◆−All was Given 〜前書き〜−久賀みのる (2003/11/1 14:00:30) No.27850
 ┣All was Given 〜0〜−久賀みのる (2003/11/1 14:06:00) No.27851
 ┃┗Re:All was Given 〜0〜−希魔姫 アルファ (2003/11/1 23:29:53) No.27870
 ┃ ┗ありがとうございます!−久賀みのる (2003/11/2 11:03:14) No.27875
 ┣All was Given 〜1〜−久賀みのる (2003/11/1 14:11:00) No.27852
 ┣All was Given 〜2〜−久賀みのる (2003/11/1 14:14:13) No.27853
 ┣All was Given 〜3〜−久賀みのる (2003/11/1 14:17:18) No.27854
 ┣All was Given 〜4〜−久賀みのる (2003/11/1 14:19:41) No.27855
 ┗All was Given 〜5〜−久賀みのる (2003/11/1 14:23:34) No.27856
  ┣補足・レスについて−久賀みのる (2003/11/1 14:25:34) No.27857
  ┗面白かったです♪−エモーション (2003/11/2 22:09:27) No.27886
   ┗笑ってやってくださいな(違)−久賀みのる (2003/11/3 20:38:58) No.27906


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27850All was Given 〜前書き〜久賀みのる E-mail URL2003/11/1 14:00:30

 初めまして。久賀みのると申します。
 
 ……ああっ石を投げないで石をっ!(爆)
 
 改めまして、初めまして。「のりぃ」の頃の作品を知ってらっしゃる方、お久しぶりです。
チャットでちょいちょい話してる方には、こんにちは、かもしれませんね。
 久賀みのることのりぃでございます。実に一年二ヶ月ぶりの投稿となります。
 
 自分の今までの作品とは、いささか作風が違う部分がございます。
 さらに、オリジナル、長編、連載(月一を予定)と、厄介な要素山積みの一品となりました。
 そんなわけで、効能、使用上の注意、およびレスに関するお願いなどを書いておきます。
 (レスに関するお願いがわかりにくい場合、ツリー末の「レスについて」を参照願います)
 
 〜All was Given〜
 ・分類
  長編オリジナルファンタジー連載小説。お約束要素多し。ギャグ含有。裏読み推奨。
  「スレイヤーズ」「ルドラの秘宝」「ブレイド・オブ・アルカナ」からの影響あり。
  
 ・効能
  エンターテインメント。
  次のような症状のある方には、特に効果的です。
   ・硬派な振りしてどこか投げやり、時々ボケ気味「地の文」が読みたい方。
   ・テンポ速めでひたすらヒート・エンド、読み手を振り切る「会話文」が読みたい方。
   ・オープニングからこれでもかと、読み手の限界に挑戦する「大量の伏線」に挑みたい方。
   ・中盤以降から「マジですか!?」と聞きたくなる、トンデモ&お約束な「展開」が気になる方。
   ・現時点で既に100KBを越え、さらに月一回25KBずつほど増えていく(予定の)「長編」に飢えてる方。
 
 ・使用上の注意
   ・明るい部屋で、画面に近づきすぎずにお読みください。
   ・時間が取られますので、のんびりできるときにお読みください。
   ・長文がずらずら並びますので、苦手な方はお控えください。
   ・使用中目に異常を感じた場合には、即座に使用を一時中断し、
     コーヒーなり紅茶なりジュースなりで安らいで、目を休ませる事を推奨します。
   ・「続きが気になるだろうが早く書け――!!」というリクエストには、
     全力を持って答える所存ですが、答え切れない場合があることをご了承ください。
  
 ・レスに関するお願い
   ・「宣伝レス」、「対談型レス」、「全文引用レス」はご遠慮願います。
    番外編や続きなどを勝手にツリー内で書かれるのもお止めください。
    なお、基本的に返しレスは久賀一人称ですが、
     対談形式の返しレスが欲しい方は最後にでもそう書き添えてくださいね。
 
 
 
 
 以上です。長ったらしい前書きに付き合って頂いてありがとうございます。
 ま、前書きがある分だけあとがきは削りますので。
 それでは、本文をどうぞ。

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27851All was Given 〜0〜久賀みのる E-mail URL2003/11/1 14:06:00
記事番号27850へのコメント

                            〜All was Given〜 



In olden times,


遥かな昔――


when wishing still helped,


――いまだ願いは叶うものだと信じられていた頃――


there were human beings, which had too many hope,


――あまりにも多くの希望と絶望を


and despair.


持ちすぎた人類がいた――


All was given for creatures, by Gods and Goddesses,


この時代――


in those days.


神と女神によって、全ては与えられていると信じられていた――










But, the "Magic era" was gone,


しかし「魔法の時代」は過ぎ去り、


and "Power of Sword era" started.


「剣の力の時代」が始まった。


I'll tell you why, and how it began,


私は、なぜ、そしてどのようにそれが始まったのかを、


and my words make a big tapestry, with beauty, magnificence,


一枚の大きな刺繍絵の内容を読み解くかのように、


and a little sorrow.


美しく、荘厳に、そして少しの悲哀を込めて語ろう――










If this story helps you in going your light-way,


――もし、私の話が、光の道を歩むための助けとなるのであるならば、


That's my pleasure.


幸いである――




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27870Re:All was Given 〜0〜希魔姫 アルファ 2003/11/1 23:29:53
記事番号27851へのコメント

こんばんわ、はじめまして。希魔姫 アルファ、と申す者です。
文章は下手なのですが、読んですごいと思ったので、投稿いたします。
かっこいいですね。さすがです。少し長いのでまだ最初の方しか読んでないのです
が、起こし方がものを値切るみたいでおもしろかったです。もっとゆっくりと
読みたいと思います。英語が素晴らしいですね!訳文を読んでいると、英文を
知りたくなってしまって、わざわざ英文を、母に読んでもらったほどです。
大変だと思いますが、これからもがんばってください。以上、希魔姫 アルファで
した。

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27875ありがとうございます!久賀みのる E-mail URL2003/11/2 11:03:14
記事番号27870へのコメント

 初めまして、こちらこそこんにちは。久賀みのると申します。

>文章は下手なのですが、読んですごいと思ったので、投稿いたします。
 ありがとうございます!!いや、文章のうまさ云々よりも、
レスがもらえる方が嬉しいのですよ(笑)

>かっこいいですね。さすがです。少し長いのでまだ最初の方しか読んでないのです
>が、起こし方がものを値切るみたいでおもしろかったです。
 かっこよかったですか。さすがとまで言われると照れますね(をい)
 一章の頭は、気づけばああなってました(爆)連中は勝手に動いてくれるので、
書きやすいといえば書きやすいのです。話が長くなりますが(汗)

>もっとゆっくりと読みたいと思います。
 のんびり暇なときにでも読んでいただければ幸いです。長いので(苦笑)

>英語が素晴らしいですね!訳文を読んでいると、英文を
>知りたくなってしまって、わざわざ英文を、母に読んでもらったほどです。 
 あらら。お母様、お忙しいでしょうにありがとうございました(礼)
 英語版と日本語版では大分違います。実は日本語の方が適当だったりします。(こら)

>大変だと思いますが、これからもがんばってください。以上、希魔姫 アルファで
>した。
 大変でしたけど(熱も出てますし)、それを押して投稿したかいがありました。
 今回は初レス、本当にありがとうございました!

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27852All was Given 〜1〜久賀みのる E-mail URL2003/11/1 14:11:00
記事番号27850へのコメント
                             All was Given  
                           〜Half Sun and Boy〜

 

 「デューン、起きなさい、デューン。いつまで寝てる気ですか?」
 「……あと5分……」
 「何があと5分ですか。いつもいつも同じ事ばかり言って。
 オリジナリティが無いと思いませんか?」
 「あと6分……」
 「増やさないでくださいってば」
 「じゃあ4分30。」
 「はいはい、4分30秒ですね。ついでですから4分35秒に負けてあげます。さーとっとと起きた起きた」
 「矛盾してるぞこら。人の話聞けっつの」
 「昨日星を見ているとですね、遥か銀河の彼方らしきパスパタローレ星雲から『明日7時に人のいうことを聞いてはいけないよ〜ん』みたいな神託が降って来まして」
 「ちょっと待てレウスっ! そこまでツッコミどころ満載な台詞を吐いて俺にどーしろとっ!?」
 「え? まだ負けろって言うんですか?」
 「そーでもねぇっ! っつーかその前に会話をしろっ!」
 「仕方が無い、ここまで譲って差し上げましょう。
 なんと赤札価格の3分27秒87399204ただし秒以下端数切捨てっ!」
 「い・い・か・げ・ん・に・しろぉおぉぉおぉぉっ! てめぇはぁぁあぁあぁぁっ!」
 「うんうん、朝からそこまで怒鳴ればもう目が覚めたでしょう。いーから起きなさい。」
 「うがぁぁぁぁぁっ! しまったぁぁぁぁっ! またハメられたぁぁぁぁあっ!?」
 
 宮廷魔導師の 星見人(アステリエル) 、メルク・アー・レウスの家では、ここ数年、週一ペースで、朝にこの手の絶叫が響くのが習慣と化している。
 
 「……んったくてめーは……毎回懲りずに…… もーちっとまっとうな起こし方ってやつがあるだろーに……」
 ぶちぶち言いながら、デューンはベッドから身を起こした。
 年のころなら16、7か、少し日に焼けた肌に黒い目、癖が強めの黒髪は寝起きのせいでさらにとんでもない方向に飛び出ていたりする。
 全体的に活発――というよりも、むしろ仲間内でつるんで遊んだり無茶をしでかしたりしているような印象を与えないでもない少年だが、実はこの家の家計および家事一般を取り仕切っていたり、見習いとは言えグラディエルス城の兵士をしていたりするのだから、人は見かけによらないものである。
 ちなみに、見習い兵と言うのは主に街と城の警備に当たるので、家にいる時間は日によってバラバラだ。朝まで家で寝ている日は週3日ほど、他の日は城で仮眠を取ったり、見張りでずっと起きていたりする。
 「まっとうな起こし方、ですか?」
 そう返しながらレウスのほうは、細巻き煙草などくわえたままで、なぜか持ってきていた古文書をぱらっ、と開いた。普段はおろしているストレートの長い黒髪が、邪魔にならない様に後ろで三つ編みにされている。
 この土地では相当に珍しい黒髪黒瞳は、デューンと同じ。だが、レウスのほうは、静かと言うよりも静けさと呼んだ方が近いような雰囲気を持った、穏やかな青年に見えた。彼ら二人を並べて、どちらが常識的に見えるかと聞けば、10人が10人ともレウスのほうを指すだろう。
 ただし。
 「じゃあ明日は、遥か南方諸島に伝わる『パルガ・パレラ・バルレムの目覚めの踊り』でもやりましょうか。……あれって顔にペインティングした上1時間ほどハタキ片手に枕元で踊らなきゃなんないんで疲れるんですけど」
 「おいこらっ! それってこないだの夜に、延々と奇声を発しながらハタキ片手に踊ってたやつじゃないだろうな!?」
 「おやまあ。よくわかりましたね。ちょっと練習してみただけなんですけど」
 「普通わかるわっ! あれのせいで、ご近所さんから苦情が持ち込まれて、後から謝りに回るのが大変だったんだぞっ! なんか邪神に魂売ったんじゃないかとか疑われるしよ」
 「はっはっはっはっは。そんなわけ無いじゃないですか。売るならもっと高いとこに売らないと」
 「……高けりゃ売るのか?」
 「そういう問題ではないと思いませんか?」
 「てめぇが言うなぁぁぁっ!」
 こういった会話を聞かせた後なら、10人中5人はとっとと帰り、3人はデューンのほうを指し、残りの2人は顔を見合わせるだろう。大体、星見人――星を導きとする賢者の総称――というのは、頑固で偏屈な変人だ、というのが通説だが、レウスの場合、頑固さも偏屈さもそう表面には出てこない代わり、変人さが一段と飛び出てしまっている感がある。人嫌いというわけではないし、よくしゃべるのだが、話す内容が半分以上意味不明とあっては32歳になってもまだ一人身なのも無理は無いだろう。
 もっとも、だからこそ、よその子供を引き取ってくるような事も出来るわけなのだが。
 ……まあしかし、その「よその子供」に家事その他一切合切を押し付けていたりするあたり、ある意味では持ちつ持たれつと言えなくも無い。
 「とにかく。僕に起こされるのが嫌なら、自分できちんと時間通りに起きればいいじゃないですか。寝過ごしかけるから起こされるんですからね」
 ボケるだけボケておいて、いきなり正論を吐くレウス。
 「まあそりゃそうなんだけどよ、やっぱぎりぎり寝られるまで寝たいってゆーか……」
 まだぶつぶつ言いながら頭を振っていたデューンの目が、壁のカレンダーの上で止まった。
 「……おい、レウス」
 「何ですか?」
 「俺、カレンダーに、あれだけバカでっかく『休み』って書いておいたんだが」
 びっ、とまっすぐ指差された先のカレンダーの、今日の欄には、確かに『休み! 起こすな! 』とあまり丁寧とは言えない字で大きく書かれていた。
 ちなみに、本人もカレンダーを見るまではすっかり平日気分でいたのだが、そのあたりの事は無論棚上げである。
 「…………? 
 ああ、なるほど」
 ポン、とレウスは手を打って、
 「もう落葉月(おちはづき=9月)2日だったんですねぇ。いやぁ、時間が経つのは速いものです」
 「無理矢理一般論できれいにまとめるなっ! 俺の睡眠時間を返せっ!」
 「そんな事言ったって、僕これで3日も完徹してたもんですから。日付や時間の感覚がもーずれるずれる」
 「……何でそこまで完徹したがるんだよ……」
 何故か煙草片手に朗らかに言ってくるレウスに、思わず半ばあきれてツッコミを入れるデューン。
 「星見人が星を見ないでどうしますか。昼間は昼間で気になる資料をあさらなきゃなりませんし」
 確かに、星見人というのは、星や月を観測し、その運行を調べたりなどして予言や占いをするのが本来の姿だったりする。あくまで「本来の姿」であり、実際その通りに行動しているものばかりかと言われるとはなはだ疑問視されているようだが。
 ちなみにレウスの場合、今主に取り組んでいるのは古代文字の読解およびそれを用いた呪文の研究なのだが、一応はきちんと星の観測もしているらしい。
 ……そのせいで睡眠時間が余計に削られているともいう。
 「……つまり」
 もはや怒る気力も失せたのか、ため息交じりにデューンが言う。
 「延々と徹夜が続いてハイになってるから、お前今日は微妙にテンションが高いんだな? 
 ……ったく……てめーがハイになるのはてめーの勝手だけどよ、なんで俺までつき合わされにゃなんねーんだよ」
 言うだけ言って、さすがにこの状況で二度寝は無理だろうと思い、洗面所に向かう。
 そしてその後をレウスの声が追った。
 「別に徹夜したからハイなわけじゃありませんよー。
 ただ今回は途中で寝るわけにいかなかったので魔法使って無理矢理起きてましたからその反動が……」
 すかけぇぇぇぇぇんっ! 
 洗面所から飛んできた木のコップが、景気よくレウスの頭にヒットした。
 「って何するんですか。人が話してる途中に……」
 「何すんだじゃねぇっ!」
 洗面所からずかずか戻ってくるデューン。どうやら気力は取り戻したらしい。
 歯ブラシでびしっ、と相手を指しつつ、
 「精神制御系魔法の使用は犯罪だっ! 
 っつーわけで朝っぱらから犯罪者一名ゲットだぜ俺っ! さくさくさくっと城まで連行して地下牢にぶち込むべしっ!」
 問答無用でレウスの服などつかんで引きずっていく。
 気力を取り戻したと言うより、ただ単にキレただけのようだ。
 「たたたたたっ! ちょっとデューン、髪の毛まきこんで引っ張らないでくださいよっ!」
 「たとえ宮廷魔導師といえども法律に貴賎なーしっ! 薬物精製の許可証があっても精神制御系魔法は使えないはずだったしなっ!」
 「人の話を聞きなさいっ!」
 「言い訳は警備兵の詰め所でじっくりゆっくりはっきりとっ! もれなくクレイスあたりがカツ丼付きで話聞いてくれるぞっ! 重犯罪人扱いだけどなっ!」
 確かに、薬物精製は正当な理由があれば許可証がもらえるし、実はレウスも許可証を持っているので、自分で薬草を栽培したりそれを煙草に混ぜて吸っていたりしているのだが、精神制御系魔法の方は全面禁止である。幻覚や幻聴などの副作用があるものが多い上、ものによっては依存性があるためだ。よって、麻薬不法使用と同じか、それ以上に重い刑罰が科されることになっているのだが。
 「そうじゃなくて、僕は精神制御系魔法を使っただなんて言ってませんよ!?」
 ずべし。
 脱力したため、デューンがいきなりこけた。
 いちいち相手の言う事に振り回されるあたり、ある意味律義な少年である。
 「だから人の話を聞きなさいといったでしょうに」
 落ち着き払って次の煙草に火などつけながら言うレウス。どうやら助け起こそうという気はカケラも無いらしい。
 「たかが眠気覚ましにそんな危ないもの使う人がいますか。
 僕がやったのは範囲警戒魔法の応用ですよ。
 具体的にいうと、まず警戒範囲を自分の周囲・必要最低限にしておいて、警戒音と警戒レベルを最大に設定しておくんですよ。で、その後一人で延々煙草咥えてれば、煙草の煙に反応して警戒音が脳裏で鳴りっぱなしになる、とゆー画期的な応用法を編み出してみたので、これはぜひ使って見なければと……」
 なにやら嬉しそうに語りだすレウス。どうでもいいが、体に悪そうな徹夜法である。
 そして。
 「……もういいっ! てめーは一生寝てやがれぇぇぇえぇぇぇえっ!」
 起き上がりざまに放った、デューンのアッパーが、そのレウスのウンチク語りにとどめを刺したのだった。
 
 
 
 それから数時間後。
 デューンは町外れの空き地で木剣の素振りにいそしんでいた。
 別にどうという理由がある訳ではないのだが、昼まで寝ているはずだったのを起こされてしまい、時間が余ったので、ちょっと体を動かしに来たのである。
 ちなみにレウスのほうは、「おとなしく寝ないんなら永眠させてやろうか」「そんなことしたら、僕は49代祟りますよ?」「何百年祟る気だてめぇはっ!」等といった、デューンの暖かい説得に応じて、家でおとなしく寝ているはずである。
 「48……49……150! 
 よっし、終わりっ!」
 がらん、と音を立てて木剣を放りだし、顔と首筋の汗を布切れで拭いた後、木剣の後を追うように、雑草だらけの芝生に倒れこむ。終わるなりへたり込むほど疲れてもいないのだが、まあ気分と言うものである。
 倒れこんだ後、半分欠けた太陽の日差しが、まともに入る位置にいることに気づき、木剣をもう一回拾ってそばの木陰まで四つ足で移動し、また転がった。
 それでも、9月初めの太陽の日差しが、木の葉の上から追いかけてくる。もう、そう暑いわけではないが、目が慣れるまで、デューンは少し、右手を目の上にかざしていた。
 太陽はいつもの通り、半円の姿をしている。神話では、昔太陽は丸い顔で世界の全てを見ていたが、人があまりにも悪行を繰り返すので顔を背け、横顔しか見せなくなったと言う。今でも太陽が丸くなる事を願うものもいるが、信仰も理念も特にあるわけではないデューンには、今のところ無縁な話だ。
 「……9月、か」
 特に何の感慨も無くつぶやいて、手を下ろす。下ろした拍子に、草が少し頬に触れた。
 アルケミア世界最北の王国である、グラディエルスの夏は短い。さらに北方には、蛮族や「流氷と共に棲む者」達がいると言うが、王家があり、法制度がきちんとあるかどうかという観点で見れば、ここが最北といっていいだろう。この、王都グラディエルス(王都名が国名と同名である)は、その中でも南の方に位置しているからそうでもないが、北の方では、今ごろから10月半ば頃まで、収穫でおおわらわである。その後、近辺は雪に閉ざされ、人々は家の中で、金属装飾や北大山羊の毛織物などを作って生活することになる。
 もっとも、デューンもそのあたりの生活に詳しいわけではない。彼も生粋の王都の生まれではなく、12年前に王都に来たと言うのははっきりしているのだが、それ以前、5歳までの記憶が、彼には無いのだ。5歳当時、一人でうろうろしていたデューンを、20歳当時のレウスが拾ってきたらしいのだが、はっきりとしたことは今もわからないままである。何しろ、レウスに聞いて、まっとうな答えが返ってきたことが無いのだ。「コウノトリが間違えて置いて行った」から「みかん箱に入って川を流されていた」に至るまで、嘘八百が並べられ放題である。
 これだけなら照れ隠しか何かだとも思えるが、さにあらず。一事が万事この調子である。一度など、「別に僕はあなたを育てようとか思ってませんし。子供は勝手に育つもんですから勝手に育ってくださいね」等と、面と向かって言われた事すらあった。まあそれでも、デューンが小さいうちはレウスのほうもそれなりに手をかけていたのだが、大きくなるにつれ、むしろ研究に没頭するレウスの世話をデューンが焼いているかのような、情けない逆転現象が起きてしまった。かくして拾われた子供は勝手にたくましく育ち、どつき漫才ツッコミ担当と化しているわけである。
 はたで見ていれば、何だかよくわからない関係である。かたや32。かたや17。どう見てもデューンの方が一生懸命働いているのだが、稼ぐ金額は10日に1度も城に行かないようなレウスの方がはるかに多かったりする。その代わり日常生活では、保護者にあたるはずのレウスの方が、実はデューンに面倒を見てもらっているように思える。デューンの方もデューンの方で、何かあった場合には遠慮も容赦もなしにレウスに鉄拳を入れている。現時点では、彼らの力関係はほぼ対等である。一番近いのは、家事分担・生活費分担が全く守られていないが、それなりに気が合う同居人、そんなものだろう。年齢差が15もあるのだが。
 もっともデューンのほうは、レウスが生活費の全額を出していると言うのに気が引けたらしく、見習い兵として城で働いてもいる。一応は宮廷魔道士の預かり子なのだから、騎士見習いとなることも可能だったのだが、それもレウスの威光を借りるようで嫌だったらしく、一番下っ端から地道に仕事をしている。その結果、ある日は城で寝ずの見張り、ある日は街の警備、家に帰れる日は家事をまとめてこなしつつレウスにひたすらツッコミを入れ続ける、という、考えようによっては――いやよらなくても――とんでもなくパワフルな日常生活をこなす羽目になっていたりする。
 とは言え。
 「……眠いな〜……」
 今のデューンは、体の厚み半分ほど雑草に埋もれて、頭の上の木の葉がひらひらしているのを見上げつつ、ただぼーっとしているだけである。あまり、そういったたくましさには縁がありそうに見えない。人前でつい背伸びをしてしまう性格にありがちな事だが、むしろ一人でいる時の方が、年相応に子供っぽく見えた。体つきの方も、そこそこに筋肉がついて来てはいるが、描いているラインがまだ少し柔らかいあたり、ある意味では年齢相応である。
 本格的に眠くなって来てしまったらしく、デューンは上体を起こして頭を軽く振った。
 「ヤバいヤバい、こんなとこで寝てたら……
 ……別に誰にも迷惑かけるわけでもねーけど……
 ……でもいー加減家に帰って……レウスに飯やって……洗濯……はもうやったけど ……今日は遣曜日(つかいようび) だったからエルティナさんとこまで手紙を届けて……」
 ぶつぶつつぶやいている間に、やはりまぶたが下がり、頭がだんだん降りていく。額が立てていたひざにぶつかって、やっとそれに気がついた。
 「……………………
 だあああああっ!」
 眠さのためやはり一拍空いてしまったが、声を上げて気合を入れ、その場に立ち上がる。こういうとき、あたりに誰もいない空き地は便利である。
 立ち上がった後、ばんばんと少し乱暴に、服についた埃や葉っぱを払って、木剣を拾ってベルトに差した。
 「とりあえずいったん帰るか。
 休みなんだし、やる事全部片付けてから1日寝ててもいいしな……
 ……ん?」
 ここからは、立ち上がると、街を囲む城壁とそれに出来た穴が見える。穴というよりも、むしろ裂け目といった方がいいような、早い話が、子供サイズの城壁の抜け穴である。
 そこから、何か小さい人影が、必死になって転がり込んできた。
 「……あれって、ラトゥスんとこのベルグじゃねーか? 
 こらっ! てめぇベルグっ! 
 13歳未満が城壁の外に出るのは禁止だって何べん言ったらわかるんだ!? 
 ……って、おわぁっ!?」
 「デューンの兄ちゃあああああんっ!」
 どがしっ! 
 抜け穴から飛び込んできたベルグは、いきなりデューンにしがみついてきた。それまでの勢いもついていたため、なかなか景気のいい音がする。
 さりげなく片足を後ろに回してよろけるのを防ぎ、しがみついたベルグに拳骨一発。
 「いきなり何すんだてめぇはっ!」
 ごん。
 「兄ちゃん、大変だよっ! 魔物が追っかけて来るんだっ!」
 しかしそんな事など何のそので、ベルグは何やらわたわたと喚いている。
 「だから、魔物が出るから禁止なんだっていつも言ってんだろ!? 
 城壁の中まで来ちまえばもう追っかけて来ねーよ。きっちり詰め所でいつものとーり説教くらって来るよーに」
 「だから違うんだよ兄ちゃんっ! 
 オレだけじゃないんだ、カディスがまだ残ってるんだよっ!」
 「ぁんだとぉ!? 
 それ先に言え、この馬鹿っ!」
 がんっ! 
 拳骨もう一発食らわせて、問答無用で抜け穴に走る。
 子供サイズしかない抜け穴だが、無理をすれば通れる。今から城門まで走り、門を開けてもらうよりよほどこの方が速い。
 「デューンの兄ちゃん!?」
 「どーせいつもお前らが遊んでるとこだろ!?」
 「そーじゃなくて、一人で大丈夫!?」
 「ダメに決まってんだろが」
 「ちょっとっ!?」
 いったん、剣だけ先に穴の向こうに落とした。
 「正規の任務で鎧に真剣帯びてる時ならともかく、今の俺、黒ランニングにカーゴパンツに木剣だぞ!? 大体、魔物ってどんなのだったんだよ?」
 「おっきい一つ目の猫。なんか人間ぐらいのやつ」
 「人間サイズ!? じゃあなおさら勝ち目ねぇな」
 前に通った時より、さらに背が伸びている事を忘れていた。右肩が引っかかる。
 「って、勝ち目無いのに行くのかよ!?」
 「おいベルグ、お前何か勘違いしてねぇか? 
 それともお前、俺にばっか体張らせるつもりかよ!?」
 何とか肩が通った。
 「って、オレも行くのかよ!?」
 「馬鹿来るなっ! 
 てめぇにゃてめぇのやることってもんがあるだろーがっ!」
 上半身全部が外に抜けた。
 「え!?」
 身を返して片足を抜く。
 「今すぐ警備兵の詰め所に行って、応援呼んでこいっ! 
 てめぇが一分早く着くごとに俺の生存率が跳ね上がると思えっ! 
 俺のほうとしても無茶したくねぇし、できるだけ長く時間稼ぎはするからよっ! と」
 もう片足が抜けた。城壁の穴越しに、ベルグとデューンの目が合う。
 「任せたぞっ!」
 左手の親指を立てて見せながら、右手で落ちている木剣を拾って腰に差す。
 「……わかったっ!」
 そう言って、ベルグが必死に走り出した。しかし、それをデューンは見ていなかった。
 彼も、走り出していたからだ。
 場所は分かる。近道も知っている。13歳までは、彼も城壁を抜け出して怒られる方だったのだから。
 「あー畜生っ! 
 俺の休日は一体どこ行ったんだ!?」
 景気付けに、多少ずれた事を叫びながら、彼は足場の悪い岩場を走り抜けていった。

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27853All was Given 〜2〜久賀みのる E-mail URL2003/11/1 14:14:13
記事番号27850へのコメント

                             All was Given  
                           〜Dance with Cat〜

 

 一人の、十歳にもならないような子供が、必死に草むらを駆けている。草の丈は彼のひざほどまであり、とても走り難そうだ。事実、彼の息はあがり、足はよろけて、今にも倒れそうである。歩くのと大差ない程度の速さしか、既に無い。
 それでも必死に走る子供を、一つ目の大猫が、ゆっくりと、追っている。大人と同じぐらいの重さはあるだろうそれは、まるで獲物をもてあそんで楽しんでいるかのように、やっと、といった感じで走っている子供の後を、ゆっくりと大またに歩いて追っていた。
 と、大猫が、ひゅん、と右前足を振るった。それが、子供の背中にあたる。
 「うわあっ!」
 子供が、左前にふき飛ばされた。地面にそのままぶつかって跳ねて落ちたその背中には、血の染みは無い。
 大猫の方が、手加減して、爪を引っ込めていたのだ。手加減というよりもそれは、ただ子供をいたぶっているだけだったが。
 それでも、地面にたたきつけられた体の、あちこちから血が流れ始める。打撲傷も、いくつと無く出来ているだろう。ふき飛ばされて、倒れて、また走り出すのは、今ので4回目だ。その後から大猫が、またゆっくり歩いて追ってくるのも。
 泣き言も許しを請う言葉も出てこないのは、それが通じない相手だと知っているからではなく、単にそうする体力すら残っていないからだ。
 ずっと走り続けていたせいで、呼吸がかなり激しく乱されている。
 「はぁっ……はぁっ……んぐ、がはっ! …はっ…はぁっ……はぁっ……」
 それでも、子供が立ち上がって、また走り始める。それを大猫が、また追ってくる。それは、家猫が、死にかけのネズミで遊ぶのと、同じような光景だった。猫はネズミを食べるが、魔物は人間を食べないという、その点だけが違う。
 そして、大猫の、一つしかない瞳が、すっ、と細められた。
 足を止めて、さっきからずっと一定だった距離を、もう一度測りなおす。背中が丸まる。
 死を目の前にしてなおも逃げ回る哀れな獲物を、爪で捕らえて引き裂こうとして、大猫が子供の背中をめがけて跳びかかった。
 
 そして。
 「でやぁぁぁあぁぁぁあっ!!」
 どんっ! 
 空中にいた一つ目の大猫は、デューンの体当たりで、子供から離れたところにふっ飛ばされた。
 
 「カディスっ! 無事か!?」
 「警備兵の兄ちゃん!?」
 「城まで走れるか!?」
 「城ってどっち!?」
 「俺の後ろだ。行けっ!」
 子供――カディスが走り出す頃には、大猫はしなやかに足から着地し、体勢を整えてデューンの目の前に走ってきていた。
 (『モノ・アイ・フェリス』か……見たことはあるけど、戦るのは初めてだな……)
 本当なら、デューンが一人で戦って勝てるような相手ではない。しかし、今目の前にいるものはやや小さめである。カディスが逃げるまで、そして応援の警備兵(なかま) たちが駆けつけるまで、時間稼ぎをすることぐらいなら可能なはずだった。
 「行くぞっ!」
 逃げていくカディスを追われては、猫の方が人より速い以上、絶対に追いつけない。
 迫ってくる大猫の鼻先を、カウンター気味に木剣で叩く。
 「ぎゃんっ!」
 大猫が声を上げ、そのまま右前足でこちらを引き裂きに来る。
 が、その攻撃は予測していた。無理をせず、軽く左後ろに跳んで距離を開ける。
 今の木剣の一撃は、大して効いてはいない。それでも、走って逃げていくカディスから、大猫の注意を完全にこちらにそらすには十分だった。
 正面から再び対峙し、今度は大猫が先手。
 ばんっ! 
 右からの、頭部を横薙ぎにする爪の一撃を、とっさに立てた木剣で受ける。力負けしかけて、刀身にあたる部分を左手で押さえた。
 木剣がふさがっているうちに、もう片方、今度は左から攻撃が迫る! 
 「くっ!」
 木剣をひねり、押さえている前足をかいくぐるようにして右に抜ける。そのまま大猫の頭の真横に回りこみ、片手突きの構え。左手を刀身に滑らせて、照準。
 「せいっ!」
 どむっ! 
 鈍い音を立て、木剣が、大猫の頭部にヒットする。耳を狙ったのだが、少々外れて頬のあたりに打撃が入った。
 「ぎにゃぁっ!?」
 さすがにこれは多少効いたか、大猫が悲鳴をあげた。そのままデューンから離れる方向に大きく跳躍する。
 デューンがそれを追って走る。飛び道具の一つもあれば、相手の体勢の建て直しに、妨害の一つもできるのだが、魔法が全く使えない彼にはそのすべが無い。
 ゆえに、大猫はデューンが走りつく前に、完全に体勢を立て直していた。走ってくるデューンに向かい、こちらも真正面から突撃してくる。
 (やべぇっ! )
 進路を変えるには距離が詰まり過ぎている。しかし、勢いがつき過ぎていて急には止まれない!
 ずざざざざざざっ! 
 とっさに、左足で地を蹴り、フックスライディングの要領で足からすべって大猫の進路から外れる。大猫の毛並みに触れる気すらするような、ぎりぎりの距離だ。
 後ろ足のあたりに無防備に転がるデューンを、大猫が振り返る。
 逆さまの視界に、大猫の牙が入った。
 (喰われるっ!?)
 がぁんっ! 
 とっさに、仰向けの姿勢のまま、腕だけで木剣を大猫の牙に打ち当てる。
 相手がひるんだ隙に素早くうつぶせに半回転、大猫から目を離さずに立ち上がる。
 そのまま力任せに鼻面を強打! 
 「びにゃあぁああっ!」
 大猫が本格的に悲鳴をあげた。そのまま、近くの木まで走り、上までよじ登る。
 (よし。
 後は応援が来るまで、降りてこないように見張っていれば大丈夫か?)
 思ったその瞬間、背筋に別の殺気を感じた。
 思考より早く本能が動く。とっさに前方に大きく跳び、木剣を持たない左手から、体を丸めて着地した。
 さっきまでデューンがいた位置に立っているのは、今まで相手にしていたのより二周り以上大きい一つ目の大猫! 
 「二匹っ!?
 ……つがい……いや、親子かっ!?」
 「きしゃああああああああっ!」
 親大猫が威嚇の声を上げた。
 子供であろう小さい方は、木によじ登ったまま降りてこない。それがせめてもの救いではあった。とは言え、状況は十二分に絶望的である。
 今まで、獲物を一人で取れない程度の子猫に、ここまでてこずっていた、ということだ。その相手をして消耗したところで、もっと大きな魔物が出て来たらどうなるか。まして、子猫に攻撃を仕掛けたため、親猫は非常に気が立っている。
 おそらく親猫は、わざとあまり傷をつけずに獲物を――カディスを――捕らえ、そのとどめを子猫にささせる事によって、子猫に狩の経験を積ませようとでもしたのだろう。なら、その獲物を逃がされ、さらに子猫に攻撃が仕掛けられた以上、親大猫がデューンに対して攻撃をためらう必要は一切無い! 
 びゅおっ! 
 風すら立てて、親大猫の前足がデューンの頭部を狙って閃く。
 木剣で受け止めるか身をかわすか、一瞬迷うデューン。
 「!」
 その迷った時間のせいで、ぎりぎりでしか爪をかわせなかった。目の前の空間を、鋭くとがった長い爪が引き裂いていく。
 肉をごっそり持っていかれる程度で済めばいいほうだろう。下手に腕などで受けたら、当たった箇所が骨ごと引き裂かれて千切れ飛ぶかもしれない。
 一回でも当たればジ・エンドである。
 デューンは一度後ろに下がった。無理矢理攻撃を仕掛けるより、自分の動揺を静めるほうが先だとの判断である。
 が、大猫のほうはそれを許す気が無い。
 すぐさま間を詰め、再び攻撃。今度は左の前爪がデューンの腹部を狙う! 
 だが、デューンの方もそれは予測済み。無理せず身をかわし、さらに後ろに大きく跳ぼうとした。
 親子だからなのか、それとも種族の特性なのか、大猫達の戦い方には共通点が多かった。そのため、いったん前足を振り切ると、そこに隙が出来るのも同じだと彼は踏んだのだ。
 が、勢いで振り切るかと思われた前足を、大猫は無理矢理地面に叩きつけた。そこから素早く両後足を前に引き、真上に跳躍。上空で身をひねり、背中からデューンを引き裂こうとする! 
 「なっ!?」
 一瞬大猫の姿を見失うデューン。しかしその間も、驚くその感情とは何か違うもの――経験か直観か――それが、彼の体を動かしている。
 めぢぃっ! 
 奇妙に濡れたその音は、ろくに狙いも定めずに放ったデューンの左こぶしが、大猫の額の一つ目に、きれいに入った音だった。
 「みぎゃああああああっ!」
 親大猫が悲鳴をあげる。そのまま大きく跳び退り、いったん距離を開けた。
 激しく瞬きした後、一つしかないその瞳が再びデューンを捉える。
 「けっ! 
 伊達に城勤め三年もやってねぇんだよっ!」
 デューンがその瞳を真っ向から睨み据える。木剣は両手で構えた正眼。跳ね回る肺と心臓を、意志で押さえつけた。
 魔物は人を襲う。そして、人から決して逃げようとしない。それが、この世界におけるただ一つの魔物と獣を分ける区分。
 ゆえに、人は魔物に情けなどかけない。魔物は見つけ次第、可能な限り殲滅しなければならない! 
 大猫が突撃してくる。デューンは動かない。今までの攻撃で、癖はつかんだ。
 今までと同じく、大猫の攻撃は左の前爪! 
 デューンは木剣を右手だけに持ち替える。
 がっ! 
 爪を木剣で受け止める、鈍い音が響いた。
 さっき、大猫の子供に攻撃された時と同じ状況である。相手の左の前足を木剣で止め、力負けしないように左手を添えた形。
 違っているのは、木剣が横にされ、大猫の爪と爪の間に挟まっていること。
 「これでどうだっ!?」
 両手で木剣を掴みなおし、無理矢理にひねり抜く! 
 ばぎぃんっ! 
 鈍いが激しい音を立て、大猫の左爪が二本折れた。
 だが、その動作のため、大猫の右爪をかわしきるだけの余裕が無い。
 デューンは思い切って半身を踏み出し、軽く地を蹴る! 
 ばしぃっ! 
 次の瞬間、デューンは上空にたたき出されていた。
 半身を踏み出す事により爪では無く肉球の部分が自分に当たるようにし、さらに軽く飛ぶことによって衝撃を緩和したのだ。
 が、空中で不自由な体勢にあることには変わりはない。その瞬間を狙って、大猫の爪が再び閃く! 
 「んっの野郎っ!」
 左爪の攻撃は、身をひねって何とかかわす。
 右爪の攻撃の回避は、間に合わない! 
 ざしゅっ! 
 爪が、右肩の肉を裂く音。
 その勢いで、デューンの体が地面に叩き落される。とっさに右肩をかばおうと体を曲げるが、そのせいで左足を強打する。
 「つっ……」
 右肩の痛みに比べれば大した事はない。しかし、痛みよりも衝撃が、デューンの動きを一瞬妨げた。左足には怪我はないだろうが、痺れがあり思ったように動かない。
 その一瞬の初動の遅れが、決定的な隙を生む。上体を起こした時には、大猫はすぐ目の前に走ってきていた。
 「ちくしょう!」
 叫びと共に、腕の力だけで木剣を大猫の顔面に投げる。素手になるのはかなりまずいが、この際仕方がない。受け止めようとするか、せめて視線だけでも逸らしてくれれば、その隙に立ち上がろうとしたのだった。
 が、それは悪あがきにすらならなかった。
 目の前に一直線に飛んできた木剣を、大猫は全く動じずに口で受け止め、そのままそれを噛み折る。
 (マジかよ!?)
 背筋を冷たい汗がつたった。
 そのまま左爪が上体を攻撃! 
 とっさにデューンは上体を倒す。後頭部を強くぶつけた。
 どん! 
 仰向けになったところを、大猫の右足が押さえつける。身動きが取れない! 
 目の前で一つ目の大猫の口が大きく開く。その牙と歯の本数が全部数えられそうな至近距離だった。
 大猫がデューンに食いつこうとする。とっさに、左手で顔と首筋をかばった。
 
 
 ギィィィィィィィィンッ! という鋭い音を、聞いたような気がした。
 それが空耳でしかない事を、その一瞬後には頭のどこかで判断していた。
 冷静なのはそこまでだった。左手首から、まず熱さ、そしてその後から激痛が全身を襲った。体のどこかが絶叫していた。血と脳と脳髄が沸騰していた。どこが痛いのかとっさにわからない。それでも、気がつけば左手をかばうように身を丸めていた。
 ヤバい、このままじゃヤバい、体の奥底で本能が騒ぎ立てる。そして、それを肉体は全く聞きいれようとせず、無意味な発汗と痙攣を続ける。ヤバいって言ってるだろう、早く立ち上がれ、お前が今無防備な頭と首と喉と胸とはらわたを敵の目の前にさらしているんだって事がわからないのか――その本能の警告は、今現在の苦痛に暴れ回る神経には全く通じない。そして、大猫の左足が自分の顔を押さえ込もうとしているのにかろうじて気づいた理性が、ささやいた。
 
 
 もう、どうせ無駄だと。
 
 
 ぼむ! という、内臓が沸騰して破裂する音を聞いた。
 けれど、それはデューンではなく、一つ目大猫の腹から響いた音だった。
 大猫が血反吐を吐いた。それでも、デューンの上から降りて、走ってきたばかりの新しい人影に飛び掛る。
 「クレイスかっ!」
 デューンが跳ね起きる。手首の痛みはいつの間にか消えていた。
 「デューン無事!? 無事なら時間稼ぎよろしくっ!」
 飛び掛られた人影は、それをかわすなり、あっさりと後ろを向いて走り出す。
 追いすがろうとする大猫に、真横からデューンの回し蹴りが入る! 
 どむっ! 
 「ぎみゃああああっ!」
 大猫が悲鳴をあげる。すでに内臓がやられているところに、腹部を蹴られたのだからたまったものではない。
 「――黒雲の馬車に乗りたまう怒れる女神、雷神ティアラよ――」
 さらに後ろから聞こえる呪文詠唱。
 デューンは後ろに跳んで大きく離れる。巻き添えを食ったらたまったものではない。
 「――天と地を繋ぎて力示したまえ
 キャ・タ・リーナ!」

 っつどがぁぁぁんっ! 
 
 雷撃が大猫を打ちのめす! 
 そして、大猫は動かなくなった。
 


 「いや〜、間に合わないかと思ったけど何とかなったねぇ」
 呪文を放った少年が、碧眼を細くしてのーてんきに言い放つ。
 金髪、緑眼、なおかつ童顔。デューンと同い年なのだが、2,3歳年下に見られる事が多い。だが、額に下がったハ・テュア・ティアラ―― 雷神ティアラ――の神官印は、彼がただの気楽でのー天気な少年ではないという事を、はっきりと明言していた。
 大猫の背中に刺さっていたレイピアを抜き、砕けた木剣を見て軽く肩をすくめる。
 「あ〜、デューン、お気の毒様。まーた団長に起こられるかもだね?」
 「……ってクレイスっ! なにのんびり構えてやがる!?
 後一匹あれの子供がいるんだぞ!」
 「え、マジっ!? ていうか、どこ!?」
 クレイスもまた、れっきとしたグラディエルス城の兵士なのだ。加えて、着ている制服からもわかるとおり、彼の方はれっきとした勤務中である。
 「向こうの木の上……やべぇ、逃げ出した!」
 一瞬で、漂っていたのんきな雰囲気が消え去る。
 「カー・レム・ノス!」
 ばぢばぢばぢばぢっ! 
 クレイスが放った雷撃は、しかし走っていく子供の大猫にはとどかずに霧散した。
 その時、デューンはもう、大猫を追って走り出している。
 大猫と人間とでは、走る速度に差がありすぎる。が、彼ら二人がそろっている以上、距離というのはたいした問題ではない。
 「デューン、あれやって大丈夫!? 怪我とかないよね!?」
 呪文を放った後追いついてきたクレイスが、並走しながら聞いてくる。
 走りながらも、とっさに左手首に目を落とすデューン。間の抜けた話だが、痛みがなくなったとたんにそのことを忘れていたのだ。
 さっき、あれほどの激痛が襲ったというのに、左手には何の怪我もなかった。嘘のよう、というよりもむしろ幻だったかのようだ。絡みつくような奇妙な形のあざが、左手首から握りこぶし一つ分ほどの長さについていたが、指も動くし、手も普通に握れる以上、問題はないだろう。
 他の部分には、取り立てていうほどの怪我はない。髪の毛が血まみれなのは彼のものではなく、大猫の吐血だ。
 「構わねぇっ!」
 「了解っ! タイミング合わせて!」
 それだけで通じる。
 クレイスが呪文詠唱を開始。同時に、武器のないデューンに、さっき使ったばかりで血もぬぐっていないレイピアを、いったん鞘に収めてから投げ渡す。
 しゃんっ! 
 デューンがそれを抜き放つ。肘までの長さで、全体が一つの金属から鋳造されている上、柄の方には逆刺までついている、奇妙な形のレイピアだ。
 「―― 彼(か)のもの汝の使者となり
 彼(か)のもの汝の先触れとならん
 迅雷をその身に宿らせたまえ
 コ・フェル・ウス!」
 クレイスの呪文が完成すると同時に、デューンの視界が歪んだ。全身に奇妙な負荷がかかり、音が遠く低くなる。全身が熱くなり、一瞬だけ吐き気がした。
 そして、それらの感覚が一度に消失する。視界がさらにクリアになっている。体が軽い。
 『コフェルウス』は、平たく言えば、普段なら不可能な素早い動きを可能にする呪文だ。使うものはかなり少なく、使いこなせるものはさらに少ないが、使いこなせればかなり有効な補助呪文である。
 クレイスと目が合う。クレイスは軽く目だけで頷き、デューンは軽く親指を立てて見せた。
 そのまま、デューンはスパートをかける! 
 見る見るうちに、逃げていく大猫の背中が大きくなる。この状態のデューンなら、子やぎと競争するぐらいのスピードは出せるのだ。
 その勢いのまま、大猫の背中に飛び蹴りを入れる。大猫はとっさに右前に飛んでそれをかわし、不自然な体勢から、足を踏ん張って無理矢理に着地した。
 が、着地した時には既に、飛び蹴りをかわされたデューンが、目の前に迫っていた。
 「あらよっとっ!」
 大猫の目の前で、いきなり高く跳躍。一瞬うろたえた大猫の首筋に、レイピアを根元までぶち込んだ! 
 大猫が悲鳴をあげるより速く、その背中を踏みつけて跳躍し、さらに遠くまで距離を稼ぐ。
 「――黒雲の馬車に乗りたまう怒れる女神、雷神ティアラよ
 愚かな者らに裁きを与え、罪を罰する御方よ
 汝の使者を今貸し与えたまえ
 カーラ・クセル!」
 ばりばりばりばりっ! 
 クレイスの手から、電撃がほとばしる。
 それは、狙いたがわず、デューンの突き刺したレイピアに落雷した。
 首筋から、超高圧の電撃が大猫の全身を駆け巡る! 
 
 っどむ。
 
 悲鳴をあげる事もなく、大猫は、目と鼻と口と耳から、得体の知れない液体を流しながら、地に倒れた。高圧電流にさらされて、体内のあちこちが破裂しているのである。
 デューンは、その大猫の死体に近づき、死んでいることを確認した後、レイピアを引き抜いた。逆刺がついているので抜きにくいが、無理矢理ひねり抜く。皮の一部がこびりついてきた。
 雷神ティアラの神官にのみ与えられる神聖武器、トゥナレイピアである。元々、魔物の中でも皮が厚く、電撃が通らないものに対しての武器だ。今のように、魔物の体に刺した後、そこに電撃を加える事によって、内部から相手の体を破壊するのが本来の使い方である。
 「……ふう」
 クレイスが、ため息をついて何か印を切る。同時にデューンの体から、ばちん、と火花が一つ飛んだ。『コフェルウス』の呪文を解除したのだ。この手の補助系呪文は、かかっている間中術者のコントロールが必要なのである。はっきり言って、術者の疲労はかなりきつい。
 「ほれ」
 そのクレイスに、デューンは近寄って、レイピアを渡した。
 「あ、ども。お疲れ〜」
 「お互い様だろーが」
 この期に及んで、なにやらへらへらと笑みを浮かべるクレイスに、苦笑いを返す。
 クレイスは、レイピアを持っていた布で拭いて、鞘に収めようとして、やっぱり止めた。
 「どーした?」
 「……さっき血ぃついたまんまでいったん鞘に入れちゃったからね〜 ……今から入れたらまた血が付くかと思ってさ」
 そのまま布でレイピアをぐるぐる巻きにして、鞘とは別に腰に吊る。
 「危ないぞ。それ」
 「もうちょっとで応援のみんなが来ると思うから大丈夫だよ」
 別に人が増えたからといってレイピアの安全性が増すわけではないのだが。
 デューンとしてはとっとと街に戻りたい気分だったのが、クレイスがずいぶん疲れているようだったので、座ってしばらく休む事にする。
 クレイスも並んで腰をおろす。風が雲を運び、雲が太陽を隠した。太陽が 翳(かげ) っているなら、風が吹くと結構涼しい。
 「っつーか、何でお前一人で来たんだ? 他にも当直のやついたろ?」
 「そりゃ今日の昼番は僕以外にもいるけどさ、『コフェルウス』なんてマイナーなもんでかっ飛ばせるのなんか僕ぐらいだよ」
 『コフェルウス』を使う人間は確かに少ないが、それ以前に呪文を習得できる人間自体が少ない、ということを度外視した意見である。呪文を習得する場合、神殿に通い、神聖魔法を教えてもらう、というのが主だが、この時に必要とされる寄付金が、やたらと高い。さらに魔法を使うためには、ただ呪文を暗唱するだけでなく、その神に対する信仰心というものも大きく影響してくる。よって、魔法は限られた人間しか使えない、というまことに単純な図式が出来上がっている。
 クレイス――フルネームは『クレイス=バリスタナトス』――の場合は、父親が大商人のため、高い寄付金も出せたのだ(平民で姓を名乗る事を許されているのは、かなりの豪商のしるしである)。まあ、魔法を使うというのは、多大な努力も必要とする事も付け加えてはおこう。
 ちなみに、レウスのような星見人(アステリエル) は例外中の例外であり、古代文字の読解により古代魔法を使用する。こちらの方は、研究費用などがかさみまくるため、さらに割高である。
 「まさかこの辺で『モノ・アイ・フェリス』なんてとんでもないもんが出るだなんて思わなかったしね〜。よく五体満足だったよ。見た目はかなりひどいけど、まあデューンだから問題なし」
 「……お前……さりげなく馬鹿にしてるだろ?」
 「しないしない。それとも何、馬鹿にされる心当たりでもあんの?」
 (……んっの野郎)
 内心で悪態をつくが、とりあえず言わないで置く。言った所で、三倍ほど憎まれ口がかえってくるだけである。
 怪我の話で思い出し、左手を懐から出して、もう一度あざを眺めてみる。
 奇妙なあざだった。黒い鉄鎖がまとわりついているような、というのが一番しっくり来る表現だろう。手首の部分から一本の鎖が、握りこぶし一つ分よりやや大きいぐらいの範囲に、巻きついて伸びているように見える。鎖の太さは小指ぐらい。包帯のようにきれいな巻きつき方ではなく、絡みあっている、もしくは何かを絡め取っているようなあざである。正直、あまり見ていて気持ちのいい図案ではない。
 手の平側に左手をひっくり返してみる。そちらにもあざがちゃんと続いている。
 あざに右手で触れてみる。特に痛みも熱さもない。
 そのまま、皮膚を引っ張る。ついでに、太陽にかざしてみる。別に変わった様子はないようだ。さらにあざをずっと右手人差し指でたどってみる。
 「…………何やってんの?」
 「を!?」
 そーいえば、クレイスもいたのだった。なにやらあざのほうに集中してしまって、すっかりクレイスの存在を忘れていたデューンである。
 「いや、さっき、なんか変なあざがついちまって」
 左手をクレイスに見せる。
 「………………
 ……デューン、刺青は団長に怒られるよ? 絶対」
 「ちげーって。大体、昨日の夜番のときなかったろーが」
 「……そーかー。凄いもんだねー。最近の技術革命って」
 「おい待てっ! っつーか感心するとこ違うだろがてめぇ」
 「え? じゃあ一体なんだってのさ?」
 「分かれば苦労しねーって。さっき大猫に食われかけたと思った時、ついたらしーんだけどよ」
 「………………………………」
 「でもどーみてもかじられた痕じゃねぇしな。けど引っかかれたってこーはならんだろ普通」
 ぶちぶち言っているデューンから、なぜか少し距離を置くクレイス。
 「……え〜っとねデューン。まあ君も17歳だしいろいろと興味がある年齢なのは分かるけど、あんまりそういう世界には興味本位で行くもんじゃないと思うんだ」
 「待てこら同い年っ! てかそれ以前に一体どーゆー想像してんだよおい!?」
 「え? 興味本位じゃない? つまりええと、……本気?」
 「からかうのもいい加減にしろてめぇっ! はっ倒すぞおらぁっ!?」
 「でもさ、曲がりなりにも警備兵って言う仕事がある訳で、警備兵ってのは犯罪者縛り倒したりもするわけだけどさ、やっぱり警備兵が縛られる側に回っちゃマズいと思うんだ僕」
 「……決めた。てめぇレイピア借りるぞ。つーかむしろ折る。断固として折る。」
 問答無用でクレイスからレイピアをぶんどるデューン。
 「あああああ待った待った待ったゴメン謝るから折らないでレイピア。高いんだから」
 「なーにが高いだ。てめぇこないだしっかり訓練で折ってたじゃねーか。よりによって 全身鎧(プレートメイル)にレイピアで突き正面から入れるバカがいるか」
 「あれは不慮の事故だよっ! ついでにいうなら、あのせいでかなり出費がかさんだんだよ!? 君の木剣みたいな一山いくらの代物と一緒にするなよ!」
 「木剣を一山いくらで買うやつがどこにいるっ!?」
 「城の装備課」
 「あ、なるほど」
 思わず納得してしまったデューンである。
 そのまま、双方ともしばし無言。
 「………………」
 「……………………」
 風が吹く。日が翳っているので結構涼しい。
 「…………………………
 …………で?」
 「で?って、何がだよ?」
 「いや、あざのこと、もういいの?」
 「あ〜……
 何か考えんのばかばかしくなって来たからもういい」
 投げやりな台詞をはいて、デューンは立ち上がった。
 木剣の残骸を見て、少し迷ったが、そのまま放っておく事に決める。壊れてしまえば、単なる木片である。
 「とりあえず帰んぞ、クレイス。いったん詰め所まで行って報告書書かにゃなんねーけど」
 クレイスも腰を上げた。やっと向こうの方から、仲間の警備兵たちが来るのが見える。
 「デューンは木剣ダメにしたから怒られるかもだしね〜」
 「……それ言うなよ……」
 まだどうでもいい会話を続けながら、彼らは街への帰途についた。
 
 
 ――このあざが、彼らの運命を変えることになろうとは、今の彼らには全く予想のつかないことだった――
 

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27854All was Given 〜3〜久賀みのる E-mail URL2003/11/1 14:17:18
記事番号27850へのコメント

                             All was Given  
                             〜The Binded〜

 
 街の外で『モノ・アイ・フェリス』二匹を倒したデューンとクレイスは、全部が終わってからやっと出てきた仲間の警備兵達と、ぎゃいぎゃい騒ぎながら詰め所まで戻ってきた。
 そして、聞きつけて様子を見に来ていた騎士団長に、事態の 顛末(てんまつ) を話し――
 
 ――いきなり詰め所を追い出された。
 
 「で、何なんだ? 一体?」
 「僕に言われても困る」
 追い出されて、とりあえず、二人の家のあるほうに向かう二人。表情は二人とも、はっきりとそれがわかるぐらいにぶーたれている。
 「大体、俺は『あの』団長が慌ててるの初めて見たぞ?」
 「そーだよねぇ。『あの』鬼団長がね〜」
 「俺、もしあの人がうろたえるとしたら、嫁さんのおめでた以外にありえねーと思ってた」
 「つまり、デューンのあざは少なくとも団長の奥さんのおめでたと同じぐらいに価値がある、と」
 「……どんな価値だ。そりゃ」
 いつもくだらない話ばかりしているこの二人だが、今日の話は普段にもましてくだらない。
 そもそも、二人とも疲れている上、何で追い出されたのか事情がわからない、というのが面白くない。自分たちが事件の主役だというのに蚊帳の外に放り出されてしまったような、そんな気分である。冗談にも全くキレがない。
 「んったく……まあいいけどよ。団長得意の口頭試問がなかっただけでも」
 「でも報告書作成はしっかり出るんだよねぇ……」
 事件の報告書は、基本的に、その場にいた兵士全員で作る。別に一緒に作れとは言われてないのだが、同じ事件の報告書を別々に作ると、細かな食い違いについてまでも徹底的に追及されるため、全員の共同作成、ということにしたほうが速いのだ。もっとも、作業はほぼ押し付け合いになるし、書いた部分を持ち寄った後から文体などもそろえないと、容赦なく突っ込みが入れられるので、面倒な仕事であるには変わりはない。
 今回は、デューンとクレイスとで魔物を倒したので、この二人で報告書作成をする事になる。これもまた、憂鬱になる一因である。
 「あ〜、そーいや俺、後でエルティナさんとこに手紙届けに行くからよろしくな」
 「あっちょっと待ったデューンっ! 君、僕に報告書の原本作り押し付けようとしてるだろっ!」
 「押し付けるも何も仕方ねーじゃねーか。レウスに頼まれてんだから文句はレウスに言えよ」
 「手紙なんかレウスが直接持ってけばいいじゃんか」
 「でも、なんか俺でなきゃダメらしーんだよ。あの遣曜日(つかいようび) 通信」
 毎週毎週、遣曜日に届けられる、レウス発デューン経由のエルティナ婦人への手紙。それを、デューンとクレイスはからかい半分で『遣曜日通信』と呼んでいる。
 「でもさー、あれって何が書いてあるのさ。大体、32の男が40過ぎの女に毎週手紙を書く理由って何?」
 「単純に考えれば恋愛沙汰なんだろーが……」
 「……レウスだしね」
 「……レウスだしな」
 別にため息をつくほどのものではないが、彼らの諦感がいっそう深くなったのは事実である。
 「レウスもねー……僕ほどでないにしろ美形なんだからそれなりに振舞えばもてるのに……」
 「まあ、あいつに嫁の一人でも来りゃ俺も安心して家を出て行けるってもんだが……」
 「デューン、それ何か違う。っつーかむしろ僕の発言にツッコんでよ。サムいじゃん。」
 ちなみに実の所、クレイスもそれなりの美少年ではあるが、レウスはもっと上である。ただし、枝毛探しに一生懸命になっているレウスの姿を、デューンはきっちり目撃していたりする。
 その割に他人の目というのには無関心なのだから、結局は単なる暇つぶしなのだろうが。
 「悪ぃ。今、笑えねぇ冗談に付き合える気分じゃねぇし」
 今度こそため息交じりにデューンが言う。
 「ま〜ね〜……」
 こちらもため息交じりにクレイス。間が持たないので空など眺める。
 デューンのほうも間が持たなかったのか、巻いた包帯の上から左手首を、また表にしたり裏にしたりして眺めている。
 追い出されたといっても、警備の仕事を早めに切り上げる形だったので、クレイスが私服に着替えるぐらいの時間はあった。逆にデューンのほうは、破れて血まみれの服のままでいるわけにも行かず、置きっ放しだった警備兵の制服を着て、左手首には包帯を巻いている。
 包帯を解いてしまおうかとも思ったが、人の目があるので止める。
 「やっぱそのあざが原因なのかな〜?」
 「多分そーだろーな……一体何だよこれ。
 ついたときめちゃめちゃに痛かったしよ」
 やはり気になるのだろう。なんといっても、自分の体のことである。普通の丸あざならそれほど気にもしなかったかもだろうが。
 「レウスに聞けばなんか分かるんじゃない?なんのかのいってもレウスと団長って仲いいじゃん」
 「そーか?『宮廷不在魔導士』の『小言騎士団長』のって、悪口言い合ってるようにしか見えねーんだが」
 「え?団長って人の悪口言うの?てっきり黙って氷の視線を飛ばすだけだと思ってた」
 「陛下とレウスと三人だけだと結構話すらしいぞ。それでも無口なほうだってレウス言ってたけどよ」
 「まあそーだろーね〜。あの人が和やかに談笑してるのはちょっと想像しづらいし」
 納得するクレイス。
 そして、話はまたも接ぎ穂を失う。
 青い空。流れる雲。
 遊んでいる子供の横を通る。子供の歓声がだんだんと大きくなり、また後ろへ小さくなっていった。
 「んでさ」
 「あ?」
 「これからどーすんの?」
 「とりあえずいったん家帰って、制服着替えて、レウスに飯食わした後報告書作り、だな」
 八百屋の前を通り過ぎる。呼び声が、やはりだんだん後ろへと遠ざかっていった。
 「じゃ僕も行く」
 「……って、食いに来るのかよ。お前は」
 「普段なら今、勤務時間中だからねー。家に帰っても多分食べるものないよ」
 「てめぇで作れって」
 「え〜、なーに言ってるのかなデューン君ってば。
 商人限定長者番付連続3位のバリスタナトス家のご長男に向かって。
 生まれてこの方箸より重いものなんか持った事無いのさ♪」
 「…………何か今死ヌほどむかつく台詞を聞いたような気がするぞコラ。
 トゥナレイピア振り回すヤツが何言うか。それとも何だ、ありゃあ箸より軽いのか?」
 「甘い甘い。僕の家の箸が鋼鉄製なだけさ♪」
 「んなワケあるかっ!」
 「ちっ。さすがに無理があったか」
 「ありまくるわボケっ!」
 「じゃあこーいうのどうだろうっ!?」
 「いらん。帰れ。」
 「実は我が家では、『屋敷の中では大商人養成ギブスを付けて生活しなければならない』という鋼鉄の掟がっ!」
 「いーから帰れっ!」
 「えーっ! いいアイディアだと思ったのにっ! 
 『さあ、君もこれで今日から大商人だっ! 』とかいうキャッチフレーズで偽物作ったりとかしてさー」
 「誰がンなもん買うかっ! 大体、何で商人に腕力がいるんだっ!?」
 「あーっ! デューン、ひょっとして商人の道をナメてるだろ!?
 商人の道ってのは険しいんだよ!?ちょっと間違えただけで重い荷物につぶされついでに死んじゃうかもしれないんだから!」
 「ついでで死ぬなよ!」
 「その通りっ! だから僕は、そんなついでっぽい死に方をしないように見習い兵士をやっているのさっ! 
 おおっ! なんと完璧な屁理屈っ!」
 「自覚ありかよっ! あるなら止めろよっ! 
 っつーか自分の家をそんなに人外の集団にでっちあげて楽しいか!?」
 「うん。楽しい。楽しくない?」
 「……もーいーです。間に合ってます。俺んち」
 「間に合ってるんかいっ!」
 
 デューンの家まで、とことんくだらない会話を続ける彼らだった。
 
 
 「ただいまー」
 「たっだいま〜っ!」
 「っておいクレイス、何でお前が俺のうちに来てただいまとか言うんだよ」
 「つられただけだって」
 「嘘こけっ!」
 その会話のノリを引きずったまま、二人はデューンの家のドアを開けた。
 デューンの家、というのはつまりレウスの家であり、もっと言うなら、『グラディエルス王国宮廷魔導士の屋敷』になるはずなのだが……
 屋敷も庭も確かにでかいのだが、全く手入れをされていないので、微妙に薄汚れたイメージがあったりする。ついでに言うなら、たくさんある部屋のうち、かなりの数が開かずの間となっており、使用できる範囲は意外と狭い。まあ、男二人暮しではそんなにたくさんの部屋も要らないし、要らないなら掃除する必要もないし、とデューンもレウスも言い張るのだが、どう考えても言い訳である。
 ちなみに、家の中のあちこちで、古代文字で『立ち入り禁止』と書いた札をつけたひもが、廊下をふさいでいたりドアを閉めていたりなどするのだが、これはデューンが小さかった頃、よく探検に行って迷子になったからだと言う。
 「んじゃ改めて。おっ邪魔っしま〜すっ!」
 言い直しつつ、リビングのソファーに、ぼすん、と頭から倒れこむクレイス。
 どう考えても、「お邪魔する」人間の言動ではない。確かに邪魔だが。
 「……もう何も言わん。せめてソファーに上がるときゃ靴脱げよ」
 デューンの方は、そのまま真っ直ぐ台所に入った。
 「あれ、デューン?制服ぐらい着替えたら?」
 「腹減ったから先に何か作って食う。
 昨日の残りでいいだろ?」
 言いながら煮物など温め始める。
 普通の家庭なら、かまどで火を起こすところだが、デューンの家では、スイッチ一つで鉄板が温まる。このあたり、さすが宮廷魔導士の家、と言えないことも無い。まあ、実質的には、レウスの体当たり式魔導実験が運良く成功しただけではあるのだが。
 「あ。朝作ったスープが余ってら。
 ……そーいや結局朝は飯やって無かったな」
 「何?野良猫?」
 「いんや。レウスに」
 「……飯やるって言い方無いんじゃないかな〜……」
 「何言ってんだ。『餌やる』とか言わない分だけ俺的には手加減してっぞ。
 大体、ある意味飯食わしてやってんの俺だからな?いい年して家事の一つも覚えねーんだから。あいつ」
 文句を言いつつ、手際よくスープに卵を落としていくデューン。
 『これならどこにお嫁に行っても恥ずかしくないね〜』等とクレイスに言われ、思わず包丁でツッコミを入れかけて双方共にビビり倒したのはいつだったやら。
 ……そういえば、あれ以来クレイスがデューンの家の台所に入らなくなった気もするが、まあ気にしない事にする。
 左手の包帯が邪魔になったので解く。当たり前の事だが、左手のあざが再びあらわになる。ついつい、消えているのではないかと確認してしまうのだが、そんな事も無いようだ。
 (……そりゃそーか。
 まあ後でレウスにでも聞けばいいか……)
  とりあえず、今は気にしない事にして、デューンは食器棚からスープ皿を出し始めた。
 
 「ってなワケでレウス、一体なんだと思う?」
 「は?」
 「いやデューン、いきなしそんなこと言われてもレウス困るだけだと思うよ?」 
 昼も遅い時間になってやっと二階から降りてきたレウスは、椅子に座るなり唐突に出されたデューンの質問に、目を白黒させていた。
 「えっとねレウス、つまりデューンがね、俗に言う『あまり人前では話せないところ』って奴に遊びに行ったついでにつけてきたあざのことなんだけど」
 「待てクレイスっ! だからそうじゃねぇっていってんだろ!?」
 先に椅子に座って、問答無用に嘘を吹き込もうとするクレイスに、間髪いれずにツッコミを入れるデューン。
 「なんでさ!?さっき『最近の技術革新はすごいね〜』って言うオチで落ち着いたばっかじゃん!」
 「勝手に落ち着くんじゃねぇっ!」
 がんっ! 
 水を入れたコップでクレイスの脳天をどつき、デューンも椅子に座って朝の残りのスープに手をつける。
 「痛い……それに冷たい……」
 クレイスのほうは頭を抱えてうめいている。殴られたコップには、目一杯水が入っていたため、少しこぼれたらしい。
 「けっ。自業自得だろがボケ」
 「そうですね、僕もそう思いますよ?」
 悪態をつくデューンに、珍しくレウスが同調する。
 「ひどいやレウス!」
 起き上がりざまがんっ! と机を叩いてレウスに詰め寄るクレイス。
 「魔法論だの城の業務だのならともかく、デューンのことをからかい倒すときには絶対に友情を裏切らないと信じてたのにっ!」
 「勝手に得体の知れねぇ友情を結ぶなコラっ!」
 「え?だって、そうでしょう?デューンがそんなところにいってしばかれてるなんてある訳がないじゃないですか」
 手近な大盆をクレイスの上に大きく振りかぶるデューンを、びしっ、とレウスは指差して、
 「彼はどう見ても、しばかれるよりしばく方が好きなタイプです」
 「あ、それなら僕も激しく納得」
 「いい加減にしやがれてめぇらあっ!」
 ばがんばがんっ! 
 大盆は標的を複数に変更。もれなく、クレイスとレウスの二人がテーブルに突っ伏する結果となった。なにやらうめいている二人を無視してデューンが席につきなおす。
 「……いきなり人をどつき倒すなんて……そんな乱暴な子にお父さんは育てた覚えは」
 「育てられてねぇっつの。ってか誰だよお父さんて」
 ツボに入ったらしくピクピクしているクレイスと、突っ伏しながらなおも根性でボケるレウスと、はっ倒してとりあえず気が済んだらしく、スプーンなぞ取りつつ冷静なツッコミを返すデューン。まあ、わりとよくある光景である。
 「大体、お前らが悪趣味な冗談ばっかし言うから悪ぃんだろーが。今度言ったらテーブル蹴っ倒すぞコラ」
 そんなことをしたら自分の後片付けが増えるだけなのだが、そこまで考えていないらしい。
 「……冗談でも言ってなきゃやってられなかったんですってば……」
 上半身をずるずると起こしながら、ぽつん、とレウスがつぶやいた。今までの冗談ノリからまったく離れたその言い方に、ふとデューンのスプーンを持つ手が止まる。クレイスも、突っ伏した形のまま、頭だけを上げた。
 「……?何?なんかあったの?」
 「鎖の紋様でしょう?何かを絡めとろうとするかのごとき黒鎖の紋章」
 クレイスの言葉に答えていない、テーブルの木目に視線を向けたままの、ささやくようなその問いかけは、あまりにも静かで、二人に何らかの凶兆を覚えさせるには十分すぎるほどだった。
 「……お前、何か知ってんのか?」
 デューンの問いもやはり無視して、どこから話せばいいか悩む様子だったが、やがて顔をあげ、ひた、と視線を二人に据えて、レウスは言った。
 「……『勇者の伝説』……知ってますよね?」
 「……ゆ……」
 「『勇者の伝説』!?」
 
 
 『勇者の伝説』。
 グラディエルスに限らず、このアルケミア世界全土において、この話を聞かずに育ったものは相当に少ないだろう。
 こういった英雄伝説といったものは多々あるのだが、ただ単に『勇者の伝説』と言った場合、ある特定の人物に対する、一つの伝説群を指す。
 いわく。世界に闇が満ちんとした時に、人々を光へと導くもの。
 いわく。魔王が降臨した時に、これまた伝説の剣を持ってそれと戦い、打ち破るもの。
 いわく。国王から名も無い村娘に至るまで、全ての人間を平等に救おうとするもの。
 いわく。その割りに仲間に助けられまくりで、実質何にもしていなかったりするもの。
 いわく。場合によっちゃあ生き別れの十二つごの兄弟がいたりするもの。
 
 とにもかくにも、玉石混淆もここまで来るとむしろあっぱれ、と言いたいほどの混乱しまくりの民間伝説群なのだが、この中には、はっきりとした一つの共通点があり、それによって一つ一つの伝説が『勇者の伝説』群に含まれるかどうかを識別することが出来る。
 「この伝説は、過去ではなく未来に成就するものである――」と示す一文の存在だ。
 すなわち、この伝説群は、過去の英雄の話では無い。むしろ、予言集といったほうが正しいだろう。将来に現れるべき勇者の、その姿を、時空を越えて描写しているのだ。
 そして、その文章の続きには、こうある。
 「――そのもの、左の 徴に 誘われ、最果ての旅に出ることになる。」
 
 
 「え?え?え?いや、さっすがに冗談だよねぇ?」
 混乱するクレイス。
 一方、デューンは黙ったまま。珍しく、静かな 表情をしている。
 「……冗談を言っているように見えますか……?」
 レウスは、そうつぶやいて、そして、顔をあげた。
 だから、レウスだけが気がついた。
 一瞬静かに見える彼の、その右の拳に、びきっ、と音を立てそうな勢いで青筋がたったのに。
 
 「冗談以外の何に聞こえるってんだバカヤロ―――!!」
 
 がっしゃぁぁぁんっ!
 
 次の瞬間、かなり派手な音を立てて、テーブルの上のもの全てが3センチほど上下動した。
 「てぇぇぇぇぇめレウス!!そーゆー悪趣味な冗談を止めぃっつーてんだろーがわかってんのかおら!?」
 「とか何とか言いつついきなし人の襟首掴まないでください Fire Run!!
 てゆーか予言から割り出した詳細な予測ですし」
 「相殺チェアストライク!!」
 つどんっ!!
 「わあ!?火炎弾をイスで防衛するとはっ!?てゆーかその壊れた椅子どーするんですっ!」
 「やかぁしい!! ンなみょーな予言で人の将来決められてたまっかっ!! つかむしろ人の兄弟勝手に増やしてんじゃねぇ!!」
 「そんな民間伝承にまで僕が責任取るわきゃないじゃないですか僕は古代文字読解が専門なんですからねとか何とか言いつつChaser Run!!」
 「だああああ家ん中でいきなし高速詠唱仕様追尾魔弾なんか放つんじゃねぇぇぇっ!!」
 問答無用で始まった、微妙に噛みあっていない会話と、魔法と日用品持ち込み可能の模擬小戦闘日常編。
 参加していないクレイスは、何となく硬直して、テーブルのど真ん中についたデューンの足跡―― さっきデューンがテーブルを踏み越えて行った時についたもの――を眺めていた。
 「………………ま、まあ、多分、間違いだよね。
 大体、家ん中であーまで大乱闘するよーな人間が『勇者様』なわけないし」
 そう言って、まだこぼれずに無事だったティーポットから、カップに香茶を注ぐ。とりあえず、そういうことで自己完結したらしい。現実逃避かもしれないが。
 自分が被害を受けないように、テーブル近辺から窓辺まで、カップを持って移動して、窓辺でつぶやいた。
 「……あ〜……今日もいい天気だな〜……」
 どっからどーみても現実逃避である。
 「よく考えたら、今日の仕事予定は全部キャンセルになったわけだし。
 休みのメイド(どうりょう) さんたち誘ってどっかに遊びにでも行ってもいいよね。
 ……拳と魔力でしか語れない人たちは無論ほっぽって」
 友人たちをこき下ろすセリフを吐くが、幸か不幸か、本人以外は誰も聞いていない。もしも話せるものなら、穴を空けられた天井が大いに賛同しただろうが。
 後ろから飛んできたスプーン入れをさりげなくかわして、クレイスは冷め気味の香茶をゆっくりと口に運び……
 どんどんどんどん!!
 「『勇者』デューン! 国王からの召喚状である! とっとと正装して王宮まで参上するように!!」
 ぶぴ。
 いきなりのドアの連打に続く、あまりといえばあまりの呼び出しに、思わずその香茶を吹いた。
 「あーもう! 何なんだよ今日は次から次へ!?」
 慌ててカップをテーブルに戻して玄関へと走る。ドアの向こうにいたのは、予想通り同僚の、メイドさんではなく警備兵だった。
 「あ、やっぱいたか。クレイス」
 「やっぱいたかじゃないだろエルズ!?よりによって何ちゅう恥ずかしい呼び方してくれるのさ!?」
 「恥ずかしいか?」
 「じゃあ聞くけどね、君、いきなり今日から『勇者様』呼ばわりされたらどー思う!?」
 「そりゃハズいさ」
 「うあ即答しやがったし」
 「でも勇者呼ばわりされたのはデューンであってお前じゃないから。お前に言われるすじねーし」
 「おおっ!?そーいえばっ! よく考えたら僕が悩む必要何にもないんだねっ!
 じゃっ! そーゆーことでっ!」
 ばたむ。
 「……って待て話聞けっ!」
 がちゃ。
 「あれ?まだ何か?」
 「……まだなにか、じゃなくってなお前……
 さっき、堂々とここで召喚状だって言っただろーが……」
 「あ、そうなの?
 いや、いきなしみょーなこと言われたから頭回んなくて」
 「……………………いいけどな…………別に…………
 えっと、だな。
 つまり国王陛下から、『勇者デューン』をつれて来い、との命令なんだが……」
 「え〜っとね、僕がそれ言うのはさすがに嫌だから。
 一応命令受けてる君が責任もって伝えてくれないかな?」
 「…………いいさいいさ……どーせ 俺なんか警備兵兼使いっぱさ……」
 微妙に哀愁なぞ背中に漂わせつつ、ドアをくぐって居間に行く彼。
 「勇者(バインデット) デューン!
 国王陛下のお召しである! ちゃっちゃっと服着替えて王宮まで……」
 「だから勇者(バインデット) 言うな―――!!」
 
 どがばっ! どさっ。

 「ってうお!?エルズ!?いきなしみょーなこと言うからレウスと間違えたじゃねーかこんちくしょうっ!」
 「はーっはっはっはっ! 甘いですね勇者!
 その程度の変わり身の術も見抜けないとはっ!」
 「だ―――――――!! て・め・え・は―――――――っ!!」



 クレイスは、結構切実に思った。
 こいつに救われるなら、世界って、実は結構安いんじゃなかろーか。
 

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27855All was Given 〜4〜久賀みのる E-mail URL2003/11/1 14:19:41
記事番号27850へのコメント
                             All was Given  
                            〜Road to Lord〜




 「な、なあ、エルズ。その名乗り上げって決定事項なのか?」
 「僕も出来たらそんなこっぱずかしいことやめて欲しいって言うか、いっしょに入る人間の身にもなって欲しいかなってちらっと思うんだけど」
 「……って、自分の都合かよっ!」
 「『人間誰でも自分が可愛い』って、ティアラ様もおっしゃってるしっ!」
 「んなヤな神様がいるかっ!?」
 「いーかげんにしろよ! 二人とも!
 いいか?俺は『勇者デューン』をつれて来いって言われたんだぞ!?
 ってことは、謁見の間に入る時にその名前で入らないとマズいだろ!?」
 謁見の間へと続く扉の前で、ぎゃいぎゃいと、小さい声で器用に騒いでいる3人。一般人には「なんと罰当たりな」と思われるかも知れないが、城勤め最初の1年を掃除ばかりで過ごした見習い兵3人にとっては、よく見慣れた場所である。だからこそ気が緩む。見慣れているからといって、騒いでいいということにはならないのだが。
 「だって、君はデューンと一緒に部屋に入らないからそんなこと言えるんだよ!?」
 「じゃあ入んなきゃいーだろーがっ!てゆーかなんでてめぇがここまでついて来るんだ!?」
 召喚されたのは俺であって、てめぇじゃねぇだろ!?」
 「何言ってるんだよっ! こんな面白そうな事、見逃したら一生後悔するからに決まってるじゃないかっ!」
 「だからいーかげんにしろ二人とも!! 喧嘩するなら中でやれ!!」
 『できるかンなもん!!』
 謁見の間に呼ばれた、ということはすなわち、国王が中にいる、ということである。さすがにその場で喧嘩をするほど二人とも馬鹿ではない。
 しかし。
 「じゃあ何だ!? お前ら、陛下が直々にお話してくださるってーのにこんな所で喧嘩して、貴重なお時間潰させるつもりか!?」
 『う゛。』
 王が中にいるということは、延々とこんな所に居座って、王を待たせるわけにもいかないということでもある。
 「あーあーわかったよ行きゃいいんだろ行きゃあ!?
 じゃあそーゆーことで、ごく普通の名乗りあげるからな!?」
 「あっこら待ておいっ!?」
 「やかぁしいっ! 待たせるよりマシなんだろ!?」
 小さいがかなりとがった声で言い残し、デューンは問答無用で扉を開け放った。
 
 「見習い兵デューン!!
 お召しにより参上いたしました!!」
 
 「おおっ! 待ちわびたぞ。よくぞ現れた勇者よ!!」
 
 ぴっし。
 
 そして、いきなりの王のセリフに、礼をしたままで、また問答無用に固まるデューン。
 王座の横、騎士団長と対称の位置に、目を閉じて控えるレウスの姿を見て、何となく今のセリフが誰の頭から出てきたものか、クレイスにはわかった気がした。



 「……まあ冗談はともかく、だな」
 すんません陛下。いきなし人を硬直させるよーなセリフを吐いといて『冗談』の一言で片付けられると俺の立場ってぇもんが爆散しまくるんすけど。
 曲がりなりにも一国の主、上司の上司のそのまた上司よりもなお格上の存在にまでも、内心とは言えそんなツッコミを入れられるのは、「自主・自立・自尊」を旨とするグラディエルスの教育か、はたまたくじけぬツッコミ魂のなせる業か。
 いずれにしろ、『天然ツッコミ』と称されるデューンらしいといえばデューンらしい言動ではある。無論表には出さない。表に出さないとか言う以前に、いまだに硬直したままだ。
 「そこでいつまでも固まっていても始まるまい。
 そこの見習い兵も、話は聞いておる。入って来たいなら来ても構わぬぞ」
 (……ここでいつまでも固まるよーなセリフを吐いたのは誰だぁぁぁ!?
 ちくしょう! こいつ確かにレウスの直の上司だなおい!?)
 やはり心の中だけでツッコミを入れるデューン。何となく心の声が裏返っている気はしたが。
 見習い兵なのだから王様を見慣れているか、といわれるとそれは別である。立場が違いすぎるのだ。同じ城の中にいるとは言え、城はそれなりに広い。おまけに、見習い兵でも入れるような所に王が入る時は、必ず側に付き人なり護衛なりがいるし、それ以前に普段そんな所に来ない。王が普段いるようなあたりには、逆に見習い兵の立ち入りが禁止されている。
 要するに、国王が雲の上の存在であるということには変わりがないのである。そのため、国王がどんな人となりをしているか、ということも噂以外にはわからない。40そこそこという年齢もあって、あまり肩書きに対するこだわりのない、気さくな方だとは聞いていたが。
 ……今の一言だけで、大体の性格はわかった気がする。
 「は。
 同じく見習い兵、クレイス=バリスタナトス、参上つかまつります」
 デューンよりよほど決まった挨拶と礼をして、クレイスが横に並ぶ。
 「うむ。
 さて、既に話はわかっているだろうと思うが……」
 軽く頷いて話し出す、現グラディエルス国王フェルギス・コロナ・グラディエルス。通称フェルギス3世。
 高い鼻すじとクリーム色の髪、薄水色の目。美男というよりもむしろ愛嬌のある顔立ちである。元々は王の直系とはいえ五男で、若い頃に王位継承権を放棄してクレアルト大陸に渡ったのだが、その後の王家の内乱を収めるため、仕方なく―― というより無理矢理連れられて――グラディエルスに戻って来た、という経歴を持つ。その為か、外交も内政も大陸寄りであり、国内からは批判の声もないでもない。
 だが、彼が王権を振るうようになってからは、国内も国外も、一応の安定を見ていることを評価しないものもまたいない。特に目立ったもののない采配は、目立つようなトラブルを、一時的にせよ全て避けられているからなのである。
 「地味に見えるが打った手を無駄にしないタイプ」、かつ「派手に見えるような無駄な手を打たないタイプ」である。「堅実さが売り」の施策を良しとする、と言い換えてもいいかもしれない。着実さと計画性には定評のある国王だが。
 「いかんせん、人からの伝聞ではわからない部分も多々あろうと思うのでな。
 どのように勇者(バインデット) として覚醒したかのくだりをもういちど本人から聞きたいのだが?」
 その一方で、「いらん事で他人をからかいまくる」という悪いくせがある、ということも、親衛隊や、国家の要職にあるものたちの間では、よく知られた話である。当然、今のセリフだって、実は全部レウスから聞き知った上で、わざと言っている。そしてそれを知っている衛兵達は(まぁた始まったよおい)と思っているのである。表情には出ていないが。
 だが、こういった情報は無論、一般兵以下には伝わるはずも無い。まして、一般兵にもならない見習いではなおさらである。ついでにいうなら、フェルギス3世自身は大真面目な表情を(わざと)作っているし、言っていることにもすじが通っていないわけでもない。かくして、デューンの混乱に拍車がかかる。
 (え? え? え? いやえっと。なんかからかわれてる気もするんだけど。いやでも国王だし、気さくとは言っても一応陛下なわけだからして、あんまり人をからかって遊んでるわけじゃないと思うから、つまりマジに聞かれてんだよな!? でもンなみょーなもんに覚醒しやがった覚えはねーぞ俺。あ、でも待った、この場でそーゆーこと言っちゃやっぱまずいのか!?)
 「どうした勇者(バインデット)よ?」
 (いやちょっと待て俺。この場で雰囲気に流されて自分が勇者だなんて認めちまったら、そのあとで撤回が効かねーぞ!? 後から撤回するなんて言ったら「陛下の前で嘘をつきました」ってことだもんよ!? 殺されるってそれ。いや、だからって陛下の言うことを真っ向から否定するのも多大にまずい気がするが。でもやっぱ人間正直に生きなきゃダメだよな!? てゆーかそーいうことにしとけば一番被害が少ないと見た! おっし、そう決めた!!)
 「すいません陛下! 俺、そんな自覚は無いんですが」
 冗談を冗談だと受け取らずに、結構真面目にボケた返答をするデューン。
 そして、冗談が冗談だとわからない男が、この場にもう一人いた。
 「貴様! 御下問にはきちんと答えんか! そもそも、陛下に対してその口の利き様は何だ!?」
 「わっ! すんません団長!!」
 「良い。騎士団長よ。悪意も隔意もあったわけではなかろう。
 ただ単に、場に慣れていないだけなのだからな」
 (ていうか、冗談だっつの。わかれって。付き合い長いんだから)
 なだめながらも――そちらから横槍が入るとは思わなかったせいもあって――思わず騎士団長に、非難がましい目を向ける 国王。無論、そんなものが通じる相手では無い。そんな細かい仕草でコミュニケーションが図れるようなら、始めっからこんなことにはならないのである。ちなみに、宮廷魔導士は向こうで目を閉じて控えたまま、ぱっと見ではわからないが、脱力している。
 国王をはさんで、宮廷魔導士とは線対称の位置に控えていた騎士団長、ヴィルトゥス=アダマント=アインスベルグ。通称「鬼団長」。
 黒髪に、光の加減によっては紺にも見える黒の瞳。騎士団長と呼ばれてとっさに思い浮かぶような、豪快な武人の姿では無い。むしろ、デスクワークでもしていたほうが似合いそうな、鋭い目をもつ細面の男である。ついでにいうなら、いかにも冗談が通じなさそうな印象であり、事実、そうであった。悪い人間ではないのだが、どうにも鈍い上、少々言動が過激である。これで妻帯者であり、家に帰れば可憐な細君が待っていると言うのだから、世の中はわからない。
 ちなみに、いきなり問答無用で部下を「貴様」呼ばわりだが、いつもこうなので全員気にしない。デューン達は慣れているし、レウス達は注意するのをもはや諦めている。
 どういう理由で怒られたのかはわからなくても、場の雰囲気を察したのか、ただ単に気が済んだのか、軽く礼をして元の姿勢で控える 騎士団長。
 国王は軽くそちらに頷いて見せ――からかうのを再開しようとするが。
 ぱちむ。
 その彼の背中と上着との間で、小さな火花が一つ飛んだ。魔法による、レウスからの牽制である。デューンが大事だから、では無く、さっさとこの場を終わらせて通常業務にもどれと言う催促だ。
 それを見て今度はヴィルトゥスが反応する。他の衛兵たちには、遠い上に角度の問題で何があったかは全くわからないが、近くにいる彼にはわかったのだ。そして、曲がりなりにも王宮の謁見の間で、軽々しく魔法を使うことを彼は良しとしない。普段から鋭い瞳が、余計に険しくなる。
 「ま、まあ、とにかくだな、」
 さすがにそちらにあからさまに目を向けるようなまねはしないが、そこで、フェルギスが割って入る。さっさと話を進めて、事態を収拾したほうが早いと判断したからだ。国王が部下同士のけんかを慌てて仲裁するなど、格好のつくものでは無いが、元々は自分が 他人(ひと) をからかったせいで起きたことでもあるし、何よりこの3人、昔は大陸をいっしょに回っていた仲である。このあたりの事は、デューンもクレイスも何一つ知らないが。
 『とにかくだな、』といった後に、やや間がおかれる。デューンとクレイス、及びレウスとヴィルトゥスが自分に注目しなおした所で、再び 国王が口を開いた。
 「『勇者かも知れない』といわれた人間を、のうのうと遊ばせておくわけにも行かないのでな。
 確証こそ持てないが、我々が知らぬだけで、世界は危機に瀕しているのかも知れぬ。万一そういった事態が生じた時に、『勇者』と呼ばれた人間が自国でボーっとしていたら、他国はどう思う?」
 ここで、さらにいったん間をおく。息が切れたためではなく、一応計算の上である。
 「『グラディエルス王国は、自国のみの安寧を図り、もしくは事態を軽く見、結果、世界を救う手段をただ腐らせてしまったのだ』――
 そう思われるのは、明白では無いかね?」
 ここで一息。
 「いや、思われるだけならまだいい。しかし、それを口実とする諸国もあるやも知れぬ。
 ただでさえ、クレアルト大陸の諸王国とは、200年前からの宗教紛争が絶えぬ。この上、さらに付け込まれるような隙を与えたくはないのだよ。
 今もなお精霊五大神の信仰を国を挙げて認めているのは、少なくともアルケミア世界の中では、このグラディエルスだけなのだからな――
 
 言うまでもなく、過去の遺恨は過去の遺恨だ。わが国と同じく、クレアルト諸国も、昔の過ちに目を取られた挙句、目の前の落とし穴に落ちるような愚かな所業は行なわないと信じているがね。私は」
 さっきまでの、微妙にとぼけた雰囲気はもはやない。謁見の間は、国王の演説会の会場と化していた。
 おちゃらけてみえるが、やる時はやる。現グラディエルス国王フェルギス・コロナ・グラディエルスは、そのような形での、名君であった。
 そのまま、フェルギスは軽く息をつき、やや姿勢を和らげる。演説の余韻が消えていく、その直前で、再び彼は語りだした。
 「つまりだな、」
 ここで、少し口調が軽くなる。
 「私は臆病なのでな。他国から難癖をつけられるのも、まして世界が滅ぶのも、それなりに怖いのだよ。だから、できる限りの準備をして、『勇者』を旅立たせて、それで自分の役目は全て終わったものだと、安心していたいのさ。
 平たく言えば、私の責任逃れのために、君にはグラディエルスを出てもらう。そういうことだ」
 ややおどけるようにして、自分の発言を終える 国王。
 「わかりました。早急に、手配をいたしましょう」
 それにあわせて一礼する 騎士団長。宮廷魔導士ではなく騎士団長が手配を申し出るのは奇妙な気もするが、何分肝心の 宮廷魔導士 が10日に1度も城に来ない上、一般事務能力がカケラもないため、報告書読みや作成や人事に慣れている騎士団長が手配した方が早いのだ。彼自身も、割とデスクワークが嫌いではないらしいせいもある。状況によっては、見栄を張るために、宮廷魔導士に任せるということにしておく事もあるが、実質いつも騎士団長に任せきりになっている。
 「そういえば」
 ここでやっと目を上げて、いきなりレウスが口をはさむ。
 「確かうちには、何とか言う聖剣が奉納されていたのではありませんでしたっけ?」
 二人のやり取りに比べて、えらく気の抜けた話し方だが、これが宮廷内でのレウスの標準だ。「 魔導士にして道化師であれ」と、彼は自身に課している。
 「ああ、確かに聖剣デスペラータが我が城には奉納されているが……
 それがどうかしたかね、宮廷魔導士?」
 「大体の物語において、戦士と魔剣との係わり合いというのは、いわばお約束の部類に入るわけですが。この場合はいったいどうなのでしょうね?」
 「……やめて置け。無駄だ。」
 レウスの言葉をさえぎるように、ヴィルトゥスが言う。吐き捨てるような口調に聞こえてしまうが、こちらはこちらでこれが標準だ。よって、レウスも大して気にしない。
 「おや、どうしてでしょう?」
 気にしないまでも、理由ぐらいは聞いておきたかったのだろう。レウスのその言葉に、ヴィルトゥスは答えず、代わりに背に負っていたほうの自分の剣を抜いて片手に持ち替え、そのままデューンの前までずかずかと歩いてきた。
 (うを!?)
 瞬間、なぜか焦るデューン。今までの会話では、実質ほとんど自分たちが蚊帳の外だった上、立ちっ放しで気が緩んでいたのだ。
 そうでなくても、軽装とはいえ金属の鎧を着込んだ長身で無表情の男に、いきなり抜き身の剣を片手に詰め寄られては焦るだろう。まして、相手はあの「鬼団長」である。何も言わずに近づいてくるのが、逆に迫力がある。
 (まさかこの場で別の剣投げられて一対一で打ち合いとか言わねーだろーな!?)
 自慢にもならないが、10回やっても勝てるとは思えない。100回やったら1回ぐらいは勝てるかも知れないが。
 微妙に腰が引けるデューン。ヴィルトゥスはそのデューンの直前まで来ると、剣をひゅん、と軽く返して、柄の方をデューンに差し出してくる。
 (受け取れって事か? だったら普通、鞘ごと渡すと思うが……)
 内心首をかしげながら、デューンがその抜き身の剣を受け取る。
 白い光を陽光に返す、すらりと長いその抜き身の剣は、ずしり、と重い。重装備で二刀流の騎士団長と、軽装で相手の隙を狙って刃を叩き込むデューンとでの戦闘スタイルの差異もあるだろうが、それ以前に、双方の力量が全く異なるのだ。あるいは、デューン自身にはまだ、この剣を使いこなすだけの技量がない、と言えるのかも知れない。
 「貴様には、その剣を一日中背に負って歩くだけの自信があるか?」
 (あ、なるほど。)
 「いえ、ありません。正直、重いです。」
 この時点で団長の意志が読めたデューンは、素直にそう言った。
 「先ほど話に出た聖剣デスペラータは、これよりも長く重い」
 そこで言葉どころか会話が切れてしまうのが、ヴィルトゥスである。黙って再び差し出された彼の手に、デューンはまた剣を戻した。右手にあった、金属特有の冷たい重みがなくなる。
 その場から一歩下がり、ヴィルトゥスは戻ってきた自分の剣を鞘に戻す。ついで、剣を渡したときから腰のもう一つの剣に添えていた左手を戻し、もといた場所まで歩いて控えなおした。
 「つまり、こういうことですか?」
 全部終わったのを見計らってから、自分も胸元まであげていた手を下ろしてレウスが声をかける。
 「デューンには、まだあなたの剣を使いこなすだけの力量すらない。
 まして、聖剣デスペラータなど使いこなせるわけがない。
 下手に持たせたところで邪魔になるだけ、むしろ紛失や破損などの危険が伴うばかりだと」
 「そういうことだ。」
 それ以上続いただろう 宮廷魔導士の言葉を、一言で止めてしまう 騎士団長。
 「なるほど」
 そして、それらの意見を受けて、何の動きも見せていなかった 国王 がまとめる。
 「ならば、ここは騎士団長の意見を入れよう。
 考えてみれば、そもそもこの伝説群は、体系付けすらされていないのだ。慎重を期すのが真っ当な選択だろう」
 「意義はございません」
 「御意」
 「さて騎士団長、手配はいつ頃に終わるか?」
 「どの程度こちらで手を打つかにも大幅に時間が変わりますが……」



 もはや自分たちの存在を気にもとめずに、事務的なレベルの会話を始める3人を見ながら、デューンは思った。
 既に、この事態は決定されて動き出されている事、そしてそれは自分の存在一つでは到底動かせない事――むしろ、『勇者』と言う存在すら、この3人の男たちにとっては政治的な意味を持つ何かであり、彼らはそれを利用せねばならない事。
 今までお祭り騒ぎで熱が上がっていた頭が、すっと冷えたように感じる。その感覚は、自分自身のことなのに自分では何も決められない歯がゆさと、そして彼らの慣れた会話が生み出す奇妙な日常性を含んで、どこか複雑な味わいを胸郭に生んだ。

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27856All was Given 〜5〜久賀みのる E-mail URL2003/11/1 14:23:34
記事番号27850へのコメント

                             All was Given 
                         〜The Way no one goes〜

 
 そろそろ日が暮れる時刻だ。子供たちが遊んでいた路地には赤い光が差し、その子供たちの名を呼ぶ母親の声の後ろからは、いい匂いのする湯気がこぼれている。露店をたたむ者、店を閉めてカウンターから裏の自宅へと引っ込む者。もう少しすれば路地をぶらつく者もいるのだろうが、今は、仕事を終えて一息つくための時間なのだろう。
 王都の宵の口。その華やかなその単語に全くそぐわない、庶民的な光景が続く。その中をデューンは小さな封筒を片手に歩いていた。大通りから離れ、曲がりくねった路地を、慣れた者特有のためらいの無さで、平然とすり抜けていく。
 中央通りならば夜明け前まで待たないと静寂など訪れないし、夜に踏み込めばみぐるみ剥がされても文句も言えないような道も、夜でこそ賑わうそれこそクレイスの言うような『あまり人前では話せないところ』の立ち並ぶ区域なども、無論この街の中にはあるが、同時に、一般庶民の住居区域も、一般庶民どころか悪事を生業とするものたちすらめったに訪れないような区域もある。それが生きた街と言うものだ。
 デューンの向かっている場所も、そういった都市の間隙だった。別に昔墓場だったとか幽霊が出るだとか、そういった意味で人がいないわけではなく、純粋に辺りに何も無さすぎて、いた所で仕方がない、そういう場所である。悪事の相談をするにしたって、もう少し都合のいい場所があるというものだ。
 (――そんな所に家を構えてるから、ある意味レウスとは合うのかも知れねーけどな)
 手紙を届けに行く時は、いつもデューンはそう思う。
 いつからレウスの書いた手紙をデューンが持っていくという習慣が出来上がったのか、そのことは当人も良く覚えていない。随分と小さかった頃からそうだった気もする。少なくともクレイスと会うよりは前だ。
 駄賃に貰ったクッキーをクレイスに見つけられて大喧嘩になったり、ぶつくさ言いながらも半分ずつして食べたり、そもそもクッキーを貰う事自体が気恥ずかしくなってぶーたれて突っぱねた事もあった。「大人ぶってみたい年頃なのね?」と、あっさり見抜かれて、結局その時も手焼きクッキーはデューンの胃袋に収まった。
 今思い出せば、なるほど確かに自分はその頃大人ぶってみたがる子供だったのだな、と納得がいく。そして少し恥ずかしくなる。見習い兵仲間の雑談で、「小さい頃のナマをいつまでも覚えてる親戚がひたすらうっとおしい」と言う話題で盛り上がった事があったが、あれはきっとこういった感覚の事を言うのだろうと思う。実際に親戚も何もいない自分は、その時黙って聞いていただけだったが。
 (――っつーてもなぁ…… もう17になったってぇのにいまだにお駄賃に手焼きクッキーってのもそれなりにハズいんだが……)
 別に迷惑とかそういう訳では無い。だが、何となく、どういう対応をすればいいかわからないのだ。いつも、「どーも」とか曖昧な返事でお礼を済ませてしまっている。
 でも、手焼きクッキーはうまい。困惑しながらも、いつもしっかり全部頂いてしまっているデューンである。
 (――旅に出る前に、一つぐらいはきちんとしたお返ししときたかったけどな)
 スケジュールを考えればきっぱりと無理だった。せめて、どういった成り行きで旅に出るのかぐらいはきちんと伝えておこうと思う。
 一応機密と言うことになってはいるが、それほど重要な扱いはされていない。あれだけ色々と上の方では話し合いがあったのだが、結局は「無駄かも知れないけど一応打っておく地味な手」ぐらいに思われているのがよくわかる。事実「手配」とやらも、城内事務手続きの他には、旅装束や道具の準備が多少早くつくぐらいでしかなかったし、当人たちにも「他人に言わないように」などの注意は一切無かった。恥ずかしいから言わないだろう、と言うことが見抜かれているのかもしれないが、言われて困るようなことがあるのなら、口止めの一つぐらいはされるはずだ。
 無論、デューン当人も人にべらべら喋り倒す気はない。だが彼女には、これから手紙が運べなくなる詫びもあわせて、今までのお礼をせめて口頭でもきちんと述べておきたかった。
 考え事をしながらでも、慣れた道と慣れた足は彼を目的地へと運ぶ。曲がりくねった路地を抜け、そもそも道がなくなっているだだっ広い空き地を斜めに横切り、城壁のきわを進む。街中にしてはやたらとばか高い一本の木の根元の小さな家に、程なくして彼は着いた。
 夕日が最後の光を投げかける頃だった。
 
 こんこん、とドアを叩く。ノッカーなどない。寄りかかっている大樹がなければ倒れないまでもよろけてしまいそうな、小さな家だった。
 「あらあら、デューン? いつもご苦労様ね」
 40過ぎの、柔らかなハシバミ色の瞳をした女性が、ドアを開いて現れる。いつもと同じ声、同じ台詞、同じ姿。ひょっとしたら自分が5歳の時から変わりがないのかも知れない。
 レウスがいつもレウスなのとはまた異なった意味で、エルティナ婦人は、いつ来てもいつ見てもエルティナ婦人だった。いつも穏やかで優しげで、暖かな笑みと焼き立てで少し崩れやすい手焼きクッキーの匂いが良く似合う女性。夕餉の匂いも爽やかな微笑みも、それ以上には決して似合う事などないだろうと思わせる女性。だから彼女は「エルティナ婦人」と呼ばれている。
 「あ、ども、すんません。ちょっと遅れました」
 「あらまあ、別に時間が決まってるわけじゃないんだから、気にしなくてもいいのに。
 これ、お駄賃ね。いつもありがとう。」
 彼女はいつも、デューンにクッキーの袋を手渡してから手紙を受け取る。手紙を受け取る事よりも、クッキーを渡す事の方が大事だとでも言うように。そういえば、手紙を先に受け取った事も、クッキーを焼き忘れた事も無かった気がする。
 ……でも忘れているだけなのかも知れない。どうも、彼女に対しては「見上げる」以外のスタンスを、自分は取った事が無かったように思う。
 遣曜日(つかいようび) にお使いに来れば、いつも彼女はそこにいた。きっと、これからもいるのだろう。自分が、いなくなるだけだ。
 「……こっちこそ、今まで、世話んなりました」
 その言葉が、自然に口をついて出た。
 「……今まで?」
 彼女の表情がかすかに揺れた。けれど、デューンはそれに気づかなかった。
 「なんか、遠出する事に決まったみたいなんすよ」
 「遠出? お城の方のお仕事かしら?」
 「いや、」
 ここで、いったん言葉に詰まる。勇者を名乗るのが恥ずかしいから、ではなかった。
 現実味が無さすぎて、信じられないのではないかと思ったからだった。
 「なんか、 ゆーしゃ(バインデット) として、旅に出て来いって言われまして……
 差し当たっては、南に向かってポルトスの街まで行って、そこから大陸に渡ろうかと」
 「そう……」
 つぶやいて、下を向いたのは一瞬だった。
 「ちょっと待ってなさいね?」
 そう言って、エルティナはいったん扉を閉める。考えてみれば、こう言われてドアの前で待っているのは、初めての気もする。
 ドアは、すぐに開いた。
 「これ、持っていって。あまり足しにはならないと思うけど……」
 渡された小さな厚布袋は、意外にしっかりした重さを手に返してきた。
 開けると、銀貨が数枚入っていた。
 「……って、エルティナさん!? 悪いっすよこんな現ナマ頂いちゃうなんて」
 「持っていきなさい。たかが10ジルベ、大した額じゃないわ。
 でも、旅先で貧乏で困るようなことがあったら困るでしょう?」
 ちなみに、日常生活では主に 銅貨(コパル)が使われるが、少々大きい買い物なら 銀貨(ジルベ)も普通に流通している。大体、銀貨一枚で一食つきの宿に一晩泊まれる計算になる。
 「いやでも俺だってそれなりに稼いでるし」
 「持っていきなさい。ね?」
 そう重ねて言われると、強く出られなかった。
 「……また、いつか返しに来ますから」
 「そう、でも、無理はしないようにね?」
 「……どうも」
 やはり返答に困って、そんな言い方をしてしまう。それでも、返ってくる彼女の微笑みは常に暖かい。
 「あの、」
 何で、ここまで親身になってくれるのだろう。それを聞こうと思ったのだけれど。
 「これから、手紙、どーしましょう?」
 結局出てきたのはそんな言葉だった。なぜかはわからない。
 「さあ、どうかしら。これから考えないとね?
 それより、気をつけなさいね。生水なんか、飲むんじゃないわよ?」
 「……どーも」
 「…………」
 「…………」
 それで、会話が途切れてしまった。何となくいたたまれなくなったデューンが、踵を返す。
 「じゃ。これで。」
 「ええ。頑張りなさいね。」
 二三歩歩き出しかけてから、デューンが振り返る。エルティナ婦人は、まだそこにいた。
 いつもそうだっただろうか。見送られていただろうか。デューンにはよくわからなかった。
 「ありがとうございました」
 改めて口から出たその言葉に、いつもと同じ、暖かい笑みが返ってくる。
 それを見て、何となくこちらも、表情が柔らかくなるのがわかった。
 だから、デューンは、もう振り返らなかった。
 振り返らなかったから、ほのかな三日月明かりの中、後ろで、ただ一本の大木だけが見送っている事には最後まで気が付くことはなかった。



 家に帰ると、誰もいなかった。別に驚くような事でもない。デューン以外のこの家の住人はレウスだけだし、レウスに向かって規則正しい生活をしろといっても確実に無駄である。事実無駄だった。もう諦めているデューンである。
 真っ暗な家の中、まずは携帯用の明かりに火を入れ、そこから部屋のランプに炎をうつし、天井から吊るす。腹も減っているし、夕食の支度をして置くべきだろうが――
 「――うざっ。」
 一言でデューンは切って捨ててしまった。野菜庫の中を思い浮かべただけで、なんだか面倒くさくなってしまったのである。自分はさっきのクッキーをかじって、適当につまみでも作って飲んで寝ればいい。レウスの方はどうせ帰ってこないだろうし、帰ってきたら帰って来たで、備蓄のジャーキーでも放ってやればいいだけである。というか、文句を言うなら自分で料理ぐらいしろ。
 どちらが身勝手なのか、深く考えると微妙な理屈をこねながら、彼はランプ片手に自分の部屋へと引き返した。
 部屋に入ると、窓から満天の星空と、申し訳程度に姿を見せている三日月が見える。もっとも、月がいつもこの姿なのは彼にとっては当たり前だ。太陽と共に人から顔を背け、太陽よりももっと人から遠ざかったと言う女神は、いまや長い金の髪の一房しか人間の目には晒さないと言う。
 太陽は暗くなり、月は欠け、星は落ちた。そして人類は一度その文明を失い、獣へと堕したのだ。そう、神話は教える。大陸の聖母真教教会とグラディエルスの五大精霊神神殿はこの説を共通見解として発表しているし、魔導士たちの研究もそれを裏付けているらしい。とはいえ、この世界では多くの魔導士は所詮神官の一種でしかない。そこには、魔法を用いるのにより深い信心を元とするか、神学を元にするかの差があるだけである。その教義に反するような発見が裏で握りつぶされていないと言う保証は何処にも無い。
 事実、どちらの組織にも属していない 星見人(アステリエル) のレウスは、太陽と月はともかく星は落ちていないのでは無いかと推察しているらしい。深い証拠があってのことでもないし、神殿ににらまれるのもつまらないので世間に主張するようなバカなまねをしないのだ、と言っている。
 ……小さかったデューンにレウスが不謹慎なデマを吹き込んだ、と言う可能性もわりと高かったりするが。
 いずれにせよ、デューン自身はあまりそのあたりを深く考えてはいない。大体、そんな事を気にしたところで腹が膨れるわけでは無い。こういった問題に対しては、デューンは非常に現実主義―― と言うより営利主義だった。
 自分の部屋のランプにも火を灯したあと、差し当たってやることが見つからなかったのでベッドに腰掛けてみる。正確には、やらねばならない事は結構あるのだが、やる気がしない。夕飯のしたくはもう投げたし、明日の旅立ちの準備も実はほとんどやる事がない。
 今日明日の話でもう出発すると言うのも、それでいながら準備がほぼ無いと言うのも、ある意味では型破りな話だが、これらは元々デューンが兵士だった事が大きい。武具は城で取った寸法に合わせて、明日見繕われたもの(と言っても普段の支給品よりも少し質がいい程度のものでしかない)が届く手はずになっているし、いつ任地が変わっても動けるように常日頃からきちんと身の回りのものを整理しておけとも言われている。実際にはどこかで紛争が起きでもしない限り、兵士見習いの異動など起こりえないのだが。
 万が一に備えての事なのか、出世した時のために今から心がまえを叩き込まれているだけなのか。毎年入ってくる新入り達が必ず口にする軽口である。
 だとすれば、自分の今の状況は「万が一」に含まれるのだろうか?
 明かりに寄って来る小さな虫達の軌跡を追いながら、そんな事をぼんやり考える。
 暇だ。
 やる事がない。
 考えてみれば、今夜は王都最後の夜なのだ。こんな所で腐っている場合じゃない。飲んで騒ぐなり、最後の思い出作りとやらに励むなり、実はやらなきゃならないことが大量にあるのではないだろうか?
 そう思い当たり、半ば腰を上げて、しばらく今夜の行動をシミュレーションし……
 結局また腰を下ろしてしまった。娯楽の少ない男である。
 暇だ。
 やる事がない。
 (やっぱ壮行会断んなきゃよかったかな)
 旅に出ることは短時間の間に、少なくともデューンの顔見知りや同僚達などには周知の事実となっていた。そんなわけで、見習い兵仲間などと久しぶりに飲み会をやるか、と言う話になったのだが……
 既に、やれ旅先では腹を出して寝るなだの、何処へ行くべきかがわからなくなるから情報はきちんとメモを取れだの、さらには「何かの時にはぜひとも当神殿に!」とまで ――ちなみにこれを言ったのはクレイスである ――さんざんいらん事を聞かされて十分に腐っていたデューンのことである。
 「それでは勇者デューンの旅出を祝して!!」
 「祝すなボケぁ!!」
 と、間髪入れずにツッコミ返しつつ思わず右フックまで入り、
 「止めんかい!お前にはノリツッコミという高等技術を極めようとする意志がないのか!?」
 「何でンなもんまで極めにゃあならんのだっ!?」
 ……結果いつもどおりの子供の喧嘩となってしまったためお流れになったのだ。
 さすがにこれはデューンもちょっと反省している。
 だが、反省するだけで最後の一日が終わる、というのもあまりに味気ない。
 「――やっぱ飲みにでも行くか」
 紆余曲折を得て、結局その結論に達したらしい。この場合の「飲みに行く」は「飲み屋に行く」ではなく、「今日夜勤が当たっておらず、かつ親と同居していないヤツのところに転がり込む」である。よく考えると、なかなかに迷惑な行動だが、彼らのグループでは良くある事だ。
 手持ちランプの火と油を確認する。それを持って部屋を出て、台所から酒瓶とチーズやサラミ類を取り出す。これぐらいの手土産はあった方がいいだろう。家から出ようとして気がつき、家の鍵を探す。テーブルの上に放り投げてあった鍵を見つけ、ポケットに突っ込み、玄関のドアを開けた。
 
 クレイスと鉢合わせした。
 
 「……………………」
 「やは♪」
 「……いや、やは、じゃなくてだな」
 あまりに唐突だったので毒気が抜けたのか、ただ単に今までのボケムードを引きずっているだけなのか。
 何とはなしに、いつもよりテンションの低いデューンである。
 「何でこんな時間に、こんなとこにいて、よりによって扉開けたところででっくわすんだ?」
 「決まってるじゃないか、デューンっ!」
 クレイスの方は、夕方王城前で別れた時と同じく…… いや、その時以上にハイテンションである。こちらも抱えていた酒瓶で、びしっ、とデューンを指したりしつつ、
 「勇者デューンの旅出を祝して壮行会!とか言いつつ実質食料庫の中身の片付けを手伝うためと言うかつまりは飲み会の口実っ!」
 「……酒瓶って、わりかし凶器になりやすいよな。割れたら刺さるし。」
 「ああああああデューンってばお茶目さん♪ って言うかそーいう怖いこと言わないでください僕が悪かったです酒瓶下ろして」
 「結局何なんだよ」
 「遊びに来ただけだけど。」
 「……………………」
 「だからそこっ! 無言でドア閉めないっ!!」
 抗議しながらもドアの隙間に、げしっ! とつま先を突っ込むクレイス。
 「それにだねっ! もう一つ、ビッグでホットでクレイジーなニュースがあったりするんだっ! 聞かないと損だよっ! 具体的に言うと僕の方がっ!」
 「……クレイジーっつーのがびみょーに気になるが……
 まあいいや。何だよ」
 投げやりなデューンに対し、クレイスはしゅぴっ! と片手を上げ、
 「旅に同行する事になりました。よろ。」
 「なんでだよっ!」
 さすがにこれには即座にツッコミが入る。
 「いや〜、親父さんに話したらなんか知らんがかんどーされてね〜。それでまあ、好きなだけ行って来いと」
 「親父に感動されたら旅に出るのかお前は。」
 「いや、元々ついて行こうとは思ってたわけだけど〜。
 そのことを親父さんに話したらだね、
 『お前はそんなに親の家業を継ぐのがいやか!?
 もういい!! お前にはもう何も期待せんわ!! 好きなだけどこにでも行って来い!!』
 と、まあこんな具合で 怒り心頭」
 「待て!! かんどーってぇのはそっちの勘当か!?」
 「ホットだろ!?」
 「ホットすぎて頭痛ぇ。てかいーのかそれでお前マジで。」
 「大丈夫! こんな事もあろうかと、僕の口座からは既に全額引き落としてあるからね!! 3ヶ月ぐらいは余裕!!」
 王都ほど大きな都市になると、きちんと両替屋などもあったりするのだ。ちなみに、クレイスの実家もそのうちの一つである。
 「いやそーじゃなくて」
 「ついでに言うなら、今ごろ親父さんが城の方に僕の辞職願いねじ込んでるんじゃないかな! きっとあの辣腕かつ親愛なるお父様なら事務の時間破りぐらいは軽い軽い」
 「そーゆーことでもねぇっ! てかなんで俺の周りばっかり人の話聞かない連中が集まってきやがるんだよコラ」
 「ところでデューン。世の中には『類は友を呼ぶ』って言うステキなことわざが」
 げしっ!
 間髪いれずに、デューンの拳がクレイスの額にヒットした。
 「何すんだよ痛いじゃんか!!」
 「痛いに決まっとろーが殴ったんだからよ!?」
 「ひどいよデューン! 家を追い出された寄る辺無き子供を殴るだなんて!!」
 「寄る辺山積みだろーがこのぼっちゃんめ! いや寄る辺って何だか知らねーけどよ!」
 「存在が規定されないものは無いのと同じ!!」
 「おーおー仲いーねーお二人さーん」
 「誰がお二人さんだ気色悪ぃ!!」
 ごづんっ!
 「あ。ケッザだったか誰かと思ったら」
 「誰かと思ったら、じゃねえだろーが!?
 貴様フックやストレートを交えんと俺とは語れんのかっ!?」
 やってきたとたんに無駄口を叩き、殴られて少し目がくらんだようだが、そこから即座に復帰して、勢い良く噛み付く警備兵その1。言うまでも無いかも知れないが、昼に右フックを打たれたのも彼である。
 「そこまで言うなら心ゆくまで拳で語り合ってやろーじゃねーかデューンっ!
 ふっふっふ、今日の俺は一味違うぜ、この右手のワイン瓶が光って唸るっ!
 殴るともれなく破片が飛び散るデンジャラスな獲物を装備だからなっ!」
 「そいでお前がその欠片を踏んで足を刺す、と。
 ……じゃねぇ、何でお前まで酒瓶抱えてきやがるんだっ!?」
 「……普通、酒瓶は飲むために持ってくるもんだと思う ……殴るためじゃなくて」
 「飲み会決定かよ。てか家を宴会場にされる俺の意思は無視かい。」
 「っちーっす警備兵ズ〜。煮物持ってきたぜ〜」
 「あ。ヒマな警備兵が一名増えた。」
 馬鹿なやり取りをしている間に、飲み会の面子が増えたようだ。
 「……完璧無視だな。をい。」
 「よくやったセレスっ!やっぱ俺らのコンビネーションに不可能はねーよなっ!」
 「ねーねーねーちょっとデューンっ! あんた勇者だったってホント!? マジマジぃ!?
 ちょっとびっくりしちゃったからアタシ、キャシーとティセスとヴィッキーに招集かけちゃったわよ!? ねー大丈夫!? ちょっと何とか言いなさいよ!」
 文句を言う気力も無く、デューンは軽く頭を抱えた。
 状況はわかりやすい。非常にわかりやすい。
 友人同士というのは得てして行動パターンが似るものであり、自分が迷惑を顧みずに他人の家で飲もうと考えたのと同じように友人たちも考え、後一歩の所で及ばず、迷惑をかけられる側に回ってしまったのである。
 状況は、非常にわかりやすい。ならば、取るべき行動は一つ。
 デューンは決意を込めて、星空を見上げ、拳と共に朗々と声を上げた。
 
 「飲むぞ――――――!!」
 
 「Yeeeeeeeeeeeeeah!!」
 
 若者(バカ)達の歓声が、静かな住宅街に響いた。
 
 
 
 次の日。
 デューンはご近所への旅立ちの挨拶ついでに、ひたすら謝り倒すことになったことのみを述べておく。
 
 
 
 「終りましたか?」
 「ああ」
 ぐるりと近所を回り終え、デューンは家の前に戻ってくる。
 クレイスが、下ろしていたナップザックを拾い上げ、背に負った。
 デューンにしろクレイスにしろ、荷物を除けば普段の見慣れた格好にしか見えない。デューンが着ているのは城勤めのときに身に付けていたような革鎧にブーツだし、クレイスに至っては、普段着代わりに着ていたようなティアラの神官衣だ。
 もっとも、本当に普段と同じ格好のはずは無く、それぞれにいつもより上質で、使いやすく長持ちするように作られているし、ブーツも歩きやすいように中の皮をより丁寧にあつらえてある。革マントの裏地には、記されたばかりの古代文字。
 「これから食事はずっと城で摂ることになるわけですか……」
 その古代文字を記した当人が、何とはなしに感慨深げに言った。風が吹き、レウスとデューンとクレイスの髪がそれぞれの癖にそってなびく。
 「別にいいんですけど……出費が余計に増えますねぇ」
 「普段気になんかしないくせに、この期に及んで家計の心配かよ」
 何となく呆れ加減のデューン。その彼に「冗談ですよ」と返して、レウスがかすかに苦いような笑みを浮かべる。並ぶと、レウスはデューンより頭一つ背が低い。
 クレイスは黙って自分の神官衣のすそを見ている。すそに翻った刺繍は母が縫ったものだ。驚かそうとしてこっそり縫っていたのだろうが、普段神官を嫌っていた母が、急に「神精霊語の辞書を貸せ」などというので、バレバレだった。そんな事を考えながら、邪魔をしないように音を立てずに額の神官印の位置を直す。
 「ま、適当にやってきなさい。世界なんて、そうそう簡単に吹っ飛びゃしませんよ」
 結局母には、辞書があっても神精霊語がわからなかったらしく、刺繍は普通のアルケミア口語になっていた。「Godde Bless You」 ――「祝福を」。
 わかりやすい人だったのだな、と思った。
 「でもよ、にしてはお前ら随分長話してなかったか?」
 「大したことはありませんよ。世間話みたいなものです」
 実は割りと大したことはあったのだ。だが、レウスにはそれをデューンに話す気が無い。
 「そうか……後、よ」
 デューンが珍しく口ごもる。風がそよぐ。もう少しすればこのそよ風は、大風となって家々の屋根をむしろうとするのだ。その頃には彼らは既に大陸にいるはずだ。
 だがそもそも、無事に大陸に渡れるかどうかすらもわからない。海は、風神海神の統べる場所であって人知は及ばない。まして、それ以前に魔物に襲われてあっさりと殺される可能性とて低くはないのだから。
 だからこそ、旅に出る前に、これだけは聞いておきたかったのだ。
 「何でお前、俺のことなんか引き取って育ててたんだ?」
 今までになく静かに聞かれた、今までにないその問いに、レウスは遠い目で風を追う。レウスが遠い目をするのは珍しい事では無いが、それをデューンが急かさないのは珍しかった。クレイスは相変わらず服のすそを見つめる振りをしながら、聞き耳を立てている。
 やがて、レウスが口を開く。
 「昔、僕が川で……」
 「川?」
 王都の中にも確かに川は流れているのだが、あまりきれいなものでは無い。
 「洗濯をしていた時……」
 「洗濯?」
 彼らの家には精霊式半自立洗濯機(レウス試作)があるので、川まで行かずとも済むはずなのだが。
 「上流から大きな桃が、どんぶらこ、どんぶらこと……」
 「ちょっと待てぃっ!」
 「沈んでいったのです。」
 「沈めてどうする――――――!!」
 意表を突かれたのか、拳は握ったまま絶叫だけで済ませるデューン。こっそりと聞き耳を立てていたはずのクレイスは、ツボだったらしく、向こうの方でかなり危機的に爆笑していた。
 「ちょっとした昔話じゃないですか」
 「どのへんがどう昔話だっ!? それ以前に沈めてどーする沈めてっ! っつーかそれって俺の出生には何にも関係ねぇしっ!!」
 「場を和ませるための大人の社交術だと思ってここは一つ」
 「和んでねぇっ!!
 っつーかさ、毎回毎回俺が殴って終わり、って状況もどーかと思うぞ?
 俺的に一番疑問なのはよ、俺ってこーやってお前らみたいな ボケ野郎どもにひたすらひたすらツッコミを入れ続けて年を重ねていくのかなぁってぇところなんだが」
 「そんなことないでしょう、デューン? 年老いた親の事など気にしないで、旅に出て、遠くのいい人のところにお嫁に行って幸せになりなさいね」
 「誰が嫁だ誰が――――!!」
 みしっ!
 デューンの拳が、レウスの頭にめり込んだ。どれだけシリアスに始まろうが、彼らの会話の八割方は、このオチで終わる。
 「知るか! もー知るかやってられっかっ!!
 もーこうなったら金輪際二度と俺の出生なんか聞かねぇからな!?
 せーぜー旅の間に陰干しにでもなりやがれこん畜生!!
 行くぞ!! クレイス!!」
 「あはははははははははははははははははははははは」
 プチ切れたデューンに答えない、ある意味キれたその笑いは、無論クレイスのものだった。
 「レーウス―――!! そのオチマジ 最高(さーいこー)!!
 もーマジで末代まで語り継いじゃうよ!? 旅先で芸人として宣伝しとくからね――!!」
 「てめぇもやかぁしいとっとと歩けボケ――!!」
 歩けボケとか言われつつ、むしろデューンに引きずられながら、クレイスはレウスに向かってびしっと親指を立てていた。
 「はっはっは。初興行の時にはよろしくお願いしますよ――!!」
 無駄に爽やかに笑いつつ、クレイスに手を振り返すレウス。その瞳にかすかな憂いがあったが、一瞬後には消え去っていた。
 実は割りと大したことはあったのだ。だが、レウスにはそれをデューンにもクレイスにも話す気が無い。世の中にも人生にも、知らないほうがいいことというのはあるのである。そして、彼の人生には、それがあまりにも多すぎた。そう、彼は思う。
 「てゆーかデューン襟首つかまれると苦しいっつか引きずられてるとむしろ体勢立て直して歩き難いっつーかっ!!」
 「さっさっさっとてめぇの足で歩きなおせば問題解決! あんまりお荷物やってっともっとキッツい目が待ってんぞコラ髪の毛と足首とどっち持って引きずられてぇ!?」
 「歩きなおすから放せ――――!!」
 ばたばたしながら遠ざかっていく二人を、レウスが笑いながら見送っている。その笑みが作り物であったとしても、彼らの無事を願う事には変わりはなかった。
 風が――止まった。長い黒髪がかすかな音を立てて彼の背に戻る。
 彼が背を向けて歩き出すと、髪はまたさらりと波打った。
 
 
 
 
 
 
 「おっし、第一道標発見! 道筋確認!」
 「左、王都グラディエルス、右、宿場町エンタイル!」
 「よっし地図通り。真っ直ぐだな」
 「エンタイルにGO!! そこから馬車か何かに乗れたらいいね!!」
 
 
 
 
 
 
 彼らの運命は、あざが刻まれたその時から定められてしまったのかもしれない。
 しかし――彼らの旅は、まさに今始まったのだ。

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27857補足・レスについて久賀みのる E-mail URL2003/11/1 14:25:34
記事番号27856へのコメント

 こちらは、前書きにあった「レスに関するお願い」の補足です。
 主に自分の次世代以降の方に対してのものになるかと思いますが、不安な方は読んどいてくださるとありがたいです。

 ・「宣伝レス」について
  どこからどこまでを「宣伝レス」と言うかについてもいろいろと問題ですが、
  久賀の場合「〜を読んで下さいね」「〜を読んでくれると嬉しいです」はNGライン。
  「自分も前にこんな事書きました」ぐらいなら大丈夫ですが、
  「自分も前に〜という作品内でこんな事を書いて、その時はキャラAとBがどうこう」と続いちゃうとダメです。
  
  小説がうまい人は、レスもうまいです。
  だから宣伝されなくてもレスできちんとわかりますので、ご安心を(微笑)
  
 ・「対談型レス」について
  キャラクターが動いている時点で、それはその人の「作品」に当たると思うのですね。
  無論作品を書いてくださるのはありがたいのですが、それを自分のツリーでやられるのはちょっと……
  オリキャラならその作品を読んでこなければならないわけですし、スレキャラだったとしても書き手によって大分性格が変わってきますので、やっぱり作品を読んでこないとなりませんし。
  なにより、「ツリーの作者」=「読んでもらう側」に徹したいので。
  同じ理由で、外伝や番外編をツリー内で書かれるのにも抵抗があります。自分でツリーを作ってどうぞ。
  
 ・「全文引用レス」について
  お願いですから止めてください(←滝汗だくだく)
  5章だけでも28KBあるのです。これを何べんもコピーされると、下のほうの作品がバカバカ落ちてしまいます。非常に心苦しいですので、お止めください。
  それ以前に、0〜5章まであるので、全文引用しても仕方ない気がしますが……
  
  
  
 以上、レスについての補足でした。
 あまり気構えず、軽い気分で書いていただければ幸いです。
 無論長文レスでも一向に構いませんので(笑)
 ここまで読んで頂いて、ありがとうございました(礼)

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27886面白かったです♪エモーション E-mail 2003/11/2 22:09:27
記事番号27856へのコメント

こんばんは。
「百物語」の方では、お世話になりました、エモーションです。

「All was Given」、思いっきり該当しましたので、読ませていただきました。
まず、面白かったです。
最初のデューンくんとレウスさんの会話から、どんどん引き込まれました。
この2人の関係に「銀河英雄伝説」のヤン提督とユリアンを、彷彿しました。
親子とも違う、でも兄弟としては、ちょっと微妙な年齢差。
年齢差15才、というのは本当に微妙なのかもしれませんね。

そして難しくなりすぎず、でもだらけすぎず、読み手を厭きさせない話の
運びは、凄いなあと思います。(見習いたいです)
また、デューンくんとレウスさんだけでなく、クレイスくんやお友達といった、
それぞれのキャラクターの会話のテンポも、ボケとツッコミのやりとりも、
本当に面白くて、画面の前で大笑いしました。
真面目な部分と笑わせる部分、それがもうバランス良く入っていましたから。

マニアレベルにはほど遠いけれど(極めるには邪念(笑)が多すぎるので)、
本格推理物大好きな私としましては、「伏線」の存在も楽しみでした。
デューンくんのいきなり浮かんだ痣の意味や、多分レウスさんが知っていて
黙っているであろう出生の秘密などの他に、エルティナ婦人の正体やら、
「手紙」の意味なども、この後どう絡んでくるのかなと。
他にも見逃している伏線があるのかもしれませんが、それは後から分かったときに
驚きたいと思います。

ともあれ、旅立つことになったデューンくんとクレイスくん。
彼らがどんな冒険をすることになるのでしょうか。
……個人的にレウスさんがとても気に入りましたので、ちょっとでも出てくると
いいな、とも思っていますが。

それでは、少し長くなりましたので、この辺で失礼いたします。
続きを、楽しみにしていますね。

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27906笑ってやってくださいな(違)久賀みのる E-mail URL2003/11/3 20:38:58
記事番号27886へのコメント

 こんばんは。こちらこそ百物語のときにはお世話になりました久賀でございます。
(小説の方では久賀で通すことにしました)
 色々と恐怖な話の数々も、今ではいい夏の思い出ですね〜(待て)
 
>微妙な年頃微妙な年の差 
 15歳っていうのは、確かに微妙ですね。特に、下がこれぐらいの年齢になると。
 この二人に関しては、対等すぎるのも上下がありすぎるのも嫌だったのと、
「5歳時にレウスがデューンを拾う」「レウスは団長より5歳ほど下」という
2つの制限の結果、この年齢差に落ち着きました。
 銀英伝の影響があることは、確かに否定できなかったりします(苦笑)
 オープニングのイメージは、ぶっちゃけてしまうとドラクエ3のパロなのですが(をい)

>話運びとテンポ取り
 この二つに関しては、本当に気を使ってますので、評価されるとありがたいのです(礼)
 何しろ長文ですから、字がずらずら並ぶ時点で飽きられる可能性大なのですよ。
 その上オープニングですので、世界観設定なども詰めていかなければなりませんので。
 「この辺で飽きられるかな?」と思った辺りに、わかりやすい文やギャグ会話が入るようには心がけました。
 ……会話の内容は、連中が勝手にしゃべくり倒してくれましたが(笑)
 ちなみに警備兵一同、実際に書き出すまでは存在すらしていなかったのですが……
 ……あれ?(爆)

>推理未満の伏線集
 どのレベルからを伏線と呼ぶのかすらそもそも微妙なので、明確な数は出ませんが……そもそも「魔物」や「魔法」に至るまで裏事情満載ですからね〜。
 少なくとも、エモーションさんが気づかれたものについては全部本編内で解説しますのでご安心を(何)

>レウス君出演希望
 ををっ!?こんな所にもうファンが!?(待てぃ)
 中盤以降では、それなりの登場頻度を誇るかと思うのでお楽しみに♪

 ……で、中盤に入るのはいつですか自分(汗)


 こちらも負けずと長くなってしまいましたが、ここで失礼いたします。
 続きの締め切りは、この分だと12月1日でしょうか?頑張らせていただきます!

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