◆−微笑みの傷跡 19−ブラッド (2002/1/22 00:38:10) No.19712
 ┗ノってますねぇ(笑)−みてい (2002/1/22 01:27:54) No.19713
  ┗ノリノリ☆です(笑)−ブラッド (2002/1/22 02:09:22) No.19715


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19712微笑みの傷跡 19ブラッド 2002/1/22 00:38:10


こんばんわ、ブラッドです。
とりあえず、皆様ひかないで下さい(切望)
大丈夫だよね? と脅えつつ、最初から逃げますっっ!!(をい)
ではっ、ブラッドでしたっっっ!!
**************************************  







        
                  彼は、その花を染め上げてしまいました。






      +++++++微笑みの傷跡 第19話++++++++







 バシュッッ


「あのさぁ、目的はなんなワケ?」



 ザクッ



「ノイズ関連?」



 シュタッッ



「うざいんだけど」
 余裕ありげに喋りながら、ジュエルは次々といとも簡単に攻撃を避けていく。その様は相手からみると、とても気分を害す行為なのだろう。なにせ、ジュエルの態度はかなり相手を馬鹿にしまくった様子なのだから。
 だが、それが彼の素なのだから仕方がないのかもしれない。しかし、彼が喋るごとに敵の怒りがヒートアップしていってるのも事実。そして、それに気がつかないほど、ジュエルは鈍感では無かった。
「おや? ご機嫌ナナメなのかい?」
 クスクスと冷たい冷笑を交えて、相手の気持ちを逆撫でるようにジュエルは笑っていた。でも、その目は笑っていない。
 目の前では見るのも耐え難い醜い輩達が集まっていて、思わず目を背けたくなる。
 あぁ、なんて嫌な光景なのだろうか。 
「実に……不愉快だ」
 急にピタリと足を止め、雨の滴が落ちるのをゆっくりと眺め、す、と息を吸った。
「5秒。5.4.3.2.1、0」
 かっきり五秒後、ジュエルを目掛けて一人が飛び出してきた。
 屈強そうなたくましい身体は、華奢なジュエルの身体とは正反対。瞳から読みとれる自信からみて、かなりの腕だと自負しているのであろう。だが、それは同時に油断を産んでいるのだ。
「っつ」
 ごつごつとした大きな手がジュエルの細い手首をきつく掴む。その苦痛に一瞬顔を歪めるのだが、ジュエルの表情はすぐにいつもの端正な美しい顔に変わった。その美しい顔からうまれる冷たい視線がその男へ送られる。
「醜い手で触れるな。ゲスが」

 
 バンッッッ










「帽子、どこ行っちゃったんでしょう?」
 急いで追いかけたのだが、いくら運動神経抜群の彼女でも風には追いつけず、帽子を見失ってしまっていた。
 夢中で追いかけていたので、気がつけば丘の麓にまで降りてしまっていた。それに溜め息を吐きながらアメリアはラズライトに助けを求めるように視線を向ける。すると、彼は困った顔で肩を竦めた。
「そういえば、今なんか大きな音がしませんでした?」
「大きな音?」
 鈍い、何かが爆発したような、魔法でも無いような、そう、あえて言うならば。
「銃声……」
 その言葉に、ラズライトの表情が一瞬硬くなった。
「どうしたんですか?」
「……ほら、アメリアちゃんっ。急いで帽子を捜さなくちゃ、またジュエルにいろいろ言われちゃうよっ」
 
 
 
 



 
 

 


 涼しげな顔で、ジュエルはつい先ほどまで捕まれていたせいで、赤くくっきりと手形がついた自身の手首を優しくさすりながら、自分の手に握られているものをふわりと見つめる。それは、とても簡単に、とても単純に、とても不確実に人の命を奪える残酷な武器―――――拳銃。
 奇妙に静まりかえっているこの空間で、ジュエルはゆっくりと目線を下げた。
 ヒューヒューという耳障りな荒い息づかいが聞こえてくる。
「ふぅん。まだ生きてるんだ。ま、急所を狙って撃ったんじゃないからある意味当然といえば当然かな」
 そう、ジュエルは彼の手首を掴んていた男に向かって発砲したのだ。容赦無しに。
 その男はなにやら顔を青ざめさせて、撃たれた場所から血をだらだらと流して倒れ込んでいた。見るのも耐え難いような醜い顔を歪めさせてさらに醜くし、その余りの気持ち悪さにジュエルは思わず顔を顰める。
 ある意味、精神攻撃を受けてるような気分にもなってくるぐらいの不快感。
「あぁ、なんて醜いんだろう、気持ち悪い」
 こんなモノに自分の手首が捕まれていたのかと重うと、嫌悪感がひしひしと溢れ出してくる。
 目を細めて睨み付けたまま、こいつをどうしてくれようかと考えを巡らせていたとき、ふとそいつの口元がなにやら動いているのに気付き、ジュエルは眉を顰めて彼自身もその口の動きを真似て動かしてみた。
 唇だけが動く、音のない言葉。
『た・す・け・て・く・れ』
「へぇ、助けて欲しいんだ」
「う゛ぅっ!」
 その男は、なんとか跳ね起きようとしてもがくのだが、ジュエルがそれを許すはずがない。なんとか、やっとの思いで少しだけ起きあがりかけた男に向かってジュエルはやんわりと微笑んで見せた。すると、それを見て何を勘違いしたのか、男はつられてその歪んだ顔に少しだけ笑みを浮かべた。


 パァンッッッ

 
 乾いた音が響き渡る。
「ねぇ、何を勘違いしてんのさ。僕が何故笑ったか君ちゃんとわかってる?」
 クククッと喉を鳴らして笑いながらジュエルは言う。
「君のその姿が余りにも滑稽だったからだよ」
 二度目の発砲。 


 今現在の光景は、その場にいる誰もがきっと予想もしないものだったのだろう。端から見たら、ジュエルは何一つ武器を持っていないように見え、華奢な身体からは体術なら自分たちの方が有利だと思え、彼が魔道士だという情報も聞いていなく―――――つまり、余裕だ、と思っていたのだ。
 だが、それは彼らの間違いだった。
 今、目の前にいる彼はその雰囲気だけで彼らを圧倒していた。
 絶対的なこの存在感に、絶対的な重圧。
 よく考えてみれば、彼らはジュエルに対しての情報をほとんど与えられていなかった。教えられていたのは、彼がいる場所と、彼の容姿のみ。
 大勢というより、大集団で挑んでいくのだ。皆腕に自信もある輩達だったし、相手は彼らにとってはたった一人の華奢な青年。負けるわけが無い、と思いこんでいたのだ。
 それがどういうことか。今は誰一人彼に立ち向かおうとする事すらしていないではないか。
 皆、何処かが震えているのを実感していた。正直、恐いとすら思えていた。
 たかが青年一人なのだ。何故、そんな奴に脅えているのだろうか。わけのわからない気持ちで、彼らはただその光景を見ていた。そんな奴らに向かって、ジュエルは首を傾げて話しかける。
「おやおや、虫ケラ風情が何を脅えているんだい? 安心してもかまわないよ。僕は別に君たちを殺す気はないし」
 優雅に笑みを浮かべながら、ジュエルはゆっくりと先ほど自分が撃った相手を見つめ、倒れ込むそいつの視線にあわせるかのように、ゆっくりとしゃがみ込んだ。
「この手を血で汚したくないしね」
 その珍しいミルクティー色の髪と同じ色に少し金がかった特質な色の瞳で冷たい色にかえて、自分が撃ち抜いた人物―――――彼にとっては醜いダケの気持ちが悪いモノに向かって、ジュエルは容赦無しにクスクスと笑った。
「ねぇ。見てよこの手首」
 
 
 バンッ


 そいつの腕のすぐ横を、服だけが掠めるように撃ち、ジュエルはいつのまにか気を失っていたらしいそいつが覚醒したのを確認してはっきりと言う。
「ほら。何色になってる? 赤……いや、紫か」
 立ち上がる事すら出来ない男の腰元から銀色の長剣を奪い取って、ぎらぎらと鈍くひかる刃の先端を指でつつきながらその男を見下ろすと、そいつのすぐ上にその切っ先を持っていく。
「いいかい? 君はね、この僕の手首をこぉぉぉんなふうにしちゃったんだよ?」
 倒れ込む男に無理矢理確認を取らせて、ジュエルは満足げに頷き、倒れ込んでる男を含め、彼を今取り囲んでいる奴ら全員に向かって話し始めた。
「さっきの言葉少し訂正しよう」
 ジュエルの表情が、妖しく、冷たく変わる。
「僕はね、僕を傷つけた奴には容赦しない事にしているんだ」


 グサリッ


 教養の欠片も感じられないような男の顔は恐怖に脅えているように、小刻みに震えていた。
「クククッ。惨めだねぇ」
 倒れ込んでいる男を転がすように乱暴に蹴り、ジュエルはまるで諭すかのように、気味が悪いほど穏やかに言う。
「いいかい? 力のない者は、力ある者によって自由を奪われる。それは強者の論理。そして生き残るものが、強者であることは自然の摂理なんだ」
 ジュエルがしている行為は、まるで見せしめのようだった。その光景を見、たまらず誰かが怒鳴り声をあげた。
「お前はっ、人の命をなんとも思わないのかっ」
 やっとの思いで言ったような、早口な小さな叫びのような言葉はジュエルの耳にはしっかりと届いていた。その言葉が聞こえた方向に振り向き、ジュエルは当然のように、そして呆れたように肩を竦めた。
「実につまらない言い分だね。生きるために他の生命を奪うなんてこと、多かれ少なかれ、誰だってすることだろう? そもそも、君たちだって僕を殺しにきたんじゃないか」
 大袈裟な身振り手振りを加えてなおも続ける。
「そうそう。僕は君たちと違ってまだ慈悲深いよ。この僕を傷つけさえしなければ君たちは死ぬことはないんだからね」
 その言葉に、否定するどころかイイワケをする人物すらいなかった。 



 ジュエルは自らが撃った男の傷を踏みつける。
「君も可哀想にねぇ。こんな無駄な行為さえしなければ痛い思いをしなくてすんだのに」
 からかうように言いながら何度も傷口を踏みつけ、それでもジュエルの表情は全く変わらなかった。
「ねぇ、痛い?」
 クスクスと彼がそう問うたびに返事はなく、変わりに男の苦痛に苦しむ呻き声と荒い吐息が返ってくる。ゼハゼハと息を漏らしながらその男はきつくジュエルを睨み付ける。
「そんな醜い顔を僕に向けないでくれる? 吐き気がする」
 


 シュサッッッ



 それを見かねたのか、半ばキレたように誰かが一人飛び込んできた。その光景をつまらなそうに一瞥し、銃を構えようとするのだが、向かってくる相手のスピードは予想以上にはやく、銃を構え狙いを定める時間なんてない事に気付き、軽く舌打ちする。
 こういう時に、銃は不便なのだ。醜い相手から出来るだけ離れて、この引き金をおすだけで人に命を奪っていく。実に簡単だ。そして、自分を余り汚さないですむ。だが暴発の危険性は何度手入れしたとしても、100%無いとは言い切れないし、このような時には使えない。
(さて、どうするか)
 一瞬でも気を緩めればきっと自分は殺られてしまうだろう。体力の配分を考えずに適当に動くことは簡単なことだった。そうすればこの相手を倒すことくらいわけないだろう。しかし、彼には次がある。彼自身、自分の体力の無さは痛い程よくわかっていた。ゆえに彼にとって一番重要なのはその少ない体力の配分方。
 考える時間は余りなく、仕方無しにジュエルは消去法で決めた。


 ドサッッ


 とりあえず向かって来た男の鳩尾に蹴りをいれる。が、それは余り効果が無いことも計算済みだ。彼は力だってあまり強くはないのだから。その男は、ジュエルの予想通り体勢を崩しながらも攻撃を仕掛けようとしていた。
 乾いた唇を軽く舐め、それでもジュエルは余裕を捨てない。いや、実際に彼自身余裕と感じているのだ。


 ビュワンッッッ


 風を切る音がして、つい先ほど銃を掴んでいたジュエルの手には違う武器が握られていた。いったどこから取り出したかはわからないが、ジュエルはクスリと笑って言う。
「本命はこっちだったりするんだよ」
 それは、鞭。


 パシンッッ


 鮮血が飛び散るのだが、どうやら掠めた程度。
「おやおや。悪運が強いんだ」


 ピシリッッ
 

 ジュエルの放った鞭は相手の持つ剣に跳ね返される。それに相手が一瞬顔を緩めたのが笑える。
「でも、まだまだ甘いんだよねっ」
 


 シュルルルッッ



 相手の腕を何十にも鞭で巻き付けさせ、ジュエルは満足そうに頷いてみせた。
「どうだい? まだ何か言い足りない?」
 その差はまるで大人と子供のように見える。そう、ジュエルにとっては、これは単なる遊び程度にも過ぎないのだ。
 これ以上、ジュエルはそいつに対して何をする気もなかった。
 彼にとって、相手を攻撃する基準は自分が傷つけられたか。別に、そいつにはジュエルは特に何もされていなかったし、彼にとってこれは遊びみたいなものなのだ。
 だが、そいつはジュエルの予想に反して腕を鞭で縛られたまま、なおも動きだそうとしていた。だが、もがけばもがくほど鞭はからまっていく。そんな滑稽な姿にジュエルは呆れ果てた。
「これだから馬鹿って嫌いだ」
 瞬間、そいつの手元がキラッと光った気がした。


 シュンッッッ



 からまりながらも、どうやら隠し持っていたらしいそいつが投げたナイフがジュエルの顔を掠めていった。
 その事実にジュエルの瞳は、まるで氷のように冷たく、鋭くなり、そのままでジュエルは薄く笑う。
 それはまさに、歪んだ笑み。
 あいている手で少し痛む頬に軽く触れると、指にはベトッとしたものがついたのがわかった。それは赤色。そう、それは――――――血。
 それを確認すると、ジュエルはただその美しい顔に冷たい笑みを浮かべたまま、何もしなかった。
 それ以外は、ただ、呆然と立ち尽くしていた。
 辺りは切れるような緊張感。誰一人、微動だにすることもない。
 そんなジュエルをどう思ったのか、ナイフを投げた奴がいまだに鞭に絡まりながらも偉そうにハハハ、と下品な笑い声をあげた。
「ふんっ。調子にのるからだ。この小僧が」
 瞬間。
 ジュエルの鞭を握って鋳ない方の手には、銃が握られていた。


 バンッッッ


「バイ」 
 銃声と共に、つい先ほどまで笑っていた男の身体は微動だにしなかった。
 銃は、この引き金を引くだけで簡単に命を奪い取ってしまうモノ。

 その後は、暫く何故か静けさに満ちていた。









「むむぅぅぅぅぅ。どこにいったんでしょう」
 帽子はいまだ見つかっていなかった。アメリアはきょろきょろと辺りを見回す。
「きっと、何処かに落ちたんだろうね。アメリアちゃんが見失ってからそう時間もたっていないし、きっとこの近くにあると思うよ」
 ラズライトも辺りを見回しながら言う。
「あぁぁぁぁ、きっとこんなに待たしてるんだから絶対に嫌味を言われるにきまってますぅぅぅぅぅぅ」
 今から自分がジュエル御得意の毒舌マシンガントークの餌食になっているところを想像してしまい、さっと顔を青ざめさせる。と、同時に早く見つけなきゃ、という焦りが産まれてきた。
「まぁまぁアメリアちゃんっ。そんなに焦らなくてもきっと大丈夫だよっ。だってジュエルはジュエルで大変だと思うし」
「どういう事です?」
 その時。アメリアはまったくわかっていなかった。想像すらしていなかった。
 今のジュエルの状況を。 







「言っただろう。僕は僕を傷つけた奴には容赦しないと」
 そっと頬の傷口を撫で、自分の身なりを丹念に確認しながらジュエルは呟き、どこからか取り出した櫛で髪の乱れを整えてから、安心したようにほっと息を吐く。
「よし、汚れてないね」
 言って辺りを見回すと、彼の周りは殺気と怯えが入り交じっていた。それをうんざりとジュエルは首を傾げて偉そうに腕を組む。
「まったく、どうして僕がこんな重労働してるワケ?」
 問うたところで、返事を返すものなど誰一人としていない事はわかっていた。
(体力……もつかな)
 人数が多すぎる。
 この人数を相手に勝つことは別に不可能ではない。むしろ、100%可能だといいきれるであろう。だが、問題はその後なのだ。
 丘の下をみつめ、帽子を捜しているのであろうアメリアとラズライトを思い苦笑する。もし、この後誰がまた別の奴らが来たときにラズライトやアメリアがいたら。
(ふんっ。僕らしくないよ)
 弱気になっている。
 ラズライトは全く期待できないし、アメリアの場合は戦闘能力に関しては十分に期待できるのだが、なにより彼女を巻き込みたくないという重いが優先される。
 負ける気はなかった。だが、彼らがいたら随分とやりにくくなるというのは目に見えていた。守ってやるつもりは全くない。なら何故やりにくいのか。それは、単に邪魔なのだ。
 ジュエルは、あくまでもポーカーフェースを装い、自分の中で覚悟を決めた。
「さあ、破壊の調べでも奏でようか?」
 湿気を含んだ嫌な風が通りすぎていった。  







 

 鼓動が高くなるのを実感している。息も荒くなり、もう立っていることすら正直辛かった。汗で髪が湿っていた。
 今すぐこの場に倒れ込んで、目を瞑ってしまえばどんなに楽だろうと思うのだが、それをする事はできなかった。酷い睡魔にでも襲われてもいるようだ。
 頭がくらくらして、目の前の景色がなんだかはっきりとしない。
「オーバーワークだっ」
 吐き捨てるように言って、ジュエルは倒れそうになる足をなんとか立たせ、思い頭をなんとか支え、ぼんやりとする頭を無理矢理起こして重い瞼をあえてしっかりと開かせた。ゆっくりと周りを見渡していく。
 此処は、いったい何処なのだろう?
 先ほどアメリアやラズライトと共にきた時は、こんな景色ではなかった気がする。確かに、辺りにはごろごろと転がり込む邪魔モノがいて、その時と違うのだが、なんだかおかしい。
 此処は、こんな空気だったのだろうか。
 広がる鉄臭い血の匂いで吐き気がしてくる。が、別にどうでもいいとぶつぶつと言い直す。
 今の彼にとっては、この空気がなんなのか。それが最優先だった。
 



 パチパチパチパチ



 ふいに、随分とこの場に場違いな間抜けな拍手が聞こえてきた。
「だ…れ?」
 なんとか目の前を見ると、そこには女が立っていた。少しくすんだ紅茶色の髪を無造作にひとつに束ね、ジュエルが問うと、女はクスクスと笑いながら答えてきた。
「誰って? 私は私よ。それ以外に何があるというのかしら?」
 試すように、からかうように彼女は戯けて言った。
ジュエルの瞳には疑惑の色が濃くなっていく。
「君は……誰だい?」
 彼女の笑いはまだ止まらない。
 妙な空気の色は、どんどん濃くなっていった。
「私が誰か。それはつまり私に名を名乗れといっている、という意味だととるわよ」
 そんなこと別にどうでもよさそうに、彼女は近くにあった木にゆったりともたれかかった。
「私は、ルカ」
 空気は、先ほどからずっと切れるような独特の雰囲気を醸し出している。そう、この空気をジュエルは知っている。
「ノ……イズ?」
「あぁ、確かあなた達にはそう呼ばれていたわね。うん。さすが、ジュエル」
 彼女は驚きもせずに、いとも簡単にそれを肯定した。
 どこか奇妙な違和感がする。そう、彼女の態度は何処かがおかしいのだ。
 クスクスと笑い声をあげて、戯けてみせたりする。でも、何かが違う。
「へぇ。そんな声だったんだ」
 顔を見るのは、声を聞くのは実際には初めてだった。でも、初めてではないのだ。
「嫌い?」
「いや、でも。好きじゃない」
「どーでもいいってわけだ」
 そう、冷たいのだ。
 その笑いも、声も、表情も、全て作りモノのように思える。まるで、無理をして感情を隠しているような、笑顔を隠しているような、悲しみを隠しているような、そんな奇妙な違和感。
 何故、自分には彼女の事がそう見えるのだろう?
 何故、自分は彼女の事をそう思ったのだろう。
「疲れてそうね。大丈夫?」
「どうせ、それが君の狙いなんだろう?」
「あはっ。やっぱばれてる?」
 その洗練された彼女の笑顔も、どこか作り物。
 彼女のその美しさすらも、まるで美しいイミテーションのように見えてさえきた。 
「お姫サマ。ちゃんと帽子をみつけられたのかしら」
「戻ってこないっていうことは、まだ見つかってないってことじゃないの?」
「そうかしら? もしかしたら、戻りたくても戻れない状況なのかもよ」
「……何かしたのか?」
「あら? お仲間さんが心配なのかしら。貴方らしくない」
「仲間? はっ。あいつらはあえて分類わけをさせるのなら下僕だよ」
「……安心して。彼女たちには帽子に関してしか何もしてないわ」
「じゃぁ帽子がとばされたあの風はきみの仕業ってことかい?」
「ご名答」
 表情を全く変えず、瞳にも感情や表情すらも映さずに、ルカはまたパチパチと手を叩いた。




「気分はいかがかしら?」
「まぁ、悪くはないよ。ただし、あの臭気をまきちらすネズミどもが視界に入らなければ、だけどね。僕の美意識を今にも破壊しそうだよ、奴等の存在は」
 足下に転がる輩達を一瞥し、言いながらジュエルはそいつらを転がすように、まるで邪魔がゴミでも避けるように蹴る。
「同感ね。じゃぁ、とりあえずこいつらには消えてもらおうかな」
「消える?」
 ぶつぶつと何かを呟きだした彼女を怪訝に見つめると、ふいに周りに倒れ込んでいた奴らがふわりと浮き上がり、何処かへと向かって飛んでいく。その不可思議な光景は、多分ものすごく不快なものであろう。なにせ、ぼろぼろになった屈強な奴らがぷかぷかと倒れたまま浮かんで、何処かへと一斉移動しているのだから。もちろん、ジュエルもその光景を不快に感じる一人だった。
「……今のは?」
「オリジナルよ。といっても、私のオリジナルじゃぁ無いんだけどね。でも、貴方の知ってる人のオリジナルよ。うん、貴方ととってもよく似た人」
「は?」
「見れば見るほどそっくりね。笑顔なんてそっくりすぎて怖くなるくらいね。その髪の色も、あぁ瞳の色は、あの人何者ですかっ、っていうか人間ですか? ねぇ誰か教えてください。まじで怖いですっ。助けて下さいっっ! へるぷみぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃ、とたまに真剣に聞きたくなる彼と同じね」
 その人に何かされた事でもあるのだろうか? すっかり狼狽した様子で彼女は大袈裟な身振り手振りを添えて言うのだが、その人物の正体はなんとなくわかっているのだがあえて名前はださす、その彼自身もよく知っている、自分とよく似たという人物を思い浮かべる。
「……ロード=セラング」

―――――ラズは私似だけど、ジュエルは父親似ね
 
 いつしか聞いた事がある、継母の台詞を思い出す。

―――――笑うと、もうそっくり

 死んだはずの父親。 

 珍しいミルクティー色の髪を持つ人物など、ジュエルと彼くらいだろう。

―――――笑わないで。

 余りにも似すぎていた。
 そして、母は狂った。


「どうして君が―――――」
「ストップ。それは知りたいなら死んではいけないわ」
「随分と矛盾だらけだね」
「感情と理性が混じりあったら大抵そんなもんでしょ?」
 腕を組んで言う彼女の言葉に、ジュエルは少しだけ納得いかないままでとりあえず頷いた。
 疑問点がたくさんありすぎる。
「そうそうお父様のことなんだけど、一つだけヒントをあげるわ」
「生きてるわよ。ロードさん。あと、クオネさんもね」
 その言葉に、はっきりいって目眩をおこしそうになった。

 







「腹立ってきました」
 いきなり、アメリアは叫ぶ。
「あぁぁぁぁぁぁっっっ、もうっ帽子さんっ。どうして私から逃げるんですっ? 逃げるってことは悪なんですねっ。そうなんですねっ悪ですっ!!」
 先ほどから何度か帽子を見つけられたのだが、その度に帽子は風にのって何処かへと飛ばされていってしまう。おいかっけこはまだまだ終わらないのだ。
「あぁぁぁぁぁ、ジュエルが恐いぃぃぃぃぃぃぃぃぃ」
 普段、彼の毒舌をあびまくってる彼女だからこそ、ジュエルを待たせればどうなることかもう目に浮かぶようにわかっていた。もう、帽子を見つけたいではなく、ジュエルを待たせてはいけない。と思考が変換されて来てることを、きっとアメリア以外全員――――――といってもラズライトのみだか、きっと気付いていたであろう。
 ふ、とラズライトを見ると、彼は余裕ありげに帽子をゆっくりと捜していた。
「大丈夫だよ。彼もいま大変だと思うから」








「ねぇ、どうしてそんな顔をしてるのかしら?」
「は?」
「今から死ぬかもしれないのよ? 怖くはないの?」
「あぁ、どうしてだろうね。不思議と君が怖くない」
「あら? それはどうしてかしら? 私も随分となめられたものね」
「おや? それでは君にわかるように僕がその理由を説明してさしあげよう」
「では、お言葉に甘えてご指導御願い致しますわ」
(あぁ、そうか)
 ぽつり、と呟く。
 どうして気付かなかったのだろう。
「まず始めに、君には今までいくらでも僕を殺すチャンスはあった。それなのに僕を殺さなかった。僕は抵抗さえしていなかったのに――――――否、それは君が僕を攻撃してこなかったせいか。そう、君は僕を攻撃する事さえしなかった」
「それは、その時はあなたを殺す事が、そこまで重要視されていなかったからよ。わかるかしら? 私は無意味に人を殺したくはないの。ただそれだけ。そんな理由でわかった気にならないでくれるかしら?」
「ふむ、それでは何故今更僕を殺す事が重要視されてきたワケ? 君は頭が悪い人間では無いと思うんだ。そんな君が僕にずっとつきまとってきたんだ。それなりの理由があるんだろう?」
 彼女と自分は、少し似ているんだ。 
「なんだか話の趣旨が少し変わってしまってる気がするんだけど、きっとこれも関係ない事ではないんだろうね。ねぇ、なんで僕につきまとうんだい?」
 長い沈黙。
 文字通り、本当にその沈黙はひたすら長かった。その長い長い沈黙をようやく破ったルカの表情は、少し哀しげだった。
 でも、その時何故だかルカの仮面が外れていく気がした。
「だって、それが私だから」
「私?」
「存在理由」
「……」
「あの人に従うことで、私は生を得られたの。私は、生を望んだ」
「あの人?」
「でも、私はこれは出来ない事なの。正直な話ね」
「?」
「私は、貴方を望みたいの」
「ルカ?」
「でもね、うん。それは無理。それは、私は生を望まないと言うこと。違う。私は生を望んでいる。私は、私が大事。つまり、私は従わなければいけない。でも、それは私の思いを否定する。わかる? 否、わかるわけないよね。これは私の問題。その答えを人に望むなど、初めから無謀な事だというのは至極理解はしている」
「何が言いたいの?」
「さぁね、自分でもわからないわ。私が何を言いたいのかなんて。でも」
 話は戻る。
「とりあえず、あなたには死んでもらわなきゃいけないの」
 彼女の言葉は、支離滅裂でまるで矛盾だらけなのだ。それなのに、何故か全ての言葉は真実のようで、ジュエルの死については、哀しい決意の色が溢れていた。
「あのさ、そー簡単に僕が死ぬとでも思ってるわけ?」
「全然」
 ルカはきっぱりと首を横にふる。その様子に、ジュエルは呆れた。
「自信ありげにみえるんだけど」
「そう? 不思議ねぇ。自信なんて全くないのに。むしろ不安だらけ」
 不安の欠片もみせずに、ルカは穏やかに微笑む。
「でもまぁとにかく」
 そして、きっぱりと言った。
「潔く、私の為に自ら死んでくださいませんこと? 愛しのジュエル様」






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19713ノってますねぇ(笑)みてい 2002/1/22 01:27:54
記事番号19712へのコメント

こんちには、みていです。

いやぁ、ジュエル、絶好調ですねぇ★ノってますねぇ。
ブラッドさんもノって書いてませんか?(笑)
ものすごいのに一気に読めちゃいました。

帽子、どこに行っちゃったんでしょうね。
しかし見つからないって悪にするかアメリア(爆笑)
実はラズが隠してたりして(待テ)
ジュエルは銃と鞭を武器にしていることが判明しましたけど、ラズは何でしょう。
運動○痴らしいので魔法か薬品かなとか勝手に思ってますが。
アヤシゲな液体の入った試験管をぽいっとかして。

今回一番気になったのはここです。
>「潔く、私の為に自ら死んでくださいませんこと? 愛しのジュエル様」
殺めるのは嫌だからかなとか、ジュエルどうやって答えるかなとか、すごい次が楽しみです。

ジュエルはロードとクオネをもういないものと思ってたんでしょうか。
『言葉の呪縛』をかけた母親のこととか、キャラの設定が深いですね。
今一番謎なのはラズだったりして。けっこう出てるのに情報少ないし。

ではでは、みていでした。
次回楽しみにしてます。

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19715ノリノリ☆です(笑)ブラッド 2002/1/22 02:09:22
記事番号19713へのコメント

こんばんわですっ。もういつもいつもレスありがとうございますっ。
>こんちには、みていです。
はいっ。ブラッドです。
もうみていさんには感謝してもしたりないくらいでございますわっ!!

>いやぁ、ジュエル、絶好調ですねぇ★ノってますねぇ。
ノリまくってます(笑)
とにかく、皆さんこんな彼をひかないかと思ったんですけど、思ったよりそうでなくてブラッドも一安心ってなとこです。

>ブラッドさんもノって書いてませんか?(笑)
かなり、楽しんでのりながら書けちゃいました(笑)
小説の神様が絶対降臨してましたね♪……………でも帰っちゃうのは早いんだな、これが(汗)

>ものすごいのに一気に読めちゃいました。
ををっ。そうですか?
よかったです〜v

>帽子、どこに行っちゃったんでしょうね。
>しかし見つからないって悪にするかアメリア(爆笑)
あはははは。あれは『あぁぁぁっっ。もう嫌っっ!! なんでこんな事なるねんっ。PCっ、お前うちの事きらっとるやろっ? そうなんやろっ? いやいや、嘘つかんでもうちはわかっとる。お前なんか嫌いやぁぁぁぁぁぁぁぁぁっっっ』
という、話をかいてる途中に強制終了くらった直前で書きましたから(笑)
だからきっとうちのPCも悪なんですっ!(待て)

>実はラズが隠してたりして(待テ)
……それも面白いですネェ(のるな)

>ジュエルは銃と鞭を武器にしていることが判明しましたけど、ラズは何でしょう。
>運動○痴らしいので魔法か薬品かなとか勝手に思ってますが。
>アヤシゲな液体の入った試験管をぽいっとかして。
かれは、薬です(きぱ)もう絶対あやしげな薬品の数々を発明してますよっきっと(笑)
でもなによりも、彼の一番の武器は『自分のペースに巻き込む』です(きぱ)
例え暗殺者が来たとしても

「おやっ? こんな夜分にお客さんかいっ? うーむ、黒ずくめのそんな服なんてセンスがよくないよっ」
「…………」
「むむぅ。随分と無口なんだねっ。照れ屋さんなんだきっと。はっはっは。大丈夫だよっそんな照れなくっても? ん? なんだい? お茶をしにきたんじゃないのかい? うむ。じゃぁ診察予約かいっ? そうだねぇ君の場合はセンスがよくないから少し割高になっちゃうかなっ? えっ? それでもない……うーむ。わからないねぇ。まぁいいさっ。とりあえずさっさと中に入り賜えっ。快く迎えいれようぞっ」
で、いつのまにかお茶してるという(笑)
(これ、実はルカがラズを殺しにいったトキに一度こうなったというネタだったり(爆))
だから、
>「見れば見るほどそっくりね。笑顔なんてそっくりすぎて怖くなるくらいね。その髪の色も、あぁ瞳の色は、あの人何者ですかっ、っていうか人間ですか? ねぇ誰か教えてください。まじで怖いですっ。助けて下さいっっ! へるぷみぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃ、とたまに真剣に聞きたくなる彼と同じね」
となるわけです(笑)

で、結局いつのまにかそのお茶には睡眠薬とかがまぜられていて、どっかにぽいっと捨てられてちゃうんですよ(をい)

>今回一番気になったのはここです。
>>「潔く、私の為に自ら死んでくださいませんこと? 愛しのジュエル様」
>殺めるのは嫌だからかなとか、ジュエルどうやって答えるかなとか、すごい次が楽しみです。
ここ、個人的に今回の話で一番気に入ってる台詞だったりします。
何故かぱっとこの台詞が思い浮かんだんですよね。

>ジュエルはロードとクオネをもういないものと思ってたんでしょうか。
あ、ロードについては一度お葬式みたいなのをしてますし、クオネについては自分の目の前で死体をみてますので。

>『言葉の呪縛』をかけた母親のこととか、キャラの設定が深いですね。
そうそう、実は第二部がこの母親やクオネさんやロードさんとの話だったりします。
っていうか初めはこんなに深くなるつもりじゃなかったんだけどなぁ(笑)

>今一番謎なのはラズだったりして。けっこう出てるのに情報少ないし。
そう言われれば、彼けっこう謎ですね(笑)
まぁ、彼は王様ですから(きぱ)
いや、もうそれだけの説明でいいんですっ(逃げるな)

>ではでは、みていでした。
はいっ。いつもいつも本当にレスありがとうございますっ。
ほんと、励みになってますっ。

>次回楽しみにしてます。
ありがとうございますっ。
ブラッドでした。

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