◆−冬に咲く春花(後編<下>其の六・深動編)−あごん(8/10-17:59)No.11405
 ┣あと二回ですね。−王静惟(8/12-12:35)No.11434
 ┃┗Re:あと二回ですね。−あごん(8/12-22:13)No.11439
 ┗冬に咲く春花(後編<下>其の七・邪動編)−あごん(8/13-01:14)No.11442
  ┗冬に咲く春花(後編<下>其の八・凄動編)−あごん(8/14-00:34)No.11444
   ┗冬に咲く春花(後編<下>其の九・終動編)−あごん(8/15-00:40)No.11450
    ┣ありがとうございましたm(__)m−MIYA(8/15-01:18)No.11451
    ┃┗ありがとうございます(感涙)!−あごん(8/16-02:52)No.11464
    ┣ご苦労様でした!!−王静惟(8/15-11:20)No.11457
    ┃┗恐縮の至りですっ(嬉涙)!−あごん(8/16-03:06)No.11465
    ┗冬に咲く春花(ボツ話と書き忘れ)−あごん(8/16-23:50)NEWNo.11476


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11405冬に咲く春花(後編<下>其の六・深動編)あごん E-mail 8/10-17:59


「すいません、サラディ・レイルの家に行きたいんですけど」
 町長の家からちょい離れた家で、庭掃除をしているおばちゃんにそう声をかけた。
 おばちゃんは掃除していた手を止め、胡散臭そーな目であたし達を振り返った。
「なんだい、あんたら?サラディの家なんか知ってどうする気だい?」
「あー、怪しい者じゃあないんです。町長にたのまれて今回の事件を調べているんです」
 あたしがそう言うと、おばちゃんは手をポンと打ち、
「あぁ、あんたらが町長ん家にいる魔導士かい」
 もの珍しそうにじろじろとあたしの格好を見た。
「ええ、まあそーなんです。で、サラディ・レイ・・・」
 言いかけたあたしの言葉を、おばちゃんの大きな声が遮った。
「へえぇ!初めて見たよ、これが魔導士かい!」
 これ・・・って。をい。
 おばちゃんはあたしのジト目にも気付かずに、なおも不躾といってもいい様子であたしの周りをぐるぐると回る。
「いやー、ホントに怪しい格好をしてるんだねぇ!変質者と紙一重じゃないか!」
「へ、変質者・・・」
「いやいや、なにか得した気分だねぇ」
「あ・・あのー、話が逸れまくってんだけど」
 さすがに愛想笑いも出来ないあたしの言葉におばちゃんは、
「あ、そーだったね、サラディの家だったね」
 なぜか機嫌の良い顔で応対したのだった。
 やっと、おばちゃんがサラディの家を説明し始め、あたしもその家がどこにあるかわかり、おばちゃんに礼を言ってその場を去ろうとした時、おばちゃんが悲しそうな顔で、
「あんた達、リオンに何か聞くつもりかい?」
 そう問いかけてきた。
「なるべく、そっとしておいてやって欲しいんだよ」
「・・・・・・・・・・・」
「そりゃあ仲の良い兄妹だったんだよ、リオンとサラディは」
 あたし達の沈黙を話の続きを促していると解釈したのだろう。おばちゃんは言葉を続ける。
「ご両親が事故で3年前に亡くなってから、2人で手を取り合うようにして生きていたんだ。サラディがあんな無惨な殺され方をされて、リオンの嘆きようといったら見ちゃいらんなかったよ」
「・・・大丈夫よ、簡単な事だけしかきかないわ」
「そうかい?・・・だったらいいんだけどねぇ。やっと最近リオンが立ち直ってきたトコロだからさ」
 おばちゃんは、空の一点を見たままそう呟いた。
 おっと、これを聞かなくては。
「あと一つ、ちょい確認しときたい事があるんだけど」


「来ると思うか?」
 そうガウリイが聞いてきたのは、町の中央通りをリオンの家へと歩いている時だった。
「? 誰が?」
「だから、ルーティがだよ」
「ああ、ルーティのことね。来るわよ、間違いなくね」
 あっさりと言ったあたしに、ガウリイは、
「いいのかよ、来ても」
 釈然としない表情で言う。
「うん、別に構わないわ」
「・・・じゃあ、なんでさっきはあんなに来て欲しくなさそうだったんだ?」
「ん〜、来て欲しくないじゃなくって、一緒に来て欲しくないって意味だったのよ」
「なんで?」
 まったく、相変わらず何も考えてないんだから。
 先刻のルーティに対する機転の利き方は何だったんだ。意味がわかっててやっているモンだとばかり思っていたが、どうやら、あたしがルーティに来て欲しくなさそうだったから協力したらしい。
 その場の雰囲気だけで生きている男である。
「当たり前でしょーが。道々説明するつもりなんだから」
「なにを?」
 暴れそーになる身体を、どーにか押しとどめて、根気よく答える。
「だぁかぁらぁ、なんでリオン・レイルが怪しいのか、をよ」
「なるほど」
 ホントに、鈍い奴である。
「じゃあ、リオンの家でルーティに会う分には構わないのか?」
「う〜ん、構わないってワケでもないけど」
「いない方がいい?」
 あたしは、こっくりと頷いた。
 正確には、どっちでもいいのだが。
「どのみち、リオンを追い詰めるつもりはないわ」
「じゃあ、本当に証拠だけ見つけるつもりなのか?」
「そーよ。そう言ってるじゃない、最初から」
 言ってガウリイの瞳を覗き込む。
 ガウリイは苦笑してから、あたしの頭に手を置いて、
「信用してるさ、お姫様」
 くしゃりっと、いつものように一撫でした。
 なぁにが、信用してるさ、よ。さっきまですねていたくせに。
「じゃあ、なんであのエルなんとかさんに言わなかったんだ?」
 エルなんとかさん・・・っておい。やっぱし長い名前は覚えんないのか。
「エルグラントさん、ね。別に言ってもよかったんだけど、どうしても何人かの部下がついてくるでしょう?そんなの連れて行った日にはヘタ打ちゃ、犯人が自害する恐れがあるからよ」
「そーかな、あの人だったら説明すれば一人で来てくれるんじゃあないか?」
 ふっ。わかってない奴。
「そうかもしんないわ。でも、新たな被害者が出た今、現場を離れるのは一苦労のハズよ。離れたかったらあの隊長に言わなきゃなんないのよ?あたしと一緒に行動するなんて知れたらどーなると思う?」
「・・・・・さぁ?」
「思考回路が思考迷路になっちゃってんのね、ガウリイ」
 わざとらしくため息をつき、
「猛反対、もしくは自分にまかせろ、なーんて言い出すんじゃない?」
「なるほど」
「そーゆーコトで、あたし達2人で行動するってワケよ」
「それはわかった」
「なにがわかんないワケ?」
 ガウリイは一つ肩をすくめると、
「なんで、リオンが犯人なんて思ったんだ?」
 至極もっともな事を聞いてきた。
 おお、まずはそれを説明せねば。
「ん〜〜。どこから言えばいいかしらね」
 あたしは顎に手を当てて、しばらく考え込んだ。
「そうね。リオン・レイルは間違いなく」
 ここで一旦区切り、ガウリイを振り返った。
「呪術士よ」


「呪術士?」
「知らない?」
 低く唸ってガウリイは腕を組んだ。
「いや、知ってるといえば知ってる・・・けど」
「詳しくはわかんないのね?」
「ああ。魔導士とどう違うんだ?」
 今度はあたしが低く唸って腕を組んだ。
「うーん。そうねぇ、速効性かしらね」
「術の?」
「そ。それと、効力の利く場が違うわ」
「よくわからんが・・・・」
 まあ、これはガウリイでなくても、魔術の素人ならわかりにくいだろう。
「一応説明しとくわ」
 無駄かもと思いつつ、あたしは説明を始めた。
 魔導士と呪術士がある標的を狙ったとする。
 たとえば、大岩だったとする。
 目的を大岩の破壊としよう。
 魔導士ならば、呪文を唱え、場合によっては印を結び、術を発動させて文字通り大岩を破壊する。
 対して呪術士は、儀式を行い、呪文を唱えて時間をかけ、大岩を消滅させる。
 人間を狙ったとしよう。
 やはり、魔導士は大岩と同じく破壊するだろう。
 しかし、呪術士はというと。
 相手を自害に追い詰めることができるのだ。魔導士は他殺死体しか残せないが、呪術士は自殺死体をつくることができるのだ。 

「つまり、そういうこと」
 説明を終え、あたしはガウリイの表情を見た。
 イマサンくらいわかっていないようではあるが、まあ、なんとなくはわかったであろう。
「あー、要するに、対物的かどうかって事か?」
「ん〜〜、そうじゃあないんだけど、ま、それでいいわ。詳しく言ってもこんがらがるだけだろーし」
「ふぅん。で、なんでリオンが呪術士なんて思えたんだ?」
「遺体の放置場所よ」
 はて、とガウリイは首をひねる。
「放置場所つってもバラバラだったじゃないか」
「バラバラすぎだわよ。南北と、北東、南東、北西に南西よ?これは六紡星の型よ」
「・・・どーゆー事だ?」
「結界よ。死体によって創られた、ね」
 まだよくわからないのか、顔をしかめて、
「・・・どーゆー事だ?」
 あたしに尋ねる。
「だぁぁっ!もーここまで言やわかるってなモンでしょーがっ!」
 気の長いあたしもさすがに堪え切れずに叫んだ。
「死体を使って、この町全体を包み込む結界をつくってたのよ!犯人は!!」
「・・・・・・・・」
「そんで、あんた言ってたでしょーが!この町はおかしいって!有るべきものが無い気がするって!」
「言った」
「その通りなのよ。自分に対して何者も干渉できないという結界だったのよ、これは」
 やっと理解できたのか、ガウリイは目を見開く。
「そんな事が・・・できるのか?」
「ええ、できるわ。呪術士ならば、ね」
 ガウリイは言葉もなく立ち止まった。
「なんで、リナはわかることが出来たんだ?」
「ガウリイの言葉よ。見落としをさせられているって言ったじゃない?その時にね、結界があるって気づいたのよ。結界なんていっても呪いだからね、所詮は。つまりあたし達は呪いを解いたってこと」
 あたしが言うと、ガウリイは少しだけ笑った。
「なに笑ってんのよ?」
「いや。笑ったわけじゃないんだが」
 そこで、あたしの肩の手を乗せて、
「おれ、ちゃんとリナの役に立ったんだなって」
 囁くように耳元で言った。
 かぁっと血が顔に昇ってきたのがわかった。
「あんたはおつかいがちゃんと出来たお子様かぁ!」
 照れ隠しに、ガウリイの脛に思いきり蹴りをくれてやった。
 痛がるガウリイを視界の端に捉えながら、あたしは言った。
「もう一つ。死体を切り取った謎も言っとくわ」



多分、あと2回くらいで終わります。
なにぶん、初めての小説ですのでご勘弁を。
次回こそ!『目指せ!ガウリナで血みどろ!』を達成いたします。            

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11434あと二回ですね。王静惟 E-mail 8/12-12:35
記事番号11405へのコメント

今日は!!王静惟です!!
なるほど、犯人が分かったのですね。
でもその動機は!?
また、ルーティにはなんの関係です!?
続きが早く読みたいです!!
あごんさん、是非頑張って下さいね!
じゃ、私は今日はこの辺。
ではでは。

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11439Re:あと二回ですね。あごん E-mail 8/12-22:13
記事番号11434へのコメント



>今日は!!王静惟です!!
>なるほど、犯人が分かったのですね。
>でもその動機は!?
>また、ルーティにはなんの関係です!?
 >こんにちは。一応、これからの展開としては、刑事モノです(笑)。
>続きが早く読みたいです。
 >はい。早く仕上げようと思っております。
>あごんさん、是非頑張って下さいね!
>じゃ、私は今日はこの辺。
>ではでは。
 >いつもいつも有り難う御座います。
  生きてて良かったなぁと、両親に感謝しています(?)。
  というか、王静惟様に感謝しています。
  ではでは、失礼致します

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11442冬に咲く春花(後編<下>其の七・邪動編)あごん E-mail 8/13-01:14
記事番号11405へのコメント

 切り取られた遺体の謎。
 この事件の真相であり、儀式の目的であろう。
 はっきし言って、8人目の犠牲者が出なければ、あたしには、いや、誰であれ事件の核心に触れ得なかったのではないだろうか。 
 そう。
 ネイティ・グリーンの遺体が無ければわからなかっただろう。
「遺体の謎・・・かぁ。謎っていや全部が謎だろう?」
「いえ、ちがうわ。意味のある行為だったのよ。犯人にとって、ね」
「剥ぎ取ることが?」
 切り取る、ではなくて剥ぎ取る、という言葉をガウリイは使った。
「その通りよ。なぜ、犯人は遺体を骨だけ残したのか。ネイティの遺体を見た時にピンときたわ」
 正しくは、結界を解いた時なのだが。言うとガウリイがまぁた調子に乗りそうだから、言わないことにする。
「ん〜?たしか、両手首・・・だっけ?」
 一生懸命思いだそうとしているのだろう、こめかみに指を当て考え込む。
「だけじゃあないでしょ?」
 しょーがなしに助け船を出してあげるあたし。
 更に苦悩の表情を浮かべて、唸るガウリイ。
「ん〜〜?待てよ、確か。右手・・・だったかな、の指が1本だけ」
「そうよ。左手だけどね、薬指だけが骨ごと切り取られてるわ」
 ガウリイの言葉を継ぐようにあたしは言った。
 左手の薬指を、じっと見つめるガウリイ。彼なりにその意味を探ろうとしているのだろう。
「左の薬指かぁ・・・。結婚指輪ぐらいしか思い付かねえなぁ」
「それ、多分正解よ」
「ふぅん。正解かぁ・・・って!えぇ!?」
 独り言のつもりだったのに、横からいきなし思いも寄らないことを、さらりと言われて素っ頓狂な声を上げる。
「まぁ、多分だけどね。答え合わせしないとわかんないわ」
「ど!そーゆーことなんだ!?一体!」
 うーみゅ。余計にこんがらがったらしい。
 説明の順序を間違えたかもしんないな、と思いつつ次の言葉を考える。
「あともう一つ。左手の薬指だけを骨ごと切り取られた娘がいるわ」
「・・・・・・いたっけ?」
「いたわよ!それがサラディ・レイル。一番目の被害者よ」
「・・・・・・それが、この事件の解明につながるのか?」 
「と、いうよりも、事件そのものになるわ」
 本日何度目になるか、またまたガウリイは腕を組んで考え込む。
「あたしが、どうしてリオン・レイルを犯人と思ったのか、説明するわ」
 まず、リオン・レイルが呪術士かどうかは、あとでの思い付きだった。
 つまり、呪術士=犯人ではなくて、犯人=呪術士と推理しただけなのだ。
 なぜ、犯人は、骨を残したのか。
「なんでだと思う?」
 ガウリイに尋ねてみた。
「・・・さあ?いらなかったんじゃあないのか?」
 ほぼヤケになっているかのような返答だったが。
「その通りよ。いらなかったのよ」
 あたしの言葉にガウリイは足を止めた。
 いいだろう。このままでは説明が終わらないうちに、目的地に到着してしまう。
 あたしも同じく足を止めた。
「なんでいらなかったんだ?」
「決まってるじゃないの」
 その時、一陣の疾風が通りを吹き抜けた。
 冬ももうすぐ終わりだったが、それを感じさせない、冷たく容赦のない風だった。
 乱れた髪をかきあげてから、あたしはゆっくりと言った。
「骨はもうすでに、手元にあったからよ」

 ガウリイの喉が上下する。
 ごくり、と唾を飲む音が聞こえてきそうだ。
「手元に・・・?犯人の・・・?」
 言葉の意味を噛み砕くようにして、ガウリイが口を利く。
「そうよ。あったのよ、ただひとつを除いてね」
「・・・左手の・・・薬指・・・か?」
 段々と理解しつつあるらしい。ガウリイはあたしの瞳を真っ直ぐ見つめている。
「そう。骨は、左手の薬指以外はあったのよ。だから、いらなかったの、そこ以外の骨は」
 だから、ネイティの遺体は左手の指1本だけ、骨ごと切り取られたのだ。
「・・・・そうか・・・。だから、あの時、あのおばちゃんにあんなこと聞いたのか」
 どこか疲れたようにガウリイがつぶやく。
 そう。道を尋ねたおばちゃんに、あたしはこう質問した。 
 リオン・レイルは、サラディ・レイルの葬儀をしたのか、と。
 おばちゃんの答えは、こちらの予想通り、否、であった。
 つまり、リオン・レイルの手元には、サラディの死体が残っている可能性は、極めて高いのだ。
「でも、もし、葬儀をしてたって話だったら、どうしてたんだ?」
 素朴な疑問をガウリイが口にする。
「それでも、やっぱり怪しいのは肉親よ。肉親だったら、朝から晩まで墓参りしても、だれもおかしいなんて思わないわ。ましてや、無惨な最期を遂げた死者の肉親ならば」
 ちらり、とガウリイの顔に目を遣る。
「今までで、なにか質問は?」
 そう言うと、眉間に深くしわを刻む。
「ひょっとして、犯人の狙いって・・・」
 やっと、わかったらしい。
「そうよ。骨は手元にあった。無いのは、血と、肉と、皮だったのよ」
「そうか・・・。剥ぎ取る部分がばらばらすぎると思ったら、そういうことだったのか」
 ばらばらで当たり前なのだ。同じ部分などいらないのだから。
 そう。
 犯人、いや、リオンは、少女の身体の部分同士を継ぎ合わせて。
 1人の少女を、創ろうとしているのだ。
 
「でも、なんでそんなことをする気になったんだ?」
 わからないのも当然だ。あたしでも噂位にしか知らないのだから。
「言ったでしょ?呪術士だって。あるのよ、呪術に。そういう禁呪が」
 昔、とはいってもまだ50年くらいしか経ってないが、呪術がある事件を起こした。
 死霊術とは違った意味での、死体を使った呪術。
 死霊術というものは、死体に低級霊を遣わし、死体を意のままに操る術である。
 それに対し、その呪術は、いわば魔導士の研究におけるキメラのようなものだった。
 ある骨に、人肉をかぶせる、という代物だった。
 人肉。まさしく文字通りで、生きたままの人間の肉を剥ぎ取っていたのだ。
 その呪術士が何の目的でそんな事をやらかしたのかはわからない。
 ただ、それは、呪術においての禁呪となったのだ。
「へぇ・・・。そんな事件があったんだ」
「ん。あたしも畑が違うから詳しくは知らないのよ」
「じゃあ、その呪術士も、死体の部分を剥ぎ取り、集めていた?」
「さあ?そうかもしンないし、違うかもしんないわ」
 そこで話しを区切り、あたしは止めていた足を踏み出す。
 ガウリイも後をついてくる。
「なんにしても、相手はかなりヤバイわ」
「わかってる。油断なんかしないさ。ちょっとでもおかしい雰囲気になったら、すぐに剣を抜くつもりだ」


 町の北の方角に、その家はあった。
 見た感じでは、全くその辺の家と変わらないのだが。
 しかし、呪術士というものは、魔導士とはちがい部屋一つあれば事足りるのだ。そう。いっちゃえば魔法陣を書くスペースさえあればいい。
「んじゃ、行くわよ」
「ん。わかった」
 短い会話ひとつ交わしただけで、あたし達はレイル家の門をくぐった。

「すいませぇん。誰かいませんか?」
 んーむ。何度ドアをノックしても返事がない。
「留守かな?」
 ガウリイが言う。
 あたしはもう一度ノックをした。
 やっぱし返答は返ってこなかった。
「どうする?」
「しょーがないわね」
「出直すとするか?」
 ガウリイはその大きい肩をすくめた。
 ふっ。あたしという人間がまだわかってないわねー。
 くるり、とガウリイと向き合い宣言した。
「忍び込むわよ」
 声もなくその場で盛大にひっくりこけるガウリイ。
「言っとくけど、本気よ」
 有無を言わさないあたしの迫力に、ガウリイはただ無言で頭を振った。

 ちゃっちゃとドアの鍵を自慢の針金で開けて、ゆっくりと室内に足を踏み入れた。
 妙な匂いが鼻腔をついた。
 カビ臭い、とも少し違う。
 ほこりの匂いとも、また違う。
 しかし、どうやら、人はいないようである。人気が全くない。
 とにかく、呪術士としてに証拠、もしくは死体かなにかを見つけねばならない。
 正面の、木製の扉が目に入った。
 ガウリイに目で合図して、その扉に近づいた。
 瞬間。
 視界が横転し、直後に身体の右側に激痛を覚えた。
 どんっ、と何か倒れる音が耳に届いた。
 隣にいるガウリイが、地に身体を伏せていた。
 いや、違う。
 倒れているのだ。
 そしてあたしも、身体の右側から床に倒れこんだのだ、という事に思い至るまで時間がかかった。
 何が起こったのか、わからない。
 ただ、意識がゆっくりと、闇に堕ちていくことだけがわかった。
 そして。
「不法侵入でしょう、リナ・インバース」
 若い男の声が頭上から響く。
「この家、それ自体にね、結界が張ってあるんだよ。そして、ね。とある香を焚いてあるんですよ。呪術士ならばすぐに気付いたであろう、睡眠効果の強い香、がね」
 しまった。浅はかだった。
 油断した。頼りすぎた。
 ガウリイの勘に、剣に。
「おやすみ」
 その声を最後に、あたしは意識を手放した。



きゃ〜〜〜!
やっとここまできましたよう!
いよいよ、対決、です。
流血は、次回ですね←たのしそーだなオイ。

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11444冬に咲く春花(後編<下>其の八・凄動編)あごん E-mail 8/14-00:34
記事番号11442へのコメント

 名はなんといったか・・・。
 どうしても出てこない。
 なぜ、だろう。  
 長い銀の髪が風にたなびく。
 凛とした、しかしどこか淋し気な瞳。
 消えいりそうな、その微笑。
 その隣にいつもたたずむ男は、陽気に、だが皮肉な笑みを口の端にのせている。
 名はなんといったか。
 知っているはずなのに。
 どうしても呼べない。
 頭が、痛い。
 ずきずきと痛む。
 割れそうだ、頭が、痛い。
  ごつんっ。
 痛いっ!
  ごつんっ!
「いったーーーいいぃ!!」
 思わずあたしはそう叫んだ。
 途端。
 今までの景色は消え、代わりに薄闇の世界があたしを迎えた。
 目の前、まさしく顔のすぐそばにガウリイの顔があった。
 と、いうか近すぎる。
 そう思う間にも、ガウリイの顔は更に接近してきた。
 なにをする気なのか考えるよりも早く。
  がっつんっ!
 おでこに衝撃が疾った。
 ガウリイに、頭突きをかまされたのだった。

 思い出した。
 そうだ。あたし達は留守だと思い、リオン・レイルの家に侵入して、そして薬物によって昏倒したのだった。
 今更だが、苦い後悔が胸に染み渡る。
 あたしもガウリイも、手足をしっかりと戒められてさるぐつわを噛まされていた。
 なるほろ。
 それで頭突きなんかしたわけね、ガウリイは。
 この状態では、揺り起こすことなんてできないし、声も掛けられないのだから。
 勿論、最初はそんな事わかんなかったので、ガウリイには鬼殺しとまで言われた、あたしの蹴りを食らわせてしまったのだが。
 まぁ、事故ってことで済ませてしまおう。
 世の中、悪意がなければ何をしてもいーのである。
 それはともかく、なんとかしてこの状況を打破しなければならない。
 どうやら、ここは地下室かなにかのようだ。
 地下独特の、じめついた空気があたし達を包んでいる。
 手足を縛りつけてある縄も、ちょっとやそっと暴れたからいじゃあ解けそうもない。
 部屋に一通り目を巡らす。
 おそろしいほどに、何も無い部屋だった。
 視界に入るのは、四方を囲む壁と、木製の扉がひとつ。それから、縛りつけられたガウリイと小さな灯のともったランプがひとつ。獣油の燃える匂いが、妙に神経に触る。
 せめて、さるぐつわだけでもなんとかなれば、風牙斬で、縄を斬ることも可能なのだが。
 ま、今のあたしに風牙斬が行使できるかどーかだが。
 多分、使えるだろう。一応、爆煙舞が使えることは、おととい町長の家で実証済みだし。
 しかし、なぜリオン・レイルはあたし達を殺さなかったのか。
 百害あって一利無しであるはずなのに、何故?
 これは彼があたし達を何かに利用しようとしているからではないのか?
 つまり、あたし達は彼と再会する可能性が高いのではないか?
 そこに、なにかの好機を見いだせるかもしれない。
 などと、あたしが思考を巡らせていると。
 視界の隅で、ガウリイが動いた。
 動いた、と言っても這っているだけなのだが。
 ? どうやら、ランプの方へと移動しているらしい。
 一体なにをしようとしてるのか?
 そう思った瞬間。
 パリーンッ!
 甲高い音を立てランプが割れた。
 ガウリイが、足を使いガラスで覆われたランプを蹴ったのだ。
 中にあるのが蝋燭だったら、その衝撃に灯を消していただろう。
 獣油だったからこそ、その灯は無事だった。
 しかし、まだガウリイの意図が掴めない。
 刹那。
 ガウリイは、そのむき出しになった火に顔を押し付けた!
 なにしてんのよっ!
 しかし、思いは言葉にならなかった。さるぐつわに邪魔をされて。
 ・・・・・わかった。
 ガウリイの狙いがなんなのかわかった。
 ガウリイは、布であるさるぐつわを、燃やそうとしているのだ。
 焼き切ろうとしている。
 なんてことをっ!
 あたしは急ぎ彼の元へと這って行った。
 肉の焦げる匂い。
 髪の焼ける匂い。
 布の燃える匂い。
 ガウリイの傷つく匂いに他ならないのだ!
 手足を縛った縄が憎々しい。
 速く、ガウリイの近くへ、側へ、隣へ行かなきゃ!
 そこが、あたしの場所なんだから!
 急ぐあたしの目の前で、ガウリイの髪が燃えた!
 当然だ、あんなに長い髪なのだから、火だってすぐに燃え移るに決まっている。
 そんなことくらい、ガウリイにだって予測出来る事だ。
 でも、ガウリイは、そんな事さえ省みずに、危険を冒している!
 ガウリイが悶えるように地面を何度も転がる。
 それはおそらく、痛さによるものではなく、髪を燃やす火を消すためだろう。
 そして。
 あたしが、ガウリイの元へと行った時には、彼の口を覆っていたさるぐつわは解き放たれていた。
 目が、合った。
 痛々しい火傷の痕が、その秀麗な顔に貼り付いていた。
 左側半分、そうちょうどいつもガウリイが髪で隠していない部分に火傷はできていたのだ。
 髪も、随分と焼けてしまっている。
 目が離せない。
「リナ、もうちょっとこっちへ来い」
 くいっ、と顎であたしを呼んだ。
 あたしは出来る限りの速さで、ガウリイの元へと近づく。
 ガウリイは、ゆっくりとあたしの顔に口を寄せる。
 左耳の後ろに、ガウリイの吐息が当たる。
 しばらくお互いその姿勢のまま動けなかった。
  
 ようやくあたしのさるぐつわが、ガウリイによって噛みちぎられた。
 一息つく間もなく、あたしはガウリイの顔を仰ぎ見た。
「大丈夫なの!?ガウリイ!!痛くない!?無茶しないでよ!!」
 何から言えばいいのか見当もつかなかったあたしは、言葉が口を衝いて出るのにまかせた。
「そんなことより、リナ。術は使えそうなのか?」
 冷静なガウリイの声が、取り乱すあたしを正気に環した。
 そうだった。
 今、為すべきことがある。
 急ぎ呪文を唱え、力ある言葉を解き放つ。
「風牙斬」
 ふしゅんっ!
 小さな疾風が、ガウリイの手を戒めていた縄を斬り裂いた。
 次いでガウリイがあたしの手足の縄を解く。
 そして、二人とも手足の自由を取り戻した途端、
「さて、じゃあ、行くか」
 ガウリイは扉を見据えそう言った。
「ちょっ!ちょっと待ってよ!先に傷の手当よ」
「なんだ、ケガしたのか?リナ」
「ちがうわよっ!あんたの、その火傷のことよ!」
「大丈夫だよ、これくらい」
 にこりとガウリイが笑う。
「とにかく待って!治癒の術くらいなら発動すると思うわ」
 あたしは呪文の詠唱にはいった。
「治癒」
 両の手に、暖かい力が溢れだす。
 それを、そっとガウリイの傷にかざした。
 沈黙があたし達の間に、横たわっている。
「・・・ホント、無茶しないでよね・・・」
 ぽつりとあたしがもらした言葉が、静寂を破る。
「無茶なんかしてないぜ」
 同じくガウリイがぽつりと呟いた。
「無茶でしょーが。ヘタすれば全身に火が移ってたかも、じゃないの」
「リナを守る事に関しては、俺にとっては無茶なんて言葉はないんだ」
「・・・嬉しくなんか、ないわよ・・・そんなの」
「嬉しがって欲しくてやったワケじゃあない」
「・・・びっくり・・・したんだから」
「済まない」
「・・・謝ンないでよ・・・」
「済まない」
 また満ちる静寂。
 あたしとガウリイはこの間、一度も目を合わせなかった。

 あたし達は当たり前だが、武器を取られていた。
 部屋を見回したが、やはり武器になるようなものは何一つ無い。
「とにかく、この家からの脱出を第一にするわ」
 これからの行動のついての、ちょっとした作戦会議である。
「リオンはこの際、放っときましょ」
 相手も油断しているはずである。
 その証拠に、木製の扉には鍵が掛かっていない。
 まさか、あんな方法で戒めを解くとは、夢にも思わないだろう。
「もし、リオンと鉢合わせしたら?」
「一応、あたしは呪文を唱えておくわ。といっても、風牙斬だけど。殺傷能力は無いけど、ふいうちには使えるわ」
「わかった。他に俺が聞いておくべきことは?」
「もう無いわ」
 その言葉を合図に、ガウリイはゆっくりと扉を開けた。


 短い階段を昇りきると、また木製の扉が前に立ちふさがった。
 扉の向こうに、人の気配は無いが、油断は禁物である。
 この家自体が結界になってると、リオンは言ったのだから。
 顔を見合わせ、こくりと頷く。
 ガウリイが、取っ手に手をかけ、扉を思いきりよく開けた。


 3つの人影が目に飛び込んできた。
 1人は、黒髪に美形といってもよい青年。
 おそらくは、これがリオン・レイルだろう。
 不敵な笑みが、顔にある。
 2つ目の影は異様なモノだった。
 顔の部分と、乳房以外胴回りの肉の無い死体だった。
 禁呪によって作成された『サラディ』だろう。
 そして、もう1人は。
 ルーティだった。
 気絶しているのか、ぐったりとリオン・レイルの腕に抱かれていた。
 あたしは、術を発動させることが出来なかった。
 ヘタをすれば、ルーティに傷を負わせてしまう。
「ふふふ。言ったでしょう?この家自体が、結界だと」
 青年・・・リオン・レイルは愉悦の表情で言う。
「魔力の発動を感じて、ね。ここで待ってたんですよ、リナ・インバース、ガウリイ・ガブリエフ」
 ふ、とあたしの方に視線を転じる。
「なにか、呪文を唱えてますね?解除なさい」
 笑みを崩さぬままでルーティの喉元に、剣を当てがう。
 ブラスト・ソード。
 少し、切っ先を動かしただけで、ルーティの首は上下に分かれるだろう。
「・・・わかったわ。降参よ」
 ため息と共に、両腕をあげた。
 ガウリイもそれに倣う。
「で、なにが目的で、あたし達を生かしてるわけ?」
 リオンの笑みが一層深くなった。
「ふふふ。儀式の敢行。その為に決まっているでしょう」
「・・・・・・・」
「あなた達は2人とも、サーラを蘇らせる為に必要なんですよ」
 リオン・レイルの声が、静かに響いた。
 


すいません。
まだあと一回だけ続きます。
思ったより、脱出のとこで行数を使ってしまいました。
本当に、次で終わらせます(号泣)。

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11450冬に咲く春花(後編<下>其の九・終動編)あごん E-mail 8/15-00:40
記事番号11444へのコメント

 儀式の敢行。
 そうリオン・レイルは言った。
「必要・・・ねぇ?つまり、あたし達もそこにある『サラディ』の一部にしようって事?」
 視線をリオンの左隣に移す。
 そこにあるのは、サラディの骨格を持ち、7人の少女達の肉を着た異形の死体に他ならない。
「ご明察。さすがはリナ・インバース。いちいち説明が省けて助かりますよ」
「そりゃどーも。ところで香は焚かないの?」
 あたしの言葉に、リオンは苦笑を返した。
「ふふっ。あの香は準備するのに少々手間が掛かるんでね」
 なるほど。
 香を焚いている間に、あたし達に逃げられる可能性を考慮した、というわけか。
「んで、香の代わりに人質を択ったってことね」
 優美といっても過言ではないであろう動作で、リオンは小さくお辞儀をする。あたし達から決して目を離さぬままで。
 別にあたしはリオンとの会話を楽しんでいるわけではない。
 時間稼ぎである。
 今が何時なのかはわからないが、窓の外はもう暗い。
 ルーティはおそらく家人に行き先を告げずに、ここに来たはずだ。
 つまりルーティは行方不明といった形になっているのではないか?
 そんなに夜遅い時間ではないかもしれない、だが、この町は不気味な殺人鬼が徘徊する町なのだ。
 家人は早々と手をうつはずだ。
 殺人鬼にさらわれたかもしれないルーティを捜し出す為に。
 そして、今日の午前中はあたし達と行動を共にしていたのを誰もが明瞭に記憶しているだろう。
 そんなあたし達はエルグラントさんに、気になる事がある、と言葉を残している。
 あたし達とルーティを結ぶ可能性は高い。
 あたし達がリオン・レイルの元へ足を運んだことは最低でも1人、道を尋ねたおばちゃんが知っている。
 それに、あたし達が歩いた中央通りには人がいた。
 魔導士姿のあたしは、色濃く彼らの記憶に残ってはいないだろうか。
 つまり、ここに人の訪れる可能性はかなり高い、ということになるだろう。
「この女はね、僕に・・・何と言うんだったかな・・・、そう。探りを入れに来たんですよ」
「探り?」
 一段とリオンの笑みが深くなる。
「ええ。リナとガウリイさんが貴方に何かを感じている。貴方は何か隠し事はないのか、と」
 含み笑い。
 くっくっくっ、とリオンが笑う。
「・・・ルーティとあんたの関係は?」
 あたしが言うと、リオンは大仰に目を見開く。
「関係?何もないですよ。ただ、この女は僕に好意を寄せている以外はね」
 淡々とした態度でルーティに目をくれる。
 あたしは、もうこの男を見ていたくない、と強く思った。
 いや、ちがう。
 この人間・・・いや、この存在を見たくないのだ。
「・・・なぜ、あんたはあたし達を殺さなかったの?」
「おや、言ったはずですよ。サーラを蘇らせる為に必要だと」
「身体の部分なら、死んでからでも充分でしょ?」
 彼はわざとらしくかぶりを数回振った。
 動作のいちいちが勿体ぶっている。この辺がこの男の本質を物語っている。
 ナルシストの気障野郎。
「僕は呪術士ですよ?死霊術士じゃあないんです。死体から人間が産まれるわけないでしょう」
「つまり、生きたまま剥ぎ取って、それをサラディの骨に被せる事にこそ意味があるってこと?」
 リオンは満足気に大きく頷いた。
「そうです。実に飲み込みの良い人です、貴女は」
 まるで子供の様に、無邪気に笑う。
 ますますあたしはこの男を見るのが嫌になった。
「サラディを殺したのは、ジョーン・グリッドね?」
 言ったその途端。
「・・・ふざけるなっ!!」
 殺気さえこもった一喝が、リオンの口からほとばしった。
「あんな下世話な男が!下劣な牡が!僕のサーラの尊い命を奪えるものかっ!」
 興奮している。先程までの優男ぶりはどこへ行ったのか、全身を小刻みに震わせながら、尚も言葉を綴る。
「認めないっ!そんなことはっ!サーラに対する冒涜にしかならないっ!」
「・・・それで、ジョーン・グリッドを自殺の形で殺したのね?」
 この男の妹に対する執着には、悪寒さえ感じる。
 大切な妹を、犯され殺されたが、犯人が捕まることは望まなかったのだ、このリオンという男は。
 おそらく、彼にとってサラディ・レイルは不可侵の存在だったのではないだろうか。
 何者にも、サラディを汚すことはできないのだ、この男の中では。
「あんな、自分がサラディを殺したんじゃないって手紙を遺させてまで。ジョーンが犯人である事に耐えられなかったってことね?」
「その名を口にするなぁっ!」
 リオンが吠える。その目が真っ赤に充血していた。
 話題を替えた方が良いだろう。
「なぜ、被害者達の心臓にナイフを刺したりしたの?」
 そう。なぜ、即死に見せかける必要があったのだろう。
「それも術の一環なの?」
 あたしがそう言うと、リオンは哀しそうに微笑した。
「だって、最期の瞬間まで苦しんだなんて事を家族の者が知れば、ひどく可哀相じゃないですか」
 あたしは言葉を失った。
 なにを言っているのだ!?この目の前の男は!
「僕だって、被害者の肉親ですよ。そのつらさは身を持ってしっています」
 演技ではない。
 リオンは本当に悲しんでいるのだ、被害者の家族の胸中を想い。
「だったらっ!なぜ!なぜ殺したの!その気持ちがわかるあんたが!」
「僕だから、ですよ」
 リオンの瞳に陰がよぎる。
「そんな僕だからこそ、赦されるんですよ」
 どこか恍惚めいた表情で、リオンは言った。
「僕だから、痛みのわかる僕だからこそ赦される事なんです」
「やられたから、やり返すってことを言いたいわけ!?」
「違います。貴女なんかに説明したって理解できない。唯一無二の存在を失ったことのない貴女なんかに」
 フラッシュ・バック。
 ある男の言葉が脳裏をかすめる。
 唯一無二の存在を失い、自分の存在をも失った男の言葉が。
 だから。
 だから、あたしは、あんな夢を見たのか。
「まずは、ガウリイ・ガブリエフ。貴方からですよ」
 リオンの言葉が、あたしを現実に引き戻した。
 言われた本人は、ただ黙ったままでリオンを見返すだけだ。
「貴方のその見事な、金の髪は、サーラにそっくりです」 
 穏やかな微笑み。
 だが、危険な微笑みだ。
「それに、貴方なら、サーラと一体化しやすいでしょう。その名ならば」
 名前?
「そういえば、被害者は全員同じ綴りがあったわね。意味があったの?」
「勿論です。名前、名前と簡単に言いますが、名前には深い意味があります」
 妙に講釈めいた口調でリオンが喋る。
「名前とは、呪いそのものなんですから」
「呪い?」
「ええ。名前ひとつにあらゆる意味が込められている。性格であり、性別であり、職業であり、家族構成であったりと」
 なるほど。つまり、その人間の属性丸事があるというわけか。
「ですから、ね。名前が近ければ近いほど良いのです。同じ韻を踏んでさえいれば充分に術は完成するのです」
「あたしは、そんな韻なんてないわよ」
「代わりに強大な魔力があるでしょう」
 リオンがどこか挑戦するかのようにあたしを見る。
「のぞき犯のあんたなの?」
 もう、こうなったらなんでも聞いてやれ。
 半ばヤケになって、あたしは言った。
「そうです」
「欲求不満・・・ってわけでもなさそうだけど?」
「下調べですよ。サーラほどに美しい女性はなかなかいなくってね。しょうがないので、部分ごとにサーラの面影がある女性を捜す事が目的でね」
 あたしは次になにを言うべきか少し迷い、ガウリイをちらりと見た。
 しかし、ガウリイは微動だにせずにじっとリオンに目を注いでいるばかりだ。
 隙を伺っているのだろうか。だがリオンもルーティを抱えたままで隙を見せる素振りもない。
 
「さぁ。そろそろ儀式にかかりたいのですが、ご協力してもらえませんか?」
 穏やかにリオンが言う。
「冗っ談じゃないわ!それで、ハイわかりましたーなんて言うと思ってんの?」
「そんな、貴方方の都合にばかり合わせられませんよ」
 勝手なことを言うっ!
「あんたこそが都合のいい事ばかりじゃない!」
「しょうがないでしょう。世界とはそう出来上がっているんですから」
 ? 何のことを言っているのかわからない。
 あたしは眉をひそめた。
「人は人の都合の合わせるしかないんですよ」
「・・・そうよ」
 まだわからない。
「貴方方は、僕の都合を無視していますよね?」
「そして、あんたはあたし達・・・いいえ、被害者の都合を無視しているわ」
「してませんよ」
 ぬけぬけと言う。罪悪感のかけらも感じられない。
「してるわよ。だからこそ事件となって領も動いてるのよ」
「僕は被害者です」
「彼女達も、その家族も被害者ってこと忘れてない?」
「忘れてません。しかしそれはそちらの都合でしょう?」
 この男には何を言っても無駄だ。
 サラディだけが彼の都合なのだ。
 リオンの世界すべてなのだ。
 再びの、記憶の残像があたしを責める。
 『あんたたちならどうなんだ・・・・?』
 あの時、あたしは、答えられなかった。
「あんたは・・・まるで・・・」
 ルーク・・・あんたは・・・。
「まるで、冬に咲く春花だわ・・・」
 リオン・・・あんたは・・・。
「狂い咲いた・・・ゼリアの花だわ」
 どういうことだ、とでも言うかのように眉を上下させる。
「どんな思惑があれ、周囲の状況も考えずに咲いた、冬の春花は」
 胸が苦しい。
 頭が痛い。
「結局、枯れるしかないのに!周囲に合わせられない奴は潰れるだけよ」
 どんなに人を愛そうとも、それが世間に背をそむけるような愛し方ならば!
 愛ではなくなる。
「最大多数の最大幸福が、世の中の都合なのよ」
 ひとりよがりなだけだ、そんなモノは。
「おもしろい事を言いますね、貴女は」
「あんたの正義なんて知らないわ、愛の形なんて知りたくもないわ」
 その時。
 ガウリイの顔が動いた。
 窓の方へ、首を巡らした。
 誰かが来たのか?
 そう思い、あたしもつられて窓を見遣る。
 瞬間。
「ぐわああぁぁぁぁああっ!!」
 リオンの絶叫が耳をつんざく!
 なにが起きたのか、わからなかった。
 リオンは顔面を抑えて叫んでいる。
 ガウリイが動いた。リオンの方へと走る。
 その手にルーティを抱え、またあたしの隣へと戻ってきた。
「な・・なにかしたの!?」
「リナ!術を唱えろ!!人質はもういない!」
 叫ぶガウリイの口からは血が溢れていた。
 床にルーティを横たえる。
「な!あんた!どーしたのよ、その傷!」
「ランプの破片を口の中に入れてたんだ」
 視線をリオンから外さぬままで事もなげに言う。
 なるほど!
 あの時割れたガラスの破片を口にふくみ、それを一瞬気の逸れたリオンに向かって吹き付けたというわけか!
 その時に、口の中を切ったのだろう。
 ならば!
 あたしは呪文を唱えはじめた。
「きっ!貴様ぁぁぁ!!」
 憤怒の表情でブラスト・ソードをかまえるリオン。
 ガウリイならば、素人の剣くらい避けるのはわけがない。
 唱える術は、爆煙舞。
 あれだけ逆上している相手には風牙斬は通じないだろう。
 カランと、右目に突き刺さっていたガラス片を投げ捨てるリオン。
 リオンが剣を高々と振りあげる!
 それを難なく避けるガウリイ・・・を想像していたが違った。
 いつ目を醒ましたのか、ルーティがガウリイにしがみついていた。
 その顔には恐怖の色が強くあった。
 ガウリイが避ければ、ルーティが斬られる!
 一瞬の迷いが、ガウリイの動きを止めた!
 
 振り下ろされる、剣。

 ゆっくりと。
 まるでスローモーションのように。
 あたしの目の前で。
 ガウリイが。

「きゃあああああぁぁぁあっ!!」
 響きわたる、ルーティの、叫び。

 おびただしい、血の量。
 肩口から斜めに疾る、傷。
 ガウリイの、血、だ。

 ゆっくりと、リオンが、あたしの方へと振り返る。
 その手には、血塗られた、ブラスト・ソード。
 呪文は、中断してしまった。
 
 とっさに、あたしはさっきリオンの投げ捨てたガラス片を拾い上げて、身体をひねらす!
 狙うは、ひとつの異形の影!
 『サラディ』に向かい、ガラス片を投げつけた。
 ガラス片が深々と、『サラディ』の足に食い込んだその時。

「サァァラアアアァァッ!」
 リオンが慌てて、『サラディ』の元へと駆け出す。
 ブラスト・ソードさえも、その場に捨てて。
『サラディ』の身体にすがりつくリオン。
 あたしは、ゆっくりとその背後へ近づく。
 手にブラスト・ソードを提げて。

   もしも自分の連れが、

 リオンはあたしに気づかない。
 『サラディ』のけがに気をとられている。

   どこかの馬鹿にぶち殺されたら・・・。

 身体の奥底から、どす黒い感情が涌き出てくる。
 衝動が、あたしを、揺さぶる。

 あたしは。
 ブラスト・ソードを。
 床に投げた。

 こんな男、殺したって別に良心の呵責なんか感じない。
 でも。
 ガウリイは、武器を持たない相手には斬りつけない。
 ガウリイは、背中を向けた相手には斬りつけない。

 だから。

 あたしは、手刀で、リオンの首筋を叩いた。
 どさり、とリオンが倒れ込む。


「・・・リナ・・・?」
 ガウリイが、ゆっくりと目を開けた。
「なに・・・?」
 あたしの膝を枕にして、彼は横になっている。
 あれから。
 リオンを縛りつけ、ルーティに人を呼ぶように頼み、ガウリイの応急処置をして。
 今、ルーティの帰りを待っている。
「・・・あぁ、そっか・・・。俺・・・、斬られたのか」
「ん、痛む?」
「いや、全然・・・」
 嘘である。
 傷は深い。
 出血も止まらない。
「・・・あいつは・・・?」
「気絶してるわ」
 ふぅ、と大きく息を吐き出すガウリイ。
「終わった・・・のか・・・」
「終わったわ」
 また、ガウリイが目を閉じる。
「なあ、あの花・・・。やっぱり・・・枯れたんだろうな」
「きっと、ね。枯れてるわよ」
「なあ、リナ・・・」
「なぁに・・・?」
 優しく、彼に応える。
「もし、また、狂い咲いた花を見たら・・・」
「・・・・・・・・」
 ガウリイの次の言葉を待ったが、何も言わない。
 どうやら、寝てしまったらしい。
 どんな質問をするつもりだったのかはわからないが。
「そうね、もし見たら」
 その花を、あたしは踏みつけたい衝動に駆られるだろう。
 
 ルーティが人を連れて、戻ってきた。

「いいえ。きっと、踏み潰すわ」
 あたしの呟きを、禁断の術によって形成された『サラディ』だけが聴いていた。




終わりです。
長らくありがとうございました。
書きたかったのは、ルークの質問に応えられなかったリナの、答えです。
きっと、リナは、ルークのようにはならないでしょう。
そう思った時、この話を考え付きました。 
愛する人間を尊重するはずです。
異論もあろうとは思いますが、これがあたしの描くリナです。
本当に、ありがとうございました。
次は、もっと明るい話にしたいです(笑)。

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11451ありがとうございましたm(__)mMIYA 8/15-01:18
記事番号11450へのコメント

あごんさん、はじめまして。MIYAと申します。
「冬に咲く春花」ついに完結ですね。お疲れ様でした。
あごんさんが「冬に咲く春花」の前編をアップされた日から
ずっとおっかけ?させて頂いてました。
お話の続きがアップされているのを発見した時は嬉々として
HDにセーブさせて頂いたものです。
それも、これでついに完結。最後を拝見できて、嬉しいやら
寂しいやら。
いずれにせよ、長い間楽しませて頂きました。
本当にありがとうございます。

また、あごんさんのお話が読める日を楽しみにしつつ。
この辺りで失礼させて頂きます。
今回は、本当にありがとうございましたm(__)m

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11464ありがとうございます(感涙)!あごん E-mail 8/16-02:52
記事番号11451へのコメント

MIYA様へ。
ああっ!
ありがとうございます、はこちらの言葉ですよ!
長く、且つだらけた拙い小説をお読み下さって、ありがとうございます!
勿体ないお言葉ばかりで恐縮してしまいます!

何分、小説を書いたのは初めてでして。
至らないところも多々あり、見苦しいところもお見せしてしまい平身低頭するばかりです(汗)!

また近々、書く予定です。
今度(こそ)は、短い話で、です(泣笑)。

それでは、また会える事をお祈りして。
本日はこの辺にて失礼致します。

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11457ご苦労様でした!!王静惟 E-mail 8/15-11:20
記事番号11450へのコメント

あごんさん、今日は!!
謎、全部解けましたね。
最後のガウリイはすごくかっこいいですわ(うっとり)
リオンの描写もとってもうまいです!!
素敵です!!
こんな素敵な小説を読ませて下さって、本当にありがとうございました!!

>書きたかったのは、ルークの質問に応えられなかったリナの、答えです。
>きっと、リナは、ルークのようにはならないでしょう。
>そう思った時、この話を考え付きました。 
>愛する人間を尊重するはずです。

そうですね。私も同感です!!
リナは、絶対ルークのようはならないんです。
それがリナの強さですから。

この間、ご苦労様でした!
あごんさんの小説は素晴らしいのでとっても好きです!!
これからも是非是非小説を書いて下さいね!!
じゃ、私はこの辺で。
またあごんさんの小説を読める日が来るのを待っております!!
ではでは!!

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11465恐縮の至りですっ(嬉涙)!あごん E-mail 8/16-03:06
記事番号11457へのコメント

王静惟さまへ

もう、いつ死んでも悔いはないです。
ありがとうございます!
本当に私には勿体ないお言葉ばかりでっ!
感涙の海で溺れ死んでしまいそうです!

ガウリイは、もー少しちゃんと活躍させたかったんですけど。
まぁ、珍しく頭を使って動いてくれたし。
こんなモンですかね、やっぱり(笑)。
リオンは最初、男にするか、女にするかかなり迷いました。
女っていうのも良かったかな、と今更思っております。

本当に私なんかの駄文をお読み下さり、ありがとうございます!
近々、また何か書くとは思いますが。
その時もよろしくお願いします!

では、本日はここで失礼致します。
ありがとうございました。

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11476冬に咲く春花(ボツ話と書き忘れ)あごん E-mail 8/16-23:50
記事番号11450へのコメント

どうも、あごんです。
実は、謎がひとつだけ未解決です(号泣)。
書き忘れてました(切腹)。
ので、書きました。
どーでもいーことなんですが、ケジメということで。


「その名を口にするなぁっ!」
 リオンが吠える。その目は真っ赤に充血していた。
 なるほど。リオンの前では禁句というわけだ。
「・・・サラディの左手の薬指・・・。あれは、奴が奪って行ったのね?」
 リオンに反応はなかった。
 しょうがなしに、あたしは言葉を続けた。
「左手の薬指・・・。その持つ意味を考えたんだけど、おそらく結婚指輪のことでしょう?」
 そうなのだ。
 ジョーン・グリッドは、サラディを愛しく想う余りに自らの手でその生命を奪い。
 愛しいからこそ、結ばれることを願い。
 誰にも取られたくないからこそ。
 その、結ばれる約束を意味する指輪をはめる指を奪ったのだ。
 左手の薬指を自分の物にすることに依り、サラディは誰からの結婚指輪も身につけることはなくなるのだから。
 あたしが言うと、リオンは奥歯を噛みしめながら、
「その通りさっ!あの下品な牡犬はっ!サーラの指を奪いっ!」
 血を吐くように叫ぶリオン。
 あたしはそれを冷たく見ているだけだ。
「あまつさえっ!食いやがったんだっ!!」
 その瞳に狂気をたたえてリオンが笑う。
「だから、腹を斬り裂いたんですよ、リナ・インバース」
「指を取り返すために?」
「ええ。でも、もうなかったんです・・・」
 リオンは哭いていた。
 涙は流れないが、慟哭の声が聴こえた。
 あたしは、ただ、厭な気分を味合っただけだった。
 話題を変えた方が良いだろう。


以上が、書き忘れた部分です。
そして、下の話が没話です。
あまりにも救われないので、やめました(笑)。


「あぁ、そっか・・・。俺・・・斬られたのか」
「ん。痛む?」
「いや、全然・・・」
 嘘である。
 傷は深い。
 出血も止まらない。
 ガウリイは、助からないかもしれない。
「・・・あいつは・・・?」
「気絶してるわ」
 ふぅ、と大きく息を吐き出すガウリイ。
 顔色は、一向に良くならない。
 なぜ、この血は止まらないのか。
「リナ、こっち向いてくれよ・・・」
 ガウリイが囁くように言った。
 なぜ。
「血が止まらないの?」
「リナ・・・」 
「なんで・・・」
「リナ、こっち向けよ・・・」
 あたしの耳にガウリイの声は聞こえるが、言葉が聞こえなかった。
   なぜ、この血は止まらないのか。
「なぁ、リナ・・・、俺はさ・・・」
 途切れ途切れの、ガウリイの声。
   なぜ、この血は止まらないのか。
「お前のことだけは、泣かさないって」
 優しく笑う。
   なぜ、この血は止まらないのか。
「そう、決めてるんだぜ・・・?」
 手が、その大きな掌が、あたしを包む。
   なぜ、この血は止まらないのか。
「だから、泣くな・・・」
 ガウリイがゆっくりと目を閉じる。
「なぜ、こんな血が止まらないの・・・?」
 あんな、狂った男の振るった剣なんかで。
 あたしの、ガウリイの。
「血が止まらないの・・・?」
「冬に咲く・・・春花・・・か」
 ふいにガウリイが言った。
「なぁ、リナ・・・。もし、また狂い咲いた、花を見たら・・・」
「見たら・・・?」
「お前なら・・・、どうする?・・・どう思う?」
 そうね。きっと、あんたの血の色を思い出して。
 この今の気持ちを思いだし。
「きっと、踏み潰すわ」
 考えなしに咲いた、冬の春花は。
「その存在を、消し去るわ」
 あたしは、ゆっくりと彼に覆いかぶさりながら。
 ガウリイの傷に口付けた。


はいっ!没話ですぅ!
暗いですねーっ!
すいません、許して下さい。
まぁ。死んだかな、死んでないかなって感じにしよーかなっと。
思っていたんですが。
どうしても必要だとは思えなかったので、没にしました。
では、失礼つかまつりました。

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