◆−蒼の記憶 キャラクター紹介−フィーナ (2009/3/24 19:36:53) No.33971
 ┣蒼の記憶 33−フィーナ (2009/3/27 17:46:46) No.33972
 ┣蒼の記憶 34−フィーナ (2009/3/30 20:15:42) No.33976
 ┣蒼の記憶 35−フィーナ (2009/4/1 18:52:18) No.33979
 ┣蒼の記憶 36−フィーナ (2009/4/6 22:26:21) No.33980
 ┣蒼の記憶 37−フィーナ (2009/4/9 18:57:00) No.33981
 ┣蒼の記憶 38−フィーナ (2009/4/14 20:41:18) No.33985
 ┣蒼の記憶 39−フィーナ (2009/4/17 15:02:59) No.33986
 ┣蒼の記憶 40−フィーナ (2009/4/22 19:25:05) No.33987
 ┣蒼の記憶 41−フィーナ (2009/4/24 18:10:57) No.33988
 ┣蒼の記憶 42−フィーナ (2009/4/28 16:22:11) No.33989
 ┣蒼の記憶 43−フィーナ (2009/5/2 01:13:25) No.33990
 ┣蒼の記憶 44−フィーナ (2009/5/6 17:18:54) No.33996
 ┣蒼の記憶 45−フィーナ (2009/5/8 23:16:26) No.34003
 ┣蒼の記憶 46−フィーナ (2009/5/10 19:01:35) No.34010
 ┣蒼の記憶 47−フィーナ (2009/5/14 00:25:24) No.34019
 ┣蒼の記憶 48−フィーナ (2009/5/15 17:58:01) No.34022
 ┣蒼の記憶 49−フィーナ (2009/5/16 18:09:46) No.34036
 ┗蒼の記憶 50−フィーナ (2009/5/18 20:11:32) No.34046


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33971蒼の記憶 キャラクター紹介フィーナ 2009/3/24 19:36:53


こうやって前書きのほうで、あいさつするのは初めてのフィーナといいます。
現在私が執筆しているのは、スレイヤーズの原作に沿った二次創作でもある『蒼の記憶』というタイトルです。
著者別リストやカテゴリー検索にはまだつけていないので、興味のある方は恐れ入りますが過去ログのほうからさがしてみてください。
・・・もっとも、最初のほうは明らかに他の方の作品から引用したりしている部分もあり、文章も中途半端に短くとても見れる状態のものではありませんでした。(そのへんがつけていない理由にもなっているのですが・・・)この場を借りて、無断で引用してしまったかたがたへ深く陳謝いたします。

現在、蒼の記憶は32まで書き終わっていますが、初めて目にする方や、温かく見守ってくれている方々にいっそうの理解を得られるように、リナたちメインキャラ以外の登場人物たちの簡単な紹介をさせていただきます。
私の性格の一部を吹き込んだ、分身とも呼べるような彼らがこの先どうやってかかわってくるのかは、私自身少ししかわかっていないのが実情です。
・・・というのも、文章を打ち込んでいくと思わぬ形でキャラクターが勝手に暴走してしまうからです。
当初考えていた設定とは大幅に変更している部分は少ないですけど、暴走したところを修正したりしないと空中分解して、支離滅裂な内容になってしまうのであまり詰め込み過ぎないように投稿していきたいと思います。

長くなりましたが、これで前書きは終了させていただきます。











  蒼の記憶キャラクター紹介(あ行順)

アレン・クラウン
→セイルーンの僧侶連盟所属の神官。年は二十歳前後で、長く伸ばした濃いブラウンの髪で中性的な顔立ちをしている青年。青い神官服を着ている。ごろつきたちに絡まれているところを、リナの攻撃呪文でごろつき連中と一緒に吹き飛ばされて助けられた。リザレクションなどの白魔術のほかに、薬草の調合などかなりの腕前をしている。
ただ、親戚で腐れ縁でもあるオリヴァー・ラーズの依頼でマジック・アイテムの生成に携わったり、自身のコピーでもあるラディを傍に置いたり不可解な点が多い。

エミリア
→リナが魔道士協会で知り合ったジュエルズ・アミュレットづくりのアルバイトをしている少女。淡いブロンドの中々の美少女だが、魔道士姿は少々不似合い。シーゲルに想いを寄せる。

オリヴァー・ラーズ
→レイスン・シティの商人で、多くのマジック・アイテムをてがけている。その商人としての才能は、リナも舌を巻くほど。リナたちに、娘であるマリル・ラーズを狙う何者かを突き止めるため、事件解決の依頼をした。低血圧で寝起き最悪なため、彼を起こすのはある程度の覚悟が必要。

ガンボ
→ラーズ家に出入りしているやや小太りな使用人。

クラース・クルースト
→レイスン・シティ魔道士協会の副評議長。年は二十代の後半、緑のデイグリー・ローブをきていて通称『緑のクラース』黒髪で鋭い目つきをしている。彼が隠したがっているうちの一つ、幼少時のあだ名は『クララ』。それをいうと、本人は怒る。

サリュート
→現領主であるマクベス・ランスロットの補佐をかっている大臣。高官たちを束ね、町からの信頼も厚い。人脈も広く、前領主のリチャード・ランスロットがなくなったとき、次期領主の呼び名も高かったが辞退した。

シーゲル・クラウン
→レイスン・シティ魔道士協会に所属している青年。ブラウンの髪で、真面目そうな顔つきをしている。アレンとは、双子の兄弟でもある。応用力も高く、魔道士としても優秀な反面、やや頑固なところも・・・マリル・ラーズとは、はとこにあたる。

ディー
→半年ほど前、大量発生したデーモン騒動の際、レイスン・シティに立ち寄ったらしい謎の少年。デーモンたちを瞬時に消すなど、その実力は計り知れない。

マクベス・ランスロット
→レイスン・シティの若き領主。父リチャードの後を継いで、十二・三のときロードの地位に就いた。現在の年齢は十五・六だが、町からの反応はいまひとつ。

マリル・ラーズ
→レイスン・シティ商人、オリヴァー・ラーズの娘で愛称はマリー。マクベス・ランスロットの婚約者。レイスン・シティまでの護衛をリナたちに依頼した。潜在キャパシティがたかく、何者かの指示で狙われる。

















  後書き
以上で、蒼の記憶の大まかな登場人物の紹介を終わります。前書きでも触れましたが、彼らがどのような結末を迎えるかは、私自身少ししかわかっていません。無事にこの作品が完結を迎えることが出来るのを強く願いつつ、蒼の記憶 キャラクター紹介を終わらせていただきます。

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33972蒼の記憶 33フィーナ 2009/3/27 17:46:46
記事番号33971へのコメント

「・・・・・・ところで、ききたいことがあるんだけど」

「は・・・はははいっ!?な、なんでしょうか!?」

ぼろぼろになったエミリアは、何故かおびえた表情でそう答えた。

他の連中も、遠巻きになってこちらを眺めていたりする。

あまりにもやかましかったので、ちょっとしたコミュニケーションとしてバースト・ロンドをぶちかましたのである。

このバースト・ロンドという術、見た目は派手だが殺傷能力がないやつで、こけおどしにはもってこいな呪文なのだが・・・・・・

ええい!これぐらいでビビるんじゃない!

これじゃあ、まるであたしが悪役みたいではないか!

「最近ここの魔道士協会って、コピーの研究が進んでいるって人から聞いたんだけど・・・・・・本当?」

「え?ええ、そうですけど」

エミリアは、戸惑いながらもうなずいた。

「具体的にどういう研究か知ってる?」

「どういう研究かって言われても・・・・・・わたしはここでジュエルズ・アミュレットのアルバイトの募集を見てきたわけだし、わたしはコピーとは別の研究ですから」

「ふーん。それじゃ、ほかに最近変わったこととかなかった?」

問われて彼女は、他のみんなと顔を合わせた。

「変わったことといえば、些細なことでもいいんだけど」

「変わったことかは分からないんだけど、噂ならあるわね」

「うわさって?」

たずねるあたしに、別の一人が躊躇するように言った。

「・・・・・・デマかもしれないけど、ロードがコピー使って他国に反乱起こそうとしているとか」

「それ、わたしもきいたー」

「あと、魔族と手を組んで国をのっとろうとしているとか」

「ロードが?」

聞き返すあたしに、エミリアたちはうなずいた。

あたしがみた感じでは、あのロードにンなことできるとは思えないのだが。

「コピーの研究が進んだからそういう噂が出てるんだろうけど」

「やっぱりいい気はしないよねー」

「ロードのこと以外で小耳に挟んだ噂って知ってる?たとえば、魔道士協会に関することとか」

何で噂話なんかを聞いてるとはきくなかれ。

女の子というのは、普通に聞き込みするよりも集団相手だとこういった方法のほうが、ひとりが話し始めるとほかの連中も遠慮せずにはなしを聞きだすことができて、内部事情をある程度把握できるのである。

一見ただの無駄話に見えるかもしれないが、関係なさそうな話が事件の核心に触れている場合も多いのだ。









あたりは、はや夕暮れに近づいて・・・・・・って、

「なんでもう、日が暮れてんのよ」

あたしは、憂鬱(ゆううつ)な気分を隠そうとせず、憮然(ぶぜん)としてつぶやいた。

あの後―――

彼女たちの話はとどまることを知らず、世間話にいつの間にかすり替わっていたのだ。

そのなかには、確かに事件の参考になるものもあったような気もするが、ほとんどが自分の身の上話や自慢になっていた。

・・・・・・途中で力尽きるかと思ったぞ。

それはとにかく、ある人物に会うために、あたしは受付の姉ちゃんから居場所を聞きだして、その場所へと向かった。

もう少しで閉館にはなるが、あたしは噂話に出てきた人物の中で、どうしても確かめたいことがある。

空間はオレンジに染め上げられ、あたりに伸びる影は濃紺を刻み込む。

閉館に近づいていることもあってか、協会の通路にはちらほらと数人の魔道士がめにつくばかり。

―――と、

あたしは足を止めた。







目的の場所までは、あと少しといったところだが、あたしが止まったのは・・・・・・

―――悲鳴が聞こえたのだ。

しかも、どうやら目的の場所から。

それが証拠に、あたしが駆けつけた部屋の前には、ひとだかりができていた。

「ちょっと、なにがあったの!?」

「わ・・・わかんねえ」

手近にいた魔道士をつかまえてきいても、そういってオロオロするばかり。

あたしは人だかりを掻き分けて、扉を開けた。

むせ返るような血のにおいが、その部屋に充満していた。

部屋の中は、書籍や資料といったものがかろうじてバランスを保っておかれていた。

いつ本の雪崩が起きても、不思議じゃないその部屋には目当ての人物以外に先客がいた。

書類が置かれた机の上にうつぶせになっている人物と、呆けたように倒れこんでいる―――

「・・・・・・シーゲル?」

あたしの呼びかけに、彼はゆるゆるとこちらを振り向いた。

虚ろなまなざしで、感情のない―――いや、どうやって感情を出せばいいのか分からないような表情で、こちらに視線を向ける。

「シーゲル。なにがあったの?」

「・・・・・・なにが?」

途方にくれた子供のように、力なく答える。

あたしは、改めてうつぶせになっている男に目を向ける。

五十代を過ぎた、髪に白いものが混じり始めているその男は、右のわき腹近くに一本のナイフを突き立てられていて

―――すでに事切れていた。

ふと、その右手に違和感を感じ、近づいてみる。

本の中から、手でむしりとったのだろう。

その手の中に、紙がしっかりと握り締められていた。

あたしは眉をひそめて、引き離そうとしたが死後硬直によって固定されておりビクともしない。

あきらめて、現場を見渡してみる。

血が乾ききっていることから、殺害されたのはかなり前ってことになる。



ばたん!!



扉が荒々しく開けられて、姿を見せたのはレイスン・シティ副評議長―――クラース・クルーストだった。

けたたましい音を立てて、クラース副評議長は息を切らせて中に入ってきた。

「評議長!」

おそらく、誰かが彼に連絡を入れたのだろう。

彼もまた、その変わり果てた姿を認めて絶句した。

「―――なっ!?
これは・・・・・・いったい?」

その声が呼び水となったのか、シーゲルは首を激しく横にふり始めた。

「ち・・・違う。
俺じゃない!俺がやったんじゃないんだ!」

「シーゲル!?」

彼は、シーゲルのその様子に一瞬驚いた様子だったが、落ち着くように肩を抱き寄せゆっくりと話を促した。

「落ち着け。最初に君がここにきた理由を話してくれないか?」

「・・・・・・俺がやったんじゃない」

「わかってる・・・だけど、ここは場所が悪い。
すまないが君は役人を呼んでくれないか?はなしは場所を移動させて・・・・・・それからだ」

あたしのほうに視線を向けて、彼は静かに言った。

「わかったわ」

あたしは、野次馬連中に役人を呼ぶように言ってから彼らを追い払った。

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33976蒼の記憶 34フィーナ 2009/3/30 20:15:42
記事番号33971へのコメント

あたしたちが案内された一室は、会議に使われる場所なのだろう。

四方を囲む長テーブルにあてがわれたいす。

中央にはおざなりに飾られた花瓶が備えられていた。

「君は飲むかね?」

問われて、声の主を振り仰げば、クラース副評議長はコップに飲み物を注いでいた。

「いただきます」

あたしの前にほのかな香りのお茶が差し出される。

「これ・・・香茶じゃないですよね」

一口口に含むと、芳醇な香りが口の中いっぱいに広がる。

「ハーブの類だ。もう少し濃いものがあるが、この方が飲みやすいだろう?」

「副評議長が淹(い)れたんですか?」

意外に思い尋ねてみると、彼は渋面(じゅうめん)を作った。

「・・・・・・会議ともなると話は無駄に長くなるからな。
もとはあいつに教わったものだが、今では他のやつらが珍しがって飲みに来る始末だ」

「あいつ?」

「会える機会は少ないが、いじりがいがあるやつでな・・・・・・」

なんともいえない表情で、口の端を笑みの形に持っていく。

あたしたちの会話を聞いていたシーゲルは、注がれたカップに視線を向けたまま沈黙を保っている。

「シーゲル。少しは落ち着いたか」

「・・・・・・ええ」

こくりとうなずき、カップをテーブルの上に置く。

「なら本題に入ろう。君が評議長の部屋にいた経緯を」

かれは、ぽつりぽつりと語り始めた。









要約するとこうである。

―――なんでもシーゲル、コピーの研究をしていたのだが、あるとき評議長に呼び出され、研究途中のレポートをみせてほしいといわれたらしい。

それが、約二月(ふたつき)ほど前の話で、当初シーゲルは相手が評議長ということもあってやんわりと断った。

だが、断られたことに腹を立てたのか、その日を境に細かい嫌がらせがシーゲルのまわりにおこった。

被害は、彼だけでなく彼の周りにいる人物にも及んだ。

・・・・・・さきほどあたしが行った聞き込みでも、評議長の評判はお世辞にもいいとはいえなかった。

評議長の権限で、見習いの魔道士の娘に手を出したり、既婚者を手篭めにしたりとあちこちから苦情も出ていたらしい。

役所からの返事は、確実な証拠がないから動きようがないとの事だった。

・・・・・・よくあるお役所仕事というやつである。

それはともかく、彼の親戚でもあるマリルさんにも、被害が及びそうになったため、マリルさんとシーゲルは旅に出たそうだ。

・・・・・・そして帰る途中であたしたちと出会い、護衛を依頼したというわけか。







「戻ってきてしばらくは何も言ってこなかったけど、どこから嗅ぎ付けたのか研究のめどがついたことを評議長は知ったらしい」

シーゲルは苦悩の表情を浮かべた。

「普通に断ってもまた、嫌がらせをされる恐れがあった。
・・・・・・オリヴァーに頭を下げるのは、癪に障ったがこれ以上マリーに迷惑はかけたくなかった。
―――この町に来ていた兄貴にも、評議長の不正を掴んでくれるように頼んだんだ」

「・・・・・・では、君が評議長を?」

「違う!俺じゃない!」

強い口調で、クラース副評議長のセリフをさえぎる。

「牽制(けんせい)をしようとしたんだ。
不正の証拠を公表されたくなかったら、これ以上干渉しないでくれ。そうすれば、証拠品は本人立会いのもと放棄する―――そういおうと、評議長の部屋に行ったら・・・・・・」

いいかけてシーゲルはうつむいて、下唇をかみ締める。







ほどなく、役人たちがやってきて魔道士協会は騒然となった。

時間が時間だったので、事情聴取のみだったが評議長が殺害された部屋には役人たちが入り浸り、重い腰を上げた。

第一発見者であるシーゲルに、疑いの視線を向けるものもいたが、クラース副評議長の証言も相成って監視つきという条件でシーゲルは解放された。






評議長が握り締めていた紙には、さいごの力を振り絞ったのだろう。

血で綴(つづ)られた文字でこう書かれていた。












―――『ポイズン・ダガー』・・・・・・と―――

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33979蒼の記憶 35フィーナ 2009/4/1 18:52:18
記事番号33971へのコメント

あけて翌日のことである。

魔道士協会は、昨日のごたごたでいろいろ役人たちが聞き込みを開始しており、詳しいいきさつを代表者としてクラース副評議長が説明している。

だからといって、協会の運営を滞らせるわけにもいかず、結局はこうして・・・・・・

―――扉の前に役人がひっついた状態でジュエルズ・アミュレットの製作は行われているわけである。

・・・・・・しっかし、事態が事態であるがゆえ口には出さないが、こう愛想のない役人つきでの作業というのは、なかなかきついものがある。

呪文で吹っ飛ばしてしまおうか?

―――などと一瞬思ったが、ンなことして事件の犯人呼ばわりされて手配でもかけられたらシャレにならん!

と、思いとどまり今に至るわけである。















アミュレットの製作は、お昼を少し回ったあたりで終了となった。

おもいおもい荷物をまとめていたときに、一人が思い出したかのように言った。

「ねえ、エミリアしらない?」

誰かがいった一言で、すうにんがざわめく。

「・・・そういえば」

「今日は見てないわね」

「風邪じゃないの?」

口々に言う彼女たち。

「あなた、エミリアしらない?」

問われてあたしは首を横に振る。

「連絡は取ったの?」

問い返された彼女は、ぷるぷる横に振った。

「・・・・・・今日一緒にご飯食べようねって約束していたから」

「じゃあヴィジョン・ルームで連絡とってみなよー。エミリアああみえてお嬢様だし」

「・・・・・・そうしてみる」

別の一人が言った言葉に、彼女はうなずいた。














あたしは一旦宿に戻り、そこにおいてきたガウリイひきつれて手ごろな食堂で腹ごしらえを済ませ、町の人たちから聞き込みを開始した。

「・・・・・・しかしリナよ」

「なに」

あたしの横を歩いているガウリイは、のほほんとした口調で―――あたしが聞き込みしているときも、のほほんとして突っ立っているがそこはそれ―――あたりをながめていった。

「俺には何がどうなっているのか全然分からんのだが」

あたしは一旦足を止めた。

うららかな昼下がりに、ぽかぽかと陽気なお日様が顔を出している。

気を取り直し、再び歩き始める。

「心配しなくても、あんたに知能を使わせようなんて高等技術あたしは求めてないから」

「そっかー」

あたしのセリフに満足そうに笑うガウリイ。

・・・・・・ほんっとーに、わかってるんだろーか?

「それでなにかわかったのか?」

青々と茂る緑は、日の光を浴びてさまざまな色彩をかもし出す。

「ちょっとおもしろいことがわかったわ」

「おもしろいことって?」

人通りの多いところでの聞き込みをはじめて、さほど時間はたっていない。

「町の人たち、評議長のことはあまりよく思っていなかったらしいの」

「それのどこがおもしろいんだ?」

あたしたちは、場所を人通りの少ない街道へと足を踏み入れる。

「はなしによると、殺された評議長かなりあくどい事をしていたみたい。
魔道士のいえにおしいって、研究途中のレポート盗んだり、運営資金横領したり他にも色々」

ガウリイはすこしまゆをひそめる。

「それのどこが」

「おもしろいのはここから。なのに、なぜか彼を役人は捕まえようとはしない。
たくさんの証言があるのに証拠がないからという理由で・・・・・・おかしくはない?」

「・・・・・・捕まえる根性ないから?」

なかなかいい意見である。

「言い方をかえると、何者かが役人の上層部に圧力をかけたってのが妥当ね。そうすれば評議長の悪計打ち切られて、証拠不十分として真相は闇の中ってね」

「ちょっとまてよ」

ガウリイはまったをかける。

「けど今は捜査されてるんだろ?そのなんとかってひと」

建物の影になっている、ひんやりとした空気がほほをなでる。

「捜査はされているわ。評議長の件のみに」

「・・・・・・どういうことだ?」

「聞き込みする前なんだけど、あたしは評議長自身が圧力かけてるって思ってたの。
だけどアルバイトの子に聞いてみると、あの評議長に政治的な地位もあんましなかったみたい。それに、評議長が殺害されたとき現場を見た役人たちの反応なんだけど・・・・・・なんか驚いていたみたい・・・・・・バッグに潜んでいるのはかなりの大物なんじゃないかしら」

薄暗い路地裏に入り込み、歩みを続けるあたしとガウリイ。

「なあリナ。それよりききたいことがあるんだが」

「手短にお願いね」

「俺たちなんで人通りの少ないところ歩いてるんだ?」

「―――それはね」

ぴっ!と人差し指をガウリイにつきだす。

「大々的に聞き込みすれば、どっかのだれかさんは手荒い歓迎してくれるからよ!」





どおぉぉぉん





遠い爆発音が聞こえたのはそのときだった。

・・・・・・へ?

あたしの目は点になった。

「どうしたんだ?」

「ねえガウリイ。きくけど、さっきの爆発音ってどこからきこえたかわかる?」

「なんかあっちのほうで、煙が上がったぞ」

いって指差したのは、人通りの少ない町外れの街道。

みてみれども、ここから町外れの街道なんぞ当たり前だがみえるはずがない。

「いくわよ」

急ぎ裏路地から顔を出し、ガウリイの返事を待たずに呪文を唱え―――

「レイ・ウイング!」

風の結界その身にまとい、ガウリイついでにひっかけて―――




ぱこーん!


だがしゃああっ!




レイ・ウイングの風の結界からはみだしたガウリイは、愉快な音たて木箱やらをぶちかましている。

・・・・・・まあいっか、ガウリイだし・・・・・・

あたしは空を駆け抜ける。



















もう少しスピードを出せればいいのだが、いかんせんデモン・ブラッドはあの時に手元を離れている。

ガウリイのさす方向のまま、制御してスピードを上げる。






そこには先客がいた。

見知った姿が二つと、おんなじ顔したコピー人間が数十人。

そして、少し離れた草むらに潜む、いかにも怪しい黒ずくめ。

さしずめ、コピー操っているやつなんだろうが・・・・・・ぶちかましたら、どんな反応するんだろ?

試してみたい気もするが、仮に不意をついて倒しても、他に仲間が潜んでいる可能性もある。

風をまとっているとはいえ、油断は禁物である。

あたしはしかたなしに、涙を呑んで耐え忍ぶ。

コピー集団のなかには、レッサー・デーモンが数匹まじっていた。

見知った一人はこちらに気づき、口を動かすが風の結界に覆われているため声までは聞こえない。

状況から見て、早期に決着つけるべし!

「いくわよガウリイ!」

「こらまて!おまえ今滅茶なことしようとしてるだろう!?」

あたしの意図を察したらしく、抗議の声を上げるガウリイはむろん無視!

「それいけガウリイ・ストライク!」

風の結界からはみだしていたガウリイを、コピー集団に向けて蹴り飛ばす!

「どわあぁぁっ!?」

そのかんあたしは術を制御し、見知った姿の二人の傍へと降り立つ。

「大丈夫?」

問われて彼は困った顔をする。

「・・・・・・いや、俺やラディは大丈夫なんですけど」

見知った姿の神官―――アレンは視線をコピー集団に向けた。



どごしゃあぁぁっ!



「ガウリイさん・・・・・・無事じゃないんじゃないでしょうか」

「ガウリイだからいいのよ」

身もふたもなく言い切る。

あたしの証言を予想づけるかのように―――

コピー人間の何人かは、ガウリイの剣によってその場に倒れ付した。

「をいリナ」

「先にこいつら倒すわよ」

ジト目のガウリイをものともせず、あたしは目の前の敵を見据える。

とりあえずこれで、説教キャンセル完了!

・・・・・・と、おもいつつ―――













人並み外れた街道で―――

―――攻撃呪文の華ひらく。

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33980蒼の記憶 36フィーナ 2009/4/6 22:26:21
記事番号33971へのコメント

「いきなりドラグ・スレイブっ!」




っずがあぁぁぁんっ!!




あたしのはなったドラグ・スレイブは、コピー集団とレッサー・デーモンをふっとばした。

あたりにあった小さな山も、いまのドラグ・スレイブの余波でそのかたちをかえている。

賢明な方はすでにお気づきであろう。

あたしがガウリイをコピーにほうりこんだのは、一瞬彼らの意識をガウリイにむけさせることにあったのだ。

あたしの意図を察したガウリイは、すでにそのばをはなれている。

街道から少し離れた場所だから、ドラグ・スレイブをぶっぱなしただけであり、ところかまわず見境なしにやったわけではない。

・・・・・・説得力皆無だといわれても、ないったらないのである!

轟く轟音が収まった後、もうもうと立ち込める煙にまぎれ黒い影が疾った。

「ぐっ!?」

くぐもった声と共にあがる煙のむこう。

射程距離から何とか逃れたのか。

みると黒ずくめに羽交い絞めにされているアレンのすがた。

「うごくな」

ひたりと、アレンの首筋にナイフを押し当てしずかにいった。

ラディは、なにもいわずにただ沈黙を保つ。

「あまいわね。それであたしが素直に言うこと聞くと思う?」

「我が受けた命は、この男。このまま立ち退けば見逃してやらんでもない」

淡々とした口調で言う黒ずくめ。

あたしは、こえをはりあげる。

「じょーだん!これだけ目の前でナイフちらつかせられて見逃すほど人間できてないだろうし、だいたい―――」

「フリーズ・アロー!」

呪文の詠唱なしに言ったのは、羽交い絞めされているアレンだった。

「!?」

目の前に出現した氷の矢に、黒ずくめに広がる動揺の気配。

ひゅひゅんっ!

対応に遅れ、うち数本が黒ずくめに突き刺さる。

タネをあかせばいたって簡単。

羽交い絞めにされていたとはいえ、身動きするにはいくらか制限されるだろうが、呪文をストックさせていた宝石を取り出すのはそれほど難しいことではない。

あたしがそれにきづいたのは、ラディの剣についていたジュエルズ・アミュレットがなかったから。

こちらが下手に動けば黒ずくめにバレる可能性もあったが、こうして声を張り上げ注意を向けてさえいたらアレンが多少動いても抵抗しているように見えるだけ。

「たすかりました」

「どういうことか、事情は話してくれるんでしょうね?」

頭を下げ、礼を言うアレンにあたしは釘をさす。

「そのまえに、ひとつだけいいですか?」

「なに」

「いえ・・・・・・たしか、ここから町まではかなりの距離があったはずなんですけど・・・・・・
―――なぜ俺たちがここにいることが分かったんですか?」

その声には、警戒の色が混じっていた。

「あんたたちがいることまではわからなかったけど、遠い爆発音が聞こえたからね。
―――それにガウリイの証言で、煙が見えたのが分かったから」

「・・・・・・どういう視力してるんですか」

「いやぁ・・・普通に見えるんだが」

ほほをポリポリかくガウリイ。

「それはともかく、あんたが狙われた理由って評議長殺害やマリルさんがなんらかの形でかかわっているんじゃないの?」

『・・・・・・っな!?』

ガウリイとアレンのこえがハモった。

「・・・・・・何を根拠に?」

「タミヅとジェイクの襲撃のときに、ジェイクがいったセリフ。
―――『あたしたちに恨みはないが計画をつぶせる可能性を持つ存在』。それが最初に引っかかったのよ」

あの時はあたしたちのことをいってるとおもった。

先走ったタミヅをとめるためだったとはいえ、ジェイクはのちにあたしたちと敵対する可能性があった。

とはいえ計画の全容どころか、その一端でもあるマリルさんの潜在キャパシティをつかってなにかをしようとしていることなんて、タミヅがでしゃばらなければ知る機会もまずなかったのだ。

ではなぜ、彼らはあたしたちのまえにたちふさがったのか。

いくら力をそがれたとはいえ、魔族が復讐なんて殊勝なことをすることはない。

彼らの誇りを守るために戦うというならば、弱体化した姿ではなくて、もう少し時がたち、力を蓄えたときのほうがいい。

にもかかわらずに姿を現したということは、何者かの指示で動いたということ。

・・・・・・まあ、ただ単に何も考えずに襲ってきたという可能性もあるにはあるのだが―――

襲撃してきたときのタイム・ラグのことをふまえると、この考えのほうがしっくりくる。

そして、町の人からの聞き込みで、アレンとおぼしき神官も―――

だいぶ前から評議長のことを含めたことについて、色々調査を行っていたという情報も掴んでいる。

となると、彼らが動いた理由は、アレンの動向を探ることだったのではないだろうか。

・・・・・・はぁ・・・・・・

深いため息をつき、アレンは苦笑した。

「俺にも事情がありまして、いえることと言えないことがあるんです。出来れば他言無用にしていただきたいんですけど」

「考えておくわ」

「・・・・・・いっておきますが、考えた挙句やっぱやめる!・・・・・・とか、いわないでくださいね」

・・・・・・うぐっ!?

涼しい顔で図星をつかれ、あたしは一瞬言葉に詰まった。

「・・・・・・わかったわ」

しかたなしに、あたしはうなずいたのだった。















「事の起こりは七年・・・・・・いえ、もう八年前になりますか―――そこまでさかのぼります。
このレイスン・シティは商業の町として栄えていました。同時に魔道の研究も、遺跡の中から古の魔道書が発見されたことを境に発展していきました」

「古の魔道書?」

オウム返しに尋ねるあたしに、彼は少し複雑なものが混じった顔でうなずいた。







場所は先ほどの場所から少し離れた、いまはつかわれていない掘っ立て小屋。

手入れはされておらずに、ほこりがうすくつもっている。

あの場所で話をしてもいいのだが、ドラグ・スレイブぶっぱなし派手なことやったんだから町から離れていたとはいえ、いつ警備兵や野次馬が来るかわかったものではなかった。

「ゾンビやスケルトンにゴーレム・・・これらに共通するものは何だと思います?」

唐突な質問に、あたしは眉をひそめながら言った。

「低級霊を憑依させて操ること」

「そのとおりです」

迷わず答えたあたしにアレンは肯定した。

「それとなんの関係があるっていうのよ?」

「・・・・・・その魔道書の記述には作成法が書かれていました」

「なんのだ?」

ガウリイの問いかけに彼は、自虐に近いシニカルな笑みを浮かべた。

「・・・・・・ひとつの器に複数の存在を入れ、喰らいあわせる」

合わせられた手が、彼の心を示すかのようにきつく握られていた。

「ゴーレムやゾンビなどは、ひとつの器に一つだけ低級霊を憑依させる方法です。
そのかわり単調な命令しか聞かない。ではもし、その辺に漂う低級霊を、自我のないコピーに複数入れたらどうなるとおもいます?」

「どうなるんだ?」

「普通に考えたらゴーレムのような単純な命令だけじゃなく、複雑な命令もこなせるんじゃないの?」

「そう・・・・・・そしてもうひとつ」

あたしのセリフを、アレンはこう続けた。

「当時の記述はあいまいにぼかしてありましたが、基礎能力の高いものに移した場合、その基礎代謝は飛躍的に向上するそうです」

「ちょっとそれって!」

「なにかまずいのか?」

理解していないガウリイに、肘鉄を食らわせて黙らせる。

「複雑な命令をこなし、並み以上の運動神経を持つということは、それを使って色々利用できるでしょうが!」

たとえば、その技術を用いて軍事利用。

元手がコピーつくるだけ・・・・・・もしかしたら、大掛かりな儀式でほかにようすることもあるかもしれないが―――








ゾンビよりコストはかかるが、それが本当なら実用化されていないというのはおかしな話である。

「ですが、問題になったのはそのあとです」

あたしの疑問が顔に出たのか、それに答えるようにアレンはいった。

「その魔道書が盗まれ、この町を訪れた旅人が失踪する事件が多発しました」

・・・・・・なっ!?

「犯行グループは目星がついていました。その当時、この辺り一帯を牛耳っていたある組織。
人身売買や武器の密輸。そして表ざたにはされていませんが、この町の上層部も彼らと癒着していた。
―――領地を治めていたリチャード公との間にも暗黙の了解があったようですけどね」

「その組織の名前って・・・・・・『ポイズン・ダガー』?」

アレンの表情が、そのこたえをさしていた。

謎が次々と氷解していく。

評議長を殺害したのは、間違いなく組織の人間。

理由はおそらく、目に見えて増大した評議長の悪行に辟易して。

役人たちのうろたえ方といい、町の反応といい辻褄が重なる。

「・・・・・・リチャード公のとき・・・・・・
色々あって組織は解体され、その魔道書は押収されたはずだったんですけど・・・・・・
俺は組織の残党が集まった模倣犯の仕業じゃないかと思っていたんです。現に主犯と思しき人物は牢屋にいますし」

「そいつ脱獄したんじゃないのか?」

ガウリイのことばに、アレンはかぶりをふる。

「セイルーンの地下牢は、そう簡単に破れはしませんよ」

「模倣犯の仕業じゃないとしたら、導き出される可能性は一つ。事件のいと引く黒幕は別にいるってことね」

「聞き込みで、ここ最近になって旅の傭兵たちが物取りの被害にあうという話を聞いたとき、違和感を覚えました」

「かりにも商業の町と呼ばれるぐらいなのに、資産家だけじゃなく旅慣れている傭兵や剣士を襲うのは不自然だもんね」

「・・・・・・気づいていたんですか」

「まあ・・・・・・ね」

感嘆の声を漏らすアレンに、あたしは言葉を濁した。

「話を戻しますが、それ以外にも問題があったんです」

「・・・・・・というと」

「管理された状況下で行われ、その実験は―――失敗しました。
憑依させた存在同士が喰らいあい、最後に残っていた存在を別の器に移す呪法だったんです。
多くの犠牲を払い、暴走した彼らを鎮圧した後、リチャード公の名の下にその技術は封印された」

「その呪法の名は?」

アレンは、しずかにいった。

「俺はコ毒と呼んでいます」

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33981蒼の記憶 37フィーナ 2009/4/9 18:57:00
記事番号33971へのコメント

「コ毒?」

「古代の呪術からとった名です。
もとはどうだかわかりませんが、ムカデなどを一つのつぼに入れ、土の中に入れて―――
共食いをして最後に残ったものを呪法に用いて使うという・・・・・・」

「邪法ね」

かおをしかめるあたし。

実際失われた技術のいくつかは、魔道士協会の伝承にも載っている。

その最たる例は、魔道士がしてはいけない不老不死の研究だろう。

「よくそこまでわかったわね」

「図書室からの受け売りがほとんどですよ。
神殿からの仕事が終わった後や休日には、よく読み漁っていますから」

「それで、なんであんたはこんな町外れのほうに?」

「・・・・・・それは」

言いよどむアレン。

「さっきのコピー集団といい、あんたがここまできたのは何の意味があるの?」

いいかけて躊躇し、彼は小さく首を振った。

「それは・・・・・・お答えできません」

「なんでだ?」

ガウリイのといに、アレンは目を伏せて答えた。

「確たる証拠がない以上、断定は出来ないからです。
組織のことにしても、推測にしか過ぎませんし・・・・・・動機が分からない以上、下手に動いたら俺たちの手には負えない事態に陥る可能性をはらんでいるんです」
  、、 
「俺たち?」

・・・・・・ということは、アレン以外でも組織の動向を探っている連中がいるっていう事か。

「俺が言うべきことではないかもしれませんが、危険なことに首は突っ込まないでください。
貴方達の実力を疑っているわけではないですが、彼らに目をつけられたら後々面倒なことになりますから」

「そんなこといわれても、依頼受けちゃったからこのままってわけにはいかないわよ。
―――それに」

「それに?」

聞き返すアレンに、あたしはウインクひとつ。

「危険だからって言われてすごすご引き下がったら、リナ=インバースの名がすたるってもんよ!
見えない相手の影に怯えてビクビクする趣味なんざもちあわせてないし、全部が全部謎のままって言うのも面白くないじゃない」

「・・・・・・ガウリイさんは?」

「そうだなー」

ガウリイは、ぽんぽんとあたしの頭を軽くたたいて、

「オレには難しいことは分からんし、こいつが好きに暴れたらこの町がどうなるか身に染みて知ってるからなー。
とりあえずオレが理解できんことはすべてリナにまかせて、こいつが無茶なことせんようにするだけさ」

「・・・・・・どういう意味よ、それは」

「どういうって・・・・・・そのまんまの意味に決まってるだろ?」

いや・・・・・・それフォローになってないぞ。

「・・・・・・止めても無駄のようですね」

悟ったように軽くため息をつくアレン。

「なら俺はもう止めません。
とめたってどうにもならないのが現状みたいですし―――
・・・・・・あなたを止めたら逆に、町に二次災害をこうむる可能性が高いみたいですしね」

余計な一言をほざいたアレンを、あたしが張り倒したのは言うまでもない。



















おおぉぉぉぉん

薄暗い闇の中、うめくように音が響く。

―――いや。

その空間に共鳴するかのように、獣の遠吠えにも似た無数のうめき声がその場を満たす。

「同士諸君!」

朗々と、詠うような声でうごめくものたちの視線を集める声の主。

「時が満ちるまであと少しとなった!」

どおぉぉぉっ!

歓声にも似たどよめきが、あたりを震わせた。

「かつてなし得られなかった我らが悲願が、今まさに成就しようとしているのだ!」

声に潜むカリスマ性。

人の心の中に入り込むかのような自信に満ちた『彼』の言葉に、その場に集まったほとんどの者が『彼』の名を呼ぶ。

「すでに聞き及んでいるものも多いと思うが、我らを裏切ようとした者には裁きがくだった!
―――新しく入った我らが同志の手によって!」

どおぉぉぉぉぉぉぉぉっ!

先ほどよりも大きな、割れんばかりの歓声に『彼』は満足そうにうなずいた。

「しかし・・・・・・しかしである諸君!」

苦悩の顔を見せる『彼』に、ざわめきが静まる。

「我らが計画に支障をきたそうとする敵が、同士であり我らが盟友のタミヅらを卑劣な手段で陥れたのだ!」

その声に、怒りの叫びを上げる彼ら。

「計画の最終段階は目前とはいえ、戦場に散った我らが同士の無念を晴らしたいとは思わんかね!?」

怒りに任せ、次々賛同の声を上げる。

「その役目、ぜひわたくしにお任せいただけないでしょうか」

ひとりが、『彼』のもとに頭(こうべ)をたれた。

「・・・・・・君か。だが君の役目は彼らの監視」

「計画の鍵となる存在は、すでにあなたさまの手中のなかにございます。
―――わたくしが赴(おもむ)いても特に問題はないものかと」

「・・・・・・ふむ。
そこまでの覚悟ならば、好きにするが良い。ただし、赴くにしろ我らの存在を忘れ去った者共に、恐怖と混乱を振りまいてくるがいい!」

「おおせのままに」

一礼を返すと、男は薄暗い空間へと踵を返した。
















「―――いいのかイ?」

彼らの集会は終わり、静寂が戻ったその場所に『彼』の声とは違う少年の声が木霊した。

「なにがだ」

「あの人間に任せテ。
下手したら、キミの正体がバレるんじゃないのかイ?」

完全に面白がっている口調の少年に、『彼』は少年をにらむ。

「簡単にはわからない。私にたどり着くためには、あの男に疑いの目が向くようにさせている」

「昔はトモダチだったんだロ?」

「・・・・・・昔の話だ。
それより貴様らがいうオモチャの具合はどうだ」

少年は、アイス・ブルーの瞳を笑みの形にゆがめた。

「いいできになってきたヨ。
最初はめんどくさい真似するなって思っていたんだけど、人間ごときが考えたにしては中々合理的な方法だシ
―――負の感情を引き出すにしても、これ以上ないくらい適材な玩具ダ」

少年―――少年の形をとった闇の者は、現在お気に入りの『玩具』を手元に引き寄せ―――

・・・・・・嘲(わら)った。

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33985蒼の記憶 38フィーナ 2009/4/14 20:41:18
記事番号33971へのコメント

「シーゲルの行方を失った・・・?」

部屋から聞こえてきたクラース副評議長のセリフに、あたしはひたりと歩みを止めた。

アミュレット製作のアルバイトの期限が終わり、礼金をもらうため魔道士協会へ足を運んでのことである。

あれから調査と聞き込みをしていたのだが、これといった情報はつかめなかった。

魔道士協会の施設にも、アルバイトの合間を縫って機会を得て忍び込んだりもしたが―――

あるのはありふれた魔道器具や資料の数々のみ。

・・・・・・まあ、考えてみれば重要なものを、大勢の人間が通う場所におくわけないわな。
            あのおやぢ 
なんかいいように オリヴァーさん に利用されたような気がするぞ。 

そこには、クラース副評議長のほかに、先客がいた。

だいぶ年を食った年配の役人と、正規の兵を引き連れた四十半ばの柔和な笑みを浮かべた男性。

「それは本当ですか?」

「間違いなく・・・現に我々の監視の目をかいくぐって、シーゲル・クラウンは姿を消した」

年配の役人は愛想もクソもない様子でいった。

「評議長が殺害されたとき第一発見者だといっていたが、本当かどうかも疑わしい。調査によると、殺害する動機もあるそうじゃないか」

「それは、そうかもしれないが・・・・・・」

言いよどみ沈黙する。

「評議長殺害の犯人はシーゲル・クラウンだ。
自分の地位が惜しいのなら、これ以上の詮索はしないことだな」

「まだそうと決まったわけじゃないわよ」

あがった声に、一同はこちらに注目した。

こちら・・・すなわち、声を上げたあたしに。

「誰だ貴様は!」

「通りすがりの魔道士よ」

一言のもと切り捨てるあたし。

「リナ殿。なんのようかね」

クラース副評議長の言葉に、あたしは肩をすくめて見せた。

「ジュエルズ・アミュレットの礼金を頂きに来たのと、シーゲルが犯人じゃないかもしれない可能性をちょっと追求しに」

役人はあざ笑うかのように鼻を鳴らす。

「姿を消したということは、何かやましいことがあるからじゃないのか?」

「だけど評議長の評判は良くなかったみたいだし、もし犯人がシーゲルじゃない場合、犯人が容疑者扱いされて監視されているシーゲルに罪をなすりつけようとしてもおかしくないんじゃないかしら」

「我々の監視している中にか?そんなことできるわけないだろうが」

「方法はいくらでもあるわ。たとえば面会のとき来た人物が『犯人を突き詰めてやる。自分が何とかするからお前は逃げろ』とか吹き込んだんじゃないの」

事件の犯人扱いされ続けていると、神経すりきらせて自暴自棄になっている場合が多い。

シーゲルの肩を持つわけではない。

あたしが提示するのは、シーゲルが犯人じゃない場合の心理。

役人の言うように、彼が評議長を殺害した可能性もゼロではないのだから。

「やったやってないって問答を続けていると、容疑をかけられている人間の心理って圧迫されていくもんよ。
そんな時に優しい言葉投げかけられたら、相手にどんな思惑があるにしろ逃げ出したくもなるんじゃないの」

「それは困りますなー」

いったのは、四十半ばの柔和な笑みを浮かべている男だった。

白を基調にした華やかな印象の服を、違和感なく着こなしているあたりかなり嫌味な相手である。

「サ・・・サリュート様」

「だめじゃないか。ちゃんと確認もせずに犯人扱いをしては」

「し・・・・・・しかし」

狼狽の声を出す役人。

「そちらのお嬢さんのいうことにも一理あるとは思わないかい。憶測のみで動くとそのうち痛い目にあうよ」

にっこりと言い放たれて、その役人は言葉を失った。

「こちらの勇敢なお嬢さんは?」

「こっちの名前を言う前に自分の名を名乗ったら?」

相手の名前は出てきて知ってはいるが、こういう相手は胡散臭いと思うのは世の常である!

「貴様サリュート様にむかって!」

がなる役人を手で制し、男は考えるそぶりを見せた。

「ふむ・・・・・・それも道理か。
わたしはマクベス公の補佐をしているサリュートというものだ」

「リナよ。リナ=インバース」

「・・・・・・ほう」

「リナ=インバースだと!?」

眉をピクリと動かすサリュートに、顔を青ざめる役人。

「とうとうこの町にもリナ=インバースが出現したというのか!?」



めりっ!



「人を怪獣みたいに言わないでくれる」

アッパーを役人のあごにめりこませて沈黙させる。

「君があのリナ=インバースか。
ではきこう。犯人はシーゲル・クラウンではないという確かな証拠はどこにあるかを」

「あたしはシーゲルが犯人じゃないとは言ってないわ。
ただ証拠もないのに、姿を消しただけで犯人だと決め付けるのは早計だと思っただけ」

たしかに考えたことはあるが。

それに口を出した理由っていうのが、威圧的な態度の役人にイラッとしたというのがホントのところ。

「では犯人に心当たりはないと?」

「さあ・・・・・・犯人は左利きってことぐらいは」

「なぜそうだと?」

クラース副評議長の怪訝そうな声。

「評議長は右のわき腹を正面から刺されていた。右利きの人間に刺された場合左になるはずよ」

「では・・・・・・シーゲルが犯人だという可能性も濃厚になったな。
―――シーゲルは左利きだ」

あたしは思い出していた。

シーゲルが魔道士協会で研究資料を持っていたのは右手―――だったと。

ドアを開ける際、利き腕に荷物がある場合、それが右利きだったら荷物は左手に持ってあける。














「サリュート様。そろそろお時間です」

兵士の一人に促され、サリュートは席を立った。

「そう悲観的になるものでもないよクラース君。左利きの人間なんかそう多くはないんだ。
容疑者も絞り込むことができていいことじゃないか。・・・・・・あの青年は我々にとっても大事な人材だからね」

・・・・・・そうひとこと言い残して。

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33986蒼の記憶 39フィーナ 2009/4/17 15:02:59
記事番号33971へのコメント

「リナ殿・・・さっきのはなし、犯人が左利きだと言うことは本当かね?」

「まずまちがいなく」

サリュートたちがみえなくなったあと、彼はあたしに問いただす。

「では・・・・・・今日中に左利きの人間について、何人かリストアップしておこう。
シーゲル以外でも、左利きのあいてはいるからな」

「いいんですか?そこまでしていただいて」

「・・・・・・これ以上あいつに負担はかけさせたくないからな。
―――弟が犯人扱いされている中、悠長にしている余裕は最早ないだろう」

「それって」

彼が言った相手に思い至り、あたしが口を開きかけたそのとき―――




ばたんっ!




ノックもなしに開かれた扉によって中断された。

「大変です!副評議長!」

「・・・・・・なにかあったのかね?」

息を切らせ、中に入ってきた魔道士に、彼は声をかけた。

「そ・・・・・・それが―――」

荒くなった息を整えて、その魔道士はいった。

「街中に・・・・・・コピーとデーモンたちが大挙して押し寄せています!」

『―――なっ!?』



















あたしが魔道士協会から外に出ると、辺りのあちこちに火の手が上がっていた。

デーモンたちの咆哮と、逃げ惑う人々の怒号と悲鳴。

熱気をはらんだ風は、あたしの髪を激しくたなびかせる。

口の中で呪文を唱えつつ、油断なく足を進める。


ごうっ!


こちらに降り注いだ炎の雨が、目の前を掠める。

通路の端で見え隠れするデーモンたち!

「ブラスト・アッシュっ!」


どぅむっ!


あたしの呪文で、瞬時に黒い塵と化す。

デーモンたちの視線がこちらに集まる。

殺気が駆け抜け、ショート・ソードをぬきはなつ!


きぃんっ!


鋭い音を立て、こちらに突っ込んで振り下ろされたコピーの一撃を受け止める。

かみ合わせられた刃を受け流し距離をとる。


ごぉうっ!


別口から放たれる無数の炎の矢の雨!

どわっ!?

あたしに目掛け、飛んできた炎の矢をしゃがんで交わす。


きゅがっ!


きりこんできたコピーは、デーモンたちがはなったフレア・アローによって焼き尽くされその場に崩れ落ちる。

「ブラスト・アッシュ!」

時間差かけてのブラスト・アッシュによって、通りにいたデーモンたち数匹を消滅させた!

そしてまたまた現れる、デーモンとコピーの混成部隊。

おいおい!?

こいつら数が多いぞ!

・・・・・・ここが町の中じゃなかったらドラグ・スレイブぶっぱなして、ジ・エンドとしているところなのだが・・・・・・

火の手が上がっている町並みに、炎によって陽炎(かげろう)が揺らめく。

とにかく、こいつらは何者かの手によって呼び出されたはずである。

―――そいつをなんとか見つけださなければっ!

行く手を阻む彼らを呪文で屠(ほふ)り、熱風にさらされる町を駆け抜ける。






出てきたデーモンたちをどれぐらい倒してきただろうか。

消火魔法で町に上がる炎を消している魔道士部隊。

声を張り上げ、町の住人たちに避難誘導を行っている兵士たち。

泣き叫ぶ子供をあやしながら、手を引く女性。

治療呪文で、怪我人のきずを治療している神官たち。

そんな光景が、町のいたるところで見受けられた。

「―――リナ」

声に振り向くと、剣を携えるガウリイと合流した。

「大丈夫か?」

「平気。それより気をつけて・・・・・・」


ひゅぅんっ


風を切る音。

言い終わる前に、その場を飛びのくあたしたち。


―――っぎちん


数本のダガーが、たった今あたしたちがいた場所に飛来した。

「・・・・・・おや?中々いい反射神経をしていらっしゃる」

飛び来たダガーとおなじ方向から、以前あいまみえたときと同じ声が聞こえた。

戦いの気配を感じ取り、悲鳴を上げてクモの子を散らすように逃げまどう人々の群れ。

「先日は挨拶もなしに無粋なことをいたしました。
今回はその非礼も兼ねて、ふつつかながらこのわたくしが、あなたさま方のお相手をいたします」

丁寧な口調とは裏腹に、見下したような視線でこちらをねめつける男。

「随分開き直ってるのね。
前回は顔を隠していたから、どれぐらいの小心者かと思っていたけれど」

「もう、その必要はないからでございますよ」

馬鹿丁寧に、こちらの挑発を受け流す。

「あの方から授かった命令は、我らポイズン・ダガーに壊滅に近いダメージを与えたあの男の監視」

淡々と、しかしその奥に潜む憎悪を隠そうともせずに、小太りな男は言葉を続ける。
                         あの男
「この使用人の身体を奪い・・・・・・ オリヴァー・ラーズ とそれに与(くみ)する者達の懐に入り込み―――それもようやく解放される時が来た」

炎に照り返されたその顔には、歪んだ狂気が張り付かれている。
 彼
ガンボの声に呼応するように、広場にはデーモンとコピーの大部隊が、その場を包囲しつつあった。

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33987蒼の記憶 40フィーナ 2009/4/22 19:25:05
記事番号33971へのコメント

包囲を固めようというのか、じりじりと近づく彼ら。

「メガ・ブランド!」


どごおぉぉんっ!


大地に波紋が広がり、それに触れた彼らが吹っ飛ぶ。

ガンボは、様子を見ていたのか包囲の外にいた。

「ヴァン・レイル」

なにぃっ!?

彼の手から伸びた氷のつたは、ガンボのちかくにいたコピーたちをまきこんでこちらにせまる!

たかが使用人だと思っていたが、こいつ呪文が使えたのかっ!

コピーに蔦が絡まることによって、できたすきに回避する。

「フリーズ・アロー!」

十本近い氷の矢は、コピーたちに直撃する―――

かとおもったが・・・・・・


ごぉうっ!


レッサー・デーモンの炎の矢が、フリーズ・アローと衝突し蒸気とかした。

そして術の範囲内にいたコピーの武器がこちらに迫り―――


ずんっ


ガウリイの剣の一撃に倒れる。

「エルメキア・ランス!」

ガンボにむけてはなった光の槍を、彼はやすやすと交わし、ガンボのちかくにいたデーモンにつきささる!

「ダスト・チップ」

あらかじめ唱えておいたのか、氷のつぶては破片のように降りかかり―――

「ディム・ウィン!」

強風によって吹き飛ばし、ガンボへとかえす。

「まもりなさい」

声に反応するように、進んでガンボの前に立つコピー。


びくんっ


飛び来た破片をその身に受けてのけぞり倒れる。

「おおぉぉっ!」

接近し、距離をつめるガウリイに、コピーの一人を蹴り飛ばし大きく後ろに下がる。


ざずんっ!


コピーを切り伏せ、さらに追いすがるガウリイ。

「ふさがれ」

ガウリイの前に、デーモンが立ちふさがり炎の矢を打ち出す。


ごうっ!


身をひねり、あるいは剣で振り払いそれをかわす。

「ねらえ」


ごぉうっ!


デーモンの集中砲火がガウリイに迫り―――

「エア・ヴァルム」

横手から来た風の呪文が、ガウリイを包む。


きゅきゅんっ!


炎は風に阻まれ、散っていった。

・・・・・・いまのは、あたしの呪文ではない。

ガウリイは体勢を整え、地面に着地する。

「ダイナスト・ブレス!」


っきん


あたしのはなった魔をも凍らせる氷は、コピーとデーモン数匹を瞬時に凍らせ破砕させた。

「やっぱりあなたたちでしたか」

青い神官服をたなびかせて彼はいった。

彼の隣にたたずんているはずのラディは、そこにはいなかった。

「ラディは?」

「消火活動とデーモンたちを駆除しながらの避難活動」

あたしにきかれ、さらりといいはなつ。

「それにしても・・・・・・ガンボさんも組織の一員だとは思いませんでしたよ」

「もう・・・・・・隠す必要はないからでございますよ。儀式のときは来たのですから」

ガンボは、視線を彼に向けていった。

「我らポイズン・ダガーは、このときのために力を蓄えてきました」

「そのために、どれだけの人々があなたたちに蹂躙されたと思っているんですか」

「大事の前の小事にかまっていたら、計画に支障が出るのは分かっているでしょう?」

憂いの表情でアレンはかぶりを振る。

「計画は何度やっても失敗しますよ」

「八年前と同じにしない。
そのためにはソフィア様につぐ魔力の持ち主、娘であるマリルお嬢様がどうしても必要なのでございますよ」

「ソフィアにつづき、マリーの命を脅かすつもりですか。オリヴァーも黙っていませんよ」

「もとより承知の上でございますよ。
コ毒の呪法は不完全な状態でも、あれだけの力を秘めている―――それを制御することさえ出来れば」

「どういうことよ、アレン」

彼は、あたしの問いに沈黙した。

「わたくしがお答えしましょう。リナ=インバース様」

ガンボは、冷笑をこちらに向けた。

「我々ポイズン・ダガーの目的は、力を以って世界を統治することにあるのです!」

「随分ベタな」

あたしは呆れてつぶやいた。

ベタすぎる。

・・・・・・あまりにもベタ過ぎだろそれ!















「ベタとはなんですか。
世界を統治してしまえば争いは起こらないし、労働はコピーに任せておけば働かずにすむ」

誇らしげに言うな。

こいつ・・・・・・ガウリイ以上に何も考えてない。

「世界の統治はあの方に任せる。この意見に賛同する人間は多くいるんですよ。
資質の高いコピーにコ毒の呪法をかけて、並みの剣士たちには太刀打ちできない番犬の出来上がり」

「呪術に失敗してれば、世話ありませんね。
・・・・・・ラディがいなくてよかったですよ。こんなこと本人にとてもいえたものではありません」

しみじみと言うアレン。

「だからいうのをためらったの?」

「それだけじゃないんですが・・・・・・呪術にソフィアだけではなく、妹同然でもあるマリーも、犠牲の名に連ねるのは気分のいいものではないですから」

「なるほど納得」

あたしの裾をちょいちょいとひっぱるガウリイ。

「なあリナ。けっきょくどういうことなんだ?」

「あんたにもわかりやすく噛み砕いて説明すると、こいつら子悪党でバカなことしようとしてるのよ」

「いってくれるじゃありませんか・・・・・・なんにしろ、このままいっても平行線のようですね」

「そうね」

ガンボは大きく手をかざした。

「あんまりつかいたくはなかったんですが、あなたたち相手にそうは言ってられませんか・・・・・・
―――時間を稼げ」

コピーとデーモンは一斉に襲い掛かった。

身構えるあたしたち。

風に乗って聞こえてきたのは―――


ぐぎゃあぁぁっ!


レッサー・デーモンの断末魔の声だった。

・・・・・・コピーとデーモンが、一体ずつガンボに頭を掴まれて・・・・・・

なにを!?

「仮初めの器よ。我がもとから離れ、彼の魔力を彼の器に宿せ」

デーモン、コピー、そしてガンボ。

頭を砕かれて倒れるデーモンと・・・・・・ガンボ。

残されたコピーは、大きく口を開き―――

・・・・・・って、まさか!?



ごぉうっ!



数十本近い炎の矢が出現した。

「風よ!」

とっさにあたしは風の結界を張る。


ぅをんっ


結界を揺らし、風は悲鳴を上げる!

なんちゅう威力だ!

「リナ!」

ガウリイの切迫した声に前を見ると―――

十数個の光球が、『彼』の周りに浮かんでいた。

人差し指がこちらを指差し・・・・・・冗談じゃない!

―――『あの術』はっ!

空間がきしんだ音を立てて、あたりが赤一色に染まる。



っどおぉぉぉぉんっ!!



熱気を感知する前に、誰かに突き飛ばされた。

古の賢者、レイ・マグナスが編み出したブラスト・ボム。

光球のひとつひとつが、ファイアー・ボールの数倍の破壊力を持っている。

この術を防ぐことが出来るのは―――



















背中に強い衝撃を受け、あたしは意識を手放した。



















ぺち。

ほほを軽くたたかれる。

「リナ」

ぺちぺち。

「・・・・・・っん」

むにいぃ。

つねられた。






「・・・・・・で?なにかいうことは」

ぼろべろになったガウリイに、殺気のこもった笑顔を向けるあたし。

「すまん。調子こいてました」

左目に青あざつくり、ぷるぷる怯えつつ言うガウリイ。

・・・・・・ったく。

「ば・・・・・・バカな。なぜ?」

呆然とした声に振り向くと―――

デーモンとコピーの大部隊は術の影響で綺麗さっぱりいなくなり、

いるのはあたしとガウリイ、コピー―――の中にいるガンボといったほうがいいか―――と。

・・・・・・そして煮沸したオレンジの大地に、額に大粒の汗を流し荒い息をしているアレン。
                 こんな術
「まさか・・・・・・俺の代で ブラスト・ボム をうけるとは思ってもいませんでしたよ」

彼は、苦笑を浮かべながらつぶやいた。

「アレン・・・・・・あんた?」

穏やかな笑みを浮かべ、こちらを見つめる。

「何の因果でしょうかね、これは。
・・・・・・ほんと損な役回りですよ。これじゃ俺も、人の事とやかくいえないじゃないですか」

ゆっくりと倒れこみ―――

それを支えたのは、いつの間にそこにいたのか、静かに佇むラディだった。

「・・・・・・アレン」

「あとは頼みました。ラディ―――さすがに疲れました」

「無茶しすぎだ」

同じ声の旋律に、アレンはおかしそうに笑った。

「シーゲルやマリー―――大切な人たちのためなら、どんな無茶なことも厭(いと)いはしませんよ。
そうは思いませんか?―――『初代』」

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33988蒼の記憶 41フィーナ 2009/4/24 18:10:57
記事番号33971へのコメント

ラディは、気を失ったアレンを被害の少ない地面に降ろした。

「・・・・・・無茶なことをするのは、初代譲りか」

「何わけのわからないことをいってるんです!それよりなんでブラスト・ボムがきかないんですか!?」

今の一撃をふさがれたことによっぽど驚愕しているのか、ガンボは悲鳴に近い金切り声を出した。

「フレア・シールのような高位な耐火呪文を唱える時間はなかったはず・・・っ!」

「ガンボは魔道については素人のはずだ。何故魔道をかじったことのない人間が知っている」

静かなラディのセリフに、凍りつくガンボ。

「何者・・・・・・?」

彼のつぶやきに、ラディはおもむろに黒いフードをはいだ。

濃いブラウンの髪に、中性的な顔立ち。

「コピーだと?」

ガウリイがあのとき暴露しなければ、あたしも知らなかったその素顔があらわになった。

・・・・・・ほんっと、変なところで勘が鋭いんだからこの男は。

「我々と同類だったのか」

「勘違いするな。私は確かにアレンのコピーだが、貴様らと同類になった覚えは一度もない」

ラディは彼の言葉を否定した。

「同類というセリフが出たということは、あのガンボと名乗っていたのもコピーだったわけね」

おそらくは、コ毒の呪法によって。

本物のガンボとのすりかわりは、あたしとガウリイがこの町に来る前に行われていたのだろう。

彼に最初にあったときの、例えようのない違和感はそれだったのだ。

「じゃあ、こいつは『誰』なんだ?」

「ふ・・・ふふふふふ。なら隠す必要はないみたいだな」

今までの口調をやめ、ふてぶてしく笑う。

「おれは、裏通りでバラバラ焼死体で発見されたといわれている、しがない傭兵あがりさ」

男は、傍に倒れていたガンボの頭を踏みつけた。

「金さえもらえりゃなんでもよかったがな。
ヘマやらかして手配をかけられていたところを、組織に拾われてコ毒の呪法を知った」

ガンボのコピーを、男はなおも踏み続ける。

「呪術には時間と金がかかるが、コ毒はそれいじょうだ。
手っ取り早く済ませる方法は、アストラル・サイドから精神を切り離してコピーという器に入れることだが・・・・・・それは理論上不可能なことだった」

「・・・・・・だった?」

魔道をかじったことのある人間なら、知っていて然りの事柄である。

それを、過去形?

「別の肉体に精神を宿すのは、きついものがあるがな。
拒絶反応を示す場合がほとんどで、大半のやつらは発狂して死んじまう」

男は、秘めた凶気を瞳に宿して言葉を続ける。

「そういったやつらは、下級魔族を憑依させてレッサー・デーモンにしている」

「さっきのやつらね」

「ああそうだ。何匹かその名残で、多少オツムが賢いやつもいたようだがな」

そういえば、あたしのフリーズ・アローをフレア・アローで相殺させた奴がいたが・・・・・・

どうやら、たまたまではなかったようだ。

「時間稼ぎはここまででいいだろう。
・・・・・・くるがいい!デーモンたちよっ!」

おとこは声を響かせた。












『・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・』

しいぃぃぃぃぃぃん―――

痛いほどの沈黙。















「・・・・・・何故だ!何故来ない!?」

きょろきょろとあたりを見渡す男。

「それはこういうことだよ」

そこにいたのは映える金髪に、貴族を思わせる挑戦的な瞳。

多くのマジック・アイテムを扱う商人で、あたしたちに、事件解決の依頼をした―――

オリヴァー・ラーズそのひとであった。



















「オリヴァーさん?」

なんだってこの人がここにいるんだ。

「僕がここに来たのがそんなに不満なのかい?」

「いや不満っていうか・・・・・・意外っていうか」

「なあリナ」


すぱぁんっ!


みなまで言わせず、スリッパではたく。

「いきなりなにするんだ!」

「あんたのことだから『こいつだれ?』っていおうとしたんでしょうが!」

「おお!よくわかったなー」


すぱぁんっ!


そのあとに続くであろう『お前さんエスパーだろう』といわせるよりはやく、疾風の如くスリッパ・スラッシュを炸裂させた。

「こいつ呼ばわりとは酷いじゃないか。
・・・・・・依頼料減らすよ?」

「ああ!?それは言葉のあやです!だからその件に関してはご容赦をぉっ!」

ぽつりとつぶやいたそのセリフに、本気で言ってることを感じ取り、慌てて弁護するあたし。

「まあいいか。商品の効力も、試すことが出来たみたいだしね」

「商品?」

視線を向ける先、こちらに近づいてきた一匹のデーモンが前のめりになって崩れ―――

兵士が二人がかりになって、デーモンの身体を貫いていた。

淡く輝く宝石を、抜き身の剣にはめこんで。

「協力を要請して、総動員でデーモンたちを追い払ったのさ」

「やった・・・・・・のか?」

一人の兵士が、気が抜けたようにつぶやいた。

「・・・・・・やった・・・・・・やったぞ!俺たちが!」

半信半疑ながら、徐々に興奮していく兵士たち。

「事情を知らない彼らに、あれを貸し渡したのはまずかったか。ラディ―――顔を隠したほうがいい」

オリヴァーさんのつぶやきに、ラディはフードをかぶった。

「分に過ぎた技術を持つと不幸・・・・・・アレン君。きみはこうなることを恐れたんだな」

憐憫のまなざしで、オリヴァーさんは彼を見た。

「伏せろ!」

ガウリイがいうのと同時―――


きゅごごごご!


男から放たれた無数のフレア・アローが、二人の兵士を焼き尽くした。

「魔法剣・・・・・・か。面白い!
それを持ち帰って量産させれば、世界を支配することも不可能ではない!」

「無理なんじゃない?あんたみたいな三流悪役のいる組織じゃあ」

「無理ではない!忘れたのか!?おれはデーモンの魔力も手に入れたんだ。組織の頭を乗っ取って支配することもたやすい」

妄言にしか過ぎないセリフをのたまう。

「ラディはさがってて。あんたは、オリヴァーさんとアレンをおねがい」

ラディは、無言でうなずいた。

「ガウリイ、いくわよ」

「ああ」



















ガウリイの剣技で男がひるんだ後、あたしの放った術によってそいつは塵とかした。

火の手が上がっている町並みを目でさして、オリヴァーさんはいった。

あたしやガウリイ、ラディや気を失っているアレンを、水の入ったバケツでどつきつつ―――

「後は消火活動だね」

水をかけられ、震えているアレンの抗議の声を無視して、オリヴァーさんはにっこりと微笑んだ。







・・・・・・火を完全に消し終わったのは、それからしばらくたってからのことだったのをここに補足しておく。

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33989蒼の記憶 42フィーナ 2009/4/28 16:22:11
記事番号33971へのコメント
「・・・・・・しっかし、まあ・・・・・・よく燃えたわね」

「・・・・・・・・・・・・」

あたしの励ましにも、アレンは沈黙したまま微動だにしなかった。

全焼した宿を放心したように眺めながら。

「過ぎたことをくよくよしてたらだめだよ?アレン君」

「そうそう。人間あきらめも大事だぞ」

口々に慰めるオリヴァーさんとガウリイ。

「命があるだけでも、めっけもんよ!」

「・・・・・・それでいったい、俺になにをあきらめろと?」

「う〜んと・・・・・・全財産とか?」

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・」


しいぃぃぃぃぃん・・・


先ほどよりも長い沈黙の後―――

「ああああああ」

彼はとうとう、その場で頭を抱えてうめいたのだった。

・・・・・・不憫なやつ。



















表通り近くにある、一見民家にしか見えない食堂にて、あたしたちは少し遅めの夕食を食べていた。

多少火事で焼けている部分もあるが、食堂としてちゃんと機能している。

「まあまあアレン君。こうやっておいしいもの食べて元気だしなって」

「物で釣ろうとしないでください。
・・・・・・それにしても、あなたがリナさんたちに依頼したなんて聞いてませんでしたよ?」

「それはそうだろう。聞かれてないし、言う必要もないと思ったから」

オリヴァーさんはいけしゃーしゃーと受け流し、コーンポタージュをスプーンで一口すする。

そんな彼の様子にアレンは軽くため息をついた。

「路銀のほうは、近くの山で採れる薬草をうれば、なんとかまかなえますけど、問題は居住ですね」

「オリヴァーさんには頼まないの?」

香草で蒸した、若鶏のローストを口に運びつつ言うあたし。

「店を開いてる中で俺が出入りしても、迷惑になるだけです。俺は商才について詳しくありませんし」

「一日ぐらいなら何とかなるだろうけど、数日は無理だね」

「なんかドライな関係だなー」

ベーコンで巻いたロールキャベツをきりわけながらいうガウリイに、オリヴァーさんは苦笑した。

「仕事に私情を挟んだら、商売はやっていけないからね。その辺の立場は、僕もアレン君も弁えてるつもりだよ」

「ラディもいますし、二人分は補えないんじゃないですか。オリヴァーの屋敷も損失がひどかったですし」

あの火事によって、多くの建物が焼き払われた。

「マクベス君のところに、マリーを預けておいたのは正解だったね。屋敷に火が回ったときは、さすがに僕も焦ったよ」

「城の中なら兵士もいますし、マリーをねらうものも迂闊には仕掛けられないでしょう」

「ずいぶんロードのことを信用してんのね」

町からのロードの評判とえらい違いである。

あたしのセリフに、オリヴァーさんは照れくさそうに笑った。

「実は僕と前領主であるリチャード公、あとひとりいるんだけどその三人はマブダチでね」

「・・・・・・マブダチというより悪友でしょう」

「そうともいうね」

ジト目のアレンの言葉をあっさりいなし、オリヴァーさんは昔を懐かしむように目を細めた。

「若気の至りでちょっとした悪戯をしたり」

「あの悪行のどこが『ちょっとした』いたず・・・ぐっ!?」

みるとアレンのつま先部分に、オリヴァーさんのカカトがしっかり踏みつけられていた。

しかも本人は微笑を崩すことなく。

「おや?どうしたんだいアレン君」

「・・・・・・いえ、なんでも」

カカトをぐりぐりしはじめた彼に、アレンは苦痛に表情を引きつらせつつ平静を装った。

「昔の話の中でも、これはほんの序の口だよ。
君たち兄弟がこっちに来たときなんか、すっかり人が丸くなったと逆に感謝されたぐらいさ」

水面下で行われていることをおくびにも出さず、オリヴァーさんは完璧なまでの微笑を浮かべる。

「話を戻すけど、青春を謳歌している中で、のちに僕の妻になるソフィアが僕らの前に現れたんだ」

「ソフィアもなんだって、こんなのを選んだのか俺は今も不思議でなりませんよ」

「・・・・・・いろいろあったんだよ」

「それより今は居住の問題ですね。この先どうしましょうか」

微笑を浮かべたままの彼に、何を感じ取ったのか―――アレンは話題を変えた。

「私の部屋が空いてるから、そこを使えばいい」

「ああいたんだ。気づかなかったよクラ―――」

「貴様は何度、性懲りもせずいおうとするんだ悪徳商人」

オリヴァーさんの言葉をさえぎって、クララ・・・・・・もとい、クラース副評議長は憮然とした。






「それにしても来るのが早かったねクラース。協会のほうも大変だったろうに」

「消火のほうは、人が多くいたからたいして問題ではない。リナ殿に頼まれていたものを届けに来た」

「それはついでだろう?」

含みのある笑みに、彼はオリヴァーさんを軽くにらんだ。

食事に専念しているあたしとガウリイそっちのけで話は進展していく。

「ついで・・・・・・ですか?」

「君は気にしなくてもいい。こちらの話だ」

アレンから微妙に視線をそらしつつ、彼は語尾をにごらせる。

「それはそうと、どうするんだいアレン君。クラースはこういってくれてるけど?」

「でもクラースさんは、魔道士協会の運営で忙しいみたいですし」

「もちろんタダでとはいわない。協会の資料の分類とか、手伝って欲しいことが家賃だ」

「金がないならカラダではらえってことだね」

「・・・・・・また貴様はそういうことを」

しばらく考え込んでいたアレンは、彼に視線をしっかり向けて頭を下げた。

「ふつつかな者ですけど、しばらくお世話になります」

「アレン君もついに嫁入りすることになったかー。ラディもろとも幸せにしてあげてくれ」

「嫁って・・・・・・俺は男なんですけど」

「そんな細かいこと気にしてたら、いい妻にはなれないよ?」

「・・・・・・心底楽しそうだなオリヴァー」

うんざりしている彼のセリフに、オリヴァーさんはクセモノ特有の笑みを浮かべた。

「こんな娯楽めったにないからね。しっかり楽しませてもらうよ」







クラースさんも、軽い食事を注文して席に腰掛けた。

「それはそうとリナ殿。先ほども言ったが、頼まれていたものを届けに来た」

言って手渡されたのは、数枚に重ねられた資料だった。

「協会内部での犯行だったから、少し骨が折れたが、何人かリストアップしておいた」

資料を開いてみると、その人物の特徴や評議長殺害の動機、家族構成など事細かに書きこめられていた。

「アリバイのあるものもいたが、念のために載せといた」

「念のためって・・・・・・大変でしょうに」

ここまで調べ上げるのに、どのぐらい時間を費やしたんだろうか。

「ただ資料の山と、にらみ合ってるわけじゃない。これぐらいでへばってたら副評議長の名がなく」

シーフードサラダをフォークでさしながら、事も無げに言う。

副評議長の肩書きは、伊達じゃないってことか。

食後のクリームブリュレ五人前を次々片付けていくあたしと、特大フルーツパフェ三人前とティラミス五人前を片付けていくガウリイを見て、あたしとガウリイ、そしてラディ以外の人たち(他の客席含む)はなぜか胸焼けを起こした。






そんな店内を、二人の役人がドアノブを鳴らして入ってきた。

羊皮紙を片手に、こちらへまっすぐやってくる。

彼らは、あたしたちの席の目の前で足を止めた。

「オリヴァー・ラーズだな」

「違うよ?」

即答で否定するオリヴァーさん。

『・・・・・・・・・・・・』

そう切り返されて、思わず沈黙する役人たち。

「オリヴァー・ラーズ・・・・・・だな」

「だから違うって」

笑顔を絶やさず、また否定するオリヴァーさん。

「・・・・・・からかうのはやめて、話しぐらい聞いてやれ」

「僕に物を頼むには、それ相応のものをもらうのが信条でね。商売人なら、これくらいふっかけるのは常識だよ?」

にっこりと、わらう。

その奥にある、毒を含んだ声色に、はたして役人たちは気づいたのだろうか。

「我々は上からの命令で、オリヴァー・ラーズを一連の事件に関与しているとみて、連行するよう言われている」

「穏やかじゃないね・・・・・・誰からだい?
そんなに強く出て何も出なかったら、どうなるか分かるはずだよね」

「我々は上の命令に従っているだけだ。後のことは知らん」

「ま、それもそうだね」

あっけらかんと言い放ち、彼は微笑を浮かべて役人二人の肩にポンッと手を置いた。

「まあ、それじゃあここの僕たちの飲食代で手を打つよ」

どこまでも抜け目なく、オリヴァーさんはきっちり代金を役人たちに押し付けた。

まさに商売人の鑑である。







・・・・・・オリヴァーさんの無実を証明しない限り、依頼料をもらえないことに気づいたのは―――

タダメシにうかれ、アレンたちと別れ・・・・・・我にかえってからのことだった。

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33990蒼の記憶 43フィーナ 2009/5/2 01:13:25
記事番号33971へのコメント
「・・・・・・で、リナよ。これからどうするんだ?」

「どうするって?」

「あのおっさん助けるのか?」

「オリヴァーさん一癖ありそうな人だし、とりあえずほうっておいても大丈夫なんじゃない?」

成功報酬とは別に、前金としていただいた金額はかなりのものだった。

破格の値段だとは思っていたが、どーもそのなかには『危険手当込み』というものも含まれていたらしい。

・・・・・・なかなか侮れないおっさんである。

「クラース副評議長が調べてくれたリストもあるし、聞き込みもそんなに時間はかからないと思うけど」

協会近くの、あたしたちが宿泊している宿での軽い打ち合わせである。

魔道士協会から近かったおかげか、泊まっている客に魔道士が多くいたことが幸いしてこの宿はそれほどの被害は受けていなかった。

預けていた荷物も燃えずにすんで、ほっと一安心。

「その資料そんなにすごいのか?」

ガウリイがめでさしたのは副評議長からもらったやつである。

「それもあるけど、ここまで調べ上げたのって、なにかしらの執念みたいなものを感じるわね」

「けどあのなんとかって副評議長、地位とかあんまり興味なさそうな感じだったぞ」

「どちらかというと副評議長の立場は、ないよりはあったほうがマシってかんじよね」

二人の意見が一致したからといって、それが真実だとは限らないが、評議長殺害に一枚かんでいるのは、どうやらかれではないようである。

どうやらこのあたりはガウリイも気がついていたみたいだが。

「問題は、何でアレンたちは内密に動いているか・・・・・・よね」

「なにか動くに動けない事情とかあるんじゃないのか?」

「可能性は高いわ。だけど、その事情ってのが私怨だけってかんじでもないし」

あたしは資料に目を落とす。

そこには、容疑者の一人シーゲル・クラウンとその身内についても書き連ねられている。

八年前、レイスン・シティの評議長でもあったソフィア・ラーズが遺跡に眠っていた魔道書を発掘したことから、彼女が組織の手にかかってなくなっていることまで克明に記されている。

「そうすると、役人に連れて行かれたあのおっさんも動機はあるんだな」

「当時副評議長だった評議長も、組織とつながりがあったみたい」

「それだけ調べてるんなら、何でうえに訴えないんだ?」

「協会内部でも、大半近くが組織と関わっていたみたいね。
・・・・・・裏はもちろん、表のほうでもスポンサーとして」

あまり大きな声で言いたくはないが、そういった犯罪組織と自治体代表でもある魔道士協会とのつながりは少なからず存在している。

全部が全部つながっているわけでもないのだが、同じ魔道士としては耳の痛い話しである。

まあ、だからといって腐ってもリナ=インバース。悪人をしばき倒すことにかけては情け容赦ないと有名である。

多少加減を間違えて、山を丸々一個消滅させたりしているがそこはそれ。

若気の至りってもの。

・・・・・・違うかもしんないけど。

「それとあの兄ちゃんたちが内密に動くのと、なんの関連があるんだ?」

「これはあたしの勝手な推測なんだけど、組織はこの街の中枢近くまで潜り込んでいる可能性が高い」

お家騒動のような国内の問題なら、特に問題はないのだが(いやほんとはあるのだが、それは国家間の問題なのでここでは省略させていただく)外交官の問題として他国に援助の名目で協力を申し出ても、それを合併吸収と見るのも少なくない。

つまり、手続きを済ませていたとしても下手に手出ししようもんなら、他国と即戦争勃発という事態になりかねないわけである。

「アレンはセイルーンっていう大国に身を置いてるみたいだし、確実な証拠を掴むまではちまちま動いて様子をみざるをえないんじゃないかしら」

「そういうもんか?」

ガウリイは首をかしげた。

「これはあくまであたしの想像なんだから、詳しくはわかんないわよ」

「ふーん・・・・・・で?どうするんだ、これから」

「とりあえず明日は、リストに載っている人たちから聞き込みをするわ」

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33996蒼の記憶 44フィーナ 2009/5/6 17:18:54
記事番号33971へのコメント

容疑者リスト(勝手に命名)をてにとって、あたしはうなった。

「うーむ・・・・・・あの評議長、生きてる間に捕まえろよ」

先ほどの容疑者の一人、貧相ないかにも研究タイプの魔道士は、虫の生態についての研究と奥さんとられたって言ってたし。

・・・・・・虫の生態というのは別にして。

「けどよー。なんだって役人連中捕まえなかったんだろーな」

「証拠がないからって言うのが理由らしいけど、よほどの無能じゃない限り、証拠なんてごろごろしてるのにね」

まあ・・・・・・そういう無能な連中がいるっていう可能性も、なきにしもあらずなのだが。

ついでに八年前のこともそれとなく聞き出してみたところ、ソフィア評議長はここの魔道士たちにとって憧れの存在だったらしい。

遺跡の発掘や魔道書の発見なども、自ら率先して行っていたらしく、それ以外での逸話で有名なのは、彼女が熱烈にアプローチしてゲットしたのが、あのオリヴァーさんだというのだから―――

かなり活発で情熱的な女性だったみたいである。

彼女が亡くなる数日前、彼女が親しくしている人間に、組織の首謀者が判ったと話しているところを目撃していた人物がいた。

あたしは半ば脅してその人物を問い詰めたのだが、曰く「ソフィア評議長は『確実な証拠を掴むまで、打ち明けるのを待って欲しい』とこぼしており、それ以上は距離が離れていたので分からない」とのことだった。

「左利きの人間って、そう多くないんだろ?」

「クラース副評議長もそう思って、このリスト造り上げたみたいだしねー」

この資料に載っているのは、行方不明になっているシーゲルをのぞけばあとひとりである。

「それでリナ。今度は誰だ?」

「エミリアっていう娘。あたしが魔道士協会でアミュレット作りのアルバイトで知り合った子で、彼女も容疑者の一人よ」







エミリアの住所を教えてもらおうと、通りの近くにいた少年に声をかけた。

年は十二かそこらだろうか。短くまとめられた銀の髪、漆黒の動きやすそうな服を着ており、飾りのように銀糸の刺繍が施されていた。

アイス・ブルーの瞳をしており、猫を思わせる少しつりめな、中々の美少年だった。

「ボクになにかようかイ?」

「この通りにあるエミリアっていう娘の住所って知ってる?」

「・・・・・・エミリア?」

少年は小首をかしげる。

おもむろにポンッとてをうつ。

「ああ。玩具の子だネ」

「玩具?」

「この通りの向かい側にある屋敷だヨ。
もっとも先日事業に失敗して隠れているから、役人以外誰もいないと思うけどネ」

「なんで役人が顔出してるのよ」

「ボクにいわれても、詳しいことは分からないヨ」

「そりゃそうね」

「なあボウズ。お前さんここの家の子か?」

ガウリイのセリフに、少年はぶう!と頬を膨らませた。

「ボウズじゃないヨ!ボクにはディーっていう名前があるんだからネ!」

「ディー?」

「そうサ。同僚たちからはそう呼ばれてるけど、ボクてきにはディのほうが響きがかっこいいからそう呼んで欲しいけド」

「響きって・・・・・・そういうもんか?」

「だってディーってのばすと、牛の鳴き声に似てるじゃないカ」

「『モ』に『ー』をつけると、『モー』・・・・・・なるほど」

「変なところで感心してるんじゃないわよガウリイ。教えてくれてありがとうディー」

「なんでボクが嫌がることをいうのかナ」

ディーはぶつぶつ文句をいいながら人の波に呑まれていった。

あたしが振り向くと、すでにディーの姿は忽然と消えていたのだった。






「思ったより大きな屋敷だなー」

感心したようなガウリイの声に、あたしも屋敷を見上げてみる。

やたらとだだっぴろい庭に、手入れの行き届いている広大な屋敷の外観。

ここから見える倉庫には、厳重に警戒態勢がしかれていたりする。

重厚なデザインの彫刻が、庭にバランスよくおかれており、どんだけ金かけてるんだ!と、思わず突っ込みたくなる。

「とにかく行ってみようぜ」

「そうね」

とりあえず、近くで指揮を取っていた年配の役人に声をかけてみた。

「すみませーん。ちょっとききたいことがあるんですけど」

「なんだ今忙しいから後に・・・・・・」

あたしの顔を見たとたん、顔を青ざめる。

「う・・・・・・リナ=インバース」

絶望のふちに立たされたかのように、うめいて後ずさる。

「とうとう・・・・・・ここまで嗅ぎ付けてきたのか」

「あの・・・・・・もしもし?」

・・・・・・会ったのは初めてのはずなのだが、はて?

「こうなったら仕方がねえ・・・・・・野郎ども!」

呼びかけに応じ、数人の役人たちが・・・・・・って―――

ちょっとまて!

まさか『こいつら』!?

「逃げ切るまで時間を稼げ!」

そう吠えるなり、高速呪文―――レイ・ウイング―――でかなたに飛び立つ!

「な・・・・・・なんだ!?」

「どうしたっていうんだいったい?」

困惑したようにつぶやく役人たちに向かって、うち一人が大きく口を開いた。


ごぉう!


詠唱なしで放たれたフレア・アローは、役人を焼き払った。

『うわあぁっ!?』

パニックに陥り、逃げ惑う彼ら。

「フリーズ・アロー!」

あたしが確認をこめてはなった氷の矢は、彼らに当たる瞬間―――


ふひゅ


空気の抜けるような音を立てて、消失した。

「なんなんだこいつら!」

ブラスト・ソードを抜き放ち、尋ねるガウリイにあたしはこう答えた。

「気をつけて!こいつらコ毒のコピーを媒体にしたデーモンたちよ!」

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34003蒼の記憶 45フィーナ 2009/5/8 23:16:26
記事番号33971へのコメント

ここにいる敵の数は十人程度だが、うち何人かは耐魔能力の高いものがいる。

たかがコピーとあなどるなかれ。


きぃぃん


とっさにショート・ソードでうけながして大きく間合いを取る。

「エルメキア・ランス!」

あたしのはなった術を危なげなく交わし、地面を蹴り上げ接近してくる!

しかぁぁし!

「ブレイク!」

アレンジをくわえておいた光のやりは、途中で四散して突き刺さった。

この連中、反射神経も申し分なし。

加えて詠唱もなしにフレア・アローをうってくるやつもいる。

「おおぉぉぉっ!」

ガウリイは、フレア・アローをやすやすかわし、一閃させて切り伏せる。

続けざまあたしにおいすがるやつに、進路を変更して一太刀あびせた!

「ブラスト・アッシュ!」

耐魔能力が高くても、レッサー・デーモン程度のあいてならこれで十分。

あっというまに塵とかして、消滅した。







「しっかし・・・・・・ずいぶん連携とれていたなー」

短い戦いが終わり、ガウリイは剣を鞘に収めた。

「そりゃそうでしょ。見ながら指揮とってたんだから」

とりあえずおたおたしていた役人に後を任せ、あたしとガウリイは屋敷の中に足を踏み込む。

カギはあいていた。

屋敷の中は外から見たとおり広々としており、部屋も多く存在している。

「どう?ガウリイ」

「こっちだ」

戦いのさなか、屋敷からの視線を感じていた。

いくら気配を隠そうとしても、野生の勘を持つガウリイ相手では荷が重いだろう。

そして、その『誰かさん』は気配を殺すことなんて出来ないのだから。

ガウリイに促され、部屋の一室へ足を止める。

「ここね」

「ああ」

短く言葉を交わし、あたしは部屋のノブにてをかける。

ガウリイは念のために剣に手をかけている。


ぎいぃぃ


ゆっくりと、扉が開かれる。

そして、そこにいたのはあたしの予想通りの人物だった。

「エミリア」

彼女はこちらを振り向く。

淡いブロンドの髪を風に揺らし、微笑んだ。

「まっていました」

「その様子じゃ・・・・・・認めるのね。あんたも組織の一員だって」

「ええ。彼に頼んで、リナさんたちをここに呼んでもらったのは私なんですから」

「評議長を殺したのはあんたね?」

「そうですよ」

エミリアは、悪びれもせずにうなずいた。

「いちおー聞いておくわ。なんであんたが、評議長を殺したのか」

「・・・・・・よくあるはなしですよ。
パパが経営している事業が傾いて、維持するのが難しくなって・・・・・・
評議長がお金を出し、見返りとして私を要求してきた。―――そう珍しくもないでしょう?」

「そうね。でも復讐だけでもないんでしょう?あんたが組織に入ったのは」

「・・・・・・鋭いですね」

苦笑を浮かべる。

「私は子供で非力だったから、評議長を殺すための手段なんかそう多くはなかった。
せいぜい毒を入れるとかが精一杯。役人に届出を出しても、中々動いてくれなかったから。
そんなとき、友達に誘われて組織の存在を知ったの。力がなくて嘆いていた私にとって、組織の存在は魅力に思えたの」

エミリアは、悲しそうに微笑んだ。

「私が組織に加入したのにそれほどひが経たないうちに、私に評議長を殺害せよという命令が下ったの」

「ちょっとまって。あんたが組織に入って、それほど日が経っていないって本当?」

「そうですよ。組織の存在は知っていましたけど、数年前に壊滅したってパパたちがいっていたのはおぼろげながら覚えていましたし。おんなじ名前を使っていましたから、組織の残った人たちで再結成したんじゃないでしょうか」

・・・・・・と、なると。

ポイズン・ダガーという組織は、八年前に壊滅したが、現在残党がそのあとを継ぎ勢力を拡大している。

ということだろーか?

いやいやそれだと、説明できない部分がある。

八年のブランク。

それにしては組織の統率はしっかりしているみたいだし、役人たちへの圧力なんてむらなく隙が少ない。

あたしたちが聞き込みなんてしてみても、口をつむぐだけだったし。

「評議長も組織の一員だったんでしょ?なんでンな命令が出たのよ」

「・・・・・・評議長は、それをネタにゆすろうとしていたって小耳に挟みました」

「なるほど。ところでエミリア・・・・・・あんたはなんだって、抵抗も逃げようもせずにここにいたの?」

「私は・・・・・・どんな動機であれ人を殺しました。
・・・・・・組織の中にいたら、私は狂ってしまいます。
そうなるまえに、私を―――」


びくんっ!


突如、エミリアの背中がのけぞった。

「エミリア!?」

「どうしたんだいったい!?」

「いやっ!こないで!」

エミリアは、声にならない悲鳴を上げた。

「・・・―――っ!」

『―――イタイイタイイタイイタイ!』

『タスケテタスケテタスケテタスケテ!』

彼女から、彼女とは別の声が聞こえた。

それも複数の。

『アアィィィァアア!』

「エミリア!」

痙攣を起こす彼女を押さえつける。

あたしよりも小柄な小さな体のどこにそんな力があるのか、危うく振り落とされそうになる。

「ガウリイ!」

「おお!」

ガウリイは、エミリアの背後に回りこみ、その首筋に手刀を入れた。

「ごめ・・・・・・さ・・・」

彼女は気を失う前、頬に涙を浮かべ、だれかに謝った。

「・・・・・・リナ」

「とりあえず・・・・・・彼女を外に運びましょう」

「どこにつれていくんだ?」

「役人の中には組織の手が届いている。クラース副評議長に事情を説明して、エミリアを匿ってもらうわ」

「魔道士協会か?」

「いいえ。副評議長の屋敷よ」

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34010蒼の記憶 46フィーナ 2009/5/10 19:01:35
記事番号33971へのコメント

あたしは一旦魔道士協会に赴き、受付に副評議長のスケジュールを聞きだしてから用件を伝えた。

クラース副評議長は、他の副評議長たちと会議を行っており、戻るのに時間がかかるとのことだった。

そして、あたしたちは彼の屋敷へと向かったのだが・・・・・・

「・・・・・・ハーブね」

「ハーブだな」

屋敷は立派過ぎず派手すぎず、灰褐色の建築と緑のコントラストが一枚の絵画のように顕在していた。

先日の火事でこげている部分を除けば、庭のいたるところにさまざまな種類のハーブが綺麗に取り揃えられていた。

手入れも行き届いており、ちょっとしたハーブ園だといっても過言ではない。

「『緑のクラース』の由縁はここにあったのね」

ミョーなところに納得しながらも、なかにはいるあたしたち。







向かう途中、フードをかぶったラディとでくわした。

「資料の分類?」

視線の先には、植物に関する本の資料が彼の腕につまれていた。

小さく首を縦に振るラディ。

「アレンは?」

「・・・・・・魔法医の仕事に向かっている」

「予定は聞いてるの?」

「・・・・・・調査」

「そう」

あたしはあることを思い出して尋ねてみる。

「ラディ・・・・・・あんたエミリアの容態って診ることができる?」

「・・・・・・・・・・・・」

ラディは考え込むように黙る。

「・・・・・・アレンが近くにいるほど鮮明にわかる。方法は、もしもの時を想定して叩き込まれた」

「できるのね」

「・・・・・・広い部屋があるのが望ましい」

いってラディは背を向ける。

どうやら、ついてこいということだろう。





部屋の一室。沈静成分が多く含まれているハーブの香りが、ここまで運ばれてくる。

その部屋のベッドにエミリアを寝かせる。

「・・・・・・生身の人間に、コ毒の呪法が施されている」

それが、診断したラディの第一声だった。

目深にフードをかぶっているので、その表情は分からない。

「そんなことが可能なの?」

「・・・・・・なんともいえない」

「なあ、あんた。なんでそんなことがわかるんだ?」

ガウリイのといに、ラディはこたえた。

「・・・・・・アストラル・サイドをとおしての影響・・・・・・
私はアレンの補佐をしているのと同時に、漏れる呪いの受け皿を果たしている」

「呪いの受け皿―――コ毒のこと?」

「・・・・・・ちがう」

出てきたのは否定の言葉だった。

「ちがう?」

「・・・・・・似て異なるもの」

ラディは口をつぐんだ。

「話を変えるわ。エミリアにかけられたのがコ毒だとして、普通自我のある人間に低級霊を憑依させることなんて、
風邪等で抵抗力が弱まったところ自然にとり憑かれるんならともかく、まず不可能なはずよ」

悪霊―――ゴーストと呼ばれる者―――は強い怨念を持ったものが死ぬ間際に残す、強烈な残留思念によって生み出される。

戦場や墓地に漂う低級霊を、ゾンビやスケルトンとして呼び出すのは力のある魔道士や、ある特定の分野に一芸に秀でた魔道士がネクロマンサーと呼ばれている。

もしゴーストにとり憑かれたとしても、魔道技術の発展しているこの世の中。

神殿や魔道士協会にかけこめば、多少お金はかかるが解除できるのである。

現にあたしも、そういった浄化魔法はいくつか所得しているし。

エミリアからきこえてきた複数の声も、そういった類のものだと思ってフロウ・ブレイクを使ってみたのだが。

どうやら精神の奥深くと連結してしまっているようだ。

苦しそうにうめいて深い眠りについてしまっている。

「エミリアにかけられたコ毒・・・・・・なんとかならないの?」

「・・・・・・エミリアと呼ばれる者のコ毒の呪法は、長い時間をかければ容易ではないが解くことが出来る」

「時間をかければ?」

「・・・・・・コ毒をかけられて、そんなに日が経っていないため」

「ラディ・・・・・・あんたは解くことはできないの?」

「・・・・・・呪詛返しは、私やアレンにはできない。コ毒の進行を抑える程度しか」

「今すぐ出来る?」

「・・・・・・今ラインを通してアレンに伝えた―――直に来る。それまで必要なものを準備してほしい」






準備に追われていると、アレンのほかに二人の神官がやってきた。

「・・・・・・今日のノルマが、終わっていないのでこれで失礼する」

その姿を認め、ラディは席を退室した。

このレイスン・シティ。

神殿に祀ってあるのは水竜王で、青を基調にした神官服である。

あたしたちの姿を認め、その神官たちに怪訝そうな色が浮かんだが、

アレンの「解呪のサポートをしてくれる助手だ」という説明に納得してエミリアのいる部屋の前までやってきた。

自己紹介したとたん、なぜか怯えた表情を浮かべたり、とことん失礼な暴言を吐いてあたしの呪文で吹っ飛ばしたのだが・・・・・・

「まさかこの老いぼれまで借り出されるとはな」

「申し訳ございません」

アレンは恐縮したように頭を下げた。

ぼろぼろになったアレンは、焦げた神官たちに「申し訳ありません」と謝っていた。

一人の年老いた神官―――おそらくは神官長だろう―――身なりはこざっぱりしているが、中々いい生地を使っている。

「ふん。まあ、お前の焦った顔をみれただけでもよしとするかの」

蓄えられた白ひげからカラカラと笑い声が聞こえ、アレンは立つ瀬がないように体を小さくさせた。

「せんぱーい。ほんとうに神官長や副神官長のイスけっとばしてもいいんですかー?」

そう声をかけたのは、栗色の髪をした童顔な神官だった。

声変わりをしているから、あたしと同い年ぐらいだろうか。

間延びしたその神官のセリフに、アレンは苦笑した。

「俺はこの町の人間ではありませんからね。
温情に甘んじて、この街にいつまでも居座り続けるわけにもいかないでしょう?」

「せんぱいのい〜けず。頑固者に女顔〜」

「女顔は関係ないじゃないですか!・・・・・・ただでさえコンプレックス感じてるのに・・・」

最後のほうは聞かれたくないためか、小声だった。

まあ、あたしの性能のいい耳にはバッチリきこえてしまっているのだが。

「じゃあ、ぼくが神官長についちゃおうかなー」

「ワシはまだまだ現役じゃ!お主等が神官長につくには数十年早いわ!
・・・・・・ところで、あのモヤシ息子はどうした」

「クラースさんなら会議で遅くなるといっていました。
気になるようでしたら連絡ぐらい入れてあげたらどうです?」

「あやつからワシのほうになら話は別じゃがな」

どうやらこの神官長。

クラース副評議長とは親子みたいである。

注意深くみてみると、鋭い目つきとかそっくしである。

「そうヘソをまげて・・・・・・なんだって、ハーブが好きだというだけでこうも頑なになるんだか」

「せーんぱーい。そんなことより患者さん診ましょうよー」

童顔の神官は、急かすようにアレンの手を引っ張った。

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34019蒼の記憶 47フィーナ 2009/5/14 00:25:24
記事番号33971へのコメント

広い部屋、その中心にエミリアをよこにねかせ、あたしは彼女の周りにつぶてを六つ―――ちょうど六紡星にあたる場所に設置する。

魔道の『均衡』を意味するこの六紡星、一種の呪術・・・・・・ひらたくいうと結界の役目を果たしている。

あたしが魔道士協会でアミュレット製作をしていたが、あれも呪術に分類される。

呪術と聞くとやたらネチネチして怪しげなことを行っているイメージが強いだろうが、大掛かりな儀式を長い時間をかけて行っているネクラ馬鹿・・・・・・もとい、専門に扱う熱心一途な魔道士のことである。

普通の研究タイプの魔道士とそう違わないという説もあるにはあるが、暗いイメージが定着してしまっているためか、自らを呪術師と呼称するやつと会うのは珍しい。

ここの魔道士協会も、呪術の看板を出している魔道士が少ないのはまた然り。

はなしはそれたが、それによって生じる結界は面積に比例してその力を増す。

エミリアを中心にしておかれた六紡星をかたどるつぶて。

その面積は、彼女の体がすっぽりと収まるほどである。

アレンはレビテーションで宙に浮き、神官長の指示のもと天井に地上のほうと重なるようにつぶてを設置していく。

地上と天井、二つの魔法陣を重ねることでその威力を倍増・・・相乗させるつもりか。

童顔の神官は、慣れた様子で薬草をすりつぶし、

「せんぱーい。こんなものでいいですかねー」

六つ目のつぶてをはめ込んだアレンは、レビテーションを解除して彼のもとに降り立つ。

「そうですね・・・・・・だいたいこんなものでしょうか。
―――神官長・・・・・・位置は大丈夫でしょうか?」

「確認したが大丈夫そうじゃ。準備は整ったようじゃな」

「リナさんたちもありがとうございました」

「せーんぱーい。はーやく〜」

せっつくように彼は、アレンの身体に腕を絡めて抱きついた。

「・・・・・・わかりましたから、いい加減だきつくのやめてくれませんか?」

「なーんで〜?別に減るもんでもないでしょ〜」

「俺が動けないんです」

「ぶう〜」

不満そうにしていたが、するりと離れた。

「すみませんが、ここからは集中したいので出て行っていただけますか」

「それはかまわないけど、副評議長の書斎って知ってる?」

「・・・・・・調べ物ですか?」

「そんなところ」

アレンは、ためすようにあたしと視線を合わせる。

「・・・・・・魔道士協会でも調べられるはずですが」

「詳しいことはあんたもわかっているでしょう?アレン・クラウン」

あたしの言いたい事に気づいたのか。

瞠目して、痛みをこらえるように目を伏せる。

「・・・・・・ラディに案内させます」

「監視つきってこと?」

とげのあるあたしのセリフに、彼は「そうじゃありません」と、弱弱しく否定する。

「ここは俺の家ではありませんけど、宿泊させていただいている恩があります。
クラースさんも無断でうろつかれるのは嫌でしょうし、失礼を承知で言わせていただくなら、あなたたちが彼らと接触している可能性もあるわけですから」

「疑うことは勝手だけど、あたしは最低限の礼儀は弁えるわ」

「それでも・・・・・・俺は・・・―――が・・・弱いですから」

先に折れたのはアレンだった。

「・・・・・・すきにしてください。そのかわりお願いですから、ラディを張り倒さないでくださいね」

・・・・・・その瞳の奥にある、痛みと決意を秘めたまなざしで・・・・・・






「しかしリナ」

ラディに案内されている途中、ガウリイは口を開いた。

「なによ」

「あの兄ちゃん・・・・・・ずいぶん神経質になってたな」

「無理もないわよ。オリヴァーさんも役人に連れて行かれたし、シーゲルの行方も不明なままだし、それでのんきにしていられるわけないでしょうが」

「それもそうなんだが、あの兄ちゃん、なんとかって組織のことよくしってる感じがしてさ」

「・・・・・・どういう意味よ?」

ある程度の確証を持ってはいる。

・・・・・・アレンにとっては、触れられたくないものだろう。

しかしあたしは切り込む。

痛みを伴うあの表情は、彼の決意も秘めていたのだろうから。

「いや・・・・・・なんていうか、あのなんとかっていう組織のやつらもあの兄ちゃんのことも知ってたみたいだし・・・・・・ホムなんとかってやつをけしかけられていたときも、なんか襲撃されるの予想していたみたいだったし」

先ほどのアレンの様子。

思い当たる節。

アレンとラディがコピーに襲われていたときも、何故人目を避けるような町外れにいたのだろうか。

聞き込みや調査など、あたしたちがこの町にやってくる前にも行っていたアレン・・・・・・彼は、本当に組織の動向を探っていただけなのだろうか。

「ラディ。聞くけど、アレンと組織・・・・・・因縁はあるの?」

駄目もとできいてみる。

「・・・・・・・・・・・・」

ながい沈黙の後、

「・・・・・・ある」

―――と。

書斎にたどり着き、ある資料を調べ始める。

「詳しい話を聞かせてくれる?協会の資料では、組織の名前と首謀者しか載っていなかったし」

「・・・・・・組織についての情報が載っている資料は、手続きを行うか、組織の被害にあったものの要請によってしか閲覧は許されていない」

「厳重に保管しなければいけないほどのことなのか?」

とガウリイ。

ぱらぱらページをめくる。

必ず出てくるはずである。

「・・・・・・リチャード公は、提示する必要があると説いたが、組織の被害者の精神をおもんじてという理由で、必要以上の提示はしないことを決定された」

・・・・・・首謀者は捕らえられたとアレンもいっていたし、その資料にもそう書かれていたのだが、上層部とのつながりが故意にもみ消されているとおもうのはあたしの気のせいではないだろう。

何者か―――組織と癒着していた町の有力者―――のかんがえというのは、得てしてそういうものである。

「八年前に組織の手にかかった、前評議長のソフィア・ラーズ。彼女も組織と関わりがあったの?」

「・・・・・・ソフィア・ラーズ・・・・・・彼女も、研究の援助という浅いつながりを持っていた」

「彼女『も』?」

オウム返しで尋ねるガウリイ。

それは確信に変わる。

「・・・・・・アレンも、その当時組織に所属していた。そうでしょう?」

「なっ!?」

驚愕の声を出すガウリイ。

「・・・・・・そうだ」

沈黙の後、ラディは肯定した。

・・・・・・やはり、そうだったか。

「・・・・・・コ毒の呪法についてアレンがしってたのは、そういうことだったのね」

コ毒の魔道書をソフィア評議長が見つけ、アレンの胸中はどのようなものだったのか。

「アレンはいつから組織にいたの?」

手は休ませず、目で追いながらも口を開く。

「物心ついて、このレイスン・シティによったとき。アレンは組織に誘拐され数日間行方を消した」

・・・・・・ずいぶんヘビーな。

「数日後アレンは発見されたが、その間のことは暗示にかかっており・・・思い出したのは八年前・・・・・・
ソフィア・ラーズが組織の手によってなくなったとき」

「首謀者については知っていたの?」

かねてよりの疑問は、聞いてみるべきである。

「しらない。組織内でも首謀者は分からず、当時首謀者としてうわさされていたものが連行された。
組織の幹部の多くは、調査が明るみになるにつれて自白するも、何者かによって―――暗殺された」

「無事だったのは何故?」

「組織に所属していた半分近くが、子供だったということの配慮。
そして、セイルーンのエルドラン国王と、第一王位継承者フィリオネル王子による更正への実施。
組織にいた子供の多くが内乱によって流れた孤児だったため、抱えきれない子供が絶えなかった
それを憂慮しての決断。前評議長ソフィア・ラーズを、組織の手によって失ったアレンは・・・・・・」

言葉を切ったラディ。

「・・・・・・すまないが、これ以上は」

書斎の中から一冊の本をあたしに手渡す。

クラース副評議長が調べ上げた、組織の痕跡だった。

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34022蒼の記憶 48フィーナ 2009/5/15 17:58:01
記事番号33971へのコメント

よくもまあ・・・・・・こんなにしらべたもんである。

資料に一通り目を通した、率直な意見がそれだった。

いくつか不明瞭なところは多くあれども、これだけの量を調べ上げるのが容易なことではないことは、想像に難くない。

ここ最近のものではない。何年か前のものである。

「・・・・・・あの副評議長。ヒマだったのか?」

「ンなわけないでしょうが!」

とにかく、これでだいたいの事情は呑み込めた。

道理でオリヴァーさんも、言葉をはぐらかすわけだ。

おそらく、オリヴァーさんたちの目的はポイズン・ダガーという組織の完全壊滅。

オリヴァーさん、アレン、クラース副評議長。この三人以外でも、協力者はいると考えたほうがいいだろう。

アレンがちょっかいだして、あの副評議長が陰で動向を探りレポートのかたちでまとめる。

そしてオリヴァーさんの役割は何か分からないが、組織の黒幕をあぶりだすための準備を行っていると考えたほうがいいだろう。

しっかし、随分と回りくどいやり方をするもんである。

乗り込んでおさえてしまったほうがてっとりばやいのに・・・・・・

それとも―――それができない?

となると、思い浮かぶ黒幕の人物像は・・・・・・まさか!?

「ガウリイ、いくわよ!」

「どこへだ?」

「エミリアのところよ」






白いカーテンが風になびき、ハーブのやさしいにおいを運ぶ。

「エミリア!」

扉を開け、中に入るあたしたち。

「・・・・・・どなたです?」

きょとんとして、彼女はこちらを見る。

その傍らには、二人の神官が安堵のため息を落としていた。

「エミリア?」

「え?なんで私の名前・・・・・・リナさん?」

ぼんやりしていたエミリアは、ゆっくりとまばたきをくりかえす。

「・・・・・・覚えてないの?エミリア」

「覚えて?・・・・・・アルバイトが終わって・・・・・・それから」

「ふむ・・・・・・この様子なら、直に思いだすじゃろう」

あごひげをさすりながら、老いた神官長はそういった。

「どういういみです?」

「いやなに、コ毒といっても様々な低級霊が、このエミリアというお嬢ちゃんをもとに入れられたものじゃ。
本人の意識が強くなるよう薬草で調整して治療にわたったというわけじゃ・・・・・・これ以上は取材拒否じゃな」

「私・・・・・・どうしてこんなところに?」

まだぼんやりしているエミリアに、神官長は諭すように言った。

「具合を悪くして倒れたんじゃよ。定期的に神殿に寄りなさい」

「あ・・・・・・はい」

「アレンは?」

「せーんぱいなら、なーんか釣りに出かけちゃいましたよー」

「釣り?」

あたしは眉をひそめた。

・・・・・・ゆうちょーに釣りなんか、こういった事態にしている場合では・・・・・・

「仕掛けに大物がー針に引っかかったみたいだからっていってーました」

「そういったのね。どこにいったかわかる?」

「う〜んとー。なんかー」

「だあぁぁぁっ!気の抜けるしゃべりかたするんじゃない!いいからとっとと吐かんかい!」

「どうどう。落ち着けリナ」

くってかかるあたしを宥めるガウリイ。

「あ!?こら、どこ触って!?」

「なにを今更・・・・・・お前さんの胸、言うほど無いだろうが」

半歩後ろに下がり、みぞおちに蹴りを入れる。

「ぐほ!?」

うずくまるガウリイを無視するあたし。

「こうはなりたくないでしょう?」

「ぼくもーくわしい場所は知りませんよー」

一筋の汗を流しつつ、やはり間延びした話し方をする神官。

どうやらおちょくってるわけでなく、地のようである。

「じゃあ、なんか伝言とかある?」

「せんぱいからですかー?え〜とーたしかー」」

ごそごそと、荷物をあさる。

「えーとー。これだったよーな」

いって手渡されたのは、ジュエルズ・アミュレット。

「伝言なんですけどー『もう少ししたらちゃんとしたものが出来上がると思いますので、それはラディかオリヴァーに返してください』といってましたー」

それをきいていたラディは、静かに詰め寄った。

「・・・・・・アレンがそういったのか」

「そうですけど、あれー?せんぱいの声に似てるよーな」

聞き終わるより早く、ラディはとびだしていった。

復活していたガウリイに、あたしは声をかけた。

「ラディを追うわよ!」

「え?なんでだ?」

「いいからいくわよ!」

「おい待てよリナ」

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34036蒼の記憶 49フィーナ 2009/5/16 18:09:46
記事番号33971へのコメント

あたしたちが屋敷の外に出ると、ラディはあたりを見渡し通路へと姿を消そうとしていた。

「ガウリイ!ラディをつかまえて!」

「わかった!」

足のリーチが長いガウリイは、あたしよりもはやくラディにおいつきぶちかましをしかけた。


どがあぁっ!


派手な音が聞こえ、やっとのことで追いつく。

「これでいいのか?」

「いいんだけど・・・・・・少しは手加減しなさいよ」

フードがはがれ、目を回しているラディ。

「これでも手加減したんだぜ?」

「ああ、はいはい」

体力バカ、ここに健在ってやつか。







「ラディ。アレンがどこにいるのかわかるの?」

「・・・・・・たぶん、組織の拠点のひとつ。魔道書が発見された場所」

とりあえず、気がついたラディに尋ねてみると、思いのほかあっさりと答えた。

「場所は分かるんでしょ?」

「・・・・・・わからない」

「をい」

「・・・・・・私はアレンから過去に起きたことを聞いていた。
だが、詳しい場所は知らされていない。おそらくは自分の手で決着をつけようとしている」

「じゃあ、わからないんならなんでとびだしたのよ」

「アレンがまだちかくにいる可能性が高かったから。そのマジック・アイテムは、独特の魔力パターンをもっているがために探索の呪文で位置が判明できる。しかしアレンが身に着けているほかのマジック・アイテムは、プロテクトがかけられているため、捜索は不可能。私はプロテクトを読み解くことが出来ない」

またずいぶんと、念の入ったことをする。

「・・・・・・仕掛けも下準備も完了している中、後はオリヴァーとの約束があるから、無茶なことはしないと思うが」

先ほどのジュエルズ・アミュレットを片手に持ち、剣のくぼみになっている場所に目をやりながらつぶやいた。

それちょーだい!とは言いにくい雰囲気である。

「なあリナ。なんだってあの兄ちゃんは、急に飛び出したんだ?」

「話の内容から察するに、組織にとって重要な場所のどこかに簡単な仕掛けを張ってたんでしょ」

「そんなことってできるのか?」

「できるわ」

ガウリイのセリフにあたしは答える。

アレンが探索の呪文を使えるのなら、魔道の目印となるものをポイズン・ダガーの拠点近くに置くことはさほど難しいことでもない。

セキュリティがわりのもんが、組織のいろんな場所に仕掛けられているとおもっていただけたらいいだろう。

「とりあえずラディ。あんたはアレンが戻ってくる可能性もあるから、副評議長の家で待機してくれる?
―――あたしたちはそのマジック・アイテムを頼りにアレンを追う」

「・・・・・・たのむ」

ラディは、アレンと同じその顔で頭を下げた。

そして、マジック・アイテムはあたしの手の中に。

「それってネコババしようとしてるんじゃねえか?」っておもっているそこのキミ!

それは言わない約束である。

いざとなればアレン脅してぶんどる・・・・・・商談に持ち込み頂戴する段取りなんだから。






あたしほどの魔道士なら、この程度の魔力パターンは読み取るのに時間はそれほどかからない。

町外れから大きく外れた森の中、切り取られたような岩盤や小川のせせらぎなどが聞こえてくる。

時折見える獣道にしか見えない場所、日のかげる森の中をひたすら歩き。

やがて・・・・・・

「ここらへんね」

ぐるりと見渡す。

むき出しになった岩に続くその先。

「なあ・・・・・・あそこに洞穴が見えるぞ」

「どこ?」

「どこ・・・・・・って、みえるだろ?あそこだよ」

言ってガウリイが指差して釣られてあたしも見てみれども、何も見えなかったりする。

瞬間―――

はるか遠い場所にて、浄化の光―――おそらくはフロウ・ブレイクあたりだろう―――

そのまばゆい光が収まるより早く、あたしたちは駆けていた。

進むのにどれぐらい経っただろうか。

洞穴を支えるようにして、薄黒く煤けた二本の柱がそびえたっている。

遠く距離を置いて、対峙している十数人の者たち。

木々のこずえを激しく揺らし、緊迫の空気が流れている。

「ボム・スプリッド!」


ちゅどおぉん!



ミもフタもなくあたしの呪文で吹っ飛ぶ彼ら。

その中には言うまでもなく、アレンの姿もきっちりカウントされている。

このボム・スプリッド。

殺傷能力はかなり低い。

しかもファイアー・ボールにそっくりだが、任意の地点で炸裂させることが可能。

毎度ご存知のコピー・ホムンクルスである。

シミターやら棍棒など、得物は様々。

森はあるがかなり開けた場所であり、木に燃え移る心配はたぶんないだろう。

さすがにちょこっと強力なやつはつかえそうにないけど。

・・・・・・まあ、そのあたしが『ちょこっと強力』なもんを使った日には辺り一帯荒野になること間違いなしである。

「・・・・・・誰かと思ったら・・・・・・いきなりなにをするんですか!?」

ダメージから復活し、抗議の声を上げるアレン。

「じゃかましい!いきなし姿を消すあんたが何を言うか!」

「俺はただ・・・・・・拠点のひとつを殲滅しようとしているだけですよ」

・・・・・・だけって・・・・・・

「ラディ置き去りにして?」

「・・・・・・それは」

置き去りというセリフにアレンは言葉を失う。

「なあ・・・・・・とりあえずこいつら片付けてからにしようぜ」

「まあ・・・・・・俺は異存ありませんよ」

錫杖を構えるアレン。

「そうしましょうか」

不用意に近づいてきた一人を切り伏せ言うガウリイに、あたしもアレンも同意した。

敵意をみなぎらせる彼らに、あたしは呪文を唱え始める。

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34046蒼の記憶 50フィーナ 2009/5/18 20:11:32
記事番号33971へのコメント

火蓋を切ったのはあたしの呪文だった。

「フリーズ・レイン!」

コピーの上空に、一抱えもある氷の玉が出現する。

以前ある魔道士が使っていた術で、無数のツララを見境なく放出し続けるという、本人の性格に似たハタ迷惑極まりないものなのだが、これは多少アレンジを加えてある。


じゃきぃぃんっ!


ハリネズミのように無数のツララが、真下の方向にのみ打ち出された。

呪文の仕組みと意味さえ知っていれば、このようなことはアドリブで出来るのだ。

下にいたコピーの数人が手足を打ち抜かれ、氷づけになる。

「ダム・ブラス!」

氷の球体をぶち壊す。

あのまんま放置しておくと、際限なく打ち続けるからである。

逃れたコピーたちは、散開して突っ込んでくる。

地を駆け抜け、速度を上げたままガウリイは一閃する。

倒れるコピーを見てたたらを踏む数人。すかさず別のコピーを切り伏せる。

ガウリイの前にふさがり、コピーが獲物を振りかざすより早く、ガウリイの一撃によって地にふした。







一方アレンは、密集しているところに肉薄し錫杖を叩き込む。

ごがっ!

景気のいい音を立て、一人が倒れ付した。

武器を振り上げるコピーだが、密集しているほかのコピーに動きをさえぎられ思うように身動きできないでいる。

アレンは片足を軸にして、回転のスピードを利用して杖を振り払う。

武器を振り上げたコピーはその一撃で前にのめりこむ。

「ディム・ウィン!」

強風によって動きが止まったところを、アレンは見逃さずにまた一人倒した。



背後から生まれる殺気。

ショート・ソードを構え、相手の力を利用して受け流す。

きぃん

刃物同士がぶつかる音。

くるりと踵を返して、

「エルメキア・ランス!」

唱えていた呪文を解き放つ。

呪文を受け、倒れるコピー。

間合いを取って、飛んできたナイフをやり過ごす。

大きく後ろに下がり、うち一人のコピーが棍棒をこちらに振りかざし―――

ざすっ

ガウリイの一撃によって倒れ付した。







「さてと・・・・・・それじゃあ説明してくれる?」

洞穴の前にて、あたしはアレンに事情を促す。

「組織については知っているようですし・・・・・・
―――どこからお話しましょうか」

「まず内密に動いていた理由と、なぜ今になってあんたたち反ポイズン・ダガーの対抗勢力が動いたのか」

対抗勢力の部分で、アレンは軽く目を見張る。

「・・・・・・内密に動いていたのは、本当に組織がまだ存在していたかの確認のためです」

「前に言っていた模倣犯、もしくは残党が集まってってやつね」

うなずくアレン。

「何で今になって動いたんだ?」

「・・・・・・黒幕をたたくための下準備を」

「下準備って何だ?」

アレンは、草を掻き分け中から一枚のマジック・アイテム―――レグルス盤をとりだした。

「俺が探索の呪文をかけて仕掛けたものです。
これとは別の場所にまだありますが、組織の拠点になっている場所には伝声管などもありますから、これ以上はいえませんね」

「その様子じゃあ、あたしの考えている黒幕と一致するかもね」

「・・・・・・どこまで掴んでるんですか」

「さぁね」

意地悪く笑うあたし。

アレンは、しばし考え込んで・・・・・・

レグルス盤をもとの草むらの中に隠してから、周囲に風を張り巡らせる。

「これなら多少大声を出しても大丈夫でしょう」

「なあリナ。結局どうなってるんだ?」

「あんたたちがこんなまわりくどいことをしていたのは、黒幕がトカゲの尻尾きりをさせないため。
八年前と同じようなことをさせないようにね。組織はそれだけの力を持っているって事よ。
力っていっても純粋な力ではなく・・・・・・たとえば権力とか」

あたしは指を折りながら言ってやる。

「この町で権力を持っているのは役人とか評議長、有権者など色々いるわ。
だけどね、ガウリイ。もしあなたが領主だとして、他の連中が好き勝手やって街で騒いでたらどうする?」

「・・・・・・普通は止めるだろ?」

「そうね。普通なら」

首をかしげるガウリイ。

「もし犯罪組織が領主の弱みを握っている、もしくは近い存在が領主に気づかれないよう犯罪組織に所属していたら?」

まして今の領主はまだ若いのである。

ある程度善行を行えば、少なからずあくどいことをしなければ政治というものは成り立たない。

だからといってその意味を履き違えて、悪行ばかり働いて自滅するやつなんぞはいて捨てるほどいるのもまた事実。

「あたしの予想が正しければ、黒幕はサリュート大臣よ」

「そこまで掴んでいるとは―――
さすがは・・・・・・リナ=インバースさんです」

マクベス・ランスロットが領主の地位について三年経っているそうだが、そのほとんどを執り行っているのが宰相のサリュート大臣だというのは周知の事実である。

「八年前・・・・・・いえ、それ以前でも・・・・・・
ポイズン・ダガーという犯罪組織が存在していたのはこの町の図書館に載っている歴史の資料や聞き込みでも確認しているわ。
前領主のリチャード公が、身を乗り出しても組織を捕まえることが出来なかったのは情報が彼らに筒抜けだったから」

「けどなんとかって呪法は前の領主が・・・・・・どうなるんだ?」

「をを!?珍しくガウリイが他人の話を覚えてた!?」

「やめてくださいよ・・・・・・そんな心臓に悪いことをするのは」

驚愕するあたしとアレン。

・・・・・・コ毒の呪法を最初に許可したのは、リチャード公だといいたいんだろう。

「許可を出したのはリチャード公だけど、危険な呪術だといって遠ざけることは出来るわ。
・・・・・・しっかし、ガウリイ。あんた本物?『実はコピーでした♪』ってオチなら納得できるんだけど」

「あのなあ、お前ら。泣かすぞ」

憮然とするガウリイ。

「すみません。なんか人に聞いていたのと違っていたので、びっくりしただけです」

正直者は早死にするぞ。アレン。

「だれだ?そんな根の葉のあることいったのは?」

・・・・・・自分で認めて言うか?ガウリイ。

べつにいいけど。

「おーかたアメリアあたりじゃないの?上司がアメリアだって以前あんたがいってたし」

「そうなのか?
・・・・・・アメリアってだれだ?」

をいこら。

「あ・・・・・・あんたねぇ」

ぐわしっ!と、ガウリイの首を締め付ける。

「冗談だってじょうだん!だからオレの首根っこ掴んでしめようとするな!」

「これぐらいで参るあんたじゃないでしょうが!」

「・・・・・・じゃれているところ水を差して申し訳ないですけど、俺はもう行きます」

やおら立ち上がり、すたすた歩き出すアレン。

「ああこら!勝手に動くんじゃないわよ!」

「相手に逃げられたら意味がないんです!」

いつになく強い口調で言うアレン。

「・・・・・・俺にとって黒幕よりも、こちらのほうが優先したい敵なんですから」

「だれがいるっていうのよ」

「ラディとの会話は、直通のラインできいているからしってます」

「ライン?」

「俺とラディ専用のテレパシーのようなものだとおもってください。いるのは俺に暗示をかけた相手です」

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