◆−Cheers!13【掴み取れ! 光舞い散る 万華鏡(前編)】−みてい (2002/1/25 15:30:10) No.19758
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  ┗レス早いですね〜(嬉)−みてい (2002/1/25 18:06:38) No.19762


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19758Cheers!13【掴み取れ! 光舞い散る 万華鏡(前編)】みてい 2002/1/25 15:30:10


こんにちは、みていです。

いよいよ、クライマックスその1です(笑)
会話だらけです。
いつもより長いです。

さてさて、一番『強い』のは誰なんでしょうねぇ。

では、おつきあいくださいませv
*********************************************************************



 ――― うーん、無いわねえ。
 ――― 何が?母ちゃん。
 ――― 指輪がね.。ここにしまったはずなんだけど…。
 ――― 今無きゃダメなわけ?
 ――― 駄目。
      だってリナ、明日の朝出発しちゃうでしょ。

*********************


 あたしは、妙に落ち着いていた。
 そして、どきどきしていた。
 矛盾してると自分でも思うわ。
 …だって、まだそこに辿り着いたわけじゃないんだから。
 最後のコールを聞いたわけじゃないんだから。



【掴み取れ! 光舞い散る 万華鏡(前編)】



「始めよう」

 フィルさんが席に付くと他の者も全員座った。
 次にこの会議に列席した者、立ち会う者すべての名をフィルさんが自ら告げた。
「この場の決議を最終決定とする。
 皆の者、すべてが証人であり、互いの監視者である。
 第二王位継承者、アメリア=ウィル=テスラ=セイルーンはこれに殉ずべし。
 …よいな。アメリア」
「殉じます」
 真っ直ぐ前を見て答えたアメリアに、フィルさんは小さく頷いた。
 ゼルは一度閉じた目をゆっくり開いた。アメリアの声とともに。
 
「ゼルガディス殿。前回の『宿題』を聞こうかな」
「いいだろう」

 どう切り出すんだろうかと思った矢先。
 ストライジェの『候補者』が口火を切った。
『宿題』というのはたぶん、ゼルが自分の血筋を証明できる証拠。
 前回はあの記憶球(メモリー・オーブ)しかなかったから、リスクも考えて提示できなかったんだろう。
 ゼルは昨日届けられた水晶球を取り出すと、何やら呪文を唱えた。
 すると水晶球の上で同じくらいの水の玉が生まれ、霧散する。
 …否、細かくなり広がったものの、落下することもなくわだかまっている。
 おそらく水系の呪文をアレンジしたものだろう。
 霧の玉をスクリーンとし、水晶に封じられた記録が再生される。

(きっと、数奇な運命を辿るのでしょうね、ゼルガディス)

 ――― 効果は絶大だった。
 レゾの生前、彼に会ったことない人がこの場の半数を占めていた。
 しかし、列席した一人が思わず「レゾ様!」と叫んだことから疑いは信用へと変わる。
 ゼルへの視線が変わる。
 叫んだその人が流した感涙とともに。
 あたしの位置から見える、テーブルの下のアメリアの手がぎゅっと握り締められていた。

「大賢者レゾは以前、尊顔を拝したことがある。
 本物のようだ。
 認めよう。これに関しては」

 エルトライゼの言葉にストライジェも頷いた。
 おっしゃ!
 って何よ。その『これ』っていうのは。
 没落貴族だかなんだか知らないけど、あんたってトモダチ少ないでしょ。
 ――― 理由なんか無いわよ。そう直感したんだから。

「ランディ=ガブリエフ殿。
 貴公はなにゆえ、そこに座っている?」
「ここに就くよう、要請を受けたからですが」
「面白い方だ。
 しかし場をわきまえたほうがよろしいか、と」

 うあ、あの人矛先をランディさんに変えちゃったし。
 列席していたクラヴロートルのおっちゃんが目だけで『候補者』を哀れんでいた。
 さすがにあの世渡りのうまそうなおっちゃんには先が想像できてるらしい。

「それは誰に対する侮辱だ?」
「侮辱なものか。
 真実を問いただしたいだけだよ、ゼルガディス殿」

 アメリアの後を受けてゼルの後見人になったランディさんに矛先を向けるということは、彼を推薦し承認したアメリアとフィルさんをも咎めることになる。
 この場でそれほどのリスクを冒してもいいほどの何をエルトライゼは掴んだというのだろうか。

「いやいや、カブリエフ殿の血筋を疑うとは露とも考えてはいない。
 彼は素晴らしい血筋の持ち主だよ。
 しかしだ。
 …ふむ。まずはこれを皆々様にごらんにいれましょう」

 エルトライゼの候補者は懐から紙を取り出すとまず隣のストライジェに見せ、次に人を介してアメリアに見せた。
 アメリアの表情がみるみる強張る。
 フィルさんの顔がランディさんに向けられた。
「ランディ殿。
 この文面を読み上げ、異論あれば余すこと無く公に伝えよ」
 ……何が書いてあるの?
 紙を受け取ったランディさんは黙読し、ゼルにも見せた。

「『―――ことにより、ゼルガディス=グレイワーズの後見人を辞退することをここに宣言する。
 以上。
 シャルレ=ガブリエフ』」

 のえええええええええええええっ!!?
 あたしは叫びそうになった口を思わず押さえた。
 これって、それって、名代としてシャルレさんがゼルの後見人をランディさんが降りたってことにサインしちゃったってことじゃないっ!!
 急展開に列席者がざわめく。
「釈明は?
 貴公の奥方がこうしてサインをした公式でも通用する文書を、自分があるルートを通じて入手させてもらったのだ。
 筆跡も奥方のものだと貴公ならわかると思うが」
 テーブルの中心に戻された文書を、エルトライゼは見せつけるようにランディさんに向けた。
 ンなことがあるわけない!
 やっまもし文句を言ってやりたいが、あたしの座るこの席は『見届ける』席だ。
 明らかに陰謀だとゼルもアメリアも思ってるだろう。
 
「ランディ、『真実』を明らかにしてやってくれ」

 …おろ?
 ゼル、全然慌ててないなぁ??
 というよりも、してやったりって感じだ。
 もしかして、これが昨日ランディさんが言ってた『芽吹くかどうかは相手次第の種』!
 ランディさんは頷くと口を開いた。

「シャルレ=ガブリエフですか。
 真実味を出すつもりが、逆に墓穴を掘られましたね。エルトライゼ殿。
 よく筆跡を似せたと技術を賞賛はしますが」
「な、何を…」
「私の妻は、ガブリエフではありません」
「証拠を出せ」
「提示できるような物はありません。
 しかしエルトライゼ殿。あなたはこれを正式文書と言われた。
 それに真似をされる可能性のあるものだけを記すとはおかしいと思われなかったのですか」

 調査不足ですね、とランディさんは疑惑の文書をエルトライゼにではなくアメリアに渡らせた。
 眉をひそめたアメリアは、どういうことかと目でランディさんに問う。
 …確かに。
 ようやく回ってきた文書をあたしも見たが、真似る技術はいるだろうけどこのサインなら不可能なことじゃない。

「ここにおられる方の多くがそれぞれの紋を有していると同じく、当家にもそれに相当するものがあります」

 あっ、とアメリアが呟いた。
 ――― そう言えば、昨日。
(かおう?)
(ん、花押。
 まぁ、手で書くハンコみたいなもんだな。
 オレやランディ、親戚筋の頭はそいつを持ってる。
 その嫁さんも、結婚したときにもらうんだ)
(あたしも?)
(こっちの風習だと結婚しても姓が変わらないんだ。
 その代わりに旦那になる奴が考えて当主に承認してもらったのを嫁さんに贈るんだ)
(変わらないのっ!?)
(うーん。インバースでもガブリエフでもどっちでもいいんだよ、オレに言わせりゃな。
 ややこしいことになるから人に言うときは姓を合わせることが多いらしいけどなぁ。
 生まれたときの名を大切にしろってのが理由らしいぞ)
 そう言ったときのガウリイは、何かを言いかけて、やめた。
 確かめてないけど、おそらく。
 ―――『血』がどれだけ流れているか、明確にしたかったんだろうよ。

「これを見ていただけますか。
 昨夜のうちに願い出てお借りしたものです」

 ランディさんが広げた一枚の書状。
 …あたしも見覚えがある。
 かつてアメリアが持参し、ランディさんがサインをした書状だ。
 国家を超えた『事業』を成功させるさきがけとなった証拠。

「当家では印章ではなく花押を有します。私の場合は、これに」

 示されたのは名前の真ん中あたり。
 列席していた人たちも身を乗り出して覗き込む。
 あたしたちも許可されて、見に行った。
 …なんか、落書きみたい。
 これが花押?

「ガブリエフ殿。
 これは貴公の話と矛盾しないかい。
 これならば、真似して書くことも可能だよ」

 ストライジェが問う。
 
「いいえ、不可能です」

 ランディさんが答える。

「試してみれば、わかるさ」

 ゼルが援護する。
 かくして、その場にいた全員に紙とペンが配られ、実際に書いてみることになる。
 ――― すると!

  ぼっ
  ぼっぼっ
  
「こんなことが…」

 うめいたのは誰か。
 真似をしてそれを書き終えた瞬間、その部分だけがまるで抜け落ちるように燃え尽きた。
 ランディさん以外の誰が書いても、書き損じた場合も、すべて例外無く。

「おわかりですか。
 この花押は私しか書くことが出来ぬものであり、よって偽造は不可能です。
そして、シャルレも私とは違う花押を有しています。
今回、あえてとある場面で書いてもらっていたのですが」
「説明してもらおうか、『真実』とやらを。
 これをどう釈明する?
 俺はあるルートなどとごまかさず、はっきり場所まで答えられるが」

 ゼルが紙の束をテーブルにぶちまける。
 それにはすべて、さっきランディさんが読んだ文面と、シャルレさんの名前、それに今目の当たりにした焼きコゲがあった。

「どういうことじゃな」
「い、陰謀だ!
 自分は天地神明に誓って」
「陰謀だから、花瓶の下のゴミ箱からそいつらが出てきたと?」
「なっ」
「『なぜそれを知ってる』か?
 それとも『何も知らん』か?
 この紙は特別に注文しなければ手に入らないものだろう?
 聖王都の国章入りのこの紙は、手続きを取らなければ手に入らないからな。
 しかも、今朝大至急で15枚追加注文してるな。
 何に使った?
 …いや。ここにある紙の枚数を数えたが早いか。
 それとも原本をここに出そうか」

 相手に口を挟む隙を与えずゼルは一気に並べ立てる。
 そして懐から取り出した何かをテーブルに置き、手でおおって隠した。
 ――― 公の場所でありながら、もはや密談だ。
 決してオモテに出さない『材料』が彼らの間で交わされている。
 コレをハッタリと読むか、切り札(ジョーカー)と読むか。
 切り札ならば、手の下に隠されたのは昨日シャルレさんが果物を受け取るときにサインした紙だ。

「でたらめだ。
 自分は注文したこともなければ、そんな紙見たこともない」
「…ふん。
 よくこれがそうだとわかったな」
「三文芝居は止めたまえ、ゼルガディス殿。
 原本だと?
 そんなものがあるはずがない。
 それにそんな紙、そちらの奥方に書いてもらえばいくらでも作れるだろう?」
「いや、作れないな。
 これではどうやったって無理だ」

 ゼルの手がどけられる。
 エルトライゼは今度こそ息を、言葉を飲んだ。
 それまで手の置かれていた場所には、何も無かったのだから。

「お聞かせ願おうか、エルトライゼ殿。
 どうしてここにあるのが『紙』だと二度も言い切った?
 俺もランディも、一言も紙だと言っていないがな」
「普通サインの原本を作ろうと思ったら紙に書いてもらうのが当たり前だろう!」

 言い放ってから、エルトライゼは失言に気がついた。
『サインの原本を作ろうと思ったら』という言葉からすでに自分のしたことを認めてしまっている。
『あるはずがない』もそれに輪をかけていた。
 彼に冷ややかな視線が突き刺さる。
 もはや彼が何を言おうと信用は無い。
 お間抜けな候補者の隣に座っていた微妙に成金ぽい男が天を仰いだ。

「この不届き者めがっ!!」

 フィルさんの一喝。
 びりびりと空気が震えるようだ。
 ――― 没落した家を再興したいというところか。が、相手が悪かったな。
 後にゼルから聞く科白だ。
 聖王都の公式文書に使われる紙は万が一のことを考慮して耐火・防水効果のある繊維を織り込んでいるそうだ。
 だからこうしてゼルが相手に突きつけることができた。
 しかしシャルレさんがサインしたのは普通の紙。
 証拠隠滅の為に燃やされてしまった。
残っていたのは灰だけ。
 だが。
 それを知っていてあえてぶつけたことで相手は余計な勘繰りをしてしまい、うまく逃れたつもりが墓穴を掘ったというわけだ。
 言わば、ゼルのハッタリ勝ちである。
 …どこまでがハッタリかと訊かれるとちょっち自信無いけど……。
 とにかく、一人脱落してあと一人。

「さすがだね。
 じゃあ今度は僕の質問に答えてもらおうかな」

 話し方だけで見るとなんだかちょっと頼りなげと言うか子どもの話し方のようなのだが。
 …強敵だ。
 さっきのお間抜けとは格が違う。

「何なりと」
「どうしてそこまで『血筋』にこだわるんだい?
 僕が言ってもうそ臭いだろうけど、そんなに必要なものだとは思えないんだよね。
 どちらが答えてくれてもいいよ。
 今後も仲良くしていきたいから」

 家族の繋がり、先祖の繋がり。
 今取り沙汰しているのは。

「レゾのご威光なぞにすがる気はさらさら無い。
 素姓の証明をしろと要請されたから出した。
 それだけにすぎん」

 ゼルは言い切った。
 アメリアは口を真一文字に結び、僅かに身を乗り出している。

「自分は自分の力だけで勝負するって受け取るよ。
 じゃあ次の質問。
 ―――『魔剣士ゼルガディス』の凶行はどうするんだい」

 避けられない質問。
 今まで間髪入れず答えていたゼルが黙った。
『聖王都の王女の隣に立つ者の手は血塗られている』とはあまりにも聞こえが悪すぎる。
 ゼルが合成獣(キメラ)になった『いきさつ』を話すわけにはいかない。
 それではあの記憶球(メモリー・オーブ)を使わなかった意味が無くなる。
 ストライジェは黙ったきりのゼルからランディさんに視線を移した。

「そうと知らずに後見人を受けたのかい。
 そんなはずは無いよね。
 ガブリエフ殿はけっこう先を見てるみたいだから」

 どうやらストライジェはゼルやランディさんと今後も繋がりを持ちたいらしい。
 事情通のように振る舞い、主導権を握ろうとしている。
 
「過去への妄執に囚われれば、破滅を招く。
 血の繋がりは、誇りの繋がりと掏り換えられる。
 誇りは奢りとなり、己を喰らい尽くす。
 そうして堕ちていった者を、私は何人も見ている」

 ランディさんは静かに語る。
 そう言えば、この人も『上に立つ者』だった。

「しかし、そこから脱した者も知っています。そういう者は、信用に値する」

 ゼルの言葉から会いたくもない相手と再会してしまったのに。
 拒んでいた表舞台に引きずり出されたというのに。
 この人は。
 この場でも。

 …そして、ゼルが言葉を紡いだ。

「かつて俺がその名で呼ばれたことも、人を殺めたことも認める。
 この手からその感触が抜けることなど、一生無いだろう。
 否定しない。
 事実だ」

 あたしは剣を持ってるけど、ほとんど使わない。
 いつまでも手に残るあの感覚を、震えを知ってしまったから。
 魔法で倒すよりも、ずっとずっとリアルだ。
 許す許されるの問題じゃない。
 あたしの根底にある、原始的な本能 ――― 生きるために。
 だからあたしは、否定しない。
 ゼルも、あたし自身も。
 …剣のみで生き抜いてきたガウリイも。

「だが俺は、アメリアとともにありたい」

 人間に戻る。
 そうゼルが口にすると否定したアメリア。
 自分と何が違うのかと言い続けた。
 ――― そしていつしかゼルは、最大の目標であったそれを手段の一つと言い切るようになった。

「うん、それは知ってる。
 アメリア王女に好意を寄せても僕は怒らないよ。
 でもさ。
 この聖王都セイルーンはどうでもいいのかい。
 そういうわけにはいかないよね。
 ここだって、過去の繋がりからできてるんだから」

 ゼルガディス殿はふさわしくないよ。
ストライジェの少し顎を上げて目を細める仕草がそう雄弁に語る。
 表向きは物分かりがいいふりをし、意見を聞くと見せかけて実は相手の退路を潰している。
 そしてこの男は、自分の立場が絶対的に揺るがないことを知っている。
 調べたところ、ストライジェにはネックになるような要素が一つも無い。
 彼自身にも、輝かしい勲章を何度も授与されている。

「僕なら、傷つけないよ。
 これまでも、これからも。
 それがセイルーンの、アメリア王女のためだと思わないかい」

 ね?とストライジェは列席者に同意を求める。
 ストライジェの胸につけられた勲章がちゃらりと揺れる。
 列席者は隣同士でぼそぼそと話し合い、静まった。
 異論する空気ではない。

「―――― さい…」
「アメリア?」
「わたしのことなのに勝手に決め付けないでくださいっ!」
「アメリアは政治の道具じゃない!!」

 アメリアが叫んだのと、ゼルが激昂したのは同時だった。
 あたしも思わず立ち上がっていた。

「…両名とも、座れ」
「……はい」
「……………っ」

 低い低いフィルさんの言葉にアメリアはしぶしぶ座る。
 ゼルもまだ憤懣やるせないという感じだが一応座り直した。

「ストライジェ殿がセイルーンに多大な忠義をもっていること、このフィリオネル十分承知した。
 そなたに任せればこの国はさらなる繁栄をしよう」

 アメリアから表情が抜ける。
 次に出る言葉から逃げるようにゆっくり上半身を横に引いていった。
 ストライジェが粛々と聞き入れようと僅かに俯いた下で、にやりと口の端が動く。
 よく見ていなければ気づかないほどに。

「『今を殺して何の未来があろうか』。
 父エルドランがかつてこの場で言ったように、わしもアメリアにこの言葉を贈る」

 フィルさんも市井から奥さんをもらった人。
 前例無き事態に反発はものすごかっただろう。

「殿下、それは!」
「国を統率する者として下す結論ではないのかもしれんな。
 長い聖王都の歴史において、連続した二代が揃って古(いにしえ)よりの法を破るなど。
 じゃが、国を支えるは人だ。
 国が繁栄しようと、笑わぬ姫にどこの民がついてくる。
 民無くば、国は滅ぶ」

 アメリアはゼル以外の誰とも結婚しないとずっと意思表明していた。
 楽しそうに、嬉しそうに笑うアメリアを城の誰もが見ていた。

「情に流されるときではありませんぞ、殿下。
 この者では、国は仕切れませぬ」
「誰がそんなこと決めたのよ」

 あたしは一歩、前に出る。
 視線があたしに集まる。

「この席に座った以上、黙って見てろ。
 これがあたしの通すべきスジよね。
 悪いけどこれ以上やってらんないわ。
 あぁ、心配しなくてもすぐこの部屋から出て行くわ。
 でもこれだけは言わせてちょうだい」
「殿下、聞く必要なぞありません!
 衛兵!即刻リナ=インバースをたたき出せ!」

 ストライジェの後見人の言葉にあたしは両脇を抱えられる!

「聞いて戯言と流すには少々分が悪いとお考えですか」

 後見人には後見人が反論する。
 歳は倍以上違うのに、全然負けてない。
 トン、とランディさんは一回テーブルを指で叩いた。
 ぴくりとアメリアの肩が跳ねる。
 ゼルが息を吐く。
 音一つで、金縛りのような空気が解かれる。
 あたしの戒めが放たれた。

「あたしが言いたいことは一つだけよ」

 言ってやりたいことは山とある。
 だけど、それはあたしが言うべきことじゃない。

「あんたは、どうしたいの」

 他人の都合全部うっちゃって。
 奥底のエゴを見つめるなら。
 ――― 導き出される結論は、一つ。

「他人に決められて受け入れるなんて、あたしはノーサンキューだわ」

 でも、捨てれないなら。
 裏切れないなら。

「わたしは」

 どうすればいい?

「わたしが相手として望むのはゼルガディス=グレイワーズ一人だけです。
 一緒に歩んでいきたいのは、ゼルガディスさんだけです。
 ストライジェ公、引いてください。
 あなただけじゃない。
 他の誰のもとにゆくことになったとしても、わたしはずっと、きれいなままでいます」

 ――― 昨夜、国は捨てませんとアメリアは言った。

「アメリア様!それでは尊きセイルーンの血が絶える可能性が!!」

 養子を迎えれば国は続く。
 だが、一つの流れは断ち切られる。

「…もういいよ。
 フィリオネル殿下、アメリア王女。
 僕はこの席を放棄します」
「何を言い出す!?」
「これ以上やったって悪評が立つだけさ。
 今引くのが一番いいんだ。
 まだまだ、終わったわけじゃないし、ね」

 ストライジェはちらとどこかに視線を投げると肩をすくめた。
 その表情はやけくそでもなく、虎視眈々と何かを狙っている感じだった。

 ――― 最後のコールが響いた。

*****************

「はぁい、お疲れ様☆」
「…まぁな」

 決議の後。
 激励なんだか自分らの宣伝なんだかよくわからない祝辞の波に飲み込まれていたゼルがようやく部屋から出てきた。
 腕をぷるぷるさせるとこから考えるに、どうやら握手の嵐にも巻き込まれたようだ。
「あれ、ランディさんは?」
「さっきまではいたんだが…?」
 すると、意気揚々と反対側の扉を出てくストライジェの姿。
 部屋を覗き込むと、ちょうどランディさんが振り返るところだった。

「何か言われたの?」
「いえ。
 手を組まないかと勧誘されただけです」
「それで、何て答えたんだ?」
「ワインをお返しした非礼を詫び、『表舞台に立つのはこれきり』と答えました」
「で、あっちは?」
「『ふぅん。じゃ次の機会にね』と」

 苦笑しながらランディさんは答えてくれる。
 次の機会に、か。
 …………こりてない。全っ然こりてないぞあの男ぉっ。

「そのことなんだが…」
「どうぞお好きにと何度も念を押したはずですよ」
「いやしかし!」
「後見人の話を受けた時点で私があの席に座ることは予想済み。
 それにともなう他のことも、無論」

「「……………。」」

「うええっ!?
 じゃあ、あの夜の……?」
「さて、戻りましょうか」

 もしかして、クラヴロートルの離れであったことも予想済み…???
 てゆーか、それも計画のうち…????
 なんか、確かめるのもコワイぞ。
 ……前にガウリイの言った意味がわかる気がするし。
「はぁ〜…」
 あ、ゼル脱力しちゃったし。
「今から疲れていてはもちませんよ」
 いや、立ち直るにはちょーっとかかるんじゃない。
 たたたたたたた。
 …お、廊下を走る音。

「ゼっルガディスさああああああああああああああああんっ♪」

「行きましょうか、リナさん」
「そぉね。
 ゼル、アメリア連れてきてね☆」
「……わかった」


 戻りながら、今回の『計画』はランディさんでも、『依頼者』がいたことを知らされた。
「無体なことを依頼されたものです」
「でも成功させてるじゃない。
 見事に適材適所だわ」
「このことはリナさん」
「わかってるわ。
 ゼルには言わないv
 いいからかいの種なんだけどなぁ」
 今言ったらしばらく立ち直れないだろうしなぁ☆

 ―――『依頼者』は、今あたしたちの後ろで「ばんさいしますっ」とか言ってる娘だったりする。

                                   /続/
*********************************************************************
むーん…
このあたり、某桐生さん(某じゃないし)が素晴らしく描かれたあたりなんで、胸借りるつもりで気張りました。
こういうのもアリかなと受け止めていただけたら幸いです。

本文中『血筋』というのがいくつも登場します。
いろんな意味で使われますよね。
遺伝子的なものであったり、過去の功績を象徴していたり、または『疑いようの無い事実』とかで。
今回、あえてどれという限定をせずに使用しました。
どこにウェイトを置くかで印象が違ってくるんでしょうねぇ(ちょっと狙っている)

それから。
エルトライゼ、自滅です(爆)
フィルさんに一喝された後も退席することもできずずっとあの席で座ってました。はっはっは。
ストライジェ、名前付けようかと思うくらい個性がつきました。
しっかし、難しいのよね、彼。『悪役っぽくない悪党』目指してます(笑)
それからそれから。
当初ではひたすら「語り部ゼルくん」でいくつもりだったのが、黙ってませんでしたねぇ、いろんな人が(笑)
ゼルはかなりストレートに話をしてますが、ランディとかストライジェとか含みがありまくる科白連発してますね。
裏の設定が影響してるんですが、これが日の目を見る可能性はリナの胸ほどに少ない……(逃)
それからそれから。
『計画』の目的ですが。
………ヒントは、ゼルがどっかで言ってます。盗聴されてますv
どこまでが計画線上だったかと言うと、………内緒でふ(待テ)
イレギュラーがあったことは事実です。

最後に。私は別に夫婦が同姓であったり別姓であることに否定も肯定もしてませんので。
「花押」については次回にまた触れます。
どんなものかと言うと、まぁサインなんですが。本名とはまた違った名前を崩して書いたものらしいです。

○小ネタかも
 姫様お気にの「おねだり」v

ではでは、本文長けりゃ後書きも長い(笑)
みていでございました。多謝♪

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19761待ってましたぁぁぁぁぁぁぁぁぁ♪ブラッド 2002/1/25 17:27:24
記事番号19758へのコメント

こんにちはっvブラッドです。
もうもうもうもう、待ってました♪

>会話だらけです。
大丈夫です。私は一度3ページ全部会話文だけにしたことがあります(汗)
たまに陥るんですよ……会話地獄(泣)←現在陥ってたり。

>さてさて、一番『強い』のは誰なんでしょうねぇ。
セイルーン親子(きぱ)
いや、なんとなくです。ただ、のりです(笑)←本当は、『フィルさん』と限定させようかしら、とか思った奴(をい)

> 没落貴族だかなんだか知らないけど、あんたってトモダチ少ないでしょ。
> ――― 理由なんか無いわよ。そう直感したんだから。
ちょっとつぼだったり(笑)
あんたってトモダチ少ないでしょ。
すごい言いようです(爆)

あぁっっ、でも今回の話、私のつぼですわv素敵v←何かを含ませた会話文が好み。

それにしても、とうとうこの時がきたって感じですよね。みていさんがどう進めていくのか、ずっと楽しみでしたv
というか、やっぱり彼は私のつぼでした(笑)
いや、もう、好きです(きぱ)

>「さすがだね。
> じゃあ今度は僕の質問に答えてもらおうかな」
よっしゃぁぁぁぁぁぁぁぁっっっっっ!! でたぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっっっ!! と叫んだのは私です(きぱ)
あぁぁっっ、彼ですっ!! 彼ですねっ? 彼なんですっ!! ブラッドのつぼキャラ☆
それにしても、彼は謎ですね。ランディさんに手を組もうといったり、なんだか諦めてない感じだし(笑) 
もう、まったくこりてない自分中心な感じが(微妙に違うから)あぁぁっっ、再登場期待してまっすv(待て)もう名前つけちゃってくださいよ(我が儘)

あ、あと図書館のおじさん。次でてくるのがすごい楽しみです〜。

花押がなんだか凄い見てみたい気がします。いったいどんなのなんでしょう?
落書きみたい………う〜ん、想像つかないなぁ。

それにしても、ゼル喋ってますね〜(笑)
きっと喋りたくてうずうずしてたんでしょうねっ(違)
なんだか今回のゼルは凄くかっこいいわv
マシンガントークは繰り出すわ、はったりかますわ、凄いです。
ランディさんは相変わらず素敵ですしv
フィルさんの一喝は絶大な強さを発揮してますし(笑)

それにしても、本当にどこから何処までが計画線上だったんでしょう?

> …おろ?
実は、ブラッド。この台詞で、某剣客漫画を思い出しちゃってました(をい)

それでは、次回を楽しみにしておりますv
ブラッドでした。

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19762レス早いですね〜(嬉)みてい 2002/1/25 18:06:38
記事番号19761へのコメント

>こんにちはっvブラッドです。
>もうもうもうもう、待ってました♪
お待ちいただきました、みていです♪


>大丈夫です。私は一度3ページ全部会話文だけにしたことがあります(汗)
>たまに陥るんですよ……会話地獄(泣)←現在陥ってたり。
場面が移らないものだから喋りまくってもらうしかなく(笑)
『立ち上がった』『取り出した』でさえ特筆するくらい動かないですから(笑)

>>さてさて、一番『強い』のは誰なんでしょうねぇ。
>セイルーン親子(きぱ)
>いや、なんとなくです。ただ、のりです(笑)←本当は、『フィルさん』と限定させようかしら、とか思った奴(をい)
結局、あの親子には勝てませんv

>> 没落貴族だかなんだか知らないけど、あんたってトモダチ少ないでしょ。
>> ――― 理由なんか無いわよ。そう直感したんだから。
>ちょっとつぼだったり(笑)
>あんたってトモダチ少ないでしょ。
>すごい言いようです(爆)
この人はですね、自分が没落貴族であることを不名誉に思ってて、でもって何としてものし上がろうとしてるんです。
それこそ相手を追い落としてでも。
今回は相手が悪かったですね、はっはっは(笑)

>あぁっっ、でも今回の話、私のつぼですわv素敵v←何かを含ませた会話文が好み。
おおっ。
>それにしても、とうとうこの時がきたって感じですよね。みていさんがどう進めていくのか、ずっと楽しみでしたv
いろいろパターン考えたんですが、最終的にこうなりました。
アメリアに泣いてもらおうかなぁとか…(悪)

>>「さすがだね。
>> じゃあ今度は僕の質問に答えてもらおうかな」
>よっしゃぁぁぁぁぁぁぁぁっっっっっ!! でたぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっっっ!! と叫んだのは私です(きぱ)
>あぁぁっっ、彼ですっ!! 彼ですねっ? 彼なんですっ!! ブラッドのつぼキャラ☆
>それにしても、彼は謎ですね。ランディさんに手を組もうといったり、なんだか諦めてない感じだし(笑) 
>もう、まったくこりてない自分中心な感じが(微妙に違うから)あぁぁっっ、再登場期待してまっすv(待て)もう名前つけちゃってくださいよ(我が儘)
ストライジェはですねぇ、後書きにも書いたんですが『悪役っぽくない悪党』にしたかったんですよ。
今までわかりやすい悪役しか出さなかったので、挑戦してみました。
が。
最近異次元を書かせていただいたせいか、ブラッドさんとこのオリキャラ二人を足して3で割ったような感じに(笑)←3?
もし再登場するんでしたらそのときには名前をつける予定ですが(うっ。考えるの苦手)きっと飄々とゼルをからかうんでしょうねぇ。

>あ、あと図書館のおじさん。次でてくるのがすごい楽しみです〜。
人気者ポポさんv
携帯チェス盤持って某にーちゃんをてぐすね待ってます(笑)

>花押がなんだか凄い見てみたい気がします。いったいどんなのなんでしょう?
>落書きみたい………う〜ん、想像つかないなぁ。
どう説明しましょう(汗)
ものすっごく簡略された魔方陣というかヒエログリフみたいな絵で意味を表す文字を崩したものだと想像してください。

>それにしても、ゼル喋ってますね〜(笑)
>きっと喋りたくてうずうずしてたんでしょうねっ(違)
>なんだか今回のゼルは凄くかっこいいわv
>マシンガントークは繰り出すわ、はったりかますわ、凄いです。
もう今回(第13話)はゼルの回でしたから(笑)
>ランディさんは相変わらず素敵ですしv
伊達にこういう場の場数踏んでませんしねぇ(苦笑)
>フィルさんの一喝は絶大な強さを発揮してますし(笑)
『王』ですからv

>それにしても、本当にどこから何処までが計画線上だったんでしょう?
内緒っス。

>> …おろ?
>実は、ブラッド。この台詞で、某剣客漫画を思い出しちゃってました(をい)
あ、やっぱ思いました?(笑)


>それでは、次回を楽しみにしておりますv
>ブラッドでした。
ありがとうございました。
もはや14話完結を諦めているみていでしたv多謝vv

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