◆−哀夢 踊る−白いウサギ(2/13-01:33)No.6286
 ┣哀夢 踊る 1−白いウサギ(2/13-01:36)No.6287
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    ┗Re:来年受験って・・・!?−模型飛行機(2/20-16:50)NEWNo.6337


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6286哀夢 踊る白いウサギ E-mail 2/13-01:33


 ある日、不可解な事件が起こった。
 ……誰だそこでいつものことだろ、って、言った奴は……
 ……………否定はしねーけどな。
 ともかく。
 その不可解な事故とは、めちゃくちゃ感度の悪い強制通信だった。
 映像は出ないわ、声はくぐもってるわ……
 おまけに何だか変なこと言いやがるし……
 またまたやっかい事か?
 ふとうんざり思った俺にその通信はとんでもないことを言い出した。
 『助けて』……って、お前……名前ぐらい言えよ……
 まさかただ働きさせよーって魂胆じゃあ……?
 ともあれ、ほっとくわけにはいかずに俺はその通信の発信源の星へと降り立った。
 まず最初に飛び込んできたのは………馬鹿高い停泊料だった。
 どーでもいーが……せっかくの報酬、パーになるんじゃねーだろーなっ!

 ロスト・ユニバース長編 『哀夢 踊る』

  1 プロローグ
  2 ウォーク
  3 駆け引き(タクティクス)
  4 ミクラーダ
  5 ベール
  6 盗人(シーフ)
  7 エピローグ
  8 あとがき
  9 『?』


 P.S ブラントンさんへ リクエストありがとうございました(^^)


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6287哀夢 踊る 1白いウサギ E-mail 2/13-01:36
記事番号6286へのコメント

1 プロローグ


 ここはソードブレイカー。
 ケインがキャナルにいぢめられたり、ミリィが厨房を破壊してキャナルを困らせたり、キャナルが必要のない物をねだったりと、いつも通り、平和な毎日が過ぎていた。
 ついこの間、成功報酬が高い依頼を片付けたせいで、ミリィの顔も明るい。
「今度こそ給料貰えるわね♪」
 にっこり笑って紅茶を一口。
 貰えて当然のことなのだが、今まで貰えなかった日が多かったせいでその常識がすっかり抜けている。
「お金が沢山入ったところで、ケイン、欲しい物が有るんですけど♪」
「お前は金無くても買うだろーがっ!
 絶対買わんっ!」
 キャナルに向かってケインはきっぱり言い放ち、マントを翻して操縦室(コック・ピット)から出て行こうとする。
 その瞬間――船体が揺らいだ。
「こっ、こらキャナルっ!
 いくら買って貰えないからって船体をぐらつかせんじゃねーっ!」
「わたしじゃないですよっ!
 今だとミリィが紅茶こぼす危険性があったんですよ!
 そんなことやるわけ無いじゃないですかっ!」
「……そーゆー理由でやらんのか……?
 ………って、じゃあさっきの揺れは何だっ!?」
 船体全体が何かに引きつけられるような感覚がしたのだ。
 ちなみに、このソードブレイカーの性能は他の船とは比べ物にならないほどである。
 ――いや、比べるのもおこがましい。
 なにしろ、この船は現在の科学力では決して作れない船――過去の文明の遺産、遺失船(ロスト・シップ)であるのだ。
 もちろん、慣性緩和システムも衝撃吸収システムも並外れた物である。
 そのシステムを突破し、衝撃を加えたのである。
 昔、20世紀の頃よく言われた、太陽風の様な物ではない。
「今検索中ですけど……どーせ、大したことじゃ………って、あれ?」
 珍しく驚きの声を上げるキャナル。
「どーしたの?」
 こぼしそうになった紅茶をすすりつつ、その様子を追うミリィ。
「いや……故障じゃなきゃですけど……いまだに船引っ張られてます」
「はぁ?」
 ケインが間抜けな声を上げた。
「ですから……さっきの衝撃、何かの引力かなんかに捕まったようで、そのまま……」
「故障……してないよな……?」
 さすがに自信なさそうに言うキャナルに一応聞くケイン。
「違います……ね。正常です」
 ディスプレイに映った文字の羅列を高速で眺めながら、言うキャナル。
 もちろん、コンピュータの主制御システムであるキャナルにそのような仕草は無意味なのだが、妙に凝り性ならしく、無意識にやってるような感じがするほど自然に出てくる。
 もちろん、本当に無意識なのかも知れないのだが。
「……じゃあ、何に捕まってるの?」
「……ウォーク惑星の何処かですね」
 こんな所まで引力が届いてると言うことは、惑星の引力の中心には何か異変が起きてるはずなのだが……
 キャナルはウォーク惑星のニュース・ネットに介入した。
 どうやらそんな情報はないようである。
 ――と、言うことはここだけ引力が働いてる?
 ふとそんなあり得ないことがキャナルの脳裏に浮かぶ。
「一応聞くが、引力の影響範囲からの離脱は出来るよな?」
「ええ。それは間違いなくできますよ。
 ただ……おんぼろの船だったら惑星に不時着するか、最悪の場合、沈みますね。
 この力では」
「一体何でそんな引力が働いてるのよ?」
 飲み干した紅茶を置き、聞くミリィ。
「わかりませ……」
 ――唐突に。
 ソードブレイカー内部に雑音が入る。
『強引にすみません。
 見ず知らずの人にこんな事頼むのもおかしいとは思いますけど――』
「……強制通信です」
 キャナルがぽつりと言った。
 映像はブレてどんな姿か見えない。何とかわかるのは音声のみである。
 しかしその音質すら悪い。
 映像は白と黒の波に飲まれ、所々に姿らしき物が映っては消え、映像が上から下に細い線として流れるのみの場合すらある。
『助けて下さい。お願いです。
 今この――』
 後には雑音が続き、やがてそれも聞こえなくなる。
「……何か一歩的に喋って一方的に切れちゃったわねー」
 ぽりぽりと頬をかきながら言うミリィ。
 もちろん、向こうは切りたくて切ったのではないだろうと言うのはわかってはいたが、よくゲームやアニメとかで見る、『世界の危機を告げるお姫様』みたいなセリフで呆気にとられたのである。
「確かに何も言う暇もなかったが……」
 同じく呆気にとられた状態のケイン。
「――で、どーします?助けに行きますか?」
 言われて見合わせるケインとミリィ。
「やっぱ……」
「ほっとくわけには……いかないよなー……?」
 この上もなく自信なさげに言うケインとミリィ。
「……今のは広範囲無差別型――つまり全周波に向けた通信みたいですからねー。
 相手は私達のことなんか気付いてませんよ。
 場合によっては誰も聞いてない可能性もあるタイプですから。
 何も聞かなかったことにしてこのまま通り過ぎるって手もありますけど」
 ミリィは頬に一筋の汗を光らせた。
 ソードブレイカーに乗り込んで一日や二日ではない。
 キャナルの性格はある程度は知っている。すなわち――本気。
 ケインはキャナルのその魅力的な一言に一瞬傾きそうになるが、何とかこらえる。
「人間としてそーゆーわけにもいかねーだろ」
 どかっと操縦席に座るケイン。
 手をコントロールパネルへとのばす。
「でも……ウォーク星ってめちゃくちゃ船の停泊料金が高いんですよ」
 ぴくっ。
 ケインのコントロールパネルへと伸びる手が止まった。
 ミリィも微かに動く。
「一週間も停泊すれば前回の依頼料全て消えるぐらいですねー」
「なにぃぃぃぃっ!!ンな馬鹿高いのかっ!?」
 慌てて操縦席から振り向き、キャナルの方を向く。
 キャナルは構わず額に手を当てて首を左右に振り、
「まぁケインが『人間としてほっとくわけにはいかない』とまで言う覚悟がある以上、費用は全て、ケイン持ち、とゆー事で」
「う゛っ……」 
 低くうめき声を上げるケイン。
 前にそう言ってしまった以上、やっぱり金がもったいないので止めるとは言えない。
「ああああああっ!今度こそ給料出ると思ったのにぃぃっ!きゅうぅぅぅりょぉぉぉっ!!」
「でぇぇぇいっ!!
 目標、ファイザ星系、第四番惑星、ウォーク惑星っ!
 ソードブレイカー発進っ!」
 ミリィの叫びを無視し、殆どやけに言い放つケイン。
 ソードブレイカーは漆黒の海を泳ぎ、ウォーク惑星へと向かった。

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6288哀夢 踊る 2白いウサギ E-mail 2/13-01:46
記事番号6286へのコメント

2 ウォーク

 ファイザ星系第四番惑星ウォーク。
 一言で言うと辺境の星である。
 それでも昔は資源が豊富で、あっちこっち掘り出され、それなりに発展していた。
 しかし資源が永遠にあるわけはなく、やがて底をついた。
 自然も昔はあったのだが、その発掘作業の盛んさが裏目に出て、気付いたときは自然は消え失せ、公害が蔓延し、手遅れとなっていた。
 この辺りは人類発祥の地、地球と酷似している。
 人間、反省力という物は目先の金銭の前では無力に等しい。
 そんなこんなで、ウォークはどんどん落ちぶれ、星を捨て、新しい星を求めて飛び出す若者は後を絶たない。
 ある程度年を重ねた者は、住み慣れた星を離れたくない、星を出るほどの行動力、経済力がない、等と理由は様々だが、ほぼ星に留まっていた。
 おかげでこの星の平均年齢は上がる一方である。
 科学力が発達し、労力が昔ほど必要のない世の中となったと言えど、やはり働き手となる若者を求め、所々に娯楽用の店を作ったりと努力はしているがいまいちうまく行かない。
 ところが、である。
 近年、ウォーク星の郊外に何かの会社が設立された。
 ――ミクラーダ社である。
 何故『何か』と、曖昧な表現をしたのかと言うと、答は簡単。
 内部の事情、仕事が外部にまるっきし秘密なのである。
 例えば、建てられた建物が、事務所、または研究所だと言うことすら発表しない。
 それ以外にも注目されている理由は山ほどある。
 その会社の設立以来、働きに若者が会社付近に住み始めたのだ。
 住民も増えていき、やがて公共施設も充実して、まるで都市のようになってしまったのである。
 ミクラーダ社の周りに家が建ち、店が建ち、発展していった。
 奇しくも、このウォークはミクラーダ社によって立ち直りはじめていた。
 ケイン達が降り立ったのも、そんな街の一角である。
「ミリィっ!とっととさっきの一方的な奴探しに行くぞっ!」
 マントが怪しいナイスガイ、ケイン。
 今は真昼。
 はっきりと日に映し出された真っ黒なマントをたなびかせ、町を疾走する姿はこの上もなく怪しい。
「探し出すって住んでる場所はもちろん、名前すら知らないのにどーやって調べるのよぉっ!?」
「………そーいやそーだな」
 ぴたり。
 ケインを追いかけて全力疾走していたミリィは数歩たたらを踏む。
「……考えも無しに走り出さないでよ……」
 肩で息を付き、膝を両手でつきながら息を整えるミリィ。
 そんなミリィの肩にケインは優しく肩に触れ、見上げたミリィの目をひたっと見つめる。
「いいか、ミリィ――とっとと探し出さないと給料に響くぞ」
「それはすんごく良く理解してる」
 ぱたぱたと手を振るミリィ。
「自慢じゃないけど……今まで良くあったことだから」
 後半はかすれるような声で言うミリィ。
 本気で自慢ではないが、自分のせいでもあるわけだし、ケインはツッコミを入れるのを止めた。
「まあ確かに無目的走り回ってもあまり意味ねーな」
 辺りを見回しながら言うケイン。
 行き交う人の数はあまり多くない。
 この星にしては珍しく、子供がボールで遊んでいる姿も見えるが、ケインやミリィにとっては決して珍しくなかったので気にも止めない。
 20やそこらの男性も見えるが、聞き込みをしてみるにしても、さっきのいい加減な通信では『どっかで助けを求めてる女の子』は居ないか、と訪ねれば怪しまれること間違い無しである。
 ――そう言えば。
 ケインはふとあることに気付き、手首の腕時計についた通信機に口を近づける。
「こちらケイン。キャナル、聞こえるか?」
 しばしの通信音の後、
『こちらソードブレイカー、キャナル。
 聞こえてますよ。どうかしましたか?』
 はっきりとしたキャナルの声と映像がケインの手首から現れた。
 現在ソードブレイカーは衛生港に停泊してある。
 停泊所の隣にある、料金メータをかなり座った目つきでぼーっとキャナルは眺めていたのだが、ケインはそれを知らない。
「さっきの変な通信のことだが……発信場所検討つかないのか?」
『だから、その辺りって言ったじゃないですか』
「いや……ちょっと大雑把すぎてな……まぁ時間をかけりゃみつかるかも知れんが、そーゆー訳にもいかねーだろ?」
 ――確かに。
 キャナルは料金メータを映し出したモニターをちらりと見て、溜息をつく。
 いくらケイン持ちとは言ったものの、自分に全く関わりのないことでもないので、お金が減っていくのは気がかりなことであった。
 それに。
 こんな風に話している間にもメーターは上がり続ける。
『うーん……そーですねー……あ、そうだ。
 さっきのノイズだらけの映像修正してみます?』
「出来るのか……?」
『まぁ、あまりにも映像が酷いですからねー……しばらく時間がかかりますよ。
 終わり次第、連絡入れますね』
 出来るなら最初っからしろとツッコミを入れたいとこだが、何とか心の中までに止めておくケイン。
「わかった」
 手首のスイッチを切るケイン。
 時間がもったいないが他に手は無さそうである。
「ケイン、ちょっと今気付いたことあるんだけど」
 ミリィが唐突にケインに声をかける。
「さっきの通信、イタズラだったりして」
 ぴくくくくっ。
 確かにあり得ないことはない。あり得ないことではないのだが――もし事実なら停泊料金払い損である。
 それだけは認めてはいけなかった。
 言ったミリィもそんな者のために給料を失いたくないのは同じである。
 ケインはミリィの所へは振り返らず、前へゆっくりと歩き出す。
「はっはっは。もしそーなら――斬る」
 ケインの背中の放つ雰囲気にアブナイものを感じ、ミリィの顔がひきつる。
「ま、まぁ……それはないと思うけど……
 ……って、何処行くのよ?」
 すたすた不気味な笑い声を上げながら歩くケインに声をかけるミリィ。
「キャナルから映像送られてきた時、何処で聞き込みすりゃいーのかわからなかったらまた時間の無駄だからーが」
 くるりと振り返るケイン。
 そしてまたすぐ前へと向き直り、すらすたと歩き出すケイン。
「ちょっ、ちょっと待ってよっ!」
 置いてけぼりにされそうになったミリィは慌てて後を追った。

「ここで最後だな」
 ケインは町のとある酒場の前に立ってそう言った。
 情報を集めるのには酒場が一番である。
 特に、あーいった訳ありの人を捜すには。
 あのあと、この辺りの地図を設置されていた端末で地図を表示し、酒場やら何やら適当に人が集まりそうなところをチェックし、一軒一軒まわってきたのだ。
 さりげなく有料の表示が出てきたとき、ケインが機械を蹴っ飛ばしたのは余談である。
 そんな短気なケインが血の気が多い奴、よそ者を見たらからまないと気の済まない奴が沢山居る酒場に入ったら全ての店で騒動が起きる。
 それを見越して、ミリィが中まで確認せず、場所だけにしようと言いだし、ケインはそれを承諾した。
「思ったより多いわねー……ケイン。呼び出し音鳴ってるわよ」
 言われて手首のスイッチを入れるケイン。
「ほいよっ。キャナル、出来たか?」
『ええ。映像出来たんで今ミリィの所へ送ってます。
 それで時間がかかった理由でも有るんですけど――』
 言われてミリィは懐からラップトップ式のハンディパソコンを取り出す。
 確かにデータが送信中のようである。
「何かわかったのか?」
『……映像が出来たんで、この町の役場に強制浸入(ハッキング)してみて、データと照らし合わせてみたんですけど……無いんですよ。その資料が』
 さりげなくハッキングなどとゆー違法的行為を言うが、別に迷惑をかけるもんでもなし、と、ケインは特に気にしない。
「ない?」
 訝しげに問うケイン。
『はい。ありませんでした。
 ここに住んでいないのか、それとも届け出を出さずに住んでいるのか……どっちにしろ、これ以上は調べようはありません』
「……何かいきなり不安になってきた……」
 キャナルの言葉に反応するミリィ。
 先ほどイタズラではないかとふざけて言ってみたものの、こーなるともしかして当たってるんじゃないかと不安になるのも当然のことである。
「まぁ調べようがねーんじゃしょーがねーな。
とりあえず適当なとこあたってみる」
『わかりました。では何かあったらまた連絡して下さい』
 ――連絡がなければ私の出番は船の外ではありませんので。
 等という作者的なネタは置いといて。
 通信を切り、ケインは目の前の酒場へと入って行った。

 中は異様に賑やかだった。
 今は丁度昼食時。
 こんな時間に酒場でたむろするなと言いたいところだが、ケイン達もここに居る以上、何も言えない。
 それに、どうやら酒場兼飯屋のようなので仕方がないと言えば仕方がないのかも知れない。
 むせ返るような煙草の匂いと熱気に、ミリィは思わず少し立ち止まった。
 そんなミリィに気付いてか、気付かずか、ケインも立ち止まり、店内を見回す。
 店内はこじんまりとしていて、お世辞にも広いとは言えない。
 所々に何か正体不明のシミがあるが、一応掃除などはしているらしく、それほど汚いという印象は受けない。
 奥にはカウンターがあり、何人かの男が昼間っから酒を飲んでは、馬鹿笑いをあげていた。
 手前には四人かそこら用のテーブルがいくつかあり、何人かの人が昼食を取っていた。
 見知らぬケイン達の様子をちらりと見る者もいたが、すぐに思い思いの場所へ視線へ戻し、何事もなかったかのように食事を続けた。
 どうやら入ってすぐ乱闘、等と言うことはなさそうである。
 ミリィは心底ほっとした。
「いらっしゃいませ」
 ここのウェイトレスだろう、営業スマイルを浮かべてケインとミリィを交互に見る。
「お二人様ですか?」
「ああ」
 こくんと頷くケイン。
 ウェイトレスに案内され、二人は四人用のテーブルの方へと通される。
 テーブルに座ると、丁度店内がうまく見渡せる位置で、おまけに少し横を向くと窓から外が良く見える。
 軽い食事を注文して、ケインはミリィに話しかけた。
「ミリィ。さっきキャナルから送ってもらった映像、プリントアウトできるか?」
「もうしてる」
 いつの間にパソコンを取り出したのか、正面に座る助手はすでにプリントアウトした紙をケインに手渡した。
 ケインはその写真を覗き込み一瞬絶句する。
「……ガキじゃねーか……」
「……そだね……」
 はぅ……
 二人は同時に溜息をついた。
 写真に写っているのは外見10歳ぐらいの女の子。
 しかし。
 先ほど通信した時の口調はとてもそんな歳ではなかった。
「……どー考えてもおかしいよな」
 言って、ケインは運ばれてきたジュースを一口。
「そりゃそーよね。
 またやっかいなことになりそーなのはわかりきってるとして……」
「……わかりきってるのか……?」
「当然じゃない。ケインと一緒に居るんだから」
 呟くケインにミリィはさも当然のように言った。
 思わず溜息をつくケイン。
 心当たりがありすぎるのでそれ以上触れない。
「まぁ……それはともかくとして、だ。
 結局は聞き込みしなくちゃいけないんだが……っと!?」
 頭に飛んできたグラスを慌てて避けるケイン。
 通過したグラスが窓にぶちあたり、破裂する。
「な、何……!?」
 ミリィがその飛んできた方向に目をやると――そこは戦場と化していた。
 何かのいざこざがあり、乱闘騒ぎになっている。
 その流れ弾がさっきのワイングラスなのだろう。
 元々血の気の多い連中である。
 ほっといたら疲れるか、どちらかが倒れるまで終わらない。
 途中、馬鹿馬鹿しさに気付いてどちらかが折れるのを期待するには多少無理があった。
 そして。
 ここにも血の気が多い奴が一人――
「てめーらぁぁっ!俺のマントに傷が付いただろーがっ!」
 立ち上がり、ばさぁっとマントを翻すケイン。
 よく見ると、窓に当たって砕けたグラスの破片がほんの少し傷を付け、ビール瓶の口ほどの穴が開けられている。
「あああああああっ!やっぱりぃぃぃっ!」
 ミリィは頭を抱え込んで絶叫した。
 しかし、変な通信に踊らされ、馬鹿高い停泊料を払わされ、おまけに依頼料が出なそーだという、実に精神衛生上悪い状況に追い込まれ、ストレスがたまりまくっていたケインは止まるはずもなく、騒ぎの真っ直中へと突っ込んで行く。
 ケインはとりあえず、と、正面で騒いでた男へ体当たりをかける。
 どんっ!
 背後からの完全な不意打ちに男はまともに吹っ飛び――
 どぐわっしゃぁぁぁぁんっ!
 テーブルへと突っ込んで、そのまま動かなくなる。
「なっ、何だてめえはっ!?」
 さすがにそれに気付き、周りにいた男がケインを睨む。
 しかしそれに臆するようなら最初から問答無用で体当たりなどしない。
「やかましいっ!
 人に名を聞くときは自分から名乗るもんだろーがっ!」
 男は一瞬むっとしながらもきちんとケインの方へと向き直り、胸を張る。
「へっ。聞いて驚くなよっ!俺の名は――」
 どげっ!
 セリフの途中でケインの靴底が男の顔面へとめり込む。
 男は何が起きているのかわからぬまま、背中から床に倒れ、気絶した。
 必殺相手を名乗らせて、その途中で攻撃っ!
 とことん卑怯だが、そんなことを気にする必要のない相手だとケインは判断した。
「てっ、てめえっ!
 自分から名乗れと言っといてっ!」
「俺は気が変わりやすいんだっ!覚えとけっ!」
 言って、テーブルの上にあったビール瓶をひっ掴んで放り投げる!
 ぐぅわっしゃぁぁぁぁんっ!
 ビール瓶は男の顔のすぐ右を通り過ぎ、壁へと当たり、けたたましい音を立てる。
「ちっ!運のいいっ!」
 おもいっきし悪役のセリフを吐いて、側にあったワイングラスを掴む。
「そっちがその気なら――」
 目元に切り傷のついた男がテーブルの上にのっていた、湯気付のステーキを鉄板ごとケインに向かって投げつけた。
 20世紀の出版物の中にある、某女魔導師が見たら説教しながら暴れそうな状況だが、それを気にする者も、それを止める勇気ある者もこの場にはいない。
 かくて。
 物の投げ合い合戦が始まった。

「何をしているっ!?」
 ケインと男達がさすがに疲れはじめた時、その声は聞こえた。
 入り口に目をやれば、宇宙警察の制服を着た、一人の男。
 レイル=フレイマー。
 宇宙警察(ユニバーサル・ガーディアン)の若き警部である。
 今まで何度か仕事上、ケイン達と関わってはいるが、ケイン、レイル、両者認める『腐れ縁』
「よぉ、レイル。
 お前、何処でも俺の周りが騒ぎ起きた時仲裁に来てるが……趣味か何かか?ひょっとして?」
「………………………」
 言われて沈黙するレイル。
 いつしかレイルの言ったセリフを今度はケインが皮肉たっぷりに言った。
「はぁい」
 カウンターの奥に避難していたミリィもレイルに向かって手を振る。
 とりあえず警官はレイル一人のようである。
「ケイン……お前よっぽど留置所が好きらしいな……」
 う゛……っ!
 言われてさすがにひきつるケイン。
 前に留置所にぶち込まれたときは、やっかいな組織がらみの仕事をタダで引き受けさせられたり、キャナルには高い兵器を買わされたりと、良い思い出はない。
 後ずさるケインに、レイルがゆっくりと歩み寄る。
「とりあえず――署まで来て貰おうか」
「あ。一緒にお酒飲みません?」
「よろこんで」
 にっこり笑ってビールの瓶を差し出すミリィ。
 レイルは即答し、一瞬でカウンターのミリィの隣の席へと移動する。
「……レイル……お前そのうち人生踏み外すぞ……」
「お前に言われたくないな」
 言って、ミリィに注いで貰ったビールを一口するレイル。
 知っているとは思うが、勤務中の飲酒は御法度である。
「てめー俺を何だと……」
 ジト目で見ながらレイル、ミリィの方へと近付くケイン。
 そんなケインを無視して、ミリィはレイルにプリントアウトした先ほどの写真を見せる。
「この子知りません?」
「――!?――」
 険悪なムードを紛らわすために見せたのだが、どうもレイルの様子がおかしい。
 レイルの表情を見つつ、ミリィはビールを口に運んだ。
「ケイン……お前の船のコンピュータの外見のこともあるから、もしかしたらとは思っていたが……」
「は……?」
 訝しげな表情で言うケインにレイルは至って真剣な口調で、
「とうとうロリコンに走ったか」
 ずりりりっ!
 ぶぴゅるぃっ!
 ケインがバランスを崩したのと、ミリィがビールを吹き出したのは同時だった。
「……あ、あのなぁ……」
 テーブルに手を当て、何とか立ち上がるケインにレイルは台詞を言わせずに言い募る。
「言い訳は署で聞こう。立派な犯罪だ」
「ちょっと待てぇぇぇぇぇぇっ!!」
 レイルはケインの絶叫を無視し、今度は何とか咳き込むのも収まったミリィに向き直り、
「ミリィさんも一応来て下さい。いろいろと証言してもらいたいこともありますし。
 コーヒーぐらいなら出せますし、夕食なら僕がよろこんで奢りましょう」
 さりげなくミリィをナンパしつつ、ケインの腕をひっつかむ。
「いや……あの……」
 額に汗しながらも何とか誤解を解こうとするミリィの言葉が見つかる前に、ケインがレイルに呼びかける。
「おいっ!レイルっ!」
「お前にはコーヒーなんか出んぞ。水すらも出ん」
「人の話を聞けぇぇぇぇぇぇっ!!」
 その日店内にケインの声が響いたのは、そのセリフが最後となった。
 ケイン達と騒いでいた男達は呆気にとられて様子を見ていた物の、ケイン達が居なくなったと同時に、何事もなかったかのように酒を飲み始めた。
 ――薄ら笑いを浮かべて。
 破壊されまくった店内をぼーぜんと見渡すウェイトレス。
 涙しながらちりとりとほうきを取り出す店の主人。
 その様子に気付いた客はただ一人としていなかった。

 店の片付けも一段落ついた頃、一人の男がカウンターで酒を飲んでいた。
 紺色のビジネススーツをきっちり着込んでおり、ご丁寧にネクタイまでしている。
 少し茶色がかかった金髪、整った顔立ち。
 それなりのハンサムで通用するだろう。
 眼鏡を通して見えるその瞳は澄んだ空色だった。
 周りのごろつきの服装や態度、店内の内装、周りの雰囲気を完全に無視した男は、はっきり言って目立っていた。
 先ほどの騒動の時、ケインにいきなり体当たりを書けられた男が鬱陶しそうにその男を見る。
 そんな視線を知ってか知らずか、度の強いウィスキーを口に含んだ。
 別にやけ酒をしている様子でもなさそうだし、昼間から酒を飲む不良にももちろん見えない。
 視線は動かず、ずっとカウンターの奥の瓶棚の方へと向けられている。
 ぼーっとしているわけでもなければ、瓶棚の何かを探しているわけでもない。
 別に他に見る必要はないからただそこに視線を置いてるといったような感じだ。
 強い意志のこもったようなその瞳はしばらくその方向を向いたままとなる。
 男がまたウィスキーを口に運んだとき、店の入り口からどこかの会社の制服のような物を着込んだ男が二人、入ってきた。
 二人は店内を少し見回し、そしてその男の所で視線を止め、寄って行く。
「困りますよ。ウィオールさん。
 こんな所にいては……」
 ウィオールと呼ばれた男は、隣に立って話しかけてくる男には向かずに変わらぬままで、言った。
「まだ休憩時間は過ぎていない」
「それは……そうですが……」
 言葉に詰まる制服姿の男の一人。
 どうやら上の者に命令されただけで事情は知らないらしい。
 ――仕方ない。
 ウィオールはウィスキーを一気に飲み干した。
「わかった。これから戻る」
 支払いを済ませ、一人出店を出て、元来た道へと戻る。
 ――『ミクラーダ社』のビルへと――
 
 男はスーツの上に、ミクラーダ社の制服を着込みながら、正面玄関から入って行った。
 正面に受付の社員と出逢う。
「ウィオール=ビクティムだ。休憩時間を終え、今戻った」
 端的に言い放ち、制服を整える。
「社員コード 82345218 」
 ウィオールの言った通りに、受付係となった新米の社員は慣れない手つきながらもそれを入力していく。
 ただ、指定の枠の中に番号を入力すれば良いのだ。
 誰にでもできる、簡単な仕事だったが、新米なので仕方のないことと、当然ながら受付係は大して感慨も込めずにキーボードを打っていく。
 やがてディスプレイからウィオールの写真が現れた。
 間違いない。本人である。
 その写真が現れた後、CGと音声が流れ出す。
 ここ、ミクラーダ社の主制御システムである。
「社員コード 確認しました。
 我が社、ミクラーダ社の第三支部技術者主任 ウィオール=ビクティム。
 お帰りな―――」
 ぶつっ。
 ウィオールは身を乗り出して、受付のコンピュータを切った。
 その様子に驚いた新米の受付社員。
「もういいだろう」
 ウィオールは姿勢を元に戻し、再び服を整えた。
 うっすらと汗がにじんでいるように見えるのは気のせいだろうか?
 ふと、受付の社員は思った。
「はぁ……」
 曖昧に返事をし、先を急ぐかのような足取りを行く上司の背中は、怒りさえ感じる。
「別にここの社員じゃないって訳じゃないだろうし……
 下手に追求して機嫌を損ねて昇進に響くのも馬鹿らしいし、まぁいいか」
 ある意味、サラリーマンらしいと言えばらしい社員は追求するのを止め、その姿を見送った。

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6289哀夢 踊る 3−A白いウサギ E-mail 2/13-01:51
記事番号6286へのコメント

 3 駆け引き(タクティクス)

 地下特有の匂いが鼻につく。
 この狭い一室に太陽の日が射し込むことはなく、辺りは薄暗い。
 部屋の中央にはどこかのジャンク屋からでも持ってきたようなデスク。
 その上にはやはり埃が被った電気スタンドと、無造作に置かれた何だかわからない書類。
 電気スタンドの首を男の手が掴み、ねじ曲げ、ケインの顔を照らし出す。
「さて――全て吐いた方が身のためだぞ」
「てめー……どーあっても信じねー気だな……」
 ケインは目の前に座って、自分に対して『取り調べ』をしているレイルに向かってひくひくしながら睨んだ。
 ご想像の通り、こめかみの辺りに青筋がきっちり浮かんでいたりする。
「あの……レイル。ケインの言ってること本当なんだけど……」
 額に汗しつつ、ケインを弁護する『証言者』兼『弁護人』ミリィ。
「ええ。わかってます」
『……………………』
 あっさり答えたレイルに絶句するケインとミリィ。
「本当は別に聞きたいことがあったんですが、まぁ場所が場所でしたしね。
 なぁに。宇宙警察(U・G)の肩書きを利用した遊びですよ」
「何だとぉぉぉぉぉぉっ!!」
「それって……職権濫用って言うんぢゃあ……?」
 怒りまくるケインに、鋭いツッコミを入れるミリィ。
 が、ケインにもレイルにも聞こえなかったらしい。
「――で、真面目な話、あの写真は何処で手に入れた?」
「はっはっは。さんざロリコン呼ばわりしといて教えると思うか?え?」
 当然の返答である。
 あれだけコケにされて、事情も聞かされずに答えろと言われてほいほい教えるほど、ケインは人間出来ていない。
 しかしレイルは慌てず騒がず、
「捜査の協力は市民の義務だ」
「やかましいっ!
 都合の良いこと言うんじゃねーっ!」
 ケインはデスクをバンッと叩いて絶叫した。
「……ねぇ、レイル。
 何であの写真にこだわるの?
 いくら何でも事情も聞かされずに協力って訳にはいかないわ。
 そう思うでしょ?」
「いや……しかしですねぇ……」
 警察内の機密をそう簡単に漏らすわけにはいかない。
 視線を泳がせて思案するレイル。
「……夕食の後、お酒飲みに行きません?」
「実はその丁度一年前、ミクラーダ社にとある人が入社して、ミクラーダ社が急に繁栄しましてね。
 あの写真はその人の一年前亡くなった娘の写真なんです。
 それで驚いたんですよ」
 ミリィの一言でぺらぺらしゃべり倒すレイル。
 さすがにジト目で見るケインだが、レイルの喋った一言に絶句する。
「……お前……本気で人生踏み外すぞ……
 ―――って、『亡くなった』っ!?
 死んでるのかっ!?」
「え?ああ。
 そうだが……それがどうかしたのか?」
 とんとんっと目の前に散らばっていた書類をまとめるレイル。
 その書類の中にこの町の『デートお勧めスポット(はあと)』のチラシが入っているのだが、ケインとミリィは気付かない。
「……実は……今日の朝方、その写真の女の子から通信が入ってたんだが……」
 ――も、もしかして……心霊現象……?
 さすがに青ざめるミリィ。
「通信っ!?
 そんな馬鹿な――いや、一応聞こう。
 内容は?」
 ケインとミリィは顔を見合わせ、説明を始めた。

「……間違いないのか?それは」
 レイルの問いに、ケインは無言で頷いた。
「他にそういう情報はないの?」
「ありませんよ。そんな話……」
 ミリィの問いにレイルは動揺しながらもそう答えた。
「それが本当だとすると……どう言うことだ?」
 レイルはいつか見た報告書の文字を思い浮かべる。
 下校途中、友達と一緒にいてはしゃいでいた少女は、その子供らしさから来る不注意で、電気(エレ)カーにひかれ、即死した。
 どこにも不審な点はない。
 単なる交通事故だ。
「一応聞くけど……その『死亡』ってのは間違いないの?」
 ミリィに言われて再び、書類を見る。
「間違いないです。
 ヴェール=ビクティム、10歳、死亡」
 レイルははっきりとした口調で答えた。 
「……ふと思ったんだが、レイル。
 何でこの件を調べているんだ?」
 ぴくり。
 レイルの肩が一瞬動いた。
「あたしも聞きたい♪」
 うくっ……
 多少は宇宙警察官としての理性があるのか、何とかこらえようとするレイル。
 しかし、ふと思う。
 ここまで喋った以上、もう少しぐらい話しても変わらないのでは、と。
 つまり、もう引き返せないところまで来ているのだ。
 レイルは溜息を一つつき、観念して話し出した。
 この星、ウォークは廃れている。
 そのはんこが押されてから、危機に晒されるのにさして時間は必要とされなかった。
 瞬く間に人の数は減り、経済状況も悪化。
 苦し紛れに娯楽施設、船の停泊料金を上げたり、税金を上げたり、あらゆる公共施設を有料にしたりと色々策を立てたが、娯楽施設はともかく、常識はずれの料金の上昇に、人はますます離れていき逆効果。
 そして、滅びるかと思われたウォークを救ったのが訳の分からない企業、ミクラーダ。
 先ほどケイン達と騒ぎを起こしていたのはミクラーダ社の者である。
 本来は許されるはずのないことが星を救っているミクラーダ社だという肩書きがある以上、おおっぴらに取り締まることは出来なかった。
 ミクラーダ社の評判を下げることは、このウォークに住む者にとって、とても喜べることではなかった。
 もし万が一、その評判のせいなどで、会社が倒産したとする。
 今まで何とか耐えることの出来たウォーク経済はひとたまりもなく混乱に陥るだろう。
 それでレイルはあの酒場でケインとミリィだけを引き連れ、ミクラーダ社のごろつきには手を出さずにうやむやにして戻ってきたのだ。 
「それだけなら地方警察の仕事なんだがな。
 最近、おかしな事件が起きている。
 これを見てくれ」
 レイルはどこからともなく取り出したリモコンで部屋の壁へと向かってスイッチを押す。
 ピっと電子音を立て、そこには立体映像が現れた。
 そこに映し出されたのは故障でもしているのだろうか、微かな煙を立てた、少し古い船の数々。
「……で?」
 ケインはレイルの言いたいことがわからずに先を促す。
「ここはこの星の宇宙港の停泊所だ。
 全て原因不明の故障。
 被害者によると、突然何かの重力に捕まって、あたふたしているところを、命からがらこの星に辿り着いたらしい。
 ……ま、俺の本来の仕事はそれの捜査ってわけさ」
 レイルはイスに深く座り、ぎぃっと音を立てさせた。
 その仕事でここに来るまで、ミクラーダ社の社員の横暴の話など聞いて無かったのだ。
 ここの星の地方警察の者から、『ついで』としてその資料を渡され、手伝わされる羽目になったのである。
 その資料の中に、社が繁栄しはじめた頃の社員のリストの家族欄にあの少女が載っていたのを思い出し、レイルは驚いたのであった。
「なぁ、レイル。
 一体ミクラーダ社ってのは一体何をやっているんだ?」
「いくら何でもそこまで言えるかっ!こっちの言えそうな情報は全て話した」
 ――言ってはいけなさそうなのも話したけど
 三人は同時にそれを思ったが、口に出す者はいなかった。
 ケインは腕を組み、深く考え込む。
 やがて考えがまとまったのか、立ち上がって出口へと向かう。
「……わかった。じゃあ俺達はこれで。
 ミリィ、帰るぞ」
 慌ててイスから立ち上がり、ケインの後を追おうとするミリィ。
 そこに待ったがかかる。
「ちょっと待った。ミリィさんは俺と夕食の約束があってな。
 帰るならお前だけにしろ」
 ――あ゛……しまったかもしんない……
 後悔するミリィだが、今更遅い。
 かくて、ミリィはレイルに捕まった。

 ここはウォーク星唯一の宇宙港。
 『原因不明の事故』のおかげで辺りは酷く賑やかだった。
 ――さぞ儲かってるんだろーな。
 ケインはそんな不謹慎なことを思いつつ、高速チューブに乗った。
 やがてソードブレイカーが見えてくると、ミリィを思い出す。
 さすがに少し心配だったのだが、別に平気の一点張り。
 そしてケインにこう、耳打ちをした。
 ――『色々と探りを入れてみるわ。まだ何か隠してそーだもんね♪』
 至って気楽な、何処か楽しげに聞こえるその声にケインは唖然としたほどだ。
 しかし、情報が欲しかったのも事実であったので、あまり大きく反対することはしなかった。
「しっかし……いきなり失敗してねーだろーな……」
 誰にともなく呟き、ソードブレイカーの中へと入って行く。
 何故ソードブレイカーに戻ってきたのかと言うと、キャナルに調べて貰いたいことがあったからである。
 真っ直ぐに操縦室(コック・ピット)へと向かい、自動でドアが開く。
 視界が開けたその先で、ケインが見たのはキャナルの泣き顔だった。
「……な……?」
 思わず硬直し、キャナルをじっと見る。
 確かに泣いている。
 入り口の開いた音に気付いたのかキャナルはケインの方へ振り向くと、いきなり抱きついた。
「ケイン、おかえりなさぃぃぃぃっ!」
「な……なんだっ!?」
 抱きついたまま再び泣き出すキャナルにケインは困惑する。
「お願いですから船の向き変えてくださぃぃぃぃっ!!」
「は……?」
「丁度メーターの正面にセンサー・アイがあるんで料金際限なく上がってくのが見えて辛いんですよぉぉぉっ!」
 ずりりりっ。
 思わずこけるケイン。
「いや……そんなことで泣きつかれても……」
「『そんなこと』とは何ですかっ!?『そんなこと』とは!
 いくらケインが払うからってこのままじゃあ黙って武器買ったり、おねだりしたりするのが出来なくなるじゃないですかぁっ!」
「そこで俺に怒るなっ!
 今の話聞くと、怒るのは俺の方だろーがっ!」
 確かにもっともなことだが、一人の男に泣きつく女の子を怒鳴り返す様は周りから見て、いぢめているとしか見えない。
 しかし言われても泣きやまないキャナルに、気まずくなったケインが、キャナルの頭をぽんぽん叩く。
「あー、わかった。わかった。
 料金ならレイルに全部払わせるから安心しろって」
「……どういうことです……?」
 ぴたりと泣きやみ、ケインの顔を見上げるキャナル。
「宇宙警察(ユニバーサル・ガーディアン)の調査内部のこと、俺達に話しちまったからな。
 その事をユニバーサル・ガーディアンにチクるぞ、と『相談』すりゃいーだろ」
 もちろん、ケインはレイルにロリコン呼ばわりされたことをきっちり根に持っていた。
 ケインの言葉を聞いて、キャナルはぽんっと手を打ち、笑顔で、
「なるほどっ!
 さんざん脅してお金奪い取った上、面子を気にするユニバーサル・ガーディアンに『通報』して、口止め料を二重に貰うって手もありますね!」
 ――鬼か。お前は。
 笑顔のままでツッコむケイン。
 さっきまで泣いていたのも何処へやら、右手にそろばんなんぞを取り出して、金勘定をするキャナル。
 無論、レイルにどうやって出来るだけ高く金を払わせるか検討中である。
 立体映像のくせにいやに凝り性な所は相変わらずである。
「……ま、まぁその辺の駆け引きはお前に任せるとして。
 それより調べて貰いたいことがある」
「何ですか?」
 抑えているつもりでも、声はきっちり弾んでいたりする。
「ヴェール=ビクティムとその父親の詳細、あとミクラーダ社の仕事内容だ」
「わかりました。
 役場の方は簡単に強制浸入(ハッキング)出来ますけど、ミクラーダ社の方は結構プロテクトがかかってますからねー。
 ちょっと時間かかりますよ」
「おうっ!どーせ、停泊料上がってもレイル持ちだ。
 時間を気にせず心ゆくまでやってくれい!」
「はい♪了解しました。
 ――ところでケイン。ミリィはどーしたんです?」
「ああ、ミリィならレイルと飯食いに行ってる」
 しばしの沈黙。
「……かいしょー無しのろくでなし亭主」
 ぼそりとキャナルはジト目で言った。
「誰が亭主だっ!?誰がっ!
 ミリィはレイルから他に情報は聞けないかと思って自分から行ったんだっ!」
「なあんだ。
 面白くないですねー」
 心底がっかりしたような口調で呟くキャナル。
 ――何をがっかりしてるんだ……?お前は……?
心の中でツッコミを入れるケイン。
「あ、役場の方のハッキング終わりましたけど今聞きます?」
「ああ。頼む」
 ケインはキャナルと向き合う形で席に座った。
「ヴェール=ビクティム。10歳。
 ………一年前に他界してますね」
「顔写真を出せるか?」
 言われてキャナルは右手を軽く挙げ、その右手の上にディスプレイが浮かび出す。
「……これって――」
 キャナルも気付いたのだ。
 この間強制通信で入ってきた者の映像と全く一致することに。
「ふぅむ……レイルの言ってたことは嘘じゃないって事か……」
 ケインは背もたれに背中を預け、腕を組んだ。
「……どう思います?ケイン」
「わからねー。
 ……なぁ、キャナル。
 この間の映像、CGって事はねーか?」
「そんなこと言われても……CGに修正するだけででも大変だったんですよ?
 わかりません。
 ただ……あんなに画像が荒れているのにわざわざCGを使ってまで誤魔化す必要があるとは思いませんけど」
 ひょいっと肩をすくめるキャナル。
 確かにキャナルの言うとおり、わざわざCGで誤魔化す必要はない。
 キャナルだからこそ何とかCGを修正できたのだ。
 他の船を不可能と言っていいだろう。
 何にしても情報不足だった。
「死亡原因は?」
 言われてキャナルは再び目を閉じ、ディスプレイを切り替える。
「……交通事故ですね。
 下校途中で電気自動車(エレ・カー)でひかれています」
「まさかひき逃げとかって事は……?」
「ないです。
 ドライバーはしっかり捕まってます。
 ただ……元ミクラーダ社社員ってのは引っかかりますね……」
「ミクラーダ社っ!?
 元って……退職したのか?」
「いえ。クビです」
 ケインは席から立ち上がっていた。
 ただの偶然だろうか?
 それにしては出来過ぎている。
「……父親の方のデータを頼む」
「はい。
 ウィオール=ビクティム。29歳。  
 一年前に……ミクラーダ社に入社してます。
 ほぼ……事故直後です」
「おかしいな」
「ええ。何かあるでしょうね」
 いくらなんでも自分の娘がひき殺された相手の会社なんて行くだろうか?
 普通はあり得ない。普通なら。
「……一応ミクラーダ社の方へのハッキング終了しましたけど……視られてました。
 何者かに」
「何者かって……失敗したのかっ!?」
「いえ……こちらがハッキングしてるのを文字通り、視ていたんです。
 何も手出しはしてきてません」
「キャナルが見られるって事は……とんでもねー奴だな……」
「そうですね。
 女の子を覗き見したままじっとしてるなんてまともじゃない奴に決まってます」
「……いや……そーゆー意味じゃなくてだな……」
 頬の汗を垂らすケイン。
「まあ冗談はともかく。
 会社の概要――聞きます?」
「あたりめーだ」
 キャナルは軽く溜息をついて説明をはじめた。
 キャナルはケインの性格を良く知っていた。
 この説明を聞いたら、自分たちに関係のないことだ、と言って引き返すことはないだろう。
 もう後には引けない。
 ――もちろん、お付き合いしますけどね――
 キャナルは誰にともなく苦笑した。

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6290哀夢 踊る 3−B白いウサギ E-mail 2/13-01:59
記事番号6286へのコメント

  3 駆け引き(タクティクス)

「さてここで問題です。
 あたしは一体何処にいるのでしょう……?」
 ミリィはひきつりまくった顔でぼそりとそう言った。
「何言ってるんですか?ミリィさん。
 そりゃ仕事上のトラブルに巻き込んだのはこの上もなく悪いと思ってますけどね。
 この埋め合わせは必ず……」
「あ。いーからいーから」
 ぱたぱたと手を振るミリィ。
 但し、足には鉄の鎖。
 あれからミリィはレイルの言う『でぇと』が展開され、高級レストランだの、バーだのあっちこっち連れ回された。
 そこまではまだいい。
 ただ、バーで飲んで、そろそろミリィが帰ると言い出した頃、事件は起こった。
 入り口に突っ立っていたウェイトレスが突然銃を持って乱入してきた男に銃口を向けられ、人質とされた。
 誰に対しての人質か。レイルはすぐわかった。
 自分の宇宙警察のバッヂを見て。
 仕方なく言うことを聞いて、ミリィと共にどっかに運ばれている。
 電気(エレ)カーのトラックの荷台に突っ込まれ、座り心地の悪いことこの上ない。
「ちょっとっ!そこのあんた!
 一体何処へ向かっているのか教えてくれてもいーんじゃない?」
 レイルとミリィを見張っている目元に傷のある男に怒鳴りつけるミリィ。
「よくねーんだよ。
 いいから黙ってろ!」
「黙っててほしけりゃ行き先を教えなさいよっ!
 だいたい、その目元にある傷!あんたそんな傷があるところから見て弱いんでしょっ!
 弱いから下っ端やらされて、実は自分も行き先知らないんじゃないのっ!?」
「なんだとぉぉぉぉぉっ!?」
 青筋浮かべる男。
「ミリィさん……刺激してどうするんですか……」
 かわりに額に汗を浮かべるレイル。
 レイルの言葉をあっさり無視するミリィはさらに続ける。
「怒ってるって事は図星みたいねっ!
 悔しかったら答えてみなさいよっ!
 それともか弱い女の子の足に鎖付けといてまだ怖いっ!?」
「誰が怖いってっ!?
 へっ!ふざけんな!
 いいだろうっ!どーせ明日の日は拝めねえ奴らだ!
 教えてやろーじゃねーかっ!
 今夜は会社の経営するカジノへ行って、取引が有るんで、そこに向かってるんだよっ!」
「何でそこで俺達が連れて行かれる必要が有るんだ?」
 レイルが問う。
「知るかっ!どーせ見せしめかなんかだろう!
 企業に逆らった奴はこうなるってな!」
「ちょっと!
 そこで何であたしまで含まれるのよ!」
「ついでだついで!
 その宇宙警察の奴とっ捕まえて来いって言われたんだが、お前が居たからな!」
「『ついで』で殺すなぁぁぁぁっ!!」
 絶叫するミリィ。
 人間として当然の心理である。
「――おい。着いたぞ」
 車を運転していた男が後ろに向かって言った。
 確かに揺れは止まっている。
 しかし、荷台は暗いので周りの様子は全くうかがえない。
「降りろ」
 荷台の扉が開かれると、あまりの眩しさにミリィは思わず目を閉じた。
 暗闇に入り込むカジノのイルミテーション。
 赤、青、緑、黄……様々な光がミリィの瞼を通過して目まで届く。
「……ま、行くしかありませんね……」
 レイルはむしろ静かな口調でそう言った。


「赤(ルージュ)の4」
 両手ですら抱えきれない程のコインを、茶髪の女顔――ケインは賭けた。
 服装はタキシード。
 意外にも似合っている。
 この店の中に入るまではマントを付けていたのだが、さすがにチェックが入り、仕方なくカウンターに預けた。
「わかりました。
 よろしいですね?」
 ディーラーは辺りに座っている、それぞれ一人一人の顔色をうかがい、白いボールを転がした。
 続いてルーレットが回される。
 賑やかな店内がそこだけ静かだった。
 人々の視線を一心に受けて、ボールは回り続ける。
 からからから………ことん
 特異に作り出されたその無音の空間にボールは乾いた音を響かせた。
 未だに廻っていてボールの居所が分からないルーレットをディーラーが静かに止める。
「赤(ルージュ)の4……です……」
 ディーラーはうっすらと汗をにじませていった。
 ざわざわっ!
 辺りの封印が溶けたかのように人々は騒ぎ出した。
「悪いな。また当たりだ」
 ケインは得意げに席を座り直した。
「いやいや。凄いな兄ちゃん。
 さっきから百発百中じゃないか」
「今度からあなたと同じ所賭けようかしら」
 言って、笑い出す一同。
 何倍にも膨れ上がったコインを運ばれてきたとき、ケインは思わず笑みがこぼれそうになる。
 ――キャナル、次は?
 ケインは視線を変えず、首もとに仕掛けてあるマイクだけに聞こえるように言った。
 ――『黒(ブラック)の1ですけど……目的忘れてませんか?』
 ひくっ。
 イヤホンから聞こえるキャナルの声に思わずケインは反応した。
 図星である。
 ケインの目的は、ここで行われるはずのミクラーダ社の裏取引の場を見つけだすことだった。
 それで、正面から客として乗り込み、少しカジノで遊びながら様子を探る……はずだった。
 ――しっかしこう何度も簡単に当たるってこたぁ……完璧操作してやがるな。
 悪役得意のイカサマである。
 裏でコンピュータを操って、儲けが出るよう操作してあったのだ。
 それで、逆にキャナルが操って、ケインの賭けたところへ落ちるよう操作しているのである。
 これも完璧なイカサマだが、相手もイカサマしている以上、構うことはない。
 ケインは容赦なく、コインを増やしていった。
 ――『目立ち過ぎですよ。目的が金を増やすことだけだったら喜んで協力しますけどね。
     これ以上……遅かったみたいですね』
 言われてケインは自分の正面に座る男を見た。
 いかにも『わしゃ金もっとるぞ。ふぉっふぉっふぉ』と言わんばかりのおやぢである。
 金持ってるわりにはセンスが無く、指にはぶっとい指に、でっかい宝石がちりばめられた指輪を全ての指に付けている。
 しかしケインはその隣に控えている男の方を見て驚いた。
 眼鏡をかけた見た目ヤワそうな男。
 ケインにはその男に見覚えがあった。
 ――ウィオール=ビクティム。
 ケインは知らないフリをした。
「初めまして。
 なかなか運がお強いようですね。
 どうです?私と一騎打ちでもやると言うのは?」
 言って、嫌らしい笑みを一つ。
 差し出した手にちりばめられた宝石は光に反射して眩しい上に目障りなことこの上ない。
 思わずダッシュで逃げ出したくなるような相手だが、そういうわけにもいかない。
「いやなに偶然ですよ。
 しかし勝負と言っても何で?」
「そうですねぇ……ここは単純に、変わらずルーレットでどうです?
 赤か黒か。それなら一回で勝負はつくでしょう?」
 普通、勝負を申し込んだ方が相手の出した勝負方法に従うのが常識だが、相手は遠慮すらせずそう言った。
 どうせまた何かのイカサマをやるつもりなのは見え見えである。
 ケインはしばし考え込む。
「何を賭けてですか?」
 ――『ちょっとケインっ!?正気ですかっ!?
     どうせ相手はイカサマしますよっ!』
 キャナルは反対するがケインは聞こえないフリをした。
「あなたが買った場合、私がその金額を倍にして支払います。
 あなたが負けたら……そうですね。その賭け金全て失うと言うことでは?」
「いや……出来れば俺が買った場合、後ろにいる金髪の女を貰うってのは駄目ですかね」
 言われて目の前の金持ちおやぢはぴくりと眉を動かした。
 後ろにいる金髪女。
 それは銃口を背中に押しつけられたままのミリィだった。
 ひきつりまくった表情でぎこちなく微笑むミリィ。
「いいでしょう。でははじめますか」
「はぁ……」
 ディーラーは曖昧に相づちを打った。
 ――『ケイン、言っておきますけど――』
 ――わかってる。相手はコンピュータ操作の電源をオフにしたんだろ?お前に頼むのは無理だ。
 ――『わかっているならなんで――』
 ――ミリィを取り返さなきゃいけねーだろーが。なぁに心配すんな。うまくやってやるよ。
 キャナルは溜息をついた。
「では、場所を」
 ディーラーは交互にケインと金持ちおやぢを見る。
「先にどうぞ」
 金持ちおやぢは余裕たっぷりに言った。
「ではお言葉に甘えまして……赤」
「では私は黒ですな。よろしく頼むよ」
 言って、ディーラーにぽんっと手を置く。
 ケインはディーラーの肩が震えている事に気付いた。
 ――この狸おやぢ、脅し入れやがったな……
 腕のいいディーラーは狙ったところへ落とすことが出来るという。
 その腕はほぼ正確。
「では……行きます……!」
 絞り出したかのような声で、ディーラーはボールをルーレットへと入れた。
 ディーラーの手は震えていない。
 さすがプロと言うことか。このままでは確実に黒へと落ちるだろう。
 それはケインがミリィを助け出すことはほぼ不可能になると言っていい。
 ――『ケイン!ルーレットの電源が入りました!このままじゃ負けるの確実ですよ!』
 ――うるせーっ!キャナル、お前は手を出すなっ!
 ――『そんなこと言ってどうする気ですかぁっ!?』
 ――こんぢょーで勝つ!
 ――『無茶言わないでくださいぃぃぃぃぃっ!!』
 ケインの付けているイヤホンでキャナルがそう叫んだとき、ボールは落ちた。
 こくり……
 誰かがのどを鳴らした。
 まだルーレットは廻っていてどっちかはわからない。
 ディーラーはゆっくりと手を近づけ……止めた。
「ばっ、馬鹿なっ!?」
 驚愕の声を上げたのは、金持ちおやぢの方だった。
 安堵の息をもらしたのはケインとミリィである。
「俺の勝ちですね。
 じゃ、約束通り、頂いていきますよ」
 ケインはつかつかとミリィの方へと歩み寄り――叫びが場に広がった。
「殺せ!」
 その声と同時に、ケインがミリィの身体を掴んで横に倒れ込みながら銃口を向けていた男へと蹴りを飛ばす

「ぐっ!?」
 まともに受けて、後ろに吹っ飛ぶ男。その衝撃で手から銃がこぼれる。
 ミリィはすかさずそれを奪い――天井に一発。
 ぱんっ!
 ドラマかなんかのとは違って迫力のない音だが、それは本物であるという事を表していた。
「いきなり殺せはねーだろ。
 勝ったのは俺だぜ?」
 ケインもいつの間にかサイ・ブレードを構え、油断無く言った。
「だっ、黙れっ!くそっ!何をしている!?かまわん、殺せっ!」
 おやぢの声と同時に警備の制服を着ていた男達がわらわらと寄ってくる。
「ミリィ!強行突破するぞ!」
 そして店内はパニックとなった。
 ケインは構わず先ほどのルーレットの場所へと行き、コインが山ほど乗ったそれを蹴り飛ばす!
「くらえ秘奥義、ちゃぶ台返しっ!!」
「うぐわぁぁぁ………」
 おやぢの悲鳴はコインの波にかき消された。
「ああああっ!もったいないっ!」
「やかましいっ!どうせこうなりゃ換金なんざしてくれねーよっ!
 だったらぶちまけてあの狸おやぢを生き埋めにした方が有効利用って奴だろーがっ!」
 悲鳴を上げるミリィに関係なしに前へどんどん進み、出口へと向かうケイン。
「貴様らっ!」
 警備の制服を着た男がケインの前に立ちふさがり銃を構えるが、ケインは止まるどころか加速する。
「なっ!?」
 慌てて銃の引き金に置いてある指に力を込めるが、それより速く、ケインは男の横腹を一閃する!
 男はそのまま倒れた。
 ケインは走る速度すら変えずに出口へと向かう。
 そのケインの向かう先に男が三人。
 いくらケインと言えど、一気に突破できる人数ではない。
 しかし構わずケインは前進し――伏せる形で前へ倒れ込む。
 ぱん!ぱん!ぱん!
 ケインの耳元で聞こえる銃声。
 しかし当たったのはケインではない。
「がっ!?」
 ケインが前へと突きだした手を支点にして、くるりと足を前へそのまま回転しながら足払いをかける。
 倒れた男へ一発脇腹へ右手で入れ、その反動利用して立ち上がるケイン。
 立ち上がってみると男達は全員銃を持っていなかった。
 ミリィがケインの伏せた瞬間を狙って、男達の銃を撃ったのだ。
 かくて、獲物を失い、仕方なく素手でかかってきた男達をケインが倒すのに時間はかからなかった。
「よしっ!行くぞっ!」
 前にいるケインにそう言われ、ミリィは走りだそうとするが何か突然嫌な予感が浮かぶ。
 そして後ろへ振り返るとミリィの視界には、天井のシャンデリアに化けた、レーザーガンの発射台が入った。
 全部で二台。
 銃口にはすでに光が見え始めている。
「くっ!」
 ミリィは横へ飛び、銃を構え、ケインの方へ狙いを定めたそれを打ち抜く!
 ばぢっ!
 行き場を無くしたレーザーエネルギーが周りへ弾け飛び、客の誰かにかかり、パニックに発車をかける。
 それをうまく避け、ミリィはもう一つのレーザーガンの方へと銃を構え――
「忘れ物だぜっ!お客さんっ!」
 突如現れた男は皮肉たっぷりに言って、ミリィの頭にケインの預けていたマントをかぶせ、そのまま逃げ出す。
 そしてその直前ミリィの視界に入っていたのはレーザーガンが自分に狙いを付けている映像だった。
 見えないのでは撃っても明後日の方へ飛ぶだけである。
 ミリィは慌ててマントをはずそうとするが、慌てているせいかなかなか取れない。
「ミリィっ!!」
 その様子に気付いたケインが駆け寄るが間に合わない。
 ケインの視線の先にはマントを付けたままで銃を構えるミリィと、レーザーガンの銃口に光が灯っている状態だった。
「ミリィぃぃぃぃぃっ!!」
 ケインは周りの人間をはじき飛ばし、その場へと向かう。
 そしてケインの手がミリィを掴むより速く。
 レーザーガンは発射された。
 ばしゅぅっっ!!
「ぐわっ!?」
 しかし、レーザーガンに当たったのは、ミリィではなく先ほどミリィにマントをかぶせた男だった。
 ケインが見上げると、レーザーガンの台は破壊されていた。
 ミリィが放った一発が銃口をねじ曲げ、運悪くそこへ逃げ出した男を直撃したのであった。
「なんで……?」
 ケインはミリィの頭に被ったままのマントをはずしながらそう呟いた。
「っぷはっ。
 やっと取れた……怖かったぁぁぁぁっ!!」 ミリィはいきなり叫びだした。
「いや……気持ちは分かるが……なんで……当てられたんだ?
 マント被ったままで」
 ミリィはマントをケインの方へと放り投げ、
「今日、酒場で穴開けられたってケイン騒いでたでしょ?
 その穴が偶然目の所へ来て……」
『……………………』
 二人はそこで沈黙した。
 人生、何が幸運を呼ぶかわからないもんである。
「とっ、とにかくっ!行くぞっ!」
 ケインが再び、出口へ向かおうと視線をのばした頃。
 どぅんっ!
 銃弾がケインを直撃した!
「……がっ……!」   
 なんとか意識を保ち、立ったままの姿勢でいようとするが身体が言うことが聞かない。
 ――しまったっ!
「ケインっ!?このっ!」
 ミリィは撃った相手に銃口を向け、引き金を引く!
 かちっ。
 鳴った音は予想外の音だった。
 弾切れである。
 ミリィが次の行動に移る前に、ミリィの身体に銃弾が撃ち込まれる。
「くあっ!」
 思わず倒れるミリィ。
 痛みをこらえて立ち上がろうとするが言うことを聞かない。
 ――これは――!
「麻酔銃(パラライズ・ガン)だ。命には影響ない」
 ケインはその声に視線だけ動かすと、その銃を持った相手を見て奥歯をかみしめる。
 ――ウィオール=ビクティム――
 ケインは睨み付けるがそれで何かが変わるわけもなく、ケイン、ミリィは捕らわれることになった。

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6291哀夢 踊る 4−A白いウサギ E-mail 2/13-02:06
記事番号6286へのコメント

4 ミクラーダ

「と、言うことは……レイルは逃げたんだな?」
 こくん。
 ミリィはケインの問いかけに素直に頷いた。
「あいつうううっ!
 ミリィほっといて自分だけ逃げ出すとはどういうつもりだっ!?」
「ああっ!ケイン落ちついてっ!
 せっかくウィオールさんがかくまってくれたんだからっ!」
「まぁ……捕まって殺されたいんなら無理にとは言わないが」
 ウィオールは大きなデスクの上に載った書類を見ながらコーヒーを一口飲んだ。
「元々てめーが撃たなきゃ逃げれたんだっ!」
「確かにこっちの勝手な都合で捕まえたけどな」
 悪びれもなくしれっと言うウィオール。
 あの後捕まったケイン達だが、ミクラーダ社内のウィオールの部屋へと移動している。
 どうやって移動したのか。
 それはウィオールが牢から助け出したのだ。
 自分たちを使えた奴が自分から逃がした。
 これで信用しろと言う方が無理である。
「しかし……本当にカジノに来るとは思ってなかったがな」
「なっ!?
 そうかっ!ハッキングしていたキャナルを見ていたってのはてめーだなっ!」
「正解だ。
 人が珍しくセキュリティチェックしてる最中にいきなりダミープログラムが流れてな。
 チェックしてる最中では簡単にばれる。
 運が悪かったな」
 言って、コーヒーを一口。
「で……そっちの勝手な都合ってぇのは何だ?
 言っとくが……生体兵器作ってる奴なんぞの言うことなんてそうそう聞かねーぞ」
 敵意むき出しで言うケインだが、手錠がされてるためいまいち迫力に欠ける。
 ウィオールは飲み干したコーヒーカップをデスクに置いて言った。
「――この会社を潰して貰いたい」
 ウィオールの言葉は、ケイン達にとって予想外のものだった。


「ヴェールを生き返らせろって……何を言ってるんですか……?
 お義父さん……」
 ウィオールはかすれる声で聞き返した。
「何を言っておる。
 今ミクラーダ社に就職したのは、そのためではないのか?
 生体兵器を開発している企業だ。
 その技術を使って生き返らすつもりなのだろう?
 それとも……何の理由も無しにヴェールをひき殺した奴の会社に入ったと言うのかっ!?」
「………出来ませんよ……そんなこと……」
 ウィオールは右手を握りしめた。
 自分の気持ちが飛び出さないように。
 それしかできなかった。
「いや。出来るはずだ。
 ヴェールの身体なら保存してある。
 脳に記憶を吹き込んだチップを入れ込めば……」
「やめてくださいっ!!
 私は……そんなこと……」
 ウィオールの右手には血が流れ出していた。
「お前は……自分の娘が死んで悲しくないとでも言うのかっ!?」
「悲しいに決まっているじゃないですかっ!
 だけど……っ!
 人を生き返らすことは……学者として絶対にしちゃいけないことなんですよ……っ!」
 老人の顔が怒りに歪む。
「学者としてだとっ!?
 父親としてはどうなんだっ!!」
 ――父親としては……
 それは考えてはいけないことだった。
 全ての万物を敵に回す行為だ。
 自分の好き勝手でそれに逆らうわけにはいかない。
「……お答えする必要はありません」
 肩が震える。
 頭が痛い。
 自分の好き勝手に行動できたらどんなに楽だろう。
 しかし――それは許されない行為だった。
 ウィオールは老人にくるりと背を向け、その場を後にした。
 老人の制止を無視して。

 ミクラーダ社の自室。
 デスクに座り込み、頭を抱える。
「どうした?苦しそうだな」
 声は頭上からした。
 自分の目上にディスプレイが浮かんだのを確認するウィオール。
「盗み見とは良い趣味だな……」
 睨み付け、この会社、ミクラーダ社の社長を見据える。
「そんな怖い顔せんでくれ。
 怖がって、君の義父……ダイ=ワルザーだったかな?
 殺してしまいかもしれんよ?君の娘みたいに」
 ぎりっ……
 ウィオールの中にさらに怒りが吹き出してきた。
「言いたいことはそれだけか?ロエル=ミクラーダ」
 つまり、ノエルはウィオールの技術に目を付け、会社に引き込もうとした。
 しかし、それをウィオールは拒否した。
 それが何度か繰り返され――
 娘のヴェールをひき殺された。
 交通事故に見立てて。
「いや、違うな。
 実は今日より、我が社の制御プログラムが変わってな。
 面白い奴だ。挨拶させよう」
 ぶぅんっ……
 少し音を立て、待つことしばし。
 目の前に出てきた制御システムの顔はウィオールの良く見知った者だった。
「初めまして。ウィオール様。
 あたしはこの会社の制御システム、ベールと言いま……」
 ぶちんっ。
 ウィオールは思わずスイッチを切った。
 姿形、声、全てが殺された娘のヴェールにそっくりだった。
 汗が尽きることなく吹き上げる。
「いきなり切るのは失礼だぞ?ウィオール」
 言って、笑い出すロエル。
「貴様……なぜ……っ!」
「これで君は常に罪の意識に悩まされることになる。
 まさか裏切ったりはしないとは思うが……一応さ。
 もちろん、裏切ったりしたら、これにダイが加わる事になる。
 出来ればそんなことはしたくない。
 老人がでてきたら見てる者が不快になるかもしれんからなぁ」
 にっこり笑うロエル。
「まぁ、ともかくそう言うことだから、しっかり頼むよ。
 生体兵器の制作、期待している」
 ぷちっ。
 一方的に通信は着られ、後に残されたのはウィオールのみ。
「くそおぉぉぉぉぉぉぉっ!!!」
 ウィオールは絶叫して、テーブルを殴りつけた。
 ――ヴェールを生き返らせろ――
 ウィオールの義父の言葉が頭に浮かぶ。
 そんな自分が許せなくなって、ウィオールは今度、自分の頭を思いっ切り殴りつけた。

 その後、ウィオールは会社内で『生体兵器作りの天才』と呼ばれることとなる。
 そして。
 彼が笑うことはなくなった。


「ダイ=ワルザーさんですね?」
 とある酒場のカウンターに座る老人に、レイルは営業スマイルとも言えそうな笑みでそう尋ねた。
「何だ?お前は」
「宇宙警察(ユニバーサル・ガーディアン)の者です」
「――!?――」
 身を堅くするダイ。
「ちょっと協力をお願いしたいんですけどね。
 ミクラーダ社に一泡吹かす気はありませんか?」
「な、何を言って……」
「おや。『復讐』しませんか、と言ったんですが?
 愛孫さんを殺し、そしてそれでも平気で義息子さんが居続けるミクラーダ社に」
 レイルは不敵に笑ったのだった。
 レイルは捕まった後、金で買収し、何とか脱出したのである。
 ミリィまで助けられなかったのは不覚だったが、ここまで喧嘩を売ってくれた相手を見過ごすつもりはレイルにはなかった。
「何を……すればいい?」
 ダイの返事に、レイルは思わず笑みをこぼした。
 やはりウィオールから事情は聞いていないらしい。
 ダイはウィオールのことを心底憎んでいた。
 そして。レイルの言葉に乗ったのだった。  


「何の用です?」
 ウィオールは突然の訪問者にそう尋ねた。
 ケイン達に依頼している最中、突然通信が入ってるから何かと思って出てみれば、そこは最近、音信不通だった彼の義父であるダイだった。
 そしてこの部屋へとやって来たのである。
 もちろん、ケイン達は隠れている。
「わかってるのではないのか?
 なぜここに『ヴェール』は居る?」
「――――っ!?」
 驚愕がウィオールの顔を支配した。
「それだけじゃないっ!
 お前が数々の生体兵器を作り出し、それで数え切れないほどの命を奪っていることも知っている!
 答えろっ!何故だっ!?」
「……それ……は……」
 思わずたじろぐウィオール。
 その瞬間。
 ぱんっ。
 突如、乾いた音がウィオールの部屋を支配した。
 そして目の前には頭を打ち抜かれた義父。
「うああああああああっ!!」
 叫ぶウィオールの顔に血がかかる。
 ウィオールはぐらりと前へ倒れ込む、ダイ=ワルザーだった者を慌てて支えるが、もちろん事切れている。
 即死である。
 瞬く間に部屋に広がる鉄のような匂い。
「お義父さんっ!?お義父さんっ!!」
 揺らすがもちろん返事はなかった。
 それでも――何度も呼びかける。
 身体はぐったりと力を失い、目は何も表情を出さずに虚空を見つめている。
「お前、いつからそんな馬鹿になったんだ?
 頭を打ち抜いたら人は死ぬに決まってるじゃないか。
 それでは我が社の生体兵器作りの天才の名が泣くぞ?」
 銃口を吹き消し、部屋の入り口からウィオールへと歩み寄るロエル。
「貴様っ!何でっ!?」
「もちろん、我が社の機密を知っているから殺した。
 まぁ、君は言わなかったみたいだが……知られた以上、仕方がないだろう?」
 さも当然、と言ったようにダイの身体を軽く蹴るロエル。
「まぁこれだけ長い間生きたし悔いはないさ」
「ふざけるなっ!」
「ふざけているのは君だろう?
 理由は何であれ、君はもっと人を殺している。
 君の作り出した生体兵器でどれだけ我が社が繁栄したか……それを考えれば大したことではない」
 ウィオールの身体を黒い感情が支配した。
 なんと言い訳しても、自分は人を殺したのだ。
 それも大勢を。
「全く……さっきからごちゃごちゃと屁理屈並べてんじゃねーや。
 この悪人」
「ちょっとケイン!?」
 ケインとミリィは隠れていたデスクから出てきた。
 不満の声を上げるミリィ。
「どうせ出るならいきなり切り倒すとかしなさいよねっ!」
「……俺は人斬り魔か……?
 ――って、今はそんなこと話してる場合じゃねーな」
 くるりと前を向き、ロエルを見据えるケイン。
 ロエルはそれに気付き、少し訝しげな表情をし――
「おかしいな。君たちの侵入者のデータはなかったが……ベール」
 この会社の制御システムの名を呼び、油断無くケイン達の方へ向いたまま続ける。
 呼ばれたベールは電子音を出し、薄っぺらな映像が場に出現する。
 間違いなく、先日、ケイン達に助けを求めた、あの姿だった。
「調子でも悪いのか?
 ダイ=ワルザーの映像は来ていたが、その前にいるはずのこいつらのデータはなかったぞ」
「ただいまシステムチェック、再試行中……」
 言葉の途中で途切れる。
 目の前にいる、死体を目に留めて。
「おじいちゃんっ!?」
 ばぢぃっ!
 声と同時にスパークが起こる。
「……記憶が……っ!?」
 驚愕の声を上げるロエル。
 声、外見、確かにウィオールの娘の生前の者のデータを施した。
 それは間違いない。
 だが……記憶、性格など、膨大なデータ容量が必要な物は削除してあるはずだった。
「ベールっ!落ち着けっ!」
 気付いたウィオールが叫ぶがベールには届かない。
「なっ、なんだっ!?」
「一体っ!?」
 状況が全く理解できないのがケイン達である。
 ただ、呆然と目の前の物事が過ぎていくのを見ていくことしかできない。
「そんな……っ!?なんでっ!?」
 ベールはすでに混乱していた。
 ただ――表情は笑顔のままで、音声だけが異様に感情がこもっている。
 混乱しているベールにウィオールが呼び続けるがそれがついに耳に入ることはなく――
 ばぢばぢぃぃぃっ!!!
「――伏せろっ!!」
 ケインは慌ててミリィの上から押し倒す。
 それと同時に――人間の腰当たりの高さの位置を這うようにして光が走る。
 どれくらいの電流かケインにはわからなかったが、触れて試す気はもちろん無い。
 横目で見ると、ウィオールも、ロエルも伏せて、どうやらやり過ごしたようである。
 しばらくした後、電流の音も消え、当たりを目で確認してから立ち上がってみると、そこにベールの姿はなくなっていた。  
 かわりにこれでもかというほどの警告ランプがついており、部屋は真っ赤に染まっていた。
「自爆コード、82345218。
 プログラム実行します。
 社員の皆様は至急、このビルの退避を勧告します」
 やがて流れ出すベールの声。
 しかしそれは淡々としており、先ほどのベールと同一とはとても思えなかった。
「ちっ。ポンコツめっ!」
 くるりと背を向け、すぐさま脱出しようとするロエルがこの部屋の出口にさしかかった頃、ケインに銃口を向ける。
「ちぃっ――!」
 側にいたミリィを押し飛ばし、机を盾にしようと横に飛び込ぶケイン。
 ぱんっ。
「へたくそぉぉぉっ!!」
 銃弾はケインの先ほどいた場所に当たった。
「ちっ」
 ロエルは悔しげにそれを一瞬見るが、構わず外へと走り出した。
 ここからでは脱出の時間がかかるので、一分一秒たりとて無駄には出来ない。 
「おい、ミリィ、大丈夫か?」
「ケインに押しつぶされたり、押し飛ばされた部分以外は無傷よ」
「そ……そうか。
 ともかくっ!とっとと脱出するぞっ!
 自爆は悪役の王道パターンとはいえ実際食らったらタダじゃすまねーっ!」
 ミリィの元へ駆け寄り、起こすと、ウィオールの方を見る。
 側に彼の義父の死体は無論まだあった。
「あんたはどうする?」
 問いかけられたウィオールはケインを見て、その後デスクの引き出しを開けた。
 そしてその手に握られた物は、サイ・ブレード一式と麻痺銃(パラライズ・ガン)。
 そしてケイン達へと投げつける。
「持っていけ。預かっていた物だ」
 ぱしっとケインは右手で掴み、それを身につける。
 ミリィも腰のベルトへと銃をしまい、ウィオールの方を見る。
 ウィオールはまだデスクの引き出しを探り出し、
「それとハンディパソコンと……チョコレートとマントは返した方がいいのか……?」
『当然』
 ケインとミリィは声をハモらせて言った。
「そ……そうか。
 お前達はすぐに脱出した方がいい。時間はあまりだろう。
 このビルの見取り図はハンディパソコンに入れておいた」
 少々ぎこちなくなりながらも、それぞれの物を手渡す。
「さっきの質問がまだだ。
 あんたはどうする?」
 ケインに再度問われ、ウィオールはしばし黙ってからこう言った。
「制御システムの中枢へ行って、ベールを助け出す。
 ……一応、ベールは娘みたいなものだからな」
「ベールは……娘さんじゃないんですよ……?」
 ミリィはハンディパソコンを開け、見取り図を確認しながら言った。
「そう言う意味じゃない。
 最初ここに入ってきた時はこんな事起きるはずのない『プログラム』だったんだ。
 ただ、ここに入社した以上、いじれる機会は何度かあってな。
 まだ未完成だが……感情プログラムを少しずつ入れ込んだ。
 君たちのことをベールがロエルに報告しなかったのは、それを組み込んだ私の命令だ。
 ただ……義父のことは感情プログラムが働いたせいか、嬉しかったんだろうな。
 ガードが甘くなったんだろう」
 ウィオールは背広を脱ぎ、ワイシャツの裾をまくしあげた。
 取り出したウィオールのハンディパソコンをズボンのポケットにしまい、ダイの元へと歩み寄る。
「……すみません。
 ……もう少しだけ……ベールを助けさせて下さい」
 静かにそう言い、見開かれたままのダイの目を閉じさせる。
 震えて見えたのはケイン達の気のせいではないだろう。
 ウィオールはテーブルの上に置いてあった、ウォッカを口に流し込んだ。
「……脱出ルートは293443を入力すれば赤く表示されるはずだ。
 時間は無いぞ」
 相変わらず酔った様子はない。
「最後に一つ聞きたい。
 最近、この星に引っ張られて着陸せざるを得ない船が多発するんだが……ベールのせいじゃねーか?」
 ウィオールは少し意外な表情をした。
 最後に聞きたいことがこれでは当然かも知れないが。
「……多分そうだろう。
 いたずらか……停泊料を取ってこの星の経済状況を少しでも良くしたいってのもあるかも知れんな」
 その言葉を聞いて、ケインは不敵に笑った。
「じゃ、このまま居なくなるって訳にはいかねーな。
 俺達も馬鹿高い停泊料取られてるんだ。文句の一つも言わなきゃ気が済まねー。
 つーことで、ベールの中枢へ――案内して貰うぜ」
「なっ!?
 危険すぎるっ!関係ない者をこれ以上巻き込むわけには――」
「やかましいっ!
 そんなこたぁ関係ねーっ!
 いいからとっとと行くぞっ!時間がねーんだったらなおさらだっ!」
「しかし――」
「……無駄よ……ウィオールさん。
 こーなったらケインはてこでもシャベルカーでも動かないんだから……」
 ミリィはもっともなことを言った。
 そしてハンディパソコンを取り出すミリィ。
「制御システムの中枢へのルートってこれで良いのよね?」
「ちょっと待てっ!まさか君も――!?」
 言われてミリィは肩をすくめる。
「ケインが行くんじゃ仕方ないわね」
 しばしケインはミリィを見た後――説得は無理、強引に外へ連れ出すのも無理と判断し、反対するのを止めた。
「ケイン、この部屋出たら右ね」
「おうっ!とっとと行くぜいっ!」
「……無茶苦茶だ……」
 ウィオールは呟いたが、誰も気にする者はいなかった。

 中枢への道のりは順調だった。
 最初は、逃げ出したケイン達を見て、警部連中が捕まえに来るんじゃないかと思っていたのだが、幸か不幸か、自爆の警告ランプなどを見て、それどころじゃないと通り過ぎて行った。
 辺りは赤黒い。
 空調設備もいかれたのか、蒸し暑いことこの上なかった。
 ケインは襟元を緩め、ウィオールの後を追う。
 意外だったのだが、ウィオールは走るのが速かった。
 眼鏡かけた学者=ひ弱と言う、偏見以外の何物でもない考えがあったのかも知れない。
 それとも日々の重力の違いのせいかというと、そうではない。
 ここ、ウォーク星はほぼ1G。
 つまり、人類発祥の地、地球とほぼ同一である。
 そして、ソードブレイカー内の疑似重力も1G。
 重力のせいとは考えられない。
 他にも考えればいくつか出てきそうな物だが、全力で走っているため、酸素が頭まで回らない。
 ミリィも、何とかついてきてはいるものの、かろうじてであった。
 何度目かの曲がり角を通って、ウィオールは立ち止まった。
 目の前には扉がある。
 そして、厳重なロックが施されていた。
 声紋チェック、網膜パターンチェック、様々な頼もしい機能が付いてはいるが――
「でぇぇぇいっ!!」
 がきぃぃぃっ!!
 ――ケインに、廃棄物とされる。

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6292哀夢 踊る 4−B白いウサギ E-mail 2/13-02:10
記事番号6286へのコメント

「ここか?」
 サイブレードの光を灯したまま、ケインはウィオールへと聞いた。
「ああ」
 言って、入り口の側にあった、ケインには何やらわからない機械をいじり、ボタンを押すウィオール。
 しばらくそれをいじり続けると、ミリィが追いついて部屋へと入ってきた。
 さすがに疲れたらしく、息も荒い。
 肩で息をし、膝で身体を支えていた。
「ちょっと……っ!
 少しは……人を待ってくれてても……いいじゃないっ……!」
「無茶言うな。
 お前を待ってる内に、このビルが爆破したらどーするんだ?」
「う゛……そこはまぁ……置いといて」
「……命に関わる問題を置いとくのか……?」
 ケインはジト目でミリィを見た。
 ついミリィは目を逸らし、部屋の内部を見渡す。
 機械的な部屋だった。
 部屋はほぼ円形で、中央にはでっけぇ柱が立っていた。
 その中央の柱には、鉄か何か、金属室で出来た物で覆われており、所々にチューブのような物がはみ出していた。
 どうやら部屋はくり抜かれているらしく、中央の柱の周りから下を覗くと、何階かわからないほどの穴が開いていた。
 入り口は一つ。
 先ほど入ってきた場所以外はミリィには見えなかった。
「……よし。
 セキュリティガードは解除した。
 中央へ行くぞ」
 ウィオールはその機械から離れ、中央へと走り寄りながら、懐からハンディパソコンを取り出す。
 そしてポケットからコードを取り出して、それをパソコンへと接続する。
 う゛ん……っ!
 後数歩で中央への橋へとさしかかる頃、突然ただの壁と思われていた場所がシャッターを上げるような形で開いた。
 奥は暗闇で見えない。
「何もない……?」
「いや……いる」
 ミリィの漏らした呟きにケインはきっぱりと答えた。
 ウィオールも気付いているのだろう。
 足を止め、そちらを見つめていた。
 誰か……いや、『何か』の気配がする。
 暗闇から……『それ』はゆっくりとこちらに向かってくる。
「……罠(トラップ)……だな。
 こんな所に仕掛けがあるなんて聞いたことはない。
 君たちは逃げた方がいい」
 そちらを見続けながら、ウィオールは額に汗をうっすらと浮かべながら言った。
「こんな所で逃げるぐれーなら最初からこねーぜ?
 少しは面白くなりそうだ」
 サイ・ブレードを構えながら、ケインは不敵に笑った。
 ミリィも続いて銃口を闇へと向ける。
 やがてその闇からゆっくりと姿を現した物は……『化け物』だった。
 獰猛な牙をむき出しにし、黒い獣毛は天を突くかの如く。
 外見上は、獅子と虎を掛け合わせ、その上何か正体不明な物を混ぜ合わせたような感がある。
 そして、その容姿とどうやっても合わない点が一つ。
 二足歩行である。
「M−26。
 遺伝子組み替えパターン、戦闘型。
 敏捷性が極めて高く、力もAレベル。
 思考能力は低く、ただ一つのプログラムを遂行することのみに消費されている。 
 ……人間のかなう相手じゃない」
 ウィオールは一通りの説明を淡々と言い、ハンディパソコンをポケットに詰め込んだ。   
 何故そんな説明が出来るのか――もちろん、彼自身が制作者だったからである。
 ロエルに開発を強いられ、制作した生体兵器の一つだった。
「そんなことやってみなくちゃわかんねーだろ」
 う゛ぃん……
 ケインの持つ、サイ・ブレードの刃の輝きが増した。
「……無理だ……」
 ウィオールは半ば絶望的な口調で言った。
 ケインは無視してM−26へと歩み寄る。
「ばあちゃんが言ってたぜ。
 『無理』とか『不可能』って言葉はなぁ――」
 言って、そのまま真っ直ぐM−26へと走り出す!
 M−26は前足を振り上げ、ケインへと下ろす。
 風を切る音がその場の全員に聞こえた。
 がきぃぃぃっ!!
 ウィオールは思わず目を逸らした。
 もう一度目を開けば、また赤を目にする。
 人間の血の色を。
 しかし、うっすらと開けたウィオールの目は、M−26の前足を、サイ・ブレードで受け流し、無傷で立っているケインだった。
 そしてそのまま蹴りを入れる!
「『可能』にするためにあるんでいっ!!」
 言って、ケインはそのM−26を追おうとした瞬間、言い様のない嫌な予感が身体を支配した。
 辺りを見回し確認するいとまもあらばこそ。
 横へ飛び、元居た場所へと目をやると、もう一匹のM−26が立っていた。
「ちっ。もう一匹いやがったのか。
 ウィオール!こいつらの弱点は!?」
「あればとっくに話している!
 唯一の弱点は、単純な命令、一つにしか従えないことだ!」
「じゃあ、あいつらは『ここに入ってきた奴を殺せ』とでも言われてるわけ?」
 ミリィに言われウィオールは一瞬考えた。
 確かに、それならあいつらが攻撃してきたのもわかる。
 だが――それなら、命令者自身もここに近づけなくなってしまう。
 M−26の頭脳を考慮すると命令者が『自分以外』と言う命令を加えることは出来ない。
 そんな容量はないはずだ。
「違うだろうな。
 もっと何か別の命令だろう」
 言って、ウィオールはワイシャツの袖をまくりなおした。
 少々の段差になっていた階段を飛び降り、ケインの背後へと降り立った。
「何だ?」
「加勢する」
 端的に言い放ち、構えを取る。
 武器はない。
「ちょっ!?
 いくらなんでも無茶よっ!ウィオールさんっ!」
 ミリィは柵から叫んだが、ウィオールはさらりとこう言った。
「無茶は無理とほぼ同意語だ。
 可能にするため、私も戦う」
「いや……そー言われても……」
 ケインは振り向いて説得しようとした瞬間、
「来るぞっ!」
「ちぃっ!」
 ケイン、ウィオールはそれぞれ自分の前にいる生体兵器へと目をやり――同時に走り出す!
 先に攻撃をしたのはケインだった。
 何も考えずに突進してきた生体兵器に向かってサイ・ブレードを発射する!
「っけぇぇぇっ!!」
 サイ・ブレードの発射した光は、まともに生体兵器にぶち当たる。
 すぐさま再び刃を生み出し、そのまま斬りつけようと間合いを詰めるが、後ろへ飛び、間合いを取るケイン。
 M−26は傷ついた様子どころか、ダメージを受けた様子すら見られなかった。
 あのまま突っ込んでいたら、爪で引き裂かれていただろう。
 ケインは舌打ちした。
 とっととケリを付けてウィオールの加勢に行くつもりだった。
 しかし――思いの外手強い。
「思考能力が低いって……身体の神経感覚機能も低いんじゃねーだろーな……」
 ケインはぼやいて、再びサイ・ブレードを構えた。
 その視界の端にウィオールが入った。
 見ると、M−26の顎を蹴り上げた瞬間だった。
『ンなっ!?』
 驚いたのはケインとミリィである。
「生体兵器の開発者が、似たようなことを自分の身体にしていてもおかしくないだろう?」
 驚きの声が聞こえたのか、ウィオールはあっさりと言ってのけた。
 それでミリィは納得したのだが、ケインはわかっていた。
 どんな細工をして身体を強化しても、戦いの経験がなければ、ああいう動きは出来ない。
 つまり――
 ――どっかで戦ってたことがあったって訳か。
 ケインは少し安心してサイ・ブレードを構え、M−26を迎え撃った。
 力は相手の方が上だった。
 先ほどサイ・ブレードで受け流したのも、受け流すしかできなかったからである。
 受けとめることは不可能だった。
 ケインが頭をめぐらせていると、M−26はまたケインに向かって直進して体当たりをかける。
 何とかすんでの所で飛んでかわすケイン。
 攻撃パターンが単調である。
 ケインには敏捷性も、ウィオールの言う程じゃないように思えた。
 これなら――かわせるっ!
 ケインは幾度かの攻撃を受け流し、隙をついてはサイ・ブレードの刃を打ち出す。
 そしてそれはM−26には効き目も見受けられずに、変わらず戦いは続けられた。
「ちっ!これじゃキリがねーっ!」
 ケインはすでに息が上がっていた。
 戦うだけでも苦なのに、その上時間制限付きときている。
 本来なら、ウィオールに制御システムをいじって、なおして貰う所なのだが、いくらなんでも二匹同時に相手はきつい。
 ミリィの援護もない。
 再び二匹の生体兵器に目をやって――ケインは絶句した。
 自分の相手を見てではない。
 ウィオールと、その相手に目をやってである。
 今、ケインが相手しているM−26とは比べ物にならないほどのスピードで戦い続けているのだ。
 ほぼ、互角に戦っているウィオールも凄いと言えば凄いのだが――何故、こうも戦力の差があるのかケインは不思議だった。
 いくらベースが生きていたものだからって改造をした後、これだけの差が生まれるのはおかしい。
 M−26は手を休め、攻撃はしてこなかった。
 ケインは再び別の戦いへと目をやる。
 共通点があった。
 ウィオールはギリギリのところでかわし、攻撃を加え、そして相手のダメージが見受けられないと言う点。
 と言うことは――
「……遊んでるのか……?こいつら……」
 不意に漏らした呟きに、M−26が笑ったように見えた。
 ただの気のせいかも知れない。だが――ケインには笑ったように見えた。
「てめぇぇぇっ!!」
 ケインは今までで最速の動きで相手へと間合いを詰める!
 M−26はサイ・ブレードの光に一瞬目をつぶり――
 その瞬間、サイ・ブレードが腹を大きく薙いでいた。
「はぁ……はぁ……これで――どうだっ!
 ――!?――」
 次の一瞬、ケインを大きく後ろへ飛んだ。
 ケインはこの時気付いた。
 自分は終わりのない戦いの場へと追いやられたことを。
 そして――M−26は自分の敏捷性のレベルを一つ上げた。
 即ち、先ほどケインが一太刀浴びせたスピードに対応する速さへと。

 一方、ウィオールも似たような状況だった。
 こちらがスピードを上げれば相手も自分のわずか下へとわざとスピードを設定する。
 完璧に遊んでいるのだ。
「こんな設定……入れた覚えはないんだがな……」
 ウィオールは苦笑した。
 持ち主の命令と言うことも一瞬考えたが、それはあり得ないだろう。
 もしかしたら自分たちで進化したのかも知れない。
「出来ればデータを取りたいとこだが……そうもいかないかっ!」
 ウィオールはM−26の体当たりを避けようと横に飛んだ。
 ざしゅっ!
 かわしたつもりだった。
 だが、M−26の爪はシャツと共に、ウィオールの肩の皮膚をわずかに薙いでいた。
「……疲労か……それとも肉体がついていけなくなったのか……どっちにしろ、長くはないな」
 ウィオールの身体は、肉体強化を受け、人以上の能力を身につけた。
 しかし、あくまで人の身である以上、限界はある。
 自分の出す力に、肉体の方が耐えられなくなったのだ。
 ウィオールは思い出した。
 生体兵器を作るときに、ロエルには隠して、機能停止モードを付けていたのだ。
 それを発動させるにはただ一つ。
 ウィオールの心臓が停止すること――つまり、ウィオールの死によってそれは為される。
 その起動コードは、自分への嫌悪心から生み出した物だった。
 後始末は自分で付けたいこともあった。
 そして、ウィオールの視界にケインが入る。
 それはとても優勢とは呼べない状態だった。
 また彼も自分に関わったせいで死ぬのだろうか。
 ――それならば――
 ウィオールはM−26が自分に向かって突進してくるのを見た。
 そして、構えを解き、足を止めた。
 静かに目を閉じる。
 これで全てが終わる。
 自分が死ねば生体兵器も止まり、彼らも助かるだろう。
 この宇宙に散らばる他の兵器も。
 ウィオールが死を覚悟した瞬間。
 『お父さん。助けて……』
 死の間際にヴェールが言った言葉が脳裏に浮かんだ。
 そうだ。まだ助けていない。
 まだ終われない。
 あの、自分のせいで巻き込まれた娘のために。
 ただ一つ自分に残った物。
 ベール。
 必ず護る。必ず助け出す。そう義父にも誓ったではないか。
 ――ここで死ぬわけにはいかないっ!
 ウィオールは目を開き、力の限り横へ飛んだ。
 痛みはなかった。
 避けきれたのである。
「助けるまでお預けだ」
 そう言って、ウィオールは再び構えを取った。
 不思議と、心の霧は消え去っていた。
 
 ミリィは困惑していた。
 自分の銃が効かないとウィオールに言われ、ひたすら傍観し続けることを強いられたのである。
 それはある意味、今ミリィの眼下で戦っているケイン達より辛いことだった。
 ちらりと時計に目をやる。
 先ほどのベールの暴走開始から標準時刻で約5分。
 いつ爆発するか全くわからなかった。
 この部屋に、カウントダウンの表示らしき物はあるのだが、先ほどからずっとスロットのように回転し続けはっきりと表示されることはなかった。
 表示機も故障しているのだろう。
 たとえ表示が後5分とあっても、一秒後に爆発するかも知れないし、逆に5秒後とあっても10分後に爆発するかも知れない。
 ただ、このままだと爆発することは確実らしい。
 ケインもミリィもそれは根拠もなく、確信していた。
 自分のどこかにそれを感じ取る物があり、危険を知らせるアラームは鳴り止むことはなかった。
 先ほど、ウィオールが言ったM−26の弱点。
 『単純な命令しか受け付けない』こと、
 そして、
 『侵入者を全て殺せ』の命令ではないだろうと言う意味。
 何か、それにこの状況を突破する手だてはないか、混乱しそうな頭を必至に押さえ込み、ミリィは考えはじめた。
 その時、ケインがサイ・ブレードの輝きをいっそう増した瞬間だった。
 ふとミリィに仮説がたった。
 他に仮説はいくらでも立てそうだが、現在はこれしかない。
 だが、失敗した場合の危険(リスク)が大きい。
 ミリィには今、二つ道がある。
 一つはベールの制御を自分が行うこと。
 これははっきり言って、無謀もいいとこである。
 起動パスワードも知らないのだ。
 仮に偶然、何かの間違いで成功したとする。
 だが――たとえ未完成でも『感情』を持ち、そのせいで暴走するベールをどうやって止めることが出来よう?
 やはり、止められるのはベールを良く知っているウィオールしかないのだ。
 そしてもう一つの道。
 自分が立てた仮説を実行すること。
 こちらは、成功すればいいが、失敗すれば、ケインと、ウィオールの命はない。
 だが――このままではどっちみち結果は同じである。
 ケインもウィオールも疲労はピークに達していた。
 いつ、緊張の糸が切れ、ただの肉片と化すかわからない。
 いや、それよりもこのビルが爆破するのが先か――迷っている時間はなかった。
「一か八かっ!」
 ミリィは麻酔銃に手を伸ばした。

「いい加減に――しろっ!」
 ケインはM−26の攻撃を受け流し、懐へと飛び込んだ。
 そして腹に肘を入れ、身体がくの字に曲がった瞬間その腕を上へと突き上げ、顎を捕らえる!
「が……!」
 さすがに相手も元・生物。
 脳しんとうを起こし、動きが止まる。
 そのスキを逃さず、ケインはサイ・ブレードをM−26の口へと突っ込む!
 そしてそのまま――
「これで――終わりだっ!!」
 ざしゅっ!!
 サイ・ブレードは一気に上へと切り上げ、頭を真っ二つにした。
 血が僅かに吹き上がる。
 さすがに口の中までは強化して無かったらしく、切り口を作ることが出来た。
 切り口さえ作れれば、後はそこに力が集中し、裂けるのも容易になる。
 それで頭を二つに切れたのである。
 目の前に転がっているM−26はすでに事切れていた。
「生き物である以上……こーすりゃどーしよーもねーだろ」
 ケインはサイ・ブレードの刃を見た。
 さすがに輝きが鈍くなっている。
 サイ・ブレードのエネルギー源は人間の精神力である。
 つまり、ケインの疲労はそれを減少させるほどのものだと言うことである。
 ケインはウィオールの方を見た。
 まだ終わっていない。
「加勢に――!?っ」
 唐突に、ケインのひざが折れた。
「なんだ……?」
 再び立ち上がろうと力を込める。
 しかし動かない。
 理由はケインにも何となくわかっていた。
 極度の疲労により、身体が言うことを聞かないのである。
 自分の目の前にいた敵を倒したという一瞬の緊張のゆるみが、それを溢れ出させた。
 再びウィオールが視界に入る。
 あちらの疲労も限界だった。
 ――早く行かねーとっ!
 再び足に力を込める。
 足が鉛のように重く、堅い。
 腕もしびれている。
 だが――
 ケインは立ち上がった。
 精神力が肉体を凌駕していたのかも知れない。
 ただ確かなことは――ケインは立ち上がった。
 たが……足取りは不安定なものだった。
 ふらふらとしながらウィオールの方へと近付く。
 しかし、その時、M−26の爪がウィオールの首へ後5cmというところへと伸びた。
 ――間に合わないっ!?
 その瞬間、ケインの耳に銃声が聞こえた。
 ぱりぃぃんっ!
 続いて聞こえる何かの砕ける音。
 その瞬間、視界が僅かに黒ずむ。
 ――気絶……したのか?
 ふとそんなこと思ったが、まだ少し明るい部分が見える。
 間違いなく先ほどの部屋だ。
「と、言うことは――ミリィっ!?」
 そのケインの呼びかけと、銃声は同時に聞こえた。
 そして、間違いなく景色は闇へと変わった。

「ケイン……は、倒しちゃったんだっけ?
 ウィオールさんっ!今M−26の状態はっ!?」
「……私の首もとで何故か攻撃を止めて……暗くて良く見えないが……動いてない」
 声は暗黒の空間から聞こえた。
 どうやら成功したらしい。
 ミリィは安堵の息をもらした。
「止まっただぁっ!?
 一体……ミリィ、何かわかったのかっ!?」
「説明は後でするわ!
 それより、早くベールの方を!」
「あ……ああ。それはわかったんだが……どうやって移動しろと……?」
「う゛っ!?そこまで考えてなかった……
 とっ、とにかくっ!あたしの声を頼りにこっちまで移動してっ!」
「そのうち目が慣れれば何とかなりそうだが……時間がない。わかった」
 ウィオールはゆっくりとミリィの方へ向かって歩き出した。
「ミリィっ!俺も一応そっち行くからなっ!」
「来てもいーけど……動けるの……?」
「根性で動く」
「あ……そう…」
 ミリィは暗闇に向かって曖昧な相づちを打った。
 ミリィは人間の恐怖心の象徴とも言うべき闇が、今だけは安堵の色に思えた。

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6293哀夢 踊る 5−A白いウサギ E-mail 2/13-02:16
記事番号6286へのコメント

 5 ベール

 かちり。
 暗闇の中で確かな接続音がケイン達三人の耳に入った。
 ウィオールのパソコンと、制御システムの中枢のケーブルに接続した音である。
 視界はまだ暗い。
 証明を消すスイッチを探す間など、ミリィにはなかった。
 そして、銃で破壊したのである。
 いくら麻酔銃(パラライズ・ガン)と言えども、照明器具を破壊するだけの破壊力は持っていた。
「起動モード。オリジナル、ベール」
 ウィオールはむしろ静かな口調でそう言った。
 このオリジナルと言うのは、会社が外部との関わるときの偽の制御システムではないと言う意味である。
 つまり、ベール。
 ウィオール=ビクティムの作り出した、感情プログラムを組み込んだ物だった。
「なんとかなりそうか……?」
「まだわからない」
 ケインの問いにウィオールは冷たく言い放った。
 指はキーボードを確実に叩いていく。
 肉体強化の際に、夜目も効くようにしたのがこんな所で幸いしたのである。
「そう言やミリィ。
 さっきのどーいうことだったんだ?急に止まったが……」
「ああ、あれね。
 さっき、ケインがサイ・ブレードを強く光らせた時気付いたんだけど、やつらは明るい場所にいる奴を襲えって言われてたんじゃないかと思ったのよ」
「はぁ……?」
 とぼけた声は闇から聞こえた。
「さっき、奴らが出てきた部屋、真っ暗だったでしょ?
 だから暴れ出さなかったんでしょーね。
 きっと侵入者が入り込むとシャッターが開くような仕掛けになっていたんでしょ。
 でもその命令を出した人はそれを知っているわけだから簡単に防げるし……
 だって、明かりを消せば済むことでしょ?」
「……何かとことん屁理屈並べてるだけのよーに聞こえるんだが……」
 ひくっ。
 ミリィはひきつらせたが暗くて表情はケインには見えない。
「まぁ……あたしもうまくいった時驚いたけど……」
「こら待てぃ。ンじゃあ何かっ!?
 他に何も考えがなかったからやってみただけかっ!?」
 その言葉にミリィはしばし沈黙し、
「……そーゆー言い方もあるわね♪」
「……今明るかったら殴ってるぞ……俺は……」
「そんなこと言ったって他にどーしよーも無かったじゃないのよっ!」
 ケインの言葉に叫ぶミリィ。
「だからって他にやり方ってもんが……」
「あると思う?本当に?」
「う゛……」
 ケインはうめき声を上げて言葉を詰まらす。
 その瞬間、ディスプレイが輝いた。
「音声コード、パスワード共に確認。
 ベールを呼び出します」
 やがて聞こえる機械的な声。
 声自体はベールなのだが、ベールではなかった。
 やがて静かな電気音と共に、ディスプレイに映像が浮かび上がった。
「ベールっ!聞こえるかっ!?私だ!」
 ウィオールが叫ぶ。
 ケインもミリィもそのディスプレイが放つ光によって、いくらか周りが見えるようになっていた。
「お父……さん……?
 私っ!……ああ………」
 ベールは未だに混乱をしていた。
 ばぢばぢぃっ!
 パネルに電流が流れる。
 ウィオールは数歩下がるが、元の位置へと戻る。
 少し前へ動いたら電流に触れ感電する場へと。
 少しでもベールの近い場所にいるために。
「大丈夫だ。私は君を助けに来た。
 ここから出よう」
「出る……?
 どうやって……?」
 ベールはウィオールの意味が分からず、聞き返した。
「このカードにデータを移動させる。
 まぁ……ここと違って窮屈かも知れないが我慢してくれ。
 こんな所、さっさと居なくなろう」
 ケインはその言葉に僅かだがベールの表情が明るくなったような気がした。
「でも……」
「大丈夫だ。ここの会社の回路なら切断できる。
 今までその準備をしてきたのは知っているだろう?」
 そして、その脱出の手伝いをして貰おうとして、結果ケイン達を運命に巻き込んだのであった。
「確かに……ここから出たいとは思います……
 しかしあなたに迷惑がかかるのでは……」
「それは心配ない。
 どうせ、ロエルはこれ以上私を会社に置こうとは思っていない」
「じゃあ――!」
「行こう。外へ」
 ウィオールは微笑んでそう言った。
 パネルに触れた指に、電流は走らない。
 ウィオールが笑いを奪い、笑いを与えたのは同じ発音の名を待つ者達だった。

『ケインっ!一体何やってんですかぁぁぁぁっ!!』
 その声は、『ミクラーダ社制御システム』の最後の仕事として、ベールがビルから脱出ルートを作り上げ、ケイン達がそこに入り込んだとき、聞こえた。
 自爆を解除することは元々不可能だったらしい。
 そのかわり、爆発する場所などを弾き出し、出来るだけ爆発の遅い方へと進んでいた。
「何って……急に喋りだすなよ。呼び出し音ってもんがあるだろーが」
 ずりずりと脱出ルートベールに名付けられた、通風口を這いずりながら、ケインは耳元を抑えた。
 音が反響してやかましいことこの上ない。
『そんなこと言ってる場合じゃないですよっ!
 何でミクラーダ社のビルが爆発、炎上してるんですかっ!?』
「あ。もう爆発し始めたんだ」
 気楽な口調でケインの後ろでやはりずりずり進んで行くミリィが言った。
『何落ち着いてるんですっ!?』
「いやー、だって……ねえ?」
 ミリィは前を行く、二人の男に同意を求めた。
「こっちからの通路なら後30分は大丈夫だ。
 充分助かる」
 その呼びかけに答えたのは、ワイシャツを真っ黒にしながら通路を進んで行く、ウィオールだった。
『誰ですか……?』
 事情が全くわからないキャナルは呆然と呟いた。
「ウィオール=ビクティム。
 ある程度は知ってるだろ。
 まぁ、ともかく、こっちは無事だ。
 キャナル、他に何か用あるのか?」
『他に……ありませんけど……
 マスターの帰りを健気にもカタログを見ながらじっと待っていた私に言うことは……?』
 キャナルは目元にハンカチなんぞを当てつつ、涙を拭う。
「何も買わんぞ。健気だろーが、何だろーが」
 きっぱり言い放つケイン。
『いや……あの……
 健気に待ってた私の話聞いたら、「何か一発、いーもんでも買ってやろーかなー」って気になりません?』
『ならんならん』
 ケインとミリィの声はハモって、通風口にこだました。
「だいたい、通販のカタログ見ながら待ってた奴の何処が健気なんだ……?」
『健気じゃないですかっ!今までカタログ見てるだけで我慢してたんですよ!?この私が!
 いつもならとっくに、ケインの口座に手をつけてますよ?』
「いや……まぁ……そう言われると……そーかも知れんが……」
「ケイン……あんたいつもそーやってキャナルに言いくるめられてるわけ……?」
 ミリィはジト目で、こんな狭い通路でもマントをしたままのケインを見た。
「う゛……」
 ケインはうめき声を上げる。
「はっきり言って事情はよく飲め込めないんだが……」
 ウィオールが行き止まりの壁を押し開ける。
 柔らかな朝日が出ていた。
 もうすでに朝である。
 今までずっと暗闇にいたせいか、眩しい。
「出たぞ」
 ウィオールは外へと身体を押し出し、空を見上げながらそう言った。
 やっと、ミクラーダから脱出できたのである。

「だいたい事情はわかりました。
 ですが――何でここにウィオールさんまで居るんですかっ!?」
 キャナルはウィオールをびしぃっと指差し、絶叫して聞いた。
「ロエルの行き先を知っているのは私だけだ」
 しれっと言うウィオール。
「そじゃなくてっ!
 なぁぁんで操縦室(コックピット)に居るんですかっ!?」
「まぁまぁ、キャナル。
 さっき言った通り、ロエルをほっとくわけにはいかねーだろ」
「ま、まぁ……それはそうですが――って、ミリィっ!どさくさに紛れてコーヒーここで飲まないで下さいよっ!!」
「ありゃ。ばれた?」
 ミリィは口に運んでいたコーヒーカップの手を止める。
「当たり前です!
 ここのブラックリスト、ナンバー1ですからねっ!」
「あ、そう……」
 言って、コントロールパネルの上にコーヒーカップを近づける。
「何やってんです……?」
「ウィオール一緒に連れてかないとショックで、カップ落としちゃうかも知れないわね(はあと)」
 にっこり笑顔で言うミリィにキャナルは凍りつく。
「ちょっとぉぉぉぉぉぉっ!!」
「連れてく?」
 ミリィはにっこり笑いながら聞いた。
 ケインはとっとと避難している。
「そんなハッタリで……」
「今まであたし何回こぼした?」
「う゛……でもっ!」
「あ、手が滑っちゃった(はあと)」
 するりとコーヒーカップが傾く。
「わかりましたわかりました!連れて行きます!
 行くから止めてぇぇぇっ!!」
「あ。良かった」
 ミリィはにっこり笑ってコーヒーカップを手放す。
「ああああっ!!なんてことぉぉぉっ!!
 ―――って、あれ?」
「誰も入ってるとか、こぼす、とか言ってないわよ?
 さあて、キャナルも納得したところで、行きましょーか。ケイン」
 ミリィはそのまま砲手席(ガンナー・シート)へと座る。
 ぎぎいっ、ケインはぎこちなく振り向いた。
 そして慌てて向きを元に戻す。
 ――見なかったことにしとこう。
 ケインは堅く心に決め込んだ。
「――で、ウィオール。空間座標軸指定してくれ」
「6−3−D。リアライ星系、第2番惑星の人工衛星、クォータ」
 ウィオールは最低限のことしか言わず、外を見ていた。
「そうか。
 キャナル、管制室への出港手続きを……頼む……」
「了解……」
 ケインはやはり、キャナルの顔は見れなかった。
「ソードブレイカーより管制室へ。
 これより出航いたします」
 どうにか立ち直ったキャナルが管制室へ通信を入れる。
『了解。手続き終了しています。
 良い航海(ボン・ボヤージ)』
 衛生港のドックのハッチが開かれ、ソードブレイカーは漆黒の宇宙へとその身を踊らせた。
「……どうかしたのか?キャナル」
 珍しく、衛生港をずっと見続けるキャナルを見かけ、ケインは口を開いた。
「……気のせいならいいんですけどね……
 先ほどの出港手続きをした時、オペレーターの表情が変わったように見えたんですけど……」
 ちなみに、衛生港の管制室との通信はキャナルのみで行われ、他の三人はディスプレイを見ていないので気付くはずもなかった。
「じゃあ、ハッキングしてみれば?」
「それもそうですね」
 さらりと言ったミリィにあっさり賛同するキャナル。
「……部外者が目の前にいるのに違法行為を堂々と話すなよ……」
 言って、ウィオールは紙とペンを何処からともなく取り出し、何かを書き始める。
「言っておきますけど――ありがとうございます(はあと)」
 キャナルが口止めしようと何やらウィオールに話しかける途中で、ウィオールの見せた紙を見て一転する。
 紙にはこうある。
『貴船、ソードブレイカー内で見たこと、起きたことを、許可無く口外しないことを誓う。
                                   ――ウィオール=ビクティム』
「……まぁ……それはともかく。
 何か変なことでもあったのか?」
 操縦席(パイロット・シート)に座り、自慢のサイ・ブレードをいじりながら聞くケイン。
 言われてキャナルは高速で数々の情報を流すモニターの映像を見る。
「えーと……あ。ありました
 ……通報……されてますね……」
『どうえああえああっ!?』
 ケインとミリィはそれぞれ訳の分からない悲鳴を上げた。
「なんでよっ!?」
「そっ、そうだっ!
 別にやましいことやった証拠残した覚えも、顔割れるようなことした覚えはねーぞっ!」
 やましいことはしていないと言えない時点ですでに問題あるような気はするのだが、今更そんなことをケインに言ったって無駄であるとわかってる者と、あえてつっこんだ話を聞こうとしない者しかいなかったため、この件はこれで終わりとなる。
 なにしろ、やっかい事下請け人(トラブル・コントラクター)より、やっかい事製造人(トラブル・メイカー)の方がしっくりくる様な男である。
 これで問題起こすなと言う方が無理である。
「単純に言うと、あなた達三人が指名手配されてるようです」
 こほん、と咳払いして、警官の制服を着、手錠を右の人差し指の所でくるくると回すキャナル。
「しっ、しめいてはいぃぃぃっ!?
 ケインっ!あんたとうとう無関係な人を斬ったのっ!?」
「とうとうってお前……
 ――は、後として、指名手配の理由は?」
「まぁ……だいたい想像は付くが……」
 答えたのはキャナルではなくウィオールだった。
 ウィオールは溜息をつき、腕を組んだ。
 その様子にキャナルは頷き、
「ええ。ミクラーダ社のビル爆破についての重要参考人……って事になってはいますけど、実際は容疑者として、でしょうね」
「多分ロエルが通報したんだろう。都合の良いように変えて」
 正解である。
 ロエルが警察に『うちの会社の研究員が暴走した』と言って、ウィオールの名前を挙げ、ケインとミリィはその協力者とされていた。
 爆発の原因は、ウィオールが制御システムをいじって、故意に爆発させた事になっていた。
 ウィオールは制御システムの中枢の場へ、事故後とはいえ、行ったことは事実であり、その形跡は残っていた。
 そのようなこともあり、外部との接触を極端に避けていたウィオールを庇う者もなく、手配を受けるほどの疑いを持たせるのに、時間は大してかからなかった。
 おまけに、この星の経済を支えているミクラーダ社の社長の言葉であれば、むやみに疑うことは出来ない。
 では何故出港許可が下りたのかと言うと、自分たちで何とかするのが怖かったのである。
 元々、まだ船の所までチェックが行き届いておらず、迎え撃つ準備もできていなかったのであろう。
 ならば、通報するだけで警察に恩は売れるし、わざわざ危険を冒してまでどうにかする必要はない――そう、判断したのだった。
「衛生港よりパトロール艇出航確認。数3隻。
 ……どうします……?」
 キャナルはケインの方へ向いて問いかけた。
「どうって……逃げても停泊時の手続きとかで鑑籍はばれてるだろーし……」
 モニターを見ながら、答えに窮するケイン。
「衛生港より再び出航確認。
 ……今度は宇宙軍(ユニバーサル・フォース)ですよ……」
 キャナルはうんざりとした口調で言った。
「何でそんなのまで居るのよっ!?」
 ミリィが叫んだ時と同時に、キャナルはモニターを走らせ――
「ベールに引っ張られたみたいですねー……」
 もう殆どやけくそ気味に言うキャナル。
「……あんたのベールって……宇宙軍(U・F)まで引きずり込めるのか……?」
「知らん。あいつが勝手にやったことだ」
 とてつもなく無責任なセリフを吐く制作者。
「パトロール艇から通信が入ってます」
「しばらく無視」
 身も蓋もなく言い放ち、一人考え込むケイン。
 このまま吹っ切るのはこの船ならば簡単である。
 しかし、それでは遺失船(ロスト・シップ)であることを証明するようなものである。
 それだけではない。
 鑑籍はもちろん、乗組員――つまり、ケイン、ミリィ、ウィオールの三人のこともしっかり手続きの際に提出してある。
 今逃げ出したりしたら『俺達は何かやりました』と言ってるようなもんである。
 よって逃亡者扱いされる可能性が高い。
 しかし、ここで止まり、一時拘束され、長い間取り調べを受ける――それだけで停泊料が見境無く上がり、間違いなく破産である。
 それに加えて、もし有罪だと判断されたり、無実(?)を証明できなかったら――良い未来は浮かんでこない。
 そして、その間にロエルは何かの手をうっておくだろう。
 ――一体どうしろってんだ――
 ケインが毒づいてシートを強く掴んだ瞬間、強制通信が入る。
 ケインはやれやれと溜息をつきながらそちらの方を向き――絶句する。
『こちら宇宙警察(U・G)より、ソードブレイカーへ。
 停船せよ。さもなくば――』
「をい……何してやがる……?」
 ケインはこめかみの辺りをひきつらせた。
『何って――仕事だが?』
「そうじゃねえっ!
 危険になったとたんミリィほっぽって逃げ出したよーな奴が何でここにいるのか聞いてんだっ!」
 ディスプレイに向かってびしぃっと指さすケイン。
 ちなみに、ミリィは頬に汗を流しながら、黙って目を閉じていた。
 その様子がレイルにも見えたのか、視線を辺りに泳がせて、
『あ……あれは……不可抗力だ』
「ほほう……ってぇと、てめーは一般市民を事件に巻き込んだあげく、自分だけ逃げ出してきたことを不可抗力だ、と?」
 さすがに頬に汗を流しつつ、何とか冷静を装うレイル。
『今はその事は後だ。
 ミクラーダ社のビル爆破事件のことは知ってるな?』
 ケイン達は心底ヤな顔をした。
「――で?」
 先を促すケイン。レイルは溜息をしながら左側のテーブルをまさぐり――ファイルを取り出す。
『お前は今回の事件の重要参考人だ。とっとと捕まれ』
「あ・の・なっ!!
 俺達は爆破なんざしてねえっ!」
『犯罪者はみんなそー言うんだ』
「やかましぃぃぃっ!!」 
 ケインが勢い余って手近な物を殴りつけ、キャナルの顔がぴくりと動く。
 レイルはそんなケインを見てふっと遠い目をし、
『なぁケイン。
 別に俺はお前が爆破したと思ってる訳じゃあないんだ。
 だが――住民達は怯えててな』
 言って、目を閉じるレイル。
「……それってとにかく誰でもいーから捕まえて混乱収めたいだけって事か?」
 こめかみの辺りをひきつりながら、作り笑いを浮かべるケイン。
 それにレイルはしばし笑顔で返し、やがて目を閉じ、再び開けると、
『ケイン――貴い犠牲になってくれ』
「なるかぁぁぁぁっ!!」
 ケインは思わず絶叫した。
 そんな二人のやりとりにキャナルがひょこっと顔を出す。
「どうも。レイルさん」
 にっこり笑うキャナルを見て、レイルは一瞬顔をひきつらせる。
 どうもレイルはキャナルが苦手なのだ。
 苦汁をなめさせられたことなど、一回や二回ではない。
「お話の最中お邪魔して悪いんですけどねー、今の通信、記録しっかり撮ってありますので」
『え……と……?』
 レイルはしばらく考え、やがて顔が青くなる。
「これって自白強要罪になるんでしたよね?」
 いつの間にか眼鏡をかけ、分厚い本をぱらぱらとめくるキャナル。
『ちょっ……』
「そう言えば、警察内部の機密をケイン達に喋ったらしいですね」
 にっこり笑って、本をぱたんと閉じるキャナル。
『う゛……いや……それは……』
「ミリィのこと言ったりしたら、猥褻罪も適用されるかも知れませんねぇ……
 ま、後で『ご相談』に行きますので楽しみに待っていて下さいね♪」
 ぶちっ。
 一方的に通信を切り、ケイン達の方へと振り返り、
「さ。行きましょうか。
 後のことは何とかなりそうですし」
 上機嫌のキャナルの言葉に一同は沈黙で答えた。

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6294哀夢 踊る 5−B白いウサギ E-mail 2/13-02:22
記事番号6286へのコメント

 5 ベール

「…………………」
 レイルは一人、突っ伏していた。
 心の奥から不安の波が押し寄せ、それを止める術が見つからない。
「もしかすると……赤字か……?」
 レイルは頭を抱えた。
 どうもキャナルと関わるとろくな事が起こらない。
 だいたい、会話らしい会話すらさせて貰えず、通信を切られたのだ。
 言いたい放題言って、相手を黙らせるキャナルの攻撃の犠牲者、レイルは心底ブルーになっていた。
 すると、宇宙軍(U・F)から通信が入る。
 先ほどの通信は、レイルとソードブレイカーだけの通信で他には誰もわからないはずなのだが、人間の心理上、不安になるのは当然のことだった。
『説得は失敗したのかね?』
 モニターに現れたのは、白髪に白いヒゲをちょんみり生やしているおっさんだった。
 しかし、その服装や雰囲気から宇宙軍(U・F)の要人だという事が見て取れる。
「はぁ……すみません……」
 レイルは曖昧に返事をした。
『なぁに。逃走することは予想していたことだし、気にすることはあるまい。
 これで私達の出番が出来たというわけだしな』
 言って、豪快に笑う。
『確認だが……発砲は許可されているのだな?』
 レイルは手元のファイルに再び目を通し、頷いた。
「確かに、使用許可は降りています。
 ――が、おかしくないですか?この書類。
 重要参考人に対して発砲など普通ならあり得ないことだと――」
『普通ならな』
「……なるほど……」
 レイルは頷いた。
 つまり、上から圧力がかかっているんだろう。 
 ウォーク星の実力者、ミクラーダ社ならあり得なくもない。
 ただ、立場上言えないのだ。
 そしてレイルはふと気付いた。
 ――もし、ソードブレイカーがこの軍に撃沈され、事故として処理されてしまえば?
 脅されることも口止め料をふっかけられることもなくなる。
『まぁ、あまり派手にはしたくないが……
 ではこれより本隊はソードブレイカーの捕捉に当たる。失礼』
 ――がんがん派手にやっちゃって下さい。
 レイルは心の中でそう答え、飛び行く艦隊を希望の目で眺め続けた。
 
「全艦に通達!これより宇宙軍遊撃部隊G−三一二巡航部隊は戦艦の捕捉に入る!
 目標、ソードブレイカー。
 場合によっては戦闘もあり得る。
 各自、第一級戦闘準備!」
『了解!』
 宇宙軍遊撃部隊の旗船、『静かなる鷲(サイレント・イーグル)』の操縦室(コックピット)の提督の通達に隊全体は慌ただしくなる。
 何しろ、今日まで最近予想外の事件の連続であった。
 いきなり部隊の一部が原因不明でウォーク星の衛生港に不時着せざるを得なかったこと、何故か重要参考人に対して動かなくてはならないと命令を受けたこと、全てが予想外で身動きに多少時間がかかった。
 しかし、腐ってもプロである。
 いつもの調子とは行かないまでも、素早く準備を片付けていった。
「機動空母六機戦闘配備完了!巡洋艦一も完了しました!」
 通信士の一人が、サイレント・イーグルの提督、タナスへと伝達する。
 タナスは不敵な笑いを浮かべた。
 ――もとより相手はたかが一隻。全ての戦闘準備を待つこともあるまい。
「目標に強制通信を」
「了解。強制通信開始します」
 通信士の一人の指が軽やかにパネルを滑り、やがてモニターが映る。
「こちら宇宙軍遊撃部隊G−三一二巡航部隊隊長、タナス。
 警告する。ただちに停船せよ。さもなくば砲撃もやむを得ない物とする」
 お決まり通りの警告を言って、タナスは頬杖をついた。
 モニターに映った緑の髪の女の子に多少驚きながらも、その様子を見る。
『こちらソードブレイカー。貴船の忠告、確かに伺いました。
 ――が、こっちは真犯人捕まえるためにそんなこと聞いてる暇はありません』
「は……?」
 思わずタナスは間抜けな声を上げた。
 ここでキャナルが、濡れ衣だ、や、誤解だと言ったりしたら、戯言として取り扱われたであろう。
 しかし、ここで『真犯人』とあげることにより、興味を引かせたのである。
『これより、本船は追跡を開始します。では♪』
 ぺこりとお辞儀をし、一方的に通信が切られる。
 サイレント・イーグルに真っ白な空気がしばし流れた。
 やっと我に返ったタナスは声を張り上げる。
「全艦に通達!これより砲撃を開始する!
 但し、第一射撃は威嚇だ!決して当てるな!」
「全艦より報告!発射準備完了しました!」
 通信士の言葉を聞き、タナスは眼下に広がる宇宙と、目標――ソードブレイカーをきっと見据え、
「発射っ!」
 タナスが叫ぶと、一斉に無数のエネルギー光がソードブレイカーめがけて発射される!
 それぞれの光は這うようにしてソードブレイカーを過ぎ行き、やがて見えなくなった。
「目標に再度警告!次は当てると伝え――」
「目標、加速しました!」
 タナスが最後の警告を発しようとした瞬間に、レーダー係の一人が報告をする。
「馬鹿なっ!?殆ど自殺行為だぞ!」
 しかし言葉とは裏腹に、タナスの視界に入ってきた映像はどんどん離れていくソードブレイカー。
「ちっ!
 全艦加速!目標を追撃しながら第二射撃準備!」
 再びコントロールパネルの上をなめらかに滑り、船のスピードを上げ、追いかけようとする。
 しかし、目一杯上げても差は縮まらない――どころか、大きくなる。
「目標の機動力はこちらより上です!追いつきません!」
「そんな馬鹿な……ええいっ!第二射撃発射準備はまだかっ!?
 射程距離外に行かれる前に攻撃するぞ!」
 外の様子を見ながら、慌てるタナス。右手にはじっとりと汗が握られている。
「砲撃準備、まだです!」
 通信士の返事を聞きながらもますますソードブレイカーは遠ざかっていく。
 ――何なんだ『あれ』は……?
 タナスの胸中の呟きに答えられる者は無論、いなかった。
「第二射撃発射準備、全艦完了!」
「いや……もういい」
 タナスはますます右手を握りしめた。
 視界先にはソードブレイカーの周りに映る星達の瞬き。
 大気のない宇宙に星は瞬かない。
 瞬くのならば――何か光を遮る物が横切るか、空間が歪むか。
 この場合は後者。
「目標、相転移航法(フェイズ・ドライブ)開始!」
「ドライブ・アウト地点を割り出し、我々も追うぞ!
 全艦、相転移航法(フェイズ・ドライブ)準備をし待機!」
 タナスは司令を出すと、シートへと深く座り込んだ。
 息が自然に漏れる。
 相手はただの船ではなかった。
 捕獲失敗は自分自身の慢心が引き起こした可能性は無くはない。
 しかし、それ以上に相手が上手であったのだ。
 何者かはわからない。だが――普通に相手は出来ない相手だと、タナスは気付き始めていた。

「相転移航法(フェイズ・ドライブ)へと移行しました」
「了解。逃げると決めた以上、とことんこのまま行くぞっ!」
 元々考えるより行動する方が得意なケインは腹をくくり、(開き直ったとも言う)操縦席(パイロット・シート)より立ち上がり、ばさっとマントを翻す。
「下手すりゃ重犯罪人ね……しくしくしく……なんでこんなことに……」
「やかましーぞ、ミリィ。こーなっちまったもんは仕方ねーだろーが」
 ミリィの方は向かずに、マントのしわを伸ばすケイン。
「相転移航法(フェイズ・ドライブ)終了――ドライブ・アウトまで20分ほどです」
「思ったより近いんだな」
 キャナルの言葉に操縦室(コック・ピット)から離れようとしたケインの足が止まる。
「実験工場プラントがあんまり離れていても不便だからだろう」
 特に何処ともなく視線を辺りに動かし、言うウィオール。
 いくら宇宙船開発は専門外とは言え、この船が普通じゃないことはウィオールにもわかった。
 宇宙軍(U・F)を相手に楽々と逃げられる船である。
 ウィオールにはそんな非常識な船に一つだけ心当たりがあった。
「――遺失船(ロストシップ)――」
 手近な壁を触り、一人呟いた。
 それにケインもキャナルも気付き、ウィオールを見る。
「――ま、深いことは聞かないでおこう」
 ウィオールは眼鏡をかけ直し、席へと戻った。
 ケインとキャナルは同時に顔を見合わせ、ひょいと肩をすくめた。 
「――で?さっき言った実験工場プラントには何があるんだ?」
 ぎしっと席が軋ませ、ケインはウィオールへと向かい合う。
「……ミクラーダ社の業務内容は生体兵器だけじゃなく、宇宙船や、その装備も制作していたからな。
 おそらく、その船の格納庫だろう。そこ意外に隠れ蓑になりそうなところはない」
「宇宙船……ですか……」
 キャナルは顎に手を当てる。
 もちろんこちらは遺失船(ロスト・シップ)である。
 多少の――いや、かなりの数の船が攻撃してきても勝つ自身はある。
 しかし、この前検索して(ハッキングして)手に入れたデータには、一年前、その工場は大々的な改造がされていた。
 一年前とは、ウィオールの入社と同時期である。
 何かが引っかかった。
「どんな船かわかります?」
「いや。それについては全く聞かされていない。
 だが、予想が正しければ――」
「相転移航法(フェイズ・ドライブ)、ドライブアウト、30秒前です」
 ウィオールの言葉を遮って、キャナルはケインに合図する。
「了解。
 ドライブ・アウト後、実験工場プラントの辺りを周回。
 相手の出方を見る」
「了解」
 ケインの言葉に、キャナルは頷き、外を見た。
 小さな闇が急に現れたかと思うとそれは一瞬で大きな闇へとかわり、辺りには星という輝きをちりばめていた。
 そして、その中でもソードブレイカー正面にぽっかりと浮かぶ星、おそらくロエルが居るであろう場へとゆっくり近付く。
 その星は灰色だった。
 さして大きくもないこの星を、ほぼ完全に金属で覆い尽くされていた。
 灰色のその星はこの宇宙には不似合いなほど、無機質であった。
「ねぇケイン」
 今まで黙っていたミリィが口を開く。
「出方を待つのはいーけど、宇宙軍(U・F)はどうするのよ?」
 ひききっ。
 ケインとキャナルの顔がひきつる。
「そーいえばそーだったなー」
「あまりにも弱いんで相手する必要ないと忘れてました」
「はっはっは。そりゃそーだ」
 ――民間人にここまで言われる宇宙軍(U・F)って一体……?
 そんなことを思いつつ、頬に汗を走らすミリィ。
「やっぱ追ってこないのかな?」
「甘い。大して力もないくせに追い回すねちっこさは一人前だからな。
 そのうち来るだろ」
「じゃあ……どーするのよ……?」
 ぼろくそに言われてる宇宙軍(U・F)に少し同情しながら、ミリィは呟いた。
「考えてないっ!
 来てから考えるから心配すんな!」
「それでどう心配するなと……?」
 ミリィはさらに突っ込むが、ケインは無視をした。
 先ほどから周回を続けてはいるが、相手は何もしてこなかった。
 通信ぐらいはあっても良いような飛行距離なのだが、やはり何もない。
 その外見のこともあって、もしかして誰もいないんじゃないだろうかとさえ思える。
 しばらく辺りをふよふよ浮きながら、ひたすら暇な時間が流れた。

「では、考えて下さいね」
「は……?」
 キャナルの唐突な声で、ケインは間抜けな声を上げた。
 あの後、かなりの時間が過ぎ行き、ミリィなんぞ寝だしていた。
 さすがにウィオールはずっと星を見続けたままだが、その表情からは何も読みとれない。
「宇宙軍(U・F)がドライブ・アウトしてきます」
「きっちり追って来やがんのな……もう少し意外な展開があっても良いと思うんだが……」
 訳のわからん事を言うケイン。
「意外な展開したいのならさせてあげましょうか?」
「いや。お前からは遠慮しとく。
 ミリィっ!起きろっ!」
 言って、砲手席(ガンナー・シート)の方で眠りこけてるミリィを揺らし起こす。
 眠気眼を擦りながら、ミリィの目に入ってきた物は、かなりの数の船がドライブアウトしてくる様子だった。
「おいっ!ウィオールっ!本っ当にここにロエルは居るんだろーなっ!!」
「確率は高い」
 いかにも学者的な答えを出すウィオールにケインは頭を抱えた。
「確率が高かろーが低かろーが居なくちゃ何にもなんねーだろーがっ!!
 くそっ!ミリィ、砲撃準備!指示あるまで撃つなよっ!」
 振り仰ぎ、ミリィに指示を出すケイン。
「指示あるまではって、戦う気っ!?」
 悲鳴を上げるミリィ。
「安心しろ!負けやしねーっ!」
「ちっがぁぁぁぁうっ!!
 そうじゃなくてっ!宇宙軍(U・F)に砲撃なんかして後々大丈夫かって聞いてんのよっ!!」
「あっちが間違えるのが悪いんだ」
「こらこらこらっ!!」
 思わず砲手席(ガンナー・シート)から立ち上がるミリィ。
「ケイン、本気ですかっ!?」
 キャナルも思わず声を上げる。
「ばーちゃんが言ってたぜ。
 『売られた喧嘩は全て買え』ってな!」
「言ってませんっ!!」
 間髪入れず突っ込むキャナル。
 これだけ言っといてなんだが、ケインはもちろん戦う気など更々なかった。
 ただ、さっきから嫌な予感が止まらない。
 何故かはまだわからないが、いずれわかるだろう。
 その時にこそ、本当の敵が現れるはず。ケインはそう踏んで、ミリィに準備をさせた。
 ケインは次々とドライブ・アウトしてくる船を目に捕らえ、乱暴にコントロールバーを倒す。
 ウィオールは思わずイスを掴む手に力を込めたが、それは要らないことだった。
 このソードブレイカーに加速による圧力(プレッシャー)はない。
「敵艦エネルギー反応増大!砲撃来ます!」
 キャナルは警告を発し、ケインはその同時に、コントロールパネルを周りから見るとめちゃくちゃにしか見えない動きで叩く。
 その瞬間、正面に対峙した宇宙軍(U・F)から一斉射撃が行われた。
 闇に無数の光がソードブレイカーに向かって散らばり、そしてそのまま過ぎ行く。
「へたくそぉぉっ!!」
 何故か嬉しそうに言いながら、ケインはさらにコントロールパネルを叩く。
「あたしの出番はっ!?」
「ないっ!」
 仲間外れにされるとでも思ったのか、ミリィが問いかけるが、攻撃させるわけにはいかない。
 きっぱり言い放つケイン。
 手は絶えずコントロールを弾き、全弾をかわす。
「しっかし……無茶しますねー。こんな航跡したら普通の船じゃないってもうきっとばれちゃってますよ」
 さして気にしない風に言うキャナル。
「先のことばっか考えてると今を生きられねーからなっ!」
 言うケインに、何やらツッコミを入れかけるミリィだが、それより早く。
 ケインに嫌な予感が増大し、押し寄せる。
「サイ・バリア展開っ!」
 殆ど反射的に言い、キャナルも反射的にバリアを展開する。
 そして、何かがバリアに当たり、衝撃を起こす。
 がうぅぅんっ!
 船体が大きく揺らいだ。
「バリアカット!被害はっ!?」
「全機関異常なし!」
「一体今のどっから来たのよっ!?」
「左舷3時の方向より高エネルギー反応の戦艦出現!」
 その声に答えて、ケインはコントロールレバーを倒しかけたが、やめる。
「エンジン加速!いったん距離を取ってから確認だ!」
「了解!エンジン加速!」
 何をしたいのかキャナルはわかったのか、すぐさま指示に従う。
 あのまま、3時の方向へ反転していたら宇宙軍(U・F)へ船体の腹を見せ、的を大きくしてしまうことになる。
 さすがにそれだけは避けたかったので、いったん距離を取るのだが――
「ちょっとぉぉぉっ!!宇宙軍(U・F)の艦隊に正面から突っ込んでどぉするのよぉぉぉぉっ!?」
 殆ど悲鳴を上げるミリィ。
「エンジン最大出力!」
「ちょっとケインっ!?」
「いーからやれぃっ!」
「――了解っ!」
 完璧にミリィの悲鳴を無視し、さらにソードブレイカーは加速する。
 目の前に映る無数の艦隊が急速に大きくなる。
「宇宙軍(U・F)艦隊、エネルギー増大!」
「またかっ!馬鹿の一つ覚えみたいに一斉射撃かっ!? 
 良いからそのまま直進!」
「ちょっとぉぉぉっ!!」
「合図と同時にエンジン停止、直後サイ・バリア展開!」
「了解!」
 ケインは宇宙軍(U・F)の艦隊をじっと見つめ――
「今だっ!」
「エンジン停止、サイ・バリア展開!」
 キャナルの声と同時に――視界がエネルギー光に覆われた。
 ミリィは思わず目を閉じた。
 どごごごごっ!!
 レーザーガンがサイ・バリアに弾き飛ばされ、あるいは相殺し合う。
 本来、バリアを張る際、移動は出来ない。
 確かに、バリアエネルギーを推進剤が割に噴射することが出来るが、それでも艦隊を突っ切ることなど不可能。
 ではどうするか。
 ――加速しながらバリアを展開し、慣性航法でそのまま突っ切る。
 一直線にしか移動しないため敵に当てられやすい上にその方向に船があったら殆ど――と、言うより完全に体当たり状態である。
 とことん無茶な方法だが、サイ・バリアの出力、キャナルの性能、ケインの神業とも言うべき勘で、初めて可能な方法である。
 ――とは言え、他の乗員はたまったもんじゃない。
「ひえああああっ!!なんって無茶すんのよっ!?あんたはっ!」
「…………」
 絶叫するミリィに黙したままのウィオール。ただし、きっちり冷や汗が浮かんでいたりする。
「他に方法浮かばなかったんだから仕方ねーだろーがっ!」
 言いながら、しばらく距離を取れた頃、ケインは再びを指示を出した。
「バリアカット!
 未確認戦艦を正面に旋回!」
「了解!」
 答えて、キャナルは船を旋回させ――その船を捕らえた。
 宇宙に溶け込むような黒い機体。
 二つの翼を折り曲げたトンボのようなその船の外見に、ケイン達は見覚えがあった。
 そしてそれを肯定するかのような高出力。
 今現在の科学力ではこれほどの出力を出すことは不可能とされている。
 ――遺失船(ロスト・シップ)――
「あれは……まさか……」
「確かに見覚えがありますね。
 ついこの間会ったばかりのウィスキン社が言っていた、『幽霊船(ファントム・シップ)』にそっくりです」
「なんでここにあんなのがあるのよっ!?
 ウィスキン社ってしっかり潰されてたでしょっ!?確か!」
 キャナルは頷いた。
「なんで……あるのかなんて私にはわかりませんけど……」
 言って、ウィオールへと向かうキャナル。
「――心当たり、ありますよね?」
 ウィオールの表情は驚愕の色へと染まっていた。

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6295哀夢 踊る 6白いウサギ E-mail 2/13-02:27
記事番号6286へのコメント

 6 盗人(シーフ)

 「なっ、何だと!?」
 宇宙軍遊撃部隊G−三一二巡航部隊の旗艦、『サイレント・イーグル』の提督、タナスは思わず叫んだ。
 何とかソードブレイカーに追いついたまでは良い。
 すぐさま発射準備をさせ、一斉射撃。
 それで全てが終わるはずだった。
 だが、その船は信じられないような航跡をし、全てをことごとく避けていた。
 どうして良いかわからず、しばらく一斉射撃を続ける内に、今度は正体不明の船が一隻登場した。
 こちらはレーダーにすら映らない。
 しばらく呆然と見ていて我に返った頃にはその突如出現した黒い船はソードブレイカーへと砲撃をした。
 レーダーにすら映らない物の真後ろからの砲撃をバリアで防ぎ、こちらへと突っ込んでくるソードブレイカーに再び砲撃命令を出したが、全てがバリアに弾き散らされる。
 冗談ではない。
 いくらなんでもこんな至近距離からなら、バリアといえども貫通して撃破するはずだった。
 しかし、実際、ソードブレイカーは無傷で顕在していた。
 そして、正体不明の黒い船へと通信を送った。だが――
「通信に応答せず!
 ……と、言うより……通信機器が搭載されてないようなのですが……」
「そんな馬鹿なはずがあるか!
 再度通告しろ!
 『只今、この空域は危険である。直ちに退去せよ』とな!」
「はぁ……」
 通信士は曖昧な返事をし、パネルを弾く。
 ――が。
「やはり……通じません……」
「そんな――」
 タナスが怒鳴りだす前に、オペレーターの一人が叫んだ。
「正体不明の黒船、なおもソードブレイカーに対して砲撃!」
「――っ!
 ……仕方あるまい……
 黒船とソードブレイカーの間に立って、船を護る!
 全艦隊列はこのままで移動せよ!」
 タナスはそう言い放ち、そして目の前に白い光が一瞬目から光を奪う。
 眩しさで目を焼かれ、しばらく目を擦り、視界が回復すると――
「今の砲撃で巡洋艦一隻撃沈!」
「な……とうとうソードブレイカーが砲撃してきたかっ!」
「いえ……その……砲撃は黒船からです。
 ソードブレイカーとの間に入ろうとした船がやられたようです」
「そんな馬鹿なっ!一発で撃沈だとっ!?」
 そして、タナスは次々と起こる報告に、奥歯を噛み締め、全艦に指示を出した。
 『ソードブレイカーと黒船との間に入るな』――と。

「宇宙軍(U・F)の船一隻撃沈!」
「あいつぅぅぅぅっ!!なりふりかまってねーなっ!」
 その点についてはケインも人のことは言えないのだが、今はそんなことを突っ込む暇は誰にもなかった。
「艦隊、さらに撃沈数3、4……戦線離脱」
「……まぁ……しょーがねーとは思うが……」
 あっさり逃げ出す軍に、少し同情の目を注ぎつつ、ケインはコントロールパネルを叩き始めた。
 視界の端、人工衛星クォータからさらに五機が飛び立ってくるのが見える。
 姿形、全く同一。
 性能も、普通の船よりは良いだろう。
 だがしかし。この船の敵ではない。
「ミリィ!砲撃準備!無人とわかった以上遠慮する必要はねえっ!!」
「了解っ!」
 ミリィは声を上げ、対空システムを起動した。
 無人戦闘機、『盗人(シーフ)』は以前、ウィオールが入社時に持って来たデータディスクの産物だった。
 一年前、ウィオールはウィスキン社へ、やっかい事請負人(トラブル・コントラクター)としてその会社に潜入していた。
 その時、たまたま手には入ったのが一枚のディスク。
 本来なら厳重に保管し、ウィオールが触れることなどあり得るはずはなかったのだが、機械の誤作動、管理人の不注意により、たまたま手に入れることが出来た。
 そして、ヴェールの死亡。
 ほぼ強制的に入社させられ、その時持参していたディスクを没収された。
 そして――そのデータ内容がウィスキン社の遺失船(ロスト・シップ)の製造データであった事、そして、そのデータを元に造られた船があの『シーフ』であることを推測ながら導き出した。
 推論の材料はそれだけではない。
 入社してしばらく、ロエルから依頼があったのだ。
 『精神エネルギーの強い生物を作れ』
 それが命令だった。
 ウィオールはそれを、永眠させた生物の脳の周波をいじり、夢見の技術も利用して、精神エネルギーの出力を自由に操作できる装置も作りだした。
 その際の苦悩は今でも夢に思い出す。
 だが、やったことは事実であり、否定する気も逃げ出す気もなかった。
 遺失船(ロスト・シップ)のみならず、船は動力など精神エネルギーを多分に消費する。
 よって、無人機による相転移航法(ロスト・シップ)の実験すら成功はしていなかった。
 だが――精神エネルギーを自在に操れる生命兵器、いや『装置』を取り付け、遠隔操作をしていたら――その推論の先が、今目の前にいる遺失船(ロスト・シップ)だった。
「本気で生命反応微弱なのが一つずつしか無いですよ……あの船……」
 それを肯定するかのようにキャナルが呟いた。
「……まぁいい。とっとと沈めるぞ」
「宇宙軍(U・F)にどう取られますかねー。
 民間人を巻き込んだ犯罪者とでも取られるんでしょうか……」
「ええいっ!うだうだ考えるのはやめだっ!さくさく行くぜぃっ!
 エンジン始動!敵艦、シーフへとジグザグ走行しながら砲撃!
 ミリィっ!砲撃は任せた!」
 一方的に言い放ち、コントロールパネルの上をケインの指が滑る。
 パネルは淡い光を放ち――船は加速した。
「サイ・ブラスター発射準備完了っ!
 行くわよっ!」
 瞳の置くに危ない物を灯しながら、ミリィは発射トリガーにかけた指を引いた。
 閃光が真っ直ぐシーフの方へと飛んでいく。
 ある程度予想はしてたのか、バリアが展開されたが、構わず船体を貫く。
「……まぁ、コピー船ならあの程度ですかねー……」
「あたしに向かっての誉め言葉は……?」
 ミリィのツッコミをキャナルは完全に無視をした。
 なにげにウィオールを乗せることの交渉でのことを根に持っているらしい。
「敵艦の被害状況はっ!?」
「一隻、大破!行動不能です!」
 ケインの問いで急に真面目な表情に戻るキャナル。
 確かにキャナルの言う通り、サイ・ブラスターに貫かれた船は、ほぼゴミと化していた。
 他の船は当然気にも止めずにこちらに突っ込んでくる。
 やがて一隻が減速、他三機が加速し、回り込むような形で航跡を描く。
「敵艦、こちらの四方を囲む気のようです!」
「そう簡単に囲まれるかっ!ミリィっ!
 遠慮することはねえ。ガンガン行けぇっ!!」
「了解っ!!」
 ミリィが笑顔で照準をセットし、トリガーを引いた。
 一発で相手の機関部を。身動きの出来なくなった状態に二発目を打ち込み、とどめを刺すつもりだった。
 ところが。
 サイ・ブラスターはなんと相手のバリアに弾き散らされ、無傷であった。
「なっ!?なんなんだっ!?あのバリアの出力はっ!?」
「他の遺失船(ロスト・シップ)並じゃないっ!『ただのコピー船』じゃなかったのっ!?」
「そんなはずは……っ!」
 ソードブレイカーの操縦室(コック・ピット)にざわめきが走る。
「他の三機より砲撃来ます!」
「ちぃっ!」
 はじき散らした一機に注意を注いでいたかったが、そういうわけにもいかない。
 ケインは、再びコントロール・パネルのはじき、レバーを操る。
 しかしいくらケインと言えど、相手は四方を囲んでいる。
 これまで何とか避けていたケインだったが――
 がぅんっ!
「当てられたっ!?被害はっ!?」
「左後方部に軽微っ!
 車に10円玉で傷を付ける子供くらいの力ですっ!」
「……なんか……怒ってない……?キャナル……」
 ケインの問いに訳のわからん答えを出すキャナルに突っ込むミリィ。
「当然っ!
 たかがコピー船の分際でこの私の攻撃はじくわ、傷を付けるわ……良い度胸ですっ!」
 下手に権力持ったアブナい奴みたいなセリフを吐き、かなり切れてる口調で言うキャナル。
「…………………」
 ミリィは沈黙するしかできなかった。
「ミリィっ!ぼさっとしてないで砲撃しろっ!」
 ケインは回避行動だけで手一杯である。
 突如高エネルギーが急接近しているのがレーダーに反応した。
 シーフの一機である。
 ミリィはすぐさま照準を合わせ――発射するっ!
 発射台から放たれたエネルギー光は真っ直ぐシーフへと直進し――まともにぶち当たる。
 白光が宇宙に瞬き、瞬間、
「サイ・バリア展開っ!」
 返事をする間すらなく、キャナルはすぐさまバリアを張る。
 いきなりシーフが爆発したのだ。
 沈められての爆発ではない。自爆……いや、特攻機に近いだろう。
 ケインは突然、ミクラーダ社で怒った自爆コードのことが頭に浮かび、気が付いたらバリア展開を命じていた。
「捨て身の戦法も自分の命に関係なきゃ出来るわな……」
 ケインはコントロール・レバーを力一杯に握りしめた。
「ケインっ!他の迎撃、どーすんのよ……?
 他のも撃ったとたん、『どかん』何てことは……」
「知らんっ!
 だいたいさっきからおかしすぎる……
 キャナルの攻撃を抑えきれるほどのバリア、だが攻撃力は大したことはない……」
 ケインは宇宙に浮かぶ、三機のシーフと対峙し、睨み付けていた。
「部外者が口出して良いか?
 さっき、バリアで弾き散らした船がどれかはわかるか?」
 突如、ウィオールが呼びシートから声をかけた。
「わかりますよ。こちらから見て右端のがそうです」
「一発打ち込んでみてくれ。おそらくもう殆どエネルギーはないはずだ」
「……なるほどっ!」
 ミリィはしばし考え込んでから頷き、照準をそれに合わせる。
 それぞれの機が、回避行動を起こし、移動を始める。
 だがしかし、機動性でもこちらが上である。
 ケインがあっさりそれを防ぎ、距離を詰め、ミリィがサイ・ブラスターを発射する!
 至近距離である。
 これをかわすのは不可能。
 ケインのように勘の良い者がバリアを指示すれば別だが、搭乗者は居ない。
 その上――バリアは張れない。
 為す術を絶たれたシーフは今度こそ、貫かれ、撃沈した。
 何故バリアが張れないか。
 それは単純。サイ・エネルギー切れである。
 先ほどの高出力のバリアで生体兵器、つまり精神力の原動力はおそらくエネルギーを全て失い、息絶えているだろう。
 あれほどの出力を出すなど、あのコピー船には無理である。
 それを補うため、出力を異様に高め、耐えきれず死に絶えた。
 ウィオールの右手は赤く染まっていた。
「おしっ!後二機っ!」
「右側の船より高エネルギー反応!
 形振り構ってませんねー……」
「構ってたら何もせずに沈むだろ……」
 思わず突っ込みながらも手を休めないケイン。
 このエネルギー量から言って、サイ・エネルギー全てつぎ込んで撃ってくるだろう。
 見据えた瞬間、高エネルギー反応のシーフの周りが青く揺らぐ。
 ケインは青白い光が全てを飲み込むような錯覚を感じた。
 ――命の光……か。
 ケインは両手で顔を叩き、気合いを入れた。
「増幅(ブースト)チップ射出!
 力で押し切る!」
「正気ですかっ!?そんな無茶なことしてっ!」
「全力でぶつかってくる相手には全力で返す!」
「あああっ!もうっ!了解しましたっ!増幅(ブースト)チップ射出!」
 増幅(ブースト)チップは、シーフの方を向いているソードブレイカー正面に飛び出し、虚空に浮かぶ。
「サイ・バリア展開!」
 すぐさまソードブレイカーはサイ・バリアを張り、そのサイ・バリアに触れ、チップが青白い輝きを放ち、六紡星を描く。
「プラズマ・ブラスト発射!」
 ソードブレイカーのバリアから、十数条のプラズマの腕が伸びる!
 青く輝くプラズマが曲線を描きつつ、その全てをシーフへと直撃させた。
 シーフのはなった、エネルギー砲もろとも。
 シーフは光に飲み込まれ見えなくなり――永遠に姿を消した。
「敵機あと一機です!」
「了解っ!リープ・レールガン発射!」
 ミリィがパネルに指を滑らせ、その一機を照準に捕らえる!
 リープレールガンは真っ直ぐシーフへと直進する。
 ――これで終わり。
 誰もがそう思ったその時。
 シーフが信じられない速さで回避行動を始めた。
 さすがに避けきれはしなかったが――
「敵艦損害軽微!左舷上層部をかすった『だけ』です!」
 ケインの言葉の返事に『だけ』を強調し、ミリィの方を見るキャナル。
「ちょっとキャナル!なんか腹立つわよ!その言い方!」
「こんな所で口喧嘩すんじゃねぇぇぇぇっ!!」
 ケインの絶叫がソードブレイカー内にこだました。
 そう言った瞬間、ケインはふと気付いた。
 砲撃はエネルギー反応を利用すれば自動で行えるだろう。
 だが――あれだけタイミング良くバリアを展開したり、回避行動に自動で移れるものだろうか。
 『シーフ』は、砲撃をかわしたのである。
 確かに普通の船ならそれはあり得ないことはないのだが――今回、相手は無人船。
 その無人船が回避行動行うとは――
 砲撃をかわすなどということは――可能だろうか?
 可能に出来無くはないのかも知れない。
 だが、こう考える方が自然だった。
「……どっか近くで操作してるって訳か……?
 キャナル!『シーフ』に送られてくる電波の発信先を割り出せるか!?」
「宇宙軍(U・F)の艦隊の何処かです!電波が曖昧で……」
「あん中のどっかにロエルが紛れてるって訳かっ!
 何か見つけだす方法は……」
 頭をかきむしり、苛立つケイン。
「……もしかしたら……」
 ケインはウィオールを見て、何か考えを浮かばせた。

「全艦、第二級戦闘準備のまま待機」
 タナスのその指示は、力無く行われた。
 何もできない。
 タナスはそう感じ取っていた。
 目の前の空中戦にももうじき片が付くだろう。
 ソードブレイカーの勝利は誰の目から見ても明らかだった。
 やがて程なく――『シーフ』は宇宙の塵へと還っていった。
『こちらソードブレイカー、これより強制通信を行います。しっかり聞いて下さいね』
 にっこり笑うキャナルが映像に映る。
 そして画像がふいっと消えた。
「目標、ソードブレイカーより強制通信です!」
 通信士が聞けばわかることを言ったが、タナスは聞いていなかった。
『標準時刻8月20日。
 ウィスキン社の戦艦のデータの入ったディスクを手に入れる。
 それは遺失船(ロスト・シップ)のデータと知り、歓喜する』
 それは紛れもなくベールの声だった。
「なっ、なんだっ!?」
 タナスは驚愕するが、答えをくれる者その場には居なかった。
『二ヶ月後。社員に脅迫して作らせた生体兵器を秘密裏に出荷する。
 さらに一ヶ月後、かねてより制作されていた遺失船(ロスト・シップ)のエネルギー代わりになる、生体兵器製造を命令。――以上、ミクラーダ社制御システム、ベールの記録より』
「ミクラーダ社……?」
 タナスはやっと思い出した。
 この指令の上からの圧力に、ミクラーダ社があったことを。
 そして、今この艦隊の中にいることも。
 何故着いてくるのかは聞かなかった。
 が――不信感はますます増大し、ロエルの乗る、小型機道空母へと通信を入れる。
「どう言うことですか……?あれは……」
 問うタナスの正面のディスプレイに映った男は、すでに青くなっていた。
『しっ、知らんっ!あんなのでまかせに決まって――』
『ミクラーダ社は生体兵器、宇宙兵器、様々な分野の密造を行っており、勢力をウォーク星にて増大中。
 ……まだ資料が必要でしたら提供しますが?』
 ロエルの言った言葉を遮って、ベールは言い、にっこりと微笑んだ。
 コンピュータをソードブレイカー、つまりキャナルへと接続したため、映像、表情もスムーズに動いていた。
「ええ。捜査の協力をお願いします。
 ……もちろん、ロエルさんも来ていただきますよ」
 タナスの言葉に、ロエルはがっくりと肩を下ろした。  

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6296哀夢 踊る 7白いウサギ E-mail 2/13-02:30
記事番号6286へのコメント

 『シーフ』を撃沈し、通信も終え、全てが終わったかに見えた時、ベールはウィオールに対してこう言った。
「助けてやるとは言って貰えましたが、護ってやるとは言われてませんね」
 意味が分からずに、ウィオールが立ち竦んで居ると、こうキャナルは耳打ちした。
「あなたが自殺すると思ってるんですよ」
 その言葉に少し図星の表情を見せ、黙っているウィオールを見て、キャナルは続ける。
「……彼女をまた一人にする気ですか……?」
「――――っ!!」
 ウィオールは目を見開き、キャナルを見た。
 キャナルは優しく微笑んで、
「大丈夫ですよ。きっと……」
 そのキャナルの様子を見て、ウィオールはベールの方へと向き直る。
「私は生体兵器を野放しにしておくわけにはいかない」
「それはわかってますっ!だけどっ!」
 必至の表情のベールを見てウィオールは優しく微笑んだ。
「だから――宇宙を廻って、少しずつ元に戻していこうと思う。
 着いてきてくれるか?」
 その言葉にベールの顔は喜びに染まり、
「はいっ!」
 目の端の涙を拭きながら、元気良くそう言った。

「よぉぉっしゃぁっ!」
 久々に外の空気を吸い、ケインは元気な声を上げた。
 誤解などを解くため、様々な手続きをし、全てが終わり、帰されたのは二日後だった。
 あの時、ロエルがここにいるとわかった以上、捕まってもどうにか出来る材料をベールは山ほど持っていた。
 それでケイン達は晴れて『証言者』として、宇宙警察(U・F)に降り立ったのである。
 そして何故か、船のことは質問されなかった。
 少し気にはなりはしたが、こちらとしては好都合であるので、ケイン達はあえて黙っていた。
『ケインっ!のんびりしてないでくださいっ!』
 突如、通信機からキャナルの声が飛び出す。
「何だよ、キャナル。久々に外出られたんだからゆっくり……」
 言いながら、空に向かって手を広げ、のびをするケイン。
『休んでる分の仕事、取っておきました。契約書もミリィの名前でサイン済みです』
 のびをしたままのポーズで固まり、ぎぎぎぃっとぎこちない動きで通信機へと目を落とす。
「今……俺の聞き間違いか……?」
『あ。そう言えば対空ビーム砲も買いましたのでその分も入ります』
「なにぃぃぃぃっ!!」
 周りの視線を無視して叫ぶケイン。
『ごめぇん、ケイン。つい……』
 映像にひょっこりミリィが現れ、顔の前で両手を合わせる。
「『つい』ってお前なぁっ!
 ……おい、その後ろに見えるシートを覆い尽くすほどの量のチョコレートは何だ……?」
 ひきききっ。
 ミリィはぎこちない笑みを送りながら、
『やっぱ――乙女の夢は衝動買いよね♪』
「あほかっ!一体何処からそんな金が―――――――レイルか……」
 映像に再びキャナルが現れ、ぴんぽーんと電子音と共に元気良く続けた。
『はぁい。たっっぷりいただいちゃいましたよ。事件解決のお礼だそーです』
 もちろんそんなわけではないのだが、ケインは突っ込まなかった。
「まぁ……そう言うのはお前の方が得意だから良いとして……何でたっぷりもらっといてすぐ仕事なんだっ!?」
 ケインのそんな様子を見て、キャナルはちっちっちっと指を振る動作をし、
『人間の欲望は限りないんです』
「お前は違うだろうがぁぁぁぁぁぁぁっ!!」
 その瞬間『怪しい人を見かけたら110番』と言うポスターを見た子供は近くの公衆電話へと駆け寄った。
 かくて。
 再びケインは警察署内に放り込まれることとなる。

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6297哀夢 踊る 8白いウサギ E-mail 2/13-02:33
記事番号6286へのコメント



 きっともぉ誰も読んでないだろーけどあとがき

 *この物語はフィクションの上にパロディです。
  実際の科学考証・物理法則は一切関わりありません。

 とりあえずやるだけやって、白いウサギです。
 いい加減刺されるんじゃないかと思う今日この頃。皆さんはいかがお過ごしでしょうか。
 さすがに受験生とゆーと響きだけで重いわ、泣けてくるわの毎日です。
 今試験真っ最中の方々、頑張って下さい。

 さてさて、今回の話はブラントンさんのご依頼通り、ロスト・ユニバースの長編を書かせていただきました。
 長編頼んでもここまで長いのは頼んでないと思われてるかも知れません。
 読んでくれた方々、本っ気でありがとうございます。
 何しろ、原稿用紙に直してほぼ200枚。
 なぁぁぁんも考えてなかった頃はこんなに長くなるなんて予想してませんでした。
 だいたい、とある場面を夢に見て、よぉぉしっ!このシーンを書くぞぉぉっ!と打ち始め、フロッピーが領域不足で原稿が真っ白になったなんて、今思えば微笑ましすぎてこめかみがひきつってくる事件もありつつ、結局その場面が使えなくなったという大笑いの話があります。
 依頼されて大喜びして憂かれまくってたのは良いんですが、四巻を除いて、約一年ほどロスト・ユニバースの原作を読んでなかったんですねー。
 全部読み直し(はあと)
 しかし、そんなことに構わず、いい加減な理論があったりするんですよねー。
 まず第一に、ベールに引っ張られて不時着した現象。
 普通なら影響の受けない位置で引っ張られたって事は、その星より引っ張る力が強いわけでありまして。
 そんな力がとあるビル会社に存在したりすりゃ天変地異程度じゃ済まないはずなんです。……たぶん。
 そっちの方が引っ張る力が強いんなら、そこを核として星が形成されるわけですからもちろんそんなことが起こり得るはずがありません。と、言うよりそんな大きなエネルギーを持つ物を作れるか甚だ疑問ですが(をいをい)
 んでは何故ベールの持つ、人呼び寄せ装置の創作理論は、――――『寂しがりんぼ電波』。
 一人で寂しいベールの自分の近くに人が集まるのを期待する思いが、ああ言う結果を呼んだというわけです。
 強引にそう決めました。今。
 一応理系なんですけどねー、その辺なんざもちろん学んでないわけでありまして。
 いい加減です。
 ちなみに、外見10歳のくせに精神年齢以上に高いのは、ヴェールではなく、ベールだから、です。
 細かい設定言うと長くなるんで省きますけど、ベールには知識として、ヴェールはありますが、それ以上ではなく、生まれ変わりでももちろんありません。
 性格は少しウィオールが基本的なことを入力して、その後は自己学習装置、記憶装置から学んであり、殆ど人間とかわりはないです。
 ……と、言う設定であって、本来ロスユニの世界でそれが可能かはわかりませんが(汗)

 ちなみに、最後に通報した少年が公衆電話に駆け込んだとありますが、雰囲気ですから。
 実際はあの世界にはもう無いでしょう。
 ただ、いきなり少年が携帯かなんかを懐から取り出し……って、書くと、なんかむかつくもんがありますし、面白さとしては公衆電話の方が良いかなーってことです。

 あと,、めちゃくちゃ苦労したのが宇宙軍(U・F)の専門用語とでも言うんでしょーか。
 『巡洋艦』なんざ、辞書引いちゃいましたからね。
 所々に『第一級戦闘準備』とか言ったりしてますけど、それが具体的にどんなもんかは知りません。
 白ウサ、宇宙戦闘アレルギーですから。
 何しろ、『ガ○ダム』をどの話も……つまり、一瞬たりとて見たことないんです。
 CM位ならもちろんありますが。
 なんつーか……宇宙に興味ないです。たぶん。
 月をタダで旅行させてあげると言われても、事故が怖くて、もしかしたら行かないかも知れん。
 それでも一応白ウサ理系物理ですから、地球を脱出するために必要な速度だの色々やってはいますけどね。
 
 えーと……もしかして気付いちゃってる人もいるかも知れませんが、ぢつはまだ終わってないんです。
 一応続きは書き上がってはいるんですが……ハッピーエンドのままがいい人は見ないで下さい。
 この後に一応のっけておきますけど、後で後悔しても一切責任取れませんから。
 まぁ……そりゃ出来る限りは取りますけどぉ……                        
 一応内容はウィオールのその後です。

 さてさて、某「交錯」ですが、執筆は予定通りっ!
 …………遅れています。
 ああああっ!石投げつけないでくださいっ!
 大変なんですよぉ……塾行ったり、学校行事に明け暮れたり、部活行ったり等で。
 さて、言い訳(愚痴)も言って、自分を正当化したよーな気になったところでっ!
 とりあえず逃げます。

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6298哀夢 踊る 9白いウサギ E-mail 2/13-02:36
記事番号6286へのコメント

 9 『?』

「お父さん、まだ準備できてないんですか?」
 ベールはウィオールの家にあるディスプレイから声をかけた。
 あの後、罰を覚悟してはいたのだが、真犯人逮捕の手柄と、制作は本人の意思による物ではなく脅迫されたため、等と理由が挙げられ、大したこともせずに釈放されていたのである。
「旅に出るにはいろいろと準備が必要なんだ。もう少し待ってくれ。
 ――それと、いい加減『お父さん』はやめてくれ」
 振り向きもせずに、段ボールに荷物を詰め込むウィオール。
 旅とは無論、彼の制作した、『生体兵器』の破壊のための物である。
 彼の制作した生きた兵器は、彼自身の死か、もしくは破壊されるまで半永久的に動き続ける。
 もちろん、生き物をベースとしている以上、寿命はあるのだが、そんな物を期待して待っているわけには行かなかった。
 これは彼の一種のけじめであった。
「……じゃあ何て呼べば良いんですかぁ……?」
 その問いにウィオールはガムテープを持ったまま作業を止める。
 そしてどことともなく周りに視線を泳がし、振り返る。
「まぁ……ウィルで良い」
 言ってから、ウィオールは何となく恥ずかしくなって、すぐ視線を段ボールへと落とす。
 そんな様子を見てベールは少し微笑んだ。
「わかりました。ではウィル、出発はいつ頃ですか?」
「……もうすぐ終わるから待ってくれ」
 正確な答えは言わず、最後の段ボールを持ち上げ、肩に担ぐウィオール。
 そしてそのまま玄関へと運ぶ。
 自動のドアが開き、それを確認してから外へ出て、荷物を玄関の左端に置いてある、浮遊(ホバー)タイプの赤い車にそれを積み込む。
「さて……と」
 手を軽く払い、ふと見慣れない車が目に入る。
 それは漆黒の電気(エレ)カーだった。
 何となく、そのあまりの黒さに嫌悪感を沸き起こしながら、ウィオールは再び部屋へと戻る。
「おや、ウィル。結構その格好似合ってるじゃないですか」
「別に機能性を重視しただけだ。本当ならあまり着たくない」
 愛想も無しに言うウィオール。
 茶色いズボンに、黒の長袖。
 ジーンズのジャケットは肩の所当たりまでまくられている。
 左肩には赤いバンダナが縛り付けられていた。
 もともと伊達だった眼鏡は今はつけていない。
 昔、ウィオールがやっかい事請負人(トラブル・コントラクター)だった頃の服装である。
 さすがに歳のことを考え、嫌々だったのだが、これが意外に似合っていた。
「あ、ウィル。お客さんみたいですよ」
「客……?」
 ウィオールは言って、訝しげな顔をした。
 ウィオールは今まで置かれていた状況と、その性格により、他の人間との接触は極端に避けてきた。
 そんな自分にわざわざ尋ねてくる客は思い浮かばなかった。
 一瞬、前の事件で知り合ったやっかい事請負人(トラブル・コントラクター)のことが頭をかすめるが、彼らはもうこの星を出たと聞いている。
 ならば、宇宙警察(U・G)から何かの話でもあるのだろうか……?
 ともあれ、行かなくては何もわからなそうである。
 ウィオールは仕方なく玄関に向かった。
「はい。ウィオール=ビクティムですが……」
 ドアを開けた玄関先に立っていたのは長い金髪の男だった。
 そしてその瞳を見た瞬間、ウィオールは全身が凍るような衝動に襲われ、動けなくなる。
 男の放つ雰囲気は、人間の物とは思えなかった。
 そしてその男が何をしたのかウィオールは何も理解できなかった。
 そして、玄関は彼の車と同じ色に染まり、ウィオールの制作した生体兵器は機能を停止した。

 




 んでは、ここまで読んでしまった方へ解説。
 まず、最後の金髪男は、そう。あの人です。
 ここで、レイルがナイトメアのバイトでミクラーダ社を引っかき回したという意味も入っています。
 レイルの最後の登場シーンで『赤字』って言ってたのは、ナイトメアからはいるバイト料より、キャナルの請求される額の方が多くなりそうだから、そう言ったのです。
 そして、何故ウィオールが死ななければならなかったのか。
 原作読んだ方はわかると思いますが、ロスト・ユニバースの話の流れを大きくしめる、主要キャラクターはことごとく死んでいるというジンクスに乗っ取って……も、まぁ少しはありますが、ナイトメアが遺失船(ロスト・シップ)のデータや、それに関わった人間を放って置くはずが無く、やはりああなってしまいました。
 ケイン、ミリィ、ウィオールにお咎めが一切無かったのも、ナイトメアからの圧力です。
 
とりあえず、ロスユニのネタは多分使い切ったんじゃないかと……しばらく休むかも知れませんし、ひょっこり書き出すこともあるかも知れません。
一応来年受験生なんで、時間も限られますし。
では皆様。最後までお付き合い下さり、ありがとうございました。

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6313面白かったですかのえ E-mail 2/15-00:51
記事番号6298へのコメント

わぁ、原作の方のパロディーだぁ。
ってな訳で(どんな訳だか)、楽しく読ませてもらいましたぁ。
雰囲気も原作にすっごく似ていてグーでしたよ。
テレビ版は嫌いじゃないですけど
僕はやっぱり原作の方が好きだな。特にキャナルとミリィは。

それでは短いですけど感想終わります。


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6331Re:面白かったです白いウサギ E-mail 2/16-23:50
記事番号6313へのコメント

どうも、今晩は(現時点)
あれだけの長文をわざわざ読んでいただき、ありがとうございます(^^)

>わぁ、原作の方のパロディーだぁ。
>ってな訳で(どんな訳だか)、楽しく読ませてもらいましたぁ。

 ありがとうございます♪
 今回……と言うより大抵ですが、原作寄りを目指しておりますので。

>雰囲気も原作にすっごく似ていてグーでしたよ。
>テレビ版は嫌いじゃないですけど
>僕はやっぱり原作の方が好きだな。特にキャナルとミリィは。

 そうですね。テレビ版はテレビ版で良いところも有るんですけど、
 キャナルは特に原作の方が好きです。

>それでは短いですけど感想終わります。

 いえいえ。ありがとうございました〜♪

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6337Re:来年受験って・・・!?模型飛行機 2/20-16:50
記事番号6331へのコメント

高校生なんですか!?
こーこーせえなんですかぁぁぁぁっ!?
このわんだふるな文章力!
原作の雰囲気をばっちり把握したセリフの数々!!
心憎いまでの伏線あんどオチ!!!
・・・・・・・・・。
すッげえええええ!!!!!
かっこいいいいいいい!!!!!
パソの前でこーふんしっぱなしでした(アブない・・・?)!
おもしろかったです!・・・もういっかい言っとこ。
おもしろかったです!!!
次回作が待ち遠しいぃ!と言いたいところですが、その、受験の障害にならない程度に・・・
ぜひ発表してくださいっ(笑)!待ってます!
勝手なことほざいちゃってすいませんしたっ!
では!

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