◆−おつかい(十七)−星空 (2003/2/26 22:22:14) No.24953
 ┣おつかい(十八)−星空 (2003/2/28 22:12:45) No.24964
 ┣おつかい(十九)−星空 (2003/3/1 16:18:45) No.24972
 ┃┗Re:おつかい(十九)−D・S・ハイドラント (2003/3/1 21:07:59) No.24981
 ┃ ┗Re:おつかい(十九)−星空 (2003/3/3 17:18:04) No.24998
 ┗おつかい(二十)−星空 (2003/3/8 15:54:51) No.25075
  ┗Re:おつかい(二十)−D・S・ハイドラント (2003/3/9 19:26:21) No.25099
   ┗Re:Re:おつかい(二十)−星空 (2003/3/15 18:25:30) NEW No.25194


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24953おつかい(十七)星空 2003/2/26 22:22:14


おつかい(一)〜(十六)までのあらすじ
両親におつかいを頼まれた少年レイシャス。
森の中で迷って、三人の男女と出会い、一緒に旅をすることになった。
盗賊団に出会ったが、なんとかやり過ごし、次の町に着いて、ほっとしたのもつかの間。
何者かに攫われた上に、町がキメラに襲われて、壊滅状態となってしまった!!


 

       おつかい(十七)                      
(全く、ついていないぜ。)
はぁーっ、と煙草の煙を吐き出し、魔道士協会の協会員を勤めている、三十代の魔道士は、同僚達にテキパキと指示を下しながら、心の中でぼやいた。
ほんのちょいとした気持ちでこの町に立ち寄った。
すぐに帰るつもりが、事件が発生し、(魔道士は、キメラ討伐に備え全員協会に集まるように)との指示が下り、知り合いの同業者と応接間でのんびりお茶を飲んでいた彼も、引っ張り出された。
仕方ないので、ミーティングに顔を出した。
「貴方は攻撃魔法が使えますか?」と聞かれたので、「使えない」と答えたら、
「それでは、連絡係か、後方支援、救急の三つのチームのどれかに入ることになります。貴方は、救急のチームに入っていただきます。」と一方的に言われた。
治癒魔法なんて、簡単な「治癒(リカバリィ)」程度しか知らないので、抗議しようとしたが、対応にあたっていた事務員は無視して、「はい、次の方」とさっさと話を進めていった。
女事務員の背に向かって、呪いの視線を送ったのは言うまでも無いが、そうしたところで、決定が変わるわけでもない。
ふてくされた顔で、野戦病院代わりに当てられた施設に行くと、怪我人が次から次へと担ぎこまれており、魔法医や薬草や薬品を扱う魔道士はその対応と治療に追われていた。  
轟々と嵐のような喧騒と、ぴりぴりと張り詰めた緊迫感が漂う修羅場さながらの様相に、どうすればいいのか分からずに、ぼーっと突っ立っていると、突然、「君!!」と呼ばれた。
「へっ?」
「なぜそこで突っ立っている!?早くこっちに来たまえ!!」
血があちこちに飛び散って付着した白衣を着た、白髪の老医師の熱気と形相に気圧され、担架の側に近寄った。
担架に乗せられた患者は致命傷に近い怪我を負っており、切り裂かれた傷口から、
血が沢山流れ出ていた。
一目見ただけで、顔から音を立てて完全に血の気が引いていった。
口を押さえて倒れそうになったが、老医師はそれを許さなかった。
彼の手にガーゼを握らせ、血がドバドバ流れている傷口に近づけた。
「傷口を押さえなさい!!違う、そうじゃなくて、もっと強く!!」
離れることも出来ず、泣く泣く押さえにかかった。
他のスタッフが手伝いに駆けつけて来たとき、ほっとしたが、そのまま手術室に直行ということになった。
医師やスタッフが連発する、医療器具の名前に戸惑いながら、何とか無事に終えたかと思ったら、手術室を出たところで、別のスタッフが腕をがっしりと掴んだ。
有無を言わさぬ強引さで、ずるずると今現在いる場所、事務室に連れていかれた。
「じゃ、後はよろしくお願いします。」
スタッフはどこかへ行ってしまい、後には、血塗れの服を着た、男一人が残された。
事務室を取り仕切っていた、貫禄のある中年の婦人は、眼鏡越しに彼を見て言った。
「・・・・・・とりあえずは、着替えないといけないわね。女性が見たら、気絶するかもしれないから。」
着替えた後、婦人から、「これをお願いするわね。」と山ほどもある書類を渡され、それからずっと、受付の応対と書類の処理をしていた。
ようやく夜が明けた先程、差し入れの食事を山ほど食べて一息ついたところである。
患者達の間で交わされる会話は、昨夜における事件についてが多く、他の事を話題にしている者はいないのではないかと思われた。
それにともなって、怪しげな噂も囁かれていた。
曰く、謎の光線が現れ、化け物が降臨した。
伝説中の赤眼の魔王が現れた。
あの盗賊殺し(ロバーズ・キラー)のリナ=インバースがいるのを目撃した等。
他にもいろいろとそれらしい噂が囁かれ、討伐のために派遣され、調査をしている軍関係者や警備兵たちを困惑させていた。
前述の噂のうち、魔王降臨説とリナ=インバースが関わっているという説が支持されていた。
なぜなのかと彼が聞いてみると、「だって、破壊者じゃないの。」「騒動のあるところには、リナ=インバースの影ありと言われるじゃないか。」という答えが多く返ってきた。
事件の発端を知っている、政府、町長、軍関係者、警備兵、魔道士協会は、「そのようなデマを信じないように」という声明を出している。
この病院にも声明の張り紙が貼ってあるが、噂話に熱中している人々が読んでいるのかどうかはよく分からない。
そう思いながら、分厚い書類を抱え、事務室のドアを開けた時、子供の集団と出くわした。
驚く彼に、付き添っていた警備兵が言った。
「瓦礫になった家の地下室にいたんだ。なぜ、こんなに大勢の子がいたのかはまだ分からないが・・・・、ともかく、無事でよかったと思うよ。」
「はぁ。そうですね」と言い終える前に、警備兵と子供達は通り過ぎていった。
無言でそれを見送っていると、今度は、あちこち焦げた服を着た老紳士と警備兵がやって来た。
どこか怪我を負っているのか、二人とも歩みがぎこちない。
名前を聞き、書類に書きこんだ。
老紳士の名は、ゼルガディス。
警備兵のほうの名は、ジェイスという警備兵隊長の部下の一人、ルクトということが判明した。
すぐに診療と手当てを行っている部屋を案内し、ルクトには警備兵たちの大将とも言える上官からの命令を伝えた。
ルクトが「他の同僚達は・・・・?」と聞いた。
「お名前をお聞かせ戴ければ、この病院に来ているかどうか確かめることが出来ますが。」
書類を繰りながら答えると、ルクトは、十二もの名を挙げた。
一人か二人くらいだろうと思っていたので、慌ててメモをとり、確認した。
「・・・・エルノア様、ウィリ様、ルア様、スイ様、ジン様は来られているようですね。それ以外の方は、記録されていません。」
「そうですか。」
二人が診療室に入ったのを見届け、事務室に戻ると、女性事務員が、赤毛の男と押し問答していた。
「ですから!!お尋ねのお方は、ここに来られてはいないのです!!」
「嘘をつけ!!隠しているんだろう!!」
「隠しているもなにも、名前が記録されていないのですから、間違いありません!!」
赤毛の男の連れと思しき黒髪の男は、うんざりした顔で、二人を隔てている、カウンターの側で腕組していた。
赤毛の男は、焦げたのか、髪をカットしたらしいが、結果、変な髪型になっており、危うく吹き出しそうになった。
それに気づいたのか、赤毛の男が振り向き、女性事務員は、ほっとした顔で救いを求める眼差しを向けた。
苛立ちを含んだ青い目に、冷や汗が出たが、表面上は笑顔を取り繕い、カウンターに近づいた。
「当院に何のご用件でしょうか?」
「あんた、ここの職員か?」
「似たようなものです。」
「じゃあ、ここに、男の子が来ていないか?レイシャスという名で、年の頃、十三、四の子だが。」
女性事務員に「どうだね?」と聞くと、彼女は首を横に振り、「名前は記録されていません。」と答えた。
「記録されていないということは、ここに来られていないということです。」
「それはもうすでにそこの女性から何度も聞いた!!」
「落ち着いてください。もう一つの可能性があります。」
「なんだ。」
「まだ来たばかりなので、記録されていないということもあります。先程、子供の集団が入ってきましたが、きっと、それじゃあないですか?」
「本当か!?それは。」
「間違いありません。おそらく診療室のどこかにいると思います。しかし、名前を聞くのは、診療が終わってからにしてください。」
「わかった!どうもありがとう!!」
赤毛の男は不機嫌な顔から笑顔に変わった。
(現金なものだ)と苦笑していると、大きな手で強引に彼の手を握り、ぶんぶんと上下に振った。
手が離れた時には、腕はジンジンとしびれ、足元には、ファイルや書類が散らばっていた。
上機嫌で赤毛の男が去っていった後、黒髪の男が「お騒がせしてすみませんでした。」と頭を下げた。
「いえ。お探しのお子さんが見つかるといいですね。」
黒髪の男は「はい」と静かに言って、連れの後を追った。
女性事務員がようやくほーっと安堵の息を吐いた。
「あの、ありがとうございました。私一人では、怖くて・・・。」
「いえ、どういたしまして。あなたも大変でしたね。」
足元に散らばったファイル、書類を拾い、腕に抱える。
「あ!すみません!!手伝います!!」
女性事務員が一つのファイルと二枚の書類を手渡した時、同僚の事務員がやって来た。
「これ、新しく入ってきた子供の名前のリスト。よろしく。」
ずしっ、と重いファイルをカウンターの上に載せた。
(・・・・!!)青い顔で黒光りする表紙を見つめていると、「あ、そうそう」と同僚が呟いた。
「さっきね、子供たちの話をちらりと聞いたのよ。」
「それで?」
「なんかねーそろって妙なことを言うのよ。(黒服のお兄ちゃんが悪い女を倒して助けてくれた)って。」
「なんですか?それ。」
「知らないわよ。話を聞きに来た警備兵達にも同じ事しか言わないし。黒服のお兄さんとはどんな人か聞くと、こう答えるのよ。(見たことも無いし、名前も知らない人だけど、すごく背が高くてかっこよかった)って。」
「先輩はそれに関してどう考えているんですか?」
「どうかしら。分からないわ。けど、一人の女の子が、やけに詳しく語っていたので、警備兵によく聞かれていたわ。」
「へー、何ていう子なんですか。」
「たしか、リクという名前だったはずよ。茶色の髪の可愛い女の子。茶色の毛のかわいい子犬みたいで、私好みの子よ♪」
「先輩・・・・(汗)」
「何よ。」
「いえ、別に。なんでもありません。えっと、それで、その(かっこいいお兄さん)はどうしたんですか?」
「消えたんですって。」
「はぁ?」
「だーかーら、消えたんだって言っているのよ、その子が。警備兵もその辺りのところを何度も詳しく聞いたんだけれども、消えた、の一言だけよ。」
「はぁ。そうなんですか。まるで、話に出てくるヒーローみたいですね。私も小さい頃は憧れましたよ。任務を終えたら颯爽と去るその姿。ああ、なんてかっこいいの!!」
うっとりと手を組んで、自分の世界に入ってしまった後輩を怯えた目で見ている同僚を横目に見ながら聞いた。
「それにしても詳しいですね。ちらりと聞いただけという割には。」
「あら、だって、私、尋問に立ち会ったから。」
「そうですか。」
道理で詳しいわけだ・・・と心の中で呟く。
「あ、そういえば、あなた、他所から来たんでしょ。」
「ええ。」
「魔道士協会から派遣されたんでしょ。多分、旅をしているところで、集合の指示が出たから、ここに来たんでしょ。」
「そうです。それが何か?」
「だとしたら、当分はここから出られないわよ。この騒ぎだし。ま、しばらくは手伝ってもらうことになりそうね。」
「しくしくしく・・・・・」
「ほら、泣かないの!早くしないと、向こうで事務室のマダムが睨んでいるわよ。」
「はっ、はい!」
同僚の言ったとおり、町を出られるようになったのは、十四日目のことになった。
それからさらに十日後、町の門で人の出入りの管理をしている門番の名簿に、老紳士一人の名前が、二日遅れて、二人の男と一人の女性と少年の名前が記された。
全員、町を出た人間の名簿に記されていた。

「ふう、危なかった。」
門の近くの森。獣神官ゼロスは、汗を出してもいないのに、手で額を拭う仕草をした。
足元の地面は焦げており、嫌な匂いが漂っていたが、ゼロスのほうは笑顔のままである。
「あんまり派手に動くと、ゼルガディスさんに感づかれますし、そうなると、楽しみが半減してしまいますからね。」
本当なら、自分で事を引き起こすのは指一本動かすだけでも足りるのだが、そうするとおもしろくない。
後を付けてから大分たったが、ゼロスにとっては、まだ、前座のうちにしか過ぎない。
魔族のお得意の芸の一つ、空間移動を使い、空に出現した。
遥か遠くまでに広がる無窮の蒼穹。
ゼロスの紫の目は、北に向けられていた。










あとがき
前作のおつかい(十六)から早くも数十日が経ちました。
月日が過ぎるのはこうも早いのかと実感・・・・ぐふうっ!!←ファイルの角が後頭にクリーンヒット!!
「いつまで喋っているのよ。っていうか、これ、読んでいる人というか憶えている人いるわけ?」
あなたは、今作で登場した、事務員Aさん!!
「事務員Aっていうのはなによ!!これでもれっきとした名前があるんですからね!!」
でも、そういっているわりには、名前、一向に出ていませんが・・・・
「あんたが出していないからでしょうが!!ところで聞きたいことがあるんだけど。」
なんでしょうか?
「なんで、私が(茶色の髪の毛の子が好み♪)と言ったところで、後輩の子が黙ったのよ?」
それは、多分・・・えーっと、何か誤解されるような言い方をしたからではないかと・・・。
って、なにするんですか!?うあああああっ!!!←ファイル加重の刑を実行中
「というか、前作から数十日もほったらかしって、まずくない?それ」
私もそう思いまして、今作を書いた次第です。
「ほとんど突発的とも言っていいわね。」
うっ・・・・
「言っておきたいことがあるんだけど。」
えっ?なっ、なんですか、その怖い目は!?
「あのセリフ以来、後輩が私のことを奇妙な目で見るようになったのよ!!それどころか、なんかしらないけど、妙な噂まで立っているらしいし・・・・どうしてくれるのよっ!?」
ぐさっ!!ざくっ!!←太い注射針を頭に刺された。
「あ、やりすぎちゃったかな?てへっ♪」
てへっ♪で済まさないでくださいよう・・・・(涙)
な、なにはともあれ、ここまで読んでくださった人、ありがとうございます。
駄作ですが読んでもらえれば嬉しく思います。
それでは、また、お会いしましょう。





血塗れの作者を引きずり、事務員A退場。
カーテンが下りて終幕。









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24964おつかい(十八)星空 2003/2/28 22:12:45
記事番号24953へのコメント
            おつかい(十八)
町一つがキメラに襲われ、壊滅しかけたという噂は、あっという間に広まった。
情報伝達の道具はあるが、魔道士や国王、領主、豪商クラスの者にしか使えないし、電話やファックス、メール、テレビなどが無い世界である。
噂は、出来事を知るのには一番手っ取り早い方法なので、電波よりも速く広範囲にわたって広がっていったので、二十八日経った現在、政府が出した公式の声明よりも噂の方を近隣の国のほとんどの人間が知っていた。大陸中に広まるには、1週間もあれば足りるのではないかと思われた。
ただし、噂というのは、伝言ゲームに似たようなところがあるので、事実で無い情報も混ざることがある。
怪しい噂も、依然として根強く、(リナ=インバースが関わっているらしい)という話は、事実に近いかそれと同じような感じで、伝わっていた。
事件を起こした張本人ではないが、関わっている、レイシャスと、三人の兄妹、ミンジェ、ハイヤル、センジェの四人は、その噂を聞くたびに、冷や汗をかいていた。彼らは、二つ離れたシティに滞在している。
レイシャスは、祖母(シルフィール=ネルス=ラーダ)の話から、伝説の女魔道士を知っているということで、事件調査のために尋問にきた、警備兵や軍関係者に、(リナ=インバース関与説)について聞かれたが、彼は否定した。
知っているといっても、実際に会ったわけではないし、事実なのかどうかもよく分からないので、「分かりませんが、多分、違うのではないかと、自分は思っています」と答えた。
一応納得したらしく、それ以上は聞いてこなかったが、もう一つの事件、アズラという女妖魔が引き起こした、誘拐事件については、被害者でもあり当事者でもあるということで、根掘り葉掘りしつこく聞かれたので、うんざりしていた。
自分がアズラの攻撃を受けて気絶した後の記憶が無いので、証言も自然と曖昧になり、そこを重箱の隅をつつくように細かく質問され、その上、「黒服の長身、美形の青年」について心当たりが無いかと執拗に聞かれたときには、「それはこっちが知りたいよ!!」とキレて、病室の枕を投げつけそうになった。
ゼルガディスやミンジェたちが駆けつけてこなかったら、町を出るのは、もっと遅くなっていただろうと確信していた。
ふうっ、と息を吐き、ホタテの貝柱入り、クリーム・スパゲッティをフォークに絡めた。
向かいの席では、ハイヤルが砂糖とクリームをたっぷり入れた、お茶を飲んでいる。病院で会った時、髪型が変わっているのに驚いたが、ハイヤルは、炎で焦げてしまったので、カットしたと、不機嫌な顔でいった。
あまりにも不揃いなので、妹のセンジェが、カットし直したらしく、今は、よくなっている。
そのセンジェは、手洗いに行って、いない。レイシャスの隣の席には、ミンジェが、空っぽの皿の山を前に、暇つぶしにと、魔道士協会が発行している新聞を読んでいた。
ちらりと見ると、創刊者はメディオ=グランシップという名の魔道士と明記されていた。
真面目な顔で読んではいるが、記事の内容は、(湖で謎の光線を目撃!!)といった胡散臭い噂とスキャンダルネタで埋め尽くされていたので、本気で読んでいるのか、それとも、冗談なのかよく分からなくなった。
ちゅるん、と麺を喉に流し込んだとき、「あのー、すみません」と声をかけられた。
見ると、黒いおかっぱ頭の神官が立っていた。
レイシャスが返事をする前に、「何の用かしら?」センジェが背後から笑顔で聞いた。
「あ・・・えーっと、この少年は、貴女とそこのお人との子ですか?」
神官がミンジェを指差してきくと、センジェは間髪を入れず、「違うわ」と否定した。
神官の質問に、レイシャスは隣に座っているミンジェを盗み見たが、彼は聞いていたのかいなかったのか、新聞のページをめくっていた。
血縁者かもと思ったことがあるが、髪の色はともかく、目の色が違うので、ありえまいと考えていた。
センジェは懐から出していた小刀で、おかっぱ頭の神官、ゼロスの首筋を撫でて、「用が無いなら他所に行ってくれる?」優しい声で囁いた。
「はぁ、そうですか。じゃ、他所をあたるとしましょう。」
あっさりと引き下がったので、センジェは、小刀を懐に素早く収め、ゼロスが出て行くのを見送り、ハイヤルの隣に座った。
ミンジェが新聞を折りたたんだ。
「今のは誰だ?」
「胡散臭い神官よ。気にするまでも無いわ。」
「そうか。」
ミンジェは無表情のまま、頷くと、新聞の間に挟まれていたメモを反芻した。
(任務を続行せよ。用心を怠る無かれ。)
「ハイヤル。」
「何だ?」
「これ、読んでみろ。」
「えー??あんまり面白くなさそうだな。兄上の読むものって、堅苦しい上に、生真面目なものが多いからなぁ。遠慮しとくよ。」
「お前の好きな美人の絵も載っているぞ。」
「読む!!」
ハイヤルが新聞を掴み取り、早速広げて、鼻の下を伸ばしている間、ミンジェは顎に手を当てて考え込んだ。
(あの神官。センジェに刃を当てられている間、目が笑っていた・・・。)
いや、目は笑っていたが、本心では笑っていないというところか。
怒っているとかそう言うのではなく、(貴女では、お相手にはなりませんよ)といった感じか。
いずれにしても、(単なるただの流浪の神官)というのでは無さそうだと、レイシャスの頬っぺたについたクリームを見て、ハンカチを渡している、妹を見て思った。




レイシャスたちが滞在しているシティの警備兵詰所。
噂を聞きつけて、情報を得ようと、ジェラルド=イシュガルデは、退役した警備兵に贈られるピンバッジをつけて訪ねた。
現役時代、警備兵同士で情報交換をしたことがあるので、そのつてを利用しようと思ったのである。
運のいいことに、合同捜査の際に、出会って知り合った、警備兵の一人が隊長になっていた。
早速噂について聞くと、「ああ、事件については本当ですよ」と答えた。
「魔王が出ただの、伝説の女魔道士が現れただのという与太話まで出ていますがね。あれは、デマですから、信じないほうがいいですよ。まあ、あの事件で、非合法のキメラ実験を行っていた魔道士は、極刑が確定しましたね。」
「キメラが突然暴走したことについては、どうなるのだね?」
「あれは、容疑者の魔道士が、わざとそうなるようにと、指示していたと、自白したそうです。捜査の際に、誰かが入ってきたら、暴れるようにと。」
もともと、非合法の実験を行ったものは極刑と、法で決まっていますが、それよりももっと重くなるでしょうね、という後輩に、ジェラルドは、「ところで・・・」と切り出した。
「人探しをしているのだが・・・レイシャスという名の人物を知らないかね?」
「レイシャス?親戚の方か何かなんですか?」
「まあ、似たようなものだ。」
「うーん。レイシャス・・・レイシャス・・・あっ!!そうだ!!」
「何ですか!!」
「思い出しました。えっとですね、うちの近くに住んでいる、お婆さんの名前です。彼女なんじゃないですか?」
「違うわっ!!私が探しているのは、男だ!!女ではない!!」
「男の人なんですか?」
「ああ。」
「ですが、私が知っているのは、その人だけですよ。」
「うーむ。」
そこへ、ドアが開き、青白い顔をした若い警備兵が入ってきた。
「あのー、隊長。」
「なんだ、何か事件でも起こったのか?」
「あーはい。そーです。殺人事件です。宝石店を経営している主人が自宅で殺されましてね、カミさんが発見したそうです。」
「わかった。すぐ行く。」
「あー、それと。」
「なんだ?はやく言え。」
「あー、えーと、以上です。」
「紛らわしい言い方をするんじゃない!!私はこれからすぐ現場に向かうから、待機するように伝えてくれ。」
「はーいー。」
「返事はきちんとしろ!!はい!!と元気よく!!」
「はーい。あー、あなたは、確か、退官したお方ですよねー?人探しに来られたとか。」
「そうだが?」
「レイシャスという名の人でしょう?僕、心当たりがあるんですよー。」
「何!?それは本当か!!」
「えっ、ええー。だから、そんなに首を揺さぶらないで下さいようー。」
「あっ、ああ、すまん。で、それで、彼は今、どこにいる?」
「犬小屋です。」
「は?」
「だから、肉屋の親方の家にある犬小屋ですよー。可愛い黒犬で、五歳のオスです。」
「・・・・・・すまないが、彼を殴ってもいいか?」
「むしろそれ以上を行ってもオッケーだ。私が許可する。」
「ひどいですよ隊長ー。」
「馬鹿者!!茶化すようなことを言うからだ!!」
「さっきのは冗談ですよー。」
「だったらさっさと言わんか!!」
「僕は知らないんですけどー。従兄弟で、事件のあった町に住んでた奴がいるんですよー。」
「それで?」
「その町で勃発していた誘拐事件で、子供が攫われていたんですが、1ヶ月前ほどに帰ってきたんですよー。調査が行われたのは言うまでも無く、結果、10名を超える子供たちが、とある家の地下室に閉じ込められていましたー。何があったのかまだ詳しくは解明されていませんが、アズラという名の女とレイシャスという青年が関わっていたらしいですー。」
「何だって!?」
「子供たちからの証言によると、アズラという女を青年が倒したとかいうのが多かったそうですが、裏が取れていないので、決定的な証拠としていいのか判断しかねているようですー。」
「なぜ裏が取れないのだね?」
「当の本人がいないからですよー。それに、同じ名前の少年がいたのですが、関連があるのかどうか分からず、尋問がすんだ後、町から出させたようですー。もともと、その少年は、旅の途中で、巻き込まれただけのようですからー。」
「その子は今、どこにいる!?」
「どこにいるのか分かりませんが、サイラーグの有名な一族、ラーダ家の者を名乗っていたそうですー。祖母は、シルフィールとかいう名だそうでー。」
「・・・・・・!!分かった!!」
警備兵の襟首を掴んでいた手を離し、ジェラルドは、「ありがとう!!助かりました!!」礼を述べてその場を後にした。
警備兵隊長が半開きのまま揺れている部屋のドアを見つめ、ポツリと呟いた。
「私達も出かけないと・・ところで、さっきの話、誰に聞いたんだ?」
「あーあれ、あれはぁ・・・言えませんね。」
「なぜだ・・ってお前!?」
振り向いた隣には警備兵はおらず、かわりに、白い髪の豪華な衣装を着た青年が立っていた。
「はじめまして・・・・実を言うと、宝石店で、殺人事件、というのは嘘の報告でしてね・・・」
「なっ・・・何者だ!!貴様!!」
「あなたには意味の無いことですよ。」
「だっ・・・誰か!!こいつを捕まえろ!!不法侵入者だ!!」
「無駄ですよ。貴方の声は誰にも聞こえません。」
すっ、と手を伸ばし、警備兵隊長の頭を鷲づかみにした。
「ぐっ・・・むっ!!」
何とか振りもどこうと、もがいていたその体が、止まり、床に倒れた。
「これからの計画を続行するには、邪魔が入ると困るんですよ。ねぇ?ミリエラ」
「何をしているのかと思えば・・・情報を流したくらいで、エラそうにするんじゃないわよ。カタネス」
部屋の窓に腰掛け、黒髪を猫の耳のように結って、可愛い色鮮やかな服を着た少女がいた。
青年と同じく床に影は無く、二人が人間でないことを表していた。
「何をしたのよ一体?」
「記憶を消しただけさ。心配しなくてもいい。」
「そう。ならいいけど。早く退散しないと、面倒くさいことになるわよ。」
「それは残念。伝令の警備兵という役、気に入っていたんだけどね。」
「あんたがそうしたんでしょうが。さ、いくわよ!!」
二人が姿を消して、数分後、書類を運びに来た女性警備兵が、倒れている隊長を発見し、騒ぎになりかけたが、本人が目を覚ましたので、そうはならなかった。
何故寝ていたのか首を傾げていたが、「疲れているんじゃないか。休みを取ったほうがいい」ということで、上司から、五日間の休暇を言い渡されたそうである。






ところかわって、サイラーグ・シティ。
ラーダ一家は、いつものように過ごしていた。
あいも変わらぬ、のんびりとした風景だが、シルフィールの娘夫婦の三人の子のうち、一番年下の妹の部屋を開けようとした姉がびびっていた。
「あ、あんた。何なのよ、その部屋は・・・」
黒1色で統一したその部屋は、黒の蝋燭や、怪しげな獣の絵が描かれたタペストリーが掛けられており、祭壇には怪しげなお香が焚かれ、まるで、呪術でも行うかのような雰囲気である。
そして、部屋の主である少女は、黒1色のローブに身を包み、ぶつぶつと呪詛にちかい言葉を呟いていた。
兄の旅立ちに、黒の布で包んだ、呪いの方法の仕方を書いた紙を、選別にと送った子だから、変わっているといえるが、まさかここまでとは思っていなかったわよ・・・と心の中で、姉は呟いた。
呪詛か呪文か分からぬ言葉を呟いていた妹は、ぴたりと口を閉ざすと、くるりと振り向いた。
「お姉様、邪魔しないで下さいな。今、わたくしは、とても大事な儀式を行っている最中なので。」
とても大事な儀式って、いったい何よー!?と怯えながら、「そ、そおなの・・・ごめんなさいね(はあと)」といった。
妹はそれに満足したのか、再び(とても大事な儀式)とやらの続きを行った。
ドアをそっと閉めて、足音を立てぬように、廊下を数歩歩いた時、父親とぶつかった。
「あ、お、お父様。」
「おお、ユリアか。どうかしたのか?」
「いっ、いえ、ルリカの部屋に行ったのですが、なにか、大事な事をしている最中だからと、追い出されまして・・・」
「とても大事なことか・・・あいつはませているからな。だれか、好きな子に、ラブレターでも書いているんだろう。」
「そっ、そうかもしれませんね。」
「可愛い俺の子だ。もてないはずがない!!」
うん!!と満足しているその姿に、(絶対にあの部屋で行われていることを言えない・・・)とユリアは思った。
その日、ルリカの部屋では、一晩中怪しげな声が聞こえたという・・・・。












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24972おつかい(十九)星空 2003/3/1 16:18:45
記事番号24953へのコメント

        おつかい(十九)
ちゅん、ちゅん。チチチチチ・・・・・
可愛らしい鳴き声で、早起きの鳥たちが、朝を告げる。
サイラーグ・シティの屋敷の一室で、ルリカは目元を縁取る、黒い隈とともに、夜明けを迎えた。
「ふふふふふ・・・・・・・ようやっと完成しましたわ。」
彼女の前にある祭壇には、怪しげな人形が山と積まれていた。
「前にお姉様をターゲットにして、実験した時には失敗しましたけれども、今度こそは、上手くいくはずですわ。」
前に姉をターゲットとして、自らの呪いの効果を確かめたが、一向に効かず、逆にラッキーな出来事しか起こらなかったので、兄をターゲットにしていたのである。
「題してー不幸の呪い!!これは完璧に効きますわよ!!」
あの暢気で、頭に超がつくくらいぼけぼけしている兄なら、格好のターゲットと決めていたのである。
「ほほほほほっ!!餞別と称して、贈った、あの黒い袋こそが、呪いの印!!お兄様、うかつでしたわね!!」
「朝っぱらから、不気味な笑い声を上げるんじゃないッ!!」
バンッ!!とドアが開き、パジャマ姿の姉が入ってきた。
「おっ、お姉様ッ!?」
起きたばかりのようで、長い髪は寝癖がついて、蛇頭の女、メデユーサの如くになっていた。
「聞いたわよ・・・あんた、レイシャスに何したのよッ!?」
「ほんのちょっとした悪戯ですわ。お姉様♪旅の途中で、ちょっとした怪我にあうとか、下痢をするとか、たあいの無いことですわ♪」
「どこがじゃああああっ!!じゅーぶんに、危険でしょーがッ!!っていうか、あんた、あたしにも同じようなことをしていたわけッ!?」
「ええ♪でも、お姉様の場合は、ラッキーなことしか起こりませんでしたので、いいではありませんか。」
「よくないいいいいっ!!」
がっくんがっくん首を揺さぶる姉と、「ほほほほほ」と笑いつづける妹。
その光景に、召使達は、「仲のよいことで」と微笑ましく見守っていた。
サイラーグ・シティは、今日も平和であった。



町は、今日も平和であった。
「こーしていると、1ヶ月ほど前のことが、嘘のように思われるなー。」
「そーですねー。」
お茶を飲みながら、レイシャスとミンジェ二人は、ほのぼのと過ごしていたが、窓の外で、ハイヤルとセンジェが、剣を抜いて殺伐とした喧嘩を繰り広げてさえいなければ、平和とも言えた。
レイシャスが来た時には、二人はすでに剣を抜いており、ミンジェはお茶を飲んでいたので、「止めなくていいのか?」と冷や汗をかいたが、仏のような安らかな笑顔で(このとき、後光まで見えたとレイシャスは後に語っている)、ミンジェがお茶とお菓子を進めたとき、「止めなくてもいいだろう」と考えを変え、現在に至っている。
「ところで、ミンジェさん。宿屋のひとが言っていましたが、ご近所のお爺さん、百歳をむかえたそーですよ。」
「やー。それはおめでたいことですねー。」
「飼っている猫が5匹子猫を産んだので、もらってくれないかと頼まれました。」
「残念ですねー。旅している最中でなければ、私が申し込もうと思いましたよ。」
「猫がお好きなんですか?」
「ええ。大好きですよー。」
ぎいんっ!!とハイヤルが、センジェの剣を跳ね返した。
センジェは素早く剣を返し、喉を目掛けて突きを入れようとする。
白熱した剣の試合に、野次馬が「ねーちゃんがんばれ!!」だの「若いの負けるな!!」だのといって、さらに煽っている。
センジェに押されているのに焦り、ハイヤルの顔色が変わった。
後ろに下がり、剣の持ち方を変えた。
底冷えするような殺気に、野次馬の歓声が、ふっと消えた。レイシャスの笑顔も凍りつき、カップを持っている手が小刻みに震えた。
ハイヤルの目は、もはや試合ではなく、命を奪おうとする目に変わっていた。
センジェもそれ以上攻撃するのは止め、剣の持ち方を変えた。
双方睨み合うこと、数分。レイシャスの喉はからからに乾き、顎から汗がテーブルに滴り落ちた。
だっ!!とどちらからともなく、地を蹴り、そして、剣が交わされようとした瞬間。
「そこまで。二人ともあまり熱くなるな。」
二人の動きは寸前で止まった。
ミンジェと金髪の剣士が間に剣を入れ、剣が届かないように、動きを止めていた。
人間じゃないだろ!!と思えるその動きに、レイシャスと野次馬全員が心の中で突っ込んだ。
仲裁のために出された剣を鞘に収め、安堵したのもつかの間。
ミンジェが、電光石火の動きで、剣の鞘ごと、二人の頭を叩いた。
ごつん!!ごつん!!と音がした後には、頭を抱えている、二人の男女がいた。
周りにいる全員があんぐりと口を開けている中、ミンジェは、くわっと口を開いて怒鳴った。
「この馬鹿者!!こちらのお方が止めてくださらなかったら、お前たち二人の命は無かったぞ!!」
「〜〜〜〜っ!!」
「いや、まあ。そこまでせずとも。それに、俺はたいしたことしてないですよ。」
金髪の剣士は、困ったような顔でいった。
ミンジェだけが気づいていた。自分の動きよりも、金髪の男の動きのほうが、コンマ何秒単位の動きで、速かったと。
周りから見れば二人の動きは、ほば同時に動いたように見えても、金髪の男のほうが、わずかに速かったのである。
弟や妹、そして自分よりも、数段上の実力の持ち主に違いないと、ミンジェは確信した。
「おじい様!!どこにいらっしゃるのです?」
「ここにいるぞー。」
人垣を分けて、赤い髪の少女が飛び出してきた。
(将来は凄い美人になるな)とハイヤルがじーっと見ているのへ気づいた少女は、ツン!!とそっぽを向いた。
ガーンッ!!とショックを受けている兄に、センジェは、(お馬鹿)と冷たい視線を送った。
「リルカ。ついてきたのか?」
「とうぜんです。おばあ様から、許可を受けているのですから。」
「まいったなあ。」
ぽりぽりと頭をかいて、のんびりとした口調でいう金髪の男に、(孫!?ってことは孫がいるのか!?にしては不自然に若いぞ!!)と全員がまたもや突っ込みをいれた。
「あーえーっと、俺は、ガウリイ=ガブリエフっていうものなんだが・・・何しに来たんだっけな?」
「ヲイ。」ハイヤルがびしいっ!!と手で突っ込みをいれた。
「迎えに来たはずですわ。おばあ様が、そうおっしゃっていたではありませんか。」
「おー。そーだった。」
ぽんっ!!と手を叩いているその姿に、ミンジェは、(・・・・・本当に凄腕の剣士なのか?)と思った。
「思い出した!!えーっと、ここに、レイシャスって子がいるはずなんだが、あんた、知らないか?」
「!?」
がばっ!!と身を起こそうとした、二人を手で制し、「彼に用があるのか?」とミンジェがきいた。
「うん。あいつのばーちゃんと知り合いだし。」
「知り合い?」
それはどういうことなのか?ミンジェが口を開くより早く、窓が開き、レイシャスが、叫んだ。
「ガウリイさん!!僕のお祖母様と知り合いなんですか!!」
「うん。そーだよ。ばーちゃんの名前、シルフィールっていうんだろ?」
「そうですけど。」
「彼女から頼まれたんだ。迎えに行ってやってくれって。」

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24981Re:おつかい(十九)D・S・ハイドラント 2003/3/1 21:07:59
記事番号24972へのコメント

こんばんは
かなりお久しぶりです。

ゼルに続いてガウリイ登場。
若いのはわけありでしょうか。

・・・にしてもレイシャスに凄い妹が・・・
まあそーいうキャラ結構好きですけど・・・多分。

ミリエラ+カタネスは新たな敵とかなんでしょうか
そしてレイシャスの秘密のこと・・・

かなり壮大な話になりそうですね。
大変かと思いますががんばってください。

次回も期待して待ってます。

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24998Re:おつかい(十九)星空 2003/3/3 17:18:04
記事番号24981へのコメント

>こんばんは
>かなりお久しぶりです。
>
お久しぶりです。D・S・ハイドラントさん。星空です。
読んで下さって、ありがとうございます。
>次回も期待して待ってます。
>
はい。頑張って書いてゆこうと思います。

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25075おつかい(二十)星空 2003/3/8 15:54:51
記事番号24953へのコメント

おつかい(二十)
「北へ行け」という両親からの言葉を元に、おつかいの旅を続けている少年レイシャス。途中で、ミンジェ、ハイヤル、センジェの三兄妹も加わり、以来ともに旅をしている。
盗賊と出くわし、祖母の知り合い、「学者王族」ゼルガディスと出会い、キメラが引き起こした町への侵入と破壊事件、誘拐事件に巻き込まれた。
幸いなんとか無事ではあったが、「謎の神官」ゼロス、元警備兵兼捜査官ジェラルドが後を追い、さらには、「謎の黒服の美形の青年」が現れた。
後を追うものに、ミリエラ、カタネスも加わり、三兄妹の長男、ミンジェには、「任務を続けよ、用心を怠るなかれ」というメモが送られた!!
宿でお茶をすするレイシャスの元に、「迎えにきた」という男が現れた。
彼の名は、ガウリイ=ガブリエフ。少女リルカを連れていた。


「お祖母様に頼まれて迎えにきたとおっしゃいましたが、僕はそのようなことは、聞いていませんよ?」
ハイヤルとセンジェの喧嘩が、ミンジェとガウリイの仲裁によっておさまったので、外には、野次馬は全ていなくなり、宿屋の従業員が、洗濯物を干していた。
四人に割り当てられた部屋で、「祖母の知り合い」ガウリイは、ミンジェが淹れたお茶をすすり、「ふーっ」と息を吐き出した。
「ん。まあ、そうだろうな。頼んだのは、おそらく、お前さんが、家を出た後だからな。シルフィールが「孫を遣したが、ついているのかどうか気になって」うちに連絡を寄越したんで、女房が「迎えに行ってくれないか」ということで、ここに来たんだ。」
「ふーん。」と呟いているレイシャスの横で、ハイヤルが、頭を回転させていた。
レイシャスの今までの話からして、旅に出たのが、約3ヶ月前。
出会ったのが、2ヶ月と3週間前。
ガウリイと名乗る男が、出発したのは・・・・?
お茶菓子を食べながら、「それにしても、大きくなったなー」とレイシャスに笑いかけているガウリイに、ハイヤルがきいてみた。
「ガウリイ殿は、どこから来られたので?」
「ゼフィーリア王国。」
「ゼフィーリア王国から・・・」
そうですか。と言いかけて、ハイヤルの頭がフリーズした。
ゼフィーリア王国といえば、知っている範囲で言えば最も北にある国で、「拳骨一発、岩をも砕く」という言葉が表すとおり、やたらと力が強い人間が多く、数多くの優秀な魔道士や傭兵を輩出している。特産品はたしか、ワインのはずである。
伝説の女魔道士の故郷も伝え聞くところによると、その国にあるという。
で、確か、女魔道士の仲間と言われた人間に、ゼルガディス、アメリア、ガウリイの名があるはずで・・・・・レイシャスの祖母の知り合いというからには、彼がその仲間の一人なのか?サイラーグ・シティの伝説に、光の剣というのがあったが、光の剣の勇者の末裔を称していたのが、ガウリイという名の剣士だったというし・・・。
(ひょっとして、自分は、とんでもない人間を相手にしているのか!?)
突然頭を抱えたハイヤルに、リルカが奇妙なものを見るような視線を送った。
センジェも思い当たることがあるらしく、彼女のこめかみから、一筋の汗がつつーっと流れ落ちた。
「最北端の国から来たのでは、旅が大変だったでしょうな。」
ミンジェがきくと、リルカが「おばあ様の特訓に比べれば、このような旅など大変ではなかったわ。」と自慢するようにいった。
「おばあ様の特訓って・・・?」レイシャスが首をかしげた。
「熊と格闘するとか、山篭りして、滝に打たれ、サバイバル生活をするとか、あと、呪文を唱えるのに必要な、カオス・ワーズを唱える訓練とか、とにかくいろいろやったわ。特に、カオス・ワーズを唱える訓練では、上手く出来なかったら、晩御飯抜きだったから、必死だったわ。その他、いろいろな理論を覚えるのに、分厚い羊皮紙の本を読んだりもした。でも、おばあ様やお母様によると、おばあ様のお姉様、つまり、大伯母様の訓練はこれよりも厳しかったそうだから、平気よ。今では、ドラグ・スレイブも打てるのよ。」
「ドラグ・スレイブを打てる」の一言に、ハイヤルは飲んでいたお茶にむせて、ごほごほと咳をし、センジェは自分達の両親が幼い頃に施した訓練に思いを馳せて涙し、ミンジェは、無表情のまま、レイシャスは、「ドラグ・スレイブ」がどういうものか知らないので、「すごいなー」と感心した。
「あなた、ドラグ・スレイブって、どんなものか見たい?」ルリカがいって、「うん!!」とレイシャスがこたえたとき、三兄妹は(それは止めたほうがいい)と心の中でいっせいに突っ込んだ。
幸いにして、ガウリイが「ダメだぞ。ルリカ。おばあ様が(ドラグ・スレイブは使ってはいけない)といっていたことを、忘れたのか。」と注意したので、ルリカはしゅんとなり、ドラグ・スレイブを見せることは止められた。
「あっ、でも、どうやってここまできたんですか?馬を使ったとしても、かなり時間がかかると思うんですが。」
「あー。それは・・・」
「おじい様!!言ってはいけませんわ。約束したではありませんか。」
「おっと、そうだったな。残念ながらそれは言えない。すまんな。レイシャス。」
「は・・・いえ。」
ぽんぽんと自分の頭を撫ぜる、その大きな手が温かく、くすぐったい感じで、レイシャスは首をすくめた。
「それもしても、彼のいる場所が、よく分かりましたね。」
ミンジェの質問に、ガウリイが「女房が魔道に長けているので。」とあっさり答えたので、ハイヤルとセンジェの口から、(やっぱりー!!)という思いから、ぴょろろろろ、と人魂が吐き出された。
これで二人は確信した。目の前にいるこの男、ガウリイ=ガブリエフは、伝説の女魔道士の仲間の一人だと!!
「俺達って、運がいいのだろうか?」
「さあ・・・・」
ひそひそと声を交わす二人を尻目に、レイシャスはルリカとおしゃべりを始めた。
にこにこと笑顔で見守るガウリイ。ミンジェは冷めたお茶をずずーっとすすると、今夜の予定は何だったかな、と思い出そうとした。

ジェラルドは迷っていた。
「話には聞いていたが・・・複雑な道だな。」
尋ね人の情報をやっと得たので、とりあえず、名前を挙げて「こういう名前の子は来ませんでしたか」と町中の宿屋を片端からあたっていくと同時に、「溺死体の謎の青年」「行方不明になっているラルゲフィア商店の令嬢」「ラルゲフィア商店の評判」について聞くことも忘れなかった。
「レイシャス」という名の子供についてどこにいるのかは、聞き込みをした結果分かったが、「溺死体の謎の青年の身元」は分からず、「ラルゲフィア商店の令嬢」は今だ見つからず、「商店」については「しっかりした業績をあげている、サービスの良い店」以外の評判は出てこなかった。
「うちも、ラルゲフィア商店さんにはお世話になっていますよ。」とある宿屋の女将さんは、誇らしげに言った。
「本当にいい店でね、良い品物を速く届けてくれるので、助かっていますよ。聞いたんですけれども、今度、新しい店を、出すそうですよ。」
レイシャスが泊まっているかどうかについては否定したが、他の宿屋にいるんじゃないかと答えた。
6軒目の宿屋へ行こうとしたが、道が分からないので、喫茶店のウエイトレスに聞いて、メモを取った。
いざ行かん!!と気合を入れたのはいいが、似たような壁が多い複雑な道のおかげで、早くも迷っていた。
「メモのとおりに行けば、間違い無くつくはずなのだが・・・」
頭上では、空が夕日の光で赤く染まり、カラスが鳴いていた。
さきほどから、ずっと歩いていたので、足がくたびれている。
ぐう〜〜と鳴ったお腹を押さえ、ジェラルドは呟いた。
「・・・・・今夜は、近くの宿屋をとって、探すのは明日にするか・・。」
いちばんぼーし、みーつけたー。とはしゃぐ子供の声が、路地の向こうから聞こえてきた。
晩御飯は、魚料理と新鮮なビールとおつまみに決定だな、とジェラルドは重くなった足をひきずりながら、明かりのともっている、宿屋の玄関に向かった。



「ゼルと出会ったって?」
夜、ガウリイに請われて、レイシャスは、今までのことを話していた。
センジェとリルカもその場にいた。ミンジェとハイヤルは、用があるからと、どこかへ出かけていた。
ゼルガディスと出会ったくだりを話していたところで、ガウリイが声をあげたので、センジェは(ゼルガディス様のことは、今後は、ゼル様♪とお呼びしよう。)とメモをした。
「え、あ、はい。そうです。最初は分からなかったけど、ミンジェさんたちの話から、後で分かったんです。」
「そっかー。そうだったのか。あいつはどうしてた?元気だったか?」
「はい。お元気でした。」
「で、その後、どうしたんだ。あいつと出会ったということは、一緒にいるんだろ?」
「えーっと、それが、用があるからと、先に行ってしまったんで、どこにいるのか、分からないんです。」
「そうか。」
がっかりするガウリイに、「あ、でも、もしかしたら、近くにいるかもしれませんよ」と慌てていった。
後では、ゼルガディスのサインを「譲れ、譲れない」と女性二人が火花を散らして交渉をしていた。
「そうだな。そうかもしれないな。」
「お祖母様から、貴方のことをよく聞きました。」
「そうか。どう思った?」
「かっこいい人だと思いました。特に・・・」
特に?
「・・・・・・」
どうしたのだ?昔は聞かれたときに、その話をすらすらと口に出せていたのに?
黙りこくったレイシャスを不審に思ったのか、ガウリイが、「どうした?」と手をさし伸ばし、頬に触れた。
「・・・ふっ、これが最後の値段よ!!銀貨6枚、銅貨9枚でどうだ!!」
「買った!!」
交渉にけりがついたのか、リルカがガッツポーズをした。
センジェがサインをしてもらった品物を渡し、リルカの頬が染まった。
「・・・・・えっと、フィブリゾとの闘いが、一番印象に残っています。」
「なんだ。あの闘いは確かに難しかったが、俺は何もしていないぞ?」
苦笑いして頭をくしゃくしゃにするガウリイ。
レイシャスは胸が痛むのに気づいていた。



夜道を二人の男が歩いている。
ミンジェとハイヤルである。今、用を済ませて、宿屋への帰途についているところであった。
晩御飯の後、出かけようとする二人を呼びとめた食堂の親爺は、出かけると聞いて顔色を変えた。
「あんたら、こんな時間に出かけるのは止めたほうがいい。」
「なぜだ?」ハイヤルがきく。
「知らないのか?幽霊が出るんだよ。それも大勢。」
「夜に幽霊が出るだのといった類の噂はどこでも聞くが、実際に会ったことはないぞ。」
「会ってみたらそんなことは言えなくなるぞ。俺の友人は、周りが止めるのも聞かず、出かけた結果、寝込んでしまい、「幽霊が・・・」とうわ言を言った挙句、死んだんだよ。」
親爺のセリフの後、その場で酒盛りをしていた地元の人間が次々に口を開いた。
「俺の息子も、死ななかったが同じようになった。」
「俺の娘は、男友達数人と肝試しにと幽霊を見に行ったが、全員寝こんでしまった。医者にみせたが、なかなか治らないんだ。」
「それだけじゃないぞ。幽霊を見て寝こんだ夫の看病をしているカミさんが、医者にみせても良くならないので、それならと、良くあたると評判の占い師のばあさんに、占ってもらったら、「幽霊の呪いを貰っておる。」と言われたそうだ。」
「俺の家内が寝込んだので、占い師のばあさんに見てもらったら、同じようなことを言われた。なんでも、幽霊が怒っているらしいとか。」
最初は薄ら笑いを浮かべていたハイヤルだが、次第に無表情になっていった。
経験談を皆が話し終えた後、親爺が、「だから、悪いことは言わんから、止めとけ。」と言って肩を叩いたそのとき。
突然、ハイヤルは喉をそらして、からからと笑った。
食堂の蝋燭に付いている火を揺らすその笑声に、皆が首をすくめた。
笑いがおさまらないのか、くっくっと肩を揺らしていたハイヤルは、顔を上げると、獰猛な笑顔を浮かべて言い放った。
「そうか。それほどまでにいうなら、この俺が幽霊を退治してやろう。それなら、どうだ?」
「それならどうだって、あんた、見たところ、剣を持っているようだが、あんたと同じようなのが、幽霊退治に向かって、帰ってこなかったんだぞ。」
「そうだ。そうだ。」と頷く者たちに向かって、ハイヤルは笑顔を崩さぬまま、こういった。
「そう言われるとますます挑戦したくなるな。」
「挑戦したくなるなって・・・おい!!これは冗談で言っているんじゃないぞ!!」
「分かっているさ。」
「分かっているんだったら、止めとけよ。あんたも、この若いのに何か言ってやれよ。」
親爺は背後で始終一貫して無表情のままのミンジェにいったが、彼は親爺の期待を裏切るセリフをいった。
「幽霊が出ようと出るまいと、関係ない。我々は、用があるのだから。それに、そう心配せずとも、自分の身を守るだけの術は身につけている。」
「と、いうわけだ。誰か、明かりを貸してくれないだろうか?これから出かけるから。」
はぁーっ、と溜め息を一つ。
首を振りながら、親爺は奥に引っ込み、しばらくして、一つの提灯を手に出てきた。
「幽霊に出くわさないように祈っておくよ。」
「その通りになったら困るが、ありがたく受け取っておくよ。」
ドアを開けて、二人が出ていった後、酒盛りをしていた男たちは、「あの無謀な若者二人は、戻ってくるか、こないか」を賭けはじめ、ほとんどの者が、「戻ってこない」に賭けた。
「あんたはどっちに賭ける?」ときかれた親爺は、首を振った。
「賭ける気も無いよ。結果は決まりきっている。自分にできるのは、祈ることだけだ。」
ブーブーとブーイングの声を上げる酔っ払いたち。
親爺は「もうすぐ閉店するから、そろそろ帰れ!!」と声を張り上げた。
賭けの対象にされていることを知らぬハイヤルは、やがて来る幽霊との闘いに、胸を躍らせていた。

びゅうううう・・・・と乾いた音を立てて吹き荒れる吹雪のもと、二人は黙々と歩みを進めていた。
「うーっ。寒い。耳がちぎれそうだ。」
何か温かいものが欲しいなあ。とハイヤルが口に出した。
ミンジェは目を細め、口を結んだままである。
ざくざくと革のブーツが、冷たく固まった地面を踏みしだき、足跡をつけた。
ハイヤルが宿屋から借りた提灯の微かな明かりが、闇を照らし、白い雪に覆われた道と、風に吹かれて二人の体を叩く、雪を見せていた。
「おい。見ろよ。明かりがあるぞ。」
ハイヤルが、ちらちらと小さく揺れている小さな明かりを指差した。
「こんな時間に出歩く奇矯な人間は俺たちだけかと思ったら、他にもいたようだな。」
「・・・・」
時々消える不安定な明かりは、だんだんとはっきりしたものになり、ついには、明かりを持っている人間の姿が見えるまでになった。
ミンジェとハイヤルの二人は、冷たい塊が身の内からせり上がってくるのを、止めることが出来なかった。
煌煌と輝く魔法の明かりを戴いた燭台を掲げ持つのは、煌びやかな女官の衣装に身を包んだ、白骨だった。
似たようなものたちが、それぞれの手に宝石で輝く大きな箱、小さな箱、靴を乗せた絹製のクッションなどを持っていた。
道の端で凍りついたまま動けぬ二人は目に入っていないのか、この世のものならぬ存在たちの行列が通りすぎて行く。
女官、侍従の衣装に身を包んだ白骨の行列の真中に、様々な宝石で飾り立て、金の柱を使った豪奢な籠があった。
籠は、巨体の白骨、四体の担ぎ手が運んでおり、中は、布のカーテンと目の細かいレースが何十にも重なっていて、乗っている人間が見えないようになっていた。
籠からは、美しい香りが漂い、ハイヤルは、鼻をひくひくと動かした。
豪勢な行列が通りすぎ、見えなくなった頃には、二人の手は凍傷寸前のしもやけで冷たくなっており、睫毛は白い霜でばりばりに凍っていた。
「・・・・・・」
二人はぎぎいっ、とロボットのように首を動かし、無言で顔を見合わせた。
ハイヤルが紫色に変色した唇を開く前に、ミンジェがそれを手で制し、「何もいうな」というふうに首を振った。
その後、二人は雪を蹴散らして馬よりも速く走り、宿屋に着いて布団に入ったときには、「なんだってまた、こんな夜おそくに出る羽目になるんだ」と医者の小言を聞かされ、悪夢と高熱で散々にうなされたそうである。
二人のうわ言から出来事を推測したセンジェが、食堂の親爺から聞いて顔を青くした。
地元では「幽霊の行列」で有名な、悲劇に巻き込まれて亡くなって以来、いまだこの世をさ迷っている、昔の貴族の娘の幽霊だといわれていることが判明。
賭けで「二人が戻ってくる」に賭けていた男たちは、「戻ってこない」に賭けた者に袋叩きにされたそうである。

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25099Re:おつかい(二十)D・S・ハイドラント 2003/3/9 19:26:21
記事番号25075へのコメント

こんばんはラントです。
・・・レスが送れてしまいました。

ゼル、ガウリイと登場して、次はアメリアとか出るのでしょうか・・・。

そして今度は幽霊事件
こういう風に事件が連なって話が進んでいくわけですね。

レイシャスのことに関しても気になりますし・・・。

これからもがんばってください。
次回お待ちしております。

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25194Re:Re:おつかい(二十)星空 2003/3/15 18:25:30
記事番号25099へのコメント

レス遅れてごめんなさい!!
読んで下さり、ありがとうございます!!(ぺこり)

>ゼル、ガウリイと登場して、次はアメリアとか出るのでしょうか・・・。
そのつもりでいます。
いつ出るのか分かりませんが、がんばって書いていきますので、よろしくおねがいします。

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