◆−『激動 始まる』−白いウサギ (2001/12/24 19:10:18) No.19157
 ┣『激動 始まる』 1−白いウサギ (2001/12/24 19:12:26) No.19158
 ┣『激動 始まる』 2−白いウサギ (2001/12/24 19:14:33) No.19159
 ┣『激動 始まる』 3−白いウサギ (2001/12/24 19:16:27) No.19160
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 ┣『激動 始まる』 5−白いウサギ (2001/12/24 19:20:25) No.19162
 ┣『激動 始まる』 6−白いウサギ (2001/12/24 19:23:32) No.19163
 ┣『激動 始まる』 7−白いウサギ (2001/12/24 19:26:24) No.19164
 ┃┣はじめましてー!!!−風林みつき (2001/12/24 21:48:52) No.19168
 ┃┃┗はじめまして(^^)−白いウサギ (2001/12/25 21:27:50) No.19208
 ┃┣お疲れ様でした−MIYA (2001/12/26 07:56:54) NEW No.19216
 ┃┃┗MIYAさんこそ、お疲れ様でした(笑)−白いウサギ (2001/12/26 23:46:56) NEW No.19239
 ┃┣はじめましてッ!−むくぅ (2001/12/26 19:21:24) NEW No.19225
 ┃┃┗はっじめまして♪−白いウサギ (2001/12/26 23:53:11) NEW No.19240
 ┃┗Re:『激動 始まる』−ブラントン (2001/12/28 00:34:39) NEW No.19258
 ┃ ┗激動 始まりつつ−白いウサギ (2001/12/28 16:02:12) NEW No.19261
 ┗Re:『激動 始まる』−清川正寛 (2001/12/26 01:52:03) NEW No.19215
  ┗激動 自分的にも始まる−白いウサギ (2001/12/27 00:09:06) NEW No.19241


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19157『激動 始まる』白いウサギ E-mail URL2001/12/24 19:10:18


 * 使用上の注意

 今回のお話は、ロスト・ユニバース長編、『朋友 まみえる』の続編です。
 一応一つのお話として読めるようにはしましたが、前回のお話を読まれた方が一層効果的です。
 逆に、この小説を読み終わってから前の話を読む、とゆーのも展開的にはアリです。
 最後に、最大の注意点を。
 毎度の事とはいえ………………長いです。ご注意を。

 皆様、お久しぶりです。白いウサギです。
 はじめましてのの皆様、はじめまして(挨拶遅いって)

 前回の『朋友 まみえる』のあとがきで記述されたように、今回も同じく内容はロスト・ユニバース(原作版)完結後の話です。
 ですから、前作『朋友 まみえる』は第二部第一話、今回の『激動 始まる』は第二部第二話などとゆー、ナメてんのかワレ、的な設定だったりするのですが――
 まぁ、白ウサの書くものですし。
 ――んではっ。
 あとがきでお会いできることを祈って(切実)

『激動 始まる』

1 プロローグ
2 運び屋
3 アルカディア
4 逃走(エスケープ)
5 宇宙軍(ユニバーサル・フォース)
6 決断(デタミネーション)
7 あとがき

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19158『激動 始まる』 1白いウサギ E-mail URL2001/12/24 19:12:26
記事番号19157へのコメント

一、 プロローグ 


 時は留まることを知らない。
 過去、現在、未来――
 全てを貫くそれの、意思はない。
 ただ、現象として、全てのものを支配し、束縛し、容認する。
 ――それでも。
 どこか因縁めいた出会いもあるものである。
 遥か彼方の戦いが繰り返されたように。
 それはただ偶然などではなく――何かに導かれたかのように……
 そう、何かに。
 ただ時をも超越する何かが――恐らくあるのだと思う。
 何かは解らない。だが確かに――存在するはずだった。
 だからこそこんなにも、今――全てが愛しい。

「給料………………げっとぉぉぉぉぉぉぉっ!!」
 ミリィは感激にうちふるえ、高々と拳を突き上げた。
 
 ――数時間前――
「……え?」
「いや、だから……つまり……」
 凍りついた表情で問い返すミリィに、ケインはそれにも勝る温度の汗が背中を伝った。
 それでもなんとか意を決すると、一音一音きっちりと力を込め、言った。
「今月分の給料だ」
「ケイン……あなた――正気っ!?
 あなたが給料払うだなんてっ!」
 完璧に疑いの目を向けるミリィに、それ以上の痛みを感じつつ、ケインは呻いた。
「まさか何か企んで………
 はっ!? そうよ! これはキャナルの差し金ね!」
「すまん……お前をそこまで疑い深い人間にしたのは俺だ……」
 思わず顔を背けつつ、涙するケイン。
「――って、ことは、本当に本当?」
「そーだよ。悪ぃーか」
「いや、開き直られても困るんだけど……
 本っ当にもらっていーのね?」
「ああ」
「あとで利子付で返金要求したりしない?」
「たりめーだ」
「実は後であたしの私物売り飛ばしてその分稼ぐとか?」
「しねぇって」
 ぱたぱたと手を振りながら、やや呆れた表情で言うケイン。
 ともあれその言葉に、ミリィは目に光を含ませ天を仰ぐと、
「……ああ……見てる? 父さん母さん……
 あなた達の息子が、やっと……
 やっと、従業員に給料を支払う、なんとかギリギリ真人間に片足の指先だけ入れて見せたわ……!」
「………………」
 ――俺の親父やお袋なんざ知らねーだろーが。
 なんぞとかなりツッコミを入れたかったのだが、それ以上に後ろ暗い――どころか、どす黒いものを背中に背負っていたので、苦虫をかみつぶした表情でこらえるのがやっとだった。
 そして――背中に天使の羽を生やしたミリィはケインの前から姿を消した。
 もちろん、ケインは追うことなど出来なかった……

 最高の気分だった。
 待ちに待った――事実その通り、常識はずれに待った給料である。
 時の因縁通り、給料など永遠に来ないものだと思い詰めた時もあった。
 それでも――諦めなければ、断ち切ることが出来るのである!
 根性入れて、やっと給料を受け取った――
 そう、世間様一般では理不尽な話でも、この達成感すらあればそれは全てチャラである。
 周りに遠慮もせずスキップなどしつつ、ミリィは町へと姿を消した。

「――さて、と……
 後の問題はまず――
 ……………………俺の経済状態だな」
 手元のハンディパソコンのディスプレイに表示された、残高やローンの表示など、いやに現実味の溢れすぎた物を見つつ、溜息をつくケインであった。
 次に――これが一番の問題なのだが――
「……キャナルになんて言おう……」
 どこか遠い目をしんながら、ケインは呟いた。
 すでに町へと溶けて消え去ったミリィの残像を網膜に浮かべ、そちらの方へと目を見やりながら……
 ――旅に出よう――
 なんぞと思ったりする。
 どこか遠くへ――そう。誰も自分の知らないところで、静かに暮らす――
 ……俺には無理だ。
 珍しく哀愁など漂わせながら、それでも現実をきっぱりと直視した。
 第一、もしなにかの間違いで静かに暮らせたとしても……キャナルの包囲網からは脱せない。
 そこらの非合法なサラ金の取り立ての方が何倍もマシである。
 しかも、前回のちょっとした『キャナルの友人』に会ったせいか、情報網にも更にスキが無くなったようである。
 詳しいいきさつは省くが、あちこちに拠点を持っている、その『友人』とは、たまに連絡を取り合ったりはしているみたいなのだが……
 耳に入ってくるその二人(?)の世間話はかなり怖いものがあったりする。
 曰く、どこかの首相が賄賂で、あるリゾートの星を丸ごと買った。
 曰く、どこぞの経済グループが破綻の兆しにあり、裏の事業を計画中。
 エトセトラ。エトセトラ。
 国家機密すら超越していそうな話まで笑顔で『単なる談笑の話題』として飛び交っているのである。
 ……注意してどーにかなる問題でも性格でもないため、ほっといてはいるのだが……
「――ケイン? 聞こえてますか?」
 腕時計から漏れ出す通信に、ケインは我に返った。
 彼の船、『ソードブレイカー』からである。
 と、言っても、通信機から漏れ出す少女の声は、人間のものではない。
 彼の船の主制御システムである、キャナル=ヴォルフィードのものだった。
「――あ、ああ。わりー、わりー。
 ちょっと考え事してたもんでな」
「………………………………………」
 軽くケインは謝り、キャナルの言葉を待つが、返ってくる声も、音もない。
 少々眉をひそめると、
「……どうした? 通信の状態が悪いぞ」
 通信機に耳を近づけながら、ケインは言った。
 しかし、やっとの思いで返ってきたその声は、酷く歯切れが悪く、とぎれとぎれに聞こえた。
「……か……考え事……ですか……
 ケインが……」
 まるでこの世の終わりのように、絶望の色を滲ませた声が返ってくる。
 投影機がついていたら、更に不愉快なリアクションが見れたかもしれない。
「お前……俺のこと『考え無しに動く単純馬鹿』だとか思ってないか……?」 
「わたしがケインのこと、『考え無しに動く単純馬鹿だと思っている』と思ってなかったんですか?」
「………………………………………
 ……で? なんの用だ?」
 微妙に腕の通信機に力など込めながら、何とか笑顔で聞くケイン。
「先日受けた依頼の件ですけど……たった今先方から連絡があって、キャンセルすると通達がありました」
「なにぃぃぃぃぃぃぃぃぃっ!? なんでだっ!?」
「いや……なんでって……
 いくら警察が冤罪だったと認めても……指名手配歴のある人物に与える依頼はない、と」
 実はちょっと前に、ややこしい事件に絡んだせいで、指名手配犯へとおとしめられたことがケインにはあったりする。
 なんというか偶然に、その事件については冤罪だったため、事件解決後、つい最近昇進した腐れ縁のレイル警視とのコネもあって、容疑は晴れて、指名手配は取り消されたのだが……
 何処で調べてくるのか、依頼先は指名手配された過去があることを嗅ぎ付け、キャンセルを食らったのである。
 冤罪ということまで当然調べは進んでいるのだろうが――『臭いものには蓋』と言うか、『李下に冠を正さず』と言うか……
「そんな馬鹿な話があるかっ!?」
「あったんですって。今さっき」
 頭を抱え、ともすれば漏れそうになる涙を必至で押さえ込みながら、叫ぶケインに、キャナルはぱたぱたと手を振る効果音付であっさりと答えた。
「とりあえず違約金はきっちり頂きましたが」
 通信機から漏れてきたのは、妙に力強いお言葉だった。
「……そ、そうか……
 それでもまぁ今月に入って何件目だ……?
 キャンセルは……」
「九件です。
 そのうち七件はケインが依頼人にマントを馬鹿にされたせいで壊れた話です」
 実は半分以上が自業自得だったりする。
「……世の中って……理不尽だよなー……」
 映像は送受信などされていないのだが、ケインはふっと目を逸らして呟いた。
「世の中のせいにして自己処世するのは勝手ですが……
 とっとと帰ってきて仕事探してください。
 またベッドの側のステレオに、最近の帳簿記述を寝る間、ずっとかけ続けて欲しいですか?」
「……前回それ食らった時、俺体重が二キロ減ってたんだが……」
「……今ならダイエット効果もついてお買い得ですね♪」
「誰がすすんで買うかっ! そんなもんっ!」
「それとですねー……こんな記録があったりするんですが」
 くつっ。つー………ぴぴっ。
 通信から何かの記録へとつなげる電子音が流れたりする。
『だいたい給料無しなんていつもの事じゃねーか』
『なおさらよくないでしょーがっ!
 だいたいっ! なんであたしの給料はゼロなのに、ケインのマントは増えてるのよっ!?』
 聞き慣れた二つの声が聞こえてくる。
 ――いや。聞き慣れた声だけではなく――この会話には思い当たることがあった。
 つい最近のことだ。
 ケインは頬に汗など流しながら、それでも流れる『記録』を止める手段はなく。
 結局硬直しつつ音を確認し続けた。
『お前……俺に穴の空いたマントを着ろと……?』
『なんでそこであたしが非難の目で見られなきゃならないのか解らないけど……
 今度こそ、給料一文もなかったら――こっそりマントを処分するわ。
 単に燃えるゴミの日に出すなんて甘い考えは捨てるのね……
 マントに灯油を染み込ませ、文字を作って火を放ち……
 ……まともな最後は迎えられないわね……』
『くうっ! なんて卑怯なっ!』
『うふふふ……
 あなたが悪いのよ。ケイン……
 あなたが……あたしよりマントを選ぶから……』
『違う! 俺は……俺はそんなつもりで……』
『さようなら。あなたと過ごした日々は……結構楽しめたわよ』
『待て! 待ってくれ!
 俺は何も………』
 何やら言い訳らしきものを語るケインの――声色。
「で……?
 何の記録だって……? これは……」
 汗と一緒にこめかみの辺りをひきつらせつつ、目を伏せて必死に感情を抑えるケイン。
 ――まぁ、満杯のダムを紙切れで抑えようかというぐらいの必死さであるが。
「事実と――趣味の融合作品です」
 ひたすら真面目な声色が返ってくる。
 まるで犯罪者に判決を言い渡す、裁判長のように。
「っだぁぁぁぁぁぁぁつ!
 はた迷惑な趣味を持つなっ!
 勝手に作ってんじゃねぇっ! こんなストーリーっ!
 しかも人の声使ってやがるしっ!!」
「でも最初の方は事実ですし……
 それ以降の会話はともかく……通帳の残高が減ってるんですよね」
 ひっ、ひくくくうっ!
 怒りの表情のまま凍りつくケイン。
「なぜなんでしょう……?
 額はと言うと……そうですねー……」
 だくだく脂汗などを流しつつ、それでもなんとかキャナルの声を脳味噌に詰め込むケイン。
 いっそ脳味噌が停止したらどれだけ素敵だろう、なんぞと怪しげな考えすら頭をよぎる。
「――だいたい従業員に低賃金で支払う給料の額かと。
 一体――どういうことですか?」
 前半はまだ独り言のように皮肉を言った。
 しかし最後の問いかけは――あきらかに自分に向けての言葉だった。
「……か、帰ってから話す……」
 本人としては隠すつもりで言った恐怖の色は、隠しきれていなかったのだが……とにかく通信を終わらせた。
 ――悪夢(ナイトメア)はちっとも終わってねーじゃねーか。
 ふとそんなことを思うのだった。

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19159『激動 始まる』 2白いウサギ E-mail URL2001/12/24 19:14:33
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二、 運び屋

 空は快晴だった。
 この星のこの町の季節は春。
 薄紅色の雪が風に舞い、ほのかな甘い香りを運ぶ。
 柔らかな陽射しは包み込むように、彼女に寄り添っていた。
 そんな――幸せの一時である。
「……ほのぼのするなぁ……」
 屋外のカフェテラスで注文したアイスコーヒーを軽く口に含み、ゆっくりと飲み干す。
 ミリィは買い物客で賑わう周りの通りを見ながら目を細めつつ、しみじみ思うのだった。
 思えば――以前喫茶店に一人で入ったのはどれくらい前だったろうか。
 いくらか衝動買いに近い戦利品を収めた袋を、なんとはなしに叩いてみる。
 直後、目の前にほんの僅かな――違和感が生じた。
 それが危険を告げるものだと気付く前に――
 どぐらがしゃかんっ!!
 壮大な音と共に、一瞬前までの平穏が失われた。
 目の前には衝撃で弾き飛ばされたカフェテラスの机やイス、先程まで優雅な午後の一時を演出していた食事や飲み物――
 それは今や衝撃のすさまじさを物語る物体に過ぎない。
 辺りの緩やかな空気が一瞬にして去っていく。
 あまりの唐突さにミリィはストローをくわえたままで状況を眺めていた。
 正面。
 まさに寸分の狂いもなく。
 数メートル先に大型の車――おそらく、キャンピングカーの類と思われるが――あたりの景観をあっさり無視し、突入してきて、止まっていた。
 もしこの車のあちこちに傷が付いていたのならば――いくら信じがたい事とはいえ、単なる事故の現場に居合わせたことになるのだが。
 さらに信じがたいことにその車はかすり傷一つついていなかった。もちろん、へこみもない。
 つまり――『それなりの加工』がされた車だという事である。早い話が、『マトモじゃない車』であった。
 認めたくはない。
 認めたくはないが――やっかい事に巻き込まれる予感がした。
 今まで何度かそういった経験があるため、よけいわかってしまうのだが――
 ふと運転手と目があう。
 初対面の相手とはいえ――アイコンタクトで理解する。
 これは――非常にまずい。
「――冗談じゃないわよっ!」
 ミリィは買い物袋をひっつかむとその場を立ち上がる。
 こちらの逃げ出す気配を察知したのか、薄暗い車内にいる運転手が動いた。
 どうやら車を降りるらしい。
 そしてその運転手の意識は――明らかにミリィに向いていた。
 嘘だ。
 気のせいに決まっている。
 だって――あたしは今一人でいるじゃない。
「なんで面倒ごとに巻き込まれるのよっ!?
 どうして――どうしてっ!?」
 この世の不条理に、ミリィは嘆きながら失踪する。
 目尻にあふれ出た涙を拭って、軽く息を吸い――
「ケインと一緒じゃないのにぃぃぃぃっ!!」
 ――心の叫びを吐き出した。
 ヒロインの義務である『薄倖』の条件は、どうやらクリア出来そうだった。
 むろん、ちっとも嬉しくないが。
 湧き上がる焦りと理不尽な思いに後押しされ、ミリィは買い物袋をしっかりと抱きしめたまま、駆け出していた。
 山積みとなった荷物のせいで視界が悪く、さらには動きづらいことこの上ないが、放り出して逃げ出すことが出来るほど――裕福な生活も懐も持ち合わせていない。
 冗談抜きで痛い背後からの注目を感じ取りながら、常識はずれに研ぎ澄まされた感覚で人ごみの中をかけていく。
 ごく日常的になってしまった、火事場のなんとやらである。
 だが、しかし。
 車から飛び出してきた男に左腕を捕まれてしまう。
 反射的に腰の後ろへと隠した麻痺銃(パラライズ・ガン)へと右手が伸びる。
「この……っ!」
 その瞬間。
「――ストップっ! 落ち着いてっ!
 おれは味方だよ、味方っ!」
「は……?」
 間抜けな声をあげ振り向くと、男は深くかぶった帽子をちょいとすくいあげ、ミリィへと必至な顔を見せた。
 意外に若く、二十歳を少々越えたぐらいに見えるが――初めて見る顔だった。
「ちょ、ちょっと……?」
「あぁぁぁっ! もうっ!
 詳しい説明は後にしてくれないか、後にっ!
 だからこういう危険な依頼は反対だったんだよっ!」
 戸惑うミリィを無視して、男はミリィの腕を強引に引っ張ると、先程のキャンピングカーの後方座席に自身ごと押し込んだ。
「いやあのちょっとなにがなんだかっ!
 ――っていうか、あたしの買い物袋っ!」
 ミリィが伸ばしたほんのわずか先。急激なスピードで車のドアが閉まる。
 がちゃごごっ……んっ!
「あああああああああああああああっ!!」
 伸ばした手が挟まれるかどうか等の恐怖など一切ない。
 床へとばらまかれた品々の光景が一瞬にしてグレーのドアへと変わり、ミリィは悲鳴をあげる。 
「積み込み完了! ハンドブレーキ解除! ギアをパーキングからドライブへ移行!
 エンジン始動! 自動走行モードで逃走開始!」
 ――積み込みって……荷物か……? あたしは……?
 なんぞというツッコミも、戦利品を消失しつつあるミリィには浮かぶことすらない。
「システム、了解。
 シートベルトは?」
 すでに窓越しにしか見えない品々を、車の窓にへばりつきながら呆然と見つつも、若い声――もとい、幼い声に驚き車内へと視線を移す。
 車内はごちゃごちゃと正体不明のケーブルや、段ボールが山積みになってるせいか、声の主は見当たらない。
「してる暇はないっ! とっととトンズラ!」
「あーあ。今週の目標、『安全運転』に反するわね」
 ミリィを抱えながら答える男に、先程とは又違った幼い声が聞こえる。
「出来もしない目標たてたマーリーチャ、君が悪いっ!
 いいから発進っ!!」
 がぐんっ!
 車体が悲鳴とも咆哮ともつかない音を立て、急発進をする。
 急激な加速による重圧。
 当然の事ながら――まともな体勢も取れていなかったミリィは車内で手近なものに体当たりする羽目になってしまった。
「……い、痛ひ……」
「……まぁ……顔で壁にスタンプすりゃそうなるだろうね……」
 どうやらこういう急発進には慣れているのか、手近なロープやら、しっかりと固定された物にしがみついていた男はぼんやりと呟いた。
「他人事みたいに言わないでっ! 
 あなたが急に放り出すからこうなったんじゃないっ!」
「い、いや……ルキアさん抱えたままじゃ自分支えきれる自信なかったし……
 危ないだろう?」
 ――あたしが危険な目に遭うのはいーのか。そーなのか。
 心の中で即座にツッコミを入れながらも、眉をひそめるミリィ。
「ルキア……?」
「え? だから――……あれ……?」
 言って、一繋ぎになっているツナギと呼ばれる作業服のジッパーを首から胸元当たりまで降ろすと、がさごそと何かを探り当て取り出すと、ミリィと――一枚の写真を見比べた。
 とたん、男の顔が青くなる。
「まさか――とは思うけど……
 人違い、なんて基本的なボケは……してないわよね……?」
 男はますます青くし、顔を上へと向けたが、そこには車の天井しかない。
 なにやらしばらく考え込んだ後、
「――非常に言いにくいことですが――」
 ちゃきっ。
 沈痛な面持ちでこちらへと歩み寄る男を、ミリィは銃の照準で見据えた。
「いっそ、一生言えなくなる?」
 ひたすら冷静に、のんびりと。
 笑顔で言いつつ、目は笑わない。
 ――キャナル直伝、『恐怖の笑顔』である。
「ちょちょちょっと待ったっ! ストップっ!
 落ち着こうっ! 冷静にっ! ビークール! ね!?」
 ミリィの絶対零度の瞳に射抜かれ、両手をあげながらわたわたと後ずさりながら、壁に背中をこすりつける羽目になった男が慌てて弁明する。
「これが――冷静にいられますかっ!
 いいっ!?
 さっきの買い物袋の山は、ほんっっっっっっとにひさぁぁぁしぶりに買った、衣類やチョコレートの数々なのよっ!?
 だいっじなだいっじな品々を床にばらまかせ! さらには拉致監禁!
 悠久の時を経て、自力で勝ち取った給料を――断腸の思いで使ったというのに……!!
 しかもデルサーガの超高級チョコレートっ! 奮発して買ったのよっ!?
 あなたみたいな誘拐専門業者に、あたしの気持ちがわかるわけないわっ!」
「待てっ! 待ってくれっ!
 君の不幸な生い立ちはよくわかっ―――ああっ! いやっ! それはともかくとしてだ!
 おれたちは誘拐専門業者なんかじゃなくって――」
「ラズ兄うるさいっ!!
 とっとと運転席に戻りなさいよっ!」
 暗い車内に閉じこめられていた状態のミリィと男のその間。
 いくらか区画されたところの一室だろう。
 区切っていた物ががらりと開き、その隙間から、歳の頃なら十歳程度の女の子が座っているのが見える。
 ただし、必ず特筆せねばならないものが一つ。
 少女は――拘束具のような物を付けて、車のシートにほぼ縛り付けられているような状態だった。
「幼児誘拐犯って奴……? サイッテーね……!」
「おもいっきり誤解だぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!」
 ジト目で言うミリィに、ラズ兄と呼ばれた男は、帽子を吹き飛ばして車内一杯に叫んだ。 
 
 手渡された物は丈夫な布だった。
 それを慎重に重ね合わせ、幾重にもつなぎ合わせる。
 デザインなど非効率的な物はない。
 あるのはただ頑丈さと機能性。
 ――雑巾。
「ぬおりゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!」
 裂帛の気合いを込めて、水分を多分に含ませた濡れ雑巾を床へとかけていく。
 彼のポリシーに反することではあるのだが、マントはさすがにはずしている。
 汚したくないなどと言ってはいたが――例え汚れなくても動きに邪魔である。
 お気に入りのマントを邪魔などと言いたくないからそう言ったとは思うのだが――少々、やかましい。
「ケイン……掃除するならもう少し静かにお願いしますね」
 『ソードブレイカー』操縦室(コックピット)内。
 かつての創造話に出てくるような、巫女のような姿をした少女は、その中央に立っていた。
 外見は完全に人間のそれなのだが、正体はこの船の主制御システムである。
 被害者のような沈痛な面持ちで、ちらりとケインを見つつ、溜息をもらすキャナル。
「ほっほぉぉぉぉ……
 実は俺からも聞きてぇことがあんだがなぁ――
 人が力仕事やって汗水垂らしてるってのにその横で――なんでお前は紅茶なんぞすすってるんだっ!?」
「嫌がらせです」
 しれっと言いながら、立体映像で急遽作り出した空色のテーブルから小さな陶器に注がれた紅茶を口に含むキャナル。
 当然の事ながら、彼女も立体映像であるので、この姿と小道具には意味はない。
 ――もとい、彼女の言う通り、嫌がらせの意味しかない。
「人が一生懸命働いているところに優雅な人間が側にいると腹が立つ――
 ……難儀な生き物ですよねー……人間って……」
「お前が一番難儀な奴だと思うんだけどな……俺は……」
「まぁそれはともかく」
 ケインの心からの呟きをあっさり受け流すキャナル。
「船内綺麗にしたら、口座から突如消えた低賃金程度の金額は不問にするって言ったじゃないですか。
 はいはい、ちゃっちゃっと働いてくださーい」
「不問にしてねえじゃねーか……ちっとも……」
「あら、ケイデレラ。こんなところに埃が落ちてるわよ。
 お掃除やり直しね」
 なにやらぞこぞの貴婦人の格好をして、つつつっと手近なパネルへと指を這わせるキャナル。
「はっはっは。
 元ネタはわからねーが、馬鹿にされてるのは何故かわかるぞこのガキ」
 こめかみの辺りに青筋などたてながら、力の限り雑巾を絞るケイン。
 どこかでびりっという音がした。
「まぁそれはそれとして」
 再び姿を元に戻すと同時に受け流すキャナル。
「先程レイル警視から連絡がありました」
「レイルからだぁ?
 ……聞きたくねーな……おもいっきし……」
 隠そうともせずに顔を不機嫌なものへとし、絞った雑巾と一緒に腰を下ろすケイン。
 星間警察(ユニバーサル・ガーディアン)の若き警視、レイル=フレイマーとは両者ともに認める腐れ縁。
 職業柄、お互いに仕事を頼んだり、都合したりなどの交際はあるが、すすんでお近づきになりたいとは思っていない。
「まぁそう言うとは思ってましたけど。
 一応耳に入れて置いた方がよいかと。
 『直にあって話したいことがある』と」
「直にぃ?
 なんでわざわざ見たくもねぇ野郎の顔を拝まなきゃなんねーんだ?」
「周りに知られたくないからですよ――」
「――?」
 突如真面目なものへと変わるキャナルの雰囲気に気付いたのか、ケインが顔を上げる。
「あのナイトメアとの決戦時の記録が収められた物。
 『ブラック・ボックス』について――らしいですよ?」
 微かな笑みを浮かべて、キャナルはケインの瞳を見据えた。
 それに応えて表情が引き締まるケイン。
「なるほどな……
 オーケイ。そういうことなら話は別だ。
 ミリィが戻り次第、レイルと会おう」
「戻って――きますかね?」
 不安と寂しさを含ませて、ポツリと背中で問うキャナルに、ケインは呆れた顔をして溜息をついた。
「あのなぁ……持ち逃げするよーな給料は渡してねーぞ」
「なるほど。持ち逃げしない程度の給料は渡したんですね?」
「……………………………………………」
 くるりと笑顔で振り返るキャナルに凍りつくケイン。
 すっかり忘れてはいたのだが、自分の口から直接的に『給料を渡した』とはまだ言っていなかった。
 しばし沈黙が流れる。
「ど……ど……」
「ど?」
 目を逸らしつつ、しどろもどろに言うケインにキャナルが冷静に聞きかえす。
「――ど根性ぅぅぅぅぅぅぅぅぅっ!!」
 濡れ雑巾を床に這わせながら全力疾走で器用に操縦室から飛び出すケイン。
「船内――けっこう広いですけど頑張ってくださいね♪」
 船内を濡れ雑巾で疾走する主人(マスター)を見送りながら、キャナルは無邪気に微笑んだのであった。
 
「つまり簡潔的に言いますと、うちのラズ兄ちゃんが全て悪いんです」
「そういうことね。
 煮るなり焼くなり好きにしてオーケイ、ノー・プロ、ユーアーウェルカム! ね」
「……卑怯なガキ共ありがとう。
 おかげで遠慮することなく君たちを嫌いになれそうだ」
 高速で町中を疾走するキャンピングカーの中で行われている会話は、そんなものだった。
 ミリィが車内に押し込まれた時に聞こえた二人の幼い声は、目の前に平然とした顔で座っている――もとい、シートベルト代わりの伸縮性に優れた拘束具で席へと押しつけられた、声質通り、幼い子供だった。
 なんでも、この車は『特別製』なので、慣性緩和システムや、シートベルト程度では安全とはいえないため、仕方なくつけられたものであるらしい。
 どう『特別製』なのか、聞いた方が良いのか、聞かない方が良いのか、判断できないが。
 ともあれ、簡単な自己紹介をミリィは受けていた。
 一人は十歳の女の子。 
 こちらはマーリーチャ=ポート。
 もう一人は小さな男の子で、本人が言うには七歳。
 名はトラン=ポートと言った。
 名前を聞かずとも、二人は姉弟なのだという事は容姿で想像できる。
 二人して若葉色の柔らかな髪質で、瞳は深い緑色。若干マーリーチャの方が背が高いが、それはあくまで年相応なだけだろう。
 この二人も、ミリィを『収容』した、男と同じ、ツナギと呼ばれる作業服に、肩までかかるズボンをはいている。
 放り出してあった上着もあるが、こちらも同じデザイン。
 三人お揃いの服である。
 何かのユニフォームなのだろうか。
 トランの方は男と同じく、野球帽と似たデザインの帽子を前と後ろを逆にかぶっていた。
 幼い二人には子供特有のかわいらしさはあるものの、子供らしいはしゃいだ様子は全く見せなかった。
 ――まぁ、先程のように常識はずれの急激な加速で街中を失踪する車の中で、はしゃぐ子供もあまりいないであろうが。
「……良くわからないけど、巻き込まれたのは確かなようね……」
「う゛っ……正解……」
 車内の移動区画――つまりは通常の車と同じ様な座席のシート部から、運転席へと移動しようとしていた男が、ミリィの言葉にうつむいて凍りつく。
 男の名はラズウェル=シクルと言った。
 年齢は二十五歳。
 どういった事情でこの三人で行動しているのかは解らないが、彼一人、髪の毛は透き通るような栗色だった。
 切りそろえられた髪が帽子から僅かにはみ出し、窓から吹き込む風に揺れている。
 容姿や名前通り、彼一人だけ血が繋がっていないように見えるのだが――
「本当にうちのバカ兄ちゃんがとんだ失礼を……」
「スマキにして川に放り込むなら、喜んで手伝うわ。ミリィさん。
 そりゃもう、嬉々として。鼻歌交じりに。スキップしつつ」
「マーリーチャ……
 放り出すぞ……いい加減に……
 『あの人に間違いない。ぐずぐずしてないでとっとと収容してこい、バカ兄』と言ったのは誰だ……?」
「……ふっ……永遠の謎よねー……」
「マーリーチャ。君だ。間違いなく」
 憮然とした表情で、運転席に辿り着いたラズウェルが、首だけで後ろの座席に座るマーリーチャを睨み付けた。
「……話逸らさないでもらえないかしら……?」
 額の辺りをぴくぴくとさせながら、ミリィは胸の内から湧き出る感情を強引に押さえつけようとしていた。
 ただでさえ、何かの間違いではないかと思えるほどの天文学的確率で給料を得、それを消失したのだ。
 不機嫌なのは無理もない。
「しっ、失礼しましたぁぁぁっ……
 ――依頼内容の細かいことは言えないんだけど、ちょっとしたことで追われることになった女性を安全なところへ運ぶのが、今回のおれたちの仕事なんだ。
 それで、あそこの場所で落ち合うはずだったんだけど……不幸な事故が……」
「不幸な事故って……
 ……ま、まぁともかく。それでそのルキアさん。ほっといて大丈夫なの?」
 二人の子供に挟まれる形で予備のシートに埋もれながら、ミリィは言う。
 そのとたん、急激な加速によって、ミリィはシートにめり込んだ。
「なっ……っ!?」
 疑問を口にするより早く、状況がそれに応えていた。
 車体の金属を伝って聞こえる背後から堅い何かがぶつかる音。
 すなわち。
 銃撃。
「あららー。追いつかれちゃったみたいね」
 期待通りの夕食が出なかった程度の残念さしかにじませず、マーリチャは呟いた。
「自動走行モードじゃ仕方ないでしょう。
 ラズウェル兄ちゃん、あとは――」
「わかってるってぇーのっ!
 だから加速したんだろが!」
「ちょっとっ! 大丈夫なの!? 手――と言うか、身体全体が震えてるわよっ!?」
 固定器具をまだつけていないミリィは身を乗り出して、運転席を覗き込む。
 普段、どんなことがあろうと震えたりしない操縦士(パイロット)と行動を共にしている分、余計に不安が押し寄せる。
 そんなミリィに下の方から緊張感のない子供特有の高い声色で、ひたすら冷静に言葉が返る。
「大丈夫よ。ラズ兄は臆病者だから」
「逃げ足だけは天下一品ですしねぇ……」
「……う、運転……代わってくれない……?」
 ――かちっ。
 ミリィの不安を無視して、固定器具がロックされた。
 拘束具で身体を固定されて無ければ、頭を抱えているところである。
 ますます不安になるミリィだった。
 固定器具が安全性のためのものではなく、逃げ道をなくしているような気がしてならない。
「悪いけどこの状況で交代なんか出来ないっ!
 トランっ! 以前の燃料補給はいつだったっけっ!?」
 きゅるりぃぃぃぃぃぃっ!!
 タイヤと路面の摩擦音が車内まで轟いた。
 遠心力に負けてゆがんだ車体が電柱を掠める。
 そしてその電柱が、追いかけてくる後続の車が発砲する弾丸に抉られた。
「忘れました」
「なんてこったっ! マーリーチャはっ!?」
「忘れたわね。
 ――思い出して欲しい?」
「絶対覚えているだろそれはっ!」
「遊んでいる場合かぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!」
 思わず身を乗り出してツッコむミリィ。
 拘束具がきしんだ音を立てる。
 がずむっ!!
「げっ! 食らっちゃったかっ!?」
 車体に響く鈍い音に、ラズウェルは僅かに首を後ろへと向けるが、すぐ元へ戻す。よそ見している余裕はない。
「えーっと……おや。結果を発表します。
 減点♪ 減点♪ おめでとー♪
 減点♪ 減点♪ おめでとー♪」
 何故か拘束具をつけられたまま器用に踊りだすトラン。
「せめてリピートしないでくれっ!!」
 同じくわけのわからない懇願をするラズウェル。
「だーっ! 繰り返すけどそんなことやっている場合じゃないでしょうがっ!
 何なのよ後ろの奴らはっ!? 街中にもかまわず発砲しまくっているけどっ!
「警察ですかね。一応」
 ハンドルを握ることを諦めて、後方から追いすがる車に視線を向けながら言うミリィの言葉に、隣の少年は即答した。
「えーっと……つまり――警察があなた達を追いかけていて、その上街中で発砲している、と……?」
「注意補足。『あなた達』の中にミリィさんも入りかかっているわ。
 不幸の世界へようこそ。私たちは仲間よね♪」
「……………………」
 同じく視線を車の外へ向けたまま、ぽつりと冷静に付け足すマーリーチャの言葉に、ミリィはどうしようもない虚脱感に襲われた。
「……やっぱり犯罪……者でしょ……?
 実は……」
「……いやまぁ……この二人の性格とか指摘されるとどーしよーもなくなるんだけど……
 否定して信じてくれるなら否定するんだけどね。しようか? 否定。
 ――っとぉ」
 じゃがごごっ!
 ギアをチェンジして細道へ車を突っ込ませるラズウェル。
 浮かび上がったタイヤがゴミ箱を蹴散らすという近所迷惑行為を発動させる。
「いや……別にもうどーでもいいけど……」
 急速な方向展開に体重を拘束ベルトに預けながら、死んだ魚のような瞳でミリィは外を見た。
 ずいぶん移動していたらしく、外はすでにショッピング街から住宅区へと抜け出ていた。
 古びたレンガで造られた家々を他人事のように見ながら――ふと気づく。
 ――あたしはいつになったら解放されるのだろう?
「ねぇっ! 一体いつになったらあたしを帰してくれるの?」
「とりあえず今すぐは勘弁してくれないか――って、ああっ! 手元が狂うっ!
 以後の会話を放棄するんでマーリーチャ、トラン、任せた!」
 がじゃごごっ。
 強引な、それでいて慣れた手つきでラズウェルはギアを倒すと、減速せずに急カーブに突っ込んでいく。
 きいぃりるぅぅぅぅぅっ!
 車のタイヤが悲鳴をあげ、直後、エンジンの咆哮。
 それと同時に凶悪な重圧がミリィを襲う。
「――で、さっきの話の続きですけど」
 住宅街を四輪ドリフトで突き進む状態の中、隣で平然とトランが無邪気な顔をミリィへと向けた。
 こういう無茶な運転には慣れているクチらしい。
 少々、少年の未来に心配を寄せるミリィだった。
「ルキアさんのことですけど、それなら大丈夫です。
 さきほど連絡取ったら、追っ手の連中さん達もミリィさんをルキアさんと勘違いしたようで、無事まくことが出来たと言ってましたので」
 子供の笑顔なはずなのに――ミリィはまるでその表情が営業スマイルのように見えた。
 柔らかな、それでいて温かみのない――そんな笑みだ。
「……結果オーライ」
 運転しつつ、バックミラー、サイドミラーを交互に確認しながらも、ラズウェルがもらした。
「結果オーライじゃないぃぃぃぃぃぃぃぃっ!!
 沢山言いたいことはあるけどっ! まず第一にっ! あたしの買い物袋とその中身っ!!」
「慰謝料含めて二百クレジット」
「さっ! ぐずぐずしてないで逃げるわよっ!」
 まるで営業スマイルのような顔で、何故か両手を虚空に仰ぎながら、爽やかに言うトランに、ミリィは反射的にそう答えていた。
 買い込んだ品々の代金を補って余りある代金である。
 拘束された右腕に力をこめて、人差し指だけ進行方向にびっと立てるミリィだった。
「気持ちの切り替えがずいぶん早いわね……助かるけど……」
「お姉さんはそうしないと生きていけないところで生きてきたのよ。
 ――それはそれとして、マーリーチャちゃんと、トラン君だっけ?
 お兄ちゃんはトラコンか何か?
 それでお兄ちゃんの手伝いをしているのかな?」
 本来ならしゃがみ、覗き込んで言いたいところだが、拘束具のためそれも出来ず、仕方なく首だけで笑顔を向けるミリィ。
 幼い二人はきょとんっとミリィ越しに顔を見合わせた。
「トラコン……?
 ――ああ。厄介ごと下請け人(トラブル・コントラクター)のことですか?」
「違うわよ。私達はトラコンでも、お手伝いでもないわ」
「え……?
 だってさっきの話聞いてると……」
 二人の幼い顔が、ミリィを挟む。
 交互に視線を動かしながら、顔色をうかがうと、
「私たちの仕事は、条件次第でどんなものでも依頼されたものを依頼された先に届けることよ」
「自分たちで名乗っていたわけじゃあなかったんですけど――世間様ではこう言われてます」
 ――<運び屋>――と。
 幼い二人は同時に、無邪気な笑みとともに不敵な自信をにじませる。
 かすれた笑いを返しながら、ミリィは思った。
 子供育成教育委員会、出て来い――

 キャナルは異変に気づいていた。
 高速でミリィが移動していることから、何かあったことはすぐに推測できた。
 実はいまだにケインやミリィには言っていないのだが、二人の愛用するとある物にはキャナルが施した仕掛けがついている。
 その仕掛けの機能の一つが、発信機である。
 街中へと移動したミリィの行く先々も把握しており、ついでに言うならその店で何を買ったのかまで調べを済ませていた。
 ――もちろん、普段はそんな野暮はしない。
 今回は何か起こったのか事態を把握するためのものである。
 結局、ミリィが購入したものに疑わしいものはなかった。
 だが、すでに彼女は時速百五十キロ以上の速度で街中を疾走し、すでに住宅街へ差し掛かっていた。
 位置はわかる。
 事情はさっぱりわからない。
「仕方ないですね……」
 誰にともなくそう言って、キャナルはとあるスイッチを入れた。
 何かを押す動作は必要ない。望むだけでそのスイッチは入るのだから。
 そして先から聞こえるのは絶叫と言い合い。
 盗聴器である。
「……なぁんだ。つまらない。
 別に面白くもなんともなかったですねー……」
 ――心配してたからじゃなかったんかい。
 そうツッコむべき人間は、雄たけびにも近い声をあげながら隣の廊下で床を這っている。
 ともあれ、盗聴しているだけでは情報が限られてしまいそうだった。
 一番手っ取り早いのは――
「――あ。もしもし。
 わたし、『ソードブレイカー』のキャナルと言いますが、そちらにうちの従業員のミレニアムがお邪魔してないでしょうか?」
 にこやかな笑顔を浮かべながら、通信回線を開き、異様な速度で疾走する車へと接続した。
『こちら、<運び屋>、マーリーチャ=ポートです。
 現在取り込んでおります。御用の方はツーという発信音の後に――』
「えいっ。強制通信」
 相手の迷惑などまったく考えないのか、流れてきた録音を無視し、当然のようにキャナルは反則技を使用した。
『――なんっでこんな時に故障なんて――っとと、失礼っ。
 こちら<運び屋>ラズウェル=シクル。
 申し訳ありませんが取り込み中でして――』
「あ。大丈夫です。知ってますから。
 そんなことよりそちらにミリィいますか?」
 焦りを多分に含ませたそのセリフが通信から聞こえてはいるものの、キャナルがそれを考慮するとは限らない。
『そんなことよりって……ああっ!』
 回線の奥で鈍い音が聞こえた。何があったのかは考えるのはよそう。キャナルは迷わず判断した。
『被弾しましたね。
 ラズ兄ちゃん、さらに減点一です。
 ――通信変わりました。トラン=ポートです。ご用件は?』
 声がいくらか若いようだが、先ほどよりはしっかりしていそうな声だった。それでも多少はイラついているようだが。
 ――まぁ、当然ではあるかもしれない。
「どうも。わたし、キャナルと言いますが、そちらにミレニアムと言う女性はいないでしょうか?」
『――少々お待ちください』
 一呼吸置いてから、音声が遮断される。
 代わりに盗聴器から音が漏れていた。どうやらミリィにこちらが本当に関係者かどうかを確認するために遮断したらしい。
 なかなか見事な用心深さである。
 なにかそうはしなくてはいけない環境にいるのかもしれない。
『――もしもし。キャナル?』
 聞き知った声がおずおずと回線を通して語りかけてきた。
「ええ。何してんですか? そんなところで」
 さらりとした口調だが、核心を突き、それでいてどこか有無を言わさない迫力を帯びていた。
『ええと――
 ……よくわからないけど……何かに巻き込まれちゃったみたいで……』
「へぇぇぇぇ……
 何かに巻き込まれたのに『よくわからない』んですか?」
『いや……だって……』
「厄介ごと下請け人(トラブル・コントラクター)の助手が、そんなことでいいと思ってるんですか?」
『う゛っ…………』
「自分で何とかできなきゃ――減給です」
『ちょ……っ!?
 それはいくらなんでも――!!』
 プツっ。
 あちらの事情などお構いなしに、キャナルは通信を終了した。
 盗聴器から聞こえる何かの叫びも、うるさかったので切断。
 しばし無音に満たされた室内のその隣の廊下で、気合の咆哮を上げているマントが高速で通過した。
「……いくらか今ので情報入りましたし……調べてみますかね♪」
 周りに船員はいないので必要はないはずなのだが――それでもその声は明るく、表情は――もの凄く、楽しそうだった。
 キャナルはおもちゃを手に入れた。
『てててて、つっててーん♪』
 なにかのゲームのような効果音がコックピット内に響いていた。

 ひゅごうぉぅっ!!
 疾風は巨大な塊となり、車体を殴りつけ、それを浮かす。
 ざりるりがりぃぃぃっ!!
 車体のバランス、速度の調整――数々の機能を負荷しているタイヤと路面との摩擦が耳障りな音を立てる。
 それに耐えきれなかったのか、車体がふわりと左へ浮かび――
 どがしぅんっ!
 激しい衝撃と共に、騒音をまき散らした。
「危なっ!!
 ――あー、びっくりした」
「そういうレベルじゃないぃぃぃぃぃっ!!
 後ろの追跡車! 増えてるように見えるんだけど!」
「事実、増えてます」
 拘束具すら引きちぎる勢いで後方を指差すミリィにトランは正解を告げた。
「あああああああっ! 減給食らうわ警察には追い掛け回されるわ……!
 絶対世の中間違ってるっ!
 あたしが一体何をしたっ!?」
「いや、私に言われても……まだ人生経験少ないし……
 ま、それはともかく――しつっこいわねぇ……後ろの連中も」
「と言っても、これ以上運転だけで振り切るのは難しいと思うなぁ……」
 やはり疲れているのか、汗をにじませたラズウェルが言った。
「仕方ありません。振り切りましょう」
「……いや……だからそれが出来ないから困ってるんだけど……トラン君……?」
 言葉通り困った表情をトランに向けると――そこでは拘束具をはずしてイスの下から薄っぺらい何かを取り出す様子が見えた。
 二枚に折りたたんで収納されていた、板のようなそれを無造作に開くと、慣れた手つきでキーを押し、起動させていく。
 得体の知れない何かが――ミリィの背筋を凍らせた。
 すごく、危険な気がする。
「対衝撃準備よろしくお願いします」
 ――やっぱりか。
 こともなげに言ったその一言に、なにやら背中にブルーなものを背負いながら、ミリィは胸のうちで呟いた。
 トランが何かのキーを押した後、車の後方より、缶ジュースより一回り大きなものが数個、転がり落ちる。
 そして、一抱えほどある大きな、それでいて薄いビニール袋に入れられた何かの液体が続いて落ち――水風船の要領で割れた。
 それをバックミラーとサイドミラーで視認したラズウェルが短い悲鳴を上げる。
「いいっ!?
 トランやめるんだっ!」
「却下します。
 三・ニ・一――」
 どごばくぐぅぅぅぅんっ!!
 問答無用のタイムカウントの直後、車の背後で爆音が響く!
 瞬間的に発生したエネルギーは閃光を上げ、炎を吹き散らし、後方の車を飲み込み――それだけでは満足としないのか、道路に体当たりをし、土砂を吹き散らす!
 同時に、爆発による衝撃が車を襲う。
 缶ジュースのような物は、簡易時限式爆弾。液体は発火剤。
 常識をここであげておくが、本来普通の車にそんな装備は積まれていない。
「ひあああああああっ!!」
「ぬががが…………っ!!」
 ミリィとラズウェルは悲鳴を上げながらも、なんとか姿勢を保っていた。
 がっくんがっくんと揺れる車内と、手の内で暴れだそうとするハンドルを必死に押さえつけながら、姿勢を保つ――いや、体を押さえ込む。
 シートベルトで安全を守るのは無茶なはずである。
 ちらりと横を見ると、横の子供二人は体制を保とうともせずに、拘束具に身を任せている。
 体の小ささと、子供特有の体のやわらかさが幸いしているようだった。
「――なんて無茶を……まだ街中だよ、ここは……」
「こうでもしないといつまでもカーレースを続けていたことも確かよ」
 ほとんど顔面蒼白で言うラズウェルに、さらりとマーリーチャは言った。
「まぁそれに――」
 遠い目をしながら、ふっと外へと向くトラン。
 陰りで表情が見えなくなる。
「――庶民がどうなろうと知ったことじゃないですし」
 ぽつりと呟くその声を、不幸なことにミリィは聞きとめてしまっていた。
「客がいる前で正体表すな……トラン……」
 ラズウェルの言葉にくるりと向き直ると、
「やだなぁ。冗談に決まってるじゃないですか。ラズ兄ちゃん。ははははっ」
「そーやって何事もなかったかのようにさわやかに笑う時点でやばいぞ……君は……」
「この場全員がやばいわぁぁぁぁぁっ!
 警察吹き飛ばすなんてどうかしてるわよっ!?
 どっかのトラコンじゃあるまいし!」
 巻き込まれた被害者その一は絶叫した。
「少年保護法って――素晴らしいですよねー……」
 ぼそっと言ったトランのその一言に、ミリィの背中を冷たいものが通り過ぎた。
 少年保護法――早い話が『子供は何やっても許される』と世間様で解釈される問答無用の法律である。
「ううっ……ケインは居ないのに……ケインは居ないのに……
 類は居ないのに……友が居るよぉ……」
「泣かなくても大丈夫ですよ。
 これで追っ手はまけましたし、ミレニアムさんも帰れるでしょう。
 それから後ろのアレは――もみ消しときますから」
 腰のシートベルトをはずしながら、トランは後方を指差して言った。
「も、もみ消すって――一体何者なの……?」
 ミリィの問いに三人は黙り込むと――
 マーリーチャが口を開いた。
「前に言った通り――<運び屋>よ」
 マーリーチャのその屈託のない笑顔が、今のミリィには――とことん怖かった。

 宇宙軍(ユニバーサル・フォース)提督、クラーコフは一人で無尽蔵に流れ出すネットニュースの前にいた。
 かつての複合企業体『ゲイザー・コンツェルン』――いや、犯罪組織『ナイトメア』との戦闘で、彼の名は一気に知れ渡った。
 あくまで記録上――犯罪組織『ナイトメア』との戦いに、勝利し、制圧に成功した艦隊、宇宙軍(U・F)S−○八○Fの総指揮官である。
 彼は自称軍事評論家や、宇宙軍(U・F)の内部など――様々の所から彼について語られていたのだが――評価は両極端に別れていた。
 ある者は彼を指してこう言う。
 ――『英雄』。
 そしてまた、他の者は彼を指してこう言う。
 ――『最悪の指揮官(グレイト・ヴァイス・コマンダー)』。
 宇宙軍(U・F)に機密は多い。
 性質上当然と言えば当然なのだが、それで全て納得できるほど、市民は馬鹿でも寛大でもなかった。
 当然機密は疑惑を生み、様々な摩擦を生み出していた。
 あの『大戦』で公表された情報は少ない。
 ――当然である。
 大勢で犯罪組織に立ち向かって、ボロボロにやられましたなどと、言えるわけがない。
 戦果がなかったわけではないのだが、未だ謎の多い、一隻の宇宙船の介入によって戦況が大きく傾き、勝利を収めたなどとは公表できない。
 まして――その介入がなければ、どうなっていたか――
 そこから先を語ることの出来る人間など居なかった。
 結果、『ナイトメア』の有していた戦闘艦の能力、そして――惑星ルゾルテの砲撃の真実。
 どれも公表されていなかった。
 その中の真実一つでも公表すれば、どれだけ兵の士気を落とすか――
 上層部は口ではそう言っていた。
 そしてあやふやなままでの混乱を防ぐため、軍の威信を保つため、軍は彼、クラーコフを『英雄』として祭り上げようとしていた。
 ――だが、しかし。
 軍が贈る数々の賞与や勲章を、クラーコフは受け取ろうとしなかった。
『そんな資格は私にない』
 それが彼に賞与を告げに来た人間が聞かされる共通の言葉だった。
 代わりに――クラーコフは長期休暇を届け出て、この惑星、『リヴァイア』に来ていた。
 水の惑星とも呼ばれるこの星はリゾート地と化している。
 軍から離れるにはもってこいの場所だった。
 そして――本日正午、『大戦』を共にした副長が、クラーコフの滞在している、ホテルの一室を訪れていた。
「聞いているんですか提督っ!?」
「――叫ばずとも聞いている」
 仕方なく部屋に設置されているコンピュータから目を離し、クラーコフは向き直ると、ため息をついた。
「軍の上層部は大慌ててですよ!
 賞与を予定している人間が突然、長期休暇に入るだなんて」
「許可は下りている。
 問題はない」
 己の副長とテーブルを挟んだ向かいの席に腰掛けながら、クラーコフはスイッチを押した。
「ありますよぉ……
 ――聞けば、昇進の話も蹴ったそうじゃないですか。
 ……提督……あなたは良くやりましたよ……?
 あの『大戦』の時の判断は――少なくともあの場にいた軍人は皆、正しかったと思っています」
「……………」
 その言葉には答えずに、テーブルからせりあがってきたブラックコーヒーに口をつける。
 設定したとおり、好みの火傷する一歩手前の熱さだった。
 それでも、あまり香りも味も感じられなかった。
「私は――あの時の判断が間違っていたなどとは思っておらんよ」
「ならっ! ――いいじゃないですか!
 何が不満なのです!?」
 出されたコーヒーに見向きもせずに言う副長。
「何人が――死んだか知っているかね――?
 あの戦いで、どれだけの人間が死んだのか――……」
 その言葉に副長は凍りついた。
 クラーコフが視線をこちらに向けずに言ったことにわずかな安堵を残しながらも、困惑していた。
 軍人は屍の数を数えない。
 戦果、被害、それらを認識するために、数字としてだけ記録する。
 そしてそれらは――当然のことながら、見ていても面白くない感情しか残さない。
 その無機質な一並びの数列が、命の灯火が消えた数などと考えたくなかった。
 だが、彼らは不幸にも、それらと直視せねばならない階級にある。
 いくらつらい事実とは言え、目を背ける事は許されない。
 それは――戦友に対する侮辱となるのだ。
 あの『大戦』でのその無機質な数字は――とにかく大きかった。
 辛くも勝利を得たとは言え、それとて宇宙軍(U・F)のみの戦果ではなく、受けた傷はあまりにも深く――大きい。
 とは言え、彼は感傷に浸れるような地位にはいない。
 そして、自分の判断に自信はある。
 だが――なにか。
 心の隅に引っかかる何かのわだかまりが、彼を素直にしないのだった。
 それを見つけるための長期休暇だったのだが――未だ、答えは得られていない。
 クラーコフの問いを最後に、室内には重い沈黙が支配した。
 副長は言葉を探すが――適した言葉は見つからなかった。
 しばらく男二人で沈黙を保っていると――
 どんどんどんっ!!
 部屋の扉があわただしくノックされた。
「――鍵はかかっていない」
 荒げたわけではないが、ドアの先にいる人物には聞こえたらしい。
「しっ、失礼します!
 至急ご報告せねばならないことが起こりました!
 本日、標準時刻一五:○○にて、緊急会議が発足されます!
 場所は宇宙軍(U・F)本部。
 お二人とも、映像通信(ビジュアル・コミュニケート)ではなく、出頭の命令が出されております!
 すぐにご用意願います!」
 入ってきたのは副長が連れてきた若い軍人だった。
「――緊急会議? 何についてだ?」
 たとえ休暇中とは言え、軍人に緊急命令など珍しくない。
 飲みかけのコーヒーを置くと、クラーコフは立ち上がり、伝令者に背を向けて軍の制服へと袖を通した。
「そっ、それが――
 なんでも、『光の翼』について重要な情報が寄せられたと――」
 その言葉に、クラーコフは袖を通し終わった制服を整える形で動きを止め――振り返り、青年の顔を見つめ返した。
「――何だと……?」
「じっ、事実であります!
 上層部はすでに混乱状態で――本日の会議には宇宙軍(U・F)総司令官も、星間警察(U・G)長官も出席なさる予定です!」
「宇宙軍(U・F)、星間警察(U・G)のトップがっ!?」
 ソファーから立ち上がり、振り返る副長に青年は自身の焦りをごまかすかのような大声で答えた。
「はっ! 確かにそのように聞き及んでおります!」
 『光の翼』は宇宙軍の上層部で使われる、暗号名である。
 その言葉が使われだしたのは、犯罪結社『ナイトメア』との全面戦争終結後。
「その上、緊急とは……
 ……前代未聞だな……
 ――情報規制は?」
「こちらへの通達からすでに暗号文で届けられております!
 移動は速やかに、かつ内密にせよとのことです!」
 その言葉に、クラーコフは机上に並べられた数々の書類を軍指定のバッグへと素早く詰め込んだ。
 書きかけの書類も、頭の中での自問自答、胸に残るわだかまり――それらは今は後回しにすべきである。
 もしかしたら軍全体を――いや、世界全体が大きく動くかもしれない。
 それだけのものなのだ。
 『光の翼』――すなわち。
 悪夢を終わらせた一隻の宇宙船の存在は――

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19160『激動 始まる』 3白いウサギ E-mail URL2001/12/24 19:16:27
記事番号19157へのコメント

三、 アルカディア

「おー、ミリィ、こっちだ。こっち。
 ――……どうかしたのか……?
 なんかいやに疲れてるみてーだが」
 柔らかな陽光を無視しつつ、漆黒のマントをはためかせ、ぶんぶかと手を振っていたケインだが、待ち合わせの一人――彼の相棒の様子に気づくと、眉を寄せてそう問いかけた。
 ちなみに、ミリィがどこで何をやっていたのか、ケインは知らない。
 ただ、買い物にしては、いやに疲れている、と感じただけである。
「あ。いやいや、大丈夫よっ」
 ――疲れているのは事実だけど。
 心の中でそう呟きながら、ミリィはぱたぱたと手を振った。
 あの後――結局追っ手がいないことを確認したところで、キャナルからここでレイルと待ち合わせしていることを聞いたのである。
 車の位置や、ソードブレイカー――つまりは、ケインとの位置を考慮した結果、現地集合にした方が早いと、この行楽地に訪れたのであった。
 当然のことながら、侘び代わりにここまでラズウェル達に送らせている。
 頭の中ではすでになかったことにしたい気満々なのだが、とりあえず心地の悪さだけが残っている。
 テーマパーク<アルカディア>。
 この星にいくつかある遊園地としてはかなりの大きさで、新アトラクションも多数設置。さらに現在も建設中。
 数年前に親会社と提携の会社が破綻し、煽りを食らってかなり財政事情が逼迫していたようだが、現在は好転したのか設備投資も豊富であり、客足もそれとともに上昇した。
 最近急に設置が再開された新アトラクションも客足を多く呼び、毎日長蛇の列を作っている。
 また、最近の経営の向上を証明するかのように、現在、『氷の彫像フェア』などと言うものが開催されている。
 キャナルが調べたところによると、タイトルまんまの氷の彫像が、テーマパークのちょうど中央あたりに多数展示されているらしい。
 使用している氷も、融けにくくするためになにやら特殊な成分が含まれたものだとかで、キャナルは説明してくれたのだが、ケインにはさっぱりだったので、詳しいことは覚えていない。
 ともあれ、その正体不明の成分が馬鹿高く、腹が立ったことだけ覚えている。
 ケインとミリィ、そしてレイルとの集合場所は、そんなところだった。
 空気は澄み、湿気は少ない。
 それでも春特有の日の暖かさに、軽く運動でもすれば汗ばむ陽気である。
 そんな中、ケインのマントは――非っ常ぉぉぉっに目立っていた。
 なにしろ、テーマパークに意気揚揚と入ろうとしていた家族が、一気に苦虫を噛み潰したような顔で園内へと入り込んでいくほどである。
 おそらく、彼らの一日はあまり楽しくないまま終わるだろう。
 それに気づいたミリィが同情的なまなざしを送りつつ、ケインのマントを引っつかんだ。
「なっ、なんだぁぁっ!?」
 歩きを突然強引に止められ、つんのめりながら、ケインは振り返った。
「『なんだぁぁぁっ』じゃないわよっ!
 せめてこういうところではマントはずしなさいよねっ!
 ――期待はもとよりしてなかったけどっ!
 ま、淡い夢だったということねー……はぁぁぁ……」
「どういう夢を見てたのかは知らんが……とっとと中入るぞ。 
 レイルとは中で待ち合わせだ」
「――そう言えば、キャナルから詳しいこと聞いてないんだけど、レイルと今回会うのって前回のミアヴァルド事件絡み?」
 話しながらゲートをくぐるケインに続き、ミリィはIDカードを差込口へと通す。
 ディスプレイが入場料を表示するが、とりあえず気にしないことにする。
 慰謝料徴収したことだし。
「まーなー。ブラック・ボックスや、ガルズとか」
「ガルズ……えーとたしか……」
「職権濫用して私服肥やしまくった星間警察(ユニバーサル・ガーディアン)のグラサンおやぢ」
「……いや……たしかそこまで確定してなかったよーな……
 うやむやのうちに終わったじゃない。それどころじゃなかったから」
「ちっ。つまんねーこと覚えてやがる」
「いや……つまんないって……
 ――ま、まぁいいわ……
 ……言うだけ無駄の気がするから……」
 一層疲れるミリィだった。
 ――ガルズ=ゴート。
 ケインの見解はともかく、まともな警官ではないことは確かである。
 宇宙軍(U・F)所属の経歴を持ち、星間警察(U・G)へと所属替え。
 何をトチ狂ったのか、宇宙軍(U・F)、星間警察(U・G)のトップシークレット事項の保管庫へ入り込み、ナイトメアとの戦いの記録――『ブラック・ボックス』を持ち出した人物である。
 その『ブラック・ボックス』の情報を使い、とある遺失宇宙船(ロスト・シップ)をハッキングし、主制御システムの乗っ取り、書き換えなどを行い――その経過で死亡。
 星間警察(U・F)の対応は、行方不明者の人数を増やしただけである。
 なにしろ、死体は証拠と共に、ブラック・ホールに飲まれてしまっている。
 そしてそのまま――何が彼をそうさせたのか調べはついていない。
 何故、己の立場などを無視してまで、情報を求めたのか。
 何故彼は――保管庫まで侵入でき、あまつさえその事がすぐ表面化することがなかったのか。
 結局、何もわかってはいないのだ。
「気がするだけかも知れねーぜ?」
「確率、破滅的に低いけどね。
 ――それはいいとして、集合時間、遅れてたりしないでしょーね?」
 あちこちに配置されているアトラクションをきょろきょろ見渡しながら、ケインの後を続くミリィ。
「そりゃ問題ねーだろ。
 まだ一時間以上時間があるからな」
 前を行く黒いマントがしわを作る。肩をすくめたらしい。
「またえらく中途半端ねー。
 んじゃ、せっかくだから、デートと行きましょうか?」
「お前なぁ……」
「わざわざ入場料払ったのに、何も乗らないで損するの、もったいないじゃない?」
「よっしゃぁぁぁぁっ!! まずはあそこのジェットコースターから行くぞっ!
 いくぜミリィっ! 金と時間と勢いを無駄にするなっ!!」
「いや……そこまで気合い入れるのもどーかと……」
 提案しといてなんなのだが――あそこまでハイ・テンションで行かれるとひくものである。
 急にテンションを上げたケインをなんとなく、他人事のように眺めてから――苦笑し、後を追う。
 彼の行動は良く解っている。
 こうなってしまえば、経過はどうあれ、結果としていつもペースに巻き込まれている。
 ならば――いっそのこと一緒にノってしまうのも悪くない。
 木漏れ日に目を細め、陽射しは暖かく――
 そこはどこまでも平和だった。
 今は、まだ。

 安っぽい音を立て、その弾は打ち出された。
 目標とを遮断する空気の層を貫いて、それは狙い違わず直撃。
「ぐっ……っ!?」
 噛み殺しきれなかった苦悶のうめきを呪詛へと変えて、ケイン=ブルーリバーはがっくりと膝を折る。
 そのまま倒れ込み――右手を地面へと叩きつけた。
 そして見上げるようにして、彼の敵対者へ睨み付ける。
 それが出来るせめてもの悪態だった。
「な――何故だ……? ミリィ……」
 床へと伏す敗者にミリィはちらりと一瞥し――問いに答える代わりに、銃を構える。
 狙いは額の中央。
 苦しまないよう、次の一発で決着を付けるつもりだった。
 それが共に闘った仲間への、せめてもの情けである。
「……ごめんね、ケイン――」
 自嘲めいた笑みを見せて、ミリィは言う。
 ぱうぅんっ!
 ひたすら安っぽい音だけがケインの耳へと届いていた。
 ――結局、終わりなんてこんなもんか……
 不思議と戦友の銃を構える姿を見ても、怒りは沸かなかった。
 ただ、諦めにも似た悟りを胸に、ケインは目を閉じる。
 そこから先はどうなったのか――ケインはわからない。
 見ることなど、出来る状態ではないのだから…… 
「全弾命中っ! これでお昼はケインのおごりねっ!」
「何故だぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!」
 ケインは床から突然立ち上がり、大声を上げた。
 辺りの目をはばからず。
「ちょっ、ちょっとケインっ!?」
 慌てておもちゃの銃を棚に置き、命中させたぬいぐるみやら置物やらを山ほど突っ込んだ袋を片手できっちし持ちながら、ケインの元へと駆け寄った。
 ついでにたった今勝負を決めた、額を当てた熊のぬいぐるみも中に放り込んである。
 その場にいた係員はぎこちなく動きつつ、信じられないような目で見ながら、おもちゃの銃をいじって現実逃避をしている。
「やかましいっ!
 こぉぉんな安物のおもちゃの銃で、十発全て当てる奴がいるかっ!? ふつーっ!」
「ここにほら♪」
「オレは『普通』と限定した!」
「……どーいう意味よ……
 ケインが十五発中九発。あたしが今当てたのがまだ十発目。
 後五発残ってるんだけど――あっさり決めてあげたほうが良いかと思って♪」
「はっはっは。そいつぁありがとよ」
 こめかみのあたりをひくつかせながらやけくそな笑い声を上げるケイン。
 ここで怒鳴っても負け犬の遠吠えだという事ぐらい解っている。
「――で? 泣きのもう一回とか?」
「絶対頼まんっ!
 こーなったら次は――」
「集合場所へと移動だな」
「そうっ! 集合場所で勝負――
 ……おお。レイル! 遅かったじゃねーか!」
「そういうセリフは集合場所で待ち続けた奴が言えるんだ……!」
 ケインの振り向くその先には星間警察(U・G)警視、レイル=フレイマーはケインを睨み付けながら立っていた。
 一見するとモデルでも通用しそうな甘いマスクの持ち主だが、現在は少々怒りという文字で歪んでいる。
 左腕だけ袖が微妙にずれているところをみると、どうやら何度も腕時計を確認していたらしい。
 ちなみに集合地点はこのテーマパーク中央。
 『氷の彫像展』が行われている広場だったのだが、現在位置はそこからわずかにずれる。
 結局ケインとミリィは遊び倒し、近くにある的当てゲームで勝負していたのである。
「まぁいいじゃねーか。
 こうして会えたことだし」
「そういう理不尽なまでのポジティブ思考はやめろっ! こっちが疲れるっ!」
 まったく悪びれないケインにレイルは指を指して激昂した。
 とりあえずベンチにでも移動、ということで三人は歩きだしながら、会話を続ける。
 本来の集合場所へと自然に足は向かいながら、ミリィは覗き込みながら恐る恐る声をかけた。
「あ、あのー……レイル?」
「気にしないでください。ミリィさん。
 どうせ悪いのはケイン一人です。かばうことはありません。そうに決まってます。
 なぁ、ケイン」
「なにが、『なぁ、ケイン』なのかはわからんが……
 何を言っても信じねーだろーから何も言わん。
 それよりも、なんでわざわざテーマパークなんざに集合場所を選んだんだ?」
「ふっ。相変わらず考えが浅いな。ケイン。
 このように人が密集しているところなら目立ちにくいだろう?」
「そうかー?」
 あたりをきょときょと見渡しながら、一番近くにあったベンチへと腰をおろすケイン。
 ミリィもその後に続くが、申し訳なさそうに手を上げた。
「あのー、レイル……
 水を差して悪いんだけど……ケインあーんどマントはどう考えても……」
「………………まぁ、それはともかくとしてです」
 ミリィの突っ込みに一瞬レイルは凍りつくが――すぐに硬直から脱すると、何事もなかったかのように言葉を続けた。
 残念ながら冷や汗は隠し切れていないが。
 それをごまかすつもりかどうかはわからないが、自販機で飲み物を『二つ』買うと、一つはミリィに、もう一つは当然自分のものとして口に運ぶ。
 ケインの予想通り、自分の分は勧める気はなさそうだった。
「雑音が僕たちの会話を狭めてくれますし、まさかこんな人ごみのど真ん中で重大機密の話をするとは誰も思わないでしょう。
 ま、それに――」
 そこで一呼吸置くと、レイルは胸に輝く、小さなバッチを指で軽く弾いた。
「――星間警察証(バッヂ)見せればアトラクションタダですから」
「やめろ……そぉいう権力の使い方は……」
 あきれきった声でケインはうめくように呟いた。
 各施設はフリーパス。
 当然のことながら、本来は捜査、追跡、張り込みなどに使用される特権ではあるが……実状として不正使用者は、多々いたりする。
 ――もとい、いる『らしい』。一応、あくまで『噂』としておく。
 中には映画館に星間警察証(バッヂ)を提示し、入館料タダで入り、見事に睡眠時間を過ごす――ことも、不正ながら出来なくもない……らしい。
 当然のことながら、バレたらあまり良い未来は待っていないが。
「まぁ、とにかくレイルも忙しいだろうし、話進めない?
 で、あたしが聞いた限りじゃレイルから話があるって言ったらしいけど」
「ええ。かなり決心が要りましたけどね」
「それほどの内容なのか?」
「いや、お前ンとこのコンピュータさんに通信するのが、だ」
「なるほど……
 ――で?」
「今回は五百ふんだくられた」
 ケインの言葉に即答するレイル。
 右手に収められている缶がみきりっ、と音を立てる。
 ちなみに、ミリィは思わず吹き出しかけたジュースをテーブルに置き、げほげほむせていたりする。
「い、いや……そっちの話じゃなくてだな……
 レイル、お前からの『直にあって話したい話』ってのは何だってことなんだが」
「通信で話しつづけるとオレの預金が痛そうだった――ってのもあるが。
 通信じゃ誰に聞かれるかわからないんでな。
 それなりに機密性の高い話はあるさ」
「ふむ。そりゃそうだろーな。
 星間警察(U・G)のお偉い警視殿がこぉんな遊び場に来てるんだからな」
「はっはっは。イヤミ合戦しに来たのか。ケイン?
 キャナルならいざ知らず、お前に負ける気はないぞ」
 ただでさえ、平穏なムードではなかった空気が更に険悪な空気に移る。
 隣のテーブルについていた客が、おそらく本能で感じ取ったのか他の席へと移っていく。
 敏感な子供が、今にも泣き出しそうな表情で両親に連れられていった。
 空気すらそれを感じ取ったのか、春風となって静かな風が流れ行く。
 あたりの景色の移動に全く気付かず――と、いうより元々気にとめる気がないのか、ケインはこめかみの辺りをぴくぴくさせながら、
「ほっほぉぉぉう。そいつぁ奇遇だな。
 ――ちっとも嬉しくねーけどよ。
 俺もお前に負ける気はこれっぽっちもねーぜ」
「相変わらず無茶な発想が得意だな」
「俺のどこが無茶だってんだっ!?」
「またそーいう自覚のないことを……」
 掴みかからんばかりの勢いのケインを、ミリィはジト目で見つめてぽつりと漏らした。
「なにぃっ!? ミリィっ! 
 お前どっちの味方だっ!?」
「いや、そーいうレベルではどっちの味方でもないんだけど……
 ――で、真面目な話。
 レイルは仕事で、ケインは財政面で。
 どっちも時間を無駄には出来ないことだし、とりあえず話を聞いたほうがいいと思うけど?」 
「財政面なんざ従業員の給料切り詰めりゃなんとかなるっ!」
「切り詰められる給料……出してるの?」
「う゛っ……!?
 すまん……俺が全面的に悪かった……」
 レイルからもらったジュースを両手で挟みながらもてあそびつつ、痛いところをつくミリィの言葉にケインはうめいた。
 なんとなく、ミリィのほうを見られないケインだった。
「……かなりつらいんだなー、とか、同情心が湧き出てきたんだが――金はやらん。
 ミリィさんになら別の就職口を世話してもかまいませんが」
「またてめーはそういう……
 よぉしっ! それならキャナルを呼びつけるっ!
 ミリィっ! パソコン貸せ!」
「あ、ちょっとケイン!?」
 言うが早いか、ケインはすぐそばにあったミリィのバッグを強引に奪うと、慣れた手つきでキーボードへ打ち込んでいく。
『――はい。こちら、ソードブレイカー、キャナルです』
「お。キャナル! あのな――」
『――ただ今兵器カタログを閲覧中にて多忙です。
 邪魔をして無事でいられる覚悟と自信のある方は下のボタンをクリックしてください』
「………………」
 映像は見えないながらも、ケインと同様にミリィ、レイルも沈黙する。
 とりあえず、嫌な空気であることは否めない。
 ぎこちない動きながら、ケインはディスプレイに目を滑らせ――
 奇妙な顔をして沈黙した。
 画面には毛筆で描かれたであろう文字が、一枚の折り畳まれた飾り気のない白い紙の上で存在感を放ちまくっていた。
 その文字とはこうある。
 ――挑戦状――
「……………」
 なぜかすでに疲れてしまったような気はするが、ケインは憂鬱な表情でその表示をクリックした。
 そうでもしないと、キャナルはいつまで経ってもコールに反応するとは思えなかった。
 そしてしばらくすると、映像が切り替わる。
『はい、こちらソードブレイカー、キャナル=ヴォルフィードです。
 挑戦状を正式に受理いたしました』
「いや、『正式に』ってお前……
 つーか、なんだ、アレは……?
 いつの間に作ったんだ?」
『あの程度のでしたら一瞬で作れますけど?』
「いや、技術じゃなくて発想の問題なんだが……」
『単なる思いつきですので特に意味はないです』
「ことごとくコンピューターの常識を打ち破ってくれるよなー。お前は。
 ――しっかし……いや、なんでもない……」
 ふっ……と遠い目をし、すぐに視線を戻し、何か言おうとしたケインだが、言うだけ無駄なような気がして中断した。
「なんでもないなら呼ばないでくださいよ。
 このパソコン、画像悪いのであまり出たくないんですよねー。
 せっかくのわたしの魅力が……」
とりあえず後半のつぶやきをミリイは遮りながら言った。
「悪かったわね。安物のパソコンで。
 殆ど給料未払いなのよ」
「おい、ケイン。
 ……給料未払いって立派な犯罪だってこと――知ってるか?」
「う゛っ!? ――い、いや! しかしだな……っ!」
 しどろもどろに言葉を紡ぐケインを無視し、レイルはミリィの方へと向き直り、至極真面目に言った。
「ミリィさん。なんでしたら今すぐにでも逮捕しましょうか?
 僕としても『すごく』逮捕したいですし」
「レイルっ! てめぇっ!
 今強調して言いやがったなっ!?
 ――って! ミリィっ! お前も首を傾げるなっ!」
「一応――考えとくわ」
「か、考えとくのか……?」
 横目で非難の目をおくってくるミリィに思わずケインは聞き返す。
「そうですか……
 ――ひっじょぉぉに残念です……
 決心がついたらいつでも言って下さい。
 その日が訪れるのを心待ちにしておりますから」
「心待ちにするなっ! そんな日っ!」
『――ま、その辺はどーでもいいんですけど』
 レイルとケインの本人の意思とは無関係の漫才に、キャナルは冷静に切り出した。
「ど、どーでもいいってお前……
 俺にとっちゃぁ人生かかってるんだが……」 
『それまた置いとくとして――』
 ――置いとくなよ。俺の人生。
 心の底からそう思ったりするのだが、言うだけ無駄のような気がしてケインは口を閉じた。
『先程ミリィが会った三人組ですけど――どうやら<ポート=コーポレーション>の代表さん達だったみたいですよ』
『なっ!?』
 ぎすぎすした雰囲気で会話するケインとキャナルを、遠い世界でドリンクを飲んでいたミリィとレイルは突然のその一言に、言葉を詰まらせた。
「ぽ、ポート=コーポレーションって、銀河系有数の巨大複合企業のあの……?」
 つい一昔前までに銀河系一の巨大企業だった、ゲイザーコンツェルンが崩壊後、いくつかがその企業の代行、吸収を行ったのだが、それとて元が大きな組織だっただけに、代行できる企業は限られた。
 その中の一つがそのポート=コーポレーションである。
 ゲイザーコンツェルンほどではないにしろ、今まさにそこで遊んでいる子供達に聞いてみても知らぬはずはない企業で、歴史はかなり古い。
 企業は多岐に渡り、サービス業から、建造業、斡旋業――
 ありとあらゆるシェアに進出している企業である。
「ミリィっ!? お前いつのまに金ヅルと接触をっ!?」
「いくらお金に困っても、ゆすりはいけませんね、ミリィさん。
 せめて前もって僕に言っていただければ内密に処理を……」
「ちっがぁぁぁぁうっ!
 会ったって言っても、あっちの方からだし、あたしは好きで会った訳じゃないわよ!」
 好き勝手言う二人に抗議すると、これまでの奇妙ないきさつを説明した。
 ところどころ呆れられはしたものの、嘘は言っている訳ではないので仕方ない。
「うん……?
 てぇと、何か……?
 代表ってこたぁ――」
『――ええ。
 代表取締役はラズウェル=シクルさんですよ。
 先代のお子さんがマーリーチャ=ポートさん、トラン=ポートさん。
 ポート=コーポレーションは代々そのお子さんが継いで事業を経営してきましたが、両名とも十歳以下ですから、引き継ぐのは保留になってるんでしょうね。
 ちなみにラズウェルさんと先代さんとの関係は検索にヒットしませんでしたが』
「聞いただけでお家騒動とかに巻き込まれる気がするんでそれ以上何も言うな」
『賢明な判断です。手遅れじゃなければですけど。
 ところで――わたしって、なんで呼ばれたんですか?
 根本的な事ながら、聞いてなかったりするんですけど』
「――お。そーだった、そーだった。
 呼び出したのはレイルに対しての嫌がらせだ」
『それってわたしにとっても嫌がらせだということ――気付いてます?』
 にっこりと微笑みながらも、後ろに背負う者の正体を気付いたケインが僅かに視線を逸らしつつ、
「――おお。冗談だ。
 なんつーか、以前の事件のことについてレイルに事情吐かせて楽にさせてやろーと思っていたんだが、無関係じゃあないお前も話に参加した方がいいんじゃないかなーとか思ったわけだぞ。うん」
 こくこく頷くケインを見てキャナルは軽く溜息を一つつくと、
『そのセリフのぎこちなさで、だいたい事情は把握しました……
 ――で、タテマエに関する答えですが、わたしから言うことは――』
「あー! 遺失船(ロスト・シップ)だー!」
 ぎくぎくぎくぅんっ!!
 その場にいる人間はおろか、画面越しのキャナルでさえ、その間延びした子供の声に顔を思いっ切りひきつらせて凍りつく。
 ぎ・ぎぎ……っ!
 錆び付いたブリキのおもちゃのようにぎこちなく一同は首を声のした方へと向けると――
 はしゃいだ声をあげた子供は笑顔で凍りつくケイン達を通り過ぎ、広場の奥の氷の彫像の所へと走り抜けた。
 物々しさと優美さを兼ね揃えたその氷の彫像――艦は発光を照らし返し、子供の目を細めさせた。
 あちこちに優美な武装を外観を損なわない調和で飾り立て、そして艦の端には戦女神のような像が、これまた威厳と神々しさを放ちながら立っていた。
 その彫像にはこう題されている。
 ――『遺失船(ロスト・シップ)』。
『こ、こおりの像のことでしたか……』
 珍しくキャナルはぎこちなく言語を操った。
「……し、心臓に悪い……」
 力が抜けたのか、ミリィはがっくりとテーブルに突っ伏しながら、胸の辺りを抑える。動悸がかなり乱れたようである。
「はっはっは。ミリィさん。
 僕なんか手が銃に届いてしまいましたよ」
「何をする気だったんだ……? 何を……」
 一同ぎこちなく乾いた笑いを浮かべながら――やがてきまずい沈黙がその場に降りた。
『ま、まぁとにかく――わたしのことなら気にせず話を進めてください。
 わたし自身に盗聴してきたところで大抵はガード出来ますけど、ミリィのパソコンまでは自信ないですよ』
「そ、そうか……
 ――わかった。話は進めとくぜ。
 ンじゃ、留守番頼むな」
『了解です。ケインも無茶ばっかしてミリィを困らせちゃ駄目ですよ。
 今時『ただ働きでもいい』なんて言ってくれる人なんて、そういないんですからね』
「いや……あたしはそんなこと一言も言ってないんだけど……」
 至極真面目な表情で言うキャナルに、それ以上に真面目な声で呟くミリィ。
 しかし、その声はあっさり無視された。
「わかってるって。キャナル。
 いつも通りしてりゃいいんだろ?」
『いや、それはちょっと……』
 キャナル、ミリィ、レイル。ケインを除く三人の見事なチームワークで声がハモる。
「どーいう意味だ……? お前ら……」
「聞かないとわかんない時点である意味尊敬に値するわ……」
「駄目です。ミリィさん。
 例えどんな意味でもこんな男を尊敬しては人生踏み外します」
『うーん……いくらわたしでも今のはフォローしきれませんねー』
「だ・か・ら、どういう意味だっ!?」
 そして三人は画面越しに視線を合わせ、アイコンタクトをすると――くるりとケインへと向き直り、これまた同じ至極真面目な表情で、同時に言った。
『ノー・コメント』
「泣かすぞ……お前ら……」
『いいですねー。受けて立ちます。
 わたしに挑戦状送ってくるんですから、それぐらいの意気込みはないと』
「はっはっは。
 そうじゃなくてもいつか決着付けなくちゃなー、とか思っていたんだがなー」
『ふっふっふ……
 それは楽しみですねー。
 挑戦状送りつけて来るくらいですからそうじゃないと。
 じゃあ、わたしは迎え撃つ準備をするのでこの辺で』
「あ……! おいっ! キャナル!」
 ぷつっ……つー、つー、つー……
 とことん不吉な一言を残し、映像がかき消えると、そのままスピーカーからは電子音だけが流れた。
「あたし……無関係だからね……」
「……巻き込むなよ、ケイン」
 乱れた灰色の画像を見つめながら、動きを失ったケインに、ミリィとレイルは同情の色以上に脅えの色を含ませて、そう言った。
「……やかましい……
 きっちり付き合ってもらうからな」
 灰色の画面から視線を逸らさず、ケインはレイルのジュースをひっつかみ、一気に喉の奥へと流し込んだ。
 ジュースは異様に苦かった。

『ラズウェル=シクル! どういうことだ!?』
「んのわわわわっ!
 しぃぃぃぃっ! し・ず・か・にっ!
 困りますって! 接続したとたん大声だなんて!」
「ラズ兄もうるさいと思う人ー」
 隣で呆れつつぼやく少女――マーリーチャの声に、トランは無言で手を挙げた。
 ラズウェル=シクル、マーリーチャ=ポート、トラン=ポート。
 三人のいるこの場所は、暗く、湿っぽかった。
 とある場にてとある行動中。
 そう、報告すべき所に報告しておいたのだが、やはり納得はしてもらえなかったらしく、こうして通信が入ってきたのである。
 もちろん、『無視しておこう』などという意見が、満場一致で可決されたのだが、発光する通信機を切ろうとして、そのディスプレイを開くと、無視するわけにもいかない相手――マーリーチャとトランの叔父からの通信と気付き、『とある行動』を中断し、こうして通信を受けた直後、怒鳴られたのである。
「な、何なんですか一体……?
 いきなりそんな怒鳴り声で――」
『いきなりも何もあるかっ!?
 なんだあの報告書はっ!
 その上貴様、兄の遺産を奪ったばかりか、あんな女と付き合うなど……っ!
 何を考えているっ!?』
 ラズウェルは笑顔のまま凍りつくと、一瞬だけ映像部分から顔を逸らし、思いっ切りうんざりした顔をする。
 ――またか……このおやぢは……
 心の中でそう呟くと、再び不自然ではない程度に映像部へと顔を戻す。
 もちろん表情は営業スマイルである。
 この男は、ラズウェルが出逢う女性を片っ端から調べ上げ、こうして難癖を付けるのが大好きなようだった。
 少なくとも、ラズウェルとマーリーチャ、トランにはそうとしか思えない。 
「あ、あのですねぇ……
 遺産のことについてはすでに何度もご説明していますから、今更改めて語る気はありませんが……
 いい加減、私の交友関係調べまわるのはやめていただけませんか?」
『そうやって企んでいても、私の目の黒い内は貴様の好きにはさせんぞっ!』
「僕たちの家系はみんな最初から深緑ですけど」 
「叔父さん……鏡見たことないのかしらね……」
 音声を拾う範囲から脱し、ラズウェルに全て押しつけている二人は退屈そうにしながら、地面に小枝で落書きをしながらそう言った。
 しかし地面が固いせいか、満足な絵が描けないらしく、靴底を少しずつすり減らしている。
「何を企むって言うんですか……
 ともかく、あまり度が過ぎますとプライバシーの侵害、名誉毀損で訴えますよ」
「はい、ラズ兄減点ーっと」
 決心を秘めた瞳でディスプレイを睨み返すラズウェルの足下で、マーリーチャはのんびりとそう言った。
 ちなみに床には、はっきりと『−1』と書かれている。
「う゛……本日減点評価三点目……
 なんで今のが減点なんだい?」
「そんなことしたら、マスコミにいい様に書かれますよ。
 事実を伝えることより、騒動を伝える方が儲かりますからね。連中さん達は」
「な、なるほど……」
 大きな企業の宿命のようなものだ。ラズウェルは渋々頷いた。
『何をこそこそ話しているか知らないが……
 どんなことがあろうと、あの女だけは許さんからな!』
「あの女と言われましても……
 会う女性片っ端から『御忠告』いただいておりますから、誰の事やら……」
 極端な例を言うと、たまたま道を聞いてきた女性すら忠告範囲内である。恐ろしいまでの情報力と執念、根性である。
『今日会った女だ!
 ミレニアム=フェリア=ノクターン!』
「……き、今日偶然出会った女性すら既にチェック済ですか……」
 めまいを起こして、思わず頭に手を当てるラズウェル。その程度で頭痛はやんでくれそうになかったが。
「うーむ……我が叔父ながら……変態ですね。ここまでいくと」
「そーよねー。
 あと何年かすれば、トランも言われちゃうんじゃないの?」
「始末のための裏工作しときますか……
 話に乗ってくれそうな人、今でも何人かいますし……
 叔父さん、人徳ないですからねー。
 それに、今ならラズ兄ちゃんという、格好の隠れ蓑がありますし」
「君たち……物騒な話をへーぜんと話さないでくれないか……?」
 通信機から顔を背け、後ろの二人に怒りと疲れが混じった声で、ラズウェルが言う。
『……?
 ともあれ、あの女がどういう人間か知っているのか!?』
 マーリーチャやトランの会話は聞こえず、ラズウェルの音声のみを拾っている叔父は、やや首を傾げながらも言い募る。
「知りません。本日少々会話した程度です」
 ――偶然出逢った女性を詳しく知っていたら、それこそ変態じゃないか……
 本音は心の奥にしまったまま、ラズウェルは表面的ならば毅然とした態度で答えた。
『知らずに接触したのか……?
 ハ! 情けなくて涙が出るね』
「泣いてなさい。いっそ永遠」
「いっそ涙で溺れてくれれば楽しいんですけどね……はぁぁ……」
「マーリーチャ……トラン……
 頼むから少し静かにしてくれ……本っ当に頼むから……」
『ええいっ! 私の会話と集中せんかっ!
 いいか、あの女は――』
 毎度の如く始まるであろうそのくだらない文句を聞き流す準備を始めたラズウェルと、既に耳栓を配布しているマーリーチャと耳栓を受け取ったトランは、今回限りであろうが――その叔父の続けた言葉に驚愕するのだった。

 奇妙な話だった。
 つじつまが合っていないのだ。
 確かに、驚愕すべき事であり、無策で静観することは愚かな行為である。
 だが、何故――その事実が判明した事件の前半部分のファイルが、ごっそり抜け落ちているのだろう。
 どう考えても不自然である。
 それでも、クラーコフは軍人だった。
 だからこそ、上官の命令は絶対である。
 戦場を多く経験した彼にはそんなこと既に理解している。
 だが、しかし。
 こういう考え方もあった。
 『守るべきものは、軍規に非ず。
  最優先で護るべきは民衆なり』
 戦士たれ。紳士たれ。
 そして――
「クラーコフ中将?」
 後方よりかかったその声に、クラーコフは思考を中断し、振り向いた。
 提督というのは、あくまで艦隊の指揮官としての呼び名である。
 故に、指揮下に置かれていない軍人は階級で彼を呼ぶ。
 クラーコフの階級は中将だった。
 そして、その階級で呼んだのは――確か、最近会議への出席が許されたばかりの、若手出世組の一人のであった。
 会議で同席するのは今回が初めてではあるが、名前と顔、簡単な経歴は知っている。
 それらを覚える能力がなくては、軍の上層部になど上がっていけない。
 また、一般社会でも、上に立つ者はそれぐらいの覚悟があってほしいと思う。
 ましてや、後ろ盾のない軍人なら当然のことである。
「何か? スタンリー大佐」
「いや……その。
 失礼とは思いますが、先ほどのことですが、何故あなたがわざわざ出向くのか――わからないのですが……」
 体の向きを自分より一回りほど若い士官へと直し、クラーコフは相手の目を見据えながら言った。
「こちらの都合で一方的に呼びつける訳にはいくまい。
 あちらに非があるという確定的な証拠がない以上、動くべきはこちらだ」
 それに……軍人としては悲しいではすまされないことだが、軍の上層部は何かを隠している気がしてならない。
 不自然なファイル。不自然な行動。
 何かもが、信用するに値しない。
「そんなもんですかね……」
「――それよりも、『調査任務』が宇宙軍(U・F)にまで降りてきたことが奇妙だとは思わないか?」
「え……それはどういう……?」
「わからんか……
 我々宇宙軍は公務の中での最高軍事力を有している。
 故に、使用が限定されるのだよ。
 力で圧制が生まれないために。
 だからこそ我々は星間警察(U・G)からの要請で出動となる。
 それも数々の手続きを踏まえてだ。
 それだけ慎重をきすべき組織だということはわかるだろう?
 今回の任務、本来なら星間警察(U・G)の任務であろうな……」
 宇宙軍(U・F)のこの行為が深入りの任務だということを暗に言ってのけたその言葉に、若き仕官は気分を害したらしい。
 わずかに顔をしかめた。
「……それは――
 ……いえ。今の言葉は聞かなかったことにします。
 あまりそのようなことを他言されないことを進言しますよ。
 上層部に睨まれては……あなたも不本意でしょう?」
「……納得の出来ない命令に命を賭けることは出来ない。
 軍人として、人間として、私の本心だよ。
 ただ、あの命令は遂行する。
 私にも、思うところがあるのでな」
 そう言って、クラーコフは相手との会話をこれでおしまいだとでも言わんばかりに手を振ると、くるりと背を向け、元来た通路へと歩いていった。
 スタンリーは憮然とした表情でその背中を見つめ――
 そのことに気づいてか、気づかずか、クラーコフは背を向けたまま、足を止めた。
「――一つ、忠告しておこう。
 どうやら我々宇宙軍も、岐路に立たされているようだ。
 遠くない未来、必ず変革の時が訪れる。
 その変化に立ち向かうか、巻き込まれ、飲み込まれるか――
 それは本人にしか決めることは出来ない。
 私はすでに決心している。
 君は――どうなのだろうな――」
 答えを求めていった言葉ではない。
 クラーコフは言葉を切ると、今度こそ本当に姿を消した。
 取り残されたスタンリーはただ、ひたすら気分の悪い空気とともにそこを動けずにいた。
 やがて、彼は舌打ちを一つ残して、乱暴にファイルを脇に閉め、その場を後にした。
 クラーコフは知っていた。
 変革は、訪れる。
 そう、遠くない未来に――

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19161『激動 始まる』 4白いウサギ E-mail URL2001/12/24 19:18:46
記事番号19157へのコメント

四、 逃走(エスケープ)

 衛生港に停泊しているソードブレイカー内。
 キャナルは顔をしかめていた。
 いつも定期に行っている、船内外のチェックの時間である。
 メンテナンスプログラムを走らせていた時、キャナルはそれに気づいた。
 ほんのわずか、その違和感が、拭いきれない不快感となって、今キャナルのそばにいた。
 メンテナンスプログラムの走りが――所要時間が極僅かだが、いつもより時間がかかったのである。
 それだけではない。
 漠然とした違和感がそこにある。
「……どうすべきか、判断に困るところね……」
 苦笑して、ちらりと今は不在となっている操縦席(パイロット・シート)を見ながら、キャナルはあごに手を当てた。
 するべきことは他にもあった。
 不穏な動きを見せる星間警察(U・G)と宇宙軍(U・F)。
 そして、思わぬところで接触のあった<運び屋>三人組。
 しかもその実は巨大複合企業、ポート=コーポレーションの代表者達。
 全ての関わりを単なる偶然、ということで片付けておけるほど、ソードブレイカーの危険は少なくない。
 無論、偶然の可能性の方が高いのだが、勝手に片付けて安心していられる立場ではない。
 情報はこれから必要になる。
 ソードブレイカー内。
 乗組員、ケイン=ブルーリバー、ミレニアム=フェリア=ノクターンを含めて、情報収集に長けているのは間違いなく自分である。
 だからこそ、これらは先頭にたって調べねばならない。
 ――今は後回し……ね……
 ほんのわずかな、根拠のない――いわゆる、非科学的なカンで生まれた違和感より、処理すべき物事が多々あるのだ。
 今はまず情報収集第一。
 キャナルは前回の、『ミアヴァルド事件』により、指名手配がかかったことによる、外部からの変化を調査を続けていた。
 非常に、どうにかして欲しい問題ではあるものの、指名手配にかかったことは一度ではないし、さらに二度とかからないといえるような乗組員たちではないため、楽観視は出来ない。
 単純な艦隊戦などによる攻撃なら、切り抜ける実力も自信もあったが、それだけでどうとでもなるわけではない。
 危険を離脱する実力は持ってはいるものの、それだけで世の中を渡っていけるほど甘くはない。
 例えば――生活費とか。
「………………」
 自分の思考に現れた、情けなさ過ぎる単語に思わず一瞬、苦い表情をして宇宙空間を眺めてみたりするキャナル。
「宇宙軍(U・F)より……通帳の残高が怖いわたし達って……一体……?」
 ほろりっ、と涙がこみ上げてきそうなキャナルだった。
 まぁ、それはともあれ、生きていくためには腕っ節だけでは不十分。
 ひとしきり宇宙空間を眺めた後、どうにか心を持ち直すことが出来たのか、キャナルは軽く気合を入れると、笑顔で星間警察(U・G)へとハッキングを開始した。
 当然のことながら違法行為ではあるものの、それを正すことが出来る人間はこの船にはいない。
 数々のネットワークの境目を選択し、情報の発信源へと逆流。
 ――数分後。
 キャナルは、入手した情報で、頭が痛くなるという生理行為を理解したような気がした。
 レイルはこの事を伝える気ではなかったのだろうか。
「さっきの様子だと――話せないでいるようですけどね……」
 操縦室(コントロール・ルーム)に鏡はない。
 だからこそ、自分がどんな表情をしているか、キャナルにはわからなかった――

「――と、まぁそういうわけでガルズの方は、未だ全てわかっているというわけではないんだ、ケイン」
 遠ざかるうらめしそうな表情と呪詛にも似た悲しみの声をあっさり無視して、レイルは真剣な顔をして言葉を続けた。
「ふーむ……
 ――ま、あまり期待しちゃいなかったけどな。
 宇宙軍(U・F)に所属していた頃のコネ――つーよりか、指示でもあったんじゃねーか?
 それで、何らかの命令で星間警察(U・G)へと潜入捜査――とか」
 おどろおどろした効果音とともに登場したぼろぼろの布を巻きつけたお化けをやはり無視し、ケインは思案する。
「ありえない話じゃないが、やはり推測の域を出ないな。
 だがまぁ、もしそうだとしても、そのガルズのことで調査がわずかながら行われたってことは、軍そのものと言うよりは、上にいる誰か一部の者の指示だと考えたほうが良いだろう」
「もともと、軍全体がどーにかなった、なんてこたぁねーと思うが……」
 頭に飛来する人魂をケインは首だけでひょいとよけて、ノー・リアクションで歩きつづける。
「通常ならそうだろうな。
 だが、遺失船(ロスト・シップ)がらみだぞ?
 軍全体で何か対策を取り組んでいても不思議はないだろう」
 足元で突然発光が起こり、地面となっていたものが透明となり、奈落のそこが映し出されるが――所詮そう見えるように、立体映像が仕掛けられているだけである。
 レイルはすたすたと歩きつづける。
「どーでもいいけど……お化け屋敷の中でそーいう話する……? 普通……」
 状況をいつも以上に考えずに話をする二人に、ミリィはとうとうかねてからの疑問を口にした。
 ついでに言うと、ケインとレイルがこうなので、たとえこういった類が苦手だとしても怖がってやるのは無理な相談だった。
 そういうわけでミリィは釈然としないまま二人の後を着いてきていた。
 結果、三人はあたりの仕掛けをほとんど無視して突き進んでいる。
「いーじゃねーか。別にどこでも」
 薄暗闇の通路に溶け込むマントをはずそうともせずに、ケインは頭の後ろで腕を組みながらそう言った。
 確かに、何処でも良いのだろう。
 三人は――遊びまくっていた。
 ジェットコースターでも、観覧車でも、鏡で出来た迷宮も、3Dシアターでも。
 レイルの『職権濫用』を使用しまくり、タダであるが故、とりあえず全アトラクション制覇を目指して園内をうろつき、それでいて話をするのならば、お化け屋敷あたりでもまぁ問題はないなのかも知れない。
 ちなみにレイルが、どのアトラクションでもことごとくミリィの隣の席を奪おうと画策していたことがあったりする。
 アトラクションの一つで、戦艦に乗り込んだ二人一組のシュミレーション・シューティングゲームでは、ケイン&ミリィとレイル&補助コンピュータに別れ、ケインとミリィが開始直後にレイルを撃沈し、優勝してしまってからはさらにミリィとペアになりたがったのは言うまでもない。
 その時、優勝商品の発送をするので連絡先を、などと聞かれたのだが、『仕事中なので失礼します』と、レイルはささやかな抵抗をしたりしていた。
 だからこそ。
 こうして話が出来なくもない場所に訪れた以上、話を進めたい気は解るのだが――
「いやでも……さっきの化け猫役の人、かなり寂しそうにしてたわよ」
「……おー。
 そーいえば気づかねーでシッポ踏ん付けちまった、あれか」
 今更気付いたようにぽんっと手を打つケイン。
 そして、それに呼応したかのように。
 どがひゅぅぅぅんっ!
 手を打つケインの横で、今度はミイラ男がピラミッド型の墓からカタパルトのようなもので射出されたのか、急に飛び出してくるが――
 歩きを止めたせいでタイミングをはずしたのか、着地点が遠すぎていまいちインパクトが薄い。
 おそらく本来は客の目前で着地し、驚かす仕掛けだったのであろう――ケインはふと冷静にそんなことを思うのだった。
『……………』
 しばし、ケイン、ミリィ、レイルの三人とミイラ男は所在無さげに沈黙し――
 ミイラ男は顔の前に両手を合わせ、謝罪の意を表明すると、ピラミッドの奥へと帰っていった。
 そして先ほどの仕掛けと同じ位置と思われる所から、空気が圧縮されるような音が聞こえてくる。
 ぷしゅぅぅぅぅぅ……
「いや。仕切りなおさんでいいから」
 しゅぅぅぅ………
 圧縮された空気が、ケインの無情な言葉に拡散された。
 そしてしばらくすると、ピラミッドの奥からすすり泣く声が聞こえてくる。
「しくしくしく……」
「……こーいう配役じゃなかったと思うんだけど……」
 すすり泣く女、というのは聞いたことはあるが、ミイラ男がすすり泣くような話は聞いたことはない。
 どーやら今のセリフ、ミイラ男にとってかなりショックだったようである。
「ま、臨機応変にがんばれよー」
「次来るときは女性を脅かすようにするんだぞ。
 じゃなきゃ楽しめないんでな」
「最っ初から楽しむ気はなかったけどなー。わははは」
 トドメとも言えるケインとレイルの言葉に、ミイラ男の鳴き声は遠ざかりながらも、一段と大きくなっていった。
 幽霊やお化けたちに、同情せずにはいられないミリィだった。
「で、次にガルズが接触した『ブラック・ボックス』の一部、ナイトメアとの抗争関係の資料を――『ダブル・B』とこれから呼ぶが、そいつにはオレは接触していない。
 警備が厳重すぎるんでな。
 昔と違って今じゃ、評判やマスコミを恐れて内部の人間には厳しい処置が取られているもんで、手出しは危険すぎる」
 現在、星間警察(U・G)の評判はかなり悪い。
 ナイトメアとの接触、癒着が明るみが出たことを発端とし、次々と不正、不祥事が発覚。
 そうでなくとも世間で凶悪事件が起これば当然防犯についての批判はくるし、その経緯に僅かでもミスや不明な点があれば総スカン。
 その対策として書類の手続きを緻密化し、情報の伝達を精密にしたため、今まで数行で済んでいた報告書に丸一日かかってしまうのが現在である。
 その結果、硬直化が進み、他の事件への対応や、事件の処理の速度が遅くなり、また世間様や、マスコミから難癖を付けられる。
 打開策として、捜査員を増やすことがあるのだが、公務員とてただ働きではない。
 人数が増えれば人件費がかさみ、その財源はもちろん税金。
 税金を増やせば今度は政治家が叩かれる。
 政府や警察とてバカではない。改善の努力はしてきている。
 だがしかし、そういうことを知らずに、文句や愚痴、注文を――もとい、『意見』、『要望』を発する者は後を尽きない。
 実例として、スリに合った被害者が「被害届を出すから迎えに来い」だの、「誰かに後をつけられている気がするから、毎日警護しろ」だの。
 便利屋か何かと勘違いしている、要望者たちは実際にいる。
 無視すれば評判が下がる。対応すれば他の事件の対応が遅れ、評判が下がる。
 こうして無限のループに追い込まれているのが今の現状である。
 とは言え――
「こーやって情報提供しているだけで危険なんじゃ……?」
「……それはまぁ――たぶん、なんとかなりますよ。きっと」
 ミリィの言葉に、さりげなく視線をはずしながら、レイルは口を濁した。
「――それで、『ダブル・B』ですが、前回のことでおわかりだとは思いますが――
 かつての技術――遺失技術(ロスト・テクノロジー)が未だ残っていると見て間違いないでしょう。
 現在の我々人類の技術で、解析が可能かどうかはともかくとして、ですが」
「そりゃまぁ……想像はついてたけどなー……
 ナイトメアとの戦いの記録って聞いてたけど、グラサンが引き出したのは、主制御システムの乗っ取り――それも、キャナルとほぼ同位の遺失船(ロスト・シップ)を、だ。
 『ダブル・B』にゃ、おそらく――あるんだと思うぜ。
 遺失技術(ロスト・テクノロジー)の記録が」
 ケインの言葉に、一同は沈黙で答えた。
 以前の事件の直後、レイルに支払う金額の交渉(キャナル同伴)の時、一通りの事情説明はしてある。
 核心に触れるところは話していないものの、もともと事情を説明したのは手配を解くための裏工作に対する打ち合わせに依るところが大きい。
 それでも、その技術が存在することが何を意味するのか――わからない者はここにはいない。
 遺失技術(ロスト・テクノロジー)に現在の技術力は追いついていない。
 よって――世界が激変する技術がそこに眠っていないとも断言出来ないのである。
「たぶん……
 ナイトメアとの戦いの時の残骸の一部じゃないかしら。
 そういった技術……あいつらが隠し持っていたとしても不思議はないもの」
「ま、おそらくそんなところだろーな。
 ――推論の域を出ないってこたぁ確かだが、他に考えられないことも事実だ」
 前方への進行を妨げる柳を手で払いながら、ケインは応えた。
「……うかつに手を出すのも危険だが、放っておくのはもっと危険な物――か。
 なんか最近……お前らと付き合ってるせいで寿命がぐんぐん縮まってく気がするんだが……」
 ケインの作った道に続きながら、うつむき加減で言うレイルの言葉に、ケインは言った。きっぱりと。
「病は気からっ!」
「おっ、お前なぁぁ……!
 その『気』に悩まされてる原因はなんだと思ってるんだっ!?」
「決まってんじゃねーか。
 お前の心の弱さだよ」
「いや……ケイン……
 かっこいいセリフで誤魔化すにはちょっと無理が……」
「やかましいっ! 
 弱音吐く奴の相手などしてられるかっ!」
「オレが言ったのは現実と事実からの考察だが……
 ――もういい。お前の発言にいちいち付き合ってたら話がちっとも進まん。
 強引にでも話を進めるが、『ダブル・B』はどうする?
 破壊するにしても、一朝一夕にはいかんと思うが――」
 レイルのその言葉にミリィは足を止め――沈黙する。
 それに気付いたケインとレイルが足を止めた頃、ミリィはぽつりと言葉を紡いだ。
「……あの――さ。
 その『ダブル・B』――破壊するの? やっぱり」
 暗がりに浮かび上がったミリィの予想もしなかったその言葉に、レイルはミリィへと向き直った。
「そりゃやっぱり……そうした方が安全ですから――
 ………………………
 …………あの、何かまずいことでも……?」
 レイルに聞き返され、ミリィは思案した。
 なんとなくそう思ったわけではない。きちんと理由はある。
 だが、しかし。
 言って良いものかどうか、ミリィは悩んでいた。
 ケインはそんなミリィを見て、何も言わなかった。
 二人の目があった。
 おそらく――同じ事を考えているのだろうと、ミリィは直感する。
 そして、思いを言葉にした。
「レイルが言うには――
 この世界にとって、技術が追いついていない遺失技術(ロスト・テクノロジー)は、混乱を生む――危険だから破壊するって事でしょう……?」
「え、ええまぁ……」
「そうなると――それって、キャナルも入るわよね。
 遺失技術(ロスト・テクノロジー)の中に」
「…………!
 そ、それは――
 『ソード・ブレイカー』や、『キャナル』は特別では――」
「……うん。
 それは――そう思うんだけど……」
「あっさりオレたちが線を引いて良い訳じゃねぇってことだろ?」
 ケインの言葉に、ミリィは頷いた。
 確かに、キャナル――いや、『ヴォルフィード』は、遺失世界(ロスト・ユニバース)の産物である。
 人類には持て余すこととなる、強大な力を有していることは間違いない。
 それどころが、現時点で一番巨大な力を有している――レイルの言い方によれば、一番危険な存在であるとさえ、言えてしまう。
 だからと言って――納得がいくわけがない。
 世の中、理屈だけで全て納得できるわけではないのだ。
 既にかけがえのない仲間となっている者を、どうして否定できよう。
「――それにさ……力が強すぎるから、危険な存在になるかも知れないからって……
 破壊しようとするなんて……戦争と――同じよね? それって……
 ………………………………………
 ……この前のミアヴァルドと――やろうとしていること、同じじゃない――」 
 主制御システムを乗っ取った、『ミアヴァルドと名乗る者』はこう言った。
 ――過ぎた力は必要ない。
    争いの種になる――
 そして、自らと『ヴォルフィード』を消そうとした存在。
 それに対抗したのは、他ならない、ケインとミリィ――二人だった。
「…………そ、それは……そうかもしれませんが……
 …………………………………」
 気まずい沈黙がその場に降りる。
 そして、その沈黙を軽い吐息と共に打ち破ったのはケインだった。
「――ま、考えたって今すぐ答えが出る事じゃねーしな。
 ましてや、悩んだ所でそれが正しい答えになるとはかぎらねぇ。
 なら、選ばなくちゃならねー時、後悔しねぇよう選ぶっきゃねーだろ」
「そうやって先のばしして――何かが起こったらどうするんだ?」
「決まってんじゃねーか」
 レイルの僅かな非難の目を受けながし、ケインは自信たっぷりに頷いた。
 そして、ミリィは苦笑する。
 先に何を言うか解ったからである。
「そん時はそん時だ!」
 胸を張って言うケイン。
 レイルは思わず立ちくらみを起こすが、こんな奴相手にまともな言葉を期待したのが馬鹿だったと思い直す。
「……ま、それはそれとして――
 そろそろ出口のはずだけど……」
 ひょいっと、ミリィは首を伸ばして空路の曲がり角へと首を出すと、その頬数センチ先、銀色の糸を引いて、何かが通り過ぎた。
「い……っ!?」
 その通り過ぎた物体を、後ろにいたケインが暗闇であるというのに、人差し指と中指ではさみ取り、それを見たミリィが凍りつく。
 即ち――ナイフ。
 そしてミリィの背後に生まれた気配に慌ててミリィは振り向くと、そこにはいくつものナイフと刃物を携え、アイスホッケーの選手が付けるような仮面をかぶった大男が一人。
「んのわきゃぁぁぁぁっ!!」
 さすがに暗闇に浮き出たその姿はインパクトがあったのか、思わず大声を上げるミリィ。
 かくてナイフ男はこの三人から、求めるリアクションを得た初めての配役となった。
 しかし。
 今まで以上に、くすんだ瞳でナイフを見続けていたのはケインだった。
 それに気付かないナイフ男は、大喜びで――もとい、与えられた任務をこなそうとミリィの方へと歩み寄り――懐から更に光沢の薄いナイフを取り出した。
 ――それが、ケインの我慢の限界だった。
「くぉのコスプレ男がぁぁぁぁぁぁっ!!」
 どごがげしぃぃぃぃっ!!
 足下のおぼつかない、狭い通路を全力で疾走すると、裂帛の気合いと共に、ナイフ男へとケインは跳び蹴りを配送した。無論受け取り拒否、クーリン・オフは却下である。
「…………………………っ!!」
 仮面の奥からくぐもった悲鳴を上げながら、男は勢い良く後方へと吹っ飛び、セットを破壊して瓦礫に埋もれる。
「あああああああああああああああっ!!
 ケインっ! なんってことをっ!」
 先程よりも恐怖心が色濃く出た悲鳴を上げて、頭を抱え込むミリィ。
「やかましいっ!
 いーか、ミリィ! こいつはなぁ――俺の心の師匠、切り裂きジャックを侮辱した!
 このナイフを見ろ!
 こいつぁ役者などが使う偽物だぞ!」
「当たり前だろーが……」
 あまりの事態に凍りついていたレイルが呻くようにして言った。
「またそーいう一寸先の暗闇しか見てないことを……!
 ちょっ、ちょっとナイフ男さん大丈夫……!?」
 とりあえず真っ先に崩れた壁を飛び越えて、ナイフ男へと駆け寄るミリィ。
 顔の正面ではたはたと手を振ってみるが、応答はない。
 どうやら完全に気絶したらしい。
「お、おーい! 起きてってば!
 ――ケインもっ! いつまでもそんなとこいないでこっち来なさいっ!」
「わ――わかったって……」
 未だ怒りは収まっていないケインだが、ミリィの剣幕に押され、しぶしぶ男のほうへと歩みを進めるケイン。
 その後に続くレイルはぽんっと、ケインの肩を叩き――爽やかに、そして幸せそうに言った。
「暴行罪、傷害罪、器物破損……現行犯逮捕――だな」
「う゛っ!?」
 瓦礫をまたいだその足で、完全に硬直するケイン。
 頬には冷たい汗が、脳裏には過去のつらい思い出が走り抜ける。
「ちょっ、ちょっと待てっ! レイルっ!
 え、えぇっと――」
 慌ててマントをばたばたはためかせて身振り手振りをすると――やがてケインの指はナイフ男の方を指し、
「名誉毀損っ!」
「されんされん。適用されん」
 落ち着きながらもぱたぱたと手を振るレイル。
 ため息を一つつきながら、あきれきった表情でケインへとジト目を送った。
「切り裂き魔に名誉なんぞ、もともとないだろーが……
 ――それに、そういう訴えは本人じゃないときかないんだよ」
 本人が死亡し、その遺族が訴えを起こすことは可能だが、結局逮捕されずに迷宮入りした人物の名誉など、誰一人として訴えることは不可能である。
「俺の心の師匠、人権無しかっ!?」
「いや、そーいうことじゃなくてだな……
 ――ま、詳しいことは署で話してやる。
 そういうことですからミリィさん、先ほどの給料未払いのことも一緒に――」
 最優先であるはずの負傷者の保護を無視しつつ、崩れた壁をのれんのように右手で払いながら覗き込んだその瞬間。
 ぱぅんっ! ――がきっ!
『………………』
 無粋な音に言葉を中断し、ゼロコンマ何秒か思考を働かせ――そしてその答えが出る前に。
 いつの間に現れたのか、十数人の紺色の服にサングラスの男たちが、ケイン達を取り囲んでいた。
 全員が全員、拳銃を構え、銃口は三人に向けられている。
 ――いや、違った。
 事情は全くわからないが、崩れた壁のその向こうに、隠れていたと思われる、三人組の姿と同一視され、敵意は確かにケインたちと、その三人組に向けられている。
 何のことかわからないながらも、ケインが身を護ろうと動いたその瞬間、
「ら、ラズウェルさん……!?
 なんでここにっ!?」
 お見合いをする空気をミリィは破壊した。
 しゃがみこんだ三人組――彼らにミリィは見覚えがあった。
 と、言うより、数時間前に別れたばかり。
 これで覚えていない場合は、病院に行ったほうがいい。
 そう――紛れもなく、<運び屋>と名乗り、その実巨大企業の現代表取締役と、前社長の御曹司たち。
 ラズウェル、マーリーチャ、トランの三人である。 
「名前を呼ばないでくれっ!
 ――で、その――君らこそ、なんでここに?」
「居たぞっ! こっちだっ!」
 しゃがみこんだまま、間抜けなことを言うラズウェルに、サングラスの集団の一人が声を張り上げる。
 そして同時に発砲するっ!
 ざがきっ!
 撃ち込んで来た銃弾を、ケインはミリィを押し倒して回避させる。
「事情はさっぱしわからねーが、悠長に話し込んでいる場合かてめーらはっ!?
 あいつら俺たちを殺す気だぞっ!? なんだってんだいきなりっ!?」
「賛同するのは、心の奥底で拒否反応が起こるが、今回に限ればお前の言う通りみたいだなっ!
 行きましょうっ! ミリィさんっ!」
 こんな時でもしっかり軽口を叩きながら、銃口の射線上から退避するレイル。
「こちらも逃げるしかないわよ。
 見つかった以上、長居は無用だわ」
「確かに。こんな状況じゃどうしようもないです。
 撤退しましょう。ラズ兄ちゃん」
「名前をわざと呼ぶなってのっ! スケープゴートなんてまっぴらだっ!」
 何やら手際よく、広げていた荷物をかばんへと詰め込んで行く<運び屋>三人組。
「ちょっとっ! こちらを無視して話を――」
 そして再び響く銃声。
「話は後にしろミリィっ!」
「たっ、確かにっ!
 何なのよ今日は一体っ!?」
 世間様で言う厄日に毒づきながら、腰の後ろに隠した麻痺銃(パラライズ・ガン)を構え、破壊した壁へとその身を滑り込ませる。
「A−6へ逃げたぞっ!
 侵入者はガキ以外に四人だっ!」
 ――『ガキ以外に』――?
 と、言うことは、先にマーリーチャとトランは見つかっていたんだろうか。
 つまり、今回のこの騒動は――
 走りながら思案にふけるミリィに、追いついてきたラズウェルたち。
 その中の一人、ラズウェルは隣へ併走すると――ぱんっと手を顔の正面で合わせて、真顔で言った。
「ごめん。また巻き込んだみたいだ」
『ごめんで済むかぁぁぁぁぁぁぁぁっ!』
 目をテンにする、お化けたちを突っ切りながら、ケインとミリィ、レイルの三人は大声で叫んだのだった。

「ううっ……死にそうだぁ……」
 肩で息をしながら、膝に手を当て、ラズウェルは吐き出すように、そう言った。
 お化け屋敷を全速力で逆走し、客や係りの人間に呆気に取られ、果てや臆病者の集団と笑われて。
 散々な目にあいながらも、六人はなんとか追っ手を振り切って、息を整えた。
 すでにここはお化け屋敷から三ブロックも先で、あたりに人は少ない。
 とは言っても、腐ってもテーマパークである。人にぶつからずに駆け抜けるには、それなりの技術を要するだろう。
「ラズ兄ちゃん、結構みなさん、『いっそ死んでしまえ』って目をしてますよ。
 ここは思い切って――」
「『おれが全て悪いんだ。死んでお詫びする』とか言って、果てるのも、展開的にはアリよね。ラズ兄」
「いや。出来れば事情説明してから死んでくれた方がいーんだが。出来ればでいいが」
「立会人はオレがしよう。権力ならそれなりにある」
「だ、そーだけど、どうする? ラズウェルさん?」
「ううっ……殺されそうだぁ……」
 矢継ぎ早に攻撃されて、ますます沈み込むラズウェルだった。
「やっぱり……出来の悪い兄を持つと、苦労しますね」
「いや全く。どーする? トラ坊。解雇決定かしら?」
「君らが先に発見されたんだろうっ!
 それにっ! うまく隠れてやり過ごせそうだったところで、ミリィくん達が――そ、そうだったっ!
 なんでミリィくん、君があんなところにいたんだい? それに、その……一緒に居る、二人は……?」
「こっちのマントを着ている方はケインで、着ていない方はレイル。
 車の中で言ってた厄介ごと下請け人(トラブル・コントラクター)の相棒よ。ケインはね。
 つまり、あたしも厄介ごと下請け人(トラブル・コントラクター)」
「マントって……
 あの……出来ればもうちょっとマシな紹介の仕方はないんでしょうか……? ミリィさん」
「わかりやすいじゃない♪」
「そうですね♪」
「笑顔で騙されるなよ……レイル……」
 あっさりツッコミをかわされたレイルに、少々同情と侮蔑の入り混じった視線を送りつつ、呟くケイン。
 ともあれ後ろ頭をかきながら、相手グループの唯一の大人へと話しかけるケイン。
「――で? 一体あんたらはあそこで何をやっていたんだ?
 ミリィの話じゃ、ルキアとか言う女性を逃がす仕事の最中だったんじゃねーのか?」
「み……見事な情報伝達……
 いやね。おれたちは、確かにそうだったんだけど、また依頼が増えて、その途中だったんだ」
「でも――ラズウェルさん。
 さっきの様子を見た限り、依頼失敗したんじゃないの?」
「……はい……きっちし減点評価二人からいただきました……」
 寂しそうにつぶやいて、視線を下へと向けるラズウェル。
 そう言えば、車の時でも『減点』とか言われていたが、なにか関係あるのだろうか。
 ふと疑問に思うミリィだったが、そんなことを聞いている場合ではない。
「それで? 依頼内容ってぇはなんだったんだ?」
「い、いやぁ……おれ達にも『守秘義務』ってヤツがあるから……
 勘弁してもらえないかな……」
「人の命を危険にさらしといて?」
「うぐっ!?」
 ジト目で言うミリィに、ラズウェルはうめき声を上げてよろめいた。
「原因を作ったあんたはなんとも思わず『守秘義務』とくるんだな?」
「はぐっ!」
 さらにケインの追撃。
「そうか――とりあえず、『迷惑防止条例』でひっぱるか」
 こともなげに言うレイル。
「ななななっ!?
 ――ってっ! 警察へ突き出そうとしても、無駄じゃないかっ!
 君たちだって、器物破損で訴えられ――」
「突き出すも何も、レイルって警視だし」
「いきなし幹部かっ!? こーいう時のツッコミはお巡りさん――あれ? もしかしてマジで?」
 ミリィのつぶやきにツッコミを入れようとして、その視線の先にいる人物たちはそろって表情を変えずに佇むのを見て、わずかに身を引く。
 しばしの沈黙の間を置いて、ケインは真顔でうなずいた。
「信じ難いことにマジだ」
「はっはっは。お前もついでにしょっぴくぞ。オイ」
 こめかみに青筋を立てながら笑うレイル。
「――ま、そーゆーことは別として。
 真面目な話、一体何やってたんだ?」
「な、何って……言える訳ないだろぉ……勘弁してくれないかな……?」
「しねぇ」
「……目つき怖いぞ……君……」
 ぴきぴきぴきっ!
 ケインのこめかみが音を立て、引きつっていく。
「ほっほぉぉぉぉう――
 じゃあ、こっちも言わせてもらうけどなっ!
 あんたらポート=コーポレーションの重役なんだろっ!?
 『お偉いさん』が探偵ごっこかっ!?
 子供と遊ぶなら他でやれっ!」
 しぃぃぃぃ――ん……っ!
 ケインの言葉に、その場の一同全てが凍りつく。
 表情を凍らせたままのラズウェルが、やはり無表情のままケインへと一瞬向いて、その後視線を逸らし――
「……だ、だだだだだだっだだだだ――
 ……………
 すぅぅぅぅう――はぁぁぁぁぁ――
 ……あー、アーぁ? ――あー。コホン。
 だだっだっれがぁぁぁァァぁぁぁポート=コーポレーションの重役だって……?
 やーーーーーーだったなぁ、もぉ。ケインくん♪
 おれはしがないはこびぃやのぉぉぉぉ――ラズくんさ……!」
「目を逸らすな顔引きつらせるな人格変えるな空仰ぐな」
 ――シラ切りたいならもうちょいなんとかしろ。
 ラズウェル以外の全員の心の声が、ハモっていた。
 面白いまでに動揺しまくるラズウェルに、冷酷にもツッコんでみたケインだったが、ここまで動揺を露呈するとは思っていなかった。
 隣で黙っていたマーリーチャは、軽くため息をつくと、
「――指摘補足。
 どもった。深呼吸した。声裏返らせた。
 他、多数の要因により――ラズ兄、減点五」
「ひぃぃぃぃぃぃぃっ!
 マーリーチャもーちょいマケてくれっ!!」
「人の情けを求める。
 さらにマイナス一」
「のぉぉぉぉぉぉっ!?」
 ムンクの叫びのように、顔のつくりさえ変えて、絶望のふちに沈みこむラズウェル。
 どこから出現させたのか、トランが数珠を取り出して合掌していたりする。
 放っておくと、木魚でも召喚しそうな勢いである。
「前から思っていたけど……その『減点』って何……?」
 どこか呆然としながらも、問いかけてみるミリィ。
「――ラズ兄ちゃんに対する、僕らの評価です。
 もうシラ切れっこないから言っちゃいますけど――」 
 セリフの途中でしっかりラズウェルを睨んでから、ミリィへと視線を戻す。
「ある一定の評価がついたら、ポート=コーポレーションの代表取締役が後任ってことになります。
 今日で一気に大減点ですねぇ。
 風前の灯――まぁ、儚い炎もそれはそれで風流ですが」
 まるで歌う様に身振りを交えながら、言うトラン。
 実はトラン、役者志望だったりするので、こういう芸は細かい。
 彼の姉に言わせると、うっとうしいだけらしいが。 
「消えてたまるか……! がんばれ、おれ! ここが踏ん張りどころ!」
「平たく言うと、『崖っぷち』」
「わかりやすい解説はいらないんだぁぁっ! マーリーチャっ!」
 頭を抱え込んで、ぶんぶか頭を振り回すラズウェル。
 なんか聞くだけ無駄なような気がして、ケインは遠めでそのやり取りを眺めてみたりする。
 なにやらまたマーリーチャに言われたラズウェルが、泣きそうな表情でぐっと耐えている。
 …………………
 どういう経緯でこの三人が追われているのかはわからなかったが、ともあれ彼らがポート=コーポレーションの人間だということは、確かなようである。これしかわからなかったりするが。
 人間的に正体不明なので、信用すべき点がどこにも見当たらないところが厄介である。
 ま、それはとにかくとして――少々思い切りをつけてから、ケインは三人へと声をかける。
「あー……取り込み中悪ぃんだが――
 どういうことになるにせよ、俺達はとっとと行動を取りてぇんでな。
 提案なんだが――護衛として、雇わねぇか?」
「ちょっとケイン!?」
 ケインの突拍子もない意見に、ミリィは心配顔になるが――ケインはミリィへと向き直り、それを制す。
「あのなぁ……
 ここで言い争いしてることが一番まずいんだよ。
 だったら、それを解消するのが先決だろーが。
 そりゃ確かに軽はずみな契約は危険だが――いいか? ここで大事なことを述べておく。
 ばーちゃんが言ってたぜ。
 『金ヅルは けして逃がすな 恩を売れ』――ってな」
「それ……絶対ケインの記憶違いだと思う……」
 得意満面に言うケインに、ミリィはますます心配になるのだった。
「なんだとミリィっ!?
 よく考えろ!
 相手はポート=コーポレーションだぞ、ポート=コーポレーションっ!
 うまくいけば護衛料たっぷり!
 ぼったくり具合によればボーナス支給っ!
 さらに、コネをつくっときゃ色々仕事が回ってくるかも知れねぇし、なにより恩にきせときゃでかい見返りが期待できるだろーがっ!」
「すいません。丸聞こえです」
 大声でミリィを説得するケインに、何故か謝るトラン。
 それが聞こえなかったのか、
「ぼったくりって……悪徳商人……? あたしたちは……?
 ……うーん……でも、ボーナス――ボーナスかぁ……」
 首を傾げながら、真剣に悩む込むミリィ。
 ちなみに後ろの方でラズウェルとトランが似たような表情で呆れている。マーリーチャは無視していたが。
「いいかミリィ――こーなっちまった場合、高い確立で俺達は巻き込まれる。過去がそれを証明しているだろう――?」
「い、いや、そんな切ない瞳で説得されても……」
「――ともかく。
 なし崩しのままごたごたに関わっても、金は出ん。一っっっ切出ん。
 どっちがマシだ?」
「う゛……っ!
 無茶苦茶な理屈だけど……選択肢は他になさそうね……」
「そーいうこった」
 溜息をもらすミリィの肩を気楽に叩きながら、頷くケイン。 
「いや、あの……そっちで勝手に決定されてもまだ依頼すると決まった訳じゃ……」
 放っておくと意見を発する間もなく決定されそうな気がして、ラズウェルは申し訳なさそうに手を挙げた。
「……諦めた方がいい。あいつに言ってもそりゃ無駄だ」
 薄情なセリフをはくレイル。
 しかし、その言葉が聞こえなかったのか、ケインはラズウェルの方へと振り向くと、力一杯言った。
「大丈夫っ!
 今俺達自己破産しようか、迷うほどの貧乏ぶりだから、料金は安くしといてやってもいいぜ?」
「ちょっと……!
 自己破産までは聞いてないわよっ!? ケインっ!」
「いやね? ですからね?
 そうやってこちらの配慮しているようで、実は同情誘って依頼にこじつけようという勧誘は別に良いんですが、まずはとりあえず話聞いてくれないかな?」
「残念だが、あまり時間は取れねぇぞ。こういう非常事態だしな」
「ああっ!? 今更思い出したようにそういう回避をっ!?
 しかしだねっ!? 護衛してくれる気持ちは――裏目の前でしゃべられたからあんまし嬉しくないけど……
 ――と、ともあれ、こっちは君たちに言いたくない事情もあることだし、今回は保留ってことで……」
「ほぉぉう……ことを穏便にすまそうとする俺の配慮がわからねーってか?」
「……脅してどーするのよ……」
 いつもの光景に引きつった笑みを浮かべながら、ミリィはわずかに身を引いて、危険区域から脱出する。
 自然とマーリーチャとトランの方へと寄ってしまった。
 もしかしたらこの二人も、ケインとラズウェルから離れているため、ここが安全区域とわかっているのかもしれない――
 今までの会話で掴んた彼らの性格から、ふとそんなことを思うミリィ。
 ちらりと下のほう、つまりは二人へと視線を移すと、いつの間にやらハンディパソコンをいじっている。
 ――って、まさか……?
 内心のミリィの気付いたわけではないだろうが、覗き込まれていたことに気付いたトランが、顔を上へと向けて、視線をミリィにあわせたまま無邪気な笑みを見せた。
 幼い子供特有の笑みである。普通の人間なら、つられて顔が緩むものだが、ミリィは引きつった笑みしか返せなかた。
 大した付き合いではないが、あんまし良い前兆とはいえないことを知っている。
「追っ手の人数、三十人ぐらいみたいですよ♪」
『なっ……!?』
「……やっぱし……」
 笑顔で言うトランの言葉を耳に入れたケインとレイル、ラズウェルが驚きの声を上げたのに対し、ミリィは脱力してそう呟いた。
「ついでに言うと、テーマパーク内の防犯&監視カメラ、全て奴らの指揮下に入ったみたい。
 ……現在の立ち位置だと――」
 ハンディパソコンに視線を残したまま、マーリーチャは指をケインのほうへと向けた。
「ケインさんのマントがカメラのフレーム内に収まっているわ」
「なにぃっ!?」
「――あ。奴らも気付いたわね。
 こちらにまっすぐ向かってくるグループが二つ。人数は十四。
 到達予想時刻は……五分ってところかしら」
「ちょっと待てっ! なんでお前らがそんなことわかるっ!?」
「子供に謎はつきものよ。流してちょうだい」
 ケインの当然の疑問に、マーリーチャはさらりとそう言った。
 すでにパソコンを背負ったバックへと戻し、撤収準備に取り掛かっている。
「流せるかぁぁぁぁぁっ!
 ガキだからって優しくしてもらえると思ったら大間違い――って! 無視すんなっ! こらっ!」
 ケインのわめき声を一切無視して、トランに指示を送るマーリーチャ。
「ああ――良かった……
 この二人に振り回されるのっておれだけじゃないんだ……」
「何が良かったって?」
「いいえっ! おれは何もしゃべってませんっ!」
 ぎろりっ! と、ケインに睨みつけられ、ほろりっとこぼした涙を拭い、背筋を伸ばすラズウェル。
「ケイン! 相手側のグループで一番権力のない奴に言っても無駄だっ!」
「……しくしくしく……言い返せないし……」
「言い返しなさいよ……ラズウェルさん……」
 マントが見えるという事から推測されるカメラの位置を割り出してケインを路地へと引っ張り込むレイルに、涙するラズウェル。ツッコむミリィ。
 もぉ招集の付かない事態が続きまくっている。
「でぇぇいっ! おいっ! そこのガキどもっ!
 一体どーいうことだっ!?」
 ラズウェルを押しのけて、相談を続けるマーリーチャとトランへと叫ぶケイン。こめかみのあたりはすでにひくついている。
 しかし、マーリーチャはひっぱりだした資料に夢中。唯一気付いたトランがケインへと向き直ると、
 べっ。
 脈絡も泣く舌を出す。子供らしいといえば子供らしい仕草だが、トランは続けて言った。
「子供の会話に大人は口出し無用です」
「こぉぉぉぉいぃぃぃぃつぅぅぅぅらぁぁぁぁはぁぁぁぁぁっ!!」
「ああっ! ケインまであしらわてるっ!」
「やりますねぇ……あいつら……」
 さりげなくミリィの肩へと手を回しながら、うなずくレイル。
「――まっ、まぁまぁ。子供の言うことだから――」
「あんたは本当にそう思っているのかっ!? ラズウェルっ!」
 ケインの問いかけに、ラズウェルは暗い――本当に暗い、絶望のふちに追い込まれたような表情をして、視線をそらした。
「……そう思えたら――そう思えるものなら、いっそどんなに楽なものか――」
「すまん――お前の苦労を知らない俺が、言いすぎた――」
 あまりの表情の沈みように、思わず謝るケイン。
 そんなやりとりを呆れた表情で眺めて、マーリーチャは言った。
「あのー……話、始めていい?」
「それはもう。とっとと」
 やけくそになったケインが背中を向けながら言った。
「追っ手の連中は、ここ<アルカディア>全体に支配力が及んでいるわ。
 いわゆる、奴らの巣と言って差し支えないと思うの」
「ちょっと待ったっ!
 マーリーチャっ! 重要機密を何で――」
「ここまで巻き込んでおいて、情報ゼロで言うこときかせられるわけないでしょ。
 少々のエサは必要よ」
「毒舌だな。オイ」
 思わずツッコむケイン。似たような表情で苦笑いを浮かべるミリィとレイル。
 どちらかと言うとミリィはすでに諦めたような表情になっていたが。
「ともかく、こちらはあいつらを敵に回しているんで、命も狙われているわ。
 ――で、おそらくケインさんたちも、わたし達の味方だと思われているでしょうね。
 と、ゆーわけで――おとなしく巻き込まれてちょうだい。護衛の件はパスだけど。
 お互い危機を脱するためには協力しかないわ。これ、必須条件」
「無茶苦茶言うなぁぁぁぁぁぁぁぁっ!
 なんだそれはっ!?
 謝罪もなしに手伝えってかっ!?」
「ごめん。悪かった。許せ。さあ、そして手伝え」
「……こっ、このガキ……」
「わわわわわっ! いっ、今のは冗談だからっ! 
 なっ!? そーだよな、マーリーチャっ!」
「そーいうことでもいいわ」
「マーリーチャぁぁぁぁぁぁぁ……っ!
 ……頼むからもう少し低姿勢と言うものを身につけてくれ……!」
 浅い付き合いではないラズウェルには彼女なりの冗談だと言うことを知っていたが、同時に、初対面の人間には理解しにくい冗談だと言うことも知っていた。
 結果――
 ケインたちに頭をぺこぺこ下げるのは、いつも彼の役目である。
「――でもね。ここ、このままじゃ包囲されつつあるのは本当よ。
 正直言って、六人固まっていたんじゃすぐバレるわ。
 だから――ここは散開した方がいいと思うの」
「と、ゆーわけですから僕たちは体の小ささを利用して紛れます。
 追いかけっこはともかく、かくれんぼなら僕らの方が優位ですから。
 足手まといはゴメンですよ。ではこれで」
 言いつつも、雑踏に紛れ込み、人の影、建物の影に吸い込まれるようにして二人は消えていった。
 あまりの言い様に大人たちは凍りつく。
『……足手……まとい……?』
「ああああああああああああっ!
 すんませんっ! すんませんっ!
 ほんっっっとぉぉぉぉぉに、すんませんっっっ!」
 怒りが戸惑いで隠れているうちにラズウェルは必死に頭を下げた。
 それでも呆然としたままのケイン、ミリィ、レイルに気付き、そろり、そろりと距離をとるラズウェル。
 ある程度距離をとったところで――
 くるりと背を向けて駆け出した。
 あの二人の言うことに間違いがないことは知っている。
 ――追っ手はやってくる。ならば長居は無用。そーじゃなくても、なんかこのままじゃ危ないしっ!
 渡されていたこの敷地内の地図を広げて、脱出ルートを探る。
 マップデータには「大人用」と書かれたわずかなルートが残っていた。
 もちろん、「子供用」はもっと脱出ルートがあったに違いない――
 ラズウェルは毒づきながら、ただひたすらに遠い入退場ゲートまで走り続けた。

「何処に行っていたんですかぁぁぁぁっ!?
 通信機に何回もコールにしたのにっ!
 これって早速挑戦状ですかっ!? ええっ!?」
 釈然としないまま<アルカディア>から脱出し、レイルと別れ、ソードブレイカーへと到着したケインたち。
 入り口で出迎えたのは慌てまくった表情のキャナルだった。
「やかましいっ!
 こっちだって、さっき話していたお偉いさんがたクソガキどもに会っちまって大変だったんだっ!
 だから通信なんぞ――って、通信……?
 通信機なんか鳴らなかったぜ。
 なぁ、ミリィ」
「そうねぇ……あたしも聞いてないわよ」
「ほらみろ」
 得意げに胸を張るケイン。
 しかしキャナルは慌てず騒がず、冷静に言った。
「どーせまた何かに首突っ込んで、騒がしくなって聞こえなかったんじゃないですか?」
「う゛っ……!?
 いっ、言っとくがなぁぁぁっ!
 今回は被害者だぞっ! 巻き込まれたんだっ!」
「なんか前回も同じようなこと言っていたよーな……」
「やかましいっ! 最悪のガキどもに会っちまったんだから余計不幸度パワーアップだっ!」
 訳のわからないことを言いながらマントを跳ね上げるケイン。それでも一応目はマジである。
「――って! そんなこと言っている場合じゃないですよっ!
 宇宙軍(U・F)の方から通信があったんですからっ!」
「なにぃぃぃっ!?
 ――で、なんて言ってた!?」
 勢い込んで言うケインに、キャナルは顔を近づけて、アップで言った。
「なんか――『会いに来る』、とか」
「先に言えぇぇぇぇっ!」
 キャナルを横に押しのけて、操縦室(コック・ピット)へと走り出すケイン。
 慌ててミリィもその後に続く。
 会った子供に対してムカムカしている場合ではない。
 ともあれ記憶の奥底へ押し込めるケイン。
「だから何度もコールしました! 出なかったのはケインですっ!」
 足は動かさずに平行移動しながらケインと併走し、びしっ! と、指差すキャナル。
「うくっ……!?
 き、聞こえなかったんだから仕方ないじゃねーかっ!」
 横にいるキャナルに視線をちらちら送りつつ、操縦室へと急ぐケイン。
 ――立体映像で併走すんなっ! ペースが乱れるっ!
 などと思っていたりするのだが、だからといって言うことをきくわけはない。
 ならば呼吸が乱れるだけ無駄である。
 わずかに舌打ちして走り続けるケイン。 
「だったら連絡が遅れたことも仕方ないことでしょうっ!?
 ――で、どーします……?」
「ど、どうって……その時の通信聞いてねーからなー……」
「再生してもいいですけど……
 理由は言わず、令状の掲示もない、めちゃくちゃいかがわしい通信記録ですよ……?」
 ケインが操縦室のドアを開けたとたん、併走していたキャナルが消え、部屋の中央で出迎えるキャナル。
 なんとなく徒競走で走り負けたような気分になるケイン。
「……それ……っ!
 ホントーに――宇宙軍(U・F)な……のっ……!?」
 肩で息をしながら遅れて到着したミリィが言う。
 言葉を話した分息が乱れたのか、軽く咳き込むミリィ。
「わたしもそう思って、ステルス突破して艦籍を調べてみたんですが……
 まず間違いないです。少なくとも通信先の船は宇宙軍(U・F)所属のものでした」
「またそーいう迷惑行為を……」
「いーんですよ。こっちも押しかけられて困っているんですから。
 お互い様です」
「そぉいうのって『お互い様』とは言わないと思う……」
 息を整えつつ各自の席へと着き、呟くミリィ。
「いーんだよ。俺たちも迷惑なんだから。
 さて――と。
 選択肢は二つ。
 逃げるか、迎えるか、だ」
「……逃げ出すのってあからさまでまずいんじゃ……」
「――じゃ、迎えるか?」
「……それもまずいですよねぇ……」
 ケインの両横で役に立たない意見を述べる女性陣。
 大して期待はしていなかったものの、ケインは頭をかいた。
「あんまし考えている時間もねーだろーから手短に言うが――
 逃げたらあとで難癖つけられる。
 迎えたら十中八九難癖つけられる。
 今面倒な目にあうか、先延ばしにして面倒な目にあうか。
 ……どっちも大して変わりゃしねぇが――相手が令状も礼儀もねー奴なら話は別だ。
 俺は二、三回通信して、気に入らなけりゃ逃げる。
 ――異論は?」
「うーん……いいんじゃないですか? どっちでも」
「キャナル……おめーにしちゃ珍しい答えだな……」
 幼い頃から運命を共にしてきたキャナルに思わず視線を送るケイン。
「――まぁ、そーですけど。
 なんかちょっと最近身体が……運動不足かしら」
「――って、ちょっと待てぃっ!
 まさかとは思うが――お前、俺たちがいない間にサイ・ブラスターだのリープ・レールガンだのを『食後の軽い運動♪』、『シェイプアップ♪ シェイプアップ♪』とか言って、バカスカ撃ってんじゃねーだろーなっ!?
 最近エネルギー値、異様に低いぞっ!」
「いや……あの……その前に『運動不足』ってことにツッコミを……」
 何故か申し訳なさそうに言うミリィ。
 ついでに言うと、彼女に『食後』も何もないのだが。
 ともあれ、そんな弱腰のツッコミに取り合う二人ではない。あっさり無視される。
「わたしはストレス溜まったゲーセン通いのOLですかっ!?」
「……そ、その例えはどっから……?」
 ますますキャナルの過去がわからなくなるミリィだった。
「じゃあ違うんだなっ!?」
「違いますっ! 断じてっ!」
「よしっ! 信じるっ!
 つーわけでソードブレイカー発進だっ!
 宇宙空域に入ると同時に通信の波状攻撃っ!
 相手が生意気にも反撃してきやがったら即座に離脱っ!」
「了解っ!
 ――って、え……?
 なんですか……? その切り替え速度は……?」
「質問は一切受け付けねぇっ!
 強いてヒントをやるなら『今俺は機嫌が悪い』ってトコだっ!!」
 マントを翻し、操縦桿を握るケイン。
 ――ヒントと言うか、それ答えでしょう――?
 ふとそんなことを冷静に思うキャナルの視線の先には、異様な威圧感を放ちまくる、イスからはみ出たマントのみ。
 威圧感と共に、得体の知れない笑みだか呪詛だかが聞こえてくる。
 キャナルはその視線をミリィへと移し、
「あの……何があったんですか……?」
「色々あったのよ……色々――ね……」
 どこか遠い目をしながら言うミリィ。
 ――今度は隠しカメラと映像記録装置、作ってみようかしら――
 ふとそんなことを思うキャナルだった。

 暗い――暗い夜だった。
 この星に月はない。
 そのため明かりは全て人工的なものでしかない。
 だが、人工的な光を作り出すエネルギーとてタダでも無尽蔵にあるわけでもない。
 人の通りの少ないここは、最低限の明かりしか周りにはなかった。
 ここは何処にでもある駐車場。
 そんな中、一つの影が一台の車へと近づいていく。
 どこか不安げで、あたりの視線を気にしているのか、首が何度も左右に振られる。
 それでもなんとか目標の車へとたどり着き、軽く車のドアを叩く。
『ラズ兄ちゃんは?』
「所詮バカ」
 車の中からの声に答える人影。
 その直後、車のドアが開き、人影――ラズウェルは車の中へと入り込んだ。
「だからな……合言葉変えてくれ……
 すっげー、虚しくなるんだけど……」
 春とは言えまだ夜になると寒い時期である。
 冷え切った両手に息を吹きかけながら、運転席へと移動するラズウェル。
 そのすぐ側にはマーリーチャとトランが、ホットコーヒーを片手にくつろいでいた。
「だいじょーぶです。僕らも時々ふと思いますから」
「いや……だったらなおさら……」
「あまり実用的でないのは確かよね。
 ラズ兄のことに触れるわけだし、ひねりもなくまんまだし……」
「こら待てっ! それはどーいった意味だいっ!?」
「聞きたい?」
「すっごく嫌」
 マーリーチャの問いかけにきっぱりと言うラズウェルだった。
「……で、状況だけど、芳しくないわ。
 データが足りなさ過ぎる。
 それに――」
「あの三人組――か……」
 ラズウェルのため息交じりの言葉に、マーリーチャは頷いた。
 三人の頭には、今日出会った、ミリィ、ケイン、レイルの顔が例外なく浮かんでいた。
 ――いや、ラズウェルだけは、マントが思考の海をひらひら泳いでいたが。
 なんにしても情報が足りなさ過ぎる。憶測だけで物事を進めるのは危険だが、だからと言って一歩も進まずに留まっていることも不可能だった。
「……そんな風には見えないんですけどね」
「あ。それは大丈夫。
 君たちも小学生に見えないから。どっちかっつーと内面だけど」
「ラズ兄の分の食料は?」
「今潰して来ます」
「待てぇぇぇぇぇっ! 怒るなよ大人気ないっ!」
 身を乗り出して移動しようとするトランの足をがっしり使うラズウェル。
 しかし、掴まれたトランはもちろん、マーリーチャも自分に人差し指を向けて、同時に言った。
『子供』
「ズルイよなー……絶対……」
 思わず涙するラズウェルだった。
「――あ。そうそう。
 今日行われた会議の結果報告、まとめて提出しておいたから。
 一応、指針の確認頼むわ。
 ――それと、叔父さん、株の投資にまた失敗したみたいで、荒れていたわよー」
「またかい……? 懲りないなぁあの人も……」
「何言ってるんですか。チャンスだと思わないとダメですよ。
 ただでさえ血縁関係のないラズ兄ちゃんが代表取締役なんです。
 風当たりを納めるには、この<運び屋>家業でいくらかの情報収集と現場の知識、それに利益を上げなきゃいけないんですから」
 トランが持ってきてくれたサンドイッチを一口飲み込んで、ラズウェルはバックミラーの位置を正した。
「へいへいわかってますともよ。
 おかげで慣れない荒事に首を突っ込んでいるんだからなぁ……」
 たまにこういった荒事に嬉々として付き合ってくれる知り合いがいたのだが、そちらの方は現在行方不明である。
 心配なのは確かだが、もとより自分より強い人間であるし、ふらりと姿を消すのもいつものこと。
 そういったわけで、あまり得意ではないながらも、こうして大人一人、子供二人で仕事を続けている。 
「――無理に付き合うことないのに。やめちゃえばいいじゃない。社長なんて」
 突き放した口調で言うマーリーチャ。
 顔は車の外へ向いているため、ラズウェルには見えない。
 同じく視線を逆側の窓へと向けて、空を見上げた。
「君たちのお父さんに『兄』として雇われたんだ。それぐらいの苦労はしてやるよ。
 それに――おれが降りたら、風は誰に向かうか考えたら、やめられない。
 風除けぐらいにはなってやれるさ。君たちのためならね」
 さらりと微笑を浮かべたままで言うラズウェル。
 巨大企業の後継者。
 その重圧を先代の社長の忘れ形見である二人に任せるには幼すぎる。
 そうでなくても、私利私欲に溺れた親戚たちが隙をうかがっているのだ。
 おそらく先代の社長は、それを見越して自分を『兄』として『雇った』のだろう。
 養子にしたら、また新たな争いが生まれることを見越して。
 彼は優秀な経営者であり、父親だった。
「ラズ兄ちゃん……」
 トランの視線に気付き、そちらへと向き直りながら、優しく微笑むラズウェル。
「……恥ずかしいヤツ……」
 ずるどきゃっ!
 トランの言葉に思いっきり顔をハンドルへとぶつけるラズウェル。鼻が一気に赤くなった。
「お、お前な……!」
「ねえねえ、聞きました? マーちゃん。
 照れもせずに言いましたよ。恥ずかしいセリフを。
 年考えているんでしょうかねぇ……?」
「考えた上でほざいているんでしょ。ほっといてあげなさい。トラ坊。
 ――ほら、星が綺麗よ……」
「本当にほっとけよっ!
 なんだ、なんだ……っ! 人が折角――」
 鼻と一緒に顔を赤くしながら、ぶつぶつ言ってハンドルをいじるラズウェル。
 だから彼は気付かなかった。
 窓に反射するマーリーチャの顔が赤く染まっていることに。
 そして――
「――ありがと……」
 掠れる声で、言ったその一言に――

 鼓動が――脈打つ。
 意識の中で、何かが大きく動こうとしている。
 ケインの命を受けて、出航の手続きをスムーズにこなしながら、ふと疑問を不安に駆られていた。
 ――鼓動? わたしが?
 制御コンピュータである自分に、そんなものがあるはずはない。
 知識としてしか知らない言葉で、感覚的にも理解不能だ。
 心臓が血液を送る力を――
「キャナル?」
「……は? はいっ!?」
 突如呼びかけられた言葉に振り向いて、何度かすでに声をかけられた後だということを理解し、慌てて返事をした。少々声が上ずってしまったかもしれない。
「おめーが上の空とは珍しいな……
 ――ミリィが紅茶持って来たことにも気付いてねーみてぇだし……」
「ああああああっ! ケインっ! 内緒って言ったのにぃぃぃぃぃぃっ!!」
「ミリィ――給料出て浮かれてないですか……?」
 先日、ミリィはコーヒーを操縦室(コック・ピット)へ持ち込んで――案の定ひっくり返した。
 必然怒られた。
 当然ヒドイ目に遭った。
 それからさして時が経ってないのに、わざわざ持ってくるとは――いい度胸である。
 浮かれている、とキャナルが思うのも当然のことだった。
 ――しかし。
 ミリィはふるふると左右に首を振った。
「浮かれる程もらってないし」
「……確かに」
「こら待て。オメーら」
 給料を支払った、黒マントオーナーは即座にツッコミを入れた。
「いや……一応、こーして水筒に入れてきたんだし……
 ね♪ お願い♪ 許してキャナル♪」
「許しませんって。
 ケイン、没収」
「おう」
「あああああああああああっ!! あたしの紅茶ぁぁぁぁぁぁっ!」
 見事なコンビネーションでキャナルとケインは紅茶の入った水筒をミリィから奪い、ケインの操縦席(パイロット・シート)の下へと置いた。
 何故ケインまであっさりキャナルを手伝うのかと言うと――実は単純に、ミリィへの『お仕置き』に巻き込まれるのが嫌なだけである。
 先日は、怒りまくったキャナルが、コーヒーメーカーの使用を禁止。
 耐え切れずにコーヒーメーカーのスイッチを押したケインだが、焼けるほど熱いコーラが出てきた時は、思わず目の前が真っ白になったものだ。
「……しくしくしく……飲もーと思ったのに……
 みんなで仲良く、飲もーと思ったのに……」
「いや、わたしは飲めないですよ?」
「ほら、雰囲気だけでも♪」
 にっこりと言うミリィに、キャナルもにっこりと微笑を返す。
 即座に、ミリィの笑顔が凍りつく。
「ケイン、ミリィの上着のチョコも没収です」
「任せろ」
「いぃぃぃぃぃやぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!
 へるぷみぃぃぃぃぃぃぃっ!」
 砲撃席(ガンナー・シート)に掛けっぱなしになっていた、ミリィの上着をがさごそ漁るケインに、すがりつくミリィ。
 無論無視して漁りまくり、目当てを見つけて、再びケインの席の下へと没収。
 巻き込まれるのは御免である。
 結局のところ、ケインもミリィも自分とは関係外なところで『お仕置き』に巻き込まれる率は、ほぼ同位だった。
「――なぁ、キャナル。
 俺達居ない間になんかあったのか?
 宇宙軍(U・F)以外のことで。
 さっきも言ったけど、上の空だったじゃねーか」
 マントにすがりつくミリィを遠慮なく引き剥がして、操縦席へと戻し、平然とした表情で問いかけるケイン。
「え――?
 す、すみません。
 ちょっと考え事を……」
「………………」
 何か言いたげにケインはキャナルへと振り返る。
 その視線の意味に気付いたキャナルが、先手を打った。
「はいはい。
 言っておきますけど、わたしは『考え無しに行動するバカ』じゃないですからね」
「……言ってねぇ……」
「知ってます。
 ただ絶対、この間のこと思い出したと思ったもので」
「いや……あのな……」
「ソードブレイカー、発進します!」
 がぐんっ!
 さらに物言いたげなケインの視線に気付き、急発進するキャナル。
 不自然な体勢で振り返っていたケインは、シートから一気に振り落とされてしまっていた。
 視界に広がるソードブレイカーの操縦室(コックピット)天井を見ながら、ケインは言った。
「……言ってねぇ……」
 ――発信許可はまだ出していなかった。

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19162『激動 始まる』 5白いウサギ E-mail URL2001/12/24 19:20:25
記事番号19157へのコメント

五、 宇宙軍(ユニバーサル・フォース)

「なんなんだ、この宣言文は……」
 心底呆れた表情で、クラーコフは通信士が復唱した文を読み返した。
 『ソードブレイカー』に対する、通信の内容である。
 令状は無し。説明も無し。
 こちらから見ても信憑性が全くない。ましてや相手は『光の翼』――いや、『ソードブレイカー』だ。
 これで素直に応じるとはとても思えない。
「しかし――上層部としても、あまり公式な記録を残すわけには……」
「――わかっている」
 副官の表情は見なくてもわかっていた。
 宇宙軍(U・F)ともなると、公的な機関なだけに強みも多々あるのだが、色々な制約が付きまとう。
 犯罪結社ナイトメアの本拠地に姿を現し、我々に――いや、人類に勝利をもたらした船との接触。
 記録に残すわけにはいかなかった。
 ただでさえ――そんな船があったことなど、世間一般は知らない。
 令状発行するには物的証拠記録が残るし、通信で説明を行えば、盗聴される危険性が生まれる。
 わかってはいる。
 わかってはいるのだ。
 だが――そんな対応で、どうにかならないこともわかっていた。
「――目標、衛星港を出ました!
 こちらとは反対方向に進路を取る模様!」
 ――やはりな。
 言葉に出すのはなんとか思いとどまらせることは出来たが、ため息は洩れていたかもしれない。
 今回は艦隊戦を行うのが目的ではないため、船はたった三隻。
 提督の地位を冠するものにしては、ものすごく節約的な行動である。
 これも上層部の決定だった。
 どうやらクラーコフに貧乏くじを引かせようとしているらしい。
 ただ、本人はどう思っているかまでは、上層部に決定など出来ない。
 シートに座りなおし、クラーコフは言った。
「全艦に通達!
 進路方向を十時に移行!
 これより――『ソードブレイカー』の捕縛に入る!」
 周りの扱いとは裏腹に、どこか心躍る自分を感じながら、クラーコフは艦隊を指揮していく。
 星の輝きと共に。

「あ。やっぱ追ってきました」
 立体映像の周りに張り巡らしたレーダー図を見ながら、のんきにキャナルは言った。
 当然、追って来たのは無茶な通信を入れてよこした、宇宙軍(U・F)である。
「お仕事熱心なこった。
 俺達にゃめーわくなだけだってぇのに」
「いや……だから、あたしたちだけの範囲で迷惑だと評価するのは……」
「そーいうツッコミは酸素の無駄だぜ。ミリィ」
「聞く耳持たないってことね……やっぱり……」
 どこか自嘲的な笑みを見せて、ケインたちから顔をそらすミリィ。彼女の顔にはどことなく『苦労』の文字が見て取れる。――よーな気がする。
 そんな様子に気付いてか気付かずか、ケインはレーダーへと身を乗り出した。
「おー、おー。三隻きっちし追ってきてやがる。
 ……ん……?
 ――なぁ、キャナル。
 こいつら……なんか早くねーか?
 本気で逃げてねーとは言え、追いついてきてるぜ」
「……別に速度は普通ですよ。宇宙軍(U・F)の常識内です」
 ちらりとケインへ目配せしながら、レーダーへと視線を戻すキャナル。
「ふーん。
 ――って、ちょっと待てぃっ!
 つーことは何かっ!? この船がいつもより遅いってことかっ!?」
「……今更気付いたんですか、ケイン」
「ええええええええええええええっ!?」
 ため息を漏らして言ったキャナルの言葉に、悲鳴を上げたのはミリィだった。
「一体どぉしてっ!?」
「つーか何故お前はそんな落ち着いてんだっ!? キャナルっ!」
「何故って――笑う余裕もないからですよ。
 実は操船するので精一杯だったりします」
 無表情のままで言うキャナル。その無表情さが、映像にまで処理能力を割いていられない何よりの証だった。
 あの、人間らしい仕草が異様に好きなキャナルが、である。
「ちょっ、ちょっ、ちょっと待て!
 お前――これってギャグかなんかか?
 それとも挑戦状の仕返しかっ!?」
「違いますっ!
 そーいうのはもっと安全な時に、とっておきの罠を用意してやってますよっ!」
「今ものごっつう不吉なこといわれた気がするが……じゃあ……何か……?
 お前――本気で宇宙軍(U・F)に――追いつかれてんのか……?」
 表情どころか身体全体、そして視線すら凍らせるキャナル。
 一緒に操縦室(コック・ピット)の温度も下がり――凍ったような気がする。
 宇宙空間より冷たい空気が場に流れる。
「――すみません……」
 掠れてこぼれたその言葉に、珍しく――本当に珍しく、ケインは顔を青くするのだった。

 日が沈む。
 人の焦る気持ちを無視するように、無慈悲に日は降りていく。
 穏やかな夕暮れの色も、今の彼には白々しいだけだった。
 流れ行く町の風景を眺めながら、レイルは迎えのパトカーの後部席からバックミラーを覗き込む。両脇を固める警官の一人と視線が合い、相手が慌てて目をそらす。
 ――通達。 アルカディアカラ撤退セヨ。
 レイルの通信機にその命令文が出力されたのは、ほんの少し前のことである。
 ――これではっきりしたな――
 バックミラーから視線をはずし、深くシートへもたれながら、レイルは胸のうちでつぶやいた。
 そもそも、レイルは警察上部に自らの所在を告げていない。現在は有給休暇扱いである。
 それなのに――である。
 正確に、レイル個人への通達が届いていた。
 これは、アルカディアの人間と、星間警察(U・G)のどこかしらが繋がっていることに他ならない。
 人は言う。悪の根絶は不可能だ、と。
 それを立証するかのような命令文だった。
 通達者を、内通者を非難する気はない。
 かつて自分も行っていたことだ。それを、他人もやっている。それこそ知っていた。誰もがやっていることだということは。
 風評被害を受けての警察内部の粛清。
 それで一体どれだけのことが変わるというのだろう?
 大した変化はない。
 力と、頭のない連中が捕まるだけで、力と頭のある本当にやっかいな連中だけが生き残り、ほとぼりが冷めるのをじっと待つのだ。それこそ、うまい酒でも傾けながら、のんびりと。
 だからと言って、怒りに燃えるほど正義感が強いわけではない。
 ただ、周りがやっきになって内通者を割り出そうとするのを、ぼんやりと眺めるだけだ。
 どうせ、何をしたって、変化はないさ――
 ――そう、思っていた。
 自分に何が出来る。一体何が変わると言うのか。
 たぶん、その可能性は高い。
 可能性という点でなら、その考えは今でも、正しいのだと思う。
 だがしかし、出来ることなどないと決め付けて、一体何を得た?
 数あるわずかな可能性を判然と見過ごし、傍観者を決め込んで――
 ――一体何を得たと言うのだろう。
 ――得たもの――
 それはきっと――取り返しのつかない後悔だけ。
 だからこそ、今は動いている。
 こうすることで、何が変わるのか、わかったものではないが、動かねば何も変わらないことぐらい知っていた。
 だからこそ、内部粛清の真っ只中、危険を冒してナイトメアとの大戦の記録、それを調べ上げた。
 やばい橋も渡った。上層部のデータもハッキングしてみたし、接触もした。
 そして、とある情報に触れたのである。
 おそらく、今日あたりにでも、警察上層部(U・G)と宇宙軍(U・F)上層部が会議でも始めるだろう。
 会議の行き着く先など、どうでもいい。
 自らの足で、答えを見つけるそのために。
 他の誰でもない、『自分』はテーマパーク<アルカディア>に来ていた。
 別の一つの情報の答えを見つけるためである。
 手に入れた情報の中に、<アルカディア>の地図を発見したのは、そう遠くない過去である。
 星間警察(U・G)がパトロール艇の建設を依頼するなどの、宇宙船造船業関係のその書類内に、<アルカディア>に関する資料が山と積まれていた。
 当然のことながら、パトロール艇の建造は、本来指定の行政監督機関が受け持つ。
 <アルカディア>は、もちろん該当しない。
 これがどういうことか。
 単純明快、事実上、星間警察(U・G)黙認の、宇宙船の密造である。
 ナイトメアとの大戦も終わり、ついこの間、遺失船(ロスト・シップ)の奪い合い。
 ――ケインたちは詳しく話さなかったが、おそらくそんなところだろう。
 そんな時期に作っているのだ。
 どんな船を作っているのか。気にならないはずはない。
 しかも、その遺失船(ロスト・シップ)の奪い合いは、星間警察の人間も絡んでいた。
 疑うのは当然である。
 それが、<アルカディア>で起こった――いや、現在進行形で起こっている概要だった。
 ずいぶん良い隠れ蓑を考えたと思ったものだ。
 新アトラクション建設のためと言えば、関係者立入禁止で大工事が行える。しかも敷地も充分。
 そのための調査として、この辺りである程度名の知れている、<運び屋>に依頼し、警察上層部の公金不正投資を暴かせようとしたのである。
 そう――つまり。
 不正の証拠を運んで欲しい、と依頼したのである。
 当然、運び屋に依頼した、ルキアという人物は、架空の人物であり、実在しない。
 ケイン達の滞在先を知っていたレイルは、わざと間違えるように、ミリィの写真を加工してルキアという架空の人物の写真を運び屋に送っておいたのだった。
 ルキアという人物がいもしないのに彼らが追われていた理由は、単純明快。捜査に携わっていた彼ら自身が追われていたのである。
 計算どおりミリィと接触を果たした後、コンピューターグラフィックスで作り上げた『ルキア』で適当に話を合わせておいた。
 いつでも、切り捨てる用意は出来ていた。安全な策だったと思う。
 それでも、安全性を多少捨ててでも、レイルはここに来なければならなかった。
 レイルがその後に得た、もう一つの情報――警察、軍を驚愕させた情報を――真実かどうか確かめるために。
 だからこそ、あの二人と再会したのだ。
 結局、言い出すことは出来なかったが――
 ……………………
 ――つくづく、らしくないな……
 走る車が描く風景を眺めながら、ふと自嘲的に、レイルは笑った。
 面倒なことは御免だった。今でもそうだ。
 だが、しかし。
 今はもう、あんな思いは――もっと御免である。
 そう――ほんの、それだけの変化。
 だがそれでも――何かが変わろうと、胸のうちを沸き起こす。
 こういう気分も悪くない気がする。
 そう思うようになったのは、いつからだろう。
 レイルはふと、そんな疑問を抱くのだった――

 旋回能力、減。
 反応速度、減。
 出力、大幅減。
「いっ、一体どーいうことですかっ!? これはっ!?」
「俺に聞くなっ!」
 モニターに映し出される、さんさんたる船の現状に、悲鳴を上げるキャナルに、きっぱりと言い放つケイン。
 言う二人の表情に、余裕はない。
「――どっ、どうするのよっ!?」
「今必死で考えてますっ!
 良いアイデアあったら採用率高いですよっ!」
「つまり……打つ手が見当たらないってこと……?」
「探すっきゃねーだろーがっ!
 目の前の宇宙軍(U・F)がめざわりだから、『とりあえず撃沈する』、とかどーだっ!?
 時間が出来るから少しは落ち着くぞっ!」
「いいですねっ! それいきましょうっ!」
「のああああっ!
 そんなものまで採用するんじゃないわよっ! キャナルっ!」
「気にしないでくださいミリィ。どーせ冗談ですっ!」 
「たりめーだっ! ンなバカやるかよっ!」
「余裕ないのに、冗談言うんじゃないぃぃぃぃっ!」
 焦りまくった状態で冗談を言うのは、どうやらこの二人の特技のようだった。
 ――ちっとも役に立たない特技である。
 それに文句を言うミリィだが、代わりに良い案があるわけでもない。
 なにしろ、『ソードブレイカー』のここまでの不調は、ミリィとって初めてだった。
「とにかく加速っ! エンジン全開だっ!」
「了解っ!」
 慣性緩和システムの許容量を超えた加速による圧力に備え、シートに埋もれるミリィ。
 しかし。
 その圧力(プレッシャー)は、いつまでたっても訪れなかった。
「出力――減退しました……っ!」
「こら待てぇぇぇぇいっ!
 誰がンなボケかませと言ったっ!?」
「意図的じゃないですよっ! こっちだって必死なんですっ!
 あああああっ! 宇宙軍(U・F)相手に必死っ!?
 ――こんな未来――誰が予想出来たと言うんでしょう――?」
「浸っている場合かぁぁぁぁぁっ!!」
「……さんざんバカにしてたもんね……うちら……」
 どこか遠い目をして涙するミリィ。
 瞳によみがえる、何度もけなしまくったあの記憶。
 『ごとき』を連呼したあの遠くない日――
 感傷に浸れるほど、あんましきれいな思い出ではなかった。
「現在の相対速度――
 いやぁぁぁぁぁぁっ!
 宇宙軍(U・F)ごときの船に負けるだなんてっ!?
 計算が得意な自分が憎いっ!」
「言ってる場合かぁぁぁぁぁぁっ!
 ――だいたいなぁっ!
 悪夢(ナイトメア)をぶっ潰して、普通一件落着、一段落だろうっ!?
 新たな騒動が生まれるのは仕方ないとして、パワーダウンしてどーするっ!?
 普通はパワーアップが相場だろーがっ!
 せめて変形合体するとかっ!」
「いつの時代の話ですかっ!?
 しかもそれ、ロボットアニメでしょうっ!?」
「特撮もあるっ!」
「聞いてませんっ!」
「……ああ、星がきれい……」
 こんな事態で言い合う二人のその横で、ミリィはとうとう現実逃避に走ったのだった。
 事実、星は綺麗だった。
 まぁ、どーでもいいことなのだが。
「宇宙軍(U・F)三隻、展開っ!
 こちらを包囲する模様っ!
 散々バカにしたこと、根に持っていたようですっ!」
「出力はっ!?」
「役立たずですっ!」
「こらこらこらっ!」
 ケインの問いにおかしな答えを即座に返すキャナルに、即座にツッコむミリィ。
 相手が宇宙海賊(スペース・パイレーツ)ならともかく、宇宙軍(U・F)相手では砲撃手の出番はない。
 手持ち無沙汰となってはいるが、だからと言って他にすることもない。
 するべき作業はないが、出来る作業もない。
 慌てる気持ちはケイン、キャナルの二人以上だった。
 しかし、宇宙軍(U・F)は当然のことながら、待ってくれるわけはない。
 レーダーを見ると、キャナルの言葉どおり、正面と左右に回り込むようにして三隻が近づいてくる。
 放っておいたら、取り囲まれ、身動きできなくなったところを、接続アンカーでも打ち込まれ、乗り込まれることは確実である。
 ――早い話が。
 逃げるっきゃないのである。
「ちぃっ!
 キャナルっ!
 船頭を自船の中心へ向けて六時へと移せ!」
「それって――」
「早い話が逆立ちしろってことだっ! やれっ! キャナルっ!」
「――了解!」
 がくんっ!
 急激な回旋を行い、船体が悲鳴を上げる。
 第三者が遠めでこの映像を見ていたら、ケインの指摘どおり、『逆立ち』したように見えただろう。
 宇宙に上も下もないが、地上の感覚で言うなら、突如飛行機が真下へ落下したようなものである。
「ちょっと待ってよケイン!
 今レーダーを見たんだけど……このままじゃあ、前行った惑星『リヴァイア』へ突っ込むわよっ!?
 袋小路に飛び込んでどうするのよっ!?」
「ぃやかましいっ! 黙ってろっ!
 キャナルそのままエンジン全開! 出来る限りでいいから突っ走れっ!」
「は――はいっ!
 ……でもこのままじゃ……あの――『大気圏』そろそろ突入しちゃいますけど……」
「構わねぇっ!
 大気圏突入開始っ!」
『……………………
 ――ええええええっ!?』
 突然とんでもないことを断言するケインに、ミリィとキャナルは悲鳴を上げた。
 座席配置からケインの顔を見ることは出来ないが、モニター越しに映るケインの顔はマジである。
「どっちみちもう引き返すパワーはねーだろ?」
 どこか楽しげな雰囲気さえ残しながら、ケインは不適に笑う。
「選択肢をなくさせて強制執行っ!?
 何考えてんのよっ!?」
「いーから、シートベルトしとけよっ!
 それからしゃべんなっ! 舌噛んでも知らねーぜっ!」
「む……無茶苦茶だし……」
「大気圏突入開始しましたっ!」
 キャナルの言葉に、船体が大きく揺れる。
 船体は重力に捕らわれ、確実に沈んでいった。
 小刻みな振動から――やがて大きな振動へ。
 正面のスクリーンには、燃えるような――もとい、事実燃えている赤い色が一面を占めていく。
 それとともに――船体が軋む音。
 メキメキ言っている訳ではない。
 ただ――どことなく、船体が狭くなったような気がするのは、気のせいなんだろうか。
 低い、重圧のあるものが、まるですぐそこまで迫っているかのような音が洩れてくる。
「外っ! 外ぉぉっ!
 真っ赤じゃないぃぃぃっ!」
「たりめーだっ! 大気摩擦って言葉を知らねーのかっ!?
 宇宙じゃねーんだっ!
 赤くならなきゃ変だろーがよっ!」
「そういうことを言ってるんじゃないぃぃぃぃぃっ!」
「前の時に意識残っていたのは俺だけだもんなー。たっぷり味わうんだぞ、ミリィ」
「根に持ってたのっ!?」
 以前惑星ジェンノーへ、船体被害を受けたまま大気圏へ落下した時、ミリィは意識を失っていたのだが、ケインはしっかり意識は残っており、かなり死ヌ思いをしていた。
 そちらの方は、そのまま湖に突入したのだが、ここ、惑星『リヴァイア』は海の星。
「大丈夫ですよ。落ちるとしても、湖じゃなく、海ですから」
「どこが大丈夫なのよぉぉぉぉぉっ!?」
 奇妙なフォローをするキャナルに、ミリィは頭を抱えるのだった。
「地面衝突まであと三十秒っ!」
「おっしゃっ!
 キャナル操船貸せっ!」
 ケインの声にこたえて操作パネルが輝きだす。
 それとほぼ同時にケインは入力を開始する。
 ぐぐんっ!
 重力に逆らった無茶な操船に完成緩和システムの許容量を突破し、船体がうなりを上げた!
「まっ……だまだぁぁぁぁっ!」
 軋む音が聞こえなかったわけではない。
 重力と慣性に逆らった代償の圧力(プレッシャー)に気付かなかったわけではない。
 それを無視しただけのケインが、さらに無茶な注文を入力していく。
「現在角度より、地表衝突二十秒前……!」
「じーざすっ!」
 ミリィは悲鳴を上げた。
 流れる景色も雲も、とにかく速く。
 恐怖で視界を捉えることなど不可能。
 モニターもすでに見なくなっている。
「現在航行方向仰角マイナス十五度! あと少しですっ!」 
「任せとけっ!」
 任せるしかない状況に追い込んだ本人が、元気よく答えた。
 重力、慣性、空気抵抗――
 数々の自然現象に逆らって、ケインは船を操る。
 永遠とも思える一瞬を経験し、やがて船体にかかるGがわずかに減る。
「航行方向仰角五度に到達! やりましたね!」
「おっしゃぁぁぁぁぁっ! 見たかミリィっ!」
 操船コントロールを放り出して、シート越しにミリィへと振り返るケイン。
 ふんぞり返ろうと胸を張ったとたん――
「ケイン前っ! 前っ!」
「へ……?
 おわぁぁっ!
 あ、危ねー……あともう少しでビルに突っ込むところだった……」
「しっかりしてよねっ!
 よそ見して気が付けばあの世なんて御免よっ!
 せめてボーナスを受け取るまでは死ねないんだからっ!」
「結構お手軽な人生ですねー……」
 自動コントロールのフォローを忘れていたキャナルは、慌てて自動操船システムを作動させながらも、ポツリと言った。
「……ホントーにお手軽なの……?」
「……そうでもないですか」
 少しの間をおいて、入った訂正に、予想通りのこととは言え、涙するミリィ。世間の風は冷たいのだ。例え密封された船内でも。
「――ま、とにかく。宇宙軍(U・F)も大気圏内の活動は無理だろ。
 これからどーするか考えないとなー」
 頭の後ろに手を回し、足を投げ出してくつろぐケイン。
 先ほどの大気圏突入の騒動は、マントの隅にも残っていない。
 しかし、ケインの呟きに、キャナルは顔をしかめた。
「それも早急に、ですね――」
「なんで……? 別にすぐ追ってくるとは思えないけど……」
「何を言っているんですか、ミリィ。
 ここは大気圏内なんですよ?」
「え? だから安全なんじゃなかったの?」
「宇宙と違って、燃料放出し続けなきゃ沈むんですよ。重力ってのがあるんですから。
 燃料代もバカになりません」
「――危険な――場所なのね――」
 愕然とした表情で、ミリィは眼下に広がる海へと想いを馳せて、雰囲気を作った。
 もぉ、現実逃避以外に逃げ道はないよーな気がする。
 そう思ったのは、確かだった。

 目標の船は、通達を無視。
 本隊は強制捕縛に作戦を移行し、順調に包囲網を狭め、あとわずかのところで――
 近くの惑星に目標が大気圏突入をしたので、諦めました。
「…………」
 要約すると、こうなることに気付き、クラーコフは眩暈を起こした。
 ナイトメア本拠地、『ヘカトンケイル』での戦闘は見ている。
 彼らが、無茶をすることも知っている。
 だが、しかし。
 いきなり大気圏に突入するとは思わなかった。
 報告書の作成は、なんとも間抜けな文体になる気配が濃厚だった。
 どうせ、宇宙軍(U・F)の捕縛作戦に、詳細説明不可、令状所持禁止の事を理由に挙げることは出来ないだろう。
 言い訳ではなく、当然の結果なのだが、だからと言って、上層部がそれを謙虚に受け止めるとは限らない。
 ――いや。
 上層部も、本当はわかっているのだろう。
 こんな状態で、『光の翼』こと、『ソードブレイカー』が止まるはずなどないということを。
 わかっていて、この指令を出したのだろう。
 そうすることしか出来ないから。許可など下ろせるはずはないから。
 宇宙軍(U・F)組織を守るための、仕方のない処置。
 それはわかっている。
 だが、しかし。
 その『仕方ないこと』すら、超えないと、無理だと言うことに気付かねば――いや。気付いても、それを認めなくては無理なのだ。
 それを上層部を認めるまで――クラーコフは貧乏くじを引くことになる。
 第三者的にはそういうことだ。
 だが――
「……面白い奴らも居るものだな」
 先ほどまで休暇を過ごしていた、眼下の惑星へと落下していく『ソードブレイカー』を見送りながら、クラーコフは頬が緩むのを、自覚していた。
「通信士(オペレーター)、宇宙軍(U・F)本部へ回線を」
「了解しました。
 回線を――」
「待て!」
「は?」
 自ら出した指令を止めて、クラーコフはスクリーンを睨みつける。
「あの……?」
「――すまん。命令は一時撤回する」
 そうとだけ言って、スクリーンから視線をそらさない。
 ほんのわずか。
 奇妙な――それでいて、確信のないことなのだが、目の前で、星が瞬いたように見えた。
 単なる、通信士からスクリーンへ視線を移したために、目の照準が追いつかず、そんなことが起こっただけかもしれない。
「レーダーに反応は?」
「え……?
 ――いやっ。失礼しました。
 レーダーには、本艦を含む、宇宙軍(U・F)三隻と、消えつつある目標のみです」
 ――気のせいか――?
 いや、まだ何かおかしい。
 まるで、何かに見張られているかのような緊張感が全身にぴたりと吸い付いてはなれない。
 不快で仕方がない。
 この奇妙な感覚は――覚えがあった。
 そして、その時は――
「なっ、なんだ……!?」
 微かに漏らした誰かの上げた声がクラーコフの耳に、わずかに届いた。
 その言葉の意味するものを理解するより早く。
 クラーコフは反射的に叫んでいた。
「操舵士!
 進路を三−四−二へ!
 緊急回旋せよ!」
「っ!?
 りょっ、了解っ!!」
 疑問は数あれど、操舵士とてプロである。
 即座に対応し、船体を指示の方向へと操る。
 船内の主制御室(メイン・オーダー・ルーム)がわずかに騒然となる。
 誰もが、提督の考えを見抜けなかったが――何かが起きているのだと言うことは薄々理解できている。彼らは宇宙軍(U・F)である。
 戦うことにかけてはプロだった。
 だから――戦闘前、敵の本拠地の前で命令を待つような、奇妙な緊張感を感じ取っていた。
「通信士!
 仲間の二隻へと回線を――いや! 通達だ!
 『不明艦の出現を確認!
  第二級作戦待機形態へと移行せよ!』」
 回線を繋いでいては時間がかかる。一方的なメッセージのみを来る、通達の方が早さに優れていた。
「了解!
 全艦へ通達!」
 復唱し、通信士が命令を実行する。
「引き続き通達!
 哨戒艦<ネクロ>へ!
 『各探知機類(センサー)、全機種の使用し、方位三六〇へ散布!
  僅かな点でも観測をし、報告せよ!』」
「了解!
 哨戒船<ネクロ>へ通達します!」
「ちょっ、ちょっと待ってくださいよ、提督っ!?
 何が一体どうなっているんですかっ!?
 だいたい、目標を確認などまだ――」
「――確認なら私がした」
 取り乱す副官を、視線で黙らせるクラーコフ。
 彼は気付いていた。
 これではまるで――あの時のようだ――
「この気配は――我々の敵だ」
「な、何を言って――」

 がかっ!!

 副官の言葉を遮ったのは、音ではない。常識の範囲外の、光の本流だった。
 目の前に太陽が彗星となって過ぎ行くかのように。
「総員対衝撃準備――!」
 莫大な光に視力が奪われる。既に目を開いているのか、閉じているのかすら区別はつかないが、クラーコフは指示を飛ばした。
 光の速度に対する指示など、意味はないことは知っていたが、せめてもの反応だった。あがきと言っていい。
 そして――
 真空すら揺るがす衝撃は直後に襲ってきた。
 まるですぐ側で、何かが爆発したようだった。
「うわあああああああっ!!」
 誰かの悲鳴が聞こえる。
 ――本艦への被害かっ!?
 誰もが、そう思った。しかし、視界はゼロ。確認など出来るはずもない。
 ビー! ビー! ビー!
 警報機が、高らかに音を響かせた。
 悲鳴と、警報。
 そして――堰を切ったかのように、船内は悲鳴に満たされ、パニックに陥った。
「やめんか……っ!
 静まれ!」
 大声で怒鳴り散らしても、悲鳴の数はそれの比ではない。
 光は過ぎ去ったようだが、視力は――まだ回復していない。
 おそらく、船員たちも同じような状況なのだろう。
 だからこそ、歴戦の屈強な軍人たちさえパニックを引き起こす。
 ――いや、その『歴戦』が仇となっていた。
 彼らの殆どは、ナイトメアとの『大戦』を経験している。
 つまり。
 この宇宙軍(U・F)を上回る存在があること知っている。
 そして――ソードブレイカーが、そうであろうと言うことも、知らせてはいないが、感覚的にわかっているのだろう。
 これで混乱が起きない訳はない。
 だからと言って――
 ずがんっ!!
「落ち着けと言っているっ!
 本艦は無事だっ!
 視力回復者は所属、階級を問わず、探知機(センサー)を確認せよ!
 繰り返す! 本艦は無事だっ! 被害はないっ!
 視力回復者は所属、階級を問わず、探知機(センサー)を確認せよ! 早急にだ!」
 引き抜いた銃を撃って、クラーコフは即座に命令を発する。
 凍りついた司令室に、命令が響き渡る。
 そして――一同は、冷静さを急速に取り戻した。
「提督! レーダーを確認しました!
 反応は――二つ!」 
「本艦を除外した数か!?」
「いいえ!
 本艦を含めてです!」
「――そうか……
 残った反応は何処のものだ!?」
 視界がぼんやりとだが、回復してきていた。
 見ると、予想通りの場所――クラーコフのデスクの横には、小さな穴が出来ていた。
 先ほど、皆を静めるために放った、実弾である。
 自然にそこへと手を伸ばし――輪郭の定まらない自らの手を眺め、手を開き、握り――感覚も手伝って、視力は徐々に戻りつつあった。
「それが――そのっ……自分は操舵士でして最新機種は――」
「反応消失は駆逐艦『サルマ』と確認!
 現在レーダーに表示されている艦影は、本艦と、『ネクロ』の二隻です!
 反応前のポイントは――我々が――先ほどまで航海していた地点……!」
 指示通り、別の担当官がレーダーへと駆けつけたのだろう。
 戸惑っていた第一報告者を、視力の回復した航法士が即座に訂正する。
 駆逐艦『サルマ』は撃沈された。
 おそらく、それは正しいのだろう。
 ――どれだけ間違いを犯せば気が済むんだ……!
 完全な指揮などありはしない。
 それはわかっている。
 だが、しかし。
 自らの指揮の下、一隻の船が沈んだ。
 これは変えようのない事実だった。
「旋回をしていなければ――やられていたのは……こちらか……
 ――さすがです。提督」
「口を慎め! 仲間を沈めて何が『さすが』だっ!?
 確かに本艦は旗艦だが、仲間ならやられていい、という訳ではあるまい!」
「しっ、失礼しました。
 撤回させていただきます!」
 副官には目もくれず、クラーコフは哨戒船『ネクロ』へと状況報告を得ようと、通信士へと視線を延ばす。
 その瞬間だった。
 ――気に病むことはない――
 艦内の、時が奪われた。
 船員は無論、クラーコフすら動きを止めて、その声を――意識を捕らえる。
「……な――!?」
 ――気に病むことはないと言ったのだ。
    行き着く先は皆等しい。
    汝らは、時を僅かにずらしただけ――
 深く――暗く。
 頭の芯から響くその声に、共鳴するかのように自らの心の奥底から何かが疼き出す。
 どくん……っ!
 心臓が大きく脈打った。
 ――わかる。間違いない。
 この感情は――恐怖。
「……っ!
 哨戒船『ネクロ』へ通達!
 『全速で離脱せよ!』」
 結論に反応して、それを打ち消さんがためにクラーコフは叫んでいた。
「りょ……了解!
 哨戒船『ネクロ』へ通た――」
 ――無駄な足掻きを――
 脳裏に住み着いたかのようなその声に、思わず通信士は声を失っていた。
「……!?」
「何をしている!? 通達だ!」
「……りょ――了解!
 哨戒船『ネクロ』へ通達!」
 ――愚かな――なんと愚かな――
「クラーコフ提督より、『ネクロ』へ通達!
 『全速で離脱せ――!?
 『ネクロ』応答せよ! 『ネクロ』!
 こちら旗艦――」
 繰り返し、通信機の叫びが聞こえる。
 全て同じ。
 哨戒船『ネクロ』の応答は、皆無だった。
 しかし、反応が消失したわけではない。
 メイン・スクリーンにも、『ネクロ』はその姿を見せている。
「どういう――ことだ……!?」
 声の掠れは隠せなかった。
 クラーコフは同じ動作を繰り返す、通信士へと問いかけていた。
 通信士は困惑した顔を返すのみ。
「通信機の故障――かと……」
「このタイミングで!?
 バカを言うな!」
 代わりに、副官が怒鳴る。
 誰もがわかっていた。
 大声でも張り上げないと、正気を保っていられないのだろう。
 ――無駄な行為だということがまだ理解出来ぬのか――?
 ばんっ!
 気がつくと――クラーコフは右からのこぶしを繰り出し、デスクを叩きつけていた。
 姿を現さない、その声に。
 ただ意識として語りかけるものだと直感的に感じ取り、クラーコフは頭を左手で抑え、叫んでいた。
「貴様に問う!
 貴様の言う、『無駄な行為』で、未来を勝ち取ったのは誰だ!?
 忘れるな! 我々人間だ!
 亡霊は消え去るがいい! 我々の未来に、貴様の居場所はない!」
「提督……!」
「艦内全域に通達!
 『声』に耳を傾けるな! 意識を集中しろ!」
『了解!』
 艦内の誰もが、恐怖を抱いていた。
 だが、恐怖を抱くことで、人間は弱くなることなどない。
 誰もが――恐怖を抱き、それを乗り越えることで『強さ』を得る。
 艦内全域に、恐怖は拭えない。
 それ以上の士気。
 それ以上の勇気。
 それ以上の希望――
 恐怖を抱き、希望を携え、人間は前へと進む。
 ――ならば――傾けさせるまで――
「――!?」
 反射的に、クラーコフは振り返っていた。
 理由も、根拠も、何もない。
 無意識に向いたその先から、見えないはずの『声』の正体が、一瞬だけ『見えた』。
 再び激光がその場を襲う。
『――――っ!』
 艦内の誰もが、その光がどこからやってきたのかわからなかった。
 ――いや。
 ただ一人、クラーコフだけが。
 視力を失ったまま、一点を睨み続けていた。
 ――彼の直感は正しい。
 確かに、その視線の先に、『それ』は居た。
 だが、衝撃はいつまでたっても襲ってこない。
 光は止まない。戦闘の中にある、特殊な緊張感、圧迫感も消えていない。
 おそらく、敵は『サルマ』を静めた時のように、砲撃をしているのだろう。
 ――だがしかし……
 一体何処へ……?
 まさか――!?
 以前、『声』を聞いたその時――ナイトメアとの『大戦』に在った、宇宙軍(U・F)以外の、もう一つの船――
 視力のないまま、クラーコフは視線を眼下の惑星『リヴァイア』へと移す。
「――『ソードブレイカー』かっ!」
 ――クラーコフの直感は、またもや正しかった。

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19163『激動 始まる』 6白いウサギ E-mail URL2001/12/24 19:23:32
記事番号19157へのコメント

六、 決断(デタミネーション)

「上空――いいえ! 宇宙空間より、砲撃を感知!」
「いきなりなんだってんだっ!?」
 言いながらも、ケインは船体を操り、飛来する砲撃をなんとかかわしていた。
 ぶぉんっ!!
 大気を貫く音を立て、激しい光が大地へと突き刺さる!
 どごきゅしゃぁぁぁぁっ!!
 まるで自らも光を生み出すかのように、土砂は高く舞い上がり、光は繰り返される。
 激光自身の攻撃を、爆音という攻撃を、衝撃波という攻撃をその身に受け、ソードブレイカーは大きくバランスを崩す。
 即座に持ち直すケイン。
 操縦に対する、反応が鈍い。
 空気摩擦による抵抗か、キャナルの調子のせいか――おそらく、そのどちらもあてはまるのだろう。
「今の砲撃は――!?」
「ま――まさか、宇宙軍(U・F)ってワケじゃないでしょーね……?」
「だったら二度と『ごとき』なんて呼べませんよ!
 今処理能力が落ちてて観測が出来ませんでしたけど――宇宙空間から砲撃して、それを届かせるだなんて、出来るわけないですっ!
 それにっ! いくらわたし達を追うためとは言え、宇宙軍(U・F)が惑星へ砲撃なんてしてくるはずありませんっ!」
「つまり――遺失船(ロスト・シップ)――」
「認めたくないけど――そういうことです……!
 ――『奴ら』はいくらなんでもありえませんが、普通の遺失船(ロスト・シップ)なら、まだいくつあっても不思議はないです!」
「……観測――出来ねぇのか……」
 キャナルとミリィの二人の会話のやりとりよりも、キャナルの言葉に反応し、重い表情をしてケインは誰にも聞こえない声で漏らした。
 通常のキャナルなら、当然その音声は拾えたはずだった。
 しかし、今の状態ではそれは不可能。
 事実、キャナルの耳には入っていない。
 再び、砲撃。
「――当たるかよっ!」
「かわすのは相変わらず見事だけど!
 町への被害が――」
「わかってるっ!」
 ぎちっ!
 再び飛来する光を勘だけで避けて、ケインは進路を修正する。
 街中で艦船戦などやっていたら、被害者の数は借金の額をあっさり越す――かも、しれない。
 ともあれ、巻き込むわけには行かない。
 進路は海へ。
 それもど真ん中へと移動すればするほど、被害の可能性は減る。
「狙撃ポイントの算出に成功! モニターに移します!」
「オッケー!」
 ミリィは答えて、即座にモニターへと顔を伸ばす。
 そして――見事に凍り付いていた。
「キャ、キャナル……? この数字って……」
「目標との距離と、現在の出力での砲撃可能範囲です……!」
 その数値は、目標との距離の方が大きかった。
「ちょっとっ!? これじゃあ――!」
「反撃不可能ってことかっ!?」
「……っ……!」
 言葉に出せずに、キャナルは唇を強く噛んだ。
 何も、正体不明の砲撃の原因を、即座に撃沈しようとしたわけではない。
 出所はわかっていないのだ。
 相手の目的、正体を見極めない限りは、心置きなく反撃など出来ない。
 出来るのはせいぜい、逃げの一手。
 それとて、現在の『ソードブレイカー』ではキツイ。
 だが、それでも、牽制が出来るのと出来ないのとでは、大きく違う。
 今の状態では、牽制もせずに、ただ回避能力、勘だけで全てを避けきり、相手を振り切らなくてはならない。
 それは――とてつもなく、難しいことだった。
 処理能力が落ちていようと、そんな単純な計算、誰もが理解出来る。
「――ちぃっ!」
 再び光が過ぎ行き――
 ざがすっ!
 異音が船体を通して操縦室(コック・ピット)に響き渡る!
 その衝撃に対する船体のぐらつきを、即座にケインは修正する。
 再び船体を整えて――飛行を続ける。
 余波を受けたのか、眼下の海が大きく波打った。
 そこで誰も海水浴していないことをケインは願うのみである。
 その波打つ場所すら一瞬で背後へと消し去って、いつまでも声のあがらないキャナルに、ケインはとうとう声を上げた。
「キャナルっ! 被害報告はどうしたっ!?」
「――はっ、はいっ!
 後方、被弾! 戦闘に支障なし!」
 ――なってこった……!
 流れる雲を上へ下へ、自由自在に大空へと描きながら、ケインは舌打ちした。
 ――被害報告すら忘れてやがる……!
    それに――『後方』だと……っ!? ンな曖昧な範囲、キャナルから聞くのは初めてだぜっ!
 ケインの心などキャナルに読めるはずもないが、舌打ちだけは拾っていた。
 ――いや。拾ってしまった。
 キャナルの表情が、一瞬だけ曇った。
 人間なら、心を痛めたとでも言うのだろうか――?
 何かを言おうとして、キャナルは背を向けたマスターへと手を伸ばす。
「あの……ケイン――」
 ――ヴォルフィードよ――
『――!?――』
 言葉を遮ったのは、頭に響く『声』だった。
「……ちょっと……待てよ――」
 ケインは、右手で頭を抑えて、皮肉な――それでいてどこか乾いた笑みを浮かべる。
 どうやら、頭がどうかしたらしい。
 これは何かの幻聴だろう。
 いつまでも回避し、遺失船(ロスト・シップ)並の砲撃を回避してきたら起こる――幻聴のはずだった。
 操縦レバーを放し、後ろへと――振り返る。
 きっと、後ろには何も表情を変えない、ミリィとキャナルが居るはずだ。
 だから――
 二人の表情を目に捉え、ケインは呻いた。
「――幻聴じゃ――ねぇのか……!?」
 愕然とした二人の表情を見て、ケインはのどの奥を乾かせる。
「ケインにも――聞こえたようね――」
 めまいを起こしているのだろうか。同じく片手で頭を抑えたミリィが、苦笑した。
 ただ、表情を失ったキャナルが――両手で頭を抱えて、力なく崩れ落ちた。
 ――さして間を置かずとも――
「う……そよ……」
 ――相対することは可能らしい――
「違う! そんな――そんなはずは……っ!」
 ――我らの戦いは――
「キャナルっ! 落ち着けっ!」
 ――双方が倒れるまで終わることなどない――
「キャナルっ! ちょっとっ!?」
 ――悪夢は繰り返される――再び――な――
「違うっ! あなたは――確かに滅んだ!
 違う違う違うっ! 絶対に――」
「キャナル!」
 ずばしゃぁぁぁぁぁんっ!!
 コントロール・パネルに水が景気良くかかっていた。
 ――いや。水ではない。
 操縦室(コック・ピット)に広がった穏やかな香り――そして、この色は――
「……あたしの紅茶……?」
 ――ミリィからの没収品その一だった。
「ぱっ、パネルが――何をするんですかっ!? ケインっ!
 今こんなことやっている場合じゃないでしょう!」
「そうだっ! 混乱している場合でもねぇっ!」
「…………っ!!」
 ケインの瞳と言葉に射抜かれ、キャナルは言葉を失う。
 マントを払うと、ケインはなおも続ける。
「いいかっ!
 今の現状ははっきり言ってよくねぇ!
 お前の調子も悪い! 宇宙軍(U・F)は追ってきている! 正体不明の『声』は聞こえる!
 お前が取り乱したままで、切り抜けられる事態かっ!?
 そうじゃねぇだろうっ!
 さっきの『声』の正体はわからねぇっ!
 奴らが復活したのか、それとも別の馬鹿か!
 誰だかわかりゃしねーが、確かなことはそいつが俺達に対して敵意を持っているってことと、シャレにならねぇ力を持っているってことだけだっ!
 それでお前はどうするんだっ!?
 動揺して、取り乱して、奴らの思惑通り事が運んで満足かっ!
 甘ったれてんじゃねぇっ!」
「ちょっ、ちょっとケイン!? いくらなんでもそこまで――」
「――いえ。いいんです、ミリィ――
 ケインの――言う通りですから――」
「そうか? 構うこたねーぜ。俺が信じられなくなったらいつでも言えよ」
 挑むような視線で。
 ケインはキャナルへとまっすぐに瞳を向ける。
 試すために、あえてそう視線を向けたことを、キャナルは気付いていた。
 ――そんな日はきっと――来ませんよ――永遠に――
 瞳を見つめ続け、キャナルは胸のうちで呟いた。
「信じています。
 頼りにしていますよ――マスター――」
 その微笑を受けて、ケインはにやりと顔を笑みの形にゆがめた。
「ほっほぉぉぉぉう――
 言っちまいやがったな?
 キャナル! サイ・バリア展開!」
「了解!」
「え゛……!?」
 ケインの命令に即座に反応したキャナル。
 そして――その命令が何を意味するのか理解したミリィは、頬をひきつらせる。
 ここは宇宙空間ではない。
 大気も、重力もある、惑星の中でのバリアは――
「ちょっと待った!
 宇宙空間でもないのに、バリアなんて張ったら、自由落下に陥るわよっ!?」
「落ちろ!」
 見も蓋もなく、あっさりきっぱり言うケイン。
「ケインっ!?
 無茶もたいがいに――」
「サイ・バリア展開しますっ!」
「ああああああっ! キャナルまでっ!」
 ぶぃ……ぃん……!
 ソードブレイカーの船体を青白い光の膜が即座に包み込む――はずだったが、ここまで故障がきているのか、反応が鈍く、展開も遅れる。
 船体のエンジンは停止されている。
 慣性の法則、運動方程式、水平投射の法則に従い、『ソードブレイカー』は丸みを帯びて、進行方向へと沈み行く。
 まるでバスケットボールがリングに吸い込まれるように、『ソードブレイカー』は海へと着水しようとしていた――
「いーのかキャナルっ!? 俺を信用しちまってっ!?」
「言ったでしょうっ! 『信じてます』と!
 ――くどいですよっ! マスターっ!」
 お互いどこか楽しさを秘めた不敵な笑みを浮かべ、『ソードブレイカー』は沈み行く。
「――砲撃来ます!」
 選択肢は二つあった。
 一つはバリア展開を中止し、操縦を再開。回避に移る。
 もう一つは、このままバリアの展開を待ち続けること。
「バリア展開を続行!」
 ケインは即座に判断した。
 そして――
 ずがりごきゅっ!!
 頭上から降り注いだレーザー光と、バリアの展開の時間は――ほんの僅か。バリアが勝っていた。
 バリアの出力も、通常より落ちているとは言え、宇宙空間から、それも大気に揺らいで精度の欠いた砲撃はなんとか凌ぐ事が出来たようだった。
 しかし、その衝撃は当然、まともに受ける。
 上からラケットで叩きつけられたテニスボールのように、『ソードブレイカー』は急激な速度で海水へと没した。
 ずばだがしゃぁぁぁぁぁぁっ!!
 衝撃が船体を襲い、水飛沫が船体を多い尽くす!
 吹き上げた水柱は、そこからかなり離れた漁船も目撃することとなる。
 ただそれは――ケインたちにはどうでもいい事だった。
 船は進み、海底奥深くへ。
 ゆっくりと――まるで先ほどまで戦闘していたのが嘘かのように――海底は静かだった。
 母なる海のその膝元へ。
 『ソードブレイカー』は回帰した。

『通信エラー
 データヲ閲覧スル資格ヲ提示セヨ』
「……またか」
 ノートパソコンに先ほどから何度も映し出されるそのメッセージに、レイル=フレイマーはため息を漏らした。
 一息ついて、運んでいたコーヒーを口にする。
 予想通り、苦かった。
 テーマパーク<アルカディア>からの撤退命令を受けて、パトカーである意味『連行』された先は、予想外にその星の警察署だった。星間警察ではない。
 あの後、どんな『処罰』が待っているのかと、ある意味期待して待っていたのだが――待てど暮らせど連絡は一切ない。処罰を受けるということは、とりもなおさず処罰を命じる存在が居るということ。
 なにも命令者がいきなり顔を出してくれるとは思っていなかったが、全くコンタクトがないというのも思っていなかった。
 逆境を逆手に取る計画、失敗。
 ともあれ、どこから撤退命令が発されたのか。そしてその根拠はなんだったのか。それを調べるため、いくつかのデータにアクセスして――ことごとく撃沈されている。
 なにも、撤退命令の根拠が素直に表示されることはハッキングに成功してもまずないだろうが、大義名分だけでも調べれば、なにかヒントがあるかもしれない――
 そう思っていたのだが、そのヒントすらお目にかかれない現状である。
「キャナルにでもハッキング習っとくべきだったか……?」
 奇妙なことを言う。
 自分自身で苦笑した。
 レイルは遺失船(ロスト・シップ)の戦いで――永遠とも言える時を越えてきた、一つの遺失船(ロスト・シップ)で――家族を失っていた。
 狂っていく組織に手を貸し、単なるアルバイトと切り捨てて――結局、失ったのだ。大切なものを。
 家族を失わせた敵は滅んだ。
 自らもそのすぐ側に居合わせた。
 だからと言って――後悔はすぐに消えるものではない。
 後悔は消えない。
 それを超える何かを得ない限り。
 だからこそ、レイルはナイトメアの残党を追った。
 数々の者を捕らえ、処罰を与えることもしていた。
 だが――こちらも完全に消すのは不可能なのかもしれない――
 後から後から沸いてくる悪党を、どれだけ牢屋に放り込めば、終わるというのだろう。
 例え長年の年月をかけて、全て捕らえる事が出来たとしても――本当に、自責の念は消えるのだろうか。
 ――消えはしないだろう。
 だからこそ、この世界のものではない技術を秘めた『ブラック・ボックス』へ目を向けた。
 根本となる遺失技術(ロスト・テクノロジー)。この世界にあってはならないもの。
 ――もしかすると――いずれは敵味方かも知れんな――
 遺失船(ロスト・シップ)を所持する、黒いマントを羽織った腐れ縁の顔を思い浮かべた。
 彼らはソードブレイカーを手放すことはないだろう。
 今は――それをどうこう言うつもりなど、レイルにはない。
 ――だが、しかし。
 いずれどう思うか――正直に言って、わからなかった。
 家族の敵討ちによる暴走とも言っていい。
 ただ――認めたくはなかった。
 遺失技術(ロスト・テクノロジー)の被害者が――これからも生まれることを――

 深海は暗く、深かった。
 小さな小さな気泡が、天に召される魂のようにゆっくりと上へと登っていく。
 海は青く見えるかもしれない。
 だが、ここは――光の届かない場所。暗闇に抱かれた海だった。
「……で、どーすんのよ……?」
 暗い海を――と、言うより真っ黒なだけの周囲の映像を、メインモニターに映した操縦室(コック・ピット)。その深さに匹敵する低い声で、ミリィは言った。
「確かに――敵の砲撃は止んだわ。
 大気を貫く火力の持たない敵が、海底に居るあたしたちへ攻撃することはほぼ不可能でしょうよ。
 だけど――」
 ここで、顔を上げて、ケインへとびしぃぃぃっ! と指差すミリィ。
「海底に宇宙船突っ込ませてどーすんのよっ!?」
 ――もっともな指摘だった。
「大丈夫だって。ミリィ。
 こいつぁ遺失船(ロスト・シップ)だぜ?
 この程度の水圧でどうにかなりゃしねーよ。
 相手だって水の中にいる船に対して無駄弾撃ってこねーだろ」
 実際、砲撃は止んでいたし、『声』も止んでいた。
 キャナルも、気配は感じ取れなくなったと言っている。
 ――そっちの方は、もともとキャナルの調子が悪く、不確かな状況判断だったのだが。
「確かに……遺失船(ロスト・シップ)なら大丈夫ですけど――
 外装は無理です。間違いなく破損します。
 展開を持続したバリアで、今は弾いていますけど……バリアを張ったままじゃどうにもなりませんし……」
 海と同じ深さを持って、船内を沈黙が満たした。
 ミリィはそれも考えがあってのことだろうと、判断者へと視線を這わせたが――そこには、頭を抱えた者が立っていた。
「……しまったぁぁぁぁぁぁっ!
 やばいっ! 預金はいくらだっ!?」
 ――をひをひをひ……
 ケインのその言葉に、ミリィは膝から力が抜けていくのを感じた。
「借金(マイナス)です。それも――」
「具体的数値は断固拒否するっ!」
「もぉやだ……こんな生活……」
 くらくらする頭を抑えて、砲撃席(ガンナー・シート)を力なくずり落ちるミリィ。
 メインモニターへと視線を向かせ、まるで自分たちの遠くない未来を象徴しているかも、と馬鹿な考えをよぎらせたが――笑えなかった。
「それと言いたくないですけど――」
「なら言うな!」
「――すると死んじゃいますけど。ケインたち」
「言えっ! 即座にっ!」
 百八十度違う命令をケインは続けて発した。
 キャナルは少々表情を沈ませて、
「この船の酸素の保存量が残り少なくなっています。
 このままですと――三時間あたりで息苦しくなってきます」
『……なにぃぃぃぃぃぃぃぃぃっ!?』
 ケインとミリィの悲鳴が見事にハモる。
「ちょっと待ってよっ!
 さっきまで別の惑星にいたじゃないっ!
 なんで供給しとかなかったのよっ!?」
「……手配はしておいたんですけどねー……
 宇宙軍(U・F)のこともありましたし、他の事にかかりきりになっていたもので……
 まさか、あのまま緊急で惑星を出なくてはならなくなるとは思いませんでしたし」
「外装は水圧でアウトで、水圧には耐えられるけど酸素が僅かな内部――
 ちょっと待てっ!
 それってお前はセーフで俺らはアウトかっ!?」
「やめてくださいっ!
 ケインっ! あなたがそんなことを言うなんて――ダメですっ!
 そんなこと――冗談でも言わないでくださいっ!」
 ――不安なのだ。キャナルでも。
 悠久の時を越え、永遠とも言える時を一人で戦っていたあの頃には、もう戻れない。戻りたくない。
 周りのものが倒れて自分だけ残されるのは――二度と御免だった。
 起こって欲しくない。起こってはならないのだ。
 ――そう、気付いたケインは罰の悪そうな顔をして、素直に頭を下げた。
「……悪い。悪ふざけが過ぎた」
「……それと……今の出力じゃ、海から出られません……
 水の抵抗を考慮すると、途中で力尽きます――」
 まさに絶体絶命だった。
 通常通りのキャナルなら――『ソードブレイカー』なら、一瞬にして海面を出ることは可能だった。
 それを考えての、ケインの判断である。
 いくらか時間がかかったとしても、海面へ出ることは可能だと思っていた。
「そっ、そんな――一体どうしちゃったのよキャナルっ!? 一体何が――」
「わかりません! わからな……いんです……
 わたしだって一体何がどうなったのか――!」
「……そ、そう――
 ……ごめん……一番つらいのキャナルなのに……」
 思わず、ミリィは言葉を後悔した。
 不調は、宇宙軍(U・F)との時でも起こっていた。
 もしかしたら、それ以前からかもしれない。
 思えば、ケインへの通信が繋がらなかったのは、騒動に巻き込まれて聞こえなかったのではなく――故障していたからなのではないだろうか。
 だが、それでも。
 キャナルはおどけてみせていた。
 単なる不調。大したことはない。
 そう、乗組員に心配をかけまいとしていたのではないだろうか。
 もしかしたら――いやきっと――自分自身、そう言い聞かせていたのかもしれない。大したことはないと。
 そして――症状は悪化、事態は深刻化。
 とうとう、耐え切れなくなったのだろう。
 先ほどあそこまで取り乱したのも、そこが要因なのかもしれない。
 ミリィは、そう思った。
 しかし、まだ希望はある。
 ミリィは、ケインへと視線を向けた。
「……ま、ともかく――こんな時でもふざけられるってことは――なにかあると思っていいのよね? ケイン」
「……ずいぶん信用してくれるじゃねーか。ミリィ」
 ケインは苦笑して、こちらへと振り向いた。
 大丈夫。希望はある。
 ミリィは安堵した。彼なら大丈夫。
 ケインは頭を欠いて、キャナルへと歩み寄った。
 優しい――そして、強さを秘めた笑みを浮かべて。
「悪かったな、キャナル。
 こう言やぁいーんだろ?
 ――まだ手はある」
「ほんと……ですか……?」
 戸惑いが生まれた。
 彼は優しい。
 もしかしたら――自分を立ち直らせるため、嘘を付いているのかもしれない。
 状況は、それほど絶望的だった。
 しかし、思いに反して、ケインは頷いた。
「――もちろんだ。信用してくれるんだろ。
 手を貸してくれるか?」
 ――なんということだろう。彼は魔法が使える。
 気分がこんなにも晴れ渡ることが起きるとは――これは、魔法以外のなにものでもない。
 そして――応えることこそが、今すべきこと。
「はいっ!」
 キャナルは力強く、返事をした。
 一転して、ソードブレイカーに光が満たされる。
 暗い闇の中。暗い海の底。
 闇に誘われたその場所に、一つの光が生まれ――今まさに、それを輝かそうとしている。
 闇を吹き飛ばすほどの大きな力を持って。
「よしっ!
 ミリィ、お前も手伝ってもらうぜっ!」
「当然っ!」
「キャナル!
 サイ・ブラスターは使用可能か?」
「ええ!
 ……ですけど――例え下に撃ち出しても、反動で離脱は不可能です」
「使用可能なら問題ねぇっ!
 次っ!
 リープ・レールガンの残弾数はっ!?」
「……この間の戦闘で少々減って、三十ほどです」
「十分っ!
 最後の質問だ。
 船の向きを変えることは出来るか?」
「現在張っているバリアの解除時、バリアエネルギーの噴射で一度なら可能です。
 ……その――信用していないわけじゃないですけど、何をする気ですか……?」
 冷静に状況を並べ立て、彼方へ押しやったはずの不安が頭をもたげる。
 しかし、それ以上の光と強さを持って――ケインは不適に笑った。
「お前らに見せてやるんだよ」
 彼は立ち上がる。
 自らの操縦席(パイロット・シート)へと戻り――マントを跳ね上げ、シートを揺らす。
 漆黒のマントが、空気を包んで静かに待舞った。
「――奇跡ってヤツをな」
 その背中は誰よりも頼もしく――眩しかった。

 『ソードブレイカー』は――海の底で、活動を開始した。
 球体状のバリアがふわりと浮き上がり――そして、かき消えた。
 バリアで排除されていた海水が――強大な水圧で持って押し寄せる。

「サイ・ブラスター発射ぁっ!!」
 こうっ!!
 宇宙空間にはない、衝撃音が自らの機体と押し寄せる海水から反芻して轟音となる。
 サイ・ブラスターは静かな海に、激変をもたらした。
 海水を切り裂いて、光が海面へと真っ直ぐに突き進み――日の光を僅かに見せた。
 光は海を貫き、光を届かす。
 日の光――希望の光を――!
「キャナル! エンジン始動!
 海面へ脱出!」
「了解!」
 くごぉぉぉぉぉぉぉっ!!
 『ソードブレイカー』のエンジン音が轟音となり、海水を吹き散らす!
 今大空へ戻らんがため、『ソードブレイカー』は翼をはためかせた。
「海が――!!」
 ミリィは思わず声を上げていた。
 サイブラスターが貫いた直後、海水は元の状態へ戻ろうと、突如生まれた空気の柱に、自らの身体を持って襲い掛かる!
「――逃がしちゃくれねぇってかっ!?
 だけど――まだ終わっちゃいねーぜっ!
 ミリィっ!!」
「オッケー!」
 ケインの声に答え、ミリィが素早く銃火器のコントロールパネルを操る。
 ――サイ・ブラスターではない。リープレールガンである。
 そして――リープレールガンの発射口から、無数の弾丸が飛び出した!
 先ほどまで空気の柱があったところを真っ直ぐに光へと目指し、一定間隔で連射!
 針の穴を通すような正確さとタイミングで、リープレールガンは消えつつある空気の柱へと吸い込まれていく! 
 そして――『ソードブレイカー』に『海』が到達した!
 ごが……ぁぁぁぁぁぁぁあああああ……!!
「ぐ……っ!」
 予想以上の水圧による衝撃で、ケインはシートに頭を打ち付けた。
 今の衝撃で、あちこちの警告ランプが灯ったのを視界の隅で確認するが、構うつもりはなかった。
 衝撃が船まで届いたということは、とりもなおさず――
 ………………!!
 低い振動としか感じ取れない音を、期待通りの場所で感知する。
「キャナル!」
「了解っ!」
 命令を聞くまでもなく、キャナルはエンジンの出力を最大へと引き上げた。
 そして――生まれ出た激流が、『ソードブレイカー』を上へと押し上げる!
 その流れに乗って、『ソードブレイカー』は一気に上昇を続け――
 ざぱしゃばぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!
 ――今、大空へと回帰した。
 船体と共に吹き上がった海水が、日の光を拡散し、虹を作り出す。
「おっしゃぁぁぁぁぁっ!!
 脱出成功っ!」
「た、確かに――成功はしたけど……」
 盛り上がるケインに賛同しつつも、全身の汗が一気に引き、寒さに襲われたミリィは言葉を漏らした。
 先ほど――
 サイ・ブラスターにより、海水を貫き、海を割り、生み出した空気の柱に、『ソードブレイカー』はその身を躍らせた。
 しかし、急激な力により、無理に捻じ曲げられた空間を、海は許さない。
 即座に海水が空気の柱へと押し寄せる。
 そこで、続けて発射していたリープレールガンが、海水へと触れたとたん、弾丸が発動。
 一定量の空間を抉り取るリープレールガンは、ミリィの巧みな砲撃技術により、一直線に空間をえぐっていた。
 海に、ぽっかりと大きな真空の穴が生まれた状態へと陥る。
 そして――再び、自然の修復作用が起こり、海水は生まれ出た無の空間を押しつぶさんがため、激流を生み出した。その激流を、海面へと向かうように、コントロールしたのである。
 例えるならば、空気で膨らましたビニール袋に掃除機を突っ込んでスイッチを入れると、ビニール袋は急激にへこむ。空気を失ったために中心へと寄せられるビニール袋の上に乗ったようなもの。
 海水の流れを全身に受けて、『ソードブレイカー』はエンジンを吹かせ、自らも加速して――空へと戻ったわけである。
 ――しかし。
「……ほ、ホントに奇跡だし……」
 ――当然のことながら、それだけうまくいくには、かなりの確立を乗り越えなくてはならなかった。
「今更言うのもどーかと思うけど……
 改めて思うわ……よく無事よねー……あたしたち……」
「なんでこうも――分の悪すぎる賭けを嬉々として乗るんでしょう……ケインって……」
 キャナルの呟きを捕らえ、ミリィは疲れた表情のまま、握った右手をケインへと向けた。
「――勝因は何でしょう? MVP」
「ふっ――」
 ケインは調子に乗りまくった表情で、目を伏せ、マントをばさぁぁっと跳ね上げる。
 ミリィへと真っ直ぐにVサインを突き出すと、
「『成せば成る。成さねば成らぬ。何事も』」
『なるほど……』
 どこかうつろな表情で、ミリィとキャナルは声をハモらせた。
「そう、ばーちゃんが言っていたぜ♪」
 嬉しそうに言うケインを見て、キャナルはポツリと漏らしたのだった。
「……アリシア……教訓を与える人……選んでください――」
 輝ける虹は、既に後方に去っていた。 

 ……憂鬱だった。
 デスクに山と詰まれた書類に一段落をつけ、クラーコフはベッドへと足を運んだ。
 すでに暗がりに灯された光は、ベッドの脇のスタンドしかない。
『今回の作戦内容及び目的は言うに及ばず。
 存在自体を第一級機密とする』
 宇宙軍本部からの通達は、要約するとそういうことだった。
 正体不明の船が衛星軌道上からの砲撃を開始したその時、クラーコフは戸惑いを隠せなかった。
 おそらく、その船の攻撃目標は『ソードブレイカー』だろう。
 取るべき行動は二つに一つ。
 これ幸いにと逃げ出すか。
 警告を発し、従わない場合は砲撃し、『ソードブレイカー』を守るか。
 本来なら、迷わず後者を選ぶところである。
 ――しかし。相手の力量を確認すら出来ない船に、勝てないとわかっていて砲撃し、仲間を死なせて良いものか――?
 迷いは、そこだった。
 ナイトメアとの『大戦』とは状況は違う。
 現在の味方の船は自分を含めて二隻のみ。
 相手がその気になれば、一瞬で撃沈することが可能だろう。
 それ故――二者択一の判断を保留し、本部へと援軍を求めるよう、命令を発した。
 だが、返ってきたのは、通信士の悲鳴にも似た返事だけだった。
 ――『通信機の故障』――
 混乱するブリッジを横目に、『それ』との勝負を半ば覚悟した時――何故か『それ』は砲撃を中止し、背中を向けて飛び去っていった。
 追うことはもちろん、何故と疑問符を呟く時間すら許さず、その船は去って行ってしまっていた。
 気が付いて、哨戒船『ネクロ』へと通信を入れてみると、通信機は復活していた。
 観測の情報を求めたが――予想通り、観測不能(エラー)。
 このことを全て本部へと報告して――返ってきたのが、先ほどの通達である。
 わからないことだらけだった。
 帰還命令を受け、こうして基地へ戻っては来たものの気分が晴れるはずもない。
 暗闇を照らす月に光に目を細め、クラーコフはただ静かに、考え続けていた――

 同時刻、テーマパーク<アルカディア>。
 すでに閉園したその各施設の中、地下にある施設の一つは未だに騒々しかった。
 侵入者を取り逃がしたことで、処分された何人かの骸を片付けるものも少なくない。
 上の施設とは違う、その地下は楽しい感情とは最も遠い緊張の元にある。
 つまりは、裏の組織の人間たちである。
 その組織の名は、すでに誰もが恐怖と嫌悪をもって、知られている。
 忌むべき存在として、忘れ去られようと――いや、人々が忘れようと意識の上で願う、組織の名は――犯罪結社『ナイトメア』。
 本部はすでに失われている。
 それでも、戦火を逃れた者達が集まり、残ったシステムを利用し、再び犯罪に手を染めることは珍しくもない。
 ナイトメアの残党は、全てが崩壊したわけではなかった。
 その中の一つの集団が、ここ、<アルカディア>に滞在していた。それだけのことである。
「――お帰りなさいませ。ガンマ様――」
 黒塗りの車から降りた、ここの組織のトップの帰りに、一同が恭しく頭を下げた。
 ガンマは黙ったままで、羽織ったコートを調えながら、歩き出していた。
 頭を下げたままの者たちを通り過ぎ、連れの数人をつき従えて、奥へと進む。
「お勤め、ご苦労様です」
 隣でともに歩きながら、銀色の髪を後ろへ撫で付けた男が、メガネのずれを直して、ガンマへと言う。
「気にするな。どうせ子守だ」
 苦笑しながら、思ったよりも幼い表情で、ガンマは言葉を返した。
 年は二十代後半。栗色の髪は歩調に合せて揺られている。
 いくら組織の残党と言えど、それを束ねる立場としては、ずいぶんと若い。
 それだけの功績を立てた男だと言うことは、誰もが知っていた。
「は……?」
「気にするなと言った」
「――これは失礼を」
 柔和な笑みを浮かべたまま移動を続けるガンマに、男は頭を下げた。
「まぁいい。
 それで? 侵入者が出たって話だが?」
 自分の部屋へと辿りつき、長いデスクが置かれた場のイスへと座りながら、ディスプレイを点灯させる。
 それに伴い、男は懐から取り出したパソコンで、その映像を操作する。
「お察しの通りです。相変わらず話が早い」
「君は相変わらず遅いようだな。
 世辞はいい。続けてくれ」
「はっ。
 ――昨日、六名の侵入者がブロックG九で確認されました」
「六人?
 そりゃまた、随分なご一行だな」
「ええ、それはもう。
 六名のうち、二名は十歳と七歳の児童の男女。
 そして、別の一名はマントを身につけておりました」
「……愉快な報告だな。ベイン」
「事実です。
 ――映像を」
 そう言って、男――ベインは、映像を映し出す。
 初めに出てきたのは、撮影作業と通信回線をいじる三人組が映し出されていた。
「……確かに子供だな。
 ここを調べに来た『厄介ごと下請け人(トラブル・コントラクター)』か――まぁ、それに似たところだろう。なんで子供同伴なのかはわからんが。
 警察がここを訪れるはずはない」
 マーリーチャ、トランはしっかりと映像記録に残っていた。
 パソコンをいじり場所を確認していると思われる、マーリーチャ。
 辺りの風景をビデオで記録し続けるトラン。
 一人ラズェルだけが、背中姿しか映っていないが、やがて映像が切り替わり、顔を近づけて回線の細工をしているところを映し出す。
「こいつは……?
 どこかで見たような気が――」
「ご明察ですね。
 彼はラズウェル=シクル。
 現在は『ポート=コーポレーション』の代表取締役です」
「ポート=コーポレーションっ!?」
 驚きの表情を浮かべるガンマに、ベインは頷いた。
「調べたところ、この子供二人は先代の取締役の子息でした。
 現在、<運び屋>と名乗り、奇妙な副業も行っていると聞き及んでおります。
 おそらく、その関係でしょう。
 何のためかはわかりかねますが」
「そうか――『ポート=コーポレーション』の――」
 思うところがあるのか、ガンマは目を細めて、シートに深く腰掛けた。
 それに構わず、映像は続く。
 切り替わった映像は、六人揃ったお化け屋敷から肉薄する場。
 ラズウェルたちとケインたちが遭遇した場所である。
「マント――だな……」
「ええ――マント……です……」
 言う二人の視線は、お化け屋敷を疾走することではためく、ケインのマントへと向けられていた。
「彼は現在まだ素性は判明しておりませんが、時期に報告が来るでしょう」
 そう言って、二人はケインのその横で、毒づきながら併走する男性へと視線をうつす。
 その胸には星間警察(U・G)のバッヂが輝いている。
「星間警察(U・G)……?
 なぜここにいる?」
「レイル=フレイマー。現在の階級は警視。
 かつての我らナイトメアの『大戦』に偶然居合わせたようですが――関係は調査中です。
 今のところ、我々は単独行動と判断しております。
 星間警察(U・G)の『彼』とは連絡をとって圧力をかけさせました。
 その命に従い、レイルはここを去っております」
 ベインの言葉を殆ど聞き流して映像を見続けている風に見せながら、全て頭に叩き込むガンマ。
 無論、映像もきっちり追っている。
 その中の一人、ケインの横を併走する女性――ミリィを、ガンマは凝視した。
「彼女は……」
「おや。このような女性が好みでしたか。
 手配でもさせましょうか?」
 暗闇に映し出された映像を眺めたまま、言うベイン。
 手配と言っても、ここは裏組織である。
 まともな対応を考えているわけではないのは確かだろう。
「馬鹿を言うな。
 彼女を見て気づかないのか……?」
 言われてベインは再び映像を眺める。
 しばし見続けたまま考えてみたが――
「ガンマ様でも女性を神聖視とかするんですね。
 汚れなき存在とか――」
「……思考回路を正せ。
 しかし――そうか……君は知らないのかもしれないな」
「は……?」
 一人自分の世界に入り込むガンマに、間抜けな反応をしてしまうベイン。
 しかしそれに構わず、ガンマは映像をかき消した。
「『表』の映像をかき集めろ。
 彼女の全ての映像を調べるんだ」
「写真集でも作るんですか?」
「しつこいっ!
 いいから集めろっ!
 マントの奴でもいい。二人の映像記録を探せ。
 通信機、パソコン――映像さえあれば、連絡先が判明する可能性もある」
「それってもしかして横恋慕――」
「死にたいか?」
「いいえ」
「なら今すぐかかれっ!」
「イエッサー!」
 ガンマの声に敬礼をすると、ベインは廊下へと駆け出していった。
 優秀な奴なのだが、緊張感に欠けるところがいただけない。
 いくらナイトメア本部が崩壊し、規模は比ぶべくもなく小さくなった、一介の組織だが、ナンバー二があれでは困る。
 もちろん、ある一定の条件が揃えば、吐き気がするほどの冷淡な奴だが、普段は威厳とは遠い存在である。
 しかし――
「――人のことは言えないか」
 デスクの横にある鏡を覗き込みながら、ガンマは苦笑した。

 ――惑星『リヴァイア』はリゾート星である。
 海がほとんどを占める地表、なおかつ自然が豊富。
 しかし、公転周期が短く、一つの季節が終わるのもまた早い。
 以前訪れた時は真夏真っ只中。あちこちで羽を伸ばしに来た観光客でごった返していたのだが――今は冬が過ぎたばかりの春。海水浴にはまだ寒い時期である。
 それ故――こーして離れ小島の別荘がもぬけの殻ということも、決して珍しいことではない。
 首都となる場からだいぶ離れ、小さな島に別荘と思われる家が一つ。島の大きさは、一周するのに一日歩けば十分程度だった。
 それでいて、小高い丘があったり、果物のなる森もある。さらに入り江があるかと思えば、そこのすぐ近くには大きな洞窟がある究極性である。
 見事なまでの自然三昧。不自然すぎる自然というのも奇妙な言い方だが、まさにそんなところだった。
 人間にとって都合のよすぎるその島は、おそらく人の手が加えられたものだろう。
 プライベート・ビーチならぬ、プライベート・アイランドとでも言えばいいのだろうか。
 入り江にはしっかりとクルーザーやら、ジェットバイクやらが置かれていた。チェックしてみたが、すぐにでも使用できる状態だった。無用心なことに、鍵もつけっぱなしである。
 この島の持ち主は、よほど気合の入った趣味人か、よほど暇な金持ちのいずれかだろう。
 ともあれ、ケイン達はそこへ降り立ち、上空から見えた別荘へと向かっている。
 『ソードブレイカー』は洞窟へと収納させてもらっていた。
 助かることに、船はうまくすっぽりと納まったし、本来接弦チューブが船体の重みを支えるのだが、海水の浮力がその役割を果たしている。
 酸素を自ら精製して供給するため、ケイン達は一時船から退避である。
「……人の気配はないようだけど……」
 傍目にはいまどき珍しく木造の――と、いうよりはログハウスに見えていたのだが、どうやら模造品らしい。触ってみると、ひんやりと冷たいコンクリート特有の感触が返ってくる。
 考えてみれば、潮風の当たるこの場所で痛みやすい木で作ってなどいるはずはない。
 どーやら趣味人のほうが正解だったらしい。
 入り口に貼り付けられた紙に目をやれば、『無断使用禁止』としっかり貼られていたが――
「……ま、困ったときはお互い様だよな」
 ――あっさり無視された。
「どこが『お互い様』よ……?」
 しっかりツッコミを入れながらも、ケインの後に続き中へと入るミリィ。
 当然のことながら、鍵はかかっていたのだが、やはり当然のことながら、ケインに蹴り壊されていた。
 別荘へと入り込むと、中にはじゅうたん、暖炉、動物の剥製――
 なるほど。やはり気合の入った趣味人である。
 しかし、部屋の空気が人の出入りが昔のことだと物語っている。
 湿っていて、埃っぽい。
 所詮、別荘なんぞ金持ちのステータスだということだろうか。趣味人兼金持ちの可能性も浮上した。所持することに意義がある、とでも言わんばかりである。
「……だーっ! 空気がよどんでやがるっ!
 ええいっ! きちんと管理しやがれっ!
 だから俺達なんかに使われちまうんだっ! 自業自得っ!」
「ケイン……それってかなりヒドイ……」
 マントがはためくたびに埃が舞うのが嫌なのか、マントのすそを手で押さえながら部屋の窓を開けていくケイン。
 それとともに、設備をチェックしていく。
 一通りの生活家具はそろっていた。
 当然のことながら、食料は置かれていなかったが、食料などはもともと『ソードブレイカー』に備蓄されている。
 途中、通信機を発見し、とあるところへ連絡を取ろうと受話器を持ち上げたのだが――やめておいた。
 宇宙軍(U・F)がこちらの居場所を傍受してしまうかもしれない。望んだ相手より、招かざる客が訪れる可能性が大きかった。本来なら、『ソードブレイカー』の暗号化機能を利用して相手へと連絡を取りたかったのだが、不調は通信機まで届いていた。いきなりピザ屋の注文口へかかった時は、本気でビビったものである。
 ともあれ、成り行きとはいえせっかく海の中を移動したのだ。例え銀河をまたにかける宇宙軍(U・F)とは言え、こちらの居場所をつかむには、少々時間がかかるだろう。
 ただ、『声』のこともあったので、先ほどの三隻の船はもしかしたら、すでにこの世界にない可能性はある、とケインは考えていたが。
 リゾート地なだけあって、衛星などという無粋な監視は付いてないが、発見されるのは時間の問題だろう。
 ――とは言え、自らその時間を縮めてやる理由はない。
 受話器を元の位置へと戻し、再び室内を見て回ろうと背を向けた瞬間。
「きゃぁぁぁぁぁぁぁっ!! ケインっ!!」
「――ミリィっ!?」
 うかつだった。この家に危険がないとは限らないのに、彼女から目を離した。
 己のうかつさに舌打ちして、ケインは悲鳴の聞こえた一階へと全力で走り出していた。
 凝ったつくりの階段も、今では動きにくさに憎むべきものでしかない。 
「……ちぃっ!
 無事かミリィっ!?」
 開けっ放しとなっていた部屋のドアを開いて、ケインは駆け込んで――足を滑らせた。
「しまっ――でっ!」
 まともに後頭部を床へと叩きつける羽目になったが、格好も痛みも気にしている場合ではない。
 即座に立ち上がろうとして――その視線の先に、ミリィは呆然と立ちつくしているのが見えた。
 良かった――
 少なくともまだ無事のようである。
「み、ミリィ――どうした……っ!?」
 ケインの声に今更気づいたのか、ミリィは振り返り――床に倒れこんでいるケインへと目をやり、呆れた表情を見せた。
「……ケインこそ、どーしたのよ、その格好は……?」
「は……?
 いや、だってお前が――」
「それより見てよこれっ!」
「…………?」
 ミリィの言葉に釈然としないままケインは立ち上がり、ミリィのいる場へと歩みながら――その一室を見渡した。
「この広いバスルームっ!
 ほとんどスィート並みの広さと豪華さよっ!
 思わず悲鳴あげちゃった♪」
 ……………………そーか。そーなのか。そーだったのか。
 思わず一瞬硬直したケインだが、やがて肩を震わせると、
「『あげちゃった♪』じゃねぇっ!!
 紛らわしい真似すんなっ! お前俺がどーいう気持ちで――!」
「へ……?」
 珍しく転倒したケインだったが、滑りやすい浴室ではそれも仕方ない。なにより、慌てていたのである。
 見ればここだけ大理石で作られた広い浴槽で、全体を白でまとめられ、金の縁取りが所々に光っている。
 単品で見た趣味はいいのだが、ログハウスの内装に、これはどうかと思う。
「よくわかんないけど……
 見てケイン。金よ金♪ ごぉるど♪」
「……小銭でも貯めたんだろ」
 思わず不機嫌に返すケイン。
「いやーっ。
 ともあれ、広いわよねー。この浴槽♪」
「……お、お前なぁ……
 人が心配したってぇのに――!」
「船のじゃ無理だけどこれなら――一緒に入れるわよ♪」
「っぶっ!?
 なななななな何言ってやがるっ!?」
「――冗談じゃない。なに動揺してんのよ。
 さーってと、二階はどんなになってんのかしらねー♪」
 無造作にそう言ってのけ、ミリィはケインを置いて去っていってしまった。
 ――こっ、こひつ……
 こめかみの辺りを見事に引きつらせながら、ケインは思った。
 ――船の風呂、広く改装してやろーか。 
 残念ながら、そんな金はなかったが。

「――ああ。それで構わない」
 深夜月が涙を流すころ。
 ラズウェルは車から少々離れたところで、通信をしていた。
 通信器具は車内にもあるのだが、彼の妹と弟は夢の中である。
 起こすようなことはしたくなかった。
「決算の報告は、そんなところかな。
 出資の方はデータを送ったと思うけど――そう。その資料だ。
 …………ありがとう。一応おれも代表が板についてきたって所かな?
 ――……手厳しいなぁ……
 とにかく、方向性はそんなところで。
 細かいところは任せるよ。
 ――ああ。何かあったら連絡頼む。
 じゃあ、おれはこれで」
 まだ春に入ったばかり。深夜に外に出れば息も白くなる。
 ノートパソコンを閉じて、その手に息を吹きかける。
 駐車場から少々離れ、茂みが生えた場所で通信をしていたのだ。
 少々月の涙――夜露が靴についてしまっていた。
 それを軽く拭って、ラズウェルは自分の車へと戻っていく。
 いくら代表取締役として認めさせるために<運び屋>をしていたとしても、本業の仕事を怠っていては意味がない。
 こうして深夜に出せる指示は出しておくのが彼の日課だった。
 会社内で数少ない彼の味方の一人、秘書へ連絡を取ったのだが、彼もマーリーチャとトランを心配している様子だった。
 自分としても、あまり二人がいることは本位ではないのだが……
「認めないと『兄貴役』解雇決定」
 ――などと、会社の株の最大保有者二人に言われては仕方ない。
「なんでそこまで<運び屋>の仕事に参加したがるかなぁ……?」
 夜風に独り言を流し、頭をかくラズウェルだった。
 単純に『ラズウェルと一緒に居たいから』ということに、彼は気付いていない。
 だとしても、彼は既に二人を妹と弟だと思っているし、一緒にいて楽しいことは事実だった。
 ――まぁ、いつも酷い目に遭わされてはいるが。
 今回の『<アルカディア>の地下業務の捜査』は、まだ完結していない。
 いくらか調査はし、疑わしいことしていることは確かだし、実際に何かをしていることは間違いないだろう。
 だが、肝心の証拠が掴めない。
 今日はドジを踏んだが、また向かうことになるだろう。
「………っとと」
 駐車場内の自販機でホットコーヒーを買い込んで、お手玉しつつ再び車へ向かう。
 車内にコーヒーメーカーはあるのだが、あれは音がうるさくていただけない。
 なんにせよ、<アルカディア>にはまた向かうことになる。
 だが、今日の失敗で顔はバレているだろうし、確実に命を狙われるだろう。
 ――死にたくはないし、怖いことは確かだけど……
 車内のドアの前で、ラズウェルは立ち止まった。
 仕事をやめて、ポート=コーポレーションを去るか。
 自分自身には何の問題もない。
 普通に別の仕事を探して、普通の生活をすればいい。
 自分の動向をチェックする、わずわらしい人間もいない。一癖も二癖もある妹とも、弟ともおさらばだ。
 ただ、その二人は、財産目当ての親戚にありとあらゆる手段で嫌がらせを行われるだけだ。
 自分には、関係――
「――ないわけないよな……」
 行くしかない。
 決断は下った。
 だが、これまで以上に危険な仕事になるだろう。二人は連れて行けない。
 情報処理能力などは、むしろラズウェルより二人は上だ。頼りになる味方だと思う。
 しかし、子供である。危険な場所には連れて行けない。
 一人で行くのだ。
 こういう荒事に嬉々として付き合ってくれる友人は、タイミングの悪いことに今は行方不明だった。
 決して戦闘のプロとは言えない自分とは違い、訓練を受けている知り合いだったのだが――いない人を頼っても仕方ない。
 車のドアを開くと、ラズウェルはまっすぐに格納庫へ向かった。
 装備を整えるためである。
 去年誕生日プレゼントとして二人からもらったバッグに、必要そうな道具とある程度の食料を詰め込み、ずっと昔、大切な人にもらった帽子を被りなおす。
 ――準備は整った。
 鏡に映る顔に僅かに息を漏らして、高鳴る緊張を押さえ込む。
 そして、ラズウェルは格納庫を後にし、寝室へと移動した。
 置き去りにすることを、謝罪しておきたかったのだ。例え寝顔だとしても。
 ――がらっ……
 区画するドアを開いて、ラズウェルはため息をついた。
 置き去りにされたことを知ったら、二人はなんて言うだろうか。
 自然と気持ちは重くなる。これは危険な場所に行くことより重かった。
 だが、連れて行くわけにはいかない。
 意を決して、ラズウェルは二人の寝床に近づいて――
 壁を殴りつけた。
「――先を越された――」
 寝床は、一枚の紙を残してもぬけの空だった。
『置き去りにされそうな気がするので置き去りにしてやります。
 じゃーね。危険な場所でまた会いましょう。ラズ兄へ』
 こういう二人だということを、ラズウェルはまたもや思い知らされたのだった。

 夕日も沈みかかったころ、とうとうはしゃぎ疲れたのか、ミリィはどこか疲れた顔でケインへと言葉をかけた。
「その――ケイン。
 ちょっと買出しに行きたいんだけど……いい?」
「買出しぃ……?」
 大雑把な設備の確認と、大雑把な片づけをして、いくらかくつろげるようにしたリビング。
 クッションの埃をパンチのラッシュで追い払っていたケインは、二階から降りてくるなりそう言った、ミリィの言葉に眉をひそめた。
「そうよ。食料なかったでしょ? 買出しでもしないと、食べ物に困るじゃない」
「何言ってんだお前……?
 食料なら船の中にたくさんあるだろーが」
 ――う゛っ……!?
 噛み殺したつもりが、噛み殺しきれなかった。
 うめき声を漏らして、ミリィは額に冷たい汗をにじませた。
「い、いやねぇ、ケイン。
 確かに食料ならあるけど、船の厨房は使えなかったじゃない」
「お前だけな」
 あっさり限定するケイン。厨房を破壊する特技を持っているのはミリィだけである。
 キャナルの管理の下、ミリィは厨房に入ろうとすると、即座に自動ロックがかかるように細工されていたが――ケインは普通に入れていたし、使ってもいた。大抵は自動調理器での食事だったが、たまに無性に何かが斬りたくなる時は、何度も訪れていた。
「こーして船じゃなくても作れる場があるんだから、久しぶりにおいしいご飯でも作って、元気出すのが一番よ♪
 それにはちょっと食材が足りなくってねー……船に積んでいるのだけじゃ。そゆわけで買出し♪」
「お前……人様の別荘破壊する気か……?」
「外でよっ!」
「なるほど……確かにそれなら被害はある程度抑えられるわな……」
「でしょ!?」
 おかしな理屈に、勢い込んで言うミリィ。
 つまりは、バーベキューのように、野外で調理する、ということなのだろう。
 それなら被害もいくらかは抑えられるだろう。
「しかしお前――単に料理作りてーだけじゃねーのか?」
「ほっ、ほっといてよっ!」
 クッションがノックダウンしかけるころ、埃を追い払ったと満足したのか、ケインは手を止めて、少し考え込んだが、
「んー……
 ――まぁいいか。たまにはミリィの手料理も」
「オッケー!
 じゃ、行ってくるわねっ!」
 どこかほっとしたような表情で、言うミリィ。
 言いながらも、すでに玄関へと向かっている。
 よっぽど料理がしたかったのだろうか……?
「ミリィ! 待て!」
 ぎくぅっ!
 心臓を跳ね上げて、ミリィは凍りついた。
 後ろ足で後退し、再びリビングへ戻ると――おびえた表情で、問いかけた。
「なに……?」
「いや、なんでそこで怯えるのかわからんが――お前、金はどうする気だ?」
「ああ、なんだそのこと。
 大丈夫よ。
 ラズウェルさんたちに迷惑料もらったことだし、それを使えば平気じゃない」
「――ああ。そう言やあったな、そんなのが」
「じゃ、あたしはこれで――」
「ちょっと待て。ミリィ」
「まだ何か……?」
「料理作るの止める気はねーからそーゆー目はするなって。
 そーじゃなくて、宇宙一の夕飯を頼むぜっ♪」
 にっと笑って、ケインはミリィを指差した。
 一瞬気おされて一歩後ず去ったミリィだが、すぐに苦笑すると、Vサインで返した。
「わかってるわ」
 そうとだけ言って、ミリィはその場を去る。
 少々、調子がおかしかったようだが、きっと疲れているのだろう――ケインはそう思い、再び作業へと戻っていく。
 てっきり、『任せておきなさいって!』とでも言って、自信満々に言ってくるかと思ったのだが――まぁ、キャナルの様子をミリィも表面には出さないまでも、気遣っているのかもしれない。自分がそうであるように。
 ――どうにかしなきゃならねーよな……
 埃を払い終わったクッションへと勢いよく飛び込んで、ケインは天井を眺めた。
 ろうそくを模した照明は、あかあかと光を灯していた――

 クルーザーは自動走行で町へと進む。
 船の先頭の手すりにもたれながら、ミリィは沈み行く夕日を眺めていた。
 ともすれば、振り向きたくなる背中を押さえつける。
 ――あたしは嘘をついた――
 吹き付ける潮風に揺れる髪を押さえながら、それでもミリィの視線は水平線の彼方まで上げることすら適わなかった。
 顔は自然と下へ。これではよくない。それはわかっている。それでも――
「……ごめんなさい――ケイン――」
 震える肩を抑えながら、搾り出すようにミリィはそう言った。
 静かな海は、ゆっくりとミリィを乗せて運んでいく。
 遥か水平線を越えたその先まで――後に残した、彼らから遠ざかる。
 ミリィは胸の辺りの上着を、右手で握りつぶした。
 心が痛い。
 誰に言われての行動ではない。
 自分が下した決断だ。
 だから――泣き言は言えない。泣くことすら、許されない。
 誰もいない。ただ一人、船に揺られながら――ミリィは、いつまでもいつまでも一点を睨み続けていた。

 入り江の側にある洞窟内部。
 懐中電灯を右手に、ケインは奥へと進んでいた。
 ミリィだって、自分たちを元気付けるために行動を起こした。自分だけのんびりとしてなどいられない。
 あれからかなりの時間をかけて、家の片付けはほとんど終わらせておいた。
 これ以上家に留まっていても、やるべきことはないだろう。
「キャナル――」
 暗闇にその名を呼び、ケインはマントが濡れないように注意しながら、歩みを続ける。
「ケイン――っ!? 何をやっているんですかっ!? こんなところでっ!?」
 暗闇のせいなのか、映像の見えないまま、キャナルの声が洞窟内に響き渡る。
 船を下りる時、船外でも簡単な話が出来るように、映像出力を兼ねて話が出来るようにしておく、と言っていたのだが姿は見えない。
 懐中電灯であちこちを照らしながらも、ケインはうんざりとした口調で言った。
「何をって――ずいぶんなご挨拶じゃねーか……
 お前の様子を見に来たんだよ。悪ぃか」
「そ、そうでしたか――てっきりわたし、見捨てられたのかと――」
「どっからそーいう考えが出てくんだ……?」
 心底ほっとしたような口調で言うキャナルに、ケインは呆れながらも声の方へと歩み寄った。
 人が病気になると、とたんに弱気になる。キャナルも、調子が悪いことから、似たような不安を抱えているのかもしれない。
 しかし、キャナルから続けて出た言葉に、ケインはその思いを一瞬にして吹き飛ばさなくてはならなくなった。
「いや――その、ミリィの名前をこの星の宇宙港シャトルの搭乗者名簿に見つけたもので……
 すいません。そんなはずないですよね――きっと、わたしの思い違いでしょう」
「なんだとぉ……!?」
 ケインは闇に囲まれた状態のまま、声を上げていた。
 気配だけでキャナルはびくんっと身を震わせたのがわかる。
「お、怒らないでくださいよ……
 ……わたしだって不安なんです……」
「違うっ!
 そーじゃねぇっ!
 今、お前――ミリィがなんだって!?」
「え……?
 ですから――星間旅船の搭乗者名簿にミリィの名前があったって――
 もしかして……! 今そこにいないんですかっ!? ミリィっ!」
 どうやらキャナルもケインの姿を見えているわけじゃないらしい。
 声だけで会話は続く。
「それじゃあ――ミリィは――」
「ふざけんなっ!」
 キャナルに言葉を続けさせる前に、ケインは叫んでいた。
「お前本格的にどうかしちまったのかっ!?
 あいつが――あいつが黙って姿を消すなんてこと、あるわけねーだろーがっ!」
 ケインの叫びに、キャナルは沈黙で答えていた。
 洞窟に打ち寄せる波が、静かに時を刻む。
 気がつくと、マントはすでに濡れていた。
「――ケイン……」
「なんだっ!?」
「――違うんです――それは――違うんですよ……」
「お前まだ……!」
「聞いてください! お願いします――お願いです、ケイン……
 わたしは――以前の事件から、星間警察(U・G)、宇宙軍(U・F)の情報を調べ続けていました……
 彼らの動向を知ることで、あなたたちを護りたかったから――……
 そこで、わたしは知りました。――いえ、知ってしまった。
 前回の事件で、あなたとミリィが指名手配されたことは覚えていますよね?
 その時の調査で――ミリィの素性が、バレたんです……」
「素性――昔の、名前か……」
 ミリィは、過去に捨てた名前があった。
 ケインの頭に、ぼんやりとその名が暗闇の中に浮かび上がる。
 それと同時に、ケインのかざす懐中電灯は、キャナルを見つけ出していた。
 少女は、暗闇の中、悲しげな瞳を浮かべて、浮かんでいた。
 しかし――
「だから――なんだってんだ……!?
 あいつが――あいつであるのに、名前なんか――名前なんざ関係ねぇじゃねーかっ!」
「以前のナイトメアとの『大戦』――その記録に、わたしのことが納まっているでしょう……
 そして、レイル警視は、勢力の対立と言う形で、実質『ソードブレイカー』については静観されていると、話していましていましたよね?
 ですが――『その遺失船(ロスト・シップ)に、スターゲイザーの孫が乗っている』と、知れたらどうなると思いますか――?
 いままで通り――静観してくれるとでも……?」
「……し、しかし、そいつぁ――」
 顔をしかめるケインに、キャナルは静かに首を横に振った。
「おそらくそのことに、ミリィは何かしらの方法で、気づいてしまったんでしょう――
 先ほどの宇宙軍(U・F)も――黙っていてすみませんでしたが……それで、来ていたんです……」
「それじゃあ――あいつが……
 俺たちに迷惑がかかるからって出て行ったってぇのかっ!?」
「そこまでは――わかりません……
 ただ――バランスは崩れました――崩れてしまったんです――
 明けない夜はない。終わらない悪夢はない――
 確かに、その通りです。
 ですが――光が訪れた時、悪夢が去った時――再び悪夢が訪れないとは限らないわ――」
「どういう……ことだ……?」
「気付きませんかケイン――?
 悪夢が再び訪れようとしています。
 防ぐことが出来るのは――あなた方、未来ある――人間だけなんですよ――」
 表情はひどく悲しげで、キャナルは暗闇の中、儚い微笑を見せた。
 それが苦笑だと言うことにケインが気づくのは、しばらく後のことである。
 打ち寄せる波の音と、暗闇に浮かび上がる小さな立体映像。
 そしてその映像は、昔の伝承に出てくるような巫女のような姿の少女――
 気を抜くと、夢か幻かと錯覚してしまいそうな光景の中、ケインは言葉を失っていた。
「ミリィは――そんな素振り、見せませんでしたか……?」
「――っ!」
 ケインは即座に、リビングでの買出しに関する時のミリィを思い出す。
 あの時は――異変気づきながら、勝手にミリィの心情を察した気持ちになって黙っていた。
 その結果がこれである。
「……情けねぇ……!」
 ケインは気がつくと、海を殴りつけていた。
 飛沫が辺りへ飛び散り――闇へと消えた。
 こんなにも自分に腹が立ったのは初めてだった。
 事態は最悪だった。
 『ソードブレイカー』の復旧の目処は立っていない。それに対する処置も未だわからない。原因だって不確かだ。
 その上、ミリィを失ってしまった。どれだけ苦悩して、あいつはこの島を去ったのだろう。
 どれだけ――
 あの時の瞳を思い出す。なぜ自分は気づかなかった。なぜ気づいてやれなかった。
 あいつは――怯え、悩み――それを告げずに――!
「行ってください、ケイン――」
「な……?」
 苦悩するケインを諭すように、キャナルは静かに言った。
「行ってください、ここを離れて――ミリィのところへ――!
 ――場所なら見当がついています。
 先ほどまでいた、<アルカディア>のあった星行きなんですよ。あの船は……」
「し、しかしお前だって――」
「大丈夫ですよ。何とかしてみせます」
 微笑んで明るく言うキャナルに、説得力は全くなかった。
 無理してそう言っているのがわかる。
 根拠はない。雰囲気でわかるのだ。
 無理をしてまでそう言わせる状況に追い込んだ自分を、更に情けなく思う。
 そういった思いが、ケインに言葉を失わせた。
 それを見抜いたのかはわからないが、キャナルは言葉を続ける。
「いいですかケイン――
 わたしは――ミリィがいない『ソードブレイカー』は嫌です。
 ケインも同じでしょう……?
 ――考えてください。
 ミリィを連れ戻せるのは誰ですか?
 一人しか――いませんよね……?
 わかっているんでしょう、ケイン」
 あくまで優しく語り掛けるキャナルに、ケインは立ち尽くす。
 いつしか闇のなかに月明かりの光が差し込んでいた。
 『ソードブレイカー』の船体を背に、キャナルはその場を動かない。
 月は海の中にもその姿を映していた。
 ケインはふと、目を閉じた。
 ――これ以上、キャナルに言葉を言わす気か……?
 違うよな――そんなの……『俺』じゃねぇ――
「わかった……行ってくる」
 キャナルへと背を向けて、ケインは足元の海水を掻き分けながら外へと歩き出す。
「ええ。そうです。
 それでいいんです――それで――」
 しばしケインの移動することで起きる水の音だけがその場を満たし――
 洞窟の出口、『ソードブレイカー』が見えなくなる位置で立ち止まって、振り返らずに言う。
「必ずミリィは帰らせる。
 だから――俺達の帰る場所を失くすなよ――キャナル――」
「……了解しました。マスター――」
 月の光は穏やかに、その場を照らし続けていた――

 別荘の防犯カメラに、ミリィの姿が映っていた。
 キャナルの読み通り、記録の中のミリィはメールを受け取っている。
 無機質なその淡い光は、ただ静かに輝きつづけていた。
 拡大して文面を読み込む。
 その光は――こう、姿をとっていた。
『親愛なる――ミレニアム=フエリア=スターゲイザ様へ』
 ミリィの表情は、カメラに映る角度ではない。
 その映像は、いつまでも同じ一点を移しつづけていた――

 ミリィは静かに、その場に立っていた。
 メールに記載されていた場所、テーマパーク、<アルカディア>の入り口である。
 こちらの星では、時刻は早朝。
 惑星『リヴァイア』で海底から脱出した後、少々仮眠をとってはいたが、睡眠不足は否めない。
 そのままの状態でクルーザに乗り込み、首都へと移動し、ここに向かう船に乗り込み――数々の交通機関をハシゴして、やっとの思いでここに来たはずなのに、その時間は決して長く感じることは出来なかった。心のどこかで、このままいつまでもアルカディアへつかなければいいとさえ思っていた。
 だからこそ、ミリィの頭は眠気とは今、無縁にある。
 開園時間を間近に控え、係員たちが門の開放作業にかかるが、その奥の敷地から、紺色のスーツを着込んだ男たちが、真っ直ぐにこちらへと向かってくる。
 ミリィは――動かなかった。相手に合わせて歩み寄ってやる気はなかったし、すでに逃げるつもりもない。ただ目を逸らさずに、その場で待ち続ける。
 やがて男たちはミリィの前へ一列になって立つと、深々と頭を下げた。
「ようこそ、アルカディアへ。
 ミレニアム様――」
 ミリィは眉をぴくりと動かしたが、それだけだった。
 正面で頭を下げ続ける男たちの向こうで、開園時間を向かえた<アルカディア>の門が、メロディを奏でながら、ゆっくりと開いていった――


                ――つづくっ!

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19164『激動 始まる』 7白いウサギ E-mail URL2001/12/24 19:26:24
記事番号19157へのコメント

七、 そんでもってあとがき

 もぉ二度とあとがきを前もって書くまい……
 絶対破る誓いを立てて、お久しぶりです。白いウサギです。
 長い道のりを乗り越え、皆様よくぞここまでたどり着きました。
 書き溜めておいたあとがきが全っ然使い物にならなくなってしまったので、
 急遽今適当にアドリブ入力しています。
 まぁ、以前からそーなんですけど。

K:オラ待て白ウサぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!
白:しまった見つかったっ!?
  みなさんそれではご機嫌ようっ!!
K:こらぁぁぁぁぁぁっ! 書き手がいきなし退場していいと思ってんのっ!?
  待ちなさいっ!!
白:いぃぃぃぃやぁぁぁぁ――っなこったっ!
  私はまだ死にたくないっ! せめてその銃降ろして言えっ!
K:ぃやかましっ!
  このラストは何よっ!?
  なんてとこで切るのよあんたはぁぁぁぁぁぁっ!!
白:反論は一切ないっ!
  私だってどーかと思っているんだっ!
K:じゃ、なおさらどーにかしなさいよっ!
白:出来たら言われるまでもなくそーしとるわっ!
  内容が文庫一冊分に収まらなかったんだっ!
  ダイジェストで送っても小説にはならんっ!
  読者騙して二冊分の文章量を「これで一冊なの♪」とか言っても、時計でバレるっ!
K:その前に騙すなぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!
白:ごもっともっ!
  だからこーして分けたワケだ――こらっ! 安全装置解除するかっ!?
K:くっふっふっ。
  だいじょーぶよ。どーせ、怒られるの、部下Tだし♪
白:警○の拳銃かぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!?
  てめーっ! 一家を路頭に迷わす気かっ!?
  父ちゃん仕事なくなったら家はどーなるっ!?
K:これから死に行く人にそんな心配は無用よ♪
白:…………っ!?
  ――なおさら逃げるわボケぇぇぇぇぇぇぇっ!
  だいたいっ! 私が死んだら続きはどーなるっ!?
K:……しまったぁぁぁぁぁぁぁぁっ!
  そんな巧妙な盲点隠しがっ!?
白:隠してねぇよ。
K:……うー……あ。でも、ロスすぺが出ているし。
白:……をい……?
K:つーわけであんた、地獄行き決定ね♪
白:ふざけるなぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!
  言っておくがなっ! そー簡単に殺されやしないぞっ!
  こーみえても昔、剣道で――
K:拳銃相手でも生きられる?
白:……………………
  ――撤収ぅぅぅぅぅぅぅっ!!
K:だーっ! 逃げるなっ!
白:それは死ねと同意語だっ! 誰が逃げらいでかっ!
K:とーにかーくっ!
  早く続き書きなさいよっ!
白:書いてるっ! 現在進行形で書いてるっ!
K:――そーなの?
白:そーなの。
K:………………………ちっ。ま、いーわ。見逃したげる。
白:その『ちっ』って何だ……?
K:聞きたい?
白:……のぉ、せんきう。
K:……また新しいパターンでスルーして……
白:限界への挑戦者、白ウサをよろしくっ!
K:どこの宣伝文句よ。それは。
白:ここ(はあと)
K:……部下T、許せ……
白:あああああああっ! 銃口こっちへ向けるなっ!
K:……くふふひはふふ♪
白:ごめん。映像ないからまだいいけど、ビジュアル的に私は物凄く怖いです。
K:……あれ……?(聞いていない)
  ところで、あんた挨拶した?
白:またそーいういい加減な話題展開を……
  ――でも、してないな。
K:挨拶を忘れるとはなんて無礼なヤツ……
白:原因教えようか?
  誰かさんに追いかけられて――
K:あ。教えなくていい。
白:……………あー、こほん。
  皆様ご一読ありがとうございました。
  ロスユニ長編第二部ポイモノ裏製作所所長、白いウサギです。
K:うらせいさく……?
白:うみゅ。第二部として書いている『朋友』、そして今回の『激動』、と続いているので。
  某所でプロジェクト名聞かれたので、その場で適当にでっち上げた。
K:名前まででっち上げっ!?
白:うい。でっち上げると言っておけば、へりくだっているように聞こえるし。
K:……をい。いーのか。そんな適当で。
白:もちろん――私の中でオッケー。
K:……で、所長って……?
白:ういーっす!
  従業員は私一人だが。
K:……ま、がんばれ。
白:気持ちのこもらない声援はいらんっ!
  だいじょーぶ。あんたに手伝ってもらおうとか考えちゃいないから。
  つーか、手伝わないでください。
K:……………………
白:さーて、挨拶の続きだ続き。
  皆様激しくお待たせしまくりました。
  ロストユニバース長編、『朋友 まみえる』の続編、『激動 始まる』をお送りします。
  ちなみにまだまだ続くのでよろしくね♪(立ちくらみ禁止)
K:お・く・め・ん・も・なく言ったわねっ!?
白:待ち構えたようにテンション変換っ!? なんなんだっ!?
  お、臆面もなくも何も……本当の事じゃないか。
K:そうじゃないわよっ!
  問題です。
  あんた――この小説書き始めたのは?
  執筆完了目標――いわゆる、締め切り、いつだった?
白:……黙秘権を行使します(はあと)
K:認めません(はあと)
白:……いや……マジで怖いんですが……
K:書き始めたのは!? 締め切りは!?
白:それはその……臨機応変に……
K:その場その場、臨機応変に締め切り伸ばしてどーするっ!?
  しかもっ!
  『ロスユニ長編第二部ポイモノ裏製作所所長』なんて長い肩書きっ!
  ――今だって冒頭の一文をコピペして済ましたけど……もーちょいまとめたらどうっ!?
白:例えば……?
K:『ポイモノ』。
白:いやぢゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!
  そんなんは絶っっっっ対いやぢゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!
K:ふっ。頭の中の映像に苦しんでる苦しんでる(「スレイヤーズVSオーフェン」参照)
白:のうぉぉぉぉおおおおおおっ!
K:さらに追い討ち。使い物にならなくなったはずの前のあとがきをひっぱってみよーっ!
  部下Tっ! 記録再生っ!
T:はっ!
白:どこに隠れてたっ!? あんたはっ!?
T:いや、拳銃返してもらえないかなーと……
  ……仕事なくしたくないし……
白:K、返してやれよ……
  背中すすけた父ちゃん――見たいか……?
K:面白いから良しっ!
T:……しくしくしく……

――以下あとがきだったもの――

K:皆様お元気でしょうか。
  ただいま、作しゃ……じゃなかった。
  書き手の白いウサギはあたしの手によって、カンヅメとなっておりますので、
  こぉして書き手代理、白ウサの妹、Kの出番と相成ったわけです。
  そう言うわけで、今回初、Kがあとがきを執筆しております。
  のっとり成功っ!
白:嘘を付くなぁぁぁぁぁぁっ!
  結局書いてるのは私ぢゃねーかっ!
  書けるもんなら書いてみろっ! あとがきっ!
K:いいの?
白:すいません。激しくつまらない気がするのでやめさせてください。
K:失礼な……本当にカンヅメのくせに……
白:だからマットレスをはずせっちゅーとろーがっ!
K:説明しよう!
  意味不明なことを言っているとしか思えない白ウサだが、
  実は本当にマットレスを身体にぐるぐる巻き付け、縄で縛り、座布団でふたをしているのである!
  なぜか!? それはカンヅメとなるためだ!
  この真夏に! しかも実話! 正気か白ウサ!?
白:正気じゃないのはお前だっ!
  一人で縄なんぞ縛れるかっ! この態勢でっ!
  しかもさっき、『あたしの手によって』って、しっかり言っているだろーがっ!
K:むうっ……なかなかイタイ所をついてくるわね……
白:いーからはずせ。今すぐはずせ。とことんはずせ。
K:一応読者の皆様に説明しますとですね――
白:先にはずせぇぇぇぇぇっ!
  こんなカンヅメは嫌だぁぁぁぁっ!
K:ちっ。根性のない。
(ぶつぶつ言いながら縄をほどくK)
白:お前がやってみろ……!
  この35度を越える猛暑に!
  気が遠くなるぞっ!
  ――まぁ、やれと言われた時点で気は遠くなったがっ!
K:はいはい。えらいえらい。
  良い子のみんなはこんなアブナイおねーさんの真似しちゃいけないぞ♪
白:……こ、こひつ……っ! ぜってぇいつか消ス!
K:何か言った?
白:いやぁ、マットレスから脱すると36、5度でも涼しく感じるなぁって。
K:熱っ苦しい上に現実っぽく聞こえるから止めなさい。
白:いやね?
  ですからね?
  事実現実っつーか、ともあれあんた何様?っつーか……
K:原因を作ったのは?
白:……わ、わたくしめにございます……
K:そうよねー。
  この話書き始めたのが3月。
  大まかなプロット上がったのが4月。
  今何月?
白:ぁおうがすと。
K:英語をひらがな発音しても駄目。
  ひたすら遅れまくったので、作家たるもの、一度は味わなねばならないカンヅメを体験してもらったまでよ。
白:……いや……こぉいうのは誰も味わったことないかと……

 ――ちなみに上記のあとがき執筆時、今年の八月――

T:季節感、完っ璧無視だぞ。
K:あれ。まだいたの?
  再生終了したら帰っていいわよ。
  あんたいるとあたしのセリフが減るかもしれないし。
T:………………
白:いや、そこで私に向かってすがるよーな目で見られても。
T:……しくしくしく……
K:はーいっ。退場ーっ!
  さてと、上の「あとがきだったもの」だけど、今となっては輝かしい思い出よね。
白:お前はな。
  こっちは本気でくらくらしたんだが……マットレス巻きつけたの、実質一番暑かった七月だったし。
K:それでも夏に書き上げないんだから、いい根性してるわよね。 
白:ふっ。任せろ。
  ――ああああああっ! 冗談だ冗談っ!
K:……ま、まぁいいわ……
  あんまし早く殺すと作中の話のフォロー役がいないし……
白:む、むう……既にここまでのあとがきだけで結構な量になっているような気もするし……
  実は今回、あんまし語れることないんだが……
K:遺言はそれでいいかしら?
白:待てぇぇぇぇぇぇぇぇいっ!!
  くぉらTっ! 拳銃回収してから退場しろよっ!
  上司に電話すっぞっ!
K:この前釣れたマグロで買収済みじゃない?
白:………………………
  ……だめだ、うちの家族……
K:で、語ることはないのかしら?
白:あるあるあるあるあるあるぞぉっ!
k:慌てるなっての。
白:では今回のコンセプトを発表しますっ!
  その一! 『やられる前にやれ』(助言:某方)
K:……なんじゃそりゃ……?
白:うみゅっ!
  単に、『ロスト・ユニバースすぺしゃる』とネタが被って、後で発表しづらくなる前に発表しようっ! つーことだっ!
K:……なるほど。今回はキャナルで被っていたわね。
白:今年中に書き上げなくてはと脅迫観念が沸き起こったのは、ロスすぺ二話。
  つーわけで、他にも怖いこといっぱいあるけど、ミリィの過去ネタ、かぶらないでくださいね♪(ここで言っても意味無し)
  ……まぁ、そーいうわけで、実はキャナルのことちっとも片付いていないし、他にも被りそうな描写が多々あってびくびくしてるんだが……
K:……で、ちなみに? その被りそうな事はいつごろ書き上がりそうなの?
白:……えーっと……結構後までひっぱる部分があるので……
  第一話が『朋友』、第二話が『激動』、第三話が――って、タイトルまだ一応伏せて置くとして……
 おそらく、第四か第五話あたり。
K:……つーことは……
  ――ん?
  ちょっと待ったぁぁぁぁぁぁっ! 五話まで続くのっ!?
白:あ、あはははは(はあと)
K:誤魔化せない笑いはいらないわよっ!
白:……お前……酷いこと言うのな……
K:原作――何巻までだったか知っている……?
白:……五巻でしたね……
K:……それで本当にいいの……?
白:いや、そー言われると困るんだが――つーか、十分自分で困っているんだが。
  予定では次の巻あたり――早い話が、全三巻分で第二部ポイモノ終わらせたかったんだけど。
K:……あっさり伸びたってワケね……
白:そのとーりっ。
  ……大変だよね……
K:思い出したように沈むな。
  ところで、「コンセプトその一」ってことは、まだあるの?
白:よくぞ気づいたっ! それでは第二のコンセプト!
  『自分の人生自分が主役』!
K:そ、そりゃまたどーいった……?
白:実は書いている途中でそー決めたんだけど、まぁ第一のコンセプトも後で決めたし、それは保留として。
  脇役キャラ、ゲストキャラ――それぞれ、動きまくっているでしょ?
  だから。
K:ま、まぁ確かに……オリキャラ三人組はああだし、レイルは登場するわ、クラーコフは登場するわ、正体不明の遺失船(ロスト・シップ)は登場するわ、ナイトメアの残党の奇妙な奴も登場するわ。
  召集、つくの?
白:知らんっ!
K:をぅい。
白:い、いやまぁ――実は、あんまし詳しいことは話せないけど、あちこちのキャラが動き回って物語を作っているわけでして。
  今回予定通りのエピソードが長編一冊に収まらずに、続巻へと続かせなくちゃならなくなったのも、この理由が一枚絡んでいるっス。
  実際、私自身、ソードブレイカー海に突っ込ませた時点では、まだ一冊分の半分も書きあがっていないと思ってた。
  登場人物多いと描写が増えるんで、その分確実に文章量が増えるし……
  ただ、あくまで主役はソードブレイカーチーム。
  どこまで脇役としての能力を発揮できるかは――私の構成力にかかってます。
  主役を食わずに(良い意味でなら別)、どこまで引き立て役として力を発揮出来るか……謎ですな。ほんと。
K:――で、それをどこか諦めているよーな気がしないでもない、第三のこのコンセプトは……?
白:はっはっは(汗)
  つーわけでっ! 第三のコンセプトっ!
  『神坂キャラに手加減無用』っ!
K:こらこらこら……
  いーの……? そんなこと言って?
白:うーみゅ……確かに今まで、あくまでゲストキャラ、あくまで脇役、あくまで引き立て役だったんだが――ふと、気付いた。
 『単に言い訳じゃないか?』と。
K:どゆこと?
白:うーんとだね。
  例えで、自分が物凄く強かったり、偉かったりする。
  そこに新入り、そして実力の劣るものが入ってきて――
  『あなたとやれるなんて光栄ですっ! あああっ、恐れ多いっ!』
 とか言って、本人の実力すら出さなかったら、どー思う?
K:殴る。
白:……いや、行動じゃなくて気持ちをだな……
  ま、まぁいい。
  ともあれ、それじゃあいかんと、あいつら(オリキャラ)を作ったわけだ。
  そーいうわけですが、キャラ的には手加減無用で作ってます。
  事実、ケインですが、マーリーチャ&トランコンビにあしらわれてましたし(笑)
  先ほども言いましたけど、ストーリー的にはソードブレイカーチームが主役ですけどね。
  それがはずれていたら、私の力量不足&我慢不足。
  キャラクター的には『手加減無用』。背景、現在までの経過、きっちし作ってあります。
K:例えば?
白:以下続刊参照。
K:…………………
白:だーっ! まてっ! 無言で部屋に鍵をかけるなっ!
K:ほら、目撃者出しちゃまずいじゃない。
白:そんな行為をしなきゃいーだろーがっ!
  ともあれっ! モロに途中で切ってある訳だし、ネタバレしたら面白くないだろっ!?
K:まぁ……それは確かに……
白:問題は、私がその設定、伏線を書き上げるまで覚えているかだが……
K:結局駄目じゃんかぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!

 どがめきぼけごきゅっ!!

K:こ、こいつ……っ! 絶対世の中ナメてるっ!
白:――あー。死ぬかと思った。
K:ぬぅわぁっ!?
  あっ、あっさり復活っ!?
  ぅおのれいっ! いつの間にそんなナーガの特殊能力をコピ−したのよっ!?
白:いやさすがにそれはちょっと。
  身代わりの術使っただけ。
K:………?
  あら、本当だわ。あんなところで部下T、果ててる。
白:でしょ?
  手近にいたんで身代わりの術使わせてもらった。
  頑張れ父ちゃん♪ 男はタフじゃなくっちゃ♪
K:そーよねー。じゃ、手当てしなくても平気よね。放っておきましょ。
白:ええええええええええっ!?
  そんな非情なっ!
K:身代わりにした貴様が言うなストラァァァァァッシュっ!
白:暴力下した貴様が言うなクロスカウンタァァァァァっ!

 どががきっ!!

K:くっ! 全くの互角っ!? やるわねっ!
白:いや、お互いの攻撃が何故か部下Tに吸い込まれていっただけ。
  ……娘を持つ父親って大変だねぇ……
K:あら、ほんと。だくだく床が赤く染まってくわ。
T:……いっそ殺せ……
白:なんか聞こえた?
K:あたしには聞こえなかったわね。
白:そっか。じゃ、空耳ということで。
T:……いずれ娘を逮捕することになるかも知れんな……
  …………運命とは相変わらず皮肉――すぎるだろ……これはいくらなんでも……
白:まぁ、幻聴は放っておいて。
  オリキャラについてなら、まぁ主要キャラとなる運び屋三人組。
  ラズウェルは……まぁ、モデルはいないんだけど。
  なんと、マーリーチャとトランにはモデルがいたっ!
K:いたのっ!? あんな滅茶苦茶なキャラにっ!?
白:め、めちゃくちゃってお前……作り出した私としてはそー言われると……
K:まぁ、名前の『トラン=ポート』は絶対に「transport=運ぶ(運搬)」から来ていると思うんだけど。
白:あいよ。正解。
K:な、投げやりな言い方を……
白:隠す気ないし。絶対に見抜かれると思ってたし。
  一応、他のラズウェルは政治の教科書に載っていた人物からもらって、マーリーチャは私が好きなゲーム、PSOのマグの名前からとった。
  他のマグの名前がどこぞの神話とかからついているっぽかったから、調べるとまぁ『羅刹の一人』だったり……
K:つけるな。そんな名前。十歳児に。
白:い、いや調べて判明したの、書き上がった後だし……
K:先に調べなさい。
白:……めんどーだったんで。偶然に任せるのも、それはそれでアリ。
  でもまぁ、そんな背景を知る以前も、マーリーチャについてはもーちょい良い名前ないかと探したんだが……良い案がなくてねぇ……
K:で? 肝心のモデルは?
白:へ? いないよ。そんなの。
K:さっきいるって言ったでしょーがっ!
白:いいやっ! 言ってないってっ!
  『いた』とは言ったけどっ!
K:同じこと――って……『過去形』……?
白:おうっ! あのキャラに似せて書こうっ! とか思っていたら、全っ然言うこと聞いてくれなかったっ!
K:またそーいう実力のなさを……
  参考までに聞くけど、モデルだった人って誰……?
白:……聞くの?
K:怯えるな。
白:い、いや本気で全然違うんでどーかと……
K:いーから話なさいよっ! ここまできたんだしっ!
白:えええええっ!?
  じゃ、じゃあ――「赤○ゃんと僕」の――藤井家にいる、「一○」と「○ー坊」……
K:うっわ。本当に全然違うし。
白:だからそぉ言ったじゃんかぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!
  どいつもこいつも言うこと聞きゃしないっ!
K:い、いや……そもそも指示に無理があるよーな……
白:うううう……もともと、その辺りじゃ<運び屋>オンリーで、ラズウェルはもっと強くて格好良かったんだけどさ……
K:今は格好良くないってこと認めるのね?
白:いや。別の種類の格好良さで勝負。
K:すな。勝負。
白:ま、まぁそれはともかく……本当は自信家だったんだけどさ……一人で<運び屋>切り盛りするぐらいだし……
K:なんでああなったの?
白:台詞回しがケインと被るから。
K:………………………………
白:あんまねー……そーゆーのはやっぱやりたくないし。言われるのは目に見えてるし。
K:……と、言うより……それ以前の問題のよーな……
白:思い切って、「見た目ちょっと頼りない兄ちゃん」でいこうかと。
K:……泣くぞラズウェル……それ聞いたら……
白:だから彼には内緒ね♪
K:い、いや……それはどーでもいいけど……
白:ラズくんを筆頭に、三人組は全員好き♪
  ――まぁ、自分が気に入るぐらいのキャラじゃないと、「神坂キャラに手加減無用」にはならないし。
K:……で、ポート=コーポレーションの方は結構色々あるみたいだけど……?
  例えばラズウェルがどうやって代表取締役に納まったのか、とか。
白:うーん……確かにきっちり決めてあるけどね。
  ただちょっと、いつ困ることになるかわからないから今回はパスとして。
  ――まぁ、触れずに終わるって可能性もあるんだけどね。
  別に話せることは話しておきましょうか。
K:あるの……? そんなの……?
白:少なくとも今まで書いてきたのは一話完結式だったから、語れないことの方が少なかったんだが……
  ともあれ、この世界はファンタジー、空想、夢物語。
  現実の物理考証はパスしてください。
K:その前置きは……っ!
  さてはあんたっ! あとがきの前にいつものように記述するタイミング、失ったわねっ!
白:ふっふっふ。そのとーりっ。
  ――放っとくよーに。
  とにかく、『ソードブレイカー』で大気圏突入、さらには海底沈没、その上真空を発生させて大脱出っ!
  だけど、たぶん無理だから。あの脱出方法。
K:……いーの……? あっさりそんなこと言って……?
白:いや。あんまし。
  まぁ、ケイン、ミリィの腕に任せたので、私は知らん。
K:め、めちゃくちゃアバウトな……
白:どーして「たぶん無理」かは、さすがに言わないけど。そこまで首絞めたくないから。
  つーか、言わないでもわかるか。
K:一応、「脱出できる可能性はあるよねお客さん?(誘導尋問)」ってことで……?
白:そゆことっ! 大学のプログラミン序論の講義の時に、
  「海底に船を沈めれば派手だし、攻撃も届かないだろーなー……
   でも、キャナルが不調だし、脱出できなけりゃどきどきだねぃ」
  ――とか思ってたんだけど――
K:既にツッコむべき場所がいくつかあるけど……
  ひとまず一つだけ。
  授業受けろよ。ちゃんと。
白:受けてたぞっ! 上の空だっただけでっ!
K:……いや、だからそれって……
白:まぁ、ともあれ、そんな感じで方向性が決まったんだけど、肝心の脱出方法がねぇ……やっぱなかなか思いつかなかったりするんだこれが。
K:自分の展開に首を絞めていた、と。
白:ま、まぁそうだけど……授業の終わりに先生に課題出されて、それを提出して退室って形なんだけど……
   そのプログラム紙に書いている時にあの脱出方法を閃いたっ!
K:状況につながりがないぃぃぃぃぃぃぃぃぃっ!
  ――それにっ! それで問題ちゃんと解けたのっ!?
白:それどころじゃないだろーがっ!
  小説のアイデアだぞっ! アイデアっ!
  もちろん解答時間中ルーズリーフにアイデア書き留めていたさっ!
K:胸をはるなぁぁぁぁぁぁぁっ! 学生の本分はどーしたっ!?
白:もち勉強。
K:言葉を実践しろぉぉぉぉぉぉぉぉっ!
白:そーは言うけどなー……一応そのプログラム、簡単に組めたので紙に書き留めるだけだったし、いつ忘れるかわからない、形をとりかけているアイデアをまとめるの、どっちが勉強になる?
K:そーいう理屈考えのはいつ……?
白:今♪
K:その時考えてなきゃ言い訳と言うんぢゃボケぇぇぇぇぇっ!
白:むうっ! 気付かれたっ!?
  ――それは置いておくとして。
  『ソードブレイカー』の不調って展開になったわけだが、途中、ケインが
  「続編なら普通はパワーアップが相場だろーがっ! パワーダウンしてどーするっ!?」
  などと言ってますが――こーゆー考えが浮かんだから、キャナルがパワーダウンすることになりました。
  ちなみに、パワーダウンすること決めたの、『朋友』直後。
  自転車しゃこしゃこ漕ぎながらバイトへ向かっている最中、
  「続編だから普通はパワーアップさせるべきだよなー……
   だからってどーするかなー……
   ――待てよ。逆に――」
  そんな感じだ。
K:……ああ、キャナルの不幸の始まりが二年近く前に……
白:い、いや一応、二年はたっていないと思うんだが……一年半未満だし……
K:どっちみち大昔。
白:……まぁ……そーだけどさ……
K:あと語れることは?
白:そーだなー……一度丸々書き直しした箇所が。
  微妙に修正、加筆、カットは何度もしてるのでもう数えてられないけど。
K:どこ?
白:言って大丈夫かなー……?
  まぁ、いっか。
  えーっと、お化け屋敷で壁ぶち壊して、いきなし運び屋グループと再会したわけですが……
  ちょっと違った。
  あの時点で三人組はいなくて、何故か黒服男たちに追い掛け回されて、その途中でばったり会うわけだ。
 まぁ、今回読んでわかると思うけど、運び屋グループがあそこに侵入していたんだが、ナイトメアの残党が見回り警備していたら突然壁ぶち壊してケインたちが現れたから、「こいつらが侵入者」だと思われたってことだが。
K:ほー。
白:うわやる気ない相槌だしっ。
K:どーコメントしろってのよ……?
白:それは貴方の腕の見せ所。
K:この拳銃の弾丸は何発だったかしらねー。
白:だからやめろって……そうやって嬉しそうにいじくりまわすの……
  とにかく、そのままアルカディアの地下へ潜入して――次の話の展開になるわけだな。
K:あれ? キャナルのエピソードまだ入れないつもりだったの?
白:プロットの何段階か目、実際書き始める段階では、ミリィの話でキャナル不調の伏線入れつつも一区切りさせて、続編でキャナルメインにするつもりだった。
  そーすると、どこで宇宙での戦闘シーン入れるか迷ったんだけど……その迷いが文面に出たのか、イマイチ文章のノリが悪くって……
  別のフロッピーに記録して封印した。
K:封印って……姉ちゃん……
白:いや、このままじゃずるずるとペースがだれそうな気がしたので。
  きちんと計算してないが、文庫本半分ぐらいは書き上がってた。
K:いいっ!?
  計算してないのっ!?
白:そっちかぃ。驚くの。
  パソコンが壊れて今修理中なんだって。
  お前は何もしてないから知らないでしょーが、一月中旬まで帰ってこない。
K:……とうとう姉ちゃんに愛想尽かして家出って奴ね……
白:違うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!
  そっ、そりゃあ一日十時間越える連続使用したけどっ! 家出なんぞ出来るかっ!
K:うっわー。かわいそー。労働基準法って知っている?
白:パソコンに適用されないこと程度なら知っているぞ。
K:はいはい。で? なんで今販売店から借りてきたパソコンで計算していないの?
白:ワード、表計算ソフトがないんだっ。
  ……まぁ、修理に出したパソは入っていて、そのインストール、リカバリ用のCDは手元にあるから出来るかもしれないけど……
  一月で帰ってしまうパソコンにそこまでやってみるのも……ちょっと面倒かなって。
K:でたわね……ぐーたら……
白:やかましっ。文句あるならやってみろっ。
  ――って、話が毎度のパターンとは言え、ズレまくってるっ!
K:毎度のパターンって……
  ……はずれているとは言わないけど……  
白:とにかく、消した方の展開は続編でかぶる危険性があるので言えなけど、そっちはそっちでたくさんありました。
  今年2001年の夏の時点では、そっちの方で書き進めていたし。
  まぁ、それで書き直すことを決心し、ロスすぺで年内に書き上げること決意して、こーして書きあがったわけだ。
  ちなみに、ロスすぺ二話でキャナルの展開がモロに直撃コースだったため、年内に――早い話が、次の話が公開される前に上げなくてはならなくなった。
  まぁ、結局あちらが先になるだろうけど。――現在のペース&展開順序では。
  ともあれ、その時本気でビビったので――そーだなー……ソードブレイカーにケインたちが戻ってくるシーンあたりから最後まで、三日で書いた。
K:……………………
  三日って――三日って――……
白:あ。違うか。
K:あ、そ、そお? やっぱし……?
白:はさんだ一日、何も書いてなかったから実質二日だ。
K:何者だあんたはぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!
白:ふっ。
  だからさっき、「パソが家出」とか言われてドキっとしたのさっ!
K:本っ気で酷使していたわけね……パソコン……
白:うみゅ。まだそのころ問題の故障は発生してなかったんだが、さすがに連続使用十時間過ぎたころはフリーズが続発した。
  人間より根性ないっ。
K:責めるなよ。そこまで頑張ったパソコンを。
白:それ以上に頑張ったから。私。
K:……ま、まぁある意味そーだけど……
  ……ほぼ半分よね……? その三日で書き上げたのって……
白:そーとも言うかもしんない。
  そのころまだどれだけ書いたか計算してなくて、一気にかなり書いたな、とか思って計算してみたら――文庫一冊分じゃ収まりきらんっつーことに気づいた。
K:もっと早くに気づきなさいよっ!? そーいうことはっ!
白:ま、まぁ私もかなり驚いて、計算何度もし直したぐらいだしなー……
  現在の完成稿になるのは、まだ手直しとか入っているんだけど。
  実は……いや。やめとく。
K:なによ……? そこまで言って止めて。
白:いや、手直し箇所について少し言おうかとも思ったんだけど……これ言うと後の展開が……
K:だいじょーぶよっ! どーせ誰もここまで読んでないわっ!
白:泣くぞ……オイ……
K:いーから話すっ!
白:じゃあ、今回○○していない、第二部ポイモノの××の描写があったんだが……あまりにも今回の展開からはずれているような気がして、消した。
  そいつの描写は見送りっつーことで。あまりに違和感あって、浮いてたから。
K:ほうほう。漢字二文字ではめてくわけね。○と×。
白:伏字の意味を減らすなぁぁぁぁぁぁぁっ!!
  当てられたらどーするっ!?
K:あたしはちっとも困らないわ。
白:お前……サイアクだっ。お前サイアクっ。
K:ふっふっふ。あとがきもそろそろ終わりかしらね?
  今回あんたが語れること少ないおかげで、結構出番が多くてちょっとハッピー♪
白:危険な笑みを浮かべつつかわいこぶるなよ。お前は。
K:ここであんた倒してもっとハッピー♪
白:ちょっ、ちょいま……っ!
  まだ話すことが――

 めきゅめがごりざしゅっ! ぱんっ! ぱんっ! ぱんっ!
 
T:……えーっと……部下Tです。
  仕事がまだあるうちに、娘達の代わりに弁明をさせてもらいます。
  あくまでこれはフィクション。あとがきだってフィクション。
  いいですか? フィクションです。
  なんか硝煙の匂いが立ち込めていたり、さびた鉄の匂いがしていたり、こーして家の窓にこそこそカーテンをかけていても、フィクション。
  いいですね? これはフィクションなんです。
  ですから、仕事続けられなくなるよーな事は起きていない。起きていないぞぉっ!
  世の中みぃぃぃぃんな嘘っぱちなんだぁぁぁぁぁぁぁっ!!
K:だぁぁぁぁぁぁぁっ! やかましいぃぃぃぃぃぃぃっ!!
  人がきれいにオチつけて終わらせようとしてたのにっ!
  油断を突いて登場するんじゃないわよっ!
T:姉をあんなにしてどこがキレイなオチだっ!?
K:「人をボコしたら幕下りる」って言葉知らないのっ!?
T:今作った言葉など知らんっ!
K:ぅおのれいっ! 部下Tのくせに見抜くとはっ!
  そもそも、自分自身に言い聞かせるためだけにわざわざ再登場するんじゃないわよっ!!
T:父ちゃんまだ仕事続けたいんだぁぁぁぁぁぁっ!
  言わせてくれっ!! こんなの全部嘘だぁぁぁぁっ!!
K:ぃやかましっ。

  めごもっ。

K:……『めごもっ』……?
  ま、まぁいいわ。家の中静かになったし。
  そーいうわけで、皆様お付き合いくださり、ありがとうございました。
  『朋友 まみえる』完成当時では、続編として続けるか黙殺するか決まっていませんでしたが、こーして続きが出てきたことですし、ちゃんと話は続くと思われます。
 ……ここまで伏線張りまくって、しかもケイン、ミリィ、キャナル全員バラバラの状態で「おしまい」はさすがにないでしょうから。いくら「ぐーたら」とはいえ。
 本家の方で物語が復活し、ファンとしては喜ばしい限りですが、毎月ビビリつつチェック入れるようです。
 おおまかな筋は決まっているものの、微妙なラインは結構動きますから。白ウサの場合。
 そういうわけで今まで一話完結されたものを公開していたのですが……どうなることやらさっぱりです。
 地獄に蹴落とされても書き上げるつもりらしいですが。
 いざとなったらあたしが蹴り落としますので。その時は。
 それではっ! これにてっ!

 ――もしあなたの町の本屋に、ロスすぺ読んで複雑な表情浮かべた人がいたら、白ウサかもしれない――

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19168はじめましてー!!!風林みつき 2001/12/24 21:48:52
記事番号19164へのコメント

はじめまして、白いウサギさん!
みつきと言います。覚えなくても年は越せます(謎)。

あの・・・ロスユニ長編のツリーですごく失礼ですが、『ハイソで粋にエレガント』の感想書いていいですか?
過去記事で読んで惚れたんですよぉーーー!!
あと『祈りを捧げて懺悔せよ』・・・でしたっけ?誤字あったらすいません(そう思うなら確認しろ)。
とにもかくにも、もとからロスユニ長編で有名な白いウサギさんですが、あのツリーで、あたしの白いウサギさんへの憧れは頂点に達したのです!

以上、らう゛ぁーずこーる終わり!(短っ)
初めましてでいきなりテンション高くてすいません!
これからもびしばし頑張ってください!
そして願わくば!またすぺしゃるその後的な話を書いてください!

それではー!
恐ろしく長いあとがきに目眩を感じたΣ( ̄□ ̄)!?みつきからでした!!!

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19208はじめまして(^^)白いウサギ E-mail URL2001/12/25 21:27:50
記事番号19168へのコメント

はじめまして。風林みつきさん。
白いウサギです。
今までHPもなければ、投稿サイクルも長かったものでして。
こういう別のツリーに別の作品の感想というのも、初めてじゃないのでご安心を。
過去のお話にわざわざ反応くださり、ありがとうございます。
ちなみに、字はあってます(笑)>祈りを捧げて懺悔せよ

>とにもかくにも、もとからロスユニ長編で有名な白いウサギさんですが、あのツリーで、あたしの白いウサギさんへの憧れは頂点に達したのです!

 いやー、ありがとうございます。
 ――って、いつロスユニ長編で有名に……っ!?
 少なくとも本人全っ然知らないんですが(汗)
 ロスユニの原作風長編書かれている方は少ないだろうな、とは自覚してましたけど……ちょっと驚きました……
 もともと、スレイヤーズ書いている期間の方が長いですから(笑)
 比率で言っても、スレの方が若干多いのですが、
 こちら書き殴りさんでは明らかにスレが多いですからね。
 そういう意味では目立っていたかもしれません(笑)

 風林みつきさんのテンション、オッケーです(爆)
 わざわざ別のツリーにまで反応くださり、ありがとうございました。
 これからも頑張っていきます♪
 スレすぺその後の話は……まだ考えてもいないですが、そのうち書いてみるというにのもいいですね(笑)
 書きたいものがたくさんあるので、遠回りするかもしれませんが。
 それではっ! ありがとうございましたっ!

 追伸: あとがきの長さは……気にしない方が身のためです(謎)

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19216お疲れ様でしたMIYA E-mail URL2001/12/26 07:56:54
記事番号19164へのコメント

白いウサギさんへ

おはようございます、MIYAです。
まずは『激動 始まる』の書き上げ、お疲れ様でした。
で……続くって、続くって!?
ついにこの長さでも続くのマークが出るようになったのですねぇ。
さすがロスユニ……(遠い目)
と、言うことで? 感想は完結のマークが出てからさせて
頂くことにします(爆)
頑張って続きを書いて下さいね♪
HPの方と併せて楽しみにさせて頂きます。
それでは。
今回は本当にお疲れ様でした。

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19239MIYAさんこそ、お疲れ様でした(笑)白いウサギ E-mail URL2001/12/26 23:46:56
記事番号19216へのコメント

焼き鳥食いまくって、最後の締めはソフトクリーム。
こんばんは、白いウサギです(先ほどまでたらふく食っていたらしい)

ご一読、ありがとうございました。

>で……続くって、続くって!?
 えーっと……じゃあ、あそこでおしまい、とゆーことに――(ならないならない)
 長編で初のモロに続く、です(汗)
 どんどん長くなっていきますねー……私……(遠い目)
 とっとと完結させたかったりするのですが、アイデアと執筆時間、能力はまた別、とゆーことで。
 あとがきで語ったように、まだまだ書く内容あるので、頑張っても――長い時間を要するでしょう……(汗)

>頑張って続きを書いて下さいね♪
>HPの方と併せて楽しみにさせて頂きます。
 ありがとーございます♪
 引き続き頑張らせていただきます。

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19225はじめましてッ!むくぅ E-mail URL2001/12/26 19:21:24
記事番号19164へのコメント

 はじめまして、むくぅと申すものなのです。
 まずはじめに言わせてください。

 すごいですっ!

 かなり素敵なのですッ! あまりのケインたちの『らしさ』に、一人にへにへしておりますのです。

 しかもなにやら続くもようッ!
 楽しみに待っております。
 それでは、短いですがむくぅなのでした。

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19240はっじめまして♪白いウサギ E-mail URL2001/12/26 23:53:11
記事番号19225へのコメント

 はじめまして。むくぅさん。
 白いウサギですm(_)m

> すごいですっ!
 わーいっ。お褒めの言葉♪
 むくむぐむぬ……っくん(食うな)
 ありがとうございますっ!

> かなり素敵なのですッ! あまりのケインたちの『らしさ』に、一人にへにへしておりますのです。
 原作風に書かせていただいております。
 『らしさ』はやっぱはずせないポイントですねっ!
 そう言っていただけて、嬉しいです♪
 ――あ。でも、にへにへする時は、人の出入りに注意してくださいね(をい)

> しかもなにやら続くもようッ!
> 楽しみに待っております。
> それでは、短いですがむくぅなのでした。

 ありがとうございますっ!
 そーなのですっ! 続くのですっ!(いーのか。ホントに)
 実は次の話ですら『――つづくっ!』をつけないで済むか謎だったりしますっ!(をい)
 短くても関係ないですっ! 反応していただけて、嬉しい限りです♪
 それでは、これにて失礼します♪

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19258Re:『激動 始まる』ブラントン 2001/12/28 00:34:39
記事番号19164へのコメント

 遅れましたが、『激動 始まる』の感想(の続き)、いかせていただきます。
 今回初めて第一稿を事前に見させていただいた身、なんだかいつもと違う感じでありました。
 完成稿はそれとはいくらか改変の跡がありますが、全体的な部分では大きなものはないため、総じての感想は以前お送りしたもののままで。変えようもありませんって(^^;)
 のわけなので、その際のレスのレスと、変更部分の感想が主体になります(m_ _m)
 まずレスのレスは私信のようなものなので、短めに。

>幻の第六章
 いや、改ページされてるし、分量的にもたぶんそうなのではないかと思ってはいました、正直(^^;)
>キャナル方面のロスすぺとのかぶり
 今日発売のドラゴンJr.では・・・・・・あんまり進展はなかったですが、ああいう展開でのキャラたちの描写では、シチューエーションが同じなら、本家に近ければ近いほど、同じような表情を見せざるをえないのかな、と大変さが思い浮かべられるところです。あぅ、なんだかわかりにくい日本語ですが・・・・・・
>感想ってどうやって書くつもり
 ははは・・・・・・これはもうこうして現物を見ていただくしかないわけで(^^;)
 続き物だからこそできるものもありますし。これも挑戦です。
>自分で紡いだ糸に絡まないよう気をつけます
 さりげなくアニメ版のキーワードを使っていたりするところ、お見事です。
 人物相関図は実際作るの難しそうです。ムック本などでは当たり前のようにありますが、じつはすんごく大変な気がしてなりません。私も挑戦したことありますが、もぉほとんどパズル状態で――10人ぐらいのでも苦戦してました。
>ナイトメアの残党がミリィを担ぎ上げる
 そういえば、そんな描写直接的には全然なかったんですね・・・・・・
 自分では危うく確定事項として扱ってました。これが世に言う、脳内補完――すなわち思い込み。
 あ、でもミリィの異変は「お風呂一緒に」でなんとなく――なんとなく、ですが違和感は覚えていました。たぶん、思惑通りに。

 では、続きまして第一稿からの変更部分を。
 訂正最有力候補がしっかり変えられているのも確認しましたが、個人的におおぉっ、と注目した二点、挙げさせていただきます。

>計算どおりミリィと接触を果たした後、コンピューターグラフィックスで作り上げた『ルキア』で適当に話を合わせておいた。
 ・・・・・・く、くわえられている・・・・・・
 ごめんなさい。私も思いました。架空の人物のはずなのに、前にトランが
>「さきほど連絡取ったら、追っ手の連中さん達もミリィさんをルキアさんと勘違いしたようで、無事まくことが出来たと言ってましたので」
 と語っているのはどういうことだ、と。
 じつは、気づいたのはこの完成稿読んでてそのセリフの場面に行き着いたときなんで、最初は気づかなかったってことなんですけど(^^;) 急いでこの部分を確認してみれば、しっかりこの一文が・・・・・・さすがです。

>『置き去りにされそうな気がするので置き去りにしてやります。
> じゃーね。危険な場所でまた会いましょう。ラズ兄へ』
 こちらの意見を通させていただいたようで恐縮です。どうやら、次の話で出てくるシーンを前倒しなさったようで。
 でもやはりこのシーンが加えられたことで、より話の完成度が高まったと確信します。「つづく」とする際の後編への引っ張り度、といいますか、前編の締めでいろんなサイドで問題を噴出させまくって、「さあ、どうなる!?」というところで絶妙な引き! たまらないですよ♪(『終わるデイ・バイ・デイ(上)』とか)
 ナイトメアの残党が終盤ちょこっと動き始める、という差し込み具合もまた惹かれまくりです。これが後編の序盤に出てくるのではまるで違います。

 そして続いてはずばり今後の展開予測っ!
 くうぅ、これこそ続き物だからこそできる特権! もう外しに外しまくって見事大道芸人へ昇華して見せましょうぞっ!<無理してます

・キャナルの不調の原因は?

 これは・・・・・・図らずもロスすぺでも扱っている問題であるにもかかわらず、いちばん予測つかないんですけど・・・・・・
 まぁ、とりあえず「鼓動」という言葉をヒントに、『キャナル人間化計画』に一票入れさせていただきます。
 だいぶとっぴもない選択肢ですけど――人間化の傾向によって、船との接続が徐々に離れつつあるので、不調になっていると。じゃ、なんでそうなっているのか、というその説明に対し当然生まれる至極根本的な問いに答えられないのが、致命的なんですが、そこらへんはもう放棄します〜(遠い目)
 これなら最終的なハッピーエンドも万全ですし、じつのところかの「セイバーマリオネットJtoX」でもやっているネタなので、トンデモ系の中ではなにげに順当路線だったりする気もします。

・ケインたちを攻撃してきた声の主ははたして過去に対戦した遺失宇宙船なのか?

 うーむ・・・・・・個人的には、もし復活組だとしたら、ダーク・スター本体以外だと、敵としてのカリスマ性というか、作品的な魅力がどうも劣ってしまうので苦しいかな、とは思います。ので勘でしかないですが、それにはちょっと懐疑的。
 私の中での最有力は、ソードブレイカーに補完船がいたんだから、ダーク・スターにもいておかしくないだろう、という『朋友』設定を利用してのそこらへんが出てきたりするとスムーズかな、というものなのですが・・・・・・それだとあの声のセリフに整合性がどうも・・・・・・
 じつはこれもあんまり想像つかないんです――

・ミアヴァルド&セピアの再登場はあるのか?

 これはもぉ、いかにもな伏線が張ってあるので出てくるでしょう。
 ラズウェルの「こういう荒事に嬉々として付き合ってくれる友人」。たいがいのパターンから、出てくるのは彼女以外考えられません! これだけはちょっと自信あり。
 でも心の隅では、逆にそう思わせるフェイク――という可能性も捨てきれないと警告を鳴らす声もあります。はてさて。

・ポート=コーポレーションの面々はこのあとどうやって話に関わってくるのか?

 というのはじつはあんまり想像つかないんですけど(T_T) 前回のミアヴァルド&セピアのような直接遺失宇宙船とかの根幹設定部で関与している、というわけではなさそうだ――というのがとりあえずの印象です。それも騙されてる気はしないでもないのですが・・・・・・.
 その際に気になるのはガンマとラズウェルの関係でしょう。年のころと髪の色が同じに「どうせ子守だ」のセリフから匂ってくるものもありますが、同一人物だとするにはその後の反応がおかしいので、それはなさそう。
 またもう一つ、彼らがのちのち通りそうなシーンでもなんとなく浮かぶものが。って、私の浮かぶようなものなんて、たかが知れてますが――まぁ・・・・・・私なら、ということで。
 「減点方式」という設定を利用して――捕まった子供二人組を助けに行くためにラズウェルが単身危険を犯しどこかに乗り込むようなことになって、逆に子供たちは彼を危険な目にあわせたくないから「そういう行為は企業の代表取締役としてふさわしくない」と理由つけて大減点して寸前で勝手に彼を解任させて――と、そんな展開が、パッと浮かびました。
 って、自分で書いといてなんですけどやっぱりベタすぎですね、これ・・・・・・

 では、最後にいつものお気に入り部分抜き出しを、いっきに。
 今回もまたとにかく「すごい」と思った部分を過不足なく抜いてますので、とんでもなく多く――すべて一行ずつにしています。どうしてここが、と疑問に思われるような箇所は、その周囲の表現が、ということでお願いいたします。

> やっと、従業員に給料を支払う、なんとかギリギリ真人間に片足の指先だけ入れて見せたわ……!」

>「わたしがケインのこと、『考え無しに動く単純馬鹿だと思っている』と思ってなかったんですか?」

> だって――あたしは今一人でいるじゃない。

>「いっそ、一生言えなくなる?」

>「幼児誘拐犯って奴……? サイッテーね……!」

>「あら、ケイデレラ。こんなところに埃が落ちてるわよ。

>「なるほど。持ち逃げしない程度の給料は渡したんですね?」

>「さっ! ぐずぐずしてないで逃げるわよっ!」

>「自分たちで名乗っていたわけじゃあなかったんですけど――世間様ではこう言われてます」

>「この場全員がやばいわぁぁぁぁぁっ!

> マーリーチャのその屈託のない笑顔が、今のミリィには――とことん怖かった。

> なんでも、『光の翼』について重要な情報が寄せられたと――」

>「何故だぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!」

>「集合場所へと移動だな」

>「そういうセリフは集合場所で待ち続けた奴が言えるんだ……!」

> キャナルならいざ知らず、お前に負ける気はないぞ」

> ――挑戦状――

> ――置いとくなよ。俺の人生。

> 僕なんか手が銃に届いてしまいましたよ」

>「いや……あたしはそんなこと一言も言ってないんだけど……」

>「僕たちの家系はみんな最初から深緑ですけど」 

> その時、優勝商品の発送をするので連絡先を、などと聞かれたのだが、『仕事中なので失礼します』と、レイルはささやかな抵抗をしたりしていた。

>「いや。仕切りなおさんでいいから」

> かっこいいセリフで誤魔化すにはちょっと無理が……」

>「名誉毀損っ!」

>「名前をわざと呼ぶなってのっ! スケープゴートなんてまっぴらだっ!」

>『ごめんで済むかぁぁぁぁぁぁぁぁっ!』

>「そうですね♪」

>「それ……絶対ケインの記憶違いだと思う……」

> ……うーん……でも、ボーナス――ボーナスかぁ……」

>「ケイン! 相手側のグループで一番権力のない奴に言っても無駄だっ!」

> ――立体映像で併走すんなっ! ペースが乱れるっ!

> 言葉を話した分息が乱れたのか、軽く咳き込むミリィ。

> 窓に反射するマーリーチャの顔が赤く染まっていることに。

>「ケイン、ミリィの上着のチョコも没収です」

> ――ちっとも役に立たない特技である。

> 計算が得意な自分が憎いっ!」

>「特撮もあるっ!」

>「こらこらこらっ!」

>「前の時に意識残っていたのは俺だけだもんなー。たっぷり味わうんだぞ、ミリィ」

>「結構お手軽な人生ですねー……」

>「――危険な――場所なのね――」

>「口を慎め! 仲間を沈めて何が『さすが』だっ!?

>「――『ソードブレイカー』かっ!」

>    それに――『後方』だと……っ!? ンな曖昧な範囲、キャナルから聞くのは初めてだぜっ!

> ケインは、右手で頭を抑えて、皮肉な――それでいてどこか乾いた笑みを浮かべる。

> ――そんな日はきっと――来ませんよ――永遠に――

> それってお前はセーフで俺らはアウトかっ!?」

> 戸惑いが生まれた。

>「――奇跡ってヤツをな」

>「『成せば成る。成さねば成らぬ。何事も』」

>「……愉快な報告だな。ベイン」

>「どこが『お互い様』よ……?」

>「船のじゃ無理だけどこれなら――一緒に入れるわよ♪」

> 壁を殴りつけた。

> ――あたしは嘘をついた――

>「ふざけんなっ!」

> 正面で頭を下げ続ける男たちの向こうで、開園時間を向かえた<アルカディア>の門が、メロディを奏でながら、ゆっくりと開いていった――

 ほんっきで多いし・・・・・・つくづく、レベルの高さを思い知らされます。
 ベストシーン&セリフは、シリアスとギャグで一つずつ。前者は
> 窓に反射するマーリーチャの顔が赤く染まっていることに。
 のシーン。これまた至極妥当で悔しいんですが(^^;) 後者は
>「名誉毀損っ!」
 を選ばせていただきます。他では「ケイデリラ」と「挑戦状」ネタがヒットでした。

 あぁぁ、やっぱり長い――今回もいつものよーに3時間です。
 でも、今回は落ちたら引き継げる場所があるのでちょっと安心。

 では、失礼いたします。

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19261激動 始まりつつ白いウサギ E-mail URL2001/12/28 16:02:12
記事番号19258へのコメント

 早くも落ちかかっている、ツリーへのレス。
 こちらではお久しぶりになってしまう、白いウサギです(爆)
 今日これから外出するんですが、出かける前に今のうちにレスをしとかないと、落ちそうですからね(^^;)

>ロスすぺかぶり
 確かに、あまり内容進展してませんでしたね。
 技術者のことを少々触れていたり、宇宙軍(U・F)や星間警察(U・G)が絡んでくるのか、といった風な展開で。
 ――ふっ……宇宙軍(U・F)も星間警察(U・G)も扱う自分としては、気になったりしますけど、まぁさすがに同じようなことにはならないかと――思いたいです……(弱気)

>訂正箇所:
 まぁ、いくつかあるんですが。
 最有力候補だったとは言え、「動機は十分」とかのやりとり好きだったんですけど……
 泣く泣くカット。ああ、断腸の思い……
 あと、気づいた人は極少数かと思われる部分も。
 離れ小島の別荘の浴室。金で出来ているとはしゃぐミリィに、ケインは言ったセリフ。
>「小銭でも貯めたんだろ」
 慎吾ママには秘密があるの〜♪
 ネタだったりするのですが、きっと誰も気づかない(笑)
 こーゆー気づかないだろうと思いつつ小技を織り込むの好きなようでして。
>ルキアのCG
 いや、頭の中で物語りは動いているわけですから、違和感無く書き進めてしまうんですが、読者には私の思惑なんか全っ然知らないわけですよね。
 頭の中で既に決定事項として扱っている分、説明するの忘れているのがあったりします。
 ――で、気づいたので補完計画発動。
>追加シーン「ラズくんの受難」
 劇中春ですけど、現実世界の私たちは冬ですから、どーしても夜に寒い描写が入ってしまったり(笑)
 前倒しと言うよりは、このシーン書かずにソードブレイカーチームと絡む予定だったのですが、やっぱ入れた方が良かったというのが結論です。
 勝手に二人が行動を起こすとは決めていたのですが、こういう起こし方は考えていませんでした(笑)
 で、あと一応社長っぽい仕事もフォローしておいた方がいいかな、というわけであんな風なシーンが出来たわけですね。

>つづくっ!
 この字 何の字 気になる字〜♪
 ――ってなこと言われそうなぐらい、引きですね。
 おいおいおいっ! どーすんだよこれからっ!
 って、位置で止まってます。
 プロット渡すから誰か素早く書いてくださいぷりぃず――なほど、自分が読みたいんですが(汗)
 ナイトメアの残党が登場しているシーンですが、最後の「つづくっ!」を書いた後、読み返している最中に追加しました。
 最初は無かったんですねー。はっはっは。
 補佐している、ベインなど、セリフの流れで決まりましたから。最初は名前など無かった。
>「……愉快な報告だな。ベイン」
 愉快な報告だな。の後に、名前入れた方がしっくりするので。それだけ(爆)
 そーいうわけで、このセリフにしっくり来る名前とゆーことで、あっさりぱっと決まってしまいました。
 名前が決まったことで、出番増える可能性はあがったのか。それはまだわかりませんが(笑)

>展開予測
 えーっと……コメントするとおもいっきしバレること確実ですので、反応しないでおきます。
 あとにこちらでコメント書いておきますので、バレても平気な話が書きあがったら、その時返事を公開させていただきますです。はい。

 定例の引用集へのコメント〜♪
 さーて、今回はっと。
 ――長っ! お、多いし……嬉しいけど……
 
> やっと、従業員に給料を支払う、なんとかギリギリ真人間に片足の指先だけ入れて見せたわ……!」
 特に苦労することも無く。
 神坂風のセリフでしょうか。結構ぱっと浮かんだものです。

>「わたしがケインのこと、『考え無しに動く単純馬鹿だと思っている』と思ってなかったんですか?」
 「思っている」という言葉が二つ重なる文、どうすればさらっと理解して読み進められるかを考えました。

> だって――あたしは今一人でいるじゃない。
 絶対にやろうと思っていたこと。
 ケインと一緒にいるからトラブルに巻き込まれるワケじゃないんだよってことで(笑)

>「いっそ、一生言えなくなる?」
 切れてます。ミリィ。
 給料の恨みはでかいのです。

>「幼児誘拐犯って奴……? サイッテーね……!」
 このセリフはいくらかパターンを変えました。
「用事誘拐犯って奴……?」
「用事誘拐犯って奴……? 最っ低……っ!」
 など、数パターンあったのですが、結局一番上ので。

>「あら、ケイデレラ。こんなところに埃が落ちてるわよ。
 舞台の攻防を書いていたころに、浮かんでメモっておいたセリフ。
 ケイデレラは……嫌だなぁ……

>「なるほど。持ち逃げしない程度の給料は渡したんですね?」
 必殺。誘導尋問。
 日常生活でもこーゆーこと私よくやるんですが(やめろ)
 面白いのでこーゆーの好きです♪

>「さっ! ぐずぐずしてないで逃げるわよっ!」
 お金の心配さえなくなりゃ逃げるのみ。 

>「自分たちで名乗っていたわけじゃあなかったんですけど――世間様ではこう言われてます」
 頭の中でキャラがしゃべるわけですから、言いにくいセリフはよろしくない。
 それと、印象に残すために音とリズムのアレンジもしてみました。
 そういうわけで、これもいくらかセリフに手直し入りました。

>「この場全員がやばいわぁぁぁぁぁっ!
 警察吹き飛ばすわけですからねー。
 カーレースやっている分、もうちょっと追っ手の存在感出したかったんですけど、車と車ですからねぇ……
 追っ手だけのシーンを加えればいくらかマシですけど、そこまでして入れるのはどーかと……

> マーリーチャのその屈託のない笑顔が、今のミリィには――とことん怖かった。
 いや。怖いでしょう。
 あいつら二人はそーゆーキャラです。気をつけましょう。
 笑顔の先に、不幸な結末。
 ……キャナルと一緒か(汗)

> なんでも、『光の翼』について重要な情報が寄せられたと――」
 ロスユニは「光」という単語は重要キーワードですからね。
 他には「闇」とか、「夢」、「悪夢」――
 まぁ、色々ありますが、そういうのを利用できるように、やりました。
 この『重要な情報』が、ミリィの昔の名前ってことで。

>「何故だぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!」
 たまにはケイン、ミリィに負けないと(をい)
 書き始めている当初、ミリィの過去の名前ネタで今回の話を全て収めるつもりでしたから。
 そーゆーわけで、前半ミリィの出番の方がケインより多いんですが。
 収まらなかった――収まらなかったんだ……

>「集合場所へと移動だな」
 さらりと背後で言います、レイル。

>「そういうセリフは集合場所で待ち続けた奴が言えるんだ……!」
 早目に着いても、そこに居ないでうろうろしていちゃ待っていたことになりませんし(笑)

> キャナルならいざ知らず、お前に負ける気はないぞ」
 うーん……ケインとレイル、どっちが言い合いに勝てるかと聞かれると……
 正攻法でいったらレイル。勢いで何でもありルールだったら、ケインかな。
 とりあえず、さりげにレイル警視、キャナルに負けることは認めています(笑)

> ――挑戦状――
 ごめんなさい。結構さらりと浮かんでしまいました(私の頭って一体?)
 これはプロットとかメモをとっておいたネタでして、やろうと思っていたのは随分前。
 このあたりのシーンがカットされまくっていたのですが、挑戦状だけは生き残りました。
 後半のやりとりもありますしね(笑)

> ――置いとくなよ。俺の人生。
 かなり間抜けですよね。このツッコミ(笑)
 やはり気に入っています。

> 僕なんか手が銃に届いてしまいましたよ」
 平たく言うと、口封じ(笑)
 微妙な言い方なので、
「口封じする気だったのか……? レイル……」
 などと変えるべきか迷ったんですが、わかってくれるだろうとはっきりとは言いませんでした。
 読者に頼るの、結構多いです(笑)
 やっぱ書き手が一から十まで説明するのは、丁寧ですが、推測させる文も好きなので。

>「いや……あたしはそんなこと一言も言ってないんだけど……」
 授業中執筆していたこのやり取りで、ルーズリーフに書かれていない部分l。
 ルーズリーフ片手に本書きしつつ、書き足しました。

>「僕たちの家系はみんな最初から深緑ですけど」 
 目の黒いうちは――ってセリフにツッコミを入れるの、結構漫画でもよく見かけますよね。
 それです。

> その時、優勝商品の発送をするので連絡先を、などと聞かれたのだが、『仕事中なので失礼します』と、レイルはささやかな抵抗をしたりしていた。
 開始直後に撃沈は怒るでしょう……(^^;)
 不機嫌を表すためにやってもいない「仕事」を利用。

>「いや。仕切りなおさんでいいから」
 ミイラくん、哀れ……
 お化け屋敷のエピソードで、真っ先に思いついたのがこの仕切りなおし。

> かっこいいセリフで誤魔化すにはちょっと無理が……」
 どっちかっつーと、ミリィはケインに、というより、私にツッコミを入れてます。
 ふーんだ。どーせ思いつかなかったですよ(涙)

>「名誉毀損っ!」
 適用されません(笑)
 たぶんブラントンさんに渡した原稿ではなかったと思いますが、少し本当の法律もちょこっと追記。
 一応訴えは本人が原則。個人だった場合に限り、その遺族が訴えることは可能ですが、関係のない第三者が言っても……ねぇ……
 予断ですが、切り裂きジャックが実在すること、今回の執筆に当たっての下調べで初めて知りました。

>「名前をわざと呼ぶなってのっ! スケープゴートなんてまっぴらだっ!」
 わざとです。
 ふざけも多分に入っていますけどね(笑)
 いざとなったら捨て鉢にするつもりです。トラン。

>『ごめんで済むかぁぁぁぁぁぁぁぁっ!』
 そりゃ済まないですよねぇ……
 命狙われる物事に巻き込まれて謝罪して終わりじゃ……
 今回、ケイン、ミリィ、レイル三人の最大のチームワーク発揮箇所です(をい)

>「そうですね♪」
 なぜかあっさり騙されるレイル。
 迷うことなく入力。
 ミリィに弱いのは相変わらず、ということで。
 ……本当は女に弱いってことですが……(汗)

>「それ……絶対ケインの記憶違いだと思う……」
 記憶違いです(きっぱり)
 五・七・五で構成されていますので、スレ長編の各章タイトルに回そうかちょっと悩みました。
 リナですからねー……あんなの言うとしたら……

> ……うーん……でも、ボーナス――ボーナスかぁ……」
 悩むなミリィ。
 カットした部分で前もってボーナス話題が触れていたんですが、伏線の張り具合としては弱いので、カットしました。

>「ケイン! 相手側のグループで一番権力のない奴に言っても無駄だっ!」
 ないですねー……権力……
 頑張れラズウェル。

> ――立体映像で併走すんなっ! ペースが乱れるっ!
 本当は併走するシーン、徒競走で走り負けるシーンはなく、全て操縦室内でのやりとりだったのですが、セリフだけで動きがないので変えました(舞台か。これは)

> 言葉を話した分息が乱れたのか、軽く咳き込むミリィ。
 そういうわけで、実際このセリフは息切れせずに言ってました(汗)

> 窓に反射するマーリーチャの顔が赤く染まっていることに。
 すいません。王道。妥当。ベタです。
 三人組の中で、一番素直じゃない奴だったりします。

>「ケイン、ミリィの上着のチョコも没収です」
 紅茶でコントロールパネルにぶちまけるシーンを入れるため、ここのシーンに戻って、紅茶のやり取りを追加。
 会話の成り行きでチョコも没収、とゆーことで。
 実はしっかりバレてます。部屋への持込(笑)

> ――ちっとも役に立たない特技である。
 立ちませんね。役に。
 私的には面白いので助かってますが、彼らの世界、空間では全っ然(笑)

> 計算が得意な自分が憎いっ!」
 実はGS美神ネタ。
 相手の能力の高さだけがわかってしまってそんなこと言ってましたが。

>「特撮もあるっ!」
 とりあえずツッコんでみました(笑)

>「こらこらこらっ!」
 出力が役立たずと即答する制御コンピュータ……
 たぶん五巻の
「損害は!?」
「聞かないほうが良いですよっ!」
「――なら聞かんっ!」
 の影響かと。

>「前の時に意識残っていたのは俺だけだもんなー。たっぷり味わうんだぞ、ミリィ」
 四巻のネタとかぶるわけですから、多少はフォローしとかないと(フォローか?)

>「結構お手軽な人生ですねー……」
 ……あれですね。フルメタネタです。
 カナメと恭子のやりとり。

>「――危険な――場所なのね――」
 浸ってボケを言うのも好きだったり(舞台での攻防:料理食べ残しゴーレムのシーンもそう)

>「口を慎め! 仲間を沈めて何が『さすが』だっ!?
 みゅううう……クラーコフはどこまで触れて良いのか謎だったりしますが、もうあまり気にしないことにしました(をい)
 副官は損な役回りですね。

>「――『ソードブレイカー』かっ!」
 正解っ!
 振り向きざまに言っていますし、このワンシーン結構格好よくて好きなんですが。
 格好良い軍人=クラーコフの定義になりつつあったりします(をいってば)

>    それに――『後方』だと……っ!? ンな曖昧な範囲、キャナルから聞くのは初めてだぜっ!
 不調を表すため、多少は不自然さを出さないと。

> ケインは、右手で頭を抑えて、皮肉な――それでいてどこか乾いた笑みを浮かべる。
 頭の中で映像流れているので、入力はオートです。
 この辺りは世界に入りきっているので(短時間で書き上げましたし)、どうやって入力したのか、一瞬一瞬までは記憶がありません(アブない)

> ――そんな日はきっと――来ませんよ――永遠に――
 ちょっとやってみたかったシーン。
 追加で「――くどいですよっ! マスターっ!」とか入っていたりしますね。

> それってお前はセーフで俺らはアウトかっ!?」
 ほら、白いウサギ。ソフトボール大好きですから(関係なし)

> 戸惑いが生まれた。
 世界に入りきっているのでなんとも……
 まともにコメントするとこっ恥ずかしかったりします。

>「――奇跡ってヤツをな」
 格好良すぎるケイン。
 ケインファンは大喜びでしょう(をい)
 このセリフを言わせたいがために前のセリフを調整したりしました。

>「『成せば成る。成さねば成らぬ。何事も』」
 立派な言葉ですが、ケインがいうと「ちょっと待て」になってしまったりします。
 いやまぁ、結果的には好転しましたけど(笑)

>「……愉快な報告だな。ベイン」
 ナイトメアの残党の割には、ダークっぽさが薄かったりします。
 さぁどーくる、この二人。

>「どこが『お互い様』よ……?」
 一方的です。実は(笑)

>「船のじゃ無理だけどこれなら――一緒に入れるわよ♪」
 ちょっとケイミリか?
 白ウサが書くものにしては、雰囲気変わっていますね。

> 壁を殴りつけた。
 ご苦労様です。
 どーやってこのシーン切るかなーとか考えていたんですが、微妙な状態で切るより、いっそのこと落とした方がいいかな、と(笑)

> ――あたしは嘘をついた――
 もーちょいくどく描写してあって、この時点でメールを受け取ったことバラしてあったのですが、もうちょい引っ張ろうかと思って、移動しました。

>「ふざけんなっ!」
 キレるだろう、と。
 メモにものっている、早い段階で決まっていた展開です。

> 正面で頭を下げ続ける男たちの向こうで、開園時間を向かえた<アルカディア>の門が、メロディを奏でながら、ゆっくりと開いていった――
 気に入ってるんですよねー。このフレーズ。
 門と一緒に、「物語は開かれた」、「激動の扉は開かれた」など、色々暗示しています。
 まさに「始まる」。

> ベストシーン&セリフは、シリアスとギャグで一つずつ。前者は
>> 窓に反射するマーリーチャの顔が赤く染まっていることに。
 確かに妥当で狙ってますからね(笑)

>>「名誉毀損っ!」
> を選ばせていただきます。他では「ケイデレラ」と「挑戦状」ネタがヒットでした。
 上記三つは自分も気に入っています♪
 
> あぁぁ、やっぱり長い――今回もいつものよーに3時間です。
> でも、今回は落ちたら引き継げる場所があるのでちょっと安心。
 確かに(笑)
 HP作っている分、多少は問題減ったかと(笑)

 いつものように、長い間レス、感想に時間を割いていただき、ありがとうございました。
 ではでは〜♪

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19215Re:『激動 始まる』清川正寛 2001/12/26 01:52:03
記事番号19157へのコメント

 ちなみに、『朋友 まみえる』の『朋友』は、中国語では「ポンユウ」と発音します。←第二外国語で中国語習得中(笑)
 それはともかく、いまだ、読んでいる途中ですが、とにかく今感じた印象を述べたいと思います。
 まず一言で言うのなら、「壮大」なお話ですね。ロスユニのスケール感にふさわしい、壮大な大宇宙を舞台にしたお話。そして、なおかつソードブレイカーの住人たちが織り成すドタキャンコメディも健在。そして、何より物語全体にそれとなく漂うミステリアスな雰囲気。今まで私がみたところ、すべてがパーフェクトです。すごすぎます。少なくとも、私には、絶対こんな完成度の高い作品は書けません。
 原作の雰囲気をまったく損なわない非常に素晴らしい構成ですね。さすがは、白ウサギさんが構想に10年、製作に5年をかけ、制作費20億、動員されたエキストラの数は述べ20万人、馬は約1万頭という大作だけはあります。この分だと、某「ハリー・○ッター」も、「千と千○の神隠し」も、すぐに追い抜く興行記録を打ち出すことでしょう(笑)
 ・・・まぁ、それは冗談として、とにかく、すごい、面白い、目下はそんな単純な誉め言葉しか思い浮かばないほどすごいです。
 ・・・っと、なんか、全然具体的な感想になってないし、これ以上は単に墓穴を掘っているだけのような気がするので、とりあえずはこのあたりで感想を止めて置きますね。
 全部読み終わったら、また改めてレスしたいと思います。では。
 

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19241激動 自分的にも始まる白いウサギ E-mail URL2001/12/27 00:09:06
記事番号19215へのコメント

 まぁ、書き上げるまでは『激動』が続くわけですから。私(汗)

 『朋友』の中国語発音、他の方にも教えてもらったことがあります(笑)

 スケールですが――これからもっとでかくなっていきます(バラしていーのか)
 今回はまだ「大きくなっていくのかな」といった程度でぼやけてますが、これからどんどん深みにはまって――もとい、大変なことになっていきます。――あくまで予定(をい)
 パーフェクトとは程遠いんですけどねー……
 もしパーフェクトなら、手直しわずかでとっとと公開してますし(笑)
 変なこと言うようですが、大事なこと。
「先を読みたいと思わせる中毒性」が前半薄いんです。
 これが今作の一番の欠点かと。
 何十回も読み返した私が読んだこともあるんでしょうが、
 途中、休憩を入れたくなるんですよ。
 一息つきたくなる。
 それは小説書いている身としては、よろしくない。
 休憩などほっぽっても先を読みたくなるよーなものを書くべき――と、いうより、書きたいです。

> 原作の雰囲気をまったく損なわない非常に素晴らしい構成ですね。さすがは、白ウサギさんが構想に10年、製作に5年をかけ、制作費20億、動員されたエキストラの数は述べ20万人、馬は約1万頭という大作だけはあります。この分だと、某「ハリー・○ッター」も、「千と千○の神隠し」も、すぐに追い抜く興行記録を打ち出すことでしょう(笑)
 ふっふっふっ! そのとーりっ!
 次回作のスレ映画、ロスユニ映画も、実は脚本を手がけることに――
 ――って、なるかぁぁぁぁぁぁぁっ!!(汗)
 今日ぷれみあむ観てきたので、映画向けの話も書きたくなったりしてますが(笑)
 原作の雰囲気は意識しています。
 構成はまだまだこれから、ということで。

 それではっ! まだ途中だと言うのに、レスをつけてくださり、ありがとうございましたっ!

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