◆−蛇の道も、また蛇−とろろそば (2008/9/3 19:06:20) No.33677
 ┗補足:蛇の道も、また蛇−とろろそば (2008/9/3 20:07:58) No.33678


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33677蛇の道も、また蛇とろろそば 2008/9/3 19:06:20


はじめまして。
皆さんの素敵小説を読みながら衝動が抑えきれなくなったので、
投稿させて下さい。

・小説5巻と6巻の間にこんなことがあったらいいなという欲望の産物です。
・ゼラゼロ、フィブゼロを含みます。
・15巻未読ですので、獣王様の口調がねつ造です。
・加えて、容姿はアニメ設定です。

それでもOKな方、読んでいただけると嬉しいです(^-^)

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おかしな話だ。
ぴくりとも動かせない指先を横目でちらと掠め、
頬の横をパタリと流れていく自分の髪を見送って、
獣神官ゼロスは目の前の存在に向き合った。
背中には、大地。
本日は、晴天なり。

第三者が見たら、相当滑稽だろう。
中肉中脊、とはいえ20代の男性である自分が、
華奢で、一見すると少女とも取れるような少年に組み敷かれているのだ。
とはいってもここは人間界ではないのだから
この状況を奇異に思うような輩は存在するわけもなく、
誰かの目についたとしても呆れか好奇の感情が返ってくるだけである。
それでも、なんとなく周囲の気配を探った自分に対して、
ゼロスは意識の隅だけで小さなため息をついた。
己の、なんと、人間界に馴染んだことか。

「ゼラスなら、いないよ。」
元凶である少年、といってもそれは外見だけで、中身は魔王シャブラニグドゥの腹心
冥王フィブリゾであったりするのだが、彼はそんなゼロスの行為をそう解釈して告げた。
曰く、助けは来ないと。

「はぁ」
と、とぼけた表情のままゼロスは気の抜けた返事を返す。
それはまあ、名前の半分を与えたと言われるくらい、
そして他の存在に力を分散させず自分だけを作ったというくらいだから、
それなりに大事な部下としては扱われているかもしれないが、
仮に今ここに創造主がいたとして、果たして救いの手は差し伸べられるのだろうか。
ひょっとすると案外今もどこかでこの状況を見ていて、
これは面白いと仕事を放り出したまま、
先日手に入れたという年代物のワインでも傾けつつ、
高みの見物を決め込んでいるような気もする。

いずれにせよその間に滞った仕事のほとんどがゼロスに押し付けられるわけで、
出来れば助けに来ることも、知られることも、あって欲しくないと、
自分が魔族であることを忘れて、赤い竜の神に祈りたくなった。

「何を考えてるんだい?」
ややあって、目の前の元凶が口を開く。
一ミリグラムの感情も熱量も乗っていない声に、
ゼロスはフィブリゾの真意を求めてその顔をじっと見つめた。
見返してくる瞳はどこまでも深く、表情からも何かしらを読み取ることはできない。
それでも自分より高位の者に問いをかけられて返さないのも失礼だろうと考え、
ゼロスは答えた。

「仕事のこと、」
―――――になるんでしょうか。
付け加えられた語尾は弱々しく、それでも疑問符をつけるには至らない。
しかしフィブリゾは―問いかけたのは自分であることもわすれたかのように―
ふうん、と、気の入らない返事をしたっきりふいと目をそらし、
ゼロスのコートを裏返したり、賜杖を手にとってくるりと回したり、
腰に巻きつけたベルトの構造をまじまじと見つめるだけである。
ちょうど腹部にまたがるフィブリゾの重みは皆無に等しく、
さっきまで押さえつけられていた両手もすでに自由なのに、
相も変わらず指一本動かすことが出来ないのは、
彼がアストラル体に何か術でもかけているのだろうとゼロスは一人納得した。
しかし、そろそろ飽きてきてくれないだろうか。

このままでは主の許へ行くことが出来ない。
そもそもゼロスは先ほど獣王から命じられた人間界での仕事を終えたばかりで、
空間を渡って群狼島へ報告に戻ろうとしたその矢先に勝手に座標を捻じ曲げられ、
気がついたら「ここ」にいたわけである。
情けないことに「ここ」がどこなのか皆目見当もつかないが、
気がついたらフィブリゾが背後におり、
気がついたら足払いをかけられてこの状態なのだから、
犯人は彼であることに間違いはないだろう。

そして、さっきから体のあちこちをさも興味深そうに調べているこの誘拐犯は、
あれから一言も発することはない。
いったい何を考えているのか。
確かに、冥王と獣神官という立場柄滅多に顔を合わせることはないが、
それでも約1000年前の降魔戦争では共に戦線を張りもして、
今さら「はじめまして」の挨拶を交わすような間柄でもないはず。
それなのに、何故。

思索に浸るゼロスの意識を呼び戻したのは、突然左耳に与えられた刺激だった。
「……っ!」
どうやらひどく乱暴に引っ張られたらしく、
手が放された後もジンジンとした痛みがすぐに消えることはない。
抗議の意味を込めて視線を上げると、
今度はやけに優しい手つきで大地に散らばった紫紺の髪を一房持ちあげ、
そのまま、はらりと地面に落された。

「…冥王様?」
「君にしては芸が細かいじゃないか。」
困惑のまま声をかけると、侮辱とも賞賛とも言えない言葉が返ってくる。
さらに輪をかけられた困惑に言葉が見つからず、ありがとうございます、
と言えば、ピタリと手が止まり、馬鹿にしたような笑みのまま見つめられた。
「でも、足りないね。」
今度は目をそらされない。
ゼロスの胸を妙な圧迫感が襲う。
恐怖か、怒りか、誘発されたものか、自分で生んだものか。
いずれにせよ、目の前の相手には感付かれたくないと思った。
例え彼が自分で食事をしようとしているわけではないとしても。

「足りない、と申されますと?」
まとう感情に困惑以外のものをにじませないようにして、
いつもの人好きのする、でも胡散臭い笑顔を作って首をかしげると、
フィブリゾはつまらなさそうにため息をついて立ち上がる。
「もう帰っていいよ、動けるようにしたから。」
腕に力を入れてみると、言われたとおり
先ほどまで微動にもできなかった体がするすると持ち上がった。

立ち上がり、―――その必要もないのに、
黒い神官服についた土や草を払う仕草を見せるゼロスに、フィブリゾは目を細めて笑む。
愛らしいはずの少年の顔が一瞬にして昏いものに変わり、
穏やかだった空気が一転して瘴気をまとい始めた。
どこのものとも分からない下位魔族がそれだけで滅びたのを、
ゼロスは意識の遥か隅で捉える。
たまたま通りかかったのか、それとも訳あってここにいたのか、
自分たちを見ていたのか、知る由もない。
滅びの間の断末魔さえ上げられぬうちに溶けたのだから。
それに、ゼロス自身も他の存在にかまっている余裕はなかった。
いくら獣王から一心に力を与えられたとは言え、
呑気な顔でこの瘴気の中に長時間居続けることは命取りに等しかった。
胸の圧迫感が重みを増す。
さすが腹心の中では最高の力を持つ冥王様です、と思ってはみても、
事態解決の糸口にすらならない。

それでも、もう帰っていい、と言われたのだからこのまま姿を消しても
機嫌を損ねることはあるまい。
ゼロスはそう判断して一つ瞬きし、では、と一礼をする。
そうして空間を渡ろうとした瞬間、フィブリゾに名前を呼ばれた。
「はい?」
いい加減にしてくれと思いかけた自分を叱咤して、向き直る。
「タリスマン、売り払ってくれたんだって?」
一つ、また瘴気が厚くなる。

先日任務先で出会った人間の娘に売る羽目になった、
キャパシティを増幅するための道具。
元の出所に思い至って、背筋が凍る。
「僕がゼラスにあげたんだよ。」
いや増した瘴気に、ギリギリと己を締め上げかねない胸の重みに、
ゼロスは器用にも汗をかいて見せた。
「ちょっと訳がありまして。」
売り払ったことを知っているなら、
そうせざるを得ないあの状況だって見ていただろうに。

何も言わずにフィブリゾが一歩近付く。
意味のないことだし、やってはならないと思いながらも、
自然に足を一歩後ろへと引いていた。
息が詰まる、とはこのことか。
普段息をすることもないくせに思った。
また一体、先ほどと同じように何処かの下位魔族が滅んだのを意識の端にとらえた。
胸の圧迫感は止む様子もなく、このまま自分も滅んでしまうのかもしれない。
他人事のように考えて眼を開け、瘴気に当てられすぎたのか、
くらくらする世界を見つめようとした。
魔族にとって滅びは喜び。
その辺の神族や訳のわからない人間ではなく、
冥王に引導を渡していただけるだけありがたいのかもしれない、が、やはり、
――――最後に獣王様にご報告申し上げたかったですねぇ。
静かに目を閉じて意識を手放そうとした。
その瞬間。

「ま、よくやったよ」
ふしゅる、と音を立てて瘴気が消える。
先ほどまでの陰りも失せ、今やフィブリゾは笑顔であった。
「……………はい?」
思わず間抜けな声をあげていた。
「ああ、なんで君ってそんなに察しが悪いかな、やんなるよ。」
さっさと帰れ、と言いながら手を振るフィブリゾ。

何なのだ、先ほどと言い、今と言い。
ひきつる口元を精一杯抑え、失礼しますとだけ声をかけて、
後は何も見ようともせずに空間を渡る。
胸の圧迫感はすでに消えていた。




「―――今回の報告は以上です。」
そう言ってゼロスは深々と頭を下げる。
滅びの瀬戸際にあって、最後に想った存在に、獣王に、頭を垂れる。
「ゼロス。」
ゆったりとした声が、名前を呼んだ。
「――――面を挙げよ。」
「はい。」

命じられるままに顔をあげると衣擦れの音がして、
意外なほど近くに獣王は、いた。
そのまま、これもゆったりと、右手を伸ばすと、そっとゼロスの紫紺の髪を撫でる。
ひと房摘まんで息を吹きかけられると、しゅう、
と何かが吹き飛んで、そのまま闇に消えた。
「フィブの機嫌が良かったようだな。」
「理由はよくわかりませんが、その様です。」
危うく滅ぼされるかと思いました。
軽く告げて眉をハの字に下げる。

獣王は、ふ、と微笑んでゼロスを覗きこんだ。
頬をさらりと揺れて掠めたのは、絹糸のような金糸。
「ヤツは苦手か?」
いえ、そういうわけでは、と言おうとして獣王と視線がぶつかった。
闇色の瞳には自分が映っている。
「……少々。」
創造主に隠し立てなど、できるわけもない。

そう答えた途端に、獣王がにやあ、と口角を歪めた。
「…………獣王様………?」
もしや………?
たっぷり10秒間経って、ゼロスは愕然となる。
目を見開いて、同時に背筋を冷たい物が走り抜けていくのを感じた。
「フィブがお前を借りたいんだと。」
「獣王様……!!」
心から楽しそうに獣王が笑い、盛大に肩を落としたゼロスが目に涙を浮かべる。
いつの間にか玉座に戻った獣王は、笑んだ顔のまま、
「ゼロス」
と、再度名前を呼んだ。
「はい。」
のろのろと顔を上げるゼロス。
目の前の獣王はひじ掛けに頬杖をつき、面白そうにこちらを見つめてくる。
自分は返ってきたばかりなのに、やっかいな人間を相手にしてきたばかりなのに、
仕事は自分を放っておいてはくれないのだと諦めかけたその時、
信じられない言葉を聞いた。
「お前に一週間の休暇をやろう。」
驚愕に、再度眼を見開く。
「―――――とフィブからの伝言だ。」
ただし、人間界で、人間の生活を学びながら。
と付け加えて。

「…あの方は謎ばかりです。」
なぜか既観感を覚える眩暈を起こして、ゼロスはうめいた。
「そうでもないさ。働く前から休暇をくれるなんて、案外いい上司かもしれないぞ。」
あなたがそれをおっしゃいますか。
つい口走りそうになった言葉を心の片隅に固く固く引きとめる。
しかし意外にも、ふう、とため息をついたのは獣王の方で。
「今回の目的を私の口から説明することはできん。
 が、楽な仕事でないことは確かだ。くれぐれも気を抜くな。」
「はい。」
その言葉を最後に、一礼する。
しかし、そのまま座そうとするゼロスに向かって獣王は再度声をかけると、
「忘れるな。お前は私の部下だ。」
そう告げて空間を渡った。

残されたゼロスは、何もない空間に向かって再度深く一礼し、
「必ず戻ってまいります。」
と短く答えて、彼もまた、空間を渡って消えた。




一週間後、彼は紫紺の髪をさらりと風にあそはせながら、フィブリゾの前に立つ。
人好きのする表情をその顔に貼り付けたまま。

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33678補足:蛇の道も、また蛇とろろそば 2008/9/3 20:07:58
記事番号33677へのコメント

色々と捏造が過ぎるので、いくつか補足をさせて下さい。


・何が足りないのか

もう随分人間くさいけど、高位魔族たるもの人間の姿は完全に真似すべし。
動いたり風が吹いたりすると、人間の髪はさらりと動くんだよ!
一週間人間界で勉強しておいで!!(by フィブ)
→いえ、ゼロスくんもそれくらい既にご承知とは思うのですが。



・タリスマンの出所

一応、遥か古代に作られて埋もれていたものをフィブリゾが見つけ、
それをゼラスにあげた、という設定です。
→完全にねつ造です。
公式をご存知でしたらどなたか御享受下さい(汗)

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