◆−悪しき習慣に対する魔族的見解(ゼロゼラ)−珪孔雀石 (2007/2/1 20:38:17) No.32981


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32981悪しき習慣に対する魔族的見解(ゼロゼラ)珪孔雀石 2007/2/1 20:38:17


強気ゼロス君に天然ゼラス様です。
キス(+α?)止まりですが、苦手な方はご注意ください。
* * * * *

「――以上で、今回の報告を終了します」
先程まで話し続けていた男は、一旦口をつぐんだ。
「ご苦労だった。こちらに新しい動きは無い。従来の調査を続行するように」
それまで聞き手だった女は、労いの言葉と今後の指示を与える。
どちらの容姿もさほど目立つものではない。
男は中肉中背の神官姿で、黒い髪は切り揃え、柔和な表情を浮かべている。
女は華美を嫌うのか、明るい色の金髪は短くまとめ、女性にしては大柄な体に
簡素なローブを身にまとっている。
街ですれ違っても印象には残らないだろう。
けれど、ここ群狼の島に普通の人間が居るはずも無く、彼らは歴とした魔族だった。
それもかなり高位の。
女は獣王ゼラス=メタリオム。魔王の五人の腹心のひとりであり、群狼の島の主でもある。
男は獣神官ゼロス。獣王にとっては唯一の直属の部下だった。
「ところで獣王様」
ゼロスは柔和な表情を崩さず、世間話をするような調子で口を開いた。
「報告というわけではありませんが、人間の主従関係には面白い習慣があるようです」
「ほう?」
ゼラスは真面目そうな表情のまま、わずかに片方の眉を上げ興味を示した。

魔王には腹心が五人居たが、二人は既に滅び、一人は負傷していた。
魔王自身ですら、七つに分かたれた欠片の二つまで失い、世界を滅ぼすという
魔族の悲願は、魔族単独の力で成し遂げるのは困難になっていた。
そこで、種族としては脆弱な、だが稀に思いもよらぬ力を宿すこともある人間を
利用する方法を模索していた。
既に一度失敗はしていたが、現在神にも魔にも動きが無いので、獣王陣営は
差し当たりは人間研究を続けていた。
そのため、彼らは魔族でありながら、人間に違和感無く紛れ込めるよう、
日頃から目立たぬ容姿に実体化していた。

そこへ先程のゼロスの発言である。
ゼラスが興味を示すのは当然の反応だった
「主従が異性の場合、セクハラなんてことがよくあるみたいですよ。
特に立場の弱い人の容姿が優れている時には」
「セクハラ?」
ゼラスにとっては耳慣れない言葉があったので、彼女は聞き返す。
「ご存知ありませんでしたか。性的嫌がらせのことですよ。露骨なものだと、
お尻を触ったり、性的関係を迫ったり」
「ふむ……」
ゼラスは少し考え、おもむろに右手を伸ばした。
そのままゼロスの臀部に、軽く叩くように触れてみた。
「あまり楽しいとは思えぬが、人間の習慣だというのなら取り入れてみるか?」
ゼロスはわずかに噴き出した。
「違いますよ、獣王様。もっとこうやるんです。失礼ですが」
彼は両手でゼラスのヒップを鷲掴みにし、優しく揉み始めた。
「何をっ!?」
抗議の声を上げかけたゼラスの耳元に唇を寄せ、彼は囁く。
「人間の習慣ですよ。獣王様はよくご存知無いようなので、僕が上司役になって
お教えします。部下役の獣王様は逆らわないでください」
そう言いながら、彼の右掌は彼女の腰から背中にかけての曲線を確かめるように
ゆっくり上へ移動する。
右手が背の中央まで到達すると、円やかな膨らみを愉しんでいた左手を止め、
そのまま両腕でゼラスを抱き締めた。
やがてわずかに体を離す。
女性にしては大柄なゼラスと、男性として中肉中背のゼロスの顔の位置は近い。
両腕をほどき、彼女の両頬に掌を添える。
顔を正面に固定して、彼は唇を寄せた。
深く口付け彼女の口腔内を何度も味わい、彼はようやく次の言葉を紡いだ。
「とまあ、こんな風にするんですよ」
ゼラスはゼロスを冷静な目でじっと見つめ、疑問を口にした。
「この行為は、互いに愛情を抱いている人間達がするものではなかったのか?」
「確かに恋人達もしますが、立場の違いを利用して無理強いすることもあります。
恋人同士では正の感情が溢れますが、強要された場合は、負の感情が滲みます。
我々にはむしろこちらの方が相応しいかと」
そこまで聞いて彼女は、ふ、と笑った。
「お前、私の感情を喰ったな」
彼も悪戯を見つかった子どものような表情で笑った。
「美味しく頂きました。獣王様の戸惑い。嫌悪でなかったのは、喜んでいいんでしょうか。
それとも残念がるべきなんでしょうかね」
「どちらでも好きにしろ。これも人間の習慣のひとつとして覚えておこう」
話は終わったとばかりに背を向けた彼女に、ゼロスはいつもの笑顔声をかけた。
「セクハラの延長に夜伽の強要というのもありますが、どうされますか」
金色の光が彼の頬のすぐ横をかすめ、ひと房の髪を消滅させた。
「あまり調子に乗るな」
背を向けたまま彼女は答え、彼の前から姿を消した。
『知識としてだけは頭に入れておく。いつか役に立つことがあるかもな』
含み笑いと共に彼女が漏らした言葉は、彼には聞こえない。
彼は変わらぬ表情で、先刻と同じ言葉をつぶやいた。
「美味しく頂きましたよ。獣王様」

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