◆−金と銀の女神29−神無月遊芽(5/26-16:24)No.15639
 ┣みてい様へ−神無月遊芽(5/26-16:34)No.15642
 ┃┗呼ばれました?−みてい(5/26-22:37)No.15657
 ┃ ┗お呼びしましたわっ−神無月遊芽(5/28-19:04)No.15672
 ┗金と銀の女神30−神無月遊芽(5/28-20:24)No.15673
  ┗金と銀の女神31章−神無月遊芽(6/1-00:01)NEWNo.15716
   ┗金と銀の女神32−神無月遊芽(6/2-10:38)NEWNo.15752


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15639金と銀の女神29神無月遊芽 E-mail URL5/26-16:24


 こんにちは、神無月です。
 やっと最終話が近づいてきましたわ…一応予定では36章で終わるので…あと7話ですね…。
 アリアのお父様が登場☆

****************************************
                     金と銀の女神
                   〜世界が始まるとき〜


  29章 死への招待券

 gold 彼の人は最も美しく最も混沌に近しい
   その名を聞いた者は死の祝福を受けるという


 朝日がそれを照らし出す。
 彼らは道を歩いていた。
そう、目的の場所へと通ずる狭い山の狭間の道を。
だが、それすらもおとりにすぎない。
彼らは、彼らの希望を目的の場所に送り届ける事が役目。
誰もこのまま無事でいられると思っているはずもなく、また、強い使命感を覚えていた。
『セリオスさん、そろそろ抜け道ですよ』
ディルトの言葉に、セリオスがこくりと頷いた。
 見ると山肌の部分に、一つ大きな岩が見えた。
どうやらその岩が、抜け道を隠しているらしい。
『岩で塞がっていますから、動かさすか壊すかしないといけませんね…』
「ん〜…」
「壊す…か…」
ルナとソードが顔を見合わせた。
そして、にやりと笑う。
「「まかせて(ろ)」」
セリオスとアイセラはそのまま見守り、騎士達はざわめきはじめる。
何しろ、岩の大きさは人間の…しかも男の身長ほどもあるのだ。
しかも殆ど綺麗な円…つまり、太さも人の身長ほど。
それをたった2人…しかも1人は女の子が、まかせてなんて言い切るものだから困惑も当然。
 だがその2人はまったく気にした様子もなく、神経を集中し始めた…。
「ひゅぅぅ…」
「…はぁぁぁ…っ」
2人がそれぞれの武器を構えた時に、ルナの唇から風が漏れるような声が、ソードの唇からは地鳴りのような声が聞こえた。
これは、2人が真剣になっているということ…。
 岩を壊す。口で言えば簡単だが並大抵ではできる事ではない。
そう”割る”のではなく”壊さなくては”いけないのだから。粉々とまではいかなくても、10、20に砕けなくて壊すとは言えない。下手に2つに割ったりなどしたら、もっとその道を通り辛く、岩を壊しにくくなり、状況を悪化させるだけなのだから。
だから2人は神経を集中している。
力が拡散しないように、目標だけを砕け散らせるために…。
「「たあっ!」」
2人の声が重なる。
そして…

         ズゥゥゥゥン…

低い音が響き、砂煙が辺りを包む。
皆は思わず目を瞑った。
そして、次の瞬間開けてみると…
 岩はどこにも見当たらず、微かに2人の足元にその面影を見せるのみだった。
「やったv」
「…こんなものか」
2人のやったことに、唖然とする騎士達。
この2人と騎士達では、まるでLVが違いすぎるのだ。
恐ろしい技量がなければ、今の行為は一片すらも成功しなかった。
騎士隊長すら、驚いたような顔をする。
 その時。
「…っ来るわ!!」
「「「!?」」」
ルシェルの言葉に、皆が後ろを振り返った。
 そこには…無数の魔物達が空を埋め尽くしていた。
「…ちっ、大群で来やがった…隊長!どうしますか!?」
『言うまでもない!セリオスさん達を護りつつ、迎え撃て!!』
隊長の言葉に、騎士達の声が響いた。
それと同時に、騎士達は馬から降りて思い思いに突進していく。
「…セリオス、早く抜け道へ…ここは私がなんとかするわ…!」
サリラがセリオス達を庇いながら、そう言った。
「サリラ…解った」
セリオスはこくりと頷くと、アイセラ、ルナ、ソード、そしてルシェルを連れて抜け道の中に消えていく。
そしてサリラは、目の前に飛び降りてきた魔物を見て、無理矢理な笑みを浮かべた。
「どこからでもかかってきなさい…!ここは絶対に通さないわ!」
『キー―!』
その言葉に魔物が素直に従ったのか、それとも怒ったのか。いきなり襲い掛かってくる魔物に、サリラの反応が遅れる。
「(なっ…速いっ!)」
サリラがそう思った瞬間…

       キインッ!

耳障りな金属音が響いた。
そこには、魔物の硬質の腕を受け止めている、一振りの聖剣。
「クロス…っ」
「サラ、俺達仲間だろ。いいとこどりするなよ」
そう言いながら、なんとかサラの方を見て、ウィンクを飛ばした。
「…バカ」
思わず溢れてしまった涙を拭うと、サリラはキッと顔を上げた。
「援護はまかせて!」
「おう!」
戦場に、サラとクロスの声が入り混じる。
戦いの音は、次第に大きくなっていった。





   はぁっはあっはあっ

 セリオス達は走っていた。この無限とも思えるような階段を。

   はぁっはあっはあっ

 どこまでも果てのない、時の彼方へ封じられたかのようなこの空間。

   はぁっはあっはあっ

 だが、この階段は確かに続き、また、果てもあった。
 地下へ延々と続くこの道は、確かに死の山へ、魔界へと繋がっていた。

 それでも、まだ先は見えない。

   はぁっはぁっはぁっ…

 皆の荒い呼吸が、闇に溶けていく―。


 セリオス達が抜け道を抜けると、そこは確かに死の山の地下であった。
そこは一歩間違えればすぐに死へと直行するような地獄だった。
気を抜けば倒れてしまいそうなほどの熱気、たまに落ちてきて全てを押し潰そうとする岩、そして、勇者を狙う魔物達…。
 いまだ無傷でいられるのは、運が良かったのと、アイセラのおかげだ。
アイセラは巫女だけあって、邪悪な力を感知する能力があるらしく、それで魔物を避けることが出来た。
そして邪悪の最も強い場所…すなわち魔界へ通じる階段を見つけ、今に至っているというわけだ。
 だがその階段すらも、死への案内人のように見えた。
魔物も何も出ないのに、着実に体力と気力を奪っていく死の階段。
いい加減弱音の一つも吐きたくなってきた頃―
 やっと、道が開けた。


 完全なる闇の世界。
 文字通り一寸先も見えぬ暗黒の衣に包まれ、微かに灯る明かりは、月明かりのように淡いもの。
そして、まるで体中の産毛が立つような、ぞっとするほどの寒気。
その寒気が温度的なものではないことは、言うまでもない。
「ここが…魔界?」
『そうだ』
「「「!?」」」
予想もしなかった”返事”に、皆が驚いたように振り返った。
そこには―。
『フッ…魔界王自ら出迎えたというのに、その反応か?』
黒い、塊。そう呼んでもいいような雰囲気をもつ、黒いフードとマントを着た男だった。
その人物は、にやりと微笑むと、フードをとった。
長く美しい銀髪が、闇の中で輝き、頭にはえた2つの天に伸びる角が、異形のものであることを語っていた。
「お前が…魔界王…なのか?」
だが、セリオスは返事を聞かずとも解っていた。
この男が自ら言った事ではあるが、実力のあるものならすぐに解るだろう。
圧倒的な威圧感。その強さの余りとでも言うかのように、周りにはオーラのようなものが揺らめいて。その冷たい瞳で相手を見つめるだけで、身体が硬直してしまいそうな。
極めつけに、全身から漂う拒否感。
そう、全てを拒否する混沌。心のみを推奨する闇。
 彼は確かに、魔界の王であった。
『そうだ。何故いきなり…と思うだろうが、君達の実力は知っている。
 小手調べなどせず、早く戦いたかったからね』
そこにきて、初めて皆は気がついた。
その顔は、人のものとは思えぬ魔性の、絶対的な美しさを持っていた。
アリアも人外的な美しさを持っていたが、魔性の血の成せる技なのか…。
それでも、油断してはいけない。彼はその美しさに比例し、それでもあまりあるほどの実力も兼ね備えているのだから。
『さて、勇者と言われるからには、悪の王と戦わなくてはね?』
美しい顔が、美しい笑みを浮かべた。
だがそれは、見るだけで血の気が引いていくような怖い笑みだった。
『私を倒して世界を平和に出来るか…試してみるといい』
「…出来るなら戦わずにいたかったんですけど、そうはいかないみたいですね」
セリオスが剣を抜いて、そのまま低く構えた。
『戦わずに?何をバカな。お前は、私を目標に、私を倒すことを目標にしていたのではないのか?』
魔界王の顔に、初めて困惑の表情が浮かんだ。
「ああ、確かにそうだった。でも、今は違うと思っている。
 それは、単に手段や道に過ぎないから」
『ほう…』
興味深そうに、だが嘲るように見下す魔界王。
セリオスはその視線を真っ向から受ける。
「きっと貴方だけを倒しても、平和は訪れないだろう。
 …何故なら”罪を犯してばかりの人間に耐えきれなかった天使が貴方方を利用しようとして、それに気付いた貴方方が反発して世界が崩壊へ向かった”のだから」
言葉が、一度途切れた。
「…罪を犯した人間も、それを許せなくて浄化と再生を選んだ天使も、利用されたことに怒って世界を壊そうとした魔族も…皆、悪いんだ。
 例え貴方方を倒しても、罪を犯しつづける人間、浄化を選びつづける天使がいれば、本当の平和なんておとずれない!!」
「……」
ルシェルは、その言葉を聞いたとき少しだけ辛そうな顔をしたような気がした。
『ほう…ではどうするのだ』
はっきり言って、まだやろうと思っていることが整理しきれていなくて、言葉に変換出来るかどうか解らなかった。
だが、口に出すと意外と簡単だった。

『貴方と天使長を説得する。
 それが出来なければ…倒す』

セリオスの強い意志の見える言葉に、魔界王は言葉を失った。
「セリオス…!?天使長を倒すって…!」
アイセラが驚いたような悲鳴をあげた。
ルナはかたく唇を結んで、セリオスの背中をじっと見つめている。
ソードもまた同様だ。
「…天使だけがいいわけでなく、魔族だけが悪いではなく…」
いつかルシェルから聞いた言葉。
「人間だけが許されるわけでも、罪を犯すわけでもない」
その瞳は、汚れを知りながらも無垢であった。
 それを聞いて、魔界王がくっと笑う。
『なるほど…なかなかおもしろいことを考える…。
 よかろう。お前の考えにつきやってやってもよい』
彼が、舌なめずりをした。
ルナとアイセラは、その舌が血のように紅いのを見て一瞬どきっとする。

『我は魔界王ルシファー。
 愚かなる勇者よ、相手をしてやろう』

 後書
 *セ=セリオス。ル=ルナ。ソ=ソード。ア=アイセラ。サ=サリラ。ク=クロス。
セ「ついに魔界王と対面したね」
ア「それにしてもセリオス…魔界王と天使長を倒すだなんて無茶です」
ソ「愚痴を言っても始まらん。それに、あれだけの決意を持って放たれた言葉だ。セリオスはなんと言われてもやめないだろう」
ル「そうそう、アイセラさんは気にしすぎよ。もっとポジティブにやろ!」
サ「ルナさんはポジティブすぎだと思うけど…」
ル「(むっ)」
ク「…俺、何か嫌な予感…」
セ「僕も…」
ソ「………(溜息)」

ル「サリラさんのバカ!一生片思い女!能無しおばさん!」
サ「なんですって!?格闘バカのガキ!いいこぶりっこ!人殺し!」

セ「うっうっ…(涙)」

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15642みてい様へ神無月遊芽 E-mail URL5/26-16:34
記事番号15639へのコメント

>みていです。この後新規ツリーを作る予定なので己でこのツリーを叩き落してしまったりして…。
 こんにちは、神無月です。
 お返事間に合わなくてすいません(汗)

>> 激疲れ中…私はヴァンパイア族なので(!?)太陽の光にあたると溶けてしまうのです(本当)
>> ほら、このへんとけてるー(笑)おていれしなきゃー(爆)
>どんなお手入れを…。肌○かなぁ…。
 どうなんでしょうねえ(笑)

>> …すいません。とけてるのは私の頭ですね(苦笑)
>> でも明日運動会なんですよねー。灰になってしまいそう。
>なつかし〜い。運動家って響きが。冷凍みかん〜v
 冷凍みかん、おいしそう☆
 うちは、とっても薄めたコーヒーに氷と砂糖を入れて喉を潤しておりました。
 しかもどんぶりで(爆)

>> あ、こんな今にも沈みそうなツリーで長話するなと思っておられますね?
>> 大丈夫です。どうせ私の小説なんかにコメントをくださる方なんておられませんわ☆
>ここにいまぁす。
 ありがとうございますう(涙)

>…といいますかどういいますか、今、4つまとめて読んだのですが。
>急転直下の展開…。みていの頭がヒートしそうです。
>どうなるのやらまったく先が見当つきませんっ。
 ああっ、頭から煙が出ておりますわっ(笑)
 文章力足りなくてすいません。今からもっと急転直下になるかもです(汗)

>>*「大丈夫、サリラもクロスもすぐにいなくなるから☆」
>>サ・ク「えええ!?」
>えええっ!?
>…書き殴り大事典見て予想してみよ…。
 …忘れてました(爆)
 と、いうわけで大辞典、微妙に書き換えてきました☆

>ではでは、運動会で灰になってしまわれないことを祈りつつ。
 大分溶けました(笑)
 クーラーで涼んで、溶けた顔をくっつけましたわ(爆)

>そしてみていが本当にツリー落としてしまわないよう祈りつつ(余計)
 あはは…。

>失礼しました。
>今度はもちょっとマシなレスつけられるようにします…。
 いえ、感想書きにくいだろうなあとは思っておりますので(^^;)
 こうして顔を見せてくださっただけでも、天にも昇る気持ちですわ。

 それでは。
    神無月遊芽

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15657呼ばれました?みてい 5/26-22:37
記事番号15642へのコメント

呼ばれましたみていです。
> お返事間に合わなくてすいません(汗)
いへ、けっきょく本当に私が叩き落してしまいました、ツリーを。

> どうなんでしょうねえ(笑)
お肌の手入れ。鏡を見るとUターン禁止の標識が見えるよう…(涙)

> 冷凍みかん、おいしそう☆
> うちは、とっても薄めたコーヒーに氷と砂糖を入れて喉を潤しておりました。
> しかもどんぶりで(爆)
冷凍みかんは歯が病めてしまうので(冷たさが歯に染みるということです)手である程度冷機を楽しんでおりました。
どんぶり…(苦笑)大は小を兼ねますっ!!(力説)

>>…といいますかどういいますか、今、4つまとめて読んだのですが。
>>急転直下の展開…。みていの頭がヒートしそうです。
>>どうなるのやらまったく先が見当つきませんっ。
> ああっ、頭から煙が出ておりますわっ(笑)
> 文章力足りなくてすいません。今からもっと急転直下になるかもです(汗)
直滑降でございます。これからの季節に向け頭にきのこが生えそう…。
大ボス(と言ってよいものでしょうか)も登場しましたし。
あっちもこっちもカタストロフィっ!

>>…書き殴り大事典見て予想してみよ…。
> …忘れてました(爆)
> と、いうわけで大辞典、微妙に書き換えてきました☆
えっ…(汗)
微妙がみていにわかるかな…。

>>ではでは、運動会で灰になってしまわれないことを祈りつつ。
> 大分溶けました(笑)
> クーラーで涼んで、溶けた顔をくっつけましたわ(爆)
もとの顔になりました?(爆)

>>そしてみていが本当にツリー落としてしまわないよう祈りつつ(余計)
> あはは…。
マジに落としちゃったようはは…。

> いえ、感想書きにくいだろうなあとは思っておりますので(^^;)
> こうして顔を見せてくださっただけでも、天にも昇る気持ちですわ。
下りてきてくださ〜いっ!

ではでは、わざわざありがとうございました。
みていでございました。

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15672お呼びしましたわっ神無月遊芽 E-mail URL5/28-19:04
記事番号15657へのコメント

>呼ばれましたみていです。
>> お返事間に合わなくてすいません(汗)
>いへ、けっきょく本当に私が叩き落してしまいました、ツリーを。
 こんばんは。いえ、最初から落ちそうでしたし(笑)

>> どうなんでしょうねえ(笑)
>お肌の手入れ。鏡を見るとUターン禁止の標識が見えるよう…(涙)
 恐ろしい…。

>> 冷凍みかん、おいしそう☆
>> うちは、とっても薄めたコーヒーに氷と砂糖を入れて喉を潤しておりました。
>> しかもどんぶりで(爆)
>冷凍みかんは歯が病めてしまうので(冷たさが歯に染みるということです)手である程度冷機を楽しんでおりました。
>どんぶり…(苦笑)大は小を兼ねますっ!!(力説)
 どんぶりになみなみとついで、母と二人ストローで飲むのです(爆)

>>>…といいますかどういいますか、今、4つまとめて読んだのですが。
>>>急転直下の展開…。みていの頭がヒートしそうです。
>>>どうなるのやらまったく先が見当つきませんっ。
>> ああっ、頭から煙が出ておりますわっ(笑)
>> 文章力足りなくてすいません。今からもっと急転直下になるかもです(汗)
>直滑降でございます。これからの季節に向け頭にきのこが生えそう…。
>大ボス(と言ってよいものでしょうか)も登場しましたし。
>あっちもこっちもカタストロフィっ!
 きのこ…(爆)

>>>…書き殴り大事典見て予想してみよ…。
>> …忘れてました(爆)
>> と、いうわけで大辞典、微妙に書き換えてきました☆
>えっ…(汗)
>微妙がみていにわかるかな…。
 解る…と思いますわ。

>>>ではでは、運動会で灰になってしまわれないことを祈りつつ。
>> 大分溶けました(笑)
>> クーラーで涼んで、溶けた顔をくっつけましたわ(爆)
>もとの顔になりました?(爆)
 一応戻りました(笑)

>> いえ、感想書きにくいだろうなあとは思っておりますので(^^;)
>> こうして顔を見せてくださっただけでも、天にも昇る気持ちですわ。
>下りてきてくださ〜いっ!
 はっ、いつのまにか大気圏に突入しておりましたわっ(笑)

>ではでは、わざわざありがとうございました。
>みていでございました。
 はい、また来てくださいね〜v

 それでは。

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15673金と銀の女神30神無月遊芽 E-mail URL5/28-20:24
記事番号15639へのコメント

 こんばんは。30章でございますv
 アイセラ大活躍?

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                   金と銀の女神
                 〜世界が始まるとき〜


   30章 白き光の究極魔法

 silver 邪悪を破滅に導く白い閃光
    本当に恐れているのは 私を消し去る蒼い光


『かかってくるがよい』
魔界王ルシファーが、余裕の笑みを浮かべた。
 緊張が張り詰めているのがわかる。この場にいる誰もが、目に見える、だが計り知れない力量に冷や汗を流していた。
「(だけど…ここでこのままじっとしているわけにもいかない!)」
セリオスは剣を構えなおすと、そのままルシファーに向かって駆けた。
「たああ!!」
『ふふ…』
思い切り、剣を魔王に向かって振り下ろす。
だがそれは、彼の眼前でぴたりと止まっていた。
「なっ…」
「手で…受け止めた?」
後ろにいるルナとソードから、信じられないと言うような声がこぼれていた。
実際、セリオスも同じ心境だった。
 力の限りに振り下ろした剣が、ルシファーの手の平にその威力を消され、受け止められてしまったのだから。
『…お前の力はこの程度か?』
「くっ…」
嘲笑されて、セリオスが一歩下がった。
だが、その足はすぐに地から離れた。
「たっ!」
『…っ』
闇色のローブが、ばっさりときれていた。
後ろに下がった時に反動をつけてジャンプし、上空から剣を横に薙いだのだ。
 そして魔王の肩を蹴って、後ろにアクロバットをしながら元の位置に着地する。
 一瞬。だが、そのローブは右腕から左腕の方へ大きく失われ、そしてその腕からは蒼い血が流れ出ていた。
「はぁ…はぁ…」
「セリオス、よくやった」
「ようし、この調子でいくわよ!」
ソードとルナが歓喜の声をあげる。
「…残念ながら、そうはいかないようよ?」
「え…?どういうことですか?ルシェルさ…」


               ばさあっ!!


   彼女の言葉が終わらぬ内に
   彼の人は
   自らの力をも隠すローブを脱ぎ捨てて
   その、大きな6枚の翼を

   銀色に、光らせていた―


『正直侮っていた…私と対峙してものの数分のうちに私に傷をつけるとは…』
真っ赤な舌で、ぺろりと下唇を舐める。
『まず、侮って力を出していなかった無礼を詫びよう。
 私に血を流させた者を、あの姿で相手をするのは失礼だろう?
 君達も、萎縮などせずにかかってきたまえ
ルシファーの言葉に、皆一様に押し黙った。
「萎縮するなって…無理に決まってるじゃない」
ルナが冷や汗を流しながらそう言った。
 数秒前とは比べ物にならない力を感じる。先程はルシファーの発する力によって周りの空気が揺らいでいた。だが今は”空間そのもの”がルシファーの力の前に絶えず揺らめいているのだ。はっきりと瞳に映る力。それがどれほどの力であるか―想像する事は容易くない。
しかも、ローブによって存在感まで押し込めていたのだろうか、ローブを着ているときですら魔界の王であることを見た者に知らしめていたのに、今のルシファーは神々しいまでの威厳と恐怖を撒き散らしていた。セリオス達でなければ、この姿を見ただけで気絶していただろう。
うかつに飛び掛れば、飛んで火に入る夏の虫になることは目に見えていた。
『…さすがにかかってこないか…ならば…』
ルシファーの翼が広げられた。
『こちらから行くぞ!!』
ルシファーの指が魔方陣を描き出した。
それはまるで血のように紅く輝き、その光が辺りを覆い尽くしていく…。
「っ!皆、避けろ!!」
『トゥダークランス!!』
大きな黒い槍が魔方陣から現れて、凄い速さで一直線に飛んでいった。
皆なんとか横に飛んで避けたらしいが、全員がかすりもしなかったのは奇跡に近かったかもしれない。
『避けたか…運のいいことだ…』
くすりと余裕の笑みを浮かべる彼の人に、血の気が失せていく気がした。
LVが、違いすぎた。
『次は外さん…』
「冗談!攻撃の順番は守ってよね!」
予想外の場所からした声に、ルシファーは思わず上を見た。
途端、ルナがルシファーの顔に蹴りをいれた。
ルシファーは大きく態勢を崩し、ルナは何事も無かったかのように地に降りる。
「…ルナ、どうしてあんな位置に?」
「ジャンプしたのよ」
それは解っているが、漫画やアニメのように天高くにいたのは少し納得がいかない。
だが少し緊張が解れたのだろうか、微かに微笑んだ後、気をとりなおして剣を眼前に構えた。
「いくぞっ!」
「たあっ!」
セリオスとソードが、ルシファーに向かって駆けていく。
それを迎撃しようとしたルシファーに…
「ライト・ファイアーボール!」
『ぐうっ!?』
ルシェルの呪文が炸裂した。
幾つもの炎の球がルシファーの周りで弾けていく。
それと同時に煙があがって、視界を遮った。
「眠れる女神達よ、それに従う数多の神々よ、今ここに戦いに身を投じる者達に大いなる加護と慈悲を与えんっ……フィジカルエンチャントオーラ!」
アイセラの手の平から大きな光の球が生まれ、セリオス達に向かって飛んでいった。そしてセリオスの頭の上でぴたりと止まり、ばっと砕け散る。
光の粒子が、セリオス達の身体に纏わりついた。
「戦闘能力をあげる呪文です!これで大分戦いやすくなると思います!!」
「ありがとうアイセラ!…だあっ!!」
ルシファーに向かって、思いきり剣を振り下ろす。
鈍い輝きをもつ剣が、煙とルシファーを切り裂いた。
『くはあっ!』
ソードとセリオスの攻撃を受けたルシファーが、苦痛の声をあげた。
お返しと言わんばかりにその腕を振り上げてきたが、アイセラの呪文で機敏性も上がっている。なんとかかわすことが出来た。
「私も忘れないでねっ!」
そしてセリオスが横に避けた瞬間に、ルナが接近戦に持ち込む。
「たああっ!!」
ルナの小さな身体から隙無く繰り出される攻撃の数々は確実にルシファーを捉えていた。
「お・ま・け・だ・よっ!」
身体が少し離れたところで、高く跳躍しルシファーの後ろにまわりこみ、ハイキックをする…と言っても、身長が大分違うので足は背中までしか届かないが…。
それでもダメージを与えるには充分で、その上ルシファーはバランスを崩しかけるがなんとか耐えたようだ。
『くうっ…さすがにやるな……』
「ちょっと…まだ倒れないの!?」
ルナが叫んだ。
 かなりまともに攻撃が入っている。普通の敵ならとっくに絶命しているだろうに、目の前の敵はまだ倒れる気配すら見せなかった。
『フッ…これほどで倒れようものなら、魔族の王の名が廃る…』
傷つきながらも、微笑むルシファー。
『だが…そろそろお遊びはおしまいにしよう』
言うや否や、ルシファーの6枚の翼が大きくはばたいた。
セリオス達の視界を、銀色の羽が覆う。
「な…なんだ?」
姿は見えないが、とんでもない魔力がルシファーの元に集っているのが解った。
「っいけない…!」
慌ててルシェルがセリオス達を後ろに下がらせて、その前に立ち塞がった。
「シールド!」
『ファイナルフレア!』

 ゴオオオオオオッ!!

巨大な、黒い炎の塊が、まるで生きているかのようにセリオス達へ向かって襲い掛かってきた。
一瞬早く生まれたルシェルの魔法障壁に阻まれるが、それでも火の勢いは止まらずに、その魔法障壁すら焼きつくさんと燃え盛っていた。
「だめだわ…魔法のLVが高すぎて、なんとか防ぐので精一杯…。
 このままじゃ…」
魔法障壁が破れて、皆、火の渦に飲まれる。
「そんな…!どうにかなんないの!?」
ルナの悲痛な叫びがこだまする。
『ははははは!せいぜいあがくがいい。その炎から逃れる術などないのだから』
「くうっ…」
何も出来ないことを悔やむセリオスとソード。
アイセラもおろおろするばかりだった。
「なんとか…なんとかならないんでしょうか…。
 ………っ!」
その時、アイセラの中に一筋の光明が生まれた。
記憶の片隅が、光に照らされる。
「あの魔法なら…」
危険すぎる賭け。だが、この状態から皆を救えるのは自分しかなかった。
唇をきゅっと閉じて、拳を固く握り締める。
「ルナさん、手伝っていただけませんか?」
「え?何を?」
ルナはアイセラのいきなりの言葉に戸惑いながらも、その耳を傾けた。
「これから、昔神殿で見た本に書かれてあった魔法を使います。
 だけど、その魔法はあまりに魔力の消費量が大きくて私一人では使えません。
 そこで、ルナさんの魔力を一時的に貸していただきたいんです」
「でも…どうすればいいの?それに、私魔法は使えないし…」
「私の手を握っていてくださるだけで大丈夫です。ただ…一時的とはいえルナさんの魔力がかなり抜けてしまいますから、しばらく動けないかもしれません…。
 でも、これなら魔王も倒れるはずです!」
その強い言葉に、ルナは不安を拭った。
「解った、私でよければ力になるよ」
「ありがとうございます…!」
ルナがすっと、アイセラの左手を握り締めた。
アイセラは残った右腕で、目の前に五芒星を描いていく。
「(あの文献には、この魔法は全ての魔を消滅させると書いてあった。きっと、魔王にも…)」

「この世界を作りし神々よ…この世界を護りし精霊達よ…」

脱力感。魔法の詠唱をしているだけで、どんどん力が抜けていく感覚。
だが、手を伝ってルナの魔力が、アイセラの身体を満たしていった。
「(いけるわ…)」
ゆっくりと、詠唱を続ける。

「汝、探求の風よ、情熱の炎よ、抱擁の大地よ、癒しの水よ…我の呼びかけに応えよ。我が手に集え」

アイセラの周りに、少しずつ、だが大きな魔力の塊が渦巻いていく。
セリオスとソードは、心配そうにただ見守るしか出来なかった。

「邪悪なる者達から、我を護りたまえ」

「うっ…もうだめ!」
その時ルシェルの魔法障壁が大きな音をたてて壊れた。
邪悪なる炎が嬉々としてセリオス達に襲い掛からんとする。
が、アイセラの身体から発せられた魔力によって、紅蓮の炎はかき消された。
『っ!?なんだ!?』
ルシファーがそれを見て驚きの声をあげた。
 アイセラをとりまく魔力は、どんどん大きくなっていく。

「地上にはびこる魔を、打ち払いたまえ」

ルシェルがすっと目を細めた。
「(地上にも伝わっていたのね…”あの魔法”が)」
『くうっ…サン・ファイア!』
ルシファーがアイセラに向かって魔法を放った。
先程の魔法にも劣らぬ炎が、しかも左右から襲い掛かってきた。
「させるか!」
だが、それはアイセラには届かず、咄嗟に前に飛び出したセリオスとソードに命中した。
二人を焼き尽くすと、炎はふっと掻き消える。
「くうっ…アイセラ、早く!」
「呪文を完成させろ!」
命がけで護ってくれた二人の言葉に、一瞬詠唱が止まって、手を伸ばしかける。
だが、首を振り留まると、ぎゅっと目を閉じた。

「我が命ずる。悪しき魔を眩き光で照らさんと!」

魔力によって発生した風が吹き荒れる。
アイセラはゆっくりと、その手を、前に押し出した。


「魔よ、消滅せよ!メギド!!」




      カアアアアアアアアアアアアアアアアアアアッ!




目を開けることすら出来ないほどの光が、辺りを満たした。
『ウワアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアッ!!』
光が、ルシファーを焼き尽くす。

  『メギド』
   神の扱う、魔を滅する究極の浄化魔法である。


 後書
 *セ=セリオス。ル=ルナ。ソ=ソード。ア=アイセラ。
ア「すいません、いいところをとってしまって…」
セ「いや、でもすごいじゃないか。あんな魔法を使うなんて」
ル「でも、おかげで私はふらふらだよお!」
ア「す、すいません」
ソ「しかし…俺の出番がいまいちないようだが?」
*「ごめんね、ソードって戦士だし、魔法使わないし、主役でもないから案外戦闘シーンが目立たないのよ」
ソ「………」
セ「気を落とすなよ、ソード」
ソ「…お前に言われたらおしまいだな」
セ「……ソードにまで言われるなんて…」

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15716金と銀の女神31章神無月遊芽 E-mail URL6/1-00:01
記事番号15673へのコメント

 神無月です。
 金銀31話。ここまで来ると書くのにも力が入りますねぇ。
 まあ夜遅いので、これ投稿して終わりにします…。

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                     金と銀の女神
                   〜世界が始まるとき〜


  31章 否定という恐怖の中で

 gold 一つの大いなる魔は倒れた
   だけどその先に待っているのは 小さな闇


  ドォォォッ……

山の向こうで、光の柱が天に向かって登っていった。
そしてその光は段々と小さくなっていったかと思うと、一瞬辺りを眩く照らし、消滅した。
サリラはあまりの眩しさに目を庇いながらも、辺りを見回した。
「…これは………っ!」
先程までいた魔物達の群れが、跡形もなく消えていた。
倒されたとは考えられない。何せ死体もないし、あの一瞬であれだけの数を倒せるとは思えなかった。
「じゃあ…やっぱり…」
『あの光のせい…と考えるのが妥当でしょう』
後ろからの声に、サリラはこくりと頷いた。
「ディルトさん、これからどうしましょう?」
「とりあえず様子を見ましょう。今の我々の使命は、魔物達をここで食い止める事」
「ちっ…つまらねえな」
クロスが文句を言った。
「……」
サリラが空を見る。
そこには、前と同じ。灰色の空が広がっていた。




『ハァッ…ハァッ…』
「はぁっ…はぁっ…」
ルシファーとアイセラの呼吸が重なる。
アイセラは手を突き出した姿勢のまま、そしてルシファーは、身体が溶けかけながらもなお立っていた。
お互い、精神力も体力も無くて、荒い呼吸が静寂の闇に響いているのみ。
 最初にその沈黙を崩したのはアイセラ、そしてルナだった。
アイセラはふらりと床に倒れこんで、ルナは立っていられずにがくりと座り込む。
「アイセラ!」
「ルナ!」
セリオスがアイセラを、ソードがルナを抱きかかえる。
 だがその時、アイセラの魔法を耐え切ったかと思ったルシファーが、ぐらりと倒れ伏した。
『ふっ…人間のくせに…これほどの呪文を扱うとはな…。
 私の……負けだ』
「っ…!?」
ルシファーの言葉に、セリオスが信じられないとでも言うかのように驚愕した。
『…地上から、手を引こう。
 ”私は”もう、世界を滅ぼさないと約束しよう』
「やっ…やったぁ〜ぁぁ…」
「ルナ!動くんじゃない!」
思わず手放しで喜んだルナだったが、身体に負担がかかったのかへろへろと倒れた。
「よか…った……」
アイセラも、自分が役に立てたということもあって、とても嬉しそうだった。
しかし、皆が勝利の気分に酔っている中、ルシェル一人が憮然とした表情をしていた。
「…魔王、ルシファー……」
『……なんだ、銀なる天使よ』
「…貴方は、どうして、この戦いを始めたの?」
ルシェルの言葉に、ルシファーは遠くを見た。
『…自分の意志で、地上を手に入れようとしていたつもりだった。
 自分が、全てを滅ぼしてやりたいと思った。
 なのに、それが全て天使達の策謀だと気付いた時、自分の存在を否定されたような気がした』

      彼女のその鎖のように
      彼はそれと知らず心をいましめられていた
      全てが終わった後でしか壊れない鎖を
      いつのまにか その身につけられて

      そしてその鎖で操り人形のように
      ただ 利用されて

      心を推奨する魔族が
      世界の為に 利用されていたなんて


      まるで最初から
      自分を否定されるために作られたんだとでも言うように


『…気が付けばこの有様。
 今まで生きてきて、こんなに頭に血がのぼったのは初めてだったな。
 …でも、もう、終わりか…』
ルシファーが苦笑する。
 ルシファーの身体は、どんどんと溶けていっていたのだ。
浄化魔法が、その身体を蝕んで、消滅へと招待している。
『…勇者よ…セリオスと言ったな………こっちへ来い。
 大丈夫、何も出来ない』
ルシファーの言葉に、セリオスは言われた通りそこへ向かった。
彼は今すぐに滅びてもおかしくない状態だったし、彼の言葉に信頼性を感じたのだ。
『私は、自分のした事を間違いだとは思っていない。
 だが、正しい事でもなかったのだろうな。
 …だからあの子を苦しめてしまった』
ぴくりと、セリオスの眉が動いた。

                       ―ただ 怖かっただけなのかもしれない―
                               ―生きること そして―

                              ―自分を 否定される事―

『私は生き過ぎた。もう力も衰えている。
 だからあの子に枷をはめてしまった。私の代わりに、この玉座に座れと。
 地上を滅ぼし、天使を滅ぼし、全てを否定しろと。
 …私の、身勝手な想いだった。
 その結果、あの子に必要以上の重圧をかけてしまった』

                      ―アリア。

『もう、世界などどうでもいい…
 勇者よ、どうか―
 あの子を…』
ルシファーが一度、息をのんだ。

                     ―私のせいで冷たくなってしまった私の娘を―
                         ―世界なんてどうなってもいいから―

『あの子を、幸せに――』

ルシファーがセリオスに手を伸ばすが、その手が指先からさらさらと砂に変わっていった。
そしてそれは手首、腕、肩…そして身体までに及び、見守っているうちに、ルシファーはあっという間に灰になり、その灰も空気に溶けてなくなってしまった。

 途端、ルシェルを縛めていた鎖が、いきなりに砕け散った。
ルシェルの首から、手から、足から…金属の欠片が辺りに飛び散る。
そしてそれと同時に、ルシェルの翼が大きな音をたてて羽ばたき、瞬く間に、光り輝く3対の…金色と銀色と紫色をした翼になっていた。
 突然の変貌に誰もが、そう、ルシェル本人すらも驚いていた。
「…そうか…魔の総統であるルシファーが死に絶えて、魔族や堕天使という枠が無くなったんだわ。だから鎖も外れて、魔力が解放されて翼が再生した…」
「だが…ルシェルがこんなに高位の天使だったとはな…」
今のルシェルからは、魔王ルシファーにも劣らない魔力と威厳を感じた。
それに、高位の天使になると幾枚もの翼がはえるのだ。ソードはそのことを言ったのだろう。
だがソードの言葉に、ルシェルは左右に首を振る。
「いいえ…堕天使になる前は翼は一対しか無かったわ…。
 一体何故…?」
頭の片隅に、少しだけ思い当たることがあった。
いや…どんな視点から考えても、これだけしか考えられない。
「まさか…」
天使が弱いのは何故かと疑問に思っていた。
魔族や堕天使は、魔力も高く、人間を相手にするならば一瞬でひねりつぶせるほどの強さを秘めていたが、天使達はおよそ強いとは言えず、代わりに、神の祝福とも言うべき不思議な力はあった。
天使が弱いのは、ただ、世界を護ることのみが役目だからだと思っていた。
「人の心に触れて意志が芽生え、その意志が魔力を呼んだとしたら―」
魔力は、空間に存在するもの、肉体に眠るもの、精神に息づくものと、おおまかに3つにわけられる。
天使は空間に存在するものと、肉体に眠る魔力を自在に操れた…だが、精神というものは存在しなかった。…それが、意志が芽生えた事で精神が生まれ、精神に息づく魔力が産まれたとしたら―
 ルシェルは前の2つだけでも充分に強かった。だが堕天使になった時に意志が芽生え、その魔力はルシファー級にもなっていたのだろう。だが、魔力を封じる鎖のせいでそれに気付いていなかった。
それに、鎖に繋がれていない堕天使は、意志を持っていても精神は破滅的で、狂っているようなものなので、ルシェルほどの変化はあらわれなかったのだろう。
「…アデク様」
自分が堕天使になったのは、運命だったのかもしれない。
彼の親と出会い堕天使になって、彼達と出会い、戦い、導き…そして今からも、彼と共に戦うために…。

 その時、ルナが咳き込んだ。それと同時に血が、その唇から流れ出る。
「っ!ルナ!!」
「けほっ…大丈…夫…ソードってば大げさ…げほっ…」
「喋るんじゃない!」
気丈に笑ってみせるルナに、ソードの顔が青くなる。
アイセラは慌てて、ふらつく身体でルナの傍に近寄ると、治療魔法を唱え始めた。
「すいません…私が…」
「アイセラさんのおかげで魔王が倒せたんじゃない。気にしないでよ。
 それに…私よりセリオスを治してあげて…」
ルナの言葉に、アイセラはセリオスを見た。
 自分が魔法の詠唱をしている時に庇ってもらった傷が痛々しい。
鎧は傷一つ無かったが、服は焼け焦げてぼろぼろになっていた。
だが、それはソードも同じで、それに疲労しているのはあのルシェルでさえ同じだ。
アイセラはとりあえずルナを治療しつづけ、大分呼吸が楽になったと思われるところで、今度はセリオスに向かった。
「…ごめんなさい、もう精神力が残り少なくて…セリオスさんの傷までしか癒せません…」
「気にするな、だがお前も自分の身体を心配した方がいいのではないか?」
謝罪の言葉を述べるアイセラに、心配げに返事をするソード。
だがアイセラは小さく「大丈夫です」と言うと、セリオスの身体に手をかざした。
「母なる大地の恵みの元に
 今 我の目の前に 傷つき倒れし者を
 優しき光にて照らさん…
 ヒーリング…」
短く、詠唱が紡がれた。
それと同時に光の粒子がセリオスの身体を包み込み、その傷をたちどころに癒していく。
だがそれと同時に、アイセラの顔色は悪くなった。
あの呪文の後に、更に回復呪文を二回も唱えたせいで、精神力が尽きてきているのだろう。
いや、普通ならあの呪文だけで命を落としていたかもしれないほどの魔力を扱ってこれで済むのは、彼女の強大な精神のせいなのだろう。
 そしてセリオスの傷が完全に癒えた瞬間、アイセラの体は崩れ落ちた。
「っ!?アイセラ!」
慌てて抱き寄せるセリオスに、アイセラはにこりと微笑んだ。
「大丈夫です…でも…
 今は…戦えそうにありません…」
『それは好都合だわ』
「「「!?」」」
突然背後から聞こえた声に、皆が一斉に振り返った。
そこには…
 銀色の、髪と瞳。
「アリ…ア…」
『勇者よ、私と一騎打ちで勝負しなさい』
艶やかにそう言ってのけた彼女の微笑みは、まるで、女神のようだった。
 …セリオスは、これほどの恐怖を感じた事があっただろうか。
目の前の少女は、瞳の中に映る自分の全てを、否定していた―。


 後書
 *セ=セリオス。ル=ルナ。ソ=ソード。ア=アイセラ。
セ「あうあう(涙)」
ル「セリオス、何を泣いてるの?」
ソ「大方、アリアと一騎打ちしなきゃいけないのが嫌なんだろう」
*「ええ〜!?愛し合う二人の対決!べたべたでいいじゃない」
セ「うう…他人事だと思って…」
ア「それより、魔王ルシファーが倒れましたね」
ル「うん、ルシェルもパワーアップしたみたいだし、天使長との戦いに備えなきゃ」
ソ「だが…我々はもう戦えないとか文中に書いてあるが…?」
*「ああ、君達最後の最後でパーティー抜けるの(^-^)」
ル・ソ・ア「なにぃっ!?」

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15752金と銀の女神32神無月遊芽 E-mail URL6/2-10:38
記事番号15716へのコメント

 神無月ですv
 32章…あと4章ですわねv
 ちなみに…この章はクサイですので覚悟して読んでください(笑)
 あ、あと痛い章でもあります(どんな話だ(笑))

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                       金と銀の女神
                     〜世界が始まるとき〜


   32章 この血塗れの愛が君に届くまで

 silver 戦う運命に縛られて 自分の心を裏切って
    貴方の手を振り払ったのは私なの


「…しょう…ぶ…?」
セリオスの搾り出したような声に、アリアは妖艶に微笑んだ。
『そうよ。私と貴方だけで戦って、貴方が勝ったらここを通してあげる』
アリアが促すように、首を横に捻った。
よく見ると、アリアのすぐ後ろには、鈍く輝く魔方陣があった。
それを認めると、ルシェルがはっとする。
「あれは…っ」
『そう、天界への魔方陣。
 つい最近出来たばかりだから、勇者騒ぎで誰も使っていないけれど…』
その言葉に、セリオスは食い入るように魔方陣を見つめた。
家ほどの大きさもある魔方陣で、淡く光る線で5芒星を描かれていた。

                 ―あの魔方陣で、天界へと行ける

そして天界へ行ったとき、やっと、世界が平和に…
だけど

『…どう?勇者よ。
 貴方がこの勝負を受けてくれれば、仲間達には手を出さないわ。
 …ただ、私が勝った時には、すぐにこの魔方陣で天界へ攻め込む。
 ……その後は、世界の破滅が待つのみだわ』
「…っ」
セリオスがすがるようにアリアを見つめる。
だが彼女は、おもしろそうにくすくすと笑っているだけ。
「セリオスっ…だめっ…罠だよ…」
「冷静になれ!」
「一騎打ちなんて無茶です!一緒に…」
「…」
セリオスが仲間達の言葉を聞いて、決断したかのように顔をあげた。
そして後ろを振り向いて、微笑む。
「セリオス…?」
ルナの不安そうな、そして、セリオスの意図を解ってしまったかのような、震えた声。
 ルシェルはセリオスの様子を、ただ無表情のまま見つめていた。
『…覚悟は出来て?』
アリアの言葉に、セリオスは静かに頷いた。
「ああ」

『では、はじめましょう』
アリアがそう言うや否や、ルシェルがルナ達の一歩前に立ち、呪文を唱えた。
ルシファーの時にも使った、魔法障壁だ。
「セリオス、私達のことは気にしないで。
 全力で…いえ、貴方の悔いのないようにして!」
「ルシェル…」
ルシェルの言葉を、噛み締める。

 アリアと対峙すると、やはり心では納得しきれない部分があって。
 戦いを拒否していた。
 頭では解っている。
 これは彼女が望み、自分も承知した、どうしようもないことなのだと。
 だが、世界を救う勇者が
 たった一人の愛する人をどうにも出来ないなんて、信じたくない!

「アリア、君は何故戦うんだ?」
セリオスの問いに、嘲笑を浮かべる。
『知れた事。この世に破滅をもたらすため。
 それを邪魔する者を倒すため』
「でも、君のお父さんは、本当はそんなこと望んでなかった!」
ぴくり、と。
彼女の体が動いた。
「彼はただ、幸せになりたかっただけなんだ。
 自分の心に正直に生きたかっただけなんだ。
 確かに、心に素直すぎて、たくさんの人を殺したし、世界を破滅に導こうとした罪は重い。
 だけどそれも、自分を否定されて、自分の心の場所がなくなったせいなんだ!」
セリオスは、必死に言葉を紡ぎつづける。
「確かに僕も力で行使してきた!だけど戦いは悲しみしか産まない!」
『黙れ!偽善の勇者よ!!』

   正義の勇者気取りをしたいわけじゃないんだ。

「しなくていい戦いをする道理はない!」
『戦わなくては結果は産まれない。ここでお前が戦わなければ、お前も仲間も倒れ、地上の全てが死に絶えるだけ!』

   はっきりとした結末を、望んでるわけでもない。
   優しい言葉を望んでるわけでもない。

「アリア、お願いだ…!もうやめてくれ!」

   ただ、君と戦うのは嫌だ。
   ただ、君を救いたいだけなんだ!

「君のお父さんも言っていた!僕に、君を幸せにしてくれと!」
『私を惑わそうとしても無駄だ!お父様がそんなことを言うはずが無い!
 お父様の、そして私の使命は、全ての破滅!全ての破壊!』
セリオスがかぶりを振る。
「アリア!どうして!?どうして戦わなくてはいけないんだ!
 誰もそんなこと望んでないのに!!」
悲鳴のような叫びに、アリアが怒鳴る。
『うるさい!私は魔界王ルシファーの娘、アリア!』
「違う!君はアリアだ!僕たちと旅をしてきた女の子だ!」
『何度も言っているだろう!私はアリア・ルーン・アヴィス。奈落の歌姫!!』
その言葉の迫力に、思わずセリオスがびくりと身体を竦ませた。
アリアは、はあはあと疲れたような深い呼吸をしながら、セリオスを目で射竦める。
『…役に立たない時間稼ぎはやめなさい。不愉快よ。
 ………さあ、剣を構えなさい』
「……」
セリオスは、もう何を言っても無駄だと判断したのか、剣を眼前に置いた。
愚者の剣が、セリオスの心に反応するかのように、点滅的にとても淡く光を発している。
(…僕よりも、この剣の方が正直かもしれないな…)
どうしても嫌なのに、剣を構えている自分。
なのにその剣は、まるでこの戦いを拒否するかのような反応を示して。
(だけど…アリアは、戦いを望んでる…。
 僕は、君も僕も生き残れるように頑張るだけだ)
セリオスの目つきが、鋭いものへと変わった。
それを見て、アリアがほくそ笑む。
『……では…いくわよ!』
アリアが駆けると、銀色の残像が後に続いた。
セリオスはそれを真っ直ぐに捉えると、魔力を纏ったアリアの掌底突きを剣で受け止める。
「くぅ…っ!」
アリアはそのまま拳を剣に押し付けてくる。
 凄い力だ。しかもそれに加えて魔力の衝撃もある。
このまま攻撃を受けるわけにはいかないと、セリオスは全身全霊をこめて剣を前へと突き出し、一閃した。
アリアの体が離れる。
『…私の攻撃を、力で跳ね返すなんて、やるじゃないの…』
アリアが自分の手の平を見つめながら、そう言った。
浅い傷口から、蒼い血が流れていた。
それを見て、セリオスの心に若干隙が産まれる。
アリアの血を見て動揺したのと、その血の色が、自分と彼女を阻んでいるかのように思えて。
だが、彼女はその一瞬の隙をついて、彼に攻撃してきた。
『はっ!』
彼女の爪が20cm程も伸び、セリオスを貫かんと襲ってくる。
セリオスはなんとかそれに気付き、防御姿勢をとるが…
「ぐうっ…!」
「セリオス!」

彼女の白い爪が、セリオスの身体を貫いていた。

 セリオスの体が崩れおちる。
アリアはそれを見て満足げに微笑み、爪を元の長さに戻した。
『あら、もうおしまいなの?』
彼女の嘲笑に、セリオスは必死に立ち上がろうとするが、げほっと血を吐き出してまた膝をつく。どうやら内臓をやられてしまったらしい。
しかも彼女の爪はセリオスの右腹を貫き、貫通してしまっている。爪を抜く時にも大分血が流れ出てしまっていた。
 ルナ達の顔が、蒼白になる。
 だがアリアは見下すような笑みを止めず、そのままセリオスの腹の部分を足で踏みつけた。
「くっ!?ぐあぁぁぁ!!」
『あははははっ!ほら、もっとあがいてごらんなさいな!!』
彼女の靴はヒールがないとはいえ、正に傷口を抉るような痛さに、セリオスの意識が一瞬遠くなる。
だがなんとか意識をこの場に留めると、必死にその痛みに耐えた。
 それを見てアリアはぴくりと眉を動かし、足をどけた。
『…抵抗する気もないっていうの?
 つまらないわね。貴方にとって世界や仲間ってそんなものなのね』

「…違う…」

セリオスが、うつ伏せになったまま、アリアを見つめた。
「僕は…ただ……。
 君も僕…も…生き…残れる道を……探し…た…い…だけ…なんだ…」
『私も貴方も?ふっ、そんな甘い事を言っているから、この私に負ける事になるのよ』
アリアがセリオスの顔を思いきり蹴る。
「くうっ…」
だがセリオスは、よけることもせず、ただ耐えた。
「アリア…僕は…君が好きだ……」
『っ!?』
アリアが驚愕と戸惑いを露にする。
『な、何を…』
口を開きかけるが、そこで言葉は止まる。
 彼は、微笑っていた。
「最初は…か弱そうな…ただの…女の子だったんだ…。
 …だけど…君の瞳を…見ているうちに……護りたいって思うように…なった……」
『だ、黙りなさい!』
アリアの中に奇妙な感情が浮かび上がる。

             忘れたい。忘れたい。知らないの。知らないのに!

「”自分が…誰なのか…解らない…”…僕も…そうだったから…。
 君の…その不安を…知って……護らなきゃって…思ったんだ……」
セリオスの瞳は、もうアリアを見る事もせず、遠くを見つめている。
どくどくと流れつづける血すら、今の彼にとっては他人事だった。
「…だけど…君がさらわれた時…どうしようもない感情に…今まで…知りもしなかった感情に…襲われた。護りたい…助けたい…怒り…後悔…謝罪…」
彼の告白を、仲間達は黙って聞いていた。

                僕を愛して欲しいなんて思わない だけど
         僕の 君のお父さんの 血塗れで不器用な愛を 受け止めて欲しいんだ

「そして…君を抱き締めた時に…誓ったんだ…。
 絶対に護る…って…」
セリオスが、身体を起こした。
うつ伏せの状態から、膝立ちの状態へとなるが、その動きだけでも彼への負担は大きく、また血を吐いた。
 アリアは、彼の動きと、瞳と、言葉を見て、恐怖に襲われた。
そう、得体の知れない、自分が傷つく恐怖。
触れる前に解っている。傷つくと。だから見えないふりをして、ずっと無視していたのに。
『黙れ…!やめろ!!』
絶叫が響く。

「愛してるから…」

アリアの動きが、止まった。


 後書
 *セ=セリオス。ル=ルナ。ソ=ソード。ア=アイセラ。
セ「どうだ作者!ちょっとは見直したか!」
*「あら、珍しくセリオスがかっこよくなったわ」
ル「まあかっこいいといえばかっこいいけど…ちょっとくさすぎない?」
ソ「まあ、どうせ小説の中だから、このくらいで丁度いいんだろう」
ア「それに、今まで主人公らしいシーンもありませんでしたし」
セ「しくしく…」
ル「それより今回はほとんど出番がなかったあ〜!」
ソ「次はちゃんと出せよ」
*「そんなの書いてみなきゃ解んないわよ!」
ア「いばらないでください」

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