◆−封鎖された伝言(ブロッケイドット・メッセージ)−白いウサギ(12/1-02:29)No.12503
 ┣封鎖された伝言 1−白いウサギ(12/1-02:34)No.12504
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 ┣封鎖された伝言 3−白いウサギ(12/1-02:42)No.12506
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  ┣はじめまして!!−あごん(12/2-01:02)No.12512
  ┃┗ありがとうございますっ! あごんさん−白いウサギ(12/2-12:04)No.12516
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12503封鎖された伝言(ブロッケイドット・メッセージ)白いウサギ E-mail 12/1-02:29


封鎖された伝言(ブロッケイドット・メッセージ)


1 立たぬなら 立たせてみせよう あたしの役に! 
2 分かれ道 行く先々に 何故魔族!?
3 やっかいな 仕事以外は ありえない!?
4 掠れゆく 思いの先に 見るものは
5 エピローグ
6 あとがき

皆様お久しぶりです、あーんど、はじめましてっ!
白いウサギ、お久しぶりのスレイヤーズ長編ですっ!
わぁいっ! あまりのテンションの高さに人がひいてく、ひいてく(泣き笑い)
――まぁ、冗談はともかく。
長いので、読み終わるまで結構時間がかかると思います。
何しろ富士見書房ファンタジア文庫の1P、16行40文字で換算すると、250P越しますから。
うーん……お客さんの殆どが引いてますねぇ……
最初の文だけちょこちょこ読んで、私の力不足で脱落する人が何人いるか……
ともあれ、ただでさえ長いのに前書きをだらだら書いてもしょうがないですから、さくさく行きましょうっ!
ではっ! 皆さんっ!
もしよろしければご一読していただけると有り難い気がする今日この頃です。
封鎖された伝言(ブロッケイドット・メッセージ)、始まりますっ!

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12504封鎖された伝言 1白いウサギ E-mail 12/1-02:34
記事番号12503へのコメント

一、 立たぬなら 立たせてみせよう あたしの役に!

執行猶予無し。懲役5年。
それがあたしに下された判決だった。

「は……?」
 あたしの間抜けな声が裁判所に響き渡る。
 返ってくるのは鉛のように重い沈黙のみ。
「ではこれにて閉廷」
 あたしの戸惑いなどあっさり無視して裁判長はめちゃくちゃドライな声でそう言って、すたすたと外へと出ていき、他もそれに続く。
 あたしの両脇を役人ががしっと掴み、茫然自失となったあたしを引きずりながら外へと連れていった。
 言いたいことはただ一つ。
 あたしが一体何をしたぁぁぁぁぁぁぁっ!?

「ええ。濡れ衣ですね。その通りです」
 ……………………………
 意外とあっさり返ってきた看守のその返事にまたもやあたしは脱力する。
「よ……良く事情が飲み込めないんだけど……
 じゃあ何だってあたしはここにとっ捕まってるわけ?」
「事情が飲み込めないって……
 聞いてこなかったんですか? 魔道士協会から」
「ちっとも聞いてないっ!
 ただ仕事がある。
 詳しいことは役所の方に行って聞いてくれって言われて来たら、いつの間にか仲間からは引き離されて、いきなり裁判所放り込まれたのよっ!」
「それはなかなか素敵な御体験ですねぇ……」
 そう言ってずずずっと茶をすする看守。
 外見は五十歳前後。
 青みがかかった黒い頭髪に、第一印象は優しげな笑みを持つ中年男性である。
 それなりに美形なのだが……雰囲気がいまいち掴めない感がある。
 案外多重人格者という奴は、こういう感じなのかも知れない。
 ともあれ、外見に似合わずとことんじじむさく、目を細めてお茶を美味しそうにすする。
「……喧嘩売ってるんなら買うわよ。
 だいたい、さっきまで呆気に取れちゃってたんで黙っていたけど、いわれのない冤罪で牢屋ぶち込む気なら暴れるわよ。あたしは」
「暴れても構わないですが、懲役が長くなるだけですよ」
「捕まらなきゃ懲役なんぞ無いと同じっ!」
 びっと指を突きつけるあたしに、看守はまたもやテーブルに置かれた茶へと手を伸ばす。
 ばだむっ!
 湯飲みへと伸びる看守の手を、湯飲みの口を両手で叩きつけながら阻むあたし。
 これで注意を自分に向けさせ、話をとっとと進めるべしっ!
「あのー……」
 しかし、看守はすまなさそうに言いながら、
「熱くないですか? 手」
 ………………………………
「うわっちゃああっちぃっ!!
 や、やるわねっ!」
 ひりひりと遅れてやってくる痛みに耐えながら、看守から間合いを取るあたし。
 触れたのは茶ではなく土製の陶器とはいえ、茶の余熱でじゅーぶんあたたまりまくっていたりする。
「いや、僕は本気で全く何もしてないんですが……まぁ、聞く気がないようなので結構です」
 ……いやあの……出来れば突っ込んで欲しかったかなーって……も、いーです……
「と、とにかくっ! 事情を聞かせてもらおうじゃないっ! 事情をっ!」
 言うと、何事もなかったかのように茶を飲み続けていた看守の手が止まり、湯飲みをテーブルへと戻す。
 しばらく目を伏せ……湯気だけが時間の経過を刻む。
 ややあって看守は目を開いた。奥にほんの僅かな――それでいて確かな鋭い光をたたえて。
 い、いきなりシリアスな展開だなぁ……
「あなたが来るずいぶん前のこと……突然囚人の一人が倒れたんです。
 看守が慌てて駆けつけたのですが……脈を取るまでもなく、すでに死亡していることがわかりました。
 ――首がなかったんです。太い首から先の部分全て」
 ……な……!?
「牢屋で一人の人間の首が消えたんです。
 もちろん看守達はその首の行方を探しました。
 それでも、みつからず……だがしかし、しばらくすると発見することが出来ました。
 ただし――別の囚人の首が、です」
 ……どひぃぃぃぃっ!
 あたしは喉の奥から油断すれば破裂しそうになる悲鳴を必至に押さえ込みながら、席を立った。
「帰る」
「は? リナ=インバースさん?」
「今回の仕事はパスするわ。じゃ、お元気で」
「ちょっと待ってくださいっ! 何故ですかっ!?」
「やかましいっ! そぉいうホラーな話は専門外よっ!
 魔道士協会じゃなくてどっかの神殿に頼みなさいっ!」
「もうとっくに頼みましたっ! その神官さんたちはすでに謎の殉職をされてますっ!」
「いいいいやああああああああああっ!! 帰るうううううっ!
 そぉいう話は苦手なのよっ!」
 ぷるぷる首を振りながら荷物にしがみつくあたしに構わず看守は続ける。
「だいじょーぶですっ! 今回の仕事とは全く関係ないですからっ!!」
「だからそんなことは問題じゃないっ! ――って、え……?」
 ……全く関係ないって言わなかったか……? 今……
「もう130年ほど前の話ですから」
 ……………………は……?
「……もしあたしの勘違いじゃなければ……
 さっきの首が消えたり現れたり殉職したりってのは……今回の仕事とは無関係……?」
「そうです。だから気にしないで下さい。
 ――あ。リナ=インバースさんもお茶飲みます?」
 そう言って、初めて出逢ったときと同じ様なトークのペースに戻す看守。
 …………………
 この時あたしは懲役の延長を覚悟した。

 じめじめした牢屋の一室。
 音からして少々小降りの雨が外では降っているらしいが――囚人には一切関係はない。
 あたしはひたすら不機嫌な表情で出された夕食をつついていた。
「リナ……インバースさん?
 気分は……落ち着……きましたか?」
 ミイラ男と化した看守はテーブルにもたれてなんとかバランスを取ってはいるが……非常に頼りない。
 あたしは無視して食事をつつく。
「くっふっふ。そぉ見える?」
「……い、いやぁ。ちっとも……」
「じゃ、黙ってなさい」
 ざあざあ……ざあざあ……
 しばし雨の音とあたしのナイフが皿の上で踊る音だけがその『面会室』に響いた。
「あのー……黙ってろと言われましても……
 そろそろ事情説明したいかなー、何て思ったりするんですが……」
 とことん申し訳なさそうに看守は言いながら、顔をテーブルに近づけてこちらを覗き込む。
「ほぉ……どうしても?」
「…………………………
 ……い、いやそのどうしてもかどうかと聞かれると答えが出にくいんですが……
 聞いて下さると私は救われます」
 自分勝手なヤツである。
 あたしは溜息をつきながら、ナイフとフォークとテーブルへと置いた。
「ま、いいわ。
 じゃあ、お話をお聞きしましょうか」
「そっ、そうですか!」
 とたんに表情を明るくする看守。
「言っておきますけど――また関係ない話したらあたし死刑囚になっちゃうかも(はあと)」
「きょ、極力回避いたします……」
 うみゅ。素直で結構。
「まずは私の名前から。
 私の名前はスティング=オーカス。
 元々は役場の民間施設の管理をしていた者ですが、しばらく前に異動の通達があって、ここの看守を務めております。
 ここの所長は――後ほど紹介いたしますが、あなたの世話は全て私が請け負うことになっておりますので、何が御用がおありでしたらお申し付け下さい。
 趣味はお茶と昼寝、それと囚人いぢめ――」
「ちょっ、ちょっとまったっ!!」
 なんだか聞いてはならないことを聞いてしまったような気がして、あたしは慌てて待ったをかける。
 と、途中までは真面目だったよーな気がしたのだが……
 ……深く考えるのはよそう……
「なにか?」
「えーと……その囚人いぢ――じゃなかった。
 あなたの趣味の話はいーから。
 なんであたしがここにいて、どんな仕事をしてほしいのか、それとあたしの旅の連れ――三、四人いたはずなんだけどその事については?」
 言われてぽんっと手を叩いて、微笑むスティングさん。
「ああ、そうでしたね。忘れてました」
 ……くらげか。おまいは。
「何故ここにあなたが居るのかという事は、すでに薄々お気付きでしょうが――」
 いいや、わからんぞ。さっぱり。
「今回の仕事に関係あるんです。
 先程話した愚かな囚人どもの首がどうのという心温まる話はひとまずおいといて……」
「………………」
 い、いや……『悪人に人権はないっ!』等と、きっぱり公言している以上、人のことどーとは言えんと思うが……いーのか。看守がそれで。
 しかもおいとくならぶり返すな。わざわざ。
「半年ほど前から物騒な事件が牢屋内で起こっていることは確かでして。
 もちろん牢屋内は武器の携帯は禁止。監視も厳重であるはずなのですが……
 なにしろ犯罪者という者は後から後から増えていき、所内全域監視が行き届いているとは言えません。
 ゴキブリみたいな奴らですからね。はっはっは」
 おっちゃん。おっちゃん。笑うところじゃないって……そこ……
 内心ぱたぱた手を振りながら、突っ込むあたし。
「お恥ずかしい話ですが……巡回中と言って昼寝している看守もいる始末……」
「本っ気で恥ずかしいわね。それ」
 とうとう声を出してツッコミを入れるあたし。
 う、うーみゅ……これぞ本当のお役所仕事……
「かく言う私も何度か経験しているのですが……」
 お前もかい。
「なかなか気持ちよくって止められないんですよね。いやぁ、困ったもんです」
「あんたが困るなぁぁぁぁっ!!」
 ばしぃぃぃっ!
 おもいっきしテーブルを叩きつけ、勢いよくほかほか湯気を立てた湯飲みさんが浮き上がり、水し――つーか、湯飛沫を弾け飛ばす。
 あたしは上半身を逸らして飛沫を避け、スティングさんも首を傾げた動作だけであっさりと熱湯をかわす。
 い、意外に反射神経いいでやんの……
「まぁそれは冗談として――つまりはその事件の真相と真犯人を捜していただきたくてお願いしました」
 う、うーみゅ……はっきし言ってさっきのが冗談とは思えないのだが……仕事の方向性は理解できた。
 だが、しかし――
「なんであたしなのよ?」
「この所内で行われた事件ですから、当然犯人は囚人達の誰かということになります。
 しかし……看守という名目を持つ私達が捜査し、話を聞こうとしてもどうもいまいち話が薄すぎまして」
「なるほど。確かに囚人達に取っちゃどんな証言が自分にとって不利になるか、脅えながらの話になるわね。当然」
「ええ。ですから……新入りの囚人という立場でなら彼らも私達に言えないことも話せるでしょう。
 それでお願いしたわけです」
「ふむ……つまり、囚人として入る以上、武器の携帯が出来ない。
 しかし牢屋内は危険性が高く、武器が無くても戦闘可能な魔道士のあたしに白羽の矢が立った、と」
「お見事。その通りです」
 言って大げさに拍手するスティングさん。
「で、その上役所の人間には危険も少なく、さらには囚人としても違和感ない顔をしているあたしが適任って訳ね」
「いやいや全く。その通りです」
『…………………………………』
 笑いながら続けていったあたしの言葉に大きく頷くスティングさん。
 言って二人とも笑顔で凍りつく。
 しばし冷凍保存された笑顔が部屋に二つ転がり続ける。
「――あ!いや、そんなことはないですが……!
 え、えーと……ついリズムに流されただけでして……」
 どんなリズムだ。オイ。
「ま、まー……今のは聞かなかったことにしといてあげるわ。事件の細かいことや、作戦は後で聞くとして……あたしの連れは?」
「は、はぁ……えーと……ガウリイさんとゼルガディスさん、それにアメリアさんですよね。
 今は役場の応接間にて事情の説明と協力のお願いをしているはずですが……」
「ちょっ、ちょっとストップっ!
 事情説明しているのって今……? 裁判だの判決だのの前じゃなく……?」
「ええ。少々混乱されたかもしれませんが、まぁ敵を欺くには味方からと申しますし、なによりお仲間もあなたのことは信頼なさっているのでしょう? 信頼している仲間がちょっと捕まったからって心配することはあっても、早とちりなさることはないんじゃ……どうしました? 頭なんか抱え込んで」
「い、いや……ちょっと頭痛が……」
 あたしはもちろん信じている。
 ガウリイ達のことだから――きっと早とちりしまくってるだろうということを。
 早とちりすることはあっても心配することはまず無いぞ。あのメンツなら。
 きっと今頃――
『やれやれ……とうとうあいつも悪事がばれたか』
『今まで捕まらなかった方が奇跡に近いな』
『ああ……!! 共に旅をした仲間とはいえ――いいえ、だからこそ!
 その身が汚れたことを知った以上あたしは何があってもリナさん、あなたを――悪を倒すわっ!
 ――くううっ!なんて燃えるシチュエーションっ!』
 ……言ってる……ずぇぇぇったい言ってるっ!
 人が居ないのをいいことに好き勝手っ!
 アメリアあたりなんか本気で目をキラキラさせて暗殺しに来そうである。
 あたしの内心の葛藤などよそに、スティングさんは首を傾げて話を続けた。
「ところで先程仲間が三、四人と言いましたけど……誰かもう一人不確かな人でも?」
「あ。いーえ。
 『仲間』は三人ですし、不確かな『人』は一人も居ません」
「そ、そーですか……私の気にしすぎですね」 
 あたしの含みのある言い方に少々引っかかってはいるようだが、突っ込んで聞いてくる気はないようである。ちなみにもちろん嘘は言っていない。
 ……にしても、あの糸目神官、一体何処ほっつき歩いてんだか……
 ディルス王国の異界黙示録(クレアバイブル)まで行けとか言ったくせに、本人はあっさりと姿を消している。――もとい、人じゃないけど。
 ともあれ方向もそれほど脇に逸れているわけじゃないし、問題ないとでも判断したのだろーか。
 ……あたしとしてはとっとと異界黙示録(クレアバイブル)の所まで行って調べたいことを調べたいのだが……
 こーゆー展開になるということはひとまずこの事件を片付けるまでお預けという形になりそーである。

「リリーナ=インカース。お前の部屋はここだ。
 二人部屋だからと言って、問題起こすんじゃ無いぞ」
 相手は完全に悪役その一を見るよーな目つきでそう言って、あたしの背中を軽くこづいた。
 ……うぬぉれぃぃぃいっ! なんたる屈辱っ!
 これで魔道士協会の正式依頼ではなかったら、依頼料が低かったりしたら、本気で暴れ出すぞっ! あたしはっ!
 思わず竜破斬(ドラグ・スレイブ)の呪文詠唱をしかかったが――2秒程度で詠唱止めたし問題なし!
 我ながら見事な自制心である。
 あれから――あれよあれよと作戦内容や打ち合わせも進み、とぉとぉ一囚人と殆ど変わらない扱いがやってきた。
 迷わず本気でダッシュして逃げたくなったものだが、四六時中相談役という名の見張りをたてられ、今日まで至る。
 すでにその頃から囚人と同じ扱いと思われる方も多いかも知れないが――その頃はまだ、見下す目つきはなかったのである。ここの看守達皆というわけではないのであろうが、どぉも囚人達を見下しきっているような勘がある。
 これは元々悪人じゃあない奴が入ったとしてもグレるぞ……
 例えばあたしなんぞ自制心があるから良いようなものの、一般の人間なら本気で自分は悪党なのだという錯覚に陥るだろう。そーでなくても自分の周りの状況を恨む。
 こーいってみると、いかに自分が我慢強いかわかったりするから不思議である。
 ちょいと前まで一緒にいた仲間に言ってみれば、単にそういうメに慣れてるだけだろ、等と言われそうではあるが……本人居ないし。あたしは気にしないし。どーでもいいし。
 ともあれ、潜入捜査の基本方針はこうある。
『出来るだけ目立つな』
 実は速攻『無理です』と言ってはみたのだが……『またまたそんなご謙遜を』なんぞと一笑されておしまいだった。どこがどう謙遜なのかさっぱり解らなかったが、次の基本方針とやらの説明で突っ込む暇がなかった。
『情報獲得に動き、なおかつ怪しまれない範囲での行動を求む』
 まぁ、この辺はあたしの舌先三寸と恵まれた美貌でどうにかできる。
 ――こけるな。そこ。頼むから。
『看守にも情報を漏らさぬようにすべし』
 看守達全員に事情を話せば、どうしても看守達の見る目や反応は変わってくる。
 そこから真犯人に悟られてしまっては妨害してくることは必定。よって、一応非常時においての合い言葉を言って協力を仰ぐことは出来るが、それもあくまで非常時のみ。
 ようは、敵を欺くにはまず味方から、と言うヤツである。
 ――その他諸々、他にも注文は付けられたのだが、基本的にはこうである。
 慌てず、内々の情報を漏らすな。相手の情報は逐一報告せよ。
 早い話が情報収集を第一としろとゆー事である。
 面倒だな……やっぱし……
 ――そうそう。そしてこれはスティングさん個人の『方針』とゆーか、『お願い』らしいのだが、
『無茶はしないように。危険を感じたらこの仕事を降りてくれても構わない』
 ……ずいぶんと優しいことを言ってくれたものだが……あたしという人間を知っていたならそれは言っても無駄だということに気付いていたはずだが……さてさて。かなり久しぶりに『単独行動』なんぞをやるとなると、少々勝手が違うかも知れない。ここは気を引き締めていかんと――
「リリーナ=インカース!! 聞こえなかったのかっ!?
 とっとと中に入れっ!」
 はっ!? 思わず回想モードに入ってしまったが、少々時間が経っていたらしい。
 看守は紅く染めた顔で怒鳴りつける。
 てぇことは何回かすでに怒鳴っていたのだろーか……?
「おいっ!? 聞いているのかリリーナ――」
「あー。聞こえてます聞こえてます。
 少々考え事をしていたもんで」
 ちなみに、リリーナ=インカースというのは役所側が考えた偽名である。
 全く本人と違う偽名を付けたらいざというとき反応が遅れる――と言うことはわかってはいるが、いくらなんでもまんま過ぎ。
 名前の方はどもって間延びしたらそのまんまだし、姓名の方なんか一文字違いっ!
 すぐさま変更を要求したのだが、すでにその名前で書類送検してあるらしく、変更はきかないとのこと。
 グレるぞ……本当に……
 ともあれ、あたしの反応が気に入らなかったのか看守は顎を突き上げ、目を半目にし、こちらを見下ろした。
 どっちが悪党だかわかりゃしない。
「へぇ……そりゃあ考えなきゃならんこともあるだろーな。
 牢屋に放り込まれた以上、例え出所できても世間でまともな目で見てもらえるわけでもねぇ。  
 どうやって残りの人生生きるか思案のしどころだろーよ」
 むかむかむかっ!
 いつもならまず間違いなく呪文で吹っ飛ばしているところだが、先程の基本方針:出来るだけ目立つなを無視するわけにはいかず、何とか堪え忍ぶ。
 あたしは無理矢理笑顔を作って微笑むと、
「ええ。そうなんですよぉ。考えずにはいられないんです。
 あなたのような人が牢屋に入ったらきっと有名美術家が放っておかないぐらいぴったしだろうなぁと思って」
「なんだとぉぉぉっ!?」
「いやだなぁ。そんな大声で照れなくても。
 じゃ、あたしは部屋の方に入らせていただきますから。
 ――あ。試しに入ってみます? 今」
「入らんっ!」
「そうですか。じゃぁそういうことで」
 あっさり言って反論を待たず、あたしは開け放たれた中へと入っていき、入り口からは見えにくい様な位置に立つ。
 なにやらまだ入り口の方でわきゃわきゃ叫いてはいるようだが――放っておこう。
 あーいうのは、相手にされないことが何よりも一番のダメージである。
 外のわめき声を無視してあたしは中へと歩みを進めた。
 とりあえずは現状把握。
 部屋の間取りを頭に叩き込み、別の部屋も同じ間取りなのかを調べれば少しは形が掴めるはずである。
 思ったよりは広くてこぎれいな部屋だという事を空間の感覚から掴むと、側にあった照明器具に火を灯した。
 ぼんやりと鈍く、まばらな光を放つカンテラを目元まで掲げると――正面に、『それ』は居た。
「な………っ!?」
 完璧予想外の『それ』に思わずあたしはよろめき、カンテラを足下に取り落とす。
 意外に丈夫なカンテラは割れずに炎を出し続けてはいるが――あたしとしては割れてくれた方が有り難かった。それが幻、見間違いの一種であるという事をほんの一瞬でも信じることが出来たから。
 しかし、あたしの一縷の望みを嘲笑うかのように『それ』は口の端を歪めた。笑みの形に。
 暗がりの中でぼんやりとした光によりますます影を深め、『それ』はあたかも闇から生まれたが如く、自然な動きでこちらへと歩みを一歩だけ間合いを詰めた。
「…………………っ!」
 思わずあたしはその分だけ間合いを広げる。
 歩みは後ろへと。
 ――あたしは――わかっている。
 これは――恐怖から生まれ出た一歩なのだという事を――
 全身を襲う圧力に必至に耐えながら、あたしはなんとか姿勢を整える。
 いつの間にか瞳を閉じていたらしい。
 完全なる闇へと化した視界にやっと気付き、慌てて瞳を――おそるおそるだが開いた。
 あたしのその様子に満足したのか、『それ』はますます笑みを深くする。
 そして――
「ほーっほっほっほっほっ! また会ったわねっ! リナ=インバースっ!!」
 ――遠慮もクソもない馬鹿笑いが牢屋にこだました。

「なななななっ!? なんでっ!?」
 しばらく愕然とし、この部屋に割り当てたスティングのおっちゃんを恨むことすら忘れ、あたしは自分でも自覚できるほど、うわずった声で聞き返すのがやっとだった。
 そう。相手は数年前、ガウリイと出逢う以前の腐れ縁――あたしの最強にして最大のライバル、白蛇(サーペント)のナーガっ!
 ………………………………………
 …………しまったぁぁぁぁぁぁっ! 動揺しすぎて『自称』をつけるの忘れてたっ!
 あたしとしたことが、あんなのをライバル視しているなどと誤解が触れ回ったりしたら、人間として――いや、多細胞生物として恥っ!
 そんな誤解を身にまといながら生き抜くなんて、郷里の姉ちゃんに手伝いをお願いするぐらい不可能に近いことであるっ!
 いかんっ! 完璧混乱してるっ!
 あたしが落ち着く隙も与えずに、ナーガが髪をかき上げながら、言葉を続ける。
「ふっ。驚くのも無理ないわね。
 近くの飯屋で無銭飲食してとっ捕まって寂しくこの部屋で月を眺めていたら、入り口の方で『リリーナ=インカース』等という不幸な名前に著しく似た名前が聞こえたわ。
 そしたら間髪入れずにあなたの声が聞こえたのよっ!
 これはもう予想外な展開で驚かしてやるしかないと思って、照明を消して部屋の中央に仁王立ちして今か今かと待っていたのよっ!
 ちょっと来るのが遅くて腰が痛くなったけどっ!」
「腰が痛くなるほど胸逸らすなぁぁぁぁっ!!
 ――つーか、なんであんたがこんな所にっ!?――ってのはもう聞いたわね。
 あまりにも懐かしい間抜けな話にただ話を聞いてたけどっ!」
「誰が間抜けよっ!? 誰がっ!?」
「あんたに決まってんでしょーがっ!金魚の――っていうか、元:金魚のうんち!」
「『元』を付けてまでその呼び方にこだわるんじゃないわよっ!
 だいたい、何でリナこそここにいるのよ。
 ――ふっ! 読めたわよっ! リナっ!
 とうとう最強にして最大のライバル、この白蛇(サーペント)のナーガを倒さずして明日はない――そう戦慄してここまで探してきたのねっ!
 その執念深さは褒めて挙げるわっ!」
「あんたに褒められたくないっ! 心の底からっ!
 ――だいたい、もしほんとーにそうならあたしがあんたを見て驚くわけがないでしょーがっ!」
「それはつまり――その場のノリってことね」
「ンなわけあるかぁぁぁぁぁっ!!」
 っだぁぁぁぁぁっ!もうっ!
 幸先悪く事件がスタートしたと思ったら、突入経路も最悪かいっ!
 あたしは遠慮もなく頭をかきむしりながら、心底呪った。
 なんかもー、世界全部。
「で、本当のところはどうなのよ? リナ」
 ……話したらややこしくなりそーだから話したくない……
 ――って、言ったところでどーせさらにややこしくなるだけだろーし……
 仕方ない。
 あたしは決断すると、ナーガへと向き直る。
「実は……」
 あたしは溜息混じり、やけくそ半分以上で事情を話したのだった。
「なるほど……そりゃあ確かに厄介な仕事ね」
「ええ……そーなんです……
 特に誰かさんと再会なんかしちゃうとますます……」
 完全にヤケになって囚人服の裾で目の端を拭うあたし。
 くっそー……出所したらこの付近の山いくつか消滅させちゃるっ!
 このよーな不吉な地は埋めて綺麗さっぱり忘れるべきであるっ!
 うみゅっ! きっとそのたぅりに違いないっ!
「ふっ。あなたも結構不幸な人生送ってるのね。
 土下座してわたしの出所金払ってくれたら同情してあげてもよくってよ」
「そ……そぉれはどぉもぉ……!!」
 こめかみの辺りがぶちぶちきれる音を確かに聞きながら、あたしは眉を釣り上げてはいるが――何とか笑顔で答える。
 くっそー……ここの牢屋内の囚人は魔法使える奴は居ないって言うから魔法を使うのを極端に回避しているのだが……火炎球(ファイヤー・ボール)ぐらいなら使ってもばれないだろーか……
 ん……?
 ちょっと待てよ……ってことは……
「ところでナーガ。
 ここの牢屋内の囚人には魔法使える奴が居ないって話だったけど……どーやって入ったの?」
「ふっ。笑わせてくれるわね。リナ=インバース。
 ここの施設は他の牢屋よりいいって聞いたんで、
 『わたしのような高貴な者が下賤な魔法など使うわけないじゃないっ! ほーっほっほっほっ!』
 と言ったらあっさり書類手続きが完了したわっ!
 何を勘違いしたのか『確かにあんたみたいな頭悪そうなのが魔法使えるとは思えんな。ま、よかろ』とか言ってたけどっ!」
 わかるっ! わかるぞぉっ! 書類手続きのおっちゃんAっ!
 あたしとて魔道士のはしくれっ! その気持ちは痛いほどよくわかるっ!
 だが、しかし――不幸なことに例外というものは世の中つきもんである。ほんっきで不幸だが……
 不幸なことと言えば……もしかして事件解決するまでナーガと相部屋かっ!? あたしはっ!?
 ……すいません。本気でおうち帰りたいです。
 あたしは心底ブルーな気持ちになったのだった。
「――さっきから本名連呼してくれてるけど……一応今のあたしの名前はリリーナ=インカースなんであんまし馬鹿笑いされながら呼ばれると困るんだけど」
 言う言葉のはしにも力が抜けていることが解る。
「そうだったわね。
 気を付けてあげるわ。リリーナ=インカース。
 だから一生恩に着ることね」
 どぐがしぃぃぃんっ!
 あたしの膝打ちで脇腹へそして蹴り上げでナーガの顎を捉える連続技が見事に決まった!
「ひ……ひどひ……」
 そのままぽてくり倒れ込むナーガの襟首をぐわしぃぃっと掴みこんで、
「んっふっふ。さっきから機嫌悪いんでそこんとこ注意するよーに」
「そ、そーいうことはもっと早く……」
「――おやぁ? そう言えば今のあたしは囚人、リリーナ=インカースだっけ。
 そうだったそうだった。何を我慢してたんだろう。うん。我ながら気付くのが遅かったわ。
 ――と、いうことで――覚悟はいいわね……?」
「ひいいいぃぃぃっ! 助けて看守さぁぁぁぁんっ!!」
 密室状態の牢屋にナーガの悲鳴がこだました。

「以上の報告を端的に言いますと――
 相部屋の相手悪すぎ。看守の態度悪すぎ。食事の栄養偏りすぎ。
 悪人じゃなくてもグレます。いやマジで」
「……………………………
 そ、そおですか……あなたの報告は真摯に受けとめましょう」
 冷や汗を流しつつも、スティングさんはギリギリで笑顔を崩さずにそう答えのだった。
 やがて取り繕うようにテーブルに置かれたお茶にすすりつく。   
 結局あの後半日ほど囚人生活一日目を過ごし、就寝直前の奉仕活動――まぁつまりは清掃係としてスティングさんの部屋を訪れたのだった。
「あとですねー……ミルクの賞味期限が二日ほど過ぎてました」
「そんなことまでっ!?」
 叫んだ直後、げほごほ言っていたりするが、単にむせたのだろう。お茶に。
「ふっ。飲み干した後舌先に残るまろやかさがなかったのよ。
 こんなこと、簡単に気付きます」
「む、むう……いとも容易くそんなことまで……さすがです……」
 あたしの舌に賞賛の溜息をもらすスティングさん。
 こめかみに光る汗は……気のせいだろう。多分。
「まぁ、本日の報告はその程度ですけど……明日からですね。本格的な調査は」
「そうですね。明日から一日中肉体労働させられるでしょうから、自堕落な看守の隙をついて、なんとか情報収集頑張って下さい」
 ……じ、自堕落って……まぁ確かに多そうだけどここの牢屋内……
「ところでお願いがあるんですが――」
 これだけは調査を進める上で協力を求めねばならない。
 他の何よりも優先すべき問題である。
「聞きましょう」
 あたしの表情の変化を見て取ったのか、スティングさんは静かに頷いた。
「相部屋にいるナーガ、追い出してくれません?」
 ずがたたたっ!
 あたしの一言にスティングさんはまともに転倒した。
 う、うーみゅ。なかなかリアクションが派手な奴……
「な、なぜですっ……!?
 昔の知り合いなら赤の他人よりかえって都合いいじゃないですか」
「ナーガに限って、それはあてはまりませんってばっ!
 間違いなく騒ぎを大きくしますっ!」
 あたしはきっぱりはっきり言いきった。
「そ、そうですか……わかりました……」
 言いながら、体制を立て直し、元の席へと着く。
 ををっ! おっちゃん話がわかるっ!
「あなたの方で、鋭意努力して下さい」
 ………………………………
「ていっ」
 あたしはスティングさんの目の前に置かれた湯飲みを人差し指で弾いた。
 弾かれた湯飲みは傾き、スティングさんの方へ倒れ込む。
 当然の物理現象ではあるが――あっつうういお茶はスティングさんの方向へと流れ込む!
「でうあちゃぁぁぁぁっ!!」
「――清掃終了しましたので、あまり汚さないで下さいね。では失礼します」
 どぱたむ。
 あたしは閉じられたドアの向こうで聞こえる悲鳴をあっさり幻聴と言い聞かせ、その場を後にしたのだった。

「おうおうおう!
 新入りがこのオレさま――弱い者泣かしのレジスタンにあいさつにこねぇとは良い度胸じゃねーか」
「やかまし二つ名通り相手を選んで喧嘩売れっ!」
「ふふふ……このあたしに貢ぐ物なしに来たんじゃあないでしょうねぇ……」
「悪役女幹部は下がってろっ!!」
「へっ。どんな色女が来るかと期待してりゃ色気の『い』の字もねぇお子様かよ」
「貴様はいっぺん死んでこぉぉぉいっ!」
「ななな、なんでお前がこんな所にっ!? リナ=イン――」
「あたし新入りのリリーナ=インカースですっ! はじめましてよろしくっ!」
 どごがしげきっ!!
 絡まれては弾き飛ばし、バラされる前に口封じ。
 ……以上が午前中に歩き回った生活の端的な報告である。
 先に言ってはおくが――現在魔法の使用回数はゼロである。
 決して魔法は使用していない。
 故に我に非はなしっ!
「ちょっとリ……リーナ。
 目立たなく行動するんじゃなかったの?」
 うくっ。
 確かにちょっかいかけてくる連中だけを相手していたとは言え、囚人達はもちろん、看守達の目つきまでもが集中していたりするよーな気がするのは……やっぱし気のせいじゃないらしい。
「だってナーガ、あいつらみんな悪人よ?
 そんな奴ら相手に下手に出るなんて出来るわけないじゃないっ!
 ……そう言えばあたしが来るまで何日居たのかは知らないけど、あなた良く呪文使うの我慢したわね。珍しく」
「ふっ……わたしほどとなると所詮負け犬の遠吠えと言い聞かせ、自分を欺くこともできるのよ」
「それはそれで嫌なよーな……」
 頬に汗一つ流しながらも、あたしは薄汚れたクワを振りかぶる。
 そう――クワである。
 畑を耕す農夫の命。
 なめらかな曲線で人を傷つけることも、重みで人を潰すことも可能な、あのクワである。
 囚人活動の実質的な二日目――
 それは畑を耕す肉体労働だった。
 ナーガあたりなんぞは非常識な体力あるからいーとして、あたしのよーなか弱い乙女が働き続ければまず間違いなく手ぇ汚れる。手ぇ荒れる。土臭くなる。
 故に十分に一度は、『まどーしきょうかい、まどーしきょうかい』だの、『いらいりょう、いらいりょう』を唱え続ける結果となっている。
 しくしくしく……畑耕すのなんざ、炸弾陣(ディル・ブランド)あたりを連発すれば一瞬で終わるのに……
 唯一強引に利点を挙げるとすれば、最近ガウリイとの剣の稽古で改めて実感する腕力のなさが多少は改善されることではあるが……もちろんあんまし嬉しくない。
「あなたの聞いた話じゃあ、この所内で殺人事件が起こっているって事なんでしょう?
 そんな話、ここにしばらく居たけど聞いたこと無いわよ」
 しばらく居たんかい――内心のツッコミを飲み込んで、あたしは苛立ちをクワに込めて奮う。
 ざっく!
「そりゃあ……囚人達にはっ……話が漏れないよーにしてるんでしょーね……!!」
 ざっく……ざっく……ざっく……
「だとしても……噂すら広がらないのは奇妙ね……」
 あんたに噂を伝えるよーな度胸のある奴が居るとは思えんが……
「奇妙なことなら沢山あるわよっ……!
 看守達の監視の配置もなんか偏りがあるしっ……あっちの方に……ある洞窟に続く作業場なんてちょっと覗いて……っみたけど、怪しさ爆発状態よっ!」
 ざっく……ざっく……ざっく……ざっく……
「へぇ? よくそんなことわかったわね。
 わたしは前好奇心で覗き込んでみたら看守に泡食って止められたわよ」
「あのねぇ……それくらい気付くのは当然でしょーが……って、ナーガ。
 あんたさっきから息の乱れもなく会話してると思ったらっ!
 仕事全くしてないじゃないっ!」
「ふっ。当然じゃない。
 わたしのような高貴な者が畑仕事なんか出来るわけがなくってよっ!
 ほーっほっほっほっ!」
「やかましいっ! 年中高笑い症候群女っ!
 あんたとあたし二人でこの広いスペースを今日中に耕さなきゃなんないのよっ!
 あたし一人にやらす気かっ!? あんたはっ!」
「ふっ。休み時間中に隠れて炸弾陣(ディル・ブランド)を連発すりゃいいじゃない」
「あほかぁぁぁぁっ!!
 そんなことしたら一発で魔道士だってばれちゃうじゃないっ!」
「まだまだ考えが浅いわねっ! リナ……もといっ、リリーナ=インカースっ!
 呪文をアレンジで遠隔操作しつつ、何処か陰に隠れていれば何も問題がないわっ!」
「それで……?
 看守が正体不明の爆発の連打を発見し? さらにはそこへ戻ってきた囚人二人が『いやぁなんかすでに耕されてますねぇ。じゃああたし達はこれで』とか言ってそそくさ立ち去れと?」
「ふっ……そう言えばそういった盲点もあったわね……」
 をい。
 盲点か。今のが。
 とかなんとか思っているうちに――
 ぴゅるいぃぃぃぃぃぃっ!! 
 午前中の作業中止、休憩時間の合図が鳴り響いた。
 他の囚人達にとってもそうではあろうが、あたしにとってはなおさら貴重な自由時間である。
 この自由時間をいかに有効に使って情報収集するかによってナーガと相部屋生活からおさらば……じゃなかった。事件解決の時間が決まると言っても過言ではない。
 先程のナーガの案をそのまま鵜呑みにするわけにはもちろんいかないが、出来るだけ手早く仕事を終わらせれば自由に動ける時間が増えることも確か。
 どうやらこの辺りの警備も手薄なよーだし……ふむ……
 あたしはちらりと今現在使われていないボロい空き部屋を一瞥した。

「すいませーん! 看守さーんっ! なんかちょっと火事みたいですーっ!」
 とりあえず慌てた風を見せ、手のひらをばたばた振りながら、あたしは手近にいた看守の注意を引く。
「なっ!?
 ――くそっ!急いで消火だっ! おいっ! お前っ!」
「らぢゃー! 看守さん達に連絡してきますっ!」 
「ふっ。応援が来るまで頑張ることね」
 振り仰ぐ看守に背を向けて、あたしとナーガはとっととその場を去る。
 殆どの方はお気付きだとは思うが――この火事は放火であり、真犯人はナーガである。
 ナーガ『だけ』であるからそこんとこ注意するよーに。
 いざとなったら責任全部被すつもりでこれから起こす計画を打ち明け、実行犯はナーガ一人のみに成功した。
 うみゅっ! なんて合理的(非道)っ!
 いやぁ、久しぶりに見たなぁ、ナーガの炎の矢(フレア・アロー)。
 ……まぁ……おそらくばれないとは思うけど……
 ともあれ、あのままあそこにいては消火活動に手伝わされるおそれがある。それでは全く意味がない。
 よって、『助けを呼ぶ』等と言ってあの場を離れたのである。
 そしていくらも走らないうちに――おっしゃぁぁっ! 二匹目発見っ!
「看守さんっ! あっちの方で火事が起こりましたっ! 急いで他の人達に連絡をお願いしますっ!」
「なっ、なんだってっ!?
 わかった。急いで連絡をしようっ!」
「ふっ。わたしたちは消火活動の手伝いに戻るわ」
「つー事で失礼しますっ!」
 勢い良く嘘を言い放つと、びっと敬礼らしきものをし、あたしとナーガは再びきびすを返し、先程の火事の現場からは死角の位置に来るように回り込み、影に隠れ込む。
 周りに人が居ないことを確認し――あたしとナーガは呪文を唱える。
『炸弾陣(ディル・ブランド)!!』
 ずどだだだだだぐぅぅんっ!!
 皆の注意が完全に火事に注がれているところで、あたしとナーガは遠慮無しに呪文を放ちまくる。
 このところストレスたまることばっかだったので、気分壮快。心機一転!
 おしっ! これで本日の作業終了っ!
 あたしはぐぐいっと拳を握りしめたのだった。

 ――さて。作業が終わったからと言って、それで終わりでは単なる模範囚である。
 ……いや……まぁ……絡んでくる連中をぶち倒し、あちこち呪文で放火したり爆破させまくったりしている以上、自分でも少々模範囚であると言い切るにはかなり不自然があるとは思うが……まぁそこはそれ。実際模範囚になるために来た訳じゃないし、とりあえず不問とする。
 ともあれ、あたしとナーガは未だに小屋がぼうぼうめらめらと燃え、大慌てしている光景を微笑ましく見送りながら、怪しさを放ちまくっている洞窟へとやってきた。
 何故この洞窟の作業場が怪しいのかと言えば――答えは単純。人の気配が感じられないのである。
 だが、しかし作業場と名が付く以上、人が居るのは確実。
 となれば――気配が感じられないほど奥――もしくは地下の方で『作業』が行われていると言うことである。
 これで怪しまずに何を怪しむというのだ。
 意外に今日の報告時にスティングさんに聞いてみれば『いやぁ実は地下水路作っているんですよ。はっはっは』なんぞとあっさり答えが返ってくるかも知れないが、あくまでそれは可能性。
 不確かな可能性に賭けて今出来ることをフイにするのはただの馬鹿である。
 ま、それはそれとして――
「なんであんたまでついてくんのよ……ナーガ」
 そーなのである。気が付けばいつかのよーにじゃれあって仕事を打ち明けたりなんぞしたが、彼女はあたしを手伝う義理はない。つーか、あって欲しくない。
「決まってるじゃない。面白そうだからよっ!」
「――はいはい。すでに引き離すのは諦めてるから止めないけど――高笑いだの、大声は止めてよね。 行動がばれたら行動二日目で作戦大幅変更になるんだから」
「わかってるわよ。それぐらい」
 わかってない……全っ然わかってない……
「とりあえずこっからは隠密行動で行くわよ。
 ヘマして足引っ張らないよーに」
「……さっきまでからんできた囚人片っ端からぶち倒してきた人間の言うセリフじゃあないわね……」
「……それとも口封じした方が手っ取り早いかしら?」
「じょっ、冗談よ。やーねぇ、リナったら」
「リリーナよ。いつ聞かれるかわからないんだから二人だけの時でも間違えないよーに」
 びっとナーガの鼻先に指を突き刺すと、あたしはくるりと背を向けて洞窟の奥へと入りだした。
 暗く、じっとりとした洞窟特有の空気が、かび臭い匂いが、周りにつきまとう。
 緩やかに下降していく洞窟の通りに足を滑らせないように注意しつつ、足音と気配をなるたけ殺して先へと進む。
 やはり洞窟入り口付近に人の気配はない。
 しばらく進むと、とうとう入り口から射し込む光も乏しくなってきた。
 明かり(ライティング)の呪文で足下を照らすのは容易いが、それでは発見されやすいし、何より呪文が使えると言うことが完全にばれ、言い訳すら出来ない状況になる。
 普段ならば腰に差している短剣(ショート・ソード)の刀身に明かり(ライティング)をかけ、消したいときには鞘に戻すと言う方法があるが、今回は牢屋内なので、武器は役場に預けてある。
 某神官から買い上げた正体不明のタリスマンは(明確な武器ではないので大丈夫と許可をスティングさんに取ってもらった)服の中に隠し、身につけてはいるが、今回は全く役に立たない。
 さてどーしたものか……
 等と思案していると、奥の方で微かにだが……人の声。それも複数。
 聞こえるからと言って近くにいるとは限らない。
 奥の地下室かなんかに通じる通風口かなんかがあり、そこから漏れた声が聞こえたという可能性がある。
 どっちにしろ奥に誰か居るということに変わりはないのだが――
「ねぇ、ナーガ。
 あなたが何故か暴走してこの洞窟内に入り込み、あたしがそれを止めに来た健気な囚人――ってシナリオで行くってのはどう?」
「役が違うわね。危険な役の方は仕事を受けたあなたで行くのが当然じゃなくって?」
「ふむ……だめか……」
「ふっ。あなたにも少しは自分の立場という者がわかってきたようね」
「それじゃあ……あたしが無事だとは限らないし……」
「…………………………………」
 あたしのスルドい推理に何故かナーガは沈黙しつつ、うんざりした目でこちらを見ながら、
「本っ気で変わってないわね……あなた……」
「あったりまえでしょーが。
 ちょっと数年会わなかったからってほいほい性格変わったりするわけないじゃない。
 あんただって変わってないわよ。まるっきし。
 ――と、なると。お互い変わってもいないし、久々にこのコンビ、組み合わせで来た以上、この状況の打開策は――」
「いつもの力押し、ね」
 そこであたしとナーガは同時に微笑んだ。
 ――正直に言って――少々懐かしく思ってしまったのは、不覚だったかもしんない。

 その場その場で臨機応変に対処せよっ!
 つまり、成り行き任せのその場しのぎっ!
 それも相棒がナーガならまたよしっ!
 あたしはハードルが高ければ高いほど燃えるタチであるっ!
 とりあえず端から見たらヤケとも思えるほど無策であたしとナーガは突き進んでいった。
 結局照明は明かり(ライティング)を使用することにした。誰にも発見されずに済むならそれで良し。
 例え誰かに発見されたりしたら即座に先程拾った木に火炎系の術で炎を灯し、たいまつ代わりに進んでいたこと作戦は決定。
 明かり(ライティング)もたいまつの炎の中心にコントロールさせてやればまずばれないだろう。
 で、発見されたらこー言うのだ。
 『上で火事があったから動ける人は助けてくれ』それでもし相手がこちらが声も出さずに近付いてきたことを不信がったならいけしゃあしゃあと、言ってやればいい。『あまりの暗さに怖くて声が出なかった』と。
 ヤケ以外の何物でもないよーな気がするが、意外と今思いつく最善の策であるから不思議である。
 さしたる障害のないまま、あたしたちは歩みを進める。
 そして――とうとうはっきりと聞こえだした人の声。
 間違いない。この声。このトーン。この会話の応酬リズム。
 完っ璧に悪人共の宴会場面である!
 盗賊殺し(ロバーズ・キラー)と呼ばれるあたしの耳に狂いはないっ!
 そして――確かなことがもう一つ。
 こぉいうタイプの人間は全て馬鹿である。
 となれば隠密行動も意外とさくさく進むのではっ!?
「――何やってんだ。てめーらは」
 ぎくぎくぎくぅぅぅぅっ!!
 いっ、いきなり隠密行動失敗……?
 背後からかかった声に振り向けば、そこには若い男の姿。鼻頭に刀傷。
 歳の頃なら二十歳過ぎ。ガウリイあたりと同年代ぐらいのようだが……
 青みがかかった黒髪で完全に印象は違う。
 服はさすがに囚人服で、非武装ではあるものの、袖から覗く筋肉は鍛え上げられたそれである。
 醸し出す雰囲気からでもあたしが魔法無しで挑みかかっても倒せる相手じゃないことがわかる。
「ちょっ、ちょっと上の方で火事がありまして……」
「ふっ。それで手伝ってもらいたくて応援をお願いしにきたのよっ!」
 っだぁぁぁぁっ!! わざわざ胸逸らしてこちらから大声を出すんじゃない。
 ……やっぱしこいつが居ると事態が悪化するでやんの……
「ふーん? それでコソコソここまで来た訳は?」
 当然の事ながら、完全に疑いの眼差しを向ける男。
「決まってるじゃないっ! 暗いのがこわ……!!」
「いやあのですねぇっ!
 暗くて女二人ですのでつい心細くっておそるおそる降りていったら、何やら楽しげな声が聞こえたものですから、つい好奇心が出て覗いてみよーかと……
 すみませんでした」
 胸を反らしながら『怖かった』なんぞと言い出しそうだったナーガの口を押さえ、あたしは慌てて言葉を取り繕う。
 もっと前に発見されたのなら当初の作戦通りで構わないのだが、確実に宴会の声が聞こえてくるよーな場所で発見されたのなら別である。
「……まぁ、見なかったことにしてやっからとっとと帰んな。奥にいる奴らに見つかるとやっかいだぜ」
 意外にあっさりと解放してくれるらしいが、それでは困る。単にこれからの行動範囲を狭めてしまっただけである。
「そ、その……奥にいる奴らって……?」
 怯えているフリをしつつ、少しでも情報を絞り出そうと探るあたし。
「――嬢ちゃんよぉ。好奇心旺盛なお年頃ってのはわかるが、時と場合を考えな。
 おれはこう言ってんだ。今のうちに逃げろってな」
 つまりは奥に何らかの危険があることは理解できた。
 しかし……それだけでは……
「ほーっほっほっほっほっ! 笑わせてくれるわねっ!
 奥に何かがあるとわかっていて、あっさり引き返すほど、わたしは物わかりがいいと思ってっ!?」
 『思って!?』って、初対面の人間にそのセリフはないだろ、そのセリフは。
「ばっ、馬鹿野郎っ!! 大声だしやがって気付かれたらどーする――遅かったか……」
 そう言うと、うんざりしつつ、微かな明かりの方向――先程まで馬鹿笑いがこだましていた場所へと視線を向けて溜息をつく。
 やがてのっそりと――もとい、のそのそと複数の完璧ごろつき君達が薄笑いを浮かべながらやってくる。
 うーみゅ……こいつらは見かけ倒しのよーだが……
 呪文無し。さらにはこんな狭い空間では、単純に力比べになることが多い。これは……ちょっぴし分が悪いかも……
「よぉ、クラング。こんな所で女二人を同時にナンパかい? せいがでるこったな」
 なんの芸もないからかい文句に何がおかしいのか取り巻き連中は下品な笑い声をあげる。
 ほぅらやっぱし馬鹿の集団だった。
「うるせぇ。とっとと上へ戻れっつっただけだ。
 てめーらこそ、わざわざ宴会を中止してまでおれをからかいに来たのか? せいがでるこったな」
 からかい言葉を返しながらも、表情に浮かぶのは不敵な笑みなどではなく、不機嫌な表情ただ一つ。
「けっ! そんな訳あるかってんだよ。
 女の声がしたから楽しませてもらおうと思ってきただけさぁ。
 ――おい、ねーちゃんら。怪我したくなきゃぁこっちへきな。俺達と遊ぼうぜ」
 嫌です(はあと)
 ――と、正体隠している以上言うわけにもいかず、とりあえず怯えたフリをするあたし。
 ナーガは……もうどーでもいーや。墓穴掘るなら掘ってくれ。ただしあたしに迷惑かからない範囲でだが。
「――待てよ。おれはこいつらに上に戻れっつったんだ。
 てめーらが出る幕じゃねぇ。とっとと酒でも宴会でもしてこいや」
「おめぇが用がないんなら俺達がいただいちまっても文句はねぇだろーがよ」
 あるわい。山ほど。
 怯える少女の仮面の下で、思いっ切り睨むあたし。
「――なぁ、ヘインズ」
 親しげな口調でそう言ってヒゲ面の方をぽんっと右手で叩くと、直後――
 だむっ!!
 クラングの左拳がヒゲ面の腹にめり込む。
 自然な歩調からフック気味の左手でのボディブロー。そこまでの流れによどみはなく、なめらかな線をなぞるかのような動きはもちろん。めり込む腕の様子からも、あたしとは桁違いの体術の使い手だと伺える。
「おれはてめーらにも消えろっつってんだよ。大将?」
「わっ、わか……った……」
 殴られた本人はうめき声ながらもやっとの声でそう言った。
「す、すまねぇなぁ邪魔して……」
 周りにいた連中も薄ら笑いを浮かべて、ヘインズとか言うヒゲ面おやぢを支えてそそくさ奥へと消えていく。
 う、うーみゅ……複雑で単純な人間関係だなぁ……
 思わず頬の辺りに汗などかきつつ、見送るあたし。
「くだらねぇ奴らが出てきたが……とっとと帰れよ。お前らは。
 こんな所に関わる必要はねぇんだ。ここにいる奴らは上にいる連中とは違う。
 お前らに取っちゃ百害有って一理無し、だ。
 ここじゃあ看守の奴らの監視の目もとどかねぇ。
 何かあったとき――てめーらを助けてやる奴なんざ、いねーんだよ」
「でも――あなたは助けてくれたわ」
「…………うるせぇ。消えろ。
 次会うときは――本気でどーなってもしらねぇからな」
 生まれ出たそのセリフが、照れなのか、脅迫なのかは――後ろ姿から判断することは出来なかった。

「あなた方の作業範囲のすぐ側で火事があったんですが……無関係と言い張る気ですかな?」
「ええ。言い張る気です」
「……………………………………」
 二日目の報告タイム。
 今回は食事当番として配膳台をごろごろ転がしながら、ドアを開けたとたん、上がった問いかけに即答するあたし。
 あの後いくらか思うところもあり、ばれない程度に情報収集。それを元にいくらか推論をたててみたのだが……所詮推論は推論。結局は確かな情報と裏付けが必要である。
「では質問を変えますが……あなた方の担当する畑が異様に熱かったのは何故でしょう……?」
「いやぁ、あそこって日当たりいいですし」
「火傷するほどではないと思うんですが……」
「皮膚が弱いんじゃないですか? その人」
「………………使ったのは火炎球(ファイヤー・ボール)ですか? それとも炸弾陣(ディル・ブランド)?
 まさかとは思いますが暴爆呪(ブラスト・ボム)は……」
「人を見境無しの呪文馬鹿みたいに言うなぁっ!
 暴爆呪(ブラスト・ボム)なんか使っていたら畑じゃなくて壺焼き状態に溶けきってるわよっ!
 あたしはが使ったのは――!」
「――使ったのは?」
 ……うまく、誘導尋問できたと思ったのかにやりと笑うスティングさん。
 しかし。
「この腕二つです」
「……も、もういいです……で、今回の報告をお願いします……」
 神経質そうに咳き込みながら、スティングさんは頭を抑えつつそう言った。
「まぁ、報告というか質問を先にさせていただきたいんですけど……
 看守の配置ってずいぶん偏りありますよね。
 あれはどういった意味があるんです?」
「ああ。あれですか。
 看守達の好き勝手に配置を任せていますので、気の合う者同士が近くで監視するってパターンが多いんですよ。何かヒントになるかと思いましたか?」
「ええ。ヒントになりました。
 スティングさん。あなたは――ずいぶんと嘘が上手なのね」
「なっ……!?
 何を言っているんですか、リナさん」
 動揺した表情をしつつ、苦笑いを浮かべるスティングさん。
 その表情は、嘘つき呼ばわりされてのものか、図星をつかれてのものか。
 答えはもちろん――後者である。
「あの配置や監視順路――その他諸々。囚人達にも聞き込みしつつ、確認してみたんですが――
 あれって全て、洞窟内にある作業場を避けて監視されてますよね」
「………………確かに、そう思われても仕方のない配置ではありますが……」
「ヒント2つ目。
 あなたは結構しぶとい性格である。
 ――正解のはずよ。
 出来る限りあたしに嘘を付き続けようとするそれが何よりの証拠。
 洞窟内にある作業場の中にいたある人が――ここには看守の目も届かないって言ったのよ。
 もしあたしのさっきのセリフがはずれだとしたら――このセリフは一体何なんでしょうね?」
 あたしのこの言葉に今度こそ相手は沈黙した。
 深い溜息をしつつ、側にあった茶に手を伸ばす。
「先に言っておきますが――お茶を飲むのは結構ですが、心の内まで飲み込むのは止めて下さいね。
 そうなるとちょっぴし面倒なことになるんで」
「――ええ……そうした方がいいようですね……」
 そう言って寂しい笑みを浮かべながら、スティングさんは、お茶を飲み込んだ。 
「やはりあなたに頼ったのは正しかったようです……
 残念ながら、ね」
 相反する二つの思いを言葉にし、スティングさんは苦笑を浮かべた。
「あの洞窟は……現在立入禁止状態にあります。
 看守達の配置も……あなたの言った通りです……」
「あの洞窟内で――殺人事件は起こっているのね?」
「いいえ! 違います!!
 あそこは――関係ない――関係ないんです……
 起きてる殺人事件はあそこ以外です!
 これは――これは本当なんです……お願いです……信じて下さい……」
 慌ててあたしの腕を掴みながら、泣き出さんばかりの声で言う。
 正直――嘘を付いてるとは思えないが……
「ならば殺人事件の起こった場所と殺された人の名前と経歴を。
 とてもじゃないけど……先程まで嘘付かれた人間を言葉一つで信用するわけにはいかないわ」
「そう――ですね……
 後であなたの部屋の監視に当たっている看守に資料を渡しておきます」
「申し訳ないけど――それも却下ね。
 今の気持ちと後のあなたの気持ちが同じとは限らないでしょう?
 今すぐ、資料を下さい」
 しばし瞳を見つめ続けた後――スティングさんは深い溜息をついたのだった。
「わかりました……今すぐ持ってこさせましょう……」
 そう言って片手を挙げると、控えていた男性がこくりと頷くと、外へと退室する。
「その事件は事件として……あの洞窟は一体なんです?
 それと奥にいた人達は?」
 そう言うと、スティングさんは間違いなくびくりっと肩を強ばらせた。
 瞳の奥にともるのは恐怖――?
 いや、それともこれは――
「忘れて下さい……あそこには……決して立ち入らぬよう……」
 おそらく、スティングさんは都合のいい嘘は今でもつけるのだろう。
 だがしかし、あくまで『都合のいい嘘』である限り、である。
 そう言う場合は――非常に嘘が見抜きやすいということをあたしは知っている――
 だからこそ――彼は語らない。嘘を。そして――真実を――
 だが、しかし――
「そーいうこと言われるとあたし無理にでも関わりたくなるタチなんですけど」
 ひききっ!
 これまたわかりやすく凍りつくスティングさん。
「あ、いいや――じゃあ――バシバシ詮索探索オッケーです」
「では遠慮なくそうします。ご協力ありがたうっ!」
「ちょっと待って下さいリナさんっ!! 本っ気でやめてくださいっ!! 駄目ですあそこはっ!!」
 退室しようとするあたしの背中にしがみつき、必至に言いすがるスティングさん。
 う、うーみゅほんとーに泣きそーだなー……
「いやでもあたしそう言われると……」
「じゃあなんて言えば良いんですかぁぁぁっ!?」
 悲鳴にも似た叫びを聞きながら、考えることしばし。
 人差し指を額に当てつつ、首を傾げ、
「『何でも協力しますから頑張って下さい』……かな……?」
「それはあなたにとって良いことでしょうっ!」
「いやでもあたし他人のことより自分のことが大事だし」
「鬼かあんたはぁぁぁぁっ!!」
「そーは言うけど……スティングさんの頼みだって自分勝手な頼みでしょーが」
「そこを曲げてっ! どーかひとつっ!」
「い・や(はあと)」
 あたしは笑顔でそう言うと――丁度その時、部屋の中へと入ってくる影一つ。
 むむむっ! この人はっ!
「資料をお持ちしましたが――あの……一体何が?」
「いやいや別に本当に大したことじゃあ。
 では失礼しまっす!」
 そう言って呆然とする男性の手元から資料の束をひったくると、あたしは部屋を退室する。
 どばたむ。
 ――お。そう言えば言い忘れたことがあったっけ。
 きぃいいぃ…
「あ。すいません。言うの忘れてましたけど――
 今夜の夕食は子鴨ローストの香草焼きに、スパニリィのワイン蒸し、シチューは肉汁お野菜たっぷりの、ブラウン・シチューにございます。
 ではあでゅーっ!」
 ずどべしぃぃうんっ!
 なにやらメニューの羅列に構わずこちらによって来るスティングさんの顔がちょっぴし怖かったので、あたしは勢い良く、扉を閉め、ダッシュで逃げ出したのだった。

 ――さて本来ならば。
 あたしは眠らねばならない。
 夜も夜中。
 あちこちに吸血鬼さんが高笑いをあげつつおおはしゃぎするほどの真夜中である。
 あたしのすぐとなりにはナーガがすぴょすぴょ眠ってはいるが――起こすべきかは迷っている。
 都合の悪いとき、何か気になることがあるとき。人はむやみやたらと夜中に行動を起こす。
 それは闇という鏡が、自分の心を映し出す幻を描くからなのかもしれない――
 白々と輝く月は、鉄格子越しではあるものの、充分な明かりがある。
 今日と一日が薄れ行くその時間、あたしの意識ははっきりとした光に晒されていた。
 こういう夜は――二つに一つ。
 あたしが行動起こすべき時間であるか――
 または敵が行動を起こそうとしている時のみ。
 スティングさんは嘘を付いた。
 あの洞窟には何もない、と。この事件に関係ない、と。
 関係の無いはずはないのだ。
 あたしは知っている。
 ――いや、理解している。根拠を聞かれれば答えられない。
 だがしかし――あえて言おう――この胸騒ぎこそが根拠である、と。
 あたしはすでに目の通し終わった資料をベッドの裏の木の組み込み部分にしまい込み、立ち上がった。
 マントはない。
 ショルダーガードもない。
 ショートソードもない。
 だがしかし――あたしには魔血玉(デモンブラッド)と――あたし自身という最大の武器がある。
 何を迷うことがあろうか。
 あたしは今、間違いなく――前へと歩き出している――

 漆黒の闇の中をあたしは泳いだ。
 まばらに光る照明の明かりも、こちらへと届かない。
 それもそのはず。
 あたしは監視のないところ――そう。あの洞窟へと向かっているのだから。
 異様に焦げ臭い場所を通過して、あたしは静かにそこへと降り立った。
 昼に来たように、入り口付近に気配はない。
 だが――格段に、洞窟にわだかまる闇は濃くなっている。
 鼻をくすぐるカビの匂いに隠れた一つの香りを嗅ぎ当てる。
 昼は気付かなかったがこれは――間違いなく、危険の匂いだった。
 肌にちりつく凍った空気はあたしの身体を嘗めるように這い回り、まとわりつく。
 ――これは少々、やっかいかも――
 何故かあたしは苦笑を浮かべ、ゆっくりと歩みを進めた。
 全く同じ洞窟内部。
 だがしかし、それは目だけで捉えた場合である。
 奥へと帯びる、闇の絨毯は薄暗い霧を吐き出すかの如く、冷気を放つ。
 ガウリイならこの暗闇でも見えるかも知れないし、例えなにか居たとしても気配を察知してくれるのだが――居ない人を頼っても仕方がない。
 どうやらあたしはいつの間にか、人を頼ることに慣れていたらしい。
 ひたすらおぼつかない足下、昼よりさらに夜露によって滑りやすくなった路面に気を付けながら、あたしは一歩一歩奥へと進んだ。
 足音は――少々は仕方ない。
 それよりは体勢と、周りの気配に注意を配った方がいいだろう。
 そして先へと進み――そいつは昼と、全く同じ所にいた。
「よぉ。嬢ちゃん。
 やっぱしきちまったかよ」
 そう言って――クラングは相変わらず不機嫌な表情でそう言ったのだった。

「まぁ人間誰しも好奇心はつきものよね」
 そう言って微笑むと、何故かクラングは顔を逸らした。
「そーいう無意味な好奇心が人の命を奪うこともある。
 つまらねぇぞ。そんな意地は」
「意地とは思ってないわね。
 あたしはただ単に後悔しない生き方を選んでいるだけよ」
 あたしのその言葉にクラング再び顔をこちらへと戻し――吐き捨てた。
「けっ。そう言ってきれいごとで世の中渡ってきたわけだ。
 そーやって甘く考えてっからこんな収容所にとっ捕まるんだよ」
「まぁあなたがどーいった考えで世の中生きてきて……どんな事件があってそこまでグレたのかは知らないけど――あたしは自分の生き方帰るつもりはないわよ」
「そういう目をしているよ。確かにな。
 ま、夢見るお年頃で人生終われば幸福だよな」
 ますます不機嫌な顔でそう言うと、こちらを鬱陶しげに眺めるクラング。
「とりあえず当分は死ぬ予定無いんだけど……」
「予定? 誰が決めたんだよ、そんなもん。スィーフィーなんたらっつった神様か?」
 しかしあたしはちっちっちと指を左右に振りつつ、
「決まってるじゃない。あたし自身よ」
「……いい気なもんだよ。まったく。
 たいしたもんだ。そこまで言い切れればな。
 ――そうそう。昼来たときの猫かぶりは止めたのか?」
「もうあなたの前では無意味でしょう?
 ――にしても、よく猫かぶりだってわかったわね……」
「そりゃぁわかるさ。
 そういう目を持つ人間は、あんな奴らにおびえるもんか。
 あの程度の奴らになんかな」
「仲間にずいぶんな言いぐさね……」
「仲間? 奴らが?
 冗談じゃねぇぜ。一緒にすんな。
 おれはあいつらとは違うんだよ」
「ふーん。どこが?」
 あたしは間髪入れずに聞き返すとクラングはうんざりした目でこちらを見やり、眉間を掻きながら、
「嬢ちゃん……好奇心は死を招く。
 程々にしときな、その好奇心は」
 そう言いながら、クラングは奥へと歩みを進める。
 視線の感覚から着いてこいと言っているようだが――まぁ言われなくても元々奥へ行く気でいたし。
 大して歩いていないところでクラングは立ち止まった。
「さてと――嬢ちゃん。
 ここが最後の境界線だ。
 これより先は後戻りの効かない道でな。
 ――おれから最後の忠告だ。
 好奇心は生きてく上で大事だろーよ。だがなぁ……そいつで死んじまったら意味もない。
 本末転倒だ。
 おそらくあんたは頭がいい。
 だから頼む。ここから先にはもう来んな。
 後悔するぜ。間違いなく」
 クラングの瞳は――真剣だった。
 今まで眉間に刻まれ続けた不機嫌の象徴も今は消え失せている。
 いつの間にか浮かび上がったのか――先程まで通路だと思っていた彼の背中には鉄で出来た扉が閉じている。
 怪しさぷんぷんである。
 まだ何も確かな情報は何もない。
 援軍も居ない。
 仲間との連絡手段もない。
 引き返すのが利口である。
 だが、しかし――
「後悔するかはあたしが決めるわ」
 そう言って、あたしは一歩、歩みを進めた。
「畜生が……年上の忠告は聞いとくもんだぜ。
 本気でどうなっても知らねぇからな」
 そう言って眉間をぽりぽりと掻くクラング。
「はいはい。まー、そういうことにしてとっとと進みましょ。クラング。
 ――ところであなた、いくつなの? 結構若く見えるけど」
「……まぁ……だいたい23ってところか。
 ――で、いいんだよなぁ……?」
 おいおいおい。
「自分の歳すら満足に言えないの? それじゃあどっかのクラゲみたいになるわよ」
「なんだよ、そのクラゲってのは。
 おれの場合、歳の数え方が特殊なんだよ。
 さっき頭は良さそうだとは言ったが、嬢ちゃん利口じゃあねぇな。こんな事に足突っ込んでよ。
 ――そういや嬢ちゃん、名前は? 聞いてねぇよな。まだ」
「――リナ。リナ=インバース――」
 そう言いながら、あたしは鉄の扉を開けたのだった。

 襲い来る違和感に、あたしは一種の納得すら覚えた。
 人間が生きていくうちの他の何事にも例えようのない感覚。
 あえて言うなら軽い目眩にも似た薄い感覚の違いを通って、あたしはそこに立っていた。
「なるほど……魔族の結界か……
 そりゃ止めたがるのも無理ないわ。あははは」
「『あははは』じゃねぇっ!!
 ったく、とんでもねぇ奴だ。人がせっかく忠告してやったってのに」
「なーに言ってんの。男ならずびしぃっとストレートに言えば良かったじゃないのよ。
 あんなまどろっこしい言い方しないで」
「それが出来りゃあ苦労しねーよっ!
 だいたい、そう言ったら嬢ちゃんはよぉ。引き返したか?」
 ふるふるふる。
 あたしははっきりと左右に首を交互に振った。
 それを見るとクラングは溜息をついて奥へと歩いていった。
 なんか今の表情を見ていると――
「クラング……
 なんか段々と不機嫌から疲れた顔へと表情に変化がおきたよーな……」
「はっはっは。誰のせいだろーな。全くよ」
「不思議よね。ほんと」
「……………………いいから後ついてこい」
 うーゆ……ますます疲れたよーな声が聞こえたのだが……いやいや心配だなぁ(うぷぷっ)
「ここは元々は単なる牢屋の独房の集合体だったんだ。
 だがなぁ……いつしか看守達にも手の終えなくなった奴らばかりが集まってよ。
 結局看守は逃亡。囚人達はここで青春謳歌してたってな話だ」
 ずいぶんただれた青春像だな。そりゃまたずいぶん。
 それにしても逃げ出すな。看守。お前ら仕事のプライドないんかい。
 ………………なさそーだな……なんとなく……
 話を続けながら、クラングは歩みを進める。
 その道中ではあたしには見分けがつかない顔――つまり悪党のだらしなく口開けて眠りこけている姿があちこちで見える。
「食事に困ったら外に出て、そこらの看守に笑顔で肩叩くだけで手に入ったそーだ。
 で、困り果てた奴らは自分から囚人達に食事を用意し始めた」
 やっぱり無かったか……プライド……
「そりゃまたずいぶん腐った話ねー」
「世の中そんなもんさ。
 綺麗な部分探す方が苦労する。
 ――ま、結局――外で何かがやりたかったわけでもねぇ。外の連中ビビらして、それで満足な程度の連中だ。飯さえ届けりゃほとんど洞窟の中だった。不自由もなぇからな。
 それで面倒事を嫌がった看守どもはそれでしらんぷり。触らぬ神に祟りなし、だとよ。
 ずいぶん人相悪い神様だぜ。全く」
「いやいや全くその通り」
「……おれの顔見ながら言うな。
 とにかく、上の収容所とのつながりはその程度だった。
 それでよ、一応世の中珍しい人種も居たもんで、そういうのに腹立て単身乗り込むよーな珍種も居たんだ」
 な、なんか遠回しな皮肉であたしのこと言ってんじゃないだろーな……
 ばれては居ないはずだが……うーむ……
「で、そしてタイミング悪く、そいつは現れた。
 ――魔族――
 この種族については、嬢ちゃんの方が詳しいみてーだな。
 ここはそいつの結界の範囲内だ。
 出るには条件が限定される」  
 そして、クラングは歩みを止めた。
 目の前にわだかまる暗黒に目を向けて。
 彼が震えているのは――恐らく異様な圧力だけではないだろう。
「なぁ? 洞窟住まいのデザーバックさんよぉ」
 そう言いながら――彼は不敵の笑みを浮かべて見せた。

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12505封鎖された伝言 2白いウサギ E-mail 12/1-02:38
記事番号12503へのコメント

二、 分かれ道 行く先々に 何故魔族!?

 ――ずいぶんと――面白いエサを引き込んできてくれたではないか――
 そいつは形の定まらぬ、闇のわだかまりのまま、そう答えた。
「うるせぇよ。好きで連れてきた訳じゃねぇ」
 ――そうか――ならばますます我にとっては好都合――
「……相変わらず悪趣味じゃねーか……デザーバックさんよぉ」
 ――そうではない――我ら魔族は――
「人間の負の感情を糧として生きるもの――
 滅びる為に――滅ぼすためにこの世界に存在するもの――」
 ――ほぉう?――
 デザーバックとやらは、面白そうに声をあげる。
 あたしは構わずに言葉を続ける。
「だからこそ――クラングの言う『好きで連れてきた訳じゃない』はあなたにとって好都合――」
 ――何者だ? ずいぶんと面白い知識を持っているではないか――
「どーでもいいわよ。あたしが何者かなんて。
 それよりもあたしが言いたいのは――こんな所で縄張り張られちゃ迷惑なんでどっか行ってくんないかしらね?」
 ――ふむ――つまりそれは我に戦いを挑みたいという事かな?
「そういう言い方もできるわね」
 あたしは腕を組みながら大きく頷いた。
「おいっ! ちょっと待てっ! 嬢ちゃんっ!
 あんたあいつが――デザーバックが魔族だってわかっているんだろうっ!?」
 なにやら慌てた様子でクラングがあたしの袖もとを引っ張りながら、わめき散らす。
「知ってるわよ」
「それにっ! 魔族の力も驚異も知っているんだろうっ!?」
「そりゃあもちろん」
「だったらなんでっ! 喧嘩腰で話を進めんだっ!」
 しかしあたしは逆にクラングの瞳を覗き込む。
 その瞳に映るのは――恐怖。
「下手に出れば助かっていたと?」
「――――っ!!」
「あなたにも――わかっていたんでしょう?
 そんな奴じゃぁないって」
 あたしは微笑むと、闇の方へと向き直る。
「で? デザーバックさんとやら?
 あたしのよーな美少女招待してくれた以上、豪華な夕食ぐらいは出るんでしょうね?」
 こうっ!!
 あたしの言葉と同時に闇のわだかまりに風が集まる。
 暗く、濃い闇の風は一点に収束し――黒い光を発し――人の姿へと変えた。
 あくまで外見だが――歳の頃なら三十前後、黒いアイパッチに頬にでかでかと刀傷。
 額にはバンダナをし――髪は逆立てられ……って、をい。
「典型的な三流悪役親玉ルック……変わった趣味してるわねー」
「気にすることはない。
 外見などいくらでも変えられる」
 そう言って子悪党の笑みを浮かべるデザーバック。
 う、うーみゅ……確かに内からにじみ出る障気は人間の比ではないが……
「そ……それはそーでしょーけど……」
 他になかったんかい。
 さすがに少々面食らった声で言うあたし。
 と、ともあれ……いくら外見が三流悪役親玉でも魔族である以上油断は禁物――どころか、人間そっくりに化けられると言うことは中級かそれ以上の魔族と言うことである。
 油断などもとより出来る余裕なんぞありはしない。
 ――そんな奴が何故こんな格好しているのかとことん謎ではあるが……
「で? 魔族がこんな所に一体何の用よっ!?
 親分のコスプレしてお山の大将気分になりたいってんじゃないでしょーねっ!」
「挑発するんじゃねぇぇぇぇぇっ!!」
「やっかましっ!
 さっきからもう突っ込みたいことは山ほどあんのよっ!?
 一応今は囚人の立場だからスリッパ懐に隠してたりは出来ないけどっ!
 いつもならとっくにひっぱたいてるわよっ!」
「いつもなら懐にスリッパ隠し持ってんのか……?」
「今はそんなこと言ってる場合じゃないでしょーがっ!」
「……嬢ちゃん……自分勝手だってよく言われねーか……?」
 ほっとくよーに。
 あたしは単にデザーバックの目的を知りたかっただけである。
「で!? 目的は何なのよっ!?」
「目的か――
 いいだろう。我は――」
「魔竜烈火砲(ガーヴ・フレア)っ!!」
 言葉の途中、あたしの背後から紅い閃光がほとばしるっ!
 瞬く間に赤い火線はデザーバックへと直進し――
 ずどがうぅぅぅぅんっ!!
 まともデザーバックへと直撃するっ!!
 この術は魔王の腹心、魔竜王(カオス・ドラゴン)の力を借りた術で、まともに食らえばレッサーデーモンはもちろん、下級魔族すらただでは済まない。
 外見からそこそこ上位だと思えるデザーバックも今のはかなりイタイはずっ!!
 だが――しかし。ここで一番重要なことがある。
 今の呪文はあたしが放ったものではない。
 こーゆー人の展開、世界をぶち壊す登場の仕方といえばっ! あたしの知っている限り思いつくのはただ一人であるっ!
「ほーっほっほっほっ!!
 よくもひとりぼっちにしてくれたわねっ! リナ=インバースっ!!」
 ……さびしがりやか。あんたは。
「げっ! 昼間の色狂い姉ちゃん!?
 ……魔法使えたのか……あんなのが……」
「使えたのよ……不幸なことに……」
 あたしは隠そうともせずにうんざりとした声をあげた。
 呪文の余波に髪をなびかせながら、ナーガはこちらへと歩み寄る。
「ちょっとっ! リナっ!
 お宝独り占めしようったってそうはいかないわよっ!!」
 へ……? お宝……?
「あのー、もしもし? お宝って……?」
「ふっ! しらばっくれようとしても無駄よ!
 一人あなたがこっそり宿を抜け出す時、いつも向かい先は盗賊団のアジトにあるお宝だったの忘れてはいないわよっ!」
「あそこは宿屋じゃなくって牢屋だぁぁぁっ!
 だいたいっ! こぉぉんな牢屋の一室に、お宝なんてあるわけがないじゃないっ!」
「何を言ってるのよ、リナ。
 あなたさっきどっかの盗賊親玉Aにお宝の在処聞きだそうとしてたじゃないっ!!」
「……あのねぇ、ナーガ」
 あたしは溜息つきながら左右に首など振りながら、ナーガの肩を叩く。
「何よ、リナ」
「さっきのは魔族」
「……………………………………」
 あたしの言葉にナーガは沈黙し――未だもうもうと煙の立ちこめる、先程までデザーバックのいたところへと視線を移しながら――再びあたしの方へと向き直る。
「リナ。あなた――嘘が下手になったわね」
 まぁ……当然の反応か……
 あたしはぽりぽりと頬の辺りを掻きつつ、大きく息を吸う。
「――って事で、嘘つき呼ばわりされたくないんで、デザーバックさん?
 生きてるんならそろそろ出てきて欲しいんだけど?」
 大声を張り上げつつ、注意を怠らないように軽く腰を落とす。
 あれであっけなく死んだのならそれも又良し。
 だが、しかし。
 あたしの勘では――まだ居る。
 ――お望みとあらば――
 はっきりとした声に振り向けば、先程まで立っていた位置から歩み出ただけなのか、もうもうと立ちこめる土煙の中からそいつは現れた。
「くっくっく――少々は楽しめそうだな」
 それはつまり、魔竜烈火砲(ガーヴ・フレア)食らってもまだしぶとく生き残っているという事である。
 あたしの見た限りでは、クラングは打撃主体の格闘家。
 魔族との戦いには向かない――と言うか、戦力外。
 なおかつこの場所――地下。
 いくら魔族の結界内とは言え――それでほいほい大技唱えて、結界を解除されたら生き埋めでお終いである。
 接近専用の呪文と言えば神滅斬(ラグナ・ブレード)が一番ではあるものの、消耗の激しいこの術はデザーバックの動きも見ずに使うのはまずい。
 と、なると――
「とりあえずは様子見ってところねっ!
 いくわよっ! ナーガっ!」
「ふっ。お宝は山分けよっ! リナっ!」
 まだ何か勘違いしているよーだが、相手が魔族と言うことは解ってもらえたらしい。
 唱える呪文のリズムから判断して――なるほどっ! そーいう作戦かっ!
 あたしは――って、ずげげげっ!!
 背後にうごめく気配に振り向けば、目を覚ました悪人面――つーか、悪人がのそのそとこちらへと歩み寄る。
 一体いつの間にっ!?
 ――って、いくらなんでも魔竜烈火砲(ガーヴ・フレア)なんぞぶっ放せば起きるわな……ふつー……
「やれ」
 軽く右手を一振りし、命令を下すデザーバック。
 をいっ! ちょっと待てデザーバックっ!
 マジで悪の親玉やるんじゃないっ!!
「おおおおおっ!!」
 走り抜けるときの声。
 ええいっ! やめんかうっとーしーっ!
「ちょっとっ! クラングっ!
 何だってあいつらデザーバックの言うことなんか聞いてんのよっ!?」
「親分だからだろ」
「魔族のかっ!?
 だぁぁぁぁぁっ! もうっ!
 脳味噌腐ってんのっ!?」
「腐ってるよ。あいつらは。
 わからねぇんだ。デザーバックが魔族だなんて。
 俺以外はみんなそうだ」
 何かの感情を押し殺した声が響く。
 完全に獲物を追いつめた目つきでこちらへと近付いてくる囚人一同を見渡し終わると、こちらへと目を向ける。
「言っただろ。さっき珍しい種類の人間がいたって。
 それが俺だ」
 珍しい種類の人間――
 確か看守達の手に負えず、言いなりになっていた現状を――
 ――そういうのに腹立て単身乗り込むよーな珍種も居たんだ――
「珍種っ!? あんたがっ!?」
「そーいう言い方はやめろっ!
 とにかく、そーいうこった」
 そう言って腰の辺りに隠していた革製の小手をクラングは身につけていく。
 ずいぶん人相と口の悪い正義の味方だなぁ。
「おれは魔族に対しちゃぁ何にも出来ねぇ。役立たずだ。
 こいつらぐれぇはさばいてやる。
 そっちはまかせらぁ」
「……大丈夫なの?」
「そっちの担当にまわされるよりはな」
 そう言って、クラングは群がる囚人の群へと走り込む!
 囚人達が反応よりも早く、地を蹴り、低く飛びながら、正面で仕切っていたらしい人間の顎を打ち上げて、宙へと飛ばす。
 動揺する一同。
「わりぃが、俺は今非常に不機嫌だ。
 手加減してやる気は更々ねぇから、闘る気のねぇ奴ぁさがってろっ!」
 そう言って、クラングは眉間を掻きながら、睨み付けた。

「――で、どうだった?」
「駄目ね……結界は破れなかったわ」
 走り行くクラングを見送った後、あたしは再びこちらへと向き直った。
 先程のナーガの作戦――とりあえず結界壊してみようか作戦はどうやら失敗したらしい。
 となると、それなりにきちんとした結界らしい。
「くっくっく。
 何かしたのか? 我は気付かなかったがな」
「ずいぶん鈍感な魔族なのね。助かるわ」
「ふっ……
 減らず口か……今の内にせいぜい叩いておくがいい」
 くっ――!!
 確かに――状況はかなり厳しい。
 本当ならクラングの援護に回りたいところだが、本当の相手はデザーバックである。
 雑魚をいくら倒したところで意味はない。
 それに事実、クラングが魔族であるデザーバック相手に役に立てるとは思えにくい。
 悪いとは思うが……あちらで頑張って貰うしかない。
 ちらりと肩越しに振り向けばそれなりに善戦しているようで、何人かまばらに倒れている人間がいく人かと、こちらにすぐさま流れ込んでくる気配はない。
 つーか、当分ほっぽいても平気そうだな……
 だが、とりあえずこれで一つわかった。
「あんたのその姿――奴らの親玉だった奴の姿ね。
 それでそのまま親玉になりすまして――あいつら使って遊んでるんでしょう?
 更に言うならば、事情が唯一わかっていながら何も出来ずに苦しんでいるクラングの負の感情でもお食事しながらっ!!」
 あたしの言葉にデザーバックは薄い笑みを浮かべる。
 正解……と言うことか……
 だからこそ、クラングは一人で扉に近付く者を追い返そうとしていたのだろう。
 ったく、魔族というものは――とことん趣味の悪い――
「そーいった近所迷惑な性分は、どっか別の所でやって欲しいわね」
「人間がどう思おうとかまわんさ」
 ならばっ! 後悔させてみせるっ!
「ナーガっ!」
「わかってるわよっ!」
 そしてあたしは右に、ナーガは左へと移動する。
 走り抜ける風に乗る呪文の調べ。
 まずは魔血玉(デモン・ブラッド)の力を引き出す呪文を唱え――淡い光を服の下から放ち始めたところであたしは足を止めた。

 ――凍れる森の奥深く
    荒ぶるものを統べる王
    滅びをいざなう汝の牙で――

 印を切り、精神を呪文にそそぎ込む。
 頭の中で沸き出す呪文のイメージを、さらなる力へと変換するために。

「列閃槍(エルメキア・ランス)っ!!」
 あたしとデザーバックとの延長線上――ナーガが呪文を解き放つ!
 しかしその呪文を避けもせず、デザーバックは片手で打ち払う!
「くっくっく――はぁーっはっはっはっ!!
 そんな呪文が効くと思ったかっ!?
 愚か者めがっ!」
 言ってそのまま左手を一閃。
 そのまま何かの衝撃波がナーガへと直進する!!
 不可視の衝撃波を気配で感じ取ったのか、ナーガは大きく横へと飛ぶ。
 直後――先程までナーガが立っていた場所が破裂した!!
 どぐばぐがぁぁぁっんっ!!
 ちぃっ! 炸裂系の能力かっ!?
 だが、しかしっ! あたしの呪文も完成する!

 ――我等が道をふさぎしものに 
    我と汝が力もて
    滅びと報いを与えん事を――

「獣王牙操弾(ゼラス・ブリッド)!!」
 生まれ出た光の帯はデザーバックへと疾り行く!
 完全な背後からの攻撃である。
「ちぃ――っ!!」
 生まれ出た気配に気付いたのか、振り向いて右手を突き出すデザーバックっ!!
 させるかっ!
 すぐさまあたしは光の帯を曲げるイメージを浮かべ――その意思に従い、光の帯はデザーバックの右手をかいくぐり、みぞおちに直撃する!
 洞窟内部を揺るがす轟音。
 これにはさすがにデザーバックは崩れ落ちる。
「ぐっ!!
 ――人間にしては――なかなかの魔力だ」
 以外にしっかりした声で、デザーバックはあっさりと立ち上がった。
 ちょっと待てぃっ! も少し寝てろっ!
 それが礼儀ってもんだろーがっ!! 
「だが――我らに刃向かうには遥かに足りん!」
 くっ!!
 慌てて間合いを広げ、作戦を立て直す。
 くっそー。出会い頭に放ったナーガの魔竜烈火砲(ガーヴ・フレア)は当たらなかったんだろーと思っていたが……
 獣王牙操弾(ザラス・ブリッド)すら食らって平気でいるという事は――耐えたという事か……!?
 これらの呪文より高位の黒魔術はあると言えばあるのだが――威力がでかすぎてこの場合適さない。
 結界があるから少々のことは大丈夫だろうが、あくまでそれとて仮定である。
 あっさり結界を切り裂いて、本物の洞窟に直撃して生き埋めになったりしよーもんならその時点でお陀仏である。
 ――待てよ。
 この結界は――デザーバックにとって何のためにある?
 あたし達に遠慮なく魔法を使わせるため?
 ――馬鹿な。
 この封印されし洞窟内部に浸入する者を拒むため……
 ――いや、これも違う。
 デザーバックはここにいる人間で遊んでいるのである。侵入者が来たところでおもちゃが増えたとしか思わない。
 ならば、自分を倒せる力を持つ人間の侵入を恐れて?
 あり得ない。魔族というものは例えどれだけ力を持った人間であろうとおそれるような対象ではない。 
 ――ならば――一体――?
 いや、そもそも――何故わざわざ現実空間と同じ様な空間を作り出す?
 囚人達に違和感無く過ごさせるためではない。クラングの話から、腰抜けの看守に部屋を作らせたとでも言えばもっと豪華な部屋作ろうが、問題は一切ない。
「螺光衝霊弾(フェルザレード)っ!」
 ナーガの呪文が放たれるが―― 
「効かんっ! どうした?
 手品はお終いかっ!?
 そろそろ幕でも閉じてやろうかっ!」
 これもあっさり片手で払う。デザーバック。
 ――幕を――閉じる――?
 背中を走り抜ける嫌な予感。
 ――まさかっ!?
 慌ててあたしはナーガの方へと合流する。
「なにか作戦でも考えついたのかしら? リナ」
「悪いけど……その逆ね。あたしらまんまとはめられたわ」
「ほぉう? もしかしてそれは――こういうことかな?」
 言葉の直後、生まれ来る違和感。
 軽い目眩にも似たあの感覚――
「結界を!?」
 動揺するナーガ。
 デザーバックが結界を解いたのだ。
 どうやら――あたしの推測は当たっていたようである。
 とは言え――回避できる可能性は――
 あたしはそこで思考を中断し、ナーガの手を――
 どうぅぅんっ!!
「あくうぅっ!?」
「――っ!!」
 あたしとナーガの中間、ちょうど真ん中当たりに生まれ出た熱い不可視のものが破裂し、二人を引き離す!
 体制を整えることも出来ず、あたしは床へと叩きつけられる。
 しまったっ!
 動揺して敵への注意が薄まったかっ!
 激痛と焦りに一瞬すらも惜しみ、あたしは体制を整えようとするが――
 どぉおううぅんっ!!
 再び爆音。
 慌ててそちらへと振り向けば――
「ナーガっ!!」
 倒れ込んだ床の破裂に、ナーガは宙へと舞い飛び――
 重いものが落ちる音。
 続いて聞こえる音はない。
 彼女は――ぴくりとも動かなかった。
 薄汚れた囚人服が、赤く染まっていく。
 慌ててそちらへと駆け寄り――再び生まれ出る殺気にあたしは大きく横へと飛んだ。
 どぉぉぉむっ!!
 先程まで居たあたしのその場では何かが破裂し、大気を弾き散らす。
 あそこまで行かせてはくれない気らしい。
「よくも――っ!!」
「その感情は――我にとって最高の贈り物だ」
 そして、薄い笑みを浮かべると、右手を掲げるデザーバック。
 その右手に光が集まる。
 呼応するかのように、洞窟内部が悲鳴を上げる。
 まずいっ! これ以上普通の洞窟が衝撃に耐えられるはずはないっ!
 だが――ナーガを放って置くわけにも――っ!!
「逃げろっ! 嬢ちゃんっ!!」
 駆けめぐる情報と判断の渦に動けなくなっていたあたしを現実に引き戻したのはクラングの声だった。
 声に視線を向ければ、何をとち狂ったのか、素手でデザーバックへと走り出す!
「ちょっ、クラングっ!?」
 あたしの声に構わずクラングはデザーバックへと肉薄し――魔族の右手に灯る光を殴りつけた!!
「おおおおおおおおおっ!!」
 ばぢゅぅぅううううっ!!
 耳障りな音を立てて、光はクラングの右手を包み込み――四散する!
 急激に集合体を失った光は力無く元の持ち場に帰るかのように薄れて消えていく。
 対象を失ったクラングの拳はそのまま勢いに乗ってデザーバックとすれ違う向きで流れ行き――
「がっ!?」
 そのクラングの頭をデザーバックは無造作に掴む。
「たいした度胸だな。魔力も持たずに我の力に立ち向かうとは」
「ぐあああああああっ!!
 ……あぐっ……!
 な――なぁに………っ!!
 決めたら……後……先考えねぇ性――分でねぇ………」
 捕まれた頭が軋む音。
 それでも気丈に皮肉な笑みを浮かべるクラング。
「烈閃槍(エルメキア・ランス)っ!!」 
 掴むデザーバックの腕を狙い、あたしの呪文が放たれる!
 そして――直撃。
 しかし、デザーバックにダメージはない。
 この程度の呪文では、彼を解放させることすら出来ないということか。
 それでも注意を向けさせることは出来たはず。
「――彼を放しなさい――」
 あたしは真っ直ぐにデザーバックへと見据えながら、声を発した。
 しかし、それを面白そうにデザーバックは見返すのみ。
「ばっ……かやろぉ……!
 逃げ……ろっつっただ……ろーがよっ!!」
 苦悶の表情に顔を歪めながら言うクラング。
 彼の右腕は――手首から先はなく、そこから右半身まで酷い火傷を負ったように全身がただれている。
 本来右拳があるはずの虚空を痛々しく目に捕らえながらも、あたしはデザーバックを見つめ続ける。
「さもなくば――」
 言葉の途中、背後の斜め後ろで聞こえる爆音。
 な――!?
 思わず振り向くと、そこには天井から崩れ落ちてくる瓦礫の山々。
 大小構わず土砂が頭上から流れ落ちる。
 その下には――
「ナー――!!」
 慌てて駆け寄ったあたしを遮る形で土砂が道を塞ぐ。構わず走りながら伸ばした手のその先で。
 人間の五倍はあろうかという岩があたしの手をかすって、地面へと落ちた。
 未だ動けず、倒れたままのナーガの所へ。
「くっくっく――ははっはっ!
 くぁーはっはっはっ! ――っくっく!
 他人のことに配慮する余裕はあるのか?」
 ――遊んでいる――
 デザーバックは間違いなく――遊んでいるのだ。
 この場、この場所で、生けるものの動きを。
 ――あたしを含めて――
 おそらく。ナーガを助けようとしたところで、再びデザーバックは『遊び』だすだろう。
 それも始末に負えない遊びを。
 ――ならば。先にデザーバックを倒さねばならない。
 あたしは再びデザーバックへと向き直った。
「あたしは――ナーガのことを疎ましく思ったことがある――
 正直……何度もしなくていい辛い思いをさせられたし、毎度つきまとわれて迷惑もしたわ……」
 暗い洞窟の――いや、崩れゆく空洞にあたしの押し殺した声が響く。
 あちこちで崩落が起こるため、騒音が酷いが――はっきりと聞き取れる。
「ほぉう? なら良かったではないか。感謝せよ。我に」
 薄い笑みを浮かべて、デザーバックはクラングを放り投げた。
 飽きたおもちゃを投げ捨てる子供のように。
「それでも……あたしは――この感情を怒りだと確信する!!」
 白蛇(サーペント)のナーガ。
 彼女は、かつて旅の連れだった。
 決して望んで一緒にいたわけではなく――むしろつきまとわれていて迷惑していたという方が正しいのだろう。
 だが――しかし――
 この胸から後から後から湧き出てくるこの感情は――間違いなく、怒りのそれだった。
「最高の感謝だな。それは我ら魔族に対する」

 ――四界の闇を統べる王 
    汝ら全ての力持て 
    我にさらなる力を与えよ――

 躊躇など、一つもない。
 あたしの魔力に、想いに呼応し、魔血玉(デモン・ブラッド)が輝き出す。

 ――空の戒め解き放たれし
    凍れる黒き虚無の刃よ――

「ち……きしょぉぉ………!!
 光よ――
 我が手に集いて閃光となり……深淵の闇を打ち払えっ!!
 烈閃槍(エルメキア・ランス)っ!!」
 振りかざすクラングの左手に、光は生まれない。
 彼は魔法が使えない。
 混沌の言葉(カオス・ワーズ)、力ある言葉を丸暗記したところで駄目なのだ。
 
 ――我が力 我が身となり
    共に滅びの道を歩まん――
 
「な、ならばっ!!
 ――凍れる森の奥深く 荒ぶるものを統べる王!!
    滅びをいざなう汝の牙で 我等が道をふさぎしものに 
    我と汝が力もて 滅びと報いを与えん事を!!
 獣王牙操弾(ゼラス・ブリッド)!!」
 もちろん、力は生まれない。
 恐らく彼とてわかっているのだろう。
 自分のしていることが、無駄な行為だと言うことを。
 それでも人間というものは――最後まであがく。
 例え魔族にどう思われようと。
 ――それが生きようとするものの――証明なのだから――

 ――神々の魂すらも打ち砕き――

「神滅斬(ラグナ・ブレード)!!」
 叫んでかざした手の中に、漆黒の、虚無の刃が生まれ出る。
 同時に強烈な脱力感が身体を襲う。
 だからといって――ひるむ余裕も、戸惑う理由もない。
 あたしはデザーバックへと走り出していた。  

「虚無の呪文だと!?
 一体何処にそんな力が――」
 驚愕の声をあげる、デザーバック。
 ただ呆然と、虚ろな瞳で事態を見つめるクラング。
 研ぎ澄まされていく全感覚。
 そして――前方に生まれ出た何かをあたしは見えたような気がした。
 軽く『それ』を一閃。
 ばじゅうぅぅぅぅぅっ!!
 強烈な圧力下にあった空気が漏れ出すような音を立て、手応え無く消滅する。
「我が力を――!?
 きっ――貴様っ……!!」
 怒りに顔を歪めるデザーバック。
 構わず間合いを詰める。
 デザーバックはそれに反応するかのように右手を掲げる。再び光がそこに集中するが――
 遅いっ!!
 あたしは低く、その分前へと跳ね、虚無の刃を逆袈裟切りに一閃した。
 ………………っ!!
 音を発する抵抗すらなく、呪で作られた黒い刃はデザーバックの腹部を切り裂く!
「がっ!?
 ………っああああああっ!!」
 再び消えゆくデザーバックの右手の光――いや!? 消えていないっ!?
 破壊をまき散らすための膨大な光。
 触れているわけではないのに、全身が焼け付くような熱と圧力。
 させるかっ!!
 再び腕に力を込め、あたしは捉えた腹部を切り上げようと一歩右足を踏み込む。
 そして、刃はデザーバックの頭より高く切り上げられた。
 ――が。しかし。
 ――浅い――!!
 受けとめることは適わぬと判断したデザーバックが上体を逸らし、刃を浅く通過させたのだ。
 すぐさま返す刀で切り返す判断を下すが――慣性で暴れ出す闇の刃。
 牙を向いて腕の中で暴れ出す獣をすぐさま押さえつけるには、あたしの体力は消耗しすぎていた。
 ほんの一瞬。
 瞬きするほどの時間。
 それが返す刃を発動させる時間と――勝敗を決する時間だった。
 再び切り返す軌道に乗せた瞬間。デザーバックは笑った。
 ――さらばだ。人間という器に縛られた哀れなるものよ――
 そして、光は弾け飛んだ。
 音と呼ぶこともおこがましい、振動、狭い空洞内での破裂。
 完全に崩壊という二文字に抱かれた土砂は視界の全てを覆っていく。
 あたしの意識は――そこで途切れた――

 崩れ行く闇の中に、あたしは居た。
 繰り返される惨劇。
 闇に弾け飛ぶ赤い色。
 そして――全てを吹き飛ばす閃光。
 再び繰り返される――荒涼たる闇の風景。
 あたしの指からこぼれ落ちる何か。
 目覚めは――最悪だった。
「ん……」
 額に当てられた冷たい何かが徐々に目を覚ましていく。
 それでも――薄い明かりがあるからわかるものの、もしなければ再び闇に落ちていたのかも知れない。
「よぉ。しぶてぇ奴だな。あんたもよ」
 ぼんやりと焦点の定まらぬその先に、影は相変わらずの不機嫌な声でそう言った。
 声を発しようとした直後、軽く咳き込んでしまった。
 まぶたを閉じ、呼吸を整える。
 そして再びまぶたを開くと、クラングが溜息をついてそこにいた。 
「無事……だったんだ……」
「奇跡だよ。ここで会話できるだけでな」
「どれくらい眠ってた? あたし」
「数時間。大したことねぇよ。
 外傷なら殆どねぇはずだ」
「……ここは?」
 記憶が確かなら、魔族――デザーバックの放った魔力で洞窟は崩壊。
 元々物理攻撃が効かない魔族にはともかく、あたし達人間には死と等しい生き埋めになっていたはず。
 だが、ここは――暗くてよくわからないが、洞窟の内部……?
「土ン中でさんざ無茶やったところより奥深い地中。
 さすが牢屋なだけあって思ったよりは丈夫だったみてぇだな」
「それだけで無事なわけないでしょーが。
 一体何が起こったの?」
 あたしの言葉にぴくりと肩を震わせるクラング。
 しばしこちらを見つめ返すと、ぽつりと言葉を漏らした。
「……召還魔法」
「は……?」
「……デザーバックが消えた後……どこからか聞こえた混沌の言葉(カオス・ワーズ)があってな。
 嬢ちゃんが唱えてたのかと思ったが――どうやら違ったみてぇだな」
 そう言って、妙に楽しそうに言う。
「そしてその呪文は石人形(ゴーレム)、鳥人形(バード・ゴーレム)、石竜を呼び出して――屋根を作って、石に戻ったよ。おかげで――あんたと俺以外にも助かった奴らが居る。奥で眠ってるがよ」
「ちょっと待って。それって……」
 あたしの言葉にクラングはにやりと笑って、座り込んでいるあたしに左手をさしのべた。
「見に行くか? ここじゃぁわかりにくいが……奥ならそのままの形で残っている石竜もあるぜ」
 はやる気持ちを抑え、あたしは立ち上がった。
 自然と歩調は早くなる。
 薄暗い道を歩み――さして歩きもせずに、目的地へ着いた。
 そこには――デッサンが狂った竜が天高く吠える形で固まっていた―― 

「……いいんだよ。こんなもん。ほっといて」
「やかましいっ! 死に損ないが何言ってんのよっ!
 とっとと右手を出すっ!!」
「死に損ないはお互い様だろーがよっ!
 この程度の怪我なんざほっときゃいーんだ――いででででっ!! 何しやがるっ!?」
 叫くクラングを無視し、強引に右手を引き寄せる。
「右手完璧消滅させといて何言ってんのよっ!!
 ちゃんと看てもらわないと駄目でしょーがっ!!
 ――あたしはあんまし回復魔法得意じゃないけど……」
「わははは。そんな性格だよな。嬢ちゃん。
 ―――でぇぇぇっ!!」
 軽くつねっただけなのに、大げさな悲鳴を上げるクラング。
「んっふっふ。イタいおもいしたくなきゃ余計な口挟まないことね」
「……完璧悪党のセリフだぞ……それは……」
「やかましいっ!! 
 だいたいあんたもねぇっ!! 格闘家ならちったぁ自分の身体いたわりなさいよっ!!
 魔族の魔力光に右ストレートかます奴なんかはじめてみたわよ」
 暗くてはっきりと見て取れないのだが、かなり酷いことは間違いない。
 右拳は影も形もなく、手首から肘にかけての所からボロ切れをつないでまとわせた状態で溶けきった皮膚がだらりとはがれている部分もかなり。
 失われた右拳を中心に、右半身の殆どが火傷状態。
 さんざんたる怪我である。
 正直、見ていて気分の良いものではない。
 本来なら、激痛で意識障害はもちろん、右半身の体温調節機能も麻痺しているはずである。
 そこんとこよくわかってるんだろーか……この男は……
「自分の身体いたわってたら全滅だったろーがよ。あの時は」
「うくっ……ま、まぁ……それはともかくっ!
 右手はあたしにはどーしよーも出来ないけど、火傷の方なら何とかなるわ。
 上着脱ぎなさい」
「……は……?」
「上着を脱げっつったのよ。
 ……女じゃあるまいし、まさか恥ずかしいとか抜かさないでしょーね?」
「嬢ちゃん……あんた女だって自覚あるか……?」
「ふっ。あたしほどの美少女はなかなか居ないことは自覚してるわね」
「…………へーえ。そいつぁすげぇや」
「棒読みするくらいなら賛同するんじゃないっ!」
 ったく……
「――いいんだよ。本当に。
 足手まといの手当して体力削るこたぁねぇ。ほっとくのが一番だぜ」
 そう言って相変わらずの不機嫌な表情に戻り、強引に右手を引き戻す。
 瞳に映る、何か。
 …………………………… 
 がごっ!!
 あたしは気が付くと無言でクラングの頭を殴りつけていた。
「てっ! なにをっ!?」
「クラング、あなた――ムカツク」
「む、むかつくぅっ!? 何なんだいきなりっ!」
「さっきからどーもむかむかしてくると思ったらっ!
 やっと理由がわかったわよっ!
 ――クラング、あんた諦めきっているでしょ。自分を――いや、それとも世界全部かしらね?」
「…………………」
 あたしの言葉に、決まり悪そうに顔を逸らすクラング。
「事情はこれっぽっちもわからないしっ! 
 『俺の気持ちなんかわかるもんか』なんて言われたとしても、当然わからないし、知ったこっちゃないわ。
 ただ一つわかるのは――自分を足手まといと決めつけて、実際何も動こうとしない――
 自分から足手まといになろうっつー根性無しだってことね」
「嬢ちゃんはいい。魔法が使えるあんたはな。
 ――だけどよぉ……俺にゃぁ魔法ってもんが全く使えやしねぇ。
 デザーバックとのことだって……昔から知っていながら、何もできなかった……
 あんたは強さを持ってるからそんなことが言えるんだよ。
 卑屈と受け取ってもらってもかまわねぇ」
「オッケー。そう受け取るわ。
 ……だいたい、あたしが強いって言うけど……『強さ』って一体何よ?
 闘う能力の高さのことを指しているのだというのなら、あんただって充分強いでしょーが。
 今この至近距離で一対一で勝負したら、あなたの方がかなり有利なはずよ。
 ……ま、あたしが負けるとは言わないけど」
 そう言って肩をすくめてみせる。
「そう言った強さは……単なる相性の問題よ。
 あたしはたまたま魔族に対して有効な手段、魔法を持っている。
 ――あんたが攻撃手段もなく、手も足も出なかった奴にダメージ負わせた奴が居たからって、あんたより上とは限んないでしょーが。
 世の中、そんな単純な階段作りにゃなっていないのよ」
 冷静に考えてみれば――子供でもわかる理屈である。
「だいたい……素手で魔力光を分散させたあの時――あなたは立派に『闘って』いたでしょう?」
「……そうかもな……」
「もし、あの時あなたがそうしなかったらあたし達は全滅していたかも知れないわ。
 あなたは役に立っていなかった?」
「……いいや」
 そしてあたしは微笑んだ。
 そこまでわかればもう十分だろう。
「では――聞くわよ。
 あなたは『役立たず』なの?」
「違う――」 
 暗がりに響くその声は、確かにはっきりと聞こえた。
「そりゃまぁ、あなたって、目つき悪い、口悪い、愛想悪い。
 三拍子そろってりゃ悲観したくなるのもわかるけど――」
「……おーい……」
 おどけていったあたしの口調に、しっかりと入るツッコミの声。
 そして二人は顔を見合わせて――笑みをこぼした。

「――で、どうやって脱出するんだ?」
「……考えましょ」
 眩しい光が頭上にあるわけではないが、額に手をかざしながらあたしは呟いた。
 現状は平たく言うと、生き埋め状態である。
 言葉で言うのは簡単ではあるのだが、モグラじゃあるまいし、ほいほいと脱出手段など羅列させることなど出来るわきゃない。
 結局あの後、現在の移動可能範囲を把握している内に、元悪党:囚人達も復活し、簡単なわっかを作って作戦会議としゃれ込んでいる。
 ……ちっともシャレになっていないけど……
 それにしても――こーやってゴツイ男達が固まってぼそぼそ話し合っていると……どーみても悪巧みしているところのようにしか見えないんですけど……
 事情を知っているからいいものの、知らなきゃ呪文で問答無用で吹っ飛ばしているところである。
 そしてやがて、一人の男が立ち上がった!
「くっくっく……鋼のつるはしを持つ男、このセルージュさまに任せんかいっ!!」
「寝てろっ! この力馬鹿っ!!」 
 どがごっ!!
 無造作に放ったクラングの左拳に、あっさり大男は倒れ込んだ。
「くぉらっ! クラングっ!
 あんたいきなりなにしてんのよっ!?」
「嬢ちゃんの真似」
「ふざけてる場合かぁぁぁぁぁぁっ!!
 ――ったく! 貴重な戦力を気絶させないでよねっ!」
 びしぃぃっ! と突きつけたあたしの指を見た後、倒れたつるはし男へと目を移動させ――
「貴重な戦力ぅ? こいつが?」
「やかましいっ! 細かいツッコミは一切却下!!」  
「……頷いてやれよ……嘘でもいいから……」
 きっぱりと言ったあたしの言葉にぼそりと突っ込んだ囚人Aは無視!
 っだぁぁぁぁっ!! もうっ! こいつら本当にわかってんのかこの事態をっ!!
 退路も進路もない。
 それは何も人間だけに当てはまることではないのだ。
 空気――
「何もしなくても時間は流れていくのよっ!
 だったらっ! 何か有効な時間の使用方法を考えなさいっ!
 それともっ! 窒息死したいのっ!? あんたたちはっ!」 
「そう言われてもなぁ――パニくるこいつら全員に肘鉄食らわせて『落ち着かないと今殺ス』つったのは嬢ちゃんだろーがよ」
 クラングの陰に隠れるようにして頷く囚人一同。
 隠れるなよ……あんたら……
「その時間のロスってけっこーでかかったと思うんだけど」
「過ぎたことは忘れたわ。
 だいたい、パニクって叫ぶと窒息死する時間が早まるのよ」
「さっき大声で突っ込んでなかったか……?」
「あたしはパニクってないからいーのよ」
「……説得力ねぇなぁ……
 ――まぁ、そいつぁともかく。俺らに出来ることは肉体労働専門だぜ?」
「そーだぜ。魔道士さんよ。
 なにか知恵を貸せったって……魔法ってもんを殆どしらねぇからそれを応用しての考えなんてうかびゃぁしねぇ」
「だったら魔法抜きで考えりゃいいでしょーが。
 あんた達の頭、飾りでついてるわけじゃないんでしょ?」
 自分で言っといてなんだが……あんまし期待できんな……こりゃ……
 確かにかなりの逆境ではあるものの、なにより『俺達には無理だ』と頭の隅で結論出してから考えているのが致命的。
 そんなもんで良い考えなど浮かぶはずなどありゃしない。
 まぁ、頭をひねらせて考えてる分だけマシかもしんない。
 ともあれ、主に力押し――もとい、力任せの労働作戦は周りに任せるとして……あたしは魔法をうまく利用できないか考えなくてはならない。
 トンネルを掘るための魔法と言えば、間違いなく地精道(ベフィズ・ブリング)だが……ただでさえ地盤が緩んでいるのに、不用意に穴など掘り出したら、支えを失ってそこから崩れだす危険性がある。
 もう一度崩落したらまず助からないだろう。
 他には――
「なぁ、嬢ちゃん」
 思考を中断させたのはクラングだった。
「さっき使っていた魔法の派手な呪文を上にぶちかまして穴を開けることは出来ないのか?」
「――出来るわよ」
 あっさり言ったあたしの言葉に周りで喜びの声をあげる一同。
 たがあたしは冷徹に言葉を続けた。
「土の壁で跳ね返ってくる余波を食らってもいいんならね」
「じゃ、じゃぁ駄目なんだな……?」
 後ろでがっくりと肩を落とす囚人Bにあたしは頷いた。
 実のところ――あたし一人脱出するならそれでも構わない。
 呪文を放つ際、例えそれが火炎球(ファイヤー・ボール)のような呪文でも、余波は存在する。
 それでも平気でほいほい唱えていられるのは、呪力障壁と呼ばれる術者を護る魔力の壁が理由である。
 だからあたしが――例えば本気で見境無くして竜破斬(ドラグ・スレイブ)あたりを唱えるとする。
 そうすればひたすら広い荒野に――ぽつりとあたし一人が立つ光景が生まれるだろう。
 さすがにそれは後味が悪い。
 とは言え――このままひたすら窒息死を待つわけにもいかないし……
 他に手段と言えば――
 ………………………………………………絶対にイヤだ。
 その考えを浮かばせたことすら否定したくなるよーな手段があった。
 即ち。
 糸目神官に助けを求めるのである。
 何考えているのかわからない奴ではあるが護衛の任務について居る以上、あたしから大して遠くへは離れていないはず。
 だが、しかし――いや、だからこそ、その手段は使えない。
 ――人が困っているのをにこにこ眺めている奴に助けを求められるかっ!
 それに、もし虚空にゼロスの名を呼んだ場合、出てこなかったらどーすりゃいーのか……
 電波を聞いてる人間かと思われる。いくらなんでも悪役づらのおっちゃんらを前にそれは出来ない。
 出てきたら出てきたで、あたし以外を護る理由はないとか何とか言って、周りの人間あっさり吹き飛ばして、さっき言った風景にゼロスがプラスされるだけである。
 追加。笑顔のゼロスが、である。
 故にこの手段も却下。
 となると――うーむ……どーしたものか……
 軽く頭を掻きながら、上を見上げてみる。
 そこには見えない天へと吠えたまま凍りつく、デッサン狂いまくった石竜。
 そーいえば……あいつは何処いったんだろーか……
 ――まぁ、ナーガのことだから無事なことは間違いないと思うが……どうやって脱出したのだろう?
 …………………………………
 い、いや……いつかの暗殺者(アサシン)村の時でのことみたいに未だに瓦礫に埋まっているという可能性もあるにはあるのだが……
 ……その割には高笑い聞こえないし……
 まぁ、例え今この場にいたとしても、制御の効かない魔法を唱えて状況を悪化させる危険性大だしなぁ……
 たまにあたしの知らない魔法など使ってみせる時もあるのだが、そうそう都合良く何度もうまくいくもんじゃないし。奇妙なアレンジ魔法で――
 ――待てよ……
 もしかしたら――
 再び奇妙な石竜へと目を向ける。
 頬をぽりぽりと掻くことしばし。
 ま、どっちみし好きなやり方じゃあないけれど……
「――やってみましょーか」
 あたしは複雑な表情で決意したのだった。

「うどわぁぁぁぁっ!
 なっ、なんだっ!? こいつらはっ!」
 どよめきだす囚人達。
 ……ええい。やかましい。
 あたしだって好きでやったんじゃない。
 ――などと、言ってやりたいところなのだが、残念ながらあたしは言葉を返す気力すらなかった。
 暗がりに生まれ出た、そいつらはこちらへと視線を向ける。
 その数、ざっと数百。
「……な、何考えてんだっ!? 嬢ちゃんっ!?」
 闇でわさわさと動き出す、そいつらに視線を遭わさないように注意しつつ、クラングはこちらへと大声で怒鳴りつけた。
 おそらく平静を保つために。
 しかし、あたしにとってはそれどころじゃない。
 あたしも意識してそいつらを直視しないように視線をずらしていたのだが、視界の隅で数百のそいつらがこちらへと、さっと――もとい、わさわさとこちらへと走り出す。
 辺りに浮かべて置いた明かり(ライティング)の効果範囲内まで辿り着いた、あたしのブーツと同じくらいの背丈のそいつらは、それだけでは満足しないのか、真っ直ぐにこちらへと走り込み、あたしは一瞬で取り囲まれた。
 そう――ちびゴーレム達に。
 わさわさわさっ!
 さながらゴキブリの集団移動のようにまとまってこちらを取り囲むと、一斉に顔を上げ、あたしの顔を覗き込む。
 くどいようだが――その瞳の数たるや楽に百を超える。
 ……どひいぃぃぃぃぃぃぃっ!
 こ、これは――やっぱし止めときゃ良かったかも……
 遅すぎる後悔の念がおもいっきし胸を攻撃する。
 あたしの小指程度の大きさの穴、つまりは彼らの瞳の役目をするそれらが、一斉にこちらへと見つめられているのである。
 一応言って置くが――床だけでなく、壁、天井、全て。
「あううう……」
 あたしは変なうめき声を上げ、視線をせわしなくきょときょと動かしまくると、それを見て取ったゴーレム達が何かを感じたのか、一斉に首を傾げる。
 ――わきゅ?
 以外にも甲高い間抜けな声が洞窟内に短く響いた。
 ……うーむ……ちっこくなると声が高くなるのか……
 とりあえず思考をイッショーケンメー他のことへと逸らしてみる。
 ……とはいえ、いつまでも現実逃避してても仕方ないしなぁ……
 元々あたしが召還したものだし、命令しないといつまでもあたしを取り囲んで命令待機の態勢で居るだろう。さすがにそれは精神衛生上とってもよろしくない。
「ご、ゴーレム! これからあたしが開ける穴を崩れないように支えなさい!」
 ――わきゅううっ!!
 なぜだか、へんてこなときの声をあげ、ちびゴーレム達は隊列を作り出す。
 返事はいらん……返事は……
 なんとか奮い立たせた気力が一気に霧散したよーな……
「なにをすすすするつもりなんだよっ!? あんた!」
 完璧ビビって、後方へと避難し、壁に身体を隠しながら、首だけのばしてこちらへと声を――あ。いや。首すら出していないか。どうやら見るのも嫌らしい。先程まで側にいた囚人達は一気に消え失せている。
 唯一あたしの見える範囲にいるクラングだが……彼は彼でくすんだ瞳で何もないところで視線が凍りついている。
 気絶してんじゃないだろーな……まさか……
 そう思った瞬間、あたしの命令で動き出したちびゴーレム達が、クラングの足の上を移動経路にし始めた。
 ふみっ!
 ふみみっ!
 ふみみみみみみみ…………
「……う――っだぁぁぁぁぁっ!!
 てめーら人の足ふんずけてんじゃねぇっ!!
 おいっ!? 何やってんだよっ!? こんなことしてっ!」
「あたしだって――あたしだってやりたくてやったんじゃなかったわよ……」
「泣くんじゃねぇよ……張本人が……」
「やかましいわね!
 乙女心は複雑なのよ!」
「俺の男の純情も複雑だ!」
 何故そこで『男の純情』が出てくる?
 どーやら彼もかなり混乱しているらしい。
 ……ま、人のことは言えないか……
 いたく不評ではあるが、脱出方法で、あたしが出した結論はこれだった。
 緩くなった地盤に、普通サイズの石人形を呼び出したところで、その時の衝撃であっさり落盤する。
 となれば――ちびゴーレムを作り出しつつ、支えをさせていけば、なんとかなるんじゃないだろーか。
 いくらちびサイズとは言え、スピードを無視した代わりに力を追求した石人形(ゴーレム)である。支える力は充分だろう。
 実際生き埋めになりそうな気配はない。
 このちびゴーレムの作成は、実は前にナーガがあたしに対して使って見せた戦法である。
 その時とは使用方法が違うけど……
 ともあれ、呪文と頭は使いよう。
 応用を利かせるのも魔道士として必要な技術の一つである。
 しかし、大きすぎる魔力容量(キャパシティ)というのも考えもんだなぁ……
 次は少しまたアレンジを加えて作成数を減らさないとこっちの精神力が持たない。
 乾いた足音、ぶつかった音が洞窟内にこだまする。
 たいして素早い動きではないのだが、異様に迫力があったりしていまいち近寄れない。
 しかし、ここで尻込みしていても始まらない。
 あたしは前へと歩き出した。
「これから出口作るから、後ついてきなさいよ」
「……こいつらの後にですか?」
 おそるおそる指差しながら言う囚人C。何故か敬語である。
「あたしの後よ!
 ちなみに――わがまま言う奴は置いてくんでよろしく」
 もちろん、『こんな気味悪いものの後をついてくなんて出来ない』等と言わせないための牽制である。
 ついでに言うなら、あたしだってそう思っているところを我慢しているのだ。何もせずついてくるだけの奴らに文句言われたら間違いなくキレる。
 ……まぁ……すでにある意味キレてると言ったらそーなのだが……
「そ、そんな……」
 ええい。情けない声を出すんじゃない。
「踏みつけても暴れださねーだろーな……こいつら……」
「そう命令してほしいんならするわよ?」
「いいっ! とっととこんな所おさらばしよう!」
 ぶんぶか勢い良く首を左右に振って叫び出す。
 ……こんな所って……『閉じこめられている所』か、『変なのに囲まれている所』どっちなんだろーか……
 …………………………………………
 あんまし深いこと考えるのはよそう……

 わさわさわさっ!
 あたしの何度目かの呪文に、生まれ出たちびゴーレム達は何が楽しいのかいやに元気良く持ち場に着いていく。
 奇妙な音を立てながら、自分たちが生まれ出たその場所に張り付き、術者であるあたしへとがらんどうの瞳を向ける。その数たるや――
 …………………………………………
 ……勘弁して下さい……マジで……
 思わず本気で泣きそーな自分に気付き、あたしは溜息をもらすことで何とか耐えた。
 掘った体積分が支えようとその場所に群がっていては塞がってしまうだけなので、いくらかのちびゴーレム達は後方へ下がってもらっている。
 怖くて後ろは見ていないのだが、移動する音だけでじゅーぶん怖かったりするのだからどーしよーも無い。
 おまけに――
「……おーい。また何グループかちび共に流されたみてぇだぞ……」
 ……をいをいをい……
「何グループかって……そんなに?」
「しらねぇよ。後ろ振り返りたくねぇんで気配と悲鳴で判断しただけだ」
「……確かに……振り返りたくはないわね……」
 ちなみに、もちろんご存じだとは思うのだが、ゴーレムという奴は単純な命令しか受け付けない。
 そんな奴らに、『後ろにいる人間達とぶつかるな』等という追加命令は無理である。
 それで結局勢い良くわさわさ後方へと下がるゴーレムと脱出しようと前へ進む囚人達は正面衝突。
 ……まぁ……悲鳴の類を聞くと、単にビビって逃げ出した連中もいるよーだが……
 しばらく無言で気まずい空気が流れる。
「……ほっておくか」
 はくじょーなその一言にあたしはあっさりと同意した。
 はっきり言って置くが――あたしは後ろを振り向いて正常な精神状態で居られる自信はない。
 最前列にいる今は一回の呪文詠唱で生み出された分のゴーレムで済んでいるが、もし後ろを振り返ろーもんなら、視界一面ちびゴーレムで覆われることうけあいである。
 無論あたしはそこまで強くない。
 ただでさえ生み出すその一瞬一瞬に精神力が殺がれているのである。
 これは――地上に出るのが早いか、あたしの精神が尽きるのが早いかの勝負である!
 ……………………………………………………………………
 ふっ……むなしい……
「なぁ、嬢ちゃん。
 ずっと前から気になってたんだがよ。あんた囚人じゃあないんだろ?
 なんでこんな所に入り込んだんだ?」
 話でもしていないと気がまいるのか、先程よりも口数が多くなってきているクラング。
「んー……
 詳しい説明は面倒なんでパスするけど、色々あってこの警務所内で起こっている殺人事件の調査頼まれててね。
 ンで、あまりにもここの洞窟が怪しかったんで入り込んだんだけど……」
 それで魔族に出逢ったのだから意外っつーか、予想通りっつーか……
「殺人事件? 上でか?」
 どーやら前に聞いた話の通り、上とのつながりは薄いようである。
「ええ。
 やっぱり知らないの?
 半年ほど前から起こっていて……被害者は必ず一人ずつ。目撃者はゼロ。
 始めのうちは看守、囚人問わず。最近は看守ばっかりらしいけど」
「半年前?
 ……デザーバックが現れた少し後ぐれぇかな……
 でもなぁ……関係あるのか?」
 そうなのである。
 被害者は一人ずつ、目撃者はゼロ。
 こんな慎重な殺害方法を魔族はとるだろうか?
 もし何かの間違いでこの所内に魔族に狙われてるよーなのが数人居たとしたなら、人間を何とも思わない魔族のこと。この刑務所内全てを一瞬で吹き飛ばすだろう。
 その方がずっと簡単だし、魔族らしい。
 魔族がわざわざ先程言ったような慎重な行動をするとは思えない。
 しかし……出現がほぼ同じというのは少々気になる。
 直接ではないにしろ、やはり何らかの形で関わっていると考えておいた方がよいだろう。
 偶然にしては出来過ぎている。
 実行犯じゃないにしても……可能性というものは良くも悪くもいつでもあるものだから。
 ともあれ、判断するにはまだ早い。
「ま、その辺はいずれわかるでしょーね」
「生き埋めになったてぇのにまだ首突っ込む気かよ……」
 半分呆れた声を出すクラング。後のもう半分はいまいちわからない。
「当然じゃないっ!
 ここで止めたらリナ=インバースの名がすたるっ!
 やられ損、ただ働きはあたしの一番嫌いなことだしね。
 それに依頼料がでないじゃない」
「金で命を捨てる気か?」
「誰が捨てるっつったのよ。
 ただ、あたしにケンカ売った以上、相手には不幸になってもらわないと気がすまないと言う、ごくごく世間様一般的な考えを具体的に言ってみせただけよっ!」
 瞳の奥に炎なんぞをたぎらせながら、あたしはきっぱりと言った。
「……止めても無駄って奴か」
「まーね。
 こういう生き方、昨日今日から始めた訳じゃないから」
「……そうだな……
 簡単に自分の生き方変えられねーよな……」
 何か思うところでもあったのか、自分に向かって言うかのように呟くクラング。
 うーむ……彼も複雑な過去でもあったんだろーか。
 興味がないと言ったら嘘になるが、いつまでも話していても地上には近付かない。
 再びあたしは呪文詠唱に取りかかる。
 いつしかクラングは黙り込んでいた。
 幾度目かの呪文を唱えると――あたしはついその場に立ちつくした。
 やまない雨はない。明けない夜はない。終わらない始まりはない。
 そう――とうとう地上への出口が完成したのであるっ!
 長かった――本っ気で長かった……!
 これでようやく今までの苦労が報われるのであるっ!
 うおっしゃぁぁぁぁぁぁっ!
 さらばちびゴーレム! おいでませフツーの空間!
 心理表現ではなしにガッツポーズを取ると、あたしは外へとかけだした。
 外は確かに暗かった。
 しかし、それは夜だからである。
 くううっ! 月明かりがこんなにキレーに見えるとはっ!
 ああ……空気がおいしひ(はあと)
「ふむ……夜か……」
 そう言われてあたしの真横、左にクラングが立っていることに気付いたが、だからといってわざわざ向き直ることも――
 がっ!!
 は……?
 あたしのひざががっくりと折れるまで、その音が何を表すのか解らなかった。
 ゆっくりと地面が近付いて――いるはずなのだが、視界はくすんでそれすら捕らえられない。
「……わりぃな。やっぱり……もう関わらないでくれや」 
 な、何を――?
 そう言うことすら出来ず、あたしは地面へと倒れ込んだ。
 混乱しながら沈みゆく思考。
 意識を失う直前にわかったのは、クラングがあたしの後頭部、首筋の付け根当たりに手刀を叩き込んだのだという事だった――


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12506封鎖された伝言 3白いウサギ E-mail 12/1-02:42
記事番号12503へのコメント

三、 やっかいな 仕事以外は ありえない!?

 あたし自身の前髪がそよ風に乗り、あたしの鼻をくすぐった。
 僅かな不快感を覚え、右手でそれを払う。
 んー……まだ……眠い……
 ふかふかのベッドに身体を潜り込ませ、瞼を刺激する光から逃げ出そうと身体に力を入れるが、動かない。
 妙に体が重たい。
 …………?
 寝ぼけた頭でまともに思考など働くはずもなく、ただ疑問符を浮かべるのみである。
 しゃーない……起きるか――
 うっすらと瞳を明けると、そこは見たこともない部屋だった。
 天井には小さいながら、シャンデリアが見えたりする。
 えーと……
 視界がはっきりとしてくるのと同じように思考も段々と正常に働きだした。
 カーテンを揺らしている窓からは、『いつまで寝てるんだ?』と言わんばかりの光である。
 つーことは、少なくとも夜でも朝でもないよーである。
 まぁ、周りの様子はとりあえずおいといて。
 あたしはどういった経路でここにいるのだろう?
 とりあえず確実なところから順序よく理解していくことが一番である。
 昨日の夜……かは、自信はないが――ともあれ、夜中に好奇心を出して怪しげな洞窟へと入り込んだ。魔族とあった。色々あって生き埋めになった。色々あって脱出した。
 そうそうそう。
 そして――脱出成功直後にクラングに手刀を叩き込まれ気絶させられた。
 ………………………………………………………………
 ……ま、まだ頭が起ききってないのだろーか……?
 なんで敵でもないクラングに手刀を叩き込まれなきゃならんのだ。
「あー……ばかばかし……っ!」
 思わず額に手を当てて、溜息が漏れそうになったとき、後頭部に走る痛み。
 と、ゆーことは……つまり……
「あいつぅぅぅぅっ!
 よくもあたしに手刀なんてプレンゼントしてくれたわねっ!
 絶対後で泣カスっ!」
 ごろがごごげっ!
 は……?
 怒りにまかせて飛び起きたあたしのベッドの上から何かが転げ落ちる。
 そーいえばさっき身体が異様に重かったのだが……
 落ちたと思われる方へ首を伸ばすと、落ちたそれも自分自身で起きあがって顔をこちらに向ける。
 気が付くと、そこには至近距離に人間の顔があった。
「おー、目が覚めたか、リナ」
 そう言って何処か安堵したような笑みを見せるガウリイ。
 が、しかし。
「電撃(モノ・ヴォルト)!」
 あたしは迷わず呪文を解き放っていた。
  
「やー、ごめんごめん。
 機嫌なおしてってば。ガ・ウ・リ・イ(はあと)」
 所内の来客室に、あたしの珍しく卑屈な声が広がっていった。
 あのあと――乙女の寝床に侵入した愚か者を成敗――したつもりだったのだが、後で話を聞いてみればそれは大きな勘違い。
 結果あたしは平謝りする現在に至っている。
「せっかくガウリイさんが心配して、一晩中介抱していたっていうのに……いくらなんでも酷すぎます!」
「恩を仇で返すというのはまさにこの事だな」
 非難の目でこちらを睨み付けるアメリアにゼルガディス。
 ううっ、視線が痛ひ。
 そうなのである。
 何の恨みがあってか知らないが、クラングに手刀叩き込まれて気絶したあたしは、誰かは知らないが、看守に発見され、医務室に運び込まれたらしい。
 丁度その騒ぎで所内が騒がしくなってきたところを三人が鉢合わせた、と言うわけである。
 それでそのままガウリイがベッドの横で介抱してくれていたらしい。当然ながらちっとも知らなかったけど。
 視線を遭わさないように注意しつつ、ガウリイへと視線を泳がす。
 しかし、ぶすっとした表情のまま、そっぽを向いていたりする。
 ……こ、こりはけっこぉ怒っているかも……
 ええいっ! 男のくせに心が狭いぞっ!
 少々電撃(モノ・ヴォルト)くらったくらいで怒るなんて……
 ……当然か……
「わ、悪かったってば。
 あの時あたしも起き抜けだったし……寝ぼけてたのよ」
「寝ぼけて攻撃呪文唱えたのか?」
 う゛っ。
「それはその……つい……
 あははははっ(はあと)」
「ついじゃありませんっ!
 ガウリイさんだったから良かったものの……別の人だったらどうするつもりだったんですか。
 下手すれば死んでますよ」
 ガウリイならいーのか。
 思わずそうツッコミかけたが、そんなことを言おうもんなら非難の集中砲火を浴びることになる。
 ここはぐっとこらえるあたし。
「そーよね。ほんとほんと。
 いやー、丈夫だねぇ、おにーさん!」
「リ・ナ・さ・ん!?」
「じょっ、冗談だってば……
 本当に悪かったわよ。ごめん。
 大丈夫? ガウリイ」
「ん……まぁな」
 ごこごけっ!!
 心配げな瞳でガウリイを見た瞬間、何故かアメリアとゼルがひっくり返る。
 なんなんだいきなり……
「リ、リナさんが……素直に謝ったっ!?」 
「……明日あたり魔王でも降って来るんじゃないだろうな……」
 あんたらなぁ……人を一体なんだと……?
「世界が滅ぶ前兆かもしれません……」
「なんて恐ろしいことをしてくれたんだ。リナ」
「知るかぁぁぁぁぁぁぁっ!!
 あんたたちっ! あたしが素直に謝るのがそんなに珍しいのっ!?」
 周りの迷惑顧みず大声でそう叫ぶと、アメリアとゼルの二人はしばし顔を見合わせ――まるで示しあっていたかのように頷いた。
『もちろん』
 こっ、こひつらは……!!
 闇討ちしてやろーか。本気で。
「っだぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!
 わかったわよっ!
 これから例えあたしが全面的に悪いようなことが起こってもあんた達には謝らないわよっ!
 いいわねっ!?」
「リナさん。自分の非を認めることも立派な正義ですよ」
 何やら少々避難の色を込めた目で言うアメリア。
 ……あんたはあたしに一体どうしろと……?
 とことん問いつめてやりたいところだが、いつまでもこんなことしてても始まらない。
「……とにかく、いい加減本題に入りたいんだけど……
 ――まず最初。何であんた達が入って来れたのよ?」
「ふっ! 決まっているじゃないですかっ!
 ここに悪があるからですっ!
 そうと知った以上、悪があるところに正義は必ず登場しなくちゃいけない法律があるんですっ!」
「アメリア……リナには似なくていいんだからな」
「ちょっとゼル……どーいう意味よ」
「あ――いや、そのだな……」
「どういうことですかゼルガディスさんっ! 
 いくらゼルガディスさんでも言って良いことと悪いことがありますっ!」
「こらこらこらっ!」
 身を乗り出すアメリアに思わずツッコミを入れるあたし。
「ま、まあ法律云々はともかく。
 今現在のオレ達は、ここの施設を視察に来たセイルーンの使者とその護衛だ」
 なるほど。
 そーいうふうに逆手に取ることもできた訳か。
 しっかし……
 目深にフードかぶった怪しげな男と、めちゃくちゃ頭わるそーな戦士が護衛って……よく信じてもらえたな……
 仮にもアメリア、セイルーンの要人どころかお姫様だぞ……
 めちゃくちゃアバウトな役所である。
「良く無事にここまで来れたわね……
 それで何も疑われなかったの……?」
「正義に不可能はありませんっ!」 
 あんたは黙ってなさい。アメリア。
「ここの看守のスティングがいろいろと口利きしてくれたようでな。
 思ったよりはすんなりいったさ」
 ……あ。
 そーいえばすっかり忘れ去っていたが、今回の事件の依頼主はスティングさんだっけ。
 ……まぁ、直接の依頼主は役所になるんだろーが……さすがに途中経過を報告して無いというのはまずいかもしんない。
 これだから調査というやつは面倒なのである。
 それにスティングさん、なにか洞窟について知っていそうだったし……
 ふーむ。前は全く事情が解らなかったんで突っ込みようがなかったのだが、今回はきっちし騒動に巻き込まれた後である。聞きたいことは山ほどある。
「で、リナは何をやっていたんだ?」
 ガウリイからの質問にあたしは思考を一時中断する。
「何をって……すぐに説明は……」
「――そうじゃない。
 少しおれが目を離して、再会したと思ったらお前さんはベッドの中だ。
 ……また無茶をやったのか……?」
 真剣なガウリイの瞳に射抜かれ、しばし硬直するあたし。
 え、えーと……無茶だろう。やっぱし。
 ちょっと好奇心を出して、ろくな準備もせずに一人で洞窟内に入り込んだのである。
 予想がつかなかったことは確かだが、好奇心を出して乗り込んで、得た結果が気絶して洞窟の外にほうって置かれたのである。無茶と言われても仕方がない。
「ま――まあそれは……その……」
「いつも言ってるだろう。
 一人で無茶をするんじゃないって」
 わずかに浮かぶ怒りの表情。
 ……もしかして……さっきまで怒っていたのも、こっちが原因か……?
 きっとそうだ。
 いくらなんでも寝ぼけたあたしに呪文くらっただけで怒るはずはない。
 今までのが積もり積もって……と、言うパターンもこのクラゲ頭にはあり得ないし……
 しかし――
 『次からは気を付ける(はあと)』
 なんぞと言ったところで、よけい怒りそうだし……
「わかったわ。
 これ以降しっかり頼むわよ? 保護者さん」
 あたしの言葉に溜息をつくガウリイ。
 こー言う以外にどう言えと言うのだ。
「……まぁ、危険だったことは確かだけど……
 収穫はあったわよ。
 例えば――魔族が絡んでいるとか」
「何ですってっ!?」
「魔族だとっ!?」
「……何だ。またかよ……」
 盛り上がりまくるあたしとアメリアにゼルガディス。その三人の言葉を冷ややかにガウリイがぼやいた。
「ちょっ、ちょっとガウリイっ! 人がせっかく盛り上げているところをっ!」
「でもよ……まただろ? やっぱり」
 や、やっぱりとまで言うか……この男は……
 そりゃあ確かにここんところごたごたが起こるたんび世界の珍種に挙げられる魔族がほこほこ出てきたりするし、何やらあたしが命を狙われてるなどと言うこともあるせいで、伝説級の魔族がまるでどっかの料理店のフルコースのように鎮座されたりしているが……
 少しは驚愕しろ。そのうち脳味噌だけでなく感情にも蜘蛛の巣張るぞ。しまいには。
「……まぁ、最近確かにあたし達の前に魔族が出てくることが多いけど……」
「最近だったのか……!?」
「こっちで驚くなぁぁぁぁぁっ!! ガウリイっ!」
 魔族が事件に絡んでいることより、あたしが魔族に関わりだしたのが最近だという事の方が驚くべき事なのかっ!?
「い……いや……
 てっきり……歩けるようになった頃から辺りかと思ってたんだが……」
「思うなぁぁぁぁぁぁぁっ!!!
 そんな歳で魔族と戦えるわけないでしょーがっ! 死ぬわよふつーっ!」
「別に今の歳でも生き抜けたのが普通、当然とは思えんが……」
 ええいっ! 細かいツッコミを入れるんじゃないっ! ゼルっ!
 ともあれ、歩けるようになった頃なんてはっきりと記憶はないが、記憶に頼らんでもこれぐらいはわかる。
 物心ついたとき辺りからだとしても、幼い頃から命を狙われ出したなどとゆー記憶は一切無い。
 魔族なんぞせいぜいが、郷里の姉ちゃんによってたかってきたかぶりものが一番近いぐらいである。
 観客もあたし一人というのに、あの頃の郷里の姉ちゃんは魔族のかぶりものした奴らをばったんぎったんと身も蓋もなくなぎ倒していったのをはっきりと覚えている。
 子供心ながらにあの時は強さはもちろん、妹を喜ばそうとする姉ちゃんに一種の尊敬を持ったもんである。
 付き合ってくれた着ぐるみの役者さんたちには少々同情もしたのだが……
 それにしても遠い記憶というものは恐ろしいもんで、今に思えば彼らの着ぐるみも本物そっくしで凝っていたように思える。
 郷里の姉ちゃんが笑いながら倒していったから偽物だと分かったのだが……
 ――いや、まてよ……あの頃は魔族の怖い話ばっかし聞かされ、姉ちゃんが本当に強いなんぞと知らなかったのだからそう思ったのだが……
 ………………………………………………………………………
 ……過去は振り返らないでおこう……
「それに魔族が出てくるのは『あたし達』じゃなくて、リナさんの周りに、だと思いますけど……」 
 ――はっ!?
 思わず苦い思い出になりそーな記憶の回想に浸っていたせいか、ちっとも話を聞いていなかったりする。
 と、とりあえずここはつっこんどくべきであるっ!
「一蓮托生よっ!」
 不自然なほどきっぱし言いきるあたし。
「いちれん……たくしょ…う?」
「行動や運命を共にするって事ですよ、ガウリイさん」
 ご丁寧に解説をするアメリア。
 言われたガウリイは首を傾げると、やがてぽんっと手を叩いた。
「つまり……死なばもろとも、ってことだな!」
 ……い、いや……確かに運命を共にする、という意味ではあってるのだが……
 まるでそれではあたしが不幸のプレゼンテーターみたいじゃない……
 ……平たく言いすぎる奴……
「――ま、まぁその辺は置いとくとして……
 とにかく現状を把握したいんで聞いて置くけど……
 あたしが倒れていたって言うけど……それは入ってきた直後だった訳ね?」
「――ああ。周りがかなり騒いでいたからな。おそらく発見直後だろう」
 なるほど。
 と、ゆーことはゼル達が(ガウリイは除く)情報収集を内部でしていたという可能性はまずないというわけか。となると、事情に一番詳しいのはあたしということになるだろう。
 よって、あたしがとりあえず報告をし、もし何かあったらゼル達が(ガウリイはやっぱし除く)補足を加えるという形が一番スムーズにいくだろう。
 それにしてもスティングさんへの報告はどうしたものか……
 おそらく殆ど同じ話を報告することになるだろーし、それでは二度手間になるだけである。
 しかし、スティングさんには聞きたいこともある。
 そうなっていけば前もって仲間に話していない場合、置いてけぼりであたしとスティングさんだけで話が進むということになる。さすがにそれでは仲間に申し訳ない。
 と、なるとやっぱし話しておくしかないか……
「で、リナさんの方は何があったんですか?」
「んー……ちょっと待ってね。一応頭の中で整理してから話すから――」
 とりあえず手で待ったをかけて、時間をもらう。
 起こったことまんまを話すのならすぐにでも話せるのだが……いくらなんでもありのままに話せばガウリイにまた何か言われることは間違いない。
 だからといって、ナーガ辺りのことはすっ飛ばしても問題ないだろうが、危険の薄かった部分だけを話したら間違いなく矛盾が生じるだろーし……
 あーでもない。こーでもないとしばらく黙考してみたが、いい考えは浮かばない。
 仕方ない。正直に話すか……
 ようやく決心すると、ガウリイ達へと向き直る。
「実は――」
 あたしはこれまでに至る道のりを話し始めた。
 ちなみに――
 しっかりとガウリイに怒鳴られたことは追記しておく。

「いないってのは一体どーいうことよっ!?」
 報告の度に訪れたその部屋で、いつもスティングさんの側にいた比較的若い兄ちゃんの襟首をひっつかみ、あたしは大声で叫んだのだった。
 色々ヒドイ目に遭いつつも、何とか報告しようとやっとの思いで訪れたとゆーのに、返ってきた返事は只今行方不明とのこと。
 これで手近にいる人間に怒りをぶつけようとするのは人間としての義務であるっ!
 ちなみにすでに囚人のフリをしている意味はないので、あたしはいつもの魔道士ルックである。
「がぐっ!?
 し――知りませんよっ!
 こっちが聞きたいくらいですっ!」
 がっくんがっくん揺られながらも器用に言葉を返す部下の兄ちゃん。
「お、おいっ、リナ!
 とりあえず落ち着けっ!」
「そうですよっ! この人は関係ないじゃないですかっ!」
「何でもかんでも暴れ出す奴だな……」
 ぐっ……!
 ガウリイを始め皆にそう言われ、とりあえず手から手を離す。
 ええいっ、風情のないっ!
「――で?
 スティングさんの居そうな所に心当たりはないの?」
 ひょいと話したその先で軽く咳き込んでから、彼はこちらを睨み付ける。
 なかなか反抗的でよろしくない。
「だからっ!
 こっちが聞きたいくらいですって言っているでしょうっ!?
 ――だいたい、心当たりがあるなら、数に物言わせての捜索なんてしませんよっ!」
 確かに、ここに来るまでの道のりで、何やら慌ただしく看守達が動き回っていたのを見ている。
 と、ゆー事は彼らもスティングさんを捜していたんだろーか。
 ま、なにはともあれ――
「――なるほど。行き場所に心当たりはないけど、あたし達に話したくないよーな事情はあるってことね」
「なっ!? なんでそういうことになるんです!?」
「簡単じゃない。
 あんたが『数に物言わせて捜索してる』、っつったからよ。
 子供じゃあるまいし、半日見かけなくなっただけでそんな大がかりに捜すわけないでしょーが」
 あたしはきっぱりと言ってみせた。
 そりゃ何人かは心配して捜すかも知れないが、それだって数人だろう。
 それも特に親しかった仕事仲間と限定されるはずである。
 ところが、そのように大がかりに捜すということは是非にも発見しなくてはならない何かがあるという事に他ならない。
 何も知らなくて苛立っている人間を演じようとしていたみたいだが、あたしを騙そうなんぞ十年早い。
「………………………っ!!
 あなた達に話すことはありません……」
 独白するように彼は言う。
「そう言われてはいそうですかって引き下がるわけにはいかないわね。
 あたしは、この所内の事件について調査の仕事を引き受けているの。
 例えどんな些細な手がかりでも――全力を尽くす義務があるわ」
 つまり、『細かいこと聞くけど仕事なんだから怒んないでね(はあと)』ということなのだが……
 言い方をちょいと工夫してやるだけで異様に格好良く聞こえたりするから言葉というもんは不思議である。面白いなぁ、言葉って。
「確かにそうだな。
 いくら好奇心で自滅したようなものとは言え、仲間がそれなりに怪我を負っているんだ。
 おいそれと引き下がるわけにはいかん」
 好奇心で自滅って……も少し言い方無いのか…? ゼル……
 ……まぁ、結局は心配してくれていたって事だろうけど……素直に喜べないなぁ……
「そうですっ!
 『あの』リナさんが気絶して倒れていたんですよっ!?
 これがどれだけのことかわかっているんですかっ!?」
 ……あのな……あんたら……
「悪いことは言わん。素直に話しといた方がいいぞ。
 特にリナなんて怒ると……おれ達でも止められないからな……」
 言いながらこっちを見るな。ガウリイ。
 そんなあたし達にやりとりを見ながら、溜息をつく部下の兄ちゃん。
「……僕は……本当に知らないんですよ……
 なによりメンツを大事にする役所の延長線上ですからね……
 僕みたいな……下っ端には情報は隠されてしまうんです」
 疲れたように言う彼。
 あたしはそのまま見つめながら、
「詳しくなくても結構だけど?
 ――あなたが知っている範囲でいいわ」
 言われて彼はあたし達を見渡す。
 彼の視線のその先には、無言で頷くあたし達。
 そして彼は深い溜息をついた。
「あなた達が調査している殺人事件――
 責任者がスティングさんだという事は知っていますよね?」
 再び無言で頷くあたし。
「この事件は半年前から起こっているという事を聞いているはずです……
 つまりは――半年もの間未解決な事件なんです。
 先程も言いましたが、権威や威厳を護るため、この事は役所――上にとって結構痛手でしてね……
 それでスティングさんへの上からの圧力はかなりあるんです。
 そのうえ、役所の上の方には財源や人材不足の問題が――
 ――失礼。こんな事話しても仕方ないですよね……
 結局は上へ協力の申請をしているのですが……返ってくる言葉は叱責や苦情の言葉ばかりで何の援助もないのが現状です。
 ……あなた達のことも、スティングさんが前に通っていた魔道士協会に頼んで紹介してもらったんです。
 ……口止めされてましたけど――あなた方の依頼料はスティングさんの自腹なんです」
『なっ……!!』
 あたし達の声がハモる。
 自腹っ!?
 そこまで追いつめられてたのか……?
 とてもそうは思えなかったが……
 どうやらスティングさん、なかなかの役者らしい。
 それにしても……本来こういう仕事、費用は――
「役場の人達に掛け合ってみなかったんですかっ!?」
「もちろん掛け合いましたよ……
 返ってくるのはこちらへの要請だけです。完全に無視されました」
 うーむ。とことん腐った職場である。
 横目でちらりと見るとさすがに無関係とは思えないのか、アメリアが正義という名の怒りに燃えていたりする。
 どーやら叫んでこれ以上話の腰を折る気はないよーだが、それもいつまで持つか……
「……半年ほど前から何とかしようとスティングさんが徹夜して見回りをして居るんです。だいたい三日に一度のペースでね。――五十も過ぎてる方がですよ?
 以前にも、今日と同じようにふらりと姿を消したことがあるんです。
 その時は……血を吐いて資料室で倒れていました……
 それで……今総出で捜しているんですよ……
 スティングさん……皆に慕われてますから――」
 そう言って、視線を逸らすように彼はうつむいた。
 三日に一度は徹夜って……あたしもたいがい無茶する方だが、スティングさんもかなり無茶な人間らしい。タイプが違うと言えば確かにそうだが、無茶は無茶である。
 仕事熱心なのは感心すべき所なのだろーが、体をこわしてはどーしよーもない。
 お役所の人間にしては珍しいタイプの人間である。
 役人でもないくせにお役所仕事の某自称謎の神官も半分で良いからちっとは見習ってもらいたいもんである。
 ……いや……あんまし見習って真面目に仕事されても困るか……人間の立場としては……
 まぁ、それはともかく。
 スティングさんを深く心配するのと同時に、胸に少しずつ浮かび上がる感情がある。
 ともあれ、今はまだ抑えておくが……
「――で?
 それだけじゃないんでしょう?
 上があなた達に何を隠そうとしているのか――心当たりぐらいあるんでしょう?」
 隠しているからわかるわけないじゃねーか。
 そう思った君はまだまだ甘い。
 まるっきし彼らが解っていないのなら、『隠されている』という認識は生まれないはずである。
 隠されていることがわかったならば、人間というもんはどーしてもそれを知ろうと動くもんである。
 例外の人間もいることはいるのだが、今回隠されているのは多数。
 その中の一人も事実確認に動かなかったというのはまず考えられない。
 そして一人でも事実を知ろうもんなら、噂という形で情報は必ず漏洩する。
 彼とて、確信は持てずとも、何らか感じるところがあるはずである。
「……噂ですが……
 スティングさんがこの事件の容疑者とされているらしいんです」
 ――っなっ!?
「ちょっと待てよ。
 そのス……なんとかっておっさんが、一人で徹夜してまで見回りしてるんだろ?
 どうしてそうなるんだ?」
「――だからだろう」
 ゼルが低く鋭くガウリイの質問を返した。
「犯行が行われたとき、一人で居たから――目撃者が居ないから――そういうことですかっ!?」
 やっぱしキレたか。アメリア。
 だが、それにしても……役場にいる上の方々とやらは、どーやらなかなか利口な奴ららしい。
 いくら犯行時刻の無実を証明できる人間が居ないとは言え、もし何かの間違い――誤認逮捕だという事に後でなっても、事件解決遅延の責任をとって処分しただけだ等と、いくらでも言い訳は聞く。
 まして、もし犯人が上の立場にいる人間ならば、スティングさんが捕まったのを良いことに、罪を全てなすりつけようと犯行を止めてしまうかも知れない。
 いや――犯行を止めること事態はよいことなのだが、それではやはりスティングさんが犯人だという事に話しはもっていかれるだろう。
 ずいぶん利口なやり口ではあるが――これではスティングさんを生け贄にしたも同然である。
 ますますもって気に入らない。
「僕だって冗談じゃないですよっ!
 スティングさんが疑われるなんて――
 あの人が――どれだけ苦労してきたか……!
 上の人間は何も知らないんだ! 命令することしか――」
「やかましい」
 彼の叫びをあたしの冷ややかな声が遮った。
「――なっ!? 今何て?」
 顔を赤くして怒りの表情を浮かべる彼をあたしは真っ直ぐに睨み返す。
「やかましいって言ったのよ。
 さっきからずっと我慢してきたけど……
 あなた――さっきから上に対する文句ばかり言っているけど――あなた達と何が違うのよ?」
「どういう意味ですかっ!?」
「まんまの意味よ。
 スティングさんが一人で夜の見回りをしていることで疑われている――
 そう知ってからあなたは何をしたの?
 上に文句を言ったり、スティングさんに同情したりしているだけじゃない。
 あなた達が交代でも何でもして夜の見回りを一緒にやれば良かったのよ。
 そうすりゃ疑いなんてすぐに晴れるでしょーが。
 気付かなかった――そうは言わせないわよ。こんな簡単な答」
「それは――…………っ!」
 言い返したいのだが、言葉が出ないのだろう。
 当然である。これは単純にして残酷な事実なのだから。
「慕っているなんて……よく言えるわね」
「リナ……その辺にしておけ」
「………………………」
 なだめるようにしてあたしの肩を叩くガウリイにあたしは黙り込む。
 言いたいことはまだあるが、いつまでも彼に説教していても、事態は何も進展しない。
 それに――
「あたし達はこれからスティングさんを捜すわ。
 そしてこんなくだらない事件とっとと終わらせてみせる。
 ――あなた達とは違うから――」
 そうとだけ言って、あたし達はその部屋を後にした。

 わかっては――いたのだ――
 スティングさんのように、無償で奉仕する――いや、奉仕し続けることは難しい。
 彼ら看守達が何も手をうてなかったのも……それは仕方ないことなのかも知れない。
 それでも――胸に湧き出る感情を抑えることは出来なかった。
 あたしもまだまだ修行が足りない。
 それにしても――スティングさんは一体何故そこまでするのだろう。
 例え上の役所が費用を用意し、見回りを交代で出来るようになったとしても――彼は見回りをし続けていたのだろうか。
 厚い雲に覆われた空のように、あたしの心は晴れなかった―― 

「全くっ!
 どーなってるんですかっ!?
 ここの役人達はっ!」
 いやに殺気立った目であちこちきょときょと見渡しながらアメリアは高い木の上で吠えていた。
 なおもぶつぶつと文句言いつつも、スティングさんの捜索を忘れないと言うのもまたアメリアらしい。
 ちなみにあたし達は――他人のフリをしてその場を離れていった。
 ……いや……確かに怒るのはもっともだし、あたしもかなり頭にキてたけど……
 木の上でそれを吠えるのはどーかと思うぞ。アメリア。
 次第に遠ざかっていくアメリアの声を意識的に捕らえないようにしながら、あたしも捜索を開始する。
 所内は――実はかなり広い。
 そこらの魔道士協会の施設がすっぽりと収まるぐらいの敷地はあるだろう。
 ……まぁ……アメリアが木の上に登ろうとするのも当然かもしんない……
 なんで浮遊(レビテーション)使わずにしゃくとりむしのよーにえっちらおっちら登っていったのかはわからないけど。
「おい、リナ。アメリア置いてきてよかったのか?」
「こんな広いところだしね。心当たりがない以上、手分けして捜す方がいいことは確かよ。
 ……別にどうしてもってんならガウリイ、あんたが回収してきてもいいけど?」
「……えーと……それはちょっと……」
 うーむ。さすがのガウリイも恥ずかしいか。あの娘を回収してくるのは。
「それだったらオレたちも別れた方がいいだろう。
 オレは東の方を捜してくる」
「オッケー。任せたわよ、ゼル」
 軽く手のひらを振りながら、ゼルの背中を見送るあたし。
「さて……と。
 ガウリイは――一人で人捜しは無理よね……」
「おう。わかってるじゃないか、リナ」
 い、いやあの……そこで自信たっぷりに胸逸らされても困るんですけど……
「……………
 え、えーと……じゃあ、ガウリイはあたしと一緒にスティングさんを捜してもらうってことで。
 聞き込みの腕はともかく、剣の腕と目の良さだけは信用してんだから、ばっちし頼むわよ。
 あんたなら遠くにいてもわかるでしょ」
「だけってお前……
 ――まあ、いい。
 だがな、リナ。その作戦には一つ問題があるぞ」
「問題? 何よ」
「スティングって奴の顔、覚えてない」
 ずるだしごしゃぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!
 あまりと言えばあまりのその一言に、あたしは盛大にコケたのだった。
 お……をひっ! いくらなんでもそれは……っ!
「目の前通り過ぎたとしても気付かない自信あるぞ」
 持つな。そんな自信。
「お前さんらしくない計算ミスだな。
 ま、たまにはいいよな。こういうことも」
 たまにはって……
 あたしとしては、たまにはあんたに頭を使ってもらいたいんですけど……
 そ、それにしても依頼人の顔を忘れるかふつーっ!?
 あたしと出逢う前、傭兵として一体どうやって生活してきたんだ? こいつは。
 なかなか謎の多い男である。  
「じゃ、じゃあ……
 何かあったときの援護を頼むわ」
「何かって?」
「ま、早い話が――戦闘」
 あたしのその一言にガウリイは顔を青くする。
「ま、まさかお前――そこらの人間に辻斬りでも始める気か……!?」
「始めるかぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!
 これからっ! 謎が多いくせに一向に糸口の見えない洞窟に行くからっ!
 危険が多いから頼むわよって言ったのよっ!!」
「なんだ。そうならそうと始めっからそう言えば良かったのに」
 ええいっ! 具体的案言ったら風情がないでしょーがっ!
 ――まぁ、こいつに風情を求めるとゆー時点で間違ってたよーな気がしないでもないのだが……
「でもなんだってそこに行くんだ?」
「……今回の殺人事件と全く無関係なような場所だけど、どうもあたしの勘ではあそこを軸に動いてるような気がしてならないのよね。
 スティングさんの居場所に心当たりもない以上、どこ捜しても一緒よ。
 それなら気になっているところを調べながら捜索ってのが一番効率的でしょう?」
「つまり……全くわからんから勘に頼ろうってことか」
「……………………………………………」
 い、いやまぁ……平たく言うと確かにそーなのだが……
 一生懸命頭を使ってあたしがプランを立ててるってのに……
 腹立つぞ……本人何も考えてない分……
「ま、ともかく――頼むわよ。
 忘れてるだろーから言っておくけど、クラングって兄ちゃんと――魔族と会った場所だから。
 ……まぁ……今は潰れて洞窟になってないけどね」
「ふーん」
 ふーんって……やっぱし覚えてなかったか……?
 う、うーむ……事情や説明リピートするの、ガウリイと旅してる以上、あと何百――いや、付き合う期間によっては数千回繰り返されるんだろーか……
 やっぱしいー加減寝込み襲って光の剣奪った方が……いや、しかし、そーいう事に対する勘はおそろしくいいから、結局説教かなにかを食らうはめに……
 ――って、今考える事じゃないか……
「じゃ、行くわよ、ガウリイ」
「おうっ!」
 いやに元気なガウリイの返事を背に受けて、あたしは洞窟にあった作業場へと向きを変える。
 直後――
 どぐあぁぁぁぁぁぁんっ!!
 大音という武器で攻撃する爆音があたしの鼓膜へと飛来する!
「アメリアの方だぞっ!」
「――わかってるっ! 行くわよっ! ガウリイっ!」
 返事を待たずしてあたしは再び向きを変え、音のした方へと疾走する!
 ざわめき立ちつくす通行人達をあっさり追い抜き、すりぬけ、その場へと辿り着くのはさして苦労しなかった。
「アメリア! 一体何があったのよっ!?」
「リナさんっ! あそこ見てくださいっ!」
 言って、木の上でびっと指差すアメリア。
 ――って、ここからじゃ見えないんですけど……
 仕方なくあたしは呪文を唱え始め、それに気付いたガウリイが情けない格好であたしの腰にしがみつく。
 いくら魔法の力で浮かぶとは言え、結構重いのだが……そんなこと言ってる場合じゃないか。
「浮遊(レビテーション)っ!!」
 力ある言葉に応え、あたしとガウリイの足が地を離れる。
 意識を集中し、アメリアの方へと昇りながら、指差す方へと視線を向ける。
「さっきの爆発は一体何が起こったのよ?」
「リナさん達呼ぶにはこれが一番かと思ったんです」
「あんたがやったわけね……
 ――で? あっちの方に何か見えたの?」
「スティングさんが見えませんか? ほら、あそこ」
 んー?
 徐々に高度を上げながら、視界が開けてきた方へと目を向けてみる。
 んーむ……確かに何やらもめてるよーだが……
「むー……アメリア」
「はい?」
「パス」
 がすっ!
 言うが早いか相手の返事を聞く前に、あたしは腰にしがみついていたガウリイを木のてっぺんへと蹴り飛ばす!
「っきゃぁぁぁっ!! 何するんですかリナさんっ!」
「そそそそーだぞっ! お前と違っておれは空飛べな……!!」
 抗議の声をあげる二人を無視し、あたしは手近な木に降り立ち、術を解除すると、別の呪文詠唱に取りかかる。
「翔封界(レイ・ウィング)っ!!」
 先程の浮遊(レビテーション)と違い、これは結界をまとって高速飛行する術である。
 故に苦情は全く聞こえないから配慮する必要なし!
 なにやら二人の口がわきゃわきゃ動いていたり眉がつり上がったりしているように見えるが――気のせいだろう。多分。
 ともあれあたしは術をコントロールし、スティングさんらしき人影へと移動を開始する。
 段々と大きくなっていく人影は――やっぱしあたし達が捜していたスティングさんだった。
 周りに二人の役人がおり、三人は言い争いを――もとい、どーやら一方的にスティングさんが何かを言われているよーだが――
 こ、このシチュエーションはもしかして……
 考えているうちに肉薄し、あたしは急ブレーキをかけるように加速を解くと、やや面食らった顔をする三人の間に挟まれるようにして降り立った。
「なっ……!?」
「何だ貴様はっ!?」
「――リナ=インバース。
 ……今回の事件の調査を依頼されてるものよ」
「貴様が……!?」
 吹っ飛ばしてやろーか。このヒゲ面おやぢ。
 あたしのこめかみの辺りがぴくぴくさせていることに気付いていないのか、役人の服を着た礼儀のなっていない奴は精一杯の虚勢を張る。
 初対面の人間相手に貴様はないだろーが。貴様は。
「リナさん……
 ずいぶんお元気になられたようですね。
 いやー、良かった、良かった」
「…………ど、どーも。その節は大変お世話に……
 ――じゃなくて! 所内あなたを捜して騒然となってますよっ! 
 何やってるんですかこんな所で!?」
 言われテスティングさんは役人二人へちらりと目を配ると、
「えーと……この二人にもさんざん言われました……」
「今回の事件の重要参考人として、役場までご同行願っていたところだ。
 貴様は引っ込んでいろ!」
 ぶちぶちぶちっ!
「あんたこそ黙ってなさい。
 あたしはスティングさんに話を聞いているのよ」
「――なっ!? なんだとぉぅっ!!
 貴様役場に雇われた人間のくせに――」
「雇っているのはスティングさんよ。
 それに――初対面の人間相手に『貴様』呼ばわりするよーな人間のご機嫌なんかとろうとするほどあたしは寛大でもなければ馬鹿でもないわ」
「ぐっ……!!
 下手に出ていればいい気になりやがって……!」
 いつ下手に出た。いつ。
「待てジャイル! 暴力行為は――」
「暴力行為? 違うぜ。
 こいつはなぁ――公務執行妨害の制裁ってんだっ!!」
 いやに短気なおやぢは血走った目をこちらへとやりながら、右拳を大きく振りかぶる。
 ちんぴらか。お前は。
 相手の右拳があたしの顔が先程あった場所を通り過ぎると、次の瞬間、あたしのカウンターで放った肘打ちが相手のみぞおちへと入っていた。
「ちなみに――これは正当防衛って言うんでよろしく」
 うずくまる相手を見下ろしながら、あたしは軽く言ってやる。
「――リナ=インバース殿。
 仲間の非礼もあるので、今の件は正当防衛を認めよう。
 しかし、スティング=オーカス氏は我々と同行していただく。
 それを邪魔するというのなら――次は本当に執行妨害となるが?」
「……する気はないわよ。あたしはただ事実が知りたいだけ。
 今回の一連の事件、スティングさんがやったって言う証拠は?」
「我々の知るところではない。
 私はオーカス氏をお連れするように指示されただけだ」
 にべもない返事をする役人B。
 かわいげのない奴である。
 だがしかし、一応足下でまだぴくぴくしている役人Aよりは冷静な奴らしい。 
「――で、スティングさんは同行を承諾したんですか?」
「拒否してもどうせいずれいかされそうでしたから……
 それならやましいことがあるのだと思われるよりはマシでしょう?」
「……それは……そーですが……」
 どうも納得がいかない。
「よいかな? お二方」
「ちょ、ちょっと待って。
 スティングさんがいない間、あたし達は調査をどうすれば……?」
「……危険を感じたら止めていただいて構わない。そう前に言いましたよね?」
「――ええ。言われました。
 だけど――止めるつもりはありません。こんな事になったのならなおさら」
 はっきりとあたしは言った。
「なら――聞くまでもないでしょう。
 捜査の続行をお願いします」
「……わかりまました。
 すぐに帰ってきてくださいよ。
 そうじゃなきゃ――あたし達の依頼料が何処からもでそーにないので」
 あたしの言葉にスティングさんは苦笑を浮かべると、役人達と一緒に所内を出ていった。
 日が傾けたこの時間、風は異様に冷たかった――

「それであっさりスティングさんを行かせたんですかっ!? リナさんっ!?」
「だ――だって、他にどうすりゃいいのよっ!?
 まさか役人相手に暴れ出すわけにもいかないでしょーがっ!
 捜査の為じゃなく、本気で囚人にされるわよっ! あたしっ!」
 後から駆けつけた仲間達に簡単に事情説明をしつつ、早めの夕食を客室でつつくあたし達。
 客室と言っても、牢屋の収容所内にまともな客室などあるわけもなく、使われていなかった空き部屋を急遽テーブルやら何やらを運び込んだだけなのだが。
 ともあれ、一番頭にキているのはアメリアらしかった。
「何言ってるんですか!
 任意同行の際に『貴様』呼ばわりされたのなら名誉を傷つけられたので協力心がなくなった、とか、証拠の提示も、礼状もないのに従う必要はないと突っぱねれば良かったじゃないですか」
「あたしはあんたと違ってそーいうことに詳しくないの!
 政治的なことは専門外よ」
「せめて事情を聞きたいから明日までに延ばしてもらうとか交渉の余地はあったのに……」
「知らないって言ってんでしょーが……
 あたしだって納得してスティングさん見送ったわけじゃないわよ」
「でもな……おれを木の上に突き飛ばしといて収穫無しかよ……」
 う゛っ。
 皿にのったシチューをスプーンでかき回しながら言うガウリイの言葉にあたしは一瞬うめき声を上げる。
「更に正確に言うなら『木の上』じゃなくて、わたしの上でした」
「……何をやったんだ。リナ」
 一人事情を知らないゼルがジト目でこちらを見る。
 あの時は、スティングさん達が居る場所までの道が入り組んでいたので、走るより翔封界(レイ・ウィング)の方が早いだろうと判断し、迅速に行動する案を取っただけである。
 アメリアが翔封界(レイ・ウィング)を使えるのならあたしは増幅の呪文でも唱えてガウリイを連れていっても良かったのだが、アメリアはあいにくその呪文は使えない。
 それでもガウリイを連れていくとでも言ってしまえばアメリアはしがみついてでもついてこようとするだろう。いくら増幅の呪文をかけたところで、三人の重量を支えなくてはならなくなったら間違いなく速度が落ちる。そこであたしは泣く泣く(ここ、じゅーよー)一人で旅立ったのである。
「ま、まー過ぎたことをとやかく言うのはいつでも出来るし……」
「今でも出来るよな」
「……とにかく、今後の動きをどーするかね」
 ガウリイのツッコミを無視して強引に話を進めるあたし。
「決まっています! 悪人には死、あるのみ!
 正義の鉄拳を燃やして今すぐ……!!」
「ちょっ、ちょっと待ったっ!
 アメリア、あんた一体何を考えて……?」
「ご心配なく! 役場の上の人達に正義の鉄拳を食らわすだけですから!」
 それで一体どう心配するなと……?
「――冗談はさておき」
 冗談だったんかい。
 そのわりには目がマジだったよーな……
「やはり、今回のスティングさんが同行を迫られたのは、役場の組織の在り方や、下部組織への連携が不十分だから起きた事態です。
 と、なると、例えスティングさんが捕まっている間に事件を解決しても、いずれまた何か問題が起こるはずです。
 ならば、その組織の問題を誰かが指摘すべきだと思うんです!」
「それはそうだが――出来るのか? アメリア」
「大丈夫ですっ!
 父さんや叔父さま達がやっていることをよく見てましたし、色々勉強はしてるんですから」
「そう言えば……アメリアって本当にお姫様だったんだよなー……」
 珍しく政治的なことを口にするアメリアにガウリイが呟く。
「『だった』って、過去形じゃ困るんですけど……」  
「ま、まぁ……それはともかく。
 確かにこの中じゃ、あんたが一番適任だろーけど……色々風当たりも強いだろーし、お姫様って立場で行くのなら、護衛の一人も付けないのは変でしょーが」
「それはそうですが……でもセイルーンからわざわざ呼びつけるわけにもいきませんし、第一時間もありません。
 ――だからと言って四人で行ってしまったら、肝心の事件が未解決のままになっちゃうじゃないですか」
 それは……そうなのだが……
 うーむ……本当ならあたしがついていってやりたいところだが、今回この事件に一番深く関わり、事情も詳しいのはあたしである。そのあたしがこっちの事件をほっぽっといて行くわけにもいかない。
 ならば、頭も回る、ゼルについていってもらいたい所なのだが……
 ――ここだけの話、彼は昔、とある赤法師の部下としてあちこち暗躍していたらしく、裏の世界で結構知られている存在らしい。今はもちろんきっぱり足を洗っているとは言え、いくらなんでも役場や公式の場に出るのはまずいだろう。そもそも、目立つことは彼自身が嫌っている。
 と、なると――
「――ガウリイ、ついて行ってあげてちょーだい」
「そいつは構わないが――
 いいのか? おれで」
「だいじょーぶよ。ガウリイに頭働かせて手伝いしろなんて無茶言わないから。
 あんたはアメリアに任せて、ずっと付き従ってりゃいーのよ」
「お前な……最近酷いぞ……おれに対する評価……」
「間違ってる?」
「――で、アメリアはどうなんだ?」
 あたしの言葉を無視してアメリアの方へと強引に話を振るガウリイ。
「わたしはもちろん構いませんけど……本当に何もしないでくださいね。ガウリイさん」
「アメリア……お前さんまで……」
「あ、いや、その……
 ――ところでリナさん達はこれからどうするんですか?」
 やっぱし話を強引に変えるアメリア。
「んー……とりあえず洞窟へ――つっても、潰れているんだろーけど、とにかくそこへもう一度行ってみるわ。何か手がかりがまだ残っているかも知れないし。
 もしなかったら資料室でその洞窟の作業場にいた囚人達が何をやったのかとか、色々調べものすることになると思うわね。
 ――もちろん手伝ってもらうわよ。ゼル」
「いいだろう。他に何もなさそうだしな」
「いいなぁ、リナさん……そっちは手伝ってもらえる人が居て……」
「……どうせオレなんか政治の役に立たないさ……」
 言って端に避けていたピーマンをフォークでつついて弄ぶガウリイ。
 いじけるな。いい歳して。
 まぁ、こう言っちゃなんだが、あたしやゼルが行っても役に立つ自信はない。
 政治だのなんだのは片っ苦しい雰囲気はもちろん、あちこちの利害が複雑に絡み合った中でのことなので、どーにも性に合わない。なおかつ暴れ出せば牢屋に放り込まれる恐ろしいところである。
 ……まぁ、別にそこじゃなくても牢屋に放り込まれるはずだ、とゆー説もあるにはあるのだが……
「ま、行動開始は明日の朝からね。
 となればとっとと寝て明日に備えるわよ」
「まだ寝るには早すぎませんか?」
「だったら、好きなことして時間を潰せばいーじゃない。
 ともあれ解散!」
 強引に話を終わらせると、あたしはとっととその場を後にする。
 実のところ――あたしにはまだやりたいことがあったのだ。
 ともあれあたしは移動して、寝室に荷物を放り投げると、再び廊下へと戻る。
 まだ寝静まる時間でもないが、聞いた話ではこの辺りはずっと使われていない施設らしいのであまり人の気配は感じない。
 まぁどっかにガウリイやゼルにアメリアは居るんだろーけど……
 軋む廊下のその先に、古ぼけたドアを開けると、冷たい空気が身体を撫でる。
 あたしはマントを羽織りなおし、そのまま外へと歩き出していった。

「――さて、と。
 ガウリイ達はもう行ったみたいだし……早速行きましょーか。ゼル」
「……と言うより……早速というのか……?
 すでに昼過ぎなんだが……」
 翌朝堅苦しい世界へ旅立っていったガウリイ達を涙ながらに(あくび噛み殺しただけだけど)見送って、居間で紅茶をすすりつつ、切り出したあたしの言葉をゼルが冷たく一蹴した。
「気にしない、気にしない。
 手がかりは逃げやしないんだからのんびり行きましょ」
「ころころと考えを変えるな」
「ほっといてちょーだい。
 ほら! いつまでも紅茶すすっていないでとっとと行くわよ!
 ガウリイやアメリアはきっと今頃めんどくさいことになってるんだからっ!
 よくのんびり出来るわねっ!」
「お前が『寒いからやだ』って行こうとしなかったんだろーが!」
「あ。覚えてた?
 ガウリイなら忘れていてくれるところなのに……やるわね。ゼル」
「旦那を基準に考えられても困るんだが……
 ――まぁ、いい。お前とこんな話をいつまでもしていても不毛なだけだ。
 付き合ってやるよ」
 なにやら偉そうな態度で立ち上がるゼルガディス。
 あたし達は軽く装備を確認すると、その場を後にした。
 ここから洞窟まではさほど遠くない。
 逆に言えば、洞窟に近いが為に空き部屋となっていたのかも知れないが。
 ともあれ歩く道すがら、あたしはふとあることに気付いた。
「そう言えば……ゼルと二人で行動するなんて意外にも初めてあった時以来よね」
「全く……今回限りにしてもらいたいもんだな」
「どーいう意味よ……」
「気にするな。なんとなくだ」
「気にするわよ、フツー。
 一番タチ悪い解答じゃない。それ」
「普通、か……」
「ゼル……あんた……今『お前は普通じゃないだろうに』とかって、心の中で呟かなかった……?」
「ほう……自覚しているのか」
「……………………………」
 心の中でどんな呪文を唱えてやろーか、とあれこれ選択しつつ、黙り込むあたし。
 構わず歩みを進めるゼルガディス。
「――着いたぞ。あそこだな?
 洞窟というのは」 
 言われて爆裂陣(メガ・ブランド)の呪文詠唱を中断すると、慌てて視線を前方へと修正する。
「な……っ!?」
 時間によっては囚人達が労働をし、活気あるはずの道にあたしは呻いて立ちつくした。
 あたしの瞳に映るは、いつかナーガが延焼させて黒こげになって骨組みだけになった空き部屋。
 ――これはいい。
 だが――しかし。
「別に変なところは見当たらんが……どうかしたのか?」
「――どうかしたのかじゃないわよ――」
 少々かすれた声で、あたしは歩みを進める。
 だが、問題のそれはやはり幻でも何でもなく、確かに存在している。
 すなわち――
「……潰れてない洞窟だから、か?」
 そうなのである。
 あたしが生き埋めになったはずのその場所には、以前と変わらないまま地下へと続く道へぽっかりと穴を開けたままの――完全な洞窟がそこにあった。
「そりゃ確かに……入り口が潰れてた所は見てなかったけど……
 地中から地上まで魔法で掘り進めてたのよ?
 もし、完全に潰れてなかったのなら、途中で空洞にぶち当たるはずよ」
「――だが、そうはならなかった――」
 こくりと頷くあたし。
 可能性はいくつかある。
 これをやったのが魔族であるデザーバックだという事。
 確かに魔族の魔力容量(キャパシティ)をもってすれば、出来ないことはないだろう。
 だが、しかし――何故わざわざこんな事をする?
「ま……ここで考え込んでも何もわからんな。
 奥へ行くか?」 
「そうね……」
 ここに来てみて、例え魔族の襲撃でも何でも、なにか起こったらラッキーぐらいの気持ちで来たのだが……
 これは歓迎と考えていーのかどーか……
 こぉまでロコツだと、罠やご招待だとはどーも考えにくいのだが……
 それとも他に何か意味あるのだろうか……?
 ま、何はともあれここで足踏みしてても靴底が減るだけである。
 道が無くてもあたしの場合は強引に作るのだが、わざわざ進む道がある以上、前に進まなくてはあたしの信条に反する。
 ゆっくりと近付く洞窟の入り口。
 まず最初に気付いたのは、その入り口の中のすぐ側に人の気配があるという事。
 殺気は感じないのだが……はて……?
「それで隠れて居るつもりならお粗末すぎるわよ。
 洞窟の入り口でこそこそしてないで出てきたら?」
「何でお前はそう挑発的な物言いしか出来ないんだ……?」
 隣で呟くゼルは無視。
 例え殺気が無かろうと油断は禁物。
 あたしはそちらの方へと注意を注ぐ。
「――出てくる気ないならこっちから行くわよ?」
 少々の間を置いても出てこない相手に向かって言いながら、あたしは一歩歩みを前へと進めた。
 ゼルの方もあたしをフォローをすべく、それに合わせて一歩前へと詰める。
 そしていくらもしないうちに――観念したのか人影は白日の下に姿を表した。
「また会ったな。嬢ちゃん」
 ………………………………
 あたしは構わずそいつの方へと歩き出す。
「全くちっとも懲りてねー……っておいっ!?」
 構わず無表情で歩き出すあたしに何か不吉なものでも感じたのか一歩、クラングは身を引く。
 あたしは構わず歩き出し、逃げようとするクラングへ一瞬で間合いを詰めると、無言で飛び蹴りを食らわせた。
「がっ……!!
 なにしやがるっ!? いきなりっ!」
「んっふっふ。よく言えるわねそんなこと。
 あんたこそいきなりあたしの後頭部に手刀叩き込んでくれたって事!
 忘れたとは言わさないわよっ!」
「あー、あれね。悪かった。すまん」
「すまんじゃないぃぃぃぃぃっ!!
 あっさり謝るぐらいなら最初っからやるんじゃないわよっ!」
「ほら、人間って過ちを繰り返して成長していく種族だし」
「都合のいいこと言うんじゃないっ!
 あんたね……あたしは寛大だからまだ大して気にしていないけど――」
「たった今嬢ちゃんおもいっきり蹴り食らわしたじゃねーか」
 細かいツッコミは無視しつつ、
「あたしに攻撃食らわしたってんで、後ろに控えるお茶目なゼルちゃん(はあと)こと、自称残酷な魔剣士ゼルガディスが黙ってないわよっ!」
「誰が『お茶目なゼルちゃん(はあと)』だっ!!!
 ちゃんづけはよせっ!」
「ふっ。このよーに興奮してるから身の安全は保証できないわっ!」
「お前が身の危険を感じろっ! 少しはっ!」
 なにやら後ろで叫くゼルガディスの方へと視線を送りながら、クラングは哀れみを込めていった。
「嬢ちゃんに関わると……みんな不幸になる運命なんだな……」
 やかましい。
「あたしは運命なんて信じないっ!
 ともあれ、そーいうことでっ! 覚悟を――
 …………………………って、あれ……?
 ………………あの……クラング……?
 その右手は……?」
 言葉の途中で気付いたあたしは、クラングの右手を指差す。
 彼は今更気付いたように右手を持ち上げると、手のひらを閉じたり開いたりして具合を確かめるかのようにする。
「何だよ?」
「なんだよぢゃないっ!
 あんたあの時右手吹っ飛んだでしょーがっ!
 どーなってるのよそれはっ!」
 言ってビシッと指差しポーズの形で固まるあたし。
 そう――彼の右腕は前に地下でデザーバックと闘ったときに、吹き飛び、手首から先は無くなっていたのである。それどころか彼の右半身も殆ど酷い火傷を負った。火傷の方はあたしが呪文で治しておいたのだが……吹き飛んだ手首から先ではあたしが手に負えるようなものではなく、ただ包帯で痛々しく巻いただけだったはずなのだが――
「ああ。これね……朝起きたら生えてた」
「生えるかぁぁぁぁぁぁっ!!
 あんたねっ! ちっとはシリアスやんなさいよっ!
 いー加減この話収束させたいんだからっ!」
「おい、リナ。話って何のことだ……?」
「ゼルもツッコミは一切却下!
 ――で!? 本当のところは!?」
「……怪我なんてすぐなおっちまうんだよ。おれは特異体質でね」
 すぐ治るって……トロルじゃないんだから……
 いくらなんでも自然治癒力で治ったとは考えられない。
「前に洞窟脱出したときに、手刀はなったこと、覚えているだろ?」
 忘れているはずはない。
 あたしは攻撃受けたことは墓場まで持っていくタイプである。
 あたしの真横、左に立っていたクラングが手刀を――ちょっと待てよ……真左!?
 真左にいる人間が、右にいる人間へ後頭部へ手刀を叩き込むのだとしたら……当然右手である。
 よっぽどひねた人間なら左手ではたこうとするかも知れないが、少なくとも半歩は後方に下がらねばならない。
「つまり――すでにあの時治っていたと……?」
「まぁな――
 そーいうこった」
「……普通なら、治りっこないわよ?」
「ああ……知っているよ……」
「トロルとのハーフ――そう言うわけでもなさそうだな」
 言われてクラングは自嘲的な笑みを浮かべる。
「そーだったらいいよな。
 おれだって――まともな生きもんってことになるんだしよ」
 ちょっと待った。
 それではまるで――
「生きていないみたいじゃない……
 ……そういう言い方は……」
「仕方ねーだろ。
 ――実際生きてねーんだから」
『なっ……!?』
 あたしとゼルの驚愕の声がハモる。
「どういう――ことだ……?」
 かすれた声で問うゼルガディス。
「そのまんま。
 オレは半年前に死んでいる――」
 今度こそ、あたし達は何も言葉を返せなくなっていた。
 背中を照りつける太陽光が、こんなにも寒いものだと知ったのは初めてのことだった。
「さてと――事情を聞いてから奥へ行くか。
 それとも事情を聞くだけ聞いて帰るか。
 好きな方を選んでくれ。
 どーせ止めたって聞きゃしねぇのはもう骨身に染みてっからよ」
「その質問に答える前に――あなたが死んだというのは……
 死んでいながら今ここにいるのは……デザーバックと関係しているの……?」
「してなきゃいねーよ。こんなところによ」
「――わかったわ。
 事情を聞いてから奥へ――デザーバックの所へ行く。
 ゼルはどうする?」
 言われてゼルガディスは苦笑を浮かべた。
「それをオレに聞くのか……?
 ――かまわんさ。リナのことはガウリイの旦那から頼まれてるからな。付き合おう」
 ……何を言ったんだガウリイ……
 思わずそんなことを思ってしまったが、気を取り直してクラングの方へと向き直る。
「そーいうことで――話してもらいましょうか」
 あたしの視線を正面から受けとめ、クラングは話を始めた。
 そして――あたしたちは深い闇の底へと降りていった。

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12507封鎖された伝言 4白いウサギ E-mail 12/1-02:45
記事番号12503へのコメント

四、 掠れゆく 思いの先に 見るものは

 前に――彼は語ったことがある。
 横暴の限りを尽くし、看守の誰もが諦め、見捨てたこの作業場に、彼は訪れた。
 彼は苦笑混じりに――好き勝手やってる奴らに腹が立っていたふだけだと言っていたが……
 理由はともかく、作業場に潜入を開始し、現状を調べ、そのことに策を練るために。
 訪れたその地にデザーバックが現れたのは、いくらもしないうちだった、と。
 デザーバックに立ち向かった彼は完全な敗北を喫する。
 魔族への対抗手段は――人の身ではあまりにも少ない。
 なおかつ、彼には魔法が使えなかった。
 そして――どうしようもない絶望感をデザーバックが食して――いるのだと思っていた。
 ――変には――思っていたのだ――
 その程度ですむはずはない、と。
 あたしは――心の何処かで甘い期待にすがって、不安を打ち消そうとしていたのかも知れない。
 今思い出せば――もっと早くに気付くべきだった。

 ――そーいう無意味な好奇心が人の命を奪うこともある――
 
 おそらくこのセリフは、自分のことと照らし合わせてのセリフだったのだろう。
 同じ様な境遇で迷い込んできたあたしを見て、昔の自分を照らし合わせてみていたのかも知れない。

 ――おれの場合、歳の数え方が特殊なんだよ――

 死んでから、彼は年をとっていない。人間は死んだらそれ以上年は取れないものだから。
 だがしかし、彼は半年間この世界に存在していた。
 その分歳を上乗せするか悩んだのだろう。
 まだ他にも心当たりはある。
 ……数々の手がかりがありながら、あたしはその答えを導き出すことは出来なかった。
 それはもしかしたら――逃げていたのだろうか――?
 厳しい現実を直視したくないがために。
 そんなはずはない。
 だが――しかし――
 事態は予想できないほど残酷なものだった。
 デザーバックが訪れて――作業場にいた人間は全滅した。
 そして、再び彼らは動き出す。
 デザーバックのおもちゃとして――
 だが――しかし。
 彼らは自分たちが死んだことなど知らなかった。
 そう作られていたのだから。
 例外はただ一人、クラング――彼一人だった。

「すでに死んでいるっていう自覚があったのは俺一人だった……
 他は誰も知りやしねぇ。
 当然の事ながら、なんで俺一人自覚があるのか不思議に思ったよ。
 だから――デザーバックへ聞きに言ったよ。かなり勇気や決意が必要だったけどな」
 前を歩くクラングの表情は闇に覆われて見えない。
 あたし達は無言で話を聞き続ける。
「そしたらな――何て言ったと思う?」
 恐らくだが……言葉は予想できる。
 デザーバックは……何もできないクラングの自己嫌悪と共に、自分一人死んだという自覚に苦しむ負の感情を……食っていたのだろう。
「――お前のおかげで楽しませてもらっている――だとよ?
 ……ざっけんじゃねぇぜ……
 おれだって――プライドはある。
 ……ともかくよ、死後一日目は新しい親分さまの就任を祝って大宴会が行われた。
 正直、なんにもしらねぇ奴らが羨ましかったよ。
 だがよ……地獄が始まったのは翌日からだぜ……
 前日と同じ一日が始まったんだ」
「同じ一日って……」
「――文字通り同じ一日さ。
 やつらには……時間が経過してねぇんだ。
 前の日に起こったことなど何もしらねぇ。覚えてねぇんだ……
 同じ一日の繰り返し。
 それが半年も繰り返されてんだぜ?
 ――いい加減、頭がおかしくなりそーにもなるぜ……」
「ちょ――ちょっと待った。
 いまいちよくわからないんだけど……
 例えば――例えばよ?
 その……デザーバックが来たのが満月の夜だと思っていれば、今日も明日も昨日も満月の夜だと勘違いをして……信じ込んでいるってこと?」
「……具体例で言おうか。
 新しい親分の就任祝いの宴会が行われたって言ったよな。
 ――半年間、宴会は続いている」
 な――!?
 確かにあたしが前に昼に入り込んだときは宴会をしていたみたいだったし、夜訪れたときはそのまま疲れて寝たよーな姿があったが――あの時は一日のタイムラグはなかった。
 だから気付くはずもなかったのだが――あの光景が半年間続いたままって……
 つまりそれは――囚人達が時の流れのメビウスの輪に入り込んだのと同じ様なものであり――辛かった昨日が無く、同時に――明日もない状態である。
 極端な例を言えば、朝何かの拍子で転んで倒れ込んだ人間が居るとすれば、その人間は翌日も同じように転ぶだろう。表情、呼吸、転ぶ位置、時間――全てが同じ状態で。いつまでも、いつまでも……
 ――例えそれが半年という長い期間でも。
「死んでいる自覚も……一日が繰り返されていることに自覚しているのも……あなただけなの?」
「――ああ――」
 なんて――ことだろう。
 一人で乗り込んで、ある程度孤独な戦いになることは彼だって覚悟していただろう。
 だが、しかし。
 時間軸、真実、記憶――
 絶対的な共通点であるはずのそれすらなく、彼は半年もの間ここに取り残された。
 彼は――ずいぶんと長い間孤独な戦いをしてきたのだろう――
 ――結界の番人。
 前に彼と出逢ったとき、結界の外で、あたしを中へ入れることを拒んだ。
 それは自分と同じ思いをあたしにさせたくなかったからなのだろう。
 だからと言って――心の中ではいくつもの葛藤があったのかも知れない。
 あたしは本当の孤独というものを知らない。
 人間が生きているうちに起こる事件の何人前をも平らげてきたあたしだが、その経験は記憶にない。
 だからこそ、彼の辛さや戦いは理解することは出来ないだろう。
 だからと言って――放っておくわけにはいかない。
「リナと昨日出逢った奴らは、リナのこと覚えていないんだな?」
「まーな……
 奴らにとっちゃ、あれは今夜起こる出来事――未来みてぇなもんだからよ。知るはずがねぇ」
「よく……半年もの間耐えたわね」
「はっは。耐えちゃあいねーよ。
 イカレた頭で囚人達を何人か殺したこともある。
 その翌日にゃ、そいつが笑顔で酒を差し出してくんだぜ?
 ――まともでなんかいられねーよ」
 力無く、クラングの右拳が壁を殴りつける。
 ――おそらくその狂気でさえ、デザーバックは食ったのだろう。
 おそらくデザーバックを喜ばすことは承知の上だが――あたしは間違いなく怒りを感じていた。
「――終わらせるわよ。
 こんな茶番」
 はっきりとあたしは言った。
 頷くゼルガディス。
「……頼むぜ……
 俺も――さすがに疲れたよ」
 言葉通り疲れた声を出しながら言うクラングの背中は、酷く頼りないものだった。
 この時は気付かなかったのだが……
 一人孤独に闘っていた彼が、前に『頼む』と言ったのは、おそらく半年以上前のことだったのだろう。
「それと前もって言っておくけど。
 例え自分が死んでいるからと言って、自分を犠牲にして誰かを助けようなんて思うんじゃないわよ。
 心臓が動いているって事が、生きているって言う事じゃあないでしょう?
 それを踏まえた上で、自分はどうするべきか考えなさい。
 自分を犠牲にしたところで救えるものはたかが知れてるのだから――」
 しばしクラングは沈黙すると、苦笑を込めて言った。
「俺はそんなご立派な考え持っちゃいねぇよ。
 ただな――今の俺にでも出来ることがあるかも知れない――
 そう思わせてくれたのは――嬢ちゃん、あんただ。
 ……その事に関しては……本当は感謝すべきなんだろうな……」
 あたしはただ黙ってひたすら後をついていく。
 そして歩きながら、あたしはもう一つ、導きたくなかった答えをその時に得ていた――

「――待たせたわね。デザーバック」
 事情の知らない囚人達が輪になって、酒盛りをしている――そういう時期に、あたしはその場へと立っていた。
 ガラの悪い囚人達が、下品な笑い声を挙げながら、こちらを値踏みする様な目で見ている。
 そんな中、ただ一人は薄い笑みを浮かべてあたしを――と、言うよりはあたしの後ろにいるクラングへと視線を送る。
「――クラングよ。
 自分と同じ犠牲者を出したくないんじゃなかったのか?」
 魔族、デザーバック――
「――だからだよ……
 前に嬢ちゃんが訪れた時、同じ様なことをやったらきっと俺と同じように後悔する。
 そう思っていた。
 だがな――繰り返される日々の中で、俺は一つ――たった一つだけどよ。気付いたんだ。
 俺は過去に戻ったとしても、きっと同じ事をする。
 後悔なんかしていない」
「ほう――では何故リナ=インバースを訪れさせようとしなかった?」
 デザーバックの言葉に怯まず、クラングは真っ直ぐに見つめ返す。
「後悔したくないから――
 後悔したくねぇから、過ちがまた起こることをおそれ――俺は拒んだ。
 俺は後悔していたんじゃない。
 後悔することが――怖かったんだ――」
 自然と声が強くなる。
 以前彼はデザーバックと話をするとき、震えていた。
 力が強くなったわけでもない、魔法が使えるようになったわけでもない。
 だが――確実に彼は『強く』なっていた。
 否定する要素はないだろう。
 あたしは一歩、前に出る。
「つーことで、何百回とした就任パーティはそろそろお開きにしていただくわよ」
「――お前も変わった人間だな。リナ=インバースよ。
 前に我に殺されかけたことを、忘れたわけではあるまい。
 恐怖は感じないのか?」
「戦いに恐怖心は付き物。
 それを弱みにするか、強みにするかの違いがあるだけよ」
 あたしはこともなげに言ってみせる。
「なるほど。それでわざわざ心中させる人数を増やそうと仲間を連れてきたか」
 言って、ゼルの方へと視線を延ばす。
 こいつっ……!!
「――笑わせてくれるな。デザーバックとやら」
 思わず頭に血が上りかけたところを、ゼルが素早く断ち切った。
「オレにはリナと一緒に心中する気は毛頭無い。
 そういう特殊な趣味は、旦那ぐらいのもんだ」
「ぜぇぇぇぇぇるぅぅぅぅぅっ!!」
 ますます頭に血が昇るあたし。
 一緒くたに吹っ飛ばしてやろーか。なんぞと、かなり本気で思いつつ、睨み付ける。
「ま、冗談は別として――ここには死ぬ気で来た者はいない。
 前にこいつにそれだけは教わったんでな」 
 あ……
 それはおそらく、彼と出逢ってすぐの頃、なんの因果か神様の気まぐれか、魔王と闘うときにあたしが言った言葉のことを言っているのだろう。
 ……前に言ったこと、覚えてはいてくれたんだ。
 よーし。偉いぞゼルっ! 先生は嬉しいっ!
 ――なんぞと、馬鹿やってる場合じゃなくて。 
「ま、なにはともあれ――デザーバック。あなたを倒しに来たわ。
 話し合いは――無駄でしょうし、正直あたしもする気はないわ」
「くっくっく。ずいぶんと好戦的じゃないか」
「リナはいつでも好戦的だが」
 くぉらっ! ゼルっ!
 あんたはツッコミ入れに来たのか、手伝いに来たのかどっちなんだっ!?
「――ともあれっ! あたしもいー加減頭に来てるんで怒りのやり場になってもらうわよっ!」
「被害者もろとも、か?
 ――片付けろ」
 薄い笑みを浮かべて側で事態を見守っていた囚人達に命令を下すデザーバック。
 えーいっ! 前と同じでお山の大将攻撃かっ!? 進歩のないっ!
 下がりながら間合いを広げると、あたしは急ぎ呪文の詠唱に取りかかる。
 その直後――
 がちゃちぃあがぁぁぁぁんっ!!
『なっ……っ!!』
 囚人達はもちろん、あたしやゼル、はてやデザーバックまで、驚きの声をあげ、音を出した張本人――クラングへと注意が注がれる。
 どーやら手近にあった酒がのりまくったテーブル――と、言うよりは貧相な台を蹴り飛ばしたらしい。
 たいした攻撃力はもちろん無いが、相手をビビらせるには最適の一撃である。
「おめーらは初めて聞くつもりだろーがよ……
 俺は非常に機嫌が悪いんだ。闘る気のねぇ奴ぁ下がってろ――
 マジで殺すぜ」
「なっ、何を言いやがるっ! 新入りのくせに――」
「し・ん・い・り・だとぉぉぉぉっ!?
 ――ふっ――マジ殺ス。ぶちギレた」
 半年も繰り返しとは言え、同じ空間にいた相手に、新入り扱いされりゃ腹も立つわな……  
 完全に顔を怒りの色に染め、恐ろしい殺気を放ちまくるクラング。
 すごい……デザーバックの障気に負けてない……
 ――なんぞと感心してる場合ではないっ! 
「ちょっとっ! クラングっ!」
「――俺は雑魚担当だ。気にすんな」
「気にするに決まってんでしょーがっ!」
「うるっせぇっ!!
 俺だってデザーバックと戦いてぇよっ!
 だがなぁ――お荷物になんざなりたくねぇんだよっ!
 これぐらい好き勝手やらせろっ!」
 …………………………っ!!
 あたしは返答に詰まると、ゼルガディスがこちらを覗き込む。
「好きにやらせてやれ。
 あいつだって、分別はついているだろう」
「……わかったわよ……
 クラングっ!!」
「なんだよっ!? 説教かっ!?」
 言いながら手近にいた囚人を酒瓶が重なっているところへと投げ飛ばすクラング。
 どーやら、打撃よりは投げ技主体の格闘術らしいが……ともあれ、
「大いに暴れなさい。あたしが許すっ!」
 言って親指をクラングへと立てると、やや戸惑った表情を浮かべたクラングも、すぐに不敵な笑みへと変わる。
「――了解っ!!
 まかせとけっ!」
 そう言って元気に人混みの中へと消えていく。
 ま、クラングの腕ならほっといても大丈夫だろう。
 だが、さすがに全てこちらへやってくるのを防ぐことは出来なかったらしく、こちらへと駆け出してくる囚人数人。
 ――ちぃっ!
 あたしは腰に差した短剣(ショート・ソード)を引き抜くと、迎え撃つべく姿勢を低く――
「地撃衝雷(ダグ・ハウト)!!」
 突如生まれ出たゼルの力ある言葉に応え、地面が振動したかと思うと、こちらへやってくる数人とあたしの前で土で出来た錐が地面がから突き出る!!
 慌てて退避しようとする囚人達だが、この呪文、小さな地震も伴うもので、回避は非常に困難。
 しかも洞窟という形を取っている以上、うまく術をコントロールしたらしく、生まれ出た土の錐はあちらとこちらを分断している。
 むろん、あたしもその場から動けないのだが――かなり目の前まで錐が突き出ている光景を見せられては、さすがにビビる。
「くぉらゼルっ! 危ないでしょーがっ! あたしまで巻き込むつもりっ!?」
「――それもなかなか面白そうだ」
 をい……
 あたしもやるぞ、そっちがその気なら……
「てめっ! 俺の獲物に手ぇ出すなっ!」
『…………………………………』
 土の壁を隔てたその先から聞こえたその声に、思わずあたしとゼルは沈黙する。
 さ、殺気立ってるなー……クラング……
 無理もないと言ったら無理もないのだが……うーむ……本当に死んでるんだろーか……?
「……す、すまん」
 聞こえそうにないか細い声で何故か謝るゼルガディス。  
「……ま、まぁ何はともあれ――
 第二ラウンドと行きましょーか。デザーバック」
 あたしは気を取り直して、デザーバックと対峙した。

「――不思議な――ものだな。人間というものは。
 クラングは、かつては何故殺そうとしないのかと狂乱になって聞きに来たものだが――
 昨夜出逢ったときなど、皮肉混じりにだが、感謝しているとまで言ってきた。
 不確かで変化しやすい、矛盾の塊だ」
「変化のないところに進歩はない――ってね。おわかり?」
 ちっちっち、と指を左右に振りながら言うあたし。
「……不可解だ」
「魔族になどわかるはずがあるまい」
 生み出した土の錐から一歩前へ間合いを詰めるゼルガディス。
「理解する気もないな。我は」
「――ま、だから闘うんでしょーね。あたし達は」
 軽く溜息などつきながら、あたしは引き抜いた短剣を腰に戻す。 
「ふん……
 貴様らはまだ解っていないようだな。
 我が倒れるということがどういうことか」
「――クラング達がここに存在できなくなる、か?」
 自分の有利な位置へと移動しながら、ゼルが言う。
「……ほぉう……?
 わかっていて、闘おうと言うのか?
 くっくっく……貴様らもずいぶん残酷なものよ……」
 よくもぬけぬけと……っ!
 挑発だと――こちらの負の感情を食おうとしていて言ったことはわかっている。
 だからと言って――怒らずにはいられない。
「そうし向けている奴に言われたくないわね……
 ところで――未だに土の中で待っているって事は、人間相手に自分が有利な場所でしか戦えないじゃないの?
 ずるがしこい上に度胸もなし――か。
 救いようがないわね」
「――勘違いするな。
 貴様ら人間にはわからないかも知れないが、昨日の結界とは別物だ。
 現実の空間には何の影響も及ぼさない。
 前回のように解く気もない。一度かかった罠に二度かかられてもつまらんからな」 
「へえ?
 それじゃあいくらなんでもあんたに不利なんじゃないの?」
「……ずいぶん口が達者な人間だな。
 ――始めるぞ」
 言って、デザーバックは右手を軽く掲げる。
 先手を取る気かっ!?
 だがしかしっ! そうはいかないっ! 
「烈閃砲(エルメキア・フレイム)!!」
 あたしの後方で、唱えていたゼルが呪文を解放する!
 彼が途中から話さなくなったのも、当然奇襲の準備のため。
 それを見越したあたしが挑発するなりして注意を引き寄せた、と言うわけである。 
 生まれ出た人間の胴体ほどの光の束は、人間の精神程度ならあっさり討ち滅ぼすほどの威力がある。
 精霊魔法だが、精神作用のある呪文なので、魔族にも効果有り!
「――こざかしいっ!」
 左手で打ち払うと、光は破裂したような音を立てて消滅する。
 冗談じゃないっ!
 烈閃槍(エルメキア・ランス)の強化系バージョンを身じろぎすらせずに弾くかっ!?
 だがしかし、あたしとて驚いているだけではない!
「魔竜烈火砲(ガーヴ・フレア)!」
 一直線に伸びる火線は予想以上の火力でデザーバックへと突き進む!
 前に放った魔竜烈火砲(ガーヴ・フレア)は通常版。今回のは増幅版である。
 ――今度はそう簡単にはいかせないっ!!
 疾り来る火線に気付いたデザーバックは一瞬の迷いを見せる。
 即ち、受けとめるか、回避するか。
「ちぃ――!」
 どうやら後者を選んだようで、回避の体制に入る。
 が、迷いを見せた者が完全に回避できるほど、とろいあたしや呪文じゃないっ!
 横へ飛ぼうとしたデザーバックの太股から下へ呪文が直撃する!
 どぐらがぁぁぁぁんっ!!
 すさまじい音を立てて、生まれ出た余熱がこちらへと吹き付ける。
 視界が土埃に包まれる。
「さすがに――今のは効いたぞ……」
 くぐもった声は、土煙の奥から聞こえた。
 徐々に収まる土煙の中から、姿を現したのは、盗賊の親分姿ではなく、深緑の色をした、水分を全て失った――ゾンビのようなものだった。
 髪の毛や、耳や、口もなく、鼻と、限りなく線に近いくぼみのような瞳。
 お茶目な言い方をすれば魚の干物のようにも見える。
 ともあれ、深いしわに包まれた全身は、以前より障気を放っていた。
 おそらくこれがデザーバックの本来の姿なのだろうが――
 増幅版の魔竜烈火砲(ガーヴ・フレア)を耐えたっ!?
 ――いや、それでも――効いていることは間違いない!
 ならば連発して――
「させるかっ!」
 しまっ――
 連発されることをさすがに嫌がったのが、呪文詠唱を開始したあたしをデザーバックが腕を一振りする。
 これは以前見た不可視の炸裂系のものだと見ていいだろう。
 だからと言って簡単に回避できるものではない!
 あたしは急ぎ呪文を中断すると、横へと大きく飛ぶ。
 刹那――
「煉獄火炎陣(ヴレイヴ・ハウル)っ!」
 斜め前方で機会をうかがっていたゼルが呪文を解放する。
 術者の前方に広がる辺り一帯を溶岩の吹き溜まりと化す術で――
 ちょっと待てぃっ! こんな場所で使うなっ! ンな呪文っ!
 唯一の救いが方向性のある術なので、後方にいたあたしが被害に遭うことはないが……
 直後、術の前方で圧縮された空気が潰れたかのような音がする。
 なるほどっ! 迎撃用に使ったかっ!
 ならばおまけにこーいうのはどうだっ!?
「霊呪法(ヴ=ヴライマ)!」
 石で出来た壁、周囲に転がる無数の岩を寄せ集め、巨大な石人形(ゴーレム)を生み出す術である。
 ――本来は。
「そこにいる人間もどきを――もとい、緑色の物体を攻撃しなさいっ! 灼熱のゴーレムっ!」
 そう、あたしが生み出したのは普通の石人形ではなく、ゼルの呪文によって生み出た溶岩で作り上げた石人形達である。
 もともと物理攻撃や、精霊魔法の効かない魔族にはどちらでも一緒なのだが、やってみた理由はただ一つっ!
 見た目が派手で格好良い!!
 ――調子に乗って、下手すればゼルにも襲い出しかねない攻撃命令を出しそうになったけど。
 夕日にも似た色を放ちながら、石人形達は溶岩地帯となった場をものともせず、デザーバックへと肉薄する!
「何のつもりだ? これは」
 冷ややかにそう言うと、デザーバックは迫り来る石人形の一体を指を弾いて炸裂させる。
 うわわわわっ!!
 慌てて赤い光を放ちながら飛んでくる破片を回避するあたし。 
 う、うーむ……遊ぶんじゃなかった……
 しかし、二体目の石人形が破壊された瞬間、別の石人形(ゴーレム)に背後に隠れていたゼルの呪文が躍り出る! 
「魔皇霊斬(アストラル・ヴァイン)!」
 ぶぅぃんっ!
 低いうなり声を挙げ、ゼルが手にするブロード・ソードがほのかに紅い光に包まれる!
 そしてそのまま一気に間合いを詰めると、デザーバックへと斬りつける!
 ざがきっ!!
 耳障りな音を立てて、二つの剣が交錯する。
 ――一体いつの間に剣をっ!?
「……魔力を剣に込める術か……
 なかなか面白いが――奇襲は失敗したな」
「ぐっ……!
 ならば――これから成功させるだけだっ!」
 声と同時に、一歩踏み込み、強引に力だけで更に間合いを詰めるゼルガディス。
 相手が下がったところを、滑り込むように剣の刃を疾らせる!
 鋭い呼気を発すると、そのまま一気に横薙ぎに払う!
 ――届いていないっ!?
 ブロード・ソードが横に流れるが、デザーバックへとは届かない。
 デザーバックは紙一重で避けていた。
 そして――ないはずの口の端が歪んだかのように見えた。
 どばがうぅんっ!!
 あたしの声が空間に響き渡る前に、爆音がそれを打ち消した。
 まともに左脇腹に食らい、ゼルガディスが爆風に煽られ、横の土壁へと叩きつけられる。
 それに追いすがるデザーバック!
 ――まずいっ!  
 思った瞬間、あたしは飛び出していた。
「黒妖陣(ブラスト・アッシュ)!!」
 生まれ出た黒い何かがデザーバックを包み込む!
 その空間に捕らえられた意思あるものを塵と化す術である。
 だが――しかし!
 歩みを止めたデザーバックは、そのまま何事もなかったかのように立ち止まる。
 そして軽く力を込めると、その黒い空間は一瞬で霧散する!
「つまらんな……実に。
 ――そろそろネタ切れか?」
 言葉通り、期待はずれの表情を浮かべながら、あっさりと黒妖陣(ブラスト・アッシュ)を無効化するデザーバック。
 ……まずい……
 いくら現実空間に影響がないとは言え、現実空間を模してこの空間を作っている以上、竜破斬(ドラグ・スレイブ)辺りを使えば余波でやられるのは目に見えている。
 だからと言って、小技――どころか、魔竜烈火砲(ガーヴ・フレア)辺りを食らわせてもまだ動き回る奴である。威力の抑えた呪文では効果は薄い。
 一番確実なのが、増幅版魔竜烈火砲(ガーヴ・フレア)を連発することだが、連発させる気は毛頭無いようである。
 しかも、ゼルガディスは気絶はしていないようだが、ダメージが大きかったらしく、足下がおぼつかない。
 命に別状はなさそうだが、だからと言って回復魔法も唱えず、先程と同じ動きは無理だろう。  
「我を楽しますことが出来ぬなら――そろそろ終わりにしてやろう」
「くっ――!!」
 今あたしに出来るのはゼルガディスが回復する時間稼ぎをするために注意を引くぐらいかっ!?
 間合いを取りながら、それでも注意を話さないようにわざと音を立てて、一歩下がったその瞬間!
「振動弾(ダム・ブラス)!」
 どぐあぁらがぁぁぁぁんっ!!
 くそやかましい音を立てて、あたしとゼルガディスの中間あたりの壁――先程、ゼルが地撃衝雷(ダグ・ハウト)を唱えて通路を塞いだ所が粉砕されるっ!
 ――なっ!?
 囚人達は魔法が使えない。唯一丸暗記という特技で呪文らしきものを唱えることだけは出来るクラングが居るが、振動弾(ダム・ブラス)は呪文丸暗記じゃ使えよーもないし……
 頭を駆けめぐる混乱を氷解するかのように、黒い影が崩れた壁から姿を現す。
「アメリア=ウィル=テスラ=セイルーン参上っ!
 わたしが来た以上、魔族の好きにはさせないわっ!」
 実に形通り、名乗りを上げて、颯爽と現れたのは、ご存じ自称正義の味方、悪の宿敵、アメリア!
 と、言うことは……
「どうやらまだ活躍の場はあるみたいだな」
「ガウリイ!」
 少々きゅうくつな壁をすり抜けると、こちらへと笑顔を向ける。
 どうやら――ゼルに文句言われつつも、遅めに来たことがうまくいったらしい。
「ガウリイさんっ! 一緒に名乗りをあげようって言ったじゃないですかっ!」
「……その通りにするとは言ってないぞ」
 何やらぶちぶち文句を言い合う二人組。
 ……危機感と一緒に緊張感まで吹き飛ばすなよ……
「――おめーら、実はやる気ねぇだろ……」
「クラング!?」
「よ。一応こっちは片づいたぜ。
 ……手伝われちまったがな」
 言ってジト目でガウリイとアメリアを見るクラング。
 なるほど。あらかた片付けてから、あそこの急拵えの壁を粉砕した、という訳か。
「……いい役を持っていったじゃないか。アメリア、ガウリイ」
 回復呪文をかけていたのだろう。まだ完全には治りきっていないようだが、足取りはしっかりとしているゼルガディス。
「真打ちは最後に登場するんですっ!
 それより一体どうしたんですかっ!? リナさんっ!
 ああいうもったいぶった奴をギャグの世界に引きずり落として、三枚目として葬り去るのがリナさんの得意技じゃなかったんですかっ!?」
「勝手に奇妙な得意技押しつけるなぁぁぁぁっ!!
 ――ったく! あんたあたしを何だと思ってるのよっ!?」
「それはともかくっ!」
 一言でツッコミを片付けるな。アメリア。
「スティングさんは無事釈放してきたから心配ありませんっ!
 さぁ今こそ正義の力を!」
 あんたは、どっかの伝説に燃える村長か。
 ま、それはともかく……
「――全員集合、ね。
 少しは期待通りの展開になったかしら? デザーバック」
 心強い仲間を背中に向けて、あたしは正面からデザーバックを見据える。
 本番は――これからである。

「くっくっく――はぁっはっはぁっ!
 ――なかなか楽しませてくれる。
 わざわざ死人を増やすこともあるまいに」
「勝手なこと言われたくないわね。
 これ以上死人なんか出させないわよ」
「ほぉう……
 これはますます面白い。
 仲間の骸に囲まれた貴様がどんな負の感情を出してくれるのか――楽しみになってきたよ」
 ぞくりとするような深い笑みを見せると、デザーバックは一歩歩みを前へと進めた。
 襲い来る障気の圧力に耐えながら、あたしはちらりと肩越しに仲間へと視線を送る。
 どうやらゼルガディスも回復したらしい。
 構えるその姿には充分な闘気が込められている。
 自然な足取りであたしの側へと歩みを進めるガウリイも、刀身のない柄を抜き放ち、光をその身に宿らせる。
 アメリアは間合いを掴もうと辺りに注意を払いながら、やはりあたしの側へと歩みを寄せる。
 まずは力の結集。
 …………………………………
 ――彼らを骸になどさせない。絶対に。
 背中を照らす暖かい光に包まれたような感覚を受けながら、あたしは決意を込めて心の中で呟いた。
 もう、悪夢は終わらせよう。
「出来ないことは言わない方がいーわよ。デザーバック」
「リナの言う通りだな。
 おれ達はちょっとやそっとじゃ思い通りになんかいかないぜ」
 援護するべくあたしのわずか前方で剣を構えるガウリイ。
「どうやらまだ――我の力を甘く見ているようだな!」
 こうっ!!
 デザーバックが吠えると同時に、辺りの空間が吹き飛んだかのように圧力を発する!
 ぐっ――!!
 吹き飛ばされまいと足に力を込め、両手で顔をガードしたその瞬間、視界の端に動く影!
 しま――っ!!
 ガードが遅れるっ!
 即座に回避行動は不可能と読んでデザーバックが動いたのだろう。
 ――しかしっ!
 がきっ!!
 デザーバックの生み出した剣を、洞窟内を眩しく照らす、光の剣が受けとめていた。
「――よく動けたな」
「なぁに、褒めてもらうほどのことじゃあないさ……!」
 咬み合う剣を力で押し合いながら、絶妙のバランス感で進行を防ぐガウリイ。
 あの圧迫した圧力に耐えながら、あたしのガードへと回り込んだのだ。
 相変わらず人間業じゃない、剣の腕と反射速度である。
 しかし、あたしの背後で生まれる炸裂音!
 とっさの事態ながら、なんとか反応するゼルとアメリア。
 クラングはどちらにしろ後方に下がっているから攻撃範囲外だが――
「なっ!?
 ――いつの間にっ!?」
「――炸裂させるのに動作が必要なわけではないのでな」 
 と、言うことは、前まで見せていたのは油断を誘うフェイントかっ!?
 どーりで攻撃が嫌に単純だと思ったら……っ!
「少しは喜んで頂けたようだな。
 この種明かしは」
 あたしの感情を見透かしたのか、デザーバックが薄い笑みを見せる。
 冗談じゃない。あたしは魔族を楽しませるために闘っているわけではない!
 あたしは接近戦をガウリイに任せ、後方へと下がり、急ぎ呪文を唱え始める。
 それに気付いたデザーバックが僅かにあたしの方へと注意が逸れる。
 そのスキを逃がすガウリイではない!
 ざしゅっ!!
「――っぐあぁぁっ!
 ……貴様゛っ!!」
「自分の負の感情は食えないのか?
 そいつは難儀なこった」
 身じろぐデザーバックの右腕がぼとりっと重い音を立てて、大地へと落ちる。
 やがてそれは泡をぶくぶくと吹き出すと、溶けて消えて無くなった。
 影も形もない。
 憎悪の目で見るデザーバックを不敵な笑みで返すと、突然、ガウリイは横へと飛ぶ!
 刹那――
 デザーバックの足下から鈍い緑色の光が地を這うようにして走り出す!
 これはっ―――!?
 避けるいとまもあらばこそ。緑色の光はあたしの足を捕らえた!
「――――っ!!」
 声にならない悲鳴を上げて、あたしはその場にのけぞり倒れる。
 食らった足元を見れば、僅かにブーツが焦げているのみだが、それはあくまで目で見た場合である。
 全身にトゲを生やした電流が身体を走り抜けたかのような激痛が光に捕らわれたときに感じられた。
 しびれと痛みに耐えながら、あたしはなんとか両手をつき、立ち上がろうとしたその瞬間、デザーバックの足下に生まれる緑色の光!
 第二波かっ!?
 いくらなんでも連撃を耐えられる自信はないっ!
 思わず目を堅く閉じると、瞼の先に感じる黒い影と光。
 激痛は――来なかった。
「大丈夫か? リナ」
 かけられた声に目を開くと、そこには地面に光の剣を突き刺したガウリイの姿がそこにあった。
 なるほど。光の剣で攻撃を打ち消したか。
「――おかげさまでなんとか……」
 だが……正直ダメージは少々大きい。
 立ち上がることは出来るものの、足がふらついているのだから情けないことこの上ない。
「そろそろ絶望し始めたらどうだ?
 少しは楽になれるかもしれんぞ」
 勝手なことを……っ!
 こちらのダメージを感じ取ったデザーバックが大げさな身振り手振りで肩をすくめてみせる。
 だが、こちらの消耗も思ったより激しい。
 倒れ込んだ拍子に後ろの様子もちらっとだが見えたのだが、アメリアの防御呪文で後方にいる三人は無事のようである。
 だがしかし、アメリアは結界を維持し続けるのならば、これ以上呪文は使えない。
 ゼルガディスとて、結界に留まっていては、攻撃する手段がない。
 頼みの綱はガウリイの光の剣だが、足下から光を発する攻撃の防御に使っているんじゃ、攻撃は夢のまた夢。だからと言って、攻撃をしようと剣を引き抜けばこれ幸いにと攻めてくるだろうし……
 それでもこのまま地面に刺したままでデザーバックが何もしないでいてくれるはずはない。
 何か対策を立てないとならないのだが……
「まだ諦める気は起きないか?
 ならば続けるぞ」
 そう言って、デザーバックは剣を左手に抱えてこちらへと走り出す。
 慌ててあたしとデザーバックを結ぶ直線上に入り込むガウリイ。
 走る直前、彼はこちらを見ると――地面に突き刺さっていた光の剣を引き抜いた!
「ほぉうっ! 仲間を見捨てたかっ!」
 あざけりの混じった歓喜の声をあげるデザーバック。
 こちらへと走り寄る速度は緩めずに、足下が淡く輝き出す!
 来るっ!
 びぢっ!!
 何かが弾ける音とひび割れるような音を立て、生まれ出た緑色の光はあたしの元いた場所を通過する!
「何っ!?」
 驚愕の声をあげて、デザーバックは上空――浮遊(レビテーション)で浮き上がったあたしとガウリイを見上げる。
 あの技をやるのにそれなりの集中力がいるのか、あたし達が上空に逃れていたことを気付くのが遅いっ!
 術を解除し、デザーバックの居る下へとガウリイを落とそうとした直前、違和感が生まれる。
 これは――!
 どぉむっ!
 どうやら先程いた位置で足下を攻撃して動きを奪った後に、これでとどめを刺そうと思ったらしいが、バランスを崩すために使用したかっ!?
 たまらず術の制御への意識が一瞬薄まると、あたしとガウリイは地面へと叩きつけられた!
 そして再び生まれ出る緑の触手光!
 まずいっ! この体勢じゃあたしはもちろんガウリイも――
 次の一瞬、あたしとガウリイの身体は高々と宙に浮きあげられていた。
 ――クラングっ!?
 そう。そこにはいつの間に接近していたのか、あたし達が叩きつけられていた地面には、こちらを見てわずかに微笑んだ、クラングが立っていた。
 おそらく彼の得意な投げ技で空中に投げ飛ばしたのだろうが――
 だが、それでは――
 ばしゅぅぢぢぢっ!!
 耳障りな不快音がクラングのその身体全体から発せられる。
 そして、クラングは力無く倒れ込んだ。
「振り返るんじゃねぇよ……進め! 
 ――前へ――!」
 痛みで顔を歪めながら、言うクラング。
 彼の名前を叫ぶことは出来ない。
 それはあたし達を助けた彼に対する冒涜となる。
 受け身をとって、その場を立ち上がると、ガウリイの後を続くようにデザーバックへと走り込みながら、あたしは呪文詠唱を開始する。
「まず一人!」
 狂気の笑い声を挙げるデザーバック。その余裕の表情が僅かに歪む。
「崩霊裂(ラ・ティルト)!」
 朗々と響き渡るゼルガディスの力ある言葉に応え、デザーバックの足下から青白い光の柱に包まれる!
「ぐっ!――がぁぁぁぁぁぁっ!!
 まだだっ!」
 ゆらり、と横へよろけるようにして勢力範囲から脱するデザーバック。
 そして体勢不十分のまま、ガウリイが突っ込んだ!
 流れ行く身体すら利用して、デザーバックは光の剣を受け流す!
 すぐさま手元に引き返すようにガウリイが一閃すると、力負けしたのかデザーバックはバランスを崩す。
 そして大きく振りかぶると、左から右へと横薙ぎに一閃!
 しかし! 動作が大きすぎたのか、デザーバックはそれを紙一重で避ける。
 流れ行く光の筋。
 そしてデザーバックがわずかな隙を捕らえようと剣を引いたその瞬間!
「崩霊裂(ラ・ティルト)!」
 今度はアメリアの呪文がデザーバックの真横に放たれる!
 そしてその青白い光は過ぎ行く光の剣へと直撃し――光が収束する。
 ガウリイの腕に。
 剣を構えるより早く攻撃できると判断したのかデザーバックが剣を握る手に力を込めたその瞬間。
 ガウリイは遠心力で加速した剣の力を利用して、更に身体をねじり込み半歩前――ほぼゼロ距離という剣の死角に入り込むと、ねじ切った身体のバネを開放し、崩霊裂剣と化した剣をデザーバックの身体を貫いた!
「ぐがぁぁぁぁぁぁぁっ!!」
 障気と共に苦痛の悲鳴を上げるデザーバック!
 そしてその背後からあたしの呪文が完成する!
「神滅斬(ラグナ・ブレード)っ!!」
 あたしの腕に生まれ出た虚無の刃は、次の瞬間、デザーバックを両断していた。

 断末魔の声をあげることすら適わぬまま、デザーバックは二つになって倒れ込もうとした瞬間、返す刀でガウリイは再び斬りつける。
 そしてその場をガウリイが飛び去ると、とどめとばかりにゼルが魔竜烈火砲(ガーヴ・フレア)を叩き込む。
 それを受けるとデザーバックは一瞬だけびくんっと体を動かすと、動かなくなった。
 深緑のしわがれたその身体が泡に包まれ、溶けていく。
 どーやら……終わったようである……
 あたしは虚無の端末を再び虚無へと返すと、今度こそ地面へとしゃがみ込んでいた。

 ――結局。
 全ては消えていた。
 デザーバックが倒れた後、周りが一瞬にして暗くなると、直後にあたし達は四人そろって、洞窟の入り口があった場所へと放り出されていた。
 そう――洞窟はすでに失われ、そこには脆い土の山があるだけだった。
 クラングも――いない。
 おそらく、帰ったのだろう。
 本来あるべき所に。
 彼はあたしの言ったことなど、ちっとも聞いてなかったのだろう。
 自分を犠牲にして助けるなと言っておいたのに――
 …………………………………
 ……別れぐらいは言いたかったかな……
 崩れた土の上に生えたばかりの草を見ながら、あたしはふと、そう思ったのだった。

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12508封鎖された伝言 5白いウサギ E-mail 12/1-02:48
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五、 エピローグ

 明かりはない。
 荒涼たる闇の風景に溶け込むかのように、一人の男性が寝ていた。
 窓から射し込む光は酷く頼りなく、風はただ不穏な雰囲気を醸し出す。
 ここは、収容所の所長の部屋である。
 暗がりの中、ベッドの側に置かれたランプが月を映し出す。
 奇妙な気分だった。
 その時鏡を覗くことが出来るのなら――あたしは一体どういう表情をしているのだろう。
 そして予想通り、部屋の入り口のドアが僅かに開く。
 音と気配を殺してベッドへと歩み寄る影が一つ。
 ベッドまであと僅かというところで、影は懐からナイフを引き抜いた。
 ――もう、いいだろう――
「明かり(ライティング)」
 あたしが放った魔法の光は真昼ほどの光を放ち、天井間近まで浮かび上がり、制止する。
 侵入してきた影は動揺することなく立ち止まる。
「――もう――やめませんか――?」
 入り口のドアの横に気配を殺して隠していたあたしが、声を掛ける。
 侵入者はゆっくりと振り向くと――濁った瞳をこちらに向けて、力無く微笑んだ。
「報告をどうぞ――」
 そう。ナイフを引き抜いた、侵入者は、今回の事件の依頼主、スティングさんである。
「……事件が起こったのは半年前。
 おそらく、そして、きっかけが生まれたのもその頃――
 洞窟の作業場の横暴を止めようと、一人の青年が名乗りを上げた。
 青年の名は――クラング。クラング=オーカス」
 ベッドに所長の替わりに潜り込んでいたガウリイが身を起こす。
 もう身代わりで騙す必要はないだろう。
 あたしは構わず話を続ける。
「運悪く、魔族がそこへ現れ――洞窟内の人間は全滅した。
 そして、収容所はその記録を一切封印する。
 自分たちが――一人の協力者を見殺しにしたことを隠すために――」
 封印された記録は、あたし達があてがわれた空き部屋の隠し部屋に置かれていた。
 ガウリイ達が役場に行く日の前夜、あたしは資料を探して施設を歩き回ったのである。
 何故そこにそんな資料があるのかと当たりを付けた理由は極単純、役人というものは、例えそれがどれだけ耐え難い記録だろうと、残さねばならないことになっている。だからこそ、消却することも出来ず、立入禁止とする洞窟のすぐ側に、保管したのだろう。
「看守達は、囚人達と、協力者、クラング=オーカスを見捨て、その事について触れないようにとの命令を出す。
 しかし、どうしても不審な点は隠しきれない。
 それに気付いた協力者の父親は収容所へと職員として入り込む。
 そして――事実を知る。
 殺人事件は……おそらくそれからですよね……?
 ――スティング=オーカスさん」
 暗闇のせいだけではないのだろうが、鈍い光を放つ瞳が静かに閉じた。
 そしてナイフを投げ捨てる。
「見事――ですね……
 逮捕・立件には充分でしょう。
 それだけ調べられたのなら」
「やっぱり――自分自身を捕まえて欲しくておれ達を雇ったのか?」
 ベッドから立ち上がると、側に控えながら、ガウリイが問いかける。
「どうでしょうね……
 ――半年前から……わからないことだらけで……
 調べを進めるうちに、どうしても洞窟に行くべきだと思いました――
 そして……後悔しましたよ――
 行くべきじゃなかった、と……
 ――もういつのことからかわかりませんが――
 私は判断力を手放した人間のようです。
 悲しみも――怒りも――
 私は……感情を浮かべることさえおそれている――」
 洞窟内で見たのだろう。おそらく、あたしよりも陰惨な風景と――息子の姿を。
 クラングは言っていた。
 気が狂ってどうにかなっていた時期があった、と。
 あたしが訪れたのは事件から半年後。
 想像もできない何かがあって、あたしが訪れたのはたまたま落ち着いた時期だったのかも知れない。
「恐れを感じるのは――
 間違いを犯すことが怖いからよ。
 何も自分から、苦しむ道に進まなくてもいいんじゃないですか?
 もう――『敵討ち』等という立て前で殺人を――罪を犯すことはないはずです」
 殺人事件の被害者――
 それは半年前、洞窟の作業場でのことに関わった人間ばかりであった。
 始めの頃囚人達の犠牲者が居ると聞いたが――よくよく調べて見れば、それは看守達が潜入捜査をしている最中での殺戮だった。
 洞窟内での事件後、収容所や役場はある程度の期間、捜査や監視を続行していたらしく、そのような被害者が出たのである。
 看守として殺人事件の被害者にカウントされなかったのは、おそらく詳しく調べられたら洞窟内部での事件が明るみに出るのを恐れたためだろう。
 実際、あたしがその答えに辿り着いていた。
「立て前――ですか……
 そうなんですかね――
 私が望んでのことか――息子のためか……
 ……わからなくなって……
 あの日から……全てが狂いだして――
 何も考えられず……考えたくなくて――眠れなくなって……
 何も救えなかった――出来なかったことを……
 ……思い出して……認めたくなくて――
 ……………………………………………………………
 ……だめですね……半年も考えてきたのに……
 正解が出せないんですよ――
 どんな学問よりも大切な……その正解を――」
「正解なんてないような問題が殆どだろう。
 それでも――なんとか答えを出そうとして――人は生きてるんじゃないのか?
 何も、今正解を出すことはない――」
 ガウリイの言葉に黙り込むスティングさん。
 そうなのかも……しれない。
 人は――必ず何かの問題にぶち当たって――正解のでない問題を考え続ける。
 だが――しかし。
 正解がないからこそ、人は考え、生きていける。
 疑問を胸に、常に正解を――理由を求めて――
 人間とは――困るほど複雑で――困るほど終わりのない生き物なのだろう。
 そんな考え方も――あっていいと思う。
 あたしは黙り込んだまま、マントの奥にしまい込んだ手紙をスティングさんへと手渡す。
「これは――?」
「手紙です。――息子さんから」
「…………………………」
 一瞬戸惑いの表情を浮かべると、その手紙を破り捨てた。
 そしてわざわざ呪文を唱えて、破り捨てた手紙を灰へと化す。
「あんた――!」
 声をあげかけたガウリイの肩を掴んで、あたしは首を振った。
「私には――息子の手紙を読む資格はありません……」
「『資格なんざどーでもいいんだよ。いーから読め、クソオヤジ』」
「り、リナ……?」
 スティングさん以上に驚きの表情をして、言うガウリイ。
「――伝言です。
 性格、見抜かれてるみたいですね。
 ここにもう一通あります。
 ――読みますか?」
 言って、マントから二通目の手紙を取り出すあたし。
 どうやらクラングは父親のことをよくわかっているらしい。
 予想通り黙り込んで身動きを取らないスティングさん。
 あたしは溜息をつきつつ、マントから同じ形の手紙を取り出した。
「ちなみに――まだ沢山あるんで、どーせいつかは読まなくちゃならないかと思いますけど」
 言って五、六通程度の手紙を再びマントへと押し込み、一つだけ取り残してスティングさんへと延ばす。
 しばしの躊躇を見せた後――スティングさんは手紙を受け取り、読み始めた。

 中身を見るような野暮なことはしていないが――
 この手紙を受け取ったとき、クラングはこう言っていた。
『けっ。別にふつーのことが書いてあるだけだよ』
 あたしは知っている。
 その普通のことがどれだけスティングさんを救ったかという事を。
 スティングさんが自首をしたのは、洞窟跡地に花を供えに行った翌日のことだった――

「いやぁ、皆さん。なかなか苦労していらっしゃったんですねぇ」
『…………………………………………』
 毎度の如く、ひょっこり姿を現して開口一番にそう言ったゼロスを、あたし達四人の険悪な視線が突き刺した。
 再びディルス王国への旅路の途中、森に入っていくらもしないうちに現れたゼロスはやや身じろぎしつつ、
「ず、ずいぶん皆さん怖い顔してらっしゃって……
 そんな顔してると幸せの方から逃げていきますよ」
 魔族が言うな。ンなセリフ。
 ――等と、ツッコミを入れてやりたい所なのだが、一応仲間達には隠している以上、言うわけにもいかず、あたしは言葉を飲み込んだ。
「あんたねぇ……っ!
 別にあたし達のピンチに現れて敵をなぎ倒せ――なんて言わないけど、全てが終わった後に出て来るんじゃないわよっ!
 単なる邪魔にしかならないわっ!」
「はっはっは。照れ屋さんだなぁ、リナさんは」
 …………………………………………
 ――黄昏よりも暗きもの 血の流れより紅きもの――
「うわぁぁぁぁっ! 待てっ! リナっ!
 竜破斬(ドラグ・スレイブ)はやめろっ!」
「そーですっ! 吹っ飛ばすのならゼロスさんだけにしてくださいっ!」
「その通りだ。そうすれば俺達は一向に止めん。と、言うより奨励する」
「いや……出来れば奨励などせず止めて欲しいかなー、なんて思ったりするんですけど……」
「なに都合の良いこと言ってんのよっ!!
 ――そうだっ! こーやってせっかく全てが終わった後に出てきたんだし、あんた、みんなの怒りのやり場になりなさい」
「おおっ! ナイスアイデアだなっ! リナっ!」
 あたしのぐっどアイデアに賛同するガウリイ。
「そんな理不尽なっ!」
 なぜだか不満の声をあげるゼロスに、アメリアがぽんっと肩を叩くと――天を仰いだ。
「みんなの不満を自己を犠牲にして一身に受けとめるなんて――なんて素晴らしいんでしょうっ!
 これぞ青春っ! これぞ正義っ!」
「いやなんか勝手に決定されても困るんですが……っ!」
「諦めろ。ああなったら誰も止められん」
「………………………………」
 ゼルガディスの言葉に納得したわけじゃないんだろうが、言っても無駄と判断したのか、ゼロスは黙り込む。
「……ま、別にいいですけどね……
 ……追試もこれで終わったことですし」
 ――『追試』?
 誰にも聞こえないつもりで呟いたんだろうが、あたしの耳をなめてもらっては困る。
 きっちりと耳の端に捕らえると、追試という単語に思い当たることが一つ。
 かつて、魔族であるゼロスが護る価値のある人間かどうか、あたしを試したような時があった。
 その時の返答が、

 『正直言って、やや不満ですけどね――まあ、まだ見切れていない、あなたの存在能力と、お仲間の力に免じてぎりぎり合格点、といったところですかね――』

 である。
 まさかとは思うが――
「ちょっとゼロス……追試ってまさか……」
「おや、聞こえましたか。
 いやあ、出来の悪い弟子を持つと師匠は苦労するって本当だったんですねぇ」
「誰が出来の悪い弟子よっ!!
 ――魔族が関わっているというのに今回全く出てこないと思ったらっ!」
「――おや?」
 胸ぐら掴むゼロスがにこにこ笑顔のまま怪訝の声をあげると、ゼロスの背後に一匹の魔王竜(デイモス・ドラゴン)が出現した!
 ぎおおおおおおおおおんっ!!
 低いうなり声を天高く吠え挙げると、ぎろりっとこちらを睨み付ける。
 どひぃぃぃぃぃっ! 目があったぁぁぁぁっ!!
 思った瞬間――あたしはゼロスの胸ぐらを放すとその場をダッシュで逃げ出した。
「珍しいですねぇ。
 カタート山脈でしか生息しない魔王竜(デイモス・ドラゴン)さんとこんなところでお会いできるとは」
 変わらずにこにこ見上げるゼロスを奇妙にでも思ったか、魔竜王(デイモス・ドラゴン)は逃げ出したあたしを追うようにこちらへと走り出す!
「ガウリイ! 注意を逸らしてっ!」
「逸らせってお前こんなでかいの――」
「爆裂陣(メガ・ブランド)!!」
 どばごひゅうぅうんっ!!
 あたしの放った土砂を吹き上げる術はガウリイを直撃し、空高く吹き飛ばす。
「こらぁぁぁぁぁっ! リナっ!
 覚えてろよぉぉぉぉぉっ!!」
 ふっ。貴い犠牲が何か叫んでるし。
 おもちゃでも与えられた子犬のように――って、そんな可愛いものでもないが、魔竜王(デイモス・ドラゴン)はてけてけと――もとい、どがっごん、どがっごん足音をならしながら、明後日の方向へと走り出す。
 たっぷり間合いを広げると、あたしは呪文を詠唱する。
 呼応して木々がざわめきだした頃――あたしの呪文は完成した!
「竜破斬(ドラグ・スレイブ)!」
 ちゅどずごがぁぁぁぁぁぁんっ!!
 紅い閃光、破壊をまき散らし、はた迷惑な呪文が辺り一帯の森とガウリイを巻き添えに、魔竜王(デイモス・ドラゴン)を吹き飛ばす!
 あー……すっきりした……
「相変わらず非道な……」
「ああ……ガウリイさん……
 あなたのことは決して忘れません……」
 何やら叫くゼルやアメリアを無視して、あたしは吹き飛ばした魔竜王(デイモス・ドラゴン)のいた方へと視線を送る。
 本来、魔竜王(デイモス・ドラゴン)とは、カタート山脈にのみ生息する竜族最強の竜である。
 例外として見かけるのは、術者が召還した場合のみ。
 しかし、先程の魔竜王(デイモス・ドラゴン)はとくに目的あって行動していたようには見えなかった。
 つまり、制御されずに、もしくは制御できずにほったらかし、という本来ならあり得ないこととしか思えない。
 と、いうことは――そういうことなのだろう。
 あたしは苦笑を浮かべると、はためくマントを押さえつけた。
「さてと、ガウリイ回収してとっととディルス王国へ急ぐわよっ!
 今回無駄足食ったんだから、さくさく行くわよっ!」
「だったらガウリイさんを――いえ。なんでもないです……」
 あたしを顔を見ながら何かに怯えた表情を浮かべると、アメリアは黙り込んだ。
 ではいざっ! ディルス王国へ――

 あたし達は、再び前へと進み出した。

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12509封鎖された伝言 6白いウサギ E-mail 12/1-02:51
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六、 あとがき


色々考えた結果――
なまがきとゆーもんは、
入れるタイミングや雰囲気の余韻を壊さないことが非常に難しいと判断したため、
急遽、なまがきプラスあとがきで最後に載せることにしました。
途中のなまがきや――それどころかあとがきすら文中に織り込む気でいたもので、
少々話題にズレがありますが(後悔するほど笑えることに)――
せっかく書いたので公表しないと白ウサの妹Kが怖い……もとい、もったいないかな等という個人的主張で、つけさせていただきます。
不評、苦情は次回作に反映いたしますのでどうぞ一つよろしく。


開き直ってなまがき

白:しまったぁぁぁぁぁっ! 久方ぶりの長編書いているはずなのに雰囲気がどんどんすぺしゃるにっ!
K:あ。なんか叫んでる。
白:つーか、導入部、完璧すぺしゃるっ!?
  いかぁぁぁんっ!ナーガまで登場しちまったっ!
K:あ。なんかとち狂ってる。
白:駄目だっ! 今回シリアスなシーンを入れる目標なのにっ!
K:あ。なんか無理なこと言ってる。
白:無理とはなんだっ!?無理とはっ!
K:やっと気付いたわね……
  だいたい、書き始めてる段階で目標って言うのはまずいでしょーが。
  ところで今回この表題がなまがきになってるけど……開き直ったわね……
白:おうっ! いつぞやに冗談で言った後で書かずに小説と同時進行――つまりなまがきだが、もうかまわんっ!
  今回は久方ぶりにプロット無しの思いつきで書き進めようという企画なのでこーいった形式でも多いに結構っ!
K:結構なのか……
  それはいーけど、さっきのナーガまで登場しちまったって……?
白:うみゅっ! 今回導入部で長編六巻直後という雰囲気を醸し出し、
  『そうかー、これから仲良し三人組プラス一匹が出てくるのかー』
  と、頭を下準備を終わらせたところで、む!? この直後にナーガが出てくりゃ驚くかなーとか思って。それだけで出した。許せ。
K:た、確かに驚くでしょーね……実際あたしは牢屋に入って暗がりにぼんやりと浮かんだ何かに戦慄しているリナの辺りを読んで、いきなり敵かと思ったわよ。
白:一部では事実、敵という説も……
K:一部かどーかはともかく、これから敵となるか味方となるかはあなたの思い通りでしょーが。
白:うん。どーしよー。
K:こらこらこらっ!
白:いや、今第一回の報告終えたところだけど、ボス考えてないし。
K:書き上がるのか……?これ……
白:さあ……? 神のみぞ知る、だな。
K:あんたぐらいは知っとけぇぇぇぇっ!
白:ンな無茶な(苦笑)
K:をい……
白:いや真面目な話。
K:真面目に先行き不明とか言うんじゃないっ!
  パソコンのキーボードにかじりついてでも書き上げてもらうわよっ!
  そーじゃないとあたしの出番がないっ!
白:知らんわっ! そんなもんっ!
K:ぬわにぃぃぃぃっ!?
白:あ、ちょいまち私は今病み上がり……!!(昨晩まで38度強の高熱)
 ざくざすずががっ!!

 第一回のなまがき終了

白:さぁやってまいりました第二回のなまがきがっ!
  なまがきっ! なまがきっ! ああ、なまがきっ!
K:連呼するな……なまがきは嫌ぁぁ……
白:な、何か嫌な過去でも……?
K:昔訪れた潮干狩りの場所でアサリが全く見つからないんで岩つついて遊んでたらカキ見つけた。そして食った。
白:生でかっ!?
K:いや、さすがにそんな度胸は……
白:なら関係ないじゃないか……べつに……
K:でもなんとなくあのぬるりぃっとした感触のくせにぷりぷりとした触感が。
白:嫌いだったっけか……? カキ……
K:いや、別に。
白:い、今までの前フリは一体……?
K:ま、それはともかくさくさくお話すすめましょーっ!
  どーせ、本編書くのに詰まったからこっちに移ったんでしょーけど。
白:う、うくっ!? なにゆえそれがっ!?
K:いや、いつものパターンだし……
白:しくしくしく……
K:では一応お約束って事で現在の執筆状況を。
白:そーですねー……今洞窟から帰ってきて、すでにラストの謎解きっぽいリナの『あんた嘘つきね』ってあたり。
K:いや、その文字通りには言ってなかったよーな気が……
白:気にしないで下さい。それにしてももうラストっぽいけどどうする気だ? ちっとも長編じゃあ無いぞ。
K:……いや……それよりガウリイ達……出番無し……?
白:――おお。そんな設定もあったよーな気が。
K:……ごめん。ガウリイ達……こんな書き手で……
白:いや、さすがにあんたに謝られるとこっちの立場がないんだが……
K:あったの? 立場。
白:………………………………………………にゃぁ。
K:いや、猫の鳴き声で誤魔化しても……
白:今なんかずばっと冷たく突っ込まれるルークの気持ちがよくわかったよーな気がする……
K:ま、まぁそれはおいといて、行き当たりばったりでとうとう壁にぶつかった?
白:いいやっ! 目の前が暗くておそるおそるしか進めないだけっ!
K:……それは貴様の文章力の無さを露呈する発言だと思っていいんだな?
白:………………………………………………くーん、くーん。
K:今度は犬かい。しかもすごい弱気だし。
白:ところで今決意したけど……コレ最後に載せずにテキトーな区切りごとに載せようかなぁ。
K:う、うーむ……本気で行き当たりばったりねー……
白:ま、たまにはいーじゃないか。はっはっは。
K:たまにかどーかはおいとくとして……招集はつきそうなの?
白:ふっふっふ。
  ついにほぐれていく謎の牢屋の一角っ!
K:……ついに……?
  ……謎……あった……?
白:向かい来るのは栄光の未来かはたまた暗黒なる絶望かっ!
K:少なくとも栄光はないと思うわね……
白:そしてナーガの活躍の場はあるのかっ! ガウリイ達の出番はあるのかっ!?
K:……あ、すでに諦めかけてない……?
白:そして現在推定数百人のゼロスファンの待望のシーンはあるのかっ!?
K:……ずいぶん中途半端な推定ね……少なく見積もってふざけるならもっと下だし、大げさならもちろんもっと上だし……
白:長編という目標通りの内容の文量が書けるのかっ!
K:をい……?
白:その答えは――すいません。誰か教えて下さい。
K:貴様が言うなぁぁぁぁぁぁっ!!!!
 どござすぎがしぃぃぃっ!!

 ――以上、台所にて中継しました。

白:どーも皆さんここまでついてきてくれてありがたうっ! なまがきも三回目に突入ですっ!
K:なんか……気が付いたらシリアス入ってない……? 本編……
白:うーみゅ。謎よのう……
K:だから貴様が言うなっちっとろーがっ!
 ざしゅぅっ!!
K:あ。いけない、いけない。我が家の家宝に汚れた血がついちゃったわ。
白:……せ、せめて……血が付いて汚れたと……
 ざすっ!!
K:いけない、いけない。とどめ刺すの忘れてたわ。
  ま、このへんでよかろ。
  いやぁ、なまがき第一回、第二回と締めのあたりで制裁加えてたので今回は始まりの方でやってみましたっ!
 さてここで問題です。
 次回白ウサが殺されるのは前のほーでしょーか、後のほーでしょーか。
 どきどきワクワクしつつ読み進めてね(はあと)
 ……本編以上に楽しみにされてたらそれはそれで問題ですが……
  さてさて気付いて見れば本編の方はどシリアス。
 一体いつの間にっ!?
 ――えーと……前回のなまがき直後ですねぇ……
 ………………………しまったっ!?
 あまりにも早くぶち倒したせーで質問に対する回答者がいないっ!?(人はこれを自業自得と言います)
 とりあえず今回の終わり方なんてもろに最終決戦一歩手前。
 RPGならセーブしに町へ戻るべきか思案のしどころ。
 白ウサのほーでは段々と話の形がイメージできつつあるらしーですが……その話の出来方がなぁ……
 ま、そこら辺は話しても問題なくなった辺りで話されることでしょうっ!
 それまできちんと生きていればだけどっ!
 ……本気で突っ込むべき話題に回答者が居ないってのは不便よね……
 次回は今回の反省を生かしてラストに……いやいや、かえって読者の裏をついて死んだ状態のままとか……ぶつぶつぶつ……

 会話続行不可のため、裏方さんによる幕――

締め切り間近のせいか不定期になってきたなまがき

白:人生とは戦いである。
  故に――我が今こうして竹刀を構えていて何を不思議がることがあろう――
K:いや……世間様一般では充分不思議よ……それは……
白:やかましいっ! 三回も殺されれば防御手段を考慮するってのが人間だろうがっ!
K:三回も殺されることはないんだけど……人間って……
白:まぁそれはともかくっ! このまま構えながら続けるから質問したければするがよいっ!
K:いや……あの……口調まで変わってないですか……?
白:そりゃぁ人間竹刀を持ったら目つきも変わる、気迫も変わる、口調も変わる。
K:そ、そーかなー?
白:そーだ。気にするべきではない。
K:いや……あんた誰……? マジで……
白:お前の姉だ。見ればわかろう。
K:い、いや……見た目はそーなんだけど……
  すいません。やりにくいんで竹刀降ろしてください。
白:お前が攻撃する意思がないのならかまわんが。
K:いやいや。只今全くございませんから。
白:ふむ……
  ほーい。降ろしたぞー。
K:……別人……
白:何を言うっ!? ちょっと前に昇段試験合格してめでたく三段っ!
  三段持っている奴が竹刀持ってへらへらしてろとっ!?
K:……普段はへらへらしていること認めるのね……
白:いや、まぁ、それはともかく……
K:弱気になってるな……
  さてさて今回、ずいぶんと佳境に入っておりますが?
白:うーみゅ……確かに描写の仕方では完璧佳境……
K:違うのっ!?
白:どーでしょうねぇ……ずずず(お茶)
K:それは質問をはぐらかしてのセリフか、考えていないので自分自身に問いかけているセリフか答えてみなさい。
白:…………………(頬を流れる汗一筋)
K:さて、と。確かこの辺りに一年分溜め込んでた週刊誌があったわよね……
白:うわああっ! ちょっと待てっ!
  雑誌に埋もれて死ぬのは嫌だっ! いくらなんでもっ!
K:じゃぁ、考えてはあるのね?
白:ま、まぁ一応は……大雑把だけど……
K:今回プロットどころかメモすら取ってないものねぇ。
白:そーなんすよ。
  下手すればネタ忘れて別のストーリーになってる可能性も大いにあり。
K:せめて『大いに』はやめなさい……『大いに』は……
白:ま、まぁ……間違いに気付いて慌てて修正している人間ですから……僕……
K:間違い? 何かあったの?
白:おうっ! 
  混沌の言葉(カオス・ワーズ)詠唱時、「虚無の刃よ」をおもいっきし「虚ろの刃よ」にしたっ!!
K:……気付く人間極少数だと思うけど……その間違いは……
白:それだけじゃないぞっ! 
  同じく混沌の言葉(カオス・ワーズ)に「悪夢の王の一片よ」をいれちまったっ!
  異界黙示録(クレア・バイブル)まだ触れてないはずなのに、だ。
K:なるほど……そりゃ確かにまずいわね……
白:おうっ! すんげぇ矛盾が生じる。
  これだから流れに沿ってない話書くのは難しいんだっ!
K:じゃ、15巻直後のを書いたら?
白:……アレはアレで……リナとガウリイがどー会話応酬してんのか難しいだろーが。
  故郷着く前にしても。
K:そんなこと言ってあっさり続編書きそーよね。あんた。
白:うくっ!? ああっ! 否定できん自分が憎いっ!
K:ロス・ユニの方も続編書いた――つーか、書いてるし。続編第二話はいつ上がるの?
白:知らぁぁぁぁぁぁんっ!!
  受験生に無茶言うなっ! 親に殺されるわいっ!
K:今でも充分まずい状態になってると思うけど……
白:黙秘します。
K:おーい……犯罪者ー……
白:黙秘=犯罪者と結びつけるんじゃないっ!
  おいらは犯罪者と立件されるような悪事の証拠を残した覚えはっ!
K:……いや、それはそれでまずいんだけど…… 
白:まぁ、今はそんなこと考えてる余裕ないんで。
  ――ではみなさまっ!
  つらいでしょーが、根性入れて、サイブレード振り回しつつ続きをどうぞっ!
K:あっ! 締めの言葉取られたっ!

――なし崩しのまま幕――

なまがき

白:おっしゃぁぁぁぁっ!! びくとりーっ!
K:……をい。待て。白ウサ。
白:……何? 待ったはなしだぞ。私の勝利は揺るがん。
K:そーじゃなくてっ! あんたいきなり何唱えたっ!? 呪文っ!
白:……重破斬(ギガ・スレイブ)だが……
K:あんたねぇぇぇっ! スレイヤーズふぁいとで初めて唱えた呪文が重破斬(ギガ・スレイブ)っ!?
  最初は炎の矢(フレア・アロー)とかせせこましい呪文で様子見ってのが礼儀でしょーがっ!
白:……私は派手なのが好きだ。
K:ふざけるなぁぁぁっ! 魔族五匹はべらして得点7! 
  勝ったと思ったのに……勝ったと思ったのに……っ!
白:その状況でせせこましい呪文唱えても意味ないだろーが。無茶言うな。
K:一体何故あたしが負けなきゃならないのよぉぉぉっ!
白:……つーかなー……依頼人カードでナーガは止めろ。まず。
K:なんでよっ!?
白:依頼人の目的、高笑いを続ける……成功したこと無いだろ? うちの両親ズ騒音にうるさいし。
K:あ・ん・た・がっ!! 時間稼ぎしているからでしょーがっ!
白:当然の戦略だろーが……
K:うぉのれぃっ! 卑怯者っ!
白:ンな自分が負けた相手ことごとく卑怯者呼ばわりする奴に言われても……

 ぼごぼぐぅっ!!

K:……ふっ……あたしに喧嘩売るとは愚かな……
  ――ところで、今回小説に全く触れてないわね。
  ま、こういうのもアリよね。
  では皆様引き続きお楽しみくださいませっ!

――はてなマークを飛ばしつつ幕――

 


なまがき
白:どわひぃぃぃぃぃぃぃっ! パソコンがっ! パソコンがっ!
  重破斬(ギガ・スレ)唱えやがったぁぁぁぁぁぁぁっ!!
K:は……? ど、どーいう意味?
白:全て消えた。消滅した。無になった。
K:……………………………
白:嘘だ、これは夢だぁ。
  何かの間違いだぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!
K:つまり……文章が全て消えた、と?
白:……うむ……
K:……どれくらい?
白:……富士見書房の行数、文字数に換算して……ざっと70P……
K:なっ!? ななじうっ!?
  ……そ、それは……さすがに泣くかも……
白:しくしくしく……
K:でもなんでそーなったの?
白:私が小説書くときはワーゾパッドを使用してるんだが……
  これってある一定のデータ量超えるとそのファイルごと消えるんだよね……
  少なくとも私のパソコンは数年前からそーだ。
K:つまり……
  『やいやいやいっ!
   おれっち一人にこれ以上文章覚えとけって言うのかいっ!?
   べらんめぇっ! 出来るわけねぇだろがっ!
   へんっ! 全て忘れ去ってやるからてめぇが苦労しろっ!』
  と、グレられた?
白:う、うむ。なんで中途半端な江戸っ子なのかわからんが。
  前もってキレて文句言ってくれたらどれだけ救われるか……
  無言だった人間がいきなり私を刺したよーなもんだ。
K:そ、そーかなー?
  ま、ともあれふぁいとだ。白ウサ。
白:……あんたは何もしないからいーよな……

 どぼごぐっ!!

K:だ・か・ら(はあと)
  こーやってでてやってんじゃない♪
  くくうっ! なんて姉思いなのかしらっ! 
  あたしって寛大(はあと)
白:……いっそ……死んだ方が本気で……楽かもしれん……

 べちっ!!

K:それでは皆さんまたあとでっ!
  失礼しましたっ!


 ――やっぱり幕――


あとがき

白:激しくお疲れさまでしたっ!
K:さぁっ! 終わった、終わった! 打ち上げよーっ!
白:待て。酒持ち出すな。女子高生。
K:なによっ! めでたいってんで祝ってあげよーかと思ったのにっ!
白:人が書いているその側で、すでにお菓子の袋あけてただろーがっ!
  ――って、ああっ! てめぇ全部食い尽くしたなっ!
K:ま。お姉さまってば言葉が乱暴(はあと)
白:乱暴にもなるわい……あんたの姉やってると……
K:さてさて、締め切りは守れましたか?
白:うくっ! さ、三十分前に上がりました……
K:今月中(11月中)上がるかもって言った以上、まもんないとねー。
白:終了時、十一月三十日、午後十一時三十分……危なかった……ひっじょーに危なかった……
K:でも、HPにこれから載せるんじゃあ過ぎてるのでは?
白:いーんだ。書き上がるのが今月中って言ったから。
K:……相変わらずいー加減な……
  では定例コーナーっ! 恥の掘り返しっ!
白:ちょっと待てぇぇぇぇいっ!!(涙)
K:も、いーんだけど、とりあえず今回はせっかくプロット無しで書き上げたのだから、時間の恐ろしさを語ってもらいましょー。
白:あ、あのなぁ……
K:ではまずっ! 一番の疑問っ! スティングとクラングの親子関係はいつから考えたっ!?
白:えーと。始めクラングがスレイヤーズにしては珍しく格好良い小悪党って設定で書き始めて、
  名前うかばねーなぁ、んー……適当でいっか。クラングに決定! として、
  適当に話をだらだら進めつつ、途中スティングさんが洞窟に行って欲しくないみたいなことを話し始めた時点で、『しまったっ! こいつら名前が似ているっ!』などと後悔しまくると、『いや……かえって親子にしちまうか』等と思った瞬間に、この話の方向性が決まった。
K:……つまり……書き手のネーミングのいい加減さが話を作りだした、と。
白:ああっ! わかりやすくまとめないでっ!
K:うーん……冗談抜きで時というのは恐ろしいわね……
白:いや。全く。
  最初冒頭部分は完璧すぺしゃるだったしね。すぺしゃるの話にすることも始めのうちは出来たんだけど。例えば囚人達がひた隠しにしているお宝争奪戦、とか。
K:つーか、始めはそのつもりだったのよね。
白:……まぁ、過去は忘れて、っと。
  でもプロット無しで書き始めると面白いなー。どんどん話が思わぬ展開に。
K:いや……読者がそう言うなら良いんだろうけど……書き手(あんた)が言うのは…… 
白:まぁ始めのうちは、リナの諦めずに闘い続ける姿、強さを描いた長編になればいいなぁと思ってただけだし。
K:……はじめの方のなまがきで言ってたこと……
  ガウリイ達の出番やボス考えてないってのは本当だったのね……
白:今更気付いたか。
K:胸逸らすなっ!
  あたしはてっきり半分ぐらいは冗談かと……
白:それでも半分かい。
   しかも冗談と思いつつ、私を殺したのか……?
K:まー、まー。こーして生きてるんだからいいんじゃない(はあと)
白:………………………………
  え、えーと……なまがきも何回かあることですし、あとがきはこの辺でお開きにいたします。
K:ええっ!? なんでっ!?
白:だって……別にどーでもいいじゃないか……
  あんたの疑問には後で私がちゃんと答えてやっから。な?
K:……出番が無くなるからヤっ!
白:…………………………………………………………………
  ……以上、修羅場を迎える一歩手前、我が家の子供部屋からお送りいたしましたっ!
  長い文章読んで下さり本当に感謝しておりますっ!
  ちなみに、今回の文量は、ファンタジア文庫の16行40文字に換算すると、
  256P分となっておりますっ!
  あとがきなまがき抜きの本編のみでっ!
  ……マジで文庫一冊文だよ、おい……

 がきっ!!(何かが咬み合う音)

K:――ともあれっ! 皆様長い間お付き合い下さりありがとうございましたっ!
  ちょぴっとでも感想つけてくれたり、メール送ってくれたりすると、書き手は次回作への意欲が増えることでしょうっ!
 ――それまで生きてるといーけど!

 ぐががっ!!(何かがひしめき合う音)

白:ぐっ――がっ!
  ――で、は……みなさ……んっ!
  ご機嫌よ……――うっ!
K:また……あいっ――ましょーうっ!!

 ざしゅっ!!

K:ふっ……勝った……

 どくどくどく…………

 ――ぎすぎすした空気を遮るように幕――  



 以上、なまがき、あとがきでした。
 ……なんでこー、恥を公表するよーなことしてんだろ……私……


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12512はじめまして!!あごん E-mail 12/2-01:02
記事番号12509へのコメント

初めまして、あごんという者です。

白いウサギ様の御小説を拝見いたしました!
第一声はとゆーと。
素敵ですっ!
完璧ですっ!
正義ですっ(アメリア?)!

もー。没頭してしまいました。
オリキャラのクラングがかっこいーですぅ!!
あわわわわ。どうしましょう。
惚れそうです。
いや、惚れました。
下さい、クラングを(をいコラ)。

構成力、文章力、どれも素敵です。
長編+すぺしゃるな内容で、時間が過ぎるのを忘れてしまうほど、面白かったです。

ああ、もー言葉になりません。

ではでは、錯乱気味ですので(笑)、この辺で失礼致します。
また白いウサギ様の御小説が読みたいです!

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12516ありがとうございますっ! あごんさん白いウサギ E-mail 12/2-12:04
記事番号12512へのコメント

ありがとうございます。
まさかあの文量を公開して一日で読み終わり、
さらには感想頂けるとは思っていませんでした。

>初めまして、あごんという者です。

初めまして。白いウサギともうします。

>白いウサギ様の御小説を拝見いたしました!
>第一声はとゆーと。
>素敵ですっ!
>完璧ですっ!
>正義ですっ(アメリア?)!

 アメリアですねー(^^)
 しかも第一声って言うわりには三行にわたってますね(笑)
 しかも過ぎたお言葉を……照れながらもお受け取りさせていただきます。
 ありがとうございます。
 自分自身では、完璧とはほど遠いんですけどね……
 恥を公表するのはあとがきあたりに止めときます(爆)

>もー。没頭してしまいました。
>オリキャラのクラングがかっこいーですぅ!!
>あわわわわ。どうしましょう。
>惚れそうです。
>いや、惚れました。
>下さい、クラングを(をいコラ)。

 いやぁ、ありがとーございます。
 そう言っていただけるとクラングも浮かばれる……(注:本当に死んでるし)
 のし付けてお送りしたいところなんですが……
 彼は、元旅人、現在グレた兄ちゃんですから不快なだけでは……?
 まぁ、リナに会ってから変わったし、いくらかマシですか(笑)
 魔族との戦闘には役に立っていないのに、いいセリフ持っていったせいか、
 私の身内にも人気があります(^^;)
 ちなみに、クラングの体術(柔術?)は母親譲りです。
 父親じゃないんですね(笑)
 丸暗記する特技があるので、
 スティングさんが魔道士協会入れようとしたところ、
 母親に猛反対されるんです。
『魔法は年取ってからでも覚えられる。
 だけど、体力や敏捷性は若いうちに鍛えないと役に立たないんだからねっ!』
 うーん……母親の方が強いんだろーなぁ……
 ちなみにそれでクラング君は旅に出ました。
 目標
『尻に引かれない男になる!』
 ああ、本編書き上がってから明かされる裏設定……


>構成力、文章力、どれも素敵です。
>長編+すぺしゃるな内容で、時間が過ぎるのを忘れてしまうほど、面白かったです。

 ど、どうも……
 文章力は……まぁ書き始めた頃よりは少しは向上したかなー……と、思っていますが……
 構成力の方はさっぱしで……(^^;)
 いや、何処かで言ったように、行き当たりばったりですし。
 長編+すぺしゃるですか。
 なるほど。確かにそんな感じですね。
 ナーガに出張してもらったし。
 本来の長編よりはギャグが多いですね……
 すぺしゃるの懐かしの場面再現したりしてますし。

>ああ、もー言葉になりません。

 ああっ! 落ち着いてっ!(笑)

>ではでは、錯乱気味ですので(笑)、この辺で失礼致します。
>また白いウサギ様の御小説が読みたいです!

 ありがとうございます。
 全くもって有り難いお言葉です。
 その一言で次回作への意欲がどれだけ増すことか(言われずとも書け)
 それにしても、本当に長い文章をお読み下さりありがとうございます。
 それだけでも充分有り難いのに、こうして感想付けて下さるなんて、
 物書き冥利に尽きるもんです。
 他にはまだ著作者リストの方見ていただければありますが、
 新作の方もいずれ(いつかわからないけど)頑張って出すと思いますので、
 よろしくおねがいします。

 ではまた。
 本当にありがとうございましたっ!

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12522Re:封鎖された伝言ブラントン 12/3-01:33
記事番号12509へのコメント

 どうも、お久しぶりです。およそ3、4ヶ月ぶりでしょうか。いつものごとく参上です(^^;)
 先日こちらで名前をお見かけしたので驚いていたのですが、これの関係だったのかといまさらながら納得。
 今回もいつにもまして長いですねー・・・・・・私は読むのに1時間半かかりました。
 でも、その1時間半飽きさせずに一気に読ませる力があるだけでもうすごいような気がします。一息つこうという気すら起こりませんでしたから。

 今回のは正直「異色」という印象を受けました。すぺしゃる+本編な物語が今まで読んだことなかったというのが第一でしょうが、物語全体の構成でもいつもとは違うなと感じました。「朋友まみえる」が一つのテーマを中心にまとまっていたのに対し、今作は書きたいことをいろいろ詰め込みつつ、一つのものにつなぎ合わせたもののように思えます。って、そう思うのは「すぺしゃる+本編な物語」である以上当たり前な気もするのですが、あとがきを読む限りではそもそもプロットがほとんどなかったそうなのであながちハズレでもないのでは。
 でも、これってすごく画期的な試みなのでは? 単に本編キャラとナーガが共演することなら多々ありますが、それぞれに違う作品の雰囲気までもちゃんと持ち込んで途中からがらっと、それこそ一部と二部というようにがっちり区切っていいほどに変えつつも、クラングをつなぎ目にして一つの物語にまとめ上げたのは難しいことだったように思えてなりません。
 うん、これだけでもう尊敬しちゃいます。本当に。

 それに本編6巻と7間の間というはっきりとした時期設定がされているというのが最後までずっと頭に引っかかっていました。正直物語全体の鍵を握るものだと思い注目していたので・・・・・・エピローグでそこをさらっとセリフ一つで種明かしするところにはもう見事とすっかり降参の気分です(^^)

 でもあとがきがなまがきが多かった関係で短く、あまり作品の設定に関する裏話が普段より少なかったので、いろいろつかみきれていないところがあるのが正直なところです。
 特にボツになった設定とか展開なんか特に! 聞きたいですっ!

 それでは各章ごとに。

タイトル・目次

 それにしても今回も「blockade」で「封鎖する」だなんてすごい単語を・・・・・・私和英辞典引いてみるまで知りもしませんでしたよ<だめじゃん
 各作品のタイトルは「二翼の翼」「交錯」のようにオリジナルなタイプもあれば「レアードの狂乱」のようにパターンにのっとっているものもありますが、今回はオリジナルですね。
 各章のタイトルでは二章と四章のが好きです。



 最近毎回書き出しがとっても上手で羨ましい限りです♪ こういうのって書き出しの部分だけが突然ひらめくものなのですよね。
 また、この話の舞台設定を前書きで書かずに文中にしのばせるのは姿勢というか手法の関係だと思うのですが。
 そしてやはり何といってもこの章でいちばん好きなのはナーガの登場シーンっ!
 はい、私すっかり魔族かなんかかと騙されたクチです・・・・・・このもったいぶらせた数行、そしてナーガの第一声ともどもまったくすばらしいの言葉しかありません・・・・・・
 またこの章はギャグ中心なのでツボにはまったセリフが多数。もう笑かしていただきました(^o^) ナーガがナーガしてるのがまたたまりません♪<表現下手 あ、ここいいなと思った部分も含めて下に。
それと、引用の都合上全部一行しか抜き出してませんが、各部分に関係した一連のところ全部が好きです。

> しかもおいとくならぶり返すな。わざわざ。
>「なかなか気持ちよくって止められないんですよね。いやぁ、困ったもんです」
> ――くううっ!なんて燃えるシチュエーションっ!』
> 土下座してわたしの出所金払ってくれたら同情してあげてもよくってよ」
> 相部屋の相手悪すぎ。看守の態度悪すぎ。食事の栄養偏りすぎ。
>「ていっ」
>「あたし新入りのリリーナ=インカースですっ! はじめましてよろしくっ!」
> ――正直に言って――少々懐かしく思ってしまったのは、不覚だったかもしんない。
>「先に言っておきますが――お茶を飲むのは結構ですが、心の内まで飲み込むのは止めて下さいね。
>「まぁ人間誰しも好奇心はつきものよね」



 ええと、二章は前哨戦になってますけど、ナーガの結界破りに唱えた呪文がなんだったのかというのがわからなかったですし、結局デザーバックが結界を張っていたのは、それがなければとっくに崩れているところを結界で支えておいていざという時にいつでも解除して崩れさせることができるという意味で罠になっているということなのでしょうか?<いや日本語おかしいし
 ここから徐々に雰囲気が本編のものになっていきますが、その中でしっかりナーガのキャラが変わっていないところがすごいなと思います。退場の場所を適切に選び、違和感を生じる場面にまで無理に存在させつづけなかったのが秘訣かと思うのですが。
 後半は「ちびゴーレム」のアイデア一つだけであそこまで描けるという実力に脱帽でした。
 そして、リナがクラングを説き伏せるところ。ここは白ウサ様の色が強く出ている個所だと思いますが、リナがリナの論理で彼女らしいまま話しているというのが好きです。
 では、再びいいな、と思った表現を。

> 走り抜ける風に乗る呪文の調べ。
>「その感情は――我にとって最高の贈り物だ」
>「最高の感謝だな。それは我ら魔族に対する」
>「クラング、あなた――ムカツク」



 ナーガとのやりとりに負けず劣らず、というよりどっちもすごいんですが、いつもの仲良し四人組のやりとりはどれも楽しいです♪ ここまでのが基本的にスティングやナーガ、クラングとの一対一の会話ばかりだったので、一気に変わったような気になります。人数多い分、私はこちらの方が好きです。
 このガウリイのボケもアメリアの暴走も素敵なのですが、個人的に今回光っていたと思うのはずばりゼル! セリフの容赦ないあたりがもうたまらないですぅ(^^) それと政治的なやりとりに長けているアメリアというのは新鮮で楽しませていただきました。
 また、二章に引き続き説教モードのリナ。深く重い言葉であり、個人的には前のもの以上にこのシーンを高く評価します。

>「なんて恐ろしいことをしてくれたんだ。リナ」
>「ま、まさかお前――そこらの人間に辻斬りでも始める気か……!?」
> ええいっ! 具体的案言ったら風情がないでしょーがっ!
>「つまり……全くわからんから勘に頼ろうってことか」
>「ちなみに――これは正当防衛って言うんでよろしく」
>「ほら、人間って過ちを繰り返して成長していく種族だし」
>「ふっ。このよーに興奮してるから身の安全は保証できないわっ!」



 考えてみれば今回は戦闘シーンが二章と四章のみに、しかも相手は同じで二回しかないのですが、これって特殊ですね。でもそれでこの分量なんですから、いかに他の部分が充実しているかの表れです。それに戦闘シーンが物足りないとは全然感じませんでしたし。最後のデザーバック戦なんて文庫で換算すればこれだけで40ページぐらいあるわけですから・・・・・・
 そしてようやくの種明かし。今作では伏線の張り方もさりげなく、どんでん返しを狙っているわけではないように思えたですが、そのさりげなさがまた秀逸です・・・・・・正直今回は一章の年齢のセリフのところでクラングが死人である、という目星は珍しくついていたのですが、ここは真の伏線を隠すダミーだったように思えてならず敗北感に襲われております(TT) 宴会も手刀も気づいてませんでしたからねー・・・・・・まあスティング関係の方は元から考えが回っていなかったのですが<をい
 い、いや、じつは50歳ぐらいだという設定がすっかり頭の中になくて・・・・・・そういうしゃべり方には思えなかったんですもん、うう。
 同じ日を繰り返す、という設定は個人的にお気に入りです。

> 前にこいつにそれだけは教わったんでな」 
>「おめーらは初めて聞くつもりだろーがよ……
>「大いに暴れなさい。あたしが許すっ!」
>「――それもなかなか面白そうだ」
>「変化のないところに進歩はない――ってね。おわかり?」
>「ガウリイさんっ! 一緒に名乗りをあげようって言ったじゃないですかっ!」
> ああいうもったいぶった奴をギャグの世界に引きずり落として、三枚目として葬り去るのがリナさんの得意技じゃなかったんですかっ!?」
> そいつは難儀なこった」

エピローグ

 冒頭、一章のナーガ登場シーン同様の原作ばりの数行引っ張るもったいぶらせ方、お見事です。
 このエピローグは全編通じて好きです。最後の謎解きのスティング、ゼロスの登場、そして姿を見せぬナーガ。スティングの結末は、原作4巻、11巻のような人間のドラマを十分堪能させていただきましたし、ゼロスは本編とのリンクをもたらして作品の完成度を数段高めているように思えます。そして一匹の魔王竜。このまとめ方、誉め言葉すら浮かばないほど大好きです。


 えと。
 この感想を書く前に二度通しで読んだのですが、じつは最初に読み終えた時と二度目を読み終わった時だと全然感触が違いました。
 正直一度目は「異色」という印象しか残らなくて、最初でも書きましたが全体の統一感もあまり持てなかったのです。おそらくいつもと違う出だしに戸惑いつつそのまま最後まで読み進めていってしまった結果でしょう。
 ところが一日あけてもう一度読んでみた結果が・・・・・・上に書いてきたとおりです。やっぱりレベル高いですよ、絶対。
 一度目と二度目でここまで違う印象をもったのは記憶にありません。

 ただ二回読んでも残った気になる点としてあるのは、オリキャラの性格についてです。スティングとクラング、どちらもどうも一貫性に欠けるのではないかと思うのですが・・・・・・ええと、つまり場面によって作者にとって都合のいいように変えられてしまいがちなのではないかと。特にギャグシーンとシリアスシーンのところで。って、そうなってしまうものなんですけどね、普通は・・・・・・
 もう一つは、デザーバックがどれほど強いのかがはっきりしないために、戦闘でのカタルシス(?)があまり感じられないこと。でもこれは肩書きないと厳しいですよね。純魔族として性格がほとんど固定されている上に悪役を完全に一手に引き受けるだけでも大変なのに。
 いえ、あんまり気にしないでください。どっちもあやふやなものですし。

 それでは、最後に名シーンあんどセリフを。
 前者はやっぱりエピローグ(特にラスト)、後者は・・・・・・この一言の持つ意味の大きさということで、
>「……ま、別にいいですけどね……
> ……追試もこれで終わったことですし」
 に。

 では、これにて……

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12530よくぞ発見しましたね……白いウサギ E-mail 12/4-14:45
記事番号12522へのコメント

 どーもっ! 昨日ソフトボールのおやぢさん達の試合に助っ人で登場し、
 うまいから俺達のチームも入れ、等という極単純なお世辞にあっさり引っかかり、
 三試合はしごした白いウサギですっ!
 ぐぎぎ……筋肉痛がぁぁぁっ!
 ……現役時代に戻りたい……しくしくしく……

> どうも、お久しぶりです。およそ3、4ヶ月ぶりでしょうか。いつものごとく参上です(^^;)

 ども(笑)
 いや、今回連絡全く入れてなかったので正直感想頂けるとは思っていませんでした。

> 先日こちらで名前をお見かけしたので驚いていたのですが、これの関係だったのかといまさらながら納得。

 うっ。見抜かれているっ!(滝汗)

> 今回もいつにもまして長いですねー・・・・・・私は読むのに1時間半かかりました。
> でも、その1時間半飽きさせずに一気に読ませる力があるだけでもうすごいような気がします。一息つこうという気すら起こりませんでしたから。

 お、おそれいります……
 私も誤字・脱字チェックがめんどいめんどい(笑)
 まだあるかも知れないですねー。
 一人称でガウリイが「おれ」で、ゼルガディスが「オレ」、クラングが「俺」などというこだわり入れておいたのですが、どっかでミスってる危険性大。
 ついでに言うと、ナーガが「わたし」、アメリアも「わたし」、スティングさんが「私」だったりします。

> 今回のは正直「異色」という印象を受けました。すぺしゃる+本編な物語が今まで読んだことなかったというのが第一でしょうが、物語全体の構成でもいつもとは違うなと感じました。

 そうですね。
 もともとナーガは意外性だけで出しましたし。
 だからといって、登場した以上、『ナーガしかできない、ナーガだからできる』ことをやらなくてはと思い、結果、生き埋め事件発生(笑)
 ここで召還術が使えるナーガの見せ場ですね。本人居ないけど。
 ともあれ、そんなこんなで長編レギュラーにメンバー変更。
 だからといって、そのまま戦闘では身も蓋もないし、それならナーガだけで最後まで引っ張った方がましでしょう。
 それで四人でお話など色々クッションを置いているわけです。
 いつもならラスト(もしくは見せ場・テーマ)を決めておいて、そっから話が作られていくパターンが多いのですが、今回は逆で、成り行き任せのその場しのぎで作った分、そー感じられたのかも知れません。
 まぁ、プロでもないですし、あちこち実験しつつ書いてるのが多いですね(笑)

>「朋友まみえる」が一つのテーマを中心にまとまっていたのに対し、今作は書きたいことをいろいろ詰め 込みつつ、一つのものにつなぎ合わせたもののように思えます。って、そう思うのは「すぺしゃる+本編な物語」である以上当たり前な気もするのですが、あとがきを読む限りではそもそもプロットがほとんどなかったそうなのであながちハズレでもないのでは。

 その通りです。
 『朋友まみえる』の場合、テーマが話の大部分を占めていますから。
 だるま落としの中心に一本ぶっとい芯があるんですよね。それでも、綺麗なストレートじゃ個性も、盛り上がりも、強弱もないので、ちょこちょこずらしていったのが『朋友まみえる』でしょーか。
 しかし、今回はそこらに転がっている、大きさも太さも形すらもバラバラのパーツを気に入ったのを積み上げて、あまりにもバランス悪いんで修正していったのが今作ですかねー。

> でも、これってすごく画期的な試みなのでは? 単に本編キャラとナーガが共演することなら多々ありますが、それぞれに違う作品の雰囲気までもちゃんと持ち込んで途中からがらっと、それこそ一部と二部というようにがっちり区切っていいほどに変えつつも、クラングをつなぎ目にして一つの物語にまとめ上げたのは難しいことだったように思えてなりません。
 
 う、うーん……そう言われれば凄いような気がしますね♪
 ……いや……本人あんまし意識してないことが多いので……昔から(って、それほど多く書いてないけど)……
 前記のように、色々実験していることが多いですね。
 極論を言ってしまえば、おそらく長編最初の分類となる『二翼の翼』から、実験してない長編はないような気がします。
 ……なんて素敵ででんじゃらす♪(をい)

> それに本編6巻と7間の間というはっきりとした時期設定がされているというのが最後までずっと頭に引っかかっていました。正直物語全体の鍵を握るものだと思い注目していたので・・・・・・エピローグでそこをさらっとセリフ一つで種明かしするところにはもう見事とすっかり降参の気分です(^^)

 いや……時期設定……
 ただ単に、四人組が居て、更に話に違和感がないところ(はあと)
 ……だけです……
 いやー、光の剣使いたかっただけだったり……
 ほら、私が書いた作品で未だに光の剣一度も登場してないんですよ。
 記憶があってればだけど(調べろ)
 あとなんとなく魔竜烈火砲(ガーヴ・フレア)使いたかった。
 だからって、なし崩しのまま話を終わらせたらあまりに酷いし、ナーガのことほったらかしもまずいので、
 魔王竜(デイモス・ドラゴン)や、ゼロスの「追試」と言うセリフが出てきたんですね。
 おめでとう。ゼロス。
 あと一歩……いや、半歩間違っていたら君の出番はなかった……

> 特にボツになった設定とか展開なんか特に! 聞きたいですっ!

ではご要望にお応えして、
設定の裏話・没話

 ……いやー、毎回書いていたんですが、誰がこんなもん読んでて喜ぶんだろうと思って……
 興味ある方いたんですねー……
 少々驚きです。(隣で次回から出番が増えるとガッツポーズするK)
 ではご注文通り、設定の裏橋&没話という恥の公表を(笑)

 んー……あんましないかな……(をい)
 いや、今回本当に勢いだけで書いたんで……特には……
 そーですねー。
 クラングが丸暗記の特技を持っているので、
 浄結水(アクア・クリエイト)を暗記して唱えて(確か発動可のはず)
 手のひらに生まれた水の塊を蹴り飛ばし、飛沫を一面にばらまいて、
 その飛沫の奇跡が不自然なところに不可視の爆弾(らしきもの)を見えるようにして、
 ガウリイが斬り飛ばしていく戦闘シーンとか。
 炸裂系の技なのに、斬り飛ばしても平気なタイプでしたから。
 いわゆる、圧縮式ではなく点火タイプって勝手に名付けましたけど。
 ともあれこれは入れるべき場所が見当たらなかったので省略(^^;)
 ……じっくりパズルの組み替えしていけば入れられたかも知れません。
 追加的理由で、これ以上オリキャラの活躍増やさないでもいーだろ、とか思ったり。

 あとはアメリアの正義……もとい、政治講座。
 リナ視点のためと、私が政治に詳しくないので書ける自信がありませんでした。
 おかげで一番アメリアがセリフ少ない……
 TV版だとそうでもないですが、小説だと結構アメリアって頭がきれるんですよね(良い意味で)
 それ書こうと思ったり、でもセリフがアニメ版だし……
 ああ、いっそのこと小説版にしちまうかという悩んだ時期あり。
 逆に今回出番が多くもらえてラッキーなのがゼルガディス。
 この辺は、『レアードの狂乱』で、出番が少なかったので多めに出さなくてはと思って(笑)
 普通ならあそこゼルの過去無視してでもアメリアについてくのはゼルですからねー。コンビで言ってしまえば。
 だからって、リナから離れたんじゃまた登場が減りますし。
 シリアスなシーンを好むゼルガディスらしからぬツッコミや、冷淡すぎるセリフがあったりしましたが、
 それは私の趣味です(をぅい)
 と、なると次はアメリアの出番が多いのか……?

 あとは、無印の最終話から何話か手前。
 リナがアメリア庇って重傷を負い、出番が少なくなって、
『リナちゃんの魔法講座〜』みたいなことやってましたよね。
 これとかけて、
『ゼロスはどーした!? ゼロスを出せ〜! と、お嘆きの皆様。
 登場する代わりに謎の神官ゼロスの謎解き講座〜』
 みたいにやろーかな、等と企んでは見たものの、解説が必要なものがないのでボツ(哀れ)
 ああ、こうやって次回へのネタの使い回しが出来なくなるのね……(笑)
 それにしても白いウサギ、特にゼロス好きでもないのに……
 どころか、リナファンの私としては、人気投票でリナを落とした憎きカタキだったりするんですが……
 登場回数多いのは何故なんでしょう……?
 読者へのごますりか?(笑)

 ああ。思い出した思い出した。
 あとはですね。
 クラングからの手紙、何十通もリナが預かったようになっていますが――
 書いてあるのは三通までで、後は全て白紙です。
 そうすれば読まざるをえないだろうと言うクラングの詠みですね。
 ついでに言うなら引き受けたときリナがあまりの手紙の量に文句言ったりするのですが……
 盗賊からお宝かっぱらう時ようにマントの中にポケットが大量にあるというのがばれて渋々承諾します。
 この辺は裏設定というか……私の頭の中でだけ物語が展開されていて、さらには書くわけにはいかなかっただけですね。

 あとこれは言っていーのか……
 スレイヤーズ会議室こと、幕間:殺戮者達の会談みたいなものも書いてあったりします。
 なまがきばっかじゃ飽きるから……って、書いたんですが、
 最終的になまがき書くのをやめたので入れるの中止を決定。 

 あ。そうそう。ナーガが血に染まって死んだのかと思わせるシーンがありますが。
 具体例>彼女は――ぴくりとも動かなかった。
 あれは――自分の流血に貧血起こしただけだったりします。
 あの後リナに怒ってもらう手前、ばらしようがなかったんですが。
 まぁ気付いた人いたかもしれませんね。

 それにスティングさん。
 クラングと親子とする前――スティングの正体、実はゼロス♪って言うのも考えてました………
 ……ああっ! マジでいい加減なことがばれていくっ!
 これまた最初から狙ってのことではなく、セリフ回しが何となく似ていることから
『ゼロスとキャラがかぶってると言われそーだなぁ……言い訳がわりに本当にゼロスに……
 いやでも……ぶつぶつぶつ』
 すいません。マジでそう思った時期ありです。
 これではリナの言う応用力ではなく、単にいい加減なだけです。
 ああー、これでよく毎回小説書いてるよなー……私。

 これまたスティングさん。
 彼は魔法使えるのか使えないのか。
 魔道士協会通っていたと表記してあるので使えそうなものですが、
 何か別の理由で通っていた可能性もある。
 しかし、畑吹っ飛ばしたときに、呪文の例を羅列したことから(ブラスト・ボムまで知ってるし)
 それなりには詳しい模様。
 判定結果――わからない(をいってば)

 あとは、郷里の姉ちゃんのことの回想シーン。
 あれは単なる趣味です。次回作への伏線でも何でもありません。
 なんで襲われてたのかも考えてありません。
 理由を聞かれたら、それから考えます(爆)

>タイトル・目次
>
> それにしても今回も「blockade」で「封鎖する」だなんてすごい単語を・・・・・・私和英辞典引いてみるまで知りもしませんでしたよ<だめじゃん

 だいじょーぶ! 私もさっぱり知りませんでした!(大丈夫じゃないじゃん)
 私が持っている辞書は、漢字を引くと、その単語の英語が記述されてあるんですよ。
 それでタイトルに使えそーなものをぱらぱら引いて、タイトル決めてます。

> 各作品のタイトルは「二翼の翼」「交錯」のようにオリジナルなタイプもあれば「レアードの狂乱」のようにパターンにのっとっているものもありますが、今回はオリジナルですね。

 地名を決めていればパターンに乗っ取っていたと思われます。
 しかし、書き上がってから地名を考えていないことに気付き、まぁいっか。ってな感じで。
 私の場合、タイトルは最後に決めることが殆どで、始める前から考えてあるというのはまず無いです。
 だからといって、文章保存するときにタイトル打ち込まなくてはいけないので、いい加減なタイトルは付けてあります。
 今回なんか、『火のないところにリナは立たず?』です(笑)
 すぺしゃるですねー。これじゃ。
 しかもあとがきなどを保存している文章は、『火のないところはなまがきで』。
 うーむ……あってるよーな、やりすぎなよーな。
 他にはスレイヤーズ長編の『レアードの狂乱』。
 これなんか『クローン』です。なーんも考えてないで、ネタバレ確実なタイトルで保存してあります。
 どーせみるのは私だけだし(笑)

> 各章のタイトルでは二章と四章のが好きです。

 うーん……各章のタイトル……
 ナーガ登場してきた直後に書いてあったりします。
 方向性見えてこないけど、どーせ魔族でるだろーし、ラストになれば伏線明かすんだからそーゆータイトルで不自然はないだろうってことで。
 あまりにもずれてきたら変更しようと思ってましたけど。
 よくも悪くもそのままでした。

>一

> 最近毎回書き出しがとっても上手で羨ましい限りです♪ こういうのって書き出しの部分だけが突然ひらめくものなのですよね。

 ぎくぅっ!?
 上記に書いてあるとーり、書き出しだけは一年前ほどに書き上がってました。
 そーいえば、今回珍しく執筆期間書いてないですね。
 えーと……一応三週間……?
 しかし、ちびゴーレムからゼルとリナで洞窟する直前まで一度虚無に帰りましたので、
 それが完成4日前だから……ちびゴーレムからラストまで……
 ほぼ半分以上、4日以内で書いたんですね……
 すげーや。自分。
 
> また、この話の舞台設定を前書きで書かずに文中にしのばせるのは姿勢というか手法の関係だと思うのですが。

 いやー、はっはっは。
 単にすぺしゃるようのから取ってきたので書いてなかったので後記した、とゆー説も……

> そしてやはり何といってもこの章でいちばん好きなのはナーガの登場シーンっ!
> はい、私すっかり魔族かなんかかと騙されたクチです・・・・・・このもったいぶらせた数行、そしてナーガの第一声ともどもまったくすばらしいの言葉しかありません・・・・・・

 おっしゃっ!
 それだけのために出したのでこれで報われるっ!
 騙すつもりで書いたのですから、引っかかってくれて嬉しいです(笑)
 騙された方は『やられた……』と、思われるかも知れませんが。

> またこの章はギャグ中心なのでツボにはまったセリフが多数。もう笑かしていただきました(^o^) ナーガがナーガしてるのがまたたまりません♪<表現下手 
 
 なんとなくわかります(笑)
 意外にも書きやすいキャラになりつつあります。ナーガ。
 慣れたというのもあるんでしょーが、無茶やらしていればほぼ違和感無しという裏技的な説も……

>> しかもおいとくならぶり返すな。わざわざ。

 なんとなく、スティングさんにそう喋ってもらったので、自分自身にツッコミを入れたよーな気も(笑)

>>「なかなか気持ちよくって止められないんですよね。いやぁ、困ったもんです」

 この辺、自分自身、『祈りを捧げて懺悔せよ』のノリを引きずってます。

>> ――くううっ!なんて燃えるシチュエーションっ!』

 TV版の影響ですね。
 どっかでそんなセリフっぽいのがあったよーな気がします。気に入っていたので。

>> 土下座してわたしの出所金払ってくれたら同情してあげてもよくってよ」

 ナーガですねぇ……
 どーしてこーいう言い方しかしないくせに憎めない奴なのか……不思議だ……

>> 相部屋の相手悪すぎ。看守の態度悪すぎ。食事の栄養偏りすぎ。

 こ、この辺はスレイヤーズと言うよりは私の趣味のよーな気が。
 こーいうリズムの変調好きですね。私。

>>「ていっ」

 ささやかな逆襲(笑)
 気合いを入れる掛け声必要ないのに、何故か言ってもらいました。

>>「あたし新入りのリリーナ=インカースですっ! はじめましてよろしくっ!」

 ……誰もリナの事を知っている人間が居ないとは思えなかったので……
 結果、ああなりました。
 リナのことを知っている人間を説得(脅迫)して捜査に協力させるとゆー案もありました。
 でも、ナーガが出ることになってから、ボツ。

>> ――正直に言って――少々懐かしく思ってしまったのは、不覚だったかもしんない。

 ぎりぎりですね。
 ナーガのことを完璧鬱陶しがっている記述しかないすぺしゃるを考えると、書いてしまってはまずいかという考えもありました。
 だがしかし、結局は――私の趣味です(またかい)

>>「先に言っておきますが――お茶を飲むのは結構ですが、心の内まで飲み込むのは止めて下さいね。

 知る人ぞ知る、パクリぱーと……いくつか(をい)
 某名探偵コ○ンの高○刑事が思いを寄せる女刑事(名前忘れた)のセリフをちょいと改造。
 気に入ったんで……

>>「まぁ人間誰しも好奇心はつきものよね」

 好奇心の塊としか思えないリナ=インバース。
 だからこそ、彼女は強いんでしょうね。

>二
>
> ええと、二章は前哨戦になってますけど、ナーガの結界破りに唱えた呪文がなんだったのかというのがわからなかったですし、結局デザーバックが結界を張っていたのは、それがなければとっくに崩れているところを結界で支えておいていざという時にいつでも解除して崩れさせることができるという意味で罠になっているということなのでしょうか?<いや日本語おかしいし

 結界については……どーなんでしょーねぇ……
 リナの思考モノローグ、どうかして書きつつ、書き手がその時考えてましたから。
 結界は、まず第一には囚人達(クラング含む)を外に出さないため。
 それでも、クラングが結界の外――鉄の扉の前に立っていたり、リナとナーガの声で囚人達がやって来れたのは……あれ……?
 ――あ、いやいや。久しぶりの客人に、デザーバックが結界を解いていました。
 クラングの場合は、洞窟内部に限り、行動可能のように作られていて、死亡直後にスティングさんと会話するために洞窟入り口で立っていた時もあります。現実を直視できないスティングさんは再びそこを訪れることが出来ず、結局いつまでも待ちぼうけでしたが。
 あとは、リナ達、つまりは魔法が使える――面白そうなおもちゃが来たのに、生き埋めになるからと術をおそれて使用を狭められてはつまらないから。
 それでも結界を解いて、生き埋めにさせますが、それはそうしても面白いかも知れないと言うデザーバックの遊び心です。
 基本的に、デザーバックは自分が楽しむために行動してます。全編通して。 

> ここから徐々に雰囲気が本編のものになっていきますが、その中でしっかりナーガのキャラが変わっていないところがすごいなと思います。退場の場所を適切に選び、違和感を生じる場面にまで無理に存在させつづけなかったのが秘訣かと思うのですが。

 まずは、四人組を登場させるには、ナーガは登場させてはまずいでしょう。
 あの人とご対面してしまいますし。
 それでご退場。
 キャラについては、勝手に変化せずにそのまま突っ走ってくれました。
 しかし、生き埋めになった程度では誰も心配しないキャラナンバーワンだろーなぁ……
 普通のキャラクターなら、読者を心配させてはらはらさせると言う手もあるんですが……
 ……ナーガでは……ねえ……

> 後半は「ちびゴーレム」のアイデア一つだけであそこまで描けるという実力に脱帽でした。

 ちびゴーレムは……
 どーやって脱出するか、考えに考え抜いて出した手段です。
 生き埋めになったシーンを書いたところでは全く考えていません。
 更に言うなら作戦会議中も。
 本当に直前までアイデア考えましたねー……

> そして、リナがクラングを説き伏せるところ。ここは白ウサ様の色が強く出ている個所だと思いますが、リナがリナの論理で彼女らしいまま話しているというのが好きです。

 ……でしょーね(苦笑)
 どーしても説得や説教は私の体験談に近付いてしまいます。
 その上でリナに変換します。
 
>> 走り抜ける風に乗る呪文の調べ。

 勢いです。文章が調子よければ勝手に出てきます。
 でも、今読むと、結構かっくいいですね♪

>>「その感情は――我にとって最高の贈り物だ」

 デザーバック……魔族ですから……

>>「最高の感謝だな。それは我ら魔族に対する」

 ほら……魔族ですから……
 書いてて腹立ったけど。

>>「クラング、あなた――ムカツク」

 ういっ!
 いくら伏線をばらすわけにはいかない上に、暗い過去背負っているとはいえ、
 いい加減腹立ってきたのでっ! リナに殴っていただきましたっ!
 『ムカツク』とカタカナなのは、流行にのったのかっ!? リナっ!

>三
>
> ナーガとのやりとりに負けず劣らず、というよりどっちもすごいんですが、いつもの仲良し四人組のやりとりはどれも楽しいです♪ ここまでのが基本的にスティングやナーガ、クラングとの一対一の会話ばかりだったので、一気に変わったような気になります。人数多い分、私はこちらの方が好きです。

 そーですね。四人組という人数多い分……楽しいんですが、疲れました。
 誰か異様に無口な奴いないよな……と、注意しっぱなし。
 水面下ではセリフの奪い合い(笑)
 キャラによっては、そのキャラしか話せないセリフもあるにはありますが。

> このガウリイのボケもアメリアの暴走も素敵なのですが、個人的に今回光っていたと思うのはずばりゼル! セリフの容赦ないあたりがもうたまらないですぅ(^^) それと政治的なやりとりに長けているアメリアというのは新鮮で楽しませていただきました。

 ゼルですなっ! 出番を増やした以上、活躍していただかないとっ!
 ……どっちかっつーと、戦闘よりギャグで活躍してますが。
 容赦ないあたり、今や懐かしのオリキャラ・ライト君を思い出しました。
 アメリア……新鮮なんですよねー……もっと使われててもおかしくない設定なんですが……
 私に実力がもっとつけば、そーいう話も書けるようになるかも知れませんね。
 ここで注意。私は役所に恨みはありません。
 話の展開上、腐った職場になってしまっただけです。だから攻撃しないで下さい(笑)

> また、二章に引き続き説教モードのリナ。深く重い言葉であり、個人的には前のもの以上にこのシーンを高く評価します。

 説教……
 深く重い言葉なんですが、言っているリナはともかく、言わせてしまっている私は理解しているのかどーか……謎……(爆弾発言)

>>「なんて恐ろしいことをしてくれたんだ。リナ」

 笑えますよねー。
 前のスレイヤーズ会議室で魔王が降って来るってネタはやったんですが、その後のこのセリフはありませんでした。
 冷静にボケるのは好きです。

>>「ま、まさかお前――そこらの人間に辻斬りでも始める気か……!?」

 あんましぼけすぎるとまずいかなーと思いつつ、このセリフは好きなんで、いいや、入れちゃえって入れてしまいました。
 あとは某池袋文化会館で行われたスレイヤーズふぁいとの大会で、『辻斬り』戦とゆーのがあったので……その後に書いたので、その影響もあるんでしょーね。
 ちなみに、大会には参加せず、観戦だけしてました。
 うっとうしいと思った方、居るでしょうね(謝罪)

>> ええいっ! 具体的案言ったら風情がないでしょーがっ!

 私と同意見。
 まんまで言ったら話にならなくなるじゃないかー。

>>「つまり……全くわからんから勘に頼ろうってことか」

 この一言で、かなり思慮深く、格好良いリナのセリフが全て水の泡。
 恐ろしいぞ。ガウリイ。

>>「ちなみに――これは正当防衛って言うんでよろしく」

 公務執行妨害にかけて言ったリナの頭のキレを表すセリフ……かもしれない。

>>「ほら、人間って過ちを繰り返して成長していく種族だし」

 キャラ壊れてますね。私の趣味です(後何回続くんだ。このセリフ)

>>「ふっ。このよーに興奮してるから身の安全は保証できないわっ!」

 自分で爆笑。
 ちなみに笑っていたせいか、最初打ったときは、『身の危険は保証できない』などと訳の分からないセリフをうって、慌てて修正したもんです。ちなみに修正はアップ三十分前。

>四
>
> 考えてみれば今回は戦闘シーンが二章と四章のみに、しかも相手は同じで二回しかないのですが、これって特殊ですね。でもそれでこの分量なんですから、いかに他の部分が充実しているかの表れです。

 戦闘ばっかじゃ面白くないでしょう(笑)
 それに、戦闘シーンって書くと頭使わなくちゃいけないんで疲れるし……(本音か。それが)

>それに戦闘シーンが物足りないとは全然感じませんでしたし。最後のデザーバック戦なんて文庫で換算すればこれだけで40ページぐらいあるわけですから・・・・・・

 えええええっ!?
 そんなにあったんですかっ!?(←全体のページ数しか把握してない)
 短いかなーとか思ってたんですけど……書いているときは……

> そしてようやくの種明かし。

 そーですね(笑)
 伏線張るのは結構楽しいんですが……いつばらすか……そっちの方が考えるのが多いですね……
 せっかく張ったんだし、何の盛り上がりもなくばらすのはもったいないし、だからといって、後にまとめすぎるとネタ晴らしだけで話が終わる。
 むずかしいっすね。

>正直今回は一章の年齢のセリフのところでクラングが死人である、という目星は珍しくついていたのですが、ここは真の伏線を隠すダミーだったように思えてならず敗北感に襲われております(TT) 宴会も手刀も気づいてませんでしたからねー・・・・・・まあスティング関係の方は元から考えが回っていなかったのですが<をい

 クラング……彼の正体は、命食われし死人、不死身の人間――ばきっ!(Kからの自主規制発動)
 となると、デザーバックは三つの目を持つ妖怪――どぼぐっ!(更に自首規制発動)
 ふざけて三目にしようかとも思いました(笑)←あとがきじゃないので復活早し

> い、いや、じつは50歳ぐらいだという設定がすっかり頭の中になくて・・・・・・そういうしゃべり方には思えなかったんですもん、うう。
 
 いやー。最初20って書きましたし(爆)
 クラングと親子にしようと思ってから、後で修正入れました(反則)

> 同じ日を繰り返す、という設定は個人的にお気に入りです。

 クラング君のネタ晴らしの告白書きながら、考えましたー(自爆)

>> 前にこいつにそれだけは教わったんでな」

 私がスレイヤーズを好きになったきっかけのセリフですからね。
 引っ張ってきました。
 なのに何故我が家にはスレイヤーズ一巻はないのだろう……誰かに貸しっ放し……?
 
>>「おめーらは初めて聞くつもりだろーがよ……

 さて彼は一体何回言ったのでしょう?
 そして不機嫌になっていた時期はどれくらい?
 考えるとかなり恐ろしいですね……

>>「大いに暴れなさい。あたしが許すっ!」

 まぁ、リナ自体暴れまくってますから。
 元気なリナが好きですね。

>>「――それもなかなか面白そうだ」

 冷徹なゼルガディス。ぱーと、いくつか。
 結構冷淡なセリフがこの辺りに集中してます。

>>「変化のないところに進歩はない――ってね。おわかり?」

 伝統云々であちこちしがらみだらけないざこざをTVでみて、私が言った言葉。
 伝統を守ることや、法律や約束という理由で新しい試みを却下するのはどーも……
 決まりがあるから理由がになるんじゃない。
 理由があるから決まりがあるんだ。順序間違ってないか? 等と思ったり。

>>「ガウリイさんっ! 一緒に名乗りをあげようって言ったじゃないですかっ!」

 最初は言わせようかと思いました。
 でもなんとなくTVであったよーな気がしたので回避。
 
>> ああいうもったいぶった奴をギャグの世界に引きずり落として、三枚目として葬り去るのがリナさんの得意技じゃなかったんですかっ!?」

 知る人ぞしるパクリ……いくつかめ。
 ブラントンさんはご存じでしょうが、
 某GSの漫画で超薄給の少年が言ったセリフを思い出しつつ入れました。

>> そいつは難儀なこった」

 ボケ意外のガウリイの活躍シーン(?)
 剣持っていればかっこいいっすね……(ガウリイファン殺さないでください)

>エピローグ
>
> 冒頭、一章のナーガ登場シーン同様の原作ばりの数行引っ張るもったいぶらせ方、お見事です。
> このエピローグは全編通じて好きです。最後の謎解きのスティング、ゼロスの登場、そして姿を見せぬナーガ。スティングの結末は、原作4巻、11巻のような人間のドラマを十分堪能させていただきましたし、ゼロスは本編とのリンクをもたらして作品の完成度を数段高めているように思えます。そして一匹の魔王竜。このまとめ方、誉め言葉すら浮かばないほど大好きです。

 魔王竜はお気に入りです(はあと)
 ナーガ登場させるには四人組追っ払う必要がありますが、出来ないですし。
 いくつか候補があって、何処からともなく高笑いが聞こえるとゆーかなり怖い案もありました。
 でもエピローグですから、はっきりと登場させずに、解るけど明示しない方式を取りました。
 こーゆーの好きですし。

> 一度目と二度目でここまで違う印象をもったのは記憶にありません。

 恐れいります。
 ただ単にわかりにくい文章なだけでは等とも言いますが。

> ただ二回読んでも残った気になる点としてあるのは、オリキャラの性格についてです。スティングとクラング、どちらもどうも一貫性に欠けるのではないかと思うのですが・・・・・・ええと、つまり場面によって作者にとって都合のいいように変えられてしまいがちなのではないかと。特にギャグシーンとシリアスシーンのところで。って、そうなってしまうものなんですけどね、普通は・・・・・・

 今作の一番気になったところです。
 ご指摘の通り、私も最後までかなり気になりました。
 ギャグシーンは私の趣味で台詞を言ってもらう意外にも、崩れかかっている、つーか崩れてるのもあるでしょう。
 クラングについては、昔の自分を彷彿とさせるよーな、好奇心旺盛なリナの登場で戸惑いつつ変化。
 スティングさんについては、シリアスなシーンは犯行現場のみです。
 犯行現場に踏み込んだとき、犯人の心情としてはそれなりに変化が起こるもでのですから、それでも良いかも知れないと妥協した部分があります。
 実際、スティングさん、徹夜云々でお話しされてるときに、犯人やっぱ別人にしよーかなぁ等と思ったりしていた危険な過去あり。
 しかし、例えどんな理由があろうとも、読者に違和感感じさせた以上、それは全て書き手の実力不足。
 修行っす。まだまだ。
 そういうところをきちんと指摘して下さるブラントンさんには本当に感謝しております。

> もう一つは、デザーバックがどれほど強いのかがはっきりしないために、戦闘でのカタルシス(?)があまり感じられないこと。でもこれは肩書きないと厳しいですよね。純魔族として性格がほとんど固定されている上に悪役を完全に一手に引き受けるだけでも大変なのに。

 イメージ的には、強さはマゼンダ並。そのくせカンヅェル並にお食事大好きなので、遊びすぎてやられちゃうんですけど。
 ところでカタルシスって……どういう意味でしたっけ?(無知)
 悪役を完全に引き受けてる……確かにそうですね。
 全ての元凶はこいつです。
 一人で色々支えてくれました。あんまし好きじゃないけど(殺)

> いえ、あんまり気にしないでください。どっちもあやふやなものですし。

 いやー、気にしないと進歩しませんって。ご指摘ありがとうございます。

> それでは、最後に名シーンあんどセリフを。
> 前者はやっぱりエピローグ(特にラスト)、

 エピローグ……結構最後まであやふやで決まってなかったんですけどね……
 話の流れ上であやふやな部分片付けるのと、ラストは元気よく行こうって事でああなりました。
 それにしても……竜破斬食らいつつも文句言えるガウリイって一体……?
 魔竜烈火砲食らってもまだ動ける魔族にリナ驚いてたのに……
 ま、ギャグですし(これで全て解決)
 
>>「……ま、別にいいですけどね……
>> ……追試もこれで終わったことですし」
> に。

 言い訳のように浮かんだセリフ。
 なんてこったいっ! 言い訳が名ゼリフ!?
 ……おお……世の中って不思議だ……

 では、これにてっ! 気が付けばかなり長いレスになってしまいましたがっ!
 ――失礼しますっ!

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12529すごいです桐生あきや 12/4-04:29
記事番号12509へのコメント


 「猫雑」のほうでは、いつもお世話になってます。桐生です(笑)。
 今回初めて、白いウサギさんの小説を読ませてもらいました。
 ほんとにすごいです。とても上手で、一気に読んでしまいました。
 実は桐生はナーガが苦手で、ナーガが出てきたときに一度挫折しかかったんですが、挫折しなくてほんとに良かったと心の底から思ってます。読まなかったら絶対後悔してましたね。
 リナの語り口調が原作に忠実で、なおかつウサギさんのオリジナリティな部分もきちんと表現されていて、ぐいぐい話にひきこまれてしまいます。
 プロットを立てずに書いたということですが、そんな様子が微塵も感じられないくらい、きちんと伏線が張られていて、構成もしっかりしていたと思います。
 最初の数行からして、秀逸ですよね。何事?って感じがします。読まずにはいられないというか。リナとアメリアたちの掛け合いも最高です。
 しかしゼロス、まさかこんなところで追試をしていたとは……。
 それを考えついたウサギさんには脱帽です。
 これから白いウサギさんの著者別リストに行ってこようとおもいます。
 それでは。

 桐生あきや 拝

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12531Re:すごいです白いウサギ E-mail 12/4-14:58
記事番号12529へのコメント

> 「猫雑」のほうでは、いつもお世話になってます。桐生です(笑)。

 こちらこそお世話になってます。
 桐生あきやさん(笑)

> 今回初めて、白いウサギさんの小説を読ませてもらいました。
> ほんとにすごいです。とても上手で、一気に読んでしまいました。

 あ、ありがとーございます……
 一気に読まれたとなると……やはりかなり時間がかかったのでは……?
 大丈夫でしたか?(^^;)

> 実は桐生はナーガが苦手で、ナーガが出てきたときに一度挫折しかかったんですが、挫折しなくてほんとに良かったと心の底から思ってます。読まなかったら絶対後悔してましたね。

 恐縮です。
 ナーガが苦手なのですか。
 では映画版とかも苦手なんでしょーか。

> リナの語り口調が原作に忠実で、なおかつウサギさんのオリジナリティな部分もきちんと表現されていて、ぐいぐい話にひきこまれてしまいます。

 私の場合、リナの口調を違和感無しで書くのは第一原則ですから。
 もちろん、他のキャラも違和感出しては駄目なのですが、難しいばあいもありますね。

> プロットを立てずに書いたということですが、そんな様子が微塵も感じられないくらい、きちんと伏線が張られていて、構成もしっかりしていたと思います。

 そ、そーですか……?
 あんましわからないですねー(言うな。そんなこと)
 伏線も……気付けば伏線だったなどと言う危険な行為も昔からあったりします。

> 最初の数行からして、秀逸ですよね。何事?って感じがします。読まずにはいられないというか。リナとアメリアたちの掛け合いも最高です。

 最初はかなり気に入ってます。
 どこかの小説家が言ってましたが、一番大事なのは書き出しだそうです。
 それでどれだけ注意を自分の話に引き込ますことが出来るか。
 今回は過去の話と比較してもかなり気に入ってます。
 四人組の掛け合いは好きなので、やってて楽しかったです。

> しかしゼロス、まさかこんなところで追試をしていたとは……。

 物語のラストに決めたんですけどねー。そのセリフは(爆)
 あの世界に追試があるかどうかは疑問ですが。

> それを考えついたウサギさんには脱帽です。
> これから白いウサギさんの著者別リストに行ってこようとおもいます。
> それでは。

 ありがとうございます。
 なにげに、ロス・ユニももあったりするんですが(笑)
 それにしても……昔の話……結構文章力が酷いのが……
 …………穴掘っておこう……いつでも隠れられるように……

 ではではっ。 わざわざ長い文章お読みくださり、さらには感想をくださり、ありがとうございました!
 以降、お話ともども、猫雑さんでもお願いいたします(爆)

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