◆−伝言〜夢で会いましょう〜 前編(四人組です)−じょぜ (2003/5/18 05:31:28) No.25990
 ┗Re:伝言〜夢で会いましょう〜 後編−じょぜ (2003/5/18 05:33:51) No.25991
  ┣Re:伝言〜夢で会いましょう〜 後編−オロシ・ハイドラント (2003/5/19 21:54:13) No.25998
  ┃┗四人組はきっと永遠に不滅っ!−じょぜ (2003/5/20 01:22:06) No.26002
  ┗感動しました〜!!−鈴咲時雨(すずさきしぐれ) (2003/5/19 21:54:50) No.25999
   ┗初めまして。−じょぜ (2003/5/20 01:35:11) No.26003
    ┗Re:『安息の日』読みました〜☆−鈴咲時雨(すずさきしぐれ) (2003/5/22 20:36:02) No.26031
     ┗うひゃあ……。−じょぜ (2003/5/22 21:58:19) No.26040


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25990伝言〜夢で会いましょう〜 前編(四人組です)じょぜ 2003/5/18 05:31:28


 またおじゃまします。じょぜです。
 これは安息の日よりもっと前に書いてあった話です。カップリングはガウリナ,ゼルアメです。が,そんなに甘くはないです。
 一応注意としては「死にネタ」です。フィリアも出てきますが四人組が主役のつもりで書きました。
 えらくおーまじめで重たい話になってしまいました(笑)。私的にはとても気に入っている話なのですが。 
 TRYが終わり,原作本編も終了してずいぶん経ってしまいましたが,これは私なりの,スレイヤーズ四人組への感謝の物語です。





          伝言〜夢で会いましょう〜  前編



 そして、彼らは伝説になった。
 闇を撒くもの──ダークスターから世界を守った稀代の英雄として。


 その闘いの、いわば中心人物でもあった、火竜王の元巫女は、いまだに骨董屋を続けている。
 リナたち四人と会ったときと、まるで変わらない──さすがに巫女の正装ではないが──ととのった顔だちで、少女の面影を残したまま。
 長い金髪は、後ろで無造作に束ねられている。
 一日中、穏やかな風の吹くこの土地で、かれこれ一五〇年は暮らしているだろうか。
  ヴァルガーヴの卵は無事に孵化し、もう人間で言えば三、四歳ぐらいにまで成長した。
 もう少し大きくなったら、ここを引き払って、旅に出てみようか──そんなことをぽつぽつ考えているときだった、彼が現れたのは。
 店のカウンターで、フィリアは先日の思いがけない訪問者との会話を思い返していた。



 丘でのピクニック。お弁当を広げての戸外での食事に、幼いヴァルは大喜びだった。
 近くには小さな泉もある。大きな樹が枝葉を広げた陰で、二人は楽しそうに準備を始めた。
「さあヴァル、この布を広げて、お弁当を並べましょうね。あ、その前に泉でお手々を洗ってきましょう」
「おなかがすいたよう。ちょっとだけ食べてもいいだろ?」
「だめです。さ、一緒に行くのよ」
 ちぇーっと舌打ちしたヴァルの横顔がかわいくて、ついフィリアはぎゅっと抱きしめた。
「なんだよう」
「ふくれっ面なんてめっ! よ」
 二人してじゃれあいながら、泉のそばへたどりつく。少し喉が乾いたフィリアは、両手で水をすくいあげた。
 そのとき、ヴァルはばしゃばしゃと手を洗いながら、ふと気配を感じて空を見上げた。
「──フィリア」
 水の冷たさがあまりにも気持ちいいので、汗をかいた顔をごしごし洗いながら、なあに、と答えた。
「変なヤツがいる」
「え、どこに」
「ここ」
 ヴァルは上を指さしたが、手拭いで顔を拭いているフィリアは、よくわからないまま、きょろきょろとあたりを見回した。
「誰もいないじゃないの」
「ここですよ、フィリアさん」
 今度こそフィリアはその姿を認めた──かつて不思議な縁でダークスターを倒す一端を担った者、獣神官ゼロスを。


 お弁当を食べていてもいいわよ、とフィリアの許しをもらって、ヴァルは一目散にさっきの場所へ駆けて行った。ゼロスのことは、しげしげと眺めたものの、食欲には勝てなかったらしい。
「あれがヴァルガーヴ、ですか」
「──ええ」
 フィリアは頷いた。ただのヴァルよ、と訂正しようと思ったが、ゼロス相手にそんなことを言ってもたいした意味はないだろう。
「お久しぶりですねえ、フィリアさん。一五六年ぶりですよ。あれからお元気でしたか。もっともその様子を見れば、たいした事件もなく無事に過ごしてこれたのでしょうね」
「あなたこそ、お変わりないようで」
 フィリアはつんと横を向いた。話したいことはたくさんあるようで、いざ会ってみると言葉が出てこない。
 いや、いちばんに聞きたかったことはある。
「あの、リナさんたちは、どうしているのかご存知?」
 我ながら間抜けな質問だと思った。ゼロスはにこやかな表情のまま、
「あの人たちならとっくに死にましたよ」
 と答えた。
「そうでしょうね──そう」
 フィリアの胸は少しも泡立たなかった。竜族のこの身は、人間たちよりも長い長い時を過ごさねばならない。あの闘いののち別れたリナたちと、もう会うことはあるまいと思ったときですら、強い悲しみは感じたが、動揺はなかった。
 今のゼロスの言葉にも、それと同じ感情があるだけだ。
 悲しみと──たまらないなつかしさと。
「それはわかるわ。もう亡くなってずいぶん経つんでしょうね」
 ぽつり、と呟いて、フィリアは水面を眺めた。
 あの闘いを知っているのは、もう私とゼロスだけ−−ヴァルですら覚えていないことだ。
「あのあと、リナさんたちと会うことはなかったんですか?」
「何回かね。アメリアさんにはとうとう会わずじまいで、リナさんガウリイさんは連れ立ってときどき、ゼルガディスさんもたまに寄ってくれましたけど」
 フィリアは寂しそうに笑った。
 仲間から家族になったり、その家族が増えたり、自分の義務を果たさなきゃならなかったり、望みをかなえるためにあてどもない旅を続けねばならなかったり────。
 やがてリナとガウリイが結婚して、子どもが生まれたことを知らせてくれた。ゼルガディスが目的を果たして、今はセイルーンにいるというごく簡単に書かれた便りも届いた。手紙がくるたびに、いろいろな出来事が起きているらしく、読みながらフィリアは笑い、少しうらやんだ。読み終わったあとはいつも会いたくてたまらない思いにかられた。
 けれど、いつのころからか、フィリアの店に彼らが立ち寄ることはなくなっていた。リナたちにはそれぞれ生活があり、昔のように気ままな旅に出ることはなくなっていたからだった。
(あの人たちは人間だから──短い時間にやらなきゃいけないことがいっぱいあるから)
 それでいいのだ、とフィリアは思っていた。ダークスターの降臨からこの世界を守り、ヴァルガーヴはただのエンシェント・ドラゴンに戻ったとはいえ、魔族の監視や警戒が完全になくなったわけではない。竜族そのものは神の側に立つ種族で、魔族に敵対するものに変わりはないのだから。
 火竜王ゆかりのゴールド・ドラゴン、エンシェント・ドラゴンただひとりの生き残り、そして、デモン・スレイヤーとのちのち渾名されることになる人間の、カタートのそれ以外の竜族たちとの接触を、魔族が指をくわえて見ているとは思えない。
 そしてそれ以上に、リナたちにはやるべきことがあり、それはフィリアも同様だった。なぜなら、いくら人よりもゆっくりとした時の流れを過ごすとはいえ、やはり毎日毎日の小さな変化、たとえば店に訪れる客たちとの会話、季節のめぐりとともに孵化へ近づくヴァルの卵、庭に植えた小さな木が花を咲かせ実を成らせ、またたくまにフィリアの背を追い越してしまうまでに成長する様子は、彼女の目と心を向けさせるのに充分だった。少しずつ少しずつ、リナたちとの旅は思い出になっていき、その思い出をヴァルの卵に語りかけることで、より忘れがたい記憶にもなっていった。
 いつのまにか便りがとだえ、こちらからも書くことは、ほんのときたまになってしまったけれど、あの四人はフィリアにとってたいせつな、片時も忘れることのない友人たちに変わりはない。
 最後に亡くなったのはゼルガディスだった。口ぶり同様、そっけない文面は、たった一度読んだきりなのにぜんぶ覚えている。
「リナが死んだ。あのメンツの中で残っているのはもう俺だけだ。ときどき夢にあいつらが出てきて、そろそろこっちに来たらどうだなんて笑ってやがる。俺が逝ったらおまえのところに知らせが行くようにしておくから、暇があったら墓参りに来てくれ」と。
 そのまま二度と読み返すことはなかった。その後何年も経ってセイルーン国王から手紙が届いたが、開封せずにやはりしまいこんだ。何が書いてあるかはわかっていたから。
「聞きたいですか、あれから皆さんがどうなったか」
 こっくりとフィリアはうなずいた。ゼルガディスからの最後の手紙にはこうも書かれていた。「いつかゼロスがおまえのところにいくだろうから、話し相手になってやれ」と。
 ゼロスは相変わらずの微笑をたたえたまま、柔らかな草の上に腰を下ろして話し始めた。                  



「えーまず、いの一番にぽっくり死んだのがガウリイさん」
 のほほんとした口調で語るゼロスに、フィリアはがくっと前にのめる。
「あ、あのねえ、私が聞きたいのはそういうことからではなくて……」
「で、それを看取ったのが、当然ながらリナさん」
「あのお二人、やっぱり結婚なさったの?」
 フィリアはなんだかどきどきして赤くなった頬を押さえた。
「ええ、大方の予想通り」
「まーあ。リナさんもやっぱり女性だったんですね。見たかったわあ、リナさんのドレス姿」
 うふふふふと頬を染めてなぜか照れつづけるフィリア。
「いやー僕もリナさんとガウリイさんが結婚すると知ったときはねえ、またか、と思いましたよ。どうせまた土壇場でダメになるだろうと」
 は? とフィリアは眼を丸くする。
「いえね、最初はガウリイさんのプロポーズにリナさんが気づかなくて、式の当日になってリナさんがようやくガウリイさんが本気で自分と結婚しようとしてると気づいたんですが、衣装をそろえてなくてお流れになって、二度めはちょっと反省したリナさんからプロポーズしてガウリイさんもにっこり笑ってオーケーということでめでたく式に突入かと思ったら、ガウリイさんが式の日を一日遅れで間違えていて、リナさんからドラグ・スレイブをいただく始末。んで三度めの正直かと思いきや、ちょうどその頃やっかいな事件に巻き込まれていたお二人は、結局のところ、できちゃった結婚ということになりまして」
 立て板に水の如くのゼロスの説明に、フィリアはぽかんと聞き入るしかない。
「ま、まあ、なんというか、あの二人らしい」
「んで、子連れでめでたくセイルーンで結婚式をあげた次第です、はい」
 んまあ、とフィリアは声を上げる。
「なぜセイルーンで式をあげたかというと、アメリアさんの強い要望で」
「あ、確かアメリアさんてセイルーンの王女さまでしたね。あの方はどうなったの?」
「はい、セイルーンの女王におなりに」
「まああ!」
「なりかけたんですが、やっぱり土壇場で戴冠式を放棄なさいまして」
 今度こそフィリアはコケた。
「え、ええ?」
「えー何でもゼルガディスさんの体が元に戻らなければ結婚できないので、戴冠式よりもそっちが先だ、とわめいて、結局駆け落ちのような形で、二人して流浪の旅に」
「はあ……」
 思わずため息のような声が漏れる。
「それで、ゼルガディスさんは、結局……」
「ええ、戻れましたよ。紆余曲折の果てにね」
「どうせあなたが、いろいろ邪魔をしたんじゃないの、ゼロス」
「えーまあ話せば長くなりますよ」
「じゃあアメリアさんたちも、めでたくご結婚なさったのね。よかったわ」
 ゼロスのうなずきに、フィリアはほっと安堵の息をついた。彼らがそういうことになっているのはもちろん知っていたが、それでも「めでたしめでたし」という締めくくりを聞くのは嬉しいことだった。もうすでにこの世にはない人たちの過去を語っているというのに、不思議な幸福感を感じていた。
「よかった──みなさんが幸せになれて」
 あの四人が、それぞれのパートナーと結ばれたことをフィリアは心から喜んだ。
 リナとガウリイが誰も入り込めないほど強い絆で結ばれているのはわかっていた。剣を担いだ長身のガウリイのかたわらに、小柄な体がますます小柄に見えるリナの姿があること、キメラの体を白い服ですっぽり包んだ、いつもどこか不機嫌そうなゼルガディス、その横をちょこまかと元気いっぱい、とても大国のお姫さまには見えないアメリアがくっついていること、のほほんとしたガウリイと鈍なアメリアは気づかないそれぞれの相手の恋心に、似たもの同士のリナとゼルがときどき小声で互いをからかい、やりこめあっていること。
 あの四人が、いつも一緒にいるのは、とても自然で、とても似合いだった。
 ……大飯食らいで、後先考えない、最強最悪のパーティではあったけど。
「セイルーンという国は、今でもちゃんとあるんでしょうね?」
「ありますよ。僕たち魔族には大変ありがたくないことにね。アメリアさんの怨念が支配しているかのごとく健在です」
 さしずめあの正義のヒーローを自称する少女なら『失礼な! 私の正義と愛を愛する心が国に永遠の平和をもたらしているのです、と言って下さい、ゼロスさん!』と意義を申し立てるところだろう。フィリアは想像してくすりと笑った。
「アメリアさんやゼルガディスさんのお墓も、やはりそこに?」
「ええ、二人仲良く並んで葬られてますよ」
 いつか必ず訪ねよう、ヴァルと一緒に。
「リナさんとガウリイさんのお墓は、リナさんの故郷のゼフィーリアにあります。あの国の観光名所みたいになってますよ」
 見晴らしのよいこの小高い丘から、フィリアは遠くに眼を転じた。小さく海が見える。その向こうに、かつてリナたちと出会った別の世界がある。
「そうそう、肝心なことを言い忘れました。リナさんたちのお子さん方のことですけどね」
 ふむふむ、とフィリアは聞き耳を立てた。
「聞きたいですか?」
「あったりまえでしょう!」
 声を立てずにゼロスは笑った。人指し指を唇の前に立てて。
「それは──秘密です」
 またの機会にでも、今日は楽しかったですよフィリアさん、と声だけを残して、またたくまにゼロスの姿は空に溶けてしまった。
 フィリアは、もう! と声をあげたが、やがて苦笑を浮かべた。今日は楽しかったわ、ゼロス私も。



 戻ってみると、木陰でヴァルは満腹の幸せそうな笑みを浮かべて、一心に寝入ってしまっていた。
 昼下がりのやさしい風が心地よい。
 ヴァルの髪をなでながら、ぼんやりとあたりを眺める。
 頭上から何かが降ってきて、ちょうどフィリアの膝にぽとんとおさまった。きらきらと輝くそれは、青く深い海の色のアミュレットだった。
 どこかで見たことがある、と記憶をたぐりよせようとしたとき、ふたたび声が空をよぎった。
「忘れるところでした。おみやげです−−リナさんたちからの」
 フィリアはそのアミュレットをどこで見たのか懸命に思い出そうとし、思い至ったとき、すでにアメリアの名を声に出して呟いていた。
「そうです。アメリアさんが身につけてたやつなんですけど。さてフィリアさん、ここで問題です。アメリアさんは自分たち四人のことをなんと呼んでいたか覚えていますか? それがキーワードになってますから」
 やれやれ、これでやっとお役御免ですよ、という呟きを最後に、今度こそゼロスの気配は消えた。フィリアは一瞬沈黙し、人指し指をくちびるにあてた。確か、確か────。
「えっと……せ、せーぎの仲良し……四人組?」
『ぴんぽーん! 正解でえーす!』
 ぱん、とアミュレットがはじけ散ったかと思うと、大きな声があたりの静寂を破った。
 ────アメリア、さん。後ろにいるのはガウリイさん、リナさん、ゼルガディスさん。
 薄く透きとおったヴィジョンの四人組が、フィリアの目の前に立っていた。
 別れたときのまま少しも変わらない、元気な姿と笑顔で。
 おそらくはアメリアのアミュレットにこめられた魔法の一種。
 フィリアは息をのんだ。両手で口をおおい、こみあげてくるものを必死に押さえ、自分の名を呼ぶ、あのなつかしい声を聞いた。

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25991Re:伝言〜夢で会いましょう〜 後編じょぜ 2003/5/18 05:33:51
記事番号25990へのコメント

        伝言〜夢で会いましょう〜   後編



『やっほーフィリア。元気ィ?。当然よね。これを見るころ、あたしたちはとっくに墓の中だけど、あんたやヴァルガーヴはのほほーんとガウリイみたいになーんにも考えずに生きてるんだろうし』
『なんにも考えてないとはなんだ、オレだってちっとは』
『ちっとね。ほーんとーにちょびっとね。あんたののーみそにふさわしくほんのこれっぽっちよね』
『しくしくしくしく……』
『かわいそうですよリナさん、いくら本当のこととはいえ』
『アメリアまでひどい………しくしくしく』
『……あのなあ、お前ら、一応これは俺たちからの遺言なんだから、もうちょっと、しんみりとした雰囲気でいこうとは思わんのか。第一フィリアが何が何やらわからんだろう』
『てゆーゼルの相変わらず根暗なツッコミが入ったので、以下、重々しく行きたいと思いまーす』
『はーい』
『わかったー』
『……ほんとにわかっとんのか』
『えーと、まずどんな話からいこうかな。あのあとあたしたちは、無事にこっちの国に帰還しました』
『船賃かせぐために、大変だったんですよお。こっちの通貨がないから、いろいろアルバイトしてなんとか船に乗るためのお金だけは稼いだんですけど、ごはん代がないから、結局船の中でも皿洗いのアルバイトして』
『そうそう、リナはオレたちににばっーかやらせて自分はさぼってるんだぜ』
『そのくせ飯の時間にはしっかり帰って来るしな』
『うるさい今はそういう話じゃないでしょ! 人がせっかくしんみりいこうと思ってるのに横からチャチャ入れるんじゃない!』
『えっ、茶なんていれてないぞ?』
『……………じゃ続き、アメリアいきなさいよ』
『えーと、じゃあまずあたしとゼルガディスさんのらぶらぶな冒険談からいきますね』
『こら待て』
『えーと、あたしはセイルーンに帰ったんですけど、ゼルガディスさんは一緒についてきてくれませんでした。ひどいですよねー。思
わせぶりなこと言っといて、乙女心をもてあそぶなんて』
『をい』
『もちろんあたしの正義の心はそんなことを許しませんから、ゼルガディスさんの後を追うことにしました! そして、旅の途中、盗賊やモンスターや魔族たちの、数々の悪事や陰謀を打ち砕き、世の中に正義を広めたかいがあって、晴れて! あたしとゼルガディスさんは結ばれたのですっ!』
『……………あのな』
『へーそうなのか。すごいなあアメリア』
『………いや、てゆーか、これからあんたセイルーンに帰るんでしょ? それに晴れて、の後がいくらなんでも飛ばしすぎじゃない?』
『どーしてですか! 一字一句たがわず、真実を伝えているじゃないですか!』
『んじゃゼル、これってホント?』
『……ノーコメントだ』
『結ばれる予定なんです! ああっゼルガディスさん、他人のフリなんて正義じゃないですっ!』
『じゃあ次ガウリイ、は無理だから置いといて』
『うんうん』
『……己をわきまえたセリフだな』
『ガウリイさん、ひとことぐらいフィリアさんに挨拶しといたほうが……』
『そっか。んーと。よ、ようフィリア、元気か? ちゃんとメシ食ってるか? そういえば、きのう食った昼メシの中華丼、めちゃくちゃうまくてさあ』
『はい次行きましょう。フィリア、今のは即忘れて。ゼルあんたよ』
『………まあ、俺たちが死んだことを知っても、あんまり悲しまないでくれよ。やりたいようにやって墓の中にいるだろうしな、特にこの二人は』
『人のこと言えないでしょーが』
『というよりはな、この二人に果たして死ぬときがくるのか、はなはだ疑問なんだ俺は。殺したって死にそーもない奴らだしな?』
『そうですよね、ガウリイさんはともかく、リナさんならきっと魔族並に生きるような気がして……』
『やかましいっ!』
『おいっ! アメリアが白目むいてひっくり返っちゃったじゃないかっ!』
『ここで死ぬのはいくらなんでも早すぎるぞ』
『うるさいうるさいううるさいっ! ほら次行くわよ次!』
『おまえだ』
『わ、わーってるわよ! え──こほん』
『……うっうっひどいですうリナさあん……』
『よしよし、泣くな泣くな』
『リナには金輪際逆らわないほうがいいぞ、うん』
『(あんたら覚えてなさいよ……)えーっと、まあ、見ての通りあたしたちは元気。
 と言ってもこれを見るとき、もうあたしたちはこの世にはいないけどね。
 ゼロスにそう頼んだのよ。時間が経ってから渡してくれって。目安としてはヴァルガーヴの卵が孵ったあとってとこかな』

 ひとすじの涙がフィリアの頬を伝った。

『ま、あのスットコ神官のことだから、どこまで約束を守るかはわかんないけど。
 あんたと同じくらい長生きする知り合いなんて、あいつしかいないからね。
 あたしとガウリイはね、これからガウリイの新しい剣を探しに行くとこ。光の剣手放しちゃって、すっかりいいとこなくなっちゃったからね、こいつ』
『そうそう、けど気長に探すさ。リナもいてくれるし、な?』
『………ま、まあ、ゼルの目的はあんたも知ってるだろうけど、これを見るときには、ゼルの体、元に戻って……ました、ていう結果になってるといいわよね、ほんと』

 ほんと、ゼルガディスさん、おめでとう。

『ちなみにこれ話してる時点で、あんたと別れてから一ヶ月くらい経ってるのかな。記憶が薄れないうちにと思ってさ。とくにこいつ』
『人を指さしちゃいけないんだぞリナ』
『これから俺たちは、それぞれの目的に向かって別れるところだ』
『あたしはいったんセイルーンに帰ります。でもっ! ゼルガディスさんをひとりにしておくのはあたしの中に流れる愛と正義の血が許しません! すぐに後を追ってみせます!
 ね、ゼルガディスさん?』
『…………おう』
『やーがんばれよー』
『あらら顔が赤いわよ、ゼールちゃあん?
 というわけで、そろそろこの映像も終わりっ! なんせ夕飯どきでね、もうお腹が空いちゃって。あ、ここ、あんたと出会った港町よ』
『リナさんのドラグ・スレイブの被害は、まだあちこちに残ってますけど……とりあえず、こんなところです』
『アーメーリーアー? あんたもたいがい口が減らないわねー?』
『? アメリアにはちゃんと口ついてるぞ?』
『ああっ今度はガウリイさんの後頭部に巨大なたんこぶがっ!』
『だからリナ、ここで殺すなと言ってるだろ』
『ぜーはーぜーはー……。あーもうなんかちゃんとした遺言にならないじゃないのおっ! フィリアが見たときこれじゃ泣けるどころか大笑いになっちゃうわよっ!』
『まあいいじゃないですか。シリアスモードはリナさんには………じゃなくて、あたしたちには似合いませんから』
『ふん、ま、まあね』
『まあそうだな』
『うん、なんだかわからないけどオレもそう思う』
『……………』
『さ、さあリナさん、気を取り直して挨拶挨拶。ゼルガディスさん、ガウリイさんも』
『じゃあなフィリア。リナみたいにすぐキレるなよ』
『イライラすることがあってもさあ、あの重たい棒、あんまり振りまわすなよな、危ないから』
『困ったことがあったら、いつでもセイルーンに来てくださいねっ!』
『んじゃっ! フィリア、元気でね!』



 お元気で。
 その言葉で、リナたちと別れたのだった、あの闘いの終わりに。
(同じ言葉をまた聞けるとは思わなかったですよ、リナさん)
 フィリアの脳裏にふいによみがえったのは、別れぎわにひとりひとり、手を振りながらかけてくれた言葉だった。思い出すたびに泣きたくなるので、いつのころからか記憶の底に閉じ込めてしまっていた最後の光景。

 ──いいフィリア、女は気合いと根性よ!、明るく打たれ強く! わかった?
 ──フィリア、ヤなことがあったらさ、うまいもん食べて、笑いとばしちまえ!
 ──フィリアさん、いつまでもヴァルガーヴさんと仲良く暮らしてくださいね。
 ──ま、元気でやれよフィリア。

 ヴァルの静かな寝息が聞こえる。涙はもう出なかった。
「はい。元気ですよみなさん。会えて嬉しかったです、とても」
 胸がいっぱいになってフィリアは大きく深呼吸した。
 いつかヴァルに話してあげよう、今はもういない、たいせつな友人たちの物語を。今夜はきっとあの人たちの夢を見る。

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25998Re:伝言〜夢で会いましょう〜 後編オロシ・ハイドラント URL2003/5/19 21:54:13
記事番号25991へのコメント

こんばんはラントです。
同時に二つ分いきます。

>「おなかがすいたよう。ちょっとだけ食べてもいいだろ?」
わあ……可愛いんだろうなあ。

> フィリアは頷いた。ただのヴァルよ、と訂正しようと思ったが、ゼロス相手にそんなことを言ってもたいした意味はないだろう。
「ただのヴァル」ってなんか良いですねえ。

> やがてリナとガウリイが結婚して、子どもが生まれたことを知らせてくれた。ゼルガディスが目的を果たして、今はセイルーンにいるというごく簡単に書かれた便りも届いた。手紙がくるたびに、いろいろな出来事が起きているらしく、読みながらフィリアは笑い、少しうらやんだ。読み終わったあとはいつも会いたくてたまらない思いにかられた。
> けれど、いつのころからか、フィリアの店に彼らが立ち寄ることはなくなっていた。リナたちにはそれぞれ生活があり、昔のように気ままな旅に出ることはなくなっていたからだった。
すべてが終わってしまった感じで寂しげですね。
時の流れの無情さを改めて思いました。

>「えっと……せ、せーぎの仲良し……四人組?」
>『ぴんぽーん! 正解でえーす!』
> ぱん、とアミュレットがはじけ散ったかと思うと、大きな声があたりの静寂を破った。
> ────アメリア、さん。後ろにいるのはガウリイさん、リナさん、ゼルガディスさん。
> 薄く透きとおったヴィジョンの四人組が、フィリアの目の前に立っていた。
> 別れたときのまま少しも変わらない、元気な姿と笑顔で。
> おそらくはアメリアのアミュレットにこめられた魔法の一種。
> フィリアは息をのんだ。両手で口をおおい、こみあげてくるものを必死に押さえ、自分の名を呼ぶ、あのなつかしい声を聞いた。
おおっ!
……でも哀しみを誘う。

後半は引用なしで

あの明るさが良かったです。
逆に哀しさを誘って……。
逆にフィリアが寂しさを感じてしまうかも知れない。
生き続けることの辛さ。
ちょっと私の気分まで……。
……人の心を動かす小説って凄いです。
一つの作品に一つの大きな主題を持たすことが苦手な私にはなおさらです。

それではこれで……失礼致しました。

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26002四人組はきっと永遠に不滅っ!じょぜ 2003/5/20 01:22:06
記事番号25998へのコメント

オロシ・ハイドラントさま。

あはは,なんだかしんみりさせてしまったみたいで恐縮です。^^;
この話を書こうと思ったのは,でぢたるこれくしょんシリーズ(CD-ROM)がきっかけです。
渡部監督が各話解説をしてるんですが,最終話で、
「ヴァルガーヴの卵がかえるのリナが見ることはない。寿命が違いすぎるから。でもそのうちリナたちの子どもたち?が見に行くかも」
とあって,それがヒントになって書いてみました。
四人の結婚式ぐらいはフィリアも行ってるような気もするんですが,あえて,切なさを倍増させるため(爆),あの後はあんまり会いませんでしたという設定にしてみました。

四人の会話の部分は,ギャグっぼくうまく行ってるどうか心配でしたが,書いてて楽しかったです。

では,読んでいただきありがとうございました。m(__)m

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25999感動しました〜!!鈴咲時雨(すずさきしぐれ) 2003/5/19 21:54:50
記事番号25991へのコメント

はじめまして!鈴咲時雨と申します☆

タイトルにもありますが……感動しました!

それも、切ない、とか悲しい、とか言うのではなくて
なんか胸の中に温かなものがひろがっていく……。ような感じの。

長い時間の中、ある意味4人に取り残されたと言ってもいい、フィリアの独白と言う形で、話が展開していくにも関わらず不思議と寂しさや悲しさがなく、読んでいて(そして読み終えて)とても幸福を感じました。

あと、この話はこのまま普通にTRYの後日談としてアニメ化出来てしまいそうな気がします。文体やお話自体がアニメ(原作)のイメージそのままで。

自分は2次創作を書くときは、キャラを変えたりはしていないんですが、原作。またはアニメとは別物として話を組み立てている(自分的)ので、こうしたアニメ(原作)のイメージそのままと言うのはすごいと思います。

自分、じょぜさんのお話を読むのはこれが初めてなのですが、何としてでも過去ログを漁って全て読みたいですv

それでは……長い上になんか理屈っぽいような意味ワカメーのような感想でごめんなさい。↓(_ _)↓
これからも頑張ってください〜(^▽^)。

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26003初めまして。じょぜ 2003/5/20 01:35:11
記事番号25999へのコメント

鈴咲時雨さま。

初めまして。じょぜです。
読み終えて幸福感を感じたとの感想ありがとうございます。
死にネタでも,決してアンハッピーな話のつもりで書いたのではありませんので,嬉しかったです。
スレイヤーズはアニメから入ったので,どっちかっていうとアニメ派なんですが,イメージを壊してないようで一安心です。ヽ(^o^)〃

あと,私は最近になって投稿し始めたので,過去ログにさかのぼるほど作品はないです(汗)。でも読んでみたいというお気持ちはとーっても嬉しいです! ありがとうございます。
初投稿は,この作品の下のほうにある「安息の日」というやつですので,よかったらお読みくださいませ。

感想ありがとうございました。では。m(__)m 。

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26031Re:『安息の日』読みました〜☆鈴咲時雨(すずさきしぐれ) 2003/5/22 20:36:02
記事番号26003へのコメント


 早速、さかのぼって『安息の日』、読ませていただきました〜!
 ヴァルガーヴに対するフィリアの心……読んでて胸が苦しくなりました。
 特に
 
>>──神さまお許しください。私はここまで自分が醜く堕ちることができるなど思ってもみませんでした。私は同族の死が少しも悲しくない。むしろ喜んでいるのです、泣きながら。

 は、自分にとってはアニメを見た当時から今まで、全く読み取れていなくて衝撃を受けました。
 確かに、フィリアは悲しいと同時に嬉しかったんでしょうね〜。ヴァルに近づくことが出来たんですから。

あと最後のフィリアの独白

>>笑顔が憎しみに変わるとき、私はあなたに殺されるために待っているから。憎しみを育てて生きることを、ふたたびあなたに選ばせないために。最後の償いを完成させるために。

も、とても印象に残りました。。。ステキな台詞ですねぇ。(><)

 短い文章の中で場面が何度も変わるのに、読みづらくないところもすごいです。改行や、アニメの台詞を上手に使ってるなあ、と感じました。
 ああ、うらやましぃ……場面の移り変わりって難しいんですよね、自分(涙)


 あ、あと最後に……こういう言い方をするのは失礼だと思うのですが、すごく上達しているなぁ、と思いました。(『夢で〜』と比べて)本当に。
 4日間でここまでどうして上手くなれるんだ〜!?と読み比べながら考えてしまいます。




 それでは……長々と理屈っぽい下手な感想でゴメンナサイ(TT)
 今後の投稿も楽しみにしておりますv

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26040うひゃあ……。じょぜ 2003/5/22 21:58:19
記事番号26031へのコメント

 うわあ,ありがとうございます。しかしほめすぎですよ。^^;
 「安息の日」にレスがついて調子づいて、先に書き上げてあった「伝言」のほうを,あっちゃこっちゃ修正して出したんです。わっはっはっ。

 ヴァルフィリって言いますけど,私の中ではフィリア→ヴァルガーヴって感じなんでどーしても片思いっぽくなっちゃいますね。
 最終話ラストバトル,ヴァルガーヴとフィリアが,なんか「二人の世界」って感じで見つめあってるじゃないですか? あそこの表情がいいですね〜。まわりがおいてけぼりだけど(笑)。特に主役のリナとかリナとかリナとか。

 安息の〜はフィリアのテーマソング・Somewhereの歌詞を参考にしたんです。巫女さんなのにずいぶん恋愛ちっくな歌詞だなあ(笑)と思っていたら,あの歌詞は渡部監督によると,リナたちに会う前のフィリアの心情なのだそうです。
 純粋培養のお嬢さまが神殿の外の世界に憧れを持っていたんだなと解釈し,「私を待っていたのはこれなの」ってセリフにそのあたりの感情をこめてみました。

 アニメだとフィリアとヴァルガーヴの関係は別に恋愛関係とまでは描かれてませんでしたが,そこはそれ,妄想を暴走させてみたということで。はは。
 13話,洞窟でのフィリア&ヴァルガーヴ&ゼロスのやりとりなんか,おいおいおまえら三角関係かよ,とつっこみながら見てました。ゼロスがフィリアを抱き上げて,ヴァルガーヴの上に落とそうとするあたりとか。

 支離滅裂な文章ですいません。呼んでくださってありがとうございました。m(__)m  

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