◆−大きな樹 第6話−リナ&キャナ (2002/9/5 15:03:13) No.21679
 ┣大きな樹 幕間2−リナ&キャナ (2002/9/5 21:47:20) No.21687
 ┃┗故郷の姉ちゃんが!−空の蒼 (2002/9/7 18:30:58) No.21717
 ┃ ┗ぁぅ・・・−リナ&キャナ (2002/9/9 11:14:25) No.21756
 ┣大きな樹 第7話−リナ&キャナ (2002/9/9 13:53:38) No.21759
 ┗大きな樹 エピローグ−リナ&キャナ (2002/9/9 13:54:23) No.21760
  ┗遂に完結ですね!−空の蒼 (2002/9/14 19:36:26) NEW No.21850
   ┗はい!完結しました!−リナ&キャナ (2002/9/14 20:00:31) NEW No.21851


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21679大きな樹 第6話リナ&キャナ 2002/9/5 15:03:13


L:えー。ひじょーに遅くなりましたが、第6話です。
Y:遅すぎ。
L:う・・・
Y:夏休み中に終わらせるとか言ってたくせに・・・
L:う゛・・・
Y:おまけに、短編まで書いちゃって・・・
  本編進める気あるの?
L:あう・・・
Y:まぁ・・・一応、こうして書いたんだから、特別に許したげるわ。
  これからは、ちゃんと続きを書くのよ。わかった?
  まったく・・・これだから、ばかな姉ちゃんと付き合うのは大変なのよ・・・
  大体、今回の展開、ゼロスファンに殺されても知らないわよ。私は。
L:はーい。
  ・・・って、待て(ツッコミ)


::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::


 小一時間ほどして。

 ゼルとルークの2人が降り立ったのは、町の北のほうにある、特に柄の悪い連中の集まる路地裏。そこにある、小さな喫茶店が目的地だった。
 この通りで、静かな音楽のかかる喫茶店。明らかに浮いているはずなのだが、なぜか不気味なほど回りになじんでいた。
「はぁ・・・はぁ・・・
 ここが・・・『本部』の入り口だ」
 ルークが小声で言う。
「それは良いが・・・
 やはり、魔力があまり残ってないんじゃないか?」
「ん・・・なこと、今は関係ねえ。
 それより入るぞ」
 平静を装い、さっさと店に向かうルーク。
 だが、ゼルの目には明らかだった。
 長時間、それも重量過多の状態で翔風界を使い続けていたのだ。
 これでぴんぴんしていたら、ゼルのほうが驚く。
 だが、それ以上は追求せずに、ゼルは黙って付いてった。

「いらっしゃいませ。
 2名様ですね。お席へご案内いたします」
 中に入ると、そこはごく普通の喫茶店だった。
 平凡なデザインのエプロンをつけた銀髪ショートのウェイトレスが笑顔で声をかけてきた。
 そのウェトレスに対して、ルークは小声で一言つぶやく。
「『水出し紅茶・ミルクをたっぷりと』」
 一瞬、ウェイトレスの表情が変わるが、すぐにもとの笑顔に戻って言った。
「では、こちらの席へどうぞ」
 ウェイトレスは、銀色の丸い盆を持ったまま、店の奥へと歩いていく。
 黙って付いていく2人。
 しばらく歩いてから彼女はくるりと振り返って、また笑顔を作って言った。
「特別ルームはこちらでございます。
 では、ごゆっくりどうぞ」
「その前に・・・」
 ルークはそう言いながら、左手でウェイトレスの首根っこをつかむ。
「なぜ、俺を素直にここまで連れてきた?
 俺を殺るチャンスはいつでもあったぞ」
「あら。
 これが罠だ、とかの可能性は考えないのかしら?」
「罠、だろうな。
 ただし、少なくともこの向こうにはまともな戦力はいねえ。
 そこら辺のチンピラと大差ないレベルだろうな」
「なぜ?」
「馬鹿か、おめぇは。
 ある程度、てめぇの腕さえありゃあな。その相手がドン位の使い手かくらい、一瞬で見分けが付くもんなんだよ。
 ましてや、部屋のこっち側まで気配がむき出しのやつだ。ろくな奴なわけがないだろう」
 彼の言葉は、あくまでも冷たかった。
 静かだが・・・暗い炎が燃え上がっていることがはっきりとわかる。
 しかし、後ろにいたゼルは冷静だった。
「おい。
 そのくらいにしておけよ」
「・・・
 ・・・・・・ちっ」
 手を離し、壁へと強く押す。
 どん。
 壁に叩きつけられながらも、ウェイトレスは冷ややかな目でこちらを見つめていた。
「まぁいいや。
 こんなザコをいちいち相手にしている暇もねえしな」
「何をする気だ?」
「こーすんだよ」
 ばたん!!
 扉を勢いよく開け、その中にウェイトレスを引っつかんで放り投げる。
「今だ!!やれ!!」
「うりゃぁぁぁぁ!!」
「ちょっと待ってちょっと待ってちょっと待って!!!」
 ぼかすかべきぐこ・・・
「氷結球!」
 かっきーん。
「ひどいぞ・・・これは・・・」
 ・・・一応解説しよう。
 扉の中で待機していたチンピラたちは、中に放り込まれたウェイトレスを『自分たちがぼこす相手』と思い込み、ろくに確かめもせずにタコ殴りにした。
 んで。まとまってリンチにしているところに氷結球なんぞを叩き込めば・・・
「雑魚をいちいち相手にしてられる様なところじゃねーんだよ」
 言って歩き出すルーク。
 ゼルは、半分呆れ、半分戦慄で沈黙したまま付いていった。



「ゼルガディスさん!!
 みんな!!・・・ってルークさんだけですけど!」
 微妙にラジオドラマを聞いていないとわからないネタをやりつつ、アメリアは喜びの声を上げた。
 だが、男性陣はその姿を見て言葉を失った。
 アメリアは・・・両手を鎖で拘束され、上から吊り下げられていた。足も同様で、壁に貼り付けにされている状態である。
 さらに言えば、彼女は服を脱がされて下着だけになっていた。また、腕や足に数箇所切られたらしき傷があり、白い下着に不気味なほど映えている。
「おい!
 見るなよ!!」
「頼まれても見ねーよ」
 ゼルが食って掛かる。
 呆れ顔で顔をそらすルーク。
 視線をそらしたその先に・・・
「おやおや。
 ご招待がお気に召しませんでしたか?」
「いーや。
 ありがてぇ位に凝った演出で」
 視線の先でニコニコと笑っている人物。
 その名は・・・ゼロス。
「な・・・
 ゼ・・・ゼロス・・・貴様・・・」
「おやおや、ゼルガディスさん。
 目上の人に対して『貴様』なんて言葉遣いは失礼ですよ」
「ゼロスさん!!
 あなたに正義の心はないの!!?」
「アメリアをさらったのは、貴様の仕業か!!
 何でこんなことを!!?」
 ゼルとアメリア。2人がゼロスに食って掛かる。
「その質問は・・・
 ルークさんにお聞きしたほうが良いんじゃありませんか?」
『!!!???』
 同時に視線をルークへと向ける。
「答えられませんか。
 まあ、それもそうですね。
 何しろあなたは・・・」
「やめろーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!」
 ルークは、あらん限りの大声で叫んだ。
 それは、ほとんど絶叫に近かった。
「ルークさん・・・」
 アメリアの言葉も、彼には届かなかった。

 やがて落ち着いたルークは、ぽつりぽつりと語り始めた。
 自分が・・・何のためにこの高校に入り、何をしていたか、を。


 彼は、物心付いたころから『組織』の中で暮らしていた。
 親の顔は知らない。育ててくれた大人たちの話によると、捨てられていたのを『組織』が拾ってきたらしい。
 いろんな技術を教え込まれた。
 忍びやハッキング(コンピューターはまだまともなものが存在しないが、魔道の鍵やプログラムをは破呪したりすることなどである)、盗聴など、いわゆるスパイ系の技能に、特に長けていた。
 それと同時に、偽の戸籍を『組織』から与えられ、各地の学校を転々としてきた。
 『普通』の生活、『普通』の子供というものを理解するためである。足が付きにくいように、いくつかの私立に入退学した。
 そして、2年前。
 澄雫高校の内部スパイとして、彼は派遣された。
 もっとも、正確に言えばスパイというより、トカゲの尻尾切りのためである。澄雫高校の中にはすでに、数年前からゼロスが化学教師という名目で入り込んでいる。つまり、何かの拍子でばれたときに身代わりにするためである。
 それをわかっていながら、彼は『働いた』。
 『普通』の生徒を装い、周りの生徒たちに適度に溶け込んで。周りの生徒たちが半ば呆れるような、くだらない笑いを取ろうともした。多少愚かしい行為をしても、「こいつだから」、と納得させるために。
 そうやって、1年が過ぎたあの日。


「ミリーナに初めて会った時・・・思ったんだよ。
 こんな生活嫌だ、ってな。
 生まれて初めてだった。 
 本気で『組織』を裏切ろうとしたのは」
 何度目かわからないため息をつく。
 長い沈黙の後、遠慮がちにゼルが口を開いた。
「その時に・・・
 その時に、足を洗おうとは思わなかったのか?」
「そりゃ、俺も考えたさ。
 だがな・・・だめだった。
 所詮、俺みたいな駄目な人間は、『普通』の生活には戻れねえ」
『・・・』
「それでも、俺なりに努力はした。
 ほら、あんた前に言ったよな。
 『本当は、周りに笑いを取るような性格じゃないんじゃないか?』ってな。
 それ聞いて思ったんだよ。
 周りの奴らは、『俺』を知らねえ。
 そんならいっそのこと、『笑わせてばっかりの俺』が、本当の『俺』になっても良いんじゃねえか、ってな」
「ですが・・・」
 横で黙って聞いていたゼロスが、ぽつりと口を開く。
「ですが、あなたはなお、『僕ら』に情報を送り続けた」
「ああ・・・
 そうだ・・その通りさ・・・」
 ついに項垂れ、口をつぐんでしまう。
 力が抜けたかのように、その場に座り込む。
 そのすぐ傍らには、血で汚れたアメリアの服が落ちていた。
「それで・・・
 それで、結局あなたたちは何をたくらんでいるんですか!!?」
 アメリアが、沈黙してしまったルークに代わってゼロスに問う。
 その時。
 ゼロスの懐から、小さな音がした。
 ポケベル・・・もとい、連絡用のレグルス番である。何かの合図なのか、甲高い音と低い音が、数度パターンを持って繰り返される。
 それがなんなのか理解したのか、ゼロスは突然笑い出した。
「何がおかしいんですか!!」
「いえいえ。
 たった今、素敵なゲストが到着したようですよ」
「素敵なゲストだと?」
 訝しげな表情を浮かべるゼル。
「ええ。
 ご紹介しましょう。
 どうぞ、こちらへ」
 ゼロスの合図で、奥の扉が開く。
 そこからやってきたのは、大男やボンテージファッションの女性など、以下にもしたっぱらしい4人組。
 それから・・・
 荒縄で芋虫のように拘束され、猿ぐつわをかまされた、ガウリイとミリーナだった。



 大男が2人に蹴りを入れると、案外すぐに目を覚ます。
 半ば呆然としていたルークが顔を上げ、再び大声を出した。
「てめぇら!!
 よくもミリーナを!!」
「おや。心外ですね。
 彼らは、学校の僕の部屋に無断で入り込んでいたんですよ」
「なんだって!!?」
 ミリーナのほうに向き直るルーク。
 彼女はしばらく視線をそらし・・・こくりと頷いた。
 そんな彼らを見ながら、ゼロスはにこやかに言う。
「ギャラリーは1人でも多いほうが、『僕ら』のためにもなるんですよ」
「!!」
 再びゼロスのほうを見る。
「おい、ルーク。
 一体何が・・・」
 ゼルが後ろから問う。
 ルークは視線はそのままで、だがきっぱりと言った。
「聖流雲家の封印をとくんだよ」
 その言葉を聞いたとたん、アメリアがゼロスに向かって叫ぶ。
「なんなんですか!!?
 私は、そんな話一度も・・・」
「そりゃあ、聞かされることもないでしょうねえ。
 ご両親方も、アメリアさんに話すわけにはいかな・・・」
 ゼロスの言葉は、途中でさえぎられた。
「破砕鞭!!」
 ばしゅばしゅ!!どさ!!
 アメリアの体を戒めていた鎖のことごとくが、誰もここに来ていることに気づかなかった人物の放つ術によって断ち切られる。
「次!風牙斬!
 ガウリイ!ミリーナ!」
 続いて飛んできた風の矢が、ガウリイとミリーナを縛っている荒縄を裂く。
 ガウリイはすぐに立ち上がり、近くに立っていた小男の手からナイフを奪い取ると、2人分の猿ぐつわをはずす。
 その間。
 皆は、入り口近くに立っている少女に注目していた。
「リ・・・
 リナさん・・・」
 アメリアが呆然とつぶやく。
 なぜなら。
 リナは、つい1時間ほど前に見た黒衣を、再び纏っていたのだから・・・



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Y:ゼロスファンに殺されても知らないからね。
L:いや・・・まあ・・・
Y:確か、この後も非道度が上がっていくのよね、彼。
L:うん・・・
Y:まったく・・・
  後先考えないで、面白半分だけでプロット立てるからこーなる。
L:いや・・・そこまでいわれても・・・
Y:まぁいいけど。
  それより姉ちゃん。
  今回、また出たのね。すぺしゃるキャラ。
L:うん。
  でも、今回の人たちは名前すら出てきてません(きっぱり)
Y:また、そういうかわいそうなことを・・・
  ラストにでてきた4人組なんかは、まあどこででてきた人かわかりやすいし、それなりにましとはいえ・・・
  ウェイトレスが誰なのかとか、わかる人いるのかなぁ?
L:いる・・・と思う。自信ないけど。
  合言葉でわかるんじゃない?
Y:かもね。
  ・・・それにしても、間抜けな合言葉。
L:確かに・・・
  こんないかにもアングラな組織の合言葉にしては、間抜けすぎるかも。
Y:だよねぇ・・・

L&Y:でわ!!
    また、次のお話(次は幕間2です!)でお会いしましょう!

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21687大きな樹 幕間2リナ&キャナ 2002/9/5 21:47:20
記事番号21679へのコメント

またまたやってきました幕間です。
今回は、しばらく出番のなかった(爆)リナの登場で〜す。


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          幕間2 暁

「姉ちゃん、姉ちゃん。
 これ、『お客さん』から届いてるよ」
 2年前。ある家での出来事。
 少女が、彼女よりも数歳年上の姉に手紙を手渡す。
 その手紙を読んで、姉はまともに顔色を変えた。
「リナ!!
 今すぐ裏の公園に来なさい!!」

 ご近所様から評判の、小さな雑貨屋。食料品を中止に扱ってはいるものの、基本的には何でも売っている。
 そこがリナの実家だった。
 だが、それはあくまで表向き。
 実は、裏社会ではちょっとは名の知れた情報屋である。
 情報屋とは言っても、実際にやっているのはほとんどボディーガード。
 要するに、特定の誰かの命が狙われていたりすれば、その相手と交渉してその暗殺を防ぐのである。もちろん、かなり高額の報酬で。
 裏社会の情報をどこからでもすぐに仕入れてきて、それを自分たちの商売に回す。これが、インバース家が代々伝えてきた技術と生活法である。
 『雑貨屋』インバース家と、『情報屋』インバース家。
 彼らをあわてさせることになったのは、偶然送られてきた手紙。
 以前『依頼人』となった人から送られてきた手紙。
 その1通の手紙が、リナの人生を狂わせることになるなどとは・・・
 今の彼女は、知るよしもなかった。



「姉ちゃん・・・
 そんなにあわてて、一体何があったの?」
 リナが姉に問う。
 だが姉はその問いには答えずに、黙って腰にはいた剣を抜き放つ。
「え?
 いきなり武闘訓練?
 まだ、店が営業中・・・」
「リナ。
 あたしから1本とってみなさい。
 全てはそれから。
 あんたを・・・するかどうか、今、あたしが見極めてあげるわ」
「姉・・・ちゃん・・・?
 一体どういう・・・」
 しゅっっっ!!
 空気が動くよりも早く。
 リナの首筋に、銀色に光る刃が突きつけられていた。
「あたしはあんたに『1本取れ』って言ったのよ。
 質問しろとは言ってない」
 それからリナの脇腹に蹴りを入れ、その反動で自分も後ろに下がる。
「ぐっ・・・!」
「言っておくけど、見逃してあげるのは1度だけ。
 次からは、本気で行くわ。
 あんたに『あれ』に見合うだけの能力がなければ・・・
 あたしは、問答無用で切り捨てる。
 それが、たとえあたしのたった1人の妹でも」
「・・・」
 リナは思った。
 姉は、決して嘘をつかない。冗談を言ったりもしない。
 その姉が『切り捨てる』といった以上、もし自分が失敗すれば、彼女は本気で自分を殺すであろう。
 だが。
 リナは、幼いころから目の前にいる姉に武闘訓練を受けて来たが、ただの1度も勝利したことがない。
 その姉に、突然そんなことを言われて・・・
「・・・隙がありすぎる」
 そしてまた。
 地と風が音を立て、リナに剣が振るわれる。
 間一髪避けるも、このままではやられてしまうことは目に見えている。
 だから、リナは口の中で呪文を唱えながら・・・いきなり、前へ倒れこんだ。
「!!?」
 そのまま姉の足にタックルをかける形となる。姉は間合いを狂わされ、件を引きながら1歩後退し・・・
「地精道!!」
 リナは足元に、トンネル堀りの術を放った。
 かなり深いが、地表に近いあたりだけは浅く広く掘ってある。漏斗かアリ地獄の巣を足して2で割ったような形だと思ってほしい。
 自分は漏斗の外で止まり、姉は中心の深いところへ落下する。
 だが、姉はまさしく超一流の戦士だった。深い穴の淵、浅く丸みを帯びているあたりに自らの剣をつきたて、落下を防ぐ。
「甘いわね!リナ!」
 剣に全体重をかけ、自分の体を振り子のように振って後ろに着地、その勢いで剣を抜いて跳躍。今度は倒れこんだリナの上に剣を付き立てる・・・
 それが、姉の計画であったのだろう。
 だが、彼女の作戦は崩壊することとなる。
 剣を刺した先の地面とともに。
 ぐらぁ!!
「なっ!!!?」
 地面に生まれた漏斗が、崩壊していく。
「甘いのは・・・
 姉ちゃんだったみたいね・・・」
 漏斗状などという特殊な形に穴を掘ったのは、きちんと意味があったのだ。
 丸みを帯びさせることで、アリ地獄の巣と同じ原理であると見せかけて、実際は薄い土壁1枚残して下に空洞を作っておくと・・・
 そして。
 姉は穴の中に落下した。
「1本とったわ」
 苦笑しながらリナが両手を突き、立ち上がろうとすると。
 ざっっ!!
 穴のそこから姉が跳躍・脱出してきたかと思うと、リナの眼前に剣を突きつけた。
「安心するのは、相手に止めを刺してから。
 あたしは、そう教えたわよね」
 そして、姉は剣を高く振りかぶり・・・

  だめだ!!
  殺られる!!!

 本心でそう思った。
 だが。

 ・・・がらん。
 姉は、剣を後ろに放り捨てた。
 それから、リナを強く抱きしめた。
「姉・・・ちゃん・・・?」
「リナ・・・
 リナ。あんた成長したわね・・・」
「え・・・?」
「あんた、いつもあたしに勝とうとしてばかりで、大切なものを見ようとしていなかった。
 今の自分に出来ることを、精一杯やること。
 たとえどんなに絶望的な情報でも、絶対にあきらめないこと。
 考えて、考えて、行動する。
 それでこそ、インバース家の一員よ・・・」
「姉ちゃん・・・」
 リナは気が付いた。
 彼女の姉の頬が、濡れていることに。
 そしてそれは、彼女が見る姉の最初の涙だということに。
「あたしは、あんたに一度たりとも、無茶な訓練を着けてきたつもりはないわよ。
 あたしがあんたに身に着けてほしかったのは、技術以上に心。精神が強くなってほしかった。
 あんたを信じて・・・
 本当に・・・本当によかった・・・」



「というわけで。
 あんたの裏入学手続きは終わったから」
 数ヵ月後。
 リナの高校入試を間近に控えたインバース家(ちなみに、一見普通の家族と変わらない)。
 リナは、『仕事』の関係で澄雫高校を受けることになっている(あくまで形式上だけ。実際は、手回しがされているので無条件合格である。まあ、彼女の学力なら合格は確実だが)。
 『仕事』の内容は、再来年澄雫高校に入ることとなった、聖流雲グループのアメリア=ウィル=テスラ=セイルーン嬢を護ること。
「父ちゃん。母ちゃん。姉ちゃん」
 食事の手を止めて、リナは家族に対してはっきりといった。
「あたしは、『降りかかる火の粉』は払っても、『焚き火』を消す気はないからね。
 それと、高校生活は思いっきりエンジョイするつもりだから」
『!!?』
 家族は一様に手を止め、リナを見つめた。
「どういうこと!?
 あんたは、変なやつらが忍び込んでいるのを探して、それを追い出すために先に入学を・・・」
「あたし、アメリアって子より1つ年上だもん。
 1年早く入学するのは当たり前。
 それにさ。
 『あたし』にだって、楽しむ権利があっても良いでしょう?」
「何を言って・・・」
「父さん」
 父の言葉は、冷静な姉の言葉に止められた。
「リナはまだ15歳よ。
 このくらい、わがまま聞いてあげても良いんじゃない?
 それに・・・
 この子、本当は『あたしたちの仕事から抜けたがってるんじゃないか』って思うの」
『!!?』
「本当なの!?」
「リナ・・・おめぇ・・・」
 両親の問いに対して、リナは苦笑しながら答えた。
「だってさ。
 1回しかない人生、あたしの好きなように生きたいじゃない?
 だったら、あたしは普通に人生送りたいのよ」
「・・・わかった」
「父さん!?」
 父は、依頼人以外の前では珍しく、威厳のある声で言った。
「そんなに『裏』から抜けたがってるんなら、しょうがねえ。
 その代わり、最後の『仕事』だけはきちんとやっていけ。
 自分がやりたいようにやって、満足できるまでがんばりぬいて、それでもやめたけりゃ、とっとと足洗っちまえ」
『・・・』
 普段、家族の中では一番立場の低い父がこんなことを言うなど、家族の誰もが想像していなかった。
「・・・
 ありがとう・・・
 ありがとう・・・父ちゃん・・・」


:::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::



Y:短い(きっぱり)
L:うぐ・・・
  な、何を言ってるんだ!!
  2のほうに投稿した『小さな栗〜』よりずっとましだろう!!
Y:下を見てもしょうがない、って言葉知ってる?
L:あう・・・
Y:まあ、最近立場0だったリナが、久々のメインだったわね。
L:きちんと主役張るのは、1話以来かしらね〜
Y:男性陣が目立ってたからねえ。
L:まあ、今回もらすとはリナ父が妙にらしくない台詞言ってるけど。
Y;それよ!!
L:・・・へ?
Y:『らしくない』。これが、男性陣が目立ってる原因よ!!
L:そうなのか?
Y:だって。
  ガウリイが、リナとアメリアの入れ替わりを提案したり、ゼルに向かって嫉妬むき出しにしたり。
  ゼルがアメリア目がさらわれたからって人が代わったり、逆にアメリアがいないからって試合に身が入んなかったり。
  ルークが原作にらしくないほど、シリアスモード入ってたり。
L:えーっと・・・
  ガウリイやゼルに関しては、最初に言った通り、この話がガウリナ・ゼルアメ・ルクミリ推奨だからだし・・・
  ルークがらしくないって言うのは・・・別に、こういう一面があっても良いんじゃないかな〜ってことだし・・・
Y:いい加減(きっぱり)
L:どすっ!!(←胸に柱のようなぶっとい杭が打ち込まれた音)
Y:あ、自滅した。
  まあ、前から矢だの槍だの刺さってたし、そのうち復活するわよね。

  んじゃ、このあたりで失礼しま〜す。
  ちなみに、この話は後、第7羽とエピローグで終了予定です。
  期待しないで待っててくださ〜い、なYでした まる

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21717故郷の姉ちゃんが!空の蒼 2002/9/7 18:30:58
記事番号21687へのコメント

こんにちは、空の蒼です。
ちょっとここ数日、パソコンにふれる機会がなかったため、3日ぶりぐらいに覗いてみたら大きな樹の続きが・・・!!
これは感想を書かねばならぬということで。

それにしても・・・ゼロス先生悪役街道まっしぐら・・・?
本当に謎の人ですよね、あいかわらず。
あと、ラジオドラマのネタって、『スレイヤーズN>EX』のドラグレンジャーのネタですか?
あのときアメリアはたしかドラグピンク・・・だったと思いますが。

それと、幕間では『故郷の姉ちゃん』が!!
あいかわらず格好いいです!故郷の姉ちゃん!!(←私は強い女性が好きなので、当然、故郷の姉ちゃんに憧れてます。もちろんリナも大好きv)
っていうか、リナはアメリアのボディーガードだったんですか・・・?
アメリア風に言わせて頂くと、正義の味方っぽいですね。
ちょっと・・・っていうかかなり違う気もしますが。

続き楽しみにしています。頑張ってください。

では、支離滅裂ですが、このへんで失礼させていいただきます。

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21756ぁぅ・・・リナ&キャナ 2002/9/9 11:14:25
記事番号21717へのコメント

こんにちわ。
>こんにちは、空の蒼です。
>ちょっとここ数日、パソコンにふれる機会がなかったため、3日ぶりぐらいに覗いてみたら大きな樹の続きが・・・!!
>これは感想を書かねばならぬということで。
あたしも、パソいじるの久しぶりだったり(笑)
しかし・・・こんな代物に、わざわざレスをつけてくださるなんてありがとうございます。

>それにしても・・・ゼロス先生悪役街道まっしぐら・・・?
>本当に謎の人ですよね、あいかわらず。
はい。悪役街道です(笑)
・・・そのうち、ゼロスファンに殺られるぞ・・・あたし・・・
しかも、そのうち謎の人通り越してしまう気が・・・

>あと、ラジオドラマのネタって、『スレイヤーズN>EX』のドラグレンジャーのネタですか?
>あのときアメリアはたしかドラグピンク・・・だったと思いますが。
大正解で〜す。
「ゼルガディスさん!みんな!」の一言に大爆笑でした。直接アメリアを助けたのはリナだぞ、って言う(笑)

>それと、幕間では『故郷の姉ちゃん』が!!
>あいかわらず格好いいです!故郷の姉ちゃん!!(←私は強い女性が好きなので、当然、故郷の姉ちゃんに憧れてます。もちろんリナも大好きv)
この郷里の姉ちゃんはかなりまともっぽいですが・・・別シリーズの彼女(その話は投稿はしていませんが)はそうとう壊れていたりします(爆)

>っていうか、リナはアメリアのボディーガードだったんですか・・・?
はい(をい。ストレート過ぎ)
ボディーガードって言うか・・・何かアメリアに害があるような人物を『始末』するのが本来の仕事なんですね。
でも、彼女はそういう生活が嫌だったので、とりあえずボディーガードだけやって、後は知らん振りなんです(笑)
だから、気が付いてはいたけれど、ゼロスに手を出そうとはしなかったんです(説明力不足ですみません)。


では、このあたりで失礼します。
残りの話は、一気に投稿してしまう・・・つもり・・・です(ちょっと弱気)

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21759大きな樹 第7話リナ&キャナ 2002/9/9 13:53:38
記事番号21679へのコメント
 いよいよ第7話です。
 なんだか微妙に長くなってしまったんですが(全部で40×3000近くある)、何とかクライマックスがやってきました。
 他の章より少し長いんですが、気が向いて下さったら読んでください。


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   第7話   生命の燈と・・・   儚く浮き上がる未来


「リ・・・
 リナさん・・・」
 呆然とつぶやくアメリア。
 皆、入り口に立つ黒衣の少女、リナに注目している。
 彼女はかすかに微笑んで口を開く。
 『仲間』たち一人一人の瞳をまっすぐに見つめながら。
「ゼル。
 アメリアのためだけに、こんなところまで来ちゃってまー。ルークの言葉かになんか出来ないわよ、あんた。
 まあ・・・あたしも同じ状況になttら、多分そうなるんだろうけどさ・・・
 本気で好きな相手のためなら、周りのものみんな振り切れるもんだって、つくづく思ったわ」
 想ってる相手のためなら、人間どんなことだってできる。
 相手のためなら、自分はどうなってもいいと思っているから。
 たとえ・・・自らの滅びを招こうとも。
「アメリア。
 あんた、一番強いよ。この中で。誰よりも。
 だってあんたは、『正義の味方』でしょう?
 自分の持ってる信念、周りにはっきり言えるってうらやましい。
 尊敬する。あたしには出来ないことだから」
 『裏』から抜けたいと思ったときも、自分からそれを言い出したわけじゃない。姉が自分を助けてくれたから、思い切ってぶちまけられたのだから。
 それを思いっきり出せるアメリアは、心の強さでは誰にも負けない。
「ルーク。
 あたし、あんたがやっていた事はずっと気付いていた。最初から。
 でも、本気でミリーナのこと想ってたし。本気だって分かってたから。
 馬の尻尾にはたかれるようなまね、あたしには出来ないし」
 足抜けしたがっているのもわかっていた。痛いほどわかっていた。
 だから、できるだけ対峙はしたくなかった。本気で好きな相手がいる人を、『処分』したくはなかったから。
「ミリーナ。
 あたし、確かにさっきああ言ったけどさ。
 本当にやるとは思って・・・たかな。やっぱり。
 だってさ、素直じゃなくっても回りにはバレバレだし。気付いてた?」
 素直になれない気持ちは、自分と同じ、でも、心に素直になれた自分は、自分よりずっとすごい。
 だって、心と向き合うって、とっても勇気のいることだから。
「ガウリイ。
 あたし、わかってるから。脳味噌クラゲのあんたが、何で学校に忍び込むなんて馬鹿なことやったか、ってことくらい。
 しっかし、囚われのお姫様やってどーすんのよ」
 リナは知っている。
 何でこのクラゲ教師が、こんなむちゃくちゃ思い切った行動にでてしまったか、と言うこと。
 リナが心配で。何か自分にも出来ないかと思って。
 自分がどんなに傷ついてもいいと思って。
 だけど自分が傷つけばリナが傷つくということに気付かなくて・・・
 リナは気付いている。
 本当は『ありがとう』と言いたい自分に。
 素直になれない自分に。
 結局余計な一言を付け加えてしまう、天邪鬼な自分に。
「んで、ゼロス。
 あんたが黒幕だってことも、ちゃーんと最初から分かってたわ。
 そう。
 本当は、『組織』のスパイなんかじゃなくって、リーダーなんだってことも」
『!!?』
 リナとゼロス以外の全員が、声にならない叫びを上げた。
「あんたたちの『組織』の最終目的がなんなのかっていうのは、あたしも知らない。
 でも、少なくとも聖流雲の封印を今ここで解くつもりだってことくらいは、あたしにも分かってる」
「なんなんだ?
 その聖流雲の封印って?」
 手にした短剣できっちりと下っ端どもの動きを牽制しながら、ガウリイが問う。
 応じたのは、リナではなくゼロス。
「その問いには・・・
 僕がお答えしましょう」
 ゼロスはまだ座り込んだままのルークの隣に立ち、落ちていたアメリアの服を拾って彼女のほうに放り投げた。
「血まみれですが、何も着ないよりましでしょう?」
「あなた達が脱がせたんじゃないですか!!」
「その姿のほうが、入ってきたときの皆さんの反応が面白そうかと思いまして」
 薄ら笑いを浮かべる。
 その表情は、部屋の中にいた全員の背に、冷気を走らせた。
「さて。
 封印のお話でしたね。
 僕は、いろんな企業の中枢部にさまざまな部下たちを派遣しているんです。
 で。その中で20年ほど前に、奇妙な噂を耳にしたんです。
 いえね。聖流雲グループって、跡継ぎ争いが毎回絶えないんですよ。
 ですからアメリアさんとお姉さんのグレイシアさんが生まれるときに、ちょっとした細工をするらしい、と」
「細工?」
 オウム返しにたずねるゼル。
「ええ。細工です。
 お二人のどちらかが亡くなったら、特殊な時限装置と呪術の儀式を行って、どちらかがお亡くなりになったときに、本部にある、ある特殊な金庫が開くようになさったんです。
 そこに、次の会長候補を記録した記録球があるそうですよ」
「嘘!
 父さんたちがそんなことをするなんて・・・」
「嘘や単なる噂だったら、ゼロスのヤローがこんなに堂々と行動に起こすわけねーだろ。
 大方、昨日の昼間にでも身体検査やってんだろ?」
 立ち上がりながらルークが言う。
 ついでにゼロスの足の裏に蹴りを入れてみるが、ゼロスはひょいと飛び上がって、近くの台に乗る。
「もちろんそうですよ」
「自分の娘に、そんなことをするなんて・・・」
「でも、考えようによっては、親戚思いですよ?
 絶対的な遺言があれば、それに逆らうわけにはいきませんからね。お家騒動云々も無駄でしょうし。
 あ・・・でも、皆さんそれに素直に従うとは思えませんね」
 相変わらずの笑顔。
「で・・・
 それが、あんたに何の関係があるのか聞かせてもらおうか?」
「もちろん、アメリアさんの『封印』を解きます!!」
『な!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!』
 アメリアの『封印』を解く。
 すなわちそれは、アメリアを『殺す』ことに他ならない。
「『金庫』の管理人は、僕の息がかかった人ですから、開いたらすぐに記録球のデータを書き直して、やっぱり『組織』にかかわりのある人が会長になれるようにする。
 後は、その人を利用して僕が裏で実験を握る。簡単でしょう?
 聖流雲グループは、ここ数十年で世界一の企業に成長していますしね」
「わからないわね・・・」
 あまりの衝撃に全員が口をつぐむ仲、リナはきっぱりと言い切った。
「おや?
 リナさんは、全てわかってらっしゃったのではないですか?」
「違うわ。
 あたしがわからないって言ったのは・・・
 あんたに正常な感情があるのかってことと、何でこんなことをあたしたち全員に見せるつもりだったかってことよ!!!!!」
 それを聞くと、ゼロスはにたり、と笑みを浮かべた。
「感情に関しては、僕は『正常』ですよ。
 僕らにとっては、ですが。
 この『解呪』を皆さんにお見せするのは・・・
 皆さんの負の感情をいただくため、です」
『!!!!!?????』
「えぇ。
 僕、こう見えても魔族ですから」
 皆が絶句した。
 誰も気付かなかった。
 ルークもそんなことは一言も聞いていなかったし、ガウリイの野生の勘も反応していなかった。というか、そんなこと夢想すら出来なかった。
 小一時間ほど前に、彼らは生まれて始めて純魔族と戦った。
 魔術理論で倣った事柄を考慮すれば、目の間にいる化学教師は、先ほどの醜怪な魔族の何十倍、いや何百倍も強いことになる。
 そんな恐ろしい相手が、すぐ近くにいたことなど。
 のほほんとしていて、いつも人を食ったような態度で、まとも『じゃない』テストを作って生徒をいたぶって楽しむ。
 そんな『変な先生』だったはずではなかったのか。
「では、そろそろいただかせていただきますよ。
 正の感情ばかり出されて、結構僕もダメージ来ているんですから・・・」
 そして、ゼロスはゆっくりとアメリアのほうに手を差し伸べ・・・
『崩霊裂!!!』
 瞬間的に、ゼロスの体を蒼い焔が包んだ。
 ゼル・アメリア・ミリーナの渾身の崩霊裂は、ゼロスの体を灼き尽くした・・・かに見えた。
 だが。
「無駄ですよ」
 ゼロスは、ガウリイの背後に現れた。
「トカゲの尻尾きりという方法がありまして。
 呪文を詠唱し終えていることはわかっていましたから、避けるのは簡単なんです」
 言いながら、ゼロスは下っ端4人組の額を付いていく。それだけで、彼らは意識を失っていった。
 それから扉を開けてそこへ蹴り入れると、再び閉めてこちらに向き直る。
「抵抗なさるなら、それはそれでかまいませんよ。
 打つ手がないことを分かっていただければ、その分皆さんからおいしい感情をいただけますからね」



「獣王牙操弾!!」
 戦いの口火を切ったのは、リナの術だった。
 だが、ゼロスはそれに魔力球を当てて撃墜する。
 そこに、ガウリイが短剣で切りかかる。
「無駄ですよ。
 純魔族には、魔力のかかっていない剣は通用しない。基本でしょう?」
「くっ・・・
 俺の光の剣があれば・・・」
 そこに、左から魔皇霊斬をかけた件でゼルが、右から魔王剣でルークが同時に切りかかる。
 今度はゼロスは空間を渡ってそれを避け、後ろの女性陣に魔力球を放つ。
 霊皇結魔弾をかけた拳で撃墜するアメリア。それを軽く避けるミリーナ。
 だが、呪文を放った直後のリナに撃墜は出来ず、彼女には複数の魔力球が襲ったため回避も難しく。
 ミリーナは、とっさに手近に合った謎の器具をそのいくつかににぶつけて撃墜させる。あわてて残りの魔力球から身をかわすリナ。
「ありがと!ミリーナ!」
 だが、それに気に召さなかったらしいゼロスは、今度はミリーナいめがけて集中砲火。
「虚霊障界」
 う゛ぁう゛ぁう゛ぁう゛ぁう゛ぁう゛ぁう゛ぁう゛ぁ!!!!
 防御結界を張るも、その強力な魔力に結界が破られ、吹き飛ばされる。
 アメリアがあわてて復活をかけに行くが、その時間があるかどうか・・・
「てめぇ!!許さねえ!!
 よくもミリーナを!!!」
 ルークは手近なテーブルを踏み台にし、そのまま跳躍。魔王剣で一閃する。
 だが、ゼロスもそれを読んでいて軽くかわす。
 そこに、ルークの体の蔭から、ゼルが術を放つ。
「烈閃砲!」
 ゼロスにとってはそう大きなダメージではないようだが、さすがに苦痛に顔をゆがめる。
「覇王氷河烈!」
 リナの術が放たれる。
 さらに、彼の足元に着地したルークがもう一度その足に切りつけ・・・ようとした。
 が。
 さすがに先ほどの翔風界の影響が残っていたらしく、魔力が尽きてしまう。
 ゼロスはルークを蹴飛ばして、ゼルに数発の魔力球を放ちつつ空間を渡って壁際へ。
 ゼルはあるいは避け、あるいは手にした剣で打ち払う。
「みなさん、なかなかやりますねぇ」
 やはりあまり術の影響を受けていないらしいゼロスが言う。
 リナは、ゼロスに向かって・・・というより、皆に向かって声を上げる。
「何であたしたちまで狙ってるの?
 特に今なんて、アメリアはミリーナの治療にかかりっきりで、いつでも狙えば殺せるはずよ」
「簡単なことです・・・
 僕の『治療』のためですよ」
「それってつまり・・・」
 苦痛を皆に与えることによって苦しませ、又他の者たちは傷つくのを見せ、負の感情を出させている、ということだ。
「それでも・・・
 このダメージは結構辛いものがありますね・・・」
「冥界屍!!」
 ぐだぐだいっているゼロスに向かって、ゼルが問答無用で術を放つ。
 だが、それも空間を渡って軽く避ける。
「そうですね・・・
 裏切り者には死を、というのが定番かもしれませんが・・・
 僕は結構、合理主義者なんですよ」
「獣王牙操弾!!」
 右手の錫杖でそれを受け、にたりと笑ってから左手の指をぱちん、と鳴らす。
 瞬間。
「ぐうぅうぅうぅうぅうぅうっぁぁぁぁぁぁぁああぁっぁぁぁあああああ!!!!!!!!」
 咆哮。
 人のあげるものとは思えない、獣のごとき叫び。
「があああああぁぁあぁぁぁぁうぅあうううううぁうぅうぁうううあうぅぁうあうあぅぅぁぅあ!!!!!!!!!!!!!!」
 その咆哮の主は、ルーク。
 膝をつき、頭をかきむしり、顔を上げ、猛獣のように吼える。
「ルークに何をした!!?」
「僕、部下の裏切りに大しては結構厳しいんですよ。
 特に、彼は幼少のころから『組織』にいましたからね。細工をする時間は十分にあったんですよ」
「どういうことです!?」
「特殊な機械と術を使って、決定的に裏切りが決まったものは、精神的に『処分』しているのですよ。
 無限に続く恐怖と後悔の幻影によって」
『!!!!!!!』
「昨日、アメリアさんを助けにいらっしゃったとき、正直僕は驚きました。
 部下の先走りのおかげで、アメリアさんの『検査』は行えるわ。皆さんをここへ連れてくるための『餌』はやってくるわ。
 だから、僕は部下に言ったんですよ。
 『処分』はまだしなくて良いから、半死半生でやめておきなさい、って。
 結局、ここで『処分』することになるのなら、彼にとってはあまり変わらなかった気もしますがね」
「螺光衝霊弾!!!」
 突如。
 閃光が、螺旋を描きながらゼロスを襲った。
『ミリーナ!!!?』
 その術の主は、いまだ倒れていたはずのミリーナ。
「まだ傷が治っていないのに・・・」
「ふざけないでください!!
 彼を・・・ルークを、そんな言い方しないでください!!
 『餌』ですって!!?まして『処分』ですって!!??
 貴方は、彼を道具としか見ていないとでもいうのですか!!!!」
「・・・ええ」
 ゼロスの答えは、冷たかった。
 彼にとっては、自分以外の全ての存在が『手駒』か『道具』か。
 そうでなければ『敵』なのだ。
「・・・
 ・・・・・・許しません!!
 私は、貴方を絶対に許しません!!!」
 ミリーナが、叫びながら立ち上がる。
 普段の、冷静沈着な彼女とは打って変わって、怒りをはっきりと表している。
 これが本当の彼女の性格なのか。
 それとも、抑えていたものが一気に噴出していたのか。
「ほお。
 それならば、僕をどうなさるのですか?」
「崩霊裂!!」
 ミリーナが叫ぶ。
 だが、それをひらりと避け、彼女の真横へと空間転移し・・・
「霊王結魔弾!」
 どぐぅぉぉぉ!
 アメリアがすかさず、魔力のこもった拳で殴りつける。
 それをものともせずに、アメリアに向かって魔力弾を投げつけるゼロス。
 あわてて回避するも、足を少し負傷。
 後ろからゼルが術を放つ。避けられる。
 魔皇霊斬の効果を受けた短剣で、ガウリイが切りかかる。あまり効果が上がらない。

 リナが術を放つ。
 ゼルが。アメリアが。ミリーナが。
 ガウリイが接近戦を仕掛ける。

 ほとんど・・・効果がない。

 音が響く。
 床を蹴る音。術を放つ声。
 咆哮。



「みなさん・・・
 まだあきらめられないんですか?」
 ゼロスがあきれ声で言う。
 彼にとっては、極論を言ってしまえばアメリア以外の相手はどうでも良い。その気になれば、一瞬で『滅ぼす』こともできるのだ。
 だがそれでは面白くないし、『食事』も満足に出来ない。
 だからこそ、こうして長引かせているのだが・・・さすがに、少々うんざりしてきた。

 それぞれがそれぞれの『相棒』を、互いにかばいあうように陣形を組んでいる。
 だが、そんなことどうだって良いのだ。
「もうそろそろ、終わりにしましょうよ。
 ね。ガウリイさん」
 言って、空間を渡って瞬間転移。出現場所は、ガウリイの正面。
 その一瞬の間に。
 リナの声は、視界の外から聞こえてきた。
「神滅斬!!!」


 ゼロスはわかっていた。
 リナがこの一瞬の間に間に切りかかっているということは、予想済みだった。
 ガウリイが短剣を自分に突き立ててくることも。
 ゼルたちが一斉に自分の背に向かって術を放つことも。
 だが。
 わかってしまった作戦は、何の意味も持たない。
 リナの魔力はほとんど残っていない。この一撃をかわしてしまえば、もう一度刃を振ることは出来ないだろう。
 ガウリイの短剣は、すでに単なる普通の剣と化している。
 少々厄介なのは術の連打だが、右へと避けてやれば、術によっては正面にいるガウリイを巻き込ませることも可能だろう。
 全てわかりきっていること。
 把握しきっていること。
 今、体を少し下げてやれば、全てが終わる。

 ・・・はずだった。
 だが。
 彼の体は、意思に反して動かなかった。
 自分でもばかばかしいと思えるほど典型的な表情を浮かべているのが、正面のガウリイの瞳に映っているのがわかる。
 瞳。
 そう。ゼロスが見ているのは、彼のまっすぐな瞳。
 その瞳を見ているだけで、自分は今なぜ動けないのか、ということがわかるような気がした。
 彼らは皆、一生懸命なのだ。
 自分のために。それ以上に、自分の大切な人を護るために。
 そのためならなんだってする彼らの純粋な心は。
 どんな逆境に立たされても、常に正のベクトルを向いている。
 そして。
 その心の持ちようは、彼にとっては何よりも鋭い刃物となる。

 見えないはずの視界の外で。
 リナが闇の刃を振り下ろすのが見えた気がした。


 リナは思った。
 自分の闇の刃で今、ゼロスは消滅した。
 目の前で、彼の姿は確かに消え去った。
 だが。
 どこかで、まだ彼は生きている。
 そして又、どこかで何かを謀っている。
 根拠はないが、そんな気がした。

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21760大きな樹 エピローグリナ&キャナ 2002/9/9 13:54:23
記事番号21679へのコメント

 いよいよラストエピソードです。
 お暇でしたらどうぞお付き合いください。


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          エピローグ  大きな樹


 そして、1年が過ぎた。

 リナは3年に進級していた。
 今は、最後の大会に向けて調整中である。
 今年は去年のように出場停止にもならずに澄み操舵し、中間テストもきちんとした体調で受けることが出来た。
 リナとアメリアは、それぞれ入学したばかりの1年と汲むことになってしまったが、これは部員不足ゆえしょうがない。
 そう。選手に選ばれたのはアメリアだった。
 正確に言えば、女子部員は今、彼女たち2人しかいない。
 ミリーナは・・・部を辞めた。
 毎日授業が終わると、聖流雲グループの経営するとある病院の一室へと通っている。
 あの事件以来、ルークの意識は戻らないままである。
 アメリアが『封印』のことについて父親を問い詰め、半ば脅迫のような方法で、彼が目覚めるまでグループの病院に入院させることを認めさせた。無論、グループの経費でだ。

 事件の後、リナはアメリアに全ての事情を話した。無論皆に対しても説明はしたが。
 リナはアメリアに問うた。
「あんた、あたしのこと幻滅しちゃったりした・・・かな。やっぱり」
 そんなリナに、アメリアは笑って言った。
「そんなことするわけないじゃないですか。
 だって、リナさんはリナさんでしょう?
 それに・・・
 私を護ってくれた天使さんに対してそんなこと思ったりしたら、罰が当たります」
 彼女の微笑で、リナが救われた気がした。
 少なくとも、始めて『仕事をしていて良かった』と思えた。
 本当に足を洗うかどうかは・・・まだはっきりとは決めてはいない。
 この混沌とした世の中で、いつどこであんな事件があっているのかわからない。
 アメリアのいうところの『正義の心』が有るわけではないのだが、自分に出来ることがあるのなら、できるだけあんな悲しい事件が起こらないようにしていきたい。
 だが・・・
「おい、リナ。
 よく球を見て、正確に相手の弱点を狙うんだぞ」
 彼女の横で声をかけた主、ガウリイのことを考えると、どうにも仕事をしたくはない。というか、仕事をしている汚れた自分を見られたくない。
 だけど今はとりあえず、高校生活の最後をエンジョイしている。

 ゼルは結局、アメリアのおねだりを聞いてしまったようだ。
 北海道の祖父に対しては、『悪いことだとは思っているが、実際問題としてアメリアを一人にさせておくわけには行かない』と半ば無理やりな理由で説得したらしい。
 最近2人は会えない日が続いてはいるが、大会当日にはちゃんと来てくれるだろう。

 ゼロスがどうなったのかはわからない。
 無論、滅びたのだと思いたい。
 それでも、不安でならない。
 もし、彼が又同じことをたくらんだら。第二・第三のゼロスが現れたら。
 自分たちは、どうすればよいだろうか。
 皆の心の中に刺さっている、小さな、でも鋭い骨。



「ねえ、ガウリイ」
 部活動が終わって。
 リナは、隣のドライバーズシートに座るガウリイに声をかけた。
 朝は少し雨が振っていたので、自転車で来ていないリナを、『寮まで送る』とガウリイが誘ったのだ。
「なんだ?」
「いつか・・・
 いつになるかわからないけど、このごたごたがぜーんぶすっきり片付いて。
 ルークも意識が戻って。
 そうしたら、みんなでピクニックに行こう。
 ううん。旅行。自然がいっぱいあるところに。
 丘のてっぺんに大きな樹が立っていて、お日様が出てて、風が気持ちよくって。
 そんなところで、みんなでのんびりしよう。ね」
「ああ・・・そうだな・・・
 何もかも・・・全部片が付いたら・・・」
 つぶやきながらガウリイは、信号の色が青に変わったのを確認してアクセルを踏んだ。



 どんなに大きな気だって、最初はちっちゃな種粒で。
 がんばらない種は、絶対大きくはなれないけど。
 いろんな周りの恵みたちの助けがないと、やっぱり大きくはなれない。
 そんでもって、自分のことだけ考えてたら、これまた絶対大きくなれなくって。
 みんな、誰だってそんな種粒の一つ。
 自分なりにあがいて、周りの人たちの助けを借りて、周りの人たちを護っていく。
 そんな種粒たちのうち、何個が大きな気になれるかわからないけど。
 自分たちなりにがんばって、大きな樹を目指していく。
 そんな彼らの、彼らなりのがんばりの物語は、この辺でおしまいにしようと思う。



:::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::




Y:やっと終わったわね。
リ:終わったねえ。
Y:他人事のように・・・
リ:そういうあんたこそ。
Y:他人事だもん。
リ:そりゃそうか・・・

Y:ひとつ聞いて良い?
リ:何?
Y:結局、ルークはどうなるの?
  姉ちゃんが一番好きなキャラでしょ?
リ:とりあえず、意識は当分戻らないと思う。
Y:考えてないのね。
リ:いや、考えてる。
  単に、そのエピソードでもやっぱりあの状態なだけ。
Y:をい。
  そこまで辛い目にあわせるか。好きなキャラを。
リ:うん。

リ:では、この辺で終わりたいと想います。
  ここまで読んでくださって、本当にありがとうございました。
Y:本当に、この愚姉の話なんて目を通してくださってありがとうございます。
  ・・・次は、いい加減ぷれみあむあざーずね。
リ:ぅ・・・
  ・・・・・・・・・・・
  では!!あたしはこれで!!
Y:逃げるな!!!!

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21850遂に完結ですね!空の蒼 2002/9/14 19:36:26
記事番号21760へのコメント

こんばんわ。
遂に完結ですね!「大きな樹」シリーズ。
おめでとうございます。

それにしても・・・ルークの意識はちゃんと戻る日は来るのでしょうか?
ちょっぴし気になります。
でもさらに気になることがもう一つ。
>第二・第三のゼロスが現れたら。
・・・想像すると、ものすごいことになりそうですね・・・。いろんな意味で。
ゼロスが二人も三人もいたら。

それでは。短いレスですいませんが、今回はこのへんで。

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21851はい!完結しました!リナ&キャナ 2002/9/14 20:00:31
記事番号21850へのコメント

>こんばんわ。
>遂に完結ですね!「大きな樹」シリーズ。
>おめでとうございます。
ありがとうございます!
なんか、長いのか短いのか微妙な話になってしまいましたが、とりあえず完結しました!!(テンション高過ぎや)

>それにしても・・・ルークの意識はちゃんと戻る日は来るのでしょうか?
>ちょっぴし気になります。
ある・・・と思います・・・多分・・・(弱気)
一応、考えてはいるんですけど・・・
ただ、それを書くかどうかということは・・・(汗)

>でもさらに気になることがもう一つ。
>>第二・第三のゼロスが現れたら。
>・・・想像すると、ものすごいことになりそうですね・・・。いろんな意味で。
>ゼロスが二人も三人もいたら。
・・・ですね・・・
言われてみれば確かに・・・


>それでは。短いレスですいませんが、今回はこのへんで。
ありがとうございました。
なんか、謎の新シリーズも開幕してみましたが・・・
これと違って、最初から書きあがっている代物ではないので、いつ終わるのか不安です・・・

では、この辺で失礼いたしました。

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