◆−時の旅人 37:真実の欠片−羅城 朱琉 (2006/4/10 08:27:27) No.17571
 ┣アパートの一室で、歓喜と困惑を叫ぶ!!−十叶 夕海 (2006/4/10 22:37:12) No.17572
 ┃┗やっと明かせました(苦笑)−羅城 朱琉 (2006/4/11 08:30:14) No.17574
 ┣時の旅人 38:この手で守れるものがあるなら−羅城 朱琉 (2006/4/11 08:41:59) No.17576
 ┣時の旅人 38.5:時空神たちの綺想曲−羅城 朱琉 (2006/4/11 08:44:00) No.17577
 ┃┗どうぇわぁぁ〜(リニモの車内で叫びました)−十叶 夕海 (2006/4/11 21:33:20) No.17580
 ┃ ┗今は、夜明け前の闇の中なんです。−羅城 朱琉 (2006/4/12 12:44:33) No.17581
 ┣時の旅人 39:追憶の花束−羅城 朱琉 (2006/4/19 08:22:18) No.17595
 ┃┗らしい意見ですね。−十叶 夕海 (2006/4/19 23:28:42) No.17598
 ┃ ┗恐らく、ガウリイにしか言えない事でしょう−羅城 朱琉 (2006/4/20 08:51:59) No.17600
 ┣時の旅人 40:再開の鐘の音−羅城 朱琉 (2006/4/24 08:20:52) No.17608
 ┃┗・・・・成長なんでしょうか?−十叶 夕海 (2006/4/24 22:42:49) No.17611
 ┃ ┗恐らく、ある意味では。−羅城 朱琉 (2006/4/25 08:34:45) No.17612
 ┣時の旅人 41:信念の刃−羅城 朱琉 (2006/5/1 08:18:48) No.17618
 ┃┗・・・・・両方の意味で強いですね。−十叶 夕海 (2006/5/1 21:36:37) No.17622
 ┃ ┗でも、その強さの理由が問題なんです。−羅城 朱琉 (2006/5/2 08:46:59) No.17624
 ┣時の旅人 42:悲しい強さ−羅城 朱琉 (2006/5/8 08:19:18) No.17626
 ┃┗わずかだけれど、決定的な差・・・・・・−十叶 夕海 (2006/5/8 22:55:36) No.17628
 ┃ ┗見抜かれてますねぇ・・・・(遠い目)−羅城 朱琉 (2006/5/9 08:51:36) No.17629
 ┣時の旅人 43:あいたい−羅城 朱琉 (2006/5/13 11:40:46) No.17633
 ┃┗・・・・・・根底には、『守りたい』があるんですね。−十叶 夕海 (2006/5/14 12:27:32) No.17634
 ┃ ┗守りたいから傷つける、という矛盾。−羅城 朱琉 (2006/5/15 08:33:36) NEW No.17638
 ┗時の旅人 44:優しい嘘で絆を断って−羅城 朱琉 (2006/5/15 08:21:47) NEW No.17637


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17571時の旅人 37:真実の欠片羅城 朱琉 2006/4/10 08:27:27


 こんにちは、羅城 朱琉です。
さて、春休みを挟みましたが、時の旅人37話更新です!
 今回は、何やらまたしても裏設定暴露編と言いますか、伏線回収編と言いますか・・・・な感じです。
 では、早速どうぞ!




  時の旅人

 37:真実の欠片

 多分これは夢・・・・記憶の断片なのだろう。疑問形なのは、それがさまざまな時代の記憶が入り混じったものであろう、奇妙な光景だったからだ。
 姿形はわからないが、目の前に立つ女性は『母』なのだとわかる。隣にいる男性は『父』だ。彼らは、『私達』を誰かに紹介しているのだが・・・・おかしなことに、その相手はアリエスだった。その時気付いたのだが、『私達』の目線が随分低い。まるで、小さな子供にでもなったかのようだ。アリエスは『私達』に視線を合わせるように屈む。その瞳は、なぜかとても寂しげで・・・・慰めたいのに、声が出ないのだ。

『ルピナス・・・・・・・・ルピナス・・・・・・・・』
 どこか遠くで、誰かが『私達』を呼んでいる。誰だろう?知らない声、ではない。これは・・・・・・・・


     *     *     *     *     *


「ルピナス!!」
 はっと起きたルピナスの視界に飛び込んできたのは、リナとアメリアの顔だった。
「あれ・・・・?私、書庫にいたはずじゃ・・・・」
 そこでルピナスははじめて気付いた・・・・女の意識になっていることに。
「・・・・あれ?」
 再び呟いて、身を起こす。空を見てみると、すがすがしく澄んだ青空の朝だった。
「大丈夫ですか?どこかおかしなところとか、ありませんか?」
「え、いえ、別に・・・・」
 心配そうなアメリアにそう返す。本当に大事無いことを見て取ると、リナが口を開いた。
「で、昨日は何があったわけ?」
「何が、って・・・・」
「あの後、突然景色が変わったと思ったら外に出てて、急いで戻ってみれば、ルピナスが倒れてるし・・・・で、あたし何が何だか全然わかんないんだけど。」
「倒れてた・・・・の?」
「覚えてないわけ?しかも、その剣・・・・どこで拾ったのか知らないけど、手放そうとしないし。」
 リナが指差す右手には、確かにリアネスに託された剣・・・・『黒天晶』が握られていて、ルピナスはリアネスと会ったことは夢ではないと、改めて実感した。
「よく、わからないわ。ただ・・・・あの『リアネス』って人、私のこと知ってるみたいだった。いいえ、私だけじゃない・・・・アリエスことも、知ってるみたいだった。」
 それきり、ルピナスは黙り込む。記憶の底を探るように、思索に没頭し始めたのだ。リナは少し呆れたかのようにこめかみに手をやり、言った。
「まあ、それはいいとして・・・・今日はどうするわけ?また書庫の中でも見るの?」
「うん・・・・。そのつもり。」
 意外とルピナスの反応は早かった。何か考えていたようなのに・・・・と、少しだけリナは感心する。他の皆も、めいめい朝食の跡を片付け始めた。

 結局、また皆で書庫の探索をすることになった。昨日読んだ本の中身を思い出して、苦い思いにはなったけれど。


     *     *     *     *     *


 書庫の中身は、リブラが研究用に集めたのであろう資料が半分、リブラの手記が半分、といった所だ。資料たちは、現在では既に失われてしまったものも数多く、それなりに知的好奇心を満たしてはくれたが、それ以上のものではない。手記たちは・・・・内容が内容なので、読む気になれない。それでもゼルガディスなどは手記まで含めて読み漁っているあたり、必死さが伺える。ルピナスは林立する書棚の間を歩き回り、タイトルから役に立ちそうな本を探していた。と、ふとある部分で目が留まる。それは、一つの本棚の天板部分だった。妙に本が窮屈そうだと思い、よく見ると、その1枚だけがなぜか他のものに比べて分厚いのである。不審に思って近づいてみる。一見、ただの寸法ミスのようだが、ルピナスの勘は、そこに『何か』があると告げていた。
勘に従い、天板の縁をなぞるように指を滑らせる。すると、ほんの小さな取っ掛かりを感じた。しばらくそこをいじっていると・・・・突然掛け金が外れたような音がして、天板・・・・に偽装された隠し棚が露になる。ルピナスは、その中に入っていたものを取り出した。
 それは、古びた1枚の小さな絵と、やはり古びた1冊の日記帳だった。
 ルピナスは、まず絵を見てみる。そこに描かれているのは、十数人の男女だ。アリエスに似た銀髪の女性――恐らく、リブラであろう――を中心に、昨日出会ったあのリアネスと瓜二つの女性と、青灰色の髪の騎士のような少女に、真紅の髪の剣士風の青年。服装はただの旅人のようだがどこか語り部に似た人物に、黒く長い髪の僧侶であろう青年。エルフと思しき金髪の女性に、ドワーフと思しき壮年男性。双子なのだろうか、髪の長さ以外はそっくりな魔道士風の少女と騎士風の少女。気弱そうな少年に、勝気そうな少女。総勢12人は皆一様に笑顔で・・・・しかし、どこか覚悟を決めたような瞳をしている。
 絵の裏側には、恐らくこの絵の作者であろう人物が書いたのであろう、文章があった。


  私は、彼らを決して忘れない。

  常に道を創り続けた、リブラの姿を。
  守るために剣を揮った、リアネスの後姿を。
  その英知で皆を救った、アルシアンの眼差しを。
  戦いの内で優しさを説いた、ロゼウスの声を。
  影で日向で皆を支え続けた、ルシルの手を。
  最前で癒しと力を揮い続けた、レイの雄姿を。
  エルフとの、そしてドワーフとの架け橋となった、ティアリーズとオルガの信念を。
  終わりなき戦いに希望を示した、アデレイドとフロウの指先を。
  涙を力に変え戦い抜いた、キゼールとエリチェの思いを。

  私は、決して忘れない。

                    クライス=ブランシェ
                                          』

「リブラにリアネス・・・・やっぱり。なら、これは、500年前の絵・・・・?」
 何か、どこかに違和感がある。しかし、ルピナスはそれを無かったことにして、日記帳を開いた。
 やはり、相当に古いものなのだろう。所々紙が擦り切れて読めなくなっている部分もあり、読むのには多少苦労した。しかし、一度コツさえ掴んでしまえば後は楽なもので、結構な厚さのあるそれをルピナスはどんどんと読み進めていった。内容は、本当に他愛もない日記だった。一番多く書かれていたのは、リアネスのこと。次いで、アルシアンとロゼウスという、やはりあの絵に描かれていた人のこと。しかし、かなりの量のあるその日記の中にアリエスの名が出てこないことだけが、ルピナスには不思議だった。
 やがて、日記は終わる。後半8分の1ほどからが白紙となっていた。特に重要なことは書いてなかったな・・・・と思い、ルピナスは何とはなしに白紙の部分をぱらぱらと捲る。と、なぜか最後の数ページだけ、また何かが書かれていた。おそらく、日記本文よりかなり後に書かれたものなのだろう、幾分文字がはっきりしていて読みやすい。それに目を通していくうちに・・・・・・・・ルピナスは、愕然となった。

   こうして、一つの戦いは終わった。
   犠牲が無かったわけではない。全てが幸せになったわけではない。
それでも、私たちが未来を掴んだことは事実だ。

   時は流れ、あれからもう500年だ。今では、あの戦いは『降魔戦争』と呼ばれている。
   あの時から始まった『四大家』は、徐々にその意義を忘れ始めている。
   それから逃れているのは、リアネスのセレス・・・・サーヴァリル家くらいのものだろうか。
   私のラーナ・・・・フェラナート家においては、それはそのまま、力の消失を意味していた。
   それはある意味、喜ぶべきだったのかもしれない。
   しかし、血脈の果てに、アリエスが生まれた。私の力を、完全な形で受け継いだアリエスが。
   最初は、ただ見守るだけのつもりだった。何事も無ければ、平穏に生きてゆけるはずだったから。
   それでも、レーヴェとエルフィンが死んだときに、私はアリエスの『姉』となることにした。
   アリエスが『あれ』の器となったとわかったとき、私はアリエスを眠らせる決意をした。

   それは、アリエスに全てを背負わせてしまうこと。アリエスから未来を奪うこと。
   許せとは言わない。私はフェラナート家始祖として、それが誰にとっても一番良いと信じている。
   それでも、私はアリエスの『姉』として、アリエスの幸せを願っている。
   遠い未来にアリエスが目覚め、そこで幸せに暮らす・・・・そんな都合のいいことが起こるはずがないのに、それを夢見てしまうほどに。

   どうかアリエスの時が、安らかなものでありますように。
   どうかアリエスの未来が、光に満ちていますように。
   どうか・・・・・・・・

   もはや、私に出来る事はない。ただ、祈るだけだ。
   私は知っている。神の無慈悲さを。神の無能さを。神の弱さを。
   私は知っている。神の嘆きを。神の涙を。神の優しさを。
   それでも、私は祈り続けよう。永劫の時の果てに、アリエスが『運命』から開放されることを。

                                    リブラ=セイディーン=ファトゥス=フェラナート
                                                                』
「アリエスのお姉さんが、本当は千年前の人、ってこと・・・・・・・・よね?」
 何度もそれを読み返し、ルピナスは呆けたままそう呟く。そして、もう一つの・・・・そして、最大の疑問を呟いた。
「『セレス』って、何なのよ・・・・?『サーヴァリル家』とか言うのに何か関係があるの?それに、アリエスはラーナ・・・・『フェラナート家』って・・・・・・・・?」
 薄暗い書庫の天井を見上げて、ルピナスは問いかける。
「『四大家』って、何・・・・・・・・?」
 悠久の知識を収めた書庫は、何も語らない。ただ、そこにあるだけで。

 あとがき、或いは語り部の告げる未来
語:やあ、久しぶりだね。元気だったかな?
  今回も、伏線なのか何だかよくわからないことになってきたけど・・・・さてさて、どうだっただろうか?
  じゃあ、早速未来の欠片を語ろう。
   『四大家』・・・・それは、世界の平穏を守るもの。
   『四大家』・・・・それは、平穏のために罪を重ねるもの。
   全てを知り立つものは、一人空を見上げる。
   平穏と破滅、双方を兼ねた未来を描きながら。
  次回、『時の旅人』38話、『この手で守れるものがあるなら』
 では、また会おうね。

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17572アパートの一室で、歓喜と困惑を叫ぶ!!十叶 夕海 2006/4/10 22:37:12
記事番号17571へのコメント


> こんにちは、羅城 朱琉です。
>さて、春休みを挟みましたが、時の旅人37話更新です!
> 今回は、何やらまたしても裏設定暴露編と言いますか、伏線回収編と言いますか・・・・な感じです。
> では、早速どうぞ!

ユア:こんにちは、お久しぶりです。
久遠;げんきだった〜、羅城ちゃん!!
ユア;では、レス行きます。

>
>
>
>
>  時の旅人
>
> 37:真実の欠片
>
> 多分これは夢・・・・記憶の断片なのだろう。疑問形なのは、それがさまざまな時代の記憶が入り混じったものであろう、奇妙な光景だったからだ。
> 姿形はわからないが、目の前に立つ女性は『母』なのだとわかる。隣にいる男性は『父』だ。彼らは、『私達』を誰かに紹介しているのだが・・・・おかしなことに、その相手はアリエスだった。その時気付いたのだが、『私達』の目線が随分低い。まるで、小さな子供にでもなったかのようだ。アリエスは『私達』に視線を合わせるように屈む。その瞳は、なぜかとても寂しげで・・・・慰めたいのに、声が出ないのだ。


ユア:えっ・・・うっ・・・あ・・・・
久遠;ええと、『忘れている記憶の中で、アリエス嬢とルピくんズあってたの?』
ユア;・・・・(こくこくと必死にうなづく)

>
> 書庫の中身は、リブラが研究用に集めたのであろう資料が半分、リブラの手記が半分、といった所だ。資料たちは、現在では既に失われてしまったものも数多く、それなりに知的好奇心を満たしてはくれたが、それ以上のものではない。手記たちは・・・・内容が内容なので、読む気になれない。それでもゼルガディスなどは手記まで含めて読み漁っているあたり、必死さが伺える。ルピナスは林立する書棚の間を歩き回り、タイトルから役に立ちそうな本を探していた。と、ふとある部分で目が留まる。それは、一つの本棚の天板部分だった。妙に本が窮屈そうだと思い、よく見ると、その1枚だけがなぜか他のものに比べて分厚いのである。不審に思って近づいてみる。一見、ただの寸法ミスのようだが、ルピナスの勘は、そこに『何か』があると告げていた。

ユア;ゼルさん、必死ですね。
久遠:でしょうね、彼は望んでなった訳じゃないようだし。
ユア;・・・感いいですね、ルピ嬢。

>勘に従い、天板の縁をなぞるように指を滑らせる。すると、ほんの小さな取っ掛かりを感じた。しばらくそこをいじっていると・・・・突然掛け金が外れたような音がして、天板・・・・に偽装された隠し棚が露になる。ルピナスは、その中に入っていたものを取り出した。
> それは、古びた1枚の小さな絵と、やはり古びた1冊の日記帳だった。
> ルピナスは、まず絵を見てみる。そこに描かれているのは、十数人の男女だ。アリエスに似た銀髪の女性――恐らく、リブラであろう――を中心に、昨日出会ったあのリアネスと瓜二つの女性と、青灰色の髪の騎士のような少女に、真紅の髪の剣士風の青年。服装はただの旅人のようだがどこか語り部に似た人物に、黒く長い髪の僧侶であろう青年。エルフと思しき金髪の女性に、ドワーフと思しき壮年男性。双子なのだろうか、髪の長さ以外はそっくりな魔道士風の少女と騎士風の少女。気弱そうな少年に、勝気そうな少女。総勢12人は皆一様に笑顔で・・・・しかし、どこか覚悟を決めたような瞳をしている。
> 絵の裏側には、恐らくこの絵の作者であろう人物が書いたのであろう、文章があった。
>
>『
>  私は、彼らを決して忘れない。
>
>  常に道を創り続けた、リブラの姿を。
>  守るために剣を揮った、リアネスの後姿を。
>  その英知で皆を救った、アルシアンの眼差しを。
>  戦いの内で優しさを説いた、ロゼウスの声を。
>  影で日向で皆を支え続けた、ルシルの手を。
>  最前で癒しと力を揮い続けた、レイの雄姿を。
>  エルフとの、そしてドワーフとの架け橋となった、ティアリーズとオルガの信念を。
>  終わりなき戦いに希望を示した、アデレイドとフロウの指先を。
>  涙を力に変え戦い抜いた、キゼールとエリチェの思いを。
>
>  私は、決して忘れない。
>
>                    クライス=ブランシェ
>                                          』

ユア;ええと・・・・・(頭を抱えている)
久遠;ルシルって、語り部ちゃんの偽名の一つよねぇ。

>
>「リブラにリアネス・・・・やっぱり。なら、これは、500年前の絵・・・・?」
> 何か、どこかに違和感がある。しかし、ルピナスはそれを無かったことにして、日記帳を開いた。
> やはり、相当に古いものなのだろう。所々紙が擦り切れて読めなくなっている部分もあり、読むのには多少苦労した。しかし、一度コツさえ掴んでしまえば後は楽なもので、結構な厚さのあるそれをルピナスはどんどんと読み進めていった。内容は、本当に他愛もない日記だった。一番多く書かれていたのは、リアネスのこと。次いで、アルシアンとロゼウスという、やはりあの絵に描かれていた人のこと。しかし、かなりの量のあるその日記の中にアリエスの名が出てこないことだけが、ルピナスには不思議だった。
> やがて、日記は終わる。後半8分の1ほどからが白紙となっていた。特に重要なことは書いてなかったな・・・・と思い、ルピナスは何とはなしに白紙の部分をぱらぱらと捲る。と、なぜか最後の数ページだけ、また何かが書かれていた。おそらく、日記本文よりかなり後に書かれたものなのだろう、幾分文字がはっきりしていて読みやすい。それに目を通していくうちに・・・・・・・・ルピナスは、愕然となった。
>『
>   こうして、一つの戦いは終わった。
>   犠牲が無かったわけではない。全てが幸せになったわけではない。
>それでも、私たちが未来を掴んだことは事実だ。
>
>   時は流れ、あれからもう500年だ。今では、あの戦いは『降魔戦争』と呼ばれている。
>   あの時から始まった『四大家』は、徐々にその意義を忘れ始めている。
>   それから逃れているのは、リアネスのセレス・・・・サーヴァリル家くらいのものだろうか。
>   私のラーナ・・・・フェラナート家においては、それはそのまま、力の消失を意味していた。
>   それはある意味、喜ぶべきだったのかもしれない。
>   しかし、血脈の果てに、アリエスが生まれた。私の力を、完全な形で受け継いだアリエスが。
>   最初は、ただ見守るだけのつもりだった。何事も無ければ、平穏に生きてゆけるはずだったから。
>   それでも、レーヴェとエルフィンが死んだときに、私はアリエスの『姉』となることにした。
>   アリエスが『あれ』の器となったとわかったとき、私はアリエスを眠らせる決意をした。
>
>   それは、アリエスに全てを背負わせてしまうこと。アリエスから未来を奪うこと。
>   許せとは言わない。私はフェラナート家始祖として、それが誰にとっても一番良いと信じている。
>   それでも、私はアリエスの『姉』として、アリエスの幸せを願っている。
>   遠い未来にアリエスが目覚め、そこで幸せに暮らす・・・・そんな都合のいいことが起こるはずがないのに、それを夢見てしまうほどに。
>
>   どうかアリエスの時が、安らかなものでありますように。
>   どうかアリエスの未来が、光に満ちていますように。
>   どうか・・・・・・・・
>
>   もはや、私に出来る事はない。ただ、祈るだけだ。
>   私は知っている。神の無慈悲さを。神の無能さを。神の弱さを。
>   私は知っている。神の嘆きを。神の涙を。神の優しさを。
>   それでも、私は祈り続けよう。永劫の時の果てに、アリエスが『運命』から開放されることを。
>
>                                    リブラ=セイディーン=ファトゥス=フェラナート
>                                                                』


ユア;うきゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ〜。
久遠:その歓喜40%、困惑60%の悲鳴は何よ?
ユア;だってだって、さりげに・・・・衝撃じゃん。

>
> あとがき、或いは語り部の告げる未来
>語:やあ、久しぶりだね。元気だったかな?
>  今回も、伏線なのか何だかよくわからないことになってきたけど・・・・さてさて、どうだっただろうか?
>  じゃあ、早速未来の欠片を語ろう。
>   『四大家』・・・・それは、世界の平穏を守るもの。
>   『四大家』・・・・それは、平穏のために罪を重ねるもの。
>   全てを知り立つものは、一人空を見上げる。
>   平穏と破滅、双方を兼ねた未来を描きながら。
>  次回、『時の旅人』38話、『この手で守れるものがあるなら』
> では、また会おうね。


ユア;はい。
二人:では、次回で。


>

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17574やっと明かせました(苦笑)羅城 朱琉 2006/4/11 08:30:14
記事番号17572へのコメント


>
>> こんにちは、羅城 朱琉です。
>>さて、春休みを挟みましたが、時の旅人37話更新です!
>> 今回は、何やらまたしても裏設定暴露編と言いますか、伏線回収編と言いますか・・・・な感じです。
>> では、早速どうぞ!
>
>ユア:こんにちは、お久しぶりです。
>久遠;げんきだった〜、羅城ちゃん!!
>ユア;では、レス行きます。
アミイ:お久しぶり!
朱琉:では、早速返レスをば。
>
>>
>>
>>
>>
>>  時の旅人
>>
>> 37:真実の欠片
>>
>> 多分これは夢・・・・記憶の断片なのだろう。疑問形なのは、それがさまざまな時代の記憶が入り混じったものであろう、奇妙な光景だったからだ。
>> 姿形はわからないが、目の前に立つ女性は『母』なのだとわかる。隣にいる男性は『父』だ。彼らは、『私達』を誰かに紹介しているのだが・・・・おかしなことに、その相手はアリエスだった。その時気付いたのだが、『私達』の目線が随分低い。まるで、小さな子供にでもなったかのようだ。アリエスは『私達』に視線を合わせるように屈む。その瞳は、なぜかとても寂しげで・・・・慰めたいのに、声が出ないのだ。
>
>
>ユア:えっ・・・うっ・・・あ・・・・
>久遠;ええと、『忘れている記憶の中で、アリエス嬢とルピくんズあってたの?』
>ユア;・・・・(こくこくと必死にうなづく)
朱琉:会っていたかと言われれば・・・・
アミイ:イエスでもあり、ノーでもある、としか今は言えないわねぇ・・・・。
朱琉:この辺りにも、複雑怪奇な事情があるのです。

>
>>
>> 書庫の中身は、リブラが研究用に集めたのであろう資料が半分、リブラの手記が半分、といった所だ。資料たちは、現在では既に失われてしまったものも数多く、それなりに知的好奇心を満たしてはくれたが、それ以上のものではない。手記たちは・・・・内容が内容なので、読む気になれない。それでもゼルガディスなどは手記まで含めて読み漁っているあたり、必死さが伺える。ルピナスは林立する書棚の間を歩き回り、タイトルから役に立ちそうな本を探していた。と、ふとある部分で目が留まる。それは、一つの本棚の天板部分だった。妙に本が窮屈そうだと思い、よく見ると、その1枚だけがなぜか他のものに比べて分厚いのである。不審に思って近づいてみる。一見、ただの寸法ミスのようだが、ルピナスの勘は、そこに『何か』があると告げていた。
>
>ユア;ゼルさん、必死ですね。
>久遠:でしょうね、彼は望んでなった訳じゃないようだし。
>ユア;・・・感いいですね、ルピ嬢。
アミイ:ゼル君、頑張れ、ってね。ルピちゃんは、勘というより一種の予知かしら?
朱琉:そうとも言えますが、自覚していないので、単なる勘と思っていることでしょう。

>
>>勘に従い、天板の縁をなぞるように指を滑らせる。すると、ほんの小さな取っ掛かりを感じた。しばらくそこをいじっていると・・・・突然掛け金が外れたような音がして、天板・・・・に偽装された隠し棚が露になる。ルピナスは、その中に入っていたものを取り出した。
>> それは、古びた1枚の小さな絵と、やはり古びた1冊の日記帳だった。
>> ルピナスは、まず絵を見てみる。そこに描かれているのは、十数人の男女だ。アリエスに似た銀髪の女性――恐らく、リブラであろう――を中心に、昨日出会ったあのリアネスと瓜二つの女性と、青灰色の髪の騎士のような少女に、真紅の髪の剣士風の青年。服装はただの旅人のようだがどこか語り部に似た人物に、黒く長い髪の僧侶であろう青年。エルフと思しき金髪の女性に、ドワーフと思しき壮年男性。双子なのだろうか、髪の長さ以外はそっくりな魔道士風の少女と騎士風の少女。気弱そうな少年に、勝気そうな少女。総勢12人は皆一様に笑顔で・・・・しかし、どこか覚悟を決めたような瞳をしている。
>> 絵の裏側には、恐らくこの絵の作者であろう人物が書いたのであろう、文章があった。
>>
>>『
>>  私は、彼らを決して忘れない。
>>
>>  常に道を創り続けた、リブラの姿を。
>>  守るために剣を揮った、リアネスの後姿を。
>>  その英知で皆を救った、アルシアンの眼差しを。
>>  戦いの内で優しさを説いた、ロゼウスの声を。
>>  影で日向で皆を支え続けた、ルシルの手を。
>>  最前で癒しと力を揮い続けた、レイの雄姿を。
>>  エルフとの、そしてドワーフとの架け橋となった、ティアリーズとオルガの信念を。
>>  終わりなき戦いに希望を示した、アデレイドとフロウの指先を。
>>  涙を力に変え戦い抜いた、キゼールとエリチェの思いを。
>>
>>  私は、決して忘れない。
>>
>>                    クライス=ブランシェ
>>                                          』
>
>ユア;ええと・・・・・(頭を抱えている)
>久遠;ルシルって、語り部ちゃんの偽名の一つよねぇ。
朱琉:はい。語り部さんその人です。
アミイ:まあ、この当時もいろいろ動いてたのよ。

>
>>
>>「リブラにリアネス・・・・やっぱり。なら、これは、500年前の絵・・・・?」
>> 何か、どこかに違和感がある。しかし、ルピナスはそれを無かったことにして、日記帳を開いた。
>> やはり、相当に古いものなのだろう。所々紙が擦り切れて読めなくなっている部分もあり、読むのには多少苦労した。しかし、一度コツさえ掴んでしまえば後は楽なもので、結構な厚さのあるそれをルピナスはどんどんと読み進めていった。内容は、本当に他愛もない日記だった。一番多く書かれていたのは、リアネスのこと。次いで、アルシアンとロゼウスという、やはりあの絵に描かれていた人のこと。しかし、かなりの量のあるその日記の中にアリエスの名が出てこないことだけが、ルピナスには不思議だった。
>> やがて、日記は終わる。後半8分の1ほどからが白紙となっていた。特に重要なことは書いてなかったな・・・・と思い、ルピナスは何とはなしに白紙の部分をぱらぱらと捲る。と、なぜか最後の数ページだけ、また何かが書かれていた。おそらく、日記本文よりかなり後に書かれたものなのだろう、幾分文字がはっきりしていて読みやすい。それに目を通していくうちに・・・・・・・・ルピナスは、愕然となった。
>>『
>>   こうして、一つの戦いは終わった。
>>   犠牲が無かったわけではない。全てが幸せになったわけではない。
>>それでも、私たちが未来を掴んだことは事実だ。
>>
>>   時は流れ、あれからもう500年だ。今では、あの戦いは『降魔戦争』と呼ばれている。
>>   あの時から始まった『四大家』は、徐々にその意義を忘れ始めている。
>>   それから逃れているのは、リアネスのセレス・・・・サーヴァリル家くらいのものだろうか。
>>   私のラーナ・・・・フェラナート家においては、それはそのまま、力の消失を意味していた。
>>   それはある意味、喜ぶべきだったのかもしれない。
>>   しかし、血脈の果てに、アリエスが生まれた。私の力を、完全な形で受け継いだアリエスが。
>>   最初は、ただ見守るだけのつもりだった。何事も無ければ、平穏に生きてゆけるはずだったから。
>>   それでも、レーヴェとエルフィンが死んだときに、私はアリエスの『姉』となることにした。
>>   アリエスが『あれ』の器となったとわかったとき、私はアリエスを眠らせる決意をした。
>>
>>   それは、アリエスに全てを背負わせてしまうこと。アリエスから未来を奪うこと。
>>   許せとは言わない。私はフェラナート家始祖として、それが誰にとっても一番良いと信じている。
>>   それでも、私はアリエスの『姉』として、アリエスの幸せを願っている。
>>   遠い未来にアリエスが目覚め、そこで幸せに暮らす・・・・そんな都合のいいことが起こるはずがないのに、それを夢見てしまうほどに。
>>
>>   どうかアリエスの時が、安らかなものでありますように。
>>   どうかアリエスの未来が、光に満ちていますように。
>>   どうか・・・・・・・・
>>
>>   もはや、私に出来る事はない。ただ、祈るだけだ。
>>   私は知っている。神の無慈悲さを。神の無能さを。神の弱さを。
>>   私は知っている。神の嘆きを。神の涙を。神の優しさを。
>>   それでも、私は祈り続けよう。永劫の時の果てに、アリエスが『運命』から開放されることを。
>>
>>                                    リブラ=セイディーン=ファトゥス=フェラナート
>>                                                                』
>
>
>ユア;うきゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ〜。
>久遠:その歓喜40%、困惑60%の悲鳴は何よ?
>ユア;だってだって、さりげに・・・・衝撃じゃん。
朱琉:やっと明かせました〜!
アミイ:当初からずーっと決めてたくせに、なかなか書けなかったものね。
朱琉:・・・・・・・・いつか書こうかな?1000年前メンバーによる降魔戦争話・・・・。

>
>>
>> あとがき、或いは語り部の告げる未来
>>語:やあ、久しぶりだね。元気だったかな?
>>  今回も、伏線なのか何だかよくわからないことになってきたけど・・・・さてさて、どうだっただろうか?
>>  じゃあ、早速未来の欠片を語ろう。
>>   『四大家』・・・・それは、世界の平穏を守るもの。
>>   『四大家』・・・・それは、平穏のために罪を重ねるもの。
>>   全てを知り立つものは、一人空を見上げる。
>>   平穏と破滅、双方を兼ねた未来を描きながら。
>>  次回、『時の旅人』38話、『この手で守れるものがあるなら』
>> では、また会おうね。
>
>
>ユア;はい。
>二人:では、次回で。
二人:では、また!
>
>
>>

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17576時の旅人 38:この手で守れるものがあるなら羅城 朱琉 2006/4/11 08:41:59
記事番号17571へのコメント

 こんにちは、羅城 朱琉です。
久々の連続投稿、ですが・・・・今回は、『時の旅人』史上、最も短い話となっています。
 まともな台詞すらない1話ですが、どうぞ!




  時の旅人

  38:この手で守れるものがあるなら

 淡く滲んだ空の下、アリエスは独り、天を見つめていた。いや・・・・本当に見ているものは、その遥か果てにある『何か』。時を司る『輪転の女王(レジーナ・オブ・クロノス)』というもの。そして、『中枢予定表』というもの。遠すぎるほどに遠いその存在に思いを馳せつつ、昨晩のフェリセとの対談を思い返した。
 結局は、全ては『運命』の思うままだったのだろうか?・・・・そう考えると、フェリセが少し哀れに思えてくる。フェリセにも、この壮大な茶番劇の全貌は見えていなかったのだから。
 例えば、そう・・・・『アリエス』のこと。レーヴェ=ルシリス=ラーナとエルフィン=フィオル=ラーナの間に生まれたアリエスに、実は『姉』などいなかったことを知っているのだろうか?アリエスが『姉』だと語るリブラこそ、『四大家』の一つ、フェラナート家の始祖であり、彼女もまた不老不死の存在であったこと、などは?
 アリエスは、空を見たままクスクスと笑う。それは、お世辞にも明るい笑みではなく、自嘲するかのような、また、諦めきったような、暗い暗い嗤い。これまでの無表情が嘘だったかのような嗤い。箍が外れたかのように、アリエスは笑い続ける。
(ああ、もう・・・・・・・・どうして私はこれほどに悩んでいたのか・・・・。結局、最初から選択肢は一つだけだったのに・・・・。)
 誰にも言わず、ここを出よう。そう、アリエスは決意した。いや、決意などという固いものではない。自然な流れのままに決めた、ただそれだけだ。それこそが、アリエスの『願い』に最も忠実な行為でもあるのだから。
 アリエスは、どこか壊れた笑顔のまま、様々なことを思い出した。

 レティディウス公国崩壊の折、アリエスはリブラに時を止められた。実験台として・・・・ではなく。本当は、納得ずくだったのだ。両親が、不死の魔法を研究していた、と言うのも嘘。本当の故郷は、レティディウスではない。レティディウスに移り住んだのは、当時、不死の研究をするのに最も不自然ではない場所だったから。
 記憶改竄によって作り変えられた記憶。書き換えられた記憶。リブラを恨んではいない。それが必要だったのだから。
 時を止められ、眠りに付かされる前日に、アリエスはひとつの誓いを立てた。
『この手で守れるものがあるなら、私は全力でそれを守る。この身で救えるものがあるなら、私は全てをかけてそれを救う。』
 そして、アリエスは眠りに付いた。そう、全てを納得した上で。
(それを、もう一度繰り返そう。)
 別れは悲しいけれど、これも全て『世界』のため。ひいては、レンやルピナスのため。だから、嘆くことなどないのだ。

 完全に狂った思考。壊れきった思い。
 自らのその異常性に、アリエスは全く気付くことはなかった。

 それこそが運命の策略だと、気付くものはここにはいない。

 あとがき、或いは語り部の告げる未来
語:やあ、こんにちは!ひたすらに短かったけど、今回はどうだったかな?
  次回の38.5話も、併せて読んでもらえると嬉しいな。
  では、早速未来の欠片を語ろう。
   世界の裏側で『時』は蠢き、『時』の狭間で『運命』は開放される。
   それがもたらすものを知る者は少なくとも、確実に波紋は広がってゆく。
   定型を外れた世界は、今、新たな旋律を紡ぎだす。
   美しくも残酷な綺想曲を・・・・
  次回、時の旅人38.5話、『時空神たちの綺想曲』
 じゃあ、またね!



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17577時の旅人 38.5:時空神たちの綺想曲羅城 朱琉 2006/4/11 08:44:00
記事番号17571へのコメント

 こんにちは、羅城 朱琉です。
 今回は、前書きカットでいきなりどうぞ!




  時の旅人

  38.5:時空神たちの綺想曲

 世界の何処でもない・・・・それでいて、全てに属する場所。ここは、そんな所。無限に続くと思われる漆黒の中に、決して闇に混じらぬ2色が存在した。
 一方は、銀。他方は、無色。銀は無色を取り巻き押さえつけ、無色は銀を跳ね除け、解放を望んでいる。2色の力は拮抗し、微動だにしない。この拮抗は、長く続いていた。

 不意に、無色の力が蠢いた。・・・・いや、銀の力が弱まったのだ。一度崩れたバランスは、元に戻らない。無色の力が解放される・・・・と、思われた。
『させないわよ!』
 銀色の力の内から声が響いた。澄み渡った宝玉が触れ合うような、美しく涼やかな、しかし、勝気さを感じさせる、女性の声が。
 同時に、銀の力が集束し、人型をとる。ほぼ同時に、無色の力も。
 銀の力の主は、虹のような輝きを持つ硬質な銀色の髪に、どこか闇を秘めた金剛石色の瞳の女性に。
 無色の力の主は、蜂蜜の色に煌きを加えたような髪に、同色の瞳の青年に。
 銀の女性は、自身ありげに笑って言った。
『もうしばらく眠っててよね!『中枢予定表』。』
「【『華散夜の滅消者』アミリータ殿とお見受けいたします。何故、私と根幹を違える『時空の王』たる貴女が、私の邪魔をするのですか?】」
 耳に心地よい、しかし感情の伴わぬ淡々とした声が、それに応じた。銀の女性・・・・アミリータは、その笑みを崩さぬまま言い放つ。
『決まってるでしょ?``螺旋’’ちゃんの頼みだからよ。それに・・・・『運命は自分で切り開くもの』ってね。まあ、正直言うと、揺らがぬ『運命』で時を縛るキミは気に入らない。だから・・・・』
 アミリータは、まっすぐ横に右手を差し出す。まるで、漆黒の中から何かをつかみ出そうとするかのように。そして、次の瞬間、実際にその手に『何か』が握られた。どこまでも澄んだ漆黒の、鎌にも変わった形の錫杖にも見える長柄武器・・・・アミリータは『サイス』と呼ぶ・・・・が。
『ちょっと、手荒な手段もとらせてもらうわよ!!』
 アミリータが力を解放する。辺り全てを塗り替えるかのように、銀色をした闇が広がる。純粋なる『滅び』の力を注がれたサイスの刃が銀に染まった。
 『華散夜の滅消者』アミリータ。異界の時を統べる時空の王『円環の守護者』の片割れにして、滅びと終焉を司るもの。理屈も何も無く、ただ純粋に全てを『滅ぼす』力が、ここに降臨した。しかし、『中枢予定表』は、手にした細身のダガーのみで、銀の闇を切り払っていく。アミリータは、力の放出を強めながらも舌打ちをした。
(拮抗状態にはできるけど・・・・ちょっと、眠らせれないかも。)
「【思うように力が出せませんか?当然です。ここは、私の領域。貴女の支配する領域ではありません。貴女は私に勝てません。】」
『でも、キミも動けない。』
「【それはどうでしょうか?・・・・やりなさい、アスール・ミッドガルズ。】」
 瞬間、今まで隠されていた気配が隠形を解いた。アミリータは一瞬動揺したものの、背後に生じた気配をサイスでなぎ払う。いかなるものであろうと消し滅ぼすはずのサイスに帰ってきたのはしかし、固い手ごたえだった。
『嘘!?私の``滅び’’を受け止めた!!?』
 だが、それも一瞬のこと。すぐさま、固い手ごたえは消滅する。とっさに、アミリータは背後を見た。固い手ごたえの正体は、操り手の身長よりも長いであろう、肉厚の大剣だった。一度はアミリータの力を受けて消失したのであろうそれは、主の手の内で再生されている。大剣の主・・・・アミリータの髪よりは短いだろうが、それでも腰まではあるであろう三つ編みの水白色の髪を靡かせた青年は、感情の宿らぬアイオライトの瞳でアミリータを見返す。
 一瞬、アミリータの力が揺らいだ。ほんの僅かに・・・・しかし、崩れかけていた拮抗状態を突き崩すには、十分すぎるほどに。
 無色の力が爆発的に広がる。物理的な衝撃すら伴ったそれにアミリータは目を覆い・・・・次の瞬間には、二人の姿は忽然と失せていた。
『しまった・・・・逃げられた、か。』
 サイスを消し、感覚を研ぎ澄ませる。しかし、アミリータの知覚できる範囲内に『中枢予定表』の気配はない。アミリータは小さく溜息をつくと、身を翻し空間を駆けた。報告するために。


     *     *     *     *     *


「・・・・っ!」
 唐突に胸を刺した鈍い痛みに、『放浪の語り部』は小さく呻いた。しばし胸を押さえていた語り部だったが、苦痛は消えることが無いことを理解し、ゆっくりと手を離す。
「ここまで・・・・かな?」
『ごめん、レイちゃん。』
 何の前触れも無く、空中から声が響いた。しかし、語り部は慌てる事無く視線を移す。それが誰なのか、語り部にはわかっていた。いくら本名が『レイノリス』だとはいえ、自分を『レイちゃん』などと呼ぶのは、世界広しと言えどたった一人だけだったから。
「いや、無理を頼んですまなかったね、アミイ。・・・・それと、いつも言うけれど『レイちゃん』は止めてくれないかな?僕は女だと言った覚えはないよ。」
 瞬間、朧げながらもアミリータの姿が現れた。
『男だと聞いた覚えもないし。・・・・『中枢予定表』に逃げられちゃったよ。』
「君ほどの者が、油断したのかい?」
 語り部の声はあくまで優しげだが、内容はかなり痛烈だ。アミリータはしかし、それに頓着する事無くあっさり肯定する。
『まあね。伏兵がいるとは思わなかったし。』
「伏兵?」
『『中枢予定表』は、『アスール・ミッドガルズ』って呼んでた。知ってる?』
 語り部は、始めてその表情を変えた。苦々しそうな、それでいて哀れむような表情に。
「アスール・ミッドガルズ。正式名称は、『FG型対知性体インターフェイス Type β−21』。『中枢予定表』が生み出した、運命調整のための道具さ。FG型対知性体インターフェイスは、もういないと報告されていたんだけど、ね。・・・・でも、まさかとは思うけど・・・・」
 珍しく言葉を濁した語り部に、アミリータがその先を促す。
「・・・・確証のある話じゃない。けれど・・・・もし仮に、他にもFG型対知性体インターフェイスが残っていたとすると・・・・今後の計画を遂行できる可能性は、かなり低くなるね。」
『・・・・・・・・強いわけ?』
「個体によりけりさ。アスール・ミッドガルズ並に強いのはそうそういない。第一、存在の確認すらされていないんだ。心配しすぎると、それはそれで足元を掬われるはめになるよ。」
 アミリータは小さく息を吐き、語り部に背を向ける。何にしろ、これ以上はアミリータの干渉できる範囲を超えてしまうのだ。
『まあ、後は頑張れ、としか言えないけど。そろそろ私も帰らないといけないしね。』
 何かあるたびに、アミリータは思う。たとえ、全世界で3人しかいない『時空の王』の一人とはいえ、無力に変わりはないのだと。力が強い分、束縛も多い。そういうものだと理解はしているものの、納得できるかといえば、それは否と言わざるをえない。アミリータは、その片割れ・・・・『円環の守護者』のうち、始まりを司る『夢繰る創世者』よりも、かなり人間じみている部分があるだけ、より無力を噛み締め、後悔することも多いのだ。そして、そう思う分だけ、足掻いてみたいとも思う。だから、アミリータは理に触れない程度に告げた。
『知ってるかもしれないけど、一応伝えておくね。例のアリエスちゃんのことだけど・・・・ここ最近、『中枢予定表』が干渉を仕掛けているわ。心を弄られているみたいよ。』
「心を・・・・?」
『うん。使命感と『終わり』への憧れを助長させて、今大切に思っている人への思いを歪めて、自己犠牲を美化して・・・・四大家の使命に目覚めさせられている。』
 眉をひそめつつ告げるアミリータの言葉を聞いて、語り部は吐き捨てるように言った。
「どこまで下種に成り下がれば気が済むんだ、『中枢予定表』は・・・・・・って、僕にそう言う権利はない、か。」
『レイちゃん・・・・』
 自嘲するかのように笑う語り部に、アミリータは気遣わしげに言った。語り部はゆっくりと目を閉じ、開く。その瞳に、はっきりと決意の色を見せて。
「終わらせよう、アミリータ。こんな悲しい運命は、もうたくさんだ。」
 その瞳に、アミリータは不吉な予感を見た。古くから語り部を知るが故に気付いた、その予感に。
「終わらせよう、この運命を。それが、運命の元凶たる僕の償いだ・・・・」
 『そんなことはない』、とアミリータは言おうとした。しかし、それが白々しい嘘にしかならないことも分かって、言葉は言葉にならず消えてゆく。
(どうしてこうも自虐癖のある人ばかりなのかしらね・・・・?)
 アミリータは思う。彼らに幸せを・・・・と。語り部のみならず、アリエスと、アリエスを取り巻く人々にも。だって、これまで散々辛い思いをして、心を壊されてきたのだから。
 アミリータが司るものは、破壊に終焉、死といったもの。けれど、それは終わりではない。焼けた大地に緑が芽吹くように、死にゆく命の横で生まれ出でる命があるように・・・・。『破壊のための破壊』ではない、『再生のための破壊』こそ、アミリータが真に司るもの。巡る生命の円環の中で、生まれ出でた命は夢を抱いて未来へ進み、死にゆく命は癒すように、安らかな眠りを与えられ、そして、新たな生命は生まれる。それを守ることを旨とする『時空の王』。故に、『円環の守護者』。この世界の時を司る『螺旋の預言者』とは少し趣が違うけれど、根本は同じ、``守る者’’。その心が同じと知っているからこそ、アミリータは語り部に協力しているのだ。
 だから、アミリータは言った。白々しい嘘を飲み込んで、指摘することもなく、ただ一言だけ。
『その『心』がある限り、『華散夜の滅消者』アミリータは、『放浪の語り部』に協力するわ。』
 ある意味では事務的な、しかし、万感をそこに込めて。


     *     *     *     *     *


「【いらぬ手間を取る羽目になりましたね。】」
 蜜色の青年・・・・『中枢予定表』は、淡々と告げる。その声に感情はない。・・・・『中枢予定表』は、感情を持たないわけではない。しかし、高度に知性的な『本能』が、その行動の礎となっている。感情とは、その上での参考程度でしかない。『中枢予定表』は、そのように創られた。その配下たる『FG型対知性体インターフェイス』は、感情を持たない。感情は、時として運命調節の任務の邪魔となるから。
アスール・ミッドガルズは『中枢予定表』の前に跪き、頭を垂れている。主の次の言葉を待ち、ただ、ひたすらに。
 『中枢予定表』は、淡々と言う。運命をあるべき姿に戻すために、予定調和のうちに、全てを収めるために。
「【アリエス=オルフェーゼの動きを監視し、あるべき所へと導きなさい。その果てに、力の解放を促すのです。】」
 アスール・ミッドガルズは頭を上げ、一礼した。
「御下命、承りました。」
 決して聞き苦しくはない、しかし、あまりにも無機質な声で、アスール・ミッドガルズは答えた。そして、そのまま立ち上がり、消える。
 『中枢予定表』は、そちらを一瞥した後、瞳を閉じる。無色の力がゆるりと溢れ、さながらベールのようにたなびいた。そして、中枢予定表はその使命を果たし続ける。『調和の取れた運命』を、無限に織り成し続けるのだ・・・・・・・・。

 あとがき、或いは語り部の告げる未来
語:やあ!+αにあたる今回の話、どうだったかな?
番外編、と言うには本編に深く関係しすぎてて、本編、と言うには少し違って・・・・と言うことで、何とも中途半端な話数になってしまったけど、ね。
  さて、では、未来の面影を語ろうか。
   誰知ることもなく、運命は動き始めた。
   その力は、痛みすらも攫っていく。
   夜明けの光は希望か、絶望か・・・・?
   愛しき乙女を取り戻す戦いが、今、始まる。
  次回、『時の旅人』39話、『追憶の花束』
  では、また会おうね!

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17580どうぇわぁぁ〜(リニモの車内で叫びました)十叶 夕海 2006/4/11 21:33:20
記事番号17577へのコメント


> こんにちは、羅城 朱琉です。
> 今回は、前書きカットでいきなりどうぞ!

ユア;通学途中のリニモの中で、マジで叫びました。
久遠;何短大に通っているかバレそうな発言はしないの。
ユア;それは、ともかく、今の精神状態で、三十八話にレスすると、引っ張られて、マジへこみしそうなので、38.5話のみレスさせていただきます。
久遠;レス行きます。

>
>
>
>
> 同時に、銀の力が集束し、人型をとる。ほぼ同時に、無色の力も。
> 銀の力の主は、虹のような輝きを持つ硬質な銀色の髪に、どこか闇を秘めた金剛石色の瞳の女性に。
> 無色の力の主は、蜂蜜の色に煌きを加えたような髪に、同色の瞳の青年に。
> 銀の女性は、自身ありげに笑って言った。
>『もうしばらく眠っててよね!『中枢予定表』。』
>「【『華散夜の滅消者』アミリータ殿とお見受けいたします。何故、私と根幹を違える『時空の王』たる貴女が、私の邪魔をするのですか?】」
> 耳に心地よい、しかし感情の伴わぬ淡々とした声が、それに応じた。銀の女性・・・・アミリータは、その笑みを崩さぬまま言い放つ。

ユア;どうぇわぁぁ〜って、ここで叫びました。
久遠:なんとなく、『時関係の一人かな〜?』とか見当はつけてたようだけど、それでも、驚いたみたい。


> アミリータは、まっすぐ横に右手を差し出す。まるで、漆黒の中から何かをつかみ出そうとするかのように。そして、次の瞬間、実際にその手に『何か』が握られた。どこまでも澄んだ漆黒の、鎌にも変わった形の錫杖にも見える長柄武器・・・・アミリータは『サイス』と呼ぶ・・・・が。

ユア;似たような武器、もとい原型の武器が『サイズ』として、武器事典に載ってました。
久遠:・・以上、武器トリビアでした。

>(拮抗状態にはできるけど・・・・ちょっと、眠らせれないかも。)
>「【思うように力が出せませんか?当然です。ここは、私の領域。貴女の支配する領域ではありません。貴女は私に勝てません。】」
>『でも、キミも動けない。』

ユア;ニュアンス的に言えば、火の精霊が、水場で水の精霊と戦うようなものですか?
久遠:火の精霊=アミイちゃん 水の精霊=相手・・・・というかんじね。



>『嘘!?私の``滅び’’を受け止めた!!?』
> だが、それも一瞬のこと。すぐさま、固い手ごたえは消滅する。とっさに、アミリータは背後を見た。固い手ごたえの正体は、操り手の身長よりも長いであろう、肉厚の大剣だった。一度はアミリータの力を受けて消失したのであろうそれは、主の手の内で再生されている。大剣の主・・・・アミリータの髪よりは短いだろうが、それでも腰まではあるであろう三つ編みの水白色の髪を靡かせた青年は、感情の宿らぬアイオライトの瞳でアミリータを見返す。



久遠:アスールちゃんね。
ユア;かわいいっv
久遠;はい?まだ戦うお姉さんのあみいちゃんなら、まだしも、アスールちゃんが?
ユア:何を言う、私は『GB』の赤屍さんや鏡さんでも、可愛いというマニアックお姉さんだぞ?
久遠;胸を張っていうことじゃないでしょ・・・

> 唐突に胸を刺した鈍い痛みに、『放浪の語り部』は小さく呻いた。しばし胸を押さえていた語り部だったが、苦痛は消えることが無いことを理解し、ゆっくりと手を離す。
>「ここまで・・・・かな?」
>『ごめん、レイちゃん。』
> 何の前触れも無く、空中から声が響いた。しかし、語り部は慌てる事無く視線を移す。それが誰なのか、語り部にはわかっていた。いくら本名が『レイノリス』だとはいえ、自分を『レイちゃん』などと呼ぶのは、世界広しと言えどたった一人だけだったから。

ユア;ある意味、恐れ知らず?
久遠:アミイちゃんの素でしょ?


>『まあね。伏兵がいるとは思わなかったし。』
>「伏兵?」
>『『中枢予定表』は、『アスール・ミッドガルズ』って呼んでた。知ってる?』
> 語り部は、始めてその表情を変えた。苦々しそうな、それでいて哀れむような表情に。
>「アスール・ミッドガルズ。正式名称は、『FG型対知性体インターフェイス Type β−21』。『中枢予定表』が生み出した、運命調整のための道具さ。FG型対知性体インターフェイスは、もういないと報告されていたんだけど、ね。・・・・でも、まさかとは思うけど・・・・」
> 珍しく言葉を濁した語り部に、アミリータがその先を促す。
>「・・・・確証のある話じゃない。けれど・・・・もし仮に、他にもFG型対知性体インターフェイスが残っていたとすると・・・・今後の計画を遂行できる可能性は、かなり低くなるね。」

ユア:ニュアンス的に、『警備ロボット?』


>『まあ、後は頑張れ、としか言えないけど。そろそろ私も帰らないといけないしね。』
> 何かあるたびに、アミリータは思う。たとえ、全世界で3人しかいない『時空の王』の一人とはいえ、無力に変わりはないのだと。力が強い分、束縛も多い。そういうものだと理解はしているものの、納得できるかといえば、それは否と言わざるをえない。アミリータは、その片割れ・・・・『円環の守護者』のうち、始まりを司る『夢繰る創世者』よりも、かなり人間じみている部分があるだけ、より無力を噛み締め、後悔することも多いのだ。そして、そう思う分だけ、足掻いてみたいとも思う。だから、アミリータは理に触れない程度に告げた。

久遠;人間じみてていいじゃない?
   だから、今の心があるんだから。

>『知ってるかもしれないけど、一応伝えておくね。例のアリエスちゃんのことだけど・・・・ここ最近、『中枢予定表』が干渉を仕掛けているわ。心を弄られているみたいよ。』
>「心を・・・・?」
>『うん。使命感と『終わり』への憧れを助長させて、今大切に思っている人への思いを歪めて、自己犠牲を美化して・・・・四大家の使命に目覚めさせられている。』
> 眉をひそめつつ告げるアミリータの言葉を聞いて、語り部は吐き捨てるように言った。
>「どこまで下種に成り下がれば気が済むんだ、『中枢予定表』は・・・・・・って、僕にそう言う権利はない、か。」


ユア;ほんとに、どこまで下種なんだよ、こらぁ!!
久遠:ユアちゃん、マジギレェ・・・・遥陽ちゃんのライアナちゃん以来よねぇ。
ユア:今までかいま見たのも、下種だの何だの思ったけど。
   『心』を操んのはな、神様なんだろうが、なんだろうが、しちゃいけねぇだろうがよ。
久遠:言葉まで、崩れちゃって。
ユア:そこまで、下種かよ、今畜生〜!!
   せめて、『家族の写真』のほうで、もう少しアリエス嬢幸せ話増やしてやるぅ!!


> アミリータは思う。彼らに幸せを・・・・と。語り部のみならず、アリエスと、アリエスを取り巻く人々にも。だって、これまで散々辛い思いをして、心を壊されてきたのだから。

ユア;そうです、幸せと不幸は、表裏一体!!同分量なのです。
久遠:・・・まだ、暴走してるわねぇ。

> アスール・ミッドガルズは頭を上げ、一礼した。
>「御下命、承りました。」
> 決して聞き苦しくはない、しかし、あまりにも無機質な声で、アスール・ミッドガルズは答えた。そして、そのまま立ち上がり、消える。
> 『中枢予定表』は、そちらを一瞥した後、瞳を閉じる。無色の力がゆるりと溢れ、さながらベールのようにたなびいた。そして、中枢予定表はその使命を果たし続ける。『調和の取れた運命』を、無限に織り成し続けるのだ・・・・・・・・。


ユア:共産主義?と思いました。
久遠:考えとしては、すばらしいのだけど、そういうのは、息苦しすぎていらないと?
ユア:そう、澄み過ぎた水には、魚は住まないとも言うわね。

>
> あとがき、或いは語り部の告げる未来
>語:やあ!+αにあたる今回の話、どうだったかな?
>番外編、と言うには本編に深く関係しすぎてて、本編、と言うには少し違って・・・・と言うことで、何とも中途半端な話数になってしまったけど、ね。
>  さて、では、未来の面影を語ろうか。
>   誰知ることもなく、運命は動き始めた。
>   その力は、痛みすらも攫っていく。
>   夜明けの光は希望か、絶望か・・・・?
>   愛しき乙女を取り戻す戦いが、今、始まる。
>  次回、『時の旅人』39話、『追憶の花束』
>  では、また会おうね!

ユア;ルピナス君&ルピナス嬢がんばれ、お母さんは応援してるぞ、コルゥア!!
久遠:微妙にエキサイトしてるわね。
二人:では、また次回。

>

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17581今は、夜明け前の闇の中なんです。羅城 朱琉 2006/4/12 12:44:33
記事番号17580へのコメント


>
>> こんにちは、羅城 朱琉です。
>> 今回は、前書きカットでいきなりどうぞ!
>
>ユア;通学途中のリニモの中で、マジで叫びました。
>久遠;何短大に通っているかバレそうな発言はしないの。
>ユア;それは、ともかく、今の精神状態で、三十八話にレスすると、引っ張られて、マジへこみしそうなので、38.5話のみレスさせていただきます。
>久遠;レス行きます。
朱琉:こんにちは。リニモと聞いて、『あれ?意外と近所?』とか思った羅城 朱琉です。
アミイ:朱琉は、通学にリニモは使ってないけど、あれこれ乗り継いでいけば意外とすぐ学校よね?
朱琉:検索かけたらあっさり学校名がバレそうなこと言わないでください・・・・。では、返レスです。

>
>>
>>
>>
>>
>> 同時に、銀の力が集束し、人型をとる。ほぼ同時に、無色の力も。
>> 銀の力の主は、虹のような輝きを持つ硬質な銀色の髪に、どこか闇を秘めた金剛石色の瞳の女性に。
>> 無色の力の主は、蜂蜜の色に煌きを加えたような髪に、同色の瞳の青年に。
>> 銀の女性は、自身ありげに笑って言った。
>>『もうしばらく眠っててよね!『中枢予定表』。』
>>「【『華散夜の滅消者』アミリータ殿とお見受けいたします。何故、私と根幹を違える『時空の王』たる貴女が、私の邪魔をするのですか?】」
>> 耳に心地よい、しかし感情の伴わぬ淡々とした声が、それに応じた。銀の女性・・・・アミリータは、その笑みを崩さぬまま言い放つ。
>
>ユア;どうぇわぁぁ〜って、ここで叫びました。
>久遠:なんとなく、『時関係の一人かな〜?』とか見当はつけてたようだけど、それでも、驚いたみたい。
アミイ:ふふふ・・・・v
朱琉:ちなみに、アミイさんの二つ名にある『華散夜』は、『はなちるよる』でも『かさんや』でも、どっちの読みでもOKです。
アミイ:まあ、フルで呼ばれるより、通称の``散華''と呼ばれるときのほうが多いしね。

>
>
>> アミリータは、まっすぐ横に右手を差し出す。まるで、漆黒の中から何かをつかみ出そうとするかのように。そして、次の瞬間、実際にその手に『何か』が握られた。どこまでも澄んだ漆黒の、鎌にも変わった形の錫杖にも見える長柄武器・・・・アミリータは『サイス』と呼ぶ・・・・が。
>
>ユア;似たような武器、もとい原型の武器が『サイズ』として、武器事典に載ってました。
>久遠:・・以上、武器トリビアでした。
朱琉:多分、元ネタはその武器です。ただ、そのままだとあまりにもアレなので、ちょっと読み方変えました。

>
>>(拮抗状態にはできるけど・・・・ちょっと、眠らせれないかも。)
>>「【思うように力が出せませんか?当然です。ここは、私の領域。貴女の支配する領域ではありません。貴女は私に勝てません。】」
>>『でも、キミも動けない。』
>
>ユア;ニュアンス的に言えば、火の精霊が、水場で水の精霊と戦うようなものですか?
>久遠:火の精霊=アミイちゃん 水の精霊=相手・・・・というかんじね。
アミイ:そんな感じよ。
朱琉:そのうち、詳しいオリジナル時空設定を投稿予定です。
アミイ:かなり複雑だしね、私たちと『中枢予定表』や``螺旋''ちゃんとの関係って。

>
>
>
>>『嘘!?私の``滅び’’を受け止めた!!?』
>> だが、それも一瞬のこと。すぐさま、固い手ごたえは消滅する。とっさに、アミリータは背後を見た。固い手ごたえの正体は、操り手の身長よりも長いであろう、肉厚の大剣だった。一度はアミリータの力を受けて消失したのであろうそれは、主の手の内で再生されている。大剣の主・・・・アミリータの髪よりは短いだろうが、それでも腰まではあるであろう三つ編みの水白色の髪を靡かせた青年は、感情の宿らぬアイオライトの瞳でアミリータを見返す。
>
>
>
>久遠:アスールちゃんね。
>ユア;かわいいっv
>久遠;はい?まだ戦うお姉さんのあみいちゃんなら、まだしも、アスールちゃんが?
>ユア:何を言う、私は『GB』の赤屍さんや鏡さんでも、可愛いというマニアックお姉さんだぞ?
>久遠;胸を張っていうことじゃないでしょ・・・
朱琉:鏡さんと赤屍さん・・・・・・・・
アミイ:朱琉の認識では、『あれ、絶対人間じゃないよ。かっこいいから気にしないけど・・・・』よね。
朱琉:ええ、まあ。

>
>> 唐突に胸を刺した鈍い痛みに、『放浪の語り部』は小さく呻いた。しばし胸を押さえていた語り部だったが、苦痛は消えることが無いことを理解し、ゆっくりと手を離す。
>>「ここまで・・・・かな?」
>>『ごめん、レイちゃん。』
>> 何の前触れも無く、空中から声が響いた。しかし、語り部は慌てる事無く視線を移す。それが誰なのか、語り部にはわかっていた。いくら本名が『レイノリス』だとはいえ、自分を『レイちゃん』などと呼ぶのは、世界広しと言えどたった一人だけだったから。
>
>ユア;ある意味、恐れ知らず?
>久遠:アミイちゃんの素でしょ?
朱琉:100%、素です。
アミイ:だって、レイちゃんかっこいいけどかわいいもの。

>
>
>>『まあね。伏兵がいるとは思わなかったし。』
>>「伏兵?」
>>『『中枢予定表』は、『アスール・ミッドガルズ』って呼んでた。知ってる?』
>> 語り部は、始めてその表情を変えた。苦々しそうな、それでいて哀れむような表情に。
>>「アスール・ミッドガルズ。正式名称は、『FG型対知性体インターフェイス Type β−21』。『中枢予定表』が生み出した、運命調整のための道具さ。FG型対知性体インターフェイスは、もういないと報告されていたんだけど、ね。・・・・でも、まさかとは思うけど・・・・」
>> 珍しく言葉を濁した語り部に、アミリータがその先を促す。
>>「・・・・確証のある話じゃない。けれど・・・・もし仮に、他にもFG型対知性体インターフェイスが残っていたとすると・・・・今後の計画を遂行できる可能性は、かなり低くなるね。」
>
>ユア:ニュアンス的に、『警備ロボット?』
朱琉:あえて例えるなら・・・・・・・・『万能ロボット』といった感じでしょうか?
アミイ:またわかりにくい例えを・・・・。
朱琉:警備のみではなく、いろいろやりますから。

>
>
>>『まあ、後は頑張れ、としか言えないけど。そろそろ私も帰らないといけないしね。』
>> 何かあるたびに、アミリータは思う。たとえ、全世界で3人しかいない『時空の王』の一人とはいえ、無力に変わりはないのだと。力が強い分、束縛も多い。そういうものだと理解はしているものの、納得できるかといえば、それは否と言わざるをえない。アミリータは、その片割れ・・・・『円環の守護者』のうち、始まりを司る『夢繰る創世者』よりも、かなり人間じみている部分があるだけ、より無力を噛み締め、後悔することも多いのだ。そして、そう思う分だけ、足掻いてみたいとも思う。だから、アミリータは理に触れない程度に告げた。
>
>久遠;人間じみてていいじゃない?
>   だから、今の心があるんだから。
アミイ:そうだけど、ね。ただ、あまりに後悔が多いから・・・・とも思うわけよ。

>
>>『知ってるかもしれないけど、一応伝えておくね。例のアリエスちゃんのことだけど・・・・ここ最近、『中枢予定表』が干渉を仕掛けているわ。心を弄られているみたいよ。』
>>「心を・・・・?」
>>『うん。使命感と『終わり』への憧れを助長させて、今大切に思っている人への思いを歪めて、自己犠牲を美化して・・・・四大家の使命に目覚めさせられている。』
>> 眉をひそめつつ告げるアミリータの言葉を聞いて、語り部は吐き捨てるように言った。
>>「どこまで下種に成り下がれば気が済むんだ、『中枢予定表』は・・・・・・って、僕にそう言う権利はない、か。」
>
>
>ユア;ほんとに、どこまで下種なんだよ、こらぁ!!
>久遠:ユアちゃん、マジギレェ・・・・遥陽ちゃんのライアナちゃん以来よねぇ。
>ユア:今までかいま見たのも、下種だの何だの思ったけど。
>   『心』を操んのはな、神様なんだろうが、なんだろうが、しちゃいけねぇだろうがよ。
>久遠:言葉まで、崩れちゃって。
>ユア:そこまで、下種かよ、今畜生〜!!
>   せめて、『家族の写真』のほうで、もう少しアリエス嬢幸せ話増やしてやるぅ!!
アミイ:あたしも、『中枢予定表』は嫌いよ。だけど・・・・憎み切れない部分もあるのよね。
朱琉:と、思わないことには、アミイ嬢は私怨に走ってしまいそうになりますからね。
アミイ:・・・・・・・・だって、ねぇ。『中枢予定表』の事情も・・・・
朱琉:まあ、この下種っぷりも一種複線だと思っておいてください(苦笑)

>
>
>> アミリータは思う。彼らに幸せを・・・・と。語り部のみならず、アリエスと、アリエスを取り巻く人々にも。だって、これまで散々辛い思いをして、心を壊されてきたのだから。
>
>ユア;そうです、幸せと不幸は、表裏一体!!同分量なのです。
>久遠:・・・まだ、暴走してるわねぇ。
アミイ:ついでに、『夜明け前の闇が一番暗い』。この闇の果てに、皆に幸せが待っているはず・・・・。待ってなかったら・・・・・・・・滅ぼすよ?朱琉。
朱琉:・・・・・・・・私は、ほろ苦いハッピーエンドが好きとだけ答えておきます。

>
>> アスール・ミッドガルズは頭を上げ、一礼した。
>>「御下命、承りました。」
>> 決して聞き苦しくはない、しかし、あまりにも無機質な声で、アスール・ミッドガルズは答えた。そして、そのまま立ち上がり、消える。
>> 『中枢予定表』は、そちらを一瞥した後、瞳を閉じる。無色の力がゆるりと溢れ、さながらベールのようにたなびいた。そして、中枢予定表はその使命を果たし続ける。『調和の取れた運命』を、無限に織り成し続けるのだ・・・・・・・・。
>
>
>ユア:共産主義?と思いました。
>久遠:考えとしては、すばらしいのだけど、そういうのは、息苦しすぎていらないと?
>ユア:そう、澄み過ぎた水には、魚は住まないとも言うわね。
アミイ:共産主義、と言うか・・・・大を生かすために小を殺す?
朱琉:そうですね。そういう条件をインプットされたコンピュータみたいなものかと。

>
>>
>> あとがき、或いは語り部の告げる未来
>>語:やあ!+αにあたる今回の話、どうだったかな?
>>番外編、と言うには本編に深く関係しすぎてて、本編、と言うには少し違って・・・・と言うことで、何とも中途半端な話数になってしまったけど、ね。
>>  さて、では、未来の面影を語ろうか。
>>   誰知ることもなく、運命は動き始めた。
>>   その力は、痛みすらも攫っていく。
>>   夜明けの光は希望か、絶望か・・・・?
>>   愛しき乙女を取り戻す戦いが、今、始まる。
>>  次回、『時の旅人』39話、『追憶の花束』
>>  では、また会おうね!
>
>ユア;ルピナス君&ルピナス嬢がんばれ、お母さんは応援してるぞ、コルゥア!!
>久遠:微妙にエキサイトしてるわね。
>二人:では、また次回。
朱琉:はい、では、また次回!
二人では、また!
>
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17595時の旅人 39:追憶の花束羅城 朱琉 2006/4/19 08:22:18
記事番号17571へのコメント

 こんにちは、羅城 朱琉です。
 さてさて、ついにルピナスサイド最終話!この次にアリエスサイドを1話挟み、ついに2つの話が合流します。
 では、早速どうぞ!




  時の旅人

  39:追憶の花束

 それから後、何冊か本を読んだはずなのだが、ほとんど記憶に残っていない。麻痺した心の中で僅かに空腹と眠気を覚え、呆然としたまま、ルピナスは書庫を後にした。その間、時間の経過に気付くことはなかったらしく、外は既に真っ暗で、空には満天の星が広がっている。
「おー!やっと来たのか。」
 皆はもう眠ってしまったらしい。荒野の真ん中の焚火の前に座り、火の番をしていたガウリイが、ルピナスに声をかけた。ルピナスが「ええ」と言おうと思った刹那・・・・目の前を薔薇色の光が覆った。眩しさに一瞬目を閉じて、次に目を開いたときには、視線が少し高くなっていた。どうやら、日が改まったらしい。
「・・・・もう、こんな時間だったのか。」
 ルピナスは、やはりまだ呆然とした声色で呟いた。ガウリイに勧められ火のそばに腰を下ろしたのだが、それすらもほとんど無意識の行動であった。
「ん?どうかしたのか、元気ないな。」
「まあ、な。ちょっと、いろいろあって・・・・・・・・。・・・・・・・・なあ、ガウリイ・・・・」
 ルピナスは、何とはなしにガウリイに言ってみた。
「僕は・・・・自惚れかもしれないけれど、アリエスにそれなりには信用されていたと思うんだ。だけど、本当は何も知らなかったのかもしれない。語り部さんは、『アリエスは昔の友人の手を取った』って言ってた。つまりそれは、アリエスは自分の意思で行ったってことで・・・・・・・・だから、本当は、アリエスを追わないほうがいいのかもしれない。けど、僕は・・・・・・・・」
 苦渋の滲んだ、しかし、切ない響きの声で、ルピナスは自らの思いを吐露した。
「僕は、アリエスが好きだ。どうやっても、この思いを止めることが出来ない。」
 ルピナスの視界の中で、炎が滲んだ。零れ落ちそうな涙を堪えるために、ルピナスは天を仰ぐ。
 この同じ空の下に、アリエスは確かにいるのだろう。もしかしたら今、同じ空を見上げているのかもしれない。けれど、「だからいい」とはルピナスには言えなかった。アリエスに、傍にいてほしい。出来ることなら、笑っていてほしい。アリエスが抱えているものを、共に持たせてほしい。・・・・・・・・同じ時の中を、共に歩いてゆきたい。
「・・・・・・ったのに・・・・」
 掠れた声は本当に小さく、しかし、ガウリイの耳にははっきりと届いた。
「支えあうくらいは出来るって、言ったのに・・・・・・・・」
 ガウリイは、炎を見つめたまま。小さく呻いて俯いたルピナスが落ち着くのを待って、ガウリイは口を開いた。
「俺は難しいことはわからんし、アリエスってやつも知らんが・・・・・・・・いいんじゃないか?それで。」
 ルピナスは、僅かに顔を上げた。
「オレは、リナの保護者になると決めたから、リナと一緒にいる。あんたも、アリエスってやつの傍にいるって決めたなら、傍にいりゃいいじゃないか。」
「・・・・・・・・それは、エゴだと思うけど。」
「?エゴって何だ?」
 落ち込んでいなかったら、ルピナスは派手にこけていたことだろう。とりあえず説明するが、その声にも覇気はない。
「エゴイズム、利己主義・・・・まあ、自分よければ全てよし、ってことさ。」
「そうかなぁ?だって、止められないものは仕方ないだろ?」
 なおもルピナスは言い募ろうとするが・・・・突如空間に滲み出した銀の光と、それと同時に響いた声が、それを遮った。
「そう思っていたほうがいい。その方が楽だろう?」
「語り部・・・・さん?レンさんも・・・・。」
 銀の光は一瞬強く輝くと、その中から二人の人影を吐き出し、現れたときと同じ唐突さで消えた。相変わらずの笑みを浮かべた語り部は、傍らに立つ、不満げな顔をしたレンと共に火の傍へやってくると、リナ達の方に向かって言った。
「気持ちよく寝ているところを何だけど・・・・``起きてくれないかな?’’」
 ぞくりと、背筋に悪寒が走った。同時に、眠っていた3人が飛び起きる。語り部の言葉に込められた、恐ろしいほどのプレッシャーによってだ。飛び起きるなり戦闘体勢をとる3人に対して、語り部は何事もなかったかのように言った。
「やあ、お目覚めかな?荒っぽい手段を使って悪かったね。」
「ってことは、今のはあんたが・・・・」
「その通り。ごめんよ、時間が無くてね。話さなければいけないことがあるから、皆、火の回りに集まってくれないかな?」
 突然、心臓に悪い手段で起こされた3人は、不満げながらも火の傍に集まる。全員が腰を下ろしたところを見計らって、語り部は真面目な声音で告げた。
「『自由神殿(フリーダム・パレス)』の加速が確認された。明日・・・・いや、もう今日になるか。今日の昼前には、ここの上空を通過することになる。もう猶予はない。・・・・行くかい?」
 既に付き合うつもりだったリナが小さく、しかしはっきりと頷いた。アメリアも、『もちろんです!』と言って握り拳を作る。ガウリイとゼルガディスにも否やは無いようだ。
ルピナスは目を伏せて、これまでのことを思い出した。この手の先が、必ずアリエスに届くとはかぎらない。迷いはいくらでもある。今もまだ、分からない事だらけだ。けれど、それでも・・・・
(もう一度、君に会いたい・・・・!)
 伏せた目をゆっくりと上げ、かたりべを見つめる。視線と視線が交錯した。そして、ルピナスは口を開く。
「行く。」
 簡潔に、しかしはっきりと、ルピナスは宣言した。語り部はそれを聞いて僅かに目をなごませる。
「わかった。日の出と共に出発するよ。それまで休んでいるといい。」
 星々が瞬く空の下、彼らは静かに決意した。


     *     *     *     *     *


 僅かな睡眠を貪る皆から離れ、語り部は一人、荒野に立っていた。巨大なクレーターの中心、リブラの書庫の真上に当たる場所に。
 純白の衣装に砂が付くのもかまわず、語り部は地面に跪き、足元に置かれた花束を手に取った。『追憶』の花言葉を持つ花・・・・紫苑。アリエスがリブラに捧げた花である。
「リブラ・・・・。」
 語り部は小さく呟くと、何かを思いついて自らの胸に手を押し当てる。ぼんやりした銀の輝きが語り部を包み、一瞬の後にその輝きが消えたときには、語り部の姿は僅かに変化していた。
 容姿自体は大きく変わったわけではない。ただ、淡い青灰色だった瞳から青みが抜けて、銀に近い淡灰色になっている。服装は、少々古風ではあるが何処にでも売っていそうな旅装束。ただし、マントではなくケープを着ており、右足の、自然に手を下ろせば指が届くであろう辺りに、タロットカードくらいの大きさのカードが50枚近く入りそうなカードホルダーが括りつけられているのが、奇妙といえば奇妙だった。
 この姿に与えられた名は、ルシル=グラディウス。『放浪の語り部』の仮の姿のひとつ。
「ごめんね、リブラ。結局、君の願いどおりには行かなかったよ。」
 意識自体は、語り部と同一だ。それならば、別に姿をわざわざ変える必要もないのでは?と思うかもしれない。しかし、語り部は『ルシル』として、リブラの前に立ちたかった。
「もう少ししたら、アリエスを迎えに行くよ。・・・・大人しく来てくれないかもしれないけど・・・・って、こう言うと思いっきり悪役みたいだね。」
 そう言って小さく笑い、語り部は改めて紫苑の花を手向けると、立ち上がって言った。
「いってきます。」
 そうして、語り部は踵を返して歩き出す。

(いってらっしゃい、ルシル。気をつけてね。)
 懐かしい友の声が、聞こえた気がした。

 あとがき、或いは語り部の告げる未来
語:やあ、今回はどうだったかな?僕も久しぶりに本編で、裏方ではなく登場できたよ。
  さて、そろそろ第4部も終わりに近づいてきた。近い未来の断片を、語ろう。
   終わりを知るからこそ、優しくなれる。
   始まりを思うからこそ、穏やかになれる。
   つかの間の平和を破る鐘は、全てを押し流す流れを告げる。
   再び、同じ大地に立つときが来た・・・・。
  次回、『時の旅人』40話、『再開の鐘の音』
 じゃあ、またね!


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17598らしい意見ですね。十叶 夕海 2006/4/19 23:28:42
記事番号17595へのコメント


> こんにちは、羅城 朱琉です。
> さてさて、ついにルピナスサイド最終話!この次にアリエスサイドを1話挟み、ついに2つの話が合流します。
> では、早速どうぞ!

ユア:こんにちは、ユアっす。
久遠;楽しみねぇ。
ユア;では、レス行きます!!


>
> それから後、何冊か本を読んだはずなのだが、ほとんど記憶に残っていない。麻痺した心の中で僅かに空腹と眠気を覚え、呆然としたまま、ルピナスは書庫を後にした。その間、時間の経過に気付くことはなかったらしく、外は既に真っ暗で、空には満天の星が広がっている。
>「おー!やっと来たのか。」
> 皆はもう眠ってしまったらしい。荒野の真ん中の焚火の前に座り、火の番をしていたガウリイが、ルピナスに声をかけた。ルピナスが「ええ」と言おうと思った刹那・・・・目の前を薔薇色の光が覆った。眩しさに一瞬目を閉じて、次に目を開いたときには、視線が少し高くなっていた。どうやら、日が改まったらしい。

ユア;・・・・よく体力持ちますね。
久遠:そう言う問題?
ユア:・・・・・なんにせよ、アリエス思うが故・・・ですかね。
   うちのアルト君には、そう言うガッツあまり縁がないですし、ルピ君&ルピ嬢ご苦労様。


> ルピナスは、何とはなしにガウリイに言ってみた。
>「僕は・・・・自惚れかもしれないけれど、アリエスにそれなりには信用されていたと思うんだ。だけど、本当は何も知らなかったのかもしれない。語り部さんは、『アリエスは昔の友人の手を取った』って言ってた。つまりそれは、アリエスは自分の意思で行ったってことで・・・・・・・・だから、本当は、アリエスを追わないほうがいいのかもしれない。けど、僕は・・・・・・・・」


ユア;少年、武装錬金の台詞じゃないが、『最後まで貫き通せた信念に偽りなど何一つ無い』だ。
   ルピナスが、揺らぎかけてようと信じるもの信じたいって言う気持ちが塵一個分でもあるんなら、信じやがれ、少年!!
久遠:武装錬金の科白だし、ルピ君青年だし、突っ込みどころ多過ぎ。
ユア;でも、否定できる?
久遠:できないわね。
   ファイトよ、ルピ君。

> この同じ空の下に、アリエスは確かにいるのだろう。もしかしたら今、同じ空を見上げているのかもしれない。けれど、「だからいい」とはルピナスには言えなかった。アリエスに、傍にいてほしい。出来ることなら、笑っていてほしい。アリエスが抱えているものを、共に持たせてほしい。・・・・・・・・同じ時の中を、共に歩いてゆきたい。
>「・・・・・・ったのに・・・・」
> 掠れた声は本当に小さく、しかし、ガウリイの耳にははっきりと届いた。
>「支えあうくらいは出来るって、言ったのに・・・・・・・・」
> ガウリイは、炎を見つめたまま。小さく呻いて俯いたルピナスが落ち着くのを待って、ガウリイは口を開いた。
>「俺は難しいことはわからんし、アリエスってやつも知らんが・・・・・・・・いいんじゃないか?それで。」
> ルピナスは、僅かに顔を上げた。
>「オレは、リナの保護者になると決めたから、リナと一緒にいる。あんたも、アリエスってやつの傍にいるって決めたなら、傍にいりゃいいじゃないか。」
>「・・・・・・・・それは、エゴだと思うけど。」
>「?エゴって何だ?」
> 落ち込んでいなかったら、ルピナスは派手にこけていたことだろう。とりあえず説明するが、その声にも覇気はない。
>「エゴイズム、利己主義・・・・まあ、自分よければ全てよし、ってことさ。」
>「そうかなぁ?だって、止められないものは仕方ないだろ?」


久遠:ガウリィちゃん、只の脳みそクラゲの凄腕剣士じゃなかったのね。
ユア;あのね・・・・・。
   でも、ガウリィらしい意見ですね。
久遠:だから、もう少し、自信を持ちなさい、ルピ君。

> 語り部は小さく呟くと、何かを思いついて自らの胸に手を押し当てる。ぼんやりした銀の輝きが語り部を包み、一瞬の後にその輝きが消えたときには、語り部の姿は僅かに変化していた。
> 容姿自体は大きく変わったわけではない。ただ、淡い青灰色だった瞳から青みが抜けて、銀に近い淡灰色になっている。服装は、少々古風ではあるが何処にでも売っていそうな旅装束。ただし、マントではなくケープを着ており、右足の、自然に手を下ろせば指が届くであろう辺りに、タロットカードくらいの大きさのカードが50枚近く入りそうなカードホルダーが括りつけられているのが、奇妙といえば奇妙だった。
> この姿に与えられた名は、ルシル=グラディウス。『放浪の語り部』の仮の姿のひとつ。


ユア;きゃあvv
久遠:語り部ちゃんのルシルちゃんヴァージョンね。
   ・・・・でも、乙女チックに喜ばない方がいいわよ。
   せめて、感嘆符で、話さないの。

>「ごめんね、リブラ。結局、君の願いどおりには行かなかったよ。」
> 意識自体は、語り部と同一だ。それならば、別に姿をわざわざ変える必要もないのでは?と思うかもしれない。しかし、語り部は『ルシル』として、リブラの前に立ちたかった。
>「もう少ししたら、アリエスを迎えに行くよ。・・・・大人しく来てくれないかもしれないけど・・・・って、こう言うと思いっきり悪役みたいだね。」
> そう言って小さく笑い、語り部は改めて紫苑の花を手向けると、立ち上がって言った。
>「いってきます。」
> そうして、語り部は踵を返して歩き出す。
>
>(いってらっしゃい、ルシル。気をつけてね。)
> 懐かしい友の声が、聞こえた気がした。

ユア;・・・・・・
久遠;なんか、短いけど、いい話よね。
ユア;私は、感動した。
   彼の決意に、彼らの友愛に。
久遠:はいはい、叫ばないの。

>
> あとがき、或いは語り部の告げる未来
>語:やあ、今回はどうだったかな?僕も久しぶりに本編で、裏方ではなく登場できたよ。
>  さて、そろそろ第4部も終わりに近づいてきた。近い未来の断片を、語ろう。
>   終わりを知るからこそ、優しくなれる。
>   始まりを思うからこそ、穏やかになれる。
>   つかの間の平和を破る鐘は、全てを押し流す流れを告げる。
>   再び、同じ大地に立つときが来た・・・・。
>  次回、『時の旅人』40話、『再開の鐘の音』
> じゃあ、またね!
>

ユア;楽しく読ませていただきました。
久遠;ユアちゃんの方のこっちの更新は、週末になりそうだから、朱琉チャンが見れるのは来週になりそう。
二人:では、乞うご期待。
   そして、次回を楽しみにしてます。
   では、次回で。

>

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17600恐らく、ガウリイにしか言えない事でしょう羅城 朱琉 2006/4/20 08:51:59
記事番号17598へのコメント


>
>> こんにちは、羅城 朱琉です。
>> さてさて、ついにルピナスサイド最終話!この次にアリエスサイドを1話挟み、ついに2つの話が合流します。
>> では、早速どうぞ!
>
>ユア:こんにちは、ユアっす。
>久遠;楽しみねぇ。
>ユア;では、レス行きます!!
朱琉:こんにちは、羅城 朱琉です。
アミイ:ようやくここまで行き着いた、って感じよね。
朱琉:実習続きで更新速度は遅いですが、頑張るのです。では、早速返レスです。

>
>
>>
>> それから後、何冊か本を読んだはずなのだが、ほとんど記憶に残っていない。麻痺した心の中で僅かに空腹と眠気を覚え、呆然としたまま、ルピナスは書庫を後にした。その間、時間の経過に気付くことはなかったらしく、外は既に真っ暗で、空には満天の星が広がっている。
>>「おー!やっと来たのか。」
>> 皆はもう眠ってしまったらしい。荒野の真ん中の焚火の前に座り、火の番をしていたガウリイが、ルピナスに声をかけた。ルピナスが「ええ」と言おうと思った刹那・・・・目の前を薔薇色の光が覆った。眩しさに一瞬目を閉じて、次に目を開いたときには、視線が少し高くなっていた。どうやら、日が改まったらしい。
>
>ユア;・・・・よく体力持ちますね。
>久遠:そう言う問題?
>ユア:・・・・・なんにせよ、アリエス思うが故・・・ですかね。
>   うちのアルト君には、そう言うガッツあまり縁がないですし、ルピ君&ルピ嬢ご苦労様。
アミイ:体力云々は、実はルピ君が日替わりで変身することに関係があったり。
朱琉:でもまあ、それが無くてもルピ君&ルピ嬢はやってくれるかと。

>
>
>> ルピナスは、何とはなしにガウリイに言ってみた。
>>「僕は・・・・自惚れかもしれないけれど、アリエスにそれなりには信用されていたと思うんだ。だけど、本当は何も知らなかったのかもしれない。語り部さんは、『アリエスは昔の友人の手を取った』って言ってた。つまりそれは、アリエスは自分の意思で行ったってことで・・・・・・・・だから、本当は、アリエスを追わないほうがいいのかもしれない。けど、僕は・・・・・・・・」
>
>
>ユア;少年、武装錬金の台詞じゃないが、『最後まで貫き通せた信念に偽りなど何一つ無い』だ。
>   ルピナスが、揺らぎかけてようと信じるもの信じたいって言う気持ちが塵一個分でもあるんなら、信じやがれ、少年!!
>久遠:武装錬金の科白だし、ルピ君青年だし、突っ込みどころ多過ぎ。
>ユア;でも、否定できる?
>久遠:できないわね。
>   ファイトよ、ルピ君。
アミイ:そうよ!君が信じなくてどうするって言うの?
朱琉:それでも、信じがたいこと山ほど見た後ですからねぇ・・・・。
アミイ:だからこそ、よ。

>
>> この同じ空の下に、アリエスは確かにいるのだろう。もしかしたら今、同じ空を見上げているのかもしれない。けれど、「だからいい」とはルピナスには言えなかった。アリエスに、傍にいてほしい。出来ることなら、笑っていてほしい。アリエスが抱えているものを、共に持たせてほしい。・・・・・・・・同じ時の中を、共に歩いてゆきたい。
>>「・・・・・・ったのに・・・・」
>> 掠れた声は本当に小さく、しかし、ガウリイの耳にははっきりと届いた。
>>「支えあうくらいは出来るって、言ったのに・・・・・・・・」
>> ガウリイは、炎を見つめたまま。小さく呻いて俯いたルピナスが落ち着くのを待って、ガウリイは口を開いた。
>>「俺は難しいことはわからんし、アリエスってやつも知らんが・・・・・・・・いいんじゃないか?それで。」
>> ルピナスは、僅かに顔を上げた。
>>「オレは、リナの保護者になると決めたから、リナと一緒にいる。あんたも、アリエスってやつの傍にいるって決めたなら、傍にいりゃいいじゃないか。」
>>「・・・・・・・・それは、エゴだと思うけど。」
>>「?エゴって何だ?」
>> 落ち込んでいなかったら、ルピナスは派手にこけていたことだろう。とりあえず説明するが、その声にも覇気はない。
>>「エゴイズム、利己主義・・・・まあ、自分よければ全てよし、ってことさ。」
>>「そうかなぁ?だって、止められないものは仕方ないだろ?」
>
>
>久遠:ガウリィちゃん、只の脳みそクラゲの凄腕剣士じゃなかったのね。
>ユア;あのね・・・・・。
>   でも、ガウリィらしい意見ですね。
>久遠:だから、もう少し、自信を持ちなさい、ルピ君。
アミイ:ガウリイは基本的にはくらげさんなんだけど、大切なことはちゃんと掴んでると思うわよ。
朱琉:それに、こういうことはガウリイにしか言えないでしょう。何しろ、リナの自称・保護者ですから。
アミイ:リナちゃんも最初は迷惑がってたけど、今はあのとおりなんだから。君も頑張りなさい、ルピ君。

>
>> 語り部は小さく呟くと、何かを思いついて自らの胸に手を押し当てる。ぼんやりした銀の輝きが語り部を包み、一瞬の後にその輝きが消えたときには、語り部の姿は僅かに変化していた。
>> 容姿自体は大きく変わったわけではない。ただ、淡い青灰色だった瞳から青みが抜けて、銀に近い淡灰色になっている。服装は、少々古風ではあるが何処にでも売っていそうな旅装束。ただし、マントではなくケープを着ており、右足の、自然に手を下ろせば指が届くであろう辺りに、タロットカードくらいの大きさのカードが50枚近く入りそうなカードホルダーが括りつけられているのが、奇妙といえば奇妙だった。
>> この姿に与えられた名は、ルシル=グラディウス。『放浪の語り部』の仮の姿のひとつ。
>
>
>ユア;きゃあvv
>久遠:語り部ちゃんのルシルちゃんヴァージョンね。
>   ・・・・でも、乙女チックに喜ばない方がいいわよ。
>   せめて、感嘆符で、話さないの。
朱琉:語り部さん・1000年前の降魔戦争時バージョンです!
アミイ:結局、いつか書くわけ?降魔戦争もの。
朱琉:さあ・・・・。設定はあるので、手が空いたら・・・・
アミイ:曖昧ねぇ。

>
>>「ごめんね、リブラ。結局、君の願いどおりには行かなかったよ。」
>> 意識自体は、語り部と同一だ。それならば、別に姿をわざわざ変える必要もないのでは?と思うかもしれない。しかし、語り部は『ルシル』として、リブラの前に立ちたかった。
>>「もう少ししたら、アリエスを迎えに行くよ。・・・・大人しく来てくれないかもしれないけど・・・・って、こう言うと思いっきり悪役みたいだね。」
>> そう言って小さく笑い、語り部は改めて紫苑の花を手向けると、立ち上がって言った。
>>「いってきます。」
>> そうして、語り部は踵を返して歩き出す。
>>
>>(いってらっしゃい、ルシル。気をつけてね。)
>> 懐かしい友の声が、聞こえた気がした。
>
>ユア;・・・・・・
>久遠;なんか、短いけど、いい話よね。
>ユア;私は、感動した。
>   彼の決意に、彼らの友愛に。
>久遠:はいはい、叫ばないの。
朱琉:リブラやリアネスといった四大家始祖と語り部さんとの間には、確かに硬い友情が存在しました。
アミイ:『今の』四大家じゃないところがミソね。

>
>>
>> あとがき、或いは語り部の告げる未来
>>語:やあ、今回はどうだったかな?僕も久しぶりに本編で、裏方ではなく登場できたよ。
>>  さて、そろそろ第4部も終わりに近づいてきた。近い未来の断片を、語ろう。
>>   終わりを知るからこそ、優しくなれる。
>>   始まりを思うからこそ、穏やかになれる。
>>   つかの間の平和を破る鐘は、全てを押し流す流れを告げる。
>>   再び、同じ大地に立つときが来た・・・・。
>>  次回、『時の旅人』40話、『再開の鐘の音』
>> じゃあ、またね!
>>
>
>ユア;楽しく読ませていただきました。
>久遠;ユアちゃんの方のこっちの更新は、週末になりそうだから、朱琉チャンが見れるのは来週になりそう。
>二人:では、乞うご期待。
>   そして、次回を楽しみにしてます。
>   では、次回で。
朱琉:はい、では、また!
二人:またね!
>
>>

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17608時の旅人 40:再開の鐘の音羅城 朱琉 2006/4/24 08:20:52
記事番号17571へのコメント

 こんにちは、羅城 朱琉です。
 『時の旅人』もついに40話、今回は、アリエスサイドの最終話です。次回からは、ようやく話が合流します!
 では、早速どうぞ!




  時の旅人

  40:再開の鐘の音

 長い髪を梳り、腰の辺りで一つに束ねる。何年も何十年も、気の遠くなるほどの回数をこなしてきた、朝の決まった作業。しかし、今日は少し違った。その最中、髪を縛る布が小さな音を立てて破れたのだった。中央辺りで真っ二つに裂けた色褪せた桜色の布を、アリエスは少し寂しげに見つめる。
「これ、気に入っていたんですけどね・・・・。・・・・・・・・『あの時』から変わらず持っているものは、あとはこの剣だけですか。」
 そうして、机の上に置かれた二振りの剣を見やる。銀の拵えにアストランティアの花の意匠が刻まれた『銀晶輝』と、柄に小さな宝石の護符(ジュエルズ・アミュレット)の付けられたダガー。その存在を確認するかのように、アリエスは鏡台の前から立ち上がり、そっとそれらに手を触れた。
「私の身の回りに常に置いておいただけあって、長持ちしましたけど・・・・やはり、完全に不朽となったわけではないようですね。・・・・さて、この髪をどうしましょうか・・・・」
 そうして、何か髪留めになるものはないかと探しては見たものの、悲しいかな、ここへ来て日が浅く、それまでもずっと旅の空だったアリエスに、余分なものはなかった。諦めて髪を後ろに流すと、何かを思いついて、裂けた桜色の布を更に細く裂いてゆく。次に、胸元の金属の鎖と、涙滴形の赤い石・・・・封印護符(シール・アミュレット)の付いたチョーカーを取り出した。金属鎖の先に留められたのは、マジックアイテム並の値段がするであろう、大粒のアレキサンドライト・キャッツアイ。しばらく前、バレンタインのお返しに、と、語り部から貰ったものだ。その鎖を外し、台座に少し加工を加えると、鎖を握りしめて小さく呪文を唱え、金と銀、2色の金属糸を1本ずつ作った。それと、先の桜色の布を、組み紐の要領で編みこんでいき、中央辺りでアレキサンドライト・キャッツアイ、編み終わりには封印護符(シール・アミュレット)を組み込んで、できあがり。時々付けている人を見かけることもある、腰に下げて使うファッション性に富んだ護符だ。アリエスは知らないことではあるが、アメリアが似たものを付けている。それをベルトに括りつけ、マントを羽織りブローチにもなるマント止めで左肩辺りで止める。ほんの僅かしかない荷物を纏めると、旅支度の完了である。
 ほんの数日しかいなかった部屋に小さく会釈をして、窓から外に出ようと・・・・・・・・
「アリエスちゃん、起きてる〜?」
 唐突に、部屋の外からかけられた声に、慌ててベッドの上に荷物を放り出すと、ドアの鍵を開け、顔を出した。そこにいたのは、数人の少女達。
「起きていますが、何か?確か・・・・ユキナさん、セシリアさん、ジュジュさん、キラさん・・・・でしたよね?」
「記憶力いいねぇ!あたしなんか、10回くらい聞かないと覚えられなくってさ。」
 人好きする笑顔で笑うセシリアが、アリエスの服装に目を留めて、訝しげな顔になった。
「あれ?何だってそんな、『今から旅に出ます』、な格好してるの?」
「・・・・・・・・癖です。」
 あからさまに、しぶしぶと、といった感じながら、嘘には聞こえない口調でアリエスは言う。セシリアはそれで納得したようで、「そっか」といった。
「それで、私に何か用があるのですか?」
「心配してたんですよ〜?一昨日一日、寝込んでたって聞きました〜。」
 ほえほえした口調と、周囲の緊張感を根こそぎ取り去っていくような笑顔で、ジュジュが続けた。
「それは・・・・ありがとうございます。少し疲れていただけですから、もう大丈夫ですよ。」
「なら〜、いいんですけど〜・・・・気をつけてくださいね〜。」
「そうじゃぞ、自らを過信すれば、時として大事に至る故にな。」
 これが、心配されている、と言うことなのだろう。アリエスは、なぜだか何となく微笑ましい気分になった。だからなのだろう。普段からすれば、非常にらしくないことを口走ったのは。
「・・・・・・・・中、入りますか?」
「いいの?いやぁ、立ち話もなんだろうとは思ってたのよ。」
 そうして、皆が部屋の中に入る。そして、しばし、他愛のない話に耽ることになった。

 きっと、ここにいるのは今日が最後だから。だから、優しくなれるのだろう。


     *     *     *     *     *


「・・・・今日、かな?」
 自由宮殿(フリーダム・パレス)のほぼ中央に位置する『聖石の間』。そこに、ミュシカはひとり、立ち尽くしていた。眼前には、蒼い光を湛えた宝玉・・・・聖石が浮かんでいる。
「私も、今日は動かないとねぇ・・・・。『あの方』も来るだろうし・・・・。・・・・・・・・どう足掻いても、やっぱり『運命の流れ』は止まらないのかなぁ?フェリセさんだって、どこまで解ってるやら。・・・・『聖石の使徒の一員・ミュシカ』としては、言うべきじゃないのかもだけど、まぁ、いいか。どうせ、『ミュシカ』でいるのも今日までだし。」
 ぶつぶつと呟きつつ、黒マントの内から手を伸ばす。白く細い指先が聖石に触れると、一瞬聖石が輝き、ミュシカの手の内に納まった。
「さあて・・・・魔道士エリチェによって創られしもの、``聖石’’の名を冠せし宝玉よ。本来の名と共に、真の役目を思い出しなさい。私は、お前の主の意を継ぐ者の命により、お前を使用する。」
 ミュシカの言葉に答えて、聖石が強い輝きを発した。それを見て、ミュシカは少し苦々しそうに言った。
「ちぇっ。まだまだ不安定じゃない、これ・・・・。まあいいわ。あと少しだけど、時間はある・・・・。」


     *     *     *     *     *


 朝方だというのに薄暗い部屋の内に、数人の男女が集っていた。『聖石の使徒』盟主・フェリセ=ニーランデル。『三賢人(トリニティ)』ロキ=コンス、レスティナ=フェンテン、キサラ=シリュウ。そして、メノウ=ファンディ=フェアレイシェと、シュリア=クィンロン=ラズランディアだ。
「それで、聞きたいことって何?」
 フェリセの問いに、メノウは語気荒く言った。
「何もカニもありませんわ!何故、あのような『魔物憑き』を身内に入れたのか聞きたいだけのこと。」
「『魔物憑き』・・・・?」
「あの、ラーナという者ですわ!」
「アリエスのこと?・・・・どういうことか、詳しく聞かせてもらいましょうか?」
 メノウは、不審げな目をフェリセに向けつつ、それでも語る。
「何故、気付きませんの?あれほどの瘴気を内に抱え込んでいるというのに・・・・。あれではまるで、魔王が人間の振りをしているようですわ!」
「へぇ。あんたは気付かなかったってわけか?」
 面白そうにフェリセに言うロキに対し、反論したのはキサラだった。
「その事に関してですが、問題の人物アリエスは、『封魔体質』という特殊な体質の持ち主です。これは、あらゆる魔・瘴気をその身の内に溜め込んでしまうという体質であり、500年以上生きているアリエスであれば、多量の瘴気を抱えていても不思議ではありません。」
 ロキの鋭い視線がキサラに突き刺さる。毎度の事ながら険悪な雰囲気に突入しようとする二人に、レスティナはもう何度目になるかわからぬ溜息をついた。それから、フェリセに言う。
「あちきは、その『アリエス』が何者であろうと気にしやしません。それでも、納得のいく説明はしてほしいでおやすね。」
「アリエスは『封魔体質』。それ以上の理由はないでしょう?」
 短くフェリセは答えるが、レスティナは納得していない。更なる問いを重ねた。
「それだけじゃないでござんしょう?あちきの見立てでは、アリエスの内の瘴気の量は、人が抱えきれるものではないでおやすね。この世界の7分の1の魔王以上の瘴気を抱え込んでおりやす。それが・・・・」
 レスティナの言葉が、途切れた。

 その瞬間、『自由宮殿(フリーダム・パレス)』を強い揺れが襲った。
 その直後、全体に響き渡る鐘の音・・・・侵入者警報。


     *     *     *     *     *


 足元が覚束なくなっても不思議ではないような揺れの中、ミュシカは聖石を抱きしめたまま、平然と立っていた。揺れが収まってくると、ミュシカはゆっくりと目を開ける。目深に被ったフードの隙間から僅かに垣間見られた瞳は・・・・金と銀のオッドアイ。
 ミュシカは、静かに・・・・しかし、深い歓喜の滲んだ声で、告げた。

「ついに、始まった。」
 と。

 あとがき、或いは語り部の告げる未来
語:やあ!時の旅人第40話、どうだったかな?次回からは話も合流するし、やっと、一気に進み始めるよ。
  さて、それでは語るとしよう。近い未来の一欠を・・・・。
   捜し求めた乙女と同じ地に、彼らは降り立った。
   しかし、行く手は阻まれる。乙女と語りし者によって。
   揮われる刃は、彼らに何を見せるのか?
   そして、刃の先には何が待つのか・・・・
  次回、『時の旅人』41話、『信念の刃』
 じゃあ、またね!


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17611・・・・成長なんでしょうか?十叶 夕海 2006/4/24 22:42:49
記事番号17608へのコメント


> こんにちは、羅城 朱琉です。
> 『時の旅人』もついに40話、今回は、アリエスサイドの最終話です。次回からは、ようやく話が合流します!
> では、早速どうぞ!

ユア:こんにちは、ユアです。
久遠;いよいよよね。
ユア;では、早速レスいきます。


>
> そうして、何か髪留めになるものはないかと探しては見たものの、悲しいかな、ここへ来て日が浅く、それまでもずっと旅の空だったアリエスに、余分なものはなかった。諦めて髪を後ろに流すと、何かを思いついて、裂けた桜色の布を更に細く裂いてゆく。次に、胸元の金属の鎖と、涙滴形の赤い石・・・・封印護符(シール・アミュレット)の付いたチョーカーを取り出した。金属鎖の先に留められたのは、マジックアイテム並の値段がするであろう、大粒のアレキサンドライト・キャッツアイ。しばらく前、バレンタインのお返しに、と、語り部から貰ったものだ。その鎖を外し、台座に少し加工を加えると、鎖を握りしめて小さく呪文を唱え、金と銀、2色の金属糸を1本ずつ作った。それと、先の桜色の布を、組み紐の要領で編みこんでいき、中央辺りでアレキサンドライト・キャッツアイ、編み終わりには封印護符(シール・アミュレット)を組み込んで、できあがり。時々付けている人を見かけることもある、腰に下げて使うファッション性に富んだ護符だ。アリエスは知らないことではあるが、アメリアが似たものを付けている。それをベルトに括りつけ、マントを羽織りブローチにもなるマント止めで左肩辺りで止める。ほんの僅かしかない荷物を纏めると、旅支度の完了である。

ユア;アリエス嬢、起用ですね、裁縫系統の意味で。
久遠;ユアちゃん、料理系はまだしも、裁縫系統は壊滅的だもんね。
ユア;・・・・うっ。




>
>
>     *     *     *     *     *
>
>
> 朝方だというのに薄暗い部屋の内に、数人の男女が集っていた。『聖石の使徒』盟主・フェリセ=ニーランデル。『三賢人(トリニティ)』ロキ=コンス、レスティナ=フェンテン、キサラ=シリュウ。そして、メノウ=ファンディ=フェアレイシェと、シュリア=クィンロン=ラズランディアだ。
>「それで、聞きたいことって何?」
> フェリセの問いに、メノウは語気荒く言った。
>「何もカニもありませんわ!何故、あのような『魔物憑き』を身内に入れたのか聞きたいだけのこと。」
>「『魔物憑き』・・・・?」
>「あの、ラーナという者ですわ!」
>「アリエスのこと?・・・・どういうことか、詳しく聞かせてもらいましょうか?」
> メノウは、不審げな目をフェリセに向けつつ、それでも語る。
>「何故、気付きませんの?あれほどの瘴気を内に抱え込んでいるというのに・・・・。あれではまるで、魔王が人間の振りをしているようですわ!」
>「へぇ。あんたは気付かなかったってわけか?」
> 面白そうにフェリセに言うロキに対し、反論したのはキサラだった。
>「その事に関してですが、問題の人物アリエスは、『封魔体質』という特殊な体質の持ち主です。これは、あらゆる魔・瘴気をその身の内に溜め込んでしまうという体質であり、500年以上生きているアリエスであれば、多量の瘴気を抱えていても不思議ではありません。」


ユア;納得。
久遠:そうよね、人間でも、普通に生きていれば、そういうものよね。

> ロキの鋭い視線がキサラに突き刺さる。毎度の事ながら険悪な雰囲気に突入しようとする二人に、レスティナはもう何度目になるかわからぬ溜息をついた。それから、フェリセに言う。
>「あちきは、その『アリエス』が何者であろうと気にしやしません。それでも、納得のいく説明はしてほしいでおやすね。」
>「アリエスは『封魔体質』。それ以上の理由はないでしょう?」
> 短くフェリセは答えるが、レスティナは納得していない。更なる問いを重ねた。
>「それだけじゃないでござんしょう?あちきの見立てでは、アリエスの内の瘴気の量は、人が抱えきれるものではないでおやすね。この世界の7分の1の魔王以上の瘴気を抱え込んでおりやす。それが・・・・」
> レスティナの言葉が、途切れた。
>


ユア;ノリでいうなら、欠片を一個以上持っているに等しい・・・・・。
久遠;それを数百年って・・・・
ユア;あああ、ここできるなんて、羅城さんって、話し上手!!


>
> あとがき、或いは語り部の告げる未来
>語:やあ!時の旅人第40話、どうだったかな?次回からは話も合流するし、やっと、一気に進み始めるよ。
>  さて、それでは語るとしよう。近い未来の一欠を・・・・。
>   捜し求めた乙女と同じ地に、彼らは降り立った。
>   しかし、行く手は阻まれる。乙女と語りし者によって。
>   揮われる刃は、彼らに何を見せるのか?
>   そして、刃の先には何が待つのか・・・・
>  次回、『時の旅人』41話、『信念の刃』
> じゃあ、またね!


ユア;はい、熱烈激烈本気に、次回を心から楽しみにしています。
久遠:微妙に、暴走してるわよ。
二人;ともかく、また次回。

>
>

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17612恐らく、ある意味では。羅城 朱琉 2006/4/25 08:34:45
記事番号17611へのコメント


>
>> こんにちは、羅城 朱琉です。
>> 『時の旅人』もついに40話、今回は、アリエスサイドの最終話です。次回からは、ようやく話が合流します!
>> では、早速どうぞ!
>
>ユア:こんにちは、ユアです。
>久遠;いよいよよね。
>ユア;では、早速レスいきます。
朱琉:こんにちは、早速ですが、返レスです。

>
>
>>
>> そうして、何か髪留めになるものはないかと探しては見たものの、悲しいかな、ここへ来て日が浅く、それまでもずっと旅の空だったアリエスに、余分なものはなかった。諦めて髪を後ろに流すと、何かを思いついて、裂けた桜色の布を更に細く裂いてゆく。次に、胸元の金属の鎖と、涙滴形の赤い石・・・・封印護符(シール・アミュレット)の付いたチョーカーを取り出した。金属鎖の先に留められたのは、マジックアイテム並の値段がするであろう、大粒のアレキサンドライト・キャッツアイ。しばらく前、バレンタインのお返しに、と、語り部から貰ったものだ。その鎖を外し、台座に少し加工を加えると、鎖を握りしめて小さく呪文を唱え、金と銀、2色の金属糸を1本ずつ作った。それと、先の桜色の布を、組み紐の要領で編みこんでいき、中央辺りでアレキサンドライト・キャッツアイ、編み終わりには封印護符(シール・アミュレット)を組み込んで、できあがり。時々付けている人を見かけることもある、腰に下げて使うファッション性に富んだ護符だ。アリエスは知らないことではあるが、アメリアが似たものを付けている。それをベルトに括りつけ、マントを羽織りブローチにもなるマント止めで左肩辺りで止める。ほんの僅かしかない荷物を纏めると、旅支度の完了である。
>
>ユア;アリエス嬢、起用ですね、裁縫系統の意味で。
>久遠;ユアちゃん、料理系はまだしも、裁縫系統は壊滅的だもんね。
>ユア;・・・・うっ。
アミイ:旅が長いしね。ちょっとした繕い物とかは、ほとんど必須技能だし。まあ、それにしても器用すぎるって言うか、多才って言うか・・・・
朱琉:何と言うか・・・・本編に全く関わりの無い裏話なんですけど、アリエスは昔(フェリセ&ユヴェルと旅していたとき)、路銀稼ぎに簡単なアクセサリー兼アミュレットを作っては、近くの店に売りに行っていたということがありまして・・・・
アミイ:・・・・話に深みを持たせるため、裏設定を作るのはわかるけどさ・・・・そんなしょーもない所でまで裏作ってどうするのよ?

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>> 朝方だというのに薄暗い部屋の内に、数人の男女が集っていた。『聖石の使徒』盟主・フェリセ=ニーランデル。『三賢人(トリニティ)』ロキ=コンス、レスティナ=フェンテン、キサラ=シリュウ。そして、メノウ=ファンディ=フェアレイシェと、シュリア=クィンロン=ラズランディアだ。
>>「それで、聞きたいことって何?」
>> フェリセの問いに、メノウは語気荒く言った。
>>「何もカニもありませんわ!何故、あのような『魔物憑き』を身内に入れたのか聞きたいだけのこと。」
>>「『魔物憑き』・・・・?」
>>「あの、ラーナという者ですわ!」
>>「アリエスのこと?・・・・どういうことか、詳しく聞かせてもらいましょうか?」
>> メノウは、不審げな目をフェリセに向けつつ、それでも語る。
>>「何故、気付きませんの?あれほどの瘴気を内に抱え込んでいるというのに・・・・。あれではまるで、魔王が人間の振りをしているようですわ!」
>>「へぇ。あんたは気付かなかったってわけか?」
>> 面白そうにフェリセに言うロキに対し、反論したのはキサラだった。
>>「その事に関してですが、問題の人物アリエスは、『封魔体質』という特殊な体質の持ち主です。これは、あらゆる魔・瘴気をその身の内に溜め込んでしまうという体質であり、500年以上生きているアリエスであれば、多量の瘴気を抱えていても不思議ではありません。」
>
>
>ユア;納得。
>久遠:そうよね、人間でも、普通に生きていれば、そういうものよね。
アミイ:・・・・・・・・普通?
朱琉:普通よりは、抱えてる瘴気の量は多いですが、まあ、納得のいく範疇かと。
アミイ:ふぅん・・・・(意味ありげな眼差し)

>
>> ロキの鋭い視線がキサラに突き刺さる。毎度の事ながら険悪な雰囲気に突入しようとする二人に、レスティナはもう何度目になるかわからぬ溜息をついた。それから、フェリセに言う。
>>「あちきは、その『アリエス』が何者であろうと気にしやしません。それでも、納得のいく説明はしてほしいでおやすね。」
>>「アリエスは『封魔体質』。それ以上の理由はないでしょう?」
>> 短くフェリセは答えるが、レスティナは納得していない。更なる問いを重ねた。
>>「それだけじゃないでござんしょう?あちきの見立てでは、アリエスの内の瘴気の量は、人が抱えきれるものではないでおやすね。この世界の7分の1の魔王以上の瘴気を抱え込んでおりやす。それが・・・・」
>> レスティナの言葉が、途切れた。
>>
>
>
>ユア;ノリでいうなら、欠片を一個以上持っているに等しい・・・・・。
>久遠;それを数百年って・・・・
>ユア;あああ、ここできるなんて、羅城さんって、話し上手!!
朱琉:その防衛策としての封印護符(シール・アミュレット)ですし、時間止まっていますし・・・・
アミイ:封印護符、って・・・・あれ、第2部でちらっと出てきただけのアイテムじゃなかったのねぇ。
朱琉:もちろん。あれがあって、アリエスは欠片1個以上の瘴気を抱えていられるんですから。
アミイ:へぇ・・・・

>
>
>>
>> あとがき、或いは語り部の告げる未来
>>語:やあ!時の旅人第40話、どうだったかな?次回からは話も合流するし、やっと、一気に進み始めるよ。
>>  さて、それでは語るとしよう。近い未来の一欠を・・・・。
>>   捜し求めた乙女と同じ地に、彼らは降り立った。
>>   しかし、行く手は阻まれる。乙女と語りし者によって。
>>   揮われる刃は、彼らに何を見せるのか?
>>   そして、刃の先には何が待つのか・・・・
>>  次回、『時の旅人』41話、『信念の刃』
>> じゃあ、またね!
>
>
>ユア;はい、熱烈激烈本気に、次回を心から楽しみにしています。
>久遠:微妙に、暴走してるわよ。
>二人;ともかく、また次回。
朱琉:はい、なるべく早くお目にかけれるよう、頑張ります。
アミイ:でも、多分来週よね?
朱琉:・・・・多分。
アミイ:まあ、頑張りなさいよ!じゃあ、今回はこの辺でね!
二人:では、また!
>
>>
>>

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17618時の旅人 41:信念の刃羅城 朱琉 2006/5/1 08:18:48
記事番号17571へのコメント

 こんにちは、羅城 朱琉です。
 最近は、すっかり週に1話のペースが板についてしまいました。このままだと、完結はいったいいつになるやら・・・・
 さて、では、ようやくアリエスサイドとルピナスサイドが合流した・・・・でも、出会っていない・・・・今回です。どうぞ!




  時の旅人

  41:信念の刃

 朝日が昇って間もない頃、語り部は皆を前に言った。
「じゃあ、行くよ。皆、覚悟はいいかな?」
 当たり前、とばかりに皆は頷く。それを満足げな風に見渡し、語り部は宣言した。
「では、これより『自由宮殿(フリーダム・パレス)』への侵入を開始するよ。全員、一塊になって、全力で風の結界を張ってね。」
「わかったけど・・・・語り部さんはどうするんだ?」
「僕が送る。全員を瞬間移動で送ることは出来ないから、ちょっと手荒な手段になるけど・・・・まあ、風の結界をキッチリ張っていれば、大丈夫。」
 にっこりと笑う語り部に、一部の人は壮絶な不安を覚えたが、何分時間も無い。大人しくそれに従うことにした。
「・・・・と、その前に、これを。レンとルピナス・・・・あとはリナに。」
 と、唐突に思い出したかのように語り部が何かを差し出した。それは、銀色をした金属製のカード。掌よりも少し大きいくらいの・・・・ちょうど、タロットカードくらいの大きさだ。
「何、これ?」
 不思議そうなリナの問いかけに、語り部はあっさり言った。
「マジックアイテムの一種。時の魔法を込めてあるから、いざと言うときに使うといい。効力は、一定範囲・・・・半径5mくらいの空間の時をかき乱すというもの。結論から言うと、その中にあるものは、塵も残さず消滅する。」
 それを聞いて、全員・・・・特に、カードを託されたレン、ルピナス、リナは顔を蒼くする。
「ちょ・・・・そんな、物騒な・・・・」
「そのくらいの装備は必要だよ。向こうにはフェリセがいるんだから。」
「フェリセって・・・・確か、アリエスの昔の友人?」
「そう。あ、そのカードを発動させるときは、それを持って『イグナイト』って唱えればいいから。さあさあ、時間も無い。早く風の結界を!」
 釈然としないながらも促されるままに皆は風の結界を張っていく。何重にも重ね張りされた結界は、そんじょそこらの攻撃呪文ではびくともしないほどの強度となっていた。語り部は、それを確認して満足げに頷くと、数歩離れて天を指差した。
「Veni 《E-lucido》」
 言葉と共に、語り部の指先に小さな光が灯った・・・・と思ったその瞬間、上空から轟音が響いた。風の結界の中にいてすら、耳を塞ぐほどの音は、恐らく、結界の外では、物理的な衝撃すら伴っているだろう。その証拠に、語り部の髪と着衣は突風に煽られたようにたなびいている。しかし、語り部はそんな中でも、相変わらず微笑んでいた。そして、天を指差していたのとは逆の手で風の結界を示すと、また、意味不明の呪文と思しき言葉を言う。
「Veni 《Aura》」
 その瞬間、彼らは風の結界ごと、上空に打ち出された。思わず集中が解けそうなほどのGの中、ルピナスは見た。天空の一角・・・・先ほどまでは、ただ青空が広がっていただけのはずだったその場所に、巨大な『何か』があることを。
 浮遊する大地、聳え立つ白亜の宮殿。・・・・『聖石の使徒』の本拠地、『自由宮殿(フリーダム・パレス)』。
 そのまま浮遊する大地に叩きつけられることもなく、彼らはそこに降り立った。アリエスと、同じ大地に。


     *     *     *     *     *


「きゃぁっ!何よこれぇっ!?」
 突如として『自由宮殿』を襲った衝撃に、アリエスはふと予感めいたものを覚えた。椅子に、バランスの悪い座り方をしていたセシリアが、椅子から落ちて悲鳴を上げる。その後間髪いれずに鳴り響いた鐘に、アリエス以外の全員の顔が強張った。
「侵入者警報!?嘘でしょ?どうやったらここに入ってこれるって言うのよ!?」
「落ち着くのじゃな。何にしろ、情報が足りぬ。無闇に動くは得策とは・・・・」
 キラが言い切る前に、その横を淡灰色が通り過ぎた。・・・・ジュジュである。止める間もあらばこそ、ジュジュはほとんどドアを壊すような勢いで開けると、ドアの脇に立てかけてあった巨大ハルバートを引っつかみ、部屋の外で『伏せ』の体勢で大人しくしていたガルムに飛び乗り、物凄い勢いで駆けていく。
 あっけにとられるアリエスの横で、ユキナがぽつりと言った。
「ジュジュ・・・・まさか、本気だったの?」
「どういう意味でしょう?」
 何となく気にかかり問うたアリエスに、ユキナは答える。
「あの子、前に言ってたのよ。『何かあった時は、私は先鋒で戦います。絶対に、誰も傷つけさせません』・・・・って。その時は、気にも止めなかったんだけど・・・・」
 心を掠めた予感と、ジュジュの誓い。アリエスは、何かに突き動かされるように走り出した。


     *     *     *     *     *


 カンカンと鳴り響く鐘の音が、まず耳についた。目の前に広がるのは、優しい香りの漂う花畑と、白い東屋。これが本当に、何かの組織の本拠地かと疑いたくなるような、そんな場所だった。
「ここが?」
 不思議そうなリナの声。ルピナスも、少々首を捻らざるを得なかった。しかし、そんな中でただ独り、レンだけは自信を持って頷いた。
「ええ、間違いありません。ここが『自由宮殿』。アリエスは確かにここにいます。」

「なるほど〜。狙いはアリエスさんですか〜・・・・。」
 唐突に、声が振ってきた。見れば、横手の屋根の上に黒い影。それが、身をたわめてジャンプし、彼らの前に降り立った。
 あえて言うのであれば、ミスマッチ、というのが第一印象である。声の主は、その周囲の緊張感を根こそぎ奪っていく声に相応しい、おっとりした可愛らしい少女である。しかし、その少女が乗っているのは、まごうこと無きモンスターであるガルム。更には、その少女が手に持つものは、力自慢の戦士ですら、扱いに苦労しそうな長大なハルバート。少女・・・・ジュジュは、ガルムの上からすとんと降りて、彼ら6人を睨みつけた。
「アリエスさんとあなた方が〜、どのような関係にあるのかは知りません〜。でもぉ、私には〜、あなた方がここに侵入してきた、その事実だけで十分です〜。」
 こんなときでも、ジュジュは間延びした口調で場の緊張感を削いでいく。それでも、語られている内容は十分に物騒で・・・・
「ですから〜・・・・今すぐ出て行ってもらいますねぇ〜。」
 瞬間、風が動いた。
 その一撃を、リナが避けられたのは、奇跡と言って差し支えないだろう。とっさに横に飛んだリナの、その一瞬前にいた位置には、ジュジュのハルバートが振り下ろされていた。
「あぁ〜、今のを避けますか〜・・・・。凄いですねぇ。やっぱり、あなたが一番強いですか〜?」
 そう言って、しかしそれほど残念そうではなく、ジュジュは再びハルバートを持ち上げる。リナには持ち上げることも出来ないようなそれを、リナより小さく見えるその少女は、片手で軽々と持ち上げた。
 そして再び、死の旋風が巻き起こる。目で追える速度ではないそれを、しかし間に割り込んだガウリイはかろうじて止めた。しかし・・・・
「邪魔です〜っ・・・・よぉ!」
 力任せになぎ払われた一撃に、ガウリイの体は弾き飛ばされ、宙を舞う。その向こうで、ゼルとアメリアがガルムに阻まれながら、加勢をしようとして失敗している。
 一体、この華奢な体のどこにそんな力があるのか・・・・。場違いにも、リナはそう思った。
「終わりですぅ!」
 一瞬、見えたのは、巨大なハルバートを振りかぶるジュジュの影。そして・・・・
「『影縛り(シャドウ・スナップ)』!」
「『霊縛符(ラファス・シード)』。」
 ジュジュの動きが止まった。ルピナスとレン、二人のかけた、二通りの術の効果によって。
「リナさん、今のうちに!ルピナスも・・・・!恐らく、アリエスはこの奥に!」
 レンが叫び、再び呪文を唱え始める。今度は、ガルムに対して。
 それを見てルピナスは頷き、リナはガウリイに声をかけ、3人は、そのまま奥へと走り出した。

 『霊縛符(ラファス・シード)』がかかっている以上、小一時間は動けもしないし呪文も使えない。レンはそう思い、ジュジュに背を向けて呪文を唱え始めた。ゼルとアメリアもいる以上、ガルム1匹くらい、すぐに片付くだろう。そう思い、呪文を放とうとした、その刹那・・・・アメリアが、レンのほうを向いて、叫んだ。
「レンシェルマさん、後ろ!」
 その声に反応する暇も無く・・・・レンは、後ろから飛来した光に貫かれた。

 ゆっくりと、レンが倒れていく。その後ろから現れたのは、手に光の残滓を纏わりつかせた少女・・・・ジュジュ。
「戦いの最中に背を向けるなんて〜、甘い人ですねぇ〜。」
 なんでもないことのように、ジュジュは言った。
「どうして・・・・呪文は使えないはずなのに・・・・」
 か細い声で、アメリアが呟く。そういえば、『影縛り(シャドウ・スナップ)』に使われたスローイング・ダガーも、未だ影に突き立っているのに・・・・
「あぁ、これですかぁ〜?こんなもの・・・・」
 と、言うなり、スローイング・ダガーが、地面から押し出されていく。・・・・いや、正確に言えば、影からだ。ゼルとアメリアは、この現象を見たことがあった。・・・・魔族に、『影縛り(シャドウ・スナップ)』をかけたときに。
 完全に、影からスローイング・ダガーが押し出された。澄んだ音を立てて地面に転がったそれを、ゼルとアメリアは呆然とした面持ちで見つめる。
「魔族・・・・・・・・」
 呻くように言ったゼルに対し、ジュジュは少し不機嫌そうに返した。
「失礼な〜。私は、ジュジュ=ラルフィーネ。れっきとした人間ですよぉ。まあ〜、普通より、精神世界面(アストラル・サイド)に多く干渉できますけどぉ・・・・。」
 ジュジュは、何気ない足取りで奥への道を塞いだ。退路を断つように、後ろにガルムが回りこむ。はっと気付いたアメリアがレンに駆け寄ったが、それに関してどうこうする気はなさそうだった。
「レンシェルマさん・・・・レンシェルマさん!」
 アメリアが、レンを揺り動かす。貫かれた箇所に傷は見られない。恐らくは、精神系の呪文だったのだろう。・・・・と、レンが小さく呻いて意識を取り戻した。
「大・・・・丈夫、です・・・・」
 よろめきながらも、自分の足で立ち上がったレンを見て、ジュジュは驚いたような声を上げる。
「私の烈閃槍(エルメキア・ランス)を受けてぇ、すぐ気がつくなんて〜・・・・。あなたも、只者じゃありませんねぇ〜・・・・?」
 ジュジュは軽く首を振って、ハルバートを構えなおした。
「まぁ、いいです〜。どちらにしろ〜、すぐに倒して、奥へ行った3人も、何とかしないといけませんからね〜。」
 相変わらず間延びした、それでも、十分に殺気のこもった声で、ジュジュは戦いの再開を宣言した。
「遊びは終わりですぅ。」

 あとがき、或いは語り部の告げる未来
語:やあ、こんにちは!『時の旅人』41話、どうだったかな?
  長かった第4部も終わりが見えてきて。これから更に加速する物語を、どうか見守っていてほしいな。
  では、近い未来の一欠けを語ろう。
   戦う意味は、人それぞれ。強さの意味も、人それぞれ。
   少女が揮う刃は、『敵』を倒せるものなのか?
   戦いの果てに見えるものは、無知ゆえの、悲しい真実。
   そして、その一方で、再会のときは迫る・・・・
  次回、『時の旅人』42話、『悲しい強さ』
  じゃあ、また会おうね!


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17622・・・・・両方の意味で強いですね。十叶 夕海 2006/5/1 21:36:37
記事番号17618へのコメント


> こんにちは、羅城 朱琉です。
> 最近は、すっかり週に1話のペースが板についてしまいました。このままだと、完結はいったいいつになるやら・・・・
> さて、では、ようやくアリエスサイドとルピナスサイドが合流した・・・・でも、出会っていない・・・・今回です。どうぞ!


ユア;はぁい、了解しました。
久遠;にやけてるわね。
ユア;講義中に、再読して、もだえてるの心配されたぐらいだから。
久遠;・・・・・・レスいきましょ。


>「・・・・と、その前に、これを。レンとルピナス・・・・あとはリナに。」
> と、唐突に思い出したかのように語り部が何かを差し出した。それは、銀色をした金属製のカード。掌よりも少し大きいくらいの・・・・ちょうど、タロットカードくらいの大きさだ。

ユア;結構大きいタロットサイズなんですね。
久遠;そう?
ユア;小さいのは、ちょっとしたマッチ箱サイズから、大きいのは、普通のコミックスサイズまで、様々だし。
   一つの占いの道具としては、多種多様なのです。

>「何、これ?」
> 不思議そうなリナの問いかけに、語り部はあっさり言った。
>「マジックアイテムの一種。時の魔法を込めてあるから、いざと言うときに使うといい。効力は、一定範囲・・・・半径5mくらいの空間の時をかき乱すというもの。結論から言うと、その中にあるものは、塵も残さず消滅する。」
> それを聞いて、全員・・・・特に、カードを託されたレン、ルピナス、リナは顔を蒼くする。
>「ちょ・・・・そんな、物騒な・・・・」
>「そのくらいの装備は必要だよ。向こうにはフェリセがいるんだから。」
>「フェリセって・・・・確か、アリエスの昔の友人?」
>「そう。あ、そのカードを発動させるときは、それを持って『イグナイト』って唱えればいいから。さあさあ、時間も無い。早く風の結界を!」


久遠;ちょっと、語り部ちゃん、それってある意味、小型爆弾並みに物騒じゃない。
ユア:考えなしに、渡してる訳じゃないから、まだいいじゃないですか。
久遠;なんか、物騒な話考えたわね。
ユア;それは、『家族の写真』のルシルさんが、語り部さんと同一ということから生まれたエピソードです。
  ああと、羅城さん、この辺りのカードの設定使っていいですか、家族の写真に?



>
>
>「きゃぁっ!何よこれぇっ!?」
> 突如として『自由宮殿』を襲った衝撃に、アリエスはふと予感めいたものを覚えた。椅子に、バランスの悪い座り方をしていたセシリアが、椅子から落ちて悲鳴を上げる。その後間髪いれずに鳴り響いた鐘に、アリエス以外の全員の顔が強張った。
>「侵入者警報!?嘘でしょ?どうやったらここに入ってこれるって言うのよ!?」
>「落ち着くのじゃな。何にしろ、情報が足りぬ。無闇に動くは得策とは・・・・」
> キラが言い切る前に、その横を淡灰色が通り過ぎた。・・・・ジュジュである。止める間もあらばこそ、ジュジュはほとんどドアを壊すような勢いで開けると、ドアの脇に立てかけてあった巨大ハルバートを引っつかみ、部屋の外で『伏せ』の体勢で大人しくしていたガルムに飛び乗り、物凄い勢いで駆けていく。
> あっけにとられるアリエスの横で、ユキナがぽつりと言った。
>「ジュジュ・・・・まさか、本気だったの?」
>「どういう意味でしょう?」
> 何となく気にかかり問うたアリエスに、ユキナは答える。
>「あの子、前に言ってたのよ。『何かあった時は、私は先鋒で戦います。絶対に、誰も傷つけさせません』・・・・って。その時は、気にも止めなかったんだけど・・・・」
> 心を掠めた予感と、ジュジュの誓い。アリエスは、何かに突き動かされるように走り出した。

ユア;ジュジュ・・・ナツメでしたっけ?
久遠;それにしても、ジュジュちゃん、いい子よぉ。
   『私は先鋒で戦います。誰も傷つけさせません。』なんて、言えても、実行できないわよ。
ユア;そうだけど。
   先鋒云々は、ともかく、誰も傷つけさせないって。
   先鋒としては、難しいわよ。
久遠;そうよね、一番相手の戦力が充実している時だもんね。



>
> 『霊縛符(ラファス・シード)』がかかっている以上、小一時間は動けもしないし呪文も使えない。レンはそう思い、ジュジュに背を向けて呪文を唱え始めた。ゼルとアメリアもいる以上、ガルム1匹くらい、すぐに片付くだろう。そう思い、呪文を放とうとした、その刹那・・・・アメリアが、レンのほうを向いて、叫んだ。
>「レンシェルマさん、後ろ!」
> その声に反応する暇も無く・・・・レンは、後ろから飛来した光に貫かれた。


久遠;きゃあぁぁ、レンシェルマちゃん!!
   ユアちゃん、ユアちゃん、レンシェルマちゃんが〜!!?
ユア;わかったから、首絞めるな、意識が飛ぶ・・・・
久遠;でも、レンシェルマちゃんがぁ〜


>「失礼な〜。私は、ジュジュ=ラルフィーネ。れっきとした人間ですよぉ。まあ〜、普通より、精神世界面(アストラル・サイド)に多く干渉できますけどぉ・・・・。」
> ジュジュは、何気ない足取りで奥への道を塞いだ。退路を断つように、後ろにガルムが回りこむ。はっと気付いたアメリアがレンに駆け寄ったが、それに関してどうこうする気はなさそうだった。
>「レンシェルマさん・・・・レンシェルマさん!」
> アメリアが、レンを揺り動かす。貫かれた箇所に傷は見られない。恐らくは、精神系の呪文だったのだろう。・・・・と、レンが小さく呻いて意識を取り戻した。
>「大・・・・丈夫、です・・・・」
> よろめきながらも、自分の足で立ち上がったレンを見て、ジュジュは驚いたような声を上げる。
>「私の烈閃槍(エルメキア・ランス)を受けてぇ、すぐ気がつくなんて〜・・・・。あなたも、只者じゃありませんねぇ〜・・・・?」
> ジュジュは軽く首を振って、ハルバートを構えなおした。

ユア;ほら・・・生きてたろ・・・・(その前に私が死ぬ・・・・・)
久遠;・・・・ほんと、よかったわ、レンシェルマちゃん。
   ・・・・・・・・・・ユアちゃん?
   気絶しちゃってるわ、しょうがないわね、ユアちゃんたら。


>
> あとがき、或いは語り部の告げる未来
>語:やあ、こんにちは!『時の旅人』41話、どうだったかな?
>  長かった第4部も終わりが見えてきて。これから更に加速する物語を、どうか見守っていてほしいな。
>  では、近い未来の一欠けを語ろう。
>   戦う意味は、人それぞれ。強さの意味も、人それぞれ。
>   少女が揮う刃は、『敵』を倒せるものなのか?
>   戦いの果てに見えるものは、無知ゆえの、悲しい真実。
>   そして、その一方で、再会のときは迫る・・・・
>  次回、『時の旅人』42話、『悲しい強さ』
>  じゃあ、また会おうね!
>
>
久遠;次回も楽しみにしてるわ(ちゅっと投げキッス)
   ユアちゃん、おねんねしてけど、同じだと思うわ。
   それじゃ、次回でね。

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17624でも、その強さの理由が問題なんです。羅城 朱琉 2006/5/2 08:46:59
記事番号17622へのコメント


>
>> こんにちは、羅城 朱琉です。
>> 最近は、すっかり週に1話のペースが板についてしまいました。このままだと、完結はいったいいつになるやら・・・・
>> さて、では、ようやくアリエスサイドとルピナスサイドが合流した・・・・でも、出会っていない・・・・今回です。どうぞ!
>
>
>ユア;はぁい、了解しました。
>久遠;にやけてるわね。
>ユア;講義中に、再読して、もだえてるの心配されたぐらいだから。
>久遠;・・・・・・レスいきましょ。
朱琉:こんにちは、羅城 朱琉です。そう言っていただけて、本当に光栄です!
アミイ:ちゃんと、物語でそれを返さないとね。
朱琉:頑張ります。・・・・次回はほとんどバトルシーンなので、難航していますが・・・・。
 では、返レス参ります!

>
>
>>「・・・・と、その前に、これを。レンとルピナス・・・・あとはリナに。」
>> と、唐突に思い出したかのように語り部が何かを差し出した。それは、銀色をした金属製のカード。掌よりも少し大きいくらいの・・・・ちょうど、タロットカードくらいの大きさだ。
>
>ユア;結構大きいタロットサイズなんですね。
>久遠;そう?
>ユア;小さいのは、ちょっとしたマッチ箱サイズから、大きいのは、普通のコミックスサイズまで、様々だし。
>   一つの占いの道具としては、多種多様なのです。
朱琉:そこまでサイズ多かったんですねぇ・・・・。私の手持ちのタロットカードが、語り部さんの持ってたカードのサイズになっていますから。
アミイ:調査不足ね。まあ、指の間に挟んで振り回せる&ナイフ投げの要領で投げられるサイズということで。

>
>>「何、これ?」
>> 不思議そうなリナの問いかけに、語り部はあっさり言った。
>>「マジックアイテムの一種。時の魔法を込めてあるから、いざと言うときに使うといい。効力は、一定範囲・・・・半径5mくらいの空間の時をかき乱すというもの。結論から言うと、その中にあるものは、塵も残さず消滅する。」
>> それを聞いて、全員・・・・特に、カードを託されたレン、ルピナス、リナは顔を蒼くする。
>>「ちょ・・・・そんな、物騒な・・・・」
>>「そのくらいの装備は必要だよ。向こうにはフェリセがいるんだから。」
>>「フェリセって・・・・確か、アリエスの昔の友人?」
>>「そう。あ、そのカードを発動させるときは、それを持って『イグナイト』って唱えればいいから。さあさあ、時間も無い。早く風の結界を!」
>
>
>久遠;ちょっと、語り部ちゃん、それってある意味、小型爆弾並みに物騒じゃない。
>ユア:考えなしに、渡してる訳じゃないから、まだいいじゃないですか。
>久遠;なんか、物騒な話考えたわね。
>ユア;それは、『家族の写真』のルシルさんが、語り部さんと同一ということから生まれたエピソードです。
>  ああと、羅城さん、この辺りのカードの設定使っていいですか、家族の写真に?
朱琉:どうぞどうぞ。詳しい設定いりますか?
アミイ:カードにまで『詳しい設定』があるわけ(呆)
朱琉:だってこれ、語り部さんが1000年前に使っていた得物ですから。
アミイ:・・・・というか、聞くまでも無く説明しておけば?
朱琉:それもそうですね。

名称:正式名称は無い(語り部は、ただ単に『カード』とか、『封印符(シールズカード)』とか呼んでいる)
外見:銀色をした金属性のカード。語り部オリジナルは縁が研ぎ澄ましてあって、ナイフとしても使用可。
効果:
・一枚に付き一つ、魔法を封じ込めておける。
・封じた魔法は、『イグナイト』と唱えることで解放される。
・この際、魔法の効果の中心は以下のようになる。
 1)基本的に、カードのある位置が効果の中心
 2)ある程度の精神集中をする、もしくはあらかじめ対象の中心をずらすようにセットしておく(これは、カードに魔法をこめる際に行う)ことで、任意の位置で魔法を解放・発現させることができる。
・魔法を解放したカードは、再び魔法をチャージすることで再使用可能。


>
>
>
>>
>>
>>「きゃぁっ!何よこれぇっ!?」
>> 突如として『自由宮殿』を襲った衝撃に、アリエスはふと予感めいたものを覚えた。椅子に、バランスの悪い座り方をしていたセシリアが、椅子から落ちて悲鳴を上げる。その後間髪いれずに鳴り響いた鐘に、アリエス以外の全員の顔が強張った。
>>「侵入者警報!?嘘でしょ?どうやったらここに入ってこれるって言うのよ!?」
>>「落ち着くのじゃな。何にしろ、情報が足りぬ。無闇に動くは得策とは・・・・」
>> キラが言い切る前に、その横を淡灰色が通り過ぎた。・・・・ジュジュである。止める間もあらばこそ、ジュジュはほとんどドアを壊すような勢いで開けると、ドアの脇に立てかけてあった巨大ハルバートを引っつかみ、部屋の外で『伏せ』の体勢で大人しくしていたガルムに飛び乗り、物凄い勢いで駆けていく。
>> あっけにとられるアリエスの横で、ユキナがぽつりと言った。
>>「ジュジュ・・・・まさか、本気だったの?」
>>「どういう意味でしょう?」
>> 何となく気にかかり問うたアリエスに、ユキナは答える。
>>「あの子、前に言ってたのよ。『何かあった時は、私は先鋒で戦います。絶対に、誰も傷つけさせません』・・・・って。その時は、気にも止めなかったんだけど・・・・」
>> 心を掠めた予感と、ジュジュの誓い。アリエスは、何かに突き動かされるように走り出した。
>
>ユア;ジュジュ・・・ナツメでしたっけ?
>久遠;それにしても、ジュジュちゃん、いい子よぉ。
>   『私は先鋒で戦います。誰も傷つけさせません。』なんて、言えても、実行できないわよ。
>ユア;そうだけど。
>   先鋒云々は、ともかく、誰も傷つけさせないって。
>   先鋒としては、難しいわよ。
>久遠;そうよね、一番相手の戦力が充実している時だもんね。
朱琉:いえ、それは関係ありません。実はこのジュジュも元オリジナル小説のキャラでして、そのときの名前が『ジャスミン=ジュリアス、略してジュジュ』だったので、その名残です。
アミイ:今思うと、かなり無理のある略し方よね。
朱琉:それは言わないお約束!・・・・ジュジュは、自分の強さに自信を持っていますから。
アミイ:過信とは言わないのね?
朱琉:あくまで『自信』です。かなわないと思えば、全員が生き残れるよう、しんがりを務めつつさっさと逃げます。最終的に勝てばよし!という考えですね。
アミイ:それもまた、難しいことよねぇ。

>
>
>
>>
>> 『霊縛符(ラファス・シード)』がかかっている以上、小一時間は動けもしないし呪文も使えない。レンはそう思い、ジュジュに背を向けて呪文を唱え始めた。ゼルとアメリアもいる以上、ガルム1匹くらい、すぐに片付くだろう。そう思い、呪文を放とうとした、その刹那・・・・アメリアが、レンのほうを向いて、叫んだ。
>>「レンシェルマさん、後ろ!」
>> その声に反応する暇も無く・・・・レンは、後ろから飛来した光に貫かれた。
>
>
>久遠;きゃあぁぁ、レンシェルマちゃん!!
>   ユアちゃん、ユアちゃん、レンシェルマちゃんが〜!!?
>ユア;わかったから、首絞めるな、意識が飛ぶ・・・・
>久遠;でも、レンシェルマちゃんがぁ〜
アミイ:朱琉も、書いてるときに「あぁ〜レンさんごめんなさいごめんなさい〜!!!!」とか言ってたわね。
朱琉:だって・・・・手が動いたんですもの、こういう展開に向かって。

>
>
>>「失礼な〜。私は、ジュジュ=ラルフィーネ。れっきとした人間ですよぉ。まあ〜、普通より、精神世界面(アストラル・サイド)に多く干渉できますけどぉ・・・・。」
>> ジュジュは、何気ない足取りで奥への道を塞いだ。退路を断つように、後ろにガルムが回りこむ。はっと気付いたアメリアがレンに駆け寄ったが、それに関してどうこうする気はなさそうだった。
>>「レンシェルマさん・・・・レンシェルマさん!」
>> アメリアが、レンを揺り動かす。貫かれた箇所に傷は見られない。恐らくは、精神系の呪文だったのだろう。・・・・と、レンが小さく呻いて意識を取り戻した。
>>「大・・・・丈夫、です・・・・」
>> よろめきながらも、自分の足で立ち上がったレンを見て、ジュジュは驚いたような声を上げる。
>>「私の烈閃槍(エルメキア・ランス)を受けてぇ、すぐ気がつくなんて〜・・・・。あなたも、只者じゃありませんねぇ〜・・・・?」
>> ジュジュは軽く首を振って、ハルバートを構えなおした。
>
>ユア;ほら・・・生きてたろ・・・・(その前に私が死ぬ・・・・・)
>久遠;・・・・ほんと、よかったわ、レンシェルマちゃん。
>   ・・・・・・・・・・ユアちゃん?
>   気絶しちゃってるわ、しょうがないわね、ユアちゃんたら。
アミイ:当たり前じゃない!レンシェルマが死ぬようなこと、たとえ朱琉が許しても、この私が許さないわ!
朱琉:おっ・・・・落ち着いて〜アミイさん・・・・。

>
>
>>
>> あとがき、或いは語り部の告げる未来
>>語:やあ、こんにちは!『時の旅人』41話、どうだったかな?
>>  長かった第4部も終わりが見えてきて。これから更に加速する物語を、どうか見守っていてほしいな。
>>  では、近い未来の一欠けを語ろう。
>>   戦う意味は、人それぞれ。強さの意味も、人それぞれ。
>>   少女が揮う刃は、『敵』を倒せるものなのか?
>>   戦いの果てに見えるものは、無知ゆえの、悲しい真実。
>>   そして、その一方で、再会のときは迫る・・・・
>>  次回、『時の旅人』42話、『悲しい強さ』
>>  じゃあ、また会おうね!
>>
>>
>久遠;次回も楽しみにしてるわ(ちゅっと投げキッス)
>   ユアちゃん、おねんねしてけど、同じだと思うわ。
>   それじゃ、次回でね。
アミイ:ええ、また次回で会いましょうね、久遠ちゃん!
朱琉:十叶さんにも、どうぞよろしく。
二人:では、また!


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17626時の旅人 42:悲しい強さ羅城 朱琉 2006/5/8 08:19:18
記事番号17571へのコメント

 こんにちは、羅城 朱琉です。
 やっとここまで来ました!第4部は、今回除いてあと6話(番外編込み)です。あぁ、長かった・・・・
 では、早速どうぞ!




  時の旅人

  42:悲しい強さ

 このジュジュという少女は、一体何者なのか・・・・?それが3人の共通の疑問。しかし、それを意識に上らせるような暇を、ジュジュは与えてくれなかった。
 幾度となく襲い来る、疾風の如き斬撃。不規則に飛来する、魔術の光弾。それらを、ゼルは魔皇霊斬(アストラル・ヴァイン)を込めた剣で、アメリアは霊王結魔弾(ヴィスファランク)を込めた拳で、レンは、それ自体が何らかのマジックアイテムであるらしい錫杖で受け、かわし、応戦の機会を窺う。しかし、仮に一瞬ジュジュに隙が出来たとしても、ガルムがその隙を埋めるのだ。
「うぅ・・・・頑張りますね〜・・・・。」
 ぽつり、と、ジュジュが洩らすのが聞こえた。刹那の後、再びの斬撃。アメリアに向かって放たれたそれを、アメリアはその手で受け流そうとした。これまでの戦いでわかったのだが、ジュジュの持つハルバート自体には、何の魔力も篭っていない。だから、いかにその威力が凄まじいものであろうと、魔力を込めた拳ならば受け流すには十分足るものだった。・・・・・・・・その、はずだった。
 アメリアの拳と、ジュジュのハルバート・・・・その二つが触れ合う一瞬前のことだった。突如としてハルバートから衝撃波が発生する。それは、小柄なアメリアを吹き飛ばすには十分すぎる代物で・・・・体勢を崩したアメリアは、続くジュジュの光弾に貫かれる・・・・はずだったが、その光弾はとっさに投げ放たれたレンの錫杖と衝突し、消えた。
「今のは・・・・?」
 誰にともなしに、アメリアは呟いた。ハルバートに魔力は篭っていない。これは確かだ。しかし、今の衝撃波は一体・・・・・・・・、と。
「・・・・・・・・」
 アメリアには解らなかったその正体に、ゼルは気付いていた。今の衝撃波は、魔術でもなんでもない。ただ、刃の先端が音速を超えたことで発生した、純粋に物理的な衝撃波に過ぎなかったのだ。
 それに気付き、ゼルは密かに冷や汗を流した。この膂力、強大な魔力・・・・よくよく考えてみれば、魔術を使っているのに、呪文を唱えている様子が見えない・・・・これで、本当に人間なのだろうか?と、レンが何かを思い出したように、ぽつりと言った。
「この力・・・・そして、ラルフィーネの姓・・・・・・・・・・・・まさか、『魔に親しき民』・・・・!?」
 その呟きを聞きとめて、ジュジュはふと立ち止まった。それでも、やはり隙はできない。ジュジュは、その蘇芳色の瞳をレンに向ける。
「ご存知でしたか〜・・・・。確かに、私は『魔に親しき民』のラルフィーネですぅ。それを、恥じたりはしませんよ〜。ただぁ、千年も前のことで、いつまでも色々言われるのが気に食わないだけです〜。」
「『魔に親しき民』・・・・?」
 戦闘の最中ではあるものの、やはり疑問は疑問。不思議そうに呟いたアメリアの問いに答えたのは、意外にもジュジュ本人だった。
「魔族や魔物と仲良しさん、な家系です〜。降魔戦争の時、魔族に味方したのがきっかけみたいですね〜。」
 正確に言えば、『魔に親しき民』とは、魔族や魔物との意思疎通を行え、その力を自分のものとして利用できる、という能力を持つ家系である。人並みはずれた魔力と、体形に似合わぬ怪力の理由はそれだったのか、と、レンは密かに納得した。
「でもぉ〜、それが解ったところで〜、あなた方にはどうにもできません〜。」
 確かに、勝てる相手ではない。悲しいことに、レンはそれが理解できてしまった。そして・・・・・・・・
 ジュジュが再び足を動かした、その瞬間・・・・ジュジュの足元に赤い光が灯った。それは見る間に線を描き、レン、ゼル、アメリアをも取り込んで行く。そして、そこに出来上がったのは・・・・五紡星や六紡星、円、正方形、十字形などを組み合わせた複雑な魔法陣だった。
 最初は、それはジュジュの作ったものだと思った。・・・・・・・・しかし、どうにも様子がおかしい。
 まず、気付いたのはガルムの変化だった。まるで恐ろしいものから逃れるように、魔法陣の外へ出ようとし・・・・しかし、それは果たされない。何度も何度も無駄な突進を繰り返した挙句、ガルムはぐったりとして動かなくなった。
 そして、ジュジュ。彼女は、逃げようとはしなかった。・・・・いや、逃げることができなかった、と言ったほうが正しいだろう。今まで軽々と振り回していたハルバートを大地に取り落とし、失われた『何か』を探すように掌を見つめている。その体は小刻みに震えている・・・・まるで、無力な幼子のように。
「これは・・・・」
 零れ落ちた声は、誰のものだったのか?誰であっても変わるまい。それは、全員に共通の疑問。

 そして、ジュジュもまたくずおれる。あまりにあっけなく、ジュジュは無力化された。


     *     *     *     *     *


 ジュジュと皆との戦いが始まる少し前、アリエスは適度に部屋から離れた場所で足を止めていた。精神を集中し、心を解き放つ。半眼の瞳は何処も見ていない。水の中に漂うかのように、束ねられていない髪が揺らめいている。
 『先見』・・・・未来を覗き見るその力を発動しているのだ。
やがて、その瞳に光が戻ってきた。アリエスは、少し苦しそうな表情で腰に吊るした護符を外し、先端の赤い石・・・・封印護符(シール・アミュレット)を掲げる。光に透かすと、その中には複雑な魔法陣が浮かんでいた。
「『吹き行く風より虚ろきもの 流るる水より確かなるもの 遍く理よ 流れゆくもの 色姿なき時の王』」
 囁くような声が、アリエスの口から漏れる。紡ぐ呪文は、『時の魔法』。その形式は、つい先日ルピナスが唱えたものとは少し違っている。『刻みゆくもの』が『流れゆくもの』となっている。その差は、本当に小さなことなのだが・・・・『時』に関わるもののみが、その差をはっきり認識できた。
「『我、ここに汝に捧ぐ 我、ここに汝に祈る 闇無き世、調和の場 狂い無き秩序、永久の安定 求めるは紅、求めるは光 封縛の枷を与えんことを』・・・・縛鎖結魔界(シュヴァルツバイン)」
 呪文を唱えきり・・・・しかし、何も起こらない。・・・・この場では、だが。少し離れた場所に、薄ぼんやりと赤い光が見える。そう・・・・ジュジュとレンたちの戦いの場に。呪文が確かに効果を発揮したのを見て取ると、アリエスは誰にとも無く言った。
「魔王すら封じる魔封じです。・・・・レン、逃げてくださいよ・・・・」
 それだけ言うと、そちらから意識を逸らした。何しろ、これからアリエス自身に『お客様』が来るのだから。護符を腰に戻し、アリエスは静かに前を向いた。
 もうすぐ、『彼』が来る。その気配が近づいてくる。いくつも連なる分かれ道を間違える事無く、一直線に、ここへ向かって。
 アリエスは、口元をほんの少しだけ歪めた。自嘲するかのように、悲しむかのように。
「これも『運命』、ですか・・・・・・・・。」
 呟いた言葉は、誰の耳にも届くことは無かった。


     *     *     *     *     *


 ルピナスを先頭に、3人は白い廊下をひた走る。まるで何かに導かれるように、ルピナスは分かれ道でも一瞬たりとも足を止めず、ただ無心に走り続けていた。
「ねえ、この道であってるわけ?」
 走りながら、リナが言う。ルピナスは少し不安げながら、それでもはっきり頷いた。
「多分・・・・。何となく、わかる気がするんだ。」
 足の向くままに、心の指し示すままに、ルピナスは走りつつける。


 再会の時は、もう間近に迫っていた。

 あとがき、或いは語り部の告げる未来
語:やあ!今回はどうだったかな?意外とあっさりジュジュがやられたから、驚いている人もいるかも・・・・。
  まあ、実のところ、ジュジュを主役にした話を詳しく書こうと思うと、この『時の旅人』並の長編になるからねぇ・・・・。困ったものだよ、主人公の転用、って言うのは。
  さて、じゃあ、未来の一欠片を語ろうか?
   離れていた時は僅かなもの。それでも、その声は懐かしく響いた。
   議論の場は動乱の場に変わり、中枢はその意味を失くす。
   思惑と陰謀が錯綜する白亜の宮殿にて、今、再び彼らは出会うのだ。
   その先に待ち受ける言葉を、内に秘めたままで・・・・
  次回、『時の旅人』43話、『あいたい』
 じゃあ、またね!


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17628わずかだけれど、決定的な差・・・・・・十叶 夕海 2006/5/8 22:55:36
記事番号17626へのコメント


> こんにちは、羅城 朱琉です。
> やっとここまで来ました!第4部は、今回除いてあと6話(番外編込み)です。あぁ、長かった・・・・
> では、早速どうぞ!


ユア;こんにちは、ユアです。
久遠;それに、後八話でちょうど五十話ね。
ユア;では、レスいきます!!

>
>
>
>
>  時の旅人
>
>  42:悲しい強さ
>
> このジュジュという少女は、一体何者なのか・・・・?それが3人の共通の疑問。しかし、それを意識に上らせるような暇を、ジュジュは与えてくれなかった。
> 幾度となく襲い来る、疾風の如き斬撃。不規則に飛来する、魔術の光弾。それらを、ゼルは魔皇霊斬(アストラル・ヴァイン)を込めた剣で、アメリアは霊王結魔弾(ヴィスファランク)を込めた拳で、レンは、それ自体が何らかのマジックアイテムであるらしい錫杖で受け、かわし、応戦の機会を窺う。しかし、仮に一瞬ジュジュに隙が出来たとしても、ガルムがその隙を埋めるのだ。

ユア;攻防いったいですね。
久遠;・・・・魔法使いと戦士のコンビよね。
   ・・・・・・・・・お姉さんも戦いたい〜ぃ。
ユア;はいはい。


>「魔族や魔物と仲良しさん、な家系です〜。降魔戦争の時、魔族に味方したのがきっかけみたいですね〜。」
> 正確に言えば、『魔に親しき民』とは、魔族や魔物との意思疎通を行え、その力を自分のものとして利用できる、という能力を持つ家系である。人並みはずれた魔力と、体形に似合わぬ怪力の理由はそれだったのか、と、レンは密かに納得した。


久遠;獣使いの魔族・魔物ヴァージョン?
ユア;ニュアンスには、近いじゃないですか?


>
>
> ジュジュと皆との戦いが始まる少し前、アリエスは適度に部屋から離れた場所で足を止めていた。精神を集中し、心を解き放つ。半眼の瞳は何処も見ていない。水の中に漂うかのように、束ねられていない髪が揺らめいている。
> 『先見』・・・・未来を覗き見るその力を発動しているのだ。
>やがて、その瞳に光が戻ってきた。アリエスは、少し苦しそうな表情で腰に吊るした護符を外し、先端の赤い石・・・・封印護符(シール・アミュレット)を掲げる。光に透かすと、その中には複雑な魔法陣が浮かんでいた。
>「『吹き行く風より虚ろきもの 流るる水より確かなるもの 遍く理よ 流れゆくもの 色姿なき時の王』」
> 囁くような声が、アリエスの口から漏れる。紡ぐ呪文は、『時の魔法』。その形式は、つい先日ルピナスが唱えたものとは少し違っている。『刻みゆくもの』が『流れゆくもの』となっている。その差は、本当に小さなことなのだが・・・・『時』に関わるもののみが、その差をはっきり認識できた。


ユア:・・・・・些細なことですけど、大きいですね。
久遠;『刻みゆくもの』は、能動的で、『流れゆくもの』は、受動的な印象がして、少し、哀しいわ。

>
>
>     *     *     *     *     *
>
>
> ルピナスを先頭に、3人は白い廊下をひた走る。まるで何かに導かれるように、ルピナスは分かれ道でも一瞬たりとも足を止めず、ただ無心に走り続けていた。
>「ねえ、この道であってるわけ?」
> 走りながら、リナが言う。ルピナスは少し不安げながら、それでもはっきり頷いた。
>「多分・・・・。何となく、わかる気がするんだ。」
> 足の向くままに、心の指し示すままに、ルピナスは走りつつける。
>
>
> 再会の時は、もう間近に迫っていた。


ユア;ルピちゃん、まともでお母さん嬉しい!!
久遠;一途で、純よね。
   侮辱してる訳じゃないけど、純よね。
ユア;再会が何を生むかは分かりませんが、良く明るき未来につながりますように。

>
> あとがき、或いは語り部の告げる未来
>語:やあ!今回はどうだったかな?意外とあっさりジュジュがやられたから、驚いている人もいるかも・・・・。
>  まあ、実のところ、ジュジュを主役にした話を詳しく書こうと思うと、この『時の旅人』並の長編になるからねぇ・・・・。困ったものだよ、主人公の転用、って言うのは。
>  さて、じゃあ、未来の一欠片を語ろうか?
>   離れていた時は僅かなもの。それでも、その声は懐かしく響いた。
>   議論の場は動乱の場に変わり、中枢はその意味を失くす。
>   思惑と陰謀が錯綜する白亜の宮殿にて、今、再び彼らは出会うのだ。
>   その先に待ち受ける言葉を、内に秘めたままで・・・・
>  次回、『時の旅人』43話、『あいたい』
> じゃあ、またね!
>
>

久遠:楽しみにしてるわね。
ユア;アリエス嬢の後半部分は、レスしたら、暴走しそうでしたので、あえてしませんでした。
久遠;ともかく、またね。
二人;では、次回で。

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17629見抜かれてますねぇ・・・・(遠い目)羅城 朱琉 2006/5/9 08:51:36
記事番号17628へのコメント


>
>> こんにちは、羅城 朱琉です。
>> やっとここまで来ました!第4部は、今回除いてあと6話(番外編込み)です。あぁ、長かった・・・・
>> では、早速どうぞ!
>
>
>ユア;こんにちは、ユアです。
>久遠;それに、後八話でちょうど五十話ね。
>ユア;では、レスいきます!!
朱琉:こんにちは。
アミイ:4部が終わると、大体全体の半分くらい、って言ってたから・・・・全100話予定なわけ?
朱琉:予定は未定、ですが・・・・そのくらいはかかるかも。
アミイ:・・・・まあ、気長に付き合ってくれることを祈るしかないわね。じゃ、レス行きましょ!

>
>>
>>
>>
>>
>>  時の旅人
>>
>>  42:悲しい強さ
>>
>> このジュジュという少女は、一体何者なのか・・・・?それが3人の共通の疑問。しかし、それを意識に上らせるような暇を、ジュジュは与えてくれなかった。
>> 幾度となく襲い来る、疾風の如き斬撃。不規則に飛来する、魔術の光弾。それらを、ゼルは魔皇霊斬(アストラル・ヴァイン)を込めた剣で、アメリアは霊王結魔弾(ヴィスファランク)を込めた拳で、レンは、それ自体が何らかのマジックアイテムであるらしい錫杖で受け、かわし、応戦の機会を窺う。しかし、仮に一瞬ジュジュに隙が出来たとしても、ガルムがその隙を埋めるのだ。
>
>ユア;攻防いったいですね。
>久遠;・・・・魔法使いと戦士のコンビよね。
>   ・・・・・・・・・お姉さんも戦いたい〜ぃ。
>ユア;はいはい。
朱琉:イメージとしては・・・・ある程度の誤解覚悟で言うならば『ウォーリア/サモナー』でしょうか?
アミイ:何?それ・・・・
朱琉:TRPGアリアンロッドのクラス・・・・
アミイ:何というか、マイナーね・・・・。つまりは、ジュジュ=武闘派召喚師、ガルムのしゅーちゃん=召喚獣?
朱琉:おおむねそんなところです。

>
>
>>「魔族や魔物と仲良しさん、な家系です〜。降魔戦争の時、魔族に味方したのがきっかけみたいですね〜。」
>> 正確に言えば、『魔に親しき民』とは、魔族や魔物との意思疎通を行え、その力を自分のものとして利用できる、という能力を持つ家系である。人並みはずれた魔力と、体形に似合わぬ怪力の理由はそれだったのか、と、レンは密かに納得した。
>
>
>久遠;獣使いの魔族・魔物ヴァージョン?
>ユア;ニュアンスには、近いじゃないですか?
朱琉:ああ!それですそれです!
アミイ:自分のキャラでしょ?・・・・夕海ちゃんのほうが、遥かに説明上手よ?

>
>
>>
>>
>> ジュジュと皆との戦いが始まる少し前、アリエスは適度に部屋から離れた場所で足を止めていた。精神を集中し、心を解き放つ。半眼の瞳は何処も見ていない。水の中に漂うかのように、束ねられていない髪が揺らめいている。
>> 『先見』・・・・未来を覗き見るその力を発動しているのだ。
>>やがて、その瞳に光が戻ってきた。アリエスは、少し苦しそうな表情で腰に吊るした護符を外し、先端の赤い石・・・・封印護符(シール・アミュレット)を掲げる。光に透かすと、その中には複雑な魔法陣が浮かんでいた。
>>「『吹き行く風より虚ろきもの 流るる水より確かなるもの 遍く理よ 流れゆくもの 色姿なき時の王』」
>> 囁くような声が、アリエスの口から漏れる。紡ぐ呪文は、『時の魔法』。その形式は、つい先日ルピナスが唱えたものとは少し違っている。『刻みゆくもの』が『流れゆくもの』となっている。その差は、本当に小さなことなのだが・・・・『時』に関わるもののみが、その差をはっきり認識できた。
>
>
>ユア:・・・・・些細なことですけど、大きいですね。
>久遠;『刻みゆくもの』は、能動的で、『流れゆくもの』は、受動的な印象がして、少し、哀しいわ。
アミイ:受動的か能動的か・・・・で、さらにそこに込められた寂しさ・・・・ここまで見抜かれてるとは・・・・
朱琉:その解釈、大正解です。

>
>>
>>
>>     *     *     *     *     *
>>
>>
>> ルピナスを先頭に、3人は白い廊下をひた走る。まるで何かに導かれるように、ルピナスは分かれ道でも一瞬たりとも足を止めず、ただ無心に走り続けていた。
>>「ねえ、この道であってるわけ?」
>> 走りながら、リナが言う。ルピナスは少し不安げながら、それでもはっきり頷いた。
>>「多分・・・・。何となく、わかる気がするんだ。」
>> 足の向くままに、心の指し示すままに、ルピナスは走りつつける。
>>
>>
>> 再会の時は、もう間近に迫っていた。
>
>
>ユア;ルピちゃん、まともでお母さん嬉しい!!
>久遠;一途で、純よね。
>   侮辱してる訳じゃないけど、純よね。
>ユア;再会が何を生むかは分かりませんが、良く明るき未来につながりますように。
アミイ:・・・・(苦笑)
朱琉:あぁ〜!!ルピ君アリエスごめんなさいっ!!
アミイ:と、絶叫しているとおり、良く明るき未来は、もう少し後になりそうかも。
朱琉:うわぁぁぁん!ごめんなさい〜・・・・(涙)
アミイ:・・・・良心の呵責に耐え切れなくて壊れたかしら?

>
>>
>> あとがき、或いは語り部の告げる未来
>>語:やあ!今回はどうだったかな?意外とあっさりジュジュがやられたから、驚いている人もいるかも・・・・。
>>  まあ、実のところ、ジュジュを主役にした話を詳しく書こうと思うと、この『時の旅人』並の長編になるからねぇ・・・・。困ったものだよ、主人公の転用、って言うのは。
>>  さて、じゃあ、未来の一欠片を語ろうか?
>>   離れていた時は僅かなもの。それでも、その声は懐かしく響いた。
>>   議論の場は動乱の場に変わり、中枢はその意味を失くす。
>>   思惑と陰謀が錯綜する白亜の宮殿にて、今、再び彼らは出会うのだ。
>>   その先に待ち受ける言葉を、内に秘めたままで・・・・
>>  次回、『時の旅人』43話、『あいたい』
>> じゃあ、またね!
>>
>>
>
>久遠:楽しみにしてるわね。
>ユア;アリエス嬢の後半部分は、レスしたら、暴走しそうでしたので、あえてしませんでした。
>久遠;ともかく、またね。
>二人;では、次回で。
アミイ:はいはい、こちらも朱琉が暴走しちゃったので、今回は失礼するわね。
 じゃあ、また今度!


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17633時の旅人 43:あいたい羅城 朱琉 2006/5/13 11:40:46
記事番号17571へのコメント

 こんにちは、羅城 朱琉です。
 さて、ようやく再会です!しかしまあ、一筋縄でいかないのは相変わらず・・・・
 ここはもう、早速どうぞ!




  時の旅人

  43:あいたい

「戦闘可能要員は、南区画第2から第6エリアに向かいなさい!他は北口シェルターに順次避難を!」
 侵入者警報が届いて以来、そのまま指令所となった会議室に、フェリセの声が響いていた。『三賢人(トリニティ)』たちも、既に各々の役割についている。しかし・・・・あまり、その機能が果たされているとは言えなかった。
 情報が寸断され、命令は末端まで行き渡らない。蝶たちを使って、何とか指揮系統を回復しようとしているキサラが、はっと気付き言った。
「フェリセ様・・・・これは、明らかに妨害を受けています。」
「ええ、そうでしょうね・・・・。でも、私の通信網を乱すなんて、一体誰が・・・・」
 かり、と爪をかんで、フェリセは考えた。堕ちたりとはいえ、フェリセは仮にも元『混沌の王』である。その中でも『星天の紡ぎ手』といえば、特に伝達やネットワーク構築に長けていたというのに・・・・。
「・・・・まさか!」
 フェリセは、何かを思いついて顔を上げた。
「まさか、御大自ら登場してるんじゃないでしょうねぇ・・・・『輪転の女王(レジーナ・オブ・クロノス)』・・・・」


     *     *     *     *     *


 今は人通りの無い廊下を、ミュシカは悠然と歩いていた。その胸に淡く輝く『聖石』を抱いて、歩く。
 と、フードの奥の瞳が何かを見咎め、ミュシカは立ち止まる。その口元でにやりと笑い、ミュシカは、柱の影の人物に親しげに声をかけた。
「いやー、どうもお久しぶりですね、語り部さん。」
 白い衣が翻る。出てきた柱にもたれかかり、『放浪の語り部』は当たり前のように言った。
「やあ、久しいね。首尾はどうだい?」
 ミュシカはそれを聞き、またしてもにやりと笑った。
「まあまあね。悪くは無いわよ。・・・・ただまあ、『中枢予定表』の干渉は防げなかったけど、ね。」
「それでも、守っていてくれただろう?アリエスの心を。」
「・・・・まあ、ね。これでも私は『幻想』と『芸術』を司る幻神族ですから。『心』は私の得意分野よ。」
 語り部は、少しだけ口の端を歪める。素直じゃないなぁ、と思いつつ。
「これまで長い間、どうもありがとう。悪いけど、もう少しだけ・・・・もう少しだけ、偽り続けてほしい。」
「言われなくても。」
 ミュシカと語り部は、お互い意味ありげに笑いあった。


     *     *     *     *     *


 白い廊下を駆け抜けたその先は、広い中庭になっていた。
緩やかな風が草木を揺らし、緑の葉がさやさやとさざめく。小さいながらも『森』と呼べるであろうそこを、廊下から外に出たルピナスは迷う事無く奥に進んで言いった。リナがそれに続く。そして、ガウリイも。
「なあ、リナ・・・・何だか嫌な予感がするんだが・・・・」
 小さく、ガウリイは言う。しかしリナは、足を止めることはない。その視線はまっすぐに前を見つめている。・・・・まるで、戦いに臨んでいるときのように、厳しい瞳で。
「分かってるわよ。」
 リナは言った。リナは感じているのだ。離れていてもわかる膨大な魔力を。全てを拒むような冷たい気配を。そして・・・・それを感じて湧き上がる、ある種の本能的な『恐怖』を。その気配を呼び表す適切な言葉を、リナは知っていた・・・・これは、『瘴気』だ。
少し汗ばむほどの陽気の中、それでもリナは鳥肌を立てていた。ルピナスの勘を信じるならば、この先にいるのは『アリエス』と言うことになるのだろう。つまりは、このとても人間とは思えないような気配の持ち主がアリエス、ということ。にわかには信じられないことである。
 もちろん、この気配はルピナスも気付いているだろう。しかし、彼は立ち止まらない。怯みすらしていないように見える。少し足早に木立の間をすり抜け、森の奥の光差す場所へと歩む。
 薄暗がりを抜けた先は、日の光溢れる草原。そして、その光の恩恵を一身に浴びて・・・・
 『彼女』は、いた。
 長くまっすぐな銀の髪は、なぜか今日は結ばれていないけれど。
 いつも付けていた赤い石のチョーカーが、今日は無いけれど。
 日の光に染まった淡緑色の瞳。光そのもののような銀の髪。若葉に溶け込む若草色の貫頭衣、茶色のズボンとブーツ、黒いマント。
・・・・・・・・アリエス=オルフェーゼ=ラーナ。それが、彼女の名前。

「アリエス・・・・・・・・」
 感極まった声で、ルピナスがアリエスを呼んだ。離れていたのはほんの数日。なのに何故、こんなにも彼女が懐かしく愛おしいのだろう?
 ゆっくりと、アリエスの視線がこちらを向く。淡緑と空色の瞳が交錯する。
 その唇が動き、声が零れ落ちる。
「ルピナス・・・・」
 その声は・・・・・・・・あまりに平坦で。
 それはまるで、美しくも冷たい氷晶。
「どうして、来たの?」
 その瞳には微かに、しかし間違えようも無く・・・・・・・・『敵意』が滲んでいた。

 あとがき、或いは語り部の告げる未来
語:やあ!ようやくであった二人・・・・な今回、どうだったかな?
  今回、こんな終わり方をしておいて、次回はもっと酷いことを考えている朱琉って、一体何なんだろうねぇ?
  まあとにかく、次回の欠片を語ろうか。
   再会した乙女からかけられたのは、冷たい言葉。
   心を切り裂く言の葉の刃は、深い悲しみと怒りを生む。
   紡ぐ言葉のその裏で、乙女は何を思うのか・・・・?
   そして、悲しくも避けられぬ戦いが始まる。
  次回、『時の旅人』44話、『優しい嘘で絆を断って』
 じゃあ、また次回!

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17634・・・・・・根底には、『守りたい』があるんですね。十叶 夕海 2006/5/14 12:27:32
記事番号17633へのコメント

> こんにちは、羅城 朱琉です。
> さて、ようやく再会です!しかしまあ、一筋縄でいかないのは相変わらず・・・・
> ここはもう、早速どうぞ!


ユア:こんにちは、『文書作成』という授業の合間に、かこかこ『家族の写真外伝』書いてました。
久遠:エイレンちゃんとイルと語り部ちゃんの外伝は?
ユア;実家に忘れてきました。・・・書き直そうにもあの筋が一番気に入っているので。
久遠:冬のある日というより、夏のある日になりそうね。
ユア:レスいきます。



> かり、と爪をかんで、フェリセは考えた。堕ちたりとはいえ、フェリセは仮にも元『混沌の王』である。その中でも『星天の紡ぎ手』といえば、特に伝達やネットワーク構築に長けていたというのに・・・・。


ユア;ニュアンスで聞くのですが、『悪夢の王』がペンタゴンだとかの長官だとすれば、『星天の紡ぎ手』のCIAとかFBIだとかの長官とか対クラッカーのクラッカーなのに、強制侵入+乗っ取られたと?
久遠:分からない人には、分からない例えはやめなさいな。
ユア:じゃあ、KGBの長官?

>
>
> 今は人通りの無い廊下を、ミュシカは悠然と歩いていた。その胸に淡く輝く『聖石』を抱いて、歩く。
> と、フードの奥の瞳が何かを見咎め、ミュシカは立ち止まる。その口元でにやりと笑い、ミュシカは、柱の影の人物に親しげに声をかけた。
>「いやー、どうもお久しぶりですね、語り部さん。」
> 白い衣が翻る。出てきた柱にもたれかかり、『放浪の語り部』は当たり前のように言った。
>「やあ、久しいね。首尾はどうだい?」
> ミュシカはそれを聞き、またしてもにやりと笑った。
>「まあまあね。悪くは無いわよ。・・・・ただまあ、『中枢予定表』の干渉は防げなかったけど、ね。」
>「それでも、守っていてくれただろう?アリエスの心を。」
>「・・・・まあ、ね。これでも私は『幻想』と『芸術』を司る幻神族ですから。『心』は私の得意分野よ。」
> 語り部は、少しだけ口の端を歪める。素直じゃないなぁ、と思いつつ。
>「これまで長い間、どうもありがとう。悪いけど、もう少しだけ・・・・もう少しだけ、偽り続けてほしい。」
>「言われなくても。」
> ミュシカと語り部は、お互い意味ありげに笑いあった。
>


ユア:きゃああああぁあん。
久遠;ユアちゃん、こういう陰謀めいた会話も好きだし、それよりも、語り部ちゃんとミュシカちゃんの会話も好きだし、ダブルで好きだから、腰砕けまでは行かなくても、けっこうもだえてるわね。
ユア;だって、だって・・・


> 薄暗がりを抜けた先は、日の光溢れる草原。そして、その光の恩恵を一身に浴びて・・・・
> 『彼女』は、いた。
> 長くまっすぐな銀の髪は、なぜか今日は結ばれていないけれど。
> いつも付けていた赤い石のチョーカーが、今日は無いけれど。
> 日の光に染まった淡緑色の瞳。光そのもののような銀の髪。若葉に溶け込む若草色の貫頭衣、茶色のズボンとブーツ、黒いマント。
>・・・・・・・・アリエス=オルフェーゼ=ラーナ。それが、彼女の名前。
>
>「アリエス・・・・・・・・」
> 感極まった声で、ルピナスがアリエスを呼んだ。離れていたのはほんの数日。なのに何故、こんなにも彼女が懐かしく愛おしいのだろう?
> ゆっくりと、アリエスの視線がこちらを向く。淡緑と空色の瞳が交錯する。
> その唇が動き、声が零れ落ちる。
>「ルピナス・・・・」
> その声は・・・・・・・・あまりに平坦で。
> それはまるで、美しくも冷たい氷晶。
>「どうして、来たの?」
> その瞳には微かに、しかし間違えようも無く・・・・・・・・『敵意』が滲んでいた。

久遠:アリエスちゃん、操られていようとなんであろうとね、『自分』を迎えにきてくれた人物に対して、『敵意』は、無いんじゃない、『敵意』は!!
ユア:落ち着いてね、久遠。
   でも、今の表のアリエス嬢は、ともかく、心の原動力?としては、ルピくんやレンさんを大切に思う心が・・・・・あると信じたいです。

>
> あとがき、或いは語り部の告げる未来
>語:やあ!ようやくであった二人・・・・な今回、どうだったかな?
>  今回、こんな終わり方をしておいて、次回はもっと酷いことを考えている朱琉って、一体何なんだろうねぇ?
>  まあとにかく、次回の欠片を語ろうか。
>   再会した乙女からかけられたのは、冷たい言葉。
>   心を切り裂く言の葉の刃は、深い悲しみと怒りを生む。
>   紡ぐ言葉のその裏で、乙女は何を思うのか・・・・?
>   そして、悲しくも避けられぬ戦いが始まる。
>  次回、『時の旅人』44話、『優しい嘘で絆を断って』
> じゃあ、また次回!
>

ユア;アリエス嬢が、今回のルピくんへの対応で、次々回のアリエス&アルトのお話の展開が決まりました。
久遠:プロット名『35ー2』別称『アルトくん、夜這い物語』?
ユア;そうです。
   コメディというか、ほのぼのと言うか、それはやれるうちにやらないと。
二人;それでは、少々短いですが、今回は、これにて。
   さようなら!!

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17638守りたいから傷つける、という矛盾。羅城 朱琉 2006/5/15 08:33:36
記事番号17634へのコメント


>> こんにちは、羅城 朱琉です。
>> さて、ようやく再会です!しかしまあ、一筋縄でいかないのは相変わらず・・・・
>> ここはもう、早速どうぞ!
>
>
>ユア:こんにちは、『文書作成』という授業の合間に、かこかこ『家族の写真外伝』書いてました。
>久遠:エイレンちゃんとイルと語り部ちゃんの外伝は?
>ユア;実家に忘れてきました。・・・書き直そうにもあの筋が一番気に入っているので。
>久遠:冬のある日というより、夏のある日になりそうね。
>ユア:レスいきます。
朱琉:こんにちは。大抵、プロットを書くのは生理検査学の授業中な羅城 朱琉です。
アミイ:はいはいそれは置いといて。早速返レスに行きましょう。

>
>
>
>> かり、と爪をかんで、フェリセは考えた。堕ちたりとはいえ、フェリセは仮にも元『混沌の王』である。その中でも『星天の紡ぎ手』といえば、特に伝達やネットワーク構築に長けていたというのに・・・・。
>
>
>ユア;ニュアンスで聞くのですが、『悪夢の王』がペンタゴンだとかの長官だとすれば、『星天の紡ぎ手』のCIAとかFBIだとかの長官とか対クラッカーのクラッカーなのに、強制侵入+乗っ取られたと?
>久遠:分からない人には、分からない例えはやめなさいな。
>ユア:じゃあ、KGBの長官?
朱琉:えーっと・・・・
アミイ:朱琉は、わからない派ね。
朱琉:何と言うのか・・・・『星天の紡ぎ手』の支配方法は、ゲットバッカーズのMAKUBEXに近い感じで・・・・
アミイ:・・・・もっとわけわからなくなったわね。

>
>>
>>
>> 今は人通りの無い廊下を、ミュシカは悠然と歩いていた。その胸に淡く輝く『聖石』を抱いて、歩く。
>> と、フードの奥の瞳が何かを見咎め、ミュシカは立ち止まる。その口元でにやりと笑い、ミュシカは、柱の影の人物に親しげに声をかけた。
>>「いやー、どうもお久しぶりですね、語り部さん。」
>> 白い衣が翻る。出てきた柱にもたれかかり、『放浪の語り部』は当たり前のように言った。
>>「やあ、久しいね。首尾はどうだい?」
>> ミュシカはそれを聞き、またしてもにやりと笑った。
>>「まあまあね。悪くは無いわよ。・・・・ただまあ、『中枢予定表』の干渉は防げなかったけど、ね。」
>>「それでも、守っていてくれただろう?アリエスの心を。」
>>「・・・・まあ、ね。これでも私は『幻想』と『芸術』を司る幻神族ですから。『心』は私の得意分野よ。」
>> 語り部は、少しだけ口の端を歪める。素直じゃないなぁ、と思いつつ。
>>「これまで長い間、どうもありがとう。悪いけど、もう少しだけ・・・・もう少しだけ、偽り続けてほしい。」
>>「言われなくても。」
>> ミュシカと語り部は、お互い意味ありげに笑いあった。
>>
>
>
>ユア:きゃああああぁあん。
>久遠;ユアちゃん、こういう陰謀めいた会話も好きだし、それよりも、語り部ちゃんとミュシカちゃんの会話も好きだし、ダブルで好きだから、腰砕けまでは行かなくても、けっこうもだえてるわね。
>ユア;だって、だって・・・
朱琉:そういってもらえると嬉しいです。
アミイ:でも、まだまだなのよねvだって、『ミュシカ=××××』ってことを、まだ・・・・
朱琉:うぁぁぁっ!その辺は、多分もうあと数話で出ますから、ちょっと待ってくださいっ!

>
>
>> 薄暗がりを抜けた先は、日の光溢れる草原。そして、その光の恩恵を一身に浴びて・・・・
>> 『彼女』は、いた。
>> 長くまっすぐな銀の髪は、なぜか今日は結ばれていないけれど。
>> いつも付けていた赤い石のチョーカーが、今日は無いけれど。
>> 日の光に染まった淡緑色の瞳。光そのもののような銀の髪。若葉に溶け込む若草色の貫頭衣、茶色のズボンとブーツ、黒いマント。
>>・・・・・・・・アリエス=オルフェーゼ=ラーナ。それが、彼女の名前。
>>
>>「アリエス・・・・・・・・」
>> 感極まった声で、ルピナスがアリエスを呼んだ。離れていたのはほんの数日。なのに何故、こんなにも彼女が懐かしく愛おしいのだろう?
>> ゆっくりと、アリエスの視線がこちらを向く。淡緑と空色の瞳が交錯する。
>> その唇が動き、声が零れ落ちる。
>>「ルピナス・・・・」
>> その声は・・・・・・・・あまりに平坦で。
>> それはまるで、美しくも冷たい氷晶。
>>「どうして、来たの?」
>> その瞳には微かに、しかし間違えようも無く・・・・・・・・『敵意』が滲んでいた。
>
>久遠:アリエスちゃん、操られていようとなんであろうとね、『自分』を迎えにきてくれた人物に対して、『敵意』は、無いんじゃない、『敵意』は!!
>ユア:落ち着いてね、久遠。
>   でも、今の表のアリエス嬢は、ともかく、心の原動力?としては、ルピくんやレンさんを大切に思う心が・・・・・あると信じたいです。
朱琉:・・・・・・・・もっと酷いこと、言っちゃうんですよね。次回で・・・・
アミイ:でも、ルピ君やレンを大切に思ってることは、事実なのにね。
朱琉:ちなみに・・・・ここではまだ、完璧に操られてはいません。
アミイ:また、もっと救いようの無いことを・・・・

>
>>
>> あとがき、或いは語り部の告げる未来
>>語:やあ!ようやくであった二人・・・・な今回、どうだったかな?
>>  今回、こんな終わり方をしておいて、次回はもっと酷いことを考えている朱琉って、一体何なんだろうねぇ?
>>  まあとにかく、次回の欠片を語ろうか。
>>   再会した乙女からかけられたのは、冷たい言葉。
>>   心を切り裂く言の葉の刃は、深い悲しみと怒りを生む。
>>   紡ぐ言葉のその裏で、乙女は何を思うのか・・・・?
>>   そして、悲しくも避けられぬ戦いが始まる。
>>  次回、『時の旅人』44話、『優しい嘘で絆を断って』
>> じゃあ、また次回!
>>
>
>ユア;アリエス嬢が、今回のルピくんへの対応で、次々回のアリエス&アルトのお話の展開が決まりました。
>久遠:プロット名『35ー2』別称『アルトくん、夜這い物語』?
>ユア;そうです。
>   コメディというか、ほのぼのと言うか、それはやれるうちにやらないと。
>二人;それでは、少々短いですが、今回は、これにて。
>   さようなら!!
朱琉:はい、では、短いですがこの辺で。
二人:では!


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17637時の旅人 44:優しい嘘で絆を断って羅城 朱琉 2006/5/15 08:21:47
記事番号17571へのコメント

 こんにちは、羅城 朱琉です。
 さて、今回の「時の旅人」ですが・・・・最初に謝っておきます。ごめんなさい。
 何が「ごめんなさい」なのかは、本文を見ればわかっていただけるかと。
 では、どうぞ。

 注)ダーク&狂気度が高めです。注意してお読みください。




  時の旅人

  44:優しい嘘で絆を断って

 覚悟はしていた。・・・・していたつもり、だった。アリエスがかつての友の手を取ったと、語り部から聞かされたときに。もしかしたら、こんなことがあるかもしれないと、そう、思ってはいた。・・・・それでもルピナスは、その時確かに心が凍る音が聞こえたのだ。
「もう二度と会うつもりはなかったのに・・・・どうして来たのかな?」
 言葉は、凍った心を砕いていく。しかし、その言葉は同時にリナ達にも届いていて・・・・。だから、反応したのはリナだった。
「ちょっと!そんな言い方は無いんじゃないの!?」
 それでようやく、アリエスはリナとガウリイのほうに視線を向けた。
「あなたが、リナ=インバースさんですね?そして、そちらがガウリイ=ガブリエフさん。名高い、『魔を滅する者達(デモン・スレイヤーズ)』。」
 アリエスの言葉は、質問ではなく確認。
「あなたに言う必要かありましょうか?・・・・と、言いたいところですが、どちらにせよルピナスには言わねばならぬこと。他の誰の耳に入ろうと、特にかまうことではありませんね。」
 先ほどの『敵意』すら奥へ沈めた、感情のない瞳で、アリエスは淡々と語る。
「一言で言い表すとすれば、『こういう運命だった』ということですよ。ルピナスといると、遠からぬうちにお互い不幸になりますからね。家系的な問題なので、これはもうどうしようもない『事実』です。」
「ふざけないでよね!!」
 リナは、それを悪質な冗談とでも受け取ったのであろう。先よりも更に激しい口調で詰問する。しかし、アリエスは涼しい顔でそれを受け流した。
「ふざけてなどいませんよ。・・・・・・・・ならば、もっと簡単に言いましょうか?『ルピナスと一緒にいるのは、もう嫌になった』・・・・と。」
 冷たい、凍るほどに冷たい言葉。リナは、もはや言葉も無いほどに怒っていた。


     *     *     *     *     *


 リナの怒りと、ガウリイの静かな憤慨。そしてルピナスの絶望・・・・その全てが、アリエスにははっきりとわかっていた。我ながら、なんと酷いことを言っているのだろう・・・・と、表情には出さないようしているが、アリエスは自らを責め苛んでいた。
 それでも、言わねばならない。それが必要だから。・・・・・・・・例えそれで、二度と心の温もりを感じられなくなろうとも。ルピナスに・・・・憎まれようとも。
「もう一度言いましょうか?私とルピナスは、相容れない存在なんですよ。それは、時の流れのうちに組み込まれた、変えようも無い『事実』なんです。」
(互いに惹かれあうけれど、その先に待つのは『セレス』の破滅。それが、『ラーナ』と『セレス』の関係。)

 口からは、真実の混じった嘘を。心では、言うことの許されぬ思いを。それぞれアリエスは紡ぎ続ける。

「かれこれ500年も生きておいて・・・・と言うかもしれませんが、それでも私、不幸は遠慮したいですからね。」
(私は、ルピナスを食い潰す。ルピナスに破滅を導くのは・・・・私。私が『ラーナ』である以上・・・・ルピナスが『セレス』である以上・・・・それは、避けられない。)

「だから、正直、もう嫌なんです。」
(私はもう二度と、私に食い潰される人を作りたくない。)

 それは、ある意味とても優しい嘘。しかしそれは、振るう者をも傷つける諸刃の剣。

「だからもう、終わりにしましょう?」
(これでもう、二度と笑い会えなくなっても・・・・)

「お互い、定められた不幸から逃れたいでしょう?」
(その瞳が、私への憎しみに染まっても・・・・)

 それは、純粋な優しさであり。それは、傲慢なエゴであり。

「だから、ここで本当にお別れです。」
(私は、あなたに生きていてほしい。私のいないどこかで、幸せになってほしい。)

「さようなら、ルピナス。私は、あなたが嫌いですよ。」
(さようなら、ルピナス。私は、あなたが好きでした・・・・)


     *     *     *     *     *


 ルピナスは、戸惑っていた。絶望の淵に叩き落され、最後通告にも等しい一言を突きつけられてもなお、ルピナスの中のアリエスに対する思いは、いささかも揺らがなかったから。それどころか、心のどこか、深く冷静な場所で、『何か』が言っているのだ。『アリエスは嘘をついている』、『アリエスがこう思う事はありえない』・・・・と。それに突き動かされて、無意識にルピナスは言った。
「嘘つかなくていいよ・・・・アリエス。」
 瞬間、アリエスの瞳がほんの一刹那揺らいだ。恐らく、普段であれば気付かなかったであろうそれを、この時のルピナスははっきりと捉えた。そして、それは、『何か』の声を確信に変えた。
「そんなに苦しそうなのに、どうして嘘つくんだ?前に言ったじゃないか・・・・『君の分まで背負っていくとまでは言えないけど、支えあうくらいはできるから』・・・・って。」
 アリエスの体が、小さく、しかし断続的に震えた。
「帰ろう、アリエス。何があっても、僕は君の傍にいるから。君がいる限り、不幸になんてならない。運命で決まっていたとしても、それを覆してみせる。」
 ルピナスの手が、アリエスに向けて差し出される。呆然とそれを見つめるアリエスは、何かから身を守るように両腕で自らを抱きしめ、必死で視線を逸らした。
 それでも、ルピナスは続ける。諦めないと、共に歩むと、そう決めた。不安が無いわけではないけれど、それすらも全て受け入れて。
「だから、アリエス、独りで苦しまないで。僕も、共に支えるから。僕は・・・・」
 それは、誇り高い宣誓。
「僕は、君が好きだ。」
 アリエスは、弾かれたように顔を上げる。再会してからその時初めて、アリエスはルピナスを真正面から見た。


「・・・・・・・・ぃゃ・・・・」
 ほんの小さな呟きが、アリエスの口から漏れた。
「?」
「・・・・嫌、嫌よ、私は・・・・ッ!」
 それは、徐々に大きく、はっきりと聞こえてくる。アリエスは、自らの体を抱きしめたまま、地面にへたり込んだ。
「・・・・ダメよ。人を好きになったらダメ、人に好かれてはダメ。愛してはいけない。愛されてはいけない。」
「アリエス!?」
 ただならぬ様子に、ルピナスはアリエスに駆け寄る。リナとガウリイもまた、明らかに先ほどまでとは異なる様に驚いて、アリエスに近寄った。
 しかし、アリエスがそれに気付くことはなかった。その瞳は呆然と宙を泳ぎ、何も捉えてはいない。その口から漏れる声は、誰かに聞かせる声ではなく、自分に対する戒め。
「独りでいなくてはいけない。独りなら傷つけない。独りなら巻き込まない。独りなら変化は無い。心揺らいではいけない。変化してはいけない。愛は心を揺らがせるもの・・・・」
 唐突に、ぷつりと言葉が途切れる。ルピナス達が心配げに見守る中、アリエスはゆぅらりと立ち上がった。
「・・・・解っています。それが、私の『使命』・・・・」
 交錯は、一瞬だった。2つの銀の光が、空中でぶつかり合うまでには。
 一方は、ガウリイの斬妖剣(ブラスト・ソード)。もう一方は・・・・アリエスの銀晶輝。
 下を向いたまま、剣を握ったまま、アリエスは呟いた。
「私の心を乱すものは・・・・・・・・実力で排除する。」
 その瞳には、何も無かった。正気も・・・・狂気の影すらも。ただひたすらに空虚な瞳は、その焦点すらも曖昧で・・・・

 アリエスは2刀を静かに構え、地を蹴った。

 あとがき、或いは語り部の告げる未来
語:やあ、今回はどうだったかな?僕からは・・・・あえてノーコメントとさせてもらうよ。
  では、早速だけど語ろう。未来の断片を・・・・
   空白の心のまま、乙女は剣を振るい続ける。
   それは、知らぬものには別の意味に映って・・・・
   放たれた光が一つの決着を告げるとき
   枷を砕き、現れるものは・・・・?
  次回、『時の旅人』45話、『せかいがこわれるおと』
 じゃあ、また次回!いつもよりは早めに出会えると思うよ。


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