◆−いとしいとしといふこころ(ゼルアメ/夢見さんへ)−とーる (2008/1/20 00:58:02) No.33479


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33479いとしいとしといふこころ(ゼルアメ/夢見さんへ)とーる 2008/1/20 00:58:02


いとし いとしと いふ こころ










光沢を放つ白銀の円が暗闇の中で煌々と輝く。
周りでは小さな光が踊るように瞬きを繰り返している。
その優しい月光を浴びて星を眺める快晴のような青い瞳。
昼間、公式の場で着ているドレスとは違う、
飾り気のないシンプルな白いワンピースが夜風に揺れた。
淡く桃色がかったストールと黒髪がふわりとなびく。

自室に備えつけられた真っ白なテラスの手すりに
軽くもたれながら、アメリアは静かに静かに夜空を見ていた。


「ふぅ……」


ふと手首を空中にかざす。

アメリアは手すりから身を起こすと部屋の中へと入ると
クローゼットから小さな箱を取り出してそれを開ける。
中には旅をする時につけているアミュレット。
両手首につけているのだが、箱には一つしか入っていない。
もう一つはアメリアが自ら別れる人に手渡した。

その人物は今は遠い地で旅をしている。
怪我をせず無事でいて、有力な情報は得られたのか。
それすらアメリアには知る術がない。
普通の人達ならば手紙を出し合うなどの連絡はとれるだろう。

―――ここは王宮。
セイルーンの城の中だ。

いくら仲間として一緒に長く旅をしていたとはいえ
どこかを流浪する彼の元に、王宮の彼女の元に手紙は届かない。
それでも自分の事を伝えたくて、彼がどうしているか知りたくて
手紙を書くと宛て先を書かずに封をして引き出しにしまう。
そんな事をアメリアは幾度か繰り返した。

アミュレットをにぎりしめながら部屋の隅を見る。
ベッド脇の壁に掛けられているのは一枚の絵。
王宮御用達の絵師に秘密裏に頼んで描いてもらった絵。
荒野の中、前足を振り上げた立派な一頭の馬に跨り、
手綱を引いている白いマントとローブを纏う一人の青年。
肌は固い岩に包まれていて、針金の髪が顔にかかっている。

名は、ゼルガディス=グレイワーズ。
アメリアがアミュレットを手渡した人物。
何枚も出せない手紙を書いた人物。


「ゼルガディスさん」


ゆっくりとベッドに腰かけるとその絵を見上げて、
堪えきれずに小さく名前を呼んでみる。
頭には静かに振り返りながら何だ、と優しく問う姿が浮かぶ。
けれど静寂を満たす部屋の中には彼女以外の声はない。
それがとても心に淋しい隙間をつくる。


「ゼルガディスさん……」


隙間を無くそうとしてもう一度名前を呼ぶ。
何だと問う脳裏の姿。
心は埋まらずにまた新たな隙間をつくる。
どうしようもない淋しさがつのっていくだけ。
独り言だと知りつつ。
返事はないと知りつつ。
淋しさの隙間がアメリアに言葉を紡がせる。


「ゼル、ガディスさん……っ」


また頭の中で、何だ?と名前を呼ぶ自分に問う声がした。
まるでとても近くにいるような感覚にシーツを握る。
じわりと目元が熱くなった。


「ゼルガディスさぁあん……!」

「アメリア?そうやって名前だけを
 何度も何度も呼ばれても困るんだが……」

「ううっ、すみませ……んっ!?」


呆れたような声に思わずしゅんとして謝るアメリア。
しかしすぐに俯きかけた頭を、がばっと上げた。

きょろきょろと慌てて部屋の中を見渡した。
ふわりと窓辺でカーテンが揺れるのを見て目線を移す。
アメリアの大きな青い瞳がもっと大きく見開く。
テラスに寄りかかる、腕組みした白い影。
月光に照らされた針金の髪が鈍く輝いている。


「ゼ、ゼゼゼル、ガ、ディス、さんっ!?」

「だから何だと聞いてるだろう」


驚きのあまりぽかんとするだけのアメリアを置き去りにして、
突然現れたゼルガディスはすたすたと部屋に入ってくる。
大股数歩でベッドに座るアメリアの目前まで来た。
じっとアメリアを見る目は別れる前と変わりはない。
ゼルガディスはアメリアから視線を外して己の絵を見上げる。
目を見開いた後、少し照れたように苦笑した。


「馬鹿だなアメリア…そんなもん見なくても、本物がここにいるだろう。
 ……まったくお前さんはいつのまにそんな絵を描かせたんだ?」

「な、あの、ゼルガ、だって、ここ、ええ?」

「おいおい…少し落ち着け。久しぶりにここら辺に戻ってきたから
 どうしてるかと思ってちょっと寄ってみたんだが……
 こんな夜更けに、おまけに不法侵入だとさすがに怒るか?アメリア」

「……お、怒りませんけど……」

「そうか」


ホッとしたようにゼルガディスは瞳を細める。
確かに王宮…しかも王女の部屋に真夜中の不法侵入ともなれば
見つかり次第、即刻死刑宣告されても文句は言えないだろう。
だがアメリアは会いたくてたまらなかった彼がこうして
自ら訪れてくれたことが嬉しすぎて、怒る気などまったくなかった。
むしろ戸惑いが大きかったといえばそれまでだが。

ゼルガディスは静かに片手を伸ばしてアメリアの髪を梳く。
そしてそのまま優しく頬を撫でた。
アメリアはゆっくりとその手に己の手を重ねる。


「無事で良かったです」

「ああ」

「会いにきてくれて嬉しいです」

「ああ」

「ゼルガディスさん」

「……アメリア」


真っ直ぐに見つめられ、近づく瞳に目を伏せる。
触れる暖かさに淋しさの隙間が埋まっていく。





目を開ければ、真っ白なシーツ。





テラスの外に広がっていく白んだ空。
ぼんやり夢だったのだとアメリアは気づく。
けれど心に隙間はなくて。

アメリアはゆっくりベッドから起き上がり、洗面台で顔を洗う。
その後、鏡台の前に座って櫛で丁寧に髪の毛を整えた。
本来ならこういう事は侍女がやってくれるのだが。
そしてクローゼットに向かうと服を取り出してぱっぱと着替える。
ドレスではなく、旅をする時に来ている白い巫女服。

片手首にアミュレットを付け。
晴れ晴れとした笑顔でアメリアは顔を上げた。





「父さんっ!姉さんもようやく帰ってきてる事ですし、
 私はまた各地に出向いて正義を広めてこようと思います!!」










正義を広めつつ遺跡巡りをしつつ、三週間ののち。
彼女は再び、2人の仲間と出会う事になる。
そして彼もまた……。





END.
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あとがき

お久しぶりですこんばんは、とーるです。
今回は夢見さんへのプレゼント小説を書かせていただきました。
……そうです、リクエストではなく押し付けプレゼントです(苦笑
自重しないで下さい気になりますとおっしゃって下さったので、
お言葉に甘えさせてもらい自重しませんでした!(こら。
実際に思い浮かんだ時は白馬に乗ったゼルガディスがアメリアを
王宮から攫っていくというシチュエーションのギャグだったのでs(ry
いやあの本当にすみませんでした…しかも何てベタなタイトル。
カウボーイゼルから『つれづれ』に繋がるような感じにしてみました。
甘く甘〜くを狙ったつもりが切ない上に生ぬるいものに(汗
こ、こんなもので良かったらお納め下さいませ。
ではでは。

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