◆−スレイヤーズぷれしゃす!−暁刀魚 (2009/1/30 17:41:06) No.33918
 ┣Re:スレイヤーズぷれしゃす!−星野 流 (2009/1/31 14:36:55) No.33922
 ┃┗Re:スレイヤーズぷれしゃす!−暁刀魚 (2009/1/31 17:27:10) No.33925
 ┗スレイヤーズぷれしゃす!  1、賢者と白き音使い(後編)−暁刀魚 (2009/2/19 05:58:59) No.33940


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33918スレイヤーズぷれしゃす!暁刀魚 2009/1/30 17:41:06


スレイヤーズぷれしゃす!
1、賢者と白き音使い
前編

+ + + + + + + + + + + + + + + + + + + + + + +
 戦争真っ只中で、各国が自らをすり減らして行くこの時代にも、いわゆる盗賊、野盗という種族は中々いたりする。しかしどちらかと言うと、こういう荒れた世の中だからこそ、盗賊という類の種族は現れるのだが、そもそも、平和な世の中……ということが無かったりする。
「へっへっへ、金目のものを全部置いて組んだな、そうすれば命だけは助けてやるよ」
 人は(主にドラまたの貧乳魔道士)この台詞を月並みだとか、お約束、はたまたありきたりとユウのだが、それでも、一般の人間から見れば、それは立派な脅威となる。
 しかし、こういう場合、この相手が非常に強かったり(主にドラま(ry)誰かが助けに入ったりするのだが、さて、今回の場合はどうだろう。
 見た目では明らかに『誰かに助けに入られる』側だ、年の頃は13、4、少年とも少女とも取れる顔立ちで、髪は長め、白のハンチング帽を被っており、服も殆どが白で、偶に他の色も混じっている。下の方はズボンで、又、肩掛けの鞄を持っていた。
 しかし、見た目だけで判断するようでは半人前だ、中には見た目に反して滅茶苦茶強い…と言う人物がいたりする(主にドr(ry)そして……この子供も……

「そこまでにしておくんだな」

 しかし、その子供は『誰かに助けにはいられる』。少しため息をついたようだが、それでもそれは誰にも聞こえない、そして、その子供を含めて、声の主を見る。
 年の頃は二十代半ば、長め黒髪の、いはゆるハンサムな顔立ち、目の色が赤い、何故かは知らないが、クロのマントのようなもの、その下も黒の布の服だった。動きやすさを求めたような、そんな感じだった。又、紐を掴んで持ち運ぶ鞄も手に持っていた。
「ナンだ、おめえは」
 盗賊のリーダー格だろうか、一人のむさい男が怒鳴る。その青年は特に何も返す事も無く、何かをぶつぶつ呟き始めた。


 ――全ての力の源よ


 聞きなれない言葉に盗賊たちは一瞬怯むが、直に、リーダー格が「やっちまえ」と叫び、回りの人間が思い思いにその青年に突っ込む。
「火炎球(ファイアー・ボール)!」
 しかし、その盗賊達が辿りつく前に、その青年は叫び、青年の手から火の玉がうまれ、放たれる。
 ドガァァァ
 爆音と共に盗賊達は吹き飛び、その青年は撒きあがる煙から颯爽と現れて、その子供の近くへと向かって行く
「……子供………………か」
 その青年が呟く
 ピン!
 その瞬間、何故か糸を弾く音が大音量で聞こえてくる。青年は辺りを見渡すが、それらしい音源は見当たらない、子供の方も何事もなさそうである。仕方ないので、その子供の方を見る。
「僕にはね〜、ムクルっていう名前があるんだよ〜、子供なんかじゃないよ」
 そういってそのムクルがむくれる……駄洒落ではない、本当にむくれて、腕を組んでその青年の方を見る。
「そういって自分は子供じゃないって言ってる内は十分子供なんだよ」
 そういいながら青年はやれやれ、と言った感じのポーズを取りながら、ため息をつく、ムクルは更に怒り、その青年を睨みつける。

「おや?レイさん、その子は如何したんです……おやおや、大分怒らせてしまっているみたいですね」

 その瞬間、ムクルの後ろから、一人の青年が『現れた』。
 いや、表現の仕方が少し違う、どちらかと言うと『沸いて出た』だ。後姿は丸でゴキブリのようで、青年、このゴキブリがレイと呼んだ青年と同じようなタイプのマントに普通の服、紫のおかっぱで、顔には崩れそうに無い笑みがある。
 その姿はまさにゴキブリだが、また別の意味で覇気があった。気迫があった。
「いや、たまたま盗賊に襲われてたんで助けたんだよ、このとしにありがちな、生意気な子供だよ、自分のことを大人だと思ってる」
「ああ、なるほど」
「こらー」
 ムクルはそのゴキブリとレイの会話に腕をパタパタさせながら、割ってはいる。
「生意気とかゆうなー……あ、そういえば、君……レイだっけー?じゃあレイちゃん…レイちゃんが使ってたのって混沌の言葉(カオス・ワーズ)だよね、何処で覚えたのー?」
 ……しかしいきなり話題の方向を転換する。心のそこではまだ怒っているかもしれないが、それでも興味の方が勝ったのであろう、そういって話題の方向を変えて行く
「レ、レイちゃんって……まぁいいや、とりあえずだな、俺は頑張って研究したんだが…ムクルだっけ?ムクルはどうして混沌の言葉(カオス・ワーズ)なんて知ってるんだ?
 一般の人間はまだ魔術自体明かり(ライティング)だとか治癒(リカバリィ)くらいしか知らなくて、そもそも魔術自体全然浸透してないんだけれども…」
 そういってレイは疑問に答えを返した後、疑問で追撃を図る。まぁ、当然と言えば当然の疑問ではあるのだが。
「そんなの、普通知ってて当たり前じゃーん」
「おやおや、どうやら生意気なだけのお子様……と、言うわけではないですよ」
「……あんただれ?」
 そういってわって入ったゴキブリに、ムクルは胡散臭そうな表情で直に言葉を返す。
「ぼ、僕はですねゼロ「ゼロロンだねー、解ったー……それともゴキブリ〜?」
 直に何かを教えようとするゴキブリの言葉に、ムクルは直に反応を返して、言葉をさえぎる。
「で、ですからゼロロン♪じゃなくて、僕はゼロ「ゴキブリだろ?」
 否定して、更に何かを教えようとしたゴキブリに今度はレイに言葉をさえぎられる。もはやわざとやっているようだ……と、いうより絶対にコレはわざとであろう、わざとであったところでどうという事はないのだが。
「いいです。僕は帰らせてもらいます」
 そういってゴキブリはムクルとレイに背を向けて歩き始める。
 そして数歩歩いたところで
「氷結弾(フリーズ・ブリッド)!」
 イキナリ氷が発生して、ゴキブリはそれをひょいっとかわして、怒ったように振りかえる
「ちょっと、レイさん、僕を新しい技の実験台にスルなと何度いったら「いや、俺じゃないぞ」……へ?」
 ゴキブリはきょとんとしながらレイの方を見て、となると…と今度はムクルの方を見る。ムクルは満面の笑みで何やら呪文を唱えていた。
「氷霧針(ダスト・チップ)」
 唱えていた呪文を『力ある言葉』で解き放ち、ムクルはそれをゴキブリに向けてはなつ、ゴキブリはそれに成す術も無く当る
「イタタ、イタ、イタ、痛いですよ、もう」
 呟きながら、ゴキブリは一気に横に動き…がけから落ちていった。
 そこは街道だが、その隣が崖、モウ片方が森である。
「……よし」
「いや、狙ってやってたのかよ」
 ガッツポーズをして、ニヤリと笑うような感じになるムクルに、レイはツッコミを入れた。
「まぁねー、それにー、ゴキブリだから死なないよー……多分」
「いや、絶対に死なないだろうな」
 二人は互いに互いを見て、少し……少し笑った。
「それじゃ、改めて自己紹介だな、おれはレイ、レイ=マグナスだ……よろしくな」
 そういって笑いながら、手を差し出す
「僕は、ムクル……ムクル=エルメキアだね〜、ヨロシク」
 こちらも、笑いながら言う、そして…その手を握った…

 賢者と白き音使い、その最初の邂逅だった。

 さて、村とも街ともいえない中と半端な場所であるが、どちらかと言うと、街の方が当てはまる。さらにどちらかと言うと、町である。宿屋も少しはあり、食堂も少しはある。栄えているのかどうかは曖昧で、でもこの戦乱の時代、これほど無傷で残ってる町も少ない、そういう観点から見れば、間違いなく栄えているであろう。
 食堂の味……と、いうのはその食堂それぞれなのであるが、レイとムクルが立ち寄った食堂は、決して悪くは無く、どちらかというと、おいしかった。
 店の客はまちまちで、どちらかと言うと少ない……のだが、しかしそれは既に昼を過ぎて、昼食を食べると言うのには、少し遅い時間であった。
 それでも少しくらい人がいるのだから、ここは基本的に繁盛しているのだろう、さて、他の食堂はどうだろうか、しかしレイもムクルも食事は小食でも大食でもなく、丁度いいというくらいの胃袋であり、互いにサラダか何かを二皿注文した程度で、満腹…といった感じだ。
 そしてムクルは、自らの頼んだサラダの最後の一口を呑み込む、しゃくり…とキャベツの歯ごたえのいい音が聞こえて、ゴクリ…と完全に呑み込んだ。
「美味しかったね〜、それで、これから如何するの〜」
 水を流し込み、完膚なきまでにサラダを完食しつつ、ムクルが呟く、レイの方は己が頼んだ焼き魚を噛み砕きながら、呑み込み、それに返事を返す。
「ああ、とりあえず近くの町に行くよ…まぁ、実際のところ、コレといった目的がないからなぁ」
 そういいながら、水を飲み乾し、焼き魚も完全に呑み込んだ。
「なるほどー、まぁ、僕もコレといって目的は無いからねー」
 そういいながら、ムクルは残った水を飲み乾しにかかる。
「だろ、とりあえずこれといった目的が無い以上、近くの町に行くしかないんだよな」
 レイはふぅ…と、息をついてから、喋る。
「…となるとー、クリモネ・タウンかー、でもあそこって……」
 ムクルはのんびりと呟く
「戦争で町の半分が焼け野原になってる」
 レイがその続きを喋る。
「と、なるとー、宿もあるか解らないんだよねー」
 ムクルはふぅ、とため息をつく
「ああ、だから出発は」
「明日の朝かー、でもそれだと暇だよねー」
「まぁな、とりあえず外をぶらついてみるのも偶には良いかもしれない、目的地は無いわけだし」
「じゃ、まずは勘定だねー、よろしくー」
「……おまえ結構ちゃっかりしてるな……」
 笑いながら両手をパタパタ振るムクルに対し、レイは額に手を当ててやれやれとため息をつくのだった。

 街道、クリモネ・タウンに向かう街道で、ここは両方を森に囲まれていて、がけはない、ぶらリ……と歩きながら、ムクルもレイも、ぼんやりと何かを考えながら、その街道を歩いている。
 喉かな風が吹きながら、ゆったりと時間が流れて行く、ムクルもレイも、急いだ様子は無く、今のところは普通に『平和』だった。
 さて、時刻は昼と夕方の丁度境と言った感じの時刻、ムクルはゆっくりと自らの体を反転させると、何やらコインを取り出す。そのまま目を閉じて、指をパッチンさせる。レイは何が何やらでどうもしっくりこないようなかんじだ。
「うぐぁ」
 イキナリ声が聞こえる。何が何だかわからないが、兎に角声が聞こえた。
 そして、いきなり森から一人の男が出てきた。風貌は何処にでもいそうな野盗…一人というのが納得がいかないが。
「場所的にー……さっきの盗賊達のし返しかなー、一人だから首領かー」
 ムクルはゆったりとした、いつも通りの口調で喋り、そっとその男を見る。
「ああ、確かに俺は…お前の言ったとおり……さっきの盗賊の首領だ……名前は……レキガンというんだがな」
 何だかクルしそうにいう。
「……何をしたんだ?」
 レイはムクルを見て言う。先ほどの作業が気になっているようでこの疑問をぶつけたのだろう、ムクルの方はいつも通りにのんびりと
「音を当てたんだよー、僕のコインと同じのを持ってるのをわりだしてー、そこから音を送る相手を指定して、指パッチン、結構簡単だよー」
「……意味がわからん」
「つまりは音を使った攻撃だよー、簡単って言ったけど、それはなれればの話だからねー」
 そういいながら、ムクルはレイに少し笑いかける。
 レイは小難しそうに、だるそうにしてる目をムクルに向ける。
「いや、そんなの聞いた事無いぞ」
「うん、じゃあ説明するねー……この技術を使える人を『音使い』っていうんだー、僕も音使いだよー、音は超大音量で回りに音を流したり、誰か個人に音を押し付けたりー、精神に直接音を送りつけて、精神をぐちゃぐちゃに掻き回す事なんかも出きるねー、僕は精神を掻き回すのは好きじゃないけどなー
 レイちゃんはどう?」
「いや、どうと言われても困る」
「…おめぇら、俺を無視すんなよ」
 レイの呟きの後、レキガンが会話に割ってはいる。
「まぁいいさ、さぁ!勝負だ!」
 レキガンがそう叫ぶ、レイもムクルもあからさまにめんどくさそうな顔をして、レイの方がぶつぶつ呪文を唱える。その間、レキガンは剣を抜き去る。
「炎の矢(フレア・アロー)!」
 そういって、十本を越える文字通り炎の矢が出現して、レキガンに襲いかかる。
 レキガンはそれを自分が現れた方向にかわし、剣を横に構える。
「くらえ。風よ!」
 そういって剣を横に薙ぐ、レイはハ?と首を傾げるが、ムクルはハッとなってイキナリまだ手に持っていたコインをはじく、そして……辺りが爆発した
「……は?」
「………………中々すごいねー、その剣、何処で手に入れたのかな」
「誰が応えるかよ」
「……いや、なにがおこったんだ?」
「そっかー、それじゃあ仕方ないねー」
「そこまで諦めがいいとコッチが困るんだが」
「……だから何が起こったんだ
「でもー、そこまで興味があるわけじゃないしー」
「……まぁ、そこで食い下がっても教えないけどよ」
「じゃ、いいか」
「だな」
「何が起こったっていってるだろ〜がぁ!」
 イキナリレイが叫ぶ
「ん?僕の爆発を生む音と向こうの風の刃がねー、ちょっと本気でバトってただけだよー」
 ムクルがいつも通りに応える。レイにそれ以上の質問権はなさそうだった。
「……とりあえず、なんかすごい事が起こったってのは解った……」
 そういってから、レイはさらに呪文を唱える。
 レキガンはさせまいと突っ込んでくる。
 しかしそこにムクルが割って入った。
 後ろから何やら糸を取り出し、それを握る。ビビっと糸を伸ばすと、音をかき鳴らす。
 ピン!ピン!ピン!
 その全てにあわせて、レキガンが剣を振るう、そして後ろで三度爆発が起こった。
 どうやら爆発を生む音を風を使って受け流したようだ。
「……何者ー!」
 ムクルが思わず叫ぶような感じに呟く、しかしまぁ、いつも通りなので、何となく叫んでるな〜程度にしか感じない。
 そして、ムクルは直に横に飛び退る。
「爆炎矢(ヴァル・フレア)!」
 レイが叫んで、呪文を時はなつ、炎の矢が生まれるが、どうやら先ほどの呪文とは違い、一本のようだ、レキガンはかわせると思ったのか、迷うことなく突っ込んでくる。
 途中、レキガンは回避行動を取る。しかし、レイが叫ぶ!
「ブレイク!」
 そういうと、いきなりその炎の矢がはじける。
 レキガンは回避行動を取っていたが、それでもそのはじけた炎が振りかかる!
 ボォゥ
「ぐぅ!」
 炎の直撃を受けながらレキガンは何とか後ろに跳び退る。
「風よ」
 そういうと、レイブンの服がバサバサゆれる。
 それなりに強い風が吹き荒れているようだ。風は場合によっては火を強める代物だが、しかしコレほど強い風ならば…
 あっという間に炎は消え去った。
「チッ!」
 レイは舌打ちしながら、さらに呪文を唱える。ムクルの方も呪文を唱えていたようだ
「氷の矢(フリーズ・アロー)!」
 ムクルの力アル言葉に呼応して、数本の氷の矢が現れる。
 しかしそれをレキガンは剣を振りまわし、こなごなに砕く。
「火炎球(ファイアー・ボール)!」
 そこにレイの呪文が襲いかかる。
 レキガンはそれに対して風を生み出すように振りまわす。先ほど炎を振り払ったときよりも威力はない。
 つまりは…威力が上がるということである。
 しかしおもしろい事に、その炎が風の勢いでスピードが落ちたのだ。
 レキガンは更に同じ位の威力の風をぶぅんぶぅんと生み出して行く、威力は上がり、スピードは落ちて行く。
 そして遂には動きが逆方向になった
「んな!」
 レイが叫ぶ、さすがにこれは信じられないようだ。
 しかしムクルの方は冷静に対処する。
「氷結弾(フリーズ・ブリッド)!」
 直に氷の一撃を生みだし、解き放つ…が、あっという間にジュワっと蒸発してしまった。
「…レイちゃん!何かいい氷か水の呪文は無い?」
「いや、水を生み出す呪文ならあるが、効果は薄いと思うぞ」
「いいから、とりあえず唱える!」
「…解った」
 レイは直に呪文の詠唱に入る。ムクルは少し後ろに歩を進めながら、何やらぶつぶつつぶやいている。
「浄結水(アクア・クリエイト)!」
 いきなり水が生まれたかと思うと、それが勢いを増して行く炎に振りかかる。
 しかし、少し火が縮小されたような気はするが、それ以上の効果は無かった。
 レイはやっぱりな…と呟いて、それでももう一度その呪文を唱え始める。
 しかし、それと間を入れずして、ムクルが叫ぶ。
「よし!できたー」
 そう叫ぶと、ムクルは何やら詠唱にはいる。
「浄結水(アクア・クリエイト)!」
 そこにレイの呪文が撃ちこまれる。
 火の手が少し収まるが、結局…少しだけだ。
 そして…ムクルの詠唱が完成する。
「霊氷陣(デモナ・クリスタル)!」
 霧が巻き起こり、そして、炎が、凍った。
「うお、すげえな」
 レイが思わず呟く。
 ムクルは得意げにヘヘン…と笑ってから、レイに話しかける。
「レイちゃんが使える一番強い炎系の呪文を氷に向かって唱えて!」
「……いいのか?」
 レイの問いにムクルは縦に頷いて即答する。
 レイは少し戸惑うが、それでも頷いて詠唱する。


 ――全ての力の源よ
   輝き燃える赤き炎よ
   我が手に集いて煉獄と成れ――


「烈火球(バースト・フレア)!」
 凄まじい炎が一直線に氷に向かって突き進んで行く、そしてその炎が、凍った炎を包み込む。
 氷の炎というその矛盾した物体は、強力な炎により溶け始める。
 その氷が完全に溶ける。そして、残った炎は炎を呑み込み、強大になる。
「……くそっ!」
 すでに炎で見えないレキガンが毒をはく、そして
 ぶぉぶぁぁぁぁぁぁん
 どうやらレキガンに着弾したようで、大きな業火となる。
 普通の人間ならば、生きていれる一撃ではないのだが…

 ぶぉおおおおおおおおおおおおおおおおおおおん

 凄まじい突風だった。
 不意に炎は完全に消し飛ぶ、それほどの突風で、ムクルとレイはその余波を受ける。
 思わず二、三歩後ずさりしてしまう。
 この突風は数十秒吹き荒れる。
「ハァ……ハァ……」
 レキガンは息を荒げながら、高々と上げていた剣を下げて、ぐったりと、少し肩を落す。
「えー」
 ムクルは不満たらたらと言った感じに呟く。
 そして、仕方ないか…とため息をついて、今度はナイフを取り出す。
 因みに糸は背中の腰の辺りから、ナイフとコインはバックの中からだ。
「おい!」
 レイは思わず叫ぶ。
「見ててー」
 ムクルはそういって突っ込んでいく、レイは唖然としていた。
 そして、レキガンの放ってきた風を軽々とかわす。
 素早く動いていくので、身のこなしはいいようだ。
 三回ほど、風を避けてから、ムクルはレキガンに切りかかる。
 しなやかな動きで、ムクルはレキガンと相対する。斜め下からの一閃、これはレキガンが一方しろに下がってかわしてしまう。
 そのままレキガンが剣を振りかぶってくる。上から下に、振り下ろすように。
「魔風(ディム・ウィン)」
 いきなりムクルが呟く、それは力ある言葉で、そこから発生した強風がレキガンを襲う。
 殺傷力はまったくないが、あの凄まじい突風の余波以上の力を持っている。
 人一人を少しふっとばす程度なら出きる威力、それはもちろんレキガンも例外ではない、振り下ろす直前に風に巻き込まれて大きく吹っ飛ぶ、が、綺麗に着地した。
 ムクルは少し不満そうだが、呪文を唱えつつ追撃に入る。
 一直線に…ムクルはナイフを突き出す。レキガンは横に飛んで、ナイフは空をきる。
「くらえ!」
 少し後ろに下がって、剣を一閃、横に薙ぐ
「魔風(ディム・ウィン)!」
 互いに風がぶつかり合う。相互干渉か何かを起こしたのだろうか、激しくぶつかり合った風は穏やかな優しい風となった。
 ムクルもレキガンも少しにやりと笑うと、再び近づいて行く、が、ムクルは直近くで横に飛ぶと、糸を引っ張り、そして
 ピン!
 爆発を生む、コレはレキガンが流す。ムクルは更に近づいて行く、しかし今度は剣を交えるでもなく、ただ先へと走っていった。
 そのままレイの近くまで戻ってくる。
「……どうする?」
「一気に決着をつけるよ、案はある、何か相手をしびれさせる呪文はある?」
 レイの問いに、いつもののんびりとした感じを一切出さずにムクルが応える。
「ああ、簡単なのが一つだけ…でも近づかないと使えない…と、いうよりも相手に触れてないと使えない」
「それだったら……」
 ムクルは案を告げる。レイは直に頷いた。
 そして、そのままムクルは呪文の詠唱に入る。そして詠唱をしながら、爆発の音をレキガンにぶつけるが、全て流される。
 しかしコレは単なる時間稼ぎ、そして、呪文が完成する!
「――――、霊氷陣(デモナ・クリスタル)!」
 レキガンはそれを聞いて慌てて後ろに下がる、辺りには霧が生まれ出る。
 ――少しさっきより範囲が広いな…
 レキガンはそんな事を考えながら、その霧が晴れるのを待つ…そして
「電撃(モノ・ヴォルト)!」
 その霧の中からいきなり現れたレイに対処することはできなかった。
 ―――ムクルが唱えたのは幻霧招散(スァイトフラング)、霧を生み出す呪文で、霊氷陣(デモナ・クリスタル)はブラフだ。
「霊氷陣(デモナ・クリスタル)!」
 そして、改めてムクルが力ある言葉を紡ぎ、レキガンはそこに凍りついたのだった。

「……なんだったんだろうな、コイツ」
 レイは凍りついたレキガンを見ながら呟く。
「一応盗賊達の首領だと思うよー、でも」
「それにしては強かった……」
「だねー」
 ムクルの言葉にレイが続けて、それにムクルが頷く、うまいリレーだ。
 そして、互いがレキガンを見る。
 ――一応、完全に凍ってるようだけれども…何となく、何時解けるか解ったもんじゃないな…
「それでも、後二日は大丈夫か」
 レイは思考してから、口に出して呟く、ムクルは何気無しに頷いていた。
 二人としてはまったくもって釈然としないのだが、それでも、仕方ないか…と頷くのだった。

 そして、次の日の昼過ぎ、クリモネ・タウン、因みに、昨日は凍りついたレキガンを森の中に持っていって放置して、宿に帰り、互いに考える事はアルのだろうが、宿の自室に篭った。
 夕食の時に顔を合わせて、少し会話してから、眠りについた。
 この会話は対したものではなかった。
 そしてこうしてクリモネ・タウンに辿りついたのだが、そこで食堂あーんど宿の店が残っていたので、そこで昨日とそれほど変わらない理由で休むことにした。
 その昼食時である。
「所でムクル、昨日レキガンとかいう変なのと戦ったよな」
 食事を始めてまだ最初の方で、互いにまだ皿にはそれほど手をつけていない、少しは…手をつけているのだが、それは関係無い事だ。
 そして、その少ししか侵食されてない己の皿に乗ったキャベツを略奪する。
 レイはそんな事をしながら、ムクルに話しかけたのだ!
「昨日の事だから覚えてるよ〜」
 そういいながら、ムクルは切り裂かれ無惨にも数個に解れたステーキのうちのひとつを口に運ぶ、その後それを口に含み、むごたらしいまでに掻っ捌いた。
 ゴクリ……とそのステーキは特攻をかける兵士のように、喉を通って行った。
「いや、昨日事じゃなければ覚えてないのかよ」
 そういいつつ、今度はレイはトマトにその刃先を向ける。
 トマトは情け無いまでにそれに屈服し、レイの喉を、涙するように通っていった。
 トマトォォォォ!
 そんな叫びが聞こえてきそうだった。悲痛だった。
「いやー、1週間前のこととなるとね、よほどインパクトが無いと覚えてないよー」
 のんびりとそういいながら、ムクルは次なるステーキを掴む、そのステーキは遂に俺の番か…と涙を流すような感じだ。
 そして、涙の代わりにステーキソースを少しだけ…流した。
「……人間それが普通だぞ」
 レイは今度は匙を手に取り、スープに手をつける。その薄く、何ともいえない白と黄色のコントラストは、まるで今までに散っていったもの達の
 ――涙のようだった。
「そっかー」
 ムクルは今度は何故かふりかけがかかったご飯に持ち替えた箸を向ける。そのまま白い光沢が光る、美しい、丸で宝石のようなご飯粒を口に含み、あっけなくすりつぶす。
 ご飯はもし何も無い場合、噛めば噛むほどその美味しさ…甘さをマスのだが、ふりかけが駆けられたその無惨な姿では、どうしようもなかった。
 ふりかけはごはん本来の美味さ、甘さ、この2つを求めない人間が使うものなのだろう。
 ああ、ご飯よ永遠に
「それでー、そのレキガンが如何したのー」
 ムクルはその仮初めの米を食しつつ(因みに筆者はふりかけをかけたご飯は大好きである。特に酒とか最高)話題を元の方向に戻す。
「いや、レキガンじゃなくて、お前の方だよ、あの時使ってた呪文って何時開発したんだ?後、音ってナンだ?」
 レイはその涙のスープ(直訳すると、コーンスープ(嘘)を食しながら、そう問う。
 一杯、二杯、そのスープを喉元に通し、勇士達の涙を踏み潰して行く、そのまま勇士達の涙は成す術も無く、消え去って行く。
 非常なまでの行いは、遂に白き、本物のご飯までに及ぶ、レイは今度は箸を動かして行く、そしてその箸がその白い宝石を貫き、そして無常に、非常に、無情に、喉を通していった。
「質問は一気に2つにすると難しいよー…うん、じゃあまずは最初の質問で良いよね」
 ムクルはそういいながら、再びステーキに持ち替えたフォークを向ける。
 どうしようもなく、そのステーキは終わりのときを待つ、そして…そして…遂にステーキはフォークに貫かれた。
 そのステーキの、あっけなさ過ぎる最後だった。
「ああ、かまわん」
 レイはうなずきながら、今度はスープにその矛先を向ける。スープは、おびえる用に、その元からの色を強調している。
 そこにスプーンが埋め込まれ、巣食い上げられたスープは、まるで地獄へ行くかのように、そののどを通過していった。
「えっと、まぁ簡単に言うなら、速攻で混沌の言葉(カオス・ワーズ)を組み立ててみたんだよ、簡単な呪文なら三分で組みあげられるね」
 そういって、更にステーキにフォークを押し込み、持ち上げる。ステーキは悲痛な涙を浮かべるかのように、ステーキソースを浮かべる。
 あっという間に、時間がかかることなく、ムクルの口にステーキは吸い込まれた。
「すごいな、俺は5分かかるぞ」
 ちなみに一応いっておくが、普通の人間にそんなことはできないのであしからず。
 レイはその問いにそう答えてから、今度はサラダに惨劇を与えんとばかりに、襲い掛かる。そしてキャベツやパセリを一気につかむと、有無を言わさず口の中へ押し込んだ。
「フーン、そうなんだー…じゃあもう一つの質問だね、こっちは結構時間がかかるヨー」
 ムクルはそういってからふりかけがかったご飯に2つの矛を向ける。ご飯達はどうする事も無く、それを待つ事しか出来ない、そして…そして…
 遂に、そのご飯は口の中へと運ばれていってしまう。
 そこから死地に行くかのように喉を通っていくのに、それほど時間はかからなかった――
「まずね、この世界には沢山の音が存在するの」
 ムクルは皿に続ける、そして口にはご飯が運ばれていく、その姿は死を待つ一人の兵士のようだった。そして、その一人の兵士が……死んだ。
 ご飯粒は、兵士のように、死を迎えたのだった……。
 あっけないほどに…美しいほどに……迎えたのだった。
「ああ、つまり俺が「あー」とかいっている感じの音だな」
 レイはそれに付け足すように、割り込むようにいう。そうしながら、サラダは既にもう生き残りも少なくなってきた。
 そしてその生き残ったキャベツ達を一気に掴む、キャベツ達はどうする事も出来ない、そして、サラダは完全に殲滅された。
 食事開始から数十分後の事だった。
「いや、そっちじゃないよっていうか、かっこ悪いよそれ」
 ムクルはそういって、今度はステーキの……既に三分の一を殲滅し、消滅したステーキを手にかける。残ったステーキはもう三つだけだった。
 そして更に、ムクルは素のうちの一つを口に含む、ジューシーに、とろけて……そして喉の中へと消えていった。
「……なんか……あれだ……すまん」
 そういってレイは更にスープを殲滅にかかる。涙のような、そのスープも、遂には完全に消滅しそうだった。
 あと数敗を残し、そのスープは底をつこうとしていた。
 最後の防衛線が…崩れる。
「うん、僕が使うのは、そうだね、形容するなら、いわゆる効果音だね。
 たとえば、コインをはじいて、落ちた時の『チャリン』
 僕はコレを相手の脳に送りつけたりするの
 僕が出きるのは…
 とんでもない大きな音を回りに撒き散らす事
 爆発の音を生む音
 風の音を生む音
 誰か一人だけに音を聞かせる事
 誰かの精神に直接音を叩きこんで、ぐちゃぐちゃに掻き回す事
 …このくらいかな?ああそうそう、昨日の戦いで風を生む音を使わずに魔風(ディム・ウィン)を使ったのは、僕の風を生む音は攻撃じゃなくて、移動のために使うものなんだ。
 つまりは、飛行を行うための風なんだよね
 ああそうそう、出来る事をいってった順番に難しくなるから
 大きな音を撒き散らすのは…結構簡単に出きるよ、場合によってはレイちゃんにもできるかもしれない、それで、爆発を生む音、個々からは音を自由に動かす技術が必要になってくるからね、むずかしいよー
 それで、その音を爆発させるように動かすのが、爆発の音
 風の音もおんなじような感じだけど、こっちは持続時間が長いから制御をしなきゃ行けないんだね、しかもスピードによってはこの制御が大変で大変で…
 っと、そんな事よりも…誰か一人に音を聞かせる事、コレはまず相手が持ってそうなものをとりだして…ああ、これは普通銅貨を使うんだけどね、それで、指パッチンをするんだよね、ほれパチンって
 それで、その音を…銅貨を介して、相手の銅貨に送る。
 これでOK、後はその銅貨が持ち主と認識してる人間にだけ音が行く、ああ、この音が暴走して別のところに行く事は無いよ、僕が持ち主だって決めた人間の銅貨にしか行かないもの
 それで…直接精神にって…これは音の元を精神に届ける『技』が無いと行けないから実質使えないんだよね、でも呪文なんてものがあるから、相手の精神世界面(アストラル・サイド)に直接ダメージを与える技なら多分大丈夫
 それを、その音使いが最も得意としている音の『元』を練りこませて使うんだよ、僕の場合は『糸』だね、糸を張ってピン!って、感じ
 ああそうそう、レイちゃんのいってた「あー」ってのは、いわゆる言霊の方ね、コッチは結構使い勝手がいいだけど、残念ながら僕の専門外だから
 …こんな…所…かな?」
 そういってムクルは説明を締めくくった。
+ + + + + + + + + + + + + + + + + + + + + + +
はじめまして、暁刀魚といいます。さんまと読んでください
物語は1012年前の降魔戦争を舞台に展開していきます
主人公は伝説の大賢者レイ=マグラスと謎の音使いムクル=エルメキア
彼等の前には、さまざまな敵や味方が現われます。
彼等は、一体どこへ行くのか
物語は一体如何言う結末を迎えるのか
全てはL様のみぞ知る。
そんなわけで前編です。
それでは、よろしくお願いします

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33922Re:スレイヤーズぷれしゃす!星野 流 2009/1/31 14:36:55
記事番号33918へのコメント

 暁刀魚さん。はじめまして。流と申します。

 ムクル少年は何やら特異な能力を持った少年ですね。
呪文を作るのに3分だとか言うのも凄いですが、何より凄いのが 音 を使うという事。

音の振動を使う攻撃ならば、それこそ多くの物語やらゲームやらで使われていますが、音を他人の脳内に移すとなると話は別です。
よくそんな事を思いつきましたね。
……私は内容が難しくて理解しきれませんでした。

 難しい話はさておき、ディム・ウィンで飛べる彼は一体体重は何キロくらいなのでしょうか。それとも、魔力が強いと風力も強くなるということでしょうか?

 また、崖に落ちていったゼロスはどうなったのか。

 それと、彼のファミリー・ネームに関しても疑問が生じます。

 次のお話、心よりお待ちしています。今後とも、よろしくお願いいたします。

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33925Re:スレイヤーズぷれしゃす!暁刀魚 2009/1/31 17:27:10
記事番号33922へのコメント

> 暁刀魚さん。はじめまして。流と申します。
>
始めまして、ですね


> ムクル少年は何やら特異な能力を持った少年ですね。
>呪文を作るのに3分だとか言うのも凄いですが、何より凄いのが 音 を使うという事。
>
あれ?だれがムクルを男だと言いましたっけ?
ムクルは性別不明です。
需要によってどちらと取っても大丈夫です。


>音の振動を使う攻撃ならば、それこそ多くの物語やらゲームやらで使われていますが、音を他人の脳内に移すとなると話は別です。
>よくそんな事を思いつきましたね。
>……私は内容が難しくて理解しきれませんでした。
>
音は本編で底まで重要に取り扱われはしませんよ
ムクルの場合、能力が貧弱なので、音はサポートに使われるだけです。
実際、音はムクルが『そう』であることの証明です。


> 難しい話はさておき、ディム・ウィンで飛べる彼は一体体重は何キロくらいなのでしょうか。それとも、魔力が強いと風力も強くなるということでしょうか?
>
うーん、これを書いた頃は良くその辺を考慮してなかったものですから
まぁ、呪文のアレンジで一定までならば如何とでもなるものだと思いますよ


> また、崖に落ちていったゼロスはどうなったのか。
>
ま、ちゃっかりそのうち出てきます


> それと、彼のファミリー・ネームに関しても疑問が生じます。
>
それは追々、ちょーっと詳しくやると思います


> 次のお話、心よりお待ちしています。今後とも、よろしくお願いいたします。
こちらこそ、よろしくお願いしますね〜
それでは、また追々

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33940スレイヤーズぷれしゃす!  1、賢者と白き音使い(後編)暁刀魚 2009/2/19 05:58:59
記事番号33918へのコメント

 さて、すでに食事もムクルの話の最中に二人とも殆ど食べきってしまった。
 そうなれば必然的に勘定だ、ムクルはとりあえずレイに聞かせたにだから奢る様にとちゃっかり言って置いた。
 昨日おごっただろうといったらそれは魔法の分だ…とも言われた。
 ともかく、それで勘定をしようとカウンターに向かっていったのだが…
 ぶぉん
 いきなりの奇襲だった。
 レイもムクルもこの『風の襲撃』には心当たりがあった。
 しかしまだ追って来れるような時間ではない…二人は滝のように脂汗を流しながら…
「はっはっは、見つけたぞお前等」
 高々に叫ぶレキガンを見つけて、一瞬硬直するのだった。

 さて、その数分後、二人は何とか街道の方まで移動して(ムクルが風の音を使った)こうしてレキガンと対峙している。
 ムクルもレイも(別の意味で)緊張しながら、レキガンを見据える。
「……あいつ…二日は氷が溶けないんじゃなかったっけ」
 レイがレキガンを指差しながらそういってムクルを見る。
 ムクルは小難しそうな顔をしていた。
「その筈だよ、それに、それもよほど好条件じゃないと駄目なんだよね、あんな場所で、しかも今は秋、普通…そうだね、この場合は五日かかるはずだよ」
 ムクルのもはや特徴とも言える。真剣な時はいつもののんびりとした口調を捨てる。
 レイはそうか…と、今度はレキガンの方を見る。
 ムクルもその顔をレキガンに向ける
「呪文を使えれば、そりゃ溶けるだろうけれども…
 僕でさえ魔術は混沌の言葉(カオス・ワーズ)の真似事だと思ってたんだ
 それを発展させるなんて馬鹿みたいな事、普通の盗賊にできるわけでもないし…」
「いや、馬鹿げた頃って
 お前それ俺に喧嘩売ってんのか?」
 レイはそういいながらムクルをちらりと見る。
 ムクルは笑いながら、人差し指を付きつけて、レイを見る。
「もちろん!」
「帰れ!」
 それなりに身長差のあるムクルに拳骨を飛ばす。ムクルはくるりと回転しながら、それを避ける。
 そのまま呪文を唱えながらレキガンの方へと突っ込んで行く、レキガンはやっと気付いてくれたと剣を構え、そして振るう
「魔風(ディム・ウィン)!」
 その風と魔風(ディム・ウィン)の風が交錯する。
 互いに相互干渉を起こして、その風は穏やかなものへと変わってしまった。
 レキガンもムクルも笑いながら、突っ込んでいき
「旋廻風(ト・マホーク・ウィン)!」
 レイがその中心に呪文を撃ちつける。
 …が、その呪文がイキナリ暴走して、地面が爆発、さらにその余波がムクルとレキガンを襲う。
「…使える呪文じゃねぇな」
 レイはそう呟きながら、さらに呪文を唱え始める。
 ムクルはとっさに風の音を鳴らして、飛んで回避する。
 レキガンはそれに風で対抗した。
 そしてムクルは旋廻しながら、何やら呪文を唱えている。
『氷結弾(フリーズ・ブリッド)!』
 2つの声が重なり、空中と地上から氷の呪文が襲う!
 こきいいいいいいん
 そこには凍った風の刃が出来あがる。
 ムクルはそれをすごいなーと言った感じに見ながら、音を制御して、大地に降り立つ、そして
 びゅうおおおおおおおおおおおおおお
 その氷がイキナリ割れて砕け散る。
 二人はそれがクッションとなったであろうが、それでも、強力な風には違いない、数歩吹っ飛びながら、レイにムクルは後退する。
 そしてその風がやみ、再びレキガンと合間見える。
「へッ…さぁ、いく…ぜ!」
 レキガンはそういって再び剣を構える。
 レイもムクルも呪文を唱え始めて、ムクルは糸を引っ張り出す。
 ピン!
 一回
 ボン!
 一回
 ピン!
 二回
 ボン!
 二回
 爆発を生む音と爆発がかき鳴らされる。
 しかしコレは牽制にしかならない、ムクルはすぐにバックから短剣を抜き取る。
 …よく見ると、昨日使っていたものと種類が違う
(一体…何個短剣を持ってるんだろうな)
 後でバックの中を見せてもらおうか…と更に思いながら、完成した呪文を解き放つ
「烈火空旋(ト・マホーク・ウィン)!」
 新たに混沌の言葉(カオス・ワーズを組みなおし、今度は縦に旋廻して突っ込んでいくのではなく、自分の思い通りに(ただし旋廻する動きに限る)動く術を組みなおす。
 これを巧く操って、レキガンの後ろで風を起こす。
 レキガンは吹っ飛び、近づいてくるムクルに間合いを詰めさせる形になる。
 それも態勢を崩した、最悪の状況で
「烈閃斬(エルメキア・ブレード)!」
 一直線に突き刺す形で持った短剣の大きさが一気に変わり、普通のブロードソードの状態になる。
 ムクルはそれを縦に一閃する。
 レキガンはそれを見をひねってかわそうとするが、ムクルは直に追撃に入り、更には
「炎の矢(フレア・アロー)」
 退路も断たれ、完全に絶体絶命の状況なのだが
「風よ!」
 ぶぉおおおばぁぁぁん
 レキガンは剣を地面に突き刺すと、凄まじい風を生みだし、上に上がる。
「うおおおお、こえええええ」
 そんな事を呟きながら、レキガンは宙を舞う。
「ふみゅ!」
 そして、降りてきて、ムクルの肩を踏み潰すながら着地する。
 ドサ
 ムクルはその場に倒れて、その上にレキガンが乗る。
 レキガンがムクルの肩に着地する際に背を向けていて、ムクルからレキガンの顔は見えない、レキガンからもムクルの顔は見えないが
 レキガンは剣を抜き去ると、それをムクルに突き刺そうとする。
 レイはそれを読みとって詠唱を行うが、さすがに間に合わない

「あがっぁぁぁぁぁぁああああああああああああ」
 その瞬間『レキガン』が悲鳴を上げた。
 ムクルの、相当な長さを持った元短剣がレキガンの心臓に深くつきさっている。
 ムクルは剣(もはや相当長い棒みたいなもの…なのだが)を横にひねって、更に横に切り裂く、レキガンは悲鳴を上げる。
(…精神への攻撃だからー、別に心臓貫いてもいみないんだよねー)
 ムクルはそんな事考えながら術を解除する。
 そのまま断ち上がって、呪文を詠唱しながら、少し後ろに下がって行く、因みにその後ろに呪文が間に合わなかったレイがいる。
 レイの呪文もそのうちに完成していた。
 レキガンはその疲労に何とか耐えきり、ムクル達の方を向く
「あれー?一応アレを食らえば三日は気絶してるはずなんだけど……」
 ムクルは暫く後ろまで来て呟く、結局呪文の詠唱は中断したようだ。
「火炎球(ファイヤー・ボール)!」
 レイがレキガンに火の玉を投げつける。
 その火の玉はレキガンの剣の風により消し飛ばされる。
 その余波が二人を襲ったが、二人とも特に気にしていないようだ。
「詠唱が甘かったからじゃないのか?」
 レイはそういってムクルを見る。
 どうやら今の攻撃は呪文を中断するのがもったいなかったので唱えたようだ。
 ムクルはそれを感じとって、少しため息をついてから…
「かも知れないねー、刃を伸ばせるようにしたのがまずかったかな」
 そういって腕を組む、レイはそれだな…と呟いて、今度は呪文の詠唱を始める。
 レキガンが迫って来ていて、レイはそれに対抗しようとする。
 ムクルはそれの壁の為かナンのためか、前に出て、紐を使って爆発の音を生む。
 それは勿論と言って良いくらい、風に流されるのだが、ムクルは勿論と言って良いくらい、それを気にしていない。
 そして更に短剣を握り、突っ込んでくるレキガンの剣を受け止める。
 レキガンは剣を打ち合いとまって、一方しろに下がる。
 ムクルは何を読み取ったのか、何やら呪文の詠唱を始める
「風よ!」
「封気結界呪(ウィンディ・シールド)!」
 風の刃を、風の結界で防ぐ、相互干渉は起きないが、明らかに風の刃の方が先に消えた。
 中々強力な呪文のようだ。
(まー、中々、以上強力かどうかは解らないんだけどねー)
 ムクルはさらに短剣を構えて、呪文の詠唱を行う、そこにレイの呪文が完成する!
「烈火空旋(ト・マホーク・ウィン)!」
 ムクルの体を避ける様に、レイの呪文が空中を這う。
 ムクルはそのまま、レキガンを見る。
 レキガンは風を撒き散らし、その見えない旋廻する風に対応しようとする。
 そして、その風とレイの呪文の風がぶつかり、相互干渉によって…反発した。
 もろに近くにいたムクルを撒きこみ、レキガンの風と、レイの風、反発して強力になった風を、真正面に浴びて、互いに吹きとぶ、数歩分とんで、よろめきながら着地する。
 ムクルはレイに恨めし気な視線を向けて、レイはすまない、と言った感じに誤る。
 そのままムクルがレキガンの方を向いたので、レイもレキガンの方を向く。
「さぁて…如何したもんかね」
 そう呟いてから、呪文を唱える。
 レキガンはそれを察知すると、直に攻撃に移る。
 もちろん、ムクルはその横に割って入り、短剣を構える。
 ムクルは横に、レキガンは縦に、剣を重ねる。
 丁度言い感じに十字が出来あがり、互いににらみ合いの状態になる。
 そして、ムクルが一気に横に飛んだ。
「火炎球(ファイヤー・ボール)!」
 レイの叫び声、力ある言葉によって呪文が解き放たれる。
 解き放たれた火の玉は、レキガンの不意をついてクリーンヒットするが、吹っ飛んで着地したところで風に吹き飛ばされる。
「…なんで吹っ飛ばされてる間は熱いはずなのに、対したダメージが無いんだ?」
「それがわかれば苦労がしないよ氷の矢(フリーズ・アロー)」
 数歩後ろ、レイの呟きが聞こえる位置まで下がって、返答した後イキナリ呪文を解き放つ。
 レキガンは直にそれを打ち落とすが、ムクルはその間に既にレキガンに近づいており、さらに数歩歩いてから、レキガンに切りかかり
「グォォォォ」
 レキガンの肩を切り裂くが、少し浅い
 レキガンはうめくが、うめくだけで、直に態勢を立て直し、追撃をしようとしたムクルと相対する。
 ムクルもレイも呪文を唱えている。
 レキガンはその事に気がついているが、ムクルが居るため、中々行動できない、そして、先にレイの呪文が完成する!
「炎の矢(フレア・アロー)!」
 その炎で出来た矢がレキガンとムクルを襲う、ムクルとレキガンは、それを察知して、反対側の横に飛び…
「振動弾(ダム・ブラス)!」
 その振動がレキガンを襲う、レキガンは得体の知れない呪文への対応に困るが、直に横に飛んだ。
 そこを炎の矢が通りすぎて、その後、ムクルは短剣を握ってレキガンに突っ込む。
 一直線に突っ込んでくる短剣をひょいっとかわす。
 ムクルは短剣そのとんだ方向へ振るう、然し少し届かずスカ、大きい隙が出来あがる。
 レキガンはそこに一直線で攻撃を仕掛けようとする。
 ムクルは短剣を捨て、短剣を握っていた手で糸を引っ張り出し
 ピン!
 かき鳴らす
 ボン!
 剣の辺りで爆発が起こり、軌道が完全にずれる。
 ムクルは直にレキガンの方を向き、呪文を解き放つ
「魔風(ディム・ウィン)!」
 強力な風がレキガンを襲い、レキガンは大きく上に吹っ飛ばされる。
「炎の矢(フレア・アロー)!」
 そこを狙っていたのかの用に、レイの呪文が解き放たれる。
 一気に十数本の炎の矢がレキガンを襲い、そのうちの数本が間違い無く着弾する。
 燃え盛りながらレキガンはゆっくり落ちていき、落ちる少し前に、炎がフリア払われる。
 そこには無傷なままのレキガンが居た。
「なっ!」
 ムクルが叫ぶ、レイもそれは同じ心境だ、レイは冷や汗を垂らしながら、それを見る。
(これは……)
 ムクルは少し何かに思い当たったようだが、まずは目の前の敵を倒す…と思いなおしたようだ、再び短剣を拾って構えなおす。
 レキガンはそこに風を飛ばしてきた。
 風の刃のようで、ムクルは直に短剣を再び捨てると、糸を引っ張り出し、風の音をだして飛ぶ、レイは風の刃に対して、横に飛んで、さらに伏せて交わそうとする。
 それは正解のようで、結局、誰にも当らなかった。
 ムクルは一度木の上に上って、短剣を取り出す。
(……又新しいのだ)
 レイはそう考えてから、呪文の詠唱に入る。
 ムクルは少し旋廻しながら、短剣を握り、突っ込んで行く
 一回打ち合って、ムクルは後ろに下がる。
 短剣のところで持っていた糸を放して、巻き戻す。
 しっかりと短剣を握り締めて、構えた。
 丁度レキガンを挟むような格好になる。
「火炎球(ファイヤー・ボール)!」
 レイが呪文を解き放つ、ムクルは素早く呪文を詠唱する。
 レキガンはその火の玉を避けてかわす。
「氷結弾(フリーズ・ブリッド)!」
 ギリギリ、ほんのムクルの歩幅1歩分の所で、ムクルが呪文を解き放ち、後ろに下がる。
 ぱきいいいいいいいいいいいいいいん
 互いに相互反応を起こし、大きな音を立てて消えて行く
 レキガンが再びムクルの元に突っ込む。
 斜め下に構えて、斜め上に切り上げるように切る。
 ムクルはそれを後ろに飛んでかわすと、返し刀で斜めに反対方向で切られる剣を受け止める。
「炎の矢(フレア・アロー)!」
 レイが叫ぶ、ムクルは糸を引っ張り出すと、風を制御して飛びあがる。
 レキガンも横に飛んで、レイの方を向く、ムクルがレイの近くに着地する。
「酷いよー」
 ムクルが抗議の声をレイに上げる。
「戦いかが悪かったんだ」
 レイがそれを適当にスルーする。
 ムクルは何となくやるせない気持ちになりながら、再びレキガンを見る。
「如何する?」
 隣のレイが話しかけてくる。
「困ったねー、どうしようか」
 ムクルが呟く、レイは少し呆れ顔だ。
「まぁいいや、そんなに話してる時間は無いみたい」
 レキガンが再び突っ込んでくる。
 ムクルはそれにすぐさま対応するように、短剣を構え、交える。
 ムクルは少し後ろに跳び退り、レイを一瞥する。そのまま何かを話しかけてるた。
「氷系の呪文使える?」
 その台詞にレイはめい一杯首を振る。勿論横に…である。
 ムクルが呆れたようにため息をついて
「それくらい覚えようよー」
 そう呟いた。
「まぁ、そのうちな」
 そういってレイは何やら呪文を唱え始める。
 少しムクル構えに出て、レキガンのよこからの剣を縦方向に受けて、そっとなでるように受け流して行く、レキガンは勢いアマって隙ができる。
 一気にムクルが脇腹を突き刺した。
「ウグググググ」
 レキガンがうめき、そのまま短剣を抜いて、後ろに後退する。
 そして剣を握りなおした。どうやらまだ戦うつもりらしい、そして、剣を一直線に構える。
「この…風で…一気に決めて…やる!」
「ああ、いいだろう!烈火球(バースト・フレア)…!」
(さっきから詠唱してたのはコレだったんだー)

「風よ!」
 レキガンが吼える!
 レイの烈火球(バースト・フレア)の進行が止まる。
 ムクルはすぐさま呪文を詠唱する。
「氷の矢(フリーズ・アロー)!」
 呪文を詠唱して、解き放つ、詠唱がアレンジされて、短くなっているようで、生まれてきた氷の矢は一本だった。
 しかし、その氷の矢はレキガンにあたる事は無く、途中で消え去る。
 ムクルはなるほど…と唸る。
(つまり…とんでもないくらい広範囲で発動してるんだ、あの風は)
 ムクルは直に次の呪文の詠唱に入る。
 レイは気力を込めて、その風を追い返そうとする(勿論意味はない)。
 しかし、向うは気力を込められるようなのか、少しずつ、押されてきていた。
 そこに、ムクルの呪文が完成する!
「霊氷陣(デモナ・クリスタル)!」
 その瞬間、『レイの炎が』凍結する。
 コレにはレキガンもレイも驚く、レイはムクルを見るが、先ほどまでムクルが居た場所に既にムクルは居ない、慌てて気配を追って、自分の頭上を見る。
 そこには音を操りながら、飛行し、呪文を詠唱するムクルの姿があった。


 ――全ての血からの源よ
   悠久の流れをたゆたいし
   夜のしじまを照らすもの
   優しき流れに対となる、輝き燃える赤き炎よ
   我が手に集いて力となれ――

「残光炎牙弾(バースト・ブリッド)!」


 その呪文は帯のような形となり、氷の炎を包み、溶かす。
 氷は焼失し、再び攻防が始まる。
 そのまま帯がレキガンの回りを取り囲む、そして、思いきり包んだ。
 するといきなり相手の風がやみ、再び烈火球(バースト・フレア)が直進する。

「いけぇ!レイちゃん!」

 ムクルが叫ぶ、そして、一対の炎が、風と炎が交錯するレキガンを貫いた――!


 焦げているレキガンを森の奥に隠すように運んで、そして戻ってくる。
「結局…なんだったんだろうな」
 レイが呟く
「解らないよ、でも一つだけ言えるのは」
 ムクルが付かれたように呟く、レイもその答えは大体わかっているので、げんなりとしている。

「あいつは…又出てくるよ」

 そういってため息をついた…その瞬間…

「見つけたぞ!」
 
 焦げながら飛び出してくる。レキガンの姿があった。
 ムクルは一瞬固まる。レイはもうどうすれば良いのかわからない
 レキガンはそのままの態勢で二人を見る

(なんなんだよ、もう)

 レイは一つため息をついた。結局、やるしかないのだろうか
 仕方ないか…共思うが、さてさて、ムクルは如何してくれるか、そう思ってムクルを見ると、ムクルは固まったまま動かない。
 少しして、レイはため息をついた。ムクルもため息をついた。最悪の一日かもしれない
+ + + + + + + + + + + + + + + + + + + + + + +
前回よりちょっと短め、後編のお届けです
さて、ではレキガンが直に復活する理由を考えながら、さようなら

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