◆−時の旅人 25:君の知らない、いくつかの真実−羅城 朱琉 (2005/9/26 08:25:47) No.17272
 ┣・・・・・・・・・!!?(ルピ&リナ仲良いね4% 語り部さん・・?91% ルピちゃん冷静に5%)−十叶 夕海 (2005/9/26 23:36:36) No.17276
 ┃┗語り部さん暴走中につき−羅城 朱琉 (2005/9/27 08:33:35) No.17277
 ┣時の旅人 26:硝子箱の中の人形−羅城 朱琉 (2005/9/28 08:27:16) No.17281
 ┣時の旅人 27:混迷の夜−羅城 朱琉 (2005/9/28 08:28:15) No.17282
 ┃┣夕海 暴走に付きご注意ください。−十叶 夕海 (2005/9/28 21:36:29) No.17286
 ┃┃┗語り部さん、語ってます。−羅城 朱琉 (2005/9/29 08:34:25) No.17289
 ┃┗Re:時の旅人 27:混迷の夜−神高 紅 (2005/9/30 01:12:18) No.17292
 ┃ ┗罪の意識も人それぞれ−羅城 朱琉 (2005/9/30 08:31:23) No.17293
 ┣時の旅人 28:止まない雨−羅城 朱琉 (2005/10/11 08:18:12) No.17308
 ┣時の旅人 29:その手に希望を−羅城 朱琉 (2005/10/13 09:42:51) No.17313
 ┃┣Re:時の旅人 29:その手に希望を−十叶 夕海 (2005/10/13 22:41:21) No.17315
 ┃┃┗遅くなりました−羅城 朱琉 (2005/10/17 08:19:33) No.17325
 ┃┗Re:時の旅人 29:その手に希望を−神高 紅 (2005/10/14 00:20:15) No.17316
 ┃ ┗某空中城のことは気づきませんでした(笑)−羅城 朱琉 (2005/10/17 08:22:23) No.17326
 ┣時の旅人 30:ムゲンメイキュウ−羅城 朱琉 (2005/10/19 08:18:25) No.17333
 ┣時の旅人 31:在りし日の笑顔−羅城 朱琉 (2005/10/24 08:17:24) No.17340
 ┗時の旅人 32:すれ違う言葉−羅城 朱琉 (2005/11/1 08:17:43) No.17352


トップに戻る
17272時の旅人 25:君の知らない、いくつかの真実羅城 朱琉 2005/9/26 08:25:47


 こんにちは!羅城 朱琉です。ついにツリーが落ちてしまいました。神高さん、返レスできなくてごめんなさい。
 今回は、ルピナスサイド第2話!気のせいではなく、ルピナスのほうが文章が長いです・・・・
 まあ、と言うのも、つい先日話の整理のために、Excelで『時の旅人・年表編』を作っていて気付いたんですが・・・・実は、平行して書いていながら、アリエスのほうが1日遅いことが判明して、バランス調整をしているので、分量に差が出てしまっているんです。
 ・・・・とまあ、言い訳はこの辺にしておいて。本編へどうぞ!




  時の旅人

  25:君の知らない、いくつかの真実

「リナ、皆さんを適当な宿に案内してあげて。ついでに、今日一日、あんたガイドね。」
「へっ!?」
 そう言うなり、ルナは店主に声を掛け、帰っていった。残されたリナは、微妙に不満そうながらも語り部たちに言う。
「まあ・・・・今日一日は付き合うわよ。」
「ああ、残念だけど、僕は別行動させてもらうよ。今のうちに、やっておかなきゃいけないことがあるから。」
「・・・・何をなさるおつもりですか?」
 レンの硬い声音に、語り部は安心させるように笑いかける。
「私用だよ。心配しなくても、大丈夫。」
 そうして、語り部は軽やかに身を翻し、立ち去る。レンは、軽く息を吐いた。
「では、私はルナさんの手伝いをしにいきましょう。そのほうが、時間の短縮になるでしょうし。」
「あ、なら私も・・・・」
 レンは、立ち上がりかけたルピナスを制して、首を横に振った。
「少しは、気分を落ち着けなさい。心を張り詰めたままにしておいては、いざというとき何もできなくなってしまいますよ。・・・・すみませんが、リナさん、ルピナスをお願いします。」
 そうして、レンもまた立ち去る。後には、リナとルピナスと、微妙な沈黙が残された。
「・・・・えーっと・・・・その、よろしく。リナ=インバースさん。」
「リナでいいわよ。あんたは・・・・ルピナス、だっけ?」
「うん、そう。・・・・あの、さっきはごめんね。ちょっと、いろいろあって・・・・」
「そのことだけど・・・・何で、知ってるの?あたしが『あの力』を使えること。」
「それは・・・・」
 ルピナスは、少し言いよどんだ。そして。
「・・・・そろそろお昼時ね?人が多いところで話すのもなんだから、外に行かない?」
 そう、言った。


     *     *     *     *     *


「ルナさん。」
 ようやく見つけた後姿に、レンは声を掛けた。不思議そうな顔をして振り向いたルナに、レンは告げる。
「手伝いに来ました。・・・・とは言っても、せいぜい見張り程度にしかならないと思いますが。」
「いいわよ、別に大丈夫。だから・・・・」
「私は・・・・」
 少し強い語調に、ルナは口を閉ざす。そして、レンはゆっくりと言った。
「私の、産まれた時に付けられた名は、『レンシェルマ=コーレン=リュイ=シーシェンズ』。・・・・四大家が一つ、シーシェンズの直系です。・・・・あなたの正体も、知っています。一応、見張りくらいは立てておくべきでは?」
 ルナは、しばしの沈黙の後、再び踵を返し、歩き出した。その後にレンが続くが、何も言わない。それを無言の肯定と受け取り、レンは歩調を速めた。


     *     *     *     *     *


「さて、と。」
 人通りが全く無いことを確認して、語り部は楽器を下ろした。それを捧げるように持つと、楽器は宙に溶け消える。
「ちょっと、今回は持っていけないんだよね。・・・・あの『布石』だけじゃ、足りなかったみたいだから・・・・『切り札』を取ってくるよ。」
 そして、語り部は何も無い空間を指差す。そして、聞こえるか聞こえないか程度の声で囁いた。
「Veni・・・・《Porta》」
 途端、指された空間が、ぱっくりと口を開けた。語り部は躊躇い無くそこに入ってゆく。
 そして、すぐにそれは閉ざされ、語り部は姿を消した。


     *     *     *     *     *


 ゼフィール・シティ郊外の、小高い丘。夕暮れになれば散歩に来る人もいようが、この時間帯は人通りはない。そこの適当な木陰に、リナとルピナスは腰掛けた。
「さて、どこから話せばいいのかな・・・・?」
 ルピナスは、そう話を切り出した。
「いろいろと、話が複雑に絡み合ってるのよ。だから、どこから話していいのかちょっとわからないわ。・・・・だから、リナ、聞きたいことを質問して。答えるから。」
「と、言ってもね。あたしが聞きたいのって、結局何で『あの力』を使えることを知ってるのか、って、それだけなんだけど。」
 ルピナスはほんの少しだけ思案して、言う。
「まあ、端的に言うと・・・・アリエスが、サイラーグの神聖樹のあったところで、過去を『見た』から・・・・かな。」
「過去を、見る・・・・?」
「そう。・・・・それを話すには、まずアリエスについて話さないといけないんだけど・・・・長くなるけど、いい?」
 リナは、こくりと頷く。ルピナスも、覚悟を決めて話し出した。
「まあ、私自身も、レンやアリエス本人から聞いた話を繋げて話すしかないんだけどね。・・・・事の起こりは今から約500年前、レティディウス公国が滅びた時に遡るわ・・・・」
 そして、長い話は始まった。

「・・・・・・・・つまり、アリエスって言うのは、あの中世5大賢者の一人、『万象の制定者』リブラ=セイディーン=ラーナの妹で、不死の研究の唯一の成功例。時間の流れから切り離されてるせいで、時間に関する術が使えて、その中に、過去を覗き見る術があった。それで、知った・・・・と言うこと?」
「その通り。」
 リナは、複雑な顔をした。無理もない、いきなり信じられるような話ではないのだから。
「・・・・まあ、それは分かったということにして。もう一つ、何で、『あの力』のこと知りたいの?見たなら分かるでしょう?『あれ』は・・・・人間が扱えるものじゃないわ。」
 リナの、強い眼差し。それから逃れるように、ルピナスは明後日の方向を向いた。そして、呟く。
「私さ・・・・5年前に、レンに拾われたの。・・・・それより前の記憶を、無くして。」
 その重い響きと、その中に込められた深い思いを感じ、リナは目を瞠った。
「覚えていたのは、何なのかよくわからない『セレス』っていう固有名詞だけ。・・・・だから、『ルピナス=セレス=ヴァリード』って、多分本名じゃない。・・・・そして、その時からずっと、私には変な呪いがかけられているの。」
「呪い?」
「・・・・・・・・今日は、私は女だけど、明日には男になるの。日替わりで男女が入れ替わる、そういう呪い。・・・・私とアリエスは、それぞれ目的のために、ずっと旅を続けていた。その間、いろいろな方法を試したけど・・・・結局、今日まで戻らずじまい。・・・・不安なのよ。私は誰なのか、何で、こんな呪いがかけられているのか。私は、どうしても知りたい、元に戻りたい。だから・・・・・・・・危険な方法でも、可能性があるなら、縋りたい。」
 リナは、これまで漠然と感じていた違和感の正体が、何となく判った気がした。ルピナスは、おおよそ20歳といったところだ。そして、これまで旅をしてきたということは、それなりに腕も立つはずである。それでも、リナはルピナスに、どこか弱弱しい印象を持っていた。・・・・記憶のない不安。それが、原因か。
「でも・・・・」
 リナは、顔を上げる。その瞳に、決意を滲ませて。
「あたしは、『あれ』を誰かに教える気はないわ。」
「そんな!?」
「最後まで聞いてよね。教える気はないし、『あれ』を制御する自信なんてないわ。でも、他の方法を探すのに協力することはできる。」
「え・・・・?」
 ルピナスの、呆気にとられた眼差し。リナは、照れたようにそっぽを向いた。
「ホラ、ここまで聞いといて、あ、そう?頑張れ・・・・じゃ、寝覚めが悪いし・・・・・・・・何よりそんなことしたら、姉ちゃんに殺される・・・・・・・・」
 語尾は、ほとんど掠れていたのは愛嬌と言ったところか。自分で言った事ながら、蒼い顔で震えているリナの頭に手を載せ、ルピナスはリナを撫ぜる。
「?」
「こうしてもらうと、落ち着くんだよ。・・・・前はよく、レンにこうしてもらったな・・・・アリエスにも・・・・。」
 そう言って、ルピナスは沈黙する。リナは、されるがままになりつつ、問うた。
「ねえ、その『アリエス』って、どんな人だったの?」
「・・・・・・・・優しい人。だけど、それを表に出さない人。残酷な決断でも、それが最良の選択なら、躊躇わない人。とても強い人。・・・・だけど、どこか危うい人。私には、そう見えたよ。」
「そう・・・・」
 それきり、リナは何も言わなかった。ルピナスもまた、何も言わない。
 そのまま、空が真紅に染まる時まで、二人はそこにいた。


     *     *     *     *     *


 そろそろ夕食時となろうかという時間。ルピナスとリナはようやく重い腰を上げ、ゼフィール・シティに向かって歩き始めた。
 歩き始めてしばらくして、リナが唐突に言った。
「何?これ・・・・」
 ルピナスも、気付く。夕闇が支配する世界に落ちていた、白い塊に。大きさは、人一人分くらいであろうか?しげしげとそれを見て、ルピナスは呟く。
「布・・・・?」
 用心深く触れた後、一気にそれを引き剥がす。そして、二人は絶句した。
「っなっ!」
 その下に、あったのは。
「語り部・・・・さん・・・・!?」
 銀の髪を大地に散らし、白皙の美貌はもはや白を通り越して蒼い。青灰色の瞳は瞼に覆い隠され、ぐったりと脱力している。意識も無く、呼びかけに反応する様子はない。しかし。
 それは、昼前に別れた『放浪の語り部』以外の、何者でもなかった。
「語り部さん・・・・語り部さん!?」
「落ち着いて。・・・・息は、あるみたいね。・・・・あれ?何?この、本・・・・」
 リナが、あるものに興味を示した。それは、気を失いながらも、語り部が決して手放そうとしない、一冊の古めかしい装丁の本。それとは裏腹に、ルピナスはまだ動揺しつつ、言った。
「ど、どうしてこんなことになったんだろう・・・・?・・・・レンなら、わかるかな?確か・・・・『復活(リザレクション)』、使えたはず・・・・」
 ぷちぷちと呟き、リナの手を借りて語り部を背負う。
 身長の割りに軽い語り部をつれて、二人はレンの元へ急いだ。

 あとがき、或いは語り部(代理)の語る未来
ファリウ:皆さん、こんにちは!某事情により、今回のラストで人事不省に陥った語り部さんに代わり、私、ファリウが次回予告にやってきました!・・・・とはいっても、肝心の予告部分は、語り部さんにカンペ貰ってるんだけど、ね。
 じゃあ、早速!
   親しき手と離れて、乙女は再び孤独に身を浸す。
   差し伸べられた手を払い、乙女は自ら孤独を選ぶ。
   閉ざされた扉を開く手は現れるのか?
   振り出した雨は、何を予言するのか・・・・
  次回、『時の旅人』26話、『硝子箱の中の人形』
 じゃあ、次回もよろしくね!

トップに戻る
17276・・・・・・・・・!!?(ルピ&リナ仲良いね4% 語り部さん・・?91% ルピちゃん冷静に5%)十叶 夕海 2005/9/26 23:36:36
記事番号17272へのコメント



> 今回は、ルピナスサイド第2話!気のせいではなく、ルピナスのほうが文章が長いです・・・・
> まあ、と言うのも、つい先日話の整理のために、Excelで『時の旅人・年表編』を作っていて気付いたんですが・・・・実は、平行して書いていながら、アリエスのほうが1日遅いことが判明して、バランス調整をしているので、分量に差が出てしまっているんです。
> ・・・・とまあ、言い訳はこの辺にしておいて。本編へどうぞ!
>

ユア;よくあることです。
モイラ;それで済ますな。
ユア;でも、二通りを書こうとすると必ず起こるわよ?
モイラ;・・・とにかくレスに行けレスに。

>
>     *     *     *     *     *
>
>
> ゼフィール・シティ郊外の、小高い丘。夕暮れになれば散歩に来る人もいようが、この時間帯は人通りはない。そこの適当な木陰に、リナとルピナスは腰掛けた。
>「さて、どこから話せばいいのかな・・・・?」
> ルピナスは、そう話を切り出した。
>「いろいろと、話が複雑に絡み合ってるのよ。だから、どこから話していいのかちょっとわからないわ。・・・・だから、リナ、聞きたいことを質問して。答えるから。」
>「と、言ってもね。あたしが聞きたいのって、結局何で『あの力』を使えることを知ってるのか、って、それだけなんだけど。」
> ルピナスはほんの少しだけ思案して、言う。
>「まあ、端的に言うと・・・・アリエスが、サイラーグの神聖樹のあったところで、過去を『見た』から・・・・かな。」
>「過去を、見る・・・・?」
>「そう。・・・・それを話すには、まずアリエスについて話さないといけないんだけど・・・・長くなるけど、いい?」
> リナは、こくりと頷く。ルピナスも、覚悟を決めて話し出した。
>「まあ、私自身も、レンやアリエス本人から聞いた話を繋げて話すしかないんだけどね。・・・・事の起こりは今から約500年前、レティディウス公国が滅びた時に遡るわ・・・・」
> そして、長い話は始まった。
>
>「・・・・・・・・つまり、アリエスって言うのは、あの中世5大賢者の一人、『万象の制定者』リブラ=セイディーン=ラーナの妹で、不死の研究の唯一の成功例。時間の流れから切り離されてるせいで、時間に関する術が使えて、その中に、過去を覗き見る術があった。それで、知った・・・・と言うこと?」
>「その通り。」
> リナは、複雑な顔をした。無理もない、いきなり信じられるような話ではないのだから。

ユア;何処かの至言に
  『どんなに信じられなくても。ありえなさそうでも。
   可能性を一つ一つ潰して、残ったのが真実だ』と。
モイラ;で、何がいいたい?
ユア;つまるところ。
   今ルピ嬢が嘘をつく理由が無いから。
   リナ嬢大人しく信じなさい・・・・と。


>「でも・・・・」
> リナは、顔を上げる。その瞳に、決意を滲ませて。
>「あたしは、『あれ』を誰かに教える気はないわ。」
>「そんな!?」


モイラ;誰にでもそれを譲れぬものもあるわけだ。
ユア;それが人が人たる所以・・・とかって言いたいの?
モイラ;まあね。


> 語尾は、ほとんど掠れていたのは愛嬌と言ったところか。自分で言った事ながら、蒼い顔で震えているリナの頭に手を載せ、ルピナスはリナを撫ぜる。
>「?」
>「こうしてもらうと、落ち着くんだよ。・・・・前はよく、レンにこうしてもらったな・・・・アリエスにも・・・・。」
> そう言って、ルピナスは沈黙する。リナは、されるがままになりつつ、問うた。
>「ねえ、その『アリエス』って、どんな人だったの?」
>「・・・・・・・・優しい人。だけど、それを表に出さない人。残酷な決断でも、それが最良の選択なら、躊躇わない人。とても強い人。・・・・だけど、どこか危うい人。私には、そう見えたよ。」
>「そう・・・・」
> それきり、リナは何も言わなかった。ルピナスもまた、何も言わない。
> そのまま、空が真紅に染まる時まで、二人はそこにいた。


ユア;強化ガラスに見えるクリスタルガラス?
モイラ;はいはい。
    強固だけど、実際はスプ−ンを当てただけで割れるような脆いガラスのようだと?
ユア;ニュアンスは。

>
>
>     *     *     *     *     *
>
>
> そろそろ夕食時となろうかという時間。ルピナスとリナはようやく重い腰を上げ、ゼフィール・シティに向かって歩き始めた。
> 歩き始めてしばらくして、リナが唐突に言った。
>「何?これ・・・・」
> ルピナスも、気付く。夕闇が支配する世界に落ちていた、白い塊に。大きさは、人一人分くらいであろうか?しげしげとそれを見て、ルピナスは呟く。
>「布・・・・?」
> 用心深く触れた後、一気にそれを引き剥がす。そして、二人は絶句した。
>「っなっ!」
> その下に、あったのは。
>「語り部・・・・さん・・・・!?」
> 銀の髪を大地に散らし、白皙の美貌はもはや白を通り越して蒼い。青灰色の瞳は瞼に覆い隠され、ぐったりと脱力している。意識も無く、呼びかけに反応する様子はない。しかし。
> それは、昼前に別れた『放浪の語り部』以外の、何者でもなかった。
>「語り部さん・・・・語り部さん!?」
>「落ち着いて。・・・・息は、あるみたいね。・・・・あれ?何?この、本・・・・」
> リナが、あるものに興味を示した。それは、気を失いながらも、語り部が決して手放そうとしない、一冊の古めかしい装丁の本。それとは裏腹に、ルピナスはまだ動揺しつつ、言った。
>「ど、どうしてこんなことになったんだろう・・・・?・・・・レンなら、わかるかな?確か・・・・『復活(リザレクション)』、使えたはず・・・・」
> ぷちぷちと呟き、リナの手を借りて語り部を背負う。
> 身長の割りに軽い語り部をつれて、二人はレンの元へ急いだ。


ユア;・・・・・・・・・(蒼白)
モイラ;落ち着こう、ユア。
    僕も、あの『語り部』さんが、こうなるとは信じたくないけど。
ユア;・・・・(どうにかうなづく)


>
> あとがき、或いは語り部(代理)の語る未来
>ファリウ:皆さん、こんにちは!某事情により、今回のラストで人事不省に陥った語り部さんに代わり、私、ファリウが次回予告にやってきました!・・・・とはいっても、肝心の予告部分は、語り部さんにカンペ貰ってるんだけど、ね。
> じゃあ、早速!
>   親しき手と離れて、乙女は再び孤独に身を浸す。
>   差し伸べられた手を払い、乙女は自ら孤独を選ぶ。
>   閉ざされた扉を開く手は現れるのか?
>   振り出した雨は、何を予言するのか・・・・
>  次回、『時の旅人』26話、『硝子箱の中の人形』
> じゃあ、次回もよろしくね!
>

ユア;次回も気になりますが、次々回が気になります。
モイラ;話ではなく、語り部さんの容態だろ?
ユア;まあ。
二人;ともかく、次回で。


トップに戻る
17277語り部さん暴走中につき羅城 朱琉 2005/9/27 08:33:35
記事番号17276へのコメント


>
>
>> 今回は、ルピナスサイド第2話!気のせいではなく、ルピナスのほうが文章が長いです・・・・
>> まあ、と言うのも、つい先日話の整理のために、Excelで『時の旅人・年表編』を作っていて気付いたんですが・・・・実は、平行して書いていながら、アリエスのほうが1日遅いことが判明して、バランス調整をしているので、分量に差が出てしまっているんです。
>> ・・・・とまあ、言い訳はこの辺にしておいて。本編へどうぞ!
>>
>
>ユア;よくあることです。
>モイラ;それで済ますな。
>ユア;でも、二通りを書こうとすると必ず起こるわよ?
>モイラ;・・・とにかくレスに行けレスに。
朱琉:こんにちは!そうですね・・・・二通り並行して書くのは、なかなか難しいです。
ファリウ:わざわざ無理難題に挑戦するからいけないのよ、まったく・・・・
朱琉:と、いうわけで、今回はファリウさんをお供に、レスです。

>
>>
>>     *     *     *     *     *
>>
>>
>> ゼフィール・シティ郊外の、小高い丘。夕暮れになれば散歩に来る人もいようが、この時間帯は人通りはない。そこの適当な木陰に、リナとルピナスは腰掛けた。
>>「さて、どこから話せばいいのかな・・・・?」
>> ルピナスは、そう話を切り出した。
>>「いろいろと、話が複雑に絡み合ってるのよ。だから、どこから話していいのかちょっとわからないわ。・・・・だから、リナ、聞きたいことを質問して。答えるから。」
>>「と、言ってもね。あたしが聞きたいのって、結局何で『あの力』を使えることを知ってるのか、って、それだけなんだけど。」
>> ルピナスはほんの少しだけ思案して、言う。
>>「まあ、端的に言うと・・・・アリエスが、サイラーグの神聖樹のあったところで、過去を『見た』から・・・・かな。」
>>「過去を、見る・・・・?」
>>「そう。・・・・それを話すには、まずアリエスについて話さないといけないんだけど・・・・長くなるけど、いい?」
>> リナは、こくりと頷く。ルピナスも、覚悟を決めて話し出した。
>>「まあ、私自身も、レンやアリエス本人から聞いた話を繋げて話すしかないんだけどね。・・・・事の起こりは今から約500年前、レティディウス公国が滅びた時に遡るわ・・・・」
>> そして、長い話は始まった。
>>
>>「・・・・・・・・つまり、アリエスって言うのは、あの中世5大賢者の一人、『万象の制定者』リブラ=セイディーン=ラーナの妹で、不死の研究の唯一の成功例。時間の流れから切り離されてるせいで、時間に関する術が使えて、その中に、過去を覗き見る術があった。それで、知った・・・・と言うこと?」
>>「その通り。」
>> リナは、複雑な顔をした。無理もない、いきなり信じられるような話ではないのだから。
>
>ユア;何処かの至言に
>  『どんなに信じられなくても。ありえなさそうでも。
>   可能性を一つ一つ潰して、残ったのが真実だ』と。
>モイラ;で、何がいいたい?
>ユア;つまるところ。
>   今ルピ嬢が嘘をつく理由が無いから。
>   リナ嬢大人しく信じなさい・・・・と。
ファリウ:いやいや、普通信じられないでしょう?いきなり、時間がどうのと言われても。
朱琉:まあでも、信じてあげようよ、と思ったのは事実ですね(苦笑)

>
>
>>「でも・・・・」
>> リナは、顔を上げる。その瞳に、決意を滲ませて。
>>「あたしは、『あれ』を誰かに教える気はないわ。」
>>「そんな!?」
>
>
>モイラ;誰にでもそれを譲れぬものもあるわけだ。
>ユア;それが人が人たる所以・・・とかって言いたいの?
>モイラ;まあね。
ファリウ:ま、そうでしょうね。そうほいほい教えるような性格でもないでしょうし。

>
>
>> 語尾は、ほとんど掠れていたのは愛嬌と言ったところか。自分で言った事ながら、蒼い顔で震えているリナの頭に手を載せ、ルピナスはリナを撫ぜる。
>>「?」
>>「こうしてもらうと、落ち着くんだよ。・・・・前はよく、レンにこうしてもらったな・・・・アリエスにも・・・・。」
>> そう言って、ルピナスは沈黙する。リナは、されるがままになりつつ、問うた。
>>「ねえ、その『アリエス』って、どんな人だったの?」
>>「・・・・・・・・優しい人。だけど、それを表に出さない人。残酷な決断でも、それが最良の選択なら、躊躇わない人。とても強い人。・・・・だけど、どこか危うい人。私には、そう見えたよ。」
>>「そう・・・・」
>> それきり、リナは何も言わなかった。ルピナスもまた、何も言わない。
>> そのまま、空が真紅に染まる時まで、二人はそこにいた。
>
>
>ユア;強化ガラスに見えるクリスタルガラス?
>モイラ;はいはい。
>    強固だけど、実際はスプ−ンを当てただけで割れるような脆いガラスのようだと?
>ユア;ニュアンスは。
朱琉:ああ、そんな感じですね。私的には、アリエスのイメージはエメラルドですが。
ファリウ:つまりは、普通にしている分には強固だけど、ある一定方向からの力には極端に弱い、ってことよ。

>
>>
>>
>>     *     *     *     *     *
>>
>>
>> そろそろ夕食時となろうかという時間。ルピナスとリナはようやく重い腰を上げ、ゼフィール・シティに向かって歩き始めた。
>> 歩き始めてしばらくして、リナが唐突に言った。
>>「何?これ・・・・」
>> ルピナスも、気付く。夕闇が支配する世界に落ちていた、白い塊に。大きさは、人一人分くらいであろうか?しげしげとそれを見て、ルピナスは呟く。
>>「布・・・・?」
>> 用心深く触れた後、一気にそれを引き剥がす。そして、二人は絶句した。
>>「っなっ!」
>> その下に、あったのは。
>>「語り部・・・・さん・・・・!?」
>> 銀の髪を大地に散らし、白皙の美貌はもはや白を通り越して蒼い。青灰色の瞳は瞼に覆い隠され、ぐったりと脱力している。意識も無く、呼びかけに反応する様子はない。しかし。
>> それは、昼前に別れた『放浪の語り部』以外の、何者でもなかった。
>>「語り部さん・・・・語り部さん!?」
>>「落ち着いて。・・・・息は、あるみたいね。・・・・あれ?何?この、本・・・・」
>> リナが、あるものに興味を示した。それは、気を失いながらも、語り部が決して手放そうとしない、一冊の古めかしい装丁の本。それとは裏腹に、ルピナスはまだ動揺しつつ、言った。
>>「ど、どうしてこんなことになったんだろう・・・・?・・・・レンなら、わかるかな?確か・・・・『復活(リザレクション)』、使えたはず・・・・」
>> ぷちぷちと呟き、リナの手を借りて語り部を背負う。
>> 身長の割りに軽い語り部をつれて、二人はレンの元へ急いだ。
>
>
>ユア;・・・・・・・・・(蒼白)
>モイラ;落ち着こう、ユア。
>    僕も、あの『語り部』さんが、こうなるとは信じたくないけど。
>ユア;・・・・(どうにかうなづく)
ファリウ:・・・・まあ、あの人だし、復活する・・・・わよね?朱琉。
朱琉:ここでこのままにしたら、各方面から文句と非難がくると思うんですが・・・・それとは関係なく、ここは語り部さんが突っ走ってくれた所なので、大丈夫だと思いますよ?わざわざ死ぬ方向に爆走する語り部さんじゃないですし。

>
>
>>
>> あとがき、或いは語り部(代理)の語る未来
>>ファリウ:皆さん、こんにちは!某事情により、今回のラストで人事不省に陥った語り部さんに代わり、私、ファリウが次回予告にやってきました!・・・・とはいっても、肝心の予告部分は、語り部さんにカンペ貰ってるんだけど、ね。
>> じゃあ、早速!
>>   親しき手と離れて、乙女は再び孤独に身を浸す。
>>   差し伸べられた手を払い、乙女は自ら孤独を選ぶ。
>>   閉ざされた扉を開く手は現れるのか?
>>   振り出した雨は、何を予言するのか・・・・
>>  次回、『時の旅人』26話、『硝子箱の中の人形』
>> じゃあ、次回もよろしくね!
>>
>
>ユア;次回も気になりますが、次々回が気になります。
>モイラ;話ではなく、語り部さんの容態だろ?
>ユア;まあ。
>二人;ともかく、次回で。
朱琉:実は、次回よりも先に次々回が完成していたり・・・・。
ファリウ:まあ、早めに投稿しようね、朱琉。
朱琉:頑張りますです・・・・
二人:じゃあ、今回はこの辺で!
>
>

トップに戻る
17281時の旅人 26:硝子箱の中の人形羅城 朱琉 2005/9/28 08:27:16
記事番号17272へのコメント

 こんにちは!羅城 朱琉です。
 アリエスサイド第3話、人数が多いため、ごちゃごちゃしています・第2弾です。
 とりあえず、こっちはまだまださらっと読み流していただければ・・・・な感じなので。
 では、どうぞ!




  時の旅人

  26:硝子箱の中の人形

「ねえねえ、大丈夫?さっきはゴメンネ。怪我とか、してない?」
 談話室に入るか否かの所で、黒髪の少女・・・・イノリが話しかけてきた。
「大丈夫です。」
 淡々とそう答えると・・・・小さく、舌打ちの音がした。
「ちぇ。怪我してたら、人体実験・・・・もとい最新の治療法になるかもしれないのを試そうかと思ってたのに・・・・」
「そういう時は、『念のため検査しよう』と言って連れ込まないとね。」
「あ、そうだね〜。アイリスちゃん、頭いい!」
 アリエスは、思わず談話室から逃げ出しそうになった。しかし、マントの端は未だユキナが持っている。溜息をついてやりきれなさを紛らわすと、アリエスは談話室に足を踏み入れた。
 一瞬、中のざわめきが消える。集中する好奇の眼差しに、アリエスは表面はいつもの無表情を取り繕った。眼差しは一瞬で気にならなくなる。その辺りは、慣れたものだ。と。
「ユキナ!こっちこっち!・・・・と、誰?」
 艶やかな黒髪に、煌く黒の瞳の少女が、奥の一角から手を振った。ユキナはアリエスを引っ張ったまま、少女へと近づいてゆく。
 そこには、幾人かが集まっていた。
「お待たせ、セシリア。昨日来た人、連れてきたよ!」
 そこにいた数人が、興味深げにこちらを見てくる。少々いたたまれなくなって、アリエスは目を逸らした。その顔を、黒髪黒目の少女セシリアが強引に前に向ける。
「・・・・・・・・折角、綺麗なのに、何で横向くの?もっと笑おうよ、勿体ないじゃん。」
 そのままそっと手を離し、にっこりと微笑む。
「それに、コミュニケーションは自己紹介から始まるんだし、名前教えてよ。・・・・あ、あたしはセシリア=ノワール。異世界から来たの。人間と魔族のハーフなんだ。よろしくね!」
 呆気にとられつつ、アリエスは言った。
「アリエス=オルフェーゼ=ラーナ・・・・です。」
 セシリアは、満足そうに笑み崩れる。そして、皆に言った。
「さあて、お待ちかね、自己紹介タイム!まずは・・・・ジュジュちゃん、いい?」
 ジュジュと呼ばれた少女は、背後の巨大な犬と戯れるのをやめ、こちらを向いた。淡い灰色の髪と蘇芳色の瞳、どこにでもいるごくごく普通の魔道士、といった風情だが、その傍らにある、どう見ても彼女の身長の倍近くありそうな長大なハルバートが、とてつもない違和感を放っている。そして、先ほどまでジュジュが戯れていた巨大な犬・・・・あれは、確かガルムではなかっただろうか?
「はい、聞いてますよ〜?わたし、ジュジュ=ラルフィーネといいます〜。エルメキア帝国の端っこにある、小さな村の出身です〜。あ、こっちはペットの『しゅーちゃん』です、仲良くしてあげてくださいねv」
 聞いているだけで力の抜けそうな話し方である。脱力をこらえ、一応聞いてみた。
「あの・・・・それって、ガルムじゃ・・・・」
「はい〜。しゅーちゃんはガルムですよ?それが何か?」
「・・・・・・・・」
 結局、沈黙するしかないようである。会話が途絶えたのを見て取って、その隣に座っていた和風巫女服の女性が口を開いた。
「妾はキラ=フィリイ=フォーテュナじゃ。異世界より参った幻神族・・・・託宣神でのう、まあ、神々の言葉を伝える巫女の神格化したものじゃと思うてくれればよい。よしなに頼むぞ。」
 そう言ってキラは軽く頭を下げる。座ると地に着く長さの髪がさらりと揺れ、月草色の瞳がアリエスを映した。アリエスも返して軽く頭を下げる。
 そして、その後ろでぼーっと外を見ている人が一人。銀の長い髪を風に遊ばせる後姿は、ユキナにそっくりだ。
「ユキヤ、あんたも話に入りなさいよ!」
 ユキヤと呼ばれたその人は、少しだけ不満そうにしながら振り向いた。そうしてみると、その人物が少年であることが分かる。銀の髪は同じだが、その青い瞳はユキナに比べると随分冷たい印象があった。
「・・・・・・・・ユキヤ=ヴィア=レン。」
 名前だけ告げて、ユキヤは再びそっぽを向いた。
「もう!相変わらず無愛想なんだから!」
 ユキナが口を尖らせる。アリエスはふと思いついたことを口に出した。
「双子、ですか?」
「ええ、そうよ。まあ、そんなに似てないけど。」
 十分似ている、と言う言葉は、口には出されなかった。それよりも、思うことがあったから。
 これが、『きょうだい』というものなのか、と。そう、アリエスは思った。アリエスと、姉リブラとの関係は、全然違ったから。アリエスにとっての『きょうだい』とは、研究主任であり、護衛対象であり、また、顔も覚えていない母の代わりに、自分を育ててくれた人であったから。
 女が三人寄れば『姦しい』とはよく言ったもので、既に話は自己紹介から、三々五々に移り変わっている。アリエスは、壁を何枚も隔てたかのような心境で、それを聞き流していた。
 ふと、かすかな音に気付いて窓の外を見やる。暗く曇った空から落ちてきた雫が、地面を叩き始めていた。

 今、胸の内に満ちる思い。その名は『孤独』。
 アリエスが長らく感じることの無かった思いは、今、確実に目覚めていった。

 あとがき、或いは語り部(代理)の語る未来
ファリウ:こんにちは!とりあえず、語り部さんが起きるまで、このコーナーを担当することになりました、ファリウです。と、いってもやっぱりカンペは頂いてるわけで。
     早速ですが、予告です!
   夜闇の帳のその内で、少しずつ思いは揺らぎ始める。
   閉ざされた瞳に映ったものは未だ語られず、夜明けは遠い。
   踏みしめた大地の続く先は、暗く深き迷宮の如く。
   この夜は、彼らに何をもたらすのか。
  次回、『時の旅人』27話、『混迷の夜』
 では、また!

トップに戻る
17282時の旅人 27:混迷の夜羅城 朱琉 2005/9/28 08:28:15
記事番号17272へのコメント

 こんにちは!久々の2話連続投稿です。
 前回、あまりといえばあまりな終わり方をしてしまったため、続きが気になるルピナスサイド第3話、早速ですが、どうぞ!




  時の旅人

  27:混迷の夜

 リアランサーに隣接した、一件の宿屋。その一室にて、レンは困惑を露にしていた。
「なんという・・・・」
 ぽつりと呟く。その視線の先には、ベッドに力なく横たわる『放浪の語り部』。傍らには、ルナとリナ、そしてルピナス。
 リナとルピナスが駆け込んできたときは、本当に驚いた。その背にいるのが語り部だと知ったときは、更に。正直、語り部と別れたときに予感はしていたのだ。この人は、恐らく何かをするのだろう、そしてそれは、決して安全なことではないのだろう、と。しかし、語り部ならばきっとすぐに、なんでもなかったかのように帰ってくるものだと、信じて疑わなかったのだ。・・・・語り部の正体を知るがゆえに。
 無駄なことだと知りつつ、レンは『復活(リザレクション)』を唱える。白い光が部屋を満たすが・・・・やはり、白光が消えた後、語り部に変化はない。
「・・・・・・・・やはり。・・・・ルピナス、リナさん・・・・これは・・・・私ではどうにもなりません。」
「・・・・う、そ・・・・」
 ルピナスは、己の血が下がっていくのを感じた。確かに、共にいた時間は短い。しかし、語り部は力を貸してくれたのだ。何が起こったのかは全くわからないが、生きていて欲しいと、願うほどに。
「ねえ、ちょっと、それって・・・・」
 遠くで、リナの声がした気がした。・・・・いや、違う。リナはすぐ横にいる。何故か、遠く遠くに聞こえるけれど。
 と。
「・・・・ぎ・・・・なぁ・・・・」
 か細い、掠れた声がした。全員が、一斉に声の元を見る。
 声の主・・・・語り部の指が、ひくりと動いた。口元に、うっすらと笑みが刷かれる。
「・・・・縁起、悪いなぁ。死んでないよ・・・・そう簡単に死ぬ僕じゃないさ。」
 瞼が、ゆっくりと開いてゆく。その下には、まだ少しだけ霞がかったような、青灰色の瞳が。
 流石に身を起こすことはしなかったが、それでも語り部は笑った。
「大丈夫。ただの熱中症だよ。今日、意外と暑かったからねぇ・・・・」
 もちろん、そんな言葉に納得できる人はいなかったけれど、軽口を言えるという、その事実が嬉しくて。
 レンは、その場にへたり込んだ。
「よ、かった・・・・・・・・」
「やだな、大袈裟だよ。・・・・・・・・まあでも、皆、心配かけてごめん。・・・・もう少し、寝てもいいかな?」
 よく考えてみれば、確かにもうかなり遅い時間で。各々、自分の寝床に戻ったのだった。

 そんな己の行動に、疑問すら持たず。


     *     *     *     *     *


 それから少し経って。語り部は部屋の前に気配を感じ、微笑を漏らした。
「そんなところにいないで、入っておいでよ・・・・レンシェルマ。」
 一瞬の、逡巡の気配。その後に極力音を殺して、レンはドアを開けた。微笑んだまま、語り部は告げる。
「暗示、その様子だとすぐ解けたみたいだね。」
「やはり、あなたでしたか。何も疑問を持たず、あの時この場から立ち去るよう仕向けたのは・・・・」
 語り部はふと笑った。そして、ベッドの上で身を起こすと、傍らの椅子をレンに進めた。レンは大人しくそれに座る。そして、すぐに本題を切り出した。
「本当は、どうなんです?」
「何が?」
「とぼけないで下さい!あなたが、熱中症など・・・・そんなこと、誰が信じるとお思いですか!?」
 語り部は、やれやれと肩を竦めた。最初から予想していたことなので、驚きは無い。語り部の正体を知るもの・・・・レンとルナは、確実に今夜中に真実を聞きに来るだろうと確信していたから。
 だから、語り部は再び告げた。今度は、窓の外に向かって。
「鍵は開いているよ。盗み聞きじゃなくて、この場にいればいいだろう?ルナ。」
 かたりと窓が揺れた。静かに、窓辺に降り立つ気配。振り向くまでもない。ルナ=インバースだ。部屋の片隅に置いてあるもう一つの椅子を示す。ルナがそれをベッド脇に置き、腰掛けるのを確認すると、語り部は仄かに笑った。
「・・・・・・・・まあ、多分君たちの考えてる通りだと思うよ。体調は・・・・・・・・そうだね、体4分の1ごっそり持っていかれたような感じ、かな?」
「では、やはり・・・・」
 レンの、悲痛な声。語り部は、それに頷いた。
「うん。『中枢予定表』のところから、『予定表』一冊盗み出してきた。」
 沈み込む二人の顔を見て、語り部は安心させるよう微笑む。
「大丈夫だって!半分持っていかれること、覚悟してたんだから。」
「しかし・・・・」
 ルナが、言った。
「これ以上魔力を削られたら、あなたは・・・・」
 語り部は、あっさりと頷く。
「うん。僕、この世界に顕現していられなくなるね。ぎりぎり、今回持っていかれた分と同じくらいの力は使えるけどさ。」
 ルナの顔が歪んだのを見て、語り部は優しく告げた。
「気にすること無いよ、ルナ。これは、僕の『罪』の結果だから。例え誰であれ、罪は償わないといけないものなんだよ。・・・・謝るのは、僕のほうだ。君たちを巻き込んでしまって、すまない。」
 あまりにあっさりと頭を下げるので、逆にレンとルナが困惑してしまう。語り部は、ふわりと微笑んだ後、少し表情を引き締めた。
「さて・・・・報告を聞こうか?『ルナ=ファーマ=スィーフィード』。」
 ルナもまた、表情を引き締めた。
 限られた者しか知らない、ルナの秘密は、これだ。『赤の竜神の騎士(スィーフィード・ナイト)』ルナ=インバースこそが、人の身に転生した『赤の竜神』スィーフィード本人であると。
「はい・・・・。『聖石の使徒』の本拠地、『自由宮殿(フリーダムパレス)』。その在処は――」


     *     *     *     *     *


 レンは、迷っていた。彼に、何ができるのかと。
 自分は、ただの一人の凡人でしかない。確かにそうだ。しかし・・・・
 レンは空を仰いだ。そして、呟く。
「『力を持つものが何もしないのは罪』・・・・あなたの口癖でしたね、姉さん。・・・・それは真実かもしれないと、私は今初めて思いましたよ・・・・」
 捨て去った名前がまだ自分そのものであったときに思いを馳せる。

 夜明けはまだ、遠い。

 あとがき、或いは語り部の告げる未来
語:やあ!久しぶりだね。今回復帰した、語り部だよ。前々回のラストであちこちに心配かけてしまったけど・・・・もう大丈夫だから。心配かけてごめんね。
  じゃあ、早速語ろうか。弛まぬ時の流れに眠る、まだ見ぬ未来の一端を。
   逃げ出して、心を閉ざして。
   それでも、変わることのない現実。
   望みは一つ。そのために定めた心に、迷いなど許されない。
   例え、どれほど心が痛もうとも。
  次回、『時の旅人』28話、『止まない雨』
 じゃあ、またね!近いうちに会えるよう、祈っているよ。


トップに戻る
17286夕海 暴走に付きご注意ください。十叶 夕海 2005/9/28 21:36:29
記事番号17282へのコメント


> こんにちは!久々の2話連続投稿です。
> 前回、あまりといえばあまりな終わり方をしてしまったため、続きが気になるルピナスサイド第3話、早速ですが、どうぞ!

ユア;はい。待ってましたよん。よっ大統領!!
モイラ;ちがうだろ(10tハンマ−ツッコミ)
    レス行くぞ、レス。
ユア;ふぁい。
   

> ルピナスは、己の血が下がっていくのを感じた。確かに、共にいた時間は短い。しかし、語り部は力を貸してくれたのだ。何が起こったのかは全くわからないが、生きていて欲しいと、願うほどに。
>「ねえ、ちょっと、それって・・・・」
> 遠くで、リナの声がした気がした。・・・・いや、違う。リナはすぐ横にいる。何故か、遠く遠くに聞こえるけれど。
> と。
>「・・・・ぎ・・・・なぁ・・・・」
> か細い、掠れた声がした。全員が、一斉に声の元を見る。
> 声の主・・・・語り部の指が、ひくりと動いた。口元に、うっすらと笑みが刷かれる。

ユア;よかったぁ・・・・
モイラ;とりあえず、安心だな、とりあえず。


>「本当は、どうなんです?」
>「何が?」
>「とぼけないで下さい!あなたが、熱中症など・・・・そんなこと、誰が信じるとお思いですか!?」
> 語り部は、やれやれと肩を竦めた。最初から予想していたことなので、驚きは無い。語り部の正体を知るもの・・・・レンとルナは、確実に今夜中に真実を聞きに来るだろうと確信していたから。
> だから、語り部は再び告げた。今度は、窓の外に向かって。
>「鍵は開いているよ。盗み聞きじゃなくて、この場にいればいいだろう?ルナ。」
> かたりと窓が揺れた。静かに、窓辺に降り立つ気配。振り向くまでもない。ルナ=インバースだ。部屋の片隅に置いてあるもう一つの椅子を示す。ルナがそれをベッド脇に置き、腰掛けるのを確認すると、語り部は仄かに笑った。
>「・・・・・・・・まあ、多分君たちの考えてる通りだと思うよ。体調は・・・・・・・・そうだね、体4分の1ごっそり持っていかれたような感じ、かな?」

モイラ;安堵ばかりと行かないようだね。
ユア;(胸中複雑)・・・・・・・・無理しすぎですよ、語り部さん

>「では、やはり・・・・」
> レンの、悲痛な声。語り部は、それに頷いた。
>「うん。『中枢予定表』のところから、『予定表』一冊盗み出してきた。」
> 沈み込む二人の顔を見て、語り部は安心させるよう微笑む。
>「大丈夫だって!半分持っていかれること、覚悟してたんだから。」
>「しかし・・・・」
> ルナが、言った。
>「これ以上魔力を削られたら、あなたは・・・・」
> 語り部は、あっさりと頷く。
>「うん。僕、この世界に顕現していられなくなるね。ぎりぎり、今回持っていかれた分と同じくらいの力は使えるけどさ。」

ユア;・・・・・・・っ
モイラ;落ち着きなって。
    『中枢予定表』から、『予定表』を持って来たって言うのは、ニュアンスだけなら、『大英図書館』から、『貴古本』を持ってきたようなものかな?

>「気にすること無いよ、ルナ。これは、僕の『罪』の結果だから。例え誰であれ、罪は償わないといけないものなんだよ。・・・・謝るのは、僕のほうだ。君たちを巻き込んでしまって、すまない。」

ユア;語り部さんは、自分を追い詰めすぎです。
   結果でも、身体を持ってかれて死んだら、『償う』ことすらできないんですよ。
   もう少し、軽くとは言いませんけど、もっ・・
モイラ;(私の口を押さえて)まあまあ。
    運命の神の名を冠された僕も、自分のしでかした事で、『償わ』無ければいけない事があるけどね。
    それは、生きてこそのもんだからね。
    ・・・・偉そうかも知れないけど、ごめんね。

>
>
> レンは、迷っていた。彼に、何ができるのかと。
> 自分は、ただの一人の凡人でしかない。確かにそうだ。しかし・・・・
> レンは空を仰いだ。そして、呟く。
>「『力を持つものが何もしないのは罪』・・・・あなたの口癖でしたね、姉さん。・・・・それは真実かもしれないと、私は今初めて思いましたよ・・・・」
> 捨て去った名前がまだ自分そのものであったときに思いを馳せる。
>

ユア;もごもご(口を押さえられている)
モイラ;レンさん、自分がやれる事をやる、それでいいんだよ。

>
> あとがき、或いは語り部の告げる未来
>語:やあ!久しぶりだね。今回復帰した、語り部だよ。前々回のラストであちこちに心配かけてしまったけど・・・・もう大丈夫だから。心配かけてごめんね。
>  じゃあ、早速語ろうか。弛まぬ時の流れに眠る、まだ見ぬ未来の一端を。
>   逃げ出して、心を閉ざして。
>   それでも、変わることのない現実。
>   望みは一つ。そのために定めた心に、迷いなど許されない。
>   例え、どれほど心が痛もうとも。
>  次回、『時の旅人』28話、『止まない雨』
> じゃあ、またね!近いうちに会えるよう、祈っているよ。
>
>

ユア;はい。
   次回も楽しみにしてます。
モイラ;次回も、下手したら、暴走するかな。
    ・・・・応援っ呼んだほうがいのかな。
ユア;モイラ?
モイラ;ああと、次回もちゃんと見させてもらうね。
二人;それでは。


トップに戻る
17289語り部さん、語ってます。羅城 朱琉 2005/9/29 08:34:25
記事番号17286へのコメント


>
>> こんにちは!久々の2話連続投稿です。
>> 前回、あまりといえばあまりな終わり方をしてしまったため、続きが気になるルピナスサイド第3話、早速ですが、どうぞ!
>
>ユア;はい。待ってましたよん。よっ大統領!!
>モイラ;ちがうだろ(10tハンマ−ツッコミ)
>    レス行くぞ、レス。
>ユア;ふぁい。
朱琉:こんにちは!お待たせしました。
語り部:と、言うわけで、僕復活だ。早速返レス行くよ。

>   
>
>> ルピナスは、己の血が下がっていくのを感じた。確かに、共にいた時間は短い。しかし、語り部は力を貸してくれたのだ。何が起こったのかは全くわからないが、生きていて欲しいと、願うほどに。
>>「ねえ、ちょっと、それって・・・・」
>> 遠くで、リナの声がした気がした。・・・・いや、違う。リナはすぐ横にいる。何故か、遠く遠くに聞こえるけれど。
>> と。
>>「・・・・ぎ・・・・なぁ・・・・」
>> か細い、掠れた声がした。全員が、一斉に声の元を見る。
>> 声の主・・・・語り部の指が、ひくりと動いた。口元に、うっすらと笑みが刷かれる。
>
>ユア;よかったぁ・・・・
>モイラ;とりあえず、安心だな、とりあえず。
語り部:フフフ。大丈夫大丈夫、そう簡単に死ねないしね、僕。
朱琉:でも、無茶して暴走しないでほしいですよ。死にかけ街道まっしぐらじゃないですか・・・・

>
>
>>「本当は、どうなんです?」
>>「何が?」
>>「とぼけないで下さい!あなたが、熱中症など・・・・そんなこと、誰が信じるとお思いですか!?」
>> 語り部は、やれやれと肩を竦めた。最初から予想していたことなので、驚きは無い。語り部の正体を知るもの・・・・レンとルナは、確実に今夜中に真実を聞きに来るだろうと確信していたから。
>> だから、語り部は再び告げた。今度は、窓の外に向かって。
>>「鍵は開いているよ。盗み聞きじゃなくて、この場にいればいいだろう?ルナ。」
>> かたりと窓が揺れた。静かに、窓辺に降り立つ気配。振り向くまでもない。ルナ=インバースだ。部屋の片隅に置いてあるもう一つの椅子を示す。ルナがそれをベッド脇に置き、腰掛けるのを確認すると、語り部は仄かに笑った。
>>「・・・・・・・・まあ、多分君たちの考えてる通りだと思うよ。体調は・・・・・・・・そうだね、体4分の1ごっそり持っていかれたような感じ、かな?」
>
>モイラ;安堵ばかりと行かないようだね。
>ユア;(胸中複雑)・・・・・・・・無理しすぎですよ、語り部さん
語り部:まあ、ちょっとばかり無理したけど、結果は良かったし。でも、心配かけてごめんね?
朱琉:・・・・誰か、この人止めて・・・・
語り部:止められると思ってるのかい?朱琉。
朱琉:無理。(きっぱり)

>
>>「では、やはり・・・・」
>> レンの、悲痛な声。語り部は、それに頷いた。
>>「うん。『中枢予定表』のところから、『予定表』一冊盗み出してきた。」
>> 沈み込む二人の顔を見て、語り部は安心させるよう微笑む。
>>「大丈夫だって!半分持っていかれること、覚悟してたんだから。」
>>「しかし・・・・」
>> ルナが、言った。
>>「これ以上魔力を削られたら、あなたは・・・・」
>> 語り部は、あっさりと頷く。
>>「うん。僕、この世界に顕現していられなくなるね。ぎりぎり、今回持っていかれた分と同じくらいの力は使えるけどさ。」
>
>ユア;・・・・・・・っ
>モイラ;落ち着きなって。
>    『中枢予定表』から、『予定表』を持って来たって言うのは、ニュアンスだけなら、『大英図書館』から、『貴古本』を持ってきたようなものかな?
語り部:まあ、だいたいそんなところだね。まあ、今後の切り札だよ。

>
>>「気にすること無いよ、ルナ。これは、僕の『罪』の結果だから。例え誰であれ、罪は償わないといけないものなんだよ。・・・・謝るのは、僕のほうだ。君たちを巻き込んでしまって、すまない。」
>
>ユア;語り部さんは、自分を追い詰めすぎです。
>   結果でも、身体を持ってかれて死んだら、『償う』ことすらできないんですよ。
>   もう少し、軽くとは言いませんけど、もっ・・
>モイラ;(私の口を押さえて)まあまあ。
>    運命の神の名を冠された僕も、自分のしでかした事で、『償わ』無ければいけない事があるけどね。
>    それは、生きてこそのもんだからね。
>    ・・・・偉そうかも知れないけど、ごめんね。
語り部:誤解されてるみたいだから言うけど、別に僕は自分を追い詰めてるつもりはないよ。結構好き勝手してるし。ただ、好き勝手するためには、それに伴う責任とか後始末とかは自分でつけないといけない。結局、僕の好き勝手のせいで生じた『罪』だからね。皆を巻き込んだことは申し訳ないし、悪いと思えば謝るよ。
朱琉:それを、追い詰めてると言うんじゃ・・・・
語り部:まあ、だとしても仕方ないよ。それに、後悔はしていないから問題はない。
朱琉:・・・・

>
>>
>>
>> レンは、迷っていた。彼に、何ができるのかと。
>> 自分は、ただの一人の凡人でしかない。確かにそうだ。しかし・・・・
>> レンは空を仰いだ。そして、呟く。
>>「『力を持つものが何もしないのは罪』・・・・あなたの口癖でしたね、姉さん。・・・・それは真実かもしれないと、私は今初めて思いましたよ・・・・」
>> 捨て去った名前がまだ自分そのものであったときに思いを馳せる。
>>
>
>ユア;もごもご(口を押さえられている)
>モイラ;レンさん、自分がやれる事をやる、それでいいんだよ。
語り部:やれることをやってないから、レンは苦しんでるんだよ。そろそろ動くべきかとも思ってる。まあ、レンも過去にはいろいろあったから・・・・

>
>>
>> あとがき、或いは語り部の告げる未来
>>語:やあ!久しぶりだね。今回復帰した、語り部だよ。前々回のラストであちこちに心配かけてしまったけど・・・・もう大丈夫だから。心配かけてごめんね。
>>  じゃあ、早速語ろうか。弛まぬ時の流れに眠る、まだ見ぬ未来の一端を。
>>   逃げ出して、心を閉ざして。
>>   それでも、変わることのない現実。
>>   望みは一つ。そのために定めた心に、迷いなど許されない。
>>   例え、どれほど心が痛もうとも。
>>  次回、『時の旅人』28話、『止まない雨』
>> じゃあ、またね!近いうちに会えるよう、祈っているよ。
>>
>>
>
>ユア;はい。
>   次回も楽しみにしてます。
>モイラ;次回も、下手したら、暴走するかな。
>    ・・・・応援っ呼んだほうがいのかな。
>ユア;モイラ?
>モイラ;ああと、次回もちゃんと見させてもらうね。
>二人;それでは。
語り部:じゃあ、次回でまた会おうね。
二人:それでは!
>
>

トップに戻る
17292Re:時の旅人 27:混迷の夜神高 紅 2005/9/30 01:12:18
記事番号17282へのコメント

紅:某虎球団優勝おめでとー!・・・コホン!紅です。
ク:何その挨拶・・!?
紅:いやファンなもんで。
コ:心底どうでもいい個人情報だな。
紅:自分でもそう思いまする。まあとにかくレス行きます。
>「・・・・ぎ・・・・なぁ・・・・」
> か細い、掠れた声がした。全員が、一斉に声の元を見る。
> 声の主・・・・語り部の指が、ひくりと動いた。口元に、うっすらと笑みが刷かれる。
>「・・・・縁起、悪いなぁ。死んでないよ・・・・そう簡単に死ぬ僕じゃないさ。」
> 瞼が、ゆっくりと開いてゆく。その下には、まだ少しだけ霞がかったような、青灰色の瞳が。
> 流石に身を起こすことはしなかったが、それでも語り部は笑った。
紅:無事でなによりです。
コ:まあ殺しても死ななそうだしな。
ク:コウは相変わらず・・口が悪い・・すいませんねカタリさん・・
>「大丈夫。ただの熱中症だよ。今日、意外と暑かったからねぇ・・・・」
> もちろん、そんな言葉に納得できる人はいなかったけれど、軽口を言えるという、その事実が嬉しくて。
> レンは、その場にへたり込んだ。
>「よ、かった・・・・・・・・」
>「やだな、大袈裟だよ。・・・・・・・・まあでも、皆、心配かけてごめん。・・・・もう少し、寝てもいいかな?」
> よく考えてみれば、確かにもうかなり遅い時間で。各々、自分の寝床に戻ったのだった。
>
> そんな己の行動に、疑問すら持たず。
紅:熱中症ときましたか。
コ:はっはっは、語り部がそんなタマかよ?気温100度でも超えたか?
ク:精一杯の強がりで・・なければいいんですけど・・
>「・・・・・・・・まあ、多分君たちの考えてる通りだと思うよ。体調は・・・・・・・・そうだね、体4分の1ごっそり持っていかれたような感じ、かな?」
>「では、やはり・・・・」
> レンの、悲痛な声。語り部は、それに頷いた。
紅:普通は死にますよ。
ク:半半殺し・・?
コ:ちょっと違うんじゃねえかなあ・・・
>「これ以上魔力を削られたら、あなたは・・・・」
> 語り部は、あっさりと頷く。
>「うん。僕、この世界に顕現していられなくなるね。ぎりぎり、今回持っていかれた分と同じくらいの力は使えるけどさ。」
> ルナの顔が歪んだのを見て、語り部は優しく告げた。
>「気にすること無いよ、ルナ。これは、僕の『罪』の結果だから。例え誰であれ、罪は償わないといけないものなんだよ。・・・・謝るのは、僕のほうだ。君たちを巻き込んでしまって、すまない。」
> あまりにあっさりと頭を下げるので、逆にレンとルナが困惑してしまう。語り部は、ふわりと微笑んだ後、少し表情を引き締めた。
ク:自分の身すらかけて・・それほどまでに・・あなたの罪は重いものなのですか・・?
コ:結果はどうなろうと・・・やるなら貫き通せよ。そうしないと自己満足にすらならないぜ。
> レンは、迷っていた。彼に、何ができるのかと。
> 自分は、ただの一人の凡人でしかない。確かにそうだ。しかし・・・・
> レンは空を仰いだ。そして、呟く。
>「『力を持つものが何もしないのは罪』・・・・あなたの口癖でしたね、姉さん。・・・・それは真実かもしれないと、私は今初めて思いましたよ・・・・」
> 捨て去った名前がまだ自分そのものであったときに思いを馳せる。
>
> 夜明けはまだ、遠い。
ク:それは真理ですね・・だけど力を持つが故に何もしない・・できないというのも・・また真理・・私はそうも思います・・
コ:凡人、天才なんて区切りはな自分を信じられねえやつの考えなんだよ。ようはやるかやらないかだ。
紅:なにかやれることはあるでしょうから。
> あとがき、或いは語り部の告げる未来
>語:やあ!久しぶりだね。今回復帰した、語り部だよ。前々回のラストであちこちに心配かけてしまったけど・・・・もう大丈夫だから。心配かけてごめんね。
>  じゃあ、早速語ろうか。弛まぬ時の流れに眠る、まだ見ぬ未来の一端を。
>   逃げ出して、心を閉ざして。
>   それでも、変わることのない現実。
>   望みは一つ。そのために定めた心に、迷いなど許されない。
>   例え、どれほど心が痛もうとも。
>  次回、『時の旅人』28話、『止まない雨』
> じゃあ、またね!近いうちに会えるよう、祈っているよ。
紅:さようなら・・・の前に一言だけ、前話のアイリスとイノリの会話がものすごく良かったです。なんか狂科学者っぽくていい感じ。それではこの辺で。
コ:じゃあな。無茶も程ほどにしときな。
ク;ではばいばい・・お体に気をつけて・・

トップに戻る
17293罪の意識も人それぞれ羅城 朱琉 2005/9/30 08:31:23
記事番号17292へのコメント


>紅:某虎球団優勝おめでとー!・・・コホン!紅です。
>ク:何その挨拶・・!?
>紅:いやファンなもんで。
>コ:心底どうでもいい個人情報だな。
>紅:自分でもそう思いまする。まあとにかくレス行きます。
朱琉:こんにちは!虎球団優勝ですか。そういえば先日、ニュースで言ってましたね・・・・
カタリ:朱琉の家は、ファンと言うほどではないけど中日贔屓かな?
朱琉:私は別に・・・・。ただ、家が中日新聞を取っているので。では、返レスです。

>>「・・・・ぎ・・・・なぁ・・・・」
>> か細い、掠れた声がした。全員が、一斉に声の元を見る。
>> 声の主・・・・語り部の指が、ひくりと動いた。口元に、うっすらと笑みが刷かれる。
>>「・・・・縁起、悪いなぁ。死んでないよ・・・・そう簡単に死ぬ僕じゃないさ。」
>> 瞼が、ゆっくりと開いてゆく。その下には、まだ少しだけ霞がかったような、青灰色の瞳が。
>> 流石に身を起こすことはしなかったが、それでも語り部は笑った。
>紅:無事でなによりです。
>コ:まあ殺しても死ななそうだしな。
>ク:コウは相変わらず・・口が悪い・・すいませんねカタリさん・・
カタリ:いやいや、実際、殺されても死ぬかどうか怪しいものだし。
朱琉:普通、心配してくれてありがとう、もしくはごめんねじゃないのでせうか・・・・?

>>「大丈夫。ただの熱中症だよ。今日、意外と暑かったからねぇ・・・・」
>> もちろん、そんな言葉に納得できる人はいなかったけれど、軽口を言えるという、その事実が嬉しくて。
>> レンは、その場にへたり込んだ。
>>「よ、かった・・・・・・・・」
>>「やだな、大袈裟だよ。・・・・・・・・まあでも、皆、心配かけてごめん。・・・・もう少し、寝てもいいかな?」
>> よく考えてみれば、確かにもうかなり遅い時間で。各々、自分の寝床に戻ったのだった。
>>
>> そんな己の行動に、疑問すら持たず。
>紅:熱中症ときましたか。
>コ:はっはっは、語り部がそんなタマかよ?気温100度でも超えたか?
>ク:精一杯の強がりで・・なければいいんですけど・・
カタリ:強がってる気は、全く、これっぽっちもないんだけどねぇ。
朱琉:あなたの感性が変なんでしょう?

>>「・・・・・・・・まあ、多分君たちの考えてる通りだと思うよ。体調は・・・・・・・・そうだね、体4分の1ごっそり持っていかれたような感じ、かな?」
>>「では、やはり・・・・」
>> レンの、悲痛な声。語り部は、それに頷いた。
>紅:普通は死にますよ。
>ク:半半殺し・・?
>コ:ちょっと違うんじゃねえかなあ・・・
カタリ:いや、あくまで感覚の問題だから。実際体削げてるわけじゃなし、死なない死なない。
朱琉:やっぱりあなたの感性、変・・・・

>>「これ以上魔力を削られたら、あなたは・・・・」
>> 語り部は、あっさりと頷く。
>>「うん。僕、この世界に顕現していられなくなるね。ぎりぎり、今回持っていかれた分と同じくらいの力は使えるけどさ。」
>> ルナの顔が歪んだのを見て、語り部は優しく告げた。
>>「気にすること無いよ、ルナ。これは、僕の『罪』の結果だから。例え誰であれ、罪は償わないといけないものなんだよ。・・・・謝るのは、僕のほうだ。君たちを巻き込んでしまって、すまない。」
>> あまりにあっさりと頭を下げるので、逆にレンとルナが困惑してしまう。語り部は、ふわりと微笑んだ後、少し表情を引き締めた。
>ク:自分の身すらかけて・・それほどまでに・・あなたの罪は重いものなのですか・・?
>コ:結果はどうなろうと・・・やるなら貫き通せよ。そうしないと自己満足にすらならないぜ。
カタリ:貫き通すよ。例え、何が起ころうとも。・・・・それが、僕にできる唯一の償いだから、ね。
朱琉:・・・・たまには、息抜きしな?いくらあなたでも、壊れるよ。
カタリ:そこまでヤワじゃない。・・・・君が一番良くわかってるだろう?朱琉。
朱琉:・・・・

>> レンは、迷っていた。彼に、何ができるのかと。
>> 自分は、ただの一人の凡人でしかない。確かにそうだ。しかし・・・・
>> レンは空を仰いだ。そして、呟く。
>>「『力を持つものが何もしないのは罪』・・・・あなたの口癖でしたね、姉さん。・・・・それは真実かもしれないと、私は今初めて思いましたよ・・・・」
>> 捨て去った名前がまだ自分そのものであったときに思いを馳せる。
>>
>> 夜明けはまだ、遠い。
>ク:それは真理ですね・・だけど力を持つが故に何もしない・・できないというのも・・また真理・・私はそうも思います・・
>コ:凡人、天才なんて区切りはな自分を信じられねえやつの考えなんだよ。ようはやるかやらないかだ。
>紅:なにかやれることはあるでしょうから。
カタリ:ある意味、これも『罪の意識』かな?レンにとっては、ね。

>> あとがき、或いは語り部の告げる未来
>>語:やあ!久しぶりだね。今回復帰した、語り部だよ。前々回のラストであちこちに心配かけてしまったけど・・・・もう大丈夫だから。心配かけてごめんね。
>>  じゃあ、早速語ろうか。弛まぬ時の流れに眠る、まだ見ぬ未来の一端を。
>>   逃げ出して、心を閉ざして。
>>   それでも、変わることのない現実。
>>   望みは一つ。そのために定めた心に、迷いなど許されない。
>>   例え、どれほど心が痛もうとも。
>>  次回、『時の旅人』28話、『止まない雨』
>> じゃあ、またね!近いうちに会えるよう、祈っているよ。
>紅:さようなら・・・の前に一言だけ、前話のアイリスとイノリの会話がものすごく良かったです。なんか狂科学者っぽくていい感じ。それではこの辺で。
>コ:じゃあな。無茶も程ほどにしときな。
>ク;ではばいばい・・お体に気をつけて・・
朱琉:はい、ではこの辺で。
二人:さようなら!

トップに戻る
17308時の旅人 28:止まない雨羅城 朱琉 2005/10/11 08:18:12
記事番号17272へのコメント

 こんにちは!体調壊して身動きが取れなかった羅城 朱琉です。久々の本編更新となりました。
 アリエスサイド第4話目、早速ですが、どうぞ!




  時の旅人

  28:止まない雨

 しばらくは、アリエスはその場に留まっていた。しかし、その後音もなく立ち上がる。そして、ゆっくりと出口に向かって歩き始めた。
 アリエスは、気配を消すことに長ける。・・・・賑わう談話室の中、誰にも見咎められることなく、外へ出て行ける程に。それは、長年の孤独によって身についた、悲しい習性。振り返りすらせず、アリエスは談話室の扉を閉ざした。
「あれ?もう出てきちゃったの?」
 ぴくりと、アリエスは肩を震わせた。目の前に立っていたのは、男物のズボンとよれよれの白衣を着た、美人だが妙にやる気のなさそうな女性と、少し着崩したカッターシャツにスラックス、その上から、こちらはきちんとアイロンのかかった白衣を着た、妙ににこやかな銀縁眼鏡の少女。・・・・確か、『アイリス』と『イノリ』と呼ばれていたはずだ。
「人付き合いは苦手なんだねぇ。もう少し、対人行動の観察をしたかったんだけどな。・・・・まあ、いいや。あ、そう言えば正式に名乗ってなかったような気がする。あたし、イノリ。『コウヅキ イノリ』よ。上の月、って書いて『上月』、唯一の理、って書いて『唯之理』よ!いい名前でしょ!?専門は化学と生物学、あと薬学。たまに心理学とか、人間関係学とかもやってるよ。よろしくね!で、こっちがアイリスちゃん。」
「正式には、アインリッシュ=ウィンバーよ。略してアイリス。」
 咄嗟にアリエスが逃げの体勢に入ってしまったのは、先の不穏当な発言からしてやむを得ないだろう。仮にも、アリエスはこれまで旅を続けてきた魔道士で、剣士でもある。一度逃げることに集中すれば、その足は理系二人組の追いつけるものではない。二人もまた、特に追おうとはしなかった。イノリが、銀縁眼鏡を僅かにずらしただけで。
「・・・・・・・・本っ当に、人付き合いが苦手っぽいよ〜。今、部屋に向かって秒速8.3mで爆走中。足速いねー。」
 相変わらず、笑みを含んだ声でイノリは言った。
「でも、逃がしちゃって良かったの?その左目使えば、足止めも簡単でしょう?」
 アイリスは面白そうにそう言って、イノリの左目を・・・・あらゆる電気エネルギーを感知し、操る力を持つ、その瞳を覗き込んだ。
「アイリスちゃんこそ、その左手で捕まえれば、いくらなんでも逃げられなかったんじゃない?」
 イノリは、アイリスの左腕に手を絡めた。その左手には魔族が宿り、その気になれば自分を縊り殺すことなど容易いと知りながら。
 二人の狂科学者は、どこか歪んだ笑いを浮かべながら、その場に立ち尽くす。これから起こるであろう、『何だか面白そうなこと』を、じっくり見守るつもりで。


     *     *     *     *     *


 ほとんど逃げ込むようにして、アリエスは部屋に戻ってきた。まだ昼時だというのに、ぐったりと疲れきっている。これから暮らしていくのは、ここだというのに・・・・。理由はもちろんわかっている。
(あれほど多くの人と一度に接するのは・・・・この長い生の中でも初めてかもしれませんね・・・・)
 つい先日取り戻した『本当の記憶』を探ってみる。ざあざあと降りしきる雨の音に耳を傾けながら。

 生まれた場所は、レティディウス公国首都・レティス・シティ。不死の研究による混乱の真っ只中で、他人に心を傾けることなどない時代だった。生まれて約半年後、父と母が死んだという。実験中の事故だった、と、後に姉に聞かされた。
 姉の名は、リブラ=セイディーン=ラーナ・・・・『フェラナート家』としての名前もあるが・・・・。今なお『万象の制定者』の二つ名で知られる、賢者にして魔道士。アリエスは、姉に育てられた。姉は、優しかった。研究のこととなると周りが全く見えなくなって、食事を忘れた結果餓死しかけたことも何度かあるくらいだ。その時に関わりが深かったのは、姉と、あの、変わり者・・・・ディスティア=ペシュテルと言う名の女性魔族くらいだ。
 その後、時を止められて。その時からアリエスは長い眠りについた。本来なら、二度と目覚めることはなかったはずの眠りに。
 目覚めたのは、180年くらい前。破られないはずの眠りが破られて、その衝撃のせいか、その後何十年かの記憶は未だ曖昧だ。・・・・ひょっとしたら、姉がもしものときのためにかけた『記憶改竄』のせいかもしれない。・・・・リブラはかつて、アリエスに望んだのだ。『どうか、幸せな生であるように』、と。だから、万が一眠りが解かれたら、その時は、辛く苦しく何より重いその宿命を忘れ、静かに暮らせるように、と願い、『記憶改竄』をかけた。そう、最近は思う。
 記憶がはっきりし始めてすぐ、ざっと120年位前、フェリセとユヴェルに出会った。それからの数年は、今も色鮮やかに思い出せる。
フェリセ・・・・フェリセ=ニーランデルは、元は捨て子だったという。拾い親はいい人だったが、やはりそれなり以上の苦労をしていたようだ。しかし、その心は広く、明るく、軽さに見せかけてそっと救いの手を差し伸べる人だった。今も、それは変わっていないように思える。
ユヴェル・・・・ユヴェル=ディティスは、蜂蜜色の髪と瞳を持つ、穏やかな青年だった。フェリセの幼馴染で、よき友人。極度のお人よしで、そのせいで事件に巻き込まれたこともあったが、アリエスは彼の傍が一番落ち着ける場所だった。
 そして・・・・

 そこまで考えて、アリエスは思考を止めた。いつの間にやら、夕方になっている。晴れてさえいれば、美しい夕焼けが見られるであろう時間・・・・。アリエスは、ふと胸を押さえた。
「大丈夫・・・・。私は、大丈夫。魔族の企みに乗りはしないし、みすみす神族に『殺され』たりもしない。異界の思惑も跳ね除けてみせる。・・・・だから、大丈夫・・・・」
 胸を押さえたまま、何度も『大丈夫』と呟き続ける。まるで、その奥にある『何か』に言い聞かせるように。
 そろそろと闇が忍び寄り、辺りを満たすのは雨音だけ。
 それに溶け込むように、仄かな囁きが聞こえた。

「・・・・・・・・ルピナスとレンを不幸にするくらいなら・・・・二人の生きる世界を壊すくらいなら・・・・・・・・」

 紡ぐのは、アリエス。茫洋たるその瞳に映るのは、目の前の闇の色。脳裏に浮かぶのは、昨日別れたばかりの、大切な人。
 嘆くように、誓うように、紡がれるその言葉。

「・・・・・・・・私が・・・・私が、消えてしまえばいい。全てを抱いて、還ってゆければいい・・・・。」

 辺りは夜の帳に覆われ、耳に届くのはただ雨音のみ。
 雨はまだ、止まない。

 あとがき、或いは語り部の告げる未来
語:やあ、久しぶりだね!・・・・しかし、布団の中にノートパソコン持ち込んで書くのやめなよ、朱琉。いくら痛み止めが効いてて暇だからってさ・・・・。
とまあ、そんな状況で書かれた今回の話、多少の誤字脱字は大目に見てやってほしいな。
  じゃあ、早速語ろう。未来へ至る一滴を・・・・
   大切な人を探してたどり着いた場所。
   それは、大切な人の始まりの場所。
   新たな出会いと共に開かれた道が示すものとは。
   そして、そこに眠るものとは・・・・
  次回、『時の旅人』29話、『その手に希望を』
  では、またね!

トップに戻る
17313時の旅人 29:その手に希望を羅城 朱琉 2005/10/13 09:42:51
記事番号17272へのコメント

 こんにちは!羅城 朱琉です。
 ルピナスサイド第4話、早速どうぞ!




  時の旅人

  29 その手に希望を

 一夜明けて。朝食の時間帯が過ぎた後、再びリアランサーに集まった一同、プラス一人は、互いに微妙な顔をしていた。
「『男になる』って・・・・本当だったのね・・・・。」
 とは、リナの言。ルピナスは苦笑して返した。
「まあ・・・・・・・・信じられないのもわかるけど、見ての通りだよ。・・・・で、そっちは誰なんだ?」
 そう言って、リナの横に座る金髪の青年を示した。
「ん?俺か?俺は、ガウリイ=ガブリエフ。リナの保護者だ。」
「保護者・・・・!?」
「あくまで『自称』だからね!」
 そんな雑談を続ける3人を見て、昨日と比べると格段に顔色の良くなった語り部がにこにこと笑う。
「フフ・・・・名高い『デモン・スレイヤーズ』の片割れだろうに。ところで、そろそろ本題に入っていいかな?」
 レンが居住まいを正した。ルピナスも、とたんに真剣な眼差しになる。リナも、ほんの少しだけ厳しい目を向けた。・・・・ガウリイは、ぼーっとしていたが。
「アリエスが今いる場所は、『自由宮殿(フリーダムパレス)』。『聖石の使徒』の本拠地さ。その所在を、ルナが突き止めてくれた。」
 語り部は、ルナに視線を向けた。軽く頷いたルナは、澄んだ声で告げる。
「『自由宮殿』は、一定の場所にあるものではないわ。不可視化の結界に包まれたそこは・・・・空を流れている。」
「空?」
 疑問の声を上げたルピナスに、語り部が答えた。
「そう。だから、これまで見つからなかったんだよ。『聖石の使徒』が出来てから、かれこれもう15年くらい経ってるのに、さ。」
「それで、その予想進路だけど、現時点で予測できる、最も精度の高い時と場所は・・・・今から3日後、場所は、旧レティディウス公国首都、レティス・シティ上空。」
「ちょ・・・・姉ちゃん、レティス・シティ辺りって、確か『魔の地帯』とか呼ばれている、遭難多発地帯じゃ・・・・」
 リナが、慌てた声を上げた。ルナは、特に何か言うわけでもなくただ頷く。それに付け加えるように、語り部が口を開いた。
「それは、真実。あの辺り一帯は、時間が歪んでるからねぇ。普通じゃ、まずレティス・シティにはたどり着けない。それこそ、『時』の魔力を持つものでないとね。例えば、アリエス。もしくは、それに準じる者。・・・・ああでも、心配無用だよ。僕が転送してあげるから。」
「「は!?」」
 さらりと言った語り部の言葉に、レンとルナの声が重なった。
「何を考えていらっしゃるんですかあなたはっ!!昨日のこと、忘れたとは言わせませんよ!!!!」
 レンが思わず叫ぶ。ルピナスは、驚いた。レンが声を荒げることなど、これまで一度も見たことが無かったから。しかし、語り部は相変わらず飄々と笑った。
「そっちに関しても心配御無用。僕だってきっちり考えてるよ。・・・・ああでも、悪いけど先に行ってもらうことになるからね。ルピナス、リナ、ガウリイ・・・・君たち3人で。」
「「!?」」
 ガウリイ除く二人は、声にならない驚愕を示した。
「いや、恥ずかしながら、今の魔力だと、1日三人くらいしか転送できないんだよ。3日後までには、僕とレンもそっちへ向かうから。・・・・ついでに、レティス・シティを調べてみたら?」
「どういう意味よ?」
 語り部は、少しだけ意地の悪そうな笑みを浮かべた。
「レティス・シティは、アリエスの故郷だよ。つまりは、その姉リブラの住んでいた場所でもある。・・・・オリハルコンの魔力波動を探ってごらん。地下の書庫か研究室の外壁が見つかるだろうよ。その中には、まだ残ってるはずだよ、リブラの手記とか。興味ないかい?」
 リナは考え込んだ。
「そりゃ、確かに興味あるけど・・・・。・・・・何でそんなこと知ってるのよ?」
「フフフ・・・・それはね、リナ・・・・秘密、だよ。」
 一瞬、どこぞの家庭内害虫もどきの神官がちらついて、リナはがくっと脱力した。
「さて、じゃあ、いいかな?準備が終わったら、昨日泊まった宿の裏の空き地へ来てね。特に、食料は忘れないように。」

 数分後、リナとガウリイの食料のあまりの多さにルピナスとレンが絶句し、語り部がそれすら予想していたように、巨大な魔法陣の中心にそれを運び込む姿が見られたとか。



     *     *     *     *     *


 魔法陣が、強烈な光を放った。それが消え去った後には、既に3人の姿は無い。語り部は、翳していた手を下ろした。
「ほら、大丈夫だっただろう?」
 レンは、渋い顔で頷いた。
「確かに、契約した精霊の力を借りれば負担にはならないかもしれませんが・・・・」
「心配しなくても、ちゃんと魔力は惜しんでるから。少なくとも、目的達成までは消滅できないよ。・・・・・・・・レン、ルナ。」
 語り部が、遠い目で空を眺める。そして、言った。
「あと、少し。あと少しで、『揺らぎの時』が訪れるよ。だから・・・・」
 ルナは、静かに頭を垂れる。レンもまた。
 語り部は、空の向こうの『何か』を眺めるように、天を仰いだ。

 あとがき、或いは語り部の告げる未来
語:やあ、こんにちは!今回はどうだったかな?しばらく僕はルピナス達と別行動になるし・・・・しばらく本編で皆さんに会えなくなるかも。淋しいなぁ・・・・。
  まあ、それはさておき、語ろうか。未来の断片を・・・・
   新たな光。それは、新たな現実との戦いの烽火。
   偽りを切り裂く瞳を前に、乙女は偽りを語る。
   その心の内を知るものは少なく、
   また、知ろうとするものはなお少ない。
  次回、『時の旅人』30話、『ムゲンメイキュウ』
 次回も、お楽しみに!


トップに戻る
17315Re:時の旅人 29:その手に希望を十叶 夕海 2005/10/13 22:41:21
記事番号17313へのコメント


短いですが、少々感想を。


やっぱり、驚かれてましたね、ルピ君。

リナとガウリィの食欲はもう、ブラックホ−ルですね。

語り部さんの出番が少なそうで、少々・・・寂しいですね。


では、次回こそ、ちゃんとしたレスを。
十一時半からバイトのユアでした。

それでは。


トップに戻る
17325遅くなりました羅城 朱琉 2005/10/17 08:19:33
記事番号17315へのコメント


朱琉:こんにちは!
語り部:遅くなってしまったけど、返レスといこうか。

>
>短いですが、少々感想を。
>
>
>やっぱり、驚かれてましたね、ルピ君。
語り部:まあ、普通の反応だね。
朱琉:信じられてないのも、悲しいものがありますが。


>
>リナとガウリィの食欲はもう、ブラックホ−ルですね。
朱琉:確かに。もしくは、二人そろって胃下垂とか・・・・
語り部:身もフタもないこと言わないの。・・・・確かに、胃下垂の人はいくら食べても太らないけど、その内全身倦怠感とか出てくる、結構嫌な病気なんだから・・・・。

>
>語り部さんの出番が少なそうで、少々・・・寂しいですね。
語り部:僕も、会えないのは淋しいな・・・・
朱琉:あとがきと返レスに、ほぼ毎回出てるでしょうに・・・・。次回の本編登場は、多分39話になるかと。
語り部:・・・・・・・・(ものすごく冷たい視線)
朱琉:・・・・・・・・番外とかには、しょっちゅう出てくるかと。

>
>
>では、次回こそ、ちゃんとしたレスを。
>十一時半からバイトのユアでした。
>
>それでは。
二人:それでは、また!
>

トップに戻る
17316Re:時の旅人 29:その手に希望を神高 紅 2005/10/14 00:20:15
記事番号17313へのコメント

紅:どうもこんばんは。神高紅です。ではレスへと参りましょうか。
>「アリエスが今いる場所は、『自由宮殿(フリーダムパレス)』。『聖石の使徒』の本拠地さ。その所在を、ルナが突き止めてくれた。」
> 語り部は、ルナに視線を向けた。軽く頷いたルナは、澄んだ声で告げる。
>「『自由宮殿』は、一定の場所にあるものではないわ。不可視化の結界に包まれたそこは・・・・空を流れている。」
>「空?」
> 疑問の声を上げたルピナスに、語り部が答えた。
紅:あったんだラピュ○はほんとにあったんだ!
コ:馬鹿じゃねえのかお前は!・・・いい加減突っ込むの疲れたよ・・・
ク:コウが珍しく挫けてる・・!?
>「それは、真実。あの辺り一帯は、時間が歪んでるからねぇ。普通じゃ、まずレティス・シティにはたどり着けない。それこそ、『時』の魔力を持つものでないとね。例えば、アリエス。もしくは、それに準じる者。・・・・ああでも、心配無用だよ。僕が転送してあげるから。」
>「「は!?」」
> さらりと言った語り部の言葉に、レンとルナの声が重なった。
紅:さらりと言い過ぎ。
コ:空間転移だけならともかく、時まで曲げるのはなかなかしんどいぜ。
ク:私も無理ですね・・今は、ですが・・
> 語り部は、少しだけ意地の悪そうな笑みを浮かべた。
>「レティス・シティは、アリエスの故郷だよ。つまりは、その姉リブラの住んでいた場所でもある。・・・・オリハルコンの魔力波動を探ってごらん。地下の書庫か研究室の外壁が見つかるだろうよ。その中には、まだ残ってるはずだよ、リブラの手記とか。興味ないかい?」
紅:物語の核心かもしれません。
コ:まあ、おそらくはな。なかなかにおもしろそうだな。
ク:私も一度・・見てみたいです・・
>「そりゃ、確かに興味あるけど・・・・。・・・・何でそんなこと知ってるのよ?」
>「フフフ・・・・それはね、リナ・・・・秘密、だよ。」
> 一瞬、どこぞの家庭内害虫もどきの神官がちらついて、リナはがくっと脱力した。
>「さて、じゃあ、いいかな?準備が終わったら、昨日泊まった宿の裏の空き地へ来てね。特に、食料は忘れないように。」
ク:もしかして・・カタリさん・・ゼロスさんの事知ってます・・?
コ:案外会ったことなんかもありそうだな。
> あとがき、或いは語り部の告げる未来
>語:やあ、こんにちは!今回はどうだったかな?しばらく僕はルピナス達と別行動になるし・・・・しばらく本編で皆さんに会えなくなるかも。淋しいなぁ・・・・。
>  まあ、それはさておき、語ろうか。未来の断片を・・・・
>   新たな光。それは、新たな現実との戦いの烽火。
>   偽りを切り裂く瞳を前に、乙女は偽りを語る。
>   その心の内を知るものは少なく、
>   また、知ろうとするものはなお少ない。
>  次回、『時の旅人』30話、『ムゲンメイキュウ』
> 次回も、お楽しみに!
紅:ああ、また前回のレスに間に合わなかったよ。イノリさんとアイリスが好きなのに。
コ:それは全面的にお前が悪いと思うが。
ク:その・・さぼり癖・・どうにかなりませんか・・?
紅:ならないねえ・・・まあまたさぼり癖が作動しなければ次回のレスでお会いしましょう。ではでは。
コ:じゃあな。
ク:さよなら・・

トップに戻る
17326某空中城のことは気づきませんでした(笑)羅城 朱琉 2005/10/17 08:22:23
記事番号17316へのコメント


>紅:どうもこんばんは。神高紅です。ではレスへと参りましょうか。
朱琉:こんにちは!
語り部:遅くなったけど、返レスといこうか。

>>「アリエスが今いる場所は、『自由宮殿(フリーダムパレス)』。『聖石の使徒』の本拠地さ。その所在を、ルナが突き止めてくれた。」
>> 語り部は、ルナに視線を向けた。軽く頷いたルナは、澄んだ声で告げる。
>>「『自由宮殿』は、一定の場所にあるものではないわ。不可視化の結界に包まれたそこは・・・・空を流れている。」
>>「空?」
>> 疑問の声を上げたルピナスに、語り部が答えた。
>紅:あったんだラピュ○はほんとにあったんだ!
>コ:馬鹿じゃねえのかお前は!・・・いい加減突っ込むの疲れたよ・・・
>ク:コウが珍しく挫けてる・・!?
朱琉:ラ○ュタ・・・・そういえば、そんな感じですね、まさに。
語り部:今頃気付いたのかい、朱琉・・・・

>>「それは、真実。あの辺り一帯は、時間が歪んでるからねぇ。普通じゃ、まずレティス・シティにはたどり着けない。それこそ、『時』の魔力を持つものでないとね。例えば、アリエス。もしくは、それに準じる者。・・・・ああでも、心配無用だよ。僕が転送してあげるから。」
>>「「は!?」」
>> さらりと言った語り部の言葉に、レンとルナの声が重なった。
>紅:さらりと言い過ぎ。
>コ:空間転移だけならともかく、時まで曲げるのはなかなかしんどいぜ。
>ク:私も無理ですね・・今は、ですが・・
語り部:いや、時を曲げるほうが簡単かもね。僕にとっては、だけど。だってホラ・・・・
朱琉:以下、ネタバレ禁止条約に基づき、検閲削除させていただきます。
語り部:朱琉、それ、ふざけてる・・・・?

>> 語り部は、少しだけ意地の悪そうな笑みを浮かべた。
>>「レティス・シティは、アリエスの故郷だよ。つまりは、その姉リブラの住んでいた場所でもある。・・・・オリハルコンの魔力波動を探ってごらん。地下の書庫か研究室の外壁が見つかるだろうよ。その中には、まだ残ってるはずだよ、リブラの手記とか。興味ないかい?」
>紅:物語の核心かもしれません。
>コ:まあ、おそらくはな。なかなかにおもしろそうだな。
>ク:私も一度・・見てみたいです・・
語り部:核心も核心。重要なことが山のように書いてある。
朱琉:なにしろ、あのアリエスのお姉さんですから。

>>「そりゃ、確かに興味あるけど・・・・。・・・・何でそんなこと知ってるのよ?」
>>「フフフ・・・・それはね、リナ・・・・秘密、だよ。」
>> 一瞬、どこぞの家庭内害虫もどきの神官がちらついて、リナはがくっと脱力した。
>>「さて、じゃあ、いいかな?準備が終わったら、昨日泊まった宿の裏の空き地へ来てね。特に、食料は忘れないように。」
>ク:もしかして・・カタリさん・・ゼロスさんの事知ってます・・?
>コ:案外会ったことなんかもありそうだな。
語り部:ああ、ゼロスって言うと・・・・獣王ゼラス=メタリオムのところの黒ずくめ。そういえば、5、6回会ったことあるなぁ・・・・。面白そうなのだとは思った記憶がある。
朱琉:ちなみにこの方、ほぼすべての神族・魔族と面識があります。

>> あとがき、或いは語り部の告げる未来
>>語:やあ、こんにちは!今回はどうだったかな?しばらく僕はルピナス達と別行動になるし・・・・しばらく本編で皆さんに会えなくなるかも。淋しいなぁ・・・・。
>>  まあ、それはさておき、語ろうか。未来の断片を・・・・
>>   新たな光。それは、新たな現実との戦いの烽火。
>>   偽りを切り裂く瞳を前に、乙女は偽りを語る。
>>   その心の内を知るものは少なく、
>>   また、知ろうとするものはなお少ない。
>>  次回、『時の旅人』30話、『ムゲンメイキュウ』
>> 次回も、お楽しみに!
>紅:ああ、また前回のレスに間に合わなかったよ。イノリさんとアイリスが好きなのに。
>コ:それは全面的にお前が悪いと思うが。
>ク:その・・さぼり癖・・どうにかなりませんか・・?
>紅:ならないねえ・・・まあまたさぼり癖が作動しなければ次回のレスでお会いしましょう。ではでは。
>コ:じゃあな。
>ク:さよなら・・
朱琉:二人を気に入っていただけて、何よりです。
語り部:じゃあ、今回はこの辺で。
二人:それでは、また!


トップに戻る
17333時の旅人 30:ムゲンメイキュウ羅城 朱琉 2005/10/19 08:18:25
記事番号17272へのコメント

 こんにちは!ついに、『時の旅人』も30話の大台に入りました!今後とも、『時の旅人』をよろしくお願いしますね。
 では、早速ですがアリエスサイド第5話、どうぞ!




  時の旅人

  30 ムゲンメイキュウ

 一夜明けて。
 結局、眠れぬ夜を過ごしたアリエスは、重い頭を振って、立ち上がった。時を止められて以来、本質的に眠る必要は無くなった。そして、体が必要としない分、眠りたくとも眠ることは困難で。アリエスは、休息を与えられることなく活動を続ける己の心が疲れているのを感じていた。
 窓の外を眺める。昨日から降り始めた雨は未だ止まず、小さな水音を絶え間なく響かせている。・・・・アリエスは、雨が嫌いだ。全てを奪い去るものは、いつも雨と共にやってきたから。例えば、永遠に続くはずだった眠りを解かれたとき。例えば、ユヴェルを失ったとき。例えば・・・・
 そこまで考えて、アリエスは再び頭を振る。再び、思考の迷宮に迷い込みそうになった己の意識を現実世界に向け、小さく溜息をついた。
「・・・・・・・・散歩でも、しますか。」
 大嫌いな雨の中だが、ここで思考にのめりこむよりはましだろう。
 雨の冷たさが、心まで冷やしてくれればいいと、そう思いながら・・・・


     *     *     *     *     *


 予想していたよりも、雨は暖かかった。そういえば、そろそろ初夏であったと、今更ながらにアリエスは思う。雨を全身に受けながら、極力何も考えないようにしてアリエスはただ歩いた。
 さあさあと、雨は降り注ぐ。・・・・この雨は、彼らの上にも降っているのだろうか?置き去りにしてしまった、きっと旅を続けているだろうルピナスの上に。優しい、ブレードヴィレッジの神官・レンの上に。そうであったらいいと思う。同じ空の下で、同じ空を眺めている。ただそれだけで、いい。
 それで、いいのだ。納得しているし、不満もない。だから、頬をつたうこの雫は、きっとこの雨の粒。ほんのり温かい塩水を拭うこともなく、アリエスはいつしか歩みを止めていた。

「まあ、あなた!一体何をしているのです!?」
 声が聞こえて、アリエスはのろのろとそちらに視線を向けた。何か、青い色彩が飛び込んでくる・・・・少女だ。髪は水色、瞳は青。雨をよけるべく何か呪文を唱えているのであろうか、水の染み一つない神官服は、海のような青。背負った大剣が不似合いだが、アリエスは特に気に留めなかった。ふと見れば、木々の隙間から東屋が見える。こちらを見つめる視線があと一対あるところから見て、どうやら少女はあの東屋から来たのだろう。とすれば、そこにいる人と話でもしていたのか。
「ああ、すみません・・・・。すぐに立ち去りますから、お気になさらず・・・・」
「そういう意味ではありません。ああ、こんなに冷え切ってしまって・・・・。こちらにいらしてください。そのままでは、お体に触りますわ。」
 そして、少女はアリエスの手を引いて歩き出す。意外と強いその力を知って、この大剣は伊達ではないのか、などど、ピントのずれたことを考えるアリエスがいた。

「アシュリータさん、何か、拭くものを・・・・」
 東屋に着いた少女は、まずそう連れの少女に言った。アシュリータと呼ばれた連れの少女は、彼女とは対照的に、灰色の髪にダークグレイの瞳、全身を灰色の服で覆っている。それは、判事の服ととてもよく似ていた。アシュリータは、あらかじめ用意してあった大きなタオルをアリエスに手渡す。
「拭いたほうがいい。風邪を引く。・・・・いや、アリエス、だったか?あなたならそれはないかもしれないが、一応、拭いたほうがいい。」
 名前を呼ばれたことに驚くも、よくよく思い出してみれば、淡々と呟くその声は、確か一度聞いたことのあるものだった。
「昨日、建物が倒壊したときにいらっしゃった方、でしたでしょうか?」
 アシュリータは、小さく頷いた。
「そう。名は、アシュリータ=ファラ=ネメシス。幻神族が一人、裁きを司る者。」
 淡々と呟き、もう一人の少女に目をやる。
「彼女は、マリン=セレイ。同じく幻神族が一人、海洋を司る者。」
 アリエスは、受け取ったタオルを持て余して、東屋の椅子の一つ、雨のかからないところに置く。そして、一応は礼儀、と思い、口を開いた。
「ご存知かと思いますが、アリエス=オルフェーゼ=ラーナと申します。・・・・ご歓談中の所を、わざわざありがとうございます。しかし、私もそれなりに考えあってこうして歩いておりましたので、そろそろお暇しようかと・・・・」
 言い募るアリエスの言葉を、アシュリータが遮った。
「アリエス=オルフェーゼ=ラーナ・・・・・・・・何を、迷っている?」
 一瞬、アリエスの瞳が凍ったように思えた。しかし、次の瞬間には、僅かに唇の端をあげてみせる。
「何を、突然・・・・。私に、迷いなどありませんよ。」
「ならば、それは何だ?その瞳の奥の、尽きせぬ悲哀と後悔は。・・・・無理をするな。そのままでは、じきに壊れるぞ。」
 アシュリータは淡々と、しかし、本気の声色で告げた。まるで罪人を裁くかのような口調に、横にいるマリンがおろおろと視線を彷徨わせる。
 ふと、アリエスが表情を消した。そのまま、一歩後ろへと跳ぶ。再び、止まない雨にその身を晒したアリエスは、僅かに唇を動かすと、その場から早足で立ち去る。
 アリエスがいなくなって後、アシュリータは溜息をついた。
「言い方が、悪かったか・・・・」
「当たり前です。それでも・・・・真実では、あると思いますわ。」
 アシュリータは、己の発言を悔やむように頭を抱えた。
「私は、こういう言い方しかできない。しかし・・・・私は、誤ったようだ。・・・・あの瞳を、形がないがゆえに果てのない迷宮に迷い込んだかのようなあの瞳を、私は見ていられなかった。でも、もう少し頃合を見計らうべきだった・・・・」
 淡々とした声音に滲む苦悩を見て取って、マリンはアシュリータの傍に寄り添う。
 慈愛深く、心優しい、母なる海の神は、常に正しく公平であるがために、傷つくばかりの裁きの神を慰めた。
 アリエスの告げた最後の一言が、アシュリータに届いていないことを祈って。

 『例え何と言われようとも、私は、迷うことは許されない』。そう告げた、あまりにも苦しく切ない声が、どうか届いていませんように。


 あとがき、或いは語り部の告げる未来
語:やあ!今回はどうだったかな?いろんな人が入れ替わり立ち代り登場中のアリエスサイド、わかりにくくてごめんね?
  では、早速だけど語ろうか。未来の一欠けらを・・・・
   過ぎ去った過去の断片。
   留め置かれたその笑顔は、今は既になく。
   乙女の名の先に開かれた扉は、
   彼らに、何をもたらすのか・・・・
  次回、『時の旅人』31話、『在りし日の笑顔』
  では、またね!

トップに戻る
17340時の旅人 31:在りし日の笑顔羅城 朱琉 2005/10/24 08:17:24
記事番号17272へのコメント

 こんにちは!お待たせしました、ルピナスサイド第5話です。
 ついに、『あの人』たちも登場となりました!
 では、早速どうぞ。




  時の旅人

 31:在りし日の笑顔

 大地に、唐突に光が走る。巨大な魔法陣を形成したそれは、一瞬、強力な光を発すると、解けるようにして空中に解け消えた。そこに現れたのは、ルピナス、リナ、ガウリイの三人。光のまぶしさに目を瞬かせていた三人は、徐々に視界が戻ってくるにつれ、辺りの様子を把握した。
「ここが、レティス・シティ・・・・?」
 リナが、ぽつりと呟く。辺りの様子を目の当たりにして。
深い森の中に広がる、広大な荒野。そこが、アリエスの故郷・・・・レティディウス公国首都、レティス・シティの今の姿だった。
「おー!見事に何にも無いな〜。」
 ガウリイが、暢気な声を上げた。ルピナスはと言えば、着いた当初こそ荒野を呆然と見ていたが、既に立ち直り、注意深く辺りを見回している。と、ルピナスが唐突に声を上げた。
「あ・・・・!」
「?どうかした?」
 リナの問いかけに、ルピナスはまっすぐに手を伸ばす。
「あの辺り・・・・何だか、窪んでいるように見えるんだ。」
 リナは、それを聞いてルピナスの指差す先をじっと見つめた。と、確かに緩やかな傾斜が確認できた。上から見れば、恐らく浅いクレーターのように見えるだろう。
「なあ、リナ・・・・」
 横手から、ガウリイが少しだけまじめな声で言った。
「何よ?ガウリイ。」
「あれ、誰だ?」
 ガウリイは、そう言って横手の森を指差す・・・・が、リナには何も見えない。
「えぇ!?誰も見えないけど・・・・」
 それでも、リナは知っている。ガウリイの視力と野生の勘は、信頼できることを。だから、リナは呪文を唱えながらそちらを見つめた。ただならぬ気配を察し、ルピナスもスローイングダガーを構える。
 と、確かに二人の目にも、かれらのほうに向かって走り来る、白い二つの影が見えた。それは・・・・
「あー!やっぱり、見覚えがあると思ったら。リナさんにガウリイさん!」
「アメリアにゼルガディス!何でこんな所にいるのよ!?」
「・・・・・・・・」
「・・・・?知り合いなのか?」
 一人、スローイングダガーを構えて戦闘体制をとったままだったルピナスが、呆けたような声で言った。
「んー・・・・まあ、『知り合い』って言うか『腐れ縁』って言うか悩むところではあるけどね。・・・・でも、どうしてまた二人してこんな所にいるのよ?」
 問いかけるリナに、ゼルがゆっくりと口を開いた。
「ここに、『万象の制定者・リブラ』の研究資料を収めた資料庫があると聞いてな。」
 続けて、やたら元気にアメリアが。
「あたしは、世界に正義を広めるための途中でゼルガディスさんに会ったので、一緒に来たんです!」
 案の定といえば案の定な答えに、リナは軽い頷きを返した。と、今度はアメリアが問う。
「それでリナさん、そちらの魔道士さんはどなたですか?」
「あ!そういえば紹介してなかったっけ?」
 リナの言葉を受け継いで、ルピナスは名乗る。
「僕はルピナス=セレス=ヴァリード。ルピナスでいい。リナの・・・・旅の連れ、でいいのか?」
「それしか、言いようがないから、それでいいんじゃない?」
 二人だけで頷くのを見て、ゼルとアメリアは訝しがったが、説明が難しいと言って説明を省いた。その辺りは二人も追及せずに置いてくれ、その後ゼルとアメリアも名乗る。アメリアがセイルーンの王女サマだと聞いて、ルピナスの少し視線が一瞬泳いだのは、まあ、愛嬌といったところだろう。
 と、今まで沈黙を守っていたガウリイが、口を開いた。
「なあ・・・・」
 やけに真剣な口調に、一同の間に緊張が走る。そして・・・・
「どっかで見たような気もするんだが・・・・誰だ?」
 一瞬、空気が真っ白に染まったように見えた。そして、次の瞬間・・・・
「あほかぁぁぁっ!!!!」
 リナの叫びと共に、とてもただのスリッパが出したとは思えない澄んだ打撃音が、レティス・シティの青い空に響いた。


     *     *     *     *     *


 結局、一旦は省いた説明を手短に話し、語り部の言っていた手がかりを参考に、魔法が使えるものが手分けして『リブラの資料庫』を探すことになった。とはいえ、レティス・シティは広い。どうしても、時々休憩を入れつつになってしまう。そんな時間を利用して、リナは密かに一番気になっていたことをゼルに問うた。それは、『どうやってここに入ってきたのか』ということ。そして、その答えの中には、意外な人物の名前が出てきた。曰く、「突然ゼロスが現れて、案内をするだけして帰っていった」そうだ。理由を聞いたが、例のセリフ・・・・「それは、秘密です」が帰ってきただけだったらしい。
何やら魔族の陰謀を感じるが、どうすることも出来ない。それでも今は、前に進むしかない。そう考えてリナは、再び『リブラの資料庫』を探し始めた。

 それからしばらくして、『リブラの資料庫』と思しき、巨大なオリハルコンの塊を発見した。その場所は、ここへ来て比較的すぐに発見した、あの浅いクレーターの中心。そして、そこに『それ』はあった。
 それは、花束。どことなく寂しげな青紫の花を束ねた、簡素な花束。まだ、供えられてからそう時間はたっていないだろうそれ。
 それを目にした瞬間、ルピナスは鈍い頭痛に襲われた。・・・・しかし、耐えられないほどではない。何事もなかったかのように花束に近づく。先にそこへと行っていたリナとアメリアが手に取り、ためつすがめつしている横から花束を覗き、気付いた。
「それ・・・・!何か書いてある。」
「えっ!?・・・・本当だ、包み紙に、これは・・・・?」
 花束の包み紙を開き、丁寧にしわを伸ばす。それを見た瞬間、ルピナスは泣きそうになった。
【懐かしい姉様へ あなたの好きな紫苑の花に寄せて アリエス】
 それは、アリエスの文字。心の中でアリエスに謝りつつ、花びらの一枚を軽く引っ張ると、僅かの抵抗の後、ぷつりととれた。それは、この花の時が止まっていない証。この花がしおれぬ僅かの時間の間に、花が手向けられた、その証。
「アリエス・・・・ここに、来たんだ・・・・」
 無意識に、声が零れる。
ようやく、一つ、足取りを見つけた。

 それからが、また大変だった。『リブラの資料庫』の外壁はオリハルコン。埋まっているとはいえ、『地精道(ベフィス・ブリング)』を使えばすぐに掘り返せると思ったのが・・・・甘かった。レティス・シティは、時の流れの狂った土地。500年以上の歳月を経てもなお、草一本生えぬ大地。・・・・その地面の時の流れすらおかしくて、普通の魔法では何の影響も与えることが出来なかったのだ。結局、地道に掘り返すという手段で、何とか入り口までの通路を確保する。
 結局、『リブラの資料庫』へ入れたのは、夕方になってからだった。


     *     *     *     *     *


 長い時を経て開かれた扉の内の空気は、意外なほど澄んでいた。
『万象の制定者』とも、『万能の天才』とも呼ばれる、古の賢者、リブラ=セイディーン=ラーナ。その資料庫に並んでいたものは、本ではなかった。そこにあったのは、ずらりと並んだ赤い宝玉・・・・記憶球(メモリー・オーブ)。
「うわー・・・・」
 リナの、呆れたような声。そういえば、これの中身を見るためには、特定のキーワードが必要だったことを思い出す。と、ルピナスはある違和感に気付き、呟いた。
「ここ、狭い気がする。」
「どういう意味だ?」
「外からオリハルコンの外壁を見つけた時、その大きさは・・・・この部屋の3倍くらいは広かったし、もっと深さもあったと思う。・・・・隠し部屋が、あるのかもしれない。」
 最もな話ではあるが、一体どうやって探すべきなのか。部屋の側面にはずらりと記憶球が並び、真正面の壁にも継ぎ目のようなものは見えない。ガウリイに壁を切ってもらうという手もないことはないが、ここは入り口以外埋まっている。下手をすれば、天井が崩落してそのまま生き埋め、といった可能性もあるのだ。
 しばし、困惑の空気が満ちた。

 しばらくして、それに最初に気付いたのは、ガウリイだった。
「ん?・・・・なあ、リナ。ここに、何か書いてあるぞ。」
「へ?」
 抜けた声を出し、リナはガウリイの指差すところ・・・・記憶球の並ぶ棚の一部に『明り(ライティング)』の光を近づける。すると、確かにそこには小さく文字が書いてある。
「カオス・ワードね。何々・・・・?『闇の中に光を掲げ、進む道の導となれ。百と十三個目の扉を開け。』・・・・?」
 瞬間、記憶球の一つ・・・・丁度、その文字の真上にあった記憶球が淡い光を放った。それを見て、ゼルとアメリア、ルピナスもそちらへ行く。そして、閉じ込められた景色と音が再現された。

 そこは、薄暗い部屋だった。映されている文字は細かくて、とても読み取ることが出来ない。そんな中、柔らかなメゾソプラノの声が淡々と語る。
『第54回目の実験も、失敗。・・・・やはり、サイラーグのあの『家』に連絡を取るべきなのかもしれない。・・・・いえ、それではダメ。それでは、あいつらはアリエスを生贄のようにするだけだわ!それだけは、絶対に防がないと・・・・。最近はこの街も、頓に治安が悪くなってきたわ。奥の書庫を封印することにした。キーワードを、アリエスにも教えないとね・・・・。今回の資料は、地下2階の奥にしまうことに・・・・』
 と、突然景色が動いた。部屋の入り口が映し出され、そこがゆっくりと開いてゆく。隙間から顔を出したのは、肩くらいまでの銀髪に、淡緑色の瞳の、10歳くらいの少女・・・・恐らくは、子供の頃のアリエス。少女は、鈴を転がすかのような、綺麗なソプラノで言った。
『姉様っ!またここに篭ってたの?・・・・ご飯、冷めちゃうから早く食べて、って言ったのに。』
 と、景色の視点が高くなった。恐らく、この記憶球を持ったまま立ち上がったのだろう。
『ごめんね、アリエス。あと、この本片付けたら行くから。』
『私が片付けるから、姉様はご飯食べてて!書庫に入ったら、また読書に没頭するの、わかってるんだから。』
『はいはい。じゃあ、お願いね。』
 そして、そこで映像は途切れる。

 ルピナスは、映像が終わった後も、その場を動けなかった。どこかにキーワードの手がかりがないかと、他の4人が動き出した後も、なお。
 記憶球の中のアリエスは、笑っていた。可憐な花が咲いたような、周囲に光を振りまくかのような笑顔で。
 今は、ほとんど微笑みを見せないアリエス。ルピナスの知るアリエス。アリエスのことを何も知らないのは、わかっている。それでも、思わずにはいられない。・・・・あの、輝かしい笑顔の少女は、どこへ行ってしまったのだろう、と。


 あとがき、或いは語り部の告げる未来
語:やあ!どうだったかな?ようやく、ルピナスサイドも人数がそろって、核心への第一歩を踏み出したよ。
  じゃあ、次はアリエスサイド6話。その断片を、語ろうか・・・・
   一人歩むことを決め、それでも心は迷い続ける。
   万象を抱く天を頂くものの声は、甘く誘う死神の刃か。
   闇の中で、思いが二つに割れるとき、
   胎動は、いよいよ激しくなる。
  次回、『時の旅人』32話、『すれ違う言葉』
 じゃあ、また会おう!

トップに戻る
17352時の旅人 32:すれ違う言葉羅城 朱琉 2005/11/1 08:17:43
記事番号17272へのコメント

 こんにちは、お久しぶりです、羅城 朱琉です。
 短いのにやたらと難産でした、アリエスサイド第6話、早速どうぞ!




  時の旅人

  32:すれ違う言葉

雨が、徐々に小降りになってきた。
アリエスはずぶ濡れの体を無感動に見つめた。生暖かい雨は結局、アリエスを冷やしてはくれなかった。時の流れから切り離された身が風邪など引かぬことはわかっていたが、それでも今はそれがうらめしい。体調を崩していれば、しばらくは体調のこと以外考えずにすむだろうに。・・・・今は、揺らぐ心を繋ぎとめる『枷』が必要だと、アリエスは切に感じていた。
(私の心が揺らげば、『私』の使命が・・・・望みが、果たされなくなってしまう。・・・・それだけは、避けなければ。)
 一切の感情を排した冷徹な思考で、アリエスは現状を鑑みる。『聖石の使徒』は、枷となりうるか?・・・・答えは、否。されど、レンとルピナスは問題外。・・・・二人を巻き込まぬことが、前提条件なのだから。ならば・・・・
「・・・・やはり、『シーシェンズ』か『ヴェルリュード』に会うしかありませんか・・・・。」
 例えそれが意味することが、『アリエス=オルフェーゼ=ラーナ』としての自由を捨て、『アリエス=オルフェーゼ=ヴィータ=フェラナート』に戻ることであっても。

 そして、その先に待つものが、『アリエス』という存在の消滅であったとしても・・・・


     *     *     *     *     *


「ちょっと、そこのお前!」
 今度は何だ?と、声には出さずに思いつつ、アリエスはそちらを見た。そこにいたのは、高飛車そうな口調そのままの、妙に偉そうな少女。黄色に近い金髪をツインテールにして、柘榴石のような暗赤色の瞳には、やもすれば高慢とも見えるほどの自信が見える。昔の中国の皇帝のような服に身を包んだ少女は、アリエスをぴしりと指差した。
「そう、お前よ!こんな所で何をしているの?もうあと10歩も歩けば、『自由宮殿』から落ちるわよ。自殺志願者ならば、不愉快だからわたくしの目の届かないところでやって頂戴!」
 その言葉に、ああ、そういえばここは上空だったと今更ながらにアリエスは思う。その様子をなんと見たのか、少女は更にわめきたてた。
「まあ、誰かと思えば、お前、確かアリエスとか言った・・・・先日屋根に埋まった者ね!?ああ、まったく、堕ちたりとはいえ仮にも元は至高神たるわたくしに、手間ばかりかけさせて、まあ!」
 不愉快さのみが募っていく中、アリエスはとっとと回れ右して立ち去ろうとした。しかし、それを遮る手があった。
「・・・・・・・・」
 無言無表情の、青い髪の女。昔の中国の貴婦人の格好をした彼女は、まずは背後の少女に言った。
「口調を治して欲しいと言ったはずだが。メノウは今でも我が主だが、既に我らが世界は無く、メノウも至高神には戻りえない。礼儀を覚えるべきだ。」
「だって、ラズランディア・・・・」
「名も名乗らず、一方的に礼儀の欠けた言葉を発すれば、相手が不愉快になるのは必至。」
 言い切って、青い髪の女性はアリエスに向き直った。
「ご無礼、お許し願いたい。我はシュリア=青龍(クィンロン)=ラズランディアと言う者。既に我らが世界は無い故、無意味な区分ではあるが、幻神族と呼ばれるものの一員にして、水を司る竜神だ。あそこに居られるのは、メノウ=黄帝(ファンディ)=フェアレイシェ。元は我らの世界において、全ての神の頂点に座していた方ゆえ、少々礼儀に疎い部分がある。」
「・・・・ご存知かと思いますが、アリエス=オルフェーゼ=ラーナと申します。」
 当たり障りのない答えとしてこちらも自己紹介を返し、アリエスはこの場から立ち去る手段を考えていた。
 しかし。
「うむ。アリエス嬢、一言言わせて頂けば、この方向に直進した場合も、あと20歩ほどで下に落ちる。」
「それは・・・・ご忠告、ありがとうございます。」
「ラズランディア!何故そのラーナとやらに近づいているの!?そんな『魔物憑き』なんかに・・・・!」
 メノウが言ったその瞬間だった。
アリエスの雰囲気が一転した。これまでの、距離を置きつつも、反応を返す空気から、何者も決して寄せ付けぬ、凍て付く刃のような空気に。
「・・・・確かに、礼儀知らずもいい所のようですね。ここまで不愉快な気分になったのも久しぶりです。」
 僅かに嗤いすら入った声に、ラズランディアは身震いする。ゆっくりと視線をメノウに向け、アリエスは歪んだ嗤いを浮かべた。メノウは、一瞬にして凍りついたかのようになる。恐らく、『聖石の使徒』たちは誰も知らないであろう。アリエス本人ですら、忘れているに違いない。・・・・・・・・『放浪の語り部』は、彼女をこう称したのだ。『氷の瞳の探求者』、と。その名をそのまま体現するかのように、見るもの全ての心を凍らせる瞳は嗤う。

 アリエスが立ち去るまで、二人はその場を一歩も動けなかった。


「な・・・・何よ何よ何よ!本当のこと言っただけじゃない!?」
 ようやく凍結が解けて、一番にメノウはわめいた。ラズランディアは何も言わず、ただじっとメノウをなだめている。やがて、メノウはラズランディアをきっと見つめ、命を下した。
「ラズランディア、『三賢人(トリニティ)』に連絡をとりなさい。あんな危険なもの、何で身の内に入れておくのか問いただすわ。」
 ラズランディアは小さく溜息をつきながらも、それに従った。


     *     *     *     *     *


 部屋に大至急帰り、アリエスは頭を抱えた。脳裏には、先ほど言われた言葉がまだ焼きついている。
 『魔物憑き』。確かに、それは真実なのだ。・・・・しかしそれは同時に、知られてはならぬことでもあった。
「どうしたらいいの・・・・?『あれ』に気付く者がいるなんて・・・・」
 昨日以上の苦悩に襲われ、アリエスは顔を覆った。

 あとがき、或いは語り部の告げる未来
語:やあ、こんにちは!今回はどうだったかな?毎回の事ながら、アリエスサイドはなかなか難しい。・・・・暗いし。
さて、次回の断片を語ろうか。
   幼き文字に鍵を見出し、ついに扉は開かれた。しかし・・・・
   先に待つものは決して優しくはなく、
   また、賢者は聖者ではなく。
   記された知識の先に、何を読み取るのか。
  次回、『時の旅人』33話、『血塗られた賢者』
 じゃあ、またね!今度は『風の契約×闇の誓約』になるかな?

inserted by FC2 system