◆−紫煙の幻影 7−とーる (2008/11/10 18:31:10) No.33801
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33801紫煙の幻影 7とーる URL2008/11/10 18:31:10


 




―伝言―










「ねっねねねねねねねね姉ちゃんから…伝言!?」

「りりりリナさんのお姉さんって
 スィーフィード・ナイトさんだったんですかぁあっ!?」


ガウリイの背後でガタガタ震えながら叫ぶリナと、
別の意味で顔を青ざめさせて驚くゼロス。
少し薄くなった姿でぶつぶつあのゼフィーリアやら
どうりで詳しいやらと呟く。
どうやらゼロスは、ゼフィーリアにスィーフィード・ナイトが
いる事は知っていたようではあるが、それがリナの姉の
ルナであるという事は知らなかったようだ。

うろたえるゼロスにリヴィはまた笑いそうになった。
確かにゼフィーリアは王女からして器が違う。
魔族にとってゼフィーリアはあまり行きたくはない土地だろう。


「ええ。ゼフィーリアには会いたい人がいたので寄ったのですが
 …急ぎの用事がないならと頼まれまして」


先ほどから子供口調をやめていたリヴィ。
だが、リナやゼロス達はそんな事など気にする余裕はないらしい。
とりあえずいつまでも往来で話しているのも何だと言うことで
一向は食堂へと場所を移した。





ウエイトレスが運んできたホットミルクを受け取って、
リヴィはこくりと一口飲む。
こうしてじっくり心を落ち着けてみれば、
千年前と何もかも違う事をじっくり思い知らされる。

魔法の発達も、生活文化も。

とはいえ自分が飛び越えてしまった千年の時がどうなっているのかは
世界を一目見た時にすべて魂に入ってきたのだが。
知ろうと思えば簡単に知れる事。

―― 人間の心などよりはよほど簡単に。


「そそそそそれでうちの姉ちゃんにどどどどどんな伝言を
 預かってきたのでありますのでしょーか」


青ざめながらリナが訊く。
思わずくすりと緩んだ口元はちょうどカップで隠れていたようで、
怯えるリナには見られなかったようだ。
ことんとテーブルにカップを置く。


「普通の話し方で構いませんよ」


苦笑すると、リナは少し落ち着く。


「実はリナさんにまたちょっかいをかけようとしている
 者達がいるとの事です」

「……また? って事は、前にもあったって事ね?」

「ええ。きっと見に覚えがあると思います」

「姉ちゃんが伝言するほどだから、その辺の相手じゃないだろーけど」


頬杖をついてはぁーっと重く溜息をつくリナ。
リヴィはひょいと肩をすくめた。

このリナ=インバースという少女は色々と大変な事件に
巻き込まれてきたのが分かる。
きっとそれはあの御方の存在を知っている事だけが原因ではないだろう。


「で? リナにちょっかい出そうとしてる命知らずな
 奴ってのはどこの誰なんだ?」


ガウリイがけろっとした顔でリヴィに訊く。
リナはじろりと睥睨しているが、彼の瞳の奥にこもっている
固い意思には気づいているのだろうか。

いや、気づいてはいないだろう。
リナは“彼女”と違って、その方面に素直ではないだろうから。


「まぁリナさんにちょっかいを出す時点で命知らずですよねぇ」

「うっさいわっ!!」


からかうゼロスにさすがにリナは怒鳴った。
それはとても面白い。
面白いのだけれど少し落ち着かなかった。
かつてのリヴィの姿でそんな言動をされてしまうと。


「リナさんはよく知っていると思いますよ。
 何せヴラバザード一派ですから」

「……ヴラバザードですってっ!?」

大きな声を張り上げたのはリナでなく、
いままさに紅茶を飲もうとしていたフィリアだった。
カップをソーサーに落としたためにテーブルの上に紅茶がこぼれた。
その横でヴァルが盛大に顔をしかめている。


「はあ……本当に反省してないんですね、ヴラバザードさん」

「ヴ、ヴラ……?」


ぽりぽりと呆れたように頬をかくゼロスの横で
ガウリイが眉をひそめる。



スパーン!



振り下ろされたスリッパの小気味いい音が食堂に響いた。


「ぅおのれは本気で覚えてないんかいっ! ったくぅ、
 何で今頃ヴラバザードなんて出てくんのよ……」


苦りきったような顔でリナは肩を落とす。
そしてリヴィはふと気づいた。

彼女達は仲間を失ってからまだそれほど経っていないのだと。





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33835紫煙の幻影 8とーる URL2008/11/26 21:58:35
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―上等―










フィリアのはらわたが煮えくり返っていたのは
誰の目から見ても明らかだった。
しかし、セイルーンでの用事を終わらせなければ
いけないという彼女はしぶしぶながらヴァルを連れて
セイルーン城に行く事にした。


「本当にいいですか、リナさん。ヴラバザード一派が
 今度は何を考えているか分かりませんけど」

「わーかってるわよ! どうせろくな事じゃないんだろうし」

「そうですけど……」


食堂から広場へと出ると、
フィリアはリナに詰め寄ってそう言い聞かせる。
リナもリナで、前にあった事を思い出しているのだろう。
かなり苦りきった表情でフィリアを押しとどめた。
ヴァルは腕を組みながら溜息をつく。


「俺もフィリアに同感だな。まぁ…あんたの事だから
 大丈夫だとは思うが」

「あったりまえじゃない!!」


リナが胸を張ると、フィリアはようやく落ち着いたらしい。
最後にじろりとゼロスを睥睨してから、
一礼してヴァルと一緒に人混みの中へ消えていった。





「さーて、と」

「リナぁ…結局俺達はどうするんだ?」


首を傾げるガウリイ。
リナは空を見上げながらぽりぽりと頬をかいた。


「どーするったって…目的が何なのか分からないじゃねー」


リナはゼロスを振り返る。


「あんた、今回の事で何か知ってる事とかあるの?」


絶対に秘密などは許さない。
燃えるようなリナの瞳がそう告げている。

さすがにゼロスもそれをちゃんと感じとったのか、
いつものようにふざけた態度を取ったりはせず
肩をすくめて困ったような顔をした。


「これでも僕も驚いたんですよ? 諦めが悪い方達だなぁって」

「あっそ……」

「きっとリナさんを殺しておけば世界は平和に〜って
 魂胆じゃないですかね」


とてもあっけらかんとしたゼロスの言葉にリナは憮然とする。
しかし三人の様子を黙ってじっと見やっていた
リヴィに気がつくと、少し慌てた。

リヴィとしてはリナがどんな判断を下すのか
興味があったので黙っていただけだ。
けれどリナは、途方もない御伽話に幼いリヴィが
混乱しているのだと勘違いしたらしい。

普通の子供ならば混乱して当たり前な話であろう。
今日びヴラバザードの名前を知っている者など、
神官や巫女、歴史を研究している者くらいなのだから。


「ええっと――」

「私も一緒についていってもいいですか?」


にっこりと笑顔を浮かべながら問いかけるリヴィに、
ぎょっとリナは目を見開いた。


「え、あのね、あたし達……」

「私は急ぎの用事がありませんし、伝言を預かった身として
 ヴラバザード一派が何をするのか気になりますから」


ちらりとゼロスが開眼して見下ろしてくる。
もちろんそれにリヴィは気づいていたが、
あえて気づかないフリをした。
意識さえ向けていないようにしむけてみると
ゼロスはあっさりと騙されてしまう。

そんな事で大丈夫かなどと考えてしまうのだが、
ゼロス自身、それくらい騙された所でまったく痛くも
痒くもないだろうと思いなおす。


「ううーん……」

「別にいいじゃないか、リナ。リヴォなら大丈夫だって」

「リヴィです。ガウリイさんの言う通り、僕も魔法が
 使えますから自分の身は自分で守れますよ?」


ひらひらと手を振って見せる。
リナはしばらく沈黙して迷っていたが、
じっとリヴィを見つめてから深く息を吐いた。


「分かったわ。危なくなったらすぐ逃げる、それでいい?」

「構いませんよ」

「オッケー。じゃ、どこで仕掛けてくるか分からないし、
 とりあえずセイルーンを出ましょうか」

「おう」


リナが吹っ切ったようにそう言うと、
一向はきびすを返して街外れへと歩き始める。


「ではリナさん、どちらに向かいますか?」


ゼロスがにこにこと問いかける。


「……そうね…ラルティーグの方にでも行ってみましょうか。
 どうせ向こうがどこにいるかなんて知らないし」

「おお」

「分かりました」

「さーて。かかってくるならかかってきなさいってね」


リナは太陽に向かって挑むような目で笑う。
リヴィはゼロスに気づかれないよう、密かに微笑んだ。





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33897紫煙の幻影 9とーる URL2009/1/6 22:21:59
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―襲撃―










いつもの密かな夜陰だった。
しかし、突然それは切り裂かれてしまった。

夜陰の向こうで爆発音が響いた。

連鎖するように一つ、二つ、三つ……。
それほど間隔をあけずに地鳴りが身体を揺らす。

仲間から耳が良いと重宝がられている己の聴覚は、
爆発音が近づいてきている事に気づいていた。
克明に、鮮明に。

温かな季節のはずだが背は絶えず悪寒が走り、
頬から零れた冷や汗が首筋を伝う。
震えて上手く動かない手を見やった。

脳裏を巡り続けるのは恐怖と絶望と驚愕と困惑。
何故、何故、何故――?

答えを知る者はいないだろう。
答えを知るのは己を追い詰めんとする殺戮者のみ。
何故、何故、何故、何故、何故――。


「見ィつけた……」


静かな凜とした声にがくんと腰が抜ける。
地にへたり込みながら、肩で荒げた呼吸をしながら振り向く。
燃えたぎる双眸に射抜かれた。
遥かなる高みから己の命は見下ろされていて。


「……ぁ……っ」


悲鳴は上げられない。
標的にされてから衝動のまま叫び続けたせいで
喉が焼け付くように痛んでいるからだ。

それでも声を上げる。
そうしなければ自我が崩壊しそうだった。


「…………ロバース・キラー、ドラまたリナ=インバース……!」

「誰がじゃぁぁぁあああああああっ!!!」



ちゅどごおおおおん!!!










「リナさん、今日はとっても荒れてますねぇ」

「そうかぁ? 可愛いもんだぞ。ほれリヴィ。魚焼けたぞ」

「あ、ありがとうございます」


辺りに響く爆発音も地鳴りも、森に上がる煙にさえ目もくれずに
ゼロスとガウリイとリヴィはのんびり焚き火を囲んでいた。

ガウリイから焼き魚を手渡されて、
リヴィは両手で串を持ってふぅふぅと冷ます。
ぱくっと白身を口にした瞬間、また近くで爆発音が響いた。
ゼロスは細い枝の先でちょいちょい薪をいじっている。


「まあ…リナさんが荒れるのも仕方ありませんかねぇ……。
 ここ数日、何の収穫もありませんし」


ゆらめく炎がぱちり、とはじける。


「でも盗賊は退治されて良い事ではありませんか?」

「……ですねぇ」


リヴィがそう言うとゼロスは軽く頷く。
その後にとても小さく、僕の食事にもなりますしねと
呟かれた言葉はリヴィの耳にしっかりと入った。
もちろん知らんふりをしていたが。

セイルーンを出てラルティーグ方面に向けて旅立った一行。
その間に数日が過ぎたのだが特にこれと言って
盛大な襲撃があったわけでもなく、ごたごたに巻き込まれる事もなく。
実に平和な数日間が過ぎた。

いい加減ストレスが溜まっていたのか、野宿がてらリナは
ぱぱっと夕食をすませるとせっせと盗賊いぢめに励んでいた。
ガウリイはさりげなく周囲に気を配りながらも、
暴れるリナを好きにさせていた。

下手に止めたりすれば余波が飛んでくる事を
ガウリイは身を持って知っているからだ。


「リナさんの盗賊いぢめって、いつもこんな風なのですか?」

「おー。でも今日はゼロスの言う通り、確かに少しばかり
 いつもよりは荒れてるかもしれんなぁ」

「すごいですね」


苦笑するリヴィの問いに答えながら、
ガウリイは自分の焼き魚にかぶりついた。

しばらく他愛もない事を談笑しつつガウリイとリヴィは
魚を食べ、ゼロスが焚き火をいじっていると、
少しずつ爆発音が収束していった。
ガサガサと茂みをかきわけ、麻袋を背負ったリナが戻ってくる。


「お帰りなさい、リナさん」

「ただいま。……ったくぅ、下手に人数が多いわりには
 ろくなお宝持ってないったら……」


ぶつぶつ呟きながら、リナは麻袋を降ろしてリヴィの隣に座る。
リナはさっそく麻袋を開いて中から戦利品を取り出していく。
麻袋の中へ手を入れるたびにじゃらりと軽い金属が
音を立てているので、ほとんどが硬貨と宝石の類いなのだろう。

魔道士であるリナにとっては、本当に “お宝” だと
言えるのは魔法書や魔法道具関連になる。
硬貨はそのまま、宝石は売りつけて路銀などに買えてしまうのだから。

そんな事を考えつつ戦利品を片付けるのを
傍で見ていたリヴィにリナは気がつく。
彼女は少し楽しげに、ブイサインを作ってみせた。





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33901紫煙の幻影 10とーる URL2009/1/17 23:19:05
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―衝撃―










「……ちょっと?」

「……何故です?」

「「あんた(貴女)達、どうしてっ!?」」


森の中の街道を進んでいた所に、
何故かしげみの方から出てきた二人組み。

思わず唖然として口を開いているリナの姿に
奇妙な形の白い鎧をつけた金髪の少女も目を見開く。
そして、お互いに指差し叫んだ。
少女の後ろに立つ金髪の男性も意外そうな顔をしていた。

ガウリイはにこにこと笑い、ゼロスは苦笑し、
リヴィはこの必然に思わずくすりと笑みをこぼした。


「メフィに、ミルガズィアさんも! 何でこんな所に!?」

「それはこっちの台詞ですわ!」


心底驚いて問いかけるリナに、困ったように
ひょいっと肩をすくめるメフィと呼ばれた少女。
代わって、ミルガズィアと呼ばれた男性が
メフィの隣に一歩進んでリナの問いに答えた。


「久しぶりだな、人間達よ。……正直に言えば
 金輪際見たくもない顔もあるのだがな」

ちらりと視線を動かすミルガズィア。
その視線の先にはひょうひょうと笑みを浮かべるゼロスの姿。
確かに竜族には遠慮願いたい所なのだろう。
ドラゴン・スレイヤーの異名を持つゼロスの存在は。


「それにこの子」


メフィが不思議そうな顔でリヴィを見下ろす。
そしてやおら顔を赤らめると、リナに小声で聞いた。


「……やっぱりお二人の子供ですの?」

「ちっ…………違うわああああああああっ!!!
 こんな時に馬鹿な事言ってんじゃないわよ!!!」


どかんと顔から湯気が出るほど熱を噴出してリナが怒鳴る。
その反応を見てくすくすとメフィが笑った。
きっと分かっていてからかったのだろう。

もちろん、完璧な赤の他人であるリヴィの顔立ちは
リナとガウリイのどちらにも似てはいない。
しかしその容姿は金髪碧眼の愛らしい子供である。
何も知らない人間が、同じ金髪碧眼である
ガウリイの子供だと思っても仕方ないのかもしれない。

現にここに来るまでの道中。
リナはまったく気がついていないようだったが
すれ違う旅人達に微笑ましい視線を送られていたのを
ちゃんとリヴィは気づいている。
親子プラス一名の旅だと勘違いされていたのだ。

メフィのガウリイは何も言わなかったものの
ゼロスは思う存分にケラケラと楽しそうに笑ったせいで
リナにスリッパで問答無用で叩かれていた。

アストラル・ヴァインをかけられたスリッパだったのか、
ゼロスを地に沈めてからリナはむっすりとしながら
パンパンと手を払って二人に向き直る。


「この子はリヴィ! わけありであたし達と一緒にいるのよ」

「初めまして、リヴィといいます」


にっこりと笑ってみせると、
メフィもミルガズィアも曖昧に微笑む。
それを見てどう接していいのか分からないのだと気づく。
リヴィも確かに困るかもしれないと苦笑した。
関係性がまったくないのだから。


「……それで? どうして会うはずのない
 ミルガズィアさんとメフィがここにいるのよ?」

「うむ……」


首を傾げるリナの質問にミルガズィアは
少しだけ難しそうな顔をしながら腕を組んだ。
するとメフィもちらちらとゼロスを気にしつつも
背筋を伸ばして慎重な面持ちになる。


「実は火竜族の下の者達の動きがおかしいと話が出てな」

「私達がそのうちの一人を見つけて問い詰めた所、
 ある人間を狙っていると白状したんですの」

「だが、それが誰なのか名前をはっきり言わぬので
 一派が集まっている場所へ行こうとしていた」

「…………それって」


二人の話にリナはもろに顔をしかめる。
その横でガウリイがほがらかな声をあげた。


「なぁんだ、じゃあもうその人間見つけてるって。
 リナの事なんだろ、それ」

「何!? それは本当か人間よ!?」

「ガウリイィィィ!!」



スパパパパパパァアアアン!!!!!



にこにこと完全無欠な笑顔のガウリイの頭を
さきほどゼロスを叩いたスリッパが見事に直撃した。
ぜいぜいと息をつくリナにリヴィは少し同情する。
しかしもっと同情したのはメフィだった。
はぁ…と思い溜息をついてメフィはリナを気遣う。


「本当に…魔族にも狙われ竜族にも狙われて……
 落ち着く暇もありませんわね、貴女方」

「だああ!! あたしのせいじゃないぃぃぃっ!!!」

「ちなみに今は僕達、リナさんを狙ったりしてませんよ。
 これ以上被害が出るのは遠慮願いたいので」

「あんたらがちょっかい出すからでしょうが!」


気づいていないのだろうか?
ゼロスは、彼女達は。

何も知らないはずのリヴィの前で、
ちゃっかりとゼロスが魔族だと肯定した事に。





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