◆−天空歌集 22−ゆえ(12/20-17:43)No.12780
 ┗天空歌集 23−ゆえ(12/23-02:59)No.12802
  ┗最高ですっ!−桐生あきや(12/23-05:19)No.12803
   ┗さいこーでぇす!!−ゆえ(12/24-02:05)No.12814


トップに戻る
12780天空歌集 22ゆえ 12/20-17:43


やっとこ出来ました。今回は過去話といいますか、前世です。
ちなみにいたこの口寄せではありません(おいっ)

−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
天空歌集 22


―――― 気に入った――――

それは遠い遠い、遙かなる時の気まぐれ



世界は不穏な空気に包まれていた。
人々には不安が押し寄せ、それはうねりとなり戦いへと駆り立てていった。
そんな今を彼女は何時も木の上から眺めている。
永劫とも言える時を過ごす彼女にとって、たまたま気に入った若木が巨木へと成長するのは、長いとも短いとも思わなかった。
その日も彼女は定期便の様に監視にやってくる魔族達にあくびをしながら、枝に絡まるようにして遠くを眺めていた。
人間達は戦いの準備で今日も忙しそうである。
そんな後ろで微かに蠢く暗い影の存在を彼女以外、神族側はまだ気が付いていない。
長すぎた平穏は人々の間から、闇の存在を忘れさせていた。

光在るところに闇は必ず存在するということを、彼女以外の誰も――――

「―――いい声だな。」
不意にかけられた声に口ずさんでいた歌を止め、見下ろしてみればこちらを見上げる影が一つ。
「なあ、降りてこないか?」
「・・・・・・・・・・・・何故?」
「そんなキレイな声で唄う君に会ってみたいと思ってね。」
あっけらかんとしてストレートな理由に彼女は少し迷ったが、素直にストンっと木の上から降りてきた。
そこに居たのは黄金の髪に赤い瞳をした剣士の青年。
降りてきたのは白銀の髪に琥珀の瞳のエルフの少女。


「俺はガブリエル。見ての通り、人間の剣士だ。」
そう言う彼は臆面もなく彼女に話しかける。
こんな人間は初めてだと彼女は思って少し驚いた。
「・・・・・・・・・面白い人ね・・・・・・・・・私はティヌゥヴィエル――――灰色エルフよ。」
――――こうして二人は出会った。



あの時以来、剣士は巨木にいるエルフの娘に会いに来るようになり、始めは疎ましがっていた彼女も、何時しか彼が訪れることを心待ちにするようになった。
それは心の奥底では彼女が孤独だったから。
光の存在として神族と呼ばれる者達の考えと、自分の感じた事があまりにも差が在りすぎて受け入れてもらえないのだ。
彼女は知っている。
光と闇、神と魔は互いに反発しあうが、元々は同じひとつの存在から始まった事を。
だからどうしても魔族の存在を否定しきれないのだ。
彼女は言う。
魔族は純粋だと――――光は場所によっては影を作るが、闇は等しく暗闇を落とすから。
そのあり方故に彼女はどこにも属さす、白と黒の混ざりしもの――灰色エルフと呼ばれた。


「どうして私にかまうの?」
ある日、彼女はいつものように訪れて、自分と並んで枝に座っている剣士に問いかける。
「どうしてって、気に入ってるから。」
「気に入ってるって、この場所が?」
人間の街から少しだけ外れた場所に、巨木は根を大地に下ろしていた。
ずっと昔、彼女がたまたま見つけた不思議な樹で、瘴気を吸収し糧として成長するのでこの辺りには他の場所に溢れている独特の空気のよどんだ感じがあまりしない。
彼女も何となく居心地がいいので、数年前からここで暮らしている。
「それもあるけど・・・・・・・・・・ティルの歌を聞きたいからな。」
「私の・・・・・・歌を・・・・・・・?」
「ああ、意味はよくわからんものあるけど、好きだよ君の歌。」
初めてそんな事を言われた。
本当は正確には二度目なのだが・・・・・・・
少し照れながらも笑っていう彼を、彼女は今まで感じたことのない気持ちで見つめていた。



世界に満ちていた不穏な空気は、とうとうその影をあらわにした。
魔族達が攻めてきたのだ。
後にいう『降魔戦争』の勃発――――――
大地に住まう生きとし生けるもの達は種族を越え、共に手をとり、魔と神との戦いへと巻き込まれていった。
いくつの命が消え、いくつの国が滅んだだろうか。
そして魔族はその思惑通り、魔王を復活させ、神封じの結界を張り巡らせようとしていた。
剣士もまた、大地に生きる者として戦いに加わっていた。



「―――なぜ戦うの?」
不意にかけられた彼女の問い。
この街ももうすぐ戦場へと変わる。
その事を告げに久々に樹を訪れた剣士は、すこし疲れた表情で答えた。
「なぜって、魔族が攻めてきたんだぞ?だまっていたら滅ぼされてしまうじゃないか!」
「でもそれは、闇の者達の宿命―――魔王が復活して世界が滅びてしまっても、それは仕方がないことじゃないの?」
「仕方がないって・・・・・・・そりゃいつかは必ず死んでしまうさ。生きてるんだからな。けどそれは俺がもっている命を使い切った時に来るもので、他の奴らに奪われて終わるもんじゃない。――――自分が自分で在り続ける為に―――だから俺は戦うんだ。」
「それがあなたの戦う理由―――」
「理由か・・・・・それもある。――――でも、もう一つ、他の誰かを、大切なものを守るためって意味もあるから――――自分と大切なものを守り続ける為に。それが俺の戦う理由であり、生き続けたい理由。―――ティルは生きていたくないのか・・・・・・?」

彼女は長い長い時を生きてきた。
狭間を彷徨うように生きてきた。
永劫の時をもつ自分と、瞬きのような刹那ともいえる時を駆け抜ける人間。
彼らもまた闇と光の狭間に生きる者達なのだ。
なのにこの輝きは、命の躍動はなんと眩しいことか。
それに比べて自分の存在はなんて曖昧で、それでいて不確かなものだろう。


―――失いたくない―――
この人の眼差しを
―――離れたくない―――
この人の温もりから
―――守りたい―――
この人の命の煌めきを

そう呟いたのは誰だったのか。



戦いは熾烈を極めた。
魔王腹心、冥王フィブリゾ直属の冥将軍がこの国に出現したと聞いたときは、体中から恐怖が沸き上がる思いだった。
それでもやらなければ、戦わなければ。――――大切なあの人を守る為に
そう自分に言い聞かせ、彼は最前線へ赴く。
ティヌゥヴィエルは焦っていた。
いくら自分がエルフだとしても、魔族の力は強大で、『呪歌』を紡いで精霊達を呼び出しても高位魔族に対抗できるのだろうか。
それより魔術というものを使えない彼に魔力増幅をやっても意味がない。
ガブリエルは剣士だ。
たぐいまれな技術と経験で今まではどうにか戦いを切り抜けてきたが、今度の相手は冥将軍。
人間の彼など到底かなうものではない。
それでも彼は向かっていく―――何かを守るために。
彼女はひとり、樹の上で考える。
もうすぐこの地は魔王配下の魔族達による結界で神の力は届かなくなるだろう。
だとすれば、神聖魔法などは意味を無くしてしまう。
彼が戦って、生き続ける為に必要なもの――――新たなる力の存在。

「・・・・・・・・・・・私には出来る?・・・・・・・・あなたの力になることが・・・・・・・助けることが。」

自分がしなくてはいけない事、解らなくてはいけない事――――前に進まなくてはいけない事。

街には雪が降り始めた。



遠く離れた彼の元へ彼女からの連絡が来たのは幾日か後。
「渡したいものがあるので、至急戻られたし―――。」
鳥に託された手紙にただならぬものを感じた彼は、大急ぎで彼女の元へと急いだ。
そして目の前に広がっていたものは。
焼け落ちた街と、黒く焼け焦げたあの巨木―――もう何も残ってなどいなかった。
彼は必死で守るべき姿を探した。
その姿は街を見下ろす小高い崖の上で風に白銀の髪を靡かせて傷ついた体で立っていた。
「―――ティヌゥヴィエル!!」
かけられた声にも振り向かず、彼女はだまったまま、その琥珀の瞳で街を見ている。
「淋しいね。」
たった一言呟くと、彼に抱きしめられた彼女はそっと涙をこぼした。


街に攻め込んできた魔族は、真っ先に彼女を攻撃してきた。
エルフの中でも、飛び抜けた魔力と知識を持つ彼女を以前からマークしていたのだ。
それでも今まで動かなかったのは、彼女自身もまた動こうとしていなかったからたまに襲う物がいるぐらいで、大した襲撃は無かった。
しかし、彼女は動き出した―――それも神族側ではなく、たった1人の人間の為に。
街も同様に襲われていた。
彼女もなんとか抵抗してはみたが、いくらグレイエルフとはいえ、たった1人で大群に戦いで勝つことはできず、街は荒野と化し、あの巨木も炎に焼かれて朽ちた。
降り積もる雪が、黒い大地を白く塗り替えていく。


「―――時間がないの、お願いよく聞いて。」
ティヌゥヴィエルは真っ直ぐにガブリエルを見つめると、
「おそらくもうすぐしたら、魔王が復活してしまう。―――そうなれば、水竜王も只ではすまないでしょう。その時は、また幾つもの命が消えていってしまう・・・・・・・・・そうならない為にも私はあなたに力を持っていてほしいの―――闇を切り裂く力を。」
そう言うと彼女は彼に4つの石を手渡す。
「これは・・・・・・・・・?」
「これは《精霊の石》、私が『呪歌』で呼び出した精霊達の力を凝縮して結晶化させたものよ。それぞれに、地、水、火、風の力が宿っているわ。なかでも風の石《ウェルヤ》は一番強い力を持ってる・・・・・・・・これを今から言うように並べて欲しいの――――」
そう言って彼女は言葉を告げ、彼は言われたとおり、各方向にそれぞれの石を置いていった。
「言われた通りに置いたが・・・・・・・・・いったい何をするつもりなんだ。」
「この世にある力は3つ、4つの精霊と神とそして魔・・・・でももう一つ、その全てを生み出せし存在の力を借りれば・・・・・・あの人に願えば出来るかもしれない――――――だから―――」

ぶわっ!

突如ティヌゥヴィエルの周りに風が巻き起こり、ガブリエルの体を吹き飛ばす。
その足下には光が走り、やがてそれは丸い円の中に七つの頂点をもつ星を描き出した。
五紡星は不均衡を、六芒星は安定の力を持つが、彼女が描き出したのは七紡星――。
4つの精霊と闇と光、そして精神世界を指し示す七つの頂点、おそらくはグレイエルフたるティヌゥヴィエルにしか描きえない特殊な魔法陣―――その魔法陣が完成すると、彼女はゆっくりと唄い上げる。

―――――――黄昏よりも暗きもの 闇よりもなお深きもの――――――

この歌を最初に気に入ったといった、あの闇の中より聞こえた金色の母に捧げる為に。





―――――あの時の娘か―――汝に歌を捧げて何用か――――

【この地に異界より撒かれた闇の武器を借りとう存じます。】

―――――異界の闇より撒かれし武器とは『ゴルンノヴァ』のことか―――

【はい。あの『烈光の剣』は魔を切り裂く刃となります―――それ故に】

―――――確かにあの剣なら魔を切り裂くことも出来よう―――しかしそれを使うのが人間と言うのは少々無茶がすぎるが―――

【承知しております。あのままでは使いこなすどころか、己自信も闇に飲み込まれるでしょう】

―――――ならばどうしてそのような物を人に与えようと願う―――

【全てはあの人に生き抜いて欲しいから・・・・・・その為ならば、私が闇を抑える戒めとなりましょう―――】

―――――よかろう――――




七芒星の魔法陣の輝きが一層まし、彼女の姿は光の渦に揺さぶられながら片手を高く天空へ延ばす。
その輝きの中に青白い光と闇と共に、一振りの剣がティヌゥヴィエルの手に召還された。
「・・・・・・・これが『烈光の剣 ゴルンノヴァ』・・・・・・・・」
体中の力という力が抜けていくのをひしひしと感じていた。

「ティヌゥヴィエル!!なにを・・・・・なにしてんだ!!」
強い風に煽られてなかなか彼女に近づくことができない。
嫌な予感に彼は必死で彼女の名前をよぶ。
(受け取って)
彼にははっきりとそう聞こえた。
その瞬間、彼の手元には一振りの剣が置かれていた。
(・・・本当は、そんなものは渡すべきだとは思わないけど・・・・私にはもう、それしかあなたに託すものがないの)
「俺はこんなものが欲しいんじゃないっ!何のために戦ったて来たと思っているだ!」
(その剣はきっとあなたを助けてくれるから・・・・・・だから)
「違うっ!そんなモノいらないっ!いつか俺は大切なものを守りたいといったよな?!それはティル、君なんだ!!俺の側にいて欲しいのは君だけなんだ!!」

光に溶けていく彼女の顔が、嬉しそうにそして哀しそうに微笑む。
その人に残るのはたったひとつの、世界さえ震わせる願いだけ。
(ありがとう―――あなたは私の大切な人。私の唄を好きだといってくれたから・・・・・・・・だからお願い、生きて――私はずっとあなたを想ってるから―――歌だけは覚えていて)
たどりつくから いつかきっと。
「ティヌゥヴィエル――――――――!!」

(だから、後ろを振り返らないで―――だから、私を忘れて―――)




そして剣士には彼女から託された剣と、焼け落ちた巨木の後から拾い上げた一粒の種だけが残った。



再びこの大地に静けさがおとずれて、その姿が消えた後も―――想いはそこに残るだろう。
気まぐれな母はそう呟くと、混沌の海に落ちていくはずの魂を輪廻の輪の中に戻した。
あとは彼ら次第――――彼女はあの歌を思い出す。


    どうせなら降り積もる雪にうずもれて
    涙さえも凍って ガラスのように砕けちって
    はやくあなたのため 力になりたい
    私だけのために生きていたくない

    壊れていくものは 今夜中に壊れて
    こなごなに崩して そして明日へ
    凍えてかじかむ手にはまだ少し
    あなたを助けるぬくもりはあるかな?


―――――そして二人は再び出会った。




=======================================

やっとかけました。22話、過去といいますか、前世の話です。
ああ、わがままいっぱい(笑)

やはりと言いますか、L様ご登場です。まあ、ゴルンノヴァをぽいっとやるなんぞ、この人しか出来ないでしょうし。
ティヌゥヴィエル(ああ長い名前だ)が動いた理由はガブリエルが裏表なく自分に接してくれたこと、そして唄を好きだといってくれたから。
なんか話の中で書ききれなかったから、こんな所でこそこそとフォローしてたりします・・・・・

巨木とはもちろんあの神聖樹フラグーンです。あれもどっから来たんだと想っていたので、こんな風にしてみました。(笑)
曲はglobeの新曲「DON‘T LOOK BACK」です。本当は別の曲にするつもりだったのに、この曲聞いたらこっちになっちゃました。
「凍えてかじかむ手には あなたをたすけるぬくもりはあるかな?」というフレーズに一目惚れしました♪
あってるかどうかは別としまして・・・・・・・・

次回はもちろん現在にもどります。
ティヌゥヴィエルの覚醒でどうなるセフィル、よく思い出せたなガウリイの前世、さてさて・・・・・大丈夫か私・・・・・・・・・(^^;

トップに戻る
12802天空歌集 23ゆえ 12/23-02:59
記事番号12780へのコメント

今回、しみじみと産みの苦しみをあじわいました・・・・・

−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−

天空歌集 23



――――風の精霊が封印された―――

彼女は嘘みたいな話を切り出した。

「精霊の中でも一番影響力の強い風精霊をつかって異界への扉をこじ開けようとする者がいます。しかし、それだけでは扉は開かない。
4つの石とそれに応じた力が必要なのに、あの者はその事に気付かず術だけで先走りしてしまった。故に異界からの召還は中途半端な状態となり、風精霊はそのままアストラルサイドに作られた結界内に封じ込められてしまった――――。」
「・・・・・・・・・・・だから、あたしが『レイ・ウィング』を唱えても術が使えなかったのね。」
「そうゆうことです。」
彼女は静かに答えると、テーブルの上のコーヒーを一口飲んだ。
「で、あんたはどうして『鍵』もなしに出てきたんだ。ずっと眠っていたんだろ。」
壁に寄りかかったままゼルが面白く為さそうに言う。
「――――『彼』が思い出したからよ。」
そう言って彼女はあたしの横にいるガウリイを見る。
「本当・・・・・・なんですか・・・・・?ガウリイさん。」
アメリアが信じられないといった感じで聞く。
「そーみたいだな。始めは夢の事だと思ってたんだが・・・・・ティルが言うんだし、間違いないだろ。」
いつもの調子でのほほんと答えるガウリイ。

イシルの近くにある空き屋に場所を移動してあたし達は話している。
壊滅状態のエルフの村にも長いは出来ないし、かといってその辺の宿なんかで出来る話とも思えず、こーしてたまたまあった空き屋なんぞに入り込んでいる―――――セフィルの中にいたもう一人、目覚めた過去の人格たるティヌゥヴィエルの話を聞くために。

ミナス・イシルでいきなり現れた彼女に驚いたが、それよりもっと驚いたのが、怪我をしていて寝ていたガウリイが彼女を見るなり名前を呼んだこと・・・・・・・セフィルではなく、「ティヌゥヴィエル」と。
過去の経緯はゼロスから大まかな事は聞き出していたが、まさかガウリイとセフィルが前世では恋人同士だったとは・・・・・・・・
複雑な思いに駆られながらも、あたしは極力考えないようにして話を進めた。

「異界の扉って言ったけど、そんなもの開いてどーすんのよ。」
「私がやった事と同じ事をするつもりでは。」
さらっと答えた彼女だが、ティルがやったことって・・・・・・・異界の魔王、闇を撒く者(ダークスター)の武器『烈光の剣 ゴルンノヴァ』の召還―――
ゼロスから聞かされた時は半信半疑だったが、本人が言うのだからやはり本当の事らしい。
それならば召還の時には、あの『彼女』の力が必要なのか・・・・・・・

「僕がティヌゥヴィエルさんを探していたのは、扉を締めて、増幅に使われた精霊を解放する為の知識と力が必要だった訳です。何せ過去で彼女がやった時は完全に結界が張られて、僕ら魔族も神族も知らなかったんですから。今回、異界黙示録の奥底にあったわずかな手掛かりと、獣王様からお聞きした事でやっと解ったんですよ。ほーんと、苦労したんですよ〜ここまで調べ上げるの。」
自分をほめて上げたいと言わんばかりにゼロスはうんうんと頷きながら腕を組んでいる。
「ならばあんたはその扉とやらの締め方を知っているんだな。」
「でなければ、今という時はないでしょう?」
なるほど。
ゼルの問いの答え通り、あんなもの開けっ放しで、しかもあの力付きで世界が只ですむわけは無い。
しかし、あのスナガも復讐のためとはいえ、とんでも無いものに目を付けたもんだが・・・・・おや?・・・・・・・・・・ふと、疑問が浮かんだ。
「ゼロスでも苦労して調べた事を、どうしてスナガは知ってたのかしら・・・・・・・・・」
「ああ、その事でしたら簡単です。僕の調査資料を勝手に読んで、教えた方が居るんですよ。その時同時にあの《メネルヤ》の本も複製をつくって持って行っちゃったんですね。で、それをスナガさんに見せてけしかけたと。」
そいつが、あの魔族ヴォロンディルと言う訳か。
でも、どうしてハーフエルフにこだわるんだろう・・・・・・?
「でもこうしてティヌゥヴィエルさんが目覚めた訳ですし、これでもう悪の野望は潰えたも同然ですよね!!」
アメリアが背中に正義の炎をしょってやたら盛り上がっている。
が、それはすぐに冷ややかとも言える彼女のセリフでかき消された。

「私は動かないわよ。」

「どうしてですかっっ?!」
アメリアの問いに彼女は尚もクールに答える。

「理由が無いわ。」

今にも飛びかかりそうな勢いでアメリアは彼女に食ってかかる。
「そんなもの関係ないじゃないですか?!もしかすると世界がとんでも無いことになるかもしれないって言って置いて、なのにあなたは他人事のように関係ないっていうんですかっ!!!!」
「アメリア落ち着け。」
「だって、ゼルガディスさん!・・・・・・・」
「ここで怒鳴っても仕方がないだろう。いいから座れ。」
言われてやや不満そうだが、アメリアはすとんっと椅子に戻った。
「じゃあ、その理由とやらがあれば動くんだな。」
「・・・・・・・・・・・あれば、ね。」
ちらりとティルはガウリイをみてから、
「それに私一人ではどうしようもないし。ともかく行動は共にします―――『彼』も居ますし。でも扉を目前にしてどうするかは・・・・・その時次第ね。」
琥珀の瞳をまっすぐあたしに向けた。
「本当に・・・・・・・・セフィルさんとは別人なんですね・・・・・・・」
怒りにも似た感情をこらえているのか、アメリアの声は掠れていた。
「そうだな、別人には違いない。第一あいつがコーヒーをブラックで飲めるはずもないしな。」
妙なポイントで納得しているゼルだが、間違ってはいない。
元々セフィルは超甘党、飲み物もココアとかジュースの類で、コーヒーなんぞは砂糖とミルク無しでは飲めないのだ。

姿形は同じでも、中身はまるっきりの別人。
ガウリイはどうやら前世の記憶だけのようだが、彼女の場合は記憶どころか人格そのものも在るのだから。

「ティル、セフィルはどうした。」
ガウリイが口を開いた。
「居るわよ、この中に。」
そう言って彼女はちょんちょんと自分の胸を差す。

「眠っていると言うかしら。魔力は私の方が強いから今は主導権を取っているけど、彼女が消えた訳ではないわ。体は彼女のものだから、彼女が主導権を握ることも出来るのだけども・・・・・・・・・・・・私を拒絶している間、暫くは入れ替わり立ち替わりでしょうね。」
「一つの体で二つの人格がせめぎ合ってるってこと・・・・・・・」
「そうとも言えるわね―――言ったでしょう、私は闇と光の狭間を彷徨う過去を司る者――それがどういう意味か・・・・・・あなたなら解るんじゃないのかしら。」
意味ありげな微笑みを浮かべつつ、ティヌゥヴィエルは立ち上がった。

「私は一旦、彼女の奥に沈みます。またそのうち出てきますから――――あとはよろしく。」

「よろしくって、ちょっと!」
あわてて立ち上がったあたしを後目にガウリイの側まで来ると彼女は耳ともに何かを囁き、静かに瞳を閉じた。
その瞬間身体はぐらりと後ろに倒れ込んだので、ガウリイが片手で受け止めた。
「・・・・・・・・・・・・・どうなったんです・・・・・・・?」
ぼーぜんと呟くアメリアに、ガウリイは彼女の身体を抱き上げると、
「ティルが引っ込んだから、セフィルが起きるのさ。」
腕の中にいる彼女を眺めていた。







空き屋とはいえ、部屋もしっかりしていて、ベッドもそれなりに残っているので、アメリアとあたしは同じベッドのある部屋に、同じくセフィルも隣の部屋でベッドの上で眠っている。
ガウリイとゼルは見張りもかねて、入り口近くの部屋に陣取っている。

「・・・・・・リナさん。」
アメリアが寝ようとしたとき声をかけてきた。
「なに。」
「リナさんは平気なんですか・・・・・?その・・・・・・ガウリイさんの前世だけど・・・・その・・・・・・こ、恋人だった女性が出てきたのに。」
「・・・・・・・・別に。」
「平気なんですか?!」
「なんであんたが驚くのよ。前世といったら過去よ過去。んなこと、いちいち気にしてられないでしょ。」
「それはそうですけど・・・・・・・・・・・けど・・・・・・」
「ゼロスの言った事でしょ。――――決めるのはガウリイよ。あたしがどーこー言える権利はないわ。」
「権利ならおおありじゃないですか!だってリナさんとガウリイさんは愛し合ってるんでしょう!恋人なんですから、当然の権利じゃないですか。」
「ちょっ、ちょっとそんな大声で言わないでよっ!あ、あたしとガウリイが、そのっ、あ、愛し合ってるとか・・・・・こっ、恋人とか・・・・(かああぁっ)」
「なに照れてるんですか、事実でしょう。」
「・・・・・・・・・・・・・・そりゃぁ・・・・・・・・・・・まあ・・・・・・・(ぼしょぼしょ)」
「だったら、ガウリイさんにはっきり言えばいいんですよ、私を選んでって。」
満面の笑みを浮かべていうアメリアにそれ以上何も言えず、さらに追い打ちをかけるように「すぐにでも言わないと」と部屋から追い出されてしまった。

・・・・・・・・・・・・人の心配する前に自分の事をどーにかしなさいよ、アメリア・・・・・・・・・



部屋にも戻れず、しかたなく、ずるずるとガウリイの居る部屋の前まで来た。
ノックしようと手を伸ばした・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・が、出来ない・・・・・・・・・・・・
と、ドアの前で躊躇していると、外に誰かいる気配がしたので、あたしはそっちの方に行ってみることにした。
声は二つ。
庭だった所から聞こえてくる。
別に隠れることもないのだが、何となくあたしは隠れて窓越しに外をうかがった。
見えたのはガウリイとセフィルの姿。
暗いのと後ろ向きで話ているから表情がよく見えないが・・・・ティルとではないようだ。


「ゼロスは俺に選べっていったが・・・・・・・・・・・そんな事はできないよ。」
「でも誰かがやらなければ、扉は閉じないし、精霊も解放できないよ・・・・・・・・・」
「あの光景をまた見なきゃいけないのか、俺は・・・・・・・・・」


ゼロスが帰り際にいったセリフ。
それは、扉を締めて精霊を解放するには、その持っている魔力全てをそそぎ込まなければ出来ない。
だがそれは、同時に自分の命そのものを投げ出さなければいけないこと。
やり方は過去から目覚めたティヌゥヴィエルから得た。
あとはそれに応じた魔力と知識の持ち主が術を行えばいいのだが・・・・出来るのは3人。
混沌の力を使える、ティヌゥヴィエルとセフィル・・・・・・・そしてあたしだ。
どうやら《精霊の石》というのは、扉を開ける『鍵』と同時に、その魔力を補佐する、いわば『デモンブラッド』や『賢者の石』のような増幅器だったのだ。
増幅が出来るのなら、あたしやセフィルにも可能と言うわけだ。
そしてその3人のうち、誰が扉を締める役をやるのかを、ガウリイに決めろと言ってきたのだ。
ガウリイにはその権利があると。
そしてガウリイにしか選べないと。

「これは僕の提案じゃないですよ、ティヌゥヴィエルさんから言われたことですから。」

そう言いつつ、ゼロスは嬉しそうに話すのだった。



「でも、あたしの前世がガウリイの前世と繋がっていて、しかも好きだったなんて・・・・・わらっちゃうよね。」
「セフィル・・・・・・・・」
「だってさ、そうじゃない。わたしがガウリイのこと好きだっていったのも、もしかしたら過去のわたしがいたからかもしれないんだし。」
「それは違うだろう。ティルのことは関係ないさ。」
「・・・・・・・・わかんないよ・・・・・・」
「俺には確かに過去の記憶がある。ティヌゥヴィエルの事が好きだったことも、守りたかった気持ちも。ティルの唄が好きだったことも。
 でもな、だからといってそれが今の俺だとは思わないんだ。俺は俺、ガウリイ=ガブリエフだからな。」
「・・・・・・・ガウリイらしいね・・・・・ティルの唄、か・・・・・・・」
「ティルはティルの唄、セフィルはセフィルの唄を歌えばいいじゃないか。」
「わたしの・・・・・・・唄・・・・・・・」
「ティルもセフィルも、そしてリナも・・・・・・・・・・・・・それぞれが、それぞれに大事な人だ・・・・・・やっぱり選べないな。」
「欲張りだね、ガウリイ。」

「そーかもな。・・・・・・・・・・・・もう目の前で、自分の仲間や、好きだった人がいなくなるのは、もう見たくないからな・・・・・・」




ガウリイの言葉にあたしは動けなくなっていた。
――――自分の好きな人達を目の前で失いたくない。――――
アリアやジェイド、そしてミリーナと・・・・・・・・ルーク。
誰かを失う度、ガウリイはあたしを慰めて、側で励ましてくれた。
いくらあたしでも、一人だったらとてもじゃないが、立ち直れたかどうか――――それぐらい辛い出来事が立て続けに起こったのだ。
辛かったのはあたしだけ?――――ううん、違う。

ガウリイも辛かったんだ。

だから、もうそんなのは見たくないと彼はいう。
なのにそんな素振りはちっとも見せずに、いつものように穏やかに笑っていた。
そして今の彼には、過去の記憶、最愛の人だったというティヌゥヴィエルを失ったあの瞬間のガブリエルの気持ちも持っているのだから。
ガウリイに突きつけられた選択はあまりにも、酷なものなんだ。
ティヌゥヴィエルはどうしてガウリイにそんな選択をさせるのだろうか・・・・・・・・・



「・・・・・・・・・・・いってみなけりゃわからない・・・・・・・か。」
「何か別な方法は無いのか?」
「・・・・・・・・・どうだろ。わたしにはわかんないよ。・・・・・・・・・・でも、さ・・・・・・・・」
「ん?」
「ううん、なんでもない。・・・・・・・・そろそろ寝るわ。」
「そーだな、今日は色々あったし、おやすみセフィル。いい夢を―――」
「・・・・・・・ありがと、ガウリイもね。」



ぱたぱたとセフィルがかけていく足音が遠ざかっていった。

「でてこいよ、リナ。」

振り向きもせず、ガウリイはあたしに向かって言った。
やっぱり気が付いていたか・・・・・・・・・・
「・・・・・・・・・・・ガウリイ。」
なんだか後ろめたい気がして、のろのろとガウリイの側まで歩いていった。
「・・・・・・・・その・・・・・・ごめん・・・・・・別に盗み聞きするつもりじゃなかったんだけども・・・・・・」
「聞いてるの知ってたから、盗み聞きじゃないだろ。」
そーゆー問題か。

「リナ、見て見ろよ。月がキレイだぞ。」
見上げるガウリイにつられてあたしも夜空を見上げる。
闇の中にぽっかりと浮かぶ下弦の月。
「ほんと・・・・・・・きれいね。」
見上げるあたしの横でガウリイは月を見上げたまま、
「闇を突き抜けた先の光って何なんだろうな・・・・・」
「なによそれ。」
「ティルが戻る直前に俺に囁いたんだ。『セフィルの持つ闇の先に光がみえたら、それか答えだ』ってな。」
闇の向こうを照らすもの・・・・・・・それが答え。
セフィルのもってる闇っていったい・・・・・・・・
そんなとき、どこからともなく唄が聞こえてきた。
「・・・・・・・・・・・・セフィルだな。」
静かすぎる夜に、セフィルの唄が溶けていく。



      少しずつ おとなになる 悲しみを かぞえるたびに
      鳥には鳥の 名前がある 鳥は知らない わたしの名前

         いつの日かみんな ひとつになれるまで
         鳥は鳥に 人は人に それぞれの時
         風は風に 星は星に それぞれの夢


      いつのまに おぼえていた 背中をなでる こんな淋しさ
      抱きしめるあなたの手が わたしの手では ないということ

         いつの日かみんな ひとつになれるまで
         鳥は鳥に 人は人に それぞれの時
         風は風に 星は星に それぞれの夢



それぞれが、それぞれの思いを乗せ、響きわたる唄に耳を傾けていた。


========================================

・・・・・・・・・・・・やっと出来ました。23話。
書き直すこと5回。書くごとにキャラの動きや心情が変わっていくので、こりゃ困ったぞと、暫くかけない状態になりまして。(ああ、えらそう)
ガウリイに思いをよせる(一人は過去ですが)女の子が3人。
そのうち一人の命を選べっていうんですから、かなり究極の選択です。
今回の話で、どうしてもガウリイに選択を迫るシーンを書きたかったんです。あの時、リナが世界とガウリイを選んだ時みたいに。
悩んで苦しんで・・・・・とおもったガウリイ本人は、なんかのほほんとしてて、結局はセフィルとリナが悩んでる。・・・・あれ?

歌はどうしても使いたかった、谷山浩子さんの「鳥は鳥に」という曲です。
たしかあの名作「綿の絹星」(名前の記憶があやしい・・・・)の歌みたいです。

それぞれの夢とそれぞれの時。

やっとラストが見えてきました。このまま一気に突っ走ります。(じゃないとかけない)・・・・・・・たぶん(笑)

トップに戻る
12803最高ですっ!桐生あきや 12/23-05:19
記事番号12802へのコメント


 こんばんわ。いや、もうこんな時間だとおはようございますなのでしょうか……。
 桐生です。

 もう感動です。
 ゆえさんホント上手いです。私にはこんなに丁寧にしかもさりげなくキャラの描写なんかできません。五回も書き直したっていうのも、すごいです。
 書き直すのを諦めてとっととアップしてしまった私なんかとは大違いだわ(笑)。
 もうすっかりゆえさんのファンです。

>ガウリイに思いをよせる(一人は過去ですが)女の子が3人。
>そのうち一人の命を選べっていうんですから、かなり究極の選択です。
>今回の話で、どうしてもガウリイに選択を迫るシーンを書きたかったんです。あの時、リナが世界とガウリイを選んだ時みたいに。
>悩んで苦しんで・・・・・とおもったガウリイ本人は、なんかのほほんとしてて、結局はセフィルとリナが悩んでる。・・・・あれ?
 23話を読んでいて、桐生の頭のなかには。続きこうなるといいな、などという予想というか願望が浮かび上がっております(笑)。
 ゆえさんがどう話を展開していくのか、続きが気になってたまりません。

>歌はどうしても使いたかった、谷山浩子さんの「鳥は鳥に」という曲です。
>たしかあの名作「綿の絹星」(名前の記憶があやしい・・・・)の歌みたいです。
 曲のセレクトも本当に毎回ぴったりあってて、ステキです。

>やっとラストが見えてきました。このまま一気に突っ走ります。(じゃないとかけない)・・・・・・・たぶん(笑)
 がんばってください。楽しみに待ってます。
 もうすぐクリスマスとお正月ですね。
 どうか、よいクリスマスをお迎え下さい。
 それでは。

 桐生あきや 拝

トップに戻る
12814さいこーでぇす!!ゆえ 12/24-02:05
記事番号12803へのコメント

> こんばんわ。いや、もうこんな時間だとおはようございますなのでしょうか……。

うお、朝早くからありがとうございます・・・・・・って、こんな時間まで起きていて大丈夫ですか?
私なら死にかけてます。(笑)(とくに昼間はゾンビ化してる)


> ゆえさんホント上手いです。私にはこんなに丁寧にしかもさりげなくキャラの描写なんかできません。五回も書き直したっていうのも、すごいです。

いえ、そんな・・・・書き直したのは、途中で息詰まっちゃったからなんですよ〜。
何をどうか書いていいのか、収集がつなくなって。それ故の結果です・・・・


> もうすっかりゆえさんのファンです。

ううっ、私なんぞにはもったいないお言葉っ!
最高のクリスマスプレゼントですっっっ(感涙)


> 23話を読んでいて、桐生の頭のなかには。続きこうなるといいな、などという予想というか願望が浮かび上がっております(笑)。
> ゆえさんがどう話を展開していくのか、続きが気になってたまりません。

私も気になってしかたがありません(←おい)
あきやさんの予想を聞かせて頂きたいくらいです・・・・・しくしくしく。
大体の形はできてるんですが・・・・・がんばります・・・・・



なんとか、今世紀中にはおわらせたいなぁと思う、今日この頃です。

inserted by FC2 system