◆−(ゼルアメ/夢見さんへ)−とーる (2008/4/18 22:49:41) No.33537


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33537(ゼルアメ/夢見さんへ)とーる 2008/4/18 22:49:41


 
こんばんは、お久しぶりなとーるです。
今回の投稿は前回と同じく夢見さんへ押し付け小説です(ぁ
このネタは多分夢見さんにしか分からないと思いますけれども。
メールがきちんと届いたか少し心配なのですが……(汗
夢見さん、またもや貰って下さると嬉しいです。

BGM by『乙女の祈り』
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「恋に恋するオンナノコには」


傍らにぽつんと置かれたポータブルテレビから曲が流れてくる。
可愛らしい歌声を聞きながら黙々と指先を動かして弦を直していく。
時々はじいてみては、ずれる音を調整していく。
薄暗い無機質な部屋の中に鮮やかな色彩の光が踊る。

ちらりとテレビの方へ目線をやれば、ちょうど画面が切り替わり
細い腕を差し出して歌う黒髪の少女が映し出された所だった。


「とどいてほしいの 乙女の祈り」


どうしても億万の中に埋もれてしまう歌手を目指すアマチュア達。
その中から秀でた少女達を探し出し教育を施してプロデビューさせ、
しかも上手いほどにヒットさせる事でも有名な会社…『セイ・ルーン』。

テレビの中で踊る少女達。

彼女達はその会社によってデビューした2人組みユニット。
そしてまたセイ・ルーンはその名を強固にした。


「夜空に浮かぶ銀の小船 好きと嫌いの狭間にゆれる」


つい先月。
そう、つい先月デビューした少女達は初シングルをヒットさせたのだ。
宣伝のためCMに使われたおかげでオリコン1位という驚異的記録。
それが今こうして流れている“乙女の祈り”という歌だ。

は……とメロディにまぎれて聞こえないくらいの溜息をつく。
メディアにもてはやされる煌びやかな少女達に比べ自分はどうしたものか。
幼い頃に祖父から誕生日プレゼントにおもちゃのギターを与えられた。
確かそれがきっかけだったのだと思う。
子供の頃はただただギターを弾く事に夢中になり、中学の頃は自分で曲を作るようになり、
高校の頃は本気でプロになる事に憧れてストリートを始めた。
いや…もちろん今さえ本気なのだ。

だが現実は拒む。

いくつもの会社に曲を送り、夜はストリートで弾き続けている。
けれどどこからも声はかけられないし見向きもされない。
時々数人立ち止まって聞いてはくれるものの、それで終わり。

どんなに自分で良い曲が出来たと思っても―――注目されなければ意味がない。
プロになるには周囲から評価されるものをつくらなければならないのだ。
それが人から与えられた曲ではなく自分で生み出すものならば尚更。


「おねがいとどいて乙女の祈り ぜんぶあげちゃう無垢(きれい)なわたし」


パチッとテレビの電源を消してギターケースを担いで立ち上がる。
いつまでも少女達の歌を聞いているわけにはいかない。
すぐに夜がやってくる。
これからは己が弾く番なのだから。





どこか良い場所はないかと首を巡らせるが近くにはなさそうだ。
あまり会社や住宅などに近い場所だとすぐに警察がやってきて注意される。
本来ならば駅周辺などがセオリーなのだが、この時間になってしまうと
さすがにその辺の穴場はほとんど他の奴に取られてしまっている。
多少出遅れた事を後悔した。
とりあえずもう少し駅を離れていけば嫌でも場所は空いてくるだろうと、
最近クセになりつつある溜息をつきたいのを我慢して足を進める。

ふと前方に人影が見えた。


「(おいおい、まさかこの辺も取られてるのか?)」

「まいったなぁ…えーと……」


引き返そうかと迷った所にそんな呆けた声が聞こえてくる。
どうやら自分のようにストリートをしに来たような人物ではないらしい。
安堵した所にその人物がいきなり声をあげた。


「おっ!そこのあんた!いーい所に!!」

「……は?」


まさか自分が声をかけられたとは思わずにそのまま通り過ぎようかと思ったが、
その前にびしっと指を突きつけられてしまっては立ち止まるしかない。
不可解に眉をひそめながら街明かりに照らされる男を見上げた。

長い金髪を後ろで1つのみつあみにして黒フレームの眼鏡をかけている。
服はラフなカジュアル系で何故かその手に薔薇の花束が2本。
容姿に似合う事は似合うのだが…その雰囲気にしっくりとこない。
男が見るからに朗らかであるからだろうか。


「やっぱりこの色は違うと思ってたんだよなぁー。これ、あんたにやるよっ!
 色はかなりいいんだけど、あいつには紅が似合うんでな」

「な、いきなり何だ?」

「そろそろ行かないと時間ヤバイな……。じゃ、俺急ぐから!」

「ちょっ…おい!!」


ありがとなーと手を振って男は颯爽と駅の方へ駆けていく。
ひるる、と風に吹かれて呆然とたたずむ。
背中にケースをかつぐ姿には薔薇の花束はいささか不釣合いだ。

―――男から手渡された事も重なって。


「……どうすりゃいいんだ、これ」


そう呟いてみた所で答えが出るわけでもなし。
さすがに我慢もつきて盛大な溜息をついてからのろのろとケースを降ろす。
中からギターを取り出し―――花束を入れて蓋を開けたまま横に置く。
色々と時間を使ったせいで人通りのピークは少し過ぎてしまった。
きっと今夜はケースの中に曲に対して入れられるものはないだろう。

ピックの先で少し音鳴らしをしてから弾き始める。
苛立ちに任せてテンポの速い曲をと思ったがそれはすぐに止めた。
新たに紡ぎだすならば、メロディは感情に支配されるのではなく伴わなければ。

己を見失って弾いているものには意思がないと思っている。
意味のない曲はやはり注目されないのだから。

瞳を閉じてメロディを紡んでいけば苛立ちが静かに収まっていく。
格の違う歌姫を見せ付けられ、持ち場を取られ、男に花束を渡されたり。
今日は色々あった。
だが何故だかついた溜息を取り消すかのように曲とシンクロするのを感じた。



一音、一音。
響きと心と身とが繋がっていく。





ぱちぱちぱちっ





無心で弾き終えて最後の一音の余韻に浸る耳にその音は良く届いた。
閉じていた瞳を開けば目の前のベンチに誰かが座っている。
街頭に照らされた、白いファーコートを着込んだ桃色のフレーム眼鏡をかける人物。
その服装から自分と同い年くらいかと思ったが、よくよく見れば年下の少女。

深夜のこの時間に出歩くなど警察が見かければすぐに補導するだろう。
しかし少女はそれに気づいていないのか笑って拍手をしていた。


「すごいです、思わず聞き入っちゃいましたっ!」

「……そりゃどうも」


いつもなら“ただのお世辞”として受け取るので本気では取り合わない。
だが少女の言葉は本心からの、純粋無垢な感想だと大きな瞳から分かってしまった。
素直なそれをぶつけられるのは久方ぶりなので戸惑いつつそう答えた。


「私、音楽とかは結構聞いてる方だと思うんですけど……
 こんなに音楽として成り立ってるのを聞くのは初めてです!」

「音楽として?」

「はい。私、音楽ってただ奏でられてるだけだとただのメロディだなあって思うんです。
 でもそのメロディに作った人の気持ちとかがきちんと込められるように奏でられてると、
 そこで初めて“音楽”として成り立つと思うんですよ!」


少女は嬉しそうな笑顔で話し続ける。


「最近聞かされるのが何ていうか…私はただのメロディにしか聞こえなくて……
 ちょっと疲れてたんです。でも貴方の音楽にはすごく燃えさせてもらいましたっ!」

「も……」


燃える……?
正直目の前の華奢な少女が発するのには多少の違和感がある。
たとえグッと握りこぶしを作られて言われようと。
それに活気立たせるような音楽を弾いていたつもりはなかったのだが。


「……変な奴だな」

「なっ!本気で言ったのに酷いです!」

「ああ、すまん。そうじゃない―――そんな事言われたのは初めてでな」

「え?……ああっ!?すっすみません!!偉そうに!!」


今更何を言ったのかに気がついたように慌てだす。
思わず喉の奥で笑うと少女は恐縮したように小さくなった。


「構わん。……それに、俺もお前と似たような考えだ」

「そうなんですか?」

「ああ」


先ほど弾く前に考えていた事とほとんど合っているといってもいいだろう。
曲に、メロディに与えられた意思を汲み取って。
演奏しなければ、歌えなければそれはただの音楽にしかなりえないという考えに。
自分でも偉そうだと思っていた考えを年下の少女に言われるとは。

とにかく少女は自分の曲を聞いて“成り立った音楽”であると言い切った。
それに対しては素直に嬉しいと感じる。

多少の照れくささを隠すために男はギターを弾き始める。
先ほどよりキー音を少し高くして。
少女はきょとんとしながらそれを聞いていた。
だが、すぐにそのメロディが何なのか分かると楽しそうに歌いだした。


「恋に恋するオンナノコには」


今1番の流行りの曲だから誰にでも歌えるだろうと思っていたのだが少し驚いた。
嬉しげな顔で歌う少女の歌唱力はとても素人が持てるものじゃない。


「小さな胸をキュンキュン焦がし 心は飛ぶのあなたのもとに」


―――けれど今はそんな事はどうでもいい。


「投げたキッスはブーメラン 片道キップのブーメラン」


もう少しだけ自分の奏でるメロディに乗る小さな歌姫の声を聴いていたい。
……自分の音楽はこれなのだと自信を持てるような気になったのは
どれほどぶりか。


「ぜんぶあげちゃう 無垢(きれい)なわたし」


今日初めて会った少女だというのに。
今日初めて歌を合わせたというのに。


「届けたいの 恋のジグソー ラストピース」


何故こんなにも息があっているのだろう。

余計なアレンジはせずに余韻を残して弦からピックを離す。
歌い終えると少女は大きく深呼吸をして満面の笑顔を浮かべた。


「本当に貴方はすごいです」

「……そうか?」

「はい!これをこんなにすごい歌に出来るなんて!」


歌ったのはお前―――
と、言いかけてふと目の前の少女を不躾だと思いながらも凝視する。
にこにこと笑う少女。

桃色のフレームの眼鏡とファーコートをとって衣装を変えれてみれば。

変装のつもりだったのだろうか、それともこんな時間だから平気だと思ったのか。
まぁ、現に自分は今の今まで気づかなかったのだが。


「―――お前さん…ユニットでなくソロでもいけるんじゃないか?」

「そういうお話はあるんですけど正直まだ早いと……って!?」


慌てて眼鏡がちゃんと顔にかかっているかどうか確認する少女。
どうやら変装のつもりだったらしい。
これにはさすがに声を立てて笑ってしまった。


「俺のギターで歌ってもらえて光栄だ、セイ・ルーンの歌姫。
 ……アメリア、だったか?」


少女達の名前が、目の前にいるアメリアとリナという名前だったのを思い出す。
連日テレビやラジオで流されている曲に伴う紹介。
うろ覚えなのだが記憶にあったのは間違いなかったようで少女は硬直する。
少女はわたわたとしていたがしばらくするとしゅんと肩を落とした。


「……す、すみません……」

「何故謝る?」

「私が貴方のストリートの邪魔して……」

「お前さんのせいじゃない。この時間はほとんど人がこないからな」

「そう…なんですか?」

「ああ。逆にいつもより良いのが弾けて良かったさ」


ギターを片付けようとして手を止める。
そして少し考えた後、ケースに入れていた花束を手にして振り向く。
首をかしげたままのアメリアの手にそれをばさりと乗せた。


「あの?」

「こういうの俺が持ってても仕方ないんでな、お前さんにやるよ。
 ファンに貰ったとでも言っておけ」

「え!?で、でもこれ貴方が貰ったものじゃ……?」

「俺にファンなんていないさ」


苦笑してみせると少女は優しく花束を抱きしめる。
きっと顔を上げると何を思ったのかきっぱりと言い切った。


「じゃあ私が貴方のギターのファン第1号になります!!いいですよね!?」

「はぁ!?」


驚きのあまりすっとんきょうな声をあげて呆然とする。
アメリアは本気の目をしていた。


「お名前教えてください!」

「ゼ、ゼルガディスだ……っていうか俺のファンってお前さん」

「ゼルガディスさんですか!素敵な名前ですねっ!」


静止の言葉を遮ってアメリアはきらきらと輝かんばかりの笑顔で言う。
その姿にゼルガディスの中にあった歌姫・アメリアのイメージがガラガラ崩れていく。

テレビで見る限りでは“おとしやかな少女”に見えた。
しかし目の前の本物のアメリアは熱意と情熱がありあまる元気娘にしか見えない。
……テレビとはそんなものだったか?
それともカメラを向けられている時といない時のギャップだろうか。


「ここって私の事務所の近くなんです!
 この近くで弾いてる時また聞きにきますから!」


アメリアはそう言ってずいっとゼルガディスに顔を近づけた。


「いいですよね!?」

「あ、ああ」


勢いに流されて頷くとアメリアの顔から真剣さが消えて笑顔が浮かぶ。
その満面の笑みにゼルガディスは思わず魅入られた。


「綺麗な白薔薇、ありがとうございます」


アメリアは花束を大事そうに抱えてふわりとその場で一回転。
まるで陽気に浮かれて踊るかのよう。
ふいに深夜の闇が何かの光に照らされたかのように感じる。
意識した頬が熱を持った。


「それじゃあお休みなさい、ゼルガディスさん!!」


アメリアはそう言い残してその場から駅の方へと走って去っていった。
1人残されたゼルガディスはしばらく動けずにいたが、くしゃりと髪をかきあげる。
そういえば―――。
白薔薇の花束を自分に渡した男をゼルガディスはふと思い出す。
ガウリイという今人気沸騰中の俳優ではなかったか?
……話題こそ出てはいないが紅薔薇を渡すような恋人でもいるのだろうか。

しかし、自分のファン第1号が今話題の歌姫とは。
どこかおかしくて笑えるような気もするが…歌姫というよりただの1人の少女。
明日もここで弾いてみようかと微笑がこぼれた。





ギタリストは歌姫のメロディを紡ぐ

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