◆−満月の町〜ジャック・オ・ランタン〜−とーる (2006/11/1 00:28:35) No.32852


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32852満月の町〜ジャック・オ・ランタン〜とーる 2006/11/1 00:28:35


 (一日遅れすが……)
 
 満月の町〜ジャック・オ・ランタン










 「こーんばーんはー」


 ひときわ明るい声が家の入り口の方から聞こえた
 僕は眺めていた書類の束を机の上に置いて、立ち上がる
 ガチャリとドアを開けると
 そこに1人の子供が笑って立っていた

 子供、と一言で言っていいのかは分からない
 誰も名前を知らないのだから

 子供はいつもこの時期になると
 どこからか思い出したようにやってくる
 まるで初めからいたように脳裏にくっきりとその姿はあって。
 この町の人は目の前の子供を忘れる事は絶対にない
 ありえない


 「こんばんは」
 「どうもお久しぶりです月長さん」
 「お久しぶりです。ここまでの旅、ご苦労様でした」
 「いえいえ、これは僕の仕事ですから」


 にっこりと笑いながら彼は空を見上げた


 「うーん……やっぱりこの町から見る満月が一番綺麗ですね」
 「ありがとうございます」
 「旅してる僕が言うんですから本当ですよ」
 「はい」


 私が頷くと彼は嬉しそうにくすくすと声を立てた
 彼はこうして会うたびに笑っている


 オレンジのカボチャに黒のコウモリの羽があるデザインの
 ふわふわしたオ帽子

 上半身を覆うようなゆったりした黒のマントと
 三日月の留め金からぶら下がる黒の鎖

 白いセーターと黒の短パンに黄色の大きなベルト

 手には指抜きの黒の手袋をして、
 白いブーツをはいたその姿


 さらさらとしたオレンジの髪
 月のような金色の瞳
 華奢で身軽そうな体躯


 彼はこうして会うたびに姿も声も格好も変わっていない
 その存在がそれだけであるかのように。


 「今日の仮装コンテストは見ていかれますか?」
 「そうしたい所ですけど、まだコレを待っている人たちがいるので……
  すみません」


 申し訳なさそうに笑って、彼は手を持ち上げる
 彼が手にしているのはただ1つのジャック・オ・ランタン
 それに私は頷く


 「すみません。仕事中でしたね」
 「ああ、いいんですよ。僕も本当はコンテスト見たいんですから」


 ぱたぱたと手を振りながらそう言う
 とても残念そうな苦笑だ


 「それではまた次の機会にでも見ていって下さい」
 「はい。その時はぜひ」
 「もう行かれるのですか?」
 「そうですね……この町にはもう全てに灯火はついたでしょうから……、
  談笑はこれくらいにして、僕はそろそろ次の町へ行きますね」 


 確かにさきほどまで薄暗かった町
 今は淡い光で満たされている
 彼が持ってきたオレンジ色の淡く暖かい灯火で。

 それを満足そうに見届けてから彼は私に1つ頭を下げた





 「それでは良いハロウィーンを。
  Tric or Treat!」





 彼の名前は誰1人とて知らない
 けれどまるで初めからそこにあったように忘れられない
 こうしてハロウィーンの夜に、灯火をつけにくる彼
 向こう側から還ってくる人たちの橋渡しをする彼
 だから彼はこう呼ばれている





 “灯火を示す者”
 ―――ジャック・オ・ランタン






 「月黄泉ー!!」
 「ああ、エターナ、リッド。」
 「ジャックさんもう来ちゃってたの?
  あーあ…今年こそは会ってみたかったのに!!」
 「……でも、あの人は忙しいんじゃないの」
 「うん、すぐに行っちゃったよ。彼を待ってる人がいるからね」











  T R I C   O R   T R E A T !

   お 菓 子 を く れ な き ゃ

      悪 戯 す る ぞ ! 





END.

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