◆−光に見た夢 ―9―−雫石彼方(9/6-23:02)No.4231
 ┣光に見た夢 ―エピローグ―−雫石彼方(9/6-23:27)No.4232
 ┣お疲れ様でした〜!−ねんねこ(9/7-15:31)No.4236
 ┃┗ありがとうございます〜!!−雫石彼方(9/7-20:19)No.4240
 ┗現れ第二弾!−桜井  ゆかり(9/8-18:48)No.4241
  ┗まいど!!−雫石彼方(9/10-04:21)No.4245


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4231光に見た夢 ―9―雫石彼方 E-mail 9/6-23:02



 夕日が西向きの窓から差込み、床に淡い光を形作っている。それをぼーっと眺めながら、ゼルガディスは食堂のいつもの席に一人、座っていた。
 準備中の為、厨房の方からは絶えず人の動き回る気配はするものの、食堂の方は彼の他には誰もいない。テーブルに頬杖をついて、溜息を一つ。

 ―――死刑の執行を待つ死刑囚ってのはこんな気分だろうか・・・?

 ふとそんなことを考えてみる。
 結構的を得ているような気がした。

 今、ゼルガディスがこんな気分になっているのは他でもない。

 ――アメリアが自分と母親、どちらを選ぶのか?――

 そして、その答えは自分ではない、という考えが彼の頭の中を支配していた。アメリアが、母親を助けるチャンスを潰してまで選ぶほどの価値は自分にはないと思えたから。
 よって、今日の朝アメリアが城へと向かってからというもの、とてつもなく長いような、それでいてほんの一瞬のような時間を過ごしているのであった。

 キィ・・・・

 微かな音を立てて、外からの食堂の扉が開いた。
「――アメリア・・・」
 扉が西側にある為、逆光で顔は見えなかったが、背格好からアメリアだと分かった。
 ゼルガディスが食堂にいるとは思っていなかったのだろう、アメリアは少し驚いたように立ち止まり、一言
「ただいま」
とだけ言った。



 場所をアメリアの部屋に移し、二人は向かい合って座っていた。
 そしてゼルガディスが意を決したように口を開く。
「――で、決めたのか?」
「――はい」
 一瞬の沈黙の後、アメリアはにっこりと微笑んだ。
「帰りましょう、元の世界へ」
「・・・・・」
 その言葉が何を意味するのか、ゼルガディスはすぐには理解できなかった。しばらく考え、恐る恐る聞き返す。
「このまま、何もせずに帰る、ということか?」
「はい」
「・・・・・いいのか?」
「はい」
 ――嬉しい。彼女が自分を選んでくれたことは確かに嬉しかったが、今までそれは絶対にない、と思い込んでいただけに、どう反応していいのかよく分からなかった。
 そんなゼルガディスの様子を見て、アメリアはおかしそうにくすっと笑うと、胸に手を当てた。
「心が、温かいんです」
「?」
「ゼルガディスさんといるとね、いつだって心がぽかぽかして、温かいって感じられるから。――だから、いいんです」
「アメリア・・・・」
 アメリアが立ち上がって窓辺の方に移動する。
 夕日が山の向こうに沈みかけていて、最後に精一杯の光を放っていた。その光景を名残惜しそうに見つめながら、アメリアは言葉を続けた。
「母さんに聞いてみたんです。すごく後悔してることがあって、もしその時に戻れるとしたらどうしますかって。そしたら母さん、どうもしないって言うんです。もしそこで過去を変えてしまったら、それ以上後悔しないように頑張ってきた今の自分がかわいそうだからって。それに、今自分は愛する家族に囲まれてとても幸せだから、心がいつだって温かいって感じられるから、どうもしないんだって・・・」
 こちらに背を向けて話すアメリアの話を、ゼルガディスはただ黙って聞いていた。間に口を挟めないほどに聞き入っていた、という方が正しいかもしれない。
「本当にその通りだと思いました。――もしかしたら、違ってるところもあるかもしれません。他の人が聞いたら、ただ自分を正当化してるだけだって思うかもしれない・・・でも、私は母さんの言葉と、それに共感した私自身を信じてみたいんです。だから・・・・・」
 ゼルガディスも立ち上がり、アメリアの隣に立って外を眺める。
 夕日はもう既に沈んでいたけれど、夕日の残した余韻で、まだ辺りは明るさを保っていた。
「――そうだな・・・・帰ろう、元の世界へ」
「はい・・・!!」
 ゼルガディスが同意してくれたのが嬉しくて、アメリアが元気良く返事を返す。
 お互い顔を見つめ合い、やがて同時にふっと微笑んだ。



 過去の世界に来た時に身に付けていたものはすべて身に付け、準備は整った。
 ゼルガディスが懐中時計を掌に載せ、アメリアの方に差し出す。アメリアはその上に手を載せ、強く願った。
 元の世界に帰りたい、と・・・・。

 カチッ

 聞き覚えのある音がした、と思った瞬間、急速に懐中時計の針が未来に向かって回り始め、それが頂点に達した時、光が部屋中に溢れた。
 そして光が集束し、治まった時、二人の姿は部屋から消えていた。



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4232光に見た夢 ―エピローグ―雫石彼方 E-mail 9/6-23:27
記事番号4231へのコメント


 さらさら、と川が流れている。
 魚の背に光が反射して、時折キラッと光を放つ。それがまるで水中に宝石が沈んでいるかのように見えた。
 そんな光景を橋の上から眺めている少女が一人。
「――アメリア」
 名前を呼ばれて振り返り、アメリアは彼女を呼んだ人物――ゼルガディスに笑いかけた。



 過去の世界から戻ってきたのは昨日。
 精神的に疲れていたのであろう、その日は部屋に入るなり二人とも爆睡し、今日も起きてきたのは昼近くだった。
 そして朝食兼昼食を済ませると、アメリアは軽く散歩に行くと言って出かけ――今に到る。

「大丈夫か?」
 ゼルガディスはじっと川の流れを見つめるアメリアの背中に話し掛けた。
「何がですか?」
「何って――・・・」
「・・・・・ごめんなさい、分かってるんです。―――私は大丈夫、です」
 先程から彼女は微動だにしない。
 ただ、見つめ続ける。
「短い間でしたけど、母さんとの思い出もできましたし。小さい頃に亡くなったから、あんまりそういうの、なかったんです。なかったっていうか、覚えてないって言う方が正しいんですけど」
 まだ、動かない。
 ゼルガディスはその後姿に、何だか不安になった。
「―――ただ・・・・」
「?」
 その後姿にも声質にも特に変わったところはない。
 けれど、何かが変わった気がした。思わず歩を進める。
「私だけ思い出作っちゃって、父さんや姉さんには何だか抜け駆けしたみたいで、悪いこと・・したかなって、思・・っ・・・・」
 もうそれ以上は言えなかった。
 ともすれば漏れ出てしまいそうな嗚咽を堪えるのに、必死に唇を噛み締めていたから。
 ゼルガディスの前でだけは、絶対に泣いてはいけないと思った。ここで泣いてしまったら、この不器用だけどとても優しい青年は、アメリアが母親ではなく彼を選んだことでアメリアが不幸になったのではないか、と自分を責め、心を痛めてしまうと思ったから。
 だから必死に何でもない振りをしようとした。
 けれどそれが“振り”であることにゼルガディスが気付かないわけもなく―――ゼルガディスは、アメリアを後ろから抱きしめた。
 きつく、強く。
「我慢しなくていい。俺のことは気にするな。お前が俺を選んでくれた時、決めたんだ。自分を卑下することはしない、何があってもお前と、お前が選んでくれた俺自身を信じる、と―――。俺なら大丈夫だから・・・だから、もう我慢するな」
 
 ぽとり。

 前に回した腕に、涙が落ちたのが分かった。

 ぽとり、ぽとり。

 次から次へと、零れ落ちる。
「っ・・・・ゼル、ガディ・・さん・・・っく・・・・」
「いいよ、しゃべらなくて。ずっとこうしてるから」
 今まで抑えていた分、いったん堰を切った涙はもう止まらない。
 優しい腕に抱かれて、アメリアは思い切り泣いた。そしてゼルガディスは、アメリアが落ち着くまで、何も言わずにずっと抱きしめていた。
 


「落ち着いたか?」
「はい、すみません・・・」
 アメリアが泣き止み、落ち着きを取り戻したのはもう夕暮れ時だった。
 夕飯の支度をしているのか、どこからか良い匂いがしてくる。

 ぐぅぅ・・・・

 その時、妙な音がした。
 途端にアメリアが真っ赤になる。それを見てゼルガディスが可笑しそうに笑って言った。
「泣き疲れて腹が減ったか?」
「う・・・・」
「じゃあ、程よく腹も減ったことだし、さっさと帰ってお待ちかねの飯にするか」
「あう、ゼルガディスさんのいぢわる・・・・」
 ますます真っ赤になってうめくアメリアの手を引いて歩き出そうとする――が。
「あ、ちょっと待ってください!」
「どうした?」
 ゼルガディスを呼び止めると、アメリアは首から下げた懐中時計をはずした。
「これはもう、私には必要のない物です。だから・・・―――あ!!ええと、ゼルガディスさんは・・・・?」
 アメリアが言おうとしているのは、これを使って合成獣にされる前の過去へ行けば、もう“化け物”などと蔑まれることもなくなる、ということなのだが・・・・
「―――いや、いい。俺にも必要のない物だ」
 それを聞いて、アメリアはにっこりと笑った。
「じゃあ、これはもう処分していいですね。下手に残しておいて、悪人に悪用されたら大変ですし・・・」
 そう言うと、アメリアは呪文を唱え始める。カオス・ワーズを紡ぎ終わり、懐中時計を空高く投げ上げ―――
「変重力(オルト・ウェイト)!」
 一瞬眩い光に包まれたそれは、そのまま派手に水しぶきを上げて川に落ち、沈んだきり浮かんでこなかった。
「今のは・・・?」
 聞き覚えのない術に、ゼルガディスが訊ねる。
「えへへ、重さを自由に変える魔法なんですけど、オリジナルなんです、あれ」
「なるほど。――だが、ファイアーボールあたりでちゃんと壊した方が良かったんじゃないか?」
「それはそうですけど、せっかくおばあさんにもらったものですし、やっぱり壊すのは何だか悪いような気がして・・・」
「使えなくするんだからどっちにしたって同じようなもんじゃないか」
「そこはそれ、気分の問題なんです!」
「そんなもんか?」
「そんなもんです!!」
 “ふーん”、といまいち釈然としなさそうなゼルガディスを引っ張って、宿屋へと向かう。彼を急かしながら歩くアメリアの表情は、晴れ晴れとした、とても明るいものだった。




 その日私は夢を見ました。
 母さんが殺された日の夢・・・
 でもそれは悲しい夢ではなくて、あの日の昼下がり、昼寝をしていた私が怖い夢を見て、泣いていた時のこと。
 母さんは私をベッドに寝かせると、優しく抱きしめてこう言いました。
「アメリア、幸せになりなさい。幸せに・・・」
 その時の私には、母さんがなぜそんなことを言ったのか分からなかったけれど、とても温かい気持ちで眠りにつきました。
 この夢をゼルガディスさんに話すと、
「お前のおふくろさんは何もかも分かってたのかもな。お前がアメリアだということも、自分が殺されるであろうことも、お前が何のために来たのかも・・・」
 そう言って、母さんがしてくれたのと同じように、私を優しく抱きしめてくれました。


 ――母さん・・・私は今、幸せです


end

―――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 と、いうわけで。これで終わりです!
 ああ、ちゃんと終わって良かった・・・!!
 ここに投稿しなかったら、いつまでも書きかけのまま完成しなかったかも・・・。自分に鞭打つためにも、投稿して良かったです(^^)
 ところで、ですね。途中で出てきたアメリアオリジナルの魔法・・・なんだそりゃって感じですね(^^;)なんか勢いで勝手に作っちゃったんですが、あまりつっこまないでいただけると嬉しいです(汗)でたらめなのもいいとこで恥ずかしい(///)
 ええと、では。今まで読んでくれた方、ありがとうございました!


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4236お疲れ様でした〜!ねんねこ E-mail 9/7-15:31
記事番号4231へのコメント

ねんねこです。
まずは終了お疲れ様でした〜!とても楽しませて頂きました。
アメリアがお母さんじゃなくてゼルを選んでくれたところが嬉しかったです^^
アメリアのお母さんはしっかりしてますね。彼女の台詞が大好きで心に残っています。心が強いですね、お母さん。
アメリアのオリジナル呪文……凄いです、の一言。いや、ねんねこはこういう呪文が考えられない奴なので……凄いです。
そしてなんと言っても最後のゼル君がかっこいい!ちょっと大人ですね。(精神的に……って、ねんねこのゼルが幼すぎるのか……)アメリアのことをしっかり分かってくれたのが良かったです。ああ、ゼルってばいい奴だ(笑)
というわけで、素敵なお話をどうもありがとうございました。
ねんねこでした。

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4240ありがとうございます〜!!雫石彼方 E-mail 9/7-20:19
記事番号4236へのコメント


>まずは終了お疲れ様でした〜!とても楽しませて頂きました。

こんにちは、ねんねこさん。やっと終了しました、ありがとうございます〜!
ねんねこさんの連載が終了した時にレスつけようと思ったんですが、書きそびれてしまいました・・・。クラヴィスの宝石が割れてどうなることかと思いましたが、無事で良かったです(^^)シンデレラアメリアも可愛くて面白かったですよv
――って、こんなところに感想書いてすみません;

>アメリアがお母さんじゃなくてゼルを選んでくれたところが嬉しかったです^^
>アメリアのお母さんはしっかりしてますね。彼女の台詞が大好きで心に残っています。心が強いですね、お母さん。

お母さんの方選んでゼルと出逢わなかったことになったりしたらシャレになりませんからね(^^;)
アメリアのお母さんは、あのフィルさんに見初められた人ですし!(フィルさんは人を見る目がある人だと思うので)絶対、彼女は心の強い人だと思うんですよ!!
アメリアも、大きくなったらお母さん以上の素敵な人になってもらいたいですv

>アメリアのオリジナル呪文……凄いです、の一言。いや、ねんねこはこういう呪文が考えられない奴なので……凄いです。

いや、そう言っていただけると嬉しいです;でもあれ、ほんっとうに適当なんですよ(汗)「重さ変える呪文だから”変重力”でいいや。読み方は、”変える”は英語で”alter(オルター)”か・・・そのままだとひねりがないから”オルト”にして、”重力”は・・・読み方がよく分からん!!”重さ”の”weight(ウェイト)”でいっか」と・・・(汗)

>そしてなんと言っても最後のゼル君がかっこいい!ちょっと大人ですね。(精神的に……って、ねんねこのゼルが幼すぎるのか……)アメリアのことをしっかり分かってくれたのが良かったです。ああ、ゼルってばいい奴だ(笑)

自分が子供っぽいせいか、大人な男の人に憧れるんですよねぇ・・・。で、ゼルも大人な方がかっこいいなあ、と思いまして。でも、ねんねこさんのゼルも好きですよ。なんかひねくれた悪ガキがそのまま大きくなったみたいで可愛くて(笑)

>というわけで、素敵なお話をどうもありがとうございました。
>ねんねこでした。

こちらこそ、読んでくださってありがとうございました!!

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4241現れ第二弾!桜井 ゆかり 9/8-18:48
記事番号4231へのコメント

こんにちわ(こんばんわ?)桜井 ゆかりです。
今、桜の精の恋の番外編&BILIEVEを読んできました。私はメールのやり方を知らないのでこちらに書かせて貰いました。すいません。でも、ゼルアメガーデンズもうすぐ閉じちゃいますね。そしたら、こっちに来るんですか・・・?



> 聞き覚えのある音がした、と思った瞬間、急速に懐中時計の針が未来に向かって回り始め、それが頂点に達した時、光が部屋中に溢れた。
> そして光が集束し、治まった時、二人の姿は部屋から消えていた。
結局何もしなかったんですね・・・
アメちゃんも結構悩んでいましたし。ゼルガディスさんは、嬉しいって言ってましたし。邪魔がないゼルアメもいいですね。
いろいろと関係ないことも言いましたが気にしないで下さい。
では、桜井 ゆかりでした。

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4245まいど!!雫石彼方 E-mail 9/10-04:21
記事番号4241へのコメント

こんにちは〜、感想ありがとうでーす。

>今、桜の精の恋の番外編&BILIEVEを読んできました。私はメールのやり方を知らないのでこちらに書かせて貰いました。すいません。でも、ゼルアメガーデンズもうすぐ閉じちゃいますね。そしたら、こっちに来るんですか・・・?

読んで下さったんですね、ありがとうございます。メールのやり方は、書いた人の名前のところをクリックすればメールできますよ。
あそこの作品はあのページ用に書いたものなので、閉鎖後こちらに投稿する、という事はないと思います。自分でホームページを作るとしたらそこに載せることもあるかもしれませんけど、自分のホームページを持つなんて夢のまた夢ですし・・・。

>> 聞き覚えのある音がした、と思った瞬間、急速に懐中時計の針が未来に向かって回り始め、それが頂点に達した時、光が部屋中に溢れた。
>> そして光が集束し、治まった時、二人の姿は部屋から消えていた。

>結局何もしなかったんですね・・・

そうなんですよねー、終わってみると、結局何もしてないんです、この話・・・(^^;)
でも一応、この話は”アメリアが過去を吹っ切る”というのがテーマなので、その点では変化があったかなー、と・・・・(汗)

>アメちゃんも結構悩んでいましたし。ゼルガディスさんは、嬉しいって言ってましたし。邪魔がないゼルアメもいいですね。

言われてみれば、私の書くゼルアメは邪魔がないものが多いかも・・・。ゼルにちょっかい出す女が出てくる話なんて死んでも書きたくないですし(アメリアが悲しむような話は書きたくないんです!!←断言)、アメリアにちょっかい出す男が出てくるのは読むのはとても好きなんですけど、書くとなるとあんまり・・・。ちょーっと気があるかなー?って程度のは書きますけど(^^)微妙ですな(笑)

ではでは、ご来店(?)ありがとうございましたー!!


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