◆−Versprechen.1(ゼルアメ・・・?)−水晶さな(1/26-22:55)No.2669
 ┗Versprechen.2−水晶さな(1/28-01:05)No.2674
  ┗Versprechen.3−水晶さな(2/7-22:59)No.2706
   ┗Re:Versprechen.3−安芸(2/7-23:58)No.2708
    ┗ありがとうございます♪−水晶さな(2/8-16:36)No.2712


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2669Versprechen.1(ゼルアメ・・・?)水晶さな E-mail URL1/26-22:55



 ・・・今まで読み手側だったんですが、とうとう我慢できなくなってカミングアウトしてしまいました(汗)。ゼルアメ至上主義者なのでこれしか書けないです(滝汗)。
 ちなみに「Versprechen」とはドイツ語で「約束」という意味です。「Promis」だと絶対もう使われてると思ったので・・・。
 何だか長くなりそうで恐いんですが、とりあえず書いてみましたっ。

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 砂塵を含んだ黄色い風が吹き上げる。
 砂漠特有の風に顔を顰めながら、一人の男が視界の先に微かに映る街を目指していた。
 顔を覆うフードの隙間から覗く浅黒い岩の肌、陽光を照り返す銀色の針金の髪。
 何の因果か身体を合成獣にされてしまった青年、ゼルガディス=グレイワーズ。
 「・・・あと少しか」
 無意識の内に呟いていた。
 目指す街の名はダシャラン。
 一年に一度、大規模な武術大会が開かれる街。

 「・・・全く、呆れる程集まったものだな」
 少し下がりかけた口元のフードを持ち上げ、ゼルガディスが右往左往する人の群れを一瞥する。
 大会参加者が三分の一、残りがギャラリーといったところか。
 ふう、と軽く息をつくと、足早にその場を離れる。
 久しぶりに大きな街に来た事もあり買い物をしていたのだが、元々人嫌いな性分でこの人の多さには辟易する。
 それにわざわざ大きな街に来たのも、買い物をする為ではない。
 一年に一度ここダシャランで開催される武術大会の賞品に、彼の求めている物があったという噂を聞いた。
 言わずと知れた異界黙示録(クレアバイブル)。
 とは言っても、ゼルガディスはそれほど期待していなかった。所詮風の噂である。
 ただこの街は買い物をするのに打ってつけだったし、何より武術大会に参加するガラの悪い者達のおかげで白法衣が一人混じっていてもそうそう目立ちはしない。
 魔法が主戦力の彼は元々武術大会に参加する気などさらさらなかったので(何より目立ちたくなかった)、まぁ悪いとは思ったが夜中に忍び込むなりなんなりして探すつもりだった。
 なければないで帰るだけだし、あったらあったで拝借すればいい。
 漠然と今夜の計画を思い浮かべながら、下見のつもりで実際大会が行われている闘技場へ向かう。
 円形の広場を囲む喧しい程のギャラリーの群れ。その中心では司会らしき男が拳を振って叫んでいる。
 何の気もなしに、観客の隙間からそれを眺めた。
「ではっ次の試合! 東っ! 前回惜しくも準決勝で破れたローザス=バシュティン!! ・・・そして西!!」
「はいっ!!」
 何故かギャラリーの声が一際喧しくなる。
 それもその筈、普通選手入場口から入場する筈の選手が、ギャラリーの席から立ち上がったのだから。
 中心に行く程階段状に下がるギャラリー席を勢いよく駆け下り、ギャラリー席と闘技場を隔てる手摺りを踏み台にして飛び降りる。
「おおーーーーーーーっ!?」
 司会者が素っ頓狂な声を上げた。    
 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・べちょ。
 首を変な方向へ捻りながら潰れた。見事に。
「・・・この、パターン・・・」
 ゼルガディスが苦々しく呟いた。自らの推測に頭が痛くなる。
 選手が何事もなく起き上がったのを見て、司会者が気を取り直して選手の方へ腕を差し出した。
「西っ!! 本年度初参加期待の選手!! メリア=インバースっ!!!!」
 ・・・ぱたり。
 目の前が暗くなり、ゼルガディスは人目を気にする余裕もなくその場に倒れていた。

 声を張り上げる司会者が闘技場の端まで下がる。観客の声援とも野次ともつかない声が更に喧しくなる。それが合図。
 感情が昂ぶって息が乱れないように、意識して規則的に呼吸を繰り返す。
 額に感じる湿った感じ。じんわりと浮かんだ汗に、改めて自分が緊張状態にあることを自覚する。
 それでも恐怖というものは感じない。全身が張り詰めるのも、武者震いのせい。
 対峙する、見上げる程の頑強な体つきをした男を凝視する。
 その嘲った笑みに見えるのは、明らかに自分を見下した態度。
 それを自分が狙っているとは、夢にも思わないだろう。
 ・・・・・・・・・・・・動く!!
 ほんの一瞬相手の身体が揺らいだのに気付き、対策を考えるより先に身体が動いた。
 力強く地面を蹴り上げ、垂直に飛び上がる。
 直後、男がついさっきまで自分の居た位置に拳を振り下ろした。
 空振りした拳が地面を抉る。その衝撃に男が顔をしかめた瞬間、自分はその死角を陣取っていた。
 いつもなら。そう、いつもなら、必殺技と称した派手なキメ技を披露していた事だろう。外れる確率の方が高いキメ技を。
 だけど今日は、今はそうしている暇はない。今だけは。今回だけは。
 必殺技をかましたい衝動を何とか堪え、相手の真後ろに音も立てずに着地する。
 自分を探そうと戸惑うその一瞬の間、再び飛び上がり、半身の捻りを加えて首の後ろに手刀を叩きこむ。
「・・・・・・・・・・・・・・・・・っ」
 首をのけぞらせ、声も上げずに大男がばったりとうつ伏せに倒れた。
 その余りの結末の早さに、観客は元より、司会者すらも反応できなかった。
 しばしの沈黙の後、審判を兼ねた司会者が腕を突き出す。
「勝者西っ!! メリア=インバースっっ!!」
 司会者の声にギャラリーも我に返り、遅ればせながら喧しい歓声を上げ出した。
 少女は耳を塞ぎたいのを何とか堪え、司会者から勝利の証であるメダルを貰うと、そそくさと退場口へ逃げ出した。
 通路の中程まで入り込み、外の声が聞こえなくなってからようやく息をつく。
 緊張の糸が切れた為か、急激な脱力感に襲われる。
 控え室に入る前に、廊下の壁に背をつけてずるずるとへたり込んだ。
「疲れるなぁ・・・他人流儀の戦い方って」
「ほう、やっぱり誰かのを真似していたのか」
 唐突に返された言葉に、反射的に顔を向ける。
 見知った顔があった。
「ああああああああああああああああっ!?」  
「おわああああああああああああああっ!?」
 先程の観客より喧しい声を上げてしまった為、声をかけてきた当人が引っ繰り返った。
 仰向けに引っ繰り返った男に手を伸ばし、襟首を掴んで乱暴に引き寄せる。
「ゼッゼッゼッゼルガディスさんっ!? 本当に本物のゼルガディスさん!? クローンとか影武者とか生き霊とかじゃないですよね!?」
「だアホ!! 俺は本物だ!! く・・・くく苦しい!! 手を放せ!!」
「はっ!! すみません!!」
 ぱっと手を放した為、ゼルガディスが後頭部を床に打ちつけた。
「●□☆◆▽!!」
「きゃああゼルガディスさん大丈夫ですか!!」
 後頭部を擦りながら上半身を起こし、わたわたと慌てふためく目の前の娘をもう一度確かめる。
 肩に擦れるか擦れないかの、烏の濡れ羽色の艶やかな髪。海を映したかの如く青い瞳。白い肌。華奢な手足。
 まだ幼い顔立ちが、返って愛らしさをかもし出す。
 ・・・・・・本物だ・・・。
 認めたくなかったが、こうまで記憶と相異ないと認める他ない。
 セイルーン第二王女、アメリア=ウィル=テスラ=セイルーン。
 まごうことなき本人であった。

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 つ・・・続いちゃいます・・・(汗)。

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2674Versprechen.2水晶さな E-mail URL1/28-01:05
記事番号2669へのコメント

「・・・一つ聞いていいか。いや、一つどころじゃないんだがな質問は」
 花に囲まれた部屋の中、背もたれのない椅子に腰掛け、顔をしかめながら言っても説得力がない。
 控え室も勝率を上げる度に優遇されていく。
 7勝0敗の好成績を誇るアメリアの控え室は、勿論個室である。
 地味で簡素な室内も、ファンからの花束で色とりどりに飾られていた。
「こっちがピンクのカーネーションで、こっちが黄色のバラ、ユリとかもあるんですよー。あ、コレなんかカスミソウだけなんですけど沢山あってキレーですよねー」
「話をそらすな」
 睨まれて、途端にアメリアが身を竦める。
「・・・はい」
「・・・お前は一体・・・こんな所でナニをやってるんだぁーーーーーーーーーーっ!!」
 冷静に務めようとした最初の決心も忘れ、最後の方はほぼ叫びに近かった。
 対してアメリアの方はすっかり縮こまっている。
 しばらくして、溜息をついてから落ち着いた口調でゼルガディスが再び話し出した。
「・・・・・・・・・・・・セイルーンはどうした」
「書き置きを残してきたから大丈夫です」
「大丈夫なワケあるかっ!!」
「でもでもっ!! どうしても来たかったんです!!」
 両手を組み合わせ、懇願するようにゼルガディスを見つめる。
 連れ返す事だけはしないでくれと、目線が訴えている。
「・・・偽名を使うのは正体がバレない為だとはわかるが・・・何でよりにもよってリナの家名を使った?」
 メリア=インバース。アメリアが大会の時に用いていた名前である。
「・・・えと、あの、その・・・ハクが欲しくて・・・」
 指を絡ませ、はっきしない態度でアメリアが呟く。
「べ、べべべつにメリア=グレイワーズとかでも良かったんですけど・・・リナさんの名前はやっぱり有名だし皆聞き覚えがあるだろーなと・・・そそそれにゼルガディスさんにも失礼ですし」
 唐突に自分の名前を持ち出され、ゼルガディスが顔をそむけた。照れ隠しなのが一発でわかる。
「とと・・・とにかくだ」
 顔が紫色になっているのを悟られまいと、ゼルガディスが顔をあさっての方向に向けたまま話を続ける。
「お前はこの大会で優勝するつもりなのか? 優勝したい目的は何だ」
「・・・それを教えたら、連れ返さないでくれますか?」
 いつものアメリアにしては珍しい条件付き。
 何か、一筋縄ではいかない事情がかんでいるのが見て取れる。
 仕方なく頷いたゼルガディスに、アメリアが声のトーンを落として呟いた。
「グアンシードを探す為です・・・」
「誰だそれは?」
「私の友人・・・この大会の、前回の優勝者です」
「それをどうして」
「優勝した日を境に、行方不明になりました」
 重い沈黙が訪れる。
「私はその時、どうしても政務で行けなかった・・・優勝したら賞品を見せてくれるって、武勇伝を聞かせてやるってあんなに
元気一杯だったのに・・・」
 俯いたまま、アメリアが拳を握り締めた。肩が小さく震えている。
「・・・・・・」
「グアンシードが私に何も言わずいなくなる筈がありません。絶対何かあったんです。調べに調べた結果、この大会の優勝者は優勝した翌日から姿を見せなくなっているんです・・・グアンシードも例外なく!!」
「だから・・・自分が優勝してその謎を解明しようと・・・?」
「きっとそこには隠された悪が!! 光輝く正義の使者として、その悪事見過ごす訳にはいきません!!」
 いきなり椅子を蹴倒して天井を指差したアメリアに、ゼルガディスが嘆息した。
 ぎっと睨まれ、予想もしなかったアメリアが身を竦める。
「はへ・・・もしかして、怒ってますゼルガディスさん?」
「お前もその犠牲者になりたいのか馬鹿っ!! 何故リナや俺に助力を求めない!!」
「だってゼルガディスさん何処にいるんだかさっぱりわかんないんですもん〜!!」
 大泣きされ、今度はゼルガディスがうろたえた。
「だっだからだな!! 今からでも遅くないから単独で行動するのはやめて・・・」
「・・・ゼルガディスさん、お手伝いして下さるんですか?」
 手を組み合わせ、すがるような目で見つめられるとそれ以上何も言えない。
「・・・・・・・・・・・・引き受ければいいんだろう・・・・・・全く・・・・・・」
「ありがとうございますっ!! やっぱりゼルガディスさんは見かけによらずいい人です!!」
 力いっぱい言われ、ゼルガディスが脱力した。
 それから思い出したようにアメリアが口を開く。
「そういえばゼルガディスさん、宿はお決めですか? まだとってない? それじゃこの近くの雲竜亭って宿屋に私の名前でチェックインしているので、良ければそこで寝泊まりして下さい」
 笑顔に言ったアメリアの言葉に、ゼルガディスが固まった。
「今、なんと?」
「え? 雲竜亭って宿屋です。そんなに豪華な所じゃないんですけど、居心地はいいですよ。トイレとお風呂はユニットじゃなくてセパレートだし、モーニングセットはお値段がお手頃価格ですし♪」
 ゼルガディスが眉間に皺を寄せ、しばらく考え込んでから口を開いた。
「・・・ツインか?」
「いえ、シングルです」
「・・・あのな、アメリア。嫁入り前の娘がする行為じゃないぞそれは」
「は?」
 今度はアメリアが止まり、しばらく考えてから思い当たったのか頬を紅潮させて叫んだ。
「ちっ違います!! 一緒に泊まるって意味じゃありません!!」
 手を意味もなく振り回し、慌てふためきながら付け足す。
「私はここに寝泊まりしてるんです!! あのっ勝率上げてるんで宿屋に泊まってると不意打ちで襲われたりするんでっ、でもごたごたを起こすと優勝狙えなくなるのでうまくかわそうと・・・」
 堪えきれずにゼルガディスが吹き出した。
「いや、そんな事だろうとは思ったが」
「は?」
「からかってみただけだ」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
 ・・・がごっ!!
 涙の右ストレートが決まった。
「ゼルガディスさんのバカぁーっ!! いくら私が単純で勘違いしやすいからって、ガウリイさんと同じクラゲ扱いする事ないじゃないですかーっ!!」
 そこまで言ってない、とツッコミを入れたくなったが何分痛みの方が先行して何も言えないゼルガディスだった。

 しばらく後、部屋の中の二人の位置はそのままだが、増えたのはゼルガディスの額に当てられた氷嚢だった。
 まだ鈍く痛みが残るせいで、不機嫌な顔になってしまう。
 ロック・ゴーレムが合成され肌はかなりの強度を誇るのだが、それをアメリアは平気で殴ってくるのだから恐い。
「・・・控え室で襲撃者を避けてるのはまぁ妥当な方法だが、それも限界があるんじゃないのか? 毎晩毎晩宿屋が空っぽじゃ疑われるだろう? そろそろ控え室だって狙われるぞ」
「はい、それは私も思ってました。実際控え室のある建物の周りをウロつく不審人物も目についてきたことですし」
 ぱしっと両手を組み合わせ、アメリア目を潤ませながらゼルガディスを見つめる。
「でもでもっ! ゼルガディスさんが来てくれたコトでその問題は解決ですっ!! これほど有り難いコトはありません!!」
 心底嬉しそうな笑みを浮かべてアメリアが叫ぶ。
 確かに可愛いが・・・・・・ゼルガディスは眉をひそめた。
 このような特徴的な微笑みを浮かべる場合、アメリアは何かとんでもない要求をしてくる場合が多い。
 そして、ゼルガディスの予想は外れなかったのである。

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 ・・・次で、終わるといいナ(希望形)。

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2706Versprechen.3水晶さな E-mail URL2/7-22:59
記事番号2674へのコメント


 今回で終わりなんですが・・・物凄く長くなってしまいました(汗)

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 静かな夜だった。
 ・・・・・・さながら、悪夢の前の静けさのように。
 窓際に寄せられた簡素なベッドの掛け布団からは、薄い水色の布が覗いている。
 弓張月の光は頼りなさ過ぎて、部屋の様相もおぼろげにしか見えない。
 天井から音もなく落下した針を、闇の中から見つけ出す事などそうそう     
 ・・・・・・かきぃん。
 本当に微かな音。その後聞こえた息を飲む音の方がよっぽどよく聞こえる。
「ま、この程度の針で俺の肌にはかすり傷すらつかんが・・・一応用心してな」
 胸の上に抜き身で置いておいた剣を音もなく抜き出すと、彼はベッドから降りた。
 いつの間にか部屋の床に降り立っている黒装束の男が、今度は悲鳴を上げる。
「へ・・・・・・変態っ!?」
「やかましいっ!!」 
 叫びと共に侵入者を窓の外に放り投げていた。
 地面に激突したところで上から火炎球の雨を降らせ、静かになったのを確認してから窓を閉める。
 ゼルガディスが重い溜息をついた。
 普通なら心地よい筈のシルクの肌触りが、今回ばかりは何とむずがゆいものか。
 且つ寸法が見事にアメリア用に裁断されている為、前紐を止める事ができず解けたままにしている。
 身代わりになるならば絶対服を着た方が敵も間違えるだろうと言い張り、サイズが合わないのも気にせずにゼルガディス
にパジャマを押しつけたられたのだ。
 ・・・・・・アメリアの、水色シルクパジャマ。
 当の本人は、ベッドの下の隙間で寝袋にくるまって安眠していた。
 一応確認してみるが、見事に爆睡している。
 少し泣きたくなったのを何とか堪え、ゼルガディスはさっさとベッドにもぐり込んだ。
 幸い、その夜の侵入者は一人だけだった。

「ヴィクトリーッ!!」
 翌々日の決勝戦、アメリアは見事に勝利をおさめた。
 アメリアが攻撃法を変えたのに加え、ゼルガディスの「人体の急所」講義が功を奏した。
 ゼルガディスのいる観客席に大きく手を振った後、不意に真顔になるアメリア。
 わかっているのだ・・・・・・「これから」だと。

「で、渡されたのがこの手紙だけだと?」
「そうなんです。賞金や賞品を狙う人達を予防する為、観客の前では公表しないそうです」
 観客の前で一応トロフィーは受け取ったものの、それは毎年使われるもので表彰式の後すぐに回収された。
 司会から渡されたのは白い封筒一通。
「先に開けられた形跡はありませんね・・・」
「おい、気を付けろよ。すり替えられて剃刀が入ってたりしかねんからな」
「恐いこと言わないで下さいよぅ」
 アメリアが恐くなったのかゼルガディスに封筒を手渡す。
 ゼルガディスが封筒を振ってみたり、手触りで危険物が入っていないかどうか確かめた後封を切った。
 中も、これまた質素な白い便箋が一枚。
「・・・はぁ?」
 ゼルガディスが眉をひそめた。覗き込んできたアメリアも同じく。

 夜の帳が訪れる頃     
 アメリアは誰もいない闘技場の、表彰台の上に居た。
「うう〜寒いです〜。身も心も寒々です〜」
 自分で自分を抱き締めるように前かがみになり、足踏みを繰り返す。
 その上空では、もっと寒い思いをしているゼルガディスが居た。勿論浮遊の術で。
「全く・・・こんな所に呼び出して何が賞金だ? 滅茶苦茶怪しいじゃないか・・・まぁそれだけ金に目が眩んだ奴がいたって事か・・・」
 ぼやきながらも、アメリアから目は離さない。
 もっとも、アメリアが寒い寒いと文句を言っている声で充分大丈夫だと判断がつくのだが。
 寒さのせいで無意識に手を擦り合わせていると・・・・・・忽然とアメリアの姿が消えた。
「!?」
 慌てて急降下して表彰台に降り立つ。
「光よ!」
 明かりを出現させ、表彰台の上を凝視する。
「・・・チッ!!」
 暗闇の中では紛れて見えない、黒い染料で魔法陣が描かれていた。

「ぎゃうっ!!」
 突然の衝撃に、アメリアが悲鳴を上げる。数メートルは落下したらしい。
「うう・・・痛いですぅー・・・」
 お尻をさすりながらようやく身を起こすと、目の前に立つ人物と目が合った。
「ようこそ、優勝者さん」
 緩やかにうねる赤い髪が腰まで流れる。瞳は突き刺すようなアイス・ブルー。
 肌の色は、一点の曇りが無い程白い。
 漆黒のドレスを足元まで引きずる、恐いくらいの美女だった。
「あ・・・あなたがこの武術大会の主催者さんですか?」
「そうよ。私はマリアージュ。強い人が好きなの、男女問わずね」
 アメリアが隙を見せないように立ちあがりながら、マリアージュを睨みつける。
「・・・歴代の優勝者が、何故2度目の優勝を掴むことがないんですか」
「強者は年と共に移り変わるものよ、そうじゃないと面白くないでしょ? ・・・それに」
 マリアージュが左手を軽く上げると、反応したように魔術の明かりが灯された。
「・・・コレクションが、順調に集まらないじゃない・・・」
「・・・ひっ!!」
 アメリアが口を押さえた。必死に吐き気を堪える。
 暗室の中、整列した巨大なビーカーの中には、奇妙に変化した歴代の優勝者達が浮き沈みしていた。
「グ、グアンシード・・・も・・・?」
 目頭が熱くなる。
「あらぁ! あの『落ちこぼれ』をお探し? 圧勝した割には魔族化してあげてもたいして強くならなかったアイツね」
 マリアージュが嬉しそうに笑い、側に立っていたビーカーを叩き割った。
 どろりと緑色の液体が床に溢れ、中にいた奇怪な生物が唸り声を上げる。
「いやああああああ!!」
 絶叫を上げ、アメリアがマリアージュに飛びかかった。
 顔の前に突き出されたマリアージュの手の平に、青い電撃が走る      
 ・・・・・・ばぢいぃっ!!
 全身を貫かれた衝撃に、一瞬呼吸が止まった。
 部屋の端まで吹っ飛び、壁に叩き付けられて短い呻き声が漏れる。
「いけないいけない。今度の『作品』はディティールが素敵なんだから、そのまま剥製にしてあげないと可哀想よね」
「グアン・・・シード・・・」
 全身に痺れるような痛みを感じながらも、アメリアが必死で身をよじる。
「エ・・・エルメキアランス!!」
 油断していたのか、マリアージュの頬をかすめた。
 頬の裂傷から、黒い霧がばっと舞う。
「!?」
「・・・痛いじゃない」
 頬を押さえ、マリアージュが見下ろしてくる。
 呆然と、アメリアが呟いた。
「・・・魔族」
「そうよ。今更気付いたの? そしておイタが過ぎたわお嬢ちゃん」
「・・・っ!!」
 腹部を蹴られ、アメリアが悲鳴を上げる事もできずうずくまる。
「全く、ディティールは素敵だけど性格は最悪だわこのコ」
「アンタのヒスも負けてないぜ」
「・・・・・・!?」
「アストラルヴァインッ!!」
 視界に、腕が飛んだ。
「あああああああああっ!!!?」
 左肩口を押さえる指の間から、黒霧が溢れる。
 切り落とした腕を完全に消滅させてから、アメリアを立ち上がらせる。
「ゼ・・・ルガディスさん・・・」
「スマン遅れた。魔法陣を開けるのに苦戦してな」
「苦戦したのはアンタじゃなくてアタシでしょー?」
 別の方向から聞こえたツッコミに、ゼルガディスが頭を掻く。 
 アメリアがその声の判断をするのに戸惑い、ゆっくりと、目線を動かした。
 どこかの懐かしい剣士を思わせる、見事な黄金の髪。頭の上の方で束ねても、先端は腰まで届く。
 瞳はアメリアと同じ透き通るような海色。子供のような輝きがある。
 かなりの大柄で、背丈はゼルガディスといい勝負。
 アメリアと目線が合うと、片手を上げてにっと笑った。
「よっアメリア。久しぶりぃー♪」
「グア・・・ファラさんんんんんーーーーーーーーーーっっっ!!!!!!!!」
 傷の痛みも忘れ、アメリアが女に飛び付いた。
「のわぁ!! アメリアちょっ・・・!! 血が血がああぁっ!! あたしまで血塗れにしないでよおぉっ!!」
 逆にファラに悲鳴を上げられ、アメリアがはたと気付いて離れた。
「・・・これが感動の再会か・・・」
 ゼルガディスが頭を押さえる。
 そしてアメリアは、マリアージュを忘れていた事にも気付いた。
 傷口からの出血(?)は止まったらしい。右手に青白い炎を浮かべながらこちらを睨み付けている。
「あたしを無視するとはいい度胸してんじゃない・・・!!」
「ほっほーう。アンタがアメリアを苛めたオバチャンかい」
 アメリアを制して前に立ち、ファラがマリアージュを胡散臭そうに見やった。
「誰がオバチャンですってえええぇ!!」
 怒ると物凄い形相になるマリアージュ。
「ア・ン・タ」
 吐き捨てるように呟いてから、軽く跳躍する。
「ファラさんっ!! 相手は魔族・・・っ!!」
 アメリアの制止の声が届く暇もない。ファラの足はマリアージュの顎を綺麗に蹴り上げていた。
「がっ・・・!!」
 着地すると同時に大きさが自慢の手で顔をマリアージュの顔を掴み、体重をかけて一気に地面に叩きつける。
「銀製品は・・・魔族に効果アリってね。あたしのブーツとナックルはおもいっきし銀仕込みよっ!!」
 転がったところで横から思いきり蹴飛ばし、アメリアに合図を送る。
 『アメリアの番』
「あ・・・」
 腹部にまだ疼くような痛みが残るが、そんな事を構っている暇はない。
 呼ばれたのだ、昔と同じ呼び方で。
 登れる所はないので諦めたが、胸を反らし人差し指を突き付ける事は忘れない。
「悪は必ず滅びるもの!! 受けなさい正義の裁き!! 天に代わってこのアメリアが正義の鉄槌を下して差し上げます!!」
「いよっ!! セイルーンの暴走娘!!」
 マリアージュの背中を踏みつけたままで、ファラが喝采を浴びせた。
 後方でゼルガディスがついていけずに呆けている。
「アメリアいきますっ!! ラ・ティルトぉっ!!」
 青白い炎に浄化され、マリアージュが悲鳴を上げる暇も無く昇天した。

 ビーカーの中にいた異形と化した元優勝者達は、マリアージュの死と共に崩れ落ちた。
 埋葬すらもできなかったが、アメリアがせめてもと鎮魂の祈りを捧げて終わった。
「優勝した当日の夕方闘技場の表彰台の上で待て・・・ってね。あたしその日疲れて疲れて爆睡しちゃってねぇ。遅刻しちゃったんだよー。んで慌てて走ってったらどっから嗅ぎ付けたのかデバガメが先に行っちゃってね。んで目の前でひゅーって落っこちちゃって。あれまぁってカンジだったね」
「『あれまぁ』って・・・」
 アメリアとゼルガディスの声が重なる。
「でも、ファラさん無事で良かったですぅ。心配したんですよ本当に」
 体が動かせないので、アメリアが首だけを横に向けて言う。
 マリアージュとの戦闘のせいで怪我を負い、大事をとって入院させられたのだ。
「ま、ハメられたのが一番悔しくてね。次の時絶対しゃしゃり出て仕返ししてやろーって。でもまさかアメリアが参加してるなんて思わなくってさ。戦いっぷりがいいからつい決勝戦まで観客席で応援しちゃったよ」
 舌を出し、憎めない表情で微笑む。
「ファラさんったらー」
 アメリアも思わず苦笑する。 
「ね、ところでさ。ちゃんとアタシの名前は苗字で紹介したでしょーね」
「え? あ、ハイ。ちゃんと『グアンシード』って言いましたよ」
「・・・苗字?」
 ゼルガディスが反応して顔を上げる。今までずっと気になっていたのだ。
「あたしの名前ファラ=グアンシード。ヨロシク」
 いきなり右手を差し出され、とりあえず握手。
「へっえー。アメリアに『格好良くて可愛くてクールでお茶目で素敵な人』って言われたから、わっけわかんなくて想像も
つかなかったけど、なかなかアメリア好みじゃーん?」
 アメリアがお茶を吹いた。ゼルガディスは己の他己評価に硬直した。
「ファラさんんんんん!!!!」
「何よう今更。驚く事でもないでしょ」
 ファラがぱたぱたと手を振る。
「・・・・・・・・・・・・」
「ま、お互いの無事も確認した事だし。あたしそろそろ行くわ」
「えええっ!? 何でですかぁ!!」
 アメリアが上半身を乗り出す。
「何でって・・・あたし武者修業中だよ?」
「・・・・・・」
 アメリアが言葉を飲み込んだ。
「じゃ、そゆコトで。又どっかで会ったらヨロシクね。それと最後にちょっとゴメンさせて、久しぶりにいい男見たからさ」
「え?」
 荷物を担ぎ上げたファラが、歩きざまにゼルガディスの頬に唇をかすめた。
「ああああああっ!!!!」
 アメリアが傷を忘れて絶叫し、その後傷跡に響いてのた打ち回る。
「・・・・・・・・・・・・」
 ゼルガディスがしばし呆けたまま部屋を出るファラを見送り、扉の閉まる音でやっと我に返る。
「・・・なんつぅ女だ・・・」
「えぐぅ・・・ファラさんひどいですぅ・・・」
 まだ布団の上でもがいているアメリアの頭にぽんと手を置く。
「お前のコト、任されちまったよ」
「・・・え?」
「いや、何でもない。早く傷を治せ。俺はその間に情報集めに回る」
「ゼル・・・ガディスさん。連れて行って下さるんですか!?」
 アメリアの表情が輝く。
「放っておいて、またどっかの変な武闘大会に参加されちゃかなわん・・・って、何だその格好は」
 片腕を伸ばしかけ、半身をよじった格好でアメリアが固まっている。
「いえ、あの・・・飛び付きたいんですけど・・・傷跡が痛くてこれ以上動けないんです・・・」
「・・・・・・」
 ゼルガディスが苦笑して、ベッドの縁に腰を下ろした。
『グアンシードが男だと思って心配したでしょ。でも次のグアンシードは男かもしれないよ? 次は面倒見ないからね』
 去り際にファラが耳元で呟いたメッセージが脳裏をかすめる。
 ・・・・・・確かに、もう御免だ・・・。
 まだ擦り傷の残るアメリアの顎に手をかけ、顔を寄せた。
 
「おおー。細い外見してなかなかやるぅ」
 ちゃっかりもののファラは、扉の隙間から事が済むまで見届けるのを忘れてはいなかった。

                                END
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 あああ・・・ゴメンナサイ(泣)。思うように終わりませんでした・・・。

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2708Re:Versprechen.3安芸 2/7-23:58
記事番号2706へのコメント

はじめまして。
安芸と言ってゼルアメスキな者でございます。

「メリア=インバース」にてもうお話の虜でした(笑)。
なんだかんだいってアメリアに振り回されてたゼルガディスさんがなんだか好きでした。

> 当の本人は、ベッドの下の隙間で寝袋にくるまって安眠していた。
> 一応確認してみるが、見事に爆睡している。
> 少し泣きたくなったのを何とか堪え、ゼルガディスはさっさとベッドにもぐり込んだ。

キモチ判ります。同情します(笑)。

>「おおー。細い外見してなかなかやるぅ」
> ちゃっかりもののファラは、扉の隙間から事が済むまで見届けるのを忘れてはいなかった。

ってゆーかこのファラさん、デバガメなわたしなんじゃないかと・・・。

アメリアがはちきれんばかりの元気さでとにかくかわいかったです。
正義と元気、でも一番スキなのはゼルさんなのね、ってことで、お話面白かったです。

またできれば、このゼルアメ欠乏症なわたしに素敵なお話を読ませてくださいまし。
それでは。

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2712ありがとうございます♪水晶さな E-mail URL2/8-16:36
記事番号2708へのコメント


 どうも初めましてさなです。御感想ありがとうございました♪
 3は慌てて仕上げたので誤字脱字が多くてさぞ読みにくかったと思います(汗)。

 元気ありすぎて暴走してしまったアメリアでしたが(苦笑)、気に入って頂けたようで嬉しい限りです♪ ゼルガディスは終始押され気味でしたね(笑)。

 オリキャラを出すのは不安だったんですが、同調して頂けたようで(笑)。
 
 ネタを思いつくのがどうしようもなく遅い奴なので(汗)、次作がいつできるか予想つかないんですけれども、もし次が出せたら読んで頂けると嬉しいです・・・それでは!

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