◆−A four-leaf clover−水晶さな (2005/4/22 20:47:12) No.17031
 ┣The 1st leaf -Velvet:The love instruction-−水晶さな (2005/4/22 20:50:00) No.17032
 ┣The 2st leaf -Meltena:The long distance love-−水晶さな (2005/4/22 20:50:53) No.17033
 ┣The 3st leaf -Sery:The recommendation of self-refinement-−水晶さな (2005/4/22 20:52:26) No.17034
 ┗The 4st leaf -Azury:The wrong joint party-−水晶さな (2005/4/22 20:53:17) No.17035


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17031A four-leaf clover水晶さな URL2005/4/22 20:47:12



 ちょっとした短い話を書きたく、オムニバスで4話。
 申し訳ありませんが今回オリジナルキャラのみの出演です。
 「HAPPY DREAMS」にて登場させたアイドル4人組ですので、キャラをご存知無い方はお手数ですがそちらから先にお読み下さい。
 

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 麗かな陽気に誘われるように、微風に草葉が巻き上げられ、
 ふわりと舞ったクローバーが、とある建物の窓枠に着地した。
 そんな春の、ある一日――



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17032The 1st leaf -Velvet:The love instruction-水晶さな URL2005/4/22 20:50:00
記事番号17031へのコメント

 The 1st leaf -Velvet:The love instruction-
 【ベルベット:恋愛教示】

「よく恋愛に対して攻めなさいとか待ちなさいとかいう論があるけど」
 ストローから形の良い唇を離して、彼女はグラスをテーブルの上に置いた。
 向かいのソファーに座る速記の女性がちらりとグラスに目線をやって、眉を顰める。
 恐らくは口紅が全く付着しなかったストローに驚いているのだろうが――それを確認したブロンドの娘が満足気に微笑む。
 それから続きを待っている、真正面の記者の娘に視線を戻した。
 聞き取りに集中しているのは、前のめりになった姿勢ですぐに知れる。
「ワタシはどっちもお勧めしないわ。だってどっちも戦法の一つでしかないんだもの」
「戦法・・・ですか」
「言葉遣いが気に入らないなら方法でもいいわ」
「あ、いえ、そういう訳では」
 慌てて記者が手元のメモを捲った。
「要は時と場合を冷静に判断できたら勝ち」
 優雅に足を組み替えると、隣の速記の女が凄いものを見たというふうに目を瞬かせる。
 この女は自分を人間以外のものとでも思っているのだろうか。
 ――などと考えていると、記者が咳払いを挟む。
「それでは、ええと・・・これも多く寄せられている質問なのですが、倦怠期もしくは彼の浮気防止対策として何か一言・・・」
「そうねぇ」
 顎に指先を当てる。薬指に嵌められた銀の指輪が鈍い光を反射する。
 思いつくのは最愛の夫の顔で、とろけそうになる表情を慌てて引き締めた。
 恐らく他の仲間がこの場に在席していたら暴言くらい余裕でもらっているだろう。
 彼女たちとはただ単に好みが違うだけだ――と心中で反論する。
 思考が別の方向へ行ってしまったのを修正し、考えてから唇を開いた。
「彼女や妻としての位置に胡座をかいていないこと、じゃないかしらん」
 記者の娘の動きが止まった。思い当たる節でもあるらしい。
 組んだ膝の上に手を乗せて、彼女は続けた。
「どうせ座るなら彼の上に座りなさいってコト。メンタルな意味でね」
「・・・・・・」
「手綱は緩めてもいいけど手放しちゃダメ。何処にも行かないから、なんて甘く考えてると痛い目見るのはこっちよ」
 記者の握り締めるペンが、嫌な音をたてた。
「もっと具体的に言った方が良いかしらん?」
「・・・いえ、わかります・・・本当・・・わかります・・・そうなんですよね・・・」
 声が沈み始めた記者の背中を速記の女が慌ててさする。
 ――が、遅過ぎたらしい。その手をはねのけて記者の娘が盛大に泣き始めた。
「『仕事に一生懸命な君が好きだよ』なんて言ってたくせにいいぃ!!」
「す、すみませんこの子最近荒れたばかりで・・・」
 押し返された衝撃でずれた眼鏡を直しつつ、速記の女が謝罪する。
「・・・なような気がしたのよん」
 予想済みだと言わんばかりに、ベルベットが落ち着いた様子でストローに口を付けた。
 氷が溶けて薄くなったオレンジジュースの味がした。


「ベルベット、お帰りぃ」
 視力の良い、茶髪を三つ編みにした娘が真っ先に声を掛けてきた。
「今日もリポーター泣かせてきたの?」
「セリィ。失礼な言い方ねん」
 ベルベットが厚めの唇を尖らせる。
「記事にされた後で読者がどんなに頷いたって、リポーターが感心しないと熱を入れて記事にしてくれないじゃないの」
「ベルは観察眼が鋭過ぎるの、普段のんびりしてるくせに」
 長い黒髪をソファーに散らばしながら、まだ幼い顔立ちの娘が雑誌の上から目線を向けた。
「マイペースなのが一番なのよん、メル」
 同意を求めるように最後の一人に目線を向けると、気付いたように口を開いた。
「ベルベットの意見は至極もっともだと思われる」
 短く切った銀髪の娘が告げてから、鷹揚に頷いた。
「ねぇん、アズリー」
「あたし何でこの二人が仲良いのかわからない」
 メルテナが眉をひそめると、全く同じ表情のセリィが見返してきた。
「お互い自分のペースは絶対崩さないってことでは同じなのよ」
「その話は置いておいて、ワタシの注文したモノ、今日来てる筈なんだけど届いたかしらん?」
 笑みを浮かべたまま問うベルベットに、メルテナが思い出したように嫌な顔をした。
「・・・来たわよ。大の男が5人がかりでトレーニングルームに運び込んでった」
「ストレス解消に効くのはわかるけどさぁ。なんつーか・・・ファンからキャラを疑われるわよ」
「現場を見でもしない限り大丈夫よんv」
 届いた嬉しさからか、身をくねらせてベルベットが答える。
 トレーニングルームへと行きかけて、窓枠で本を読んでいるアズリーの前で立ち止まった。
「アズリーもやる?」
「何枚だ?」
「500枚頼んだから、100枚なら分けたげていいわん」
「50で結構」
「はぁい、それじゃ行きましょv」
 まるでこれからデザートでも食べにいくような感覚で、2人の娘が廊下の奥に消えた。
 しかめっ面で見送っていたメルテナが、時計を見やってから雑誌を閉じた。
 すっくと立ち上がって長い髪を一つに束ねる。
「行くの?」
「時間だもの」
 よれたスカートを直し、焦茶色のロングコートを羽織る。
 幼い顔立ちには浮いて見えるサングラスを掛けると、颯爽と扉から出ていった。
「そこまでしなくても、誰も気にしないと思うけどねぇ?」
 力なく手を振っていたセリィが、メルテナが置いていった雑誌を手に取る。
 離れたトレーニングルームからは、積み上げた瓦を拳で叩き割る音が不規則に響いてきた。

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17033The 2st leaf -Meltena:The long distance love-水晶さな URL2005/4/22 20:50:53
記事番号17031へのコメント

 The 2st leaf -Meltena:The long distance love-
 【メルテナ:遠距離恋愛】

「ありがとうございました」
 美容師が店の前まで出てきて頭を下げた。
 勿論その時には既にロングコートとサングラスはきっちり身に付けている。
 髪を切るのは――といっても、枝毛を切り落とすだけ――自分を知らない美容師の方が良い。
 ハーブを取り混ぜた髪用の美容液は、メルテナの思う以上に色つや良く仕上がった。
 毛先を摘まんで満足げに頷くと、うっかり緩んでいた足取りのスピードを速める。
 セリィには「いらない努力」とあしらわれるが、人に見つからないよう行動するのは癖だった。
「ぶ」
 顔を下に向けて歩いていた為、視線の先を横切る足に気付いた時には、既に相手に突っ込んでいて。
 無意識のタックルに、受けた相手が吹っ飛んだ。
 相手が抱えていたバイオリンのケースが、後を追うように顔の上に着地する。
 いい音と、呻き声がした。
「・・・・・・」
 しばし目を瞬かせてから――
 倒れたままぴくりともしない人物に、メルテナがそっと頭の方に回り込んだ。
 バイオリンのケースを、ひょいと持ち上げる。
(やっぱり)
 心中で呻いた。
 それは、虚弱体質なベルベットの夫だった。


 目を開けた時、青空が見えて。
「ああ、ベルベット」
 彼は半眼で呟いた。
「やっぱり僕のが先にお迎えがきて――」
「何言ってるの」
 額に痛撃がして、彼は生存を実感した。
「・・・メルテナちゃんかぁ」
 首を傾けてこちらの顔を確認すると、彼は大儀そうに身体を起こした。
 それから辺りを見回す。
 公園の、木々に囲まれた芝生の中だった。
「・・・随分奥だね」
「人に見られたくなくて」
「今は慰霊祭だから、用が無い限り人は外に出てこないけど?」
「気分の問題なのっ!!」
 メルテナが会話を無理やり終了させると、何処かで買ってきたのか紙コップを差し出してきた。
 まだ冷えていて、ラズベリーティーの味がした。
「まぁちょっと痛い思いさせちゃったから、お詫び」
 自分も同じ店のロゴが入ったジュースを飲みながら、メルテナが横に座り直した。
「公演会は終わったの?」
「ここではね。明日には出発するって」
 ロヴェルトは楽団に所属していて、自分達のように期間限定で場所を定めて演奏をする。
 故にタイミングが合えばベルベットと会う事もできるが、そうでない時は本当に長い間すれ違うという。
 ロヴェルトが飲み干したのを確認して紙コップを受け取ると、自分のものと合わせて丸め込む。
 10mは先であろうゴミ箱に放り投げると、弾丸のように命中した。
「・・・鍛えてるねぇ、メルテナちゃん」
「ロヴェルトさんが鍛えてないんだと思うけど?」
 軽く手を叩いて、メルテナが眉をひそめた。
「僕の代わりにベルベットが鍛えてくれるから」
「その内ベルに絞め殺されるわよ」
 本気で言ったつもりだったが、ロヴェルトは笑っただけだった。
「ああ、こんな時間だね。そろそろ行かないと、お茶ご馳走様」
「しばらく安静にしてた方がいいと思うけど?」
 大丈夫と言いながら立ち上がったロヴェルトが、歩きかけた瞬間足がもつれて転がった。
 言わんこっちゃないと言いたげに、メルテナが溜息をつく。
「宿どこ? 持ってってあげるわよ」
 これではすっかり男女の役が逆ではないかと呆れつつも、ベルベットの夫なので無下にもできない。
 片手で軽々とバイオリンケースを持ち上げると、メルテナが先に立って歩き出した。


「キャズさんは元気?」
「公演場所変えると一応チケット送ってるんだけど。もう3回も来てくれてない」
「遠方だからねぇ」
 慰めの言葉が欲しかった訳ではないが、仕方が無いように他人に言われるのはあまり気分が良くなかった。
「あのね、ロヴェルトさんも同じようなものじゃないの?」
 何が「同じもの」なのか理解できなかったのか、ロヴェルトがきょとんとした表情で見つめ返した。
「遠方でもないけど、擦れ違いで、最近ベルに会いに来てないじゃない?」
 そのことかと言いたげに、彼が頷く。
「公演が始まったから、しばらく忙しいとはベルベットに伝えてあるよ」
「・・・そんな素っ気無い一言でベルは納得するの?」
 ベルベットの肩を持つわけではないが、配慮の無い言葉に苛立った。
「納得というのかどうかはわからないけど」
 頭を掻きながら答える。
「その代わり約束はしたよ。手紙には必ず3日以内に返事を書くって」
「手紙?」
 呟いて思い出した。
 郵便受けから取った手紙にキスしながら自室に戻るベルベットの姿と、
 心底嬉しくてしょうがない笑顔。
「便りが欲しいと思ったら、自分からまず手紙を書けとも教わった」
『ねぇロヴェルト、久しぶりの逢瀬に近況報告で時間を潰すのは勿体無いと思わない?』
 分厚い便箋の束を渡しながら、彼女は微笑んだ。
『何でもいいから、遠くに居る貴方の事を教えて。寂しくなんかならないように。久しぶりに会えた時は、昨日も会っていたくらいに過ごしたいの』
「・・・・・・」
 言われて思い出す、手紙を書くベルベットの横顔。
 確かその時たまにはキャズに手紙でも書いてやれと言われ、「そんな暇はない」と聞き流した事も。
 生じた自己嫌悪に、メルテナが手の平を額に当てた。
「・・・自分から何もしないで、愚痴だけ言ってたのはメルの方か」
 聞こえなかったのか、ロヴェルトが首を傾げた。
「何でもない、ところでちょっと聞きたい事があるんだけど」
「何だい?」
「手紙って」
 意を決したように、メルテナが顔を上げた。
「どんなふうに書けばいいの?」

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17034The 3st leaf -Sery:The recommendation of self-refinement-水晶さな URL2005/4/22 20:52:26
記事番号17031へのコメント

 The 3st leaf -Sery:The recommendation of self-refinement-
 【セリィ:自己洗練のススメ】

「ふぅむ」
 バスルームから出た後、鏡で全身をチェックするのが癖だった。
「もうちょっと腹筋鍛えようかなー」
 日常生活ではあまりチェックしない全身のバランスを見るには良い機会、だと思う。
「セリィ、まだかしらん?」
 ただ共同使用のバスルームの場合、他メンバーから急かされる事も一度や二度ではなかったが。
「今出るから、待ってー」
 3秒後、脇に衣服と基礎化粧品を抱えたセリィがベルベットの横を通り過ぎる。
「・・・バスタオルも巻かずに出てくるって、待った意味はないのん?」
 ぱたぱたと部屋へ戻っていくセリィを見送って、ベルベットが溜息をついた。


 気合を入れていた。
 しかし、あからさまに見て分かるほどにしてはいない。
 とはいえ、ここに至るまでの工程を、やはり語りたくなってしまうのが本音である。
 もっとも語った後はその労苦を理解して欲しくなってしまうのだが。
「服は青が基調でアクセは銀で統一。カジュアルな格好だから足元はヒールで、シトラスのオードトワレで仕上げてみた」
「・・・うん」
 自信たっぷりに語るセリィに、彼は返答に困ってただ頷いただけだった。
 即座に渋面になった彼女を見て、慌てて言葉を付け足す。
「似合ってる。よく似合ってる」
 ようやく機嫌を直したように見えた彼女は、それでも笑顔を見せるまでには至らなかった。
「下半身引き締めのエクササイズを続けてるんだけど、思うように成果が出なくて」
「・・・それ以上痩せてどうするの?」
 露天で2つ購入したジュースの1つを渡しながら問うと
「もう少しヒップの位置が上がれば足が長く見えるのよ。そうしたらダンスの時見栄えが良くなるし・・・」
 根拠を説明したつもりだが、ヨルンの眉はひそめられたままだった。
「・・・何か?」
「・・・・・・ええと」
 差し障りの無い言葉を何とかして探そうとしている、そんな雰囲気。
「やり過ぎは・・・良くないんじゃないか?」
「どうして? ヨルンだって向上心ある人のが魅力的だって思うでしょ?」
「それはそうだけど」
 彼の視線は、セリィの腹部に注がれていた。
 口にするのが辛そうに、それでも振り絞って。
「・・・腹筋が、最近割れてきてないか?」
 セリィの手から、レモンジュースが落ちた。


 立腹を隠し切れない様子で荒々しく戻ってきたセリィが見たのは、
 運悪くもアズリーを相手に惚気話を展開しているメルテナの姿だった。
「でね、キャズがこの服メルに着て欲しいっていうからー」
 その一言はセリィの神経を逆撫でするには充分過ぎて、
「あ、そう。『自分のスタイルは崩さない』って言ってたメルは彼氏に言われた通りの服を着るのね」
 あからさまに棘のある言い方に、メルテナの片眉が跳ね上がった。
「メルは遠恋。一日中べったりひっついてられるセリィとは違うの。たまにしか会えないキャズのお願いを聞いてあげる事の何がいけないの!」
「べったりじゃないわよ失礼ね! あっちは仕事こっちも仕事、近くにいるのに擦れ違いになる方が苦痛!」
「そんなのただのワガママじゃない!」
 逆鱗に触れてしまったのか、セリィが勢い良くテーブルに手を叩きつけた。
「大体ね、彼氏に望まれた服を着るって事自体媚びなのよ。着飾るのはあくまで自分の為。彼氏の言う通りに自分を変えまくったら、一体何が残るっての? 元々あった自分の芯はどこにある訳?」
「自分の為に着飾るなんて自己満足じゃないの。結局は誰かに見てもらいたいから綺麗になろうとするんでしょ?」
「鏡に映った自分に惚れるほどの自惚れこそ美の追求の源よ! それがわかってないから彼氏の言う事を鵜呑みにするの!」
「だから、鵜呑みになんかしてないわよ! メルも気に入ったからキャズの言った服を着る、それだけじゃないの!!」
「口を挟ませてもらえば」
 場違いなほど冷静に低く呟かれた声に、激化していた口論が一瞬停止した。
 声の主を二人同時に振り向く。
「互いの価値観すら聞く耳を持たないというのは、恋愛云々よりも人として心が狭いと言わないだろうか」
「・・・・・・」
「・・・・・・」
 あくまで涼やかに告げた無表情の娘――アズリーに、
 目から鱗が落ちたような表情を浮かべた娘二人が、又視線をお互いに戻した。
「・・・・・・」
「・・・・・・」
 問題の的を得た――ただし、痛いくらいに貫いて――意見に、
 言葉を失ったセリィとメルテナが、気まずそうに視線を逸らし、
 そそくさと部屋へ逃げ帰った。


 行きつけのエステサロンから戻ったベルベットが、建物の入り口でアズリーと出くわして足を止めた。
「あら、今度はアズリーがお出かけ?」
「故郷の友人の引っ越し先がこの近郊だった。しばらくぶりに顔を合わせないかと連絡を受けたので、しばし出かける」
 珍しく暖色系の服装をしたアズリーが、機械のような動作で片手を挙げる。
「行ってらっしゃいv」
 擦れ違いざまに上げられた手の平を叩く。
 小さな革の鞄を手にして、同じ歩幅でアズリーが去っていった。

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17035The 4st leaf -Azury:The wrong joint party-水晶さな URL2005/4/22 20:53:17
記事番号17031へのコメント

 The 4st leaf -Azury:The wrong joint party-
 【アズリー:趣旨違いパーティ】

 レストランの中に均等に配置されたテーブル。
 一つ一つの足が床に固定されており、意固地に部屋の中枢を陣取っている。
 別にどうという事はない――それと対に自由に動ける椅子と見比べない限り。
 特にレストランの一番端の日当たりの良い席。
 正方形の一辺に、唯一正しく向けられている椅子が一脚と、
 その他の椅子は――全てその一脚に向けられていた。
「ご、ご趣味は・・・?」
「舞踏武術と、茶道を少々」
「お、御茶菓子は何が・・・」
「ホリウィーク産の羊羹」
 高い天井には内装よりも派手なシャンデリアがぶら下がっていた。
 鎖を突いたら見事に全てがテーブルを潰す位置だと推測する。
「洋物のケーキ等はお嫌いですか・・・?」
「嫌いではないが、カロリー計算が面倒になるので控えている」
 目線は向かい側のテーブルの客に移っていた。
(あの男女の口論の具合からすると、男性側の浮気沙汰が暴露したようだ)
 質問に答えながらも暇潰しとなるものを無意識に探しているのは――
 要は、とてつもなく退屈だったからである。


「只今帰宅した」
 言葉と同時に扉を開けると、いつもの仲間が3人揃っていた。
 メルテナもセリィも居る所を見ると、先程の口論はどうでも良くなったらしい。
「お帰りぃ」
 茶色の長い髪を三つ編みにした娘が中途半端に手を挙げる。
 ソファーで寝転びながら読んでいる雑誌の方に気を取られている。
「旧友との再会はどうだったのん?」
 ゆったりとソファーにもたれかけ、爪の手入れをしているブロンドの美女が首を傾けた。
「再会・・・ああ、再会。ルミィーズは相変わらずだった。商売が上手い」
「商売・・・?」
 セリィと同じ雑誌を覗き込んでいた、黒髪の娘が顔を上げる。
「商家の娘だからな。まぁ、それを言うなら私もだが」
 皆のくつろぐ大部屋を規則正しい歩幅で通り過ぎて、自室へ向かう扉の前で立ち止まる。
「・・・1つ疑問がある」
 肩越しに振り返ると、3人が目線だけをアズリーに向けていた。
「合コンというのは・・・普通男女が等しく集まるものであったように思うが、間違ってはいないか?」
「ご・・・」
 ベルベットがネイルポリッシュを落とした。
「合・・・コン?」
 セリィが信じられない言葉を聞いたように眉を顰める。
「・・・アズリーが?」
 指まで差して、メルテナ。
 ゆっくりと頷いてから、又同じく質問を重ねる。
「男女が等しく集まるものであったな?」
「まぁ・・・普通は・・・ね。人数がそろってても余りが出る場合はあるけど・・・色んな意味で」
 セリィがまとまらない思考で必死に言葉を紡ぐ。
「『普通は』。成る程・・・ルミィーズは相当な商人(あきんど)に成長したように見える」
 納得したように頷くと、アズリーは呆気に取られている3人など気に止めず扉の向こうへ消えた。
「普通の状態を聞くってコトは・・・普通じゃなかったってコトかしらん」
 床に落としたネイルポリッシュを拾い上げながらベルベットが呟く。
「アズの場合さぁー女の子が周囲にたかるんじゃない? むしろ最初から男なんかいない合コンとか」
「アズリー対全員みたいな」
 メルテナが言い放つとセリィが吹き出した。
「有り得る有り得る!!」


「・・・・・・」
 閉めた扉に背を預けたままで、アズリーはゆっくりと腕組みを解いた。
 流石というべきか、同僚の勘の鋭さは賞賛せざるをえない。
「最優先される対応策は」
 歩き出して、アズリーは呟いた。
「ルミィーズを明日捕らえて、私をダシにいくら儲けたのか聞かねばなるまいな」
 その額によっては上前をはねた所で問題あるまい。
 薄い鞄をベッドに放り投げると、肩を鳴らす。
「・・・ふむ、思考からすると私も、商人の血が間違いなく流れているようだ」
 何故か満足げに頷くと、アズリーは開け放しになっていた窓を閉めた。




 動いた窓の隙間風に押され、窓枠に引っ掛かっていたクローバーが空中にふわりと漂い――
 四枚の葉を羽のようにひらつかせながら、通りの向こうへ消えていった。

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