◆−時の呪縛4−神無月遊芽 (2002/1/19 16:48:11) No.19648
 ┗時の呪縛5−神無月遊芽 (2002/1/23 18:19:33) NEW No.19733


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19648時の呪縛4神無月遊芽 E-mail URL2002/1/19 16:48:11


 こんにちは、神無月ですv
 執筆遅くて申し訳ありません(^^;)
 最近また怠け者モードに入り始めまして…。
 それに習い事だの母の仕事の手伝いなどあるものですから。←言い訳

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                           時の呪縛 4


   安らぎも希望も 絶望も苦痛も
   全てが運命なのだと知ったら どう思うのだろうか?
   脆弱な人間達よ
   お前達を悲しみから護るために 真実は闇に隠れるのだ
   だけど憶えていなさい 真実は闇の中に 遠い場所に 貴方達の心の中にあることを



                            4・逃亡



「リナさん、危ないっ!」
その声に反応するかのように、辺りが炎に包まれた。
咄嗟にゼロスに庇われたおかげでどこにも怪我はない。だが、リナは明らかに脅えを見せていた。
 彼女の瞳の中に、”人でないもの”が二つ、映っている。
『ゼロス・メタリオム。一体どういうつもりだ』
『自分の使命を忘れたか』
人型もとれない、低級の魔族。
だが、それですら記憶のないリナには限りない恐怖の対象であった。
「…どうやら、ゼラス様の追っ手のようですね…。
 しかし、あなた達でこの僕にかなうとでも思ってるんですか?」
くすりと、侮蔑の笑みを浮かべる。
魔族達はそれにカッと怒りの表情を見せた。
『おのれ!ゼラス様の命令通り、使命を果たさぬ気なら八つ裂きにしてくれる!』
「どうぞ、ご自由に」
余裕の、いや、普段通りの笑みを浮かべたまま、ゼロスはそう言った。
そして振り返りもせずに、リナに向かって言葉を放つ。
「安心してください。貴方は必ず、僕が護りますから」
 どきん。
不覚にも、彼女の心臓が大きく高鳴った。
 限りなく優しい囁き。どこかで聞いた声。
「ゼロ…」
『ぎゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!』
リナの言葉を遮るかのように、絶叫が聞こえてきた。
驚いてそちらに目を向ければ、笑顔を顔に張り付かせたまま杖を魔族に突き刺し、漆黒の瞳を開いている彼。
「…一人、死にましたね」
にこりと。清々しいほどの笑顔でそう言ってのける。

  ぞくり。

先程とは対象的なほどの感情が、リナの中に生まれた。


                            こ わ い


『お…おのれぇぇぇぇぇぇ!』
「やれやれ…単細胞な方ですねえ…」
なりふり構わず突進してくる魔族に、ゼロスは杖を突きつけた。
「消えてください」
杖から黒い光が放たれたかと思うと、一瞬のうちに、魔族は消え去った。
そして数秒ほどの間を置いてから、地面に黒い塊がぐちゃりと拡散する。
魔族の、肉塊だった。
「ふう、終わりましたね。
 リナさん、大丈夫でしたか?」
その言葉に、リナははっと我に返った。
「え…?あ、うん…平気…」
自分の心臓の音が、うるさく感じた。
彼に優しさを感じたと同時に、彼の残酷さを見せられてしまって。
自分の感情が麻痺している気がした。
「…怖がらせてしまって、すいません」
ふわりと。彼の手がリナの髪に触れた。
 彼女は混乱する。
どちらが本当の彼なのかと。
                            『うそつき』

「え…?」
どこかから声が聞こえた気がして、思わず振り返る。
だが、そこには誰もいなかった。
「…リナさん、どうかしましたか?」
「……ううん…。なんでも…ないよ」
彼の瞳を見れば、優しくて落ち着いた…でも限りなく深いアメジスト。
「…リナさん。僕が怖いですか?」
「え…」
ふいに聞かれたことに、リナは反応できずに吐息にも似た言葉を吐き出した。
「…無理する事はありません。…貴方は、僕が貴方を知っているからついてきているだけ…。
 僕も自分の怪しさは自覚しています」
「………」
図星だったせいか。それとも自分の感情すら解らなかったのか。
彼女はそれに返す言葉をもたなかった。
かわりに。
「ねえゼロス。
 私、貴方の知り合いだって話だけど、記憶がないのが私じゃなかったりしたらどうしてた?」
彼はまるで用意していたかのように、すらすらと言葉を紡ぎだす。
「…僕は記憶を失った貴方以外の誰かでも、記憶を失っていない貴方でも、こんな扱いはしませんよ。
 …貴方だから。今の貴方だからこんなに大切にしているんです」


                          記憶のある貴方は
                         僕にとって 敵だから

「…ありがとう、ゼロス」



                             うそつき。



                      例え貴方が記憶を失っていなくても
                       貴方が大切でしょうがなかった


「正直言うとね。
 ………怖かったわ」
「………」
 表情も変えずに、目を見開くことすらなく。
 彼は簡単に魔族を”抹殺”した。
「でも…貴方の優しさが嘘とも思えない…。
 それに、私は貴方のことを『信用する』って言った。
 ……信用するしかないっていうのも、確かにあるけど…。
 私は貴方を”信じたい”わ」
「…僕が例え悪者だとしても?」
例え話とは思えないくらい、真実味のある怖い声でそう問い掛ける。
「………私が貴方を信じて騙されたとしても。
 私は、最後まで貴方を信じる事が出来た私を誇らしく思うわ」
その言葉を聞いて、ゼロスが自嘲気味に笑んだ。
「…やはり、記憶を失っていてもリナさんですね」

     どうして記憶を失って 何もかもわからない不安な状況においこまれて
     そこまで強くいられるのですか?
     どうしてそんなに自分も他人も信じる事が出来るのですか?

     …違いますね
     過去がないからこそ、無垢な貴方は人を信じる
     過去がないからこそ、真実しか言葉に出来ない


            曖昧な言葉で貴方を苦しませてきた僕に 問う資格などない


「本当に…貴方はどうしてそんなに強いんでしょう。
 傷つく事すら、怖くないのではと思うほどに」
「………ゼロスは、弱いの?」
何気ない一言。素朴な疑問。
彼は、笑んだ。
「…それは秘密です」


  色々と話をした。
  記憶を失う前のリナのこと。
  リナの周りにいる、個性豊かな友達のこと。
  ただの世間話…。
  ゼロスの話題が一つもないことにリナは何も聞かず。
  リナが黙って聞いていることに、ゼロスは悲しそうに笑った。



 海に、ついた。
 黄昏時。真っ赤な太陽が海の中に飲まれていく。
それはまるで絶望の始まりとも、運命の断ち切りとも思えるかのようなまでに綺麗な夕陽で。
あまりに強い紅に。どこかで見た紅に。
思わず、本音が流れ出す。
「リナさん。…もし、僕が貴方を好きで、だけど、そのせいで傷ついてしまったら、どうしますか?」
何かを思い出すかのように、遠い目で夕陽を見ていたリナが、ゆっくりとゼロスに顔を向けた。
 紅が、一層輝いた。
「…私は今、何も持ってないわ。だから、傷つくということがどんなことなのか解らない。
 でもね、貴方がずっと言っていたリナ・インバースならこう言うわ」
輝く紅い瞳。もの悲し気なのに、あまりに綺麗な笑顔。


「『傷つくことなんて怖くない』」


ゼロスの動きが、止まった。
 同じ。彼が愛した女性と、全く変わらない笑み。言葉。

   「(獣王様、残念でしたね)」
   心の中で、思わず呟く。
   「(リナさんは記憶が消されようとも、その輝きは絶対に消えることはないんですよ)」
   自嘲気味に。
   「(そして、僕のこの感情…貴方のいう興味もです)」

「…どうしたの?ゼロス」
リナの声に、ゼロスは考えの中へ入り込むのをやめた。
そして、目の前の少女に微笑んで。
『……なんでもありませんよ』
そう言う筈が。
「愛しています、リナさん」
「え……」
もう、隠し事は出来ない。
記憶のない彼女に、言うつもりはなかった。
でも。記憶のない彼女は僕のことなど知らないのだから。そう、心に刻み付けても。でも。
彼女が”彼女”だと認識した途端に、いつもなら簡単に用意出来た心の壁が、まるで砂の城のように脆く崩れ去った。

  砂の城を崩す事のなかった孤独の海が、紅い夕陽で熱を持つ。
  凪いでいた海はたちまちに荒ぶって。砂の城は紅い波にかき消される。

「…すいません。こんなこと言われても、困りますね。
 でも…貴方を愛していることに、かわりはありません…」
沈黙が、こんなに重たいものなのかとゼロスは思った。
憂いとも喜びともとれない。戸惑うばかりの彼女の瞳が、重たく感じた。
だが、やっとのことで口を開いた彼女の言葉に、ゼロスは平静を失う。
「……私も好きよ」
「………え」
まるで聞き違いとでも言うかのように、聞き返す。
「…大好きよ、ゼロス。誰よりも残酷で優しい貴方が。
 早く、貴方を思い出したい」
記憶なんて消えてる。ゼロスのことなど何も知らない。
残酷なところを見せ付けられた。いつも優しいのはただの仮面なのかと思った。
冷静に考えて、彼のことを好きなのかと思えば、否定したくなるほどに怖い。
 なのに。

                 まるで自分の意志ではないのではと思うほどに
                        魂が惹かれていった

「好きよ」
まだ疑っているかのように口を開かないゼロスに、リナはもう一度そう言った。
ゼロスが、もう耐えられなくなったとでもいうかのように、リナをいきなりに抱き締めた。
「…愛しています」
とめられない。
1度自制した狂おしい想いは、束縛から解き放っただけで誰にも止められないほどに大きくなる。
「…愛しています。リナさん。
 誰よりも、ずっと…ずっと…」
「……」
軽く抱き返すリナ。
それだけで、想いは伝わる。
 夕陽が海の中に沈む。辺りが漆黒に閉ざされる。
「…リナさん。僕は、あるお方から貴方を抹殺せよという指令を受けています」
「……魔族の偉い人?」
戸惑いも脅えもせずそう言ったリナに、ゼロスが苦笑した。
「相変わらず、勘がいいというか頭がいいというか…」
「お褒めにあずかり光栄だわ」
茶目っ気たっぷりに笑む。


 変わらない。本当に。


「…リナさん。僕は貴方を愛しています。
 貴方に覚悟があるならば、僕は貴方を連れて逃げることも考えています。
 貴方は、何もかも捨てる覚悟がありますか?」
リナを抱き締める腕に、わずかに力がこめられて。
「…私は何も持ってない。覚悟なんて決めようがないけど、これだけは解るわ」
ゼロスの服をぎゅっと握り締め、涙目で叫ぶ。
「ゼロスがいない世界なんていらないっ」
その言葉を聞いて、ゼロスが満足気に微笑んだ。
「…その言葉だけで充分ですよ。ありがとうございます」

                          使命からの逃亡
                          運命からの逃亡
                     だけど 別に逃げているわけじゃない
                 使命なんて関係ない 用意された運命など知らない
                大切な何かを得るために 大切な貴方を護るために
            がんじがらめの鎖を引き千切って どことも知れぬ場所へと走る


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 はい、明るくなって参りました。
 ラストの形も大体決まりましたので、後は一気に…書けたらいいですね…(笑)

 それでは。
   神無月遊芽

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19733時の呪縛5神無月遊芽 E-mail URL2002/1/23 18:19:33
記事番号19648へのコメント

 やばい。ツリー落ちそう。
 というわけで慌てて投稿。

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                           時の呪縛 5


   脆く儚く 強く気高く
   我ですら予想のつかぬ生き物達よ
   思うが侭に生きるがよい 思うが侭に歩むがよい
   何もかもを乗り越え 何もかもを得 何もかもを捨て去れ
   それが例え絶望への道だとしても 我はお前に称賛を与えよう


                            5・自我


 どれだけの時間が流れたのか。
ただただ歩きつづけるだけの私とゼロス。
瞬間転移が可能な魔族から逃げおおせる事など不可能だとわかっている。
それでも。この想いを止める事が出来ないように、私もゼロスも止められないのだ。
逃げ切ることが不可能でも、黙って捕まってあげることなんて。
「リナさん、寒くありませんか?」
ふいに足を止め、そう問うてくるゼロス。
確かに、夕陽はとうに海の中へ消え、空には満天の星々が輝いている。
肌寒い空気が肌に触れて、体が微かに震えた。
「ううん、平気よ」
そう言って、笑ってみせる。
このくらい大した事なかったし、心配をかけたくなかったのかもしれない。
だがゼロスは納得しなかったのだろう、自分のマントを脱ぐと、それを私の肩にかけた。
「リナさん、どうか無理はしないでください」
私の頬が熱くなるのを感じ、思わず俯く。
「…ありがとう」

                      魔族なんかに命を狙われて
               こんな状況が 喜ばしいものでないのは解ってるのに
                  「大好き」という感情が溢れて零れていく


                        幸せとすら 思えるくらい


「…ふわぁ…なんか……
 眠たくなってきちゃった……」
その言葉にゼロスは微笑むと、まるで私の視界を覆い隠すかのように抱きかかえてきた。
「安心して眠ってください。僕が護りますから」
まるで魔法のように頭の中に響く言葉。
私の体から力が抜け、眠りの世界に誘われる。
 ゼロスはそんな私を地面に座らせ、何かぶつぶつと呟いた。
彼が結界を作り出したのだと認識し、その手が再び私の体を抱き締めると、完全に私の意識は闇へと消えた。





   『リナ・インバースね』

頭の中に直接響く声。

   「誰?」


そう聞くと同時に、視界いっぱいにイメージが広がる。
 暗闇の中に、立ち尽くす褐色の肌と黄金の髪を持つ美女。
その瞬間、体中にぞくりと悪寒が走った。
嫌悪感。というよりは…空疎感。


『獣王ゼラス』
冷たい響きの声。


「その獣王様が何の用?」
『そうつれなくしないでちょうだい。
 悪い話ではないわ』
ゼラスはそう言いながら歩み寄ってくる。
そしてゼラスが近づいてくるほどに、悪寒はひどくなり、頭痛までしてきた。

『相談なんだけど…。
 貴方、魔族になる気はない?』
「…それが、私があなた達に命を狙われている理由?」
ゼラスがくすくすと微笑う。
『あら、察しのいいこと。
 …そう、記憶を失う前の貴方はこれを断っているわ』
頭が酷く痛む。
意識を保つのがやっとだった。
『どう?悪い話じゃないでしょう?
 私達の仲間になればもう貴方の命は保証されるし、ゼロスとも一緒にいられるのよ?』
ゼロスの名前が出てきて、少し動揺する。
それを見てゼラスは、またくすりと笑った。
『…ほら。「YES」と答えたほうが貴方のためよ?
 魔族の身はほぼ不滅。永遠にゼロスと一緒にいられるわ』
「…勘違いしてもらっちゃ困るわ」
どうにか絞りだした言葉に、ゼラスは怪訝そうに眉を潜めた。
「……確かに、おいしい話ね。
 今の私が望む条件を、完全に持ってるわ」
『なら、仲間になりなさい』
相変わらず頭は痛くて、体中が氷のように冷たいのを感じる。
だけど不思議と、包むような暖かさも感じた。
「冗談じゃないわ」
『…なんですって?』
射るような、呪いの視線。
だけど怖くなかった。

                     貴方さえいれば私は強くなれる
                   私は一人じゃないから 貴方がいるから
            例え私の体が死に絶えても 貴方の瞳が私を見つめ続ける限り
                     何もかもに反発していけるから


「ゼロスがいない世界も、私がいない世界も、想像なんて出来ない。
 だけど、私という存在を歪めるなんて冗談じゃない。
 私は私で在りつづけたいから、ゼロスもそれを望んでるから。
 例え永遠が手に入ったって、まっぴらごめんだわ!」


途端、閃光が走った。
その光はゼラスの手に纏わりつき、その後私の頭へ一直線にやってくる。
避けようなんて思う暇もなく、私の額に何かがぶつかり、そのまま手の平へ転がり落ちる。
「いたっ…!」
『しまった!そんな!』
ゼラスから驚愕の声があがる。
何かと思い手の中を見てみる。
「指輪…?」
目の前が、真っ白になった気がした。


                       『こんばんは。時間通りね』
                         「今日も綺麗ですね」
                       『さようなら、ただのゼロス』
                       「受け取ってもらえますか?」
                           『大好き…』
                       「愛しています。リナさん…」


     浮かんでは消えていく膨大な量の記憶達。
     悲しさと愛しさでぐちゃぐちゃになりそうな思い出。
     らしくない、ヒロイン気取りにゼロスに会えるのを待つ日々。
     殺されるのを願いながら、死に場所を探していた日々。


「………」

私は無言のまま、その指輪をはめた。
そして、愛しげにそれに口づけする。
「…思い出したわ。あんた、指輪に私の記憶を封じて、指輪を盗んでいったのよね」
『…まさか思い出せるとは思わなかったわ』
「ええ、私もよ」
視線を下げる。
「あんたに感謝するつもりはないけど、記憶を失って何か変わった気がする。
 だって、前の記憶を取り戻したけど、らしくない思い出ばかりだもの」


     戦うなんて言いながら ずっと殺されるのを望んでた
     だけど ゼロスとの幸せな時間を瞬間止めて永遠に刻むことも望んでた
     ネガティブな望みも永遠も うんと前の私ならまるでごみのように投げ捨ててたのに
     それを今の私が出来るのは
     全て忘れてしまった私に そんなものはいらないんだと貴方が教えてくれたから


『…私も、感謝などされたくないわね。
 貴方が全て忘れてしまえばゼロスの熱も冷めるかと思ったのに…
 余計に、興味を持たせることになるなんて』
「残念ながら獣王様。僕は”興味”でリナさんと会っていたわけではありませんよ」

「ゼロス!」

突然空中から現れた彼に、驚きの声をあげる。
すると彼は微かに私に向かって笑み、ゼラスに向かって厳しい目を向けた。
「獣王様、お久しぶりです」
いつもの笑み。だけど、瞳は笑っていないことが見てとれた。
『ゼロス。お前が、私が作り出した結界の中に入ってこれるなんて…』
「おや、貴方が作っている結界の場所は、リナさんの精神の中。
 僕はその外に僕の結界を張っているんですよ。
 貴方様のお力が少し弱まってもおかしくはない。
 それに、愛するリナさんの精神の中に入るのが、不可能なわけがないでしょう?」
当然のようにそう言いのけて見せた彼の言葉に少し照れながら、茶化してみる。
「その割には、随分と時間がかかったみたいじゃない?」
「許してくださいよ。いくら僕とはいえ獣王様の結界を破るのは大変なんですから」
彼がすとっと私の隣りに着地した。
それと同時に、真っ暗闇だった背景がぐにゃりと歪みはじめる。

「さて獣王様。
 僕のリナさんの夢に侵入するなんて、例えリナさんの記憶を戻してくださったとはいえ…。

 …ただではおきませんよ」

どうやらゼロスはゼラスとのやりとりを見ていたらしい。
かなりこっ恥ずかしい台詞も言ってしまったから、見られていたと解ると少し気まずい気もするが、今は目の前の敵に集中することにした。
『……』
沈黙し、見下すような視線で私達を見つめるゼラス。
周りの景色の歪みがひどくなってきた頃、ようやく口を開いた。
『…結界が崩れ始めている。少々分が悪いわね。
 1度ひきあげるとしよう』
そう言って、掻き消えるゼラス。
 それと同時に、どこかにぐいっと意識を引っ張られるような感覚に包まれ、視界が閉ざされていった。






「ん…」
眩しい光が、瞼の上から降り注いでくる。
瞳を手で庇いながら目を開くと、隣りに座っていたらしいゼロスと目があう。
「おはようございます、リナさん」
「…おはよう」
なんとか挨拶はしたものの、後の言葉が出てこない。
溢れるくらいたくさんの想いと言葉が、喉の奥でつまってしまう。
そんな私の気持ちを見通してか、ゼロスが口を開いた。
「…ゼラス様が狙っていたのは、
 ”リナさんの記憶を初期化し、後に仲間にすること”だったのですね。
 貴方はどんなに勧誘しても魔族になるような方じゃないから。
 そしてこれでもダメだったら…。
 記憶がない故経験不足から満足に魔法も使えない貴方を殺す予定だったんでしょう」
「ん…そうね…」
曖昧にそう頷く私。

突然、ゼロスが抱きついてきた。
「ちょっ…」
驚いて、霞がかっていた頭が一気に覚める。
ゼロスは指の先に力が篭っているが、少し手で押せば簡単に離れるくらい、優しく抱き締めていた。
「…ゼラス様とのやりとりを見ていて、思い知りました。
 やっぱり、貴方は僕に黙って護られているような人じゃない。
 だから…」
手を、ゼロスの首へまわす。
誰も引き剥がせないくらいに強く抱き締めて。

「私は私で在り続けるわ。誰であろうと私を変えられない。
 記憶を失おうと、例え世界が滅びても、貴方を忘れないわ」


                魂までも愛した人を 忘れられるわけがないから
                        もう誰にも負けないわ
               例え誰に私の記憶を 意識を 貴方を奪われようとも
                       必ず取り戻してみせるわ
                  私は私を 私をとりまくものを護りたいから
           私を邪魔するもの 例え 全てを壊してでも 私の道を貫いてみせる


******************************************
 やっとリナちゃんが前向きになりました。
 少し展開が強引な気がしますが、そこは愛嬌で…(汗)

 さて…実は風邪気味な私。
 昨日はいきなり頭痛がしてきたために、栄養ドリンクとビタミンを摂取してさっさと寝ました。
 皆様も風邪には御気をつけて…。
 うう、本当は他の方の小説も読みたいんですけど、喉は痛いわ寒いわなので今日はこれで。

 それでは。
   神無月遊芽

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