◆−I long for yuor love(後編の7)−あごん(11/5-00:25)No.12273
 ┗I long for your love(後編の8)−あごん(11/8-01:26)No.12290
  ┣著者別のこと−一坪(11/9-02:10)No.12298
  ┃┗Re:著者別のこと−あごん(11/10-02:19)No.12306
  ┗I long for your love(後編の9)−あごん(11/11-23:23)No.12309
   ┗I long for your love(後編の10)−あごん(11/15-23:30)No.12338


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12273I long for yuor love(後編の7)あごん E-mail 11/5-00:25


    少し時間を遡ろう。
 そう。ほんの半日前に時間を戻すだけだ。

「犯人に心当たり、ですか?」
「ええ。正しくは犯人の一人ですけど」
 あたしの言葉にハワードさんはぴくりとも動かない。
「やはり、複数犯でしたか・・・」
 ほう。ハワードさんにも複数犯だということはわかっていたようだ。
「ええ。間違いなくそうでしょうね」
 あたしは一旦言葉を区切り、ちらりと目の前の初老の村長の顔を見た。
 自分の息子が犯人の一人だと知った時、どんな表情をするのだろうか。
 興味本意で思っているのではない。
 この冷静な村長の驚愕の表情が想像出来なかったからだったし。
 なんとなく、見たくない気もするからだった。
 その時だった。
「それにしても、よくケアヌとティークの羽根を見分けられましたな」
 あたしの沈黙に何を感じとったのか、ハワードさんが話を戻した。
 いや、正確には逸らしたというべきか。
「いえいえ、相棒の目がいいもんでね」
「謙遜を。我々も現場にてティークの死骸を回収しましたが、誰一人気付きませんでしたよ」
「まぁ、よく似た羽根の色ですから」
「それだけ緻密な調査をしてくれたという事ですな」
 語尾に笑い声が続いた。
 あたしも誘われるようにして笑ってみせた。
 まさか、一見しただけでわかったなんて言えないだろう。
 緻密には程遠いことだし。
 ヘタをすれば、ちょっとした嫌味になってしまうことでもある。
 『あんた達の目が節穴なのよ』
 なんて意味にとられかねない。
 だからあたしは笑って流したのである。


「テリュースが・・・」
 すべてを話し終え、聞き終えた時。
 ハワードさんがぞくりとするような低い声で一言そう言った。
 その表情は非道く静かなものだった。
 あたしはその顔から目を外すことなく、真正面からハワードさんを見つめた。
「しかし、ここで彼を追い詰めないで欲しいんです」
「・・・残りの犯人をあぶり出す為、かな?」
「ええ・・・」
 テリーは必ず、他の犯人達との接触は謀るはずである。
 彼はあたしが何かに気付いたことを感じている。
「泳がせてみたいんですけど・・」
「常套手段ですな」
「ええ。確実性も高いし」
 ハワードさんは深い、深いため息をつくと、
「では、自警団の幾人かにテリュースを張らせよう」
 断ち切るようにそう言った。
 あたしは、何を断ち切ったのかは考えないようにした。


 そして。

 テリュース・ハワードはその姿を消した。
 幾人かの見張りに包囲されながらも、自宅から出得ることができた。
 ハワード夫人の手引きによる脱出であった。

「だって!だってあなた!テリーは犯人じゃあないのよ!?」
 応接間にて。
「ちがうの!あの子がそんな事するはずがないの!」
 ハワード夫人は泣きじゃくっていた。
 ハワードさんに責められた末、彼女は夫に食いかかった。
「私が聞いたの!そうしたらあの子・・・!」
 眉間に深いしわを刻み、ハワードさんは静かに自分の妻を見下ろす。
「はっ・・犯人を知ってるって!自首するように説得に行くって!」
 取り乱し、泣き叫ぶ夫人を自警団の連中が痛ましそうに見ていた。
 あたしは、ただ気分が悪かった。
 こんな小さな村で起こる事件なんて、犯人は自分達の知っている人物に決まっているのに。
 知り合いの身内に決まっているだろうに。
 こうなることも予想せず、彼らは調査を始めたのだ。
 気分が悪い。
 ただそれしかあたしの中にはなかった。

「なんでテリーが怪しいって思ったんだ?」
 とりあえず、夜が明けてからテリーを探すということで話は落ち着き、あたし達は部屋の戻った。
 そーいや、まだ説明してなかったけ。
「・・・道よ」
「・・・道?」
 あたしの言葉をオウム返すガウリイ。
「そう。ひどい獣道だったでしょ、現場までの山道は」
「そーいやそーだったなぁ」
「発見者はアンジェっていう名の人ってテリーが言ってたでしょ?」
「・・・・かな?」
 ガウリイが目を泳がせながら気弱に賛同する。
「言ったの!ったく、ちゃんと覚えてなさいよ、それくらい!」
 こいつに説明したところでどこまでわかるんだろーか。
「アンジェってことは女ってこと。はたして女の足できのこ採りの為だけにこんな道を通るかな、ってまず思ったわ」
「それに、あの子まだまだ子供だったもんなぁ」
「そうね。アンジェを見てほぼ確信したわ」
 ここであたし達は同時にお茶を飲んだ。
「それに、発見は昨日の朝よ?なのに」
「草が乱れてなかった?」
 めずらしくガウリイがあたしの言葉を先読みする。
「そ。一昨日には雨が降ったのに、足跡も無かったわ」
「う〜ん」
 ガウリイが首を傾げ低く唸る。
「・・・何よ」
「でもさ、発見者と同じ道を通る必要なんて別にないだろ?」
 をや。
 ガウリイにしちゃよく気付いたもんである。
「近道を通ってくれただけかもしれんだろうに」
「そうね。その可能性も考えたわ」
「・・・聞こう」
「あたしはアンジェの家に行った後、自警団の隊長の家にもいったわ」
 ここでガウリイが眉をひそめる。
 なぜ自警団の隊長の家なのかが疑問なのだろう。
 しかし、何も言わずあたしの言葉を待っている。
「ティーク鶏の死骸の片付けをした可能性が高いのは、やっぱし自警団でしょうよ」
「あぁ、そうか・・・」
「で、どこの道を通ったのか聞いてみたの」
 山中とはいえ、ある程度の舗道はあるらしく、自警団はその舗道を通ったらしい。
 もちろん、あたし達が通った獣道とは程遠いものだった。
「自警団はアンジェと同じ道を通ったみたいだわ」
「? 待てよ。俺の疑問に答えてないだろ、それじゃ」
 ガウリイが慌てたように口をはさんだ。
「近道を通ったかもってやつのこと?」
「そうそう、それだよ」
 あたしはゆっくりとガウリイの顔を見据えた。
「よく聞いてガウリイ。発見は山中の話なのよ?」
 ガウリイが大きくうなずく。
「現場を知るのは発見者と犯人だけなのよ。自警団が行くまでは」
「・・・・・・」
「自警団は、なぜ、発見者と同じ道を通ったの?」
「・・・なぜって・・・」
「発見者がその道を説明したからでしょ?」
 裏を返せば発見者は、その道しか知らないのだ。
 現場に続く道は。
 発見者にとっても自警団にとってもその行路以外はないのだ。
「・・・それでも、近道って説は・・・」
「消えるわよ。山中なのよ?住所も区切りもない場所よ?」
「・・・・・・」
 あたしの言いたい事がわかったのか、ガウリイは押し黙る。
 そう。
 目印もなにもない山の中で。
 一体だれが近道を見つけられるのか。
「アンジェも自警団もその道以外の説明なんて誰にも出来やしないのよ」

「なるほど・・・。そういう事か」
「そういう事よ」
 ガウリイがあたし顔を見て、それから天を仰いだ。
 何かを思いだそうとする時の彼のくせ、のようなものだ。
 どうやら、何かまだ引っかかるらしい。
 あたしはガウリイの言葉を待った。
「・・・でもお前。山を下りる前からテリーを疑ってなかったか?」
「そうよ。疑ってたわ」
「・・・道のことだけで?」
「・・・まさか、でしょ」
 あたしは小さく微笑した。
「言ってたでしょ、テリーが」
「何を?」
「2日前の雨でこの辺の土が崩れやすくなってる、みたいなことを」
「言ってたな。でもそれが?」
 イヤになるほど鈍い奴である。
「どーして知ってるのよ、テリーが」
「・・・・・・」
「人に聞いた?そうかもしれないわね。でも、そういう場合ってこう言わない?」
 ガウリイの蒼い瞳があたしの口元をうつしていた。
「崩れやすくなってるらしい、とかでしょ?」
「・・・そうだな」
 ま、世の中には人に聞いた話でも自分が体験したように吹聴する人種もいるが。
「あと、ガウリイが羽根の違いを見つけた時のテリーの表情ね」
「うん。あの後から急におどおどしてたよなー、あいつ」
 そこまでわかってたんなら気付けお前は。
 ガウリイらしいっていえばそれまでなんだけど。
「さ、とにかく今日はここまでよ」
「そーだな」
 言いながら大きな欠伸をひとつ。
「ほれ、部屋に戻った戻った」
「へいへい」
 しんどそうに椅子から立ち上がる。
 扉に向かい歩いていたガウリイが、こちらを振り向き真顔になってこう言った。
「なぁ、リナ。村長さんの奥さん、お前どう思った?」
「ど、どうって・・・」 
 いきなりな質問に面食らっていると、
「俺はさ、なんだか厭な気分だったよ。時々さ、俺はそんな気分になるんだ。意味もなく突然」
「・・・・・・・・」
 あたしもだわ、ガウリイ。
「なんだろ。よく味わうよ、俺」
「・・・わかんないでもないわね」
 嘘よ。わかるの、よく。
 あたしも時々、急に気分が悪くなるの最近。
「俺、予感がするよ」
「なんの?」
「この事件中、ずっとそんな厭な気分を持ちそうだ」
「そうかもしんないわね」
「そして事件が終わる時には、この厭な気分の正体もわかる気がする」
「・・・・・・・・」
 そうね。
「そんな気がするわ、あたしも」
 あたしは、その時微笑んでいたのだろうか。
 それとも静かな顔だったのか。
 なんだか自分の感情がわからなくて。
 やっぱり、とても気分が悪かった。


はい!おひさしぶりでしゅっ!
いやー、事件、進んでないですねぇ(相変わらず)。
でも、実はもう終盤なんです(笑)。←ホンマか!?
ラスト・シーンの為だけに作った話です。
そのシーンに向け爆進しますぅ!!
がんばれ!自分!!

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12290I long for your love(後編の8)あごん E-mail 11/8-01:26
記事番号12273へのコメント

 その夜。
 あたしは、夢を見た。
 しばらく前に共に旅をした仲間と過ごした時間の断片。
 たあいの無い話に興じたある夕食の席での会話を夢の中で思い出した。

「しかし、本当に人間というものは・・・ですねぇ」
 そうホットミルクをすすりながらしみじみと語り出したのは、ゼロスだった。
 あたしは途中の言葉を聞き逃してしまい、ホットサンドに伸びかけた手を止めてゼロスを振り返る。
「そうかしら?わたしはそんな風には思わないけど?」
 ゼロスに向け、聞き返そうとしたあたしの言葉より先にアメリアが口を開いた。
 アメリアに苦笑ひとつ向けると、ゼロスは、
「ははは。まぁ、アメリアさんはそうでもないのかも知れませんねぇ」
 カップから口を離さずそう言った。
「じゃあ、俺に対するあてつけか何かなわけか?」
 次に口をきいたのはゼルガディスであった。
 やや不機嫌なゼルガディスに小さく笑うと、ゼロスはいつもの掴み所のない口調で言う。
「いえいえ。とんでもない。ある意味あなたがこの中で一番程遠いんじゃあないですか?」
「・・・ふん」
 そっぽを向くゼルガディス。
 はっきし言って何の会話なのかわからない。
「ちょっと、さっきから何の話してんのよ、あんた達」
 やや苛ついたあたしの声に全員の目が集中する。
「リナさんったら何も聞いてないんですね」
 呆れたようなアメリアの表情にむかりとしたが、面には出さずに再度尋ねる。
「聞いてなかったんじゃあなくて聞こえなかったのよ!」
「だからぁ、ゼロスさんがね。人間ってゆうのは・・・な存在って言ったんですよ」
 え?
「な、何って?」
「もぅ。・・・ですよ。・・・」
 ノイズでも混ざったかの様にその部分だけが聞こえない。
「この中で一番・・・なのはリナさんかも知れませんねぇ」
「そうか?」
 ゼロスの言葉にゼルガディスが反応する。
「いや、でも。そうかもしれないなぁ」
 いやにしみじみと呟くガウリイ。
 何がなんだかわからない。
 少し。
 あたしは気分が悪くなった。

「・・・・・・・」
 寝覚めは近年希に見る不快さだった。
 夢の中とはいえ、懐かしい面々に出会えたというのに感慨は訪れなかった。
 はて。
 一体あの時、どんな会話を交わしたのだったか。
 どうにも思い出せない。
 まぁ、気にするような事ではない。
 あたしは窓に近づき、かかるカーテンを一気に引いた。
 春先の朝の日差しが差し込んできた。
 どうやら今日も快晴であるらしい。
 あたしは朝食までの時間に、今日の計画を大雑把に組み立てる作業に取り掛かる事にした。


「まず、犯人グループに対しプレッシャーをかけて欲しいんですけど」
 朝食が済み、あたしとガウリイはハワードさんの私室にお邪魔した。
 ハワードさんは昨晩の疲れが見え隠れする顔で、あたし達に目をくれる。
「プレッシャー?」
「はい。村の人たちに伝えて欲しいんです」
「と言うと?」
 あたしの目を見たままで話を促すハワードさん。
「ええ。つまり、あたし達が昨日のケアヌ鳥とティーク鶏の小細工を見破った事」
「ふむ」
「そして。テリュースさんを犯人として追い詰めた事」
「おいっ!リナ!」
 あたしの容赦のない言葉にガウリイが厳しい声を出した。
 ガウリイの顔を見上げると、そこには大きな戸惑いと責めるような小さな感情の揺らぎがあった。
「何もテリーが犯人なんて大声で宣伝する必要ないだろう?」
 正論だ。
 だがしかし。
「昨夜の騒ぎ・・・テリーを張ったのは5名いるわ」
 ガウリイの顔から目を逸らさずに言う。
「人の口に戸は立てられんないのよ、ガウリイ」
「ましてや、こんな小さな村。噂なんて広まるのに一刻もいらないでしょうな」
 あたしの言葉を継ぐように言ったのはハワードさんだった。
 そうなのだ。
 昨夜の騒ぎに居合わせたのは自警団の連中だけではない。
 ハワードさん宅のお手伝いさん達も見ている。
 ならば隠すよりも公表してしまった方がいい。
 ハワードさんの立場的にも、その方が断然いいのだ。
 公表することで、ハワードさんは村長としての信頼を一時は確実に得るであろう。
 ヘタな隠蔽はハワードさんから村民の支持を奪うだけである。
「何にせよ、私はこの事件が解決した暁には引退するつもりです」
 ハワードさんは世間話しでもするかのように喋りだした。
「つまり、この事件は私が全責任をとるつもりだ」
「・・・・・・」
 どう言葉を掛けていいのか見当も付かないあたし達は、ただ沈黙することでハワードさんの決心を受け止めた事を表した。


 村役場なのだろうか。
 小さな村に似つかわしい小さな建物の中に、あたし達は足を踏み入れた。
 ここでこれから村長による事件の調査経過が発表される。
 集うのは、一家の世帯主全員である。
 つまり、村の総世帯(50世帯ほどになるらしいが)に、これから語られる事が知れ渡るわけになる。
 ひとつ目の正念場になるだろう。


「こちらにいるのが、リナ・インバースさんとガウリイ・ガブリエフさん」
 さすがにあたしの紹介の時にはざわめきが部屋に満ちた。
 普段は忌々しくもある妙なウワサも、今は良い結果を生みそうだ。
 あたしの名を聞くであろう犯人達は、一体どんな行動に出るであろうか。
 ハワードさんが場の静まった一瞬を逃さずに、事件のあらましを伝える。
「こちらの両人が、ティークとケアヌの羽根の小細工を見破って下さった」
 ほう、と洩れる感嘆の声。
 どの住民の目を見ても、そこにはある種の色があった。
 上品に言えば、好奇の色。
 下品に言うと、品定めする色だった。
 あたしはそれらに取り合わないように、無表情で立っている。
 ガウリイにも、決して感情を顔に出さないように注意してある。
 何を考えているのかわからない。
 そう思わせることで、住民、いや、犯人にプレッシャーを更に与えられる。
 そして、話題はテリーへと移った。

 この経過報告で村民達は荒れると思ったのだが、意外にもその反応は静かなものであった。
「テリーの事は残念だが、ハワードさん。俺達があんたに寄せる信頼に変わりはない」
 それが、世帯主だけとはいえ、村民たちの意見であった。
 う〜む。
 ハワードさんってすっごい信じてもらってるんだぁ。
 騒ぎ出したら呪文を2・3発ぶちかますつもりだったのに。
 ちょい消化不良気味であるあたしを置いて、報告会は終了したのだった。


「で、これから俺達はどーするんだ?」
「ん〜、そうねぇ。とりあえず昼食でも食べましょ」
「おいおい。えらく呑気だな」
 む。
 あたしの前向きな意見に不満そうにガウリイが肩をすくめる。
「呑気であんたに勝てる人間なんていないわよ」
「そんな勝負したことないぜ、俺」
 そーゆーところが呑気王国の国王だってーの。
 あたしは大仰にため息をついてみせた。
「じたばたしたってしょーがないでしょーが」
「そうかなぁ」
「そうよ。どっちみち犯人が動くか、テリーが見つかるかしなけりゃどうしようもないのよ」
「ふぅん」
 ま、実際は動きようはあるといえばあるのだが。
 あまりにも危険な賭けでもある。
 もう少し決定力のある証拠を手にしてからだ。
 犯人はおそらく一両日中に動くであろう。
「じゃあ、とにかく昼飯だな」
「そゆこと」
 言ってあたし達はハワードさん宅へと足を進めたのだった。


 その日の夕刻。
 夕日が西に完全に沈みきるその前に、事件は再び動き出した。
 ハワードさんの元に、一通の手紙が届けられたのだった。
 村の入り口に、無造作に置かれたその手紙は風に飛ばされぬように石で重しをしてあったそうだ。
 差出人はテリュース・ハワード。
 見つけた人はただちにそれを村長の元へと運んだ。
 

「手紙ですか!?」
 あたし達は急ぎ、ハワードさんの私室へと向かい開口一番そう言った。
「ええ。これです。読まれますかな?」
「はい。よろしければ」
 ハワードさんから白い手紙を受け取り、やや慌てながら食い入るように文面に目を通す。
 横からガウリイものぞき込む。
 内容は、実に簡単で短いものだった。
 
    父さん 母さん
  心配かけてすまない。
  僕がすべての犯行を行ったんだ。
  もう村には戻らないつもりだ。
  さようなら。
  ありがとう。

 これだけがやや乱暴な筆体で書かれていた。
 読み終わったと同時に、あたしの内部で苦いものがこみあげてきた。
 一番恐れていた事態が引き起こされた可能性が高い。
 ちらりと肩越しにハワードさんを見てみた。
 その表情が、ハワードさんもあたしと同じ考えであることを物語っている。
 疲労。
 焦燥。
 悲哀。
 諦めと苛立ち。
 それらすべてが複雑に混ざり合い、難解なまでに絡み合ったその表情。
 即ち、絶望。
 テリーはおそらく・・・。
「そっか。あいつ出ていったのか、この村を」
「・・・!」
 ぼそりと、多分何も考えていないであろう発言をしたガウリイをあたしは無言で引っ張り、入って来た時と同様急ぎ部屋を後にした。
「な、なんだよ、リナ。突然」
 何故あたしに無理矢理引っ張られたのか理解できなかったのだろう、ガウリイが軽く抗議してきた。
 周囲に誰もいないのを確認してから、それでもできるだけ声を殺して怒鳴る。
「あんたホントにわかってないの!?」
「・・・・なにを?」
 場違いな程ののんびりとした口調に、あたしは怒りにも似た感情を覚えた。
「無神経っ!」
「・・・いきなりだな」
 きり、とガウリイの顔が引き締まる。
「テリーは・・・おそらく殺されたわ」
「・・・・・・」
 あたしの言葉に目を見張り唾を飲み込むガウリイ。
「・・・でも、手紙は・・・」
「犯人がテリーにそう書かせたのよ」
「どうして、そんなことがわかるんだよ」
 この呑気陛下めっ!!
 あたしは舌打ちしたいのをぐっと堪えた。
「なんであんな手紙を書く必要があるのよ、テリーに」
「・・・後悔と謝罪」
「そうね。そう考えてもおかしくはないわ。けどね」
 ちらりと周りを見回してみる。
 人の気配がする。
「・・・とにかく、部屋に戻りましょ」

 そもそも、あの手紙は誰が置いたのか。
 テリーのことを今や村人全員が犯人と認識している。
 テリー以外の人物が置いたのは疑うべくもないだろう。
 いくら住民の少ない村とはいえ、今、テリーが現れればいくらなんでも目立つ。
 テリーの友人が彼に頼まれて、という可能性はなくもないが。
 しかし、これは却下である。
 事はすでに国家レベルになってもおかしくないのだ。
 ケアヌ鳥は、女王直々の管理下にある鳥なのだ。
 ヘタを打てばこれは王族への反逆罪にもとられかねない。
 はたして、そんな重刑罪の男をかばう人間がいるだろうか。
 なにより、この事件は複数犯でないとありえない。
 その理由はおいおい語ろうと思っている。
 ならば、テリー以外の犯人が置いたのであろう。
 そこで注目すべきは文面である。
 『僕が全ての犯行を行ったんだ』
 つまり、これはテリー一人に罪を被せる為の偽装手紙である。
 ここまでの説明を聞き終えるとガウリイがため息をついた。
「国家よりも重い友情ってのはあるぞ、リナ」
「なるほど。さっきの友人が手紙を届けたって説を支持したいのね」
「支持ってほどでもないけどな」
「・・・経験談?」
 とでも言おうかと思ったが止めた。
 ガウリイのプライバシーである。
「でも、やっぱり腑に落ちないわ」
「どうして?」
「何故、今なのよ」
「? そりゃあ村の為だろう?」
「ほとぼりが冷めてからでも遅くはないわ」
「・・・・・・・」
「もっとはっきり言えば、近くの村からでもいい。普通の郵便を使った方がテリーの為にも、その友人の為にもなるじゃない」
 ガウリイがゆっくりと瞳を閉じた。
「・・・なるほど。理にかなってる」
 独白なのか、あたしの方を見もしなかった。
 なんだか少し。
 今はガウリイの瞳が見たかったあたしは、少しだけ厭な気分になった。
 
 夜が長く感じられそうだった。


うはぁ〜〜〜〜〜!!
いよいよ、物語は終盤へ!!
数々の伏線も明らかになる(かもしれない)!!
次回へ続く!!
できるだけ早く仕上げるつもりです!!
お待ち頂ければ嬉しいですぅ!!

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12298著者別のこと一坪 E-mail 11/9-02:10
記事番号12290へのコメント

自分の名前の「あごん」をクリックしてください。そして「リストに追加する」をクリックして登録してください

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12306Re:著者別のことあごん E-mail 11/10-02:19
記事番号12298へのコメント

一坪さんは No.12298「著者別のこと」で書きました。
>
>自分の名前の「あごん」をクリックしてください。そして「リストに追加する」をクリックして登録してください

  >あわわわっ!ご病気中だというのに!
   ありがとうございますっ!
   つーか、すみませんでした!
   
   ではでは、早く治る事をお祈りします。
   お大事に。

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12309I long for your love(後編の9)あごん E-mail 11/11-23:23
記事番号12290へのコメント

 一人になった部屋で、あたしはベッドに横になり目を閉じる。
 とにかく、明日の朝からのことを考えていた。
 明日は山に入ることになる。
 おそらくもうこの世にはいないであろうテリーを探しに。
 そこであたしは小さく笑った。
 ここに三文小説家でもいれば、『リナ・インバースは微かに自嘲の笑みを洩らした』とでも書いただろう種類の笑いであるのは自分でもよくわかった。
 何を遠慮して、そんな迂遠な言い回しをする必要があるのか。
 テリュース・ハワードの死体を捜索しに行く、と。
 そうはっきりと言えばいい。
 再び、あたしは笑う。
 何を自分に酔っているのよ、リナ・インバース。
 自問自答をするなんて、10年早い。
 あたしは頭まで布団を被り、ベッドの中で丸まった。
 早く寝よう。
 明日はきっと厭な一日になる。
 久しぶりに盗賊いぢめがしたいなと、そう思いながら眠りの中へと堕ちていった。


 目覚めは激しく叩かれるノックの音と共に訪れた。
「リナ!リナ!!起きろ!」
 珍しくガウリイがあたしよりも早く起きている。
「? なに・・・?ガウリイ」
 身体に重力を感じながら、あたしはゆっくりと起き上がる。
「リナ!おいって!」
 そこで漸くあたしは覚醒した。
 ガウリイの声がいつになく荒々しく聞こえる。
 ・・・何事か起こったのか!?
「待ってて、ガウリイ!すぐ出るわ!」 
 そう声を掛けてからちらりと窓へと目を走らせた。
 どうやらもう夜は空けているようだ。
 しかし、わずかに薄暗い。今日は曇模様のようだった
 あたしはベッドから降りると、すぐさま着替えを始めた。

 扉を開けるとすぐ目の前にガウリイが立っていた。
 その表情は強ばり、動揺を隠せない。
「一体何があったの?」
「それがよくわからん」
 あたしの言葉にふざけたような返答をするガウリイ。
 しかし、ふざけていないのはその顔を見れば一目瞭然である。
 つまり、本当によくわからない事が起こったのだろう。
「・・・じゃあ、わかってる事だけ言って」
 そしてガウリイは奇妙な事を言ったのだった。
「テリーからの手紙がもう一通あったんだ」
「なるほど」
 小さく呟くあたしにガウリイが目を見開く。
「わかったのか!?」
「ええ。ガウリイがわからないって言った意味がね」
 
「ガウリイはそれを誰に聞いたの?」
「いや、俺が見つけたんだ」
「は?」
 あたしは眉をひそめて聞き返す。
「だから、俺が見つけたんだ。まだ誰にも言ってないぜ」
「なんであんたが見つけたのよ?」
 ガウリイは頬をぽりぽりと掻く。
「いや、昨日な。あれから少し酒を飲んだんだ」
「・・・で?」
「んで、トイレも近くなるわけだよ」
「・・・で?」
 あたしは律儀にいちいち相づちを打ってやる。
 ガウリイは話に合いの手が入らないと要領良く喋る事が出来ないからだった。
「何気なく外・・・ええっと、中庭かな?を見たんだ」
「・・・んで?」
「そしたらなんか白い物が見えて、なんだろうって思って」
「見に行ったワケね?」
「そう。そしたら手紙だった」
「なるほど」
 あたしは顎に手を当て考える。
 そして目でガウリイに部屋の中に入るように促した。
「とにかく見てみるわ」
 言葉にかぶさるように、静かに扉を閉めたのだった。

 昨晩の手紙同様、やはり手紙は簡単で短いものだった。
 しかし、内容は全く違う代物だった。

    父さん 母さん
  心配かけてすまない。
  僕はこの事件とはなんら関わりがないんだ。
  でも、疑われてしまっている。
  そんな事実に耐えられそうもない。
  しばらく村を離れるよ。
  この事件が解決した頃には戻ってくる。
  さようなら。 

 「・・・・・・・・・」
 率直な感想はといえば、犯人が何を考えているのかわからない、といった位だった。
 先の手紙と正反対の事柄ばかりが綴ってある。
 まず、犯行の是非。
 片や犯行を認めており、片や犯行を否認している。
 そして、テリーの帰省の是非。
 一方は戻らないと言い切り、もう一方は戻ると言う。
 共通しているのは、テリーが今や村の中にいないということだけだ。
 見る限り昨晩の手紙と字体は変わらない。
 確認していなかったが、ハワードさんが言わないのならば先の手紙の字体はテリーのものに相違ないんだろう。
 つまり、この手紙もテリー本人が書いたと思っていい。
 考えられる可能性はみっつ。
 ひとつ。
 どちらかの手紙はテリー自身の意志によって書かれたモノ。
 ふたつ。
 どちらもテリーが犯人に無理に書かされたモノ。
 みっつ。
 これは可能性としては一番低いが、どちらもテリー自身の意志によって書かれたモノ。
 あたしはひとつひとつの場合について状況を仮定してみる。
 まず、ひとつ目。
 どちらかがテリーの意志によって書かれた場合。
 これが可能性としては一番高いのではないか。
 しかし、どちらがテリーの意志によるかによって状況は異なる。
 犯行を認めている場合ならば、昨晩にガウリイに話した通りの妙な点が出てくる。
 後で気付いたことなのだが、先の手紙には、事件に対する謝罪の文がないのだ。
 これはおかしくはないだろうか。
 犯行を認めて両親に心配を掛けていることを謝罪するような人間が、最期になるであろう決別の手紙において、犯罪について謝罪ひとつしないなんてことがありえるだろうか。
 犯行を否認している場合ならば。
 それでもやはりおかしい。
 ちょっと考えればわかるはずである。
 流れの魔道士風情が、言葉尻や微妙な感情の変化を捉えてテリーを犯人扱いしても、村民全てが身内同然の小さな村で、一体何人がテリーに後ろ指を指すだろうか。
 実際、見張りについていた自警団もテリーが逃げるまでは疑っていなかったはずだ。
 無実を叫び続ければ必ず証明される、とまでは言わないが村人がテリーを頭から疑うなんてありえない。
 そんなに悲観的になる必要などないはずだ。
 あたしはこめかみに指を当て、頭痛をこらえる時のように低く呻いた。
 ふたつ目。
 どちらも犯人に書かされた場合。
 しかし、これとて後の手紙がいつから中庭にあったのかある程度の時間が絞れない限りは、仮定するだけでも一苦労である。
「う〜〜〜〜〜〜〜ん」
 これ以上可能性だけを追求してもしょーがない。
 ぶるぶると頭を数回振り、あたしはガバっと顔を上げた。
「とりあえず。ハワードさんのとこへ行きましょ・・・」
 言いかけて、あたしはその場にへちこけた。
 ヒマだったのだろう。
 ガウリイがぐーすかぴーと寝こけていた。


はあ。
我ながらなんだかクドイ小説だなぁと呆れております。
まあ、くどくない推理小説もないだろうと、自分で自分を慰めております。
とりあえず、次からはアタマよりもカラダを使う予定のリナ達ですから。
そうそうクドイ文章にはならないでしょう。
ではでは、また次回にて!


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12338I long for your love(後編の10)あごん E-mail 11/15-23:30
記事番号12309へのコメント

「いってぇぇなぁ、何も殴るこたないだろう?」
 ガウリイがぶーぶー文句を垂れながらあたしの後を連いてくる。
 うっとーしいことこの上無い。
「やかましいわよ、ガウリイ。殴るなんて大袈裟ね」
「アレを殴ると言わなくてナニを殴ると言うんだ、お前は」
「アレは殴ったんじゃあなくて、チカライッパイ握った拳をチカライッパイ後頭部に当てたって言うのよ」
 チカライッパイの箇所に思いっきりアクセントをつける。
 ガウリイは疲れた声で、
「・・・なるほど。お前の故郷じゃあそう言うわけだ」
 あたしの決め台詞のひとつを口にした。
 ふみゅ。よくわかってるじゃない。
「そーゆー事。無駄口はここまでよ」
 あたしはぴしゃりと言い放つ。
 目の前にはもうハワードさんの私室の扉が見えていた。
「・・・誰かいるな・・・」
 ぼそりとガウリイが扉を見ながら言う。
 ガウリイに言われるまでもなく、あたしもその気配に気付いていた。
「・・・先客みたいね」
「三人ってとこかな」
 確かに、中からする気配は単数のものではなかった。
 まぁ、その内の一人をハワードさんとして。
「お客さんは二人ってことになるわね」
 そこでちらりとガウリイの顔を振り仰ぐ。
 こくりと小さく頷くガウリイ。
 来客中の訪問の無礼は承知。
 しかし、こんな朝早くに訪れる人間の顔を見ておきたい。
 あたしは右手の甲で扉を軽くノックした。


「どうぞ。お入り下さい」
 ノックの後に聞こえた声はハワードさんのものだった。
「失礼します。リナ・インバースですが」
 言いながらゆっくりと扉を開ける。
 開けた視界にまず飛び込んできたのはハワードさんだった。
 昨夜と同じ椅子で、昨夜と同じ姿勢で座っているのが目に入る。
 そして。
 ハワードさんと向かい合い座る人影が次に目に入った。
「来客中だったんですか」
 わざとらしく言い、ちらりと彼らに目をくれる。
 人影はふたつあった。
 くすんだ金の髪を持つなかなかの美青年と、その青年に寄り添うように座る細身の少女。
 ディーン・ローラントとジョイス・グリニー。
 挑戦的な瞳と怯むような瞳。
 実に対称的な視線ふたつがあたし達を迎えてくれた。


「お早いですな、お二方」
 ハワードさんが立ち上がりながら言った。
「おはようございます。ええ、ちょっと気になることがありまして・・・」
 ちらりとディーンとジョイスを見る。
 ハワードさんはその視線を人払いと取ったらしい。
 彼らに向き直ると、扉を目で指し示す。
「さあ、話は終わりだ。出なさい」
 優しい口調ではあったが、反論を許さない口調でもあった。
「そっ、そんな村長!なにも終わってなんかない!」
 しかし、負けじとディーンが食らいついた。
「いやいや、いいですよ、別に」
 ぱたぱたと手を振りながら、あたしは両者の間に割って入った。
 ハワードさんは「おや」と言わんばかりに眉を上げる。
 ディーンは拍子抜けした顔でこちらを振り返った。
「事件の話ではないんですかな?」
 少々戸惑い気味に、ハワードさんが聞いてくる。
「もちろん事件の話です」
 涼しい顔で答えるあたし。
「第三者がいても構わない類の話ですか?」
「この事件に第三者はいません」
 あたしの言葉に全員の表情が動く。
 あたしはそれらの動きを、気付かれないように観察した。
「深い意味なんてありませんよ。ただ村全体の事件でしょって事です」
「ああ、なるほど」
 納得顔で頷くハワードさん。
「でもっと。その前に」
 ここであたしはディーンとジョイスを返り見た。
「どーしてこんな朝っぱらから二人はいるわけ?」
「あんたには関係ないだろう」
 むかっ。
 ディーンの無礼千万な言い方に反応を示したのは、あたしではなくハワードさんだった。
「・・・ディーン。私の客人だ。そんな振るまいは許さんぞ」 
 こぇぇ。
 はっきし言って、怒鳴られるよりもこういった静かな怒りの方が人間は怖く感じられるモノである。
 ましてやハワードさんのような人格者のそういった種類の怒りはなおさらである。
「・・・テリーの事だよ」
 舌打ちでもしかねない口調でディーンが答える。
「事件について話があったってこと?」
「事件じゃあない、テリーについてだ」
 あたしの質問に即答する。
「同じことよ」
 あたしは冷たく言い放つ。
「違います!テリーは犯人なんかじゃあないわっ!」
 ジョイスが涙の溜まった瞳で切実に言う。
「・・・どーしてそんなことが言えるわけ?」
 あたしはなるべく疲れたように言った。
「テリーとは親友なの、私たち」
「理由になってないわ」
「テリーはそんな男じゃあないって言ってるんだよ」
「話にもなんないわ」
 冷徹といえば冷徹なあたしの言葉に、ディーンがぎりっと歯ぎしりをする。
 ガウリイがちょんちょん、っとあたしの肩をつつく。
「なによ、ガウリ・・・」
 振り返り言いかけて。
 あたしは言葉をつまらせた。
「・・・・・・・・・・」
 ガウリイはただ無言であったが、その真摯な瞳が語っていた。
 テリーの父親が同席しているのを忘れるな、と。
「・・・・・・・・・・」
 あたしはやっぱり無言でガウリイに応える。
 わかったわ。
 そう一言だけ、瞳で告げた。
 伝わったのだろうか。
 他の人が見てもわからないであろうほどの微妙な表情の変化。
 ガウリイが満足そうに、だがそれとは思わせない笑顔を作った。
 多分。
 あたしだけしか気付かないであろう、ガウリイの微笑であった。
「で、あんた達はテリーの無罪を主張しに来たってわけ?」
 あたしは二人を見据えてそう言った。
「・・・まぁ、そんなところだ」
「・・・・・ええ」
 恋人達はお互いの目を交じわせてから頷いた。
「それだけでこんな早朝から?」
「・・・・・・」
「・・・・・・」
 何も答えなくなった二人に代わり、ハワードさんが発言する。
「それだけじゃないんですよ。何故テリュースを犯人と断定したのか教えろ、とね」
「!?」
「・・・!」
 ほぉぅ。
 ハワードさんの言葉にディーンは目を見開き、ジョイスは目を伏せた。
「どーして、そんなことを知りたがるの?」
「あんたには関係ないだろう」
 さっきと同じセリフをのたまうディーン。
 しかし、今度はハワードさんが口を挟むより早く。
「関係あるないはあたしが判断することよ」
「・・・っ!単なる私情だよ!」
「どういった私情なわけ?」
「そこまであんたに言わなきゃいけないのかよ!」
「素人の勝手な判断で事件を混迷させた、なんて例は腐るほど知ってるわ」
「・・ちっ!」
 あたしとの矢継ぎ早な問答にディーンが舌打ちする。
「・・・俺達が聞いて、もし納得出来ない箇所がひとつでもあったら、テリーの疑惑を晴らせると思っただけだよ」
 なるほど。
 随分な言い訳である。
「ま、納得しといてあげるわ」
 あたしはさらりと話を流し、ハワードさんを再び振り返る。
 いや、正確には。
 振り返りながら、一瞬の彼らの表情を捉えたというべきか。
 ディーンは忌々し気に。
 ジョイスはどこか安堵したように。
 話題を変えるあたしを見ていたのだった。
「で、ハワードさん。少しお聞きしたいんですが」
「なんですかな?」
「昨日、中庭の方に足を踏み入れたのは誰で、それがいつ頃かわかりますか?」
 あたしの唐突な質問にハワードさんは目を丸くした後、顎に手を当て目を閉じた。
「ん〜、昨日、ですか」
 唸るように呟く。
「いや、昨日は誰も中庭には行ってませんな」
「お手伝いさんとかも?」
「ええ。昨日は一昨日の騒ぎのこともあって、彼女達には休暇を与えましたから」
 おお。そーいえば。
 昨日はお手伝いさんの姿を見ていないのを思い出した。
 きのーはバタバタしてて気付かんかったなぁ。
「家内もあの通り。部屋から一歩も出てませんし」
「・・・なるほど」
 と、ゆーことは。
 話は戻るが、仮説その二。
 犯人が両方の手紙をテリーに書かせた場合。
 いつでも犯人は中庭に入れたことになるわけだから、これはどちらの手紙を先に届けるだったのか、をかんがえるべきだろう。
 例えば。
 この中庭の手紙を先に置いた場合。
 犯人はテリーを殺すつもりがなかったと考えられる。
 そのために否認を訴えたのだろう。
 こうすることで、村の人々から事件の犯人当ての惨さを引き出せる。
 これでもう二度と犯行がなかったら、この小さな村はなあなあで終わらせられることができるのだ。
 そう。身内ゆえに。
 無かったフリができるのだ。
「犯人を捜し、一人を疑ったことでその青年を傷付けた」
「いや、傷付いたのは村全体だ」
「もう事件も起こらない」
「きっと外部犯だったにちがいない」
 そう結論付けまいか、この小さな村は。
 そして、中庭の手紙を読んだあと昨夕の手紙が見つかると。
 ・・・・・・・。
 いや!おかしい!
 確実に矛盾しているではないか!
 あたしは思考を止めた。
 溢れ出る言葉。
 そうだ。
 ちがう。
 そうだ。
 矛盾だ。
 あたしは小さな閃光を見たような気がした。
 これは。
 この二つの手紙は。
 ちらりと、ディーンとジョイスの顔を見た。
 目が合う。
 挑戦的なその目と、怯むようなその目。
 なんと対称的な。
 そう。
 この二つの手紙は・・・!
「リナさん?」
 あたし中で今まであった言葉の奔流が止まる。
 ハワードさんの声によってだった。
「え?・・あ、ああ。すいません」
「急に黙り込むから何事かと・・・」
 あたしはぽりぽりと頬を掻いた。
「すいません、ボーっとしちゃってて」
「中庭がどうしたんですかな?」
 ハワードさんが真正面からそう聞いてきた。



はわわわわ〜。
中と半端なトコロで終わりです。
次回こそ、体を使えよ、リナ・ガウリイ。
あごん心の俳句(季語が入ってませんよ!)
つーかわたしですね!てへ☆ 
明日、昼の仕事休みなので、続き書きます!
ではでは!!

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