◆−古今東西迷作劇場−早生みかん (2008/8/8 23:43:12) No.33632
 ┣古今東西迷作劇場2−早生みかん (2008/8/10 13:17:59) No.33635
 ┣古今東西迷作劇場3−早生みかん (2008/8/11 23:14:59) No.33644
 ┣古今東西迷作劇場4−早生みかん (2008/8/12 22:07:58) No.33646
 ┣古今東西迷作劇場5−早生みかん (2008/8/14 23:28:15) No.33647
 ┣古今東西迷作劇場6−早生みかん (2008/8/15 22:05:15) No.33648
 ┣古今東西迷作劇場7−早生みかん (2008/8/19 22:00:03) No.33651
 ┣古今東西迷作劇場8−早生みかん (2008/8/22 21:31:07) No.33654
 ┣古今東西迷作劇場9−早生みかん (2008/8/29 22:07:04) No.33664
 ┃┗Re:古今東西迷作劇場9−煮染 (2008/8/30 01:16:03) No.33665
 ┃ ┗ありがとうございます!−早生みかん (2008/8/31 22:57:45) No.33672
 ┣古今東西迷作劇場10−早生みかん (2008/9/4 21:31:20) No.33680
 ┣古今東西迷作劇場11−早生みかん (2008/9/11 21:41:55) No.33687
 ┣古今東西迷作劇場12−早生みかん (2008/9/19 21:35:52) No.33703
 ┃┗Re:古今東西迷作劇場12−煮染 (2008/9/19 23:35:32) No.33704
 ┃ ┗ありがとうございます!!−早生みかん (2008/9/21 23:01:38) No.33711
 ┣古今東西迷作劇場13−早生みかん (2008/10/1 22:43:32) No.33734
 ┣古今東西迷作劇場14−早生みかん (2008/10/7 21:29:56) No.33758
 ┣古今東西迷作劇場15−早生みかん (2008/10/9 22:20:12) No.33762
 ┗古今東西迷作劇場 ―閉幕の後で―−早生みかん (2008/10/9 22:24:36) No.33763


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33632古今東西迷作劇場早生みかん 2008/8/8 23:43:12


初めて投稿させていただきます。
新参者ゆえ、稚拙な文章表現、また万が一どなた様かとのネタ被りなどがございましたら、申し訳ありません。念のため、先に謝らせていただきます。すいません。

―――――――――――――
「Lina in Wonderland」

 あたしは追いかけていた。
 いや、だからどーした、と言われても困るんですけど……。
 事の起こりは、あたしの元に届いた一通の手紙。
『リナ=インバース様、あなたを今回の主役に任命します。
 詳細は、同封の台本を参照のこと』
 とだけ書かれた、くそいー加減な手紙と共に入っていた、一冊の台本。
 中を開いてみれば……。
『白ウサギが急いで目の前を通り抜けて行き、それを追いかける』
 以下、空白。分厚い台本一冊、丸々空白。
 ……おい。
 ふざけるな、と思ったのもつかの間。
 なんとあたしの目の前を、その白ウサギが走り去っていったのである。
 いや、果たしてあれを、白ウサギといっていいのかは疑問なのだが……。
 確かに、頭の上に長く伸びているのは、白いウサギの耳ではあった。
 が。
 その持ち主は、どう見たところで、赤い法衣に黒い髪、しっかりと閉じられた両のまなこ、あたしの知っている赤法師レゾ、その人だった。
 ともあれ、あの赤法師レゾが、ウサ耳つけて走っていくこの事態に、好奇心が働かないといえば嘘になる。
 かくしてかくして、あたしは、台本の通り、白ウサギもどきを追いかけることにしたのであった。

「おーい、レゾぉ?」
 あたしの呼びかけにも、返事はない。
 あの後。
 白ウサギもどきは、あたしの目の前で、とある木の根元にある穴へと消えていった。
 穴に向かって呼びかけてみたのだが、返事がないというわけ。
 ……どうしよっかなー。
「えいっ!」
 こうなりゃ、女は度胸!
 あたしは、思い切って穴の中へと飛び込んだ。
 ……って。
「うひゃああぁぁぁっ!?」
 なんかものすごい勢いで落下してるうぅっ!?
 どすんっ。
「っててて……」
 気がついたとき。
 そこは、穴の中などではなかった。
「家……?」
 あたしがいた場所は、一体いつの間にか、いわゆる民家の一室だった。
 ベッドに本棚、机に椅子。机の上には、湯気の立った香茶にクッキー。
 ぐぎゅるるる……。
 あたしのお腹が、音を立てた。
 はしたない、などと言うなかれ。
 こんなにおいしそうな香りをかがされて、食欲を刺激されないほうがどうかしているはずである。
「ひとつくらい、いいわよね。いっただっきまーす♪」
 ぱくっ。
 あたしがクッキーをひとつ口に放り込んだ途端。
 それは、起こった。
「!?」
 見る間に小さくなっていく景色。
 いや、違う……。
 あたしが大きくなっているのだ!
「なんなのよ、これ……」
 巨大化したあたしは、部屋の中にぎゅうぎゅうに押し込められる形になっていた。
「おやおや?」
 部屋の外から聞こえる声。
 この声は……!
「レゾ!」
「ふむ。巨大なあなた、どうやら言葉は通じるようですね」
「何をのん気なことを……」
「言葉が通じるのなら、早い。そこは私の家なので、どうか出て行ってはいただけませんか?」
「出れるもんならとっくに出てるっつうの! 出られないのよ、見てわかんない!?」
「それはそれは……困りましたね」
 のほほんというレゾ、もとい白ウサギもどき。
 本当に困ってんのかしら……?
「どうした、何かあったのか?」
 新たに聞こえてくる声。
 部屋に押し込められているあたしに外の様子は見えないが、この声は……。
「ああ、これはドードー鳥さん。いえね、私の家に巨大な生物が出現したもので、どうしようかと思っていたところなんですよ」
 ど、ドードー鳥ぃ?
 あの……、今の声、どう聞いても、魔竜王ガーヴのものだったんですけど……?
「そうか、それは大変だな。よし、ラーシャート……じゃない、トカゲのビル!」
「はっ」
 いや、あんた……今、確かにラーシャートって言ったわよね?
「ちょっくら、中の様子をのぞいて来い」
「よろしくお願いします」
「はっ」
 応える声に、ドアががちゃりと開けられて。
 ぼすん。
 外から入ってきた何か――おそらく、トカゲのビルことラーシャート――は、まともにあたしにぶつかった!
「ガーヴ様……じゃない、ドードー鳥さん、どうも、中にいるのは奇妙な生物のようです!」
 むか。
 大根役者の分際で、このあたしを奇妙な生物呼ばわりぃ?
 許せん!
「だぁれが奇妙な生物よ!風魔咆裂弾(ボム・ディ・ウィン)!」
 びゅごうっ!
「うぎょああぁぁぁ!」
 あたしの魔法が生んだ強風で、あっさり飛ばされていく、トカゲのビルことラーシャート。
 ざまーみろ。
「って、あれ?」
 魔法を放った直後。
 あたしの体は、最早巨大ではなかった。
 いやむしろ、前より縮んでいるような……?
 机とか、下から見上げちゃってるし。
「なんだかよくわからねぇけど」
「巨大生物はいなくなったようですね、よかったよかった」
「だな」
「では、私は先を急ぐので、これで」
「おう、俺ももう行くとするわ」
 言って、遠ざかっていくふたつの気配。
「ちょっと、待ちなさいよぉ!?」
 開きっぱなしのドア(あたしにとってはとても大きい)から、よてよて這い出ていくあたし。
 しかし、そこには、最早なんの人影もなかった。
 ……見失っちまったでやんの。

「ったく、ここは一体どこなのよ?」
 あたしは、うっそうと緑の茂る中を歩いていた。
 当たりにそびえる草達は、すべてあたしよりも背が高い。というか、あたしが縮んじゃったみたいなんだけどね。
 うう、ただでさえ、あたし、ちょっと小柄なのに……。
「おい、そこの!」
 上がった声に目をやれば、そこには一輪の巨大な花。
「花? 今喋ったの、この花?」
「花が喋って悪いか!?」
「うああ!?」
 よくよく見れば、花の中央部分には人の顔……って、これ、シェーラぁ!?
「あんた……何やってんのよ、花の着ぐるみなんか着ちゃって」
「う、うるさい! そういう役になっちゃったんだから、しょうがないでしょう!?」
 顔を赤らめ言うシェーラ。
可哀想な奴……って、「役」?
「なぁに? じゃあこれ、全部お芝居ってわけ? あたしのところに送られてきた、台本の劇ってこと?」
「答える必要はない!」
 言い切るシェーラ。
 うーん、相変わらず短気な。
「とにかく! あんたはこれから、この道をまっすぐ行けばいいんだ!」
「真っ直ぐ、ねぇ……。けど、道っぽいものはこれしかないんだから、あんたに言われなくても、あたしはこの道を真っ直ぐ進んでいたわけで。あんた、出てきた意味ないんじゃない?」
「う、うるさーい! いいからさっさと行けぇ!!」
「はいはい」
 叫ぶシェーラの声を背景に、あたしはとっとと歩き始めたのだった。

「そこの人間、しばし待たれよ」
 ひとり歩いていたあたしに、声をかけてきたものがあった。
「あんた……えーっと、獣王ゼラス=メタリオム?」
 声の主は、金髪を短くまとめ、旅人風の衣装に身を包んだ女性。
 ただし、上半身は。
 その下半身は、なんと、うねうねと動く、イモムシさんの着ぐるみだったりする。
「役の上では、イモムシ、ということになっている」
 手にしたキセルから煙を漂わせながら、淡々と答える役名イモムシ。
「これもお芝居の一環ってわけね……」
「そうだ。さて、私が言うべきセリフはこれだけだ。
 『片方を食べれば大きくなり、片方を食べれば小さくなる』」
「……は?」
「以上だ。では、私はこれで失礼する」
 言うなり、獣王……じゃない、イモムシの姿は、虚空へと掻き消えた。
 と入れ替わりに、金色の蝶々が現れ、あたしの横手に生えている、キノコの周りを飛び回る。
「片方を食べればって、まさか、このキノコのこと?」
 確かに、赤いキノコと青いキノコ、二種類のキノコが生えている。
 さて、どうするか……。
「まあ、食べてみて、毒なら毒で吐き出せばいいだけよね」
 幸い、あたしはゆっくり食べれば、毒かどうかの判断できるし。
 あたしは、とりあえず、赤いキノコをむしりとり、一口かぷりとかじってみる。
 と。
「あひゃああぁぁっ!?」
 見る間に景色が小さく、いや、あたしの背丈が伸びていく!
「本当に……『片方を食べれば大きく』なったわね……」
 しかし、これ、大きくなりすぎだろ……。
 あたしの背丈は、今や、にょきにょき生えてる木々を、見下ろせるほどになっていた。
「ちょっと、そこのあなた!」
 あたしの耳元で聞こえたこの声は……。
「アメリア!?」
「いいえ! 今の私は、愛と平和の象徴、ハトです!」
 言って胸張るアメリアは、確かに、白い鳥の着ぐるみにその身を包んでいた。
 彼女が体を動かすたび、ふわふわと、作り物の羽が抜け落ちていく。
「あんたねぇ……恥ずかしくないの? そんな格好して」
「恥知らずはあなたの方です! こんなに大きくなって……。この大きさでは、他の森の生物を踏み潰しかねません! すなわち、これは悪です!」
 浮遊(レビテーション)の呪文でも使って浮いているのだろう、ハトアメリアは、空中でポーズを決めながら、口上を述べる。
 あたしは、それを無視して、小さく呪文を唱えた。
「爆煙舞(バースト・ロンド)」
 ちゅどーん!
「うにゃあぁぁぁ!!」
 あたしの呪文で、見事にバランスを崩し、吹っ飛んでいくハトアメリア。
 アメリアのくせに、あたしに説教たれるからよ!
「さて、と……」
 といっても、あたしもこの大きさのまま、当たりを闊歩するつもりはない。
 あたしは、なんとかかがんで、青いキノコをつまみ上げると、さっきよりも小さく一口かじってみた。
 しゅっ。
 途端に、当たりの景色が変わった。
 木々はあたしの背よりも上にあり、足元に茂る草花は、ちょうどあたしの膝下くらい。
「……ま、こんなところね」
 さて、これからどうするか。
 道はまだ伸びているし、この劇の主催者は、あたしをどこかへ連れて行きたいらしい。
「さてと、黒幕に会えるかもしれないし、とりあえずは、お芝居につきあってやりましょうか」
 キノコで大きさを調整したあたしは、ひとまず、道なりに歩を進めることにしたのだった。

「でっかい屋敷ぃ……」
 目の前にそびえる建物をみて、あたしは思わず呟いていた。
 とりあえず道に沿って来てみたところ、現れたのがこの建物。青系の色で統一された、所々に水の生き物の彫刻が施されている、いわゆる豪邸だった。
「いらっしゃいませ」
 突如した声に目をやれば、屋敷のドアを開け、佇む老人。
「あんた……ラルタークだっけ?」
「今は一介の召使いでございます。さ、どうぞ中へ。公爵夫人がお呼びです」
 言って、召使いのラルタークは、あたしを屋敷の中へと招きいれた。
 どうせお芝居なんだし、と、あたしは大人しくそれに従う。
 通されたのは、青いドレスに身を包んだ、長髪黒髪の女性がいる一室。
 今度は、海王ダルフィン、ね……。
「で、あたしに何の用? 公爵夫人、だっけ?」
「ええ、ちょっとあなたに、頼みたいことがあるのですわ」
「頼みたいこと?」
「実はわたくし、これから出かけなければなりませんの。その間、隣の部屋にいる、あの子の世話をお願いしたくて」
「あの子?」
「では、頼みましたわよ」
「ちょ、ちょっと、待ちなさいよ!」
 言うだけ言うと、あたしの言葉を無視して、公爵夫人とやらは、部屋を出て行き、あっさりその姿をくらました。
 まったく……。
 あたしは仕方なく、隣の部屋へと足を踏み入れる。
 そこにいたのは……。
「冥王フィブリゾぉ? あんた、何やってんのよ、こんなところで?」
 年の頃十一、二歳、女の子と見紛うほどの美少年(?)だった!
 ただし、なぜか産着を着ていたりする。
「うるさい! 僕だって、好きでこんなことをやっているわけじゃないよ! お母様のいいつけなんだから、しょうがないだろ!」
「え、お母様って、まさか、この変なお芝居やらせてるのって……」
「とにかく、僕はこの後、ブタになってどこかに行っちゃえばいいだけの役なの!じゃあね、リナ=インバース!」
 一気に言うと、フィブリゾは、予告通りその身を一匹のブタに変え、部屋から出て行ってしまった。
 後に残されたあたしは、ただ呆然と佇むのみ。
 なんか……すごくひっかかるセリフを聞かされた気がしたんですけど……。
「おいおい、いきなり問題発言だよ、あいつ」
 頭上からの声に目をやれば。
「ま、あんたのことだから、今ので今回の黒幕、誰だかわかっちまったよな」
「ルーク!」
 シャンデリアの上に腰掛け、頭かきかき言うそれは、自称ラブラブカップルの片割れ、ルークだった。ただし、今は、似合わないことこの上ない、猫耳猫尻尾なんかをつけていたりする。
「あんたまで出てくるとはね。それにしても、その耳、尻尾……」
 あたしはこらえきれず、思い切り吹き出した。
「だああ! やかましい! 俺だって、やりたくてやってんじゃねえ! やらされてるんだよ! 『あれ』に!」
「いやあ、にしても、貴重なもん見ちゃったわぁ。ミリーナはこれ、見たのかしら?」
「いんや、俺の愛するミリーナなら、きっとこの姿の俺も、似合うわと言って誉めてくれるに違いない!」
 いや、いいのか? そんな姿を誉められて……?
「まあ、あんたのその愉快な格好はおいといて」
「てめえが言い出したんだろう!?」
「さっきあんたやフィブリゾの言っていたことが本当だとすると、このお芝居をやらせているのは……」
「ああ、そういうこった。だから、下手にさからわねぇほうがいいぞ。じゃあな」
 言うなり、ルークはその姿を忽然と消した。
 うーみゅ……。
まあ、あいつらにこんなことやらせられるのは、確かに『あれ』しかいないだろうけど……。
暗い気分になりながら、あたしは、誰もいなくなった屋敷を後にしたのだった。

 声が聞こえた。風にのって。それも複数。
「おーほっほっほっほ。こんなところでしょうか?」
「ふっ! まだまだ甘いわね。いい、ここはこうやるのよ。
 おーほっほっほっほっ!」
「おーほっほっほっほっ」
 聞こえはした……が、あたしは、瞬時にそれらを無視することに決めた。
 あたしが来たことにも気づかず、木陰に隠れ、台本片手に何故か高笑いの練習をしているナーガとメフィの横を、あたしはそそくさと通り抜けたのだった。
 あいつら、何の役だったんだろ……?

「これはリナさん、はるばるようこそ。どうぞ、こちらへ座って、香茶でもお飲みください」
「いーえ、リナさん、こちらで一緒に、お茶を飲みましょう!」
「あんたらねぇ……」
 カップ片手にあたしにそう話しかけてきたのは、黒髪にこ目、頭の上に、ちょこんと帽子を載せたゼロスと、長い金髪の隙間から、ウサ耳のぞかせているフィリアだった。
 もう、出てくる奴らの格好に、いちいちつっこむ気のないあたしだった、が……。
「なあぁんでこんなに長いテーブルセット使って、しかもその両端に座ってんのよ!?」
 そう。ゆうに三十人は座れそうなほどの長さの、細長いティーテーブルの右端にはゼロス、左端にはフィリアが、それぞれ腰をすえていた。
「と言われましても、渡された台本には、テーブルの端の席に座れ、としか書いてありませんでしたし」
「そうです、どちらの端とも書いてなんかありません! まして、こんな生ゴミと並んで座れ、だなんてことは、一言も書かれてはいませんでした!」
「だあぁ! あんたらは、どこぞの一休さんかぁ!!」
 ったく、相変わらず仲がいいんだか悪いんだか!
 あたしはとりあえず、中央の席――二人から等距離の場所の椅子に、座ることにした。
 途端。
「うわあぁぁぁ!」
「わあぁぁぁ! 何々、何なのよぉ!?」
 座ったおしりが、何か柔らかいものを押しつぶし、それがいきなり悲鳴をあげた。
 慌てて腰をひねって、今しがた腰を下ろした椅子の上を見てみれば、なんとそこには、水色の髪にネズミ耳をつけた赤ん坊……じゃない、ヴァルガーヴ!
「あんたまでいたの……?」
「いてててて……。座る前に、よく見ろよ……」
「あ、ごめんごめん」
 言ってあたしは、その隣の席に腰を落ち着けた。
 たいして考えもせずに座ったのだが、よく見れば、その椅子は、テーブルの半分からゼロス寄り。
 フィリアの顔が、ぴくぴくとひきつっているのがうかがえる。
 あちゃあ、折角真ん中に座ろうと思ったのに……。
「で、聞きたいんだけど、あたしはこれからどうすればいいわけ? 道なりに来たはいいけど、この場所で、道がなくなってるのよね」
 あたしは、それに気づかぬ振りをして、フィリアの方を見て話しかける。
「知りません。私たち……私はただ、ここでお茶を飲んでいろ、としか指示されていません」
「僕もですね。台本は渡されましたが、それには、衣装や場所についてのことしか書いてありませんでしたから」
「あんたはどうなの、ヴァルガーヴ?」
「俺なんて、いきなりこの格好でここに放り出されただけだぜ、知るわけないだろう?」
 うーみゅ……。わからず仕舞いか……。
 かといって、ここでのん気にお茶飲んでればいいってわけでもないだろうし。
「とりあえずフィリア、その台本とやら、見せてもらってもいい?」
「ええ、かまいませんけど」
 何かヒントがあるかもしれないと、あたしは席を立ち、フィリアから台本を受け取る。
「うっ……」
 開いて、あたしは絶句した。
「どうしました、リナさん!?」
 フィリアが心配そうにあたしに駆け寄る。
「フィリア、あんた……」
 あたしは震えながら、フィリアに言った。
「これ、竜文字じゃない!」
「ああ、そうでしたわね」
「『ああ、そうでしたわね』じゃないわぁ! もういい、ゼロス、あんたも台本持ってんでしょ!? ちょっと貸しなさいよ!」
「別にかまいませんよ。けど」
 言ってゼロスが取り出した台本を、あたしは奪うようにして引っつかむ。
が。
「…………」
 開けた瞬間、あたしは沈黙した。
「僕の方のは、魔族文字で書かれているので、リナさんが見ても、意味ありませんよねぇ。はっはっは」
 おい……。
「こんなの人間のあたしに読めるかぁ!」
「「えぇ!? リナさん、自分が人間って自覚、あったんですか!?」」
 見事にはもって言う、ゼロスとフィリア。
 あ・ん・た・ら・ねぇ……?
「もういい……。自分の足でその辺歩いて、なんとかしてみるわ。あんたたちは、そこでずっと、仲良くお茶でも飲んでなさいよ!」
 言ってあたしは、さっさとその場を後にしたのだった。
 なんか、後ろから抗議の声が色々と聞こえてきたけど、それは無視ってことで。

「よう、また会ったな」
 木の上からの声に、あたしは無言でジト目を向けた。
「なんだよ、その目は?」
 はあ。
 あたしは、声の主――猫耳ルークに、あからさまにため息をついてみせた。
「あんたねえ、こーんなわけのわからない世界うろうろさせられて、にこにこなんかしてられると思う?」
「そりゃ、そうだな。ま、それももうすぐ終わるだろうよ」
「どういうことよ?」
「こういうことさ」
 言ってルークは、ひらりと木の上から飛び降りると、腰の剣を抜き放ち、自らが今までいた木を切り倒した!
 ずうぅぅ……ん。
 重い響きとともに、倒れる大木。
 その後ろには……。
「な……! 庭園……!?」
「そういうこった。ほら、さっさと行きな」
「ちょ、何、まさか、ここに『あれ』がいるとでも言いたいわけ!?」
 言ったあたしの言葉は虚しく。
 最早ルークの消えたその空間に、流れていったのだった。

「うへぇ〜……気持ち悪ぅ……」
 溢れんばかりに咲き誇る、赤い薔薇の花たち。手入れの行き届いた木々。そこは美しい庭園だった。
 ……何故か、そこかしこでキャベツの栽培とかされてるけど。
 ともかく、そこは美しい庭園ではあった。
 が。
 そこを歩き回っている奴らが、いかんせん、美しくないどころか気持ち悪い!
 ゾロムにセイグラムに、ヴィゼア、ドゥグルド、グドゥザ、レビフォア、モルディラグ……。グバーグ、ベイズ、ミアンゾ、ツェルゾナーク、ヅェヌイにグオンにヴァイダアヅ、果てはラギアソーンまで。他にもまだまだいる様子。
とにかく、今まであたしがお目にかかった、人型をとれない下位魔族の連中が、うようよしているのだった。
しかもみんな、おそろいチックな、トランプ模様の服着ているし。
そんな庭園が、気味悪くないわけがない。
「おい、そこの」
 そんな中、あたしに声をかけてくる者があった。
「この声……ゼル!?」
 声に振り向けば、そこにいたのは確かにゼルガディス、なのだが……。
「……あんたは一体、何の役なわけ?」
「グリフォンだ……」
 力なく言うゼルの格好は、グリフォンというより、変な鳥の着ぐるみを着ているようにしか見えない。
かわいそうに。
「とにかく、ちょっとついて来い」
「ん、わかった」
 なんにせよ、物語が進むのはいいこと。
 あたしは、大人しくゼルの後について行った。

「悪いな、もうすぐ来るはずだから、ここで待っていてくれ」
 言ってグリフォンゼルが足を止めたのは、巨大な噴水の前だった。
「来るって、何が?」
「それは言えん。が、すぐにわかる。まあ、待っている間、そこのウミガメモドキと話でもしていてくれ」
 そしてさっさと去っていくグリフォンゼル。
「ウミガメモドキ……?」
 あたしが、その珍妙な名に、眉をひそめていると。
「おーい、呼んだかぁ?」
 それは現れた。
「出たな、ウミガメモドキ! って、ガウリイ!?」
 そう。噴水の中から、水撒き散らしつつ現れたのは、自称あたしの保護者こと、剣の腕は超一級、ただし脳みそアメーバーの、ガウリイ=ガブリエフだった。
「ガ、ガウリイ、あんた……!」
 しかし、あたしが驚いたのは、彼の登場にではない。
「『ウミガメモドキ』なんて名前のくせに、なあんでクラゲの着ぐるみ着てんのよ!?」
 言ってあたしは、びしいぃっと、着ぐるみガウリイを指さした。
「何でって……、これが一番落ち着くから、かなぁ」
 言ってぽりぽり、器用にも、クラゲの手(?)で頬を掻く、着ぐるみガウリイ。
「あんたって、心の底からクラゲなのね……」
 と、その時。
「女王様のおな〜りぃ〜!」
 高らかな声が響き渡った!

 輝くばかりの金色の髪。赤と黒が基調の服。そして手にした大きな鎌!
 間違いなく、『あれ』よね……?
『女王様』と言われた、その『あれ』は、おごそかな足取りであたしに近づいてきた。
「ご苦労様。さあ、いよいよ、クライマックスよ!」
「クライマックスって、まだ何かあるわけぇ?」
 黒幕である『あれ』の登場でおしまいじゃなくて?
「ええ、だってあたし、まだ、ハートの女王様の名台詞、言ってないもの」
 はーとのじょうさまのめいぜりふぅ?
 あたしが疑問に思っていると。
「よーし、思ったより話も長引いちゃったし、ちゃっちゃといくわよぉ」
 そして嬉しそうに、『あれ』はこう前置きすると。
「この娘の、首をお切り!」
 高らかに宣言した!
 ……って、首をお切りぃ!?
 それって、まさか、あたしのかぁ!?
「「「「「はい、女王様!!」」」」」
 声に答えるは、その辺をうろついていた下位魔族ども。
 そして一斉に、それらがあたしにむかって殺到する!
 ちょっとまてえぃ!
 あたしは慌てて呪文を唱え――
「竜破斬(ドラグ・スレイブ)!!」
 ちゅどーん!!
 あたしの呪文の一発で、一気に吹き飛ぶ魔族たち!
 いいのか……? いくら下位とはいえ、魔族がこんなにあっさりやられて。
「ふっ、やるわね……。ならば、こっちにも考えがあるわ。
 出でよ、部下S!」
「は、おおせのままに! って、L様、その手に持ってる、スレイヤーズのDVD-BOXは……?」
「んふ♪ こーするの♪」
 言って、彼女はその手にしたものを、容赦なく男に振り下ろした!
 がごん。
 鈍い音をたてて、崩れ落ちた男は動かなくなった。
「これで、部下Sの力を借りた呪文は使えなくなったわよ!」
「な、なんて強引な呪文の封じ方……!」
 さすが、『あれ』というべきか!
「あ、もちろん、あたしの力を使った『あの呪文』唱えても、力を貸す気なんてさらさらないから。
 ――と、ゆーわけで。
 さあ、早いとこ、首をお切り!」
 声に言われ、またもあたしに殺到する、残りの魔族たち!
「くっ……!」
 まさか、たかが芝居と思っていたのに、こんなことになるだなんて!
「リナ!」
「ガウリイ!?」
 あせるあたしの目の前に、クラゲの着ぐるみを着たガウリイが飛び出した!
 一瞬、『あれ』が笑ったような気がした。
 途端。
 視界が、暗くなった。

 ……気がつけば。
 あたしは、とある木の前で倒れていた。
 辺りには、ガウリイどころか、大量にいた魔族たちまで消えている。
 夢……?
 ――いや、夢などではない。
 そのことは、あたしの手の中のもの、手紙と共に送られてきた台本が、示していた。前見たときは、最初の部分以外は空白だったその台本に、今は、色々なことが書かれている。
 そう。あたしが今、体験してきた出来事が。
「どうやら、『あれ』も満足して、帰してくれたみたいね」
 おそらく今頃、他のみんなも、あの変なお芝居から解放されていることだろう。
 そう言うと、あたしは立ち上がり――
 凍りついた。
 あたしの目にとまったのは、少し先にある一軒のレストラン。その看板には、こう書かれていた。
『レストラン・リアランサー』と。
 えっと、ここって、もしかして……?
「ルナさーん、今日はもうあがっていいよー」
「はーい」
 店から、漏れ聞こえてきたこの会話……。
 よりによって、こんなところにあたしを置いていくなぁぁ!
 あたしがダッシュでその場所から逃げ出したのは、言うまでもない。

                                    おしまい。


―――――――――――――
終幕の後で ――舞台裏のさらに裏
L:はい、ということで、お届けしました、「不思議の国のリナ=インバース」!
  英語にすると、「Lina in Wonderland」! あってるかどうか知んないけど。
S:今回、L様は大活躍でしたね。
L:ふふんっ、当ったり前よ。何せこのあたしがキャスティング、演出、監督、その他諸々をつとめた話なんですからね。
S:つまり、ご自分の力でやりたい放題……っと。
L:まあね。
  今回の話、実は、覇王グラウシェラーがハートのジャックだったり、某関西在住の作家をハートの王様にしたり、その関係であたしの出番がもっと多かったはずだったりしたんだけど、あまりにも長すぎて、削りまくったという裏事情も。
  他にも、お茶会のシーンで、ヴァルガーヴが何故あの二人の真ん中の席に座っていたかの理由についてのエピソードもあったりしたんだけど。
S:ああ、リナに踏み潰された席に座っていた、あのわけですか?
L:そ。最初、ヴァルガーヴはフィリアの隣に座っていたんだけど、ネズミの耳が可愛いの、セットに使用した香茶のカップがどこどこのブランドのなになにで素晴らしいのと喋りまくられ、ちょっとうざくなってゼロスの方に座ったところ、あのにこにこ笑顔で、原作では帽子屋は、ネムリネズミをティーポットの中に押し込めようとするんですよ、とか言われて、恐くなって、結局あの席に落ち着いたという。
S:随分細かい設定があったんですね……。
L:うみゅ。結局、これも長くなりすぎ、ってことで使わなかったけど。
  あと、場面の関係で、リナには見えなかったけど、魔竜王ガーヴが、ちゃんとドードー鳥の羽がもさもさとした着ぐるみを着ていただとか。
  他にも、形になりそうでならなかったプチエピソードがいくつかあるんだけどね。
  ――というわけで。しばらく、暇つぶしのために、スレイヤーズ世界の奴らに、順番に童話やなんかの主役をやらせて遊ぼうと思うから、心の広い方は、どうかお付き合いくださいまし。
  さあて、次回は誰に何をやらせよっかな♪


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33635古今東西迷作劇場2早生みかん E-mail 2008/8/10 13:17:59
記事番号33632へのコメント

厚かましくも、またまた投稿させて頂きました。
読んでいただけたなら、幸いです……。

―――――――――――――
「ヘンゼルとグレーテル」

 昔々、あるところに、ヘンゼルとグレーテルという名の兄妹がいました。
「なあ、リナ。このヘンゼルってのが、オレのことで、いいんだよな?」
「はいはい、あたしがグレーテルで、あんたはあたしのにーちゃんって設定よ」
 あるとき兄妹は、貧乏による口減らしのため、両親に、森の中に置き去りにされてしまいました。
「ええ!? じゃあ、オレたち、食べるものが何もないのか!?」
「だぁかぁらぁ! そういう設定なの! ちゃんと台本読んどきなさいよ、このクラゲ!」
 本来ならば、兄ヘンゼルが家から森までの道々に、小石をまいておいて、そのおかげで一度は家に帰れるはずでしたが、この金髪のヘンゼルに、そんなことをする頭はありませんでした。よって、兄妹は、可哀想なことに、森に放り出されたままなのです。
「ほら、こんなところで突っ立ってても仕方がないし、とりあえず、辺りを散策してみましょう。……って、これ、本当はヘンゼルのセリフなんだけど……なんであたしが言ってんのかな」
「オレの飯ぃ……」
 ぶつぶつ言っているヘンゼルを連れて、栗色の髪を持つグレーテルは、どんどん森の奥へと入っていきます。
 すると、兄妹の目の前に、一軒の家が見えてきました。
「ガウリイ、じゃない、ヘンゼルにーちゃん、これ……!」
「ああ、わかっている」
 兄妹は、ごくり、とつばを飲み込むと――
「「お菓子の家だー!!」」
 家に向かって、一目散に駆け出しました。そう、その家は、屋根から壁から、すべてお菓子でできていたのです。
「くぅぅ! この壁窓枠、甘いんだけど、くどすぎない上品な味わい、なんて素敵なチョコレートさん!」
「この壁も、さくさくとしたクッキーだ!」
 兄妹は、一心不乱にお菓子の家を貪り食いました。
 しかし、そこへ突然。
「おーほっほっほっほっ! かかったわね、リナ=インバース!」
 高笑いをあげながら、魔女が姿を現しました。
「それは、この私が特別に用意したお菓子の家! 食べたからには、料金5せっ……!」
「眠り(スリーピング)」
 ぽてっ。
 ぽそりと呟いたグレーテルの呪文で、魔女はあっさりと、安らかな眠りに落ちていきました。
 こうして、心ゆくまで、兄妹は空腹を満たすことができたのでした。その代償として、お菓子の家は、跡形もなく消え去ってしまいましたが。
「さ、じゃ、ガウリイ、じゃない、ヘンゼルにーちゃん、行くとしましょうか」
「行くって、家に帰るのか?」
「まさか。子供を森に置き去りにするような家に、だぁれが帰るもんですか。これからいっちょう、旅にでも出るとしましょうか!」
「おう!」
「そうと決まれば……、翔風界(レイ・ウィング)!」
 グレーテルの呪文で、兄妹は、中へと浮き上がり、一息に森を抜けていきました。
 後にはただ、お菓子の家の跡地に、眠り続ける魔女だけが残されていました。
 めでたしめでたし。
                           おしまい。

―――――――――――――

終幕の後で ――舞台裏のさらに裏
L:う、う〜みゅ……。これは……。
S:一応今回は、自称リナの保護者、ガウリイ=ガブリエフが主役……のはず、でしたよね?
L:だったんだけどね……。あのガウリイに一人で主役がつとまるはずがないと踏んで、リナを妹として補助につけたんだけど……。
S:なんかこれ、普通にリナ=インバースが主導権にぎってましたよ?
というか、単に二人でお菓子の家食い倒してとんずらってだけの話じゃ……?
L:確かに……。ま、元々、ヘンゼルとグレーテルの話自体、そんな話だから。
S:もう少し、違ったような……。
L:と、とにかく、さぁて、次は誰になんの話をさせようかしら?



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33644古今東西迷作劇場3早生みかん E-mail 2008/8/11 23:14:59
記事番号33632へのコメント

ずうずしくも、スレイヤーズパロディシリーズ第三弾、投稿させて頂きます。
今回は、多くの方がすでに書いていらっしゃるあの名作童話に、無謀にも挑戦させていただきました。
少しでもお気に召したなら、嬉しく思います。


―――――――――――――
「白雪姫」

 昔々、とある国のお姫様が、魔法の鏡を覗き込んで言いました。
「鏡よ、鏡よ、鏡さん。この世で一番美しいのは誰?」
「それはもちろん秘密です」
 だんっ!
 ぴしっ。
 魔法の鏡の言葉に、お姫様は鏡を、ヒビが入るほどの力で叩きました。
「あんたねぇ……真面目にやりなさいよ」
「いやあ、やはり一度はこのセリフを使っておかないと……」
「じゃあ、もう気が済んだでしょ。もう一回だけ聞くわよ。いい?
 鏡よ、鏡よ、鏡さん。この世で一番美しいのは誰?」
「それは、お隣の国に住む、白雪姫です」
 言うと、魔法の鏡は、そこに一人の女性を映し出しました。
「白雪姫ぇ? このあたしをさしおいて、この子が一番美しいですって?
 よーし、見てなさいよ」
 栗色の髪を持つお姫様は、凶悪な顔をして呟いたのでした。

「あの……ザングルスさん、これ、どこまで行けばいいのでしょうか?」
 言ったのは、長い、艶やかな黒髪を持つ、美しいお姫様でした。
「いや、俺も、お前さんを連れ出して殺せ、としか言われてなくてな……。多分もう、この辺でいいんじゃないか?」
 いい加減に答えたのは、先が折れ曲がった帽子を被った男でした。
「それでは……きゃああ、おやめください、命ばかりはお助けください!」
「(カンペを見ながら)こんなに若い娘が、かわいそうに……。ようは、あの姫に見つからなければいいのだから、ここで森の奥にでも逃がしてしまおう。さあ、いきなさい、娘さん(棒読み)」
「あ、ありがとうございます……!」
 黒髪の女性――白雪姫は、男の棒読み口調に口の端をひきつらせつつも、森の奥へと逃げていきました。

「さて、森に逃げ込んだのはいいのですけど……あら、あれが例の『小人たちの家』ですかしら?」
 白雪姫は、背の低い可愛らしい小屋を見つけて、中へ入っていきました。
「まあ、みなさんおそろいで」
 中には七人の小人……じゃなくて、極普通(?)の人々が、待ち構えていました。
「でも、どうしてみなさん、大きさが普通サイズなのです? ここは本来、小人の出番のはずじゃあ……」
「あのなあ、いくらお芝居だからって、そう簡単に、人間が大きさを変えられるか?」
 青い岩肌の小人もどきが言いました。
「そうですよ。けど、安心してください、シルフィールさん。サイズは違えど、追われているあなたをかくまう正義の心に変わりはありません!」
 やや短めの黒髪の小人もどきが言いました。
「このわたしが主役じゃない、ってのは気に食わないけど、まあ、追い出すような真似だけはやめといてあげるわ」
 縦ロールヘアの小人もどきが言いました。
「とにかく、しばらくここで身を隠していてください」
 銀髪女性の小人もどきがいいました。残りの小人もどきたちも、一様に首を頷いています。
「みなさん、ありがとうございます」
 白雪姫は、深々と頭を下げました。
「さて早速だが、俺たちは仕事に出かけなけりゃならない」
 水色の髪を持つ小人もどきが言いました。
「俺たちがいない間、誰が来てもドアを開けるんじゃないぞ」
 目つきの悪い黒髪短髪の小人もどきが言いました。
「くれぐれも、お気をつけて」
 最後に金髪碧眼の小人もどきが言い残し、彼らは仕事に出かけていきました。
「みなさん、行ってしまいましたわね……」
 ひとり残された白雪姫は、退屈そうにこう呟きました。
 すると。
「白雪姫さん、ここを開けとくれ」
 外から、声がしました。
「まあ、この声は、リナさん! もとい、お隣の国の妖しげな魔法を使うお姫様!」
「随分と説明くさいセリフよね……。まあ、いいわ。とにかく、ここを開けとくれ!」
「嫌です!だってあなた、わたくしの美貌をねたんで、殺しに来たのでしょう?」
 白雪姫は、意地でもドアを開けようとしません。
「んっふっふ。甘いわね、シルフィール。このあたしに、そんな意地が通用すると思ってんのかしら?」
「まさか、リナさん……!」
「振動弾(ダム・ブラス)!」
 ばんっ!
 呪文一発、白雪姫の努力むなしく、ドアは粉砕されてしまいました。
「さあ、いいから、このリンゴを食べなさい!」
 言いながら、魔法使いのお姫様は、白雪姫の口にリンゴを突っ込もうとします。
「リナさん、なんて無理矢理な……せめて小さく切ってから……!」
「うるさい! 大体この話、あたしが悪役ってのが気に入らないのよ! 話が進まないから、さっさとお食べ!」
 ごっくん。
「はう……」
 哀れ白雪姫は、毒の入ったリンゴを無理やり丸ごと飲み込まされ、その場に倒れこみました。
「さあて、これであたしの出番はおしまいね」
 颯爽と小屋を飛び出した魔法使いのお姫様でしたが。
「いいえ、まだおしまいではありませんよ」
 その前に、現れた影がありました。
「ゼロス!? なぁんで魔法の鏡役のあんたが、ここにいんのよ!?」
「裏シナリオ、というやつでして。
 ――というわけで、リナさん、失礼します」
「うっ……」
 突然現れた影の不思議な力により、魔法使いのお姫様は、倒れてしまいました。同時に、影もどこかへ消えてしまいます。
 小人たちもだれひとり帰ってこず、時間ばかりが過ぎていきましたが、やがて、ひとりの王子様が、馬に乗って小屋の前にやって来ました。
「えーっと、オレの役は、あの小屋で倒れている人を助け起こして国に連れ帰ればいいわけだから……。お、あれだな」
 言うなり、王子様は、こともあろうに、小屋の前で倒れている魔法使いのお姫様を助け起こしました。
「おい、しっかりしろよ」
「う……ん。あれ? なんでガウリイがあたしを助けてるわけ? あんた、王子様の役でしょう?」
「ああ、だから、倒れている人助けて、これから国に連れ帰るんだ」
「倒れてる人って……あたしかぁ!?」
「そ。さ、行くぞ、リナ!」
 そして王子様は、魔法使いのお姫様を馬に乗せると、颯爽と走り出しました。
「ちょ、ちょっとぉ、これが裏シナリオぉぉ!?」
 やがてふたりは、王子様の国に行き、幸せに暮らすことでしょう。めでたしめでたし。
「あの……何か忘れていません?」
 そうでした、白雪姫、この人が倒れたままでした。
 ですが安心してください、またもや、白馬に乗った王子様がやってきたようです。
「ああ、よかった、わたくし、てっきりあのまま放置されるものとばかり……」
 安心した白雪姫の前に、問題の王子様が姿を現しました。
「なに、若い娘さんが倒れている! これはお助けせねば!
 もし、しっかりしなされ」
 ゆさゆさと、王子様は白雪姫をゆすりました。そのおかげで、白雪姫の口から、毒リンゴが出て行き、白雪姫は、うっすらと目を開けました。
 そして。
「これが……おうぢさま……?
 はう……」
 まともに王子様の顔を見て、またも白雪姫は気を失ったのでした。
「もし、娘さん……!?
 いかん、このフィリオネル=エル=ディ=セイルーンの名にかけて、必ずやお救いしますぞ!
 待っていてくだされ、急ぎ国に連れ帰り、魔法医のところへ!」
 王子様は、気を失ったままの白雪姫を白馬に乗せると、国へと馬を走らせました。
 めでたしめでたし。
「ち、ちっともめでたくなんかありませんわ……」

 おしまい。


―――――――――――――

終幕の後で ――舞台裏のさらに裏――
L:毎度毎度、スレキャラによる、つたない芝居にお付き合いいただき、ありがとうございます!
S:にしてもL様、今回のキャスティングって、一体……?
L:いやあ、やっぱり王子様といったらあの人かなと思ったんだけど、ダメだったかしら?
S:いやあの、これ、文章だけだからまだいーですけど。
  まかり間違って映像とかあったら、かなり嫌な白雪姫なんですが……。
L:うみゅ。あたしもそう思う。
  なんていうか、子供に見せちゃいけない童話ベスト10にランク入りしそうな感じよね。
  ――ま、過ぎたことはそれとして。
  まだまだいくわよ、スレキャラによる、古今東西迷作劇場!
  次回も楽しみに……してくれている人がいたら、いいなぁ。



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33646古今東西迷作劇場4早生みかん E-mail 2008/8/12 22:07:58
記事番号33632へのコメント

懲りずにまたまた投稿させて頂きました。
今朝の朝日新聞の天声人語の書き出し「この季節、クラゲになりたい時がある」に、某金髪剣士を思い浮かべてしまった早生みかんです。
一応オールキャラのギャグのつもりで書いたものですが……笑っていただけたなら、と思います。

―――――――――――――
「ロミオとジュリエット」


第一幕

 ここはイタリア、ヴェローナの町。この町では、モンタギュー家とキャピュレット家の両家が、代々争い合っておりました。
 そんなキャピュレット家の仮面舞踏会に、モンタギュー家のロミオが、面白半分で紛れ込むことから、この物語は始まります。
「……で、なんで僕がロミオなんです?」
「いいじゃない、一応主役なんだから」
 黒髪の青年ロミオに、友人の、長いおさげのマキューシオが言います。二人は、そろってキャピュレット家の仮面舞踏会に潜り込んでいる最中でした。
「ほら、さっさとジュリエット探してきなさいよ。誰がその役かは、あたしも知らされてないけどさあ」
「なんか……ものすごく嫌な予感がするんですけど」
 ぶちぶち言いながらも、ロミオはマキューシオに追い立てられ、辺りを探し始めます。
「あー、いた!ゼロスさん!」
 すると、彼に声をかけてくる者がありました。
「アメリアさん。良かった、あなたがジュリエット役なのですね?」
「いいえ、違います。私は今回、ロミオとジュリエットの愛の連絡役とも言うべき、ジュリエットの侍女です!」
「え……では、ジュリエットは……?」
「はい、あちらにいます!」
 元気一杯、侍女が奥に佇む、金髪碧眼のジュリエットを手で示しました。
「……最悪!」
「悪い予感的中……というやつですね」
 ロミオとジュリエットは、一目で恋におちたのでした。
「「落ちてません!!」」
 息もぴったりです。
「せっかくジュリエットの役をもらえたのに……なんで? どうして、相手役があんな生ゴミなの?」
「本当ですよ、どうしてこんな、怒るとすぐに鈍器を振り回すような方が、ジュリエットなんて役をやれるっていうんです?」
「自分がこんな美しい悲恋物語をえんじきる自信がないからって、私にいいがかりをつけないでください!」
「いぃーえぇ! いいがかりだなんてとぉんでもない! 僕はただ、この劇の行く末を心配して差し上げただけですよ」
「なんですってぇぇ!?」
 せっかく恋に落ちた二人でしたが、両者の家は、犬猿の仲。悲しい物語の、はじまりはじまりです。
「「はじまりません!!」」
 ということで、第二幕に続くのでした。


第二幕

 舞踏会の終わった後、ロミオは、ジュリエットのことが忘れられず、人知れず、外から彼女の部屋の様子をうかがっていました。
「改めて考えてみると、ロミオって、まるでストーカーですよね。出会ったその日に、夜に女性の部屋の前をうろつくだなんて」
 ぶちぶちと、ロマンのないことを言うロミオです。
 と、ロミオの見つめるバルコニーに、ジュリエットが現れました。
「ああ、ロミオ……どうして、あれがロミオなの……?」
 心底嫌そうに――間違えました――、切なげに、ジュリエットは呟きました。
「僕としても、今すぐ、その名を捨ててしまいたいくらいですよ」
 そんなジュリエットに、ロミオはやはり嫌そうに――ごめんなさい、また間違えました――我慢しきれず、姿を現し、話しかけます。
「あなた、なんでそんなところにいるんですか!? この変態!!」
「仕方ないでしょう、こういう役なのですから! それを言ったら、夜中にバルコニーで、会ったばかりの男の名を呟く女性だって、十分におかしいです!」
 会ってすぐに喧嘩腰なのは、おそらく二人の照れ隠しでしょう。
「「違います!!」」
「ジュリエット様、大声を出されて、何かあったのですか!?」
 ジュリエットの声を聞きつけて、侍女が部屋に飛び込んできます。
「アメリアさん、私、もう耐えられません! どうして私が、あんな生ゴミ魔族なんかと……!」
「まあ、落ち着いて下さい、フィリアさん。これはただのお芝居なんですから」
「でも……!」
「とにかく、お二人はこのシーンで、明日の昼間にロレンス神父の教会で落ち合う約束をしなければいけません。いいですね!? 明日の昼間、ロレンス神父の教会ですよ!?」
 予定通りに話を進めようとしない二人を案じ、侍女は強引に二人を引き合わせることにしました。
「さあ、次の逢引の時間は決まりましたし、ジュリエット様、今度はお母様がお呼びですよ。早くこちらへ!」
「ちょ、ちょっと、アメリアさん!?」
 言って、次女はジュリエットの手を取り、ジュリエットの母の待つ部屋へと引っ張っていきました。
「早速だけど、ジュリエット、あなたに会わせたい人がいるのよ」
 長い銀髪をポニーテールにしている、ジュリエットの母親が言いました。
「うう、どうして、俺とミリーナがロミオとジュリエットじゃないんだよぉ……」
 その横で、黒髪短髪の父親が、何事かを嘆いています。
「でもま、夫婦の役ではあるんだし、いいとすっかな」
「あくまで『役』です」
「はい……」
 母親に言われて、父親は、すごすごと黙りました。
「あの、お母様、こんな夜中に会わせたい人って……?」
「ええ、本当は、後日会わせる予定だったのだけれど、本人が、どうしても今がいいと言って聞かなくて」
 ばんっ。
 母親のセリフが終わるや否や、ドアを派手に開けて、部屋に入ってきた者がありました。
「ヴァルガーヴ!?」
 水色の髪を持つその者を見て、ジュリエットは思わず声をあげていました。
「ジュリエット、こちら、あなたの婚約者のパリス伯よ」
「婚約者ぁ!?」
 突然のことに、ジュリエットはまたも驚きの声をあげます。
「そうだ、俺が婚約者の役なんだ! だから、結婚しよう、すぐしよう!」
「す、すぐって……」
「だって、ぐずぐずしてたら、お前、ロミオと結婚することになっちまうじゃねぇか! それだけは阻止しなければ……!」
「だぁぁれがあんなのと結婚するものですか!」
「まあ二人とも、落ち着いて」
 興奮する二人に、母親が冷静に待ったをかけます。
「パリス伯、確かにあなたはジュリエットの婚約者だけど、結婚するのは明後日の予定よ。もう少し、待ちなさい」
「そんな……! 明後日じゃ、物語上、手遅れになっちまう!」
「いいから、今日はひとまずお引取りください」
「そういうこった。な、ミリーナ♪」
「ついでにあなたも、さっさと部屋に引き取ってください」
「…………」
 かくして、母親の視線と迫力に押されて、父親とパリス伯は、すごすごと退散していったのでした。
 ロミオとジュリエット、出会って最初の夜が過ぎていこうとしていました。


第三幕

 ここはイタリア、ヴェローナの町、そのとある教会でのことです。
「あー、お前達は、相思相愛の若者として、ここで秘密の結婚式を挙げる……という設定なんだが……」
「嫌です!」
「冗談じゃありません!」
「……はぁ」
 真っ昼間から、神父様は、頭を悩ませられていました。
 今、神父様の前にいるのは、ヴェローナで犬猿の仲で有名なモンタギュー家とキャピュレット家の一人息子と一人娘。敵対する両親にも関わらず、愛し合っている二人は、ロレンス神父のもとに、恋の相談に訪れていたのでした。
「出会った翌日に結婚? しかも秘密裏に? 短絡的にも程があります。僕は絶対反対です!」
「結婚は神聖な儀式です! それを、お芝居とはいえ、真に愛し合っていない者同士が行なうなど、許される行為ではありません。ましてや、相手がこれだなんて……神への冒涜です!」
「お前ら……頼むから、台本通りに話を進めさせてくれ……」
 若い二人は、周囲には内緒の結婚に怖気づいているのか、なかなかロレンス神父の案を受け入れようとはしません。
「そうです! 結婚は神聖な儀式です! だからこそ、お芝居であっても、きちんと行なわなければいけません!」
 拳を固く握りしめてそう言ったのは、心配で付き添ってきた、ジュリエットの侍女です。
「心配って……アメリアさん、単に神父役のゼルガディスさんに会いたかっただけじゃあ……」
 ロミオが何やら言っているのを、顔を赤らめながらも無視して、侍女はさらに言います。
「大体、ここで結婚式を挙げなければ、物語が進まず、私たちはずっとこの教会に缶詰です! そんなの、嫌でしょう?」
「確かに……」
「一理ありますね」
「でしょう? では、ゼルガディスさん、ちゃっちゃと式を挙げてしまいましょう。まずは誓いの言葉から!」
「あ、ああ。えーと、汝、健やかなるときも、病めるときも……」
 以下、誓いの言葉省略。
 ロミオもジュリエットも、渋々、いえ、控えめに、誓いをたてます。
「指輪の交換は……用意していないから無理で飛ばすとして、最後に、誓いの口付けを……」
「はぁ!?」
「そんなことまでやらせる気なんですか!?」
「だって、台本にはそう書いてあるぞ」
 神父様は、手にした、聖書代わりの台本を見ながら、そう言います。
「それがなんだっていうんです! 一言、神父が『二人の結婚を認めます』って言って終わりでいいでしょう!?」
「そうです! お話としては、それで十分じゃないですか!」
 そのとき、ちょっと外に出ようとしていた侍女が、慌てて戻ってきました。
「大変です! 教会の扉が開きません!」
「何ですって!?」
「そんな!?」
「多分、お二人がきちんと結婚式を挙げないから、ここから出してもらえないんですよ!」
「本気で缶詰か……」
 まさかの事態に、神父様はまたもため息をつかれます。
 最初に動いたのは、ロミオでした。
「――わかりました。さっさと結婚式を終わらせればいいんですよね」
 言って、ジュリエットを引き寄せます。
「ちょっと、何を……!」
 抗議の声をあげるジュリエットを無視して、ロミオは、彼女に顔を重ねます。
 すると。
「あ、扉、開きましたよ」
 侍女がのん気な声で報告します。
「やはり、所詮はお芝居ですね。こんなことでいいのですから」
「……!」
 言うロミオの隣で、ぷるぷると体を震わせているジュリエットの口には、ぴったりと、ガムテープが張られていました。
 どうやらロミオ、あの一瞬でジュリエットの口にガムテープを張り、ガムテープ越しに誓いの口付けをしたようです。どこまでもシャイな若者たちです。
「「違います!」」
 さてさて、とりあえず、二人はまたの再会を約束し、一旦、それぞれの家へと帰ることにしました。


幕間 ――舞台裏――

ガウリイ「ああ、きゃぷれっと、これからはどうか、おたがいなかよくしていこうではないか。……こんな感じでいいのか、リナ?」
リナ「『きゃぷれっと』じゃなくて、『キャピュレット』! それにガウリイ、もう少し抑揚つけて喋れないわけ?」
ガウリイ「いや、これ以外にもセリフがあるし、覚え切れなくって……。これ、台本持って喋っちゃいけないのか?」
リナ「お芝居なんだから、いけないに決まってるでしょう!? まあ、いざとなったら、モンタギュー夫人であるあたしがなんとかフォローいれるから、適当にそれっぽくやってくれればいいわよ」
ガウリイ「ていうか、リナが全部喋って、オレ、横で立ってるだけじゃダメなのか?」
リナ「だぁぁ! あたしたちの出番はラスト! それまでまだ時間があるんだから、少しは努力しなさいよ!」
ガウリイ「はっはっは、バカだなぁ、リナ。努力したって、オレがこーゆー長いセリフを覚えられないことは、お前が一番よく知ってるだろう?」
リナ「朗らかに言うなぁぁ!!」
 ばきっ。


第四幕

 ジュリエットとの秘密の結婚式の後、ロミオは、友人のマキューシオと共に、ヴェローナの町を歩いていました。
「……はぁ」
「元気がないな、ロミオ」
 ため息をついている友人に、マキューシオが心配げに問いかけます。
「そりゃあ、元気でなんていられませんよ。なんだって僕が、お芝居とはいえ、あんな巨大凶暴トカゲと結婚なんてしなくちゃいけないんですか?」
「あ、ロミオ、見てみろ、あそこにいるのは、キャピュレット家のティボルトじゃないか?」
「って、自分から話を振っておいて、シカトですか、シェーラさん」
 おさげ髪のマキューシオが指さすその先には、ジュリエットの従兄妹である、ティボルトがいました。
「これはこれは、モンタギュー家のロミオさん。ここで会ったのも何かの縁、ひとつ、この私ラーシャート……じゃない、ティボルトとお手合わせ願えませんかな?」
「残念ですけどラーシャートさん、僕、今そんな気分じゃないんです。もう、さっきのことがショックでショックで……」
「問答無用!」
 争いを避けようとするロミオに、ティボルトは容赦なく剣を抜き放ちました。しかし、そこで、そのティボルトに剣を向けた者がありました。
「こんな奴、ロミオが出るまでもない! あたしが相手だ!」
 ロミオの友人、マキューシオです。
「たぁ!」
「とぅ!」
 きいん、きぃん……!
 打ち合うこと、数合。
「あの……ちょっと…」
 止めようとするロミオにも関わらず、二人は打ち合いを続けます。
「ちょっと……! いい加減にしてください!!」
 ざしゅっ、ざしゅっ!!
「ぎょへえぇぇぇ!?」
「ぐはあぁぁぁ!!」
 ロミオの一撃で、マキューシオとティボルトの二人は、あっさりと倒れ伏しました。
 今、ロミオがどのような攻撃をしたかの詳しい描写は、あえて割愛させていただきますが。
「まったく、人が落ち込んでいるっていうのに、隣でやかましくしないでください!」
 しかし、ロミオの言い分に、倒れた二人が答えることはありませんでした。
 折しもそのとき。
「何事か!? ヴェローナの大公様の御前であるぞ!」
 高々と声が響き渡り、この町で一番偉いお方、ヴェローナの大公がお出ましになられました。
「見たところ、これは殺人事件、ね……」
 金色の長い髪をなびかせながら、大公は現場を見て仰いました。
「あ、あの、あなた様は、もしかして……」
 大公の出現に、驚きを隠せないロミオが、思わず声をあげました。
「んっふっふっ。今はただの、ヴェローナの大公よ。
 さて、ロミオ、あんたをこの殺人事件の犯人として、逮捕、処刑するわ!
 さあ部下S、早いとこギロチンを用意しなさい!」
「ええぇぇぇ!?」
「ちょ、L様、それじゃ話が違ってしまいます……!」
「お黙り、部下S!」
 がずんっ。
 言って、大公は、部下の一人に容赦なく、分厚い洋書の角を叩きつけました。
「あたしだってねえ、ロミオとジュリエットの原作、きちんと読もうとしたのよ。けど、いかんせん、部下Sをその角で沈黙させられるくらい分厚いもんだから、途中で飽きたのよ! もっと短くて、単純でいいじゃん!」
「いや、だからといって、いきなりロミオを処刑は……」
 ぴくぴくとうごめきながらも、大公の部下は言います。
「む、部下Sのくせにしぶとい。ならば、今度はシェークスピア作品集、巻の二で……」
「とにかく、ロミオは処刑じゃなくて、ヴェローナの町を追放処分です!」
 ぱたっ。
 その言葉を最後に、大公の部下はそれまでの痙攣をおさめ、ぴくりとも動かなくなりました。
「うーみゅ……。なんだかんだで、こいつも、部下の部下がかわいいってわけか。
 仕方ない、部下Sの遺言(?)を尊重して、ロミオは追放処分ってことで。明日中には、この町出てってね♪」
「あ、ありがとうございます……?」
 あまりにも恐れ多い現場を目撃し、混乱しているロミオを残し、ヴェローナの大公は去っていきました。ずりずりと、動かない部下をひきずって。
 やっと愛しのジュリエットと結婚できたというのに、ヴェローナの町を追放処分になったロミオ、この後、二人の運命やいかに!?
 ってなところで、物語は次へ続くのでした。


第五幕

「まあ、ロミオが人殺しをして、追放処分!?」
 これが、ジュリエットがロミオの運命を知らされたときの第一声でした。
「はい、なんでも、あやうく処刑にまでなりかけたとか」
「ああ……」
 侍女の言葉を聞き、ジュリエットは部屋に戻ると、ベッドに倒れこみました。
「なんで、そのまま処刑になっちゃわなかったのかしら、あんな害虫が……!」
 悲しみのあまり、ジュリエット、動転しているようです。恐ろしいことをさらっと言っています。
「残念でしたね、僕が生きていて」
 声は、ジュリエットの部屋の窓からしました。
「ゼロス! なんでこんなところに……!?」
 驚きの声をあげるジュリエット。
「一応、ジュリエットに別れを告げるシーン、というのがあるらしいのでね。ちょっと早いけど、来ちゃいました」
「来ちゃいましたって、あなた、台本を無視する気ですか!?」
「あのお方は仰っていました。ロミオとジュリエットの話は長すぎる……と。つまり、この劇は早々に終わらせるべきなのです」
「それは、私も賛成ですけど……」
「じゃあ、ジュリエットも、ロミオと一緒にヴェローナの町を出る、ということで」
「ええぇぇぇ!? 何を言ってるんですか!?」
 突然のロミオの宣言に、大声を上げるジュリエット。
「だって、考えてもみてくださいよ。ここで僕だけヴェローナの町を出ても、残ったジュリエットは、あのまどろっこしい偽自殺を演じて、結果、変な心中事件を起こしておしまい、ですよ? 僕は嫌ですよ、このままずるずる、フィリアさんと心中だなんて」
「私だってごめんです! よりにもよって、あなたと心中だなんて!」
「なら、決まりですね」
 言うなり、ロミオはジュリエットを抱え上げ、窓から外へと飛び降りました。外には、遠出用の馬がつないでありました。
「ちょっと、どういうつもりですか!?」
「言ったでしょう、一緒にヴェローナの町を出ましょう、って。
 大体、この劇はまどろっこしすぎるんですよ。あんな馬鹿な心中騒ぎなんか起こさずに、さっさと二人で他の町にでも行ってしまえばいいんです」
「またあなたは、そんなロマンスの欠片もないことを……!」
「なんとでも。少なくとも、僕はあなたと、そのロマンスとやらを演じる気はありません。もう行きますよ!」
 そしてロミオとジュリエットは、馬に乗り、人知れずヴェローナの町を出て行きました。
 やがて二人の駆け落ちを知り、またロレンス神父から事情を聞いた二人の両親は、さらに仲が悪くなったといいます。が、それは、恐らく幸せであろう二人には、関係のないお話。
 めでたしめでたし。

                                                           ――幕

終幕の後で ――舞台裏――

リナ「って、ちょっと待てぇ! これじゃ、モンタギュー夫人であるあたしの出番がないじゃないの! ロミオとジュリエット、二人の死を知った後の、両家の心温まる仲直りのシーンは!?」
ルーク「そうだ! 俺とミリーナのラブラブシーンも、もっとあったはずなのに!」
ミリーナ「そんなものは、はじめからありません」
ガウリイ「いやー、オレとしては、難しいセリフ言う必要がなくなって、よかったよかった、てなとこなんだけどなー」
リナ「あんたは黙ってて!」
ルーク「仕方ない、俺がロミオ、ミリーナがジュリエットで、もう一度始めからやり直そう!」
ミリーナ「そんな時間はありません」
ルーク「そ、そんなぁ……!」
ヴァルガーヴ「それより、ジュリエットの婚約者である俺の立場は!?」
ルーク「そんなものはない」
リナ「ってか、台本通りにいってたとしても、あんたどっちにしろ振られる役じゃん」
ヴァルガーヴ「い、言うなー!!」
ルーク「自分から言い出しといて……」
リナ「というか、あたしの出番ー!!」



終幕の後で ――舞台裏のさらに裏――

L:んー、なりゅほど。魔族らしく、力で奪って問題解決♪ なかなか、合理的な終わらせ方ね。
S:L様、ご満足いただけましたか?
L:まあ、あそこでロミオが処刑されて、ジュリエットが後追い自殺……ってのもありかと思ってたんだけど。
  こーいう終わらせ方も悪くないわね。
  残った両親らが、お前の娘がうちの息子をたぶらかしたんだ、いや、お前の息子が!
  ってな醜い争いを繰り広げてるかもしんないとこも、なかなか乙な展開だし。
S:いや、L様、それ、ネガティブに深読みしすぎじゃ……。
L:――そんなことより、部下S。
S:はっ。なんでしょうか?
L:劇中では、よくもこのあたしに逆らってくれたわねぇ?
S:え? あ、あの、やはり私といたしましても、部下の部下を大切にしないわけには……。
  魔族も最近人材不足ですし……。って、ご理解いただけたのでは……?
L:やかましい! 部下Sのくせに、あたしの一撃で倒れなったってぇのが大問題なのよ!
  ――というわけで。くらえ、シェークスピアの重み!
S:ちょ、それ、全集何冊重ねて持ってるんですか!?
   ぼぐぁんっ。
L:さて、しかるべき結果に部下Sがおちいったところで。
  これはあくまで、スレキャラ版ロミオとジュリエットってことなので。
  お読みになった方は、決して、これが本当のロミオとジュリエットの物語だなんて、信じないでくださいね。
  ではでは、次回も、このあたし、Lの活躍をご期待ください。

                                                      ――(今度こそ)幕




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33647古今東西迷作劇場5早生みかん 2008/8/14 23:28:15
記事番号33632へのコメント

懲りずに第5回です。
「古今東西〜」と銘打っておきながら、初めての和風話です。
では今回も、お目汚し、失礼いたします。

―――――――――――――
「桃太郎」

 昔々、あるところに、おじいさんとおばあさんがいました。
「どうして私がおばあさんで、あなたがおじいさんなんです!?」
「逆の方がいいんですか?」
「そういう意味じゃありません! どうして私とあなたが、夫婦であるおじいさんとおばあさんをやらなければいけないのかって聞いてるんです!」
「どうやら、前回の『ロミオとジュリエット』での結婚設定をひきずっているようですね。迷惑な話です」
「迷惑なんてものじゃありません! 屈辱です!」
 喧嘩するほど仲のよい、おじいさんとおばあさんのようです。
 ある日、黒髪のおじいさんは山へ芝刈りに、金髪のおばあさんは、川へ洗濯に出かけていきました。
 すると、川へ来たおばあさんの目の前を、どんぶらこどんぶらこと、大きな桃が流れていきます。
「まあ、なんて大きな桃でしょう。でも、リナさんあたりなら、一人で全部食べてしまいそうですね」
 おばあさんは、桃を家まで持ち帰ることにしました。
 家に帰ったおばあさんは、早速、桃を食べようと、包丁を持ち出しました。
「これはまた大きな桃ですね。フィリアさんでは切るのが大変でしょうから、僕が切ってあげましょう」
 言って、おじいさんはおばあさんから包丁を受け取り、巨大な桃のてっ辺に、刃を突き立てました。
 そして。
 ざんっ。
 真っ直ぐに切り下ろ……いや、斜めに切り下ろしました。
「うひゃああぁぁぁ!?」
 なんと、桃の中から、あやうく包丁の餌食になるところだった、水色の髪の子供が、悲鳴をあげて飛び出しました。
「おやおや、すいません。手元が狂って、失敗してしまったようです。てっきり真ん中で丸まっていると思ったのですが、端のほうでうずくまっていたのですね」
「てめぇ、ゼロス! わざとだろ!? つうか、『失敗』って、俺ごと切る気だったのに、切り損じたって意味の失敗だろ、それ!?」
 謝るおじいさんに、子供は食ってかかります。元気なお子さんです。
 子供のいなかったおじいさんとおばあさんは、これを大層喜び、桃から生まれた怪しい子供だというのに、自分たちの子として育てることにしました。
 やがて年月が過ぎ、ヴァル太郎と名付けられたその子は、立派な若者に成長していました。
 そんな折、ある国のお姫様が、鬼が島の鬼にさらわれたという事件が起こりました。
「まあ、物語上仕方ない、その鬼、俺が退治してやろう」
 ヴァル太郎は、鬼退治に出かけることにしました。
「お待ちなさい、ヴァル。鬼退治に行くのなら、これを持って行きなさい」
「フィリア……」
 ヴァル太郎がおばあさんから渡されたのは、とげとげのついた棍棒――いわゆるモーニングスターと言われる武器でした。
「私の愛用の品ですが、これで鬼を退治してきてください」
「あ、ありがとうな……?」
 お礼を言う顔が引きつっているヴァル太郎でした。
「では、僕からはこれを」
 言っておじいさんは、怪しげな袋をヴァル太郎に渡しました。
「なんだ、これ? 何も入っていないぞ?」
「今は、ですよ。困ったとき、その中に手を入れれば、必要なものが出てきますよ」
「ふぅん」
 とにかく、ヴァル太郎は、おじいさんとおばあさんに見送られて、鬼退治へと出かけていきました。
 ヴァル太郎が鬼が島へ向けて歩いていると、一匹の犬が、道の端で泣いています。
「うぇーん! どうしましょう……」
「おい、どうした、犬っころ?」
「ああ、聞いてください! 折角の登場シーン、木の上に登ってカッコよく登場しようと思ったのに、犬の着ぐるみを着ているこの状態では、うまく木登りができなかったんです! そうこうしている内に、ヴァル太郎さんが来ちゃって……」
「それは困ったな……。かといって、俺がもう一度ここを通りなおしても、こいつが木に登れないんじゃ、それも意味がないし……。そうだ!」
 ヴァル太郎は、おじいさんの言葉を思い出し、もらった袋に手を突っ込みました。すると、どうしたことでしょう。さっきは何も入っていなかった袋から、一枚の紙が出てきました。
「何か書いてあるな……なになに?」
『もしも、着ぐるみのせいでうまく木に登れなくて困っている少女がいたら、こうアドバイスをしてあげましょう。「君には浮遊(レビテーション)という魔法がある、それで飛んで木に登ればいい」また、こうも言ってあげましょう。「大丈夫、正義の心がある限り、どんな場所で登場しようとも、きちんとポーズを決めれば、君が正義の味方であることに変わりはない」』
「これ……俺が言うのか?」
 そうですね。
「えっと……おい、そこの犬、ちょっと聞け」
「はい、なんですか?」
 犬は、まだ涙を浮かべながら、ヴァル太郎の方を向きました。
「あー、その、お前には、浮遊(レビテーション)という魔法があるだろ? それで好きなだけ上まで登ればいいじゃねぇか」
「あ! そうでした! その手がありました! 浮遊(レビテーション)!」
 呪文を唱えると、犬はふわふわと浮かび上がり、ひらりと木の上に落ち着きました。
「やったぁ! ありがとうございます、ヴァル太郎さん!」
「それとな……これも言わなきゃダメなんだよなぁ……」
 ためらっていたヴァル太郎でしたが、やがて意を決し、犬に向かって言いました。
「大丈夫だ! 正義の心がある限り、たとえどんな場所で登場しようとも、ポーズを決めれば、お前が正義の味方であることに変わりはねぇ!!」
「な、なんですってえ〜!?」
 ヴァル太郎の言葉に、犬は飛び上がりました。
「確かにさっきの私は、自分の登場の仕方にこだわり、正義の心を忘れかけていました。しかし! 今、あなたの言葉で、目が覚めました!
 行きましょう、ヴァル太郎さん! この、アメリア=ウィル=テスラ=セイルーンが、あなたと共に、悪の権化である鬼を退治してみせます!」
「お、おう!」
 こうして、犬がヴァル太郎に仲間になりました。
 また少し行くと、今度は、道の端で、一匹の猿が倒れていました。
「あ〜、腹減ったぁ……めし……」
「ヴァル太郎さん、どうやら、行き倒れのようですね」
「ちょっと待ってろ、もしかしたら……」
 ヴァル太郎は、例の袋の中を探ります。袋の中に、何かがぎっしり詰まった手応えがあり、ヴァル太郎は、袋をひっくり返しました。
 すると、逆さまにした袋の中から、明らかに袋の大きさ以上ある、大量のバナナが出てきました。
「めしぃ〜!!」
 吠えると、猿は一心不乱にバナナをむさぼり食いました。
 やがて。
「あー、食った食った。あんた、オレの命の恩人だぁ」
「それはどうもな……」
「よかったですね、ガウリイさん」
「よーし、飯のお礼に、しばらくあんたについていくぜ!」
「ああ、よろしく頼む」
「ところで、これから何をしに行くんだ?」
 ずるぅっ。
 猿の言葉にずっこけたヴァル太郎と犬だったのでした。
 さて、さらに行くと、道の端に、一匹の雉がいました。
「まったく、なんだって俺がこんな真似を……」
 その雉は、針金の髪に岩の肌を持っていました。
「次はあいつを仲間にしろってことなんだろうな」
「大丈夫です! 正義を愛する心がある限り、きっとゼルガディスさんも、私たちの仲間になってくれるはずです! ね、ゼルガディスさん!」
「そんなものはない」
 犬の呼びかけに、きっぱりと、雉は言い切りました。
「ここでも、これを使えってわけか……」
 ヴァル太郎は、またも袋に手を入れました。すると、今度も紙が一枚出てきました。
『岩肌の彼は、今日はちょっぴりご機嫌斜め。どうも衣装が気に入らないみたい。そんな彼には、こうささやいてあげましょう。「鬼が島の鬼は、宝物だけでなく魔道書の類も溜め込んでいるらしいから、鬼のところへ行けば、その体を戻す手がかりがつかめるかも」』
「今度はこれを言えってか……?」
 そうらしいですね。
「くっ……! おい、そこの雉っぽいもの!」
「なんだ?」
 不機嫌そうに、雉がヴァル太郎を見ます。
「いいか、よく聞け! 俺たちが今向かっている鬼が島の鬼は、魔道書の類を溜め込んでいるらしい。だからきっと、そこへ行けば、お前の体をどうにかする手がかりがあるかもしれねぇ!」
「なんだと!? そういうことなら、よし、行くぞ、アメリア、ガウリイ、ヴァル太郎!」
 言うなり、雉はさっさと先に立って歩き始めました。
「おい、待て、俺たちを置いていくな!」
「待ってくださいよ、ゼルガディスさーん!」
「で、これ、どこに向かっているんだ?」
 何はともあれ、これで役者がそろったようです。

 さて、旅は順調に進んで、ついに鬼が島。
「おーい、出て来い、鬼〜!」
「罪もない村人から金品を強奪し、人々を恐怖の底に落としいれ、あまつさえ、一国の姫をさらって閉じ込めるなど、数々の悪事、見逃すわけにはいきません! その身に思うところがあるのなら、大人しく姿を現し、正義の裁きを受けなさい!」
「魔道書、魔道書はどこだ!?」
「なあー、オレ、腹減ったんだけど、先に食堂でも探さないか?」
 一人と三匹が、鬼を探してうろうろとしていると。
「んっふっふっ。ついに来たわね、あんたたち」
 どこからともなく、声が響き渡りました。
「その声は……!」
「まさか……!」
「生きとし生けるものの天敵!」
「大魔王の食べ残し!」
「ドラゴンもまたいで通る!」
「ロバーズ・キラーのドラまた、こと」
「「「「リナ=インバース!?」」」」
「じゃかあしいっ!」
「まさか、鬼役がリナ=インバースだったとは……」
「確かに、適役かもしれんが」
「そんな、リナさんが、そこまで悪の道に走っていただなんて……!」
「おーい、リナ、ここって飯はないのか?」
「あ・ん・た・ら・ね・ぇ……!」
 一人と三匹の言い様に、鬼は額に青筋を浮かべました。
「なぁぁんであたしが『鬼』役なのよ!? 本来なら、この天才美少女魔道士リナ=インバースが、主役を務めるってのが筋じゃない!?」
「いや、どうかな」
「結構、あってると思うぞ、鬼」
「まあ、桃太郎よりは、鬼のほうがしっくりくると思います」
「よく似合ってるぞ、リナ」
 ぷち。
 何かが切れる音を、一人と三匹は聞きました。
「あんたら、いい度胸じゃない……!
黄昏よりも昏きもの 血の流れより紅きもの――」
「竜破斬(ドラグ・スレイブ)を使う気か!?」
「や、やめてくださいよ〜!」
「おい、リナ、よせ!」
「そ、そうだ、こんなときこそあの袋だ!」
 ヴァル太郎は、慌てて例の袋の中を探しました。
 すると、出てきたのは一枚の紙と、一通の手紙でした。
『栗色の髪の彼女を怒らせちゃったあなた、ちょっと大変なことをしでかしちゃったかも。でも、慌てず騒がず、手紙を彼女に渡してみよう。きっと思いが伝わるはず』
「手紙って、これのことか?」
 ヴァル太郎は、紙と一緒に出てきた手紙をつまみあげます。
「いいから、早くそれをリナに渡してみろ!」
「お、おう!」
「――全ての愚かなる者に
 ドラグ・スレ……!」
「これを読んでみろ、リナ=インバース!」
 間一髪、ヴァル太郎は、手紙を鬼に渡しました。
「ん……? 何よ、これ?」
 しばし手紙を読みふける鬼。読み進むにつれて、鬼の顔色が変わっていき。
「ごめんなさい、ねぇちゃ〜ん!!」
 一声叫ぶと、鬼は猛ダッシュで、どこかへ逃げていきました。
 残されたヴァル太郎たちは、しばらく呆然としていました。
 やがて、ヴァル太郎は、鬼が落としていった手紙を拾い、読んでみました。そこには、ただ短く、こう書かれていました。
『いいから大人しくやられなさい。――姉ちゃんより』
「なるほどな……」
「お姉さんからの手紙だったんですね」
「あのリナが逃げるわけだ」
 とにかく、鬼はいなくなったのです。ヴァル太郎たちは、とらわれのお姫様を探すことにしました。
 やがて一行は、隠し部屋を探し出し、そこへ入ろうとしました。
 すると。
「おーほっほっほっほっほっほっ!
 ふっ! こんなところに閉じ込めて、それで私に勝ったつもりなのかしら、リナ=インバース!」
 なにやら怪しげな声が、部屋の中から聞こえてきました。
「まさか、あの声がお姫様……?」
「そりゃ……封印しときたくもなるわな」
「あれ? あの声、どこかで聞いたような……」
「なあ、それより、食料探そうぜー」
 怪しげな気配を本能で感じ取り、一行は、何も聞こえなかったことにして、その場を去ることにしました。
 その後、結局雉の体を元に戻せるような魔道書は見つからず、お宝の山は犬の提案で、近隣の貧しい人々に寄付をして、ヴァル太郎たちは帰って行きました。
 めでたしめでたし。

                                         おわり。

―――――――――――――

終幕の後で ――舞台裏のさらに裏
L:というわけで、今回の主役は、細腰へそ出し流し目のあの人、ヴァルガーヴです!
S:そ、その紹介文って……。
L:いや、奴を表すには、やはりこれが一番的確かと。原作者もそういってたし。
S:いや、そうですけど。でもこの話、主役の影が一番薄いような……?
L:言うなぁ!
  あたしも、話が終わってからふと我に返ってみたら、主役がヴァルガーヴの必要あったのかな?
  とか、首を傾げちゃったんだからぁ!
S:ううっ。不憫な……。
L:一番不幸なのは、本編の主役のはずなのに、鬼役のリナでしょうけどね。
S:って、毎回キャスト考えているの、L様じゃあ……?
L:そんなこともあったわね。
  というわけで、今回の反省を生かして、次回の主役は、もっと濃いキャラを!




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33648古今東西迷作劇場6早生みかん 2008/8/15 22:05:15
記事番号33632へのコメント

開き直って、第6回目、投稿してしまいました。
今回は、ついに「あのお方」のご登場です。
では、見てやってもいいかなー、という方いましまたら、どうぞお付き合いください。


―――――――――――――
「かぐや姫」

 昔々、あるところに、おじいさんとおばあさんがいました。
「で、また僕たちが、おじいさんとおばあさんなんですね」
「いい加減にしてください! どうして毎回毎回、私がこんな生ゴミなんかと……!」
「僕としても、こんなわがままなドラゴンのおもりは、もうたくさんなのですけどね」
「なんですってぇ〜!?」
 と、とにかく、二人は仲良し、だと思ってください。
 ある日、おじいさんが山へ竹を切りに行くと、一本の竹が、金色に光り輝いていました。
「なんか……あのお方の気配がするような……?」
 おじいさんは恐る恐る、慎重に、その竹を割ってみました。すると中には、金色の長い髪を持つ小さい娘が、ちんまりと座っておられました。
「な、何故あなた様がこんなところに……?」
 驚きを隠せないおじいさんに、竹の中の金色は、仰いました。
「今回はあたしが主役だからよ! さあ、ゼロス、さっさとあたしを家へ連れ帰って、かぐや姫として育てなさい!」
「ええぇぇぇ!?」
 というわけで、おじいさんはその金色を連れ帰り、かぐや姫と名付けて育てなければいけないはめにおちいったのでした。ちなみに、家に連れ帰られた金色の姫を見たおばあさんは、声もあげずに失神したそうです。
 やがて月日が経ち、かぐや姫は傲慢に――失礼、間違えました――美しく成長しました。
 それに合わせて、彼女に結婚の申し込みをしてくる者たちがありました。
「ふふん、美しいって、罪ね♪」
 一度に五人に求婚されたかぐや姫は、それぞれに欲しいものを言い、それを持ってきてくれた者と結婚する、と仰いました。
 まず一人目。御仏の石の鉢を持ってくるように言われた者が、かぐや姫の望みを聞いた翌日、早速やってきました。
「あら、随分と早いのね、獣王ゼラス=メタリオム」
 やってきた求婚者に、かぐや姫はお声をかけられました。
「はっ。さあ、どうぞこれをお納めください」
「どれどれ……」
 ゼラスの献上した物を見て、かぐや姫は、しばし絶句なされました。
「ゼラス、あんたこれ、ただの漬物石じゃない!?」
「はい。恐らく、『あとがき』における新たな武器をお探しの上でのあの注文と思い、御仏の石の鉢とやらを探したところ、より武器に相応しいものを発見したもので、献上しに参った次第」
「うーみゅ……。確かに、漬物石って、立派な凶器よね……。よし、ゼラスは合格! あ、でも、あたしの言ったもの持ってきたわけじゃないから、求婚の話はなしね」
「はっ」
 そして、ゼラスは帰っていきました。まず、五人の内一人が、結婚相手からは脱落したわけです。
 その翌日、今度は蓬莱の玉の枝を所望された求婚者がやってきました。
「冥王フィブリゾ、蓬莱の玉の枝、早速見せてちょうだい」
「はい、お母様」
 言って、フィブリゾはかぐや姫の前に、見事な枝を差し出しました。その枝は金、葉は銀、白く輝く玉の実をつけて、まばゆい光を放っています。
「いかがですか、お母様」
「う〜、確かに、本物っぽいわねぇ。だけどこれで、あんたと結婚ってのもなぁ」
 お悩みになられるかぐや姫でしたが、そのとき、大声を上げて部屋に入ってくる者がありました。
「失礼します、こちらに、冥王フィブリゾ様はおられますか!?」
「な、なんだラーシャート、急に入ってきて! 失礼だろう!?」
 入ってきた人物を見て、フィブリゾが、抗議の声をあげます。
「しかしフィブリゾ様、蓬莱の玉の枝作りに協力した報酬をいただかないと、私はガーヴ様の元に帰れないのですよ。お願いします、早いとこ、報酬を払ってください」
「ああ、この馬鹿、何もこんなところで……!」
 頭を抱えるフィブリゾでしたが、言ってしまったものは、もうどうにもなりません。
「ふぅん、つまりあんたは、ニセモノを作って、あたしの目をごまかそうとしたってわけね」
「だ、だって、ニセモノでもこんなに綺麗なのだから、お母様も喜んでくださると思って……!」
「やかましい! このあたしを騙そうとした時点で、あんたは失格! 不合格ですらないわ!」
「そ、そんなぁ……」
 こうしてフィブリゾは、すごすごと帰っていきました。帰る道すがら、彼の計画をぶち壊しにしたラーシャートがどんな目にあったかは、ご想像にお任せします。
 また翌日。やってきたのは、火ねずみの皮衣を望まれた求婚者です。
「ささ、お母様、早速お召しなさってみてくださいな」
「って、海王ダルフィン……あたしが頼んだのは、火ねずみの皮衣なんだけど?」
 献上された品は、赤と黒とで彩られ、金色の刺繍の入った、それは絢爛豪華なドレスでした。
「だって、このほうが、お母様にお似合いになると思って。お母様のために、特別に作らせたのですわ」
「あら、そうなの? まー確かに、火ねずみの皮衣なんかより、こっちの方がよっぽど綺麗よね。よし、ダルフィンも合格! でも、やっぱり物が違うから、求婚の話はなしってことで」
「ええ、かまいませんわ。それでは御機嫌よう、お母様」
 そしてダルフィンは帰っていきました。これで残るは後二人です。
 さて翌日。龍の首の玉を持っていかなければいけないはずの魔竜王ガーヴは、一人、旅の空にありました。
「俺も一応竜だが、首に玉なんてねぇし、他の竜が持っているって話も聞いたことがねぇ。大体、結婚なんて興味ねぇしな」
 結局、ガーヴはそのまま、かぐや姫の元を訪れることなく、どこかへ行ってしまいました。
「うおにょれガーヴ、腹心連中で一番人気があるからって、このあたしを無視してとんずらだぁ? あいつは不合格、決定!」
 翌日、かぐや姫の元に、覇王将軍シェーラが、覇王グラウシェラーからの手紙を届けに参りました。
『ご所望されていた、つばめの子安貝、どうも私には荷が重すぎたようです。あなた様のお望みを叶えられない、不甲斐ない私をお許しください』
「こいつがこんな弱気な手紙を書くだなんて……グラウシェラーに何があったの?」
 かぐや姫が、シェーラにお尋ねになられました。
「は、はい。実は、わが主、覇王グラウシェラー様は、その……」
 かぐや姫に直接話しかけられた緊張で、シェーラは、どもりながらも話しました。
 グラウシェラーは、かぐや姫の望みのつばめの子安貝を手に入れるべく、多くのつばめの巣を探して回っていました。正確には、部下に探させて回っていました。しかし、昨日、気まぐれに自分でつばめの巣をあさってみたところ、巣を守ろうとしたつばめにつつき倒され、転倒し、腰を痛めたということでした。しばらく、動くこともままならないようです。
「……ま、あいつも一応努力したみたいだし、ぎりぎり合格ってことにしてやろうかしら」
 これを聞くと、シェーラは喜んで帰っていきました。
 さてこれで、五人の求婚者のすべてが、かぐや姫の結婚相手になれなかったわけですが、物語はまだ続きます。今度は、帝のお出ましです。
「別に俺は結婚したいわけじゃねぇんだが、話にのってやらないと、後が恐いしな……。許せ、ミリーナ、俺の心は、お前だけのものだぁ!」
 黒髪短髪、少々目つきの悪い帝が、かぐや姫に結婚を申し込むためにやってきました。
「というわけで、かぐや姫、嫁にきてほしいんだが」
「えー、帝ってだけで、何の苦労もせずに姫を手に入れようだなんて、あたしは不満だなー」
「そう言われても、帝までもが結婚を申しこむ、って話なわけなんだし」
「ま、とにかく、その話はパスってことで」
 かぐや姫は、帝の申し出を、あっさりと断っておしまいになられました。
 その日の夜、かぐや姫は、夜空の月を見上げて泣いておられました。
「どうされたのですか?」
「何か気に入らないことでも?」
 それを見たおじいさんとおばあさんが、恐る恐る、かぐや姫に問いかけます。
「それが、あたしは明日の満月の夜、月に帰らなければならないのです。やっと主役になれたというのに、もう帰らなければいけないと思うと、悲しくて悲しくて……」
 かぐや姫は、泣く泣くお話しになられました。
 これを聞いて、おじいさんとおばあさんは顔を見合わせました。
「これって、話を長引かせて、あのお方の出番を増やせ、ということなのでしょうか?」
「そ、そういうことなのでしょうか。だとすると、簡単に月に帰しちゃいけないわけですよね?」
 おじいさんとおばあさんは相談して、帝に、月からの迎えを撃退していただくよう頼むことにしました。
 さて翌日。日がすっかり沈み、満月がどんどん空高く昇っていきました。
「ねえ、本当にそのお迎えって来るの? お母様のお騒がせな嘘なんじゃない?」
 見張りに立っているフィブリゾが、恐れ多いことを言いましたが、それに答えるものは誰もありませんでした。みな、かぐや姫を守るために集まっているのです。無駄口を叩けば、かぐや姫にどんなお仕置きを受けるか、わかったものではありません。
 みなが緊張しながら待っていると、真夜中頃、ついに、それは姿を現しました。
「L様、お迎えにあがりました!」
 黒い髪に紅い瞳を持ったそれは、かぐや姫に向かって言いました。
「あ、あなた様が、お迎えなのですか!?」
 フィブリゾ以下、見張りの者たちは、驚きのあまり、体が動きませんでした。
「いよ、部下S。お迎えご苦労」
 L様……じゃない、かぐや姫は、迎えの者に気さくに話しかけられました。
「でも折角だけど、あたし、もう少しここに残って主役やらせてもらうつもりだから。あんた、もう帰っていいわよ!」
「いいえ、L様! そんなわけにはまいりません! 早く帰らなければ、作者の奴が、一人で新刊のあとがきを仕上げてしまいますよ!?」
「なぁんですってぇ!? あいつ、あたしがいない間に、なんてことを……! こうしちゃいられない、部下S、さっさと帰るわよ!!」
「はいっ、L様!!」
 こうして、かぐや姫は月へと帰っていきました。残された者たちは、姫を失った悲しみで泣き伏していました――なんてわけはなく、やっと帰ってくれたという安堵感から、みな、その場に崩れ落ちたといいます。
 めでたしめでたし。                                                 終


―――――――――――――
終幕の後で ――舞台裏のさらに裏
L:うーん、さすが、主演女優が最高なだけあって、なんて名作ができあがったのかしら。
S:前回言ってた濃い主役って、L様ご自身……?
L:そ。これ以上ない、素晴らしいキャスティングでしょう? 魔族も盛りだくさんだし、何より、S、あんたも出してやったんだし。
S:それについては、ありがとうございます。しかし、劇中に言っていた、合格・不合格って……?
L:いや、ついでだから、この機会に、腹心連中のあたしへの態度をテストしておこうかなと。結果、合格三名、不合格一名、失格一名、と。
S:不合格者、失格者は、それぞれもう滅びていますけどね。
L:まあ、そういう話もあるわね。
  さてさて、キャラも残り少なくなってきたし、次回は誰に主役をやらせようかしらね?
  ……っと、その前に。
S:あの、L様……? その手にしている漬物石は……?
L:折角ゼラスにもらったんだし、使わないともったいないなー、とか思って♪
S:え? 使うって、まさか……!
   ごとっ。
L:ふぅー。石は石でも、使う当てのない石の鉢より、漬物石よね♪
  部下からの贈り物を有効活用したところで、皆様、また次回お会いいたしましょう♪



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33651古今東西迷作劇場7早生みかん 2008/8/19 22:00:03
記事番号33632へのコメント

 くだらない文章で場所をとってしまって申し訳ありませんが、スレイヤーズキャラでお芝居(?)第7弾、投稿させていただきます。

―――――――――――――
「一寸法師」

 昔々、あるところに、おじいさんとおばあさんがいました。
「またこのパターンですか」
「どうしてどうして、私がこんな目に……」
 静かに顔を引きつらせているおじいさんと、地面に『の』の字を書いているおばあさんですが、そこは気にせず話を進めましょう。
 長いこと子供のいない二人でしたが、おばあさんが一生懸命祈りをささげたところ、ついにおばあさんに子供ができたのです。
しかし、喜んだのもつかの間、生まれた子供は、身長が一寸しかなく、それ以上大きくならなかったのです――という事態ではありませんでしたが、なんと、生まれた子供は、謎の小動物だったのです。
「小動物言うな!」
「まあまあ、ポコタさん」
「か、可愛い! けど、確かに謎の小動物としか、言いようがないような……」
 とにかく、おじいさんとおばあさんは、この謎の小動物を、二人の子として育てることに決めました。
「『二人の子』ってところが、ものすごく不快なんですが」
「何で今回は、私が産んだなんて話になっているんですか!? 今までみたいに、拾ってきたり、見つけてきたってことでいいじゃないですか!?」
「おや、フィリアさんは、捨て子に賛成なさっているんですか?」
「なんでそうなるんですか!」
「ところで、これからポコタさんは一寸法師として京へ旅立つわけですけど、原作では、どういう理由で旅に出るか、知っていますか?」
「え? それは、武士になるためとか、そういう理由じゃあ……」
「いいえ、それは後から変えられた理由です。本当はね、いつまでたっても大きくならない一寸法師を、おじいさんとおばあさんが気味悪がって化け物扱いしたから、いたたまれなくなった一寸法師は家を出た――そういういきさつなんですよ」
「ひどい! 私は、ポコタさんを化け物扱いなんかしません!」
「さっき、拾いっ子の方がよかった、みたいな発言、していませんでしたっけ?」
「していません! ただ、『二人の子』という表現が嫌なだけです!」
 ぎゃあぎゃあぎゃあぎゃあ、よく喧嘩する夫婦です。
「……オレ、こんな家、いたくねぇよ」
 ぽつりと呟くと、ポコタは家を出ていこうとしました。
「お待ちなさい、ポコタさん」
 しかし、それをおじいさんが止めました。
「京に行くなら、是非お土産は生八ツ橋で。今はチョコバナナやブルーベリー、その他色々な種類があるそうですから、何種類かお願いします」
「私はお茶を……ああ、でも、焼き物も捨てがたいですね、粟田焼に清水焼……どうしましょう。ねえゼロス、どっちがいいと思います?」
「やっぱりお茶じゃないですか? 焼き物だと、持って来る途中で割れてしまうと勿体ないですし」
「そうですね、生八ツ橋にもあうでしょうし。じゃあ、お茶でお願いします」
「……行ってきます」
 急に仲良くお土産のリクエストを始めた二人に呆れ、ポコタは疲れた足取りで家を出て京に向かいました。

「さて、京に着いたはいいが、これからどうするか。まさか、あいつらにお土産買って帰るだけ、ってわけにもいかねぇし」
 京に着いたポコタは、ふと、一軒の飯屋の前で足を止めました。
「とりあえず、どっかで飯でも……」
「あー! ポコタさん!!」
 後ろからかけられた声に、ポコタが振り向くと、そこにいたのは
「アメリア!?」
「ポコタさんが一寸法師の役だったんですね?」
 やや短めの黒髪の少女が佇んでいた。
「アメリアは、ここで何をやっているんだ?」
「私は一応お姫様の役なのですが、今、京の町では鬼が暴れているということなので、退治しに行くところなんです。ポコタさんも、一緒に行きませんか?」
「鬼退治? よぉーし、行くぞ、アメリア!」
「はい、ポコタさん!」
 一人と一匹(?)は、仲良く鬼退治に行くことになりました。
 と、そのとき、通りの向こうから、人々が、血相を変えて走ってきます。
「鬼だ、鬼が出たぞー!」
「ポコタさん、聞きましたか!?」
「鬼が出たってな。よし、早速行って、退治だ!」
「はい!」
 言って、ポコタたちは、逃げる人々の流れに逆らい、通りを駆け出しました。

 鬼が暴れていると聞いてポコタらが着いたところは、今まさに破壊されかけている、とある寺。そして、そこにいたのは。
「ゼ、ゼルガディスさん!?」
 銀の髪に、青い岩肌の鬼を見て、アメリア姫は驚きの声をあげました。
「まさか、鬼って、ゼルガディスさんのことだったんですか!?」
「すまん……。実は、好きなだけ寺院をあさっていい役、と言われて引き受けたのだが、まさかそれが、鬼の役だったとは……」
「見損ないました! ゼルガディスさんが、鬼の役をやるような人だっただなんて……!」
「おい、アメリア、俺の話を聞いていたか?」
「たとえ共に闘った仲間であろうとも、悪いものは悪いのです! 今、私は、この世に平和をもたらす正義の使者として、悪い鬼であるあなたを退治します!」
「おい……」
「さあ、ポコタさん、頑張りましょう!」
「おう! 火炎球(ファイアー・ボール)!」
「魔風(ディム・ウィン)!」
 どごおぉぉん、というすさまじい音をたてて、風にぶつかった炎が爆発しました。
「なかなかやるな……!」
「そっちもな!」
「だが、これならどうだぁ!?」
 言うと、ポコタは自分の胸にあるチャックをはずし、中から光の剣(レプリカ)を取り出しました。
「光よー!」
「なんだと!?」
 ぎぃぃん……、という音と共に、固い岩でできている鬼の肌に、傷がつきました。
「くっ……、しまった!」
「どうやら、その岩肌も、光の剣(レプリカ)には通用しないみたいだな!」
 焦る鬼に、ポコタはじりじりと間合いをつめていきます。
 しかし、そのとき。
「待ってください!」
 大声をあげて、鬼をかばうように、ポコタの前に現れた人がありました。
「アメリア、そいつを退治しに来たんだろう!?」
「そうです、そうですけど……。でも、ゼルガディスさんは、大事な仲間です! きっと、きちんと話し合えば、わかってくれるはずです!」
「アメリア……」
 アメリア姫の必死の様子に、残酷な鬼の心も動いたようでした。
「ゼルガディスさん、もう、鬼だなんて因果な商売はやめて、元の真人間に戻りましょう」
「……そうだな、鬼はもう、やめにするとしよう」
「わかってくれたんですね!?」
 喜ぶアメリア姫からわずかに視線をそらしながら、鬼は口の中で呟きました。
「それに、ここらの寺は、もう荒らしつくして、目当ての物がないこともわかっているしな……」
 しかし、この声がアメリア姫に聞こえることはなく、二人と一匹は、仲良くアメリア姫の屋敷へと行き、そこで平和に幸せに暮らしたといいます。
 めでたしめでたし。

                                      おしまい。

―――――――――――――

終幕の後で ――舞台裏のさらに裏――
L:あれ……? 打ち出の小槌は……? 一寸法師の人間サイズ化は……?
S:出てきませんでした……ね。
L:いや、それよりなにより、あたしへの生八つ橋はぁ!?
S:物語のキーアイテムの消失より、お土産の話ですか!?
L:だって、劇中ゼロスも言ってたけど、最近の生八つ橋って、ほんとに色んな種類あんのよ?
  にっき、抹茶、白ごま黒ごま、みかん、もも。ラムネやマンゴー、京焼きいもあん……。
  なんてものまであるらしいのよ?
  食べてみたいじゃない!
S:そのお気持ちはわかりますけど……。
L:うおにょれ、ポコタ! たかがぷちあにまるの分際で、主役に抜擢してやったというのに!
  もう主役やらせてあげないわよ!
S:元々、主役は一人一回って決まりなのでは……?
L:お黙り、部下S!
   びぢゃあっ!
L:さてさて、部下Sが、あつぅい緑茶のシャワーで黙り、食い物の恨みの恐さを噛みしめたところで。
  今回はお開きとさせていただきます。
  さぁて、次回もはりきっていくぞー。



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33654古今東西迷作劇場8早生みかん 2008/8/22 21:31:07
記事番号33632へのコメント

毎度お目汚し、失礼します。
古今東西迷作劇場8、投稿させていただきます。
今回は、珍しくハッピーエンド(?)です。……たぶん。

―――――――――――――
「カエルの王子様」

 とある国の、とあるお城の、とある庭で。とある黒髪のお姫様が、短剣片手に、ヒロイック・サーガの真似事をやっておられました。
「この世に光のある限り、悪の栄えたためしなし。今こそ、その悪行を悔い改め、正義の鉄槌を受けるときです! とうっ!」
 どげんっ。
 朗々と口上を述べて、高い木の上から飛び降りたお姫様でしたが、着地に失敗し、見事に頭から地面に衝突しました。
「……なんのこれしき!」
 気丈にも立ち上がったお姫様でしたが。
「ああ! 父さんにもらった短剣がない!?」
 なんと、先ほどまで手にしていた短剣が、どこかへ消えてしまっています。
「どうしよう……」
「おい、これ、お前のか?」
 突然かけられた声に振り向けば、お姫様の後ろに、謎の小動物が、短剣を抱えて立っています。
「そうです! あなたが拾ってくれたのですね? ありがとうございます!」
 言いつつ、短剣を取ろうとするお姫様を、小動物は、ひらりとかわしました。
「悪いが、ただでこいつを返すわけにはいかないんだ。返して欲しければ、オレとお友達になるんだな!」
「はい、いいですよ」
「……へ?」
 小動物の要求に、お姫様はあっさりと首を立てに振りました。
「ポコタさんと私はお友達です。だからその短剣、返してもらえますか?」
「あ、ああ」
 あまりにもあっさりとしたお姫様の物言いに、小動物はあっけにとられていました。そして、お友達になった一人と一匹は、お姫様の住む城へと帰ることにしました。
 しかし、城にやってきた小動物を見て、驚きの声をあげたのは、栗色の髪の姉姫様です。
「ああ! あんた、ポコタぁ!? アメリア、なに変なもの拾ってきてんのよ!?」
「拾ってきたんじゃありません。ポコタさんは、お友達として城へ来てもらったんです」
「お友達ぃ?」
「おい、アメリア、まさかこの薄くて小さいのが、お前の姉姫役なのか?」
「な、誰が『薄くて小さいの』よ!?」
「さてはここは貧乳の国の貧乳城で、お前はそこの貧乳王女だろう!?」
「ひっ……なぁんですってぇ!?」
「ああ、リナさん、おさえて!! ポコタさん、早く私の部屋に行きましょう!!」
 お姫様のお友達を見て、娘の身を案じた姉姫様をなんとか説得し、お姫様と小動物は、部屋へと引き取ることにしました。
「さてポコタさん、折角お友達になれたのですから、何かして、遊びましょうか?」
「アメリア、その前に、一つ頼みがあるんだ」
「なんですか? 私にできることだといいのですけど」
「実はオレ、本当はある国の王子なんだけど、呪いでこんな小動物の姿に変えられちまったんだ」
「そんな……!」
「なんとか、この呪いを解きたいんだが……」
「――わかりました。ポコタさんは、私の大事なお友達です。このアメリア=ウィル=テスラ=セイルーンの名にかけて、その呪い、絶対解いてさしあげましょう!」
 こぶしをぐっと握りしめ、アメリア姫はそう断言しました。
「そういえば、前にリナさんが、強い衝撃を与えれば、元に戻ることがある、って言っていました! まずはそれからためしてみましょう! 霊王結魔弾(ヴィスファランク)!」
「ちょっとまて、アメリア、それは、記憶喪失を元に戻す方法じゃ……!?」
 ぼごんっ。
「ぅあー!」
 何やら言っていた小動物の言葉など耳に入らなかったらしく、アメリア姫は、魔力をこめたそのこぶしを、思い切り小動物に向かって振り下ろしました。
 すると。
 もくもくもく。
 小動物を中心に、白い煙が現れたではありませんか。
「な、なになになに!?」
 動揺するアメリア姫の前で、やがて煙はおさまっていきました。しかし、煙が消えた後に現れたのは。
「ふぅ……。まったく、役者交代の目くらまし用の煙に、焼き魚の煙なんて使うなよな。おかげで、服が魚臭くなっちまった」
「ゼルガディスさん!?」
 なんと、謎の小動物はいなくなり、代わりに、銀髪長身の青年が立っていたのです。
「そんな……! ポコタさんの正体が、ゼルガディスさんだっただなんて……!」
「ちっがーう! 呪いを受けた姿と、呪いが解けた姿で、役者を変えただけだ! 気付け!」
「役者を変更……。じゃ、呪いは解けたんですね!?」
「ああ、そういうこと……ぶっ!?」
 アメリア姫は、喜びのあまり、青年に抱きつきました。魔力をこめたままの手で、主に首の辺りを力強く。
「アメリア、苦しっ、つうか、痛っ……!」
「よかった、よかったですー!」
 その後、二人は仲良くお城で暮らしたといいます。
 めでたしめでたし。

                                        おしまい。



―――――――――――――

終幕の後で ――舞台裏のさらに裏――
L:ふっ。今回は、珍しく綺麗にハッピーエンドになったわね。
S:ハッピーエンドかもしれませんけど、途中で『焼き魚の煙』とか、気になるワードがあったんですけど……?
L:ご心配なく。焼きあがったお魚は、あたしがおいしくいただきましたから。
S:前回、生八つ橋を食べられなかった分……ですか。
L:しかしこの話、お姫様のキスで呪いが解けるってパターンもあるらしいけど。
  古い話だと、お姫様がカエルを壁に投げつけた衝撃で……らしいのよね。
  いやー。童話って恐いわねー。
S:で、今回はその古い話の方を採用したわけですね。
L:そ。童話って、ぽこぽこキスシーン出てくるけど。
  そういうのは、ちょっとこの古今東西迷作劇場ののりにあわないだろうということで。
  ……ま、一回、すれすれのはやったけどね。
  さて、最近あたしの登場がないし、そろそろ出演する準備でもしようかしらね?
  では、また次回、お会いしましょう。





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33664古今東西迷作劇場9早生みかん 2008/8/29 22:07:04
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時間があいてしまいましたが、懲りずにまたやってきてしまいました。
スレイヤーズキャラによる、ギャグお芝居、古今東西迷作劇場第9回、投稿させていただきます。
今回は、過去多く方が書いてこられた、あの作品に挑戦させていただきました。

―――――――――――――
「シンデレラ」

 昔、ある国に、シンデレラと呼ばれている、かわいそうな女性がいました。
母は早くに亡くなり、残った父も、子連れの女と再婚した後、すぐにはかなくなってしまったのです。さらに悪いことに、その再婚相手の継母と連れ子の姉妹に、シンデレラは召使のように扱われていたのです。
「シンデレラ! そこ、汚れてるわよ! ちゃんと掃除をやったの!?」
「はい、リナさん、ただいま!」
「『リナさん』じゃなくて、『お姉さま』!」
「はい、お姉さま!!」
 シンデレラは、その長く美しい金髪をなびかせて、栗色の髪の義姉のいいつけに従いました。
「リナさん、お芝居なんですから、もう少し優しくしてあげても……」
「何か言った!? アメリア!?」
「いえ、なにも……。リナさん、『意地悪な姉』の役が、不満みたいですね」
 黒い髪の下の義姉は、ぽそりと呟きました。
「さあ、今日はお城で王子様の結婚相手を選ぶ舞踏会よ。あなたたち、シンデレラを残してさっさとお城へ行くわよ」
「随分とお綺麗な格好をしているじゃなーい。ルルお母様♪」
「素敵です、ゼルガディスさん」
「……なんだって、俺が『意地悪な継母』の役なんだ?」
 肩を落とした継母でしたが、落ち込みながらも、娘二人を連れて、舞踏会へと向かいます。
 屋敷に残されたのは、かわいそうなシンデレラ一人でした。
「ああ……。私も、お城の舞踏会に行ってみたいわ」
 碧い瞳を悲しみで潤ませ、シンデレラは呟きました。
 するとそのとき。
「お困りのようですね」
「この声は……」
 いつの間にか、シンデレラの目の前に、黒い服の青年が立っていました。
「この生ゴミ! また性懲りもなく現れて、私が主役の話を滅茶苦茶にする気ですか!?」
 突然の侵入者に、スカートの下からモーニングスターを出して跳びかかったシンデレラでしたが、その攻撃は、あっさりとかわされてしまいます。
「早とちりしないでください、フィリアさん。僕は今回、魔法使いとして、あなたを舞踏会に行かせてあげるために出てきたんですよ?」
「……本当ですか? 本当に、私を舞踏会へ……?」
「ええ。それが魔法使いの仕事ですから」
 言うなり、魔法使いは、手にした杖をシンデレラに向けて一振りしました。
「まぁ……!」
 すると、途端にシンデレラのぼろ服が美しい白のドレスに変わり、足には輝くガラスの靴が履かされています。
「どうです?」
「確かに、これなら舞踏会に行けるわ……!」
「表に、馬車も用意してありますよ」
「けど、この魔法って、十二時で消えてしまうのですよね? なら、急いで行かないと……!」
 慌てて外へ出て、美しいドレスで豪華な馬車に乗り込もうとしたシンデレラを、魔法使いが呼び止めました。
「ところでフィリアさん、その格好で、王子様に会うわけですよね?」
「ええ、そういうお話ですもの」
「ですが、その姿は、魔法による偽りの姿……あなたの本来の姿では、ありませんよね?」
「そうですけど……でも、だからといって、別に私は王子様を騙しにいくわけでは……!」
「人間の社会では、恋愛において、自分の本当の姿をさらけだすことを美徳とすることがあります」
「でもだからといって、さっきの格好でお城へ行くわけには……」
「そりゃあそうです。あんなみすぼらしい格好で行っては、門前払いを食らうどころか、お城の兵士に捕まえられてしまいますよ。だから……」
 魔法使いは、また杖を一振り。すると、シンデレラの体が光り、元のぼろ服に……。
 なんてことはなく。
「な、ななななな!?」
「さ、これで心置きなく王子様にお会いできますね。文字通り、飛んで会いに行くことも」
「なぁんてことするんですかー!?」
 魔法使いによって、シンデレラは、一匹の黄金竜になっていたのでした。
「だって、これがあなたの真実の姿じゃないですか。やっぱり、素顔が一番ですよ?」
「ゼ・ロ・スぅ〜! 何てことしてくれたんですかー!!」
 しゅごーん。
 黄金竜となったシンデレラは、わなわなと体を震わせると、魔法使いに向かって閃光の吐息(レーザー・ブレス)を放ちました。
「あれ? 何怒ってるんですか? 大丈夫ですよ、その姿なら、お城の兵士も蹴散らして、王子様に会えますって」
 ちゅどーん。
 一撃目を避けた魔法使いの言葉に、返事は二度目の閃光の吐息(レーザー・ブレス)。魔法使いは、これもきれいにかわしました。
 その後も、魔法使いとシンデレラの追いかけっこは続き、国は閃光の吐息(レーザー・ブレス)のせいで壊滅したということです。
「ああ、やっぱり滅茶苦茶になっちゃったじゃないですか〜!?」
「国の真ん中で閃光の吐息(レーザー・ブレス)なんか連発して、破壊活動を行なったのは、あなたでしょう?」
 めでたくなしめでたくなし。

 余談ですが、この頃、お城では。
「シンデレラはまだ来ないのか!?」
 水色の髪の王子様が、今か今かと美しいシンデレラの来訪を待ちわびていました。
「うーん、何せ、魔法使いの役があいつだしね……。ちょっとぉ、この料理、もうなくなっちゃったわよぉ! 追加お願いねー!」
「おい、リナ=インバース、お前は城の食料全部を食い尽くす気か……って、誰が魔法使い役だって!?」
「ん? ヴァルガーヴ、あんた知んないの? 魔法使い役は、ゼロスよ? ゼ・ロ・ス」
「そんな……! 無事か、フィリアー!!」
 慌ててお城を飛び出した王子様が見た光景は、すっかり破壊されまくった国の姿だったのでした。
                                     おしまい。

―――――――――――――

終幕の後で ――舞台裏のさらに裏
L:人間、わかっちゃいるけど、本当の姿を他人にさらすのは恐い……。
  そういう、深いテーマを含んだお話だったわね。
S:いや、あれは単なる嫌がらせでは……?
L:それはさておき。最初の『金髪の女性』ってところで、あたしの登場を期待した方、申し訳ありません。
  実際、あたしがシンデレラやってもよかったんだけど。
  何せ、あたしに釣り合う王子様役がいなかったもんで。
  次回こそは、必ず出演してやる!
S:って、これ、主役は一人一回まで、って設定なのでは?
L:あくまで原則、ね。
  今回のフィリアだって、『ロミオとジュリエット』で主役みたいなもんだったけど。
  あの話はほとんどゼロス中心に進んじゃったから、もう一回チャンスを。ってことだったんだし。
S:そのチャンスも、またも奴によって台無しにされたわけですけどね。
L:うーみゅ、『シンデレラ』の書き出し、
  『とある後ろ姿がゴキブリ似の生ゴミパシリ魔族にいじめられているかわいそうなシンデレラ』
  ってしたほうがよかったかしら?
  ま、とにかく、次回もよろしくってことで。さようならー。



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33665Re:古今東西迷作劇場9煮染 URL2008/8/30 01:16:03
記事番号33664へのコメント

はじめまして。煮染(ニシメ)と申します。
「古今東西名作劇場」1〜9まで大変楽しく読ませていただきました!
台詞中心のコミカルな話なのに、地の文もサクサクと読みやすくて、文章お上手だなあと思いました。
どれもとても面白いのですが、アリスのゼラスとリナ、ロミジュリのルークとミリーナのやりとりが特に好きです。
また、自分はゼロフィリが好きなので、ロミジュリのラスト場面にはとてもときめいてしまいました。
次回作を楽しみにしています。

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33672ありがとうございます!早生みかん 2008/8/31 22:57:45
記事番号33665へのコメント

はじめまして、感想、どうもありがとうございます。
1〜9まで全て読んでくださっただなんて……感激です!
自分の方こそ、煮染様の誉め殺しの感想に、ときめいてしまいました。
特にアリスとロミジュリは長い分、気合を入れて書いたので、感想をいただけてとても嬉しいです。
次回も頑張って書こうと思います。ありがとうございました。

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33680古今東西迷作劇場10早生みかん 2008/9/4 21:31:20
記事番号33632へのコメント

ついに二桁突入してしまいました、古今東西迷作劇場。
いい加減にしろ、という声が聞こえてきそうですが、そこは強引に投稿させていただこうと思います。
毎度のことながら、生ぬるい目ででも見てやっていただけるとありがたいです。

―――――――――――――
「ピーター・パン」

 月の綺麗な夜のお話です。
 ウェンディがベッドの上で読み物をしていると、部屋の窓が開けられる音がしました。不審に思ってそっと窓の方を見ると、なんと、窓が外から開けられ、緑の帽子を被った青年が、静かに部屋に入ってきたではないですか。
「夜中に乙女の部屋に侵入するとは、言語道断! 怪しい奴、一体何者です!?」
 黒い髪のウェンディは、すっとベッドの上に仁王立ちになり、指をびしぃっと青年に突きつけ、言い放ちました。
「ま、待て、アメリア。確かに今の俺は怪しいことこの上ないが、そう大声で騒ぎたてるな」
 慌てて言った青年を見て、ウェンディは、驚きの表情を浮かべました。
「ゼルガディスさん!? なんで不法侵入なんて悪事を!?」
「……今はピーター・パンだ」
 ピーター・パンと名乗った青年は、そう言うと、うんざりした様子で言葉を続けました。
「俺が落とした剣を、この家の誰かが持ち去ったらしいんでな。それを返してもらいに来たまでだ」
「剣……というと。ああ!」
 ピーター・パンの言葉に、ウェンディは大声を上げて手を打ちました。
「そういえば、私の弟のマイケルが、その辺りで剣を拾ってきたって言っていました。
 どこかで見た剣だと思っていたんですが……。ゼルガディスさんのだったんですね」
「ああ。悪いが、すぐに返してもらいたいんだが」
「いいですよ。マイケルの部屋は隣です。ついて来てください」
 そして二人は、ウェンディの部屋の隣、マイケルの部屋へとやってきました。
「なんだよアメリア、こんな夜に」
 そこにいたのは、一匹の謎の小動物でした。ウェンディ他一名の突然の来訪に、不満げな表情です。
「ごめんなさい、ポコタさん……もとい、マイケル。あなたが拾ってきた剣の持ち主が来たんで、返してあげて欲しいんです」
「そういうことだ。ほら、さっさと返せ」
 言って、ピーター・パンは、謎の小動物――ウェンディの弟のマイケルに向かって、手を差し出しました。
「ただで返せって言われてもなぁ。拾い主には一割のお礼ってよく言うし」
「……お前また、リナみたいなことを」
「あんな胸なしと一緒にするな!
 とにかく! 剣なんて落とすほうが間抜けなんだ!
 返して欲しければ、それなりのことをしろよな!」
 マイケルは、言うなり、つんとそっぽを向いてしまいました。
「困ったな……」
「まあまあ、ゼルガディスさん――いや、ピーター・パンさん。マイケルさんの言うことにも、一理ありますよ」
「この声は……」
 どこからともなく聞こえてきた声に、ピーター・パンとウェンディは、辺りを見回しました。
 すると、キラキラとした光と共に、一人の妖精が、姿を現しました。
「ゼロスさん!」
「はあい♪」
「……で。貴様は一体何の役なんだ。そんなに小さくなって」
 ピーター・パンが冷たい目で見下ろすその妖精は、子供がよく使う、15cm定規ほどの大きさしかありませんでした。
「嫌ですね、ピーター・パンに登場する妖精といえば、いわずと知れた、ティンカー・ベルに決まっているじゃないですか」
 そう言うと妖精は、悪戯っぽく、背中の羽をパタパタと動かしてみせました。
「随分と凶悪な妖精がいたもんだな」
 心底嫌そうに、ピーター・パンは言いました。
「まあ、そう言わずに。
 で、剣を返してもらう話ですけど。
 どうです? 返してくれたら、お礼にネバーランドへご招待する、というのは?」
「ねばぁらんどぉ?」
「わぁ、いいですね! 私、行ってみたいです、ネバーランド!」
 妖精の提案に、マイケルは胡散臭そうに顔をゆがめましたが、ウェンディは、喜びの声をあげました。
「ね、ポコタさん……じゃなくて、マイケル!
 剣を返して、ネバーランドに連れて行ってもらいましょう!」
「まあ、アメリアがそう言うのなら……」
「じゃあ、決まりだな。剣を返してもらおうか」
 なんとか剣を返してもらえそうな雰囲気に、ピーター・パンは安堵しながら、再び手をマイケルに差し出しました。
「おう。あ、でも、弟も連れて行ってもいいか?」
「弟? まだ下にいるのか?」
「ええ、この子ですよ、ゼルガディスさん」
 ピーター・パンの疑問に、問われたマイケルの代わりにウェンディが答えました。いつの間に連れて来たのか、腕に抱えた物体を指さしながら。
「……それが弟か?」
「はい! ジョンっていいます。よろしくお願いしますね」
 ウェンディの腕の中にいるもの――それは、色は黒くて、犬くらいの大きさで、たとえて言うなら、年端もいかないお子さまが、うつらうつらしながら何も見ず左手で描いた何かの動物……、といったものでした。
「ま、まあいいだろう……。
 さて、剣も返してもらったし、行くとするか、ネバーランドへ」
 
「うわぁ、ここがネバーランドなんですね。素敵なところですね!」
 ウェンディたち姉弟は、ピーター・パンに連れられて、魔法でネバーランドの空を飛んでいました。
「あ、あそこに光の群れが見えますね」
「フェアリー・ソウルだ。あの森をいつも集団で漂っている」
「あの煙はなんですか? 山から上がっているやつです」
「あれは、あの山に住むインディアンの集落だな」
 ウェンディは、初めて見る景色に興奮しています。腕にジョンを抱えながら、あちらこちらに好奇の目を向け、声をあげています。ピーター・パンは、その一々に答えてくれています。
「今、入江で何か動きませんでしたか?」
「ああ、入江には人魚が住んでいるはずだから、それだろ、う……?」
 ざばん、と入江であがった水しぶきに、ピーター・パンの語尾は疑問形になってしまいました。
 なにせ、その水しぶきを上げたものの正体は、巨大なピンクの魚に、人の手足がついたようなもの、だったのですから。
「……今のが人魚か?」
「俺に聞かないでくれ……」
 ジト目で聞いてきたマイケルに、ピーター・パンは、疲れたように呟きました。
「あ、あの海に浮かんでいる船は、誰の船ですか?」
「船?」
 今度は海に注意を移したウェンディの声に、ピーター・パンたちも、そちらに目を向けました。
「ああ、あれは恐らく、フック船長の船だろう」
「へぇ〜、フック船長ですか……って、ああ!」
 一度は頷いたウェンディでしたが、すぐさま、船から視線をそらさぬままに驚きの声をあげました。
「一体、今度はなんだっていうんだ?」
「ちょっ、よく見てくださいよ! あの船、女の人が捕まって、ぐるぐる巻きに縛られていますよ!」
「なんだって!?」
「大変! 早く助けに行きましょう!」
 言うなり、ウェンディは、抱いていたジョンをピーター・パンに押し付けると、脇目もふらず、海に浮かぶ船へと飛んでいきました。ピーター・パンたちも、慌てて後に続きます。

「天が呼ぶ、地が呼ぶ、人が呼ぶ! 悪を倒せと呼んでいる!
 うら若き女性をロープで縛りつけ、船上に監禁するとは何事か!
 一刻も早く女性を解放し、我が正義の裁きを受けるがいい!」
 船に着くなり、ウェンディは、高くそびえるマストの上に飛び降り、朗々と正義の口上を述べました。
 が、それに対する返事は。
「やかましいわぁっ! 氷の矢(フリーズ・アロー)!」
「にょへぇぇぇっ!?」
 いきなりの、攻撃呪文でした。
 ウェンディは、飛び来る氷の矢を慌てて避け、その拍子に、マストから甲板へと盛大に転落しました。見事に顔面から落下し、ぴくりとも動きません。
「おいおい、リナ。いきなりそれはないだろう?」
「何言ってんのよ。あたしたちは今、海賊の役なのよ? これくらい、とーぜん、とーぜん。
 それに、あの長口上は、きちんと最後まで聞いてあげたじゃない」
 攻撃呪文を放った主――栗色の髪のフック船長は、手下である金髪のミスター・スミーの諌めを、軽く受け流しました。
「リナさん、ひどいですぅ……」
「ちっ。もう復活したか」
 早くも落下のダメージから回復し、恨みの声をあげるウェンディに、フック船長は小さく舌打ちをしました。
「大体ねぇ、アメリア。フック船長と戦うのは、ピーター・パンって決まってんのよ?
 それを、なぁんでウェンディ役のあんたがしゃしゃり出てくんのよ?」
「だって、若い女性が、悪人に捕まっているんですよ!? これを見過ごすなんて、正義じゃありません!」
「だからって、あんたが出てくんなぁ!!」
 ごすっ!
「はぎゃあ!?」
 勢いよく放たれたフック船長の跳び蹴りに、ウェンディは、またもその場に倒れこみました。
「さ、ガウリイ。今のうちに、アメリアも縛って動けなくしとくのよ!」
「なんか、本当に悪役が板についてるよな〜、リナって」
 ぶつぶつと言いながらも、ミスター・スミーは、手際よくウェンディの手にロープを巻いていきます。
「そこまでにしてもらおうか、フック船長」
「誰!?」
 上空からかかった声に、フック船長は、空を仰いで問いかけました。
「なに……ただのピーター・パンさ」
 問われて名乗るは、緑の帽子を被った、ピーター・パンです。ウェンディが最初に降りたのと同じ、マストの上にすっくと立っています。
「やっと本命登場ってわけね。それにしても、随分とゆっくり来たもんね」
「ちょっとした準備に手間取っていてな」
「準備?」
「ああ。海のほうを見てみろ」
 ピーター・パンの言葉に、フック船長は、眉をひそめながらも海上に目を向けます。
 すると、そこにいたのは。
「うにゅああぁぁぁ!? な、な、なめなめなめ……」
 海の上を、ゆったりと這い船に近づいてくる、触覚の生えた、巨大なぬめぬめの群れ。
「なめくじぃぃぃぃ!!」
 そう、ナメクジでした。しかも人間大の。その数、およそ数十匹に及びます。
「いいいやああぁぁぁぁ!!」
 フック船長は、恐怖で叫び声を上げながら、側にいたミスター・スミーを引っつかみ、小船を出し、ナメクジたちがやってくるのとは反対方向の海に出て、その彼方へと、恐ろしい速さで消えていきました。
「おやおや、行ってしまいましたよ。リナさんは、本当にナメクジがお嫌いなんですね」
 その様を見て、ティンカー・ベルがのほほんと言いました。
「おい、アメリア、大丈夫か?」
 縛られていたロープをほどきながら、マイケルが心配げにウェンディに話しかけます。
「ありがとうございます、ポコタさん。私は大丈夫ですから、早くあの女の人を」
「それなら今、あの岩男が行って……」
「うわああぁぁぁ!!」
 マイケルの言葉は、突如上がったピーター・パンの悲鳴にかき消されました。
「何事!?」
 悲鳴のした方へと、ウェンディとマイケルは急ぎます。あの若い女性が縛られていた辺りです。
「どうしたんですか、ゼルガディスさん!? ……って」
「まだ誰か敵がいたのか!? ……て、おい」
 たどり着いたウェンディたちが目にしたものは。
「ありがとうございます、おかげで助かりました」
「い、いいから離れろ!」
 なんと、ロープを解かれ、自由になった女性に抱きつかれている、ピーター・パンの姿でした。
「だって、また助けていただけたのが嬉しく……。ね、ルルさん♪」
「ルルと呼ぶな!」
「ミワン……さん?」
 呆然と、ウェンディはその女性――に見える人物の名を呟きました。
「はい。捕らわれのタイガー・リリーことミワンです。お久しぶりです、アメリアさん」
 タイガー・リリーと名乗るその人物は、丁寧に頭を下げました。
「良かったですね、ゼルガディスさん。ミワンさんと再会できて」
 対して、ウェンディは、冷たい視線をピーター・パンに送ります。
「はぁ……。なんだって、俺がこんな目に……」
 がっくりと、ピーター・パンは肩を落としています。その隣で、マイケルが、ピーター・パンに同情の視線を送っています。
 と、その時。
 遠くから、風に乗って声が聞こえてきました。
「――黄昏よりも昏きもの 血の流れより紅きもの」
「な、この声は……リナ!?」
「も、戻ってきたぁ!?」
 そうです、あのフック船長が、小船に乗って引き返してきたのです。しかも、攻撃呪文を詠唱しながら。
「あんたたち、よくもやってくれたわねぇ! このまま引き下がってなるものですか!」
「ちょ、リナ、本気かよ?」
 懸命にオールで小船を漕ぎながら、ミスター・スミーが心配げに尋ねます。
「当ったり前よ!
 ――我と汝が力もて 等しく滅びを与えんことを
 竜波斬(ドラグ・スレイブ)!」
 ちゅどーんっ!
 放たれた魔法は、船に当たり、木っ端微塵に粉砕……するはずでしたが。
「やれやれ、リナさんてば、乱暴者ですねぇ」
 間一髪、ティンカー・ベルの結界のおかげで、船は爆破をまぬがれました。
「ちちぃっ。失敗か。
 ――まぁ、いいわ。ここは一旦引くとして、あんたたち、覚えてなさいよぉ!」
「いやぁ〜、リナは悪役、うまいなぁ。
 さすが、これまで数多くの悪役、ごろつきと出会ってきただけあるよなぁ」
「ガウリイ、うるさい!」
 計画の失敗に、フック船長たちは、船を反転させ、逃げていってしまいました。
「た、助かった……」
 この結果に、船上の一同は、ホッと胸をなでおろしました。
「そうですよね。折角みなさん無事に助かったんですから、これでハッピーエンドで、いいんですよね」
「そうだな。お前の好きな、正義の味方の勝利、というわけだ」
 そう言うピーター・パンに、ウェンディは、にっこりと満足げに笑って見せました。
「はい!」

 さて、その頃。一同にすっかり忘れられている存在がありました。ウェンディとマイケルの弟、ジョンです。
 ジョンは、ウェンディがフック船長の船に向かったとき、ピーター・パンに預けられていました。が、その後、ウェンディを追いかけたピーター・パンは、船の上は危ないからと、急ぎジョンを安全そうな森に置いてきていました。
 そのとき、ピーター・パンはジョンに、後で迎えに来ると言っていましたが、待てども待てども、その迎えが来る気配はありません。
 ジョンはいい加減、いらいらとしてきていました。
「けぷ」
 ジョンの口から、黒いもやもやしたものが、わき出て漂い、すぐに消えました。
 随分と経ってから、やっとジョンのことを思い出したピーター・パンたちがジョンを迎えに来るまで、何度も何度も、このもやもやを吐き出していました。
「けぷ」
 もやもや。
「けぷ」
 もやもや。
 ……………………。

                     おしまい。


―――――――――――――
終幕の後で ――舞台裏のさらに裏
L:いよいよ二桁台に突入しました、古今東西迷作劇場!
  第10回目にして、やっと正義の仲良し四人組の主役が完了!
  くくぅっ! 思えば、長い道のりだったわ!
S:思い返せば、色々ありましたよねー。
  ……って、なんですか、今回のキャストは!?
  アニメ「NEXT」オリジナルのミワンはいるわ、「すぺしゃる」の登場キャラ、ジョンはいるわ。
  ……しかも最後のあのもやもや、もしや暗虚吠(ヴォイド・ブレス)なのでは……?
L:うみゅ! その通り! よく気がついた!
  空間操作の結果、黒いもやにしか見えないけれど、あれは立派に暗虚吠(ヴォイド・ブレス)!
S:えええぇぇ!?
  と、いうことは、今頃どこかで、その全破壊力が炸裂していると……?
L:ってわけね。
  あ、一応、解説しておくと。
  今回出てきたジョンってのは、小説「すぺしゃる」19巻に出てくるキャラです。
  その正体は、なんと、戦闘力に関しては、黄金竜をも凌駕する、魔王竜(ディモス・ドラゴン)!
  ただし、とある魔族の空間操作によって、見た目には謎の生物と化しているという。
S:どうしてこんなキャラを出演させたりしたんですか!?
L:いや、ピーター・パンをやるにあたって、ウェンディの弟の名前がなんだったかなと。
  調べてみたところ、下の弟の名前がジョンだったもんで。つい出来心で。
S:出来心のせいで、暗虚吠(ヴォイド・ブレス)……。
L:ま、長い人生、そーいうこともあるってことで。
  あ、ミワンについては、アニメ「NEXT」第17話に登場する、一見女性の、本当は正体は男、とゆー人です。
S:ジョンと違って、随分あっさりとした説明ですねー。
L:だって、アニメのその回、あたし、欠片も出てないし。
S:その点、「すぺしゃる」では、必ずあとがきに出てますもんねー。
  それで、「すぺしゃる」の方をアピールしておこう、というわけですね!
L:うみゅ! その通り!
  でも今回の話にも、あたしは全然出れてなくて、ちょっぴし寂しかったり。
  次回こそ、あたしも出演できる話を考えねば!
  ――てなところで。今回はお開きとさせていただきます。
  できれば次回は、終幕後以外でもお会いできることを願っています。それでは





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33687古今東西迷作劇場11早生みかん 2008/9/11 21:41:55
記事番号33632へのコメント

古今東西迷作劇場10において、竜破斬を竜波斬と書いてしまった、おバカな早生みかんです。
お恥ずかしい……。穴があったら入りたい。氷があったら閉ざされたい。
しかし恥を忍んで、第11回目、投稿させていただきます。
また今回も大ポカをしてそうですが、それでも大目に見てやるかな、という方がいましたら、どうか読んでやってください。

―――――――――――――
「マッチ売りの少女」

 今日は大晦日。真っ白な雪道を、人々が、忙しく行き交っています。
「マッチはいりませんか。マッチはいかがですか。
 どなたか、マッチを買ってはいただけませんか……」
 そんな中、ひとりの長髪の青年が、マッチを売っておりました。
 しかし、青年の声に耳を傾ける者はなく、夜になっても、マッチは一本も売れません。
「ただでさえ忙しい大晦日に、このご時勢じゃあ、マッチなんて買ってもらえませんよね……。
 ああ、どうしよう。このまま帰ったら、L様……じゃなくて、雇い主に怒られる」
 青年は、紅い瞳に憂いを浮かべ、ため息混じりに呟きました。
「それにしても、今日は冷えるな……。
 そうだ、マッチに火をつければ、少しは暖まるかもしれない」
 青年は、売り物のマッチの一本を擦りました。
 しゅっという音をたて、マッチに赤々とした火が灯りました。
 が、それだけではありませんでした。
「わぁ……」
 なんと、マッチの炎と共に、暖かいストーブや、ごちそうの山が現れたのです。
「ああ、暖かそう……、おいしそう……」
 青年は、それらに手を伸ばしました。
 けれどそのとき、手にしていたマッチが燃え尽きました。
 それに合わせて、ストーブもごちそうの山も、消えてしまいました。
 全ては、マッチの炎が見せた、幻だったのです。
「今のがマッチの炎のせいだというのなら、もう一度火をつければ……!」
 売り物のマッチだということを忘れ、青年は、いそいそと、残りのマッチ全てに火をつけました。
 またもストーブとごちそうが現れるかと思いきや、それらは青年の前に現れませんでした。
代わりに現れたのは……。
「フィブリゾ、ガーヴ、グラウシェラー、ダルフィン、ゼラス……!」
 青年の部下である、五人の男女でした。
「魔王様があんまり寂しそうなんで、来てしまいましたよ」
 五人を代表して、女の子と見まごうほどの美少年が言いました。
「みんな、私のために……」
 青年は、瞳に涙を浮かべました。
 しかしそれは、寒さのせいでも、寂しさのせいでもありませんでした。

 夜が明け、新しい年がやってきました。
 人々は、新年の挨拶を交わしつつ、町を行き交っていました。
 そこで人々は、昨日まではなかったものをみつけました。
 大きな、氷の塊です。
 その中には、人が閉じ込められていました。
 人々の内の何人かは、その人物に見覚えがありました。
 昨夜、マッチを売っていた青年です。
 青年は、両手にありったけの燃え尽きたマッチを抱え、幸せそうに微笑んでいました。
 氷に閉ざされながらも、まるで陽だまりにでもいるように、微笑んでいました。

                                         おしまい。

終幕の後で ――舞台裏のさらに裏
S:うっうっうっ……。感動的なお話でしたねぇ……。
L:部下Sといったら氷漬け。氷漬けといったら寒い。
  寒いといったら暖まりたい。暖まりたいといったらマッチ売りの少女。
  ……なんて連想の末、企画したお話だったわけだけど。
  なによ、この、登場人物が全員魔族のくせに、ほのぼのあったかストーリーは!?
S:L様、今回に限り、タイトルを「古今東西『名』作劇場」に変えませんか?
  ……って、あの、その高々と振り上げた、高級そうな万年筆は、一体……?
L:んふ♪ こーすんの♪
S:ちょ、なにゆえ私に向かって高速で振り下ろっ……!?
   ずくしっ!
L:――ペンは剣よりも強し。
  生意気にも主役をやり、その上、この終幕後のコメントを、あたしよりも先にするからよ!
  さて、そんな部下Sが、その身に涼やかな穴をつくったところで。
  今回は作中、名前だけ登場したLです!
  たまには部下にも花をもたせてやろうと考えたところ、あんな冷酷な役になってしまいました。
  ……本当のあたしは違うのよ。信じてぷりーず。
  それを証明しようにも、あたしの出番が少ないわけだけど。
  今か今かとあたしの出演を待っている方、申し訳ありません。
  なにせ、あたしが出るには、それに釣り合うキャストを探すのが大変で。
  ……いっそ、ミスキャスト続出覚悟で、あみだくじかなんかでキャスト決めしようかしら。
  まあ、予定は未定ということで。
  次回も「古今東西迷作劇場」、ご覧いただけるよう、頑張りますので、よろしく!





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33703古今東西迷作劇場12早生みかん 2008/9/19 21:35:52
記事番号33632へのコメント

お久しぶりの早生みかんです。
今年も海に行けなかったなあと思いつつ、古今東西迷作劇場12「浦島太郎」を投稿させていただきました。
誰か一人にでも読んでいただけたなら……と思います。

―――――――――――――
「浦島太郎」

 昔々、浦島太郎という目つきの悪い青年が浜辺を歩いていると、一匹の亀がいじめられているのをみつけました。
「え? どこに亀がいて、いじめられてるって?」
「ここよ、ここ!」
「おかしいな。俺には、小憎らしいチビ女が、レッサーデーモンに囲まれている、ってのしか、見えないぞ?」
「だああぁぁっ! 思いっきり見えてんじゃないのよ! それよ、それ!
 その、レッサーデーモンに襲われてる、可憐な美少女が亀なの! さっさと助けなさいよ!」
「可憐な美少女……? 小憎らしい女の子の間違いだろ……?
 ま、仕方ない。助けてやるか。魔王剣(ルビーアイ・ブレード)!」
 浦島太郎の剣が紅く光り、亀をいじめていた奴らは、あっという間に蹴散らされてしまいました。
「おかげで助かりました、ありがとうございます」
「なぁに、たいしたことじゃねぇよ。けどま、そんなに感謝してるんだったら、ほら」
 お礼を言う亀に、浦島太郎は、手のひらを差し出しました。
「……なんのマネよ、これは?」
「感謝の気持ちは、やっぱり形にしないとな」
「つまりは、金をくれってわけね。……がめつい奴」
「お前にだけは言われたくねぇよ!」
「ま、助けられたのは事実だしね。お礼がてら、竜宮城まで連れて行ってあげるわ」
「ちっ、しゃーねぇ。それで手を打ってやるとするか」
浦島太郎の答えに、亀は呪文を唱え始めました。
「翔風界(レイ・ウィング)!
 ――さ、行くわよ!」
 浦島太郎と亀は、風の結界をまとい、海へと身を躍らせました。

「……すっげー」
 亀の案内で竜宮城に着いた浦島太郎は、思わずそう呟いていました。
「海の底に、なんちゅーもん造ってんだよ」
 それは、絵にも描けなければ、どんな言葉でも言い表せないほど、絢爛豪華なものでした。
「さ、いーから入った、入った」
「お、おう」
 亀にうながされ、浦島太郎は竜宮城の中へと入っていきました。
「いらっしゃいませ〜」
「うわぁ!?」
 中に入った浦島太郎を出迎えたのは、巨大なクラゲでした。
「……ガウリイの旦那、なんつー格好を……」
「ガウリイは、あれが一番落ち着くらしいのよね……」
 浦島太郎の呟きに、亀が小さく答えました。
「さあさあ、とにかく、竜宮城に来たからには、まずは食事よね!それから観光! さ、行くわよ〜!」
 浦島太郎はそれから、亀とクラゲに連れられて、豪華な食事を楽しみ、見たことも聞いたこともないような不思議な部屋部屋を見て回り、面白おかしく過ごしました。
 数日が経ちました。
「さて、そろそろ帰るとするかな」
 いい加減、陸が恋しくなってきた浦島太郎は言いました。
「帰んの?」
「元気でなー」
 軽く言って手を振るだけの亀とクラゲに、浦島太郎はあきれ返りました。
「お前らな……。陸まで送っていこう、とか、お土産持たせてやろう、っていう心遣いはねぇのかよ?」
「えー。んなめんどい……」
「どうする? リナ?」
「しゃーないわね。『あれ』にどーにかしてもらうとしましょう。
『あれ』も出番に飢えてるでしょうし」
 そう言うと、亀は、浦島太郎を、今までは連れて行ったことのない部屋へと案内しました。
「この部屋ん中でお土産もらえるはずだから。じゃ、あたしはこの辺で」
「あ、おい……!」
 言うだけ言うと、亀は浦島太郎を残し、逃げるように行ってしまいました。
 わけがわからないまま浦島太郎が入った部屋には、金色の長い髪を持った、美しい女性がおりました。
「よく来たわね、浦島太郎。あたしはこの竜宮城の主、乙姫」
「な、ななな……!」
 いきなりのL様のご登場に――じゃなくて、乙姫様のあまりの美しさに、浦島太郎は驚きの声をあげました。
「亀を助けてくれたことに感謝して、あなたにお土産をさしあげるわ。
 さ、そこにあるつづらの内、好きな方を選びなさい」
 浦島太郎の慌てぶりを無視し、乙姫様は、部屋の隅にあるふたつのつづらを指して、仰いました。
「好きな方っつってもな……」
 つづらの一つは、手の平に乗るくらいの大きさでした。もう一つは、背中に負っても、押し潰されそうなほどの大きさです。
「……舌切り雀じゃねぇんだから。
 まあ、それでいったら、小さい方を選ぶべきなんだろうな」
「んふふ。小さい方でいいのね?」
「ああ」
 乙姫様の確認に、浦島太郎は、力強くうなずきました。
「よし、よく言った!
 そんな謙虚なあなたには、小さいつづらと大きいつづら、さらにはその中間サイズのつづらも加えて、大サービスの三点セットでプレゼント!
 くくぅっ! 我ながら、なんて太っ腹!」
「どっちか片方をくれるって話じゃなかったのかよ!?」
「んなこと言ってないわよ。
 あたしは、どちらかひとつを『選べ』っつったのよ。
 ま、あんたが得することに変わりはないんだし。いーじゃん、いーじゃん♪」
「いや、ま、そうだが……」
「さあさ、お土産も決まったことだし、さっさと陸へお帰り!」
 そう言う乙姫様の手の中には、何故だかトゲ付きハンマーが握られていました。
「おい、それ、どうするつも……」
「こーすんの♪ えい!」
 気合一発。乙姫様の振るったトゲ付きハンマーで、浦島太郎は激しく殴り飛ばされました。
「うどわひやぁぁぁ……」
「陸に帰ったら、乙姫様は綺麗で優しい、素晴らしいお方だったって、国中に広めんのよー!」
 などという乙姫様のありがたいお言葉を聞きながら、浦島太郎は、殴られた勢いで竜宮城を飛び出し、海を進み、陸まで飛ばされていきました。
「ううう……」
 気がついたとき。浦島太郎は、いつか亀を助けた浜辺で倒れていました。
「なんてことしやがんだ、まったく……、ん?」
 文句たらたら身を起こした浦島太郎の側に、つづらが三つ、積まれてありました。大、中、小と、大きさも三種類です。
「本当に三つ寄越しやがった……」
 浦島太郎は、驚きつつも、とりあえず、一番小さいつづらを開けてみました。
 中には、紙が一枚入っていました。
「これ、手紙か? なになに……。
『浦島太郎へ。
 あなたが竜宮城にいる間に、陸の世界では、千年の時が経っています。
 よって、陸に帰ってもあなたの知り合いは誰もいなく、これからその世界で生活していくことは、とても困難でしょう。
 ま、頑張れ♪(^_‐)b ――乙姫』」
 手紙を読んで、浦島太郎は、肩をぶるぶると震わせました。
「ふざけんなー!」
 叫んで、浦島太郎は、手紙を破り捨てました。
「これのどこがお土産だ! むしろ呪いじゃねえか!?」
 怒りで肩を震わせながら、浦島太郎は、中くらいの大きさのつづらを開けにかかりました。
「なんか、解決策みたいなもん、入ってねぇのかよ!?」
 すると、つづらの中から現れたのは。
「残念ながら、あなたを千年前の世界に戻す方法は、入っていないわ」
 銀髪長身の美女でした。
「ミリーナ……?」
「ごめんなさい、ルーク。私には、今のあなたの状況を変えることはできないわ。
 ――けど。
 これから、誰もあなたのことを知らないこの世界で、あなたと共に生きていくことはできるわ」
 そう言って、つづらの女性は、静かに微笑みました。
「ミリーナ!」
 浦島太郎は、女性を力強く抱きしめました。
 最後のつづらには金銀財宝が入っていて、その後の浦島太郎が生活に困ることはありませんでした。
 それからふたりは、仲良く一緒に暮らしていったといいます。
 めでたしめでたし。
                                   
                                    おしまい。


―――――――――――――
終幕の後で ――舞台裏のさらに裏
L:なんて感動的な幕切れ……。なんて優しい乙姫様!
  これこそ「古今東西『名』作劇場」よね!
S:えと、あの、L様……?
  名作劇場と銘打ってあるものには、普通、トゲ付きはんまぁなどは出てこないのでは……?
L:ん? やっぱ、スコップの方がよかったかしら?
  なんか竜宮城工事中って感じで。
S:いあ、そうではなくて。
L:まあ細かいことはさておき。
  前回は冷酷な役をやらざるをえなかったあたしでしたが、今回は違うぞ!
  やっと、真のあたしの、美しさと優しさをアピールできたのよ!
  長く語り継ぐべき物語の完成よ!
S:本編の主役であるはずのリナ=インバースなんか、亀の役でしたけどね。
  しかも、子どもじゃなくてレッサーデーモンにいじめられているっていう。
L:いやあ、ちょうどいい子役がいなかったもんで。
  なにせ、あのリナ=インバースをいじめる役ってことで、みんながみんな出演拒否で。
  じゃ、いっそのこと、大量生産可能なレッサーデーモンあたりで手を打とうかと。
S:今回のキャスティングには、そんな裏事情があったんですね。
L:うみゅ。出演交渉って、大変なのね。
  そういえば、最近、一話辺りの登場人物数が減っていっているような……。
  いけないいけない。
  次回はもっと大がかりな、凝ったものを考えなくちゃ!
  ――ってなところで、次回もよろしくぅ!




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33704Re:古今東西迷作劇場12煮染 URL2008/9/19 23:35:32
記事番号33703へのコメント

またまた失礼します。煮染です。
まさかのルクミリハッピーエンドに感動しました!!!
ぶっちゃけ途中まで、ミリーナ乙姫にふられて煙でS化するルークを想像してました(ヲイ)。
ミリーナ、淡々としつつ何気にすっごい台詞をはいてますね〜…逆プロポーズじゃないですか!
こんな素敵なラストをお膳立てして下さったL様の優しさ美しさは、命令なくとも語り継いでいきたいですね!

素敵なお話、ありがとうございました!

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33711ありがとうございます!!早生みかん 2008/9/21 23:01:38
記事番号33704へのコメント

煮染様、今回も読んでいただき、コメントまで下さりありがとうございます!
ルクミリは、原作では悲しい感じだったので、せめてパロディでは幸せになって欲しいと思い……。
感動していただけたようで、良かったです。
ですが、煮染様の想像された、ミリーナ乙姫バージョンも面白そうですね。
ミリーナの大胆発言には、書いてたこっちもびっくりです(あれ?)。
煮染様のコメントに、きっとL様は、計画通り、と笑っていられることでしょう。
こちらこそ、コメントどうもありがとうございました。

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33734古今東西迷作劇場13早生みかん 2008/10/1 22:43:32
記事番号33632へのコメント

ご無沙汰しております、早生みかんです。
自分は学習能力がないのか、またもやくだらないパロディを投稿させていただきます。
毎度のことながら、お目汚し、失礼いたします。


―――――――――――
「西遊記」

第一幕 サルとブタ
 人里離れた山道を、銀の髪を高く結い上げたお坊様が、歩いておられました。
 このお坊様の名は三蔵法師。はるか西の国・天竺まで、ありがたい経典をいただきに行く旅の途中なのでした。
「助けてくれ〜……」
 そんな三蔵法師の耳に、苦しそうな男の声が聞こえてきました。
 声のした方を見ると、なんと、ひとりの目つきの悪い男が、巨大な岩に押し潰されているではありませんか。
「……何をしているのですか、ルーク」
「助けてくれ、ミリーナ。
 なんか知らねえけど、孫悟空ってのはこーいう役だってことで、岩の下に敷かれちまって……。
 岩についている札をはがせば、ここから出られるらしいんだ。頼む!」
 男――孫悟空の頼みに、三蔵法師はお札をはがし、岩から救い出してあげました。
「さすが俺のミリーナ、なんて優しいんだ!」
「こんな状況の人を、放っておけるわけがないでしょう。
 自由になったのだから、さっさとここから立ち去りなさい」
「立ち去るなんて、まさか。
 これから、俺とミリーナのラブラブ★二人旅が始まるはずだってぇのに……!」
「私は経典をもらいに行くのです。余計なものはいりません」
「……前回の浦島太郎では、あんなこと言ってくれたのに」
「あれは台本のセリフをそのまま読んだだけです」
「そ、そんなぁ……」
 うなだれる悟空を置いて、三蔵法師はさっさと行ってしまいます。
「あ、待ってくれ、ミリーナ〜!」
 慌てて追いかける男でしたが、そのとき。
「た、助けてくれー!」
 行く手から、必死の形相で駆けてくる者がありました。禿げ上がった頭に、すすけた衣服を着た、中年の男です。
「どうなされたのです?」
「そ、それが、変な女が、いきなり俺らのところにやってきて、攻撃呪文をぶっ放し始めて……!」
「襲われているのですね。その場所まで、案内してください」
「た、助けてくれるのか……!? ありがてぇ……!」
 三蔵法師は、振り返って言いました。
「ほら、早く行きますよ、ルーク」
 この言葉に、悟空がぱっと顔を明るくしたのは、言うまでもありません。

「火炎球(ファイアー・ボール)!」
 ちゅどーんっ。
 炎がはじけ、辺りには熱気が渦巻いています。
「さあーてと、そろそろお宝を物色させていただこうかしら」
 その元凶である栗色の髪の少女が、楽しそうに言いました。
「ちょーと待ったぁ!」
「誰!?」
 突如あがった声に、少女は、周りを見回しました。そして、その目が捕らえたものは、炎をかきわけ現れた、目つきの悪い男、孫悟空でした。
「その辺にしておいてもらおうか。
 ミリーナの見ている手前、お前のような悪党は、この俺がさくっと倒してやっ……って、おい」
 勢いよく言っていた悟空の言葉が、少女を見て、途中でしぼみます。
「なにやってんだよ、あんた」
「なにって……盗賊いぢめ?」
 少女は、可愛らしく小首を傾げてみせ、言いました。
「ほら、この辺で悪さしとけって台本には書いてあったんだけど、やっぱ、まっとうに生きている人たちに手を出すのは、さすがのあたしも寝覚めが悪いし。
 その点、相手が盗賊とかいう悪人なら、人権ないから問題なし!
 しかも、同時にお宝もゲットできちゃって、懐も暖まって一石二鳥!
 うーん、我ながら、なんてグッドなあいでぃあ!」
「――まぁ、つまり」
 悟空は、後ろに隠れるようにして様子をうかがっていた、中年男を振り返って言いました。
「盗賊を、助ける義理はねぇってわけだな」
 中年男は、悲鳴をあげて、逃げていきました。
「それにしても、派手にやったもんだな」
 やれやれとばかりに、悟空は少女に言いました。
「いやー、やっぱ盗賊いぢめは楽しいわよ」
「俺としては、あんたの頭についているブタ耳のほうが、よほどおもしれえけどな」
 ひくっ。
 悟空の言葉に、にこやかだった少女の顔がひきつりました。
 確かに少女の栗色の髪の間からは、可愛らしいブタの耳がのぞいています。
「これは、その、猪八戒っていうブタの妖怪の役だっていうもんだから、仕方なく……」
「ブタ!? よりによってブタかよ!!」
「そーゆーあんただって、なによ、その尻尾は!?」
「俺だって好きでつけてるんじゃねえよ。サルの妖怪の役らしくて、仕方なく……」
「サル!? ぴったりじゃない!」
「ブタよりゃマシだろ」
「んなっ!? サルよりブタさんの方が、よほど可愛いし何よりおいしいわよ!」
「……そこが基準なの?」
 いつの間に側に来たのか。三蔵法師が、呆れたように言います。
「あ、ミリーナ。あなたはちゃんとした人間みたいね」
「当たり前だろ。ミリーナを、ブタの妖怪なんかと一緒にするなよ」
「サルともね」
 ぐちゃぐちゃぐちゃ。
 その後も、ふたりの不毛な言い合いは続きました。
 それを見て、三蔵法師はぽつりと呟きました。
「にぎやかな旅になりそうね」


第二幕 カッパと金
 なんだかんだで、三蔵法師と孫悟空と猪八戒は、一緒に天竺へと旅することになりました。
「せっかくの俺とミリーナの、ラブラブ★二人旅が、このチビのせいで……」
 涙する悟空でしたが、誰も相手にしてくれませんでした。
 さて、一行が、川辺を通りかかったときのことです。
「ん? 何か、あそこに落ちてない?」
 最初にそれを発見したのは、八戒でした。
 それは、白くうねうねと動く、何本もの太い、触手のようなものでした。
「んんん?」
 その奇妙なものに、悟空はそっと近づき、よく観察しようとします。
 と。
「めしぃーっ!!」
 ぐあばっ。
 気配を感じ取ったのか、触手がうごめき、その先につながっていた、丸い塊が起き上がりました。
「「ガウリイ!?」
 その塊を――巨大なクラゲ見て、悟空と八戒は、同時に叫んでいました。
「あんた、出るたび出るたび、その格好しかしてないわよね」
「めしぃ〜……」
 八戒の言葉など耳に入っていないようで、巨大クラゲは、力尽きてまたも倒れこみました。
「どうやら、お腹が減っているようですね」
 三蔵法師はそう言うと、持っていた食料の中から、いくらか巨大クラゲに分けてあげました。――訂正します。持っていた食料の大部分を、巨大クラゲに食べられてしまいました。
「ぷはーっ。食った食った。ありがとなー」
「……本当、よく食ったもんだ」
「で、ガウリイ、あんたはなんでこんなところで行き倒れてたわけ?」
「んー、それが、なんとかいう川に住む妖怪の役やれって言われて。
 その川で、なんたらいうお坊さんが通るのを待てってことらしかったんだが、待ってるうちに、腹が減ってきて、飯を捜し歩いている内に、力尽きちまって」
 巨大クラゲ――もとい、本人が役名を覚えていないようなので、代わりに説明しますと、カッパの妖怪である沙悟浄の言葉に、三人は、顔を見合わせました。
「クラゲって、川に住むもんだっけか?」
「でもガウリイだし、他の生物の役でも、とにかくクラゲになっちゃうんじゃない?」
「二人とも、問題はそれより、彼は私たちを待っていたらしい、というところではないのですか」
「そうだ、ミリーナの言うとおりだ」
「あんたねえ……」
 調子のいいことを言う悟空を、八戒がジト目でにらみます。
 その横から、沙悟浄が口をはさみました。
「で、これからどこへ行くんだ?」
「……って、ガウリイ、あんた、あたしたちについてくる気?」
「え? だってオレはお前の保護者なんだから、当然だろ?」
 さらりと言った悟浄に、口をぱくぱくとさせる八戒でした。
「ま、そういうことでいーんじゃねえの?」
「そうですね。では、さっさと先を急ぎましょう」
「ほーほっほっほ!
 そう簡単に、ここから先へは行かせないわよ、リナ=インバースとその他三名!」
 淡々と話をまとめて、出発しようとする悟空と三蔵法師でしたが、そこに立ちふさがる影がありました。
「……この声は」
 頭が痛いというように、こめかみを押さえながら、八戒が言いました。
「おいおい、なんだ、ありゃ?
 今時流行らねーだろ、あんな悪の女魔道士ルックは」
 呆れた声で悟空が言ったとおり。
 首から下げた、小さなドクロのネックレス。胸と腰とを申し訳程度に覆う、やたらとキンキラしたコスチューム。
 そこにいたのは、どこからどう見ても怪しい、長い黒髪の女性でした。
「ナーガ、あんたこんなところに出てきて、どーゆーつもりよ!?」
「ふっ、知れたこと!
 うっかりお財布を落としてしまい、それに気づかずご飯を食べて、危うく無銭飲食をしてしまうところだったのを、事情を知った親切な人が立て替えてくれて、その代わりに彼女の依頼を受けることにしたら、なんとそれが、リナ=インバース他を、金角という役で、名前を呼ばれて返事をしたら閉じ込められてしまうというこの不思議なひょうたんの中に、生け捕りにしてきてくれとのことだった……。それだけのことよ!」
 悪の女魔道士こと金角の長ゼリフに、一行は顔を見合わせてから。
「ふーん、じゃ、つまりは」
「名前を呼ばれたところで」
「返事をしなければいいだけの話ですね」
「え? え? そういうことなのか?」
「しまったー!」
 頭を抱える金角でしたが、時すでに遅く。三蔵法師一行は、振り返りもせず、さっさと行ってしまいました。
「ちょ、待ちなさいよ、リナ! ねえ!
 ……リナちゃん、置いてかないで〜!」
 泣きすがる金角に、ちょっぴり哀れみの視線をこめて、悟空が振り返りました。
「さっきからあんたの名前を連呼しているが、あれ、あんたの知り合いだよな?」 
「聞かないで……」
 どうやら、その哀れみの半分は八戒に向けられたものだったようで、問われた八戒は、ぐったりと疲れた様子でした。
「くっ……! あくまでも、このわたしを無視するつもりのようね!
 そっちがその気なら、いーわ。こうなったら、あなたが振り返るまで、延々あなたの名前を呼び続けてあげるわ! ほーほっほっほっほ!」
「そ、そりは確かに嫌かも……。
 ――仕方ないわね。
 ナーガ! いっそのこと、あたしたちと一緒に行かない?」
「ほーっほっほ……なんですって?」
「あたしたちと一緒に行けば、ご飯食べ放題を保障するわよ」
「ふっ。そんな提案……のまないわけないじゃない!
 いーわ、今からわたしは、あなたたちの仲間よ!」
「じゃ、もうそのひょうたんは必要ないわけよね。ちょっと貸ーして」
 ひょいっ。
 八戒は、金角からひょうたんを取り上げました。
「あ、そうそう、ところでナーガ」
「なあに、リナ? ……って。あ」
 つられて返事をした金角でしたが、なんとそのとき、八戒の手にしたひょうたんの口が、自分に向けられていたのです。
「リナの嘘つきぃ〜!」
 気づいたときにはもう遅く。金角は、ひょうたんの中に吸い込まれてしまいました。
「さ、これでうるさい奴もいなくなったことだし。
 あらためて、天竺に向けて出発するわよー!」
 ひょうたんの口を閉めた八戒が振り返ったとき。
 そこには、怪しい格好をした金角と関わるのを嫌がった三人が、遠ざかっていく背中だけがありました。
「あたしを置いていくなー!」


第三幕 銀と紅
 さて、金角を倒し、旅を続ける三蔵法師一行。その行く手を遮る者が、またありました。
「お待ちなさい、悪の旅路を急ぐ者!
 その行いを諌めるものを倒し、さらに悪事を重ねるところを、見逃すわけにはいきません!
 このアメリア=ウィル=テスラ=セイルーンこと銀角が、成敗してあげます!」
 木の上に登り、高々とそう述べたのは、黒い髪を肩で切りそろえた少女でした。
「とうっ!」
 ずべん。
 少女――銀角は、木の上から華麗に飛びあがり……、そして、見事に顔面からの着地を決めました。
「大丈夫……ですか」
 三蔵法師が、心配そうに覗き込みます。
「なんの! 敵に情けをかけられるいわれはありません!」
「……大丈夫そうだな」
 その復活の早さに、悟空が半目で言いました。
「リナさん、ガウリイさん、そして残りお二方! アニメに小説、そしてマンガ「砂時計」では、苦楽を共にした間柄ですが、いえ、だからこそ、あなたがたの悪事、見過ごすわけにはまいりません!」
「ちょ、アメリア。あんたも誰かに頼まれて、あたしたちを倒しにきたってわけ?」
「はい! リナさんたちが、非道の限りを尽くしながら、天竺へ向かっているので、止めてくれと」
「それ、誰に言われたわけ?」
「え……それは……」
 八戒にジト目で迫られ、銀角は、困ったように後ずさります。
「その方は、わたしたちよりも信用できる人なのでしょうか?」
 そこに、さらに三蔵法師が追い討ちをかけます。
「うーん、そう言われると……。リナさんたちと彼女と、はたしてどちらが正義なのか。
 ああ、わたしには決めかねるわ!」
「なら、アメリアさん。わたしたちと一緒に旅をして、その中で答えを出されてはいかがですか」
 頭を抱える銀角に、優しく、諭すように三蔵法師が言いました。
「ミリーナさん……。
 そうですよね。リナさんたちならともかく、ミリーナさんが、悪事なんて働くわけないですよね」
 両手を胸の前で合わせ、感動している銀角でしたが、そこへ。
「悪いが、お前さんたちを天竺へと行かせるわけにはいかないな」
 針金のような銀の髪を持つ青年が現れ、言いました。
「ゼルガディス!?」
「ここでは、紅孩児と名乗っておこうか」
「あんたも、俺たちの敵ってわけか?」
「そういうことだ」
 言って、紅孩児はすらりと腰の剣を抜きました。
「ゼル、あんたも、なんだか親切な人にお金を貰って、あたしたちを倒しにきたってわけ?」
「少し違うが、まあ、そんなところだ」
「どうせ、クレアバイブルあたりの情報でももらったんでしょ?」
「惜しいな。クレアバイブルじゃない……天竺にあるという書物さ」
 この言葉に、三蔵法師が反応しました。
「ゼルガディスさん、もしかしてそれは、わたしたちが取りに行こうとしているもの……と、依頼主は言っていませんでしたか?」
「そうだが……」
「だとすると、多分それは、あなたには必要のないもののはずですよ。
 あれは、ただのお芝居の小道具としての経典ですから」
「なっ……」
 紅孩児は開いた口がふさがらなくなりました。
「あ〜らら、ゼルったら、また騙されたわけねぇ」
「小道具じゃあ、合成獣のことなんて、書いてありませんよね」
「とんだ無駄足だったわけだな」
「まあ、気を落とすなよ、ゼルガディス」
 周りの奴らは、言いたい放題です。
 やがて、紅孩児は、しぼり出すような声でぽつりと言いました。
「……邪魔したな。旅を続けてくれ」
 そして、紅孩児は、すごすごと去っていきました。
「かわいそうなゼルガディスさん……。
 小道具を餌にするだなんて、依頼主の方がきっと悪なのですね!許せません!
 リナさん、ミリーナさん、ルークさん! あとガウリイさんも!
 わたしもみなさんと共に、正義の裁きを行なおうと思います!」
 銀角は、拳を空高く振り上げました。
「ああ、どんどん俺とミリーナのラブラブなシーンが減っていく……」
「そんなもの、始めからないでしょう」
 ひとりごちた悟空でしたが、すかさず三蔵法師に冷たくあしらわれたのでした。


第四幕 牛と女
 何故だか銀角を仲間に加え、旅路を行く三蔵法師一行。今回立ちふさがるは、牛魔王の城でした。
「まーた大仰なモンがでてきたわね」
「随分でけえな」
「これは、中を通り抜けるしかないようですね」
「不法侵入は、正義に反するんですが……」
「でもアメリア、なんか、入れって感じにドアが開いてるぞ」
 悟浄が指さすように、城のドアは大きく開け放たれていました。
「入って来いってわけね。
 よぉーし、行くわよ、みんな!」
「だから、ミリーナが主役なんだから、てめぇがしきんな、このチビ」
 またまた言い争いを始めそうになった悟空と八戒でしたが、それをうまく収めて、一行は、城の中へと入っていきました。
「……誰もいませんね」
「おっかしいわねー。仕掛けいっぱい、敵いっぱいっての想像してたんだけど」
 面白いくらい、一行の歩はさくさくと進んでいました。
「あ、なんかこの部屋、光がもれてるぞ」
「つまり、誰かいるってわけね」
 ばんっ。
 八戒は、勢いよく、悟浄が言った部屋を開け放ちました。と、そこにいたのは。
「シルフィール!?」
「あ……みなさん、もう来ちゃったんですか」
 長い黒髪を綺麗に切りそろえた女性がひとり、部屋に座り込んでいました。その隣には、本の山が積まれています。
「あんた……何やってんのよ?」
「実はわたくし、牛魔王の妻である羅刹女の役をもらったのですが、同時に、他の敵役のキャスティングも頼まれていまして。
 金角・銀角、紅孩児まではなんとか役を押し付け……頼むことができたのですが、何せ相手はリナさん、牛魔王をやってもいいという方が見つからなくて。
 それで、こうしてここで、原作を読んだり、アニメを見たりして、誰かやってくださいそうな方がいないか、探していたのです」
「……って、それで城がもぬけの殻かー!」
「はい。まさか、こんなに早くいらっしゃるとは思わなくって」
 ぬけぬけと言う羅刹女に、一同(事態がわかっていない悟浄以外)、ため息をつきました。
「どうやら、放っておいて、先に行ってしまってよさそうですね」
 三蔵法師の言葉を合図に、一行は、出口へ向かって再び歩き出しました。
「ああ、待ってください!
 さっき連絡が入って、ゾアナ王国への経済援助と引き換えに、ザングルスさんが牛魔王をやってもいいって、言ってくださったんです!
 だから、もう少し待って……!」
 なにやら喚いている羅刹女でしたが、そんなことはお構いなしに、一行は西へと旅を続けるのでした。
 牛魔王の城を抜けると、後はもう、悟空がバカを言って三蔵法師に冷たい目をされたり、八戒が盗賊いぢめをしたり、悟浄が食い倒れチャンピオンになったり、銀角が正義の演説をして町人の信仰を集めたりとしただけで、平穏無事に旅が続きました。
 そして天竺へとたどり着き、見事に経典をいただくことができたそうです。
 めでたしめでたし。

                                    おしまい。

終幕の後で ――舞台裏
ザングルス「待たせたな。約束どおり、牛魔王、やってやろうじゃねぇか」
シルフィール「ザングルスさん、遅いです……。リナさんたち、とっくに行ってしまいました」
ザングルス「なにぃ!? ということは、ゾアナへの援助の話は……!」
シルフィール「当然なしです」
ザングルス「そんな……!マルチナが……俺の仔猫ちゃんが、俺の活躍と報酬を期待して待っているというのに……!」
シルフィール「わたくしも、もっと出て、ガウリイ様とお話したかったのですが……。終わってしまったものは、しかたありません。次回に期待しましょう」
ザングルス「ちくしょー! ……というか、次回があるのか……?」



―――――――――――――
終幕の後で ――舞台裏のさらに裏
L:思い切って、敵サイドの配役を役者達自信にまかせ、今回は傍観者に徹してみたLです!
S:これは、むしろ丸投げといってもいいのでは……?
L:せめて委託と言って!
  ――ともあれ。
  今回最終的に大ボスであるはずの牛魔王の出演が間に合わなかった辺りに、
  いかに出演交渉が難しいものか、ご理解いただけたならと思います。
  それを毎回やっていたあたし、なんてエライのかしら。
S:ご自分で始めたこと……ですよね?
L:まあ、そんな事実はおいといて。
  今回は、ラジオドラマ「EX.」「N・EX.」風の話を目指してみたのですが。
  シルフィールが黒幕だった以外は、全然似ても似つかないという……。
S:ラジオドラマというと、「リナ抹殺指令」「破壊神はつらいよ」あたりを?
L:うみゅ。
  まあ結論から言うと。
  やっぱしあたしが手取り足取り、配役してやらないとってところね。
S:強引な結論ですねー。
L:ほほーう……。
  そーいうこと言うなら、あんたにも強引に退場してもらおうかしら?
S:L様、その、なにゆえパソコンからマウスを引き抜いておられるのでしょうか……?
L:それはね、こーすんの♪
     ぐしゃっ。ぎゅめぎゅめぎゅめ……。
L:――先日、某お絵かき掲示板にて「魅せろ!マウスの底力!」なるお題がありました。
  遅ればせながら、あたし、Lもそのお題にたった今便乗させていただいたわけですが。
  いやー、マウスってすごいわ。
  叩く、殴る、投げつけるに加えて、コード部分を利用して、絞めることもできるし。
  夜中一晩中、クリック音を聞かせ続ける、なんてのもありかもしんないし。
  部下Sも強引に退場させられたし、マウスの底力って、はかりしれないわね。
  などとマウス君の威力をたたえつつ、今回はお開きとさせていただきます。
  また次回、お会いしましょー。








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33758古今東西迷作劇場14早生みかん 2008/10/7 21:29:56
記事番号33632へのコメント

今更ですが、レボ、終わってしまいましたね。
毎週の楽しみが一つなくなってしまい、寂しい限りです。
そんな中、本日もアホはパロディを投稿させていただきます。
読んでもいいかな、という方、どうかお願いします。

―――――――――――――
「赤ずきんちゃん」

 あるところに、赤の竜神の騎士(スィーフィード・ナイト)、略して赤ずきんちゃんと呼ばれている女性がおりました。
 ある日、赤ずきんちゃんは、釣りに行っている父親にお昼ご飯を届けるために、バスケットを下げて、家を出ました。
 父親の元へ行くには、森を抜けなければいけません。赤ずきんちゃんは、ひとりで、暗い森の道を歩いていきます。
 と、それを見ているものがおりました。トロルと狼のハーフの獣人です。
 赤ずきんちゃんを見て、獣人は思いました。
 よぅし、先回りして、父親になりすまして、赤ずきんちゃんを食べてやろう、と。
 そのためには、赤ずきんちゃんには、回り道をしてもらわなければなりません。
 獣人は、赤ずきんちゃんに近づき、花畑に寄っていくよう仕向けようとしました。
 ところが。
「あら、スポットじゃない」
「ちっがーう! 俺の名前はディルギアで……」
「スポット、お手」
「わんっ! ……って、だから、そうじゃなくて……!」
「スポット、おすわり」
「わんっ!」
「よしよし。スポット、そのまま待て」
「わんっ!」
 そして赤ずきんちゃんは、森を抜け、父親の元へと行ってしまいました。
 獣人は、言われるがまま、おすわりをして、その後姿を見送っていました。
 いつまでもいつまでも、見送っていました。

                                       おしまい。

終幕の後で ――舞台裏――
ディルギア「しまった、つい、言うこときいちまった……! ――って、これで終わりかぁー!?」
リナ「ちょっと、文句を言いたいのはあたしの方よ! こちとら、赤ずきんちゃんを助ける猟師の役でスタンバイしてたのに、なんなのよ、この展開は!? あたしの出番を返してー!!」

                                       おわっとけ。

―――――――――――――
終幕の後で ――舞台裏のさらに裏
L:というわけで、ついに郷里の姉ちゃん登場です!
S:って、どこをどう略したら、スィーフィード・ナイトが赤ずきんちゃんになるんですか!?
L:そこはそれ。まあ、ノリってやつよ。
S:どんなノリですか、それは……?
L:それはともかく。
 ここで重大なお知らせがあります!
 ずるずると続けてきたこの古今東西迷作劇場ですが、なんと、次回ついに最終回です!
S:ええ!? やっと終わりにしてくださるんですか!?
 この、見てくださっている方がいるんだかいないんだかわからないのに、
 場所ばかりとっているはた迷惑企画を!?
L:そう、よほど心の広い方しか見てくださっていないだろうこのはた迷惑企画……。
 って、あんた、もうおしまいだと思って、ずいぶんと正直になったものねぇ?
S:はっ、L様、今のは、そのぅ……。
 ああ、お願いですから!
 どうかその、微妙に残った制汗スプレーを私に向けるのはやめてくださいぃ!
L:誰がんなお願い聞くかー!
   ぷしゅーぷすぷすぷす。
L:どうせお願いするなら、この企画をもっと続けてくださいと言いなさいよ!
 ――さて皆様。
 今お知らせしたとおり、お会いできるのはあと一回です。
 その最後の一回、お楽しみいただけるよう頑張るので、どうか健闘を祈っていてください。
 それでは、今回はこの辺でー。

    P.S.危ないので、みんなは、制汗スプレーを人の顔面に向けて出すのはやめようね♪





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33762古今東西迷作劇場15早生みかん 2008/10/9 22:20:12
記事番号33632へのコメント

前回予告したとおり、古今東西迷作劇場最終回、投稿させていただきます。
厚かましくもだらだらと今までありがとうございました。

―――――――――――――
「オペラ座の怪人」
登場人物紹介 ※( )内は役名。劇中では、本名の方でやらせていただきます。
リナ=インバース(クリスティーヌ・ダーエ):主人公。オペラ座の歌手。
ガウリイ=ガブリエフ(ラウル・ド・シャニュイ):子爵。オペラ座のスポンサー。
ヴァルガーヴ(ファントム):オペラ座の怪人。
マルチナ=ゾアナ=メル=ナブラチロワ(カルロッタ):プリマドンナ。
ザングルス(ピアンジ):筆頭歌手。
シルフィール=ネルス=ラーダ(ルフェーブル):前支配人。
ルーク(アンドレ):新支配人。
ミリーナ(フィルマン):新支配人。
ゼルガディス=グレイワーズ(ビュケ):大道具主任。
アメリア=ウィル=テスラ=セイルーン(メグ・ジリー):バレエダンサー。
フィリア=ウル=コプト(マダム・ジリー):バレエマスター。
ゼロス(ペルシャ人):謎の人物。


序幕 オペラ座の人々
 十九世紀末、パリ。オペラ座では、次の公演のリハーサルが行なわれておりました。
「ラララ〜♪」
 歌っているのは、オペラ座のプリマドンナ・マルチナ嬢です。
「練習中すみません。皆さん、ちょっとよろしいでしょうか」
 そこへ現れたのは、オペラ座の支配人・シルフィールです。
「実はわたくし、このたび、支配人を引退することになりまして。
 そこで、新しく支配人をやってくださる方々をお連れしたのですが……」
「まかせろ! 俺とミリーナのラブ★パワーで、必ずやこのオペラ座を盛り上げてやる!」
「勝手に設定を捏造しないでください」
「……新支配人の、ルークさんとミリーナさんです。
それと……ガウリイ様、こちらへ。
 ご紹介します。新しいオペラ座のスポンサー、ガウリイ様です」
「おー。なんだかよくわからんけど、よろしくなー」
 新しい支配人とスポンサーの登場に、一座の人々は、まばらに拍手をしました。
 すると、そのとき。
 ばさばさばさっ。
「きゃー!!」
 なんと、舞台の上から緞帳が落ちてきて、プリマドンナのマルチナが、下敷きになってしまったのです。
「彼よ……オペラ座の怪人だわ!」
 突然のことに人々が驚く中、バレエダンサーであるアメリアが叫びました。
「オペラ座の怪人? なんだ、それ?」
 当然のごとく、ガウリイが疑問の声をあげます。
「この劇場に住みついているといわれている人です。
 毎月二万フランの給料、そして、五番ボックス席を彼専用にすることを要求している。
 その要求をのまないと、オペラ座ではいつも不可解な出来事が起こる……」
 答えたのは、オペラ座のバレエマスター・フィリアです。
「おそらく、今のことは、新支配人やガウリイ様へ向けての脅しなのでしょう。
 今まで通り、自分の要求に応えるように、という……」
 続きをひきとったシルフィールが、暗い顔で言いました。
「ふーん。……で、どういうことなんだ?」
 全然わかっていないガウリイの言い様に、一同、呆れ返りましたが、そこは辛抱。
「つまり、支配人やスポンサーが変わっても、給料の支給とボックス席の確保を忘れるな、ということだろう」
 仕方なく、オペラ座の大道具主任であるゼルガディスが説明しなおします。
「なーんだ、なら、そうと最初から言ってくれよ」
「そんなの、どうでもいいわよ!」
 抗議の声をあげたのは、マルチナ嬢です。彼女は、緞帳の下敷きになったまま誰にも助けてもらええず、今やっと、自力で這いずり出てきたところなのでした。
「プリマドンナの役だっていうから引き受けたのに……。
 下敷きにはされるし、誰もわたしのことなんて助けてくれないし……。
 いいわ、こんなとこ、もう出て行ってやるぅ!」
 そして彼女は、さっと身を翻すと、オペラ座から出て行ってしまいました。
「ああ、マルチナ、待ってくれぇ!」
 テノール歌手であり、マルチなの恋人でもあるザングルスが、慌てて後を追いかけます。
「いーのか? あれ……」
「まぁ、いつものことですから」
「けど、プリマドンナがいなくて、今度の公演はどうするんだ?」
「それなら、心配はいりません!」
 待ってましたとばかりに、アメリアが言いました。
「次の公演の主役は、ここにいるリナさんがやればいいんです!」
 指名されたオペラ座の歌手・リナは、戸惑ったような動作で、みんなの前に進み出ました。が、その顔には、満面の笑みが浮かんでいます。どうやら、最終回にして、やっとまともな役をもらえて、嬉しくて仕方がないようです。
「ナレータ、うるさいわよ」
 はい、すいません。
「そうですね、リナさんならば」
「リナさん、是非お願いします」
「リナなら、大丈夫だよな」
 皆の賛同を得て、リナは正式に、次の公演の主演を務めることになりました。
 さあ、いよいよ、これから、オペラ座の幕が開くのです。


幕間 ――舞台裏――
マルチナ「なによなによ!みんなしてリナばっかり!」
ザングルス「落ち着け、マルチナ。お前には、俺と魔人ゾアメルグスター様がついてるぞ」
マルチナ「ザングルス様……!」
ザングルス「だから、芝居に戻ろう。そうしなけりゃ、報酬が……」
マルチナ「ゾアナ復興のためには、お芝居に出てでもお金を稼ぐしかないのよね……」


第一幕 怪人登場
 その日の公演は、大成功でした。マルチナの代役を務めたリナの歌唱力は、人々の心に響き、拍手の嵐を巻き起こしたのです。
「そう、これよ! こういう役こそ、あたしにふさわしいのよ!
 それがなんだって、これまでは、鬼だの亀だの豚だのと……」
 公演後、楽屋に引っ込み、リナは一人でぶつぶつと言っておりました。
 と、誰もいないはずの楽屋で、何かが動く気配がしました。
「――誰!?」
 用心深く、ナイフを手に構えながら、リナは侵入者に声をかけました。
「ナイフを持っているだなんて、物騒な歌手もいたものだな」
「あんた……ヴァルガーヴ!?」
 物陰から現れた人物に、リナは驚きの声をあげました。
「この劇場の奴らは、オペラ座の怪人と呼んでるらしいがな」
「そんな……あんたがオペラ座の怪人だなんて……」
「なんだ? 俺が怪人じゃあ、不満だってのか?」
「不満大有りよ!
 オペラ座の怪人といえば、醜い顔と天使の美声の持ち主!
 それがこんなのだなんて……期待はずれもいいとこだわ」
「……相変わらず失礼な奴だな、リナ=インバース」
 リナの滅茶苦茶な言い様に、ヴァルガーヴは呆れ顔で答えました。
「お前がなんと言おうと、怪人の役は俺なんだ。
 ということで、俺と一緒に来てもらおうか」
「え? ってことは……でもまさか、そんな。
 ははぁーん。さてはあんた、あたしに惚れてるわね?」
「な……!?」
「だって、オペラ座の怪人って、あたしの役であるクリスティーヌに惚れてるんでしょ?
 その怪人の役を譲らないってのと、俺と一緒に来い、だなんて。
 ふっ……美しいって、罪ね」
「違ーう! 俺はただ、そういう役だから、台本通りに……」
「その役を放棄しようとしないところが怪しい!
 それすなわち、実はあたしに惚れているという証拠!」
 びしぃっと指を突きつけ、リナは断言しました。
「くっ……。そんなに言うのなら、こんな役やめてやる!」
 言い捨てると、ヴァルガーヴは部屋から去っていきました。
「ふっ……。勝った」
 魔族への精神攻撃は、ノリで押し切れ。リナは見事、機転をきかせてヴァルガーヴを撃退したのでした。
 ……あれ? オペラ座の怪人って、こんなお話でしたっけ?


幕間 ――舞台裏――
ルーク「んな話なわけねーだろ! ミスキャストだろ、これは!」
ミリーナ「確かに……。配役に、少し無理があったかもしれませんね」
ルーク「だろ? ミリーナもそう思うだろ?」
ミリーナ「何が言いたいんですか?」
ルーク「だからさ、俺が怪人、ミリーナがクリスティーヌで、もう一度最初からやり直そうぜ」
ミリーナ「じゃあ、クリスティーヌの恋人のはずのラウルは、誰がやるのですか?」
ルーク「それも俺がやる!」
ミリーナ「馬鹿」


第二幕 怪人からの手紙
 怪人がリナの楽屋に訪れた翌日。支配人ルークの元に、一通の手紙が届きました。
『先日は、思わぬ不覚をとったが、あれで本当に俺が棄権したと思うなよ。
 オペラ座の怪人の役は誰にも譲らねぇ。
 二万フランの支給とボックス席の確保もやめさせねぇ。
 それと、次回の公演の主役もクリスティーヌことリナ=インバースにやらせるように。
   オペラ座の怪人ことヴァルガーヴより』
 読み終えると、ルークは手紙をゴミ箱へと放り投げました。
「ちっ。あいつ、まだ芝居を続ける気かよ」
「そのようですね」
「ミリーナ!」
 いつの間に来たのか。ミリーナが、ルークの隣に佇んでいました。
「わざわざ俺に会いに来てくれるだなんて……!」
「私の元に、怪人から手紙が届いていたので、あなたのところはどうかと思って来ただけです」
「あの野郎、俺のミリーナに手紙を送るだなんて……。許せねぇ!」
「誰があなたのですか。
 手紙の内容は、あなたに届いたものとほぼ同じです。給料と席のこと、そしてリナさんを主役にと。
 意地でも芝居を続行する気のようですね」
 どうしたものかと、支配人たちは、とりあえずスポンサーの元へ相談に出かけることにしました。
「手紙なら、俺のところにも来ていたけど」
 相談されたスポンサー・ガウリイは、受け取った手紙を二人に見せながら言いました。
「で、ヴァルガーヴって、誰だっけ?」
 もちろん、お決まりのボケも忘れません。
「さすがガウリイの旦那……。剣以外のことは、素晴らしく当てにならねぇ」
「仕方ありませんね。とりあえず、怪人の要求どおり、リナさんを主役として公演を行ないましょう」
「ま、それでいっか……」
「おーほっほっほ! そうはさせないわよ!」
 折角まとまりかけた話に、高笑いと共に乱入してきた者がいました。
「マルチナ!?」
「……とザングルスさんですね」
「オペラ座の花形、プリマドンナはわたしのはずよ!リナなんかには、やらせられないわ!」
「そうだ、ちゃんと登場人物紹介を見てみろ」
「また話をややこしくさせやがって……」
「いいでしょう、マルチナさんが主役でも」
 プリマドンナに押し切られる形で、支配人たちは、彼女の主演を許可しました。
「ミリーナ、面倒になってきてるだろ……?」
 次回、要求を無視された怪人は、どのような手段に出るのでしょうか?


幕間 ――舞台裏――
リナ「って、ちょっと待てー!主役はあたしのはずなのに、なんで出番が全然ないのよ!?」
ガウリイ「いいなー。リナの役は楽で」
リナ「よくない!よくないったらよくない!出番よこせー!!」


第三幕 怪人を追って
 怪人の手紙が届いてから数日後。その日の公演は、マルチナを主演女優として幕を開けました。
「当然のキャストよ!おーほっほっほっほっほ!」
 しかし、またも悲劇が彼女を襲います。
「ほっほっほ、ぐほぉ!?」
 なんと、上から降ってきた人物に、押し潰されてしまったのです。
「ちょっと、重いじゃないの!早くどきなさいよー!」
 降ってきたのは、大道具主任のゼルガディスでした。
「俺は今死体、俺は今死体……」
 本人がぶつぶつ言っているように、死体の役のようです。死体の役では、自ら動いてどくわけにはいきませんよね。
「きゃー!し、死体よ、死体〜!」
 公演中のこの事件に、観客たちは、悲鳴をあげて逃げ出しました。
「ゼルは舞台の天井から落とされてきた……。犯人は、まだ上にいるはずよ!」
 言うなり、リナは一目散に駆け出しました。ガウリイが、その後に続きます。
「翔風界(レイ・ウィング)!」
 いえ、リナは、魔法で一気に上へと舞い上がりました。
「あ、ちょ、リナ、オレも連れて行ってくれよー!」
 哀れ、ガウリイは、自分の足で階段を駆け上がる羽目に陥ったのでした。
 そしてリナは、予想通り、上で人影と対峙しました。
「やっぱりあんたね……ヴァルガーヴ!」
「俺の要求をのまないからさ。これからもそうだというのなら……さらに死体が増えることになるぞ」
「『死体の役』が、ね」
「そう、これはお芝居さ。
 ――だから俺は、いくらリナ=インバースが相手役だろうと、この役をやりきってみせる!」
「随分と熱心じゃない。
 なに? 怪人の役をやると、何かいいことでもあるってわけ?」
「知りたきゃ、俺と一緒に来ることだな」
「冗談!理由もわからず、はいそーですか、なんてついていけるわけないわよ!」
「ならば……力ずくでいかせてもらうまでさ」
 二人の間の空気が、張りつめました。
「おっと、オレの存在を忘れてもらっちゃ困るな」
「ガウリイ!?」
 ぜえはあと息を切らせながら、剣を片手にガウリイが現れました。
「二対一か……。いいだろう、ここは俺が引いてやるさ」
 そう言い残すと、ヴァルガーヴの姿は、虚空に消えてしまいました。
「無事か、リナ!?」
「ガウリイ、あんた……。
 あんたが来たせいで、あいつ逃げちゃったじゃないの!
 折角、うまいことふんじばって、隠してること吐かせてやろうと思ったのに!」
 すぱこーんっ。
 リナは、懐から取り出したピンクのスリッパで、ガウリイの脳天をはたきました。
「ええ、そんなー!?」
「とにかく! あのヴァルガーヴの執着っぷり……。今回のお芝居には、何か裏がありそうよ。
 わけがわからないまま、流されてなるものですか!」
 理不尽なリナの言動に抗議の声をあげたガウリイでしたが、そんなものを聞くリナではありません。
 あさっての方向を見て、リナは一人、強く決意を固めたのでした。


幕間 ――舞台裏――
アメリア「ひ〜ん、ゼルガディスさんが死んじゃいました〜!」
ゼルガディス「待てアメリア。俺は死んでないぞ」
アメリア「だって、さっき『死体』って……」
ゼルガディス「だから、『死体の役』だ、役!」
アメリア「あ、そうだったんですか。そうですよね……」
ゼルガディス「なんで残念そうなんだ……?」
アメリア「だって、本当に死んじゃってたら、『おのれ、ゼルガディスさんの仇、覚悟〜!』とかって、カッコよく言えたじゃないですか」
ゼルガディス「あのな……」


第四幕 怪人の秘密
 赤、青、紫……。色とりどりの仮面をつけて、人々は会場内を行き交います。今日は、オペラ座で仮面舞踏会が行なわれているのでした。
「なあリナ、こんなことやってて、本当にあのヴァルなんとかってのが来るのか?」
「ヴァルガーヴ。あいつは役を全うすることにこだわっていた……ならば、来ないわけにはいかないはずよ」
「え?どうしてだ?」
「だから、『オペラ座の怪人』って話では、この仮面舞踏会に怪人が現れることになってんのよ!それくらいわかれ、このクラゲ!」
 すかぽーん。
 リナのスリッパが、小気味よい音をたててガウリイの頭に決まります。
 するとその時、会場の奥の方で、ざわめきが起こりました。
「リナさん、来た、来ましたよ〜!」
 騒ぎの方からやってきたアメリアの報告通り、ヴァルガーヴが、ゆっくりとリナたちの方へと歩を進めてきます。
「随分と賑やかなパーティーだが、リナ=インバースの送別会でもやっているのかな」
「まさか。祝勝会の間違いでしょ。
 ――ガウリイ!」
「おう! 光よー!」
 リナの合図で、ガウリイは剣を抜き放ち、ヴァルガーヴに躍りかかりました。
 しかし、ヴァルガーヴはあっさりとそれをかわすと、一冊の台本をリナに向かって投げて寄こしました。
「次の公演は、その台本通り、そこに書かれている配役で行なうんだな!
 守らなければ、どうなるか……わかっているな!?」
 言い捨てると、ヴァルガーヴは会場を出て、廊下へと飛び出しました。
「待て!」
 急いでガウリイがそれを追います。
「だぁれが、あんたの思い通りになんてさせるもんですか!」
 リナもその後に続いて廊下に飛び出しました。
 が、そこにいたのは、ヴァルガーヴではなく。
「フィリア!?」
「リナさん、お願いです。今ここで彼を追うのはやめて、大人しく、彼の言うことを聞いてあげてください」
「フィリア、何を言って……」
「私、知ってるんです!何故彼が、あんなにも必死に、怪人の役に徹しようとしているのか。
 だって、この役を演じきれれば、彼は……!」
「おしゃべりはそこまでにしていただけませんかね」
 声は、二人のすぐ後ろから聞こえました。
「ゼロス!?」
「どうも。謎のペルシャ人、ゼロスと申します」
 にこにこと、声の主は言いました。
「さて、フィリアさん。あなたが何故彼の秘密を知っているかはわかりませんが、あまりそれを口外しない方がいいと思いますよ」
「生ゴミ魔族の言うことを、私が聞くとでも思っているのですか!?」
「聞きたくないなら、ご自由に。でも、もし誰かに喋ってしまったなら、あの話はなかったことになってしまいますよ」
「なんですって……!?」
「――って、ちょっと、いきなり出てきて、二人だけで話を進めないでよ!」
 一人会話に置いてけぼりのリナが、しびれをきらして怒鳴りました。
「すみません、リナさん。でも、その、ちょっと……。
 とにかく、理由は言えませんが、ヴァルガーヴの言うことを聞いてあげてください!」
 そう言い残すと、フィリアは慌てて走っていってしまいました。
「ちょっと、フィリア……!?」
 そして、次にリナが振り返ったとき。ペルシャ人の姿も、跡形もなく消えてしまっていました。
「なんだってぇのよ、一体……」
 廊下の向こう側からは、ヴァルガーヴに逃げられたのか、ガウリイが、手持ち無沙汰な様子で歩いてきました。


幕間 ――舞台裏――
ゼロス「で、結局、なんでフィリアさんはあの話を知っていたんですか?」
フィリア「それは、たまたま通りかかったら、その話をしているのが聞こえて……」
ゼロス「立ち聞きですか。悪趣味ですね」
フィリア「偶然です!あなただって、なんですか、『ペルシャ人』だなんて変な役!こんな役、『オペラ座の怪人』の映画でもミュージカルでも、見たことありませんよ!」
ゼロス「何を言っているんですか。『オペラ座の怪人』の原作を見れば、ちゃあんと出ていますよ。もっとも、原作には欠片も出ていない、アニメオリジナルであるあなたには、原作の大切さがわからないかもしれませんがね」
フィリア「はっ!もしかして、この企画中、よくあなたが原作原作と言っていたのは、アニメオリジナルキャラである私へのあてつけ……?」
ゼロス「今頃気付いたんですか?」
フィリア「きぃー!! 悔しい!」


第五幕 怪人の願い
 重奏な音楽が流れ、幕が上がりました。そこに立っているのは、豪華な衣装を身にまとったリナひとりです。
 ――いいえ、違いました。もう一人、仮面をつけた男が、舞台の上へと姿を現しました。
「よう。ちゃんと、指示を守っているようだな」
 仮面の男――ヴァルガーヴが、満足そうに声をかけます。
「ええ。――あんたがのこのこ出てくるまではね」
「何?」
 不敵に笑ったリナに、ヴァルガーヴが眉をひそめたとき。
「覇王氷河烈(ダイナスト・ブレス)!」
 きゅいぃぃ……ん!
 魔力のこもった氷の刃が、舞台上のヴァルガーヴめがけて飛来しました。
「――!?」
 驚きながらもヴァルガーヴは、舞台外からアメリアが放ったそれを、難なくかわします。
 しかし、かわしきったそのとき。
「神滅斬(ラグナ・ブレード)!」
 今度は舞台上のリナの呪文が完成しました。どうやら、さっきの呪文は、リナがこの呪文を唱え終わるための時間稼ぎだったようです。
「いくらあんたでも、これをくらっちゃあ、ただではすまないわよね。
 さあ、観念して、洗いざらい吐いたらどう!?」
「確かに、それをまともにくらえば、ただではすまないだろうな。
 だが、お前の腕で、俺にそれを直撃させることができるのかな?」
「くっ……!」
 言われて、リナは小さくうめきました。
 確かにリナの剣の腕は、並みの剣士に劣るものではありません。
 しかし、相手はあのヴァルガーヴです。いかに至近距離とはいえ、あてられる保障はありません。
「俺を脅すなら、もう少しマシな手を考えるんだな」
「いーえ……まだ手はあるわ!」
「ほう? 何をする気だ?」
「あたしの剣の腕で、あんたに一撃くらわせることは厳しい……。
 けど、相手がフィリアならどうかしら?」
「なっ……!」
「あんたがフィリアを大切に思っているのは知ってんのよ!
 さあ、フィリアを傷つけられたくなかったら、大人しく目的を教えなさい!」
「なんて奴だ……」
 あまりといえばあまりの脅し文句に、ヴァルガーヴは絶句しました。
「きたねぇ……」
「冷酷にも、程がありますね」
「リナさん、それはあんまり正義のセリフとは……」
「さすがに、それはないと思うなー」
「くだらん手だな」
「ゾアメルグスター様もびっくりね」
「どっちが悪役なんだか」
「ちょ、リナさん、私が人質ってことですか、それは!?」
「魔族の僕としても、それはちょっとどうかと」
 リナの非道な行動に、周囲の人々もブーイングの嵐です。
「うっさいわねー!ヴァルガーヴの企みがなんなのかわからない以上、他に手がないんだから仕方ないでしょう!?」
「わかった……瀬に腹はかえられねぇ。教えてやるよ」
「ヴァルガーヴ!? 言ってしまったら、あの話は、もう……!」
 ヴァルガーヴの決断に、フィリアが悲鳴のような声をあげました。
「いいさ……。こうなっちまったら、仕方がない。
 実は――」
「実は?」
 ヴァルガーヴの告白を前に、一同、静まり返って息をのみます。
「実はな、この目的を誰に知られることなく、怪人の役を俺がやり遂げられたら、金色の魔王直々にガーヴ様を復活させてくれると言われてな」
 ………………。
「「「「「えええ〜!?」」」」」
「なんか、芝居をやる上で目的意識が大事だとかどーたらこーたら言って……。
 ま、結果的に、もう無理な話になっちまったがな」
 一同の驚きを無視して、ヴァルガーヴはため息混じりに言いました。
「ってぇことは……」
「もし筋書き通りにお芝居を進めていたら」
「魔竜王ガーヴが復活していたってことぉ!?」
「なぁなぁ、ガーヴって誰だ?」
「魔竜王ガーヴ!赤眼の魔王の五人の腹心の一人で、あたしたちの前で以前滅んでる奴よ!」
 全然空気を読めていないガウリイに、リナは大声で説明しました。
「……って、ちょっと待って。フィリア、あんた、ヴァルガーヴの目的を前から知ってたわけよね?」
「はい。その、ヴァルがその話をされているところを、偶然通りかかったもので……」
「魔竜王復活の可能性を知っていて、それを放っておいたってわけよね?」
「はい。あ、結果的にはそういうわけですけど、その、やっぱり、私としては、ヴァルに幸せになって欲しかっだけで……」
「だけって、あんた一応元火竜王の巫女でしょーが!
 なに魔族の勢力拡大に手ぇ貸すようなことやってんのよ!?」
  すぽかーんっ。
 今劇三度目のスリッパが、フィリアの頭に直撃しました。
「まさかここまで汚い手を使われるとはな。まあ、相手はドラまたで知られるあのリナ=インバース。
 一筋縄ではいかないだろうと『あれ』も言っていたわけだが。」
「さすがリナさん。『あのお方』にそこまで言わせるとは」
「なんだかんだで、魔竜王復活とかいう事態も阻止できたわけですし」
「なにせ『ドラまた』だもんな。魔竜王もよけるしかないわけだ」
「一応、世界を救ったわけですけどね」
「こすい手を使ってたわよねー」
「ヒロインのはずなのに、人質とっちまったんだものな」
「智謀知略というか、悪逆非道において、リナさんの右に出るものはいませんね」
「あまり誉められたものではないがな」
「すごいなー。リナは」
 みな口々に、好き勝手なことを並べ立てています。
「最後のお芝居……あたしは、ヒロイン役だってのに……。
 あんたら、言いたい放題言ってくれるわね……」
 リナは肩を震わせながら、ぶつぶつと口の中で何やら呟きました。
「リナ、まさか……!」
「そのまさかよ!こんな芝居、舞台ごと吹っ飛ばしてやるわ!
 竜破斬(ドラグ・スレイブ)!」
 ちゅどーん!
 辺りを、激しい爆音が包みました。


最終幕
「いやー、きれいに吹っ飛んだ、吹っ飛んだ。
 やっぱ、あたしにはおしとやかな歌姫より、こっちの方が性に合っているわねー。
 台本なんかに頼らず、自分の道は自分で開く!
 こうでなくっちゃね!」
 きれいさっぱり吹き飛ばされた舞台を見渡して、リナは楽しそうに言いました。
 そこかしこに、瓦礫に埋もれた人々が見えますが、そこは気にせず。リナの気分はすっきりしたということで、まあ、ハッピーエンドといたしましょう。
 めでたしめでたし。

                             ――(舞台は吹っ飛んだけど)幕





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33763古今東西迷作劇場 ―閉幕の後で―早生みかん 2008/10/9 22:24:36
記事番号33632へのコメント

お芝居自体は前回でおしまいでしたが、申し訳ありませんが、もう少しお付き合いください。
最終回と合わせて、楽しんでいただけたなら幸いです。

―――――――――――――

L:――というわけで、お送りしました「古今東西迷作劇場」!
  本日を持ちまして、完結とさせていただきます。
  長々とお付き合い下さった方、本当にありがとうございました。
S:思えば、長い道のりでしたね。
L:うみゅ。不思議の国に迷い込んだリナに、
  お菓子の家を貪り食うガウリイ。などなど。
  あたしも、色々と頑張ったもんだわ。
S:ところでL様、先ほど渡された、この紙は一体?
L:ん。企画中、考えたけどボツったネタのメモ一覧。
  恥を忍んで、ここで公表しようかと。
S:え!? それって、ここで発表しちゃっていいんですか?
L:まあ、最後だし。忘年会的なノリで。
S:いいんですね、言っちゃいますよ!?
  というか、このメモを渡したってことは、私が発表しちゃっていいんですね!?
L:いいからさっさと読め。
  そんな、役目をもらえて嬉しいけど罠だったらどうしよう的な顔をするな。
S:はい!では、堂々と!まずは、没ネタ一つ目!
 「部下Sで眠り姫」!
  ……って、え? わたしネタ?
L:うみゅ。部下S=氷漬け≒スリーピングビューティ。
  なんて式が頭に浮かんだんだけど。
  姫ってがらじゃないし。誰か王子やるんだって感じだし。
  何より、あたしを差し置いて、部下Sがお姫様だなんて許せない。
  よってボツ! んで、よりかわいそうなマッチ売りの少女を採用!と。
S:これ、ボツになって良かったのか悪かったのか……。
  複雑です。
L:いーから、次!
S:はい!えっと、次は……。
 「ゼルガディスでピノキオ」!
L:あ、これはね、ちゃんとキャストも考えてあったのよ。
  ゼペット爺さんがレゾで、ジミニー・クリケットがゼロス。
  んで、青の妖精があたしで、もちろんゼルがピノキオ。
S:では、何故ボツに?
L:んーっとね。投稿小説1だか2だか、ちょっと忘れちゃったんだけど。
  過去の作品の中に、ピノキオを使っためちゃくちゃ面白い作品があったのよ。
  だから、ちょっとこれには手を出せないな、と思って。
S:なるほど。結構弱気だったんですね。
L:うっさいわね。次!
S:はい!次の没エピソードは……。
 「冥王フィブリゾで蜘蛛の糸」!
  蜘蛛の糸っていうと、芥川龍之介のですか?
L:そ。主人公のカンダタがフィブリゾで、蜘蛛が部下S。
S:私、蜘蛛ですか……。
L:でもって、あたしが慈悲深いお釈迦様。
S:…………。
L:ちょっと。何よ、その目は。
S:いえ、私はどうせ蜘蛛ですから……。
L:蜘蛛というより、カニだけどね、あんたは。
S:しくしくしく……。
L:で、何故にダメになったかというと。
  なんかフィブリゾなら、地獄に落ちても、あたしが助けなくても平気かなー。
  つうか地獄にそのままいていいや。
  って思って面倒になってやめた、という。
S:フィブリゾ、哀れな……。
L:ま、所詮は部下Sの部下だからね。さ、次よ、次!
S:はい!次なる没案は……。
 「L様で鶴の恩返し――実際にハタを織るのは部下S」!
  ……って、自分が主役のクセに、私に労働させる気だったんですか!?
L:うん。ほら、あんた、金ラメタキシード手縫いしたりと、器用みたいだし。
S:だからといって、これはちょっと……。
L:あたしも、ちょっとなー、と思って、ボツにしたのよね。
S:ほっ……。
L:まあ、部下Sのまさかの苦労話はどうーでもいいとして。はい、次ー。
S:はい!次でラストの没企画!
 「L様でわらしべ長者」!
L:藁に結んだアブを持ったあたしが、行く先々で品物をもらい、
  ついには豪邸を手に入れる成功物語――。
  キャッチフレーズは、「それくんないと暴れちゃうぞ♡」
S:……って、それ、恐喝じゃないですかー!
L:一部の地域では、そうとも言うらしいわね。
S:いや、一部どころか、全国的にそうですから。
  むしろ、古今東西そうですから。
L:うっさいわねー。
  あんた、忘年会的なノリで、って言ったからって、無礼講が過ぎるんじゃない?
S:ええ〜!? いえ、決してそういうわけでは……。
L:ま、これで没話も終わりということで。
  さてと。
S:あの、L様……?
  なにゆえ、嬉々としてシャムシールなどをお手に……?
L:いやー、これで最後だし。
  ここは一発、SFC版の最強武器と名高い、シャムシールでしめようかと。
S:しめるって、まさか、その……。
L:そ。やっぱ、これがなくっちゃ、あたしらしくないでしょ♪
S:ちょ、だからといって、私に向かって振り下ろすのは……!

   ざしゅざしゅざしゅっ。

L:――SFC版をプレイされた方が、どれ程いらっしゃるかわかりませんが。
  魔法ではなく、これで部下Sにとどめをさされた方、多いですよね?
  なにせ、あたしの魔法が使えないんですものね、あのゲーム。くすん。
  なにはともあれ。
  長らくお付き合いいただいたこの企画も、これにて本当に終了です。
  最後までお読みくださった方も、ちら見しかしていない方も、
  どうもありがとうございました。心よりお礼を申し上げます。
  また何か機会がありましたら、そのときも、是非よろしくお願いします。

       ――終






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