◆−赤の継承者 1−水晶さな(9/22-13:28)No.4384
 ┣赤の継承者 2−水晶さな(9/22-13:30)No.4385
 ┃┗一番乗りだっ!−ねんねこ(9/22-15:05)No.4386
 ┃ ┗おお早っ!!−水晶さな(9/23-21:46)No.4415
 ┣赤の継承者 3 〜来襲〜−水晶さな(9/23-21:51)No.4416
 ┣赤の継承者 4 〜結託〜−水晶さな(9/23-22:24)No.4418
 ┣赤の継承者 5 〜追憶〜−水晶さな(9/24-13:40)No.4426
 ┣赤の継承者 6 〜恋人達〜−水晶さな(9/25-20:49)No.4446
 ┣赤の継承者 7 〜休息〜−水晶さな(9/26-14:40)No.4448
 ┣赤の継承者 8 〜再戦〜−水晶さな(9/26-14:45)No.4449
 ┃┣気がつけば たくさんあるよ びっくりにょ−ねんねこ(9/26-20:22)No.4451
 ┃┃┗だらだらと 無駄に増えてく 続き話(爆)−水晶さな(9/27-00:58)No.4455
 ┃┗読んでる人第二弾−駒谷まや(9/26-23:20)No.4453
 ┃ ┗初めまして〜。−水晶さな(9/27-01:10)No.4456
 ┣注記−水晶さな(9/27-00:44)No.4454
 ┣赤の継承者 9 〜再会〜−水晶さな(9/27-01:26)No.4457
 ┣赤の継承者 10 〜決戦〜−水晶さな(9/27-23:57)No.4467
 ┣赤の継承者 11 〜告白〜−水晶さな(9/28-00:03)No.4468
 ┗赤の継承者 12 〜出発〜−水晶さな(9/28-00:11)No.4469
  ┣イラギャに水晶さなさんの作品を掲載!!−一坪(10/1-01:35)No.4481
  ┃┗ありがとうございます!!−水晶さな(10/2-00:01)No.4483
  ┗お疲れ様でした−わかば(10/5-22:57)No.4493
   ┗こちらこそありがとうございます〜!!−水晶さな(10/7-00:28)NEWNo.4503


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4384赤の継承者 1水晶さな E-mail 9/22-13:28



 ・・・今回どーしても長くなりそうなので・・・小出しに出していきます。
 いや出し惜しみしてるワケじゃないんで勘弁して下さい(苦笑)。
 オリキャラ出張り過ぎで更にゼルアメ度ダウン(爆)。

=====================================

 何気ない状況を壊すアクシデントは、全くといっていいほど唐突にやってくる。
 夜半過ぎてやっと辿り着いた小さな町。
 宿屋のチェックインを手早く済ませ、食堂兼酒場で遅い夕食を二人でとっていた。
 夜の道を急いだ為、二人共かなり疲れている。そのせいか会話も少なく、黙々と食事を続ける。
 食事を済ませたら早々に寝るつもりだった。
 アメリアが食後に飲むつもりで残しておいたミルクティーに手を伸ばした瞬間。
 どんがらがっしゃん。
 二人の間にあった木製のテーブルが吹っ飛んだ。
 どこからともなく吹っ飛ばされてきた男がぶち当たり、テーブルを巻き込んで倒れたのだった。
 ゼルガディスは丁度良くコーヒーカップを手に持っていたが、アメリアの伸ばした手は空中に止まったまま。
 まだ温かいミルクティーが床にこぼれ落ち、ふんわりと甘い香りが漂った。
 アメリアの指が何かを求めるように空中で泳ぐ。
 突然の状況に驚いていたゼルガディスだったが、そのアメリアの手に自分のコーヒーカップをつかませてがたりと席をたった。
 男を吹っ飛ばした当人が、腰に手を当てて余裕でふんぞりかえっていたからである。
 年はアメリアより1歳か2歳年上の女だろうか。
 ウェーブのかかった長い金髪を腰まで伸ばし、大きく綺麗な碧色の瞳が今は吊り上がり気味になっていた。
 旅装束の軽装で、上半身にはごく薄い銀色のプレートアーマーのみ。腰に巻いた太いベルトには鞭が折り畳まれて挟まっている。
 アーマーの下はシルクのような薄い緑色の布地の服。短いスカートからは白くて長い足がすらりと伸びていた。
 着ている服は見るからに上質。顔立ち良いしスタイルもスレンダーだが抜群のプロポーション。
 ただし性格はどう見ても悪そう。
「下衆が気安くわたくしに声などかけない事ね! 身の程知らずにも程がありますわ!!」
 ・・・本当に悪いなこれは。
 ゼルガディスが胸中でぼやいた。
 弁償と謝罪を求めようにも相手が悪い。それに何より長旅で疲れている。
 できる事なら関わり合いになる前にこの場を去りたかった。
 背中に回した手でちょいちょいとアメリアに向かって手招きする。
 ・・・が、アメリアが席を立つ気配はない。
 振り返ると、先程手渡したコーヒー(ブラック)を飲み干して苦い顔をしていた。
「・・・胃に悪いですぅ」
「何をやっとるんだお前はっ!!」
 思わず叫んでしまった。
 嫌な事に、性悪女(ゼルガディス命名)が自分に向けられた言葉と誤認した。
「お前ですって?」
 更に表情をキツくし、ざっとオーバーに髪をかきあげる。
「富豪の中の大富豪、キーフェル家の娘ミルファレナ=マチス=キーフェルに向かって何という言葉遣い!!」
 周囲を取り巻いていた野次馬がざわざわと騒ぎ始めた。
「富豪?」
「キーフェル家?」
「聞いた事ないな」
「何じゃそら」
「外野は引っ込んでなさい!!」
 周囲のツッコミが気に触ったのか、ばしいとけたたましい音をたてて床に大穴が開いた。
 いつの間にかミルファレナの右手には鞭が握られている。
 普通の鞭かと思っていたそれは、中途から三つ又に分かれていた。
 かなりの腕前でないと扱えない代物である。
 実際いつ鞭を抜いたのかも、油断していたとはいえ見えなかった。
 ・・・関わり合いに、なりたくなかったのに・・・
 ゼルガディスが諦めて、剣の柄に手をかけた瞬間。
「・・・今の『お前』ってのは、ミルではなく向こうの連れに向けられた言葉みたいだが。又意味もない暴力を振るうのか?」
 ミルファレナの影になっていて見えなかったテーブルの席には、もう一人座っていた。
 恐らく自分達のように向かい合って食事していたのだろう。
 もう一人の方は男だった。青年らしいが、年齢が読みにくい。
 首までの短い群青色の髪に、銀のような光を持つ灰色の双眸。
 端整な顔立ちだが表情から感情というものは全く欠落していて、喋る時もほとんど唇を動かさない。
 身にまとう服は旅装束だが、ミルファレナと違って質素で暗い色で統一している。
 腰に見える剣のようなものはちゃんとした鞘がなく、太股の両外側に付けられた服のポケットに差し込まれていた。
 かなり薄い剣である。特殊性なのだろうか。
「今、何と? フィス、もう一度言いなさい」
 ミルファレナが嫌なものを見る目付きで男を振り返った。
「『お前』という言葉はミルに対して言ったものではない。以下面倒臭いから省略」
 ミルファレナの方を見ようともせず、食事を続けながらフィスと呼ばれた男が答える。
「そうじゃなくてよ!! わたくしに話しかけるのに食事をしながらこちらを見ようともせずに喋る貴方の無神経さには我慢なりませんわ!!」
 ずかずかと歩み寄り、だんっとテーブルに手を置くミルファレナ。
「・・・このサラダにはサウザンドレッシングを使うよりもフレンチの白を使った方が良いような気がする・・・」
「魚を食べながら何故話題がサラダなんですの!!!!」
 ムキになるミルファレナを尻目に、フィスが気付かれないように目線で合図をした。
『行け』
 すぐに合図を読み取り、ゼルガディスがアメリアの手を引っ張って食堂から逃げ去った。
 ・・・勿論代金は置いて(ただし食事代だけ)。

 ベッドに倒れ込んで、アメリアがふうと息を吐いた。
 ・・・疲れたなぁ。でも、コーヒー飲んじゃったから目はさえてるなぁ。
 むくっと上半身を起こし、荷物からタオルと着替えを取り出すと部屋を出た。
 浴場に行こう。今日は汗をかいたし。時間は遅いけど逆に人が少なくていいかもしれない。
 廊下に出た所で、同時に向かいの部屋の扉を開けたゼルガディスとばったり出くわした。
 右手に着替えとバスタオル。
「・・・お風呂ですか」
「・・・そっちもか」
「何だか今日は疲れましたし・・・」
「そうだな・・・特に食堂・・・」
 二人同時に溜息。
「明日は早目に出るか。会わない内に」
「・・・ですね」
 珍しく意見が一致した二人だった。

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4385赤の継承者 2水晶さな E-mail 9/22-13:30
記事番号4384へのコメント


 運命の悪戯というのは、本人が予期せぬからそういう名称が付けられるのであって。
 大体予期されていたら「運命の」とは言えない。
 うんちくはいいとして、アメリアはまさにこの言葉を思い出したのである。
 浴場に入った途端、さっき見た女が先に湯につかっていたのを見て。
 すぐ気付けば引き返したのだが、湯煙で人がいるかどうか見えなかったのだ。
 発見した時には向こうもこちらの存在に気付いていた。
 だが先程の事件で気まずいのか、ぷいと顔をそむけただけだった。
 ちゃぽんとこちらも湯に入るが、沈黙がアメリアには耐えられなかった。
 ・・・気まずい。
 思わずこちらから声をかけてしまう。
「あ・・・あの、私、アメリアっていいます。さっきは大丈夫でしたか?」
 くるりとミルファレナがこちらを向いた。相変わらず目つきはキツイが、それさえ除けば結構な美人だ。
「そう、話しかけるときは自分から名乗るものです。気に入りましたわアナタ」
「・・・はぁ、ありがとうございます」
「ところで何に対して『大丈夫』なんですの?」
「・・・え? えと、後始末とか、あの・・・一緒に居た男の人とケンカしていたみたいなので、仲直りはできたのかと・・・」
「後始末はどうでもいいとして、『男の人』とはフィスの事を言ってるんですの?」
「(どうでもいって・・・)え、えと、フィスさん・・・でしたね。ええ」
 ミルファレナがあからさまに嫌な顔をした。
「アレをわたくしと対等な目で見ていらっしゃるの? おあいにく様アレはわたくしの下僕ですわ」
「げ・・・下僕?」
 滅多に聞かない言葉だ、とアメリアは思った。
「それにしてはあんまり・・・というか、敬語を使ってないというか・・・」
「そう! そうなんですわ!!」
 ミルファレナがざばあっと立ち上がった。
(あーのー、見せられても。確かに女同士だけど、目の前で立ち上がらなくても)
 アメリアが言葉を失っている間にも、ミルファレナは勢い良くまくしたてた。
「あの下僕のくせに無礼な態度と振る舞いと言葉遣い!! 一体なんべん言わせれば気が済むんですのあのクズは!!」
「あ・・・あの、じゃ、クビにしたりしないんですか?」
「負けた気がして悔しいから嫌ですわ」
(なんてわかりやすい)
 この後アメリアはのぼせるまでミルファレナの愚痴を聞かされる事となった。

 少し時間はさかのぼり、アメリアが浴場に入った時、ゼルガディスもほぼ同時刻に浴場の戸を開けた。
 湯煙の向こうに、人影。
 ・・・先客か? この時間帯にいる筈はないと思ったんだがな。
 自分の外観を考慮して、他客と一緒の風呂は今までずっと避けてきた。
 好奇の目で見られるのも畏怖の目で見られるのも御免である。
 そう思って引き返そうとしたが、その湯につかっているのが先程食堂で見た男だとわかって立ち止まった。
 フィスといったか、立ち止まったのはそれだけではなかった。
 彼の体には無数の手術後のような傷跡がはびこっていたのである。
 思わず立ち尽くしていると、向こうがこちらに気付いて顔を上げた。
 相変わらずな無表情。
「・・・あ、さっきは・・・スマンな」
 とりあえず声をかけると、かすかにうなずいた。
「・・・ミルのヒスはいつもの事だ」
「・・・何であんなのと一緒にいるんだ?」
 成り行きで湯につかり、とりあえず聞いてみた。
「拾われたからな」
「・・・拾われた?」
「ミルの家の裏庭に行き倒れになっていた所を踏まれた」
 ゼルガディスが浴槽に縁にかけていた肘を滑らせた。
「『拾ったから自分のものだ』と宣言された。世話になった礼もあるし、ミルの母親に警護を頼まれた」
「・・・ふーん」
 その事実だけで既に疲れ、それ以上は聞く気になれなかった。
 それにしても、物凄い傷の数。
 フィスは平然と(というか無表情)していたが、ゼルガディスには気になった。
「・・・その傷はあれにつけられた・・・ってオチはないよな」
「ミルと会う前だ」
「・・・いや、それだけわかればいいんだ。邪魔したな」
 そう言うと先に風呂場から出ていった。
「・・・あんな事を聞いてくる奴は初めてだな・・・」
 浴場に一人になって、フィスは無表情のままぽつりと呟いた。

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4386一番乗りだっ!ねんねこ E-mail 9/22-15:05
記事番号4385へのコメント

ねんねこです。
これですね、あまりに長くてやる気50%ダウンの作品は……
すごく面白いですよ。
だからやる気出してください。他力本願もダメです(きっぱり)

さなさんのオリキャラっていつもキャラが濃くてよいです(はぁと)
そして、オリキャラに流されまくりのゼルとアメリアも最高(笑)
どこに行ってもオリキャラに流されるのね、てな感じです。
うちのクーちゃんは……思いっきりでかい顔して話の中にいますしねー……(汗)お前オリキャラだろ……とツッコミを入れたくなるくらいに。
いや、うちの話はどーでもいーから……

どんな話になるのか続きが楽しみです(はぁと)
ではではねんねこでした。

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4415おお早っ!!水晶さな E-mail 9/23-21:46
記事番号4386へのコメント


>ねんねこです。
>これですね、あまりに長くてやる気50%ダウンの作品は……
>すごく面白いですよ。
>だからやる気出してください。他力本願もダメです(きっぱり)

 だうも水晶さなです。
 てへ、長いと言っても自分にしてみれば長いだけです多分(爆)。
 他力本願は腐れ根性な私には治せない☆(死)
 できることならプロットだけ置いて帰りたい気分です(核爆)
 ・・・まぁ、んな事言っても始まらないんでトロトロ書いてるんですけどネ。


>さなさんのオリキャラっていつもキャラが濃くてよいです(はぁと)
>そして、オリキャラに流されまくりのゼルとアメリアも最高(笑)
>どこに行ってもオリキャラに流されるのね、てな感じです。
>うちのクーちゃんは……思いっきりでかい顔して話の中にいますしねー……(汗)お前オリキャラだろ……とツッコミを入れたくなるくらいに。
>いや、うちの話はどーでもいーから……

 濃過ぎてアクが強過ぎてお前ら主役食ってんだろーな勢いですな。
 作者にも収拾つきません(爆)。
 クラヴィス君のよーに馴染んでくれると良いんですけれど(無理無理)。
 続きは期待せずに待ってて下さい★(爆)
 ではでは。

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4416赤の継承者 3 〜来襲〜水晶さな E-mail 9/23-21:51
記事番号4384へのコメント


 風呂に入って心身共にさっぱりし(少々のぼせたが)、やっと布団に入りまどろむこと数分。
 嫌な事は続くもので、アメリアは背中から来る悪寒にばっと身を起こした。
 窓・・・じゃない、隣?
 アメリアがベッドから下り、壁に目線を移した瞬間。
「フレア・アロー!!」
 どっごぉん。
 突如壁に大穴を開け、炎の矢が飛んできた。
 長年の勘で横に跳んでかわしたが、呆然と突っ立っていたら頭に直撃していた。
「何なんですかもうっ!!」
 安眠妨害にもほどがある。
「こっちが聞きたいぐらいでしてよ!!」
 隣の部屋から、どこかで聞いたような声がした。
 穴から隣をのぞくと、ミルファレナが黒装束の人物と対峙している。
 どうやらさっきの炎の矢は、位置からしてミルファレナが放ったようだった。
 魔法まで扱えるとは驚きだったが、今は驚いている暇はない。
 慌てて隣の部屋へと移動する。
「婦女子の部屋への不法侵入は重罪でしてよ!!」
 黒装束が放ったナイフをミルファレナが鞭を一閃させて弾く。
 相手も相当な腕だが、ミルファレナも負けてはいない。
 アメリアは加勢する為に黒装束の後ろに回ろうとした。
 ひゅっ。
 軽い風の音が聞こえた。耳を澄ませてなければ聞き落としただろう。
 横に跳ぶ。数秒後に床に長い針が突き刺さった。
 窓の外にもう一人居た。
 下がろうとする気配に、アメリアが逃してなるものかと窓枠に飛び乗った。
「ミルファレナさん! こっちは引き受けます!!」
「仕留めなければ承知しませんわよ!!」
 強気なミルファレナの発言を背中に、アメリアが窓の外に踊り出た。
 下を見ても、不審人物はなし。
 上から又風が・・・上!?
 落下しながら必死に顔を上げる。
 屋根の上から身を乗り出す黒装束の姿が見えた。
 その手には吹き矢が握られている。
 迷っている暇はない。
「レイ・ウイング!」
 アメリアは風をまとわりつかせ、黒装束に向かって突っ込んだ。
 魔法のかかっていない吹き矢など、風の結界で軽々と折れる。
 まさか突っ込んでくるとは思わなかった黒装束が、タックルをまともに受けて転がった。
 アメリアが術を解除して降り立ち、月光をバックに姿勢を正した。
 人差し指を付き付け、お得意の口上を述べる。
「婦女子の部屋に夜間侵入など言語道断!! そんな悪人はこの正義の使者アメリアが許しません!!」
 吹き矢をしまい込み、黒装束が右手に片刃の短剣を握った。
「・・・貴様もファルシオンの仲間か・・・」
「は?」
 誰それ?
 アメリアは眉をひそめたが、黒装束はお構いなしに突っ込んできた。
 突きをかがんでかわし、レイ・ウイングで離れて間合いを取る。
 黒装束が尋常でない早さで間合いを詰めてきた。
「ファイアー・ボール!」
 両の手を突き出し、炎を放つ。
 炎の熱と勢いで黒装束が半分ほど後退した。
 体にまとわりつく炎をかきけすように手を振ると、彼を包んでいた炎があっさりと消失する。
「!?」
 ・・・人間じゃない!!
 過去の経験から判断して、次に唱えようとしていた呪文を中断する。
 新たに別の魔法を唱えようとしたが、黒装束がそんな暇を与えないように攻撃を仕掛けてくる。
 魔法でも使わなければ人間外にダメージなど与えられない。しかも高等魔法でなければ。
 だからこそ防戦一方にさせられる自分の力量に腹が立った。
「くっ!」
 突きを避けて、一歩下がる。
 その足は地面を踏んでいなかった。
「・・・えっ?」
 忘れていた。ここは屋根の上。
 じりじりと後退していて、屋根の面積に限界がある事に気付かなかったのだ。
 がくんと、重心が落ちる。
 黒装束がアメリアの脇腹を蹴った。
「っ!!」
 衝撃で、完全に宙に投げ出される。
 落ちる。
 アメリアがもう一度レイ・ウイングを唱えようとした瞬間、上方の黒装束が追い打ちに短剣を振りかぶるのが見えた。
 駄目だ、間に合わない。
「・・・・・・っ!!」
「レイ・ウイング!!」
 落下の感触が消え、背中が持ち上げられる感覚。
 アメリアは再び屋根の上に戻っていた。
 しかも屋根の端に立った黒装束の反対側に。
「・・・え?」
「悪い。遅くなった」
 振り返ると、自分を片手で抱えていた彼の姿。
「ゼルガディスさん!」
 思わず笑みがこぼれる。
「感動の再会をしてる暇はないぞ」
「・・・ハルバードをやったか・・・」
 黒装束が小さく呟いた。
「アストラルヴァイン!」
 ゼルガディスの剣が赤い光を帯びる。
 黒装束が走り込んでくる。互いの剣が噛み合った瞬間を狙って、アメリアが両手を天に向かって突き上げた。
「ラ・ティルト!!」
 黒装束の足元から青白い炎が吹き上げた。
 ぎぎぃんっ!
 噛み合った剣が横にずれ、耳障りな音をたてた。
 そのまま剣を滑らせて離れ、黒装束が空中に身を躍らせる。
「ラ・ティルト!!」
 ゼルガディスが逃げ行く黒装束に向かって唱えた。
 が、黒装束の逃げるスピードのが早かったのか、それて右肩にぶつかった。
 先程アメリアの当てた炎がまだ残る肩をえぐり、黒装束が小さいながらも悲鳴を上げる。
 やった、と二人共思った。
 だが。
 次の瞬間その部位は盛り上がり、何事もなかったように傷はふさがり、黒装束は地面に降り立った。
 すぐに闇に溶け込み、見えなくなる。
「・・・」
「・・・」
 あまりの展開に呆然とする二人。
 治癒能力が恐ろしい程長けている魔物・・・。
 出会った事がないわけでもないが、ここまで脅威的なスピードは初めてだった。
 しばらくしてアメリアが我に返り、ゼルガディスの方を振り向く。
「ゼルガディスさんの方にもあんなのが来たんですか?」
「・・・ああ、ばかでかい斧槍を持った奴だった」
 気持ち悪いように言うと、レビテーションを発動させて窓から部屋へ戻ろうとした。
 スピードを押さえながら窓の前まで移動する。
「っ!!」
 ゼルガディスが思わず後ろからアメリアの目をふさいだ。
「え? え?」
 急に視界を奪われてあたふたするアメリア。
 窓辺には、首から上のない黒装束が立っていた。
 ぐらりとこちら側に倒れ、地面に落下していく。
 どさっ。
 何もいなくなった空間の向こうには、フィスが胸の前でクロスさせるように両手に刀を握り締めて立っていた。
 服のポケットに入れられるくらい薄い刃。空気抵抗を受けない分恐ろしいほど切れ味は鋭い。
 その素早さで首を切り落とされた為、血が吹き出なかったのだろう。
 地面の上で今更ながら赤い血だまりが広がって行くのに目をそむけ、ゼルガディスがフィスに刀をしまうよう目線で告げた。
 すとんっと、服のポケットにフィスが刀を落とす。
 フィスに返り血は全くついていない。
 部屋の中に降り立つと、やっとゼルガディスがアメリアを解放する。
 アメリアはわけがわからないといった風にキョロキョロと辺りを見回した。
「っ! ミルファレナさん!!」
 部屋の端で倒れているミルファレナに目を止めると、慌てて駆け寄る。
「・・・気絶しているだけだ。心配ない」
 フィスに言われ、脈を確かめるアメリア。そしてほっと息をついた。
「・・・お前が眠らせたんじゃないのか?」
 アメリアに聞こえないよう小声で問うゼルガディス。
「・・・ミルに惨事を見せるわけにはいかない」
「ワケありか」
「お前達を巻き込んでしまった事は詫びる」
 フィスが静かに頭を下げた。
「・・・まだこれからもありそうな口ぶりだな」
 ゼルガディスが嫌そうに頭を掻いた。
「・・・一戦交えてしまったのなら、もう標的だ」
「・・・冗談じゃない。巻き込まれるのはもう沢山だ」
「少なからずお前も関係はあると思うが・・・ゼルガディス=グレイワーズ」
 名を呼ばれ、ゼルガディスがはっとした。
「何故俺の名を知っている!?」
 フィスが口を開きかけたその時、アメリアが駆け寄ってきた。
 二人共合わせたようにぴたりと会話を止める。
「ミルファレナさん目を覚ます気配がないので、ベッドに運びたいんですけど・・・」
 フィスが応じ、その細い外見からは驚くほど簡単にミルファレナを抱え上げた。
「おい」
 隣の部屋へ行こうとするフィスにゼルガディスが声をかける。
「まさかまだここに居座る気じゃないだろうな」
 壁に空いた大穴。土足で踏み荒らされた室内。床には飛び散った鮮血の跡。
「・・・よく他の客が起きないもんですねぇ」
「相手は魔族っぽかったからな。空間に結界さえ張れば音は響かんだろ」
 それぐらい今までの経験で気付け、とゼルガディスに頭を軽く小突かれた。
 どうしたものかとミルファレナを抱えたまま立ち尽くしていたフィスだったが、ゼルガディスに促されて窓から外に出た。
 アメリアとゼルガディスが荷物をまとめてその後に地面に降り立つ。
「・・・修理代、あれで足りますかね・・・」
 一応テーブルの上に適当にお金を置いてきた。
「あれ以上出したら俺達が破産だ」
 申し訳なさそうに宿を振り返るアメリアと対照的に、ゼルガディスがさっさと足を進めた。
 このあたりが性格の違いである。

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4418赤の継承者 4 〜結託〜水晶さな E-mail 9/23-22:24
記事番号4384へのコメント

 
 暗闇の中に、うっすらと浮かぶ焚き火の色。
 森の中の少し開けた所で、彼らは今晩落ち付く事に決めた。
 すやすやと眠る女性陣を横目に、ゼルガディスがフィスの真向かいに座った。
「・・・さっきの話の続きを聞かせてもらおうか。何故俺の名を知っている?」
 フィスがちらりとミルファレナに目をやってから、口を開いた。
「・・・お前の有名な祖父に憧れた奴がいた」
「・・・レゾか?」
 フィスがわずかに頷いた。
「自称『赤の継承者』。最初はただの見よう見真似で奴の研究の後を追っかけていたらしい。ところが熱が別の方向に向けられ、生物兵器に没頭するようになった。今は人間の身体構造を保ちながらどれだけすぐれた兵器を作れるかに情熱を燃やしている」
 他人事のように説明するフィスに、ゼルガディスの方が驚いた。
「・・・フィス、お前、まさか」
「・・・俺は心までは壊されなかった。『人間の感情によって生まれる爆発的な力を試すサンプル』なんだと」
 ぱちり、と薪の木片が飛んだ。
「逃げた。行くあてもなく。ただこれ以上利用されるのは御免だった」
 もはやゼルガディスに語るではなく、自分でただ言葉に出したいが為に、切々と続ける。
「ミルファレナと出会ってから、俺は人間として生きる術を学んだ。だから命を預けた」
 この青年も又、被害者。
 誰かに生き方を教えてもらった者。
 ・・・自分と同じ。
「・・・ミルファレナは、その事を知っているのか?」
「ほとんど話した。それを承知で一緒に居る」
 意外だった。ミルファレナにそれだけの度胸があろうとは。
 だがすぐに続けて一言。
「『一度拾ったものはそう簡単には捨てない主義』・・・だそうだ」
「・・・なような気がした・・・」
 ゼルガディスが疲れたように肩を落とした。


 アメリアは、特にどうという事もないが、ふと目が覚めた。
 まだ太陽は昇っていない。
 昨夜ドタバタしたせいで眠りが浅かったのだろう。
 喉に渇きを覚え、そっと立ち上がる。
 焚き火はまだ燃えている。
 少し離れた所では、ゼルガディスとフィスが焚き火を囲んで座っていた。
 二人共動かないのは、疲労で眠ってしまっているのだろう。
 特に起こしてまで告げていく必要はないだろうと、アメリアがそっと離れていく。
 ついでに薪も拾ってこよう。いつも見張り役をまかせきりではアメリアの気が済まない。
 川が近くに流れているのは寝る場所を決めた時に確認済みである。
 川が視界に入る所まで来た時、アメリアが足を止めた。
「・・・・・・?」
 薄闇の中でも、その見事な金髪の色はわかる。
 いつの間にか起きたらしいミルファレナが、川のほとりに立ち尽くしていた。
 ・・・いや、その右手がかすかに動いた。
 次の瞬間、川面がぴしっという音をたてて水飛沫をあげる。
 アメリアが息を飲む。
 鞭を投げ放った瞬間が見えなかった。
 気配に気付いたのか、ミルファレナがはっとこちらを振り向いた。
「・・・す、すみませんミルファレナさん。盗み見するつもりじゃなかったんですけど・・・」
「・・・何だ、アメリアでしたの」
 ミルファレナが鞭を腰のベルトに差し挟んだ。
「アナタも眠れなくて?」
「・・・ええ、まぁ」
 とりあえず川に来た目的を果たそうと、アメリアがかがんで手の平で水をすくった。
 喉を流れ落ちる冷た過ぎる水、まだぼんやりとしていた頭を活性化させる。
「・・・ミルファレナさん」
「ミルで結構ですわ。その名で呼ぶと長過ぎましてよ」
「えと、でも、癖なので。ミルさんでいいですか?」
「生真面目ですのね」
「・・・そうなんですか?」
 アメリアがきょとんとする。
「自覚がないから困り者なんですわ」
 そう言いながらもミルファレナが口元に笑みを浮かべた。
 出会った時の刺のある雰囲気が消えていた。
「・・・人に頼ろうとせず、自分一人で全て片付けようとする朴念仁、どう思います?」
「え?」
 突然聞かれたので、アメリアが少々戸惑った。
 自分の中で反芻してから口を開く。
「ヤです」
 簡潔な答えに、ミルファレナが思わず吹き出した。
「あっはっはっ! 素直な方ですのね。わたくしも同意見ですわ。でも、どうしてアナタはそう思うの?」
「『巻き込みたくない』っていう気持ちもわからなくはないんですけど、それを言った時点で巻き込んじゃってるんですから、どうせならとことんまで付き合ってあげたいじゃないですか」
 推測ではなく、体験談。
 相手が呆れて承諾するまで説得を続けた事もある。
「『死ぬかもしれない』って言われました。でもそんなの、私の知らない所で死なれる方がよっぽどヤです」
 ミルファレナが優しい表情でアメリアを見ていた。
 私もそうよと目が告げている。
「まったくですわ。どうしてこう、男性ってわからずやなんでしょう」
「ええもうほんっとうに」
 二人の目線が合い、思わず同時に吹き出した。
「座りませんこと? 目が冴えてしまいましたわ」
 ミルファレナがマントを下に敷いて腰を下ろした。
 アメリアも自分のマントを並べて座る。
 ミルファレナの聞くままに、アメリアは自分が旅に出た訳を話した。
 自分は本当は王族である事。ゼルガディスが自分の体を元に戻す為に旅に出るのに、城を飛び出してまでついてきた事・・・。
「・・・ミルファレナさんは、どうして旅に?」
 今度は自分が話す番なのをわかっていたようで、ミルファレナが今までの経緯を話し始めた。
「・・・わたくしの本名は、ミルファレナ=マチス=ボーンウッド。ミルファレナ=マチス=キーフェルはわたくしの実父が存命だった頃の名前でしてよ」
 淡々と話す口調は、哀しさの微塵も感じさせない。それが逆に悲哀を増大させた。
「お父様は事業に失敗して、過労で倒れてそのまま帰らぬ人となった・・・お母様はまだ幼いわたくしを育てる為に、ある資産家の後妻になりましたの。本人の希望なんかじゃ勿論ありませんわ」
 少し首を下へ傾ける。金の髪がさらりとこぼれ落ちた。
「その日から義兄が三人できましたわ。勿論兄弟のように接してなどくれませんでしたけど。その内義父が老齢で寝たきりになり、義兄達は後継者争いで対立し始めました。そんな時にわたくしはフィスと出会ったの」
「・・・運命の出会いってやつですね!」
 アメリアが思わず拳を握り締める。
 ミルファレナがふるふると首を横に振った。
「庭を散歩していたら踏んだんですわ」
 がくっとアメリアが肩を落とした。
「保護したフィスの体調も全快したある日、お母様はある夜わたくしの元へ来ましたわ。『ここから逃げなさい』と」
 立てた膝の上に手を置き、川の流れへ目線をやる。
「わたくしはフィスを連れて外の世界へ出ましたわ。十何年間も縛り付けられていた屋敷から解放されたんですもの。それは幸せでしたわ」
「・・・・・・」
 アメリアが、ふと自分とその姿をダブらせた。
「でも、帰らないつもりではありませんのよ。資金を貯めながら、いつか家を建てて、お母様を迎えに行くんですの」
 碧の瞳は、決意に満ちて強い輝きを放っていた。
「・・・強いんですね、ミルさんは」
「人間追い詰められれば嫌が応でも強くなりますわ」
 ミルファレナが微笑んだ。
「でもまさかこんな事態にアナタ方を巻き込む事になるなんてね」
「・・・そういえば。やっぱり私とゼルガディスさんも仲間だと思われちゃったんでしょうか・・・」
「ほぼ100パーセントそうですわね」
「あうう」
「今更巻き込みたくないから逃げてくれとは言えませんでしてよ。あの方達しつこいですもの、壊滅させてあげないと無理ですわね」
 ふう、とアメリアが諦めたように溜息をついた。
「・・・一体あの襲撃者達は何なんですか?」
「わかりやすくいえば、フィスはある組織から逃げ出してきたんですの。それで元同僚達から追われてるんですわ」
「アサッシンとか・・・そういう・・・」
「ま、そんなもんですわね」
 よりにもよってそういう厄介なのが相手とは頭が痛い。
「でも、負けませんわよ、わたくし達」
 ミルファレナが立ちあがり、うーんと伸びをした。
「わたくしとフィスに勝負を挑もうなんて命知らず、返り討ちにしてくれてよ」
「むー、乗りかかった船です。こうなったら最後まで付き合っちゃいますよ!!」
 アメリアがぐっと拳を握り締める。ミルファレナがその手をぱしっと上から握った。
「宜しくお願いしますわ。似た者同士さん」
「はいっ!」
 アメリアがふと、ミルファレナの右手首に目を留めた。
 彼女の持ち物にしてはシンプルな銀の腕輪。
 宝石は付いておらず、ルーン文字のようなものが彫り込まれている。
「ミルさん・・・その腕輪もしかしてプレゼントですか?」
 はたと気付いたように、ミルファレナが手を後ろに隠した。
「プ、プレゼントなんて豪華なものでなくてよ。自分の持ち物をよこしただけの貧乏人ですわ!」
 その口調がどことなく上ずっている。
 ・・・何だかんだ言って、やっぱりミルさんってフィスさんのこと・・・
 アメリアがおかしくなって吹き出した。
「何がおかしいんですの!」
「ミルさん可愛いですぅ」
「アメリア!!」
 追いかけっこがしばらく続いた。


 夜明けまではまだ多少時間があった。
 眠れなくても横になっていた方がいいだろうと、アメリアとミルファレナが再び元の場所へ戻る。
 ミルファレナはマントにくるまり即行眠りに落ちたようだった。
 アメリアは帰りに拾ってきた薪を持って焚き火の方へ近付いた。
 ゼルガディスとフィスを起こさないように、静かに薪をくべる。
 ぱちりと火がはじけた瞬間、アメリアは強く腕を掴まれた。
「・・・アメリアか」
 ほとんど無意識にやっていたのだろう。ゼルガディスがすまないと言って手を放した。
「起こさないよーに来たつもりなんですけど・・・気配でわかっちゃいましたか」
「襲撃されたばかりだからな。神経過敏になるのは仕方ないだろう」
 起きてしまったならしょうがないと、アメリアがゼルガディスの隣に腰を下ろした。
 薪を順番にくべ、消えかけていた火を再び燃え上がらせる。
「・・・何だか、トラブル続きですねぇ」
「・・・全くだ。疫病神がついてるとしか思えんな」
「でも、私ミルさんの力になってあげたいと思うんです」
「・・・正義心か?」
「それもありますけど・・・何だか、ミルさん私と似てる所があって・・・」
「・・・」
 思わずはっと振り向いてしまった。
 先程自分がフィスに対して抱いた感情と同じ。
 あいつと自分は同胞だと。
「え?」
「あ・・・俺も・・・いや。ここまで巻き込まれたんなら、愚痴を言っても始まらんな」
「そーです。これも人助け! 人生前向きにいかなくちゃ!!」
 ぐっと拳を握り締めた後、ふいにゼルガディスの肩に頭をもたせかけた。
「ん?」
「・・・やっぱり眠いみたいです・・・」
 ゼルガディスが思わず苦笑した。
「疲れが残ってるんだろ。我慢せずにさっさと寝ろ」
「うう・・・今日こそは一緒に見張り番をつとめようと思ったのに・・・」
 そのままずりずりと頭の位置を移動させ、ゼルガディスの足の上に落ち付いた。
「おい」
「もう移動するのが億劫ですー・・・」
「何で俺が膝枕なんだ、普通逆だろが!」
 どうやらされたいらしい。
「じゃあ又今度とゆーことで・・・あ」
 アメリアが眠気で半眼になりながらも、焚き火の反対側のフィスを指差した。
 両目を閉じて、前かがみのあぐらをかいた状態から動かない。
「・・・フィスがどうかしたか?」
「・・・誰かに似てませんか?」
「・・・誰かにって・・・」
 ゼルガディスが(動けないので)目をこらしてフィスの寝顔を見つめた。
 記憶の中をさらってみる。確かに誰かに似ていた。
 しかも自分に近しい人間ではなかったか・・・
「誰だ・・・思い出せんな・・・って、アメリア! おい!! おやすみ三秒かお前は!!」
 膝の上では一国の王女ともあろう者が、無防備にすやすやと眠りこけていた。

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4426赤の継承者 5 〜追憶〜水晶さな E-mail 9/24-13:40
記事番号4384へのコメント


 今回ミルファレナとフィスの回想シーンオンリーです。
 ああゼルアメ混ぜられなくてつまらな・・・げふげふ。

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 嵐の過ぎた次の日の朝は、見事なくらい空が晴れ上がっていた。
 まだ芝生の濡れる地面にも構わず、一人の金髪碧眼の少女が散歩をしている。
 連日嵐のせいで屋敷に閉じ込められっぱなしだったのだ。外の空気が吸いたくてたまらなかった。
 中にいると義兄達の喧騒ばかりが聞こえてくる。
 母の立場はこの上なく弱い。後妻といえど、扱いは妾かそれ以下だった。
 毎日の、この散歩の時間だけが唯一の解放感を味わえる貴重な時間。
 空を見上げ何を思うでもなく歩いていると、足の下に柔らかい感触がした。
 あらやだ、犬の糞でも踏んでしまったかしら。
 下を見下ろすと、人が居た。
 余計に厄介なものを踏んでしまいましてよ。
 しかもうつ伏せに倒れた人の後頭部を思いっきり。
 しかたなくしゃがみこんで、引っ繰り返してみた。
 年の頃はわからないが、青年だった。
 なおかつ顔はかなり端整である。
 体中あちこち擦り切れたりしているのは、おそらく裏山の森の中を突っ切ってきたからだろう。
 馬鹿な人。この屋敷の者でさえ森には行かないのに。
 身元もわからないこの男を連れて帰ったりしたら、義兄達に何を言われるかわからない。
 だが。
「・・・冗談じゃなくてよ。文句など言わせるものですか」
 この頃から既に彼女は、強かった。

「記憶がない」
 ベッドの上で発した青年の第一声はそれだった。
「記憶が、ない? わたくしは貴方の名前を聞いただけでしてよ」
「だから、わからない」
「わたくしこーいう時のとってもいい対処法を知ってましてよ」
 そういって工具箱をだんとテーブルの前に置く。
「ミルファレナ、ショック療法はやめなさい」
 椅子に腰掛けたミルファレナの母が静かに一言。
「お母様ったらまだ何も言ってないうちから・・・」
 渋々とミルファレナが工具箱を床に下ろした。
「なーんかつまらないですわ、折角保護してあげたのに。早く自分は一国の王子だとか思い出して欲しいですわね」
「ミルファレナ、夢を抱き過ぎです」
「お母様ったら現実を見る御方・・・」
 ミルファレナがずいっとベットの上の男に詰め寄った。
「名無しでは呼ぶのに苦労してよ! 何でもいいから名乗りなさいな!」
 そう言われてもといった風に、男が首を傾げた。
 身を乗り出していたミルファレナが、男の右手首にはめられていたブレスレットに気付く。
「あら、イニシャルが彫ってあるじゃありませんの。これは『F』? 他のは何だかわからない文字でしてよ」
 むー、とミルファレナが顎に手を当てた後、おもむろに彼を指差した。
「決めましたわ! 貴方は今日からフィスと名乗りなさい! これはお願いではなく命令でしてよ!!」
「ミルファレナ、母は貴女の将来がとっても心配です」
 あくまでにこやかに、母が言い放った。

 しばらくは順調だった。
 フィスの記憶喪失は相変わらずだったが、それでも体力は回復し歩けるようになった。
 後に物腰から武道に長けているとミルファレナの母親が見抜き、父と義兄達にはミルファレナの身辺護衛と偽って家に住まわせた。
 散々義兄達からは文句を言われたが、ミルファレナの口論に勝てる訳もなく、フィスが居候して一ヶ月が過ぎていった。
 襲撃はある日突然訪れた。
 フィスを連れて街での買い物帰り、家へ通じる人気のない一本道で襲われた。
 唐突に目の前に現れた黒装束の二人組。
 言葉は少なくあまり聞き取れなかったが、どうやらフィスに対して「戻って来い」と言っている様子。
 最初は戸惑っていたフィスが、はっと険しい表情を見せた。
 今まで見せた事のない殺意のある表情。恐ろしくて身震いする程。
「・・・フィス、貴方、記憶が・・・?」
「・・・ミル、離れるな」
「言われなくともわかってますわ!」
 買い物だった為に、いつもは携帯している鞭を持ってきていなかった。
 普通富豪の娘は武器の扱いなど習ったりしないものだが、彼女は護身の為に自身で習得していた。
 あまり自信はないが魔法で対抗するしかない。ミルファレナがわずかに身をかがめて鞭を使う時とは違う構えを取った。
 フィスは落ち付き払っている。武器になるようなものは一つも持っていない。
 黒装束の一人が跳んだ。拳に握り締めて扱う剣の一種をたずさえている。
 腕と一体化しているのでリーチはないが、その代わり手同様に動かせて隙がない。
「っ!」 
 空を切るような一撃を上体をそらし紙一重で避ける。
 相手の体に手を当て受け流し、もう片方の手でがら空きになった背中を殴打した。
 めぎ、という鈍い音がして、黒装束が悲鳴を上げた。
「!?」
 フィスのあまりの素早さに戸惑ったミルファレナだったが、詠唱済みの魔法をすぐに解き放つ。
「エルメキア・ランス!」
 ばぢいっと電流がはじけ、何事もなかったように黒装束が立ち上がった。
「な・・・!?」
「ミル! その程度では効かない!!」
 もう一人跳びかかってきた黒装束を牽制しながらフィスが叫んだ。
「エ、エルメキア・フレイム!!」
 追って唱えた一撃はわずかに遅く、黒装束が身をかがめて走り込んできた。
 フィスの腕が追って伸びる。
 ぐしゅ。
 嫌な音が響いた。
 視界に広がる鮮血の色。
「・・・ひっ!」
 ミルファレナが息を飲んだ。
 フィスの肘から突き出した鋭利な刃が、ミルファレナを狙った黒装束の背中を貫いていた。
「・・・セスタス! ・・・チッ」
 フィスと組み合っていたレイピアのような細剣を持った黒装束が後方に跳びすさり、そのまま闇に溶け込むように消えていく。
 肘から突き出していた刃が、フィスの体内に戻る。
 心臓を刺し貫かれた黒装束が、力無く地面に沈んだ。
 フィスが頬に付いた返り血をぬぐう。
「・・・ミル、すまない。少し向こうを向いていてくれないか・・・こいつはこれでもまだ死なない」
 地面に膝を付き、青ざめていたミルが、ふらつきながらも立ち上がってフィスの側へ歩いた。
 多少まだ足取りが覚束ないのか、フィスの服の端をつかむ。
「・・・ミル?」
「原型を、とどめなければよろしいんでしょう?」
 フィスにしがみつきながら、右手だけを後方・・・倒れた黒装束へ向ける。
「ブラスト・アッシュ」
 空気がはじける音と共に、風に灰がまき散らされた。
 それからやっとフィスの顔を見上げる。
 驚いたフィスの表情を見て、ミルファレナがかろうじて笑みを浮かべた。
「震えているだけの女だと思って? 残念ながらわたくしも壮絶な過去を歩いてきましたのよ。グロテスクなものは嫌いですけど」
 そういって、ハンカチでフィスの肘を押さえる。
 刃の突き出た肘からは、フィス本人の血が流れていた。
「自分の体内にあるのに、自分を傷つけるんじゃ使用価値がないですわね」
 止血のつもりかきつく縛り付けた後、地面に置きっぱなしだった荷物を拾い上げた。
 なかばまだ呆然としたフィスの手に乗せる。
「さ、帰りますわよ。遅くなっては又義兄さま達にうるさく言われますからね」
 先立って歩き始めた後、くるりと振り返ってもう一言付け足した。
「この事情は家に帰ってからじっくり説明して頂きますわよ! 『これ以上巻き込む訳には』云々の屁理屈はわたくしには通用しないと諦める
事ですわね!!」
 先程まで考えていた言葉と理由を全て先回りされて打ち砕かれ、フィスが目をしばたたかせた。
 それから諦めがついたのか、荷物をかかえ直しミルの少し後をついていく。
 左肘に巻きつけられたハンカチが、やけに温かく感じられた。

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4446赤の継承者 6 〜恋人達〜水晶さな E-mail 9/25-20:49
記事番号4384へのコメント


「・・・んー、もう朝ですの?」
 木々の隙間からこぼれおちる陽光が頬に当たり、ミルファレナが眠そうに目をこすった。
 上半身を起こして、大きく伸びをする。
 少し離れた所では焚き火の前にゼルガディス・・・とその膝の上にアメリア。
「・・・全く、もうちょっと周囲の目を気にして欲しいですわね」
 苦笑しながらフィスの姿を探す。
 焚き火の前にはいなかった。
 おそらく顔でも洗いに行っているのだろう。
 特にそれ以上の理由も考え付かなかったので、ミルファレナも川の方へ向かった。
 ・・・いた。
 川の前でかがんで、何かを洗っている。
「フィ・・・」
 呼びかけた途中で、視界を遮る銀の色。
 目の前にごく薄い刃が突き付けられていた。
「・・・ミル?」
 フィスが驚いたように言い、すぐさま刃を下ろす。
 刃を伝って、ぽたりと水滴が落ちた。
 その色は、わずかに赤い。
 おそらくは昨日の戦いの際についた血を洗い流していたところか。
「フィス!!!! アナタまだわたくしの気配がわからないの!!? 怪我でもしたらどうするんですのこのタコ!!!!」
 が、ミルファレナはフィスに刃を向けられた事に対しての怒りがまさっており、そんな事には気付かなかった。
「・・・すまない。つい」
「ついじゃなくってよ!!!!」
 がー、とミルファレナが地団駄を踏んだ。
「・・・ミル・・・」
 急にフィスの声のトーンが下がったので、ミルファレナがぴたりと挙動を止めた。
「・・・『いつでも側に居る』約束・・・もしかしたら果たせないかもしれない・・・」
 いつも無表情な彼の瞳は、この上なく哀しげで。
 ざあっと、冷たい風が通り抜けた。


「・・・うー・・・ん」
 陽光が眩しい。
 アメリアはそろそろと両のまぶたを開けた。
 それからははたと自分の場所に気付く。
 ゼルガディスの膝の上だった。
 眠さに負けたとはいえ、自分にしては随分と大胆な事を。
 慌てて身を起こして、ゼルガディスから離れた。
「・・・やっと起きたか」
「お、おおおおおはようございます・・・ゼルガディス、さん・・・って」
 随分と彼は眠そうな顔。しかも疲れたような。
「・・・もしかして一睡もしなかったんですか?」
「(お前が膝の上に居て寝られるかっ!!)・・・眠れなかったんだ」
「・・・あっ、そういえばフィスさんは?」
 寝る前に向かい側にいたフィスがいなくなっていた事に気付いたのだろう、アメリアが尋ねてきた。
「川の方に行くのが見えたが・・・顔でも洗いに行ったんじゃないのか?」
 そう言った途端、木々の間からミルファレナが出てくるのが見えた。
 見るからにわかる。怒っている。
 その少し後を遅れてフィスが出てきた。
 見るからにわかる。右頬に赤いモミジ跡。
「・・・」
「・・・」
 二人共無言のまま荷物をまとめはじめた。
「えっと・・・これは・・・フィスさんがなんてゆーかミルさんの気分が乗らない時にこう・・・」
 アメリアがジェスチャーで抱き締めるフリをする。
「奴がんな事できる男か・・・どうせ又いらん一言でも言って逆鱗に触れたんだろ・・・」
 後者正解。
「アメリア! この荷物アナタのでしょう? もう出発するんですから早く片付けて下さいな!」
「あっ・・・はい!!」
 怒鳴られてアメリアが駆け寄った。
 手早く自分の荷物をまとめながら、小声で問う。
「・・・何か、あったんですか?」
「何もかにもあったもんじゃありませんわ! 大有りですわ!!」
 乱暴に荷物袋の口を閉め、よっこいしょとかつぐ。
「わたくし約束破りは世の中でいっっっちばん大嫌いですの!!」
 大声で叫ぶミルファレナは、小声で尋ねたアメリアの気遣いを見事に打ち砕いた。
「・・・だとよ」
 半眼でゼルガディスが黙々と荷物をまとめるフィスに告げた。
「・・・言い方がまずかったらしい・・・俺は口下手だ」
「胸張って言える事じゃねーだろ」
 ある意味自分よりも朴念仁なフィスに呆れつつ、ゼルガディスが焚き火を足で踏み消した。

 目的地も特に定まらず、とりあえず隣町まで移動する事になった。
 野宿というのは絶えず襲撃の危険性を考えなければならないので、思ったよりも休息が取れない。
 野宿を続けていけばそれだけ疲労が蓄積されていくのである。
 集中力が途切れればそれだけ魔法の効果も落ちる。戦闘時の勝率がぐんと下がる。
 特に体力のない女性陣に休息を取らせたい事もあり、今日は宿屋で泊まりたかった。
 いつ黒装束達が又襲撃しにくるかわからないが、できる事なら来る前にしっかり休息を取っておきたい。
「あっ、街が見えてきました」
 ミルファレナと並んで先を歩くアメリアが声を上げた。
 足の早さのペースを考えて、女性陣を先に歩かせるのが普通である。
「宿屋ぐらいはありそうな大きさですわね」
 既に疲れが出てきていたのだろう、ミルファレナが肩からずり落ちた荷物袋をかかえ直した。
 その荷物袋の重さが、唐突になくなる。
 フィスが後ろからつかんで持ち上げていた。
「頼んでなんていなくてよ!」
 先程の怒りがおさまらないのかミルファレナが声を荒げる。
「感情を過度に混ぜていては物事は効率良く進まない・・・『人生を円滑に過ごす格言その15・ミル著』」
 一語も間違える事なく言い切ったフィスに、ミルファレナがかっと赤くなった。
「よっ余計な事ばかり覚えていて!」
 ふいと又正面を向いたが、荷物袋はフィスにまかせたまま。
 アメリアがそんな二人を見てふっと微笑んだ。
 正面を向き直して、目の前にゼルガディスの背中がある事に気付き慌てて踏みとどまる。
「ぶっ」
 が、勢いがついていたのかゼルガディスの背中にぶつかった。
「ゼルガディスさんいきなり人の前に立たないで・・・痛っ」
 右足首に走った痛みに、思わずしゃがんで手で押さえる。
「・・・やっぱりさっき転んだ時、足ひねってたなお前」
「・・・・・・バレました?」
「『バレました?』じゃない。フィスと同じ事言われたくなかったらこれ持ってろ」
 ゼルガディスが自分の荷物をアメリアに渡した。自分の荷物と合わせてナップザックのように背中に背負う。
 それから少しかがんだゼルガディスの背中におずおずと乗っかった。
 よいしょ、と子供でも背負うような勢いでゼルガディスが立ち上がる。
 リカバリィを使えば足の痛みは取れるが、逆に治癒に体の機能が集中し疲労が増す。それでは今の状態では意味がない。
 それを分かった上でのゼルガディスの対応が心に凍みる程嬉しかった。
「仲がおよろしい事で」
 並んで歩いたミルファレナがからかった表情で言ってくる。
「どっちもどっちです」
 アメリアが照れながら笑った。

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4448赤の継承者 7 〜休息〜水晶さな E-mail 9/26-14:40
記事番号4384へのコメント


 街の規模にしては宿屋は大きく、四人それぞれ個室を取る事ができた。
 大浴場がなく、個室バスルーム付きが「売り」だと言う。
 だが、夕食も取り終え、各自自室に戻った時、ミルファレナの部屋をアメリアが訪ねてきた。
 ミルファレナの部屋はアメリアの部屋の真向かいである。
「どうしましたの?」
 扉を開けると、バスタオルと着替えを持ったアメリアが立っていた。
「えっと・・・私の部屋のバスルーム、蛇口が壊れているらしくて水が出てこないんですよ。ミルさんの部屋のをお借りしようと思って・・・」
「構いませんわよ。わたくしまだ入りませんから」
「ありがとうございますー」
 にぱっと笑うと、バスルームの部屋へ入っていく。
 アメリアが扉を閉めない内にミルファレナが声をかけた。
「わたくし用があってちょっと部屋を出ますの。ここの扉オートロックですから帰る時は扉をしっかり閉めていって下さいね」
「わかりましたですー」
 アメリアの返事を聞いてから、ミルファレナが鍵を持って部屋を出ていった。

 シャワー口から流れる冷たい水。
 頭からかぶって、アメリアがぷはあと息をついた。
 戦いの後というのはどうにも体が汚れた感じがする。
 しかも昨日は野宿だったし、土煙の舞う風もかぶってしまった。
「あーさっぱりするですー」
 わしわしと頭を洗いながら、つい鼻歌まで歌ってしまう。
 そんなアメリアも、壁の換気口から聞こえたかさりという物音は敏感にとらえた。
 風呂場を襲撃された経験はないが、常日頃こういう所を狙われれば対応がしにくいだろうという事は考えていた。
 タオルを体に巻きつけ、魔法の詠唱体制に入る。
(風呂場を狙えば軽く相手を倒せるなんて考え、打ち砕いてあげます!)
 思いっきり臨戦体制を取るアメリア。
 換気口から聞こえる音は、軽いながらも近付いてきた。

 部屋の扉をノックされ、アメリアかと予想して開けたら見事に外れた。
「何だか嫌そうな顔ですわね」
「・・・この顔は生まれ付きだ」
 ゼルガディスが扉を開け切ると、ミルファレナが中へ入ってきた。
「何か用か?」
「用があるから来たんですの」
 そう言って勝手に部屋備え付けの椅子に座る。
 ゼルガディスが僅かに部屋の扉を開けたままで向かいの椅子に座った。
「あら、部屋に女性を入れる時のマナーをわかってらっしゃるのね」
(・・・そういうのにうるさそうに見えたからな)
 心中の言葉は口には出さずにとどめておき、ミルファレナに話を促した。
「・・・貴方ならわたくし達より、見聞が広いと思ってお聞き致しますわ」
「フィスの事か?」
 ミルファレナがうなずいた。
「・・・もう既にご存知のように、フィスはあの黒装束達と同じ身体構造をしてますの。体の中に武器が仕込まれ、戦闘用に造られたホムンクル
スのようなものですわ。でもフィスは元々は人間ですの。心臓も血液もちゃんと存在している人間ですの」
「そのフィスの体を元の人間の状態に戻したい。その為の優秀な外科医か医療施設を教えてくれ・・・だろ?」
「・・・わかってるじゃありませんの」
 ミルファレナが拍子抜けしたように呟いた。
「わからいでか。確かにフィスの体の傷跡の多さには俺も驚いたからな」
 ばっと椅子を立ち上がったミルファレナが叫んだ。
「なっ!! 一体どこで見たんですのこの変態!!」
「阿保か!! 風呂でたまたま一緒になったんだ!!」
 思わずつられて席を立ったゼルガディスが思いっきり反論する。
 ゼルガディスの言葉が終わった時、それをつなげるようにアメリアの悲鳴が響いた。
『アメリア!?』
 二人共同時に扉へ駆け出していた。

 時は少しだけさかのぼり、ミルファレナの隣のフィスの部屋。
 片刃の剣の手入れをしていた時に突然、壁に何かが叩き付けられた音が聞こえた。
 安い宿なので壁は薄い。隣はミルファレナの部屋なのでどうせ又八つ当たりだろうと、壁まで近寄って軽くノックした。
「・・・ミル、又この間のように壁に穴を開ける・・・」
 『開ける気か?』と聞きたかったのだが、言葉は最後まで発音できなかった。
「いやっ!! いやっ!! こっち来ないで・・・いやあああああああああ!!!!!!!!!」
 ミルファレナのものではない悲鳴と、轟音と共に壁を突き破って出てきた白い腕。
 殺気やその他の気配の何もない不意打ちを、フィスはかわす事ができなかった。

「アメリア!!」
 ミルファレナが自室の鍵を開け、ばんと開け放ったと同時に踏み込む。
 が、部屋はもぬけの空だった。
 何故か隣から後に残るような悲鳴が聞こえてくる。
「・・・確か・・・バスルームを貸した筈・・・」
 ゼルガディスにそこから動かないように言い、ミルファレナがゆっくり扉を開けた。
「アメリア?」
 バスルームを見て唖然とした。
 壁にでっかく穴が空いている。隣のフィスの部屋まで通じていた。
「何破壊行動をしてるんですの?」
 ゼルガディスも手招きされて中へ入ってくる。
 ミルファレナが穴をくぐってそのままフィスの部屋まで移動しようとした。
 ぐにっ。
 どこかで踏んだような感触。
「おいっ! フィス踏んでるぞ!!」
「あらやだ何行き倒れの死体みたいな真似してるんですの」
 ゼルガディスに言われてやっとミルファレナが足をどかす。
 視線を正面に戻した時、部屋の隅で小さくなっているアメリアと目が合った。
 ベッドから取ったのか、体にシーツを巻きつけている。
「一体何をして・・・」
「ミ、ミルさん危ない!!」
 アメリアの叫びの直後に、額に何かがぺちっと当たった感触。
「?」
 額に貼り付いた異物を何の気なしに手に取り、目の前に移動させる。
 つやつやした黒色の楕円形。端からは二本の触角らしきもの。
 しかも巨大な。
「ゴッゴゴゴッゴゴゴキゴキゴキゴキキキブリィィィイイイイ!!!!!!」
 両腕を天に放り投げるようにして、叫ぶ。
「まっ待て落ち付けミルファレナ!!!!」
 ゼルガディスの声が届く筈もない。
「ファイアーボオオオオオオオオオオオオルウウウ!!!!!!!!!!!」
 この夜、哀れな宿屋が一軒消滅した。

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4449赤の継承者 8 〜再戦〜水晶さな E-mail 9/26-14:45
記事番号4384へのコメント


 ・・・何でこう無駄に長いんでしょー・・・。
 こんなんに付き合ってくれてる人がいるかどーかはわかんないけどいつのまにか続きが増えてます(笑)。
 ・・・うーん話が長過ぎてダレてきた。

=====================================

「・・・」
「・・・」
「・・・」
「・・・人の文明ってもろくも儚いものですわね・・・」
 崩れゆく瓦礫の山を遠目に、ミルファレナが感慨深げに呟いた。
「文明崩壊に加担した人物がいた事は否定できない・・・」
 後頭部に足型を付けたフィスがミルファレナの真後ろで呟いた。
「ふっ不慮の事故でしてよ!! 大体清潔さが命の宿屋で巨大害虫などわくから悪いんですわ!!!!」
「旅人一人のおかげで宿屋の主人は人生を狂わされたんだな」
「ゴメンナサイ」
 ゼルガディスの言葉に、ミルファレナがかつて宿屋だった場所に頭を下げた。
 やはり罪悪感は感じていたらしい。
「フィス、この宿屋を元通りに修復するとしたらいくらぐらいかかるかしら?」
 じっと瓦礫の山を見つめていたフィスが、しばらくした後呟く。
「ざっと1500・・・内装と家具を含むと2000だな」
 ミルファレナが眉間を押さえた。
「・・・お母様に手紙を出しておきましょう。預けておいた資金から回してもらわないと・・・」
 目線を戻すと、アメリアが横でじっと自分を見ていた。
「笑ってよろしいのよアメリア」 
 ミルファレナがなげやりな口調で言う。
「いえ、そんなマジメなミルファレナさんがとっても好きです。私も原因の内ですから半分出させて下さい」
 アメリアがにっこりと笑った。

 結局、その夜も野宿となった。
 四人で焚き火を囲んだ時、ゼルガディスがフィスに尋ねた。
「戦闘が始まる前に聞いておきたい・・・『向こう』の戦力は一体どれくらいなんだ? 黒装束は一体何人いる?」
 この時初めてアメリアもフィスのいた『組織』について知る事になった。
「人間型生物兵器・・・俺を含めて五人いた。それぞれ呼び名はファルシオン、ハルバード、セスタス、シャムシール、エストック。ファルシオンは俺だ。だが今はフィスでいい」
「あっそういえば黒装束が『お前達もファルシオンの仲間か』とか言ってました。フィスさんの事だったんですね」
 アメリアがぽんと手を打って思い出したように言う。
「全員武器の名前なんだな。その名の武器を使うのか?」
 ゼルガディスの問いかけにフィスがうなずいた。
「色々な武器は用いるが主戦はそうだ。俺も昔はファルシオンを使っていたが今は好きじゃないから使っていない」
「あ、セスタスってのは昔わたくしとフィスが倒しましたわ。ですから今は残り三人の筈・・・」
「残り二人だ。ハルバードは俺が倒した」
 ゼルガディスがミルファレナの後を続けて言う。
「とどめは刺したか?」
「ブラスト・アッシュを使ったからな。あんなに治癒能力が高いとは思わなかったが、まさか灰からは再生しないだろ」
 その答えに満足したのか、フィスが軽くうなずいた。
「でもそれを造った人もいるんですよね。『赤の継承者』・・・でしたっけ? 又造って増やしたりしませんか?」
 アメリアが顔を青くしながらフィスに尋ねると、フィスは首を横に振った。
「それはないな。奴はある日を境に研究をやめている」
「・・・何故だ?」
「崇拝していたレゾの死を知ったからだ」
 ふっと、周囲の雰囲気が重くなる。
 アメリアが膝を抱えていた腕に力を込めた。
「奴は混乱し、絶望した。俺はその機に乗じて逃げ出した。元々逃げ出すチャンスをうかがってたからな」
 ふと目線を上げると、隣にいるミルファレナが自分をじっと見つめていた事に気付いた。
 悲哀と同情と憐憫。表情と瞳からそんな感情が読み取れる。
 『悲しかったら泣いていいんですのよ』と過去何度言われたかわからない。
 結局、泣けなかった。泣き方がわからなかった。
 『赤の継承者』は自分にだけ心を与えたと言ったが、そんなもの存在してないのではないかと疑った程。
(それでも・・・『自分は人間だ』とつなぎとめる思いは、一体どこからきているんだろうな?)
 フィスの言葉が途切れたのを不審に思ったのか、ミルファレナが今度は怪訝な表情をしていた。
 ころころと変わる心情と表情。それがたまらなくうらやましかった。
「フィス・・・急に黙ったりして、どうしたんですの?」
「いや・・・何でもない」
「ま・・・つまり黒装束三人と親玉が一人か・・・親玉は戦力から省いていいのか?」
 ゼルガディスの言葉に、フィスが軽く首をかしげる。
「・・・何をしでかすかわからない奴だ。自身を改造していないとは言い切れん」
「・・・全くどうしようもない人ですねぇ・・・」
 アメリアが溜息をついた。それからフィスの視線に気付き慌てて手を振る。
「あっ。全然知らない人なのに勝手な事言っちゃってごめんなさい」
「・・・いや、その通りだから、何も付け加える言葉がない」
「あ、そうですか・・・」
 目線を一旦下げた後、アメリアが何かに反応したようにばっと顔を上げた。
 隣のゼルガディスも剣の柄に手をかけている。
「向こうも休息取ってきやがったか」
「・・・恐らくは『赤の継承者』に指示を仰いでたんだろうな」
 フィスが立ち上がり、太股の外側に付いたポケットから片刃の剣を抜いた。
 ミルファレナが一番最後に、フィスの服をつかんで立ち上がった。
 少し顔を寄せて、ささやくように告げる。
「・・・『約束』、破ったら承知しませんわよ」
「・・・努力する」
 小さな返答が聞こえたのかどうかはわからないが、ミルファレナが腰のベルトに差し挟んだ三つ又の鞭を抜いた。
「何人だ・・・?」
「恐らく残り全員・・・総戦力だな」
 アメリアがミルファレナの隣にすす、と寄って小声で尋ねた。
「すみませんこんな時に・・・でも、聞いておきたくて。フィスさんがこれほど執拗に狙われるのに、何か特別な理由ってあるんですか?」
「・・・フィスは同僚達の中で、ダントツに強いんですの。自然『お気に入り』になるんですわ。でも・・・」
「でも?」
「それだけじゃないような気がしますの・・・ただの勘ですけど」
「おい、お喋りはそこまでだ・・・くるぞ」
 ゼルガディスが僅かに膝を曲げて臨戦体制をとった。
 フィスとゼルガディスが前衛。アメリアとミルファレナは自然と後衛に回った。
「わたくし魔法はあまり好きじゃありませんのよ・・・」
 構えをとり、ミルファレナが苦々しく呟く。
「でも、フィスさんは魔法を使えないんですから。カバーしないとツライですよ」
「・・・仕方ないですわね」
 二人同時に詠唱を始め、解き放つ。
「デイム・ウィン!!」
 前方の茂みを吹き荒らし、木の葉を巻き上げる。
 それと同時に黒い影がこちらへ突進してきた。
 右手に握るのは反り返った形の剣。
 振り上げるスピードは恐ろしく速い。
「シャムシールか!!」
 ゼルガディスが前に出て、自分の剣を噛み合わせて受けとめた。
 その一瞬のタイムラグに、フィスが横から刃を叩き付ける。
 腹の半分まで切れ込みが入った所で、シャムシールが横へ跳んで逃げた。
 地面に降り立つと同時に、ぶくぶくという水が蒸発するような音。
 立ち上がった時には、既にその傷はふさがっていた。
 服の破れ目から血色の悪い肌がのぞいている。傷の跡さえ見当たらない。
「・・・腕が鈍ったな、ファルシオン」
「俺をその名で呼ぶな・・・」
 フィスが目つきを険しくした。
「フリーズ・ブリッド!!」
 後方で声が響く。アメリアとミルファレナがこちらと背を合わせていた。
 どうやら後ろにも出現したらしい。
「こっちは・・・ええっと・・・」
「エストックですわ!!」
 ミルファレナがびっと鞭を張らせる。
 黒装束の右手には、細く鋭い針のような剣が握られていた。
「バースト・ロンド!!」
 アメリアが走り込んでこようとしたエストックを牽制する。
「ディグボルト!!」
 ひるんだ一瞬の隙を突いて、ミルファレナが続けざまに電撃を放った。
 雷に貫かれ、エストックが身を震わせる。
「ヴィスファラーンク!!」
 アメリアが身をかがめて突進した。
 ひゅ・・・と空を切る音が響き、何事かと判断するより前に脇腹に激痛が走った。
 エストックの剣が脇腹を薙いでいた。
「あううっ!?」
 悲鳴を上げながらも、勢いのついた拳はそのまま黒装束に叩き付ける。
 僅かに体を後ろへずらしていた為、ほんの軽くしか当てる事ができなかった。
 そのままエストックが、剣の向きを下にして上に持ち上げる。
 串刺しにする気だ。
「せいっ!!」
 ミルファレナの鞭がエストックの剣をはじいた。
「ダム・ブラス!!」
 続けざまに放たれた光の矢を避ける為に、仕方なく横に跳びすさるエストック。 
 その間にミルファレナがアメリアの前に立ちはだかった。
 アメリアが小さく呪文を唱える。
「リザレクションを使いなさいな!! 貴方巫女なんだから使えるんでしょう!?」
 呪文が聞こえたのか、ミルファレナが叫んだ。
「リカバリィの方が早いです! 今は悠長に回復してる暇はありません!!」
 傷だけをふさいで、アメリアが立ち上がった。
 魔法で急速に治した為、引きつるような痛みは残っている。
「アメリア! ミルファレナ! 避けろ!!」
 ゼルガディスの声が響いた。
 双方共反対方向へ跳んで避ける。
 直後地面に落ちてきたシャムシールと、それを追って突き立った剣が二本。
 ゼルガディスの剣とフィスの刃が同時にシャムシールの体を貫いていた。
「ブラスト・アッシュ!!」
 間髪入れずにゼルガディスが唱える。シャムシールの体が塵となって消し飛んだ。
 仲間の姿に思わず気を取られるエストック。
 その瞬間をアメリアが狙った。
「ラ・ティルト!!」
 ごうっという音をたて、エストックの足元から青白い炎が吹き上げる。
「・・・・・・!!」
 かき消すように腕を振るう。確か前もこいつにラ・テイルトを払われた。
「エルメキア・フレイム!!」
 ミルファレナが追い打ちをかけた。
 二つ重なればダメージを与える事はできる。
 だが、追い打ちの光の槍は、上から降ってきた影にはじかれた。
 もう一人、黒装束。
 拳に握り締めて用いる特殊な剣を持っていた。
「セスタス!?」
 フィスが驚愕の声をあげる。
「そんな! あいつは昔倒した筈ですわ!!」
 その間にシャムシールがラ・ティルトの炎をかき消してしまった。
「やっぱりもう一体造ってたんですぅ〜」
 アメリアが泣きそうな声を上げる。
「泣き言を言っている暇はないぞアメリア!!」
 ゼルガディスがばんと地面を叩くように手を付ける。
「ダグ・ハウト!!」
 言霊と共に、大地が怒り狂う。
 黒装束が突起してきた地面を避けようと跳んだ所を魔法で狙う。
「エルメキア・フレイム!!」
 長年の付き合いで、アメリアが何も打ち合わせなかったにも関わらず、見事にやって欲しかった攻撃をきめてみせる。
 セスタスがすっと手の平をこちらへ向けた。
 エルメキア・フレイムの光がその手に当たると共に消滅する。
「!?」
「ま、魔法が効かない!? パワーアップしてますぅう!!」
「こいつは・・・」
 フィスが呟いた後、口をつぐむ。
 刃を構え、走り込んだ。
 セスタスが身をかがめてフィスの攻撃を避ける。
 スピードはフィスの方が上だった。一撃目はかわせても、その後の蹴りをまともに受けて後方に吹っ飛ぶ。
 追い打ちに出ようとしたフィスの前に、今度はエストックがたちはだかった。
 先程魔法を当てたダメージは完全に癒えている。
「邪魔だ!」
 珍しくフィスが激昂していた。刃を振り回し、エストックを切り刻んでいく。
 しかし狙いが定まっていないのか、傷は浅く、すぐにふさがってしまう。
「ヘルブラスト!!」
 ゼルガディスが見かねたのか、横から魔法を解き放った。
 命中し、エストックの動きが一瞬止まる。
 ざんっと、フィスの刃がエストックの心臓辺りを貫いた。
 だが、すぐに抜かれる。
 起き上がったセスタスが、茂みに消えて行くのを見た為である。
 その場に倒れたエストックに見向きもせず、セスタスの後を追って走り出す。
「フィス!!」
「フィス!?」
 仲間達の声も届かない。セスタスとフィスの姿は完全に消えた。
 ミルファレナが追いかけようとしたところに、エストックが再び起き上がる。
 胸の穴は完全にふさがっていた。
 しかも目付きが尋常でなくなっている。
「・・・ミルファレナ。フィスを追いかけたいのはわかるがこいつを倒してからだ」
「フィスさん強いんですから負ける筈がありません。だからこらえて下さい!」
 唇を噛んでいたミルファレナがぎっとエストックを睨み付けた。
「もう貴方の相手はウンザリですのよ!! さっさと消えておしまいなさい!!」
 心中は怒りが支配していたが、どこかでただならぬ悪寒を感じてやまなかった。
 フィス・・・負けたりしたら承知しませんわよ!!
 そして再び、戦闘体制を取る―

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4451気がつけば たくさんあるよ びっくりにょねんねこ E-mail 9/26-20:22
記事番号4449へのコメント

ねんねこです。
きがつけばめちゃくちゃたくさんあってびっくりです。

> ・・・何でこう無駄に長いんでしょー・・・。
> こんなんに付き合ってくれてる人がいるかどーかはわかんないけどいつのまにか続きが増えてます(笑)。
> ・・・うーん話が長過ぎてダレてきた。

ここに楽しんで読んでる人間いまーす(笑)
話が長くてだれてきてるのは、ねんねこも一緒……
最初と最後のイメージしかないのにも関わらず、書き始めたねんねこが悪いんだけどね……

でも、オリキャラ二人もなんか良い感じだし(なんかねんねこには、アメリアが気が強くなるとこの二人のようになるのかなどと想像してしまいましたが)ゼルとアメリアもらぶらぶ(はぁと)
さりげなくアメリア助けているゼルが好きぃぃぃぃぃっ!
……すみません。ねんねこ壊れてます(笑)

と言うわけで、感想になってないけど、ねんねこでしたっ!

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4455だらだらと 無駄に増えてく 続き話(爆)水晶さな E-mail 9/27-00:58
記事番号4451へのコメント


>ねんねこです。
>きがつけばめちゃくちゃたくさんあってびっくりです。

 知らない内に1話1話増えていく・・・怪談目指してます(嘘)。
 なんかここまで長く書くのが初めてだったんでつい弱音が(爆)。
 ああでもねんねこ嬢はやっぱり来て下すったのね!!(情愛←ウゼェ)


>ここに楽しんで読んでる人間いまーす(笑)
>話が長くてだれてきてるのは、ねんねこも一緒……
>最初と最後のイメージしかないのにも関わらず、書き始めたねんねこが悪いんだけどね……

 スミマセン脳髄大丈夫ですかー?(爆) これを楽しんで読んでる人はかなりおかしいですよー(死)。
 そういえばねんねこ嬢のクラヴィス君話も結構長編でしたねぇ。
 しっかり読んでるので頑張って下さい。こんな所で人応援してどうするんだ私。


>でも、オリキャラ二人もなんか良い感じだし(なんかねんねこには、アメリアが気が強くなるとこの二人のようになるのかなどと想像してしまいましたが)ゼルとアメリアもらぶらぶ(はぁと)
>さりげなくアメリア助けているゼルが好きぃぃぃぃぃっ!
>……すみません。ねんねこ壊れてます(笑)

 大丈夫!! 私もしっかり壊れてます!! てゆーか溶けてます!!(爆)
 

>と言うわけで、感想になってないけど、ねんねこでしたっ!

 ダレ気味の私に励ましありがとうございます・・・もうちょっとで終わる筈なんでそれまでお付き合い下さいマセ。それでは〜。
 

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4453読んでる人第二弾駒谷まや E-mail 9/26-23:20
記事番号4449へのコメント

はじめまして、駒谷まやです。

水晶さなさんの作品にレスつけるのは初めてですが、「赤の継承者」最初から
ずっと読ませてもらってます。

> ・・・何でこう無駄に長いんでしょー・・・。
> こんなんに付き合ってくれてる人がいるかどーかはわかんないけどいつのまにか続きが増えてます(笑)。
> ・・・うーん話が長過ぎてダレてきた。

 無駄に長いとか、だれてるとか、そんなことないですよう。
それに、レスはつけてないけど読んでる人も結構多いと思いますよ。
今までの私がそうでしたから(笑)。

ミルとフィスがこれからどんな風に生きていくのか、
ゼルアメの進展があるのか(笑)など、先がすごく気になります!

頑張ってくださいね。続き楽しみにしています。

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4456初めまして〜。水晶さな E-mail 9/27-01:10
記事番号4453へのコメント


>はじめまして、駒谷まやです。
>水晶さなさんの作品にレスつけるのは初めてですが、「赤の継承者」最初から
>ずっと読ませてもらってます。

 初めましてーコメント有り難うございますっ!!
 ちょっとあまりにも長くて(自分にしては)疲れた一言を入れてしまったんですが、まさか二人からも励ましを頂けるとは思ってませんでした。こりゃー気合い入れないと。


>ミルとフィスがこれからどんな風に生きていくのか、
>ゼルアメの進展があるのか(笑)など、先がすごく気になります!
>
>頑張ってくださいね。続き楽しみにしています。

 え、えーと・・・ゼルアメは・・・期待しないで待ってて下さいvv(爆)
 ミルファレナとフィスはもうちょっと活躍する予定なので・・・長い目で見守ってやって下さい(消極的)。
 励ましのコメントありがとうございました〜vv

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4454注記水晶さな E-mail 9/27-00:44
記事番号4384へのコメント


 今、ふと、読み直してて気付いたんですが・・・黒装束の一人『ジャベリン』を出すのを忘れてました・・・一番最初の宿屋でフィスに首すっぱりやられたのがそうです・・・全員で六人でした・・・(泣)。
 あああ小説呼んでて不思議に思った方ごめんなさいいいぃ(号泣)。

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4457赤の継承者 9 〜再会〜水晶さな E-mail 9/27-01:26
記事番号4384へのコメント


 調子に乗ってガンガン書いてます(笑)。

=====================================

 追いかけっこを始めて数十分は走ったか。
 仲間達と離れてから、唐突にセスタスが立ち止まった。
 フィスも距離をおいて止まる。
 振り返ったセスタスが、おもむろに顔のマスクを脱ぎ捨てた。
 ばさりと広がる赤い髪。
 現れたのは壮麗な美女。
 狂気をたたえた双眸は、鮮血の如く赤かった。
「・・・やはり貴様か・・・」
 フィスが低い声で呟く。
「ネルガ・エト・グランクルド。いや、『赤の継承者』・・・」
「やっと会えたわね。ファルシオン」
 ネルガが口元に笑みを浮かべた。手の平をこちらに差し出してくる。
「俺をその名で呼ぶな!」
「生みの親に対して、相変わらず冷たい事」
 ふうと息を吐きつつ、仕方なく手を下ろす。
「でも離れてわかったでしょう? 所詮あなたは作り物。外の世界ではもう生きられないって」
 フィスが無言で剣を握り締め、構えた。
「私に刃を向けるの?」
 ネルガが握っていた武器を放り捨てた。
 だらりと下げた両の指先から、金属の爪が伸びる。
「少しお仕置きをしなければわからないようね!!」
 突き刺すように伸びてきた爪を、辛うじて剣で受け流す。
 ネルガとまともに戦った事のないフィスは、相手の強さを甘く見ていた。
「っ!!」
 反対の手で握った剣で挟むように叩き付ける。
 だがネルガの爪がそれよりも早く引き抜かれ、自らの剣とぶつかり耳障りな音をたてた。
「遅いわね」
 脇腹に激痛が走る。飛び散った血液が頬にまで飛んできた。
「ぐううっ!?」
 ぶくぶくと音をたてて傷の再生が始まる。 
 だが彼は人間の形態を一番多く残された為、仲間の内で最も治癒能力が低かった。
「こんな時思うでしょ? ああ、もう自分は人間じゃないんだって・・・」
 ネルガが笑みを浮かべた。背筋が凍り付く程優しい笑みを。
「あああああああああ!!!!」
 剣を眼前で振り払う。ネルガが身をかがめてそれをかわした。
 立ち上がると同時に、爪でフィスの両手をはじき上げる。
 鮮血と同時に、握っていた片刃の剣が飛んでいった。
「っぐあっ!!」
 直後に当身をくらい、地面に仰向けに倒れる。
 首の真横に爪が突き立った。
 ネルガが自分をまたいで腹の上に座っている。
「どう? 私に歯向かう事がどういうことかわかったでしょう?」
 爪を引っ込めた左手で、フィスの頬をなぞる。
「これが最後よ、ファルシオン。今まで外に出ていた全てを精算して戻ってらっしゃい。勿論関わった人間は始末するのよ」
 ぱしん。
 フィスがネルガの手をはじいた。
「・・・俺はレゾじゃない。代わりでもない」
 ネルガの表情が引きつった。
「知らないとでも思っていたか? お前が他の奴らと違って、俺だけ顔を丹念に造り直していた事ぐらい覚えている」
「・・・やめなさい」
「お前はレゾの後を追いかけてた。でもそれは研究に羨望したからじゃない、レゾを愛したからだ。盲目だったお前を救ったレゾを!!」
「やめろって言ってるでしょ!?」
 爪が首をかすめた。痛みが走る。
 けれど喋ることはやめない。
「そして死んだレゾの代わりに俺をレゾそっくりに仕立て上げた!! いつもお前の側にいるようにと!! 哀れだなネルガ!!」
「・・・っ!!」
 ネルガが腕を振り上げた。
 その瞬間が狙いだった。
 ネルガに肘を向ける。その肘から長い刃が突き出し、ネルガの胸を貫いた。
 いくらネルガが自分を改造したとはいえ、自分達のように飛躍した治癒能力を備える事はできない。
 何ヶ月も培養液に浸されなければならないから。
「・・・・・・カハッ」
 ネルガが血を吐いた。
「お前はレゾも、俺も思い通りにする事はできなかった。一人で逝け。それが今までしてきた行いの報いだ」
「・・・・・・」
 うつむいていたネルガが、突然笑い声をあげた。
 ぞっとするような、狂気の笑い。
「うふふ・・・私が死んだ時、私の中の『奴』が生まれる・・・」
 ぼこっ。
 服の上からでもわかるぐらい、ネルガの体のあちこちが膨らんだ。
「たまたま見付けたのよ・・・『彼』の研究の後を追っていたら・・・そして私の切り札にした・・・」
 みしみしという音をたてて、骨格が奇妙な方向にねじくれていく。
「誰かが裏切って私を殺そうとした時、一緒に朽ち果てるようにね・・・!」
 絶叫と轟音。
「愛してる・・・ゾ、様!!」
 ネルガを食い破って、巨大な化物が生まれ出た。

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4467赤の継承者 10 〜決戦〜水晶さな E-mail 9/27-23:57
記事番号4384へのコメント


 ぱきん、という乾いた音。
 丁度ゼルガディスのブラスト・アッシュが、エストックを塵にした時だった。
 何故か狂ったように暴れ出したエストックに、思ったより苦戦した上の勝利だった。
 ミルファレナが呆然と、自分の手首を見つめていた。
「フィスさんを追いかけましょう!・・・って、ミルさん?」
 アメリアが立ち尽くしていたミルファレナを不思議に思ったのか、駆け寄ってくる。
「ミルさん・・・どうかしたんですか?」
 その言葉で我に返ったらしく、ミルファレナが慌てて地面にしゃがみこんで何かを拾った。
 二つに割れた、古い銀のブレスレット。
 割れ目は丁度『F』という文字を二つに裂いていた。
「それ・・・フィスさんがくれたっていう・・・」
「ふ、古いから、寿命がきただけなんですわ。きっと」
 強気に言ったミルファレナの表情は、心なしか青ざめている。
「急いで後を追いかけましょう」
 アメリアの言葉にも、素直にうなずいた。
 が、後を追いかけようと向きを変えた時、ゼルガディスが立ち止まっているのに気付いた。
「どうしたんですかゼルガディスさん?」
「今・・・何か聞こえなかったか?」
 問われて、耳を澄ます。
 低い、獣のうなるような音。
「咆哮?」
「狼でもいるんですの?」
「違う・・・もっと大きな・・・あっ!?」
 ゼルガディスが上を見上げて声をあげた。
 森林を突き破って、巨大な白い魔獣が首をもたげる。
 アメリアが悲鳴をあげた。
「ザ・・・ザナッファー!?」
 一戦交えた事もある相手だ。身間違えはなかった。
「ちっ・・・レゾの後を追っかけてた奴だ。これぐらい準備はあるものと考えておくべきだったな」
 今度はラグナ・ブレードを扱える魔道士も、光の剣を持つ剣士もいない。
 形勢は圧倒的に不利だった。
「フィスは!?」
 ミルファレナが悲鳴のような声を上げる。
 あの方向は、セスタスとフィスが消えていった方向。
 駆け出そうとしたミルファレナを、アメリアが必死に後ろから止めた。
「今我を忘れて行ったら危険です!! ザナッファーは脅威的に強いんですよ!!」
「フィス!! フィス!!!」
 ゼルガディスがつかつかとミルファレナの前に歩み寄った。
 ぱん。
 手加減はしたが、それでもかなり痛いだろう平手。
 ミルファレナが呆然とゼルガディスを見上げた。
「お前はフィスの強さを知ってるんだろう!! それが信じられないのか!!」
「・・・・・・!」
 おとなしくなったミルファレナの様子を見て、アメリアが手を放す。 
「お前が今すべきことは何だ?」
 ゼルガディスの言葉に、ミルファレナがきっと顔を上げた。
「あのバケモノを倒す事・・・ですわ」
 その答えに満足したのか、ゼルガディスが魔法を唱える体制になった。
「小出しの魔法じゃきかん。何とかして傷が作れれば、前にリナのやったように体内に術をぶちかませるんだが・・・」
「試すしかないです」
 アメリアの頬に嫌な汗が伝った。
 ザナッファーが咆哮をあげた後、閃光の吐息で辺りの森林を焼き払った。
「レイ・ウイング!!」
 被害がこちらに及ぶ前に、全員が空中に浮かび上がる。
「ボム・ディ・ウィン!!」
 ゼルガディスの魔法がザナッファーの横顔に命中した。
 かすり傷一つつかない。気をこちらへ向けたかっただけだ。
「ハウル・フリーズ!!」
 ミルファレナの言霊に、ザナッファーの後頭部が一部分だけ凍り付く。
「ヴィスファラーンクっ!!」
 アメリアがレイ・ウイングを解除し、そこをめがけて急降下した。
 いつもなら拳にかけるヴィスファランクを、今は足にかけている。
「セイルーンキーックッ!!!!!」
 到達する前に、ザナッファーが恐ろしい程早くこちらを振り向いた。
「!!」
 口内に光がともる。
 ミルファレナが慌ててレイ・ウイングを調整してアメリアを捕まえて逃げた。
「ラ・ティルト!!」
 反対側に居た為、丁度後頭部を向けられる形になったゼルガディスが光を放つ。
 が、それはハウル・フリーズの氷を打ち砕き、ザナッファーの毛皮を軽く焦がしたに過ぎなかった。
「そういえばザナッファーも治癒能力が半端じゃないんでした・・・」
 アメリアがレイ・ウイングを唱え直し、再び宙に浮かび上がる。
 このままでは埒があかない。
 悔しさに、無意識に唇を噛んだ。
 その時、ぼごりっという音と共に、ザナッファーの腹が膨らんだ。
「!?」
 ばしゅっと、小さな穴が開き剣が突き出た。
 それから・・・まるで産み落とすかのように、一人の男がぼたりと地面に落ちる。
 だがそこで力尽きたようで、男は地面に突っ伏したまま動かなかった。
「・・・っ!! フィス!!!!!」
 ミルファレナがレイ・ウイングのスピードを早め、彼の元へと行こうとした。
「ミルさん!!」
「危ない!!」
「バースト・ロンド!!」
 ザナッファーの眼前で爆発を起こす。
 視界を奪った隙に、腹の下へ駆け込みフィスを抱えた。
 再びレイ・ウイングで離れる。
 が、その時にはザナッファーはもう視界に二人をとらえていた。
 レーザーブレスの余波をくらい、集中が乱れ術が解けた。
 フィスを抱き締めたまま、ミルファレナが地面に転がる。
「ミルさん!! フィスさん!!」
 アメリアが二人の前に降り立ち、バリアでレーザーブレスを防ぐ。
 腕が痺れる程の震動。数分ももたないように思われた。
「フィス!! フィス!!」
 ミルファレナが泣きそうな顔でフィスを揺さぶる。
 心臓の位置に耳を当て、弱々しくも鼓動が聞こえたのに安堵してやっと息をついた。
「貴方・・・戦ったんですのね・・・自分の過去と・・・」
 ゼルガディスもレイ・ウイングを解除して降り立ち、アメリアと共にバリアを張って攻撃を防いだ。
「おい! フィスは生きてたんだろ!! 早く安全な所へ運べ!!」
 わずかに首を傾げて振り向いたゼルガディスが見たものは、ミルファレナがフィスを横たえてこちらへ歩いてくる姿だった。
「ミルファレナ!?」
「・・・フィスは逃げずに立ち向かいましたわ。わたくしも、逃げるわけにはいかない」
 そういって、胸の前で手を合わせる。
 その手の中から、青白い光が溢れ出した。
「・・・できれば、一生使わずに終わりたいと思ってましたわ」
「ミルさん!?」
 光を感じたのか、アメリアが前を向いたまま名を呼んできた。
「タイミングを計ってバリアを解いて!! チャンスは一度きりですわよ!!」
 両腕を天に突き上げ、カオス・ワーズで語りかける。
 ―蒼穹(そら)分かち開け扉 狭間より来たれ魔王―
 聞いた事のない呪文に、二人が驚愕の表情を見せる。
 びりびりと、腕が痺れた。
 魔王から嘲笑を受けているように。
 こらえるように、声を絞り出す。
 ―我が御魂(みたま) 我が心を 彼方に揺らめく汝に捧ぐ―  
 全身を絞め付ける圧迫感。
 足が震えた。立っていられないほど。
 ―我が求めるは汝が蒼 壮麗にして鋭き光―
 天に突き上げていた腕を下ろし、ザナッファーへ差し出すように向ける。
 ―凍える蒼き虚ろにて 愚かなるもの全てを食らえ―
 手の平ほどだった光は、人を抱え込めるぐらい増幅している。
 重い。熱い。痛い。
 そんな言葉が脳を駆け巡る。
 集中が途切れれば、これは自身を飲み込むだろう。仲間達も一緒に。
(・・・次の、次の言葉を・・・) 
 だが喉は枯れ果てたようにひきつるだけ。
 自分の手の上にある『力』の凄まじさに、上半身がのけぞった。
(このままでは制御できない・・・!!)
 諦めかけた時、不意に姿勢が前へと押し戻された。
 腰に回された力強い腕。誰かが自分を支えている。
 後ろは振り向けなかったが、誰であるかなど考えなくともわかっている。
「・・・ミ・・・ル・・・」
 乱れた呼吸の合間に、必死に声を絞り出している。
「ここに・・・居る・・・『約束』は破らない・・・続けろ・・・!」
 目頭が熱くなった。胸の奥も。
 ―時の流れに埋もれし 紅(あか)き闇すら汝にいとわぬ―
 息を吸い込み、最後の力で叫ぶ。
「カオティックスレエエエエエエエェイブ!!!!!」
 アメリアとゼルガディスが、同時にうなずいてバリアを解除する。
 ミルファレナの放った青白い光が、ザナッファーを包み、そして―
 光が消え視界が元通りになった時には、そこはただの巨大な焼け野原だった。
「・・・消滅、した」
 アメリアがぽつりと呟く。
「・・・蒼破斬(カオティックスレイブ)だと?」
 ゼルガディスが振り返る。
 ミルファレナとフィスは、魔法を放った反動で後方へ吹き飛ばされていた。
 フィスは仰向けで四肢を広げて倒れているし、ミルファレナは上半身を起こしているものの顔を起こす気力もないようだ。
「大丈夫ですか!!」
 アメリアが駆け寄って、ミルファレナにリザレクションをかけようとしたが、手で止められた。
「・・・フィスを、先に、お願い、しますわ・・・」
 ぜえはあと肩で息をしながら、ミルファレナがたどたどしく告げる。
 アメリアはミルファレナが気になりつつもフィスにリザレクションをかけはじめた。
 ゼルガディスがミルファレナの前に膝をついた。
「あれは・・・異界の魔王『蒼穹の王(カオティック・ブルー)』の力を借りたものか?」
 ミルファレナが何とか呼吸を整えて顔を上げた。
「・・・そうです、わよ。わたくしの血族に代々伝わる禁呪・・・使ったら命はないとか言われてましたけど。多分頻発しないようにとのt脅しなんでしょうね。実際わたくし生きてますもの。もう二度と使いたくありませんけど・・・あー疲れた」
 そう言うとばったりと仰向けに倒れた。
 富豪の娘が何たる様である。
「でも、ミルファレナさん凄いキャパシティなんですね。普通異界の魔王なんて呼べませんよ」
 アメリアが言うと、ミルファレナが寝転がったままで意味ありげな笑みを浮かべる。
 つられて横に座ったゼルガディスの方をちらっと見てから口を開いた。
「わたくしの母の名はマージュレナ=キーフェル」
「!?」
 その名に聞き覚えがあったのか、ゼルガディスが反応した。
「結婚前の姓はマージュレナ=グレイワーズ、でしてよ」
「ゼルガディスさんと同じ苗字!?」
 アメリアが驚いて振り返った。
「マージュレナ・・・マージュ・・・確か・・・叔母の名だ」
 ゼルガディスが記憶をまさぐるように呟く。
「わたくしの母は、貴方の父の妹なんですの。嫁いだ為にその後の縁はぷっつり切れましたけど」
「てゆーことは・・・」
 アメリアの言葉の先を、ゼルガディスが続ける。
「ミルファレナも奴の・・・レゾの血をひいてる・・・ってことか」
「ゼルガディスさんのいとこだったんですか・・・だからあんな桁外れな魔力が・・・」
「だから魔法は嫌いって言ったんですわ。制御がうまくできないんですの」
 それだけ言い終えると、息をゆっくりと吐いた。
 見上げた青空は、澄み渡るように青かった。

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4468赤の継承者 11 〜告白〜水晶さな E-mail 9/28-00:03
記事番号4384へのコメント


 やっとのことで辿り着いた宿屋では食堂に寄る事もなく、さっさと各自部屋に入ってしまった。
 が、ミルファレナの部屋の扉がすぐにノックされる。
「フィス、何ですの?」
 起き上がる気力もないので、ミルファレナが首をかたむけたままで返事をした。
 宿屋について着替える事もなく、ベッドにそのまま仰向けに倒れていた。
 このまま眠ってはいけないとわかっているのだが、どうにも疲労が強くて起き上がれなかった。
 規則正しい2回続けてのノックは、フィスのものである。
 ミルファレナの返事の後、扉がゆっくりと開いた。
 フィスが紙袋を抱えて入ってくる。
 傷はふさがったといっても、せいぜい血が止まったばかりの状態と似たようなもの。
 いまだに全身包帯だらけで何とも痛々しい。
「・・・貴方、まさか、お茶を?」
 何か気分が沈んでいる時や疲れた時、悪い事があった時などミルファレナは必ず故郷の特産品である紅茶を飲んでいた。
 確かに今日は疲れたが。フィスはもっと疲れているだろうに。
 ミルファレナが唖然としていると、フィスがさっさとお茶の用意を始めている。
「ちょっ・・・ちょっと待ちなさいフィス!! 今日はいいですわよ!!」
 フィスが手を止めて、ミルファレナを振り返った。
 『何故止めるんだ?』というような顔をしている。
 ミルファレナが上半身を起こし、溜息をついた。
「・・・貴方のがわたくしより疲れてるんですのよ? そんな時にお茶の用意をさせるほどわたくしは鬼でなくてよ」
 フィスの手が何だか寂しそうに動いている。恐らく途中で中断された事がないのでどうしていいかわからないのだろう。
 ミルファレナがやれやれと頭を掻いた。
「・・・いいですわ。じゃあ、いただきます」
 慣れた手つきでフィスがミルファレナにティーカップを渡す。
 最初教えた時などカップに茶葉を入れていたような人物とは思えない。
 一口飲んで、ほうと息を吐く。
 体の内側から温められていく感じ。
 フィスがベッドサイドに丸椅子を持って来て腰掛けた。
 こうやって二人でお茶をするのも久しぶりだ。
「・・・もう、追われる事もないんですのね」
「・・・嫌な思いをさせた」
「いいんですの。終わった事ですから」
 それから思い出したようにフィスの方をぱっと振り向いた。
「そうですわゼルガディスから聞いたんでした。ネルンドーグの施療院に優秀な外科医がいるそうですわよフィス!! 明日から早速そっちに向かいますから地図で確認しておくんですわよ!!」
「・・・」
 フィスがテーブルにカップを置いた。
 いつも抱いていた疑問。今日ここで聞いてみたい。
「・・・ミル、何故そこまでしてくれる?」
「は?」
「・・・見ず知らずの他人に、どうしてそこまでできるんだ?」
「・・・」
 しばらく押し黙った後、ミルファレナが唐突にフィスを殴った。
 しかも拳で。
「この朴念仁! わたくし貴方のそういう所がいっちばん嫌いなんですのよ!!」
 カップをベッド脇の小さなテーブルに叩き付け、人差し指を突き付けて激怒する。
「わたくし貴方に何て約束をさせまして!?」
「・・・『いつでも、一緒に居る』・・・」
「そこまでわかってて何でわからないんですの!! 貴方が大切だからでしょう!?」
 言い切って、ぜえはあと疲れたように肩を落とす。
 フィスが頬を押さえたまま固まっていた。
「・・・ミル、俺を、『人間』として見ているのか?」
「人間じゃなかったら何だって言うんですのよ。いいこと貴方の体には変な物が埋め込まれているだけ。それを取り除いてもらうだけですの。人間非人間なんてこだわるのは問題の内にも入りませんわ」
 もう呆れ果てたというように、ミルファレナが腕組をしてぷいと顔をそむけた。
 ・・・俺は馬鹿だ。
 フィスが椅子の台座を握り締める。
 こんな簡単な事に今まで気付かなかったのか。
 何故だかわからないが、胸が熱い。目も熱い。
 こみ上げてくるような熱い衝動。吐き気とは違う。
 視界が滲んできた。手でぬぐうと、指先が濡れた。
 振り返ったミルファレナが、驚いて自分を見つめている。
「フィス・・・?」
「何だ・・・これは・・・?」
 溢れた水が、頬を伝った。
「フィス・・・貴方・・・やっと泣く事を覚えたんですのね・・・」
「泣いて・・・?」
 ミルファレナがそっとフィスの頬に手を伸ばした。
 冷たい手のネルガとは違う。温かくて優しい手の平。
 余計に溢れてきた。
 この少女は自分を人間と見てくれる。
 『大切』だと言ってくれる。
 ・・・きっと俺は『嬉しい』んだ。
「ずっと・・・一緒にいて・・・気付かなかった・・・気付こうとしなかった・・・」
「ええもう、本っ当にバカですわよ貴方って人は・・・」
 ベッドの上に膝立ちしたミルファレナに抱き締められる。
 生まれて初めて流れた涙は、しばらく止まろうとしなかった。

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4469赤の継承者 12 〜出発〜水晶さな E-mail 9/28-00:11
記事番号4384へのコメント


 「快晴ですー」
 アメリアが窓を開けて空を仰ぐと、大きく伸びをした。
 あの後隣町まで何とか移動し、宿屋に泊まる事ができた。
 夕方にチェックインして、そのまま爆睡。
 次の朝まで一度も目覚めなかったのである。
 アメリアが食堂に下りていくと、既にゼルガディスがコーヒーを飲んでいた。
「起きたか」
「おはよーございますー」
 いつも通りな挨拶を交わし、アメリアが向かいに座った。
 給仕にモーニングセットを注文した後、すぐに置かれたミルクティーをすする。
「やっとミルクティー飲めました」
 アメリアが笑う。
「この二日間、やけに長く感じたからな」
「ミルさんとフィスさんは来てないんですか?」
「まだ来てないな。あの二人が一番疲れてるんだろ、ほっといてやれ」
 アメリアの前にモーニングセットのプレートが置かれ、アメリアが嬉しそうにフォークを握った。
「でもミルさんとゼルガディスさんがいとこ同士だったなんて驚きですー。でも確かに似てる所ありますね」
 ゼルガディスが嫌そうに顔をしかめた。
「・・・どこらあたりが?」
「えーっと、素直じゃなくってヒネくれてて優しい所ですぅ」
 ゴン。
 ゼルガディスがテーブルに頭を打ち付けた。
「あ・・・あの・・・な・・・」
 アメリアは普通に食事を続けている。
「そういえば、一つ気になった事が・・・」
 ハムエッグを飲み込んだ後、アメリアが顎に手をあてた。
「ミルファレナさんの使った『カオティック・スレイブ』。あれ一体どの位の威力なんでしょうね」
「・・・恐らくブーストをかけたリナの『ドラグ・スレイブ』と同じ位だろうな」
「ええっ!?」
 アメリアが素っ頓狂な声を上げる。
「だ、だってザナッファーには『ドラグ・スレイブ』じゃあそこまでダメージは・・・」
 慌てふためくアメリアとは対照的に、ゼルガディスがコーヒーを飲み干した。
「アメリア、流行り風邪にかかったとして、一回目にかかるのと二回目にかかるのとどっちが重い症状だ?」
「え? ええっと・・・一回目、ですよね」
「二回目の方が軽いのは何でだ?」
「えーと・・・耐性ができるから・・・」
「それと同じだ。『赤眼の魔王(ルビーアイ)』の支配下のこの世界で、異界の魔法をくらった事のある奴なんてそういるか?」
「・・・いない、でしょうね。多分・・・」
「耐性がないだけダメージは大きい。ザナッファーにとってはラグナ・ブレードと同じ位の衝撃を受けたんだな多分」
「・・・はぁ、なるほど・・・」
「しかも異界の魔法だから術者にも多大な負担がかかる。絶対的な攻撃力はあるがリスクも大きい技だ。だから禁呪にされてたんだろ」
 ふんふんとうなずきながらも、食事の手は止まらないアメリア。
 こいつリナのいらん影響受けたなと、ゼルガディスが見えないように嘆息した。
「ゼルガディスさんには伝えられなかったんですか?」
「・・・マージュレナ叔母の方へは魔法の伝授。俺の家系には古代知識の伝授だ」
「ふーん・・・そうなんですか・・・」
 アメリアがデザートを食べ終わった所で、ミルファレナとフィスが食堂に姿を現わした。
「あっおはよーございます!!」
「おはようアメリア、ゼルガディス」
 ミルファレナは返事を返すが、フィスは彼らしく会釈だけ。
 席がない為に、少し離れた場所に座った。
「ところで」
 ゼルガディスが顔を寄せ、小声でささやく。
「・・・あいつらといつまで一緒にいる気なんだ?」
「ネルンドーグの施療院にいいお医者さんがいるらしいから会いに行くって言ってました。私達の目的地は貿易都市ジャルナでしたよね。途中まで一緒です」
 がくっと、ゼルガディスがテーブルに突っ伏した。
「ゼルガディスさんたらそんなに喜ばなくても」
「これが喜んどるよーに見えるか!!」
「冗談ですよ冗談。でもいいじゃないですか、旅は道連れ世は情け!」
「世は情け容赦なしだ・・・ったく」
 ゼルガディスが席を立った。
 アメリアがちらっとミルファレナとフィスの方を見やる。
(何だか変わりましたね、フィスさん)
 思わず、こちらまで笑顔になる。
(貴方が笑みを浮かべるなんて想像もつきませんでしたよ)
 口元をわずかにほころばせるぐらいしかできないけれど。
 それでもその瞳は優しくて、穏やかに見えた。
 ブレスレットが割れてしまった事をぶつぶつ言っているミルファレナを、直してやるからとなだめている。
(ミルさんと出会えて良かったですね)
「おい、アメリア。買い物に行くぞ」
「はーいっ!」

「どっちが先に目的を果たすか、競争しません?」
 途中まで一緒の道程で、ミルファレナがもちかけてきた。
「わたくしはフィスをちゃんとした体に、アメリアはゼルガディスの・・・今度会ったら、成果を報告し合うんですの」
「いいですねそれ! 負けませんよミルさん!!」
 ぐっと拳を握り締め、アメリアが答える。
「ついでに進展も報告ですわよ」
「・・・何のですか?」
「あらやだ、とぼけちゃって」
 ミルファレナが顔を寄せ、小声でささやく。
「勿論・・・『彼』とのですわv」
 アメリアがぼっと頬を染めた。
「どうしようもない朴念仁でも、変えようと思えば変わるものですわ」
 ミルファレナが笑みを浮かべた。優しげな瞳の、大人びた笑み。
「あのフィスがわたくしの前で泣いたんですのよ」
「え、ええっ!?」
「声が大きくてよ!!」
 慌てたミルファレナに口をふさがれる。
 後方ではまだ少しだけ足元がふらついて遅れ気味のフィスと、それに合わせた歩調のゼルガディスが歩いていた。
 離れている為声は届かない・・・と思う。
「な、何だか詳しく聞きたいですその話!!」
 必死に声を抑えながら、アメリアが潤んだ瞳で見つめてきた。
「お互いに報告じゃないと平等じゃないですわ」
「う、う〜・・・わかりました、です」
「女の約束でしてよ?」
「オッケーです!」
 ぐわしっと手を握り合う二人。はたから見ると何をしているんだかわからない。
 何だかいつの間にか仲良くなっているし。
 二人が駆けていく先には、又新たな街が静かにたたずんでいた。
 晴天の霹靂。涼やかな気候。気持ちの良い昼下がり。
 吹き抜ける風が、四人の若者達の背を後押しした。

=====================================

 終わり。
 てへ、結局まともなゼルアメは書けませんでしたv(爆)
 ごたく並べてる所は全てオリジナル設定なので突っ込まずにほほえましく見て頂けると嬉しいです(爆) それでは又次のお話でお会いしましょう〜(って次!?)

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4481イラギャに水晶さなさんの作品を掲載!!一坪 E-mail 10/1-01:35
記事番号4469へのコメント

CGの投稿ありがとうございました!
というわけで掲載させてもらいました。
また暇なときにでもご確認下さい。


では、これからもよろしくお願いしまーーす!

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4483ありがとうございます!!水晶さな E-mail 10/2-00:01
記事番号4481へのコメント


 確認しました〜。小説にとどまらずCGまでお世話になってしまいましたが、宜しければこれからも温かい目で見てやってくれると嬉しいです(爆)。

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4493お疲れ様でしたわかば E-mail 10/5-22:57
記事番号4469へのコメント

こんばんは。一気に読んでしまいました。
良かったです。特にミルファレナさんが。
強気な性格か、はたまた大事過ぎて、口に出せないのか、難しいところですけど(笑)
姫さまのように素直過ぎるのも良いんですけど、言えないというシチュエーションも好きです。フィス君には伝わってるようですし。
こういう二人もいいですよね。呪文ではオリジナルの『カオティック・スレイブ』カオスワーズ良かったです。
ああ、長くなってしまいました、ごめんなさい。それでは、今回も素敵なお話しを読ませて頂き、ありがとうございました。

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4503こちらこそありがとうございます〜!!水晶さな E-mail 10/7-00:28
記事番号4493へのコメント


 こ、こんな長いのを一気に読んだんですか!? す、凄いです。
 お疲れ様でした(自分で言ってどうする)。

 オリジナルキャラって反応が恐いんですが、良かったと言ってもらえるとホント嬉しいです。
 ゼルアメとは違う微妙な関係の二人ってのを書いてみたくてミルファレナとフィスを出したんですが(笑)。
 『カオティック・スレイブ』のカオスワーズは原作見ながらうんうん唸って作りました(笑)。そこにコメントを頂いたのは初めてなのでホント嬉しいですvv
 さっきから『嬉しい』ばっかりですがそれ以上いい言葉が思い付かないので勘弁して下さい(笑)。

 長いだなんて、コメント長く頂けるほど「やっぱり書いて良かったー」って思うので、宜しければこれからも見てやって下さい m(__)m

 ではさなでした〜。

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