◆−カオティック・サーガ:虚構の終わりを目前にして−オロシ・ハイドラント (2003/10/10 19:02:28) No.15282
 ┣一つの物語についての話−オロシ・ハイドラント (2003/10/10 19:05:28) No.15283
 ┣四日目−オロシ・ハイドラント (2003/10/10 19:06:05) No.15284
 ┣カオティック・サーガ――神魔英雄伝説:第四章――−オロシ・ハイドラント (2003/10/10 19:12:21) No.15285
 ┃┣35:夜明けぬ頃−オロシ・ハイドラント (2003/10/10 19:15:11) No.15286
 ┃┣36:ルビーの門の会戦〜五匹の鼠〜――−オロシ・ハイドラント (2003/10/10 19:34:04) No.15287
 ┃┃┗ああっ! 小人さんが小説をっ?!−エモーション (2003/10/12 23:37:03) No.15294
 ┃┃ ┗Re: ああっ! 小人さんが小説をっ?!−オロシ・ハイドラント (2003/10/13 14:18:26) No.15296
 ┃┣37:救い主は闇の淵で−オロシ・ハイドラント (2003/10/15 19:29:11) No.15311
 ┃┣38:黄昏よりも昏きもの−オロシ・ハイドラント (2003/10/15 19:32:35) No.15312
 ┃┣39:千年王国の夢−オロシ・ハイドラント (2003/10/15 19:46:18) No.15313
 ┃┃┗降魔戦争の歴史が、また1ページ……−エモーション (2003/10/16 21:36:46) No.15315
 ┃┃ ┗Re:『次回神魔英雄伝説40話「死にゆく世界を棄てて」』……順序逆ですけど(笑)−オロシ・ハイドラント (2003/10/18 17:23:50) No.15326
 ┃┣40:死にゆく世界を棄てて−オロシ・ハイドラント (2003/10/19 19:16:46) No.15329
 ┃┣41:頂上決戦−オロシ・ハイドラント (2003/10/19 19:19:34) No.15330
 ┃┣42:華麗なる堕落のために−オロシ・ハイドラント (2003/10/19 19:33:31) No.15331
 ┃┃┗さしずめカダツですね♪−エモーション (2003/10/19 21:30:26) No.15332
 ┃┃ ┗Re:サブタイトルで悩まされてしまった回。華没のパロは最初から決まってましたが−オロシ・ハイドラント (2003/10/20 20:52:09) No.15336
 ┃┣43:審判−オロシ・ハイドラント (2003/10/20 21:19:08) No.15338
 ┃┣44:神殺しの毒−オロシ・ハイドラント (2003/10/20 21:25:54) No.15339
 ┃┃┗コンピュータウィルスみたいな人……(^_^;)−エモーション (2003/10/21 22:23:09) No.15345
 ┃┃ ┗Re: コンピュータウィルスみたいな人……(^_^;)−オロシ・ハイドラント (2003/10/22 19:17:56) No.15348
 ┃┗四章あとがき:必要ないかも知れないが−オロシ・ハイドラント (2003/10/23 20:59:40) No.15350
 ┣一つの未来についての話−オロシ・ハイドラント (2003/10/24 19:42:22) No.15353
 ┃┣五日目−オロシ・ハイドラント (2003/10/24 19:43:14) No.15354
 ┃┗カオティック・サーガ――神魔英雄伝説:終章――−オロシ・ハイドラント (2003/10/24 19:55:18) No.15355
 ┃ ┣45:エピローグ地獄編〜ルビーの門の会戦・完結編〜−オロシ・ハイドラント (2003/10/24 19:56:49) No.15356
 ┃ ┣46:エピローグ煉獄編〜平和の鐘鳴らず〜−オロシ・ハイドラント (2003/10/24 19:59:03) No.15357
 ┃ ┣47:エピローグ天国編〜選ばれなかった男〜−オロシ・ハイドラント (2003/10/24 20:00:00) No.15358
 ┃ ┣48:エピローグ奈落編〜四つの棺〜−オロシ・ハイドラント (2003/10/24 20:01:17) No.15359
 ┃ ┣49:エピローグ暗黒編〜影達の序章〜−オロシ・ハイドラント (2003/10/24 20:03:31) No.15360
 ┃ ┗終章あとがき:後もう少しで終わりかな−オロシ・ハイドラント (2003/10/24 20:15:05) No.15361
 ┃  ┗ま〜わる〜、ま〜わる〜よ、時代は、まわる〜♪−エモーション (2003/10/24 21:45:19) No.15362
 ┃   ┗Re:ま〜わる〜、ま〜わる〜よ、時代は、まわる〜♪−オロシ・ハイドラント (2003/10/25 20:23:32) No.15374
 ┣一つの真実と思しき話−オロシ・ハイドラント (2003/10/25 20:28:54) No.15375
 ┃┣六日目−オロシ・ハイドラント (2003/10/25 20:29:59) No.15376
 ┃┣カオティック・サーガ――神魔英雄伝説:無限章――−オロシ・ハイドラント (2003/10/25 20:46:57) No.15377
 ┃┃┗50:神−オロシ・ハイドラント (2003/10/25 20:48:41) No.15378
 ┃┗七日目−オロシ・ハイドラント (2003/10/25 20:51:15) No.15380
 ┣著者あとがき−オロシ・ハイドラント (2003/10/25 20:57:01) No.15381
 ┣訳者あとがき−オロシ・ハイドラント (2003/10/25 20:59:31) No.15382
 ┗再序章−オロシ・ハイドラント (2003/10/25 21:14:35) No.15384
  ┗ノリは「発行・出版:稀譚社」ですね−エモーション (2003/10/26 22:30:54) No.15416
   ┗Re:違う人の本と勘違いしかねない(?)迷路館。−オロシ・ハイドラント (2003/10/27 20:35:55) No.15435


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15282カオティック・サーガ:虚構の終わりを目前にしてオロシ・ハイドラント URL2003/10/10 19:02:28


 季節もすっかり秋というかほとんど冬みたいなもので、毎朝の起床が辛く感じる今日この頃です。
 思えば神魔英雄伝説は、七月上旬には完結する予定だったのですが、すでに十月上旬。一体この三ヶ月の間に何をしていたのでしょうか。七月時点ですでに三章までは完結していたというのに。
 無駄話は止めましょう。それでは開始します。
 

 以上、体調が良くなったのか、あるいは良くなったと錯覚しているハイドラントでした。

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15283一つの物語についての話オロシ・ハイドラント URL2003/10/10 19:05:28
記事番号15282へのコメント

◇◆☆◇◆◇◆☆◇◆◇◆☆◇◆◇◆☆◇◆


 人は完全なるものを創ることは出来ない。
 完全なるものを創ろうとすることは傲慢であり、それは不可能なことである。
 完全なるものを創る力は、神にのみ備わっているのだ。
 とある売れない小説家は言った。


◇◆☆◇◆◇◆☆◇◆◇◆☆◇◆◇◆☆◇◆

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15284四日目オロシ・ハイドラント URL2003/10/10 19:06:05
記事番号15282へのコメント

◇◆☆◇◆◇◆☆◇◆◇◆☆◇◆◇◆☆◇◆


 ――四日目――


 何ということだ、私は恐ろしいことに気付いてしまった。
 私は、夜中に原稿を書いていたのだ。多忙の身にも関わらず。
 使用人が、それを目撃したというのだ。
 疲れがひどいのも、サンドウィッチがなくなっていたのもそのせいだろう。
 それにしても、馬鹿馬鹿しいものを書いていた。くだらない低俗な小説ではないか。
 なぜ、私がこんなくだらないものを書いたのだ。そんなことをする余裕などないのに。
 もう私は、こんな解説など止めてしまいたい。


 ちなみに、最後は水竜王と、魔竜王ガーヴを連れた魔王シャブラニグドゥが戦って、皆様もご存知の結果となる。
 次回は、私自身が降魔戦争全体を通して考えてみたことを発表したいのだが……。
 私は、もう寝ることにしたい。
 小説の続きが、書かれていないことを願おう。


◇◆☆◇◆◇◆☆◇◆◇◆☆◇◆◇◆☆◇◆

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15285カオティック・サーガ――神魔英雄伝説:第四章――オロシ・ハイドラント URL2003/10/10 19:12:21
記事番号15282へのコメント

◇◆☆◇◆◇◆☆◇◆◇◆☆◇◆◇◆☆◇◆


 ――神魔英雄伝説:四章――


 「あなたが――蜘蛛だったのですね」
 引用:京極夏彦「絡新婦の理」


◇◆☆◇◆◇◆☆◇◆◇◆☆◇◆◇◆☆◇◆

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1528635:夜明けぬ頃オロシ・ハイドラント URL2003/10/10 19:15:11
記事番号15285へのコメント

◇◆☆◇◆◇◆☆◇◆◇◆☆◇◆◇◆☆◇◆


 ――35:夜明けぬ頃――


 ソブフは、セイルーンの名家ガブリエラ家の次男として生まれた。
 彼は物心ついた頃から、父によって兄と一緒に剣の手ほどきを受けた。
 ガブリエラ家は代々、優秀な剣士を輩出して来たため、当然のことなのだ。
 彼は父を尊敬していた。父は天才と謳われた剣士であった。
 不埒な魔族に命を狙われたセイルーンの貴族を助けたこともあり、王国騎士団にも名を連ねていた時代があった。
 四十八で早くも騎士を引退し、以来息子達の鍛錬に心血を注いでいたが、腕はまだまだ衰えていない。
 そんな父の教えは的確で、彼はみるみる腕を上げていった。
 だが彼は兄には敵わなかった。
 六つ歳の離れた兄は、弱冠十六にして単独で巨大な黒竜を討った。
 全く、将来が期待される剣士だ。
 ソブフにも多少の素質はあったが、彼の兄とはまさしく雲泥の差であった。
 しかしある時、悲劇が起こった。
 彼の兄は十八の時、怪物と戦った時に、利き腕の腱を切断してしまった。治療が遅れ、剣を握れぬようになってしまった彼は、剣士として生きてゆく道を断たれてしまった。
 彼はそれひどく悲しんだ。
 彼は兄に対して嫉妬や羨望の感情も持っていたが、期待と誇りはより強かったのだ。
 それから父の眼は、彼に集中した。
 鍛錬は一層厳しさを増した。
 彼自身も、兄のために全力でそれに受け答えた。
 それから六年の歳月が流れ、十八となった彼は、経験を積むために修行の旅へと出された。
 そして餞別として、家宝である夜明けの剣を授かった。旧大陸南方語(訳注:スペイン語)の名を持つ自分に旧大陸北西語(訳注:フランス語とほぼ同一)の名を持つ剣は相応しくないと冗談混じりに言ったが、それは喜びを隠すだけのものであった。
 意気揚揚として彼は旅立った。
 しかし独り旅は、彼の思うほど簡単なものではなかった。
 世間の風は冷たく、悪人達は常に本性を隠して忍びよって来る。野盗どもにも苦戦を強いられ、命を落とし掛けることも多くあったし、家宝の剣を盗まれそうになったこともあった。
 だがきっと大成出来るはずだ。何より自分には才能がある。そう信じた。
 旅に出て半年、彼は街の酒場などで、自ら率先して頼みを訊き、それをこなして報酬を得ることで生計を立てていた。
 騙されたことも多くあったが、路銀は充分に稼げたし、難題をこなせば名声も高まる。
 彼は三度も竜退治をやってのけた。
 やがて彼は「陣風のソブフ」との、誉れ高い名を得ることとなった。
 そして波に乗ったソブフは、ついに純魔族退治までもを引き受けることとなった。
 しかし、これが彼の運命を大きく変えることとなる。
 その魔族は巨大な森の中にいるという。
 時折、森から出でて近隣の村人を次々と虐殺してゆくのだ。滅びた村は数知れぬという。
 その魔族は圧倒的な残忍さと迅速さから、「ハデスの風」と呼ばれていた。
 魔族としては恐らく下位のものだろうが、けして油断のならぬ敵だ。
 しかしソブフは死さえ覚悟することはなかった。
 数多の竜と魔獣の血を吸って来た夜明けの剣は無敵だと強く信じていた。
 彼は森へと足を踏み入れた。
 彼が恐怖を感じたのは、それ以降のことであった。
 その森には数多の魔獣が住み着いていた。
 見たこともないようなものさえもいた。
 その魔獣達の親玉こそが、「ハデスの風」なのだろうか。
 だが、そんなものは彼の敵ではないと思っていた。
 真に恐怖すべきは、その森自身だということを彼は知っていた。
 巨大な闇を孕んだ森。無限に等しく続く。
 強き力を指し示す魔法のコンパスによって、「ハデスの風」の居場所は分かっていたし、魔法の目印によって帰り道に迷うこともないだろう。
 しかし、森の容貌そのものが充分に戦慄に足るのだ。
 それでも彼は地道に進んだ。森の魔力に翻弄されず、確実に目的地へと向かっていった。
 しかし、「ハデスの風」を討つことは出来なかった。
 森を歩いている途中に、「ハデスの風」に急襲され、剣を構える暇もなく敗れ去ったのだ。
 彼は苦しみもがき、朦朧とした意識の中で「ハデスの風」なる魔族を睨みつけた。
 「ハデスの風」は笑っていた。
 それから父と兄に謝罪を述べ、彼は一時の眠りに就こうとした。
 だが、奇跡は起こった。
 眩い閃光が迸り、「ハデスの風」がうめきを上げた。
 そして「ハデスの風」なる愚かな魔族は、完全に滅び去った。
 その後、誰かが傷を癒してくれた。
 救い主。彼は強き感謝の意を持った。
 実際にその者の姿を見た時は、真っ先に礼を言った。
 しかし、救い主はそんなものは受け流し、
「いや礼は言い、これから尽くしてもらうのだからな」
 そう言った。
 彼はヴェノムと名乗った。
 それが運命の出会いであった。
 ソブフにとっての夜明けは、この時に訪れた。


 だが……


◇◆☆◇◆◇◆☆◇◆◇◆☆◇◆◇◆☆◇◆

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1528736:ルビーの門の会戦〜五匹の鼠〜――オロシ・ハイドラント URL2003/10/10 19:34:04
記事番号15285へのコメント

◇◆☆◇◆◇◆☆◇◆◇◆☆◇◆◇◆☆◇◆


 ――36:ルビーの門の会戦〜五匹の鼠(ねずみ)〜――


 竜神スィーフィードと魔王シャブラニグドゥは、自身が滅ぶことを絶対的に恐れていたという。
 だが彼らは対立しているため、相手を滅び尽くすまで戦い続けねばならない。
 しかし滅びは恐ろしい。
 そこで彼らは兵を作った。変わりに戦わせる兵を。
 結局、竜神と魔王は最終的には直接対決をおこなったのだが、それまでは兵を使った戦いを繰り返していた。
 今でも同じである。竜神や魔王の代わりとして、それぞれの頂点に立った五人の王と四竜王達は、兵を用いて戦っている。
 そして今も……。
 地上時間七月十八日午前。
 地上に闇の色をした解毒剤が撒かれているその頃、天界五神の一人であるティディアスと、ティディアスの同僚であるアドリアンの一人息子リフラフが率いる神族軍と、竜神官ラルターク率いる魔族軍は、対峙していた。
 「ルビーの門」と名付けられた魔界本拠地の前方に広がる空間転移不可能区域――魔族や神族の得意技である空間を渡る能力や、空間を越えた攻撃などが、一切使えない特殊な区域――に、覇王神官グラウ率いる獣王軍部隊、覇王将軍シェーラ率いる冥王軍部隊、覇王将軍ダイ率いる覇王軍部隊、竜神官ラーシャート率いる海王軍部隊の順で横に並び、四軍の背後に総大将である竜神官ラルターク率いる魔竜王軍部隊がいるという陣形を取った魔族軍。
 対して、一箇所に固まった神族軍。
 今ここに、巨大な二つの力がぶつかり合おうとしている。


―――――――――――――――――――


 図A

 北
 ↑
← →
 ↓
               ☆★
             □□□□□
             □□□□□
             □□□□□
             □□□□□




 ■■○■■ ■■●■■ ■■◆■■ ■■◇■■

             ■■◎■■


☆=ティディアス
★=リフラフ
○=グラウ
●=シェーラ
◆=ダイ
◇=ラーシャート
◎=ラルターク
□=神族軍
■=魔族軍


―――――――――――――――――――


 まず、神族軍が先手を打った。
 直進する神族軍。兵力は魔族軍とそう変わらないが、士気は高い。
 最強の神族ティディアスと、猛将と呼ばれたアドリアンの息子リフラフ。神族軍は力業での攻略を図っていたようだ。
 どんどん接近して来る神族軍。
 それに対し、半包囲を狙う魔族軍。
「喰らえ!」
 ティディアスの声とともに、無数の輝きが放たれた。神兵達の一斉放射である。
 その中に一際巨大な一撃が混ざっていた。ティディアス自身による攻撃である。彼の前方を覆っていたはずの兵達は左右に散り、門が開いたかの様に見える。
 だが、その猛攻を受けても魔族軍は怯まずに、獣王軍と海王軍は敵軍の側面に回るために前進、冥王軍と覇王軍は先述の二つの部隊の前進を妨げる者達への妨害攻撃、残る魔竜王軍は敵陣の中央をただ攻撃している。
「包囲など効かぬぞ!」
 ティディアスは全軍に命令した。魔力の波動によって、言葉は全軍に響き渡る。
「全軍全速前進、敵陣を粉砕しつつ中央突破し、空間転移不可能区域を脱出、そして本拠地に一気に攻め込むぞ」
 ティディアスの命に従い、神族軍は突撃を開始する。
 対する魔族軍は、さらに冥王軍、覇王軍を敵陣の側面へ移動させた。中央にあるのは総大将ラルタークの率いる部隊のみであった。
 それでもラルタークの部隊は、約五倍の兵力の突進に怯む様子もない。
 敵軍がラルタークの部隊と衝突せんとする時、獣王軍と覇王軍が敵陣後方へ激しい攻撃を加えた。二つの軍は神族軍の後方にまで回り込んでいたのだ。
 さらに冥王軍と覇王軍も、神族軍に魔力の雨を降らせる。
「怯むな。前進しろ」
「攻撃しつつ、敵全軍を追うのじゃ」
 ティディアスの叫びと、ラルタークの声はほぼ同時に起こった。
 ラルタークは自身の部隊を横へ逃がす。猪突猛進を神族軍はラルタークの部隊に構わず前進した。
 ティティアスの軍は速さの面においても自信があった。鋭い槍の如く、敵陣に激しい突きを入れるための速さには。
 しかし今、神族軍は魔族軍から逃げられずにいた。五つに分かれた魔族軍は、彼らの軍を追い続けている。
「逃げる気か!」
 さらにそんな声が上がった。魔族軍の将の声である。ちなみにその声の主は、覇王軍の兵を指揮する覇王神官ダイのものであった。
 その一言が多大な効果をもたされた。
「全軍反転しろ!」
 その反転の隙に魔族軍の攻撃が放たれ、神族軍は犠牲を作ったが、反撃として一斉放射を浴びせる。その後、一気に突進した。
 同じ事態は繰り返された。
 神族軍が突進するとともに、魔族軍は神族軍の横を抜け、逃げ去る。
 ティディアスは横側の兵に、背後へ回ろうとする敵を攻撃するように命令したが、魔族軍は気にした様子すらない。
「うぬぬぬぬぬぬ」
 多少の犠牲は無視し、ただ逃げ回る。これほど愚かな敵は初めてだ。
「やつらにプライドはないのか!」
 たとえティディアス軍を恐れる者でも、逃げ回るという策を取ろうとはしまい。そのような策は自らの誇りを傷付けるものであるからだ。誇り高い魔族は、自らの誇りを傷付けることを激しく嫌う。
 だが、これは有効な作戦であると言えるのかも知れない。単純な突進力と攻撃力で優れたティディアスの軍だが、柔軟な動きはけして得意ではない。アドリアンの兵はそうでもないが、指揮官がアドリアンではなくティディアスなため、真の力は発揮出来ておらず、ティディアスの軍以上にうまく動けない。
「部隊を四つに分ける。各部隊で一部隊以上の敵を撃破せよ」
 この状況においてティディアスはこのような作戦を用いた。このまま五匹の鼠を追い掛けていても、いずれは勝利出来るであろうが、事実時間的余裕はないのである。もしもカタート攻略に向かった五人の王達が帰還して来れば、状況は激変するであろう。
 一気に敵を討つ必要がある。五匹の鼠を出来る限り早く捕らえるのだ。
 四つの部隊の内の一つはティディアスが率い、残りの三つはリフラフと、ティディアス配下の高位神族二人がそれぞれ率いることとなった。
 

 西方に向けて部隊を進めるグラウは、敵を誘き寄せることを企んでいた。
 全兵力はほぼ同数だが、敵一部隊は、こちらの一部隊より数が多い。それでも、一部隊対一部隊を演じようとしているのだ。
 とはいえ、敵を倒す意志などない。うまく防戦し、ただ時間を稼ぐのだ。兵力では劣るが、ティディアスに率いられぬ部隊はさほど恐れるべきものではないし、ティディアスの指揮する部隊に襲われたのならば、部隊と自己の命を投げ出す覚悟もある。獣王には悪いと思うが。
 グラウは金髪の青年であった。容貌は武官よりも文官を思わせるものであり、見た目通り戦いを好む体質ではなかったが、用兵の知識や技術はそれなりに備えており、実戦経験も充分である。
 彼の率いる部隊は、ティディアス配下のラグイルという男の率いる部隊と対峙することとなった。
 ラグイルの部隊が追い掛けて来る知った後、急速反転し、敵に一斉攻撃を仕掛けた。ラグイルの部隊は怯まずに反撃を仕掛けつつ、前進して来た。
 すると獣王軍は、高速移動の術を駆使して、犠牲を省みず、敵から逃亡する。白兵戦は危険だ。それは敵が白兵戦に長けているという一点だけではなく、そうなれば自軍の消耗が早まるという理由もあるのだ。
「ええい。まだ鼠の真似事をするか!」
 ある程度の距離を取るとともに攻撃を再開して来るグラウの部隊。ラグイルは憤っていた。


(フィブリゾ様の部隊を失わせるわけにはいかない)
 リフラフの部隊と相対していたシェーラ率いる冥王軍は、的確な動きをしていたと言える。
 戦況のよく見て――将は前線の映像を常に受信する魔法を使用している。ちなみにここは空間転移不可能区域のため、情報は空間を越えずに波として伝わって来る。当然、リアルタイムで前線の情報が送られて来るわけではなく、若干のずれが出る――戦っている。
 攻撃、防御、攻撃回避などをうまく使い分けている。
 先手を読み、目先の犠牲は厭わず、必死で生き残ろうとしていた。
 だが、相手も手強い。
 リフラフは大胆な攻勢で時におこない、将自らが前線に飛び出し、手持ちの黒い槍を振り翳して、前線の下級魔族達を槍より生まれた魔力弾にて大量に屠るなどのこともあった。シェーラはリフラフへ集中攻撃をするよう前線に命じたが、リフラフは巧みに攻撃をかわし、あるいは受け流して、平然と兵の壁の奥に消え去った。
 将自らの攻撃は、部隊の士気を高めたようであり、敵の勢いはその後増した。
 それでもシェーラの軍は窮地には立たされることはなかった。自軍より勝る敵軍に対して、互角に近い戦いを続けていた。


 ダイの指揮する覇王軍は、ティディアス配下のラズイルの部隊と戦っていた。
 戦況はやや不利だが、危機的ではない。とにかく時間を稼げば良い。
 ダイは粘り強い戦いを見せ、ラズイルを焦燥の霧に包ませていた。


 ラルタークとラーシャートは、ティディアスの部隊と直接対決をおこなっていた。
 兵力では勝るため、多少激しい攻撃にも充分に立ち向かってゆくことが出来た。
 ティディアス自身を恐れるため、優勢には立てないが、けして不利な状況ではない。


 この戦いは、神族軍が当初予定したより遥かに長引くこととなり、ティディアスやリフラフは、出陣が遅れたのを悔やむと同時に、許可をなかなか下ろしてくれなかった火竜王を半ば恨んでいた。


◇◆☆◇◆◇◆☆◇◆◇◆☆◇◆◇◆☆◇◆

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15294ああっ! 小人さんが小説をっ?!エモーション E-mail 2003/10/12 23:37:03
記事番号15287へのコメント

そう……小説を書きながら睡眠不足などで意識が朦朧とし、半分ボケボケ状態でいると……
どこからともなく小人さんが現れて、小説を書き上げて去っていく……。
小人さんの欠点は字を間違えることくらいなのだ♪

こんばんは。
のっけからあ〜る君の小人さんネタ(汗)
気が付いたら小説が完成していたという、謎の語り手さんに起きた出来事を
説明してみました(笑)
ちなみに漫画家さんなども「寝ている間に小人さんがペン入れをっ?!」現象を
経験するそうです(笑)
マジ回答すれば、頭はほとんど寝ているが、それでも仕事を終わらせる意識が
強くあるため、半分催眠術状態になり、無意識に仕事を終えているだけの話ですが。

ソゾフさんの過去……。
とりあえず、最初は剣の腕が立つだけの、普通の人間だったのですね。
一日で高位魔族二名を倒すようなレベルになったのは、やはりヴェノムさんに
出会ってからでしょうか。

神族軍と魔族軍の戦い……。細かく書かれていますね。
銀英伝の艦隊戦を彷彿しながら読みました。
戦力はほぼ互角。
基本的に部隊を5つに分けている魔族軍に対しては、倍以上の戦力で
各個撃破していくのが望ましいのでしょうけれど、相手もそうは問屋が下ろさない、
ということですね。
でも同じ戦力の相手が部隊を分けていて、布陣の形から言っても、
側面攻撃・包囲に要注意だと思うのに、力業で直進する神族軍……。
最初の時点で対策を考えなかったのでしょうか……。
魔族軍は、それぞれの指揮官の個性が出ている動きをしていたなと思いました。

さて、続きはどうなるのでしょう。
語り手さんの疑問はさておき、小人さん(笑)が続きを書くことを楽しみにいたします。

気温が急激に変化しまくっている日が続いています。
お体には十分気を付けてくださいね。
それでは、今日はこれで失礼いたします。

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15296Re: ああっ! 小人さんが小説をっ?!オロシ・ハイドラント URL2003/10/13 14:18:26
記事番号15294へのコメント

>そう……小説を書きながら睡眠不足などで意識が朦朧とし、半分ボケボケ状態でいると……
>どこからともなく小人さんが現れて、小説を書き上げて去っていく……。
>小人さんの欠点は字を間違えることくらいなのだ♪
ゲームソフト「RPGツクール」シリーズの説明書やパッケージなどに書かれているタイプの小人さんが浮かびました。やっぱりキーボードの上を歩き回るんですかね。ちょっと大変そうかも。
>
>こんばんは。
こんばんは。
>のっけからあ〜る君の小人さんネタ(汗)
>気が付いたら小説が完成していたという、謎の語り手さんに起きた出来事を
>説明してみました(笑)
まさに名推理(笑)……って推理ではないような気が。
>ちなみに漫画家さんなども「寝ている間に小人さんがペン入れをっ?!」現象を
>経験するそうです(笑)
>マジ回答すれば、頭はほとんど寝ているが、それでも仕事を終わらせる意識が
>強くあるため、半分催眠術状態になり、無意識に仕事を終えているだけの話ですが。
どちらにしても凄い現象ですね。無意識で漫画って書けるものなのでしょうか。
>
>ソゾフさんの過去……。
>とりあえず、最初は剣の腕が立つだけの、普通の人間だったのですね。
>一日で高位魔族二名を倒すようなレベルになったのは、やはりヴェノムさんに
>出会ってからでしょうか。
生まれながらにしてそこまでの力を持つものはいないということですね。極少数の例外を除けば。
>
>神族軍と魔族軍の戦い……。細かく書かれていますね。
>銀英伝の艦隊戦を彷彿しながら読みました。
実際に参考にしていたりします。アニメの台詞や解説などが結構耳に残っていたせいか、一文一文は思ったほど書き辛くはなかったです。
>戦力はほぼ互角。
>基本的に部隊を5つに分けている魔族軍に対しては、倍以上の戦力で
>各個撃破していくのが望ましいのでしょうけれど、相手もそうは問屋が下ろさない、
>ということですね。
一つや二つの部隊で追い掛けても、二兎を追う者一兎も得ずになりかねないですからねえ。多分。
>でも同じ戦力の相手が部隊を分けていて、布陣の形から言っても、
>側面攻撃・包囲に要注意だと思うのに、力業で直進する神族軍……。
>最初の時点で対策を考えなかったのでしょうか……。
そのせいもあるでしょうし、ティディアス軍は黒色槍騎兵みたいな感じですからねえ。
>魔族軍は、それぞれの指揮官の個性が出ている動きをしていたなと思いました。
まあここに出て来るキャラは、ここが一番の見せ場というキャラも多いですし(というかシェーラ以外全員?)。
>
>さて、続きはどうなるのでしょう。
>語り手さんの疑問はさておき、小人さん(笑)が続きを書くことを楽しみにいたします。
まあ小人さんは急にいなくなるということはないと思いますし、多分大丈夫でしょう(笑)。
>
>気温が急激に変化しまくっている日が続いています。
本当ですね。昨日は暑かったし。
>お体には十分気を付けてくださいね。
風邪がようやく治りかけて来たので、ぶりかえさないように気をつけたいと思います。
>それでは、今日はこれで失礼いたします。
良きご感想どうもありがとうございました。


それでは、これで。

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1531137:救い主は闇の淵でオロシ・ハイドラント URL2003/10/15 19:29:11
記事番号15285へのコメント

◇◆☆◇◆◇◆☆◇◆◇◆☆◇◆◇◆☆◇◆


 ――37:救い主は闇の淵で――


 七月(十六日午前から二十日午前と思われる)
 スィヤーフは、闇にたゆたう意識を取り戻しつつあった。
 だが未だ眼を開くことは出来ないでいる。
 それでも、多少のことは分かった。まず自分は寝台に寝ているようだ。それから何者かの気配がある。
 数は二、三というところだろうか。
 話し声が聞こえた。
「ついに始まりますね」
「そうだな」
 スィヤーフにも、その会話は届いていた。
「どちらが、勝つのでしょうか?」
「私の勝ちだ」
 何のことだろうか?
 思考の働かないスィヤーフでも、その程度の疑問は持つことが出来た。
 そういえば、片方の声、あれはどこかで聴いた記憶が。
 記憶を辿った。
 あの救世主。スィヤーフのメシア。……いや、違う。そうではない。
 あれは、本当は……
 それにしてもここは、どこなのだ?
「自信がおありのようですね」
「当然だ。それが絶対の結果となるのだからな」
 それにしても、怪しい会話だ。
 内容が不自然であるために、より耳に入って来るのだろうか。
「そうですか」
「世界の運命は、あらかじめ決められているのだ。すべての偶然も、すべての意思も「大いなるもの」の計算通りに動いている」
「なるほど。あなたにはそんな宗教思想が……」
「宗教思想? 事実だよ。完全な事実とは言い難いがね。なあラレニェ」
「そうね。でも、こんな世界はもうお終いよ」
 別の声が入る。これは少女の声だ。
「消えるのですか」
「そうだ。そして、新たな世界が誕生する」
「誇大妄想でなければ良いですがね。そうでなければ、あなた方に期待した私の立場は……」
「世界は生まれ変わる。これも絶対の結果だ。いや結果となる。絶対に。だが君がそれを見ることはない」
「私が負ければ……ですがね」
「君は負ける。そして世界は生まれ変わる。これは決して揺らぐことのない絶対の未来なのだよ」
 世界を変える。あまりにも恐ろしい言葉だ。
 だが果たして、こんなやつらが、世界を変えられるのか?
 そして、こんなやつらの創った世界が、良きものとなるのであろうか。
 随分と、傷も癒えて来ている。
 だが、もう少しやつらの会話を聞いていようとスィヤーフは思った。
 だが期待通りにはいかず、すぐに誰もいなくなってしまった。


◇◆☆◇◆◇◆☆◇◆◇◆☆◇◆◇◆☆◇◆

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1531238:黄昏よりも昏きものオロシ・ハイドラント URL2003/10/15 19:32:35
記事番号15285へのコメント

◇◆☆◇◆◇◆☆◇◆◇◆☆◇◆◇◆☆◇◆


 ――38:黄昏よりも昏きもの――


 七月二十日午後。
 すべての準備が整った。
 復活した魔王は、大いなる空を見つめていた。
 この世界を、己が滅ぼすことになるのだ。
 レイ・マグナスの肉体を我がものとした魔王シャブラニグドゥは、不遜な笑みを湛えていた。
 歩き出す。少しずつ。


 一歩。また一歩。


 連合軍と呼ばれた勇ましき者達も、魔王の威圧に恐れ戦き、逃げ去ってゆく。
 五人の王は彼らの残存兵力――と言っても、全軍の内から見れば、その半数以上は残存しているが(その半数以上が距離的問題で無意味な兵力と化している)――も魔王に対して、少なからず脅威にならぬかと心配していたが、それは杞憂に終わったようだ。
 もしや連合軍など、元々考慮に入れるに値する存在ですらなかったのかも知れない。
 すでに辺りに敵はいない。
 ただこの山脈の中心に、やつがいる。
 四千年の宿敵の欠片――水竜王。


 一歩。また一歩。


 昏き闇を纏ったシャブラニグドゥの歩みは、迅速であった。
 緩慢な歩調に見えようとも、空間を捻じ曲げ、距離を短縮している。
 王者の余裕と、その実力の断片を曝け出している。
 滅びを望む者の王。秩序を忌み、混沌を愛す者。天を喰らい、地を砕く悪魔。世界に黄昏をもたらせし闇の覇王。
 魔王シャブラニグドゥは、不倶戴天の敵の元へと歩んでゆく。


 一歩。また一歩。


 そしてシャブラニグドゥは、彼と邂逅した。


 雪の中に眠る男。
 魔竜王ガーヴがいた。
 彼はすぐに気付いたようだ。
 立ち上がる。無表情。
 雪を踏み締め、シャブラニグドゥに接近して、跪いた。
 シャブラニグドゥの正面に、ガーヴがいる。
 ガーヴの表情は、さながら人形。静謐に塗りたくられている。猛々しさなど微塵も感じさせない。
「ガーヴよ」
 マグナスの声を介して、シャブラニグドゥは語り掛けた。
 ガーヴは、マグナスの眼を見詰めた。血のように紅かった。
「……ゆくぞ。我らが敵を倒すため」
 単刀直入にそう言う。
「承知致しました」
 抑揚のない声で、ガーヴは答えた。
 やがて、静かな動作で二人は歩み出した。


 去り際、ガーヴは、それを拾っていた。
 最大の好敵手だった男の剣。
 夜明けの剣。
 最期の言葉は、聞こえなかった。
 勝者(ソブフ)の言葉は、届かなかった。


◇◆☆◇◆◇◆☆◇◆◇◆☆◇◆◇◆☆◇◆

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1531339:千年王国の夢オロシ・ハイドラント URL2003/10/15 19:46:18
記事番号15285へのコメント

◇◆☆◇◆◇◆☆◇◆◇◆☆◇◆◇◆☆◇◆


 ――39:千年王国の夢――


 七月十二日午後。
 ミルガズィアは必死で逃げていた。
 恐怖はまだ去っていない。
 生きている。
 ゼロスという男は、まだ生きている。
 直感だが、確信出来た。


 必死で飛ぶ。しかし速度は限界を越えようとしない。
 迫って来る。
 ゼロスが迫って来る。
 脅えながら、聖域たるドラゴンズ・ピークをただ目指した。死に場所のなりうるかも知れぬ、頼りなき聖域を。
 彼は直感を酷使して、安全なルートを常に選ぶ。
 ゼロスの影に脅えつつ、必死でゴールを目指した。
 ドラゴンズ・ピークに辿り着ければ、助かる。そう思って飛び続けた。
 疲れなど知らぬ。全速力を続ける。
 逃げるのだ。とにかく逃げるのだ。
 死にもの狂いで飛び進んだ。
 早くしなければ……。
 早くしなければならない。
 疲れなど知らぬ。全速力を続ける。
 ゼロスの魔の手は、今すぐにも迫って来るかも知れない。
 ミルガズィアは、今も逃げ続けている。だが、そこに一陣の風が吹き、それと同時に激しい衝撃。
 ミルガズィアは失速し、大地へと墜ちてゆく。


 その翌日……だろうか。
 ミルガズィアはようやく意識を取り戻した。だが意識にはまだ闇が巣食っている。しばしそのままの状態でいた。
 傷は塞がっている。元々深くはなかったようだ。落下速度はそれほどでもなかったのだろう。
 しばらくして起き上がる。さらに時間が経つと、ようやく空を飛べるようになった。
 ミルガズィアは向かう。竜の峰へ。
 やがて程なくして、目的地に辿り着いた。
 ついに帰郷。そんな言葉が浮かぶほどに、ミルガズィアは喜んでいた。
 あのゼロスに遭遇したにも関わらず、死神の鎌を逃れたのだ。
 しかしその喜びはすぐに消え去る。
 そう……儚く砕け散った。


 紅。
 焔。
 熱気。
 燃えている。
 灼熱の焔に、焼かれている。
 焔に彩られた世界。
 ドラゴンズ・ピークの竜達は、皆、死の危機に瀕していた。
 ミルガズィアは少し離れた位置から、動くことが出来なかった。
 恐怖。
 それ以上に絶望。
 ゼロスが、すべての犯行を行なったのだ。
 恐るべき悪魔だ。神は護ってくれなかった。
「……ゼロス……」
 若きミルガズィアが呟いた時、
「どうしました?」
 不意に声。背後。
 振り向いた……
「っ!!」
 心臓が急停止するような衝撃。
「……あの竜は始末しましたよ。それとここの皆さんもね。全く、結構な重労働でしたよ。何せ、相手は数で押して来ますしね。しかもこちらは無傷ではないというのに。……お陰で怪我しちゃいましたよ」
 場違いな笑顔。
「恐がらなくても、良いですよ。ミルガズィアさん」
 恐ろしいほどの……笑顔。
「なぜ……」
「ん? どうしました?」
 勇気を振り絞る。
「なぜ……こんなことを……」
 やっとのことで出た問いだ。
 だが次の瞬間には、自分という存在は消えているのかも知れない。
 底なしの恐怖。
「命令されたからですよ。竜族を殲滅しろと」
「…………」
 ゼロスは、いまだ平然としている。
「上に命令されたのです。「歯向かう敵は皆殺しに」と。そうでなければ、こんな残酷はことは出来ません」
 冷酷非情。
 ゼロスから笑顔が消えた。
 だが、それが死の前触れではないことに、ミルガズィアは気付いた。
「本当は、こんなことはしたくなかったのです。言い訳に過ぎないかも知れませんが、あなただけにはそう信じて欲しいです。」
「…………」
 哀しげだ。
 ゼロスは、哀しげだ。
 先ほどまでは恐怖の対象でしかなかったゼロス。今でも恐ろしいが、それだけではない。
「ああ、僕はそろそろ帰ります。森の方に。作業は終わりましたから。僕のことをどう思ってくださっても結構ですが、ここで歯向かって来るのは止してくださいね」
 あなたを殺してしまいますから、言外にはそんなメッセージが隠されていたように思える。
「……本当に、殺さないのか?」
 一瞬。自分でも耳を疑った。
 何を言っているのだ?
 死ぬかも知れない。一度は遠ざかった恐怖が舞い戻る。
「なるほど。死にたいのですか?」
 ミルガズィアは、先の発言を後悔した。
「いや……待て……」
 だが、ゼロスは笑みを浮かべ、杖を振るった。
 真空波が襲う。
 それが、咄嗟に飛び出したミルガズィアの片腕に当たり、鮮血が空に飛び散った。
「ぐああああああああああああああ!!」
 ミルガズィアは絶叫を上げた。
 腕が大地へ落下していき、そして激痛が彼の苛んだ。
「失った腕はやがて再生するでしょう。しかし命は違う。……それでもあなたは死にたいのですか?」
 ゼロスは血の付着した杖を、今度はミルガズィアの首に向ける。
 片腕を失ったミルガズィアは、首を振った。
「よろしい。では、僕は帰りますね」
 そして……ゼロスは去った。
 だが……悪夢は終わらない。
 仲間達はほとんどすべて皆殺しにされたのだ。
 優しい大人達はすでにいない。


 ミルガズィアは、竜族の生き残りを発見した。
 彼らは、焔に包まれていようとも、焼かれることなく生き続けていた。
 それは……小さな小さな命達。まだ幼い竜達や、厚い殻の中で誕生を夢見る竜達。
 ゼロスは悪魔ではなかった。
 恐るべき殺戮マシンでもなかった。
 このむなしき世界に生きる一人の魔族は、確かな愛を持っていた。
 仲間が皆殺しにされたのは魔族自体が悪いのだ。ゼロス一人のせいではない。
 ……この時に、ゼロスは愛を思い出したのだ。思い出したという言葉が最も似合う。
 ミルガズィアは決意した。
 生き残った命のために、新たな楽園を築こう。
 幼い竜達。まだ生まれぬ竜を孕んだ卵達のため。そして亡きアステアのため……。


 やがてミルガズィアは、羅神盤を読み解けるという能力を加齢によって失うこととなるが、数百年の後、夢の千年王国を築き上げることとなる。


◇◆☆◇◆◇◆☆◇◆◇◆☆◇◆◇◆☆◇◆


 今になって思いましたけど、今回ミルガズィアさんってどこか「銀河英雄伝説」のユリアン・ミンツを思わせますなあ(気のせいかも?)。そういえば今日の銀英伝アニメ観てた時、涙出ましたよ(原作でいうと八巻の半ば過ぎ)。

 というわけで、これでさようなら。
 読んでくださった方、ありがとうございます。

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15315降魔戦争の歴史が、また1ページ……エモーション E-mail 2003/10/16 21:36:46
記事番号15313へのコメント

こんばんは。

次への伏線となる謎を残しつつ、降魔戦争も終息に向かいましたね。
謎の救世主の元にいるスィヤーフさんが聞いた、不可解な会話。
謎めいた、そして思わせぶりな会話に、後々のこれがどう展開していくのか、
楽しみです。

個人的には平和主義者のレイ=マグナスさん(覚醒前)が、もっと見たかったなー、
と思いました。実は気に入っていましたので(^.^)
ガーヴ様……。何故か覚醒した魔王様についていく姿が、なんとなく操られているように
見えて、ちょっと不思議な感じでした。
あのガーヴ様が静か、というのが違和感なのかも。
でも、ソゾフさんの剣を持っていくところは、「あ、やっぱりガーヴ様」だと思いました。

ミルガズィアさん……。目覚めて見たのは、仲間の無惨な姿……。
悲劇ですよね……。感覚がどこか麻痺したようになっても不思議ないですよ。

>「上に命令されたのです。「歯向かう敵は皆殺しに」と。そうでなければ、こんな残酷はことは出来ません」
> 冷酷非情。
> ゼロスから笑顔が消えた。
> だが、それが死の前触れではないことに、ミルガズィアは気付いた。
>「本当は、こんなことはしたくなかったのです。言い訳に過ぎないかも知れませんが、あなただけにはそう信じて欲しいです。」
>「…………」
> 哀しげだ。
> ゼロスは、哀しげだ。

この場面……。ゼロスだなあと、しみじみ思いました。
怖いくらいさわやかに、明るい笑顔であっさりと、こーゆー真似をやってのけたりするのに、
こんな風に魔族らしからぬ面を持つ……。
そう言う意味で、ほんとに不思議なキャラだと思います。
ミルガズィアさんも、恐れつつも、かなり不思議に思ったのでしょうね。

> ミルガズィアは決意した。
> 生き残った命のために、新たな楽園を築こう。
> 幼い竜達。まだ生まれぬ竜を孕んだ卵達のため。そして亡きアステアのため……。

ゼロスが見逃してくれた小さな命達……。表向きは「歯向かってこなかったから」でも、
本心は「殺したくなかったから」。
本当に魔族としては、不思議な感覚を持っていますね。
新しく、竜が生きる場所を創りだすと決めたミルガズィアさん。
前向きで、そして「生命あるもの」って本来こう言うものだろうな、と思いました。

> 今になって思いましたけど、今回ミルガズィアさんってどこか「銀河英雄伝説」のユリアン・ミンツを思わせますなあ(気のせいかも?)。そういえば今日の銀英伝アニメ観てた時、涙出ましたよ(原作でいうと八巻の半ば過ぎ)。

失われたものを悲しみ、哀惜の念を持ちつつ、未来を創るために生きていく、
と言う点では似ていますね。
「銀英伝」……ケーブルかスカパーでしたっけ? 生憎加入していないので、
見られないのですが。(レンタルで全話&外伝見ましたけれど)
「魔術師、還らず」の回ですね。アニメは、本当に1話まるまる使って、本当に
丁寧に描いてくれましたよね……。正確には、その前の話数の予告からの、
BGMなし、そして淡々としたナレーションの演出で、スタッフの皆様の
ヤン提督への愛惜がひしひしと伝わってきます。アニメは多くあるけれど、
ここまで丁寧に、そして哀惜の念で最後を描かれたキャラは、いないのではないでしょうか。
(そして、第三期アフレコ終了後に、富山敬さんもお亡くなりになったんですよね……。
当時、新聞で訃報を知ったとき、私にとって、これはだめ押しのショックでした)

あと、小人さん現象(笑)ですが、案外できるもののようです。
柴田亜美さんは、「フリーマンヒーロー」の原稿で、1ページまるまる小人さんが
ペン入れしたページがあるそうですし、さとうふみやさん(金田一少年や探偵学園Qの人)や
森次矢尋さん(主に少女漫画で割と本格的な推理物を描いている。最近見かけない。
好きなのに……しくしく)は小人さん現象の失敗談を、コミックスの穴埋めで
ネタにしてましたし。

それでは、今日はこの辺で失礼いたします。
続きを楽しみにしていますね。

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15326Re:『次回神魔英雄伝説40話「死にゆく世界を棄てて」』……順序逆ですけど(笑)オロシ・ハイドラント URL2003/10/18 17:23:50
記事番号15315へのコメント

……あれ? もしかして40話の前に第が必要だったかも。


>こんばんは。
こんばんは。
>
>次への伏線となる謎を残しつつ、降魔戦争も終息に向かいましたね。
ようやく戦争が終わりそうです。エピローグなどを合わせるとまだ結構文量あるかも知れませんけど。
>謎の救世主の元にいるスィヤーフさんが聞いた、不可解な会話。
>謎めいた、そして思わせぶりな会話に、後々のこれがどう展開していくのか、
>楽しみです。
魔王側と同時にこちらのサイドもかなり重要になって来ます。これからはこの二つのサイドが中心になります。
>
>個人的には平和主義者のレイ=マグナスさん(覚醒前)が、もっと見たかったなー、
>と思いました。実は気に入っていましたので(^.^)
もしや番外編などで登場させるかも知れません。
>ガーヴ様……。何故か覚醒した魔王様についていく姿が、なんとなく操られているように
>見えて、ちょっと不思議な感じでした。
>あのガーヴ様が静か、というのが違和感なのかも。
まあ操られてる可能性もなくもないですね。
でもまあご主人様相手ですから普段のように振る舞うことは出来ないのではないかと。
>でも、ソゾフさんの剣を持っていくところは、「あ、やっぱりガーヴ様」だと思いました。
亡き強敵(とも)の魂を背負って戦うって感じですかね。
>
>ミルガズィアさん……。目覚めて見たのは、仲間の無惨な姿……。
>悲劇ですよね……。感覚がどこか麻痺したようになっても不思議ないですよ。
予想だにしなかった事態でしょうしね。
彼にとってはドラゴンズ・ピーク一帯は聖域だと思っていたはずですし。その点も含めて二重にショックでしたでしょうね。
>
>>「上に命令されたのです。「歯向かう敵は皆殺しに」と。そうでなければ、こんな残酷はことは出来ません」
>> 冷酷非情。
>> ゼロスから笑顔が消えた。
>> だが、それが死の前触れではないことに、ミルガズィアは気付いた。
>>「本当は、こんなことはしたくなかったのです。言い訳に過ぎないかも知れませんが、あなただけにはそう信じて欲しいです。」
>>「…………」
>> 哀しげだ。
>> ゼロスは、哀しげだ。
>
>この場面……。ゼロスだなあと、しみじみ思いました。
>怖いくらいさわやかに、明るい笑顔であっさりと、こーゆー真似をやってのけたりするのに、
>こんな風に魔族らしからぬ面を持つ……。
>そう言う意味で、ほんとに不思議なキャラだと思います。
>ミルガズィアさんも、恐れつつも、かなり不思議に思ったのでしょうね。
並の魔族以上に魔族的でありながら、妙に人道的なところもあるゼロス。
このエピソードをゼロスサイドで再構築したら一体どのような心情が伺えるのか……正直書ける自信がないです。


>
>> ミルガズィアは決意した。
>> 生き残った命のために、新たな楽園を築こう。
>> 幼い竜達。まだ生まれぬ竜を孕んだ卵達のため。そして亡きアステアのため……。
>
>ゼロスが見逃してくれた小さな命達……。表向きは「歯向かってこなかったから」でも、
>本心は「殺したくなかったから」。
>本当に魔族としては、不思議な感覚を持っていますね。
>新しく、竜が生きる場所を創りだすと決めたミルガズィアさん。
>前向きで、そして「生命あるもの」って本来こう言うものだろうな、と思いました。
あれほどのショックを受けてなお、現実を直視し、敵のない戦いに身を投じてゆく強さ。
やはり教育の賜物(?)
>
>> 今になって思いましたけど、今回ミルガズィアさんってどこか「銀河英雄伝説」のユリアン・ミンツを思わせますなあ(気のせいかも?)。そういえば今日の銀英伝アニメ観てた時、涙出ましたよ(原作でいうと八巻の半ば過ぎ)。
>
>失われたものを悲しみ、哀惜の念を持ちつつ、未来を創るために生きていく、
>と言う点では似ていますね。
「銀英伝」の内容を知らない時から構想してたのに、妙に似たところのあるこの話。
魔族、神族、ヴェノム派が、帝国、同盟、フェザーン。あるいは帝国、同盟、地球教みたいだと言えなくもないような気がしますし(帝国と同盟は多分逆でも良いはず)。
>「銀英伝」……ケーブルかスカパーでしたっけ? 生憎加入していないので、
>見られないのですが。(レンタルで全話&外伝見ましたけれど)
そういえばレンタルビデオ結構置かれてるみたいですね。劇場版を借りたりしました。
>「魔術師、還らず」の回ですね。アニメは、本当に1話まるまる使って、本当に
>丁寧に描いてくれましたよね……。正確には、その前の話数の予告からの、
>BGMなし、そして淡々としたナレーションの演出で、スタッフの皆様の
>ヤン提督への愛惜がひしひしと伝わってきます。アニメは多くあるけれど、
>ここまで丁寧に、そして哀惜の念で最後を描かれたキャラは、いないのではないでしょうか。
ラストの方の独白が痛かったです。その次の「祭りの後」も、色々なものを思い出してしまってかなり堪えました。
キルヒアイスの時は唐突でショックの方が強かったですが、ヤンの場合はあらかじめ(原作の章タイトルや次回予告)気付いていたため、純粋に悲しかったです。
>(そして、第三期アフレコ終了後に、富山敬さんもお亡くなりになったんですよね……。
>当時、新聞で訃報を知ったとき、私にとって、これはだめ押しのショックでした)
初耳です。ヤンの声も好きだったので、さらにショックでした。
>
>あと、小人さん現象(笑)ですが、案外できるもののようです。
>柴田亜美さんは、「フリーマンヒーロー」の原稿で、1ページまるまる小人さんが
>ペン入れしたページがあるそうですし、さとうふみやさん(金田一少年や探偵学園Qの人)や
>森次矢尋さん(主に少女漫画で割と本格的な推理物を描いている。最近見かけない。
>好きなのに……しくしく)は小人さん現象の失敗談を、コミックスの穴埋めで
>ネタにしてましたし。
なるほど。それほど珍しくないんですね。ちょっと体験してみたいなあと思う私。


それにしても、コミックをあまり楽しめない体質になってしまった私。どうもコミックでさえ早読みしてしまう(やっぱり、コミックはじっくり読んでこそ面白いと思う)。
>
>それでは、今日はこの辺で失礼いたします。
>続きを楽しみにしていますね。
丁寧なご感想に加え、情報(小人さん)まで頂け、真に感謝です。
本当にどうもありがとうございました。
それではこれで……

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1532940:死にゆく世界を棄ててオロシ・ハイドラント URL2003/10/19 19:16:46
記事番号15285へのコメント

◇◆☆◇◆◇◆☆◇◆◇◆☆◇◆◇◆☆◇◆


 ――40:死にゆく世界を棄てて――


 ほぼ同刻。
 スィヤーフが目覚めた場所は、寝台の上。随分長く寝ていたようだ。
「う、うん」
 周り洞穴と思しき岩壁。見知らぬところだ。
 水の落ちる音がした。少し寒い。
 空間はさほど広くなく、寝台の他には、蝋燭程度。
 出入り口には、木の扉。サイズは小さい。
 もしや牢獄か?
 圧迫感感が、彼に襲い掛かった。閉じ込められているのではないかという発想が浮かんだ途端に息苦しさを覚える。
 スィヤーフは呼吸を整えた。
 嫌な記憶を消し去り、思考を働かせる。
 なぜ、ここにいるのか?
 そもそも、ここはどこなのか?
 そうだ。自分はあの救世主についていったのだ。ここは恐らく、救い主の住処なのだろう。
 そうなればここは、どこでも良い。世界のどの位置にあっても構わない。ここにい続けたとしても、悪い事態にはならぬはずだ。
 そうだ。そうに違いない。
 ひとまず、かりそめの安堵を手に入れることに成功した。
 扉が開いたのは、その時だ。


 差し込んだのは、闇であった。
 部屋の外は、限りなく暗い。
 否、ただ暗いだけでなく、真なる闇を有している。
 それゆえに闇は活きる。光を完全に喰らい尽くす。
 その闇も、途絶えた。扉が閉まったのだ。
 そして扉がしまったことにより、世界はスィヤーフの瞳に一つの影を映し出した。
 少女……だろうか。
 華奢な身体つき。雪よりもなお白き素肌。半袖の純白なドレス。
 極上の輝きを湛えた茜色の長髪は、全体に広がっていた。
 無垢なる蒼き瞳は、スィヤーフの視線を奪った。
 汚れなき美貌がそこにあった。
「おはよう」
 間の伸びた声が聴こえた。
 はっ、となって我に帰る。だが言葉は浮かびえなかった。
「気が付いたみたいね」
 言いつつ、歩み寄って来る。その声もまた美麗で、横殴りの暴風を受けた気になった。
 彼に特別な性癖があるわけではない。それとは違うのだ。
 これほどまでに、完全なる者が他にいようか。ただ美しいだけではない。むしろ美など付属品にすぎないのだ。そうだ。それは……
「ねえ、お名前はなんていうの?」
 いつしか寝台のすぐ傍に彼女はいた。彼女の瞳には、黒タキシードの男が映されている。彼の姿が映されているのだ。
「スィ、スィヤーフ……」
 何とか言葉を紡いだ。
 少女が微笑む。緊張感に息を呑んだ。
「スィヤーフさん……格好良い名前ね」
「あ、ありがとう……」
 思わずにやける。
 少女はその様を見詰めていた。
 ともに沈黙。だが、心境は遥かに異なる。
 スィヤーフには、世界が見えない。ただ少女だけがいた。
 彼女には霊性がある。さながら彼女は天使のようだ。
「あ、私はラレニェ、覚えておいてね」
 名前を知ってしまったと衝撃を受ける。自分と同じように名前があったことさえ不思議に思えたのだ。
 だが、神秘性が損なわれることはなかった。彼女の霊性は、この程度で揺らぐほど弱くはない。
「そういえばスィヤーフさんって、本当にノーストさんのお知り合い?」
「あっ、ああ」
 言葉がうまく紡げない。
 思考もほとんど回らない。
 身体は、深い闇に落ちてゆくかのようだ。
「じゃあ、魔族なんだね」
 どうやら、先ほどの曖昧な返事を、肯定と受け取ったらしい。
「……ま、まあ」
「じゃあ、悪い人なんだね」
「……え?」
「だって、ヴェノムさんの邪魔をしようとしてるんでしょ」
 ここはどこなのだ?
 この少女は何者なのだ?
 銀髪の人? 魔族?
 そしてヴェノムとは……?
 再び扉が開いた。


「これは、これは、ラレニェ嬢」
 スィヤーフは、驚愕した。
 そこにいたのは……覇王将軍たるノースト。
 ノーストは、振り向いたラレニェに近付き、目の前で跪いた。
「こんにちは、ノーストさん」
 ノーストは従順な臣下のような態度をしていたが、ノーストとは違い、全く動揺していない。
 だが、そんなことよりも……
「なぜ、お前がここにいるんだ?」
 スィヤーフは訊ねた。
 すると、ノーストは立ち上がる。
 ラレニェを無視するように、スィヤーフに接近して、
「私が、お前を救出したのだ。私がここにいて当然ではないか?」
 救った?
「どういうことだ?」
 すると、ノーストは微笑して、
「気付かないのか?」
「何がだ?」
「……お前が忠誠を誓ったのは、紛れもなくこの私だ」
 ……まさか、こいつがあの救世主? 嘘だ。そんな馬鹿な。ありえるはずがない。納得がいかない。
(そこまでイカれてたのか。俺は?)
 あの神々しさは錯覚だったというのか?
「ところで、世界を変えたいという思いに、偽りはないな」
「そう……だが……」
 ノーストは同僚。だが、王者の威厳を持つようにも思えた。
 世界は変えたい。それがたとえ無意味なものであっても……。
 しばし迷った。だが答えは迷う前から見えていた。
 頷く。
「分かった。……お前を、同志と認めよう」


 ラレニェが去って後、ノーストからいくつかのことを聞かされた。
 ノーストが世界に対する不満を抱いていた時、ちょうど恐ろしい計画を企てている者が現れた。
 ヴェノムこそが首謀者であり、水竜王というスポンサーを得て現在、人類を滅ぼす「毒」を作成している。
 完成すれば、人類は滅び、赤眼の魔王も全滅する。神族がそして勝利を手にするのだ。
 ノーストは生き残るために、ヴェノム側に加わる。そして滅びを免れるのだ。
 そして、神々の仲間に加わり、長い時間を掛けて内部から蝕んでゆく。
 これがノーストの企みであった。
 そして、それには魔族の同志が必要らしかった。
 ノーストは、世界を変えたいと思っている。
 変えなければいけないとまで思っている。
 すべては亡き姉のために……
 

 しかし、ことがそう簡単に運ぶはずがない。
 最初の壁が、ノーストの前に立ち塞がった。
 まずヴェノムに認められねばならない。
 そのためには、一つの賭けに勝つ必要があるのだ。
 その賭けの内容とは、赤眼の魔王と水竜王の戦いの勝者を予想し合うというものであった。
 ノーストは水竜王に賭けた。
 これは考えあってのことであり、当然の選択であった。
 ノーストは狡猾であった。
 しかし、恐ろしくはあるが、頼もしい味方でもある。
 しばし考えた後、スィヤーフはノーストの計画に全面的に協力することを決意した。


◇◆☆◇◆◇◆☆◇◆◇◆☆◇◆◇◆☆◇◆

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1533041:頂上決戦オロシ・ハイドラント URL2003/10/19 19:19:34
記事番号15285へのコメント

◇◆☆◇◆◇◆☆◇◆◇◆☆◇◆◇◆☆◇◆


  ――41:頂上決戦――

 
 七月二十一日午前。
 夜明けの剣(エペ・ド・ローブ)が震えていた。
 神速の王者の剣。
 ガーヴは、ソブフに勝利したのだ。
 事実上は、勝ったのだ。
 今になって、そう解釈を改めた。
 自分は勝者だ。
 この剣は戦利品だ。
 そう思わざるおえなかった。
 ……恐るべき敵が、目の前にいるからだ。
 本能で剣を振るうガーヴは、その相手の恐ろしさを本能的に感じていた。
 ……水竜王。
 これほどの戦慄を感じた敵は、果たして他にいただろうか。
 すべてを超越した神の竜。たとえ、神封じの結界にて力を大きく封じられていようとも、脅威すべき敵には間違いない。
 カタート中心の大盆地。中央神殿の置かれたカタート本山を囲う広大な地で、決戦が今、おこなわれようとしていた。
「期は満ちたようだな、シャブラニグドゥよ」
 竜の王の声に、世界が震えた。
 オリハルコンを思わす硬質な鱗が煌く。大地を覆い隠さんほどの巨大な翼を持ち、紅き眼差しにて絶対の敵を見詰める蒼竜。
 魔王は、それに答えない。
 だがそれは声に恐れたわけではなく、なお余裕を保っていることの証左だ。
「沈黙もまた一つの答えだな」
 そして、水竜王も黙り込んだ。
 戦いは静かに始まった。


 ガーヴが駆け出すまでには、長き時を要したようだ。
 恐怖と脅えは、最強の敵へと突撃していく勇気を握り潰そうとしていた。
 夜明けの剣が、どれほど勇気の糧となっただろう。
 結果的には、ガーヴは戦うことを決意した。
 だが、それにはどれほどの長き時を要したのだろうか。
 彼にとっては、それは永遠にも近い?
 とにかく、ガーヴは駆け出した。
 亡き強敵(とも)の、剣を携え。


 熱い。
 そう思った瞬間に、漲ってくる力――魔力。
 魔王シャブラニグドゥによって注入された力が、ガーヴの中で暴れている。
 それを必死で制御しつつ、ガーヴは水竜王へと向かった。
 虚空から水流が生まれる。
 それは……意志を持った水竜であった。数は三匹。どれも巨大で凄まじい力を感じさせる。
 ガーヴは思わず、後へ跳躍した。前から後への体重移動は彼にとってお手のものであった。
 足元の地面を貫く三匹の竜。激しく揺れるカタートの大地。
 うまくかわしたガーヴは、反撃として剣を振るった。
 剣から生まれる衝撃波。その威力の膨大さに、自分自身でも驚いた。
 衝撃波は水竜王へ向かっていく。
 だが、それは弾かれる運命だ。
 着地したガーヴは駆け出す。
 衝撃波を相殺している隙に、ガーヴは水竜王との距離を縮めていた。
 水竜王は、ようやくガーヴに攻撃を始める。
 三匹の水竜が襲う。
 だが、それはあっさりと魔王の力によって消し去られた。
 さらに距離が縮まる。
 今度は、倍となる六匹の水竜が生み出された。
 魔王が消し去れるのは三つの竜のみと悟ったガーヴは、一つをかわし、一つを切り裂き、最後の一つに自ら突進して、捨て身覚悟で水竜王の首に斬り掛かった。


 ガッ!


 だが、聴こえたのは硬い音。
 ガーヴの手にした夜明けの剣は、水竜王の皮膚を浅く削ったのみ。
「ぐっ!」
 だが、ガーヴの傷は相当深い。
 腹部からの流血。水竜による攻撃は、予想以上に強力なものであった。
 ゆえに、ガーヴは全力を込めた。
「下がれ!」
 シャブラニグドゥの声も聴こえない。
 次の攻撃が来るまでに、傷一つでも……。
 ガーヴは本能で戦う。それゆえに一撃に命を賭けていた。
 爆風が巻き起こった。
 ガーヴが吹き飛ばされる。
 事実上、己の身に張りついているともいえるガーヴに対しては、先ほどの水竜攻撃は放てなかったのであろう。
 水竜攻撃は、魔王に向けられていた。それも三匹ではなく倍の六匹。
 シャブラニグドゥが三匹を消し去り、残る三匹を巧みにかわしきったところで、ガーヴは魔王の元へ帰還していた。
 立ち上がる。
 再び魔力が注入された。傷も癒える。
 走り出した。
 今度こそと強く誓って、夜明けの剣を握り締めた。
 今度こそは、斬る。
 必ず、斬る。
 ガーヴは、魂を剣に込めた。
 そして剣を信じ、再び水竜達をかわしていく。
 魔王の助けも確実にあって、再び攻撃するチャンス。
 今度は、攻撃を喰らっていない。
 ガーヴの飛翔。
 そして、金色に輝く剣が、天の輝きと共鳴した。
 全身全霊の力を込め、ガーヴは剣を振り下ろす。
(頼む……)
 すべてを託す。
(……頼むぞ、ソブフ)
 そうだ。
 友は、笑って死んだ。
 あれは……ガーヴにすべてを託すため。
 どうでも良くなったのだろう。
 ソブフは、確かに敵だ。ガーヴはそうも思わなかったが、ソブフにとってガーヴは敵。
 だが、それがどうでも良くなったのだろう。
 ソブフは、間違いなくガーヴにすべてを託したのだ。
真偽はどうだって良い。ガーヴの中では、それこそが絶対の真実であった。
 水竜王の頭部に向けて、太陽の剣が振り下ろされる。
 そして……。


 グオオオオオオオオオオオッ


 凄まじい絶叫が響き渡った。
 そして同時に、無数の水竜が現れた。
 ガーヴへと向けられた必死の抵抗。
 あまりの勢いに、ガーヴは吹き飛ばされ、身体中から血が溢れ出した。
(はあ……はあ……)
 朦朧とする意識。
 激しく襲い掛かる傷。
 それでもガーヴは、敵の方を睨み続けていた。
 水竜王を斬った夜明けの剣の剣先が折れる。水竜王の皮膚はこの金色の剣を破壊するほどに頑丈なものであった。
 それでも、剣の切れ端を、ガーヴは握り続ける。
「やった……か?」
 その時、凄まじい閃光がガーヴの身体を飲み込んだ。


 それでもガーヴは生きていた。
 身体は……動く。
 シャブラニグドゥが、救ってくれたのだ。
 空間を歪め、水竜王の攻撃範囲外に転移させてくれたのだ。
 また傷も癒してくれたようだ。
 充分に自力で立ち上がれるようだ。
 ガーヴはうめきを上げながらも、身体を起こした。
 前方は煙に包まれている。彼と並んだ位置にいるシャブラニグドゥも同じ光景を目にしているはず。
 だが、横目で見た魔王は、自分と圧倒的に違った。
 確信している。水竜王が生きていることを……。
 この程度で倒せるはずがないと、ガーヴも思ってはいたが、やはり一縷の望みには賭けていたのだ。
 シャブラニグドゥを見た途端に、ガーヴの持つ、一縷の望みは消え失せてしまった。
 そして、煙が晴れる。
 そこには、性別を超越した、一人の「人」が立っていた。
 剣士の姿をした水竜王。これが本当の戦闘形態なのだろうか。


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1533142:華麗なる堕落のためにオロシ・ハイドラント URL2003/10/19 19:33:31
記事番号15285へのコメント

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 ――42:華麗なる堕落のために――


 同刻。
 スィヤーフは小さな部屋で、ただ魔王と水竜王との戦いを中継する水晶球に見入っていた。
 ヴェノム達は違う場所で見ているらしい。
 少々気分が悪く、薔薇を取り出す気も、煙草を吸う気も全く起こらなかった。
 ただ横に立つノーストに向けて、
「なぜ水竜王を選んだのだ?」
 そう訊ねた。


 突如声を掛けられたが、ノーストは取り乱すわけでもなく言った。
「単純なことだ。魔王シャブラニグドゥ如きが、水竜王に勝てるはずがない」
 すでに魔王さえも呼び捨てかと、スィヤーフは心で思い、微かに笑った。
 笑ったことで、少し気分が良くなった。煙草を吸う気になるほどには至っていないが……。
 だが、戦いの行方はまだ分からない。戦況は五分五分といったところだ。
「ただ、一つの懸念があるのだが」
 不意にノーストが言った。
「懸念?」
「ああ、私がスパイをやっていることは聞かされただろう」
「ああ、少し前にな」
 頷く。
「あの時は少々、不自然だった。あちら側は、まるで私に「毒」のことを知ってくれといわんばかりの態度だった。
 そしてもう一つ、私がヴェノムに冗談めかせて「私は役に立てたか」と訊いた時、やつは「計画のためには不可欠だ」との言葉を漏らした。あやつは真に私を利用していたのではないだろうか?」
「はあ? どういうことだ」
「「毒」は存在しないという可能性もあるということだ」
「存在しないだと!」
「その可能性もあるということだ。「毒」というものは魔族を焦らすための架空の存在にすぎぬのではないか?……そうなると、私が誤情報を得てしまったことになる」
 スィヤーフは考えた。
 「毒」が存在するかしないかが、果たして現在の戦いに何らかの影響を与えるのだろうか。
 たとえ「毒」が存在するということが誤情報であっても、それは水竜王に魔王を倒させるために流した情報であろう。
 ならば水竜王に賭けるのが正しい。ノーストの判断は間違っていないはずだ。
「もしや、水竜王を滅ぼさせるのが、ヴェノムの企みなのかも知れん」
「まさか!」
「いや、本当にそうかも知れん。まるで操られているようなのだ。
 私がスパイとして浸入し、「毒」の情報を得て、魔族が今回の作戦を決行する。さらに私がヴェノムの仲間になりたいと言い出し、賭けをおこなって、私が水竜王の勝利に賭ける。……すべて、やつの計画通りなのではないか?
 やつは運命に対するおかしな思想を持っていたが、それも、もしや真実なのではないだろうか」
「それは考えすぎだろ」
「いや、やつはただ者ではない。……悪魔だ。水竜王などよりも、やつの方がよほど恐ろしい」
 ノーストが、狼狽している。
 あのノーストが……。
「だが、恐ろしいといえば、あっちの方だぜ」
「あっち? 何のことだ?」
「気付かなかったのか?」
「だから何のことだ?」
「あいつだよ。あのガキ」
「ガキ? ……ラレニェのことか?」
「ああ。多分そいつだ」
「あれは……ただの少女だろう」
「本気か? ……俺はあいつこそ黒幕だと思うがな」
「どういうことだ?」
 そう。あの少女。
 恐ろしい力を持っていた。
 だがノーストは気付いていない。
「力量差じゃないのか?」
「何の話だ」
「俺の方が、お前より力が強い。これは分かっているだろうな」
 海王将軍スィヤーフと、覇王将軍ノーストは確かに同じ肩書きを持つが、その戦闘能力には大きな差がある。
 これは海王がスィヤーフとセフィードの二人を創造したのに対し、覇王はネージュ、ダイ、ノースト、グラウ、シェーラの五人を創り出したため、一人当たりに分配される力が違うためだ。
「あいつは強い。少なくとも、俺達よりは遥かにな」
「つまり。私の能力が低かったために、見破れなかったというのか?」
「ああ、そうだ」
 今一つ釈然としないが、それが答えなのではないだろうか。
 ノーストほどの高位魔族にさえ、自身の力を悟らせなかった相手。
 彼の主たる覇王グラウシェラーにも、出来ぬ芸当ではなかろうか。
「……まあ、そんなことはどうでも良い。過去は未来と違って変えることが出来ぬのだからな」


「ところで、水竜王は勝てるのか?」
 スィヤーフは、話題を切り替えた。
 ノーストは迷ったような態度で、
「分からん。実力的には魔王達を上回るだろうがな」
「そうか……」
「まあ、勝つのを信じるだけだ」
「そうだな。だが、思うんだが……」
「何だ?」
 スィヤーフは恐る恐る、
「もしも「毒」が存在しないなら、やつらの味方をする理由なんか、なくなるんじゃないか?」
 当然。ノーストも気付いているはずだ。
「無論そうだ」
 答えた時の態度は、まさしくそれに気付いていることの証左であった。
「だが、私はあの男――あるいはあの少女の力は魅力的だと思っている。あの力をうまく利用出来れば……」
「そうか。……実は俺もだ」
 スィヤーフは確信している。ノーストも恐らく同じ。
 あの二人にとっては、魔族という存在を根絶やすことさえも容易に果たすことが出来るはずだ。
 だが、それに惹かれつつも、スィヤーフは二人を恐れている。
 あの二人を利用することなど出来るのだろうか?
 それにしても、魔族が水竜王の応援をするというのはおかしな話だとスィヤーフは思った。


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15332さしずめカダツですね♪エモーション E-mail 2003/10/19 21:30:26
記事番号15331へのコメント

没落じゃなくて、堕落ですか。
思わず「堕落、堕落、堕落はあざなえる縄のごとし」だの、
「これを堕落と言わなくて、何と申しましょう」の台詞と共に、
黒板にでっかく書かれた「墜落」と言う字が浮かぶ私の脳内には、
あ〜る君が脈々と張り付いているようです。

こんばんは。

スィヤーフさんの元に現れた、謎の美少女ラレニェさん。
種族としては、ヴェノムさんと同じなのでしょうけれど、神族でも魔族でもない
ヴェノムさんやラレニェさん。一体どんな存在なのか、気になりますね。
そしてノーストさん……。確かに、救世主と思った相手が彼では、スィヤーフさんも
ちょっと待て! と思いますよね。
ヴェノムさんとの賭で、「水竜王の勝利」に賭けたノーストさん。
滅茶苦茶割り切っていると同時に、何だかもの凄く屈折したものを感じます。
基本的に滅びを望む魔族なのに、滅びを回避しようと思うところも。
ゼロスとは違う意味で、どこか矛盾した、不可解な感覚を持っていますね。

水竜王様&魔王様+ガーヴ様の戦い。
力をかなり封じたとはいえ、やはりスィーフィード四分の一。強いですね。
ソゾフさんの剣と、魔王様の力、そしてガーヴ様の持つ水竜王様との共通属性
「竜」を介しての戦い……。どうするのかな、と思っていたのですが、
こういう形で表現したのですね。
41話ラストに現れた水竜王様。
私もそうですが、今まで水竜王様は、たいてい女性人格で書かれることが
多いので、(水のイメージが女性を連想させるんでしょうか? 本来、
魔族と同じでどちらでも良いはずなのですが)今更ですが、男性人格の
水竜王様は意外性があるなと思いました。

スィヤーフさんとノーストさんの会話。
ヴェノムさんもラレニェさんも、どこまで計算ずくでいるのか、
分からない方々のようですね。
この手のものは、「自分より格上の存在については、相手が隠そうとしていると
良く分からないのが当たり前」なものですが、そういうレベルの問題ではないのかも。
ノーストさん……そんな方々の力を「上手く利用できる」かどうかは、
かなり怪しいものだと思うのですが……(汗)

それぞれの思惑が、複雑に絡み合っていますね。降魔戦争の終結は、それぞれに
どんな形の結末を与えるのでしょうか。
それでは、続きを楽しみにしつつ、これで失礼いたします。

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15336Re:サブタイトルで悩まされてしまった回。華没のパロは最初から決まってましたがオロシ・ハイドラント URL2003/10/20 20:52:09
記事番号15332へのコメント

……タイトル長すぎかも。


>没落じゃなくて、堕落ですか。
>思わず「堕落、堕落、堕落はあざなえる縄のごとし」だの、
>「これを堕落と言わなくて、何と申しましょう」の台詞と共に、
>黒板にでっかく書かれた「墜落」と言う字が浮かぶ私の脳内には、
>あ〜る君が脈々と張り付いているようです。
……堕落がもたらす脳内小宇宙?(意味不明)。
色々悩んで結局「堕落」になりました。
未来とか明日とかいうポジティブな言葉にする案もあったんですけどね。
後、離反とか反逆というのも。
>
>こんばんは。
こんばんは。毎回どうもです。
>
>スィヤーフさんの元に現れた、謎の美少女ラレニェさん。
>種族としては、ヴェノムさんと同じなのでしょうけれど、神族でも魔族でもない
>ヴェノムさんやラレニェさん。一体どんな存在なのか、気になりますね。
現在のところはシークレット状態ですが、重要な役であることは間違いないようです。
>そしてノーストさん……。確かに、救世主と思った相手が彼では、スィヤーフさんも
>ちょっと待て! と思いますよね。
納得いかないですよね普通。しかし後悔先に立たず(笑)。
>ヴェノムさんとの賭で、「水竜王の勝利」に賭けたノーストさん。
>滅茶苦茶割り切っていると同時に、何だかもの凄く屈折したものを感じます。
>基本的に滅びを望む魔族なのに、滅びを回避しようと思うところも。
>ゼロスとは違う意味で、どこか矛盾した、不可解な感覚を持っていますね。
ノーストも規格外の魔族に仕上がってます。自分達の主の敗北を願うなんて他の魔族には絶対不可能なことでしょうし。
そしてスィヤーフも徐々にそうなり掛けているかも知れません。
>
>水竜王様&魔王様+ガーヴ様の戦い。
>力をかなり封じたとはいえ、やはりスィーフィード四分の一。強いですね。
四分の一と七分の一の差は大きいですからね。
>ソゾフさんの剣と、魔王様の力、そしてガーヴ様の持つ水竜王様との共通属性
>「竜」を介しての戦い……。どうするのかな、と思っていたのですが、
>こういう形で表現したのですね。
アクションゲームのボスキャラ戦のようなものを意識して書きました。ただしダメージは徐々にではなく、一気にですけど。
>41話ラストに現れた水竜王様。
>私もそうですが、今まで水竜王様は、たいてい女性人格で書かれることが
>多いので、(水のイメージが女性を連想させるんでしょうか? 本来、
>魔族と同じでどちらでも良いはずなのですが)今更ですが、男性人格の
>水竜王様は意外性があるなと思いました。
基本的に竜というと男性的なイメージが私にはありますのでそうなりました。
それにカタートという険しい山脈に住む者と言われると、女性より男性の方が相応しいような気がしたという理由もあります。

>
>スィヤーフさんとノーストさんの会話。
>ヴェノムさんもラレニェさんも、どこまで計算ずくでいるのか、
>分からない方々のようですね。
>この手のものは、「自分より格上の存在については、相手が隠そうとしていると
>良く分からないのが当たり前」なものですが、そういうレベルの問題ではないのかも。
二人とも無能ではないでしょうが、相手の方が上手なのかも知れませんね。
>ノーストさん……そんな方々の力を「上手く利用できる」かどうかは、
>かなり怪しいものだと思うのですが……(汗)
確かにかなり無謀でしょう。その点のみに関しては、ある意味ラング(銀英伝)的と言えるかも(笑)。
>
>それぞれの思惑が、複雑に絡み合っていますね。降魔戦争の終結は、それぞれに
>どんな形の結末を与えるのでしょうか。
>それでは、続きを楽しみにしつつ、これで失礼いたします。
ご感想どうもありがとうございます。
ようやくこの物語も完結を迎えることが出来そうです。
それでは、これで……
お身体にお気をつけてくださいませ。

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1533843:審判オロシ・ハイドラント URL2003/10/20 21:19:08
記事番号15285へのコメント

◇◆☆◇◆◇◆☆◇◆◇◆☆◇◆◇◆☆◇◆


 ――43:審判――


 「人」の姿と化した水竜王は恐るべき相手であった。
 竜形態時ほどの防御力は有さなかったが、その代わりとして敏捷性と攻撃力、それに魔力操作の技能は飛躍的に高まっていた。
 剣を具現化した水竜王は、ガーヴと互角以上に渡り合った。
 剣技でガーヴを追い詰めつつ、魔法攻撃でシャブラニグドゥの援護のほぼすべてを相殺したした。
 やはり、神封じの結界などという小細工を弄したところで、勝てる見込みなどまるでなかったのだ。
 共通の竜の性質のことに関しても、攻撃を当てることが出来ぬならば全く関係のないことである。
 ガーヴは傷をどんどん増やし、確実に滅びヘ向かっていった。
 シャブラニグドゥも必死でガーヴを援護するため、魔力の大半を使い果たした。
 だが、水竜王はまだ余裕があるように思える。
 消耗戦では敵わないのだ。
 戦況は水竜王が優位であった。
 魔王は敗北を予期していた。
 未来を知らぬ者は、自分の勝利を完全に否定していた。
 しかし水竜王がそのまま勝者とはならなかった。
 戦況は水竜王が優位だったのではない。優位に見えただけなのだ。
 好機は不意に訪れる。
 それはガーヴも敗北を覚悟した瞬間に。
 水竜王は、倒れ込んだガーヴに向けて剣を振るった。
 だが、たった今ガーヴにとどめの一撃を加えようとしていた水竜王は……突如、苦しみ出した。
 唖然としたガーヴ。
 だが、すぐに我に返って反撃に向かう。
 自身の傷も深かったが、それでも必死で剣を振るった。
 水竜王は何度も太刀を受け流したが、その時の苦しみは恐ろしいものであった。
 ガーヴは水竜王を斬り付けた。
 絶叫する水竜王。
 さらに斬撃を浴びせ掛ける。
 戦況は完全に逆転していた。
 シャブラニグドゥの援護もあって水竜王は追い詰められた。
 しかし、簡単に終わったわけではない。
 水竜王は、仮にも神の頂点に立つ存在。
 邪なるものに負けるわけにはいかない。
 凄まじい苦しみに耐え、必死で戦い続けた。
 攻撃の嵐は二人のそれを遥かに越えており、お陰で戦いは激しさを増した。
 たとえ刺し違えてでも……。それが水竜王の心境であった。
 それから戦いは長く続く。滅びなど恐れず、ただ相手を消滅させる意志だけを持っての戦いは、思うより遥かに長引いた。
 執念とは恐ろしいものだ。すでに力が底をつこうと、命を削って攻撃し続けた。
 結果として水竜王は敗れたが、どちら側が敗者となっていても、けして不思議ではない戦いであった。
 しかし、ただ滅びはしなかった。
 最後の力を振り絞り、ガーヴの腹を切り裂いて、怨嗟の声とともに、シャブラニグドゥに向けて凍える吐息を浴びせた。
 さらに二人に呪いを掛けた。
 ガーヴには人間として生き、死しても再び人間として再生し続ける呪いを。シャブラニグドゥには完全に動きを封じる呪いを……。
 そして、呪詛を終えて、水竜王は斃れた。
 宝玉のような形をした中核――赤の竜神が水竜王を創る時に憑代としたもので、まさしく魂と呼ぶに相応しい――は、宙を漂い、どこかへ吸い込まれるように消えた。


 夜明けの剣に封じ込められたラレニェの力こそが、水竜王を滅ぼしたのだ。
 七月二十二日午後のことであった。二対一の戦いで、決着にこれほどの時間を要すものなど滅多ない。
 五人の王は、戦いが終わると同時に、結界の拠点に結界の効果を存続させるための分身体を配置し、魔王の存在に恐れ戦き逃げゆく連合軍を相手に「狩り」をしていたゼロスと合流して、カタート中心部へ向かった。
 そこで凍りづけの魔王を発見し、悩んだ末に対処不能と判断すると、魔界へ帰還した。
 七月二十三日午前。
 朝日とともに「解毒」作戦は終結した。


◇◆☆◇◆◇◆☆◇◆◇◆☆◇◆◇◆☆◇◆

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1533944:神殺しの毒オロシ・ハイドラント URL2003/10/20 21:25:54
記事番号15285へのコメント

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 ――44:神殺しの猛毒――

 
 ラレニェは極めて特異な存在である。運命を狂わせ、自らの思い通りに変えてしまう恐ろしい存在であると彼女自身が言っていたし、それが真実であるということをヴェノムは確信している。
 彼女は羅神盤に縛られず、彼女の行動は羅神盤の内容を書き換えてしまう。
 神魔戦争終結後、神族全体に兄弟もろとも戦死扱いされたヴェノムは、神族として天界に帰還しようとはせず、地上で人間として暮らしたり、聖王国セイルーンに降臨して守り神を演じたりしていた彼は、やがて彼女と出会い、その力に魅了され、ともに世界を狂わし滅ぼす計画を立てた。
 その計画は、今のところ完璧に成功している。微かな綻びさえもない。あるはずがないのだ。
 すでに水竜王の滅びは確定している。
 水竜王に、「人類破壊計画」こそが赤の竜神の遺志だという偽りを吹き込み、スパイのノーストに「人類破壊計画」のことを気付かせ、今日の戦いを引き起こす。
 水竜王や魔族達の想像する「毒」など、どこにもない。
 強いて言えば、情報こそが「毒」なのだ。
 しかも、人類を滅ぼす「毒」などではなく、世界を滅ぼす「猛毒(ヴェノム)」なのだ。
 この他のことに関しても全くの計算通りである。
 まず、ゼロスが魔王を発見する時期も、羅神盤にて知ることが出来た。
 そして知ると同時に、ソブフに使命を課す。ソブフは命令通り、三人の魔族を滅ぼし、そして計画通り、ガーヴに破れた。
 そして夜明けの剣がガーヴの手に渡る。
 あれはヴェノムが魔力を与えて剣であり、ヴェノムはラレニェから魔力を受けている。つまり、ソブフの剣にはラレニェの力が込められているのだ。ラレニェは特定の存在以外に力を使うことが出来ないらしいので、特定の存在であるヴェノムが中継役になったのだ。
 そして夜明けの剣の力が水竜王を打ち滅ぼす。仕掛けられた魔力は、まさに遅効性の毒と言えるものである。
 また水竜王に援軍を拒否させることにより、アドリアンのみを引きずり出すというのもまた、彼らの企みであった。
 アドリアンがグラウシェラーを選んだのも、また予想通りだ。彼はグラウシェラーに敗れるだろう。グラウシェラーはアドリアンを滅ぼすだけの力を持っている。
 アドリアンが滅ぼさせること、つまり神族の戦力を低下させることは、後のために不可欠なのだという。


「そろそろ、だよね」
 ラレニェが言う。
「ああ、もうすぐだ」
 もうすぐで……この戦いが終わる。
 こちらの二人も、ノースト達のいる場所と同じ造りの部屋で水晶球を眺めている。
「ソブフさんのお陰よね」
「ああ、あのような愚か者も、役に立ってくれた」
「まあ、私が力を与えなかったら、ただのゴミクズだったけどね」
 ラレニェは無邪気に笑う。
 やはり、恐ろしい。
 ヴェノムは出来る限り、恐怖感を隠した。
 彼が「毒」の計画を始めたのも、彼女に出会ったからであった。
「そうだな。所詮は人間だからな」
「神族だって同じようなものなんだけどね」
「…………」
 戦慄が走った。
 彼女にとっては、ヴェノムさえも虫ケラ同然なのだろう。
「ふふっ、でも安心してね。ヴェノムさんは特別よ」
「そうか……」
「ヴェノムさんは、私の保護者だもんね」
「あ、ああ」
 確かに、彼女が暴走せぬように見張る役なのかも知れない。
「……もちろんだ」
 ヴェノムは薄い笑みを浮かべた。
 ラレニェが右手を差し出した。
 ヴェノムも同じ手を出す。
 握り合う。見詰め合い、握手。
「ところで、そろそろ決着がつくようだ」
「そうね」
 二人は水晶球に向き直った。
「やはり……こうなった」
「予想通りね」
 ヴェノムは大きく息を吸い、
「……これが世界の理だ」
「……ヴェノムさんと私が戦ったら、ヴェノムさんがあっさり滅びちゃうってことと同じくらい、当然のことよね」
 ヴェノムは笑って受け流す。
「水竜王さえ倒したのだからな」
 そして、そう言った。
 ラレニェはまた笑う。
「……後、千年と少し」
 そして小さく呟いた。


◇◆☆◇◆◇◆☆◇◆◇◆☆◇◆◇◆☆◇◆

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15345コンピュータウィルスみたいな人……(^_^;)エモーション E-mail 2003/10/21 22:23:09
記事番号15339へのコメント

こんばんは。

とうとう降魔戦争終結……ですね。以後は後始末編、というところでしょうか。
水竜王様と魔王様&ガーヴ様のタッグチーム(何か違う)の戦い……。
さすがに凄いですね。ある意味パワーゲームなのでしょうけれど、
桁が違いすぎるから、その場に他の者がいたとしても、手出しできそうにないですし。
水竜王様、何故倒されたのか、もの凄く疑問だったでしょうね。
ラストの氷り付けの魔王様を、魔族達が見つけた箇所で、その時の魔族達の心境を
想像したら……何故か、生暖かいような、何とも言えない気分だったのかなあ……と、
妄想してしまいました。

それにしても……ラレニェさんって……

> 彼女は羅神盤に縛られず、彼女の行動は羅神盤の内容を書き換えてしまう。

この部分を読んで、思わずコンピュータウィルスみたいだと思いました。
羅針盤に縛られることのない存在……。本当にどんな存在なのでしょうか。
羅針盤を創っている存在と、ある意味近いものの様な気が……。
実はL様の分身っぽいものとか(笑)

ヴェノムさんもまた……不可解な方ですね。
神族だったヴェノムさんが、魔族の目指す滅びを世界に与える計画を立てる……。
ラレニェさんに会った故、といえば、それまでなのでしょうけれど。
ある意味、ヴェノムさんも、ラレニェさんに会ったことで、知らないうちに
何かが書き換えられてしまったのでしょうか。

> 水竜王に、「人類破壊計画」こそが赤の竜神の遺志だという偽りを吹き込み、スパイのノーストに「人類破壊計画」のことを気付かせ、今日の戦いを引き起こす。
> 水竜王や魔族達の想像する「毒」など、どこにもない。
> 強いて言えば、情報こそが「毒」なのだ。
> しかも、人類を滅ぼす「毒」などではなく、世界を滅ぼす「猛毒(ヴェノム)」なのだ。
> この他のことに関しても全くの計算通りである。
> まず、ゼロスが魔王を発見する時期も、羅神盤にて知ることが出来た。
> そして知ると同時に、ソブフに使命を課す。ソブフは命令通り、三人の魔族を滅ぼし、そして計画通り、ガーヴに破れた。
> そして夜明けの剣がガーヴの手に渡る。
> あれはヴェノムが魔力を与えて剣であり、ヴェノムはラレニェから魔力を受けている。つまり、ソブフの剣にはラレニェの力が込められているのだ。ラレニェは特定の存在以外に力を使うことが出来ないらしいので、特定の存在であるヴェノムが中継役になったのだ。
> そして夜明けの剣の力が水竜王を打ち滅ぼす。仕掛けられた魔力は、まさに遅効性の毒と言えるものである。
> また水竜王に援軍を拒否させることにより、アドリアンのみを引きずり出すというのもまた、彼らの企みであった。
> アドリアンがグラウシェラーを選んだのも、また予想通りだ。彼はグラウシェラーに敗れるだろう。グラウシェラーはアドリアンを滅ぼすだけの力を持っている。
> アドリアンが滅ぼさせること、つまり神族の戦力を低下させることは、後のために不可欠なのだという。

それにしても……恐ろしいほど、すべての筋書きがなされていたのですね。
一人一人の何気ない考えや行動が、全部計算されて起きた出来事……。
当事者たちが知ったら、もの凄いショックですね。
愕然としてへたり込みそうです。ガーヴ様辺りは、怒り心頭で暴れそうです。
また、ヴェノムさんの名前は「猛毒」という意味だったのですね。(分かって
なかった人。単純に「毒」→「ポイズン」くらいしか連想しないので)
ラレニェさんの名前はどんな意味なのでしょうね。(辞書引けよ、自分)

> ラレニェはまた笑う。
>「……後、千年と少し」
> そして小さく呟いた。

ふと、ラレニェさんはヴェノムさんに会うまで、自分で率先して羅針盤を
意図的に書き換えようと思ったことが無いのかもしれないな、と思いました。
たまたま通りすがったり、ほんの少し興味を持ったことで、羅針盤が書き換えられた結果を、
「あら、こんな風になったのね」と、特に何も感じずに見ていたのかもしれませんが。
彼女にとって、ヴェノムさんの計画は、初めて楽しいと感じることなのかもしれませんね。
千年と少し……リナ達の時代ですね。ラレニェさんとヴェノムさんは、
この時代についても、細かく計画を練っているのでしょうか。

降魔戦争編、ほぼ謎の解明編、という内容でしたね。
凄いといいますか……。本当に、とても細かく丁寧にプロットを作ったのですね。
また推理小説の手法が、すっかりものになっていますね。
懲りすぎてマイナスになってしまう方もおられるのですが、(私はあまり
上手く出せない方ですし)ハイドラントさんの場合は、とてもプラスになって、
作品に反映されていると感じました。

降魔戦争編、あとはエピローグになるのでしょうか。楽しみにしています。
それでは、今日はこの辺で失礼いたします。

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15348Re: コンピュータウィルスみたいな人……(^_^;)オロシ・ハイドラント URL2003/10/22 19:17:56
記事番号15345へのコメント

>こんばんは。
こんばんは。
>
>とうとう降魔戦争終結……ですね。以後は後始末編、というところでしょうか。
>水竜王様と魔王様&ガーヴ様のタッグチーム(何か違う)の戦い……。
>さすがに凄いですね。ある意味パワーゲームなのでしょうけれど、
>桁が違いすぎるから、その場に他の者がいたとしても、手出しできそうにないですし。
一瞬でたたき出されるか、やられるかでしょうね。
>水竜王様、何故倒されたのか、もの凄く疑問だったでしょうね。
「いかん。持病の発作か?」とか思ってたりして(笑)。……ってありえないけど。
>ラストの氷り付けの魔王様を、魔族達が見つけた箇所で、その時の魔族達の心境を
>想像したら……何故か、生暖かいような、何とも言えない気分だったのかなあ……と、
>妄想してしまいました。
結構微妙でしょうね。一応勝ったということになるけれど素直に喜べる状態でなし、別に滅びたわけではないから悲しむというのも違うでしょうし、第一全員で泣く姿は魔族には似合わないし。
>
>それにしても……ラレニェさんって……
>
>> 彼女は羅神盤に縛られず、彼女の行動は羅神盤の内容を書き換えてしまう。
>
>この部分を読んで、思わずコンピュータウィルスみたいだと思いました。
>羅針盤に縛られることのない存在……。本当にどんな存在なのでしょうか。
>羅針盤を創っている存在と、ある意味近いものの様な気が……。
>実はL様の分身っぽいものとか(笑)
詳しい正体は秘密ですが、コンピュータウイルスというのはかなり的を射てると思いますというか、コンピュータウイルスみたいな存在という設定で作ったキャラですし。
>
>ヴェノムさんもまた……不可解な方ですね。
>神族だったヴェノムさんが、魔族の目指す滅びを世界に与える計画を立てる……。
>ラレニェさんに会った故、といえば、それまでなのでしょうけれど。
>ある意味、ヴェノムさんも、ラレニェさんに会ったことで、知らないうちに
>何かが書き換えられてしまったのでしょうか。
二人の出会いの話は、一度書こうとしたんですけど、どうしてもうまく書けなくて没になってしまいました。
彼がいかにして今のような考えを持ったかは、いずれ明らかになるかと思いますけど。
>
>> 水竜王に、「人類破壊計画」こそが赤の竜神の遺志だという偽りを吹き込み、スパイのノーストに「人類破壊計画」のことを気付かせ、今日の戦いを引き起こす。
>> 水竜王や魔族達の想像する「毒」など、どこにもない。
>> 強いて言えば、情報こそが「毒」なのだ。
>> しかも、人類を滅ぼす「毒」などではなく、世界を滅ぼす「猛毒(ヴェノム)」なのだ。
>> この他のことに関しても全くの計算通りである。
>> まず、ゼロスが魔王を発見する時期も、羅神盤にて知ることが出来た。
>> そして知ると同時に、ソブフに使命を課す。ソブフは命令通り、三人の魔族を滅ぼし、そして計画通り、ガーヴに破れた。
>> そして夜明けの剣がガーヴの手に渡る。
>> あれはヴェノムが魔力を与えて剣であり、ヴェノムはラレニェから魔力を受けている。つまり、ソブフの剣にはラレニェの力が込められているのだ。ラレニェは特定の存在以外に力を使うことが出来ないらしいので、特定の存在であるヴェノムが中継役になったのだ。
>> そして夜明けの剣の力が水竜王を打ち滅ぼす。仕掛けられた魔力は、まさに遅効性の毒と言えるものである。
>> また水竜王に援軍を拒否させることにより、アドリアンのみを引きずり出すというのもまた、彼らの企みであった。
>> アドリアンがグラウシェラーを選んだのも、また予想通りだ。彼はグラウシェラーに敗れるだろう。グラウシェラーはアドリアンを滅ぼすだけの力を持っている。
>> アドリアンが滅ぼさせること、つまり神族の戦力を低下させることは、後のために不可欠なのだという。
>
>それにしても……恐ろしいほど、すべての筋書きがなされていたのですね。
>一人一人の何気ない考えや行動が、全部計算されて起きた出来事……。
>当事者たちが知ったら、もの凄いショックですね。
>愕然としてへたり込みそうです。ガーヴ様辺りは、怒り心頭で暴れそうです。
この話、京極夏彦氏の「絡新婦の理」の影響を結構受けてたりします。違いはあるにせよ(一番の違いは実力の差か?)、首謀者が事件を自由に操るという辺りは共通してますし。
>また、ヴェノムさんの名前は「猛毒」という意味だったのですね。(分かって
>なかった人。単純に「毒」→「ポイズン」くらいしか連想しないので)
最初はフランスかどっかの言葉で「毒」かと思ってたんですが、どうやら英語で猛毒みたいです。和英辞典に載ってました(読みが入ってないけど、ヴェノムに違いないと思う)。
>ラレニェさんの名前はどんな意味なのでしょうね。(辞書引けよ、自分)
フランス語で「蜘蛛」です。
この話に出て来るキャラ達の名前は、とあるサイトの世界の言葉を検索する装置(?)を使用させて頂き、考えています。
>
>> ラレニェはまた笑う。
>>「……後、千年と少し」
>> そして小さく呟いた。
>
>ふと、ラレニェさんはヴェノムさんに会うまで、自分で率先して羅針盤を
>意図的に書き換えようと思ったことが無いのかもしれないな、と思いました。
>たまたま通りすがったり、ほんの少し興味を持ったことで、羅針盤が書き換えられた結果を、
>「あら、こんな風になったのね」と、特に何も感じずに見ていたのかもしれませんが。
>彼女にとって、ヴェノムさんの計画は、初めて楽しいと感じることなのかもしれませんね。
今のところは不明ですが、もしやそうなのかも知れません。
>千年と少し……リナ達の時代ですね。ラレニェさんとヴェノムさんは、
>この時代についても、細かく計画を練っているのでしょうか。
どうやらそのようです。そんな先のことまで考えていてよく頭痛くならないなあと私自身が心配してしまいます(話の構成考えているとすぐ頭痛くなる私だから)。
>
>降魔戦争編、ほぼ謎の解明編、という内容でしたね。
この話を書き始めた最初の動機は「なぜ魔族は準備万端とはいえない状況でカタートを攻撃したのか」という疑問があったからで、その理由が「追い詰められていたから」じゃないかと考えた時、この話の原案が浮かんで来ました。
完成した現在では、それだけとは言えない内容になったみたいですが、元は純粋に降魔戦争の謎解明編といった感じでした。
>凄いといいますか……。本当に、とても細かく丁寧にプロットを作ったのですね。
四六時中悩み続けたため、お陰でもう二度と書きたくない話になっていましました(笑)。また自分の実力のなさを痛感させられた一作でもあります。
>また推理小説の手法が、すっかりものになっていますね。
>懲りすぎてマイナスになってしまう方もおられるのですが、(私はあまり
>上手く出せない方ですし)ハイドラントさんの場合は、とてもプラスになって、
>作品に反映されていると感じました。
「翼ある闇」で虜にされて以来、推理小説を書きたいと切望し続けた結果かも知れません。
でもエモーションさんの作品の方がよく出ているんじゃないかと思いますよ。特に「使えない呪文」では、うまく伏線が張られていたり、わけの分からないことが、読み進めることによって解き明かされていくという感じになってたりして、本当に凄いと今でも思っています。
>
>降魔戦争編、あとはエピローグになるのでしょうか。楽しみにしています。
>それでは、今日はこの辺で失礼いたします。
本当に良いご感想どうもありがとうございます。
それでは、これで……
>

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15350四章あとがき:必要ないかも知れないがオロシ・ハイドラント URL2003/10/23 20:59:40
記事番号15285へのコメント

 正直言ってほぼ完結であるため、ここにあとがきを入れる必要はないのかも知れませんが、それでも形式として入れておきます。
 エピローグは結構長いですが、別にややこしくもない部分がほとんどなので、すぐに投稿することが出来るかと思います。多分……明日には。
 TRYの小説版も着々と進行していっています。原稿用紙百枚を越えて、ようやく火竜王の神殿に辿り着くといった始末ですが、最後までがんばってゆきたいです。
 それでは、これで……

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15353一つの未来についての話オロシ・ハイドラント URL2003/10/24 19:42:22
記事番号15282へのコメント

◇◆☆◇◆◇◆☆◇◆◇◆☆◇◆◇◆☆◇◆


 一つの未来についての話

 
 未来を特定出来ないのは、未来が不確定だからではない。
 過去が不確定であるからだ。
 未来は一つしかないが、過去は無限にある。
 とある三流の歴史家は言った。


◇◆☆◇◆◇◆☆◇◆◇◆☆◇◆◇◆☆◇◆

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15354五日目オロシ・ハイドラント URL2003/10/24 19:43:14
記事番号15353へのコメント

◇◆☆◇◆◇◆☆◇◆◇◆☆◇◆◇◆☆◇◆


 ――五日目――


 一体何だ!?
 なぜこんなものが書かれる?
 いい加減にして欲しい。これでは疲れが取れてくれんではないか。
 私はこんな駄小説を書きたいのではない。
 空論などと言ったものを述べようとは思わない。
 なのになぜそんなものが書かれる?
 それに私は断じて書いていない。
 私は書いていないぞ!
 一体、どうなったのだ私は……。
 ああ、ふざけるな。
 いい加減にしろ!
 私は一体どうなってしまったのだ!
 頼むから眠らせてくれ!


(中断)


◇◆☆◇◆◇◆☆◇◆◇◆☆◇◆◇◆☆◇◆

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15355カオティック・サーガ――神魔英雄伝説:終章――オロシ・ハイドラント URL2003/10/24 19:55:18
記事番号15353へのコメント

◇◆☆◇◆◇◆☆◇◆◇◆☆◇◆◇◆☆◇◆


 ――神魔英雄伝説:終章――


 優位に立っているのは、書いた人間(もの)ではない、書かれた書物(もの)だったのです。
 引用:古川日出男「アラビアの夜の種族」


◇◆☆◇◆◇◆☆◇◆◇◆☆◇◆◇◆☆◇◆

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1535645:エピローグ地獄編〜ルビーの門の会戦・完結編〜オロシ・ハイドラント URL2003/10/24 19:56:49
記事番号15355へのコメント

◇◆☆◇◆◇◆☆◇◆◇◆☆◇◆◇◆☆◇◆


 ――45:エピローグ地獄編〜ルビーの門の会戦・完結編〜――


 地上時間七月二十一日が訪れようとしている頃。
 戦況は膠着状態と言えた。
 四つに分かれた神族の部隊はそれぞれの敵を確実に討とうと考えたが、魔族軍が多少の兵力差などものともせず、粘り強く戦い続けてためだ。
 神族軍の焦燥感が増す。いつ五人の王が帰って来るやも知れぬ。
 さらに長期戦により、大幅な士気の低下が見られた。精神面においては、魔族軍が優位であった。
 ティディアスの怒りはどんどん増幅していく。恥知らずの卑怯者。そのような輩にさえ勝てぬのか。
 怒気が膨れ上げる。地獄の焔の勢いはあまりにも激しすぎる。
 理性が燃えてゆく。冷静な判断などすでに出来るはずがない。怒りによる思考の支配が始まった。
 やがてティディアスは一つの行動を起こした。まさしく戦場でその行動を取ることこそがティディアスが蛮勇と呼ばれるゆえんである。
 ラルタークが何かを叫ぶ。力の波動を感じて、危機を察知して。
 魔族軍は皆身構えた。魔力の障壁を築く。素早い反応だ。
 その一瞬後……戦場に焔の雨が降り注いだ。
 神魔両軍を覆い尽くす恐ろしい豪雨。
 世界が赤く染まった。
 終末の色……黄昏。
 爆音。
 悲鳴。絶叫。
 もはや、敵味方の戦いなどではない。
 無差別殺戮。
 それこそがティディアスの怒りの一撃。
 正気の沙汰ではない。
 戦っている神と魔族の……三分の一以上が滅び去った。特にティディアスに対しては無警戒だった神族軍の被害は大きい。
 全く凄まじい威力だ。
 これほど広範囲に渡るもので、これほどの威力を持つ攻撃を繰り出せる神族など、四竜王を置いてはティディアス程度しかおらぬであろう。
 確かに、個人の実力としては恐るべきものだ。だが将としては最低最悪の存在だろう。


 この戦いは、五人の王が帰還する七月二十三日午前よりも早く終結した。
 結局、戦いはティディアスとリフラフ、そして生き残った神族が一斉退却したことによって幕を閉じた。
 魔族はラルタークの指示によって上手く防御結界を張った魔族軍もかなりの犠牲者を出したが、それでも総大将のラーシャートは帰還した冥王フィブリゾによって表彰された。
 ラルタークは、全軍にティディアスが暴走する可能性をあらかじめ伝えておき、その事態に備えさせていたのだ。
 無論、それによって少なからず犠牲が出ることも承知であり、最初から必要最低限の戦力でこの戦いに挑んでいたのだ。


 魔王シャブラニグドゥは水竜王の討伐に成功した。
 シャブラニグドゥもまた行動不能状態に陥ってしまったのだが、魔族間に安息が訪れたのは確かだ。
 高位魔族達には長期休暇が与えられた。
 平和な時が返って来る。

◇◆☆◇◆◇◆☆◇◆◇◆☆◇◆◇◆☆◇◆

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1535746:エピローグ煉獄編〜平和の鐘鳴らず〜オロシ・ハイドラント URL2003/10/24 19:59:03
記事番号15355へのコメント

◇◆☆◇◆◇◆☆◇◆◇◆☆◇◆◇◆☆◇◆


 ――46:エピローグ煉獄編〜平和の鐘鳴らず〜――


 魔王シャブラニグドゥと水竜王との激戦は、終わりを告げた。
 水竜王の滅びを代償にして、世界は平和を手に入れた。
 しかしその平和も偽りなるものであることを、人々はすぐに知ることとなる。
 発端は、寺院のノーム僧達が大量虐殺されたことであった。
 犯人はドワーフ達だと判明した。集団で寺院を強襲したのだという。
 しかしドワーフ側にも主張があった。水竜王という神を失ったノーム僧達は、邪教の徒に成り下がりつつあるのだという。
 ノーム側はその主張を聞いて激しく怒った。何という侮辱だろうか。
 結果として、これは大きな戦争へと発展した。
 ノームはホビットを味方につけ、ドワーフはエルフを味方につけ、互いの領地を侵略し合った。
 これはドワーフ・ノーム戦争と呼ばれた。
 この戦争には、エルフが開発した恐るべき兵器「魔獣王ルーンガスト」が用いられた。圧倒的戦闘能力を持つ「魔獣王ルーンガスト」の活躍により、ノーム、ホビットの両種は、激闘の末にこの世から消え去った。
 地上から二つの種族が消え去ったのだ。
 争いはこれだけではなかった。
 今度はドワーフとエルフの間で諍いが起こる。
 ドワーフノーム戦争で、エルフはドワーフを盾にしたと、ドワーフ達が言い出したのだ。
 今度はドワーフ・エルフ戦争が勃発する。
 結果はエルフの勝利。「魔獣王ルーンガスト」の影響が大きかったのだ。
 ドワーフは絶滅を免れたものの犠牲は大きく、種族自体が壊滅状態に追い込まれた。
 この二つの戦争は、歴史の闇に封印された。本来争ってはならぬはずの種族が争い合ったことは、彼らだけではなく命あるものすべてにとって、非常に不名誉なことであるからだ。
 人、エルフ、竜族のどの種族の歴史書にも、このことは書かれていない。
 結果として、ノームとホビットはその存在すらも抹消されてしまった。
 歴史とはやはり恐ろしい。


 また竜族側でも些細なことながら、歴史は作り変えられた。
 民を導く者は、民より優れていなければならぬ。
 ミルガズィアは、降魔戦争時の英雄と見なされた。
 カタートの竜族のほぼすべてが戦で死に絶え、ミルガズィアより幼い竜しか生き残ってはいなかったため、それが彼らの真実となった。一部には実体を知る者もいたが、かといってそれを公表することもなかった。
 その他にも多数の虚言をミルガズィアは吐いた。虚像によって、自らを大きく見せようとしたのだ。
 真実を知る者には、「嘘吐きミルさん」「ホラ吹き長老」「虚言王ミルガズィア」などと密かに言われたが、それはけして罵声ではなかった。
 あからさまに嘘と分かる嘘も吐いた。冗談と呼ぶのが適当だろうか。いつしかミルガズィアは冗談を繰り返す存在となっていった。
 それでも竜族達は、ミルガズィアの武勇譚を信じている。ミルガズィア――の虚構――の背中を追って強く育った竜達は、ミルガズィアに羨望の眼差しを向け続けている。


◇◆☆◇◆◇◆☆◇◆◇◆☆◇◆◇◆☆◇◆
 

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1535847:エピローグ天国編〜選ばれなかった男〜オロシ・ハイドラント URL2003/10/24 20:00:00
記事番号15355へのコメント

◇◆☆◇◆◇◆☆◇◆◇◆☆◇◆◇◆☆◇◆


 ――47:エピローグ天国編〜選ばれなかった男〜――


 魔族の本拠地を攻め、返り討ちにあってしまったティディアスとリフラフは厳罰を受けた。
 その行為を許した火竜王もまた責任を追及された。
 滅したアドリアンも存在自体を貶められ、自体を黙認していた者と、責務に忙殺されていた者が立場を良くした。
 おかしいとティディアスは思う。だが、それも自分勝手な理論に過ぎない。


 ……神族は腐っている。
 リフラフは思った。
 滅びてからのアドリアンの評価はガタ落ちだ。
 正したい。
 世界を作り変えたい。
 しかし、自分の力量では無理だ。
 ならば、どうすれば良い?
 どうすれば力が手に入る?
 だが答えは見つからない。
 世界を正すことなど、簡単に出来るはずがないのだ。
 ゆえに祈った。誰かが正してくれることを……。
 

 運命とは実に偶然的に見えるものだ。必然によって描かれたものであるにも関わらず。
 リフラフの願いを叶えようとする計画は、どこかで少しずつ進んでいた。
 ……世界を滅ぼす恐るべき計画が。
 しかしリフラフはそれを知らない。無論、参加することは出来ない。
 リフラフは選ばれなかったのだ。


◇◆☆◇◆◇◆☆◇◆◇◆☆◇◆◇◆☆◇◆

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1535948:エピローグ奈落編〜四つの棺〜オロシ・ハイドラント URL2003/10/24 20:01:17
記事番号15355へのコメント

◇◆☆◇◆◇◆☆◇◆◇◆☆◇◆◇◆☆◇◆


 ――48:エピローグ奈落編〜四つの棺〜――


 瑞々しさを残した若草が風に揺れる。
 少年は大草原の一角に座り込み、美しき朝日を見上げていた。
 光が満ちて来る。
 世界の再誕生。
 奇跡。神秘。
 鼓動が鮮明となる。
 この美しい情景に、悲しい光景が投影される。
 涙が生まれる。次々と溢れ出て来る。
 急速になる鼓動。
 繰り返し。繰り返し。
「……アム……ノーチェ」
 もう二人はいない。
 少年――冥王フィブリゾの二人の娘は。
 彼の打ち立てた無謀な計画によって、滅び去った。
 もしも二人が蘇ったならば、彼に何と言うだろうか。
 悲しい。
 思い起こせば、思い起こすほど悲しく辛い。
 なぜ自分が生き残ったのだ。
 神族の匿い、さら罪悪感から逃れようと、匿っていた神族を滅ぼした極悪人の自分が。
「全く。……世の中って、おかしい……よ」
 泣きながら笑った。


「冥王様」
 突如、声が響いた。
 いつの間にやら、背後に気配。
 歩み寄って来る。
 そして、彼の脇に座った。
 しばらく無言。
 フィブリゾは必死で涙を抑えようとした。
「良いんですよ」
 優しい声が掛かる。
「泣きたい時は、泣いてください」
 温かい。
 こんな罪深い自分に優しくしてくれるなんて……。
「私、消えた方が良いですか?」
 フィブリゾは、大仰に首を振った。
 シェーラは、微笑んだ。
 兄弟の中では孤独な彼女。
 そして、フィブリゾも同じく孤独だ。
 ……孤独の質は天地ほどにも違うが。
「…………」
 会話が続かないのか。
 しかし、ここにいてくれるだけで充分だ。
 何なのだろうか。
 ……許されている気がする。
「冥王様」
 また呼ばれた。
 冥王などという大層な名前は、やはり自分には似合わない。
「さっきは泣いてくださいと言いましたけど、やっぱりアマネセルさんも……ノーチェさんも、涙なんか欲しくないはずですよ」
 だが、涙はそう簡単に止まるものではないのだ。
「それに……冥王様には涙は似合いません」
 似合わない?
 随分勝手な。
 だが、確かにそうかも知れない。
 風が吹いた。
 孕まれた冷気が浸透して来る。
「僕は……正しかったんだろうか」
 フィブリゾは言った。涙声だ。
「……正しい?」
「あんな作戦を立てたけど……部下を……娘達を……亡くしてしまった」
 涙は奔流する。止められはしない。
 シェーラは無言。
「作戦には……犠牲はつきもの……だけど彼女達を……失って……僕は……」
 言葉を絞り出す。傍目には惨めな姿が映っていることだろう。
 シェーラは答えない。
「失って……気付いた……僕は……彼女達を……」
 言葉は紡がれ続ける。
「……彼女達を愛していた。愛していたんだ!」
「…………」
 シェーラは何かを囁いた。フィブリゾには届かなかった。
「……今も……浮かぶんだ……彼女達の……優しい笑顔……一生消えない……傷と同じさ……失った……愛は……刃ものみたいで……僕を傷つける……罰せられぬ罪……僕は……辛い」
 涙は勢いを増していた。
 それを見てシェーラは気付いた。
 高位魔族といえども、彼の心は少年のようで脆く、弱い。
 闇を背負い、闇に飲まれ掛けて苦しむ少年。なぜ彼が冥王という地位にあるのだろうか?
「大丈夫……ですよ」
 シェーラはそう言って、彼を抱き寄せた。
 冥王は彼女のなすがままに引き寄せられた。
「私がいます」
 熱を分け合う。とても温かい。
「ねえ、フィブリゾ様」
 シェーラは彼の名を呼んだ。
「……何?」
「ちょっと、寒くないですか?」
 その言葉を受けて、フィブリゾは微笑した。
 いきなり話が移り変わったのは、少々おかしく思えたのだ。
「……ちょうど、良いよ」
 涙が引いた。
「そうですか」
「シェーラ」
 フィブリゾは言った。
「……ありがとう」
フィブリゾは空を見上げた。
 太陽は高い位置にあった。
 これから一日が始まる。
「……もう少し、ご一緒させてください」


 シェーラは気付かなかった。フィブリゾの中で、彼自身も知らぬ内に狂気の苗が養われていることを。


<@><@><@><@><@><@><@><@><@><@>


 透明な硝子は美しい。
 だがそれは脆い。
 そして砕けた時、棘を持つ。
 海王ダルフィンは今、まさしくそんな状態にあるとウォッカは思った。そして自分も。
 静粛な葬儀。この死者への想いを廃絶させた魔族社会でも、この時ばかりは喪に服すことを許してくれるだろう。
 セフィードを失った。スィヤーフは帰って来ない。
 最愛の二人の息子を失ったのだ。それだけではない、ウォッカの兄であるジンもまた、憎き蛮勇ティディアスの愚行の犠牲となってしまった。
 彼女は硝子の人形と化していた。
 彼女の脇では、ウォッカが静かに涙を流している。さらに海王将軍、海王神官両親衛隊の面々も。
 そして彼もまた、悲しみと自責の念に囚われている。
 戦争とは悲しいものだということは承知していた。だが本当の悲しさについては、どうやら今の今まで知らなかったようだ。
 

<@><@><@><@><@><@><@><@><@><@>


 これ以降、神族と魔族は直接戦うことはなく、睨み合いだけが続いた。
 だがフィブリゾもグラウシェラーもゼラスも、争いを終える意志はない。
 神と魔の戦いは、どちらか一方が完全に滅び去るまで続くことであろう。


◇◆☆◇◆◇◆☆◇◆◇◆☆◇◆◇◆☆◇◆

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1536049:エピローグ暗黒編〜影達の序章〜オロシ・ハイドラント URL2003/10/24 20:03:31
記事番号15355へのコメント

◇◆☆◇◆◇◆☆◇◆◇◆☆◇◆◇◆☆◇◆


 ――49:エピローグ暗黒編〜影達の序章〜――


 血。
 赤い。
 真紅。
 噴き出している。
 嘘だ。
 信じられない。
 血が噴き出している。
 止まらない。
「どういう……ことだ」


「ふふっ、今まで見捨てないでくれてありがとう」


 少女が笑った。彼女の手には不思議な光の球が乗せられていた。勝利の証――水竜王の中核。彼女は大いなる神の魂を手中に収めているのだ。
 少女が笑った。彼女に恐ろしいものなどあるのだろうか。無邪気な無垢なゆえに滲み出る恐ろしさ。彼女は何者なのだろうか。
「ごめんなさい。もう飽きちゃった」
 飽きた……だと。
「お疲れ様。裏切らなかったことに感謝するね」
 今までも、恐ろしいとは思っていた。
 だが、これほどまでとは……。
 笑顔はあまりにも恐ろし過ぎる。
 ヴェノムという存在が消えてゆく。
 終わる。
 滅ぶ。
「嘘……だ」


 まさしく嘘のようにヴェノムは滅んだ。


「さあ、もうヴェノムさんはいないよ。銀髪の人と黒髪の人……どっちでも良いからヴェノムさんの後任になってよ。あなた達の方がずっと役に立つんだから」
 ラレニェは、ノーストとスィヤーフに向けてそう言った。
 答えは無言。
「賭けのことは気にしなくて良いよ。あれは馬鹿なヴェノムさんが勝手にやっただけだから」
 故人を愚弄するのは残酷なことだ。
 しかしノーストはそれが堪らなく……心地良い。
「はははははははははっ」
 狂気が彼を魅了した。
「私、どこまでもあなたに着いてゆきましょう。たとえこの身が滅びようとも」
 ノーストは笑い出した。狂える笑いが空間中にこだまする。
 ラレニェが、彼の心の奥底に眠る狂気を現出させたのだ。
 ノーストはラレニェの前に傅く。
 ラレニェが笑った。
 その時、
「ぐっ!」
 ノーストが……血を吹いた。
 激痛。
 倒れ込む。
 傷は深くない。
 だが、動けない。
「これは……どういう?」
 ラレニェは笑顔のままで、
「え〜。私は何もしてないよ。
 やったのは……後」
 指差した先。
 ノーストには見えぬが、そこにはスィヤーフがいるはずだ。
「すまんな。ノースト」
 前に出たスィヤーフが、ラレニェに傅く。ノーストがしたように。
「……く、貴様……」
 ノーストは、スィヤーフに向けて魔力を放った。
 しかし、スィヤーフはそれをあっさりとかわし、魔力はラレニェに触れて、消滅させられた。
「黒い人の勝ちね。一緒に世界を終わらせましょう。後、千年と少しだから。銀髪の人は敗者だけど、まあ命は取らないから……おとなしく帰ってね」


 ノーストは負けた。
 強大な相手であるヴェノムや、ラレニェではなく……ずっと見下していたスィヤーフに。


 滅びなど恐くない。
 世界の不条理を正せるならば。
 スィヤーフはラレニェの力を受け入れた。
 当然、ラレニェには見えていた未来だ。


◇◆☆◇◆◇◆☆◇◆◇◆☆◇◆◇◆☆◇◆

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15361終章あとがき:後もう少しで終わりかなオロシ・ハイドラント URL2003/10/24 20:15:05
記事番号15355へのコメント

 こんばんは。
 エピローグ五連発でした。
 私の書くものの中では、最大級の長さを持つエピローグだったんじゃないかと思います。
 まだカオティック・サーガ自体が完結したわけではありませんが、降魔戦争についての話は、ここで終わりです。
 それでは、短いですがこれで。

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15362ま〜わる〜、ま〜わる〜よ、時代は、まわる〜♪エモーション E-mail 2003/10/24 21:45:19
記事番号15361へのコメント

♪喜び、悲しみ、くりかえ〜し♪
……思わず中島みゆきの「時代」っと。

こんばんは。
「カオティック・サーガ:降魔戦争編」終了、お疲れさまでした。

それぞれの後日談、ですね。
何と言いますか……ティディアスさんの「敵も味方もぺぺのぺい」な攻撃には
驚きました……(^_^;)
気分は竜破斬(ドラグ・スレイブ)、もしくはトールハンマー……。
ラルタークさんも、予想はしていても相手をするのは嫌だったでしょうね……。
出来るだけ兵力を少なくして、準備していたと言っても、確実に犠牲がでるのは
前提ですから。

そしてドワーフ……。この種族に一体何が起きたのでしょうか。
理屈も妙ですが、何だかとても唐突な感じで……。
ラレニェさんの〃書き換え〃が、影響したものなのでしょうか。
それにしてもここで「ルーンガスト」がでてくると思いませんでした(笑)
またミルガズィアさんにつけられた「ほら吹き長老」がツボです。
ミルガズィアさんが、当時を知らない竜たちに語った〃武勇伝〃。
「嘘ではないが事実でもない」という感じなのかな、と思いました。
ミルガズィアさんがそんな風に語った理由、そして事実を知っている一部が、
それは違うと訂正しなかった理由は、小さな竜たちに自分たちの種族に対する失望と、
劣等感だけを与えたくなかったからかな、と。

大切な者たちを亡くした魔族達……。それぞれの形で悲しんでいるのですね。
シェーラちゃんがやっぱり健気。そしてフィブリゾ様は……やっぱり繊細ですね。
ここから何かが狂いはじめたのでしょうか。

そして……ラレニェさん……。怖いですね……(汗)
何だかヴェノムさんが酷く哀れです。彼女にとって、ヴェノムさんの「滅びの計画」は、
面白いけれど、ヴェノムさん主動で行われるのはつまらなくなった、と
いうところでしょうか。
古くなった部品を取り替える。その時だけの極端な流行だから、過ぎてしまえば、
みっともないだけ。だからゴミ捨て場行き。という感覚と同じなんですね。
最後の最後でスィヤーフさんにしてやれたノーストさん。
彼は覇王軍に戻って、またラレニェさんの〃書き換え〃に絡んで動き出すのでしょうか。
……素直に動くとも思えませんが(汗)

毎回どうなるのかと思いつつ読み、細かく仕掛けられていた一連の出来事に、
感嘆しました。
これは……本当に書く方がかなり疲れますね。かなり頭使いますし、勝手に
動きかねないキャラの行動を押さえつつ、かといって押さえつけすぎると、
キャラと話の流れを損ねかねないので、バランスにも気を遣いますし。
本当にお疲れさまでした。

終了した降魔戦争編。でも、次への仕掛けは始まっているんですね。
それでは、シリーズ次回作を、楽しみにお待ちしています。
では、今日はこの辺で失礼いたします。

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15374Re:ま〜わる〜、ま〜わる〜よ、時代は、まわる〜♪オロシ・ハイドラント URL2003/10/25 20:23:32
記事番号15362へのコメント

>♪喜び、悲しみ、くりかえ〜し♪
>……思わず中島みゆきの「時代」っと。
>
>こんばんは。
こんばんは。
>「カオティック・サーガ:降魔戦争編」終了、お疲れさまでした。
どうもです。予想以上に長引きましたが、ようやくここまで辿り着けました。
>
>それぞれの後日談、ですね。
>何と言いますか……ティディアスさんの「敵も味方もぺぺのぺい」な攻撃には
>驚きました……(^_^;)
やっぱり最後はコレしかないって思いました(待て)。
>気分は竜破斬(ドラグ・スレイブ)、もしくはトールハンマー……。
そういえば一回、トールハンマーが味方巻き添えで発射されたこともありましたね。「黄金の翼」でしたかな。
>ラルタークさんも、予想はしていても相手をするのは嫌だったでしょうね……。
>出来るだけ兵力を少なくして、準備していたと言っても、確実に犠牲がでるのは
>前提ですから。
でも戦わないわけにはいきませんしね。
状況は全く違いますけど、何かヴェスターラントの惨劇(銀英伝二巻)を連想してしまいます。
>
>そしてドワーフ……。この種族に一体何が起きたのでしょうか。
>理屈も妙ですが、何だかとても唐突な感じで……。
どうなんでしょう。やはり水竜王の死で何かが変わったんでしょうかねえ。
>ラレニェさんの〃書き換え〃が、影響したものなのでしょうか。
まあ確かに水竜王さえ滅びなければ、こうはならなかったと思いますし。
>それにしてもここで「ルーンガスト」がでてくると思いませんでした(笑)
この場面を書いてる途中、急に浮かんで来たので使ってみました。
>またミルガズィアさんにつけられた「ほら吹き長老」がツボです。
突発的に考えたものなのですが、何とツボでしたか。
こんな声が後に「愉快なミルさん」に変わるのでしょうね。
>ミルガズィアさんが、当時を知らない竜たちに語った〃武勇伝〃。
>「嘘ではないが事実でもない」という感じなのかな、と思いました。
>ミルガズィアさんがそんな風に語った理由、そして事実を知っている一部が、
>それは違うと訂正しなかった理由は、小さな竜たちに自分たちの種族に対する失望と、
>劣等感だけを与えたくなかったからかな、と。
皆、人間(?)が出来てるんでしょうね。
恐らくミルさん一人じゃ、今日(原作の辺りまで)うまくやってけなかったでしょう。

>
>大切な者たちを亡くした魔族達……。それぞれの形で悲しんでいるのですね。
>シェーラちゃんがやっぱり健気。そしてフィブリゾ様は……やっぱり繊細ですね。
>ここから何かが狂いはじめたのでしょうか。
この体験があってこそ、原作七、八巻の時のような性格のフィブリゾ様が誕生した(?)。
>
>そして……ラレニェさん……。怖いですね……(汗)
やっぱりボス級の的には恐さが必要かと(そういう恐さと違う気もしますけど)。
>何だかヴェノムさんが酷く哀れです。彼女にとって、ヴェノムさんの「滅びの計画」は、
>面白いけれど、ヴェノムさん主動で行われるのはつまらなくなった、と
>いうところでしょうか。
>古くなった部品を取り替える。その時だけの極端な流行だから、過ぎてしまえば、
>みっともないだけ。だからゴミ捨て場行き。という感覚と同じなんですね。
まさかこんなことになるとは思わなかったでしょうね。
もしや一番哀れな犠牲者かも。
>最後の最後でスィヤーフさんにしてやれたノーストさん。
>彼は覇王軍に戻って、またラレニェさんの〃書き換え〃に絡んで動き出すのでしょうか。
>……素直に動くとも思えませんが(汗)
このシーンは是非とも書きたかったところだったりします。
最後の最後で勝者(?)となったスィヤーフは、物語全体としての主人公の一人と言えるかも知れません。
ノースト君はどうなんでしょう? 私が彼なら部屋に引き篭もって、怒り狂ってると思いますけど。
>毎回どうなるのかと思いつつ読み、細かく仕掛けられていた一連の出来事に、
>感嘆しました。
>これは……本当に書く方がかなり疲れますね。かなり頭使いますし、勝手に
>動きかねないキャラの行動を押さえつつ、かといって押さえつけすぎると、
>キャラと話の流れを損ねかねないので、バランスにも気を遣いますし。
>本当にお疲れさまでした。
どうもありがとうございます。やはり読んでくださる方がいたからこそ、無事に仕上げることが出来たのだと思います。
>
>終了した降魔戦争編。でも、次への仕掛けは始まっているんですね。
>それでは、シリーズ次回作を、楽しみにお待ちしています。
>では、今日はこの辺で失礼いたします。
本当に素晴らしい感想を頂け、感謝極まりない状態です。
どうもありがとうございました。
それでは、これで……

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15375一つの真実と思しき話オロシ・ハイドラント URL2003/10/25 20:28:54
記事番号15282へのコメント

◇◆☆◇◆◇◆☆◇◆◇◆☆◇◆◇◆☆◇◆


 一つの真実と思しき話


 世界は無数に存在する。
 それは主に、横の関係ではなく縦の関係で。
 現実の世界の中に、虚構の世界があり、その現実の世界の外に真の現実の世界がある。
 世界は無限数だ。
 しかしそれを知ってはいけないのだ。
 物語を書くことに取り憑かれた男がそう言ったと、私は記憶している。


◇◆☆◇◆◇◆☆◇◆◇◆☆◇◆◇◆☆◇◆

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15376六日目オロシ・ハイドラント URL2003/10/25 20:29:59
記事番号15375へのコメント

◇◆☆◇◆◇◆☆◇◆◇◆☆◇◆◇◆☆◇◆


 ――六日目――


 中止。


◇◆☆◇◆◇◆☆◇◆◇◆☆◇◆◇◆☆◇◆

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15377カオティック・サーガ――神魔英雄伝説:無限章――オロシ・ハイドラント URL2003/10/25 20:46:57
記事番号15375へのコメント

◇◆☆◇◆◇◆☆◇◆◇◆☆◇◆◇◆☆◇◆


 ――神魔英雄伝説:無限章――


 …………。


◇◆☆◇◆◇◆☆◇◆◇◆☆◇◆◇◆☆◇◆

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1537850:神オロシ・ハイドラント URL2003/10/25 20:48:41
記事番号15377へのコメント

◇◆☆◇◆◇◆☆◇◆◇◆☆◇◆◇◆☆◇◆


 ――50:神――


 「神」は秩序と不変を望む。
 「神」はすべての力を使い終えた。
 「神」はただ在り、すべてを見る。
 「神」は終わりを見るためだけに存在する。
 「神」はすべてであり、すべては「神」の欠片である。
 そして「神」はその場所にいる。


 無限に広がる混沌。
 光と闇が捻れ、虚無にして万物を有す。
 それこそが混沌の海。しかし、いかに混沌と名付けられようとも、そこには確かな秩序がある。
 混沌の海の、無限なる空間に刻まれし巨大なる紋章。けして見ることの叶わぬ図形。
 それが秩序である。
 秩序、すなわち羅神盤。
 森羅万象を知り、唯一無二の過去と未来を記すもの。
 「神」の叡智を綴った円盤。
 それは線がいくつも絡み合い、蜘蛛の巣に似た形状をしているが、中心に大きな穴が開いており、そこで線が途切れている。
 この図形に今、変化が起こった。
 急に蜘蛛の巣の一角が変形したのだ。そして目まぐるしい速度で、中央部に向けて変化の波は走ってゆく。
 羅神盤は中央へ向かうほど未来となっているのだ。
 変化は過去から未来へと続いてゆく。
 それは何度も起こった。
 だが羅神盤の管理者がその異変に気付くことはなかった。
 その異変は管理者の長い居眠りの内に発生し、目覚めた頃には息を潜めていたのだ。
 時は、赤の大地での降魔戦争が起こった頃である。この時はまだ、全知全能であるはずの管理者、ロード・オブ・ナイトメアと名付けられた「神」でさえ、その危機を知らずにいた。自身の能力を過信するがゆえに……。


 ―神魔英雄伝説 完―


◇◆☆◇◆◇◆☆◇◆◇◆☆◇◆◇◆☆◇◆

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15380七日目オロシ・ハイドラント URL2003/10/25 20:51:15
記事番号15375へのコメント

◇◆☆◇◆◇◆☆◇◆◇◆☆◇◆◇◆☆◇◆


 ――七日目――


 眠ることの出来ない毎日が続く。
 私は一体どうなってしまったのだろうか。
 

 
 ―ブラドック・ガブリエラの降魔戦争解説 完―


◇◆☆◇◆◇◆☆◇◆◇◆☆◇◆◇◆☆◇◆

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15381著者あとがきオロシ・ハイドラント URL2003/10/25 20:57:01
記事番号15282へのコメント

◇◆☆◇◆◇◆☆◇◆◇◆☆◇◆◇◆☆◇◆


 ――著者あとがき――


 この小説は、雑誌記事として掲載する予定だったブラドック・ガブリエラ氏への降魔戦争についてのインタビューの途中に、偶然産み落とされた作品である。
 ガブリエラ氏は多忙であるため、一日にインタビューに割ける時間は僅かであり、疲れも溜まっているらしく、数日に分けて少しずつインタビューをすることになったのだが、その数日間の夜の間に、ガブリエラ氏によってこの小説が書かれた。氏が望んでいないにも関わらず。
 なぜ書かれたのかについては、私にも全く見当がつかない。
 著者は私の名前になっているが、この作品は紛れもなくガブリエラ氏の作品だ。
 私もこの作品の一読者に過ぎない。


 ローゼン・ハイランド


◇◆☆◇◆◇◆☆◇◆◇◆☆◇◆◇◆☆◇◆

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15382訳者あとがきオロシ・ハイドラント URL2003/10/25 20:59:31
記事番号15282へのコメント

◇◆☆◇◆◇◆☆◇◆◇◆☆◇◆◇◆☆◇◆


 ――訳者あとがき――


 この作品は、異世界にあるセイルーンという国にお住まいの作家ローゼン・ハイランド氏の作品の一つです。
 私はとある事情でそちらの世界へゆくこととなってしまい、そこで偶然にも氏に出会ったのがこの作品が翻訳されるようになった原因です。
 異世界語の勉学には大変苦労しましたが、不思議なことに私達の世界と異世界とでは時間の流れがまるで違い、異世界での十年の年日が私達の世界ではたった一夜のことでありました。
 翻訳を手掛けるのはこれが初めてになりますので、出来は保証しかねますが、それでも楽しんで頂けると嬉しいです。
 ところでこの作品は、「他人の書いた小説を掲載したという体裁の小説」という奇妙な構造になっており、それについて氏はこう語っています。


 私は私の書いた物語の中の神です。
 では、あなたの世界の神は誰でしょう?
 それも……あなたの物語の作者です。
 あなたの物語を書いた作者が、神なのです。
 すべての世界は誰かによって書かれた物語なのです。
 私の物語を書いている作者だっています。
 当然、私はその人を知りません。
 ですが確実に存在しています。
 間違いありません。
 作者がいます。
 そしてその作者もまた、別の作者によって書かれた物語の登場人物なのです。
 

 つまり作中の小説はブラドック・ガブリエラという登場人物によって創造された世界であり、そのブラドック・ガブリエラの世界を創造した者こそが氏であるということです。そして自分も誰かに創造された存在だと。


 氏の作品の売れゆきはあまり芳しくないようですが、それでも氏は小説を書くのは止めたくないと言っておりました。
 氏にはもう二度と会えないと思いますが、氏が今も執筆に取り組んでいるだろうということは容易く想像がつきます。
 命続く限りがんばってもらいたいです。

 さて、私のような邪魔者はそろそろ消えることに致しましょう。


 オロシ・ハイドラント


◇◆☆◇◆◇◆☆◇◆◇◆☆◇◆◇◆☆◇◆

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15384再序章オロシ・ハイドラント URL2003/10/25 21:14:35
記事番号15282へのコメント
◇◆☆◇◆◇◆☆◇◆◇◆☆◇◆◇◆☆◇◆


 ――再序章――

 
 新作「神魔英雄伝説」が発売されて半年が経つが、売れゆきはさっぱりである。やはり親の金と力を使ってまでして作家になったのは間違っていたのだろうか。
 転職を真剣に考え始めていた頃、私ローゼン・ハイランド宛てに差出人不明の郵便物が届いた。
 中身は原稿用紙の束であった。


 *


 この作品を最後まで読んでもらいたいと願うのは、あまりに傲慢なことなのかも知れないが、作者はそう願っている。

 *


 原稿用紙の始めの一枚には、そんな文章が綴られていた。


◇◆☆◇◆◇◆☆◇◆◇◆☆◇◆◇◆☆◇◆

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15416ノリは「発行・出版:稀譚社」ですねエモーション E-mail 2003/10/26 22:30:54
記事番号15384へのコメント

……民明書房でも良いかも。イラストは宮下あきら氏で(笑)

こんばんは。
後書き、と次の序章ですね。
訳者後書きなどは、「迷路館の殺人」の「小説の中に小説」という形を思わせました。
こう言うのも、面白くて好きです。

また、「翻訳者あとがき」を読んでいて、ふと谷山浩子さんの「そっくりハウス」
と言う歌を思い出しました。
「ふと目覚めると、月明かりのなか、自分の部屋に、自分の住む家そっくりの
おもちゃの家がある。
窓から中を覗いてみると、一階の部屋では小さな自分の両親が、新聞を読んだり
台所仕事をしていたりしていた。
2階の自分の部屋の窓を覗くと、小さな自分が部屋の中で、やはり小さなおもちゃの家を
覗いている。その小さな私が見ている家の中でも、同じ状況が繰り広げられている……」
という内容の、合わせ鏡を覗いたような感じの、ある意味SFチックな歌です。
どこまでも無限に続く「作者」という名の「神」に、この歌を聴いたときと、
同じような気分を感じました。

ローゼン・ハイランド氏に送られてきた、謎の原稿……。
そこには何が書かれているのでしょうか。
次作を楽しみにお待ちしています。
それでは、今日はこの辺で失礼いたします。

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15435Re:違う人の本と勘違いしかねない(?)迷路館。オロシ・ハイドラント URL2003/10/27 20:35:55
記事番号15416へのコメント


>……民明書房でも良いかも。イラストは宮下あきら氏で(笑)
>
>こんばんは。
こんばんは。
>後書き、と次の序章ですね。
ええ、最初からこれがやりたかったわけです。
>訳者後書きなどは、「迷路館の殺人」の「小説の中に小説」という形を思わせました。
>こう言うのも、面白くて好きです。
この作品の形式に一番近いのはファンタジー小説の「アラビアの夜の種族」ですが、「迷路館の殺人」も当然意識にはありました。
他には「匣の中の失楽」とか。「コズミック」や「ジョーカー」も一部分はそうですよね。
こういった形式は私も好きです。
>
>また、「翻訳者あとがき」を読んでいて、ふと谷山浩子さんの「そっくりハウス」
>と言う歌を思い出しました。
>「ふと目覚めると、月明かりのなか、自分の部屋に、自分の住む家そっくりの
>おもちゃの家がある。
>窓から中を覗いてみると、一階の部屋では小さな自分の両親が、新聞を読んだり
>台所仕事をしていたりしていた。
>2階の自分の部屋の窓を覗くと、小さな自分が部屋の中で、やはり小さなおもちゃの家を
>覗いている。その小さな私が見ている家の中でも、同じ状況が繰り広げられている……」
>という内容の、合わせ鏡を覗いたような感じの、ある意味SFチックな歌です。
>どこまでも無限に続く「作者」という名の「神」に、この歌を聴いたときと、
>同じような気分を感じました。
そういえば昔、テレビの中でテレビを見ている人がいて、その人が見ているテレビの中にもテレビを見ている人がいる……というようなことを想像したことがありました。
こういうのって、結構普通なんですかねえ。人に聞いたことないから分かりませんけど。
>
>ローゼン・ハイランド氏に送られてきた、謎の原稿……。
>そこには何が書かれているのでしょうか。
>次作を楽しみにお待ちしています。
この中身が、次の長編になりそうです。書き溜めるために、少し遅くなると思いますけど。
>それでは、今日はこの辺で失礼いたします。
ここまで読んでいただけて本当に嬉しいです。
本当に、本当にどうもありがとうございました。


それでは、これで……

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