◆−行間(ゼルアメ)_1−maho (2008/9/14 16:31:17) No.33690
 ┗行間(ゼルアメ)_2−maho (2008/9/21 14:00:54) No.33708
  ┗行間(ゼルアメ)_3−maho (2008/10/1 12:59:03) No.33732
   ┗Re:行間(ゼルアメ)_3−maho (2008/10/1 18:56:20) No.33733
    ┗行間(ゼルアメ)_5−maho (2008/10/3 05:22:46) No.33737
     ┗行間(ゼルアメ)_6−maho (2008/10/3 06:44:39) No.33738
      ┗行間_7−maho (2008/10/3 12:31:07) No.33739
       ┗行間_8−maho (2008/10/3 16:01:18) No.33740
        ┗行間_9−maho (2008/10/3 17:43:58) No.33741
         ┗行間_10−maho (2008/10/3 19:52:26) No.33742
          ┣Re:行間_10−a (2008/10/3 20:09:05) No.33743
          ┗行間_11−maho (2008/10/4 13:06:25) No.33746
           ┗行間_12−maho (2008/10/4 16:08:28) No.33748
            ┗行間_13−maho (2008/10/4 17:58:39) No.33749
             ┗行間_14−maho (2008/10/4 22:35:26) No.33750
              ┗行間_15−maho (2008/10/5 17:35:12) No.33754
               ┗行間_16−maho (2008/10/8 05:06:40) No.33759
                ┗行間_17−maho (2008/10/8 11:32:53) No.33760
                 ┗行間_18−maho (2008/10/11 00:40:00) No.33765
                  ┣Re:行間_18−a (2008/10/19 08:56:26) No.33772
                  ┃┗ありがとうございます−maho (2008/10/22 13:11:59) No.33781
                  ┗行間_19−maho (2008/10/23 17:22:24) No.33782
                   ┣Re:行間_19−a (2008/10/23 18:54:47) No.33783
                   ┗行間_20−maho (2008/10/24 01:40:18) No.33784
                    ┗行間_21_END−maho (2008/11/3 19:59:01) No.33796
                     ┗Re:行間_21_END−a (2008/11/5 21:49:58) No.33797


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33690行間(ゼルアメ)_1maho 2008/9/14 16:31:17


はじめまして。よろしくお願いします。
TryとRevの間のゼルアメ脳内補完話を投稿させていただきます。

///////////////////////////////////////////////////////


「すまんが、今の俺はセイルーンには留まれない。」

 リナさんとガウリイさんと別れたその日の夕食時、唐突にそう言われた。

「だが、一国の姫が一人で旅をするべきではない。
 だからセイルーンまでは送っていく。それまでの間だがまたよろしく頼む。」
 
そういわれるであろうことは、十分覚悟していた。理解していた。
この人には旅をしなければいけない目的がある。
私にもセイルーンでやるべき事がある。私が私であるためにそれを捨てる事はできない。

「はい!セイルーンに着くまで、あとちょっとですけどよろしくお願いしますね!」

 それでもやっぱり悲しい気持ちが伝わらないよう、
できるだけ元気いっぱいに返事をして、食べかけのビーフシチューに目をやった。

-*-----*------*------*------*------*-


「すまんが、今の俺はセイルーンには留まれない。」

 リナとガウリイと別れたその日の夕食時、早々にそう告げた。
さっきまで上機嫌で、『おいししですねぇ〜』を連呼していた
目の前のお嬢さんのスプーンを持つ手がぴたりと止まった。

傷つけてしまったかもしれない。
でも仕方の無い事だ。

俺はこの体を元に戻さなければならない。そのために旅を続けなければならない。
目の前の黒髪のお嬢さんはこれでも一国のお姫様だ。
俺がセイルーンにいって何ができる?合成獣の俺に。せいぜい、護衛の徴兵が関の山だ。
このお嬢さんが成長していく様を、この体で見守るのは俺には辛すぎる。

「だが、一国の姫が一人で旅をするべきではない。
 だからセイルーンまでは送っていく。それまでの間だがまたよろしく頼む。」

 目の前のお姫様の挙動など見ていないふりをして、
食べていたビーフシチューをつつきながら話を続けた。

「はい!セイルーンに着くまで、あとちょっとですけどよろしくお願いします!」

カラ元気でも元気!と言わんばかりの大きな声でお姫様からの返事が返ってきた。
まったく強い娘だと思う。その強さがいつも、俺を苦しめる。


=*======*======*======*======*======*=


「ゼルガディスさんは、私と別れたらまた魔道書探しですか?」

 今日の昼にはセイルーンにつくだろうと言う日の夜、荷物を整理しているところに
お姫様は唐突にやってきてそんな質問をした。

「あぁ。セイルーンは既に調査済みだからな。
 次は結界の外の世界を重点的に探そうと思っている。」

 何故俺にそんな事を聞くのか。俺を引き止めに来たのだろうか。
未だ幼く、ヒロイック・サーガマニアの気はあるが、決して頭の悪い娘ではない。
自分の国の事も、俺の体の事も理解しているはずだ。一体どうしてそんな質問をするのか。
少し困惑しながら、でもきわめて冷静を装っていつものように返事を返した。

「それなら、手紙を書いてもらえませんか?セイルーンの私宛に!」
「─手紙?」
目の前のお姫様は早口でまくし立てた。
「そうです。居場所とこれからの行き先伝える手紙!
 セイルーンでは白魔法の研究が盛んです!今もたくさんの魔導士が魔法の研究をしています。
 だから、もしゼルガティスさんの体を元に戻すために必要な研究成果が上がったら直ぐに
 連絡できるようにしたいんです!
 居場所と行き先、それだけでいいですから!お願いします!」


居場所と行き先、それだけの手紙。このお姫様は優しいのか、残酷なのか。


俺はいつ人間に戻れるか分からない。もしかしたら一生このままかもしれない。
このお姫様の国に王位継承権は男子にしかない。
今病に臥せている国王が亡くなり、フィル王子が王になれば次の王位継承者を用意するため
このお姫様は直ぐに婿を取ることになるだろう。
だから、居場所と行き先だけの手紙をよこせと言う事なのだろう。
その時に、合成獣の仲間の事を必要以上に思い出さなくていいように。

「それは助かる。
 それなら、旅先で見つけた読み終わった魔導書を手紙と一緒に送ってもいいぞ。
 外の世界の書物はセイルーンにとって、貴重な資料になるはずだ。
 で、書物の見返りに白魔法の研究論文を定期的にこちらに
 送ってもらえると有り難いのだがそうことは可能か?」

これ幸いというそぶりをみせるため、こちらも早口で要望をまくし立てる。

「そのくらいのことならもちろん可能です!!行き先の逓信局留めで送ります!」

それに、いつものまぶしい笑顔でお姫様は答える。

「契約成立だな。」
「そうですね。」
「約束ですからね!必ず手紙くださいね!
「あぁ。」


「じゃ、じゃあ!約束のしるしにこれ持ってってください!」

そういうといつも右手にはめていた桃色のバンドに青の宝玉のついた
アミュレットを俺の手に押し付けパタパタと自分の部屋に戻っていった。

深い藍色の、あのお姫様のひとみの色によく似たアミュレット。
・・・こんなものを受け取っては俺だけがあのお姫様を忘れられなくなるではないか。
卑怯だなとおもったが、でもそれを断る事も邪険に扱う事も出来ず、
荷物整理に広げていた愛用の水筒に引っ掛けた。


また、独りの旅が始まる────。

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33708行間(ゼルアメ)_2maho 2008/9/21 14:00:54
記事番号33690へのコメント

続きです。

///////////////////////////////////////////////////////
ゼルガティスさんからは月に1、2度手紙が届く。今の居場所と次の目的地がかかれた手紙。
手紙には、いつもそれだけ。

いくら居場所と目的地を伝える手紙を書いて欲しいと言ったからといって、
本当にそれだけなんて淋しすぎる。ゼルガティスさんらしいかなとも思うけど。
考えに考えて作った『手紙を下さい』っていう口実だったのに・・・。

 手紙の内容とは反比例に、一緒に届く魔導書はいつもかなりの量。
セイルーン王室の資料室には着々と『寄贈:ゼルガディス=グレイワーズ 』コーナーが
出来上がりつつある。ついでに『寄贈:ゼルガディス=グレイワーズ 』コーナーは
研究者達に大人気のようで研究者達の方が私以上にゼルガディスさんの手紙を心待ちにしている。


私は毎日公務に追われている。
 正義がどこにあるのか分からない難しい会議に同伴したり、公務のための勉強をしたり。
国の人々のために仕事をする事誇りを持ってはいるけど、
辛かったり、つまらなかったり、退屈な時もたくさんある。
月に1回、白魔法の研究論文を送るのと一緒に、そんな近況を書いた手紙をつける。
セイルーンにいるシルフィールさんや父さんのことを書くこともある。
その手紙はいつも”元気ですか?”から始めるようにしている。
でも、それに答えてくれた事は一度も無い。

───ゼルガディスさん、元気ですか?

いつもと同じ言葉で始まる手紙を綴りながら、少女はふぅーっと溜息をついた。


=*======*======*======*======*======*=


リナやガウリイ、アメリアと別れて独りで旅をするようになって1年。
新しい街に行くと、真っ先に逓信局に寄るようになっていた。

 1ヶ月に1度のペースで届けられるセイルーンからの論文と手紙。
セイルーンには魔道都市サイラーグから避難してきた研究者達も多く、
彼らの論文は刺激的で興味深いものが多かった。
 でもそれ以上に、その論文に添えられている手紙を楽しみにしている自分がいた。
アメリアが今何をしているのか。どんなことを考えているのか。
遠くにいても、会えなくても、忘れられなかった。知りたくてたまらなかった。

 手紙はいつも、「ゼルガディスさん、元気ですか?」で始まる。
その問いに、どう答えればいいのかまだ分からず、
返事の手紙には未だ現在の居場所と次の目的地しか書けずにいる。
言葉に出来なくても、せめて元気にやっている事を伝えようと
手紙には魔導書を多くつけるようになった。
 一緒に送れる書物が無い時は、わざわざ写字生を雇って
持ち出し禁止の書物の写本を用意している。
まったく、われながら親切すぎると思う。
セイルーンの書物収集にどれだけ協力する気だ。


でも、どうしても言葉には出来なかった。
「俺は元気でやっている。お前も無理するな。」
それだけのことが、どうしても言えなかった。

いつもと同じように地名だけの手紙を綴りながら、合成獣の男はふぅーっと溜息をついた。


=*======*======*======*======*======*=


アメリアがセイルーンに帰ってきて、もう1年。
旅から帰ってきた娘の働きっぷりにフィリオネルは満足していた。

 毎日のさまざまな王宮内の行事や公務を文句一ついわずこなす娘に
わが娘ながら本当に立派な王家の娘に育ったと思う。
王室に生まれてこなければ、母を無くすことも、姉と別れることも
無かっただろうにそんな愚痴をこぼすこともなく、自分の元で笑顔で
仕事をこなし、父である自分を慕ってくれる。

 でも、気丈な子に育ったことは嬉しかったが、同時に寂しいことでもあった。
母と姉を無くし、無理しないと生きられないような境遇を与えたのは自分の責任だった。
───あの子を救ってやりたい。
それは、父にも国王代理にも出来ない事だと分かっていた。
父だから、国王代理だから出来ない事だと分かっていた。


 娘宛に時折小包が届く。旅の仲間だったゼルガディスという合成獣の男から。
小包にはいつも何冊もの珍しい魔導書が入っており、研究者に重宝されている。
魔道書といっしょにいつも娘宛に手紙が入っている。
一度、娘の部屋を訪問した時、小包を開けておりその手紙を見せられた事がある。

現在の居場所と次の行き先だけが書かれた、白い手紙。
それを見せながら娘は自虐的な微笑を浮かべた。妻に似た娘の、哀しい笑顔。


娘には幸せになって欲しい。どんなカタチであっても。
あの手紙の男になら、娘を助けられるのだろうか・・・。


ルヴィナガルド王国からの依頼書に目を通しながら、フィリオネル王子はふぅーっと溜息をついた。


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33732行間(ゼルアメ)_3maho 2008/10/1 12:59:03
記事番号33708へのコメント

REVOLUTION終わりましたが(汗)続きです。

//////////////////////


「殿下、調べ物ですか?」
 私が王室資料室の司書になって5年。珍しい人の姿に、私は少し驚いて声をかけた。

「いや、そういうわけではないんじゃが。久しぶりに史書にでも目を通すかと思っての。」
「それでは私が案内いたします。この間の棚卸で図書の位置をかなり変更いたしましたので。」
「そうか、それではお願いしようかの。」

 フィリオネル殿下はいつの気さくな笑顔で私に答えてくださる。
その笑みに答えて、必要な史書の概要を聞き資料室の中を案内する。
「その資料は、この奥の棚の上から3段目のこちらになります。」
「管理が行き届いておるな。資料の場所をよく把握できている。日々の業務、感謝しておるぞ。」
「ありがとうございます。」

 そんな国王代理の気さくな態度に、あぁこの国の民でよかったと心から思いながら、
私はここ半年ほど疑問に思っていた事を口に出した。
「ところで殿下。最近本を寄贈されるようになったゼルガディス=グレイワーズ様とはどういう方なのですか?」
「あぁ、そういえばゼルガディス殿からは定期的に魔導書が寄贈されているんじゃったのう。
 アメリアの旅の仲間の一人じゃよ。今は結界の外の世界を旅していて、その途中で見つけて読み終えた書物を
 送ってくれとるそうじゃ。娘から聞いてないかのぅ。」
「いえ、そこまでは伺っているのですが、セイルーンに何か特別な恩義のある方なのかと思いまして。」
「?特になにかあるというわけではないが・・・どういうことかの。」

 史書を簡単にめくり、簡単に内容を確認していた殿下の手が止まり訝しげに私の方を向く。
私はその視線に少し戸惑いつつ、話を続けた。
「いえ、たいした事ではないのですが。ゼルガディス様から寄贈される魔導書に
 新しい写本が最近多く入っていますので・・・。
 わざわざ写字生を雇って写本を作らるほど、セイルーンに恩義のある方なのかな・・・と思いまして。」
「・・・それをアメリアはしっとるのかね?」
 そう私に問うほんの少しの間に、フィリオネル殿下の顔色が変わられたように感じたが、
薄暗い資料室ではよく分からなかった。
「さぁ・・・本当はアメリア様が魔導書をお持ちくださるときに伺えばよいのですが、
 ここ最近、本をお持ち下さる際のアメリア様はひどく淡々としておられて
 なかなか口に出せなかったものですから。」

「───そうか。」

 そう答えられると、殿下は足早に資料室を後にされた。
資料室にはなにがなんだかわからないまま立ち尽くす私と、いつもの紙とインクの香りだけが残った。


=*======*======*======*======*======*=


「父さん!!どうしたの?」

 今日の公務を一通り終えて、休憩がてら王宮内のバラ園にでも行こうかなと
思っていたころに、私の私室に父さんがやって来た。
 私と父さんは仲はいいけれど、父さんが私の私室まで来る事はあまり無い。
公務で行動をともにする時や、毎日の食事の時間はいつも父さんと話をしているから
わざわざ私の部屋に来る必要は無いし、父さんは私など比べ物にならないほど忙しい。
それに、年頃の娘の部屋に押しかけるのは、最近父さんでも遠慮してるみたいだし・・・。
 まぁそんなわけで、父さんが私の部屋に来るのはとても珍しいのだ。

「いや、たいした用事ではないのだが。もうそろそろ、ゼルガディス殿に論文を送る頃かと思っての。」

 いつもの笑顔で父さんは私にそう答えた。
そういえば、この前父さんがここに来たのもゼルガディスさんからの手紙を気にしてだったな。
父さんは私がゼルガディスさんを好いているのではないかと心配しているのかもしれない。
父さんは見た目や身分で人を差別したりしない。だから周りの反対を押し切って
平民の母さんと結婚した。そして姉さんと私が生まれた。
・・・でも、そのせいで母さんは殺されて、姉さんは何処かに行ってしまった。

 そんな状況だからこそ、毎月毎月ゼルガディスさんに手紙を送る私を心配するのも無理もないと思う。

でも、ゼルガディスさんから届く手紙はいつも今の居場所と次の行き先だけ。
それは父さんも知っている。
私がゼルガディスさんにどんな手紙を送っているか父さんは知らないけど、
それだけ知っていればこの行為が私の一方的な慈愛にしかなっていない事を
分かっているはずだ。どうしてそんなことを聞くのかわからないまま、私は返事を返した。

「研究者の方からの論文は昨日頂いてきたから、明日にでも送ろうとおもってるけど・・・
 でもどうして??」
「その際にこの手紙も一緒に送って欲しいと思ってな」
「これは??」
父さんから白い封筒に、セイルーン紋章の正式な蝋印が押された封筒を手渡される。
父が国王代理として手紙を送る時の封の仕方だ。

「いや、ゼルガディス殿はセイルーンに多くの書物を寄贈してもらっているからのぅ。
 一昨日資料室の司書に聞いたのじゃが、わざわざ写字生を雇って写本を用意してまで
 セイルーンに書を贈ってくれているようじゃて。
 国の方からも礼の手紙くらい送らねばならんとおもってのぅ。」
「ゼルガディスさんが??セイルーンのために写本を???」
「あぁ、アメリアはいい仲間をもったのぅ。」

それだけ言うと父さんはにっこり笑って私の頭をくしゃっと撫でた。
私は嬉しくなって、父さんにぎゅっと抱きついた。


父さんも、ゼルガディスさんも大好き!
私はここに生まれて、本当に幸せだと思う。

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33733Re:行間(ゼルアメ)_3maho 2008/10/1 18:56:20
記事番号33732へのコメント

ひっそりと続けます。
//////////////////////

新しい街を訪れるのは好きだ。
”もしかしたら”という希望があるから。


 人間に戻れる方法がどこかにあると信じているから俺は旅を続けられている。
今のところ多くの──というよりすべての、街や遺跡でその期待を裏切られているが、
それでも未だ何処かに人間に戻れる方法があるに違いないとこの世界は信じさせてくれる。

 結界の外の世界は広い。火竜王のご神託とやらのためにリナ達と旅をした時も感じた事だが、
どこまでも果てなく地が続き、そこにさまざまな人々が住んでいる。
この世界の広さが、俺にまだ希望を与えてくれている。
人に戻りたいから旅をしているのではなく、戻る方法がどこかにあると信じられるから
俺は旅を続けられているのだと思う。


 今日ついた街は、海辺の小さな港町だった。道を聞いたじいさんによると
タコ料理が有名らしい。リナやガウリイが一緒なら、真っ先にその名物料理に
食らいつくだろうと思いながら、いつも通り逓信局に手紙の確認に行く。
この前届いた手紙からもう1ヶ月が経つ。もうそろそろアメリアから手紙が届いても良い頃だ。
案の定、丁寧な文字で逓信局の住所と俺の名前が書かれた大きく丈夫な封筒が
俺宛に届いていた。

 小さな街の宿は多くの旅人にとって通過点でしかない。1泊、せいぜい2泊で
直ぐに次の街に旅立ってしまう。街をくまなく調べるため最低1週間は滞在する事に
決めている俺はこういう町の宿にとっては上客らしい。
1週間前払いで部屋を借りると、宿の主人は丁寧に奥の部屋を案内してくれた。

 部屋につき、真っ先に先ほど受け取った封筒を開け中身を確認する。
いつも通り、セイルーンの研究者達の論文とアメリアからの近況を知らせる手紙、
・・・・・・それにもう1通、セイルーン王家の蝋印で封をされた手紙が入っていた。

「セイルーン王家からだと・・・??」

 真意が図りかね思わずつぶやく。一人旅の中でつい増えてしまった独り言。

アメリアからの手紙を心待ちにするようになっていた。
手紙から見て取れる彼女やその周りの人たちの暮らし。アメリアが元気にやっていること、
アメリアが俺のために手紙を書いてくれることが嬉しかった。
 だが、俺からの返答は書物と居場所と行き先を書いた手紙だけだ。
アメリアやセイルーンに害を及ぼすような事はしていないはずだ。
 それとも、かつて白のゼルガディスや残酷な魔剣士などと呼ばれていた頃の影響が
出たのだろうか。かつてのお尋ね者と姫に交友があっては、あのお家騒動の
多いセイルーン王家には何かと不都合があるのかもしれない。

 とりあえず、アメリアからの手紙の封を切る。王家として問題があるという話が
出たというのならアメリアのほうからも何らかの説明があるはずだ。
これが最後の手紙になるかも知れんと覚悟しつつ、その中身を読む。



・・・・・・しかし、内容はその間逆で、俺は拍子抜けせざるを得なかった。

俺が写字生を雇って写本を贈っていることに感謝している事。
どうせなら旅の街で見つけた花を押し花にして送ってほしいというアメリアの要望。
そして、フィルさんからの王家としての礼状を、一緒に同封すること。


『ゼルガディスさんは根暗すぎます!』
 そういえば昔アメリアにそんな事を言われたな。全く俺は思考が根暗すぎるのかもしれん。
2通の手紙にいろいろな考えを巡らせた自分に馬鹿馬鹿しさを覚えながら
セイルーンの蝋印の入った、フィルさんからの手紙の封を開けた。


───自分の考えは間違っていたが、それはアメリアの手紙通りでは無かった。

真っ白い便箋の束の他に、もう一枚厚めの紙に書かれたセイルーンからの依頼書が入っている。
”アメリア姫の護衛を依頼したい”そんな内容だった。

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33737行間(ゼルアメ)_5maho 2008/10/3 05:22:46
記事番号33733へのコメント

やっぱりひっそりと続けます。
アメリアの母の設定辺りは完全に妄想です(汗)
アメリア母に関して、公式設定がもしありましたら生暖かくスルーしたり突っ込んだりしてあげてください。(濁汗)

////////////////////////////////
 王室資料室にて史書を借り自室に戻ったフィリオネル国王代理は、王家の刻印の入った白い便箋と
先日届いたルヴィナガルド王国からの依頼書を取り出し、ペンを走らせた。

-----------

”リナ=インバースを紹介して欲しい”という、ルヴィナガルドからの依頼書。
フィリオネル国王代理はここ数日、この依頼をどう受けるべきか対応に悩んでいた。

 あのリナ=インバースとセイルーンに交友があることが、他国に当然のように知られている。
それは心強いことでもあるが、同時に危険な事でもある。
リナ殿を人間として信頼していないわけではないが、彼女らはいかんせん行動が幼すぎる。
彼女らの行動如何で、セイルーンの差し金でリナ=インバースによる破壊活動が行われているなどと
言いがかりをつけられる可能性もないわけではない。

 しかし、彼女らが実際にアルフレッドによる謀反を解決に導いてくれた。
そして幾度も、王女である娘が共に旅をしている。
そんな状況で、知らぬ存ぜぬを通すのも難しいだろう。

依頼の理由はルヴィナガルドの国家機密とはいえリナ=インバースに関わる事だ。
議会では、おそらく依頼を受ける形で話はまとまる。
しかし、その際誰がどういう形でリナ殿の下へ赴くか───。


 こちらが紹介するのだからリナ殿の元へ向かう使者は当然、
リナ殿と交友のあるものでなければならない。
そうなると自分かアメリアが直接行く事となるが、アルフレッドの謀反から
まだそれ程年数が経っていないこの時期に、自分が国を離れるのは心許ない。

 やはりアメリアを使者として向かわせるのが妥当ではあるが、
何分ゾアナ王国での前例がある。あの時はたまたまリナ殿が助けに来たから
良かったものの、もし助けが無ければどうなっていた事か。
ゾアナに囚われ、セイルーンとゾアナの戦が起こっていたかもしれん。
 アメリアには城の中で公務にをさせるだけではなく、若いうちに様々な
国や世界を見て、見聞を広げてもらいたいと言う気持ちはある。
もちろんお付きの兵卒等はつけるが、それにしても国が絡む、
他国の人間との旅路で、アメリア独りのというのはいささか心許ない。

 ───アメリアを支えられる人間を同行させられれば・・・。

 そんな事を考えていた矢先、資料室でゼルガディス殿の話を耳にした。
合成獣の容姿を戻すために、外の世界を巡っているかつての娘の旅の仲間。
剣も魔法の腕前も問題無く、悲観的すぎるほどに冷静だ。世界を旅している関係、
社会統制もそれなりに把握しておろう。やや情熱的すぎる娘のストッパー役には持って来いの人物だ。
だが、その姿を戻す事だけに執念をおいており国が絡むようなことには
どのような報酬を与えても動かないだろうとはなから諦めていた。

 しかし、そんな男がわざわざ魔道書の写本を用意しセイルーンへ届けている。
現在の位置と行き先しか手紙にかけない男からの娘への不器用なメッセージなのだろう。
”ゼルガディスさんは自分が合成獣であることをとても気にしているから”と、以前娘は自分に話した。
自分は合成獣だから。立場を心得ているから、手紙には何もかけなかったのだろう。

 妻を思い出す。失踪した上の娘、グレイシアのように負けん気の強かった妻。
自分が旅をする中で出会った。誰よりも自分を心配してくれ、いつも魔法で自分を助けてくれた。
しかし、身分を気にして婚姻まで決して自分からその想いを口にする事の無かった妻。
自分が王宮という世界から守りきれず、この世からいなくなってしまった存在・・・。

アメリアはどんどん大人になる。艶やかな黒髪に瑠璃色の瞳、そしてあの口元。
昔から母親似ではあったが、時折妻が生まれ変わってそこに立っているように見える。

-----------

「アメリアの警護の名目で共に旅をしてもらいたい」という手紙と依頼書を書き、
封筒を蝋印で留めて窓の外を見る。
澄み切った空の上から、妻がそうしろと言っているように感じて、独り苦笑した。


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33738行間(ゼルアメ)_6maho 2008/10/3 06:44:39
記事番号33737へのコメント

文句いいつつ自発的に振り回されるツンデレなゼルが書けません。

/////////////////////////

とりあえず、海辺の街で手紙を受け取れてよかった・・・のか?


甲板で波に揺られながらゼルガディスは溜息をついた。
フィリオネル国王代理からの手紙には、受け取って直ぐ返事を書いた。

話が見えないのでとりあえずセイルーンに向かうこと、
現在の街からセイルーンまで1ヶ月ほどかかること、
依頼を引き受けるかどうかまだ決めかねているため
セイルーンに向かう事はアメリアには伝えないで欲しいこと。
代理とはいえ国王からの直々の依頼だ。
失礼の無いようその旨を記し逓信局に手紙を託した。

そして、その翌日にセイルーンまでの最短ルートを調べ
直ぐに宿を早々出て船に乗った。
海辺の町の調査もせず、1週間分の宿代で2泊しかせず、
もちろん名物のタコ料理も食べずに、海辺の街を出てこの船に乗っている。


「・・・あの国の王子と姫の考える事はわからん。」


 青い海を見ながら不機嫌につぶやく。
フィリオネル王子からの手紙には、アメリアにリナの所へ行かせる事になったが
一人では心配なので一緒に旅して欲しいというような事が書いてあった。
国の名目上は護衛の近衛兵として雇い、それなりの報酬も払うと。

しかし、
何故、一国のお姫様が盗賊狩りが趣味の魔導士に用事があるのか、
何故、こんなにセイルーンから遠く離れた場所にいる人間に頼むのか、
大体、あの王子は俺が元お尋ね者だと分かっているのか。


 ・・・まったく。ゾアナ王国に徴兵として雇われたことはあるが、
あの時はゾアナ王国自体が他国に黙って兵力を増強するような
いかがわしい国であったから、その徴兵の経歴に難があっても
国として問題は無かっただろう。
 だが、あの王子様とお姫様の国はセイルーンだぞ。聖王国セイルーン。
お家騒動多い大国セイルーン。そりゃリナたちと旅をしていた頃は、
あの「リナ=インバースご一行」の一人だからと気にはならなかっただろうが、
いくら一時的とはいえ、近衛兵が元お尋ね者でいいのか?
しかも徴兵ならまだしも、近衛兵だぞ。何考えてるんだ・・・。
大体、リナたちが今どこにいるのか分かってるのか??
 そもそも、こんな事を依頼する場合、大国なら人を派遣するものだろ。
詳細を聞こうにも聞けない、断るにも断れないじゃないか・・・。


ややいらいらしながら、水筒を手にとる。
ぶら下げたアミュレットの青い宝玉が太陽の光を反射してまぶしく輝く。
周りは見渡す限りの海。初めて結界の外に出た時を思い出す。
あの旅から、もうずいぶん時が経っている。


「・・・・・・まぁ、久々の息抜きだと思って観念するか。」


諦めのような、言い訳のような独り言をつぶやき
ゼルガディスは甲板に腰を下ろし水筒の蓋を開けた。

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33739行間_7maho 2008/10/3 12:31:07
記事番号33738へのコメント

ゼルアメじゃなくてすみません・・・。セイルーンに着かない・・・・・。

////////////////////////

その手紙はフィリオネルの元に、予想通り届いた。
予想通りの時期に、予想通りの内容で。


予想した通り、ゼルガディスは自分の手紙を読んで直ぐ返事を書き、
懸念した通り、依頼を引き受けると即答できないとゼルガディスは答え、
期待した通り、詳しい話を聞くためセイルーンを訪れるという。
セイルーンへ着くまで1ヶ月ほどかかるというのもおおよそ計算通り。
ゼルガディスは一年以上も旅をしているのだ。
立地によってはもっと時間がかかることも懸念していた。
フィリオネルにとって期待以上の返答とも言える。

依頼を引き受けると即答できないとあるが
それはおそらく自分の見た目と経歴を懸念しての事だろう。
それをこちらは分かった上での依頼だ。

先の戦いの後、黙ってアメリアをセイルーンまで送り、
その後も黙々とセイルーンに魔道書を送りつづけた青年。
人間が人間を大切にする方法は、何かを直接与える事だけではない、
この青年は間違いなくアメリアのことを大切に想っている。
セイルーンまで来てしまえば、アメリアを一人で旅に出す事など出来ないだろう。
もちろん正式に決定するまでアメリアには伝えられないが、
ゼルガディスという人間はきっとアメリアと旅をしてくれるはずだ。

リナ=インバースをルヴィナガルド王国へ紹介する件も
王国議会で全会一致で可決となり、ルヴィナガルド王国への連絡も済んだ。


後は、リナ=インバースの居場所を特定するだけなのだが。


リナ=インバースがいると想定されうる諸国へ連絡を入れているにも関わらず、一向に足取りがつかめない。
娘によると相棒の剣士に合う剣を探してたびをしているというが・・・
まったく、ドラゴンもまたいで通ると噂される小さな大魔道士様は
一体どこを彷徨っているのやら。


=*======*======*======*======*======*=


「グラボスさん、ジラスさん、くれぐれもこの壷は大切に扱ってくださいねっ♪」


 黄金竜の元巫女フィリアは、今日は機嫌が良かった。
理由は単純。今朝、蚤の市で希少価値の高い美しい壷を手に入たからだ。
いつもなら共に店を営むグラボスとジラスにヒステリックに店番や掃除の
仕事を割り振るのだが・・・とりあえず今日はすこぶる機嫌が良かったのだ。

そういう時は皆不思議なほど仕事がはかどるものだ。それぞれが午前のうちに日々の
分担作業を終えた。いつも以上に時間が穏やかに流れる骨董商の店の中で、
のんびりとお茶を佇んでいると、ガランというドアベルの音とともにその懐かしい人は訪れた。

「あら!ゼルガディスさんじゃないですか。」
「ひさしぶりだな。」

 相変わらずの白づくめの服装に銀の髪、乾いた岩の肌。懐かしい旅の・・・戦いの仲間。
この骨董商を開いてから、旅の通過点だからと一度立ち寄ってくれた事があったが
それも半年以上前の事だ。ただでさえご機嫌だったフィリアは久しぶりの再開に
ますます機嫌を良くし饒舌に話し出した。

「お久しぶりですね!こちらになにか手がかりでもあったんですか?それとも
 わざわざ寄ってくださったとか??あっ、古い魔導書が何冊かお店に
 入荷してますけどご覧になります??そうそう、ヴァルガーヴが少し
 大きくなったんですよ!!ちょっと会ってやってください!きっとヴァルガ・・・」
「とっ・・・とりあえず、そのお茶会に混ぜてもらいたいのだが。」

「・・・あら、私としたことが。・・・・・まぁ、こちらにどうぞ。」

 ついテンション全開で喋りつづけるの声をフィリアをゼルガディスが遮る。
フィリアは我に返ったとでも言うようにきょとんとして、
それから少し恥ずかしそうにグラボス、ジラスと共に囲んでいたテーブルに
ゼルガディスを案内した。

「グラボスとジラスとも久しぶりだな。元気そうでなによりだ。」
「あぁ、ヴァルガーヴ様もだいぶ大きくなったぞ。
 今はお休み中だが目が覚めたら挨拶していってくれ。」

「ジラスは火薬づくりのノウハウをセイルーンに教えに行ったりしてるそうじゃないか。」
「おぅ。大砲にジラス砲って名前ついた。」
「それはすごいな・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・って、一度俺達に発射した
 ドラグスレイブ級の威力のミサイルがセイルーンに配備されてるわけじゃないよな?」
「あれは俺が研究に研究を重ねて作った秘伝の調合の結果。おいそれとは教えられない。」
「ならいいんだが・・・。お前、骨董商より火薬士のほうが向いてると思うぞ。絶対。」
「ヴァルガーヴ様と親分の元、俺、離れない。パルも置いてきた・・・これ、俺の仁義。」
「そうか・・・・・・ヴァルガーヴは幸せだな。」

 ヴァルガーヴがこんな姿になっても、グラボスとジラスはついてゆくんだな──ゼルガディスが彼らの姿に
かつての部下ロディマスとゾルフを思い出していた頃、お茶を淹れ直したフィリアがテーブルに戻ってきた。

「お茶をどうぞ。ゼルガディスさんがいらっしゃるのも久しぶりですね〜。
 もっとも、リナさんたちとはゼルガディスさん以上にお会い出来てないんですけど・・・。」
「アメリアはセイルーンだし、リナとガウリイはとりあえず旅なれた結界内で剣を探すって言ってたしな。」
「そうなんですよね〜。リナさんとガウリイさんもたまには遊びに来てくれればいいのに〜。」
「・・・・・・たまに遊びにって、おいそれと来れる距離じゃないだろ。フィリアみたいに飛べれば別だが。」

まぁ、そうなんですけど・・・といいながらも残念そうに空を見上げる。それからぱっと表情を変えたかと思うと
笑顔でゼルガディスに聞き返す。

「ところで、今日はどういった御用で?近くに来たから寄っただけというのも、もちろん大歓迎ですけど。」
「あぁ。まぁ、8割方近くに寄ったから顔を出したようなものだ。
 今所用でセイルーンに向かってるんだが、ジラスがここから何度かセイルーンに行ってるだろ。
 一応、船と馬車の時間とルートを調べてはいるんだが、より近いルートがあれば教えてもらいたいとおもってな。」

「あぁ〜。アメリアさんに会いに行くんですね。」
「!!・・・・・・何故そうなる?!」
「セイルーンはアメリアさんの国ですから。」
「いや・・・まぁ確かにそうなんだが・・・・・・しかし!セイルーンに行くにもいろいろ用事があったりするだろ、ジラスみたいに。」

「そうですけど〜・・・でも私、セイルーンに行くときはいつもアメリアさんに会いに行きますよ。」
「・・・・・・こっから?セイルーンに??何しに??」
「ジラスさんを送りに。」
「?・・・・・・・・・・・・わざわざ二人で行くのか???」
「ええ。セイルーンに行く時は仕事に余裕があるときなので、私が飛んで行きますから。」

さっきから、岩肌の顔を赤くしたり青くしたり縦線入れたりジト目になったりと、
豊か過ぎるほど表情豊かにしていたゼルガディスの顔がぴたりと止まる。

「・・・・・・飛んでいくとどのくらいで着くんだ?」
「調子のいい時でしたら、5時間くらいでしたっけ?ジラスさん。」
「・・・5時間コースだと、乗ってるほうは地獄を見る。お勧めできな・・・」
「とりあえず!最短で5時間あればつきます。」

「・・・もしよかったら、セイルー『セイルーンまで、お連れしますよ!今日私機嫌いいんです♪』」

もしよかったら、セイルーンまで乗せていってくれないか、と言い終わる前に
ご機嫌のフィリアから提案があった。

「で、セイルーンになんの御用なんですか〜??」

ゼルガディスは思った。・・・・・・嗚呼、この依頼は始めから断れないようになっているのかもしれない。

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33740行間_8maho 2008/10/3 16:01:18
記事番号33739へのコメント

文体の空気が毎回違う。
///////////

「そういうお話でしたら、今回私はアメリアさんのところに行かない方がいいですね。」

ジラス曰く、”乗ってる方は地獄を見る”というスピードで空を駆けるフィリアが
背中に必死でつかまっている俺に暢気に話し掛ける。

「何故だ!っていうか、フィリアお前、前より明らかに飛ぶ時の速度上がったよな!」

「乗ってる人数と距離が以前と違いますから。
 光の柱飛んだとき、どれだけの距離を何人運んだと思ってるんですか。無茶苦茶でしたよ。
 まぁ、確かにあれで飛力が上がったような気もしてるんですけど・・・。
 あ、あとゼルガディスさんに教わった飛び方を取り入れてるんですよ。そのせいもあります。
 航空学?ゼルガディスさんって本当に博識ですよね〜。」

「まぁ、昔いろいろあってな・・・ってそんなことはいいんだが、
 なんでアメリアに会いに行かないんだ。アメリアだって城で退屈してるだろうから
 行ってやればいいじゃないか。」

「だって、サプライズがないじゃないですか〜。私が先に会いに行くんじゃ。」
「はぁ?」

「フィリオネル殿下はアメリアさんにゼルガディスさんに護衛の依頼をされてる事
 お伝えしてないんですよね。」

「まぁ、手紙の内容からするとそうだったな。」

「それじゃあやっぱり、お父様から後で報告してびっくりさせたいんですよ。
 かつての旅の仲間との感動の再会のために奔走するお父様!
 あぁ、なんて美しい親子愛なのかしら・・・。
 そのために、秘密裏にゼルガディスさんに依頼を・・・。」

「秘密裏にって・・・なんかお前、ゼロスみたいになってきてないか・・・。」

「ゼロス・・・あんな生ゴミ魔族みたいですってぇぇぇえぇええぇぇぇ!!!!」

「あぁああぁあああ、すまん。そんな事は無い。そんな事は無いからこれ以上飛ばすなー。」

最短ルートを尋ねるためにとフィリアの骨董商を訪れてから3時間後、
その最短ルートがまさか知人(というか、竜だが)の背中の上とは・・・全く想定外だ。
フィリアが話す様子から、本人(いや、竜なんだが)は非常にのほほんと、
ちょっとそこまでお散歩に程度のノリで飛んでいるようなのだが、
乗っているこっちは振り落とされないよう必死だ。
ジラスはいつもこの方法でセイルーンまで行っているのか。
ドラグスレイブ級の火薬の開発といい、実はジラスってものすごい奴なのかもしれん・・・。

そんな事を思っていたら、フィリアが俺に声をかけた。

「あ!ゼルガディスさん!どうしましょう??」
「何をだ?」
「リナさんとガウリイさんが海で暴れてるみたいなんですけど・・・。」
「は??」
「ですから、リナさんとガウリイさんが海で暴れて・・・海賊退治ですかねぇ〜。」

・・・・・・・・・・・・あいつら、趣味を盗賊いぢめから海賊いぢめに変えたのか。
海賊襲って奪った宝に、ガウリイの腕に合うような剣はあるのだろうか・・・。
俺は必死に元に戻る方法を探して世界中を駆けずり回っているというのに・・・。
おそらくお宝目当てのリナの趣味なんだろうが、相変わらず能天気というか
マイペースというか・・・。

「気にするな・・・セイルーンに向かうぞ。」
「え、いいんですか?」
「構わん。」
「でもリナさん達に合うのが目的なら、ここでリナさんたちを連れて行けば・・・」
「俺はその理由を知らん。呼び様が無いだろ。それに手紙には
 ”アメリアがリナに会いに行く事になった”と書いてあった。
 どこにいるか分かればそれで十分だ。」

「それもそうなんですけど・・・せっかくの再開の機会が。」
「お前は飛べばいつでも会いにいけるだろ。あの二人なら大丈夫だ、
 殺しても死なない奴らだ。会いたくなったらいつだって会いにいけるさ。」


「──そうですね!」


少しの間の後、フィリアが明るく答えてセイルーンへと速度を上げた。
昼と夕方の間の青と橙が混ざった空をまっすぐ飛ぶ金色の竜。
地上から見るそれはきっと美しいのだろう。

だが、そう感じつつもゼルガディスは再度思わずにいられなかった。
フィリアよ、この速さで本当にジラスはいつも無事なのか・・・・・・。

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33741行間_9maho 2008/10/3 17:43:58
記事番号33740へのコメント

妄想垂れ流しですみません。説教臭いフィルさん。年齢は脳内設定です。

///////////////////////

予想通りの時期に、予想通りの内容で事が進んでいる・・・筈だった。
しかし、予想外に早くその青年は現れた。
そして、予想外にあの魔道士の目撃情報は入っていなかった。


予想外に早く現れた青年は、早々に謁見を希望し、希望したその日に会うこととなった。


「ゼルガディス殿、久しぶりじゃの。
 わざわざ遠いところから駆けつけてくださったようでご苦労じゃった。」

久しぶりの再開に、遠方からの労をねぎらう。

この青年を始めに見たのはコピーレゾと娘達が戦っておる時、
この青年を最後に見たのは青年がアメリアをセイルーンまで送ってきた時、
この青年とまともに話すのはアルフレッドの暗殺事件以来だ。

始めて会った時から4年もの歳月が経つが、あの頃と変わらない
落ち着いた瞳でこちらをじっと見つめる。

「フィルさんもお元気そうで。
 ──で、挨拶はいいが、
 この依頼書は一体どういう趣旨のものなのか詳しく説明してくれないか。
 突然、アメリアがリナに会いに行く事になったから俺を護衛に連れて行きたいと
 言われても答えに困る。
 そもそもセイルーンからかなり遠くにいると分かっている人間に国が手紙で
 依頼というのはどういうことなんだ。」

「──遠方におるゼルガディス殿に手紙で依頼を出したのはちと失礼だった。
 それに関しては申し訳なく思っておる。
 ただ、何分遠方のため使者を出すとそれだけ時間もかかってしまう。
 手紙を送れば、その依頼を受ける気があれば駆けつけてくれるだろうし、
 受ける気が無ければ、手紙で断りをいれてくれるじゃろうと思ってのことじゃ。」

「俺が来たからには、もう依頼を受けると踏んでいるわけか・・・。」

銀の髪に岩の肌を持つ青年は、さも面白く無さそうにそう答えた。
「やはりすこし失礼じゃったな・・・申し訳なく思っておる。」

青年はそのまま、仕方が無いというように話を促す。
「それで、何故リナのところへアメリアが?」
「ルヴィナガルド王国を知っとるかね?」
「まぁ、国名と王の名と地理と国力くらいは。」
「ルヴィナガルドからセイルーンに、”リナ=インバースを紹介して欲しい”と依頼が来ての。」
「・・・また随分と酔狂な国もあるもんだ。その理由は?」
「それがはルヴィナガルドの国家機密とのことで、分からんのじゃ。」
「・・・・・・。」
「しかし、国家間の正式な依頼じゃて、無下にする事も出来んし、なにせあのリナ殿のことじゃ・・・。」
「まぁ、リナだしな。何があってもおかしくないな。」

「それで、リナ殿のところへ使者を出すこととなったのじゃが・・・リナ殿への使者は、
 リナ殿と顔見知りの人間で無ければなるまい。」
「それでアメリアが出てくる訳だな。」
「そういうことじゃ。」
「アメリア一人では心許ないので、昔の旅の仲間である俺を呼んだというところか。」
「話が早いの。そういうことじゃ。」

少しの沈黙の後、青年は口を開いた。

「話はわかった。護衛の仕事は受けよう。
 ・・・だが、近衛兵にはなれない。なる必要も無いだろう。ただの国に雇われた徴兵で十分だ。
 王家直属の近衛兵になるメリットは何も無い。」

予想通りの答えだった。この青年は自分がアメリアに近づく事を恐れている。
それは、この青年自身の存在がアメリアに危害を与える事を恐れているということ。

「恐れる必要は無い。ゼルガディス殿には近衛兵となってもらいたい。」

「恐れる?どういう意味だ。」
不可解だと眉をひそめ、同じまっすぐな瞳で問うてくる。

「ゼルガディス=グレイワーズという人間は、厳しい戦いの後
 姫を国まで無事に送り届けてくれた方じゃ。」
「それとこれとは話が・・・」
「セイルーンに珍しい魔導書を多く寄贈してくださるすばらしいお方じゃ。」
「だが俺は・・・」
「前を見て歩め!セイルーンの正義はそこにある!!」

口をはさむ青年の声を遮って声を上げる。この青年には伝わると信じて放った言葉。
青年のまっすぐな瞳をじっと見つめ返す。


「臆病になる必要はない。お主が己を信じられなくても、我らはお主を信じておる。
 お主を近衛兵にしたいのはお主自身ではない、この国の国王代理であるわしじゃ。」


しばらくの沈黙の後、青年は膝をつき頭を下げ、ゆっくりと口を開いた。



「フィリオネル国王代理、近衛兵の職務、有難く承らせて頂く。」



真剣な瞳の青年をみて、ゆっくりと微笑み話し掛けた。
「ありがとう。そうかしこまらんでくれ。
 ところでアメリアは今年で17歳になった。ゼルガディス殿は幾つじゃ」
「・・・・・・生まれてから22年生きている事になるが、合成獣の自分にあまり年齢は意味が──。」
”意味が無い”と言おうとする青年の言葉を遮って話を続ける。

「アメリアより5年分、多くのものを見ているのじゃな。
 その5年分を少しでもアメリアに分け与えてやれるよう、一緒に旅をして欲しい。
 お主はアメリアより年上の分、アメリアと違う世界で生きてきた分、
 アメリアの知らない世界をたくさん知っておろう。
 それを旅の中で少しでもアメリアに分けてやって欲しい。
 それがきれいな事でも、汚い事でも、アメリアがこれから生きるのに、
 成長していくのに不要なものは無いはずじゃから。」

「・・・・・・。」

「経験した事とそこから分かった事は、どんな事であってもその人間の宝なのじゃよ。
 それがいい事であっても、悪い事であっても。」

「・・・難しいが、努力する。」

「頼りにしとるぞ。」

観念したというように笑う青年を見て、このゼルガディスという名の
青年を呼び寄せて正解だったとフィリオネルは思った。


--------------------------------


「・・・・・・ところで、セイルーンは内陸国だが、旅に向けて船の用意は出来ているのか?」
「船?」
「リナたちは今海で海賊狩りをしているぞ。泳いでいく気か?」
「海賊狩りをしている・・・・・・。」
「間違いないぞ、この目で見たからな。
 ・・・・・・フィルさん、あんた人を呼び寄せておきながら行き先を把握してなかったのか。」

「調査はしておったんじゃが、見つからんでのぅ・・・海とは想定外じゃった。
 さすがはゼルガディス殿じゃ。」


「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・。」

観念したとフィリオネル国王代理の命の元、王家直属の近衛兵となる決心をしたものの
この王家を信用して本当に大丈夫なのか・・・とゼルガディスは思うのであった。


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33742行間_10maho 2008/10/3 19:52:26
記事番号33741へのコメント

妄想ですみません。ゼルアメになってきた。
///////////////



『夢だ。』と思った。




いつものように私に与えられた公務をこなし、空いた時間に女官たちとお茶を楽しみ、
庭園を眺め、隙を見てこっそり街に遊びに行く。何の変哲もない王宮での私の日常。
いつもの私室、いつもの神殿、いつもの執務室、いつものテラス、いつもの庭園、
いつもの廊下・・・・・・で、その非日常は起こった。

執務室から資料を持ったまま、神殿に向かおうとする私の目の前に突如その人は現れた。
全身白づくめの服装に艶やかで硬い銀色の髪、青みがかった岩の肌に鋭い瞳。
私の記憶より少しだけ顔つきが大人びていたけど、それは確かにゼルガディスさんだった。


「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ふぇ?
 ・・・・・・ゼルガ・・ディ・・・えぇええええぇええぇぇぇぇえぇええぇ?????」
「!!!」


一緒に旅をした、私を何度も助けてくれた大切な大切な人、大好きな人。
今は人間に戻るために世界中を旅している人。毎月手紙を送っている、遠くにいるはずの人。
夢に何度も見た、あいたくて会いたくて逢いたくてアイタクテ・・・・たまらなかった人。
そんな人が今、目の前にいる。セイルーンの宮廷の廊下で、目の前に。


「えぇえええええぇえええぇ・・な、な、なんでぇぇええぇええええぇ!?!?!?」
「アメリア!・・・・・・と、とりあえず落ち着け。」

ゼルガディスさんだ。ゼルガディスさんの声だ。間違いない。聞き間違えるはずの無い声。
でも、何故?夢??誰???だって私、ついこの間手紙を出したばっかりで・・・。

「ゼル・・・ガディ・・・えええぇえええぇぇええぇえええ!!!」

「・・・頼むから・・・落ち着いてくれアメリア。
 お前の叫び声を聞きつけて女官が集まってきたぞ。」

そう言って私の肩をぽんぽんと叩く目の前の人。その手の感触は確かにゼルガディスさんのものだけど。
でもここは王宮の廊下で、ゼルガディスさんは遠くを旅しているはずで・・・。








「えぇえ・・・・・・・─────────」







=*======*======*======*======*======*=

「全く、このお姫様は・・・・・・。」


フィリオネル国王代理への謁見の帰りに廊下でばったり出くわした懐かしい少女。
その少女は俺を認識するなりパニック状態に陥った。
見慣れない薄い黄色のドレスに華奢なティアラ、品のいいパールにヒールの靴。
完璧なお姫様スタイルで、(まぁ、実際お姫様なのだから当然だが)
全力で謎の言葉を叫んで気絶してしまった。

フィルさんは俺が依頼を正式に受けてからアメリアに伝えるつもりだったのだろうが
本当にタイミングが良すぎるというか、悪すぎるというか。

とりあえずアメリアの叫び声を聞きつけて集まった女官達の案内で、
近くの応接室のソファーにアメリアを横にした。

「アメリア、起きろ!くだらんことで気絶するんじゃない。」
そう言いながら頬をペチペチと叩く。
「ほぇ・・・ゼルガディスさん??・・・まだ夢??」
「夢じゃないぞ。俺はここにいる。何ならほっぺたつねるか??」
「・・・それはいいです。」


ゆっくりと起き上がりアメリアはゼルガディスをまじまじと見る。
「本当にゼルガディスさん?」
「この髪とこの肌、間違いようが無いと思うが。」
皮肉めいて言ってみるがそれでも信じられないと言うように、
今度は俺の頬や手をアメリアがペチペチと叩く。

「ゼルガディスさんだ・・・。」
「気持ちはわからんでもないが、岩肌で俺を確認するな・・・。」

「どうしてここに?」
「それは追々分かる。しばらく行動を共にする事になると思うからまた頼んだぞ。」
「え?」
「詳しくはフィルさんに聞け。」

訳がわからない・・・という顔をするアメリアに、
廊下で鉢合わせた時アメリアが持っていた資料を手渡し、ズレたティアラを直す。
「公務真面目にやってるんだな。無理するなよ。」
「はい・・・ってゼルガディスさんは??」
「俺はフィルさんへの謁見もすんだし今日は宿に戻る。」
「謁見??」
「だから後でフィルさんから聞け。」

そう言って俺は踵を返して廊下に出た。
久々の再開のリアクションがこれかと半ば呆れたが、
まぁアメリアらしいかとこっそり笑った。

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33743Re:行間_10a 2008/10/3 20:09:05
記事番号33742へのコメント

読んでます。すげぇ楽しいです。続き楽しみにしています。がんばれ。

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33746行間_11maho 2008/10/4 13:06:25
記事番号33742へのコメント

フィルさんとアメリア。当然、この話最後までナーガは出ません。
前しか見れない姫と、後ろしかみれない魔剣士の凸凹加減が好きです。

>aさん
 読んでくれてありがとうございます。こんな文章でも、
 楽しんでいただけている方がいるとわかってとても嬉しいです。
 面白くかける自信はありませんが、終わりまで書きますので見守ってやってください。

////////////////////////

「父さん!」

こちらに向かって歩いてくる父の姿を見つけるやいなや、
アメリアは猛ダッシュで駆け寄り、ものすごい剣幕で話し出す。

「今日の午後、廊下でゼルガディスさんに会ったんですけどぉっ。」

ゼルガディスとの再開後、父の予定を知っていそうな大臣たちに、
今日父さんの時間がいつ空くのかと問いただしてみたものの
船の準備に関する会議が急に入ったとかで、話をする時間が一向に取れなかった。

廊下でゼルガディスと謎の再会をしてから、3時間。
ひたすら父の私室の前で待ちぼうけを食らっていたアメリアは、大声で父に問いただした。

「どおいうことなんですかぁっ!!!」

「あぁ、それは聞いとるぞ。
 廊下でアメリアが奇声をあげて倒れたと、女官達の中ではちょっとした事件だったそうじゃ。
 ・・・ここも廊下じゃて。とりあえず部屋の中に入ろうか。」

「・・・はい。」

勢い良く近寄り大声で迫った自分の行いを反省したのか、アメリアはおとなしく答えた。
扉を開けて部屋に入っていく父の後を黙ってついていくと、すぐに父はこれまでの経緯を話してくれた。

・ルヴィナガルド王国からからリナを紹介してほしいと言う依頼があったこと
・その大使として、アメリアを向かわせるつもりだったこと
・その護衛の近衛兵の役をゼルガディスに依頼したこと

それをアメリアは神妙な顔で聞いた。

また旅ができること、ゼルガディスさんと共に旅ができること、
その過程でリナさんやガウリイさんに会えること、
そうなるよう父が取り計らってくれていた事は素直に嬉しかった。

でも、同時に何か裏切られたような気持ちになった。
今の今まで自分はその事を何一つ知らなかったのだから。

「それは、私がゼルガディスさんに論文を送るときに父さんが私に渡した手紙に、
 ゼルガディスさんへの依頼書が入っていたということ?」
「そうじゃ。」
「・・・そんなの、私聞いていません!娘に嘘をつくなんて正義じゃないです!
 だいたい、ゼルガディスさんが来るならもっと早くに教えてくれても良かったじゃないですか!」

アメリアは怒っているというより、傷ついたという表情で父を見た。父はその目を見て穏やかに話す。

「ゼルガディス殿がセイルーンまでいらしても、依頼を受けてくださる確証は無かったからのぅ。
 黙って依頼書を手紙に忍ばせたのは悪かったと思っておるが、
 あの依頼書を書いたのはまだルヴィナガルドの件を王国議会に通す前の事、
 差し金は黙って刺すものじゃ。」

それでも納得がいかないと、アメリアは声を荒げる。

「・・・・・・でも、私は王女です。国王代理である父さんの娘です。
 セイルーンに戻ってもう1年です。与えられた公務だって、きちんと果たしているつもりです。
 私には話してくれたって良かったんじゃないですか!!どうして・・・」


「アメリア、わしがお前と同じ17の頃はまだ自由気ままに諸国を旅しておってのう。」
「??・・・」

いきなりの父の昔話に、その意図をつかみきれずアメリアは黙った。

「その頃はお前の曾爺さんが国王で、今の王・・・お前の爺さんも元気じゃった。
 それにわしには、クリストファとランディオーネという兄弟もおったから
 さして、国の心配をする必要もなくてな。好き勝手にいろいろな街や村を飛び回っておったもんじゃ。」

「・・・・・・。」
「・・・わしが至らんせいで、お前にはいろいろ気苦労をかけとるが、
 お前はまだそこまで国を背負わんでいいし、わしもお前にそこまで背負わせたいと思っとらん。
 大体グレイシアだって明日にでも帰ってくるかもしれんじゃろ。あの性格じゃての。」

そう言っていつものようにアメリアの頭をくしゅっと撫でる。
小さい頃からの父さんの癖。

「姉さんならほんとに明日にでも帰ってきそうですね。いつも不意打ちですもん。」
「そうじゃろ。・・・アメリアは遠くをみすぎじゃ。無理をせず、目の前をきちんと見て進めばよい。」
「前を見て歩め。セイルーンの正義はそこにある・・・。」
「その通りじゃ。さて、もうそろそろ夕食じゃ。食堂にいこう。」
「はい!」

父さんの後を追いながら、心の中で父さんに言われた言葉を反芻する。
”無理をせず、目の前をきちんと見て進め”
・・・そういえば、昼間ゼルガディスさんにあった時も”無理するな”と言われたっけ。


──私は、すこしだけ気負いすぎて、急ぎすぎているのかもしれない。いろいろな事に。


なんとなく、そんな風に思った。そう思うとふっと体が軽くなるような気がした。
静かな王宮の廊下ににアメリアとその父の足音だけが響いていた。

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33748行間_12maho 2008/10/4 16:08:28
記事番号33746へのコメント

アミュレットを返せない・・・。
///////////

「セイルーンに来て4日だ。まだ4日。」

叙任者用の控え室として用意された客間で、ゼルガディスはお茶を飲みつつ呟いた。
控え室といっても、こんな中途半端な時期に叙任を受ける者は他にはいない。

フィリアの背中に乗って、へとへとになりながらセイルーンについた初日、
フィルさんへの謁見を済ませ、結局アメリアの護衛として旅をする事になった2日目、
急に宿に現れた使者に近衛兵の叙任の儀式があるからと、翌日の日程を知らされた3日目。
そして4日目の今日、前日告げられたの日程通り叙任の儀式が終わり、
俺は正真正銘セイルーン王国のアメリア姫の専属護衛の近衛兵になってしまった。


──本当に、これでいいのかセイルーン・・・・・・。


自分が近衛兵になる事に対してもう抵抗は無かった。
ただ、名目上とはいえ”アメリアの護衛”その響きにゼルガディスは違和感を感じていた。
アメリアは共に旅し戦う仲間だ。ゼルガディスにはあの娘を守るというのはひどく失礼な気がした。

──守る・・・というのが違和感なんだろうな、・・・手伝うというか・・・。

「お疲れ様でしたー!!」
そんな事をぼんやり考えていると、ガシャ!という豪快に扉を開く音と共に護衛対象のお姫様が、
上機嫌に現れた。

「見てましたよー。これでゼルガディスさんもセイルーンの人間ですねー。」
「・・・あぁ、これでセイルーン側の人間だな。」
「私専属の護衛ですからね!これからよろしくお願いします!!」

楽しそうに、ちょっと得意げに、でも少し意地悪そうに、名目上の護衛対象は言い放つ。

「・・・言っとくが俺はお前を守ったりせんからな。」

「もちろんです!私がなりたいのは正義のヒーローですから!!
 ゼルガディスさんにはヒーローをサポートする正義の使者として
 これから活躍してもらわないと!」

そう言うと、ぐっとこぶしを握り親指を立てて締めてにっこり笑う。
・・・・・・こいつはまったく、アホなのかすごいのか・・・相変わらずだ・・・。

「正義の使者には死んでもならん!!
 ・・・・・・・・・だがお前のサポートは俺がするから安心しろ。」

そう言って親指を立て、正義のヒーロー希望のお姫様に笑い返した。

----------------------------------

「それで、何か用があってきたんだろ。」
「もちろんです。ゼルガディスさんに姫から通達です!」
「姫からは余計だ。」
「いや、そういう突っ込みがくるかなーと。」
「・・・お前リナに似てきたか?いいから続けろ。」

「まず、近衛兵が城下の宿に泊まっているのは問題がありますので、
 今日は王宮の客間に泊まって頂きます。」
「そうなるだろうと宿は出て荷物は持ってきている。」
「次に、ゼルガディスさんと私は明日馬車でゾアナ王国に行きます。」

「!・・・・・・一人旅が長かったせいかもしれんが、セイルーンは何もかもが唐突な気がするのだが。」

「そうですか?リナさんたちとの旅に比べたら全然計画的ですよ。」

そう言うと、アメリアはゾアナ王国は行く理由を説明し始めた。
 ゾアナ王国は(自称)アメリアの人力で、今セイルーンと友好関係にあるらしい。
で、海の無いセイルーンが、金の無いゾアナに軍艦を置かせてもらっているとか。
 ものものしい軍艦をわざわざゾアナに置いているのは沿岸諸国連合の国々からゾアナが
攻められることがないようという、セイルーンの心遣いだとアメリアは言うが、
その辺りの真相はフィルさんと上位の大臣くらいにしかわからなそうだ。

「まぁゾアナ王国なら、ルヴィナガルド王国の使者も遠回りせず来れて都合がいいしな。
 海に出るのに、海沿いのルヴィナガルドから一度内陸のセイルーンに来るのは馬鹿馬鹿しい。」

「そういうことです。私とゼルガディスさんは明日馬車で兵より先にゾアナ王国に行き、
 ゾアナの王子と姫と謁見しつつ、ルヴィナガルドの使者を待つ予定です。」
「あぁマルチナか。・・・・・・王子、ザングルスって王子なのか。」
「そりゃ、王様はまだまだ元気ですから。王子ですけど?」

どうしてこう”王子”という言葉が似合わない王子しか俺の周りにはいないのか、
そもそも”王子”への大衆のイメージが間違っているのか、よく分からなくなるゼルガディスであった。


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33749行間_13maho 2008/10/4 17:58:39
記事番号33748へのコメント

マルチナとアメリア仲良し説。
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初めてあった時、私はあの子を捕まえたのだ。
大国セイルーンのお姫様を捕虜にしようと思って。

その後のリナ=インバースを追う旅の間にも、
それほど仲が悪かったわけではないけれど・・・さほど仲良くなったわけではない。

それなのにあの子は旅が終わってから、何度も私のところに訪れるようになった。
最初は、他の仲間がみんな別の旅に行ってしまって、自分から会いにいけるのは
私だけだからだと思っていた。

ある時ぱったりと来なくなって、飽きたのかな・・・と思っていたら
しばらく旅をしていて来れなかったと、土産話と一緒にまた来るようになった。



その上ある日、自分の国の使者と一緒にやって来て友好条約を結びたいと言い出した。
あの子の国は歴史のある大国で、私の国は今にも他の国に攻め滅ぼされんばかりの小国なのに。



一度聞いたことがある。
「あんた、なんであたしの所にしょっちゅう遊びに来るの?そんなに暇じゃないでしょ。」

そしたら、ニコニコ笑ってあの子はこう言った。
「マルチナさんは雰囲気が姉さんに似てるんです。話す時の勢いとか、服装とか。
 だからなんか嬉しくて、会いたくなっちゃうんです。」

セイルーンのお家騒動の話は聞いたことがあった。あの子の母と姉が巻き込まれたお家騒動の話。
知っていたからどう答えたらいいかわからなくてひどく困った。
でも、そんなこと言われたら無碍にするわけにもいかなくなって
・・・いつのまにか私も妹みたいに思うようになっていた。


 そんな、私の妹みたいな大国のお姫様が、昔の旅の仲間を近衛兵にして
明日私の国に来ると言う知らせがついさっき届いた。

この前あの子が来た時は、結界の外のずっと遠くを旅してると言っていた昔の旅の仲間。
たまに届く手紙にはいつも単語二つだけだとあの子を嘆かせていた人。


「───近衛兵にするとは・・・アメリア、意外とやるじゃない。」


あの子がどんな顔で私の元を訪れるのか、私は明日が楽しみでたまらなくなった。

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33750行間_14maho 2008/10/4 22:35:26
記事番号33749へのコメント

アミュレットと俺。
ティンカーベルをゼルが知ってるのは、外の世界うろうろしてたからということで。
魔法の表記をカタカナにしたのは、なんかこう、趣味です。
////////////////

「まったく、どうしたものか。」

再度、使い込んだ水筒を見てゼルガディスは呟いた。

アメリアに明日の予定を聞かされてから、夕食を食べ終えた今までずっと同じ問題が
ゼルガディスの頭の中をよぎっている。
『じゃあ、明日旅立ちですから準備しておいてくださいね!』
控え室を出るときアメリアはそんなことを言ったが、自分は元々旅をしていたのだ。
今更準備するものなど特に無かった、自分のものに関しては。

目の前にある水筒に引っ掛けられた青い宝玉のついたアミュレット。
アメリアに手紙を送ると約束した時に渡されたものだ。
最初に出会った頃のことは良く覚えていないが、ゾアナで再開した時も
始めて外の世界に出たときもアメリアはこのアミュレットをつけていた。
アメリアと旅に出るのであれば、その前にこれを返さなければなるまい。

・・・・・・しかし、いつ、どこで?
これを返すためだけに今からアメリアの私室に赴くのも大袈裟で気恥ずかしいことのように思えるが、
かといって明日出かける前にほいと手渡すのも
毎月長い手紙を書いて自分に届けてくれたアメリアに悪いように思えた。

──どっちにしろ、これは返さにゃならん・・・。

まったくどうしたものか・・・と考えていた矢先、廊下のほうからばたばたと足音が聞こえる。
こんな時間に廊下を走ってくるのは、あのお姫様しかおるまい。
自分の部屋の前で足音が止まるのを感じ、ゼルガディスは慌ててアミュレットをポケットに隠した。


「ゼルガディスさん!出かけますよ!」
昼間と同じように、ガシャっと豪快に扉を開き、謎の宣言をする。
昼間と違うのはドレスではなく見慣れた巫女装束に身を包んでいる事くらいか。

「は?旅立ちは明日だと言っていただろう。」
「だから今日じゃないとだめなんじゃないですか!セイルーンにいるうちに
 シルフィールさんに会いに行かないと!まだ会いに行ってないでしょう?!」

 シルフィール、以前一緒に戦った巫女だ。故郷のサイラーグをコピーレゾに滅ぼされてから
セイルーンに移り神官になるための修行を続けている。
 追々挨拶に行こうと思ってはいたが、セイルーンのあまりに迅速な・・・というより唐突な
計画のせいでアメリアのいうとおりまだ実行に移せてはいない。

「・・・確かにまだ挨拶に行けて無いが、お前の辞書に気遣という言葉は無いのか。
 こんな時間に急に訪問したらどう考えても迷惑だろ。」

「・・・・・・ゼルガディスさんがシルフィールさんを気遣えという日がくるなんて・・・
 嬉しいような、なんか私がバカにされているような複雑な心境です・・・。
 でも、それに関しては問題ありません。シルフィールさんは今、セイルーンの
 南の砦で退屈しているはずですから。」

「・・・あぁ、軍の救護部隊の手伝いか。」
「そうです。ですから早速会いに行きましょう!」

そういうや否や、部屋の窓を開けレピュテーションで空に舞い上がる。
月明かりに照らされるその姿を見て、お前はティンカーベルか・・・と思いつつ、
開けっ放しの扉を閉めてゼルガディスも同じように窓から空に飛び出した。

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33754行間_15maho 2008/10/5 17:35:12
記事番号33750へのコメント

細かく投稿しすぎでしょうか。うざかったらごめんなさい。
///////////////

「・・・窓から出てきたが、お前いつもこうやって王宮を抜け出しているのか?」


 久々の再開、明日からの旅、ゼルガディスさんと一緒にいる今。
それが嬉しくて上機嫌に空を移動する私に、ゼルガディスさんがチクリと痛いところを突く。

 シルフィールさんやフィリアさん、マルチナさんとは、それぞれ機会があるときに会ってお茶をしたりしているけど、
ゼルガディスさんへ女の子同士のおしゃべりの報告をするのはなにか恥ずかしく思えて手紙には書いていなかった。

 シルフィールさんが夜間に救護部隊の手伝いをしている時は、よく顔を出す。
夜は公務も無いし、自室に篭れば女官達もそうそう私のところにはやって来ない。
それに夜なら誰が飛んでるか地上からは分からないし、こっそり王宮を抜け出すにはもってこいなのだ。
 その上、救護部隊は平和な時は基本待機しているだけ。神官になるため日々修行を積んでいるシルフィールさんの
時間を気にすることもなく会いにいける。

「・・・たまにです。たまの息抜きに。ほら、ゼルガディスさんも”無理するな”って言ってたじゃないですか〜。
 それに、巫女姫の私が救護部隊の激励に行けば兵の士気も上がりますし、・・・公務みたいなものです!」

「なんか、取ってつけたような言い訳だな。・・・・・・まぁ、昼間に街中をうろついて他人の喧嘩の仲裁に割り込んだりするよりましか。」
「・・・・・・そうでしょ!まぁ細かい事は気にせず、シルフィールさんの所へ行きましょう〜。」

昼間に抜け出した時には 通りがかりの喧嘩の仲裁をすることもあるのだけど、それは内緒にしておこう・・・
そう思いながら、そのまま南の砦にむかってレビテーションで移動する。
シルフィールさんが砦にいる時間は確認してあるから、レイ・ウィングで飛ばす事も無い。

「上空から見るセイルーンの街は美しいな。」
「そうでしょう。地上から見るともっと美しいんですよ。街もきれいだし、緑も多いし、皆さん親切だし。
 ゼルガディスさんにももうちょっとセイルーンでゆっくりしてもらえればよかったんですけど。ちょっと残念です。」

 整った円形の街に結界の形に沿って灯る青白い光、それを見てゼルガディスさんが呟く。
セイルーンを褒められるのは、なんだか自分が褒められているような気がして、嬉しくなって私も答える。

「でもやっぱり、夜景も何度見てもきれいだと思います。この国に生まれて本当に私は幸せです。」
「幸せか。・・・アメリアは相変わらず前向きだな。」
「ゼルガディスさんが後ろ向きすぎるだけですよ。」
「そうかもな。」
「??」

 ”お前が楽観的過ぎるだけだ”くらいのことを言われるかなと思って言った一言に、ひどくあっさり同意される。
その反応にきょとんとしている私に、気付いているのかいないのか・・・ゼルガディスさんはそのまま話を続ける。

「まさかセイルーンに来る事になるとは思わんだ。」
「旅の途中だったのに、護衛を依頼してしまって──」
「いや、そういうことではない。」

 話す私の声を遮って、ゼルガディスさんはマントの裏のポケットから青い宝玉のついたアミュレットを取り出した。
以前の旅の終わりに渡した、私のアミュレットだ。

「これを返すのは俺の旅が終わった時だけだと思っていたんだが、
 お前と旅を始めるためにこれを返す事になるとは思わんだ、ということだ。
 しばらく手紙を書く必要も無いだろうし、これは返すぞ。」

 そう言って、私の腕をつかんでアミュレットを手のひらに乗せる。
びっくりして声を出せないでいると、やれやれと言うようにゼルガディスさんは話を続けた。

「アミュレットちゃんと持っとけ。ここで落としたら確実に宝玉割れるぞ。」
「は、はい!」
「砦の方向はここをまっすぐでいいんだな。」
「え、そうですけど・・・。」

「じゃあ、とっととシルフィールのところへ行くぞ。
 あと、お前の手紙、旅の息抜きに丁度良かった。面白かったし、有難かったし、嬉しかった。」
「・・・・・・え・・・・・・ってちょ・・・」

 ゼルガディスさんは一方的にしゃべると、いきなりレイ・ウィングを使い先に行ってしまった。
手の中には、手紙の約束した時ゼルガディスさんに渡したアミュレットが、
頭の中には、ゼルガディスさんからの手紙へのお礼の言葉が残っている。



──面白かったし、有難かったし、嬉しかった。



「・・・・・・ゼルガディスさん、置いていかないでくださ〜〜い!!」
私は慌てて手の中のアミュレットを腕に装着し、元気一杯にゼルガディスさんの背中を追った。


=*======*======*======*======*======*=


今日も、セイルーン南の砦は平和だった。


「今日は月がきれいですね〜。」
「まったくじゃのぅ。シルフィール殿。」

 サイラーグが崩壊してから、私はセイルーンに住んでいる。
途中で、ガウリイ様の花嫁修業にとドラグスレイブを覚えるために修行をしたり
サイラーグが復興したと聞いて再度旅に出たりしているけれど・・・基本、私の今の住まいはセイルーンだ。

 軍の救護部隊の話を持ってきたのはアメリアさんだった。
ある日、使者の方と二人で私の家に現れて『是非、軍の救護部隊のお手伝いをして欲しい。』と、
びっくりするような報酬で依頼してきた。
 セイルーンで私はおじの家にお世話になる身。その辺りの事も気遣ってくれたのかもしれない。
私はその依頼を快く引き受けた。
 そして、神官の修行の無い夜間の警護に参加し、時折救護部隊兵の皆さんに魔法を教えたりしている。



今日も、セイルーン南の砦は平和だった。さっきまでは。



砦の上で、護衛部隊長や他の兵士の方々と月を見ていた時、見張り担当の兵士の方が神妙な顔で報告に来た。
「大変です!ものすごいスピードでこちらに向かってくる白づくめの怪しい人物が一人!!」

兵士の皆さんの表情に緊張が走る。すかさず、小隊長殿が聞き返す。
「なに!?どの方角からだ!」

「それが、国内からなのですが・・・・・・。」
「??国内から。」

意図がつかめないと、兵の皆さんがざわめく。
「ものすごいスピードでこちらに向かってきています。
 望遠レンズではしっかりと確認できなかったのですが、人獣のようにも見えました。
 繰り返しになりますがかなりの速度で、もうすぐそこまで来ています。」

「総員、配置に着け!」

魔道士部隊皆さん一同に並び、歩兵部隊の皆さんも砦の下で剣を構える。
兵士の皆さんに緊張が走る。私も何かあった時のためにと杖をぐっと握る。
その人物は確かに、見張り担当の兵の言うように、ものすごいスピードでこちらに向かって来、砦の下に立った。
小隊長殿が声を上げる。



「何者だ!名を名乗れ!」



「・・・・・・・・・・・・(汗)。」



「?!」




真剣に剣を構え、魔法の用意をする兵士の皆さんの前に現れたのは、久々にみる私の旅の仲間だった。

「ゼルガディスさんじゃないですか!?一体、どうなされたんですか??」

周りの兵の皆さんは、突然の私の声に呆気に取られて様子を伺っている。

「いや、どうもしないんだが・・・シルフィールに挨拶に・・・。」
「挨拶??」
「いや・・・アメリアも、もうそろそろ来ると思うんだが・・・。」
「アメリアさんもご一緒なんですか?」
「一緒だったんだが、先に来てしまって・・・。」
「先に・・・どうして??」
「いや、・・・なんとなくというか・・・成り行きというか・・・。」
「はぁ・・・。」


アメリアさんが来たのはその直ぐ後、兵の皆さんへの誤解が解けるのはその10分後。
やっぱり今日も、セイルーン南の砦は平和だった。


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33759行間_16maho 2008/10/8 05:06:40
記事番号33754へのコメント

誤字脱字とか、推敲し損ねの変な文の箇所もちょこちょこあってすみません。

キャラクターをの心境と動作のついでに事象が分かる感じの、説明の少ない軽い文を目指して書いてます。
ただ、会話が多すぎるのは嫌なんですけど・・・その辺りうまく調節できてるか微妙です。
読んでくださってる方、こんなんでなんかすみません。。
//////////////////


こいつは一体、何を考えているのか。それとも、何も考えてないのか・・・。

「ゼルガディスさん、ここ煮えてますよ。」
「・・・・・・。」
「煮えてるとこ取り分けますね〜。」
「・・・・・・俺は寄り道するために馬で行こうと言ったわけじゃないんだぞ。」


『馬車は効率が悪い。アメリアも乗馬ができるなら、馬で行く方がよいのではないか。』

 今朝、俺はフィルさんにそう上申した。
ゾアナ王国まで、俺とアメリア二人のためにわざわざ人を出して馬車を出すのは、
速度的にも人員的にも効率が良いとは言えない。
 その上馬車は盗賊共にとっては襲いやすい乗り物だ。
もちろん、その辺の盗賊ごときにに俺とアメリアがやられる筈は無い。適当に蹴散らしていけばいいのだが、
悪人退治が趣味のお姫様が主役の旅だ。遭遇してしまえば盗賊退治に無駄な時間を費やすことになる。
そんな茶番に付き合わされるのはできれば御免こうむりたい。
 そんな思惑を含んだ上申は至極あっさりと認められ、
アメリアはセイルーン王家の愛馬だというひどく目つきの悪い白馬で、
俺は近衛騎士団の所有する黒茶色の馬で、一路ゾアナ王国へと向かった・・・・・・はずだった。


『ゾアナへは何度も行っていますから、道案内は私に任せてください!』
そういうアメリアの言葉を信じ、駆ける白馬の後ろを追う事数時間。着いた所は何故かゾアナ王国ではなかった。



『・・・ここはアトラス・シティだな。』
『はい、アトラス・シティです。』
『・・・・・・どういうことだアメリア。』
『せっかく時間があるんですから、ちょっと寄り道していきません?』
『行きません?って・・・・・・既に寄り道先に着いてるじゃないか!』
『まぁまぁ、とりあえずご飯でも食べながら話しましょう。お昼ご飯まだですし。』
『・・・・・・。』

そんなわけで俺たちは今、アトラス・シティのニャラニャラ料理屋で鍋をつついているのである。


「移動も一応公務だろ。こんなことしてていいのか?」
「アトラス・シティからゾアナ王国までは馬で飛ばせば1時間弱です。
 ゾアナに入ってからご飯を食べるのも、ここでご飯を食べてゾアナに行くのもそんなに変わらないですよ。」
「そういう問題じゃないだろ。公務の途中に寄り道して、暢気に名物料理食っとっていいのかと俺は言っとるんだ。
 だいたい俺に黙って行き先を変更するな。俺は今、名目上はお前の護衛なんだぞ。
 後々問題になって面倒な事に巻き込まれるのはご免だ。」
「大丈夫ですって。ゾアナ王国には夕刻には着くという形で連絡してありますけど、まだお昼過ぎですよー。
 それに昨日のセイルーンの砦での件も、私の言ったとおり特に問題にもなってなかったじゃないですか〜。」
「・・・・・・まぁ、それはそうだが・・・。」

 アメリアの言う通り、昨日の砦での騒ぎは全く問題にはなっていなかった。
 アメリアによると、シルフィールに会いに行く度に、小隊長殿にお忍びでアメリアが来た事の口止めをしていて
もう顔なじみだから、この騒ぎのことは中隊長殿に報告は上がらないとのことだった。
まぁ、アメリアは王女なのだから報告が上がっていないのが事実でも問題無いような気はするが、
本当に報告が上がっていないのか、報告は上がっているがフィルさんが黙認しているだけなのかは、正直微妙な所だと思う。

「そんなことより、今は久々のニャラニャラ鍋を堪能しましょう。これはここでしか食べられないですよ♪」

 俺の心配など露知らず、アメリアは取り分けた小皿を俺に渡し、上機嫌でニャラニャラをほおばる。
まったく暢気なものだ。

「ゼルガディスさんも前にアトラス・シティに来た時はあんなに食べたがってたじゃないですかー。
 ニャラニャラはここでしか食べられませんよ。せっかく来たんですから美味しく食べないと損ですよー。」

 まぁ、確かにニャラニャラ鍋は美味いし、この地方でしか食べられない食べ物だ。
前にアトラス・シティに来た時、俺達はこの鍋を食べる事にこだわり、
リナ達とニョヘロンの焼き肉とこの鍋のどちらを食うかでひどく揉めた。
結局意見が食い違ったままケンカ別れして、俺とアメリアはこの鍋を、リナ達は焼き肉を食ったんだった。
今思うと、くだらない事に4人全員が必死になってバカみたいだった。


そんなことを思い出してふと気付く・・・そういえば、初めてアメリアと二人で飯を食ったはここのニャラニャラ鍋か?
だからわざわざ、アメリアはアトラス・シティに寄って飯を食おうと言い出したのか??


「・・・・・・・・・アメリア、こっちの魚ももうよさそうだぞ。」
「お、ゼルガディスさんも食欲が湧いてきましたかー?遠慮なく食べちゃってください。」
「お前はニャラニャラだけじゃなく魚と野菜もちゃんと食え。取ってやるから皿をよこせ。」
「じゃあ、お願いしますー。」

 アメリアが何故アトラス・シティで昼食を食おうと言い出したのか、その真意はわからんし、それを俺から聞く気も無い。
しかしまぁ、確かにアメリアの言う通り時間に余裕はある。今は鍋を美味しく食べたもの勝ちか。
アトラス・シティに来てしまったものは仕方が無いと割り切って、俺は久々のニャラニャラ鍋を堪能する事にした。


=*======*======*======*======*======*=


「ちょっと、あんた達遅かったじゃない!もっと早く着くと思って待ってたのよ!!」
「え゛、そうなんですか?」」
「朝から馬で出たって聞いたら、昼過ぎには来ると普通思うでしょ!あんた独りで来る時はそのくらいに来てるじゃない!」

 ゾアナ王国で一番に出迎えてくれたマルチナさんは、そう声をあげた。
その声を聞いて、横にいるゼルガディスさんが私をジロリと見る。
 そういえば、国家間の緊急連絡用にライティングを応用した信号があったっけ。
信号の細かい暗号は知らないけれど、それで私たちが馬で出る事までいちいち伝えるなんて・・・。

「そ、そんな連絡あったんですか・・・。」 
「当ったり前じゃないの。馬で来て、ここに何日か泊まるならこっちは厩舎の用意しなきゃいけないのよ。
 あんたの父さんが連絡してこないはず無いでしょ。」
「そ、それもそうですねぇ・・・。」

 確かに厩舎を用意してもらわないといけない。それなら当然、父さんはそのお願いに連絡を送るはずだ。
でも、そこまで気が回っていなかった・・・・・・。

「もー!!!なにやってたのよ?!
 遅いから、国に黙って二人でどっか遠くの街に旅立っちゃたんじゃないか・・・とか、変な心配しちゃったじゃないの!」
「い、いやだなぁ〜、そんなはずないじゃないですか。景色を見ながらのんびり来ただけですよぉ〜。
 そうですよね、ゼルガディスさんっ。」
「・・・あ、あぁ、久々の乗馬だったんで気持ちよくてなぁ〜。」

『遠くの街には旅立っていないけど、近くの町には旅立っていました!』とはもちろん言えず、てきとうな嘘でお茶を濁す。

「まぁ、いいわ!とりあえず城の中に入って頂戴。お父様もザングルス様も待ってるわよ。」
「はい。ゼルガディスさんも行きましょう。」
「・・・あぁ。」

・・・あぁ、やっぱり怒ってる。
さっきの無茶振りにはとりあえず話をあわせてくれたけど、ゼルガディスさんの背中からは
『ほら、いわんこっちゃない』オーラがどろどろと出ている。なんかこう、どろどろと・・・。
 アトラス・シティの直ぐ近くを通る久しぶりの二人旅。そんな機会に、
思い出のニャラニャラ鍋を食べないわけにはいかない!と、無理矢理アトラス・シティに寄ったけど、
やっぱり、素直にゾアナに向かうべきだったかもしれない・・・。

しかし、ゼルガディスさんにこれ以上、小言を言われるのは避けたい!!
・・・・・・明日になれば出航の計画・準備など、いろいろ忙しくなってそれどころじゃなくなるだろうし、
とりあえず今日はなんとか、ゼルガディスさんに怒られるタイミングを作らないようにしよう。


───マルチナの後を追いながら、アメリアはこっそり、そんな事を思うのであった。


=*======*======*======*======*======*=


「あんたがゾアナの王子で、俺がセイルーンの近衛兵か。世の中何が起こるかわからんもんだな。」


 マルチナに連れられザングルスと再開し、モロス国王へ謁見を済ますと、
マルチナとアメリアは”王女間の大事な話があるから!”と二人で何処かに行ってしまった。
ゾアナ城の客間に残された俺とザングルス。俺は素直に、この不思議な再開の感想を述べた。

「まったくだな。始めに会った頃の俺たちに教えてやりたいぜ。
 まぁ、俺のやってる事は昔と大して変わらんがな。」
「未だに資金集めのために他国の雇われ剣士をやっているのか?」
「あぁ、最も今はよほど割のいい話が来た時だけだがな。
 セイルーンのおかげでこの国もだいぶ資金繰りが良くなった。アメリアのおかげだ。」
「そうか。」

 確かにゾアナに行くと説明していたときアメリアが”私の尽力により友好関係に”などと言っていたが、
実際にそうだとは予想外だった。アメリアも一国の王女として、随分成長しているのかもしれない。

「まぁ、俺にはお前さんがセイルーンの近衛兵としてここに来たことのほうが余程意外だったぞ。
 マルチナの話じゃ、お前さんはついこの間まで外の世界を旅してるって事だったからな。」

俺が旅をしている事まで知っているとは意外だ。そう思いながら返事を返す。

「その話どおりついこの間まで外の世界にいたんだが、セイルーンから急に国王代理直々の依頼が来て・・・成り行きでな。」
「成り行きでか・・・元の姿に戻るのはあきらめたのか?」
「何故そうなる?確かに今はセイルーンの近衛兵の依頼を受けてアメリアと旅をするが
 それが終わればまた元に戻るための旅は続けるつもりだ。」

真意のわからない問いに少し早口で返す。それにまた、目の前の山高帽子の王子は問いで答えた。

「そこがよくわからん。あんたはてっきりアメリアと結ばれるために元の姿に戻る方法を探しているんだと
 思っていたんだがそうじゃないのか?」
「・・・俺は自分の体が普通でないと思っている。この異型の体から普通の体になりたいから、
 元に戻る方法を探して旅を続けている。それだけだ。」
「じゃあ、アメリアのことはどうも思ってないのか?マルチナの話だと手紙を送ってたんだろ。」

 マルチナとアメリアはそんなに親交が深かっただろうか。
手紙を送っていた事まで知っていることに俺はすこし動揺した。

「確かに手紙は送っていたが、たいした内容は書いてない。」
「・・・俺とマルチナが結婚したのは2年前だぜ。出会ったのも2年前だ。
 俺たちはそんなに長く旅をしていないがそれでもその間、アメリアとあんたさんはずっと一緒だったじゃないか。
 リナとガウリイといい、あんたらは何をそんなに恐れてるんだ?」

”恐れている”フィリオネル王子にも言われた言葉だ。だが何か違う気がする。少なくても、俺はアメリアを恐れてはいない。

「・・・・・・アメリアのことは大事に思っている。他の誰よりも大事に思っている自信はある。」
「要するに好きなんだろ。」
「・・・・・・・・・あぁ。」

そんな事は口にしたくなかった。アメリアのことは誰よりも大事だし、誰よりも愛している。
だが、そういうことではないのだ。言葉にする事では。イライラする。
どうしてこの男はそんなことを聞くのか分からない。とにかく気を落ち着けるため溜息をつく。
 だが、そんな俺の心境など知った事ではないと言うように男は続けて問いただしてくる。

「じゃあ、どうして今、のこのこ護衛のために戻って来たんだ。
 のんびりしてたらアメリアだってどんどん成長していくんだぜ。アメリアは今いくつだ?」
「・・・17になると聞いた。」
「俺とマルチナが結婚したのはマルチナが17の時だ。今ここにいていいのか?
 早く元に戻る方法を見つけるべきなんじゃないのか?」

・・・・・・わかっていない。この男は何も分かっていない。俺が欲しいものはそんなものではない。
冷静になるためしばらく黙り、それから俺は出来る限り落ち着いて声を出した。

「もし、明日この国の王が暗殺されたらどうなる?」
「・・・・・・俺が国王となり、この国を治める事になるが・・・。」
「そしたら、軽々しく他国に旅に出たり、他国の雇われ剣士なんてやってられんだろ。」
「まぁ、そうだな。」
「アメリアも王族だ。しかも、あの御家騒動の多いセイルーンの。いつ国に縛られる事になるか分からん。
 あいつがこうやって旅を出来る時間は有限だ。せめてその時間を大切にしてやりたい、傍にいて助けてやりたい。
 俺が後どれだけ世界を彷徨えば元に戻る方法を見つけられるかは分からん。
 旅を続ければ1ヵ月後にあっさり元に戻る方法が見つかるかもしれんし、一生見つからんかもしれん。
 そんな俺の不明確な未来の時間より、アメリアの今の時間を大事にしたい。それだけのことだ。」
「・・・アメリアは幸せだな。」
「母を殺されて、姉が失踪している娘のどこが幸せなんだ。あいつは幸せそうにするのが得意なだけだ。」
「・・・何も知らんで偉そうに、すまんかったな。」
「気にするな。」

 そう言って腰掛けていた客間の椅子の背もたれに体を預ける。椅子軋むの音。
客間に案内された時に出された茶は既に冷たくなっていたが、俺は黙ってそれを飲み干した。


=*======*======*======*======*======*=


「は?あんた手紙書いてるって言ってたじゃない。自分で国の近衛兵に口説き落としたんじゃないの?」

 リナさんのドラグスレイブで全壊してから再建されたゾアナ城。その王女の私室で、
ゼルガディスさんが近衛兵になった経緯を聞き、マルチナさんは呆れたと言わんばかりに声をあげた。
再建されたお城はこじんまりとしたものだけど、マルチナさんの私室には魔人ゾアメルグスター様の
謎のオブジェがでかでかと飾ってある。

「ですから・・・手紙を送るときに同封した父さんからの手紙の中に依頼書が入っていたらしくて、
 知らないうちに話が進んでいたみたいで・・・。」
「毎月、手紙を送ってたんでしょ。”私を迎えにセイルーンにきてください”とか書いて
 根負けさせたのかと思って期待したのにー。」
「前にもいいましたけど、一度”セイルーンには来れない”ってはっきり言われてるんですよ・・・・・・。」

そう言って、黙って出されたお茶を飲む。マルチナさんのところで出されるカシスのフレーバーティー。

「もー、ゼルガディスもめんどくさい奴ねぇ。
 アメリアが頼んでも断るくせに国王からならいいわけ?!旅に出るならいいわけ??
 だいたい、元の姿に戻るのなんていい加減諦めなさいよ!
 あの姿の何が不満だって言うのかしら!アメリアが気にしてないんだから堂々としてりゃいいのよ!!」

 ・・・・・・マルチナさんの独りゼルガディスさん批判。私とマルチナさんがお茶をする時のいつものパターンだ。
こういうときは反論せず、一通り話し終わるのを待つのが一番だ。

「・・・でもまぁ、よかったじゃない。誰の依頼であっても、あんたのために来てくれたんでしょ。」
「はい!たぶん。・・・あと、手紙のお礼の言葉をもらいました!有難かったし、嬉しかったって。」
「なによそれ。全然心配する事無いじゃないのー。」
「あ、そうですか?」

そう答える私に当然と言わんばかりにマルチナさんが話しだす。

「当ったり前でしょ。大体、あんた達私がリナを追ってたときだって常に一緒に行動してたじゃない。
 あんたはもっと、”ゼルガディスの横にいて当然!”って顔してればいいのよ。
 今回なんて名目上はあんたの護衛の近衛兵なんでしょ。王女たるもの兵には毅然とした態度を取るべきよ。
 あんたはなんかこう、乙女すぎるのよ。恋に恋する感じ?もう17才なんだからしゃきっとしなさい。」
「はぁ・・・。」
「はぁ・・・じゃないわよ。女の子はスイーツなお菓子でも食べながらなりたい私をイメージして、
 それに向かって突っ走ればいいの。ゼルガディスの横に居たいんだったら当然のようにいればいいのよ。
 もっと好きなように生きないと損よ!」

そう言って、しっかりしなさいといわんばかりに私の肩を叩く。
好きなように生きないと損・・・そういえば、父さんにもゼルガディスさんにも”無理するな”って言われてたっけ。
それって、マルチナさんの言うように自分の好きなようにしなさいって事なのかもしれない。

「・・・・・・確かに、そうかもしれませんね。いつもありがとうございます。」
「なに改まってお礼なんか言ってるのよ!お菓子もあるから遠慮なく食べなさい。」
「はい!!」

姉さんはいないけど、マルチナさんがいて、相談できる人がいてよかった。
そう思って、私は元気に返事を返した。


「ところでマルチナさん。ゾアナの魔道書の並の魔法は通用しないゴーレムって、今どうなってるんですか?」
「全壊したわよ。もちろん作り直すお金もつもりも無いわよ。
 そんなもん作ったら、リナにまたあの魔法・・・ドラグスレイブ?で街ごと破壊してくれって言ってるようなもんじゃない。」
「なら良かったです。作り直してたらどうしようかと・・・。」
「ゴーレムでもなんでも、並の魔法が通じない兵器なんて作る国無いわよ!あったら相当頭悪いわね!
 そんなもん侍らせても、並じゃない魔法で壊されるだけなんだから。」
「・・・その通りですね。」


──昔作ったのはマルチナさんなのに・・と思いつつも、あまりの勢いに同意するしかないアメリアであった。


////////////////////////////////
言い訳とか:
グレイシア姉さんっぽいテンションと服装&そして王女仲間で恋愛に積極的なマルチナ、
流れの剣士なのに姫と結婚したザングルス。
ゼルアメのコイバナ相手はマルチナ夫妻しかいないと思った。
NEXTの姫ドキドキゼルアメも、TRYの姫積極的ゼルアメも、老夫婦ばりにナチュラルなREVOゼルアメも好きです。
シーズン毎に進歩するのがゼルアメの醍醐味だと思う。

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33760行間_17maho 2008/10/8 11:32:53
記事番号33759へのコメント

短文投稿ですみません。
////////////////


『ゼルガディスさん、この戦いが終わったら私と一緒にセイルーンに来てくれますか?』
『まぁ、考えておこう。』
『はいっ!』



 もし俺が人の体だったら、あの戦いの後アメリアと一緒にセイルーンに行き、セイルーンで暮らしていただろう。
だが、実際はそうではなかったから俺は旅に出た。アメリアに、セイルーンには留まれないと告げて。



 ザングルスのあの会話の後すぐ、アメリアとマルチナは上機嫌で俺たちの居る客間へ戻ってきた。
それから4人でしばらく昔話を話し、夕食をご馳走になり、今日から数日間泊まる事になる客室へ案内された。
今日はほとんど馬に乗っていた。明日も何かと忙しいだろう。・・・早く寝るべきなのは分かっていた。
だが、ザングルスとの会話が頭に残りどうしても眠れなかった。


『成り行きでか・・・元の姿に戻るのはあきらめたのか?』
早く元に戻りたいに決まっている。

『あんたはてっきりアメリアと結ばれるために元の姿に戻る方法を探しているんだと
 思っていたんだがそうじゃないのか?』
正直それは、間違いではなかった。

『のんびりしてたらアメリアだってどんどん成長していく──』
『──早く元に戻る方法を見つけるべきなんじゃないのか?』

そんな事は、言われなくても、痛いほど、苦しいほど、悲しいほど分かっている。

 客室をこっそり抜け出した。他国の訪問者の身、誰かに見つかれば問題になるかもしれない。
ゾアナ城の屋根の上からは月が見える。昨日アメリアとセイルーンを飛んだときより、少しだけ欠けた月。
明日になればまた少し欠ける。ザングルスの言う通り、時間は確実に過ぎて行く。
 だが、先のことは分からない。いつ元に戻る方法を見つけられるか、本当にもどれるのか。
この合成獣の体がどう成長し、自分が幾つまで生きるのか。アメリアがどう成長し、いつ嫁ぐことになるのか。
おそらく考えたって仕方が無い事なのだろう。それで未来が分かれば誰も苦労はしない。
くだらない事だと分かってはいる。・・・それでも今は頭からその考えが消えてはくれない。


「ゼルガディスさん、こんな所でなにしてるんですか。」
「!?」

 突然の声に驚いてその方向を見ると。アメリアがレビテーションで直ぐ近くまで来ていた。

「少し眠れんでな。・・・お前こそ何故ここにいる。」
動揺が伝わらないよう、言葉を選んで返事を返す。

「昼に黙ってアトラス・シティに行ったこと、謝ろうと思ってゼルガディスさんのところへ行ったら
 空っぽの部屋の窓が開いてたので、外かなと。ゼルガディスさんも窓から抜け出すんじゃないですか。」
「・・・今日だけだ。お前こそ、一国の王女が夜に軽々と男の部屋を訪れて、しかも勝手に中に入るな。」
「ゼルガディスさんのところだけですよ。王女に直属の近衛兵まで警戒させたりしないでください。」
「アホか。そういう問題じゃないだろ。」

自分の声が夜の空に響くのが分かる。イライラしているのが、おそらくアメリアにも伝わっている。

「アトラス・シティの件、どうもすみませんでした。」
「もういい。すぎた事を行っても仕方ないだろ。早く部屋に戻れ。」

あえてぶっきらぼうにそう答える。だが、アメリアは黙って俺の横に座る。

「戻れといっとるだろう。ここはセイルーンじゃないんだぞ。」
「・・・・・・ゼルガディスさんは月をみていたんですか?」

部屋に戻れと言っているのに、そんな気は更々無いらしい。仕方が無いと、返事を返す。

「・・・あぁ。昨日は満月だったのに、少し欠けた。」
「月が欠けるのが悲しいんですか。」
「そんな事でいちいち悲しまん。ただ、そう思っただけだ。」
「でも明日も、明後日も、ちゃんと月は出つづけますよ。全部欠けたら今度は満ち始めて、また満月になります。」
「・・・・・・。」
「明日も、月が見えるといいですね。」
「・・・・・・・・・。」



 もし俺が人の体だったら、アメリアには出会えなかったと思う。
アメリアはもとより、リナに出合えたかどうかすら怪しい。そもそも俺が生き延びていたかどうかも分からない。
だが、実際はそうではなかったから俺はこいつと出会えた。



「答えなんて無いんだろうな。」
「え?」


先のことも、昔の事も、考えても仕方が無い。
確かなのは、目の前にアメリアがいること。アメリアとまた旅ができること。それだけだ。
また少し欠ける月を明日は気持ちよく見られればいい。そのために今を生きられれば。

「なんでもない、もう戻るぞ。」

そう言って、レビテーションで屋根を降りる。後ろからついてくるアメリアの気配に、何かひどく安心した。

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33765行間_18maho 2008/10/11 00:40:00
記事番号33760へのコメント

”Revolutionはゼルアメの歌”という謎のご神託をキャッチして勢いで17書いたら続きに苦戦。
♪一緒に行こう〜 のノリで出航してさわやかに締めたい。
////////////////////////////

ただ、窓辺で空を見ていた。昨日のことを思い出したくて。



 マルチナさんの私室でお茶をしてから、客間に戻り4人が一緒に旅をした短い間の思い出話をした。
あの頃の私たち、それにリナさんとガウリイさん、シルフィールさんの話を面白おかしく話し、笑いあった。
私にとっては、とても穏やかで楽しい時間だった。

 でも、私が楽しく過ごしたその間、あの人のはうれしそうにも、楽しそうにもしなかった。
話をあわせて、作り笑いを浮かべたり相槌を打ったりはしていたけど。

 あの人は、感情を素直に表に出す人ではない。声を上げて笑ったところを、私は見たことがない気がする。
でも、あの人にはあの人のうれしい時の表情が、あの人にはあの人の楽しい時の表情がある。
そういうとき、静かに、ゆっくりと現れるそれが私にはとてもきれいに見える。
でも、その後の夕食時も、誰がどんな話をしても、私の好きなその表情を見せてはくれなかった。

”・・・・・・やっぱり、昼間のアトラス・シティの件で怒っているのかもしれない。”
そう思っていた。それが不安で空を見ていた。それだけだった。
だから、窓の外にあの人の姿を見つけるなんて、これっぽっちも予想していなかった。

 窓の外を、月明かりを浴びゼルガディスさんが空に上がっていく。
・・・昨日、窓から城を抜け出した私をたしなめたゼルガディスさんが、こんな時間に、こんな場所で?
私は窓に張り付くようにしてそれを見た。最後に、白いマントが屋根の奥に消えていった。
・・・・・・たぶん、ゼルガディスさんは屋根の上にいる。でも、どうして?
私はそっと窓から外に抜け出した。屋根の上にいるあの人に見つからないようぐっと気配を消して移動する。
裏に回ったお城の影から、屋根に腰掛け空を仰ぐゼルガディスさんが見えた。



 そこから見えたあの人は、私が始めて見る顔をしていた。
怒っているのでも、苛立っているのでも、疲れているときの表情でもない。
死を宣告された人のような、捨てられた子供のような、ひどく悲しそうな表情。
途方にくれたどうしようもないというような顔で、黙って空を見ていた。



───元の姿に早く戻りたいんだ・・・。




そう思った。あの人から送られた一冊の本のことが頭によぎった。
--------------------------------------------

 ゼルガディスさんから届く手紙の中身は二つの地名だけだった。
そのかわり、ゼルガディスさんは手紙と一緒に書物をたくさん送ってくれた。
私は初め手紙を読むようにその本にも目を通していた。
難しくて私にはよく分からないものもたくさんあったけど、分かるものは全部読んだし、
分からないものもとりあえずページをめくって眺めていた。
ゼルガディスさんから何かが届けられること、それがとてもうれしかったから。
 私があまりにうれしそうに資料室に通うものだから、本の棚卸しの時に司書のお姉さんが
わざわざ『寄贈:ゼルガディス=グレイワーズ 』コーナーを作ってくれたくらいだ。


 でも、私はある時から届けられる書物を読むのを止めた。届けられた一冊の本を読んでから。


 その本は、合成獣の成長と寿命の研究の本だった。
本には、どの生き物を合成された合成獣がどう育ち何年生きたかというデータと、
データ外の生物の合成獣がどのように育ち何年生きるかを分析・推測した研究結果が記されていた。
送られてきた本の、邪妖精と岩人形の記述のあるすべてのページが折り曲げられていた。


『まだそんなこと言ってるんですか。結構かっこいいのに。』
 ゼルガディスさんと2度目に会ったとき、まだ元に戻る方法を探して旅をしていると聞いて
私はそんなことを言った。あの銀の髪も岩の肌も、純粋にかっこいいと思ったから。


『ゼルガディスさん、この戦いが終わったら私と一緒にセイルーンに来てくれますか?』
 合成獣そのままのゼルガディスさんと一緒にセイルーンにいたいと思った。かまわないと思った。
だから、前の戦いの時そんなことを言った。


見た目なんて気にしなければいい。その程度のことしか、考えていなかった・・・知らなかった。
ゼルガディスさんの気持ちなんて何も分かっていなかった。
これから自分がどうなるのか分からない恐怖・・・そんなこと想像すらつかなかった。
自分の発言はひどく恥ずかしく思えた。
あんなに必死に旅をしているのに、もしかしたら戻れないかもしれないと
ゼルガディスさんが合成獣の成長と寿命の本を読んでいた事もショックだった。
もう、二度と会えないかもしれないなんて、考えたくなかった。
 
それ以後、私は手紙が届くと、書物の中身はもちろん表紙もろくに見ずに
資料室の司書のお姉さんに預けるようになった。

--------------------------------------------


ゼルガディスさんは黙って空を見ている。


なんと声をかけていいのか分からない。でも、声をかけなければいけない気がする。
ゼルガディスさんは私と旅をするためにセイルーンに来てくれた。
早く自分の体を元に戻す方法を見つけたいはずなのに、わざわざ遠くから来てくれた。
私が送った手紙に『面白かったし、有難かったし、嬉しかった。』と言ってくれた。




「ゼルガディスさん、こんな所でなにしてるんですか。」
「!?」

ゼルガディスさんは、驚いて私のほうを見た。

「少し眠れんでな。・・・お前こそ何故ここにいる。」

窓から姿が見えたので後をついて来ていましたとはもちろん言えない。
アトラス・シティのことを思い出して咄嗟に嘘を並べる。

「昼に黙ってアトラス・シティに行ったこと、謝ろうと思ってゼルガディスさんのところへ行ったら
 空っぽの部屋の窓が開いてたので、外かなと。ゼルガディスさんも窓から抜け出すんじゃないですか。」

・・・・・・嘘は苦手だ。いくらなんでも勝手に部屋に入るのは無理がある。
鍵をかけて出てきているかもしれないし。早口でたくさんしゃべってしまったのも怪しい。
ゼルガディスさんは嘘を見抜くのが上手い。ひやひやしながら返事を待つ。

「・・・今日だけだ。お前こそ、一国の王女が夜に軽々と男の部屋を訪れて、しかも勝手に中に入るな。」

明らかに無理のあるところに突っ込まれ、焦ってまた早口で話す。

「ゼルガディスさんのところだけですよ。王女に直属の近衛兵まで警戒させたりしないでください。」
「アホか。そういう問題じゃないだろ。」

 大声でそう返される。イライラした時の声の上げ方だ。でもたぶん、嘘はばれていない。
私に対してイライラしているのであれば、嘘のとおりアトラス・シティの件だ。
ゼルガディスさんからしたら、自分の大事な旅を中断してわざわざ遠くから来ているのに
途中で寄り道なんてされたらたまったもんじゃないと思う。

「アトラス・シティの件、どうもすみませんでした。」
「もういい。すぎた事を行っても仕方ないだろ。早く部屋に戻れ。」

ひどく怒ったような声で、部屋に戻れと言われる。
でも部屋に戻ればゼルガディスさんはまた、あの悲しい顔で空を見るのだ。戻れるわけが無い。
私はゼルガディスさんの横に座った。

「戻れといっとるだろう。ここはセイルーンじゃないんだぞ。」
「・・・・・・ゼルガディスさんは月をみていたんですか?」

ゼルガディスさんの横から、ゼルガディスさんと同じように空を見上げると月が見えた。

「・・・あぁ。昨日は満月だったのに、少し欠けた。」
「月が欠けるのが悲しいんですか。」
「そんな事でいちいち悲しまん。ただ、そう思っただけだ。」

時間がたつのが悲しいんだと思った。時間は有限だから。
それなのに一緒に旅をしてくれることが、本当にありがたいと思った。

「でも明日も、明後日も、ちゃんと月は出つづけますよ。全部欠けたら今度は満ち始めて、また満月になります。」

いつかは元の姿に戻れるという思いを込めてそんなことを言ってみる。

「・・・・・・。」
「明日も、月が見えるといいですね。」
「・・・・・・・・・。」
「答えなんて無いんだろうな。」
「え?」

何も返してくれないゼルガディスさんへの次の言葉を考えていたら、突然ゼルガディスさんがつぶやく。

「なんでもない、もう戻るぞ。」

そう言って、ゼルガディスさんはレビテーションで屋根を降りる。訳が分からずとりあえず後を追う。
窓から自分の部屋に戻るゼルガディスさんを見て、私は自室に戻った。

ゼルガディスさんが何に納得したのか、よく分からなかった。
私になにかできたのか、それもよく分からなかった。

ただ、窓から部屋に戻るゼルガディスさんの横顔が
とても穏やかだったことに、何かひどく安心した。

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33772Re:行間_18a 2008/10/19 08:56:26
記事番号33765へのコメント

毎日続編出てないかチェックしてます、楽しみにしてます

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33781ありがとうございますmaho 2008/10/22 13:11:59
記事番号33772へのコメント

コメントありがとうございます。
待って頂いているのが本当に嬉しいです。
続き、近日中に上げられればと思ってます。

最後までお付き合いいただけると幸いです。
よろしくお願いします。

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33782行間_19maho 2008/10/23 17:22:24
記事番号33765へのコメント

遅くなりました。見てくださってる方ありがとうございます。
///////////////////////////

「ルヴィナガルドからの使者が来るのは明後日か。」
「はい。それに先駆けて明日セイルーンの重装歩兵部隊の第2小隊がゾアナへ到着します!」
「それはいいけど、ルヴィナガルドからの使者が特務捜査官ってどういうことなのよ?
 リナ、ルヴィナガルドに追われてるんじゃないの〜。国のゴーレムと街を魔法で吹っ飛ばした罰とかで。」
「国家を介して正式に紹介してほしいって依頼が来てるんですしさすがにそれは無いと・・・。」
「リナならありえるわよ!あの魔法で街を壊滅状態にさせられてからゾアナが・・・わたくしが、
 どれだけ苦労したと思ってるのよ!!」
「あれはお前がゴーレムを暴走させたのが悪いんだろ。どうでもいいから話を進めろ。」
「じゃあ続けますね。今日の昼から、天体学者の方のために作っていた特殊望遠鏡を改造したものを主艦に配備──」

 朝一番にセイルーン、ルヴィナガルド両国からそれぞれ書簡が届いた。
それを俺とアメリア、ゾアナ代表のマルチナと読み合わせて今後の予定を確認している。
3日後に出航することが決まった。
前日の予想通り、今日からは忙しくなりそうだ。

今日は読み合わせを終えたらアメリアと港に向かい出航する軍艦の事前確認を、
夕刻からはリナたちの目撃情報を元に航海経路を航海士と共に作成する。
ルヴィナガルドの使者の意向で出航を急いでいるらしいが・・・・・・
まったく、もう少し落ち着いた計画を立てられ無かったのか。

「アメリア、リナに会いに行くだけのことに、艦隊を組んだ上に重装歩兵部隊まで連れて行くのか。
 セイルーンはちょっと大げさすぎるんじゃないか。」
「・・・ゼルガディスさん、外の世界に行く時、平和使節団を台無しにしたの誰だったか思い出してくださいよ。」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・俺達だったな。」
「そうです。しかもリナさんのドラグスレイブで、港町はめちゃくちゃ。
 あの平和使節団はセイルーンが中心となって編成してたんですよ。
 私達が旅に出てから父さんはその後の対応にかなり苦心したみたいです。」
「やっぱりゾアナ以外でも暴れてるんじゃないの。ほんとにリナ、追われてるんじゃないの〜?」
「でも、”紹介してほしい”という国を挟んだ正式な要請ですから、さすがにそれは無いと・・・。」
「だってリナよ!ゾアナとわたくしがどれだけリナに苦労させられたか・・・」
「・・・・・・わかった。なんでもいいから、とっとと話を進めてくれ。」

明日は重装歩兵部隊の配備に関していろいろと確認事項があるだろう。
明後日はルヴィナガルドからの使者を迎えなければならない。
まぁ、作業や行事が多いだけで、忙しいといっても俺は姫付きの近衛兵としてアメリアに付いて回り
時折口を挟むくらいしか出来ることは無いのだが。

本当に忙しい、横に座っているセイルーンの小さな王権代行者は必死に書簡を読み上げて
ゾアナの王女とスケジュールを合わせている。
頼もしいやら、歯痒いやら、俺はなんとも複雑な気分でそれを聞いていた。


------------------------------------


「ゼルガディスさん、これ見てくださいっ!」

甲板に設置されたばかりの、ごてごてにレンズのついた望遠鏡を指差してアメリアが嬉しそうに声を上げた。


「かなり気合の入った望遠鏡だな。よほどの機械好きが作ったんだろう。
 この望遠鏡の機能の半分くらい趣味の世界の産物って感じがするぞ・・・。」
「何言ってるんですか!この望遠鏡はゼルガディスさんの功績ですよ。
 以前、望遠鏡作成に関する外の世界の書物を送ってくれたじゃないですか!
 こういうの作るの大好きな技師の方がいらっしゃるんですけど、その方がその本に大興奮して出来たのがコレです。」
「・・・・・・それは、俺が喜んでいいところなのか?」
「喜んでいいところですよ!!いつもたくさん珍しい書物を送ってくれるから、
 セイルーンの研究者たちはゼルガディスさんからの小包をいつも今か今かと待ってたんですよ!
 研究者の皆さんの中で、ゼルガディスさんの名前を知らない人はいないくらいなんですからー。」

 そう言って、設置のために来ていた技師に使い方を聞きながら嬉しそうに望遠鏡をいじるアメリア。
マルチナとの打ち合わせ後、直ぐに港に向かい、ほとんど休憩無しで
出航する軍艦の一つ一つの装備や人員、載せる荷物を見て回り、これが最後の装備の確認だ。
もう日も落ちかけて空が橙に染まってきている。
これが終われば直ぐ城に戻って、航海経路を航海士と検討しなければならない。

「すご〜い!遠くまできれいに何でも見えますし、調整も自由自在です!
 ゼルガディスさんも見てください!びっくりしますよ〜。」

 王女として毅然と軍艦の確認を行っていたアメリアも、最後の、この風変わりな望遠鏡の前では
いつもの好奇心旺盛な少女に戻っていた。その声になんとなく安堵しながら望遠鏡に近づく。

「・・・外見以上に細かい機能も満載だな。その割りに操作しやすい。しかも相当倍率を上げられるな。」
「でしょー。これでリナさんたちを遠くからでも見つけられますね!」

 ひどく満足そうにアメリアは答える。朝からずっと軍艦を見て廻っているのに疲れた様子も見せないで。
まったく強い娘だ。強すぎて、本当に元気なのか、カラ元気なのかわからない時が多々ある。
カラ元気なのに気づいていないだけの時だってあるような気がする。
一見分かりやすそうで、逆につかみどころの無い娘だと思う。

「ゼルガディスさん、夕日が反射する海を望遠鏡でみるとすごくきれいですよ〜。」

 望遠鏡をいじる俺に、嬉しそうに元気そうにアメリアは話しかける。
海に視点を合わせると細かく打つ波にオレンジの光が小さく反射して見える。
それは確かに美しいが、なんとなく脆く、儚く見えた。

「そうだな・・・ところで、アメリアお前疲れてないか?」
「え、なんでですか?大丈夫ですよ。」
「本当に元気かと聞いているんだ。」
「・・・私は元気です。」

答えるまでに一瞬間があった。声のトーンが少し下がっている。

「本当に元気な人間は元気だという時、声のトーンが下がったりしないだろう。」
「私は元気です。」
「無理しなくていいんだぞ。」
「私は元気です。・・・・・・・・・ゼルガディスさんは元気ですか?」





”ゼルガディスさんは元気ですか?”





ずっと手紙で繰り返されていた問い。
それにまだ答えていない事を、忘れていた。

「よし!望遠鏡の確認完了!!ゼルガディスさん、お城に戻りますよー!」
俺の答えを待つ前に、アメリアがそう言い放ち、甲板を駆け下りていった。

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33783Re:行間_19a 2008/10/23 18:54:47
記事番号33782へのコメント

わ、新作!嬉しいです。
多分楽しみに待ってる人はたくさんいると思います

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33784行間_20maho 2008/10/24 01:40:18
記事番号33782へのコメント

”ゲシッ!!”




鈍い音と共に俺の右頬にアメリアの拳が炸裂し、俺は軽く宙を舞った。

何故俺は殴られたのか・・・。
俺はアメリアに殴られるようなことをしただろうか・・。
ついでに、アメリアは俺以外にも微妙にヴィスファランクをかけた拳で人を殴るのだろうか・・・。
何もかもが意味不明だ。
本当に、訳が分からない。





殴った勢いのまま、アメリアが近寄ってくる。
呆然と倒れたままの俺の傍らまで来て、目に涙をいっぱいためてアメリアは声を荒げた。







=*======*======*======*======*======*=


旅の航路は結局今日決まらず、明日また話し合うことになった。
リナさんたちがルヴィナガルド領へ向かっているのではないかという推測が出たり、
明日入る情報が無いと決められないのではないかという意見が出たりで、
長い話し合いの末、結局明日再び話し合うこととなった。
今日の様子じゃ、航路は明後日ルヴィナガルドの使者の方が来るまで決められないかもしれない。

遅い夕食を終え、与えられた客室に戻ってベッドに横になる。夕方から、なんだか急に疲れた気がする。
長く不毛な航路を決める話し合いのせいもあるけれど、
やっぱり、望遠鏡を確認する時にゼルガディスさんに言ってしまった一言が気になっているからだと思う。




”ゼルガディスさんは元気ですか?”
言わないほうがいい事を言ってしまった。ゼルガディスさんが元気なはず、無いのだから。




 ゼルガディスさんは、自分の体を元に戻す方法を探す旅を中断してまで、セイルーンに来てくれた。
それを、素直にありがたいと思えばいいのかもしれない。
でも、昨日あんな表情をするゼルガディスさんを見てしまったら、そんな風に思えるわけが無い。
明日も、明後日も、ゼルガディスさんが元に戻る方法を探すのを私は止めるのだ。それを喜べるはずが無い。
どうするべきなのかよく分からない・・・悶々と巡るそんな思考を、ドアをノックする音と声が遮った。


「アメリア、起きてるか?」

ゼルガディスさんの声。私はあわててドアを開ける。

「起きてますけど、何ですか?」
「今から港に行くぞ。」
「え、今からですか。」
「あぁ。」

こんな時間に港に?何か用があるのだろうか・・・でも、昨日の屋根の上の件もある。
あまり突っ込んで聞かないほうがいいのかもしれない。私は『わかりました!』と、窓を開け外に出ようとした。

「・・・・・・ちょっと待てアメリア。普通に門から出るぞ。
 港には船の明かりの確認に行く。城を出ることはザングルスに言付けてある。」
「あ、・・・そうなんですか?」
「・・・お前は窓から出慣れすぎだ。セイルーンでいったい何をやっとったんだ。」
「そ、そうですかねぇ・・・あはは・・」

その突っ込みに、私はとりあえず笑うしかなかった。


他国内を飛んで移動するのあまり良くないだろうと、ゼルガディスさんと港までの短い道程を並んで歩く。
復興したとはいえそれでもまだ再建中のゾアナの街は静かで、
ゼルガディスさんの燈すライティングの明かりがゆらゆら揺れるのが目立つ。


「船の明かりの確認の抜けにはさっき気づいたんですか?」
「あぁ、万一不備があった場合の事を考慮すると、今日見ておくべきだろう。」
「さすがゼルガディスさんですねー。」

父さんがゼルガディスさんをわざわざ遠方から読んだ理由が分かる気がする。
私一人ではそこまで気が廻らなかっただろう。

「ところでお前、夕方に俺は元気なのかと聞いたな。」

 気にしていたことを突っ込まれる。返事を聞くのが怖くて、あわてて答える。

「聞きましたけど、別にいいです。答えなくても。」
「お前が書く手紙もいつも『元気ですか』で始まってたな。」
「なんかこう、いつも同じほうがいいかなぁ、と思って。書きやすいんですよ、そのほうが。」

 この話題を続けたくなくて、答えを聞きたくなくて早口で返す。

「・・・・・・手紙に答えてやらなくて悪かったな。」

 どうしてゼルガディスさんはそこにこだわるのだろうか。

「手紙を書いてる時は、どこで何をしているか分からないから心配だったんですよ。」

 手紙をいつも”元気ですか?”ではじめた理由を話す。これで多分、この話題は終わり。
・・・・・・そう思ったのに、聞きたくないことをゼルガディスさんは私に告げた。




「旅をしてる間も元気だったし、今もこのとおり元気にやってる。答えるのが遅くて悪かった。」

 


私にはそう言うだろうと思った。元の姿に戻りたいことなんて、口に出すはずがないと思った。
本当のことなんて言わないんだろうと思った。私なんかには、言えないんだろうと思った。
出会ったばかりの頃、初めてゼルガディスさんの笑顔を見た時の事が頭に浮かんだ。

『バカ!余計な真似をするな。自分の身を守れ。』

防御魔法でゼルガディスさんを守ろうとした私に、ゼルガディスさんはそう怒鳴った。
”すっごく怪しい上にデリカシーの無い人”、ゼルガディスさんをまだそう思っていた頃。
ゼルガディスさんは私にそう言った。
そのはずなのに。

なんで?
な ん で??
な  ん  で???

悔しかった。悔しくて悔しくて悔しくて悔しくて悔しくて悔しくて・・・・・・たまらなかった。
感情だけが私の体を突き動かしていた。



”ゲシッ!!”



鈍い音と共に隣を歩いていたその人は軽く宙を舞った。私はドスッと地面に落ちるその人に駆け寄って叫んでいた。



「なんでそんなこと言うんですか!本当は元の姿に戻りたくてたまらないくせに!!
 そのための旅を、私に中断させられてるくせに!!!
 ゼルガディスさん、出会った頃私に余計な真似をするな、自分の身を守れって怒鳴ったじゃないですか!
 それなのに、なんでですか!!なんでゼルガディスさんは自分のことは大事にしないんですか!!
 私が頼りないからですか!お守りに来ないと心配なお子様だからですか!!!」


=*======*======*======*======*======*=



アメリアの声が耳に響く。最も、最後のほうは涙声でグズグズだったが。
声を荒げる前は辛うじて瞳の中に納まっていた涙をぼろぼろ零して
それでも泣くのをこらえるような、睨んだような、祈るような、なんともいえない表情で俺をじっと見つめている。



───あぁ、どうして人の気持ちは簡単に他人に伝わらないんだろうなぁ。



ザングルスとの会話を思い出す。とりあえず、立ち上がり、服に付いた砂利を払う。
港まであと少しの海辺の道。アメリアの大声がほかの人間に聞こえるところでなくてよかった。
俺はアメリアが落ち着くまでしばらく黙り、それから出来る限り素直に声を出した。

「俺はお子様な旅の仲間のお守りをするために時間を使うほど暇な奴じゃないぞ。」
「でも・・・」

涙声で反論するアメリアの声を遮って言う。

「何回も言わんぞ。元の姿にも戻りたいが、俺はお前と旅がしたいからセイルーンに来た。優先順位の問題だ。」
「・・・・・・ぐずっ・・・」
「俺はくだらんことに時間を使うほど暇な奴じゃない。俺の大事なことにしか時間は使わん。」
「・・・・・・・・・うぅ・・・」
「だから無駄な心配するな。俺が俺のしたいようにした選択がこれだ。」
「でも、元の姿に・・・」
「何回も言わせるな。優先順位の問題だといっとるだろうが。元の姿にもいつかは戻る、そのための方法も必ず探し出す。
 だが今はお前と旅をする事のほうが優先順位が高い。それだけの事だ。」
「・・・・・・・・・・・・。」


涙目で黙りこくるアメリア。やっと落ち着いてきたようだ。

「お前、目が真っ赤だぞ。その顔を船にいる兵士には見せれんだろうから、しばらく海べりに座って海でも見てろ。」
「・・・はい・・・」
「後お前、多分無意識だと思うが拳に微妙にヴィスファランクかかってたぞ。
 俺はともかく他の人間にその勢いで殴ると大怪我になるからちょっと気をつけろ。」
「ごめんなさい・・・。」
「謝らんでいいから、よけいな心配せんでくれ。」
「はい・・・。」


アメリアと並んで黙って海を見る。
今日も空には月が見える。当たり前だが昨日より少しかけた月。
今日、昨日より気持ちよく月が見えているかは、正直よくわからない。
ただ多分、明日は今日より気持ちよく月を見られるだろう、なんとなくそんな気がした。


//////////////////////
言い訳とか:
なんでRevoアメリアはゼルをどつけるのか。その行間を埋めないといけない気がした。こういう奇跡はどうだろう的な(汗)。

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33796行間_21_ENDmaho 2008/11/3 19:59:01
記事番号33784へのコメント

前回、20は勢いで投稿しました。書き殴った勢いで・・・もうちょっと推敲すればよかったです。
NEXTのドラゴン料理でアメリアゼルしめてるじゃん・・、とかTRYで体重聞かれてどついてるじゃん・・
と、思い返すといろいろあるけど、
・・・なんというかこうRevoのアメリアはゼルに突っ込めるようになってる所がRevoでの進歩みたいに思ってます。

もうさわやかに出航する以外小ネタしか思い浮かばなかったので、ここで締めてみます。
ワイザーさんのキャラ立ちがよく分からなかったので・・・とりあえずスルーしました・・・。
こんなんでなんかすみません。誤字脱字も多いですし、本当に申し訳ないです。
見てくださっている方、(とくにaさん)ほんとにありがとうございます。
/////////////////////////

「ゼルガディスさん!今日も月がきれいですよ!!」

真っ赤に空を染め落ちていく日の光にアメリアが歓声を上げる。
まったく、どこからそんなパワーが沸いてくるのか・・・。

「あぁ。」
「そういえばゼルガディスさんと2回目に再開したのも、ゾアナでしたよねー。」

今日は朝から重装歩兵部隊をどの艦隊に乗せるかという無意味に時間のかかる会議を、
頭の固い艦長たちとの2時間の話し合いの末、結局アメリアの鶴の一声で決定という実にくだらない会議をした。

「あぁ。」
「あの頃は、ゼルガディスさんがゾアナに雇われてて、私達敵味方での再会でしたねー。」

昼から、おそらく自分達が活躍する機会は来ないであろうことを自認している
士気の低い重装歩兵部隊の小隊を向かえた。その小隊の士気の低さを見てアメリアは必死に叱咤激励していた。

「あぁ。」
「もう街にあの頃の面影は無いですけど、なんだかすごく懐かしくて嬉しいです。
 ゼルガディスさん、そこに座りましょうか!」

その後また、昨日まったく話が進まなかった航海ルートを決めるための会議があった。
結局昨日と同じ。結論を明日に持ち越すことが決定した・・・。そんななんとも無意味な会議を終えたところだ。

「あぁ。」
「・・・ゼルガディスさん、昨日殴ったこと実はちょっと怒ってます?」

だというのに、どうしてこんなにこのお姫様は元気いっぱいなのか。
どっからそのパワーが沸いてくるのか・・・少し分けてほしいものだ。

「あぁ。」
「ごめんなさい・・・これからは気をつけます。」

俺はこのイベントに加えて、前髪に隠れた右頬の腫れをザングルスに目敏く見つかってしまい
朝から『アメリアにいったい何をした?』とあの夫妻に問い詰められもうぐったりだ。

「あぁ。」
「・・・・・・ってゼルガディスさん、話聞いてます?」

まったく・・・俺は何もしてない。俺は・・・・・。

「あぁ。」
「・・・・・・・・・って、ぜんぜん聞いてないじゃないですかー!!」
「あぁ。」
「・・・・・・もういいです。」
「まぁ、それなりには聞いていたぞ。」
「・・・どっちなんですかー。もー。」

そんなアメリアの声を聞きながら、月を見る。
昨日から、また削れた月。セイルーンでみた時から比べると、随分と不恰好に削れた月。
でも、今日は昨日より、一昨日より気持ちよく見れている気がする。

「ゼルガディスさんは月ばかり見るんですね。」

アメリアがそんなことを言い出す。

「昨日はきれいな夕日が見えたのに、鳥しか見てなかったですし。」
「この辺の海鳥の生態系は面白いぞ。」
「太陽も見たほうがいいですよー。太陽が無いと月は光らないんですよ。」
「船が出たら毎日見る。」
「測量のためじゃないですかー。」
「太陽を見るのは正義のヒーローだけでいいだろ。」
「・・・じゃ、私が太陽を見てますから、ゼルガディスさんは月を見ててください。分担です。」

相変わらず分かったような、分からないことを言う。

「でもついに、正義の仲良し4人組再結成ですね!!
 前回は公務をめちゃくちゃにしての再結成、前々回は公務中がうまくいかなくての再結成・・・
 やっと、セイルーンの公務として堂々と正義の仲良し4人組を結成できます!!」
「・・・・・・別にかまわんが、お前はそれを不安に思わなくていいのか??」
「ゼルガディスさんもいますし、今回は大丈夫ですよ!」

リナとガウリイ、それにアメリアと俺が揃って平穏な時間が流れたためしが無いというのに。
・・・まぁ、不安に思うのは俺担当というのも面白いか。

「じゃあお前は楽しみに思う係り、俺は心配する係りで分担だな。」
「それは分担するところじゃないじゃないですかー。
 確かに、リナさんとガウリイさんと再会して何もない事なんて無かったですけど・・・
 それでも楽しみだし、早く会いたいです!それはゼルガディスさんもじゃないですかー?」
「まぁ、そうだが・・・。」



「じゃあ、いいじゃないですか!早く明後日になるのを待ちましょう。」


そう言って、アメリアは天を仰いだ。
月が欠けた分星がよく見える。天の川の中を、ほうき星がきらりと駆けるのが見えた。

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「ワイザーさん、なんだかつかみどころのないおじさんでしたねー。」
「そうだな。」

今日も海べりを歩く。午後からルヴィナガルドのワイザー・フレイオンに会って、
それからまた航路を決める会議を行った。・・・結局、それが終わったらもう日が落ちていたが
息抜きにと言うアメリアと一緒に船を目指して歩いている。

「でも、会いたい理由が”リナさんたちに頼みたいことがあるから”って事で一安心です。
 マルチナさんじゃないですけど、逮捕するために追ってるんじゃないかと思ってちょっと心配してたんですよー。」
「逮捕するために追ってるなら、追っ手を紹介できる人間にそれを言ったりしないだろ。」
「・・・・・・ってことは、ゼルガディスさんは実はリナさんたちを追ってると思ってるんですかー?」
「まぁ、それはないだろうけどな。・・・ルヴィナガルドの国力でセイルーンに喧嘩を売るような真似はできんだろう。」
「もー、びっくりさせるようなこと言わないでくださいよー。」

だからといって安心できる相手ではないように思う。
頼みたいことが何なのかはこちら側には教えられないというのだから、我々に都合の悪いことを頼みたいのかもしれない。
・・・まぁ、リナとガウリイなら、面倒な頼みはあっさり断るだろうが。

そんなことを思いつつ前を見る、前を歩くアメリアの黄色いシフォンのスカートがふわふわと揺れている。
今日アメリアは一日ドレスだ。外に出る行事も無く、他国の使者に会うからという事なのだろう。
歩きなれているようではあるが、やはりヒールでは歩速が落ちるようで、俺は少し後ろから後をつけるように歩いている。

「今日は一日ドレスだったな。」
「他国の使者の方に会うんですし、正装したほうがいいかと思って。
 ・・・まぁ、明日から結局巫女装束なんですけど。でもやっぱり女王ですから、第一印象は良いほうがいいと思って。」
「第一印象だけにならんといいがな。」
「どういう意味ですか、それはー。」
「そのまんまの意味だ。」
「・・・もー。」

そう言って器用に前を駆け、空を仰ぐ。今日も月が浮かんでいる。

「お月様、だいぶん欠けちゃいましたね。」
「そうだな。・・・まぁ、その分星がよく見える。」
「そういえばそうですね。明日になればもっと星が見えますね。」
「そうだな・・・早く明日になると良いな。」

「───はいっ!!」

そう言って、満面の笑みを俺に向ける。その笑顔に、かなわないなと思いながら、少しだけ笑い返した。


=*======*======*======*======*======*=


兵士たちが忙しそうに、船の帆を大きく張り、碇をあげる準備をしているのが見える。
アメリアの号令ひとつで、もう出発だ。

「ゼルガディスさん、ついに出航ですね!」
「そうだな。」
「リナさんたちに、早く会えるといいですね。」
「あいつらの行動は目立つから、海辺の街でマメに情報を集めれば直ぐだろう。
 ルヴィナガルド領に向かってるってのが少し気になるが・・・まぁ、細かいことは行ってみにゃわからん。」
「そうですね・・・じゃあ、出発しましょうか!」
「あぁ。」




「総員配置に付け。全船団防御陣形。───正義は我にあり!いざ、出航!!」





アメリアが、左手の軍配を雄々しく振りかざし各艦に指示を与える。ゆっくり動き出す船。
メガホンを握る右手首のあのアミュレットは、太陽の光を反射して小さく輝いている。
初めて外の世界に出た時とおなじ青い空と、海と、アメリアの声。

これから始まる旅がどうなるかはよく分からない。
なにしろ、リナとガウリイに会いにいくのだから。
またあっという間に、冒険の渦の中に俺たちを巻き込んで行くのかもしれない。
でもそれが少し楽しみで、甲板の先に立つアメリアの背中を見てこっそり笑った。


新しい旅が、始まる───。





END.

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あとがき的な言い訳:

なんか最後ゼル視点ばっかりなんですが、なんとなくそのほうがいいかと思ったので。
アメリア視点とか、重装歩兵部隊員A視点とか、ワイザーさん視点とか、ザングルス視点とか、マルチナ視点も考えたんですが・・・

小ネタばっかりできれいにまとめられず・・・(って、これまでもさほどきれいに纏まってないですが)
これでRevoゼルアメへは十分つながる気がするかも・・・
無理に広げるとぼろが出るかも・・・
Revoも終わっちゃったし、いい加減〆たほうがいいような気も・・・と思ってこんな形になりました。

誤字脱字ばっかりの私の拙い妄想物語にお付き合いいただけた皆様、大変ありがとうございました。
(誤字脱字と文章をちょこちょこ訂正したものをどこかに場所とって載せなおしたほうがいいか検討中です)
とくにコメントをいただいたaさん、大変励みになりました。本当にありがとうございました!!!

とりあえずこれで全部なので、突っ込みどころ等、感想・ご指摘ありましたらいただけますと
次回(あるのか?)の参考になるので嬉しいです。
(手紙あたりの世界観がもう全力で妄想なので(汗)、その辺突っ込まれると痛いんですがw)


最後になりましたが、このような掲示板を設けてくださっている一坪様、大変ありがとうございます。
おかげさまで、こんな文章ですが公にする場を頂けました。大変感謝しております。

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33797Re:行間_21_ENDa 2008/11/5 21:49:58
記事番号33796へのコメント

ついに終わったんですね、お疲れさまでしたー!
いつも楽しみに楽しみにしていたので、終わったのが少し残念な気もしますが、楽しい21話を本当にありがとうございました。今からもう1回1話から読み返してみます、また気が向いたらゼルアメ書いてください。最後にもういちど、ありがとう&お疲れさま。

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