そう言って、リナは強引にアメリアの手をとって回廊の先へと歩いていってしまう。
「あうううう、またです〜〜」
 アメリアは引きずられながらも、二人に向かってどうにかお辞儀をすることができた。
「何なんですか、リナさんは!」
「やはり、アメリアさんを起こすのが嫌だったのかもしれませんね」
 シルフィールのその言葉に、フィリアの表情がくもった。
 神界戦争の終結間際のあの出来事は、だれもが知っていて、だれもが口には出さないことだ。
 フィリアは溜め息をついて、その言葉に賛成した。
「そうですね、私もアメリアさんがまた目覚めるとは思いませんでしたから………」
 二人はリナとアメリアが消えた先を、そっと見つめた。


 リナがアメリアを連れていった先は、白い小さな部屋だった。窓はなく、四方の壁は微妙に色調の違う白い石が交互に積み重なってできている。床も同じように白の石モザイクだった。
 部屋の中央には、これもまた純白の石材で造られた大きな水盤があり、くり抜かれたその内側には水がたたえられ、小さな泉となっている。
 鏡のように波ひとつない、なめらかなその水面を覗きこんでみても、どういうわけか底は見えない。
「ほら、さっさと入った入った」
「そう急かさないでくださいよう」
 そう言いながらも、リナが何をするかわかっているアメリアはおとなしく泉の中央に立つ。
 底が見えない泉にもかかわらず、水はアメリアの足首までしか届かない。
 この泉の水は、水であって水でない存在だ。
 泉の中央に立つアメリアをリナが見上げた。
「とりあえず、あんたの武具をあんたに返すからね」
「はい」
 アメリアはうなずいた。
 リナが目を伏せて、呪文を唱え始める。
「そは泉。すべらかなりし流れの元素なれど、我らが定めた神気(しんき)の姿。いまこそ元素の形を解き、在るべき姿を取り戻さん………」
 リナの詠唱が進むにつれて、鏡のようになめらかだった水面に波紋が起きはじめた。
 波紋はさざ波となり、徐々に激しく高く水飛沫が跳ねあがる。濡れた衣のすそが足に張りついて、肌の色を透かせた。
「そに刻まれし過去を元に、流れが形をとることを我は許す。形の主は採魂者たる戦乙女。速やかにアメリア・ヴァルキリーの意に従わんことを!」
 水が水面から躍りあがり、渦をまいてアメリアを包みこんだ。
 光をはじく水流が羽根兜の形をとり、鎧となり、篭手(こて)となり、鉄靴(てっか)となってアメリアの体にまといついていく。
 最後に大きな弧を描く、美しい細工の大鎌がアメリアの手の中に現れた。
 水滴が泉に一滴だけ落ちて波紋を描き、すぐに消える。
 リナが大きく息をついた。
「はい、これで全部よね。あんたが体術のほうを得意にしてるのは知ってるけど、一応、大鎌は採魂(さいこん)の象徴だし、持っときなさいよ?」
 リナの言葉を裏付けるように、アメリアの鎧は胸だけをおおう簡素なもので、軽さを重視していることがわかる。
「わかってると思うけど、神気で創られているものだから、あんたの意志で自由になるからね」
「わかってますよ」
 アメリアはそう言うと、さっそく大鎌を神気に戻した。大鎌は溶けるように手の中から消えていく。
 それからアメリアは不思議そうに自分の出で立ちをながめて、言った。
「リナさん………私の鎧って、こんな色でしたっけ?」
 肘から先をおおう篭手(こて)も、膝から下を包む鉄靴(てっか)も、羽根飾りのついた兜も、すべて艶を消した金色だった。
 リナの目元がぴくりと動いた。
「………そうよ。前からこんな色だったじゃない」
「そうでしたね。忘れっぽくていけませんね」
 リナの言葉のわずかなためらいにも気づくことなく、アメリアは武具を全て神気に戻し、元の服装に戻った。
 白い上下に白いマントのその姿にリナの表情がなごむ。
「その服装と見てると、あんただな〜って思うわ」
「えへへへ、そうですか?」
「そうよ」
 言いながら、リナの姿は淡い光に包まれた。女神の衣から黒いショルダーガードとマントを身につけた魔道士の姿へと変わる。
「神界戦争のときみたいですね」
 アメリアの言葉にリナは苦笑する。この魔道士の格好は、戦装束でもあったが、下界へ降りるときの服装でもあった。
 アメリアをともなって、リナは部屋の外に出る。
 庭先まで歩いていくと、リナはアメリアをふり返った。
「アメリア、英雄化する魂だけど、そう数は考えないで。確かに人手は足んないけど、それほど深刻な問題でもないから。目立つとヴァン神族を刺激することになるしね。それからヴァン神族の動きだけれど、探るのはいいけど、あまりムチャしないで」
 言いながら、リナがふわりと宙に浮く。アメリアもそれにならって羽根をひろげた。リナほど神格が高くないアメリアは、飛翔の象徴である羽根を出現させずに神界の空を舞うことはできない。
 中庭からこちらを見上げているシルフィールとガウリイに、アメリアは手をふった。フィリアはどこに行ったのか姿が見えなかった。
 強い移送の力が二人を包みこんだ。
 リナが告げた。
「じゃあ、行こっか。下界ミッドガルドへ」


=========================================


 すごい蛇足ですけれど、アメリアの衣装についてちょこっとだけ説明を。お願いします(拝み倒し)。
 いちばん近いのは、聖剣伝説3のリースというキャラクターの格好です。
 次に近いのが、TRYのギャグ月間の流星戦士ピースマンの時の衣装(コラ待て桐生っ)をノースリーブにしたやつでしょうか。
 白いミニ丈のスリップドレスの上から、カタチ的にはミリーナの鎧のようなものを着けて、篭手と鉄靴は、某戦乙女ゲームのような、肘と膝までをおおうものを着けています(どれも知らないという方、すいません、ごめんなさい!)。
 いや、強調したいのは白いミニのワンピってことだけなんですけど(笑)。
 で、手には鎌(笑)。草刈り用の鎌ではなく、どちらかというと死神が持つような………(おいおい)。
 ちなみに、ほんとの神話のヴァルキリーは大抵、槍か剣で、鎌なんか持ってはいません。桐生の世界観はかなりどうでもいいみたいです。
 これをカワイイと思うのは桐生だけか?? 桐生だけでしょうね、多分(苦笑)。
 以上、蛇足の説明でした。m(_)m

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4935まっておりました♪ゆえ 11/18-01:31
記事番号4934へのコメント

おおおっ、もう2話まできてますっっ。

北欧神話のあの重厚さそのままで、スレのキャラが光ってますね。凄いです。
とくにアメリアの戦乙女姿は・・・いいですね〜。
今後の展開から目が離せません。

しかし、ノルン3人入りのフィリアには驚きました(笑)
テンション高いのがウルドになってましたが、いろっぽい路線でもおもしろいかーなんて・・・勝手いってすみません・・

続きがはやく読みたいですって催促しちゃます。
楽しみにしてます。

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4936白いミニワンピは良いですな・・・(^^)雫石彼方 E-mail 11/18-05:17
記事番号4934へのコメント

こんにちは、雫石です。
もう、素敵すぎですv先が楽しみですね〜。ルナさんも何か隠してるみたいですし。
リナがアメリアを大事に思ってるんだなーってのがわかってよかったですよぅ。あと、人格が変わるフィリアがなんかとても好きです(^^)
アメリア、戦乙女の最後の生き残りなんですね。すっごくろまんちっく〜な設定で嬉しいですv

> いや、強調したいのは白いミニのワンピってことだけなんですけど(笑)。
> で、手には鎌(笑)。草刈り用の鎌ではなく、どちらかというと死神が持つような………(おいおい)。
> ちなみに、ほんとの神話のヴァルキリーは大抵、槍か剣で、鎌なんか持ってはいません。桐生の世界観はかなりどうでもいいみたいです。
> これをカワイイと思うのは桐生だけか?? 桐生だけでしょうね、多分(苦笑)。

白いミニのワンピ、かわいいvvアメリアによく似合いそうですよね!
鎌も、かわいいと思います!鎌って、いろんな武器の中でも凄く好きなんですよ。特に、アメリアみたいにちっちゃくて可愛い女の子が死神みたいな大鎌持ってると、そのギャップがすごくかっこいいというか何と言うか・・・・。

やっぱり、桐生さんのお話すごく面白くて上手くて大好きです。
これからの展開に心トキメかせつつ(笑)、この辺で。

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4949時の旋律 第3章―下界―桐生あきや 11/19-00:29
記事番号4928へのコメント


 リナとアメリアが出現した場所は、どこかの街を見下ろす空の高みだった。丸い大きな森があり、その周りを囲むように家々が立ち並んでいる。
 昇ったばかりの太陽の光が、大地を染めあげ、街に森の影をつくっていく。
 光の薄片を羽毛のように散らして、アメリアの背から翼が消えた。神界の空では翼を必要とするが、下界の大気の中でならアメリアでも翼を使うことなく空を舞うことができる。
 荒々しい風がアメリアの黒髪と、リナの栗色の髪を乱した。
 下界ミッドガルドは混沌とした世界で、すべてが穏やかに調和を見せる神界アースガルズとは何もかもが違う。
 呆然とアメリアは呟いた。
「ここが下界………」
「そうよ。寝ている間に忘れちゃった?」
「かもしれません」
 リナのからかいの言葉に笑って返すと、リナも笑った。
「現在の下界の情報をアメリアに与えるわ」
 そう言ったリナの指が、アメリアの額に触れた。膨大な情報がアメリアの頭に流れこんでくる。
 ゼフィーリア。エルメキア。カルマート。セイルーン………。
 北にはカタート山脈。シャブラニグドゥに仕える五人の腹心の一人、冥府の女王ゼラス・ヘルがいるという氷の国ニヴルヘイムへの門がある。
 滅びの砂漠と呼ばれる大陸の東には、神界、下界すべての界を支えている世界樹ユグドラシル。
 指を離すと、リナはその手で風に流される髪を軽くおさえた。下界の朝日を浴びてその髪は、溶けるような赤みがかった蜜色に染まる。
「それじゃ、あたしは帰るから」
「はい、ありがとうございました」
 礼を言うアメリアに、リナの真紅の瞳が愛おしげにそっと細められる。
「アメリア………」
 その手がアメリアの頬に触れた。
「あんま無理するんじゃないわよ。気楽にやんなさい。戦乙女アメリア・ヴァルキリー」
 正式な神格の名で呼ばれて、アメリアは目を見張ってうなずいた。
 軽く言われる口調の中に、隠しようもない気遣いが溢れているのがわかる。
「はい、わかってます」
「ん、それじゃね。適当に英雄化したら、そいつ連れてちゃんと報告に戻ってくんのよ」
 立ちのぼる陽炎のような揺らめきを空間に残して、リナの姿は消えた。
 アメリアは眼下に広がる街を見下ろした。
 リナからもらった情報によると、サイラーグと呼ばれる大きな街だ。人間たちが神聖樹と呼ぶ大きな古木の周囲に街が広がって栄えている。さっきアメリアが森だと思ったのは、一本の木だったようだ。
 アメリアはそこに行くことにした。
 街の近くの森に降り立ち、街に入る前に自分におかしいところがないかよく確認する。
 羽根は生えてない。戦装束でもない。大鎌も持っていない。無意識に神気で全身をおおって人の目には見えないようにもしていない。
「よしっ」
 元気良くうなずいて、アメリアは街の門をくぐった。



「わあ………」
 大通りに足を踏み入れたアメリアは思わず歓声をあげていた。
 まだ朝も早いというのに、立ち並ぶ露店には物が溢れ、元気な呼び声が飛び交っている。
 アメリアは下界が好きだった。
 朝の、これから混み始める通りのにぎわい。ちょっと意識を澄ませれば、あちこちから人の生きる力が感じ取れる。
 活気に溢れた、生きていく意志。
 今日をすごすこと、明日が来ることを強く願う、人の心。
 生きる意味と死ぬ意味を知る前に、命尽きてしまう弱い存在だというのに、いや、だからこそ彼らの発する活力は、アース神族よりも力強い。
 アメリアは人間のそんなところが好きだった。
 きょろきょろと物珍しげに露店を見てまわっていると、焼き菓子を売っていた中年の女性に声をかけられた。
「この街は初めてかい?」
 アメリアがうなずくと、その女性は豪快に笑った。
「いいところだろう? しかしあんたみたいなちっこいお嬢ちゃんが一人で旅をしているのかい? 連れは?」
「あ、ええと………別々に街を見てまわろうと言うことで………」
「そうかいそうかい。でも気をつけるんだよ。いくら治安がいい方だと言っても、どこにでもバカはいるもんだからねぇ」
 素直にうなずきかけて、アメリアは慌てて口をはさんだ。
「治安がいいほうって、どこか悪いところがあるんですか?」
 アメリアは、下界でヴァン神族が不穏な動きをしているという情報も、それを探るために自分が遣わされたということも、もちろん忘れてはいなかった。
「そりゃ上には上が、下には下があるもんさ。でもお嬢ちゃん、これからどっか行くんだったら、セイルーンはやめときな」
「セイルーンですか?」
 中年の女性は嫌そうに顔をしかめた。
「あそこは何やら王位継承でごたごたしていてね、治安も今ひとつだって噂だよ。連れがいるんだったら、その人にもやめるように言うんだね」
 行ってみる必要がありそうだった。
 英雄の魂を集めながら、そのうちセイルーンに向かおうとアメリアは思う。
「わかりました。ご丁寧にありがとうございます。焼き菓子をひとつくれますか」
 中年の女性は笑った。
「おや律儀だねぇ、あんたも。こんなことに礼をする必要はないんだよ」
「いえ、朝御飯がまだなので」
「そうかい、なら喜んで売らせてもらうよ。銅貨三枚だよ。一枚おまけしとこうね」
 売り上げの入っている箱のなかの硬貨をすばやく観察して、アメリアは神気を使って銅貨を三枚創りだす。
 素材も刻印も箱の中の銅貨とまったく同じものだから、アメリアが神気に戻るよう念じないかぎり、これは本物として流通していくだろう。
 銅貨三枚を女性に手渡し、アメリアは焼き菓子の入った袋を受け取った。
 そのまま通りを歩きながら、かじる。
「はう〜、おいしいですぅ」
 干しぶどうとクルミの香ばしい味が口いっぱいに広がって、文句なしにおいしかった。
 アース神族とて食事はするのである。ただし、食事の必要がないことも事実だった。
 食事の形で栄養を摂取する必要がないので、アメリアやリナが食事をとるのはただ純粋に楽しむためだ。
 そして、神気を源として物質を創造することのできるアース神族は、料理もする必要がない。だがシルフィールやルナ、リナなどはよく自ら料理をした。
 その気持ちはよくわかる。自分で創りだしたデザートや肉料理などは、食べてても、あまりおいしいとは思えない。
 途中の露店でミルクも買って、アメリアはおいしく焼き菓子をいただいた。
 食べ終わってしまうと、アメリアは人気のない路地へと入った。
 人の姿がないのを確認してから神気をまとい、人間の目に姿が見えないようにする。そうして、ふわりと宙を舞って、神聖樹フラグーンの枝のひとつへと飛びあがった。
 街の一区画がすっぽり収まってしまうほどの大きな古木だ。下界の人々が、神聖樹と呼んでいるのも納得できる。
 涼しい朝の風が吹きすぎて、梢をざあっと揺らしていく。
「平和で、いい街………」
 そう呟いたアメリアの表情がフッとくもる。
 アメリアには死の気配を感じ取る能力が授けられていた。普段からも、漠然とした予感のようなものを感じたりするのだが、死が間近に迫っている人間のそばに行くと、それは香りとなってアメリアにその人の死を知らせてくる。
 そうして死んだ魂を見つけ、神界へといざなうのだ。
 だが、このあたりでは英雄化を行うに値する死者の魂を見つけることができそうになかった。
 皮肉なことに、平和だから。
 戦乙女であることが少しイヤになるのはこういうときだった。
 平和なことは良いことなのに、自分の仕事は平和なときにはやりづらいことなのだ。
「セイルーンへ行ってみようかな………」
 さっきの女性がや止めておけと言った国。
 リナがくれた情報によると、大神スィーフィードを祀る大国で、王都は白魔術都市と呼ばれているらしい。もし、そんな国でヴァン神族が何やら画策しているとしたら、これほどアース神族をバカにした行為はないだろう。
 そんなことは許せなかった。
 もしそうでなくとも、アメリアにはヴァン神族を許すことができない。

 (そうよ)
 (だって、あんな………)

 ―――あんな?
 アメリアはまばたきをした。
 何かの言葉が自分の中にわきおこって消えたような気がする。何なのだろう。
 だが、それは一度きりで、思い出すことはもはや不可能だった。

 
=========================================

 それでは、レス返しです。

 ゆえ様
>北欧神話の重厚さそのままで
 もう少ししたら、ちっとも重厚じゃなくなるかもしれません(汗)。
 いろっぽいフィリアって………どんなんなるんだろう……?
 今度やってみます(笑)。元のフィリアの性格を3分割しただけなんですよ。ゼロス相手にキレてるときがウルドの状態という(^^;

 雫石彼方様
 今回のアメリアのコンセプトはいかに周りから溺愛されているかということです(笑)。………違うだろ桐生。ゼルアメのはずだろっ!?
 でも愛されまくってるのは事実ですね。
>ルナさんも何か隠してるみたいですし。
 これほどこの人が出ばってくるとは、当初考えもしていませんでした。おそるべし赤の騎士。

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4950時の旋律 第4章―遭遇―桐生あきや 11/19-01:11
記事番号4928へのコメント



 アメリアはとん、とフラグーンの枝を蹴った。
 人が見ることもかなわぬような、空の高みをすべるように翔んでいく。
 耳元で風が唸り、眼下の風景がみるみるうちに後方へと流れていった。いくつもの山や河、街や森が地平線から現れ、すぐに後ろへと消えていく。
 そうして、サイラーグのあるライゼール帝国から、ラルティーグ王国を通過してセイルーン王国に入り、もう少しで王都セイルーンへたどりつこうかというときだった。
 アメリアは空中で急停止した。
 六芒星が描かれた美しい都市は、もう視界一杯にひろがっている。
 だが、アメリアはセイルーンに降りようとはせず、空中で静止したまま感覚を研ぎ澄ませた。
 網のようにひろげた感知の手に、すぐに手応えが伝わってくる。
 怒り。悲しみ。恐怖―――。
 それら負の感情が混じりあい、鬱々(うつうつ)とした肺がただれそうなほどの気配へと変化する。
 瘴気―――。
「魔族がいますね………」
 ヴァン神族のなかでも冥府の女王ゼラス・ヘルの庇護を強く受けた、魔族と呼ばれる異形。
 生あるもの全てに害をなす、この魂を汚す魔物を狩ることも、戦乙女の使命のひとつだ。
 鎧がアメリアの体に、音もなく具現化する。
 アメリアは高度を下げ、瘴気の源へと向かった。
 緑色の塊だった森がどんどん大きく鮮明になり、枝の一本一本、葉と葉の重なりまでがはっきりしてくると瘴気の源も、見えた。
 死んだ獣などに負が宿り、異形と化したもの。
「レッサーデーモン!」
 三匹ほどが、何かを追いかけているようだった。枝葉の向こうからチラチラとかいま見えるそれは―――。
「人?」
 呟いて、アメリアはその人間とレッサーデーモンの間に降り立った。
「おやめなさい!」
 ぴしっと指をレッサーデーモンに突きつける。
 本当は高いところに登りたかったのだが、それをするとデーモンが自分を無視して、せっかく助けた人間を追いかけていきそうだったので、やめる。
 レッサーデーモンたちが首を傾げたような気がしたのは………きっと気のせいだろう。
「冥府で人の腐肉を喰らうだけでも大罪なのに、このうえ何の罪もない人まで狙おうというの!? そんなことはヴァン神族が許しても、この私が許しません!」
 戦乙女に、人の生死にかかわる権限はない。
 人間だけでなく、この世のものすべての生き死には定めの糸車によって紡がれ、何人たりともそれを侵すことなどできない。運命の三女神であるフィリアでさえも。
 彼女は番人であり、糸車が正しくまわるよう取りはからっているだけ。彼女だけが運命に干渉することを許されているが、よほどのことがない限り、そんなことはありえない。
 だから輪廻を一時的にせよ断ち切る戦乙女は、迎える魂を得るためにわざわざ殺したりなどしない。定めに従って死んでしまった魂のなかから、望む者だけを神界へと連れていく。
 戦乙女は常に傍観者。英雄の死を看取る者。
 しかし、ヴァン神族が生み出す魔族は別だった。
 魔族は負の生命力で生きている、輪廻の理(ことわり)から外れたものたちだ。彼らに殺されるということは、定めの糸車に狂いが生じて、正しい死後の転生が行われないということ。
 魔族による死は、正しい死ではない。
 ゆえに、魔族に襲われている場合のみ戦乙女は人を助ける。
 指を突きつけられたレッサーデーモンたちが、アメリアに向かって咆哮をあげた。
 アメリアはかまわず呪文の詠唱に入る。
「我。汝、天が行うの裁きの代行者たれば、ゆえに与えん焼滅(しょうめつ)の光! ヴィスファランク!」
 篭手(こて)が白く輝き、大地を蹴って、アメリアは拳をふるった。
 下級のレッサーデーモンである。あっさりと決着がつき、アメリアは魔族が塵と化していくのを見届けながら、鎧を神気へと戻した。人にとっては驚異でも、アース神族たるアメリアにしてみれば、敵ではない。
「正義はつねに勝つんです!」
 ガッツポーズを決めて、アメリアは後ろをふり向いた。
 きょろきょろとあたりを見回して、それほど遠くない木の根元に目的の人物を発見する。うつぶせに倒れたまま、ぴくりとも動かない。
 慌てて駆けよってみると、肩から背中かけてに大きな火傷を負っているのがわかった。レッサーデーモンが吐く炎の矢を受けたのだろう。
 顔にかかる黒髪が邪魔でその表情はわからないが、青年のようだった。
 傷に手をかざし、アメリアは目を伏せる。
「我、乞い願うエイルのその御手。真白(ましろ)き癒しのその御技(みわざ)。願わくば我が前に横たわりしこの者に、いまひとたびの力を与えんことを………リカバリィ」
 アメリアの右手に淡い光がともり、火傷が徐々に癒えていく。
 姿勢を変えても支障がないほどに傷を癒すと、他に怪我しているところはないか確かめようと、アメリアは青年の肩に手をかけて仰向けにした。
 黒髪に隠れていたその顔が、光にさらされる。
 怪我のためにその顔色は青白いが、端正な顔立ちをしていた。
 意識無く目を閉じているから、瞳の色はわからない。
「………え………っ!?」
 アメリアは意識せず声をあげていた。
 胸が詰まるような、切なさ。
 まるで呪縛のような強い既視感(デジャ・ヴュ)に捕らわれて、身動きがとれなくなる。
 知っている、と感覚すべてがざわめいた。
 自分に宿るすべての記憶が、知っていると騒いだ。
 この青年を知っている、と。
(そんなわけない。下界に来たのはホントにひさしぶりなんだから)
 アメリアの理性がそれを否定する。だが、すぐにまた別の感覚が湧きおこった。
 その隠された瞳の色を自分は知っている、と。
(そんなわけない。だって、この人の目なんか見たことないじゃない)
 遠い、アメリアの知らない記憶がアメリア自身を浸食していく。
 もうひとりの自分が囁いた。
 ―――青色よ。それも薄い氷のような、きれいな氷蒼色の目なのよ。
(違うってば、知らないってば)
 風が吹いて、二人の頭上で森の木々が激しく葉を揺らした。森のざわめきにアメリアと青年、二人だけが取り残される。
 ―――前とは髪の色が違う………。
(違わない。初対面だもの。だれと違うっていうの?)
 ―――ほら、前にもこんなことがあったわ。
(何が………あったの………?)
 心のなかの囁きに、ついにアメリアが身をゆだねようとするとした途端、割れるように頭が痛み出した。
「あう………っ」
 耐えがたい痛みに、アメリアは思わず両手で頭を抱えこんだ。

 ―――そう………だ……あれは……、氷色の目をした……人は………。

 何かを手にしたと思った瞬間、少女の鋭い叫びが頭の中に響き渡った。

 ―――思イ出サナイデ!!

「!!」
 頭を殴られたような衝撃がはしって、ぐらりとアメリアの体が傾ぐ。
 まわる視界に見えたのは、暮れゆこうとする空だった。
 


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4955時の旋律 第5章―出逢い―桐生あきや 11/20-00:17
記事番号4928へのコメント


 やわらかな寝具のなかで、アメリアは目を覚ました。
 ぱちぱちとまばたきを繰り返す。
 自分がどうしてこんなところにいるのかがわからない。
 見慣れない天井だった。その古ぼけた天井に、まだ自分が下界にいることを確認する。
 かけられている布団はやわらかく気持ちよかったが、染めもおこなっていない質素な生地でできていた。
 ベッドから身を起こしてみる。部屋は暗い。
 サイドテーブルには白い陶器の水差し。
 客室なのか、使われた形跡のない書き物机と小さな飾り棚が、ベッドとは反対側の壁にあるのが見てとれた。
 部屋は広いが、そうたいした広さでもない。
「えーと………」
 置かれた状況がわからなくて、とりあえず呟いてみる。
 体に異常はないし、服装も変わっていない。
「うーん………」
 また呟く。
 窓の外に目をやると、夜空に星がまたたいていた。星明かりの下、いくつかの建物が見えるが、どの窓にも明かりはなく、夜分遅い時刻だということがわかる。
 どうしてこんなところに自分がいるのかわからないが、この家の主人はもう眠っているのではないだろうか。
「そっか………、急に森で頭が痛くなって………」
 あの火傷を負っていた青年はどうなったのだろう。
 もしかして、その人が自分を運んでくれたのだろうか。
「………どうしましょう。お礼を言いたいところですけど、眠ってるでしょうね」
 なら、そのまま出ていく方が得策だ。色々と詮索されては困る。
「うーん」
 アメリアが唸っていると、不意にドアが開いた。弾かれたようにそちらをふり向くと、ランプを片手に、やはり森で助けた青年が立っていた。
「目が覚めたようだな」
 少し低めのやわらかな声。
 優しい、響きの。

 ―――とくん。

 その声に、アメリアの鼓動がはねる。
 懐かしくて、泣き出しそうになる。どうして?
 初めて聞く声のはずなのに。
 わけのわからない感情にとまどいながら、慌ててアメリアは口を開いた。
「あの、ここはどこですか?」
「オレの家だ。ついでに言うならセイルーンだ」
 青年は部屋に入ってドアを閉めると、ベッドまでやってきてランプをサイドテーブルに置いた。
「あの……どなたですか?」
「それはこっちのセリフだ。あんたはデーモンか?」
「な………!?」
 あまりの言われように、アメリアは絶句する。
「な、な、なななんてこと言うんですっ。言うにことかいて、この私をデーモンだなんて!」
 アース神族の戦乙女たるこの自分を!
「あまり大声を出すな。今は夜中だ」
 青年は動じた様子もなくアメリアをたしなめる。
「デーモンに追われていたはずなのに、気がついてみればデーモンの姿はなくてあんたが横に倒れてる。おまけに背中を火傷していたはずなのに、いつのまにか治っている。あんたを人間じゃないと思いたくもなるさ」
「だからって、デーモンだなんて………!」
「冗談だ」
「冗談にもほどがありますっ」
「で、一体あんたはだれなんだ」
 真面目な顔で問われて、アメリアは言葉に詰まった。
 何て言えばいいのだろう。
「わ、私があなたを見つけたとき、デーモンなんていませんでした。ただ、あなたがひどい火傷をしていたから、それを治して………、精神力を使いすぎて気絶しちゃったみたいですけど………」
「魔法が使えるのか?」
 驚いた表情で青年が訊いてくる。
「え、ええ………少しなら」
 実際、下界の魔法はあまり使えない。
「デーモンなんかいなかったというのか?」
「いませんでした」
 まさか倒しましたとは言えない。普通の人間ではデーモンなど相手にできないのだから。
 青年は難しい表情で黙りこんだ。
「まさか、本当に逃げきれたのか………?」
 じっと見つめるアメリアの表情に気がついて、ふっと青年の顔がやわらいだ。
「じゃあ、あんたはオレの恩人だな。怪我を治してくれたんだから」
「え、いえその………」
「名前は何と言う?」
「アメリアです………」
「そうか。アメリア、すまない。助かった」
 顔が真っ赤になるが自分でもわかった。ランプの明かりでごまかされていることを、ただ祈る。
「あ、あの、それでっ、あなたはだれなんですか?」
 青年の瞳が、ランプの明かりを映して不思議な色合いに揺らめいた。その本当の色はいまはまだ、わからない。
 この夜が明けるまでは。
 黒髪の青年はゆっくりと名乗った。
「オレはシグルド。セイルーンの騎士だ」

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 5まで来たのにこの話の進まなさは何なんでしょう(笑)。
 あえて何もコメントはいたしません(笑)。

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4960時の旋律 第6章―騎士と王宮―桐生あきや 11/21-01:23
記事番号4928へのコメント


 翌朝、シグルドが目覚めて自室から廊下に出ると、焼きたてのパンのいい匂いが鼻をくすぐった。
 思わず顔がなごみかけて、違和感に気づく。
 この家には自分しか住んでいない以上、自分が寝ている間に朝食ができるはずがない。もしそんなことがあったなら、それは自分がよほど疲れて幻覚を見たか、まだ夢を見ているかのどちらかだ。
 怪現象(別名ストーカー)という選択肢は、いまのところなかった。
 同僚の騎士のように「朝、目が覚めたらテーブルの真ん中にきれいに割られた生卵が置いてあるんだよ………三日続けて。頼むっ、頼むから俺にしばらくお前の夜勤をやらせてくれっ」と言うような目には幸運なことにいまだ遭っていない。
「おはようございます」
 急いで階段を降りてきたシグルドに、黒髪の少女がにっこり笑って挨拶をしてきた。
 昨夜は暗くてよくわからなかったその瞳は月の周りの夜空のような、きれいな濃紺。 
 昨日、森で拾ってきた少女だ。拾ってきたというのも失礼かも知れない。
 一応、命の恩人なのだから。
 偶然通りかかって、わざわざ倒れていたシグルドの怪我を魔法で癒したあげく、精神力を使い切って当の本人がぶっ倒れたと言うのだから、とんでもないお節介な性分らしい。
 何にせよ、そのおかげでとても助かったのは事実だ。
「……………………おはよう」
 何となく挨拶を返して、シグルドは我に返る。
「………何やってるんだ」
「朝御飯です。泊めていただいたお礼に作ってみたんですけど、いけませんでしたか?」
「…………………いや、別に」
 どうぞ、とアメリアにうながされて、シグルドはぎくしゃくとした動きで椅子に座った。
 理由は不明だったが、ものすごく困っていた。
 しばらくして出されたのは、キレイに形の整ったオムレツだった。中を割ってみると、トマトとチーズが入っている。
 割った拍子にふわりと湯気がたちのぼった。
 ひとくち食べて、シグルドは思わず呟いていた。
「………………おいしい………」
「それはよかったです。お料理ひさしぶりだったんで、ちょっと心配だったんですけど」
 嬉しそうにアメリアがそう言った。
 花開くような、笑顔。
 呆気にとられたようにしばらくそれを見つめたあと、我に返ったシグルドは慌てて食べることに専念しだした。
「………ひさしぶりにまともなメシを食った気がする」
 食べ終わってぼそりとシグルドはそう呟いた。食器を下げたアメリアが怪訝な顔をする。
「いままで何を食べてたんです?」
「主に露店で立ち食いをしていた」
「作らないんですか?」
「作れない。あまり作る気もしないな」
 答えながら、初対面に近い少女にここまで律儀に答えを返している自分自身にシグルドは驚く。
 この少女を気に入り始めている自分に気がついたが、悪い気はしなかった。
 あとかたづけが済んでしまうと、アメリアが決まり悪そうに口を開いた。
「あの………、私もうそろそろ帰ります………。泊めていただいてありがとうございました」
「あ、ああ……そうか………」
 それはそうだ。ここに住んでいるわけではない。成り行きでここに来ることになっただけ。それが過ぎれば、二人はもう何の接点もない他人同士になる。
 何となく、そのことが惜しいような気がした。
 自身の感情にとまどうシグルドが口を開く前に、意を決したようにアメリアが言った。
「あの、それで………、これからも会いに来ても………いいですか………?」
 一瞬、何を言われたのかわからなかった。
 だが、考える前に口が勝手に動く。
「ああ、またな」
 ぱっとアメリアの表情が明るくなった。
「はい、また来ます!」
 嬉しそうに、彼女はそう言った。
 アメリアが去った後、シグルドは思わず顔を押さえて溜め息をついた。
 鏡を見なくても顔が赤いのがわかる。
 ぼそりと呟かれる、途方に暮れた言葉。
「どうしたっていうんだオレは………」



 セイルーンの王宮で、第一王子のフィリオネルは自らに仕える騎士を出迎えた。
「おお、よく帰ってきた」
「ただいま戻りました」
 膝を折ってそう答えたのは、シグルドだった。
 シグルドがまだ子供だった頃、孤児だった彼が住んでいた街に、たまたまフィリオネルが忍びで訪れた。
 シグルドを見つけたフィリオネルは、何とも無造作に拾いあげて、飢餓と貧困から救い出してくれた。
 そのうえ騎士にまでしてくれた。
 公正で、賢明で正しい人だと、シグルドは思う。
 ………外見はコワイが。
 そのフィリオネルが、声を落としてシグルドに尋ねた。
「して、プライアムのロードは何と?」
 首都セイルーンから北に二日ほど行ったプライアムの街に、シグルドはフィリオネルの密命を受けて出かけていたのだった。
 そして帰りにデーモンに襲われた。理由はわからない。いまの騒動に関係があるのかもわからない。
 シグルドは立ち上がると、フィリオネルにしか聞こえないような声で答えた。
「そのような者は知らぬ、と」
「やはりそうか」
 フィリオネルは真剣な顔でうなずいた。シグルドはつけ足した。
「そこのロード・ザイエン。麻薬密売に手を貸していたようなので、ついでに成敗してきました」
「嘆かわしいのう」
 フィリオネルは深々と溜め息をついた。
「そんなやからが領主にまでなっているとは、やはりワシたちが国のことなど放っておいて、くだらぬ兄弟喧嘩をしているせいなのだろう」
 フィリオネルは以前にも起きた継承問題で妻を毒により失っていて、子供もいない。
 そのときの首謀者である第三王子が処断されたいま、彼がいなくなれば王位継承権は自動的に第二王子クリストファのものになり、フィリオネルに子供もいない以上、王家の血統そのものもクリストファのものとなるだろう。
「間違いは正せばいいんです」
 短く、だがはっきりとシグルドはそう言った。
 この人には返しきれない恩がある。今のこの人の苦境を助けることが、少しでもそれに報いることになればいいと、そう願っていた。
「まだ間に合います」
 シグルドの言葉に、フィリオネルはうなずいた。
「おぬしの言うとおりだ。おぬしがせっかく有益な情報を得てきてくれたのだ」
 フィリオネルは苦々しげな表情になった。
「しかし、プライアムのロードが紹介したのではないのなら、あやつはいったいどうやってクリスに取り入ったのだ」
 それは、クリストファ付きの宮廷魔道士でゼロスという青年だった。
 シグルドも一度だけ顔を合わせたことがあるが、怪しいという形容詞がこれほどぴったりくる人物はいないだろう。
 そのゼロスが来てからだった。王宮でフィリオネル暗殺の動きが出始めたのは。
 これを怪しいと言わずして何と言おう。
 本人もそれを自覚しているのか、王宮の敷地内のクリストファの屋敷に入りびたったままで、めったに表に出てこない。
「オレがいない間、何かありましたか」
「いや、だいじない。たいしたことは起きていない。クロフェルも変わりないぞ」
「それは何よりです。本来ならば、始終あなたの傍にいなければならないのに………」
「何を言っておる。おぬしはちゃんと城の外に家を持っているのだ。それにお主の代わりに夜勤を務めてくれる者もおる。無理などしなくともよい」
 シグルドの背中をバン、と叩いて、フィリオネルはにやりと笑った。
「それはさておき。おぬし、そろそろいい年だが、結婚を約束した娘などはおらんのか?」
 苦笑して首をふろうとしたシグルドの脳裏に今朝、朝食を作ってくれた少女の顔がぽんっと思い浮かんだ。
 どうしていまここで彼女を思い浮かべたのかがわからず、思い浮かべてしまったこと自体に狼狽して赤面したシグルドを見て、フィリオネルはバンバンとさらに背中を叩いた。痛い。
「そうかそうか。ならなおさらこの事態を解決しないとならんな。ぜひ仲人をさせてもらいたいものだ」
「違います!!」
 シグルドは叫んだが、顔が赤く、あまり説得力がなかった。


 アメリアはそっと目を閉じて、その色彩をまぶたの裏によみがえらせた。
 シグルドの目の色は、淡い淡い水色だった。氷が、氷の上に落とす影の色。わずかに緑を帯びた薄い蒼色。
 氷の蒼の色。
 初めて、朝の光のなかでその色を見たとき、どうしてだか安堵のあまり泣きそうになった。
 理由は、わからない。


========================================

 なんで今回こんなにラブコメちっく(爆)なんだろう。ま、いっか(^^;)。

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4961いい雰囲気ですねv雫石彼方 E-mail 11/21-04:55
記事番号4960へのコメント


こんばんは。雫石彼方です。
桐生さんは投稿されるのが早くて嬉しいですv

アメリアとシグルド、いい雰囲気ですねーv初々しくて可愛いvvゼルとシグルドにどんな繋がりがあるのか、とっても気になります。ところどころある、アメリアが記憶を取り戻しかけてる(?)ところも、なんだかとっても切なくってもうきゅんって感じですよ(^^)

続き、楽しみにしてます!

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4966こりは・・桜井 ゆかり E-mail URL11/21-23:44
記事番号4960へのコメント

桐生あきやさんは No.4960「時の旋律 第6章―騎士と王宮―」で書きました。
>
はじめまして。ゆかりと言うものです。
いきなり変な題名で申し訳ありません。あのゲームですよね。名前は出してなかったので私も出しませんが・・・・・・・(←ゲーム好き)
シグルドって、ゼルガディスさんに似てますね。
似せて作ったんですか?

次も頑張ってください。絶対に見に来ますから。


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4967あのゲームです(笑)桐生あきや 11/22-00:28
記事番号4966へのコメント


 はじめまして。桐生あきやと言います。
 レスくださってありがとうございます! すごく嬉しいです。 

>いきなり変な題名で申し訳ありません。あのゲームですよね。名前は出してなかったので私も出しませんが・・・・・・・(←ゲーム好き)
 なんとなく伏せてあるだけで、特に理由はありません(笑)。
 もちろんゆかりさんが予想している、あのゲームです。
 桐生はあれにハマってしまって、人生でハマったゲーム第二作目と勝手に豪語しております(^^;)。

>シグルドって、ゼルガディスさんに似てますね。
>似せて作ったんですか?
 一応そのつもりで書いております。当の作者がかなり混乱しておりますが(滝汗)。

>次も頑張ってください。絶対に見に来ますから。
 ありがとうございます(感涙)。
 ゆかりさんのほうも、新しく連載を始めたみたいですね。これ書き終わったら読みに行こうと思っています(笑)。
 それでは。

 桐生あきや 拝

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4968時の旋律 第7章―抱擁―桐生あきや 11/22-00:36
記事番号4928へのコメント


 それからアメリアはしょっちゅうシグルドの家に遊びに来た。
 遊びに来るとは言っても、シグルド自身がフィリオネル王子の王位継承問題で忙しくて留守がちなので、夜シグルドがいるころやってきて翌朝の朝食を作り、他愛ない話をして帰っていく。
 朝食を作る必要などないとシグルドは一度言ってみたのだが、アメリアは頑(がん)として聞き入れなかった。どうやら、最初の朝食のときに露店で立ち食いをしていると言ったのが、まずかったらしい。
 そうしているうちにシグルドは夜になるとアメリアが来るのを待ち遠しく思うようになった。
 そのことに気がついたときシグルドは一人で赤面してしまい、たまたますれ違った王宮の女官に変な顔をされて、さらに赤面した。
 だが、悪い気はしなかった。


「シグルドさーん!」
 快活なアメリアの声がして、間をおかず居間のドアが開いたとき、シグルドはちょうど剣の手入れをしていた。
 自室でやればいいのだが、アメリアが来るのがわかっていたので、わざわざ一階まで降りてきたのである。
 居間と玄関を結ぶドアが開いた途端、すがすがしい花の芳香が居間全体にひろがった。驚いて剣をから視線を外してアメリアを見ると、腕一杯に淡い紫の花を抱えている。
 小麦の穂のように、小さな花がいくつも連なって房になっている、可憐な花。
「ラベンダーか………」
 やや唖然としたシグルドがそう呟くと、花の影に埋もれてしまいそうなアメリアが不安げな声で尋ねた。
「嫌いですか?」
 シグルドは黙って首をふる。
 アメリアはホッとした表情で、居間を通り抜けて台所の方へと消えていった。
 しばらくして、どこから探してきたのか大きな花瓶にめいっぱいラベンダーを生けて、居間へと戻ってくる。
 むせかるほどのラベンダーの香りが居間中に満ちあふれた。
「夕方、花売りのお姉さんが売れ残って困っていたんです」
「それで全部買ってきたのか?」
 シグルドが呆れてそう言うと、アメリアはためらいなくうなずいた。
 思わずシグルドは苦笑する。
「剣のお手入れですか?」
「ああ」
「じゃあ私、その間に明日の朝御飯を作りますね」
 アメリアがそう言って台所へ向かおうとすると、その手をシグルドがつかんで引きとめた。
 とまどった顔でアメリアはつかまれた手を見下ろす。
 どうしたというんだろう。
「今日は、作らなくていい」
「でも」
「いいから、ここにいてくれ」
 アメリアは困りはてて、訊いた。
「どうしてです?」
「朝飯を作ってもらっていると、お前と話している時間が少なくなる」
 真顔でシグルドがそう言った。
 大真面目に。
 アメリアの顔が、一気に赤くゆであがる。
 しかし、どうして赤くなるのかシグルドにはわかっていないようだった。自分が何を言ったのか自覚していない。
 すごい鈍感だわこの人、とアメリアは心の中で呟いた。
「あ………じゃ、います………」
 消えそうな声でアメリアはそう呟くと、シグルドとはテーブルを挟んで向かいがわの椅子に座った。
 剣の手入れを続けながら、シグルドが尋ねた。
「いつも夜遅くまで出歩いていて、いいのか?」
「いいんです。私一人で住んでいるんです」
 そう答えてアメリアは、テーブルの上のラベンダーに手を伸ばした。
 何となく、この花を買ってきた理由を聞いてもらいたかったのだ
「この花、好きなのか嫌いなのかわからない花なんです」
 シグルドが顔をあげてアメリアを見る。
 ランプの明かりのなか、淡い紫の花はやさしく揺らめく影をテーブルに落とす。
「嫌いってわけじゃないんです。ただ、この花を見てると………この香りをかいでいると、無性に胸が切なくなることがあるんです。すごく胸が痛くなって、でもどうしてなのか全然わからなくて………。だから、好きなのかどうかわからないんです。大事な花なのは間違いないんですけれど………」
 アメリアの指先が触れて房のなかの花粒がひとつ、テーブルにこぼれ落ちる。
 あまりに取りとめのない自分の言葉に苦笑して、アメリアはシグルドを見た。
 しかし、シグルドは怖いほど真剣な表情でアメリアを見ている。
 その視線の強さに、少したじろぐ。
「シグルドさん………?」
 アメリアの声にシグルドはハッとしたようだった。すっと視線を手元の剣に戻す。
 やわらかな声がそっと呟いた。
「オレもだ………」
「え………?」
「オレも、この花を見ているとそう思うときがある。どうしてかはわからない。でも、この匂いに、自分が何かを忘れているような気になる」
 シグルドの瞳が、アメリアを真っ直ぐにとらえた。
 鼓動がはねあがる。
 たとえ橙色の灯の明かりにかき消されようとも、アメリアはその瞳の氷蒼色を見失ったりなどしない。
 そんなことはできない。
 時が止まったような静寂が落ちた。凍りついた空間の中で、ただランプの炎とそれに照らし出される影だけが、揺らめく。
 シグルドの瞳も、炎にあわせて揺らめいた。

 ―――どくん。

 また、鼓動がはねあがる。

 ―――その目を、私は、知っている。

 満ちる力と無限に交錯する想いが、アメリアに襲いかかった。
 映像が、声が、弾ける。

(私は、リナさんたちが帰ってくる場所を守らなければならないんです)
 鮮やか舞う血煙。焦げつく大気。灼けた空。
(お前といて、ようやくオレは自分が生きていてよかったと思えるようになったんだ………)
 やさしいてのひら。
(あなたが好きです)
 ふれるくちびる。
(私です! 私が………っ!!)
 斬りつける刃。握りしめた破片。
(いらない! 私なんかいらない!)
(アメリア!)
 血が止まらない。止めたくもない。
 ああ、悲鳴が。

「………リア! アメリア!」
 シグルドの声に、アメリアはハッと我に返った。
 揺らめく炎に照らされて、気遣わしげな表情のシグルドがいる。
「シグルドさん………」
 呆然とアメリアは呟いた。
 いまの声は。いまの映像は。
 いったい何だというのだろう。
 自分は夢をみたのだろうか。
 眉をひそめながらシグルドが椅子から立ち上がって、アメリアのかたわらまでやってきた。
「どうした? 疲れているのか?」
「いいえ………」
 ぼんやりとした答えしか返せなかった。
 シグルドが床に膝をついて、アメリアの顔を覗きこんできた。
「今日はもう帰れ」
「イヤです!」
 叫んた自分の声の調子に、アメリア自身が驚いた。
 わけもなく涙が溢れる。
 さっきの幻の映像と声の残滓(ざんし)に囚われていた。鮮血と刃のイメージがアメリアを縛りつけて放さない。
「イヤです………。そんなこと、言わないでください………」
 ただどうしようもなく、不安で、怖かった。
 涙を止めることができずにいると、シグルドが抱きしめてくれた。
 ぬくもりと抱きしめてくる腕が、たとえようもなく嬉しかった。


 声を殺して泣くアメリアを、シグルドは思わず抱きしめていた。
 ただどうしようもなく、愛しくて、切なくて。
 ふるえる小さな肩からラベンダーの香が淡く立ちのぼって、消えた。


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 いいかげん焦れてきた方もいらっしゃるような気がしますが(笑)。
 何はともあれ、レス返しです。

 雫石彼方様
 投稿のペースの早さだけが取り柄です(笑)。でもそろそろストックが(汗)。
 何というか、いま続きがどん詰まり状態でして、アップするたびに顔を引きつらせています(^^;)。何とかしなければ。
 読んで頂けてホントに嬉しいです。

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4976楽しみにしてます♪ゆえ 11/22-23:38
記事番号4968へのコメント

こんにちは、ゆえです。

毎回更新される度にチェックをいれて楽しみにしています。

アメリアが生きてますよね。
どうも私はアメリアを書くのが苦手みたいで、毎回参考にさせて頂いております。

で、某ゲームの影がちらほらと言う話ですが、あまりゲーム事情に詳しくない私ですが、アノゲームでいいんでしょうか?(笑)

次回も期待してまってます♪

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4978時の旋律 第8章―神界―桐生あきや 11/23-02:18
記事番号4928へのコメント


 これをアップして、下の水晶さな様のツリーを蹴り落としてしまわないか心配(笑)。
 まあ、どうやったって、いつかは落ちるものなんですけどね(苦笑)。

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 神界宮殿で、リナはぶつぶつ文句を言いながら、埃をかぶった魔道書をひっくり返していた。隣りではリナよりは控えめに、しかししっかり埃を立てながら、シルフィールが同じ事をしている。
 舞う埃が、小さく空けられた天窓からの光をくっきりと際立たせていて、シルフィールはそれに溜め息をついた。
「まあ、リナさん。光の筋が見えてきれいですよ」
「………あ、ん、た、ね〜〜〜! それはあたしたちが、さんっざん埃をたてているからでしょっ」
 リナは、憤然と手に持っていた本を放り投げた。さらなる埃がわきあがり、思わず咳きこむ。
 とうとうリナはヒステリーを起こして叫んだ。
「読めもしない本の整理なんかできるかっつーの!!」
 どの本も神聖(ルーン)文字で書かれていて、リナとシルフィールには読むことができない。
 神聖文字の知識は主神スィーフィードだけのもので、そのスィーフィードがいない現在、この文字を読めるのはスィーフィードから知識を受け継いだ、リナの姉神のルナだけだった。
 よって、この書庫は事実上ルナだけの書庫になっていて、整理を命じられたリナはかなりいじけていた。
 姉神の命令に逆らえるわけはないのだが、姉神しか利用しない(というかできない)書庫ぐらい自分で片づけろというものだ。
 もちろんこんな本心など、口が裂けても言わないが。
「やめやめ! えっと違う……やめじゃない、やめないけど休憩するっ。ひとまず休憩!」
 そう叫んだリナは、書庫を出ようとした。
 そのとき、破砕音が響いた。
 水晶が砕け散るような音をリナは全身で聞いたと思った。
 それは、下界でアメリアに声と映像が襲いかかった、その瞬間。
「!!」
 体をこわばらせるリナに、シルフィールが気づいて怪訝な顔をする。
「リナさん?」
 リナは蒼白な顔でこくん、と喉をならすと、書庫のドアを突き飛ばすように押し開けた。
 足早に出ていくリナを、慌ててシルフィールが追いかける。
「リナさん!? どうしたんですっ」
 なかば駆け出しながらリナは応えた。
「アメリアの封印のセキュリティがはずれたわ! どういうことなのかこっちが知りたいわよっ」
 シルフィールが息を呑む。
「そんなまさか………。あれはリナさんが特別に施した封印でしょう?」
「でもはずれたわ。いったいどうなってるのよ! アメリアを送ってからまだ一月しか経っていないのに!」
 シルフィールはリナがある方向へ向かっていることに気がついて、ますます慌てた。
「リナさん、だめです。水鏡はルナさんしか覗くことを許されていません!」
「じゃ、あんたは来ないでシルフィール。怒られるのは覚悟のうえよ!」
 言い捨てて、リナは走り出す。
 一瞬、シルフィールは棒立ちになったが、すぐにリナの後を追って走り出した。
神界宮殿のなかでも奥の方にある緑柱石(アクアマリン)で造られた扉を押し開けて、リナは無造作に水鏡の泉へと歩み寄った。
 水鏡は二次元的な泉で、真上から見てみると波ひとつない水面が存在するのに、真横から見ると空中に『線』が一本横たわっているようにしか見えない。
 そのありえない水の底が映すのは、見る者の望む、はるか遠い下界の景色。
 後ろから駆けてくる足音に、リナはふり返る。
「シルフィール。あんたまで怒られることないのよ?」
「いえ、いいんです」
 黒髪の癒しの女神は、きっぱりとそう言って首をふった。
「わたくしも、アメリアさんを放っておけません」
 リナは呆れたように微笑んだ。
「じゃ早くこっち来て。作動させるわ」
 リナの指先が、水鏡にひたされた。



 神界宮殿の一室。
 闘技舞台の上で、ガウリイとルナが剣の手合わせをしていた。
 その舞台を降りたところではフィリアがとルークが適当な石段に腰掛けて、二人の練習を見物している。
 本当はルークがガウリイと手合わせをしていたのだが、そこにルナが自分もやりたいと、〈闘技の間〉に顔を出したため、ルークがルナと交代したのだった。
 舞台の上では、ルナが劣勢においこまれている。
 総合的な力なら圧倒的にルナの方がガウリイよりも強いのだが、純粋に剣の技量となるとガウリイの方が上だった。
 ルナの打ちこみをガウリイが弾き、体勢の崩れたところに剣を繰り出そうとする。
 そのとき、バンッと音をたてて闘技場の扉が開かれた。
 四人が一斉に扉の方をふりむく。
 そこには、こわばった表情のリナと、その後ろでどうしていいかわからないといった表情のシルフィールが立っていた。
 ガウリイやルーク、フィリアが事の次第を尋ねる前に、ルナの視線をとらえたリナが叫ぶ。
「姉ちゃん、どういうことよ!?」
「何が?」
 落ち着き払った表情でルナはリナに答える。リナの口調には余裕がない。
「アメリアのことよ。封印のセキュリティがはずれたわ、もう! 送り出してまだ一月ぐらいしか経ってないのに!」
 その言葉にルナ以外の三人が目を見張った。
 ルナが何も答えないのを見て、リナはさらに言いつのる。
「それにあのシグルドとかいう人間よ! 姉ちゃんは、そいつがゼルの転生だって知ってて、アメリアをわざと下界に行かせたの!?」
 その場の空気が凍りついた。
「んな、バカな………」
 ルークが呆然と呟く。リナは激しく首をふった。
「そいつと会ったから、解けるはずのない封印が揺らいでいるのよ!」
 ルナの目元がぴくりと動いた。
「リナ。あんた、水鏡を覗いたわね」
「わたくしも覗きました」
 シルフィールがリナの隣りに進み出る。
「でも、ルナさん。どうしてゼルガディスさんが人間に転生していることを教えてくださらなかったんですか。彼が転生しないと知ってたからこそ、私たちはアメリアさんの記憶を封じることにしたはずです」
 ルナは剣を鞘に収めて、闘技台から降りた。
「転生は、ほとんど望み薄だったのよ。ダメもとでやってみただけ。千年前の、あのときに」
「姉ちゃんが?」
 怖いほどに静かなリナの声に、ルナはうなずく。
「そうよ。フィリアに協力してもらって。やっと今頃、成功したみたいだけど」
 全員の視線が集中して、フィリアは慌てて首をふった。
「し、知りませんよ、私!」
「そりゃそうよ。やったのスクルド(未来)だもの」
 さらっとルナが言った。ルナ以外の全員の顔が驚愕にひきつる。
 運命の三女神のうちフィリア・スクルド(未来)だけは、その司る時の流れの性質上、滅多に表に出てこない。
 そして、フィリア・ウルド(過去)とフィリア・ヴェルダンディ(現在)は、互いの記憶を共有できるが、スクルドだけは独立した記憶を保っており、スクルドが何かやっても、それが何なのか他の二人にはわからない。
 おまけに、何か特別な、よほど重要なことがないかぎり、自ら表に出てこようとはしない眠ったレアな人格なので、リナもシルフィールも数えるほどしかスクルドに会ったことはない。
「スクルドが………」
 フィリアが呆然と呟いた。
「だからアメリアを下界に行かせたの?」
 鋭いルナの視線に射抜かれて、リナは思わず息を呑む。
「いつまでも眠らせておくわけにはいかないでしょう? たしかに彼が転生せず、存在しない間はそうするしかなかったけれど、転生してちゃんと存在している以上その必要はないわ」
 静かにルナは続ける。
「わかってるんでしょう? 千年前の私たちの選択が、ただの逃げと甘えだったことに。私たちにとってもあの子にとっても、いまの状態は良くないわ。
 あの子はあんたが思っているほど弱くない。彼がいる以上はね。だから、きちんと乗り越えられるはずよ」
「………じゃ、封印……解く………?」
 リナが、頼りなげな口調で尋ねた。
 さっきまでの怒りの影はもうない。
「解かなくていいんじゃない?」
 ルナはあっさりそう言った。
「きっと自分で取り戻すでしょう。でなきゃ、たいして価値のあることじゃなかったってことよ。あんたもあの子が可愛いんならほっておきなさい」
 かなり極悪なセリフをさらりと吐いて、ルナはリナとシルフィールのかたわらを通り過ぎた。
 剣を片手にすたすたと扉の前まで行くと、ふり返ってにっこり笑う。
「とりあえず、二人とも覗き見の罰として書庫の整理あと七つ追加決定ね」
 この世の終わりのような表情をするリナとシルフィールにひらひらと手をふって、ルナは扉の向こうへと消えていった。


=======================================

 フィリアがだんだんとオリキャラ化していくこの恐怖(笑)。
 やっと、シグさんがだれか解りましたね(笑)。
 読んでくれている人たちにはとっくにバレていたとは思いますが。
 伏線張るのヘタだし、設定に彼だけが名前ない時点でもう……。
 話に出てこないダルフィンとかまで書かれているというのに(笑)。
 ゼルの人間バージョンのカラーリング(ゼルは車か……)については、かなり悩みましたが、どうやら結構色々分かれているようなので自分の最初の設定通りにしました。
 ゼルの目の色はアイスブルーで、人間でもキメラでも目の色までは変わらないだろう、と好き勝手に思っていますので………。
 でも鳶色の人が多いですよね。どうしてなんでしょう。
 どこかで何か言ってたんでしょうか??
 桐生はそこらへん全然知らないんですけれど。だれか知っている人教えてください。

 ゆえ様
 ゆえさんのアメリアも素敵ですよ。私のなんか参考にしたら道を踏み外しますって(^^;
 私どうやらアメリアがいちばん書きやすいみたいです。一番苦手なのはガウリイ。ほんとに彼はダメです(笑)。
 何やら物議をかもしているようですが、はっきり名前だしましょうここで。
 伏せている意味も実はあまりありません。
 ヴァルキリープロファイル、です。シルフィールの冬間由美さんがヴァルキリーをやってます。メチャカッコいいです(笑)。

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4981ゼルーーv雫石彼方 E-mail 11/23-09:58
記事番号4978へのコメント

こんにちは。またまたやって来ましたv

シグルドくん、やっぱりゼルの転生した姿だったのですねーーvvv
もう、続きが楽しみで楽しみでv
過去に一体何があったのかも気になりますし。
今回も、リナのアメリアへの過保護っぷりが嬉しかったです(^^)シルフィールもいい娘ですよね。皆大好きv
あと、前回のシグルドとアメリアのらぶらぶっぷりにやられました(笑)モニターの前でにやける女(汗)もう最高ですよぅ!!(><)

> ゼルの人間バージョンのカラーリング(ゼルは車か……)については、かなり悩みましたが、どうやら結構色々分かれているようなので自分の最初の設定通りにしました。
> ゼルの目の色はアイスブルーで、人間でもキメラでも目の色までは変わらないだろう、と好き勝手に思っていますので………。
> でも鳶色の人が多いですよね。どうしてなんでしょう。
> どこかで何か言ってたんでしょうか??
> 桐生はそこらへん全然知らないんですけれど。だれか知っている人教えてください。

私は、書く話によってゼルの人間バージョンは設定が変わるんですが・・・(いい加減だな、おい)大抵、黒髪の場合は鳶色の瞳、銀髪の場合はアイスブルー、てな感じにしてます。鳶色は・・・なんででしょうね?私も知らないんですけど、鳶色にしてる人が多いので私も何となくそれに習ってみました(笑)きっと、一番初めに鳶色って設定にした人がどこかにいると思うんですけど・・・。なんか、暗黙の了解のようになってますよね(^^)不思議〜〜。


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4987自分で蹴ってますから大丈夫です(笑)。水晶さな E-mail 11/23-23:43
記事番号4978へのコメント


 こんばんはそろそろ寝ないと明日に差し支える水晶さなです(爆)。
 いやまぁ私事はおいといて、ツリーはそろそろ落ちてくれないかなーと思ってみたり(爆)。自分で蹴ってみたり(核爆)。
 運命の三女神同居(?)のフィリアさん、三重人格なのがすごく面白いなーと。三人の女神だからどうするのかなーと思ってたので、驚き交えつつ感動。いや今更な感想でスミマセン(汗)。
 シグルドさん正体もわかって盛り上がりそうな気配v(←お前一人で盛りあがってろ)
 私の方詰まり気味で次のUPが遅くなりそうのです(泣)。なのであきやサン頑張って下さい(爆)。
 ・・・すみませんちょっとハイな気分。そろそろ逝った方が良さそうです。では又来ますv(もういいヨ・・・)

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4991時の旋律 第9章―別れ―桐生あきや 11/24-06:13
記事番号4928へのコメント


 ストックの章bニアップの章bェ一コずれていることに気がつきました。 
 いまはまだ無事ですが、そのうち間違えるかもしれません。そのときは笑って読み流してください。たぶん副題はあってるはずなので。
 しかしなんで4章が二つあったんだろう、ストック………(笑)。

=======================================

 胸の甘いうずきと愛しさに、アメリアはときおり言いしれぬ罪悪感を抱く。
 だって、自分は人間ではないのだ。
 神界アースガルズに住む、魂を選定する者。採魂者たる戦乙女。
 人間を好きになっていいわけがないのだ。
 人と神の間に、愛情など成立しないのだから。生きる時の長さが違うのだから。
 それに、シグルドに嘘をつきつづけているのもイヤだった。
 シグルドのそばにいたいと思えば思うほど、自らについて何もかもを嘘で塗り固めている自分がイヤになる。
 決して本当のことなど言ってはいけないのだけれど、それでも。

 ―――シグルドさんが騎士だから。王位継承問題の起きているセイルーン王家に仕える騎士だから。だからヴァン神族がそれにかかわっているか調べるために一緒にいるんだわ。

 そう自分に嘘をつき続けてでもそばにいたいと願う自分の想いに、アメリアはとまどう。
 あの、ときおりアメリアを襲う頭痛と幻。言いしれぬ切なさは、すべてシグルドと出逢ってから。
 いったい何だと言うんだろう。
 けれど、だけど。
 何があろうとも。二人の間に何があったとしても。
 抱きしめてくれたあの夜のぬくもりだけは忘れたくないと、アメリアは願った。



 その夜も、アメリアはいつものようにシグルドの家を訪れていた。
 居間で話しこんでいると、不意にシグルドがアメリアの話をさえぎった。その表情が険しくなる。
 しん、とした沈黙が居間をおおう。
 アメリアもシグルドにならって、耳を澄ます。石像のように動かない二人の間で、ランプの炎だけが揺らめく。
 ガタ、という音が聞こえた。
 二人の視線がほぼ同時に、玄関へ続くドアのすぐ横にある階段へと向けられる。
「泥棒………?」
 アメリアが呟く。
 シグルドは厳しい表情で立ち上がると、テーブルに立てかけてあった剣を手に取った。柄に手をかけ、すぐにでも抜けるようにする。
「オレの後ろに来い」
 小さくうなずいて、アメリアが椅子から立ち上がりかけた時だった。
 激しい物音とともに、階段に黒ずくめの人影が三つ現れた。
 その手には漆黒の抜き身の剣。
 手すり越しにシグルドとアメリアの姿を確認すると同時に、人影は手すりを蹴り越えて上からシグルドに打ちかかる。
 激しい金属音がして、抜き放たれたシグルドの剣がそれを受け止めた。
 その間に、残りの二人の黒ずくめも階段から居間へと降り立っている。
「クリストファの手の者か!」
 シグルドが叫んで、正面の黒ずくめと斬り結んだ。黒く塗られたその刃の斬撃を受け流し、斬り返す。
 だが、腕を浅く切っただけで、なおも敵の攻撃の手はゆるまない。
 降り立ったうちの一人が、アメリアに向かってきた。
「逃げろ!」
 シグルドの叫びに、アメリアは首をふる。
「イヤですっ」
 椅子を蹴って立ち上がると、向かってくる黒ずくめにアメリアは両手をつきだした。
「シグルドさん、目を閉じて!」
 撃ち合いのさなか、目を閉じるのは自殺行為に等しい。
 だが、シグルドはアメリアを信じた。
「そは輝く一条の閃光 ライティング!」
 まぶたを通して、真昼のような光が居間に炸裂するのがわかった。
 黒ずくめたちが目を押さえて、呻く。
 その隙にシグルドは黒ずくめに斬りかかった。またたく間に正面の一人を斬り伏せ、横から向かってきていた二人目も斬り伏せる。
 そのとき、アメリアのいる方向から、何やら鈍い物音が聞こえてきた。
「アメリア!」
 三人目がいるアメリアの方をふり向いて、シグルドは一瞬、自分が見たものが理解できなかった。
 アメリアの足下に、黒ずくめがのびている。
 それはつまり。
「………お前がやったのか?」
「ええ。でないと一人でセイルーンから旅に出て、森の中でシグルドさんを見つけるなんてこと、できるはずないじゃないですか」
 もはや最近では、すらすらと嘘が言えるようになっている自分がアメリアは哀しい。
 アメリアはシグルドの元に駆けよった。
「怪我はないですか?」
「あ、ああ………」
 うなずいて、シグルドはアメリアが倒した黒ずくめに視線を落とした。
「殺したのか?」
「いいえ。意識がないだけです」
「それは助かる」
 呟いたシグルドの声の冷たさに、アメリアは思わず彼を見上げていた。
 どこからか紐を持ってきたシグルドは、それで倒れている黒ずくめを縛り上げると、アメリアに向き直った。
 ようやく、その表情がやわらかなものになる。アメリアの髪をなでて、シグルドは言った。
「怪我はないか?」
 アメリアが黙ってうなずくと、シグルドは続けた。
「今日はもう帰った方がいい」
 居間には、アメリアが作ったラベンダーのポプリの香りでも消しきれない血臭がたちこめている。
 アメリアは目を伏せた。
「………………わかりました。シグルドさんも、気をつけてください」
 それだけを言って、アメリアはシグルドに背を向けて、玄関へと続くドアノブに手をかけた。
 その背に、シグルドから声がかかる。
「ここにはもう来るな」
 弾かれたようにふり返ると、固い表情でシグルドが繰り返した。
「もう来るな」
「どうしてです?」
「こいつらを見ればわかるだろう。いつこんなのがここには来るかわからない」
 凍ったような表情の奥に、隠された恐れを、アメリアは感じ取る。
 巻きこんでしまうことへの恐怖を。
 気遣ってくれる優しい想いを。
「もう来るな。いいな?」
 念を押すようにシグルドが繰り返した。
 少し唇を噛んでうつむくと、アメリアは答えた。
「わかりました」
 シグルドが安堵の表情を浮かべる。アメリアは続けた。
「とりあえず今日は帰ります。言われた通り当分来ません。でも、またしばらくしたら来ます」
「アメリア!」
 ドアを押し開きながら、アメリアはシグルドに笑いかけた。
「言ってもダメです。また来ます。だから、それまでシグルドさんも元気でいてください。怪我とかしないように、気をつけて」
 それだけを言って、アメリアは居間を出ていった。
 そのまま玄関の扉も押し開けて外に出る。
 シグルドから死の気配は感じ取れなかった。しばらくは彼は無事だろう。
 彼と会えない間に本来の仕事に戻ろう。
 自分は魂の採魂者、戦乙女。アース神族の女神なのだ。魂を刈りとり、神界へ導くことが、その全て。
 アメリアはセイルーンの夜空へと舞い上がった。
 これは、自分自身の気持ちを整理する良い機会だと、アメリアには思えた。
 シグルドは人間で、自分は女神なのだから。
 また不意に切なくなってきて、アメリアはちょっとだけ泣いた。


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 雫石彼方様
 やっぱりゼルの転生でございました(笑)。もうバレバレです。
 名前をどうするのか最後まで迷いましたが、転生しても同じ名前はおかしかろうということでシグルドになりました。
 おかげで書くこっちがかなり困っております(笑)。ときどきシグをゼルと打っちゃうことが。そのうち間違えるかも。
 余談ですが、シグルドは歌劇「ニーベルンゲンの指輪」で戦乙女ブリュンヒルドと恋に落ちる英雄の名前です。アメリアの名字も最初はヴァルキリーではなくブリュンヒルドでした。別名ジークフリード。
 ですがこの歌劇。シグルドが記憶を消されてしまい他の人と結婚してしまう、かなりとんでもない話(^^;)なので縁起が悪いとヤメになりました。
>リナのアメリアへの過保護っぷり。
 最近書いているラストの方でかなり炸裂してます(^^;
 あまりに溺愛しているので、書いているこっちまでためらってしまいました。
 かなりおかしいです(笑)。書き直そうかな、ラスト。

 水晶さな様
 眠りは人間に必要ですから無理せず寝たほうがいいです。
 私みたいにトリップしてて朝が来るような非人間的なことはするべきではありません(笑)。
 フィリアは確実にオリキャラの道を歩みつつあります。やはり分割したのがまずかったのかしら(^^;
 そんなこと言わずに、どうかまた来てくださいね。待ってます。


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4999時の旋律 断章―贖罪―桐生あきや 11/25-02:48
記事番号4991へのコメント


 おおう、さなさんのツリーが落ちている(笑)。
 これアップした瞬間に私のやつも落ちたらどうしよう。
 ま、そのときはそのときか。
 今回からちょっと、アメリアのお仕事の話になります。
 断章=章の断片ということで。
 せっかく戦乙女なんで、少しお仕事の話も書こうかなと思いまして。もろVPの影響受けまくっていますけど(笑)。
 もともと採魂をしに降りてきたんだしね、戦乙女のアメリアちゃん(笑)。

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 街の住人すべてが異形と化してしまった―――。
 それを聞いて、駆けつけたときにはすべては終わっていた。
 否、終わるところだった。
 すべての元凶たる異形と化した姉を、少女が抱きしめる。その身を黒い剣がつらぬいた。禍々しい、負の力が宿った剣。
 力を失った少女の体がずるりとすべり落ち、大地へと転がる。投げ出された小さな手は動かない。
 鮮やかな真紅が大地にひろがり、少女の金髪を赤く染めていく。
 異形の姉のその漆黒の肢体に、徐々に感情のふるえがはしる。ぎこちない手が剣をもう一度ふりあげて、いやいやをするように小さく首をふった。
 異形と化していたその体と剣の間に、ひずみが生まれ、痛みがはしり―――。

 ―――アメリアがふり抜いた採魂の大鎌が、黒の女神を二つに断ち割っていた。



 虚空にたたずむ姉は、目の前の少女に対して静かに首をふった。
「私にそんな資格などありません。冥府の責め苦が私には待っています」
 彼女の目の前の少女も、必死の面もちで首をふる。
「一度、人であることを止めてしまったあなたは輪廻の輪へ戻れません。私と一緒に神界へ来てください。でないとあなたは冥府に連れて行かれてしまいます。そんなこと、私は見過ごせません」
「いいえ」
 頑(かたく)なに彼女は首をふった。長い銀色の髪がそれにあわせて、さらさらと動く。
「これは私への罰なのです」
「違います!」
 少女が叫んだ。闇のなか、またたく濃紺の瞳に、怒りの色を浮かべて。
「冥府の者は罰を与えるために、非道を行っているんじゃないんです。彼らは自分たちの愉しみのために、人の魂をもてあそぶんです」
 姉である女性はそっと目を伏せて、哀しく微笑んだ。
「それでもいいんです。私は、あの子まで手にかけてしまった………」
 少女は言葉を返そうとしなかった。
 すぐ傍まで近づいてきて、彼女の手をとる。
 まるで幼子をあやすように、その手を揺らした。
 その濃紺の瞳には、限りなく優しい光。
「彼女のためにも、神界へ来てください。あなたが冥府に逝ってしまったら、彼女をだれが救ってあげるんです?」
 その言葉に、弾かれたように彼女は顔をあげた。
 ふわりと目の前の戦乙女たる少女が笑う。金色の羽根兜は、彼女の神格の象徴。
 死者を導く者。魂の死を救う者。
 彼女に選ばれることは、逃れられない死を持つ自分たちにとって、無上の喜びであることも知っている。
 だからこそ、こんな自分が神界へ行く資格はない。
「魔族の手にかかって死んだ者は、定めの糸車が狂ってしまうんです。狂いが正され、正しく転生が行われるのは、はるか遠い未来になってしまうんです」
 彼女が両手で顔をおおった。手にかけたのは他でもない自分自身。
 赦(ゆる)されるはずがない。
 不意に、戦乙女が彼女の目の前でそっと何かを包みこんだ。
 そして開く。
 開かれたその両手の中で淡い光の塊がゆるやかに明滅し、ゆっくりと少女の輪郭を取っていった。
 彼女は目を見開いてそれを見つめる。
 その頬には、すでに涙。
 心の闇と痛みが癒され、融けて流れていく。
 戦乙女が彼女に囁いた。
「だから、私と妹さんと一緒に、神界へ逝きましょう。妹さんが次に転生するまで傍にいてあげること。これが私に用意できる、あなたの償いです」
 光の少女の伏せられていた瞳がゆるりと持ち上げられ、彼女の姿をとらえる。
 淡い光に縁取られた、金色の髪に緑の瞳。
 少女の手が彼女の手をつかんだ。花のように、その光の中で少女が微笑む。
「一緒に、行こう。ベル姉さん」
「アリア………!」
 想いは声にならなかった。声にする必要などなかった。
 アメリアは両手をひろげて、二つの魂をしっかりと抱きしめる。
 翼がひろがり、光の薄片が空へと舞い上がった。




「リナさんっ、リナさんっ」
 明るい声が神界宮殿に響き渡る。
 呼ばれたリナはふり返って、アリアに手をふって合図をした。
 苦笑ぎみに呟く。
「なんだかアメリアがもう一人いるみたい」
 ぱたぱたと走り寄ってきたアリアは、リナの前で魔道書を開いた。
「こないだのここなんですけど………」
 言って、何かの書き付けを取り出す。
「こう展開して、こう使えば、もっといい感じになるんじゃないでしょうか」
「をっ、それいいじゃない。で、このあたりで火球をさらに追加して………」
「あっ、そうですね!」
 ひとしきり呪文の威力について盛り上がる二人の頭上から、呆れたような声がふってきた。
「なあ、アリア………」
 通りかかったガウリイが、困ったような顔で、リナの頭にぽんと手をのせた。
「こいつのようになると、第二の人生踏み外すぞ?」
「………どーいう意味よ、ガウリイ」
「いや、その………」


 そこから少し離れた部屋の一室では、フィリアがティーポットを正面に座る相手に差し出していた。
「ベルさん、もう一杯いかがですか?」
「あら、ありがとうございます。フィリアさん」
 ほど近いところで、なにやら爆発音が響いた。
 ティーポットにお湯を足しながら、フィリアがさらりと言った。
「またリナさんですね」
「にぎやかですね」
「いつものことですから。どうせ相手はガウリイさんですよ」
 ティーカップを片手に、優雅にベルは微笑んだ。
「仲が良くてよろしいですね」
 もう一発、爆音が聞こえてきた。
 今度は、いささか頬をひきつらせながらフィリアは答えた。
「ええ、本当に」


 フィリアが後から聞いたところによると、二発目の爆音はどうやらアリアの手によるものらしかった。
「リナさんが二人いるみたい」
 ぽそっと呟いたフィリアは、思わず想像してしまった恐ろしい未来図を、必死で頭から追い払った。

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5000時の旋律 断章―死の先に続く道―桐生あきや 11/25-02:55
記事番号4991へのコメント


 ツリーが落ちる前に断章を全部載せておこうと思います。
 コレを頭にして新ツリーというのはどうかなーと思うので。
 これも載せた瞬間落ちたりして(笑)。

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 気がついたとき、彼女は闇の中にひとり立ちつくしていた。
 そこには何もなかった。大地もなく天もなく、光すら存在しなかった。何も見えず、何も聞こえず、ただ独りきり、彼女はそこに在った。
 どうして自分がこんなところにいるかわからず、少し首を傾げる。
「………私は死んだのかしら」
「残念ながら、そうです」
 少女の声がそう応えて、目の前で光が弾ける。
 弾けた光が形をとると、目の前の闇は、黄金色に輝く鎧をまとった少女へと変わった。
 肩口で切りそろえられた黒髪は、鎧と同じ艶を消した金の羽根兜でおさえられている。兜のなかの濃紺の瞳は、星のまたたく夜空の輝き。
 死んだという自分。羽根兜の少女。
 与えられたそれらの情報から、彼女は目の前の少女の正体を探った。
「戦乙女ヴァルキリー?」
「ええ」
 少女はうなずいた。
「私は死んだのね」
 死ぬ直前の記憶がよみがえってくる。盗賊団に襲われた村に、たまたま彼女は居合わせていたはずだ。
「村は、守れたかしら」
 少女が無言で手をかざす。
 少女と彼女の間の闇が、ぼうっと光を放った。徐々にその光のなかに、何かが見えてくる。
 焼けてしまった家もあるが、大半は無事に存在している村。無事だった人々が集まって泣いている。女性もいた。男性も、子供も老人も。
 彼女が守ろうとした人々。
 その人々が取り囲む中央に、全身に無数の傷を負った彼女自身の姿があった。
 ひとつひとつは死に至るものではない。しかし、治癒呪文を唱えるひまもなく剣をふるうなか、その傷の数が彼女を死へと導いた。
「守れたのね」
 そう言って、初めて彼女は微笑んだ。村の景色は消えた。
「私を神界へと連れていくの?」
 なかば確信を持ってそう問いかけた彼女に、少女は首を横にふって言った。
「あなたがそう望むなら」
「どうして? あなたはそういう存在なのでしょう? 人の魂を神界へと運んでいくのでしょう?」
 彼女の問いかけに、少女は応える。
「死んだ魂は輪廻の輪へと還っていきます。それは抗えない死の定め。私が引きとめた人だけが、選択の機会を与えられるんです。転生を望むか、このまま神界へ逝くか」
 ―――私は、あなたにそれを問いにきました。
 そう言われて、彼女は少し考えこんだ。
 傭兵をやってきて、これまでに何度も死ぬような目に遭ってきた。その度に逃れてきたが、とうとう逃れられなかったというだけだ。
 これまでの自分の生に未練はない。精一杯生きた自信がある。
 村は守れた。心残りはない。
「あなたの問いは、こう言いかえることもできるわ。ここで『私』という存在を終わらせて別の人間になるか、このまま『私』で在り続けるか。そういうことでもあるのね」
 彼女の言葉に戦乙女の少女は虚を突かれた表情をした。
「確かに、それはひとつの真実かもしれないです。転生に記憶は持っていけませんから。
 ―――どうします?」
 戦乙女の濃紺の瞳が、彼女に答えを問うた。
 闇の中、静かに彼女はうなずいた。
「死んでしまったのは仕方がないわ。けれど、私は『私』で在り続けたい。あなたが死の終わりの先にまだ道を示してくれるというのなら、私は喜んでその道を歩きます。私は、『私』の記憶と思いが大事ですから」
「わかりました」
 戦乙女の少女はうなずいた。その背に、白い翼がひろがる。
 光の薄片を闇にまき散らすその美しさを、彼女は目を細めて見つめた。
 戦乙女が手を差し伸べる。
「私と共に神界へ行きましょう」
 自分と少女の体が、光に溶けていくのがわかる。光は微細な粒子へと昇華し、天へと昇ってゆく。
「そう言えば、名前なんていうんです?」
 光に意識をゆだねる寸前、彼女は答えた。
「ミリーナよ」




 アメリアがミリーナを連れて神界宮殿に戻ってきたとき、そこにちょうど居合わせたのはルークだった。
「おう、戻ってきたか。今回はどんな―――」
 そう言いかけたルークの口がぽかりと開いたまま、閉じなくなる。
 ルークの視線を追ってアメリアは後ろをふり返るが、当然そこには自分が連れてきたミリーナしかいない。
「ルークさん?」
 ミリーナを見つめたまま突っ立っているルークに、アメリアは声をかけるが、変化はない。
 ミリーナが首を傾げた。銀色の髪がさらりと揺れる。
「私が、何か?」
 その言葉に、弾かれたようにルーク動き出した。ほとんど音速でミリーナの前までやってくると、がしっとその手を握りしめて、一言。
「オレと結婚してくれっ!」
「………………………は?」
 間の抜けた声をあげたのはアメリアだった。
「マジで惚れた! オレの相手はあんたしかいないっ」
「うええええぇっ!? ル、ルークさん!?」
 それっていくらなんでもストレートに言い過ぎだとアメリアは思った。
 ―――だってほんの数秒に前にルークさんとミリーナさんは会ったわけでそりゃ一目惚れって言うのも世の中ありますけどもう少しものには順序というものがあるんじゃないでしょうかいきなり結婚なんて言われても困るだけだと思うんですけど私って間違ってるでしょうか?いいえ間違ってないと思うんですだいたいあれほど一緒にいるリナさんとガウリイさんだってそこまで行ってないんですからもう少し進展しても私罰は当たらないと思うんですけどえええええとそれで何が問題なんだっけ…………………。
 ひたすらパニクるアメリアのかたわらで、当のミリーナは落ち着き払った様子でルークに応えた。
「ルーク・チュール神?」
「ああ、そうだ」
「戦神の?」
「ああ」
「そうですか」
 興味なさそうにうなずくとミリーナは、ひたとルークを見据えた。
「私、赤毛の人は嫌いなの」
 ぴしりとルークが石像と化した。
「ミ、ミリーナさんっ、こっちですこっち! そ、そそれじゃあルークさん、また後で!」
 ひきつった表情のアメリアがミリーナを引っ張って、回廊の角を曲がる。
 固まったままのルークが取り残されて、ひゅうと回廊に風が吹いた。

 翌日からルークの髪は黒になっていた。

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5007かっこいいですv雫石彼方 E-mail 11/26-07:42
記事番号5000へのコメント

おはようございます〜、雫石です。

> やっぱりゼルの転生でございました(笑)。もうバレバレです。
> 名前をどうするのか最後まで迷いましたが、転生しても同じ名前はおかしかろうということでシグルドになりました。
> おかげで書くこっちがかなり困っております(笑)。ときどきシグをゼルと打っちゃうことが。そのうち間違えるかも。

バレバレなのはお互い様でございます(笑)本人、ひた隠しにしてたつもりだったんですが。『光について8』へのレスで、完璧にバレてることを確認いたしました(笑)
ところでシグルドくん、最後までこの名前でいくんですか?それとも途中でゼルに変わるんでしょうか?

>>リナのアメリアへの過保護っぷり。
> 最近書いているラストの方でかなり炸裂してます(^^;
> あまりに溺愛しているので、書いているこっちまでためらってしまいました。
> かなりおかしいです(笑)。書き直そうかな、ラスト。

えー、見たいですよ、アメリアへの溺愛ぶりを炸裂させてるリナ(笑)ちなみに私も今ラストの方を書いてるんですが、やっぱり炸裂してます(^^;)共に道を歩みましょう(笑)

――で、感想なんですが。ああっ、アメリアとシグルドに別れがーーー!!でも「また来ます」って言ってたし、シグルドからは死ぬ気配がしないみたいだし、そんなに心配しなくてもいいのかな・・・?でも油断してると、突然大変なことになりそうですね。ゼロスも王宮に入り込んでることですし。安心はできません!!

お仕事するアメリア、かっこよかったです。ミリーナもかっこい〜vあと、一人空回りするルークがとても好きなので(ひでぇ)、楽しかったです(^^)
アリアは、リナになついててちょっとやきもちを焼いてみたり。(おい)だってだって〜〜〜・・・(ぐにぐに)別にレズとかそういう趣味はありませんが(^^;)、結局どこまでもアメリア好きな雫石でした(汗)

では〜。

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