◆−つかの間の休息・前編−セス (2009/9/24 20:07:24) No.34525
 ┗つかの間の休息・後編−セス (2009/9/26 22:35:08) No.34537
  ┣Re:つかの間の休息・後編−kou (2009/9/27 09:16:00) No.34539
  ┃┗Re:つかの間の休息・後編−セス (2009/9/28 21:14:16) No.34550
  ┣Re:つかの間の休息・後編−ホリ (2009/9/27 14:54:53) No.34540
  ┃┗Re:つかの間の休息・後編−セス (2009/9/28 21:24:47) No.34551
  ┗Re:つかの間の休息・後編−フィーナ (2009/9/28 21:53:31) No.34553
   ┗Re:つかの間の休息・後編−セス (2009/9/29 19:28:19) No.34560


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34525つかの間の休息・前編セス 2009/9/24 20:07:24


 猥雑な喧騒の中を彼は黙々と歩き続けていく。しなやかな長身を包む衣服、深々とかぶったフードも、自分の風貌を隠すように隙なく覆ったマフラーも共に白。その風体に時折すれ違う人々がやや胡乱そうな視線を向けるが、彼はそんなものに頓着しない。

「ゼルガディスさん」
 不意に聞き覚えのある声が彼を呼んだ。
 涼やかで柔らかな、耳に快いアルトの声。振り返った彼は、そこに懐かしい相手を目にした。
 丁寧に切りそろえられた長く癖のない艶やかな黒髪が印象的な、美しい娘だ。ほっそりした身体にまとうのは紫を基調とした巫女の法衣である。陶器のようになめらかな白い肌によく映える、深い翠の瞳がおっとりと笑んでいる。
「・・・シルフィールか」
「お久しぶりです」
 彼女は懐かしげな微笑を向けてくる。彼――ゼルガディスの射抜くような眼光を秘めた蒼い双眸がふと和んだ。
「ああ、久しぶりだな、本当に。だがあんた、確かセイルーンにいるんじゃなかったか?」
「ええ。でも時折この町の復興の手伝いをしにくることがありまして。・・・ゼルガディスさんは?」
 娘――シルフィールは静かに微笑しながら答えた。この町の名はサイラーグ。かつての彼女の故郷であり、一度は滅んだ町だ。
「俺は・・・このところ野宿が多くて持ち合わせの食料が底をついてな。久しぶりに町へ行ってみようかと思って」
「そうですか・・・あのよろしかったら私が泊まっているところへ寄っていきません?実はリナさんとガウリイ様がいらっしゃるんですが」
「・・・あいつらがか?」
 珍しく驚いたように瞠目して問い返す彼に、シルフィールが悪戯っぽく微笑して
「ええ。お二人ともあの時とちっとも変わりませんわ」
「・・・そうか」
 マフラーに隠された口元に、何かを懐かしむような淡い微苦笑が浮かんだ。












「あ、お帰りー。シルフィール・・・ってゼル!?久しぶりね」
 こちらを振り向いた魔道士風の少女は、こちらを見て淡い驚きを宿した目を大きく見張った。やや癖のある明るい栗色の髪も、大粒の紅玉のような瞳もあの時のままだ。
「・・・知り合いか?リナ?」
    どがっ!
 もう一人の発した問いに、少女は痛そうな音を立ててテーブルに額を激突させ、ゼルガディスとシルフィールは危うく足が萎えてその場に膝を付きそうになった。
「あ・・・あ・・・あんたねえっ!」
「冗談だって、冗談」
 ぽりぽりと頭を掻きながら言うのは、少女の隣に座っていた若者である。黄金の滝のように背に流れる色淡い金髪に、涼しげな碧眼、すらりと通った鼻筋が印象的なかなりの美丈夫である。・・・ただし黙っているときに限定されるが。
「が・・・ガウリイ様がおっしゃると冗談に聞こえませんね」
「確かに」
 シルフィールが淡い苦笑を浮かべながら言うと、ゼルガディスは深々と頷いた。
「いくら俺でも、旅してた連中忘れたりしないって」
「あんたならやりかねないって思われてんのよ。少しは脳細胞がほぼ壊滅状態にあるって自覚しなさい」
 金髪の男――ガウリイに隣の少女が突っ込む。
「り・・・リナ、何もそんな言い方することないだろ」
「あるわよっ!」
 リナと呼ばれた少女は昂然と胸を張って言い切った。
「・・・そういうリナだって、胸のことを面と向かって指摘されたら怒るだろ。やれペチャパイだの大平原の小さな胸だの・・・」
「・・・黄昏よりもくらきもの・・・」
「どわあわあああっ!リナ、よせ俺が悪かった!」
「問答無用!乙女の気にしていることを口にした罪は万死に値するのよ!」
「・・・リナさん!ガウリイ様!」
 はっとリナとガウリイは口を閉ざす。そのままゆっくりと叱責の声を発した相手を見やる。あっけにとられて二人のやり取りを眺めていたゼルガディスもだ。
「・・・もう少し静かになさってくださいね、お二方。ここは町の中なんですから」
 やんわりと告げるシルフィールの顔は優美で柔らかな笑みを形作っている。――しかし、注意深く見るとうっすらと青筋が浮かんでいるのが見て取れた。
『・・・はい。すみませんでした』
 いつもおっとりしているシルフィールの予想外の迫力に、リナとガウリイは珍しく顔をこわばらせ、素直に謝った。ちなみにゼルガディスは呆然と硬直している。



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34537つかの間の休息・後編セス 2009/9/26 22:35:08
記事番号34525へのコメント

「・・・で、あんたら。この町に何しに来たんだ?」

 ゼルガディスはシルフィールが淹れてくれた香茶を飲みながら問う。鼻腔を柔らかくくすぐる甘い香気に、野宿続きの生活にささくれ立っていた神経がゆったりと静められていく。
 ちなみに今はフードとマフラーをはずし、青黒い岩で覆われた顔と金属独特の光沢を放つ銀の髪があらわになっている。この場には彼の姿を見て気味悪がって悲鳴を上げたり、眉をひそめるものもいないからだ。
「うーん、ええとまあ、ちょっと事件に巻き込まれてね・・・」
 彼の問いに少女は珍しく歯切れの悪い返事をした。
「また、か・・・」
 薄く呆れの色を含んだ苦笑を浮かべてゼルガディスが言うと
「好きで巻き込まれてるわけじゃないのよ!」
 リナはわめいた。
「・・・で、どんな事件だった?」
「・・・」
 リナはどう説明したものか迷ったように沈黙する。いつもは溌溂と輝いている紅玉のような瞳が珍しく翳っている。
「・・・そういや、あんたあの呪符(タリスマン)、どうした?」
「・・・ああ、あれ壊れちゃった」
「・・・何?」
「・・・魔王のかけらとの戦いで、ね」
「・・・!?」
 ぽつり、とつぶやくような少女の台詞に、ゼルガディスとシルフィールは、顔をこわばらせて絶句する。
「・・・まさか、一生に二度も魔王と対面する奴がいるとはな・・・」
 愕然と沈黙した後に、ゼルガディスは頭痛をこらえるかのように額に手を当て、うめくようにつぶやく。
「仕方なかったのよ・・・あっちが招待してきたんだから」
「招待・・・ですか・・・?」
 形のよい柳眉をひそめながら、鸚鵡返しに問いかけたのはシルフィールである。
「ええ。・・・知り合いだったのよ、魔王の魂が封印されていた奴と、ね・・・」
「・・・え」
「何・・・」
 ゼルとシルフィールは絶句した。
 少女は深く嘆息した。いつもは野性的なまでの生気にあふれているその表情に、今は疲労が降り積もったような悲嘆の影が差している。
 その隣の金髪の若者の顔に浮かんでいるのはいつもののんびりした笑顔ではない。気遣うように柔らかく、それでいて泰然とした表情で少女を見据えている。
 少女は淡々と、事の次第を簡潔にまとめて説明した。かつて幾度も共に戦った一人の男が、とある女性の死をきっかけにすべてを憎悪し、魔族の王と自我を同化させ、すべてを虚無に帰すことを望むようになっていったいきさつを。
「・・・復讐は何も生まない、なんていうけどさ」
 シルフィールが淹れてくれた香茶をスプーンでかき混ぜながら、リナはぽつり、という。
「・・・何かを生み出そう、なんてポジティブなこと考えられる余裕があるうちは、復讐なんて考えないわよね」

 『彼』は何かを生み出そうとして復讐していたわけではなかった。ただ、何もかもを――自分を含めた一切合財を無に導くことのみを考えていた。
そうすることで、自分を蝕む痛みを忘れようとするかのように。
中途半端に何かを残した状態にするのではなく、すべてを消し去ることで何かを失ったことを、欠落そのものをなかったことにしようとしているかのように。
「ま、こうしてさも分かったように話しているけど、あいつの気持ちなんて想像することしかできないのよね。世界そのものを滅ぼしてやりたいって思うほどの、大事なものをなくした経験なんてないし」
「・・・リナ」
 どこかたしなめるような響きを含んだゼルの声に、リナは何かに気づいたように顔をこわばらせる。
リナも幾度か人の死を目にしたことはある。旅先で出会い言葉を交わし、笑みを交わし、それなりに親しくなった人間が冷えた骸となったのを見て、刺されたような痛みを覚えたことも。しかし、それとは別次元の痛みを経験したものもいる。
 ――シルフィール。かつて自分の父と故郷を一度に喪った経験を持つ娘は、いつもと変わらない優しげな微笑を浮かべているだけだ。
 幼いころから過ごした町と父を塵芥のように掻き消され、さらに冥王の力によってかりそめの姿で戻ってきたそれらは、冥王の消滅により再び無に帰した。
 生まれたときから連綿と続いていた平穏なる日常。
それをあっけなく奪われた、自分の身体を抉られるような喪失感。
 そんな彼女の過去を思えば、自分の今の発言は無神経といわれても文句は言えない。
「・・・ごめん、シルフィール」
「・・・え」
 少女が己の失言に気づき、顔を曇らせてわびると、シルフィールは驚いたように翡翠色の瞳を見張った。
「・・・誤る必要なんてないですわ、リナさん」
 柔らかな美貌をふわりとした笑みで彩って、彼女は言う。
「私も想像することしかできません、その方の痛みは。私はまだ恵まれているほうですから」
 淡々と言うその表情にも口調にも、自己憐憫や自己陶酔におぼれている様子はない。
 ただ喪失の痛みを受け入れ、それでもその中に沈んでいくことのない毅然としたしなやかさがあるばかり。
「・・・ま、誰だって何かを失った経験を抱えているもんだろ」
「・・・そだね」
 リナはゼルの言葉に軽く頷いた。
 生きていれば何かを奪われる。常に喪失の可能性を抱えている。
どうしようもなく卑小で脆弱な存在であるがゆえに。
 その痛みにおぼれるか、痛みを抱えながらあがき続けていくか――それはその人間しだいだが。
「・・・なあ」
 それまで黙していた金髪の剣士が口を開いた。
「・・・さっきから言おうと思っていたんだが・・・」
「・・・な、何よ?」
 彼の珍しく真摯な色を秘めた固い表情に、リナはどきりとしながらそれを悟られぬようわざとぶっきらぼうに言う。こういう表情をすると、彼は本来彫刻めいて見えるほど、隙無く整った容貌をしていることに気づく。
「・・・腹減ったよなー」
『・・・』
 凍結したような沈黙の後――


「・・・こおおおの、食い意地張ったワカメ頭っ!」

 すぱああああん!

 少女の怒声とともに、抜けるような快音が響き渡る。
 リナが電光石火の動きで取り出したスリッパを一閃したのだ。
「人が珍しくシリアスな話をしてたのに、それをものの見事に粉砕しちゃって・・・責任取りなさい、責任!」
「せ・・・責任って、何のだよ!?」
「たまには聞かないで自分で考えてみなさい!」
 何やら言い合っている一組の男女を、残る男女は呆然と眺め――


「あいつららしいよな・・・」
「ですね・・・」
 微苦笑をもらしながらゼルがつぶやくと、シルフィールも同意する。
 どこか安堵したような柔らかい苦笑で。

「・・・あの、近くの農家からいただいた果物があるんですが、召し上がりますが、皆さん?」
 シルフィールの一言に二人は一瞬沈黙し
「あ、食べる食べる」
「ってリナも腹減ってたのか、えらそうに俺のことしかってたくせに」
「やかましい!」
などとやり合っている二人を眺めながら、ゼルは微かに笑った。


 柔らかな安堵感がたゆたう、休息の時間がそこにはあった。
 誰にだって、こういう時間は必要だろう。
 人ならざるものと争い、戦友を手にかけた少女魔道士とその相棒たる青年剣士にも。
 異形に変えられた身体を元に戻す方法を求めてさまよい続ける合成獣の若者にも。
 滅ぼされた故郷の復興を少しずつとはいえ続けていく巫女にも。
 それぞれが何かを抱えながらもその重みに押しつぶされないための強さを養う、優しい休息の時間が。








あとがき(という名の言い訳)
 まず最初にアメリアファンの方、出せなくてごめんなさい。
 彼女も好きなんですけどセイルーン王族の仕事の合間の息抜きの場所としてはサイラーグはちょっと遠すぎるか、などと考えて積極出せなかった・・・
 原作終了後、まだサイラーグから出発していないリナとガウリイ、ということになってます。
 あとシルフィールの線が細いように見えて芯が強いとこ、書こうと挑戦してみましたが筆力不足かもしれん・・・

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34539Re:つかの間の休息・後編kou 2009/9/27 09:16:00
記事番号34537へのコメント

 どうも。セスさん。kouです。
> ちなみに今はフードとマフラーをはずし、青黒い岩で覆われた顔と金属独特の光沢を放つ銀の髪があらわになっている。この場には彼の姿を見て気味悪がって悲鳴を上げたり、眉をひそめるものもいないからだ。
 つか、そう言う反応するのも今更という説が………
>「うーん、ええとまあ、ちょっと事件に巻き込まれてね・・・」
> 彼の問いに少女は珍しく歯切れの悪い返事をした。
>「また、か・・・」
> 薄く呆れの色を含んだ苦笑を浮かべてゼルガディスが言うと
>「好きで巻き込まれてるわけじゃないのよ!」
> リナはわめいた。
 まぁ、向こうの方から勝手にやってくるといった雰囲気ですからね。
 厄介事がツアーでリナ=インバース巻き込もうツアーとかの旗でももってやってきていたりして………(笑い)
>「・・・で、どんな事件だった?」
>「・・・」
> リナはどう説明したものか迷ったように沈黙する。いつもは溌溂と輝いている紅玉のような瞳が珍しく翳っている。
 いつもの、リナらしくないね。
>「・・・そういや、あんたあの呪符(タリスマン)、どうした?」
>「・・・ああ、あれ壊れちゃった」
>「・・・何?」
>「・・・魔王のかけらとの戦いで、ね」
>「・・・!?」
> ぽつり、とつぶやくような少女の台詞に、ゼルガディスとシルフィールは、顔をこわばらせて絶句する。
 そりゃ、魔王なんていわれればおどろきますな
>「・・・まさか、一生に二度も魔王と対面する奴がいるとはな・・・」
> 愕然と沈黙した後に、ゼルガディスは頭痛をこらえるかのように額に手を当て、うめくようにつぶやく。
 そりゃ、普通は一回で一生が終わっているだろうし、二回目ならまず死ぬ。
>「仕方なかったのよ・・・あっちが招待してきたんだから」
>「招待・・・ですか・・・?」
> 形のよい柳眉をひそめながら、鸚鵡返しに問いかけたのはシルフィールである。
 そりゃ、招待なんてよくわからないわな
>「ええ。・・・知り合いだったのよ、魔王の魂が封印されていた奴と、ね・・・」
>「・・・え」
>「何・・・」
> ゼルとシルフィールは絶句した。
> 少女は深く嘆息した。いつもは野性的なまでの生気にあふれているその表情に、今は疲労が降り積もったような悲嘆の影が差している。
 まぁ、無理もないな……。
> その隣の金髪の若者の顔に浮かんでいるのはいつもののんびりした笑顔ではない。気遣うように柔らかく、それでいて泰然とした表情で少女を見据えている。
> 少女は淡々と、事の次第を簡潔にまとめて説明した。かつて幾度も共に戦った一人の男が、とある女性の死をきっかけにすべてを憎悪し、魔族の王と自我を同化させ、すべてを虚無に帰すことを望むようになっていったいきさつを。
>「・・・復讐は何も生まない、なんていうけどさ」
> シルフィールが淹れてくれた香茶をスプーンでかき混ぜながら、リナはぽつり、という。
>「・・・何かを生み出そう、なんてポジティブなこと考えられる余裕があるうちは、復讐なんて考えないわよね」
 まぁ、たしかに……。

>「・・・なあ」
> それまで黙していた金髪の剣士が口を開いた。
>「・・・さっきから言おうと思っていたんだが・・・」
>「・・・な、何よ?」
> 彼の珍しく真摯な色を秘めた固い表情に、リナはどきりとしながらそれを悟られぬようわざとぶっきらぼうに言う。こういう表情をすると、彼は本来彫刻めいて見えるほど、隙無く整った容貌をしていることに気づく。
>「・・・腹減ったよなー」
>『・・・』
> 凍結したような沈黙の後――
 これが、もの悲しくなった雰囲気を和らごうと考えて言ったのか………。
 それとも、本当になにも考えていないのか……?

>あとがき(という名の言い訳)
> まず最初にアメリアファンの方、出せなくてごめんなさい。
> 彼女も好きなんですけどセイルーン王族の仕事の合間の息抜きの場所としてはサイラーグはちょっと遠すぎるか、などと考えて積極出せなかった・・・
 いえいえ、むしろ無理矢理だしたと言うのはヘンですし………
> 原作終了後、まだサイラーグから出発していないリナとガウリイ、ということになってます。
 シルフィーユの目から見た二人の光景はどう見えるんでしょうかね。
> あとシルフィールの線が細いように見えて芯が強いとこ、書こうと挑戦してみましたが筆力不足かもしれん・・・
 いえいえ、十分伝わりました。
 次の作品も楽しみにしています。

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34550Re:つかの間の休息・後編セス 2009/9/28 21:14:16
記事番号34539へのコメント


> どうも。セスさん。kouです。
>> ちなみに今はフードとマフラーをはずし、青黒い岩で覆われた顔と金属独特の光沢を放つ銀の髪があらわになっている。この場には彼の姿を見て気味悪がって悲鳴を上げたり、眉をひそめるものもいないからだ。
> つか、そう言う反応するのも今更という説が………
理由はどうあれ、ゼルは自分を化け物扱いしないリナたちの存在がそれなりに大切なんじゃないかなと思いまして・・・
>>「うーん、ええとまあ、ちょっと事件に巻き込まれてね・・・」
>> 彼の問いに少女は珍しく歯切れの悪い返事をした。
>>「また、か・・・」
>> 薄く呆れの色を含んだ苦笑を浮かべてゼルガディスが言うと
>>「好きで巻き込まれてるわけじゃないのよ!」
>> リナはわめいた。
> まぁ、向こうの方から勝手にやってくるといった雰囲気ですからね。
> 厄介事がツアーでリナ=インバース巻き込もうツアーとかの旗でももってやってきていたりして………(笑い)
おかげでリナの相棒たるガウリイは大変ですよね(笑
>>「・・・で、どんな事件だった?」
>>「・・・」
>> リナはどう説明したものか迷ったように沈黙する。いつもは溌溂と輝いている紅玉のような瞳が珍しく翳っている。
> いつもの、リナらしくないね。
>>「・・・そういや、あんたあの呪符(タリスマン)、どうした?」
>>「・・・ああ、あれ壊れちゃった」
>>「・・・何?」
>>「・・・魔王のかけらとの戦いで、ね」
>>「・・・!?」
>> ぽつり、とつぶやくような少女の台詞に、ゼルガディスとシルフィールは、顔をこわばらせて絶句する。
> そりゃ、魔王なんていわれればおどろきますな
>>「・・・まさか、一生に二度も魔王と対面する奴がいるとはな・・・」
>> 愕然と沈黙した後に、ゼルガディスは頭痛をこらえるかのように額に手を当て、うめくようにつぶやく。
> そりゃ、普通は一回で一生が終わっているだろうし、二回目ならまず死ぬ。
>>「仕方なかったのよ・・・あっちが招待してきたんだから」
>>「招待・・・ですか・・・?」
>> 形のよい柳眉をひそめながら、鸚鵡返しに問いかけたのはシルフィールである。
> そりゃ、招待なんてよくわからないわな
>>「ええ。・・・知り合いだったのよ、魔王の魂が封印されていた奴と、ね・・・」
>>「・・・え」
>>「何・・・」
>> ゼルとシルフィールは絶句した。
>> 少女は深く嘆息した。いつもは野性的なまでの生気にあふれているその表情に、今は疲労が降り積もったような悲嘆の影が差している。
> まぁ、無理もないな……。
>> その隣の金髪の若者の顔に浮かんでいるのはいつもののんびりした笑顔ではない。気遣うように柔らかく、それでいて泰然とした表情で少女を見据えている。
>> 少女は淡々と、事の次第を簡潔にまとめて説明した。かつて幾度も共に戦った一人の男が、とある女性の死をきっかけにすべてを憎悪し、魔族の王と自我を同化させ、すべてを虚無に帰すことを望むようになっていったいきさつを。
>>「・・・復讐は何も生まない、なんていうけどさ」
>> シルフィールが淹れてくれた香茶をスプーンでかき混ぜながら、リナはぽつり、という。
>>「・・・何かを生み出そう、なんてポジティブなこと考えられる余裕があるうちは、復讐なんて考えないわよね」
> まぁ、たしかに……。
>
>>「・・・なあ」
>> それまで黙していた金髪の剣士が口を開いた。
>>「・・・さっきから言おうと思っていたんだが・・・」
>>「・・・な、何よ?」
>> 彼の珍しく真摯な色を秘めた固い表情に、リナはどきりとしながらそれを悟られぬようわざとぶっきらぼうに言う。こういう表情をすると、彼は本来彫刻めいて見えるほど、隙無く整った容貌をしていることに気づく。
>>「・・・腹減ったよなー」
>>『・・・』
>> 凍結したような沈黙の後――
> これが、もの悲しくなった雰囲気を和らごうと考えて言ったのか………。
> それとも、本当になにも考えていないのか……?
時折ガウリイ天然なのかわざととぼけているのか分からない場面があるので・・・
>
>>あとがき(という名の言い訳)
>> まず最初にアメリアファンの方、出せなくてごめんなさい。
>> 彼女も好きなんですけどセイルーン王族の仕事の合間の息抜きの場所としてはサイラーグはちょっと遠すぎるか、などと考えて積極出せなかった・・・
> いえいえ、むしろ無理矢理だしたと言うのはヘンですし………
>> 原作終了後、まだサイラーグから出発していないリナとガウリイ、ということになってます。
> シルフィーユの目から見た二人の光景はどう見えるんでしょうかね。
>> あとシルフィールの線が細いように見えて芯が強いとこ、書こうと挑戦してみましたが筆力不足かもしれん・・・
> いえいえ、十分伝わりました。
> 次の作品も楽しみにしています。
ありがとうございます、kouさん。
なんか色々稚拙なところがあるにも関わらず、こうして感想いただけるとやはりうれしいです。


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34540Re:つかの間の休息・後編ホリ 2009/9/27 14:54:53
記事番号34537へのコメント

 初めまして、セスさん。ホリと申します。

 セスさんの小説はシリアスな部分が強いので、原作に近い部分があるな、と感じています。

> ちなみに今はフードとマフラーをはずし、青黒い岩で覆われた顔と金属独特の光沢を放つ銀の髪があらわになっている。この場には彼の姿を見て気味悪がって悲鳴を上げたり、眉をひそめるものもいないからだ。
 リナ達は慣れているし、悲鳴とかあげるとしたらもっと別の事でしょうね。例えば、ご飯を取られたとかでしょう。(笑)
>「うーん、ええとまあ、ちょっと事件に巻き込まれてね・・・」
> 彼の問いに少女は珍しく歯切れの悪い返事をした。
>「また、か・・・」
> 薄く呆れの色を含んだ苦笑を浮かべてゼルガディスが言うと
>「好きで巻き込まれてるわけじゃないのよ!」
> リナはわめいた。
 そういうのに巻き込まれるのが好きって人はいないでしょうね。
>「・・・で、どんな事件だった?」
>「・・・」
> リナはどう説明したものか迷ったように沈黙する。いつもは溌溂と輝いている紅玉のような瞳が珍しく翳っている。
 話しにくい話だけにね。言って良いものなのかも考えてしまって・・・ね。
>「・・・そういや、あんたあの呪符(タリスマン)、どうした?」
>「・・・ああ、あれ壊れちゃった」
>「・・・何?」
 そう簡単に壊れないものだから驚きますよね。
>「・・・魔王のかけらとの戦いで、ね」
>「・・・!?」
> ぽつり、とつぶやくような少女の台詞に、ゼルガディスとシルフィールは、顔をこわばらせて絶句する。
>「・・・まさか、一生に二度も魔王と対面する奴がいるとはな・・・」
 リナが居ると魔王が復活しやすいのかな?って感じてしまいます・・・。
> 愕然と沈黙した後に、ゼルガディスは頭痛をこらえるかのように額に手を当て、うめくようにつぶやく。
>「仕方なかったのよ・・・あっちが招待してきたんだから」
>「招待・・・ですか・・・?」
 魔王が人間を招待するって考えた事もないだろうから、驚きますよね。
> 形のよい柳眉をひそめながら、鸚鵡返しに問いかけたのはシルフィールである。
>「ええ。・・・知り合いだったのよ、魔王の魂が封印されていた奴と、ね・・・」
>「・・・え」
>「何・・・」
> ゼルとシルフィールは絶句した。
> 少女は深く嘆息した。いつもは野性的なまでの生気にあふれているその表情に、今は疲労が降り積もったような悲嘆の影が差している。
 でも、リナだとしたら、美味しそうなご飯が出てきたら、その影はどっかへ言ってしまいそうな気がします。
> その隣の金髪の若者の顔に浮かんでいるのはいつもののんびりした笑顔ではない。気遣うように柔らかく、それでいて泰然とした表情で少女を見据えている。
 こんな時にまで、間の抜けた顔していたら、・・・かなり問題ですね。
> 少女は淡々と、事の次第を簡潔にまとめて説明した。かつて幾度も共に戦った一人の男が、とある女性の死をきっかけにすべてを憎悪し、魔族の王と自我を同化させ、すべてを虚無に帰すことを望むようになっていったいきさつを。
>「・・・復讐は何も生まない、なんていうけどさ」
> シルフィールが淹れてくれた香茶をスプーンでかき混ぜながら、リナはぽつり、という。
>「・・・何かを生み出そう、なんてポジティブなこと考えられる余裕があるうちは、復讐なんて考えないわよね」
>
> 『彼』は何かを生み出そうとして復讐していたわけではなかった。ただ、何もかもを――自分を含めた一切合財を無に導くことのみを考えていた。
>そうすることで、自分を蝕む痛みを忘れようとするかのように。
>中途半端に何かを残した状態にするのではなく、すべてを消し去ることで何かを失ったことを、欠落そのものをなかったことにしようとしているかのように。
>「ま、こうしてさも分かったように話しているけど、あいつの気持ちなんて想像することしかできないのよね。世界そのものを滅ぼしてやりたいって思うほどの、大事なものをなくした経験なんてないし」
 でもリナさん、世界を滅ぼしかねない事はしたんですよね。
>「・・・リナ」
> どこかたしなめるような響きを含んだゼルの声に、リナは何かに気づいたように顔をこわばらせる。
>リナも幾度か人の死を目にしたことはある。旅先で出会い言葉を交わし、笑みを交わし、それなりに親しくなった人間が冷えた骸となったのを見て、刺されたような痛みを覚えたことも。しかし、それとは別次元の痛みを経験したものもいる。
> ――シルフィール。かつて自分の父と故郷を一度に喪った経験を持つ娘は、いつもと変わらない優しげな微笑を浮かべているだけだ。
> 幼いころから過ごした町と父を塵芥のように掻き消され、さらに冥王の力によってかりそめの姿で戻ってきたそれらは、冥王の消滅により再び無に帰した。
> 生まれたときから連綿と続いていた平穏なる日常。
>それをあっけなく奪われた、自分の身体を抉られるような喪失感。
> そんな彼女の過去を思えば、自分の今の発言は無神経といわれても文句は言えない。
>「・・・ごめん、シルフィール」
>「・・・え」
> 少女が己の失言に気づき、顔を曇らせてわびると、シルフィールは驚いたように翡翠色の瞳を見張った。
>「・・・誤る必要なんてないですわ、リナさん」
 シルフィールのこういう所って、すっごく健気に感じます。
> 柔らかな美貌をふわりとした笑みで彩って、彼女は言う。
>「私も想像することしかできません、その方の痛みは。私はまだ恵まれているほうですから」
> 淡々と言うその表情にも口調にも、自己憐憫や自己陶酔におぼれている様子はない。
> ただ喪失の痛みを受け入れ、それでもその中に沈んでいくことのない毅然としたしなやかさがあるばかり。
>「・・・ま、誰だって何かを失った経験を抱えているもんだろ」
>「・・・そだね」
> リナはゼルの言葉に軽く頷いた。
> 生きていれば何かを奪われる。常に喪失の可能性を抱えている。
>どうしようもなく卑小で脆弱な存在であるがゆえに。
> その痛みにおぼれるか、痛みを抱えながらあがき続けていくか――それはその人間しだいだが。
>「・・・なあ」
> それまで黙していた金髪の剣士が口を開いた。
>「・・・さっきから言おうと思っていたんだが・・・」
>「・・・な、何よ?」
> 彼の珍しく真摯な色を秘めた固い表情に、リナはどきりとしながらそれを悟られぬようわざとぶっきらぼうに言う。こういう表情をすると、彼は本来彫刻めいて見えるほど、隙無く整った容貌をしていることに気づく。
>「・・・腹減ったよなー」
 さっきまでの雰囲気があっという間に崩れてしまった所ですね・・・。ガウリイさん、空気を読もうよ・・・。
>『・・・』
> 凍結したような沈黙の後――
>
>
>「・・・こおおおの、食い意地張ったワカメ頭っ!」
>
> すぱああああん!
>
> 少女の怒声とともに、抜けるような快音が響き渡る。
> リナが電光石火の動きで取り出したスリッパを一閃したのだ。
>「人が珍しくシリアスな話をしてたのに、それをものの見事に粉砕しちゃって・・・責任取りなさい、責任!」
>「せ・・・責任って、何のだよ!?」
 分かろうよ、ガウリイ〜。
>「たまには聞かないで自分で考えてみなさい!」
> 何やら言い合っている一組の男女を、残る男女は呆然と眺め――
 色々複雑な気持ちで眺めているのでしょうね・・・。
>
>
>「あいつららしいよな・・・」
>「ですね・・・」
> 微苦笑をもらしながらゼルがつぶやくと、シルフィールも同意する。
> どこか安堵したような柔らかい苦笑で。
>
>「・・・あの、近くの農家からいただいた果物があるんですが、召し上がりますが、皆さん?」
> シルフィールの一言に二人は一瞬沈黙し
>「あ、食べる食べる」
>「ってリナも腹減ってたのか、えらそうに俺のことしかってたくせに」
>「やかましい!」
>などとやり合っている二人を眺めながら、ゼルは微かに笑った。
>
>
> 柔らかな安堵感がたゆたう、休息の時間がそこにはあった。
> 誰にだって、こういう時間は必要だろう。
> 人ならざるものと争い、戦友を手にかけた少女魔道士とその相棒たる青年剣士にも。
> 異形に変えられた身体を元に戻す方法を求めてさまよい続ける合成獣の若者にも。
> 滅ぼされた故郷の復興を少しずつとはいえ続けていく巫女にも。
> それぞれが何かを抱えながらもその重みに押しつぶされないための強さを養う、優しい休息の時間が。
 その時、アメリアさんは何をしているんでしょうかね・・・。
>
>
>
>
>
>
>
>
>あとがき(という名の言い訳)
> まず最初にアメリアファンの方、出せなくてごめんなさい。
> 彼女も好きなんですけどセイルーン王族の仕事の合間の息抜きの場所としてはサイラーグはちょっと遠すぎるか、などと考えて積極出せなかった・・・
 仕方がないと思いますよ。
> 原作終了後、まだサイラーグから出発していないリナとガウリイ、ということになってます。
> あとシルフィールの線が細いように見えて芯が強いとこ、書こうと挑戦してみましたが筆力不足かもしれん・・・
 大丈夫です。感じ取れましたよ。

 また、他の話を楽しみにしています。
 以上ホリでした。

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34551Re:つかの間の休息・後編セス 2009/9/28 21:24:47
記事番号34540へのコメント


> 初めまして、セスさん。ホリと申します。
>
> セスさんの小説はシリアスな部分が強いので、原作に近い部分があるな、と感じています。
はじめまして、感想ありがとうございます。
青臭くて未熟な面があるにも関わらず、こうして優しいコメントをいただける時がすごくうれしいです。

>
>> ちなみに今はフードとマフラーをはずし、青黒い岩で覆われた顔と金属独特の光沢を放つ銀の髪があらわになっている。この場には彼の姿を見て気味悪がって悲鳴を上げたり、眉をひそめるものもいないからだ。
> リナ達は慣れているし、悲鳴とかあげるとしたらもっと別の事でしょうね。例えば、ご飯を取られたとかでしょう。(笑)
彼らの最優先事項は食事ですから(笑
>>「うーん、ええとまあ、ちょっと事件に巻き込まれてね・・・」
>> 彼の問いに少女は珍しく歯切れの悪い返事をした。
>>「また、か・・・」
>> 薄く呆れの色を含んだ苦笑を浮かべてゼルガディスが言うと
>>「好きで巻き込まれてるわけじゃないのよ!」
>> リナはわめいた。
> そういうのに巻き込まれるのが好きって人はいないでしょうね。
>>「・・・で、どんな事件だった?」
>>「・・・」
>> リナはどう説明したものか迷ったように沈黙する。いつもは溌溂と輝いている紅玉のような瞳が珍しく翳っている。
> 話しにくい話だけにね。言って良いものなのかも考えてしまって・・・ね。
>>「・・・そういや、あんたあの呪符(タリスマン)、どうした?」
>>「・・・ああ、あれ壊れちゃった」
>>「・・・何?」
> そう簡単に壊れないものだから驚きますよね。
>>「・・・魔王のかけらとの戦いで、ね」
>>「・・・!?」
>> ぽつり、とつぶやくような少女の台詞に、ゼルガディスとシルフィールは、顔をこわばらせて絶句する。
>>「・・・まさか、一生に二度も魔王と対面する奴がいるとはな・・・」
> リナが居ると魔王が復活しやすいのかな?って感じてしまいます・・・。
>> 愕然と沈黙した後に、ゼルガディスは頭痛をこらえるかのように額に手を当て、うめくようにつぶやく。
>>「仕方なかったのよ・・・あっちが招待してきたんだから」
>>「招待・・・ですか・・・?」
> 魔王が人間を招待するって考えた事もないだろうから、驚きますよね。
>> 形のよい柳眉をひそめながら、鸚鵡返しに問いかけたのはシルフィールである。
>>「ええ。・・・知り合いだったのよ、魔王の魂が封印されていた奴と、ね・・・」
>>「・・・え」
>>「何・・・」
>> ゼルとシルフィールは絶句した。
>> 少女は深く嘆息した。いつもは野性的なまでの生気にあふれているその表情に、今は疲労が降り積もったような悲嘆の影が差している。
> でも、リナだとしたら、美味しそうなご飯が出てきたら、その影はどっかへ言ってしまいそうな気がします。
>> その隣の金髪の若者の顔に浮かんでいるのはいつもののんびりした笑顔ではない。気遣うように柔らかく、それでいて泰然とした表情で少女を見据えている。
> こんな時にまで、間の抜けた顔していたら、・・・かなり問題ですね。
>> 少女は淡々と、事の次第を簡潔にまとめて説明した。かつて幾度も共に戦った一人の男が、とある女性の死をきっかけにすべてを憎悪し、魔族の王と自我を同化させ、すべてを虚無に帰すことを望むようになっていったいきさつを。
>>「・・・復讐は何も生まない、なんていうけどさ」
>> シルフィールが淹れてくれた香茶をスプーンでかき混ぜながら、リナはぽつり、という。
>>「・・・何かを生み出そう、なんてポジティブなこと考えられる余裕があるうちは、復讐なんて考えないわよね」
>>
>> 『彼』は何かを生み出そうとして復讐していたわけではなかった。ただ、何もかもを――自分を含めた一切合財を無に導くことのみを考えていた。
>>そうすることで、自分を蝕む痛みを忘れようとするかのように。
>>中途半端に何かを残した状態にするのではなく、すべてを消し去ることで何かを失ったことを、欠落そのものをなかったことにしようとしているかのように。
>>「ま、こうしてさも分かったように話しているけど、あいつの気持ちなんて想像することしかできないのよね。世界そのものを滅ぼしてやりたいって思うほどの、大事なものをなくした経験なんてないし」
> でもリナさん、世界を滅ぼしかねない事はしたんですよね。
>>「・・・リナ」
>> どこかたしなめるような響きを含んだゼルの声に、リナは何かに気づいたように顔をこわばらせる。
>>リナも幾度か人の死を目にしたことはある。旅先で出会い言葉を交わし、笑みを交わし、それなりに親しくなった人間が冷えた骸となったのを見て、刺されたような痛みを覚えたことも。しかし、それとは別次元の痛みを経験したものもいる。
>> ――シルフィール。かつて自分の父と故郷を一度に喪った経験を持つ娘は、いつもと変わらない優しげな微笑を浮かべているだけだ。
>> 幼いころから過ごした町と父を塵芥のように掻き消され、さらに冥王の力によってかりそめの姿で戻ってきたそれらは、冥王の消滅により再び無に帰した。
>> 生まれたときから連綿と続いていた平穏なる日常。
>>それをあっけなく奪われた、自分の身体を抉られるような喪失感。
>> そんな彼女の過去を思えば、自分の今の発言は無神経といわれても文句は言えない。
>>「・・・ごめん、シルフィール」
>>「・・・え」
>> 少女が己の失言に気づき、顔を曇らせてわびると、シルフィールは驚いたように翡翠色の瞳を見張った。
>>「・・・誤る必要なんてないですわ、リナさん」
> シルフィールのこういう所って、すっごく健気に感じます。
>> 柔らかな美貌をふわりとした笑みで彩って、彼女は言う。
>>「私も想像することしかできません、その方の痛みは。私はまだ恵まれているほうですから」
>> 淡々と言うその表情にも口調にも、自己憐憫や自己陶酔におぼれている様子はない。
>> ただ喪失の痛みを受け入れ、それでもその中に沈んでいくことのない毅然としたしなやかさがあるばかり。
>>「・・・ま、誰だって何かを失った経験を抱えているもんだろ」
>>「・・・そだね」
>> リナはゼルの言葉に軽く頷いた。
>> 生きていれば何かを奪われる。常に喪失の可能性を抱えている。
>>どうしようもなく卑小で脆弱な存在であるがゆえに。
>> その痛みにおぼれるか、痛みを抱えながらあがき続けていくか――それはその人間しだいだが。
>>「・・・なあ」
>> それまで黙していた金髪の剣士が口を開いた。
>>「・・・さっきから言おうと思っていたんだが・・・」
>>「・・・な、何よ?」
>> 彼の珍しく真摯な色を秘めた固い表情に、リナはどきりとしながらそれを悟られぬようわざとぶっきらぼうに言う。こういう表情をすると、彼は本来彫刻めいて見えるほど、隙無く整った容貌をしていることに気づく。
>>「・・・腹減ったよなー」
> さっきまでの雰囲気があっという間に崩れてしまった所ですね・・・。ガウリイさん、空気を読もうよ・・・。
>>『・・・』
>> 凍結したような沈黙の後――
>>
>>
>>「・・・こおおおの、食い意地張ったワカメ頭っ!」
>>
>> すぱああああん!
>>
>> 少女の怒声とともに、抜けるような快音が響き渡る。
>> リナが電光石火の動きで取り出したスリッパを一閃したのだ。
>>「人が珍しくシリアスな話をしてたのに、それをものの見事に粉砕しちゃって・・・責任取りなさい、責任!」
>>「せ・・・責任って、何のだよ!?」
> 分かろうよ、ガウリイ〜。
>>「たまには聞かないで自分で考えてみなさい!」
>> 何やら言い合っている一組の男女を、残る男女は呆然と眺め――
> 色々複雑な気持ちで眺めているのでしょうね・・・。
>>
>>
>>「あいつららしいよな・・・」
>>「ですね・・・」
>> 微苦笑をもらしながらゼルがつぶやくと、シルフィールも同意する。
>> どこか安堵したような柔らかい苦笑で。
>>
>>「・・・あの、近くの農家からいただいた果物があるんですが、召し上がりますが、皆さん?」
>> シルフィールの一言に二人は一瞬沈黙し
>>「あ、食べる食べる」
>>「ってリナも腹減ってたのか、えらそうに俺のことしかってたくせに」
>>「やかましい!」
>>などとやり合っている二人を眺めながら、ゼルは微かに笑った。
>>
>>
>> 柔らかな安堵感がたゆたう、休息の時間がそこにはあった。
>> 誰にだって、こういう時間は必要だろう。
>> 人ならざるものと争い、戦友を手にかけた少女魔道士とその相棒たる青年剣士にも。
>> 異形に変えられた身体を元に戻す方法を求めてさまよい続ける合成獣の若者にも。
>> 滅ぼされた故郷の復興を少しずつとはいえ続けていく巫女にも。
>> それぞれが何かを抱えながらもその重みに押しつぶされないための強さを養う、優しい休息の時間が。
> その時、アメリアさんは何をしているんでしょうかね・・・。
>>
>>
>>
>>
>>
>>
>>
>>
>>あとがき(という名の言い訳)
>> まず最初にアメリアファンの方、出せなくてごめんなさい。
>> 彼女も好きなんですけどセイルーン王族の仕事の合間の息抜きの場所としてはサイラーグはちょっと遠すぎるか、などと考えて積極出せなかった・・・
> 仕方がないと思いますよ。
>> 原作終了後、まだサイラーグから出発していないリナとガウリイ、ということになってます。
>> あとシルフィールの線が細いように見えて芯が強いとこ、書こうと挑戦してみましたが筆力不足かもしれん・・・
> 大丈夫です。感じ取れましたよ。
>
> また、他の話を楽しみにしています。
> 以上ホリでした。
シルフィール好きなので書こうとしたらなかなか思ったとおりにいかなかったので、ちゃんと書けたか不安でした(汗
感想本当にありがとうございました、ホリさん。

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34553Re:つかの間の休息・後編フィーナ 2009/9/28 21:53:31
記事番号34537へのコメント


こんばんは。フィーナです。
>「・・・で、あんたら。この町に何しに来たんだ?」
> ゼルガディスはシルフィールが淹れてくれた香茶を飲みながら問う。鼻腔を柔らかくくすぐる甘い香気に、野宿続きの生活にささくれ立っていた神経がゆったりと静められていく。
ゼルガディスは、携帯食料の買出しとか、必要最低限のときにしか町に寄りたがらないですからね。
>「うーん、ええとまあ、ちょっと事件に巻き込まれてね・・・」
> 彼の問いに少女は珍しく歯切れの悪い返事をした。
>「また、か・・・」
> 薄く呆れの色を含んだ苦笑を浮かべてゼルガディスが言うと
この苦笑を浮かべながらのセリフ。いかにも彼らしいです。
> 少女は深く嘆息した。いつもは野性的なまでの生気にあふれているその表情に、今は疲労が降り積もったような悲嘆の影が差している。
> その隣の金髪の若者の顔に浮かんでいるのはいつもののんびりした笑顔ではない。気遣うように柔らかく、それでいて泰然とした表情で少女を見据えている。
ルークを手にかけたことに痛みを感じていても、リナなら、ガウリイのいうとおり前へ進んでいけると思います。
そして、ガウリイさんの表現が素敵すぎます。
>「・・・リナ」
> どこかたしなめるような響きを含んだゼルの声に、リナは何かに気づいたように顔をこわばらせる。
>リナも幾度か人の死を目にしたことはある。旅先で出会い言葉を交わし、笑みを交わし、それなりに親しくなった人間が冷えた骸となったのを見て、刺されたような痛みを覚えたことも。しかし、それとは別次元の痛みを経験したものもいる。
> ――シルフィール。かつて自分の父と故郷を一度に喪った経験を持つ娘は、いつもと変わらない優しげな微笑を浮かべているだけだ。
シルフィールも、いい性格しているだけでなく、芯がしっかりしている女性なんですよね。
>「私も想像することしかできません、その方の痛みは。私はまだ恵まれているほうですから」
> 淡々と言うその表情にも口調にも、自己憐憫や自己陶酔におぼれている様子はない。
> ただ喪失の痛みを受け入れ、それでもその中に沈んでいくことのない毅然としたしなやかさがあるばかり。
セスさんの人物の描写は、はっとする部分があり、目を見張るものが多いです。
>「・・・腹減ったよなー」
>『・・・』
> 凍結したような沈黙の後――
>「・・・こおおおの、食い意地張ったワカメ頭っ!」
…自分のことは棚に上げて……
> 柔らかな安堵感がたゆたう、休息の時間がそこにはあった。
> 誰にだって、こういう時間は必要だろう。
> 人ならざるものと争い、戦友を手にかけた少女魔道士とその相棒たる青年剣士にも。
> 異形に変えられた身体を元に戻す方法を求めてさまよい続ける合成獣の若者にも。
> 滅ぼされた故郷の復興を少しずつとはいえ続けていく巫女にも。
> それぞれが何かを抱えながらもその重みに押しつぶされないための強さを養う、優しい休息の時間が。
タイトルにふさわしいシメでした。
この最後のイメージとしては、木漏れ日でうたた寝をするリナたちがなぜか浮かびました。
>あとがき(という名の言い訳)
> まず最初にアメリアファンの方、出せなくてごめんなさい。
無理に出そうとしたら、バランスが崩れることもありますから。
別のお話で彼女の心情を出したほうが、違和感はないと思います(なにげに続編希望を望む私)
> 原作終了後、まだサイラーグから出発していないリナとガウリイ、ということになってます。
> あとシルフィールの線が細いように見えて芯が強いとこ、書こうと挑戦してみましたが筆力不足かもしれん・・・
セスさんの文章力には、脱帽しています。
内面性も、どれも『らしさ』があるとおもいます。
この調子で、どんどんすばらしい作品を書いてくださいね。

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34560Re:つかの間の休息・後編セス 2009/9/29 19:28:19
記事番号34553へのコメント


>こんばんは。フィーナです。
こんばんは、フィーナです。
>>「・・・で、あんたら。この町に何しに来たんだ?」
>> ゼルガディスはシルフィールが淹れてくれた香茶を飲みながら問う。鼻腔を柔らかくくすぐる甘い香気に、野宿続きの生活にささくれ立っていた神経がゆったりと静められていく。
>ゼルガディスは、携帯食料の買出しとか、必要最低限のときにしか町に寄りたがらないですからね。
ええ。だから、ゆっくりお茶飲めるって彼にはすごく贅沢なんじゃないかなと思いまして。
>>「うーん、ええとまあ、ちょっと事件に巻き込まれてね・・・」
>> 彼の問いに少女は珍しく歯切れの悪い返事をした。
>>「また、か・・・」
>> 薄く呆れの色を含んだ苦笑を浮かべてゼルガディスが言うと
>この苦笑を浮かべながらのセリフ。いかにも彼らしいです。
>> 少女は深く嘆息した。いつもは野性的なまでの生気にあふれているその表情に、今は疲労が降り積もったような悲嘆の影が差している。
>> その隣の金髪の若者の顔に浮かんでいるのはいつもののんびりした笑顔ではない。気遣うように柔らかく、それでいて泰然とした表情で少女を見据えている。
>ルークを手にかけたことに痛みを感じていても、リナなら、ガウリイのいうとおり前へ進んでいけると思います。
>そして、ガウリイさんの表現が素敵すぎます。
そういっていただけると嬉しいです。
>>「・・・リナ」
>> どこかたしなめるような響きを含んだゼルの声に、リナは何かに気づいたように顔をこわばらせる。
>>リナも幾度か人の死を目にしたことはある。旅先で出会い言葉を交わし、笑みを交わし、それなりに親しくなった人間が冷えた骸となったのを見て、刺されたような痛みを覚えたことも。しかし、それとは別次元の痛みを経験したものもいる。
>> ――シルフィール。かつて自分の父と故郷を一度に喪った経験を持つ娘は、いつもと変わらない優しげな微笑を浮かべているだけだ。
>シルフィールも、いい性格しているだけでなく、芯がしっかりしている女性なんですよね。
ええ。だから目立たないけど結構好きなんです、彼女。
>>「私も想像することしかできません、その方の痛みは。私はまだ恵まれているほうですから」
>> 淡々と言うその表情にも口調にも、自己憐憫や自己陶酔におぼれている様子はない。
>> ただ喪失の痛みを受け入れ、それでもその中に沈んでいくことのない毅然としたしなやかさがあるばかり。
>セスさんの人物の描写は、はっとする部分があり、目を見張るものが多いです。
あああ、そんなにおだてないで下さい、どんどん調子に乗っていきますから(笑
>>「・・・腹減ったよなー」
>>『・・・』
>> 凍結したような沈黙の後――
>>「・・・こおおおの、食い意地張ったワカメ頭っ!」
>…自分のことは棚に上げて……
>> 柔らかな安堵感がたゆたう、休息の時間がそこにはあった。
>> 誰にだって、こういう時間は必要だろう。
>> 人ならざるものと争い、戦友を手にかけた少女魔道士とその相棒たる青年剣士にも。
>> 異形に変えられた身体を元に戻す方法を求めてさまよい続ける合成獣の若者にも。
>> 滅ぼされた故郷の復興を少しずつとはいえ続けていく巫女にも。
>> それぞれが何かを抱えながらもその重みに押しつぶされないための強さを養う、優しい休息の時間が。
>タイトルにふさわしいシメでした。
>この最後のイメージとしては、木漏れ日でうたた寝をするリナたちがなぜか浮かびました。
ここは自分でも少し気に入っているのでこういうコメントをいただけて嬉しいです。
>>あとがき(という名の言い訳)
>> まず最初にアメリアファンの方、出せなくてごめんなさい。
>無理に出そうとしたら、バランスが崩れることもありますから。
>別のお話で彼女の心情を出したほうが、違和感はないと思います(なにげに続編希望を望む私)
ぞ・・・続編ですか・・・うーむ、アメリア好きだけどちゃんと書けるかな・・・
>> 原作終了後、まだサイラーグから出発していないリナとガウリイ、ということになってます。
>> あとシルフィールの線が細いように見えて芯が強いとこ、書こうと挑戦してみましたが筆力不足かもしれん・・・
>セスさんの文章力には、脱帽しています。
>内面性も、どれも『らしさ』があるとおもいます。
>この調子で、どんどんすばらしい作品を書いてくださいね。
フィーナさん、毎回感想書いてくださってありがとうございます。

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