◆−Night with a midnight sun 1−水晶さな (2003/7/13 22:25:35) No.14651
 ┣はじめまして!−祭 蛍詩 (2003/7/14 21:12:59) No.14658
 ┃┗初めまして、ありがとうございます。−水晶さな (2003/7/14 22:48:59) No.14661
 ┣Night with a midnight sun 2−水晶さな (2003/7/14 22:33:23) No.14660
 ┃┗Re:Night with a midnight sun 2−祭 蛍詩 (2003/7/15 23:40:48) No.14663
 ┃ ┗いえいえ。−水晶さな (2003/7/17 22:37:27) No.14677
 ┣Night with a midnight sun 3−水晶さな (2003/7/17 22:51:02) No.14678
 ┣Night with a midnight sun 4−水晶さな (2003/7/20 00:30:23) No.14688
 ┃┗Re:Night with a midnight sun 4−祭 蛍詩 (2003/7/20 01:30:51) No.14689
 ┃ ┗ありがとうございます−水晶さな (2003/7/20 23:23:52) No.14692
 ┣Night with a midnight sun 5−水晶さな (2003/7/20 23:27:28) No.14693
 ┃┗Re:Night with a midnight sun 5−祭 蛍詩 (2003/7/21 19:03:39) No.14699
 ┃ ┗佳境に入りました。−水晶さな (2003/7/22 21:19:08) No.14706
 ┣Night with a midnight sun 6−水晶さな (2003/7/22 21:26:48) No.14707
 ┗Night with a midnight sun 7−水晶さな (2003/7/22 21:34:34) No.14708
  ┣Re:Night with a midnight sun 7−祭 蛍詩 (2003/7/23 17:04:21) No.14714
  ┃┗ありがとうございます(^^)−水晶さな (2003/7/23 21:53:00) No.14717
  ┗Re:Night with a midnight sun 7−R.オーナーシェフ (2003/8/3 14:12:18) No.14809
   ┗ありがとうございます−水晶さな (2003/8/3 21:20:33) No.14811


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14651Night with a midnight sun 1水晶さな 2003/7/13 22:25:35



 Night with a midnight sun : 白夜 : 夜でも日が沈まない現象の事

 アルカトラズシリーズ第四話。季節が逆方向でスミマセン(泣)。

 ==================================


 それはもう、時代を推測できないほど昔から其処に『在った』。
 岩壁の真中に、何故か汚れ一つ浮き上がらせない白塗りの扉。
 恐らく分厚い山を越える為に掘られた、洞窟のその入り口に、
 誰が建てたのか、
 何の為に建てたのか、
 書物にも伝えられず、
 口碑でも明らかでなく、
 学者達の興味をかきたて、様々な仮説だけが飛び交った。
 古代都市の遺物。
 現地習俗による霊的な線引き、結界。
 はたまた神の所業であるとか呪いとか。
 その扉を隔てた両側には木も水も人も街も存在したが、
 互いに扉の向こうを『彼方(かなた)』と呼んだ。



「山肌にまだ雪が残ってますね」
 防寒マントの前を両手で閉じた娘が呟いた。
「向こう側は雪が積もってるだろうな」
 首だけを回してそれを見た娘とは違い、彼は真正面から山頂を見上げていた。
「・・・向こう側」
 邪魔になったのか、アメリアがファー付きのフードを払いのける。
 少し伸びたつややかな黒髪が肩をすり落ちた。
 それは、山というよりも、岩壁の形状をしていた。
 その頑強な岩をどうやってくり抜いたのか、
 高さ3メートルはあろうかという扉が、開閉の役目を放棄したまま佇んでいる。
「山の向こう・・・『彼方』。宿のおじいさんは壁の向こうはあの世だって言ってました・・・」
「地形による境界線を引かれた場合、目にする事の出来ない彼方は別世界だ」
 参考にしていた古書を閉じ、ゼルガディスが爪先の向きを変える。
「この辺りは日が暮れるのが早い。そろそろ戻るぞアメリア」
 まだ見入っていた娘が、名を呼ばれ名残惜しげに踵(きびす)を返した。



『嘘つき!』
 霞んだ視界で叫んでいたのは黒髪の幼い少女だった。
『どうして! 治るって言ったのにどうして!!』
 宥めようとする大人達を拒絶して、あらん限りの声を振り絞る。
『嘘つき! とーさんの嘘つき!!』
 泣きながら非難の言葉を浴びせる少女の顔が、上を向いて。
 見えた。
 深い海色の瞳。
 自分だった。
「――っ!!」
 寝台の上で上半身を起こした所までは、無意識だった。
 何度も荒い息を繰り返してから、ようやく見ていたものが夢だったと気付く。
 不快感に額をぬぐう。
 寒冷地方の夜だというのに、寝汗をかいていた。
「・・・・・・・・・・・・・・・」
 眠気は目を開いたと同時に何処かへ消え去った。
 時刻は、まだ夜半。
 そのまま何の気なしに寝台から足を下ろし、窓に目を向ける。
 宿の一室。静寂の空間。外は白で埋め尽くされた、世界。
 眠気の冴えてしまった今は、空気の冷たさもそれほど気にならなかった。
 それよりも既に薄れ始めた夢の記憶を、懸命に手繰り寄せる。
「・・・・・・・・・・・・・・・」
 しばし沈思黙考していたアメリアは、諦めたように肩を落とすとコート掛けに手を伸ばした。



 何故今頃あんな夢を見るのか。
 思考を巡らすと、わずかに痛みを覚えた。
 それは脳を酷使した痛みではなく、胸のどこか奥で感じる寂しさを伴う痛みだった。
「アルカトラズに・・・関わってから・・・変な事ばかり」
 声に出して呟く。夜気がしんしんと肌を刺した。
 防寒の分厚いコートに身を包んでも、寒さのもたらす痺れるような感覚はやまない。
 アメリアが足を止めた。
 何も考えずに直進していた為、昼間見た扉の前に着いていた。
 山肌に埋もれるように。
 何かを通す訳でもなく。
 何かを閉ざす訳でもなく。
 ただ、そこに在るだけの。
 扉に手を伸ばそうとして、アメリアは背後の気配に振り返った。
 それは見知ったものではなく、
 どちらかといえば、悪寒だった。
 暗闇の中に浮かぶ、笑みを貼り付けた白い仮面。
 異様なまでに細い手足。腕は四本。それぞれの腕に握る武器。
「・・・・・・マステマ」
 思い出したくない名前を呟いて、アメリアは後ろに一歩下がった。
 距離からいえば、扉に背中が当たる筈だった。
 恐怖の次に、違和感が来た。
 背後にある筈の扉の感触がしなかった。
 振り返って確認する余裕がある筈もなく、
 そのまま更に後退したアメリアを、後方から何かが引っ張った。
「――え!?」
 驚愕の方が勝り、思わず振り返った時、
 彼女は自分の右手が、肘まで扉を突き抜けているのを見た。
 破った訳ではない。感触があった訳でもない。
 驚きに声も出ないまま、『扉』はアメリアを飲み込んだ。

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14658はじめまして!祭 蛍詩 2003/7/14 21:12:59
記事番号14651へのコメント

 こんにちは、はじめましてです! 祭 蛍詩と申します。 著差別の方で読みまくらせていただきました。 水晶 さな様の書かれる、ゼルガディスさんとアメリアちゃんの会話がとってもおもしろくて、ものすごく好きですv ディズニーシリーズもかなり好きでしたvv

 アルカトラズシリーズ、ということは、ブルーフェリオスさんもご登場なさるのですか? ルーさんとゼルさんの口喧嘩(?)がかわいくて、爆笑させていただきましたv
 仮面のマステマさん再び!ですか? そういえば前回は、ジャスティスクラッシュで死ぬほど笑ってましたvv あれ、でもあの時たしか倒されたような…?
 今回はアメリアちゃんの過去にも触れられるのですね。 って、いきなりアメリアちゃんピンチだったりしませんかっ?! ゼルさん何をしてるんですか?! 早く助けに行ってあげて下さい〜!!

 えっと、訳のわからない感想(なのか、これは?)でごめんなさい; 続きを楽しみにしています! 次も頑張ってください!! では、失礼しました。

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14661初めまして、ありがとうございます。水晶さな 2003/7/14 22:48:59
記事番号14658へのコメント


 祭蛍詩さん初めまして、水晶さなです。
 著者別だと・・・かなり前に書いた物ばかりで恥ずかしいのですが、ありがとうございます。段々投稿間隔が広くなっていくのが顕著なのですがいかんともしがたく(汗) 
 ディズニーシリーズは又書いてみたいと思うのですが、配役を考えると作品を探すのに結構骨が折れたり・・・いやちゃんと作品を見てないというのもあるのですが。
 
 混乱しないようにアルカトラズシリーズが完結するまでは別作品は書かないつもりです。間が空いているので自分で既に混乱していますが(汗)。
 ブルーフェリオスも一応登場しますが・・・今回いつもと違った趣向というかシリアスなので、いつものテンポを(会話の掛け合いなど)予想している方には肩透かしをくらわせてしまうかもしれません・・・先に注意事項をば。
 ただアルカトラズシリーズとしては繋ぎの為に必要な話ですので、今回だけは御容赦下さい。
 Lunatic Nightで最後に倒されたのはマステマに化けていたフルーレティ(蜘蛛女)です。ちょっとややこしいなと自分でも思っておりました・・・(汗)。
 なのでマステマ本体はまだ生きております。
 
 御感想ありがとうございます。一応今話は5話くらいを予定しておりますが、宜しければお付き合い下さいませ(^^)

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14660Night with a midnight sun 2水晶さな 2003/7/14 22:33:23
記事番号14651へのコメント


「窓が開いていたと? 自分から出て行ったというのか?」
 詰問しても、宿屋の主人は困ったように肩をすくめただけだった。
 一階の扉は、防犯の為に夜中になると全て施錠されるというのだ。
 真夜中の散歩は別段珍しい事ではない。自分も眠れない時はよくそうした。
 ――だが、朝になっても戻ってこないとなると話が別である。
 気候の温暖な地域ならともかく、雪解けすらまだという場所で。
 それ以上の質問にも進展はなく、ゼルガディスは諦めて話を切り上げた。
 防寒のマントを羽織り、外に出る。
 太陽が昇っても、凍みるような寒さは収まっていなかった。
 早足で町を出て、昨日見た『扉』の元へと急ぐ。
 この辺りで見に行く場所といえば、そこしか大したものはなかった。
 ――ない、筈だった。
「・・・・・・」
 山壁の前で、彼は立ち尽くした。
「・・・どういう事だ」
 昨日触れてまで確かめた白塗りの『扉』。
 山に食われたように、その姿を消していた。



 目を覚ましたのは、既に半分体が埋まりかけていた時だった。
 積もった雪を払いのけて、咄嗟に上半身を起こす。
 防寒の分厚いマントが幸いしたか、雪は染み通ってはいない。
「ここは・・・何処?」
 周囲を見回して、まず探したのは『扉』だった。
 腕を肘まで飲み込まれた記憶は生々しく、夢などではなかった。
 熱さも寒さもなかった。ただ唐突に強い力で引っ張られ、
 落下感を覚えて、意識が遠のいた。
「扉が・・・ない」
 ただ扉を通過しただけなら、目の前にそれがあっておかしくなかった。
 目の錯覚でないと何度も確認してから、アメリアが後方を振り返る。
 白――先程よりも強くなっているかもしれない、雪。
 それから、かすんでよくは見えないが――どうやら、町の影らしきもの。
 雪を握り締めたまま、アメリアが首を振った。
 山壁は、浮遊魔法で越えるには高過ぎた。
 上空で風にあおられて、制御がきかなくなれば無事では済まされない。
 ゼルガディスに何も告げず宿を出た事を後悔したが――既に遅い。
 ゆっくりと立ち上がると、アメリアは町影に向かって歩き出した。
「・・・・・・・・・」
 ――泣いたって、どうしよもうない。
 熱くなった目頭に苛立って、自分で自分を叱咤する。
「・・・・・・・・・?」
 それから、ふと感じた気配にうつむいていた顔を上げた。
 町の方角とは、離れた西側。
 降雪の中、何が見えるという訳でもない。
 見えたとしても、錯覚だと思うだろう。
 だが――
「・・・・・・何」
 それは、一部だけ雪が蠢(うごめ)いているようにも見えた。
 空の一角、灰色の雲が、そのまま地表に降り立って前進しているような。
 得体の知れないそれが遠ざかっていくのを呆然と見送りながら、アメリアは肌が粟立つのを覚えた。



「あのぅ」
「・・・・・・」
「あのー」
「・・・・・・」
「あのですねぇ」
「・・・・・・やかましい!」
 振り返って怒鳴ってから、ゼルガディスは声をかけられていたことに今更気付いた。
 山壁で扉を見失ってから、しばし沈思黙考していた為人の気配など気付かなかった。
「・・・・・・」
 怒鳴ってしまってから下を見下ろすと、
 予想のしない対応に度肝を抜かれたのか、男が一人引っ繰り返っていた。
「・・・誰だ?」
 言ってから、男がひどく緩慢(かんまん)な動作で起き上がった。
「怒鳴る前に言って欲しかったんですが・・・」
 恐らく体質的に肉がつかないのだろう、痩せ細った男だった。
 多少頬骨が出た顔に、ずり落ちそうな眼鏡をかけている。
 銀の髪が、ともすれば白髪に見えそうだった。
「わたくし超自然学者のセクレトと申します」
 身長的にはゼルガディスと大差ないのだが、猫背の為低い位置から名刺を差し出す。
 名刺といっても手書きの汚い字で名前が書かれているだけだった。
「貴方がどうやら『人食(は)みの扉』を探しておいでのようなので、声をかけさせて頂きました」
「『人食(は)みの扉』?」
 もらった所でどうしようもないので、名刺を手で制してゼルガディスが聞き返す。
「言葉の通り、人を食う扉です。語源はありません、わたくしが勝手に付けさせて頂いた名前です」
「・・・・・・」
 相手にする時間も惜しくなり、ゼルガディスが向きを変えようとするとマントを引っ張られた。
「貴方今わたくしを無視なさいましたね!? 何だかやばそうな奴だと思いなさいましたね!?」
「変人を相手にしてる暇はない!!」
 手を払い除けようとマントを引っ張り返すと、力比べに負けたセクレトがベクトルの方向に飛んでいく。
 こきゃっ、と木製の人形が立てるような音を立てて地面にくずおれたが、意外にも早く起き上がった。
「負けませんとも! 学者は貶(けな)されよーと罵倒されよーと泣き寝入りしても挫折してはいけないのです!!」
 顔面を地面に接触させた為か、鼻血をしたたらせながらゼルガディスに詰め寄る。
「負けるというか、その情熱を別の所に向けろ」
 顔を近づけてくるセクレトを押しのけながら、ゼルガディスが心底嫌そうにうめいた。
「超自然の研究はわたくしアイデンティティーです!! それを失くしたらわたくしは路上の藁と同じでございますよ!!」
「少なくとも人の迷惑にはならん」
 容赦無く言い切ったゼルガディスに少なからず傷ついたらしく、セクレトがうつむいたまま震えた。
 その間に離れようとしたゼルガディスの背中に、呟きが聞こえた。
「いいですよいいですよ。折角『扉』以外の山越え方法を教えて差し上げようとしたのに」
 振り返ると、逆にセクレトが背中を見せて歩き出そうとしていた。
 その白衣にも似た薄汚い上着の裾を掴むと、再び力比べに負けたセクレトがベクトルの方向へ飛んでいった。



 違和感。
 町に足を踏み入れた途端、嫌でもそれがわかった。
 人の姿が、全く見当たらない。
「・・・どうして?」
 店先に並ぶ商品の食物。
 放り出されたままのボール。
 作りかけの雪だるま。
 その全てを放棄して、人だけが一斉に立ち去ったような。
 元々が小さな町――町というよりも、村。見落とす場所があるとも思えない。
 しばらく歩いた後恐る恐る人家の扉を叩いて開けてもみたが、出てくる人の姿は見えなかった。
「・・・・・・神隠しにでもあったみたいです」
 呟いてから、思い出した。
 村に入る前に見かけた、天まで届かんばかりの不吉な雲の影。
 まるで生き物のように蠢(うごめ)いて、視界の端に消えていったそれは、
 進行方向からすれば、この村を通過した筈だった。
「・・・・・・」
 ――背筋を冷たいものが駆け抜けた。
 思わず自分で自分を抱き締める。
 何か、得体の知れない恐ろしい何かと数秒違いですれ違ったのではないか。
 そんな思いにとらわれて、思わずぞっとした。
「・・・・・・」
 どうすべきか途方に暮れた時、かすかに声らしきものを耳が捉えた。
 声というよりも、嗚咽だった。
 小さな子供の、泣き声――
 はじかれるように、アメリアが顔を上げて足の向きを変えた。
 一度は通り過ぎた宿の前。
 その二階から、確かに声は聞こえていた。
 ためらいながらも、中に入る。
 扉をそっと押し開けて見えたのは、
 間違いなくまだ幼い男の子が床に座り込んで泣いている姿だった。
「・・・どうしたの?」
 声をかけると、初めてアメリアの存在に気付いたのか顔を上げた。
 嗚咽は止まったが、呆然とこちらを見つめている。
 焦茶色の短く切った髪。同じ色の瞳は泣いた為に赤く腫れていた。
「ね、泣かないで」
 ともすれば再び泣き出しそうな子供に、あやすように声をかける。
「お名前は?」
「・・・ハクヤ」
 小さく消え入るような声で呟く。
「ハクヤ、お父さんとお母さんは?」
 尋ねると、又瞳が潤んだ。
 アメリアが泣いている理由を瞬時に悟って、咄嗟にハクヤの肩を掴む。
「おねえちゃんが探してあげるから、一緒に行こう?」
 しばらく考え込む様子を見せたハクヤが、やがて小さくうなずいた。
 アメリアが差し出した手に、素直に応じて立ち上がる。
 握り締めた手は小さく、温かかった。

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14663Re:Night with a midnight sun 2祭 蛍詩 2003/7/15 23:40:48
記事番号14660へのコメント

 こんにちは! 思いっっきりかんちがい野郎かました祭です。 そういえば、蜘蛛の子が沢山出ていて、マステマさんにしては弱すぎるとかおっしゃっていて、おまけに蜘蛛の糸でアメリアちゃんは天井に…………あうあうあうあうっ!! ごめんなさい、すみません、申し訳ございませんっっ!! きっとレスさせていただいた時、頭のねじどっかに大量に落としてきた後だったんです! もしくは、暑さのせいで脳味噌ガウリイさん状態だったんです!! えっと、本当にすみませんでした。
 こりずに、レスさせていただいて良いですか?(←もうしてる)

> 太陽が昇っても、凍みるような寒さは収まっていなかった。
> 早足で町を出て、昨日見た『扉』の元へと急ぐ。
> この辺りで見に行く場所といえば、そこしか大したものはなかった。
> ――ない、筈だった。
>「・・・・・・」
> 山壁の前で、彼は立ち尽くした。
>「・・・どういう事だ」
> 昨日触れてまで確かめた白塗りの『扉』。
> 山に食われたように、その姿を消していた。
 ?! これはゼルさんさぞかし不思議に思うでしょう。

>「・・・・・・・・・」
> ――泣いたって、どうしよもうない。
> 熱くなった目頭に苛立って、自分で自分を叱咤する。 
>「・・・・・・・・・?」
> それから、ふと感じた気配にうつむいていた顔を上げた。
> 町の方角とは、離れた西側。
> 降雪の中、何が見えるという訳でもない。
> 見えたとしても、錯覚だと思うだろう。
> だが――
>「・・・・・・何」
> それは、一部だけ雪が蠢(うごめ)いているようにも見えた。
> 空の一角、灰色の雲が、そのまま地表に降り立って前進しているような。
> 得体の知れないそれが遠ざかっていくのを呆然と見送りながら、アメリアは肌が粟立つのを覚えた。
 灰色の雲? なんでしょう? ってか、心細いでしょうね、アメリアちゃん。 目覚めたら知らない場所で、しかも誰もいない…まさに、『ここは何処? 私は正義の使者アメリア!』状態?(なんだそれ;)

>「あのぅ」
>「・・・・・・」
>「あのー」
>「・・・・・・」
>「あのですねぇ」
>「・・・・・・やかましい!」
> 振り返って怒鳴ってから、ゼルガディスは声をかけられていたことに今更気付いた。
> 山壁で扉を見失ってから、しばし沈思黙考していた為人の気配など気付かなかった。
 反応鈍いです; でもそれほどアメリアちゃんが心配だったんでしょうかね?

>「わたくし超自然学者のセクレトと申します」
> 身長的にはゼルガディスと大差ないのだが、猫背の為低い位置から名刺を差し出す。
> 名刺といっても手書きの汚い字で名前が書かれているだけだった。
>「貴方がどうやら『人食(は)みの扉』を探しておいでのようなので、声をかけさせて頂きました」
>「『人食(は)みの扉』?」
> もらった所でどうしようもないので、名刺を手で制してゼルガディスが聞き返す。
>「言葉の通り、人を食う扉です。語源はありません、わたくしが勝手に付けさせて頂いた名前です」
>「・・・・・・」
 返事に困ります(笑)

> 相手にする時間も惜しくなり、ゼルガディスが向きを変えようとするとマントを引っ張られた。
>「貴方今わたくしを無視なさいましたね!? 何だかやばそうな奴だと思いなさいましたね!?」
>「変人を相手にしてる暇はない!!」
 やばそうな奴って自分で…、しかもゼルさんきっぱり変人あつかい(笑)

> 手を払い除けようとマントを引っ張り返すと、力比べに負けたセクレトがベクトルの方向に飛んでいく。
> こきゃっ、と木製の人形が立てるような音を立てて地面にくずおれたが、意外にも早く起き上がった。
 も、もろいです;

>「負けませんとも! 学者は貶(けな)されよーと罵倒されよーと泣き寝入りしても挫折してはいけないのです!!」
> 顔面を地面に接触させた為か、鼻血をしたたらせながらゼルガディスに詰め寄る。
>「負けるというか、その情熱を別の所に向けろ」
> 顔を近づけてくるセクレトを押しのけながら、ゼルガディスが心底嫌そうにうめいた。
>「超自然の研究はわたくしアイデンティティーです!! それを失くしたらわたくしは路上の藁と同じでございますよ!!」
>「少なくとも人の迷惑にはならん」
 この会話、笑いましたv 面白くて好きですvv

> 容赦無く言い切ったゼルガディスに少なからず傷ついたらしく、セクレトがうつむいたまま震えた。
> その間に離れようとしたゼルガディスの背中に、呟きが聞こえた。
>「いいですよいいですよ。折角『扉』以外の山越え方法を教えて差し上げようとしたのに」
> 振り返ると、逆にセクレトが背中を見せて歩き出そうとしていた。
> その白衣にも似た薄汚い上着の裾を掴むと、再び力比べに負けたセクレトがベクトルの方向へ飛んでいった。
 おかわいそうに(←でも笑った人)

> 違和感。
> 町に足を踏み入れた途端、嫌でもそれがわかった。
> 人の姿が、全く見当たらない。
>「・・・どうして?」
> 店先に並ぶ商品の食物。
> 放り出されたままのボール。
> 作りかけの雪だるま。
> その全てを放棄して、人だけが一斉に立ち去ったような。
> 元々が小さな町――町というよりも、村。見落とす場所があるとも思えない。
> しばらく歩いた後恐る恐る人家の扉を叩いて開けてもみたが、出てくる人の姿は見えなかった。
>「・・・・・・神隠しにでもあったみたいです」
> 呟いてから、思い出した。
> 村に入る前に見かけた、天まで届かんばかりの不吉な雲の影。
> まるで生き物のように蠢(うごめ)いて、視界の端に消えていったそれは、
> 進行方向からすれば、この村を通過した筈だった。
>「・・・・・・」
> ――背筋を冷たいものが駆け抜けた。
> 思わず自分で自分を抱き締める。
> 何か、得体の知れない恐ろしい何かと数秒違いですれ違ったのではないか。
> そんな思いにとらわれて、思わずぞっとした。
 不気味ですね…

>「・・・・・・」
> どうすべきか途方に暮れた時、かすかに声らしきものを耳が捉えた。
> 声というよりも、嗚咽だった。
> 小さな子供の、泣き声――
> はじかれるように、アメリアが顔を上げて足の向きを変えた。
> 一度は通り過ぎた宿の前。
> その二階から、確かに声は聞こえていた。
> ためらいながらも、中に入る。
> 扉をそっと押し開けて見えたのは、
> 間違いなくまだ幼い男の子が床に座り込んで泣いている姿だった。
>「・・・どうしたの?」
> 声をかけると、初めてアメリアの存在に気付いたのか顔を上げた。
> 嗚咽は止まったが、呆然とこちらを見つめている。
> 焦茶色の短く切った髪。同じ色の瞳は泣いた為に赤く腫れていた。
>「ね、泣かないで」
> ともすれば再び泣き出しそうな子供に、あやすように声をかける。
>「お名前は?」
>「・・・ハクヤ」
> 小さく消え入るような声で呟く。
>「ハクヤ、お父さんとお母さんは?」
> 尋ねると、又瞳が潤んだ。
> アメリアが泣いている理由を瞬時に悟って、咄嗟にハクヤの肩を掴む。
>「おねえちゃんが探してあげるから、一緒に行こう?」
> しばらく考え込む様子を見せたハクヤが、やがて小さくうなずいた。
> アメリアが差し出した手に、素直に応じて立ち上がる。
> 握り締めた手は小さく、温かかった。
 一人だけ取り残されたんですね、ハクヤ君。 でも、とりあえず人がいてアメリアちゃんも安心できたことでしょう。

 続きを楽しみにしています。 そして、かんちがい、ごめんなさい;;
 では、妙に長くなってしまったのですが、この辺で失礼します。

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14677いえいえ。水晶さな 2003/7/17 22:37:27
記事番号14663へのコメント

 コメントありがとうございます。水晶です。
 マステマに化けたフルーレティは作者当人もよくわからなくなっておりますのでご心配無く(笑)。一応フルーレティはあの話の中で完全に消滅してます。

 今回アメリアとゼルガディスが別行動になるのでそれぞれに別のキャラが付きます。場面転換の繰り返しで作者も混乱しているので読む側も大変だと思いますが頑張って下さい(爆)。アメリアと行動するハクヤが大人しいので、反動かセクレトが突飛な性格になりました。学者を偏った目で見てます作者。

 ラストまで場面転換が続きます。今話の比重はいつも通りですがアメリア比重です。ネタ晴らしになってしまうのであまり話せないのですが、宜しければ最終話までお付き合い下さると嬉しいです。

 水晶さな拝.

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14678Night with a midnight sun 3水晶さな 2003/7/17 22:51:02
記事番号14651へのコメント


「御存知だと思いますが『扉』以外に『彼方』へ行く道は断絶されております。そう思われている、と言った方が正しいのでしょうが」
 口調は丁寧だが覇気が無い為、あまり真実味を感じさせない。
 早まったかもしれないとゼルガディスが後悔を感じ始めた時、行き道は迂回した森の端に辿り着いた。
「白山の樹海と呼ばれる森です。奥に行けば行くほど木々の目印がつけにくい事で有名です。勿論普通は迂回されますが」
「当たり前だ。迂回道が識別できるのに突っ切るのは自殺行為だ」
 多少うんざりしながらもゼルガディスが返答する。
 この先の行程を容易に予測できて、頭痛まで感じてきた。
「わたくしは何度か探索しまして、この地方よりも気温の低い地域、つまり北の『彼方』に生えるであろう植物を樹海の中で発見しました。『彼方』まで行き着いた事はないにせよ、それに近しい所までは辿り着けたと考えております」
「『辿り着けば幸運』程度の方法をあてにする気はないぞ」
「これを見て下さい」
 ゼルガディスの言葉など聞こえないように、セクレトが手を出してきた。
 手の平の上には、木の根らしきものが乗っていた。
「寒冷地で育つ種類の木の根です。勿論こちら側にはありません・・・が、山裾の地面を掘り返すと時々見つかるのが山の方向から伸びているこの木の根です」
 樹海を振り返って、続ける。
「樹海の地面にはこれが特に密集しております。こちら側に根を伸ばす事により、凍結していない地面から養分を吸う事ができると考えられます」
「・・・・・・」
 学者らしく、理詰めで話をする。
 ――だが、筋は通っている。
 口を挟まないでいると、同意と受け取ったのかセクレトが森の中へと歩み始めた。
 しばしその背中に躊躇した後、諦めたようにゼルガディスも足を進めた。



 小さな子供を連れて雪の中を歩くのは容易ではなかった。
 時折吹雪がひどくなる時には、木陰に隠れて風がやむのを待つ。
 抱き締めた小さな身体は冷え切っていて、
 何度もさすったが気休めにしかならなかった。
 それでもハクヤは、近くの村に辿り着くまで弱音一つ吐かなかった。
 宿屋備え付けのタオルを渡すと、一人で濡れた身体を拭く。
「雪、やまないね」
 窓の外に目をやり、アメリアが呟いた。
 独り言だと思ったのか、ハクヤは相槌を返してはこない。
 ハクヤがベッドに腰掛けたのを見て、アメリアが口を開いた。
「ハクヤは・・・どうしてあそこに一人でいたの?」
 並ぶように、隣に腰をおろす。
「おかあさん」
「え?」
 タオルを握り締めて、呟く。
「おかあさん、待ってた」
 返されたのは、その一言だけで。
 こちらを見ようともしなかった。
「・・・・・・そう」
 アメリアも又、それ以上尋ねる事はしなかった。
 少年の口調では、
 もう二度と戻ってこない母親を待っていたように思えた。



「あの扉があったのに、何故別の入り口を探してるんだ?」
 至極もっともな質問ではあった。
 扉が無いから探すのはあるとしても、昨日まで確かにそれは存在していた。
「扉をよくご覧になりましたか?」
「古代文字の記述も何もない、何の変哲もない扉をか?」
「あの扉には鍵穴がありますが錠の役目は果たしていません。取っ手はありますがその隙間には指先しか入らないほどの隙間です」
 言われてから気が付いた。
「あれはただの装飾だと、そう言いたいのか?」
「いわゆる宗教的な意味合いの『門』。選ばれし者のみが通過できるものと、一説にそういう話があります」
「実際に通った人間がいるとでも?」
 皮肉を込めて言ったつもりだが、前方を歩くセクレトは振り返る様子も見せない。
「1年に1人か2人が行方不明になったまま戻っておりません」
「だからと言って――」
「そして『こちら』には、10年に1人か2人、扉の向こうから来たと主張する人が現われるそうですよ」
「――」
 その言葉を信じた訳ではない。訳ではないが――
「つまりこちらとあちらでは、『扉』が人を通す期間が違うのです。そして人が通された後『扉』はしばし姿を消します」
 それがどの程度の長さかはわからない、と彼は付け足した。
「その、向こうから来たという酔狂な奴にお前は会ったのか」
「いいえ」
 会話の中で、初めて彼は振り返った。
 陰鬱な光が、瞳に浮かんでいた。
「ここにおります」



「何処に行くって言うんだい。今は丁度雪が激しい時なのに」
 チェックアウトの為に宿の女将に鍵を渡そうとすると、渋面でそう言われた。
「帰らなくちゃいけないんです」
「商売心で引き止めてんじゃないよ。雪の間は白夜が出るって言われてるんだから」
「びゃくや?」
 見たことはなくとも、言葉の意味だけは知っていた。
 それ故、「出る」という動詞が繋げられたのに違和感を覚えた。
「白夜は自然現象じゃないんですか? あの、夜でも日が沈まないっていう」
 女将は首を横に振った。
「それじゃないよ。化け物の白夜だよ。最近又出たとか噂があって村人でも外出は控えてるよ」
「どういう・・・魔物なんですか?」
「噂だからどんな見てくれしてるかとかはわかんないがね。用心するに越した事はないよ」
 それでもアメリアに留まる気はないと見てとったのか、女将が渋々と部屋の鍵を受け取った。
 扉に向かおうとすると、こちらを見上げて待っていたハクヤと目が合う。
「行こうか」
 手を差し出すと、素直に応じる。
「ごめんねハクヤ。色んな人に話を聞いたけれど、ここにお母さんを知っている人はいないみたい」
 その言葉に、返事はなかった。
 ただ、繋いでいるその手に感じる圧力が、少しだけ強まる。
「・・・・・・」
 掛ける言葉が思い当たらず、アメリアが宿の扉を開けた。
 冷たい風が吹きつけた。



「わたくしは『彼方』から来ました。だから北に生える植物の事も知っているのです」
 彼は足を止め、ゼルガディスに向き直った。
「過去にも扉を抜けたと言う者がいたと、話を聞きました」
 ――愕然とした。
 宿の主人が言うには一年前に同じ事を言う猟師の男が現れたという。
 それは自分も知っている隣村の男だった。
 だが彼は、北では十年以上前に猟に出て姿を消していた人物だった。
「わたくしが感じた恐怖がわかりますか?」
 既に胸中を占めた不安に、追い討ちがかけられた
「こちらの一年は、『彼方』の十年になるという事実ですよ」
「――何故それを先に言わない!」
 ゼルガディスがこみ上げた激情を押さえ切れず、セクレトの胸ぐらを掴み上げた。
「出合い頭にそう言ったとて、初対面の人間の話を易々と信じられますか?」
 彼の言葉は淡々と紡がれ。
 それがゼルガディスの心を静めさせた。
「――いいか、お前の言葉が本当だとしたら、時は一刻を争う。もし今日道が見つからな くても、日を改めてなんて事は絶対に口にするな」
 返事の代わりのつもりか、セクレトの視線が前方に向けられた。
 ゼルガディスもつられて視線をやる。
 先程まで明快に見えていた木々の合間が、霞がかったようにぼやけている。
 霧が、生き物のように空中を漂っては、気まぐれに消える。
「・・・・・・」
「近付いてきた証拠ですよ」
 セクレトがそっとゼルガディスの手を掴んで放し、再び歩き出す。
「この森の中心より先は『彼方』の区域」
 呟くように、淡々と。
「――白夜の支配下です」



 雪で道が閉ざされる地方では、それでも目に見える印を工夫して編み出す。
 道すがら枝に下げられた鮮やかな赤い布を辿ると、さほど苦労もせずに次の村へ辿り着いた。
 今までの村よりは、一回りほど規模が大きい。
 宿を探す為に歩いていると、道端で固まって会話する主婦の声が耳に届いた。
「・・・・・・ロラが、東の空に見えたって」
「オーロラ?」
 アメリアが思わず足を止めた。
「見えるんですか? この地方で」
 興味本位で尋ねただけだが、当の話をしていた女は眉をひそめた。
「オーロラを知らないのかい? アンタまさか『彼方』から来た訳じゃないだろうね」
「『彼方』?」
 呟き返してから、アメリアが思い当たったように頷いた。
「『扉』の向こうから来ました。帰る方法を探してるんです」
 でも今はハクヤの母を――と言い終える前に主婦達は蜘蛛の子を散らすように消え失せた。
「白夜が来るよ!」
 口々に、そんな事を叫んでいる。
 取り残されたアメリアは、途方に暮れて手を繋いだままのハクヤを見下ろした。
 ハクヤは最初の泣いている時を除いて――あまり表情の変化を見せない。
 アメリアの視線に気付いて見上げてくるが、別段何を言う訳でもない。
「・・・ハクヤは、白夜を知ってる?」
 発音が似ているので、連続で話す時は舌が一瞬もつれる。
「白夜は、ハクヤともいう」
「え?」
「白夜は本当は恐くないものだから、白夜の名前をもらったって、おかあさんが言ってた」
 読み方を変えれば、白夜はハクヤにもなるだろう。
 しばし考えたが、自身が白夜に対しての知識を持ち得ていない事が何となく不利に感じられた。
「少し・・・調べてみましょうか」

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14688Night with a midnight sun 4水晶さな 2003/7/20 00:30:23
記事番号14651へのコメント


「・・・うーん」
 山麓で、銀の髪の少年が唸っていた。
 辺りを見回す瞳は、金と青の色。
「なんとなーく、感じるんだけど」
 語る相手もいないのに、独り言をやめようとはしない。
「やな気配もするんだよねー。寒いの嫌いだし、ここはゼルガディスとアメリアに任せちゃおっかなー」
 言い訳を考えながらしばらくうろついた後、やがて諦めたように森の方へ足を向け、
 風の音がした。
 振り返った。
 視界に、銀の色。
 驚きの声をあげる暇もなく、
 集中が途切れて猫の手に変じた自分の手を最後に見た。



 道端の石に腰掛けていた老婆に話を聞こうとすると、家の中へと促された。
 しばし考えた後ハクヤを先に宿へ行っているようにと帰し、一人で老婆について行く。
 何を聞かされるにしろ、吟味してからハクヤに伝えたかった。
 暖炉に薪をくべるのを手伝った後、勧められるまま幾何学模様の織りこまれた綿のクッションに座る。
「扉を抜けたか。さぞ村衆が騒ぐだろうて」
「何があるんですか?」
 湯気の立つ茶を一口飲んでから老婆が答えた。
「あの扉は白夜の爪痕と言われておる。白夜の恐ろしい力がもたらしたもの」
「すみません、白夜について何も知識がないので、その事から話して頂けませんか?」
 それから目で促されて自分も茶を一口飲むと、体の中心から熱が広がっていくような気がした。
 味は、ジンジャーティーに少し似ている。
「白夜は荒神と言われておる。荒ぶる神。恵みの為に供物を捧げるのではなく、その災厄を鎮める為に供物を捧げる」
「昔からいたって事ですよね。今でも恐れられているのは、供物を捧げても平穏を保てなかったんですか?」
 老婆はゆっくりと首を横に振った。
「白夜は人々の心の中にある荒神だった。実際に化け物が出るようになったのは数十年前からの事じゃ」
「どうしてその化け物が、白夜だと皆にわかったんです?」
「白い霧。全てを飲み込む巨躯。白夜以外の化け物を人々は知らん」
 アメリアが記憶の端にあった姿を捉えて目を見開いた。
 天まで届かんばかりの揺らめく白。
 肌がひりつくほどに感じた悪寒。
 最初に辿り着いた無人の町は、白夜とすれ違いで訪れた為にそうなっていたのではないか。
 もし白夜と出くわしていたら――
 無意識の内に自分を抱き締めていた。
「何が、あったんですか・・・」
 震える声をつとめて抑えながら。
「白夜が姿を現したのに、何か原因があったんでしょう?」
「・・・白夜には前触れがあった。光織り成す夜の揺らめき」
「・・・・・・オーロラ?」
 白夜がまだ人々の心の中だけに存在する内は、その前触れの自然現象しか人の目に映る事はなかった。
 それが合図となって人々は、見えぬ白夜に供物を捧げた。
「白夜が現われる前、ひどく吹雪のやまぬ年があった」
 何日も何週間も村は閉ざされ、
 人々は白夜が例年にない怒りを抱えていると恐れた。
「人々は白夜に、今まで以上の供物を捧げねばならないと思い込んだ」
 老婆の言葉は、ただ淡々と紡がれ。
「降雪の合間、オーロラが降り注ぐ夜。人々は白夜の怒りを鎮める為に若い娘達を贄(にえ)に出した」
「贄・・・!?」
 アメリアが表情を歪めた。
「村から1人ずつ娘が差し出された。崖から氷海に突き落とされるだけの贄が」
 握り締めた拳の爪が、手の平に食い込んだ。
 それでも声を荒げる事が出来ないのは、老婆の語る言葉は既に過去のものであり、
 自分は口を挟む権利もない余所者だという、事実。
「今は・・・?」
「今は、もうない。いや、差し出す娘がいなくなったと言うべきか」
 問いにも、老婆は他人事のように呟く。
 それは関心がないからではなく、既に滲み出す感情が枯れてしまったようにも見えた。
「何回かの贄が差し出された後、白夜と呼ばれる化け物が出るようになったのは。荒神が贄に味を占めたか、わしらが間違っていたのか、今となってはわからん」
 ぽつりと呟かれた言葉に、覇気は無く。
「贄には、子を成した若い娘まで連れて行かれたた。夫が行方不明だったのに付け込まれて」
「そんな・・・一人になった子を誰が育てるというんです!」
 語調を強めたアメリアを、老婆はただ一瞥しただけだった。
「村衆で育てる。それが約束だった」
 窓の外を見やるように、かすかに首を動かす。
 白以外の色に彩られる事の無い風景。もう何年もの間。
「・・・その約束の元にエレインは行った。残された子の姿を見て、人々も贄が行き過ぎた事態を招いた事にようやく気が付いた」
 遅過ぎる。
 出かかった言葉を飲み込んだのは、老婆が続けざまに口を開いたからだった。
「子の名前は・・・そう・・・ハクヤ」
 アメリアが息を飲んだ。
 言葉も出なかった。
 浮かんだのは幼い姿で気丈に耐える少年の姿。
 思考が正常に機能しない内に、それでも聴覚が捉えたのは雪が崩れ落ちる音。
 自然に落ちたにしては、不自然過ぎるその音。
「ハクヤ!」
 はじかれたように顔を上げて、アメリアが家から飛び出した。
 窓の外押し固められていた踏み台の雪は崩れて、
 残る新しい足跡を、もつれる足で追いかけた。
 息が切れるほど走り続け、ようやく見えたその背中に手を伸ばした時、
 勢いよく振り返ったハクヤの、叫び声が耳を突いた。
「どうして置いていったの! 帰ってくるって言ったのに!!」
「ハクヤ! お願いだから――」
 それ以上の言葉を紡ぐ事は出来なかった。
『どうして! 治るって言ったのにどうして!!』
 視界が揺らいだ。
「嘘つき!」
『嘘つき! とーさんの嘘つき!!』
 力任せに振り払われた手。
 それが子供の腕力でも、止めようとしなければ勢いのままによろめく。
 そのまま地面に座り込んだアメリアを見て、逆にハクヤが戸惑ったようだった。
「おねえ・・・ちゃん?」
「嘘つき・・・だよね・・・約束したのに・・・」
 『嘘つきだよね』と、もう一度呟きかけた声はかすれて。
 眼前に見えたのはハクヤであって、過去の自分だった。
 病死した母親を、最後まで『助かる』と言い続けた父を責めて、
 『嘘つき』となじった自分の姿だった。
 全ての怒りを、父にぶつけた。
「何でもしてあげたい。でも・・・ハクヤが一番欲しいものがあげられない」
『何でもしてやりたい。だが・・・お前が一番望むものだけは、もう無理なんだ』
 あの時、責めを一人で受け止めたのは父だった。
 母が助かる事を誰よりも信じたかったのも父だった。
 今自分を投影したハクヤを前にして、溢れる言葉は父と同じだった。
 その言葉が、偽りの無い心からのものであるという事も――
『すまないアメリア。お前が望むのに、父さんは何もできない』
「・・・何も、してあげられない」
 無力感を覚えて、涙が溢れた。
 ハクヤが慌てたようにアメリアの手を掴んだ。
「ごめんなさい」
 アメリアの反応が、予想外だったのだろう。
 自分の事も忘れて、ハクヤが謝罪した。
 窺うように覗き込んでくるハクヤを、引き寄せて抱き締める。
「ハクヤ」
 意を決して、アメリアは口を開いた。
「私の故郷へ行こう。長い旅になるけど」
 ハクヤは、言われた意味がしばし理解できないようだった。
「ハクヤもきっと、好きになれると思う」
 どれほどの時間がたったのか、
 ハクヤが頷いた気配が伝わってきた。

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14689Re:Night with a midnight sun 4祭 蛍詩 2003/7/20 01:30:51
記事番号14688へのコメント

あう〜; 3のほうにレスさせていただこうと思い、感想書いている時に親がっ! 悔しいので携帯でレスさせていただいています。
ル−君ご登場なさいましたねV そして、ハクヤ君かわいそうです〜!こうなったらセクレトさん、父親になってあげて下さい! こんな感想ですみません; では、次も楽しみにしています

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14692ありがとうございます水晶さな 2003/7/20 23:23:52
記事番号14689へのコメント

 
 いつも有り難うございます。水晶です。
 シリーズ物なのでブルーフェリオスが顔を出しましたが、今回ちょっと話には絡みません・・・申し訳ない(泣)。
 ハクヤの背景もそろそろ・・・あ、いやセクレトは、すみませんネタバレになってしまうのでこの辺りはコメントが返せません(汗)。
 もうちょっとでその辺りのネタ晴らしに入るので、もうしばらくお待ち下さい。

 水晶さな拝.

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14693Night with a midnight sun 5水晶さな 2003/7/20 23:27:28
記事番号14651へのコメント


 木々が深くなり視界が確保できない為、ゼルガディスがライティングを灯し先を歩いていた。
「『人食みの扉』は、いわば白夜の一部だとわたくしは考えております」
 霧のかかる森の中を、踏みしめる足がひどく重く感じられる。
「どういう事だ?」
 服が霧で湿り、じわじわと重みを増していく。
「知っている者はそう多くはいないでしょうが・・・」
 後方から響くセクレトの声は、時々遠くから響いているような感覚がした。
「白夜は実在などしない化け物でした。人の心の中にのみ存在する荒神だったのです」
 災害がひどくなるほど、それは白夜の怒りだと恐れられた。
 かつては自分もその一人だった。
「山で囲まれた閉鎖空間でしたからね・・・誰もそれに異を唱える人物などいなかったんですよ」
 猛吹雪の続いたある年、白夜が例年にない怒りを抱いていると誰かが言った。
 そしてそれが人々の口の端に上り、いつか辺境に住む魔道士が呼び出された。
『贄を捧げなされ。若い娘を』
「魔法を知らぬ人々が、権威ある魔道士の言葉を疑うなどしましょうか? それが・・・ネクロマンサーであったとしても」
 彼がどのような存在であったのかは、『こちら』側へ来てから知った。
「贄を使って山壁に穴を開けようとして・・・失敗したんです」
 彼に吹雪を止める術はなかった。
 できたのは、贄から得た魔力を炎に変え、
 山壁に穴を開け、猛吹雪の被害を少しでも減らす事。
 いざとなれば人々が降雪の少ない地域に移住できるように。
 しかし魔道士も又、閉鎖された空間で生まれ育った者だった。
 その外を垣間見た事など一度もない人間だった。
 帰ってこない魔道士を不安に思い、様子を見に行った村人達の見たものは、
 燃え尽きた一塊の灰と、山壁に出現した、不完全な扉。
 ――そして、「白夜」。
「何故失敗したのか。何故『扉』を隔てて時が歪むのか」
 セクレトの言葉は続く。
「調べ、そして知りました。もう忘れ去られるほど昔、ここより北は罪人の流刑地にされていたと」
 元々そこに住んでいた人々の意向に関わらず、罪人は全て北に送られた。
「北の地域そのものが牢獄だと?」
 振り返ろうとしたゼルガディスが、何故かそうできない事に気付いた。
 既に会話の途中で足は止まっていた。
 霧が意思あるように身体にまとわりつく。
「山を隔て閉鎖された雪の空間・・・脱出不可能なように、その周囲に巨大な結界を張って」
 いつしかそれは時流の違いを生じさせた。
「結界!?」
「魔道士の力量では、結界に穴を開ける事は出来なかったんです」
 跳ね返された力に、逆に喰われた。
 不完全に作動する扉だけが残り、その『力』は白夜に変じた。
「そしてこの森は罪人が送られる時の唯一の道、向こう側からこの森を見つける事はできず、中心には防壁の結界がまだ張り巡らされています」
 それを知っているという事は。
 目前にしながらも、彼は『彼方』に帰れなかったことになる。
「俺なら通れるとでも思ったのか」
 常人の立ち入れぬ結界に、誰を連れてきたとて意味はない。
「・・・知って、欲しかったのです」
 段々と、その声から生気が消え失せていく。
 幻聴かと思ったその声の微妙な響きは、逆に確信を帯びるほどに。
「この向こうに本当は何があるのか。何が起こっているのか」
 首に絡まった見えない手を振り解くように、
 ゼルガディスが渾身の力を込めた。
 振り返った。
 細く血色の悪い男が、そこにはまだ確かに居た。
 その背景を透き通らせるほど薄くなって。



「――ハクヤ! 眼を閉じて!!」
 それは風圧への防備というよりも、眼下の光景を見せてパニックになるのを防ぐ為だった。
 雪煙を舞い上がらせながら、レイ・ウイングを力の限り飛ばした。
 抱えたハクヤが痛いほどしがみついてくる。
 背後に感じるのは、肌がひりつく程に感じる瘴気。
 老婆に話を聞き、村を出た直後悲鳴が聞こえた。
 それまで厚い雲が覆っていた空が晴れ、
 星空と共に姿を見せたのはオーロラだった。
 悪寒が背を這い登った。
 ――すぐそこまで、来ている。
 暗闇を貫くように、炎を投げた。
 遠くの空に広がっていた薄霧が蒸発し、
 何事もなかったように再び集まり始めた。
 何を試しても、結果は同じだった。
 霧は徐々に、その色を濃くしていく。
「――効かない・・・!」
 半ば引きずるようにしてハクヤの腕を掴み、
 村から走り出た瞬間、風を舞わせた。
 村を包むように覆い被さった白夜は、
 遠ざかるアメリア達に狙いを変えた。
 どれほどの時間を逃げたのか、
 集中にも限界があった。
 迫る瘴気は、その気配を衰えさせる事もなく。
「ハクヤ・・・信じてくれる?」
 その言葉が何を意味するのか、
 ハクヤはわかって、頷いたようだった。
「・・・・・・っ!」
 風の勢いを殺さぬまま、体の向きを逆に変えた。
 自分を追い続けている巨躯の化け物を見て青ざめたが、驚愕に時間をかけている暇はない。
「永久を彷徨う悲しきものよ、歪みし哀れなるものよ」
 カオス・ワーズを紡いだ瞬間、レイ・ウイングの効力が消えた。
「我の浄化の光もて、世界と世界を結ぶ道」
 急降下の感触に気を失いそうになりながら、それでも詠唱は止めない。
「――歩みて永久に帰りゆけ!」
 前進を止めなかった白夜の、丁度腹と思われる部分の、真下に来た時、
 最後の言葉を振り絞った。
「ホーリィ・ブレス!」
 真下から雪を吹き上げるように――
 空を貫くように発された光が、白夜の身体を無数に突き抜けた。
 霧が――恐らく再び繋がるには時間がかかると思われるほど散って。
 アメリアとハクヤは雪の上に落下した。
「――かはっ!」
 雪の厚く積もっている所を狙ったが、それでも上に抱えたハクヤの衝撃に一瞬息が止まった。
 喘ぐように呼吸を繰り返してから、ゆっくりと上半身を起こす。
「ハクヤ、大丈夫? 今の内に距離を稼がないと――」
 まだぐったりとしたままのハクヤに手を伸ばし、アメリアが息を呑んだ。
「ハクヤ!?」
 アメリアよりももっと、呼吸を荒くしていた。
 掴んだ体が、燃えるように熱い。
「白夜には触れてないのに・・・どうして?」
 これではまるで、ホーリィ・ブレスで衝撃を受けたような――
「・・・・・・」
 考えるのはやめた。
 今は、逃げる事の方が先立った。
 立つ事もままならないハクヤを背負い、歩き出す。
 その重みだけが、ハクヤの存在を確かに示していた。
「ハクヤ・・・一緒に行くんですからね・・・」
 手放したらそれは、自分の半身を失うような気がした。

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14699Re:Night with a midnight sun 5祭 蛍詩 2003/7/21 19:03:39
記事番号14693へのコメント

 こんにちは、祭です! なんかそれぞれがピンチですね!
―というわけで、レスさせていただきます!

> 木々が深くなり視界が確保できない為、ゼルガディスがライティングを灯し先を歩いていた。
>「『人食みの扉』は、いわば白夜の一部だとわたくしは考えております」
> 霧のかかる森の中を、踏みしめる足がひどく重く感じられる。
>「どういう事だ?」
> 服が霧で湿り、じわじわと重みを増していく。
>「知っている者はそう多くはいないでしょうが・・・」
> 後方から響くセクレトの声は、時々遠くから響いているような感覚がした。
 うあっなんか不気味です;

>「白夜は実在などしない化け物でした。人の心の中にのみ存在する荒神だったのです」
> 災害がひどくなるほど、それは白夜の怒りだと恐れられた。
> かつては自分もその一人だった。
>「山で囲まれた閉鎖空間でしたからね・・・誰もそれに異を唱える人物などいなかったんですよ」
> 猛吹雪の続いたある年、白夜が例年にない怒りを抱いていると誰かが言った。
> そしてそれが人々の口の端に上り、いつか辺境に住む魔道士が呼び出された。
>『贄を捧げなされ。若い娘を』
>「魔法を知らぬ人々が、権威ある魔道士の言葉を疑うなどしましょうか? それが・・・ネクロマンサーであったとしても」
 ネクロマンサーって確か…死霊使い…でしたっけ?

>「調べ、そして知りました。もう忘れ去られるほど昔、ここより北は罪人の流刑地にされていたと」
> 元々そこに住んでいた人々の意向に関わらず、罪人は全て北に送られた。
>「北の地域そのものが牢獄だと?」
> 振り返ろうとしたゼルガディスが、何故かそうできない事に気付いた。
> 既に会話の途中で足は止まっていた。
> 霧が意思あるように身体にまとわりつく。
 ひぇ〜; セクレトさんのお話が怖くなるたびに、動きにくくなる…怖いです;

>「結界!?」
>「魔道士の力量では、結界に穴を開ける事は出来なかったんです」
> 跳ね返された力に、逆に喰われた。
> 不完全に作動する扉だけが残り、その『力』は白夜に変じた。
>「そしてこの森は罪人が送られる時の唯一の道、向こう側からこの森を見つける事はできず、中心には防壁の結界がまだ張り巡らされています」
> それを知っているという事は。
> 目前にしながらも、彼は『彼方』に帰れなかったことになる。
 そういえば…そうですね。

>「俺なら通れるとでも思ったのか」
> 常人の立ち入れぬ結界に、誰を連れてきたとて意味はない。
>「・・・知って、欲しかったのです」
> 段々と、その声から生気が消え失せていく。
> 幻聴かと思ったその声の微妙な響きは、逆に確信を帯びるほどに。
>「この向こうに本当は何があるのか。何が起こっているのか」
> 首に絡まった見えない手を振り解くように、
> ゼルガディスが渾身の力を込めた。
> 振り返った。
> 細く血色の悪い男が、そこにはまだ確かに居た。
> その背景を透き通らせるほど薄くなって。
 ぎゃーっっ!!セクレトさん?!セクレトさんがセクレトさんじゃないーっっ!!(壊)

>「――ハクヤ! 眼を閉じて!!」
> それは風圧への防備というよりも、眼下の光景を見せてパニックになるのを防ぐ為だった。
> 雪煙を舞い上がらせながら、レイ・ウイングを力の限り飛ばした。
> 抱えたハクヤが痛いほどしがみついてくる。
> 背後に感じるのは、肌がひりつく程に感じる瘴気。
> 老婆に話を聞き、村を出た直後悲鳴が聞こえた。
> それまで厚い雲が覆っていた空が晴れ、
> 星空と共に姿を見せたのはオーロラだった。
> 悪寒が背を這い登った。
> ――すぐそこまで、来ている。
> 暗闇を貫くように、炎を投げた。
> 遠くの空に広がっていた薄霧が蒸発し、
> 何事もなかったように再び集まり始めた。
> 何を試しても、結果は同じだった。
> 霧は徐々に、その色を濃くしていく。
>「――効かない・・・!」
> 半ば引きずるようにしてハクヤの腕を掴み、
> 村から走り出た瞬間、風を舞わせた。
> 村を包むように覆い被さった白夜は、
> 遠ざかるアメリア達に狙いを変えた。
> どれほどの時間を逃げたのか、
> 集中にも限界があった。
 こっちもピンチですー!!

>「永久を彷徨う悲しきものよ、歪みし哀れなるものよ」
> カオス・ワーズを紡いだ瞬間、レイ・ウイングの効力が消えた。
>「我の浄化の光もて、世界と世界を結ぶ道」
> 急降下の感触に気を失いそうになりながら、それでも詠唱は止めない。
>「――歩みて永久に帰りゆけ!」
> 前進を止めなかった白夜の、丁度腹と思われる部分の、真下に来た時、
> 最後の言葉を振り絞った。
>「ホーリィ・ブレス!」
> 真下から雪を吹き上げるように――
> 空を貫くように発された光が、白夜の身体を無数に突き抜けた。
> 霧が――恐らく再び繋がるには時間がかかると思われるほど散って。
> アメリアとハクヤは雪の上に落下した。
>「――かはっ!」
> 雪の厚く積もっている所を狙ったが、それでも上に抱えたハクヤの衝撃に一瞬息が止まった。
> 喘ぐように呼吸を繰り返してから、ゆっくりと上半身を起こす。
>「ハクヤ、大丈夫? 今の内に距離を稼がないと――」
> まだぐったりとしたままのハクヤに手を伸ばし、アメリアが息を呑んだ。
>「ハクヤ!?」
> アメリアよりももっと、呼吸を荒くしていた。
> 掴んだ体が、燃えるように熱い。
>「白夜には触れてないのに・・・どうして?」
> これではまるで、ホーリィ・ブレスで衝撃を受けたような――
>「・・・・・・」
> 考えるのはやめた。
> 今は、逃げる事の方が先立った。
> 立つ事もままならないハクヤを背負い、歩き出す。
> その重みだけが、ハクヤの存在を確かに示していた。
>「ハクヤ・・・一緒に行くんですからね・・・」
> 手放したらそれは、自分の半身を失うような気がした。
 戦うアメリアちゃん、かっこ良かったですv それにしても、ハクヤ君…君はいったい何なんですか?
 
 白夜、とっても怖かったです; んでもって、セレクトさんもハクヤ君もなんか怖いですー;; 予想ができない展開に驚くばかりでした! すごいです!
 次も楽しみにしています! 頑張ってください!




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14706佳境に入りました。水晶さな 2003/7/22 21:19:08
記事番号14699へのコメント

 コメントありがとうございます、水晶です。

 片方のペースが上がっている時にもう片方がスローだと調子が外れるので、同時期に色々起こっております(苦笑)。村から村へ移動しているアメリアと対照的にゼルガディスの方は森から動いてませんが、『扉』を隔てた時間差によるものです。
 
 ネクロマンサーは死霊使いです。原作にも登場してますがここでは贄を用いて魔力を扱う者として定義付けています。・・・失敗してますが(汗)。

 一応、7話で終了予定です。


 水晶さな拝.

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14707Night with a midnight sun 6水晶さな 2003/7/22 21:26:48
記事番号14651へのコメント


「・・・知って、欲しかったのです」
 呟く声が、人のものとは思えなかった。
「戻れないと、悟った時からずっと――」
 前かがみになった彼の胸元から、銀の鎖が滑り出た。
 ペンダントヘッドの代わりに、古い指輪が下げられている。
「ここまで来てくれる人を、探していました」
 その声は、段々と現実味が薄れていった。
 存在を少しずつ、消していくように。
「本当は行きたかった・・・ヘルバの村・・・一緒に逃げる筈だったエレインを残して――」
 自分だけが、『扉』を越えてしまった。
「・・・・・・」
 ゼルガディスの目の前で、彼はその存在を消した。
 冷たい風が吹き抜ける感触がして、
 前に向き直ってから、彼は草むらの中の骸に気付いた。
 風化し始めた、人骨だった。
「・・・セクレト?」
 声は、消え失せ。
「・・・長くさまよい過ぎたな。いい加減、眠れ」
 指先で、聖の印を刻んだ。



 『彼方』に着てからずっと、村といえば同じようなものだった。
 ここもまた、例外ではなかった。
 二部屋しかない宿の一室に、ハクヤを寝かせる。
 半刻もすると、嘘のように熱が引いた。
 本人に尋ねても、白夜に触れた覚えもないと言う。
「・・・もう、大丈夫」
「本当に?」
 何度もハクヤが頷くので、納得するしかなかった。
 それでも心配なので宿に残して外に出ようとすると、マントの裾を握って睨みつけてきた。
 抵抗というには微笑まし過ぎる抵抗に、アメリアが苦笑して先に折れる。
 慣れた動作で手を繋ぐと、そのまま外へ出た。
「あ」
 通りを見渡した後に呟かれたハクヤの言葉に、アメリアの視線も後を追う。
 ハクヤよりも少し年嵩に見える少女が、買い物袋を抱えて角を曲がった所だった。
「どうしたの?」
「パチルだ」
「パチル?」
 口にすると、アクセントを直された。
「一緒の村に住んでた事があるよ」
「本当に!?」
 もし彼女もハクヤの事を覚えていたら、母親を探すのに手がかりになる。
 そう思った時には少女を追いかけて走り出していた。
 別段早足でもない少女の足には、次の角に行く前に追いついた。
「ちょっといいですか?」
 なるたけ穏やかにかけた声に、少女が振り返る。
 村で見た事の無い顔のせいだろう、少女の視線がアメリアの足から頭まで伝った。
 そして手を繋いだままの、ハクヤへと移動して――
「・・・・・・ハクヤっ!?」
 うめくような声だった。悲鳴といっていいほど。
 それから口にしてしまった事を恐れるかのように、両手で咄嗟に口を塞ぐ。
 手放された買い物袋が地面に落ち、野菜が地面に転がった。
「・・・どうしたの?」
 問うアメリアの声も届かず、少女がハクヤを凝視したまま後ずさる。
 そして――その場に耐え切れなくなったかのように、背を向けて走り出した。
 眉をひそめたアメリアが、ハクヤと繋いでいた手を離して追いかけた。
「ハクヤ! ちょっとそこで待ってて下さいね!」
 何か別の嫌な予感を覚え、ハクヤを待たせたまま一人で走る。
 パニックに陥っていたのか、少女は袋小路で立ち止まっていた。
 アメリアの足音に、怯えた表情のまま壁に背を押し付ける。
「・・・どうして逃げるの? ハクヤの友達なんでしょう?」
 少女の目はアメリアではなく、この場にいないハクヤを見ていた。
「ハクヤ・・・いや・・・嘘でしょう? 似てるだけなんでしょ?」
 そう言ってもらいたいかのように、必死にアメリアに同意を求める。
「・・・あの子はハクヤよ。本人がそう・・・」
「違う!」
 否定の言葉を差し挟む。
「ハクヤな筈ない! ハクヤは1年前に死んだのよ!!」
「――え?」
 少女の言葉が、一瞬理解できなかった。
「母親を探して吹雪の夜に外に出て! 崖から足を滑らせたの!! あたしが見つけたのよ! あたしの父親がハクヤを埋葬したの!!」
 言葉を失ったアメリアの前で、叫ぶ。
「――ハクヤはもう、死んでるのよ!!」
 少女の叫び声と、村人達の悲鳴が、入り混じった。



 簡単な埋葬を済ませ、再び歩みを進めようとした時に風の音に気付いた。
 咄嗟に身を屈め、後方から貫くように頭上を通り抜けた衝撃をやり過ごす。
 顔を上げると、前方に回りこむようにしたそれはこちらに向き直った。
 女だった。
 透き通るような白い肌に、足元まで伸びた銀の髪。
 人間的な要素を持ちながらも、人間離れした風貌。
 髪と同じ銀色の双眸は、感情を湛える事もなくこちらを見据えている。
 足先を地面に触れる事なく。
『これは』
 唇を開いて発せられた言葉は、何処か違う所から聞こえてくるような感覚だった。
『彼女が乗り越えねばならぬ試練』
「・・・誰だ」
『彼女は戻る。介入は得る力を削ぎ落とす』
「信じろというのか? こちらで10数える間に向こうでどれだけ時間が過ぎるか知ってるのか?」
『アルカトラズが彼女を守る』
「何だと?」
『彼女は戻る』
 それだけを呟くと、女の姿が消えた。
 これから彼が向かおうとしていた先へと飛行して。
 銀の光が余韻を残すようになびいて、後を追うように消える。
 一瞬の後、目も眩むような光が走った。
 結界が唐突な衝撃に悲鳴をあげるように、
 見えぬ筈の「それ」は歪み、亀裂を生じて破裂した。
「結界を・・・抜けた!?」
『我はピリオド。終止符を打つ者』
 風の余韻のように、声だけが聞こえた。



 村中が悲鳴に包まれていた。
 群集の右往左往する中、アメリアが呆然と空を見つめる。
 天を彩るのは、あまりに美し過ぎるオーロラの波。
 暗く冷たい空に神々しいほどにまたたいて、前兆を告げる。
 ――破滅の訪れを。
「――白夜が来る!」
 誰かが叫んだ。
「――消されちまう!」
 哀願にも似た絶叫が迸る。
 走り過ぎる男達と肩がぶつかって、アメリアはようやく我に返った。
 ハクヤを置いてきた場所へひた走ると、全く同じ位置に立っている。
 ただ首の向きをかえ、ゆらめくオーロラを冷静ともいえる様子で眺めていた。
「――ハクヤ!」
 名を呼ぶと、こちらを向く。
「白夜が来るの?」
 そうだと答える間も惜しく、手を掴んで走り出す。
「村の外まで出たらレイ・ウイングを限界まで飛ばすから、手を放さないで!」
「・・・たんだ」
 呟くハクヤを無視し、なかば引きずるように村の外まで出ると、もつれる舌で呪文を唱える。
 雪煙を舞い上がらせ飛行すると、何故か悪寒が背中を這い上がった。
「・・・おかあさんが」
 振り落とされないようにアメリアの服を掴んだハクヤが、それでも話す事をやめない。
「呼んでたんだ。白夜の中から」
 その言葉だけは取り巻く風に遮られる事なく、何故かアメリアの鼓膜に届いた。
 目を見開いたその直後、アメリアは術を唐突に解除した。
 風から解き放たれて、急降下して雪の中に突っ込む。
 その前方に――よく見なければわからないが――白い霧が手を伸ばしていた。
 文字通り、手を。五本の指が存在する巨大な手を。
「・・・・・・」
 アメリアがゆっくりと後方を振り返る。
 ――巨人。
 白い――それ以上の色をけして持ち得ない白い霧が、羽虫の集合体のように不定形に揺らめいている。
 その中央から枝分かれしたように伸びた一部が、人の手の形作り前方を遮っていた。
 気温のせいだけではない。
 震えが、止まらなかった。
 腕の中にきつく抱き締めたハクヤが、それをただ見つめていた。
「・・・おかあさん」
「――え?」
 聞き間違いではなかった。
 先ほどからずっと、母が呼んでいるとハクヤは訴えていた。
 それは白夜が引き起こす怪現象の一つだろうと、アメリアは決め付けていた。
「『あれ』が、ハクヤのお母さんだっていうの?」
 恐る恐る問うと、ハクヤが首を横に振る。
「中にいるの、おかあさん。苦しがってる」
 ともすると腕から抜け出しそうなハクヤを、きつく抱き止める。
 ――その瞬間、アメリアの表情が強張った。
 その体の感触が不意に、不確かに感じられた。
 人形を抱いているような、
 命のない無機物を抱いているような、
 不可思議な、魔力の波動――
「・・・アル・・・カトラズ・・・」
 口に出した瞬間、それが見えた。
 ハクヤの体が透け、その中心に浮かぶ短い剣。
 悲鳴をあげそうになった瞬間、ハクヤが腕から抜け出した。
 腕をゆるめてなどいない。抜け出た感触すらなかった。
 腕から抜けた少年は、向こう側が見えるほど透き通ったまま。
「――ハクヤ!?」
 振り返ったハクヤは、笑っていた。
「やっと思い出した。僕、変な剣にさわったら、急に意識がはっきりしたんだ」
 話す間にも、白夜の手は伸びてくる。
「それまでずっと、どんなにおかあさんを呼んでも気付いてくれなかったし、動けなかった。でも剣にさわったら動けるようになったの」
「・・・吸魂型・・・アルカトラズ・・・」
 アメリアが呆然と呟いた。
 高熱を出して倒れたのは、ホーリィ・ブレスの余波に間違いなく。
 アルカトラズで実体を得たハクヤを、白夜は追っていた。
 贄の一人であった母親が、息子を探していた。
「・・・・・・そんな」
 全てを悟って――絶望の言葉が漏れた。
「おねえちゃんごめんなさい。僕、やっぱり一緒に行けない」
 おかあさんを、見つけたから。
 その言葉と同時に、ハクヤの姿は霧に包まれた。

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14708Night with a midnight sun 7水晶さな 2003/7/22 21:34:34
記事番号14651へのコメント


 悲鳴を上げた。
 だが――そのつもりになっただけで、引きつった喉は音を発しなかった。
 アルカトラズが白夜の中に沈み込み、中心へとその位置を定める。
 白夜が身体を震わせ、咆哮をあげるような真似をした。
 霧が膨れ上がり、濃度を増し、破滅の色を強める。
 触れてもいないのに、漂う霧の気配が肌をひりつかせた。
 包まれたら、恐らく火傷では済まない。
「・・・・・・」
 震える手で――それでも印を結んだ。
 何の魔法でも効果を得られなかった濃霧。
 アルカトラズを心臓に据えた今なら――それを砕く事によりあるいは。
「永久を彷徨う悲しきものよ・・・」
 白夜はまだ動かない。
 感覚の無い足を、それでも叱り付けて立った。
「歪みし哀れなるものよ、我の浄化の光もて・・・世界と世界を結ぶ道」
 たどたどしくも呪文を連ねて、そして、
「歩みて永久に――」
 言葉が止まった。
 喉の筋肉が、ひきつったように動かない。
 ――何が、哀れなるもの?
 集まりかけていた魔力が霧散する。
 虚脱感を覚えて、膝を付いた。
「わたし・・・」
 自分が何をしようとしているのか。
 考えてしまった。だから唱えられない。
「わたし・・・は・・・」
 ――この手で・・・ハクヤを?
 ハクヤを飲み込んだ白夜は、再び前進しようとしていた。
 その軌道上のアメリアを、包み込むように。
「ハクヤ・・・わたし・・・」
 ホーリィ・ブレスを唱えれば、恐らく白夜は消滅する。
 だがそれで、何が変わるという?
 何が、救えるという?
 ――亡霊達を、永遠の苦しみから
 それは、偽善だった。
 彼女が最も嫌う言い訳だった。
「ハクヤ・・・私は!!」
 ――出来ない
 そう口にしようとした時、風が吹いた。
 背中から頭上を越え、前方へと突き抜ける衝撃。
 手を伸ばせば届きそうなほど近付いていた白夜に大穴を開け、向こう側へと。
 穴の向こう、空中で前転をしたらしい、逆さまな姿勢の人物と目が合った。
 白に溶け込むようにも見えた、銀の色。
 表情の無い顔。固く結ばれた唇。何も語らない、蒼い瞳。
『今、試される時』
 声が、空気を振動させずに伝わる。
『全ての運命が、定まる』
 脳に、響く。
 それが女性である事だけが判別出来た時、白夜に開けられた穴が閉じた。
「――!」
 その表面に浮き出たのは、子供だった。
 先程まで手を繋いでいた、少年の顔。
『おねえちゃん』
 人のものではなくなった声で、ささやく。
『迷わないで』
 この上なく、優しげな笑みを浮かべながら。
『――導いて』
 滅びでも、
 消去でもなく、
 還る為の、道しるべを。
『僕達を・・・導いて』
 伸ばされた小さな手に、
 求められるまま、アメリアが腕を伸ばした。
「・・・この世ならざるもの、罪なき迷い子よ」
 指先が、触れる。
 焼け付く衝撃が走っても、アメリアは伸ばした腕を止めなかった。
「救いの光を頭上に、汝の鎖を解き放たん」
 ただ、溢れるだけの言霊を紡ぐ。
 ハクヤを、既に人の形を留めていない少年を、力一杯抱き締めて、
「ここに――祝福があらんことを!」
 二人同時に、天を仰いだ。
「――ホーリィ・ブレス!!」
 爆発的に膨れ上がった『力』が、天から降り注ぐ。
 その光に打たれた個所個所、白夜に穴が開いた。
 今度は、塞がる事もない。
 骨まで響いた霧の痛みは、柔らかな温かい光へと変じていく。
 自分の腕をすり抜けて、ハクヤの体が浮き上がった。
「ハク・・・」
『ありがとうね』
「ハクヤ・・・」
 アメリアの頭を抱き締めて、ハクヤが慰めるように額を付ける。
 その感触すら確かではないのに、何故か温かさだけが伝わって。
『ありがとうね』
 もう一度呟きが聞こえた時には、既にその姿は無く。
 雪に変じた白夜の欠片が、光を放ちながら空に吸い上げられていくだけ。
 その幻想的にすら見える光景で、ただ一人地上に残されて、
 天を仰いだアメリアが、嗚咽をあげながら少年の名を呼んだ。

 ――もう、返事はなかった。

  

     部屋の灯りをすべて消して
     窓から見える夏の夜
     星が囁きやさしい風が
     つつみ込んで心を誘う

     とまどい続けて
     素直になれずにいたけど

     やさしさに初めて出逢った頃は
     この胸の奥がハガユク感じ
     何故か一雫の涙が頬を
     そっと伝わったよ
     それはあなたが心の中に・・・ふれたの



 歩く地面から、段々と白の色が消えていく。
 降雪がやみ、視界が開けた状態で、帰る道は考えずとも足が向かっていた。
 山間の、小さな森ともいえる木が密集した部分。
 その麓にさしかかった時、自分を待つように立っている彼に気付いた。
 足を止めた娘に、逆に歩み寄り、
 唇を開く気配も見せない彼女に、何も聞こうとはせず、
 ただ背中に軽く手を当て、歩く事を促した。
 その手の温もりに、何故か又、涙が溢れた。



     ふっと気づくと遠く見えてた
     空は明るくあたたかくて
     両手伸ばして抱きしめてた
     迷いも不安も消えていた

     あなたの存在が
     すべてを埋めつくしていた

     ずっと側にいたいと思う気持ちは
     次々と溢れ押さえ切れずに
     自然と素直に今変わる自分が
     伝えたい想い・・・
     それはあなたが心の中に・・・いるから



 歩いていたゼルガディスが、ふと立ち止まった。
 やおら地面に手を伸ばし、今しがた踏んだらしい雪の下の異物を掴み出す。
 尻尾を掴んで引きずり出されたそれは、雪まみれになった灰色の猫だった。
「何だお前、冬眠するのか?」
 逆さまの姿勢で目が覚めたらしい猫が、抗議の声をあげて四肢をばたつかせる。
「ちょっと動物虐待! 愛護協会に訴えるよ!!」
 振り子の要領で勢いよく顔に飛びつき、バランスを失ったゼルガディスが雪の上に引っ繰り返った。
 久方ぶりに始まった一人と一匹の子供も呆れる喧嘩を見て、
 呆然と突っ立って見ていたアメリアが唐突に笑い出した。
 思わず溢れた涙をぬぐい、それでも止まらない。
「・・・・・・アメリア?」
「・・・どしたのアメリア?」
 逆に手を止めた二人に問い掛けられても、アメリアは笑い転げていた。
 ――それは、包み込むような安堵だった。



     やさしさに初めて出逢った頃は
     この胸の奥がハガユク感じ
     何故か一雫の涙が頬を
     そっと伝わったよ

     ずっと側にいたいと思う気持ちは
     次々と溢れ押さえ切れずに
     自然と素直に今変わる自分が
     伝えたい想い・・・
     それはあなたが心の中に・・・いるから



 空の彼方、人の目の届かぬ空中に、
 長い銀の髪を風になびかせた娘が静止していた。
 感情を浮かべぬ顔のまま、ただ去っていった黒髪の少女を見送った後、
 静かに閉眼しその身を後方に投げ出した。
 ゆっくりと水に沈むような動作がしばし続き、
 輪郭がおぼろになり、空に溶け込むように消え失せた。


 ==============================


     「一雫」・・・songed by ZONE

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14714Re:Night with a midnight sun 7祭 蛍詩 2003/7/23 17:04:21
記事番号14708へのコメント

 こんにちは〜、祭です! すごく良かったですvv

 …セクレトさんが骨だったなんて(言い方悪いな)予想がつきませんでした! ハクヤ君…あうぅ、かわいそうですー。 アメリアちゃんも辛かっただろうなぁ、こっちもかわいそうです。
 んと、白夜が消える場面の情景のえがき方がすごく綺麗だと思いました。 んでもって、詠唱が素敵です! 水晶様の詠唱、良いなぁ、といつも思いますv

 そしてゼルさんがやさしいっvv(アメリアちゃん限定) おいたわしや、ルーさん(笑) うん、やっぱ可愛すぎですよv二人の小競り合いvv それにしても…ゼルさん、ルーさん踏みましたね?しかもその後、尻尾を掴んで引きずり出すなんて…ものすごい事を…(←でも笑った人) 
 ともかく、アメリアちゃんが笑ってくれて良かったですv 歌、とっても合ってますね! 曲自体は知らないんですけど。

 そういえば、銀髪の方は誰なんでしょうか? 伏線…になられるんでしょうか。
次が楽しみですv

 では、素敵な作品を読ませていただきありがとうございました。
 
 

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14717ありがとうございます(^^)水晶さな 2003/7/23 21:53:00
記事番号14714へのコメント


 コメントありがとうございます、水晶です。
 6話と7話は切りが悪かったので合わせてUPしました。
 ・・・ネタバレになってしまうので言えなかったのですが、ハクヤの父親はセクレトです。なのでコメントにはかなり驚きました(汗)。
 白夜自体がおどろおどろしい存在だったので、昇天シーンは浄化のイメージで書きました。呪文詠唱考えるのが好きなので気に入って頂けて嬉しいです。
 
 アメリアを迎えるゼルガディスとブルーフェリオスはいつもと同じな展開です。今回ブルーフェリオスは雪中に埋まったあげくに踏まれるという役回りしかしておりませんが(笑)。
 歌は歌詞のイメージでアメリアに合わせてみました。意外にしっくりきたので作者も驚きです。

 銀髪娘のピリオドは初登場ですが今後の伏線です。今回は顔見せです(^^;)

 終話までのお付き合いありがとうございました。
 次話は、予定変更がなければ「Precious Memories」で始まります。
 いつUPになるかはちょっと未定ですが、又お付き合いして下さると嬉しいです。

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14809Re:Night with a midnight sun 7R.オーナーシェフ 2003/8/3 14:12:18
記事番号14708へのコメント

どうも。さなさんとは初めてですね。
とても面白かったです。なんというか、ファンタジーの王道って感じのストーリーかな。こういうのは好きなんです。背景がとても美しくて、スレではめずらしいちゃんとしたヒロインやってるアメリアも魅力的です。最後に、呪文をやや変えて浄化結界を放つアメリアは、一瞬、本編最終巻でルークに竜破斬放つリナのイメージにやや重なって見えました。そして、その後に続く詩がすばらしい!まるでプロが書いたみたいだ!・・・と思ったらほんとにプロの人の詩だったのね・・・。ZONEは好きですが、気づきませんでした。
そして、ゼルの手は、温かかったんでしょうね。ガウリナもいいが、ゼルアメもええのう・・。

また、以前のものも読ませていただきました。キャラクターが凄いです。俺が小説を書く時に、メインはともかく、さらっとだけ出す脇役のオリキャラが上手く書けなくてキャラにならないな、って悩みを今かかえているので、勉強させてもらいました。オカマの海賊が強烈な印象に残っております。
ところで、魔剣アルカトラズですが、アルカトラズの語源ってなんでしょうか?
俺はどうしてもアメリカの監獄島を思い出して、収監されたアル・カポネとか、そこ舞台にした映画の中の、あの渋い某初代007や悲しき海兵隊准将を連想してしまうのですが。ルパン三世思い出す人もいるかな。でも、もちろん、直接つながるわけはなさそうなので、あの監獄島のネーミングの元になった別の神話か何かがあって、それかなと考えたのだがどうでしょう?

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14811ありがとうございます水晶さな 2003/8/3 21:20:33
記事番号14809へのコメント

 R.オーナーシェフさん初めまして、水晶です。コメントありがとうございます。
 夏場に冬背景の話を書くのは辛いものがありましたが、連載の流れ上飛ばす訳にもいかず・・・。アメリアは作者がフィルター越しに見ているので大分性格が変わっております(汗)。
 歌は映画の主題歌にも使われたZONEの曲です。書いている最中は別の曲を用意していたのですが、途中でこちらを見て変えました。イメージ的にしっくりきましたので挿入させて頂きました。
 あまりゼルアメを押し出していないので物足りない方もいらっしゃると思うんですが(^^;)、気に入って頂けたようで嬉しいです。

 海賊オカマ・・・「von voyage」のベティですね(笑)。あの話はキャラを多く出したので個性を強くしようと思ったら練り過ぎたみたいです(苦笑)。でも印象に残せたのはある意味正解でしょうか。

 アルカトラズですが・・・元は仰る通り監獄島の名前です。
 名前を借りる時は意味のあるものと語呂だけで取る場合とあるのですが、今回は後者です。
 深く考察されていたら申し訳ないんですが、名前自体にあまり意味はありません(汗)。中心に持ってくる物なら意味を加えても良かったと今更後悔はしておりますが・・・。
 
 御感想ありがとうございます。このシリーズはもう少し続くので宜しければお付き合い下さると嬉しいです。

 水晶さな 拝.

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