◆−資格−三剣 綾香(12/4-23:05)No.8284


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8284資格三剣 綾香 12/4-23:05

こんにちこんばんわ
綾香です。

今回はルークとリナの酒場での会話を収録てな趣向です。
ある意味良く似た二人の会話です
一応ガウリナのつもり。
シリアスです。

◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
資格

「―――一人か…?」
「―――まあね」

あたしは一人、グラスを煽っていた。
深夜の酒場、と言っても宿屋の一階なのだが。
いい加減酔っても良い頃なのになんだかぜんぜん酔えなかった。

―――あたし、お酒強くなっちゃったのかな。

へへへ
一人笑い声を立てる。―――酔えない理由が他にあること、しってたから。

目の前には八割方中身の消えた蒸留酒の瓶が一本立っている。
やばいなー、これ以上飲むと明日二日酔いかも。
酔ってる自覚はなくってもアルコールの害毒はきちっと降りかかる筈である。

―――やめよう。お酒に逃げたって何にも良いことなんか無い。ましてや酔えない酒なんかには。

背後から声が掛けられたのはあたしが席を立とうとした正にその時だった。
振り返ると見知った男の姿が佇んでいた。以前よりも闇の色が濃いように見えるその姿。

「―――ルーク」
「………」

彼は無言で闇の中からこちらに歩み寄り、そのままあたしの隣のカウンターに座った。
あたしももう一度椅子に座り直してカウンターの向こうにあった空のグラスを取って蒸留酒を注いでやる。
「――すまねえな」
「べつにいいわよ。」

「………」
「………」
それきり黙ってまたひとしきり杯を干す事に専念する。

「―――あんたはいつも何も言わないんだな」
何杯目かのグラスか空になった頃、ポツリと呟くようにルークが聞いた。

「………何を…言えってのよ……」
カウンターに半ばうつ伏せる様な体勢でグラスを弄んでいたあたしはやはりポツリと呟くように問い返した。

「だから!!」
「ん……?」
「”なんであんなやり方したんだ”とか”彼女はそんなこと望んでいなかったんじゃないか”とか”役人の手に委ねるべきだったんじゃないか”とか!!―――他の奴等みたいに、何で俺に言わない?何で何事も無かった様に俺と一緒に酒なんか飲めるんだ!?」

ミリーナが亡くなったあの事件から、一ヶ月くらいした頃からだったろうか。
あたし達の滞在している宿屋に、時折深夜の訪問者が訪れるようになっていた。
あたしは何も聞かなかった。一月ぶりに彼の姿を目にしてもただ黙って飲んでいた酒を勧めただけだった。

「なにを……言えるっての……?この、あたしに…」
もたれていた身を起して正面から彼を見据えた。

「そりゃあ、”なんであんなやり方したんだ”とか、”彼女はそんなこと望んでいなかったんじゃないか”とか、”役人の手に委ねるべきだったんじゃないか”とか、言うだけなら出来るかもね。」
だけど
「あたしには、あんたに何か言ったり出来る資格無いもの」
「資格…?」
「そ」

恋人を失ってその復讐に走ったルークになにか言う人は多いだろうが、あたしには言えない、言う権利も資格もない。―――本当はあの場面で彼を止める資格さえも持ち合わせてはいなかったのだ、あたしは。
あたしの普段と違う力無い様子に気圧されしたのか、一瞬沈黙したルークはやがておずおず、といった口調で問うてきた。―――こんな所は彼女が健在だった頃と変っていないようだ。
「聞いても……いいか?―――なんで資格ってのが無いなんて言うのか。……あ、いや、これは俺のほうこそ聞いたり出来る資格なんか無いんだろうけどよ」
ルークは微かに照れた様子で視線を遠くに移す。
最近の彼は時折こうしてやわらかな一面を垣間見せるようになっていた。傷が癒えているようには見えない。折り合いを付ける方法を学んだのだろう―――自分の心と。
「それでも、おまえみたいなやつが夜中に一人で、そんな顔して深酒してるなんて見ていて辛いぞ。話くらい聞いてやろうといいたくなる」

ふふふ
「な、なんだよ。笑うんじゃねぇ」
あたしが軽く声を立てて笑ったのを目にしてルークは更に顔をそらせた。
ルークは……やっぱり良い奴なんだね、ミリーナ。
ごめんね、ちょこっとだけ借りるから、怒んないでね。

「―――あたしはあんたにどうこう言える資格はないの」
「だからそれは何でだって――」

「あたしに」
ルークの言葉を遮る。

「あたしに聞いたわね?”自分と同じ立場になったらどうするんだ”って」
「あ、ああ……聞いた。―――すまねえ」
あたしの言葉にルークは辛そうに顔を背けた。
「何で謝るの?」
「あれは……あんたらに言ってもしょうがないことだった。……単なる八つ当たりだ。――答えようの無い問い掛けだったからな」

その人の思いはその人でなければわらない―――それを痛感した瞬間だった。
辛いだろう、悲しいだろう、やらずにいられないんだろう。そう推測することは出来た。
でも本当に本当の所は。ルークのことは、結局のとこルークにしかわからないのだ。
だから答えようが無かった。何を言ってもあたし達は第三者でしかなかったから。

何より、あたしには前科があったから。

「前科持ちって……どういうことだ?ガウリイの前に誰かいたのか?そういう奴が」

ふるふる

あたしは首を振る。こんなしんどい思いさせられるのは一人で十分だ。
ガウリイ以外の人間のためにこんな思いをするつもりなんてあたしには無い。

「”自分と同じ立場になったらどうするのか”考えるまでもなくあたしはその答えを持ってた。」

かつてあたしはその問いの答えを迫られたことがあるのだ――――サイラーグで。

結局ガウリイは失わなくてすんだし、冥王は滅んで世界は無事だった。
でもそれであたしのやったことが帳消しになるなんてことはない。

「ガウリイと、この世界。二つを天秤に掛けてガウリイを取ったのよ、あたし」

信じられる?星の数ほどの人が住むこの世界そのものよりも、たった一人の人間を取るなんて。

世界が無くなれば、その人だって結局は生きてはいられないだろうと今はわかるのに。


―――わからなかった、あの時は。


わかる余裕が、無かった。
……でも、そんな事はなんの言い訳にもならない。

金色の魔王は言ったそうだ。”尊き願い、真の意志、純粋なる心”によって具現した、と。
ガウリイを助けたい。その意志は純粋だった。

でもあの時ガウリイが殺されてたら?
あたしはきっと、ううん確実に願ってただろう。
冥王を
ひいてはガウリイを助けてくれなかった全てのものを
彼が存在することを許さなかった世界そのものを
―――破滅させてくれと。

それこそ純粋に。

「……だから、資格が無い、か」
「………」
暫くの沈黙。グラスを傾けるたびに響く氷の音のほかに何も聞こえない静寂。

「………なあ」
「なに?」
グラスを傾けつつ視線をながす。
「お前の相棒、ガウリイは知ってんのか?そのこと」
「そのことって?」

カラン

氷が音を立てる。
「その……お前の気持ち、とか。そのほかにもいろいろ、さ」
「知ってるわよ。あたしはあいつに何一つ言ったことはないけど、ガウリイはいつだってわかってくれてるわよ」

そう。ガウリイはわかってる。
いつでもどこでも、たとえどんな状況下でも、誰よりもなによりもわかってるのだ、あたしのことは。―――たぶんあたし以上に。

あたしの内にどれほどの思いが存在するのか。
あたしという存在がどれほど不安定な基盤の上に成り立っているものなのか。
あたしがあいつをどう思っているのか。
そんなことも全部。

―――あたしがこうして夜毎に深酒してるのもお見通しに違いない。
知らないふりしてて欲しい、ってあたしが思ってる事にも感づいてるんだろうなぁ、何にも言わない所を見ると。

「じゃあなんでこんな所で一人で飲んでるんだ?ガウリイんとこに行ってそう言えば良いじゃないか」
「そうして、さらに巻き込めって言うの?失えないってわかりきってる人を自覚する程に危険な人間の側に置いておけと、そう、言うわけ?」
ルークはあたしの物言いに言葉を失う。

「言えば、ガウリイが受け止めてくれるなんてこと、わかりきってる」
巻き込みたくない、そう思ってるのはあたしだけ。
ガウリイはむしろ巻き込んで欲しいとさえ思ってる。―――あたしがそういうのを待っているんだろう。
そんなことだってわかっているのだ。
だからこそ、出来ない、あたしは絶対に言わない。

降魔戦争の再現なんてことになったら、真っ先に矢面に立たされるであろうあたしの道行きに、ガウリイを同行させたくないのだ、あたしは。
「もちろんあたしは死ぬ気なんてさらさら無いわ。でもね」
それ以上にガウリイを死なせる気も無い。サイラーグではそのことを思い知らされた。
だから詳しい話をしない。少なくとも、あたしの口からは語らないのだ。

「最後の最後でガウリイを切り捨てる気か、あんた」
今まで黙ってあたしの話を聞いていたルークはポツリと呟いた。
「………」
「勝手だな、女ってのは」
あたしの無言の肯定を溜息交じりにルークはそう評した。
巻き込みたくない、でも離れたくない―――勝手と言わないでなんと言えば良いのか。

「あんたと…ミリーナ、は全然似てねえと思ってたけど、そういう変に強情な所は似通ってるのかもな。――それとも、女ってのは皆そういう所があんのかねぇ」
からかうような口調。だが彼女の名を口にする瞬間、辛そうに顔を歪ませたのがわかった。

「―――ごめん」
今度はあたしが謝る。
「なんで謝るんだ?」
「”あんたに言ってもしょうがないこと”あたしも聞いちゃったみたいだから、さ」
――答えようの無い問い掛け、”失えないってわかりきってる人を危険な人間の側に置いておけと言うのか”なんて。
そのせいでルークに辛い思いをさせたかもしれない。傷口に塩を擦り込むような真似をしてしまったかも。
「お互い様ってことで気にしねえでくれ」
「ありがと」

「で、こんな所で一人で酒を飲んでるってわけか?」
重過ぎる罪の意識。言えない言葉。失えない人―――その全てがあいまって、あたしから眠りの精を遠ざける。
アメリア辺りが一緒なら呪文で眠らせてもらうなんてのもありかもしれないんだけど、彼女は今セイルーンだ。
「眠れないんだもん、しょうがないじゃない?」
あたしの苦笑に、やれやれといったふうに首を振って懐から小さな珠の付いた首飾りを取り出した。
あたしはそれを見たことがあった。あれはいつもミリーナが身に付けていた首飾りだ。
「あんたにやる」
無造作に手渡されたそれにあたしは戸惑う。これっていわゆる形見ってやつじゃないのだろうか。あたしになんか渡しちゃって良いもののはずがない。
あたしはルークの意図を計りかねていた。
「でもこれ……」
「これは俺が作った物なんだ。ある程度の呪文を封じることが出来る。―――といってもこれはそんなに強いもんじゃないんで攻撃呪文とかは無理なんだけど、な。まあスリーピングくらいは封じ込められるから」
呪文で眠るなんて良いこととは言えないが、酒で紛らわせるよりは何倍も良い筈だ。
そう言ってルークはあたしの手から首飾りをとってあたしの首にかけた。
「でも………」
「あいつだって俺が持ってるよりも、あんたの役に立ってくれたほうが喜ぶ筈さ。だから気にしねえでくれ」
あいつもあんたらのことは珍しく気に入ってたみたいだからな。怒りはしないだろう。
そう言ってルークはまたグラスを煽った。


「そろそろ寝たほうがいんじゃねえか?明日も早いんだろ?」
「……そうね」
あたし達の前には既に空の瓶が何本も立っていた。
ルークがこう言い出したのは、彼なりにあたしを心配してのことだろう。
確かに今日は飲み過ぎだ、明日はさぞかし辛いに違いない。

あたしは素直に席を立った。
階段に通じる戸口に立って振り返る。
「んじゃあたし寝るわ。お休みルーク、話し聞いてくれてありがとね。―――それからこれも」
首にかかった珠を軽く掲げてみせる。
「あんたらには世話になってるからな。特にあんたには酒の相手までしてもらったり」
くす
それこそお互い様なのに。
あたしの微笑みにルークは意外なほど穏やかな表情で微笑み返した。

「俺は明日から別の道を行く。だからこんな風に酒を飲むのは今夜までだ。」
「そっか、お別れだね、ルーク」
「ああ。今度会う時にはあんたがこんな夜中に一人で酒なんか飲んでないことを祈っといてやるよ」
「ありがと。―――あんたもね、あんたも夜中にお酒の相手を探さないで済むように祈ってて上げる」
「サンキュ」

「んじゃ、またね」
「おお、あんたの相棒にもよろしく言っといてくれ」
「ん。わかった」




ルークと別れて階段を上る途中、上からの視線を感じた。
見上げると階段の一番上の段に座り込んでいたガウリイと目が合う―――いつから居たんだろうか。

「こんばんわ」

「―――おはようの間違いだろう」

静かな視線。
こういう時のガウリイが一番危ないって事をあたしは知ってる。
おそらく隣の部屋にあたしの気配がしないことに気付き、目を覚ました彼は、あたしがルークと飲んでるのを知ってここで待ってたんだろう。

「んじゃ、おはよう。ってことであたし寝るから。―――おやすみ」
あたしは自分でも勝手だと思う様な事をほざきつつガウリイが投げ出していた足をまたぎ越して部屋に入ろうとした。

「待てよ」

二の腕を掴んで引き止められる。
「なあに?」
さりげなくガウリイの腕から逃れつつ酔った振りをする(実際酔っていても不思議でないくらい飲んでるわけだし)。
「ごまかすなよ」
「なにお〜?」

言いながらくるっと振り返った瞬間、バランス感覚がおかしくなっていることに気付いた。
ありゃ。ホントに酔いが回ってきたかも。ガウリイの顔を見た所為だろうか。
くらくらする。これはまずいかもしれない。

「おい、大丈夫か?お前、今日はどのくらい飲んだんだ」
あたしの様子の変化に気付いたのか口調が普段のものに変る。
呆れと諦めをミックスしたような気配が伝わってくる。どうやらごまかせたようだ。

しかし……“今日は”ってことは、やっぱ気付いてたのか、あたしが夜な夜なお酒飲んでたこと。

「いっぱいだけぇ〜」
ほにゃ〜っとした口調であたしは答える。
あ゛あ゛あ゛明日が、じゃないや朝が、怖いかもしれない。二日酔いになることはほぼ確定である。
「一杯!?嘘付け」
倒れ掛かるあたしを支えつつ立ち上がり、軽く睨むようにする。
あたしはにっこりとわらってそれに答えた。
「ホント♪一杯だけだよ。………バケツに、だけど♪」
ルン♪
心底楽しそうに答えたあたしにガウリイは深く溜息を付いた。
「酒はバケツで量れるほど飲むもんじゃ無い―――ったく、強くも無いくせに」
言ってひょいっとあたしを抱き上げた。
「なぁに?」
アルコールに捕まっていたあたしには、いつものように照れたり暴れたりする余裕が無かった。
大人しく抱き上げられたままガウリイを仰ぎ見る。
「階段から落ちる。送ってやるからさっさと寝ろ」
「はぁい♪」

ゆらゆら、なんだか気持ち良い。この後二日酔いになるわけだし、もう少し気分の良さにはまっておこう。
歩き出そうとして、初めてガウリイはあたしの胸元にある首飾りに気付いたらしい。じっと見詰めている。

「なぁに?」
「お前そんなの持ってたっけ?」

あたしは小さな珠を両手で包む様にして胸に抱いた。
「これはね、ルークがくれたの。」
「ルークが?」
「ん。ミリーナのかたみなの」
「ミリーナの……?お前が貰って良かったのか?」
「ん〜わかんなぁい。あたしもそうおもったんだけどぉ〜るぅくがいい〜っていうからぁ」

ああ、あたしは本格的に酔ってしまっているようである。思考回路の回転がいつもの半分以下のスピードまで落ちてるらしい。
今ならガウリイと良い勝負かもね、などとしょうもないことを考えて一人でくすくすと笑ってしまった。
ガウリイが溜息を付く。
「まあ、折角貰ったんだから大事にするんだぞ」
「ん♪」

ガウリイは知らない、どうしてルークがこの首飾りをあたしにくれたのか、その本当の理由を知らない。
知ってたらたぶん、怒るだろう。”むちゃするな”と。無理矢理眠るのが身体に良い筈はないから。
けど、あたしが夜な夜なお酒に溺れてるよりは良いだろうと思う。
あたしがルークのように自分の心と上手く折り合いを付けられるようになる迄は黙っていよう。
そう、思った。

「ルークが、ね……」
半ば眠りかけながらあたしはガウリイに囁いた。
「ん?」
あたしの部屋のドアを開けながらガウリイが返事をする。
「あたしの相棒……ガウリイに…よろしく……って…」
そっと寝台の上に降ろされてあたしは本格的に意識を手放した。
「相棒、ね――――」
ガウリイの呟く声とその溜息を聞きながら―――――――――

end

◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
と言うわけで
終了です。
暗い話かな〜やっぱり。

こんどはまた甘めの話でも書こうかしら………
どう思います?

ラブシーンがないと話が重くなるなあ……

と、言うわけで

綾香でした。

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